シナリオ詳細
<常夜の呪い>無限幸福夢枕、万物無明常夜霧
オープニング
●ゆめゆめ顧みるな
「報告いたします。
ネメシス首都フォン・ルーベルグの東、および西の町にて夜色の霧が発生したとのこと。
霧はドーム状に町を多い、偵察隊によれば内部はまるで元の風景を失っていると」
教会の赤い絨毯に膝を突いた騎士の言葉に、『峻厳たる白の大壁』聖騎士団長レオパル・ド・ティゲールは厳めしい顔を寄り深く、そして険しくした。
続けよと述べるレオパルに、騎士は僅かに顔を上げる。
「調査隊曰く『常夜の呪い』……神聖なるネメシスに入り込んだ魔種とその狂信者たちが生み出した特殊空間でございます。
どころか霧の外へと無数の魔物が現われ、民間人を襲っています。
現地の騎士たちが抵抗していますが戦力が足らず、襲われた民間人や倒された騎士たちは霧の中へ連れ去られている模様」
「もう良い――」
レオパルは小さく首を振ると、神聖な金彫刻がなされた剣を振りかざした。
聖都を中心に『黄泉返り事件』で人心が乱れている昨今である。『常夜』とどちらが先に起きた禍なのか、二つの事件に関係があるのかどうかはレオパルには知れなかったが、何れにせよ捨て置ける状況では無い。
聖騎士団に、レオパル・ド・ティゲールに求められるのは速やかなる悪滅、そして正義の遂行ばかりなのだ。
「彼らは聖なるネメシスの民である。
騎士総力を持って、魔の者を打ち晴らすのだ!」
かくして、ネメシス正教会に所属する多くの騎士団へ命令が下り、突如発生した大規模な特殊空間へと突入していったのであった。
しかし……。
●魔種の専門家、ローレット
「天義の騎士団および正教会から大規模な依頼が入ってきた。
皆も知ってると思うが、ネメシスで現在大規模な『常夜の呪い』現象が発生してる。
騎士団が突入を行なったが、その多くが『スリーパー』という魔物の迎撃を受けて半壊、撤退している。中には一部の騎士たちも取り残されているらしい
黄泉がえり事件の頻発で各地が混乱しているさなかの、厳しいダメージと言ったところだな」
真剣な表情で語るギルド長レオン・ドナーツ・バルトロメイ。
ここはギルド・ローレットが天義活動の拠点のひとつとしている酒場であった。
しかし集められたイレギュラーズの人数はいつになく多い。酒場がまるきり貸し切り状態になるほどである。
「そこで俺たちの出番だ。お膳立ては十分てな。
ネメシスご自慢の聖騎士団の吶喊で敵側の戦力も相当削れてる。
首都フォン・ルーベルグに入り込んだ魔物『スリーパー』への防衛と、けが人や浚われつつある人々の救護。
そして霧に覆われた特殊空間への突入と、その最深部にあるという『扉』への侵入。
最終的には扉の先に待ち構えるという魔種『真なる夜魔』の討伐までが依頼されている。
まあ……俺たちローレットには魔種討伐の実績がいくつもあるからな。
天義の騎士団も周辺住民の避難と防衛に力を割きたい分、攻撃をこっちに任せるのは妥当なところなんだろう」
こうして、ローレットのイレギュラーズは天義での大規模作戦にとりかかることとなった。
ある者たちは市民の救護救出を、ある者たちは首都の防衛を、またある者たちは霧の中の特殊空間への突入を仕掛け、ある者たちは扉の向こうの神殿へと挑むことになる。
「現地ではまだ騎士たちが戦ってるだろうし、首都や周辺の町では騎士が防衛にかり出されてる頃だろう。
連中と協力して、この呪いにケリをつけてやってくれ」
●ある悪魔のオリジン
遠い遠い昔話だ。
ある町のある家庭の、平和が終わった日のお話である。
母を早くに亡くした娘は、神父に育てられていた。
神父は献身的で誠実で、町の人々の求めることはなんでもした。
金を手にしたら必ず町の人々のために使い、明日のミルクとパンがあればそれでよかった。
娘も同じだった。『パパ』さえ居れば他に何もいらなかった。
けれど幸福が潰えるのは、ろうそくの火が消えるように唐突だった。
町の求めに応じ続け、国の求めに応じ続け、身を捧げ心を捧げ、何も欲しなかった神父は過労に倒れ、娘一人が残された。
世界の全てを喪った娘もまた倒れ、ベッドの中で新しい世界を夢見るようになった。
夢は狂気の世界を生み、狂気は魔を産出した。
娘は全ての不幸と全ての憎しみと全ての怒りを現実の枕元に置き去りにして、無限の夢へと逃げていった。
「パパ……おやすみ。もう、ミルクもパンもいらないわ。ここには全てがあるもの」
娘は……『真なる夜魔』は、石の神殿の頂上で、枕と掛け布団だけを大事そうに抱えて、うっとりと目を閉じた。
- <常夜の呪い>無限幸福夢枕、万物無明常夜霧完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年05月08日 22時50分
- 参加人数335/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 335 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(335人)
リプレイ
●正当なる異端者たちのパレード
ネメシス首都フォン・ルーベルグ。
中でも指折りの広さを誇る教会が今、臨時の救護施設として開かれていた。
ネメシス正教会聖騎士団をはじめとする数々の教会から参陣した騎士たちが、包帯を身体に巻いて地面のあちこちに座り込んでいた。
「ダメージは深刻だ」
ベッドはおろか薬品や道具も足りないというこの状況を目の当たりにし、聖騎士団長レオパル・ド・ティゲールはため息をついた。
そこへ駆けつけた伝令係が馬から下り、伝令書を開いた。
「伝令! ギルド・ローレットより増援が到着!」
「来てくれたか……数は、何十人だ」
最低でも50人。欲を言えば100人規模の戦力があれば出現した怪物『スリーパー』たちを退け、魔種に手傷を負わせ追い払うことはできるだろう。
そう考えたのだろう。眉間の皺を深くするレオパルに対し、伝令係の手は震えた。
「……ローレット、総勢335名でございます!」
●東部防衛ライン、緊急参陣
「防衛ラインを下げろ、ここはもう限界だ!」
折れた弓を抱え、馬にのって走る騎士たち。
破壊されたバリケードが散り、身の丈二メートル近いヒトガタの怪物が飛び出してくる。『スリーパー』だ。
恐怖に振り向く騎士。
拳を振り上げたスリーパー。
次の瞬間。スリーパーの額が派手にはじけ飛んだ。
アトゥリの神鳴りが直撃した際の爆裂であった。
「敵に狙われたら秒で倒される自信があるです。自慢じゃないですが」
「大丈夫。まとめて守るよ!」
虎爪を構え、雷を纏って突撃するソア。
「ボクは長いこと生きてきたけれど、こんなこと初めてだよ。
やっとヒトと暮らせるようになったのに変な事件に巻き込まれちゃった。
これが終わったらうんご馳走にならなくちゃ!」
「出奔したとはいえ故郷は古郷。
この地でこのような行い見過ごすわけにはいきませんね。
これでも一応は聖なる側の者であったのならば……ふふ、悪即斬……なんてね」
殴りつけたスリーパーに、カンナの剣魔双撃が鋭く叩き込まれる。
轟音をたてて崩れ、まるで白昼夢のごとく消えていくスリーパー。
撤退しようとしていた騎士たちは、突然の増援に目を丸くしていた。
「た、助かった。君たちは――」
崩壊しつつある首都の防衛ラインに、次々とイレギュラーズが入り込み、町に侵入するスリーパーたちと戦い始めていた。
エンヴィの死霊弓がバリケードの上を飛び、狼の群れめいたスリーパーたちへと次々に突き刺さる。
「最近、天義絡みの依頼が多いから…大変そうとは思ってたけれど…」
「この国は最近何かと騒がしいですね。困ったことです」
更にクラリーチェの黒の囀りが発動し、闇がスリーパーたちを捕まえては引きずり込んでいく。
「私たちの役目は、皆さんが元凶を討つまでの間、街を守る事です。怪我しないように頑張りましょうね」
「えぇ…これ以上被害が広がらないよう、出来る限り…怪我をしない範囲で…」
半壊していく狼スリーパーの中を、幻の夢幻泡影が走った。
バリケードを切り裂いて進む巨大なチェーンソーにぶつかり、激しい音をたてた。
「夢の世界にずっといることが幸せ、で御座いますか。
苦しみの中でも幸せを求めて足掻く人間の方が僕の目には好ましく映りますね。
生き足掻く人を夢の世界へ無理やり引きずりこもうだなんて、なんて無粋なお客様」
「受け取れ、地獄への片道切符だ!」
まとまった所へジェイクの銃撃がばらまかれ、次々と狼たちが、そして巨大なチェーンソーが崩壊していく。
「常夜の呪い……この一件には俺も関わったからな。
天義のくそったれな法は気に入らねえが、この国の人々や子供達が死んで行くのは我慢ならねえ」
その後ろからヒールオーダーで支援するのはジルーシャだ。
「辛いことがあった時、つい夢の世界に逃げ込んでしまいたくなる気持ち、よくわかるわ。
だって夢は誰にも侵されないし、誰にも傷つけられないもの。
……でも、夢にはいつか終わりが来るの。絶対に、自分の足で立ち上がらないといけない時がくるのよ。
ホラ、暇してるんだったらアンタも手伝いなさいよトーヤ、後でお酒奢ってあげるから!」
「やれやれ、か弱いおっさんもできりゃぁ事が終わるまで寝ていたいんだがなぁ。
酒を奢って貰えるとなりゃぁ、そういうわけにはいかねぇか。
精々サボってると思われねぇ程度に、スリーパーとやらを叩くとしようかね」
十夜がふらりと加わり、尚も侵攻を続けるスリーパーたちにブロックパージで対抗しはじめる。
そんな風に、崩壊したネメシス騎士団の防衛ラインは、イレギュラーズの追加戦力によって次々に置換され、そして少しずつ強固なものへと変わっていく。
中でも初動で大きな成果を出したのはチーム【凸A】であった。
「ちょっと怠けてたから身体が鈍っちゃってるわね。
さぁ来なさい。私は元の世界で一度死んでるのだから、相当しぶといわよ?
