触れざる悪
極楽院ことほぎは法に背く悪人である。しかし各国の治安維持組織は、彼女を積極的に捕まえようとしていない。なぜか。
要因として代表的なものは、彼女が特異運命座標であるからだ。
もちろんローレットのオーナーが火消しに走っているのもあるが、ローレットの庇護下にある彼女を一国が逮捕しようと動けば、他国から「貴重な特異運命座標を捕縛するとはどういうつもりだ」などと非難を浴びかねない。扱いを間違えば最悪、開戦の理由にさえもなりえる。
付け入る隙を他国に与えないために、極楽院ことほぎはあえて見逃されているのだった。
──とはいえ、個人の正義感によるものまでは止められないようだが。

朽ち薔薇の教え
監獄島を統べるローザミスティカから術式の指導を受けた。
授かったのは監獄魔術──紫煙混じりの吐息にのせて紡がれる、魂に直接作用する呪術である。魔弾（アンプル）の形をした魔女の呪いは、さながら劇薬のように対象を蝕む。
教えを受ける対価としてことほぎは、自身が治める領地『極楽園』からの支援を約束した。