シナリオ詳細
ローレット・トレーニング
オープニング
●レオン・ドナーツ・バルトロメイの提案
「オマエ等、大分この世界に慣れてきただろ」
『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の言葉に、ギルドにたむろしていた何人かのイレギュラーズが顔を上げた。ギルドマスターである彼が共用部分にやって来る事はそう多くない。彼が顔を出すのは大体仕事絡みの場合が多いのだ。
「……ああ、まあ。肩肘張るな。今日は緊急の案件じゃない。
例の大規模召喚から大分経つ。本格的な仕事が始まってからも三ヶ月弱だ。
それぞれのクライアントからも好評で、ギルドとしても鼻が高い。褒めてやろうと思ってね」
「そりゃあどうも」
食えないレオンがどれだけ本音でそう言っているかは分からなかったが、取り敢えず彼の機嫌は良さそうだった。イレギュラーズは肩を竦めて適当にそれに合わせて見せる。
「とは言え、だ」
「それ来た事か」とイレギュラーズが言いたくなるような『but』である。
「最近、世情もいよいよ騒がしい。
『不吉なサーカス』が噂通りに、どうも仕事を沢山増やしてくれているらしい。
……まぁ、彼等の関与の証拠は無いからね。断じるには尚早で、余りに拙速ではあるが」
「相変わらず話が遠回りだな。結局何をさせたい?」
単刀直入に問うたイレギュラーズに今度はレオンが苦笑した。
「警戒するな。何かをさせたい訳じゃない。
どちらかと言えばオマエ等が『したいかどうか』だな。
これから激しさや難局を増す可能性が高い依頼に先んじて、ローレットでは合同大訓練を実施する事を決めたのさ。体力トレーニングから剣術指南まで。短期のトレーニングじゃ、そこまで劇的な効果は上がらないだろうが、コツにはなる。
気が向いたら是非参加してくれたまえ。こういうのは多いほど効果的なもんだから」
(恐らくはユリーカお手製であろう)落書きのようなパンフレットを受け取ったイレギュラーズは顔を見合わせた。
「……レオン、お前案外こういうの好きだよなあ」
(オープニング:YAMIDEITEI)
- ローレット・トレーニング完了
- GM名Re:version
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年04月08日 21時16分
- 参加人数785/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 785 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(785人)
リプレイ
●合同大訓練という名の煉獄
『箱の中の猫が生きているかどうかは、箱を開けるまでは分からない』。
複雑に重なり合った状況から導き出される結論は観測者が観測者足らんとしても往々にして結論付ける事が困難になるものである。
科学という枠を超え、時に哲学的にさえ語られる猫の生き死には、無論この場合――事象への暗喩としてのみ語られるべきものである。つまる所、それは『書かないとか言ったが785人も集まった日には完全に書かないのは最早失礼』というリアル完全成功を喰らったとでも表現すべき――そうとしか表現出来ない、今日の極々ミクロな現況を実に端的に表現した事実になろう。
プレイングの判定をするのだけで一晩かかったとか、もうその手の事は捨て置いて。
オール・オア・ナッシングで片付かない事も世の中には沢山ある。時に多少の妥協は必要だが、妥協仕切るも是とはせぬ。
閑話休題――ローレットが合同トレーニングを提案したその日、蒼天は突き抜けるように晴れていた。
「うおおおおおおお! 合同大訓練の開幕だああああああぁ!
皆強くなりたいかああああぁ!! 俺は強くなりたいぞおおおおぉ!!
お前らも強くなりたいよなあああぁ!!」
フユカがうるさ……じゃない、大変元気が良い。
「さて、合同訓練か。くく、どうしようかね」
「ラサにいた時も毎日が特訓の日々でしたから、特訓そのものは珍しくはないのですが。
さすがにこの人数での特訓は壮観ですね」
「訓練って一人でやるより複数人でやった方が効率いいしね」
「いやぁ、壮観と言うか何と言うか……」
当初用意した場所では足りず、慌てて追加のスペースを用意したレオンはミストリア、ノブマサ、シルヴェイド等の言葉に呆れ半分、感心半分に呟いた。
前述した通り些か力を持て余し気味のイレギュラーズは実に800人近い参加者を集め、めいめいにこの日に臨んでいる。
「こんな手製のパンフレットまでもらってはな、無下にするわけにもいくまい……」
そう言うライハにユリーカが「えへへ」と笑う。
「──かなり派手な事になりそうですので、相応の準備をしておかないと」
嘆息する鶫は今日の修羅場、大仕事を確信している。
「この場には様々な技術を使う方がいらっしゃる様子ですから……
実際に使っている場面を見学させて頂いて方向性を決める判断材料にさせて頂きましょう。
しかしこれだけの人数が居るなら、ギルドでの仕事が受注出来ないのも納得ですね。
……私も頑張りませんと」
確かにティスタの言う通り、今日という日は方向性の模索にも向いているだろう。
山のような能力のサンプルはまさに800を数え、同じものは一つもない。
行動も求むるも様々で、例えば胡蝶等は「対人コミュニケーション技術を鍛える」と言っていたし、はぐるま姫は舞踏の練習をするらしい。
『一日千回の感謝のフランスパン』を展開せんと意気込む零(堅いパンはアンシアや結依、アイヒヘルヒェンが美味しく頂き、レーグラがパン密度やパンパッション、パン能力や、パン展開力各種諸々測定記録します)も居れば、「ダーリンがギフトを使いこなせるようになればいいのよね」と確認するアイオーラとレ・ルンブラ、仲睦まじいカップルも居る。
「つまり、そちらの世界ではそのらじお体操? なるものを毎日決まった時間にする鍛錬があるのですね、なるほど」
『間違っちゃ居ないが偏った知識』を知り真顔で頷くユーイリアも居る。
実際の所、様々な経歴を持つイレギュラーズ達は人種の坩堝である。
特に旅人はこの世界の常識や、単純な戦闘訓練という価値観に縛られない様々なアプローチを持っている。
それは失われた力を取り戻す為の施策であったり、地道な努力であったりする。効果の程も含めて余人の分かる範囲には無い。
例えばサイズ――本体は武器の方である――は『打ち直し』が強化に繋がると考えていたし、蜜姫は自然との繋がりを強化する事が己の存在を取り戻す事と考えていた。
「トレーニングにゃあ。どうするかにゃー。うーん……パペットマスターらしく大道芸の訓練」
「奇遇ね。……私自身も人形だけれど、どうやればより人間に近い動きで人形を操れるか、興味があるの」
こちらはシュリエと雫の人形遣いトークである。
「ローレット・トレーニング始まるぞー」(ローレット・トレーニング始まるぞー)
「コイツはドえらいトレーニングー」(コイツはドえらいトレーニングー)
「のめり込め! のめり込め!」(のめり込め! のめり込め!)
何とかウォーズな雰囲気で主人=公が口ずさめば、ナビ子とすらりーぬが追いかける。
一方でらむねとタマモは連携の確認を考えており、キツネはリリーの玉当てを手伝ってやる事に決めていた。
「ふむ」と頷くラクタは千波に戦い方を教わる事にしたようだ。
華鈴と結乃も舞踏流枢木の手解きをする約束になっている。
【旅一座】の幻とジェイク、華蓮、月、ヴェルフェゴアといった辺りはギルドからの横のつながりを生かして一緒に訓練参加を決めている。
マグナ、潮、リディア、明寿等は(含む海種に効果的かは知らないが)精神修養の為の【滝行】に挑むらしい。
【七曜堂】のオルクス・アケディア、コル・メランコリア、アーラ・イリュティム、コルヌ・イーラ、カウダ・インヴィディア、ブラキウム・アワリティア、ストマクス・グラ――フルネームで記述するには当然『七曜堂ならでは』の理由がある――は今日は戦闘面ではなく、非戦闘時に発揮される異能を中心に鍛錬をしてく心算のようだ。
「んー、まあいい機会だよね。自分を見つめ直す意味でも少し訓練しておくのも。
とはいえ身体を動かすのは趣味じゃないんだよね。というわけで瞑想でもしますか。
ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ。これ違うわ、瞑想じゃないわ。迷走だわ――」
リンネはたった三行の台詞で自己表現をする為、ノリツッコミの練習をしているようで――(※違う)
山賊らしく【山籠り】をするらしいグドルフに引率されたキドー、ヨハン、水卯、ルチア、比といった面々は訓練場から離れて大自然に教えられに行くようだし(グドルフの呵々大笑やらゴブリンのハイファンタジー感やらヨハンの悪さが目に浮かぶようだ)、Lumiliaは己の演奏技術を、セアラは歌唱を磨きたいと考えた。ジュアは玉乗りの練習をすると言っており――話題のサーカスに感化された部分もあるのかも知れない――割合真っ当にパルクールを試してみようとするサンディ、そろばんを弾くオロディエン、『デスマーチ』なる総合訓練メニューを考案するハイデマリーまで含めて、全くイレギュラーズ達のアクションはと言えば、その強烈無比なキャラクター性を強く反映した、バラエティ豊かなラインナップなのである。
「ほっほっほっ! 道化として愚者として! 相手を心より楽しませる事こそ本懐!!