もうこの娘を悲しませない為に、死なない様にこの戦い方を編み出したのだから、ねん♪」
輪廻は妖艶なシャドウステップで侵攻してくるスリーパー戦力を翻弄。
その間に飛び出した鈴鹿の奇襲攻撃が、スリーパーを次々と刈り取っていく。
「姉様や同志とその愉快な仲間達との即席チームで動くのは新鮮なの。
勿論、皆で生きて帰るの。姉様が居るなら百人力なの。
さあ、スリーパーだか何だか知らないけど鈴鹿達が掃討してやるの!」
まるで古い記憶に焼き付いた悲しみを振り払うように、壮絶な勢いででスリーパーたちを倒していく二人。
「ふふ、久々の戦場がこんな大規模なものなんて、ハードなリハビリだなぁ。
程々に手を抜き…たいところだけど、両手で抱き締めきれない程、今回は守る人達が多いんだ」
死聖はそんな彼女たちを守るように、レーザーガンでスリーパーを一人一人倒しては高機動ソニックエッジで切り裂きにかかる。そのついでに彼女たちに触る。そして小突かれる。
聖奈はそこへ割と無理矢理放り込まれたが……。
「いやいや、どう考えてもヤバい戦場じゃないですか! 聖奈すごく逃げたいのですが!
フハハハ! どう足掻いても死ぬっ! 予感しかしない!」
走り回って逃げながら一撃離脱でソニックエッジを叩き込んでいく。
「はあ、師匠も参加するのに弟子の自分が参加しないのはないのです。腹括って生き延びるぞ!」
一方で割と無理矢理ついてきた由奈。
「フフフ…死聖お兄ちゃんの居る所に由奈あり…戦場だろうがお兄ちゃんの傍に居るのが妹の務め!
というか、お兄ちゃんを傷つけようとするものは全部私がKILLするよ」
死聖に襲いかかろうとするスリーパーに割り込んでは妹流必殺ご奉仕技『闇料理乱舞』がまき散らされ、敵に軽く地獄を見せていた。
そんな彼女に本当に無理矢理連れてこられたのがこちらの朝姫。
「ハハハ、友人でもこの扱いはどうなんだと疑問を呈さずにはいられないよ、由奈ちゃん。だからね、誤解しないでほしいが僕は決して死聖さんのハーレムメンバーじゃないから!?」
と言いながらハイ・ヒールと治癒符で彼女たち(と死聖)の回復支援を行なっていた。
チームはぱっと見わちゃわちゃしていたが、妙な結束の強さとチームワークがあったためにスリーパーの軍勢を前にしても戦力が落ちること無く、むしろ掛け合わせでやる気を引き上げることで敵の猛攻を逆に押し返し始めていた。
●東部防衛ライン、反撃開始
押し返したラインにくさびを打つかの如く、次々にイレギュラーズたちが戦闘を開始する。
「今回の件はとても大きな騒ぎとなりますね。
私めの手には余るかもしれません、ですがそれを見過ごすのもまた名誉に反することなのではないでしょうか。
それ故に私めも微力ながらお力添えをさせて頂く次第です」
パティが両手斧によるクラッシュホーンでスリーパーへと突撃し、ゲンリーのクラッシュホーンがさらなる打撃を加えていく。
「倒れるまで斧を振るうだけじゃ。
我は斧なり。斧は我なり。
ドワーフというのは、そういうふうにできておる」
斧によるダブルアタックによって消え去るスリーパー。
そこへ炎の巨人めいたスリーパーが突入してくるが、マリナがエインシェント・ハイ・ハウスから放つグレイシャーバレットが次々に命中していった。
「今回は海関係ねーですけど、手が足りないってんでやってきましたよ。
海関係なくても困ってる人を放置するのは男が廃りますからね。私は女ですけど」
「よくわからない夢から出てきた魔物は人の代りにはならないけど。
殺人許可証の合法性を保つためにも少しは頑張ろうかな」
場の広さを利用したヒット&アウェイ戦法で打撃を叩き込み続ける芒。
「悪夢的な光景、っていうには余り造形に力というか、妄言力が足りてない感じなんだね。
もっとSAN値減るようなののほうが愉しそうだったんだけど」
猛攻によってぐらりと揺らぐ巨人。
そこへ、アーサーの激しい跳躍とパンチが叩き込まれた。
衝撃。転倒し、無人の民家を潰す巨人。
「眠るのは嫌いじゃねえけどよ。ずーっと眠ったままなんて、そんなの生きた心地がしねえじゃねえか」
燃えるような鎧をがしゃりと鳴らし、アーサーは再び殴りかかる。
更に加わろうとするウェディングケーキめいたスリーパーの集団には、大地がロベリアの花や散椿を叩き込み迎撃。
更にヴィがバリケードの裏からちょこちょこと顔を出して、兼続の遠術とあわせてレーザーガンによる射撃を加えていった。
「ギリギリ間に合った感じか……所詮我等は蝶にも花にもなれない雑草に過ぎぬ。だが雑草には雑草の意地がある」
白は防衛ラインに駆けつけ、マジックロープと神子饗宴で援護をし始めた。
『同胞』黒の手と共に攻防一体になったかのような動きで戦いながら、白は強く叫んだ。
「一体も一体も通さない。『同胞』をボク達のような犠牲者を出してたまるか!」
そんな防衛ラインにまとめて飛び込んでくるチーム【蒼羽】の四人。
「おにーちゃんとお仕事。今回も…きちんとお掃除しないとですね」
「範囲攻撃は任せて、マリスとルナは暴れてらっしゃい。ちゃんと回復もあげるから大丈夫よ」
『ⅩⅩⅩⅥ:蒼梟の天球』での回復支援を行ないながら味方を前に進めさせるルーキス。
一方のマリスはスリーパーの集団に紫電一閃を打ち込むと、ルナールへと攻撃を繋いだ。
「怠惰はかんげーですが、余計な飛び火は要らないのです」
前に出たルナールがフェアウェルレターでの追撃を始める。
「さて、やるか。恋人と義妹に少しはカッコいいところも見せないとな?」
幻刃・蒼碧の放つ鮮烈な輝きが、美しい軌道を描いた。
「よそ見してると危ないぞ」
ルーキスに守られるようにして、鈴音もライトヒールとキュアイービルでの支援を行なっていく。
「あ、あぅ…落ち着いて、ちゃんと見て、ですね!」
しっぽをぼわぼわとさせながら、鈴音はルナールたちを回復していった。
●西部防衛ライン、ジャイアントキリング
首都東部も急造防衛隊が戦線を押し返し始めた頃。
一方の西部防衛隊もまた戦いを始めていた。
初動に時間がかかったのは、東部に比べて入り組んだ道が多く展開に時間がかかったためである。
「敵は無数、きりはなし。だけど勝たなきゃ後は無し。ならばなんとかしてみせようね、と」
リンネは持ち前の特技を活かして味方を強化し、超分析とヒールオーダーによる支援をかけながら走っていく。
対抗しているのは細道を進む巨大な芋虫めいたスリーパーであった。
「人々を守り、人々を害す者を誅す。どこにいようと拙者のやることは変わりませぬ。
即ち、大いなる語弊はあるものの、正義の味方でありましょう!
宇宙警察忍者、夢見ルル家。今宵も推参致す!」
支援を受けたルル家が銀河旋風殺によって芋虫スリーパーを八つ裂きにしていく。
さらには顔のない暴徒の集団が理解不能な言葉を発して襲いかかってくるが……。
葵のバットディスオーダーが暴徒にぶつかり、大きな衝撃派にかえて吹き飛ばしていく。
「このまま放っておいたら流石にヤバイ事態は避けられねぇよな。
天義に恩を売ったとこでどうしたって話には、そりゃなるっスけども……。
だからと言って、手を貸さない理由にはなんねぇっスよ」
「無辜なる市民を守るは力有る者の務めじゃの。
町には世話になった身、世話になった分くらいは仕事するのじゃ」
一方ヴェッラは群がる敵にあえて飛び込み、シャドウステップとキャタラクトBSを使い分けた戦法で敵を引きつけては翻弄していく。
「何故なのかさっぱり分からないのですが、怠惰の魔種『真なる夜魔』から、どこからかそこはかとなく親近感のようなモノが湧き出てくるのは何故なのでしょう……。何処かしら、とても私に近しい部分があるような……」
引きつけて引き離した敵の集団へ、ドラマのワンダーランドが炸裂する。周囲を不思議の国へと塗り替える混沌とした魔術やそれを選ぶセンスに、もしかしたら類似性があったのかもしれない。
「さぁ、始めましょう! Dr.マッドハッターの作り上げた混沌よりも不思議な世界、ワンダーランド!
斯様な悪夢の軍勢も、等しく楽しく踊りましょう。
夜は何れ明けてしまうし、夢は何れ覚めてしまうけれど」
別の小道では、無人の家々を巨人が焼き菓子を貪るかのように手で砕いては次々と食べるという光景が広がっていた。
そんな巨人の腕が、鳴の閃術『魂穿チ』改の槍によって貫かれていく。
「鳴は、鳴としての役目を果たすだけなの。
この出来事の理由は鳴にはわからないけど……例えそれにどんな理由だとしても、無辜の民を傷付けていい理由にはならないの!
民の住まうこの街を守るため、戦い続けるの!」
驚いたように、そして怒ったように反撃を始める巨人に、ナーガがショットガンブロウととらん・ぽりんを駆使して反撃を始めた。
巨大な斧ボーくんを振り回し、巨人の手足をアイしていく。
敵の物量それはそれは激しいものではあったが、ゆっくりと歩を進める悠の『強制接続』によって破壊され、そして再生力によって防衛されていた。
「持久戦はこちらの領分だ、時間と戦うのなら僕は中々のものさ。
僕自身のスペックに加えて、装備もそれに合わせたものだからね。
どれだけ永かろうと、夜明けと目覚めまでは必ず保たせてみせる」
そこを家屋ごと突き抜けていく樹里の魔法。
「えぇ、えぇ。久しぶりにこの杖を握る気がしますが…感覚は、忘れていませんよ?」
樹里は砲撃をあえて連発しながら、次々と巨人を打ち倒していく。
「私と共に祈りましょう。その祈りは、きっと一閃の光となって敵を薙ぎ払う力となるのです」
崩れる家々の屋根を駆け抜けて、シキが飛ぶ。
妖刀『シキ』を抜き、紫電一閃によって巨人の首をまとめてはねた。
「…眠るのが、好きなら。…僕の手で、永遠の眠りを…あげます…ね」
着地し、アクアマリンのネックレスが遅れて揺れる。
「…ご主人様の敵は…僕の、敵です。…消えろ、跡形もなく」
入り組んだ地形のせいで初動が遅れた西部防衛隊ではあるが、こうした尖った戦力の掛け合わせによって戦線は素早く押し返され、そして猛烈なまでの反撃が始まる。
●西部防衛ライン、チームプレイ
猛烈な巻き返しを見せる首都西部防衛戦線。
各イレギュラーズの秀でた能力もさることながら、特に統率のとれた二つのチームによる参戦が大きな影響をもたらしていた。
「俺は自分が情けねぇ! 悪い奴のせいとはいえ、夢ん中に引きこもりたいって奴がこんなに居るって事はさ……そんだけ、世の中に不満がある奴がいっぱいだって事だろ?未来に失望した奴らがいるって事だろ!? 俺は! そういう奴を救うために議員になったんだ!!」
マッスルパワーを武器に猛烈に突撃していくピュアエル。
チーム【黒翼隊】の一員である。
「ラヴィエル兄貴に教えて貰ったラヴ&ピース。その心意気でぶん殴ってやるんだぜッ!!」
「夢を見る権利があるのは、それを叶えようって気概のあるやつだけだ!逃げ道のためだけに用意した夢は、破滅にしか導かない」
同じくブロックパージで突撃していく春樹。
「俺みたいな同人作家は、妄想を描く……事実無根の夢を作ってる訳だが、それだって、本来あり得ない夢を目に見える形にする事で……誰かの心の中で描いた夢が叶うと信じてるから描いてんだ。他人に影響を与える夢って、凄いだろ?」
二人の突撃をキッカケに、チームのメンバーが頭のない影の軍勢へと挑みかかっていく。
「楽器で歌って踊れるぬいぐるみの根性、見せてくよ!」
イザークが榊神楽を踊り出す。
「夢を与える存在だった僕には、夢に縋るななんて都合のいい事は言えないよ。夢は希望。理想は人の生きる糧だ。だから僕は、その欲を肯定するよ。
だから……眠ってないで、現実でその夢を叶えて欲しいの。
そのために努力するのは大変だと思うけど、支えるために僕たちカミサマはいるからね! えへん!」
「確かに。夢に理想を描いて逃げたくなる気持ちは理解出来る。俺だって、酔ったフリして現実逃避してた時期があったからな。だが……どんなに逃げようと、今俺たちが生きているのは"現実(リアル)"だ。それはどう足掻いたって変わらない」
ベルナルドは群衆めがけてロベリアの花を連発した。
放物線を描いて飛ぶ魔術の弾が、次々と悪意の爆発を起こしては群衆を包んでいく。
群衆はまるで呪いの言葉を好き勝手に浴びせてくるが、対する十三と晴明はSPDで仲間を回復しながらヴェノムクラウドによる反撃を試みる。
「俺のいた世界じゃ、夢はレム睡眠でしか見ないから、快眠じゃない証拠だなんて怒られたりしたから、夢を見るのも怖いくらいなんだけど……そうか。都合のいい夢が見れたら、理想的な世界に浸れるんだ。
でも、その手に入れた理想に温もりはある?血はかよっているのかい?
目を覚ましなよ。心が凍えてしまう前に」
「見てろよ。パパ格好いいとこ見せちゃうからな!」
マイトポーションをかけ直し、リチャードとアルトのことを、家族のことを思い返す。
「今が幸せだから、正直眠って幸せな世界に閉じこもろうって奴等の気が知れない。俺だって昔は苦しい事もあったが、明けない夜がないように、人生も光さす時が来る。
その時に、目を瞑って気づかないのは、勿体ねぇと思わないか?」
「二度と理想に甘えたりはしない。それがたとえ、誰かに笑われるようなエゴでも」
仲間たちの切り開いた道を、平助が刺青を媒介にした紋章術を連発させながら豪快に駆け抜けていく。
「夢に浸って、それで人生上手くまわるなら、わっちはここに居ねぇでにゃんス。
妄想に溺れた果てには虚しさしかなかった。折れた精神。ツギハギで治した心。同じ悲劇を繰り返さないために、力を奮うでにゃんスよ」
浴びせられる大量の呪いを、割り込むように突撃したレプンカムイが盾によるシールドバッシュで押し返していく。
「俺は武人だ。海洋の誇りにかけて、夢にうつつをぬかしてる奴らに負ける気はねぇ。
積み上がった屍の数だけ、業も思いも継いでやるよ。さぁ、てめーらの根性を見せてみろよスリーパー!!」
追撃のキャタラクトBSで華麗に駆け抜けていくランベール。
「夢の中で皆が理想を遂げてしまえるようになったら、現実で謎も事件も起こらなくなっちゃうじゃないか。夢の中での謎解きほどご都合主義にまみれた物はないし、誰かの意思のこもっていない事件を解決したって、虚しいだけだ。
美学のある相手には敬意も払う。だから……探偵のプライドにかけて、全力で抗おう!!」
追いついて組み付こうと手を伸ばす群衆たち。
その一人一人を、クラヴィスが精密射撃で破壊していく。
「人との別れは突然だ。気持ちの整理がつかないまま、夢の中での再会を望むというのも理解はできる。ただ、亡き人達はそれを良しとするだろうか?死を乗り越えて前を向き、明日へ繋げて欲しいのではないかと思う。それを伝えられるのは我々イレギュラーズだけだ。ならば尽くすのみ!!」
そこへハンドポケットのままあえて突入していくリヒト。
「俺だって夢ん中に逃げてぇよ。今この瞬間、死と隣り合わせの現実に膝が笑っちまってる。今すぐ現実から逃げてぇが、それじゃ世の中何にもままならねぇのも泣きたいほど分かるんだ。挫折を何度も味わってきたからこそ、逃げ癖を引きずりゃ後悔だけが残るって身体が覚えちまってんのさ……
泥水啜っても、地べた這いずってでも未来に向かって踏み出せ、一歩でも前へ!前を見すえろ。目ぇ逸らしてんじゃねぇ!!」
彼を中心に巻き起こった連続のパイロキネシスが群衆を次々に焼いていく。
群衆を扇動する口の大きな影が大声で彼らを非難する声を発するが……。
「夢とは人が心と向き合うためのものだという」
ヴァトーの放った死霊弓が、扇動する声の主を破壊した。
「オートマタの自分にも冷却や省電のための機能は備わっているが、電源を落とせば意識も虚無へ引き込まれるものだ。
なぜ夢と対峙する勇気がありながら、現実と対峙する勇気が持てない?
現実にあり得もしない事に縋る事ほど、後に傷つく事は無いだろうに」
一方で、巨大なマシュマロ人間が家屋やバリケードををなぎ倒しながら突き進んでくる。歩くたびに身体から次々と小さなマシュマロ人間が生まれ、人を飲み込もうと身体を膨らませながら走っている。
それらを対応したのはチーム【北風と太陽】の面々だった。
「行くぞみんな、畳みかけろ!」
赤い屋根の上。サンディはダウンバーストを仲間たちにかけると、巨人へと攻撃を開始した。
「群れで戦う強さを見せつけてやるぜー!」
リックもそれに乗じて狙撃チームに指示を開始。
配置についたアベルは教会の鐘突き塔からプラチナムインベルタによる弾幕形成を開始。
「太陽にかかる雲があるなら、それを払うのが俺の役割でしょう?」
巨人の周囲にもこもこと生まれていた小さなマシュマロの集団が次々に破壊されて消えていく。
続いてラーテがHades-RSPを教会の屋根から構え、制圧攻勢を開始する。
「オレのやる事ァ変わらねえよな。敵を纏めて吹っ飛ばして、この場を守り抜く。なーにいつも通りだ」
敵集団が粗方片付いたところで、駆けつけた愛が砲撃を開始。
「暗鬼を切り裂く愛の光条! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!