ならば、その立ち回りの修行を致しましょう!」
「僕は基本的には火を扱う事が多いから、やはり火のコントロールは重要かな」
「普段から装備の重量に体を慣らしたいな」
笑うのはNerr。少し難しい顔をしたセルウスが小首を傾げ、トラオムが重量級の装備をガチャガチャと慣らしている。
「滝行の一つもするべきか。もっともっと腕を磨けば、かの『心眼』を身に着ける事も叶うのでござるかなぁ……剣の道は遠く険しいでござるよ」
心技体揃って初めて――とは達人の言だ。果てなき行く手に「ううむ」と下呂左衛門が小さく唸る。
「なるべくオオきなイワをこわせたりもちあげられたらナーちゃんうれしいなぁ!
え? 『テクニック』とかはきたえないのかって? ナーちゃんはオバカなのでそういうのはわからないのです!
だからひたすら、むかしのパワーをとりもどすためにイワをなげる! こわす!」
「トレーニングって何すればいいんだ! ハッ! 壁ドンか! 壁ドンなのか!
よし! 腹の底から力一杯――ざんげちゃんラアアアアアアアアアブ!!!!!!!」
頭の先から爪先まで少女(と呼んでおく)を形容するには些か相応しくない『脳筋』という概念に染まり切ったナーガや、奏の声が青空を突き上げるに至っては、レオンも概ね混沌という器に舞い降りた真の混沌――PCという名のスープの本質を理解せざるを得ないだろう。
「トレーニング、training、鍛錬、訓練、練習、プラクティス。
類義語を考えるのが面倒になってきたが、まぁとにかくなんかアレだ。
備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖。詰まりはそういうことだろう?」
「イメージトレーニングは大事っすよ」
「倒すべき、殺すべき、そうしなければならない、そうしたい相手に何時会うか分からないっすから」。
(頭が良さそうに見えるから)座禅を組んでいるフニクリ、そして言葉の後半を敢えて口にしないヴェノムの言葉、
「まだまだでしょうけれども、少しずつ他のイレギュラーさん達と同じくらいの実力に追いついていきたいです」
「訓練で強くなって、有事に備えるという事なのですね! ルアミィも頑張るのです!」
そして此方は至極真っ直ぐなレッドやルアミィの意気込みにレオンは軽く笑って頷いた。
「……こりゃ、ローレットも安泰だ。仕事が増えるのはご愛嬌だが」
「ざまあ」
傍らで小さく呟いたユリーカの頭を乱暴にぐりぐりとしながら彼は早速動き始めたイレギュラーズに視線をやる。
「ほう、トレーニングか。
俺としちゃナマの(命を賭けた)本番(の戦い)がいいが、ま、たまにゃ遊ぶのもいいだろ」
「……」
「他意は無いぞ」と念を押すO. R. C.――何ていうか色々複合すると誤解を招く好例である。
「……ま、お手並み拝見というか、幾らか視察でもさせて貰うか。責任者的に考えて、な」
イレギュラーズ達の士気は高く、より効率の良いトレーニングを行う為、参加者間の連携を強めていると聞いていた。
「合同大訓練ですか」
「ボクが走り込みとかやっても意味ないしー。やっぱ訓練するなら魔術だよねー」
クロジンデの言葉にヘイゼルが「そうなのです」と頷いた。
そもそも二人共(理由は同じではないかも知れないが)泥臭いのも汗臭いのもキャラクターでは無い。
ヘイゼルの半身に刻まれたタトゥーは元の世界で魔術的親和性を高める為に施された『礼装』のようなものだ。
魔術的素養を高く持たなくても『そういった奇跡』が行使出来るこの世界は特に旅人の彼女にとって興味深い。
【魔術修練】はつまり興味と実益の双方で意味がある、ついでに趣味にも合致する――妥当な落ち着き先という事だ。
「此方では学べば魔術が使えるのですから楽ですよね。教師が居れば尚良いのですが」
「うんー。あ、レオンはいらないー。魔術っぽいのあんまり使えないでしょー」
連携良く茶々を入れそうなレオンを封じたのはクロジンデ。受付嬢は流石に阿吽で、これが付き合いが長いという事か。
教師役に成り得そうな人物はといえば、そのビジュアルや梟の主という事を考えても、やはりギルバート辺りか。
「心頭滅却し、心を空にすることで身体に内在する力と周囲のマナを感じ取る。
心・体・外における魔力の流れをコントロールする事こそ、必要な訓練じゃ――」
成る程、含蓄深いギルバート。
(しかし心を空にするのはこの歳でも未だに難しくてのう。
ワシの弱点は何を隠そう女子――今日こそは女子への煩悩を克服するんじゃ!
ヘイゼルやXIIIもこの訓練には参加しているはず――)
成る程、ダメそうだ。ギルバート。平子ちゃんは何せ脚とか色々眩しいぞ。
7号 C型(シーナ)と訓練をするXIIIもドレス姿が綺羅びやかだ。
「駄目かのう?」
多分駄目だ。
大いにさて置く。
「よぉーっし! きったえっるっぞー! おー!!!」
ルナシャが気合を入れている。(口直し)
「戦闘訓練か。依頼には参加してるけど、まともに訓練するのはこれが初めてかも」
『他の者達の動きも観察出来るな。良い訓練になりそうだ』
「ん、そうだね。参考にできる場合もあるし」
ティアと『神様』のやり取りと同じくである。
レオンは様々な角度から強化へのアプローチを組むイレギュラーズの活動は今後の参考にもなりそうだと考えたのだ。
「しっかりしてよ、本当に」
「煩悩は人間の生きる糧だよ。実際の所」
肩を竦めたレオンに暁蕾が溜息を吐く。
世情を騒がせる事件の源流が『原罪の呼び声』にあるのならば欲望や感情の制御は重要そうだ。
実際の所、仕組みは分からないが――このギルドマスターはその辺りがそれなりに緩い印象が強い。
「まぁ、そう苛めてあげるな、暁蕾嬢。分別はつけるべきものだが、柔軟な精神の方が時に壊れにくい」
人を食ったような調子は変わらず、味方なのだか敵なのだか分からない事を言ったのはラルフだ。
「勿論、訓練もより柔軟であるべきだ。『実戦形式』もより突き詰めるべきだと、ね」
研究者の顔も同時に覗かせるラルフは【死亡遊戯】なる完全実践訓練を今回企図している。
「暇している方々のいい臨時のお仕事になるかと」
秘書然、助手然としたハイネが怜悧な調子にそう言った。
訓練用の区画を貸し切りたいと申し出た【死亡遊戯】はレオンの仕事を増やしたが、太極の協力を仰ぎ簡易な敵役を作った上で、イレギュラーズ自身をもエネミー役に配置した実戦形式はより本格的である。開始はこの後といった所か。
「僕の場合顔が無いのが一つの特徴だと思うので、これを活かして何をしてくるか読めない敵を演じましょう」
「えっと『がおー、食べちゃうわよー!』とか言っておけばいいのかしら? 食べないけど」
クレッシェントに続いたアレクシエルの言葉にロザリエルが一瞬反応した。
(エネミー役で暴れるのだわ。とはいえ加減ありでね! 食べないであげる。
食べる。食べない。食べ、食べな、食、食べ、やっぱ食べる……食べない……食べたい……
……でもちょっとくらいかじっても……バレないかしら……)
ロザリエルとカメラ(ボク)の視線が合った。「何故、こっちを映すの? 人間!」的な目線がいとおかし。
「割と甘ェ見方をしてるイレギュラーズの方が多いみてェだしよ。訓練つっても、マジもんの殺意で構えるぜ」
「よっしゃ敵役じゃい!」
「沢山、邪魔してあげないと、ねぇ?」
「敵役でちょろちょろっとね。仕掛けが上手く行けば面白いかな」
ロアンが少し悪い顔をし、ヘルマンとシルフ、カタラァナもやる気を見せる。
「ボス役として堂々と――挑戦者の君を待つ……!」