さあ私たちの正義と愛の輝きを以て、悪を撃ち払いましょう。
騎士及び市民の皆様ご安心を、今この刻を以て悪夢は終幕です」
愛の砲撃が巨人を貫き、大きく揺らいだところにグレイルのルーン・Hが打ち込まれた。
「…魔種とその狂信者の攻撃で…都市が大変な事に…これ以上…被害を広げるわけにはいかないね…。
…ここで抑え込めば…前線の人も負担が軽くなるはず…魔種の思うようには…させないよ…。
…ここが僕の戦える最前線…全力を尽くして…生きて帰るよ…!」
はじけ飛ぶマシュマロの巨人。
砕け散った破片がもろもろと再生し、小さなマシュマロ人間に変わって再び襲いかかってきた。
そこへ突入していったのはタントたちであった。
「絶対に皆で生きて帰る。その為のわたくしですわ!」
自ら放つ光と謎のカリスマによる『タント様に続け!!』を発動させて味方を強化させると、治癒スキルによる支援を開始。
支援を受けたユーはナノマシンによるエリアジャックを仕掛けてマシュマロ人間たちを誘引。魂還光刃による戦闘を開始した。
「護衛って言うのは、仲間も自分も守れて一人前ってな」
次々に飛びかかるマシュマロ人間を防御障壁で打ち払い、くらう打撃をタントの光(?)で治療するというサイクルである。
そうして密集した敵集団めがけ、義弘が戦鬼暴風陣の構えで突撃していった。
ボーリングのピンよろしく吹き飛んでいく大量のマシュマロ人間。
あたりの壁や道路が真っ白にまみれたが、義弘は頬に突いたそれをぬぐい落とした。
「天義の事はよく分からねぇが、そこに住んでいる人に罪はねぇ。気張るぜ」
「敵集団、第二波が来ますわ!」
「ここは私がささえますの!」
あえて隙だらけの姿勢で飛び込んでいくノリア。
大量のスリーパーがノリアめがけて飛びかかっていくが、その中を常に駆け抜け続けることで仲間の範囲砲撃チャンスを増やそうという考えだ。
こうした引きつけ、強化、砲撃の役割分担をしっかりと振り分け統率をとることで、スリーパーの軍勢を効率よく撃破していくチームメンバーたち。
西部防衛ラインの敵勢力の排除はみるみる進んでいった。
教会の屋根から飛び立つNo.9。ギフト能力を使って地上の仲間たちに防衛ラインを押し上げる旨を伝えていると、前方から巨大なコウモリのようなスリーパーが大量に詰めかけてくるのが見えた。
押し上げたばかりの防衛ラインに配置されたネーゼスたちが応戦を開始する。
「覚めぬ夜。永遠の眠り……さて、良い夢であれば醒めたくないと願う者もいようが。
望む望まぬに限らず落とすはただの邪悪よな
打ち払うも英雄譚。フ、フハハ。愉快な闘争だ――さぁ始めようか」
魔神黙示録をはじめとする支援スキルを打ち、周囲の味方を強化し始めるネーゼス。
彼の強化を受けた仲間たちが巨大コウモリへと突撃していく。
中でも一番槍を勤めたのはエレンシアだった。
「まだまだ未熟とはいえあたしもローレットのイレギュラーズだしな。
今回の戦いを糧に出来るように、生きて帰らないとな」
敵陣に飛び込んでの『ぽこちゃかパーティ!』で敵前衛集団をかき乱すと、追い打ちのようにヴェルフェゴアのマギシュートが次々と叩き込まれていった。
「彼らは一体どんな存在なのか……少なくともイーゼラー様に遣わされた方々では無いはずですし…今度こそイーゼラー様の元へとお還りになってもらわねばなりませんわ!!」
手に死の神イーゼラーの加護を宿して放射するヴェルフェゴア。
前衛チームを突破して巨大コウモリたちが浸透してくるが、飛び出した焔がカグツチ天火を用いた緋燕によって打ち払う。
炎をあげて次々と墜落するコウモリたち。
「本当にすっごくたくさんの魔物がいる……。このままにしてたら天義の人達が危ないよ! 皆が原因を何とかしてくれるまで、守り切らなきゃ!」
「――――」
遠方から打ち込まれる聖なる火。“ハイリゲンF”。
炎に包まれたコウモリたちが闇のような矢を生み出しては次々に発射してくるが、ナハトラーベはそれらを次々に回避しながら接近。
飛びかかり、『無名の剣闘死』による “ベフライエン”を繰り出していく。
切り裂かれたコウモリが一匹また一匹と地に落ち、まるで夢であったかのように消えていく。
そんな彼女たちの頭上をさらなるコウモリの群れが埋め、一斉攻撃の構えをとる。
が、飛び散った切手流星群によって次々に墜落。
ニーニアが家々の屋根の上からフォトン・メールを飛ばしながら呼びかけた。
「僕に出来る限りの全力の支援だよ! 皆で守り切ろう!」
目の前に見えるのは黒い霧。狂信者たちが生み出した特殊空間への入り口である。
霧の中からはなおも悪夢よりの使者『スリーパー』が這い出ていた。
歩くウェディングケーキや血まみれの着ぐるみや、幸せな家族像や翼の折れた天使や、形容できない有象無象がパレードのごとく飛び出しては襲いかかってくる。
「夢は夢へと還って下さい!」
シエラはランティリットを起動させ、スリーパーを存在力で一気に打ち抜いていく。
「見えない所で酷い事になっている人がいるかもしれないのが嫌という、私のわがままです。けど……」
魔力撃で歩くウェディングケーキを爆殺しながら、シエラは仲間に道を開いた。P・P・Pの回復支援をうけながら、アイリスが聖業人形・マグダラの罪十字を操って突撃した。
「やりたいことはあるけど、実力が足りない。だから…できることから」
ロベリアの花を発射し、スリーパーたちを次々に破壊するアイリス。
尚も襲いかかる敵集団。一方で、後方で戦っていた味方が次々に駆けつけ戦線は徐々に有利に傾いていった。
アイリスは果敢に戦いを続けながら、見えない神様のことを想った。
「この国を守る手伝いができたら…神様も、少しは褒めてくれるかな?」
●防衛網の完成
「霧の位置が分かったよー! 住所はー……!」
屋根伝いにジャンプしながら猛烈に走っては大声で情報伝達を行なうハッピー。
「声を出すのが仕事とか、私天職だな!」
教会の塔。電動アシスト車椅子に腰掛けたシャルロッテは、届いた情報を集めて地図に線を引いていた。
「霧のラインが分かった。激戦区も。戦力の分配を始めよう」
首都防衛がある程度まで完了した今、ここからの仕事は霧から発生し続けるスリーパーの早期発見と撃退である。
敵に指揮官らしいものがおらず、戦力も大雑把に割り振られていることから、シャルロッテは結成した【防衛網】の面々を敵戦力に対して適切に分配することを考えた。
「遠い場所は騎兵隊たちに任せるとして、まずはここ、だ」
霧に面した首都の大通り。
悪夢のパレードと化したスリーパーの軍勢を、【防衛網】西部担当部隊が引き受けていた。
「神は言っています、負けることはないと。
ですから恐れずに立ち向かいましょう。
たとえ私が倒れても大丈夫です。
それすらも神は織り込んでおられます」
クリストフの激励に後押しされるように、強化された面々が突撃していく。
盾を構えてまっさきに突撃する水城。
「暫く一線退いてたとは言ってもやな…うちを倒せるもんなら倒してから他行かんかい!」
自慢の防御力を武器に敵の猛攻を一手に引き受ける水城。単独戦闘に不安のある面々が結束するという意図をもつチーム【防衛網】にとって、非常に心強い先輩イレギュラーズである。
敵の狙いが集中したところで一斉攻撃が開始される。
「クハハハ!成程戦乙女として初依頼に相応しい戦場ではあるまいか!
では我がこの戦場で汝ら勇士を導いてやろう!いざ如何!ヴァルハラへの輝かしき道を!」
ベリアが拳を振りかざし、ロックバスターをスリーパーたちへ次々に降らせていく。
「フハハハ! 我は戦乙女! 勇士達よ! 我が居る限り汝らを死なせはせんぞ!」
彼女の勢いを追い風にして、巫女が馬上から大剣を振り回しながら戦鬼暴風陣による突撃を敢行した。
「ふふ、この威力…耐えきれるかしらっ!?」
攻撃に気を取られていたスリーパーたちがまるでボーリングのピンのように蹴散らされていく。
『怪我した人はLoveが治してあげるの。いっぱいいっぱい愛してあげなきゃなの』
傷ついた味方はHMKLB-PMで駆けつけたMeltingが治療しながら敵から遠ざけ、追いついてこようとする敵には式符・白鴉による分身を放って迎撃した。
『怪我した人を治さないといけないの。だから邪魔しないで欲しいの』
水路を通じて静かに移動してきたリリーが、唐突に現われて床ドンを叩き込んだ。
「はー…まじうざい…。この依頼のせいであたいの睡眠時間削られたし…。何がスリーパーさ…ギルティ…このバールの刑しかないよねぇ」
そうして吹き飛んだスリーパーたちにピットが目をつけた。
「俺の目から逃げられると思うなよっ!」
SADボマーを叩き込み、吹き飛んだ敵をまとめて爆発させていく。
テーブルフォークをたずさえたビスクドールの集団が猛烈な速度で突っ込んでくるが、ピットはFF・フリークスによるハイロングピアサーで迎撃を開始。
「わらわは若干死ににくい体質故……」
Thusxyがあえて前に出て、なんだか眠そうなマジックフラワー攻撃で敵を引きつけ始めた。
駆けつけたサンがメガ・ヒール、シェルピア、緑の抱擁を使い分けて回復支援を開始する。
「逃げ遅れた方はあちらへお逃げください。慌てず騒がず…私達と騎士の皆様を信じてください」
周囲に逃げ遅れがいないか確かめるように呼びかけながら支援を続けるサンのもとへ、ライムが魔砲による砲撃支援を仕掛けながらスリーパーの群れを引き受け始めた。
「はっきり言って俺はただの高校生だし、こんな身体になったって怖いもんは怖いし戦うなんて出来るかはわかんない……でもこの力が役に立つなら……」
砲撃後、高い屋根から飛び降り豪快に着地するライム。
「『私』は魔王…魔王ライム・ウェルバー!!!!」
そこへ、高速飛行機動によって敵を翻弄しながら対神波動砲(試製壱號)で砲撃支援を仕掛けていくェクセレリァス。ハイテレパスによる管制を行なうことで統率を維持していく。
「確かに現実はろくでもないけどね、でも覚めるから夢なんだよね」
(私の道を阻むなら排除して押し通るのみだよ。同情の余地があっても容赦はしない)
一方、軍馬を操り塀や細い堀を豪快に駆け抜けていくリリアーヌ。
(様々な思惑が絡み合った複雑な事態……全体を覆す力を持たぬ時は、目の前の事態に全力を尽くすのが吉……。
冷静に落ち着いて、目の前の仕事を全力でこなす。全員でそれを積み重ねる事が勝利への道です)
頭部防衛網の最前線。つまりは霧の間近に展開した【防衛網】東部防衛部隊へとシャルロッテからの伝令を持ち込んだ。
「この手紙を皆に。そちらの情報は」
「まとめてあるよ」
物陰から現われた妖樹は敵陣から持ち帰った情報をリリアーヌに渡し、伝令書と交換した。
「索敵と情報収集なら僕の得意分野だよ。伝達する術はある方じゃ無いからそこはおまかせになっちゃうけどね」
情報がまとまればこちらのものである。
東部防衛ライン最前線。崩壊し火と煙を上げる自然公園に、大量のヒトガタスリーパーが発生していた。
「元凶を断つ事は確かに大事だけれど、防衛を疎かにする訳にも行かないわ。
私の手は小さく護れる命も限りがある、だけど小さいなら小さいなりに手の届く範囲の命は護ってみせるわ」
アルテミアは片腕をハサミに変えて襲いかかるスリーパーたち相手に、アズライト・アルターを繰り出した。
武器から解放された青い炎がなめるように敵を覆っていく。
その状況に乗じるようにして、アイリスが獅翔閃を放った。
息をつかさぬ三連撃がスリーパーへ打ち込まれ、打ち倒したところで即座に離脱していく。
「私より格上の相手ばっかりだし単独行動は危ないからね〜」
アイリスの役目はあくまで情報収集。敵の強度や分布を確かめて伝達係にパスするのが役目である。
わずかではあるが確実なメンバーが、敵情報の獲得と伝達、そして集計と命令を分業していた。この役割分担によって個々の力はより効率的に配分され、スリーパーの効率的迎撃に役立っていた。
特に、騎士団が壊滅的被害をうけ教会統一指揮の命令系統が混乱している現在だからこそ、そのスタイルは効果的だった。
「明けない夜が来ないのと同じように、何時か夢は覚めるものよ。それが悪夢であれなんであれね。
…だから、全力で楽しませて貰うわよ。悪夢ならこれまで腐る程見てきたんだから、この程度で飲まれると思わないでよ」
魔弓・黒翼月姫を用いて咆穿魔槍を放つフィーゼ。
霧から出てきたばかりのスリーパーがこちらの戦力を把握するより早く、強烈な一撃を加えて壊滅的な損害を与えていく。
勿論けが人が出ることも多いが、綾女がメガ・ヒールをはじめとする回復支援を行なうことで戦線を維持していた。
「夢は夢だからこそ良いのよ。
嫌な現実から目を背け、活力を得るためのものよ。
一夜の夢を見させる立場からすればそう言わざるを得ないわよね」
彼女の支援を受けながら、アレックスが『偉大なる銀』の権能を発動。スリーパーの群れにロベリアの花を打ち込んでいく。
「……私はまだ、強くない。だが、私には私なりに出来ることがある筈だと……そう思う」
ダメージを与えた集団めがけ、ヘルモルトが戦鬼暴風陣からのフランケンシュタイナーを叩き込んでいく。
「現実はままならぬからこそ面白いのです。
ただただ理想を追求できる醒めぬ夢など面白くも無い。
予定調和も束の間ならば楽しめるんでしょうがね」
ヒトガタスリーパーの頭を太ももで挟んで叩き落とす。
「掃除はメイドの本分。余計なモノにはご退場願うと致しましょう」
更にマリネのレジストパージが叩き込まれ、華麗にコンボを繋ぐようにしてオリヴァーの精密射撃が命中した。
「…眠るのは好き、だけど。ずっと、寝たままは…やだな。リネと、会えなくなるし…」
「がんばろーね、リヴ」
「…ん。頑張ろ。リネ」
オリヴァーは僅かに浮き上がって杖を構えると、勇壮のマーチを奏でなおした。
強化されたモモカが腕を振り回しながら突撃した。
「アタイたちは忙しいからな。今はぐっすりおねんねしてる場合じゃないんだ!
こんな長い長い夜も、永遠の夢とやらもいらないぞ!
普通の朝を取り戻すためにおまえたちには倒れてもらうぞ!」
モモカの戦鬼暴風陣が、スリーパーたちを次々に撥ね飛ばしていく。
●蹄鉄聖歌
年老いた、しかし強い目をした馬を繰り、アトは東部防衛ラインへと到着した。見上げれば巨大な夜と霧のドーム。
側面や上部からは今も無数のスリーパーが生まれ続けていた。
「ある種の迷宮化か。メルカート・メイズを思い出す、だがどちらにしろ僕らは勝利するってね」
アトはフードを被り直すと、イーリンのそばへと馬をとめた。
「信仰を掲げよ! 聖歌を歌え! 正義は神と、民の物であると我ら騎兵隊が示す!」
イーリンは旗を掲げて生き残った騎士たちを鼓舞し、鉄騎兵仕様のラムレイへと跨がっていた。
「シャルロッテから伝達。『霧中央に戦力を集中。【騎兵隊】は側面への遊撃を求む』」
「そう……この先は……」
イーリンは人々に見えないように汗をぬぐうと、統率した仲間たちを連れて西の霧側面へと走り出した。
対抗するように、首の無い馬と騎兵が槍をもち襲いかかってくる。
騎獣ヘラオスに跨がったミルヴィが黎明剣イシュラークをとり、繰り出される槍を踊るように打ちはじく。
「この状況でわかるわけないっしょ! イーリン、焦ってる? 大丈夫、皆を信じて。アタシもいる!」
騎兵を倒した先。霧側面から現われたスリーパーたちが首都めがけて進行を始めていた。
「派手にいこ! 準備はOK?」
ミルヴィは天義の軍歌を演奏し始めると、勇ましく突撃を始めた。
演奏に併せて高らかに歌い始めるカタラァナ。
夢見る呼び声、信奉者たるポリプス、偉大なるツリトプシス、畏れを抱けペクテン――流れるように連結するメドレーに、兵士たちはますます活気づいた。
歌に引き寄せられるように、もしくは邪魔をするかのように巨大な虫めいたスリーパーたちが群がってくるが、カタラァナの乗った馬車もといチャリオット・ヴォードビリアンを操るレニンスカヤは持ち前のセンスでスリーパーたちの猛攻を回避。
「う、うーじゃす!運転手だから安全って言ったのに。最前線じゃないですかイーリンさーん! で、でも頼まれた以上、がんばります……!」
猛烈なスピードを出しながら敵の群れを突き抜けると、馬車の上から対物ライフルを露出させた与一がレバーをひとなでし――。
「……」
無言のままに追走してくるスリーパーたちを次々に打ち抜いていった。
集まる蹄の音。
家々の赤い屋根から跳んで馬車へと着地したエマが、方向を示すように叫んだ。
「スリーパーの密集地帯を見つけました! 零の作戦が使えるはずです!」
「分かったわ、下がってて」
「えひひ……」
エマは軽やかに馬車から飛び降りると、敵の標的になるまえに建物の間へと滑り込み、気配を再び消してしまった。
ややあって、目的地を見定めたレイヴンが軍馬を叩いて加速を始めた。
「馬よ、恐れてくれるなよ」
前方に広がる敵襲めがけ、ヘビーサーブルズを発射。熱砂の精が砂嵐を巻き起こし、スリーパーたちを取り囲んでいく。
攻撃によって複数のスリーパーたちが墜落してきたが、これは空にも敵戦力が展開していることを示していた。
空飛ぶピンクの像や、ミートボールスパゲッティや、熊のぬいぐるみや、腕の沢山はえた堕天使たちが理解不能なざわめきを起こしながら襲いかかってくる。
呪いのような砲撃に、ココロは馬上からハイ・ヒールを連発することで対抗した。
「わたしたちは決してあきらめない!」
ユゴニオのカルトを振りかざし、刻まれた文字を叫んで味方を鼓舞した。
その鼓舞に乗じる形で、リトルは武装したレブンにしがみつく形で疾走。
襲いかかるスリーパーたちに『百合式式符・黒炎烏』を打ち込んだ。
式符から呼び出された黒炎烏が敵を貫き、泥のごとく散っていく残骸を突き抜けてなおも走る。
上空から降下し、馬車に飛び乗るカイト。
「上空は敵だらけだ。けど、こっちからは撃ち放題とも言えるぜ」
高所を飛行する敵に対しては地上からの砲撃が圧倒的に有利。
カイトは緋色の大翼を用いて敵を引きつけると、仲間に砲撃を任せた。
高く響く声が、空のどこまでにも聞こえるように思えた。
●イルミナティと幻霊蹂躙
偵察の結果発見した敵密集地帯。
そこへゲシュペンスト・アジテーターをぶら下げた武器商人がマージナル・ホロウを用いて自由降下式に突入した。
真っ先に突入した武器商人を取り囲み、集中砲火を浴びせるスリーパーたち。