「大怪我はさせない程度に、ですね」
ボス役のヨルムンガンドも、援護役の 龍之介もやる気は十分である。
まぁ、一番怖いのは特に言葉を挟む事も無くその面立ちにやる気も気合も特に貼り付けない、如何にも人の悪そうなアリスターなのだが。彼はきっと何をやらかすか分からないタイプだ。小首を傾げながら悪い事をして「でもそれって普通だよね」とか言うタイプだ。
まぁ、概ね風評被害かも知れないが、きっとそういう奴だと確信している。置いといて。
(今回は如何に仲間と行動を合わせ、且つ自身の動きを制限しない事が重要になりますね)
クロウディアはそう考えた。
「まぁ、洗礼でも楽しんで貰おうかな」
「成程、遊戯。遊べばよいのじゃな!」
罠役のミルヴィの手筈は万全だ。役割を同じくするラ ラ ラの言葉も中々不敵。
「私のトラップを存分に披露できる絶好の機会ですわね、腕が鳴りますわ!」
ケイティは喜色満面そのものである。
「すっげー大規模なイレギュラーズの鍛練って聞いて!」
「なにも派手にドンパチやるだけが能じゃねぇだろ」
「肝試シみたいでワクワクしますネ!」
「わらわは姫であると同時に騎士でもある。
名ばかりの騎士であるつもりはない。己を鍛え、騎士として役割を全うするのだ!」
「なにをすればいいのかしら? 手伝わなくてはなりませんね、うふふ」
「さてさて、どんな人と戦うことになるのかな?」
ツギア、ランディス、クレイス、クリュン、瑠璃篭、楽しげなノノに、「頑張る」と気を入れるコゼット。
「実戦のつもりで、気を引き締めて行こうね!」
「勿論、本気で挑ませてもらうよ!」
ルチアーノとノースポールのコンビ。
「五感を駆使して進むぜ」
「おいらはぁ、その有り余る体力で突き進むんですよぅ!」
ロビとワーブのシートン兄弟。
「同じローレットのヤツらと戦う事も中々ねェし……参加しなきゃな?」
(罠の類には細かい場所も注意しておこう……鋼糸とかは見え難いものだ)
「奇襲は受けない、と。罠はしっかり警戒して――良し、攻略すんぞ」
【クラン】で参加するBriga、Solum、アルクの三人、連れ立って参加を決めたシグルーンと礼久も合わせ、挑戦者側も今回の企画には大いに沸いている。
「程々にしとけよ」
そう言うレオンに「まぁ、迷惑はかけないから、ね」と黄瀬。
セーバー役にはグランディスも居るから大丈夫、であろう。
「若い子は体力余ってるから」
「トレーニングでも、怪我はつきものだからね」
「でも、万全ですの」と豊かな胸を張る樹里(かんごふさん)やマリアにレオンが露骨に相好を崩す。
「あ、俺も突然参加して無念にも速攻怪我しようかな」
勿論、暁蕾のハリセンが一閃してレオンの頭が前後に揺れた。
「……ったく、冗句の通じない占い師ちゃんめ」
頭を掻いたレオンが次に目線をやったのはこちらも集団である。
「目的はシンプル。ひたすら上空へ向けスキルを放つ。
魔力放出、マギシュート、エーテルガトリング、とにかく撃つ事。
如何に間断なく、無駄なく、十分な威力を保って放ち続けられるかが肝だな。
限界まで撃ち放ち、限界を超えても撃ち放つ――体力と精神の保つ限りだ。空の果てまで届けるつもりで、ただ撃つのみ、だ」
レオンの視線の先のエクスマリアが【花火】の説明をしている。
限界以上に酷使して、何度も何度も反復練習を行う――というのは単純だが有効なやり方である。
「大勢で訓練をするのもたまには良いかもしれんな」
士郎が「うむ」と頷いた。
「……威力調整しないと自分の身が持たないッスね……コレ……」
「もしもの時ちゃんと対処できるように、訓練を重ねてもっと強くなるのー!」
「せっかくトレーニングするならやっぱ派手に行きたいわよね」
応じるのは戦々恐々とそう言ったクローネ、拳を突き上げた鳴、何故か体操着を着てしまった白紅。
「修行と言う物はした事がないが、何事も経験だ。自分の限界を知れると言うのも興味深い」
「ふふ、訓練だけれど……皆で魔法を空に向かって撃つだなんて綺麗なモノが見れそうだわぁ。
魔法が飛び交うのを見るのなんていつ振りかしらね……」
「足りない精神力を補う為にも、ですわね」
マテリアやエルメス、キュアノスといった辺りも存外に乗り気でやる気は十分といった感である。
「呪術を空に向かって放っても綺麗ではないって?」
Serviliaはそう言うが、へび花火もまた、花火である。
「そっちの魔術師さんも詠唱のリズムが良くないのです!
もっと高らかに! 旋律は美しく! 魔法と歌は表裏一体、他人の心を打つ詠唱が出来なければ生きる価値はないのです! なんですか、その反抗的な目は! ひまわりはそういうの素人ですけど見ていてつまらないのはバンバン指摘するですよ!
あ、いやまって。ちょっとこっちこないで――あぁ――」
……兎に角、和気藹々、地獄煉獄、本当にそれトレーニング? まで含めて――ローレット・トレーニングは華々しく始まった。
「ふ、訓練だと云うのなら吾輩は本来の役割をこなすとするか。本来の役割、つまりは標的機である」
名は体を表すとは言うけれど――彼以上の適任は中々おるまい。
クールにそう言った彼の名前は歳寒松柏 マスターデコイ。絵師に申し訳ないからアトリエ活動を避ける歴とした棒人間その人であった。
●訓練風景I
「こ、この前の不良!」
「お、いつぞやのイインチョーじゃねーの」
「不覚にもこの間は一緒にサーカス見物しちゃった屈辱、忘れてないわ! 武術は始めたてだけど今はイイ動きができそう……フ、フフ」
(……なんで敵意ぽいの向けられてんかねぇ……)
蛍とリオネルのボーイミーツガールは余談である。
まぁ、何だかんだ。やる時はやるイレギュラーズ達なのだ。
やる時はやる、いい言葉だけれどまぁ、アレだ。
今回せめてもの悪足掻きはレオンの視察の先である。書ける範囲で頑張ります。
「完全に立ったままの射撃は反動を殺し難い。
必然的に二発目の命中精度の低下に繋がるだろうから……
初心者の内は極力辞めたほうがいいな。
どうしても立射を行わなければならない場合は腰撃ちがいいだろう、これは反動が腰部分、体の中心に近い部分にかかるから体重の軽いリーンでも多少は扱いやすくなる」
「ええと、ふむふむ……ううん、やっぱり銃って難しいね。頑張らないと……!」
クライベルに銃撃の手解きをするリチャードはかなりいい教官であるようだ。
「ルナぁ、キミ最近籠り続きで身体鈍ってない?」
「……店が忙しくて出る暇もないだけだぞ」
「店番に戻りたい、です」
(本当の事かも知れないが)言い訳めいたルナールにマリスが進言を重ねた。
「本当に?」
何時ものようにクスクスと笑うルーキスの雰囲気は、幾らか華やいでいる。他人を食ったような、からかうような調子はやはり変わらないが、【総合強化】の目的の色気の無さから考えれば、彼女が華やぐ理由等、さして多くはないだろうか。
「髑髏が髑髏の魔法を使うって、色々とツッコミ所が……」
Morguxのもっともなツッコミに特訓相手のジークが「そうかね?」と首を傾ぐ。
その向こうでナックルを装着したアイナが鋭い打撃でサンドバックを揺らしており、
「たまには追われる側になるのも良いものだ! 新鮮!」
異端審問官(ジョセフ)とBlood等が柄にも無く遊んでいる(決め付け)。
「ジェントルマン養成講座、開講だ。
しかしそれにしても、何故この場で紳士の流儀を説かれねばならないのか……
君達はまだ疑っているかもしれない。
だが、考えてみたまえ。そもそもあの幼いころ、君達が志したものは何だったか。
強い戦士の背中。本当にそれだけだっただろうか?