「さあさあ騎士も市民もご観覧あれ。これぞ神の御業、神の加護。正義故に倒れることはなきゆえに」
「【幻霊蹂躙】作戦、開始――!」
そこへ、駆けつけるチーム【イルミナティ】の面々。
先陣を切るラルフはメギドイレイザーを放ち、武器商人をかするように敵を砲撃した。
「悪夢かね、悪夢はもう元の世界で散々齎したのだから今更用はない」
ラルフたちを追い払おうと攻撃を仕掛けてくるスリーパーたちに対して、フラウナハはハイ・ヒールと超分析でカウンターヒールをしかけた。
「斯様な大規模な呪いとは……智竜の御方もさぞや面白がっている事でしょうね。同時に直接関われない事を悔しがっている事でしょう。――仮初の主と似た者同士」
「この国の在り様とは己は相容れぬが民は民だ、守るが戦士の務めだ」
グランディスの豪鬼喝が迫る敵を吹き払うように放たれ、それでもしがみつく敵に対して豪快なパンチを叩き込んでいく。
「武器商人とやらほどではないが己もしぶとさにだけは自信があるのでな」
「キヒヒッ、まーた御大層な呪いじゃのーぅ……そしてこの国はワシャ合わん、が聖職者のおなごの格好は好きじゃ」
その間に展開を終えた太極がヴェノムクラウドを発射した。
「ヒヒヒッ、猛毒の味はどうかのぅ?」
「こちとら準備は万端だ、いつでもいけるぜ」
味方の砲撃を保たせるため、浸透してくる敵たちをガルハは『ぽこちゃかパーティ!』によって吹き払っていく。
大剣ランバージャックの振り抜いた刀身が、泥のように崩壊したスリーパーたちの破片を残してぬらりと光った。
「なんだなんだ、中々楽しくなってきたじゃねぇか。悪夢だなんて嘘みてえだ」
「我らが隊そうそう遅れを取ると思うな」
一方で、身体に装着したオプション兵装からSADボマーを次々と発射するシュタイン。
爆風に巻き込まれたスリーパーたちが次々と砕け散っていく。
「悪夢、我が身大半が機械なれど脳は生身、悪夢は遠慮したい所よ」
その間に行なわれた味方の一斉砲撃によって、武器商人もろともが灰と化した。
その中からぬらりと立ち上がる武器商人。
「残りの掃討は任せてもらいましょうか」
駆けつけたアインザームが魔砲を放って瀕死のスリーパーたちを吹き払っていく。
人間と鳥やカマキリが混ざったようなスリーパーたちの攻撃をうけるも、それを鎌の柄と刀身で打ち払っては再び魔砲を打ち込んでいく。
「プロテアちゃん、GO! 蹂躙の時間だよ」
一緒に飛び込んだビーナスが、影触手を展開して残ったスリーパーたちを一掃していった。
「えへへ…誰かの役に立てるなら私も頑張って暴れるよ。がおー!怪獣だぞー!」
ビーナスたちの攻撃によって、残り少ないスリーパーたちは活動を停止。むくりと起き上がった炎の巨人が彼女たちを薙ぎ払おうと腕を振るうが、凄まじい速度で駆けつけたクーアの魔道火車一発でたちまちのうちに崩壊。
灰と煙になって消えていく。
路面を焦げ付かせるようにブレーキをかけ、生まれた炎の轍を振り返る。
そうして、クーアたちは気づいた。
霧から、新たなスリーパーが出現しなくなっていることに。
ネメシス首都防衛戦は、ローレット・イレギュラーズの参陣によって決定的に状況は覆り、完全勝利を収めたのであった。
しかしやるべきことが無くなったわけではない。
首都内部に未だ侵入しているスリーパーと見つけ出して掃討し、市民の安全を守るという役目が残っている。
クーアたちは頷き合い、【騎兵隊】の仲間と共に中央へと一度帰還したのであった。
●首都フォン・ルーベルグ特別救護大隊
実質的な首都防衛に成功したギルド・ローレット。
しかし首都に入り込んだスリーパーや、霧内部に浚われた騎士や民間人を救護する必要は未だ残っていた。
例えば首都西部のある裏通り。折れた剣を手に死を覚悟した騎士と、全長3メートル近い巨人めいたスリーパー。
そこへ、HMKLB-PMを走らせたイグナートが乱入。
スリーパーを引きつけつつ、猛烈に殴りかかった。
「スリーパーを蹴散らすのはオレに任せといて! 傷付いたヒトたちのカイフクをオネガイ!」
「わ、わかった。頼む……!」
騎士は慌てた様子で下がり、代わりにエリザベスがアドンとサムソンを引き連れて現われた。
ひいた馬車には医療チームが乗り込み、怪我をした民間人や先程の騎士が担ぎ込まれていく。
「夢にまつわる伝説や御伽噺は枚挙にいとまがございませんし、呪術の数々も確認されていますが、そのメカニズムは……なるほどわからん。
それだけに今回の事象は興味深いですが、まずは皆様のピンチをお救いするのが優先でしょうか」
支援砲撃のエリザベス砲。
乗じて、ノエルとナインが連係攻撃を仕掛けていった。
ノエルのフレイムバスターが命中し、燃え上がった所でナインが開放式バレルとなった剣から妖精エネルギーを放出。
身体に穴をあけたスリーパーは、仰向けに倒れたきち白昼夢のごとく消え去った。
「一人で眠ってればこんな大事にもならなかっただろうに。
仲間を増やそうとするのは、人の性なのかなー。
ああ、この敵は昔のことを思い出させて嫌だねえ」
馬車から降りてきたナキが、周囲をきょろきょろと見回して安全を確認した。
「騎士さんの話によると、この先の教会に立てこもっている人たちがいるそうなんです。ボクは別の仲間と合流してそちらへ向かいます」
ナキは神薙の砲撃準備を整えながら、路地の先へと走っていった。
「ローレットの者です、助けに来ました」
駆けつけた教会は、既にスリーパーに囲まれていた。
救急の気配を察して駆けつけた華蓮が、仲間にメガヒールをかけながら外部から攻撃を仕掛けている。
「丁度いいのだわ。こっちは戦力不足だから、手伝ってほしいのだわ!」
標的を変更し、集まってくるスリーパーたち。
牽制の遠術を放って距離を取る華蓮に、軍馬に跨がったエストレーリャが猛烈な勢いで駆けつけてきた。
教会の窓やバリケードの隙間からこちらを見る人々に手を翳す。
「もう大丈夫だよ。僕たちが助けに来たから。だから、もう少し待ってて。
きっと、皆が悪い夢を終わらせてくれるから」
エストレーリャは馬上から魔力放出を開始。
同じく駆けつけたヴェーゼがロックバスターを砲撃することでスリーパーをなぎ倒していった。
「荒野の精霊さんの私が現れたからには安心だ!! 何が安心なのかはさっぱりわからんが――ぐお!?」
集まってきたスリーパーのパンチを受けて吹き飛ぶヴェーゼ。
「おおーい! 誰か助けてくれー怪我人がいるぞー! 主にわたし!」
ボコられている所に駆けつけたセフィラとノーティガルが治癒魔法によって回復を始めた。
「運動は得意じゃないけれど、頑張らないといけないわね。
大丈夫、私は一人ではないし……」
自分に言い聞かせるようにライトヒールを連発するセフィラ。そして彼女を援護するように回復を上乗せするノーティガル。
更にティーナが駆けつけ、スーサイドアタックによる支援攻撃を始めた。
ティーナの剣によって切り払われたスリーパーが、まるで煙のように消えてなくなっていく。
そうこうしているうちに、周囲から次々と仲間たちが集まり、スリーパーもその戦力差に応じて減っていく。
文が馬車で到着した頃にはスリーパーの駆除は九割方済んでいた。
「お薬が到着や! けが人もぎょうさんおるんやろ?」
馬車から降りてきた文が、かき集めてきた医薬品や道具を担いで教会内部に立てこもっていた民間人や騎士たちを救助し、手当を始めた。
同じ馬車から降りてくるヨシトとトゥヨウ。
「カカカッ、ガキどもはまだ『眠く』ねぇってよ!じゃあな、寝ボケども!」
ヨシトは聖光によって集まってくるスリーパーを倒していくと、同じく下剤を使って戦っていたトゥヨウへと振り返った。
「この教会なら前線拠点に出来そうか?」
「…………」
トゥヨウはこっくりと頷いて、持ち込んだ道具類と文の持ち込んだ医療品を使って教会内に医療拠点を作り始めた。
こうしてできあがった前線医療拠点に傷ついた民間人を担いだガヴィが駆け込んできた。
「ここに医療器具がそろっていると聞いたのですが……!」
「ほいほい、ここやで。そこに寝かしといてや」
言われたように民間人を寝かせると、そろった医療器具を用いて治療を始めた。
馬車から降りて加わった珪化樹も、拠点の守りを固めるべくガトリングを構えた。この騒ぎで困っているであろう野良犬やネコに話しかけ、危ないものが近づいたら吠えて知らせるようにお願いして回った。
「番犬っちゃ悪ぃけど、敵の接近知らせてくれるだけで助かるべなあ」
それらの様子を見て、剣をとり立ち上がる教会騎士。
「ありがとう、ここは任せて良さそうだ。私は外に出て他の要救助者を探してくることにしよう」
町のあちこちでは今も激戦が続いている。
ローレットの戦力100名余りが防衛戦に投入されたことでスリーパーの増援こそ途切れたが、避難完了区域では未だに残り少ない騎士たちが戦闘を続けていた。
攻撃によって剣が飛ぶ。
血だらけの騎士が死を覚悟したその途端。
すぐそばに遼人の馬車が突っ込んできた。
「この先に拠点を築いてある、乗れ!」
叫ぶ遼人。と同時に馬車からティスルが飛び出し、紫電一閃によってスリーパーたちを薙ぎ払った。
「拠点で治療を受ければまた戦えるはずだよ。防衛戦についてる仲間たちもじきに戻ってくる筈。今は耐えて、皆で帰ろうよ!」
女型ロボットゆりかさん&まひろさんが、死にかけの騎士を見つけてブザーを鳴らす。
そこへ蛍と珠緒が駆けつけてきた。
「回復を!」
「超特急で!」
二人は協力し、膨大な回復量を一度に騎士へと送り込んだ。
死にかけの騎士は立ち上がり、スリーパーを渾身の一太刀で切り伏せる。
「助かった! この先でまだ仲間が戦っているんだ。先に行くぞ!」
走って行く騎士。その背を見ながら、二人はこの事件の元凶を思った。
「この現象。人々の悲哀が根源なんじゃ。……敵というより被害者のような」
「度を過ぎた公共への献身は、ある種の狂気です。
救世主症候群、とかいう名前でしたっけ。
狂気に狂気を掛け合わせても、正気ではないのですね……。
束ねた力で、夜を越えゆきましょう」
「おっと、危ない。わらわがちゃんと守るから、結乃は人探しに集中するのじゃぞ」
「おねぇちゃんありがとう」
結乃のハイ・ヒール支援を受けながら、華鈴は刀による絢爛舞刀でスリーパーを次々に切り払っていた。
「さて…結乃よ、次はどの辺りに人が居そうかの?」
「んー。いろんな音や声がじゃまだなぁ…ええと」
空に小鳥を飛ばし、超聴力をはたらかせる結乃。
「あっちで戦ってる音がする」
「うむ……」
これはこれで宝探しみたいな感覚で面白い物じゃ、と呟き、華鈴は結乃の手を引いて走り出した。
一方。逃げ遅れた人々と瀕死の騎士を庇い、カレンはマグダラの罪十字を操って戦っていた。自律戦闘人形の動きに合わせて様々な術を使うカレン。
足りなくなってきた血を増幅するために、シュテルンのメガヒールをうけていた。
「シュテルンの邪魔はさせんぞ? 邪魔すると言うなら妾が相手しようかのぅ」
「シュテの歌…皆を、癒せるなら…いっぱい歌う、する!