弱きを助け強きを挫き不正を憎みより以上に博く衆生を愛す。
そんな"紳士的なるもの"にこそ惹かれたのではなかったか――」
その向こうではイシュトカが【VSOP】の参加者――アルマントと朝語を相手に長口舌を広げ、朗々と紳士たるや、を説いている。
「これから旅やサバイバルすることもあるでしょうし、皆に旅のいろはを教えるわ。
いい? 生水は絶対に飲んではいけません。体は絶対に濡らしてはいけません。夜は絶対に移動してはいけません――基礎的な事だけど、冒険は基礎の積み重ね。そうよね、ギルドマスターさん」
「わたしの知識をみんなに少しでも分けれれば良いなと思っているよ。
とはいえ、戦いについてはそんなにだからね、出来ることといえば典型的な怪我や病気への対処方法の解説位になるけどね」
「実際に体を動かすのも悪くはない、が。色々参考になるものだな」
「色んな人の立ち回りとか見てるだけでも確かに……勉強に……な……
スゲェ……バインバインて……クイックイッて……ああそんな……ゴクリ」
「座学も見学も重要だよ。全く理に叶ったお話だ。
まぁ、頭も体も鍛錬は大切だ。何れもしっかりやってくれたまえ」
イーリン、レンジー、エイヴに応じたレオンは夏子に「うむ、最高だ」と付け足した。
「まぁ、目の保養もあれば、只管面白い連中も居る。ほら、あいつらとか」
指差した彼の視線の先にはゲンリー(ドワーフ)とローラント(ゴリラ)が異界の闘技(すもう)に興じる世にも珍しい光景が広がっており、その又向こうには神話的恐怖感溢るるオラボナや、(バブみは無いが多分母なる)世界樹の姿もあった。
「我等『物語』は盾だ。防御する術は拙いが、魔への耐性は凄まじい。誰でも好いのだ。
我等『物語』に炎毒他諸々を齎し給え。全身全霊で抱擁する。さあ。苛まれる時間だ」
オラボナは兎に角耐える事を今回の課題と決めたおり、「ぬおおおぉぉぉっ!」と声を上げる世界樹は何故か人間サイズの回し車の上で延々とダッシュを続けていた。それはそれで何と言うかサニティの磨り減る風景ではあるのだが……
面白おかしい愉快目企画も多いが、ガチ目にキツイのは至極地道基礎トレーニングを選んだ【走り込み】を選択した連中か。
何せこの基礎トレーニングという輩は面白みと変化に乏しい。しかし、その実何よりも重要だという厄介な属性も持ち合わせている。
……っていうかね、こういう地味で地道なトレーニングって、自分一人でやってもなかなか続かなくて……
皆で一緒にやれば、楽しく最後までやりきれるかなって。てへっ……
みんなでランニング! おおにんずうではしるとたのしいよね!
愛らしいこの辺のコメントは始まる前にヒィロやQ.U.U.A.が残したものだが。
まさに地獄のように延々と続く走り込みは平坦かつ変化はない。
「走って走って走りまくりますわよー!」
ヴァレーリヤが気炎を上げる。
「あの夕日に向かってダッシュしようではないか!」
まだ夕日は大分先の話だ、ギルバート!
「やるからには最初から最後まで全力で、駆け抜けるであります」
「なんにも考えずに走るのも悪くねぇな。ああ、悪くねぇ」
碧、ツカサはそう言うが、戦いは無論まだ始まったばかりである。
「主旨はぶっ倒れるまで走り続けることだ! 下半身とスタミナはファイターの命だぜ、がっつり鍛えるぞ!」
【走り込み】を提案した貴道は流石にボクサーである。ロードワークはお手の物、吐くまで走るなら任せとけと言わんばかりのスタミナだ。
「う、うう……」
衣は何とかそんな貴道についていこうとしているが荷はかなり重そうだ。
確かに彼の提唱する走り込みは有意義で、ファイターに下半身は重要である。
しかし、彼のようなボクサーから、全然余裕といった風のライトブリンガー(馬)まで居るからイレギュラーズは面白い。
牛王辺りが仮に牛になって走る事を選んでいたならば牛歩ならぬ牛走つきである。残念。
(あ、これめっちゃへヴィーな走り込みだ。ガチなやつ)
ジョゼの予感は果たして正解である。
「走る、走る。とにかく、走る!」
「世界は広いなー」
ドラゴンリリーが声を上げ、最初の脱落者にはなるものか、とサクラが気合を入れ直す。
「さぁペース上げてくよ? へばっちまった奴はアタシがヒールしてやるから――どんどん走りな!!」
「だ、だれかァ……おみず……ください……ィ……」
「あっ もう無理じゃ。しばらく寝ながら酒飲んどるから、ほっといてくれ……」
檄を入れるヨランダにへバるヨダカ、落伍しようとするシビュレ。
「魔法使いも体力がいる、そして歌を歌うのも体力がいる!」
ラクリマは自分に言い聞かせながら走る、足を動かす、脇腹は痛い。
「フッフッフー、ニンジャはコッソリランナー!ボクサーに負けるはずがないネー!!」。
そう言っていたリナは周回遅れの大差をつけられている。だが、むしろ止まらない事を褒めるべきだ。
「兎に角ひたすら走る!! 走るのじゃ!! 皆を追いかけて走るのじゃ!! 自慢の美脚を更に美脚にするためにのう!!!」
そして、婚活黒歴史(ダークネスウエディング・ヒストリアー)に終止符を打つと書くと途端にヤケクソに聞こえるクリロさんである。
「毎日こういうのやれる人って、ちょーハンパないわね」
ちょーハンパない貴道の背中を眺めてアクアが呟いた。
弾ける汗が健康的な彼女の魅力を良く引き立てている。うん、いいぞ。もっと走れ。
「何だか邪念が響いたけど!」
存外根性のあるアクアは休憩も挟みつつも復帰しては走っている。
「こと『走ること』に関してだけは誰にも負けないッス! 自慢や慢心とかとかではなく、これは確固たる自負ッス!」
「ハッハ! じゃあミーと勝負だな!」
見れば前方ではスウェンと貴道が頂上決戦を始め、
「オレもめちゃくちゃ走りまくるぜ―! うおー!!!」
洸汰がそこに(少し無謀にも?)絡んでいく。
「勇者! 勇者! 勇者! 勇者!