カレン、守ってくれる…シュテ、カレンが傍にいるの、とても、ホッとする…」
シュテルンの囁くような唄が、スリーパーと戦うカレンを強く後押ししていく。
「大きな戦い…シュテ、でも、出来そーな事…。カレンと、一緒に、精いっぱい、頑張る、ねっ」
「妾は回復スキルは持っておらんからのぅ。じゃが、出来る事で手伝うとするかのぅ」
二人はできる限りの力を使い、スリーパーたちを打ち払っていった。
このように、救護部隊は町のあちこちで戦い、傷ついた騎士や民間人たちを救っては立ち上げた拠点へと運び込んでいった。
ここまで、都市部での救護活動にあたったイレギュラーズの数はおよそ23名。
護衛部隊101名のうちほんの二割ほどである。
残る八割はどこへ向かったのかといえば……。
『常夜の呪い』によって包まれた、巨大な霧の中。
夢によって塗りつぶされた、特殊空間の中である。
●夢中の救い
イルミネーションの観覧車が回っている。
夜の遊園地と化した風景の中を、騎士たちはさまようように走っていた。
民間人を庇い、しかし深い傷を負った彼らは、この夢に塗りつぶされた世界の中で出口を探していた。
『逃げないで。ぼくと遊ぼうよ』
血の付いた鉄パイプを引きずり、ゆらゆらと現われるウサギの着ぐるみ。
あちらからもこちらからも現われる着ぐるみたちは、どれも汚く血にまみれていた。
せめて民間人の盾になろうと身構える騎士たちの横を、メリルナートが駆け抜けた。
慈悲の氷刃が着ぐるみを貫き、一瞬のうちに消滅させる。
「夢現に生きること、それは生きていると言えるのでしょうかー」
夢の中で生きることは理解できても、夢は夢。そんな気持ちが、剣の力となってスリーパーを切り裂いていた。
「こういう不自然な天気は気象予報泣かせなのですよ、黒霧注意報、所によりスリーパー。ですか? まったくもってふざけているのです」
気象衛星ひまわり30XXがレールガンを手に集まる着ぐるみたちを狙撃。
振り返る騎士たちに手を振った。
「街の人はひまわりが助けてあげるのです。衛星の目からは逃れられないのです」
今のうちに安全な所へ。そんなジェスチャーをしながら狙撃を続けるひまわり。
そうは言ってもどこへ逃げれば、という顔をする騎士のもとへ、軍馬レベルマックスに騎乗したリュカシスが駆けつけた。
バールを手に飛びかかる着ぐるみを馬の突撃で蹴り飛ばし、引き連れたメカ子ロリババアに乗るようにジェスチャーする。
「助けに参りました! けが人をこれに乗せて、霧の外へと逃げましょう!」
『逃げないで。あそぼうよ』
あちこちから姿を見せる着ぐるみの群れ。
リュカシスは鋼の拳を左右で打ち合わせると、かかってこいとばかりに身構えた。
そこへ突撃してくるレッド。
『蒼剣』なりきりLBレプリカから収録音声を放ちつつ、突然のショルダータックルで着ぐるみを突き飛ばす。
「本当は夢の世界の奥が気になるっすけど……ボクは実力不足っすからね。足を引っ張らない様に救助で頑張るっす! というわけでここはボクに任せるっす!」
繰り出される鉄パイプやバールの打撃を剣で打ち払い、レッドは騎士たちを先へ行かせた。
礼を言って走る騎士と民間人。
行く手を阻むように現われたのは、ムカデのような足を生やしたジェットコースターだった。
「グルルル……。ガァァァアアアアウッ!!」
空中から急降下強襲をしかけるアルペストゥス。
容赦の無い攻撃が怪物ジェットコースターを襲い、戦闘車両がそれこそムカデの口のように開いてアルペストゥスへと噛みついていく。
もつれあい、破壊しあう。
四音はその戦いに割り込むようにハイヒールを発動。味方を支援し。協力してジェットコースターを打ち負かしていく。
「夢の世界が生まれるのは良いです。でも、その世界がずっと続くのは良くないですね。結局人の想像の範囲内の世界にしかなりそうにないですから。
もちろん、真なる夜魔さんの物語も素敵だとは思いますよ。ただ、私はもっともっと想像を超えた、心を震わせてくれる物語が見たいんです。
無限なんて面白くもないのです」
「待たせたな、全員こいつに乗れ!」
セイと協力して馬車を引いて現われた一悟が、怪物ジェットコースターへと殴りかかった。追撃としてショットガンブロウを叩き込むセイ。
殴ったそばから燃え上がる炎が、ジェットコースターを覆っていく。
「夢だか悪夢だかしんねーけど、見たけりゃ勝手に自分たちだけ見ていやがれ!」
次の瞬間、式符・白鴉がジェットコースターを貫いた。
青く美しいバイオリンを手に、アストラルノヴァが駆けつける。
「幼い子供や母親がこの先…母親を亡くした幼き俺のように、寂しい思いや悲しい思いをしない為にも…必ず護ってみせる…!」
奏でる旋律が呪いとなってスリーパーを軋ませ、同時に仲間や騎士たちの魂をかきたてる。
「俺はもう…誰かに守られるだけの、籠の中の小鳥なんかじゃ…ない…!」
激しい咆哮をあげるジェットコースター。
渾身の力を込めて彼らを振り払おうとするが……。
「させない!」
突風のように飛び込んだシャルレィスの五月雨斬りが、青い軌跡を描いてジェットコースターの胴体を派手に切断した。
「今だよ、走って!」
馬車が霧の外へと走っていく。
シャルレィスは片手剣烈風を構え、追いつこうとするスリーパーたちへと身構えた。
「私は物語の英雄みたいに強くない。でも、守れる命があるのなら全力を尽くすよ!!」
燃えさかる町の風景から、炎に包まれた人間たちがうめき声を上げながら飛びかかってくる。
それらが全て、スリーパーであるという。
矢の尽きた弓で戦う騎士を助けるように、フォルテシアが割り込んだ。
燃え落ちる瓦礫を抜けて急降下し、着地したと同時にドゥームウィスパーを発した。
不吉なささやきに思わず立ち止まるスリーパーたち。
「天義で起こった常夜の呪い…私はそこら辺はよくは知りませんが、この黒き霧…そして現れたモンスター。これは放置してはいけないものですね。冒険者として、仲間と協力して解決するべきですね!」
次の瞬間パイロキネシスの炎がスリーパーたちを包み込む。
既に燃えていた彼らではあったが、真なる炎によって本当に焼き払われていく。
「夢を見るのも勝手だし、そこに何を見出すかも勝手だけど……他人に迷惑だけはかけちゃいけないねえ、大体何だかよく分からないのはすごくよくない」
セルウスは疑似神秘発生装置を手に、神薙による吹き払いを実行した。
崩れる家屋。
ゴーグルをかけて突入した文が、潰されそうになった騎士を抱えて路上へと飛び出した。
「ここは一体……町はどうなっているんです!」
錯乱する騎士をなだめるようにヒールオーダーをかけると、文はあえて堂々と立ち上がって一方を指さした。
「全力で走るんだ。襲いかかる敵は、僕らが排除する」
半信半疑の中、しかし現状よりはずっといいと考えて走る騎士。
家屋をなぎ倒して炎の巨人が現われ、足を振り上げるが……。
「諸君! ゴッドである!」
高いところから豪斗が突如として現われ、攻撃に晒されそうになった騎士を謎の光で治癒し始めた。
「なんとドリーム、いや、ナイトメアのワールドより現れしものとは!