フフ、勇者の使命を全うする上で最も重要なのは、そう! 体力さ!」
「脱水状態の人は安静にしてて下さい」
一方でとんでもない『脚力』を持ちながら最後方から参加者のフォローをしているアルプスは熱に浮かされたようなカタリナを背中に乗せて走るなど中々面倒見がいい。
「ひぃ、ひぃ、ふぅ……あ、あれをしたい。走りたくな、い。
もう隣街まで走った気分であるぞ、キンと冷えた水が飲みたいであるな、ふぅ、ふぅ」
そのアルプスとガチ最下位のエンヤスの横を媒体飛行を続けるオーガストが飛んでいく。
「大丈夫です。まだ三キロ位です。世間ではウォーミングアップ、ジョグと言うペースです」
「ひぃひぃ、ふぅふぅ!」
何故かこのロードワークに巻き込まれてしまった哀れな貴族――エンヤスは、何処からどう見ても走るような生活をしていないし、走るに向いた体型をしてもいない。
性格も余り走るようなタイプでも無いのだが、長いものには巻かれてしまう彼は、レオンに「折角だからちょっと絞ってこい」と命じられ、断り切れなかったという訳だ。
同じ基礎トレーニングでも幾らか和気藹々と初心者向けなのは【体幹・腹筋トレーニング】組だろうか。
(目の保養をさせてもらおうかの♪)
若干邪な人(ミカエラ)も居るには居るが……
「この体になってから体力に自信がなくってなぁ」
「体幹を鍛えるのって強さだけじゃなくて美しさにも繋がるんだって♪
よーし、今回のトレーニングでパワーアップ&スタイルアップ目指しちゃうぞー!」
零すみつきにギギエッタが楽しそうに言った。
「冒険者も記者も体が資本、しかも美貌は私の切り札! そう、トレーニングは美容にもいい!」
「身体に美しい、という概念がある事と女子力というものが私にはわからないの……」
「女子力ってこういうことで上がっていくのねぇ、不思議な力だわ」
「そう、女子力も体力も美容にも効果的! モチベーションは最高潮、はりきっていくわよ!」
カタリヤの激励にアンネやリノが目を丸くする。
「美容と健康の為にも頑張らないと。それに体が柔らかいと色々と便利だし」
「最近飲み過ぎでちょっとお腹が気になっているというか……」
カタリヤとアンネやリノ、そしてこの綾女やアーリアのやり取りは実にガールズトークめいている。
ガールズトークにみつきというのは何と言うか哲学的な問題を感じるが。
「I字? バランスって言うのかしら、できちゃった」
と宣うリノは女豹の面目躍如にしなやかだ。
「何だかとてモ、とてモ 楽しい事になりそうですネ。
皆様と一緒に指導してもらって美しい体? を手に入れてみたいと思っていますヨ」
Dark Planetが光景に宝石のような瞳を細めている。
「体幹を鍛えたいならヨガだ。ヨガは最強なんだ。ヨガをしろ。ヨガを極めれば火は吹けるしビームも出る」
ルーティエの提唱するヨガ最強論が事実かどうかは置いといて。
「うん、そうだね。軽く200……いや、20セットを時間を掛けてやって貰おう」
ヨガ・トレーニングの指南役になったエレムも沢山の参加者には満足そうである。
「今迄鍛えるって言ったら、専ら刀を振り回す事しかしてなかったもの、私」
「これを機会に、基礎トレーニングにも励むといい」
「そうしてみるわ」
頷く竜胆は鬼。強靭な体躯は種族特徴だが――鍛えればまだ更に強くもなろう。
「エレムが此処で指導を行うって聞いたからねぇ……私も此処で一肌脱ぐよ」
(主に稼ぎの方で)なティアブラスがどんな追加トレーニングを架されるかは余談である。
「体幹とは肉体の基礎じゃ、是を疎かにして五体無し。
まあ、ワシ自身筋力と言う者には余り自信がないからのう、足腰ならば負けぬのじゃが」
「体幹、大事だよな。こうやってじーっくり時間を掛けて鍛えると、いい仕上がりになるんだよなー。
ほうほう、こういう鍛え方もあるのか……参考になるなぁ」
玄兎の言葉にタツミが頷いた。
「98、99……100。ま、腹筋程度はなんてことねぇわな」
「えへへ、これでも鍛えてるからいっぱいできるよ!」
「10、20……ううっ、なかなか厳しいですわね……
でも、負けませんわっ! ガイウス様や鉄帝の皆様の筋肉に追いつくために!
あの装甲のような筋肉は、何度腹筋を重ねれば、身に付ける事ができるのでしょう……」
余裕を見せるオロチやシューを見て、お願い辞めてと言いたくなるような台詞を吐くのはアメリアだ。
とは言え、まだまだ余力のあるオロチに比べてシューのペースは大分落ち始めている。そこは見た目なりといった感だ。
「集団訓練とは、ローレットも粋な計らいをするものなのだわ。
こうして多くの人と一緒に訓練することは、それだけで一つの交流になるしね。
貴方も、付き合ったら如何?」
「眺めてる方が楽しいよ」
善と悪を敷く 天鍵の 女王(レジーナ)の誘いにレオンは肩を竦めた。
見た目の冷然とした雰囲気に反して彼女は割と付き合いが良い。言ったら逃げたがるが基本的に『いい人』だ。
「いやあ、色々やってるね」
面白半分、苦笑半分にイレギュラーズ達を眺める彼はオフの雰囲気で気楽な調子。
そんな彼の横を【アイオンジャージ部】の面々が駆けていく。
「変わった服ね。まぁ動きやすいからいっか」
姫喬にとって『じゃーじ』はきっと見慣れない服であった。
アイオンの座に選ばれた『何か小難しいトークで場を適当に撹拌する部活動』の皆さんも、まるで今日は中高生のよう。
「魔術師のトレーニングなら瞑想とか読書とかで良いだろ、もう!」
ウィリアムの抗議は聞こえない。
「説明しよう! アイオンジャージ部とは!
アイオンの座に選ばれた者として恥ずかしくない体力! 健康! 品位! 精神! を身に着けるため!
クラリーチェを部長に(俺が押し付け)発足した部活動である!」
竜也曰くそういう事で。
「上着のジャージを腰に巻いて腰パン……まさか、こんな格好を」
「えんじいろに白のライン……動きやすいし汗をかいても発散させてくれる優れもの。 なのですが、何と言いますか……ダサ……馴染……いえなんでもないで……はい」
ノインやクラリーチェ曰くそういう事で。
「まあ運動と言ったらこれ着るよね、テンプレートテンプレート」
「ジャージ生地のメイド服という事で。私はメイド服を着ていないと死んでしまいますからね」
悠曰くそれは当然の事で、ヘルモルト曰く不正改造をしました風情で。
「……私はお茶を差し入れに来ただけなのですが」
アリシス(の胸部装甲)曰く、中高生なんてとんでもねぇや! こりゃあ原子力空母だぜ!!! なのだった。
Σ!!!
なぁ、そこの金髪よ!
「……私、なのか?」
勿論――アレフ(※無罪)は今日も真面目に訓練している。
「走り込み! セットトレーニング! 体幹トレーニング!
魔法少女は基礎大事! 体力勝負ですよ、はい。次また一セット!」
渓はとても元気で、その言葉は実際の所――至言であった。夢は無いけど。
「何の訓練か、ですか? ええ、もちろん金勘定、ですよ。
ああ、そういえば。この世界では肖像画の流通が盛んなのですね。これは、ふむ。成る程……」
↑いや、寛治(コイツ)に比べればかなり沢山夢があった。
「失敬な」
●訓練風景II
「特訓。特訓ですよ。
スポ根とか完全に昭和ですよ。お母様が良く言ってました。
昭和というのは違う世界の年号らしいです。地元の癖が抜けてないお母様でした、本当に。
それはともかく特訓、特訓ならばあれです。イメージトレーニング。これ最強。身体を動かさず強くなる。なんてすばらしい。
幸い回り中で色んな人がトレーニングしてるじゃないですか。それをまず見ますよね?
で、それと戦うイメージをするんです。それだけで強くなれるという寸法ですよ。なんだそれ、神か。狐だ。
狐はずるいそうです。つまりずるくて楽して強くなるのこそ狐の本懐なのではないでしょうか。狐的に大変、ただしい。
さあイメトレです。イメージが満ちていく。頭がすっきりぽやぽやしてきてZzz」
狐耶(コイツ)、ずるい。貼っつけたらリプレイになったぞ。
コイツ呼ばわりシリーズがさっきから酷い――のは置いといて。
【BGM】の顔触れ――フェリシア、ティティシア、ルティアニスの三人が音楽を奏で、アリソンが派手にそれを盛り上げた。
トレーニングは無骨なものだが、疲れた体には一抹の清涼剤になる事だろう。
(――懐かしい)
己が感傷を「年甲斐もなく」と苦笑しはするものの、ユリウスは人々が己が技を磨き上げんとする光景に胸を熱くする所があった。
今すぐに戻りたいとは、思わない。必要とされ、この地に来たのだろうから――しかし、それは在りし日の風景そのものだ。
若い人間が(まぁ若くないのも多いが)、己が力を磨かんとする場はどうしてかくも美しく見えるのだろうか。(除・寝てる狐)
「いやはや、こうして大勢で訓練する風景を見ると、騎士団にいた頃を思い出しますな」
しみじみと呟いたダグラスにイズベルガが「ううむ」と反応した。
「腕立て、それからクランチに……あぁ懐かしいな! 新兵時代を思い出す!
あのクソ教官殿はお元気だろうか。鬼に鬼すぎる訓練内容だった。少しは手加減してくれてもいいものを……
おっと思い出に耽っていては思い出の中で叱り飛ばされてしまうな! ハッハッハ!!」
ちょっと屈折した思い出を楽しそうに述懐するイズベルガは中々頑丈そうだ。
「疲れた体には果物よー。苺やオレンジもあるわよー」
「くれぐれも無理はし過ぎませんように……」
ユリウスや蘇芳、自分が鍛えるより誰かの為に、と考えたオフェリアの見守る先では――成る程、かなり激しいトレーニングが行われている。
彼等もそうだが【サポート部隊】やサポートを買って出た面々は陰に日向に今回のイベントを支える縁の下の力持ちだ。
「戦闘行為だけが戦いではありません。
賢く可憐な賢者マリーちゃんとしては、味方の補助も大事な事だと思います」
「補給と治療を含めた後方支援は、大規模戦や長期戦に於いては軽視出来ません。
これは皆さんのサポートであると同時に、実戦に備えた自己研鑽です」
「MP(メイドポイント)大量獲得の予感……!」
カルマリーゼに頷いたアイリスは気合い充分であり、謎の予感を発揮したえーこは実に甲斐甲斐しく動いている。
如何せんどれだけ張り切ろうとも、仕事は山のようにある。例えばコリーヌは壊れた道具を補修したりしていたし、例えばメリルは連絡役として関係各所の動きをスムーズにし、例えばルクスリアは魔王的義務(ノブレス・オブリージュ)に従って下々の世話を焼いている。
「そちらはまだ行き先が未定なのです? それなら、こちらなりに訓練企画をご紹介するですます。
ギルドのお仕事や荒事に興味があるなら【クエスターズ】【死亡遊戯】。
体力作りなら【素振り】【走り込み】【デスマーチ】【滝行】【山籠もり】。
女性なら【体幹・腹筋トレーニング】、男性なら【VSOP】もどうぞですます。
戦闘訓練なら【組手】、特に前衛なら【タンク】。遠隔物理なら【シューティング】。 神秘鍛錬なら【花火】という手もありますです。
お腹が空いたら【パン】、そして我等が【サポート部隊】へ!
いくつかは【スタンプラリー】に協力しているそうですます。
もっと軽くやりたいなら【砂絵チャレンジ】【増える鬼遊戯】もあるですます」
例えばコラは案内役として、飛び入りのイレギュラーズを適切な訓練エリアへと誘導している。
ハッキリ言って俺が一番喜んでいる。サンキュー、コッラ。
珍しいのは【砂絵チャレンジ】。イレギュラーズにとっては美術技能も修行の内、という事だろうか。
ラズワルドやジルーシャ、リョウブ、アニー、ネスト、メイメイ、奉明、晴明エトセトラ。どんな作品を生み出すかは興味深い所ではある。
ちなみに異色の存在である【クエスターズ◆】と【クエスターズ◇】はリチャードが主催したローレット・トレーニングのスタンプラリーだ。
殺伐としがちな訓練にちょっとした楽しみとゲーム性をもたらす工夫という訳である。
この企画に賛同した面々がローレット・トレーニングの開催されているエリア全域に散らばり、ヒントや次の行く先を教えたり、こなす課題を与える『クエスト』形式の発注者となっている……という寸法だ。鹿津也、ミュル、アントニオ、咲良、ノゥカ、アカネ、メイル、ライア、アルト、ルーカン、和一、レオナルド、アリス……複雑に情報と順番が絡み合ったクエストクリアは簡単ではない。クエスト『仮面舞踏会への招待状』、そしてクエスト『大切な届け物』。クエストマスターであるリチャードの課題『全てのクエストをクリアしろ』は中々挑戦的なお題であると言える。
もうちょっと余計な情報を述べておくならば、【路地裏SSK-A】は非常に面白い。
夢見 ルル家と路地裏カプリチオが織り成す超宇宙的忍者警察トレーニングはコズミックにパニッシュなムーヴメントで俺のハートが星辰の時である。
代表的なアトラクションを挙げるだけでも!
ルル家提唱の『ドジョウでぬるぬるする鉄骨渡り』!
デイジー提唱の『恐怖! 第888関門! スペースオクトパス八艘飛び』!
かるら提唱の『見つめる瞳』!
唯花の挑む『ボールの中を駆け抜けろ!ぐるぐる丸太』。醍醐が音を上げる『恐怖山脈(クリフハンガー)』と。
全くサスケェな感じと、動に静にとSAN値削岩感を出す事に余念がない。つーか888な時点で地獄の釜の蓋とかフリスビーになっている。そりゃアレだってもんだってばさ。
「一体何処からこんなアスレチック染みた物を出して来たのかしら……」
ヴィエラの呟きはほぼ全員の代弁だろう。
「これ、クリアしたら立派な忍者になれるかな……」
リックに、それは、おすすめ、しない。
閑話休題。
基礎トレーニングが重要であるのは言うまでもないが、実戦訓練も有意義なのは間違いない。
「シャロン君になら、痛くされても大丈夫だよ?」
「――――」
シャロンと訓練を続ける鼎さんが何処となくエロいのは何時もの事だが、多分書き手や読み手が汚れているからであって、その。
「ふうん?」
たまらん。
「そういう訳で、リースリットさん。宜しくお願い致します」
「異世界の剣術には興味があった所でした。こちらこそ、いざ」
舞花とリースリットも有意義な時間を過ごしているようだ。
「最近腕が鈍っているからな。一丁鍛え直すとするか!」
シュバルツは野生動物を相手に勘を磨き直そうと考えた。
【無銘堂】の面々はプティの言う所の「武闘派無銘堂式トレーニングー!」つまり、無差別大乱闘で生傷を大量に作り出している。
此方にはその異様雷鳴の如し――その名も雷霆、此方には隆々たる暴威、魂の捕食者ウォリア。そこから必死に逃げ惑うヴィノの姿もある。
怪獣対決の一方で、
「おっとそこは危ないよ?」
「……ぃったいわねぇ。ごもっともだけど……やられたままで納得するほど行儀はよくないの!」
ノワとサングィスが技巧的にやり合い。
アルムがメル・ラーテ、メル・ディアーチル、エナ、ボルカノ等生徒に戦いというものを指南していた。
「これは忙しくなりそうだ」
「ポーションを作る訓練にもなるし、救急箱とか持って歩き回るから多少なりとも体力トレーニングになりそうな? 一石三鳥くらいになるかもしれないね!」
ゲオルグやスティアは周囲を回復してまわる『救護班』の一だ。
【死亡遊戯】ではミミやセリカやウィンチェスター、それ以外もかなり沢山。
イレギュラーズの『やんちゃ』な訓練が大事にならないのは彼等のお陰である部分も大きいだろう。
【無銘堂】と同じく【聖剣騎士団】のメンバーもこの好機に武技を磨くに余念が無い。
「今までは雪合戦だのチョコやパイの投げ合いだけだったけれど、今日は武器を持っての模擬戦だよ。全員違う人と当たる、総当たり戦で行くのだ」
今日は笑いは無し、と団を率いるセララの言葉に一同自ずと気合が入る。
「胸を借りる心算で参ります。仮想敵はセララさんのような硬い相手。非力な私ですから――いえ、必ず貫きます」
シフォリィの美しい面立ちに浮かぶ決意は強いものだ。
その強烈な想いが――この所世間を騒がせる事件にも起因する事を知る者は多くはないだろうが。
その真面目さと言えば、
「わたしは『ミュルグレス』のセティア……あらためて、よろしくね」
セティアが『えもさ』も忘れる位である。まぁ、結局エモいのだけど。
「上手く魔法を当てられるように相手の動きを予測するようにしましょう」
「後衛の仲間を守る練習だね。相手の動きを良く見ていかないと」
「実戦で後ろから誤射してしまったら大変でごぜーますからね」
香澄、緋呂斗にマリナも自分のテーマを決めている様子である。
大きなカレーの寸胴を抱えた小梢はマイペースで、彼女は世界が滅びる日まで彼女のままに違いない。
しかし案外防御の堅い彼女はそんな風でいながら、まともに戦うのだからこれはもう芸風か――
【狙撃・術連携】を確かめるのは瞬、シャル、エレン達。
「あら、いい企画をしているわね」
顔を出したエリニュスが飛び入りで参加したのは、噂の【シューティング】である。
(戦闘中は立ち止まり、集中しての射撃ができないことも多い。
現場に遮蔽物がない事もある。今日は足を止めずに動きながら狙いをつける訓練だ――)
――ラダのようなシューター達は、遠隔射程を持つ武器の取り扱いについて習熟を深めんとしている所だ。
「えっと……私は魔力を撃ちだす銃だから……【タンク】の方が居ない方が良いのかしら?」
「魔法の銃しかないから……【タンク】の人たちとは組めないや」
『残念だけど、仕方ないわ』
「そうだね。ボクタチは的を相手に練習しようか」
「【タンク】の連中を標的にしていい、だっけか?」
「わたしは【タンク】の人達に付き合ってもらうわ。実践あるのみ、だもの。動いてる相手じゃないと、楽しくないわ」
「【タンク】相手に人撃ちと洒落込ませてもらおうじゃねぇか」
「特殊弾でドッチもコッチも行きまくって撃ちまくる! で!」
「お父様のような百発百中を目指します!」
そして、エンヴィやレオン・カルラ、デュークや菖蒲、イスカと霙のコンビ、そして九郎が口にした【タンク】連中は攻撃より防御に軸足を置いた耐久トレーニング組である。
「盾の扱いには自信があるんだ」
そう胸を張るのはクロガネ。
「ほら、とっさの素早い動きで狙いを逸らせれば受ける被害は格段に減るやろ? あれあれ。
こうなんて言うか、盾は構えるだけよりも素早く動かしてった方がええ思ってる」
疾風の言葉は感覚的だが、中々真理を突いているかも知れない。
「オイラもかばい手にまわることが増えたから、防御の特訓もしとこうと思うよ」
「女だからって甘く見たらダメですよ?」
歳相応以上に『男の子』なチャロロや、煽りスキルの色々な意味で高い(意味深)理香。
「地獄のような訓練だぜ……これが終わったら、アイスクリームを死ぬほど食おう……」
「攻撃は最大の防御という言葉もありますが、敵生体からの反撃が予想される場合、防御は大切なものです」
無意味にフラグを立てていくスタイルの屑鉄卿(かい)や生真面目に防御の有用性を追求するイースリー。
「学ぶことはたくさん。思いっきりやられちゃうけれど……あの人のような騎士になるために。頑張る……!」
「普段、ギフトで空を泳いでいるわたしは、今まで、ちゃんと足で立つ訓練をしてきませんでしたの。
でも、この機会ですから……頑張ってみますの……!」
ファナやはじめての歩行(?)訓練、ノリア、大地に立つを地で行くノリアも含め――皆一様に士気は高かった。
【死亡遊戯】は総合実践を是としたが、【無銘堂】や【2対1組み手】、【組手】の連中はより戦いにその重点を寄せている。
【2対1組み手】はその名の通り変則的で、レイと芽衣、トゥエルの三人がそれぞれ組み方を変えて2対1での特訓を行うというものだ。
大所帯の【組手】を相手に指名し、立ち回るのは【タンク】のΛουκᾶςで、
「我が名はルカ! 王様のルカ! 腕に覚えのある者は参られよ!」
その声は凛然と響き、否が応無く他者の注目を引き寄せていた。
「さて……行かせてもらう! このオレ、ロイ・ベイロードの剣技を受けてみろ!」
王と勇者のある意味で夢のカードに辺りが沸く。
些少なゴールドで魔王討伐を押し付ける王と木の棒で旅に出てしまう勇者。
概ね風評被害だが、ストロングスタイル同士の対決である。
【組手】は実戦訓練組だが、その実、耐久力を鍛えるものでもあった。
佳月もそうだが、彼等が目指しているのは二十四時間耐久戦。半端な覚悟では有り得ない。
「誰が24時間で終わりだと決めた? 倒れるまで、俺は戦うぞ。
立っている限り、戦わなくてはならない状況もきっとあるはずだ」
……アカツキの言葉に前言を撤回しよう。つまり、彼等は『それ以上にガチ』である。
「一日千回! 感謝の<我が名は悪の秘密結社『XXX』が総統、ダークネスクイーンである!>」
「『LV1』がどこまでできるか。体感しておく程度の感覚で参りましょうか」
「みんなの胸を貸してもらうよ! さぁ、戦おう!」
ダークネス クイーンが謎の宣言を決め、クリスタルが、アキレスが気を入れる。
フィーゼが木剣を振るい、
「俺は旅人の真。今日は格闘家さ」
「皆さん、お手柔らかにね」
告げた真と文が正眼に相対する。
瞬は立ち上がれなくなるまで続けると心に誓い、
「現役の頃の感を取り戻すのにはちょうどいい。
懐かしいなぁ! 増殖し続ける敵を相手に三日三晩寝ず休まずで戦い続けたあの戦い!」
?(´・ω・`)?
???(´・ω・`)?(´・ω・`)?(´・ω・`)???
……じゃない、謎の スーパーヒーローはスーパーヒーローらしく嘯いている。
「こっちは持久戦か……限界までとことんやってやるぞ!」
「いつまでも調子が出ねえのも気分が悪いからな。ここらで無理矢理『掴ませて』もらうとするぜ」
モモカの気合とリーゼルの不敵な台詞が交錯する。
「元の世界じゃろくに戦闘なんてした事ねぇからな。しっかりと経験を積んでおきてぇんだわ」
「あたしはなんだかんだ言ってもただの女子高生なので、皆さんの胸を借りるつもりでぶつかるっす! でも、サイキョーの女子高生にあたしはなる!!!」
葉月にしても香奈美にしても何と言うか判り易い連中で、同時に気持ちの良い連中である。
バトルロイヤルを興じているのは【古戦場】のメンバーだった。
「ふふふ。こうして皆で腕前を競うのは、心が躍るな」
「折角の訓練だ。今の身でどこまで出来るか、試してみよう」
空海、汰磨羈の視線の先で面々が既に相手を見つけ、やりあっている。
「目指す道を決めるためにも、今出来ることを把握しないとな。燃やすか毒に侵すか攻撃しか出来ないけど……」
「誰の攻撃が一番重いのか、計らせて貰おうか。
一切の容赦は不要。打ち倒す心算で掛かって来い! さあ、俺に止めを刺すのは誰だ?」
ポテトとリゲルは恋人同士だ。
「……」
「……? どうした?」
「いや、なんでも、ない」
誰が真剣な訓練の最中に「見惚れそうになった」等と言えようか。
「倒せたら面白そう」とは思ったが、それはそういう問題ではない!
そんなリゲルの最初の相手は「一度イマの自分の実力がドレほどなノか、確かめル必要ガありソウだ」と嘯いたモルテである。
「……大きな流れに……負けないように……訓練は大事……だよね……」
(いかに相手より先に行動できるか、反応できるか――)
グレイルにとっても、シレオにとっても、カイルにとっても、これは貴重な機会なのである。
「シレオさんは動きが速いなぁ。モルテさんは攻撃が鋭そう……!」
他人の動きを見る事で分かる事もある。ユーリエの素直な感嘆の声は同時に鋭い分析でもあった。
「QZちゃんも二つの武器を所持してるのに動きに無駄がない……!」
「私が守るから傍にいてね、まろうさん! 大好き!」
「ふふ。大好きな人に守っていただけると、こんなに心強いんですね」
思わず本音が口を突いたクィニー――QZにまろうが微笑む。
だが、そんな風に柔らかでありながら同時に強い芯を持つまろうは思うのだ。
(――だからこそ、大切なあなたが負う傷を、どうか私の立ち回りで減らせたら)
「え、ええと――行きます!」
ブラックホールのような砂糖空間に飲まれかけたユーリエが我に返る。
ならば、と距離を取った彼女は十分なレンジの向こうからライトニングの一撃を放つ。
QZは宣言通りまろうに一筋の雷撃さえもそらさない。自身をその目標に定めさせている。
「とーう。受けるであります」
……熱の足りない掛け声に、そのユーリエも防御を余儀なくされた。
神出鬼没、奇襲めいた動きを見せた口笛にユーリエが小さな悲鳴を漏らした。
「本日は口笛ではなくミス・ホイッスルと呼んで頂きたいであります」
正体を隠す心算の無さそうな素敵で不敵なドミノマスクは、至極真面目に冗談めいている。本当にずっとミス・ホイッスルと呼び続けたら音を上げそうで楽しそう。
(一人ではやれることが限られるからな、本来なら地形や人数を活かして回避能力を潰したいところだろうが……)
思案するレオンハルトの向こうでは、ノーラがアランを狙っていた。
「アランおじさんは魔弾期待してるみたいだし、ご期待に応えて魔弾で攻撃だー!」
「おっと、簡単には通さねぇよ」
ノーラの一撃をアランは予測済だった。防御態勢を取った彼はこのダメージを小さなもので切り抜けている。
「改めて礼を言っとくよ、ありがとうってな」
「礼を言われる事なんざねぇよ」
【組手】を提案したのはハロルドだ。侠の言葉に犬歯をむき出した彼は笑う。
「お前こそやるじゃねぇか! 訓練なのが残念なくらいだ!」
●訓練風景III
(ただただ無心に斧を振りましょう。
振っているうちにその動作はスムーズになり、ごく自然に首を落とせるようになります。
無心で、そう無心で――無心で、ゴロン)
「癒やし系!(素振り) 癒し系!(素振り)」
パティのゴロンとコーネリアの掛け声はかなり特殊めいてはいたが、素振りは戦闘鍛錬全ての基本だ。一朝一夕にその技は磨かれず、基礎を怠る者に大成はない。
「……」
だからこそ、メルトは黙々と繰り返す――ずっと、何度でもそれを繰り返す。
(……長い、そして続ける程に意識が透き通るでござる)
そしてそれはタチカゼも同じである。武の道もまた一日にして成らず――といった所か。
「レオン君」
大きめの岩に腰掛け、その様子を眺めていたレオンに声をかけたのはドラマだった。
「その服(じゃあじ)似合ってねぇな」と笑った彼に唇を尖らせかけた彼女(かわいい)は頭を振ってから言う。
「折角、折角なのですから……レオン君、私に剣を教えてくれませんか?」
インドア派の予想外の申し出に一瞬驚いた顔を見せたレオンは「成る程」と人の悪い顔をした。
「またそういう悪い顔をして……私はそういったノウハウに疎いので、良い経験になると思うのです」
「いい心がけだよ。オマエも含めて――イレギュラーズには大怪我して貰いたくないからな」
魔術師が近接戦に興味を示す事にレオンは賛成しているようだ。確かに華奢な後衛が最前線に立つ機会は多くなかろうが、自衛能力は厳しい戦場である程に勝負を分ける要因にも成り得るものだ。
「それから――」
そして、レオンはドラマから――その背後に視線を移して言葉を続ける。
「オマエ達もそのクチかい? まぁ、ドラマ程可愛らしくは無い感じかも知れねぇけど」
「よい機会です、是非とも貴方から剣術指南を受けたい。お相手願えますかな?」
「クハッ、それを言われると痛いな! レオン殿!
だが、一つ音に聞こえた蒼剣を見せてはくれないものだろうか」
パンと百合子がそれに応じた。目を丸くしたドラマと違い、此方の面々は「やれるだけやってやるから手合わせを一つ」といった風情だ。勝てると思っては居ないが負ける気は無い。一発いいの入れてやる――そう言わんばかりの、レオン曰くの「可愛げのない連中」という事だ。
「是非、ギルドマスターの実力を見せて欲しいね」
この流れにミランダが続く。
「オーナーの、ちょっとイイトコ見てみたい! ってな?」
ことほぎが外野から煽りを入れる。
レオンは少し思案顔をしてから「いいよ」と応じた。
その答えはドラマに対してのものであり、パンや百合子、ミランダ――ことほぎに対してのものでもあったらしい。
「まぁ、遊んでやるよ。おっと、気を悪くするなよ。混沌肯定の数奇な『あや』だ。
ま、こんなのは偶然の――めぐり合わせってヤツでしかない。
だが、今は稽古の一つ位はつけてやれるだろう」
「感謝いたします。では、尋常に」
パンの言葉に「気にすんなよ」とレオン。
「無論! 及ばぬ身ながら、全力でお相手仕ろう!」
『元の百合子』であったならば、恐らくは夕焼けに百万本の白百合が咲き誇った事であろう。
「ふむ、手合わせをするも、それを観ずるも又、興味深き事よな。実に良き鍛錬になるでござろう」
素振りを休憩したタチカゼが俄に始まったイベントに興味深そうな顔をした。
盛り上がりを見て、今日一日実戦を重ねてきたライセルも顔を出した。
何だかんだでレオンも退屈していたのかも知れない。
「いいねぇ。美人も一杯だし――やる気も出るわ」
マントを手で払った彼は、案外楽しそうに――腰の剣に手を掛けた。
ローレット・トレーニングは大いにイレギュラーズ達の力を底上げする大成功に終わるだろう。
面倒くさがりのギルドマスターがその気になる位、今日の彼等は熱かったのだ。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
Re:version名義ですが、リプレイはYAMIDEITEIです。
あとがきについてもYAMIDEITEIが書いています。
・序
目標500はあくまで目標なので来なくてもいいと言うか。
来ないと思ってました。結果、その1・5倍以上来ました。
・破
785も来たので、リプレイを一切つけないのはお客様に失礼だと思いました。
大成功出すのだし、スポットだけでも描写したら良いのではないかと思いました。
5000字程度で50~100人を描写しようと考えました。
・急
描写量は意図的に抑えています。名前出しただけレベルも多用しています。
ですが、それでも23000字を超えてしまいました。320~位描写しました。
経験上『半数を超えると、いっそ全部描写しよう』になりそうなので……
タグ内抜けもあると思います。
出せなかったPC様はすみません。又別の機会に頑張らせて下さい。
以上、煉獄誕生編でした。
本シナリオは、500参加者を超えたので『大成功』判定にします。
又、参加人数が785だったので人数ボーナスを39点獲得します。
更に詳細は伏せますが、プレイング判定により45点のボーナスを加算します。
称号は話の筋に沿ってハイライト的な出し方をしています。
MVPはまぁ、超頑張ってた気がしたので出しました。
Easy大成功+39+45で200点ちょっと。
VH成功ラインまで経験値加算が届きました。
まさに大成功の結果であり、(リプレイ無いという前提でしたのに)プレイング頑張った結果だと思います。
アナクロに超頑張ると凄い事もあるんだ、みたいなPBWの原理的な面白さでした。
ある意味リアル決戦みたいな感じでした。実に清々しく感動的でした。
報酬出し過ぎで悔しいです。是非、いつも悔しがらせて下さい。
おめでとうございます。そしてお疲れ様でした!
GMコメント
Re:versionです。
特别な企画を出す時だけお邪魔します。
以下詳細です。
●任務達成条件
・真面目(?)に面白く(?)トレーニングしましょう。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に500人を超えた場合、大成功します。(余録です)
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
基本的にお好きにどうぞ。
●重要な注意
このシナリオには原則リプレイがつきません。
つくとしても非常にスポット的な描写になりますので無いものと考えて下さい。
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
育成にリソースが足りないというご意見を多数頂きましたので企画しました。
このトレーニングはスポット的な運営であり、次回開催は未定です。
又、恒常的に行う予定はありません。
この機会に宜しければ是非ご参加下さいませ。
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