されど諸君が見るべきビッグドリームはリアルにあるべき!
ユー達をアブダクションさせるわけにはいかぬな!」
「この意味不明な言動……まさか『例のゴッド』!」
「ザッツライト!」
ゴッドはビッと騎士を指さすと、そのまま走るべき方向を指さした。
「ユー達が何のためにバトルしているのかを思い出せ!
そして恐れるな、ナイトメアを!そのソウルをバーニングさせればユー達が屈することなどない!」
走った先に待っていたのは、マルク率いる騎士の混成分隊であった。
「隊伍を組み組織的に抵抗して、防衛網の構築を助けましょう!」
騎士たちを統率し、巨人に挑みかかるマルク。
その戦闘を走る天裂は、巨人に渾身のブロッキングバッシュを叩き込んだ。
圧倒的な体格差であるにも関わらず、揺らいだのは巨人のほうだった。
「どこでも魔種という者は好き勝手がお好きなようで」
フロウが銀のスタータクトを振りかざし、チェインライトニングの魔術を発動させた。
「来たれ、連なる雷光…我らの敵だけを貫け!」
炎の巨人を、そして燃えさかる群衆を、フロウは敵味方を起用に識別しながら打ち払っていく。
「個人的に天儀と宗教は少々苦手なのですが、魔手の横暴を許す理由にはなりません。ましてや誘拐など見過ごせるはずもないですね」
「真なる夜魔とやらも随分と大規模な事をしでかしたモノだな。
情報屋として、人が居なくなればそれだけ情報元が無くなるが故、此度は救助に回るとしよう」
同じく駆けつけがリュグナーがボティスの蛇影を発動。炎の巨人がたちまちのうちに赤黒い蛇に締め付けられていく。
「尤も、この恩の対価はいずれしっかりと頂くがな」
チャンスだ。シャルロットは刀を抜いて跳躍すると、蓮刃(ロータスエッジ)の連撃によって巨人の腕を切り落としてしまった。
(常夜の呪いか、夜である分には、我ら吸血鬼にとっては望ましい環境ではあるはずなのだがな。
中身は異界、こうも変な空気ではのんびりもしてられないな)
膝を突く巨人。
ベンジャミンは両腕を振り上げると、叫びをあげながら巨人へと襲いかかった。
「とりあえず“魔種様御一行”とかいう神に仇なすクズどもを皆殺しにすれば良いですかな? うおー! 燃えますな!」
ベンジャミンはどこからともなく呼び出した謎の邪神の手によって、炎の巨人を粉砕した。
「次は誰を倒せばよいのですかな!? うおー! 突撃ですぞ!」
●お菓子の町と不自然な子供たち
首都東西に常夜の呪いが観測された当初、真っ先に事態収拾に向かった騎士団があった。
首都でもそれなりの地位にあるエリート騎士団。その名も虹百合騎士団。
だが彼らは過去に観測された常夜の呪いとは比べものにならない事態に晒され、部隊は壊滅。散り散りになって夢の世界をさまようことになった。
菓子の町で、ショートケーキやクッキー人形に取り囲まれた騎士赤百合。
唯一残った短剣を握り最後の抵抗を見せていたが……。
「伏せて!」
突如巻き起こった絶対零度の突風が、クッキー人形と周囲の水分を巻き込んで凍り付かせていく。
お菓子の屋根から飛び降りるユウ。ブレスレットについた青い魔石がきらりと光った。
「厄介な事になってるみたいね。魂まで凍り付いてしまいなさい!」
続けてユウは氷精霊の力を解放。凍り付いたクッキー人形たちをめちゃくちゃに崩壊させていく。
「あなたたちは……まさかイレギュラーズ」
「そういうこと。依頼を受けたから……だけど。困ってる人をこのまま放っておけないからね」
脇道を走って追いついてきたセシリアが、ミリアドハーモニクスの力を使って赤百合の傷を治療し始めた。
「なぜ私を助けに」
「騎士様達が自由に動けれればその分、皆を助けれる可能性が高まるからね」
回復中のセシリアを邪魔するように、ウェディングケーキが牙を剥いて襲いかかる。
が、素早く間に割り込んだティアが『穢翼・白夜』の呪術を発動。ウェディングケーキは近づくよりも早く爆発四散し、生クリームをあちこちにぶちまけた。
「ユウもセシリアも無理はしないでね!」
『回復役が居なければ戦線は維持出来んからな』
その先にあるオレンジジュースの噴水広場では、騎士青百合が残り少ない矢を使って群がるキャンディスパイダーを迎撃していた。
援軍を待つにも絶望的か。そう思われたとき、淡く輝く妖刀を手にしたウェールが、キャンディスパイダーを次々に切り裂きながら現われた。
「誰かの日常を守るため……パパに力を貸してくれ、梨尾」
彼の怒り周囲へと伝染し、それまで青百合にむいていたヘイトのほとんどがウェールへとシフトした。
爪を向きだしにし、飛びかかるキャンディスパイダーを握り殺すように掴む。
取り囲むキャンディスパイダー……だが、上空から浴びせられた無数のマギシュート爆撃がキャンディスパイダーを牽制した。
青百合の前へ、庇うように着陸するアクセル。彼は歌をうたうことで、未だ戦う人々に勇気を配って回っていた。
「霧の中でも、夜の中でも、一緒に戦ってるヒトがここにいるよ! だから――」
歌を再開し、空へと飛び上がるアクセル。
一方で駆けつけてきたレーゲンがメガ・ヒールで青百合を回復し始めた。
「要救護者はすぐに霧の外へ送るっきゅ。まだ戦えるっきゅ?」
「ええ、なんとか。まさか騎士より先にイレギュラーズたちが助けに来るとは思わなかったわ。よくこの場所が分かったわね」
「沢山探したっきゅ」
グリュックは鼻をくんくんとやって、嗅覚を強調して見せた。
次の瞬間、ビスケットの時計塔を破壊して、マシュマロの巨人が飛び出してきた。
身構える騎士とイレギュラーズたち。
だがマシュマロ巨人の浴びせた砂糖の波が、一瞬にして彼らを押し流してしまう。
「とんでもない威力だ!」
「もっと回復量を!」
「僕が……!」
チョコレートのポールにしがみつき、エーテルワンドを振りかざすシリル。
「ゆ、勇気を出して……まもります!」
砂糖の波をはじき返すように、壱式『破邪』を発動させた。
そんな彼に目をつけたマシュマロ巨人が、サッカーボールのようにシリルを蹴り飛ばす。
だがシリルを覆った反発フィールドに足の指をぶつけて悶絶。その間にフランが蹴り飛ばされたシリルをジャンピングキャッチした。
「一人じゃ恐くても……シリルもアルちゃんも一緒だから大丈夫。三人で力を合わせよう!」
「ふふん、深緑ヒーラー三人衆ってところね。新米でも、三人集まればなんとやらよ」
シリルの回復をフランに任せ、アルメリアはマシュマロ巨人へと突撃した。
足の小指を狙ってマーシーポールの魔方陣を展開。突き出された棒が鋭く指を突き、マシュマロ巨人は悲鳴を上げながら派手に転倒した。
それぞれロッドを翳し、三角形の陣形を組むフラン、シリル、アルメリア。
「さあ皆、力を合わせていくわよ!」
そこへ虹百合騎士団や他のイレギュラーズたちも加わり、一斉にマシュマロ巨人へと挑みかかった。
「もしも幸福な夢ばかりが見られたら……そう思うけど」
カレンは静寂とバラードによって周囲の仲間たちを強化し始めた。
(私は蝶。夢と夢の間を揺らぐ可能性の在り方。
私という存在もうつつには存在せずまほろにあるならば
幸福な夢を見続ける魔種に寄り添えたのかしら。
いいえ、きっと無理ね。彼女の苦しみは彼女のものだもの。
けれど、それに巻き込まないで頂戴。神様は、残酷なのよ)
「大丈夫、明けない夜なんてないわ」
強く目を開け、魔術弾を発射するカレン。
「相変わらずギルドの人使いは荒い感じだよねー。久しぶりの現場だよー」
イチゴタルトの屋根に登り、幻燈という照明器具を振りかざした。は流れた悪意の幻影が、起き上がったマシュマロ巨人へと食らいついていく。
その途中で砂糖の砂山から埋もれた騎士を見つけると、手を突っ込んでは引っ張り出していった。
そんな彼女たちを打ち払おうと、手を振り上げるマシュマロ巨人。
「援軍到着ですわっ!」
倒れた板チョコレートの壁を坂にして、ヴァレーリヤが猛烈に駆け上がっていく。
先端からの跳躍。『天の王に捧ぐ凱歌』を振り上げると、メイス側面の聖句が炎の輝きとなった。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』!」
直撃がマシュマロ巨人の頬を打つ。
と同時に、駆け寄ったムスティスラーフのむっち砲がマシュマロ巨人の腕を貫き、手首から先を遠いグミ畑に吹き飛ばしてしまった。
「誰も救えなかった昔とは違うんだ。
逃げる事しかできずに目の前で息子を失ったあの時とは、お前が稼いでくれた時間で拾ったこの命……お前に誇れるよう活かしてみせる!
だから、見ていてね!」
握りしめた角が、強い輝きを放った。
祈りと願いと、そして覚悟が戦う仲間たちの力になって注ぎ込まれていく。
それはきっと、同じように駆けつけた潮にも共感できるものだったのだろう。
「助太刀するぞ。ポチ、さがっておれ……!」
腕まくりをし、サメ手刀を連続で繰り出す潮。
なおも振り回そうとしたマシュマロ巨人の腕が飛び出すサメのオーラによって次々に喰いちぎられていき、小さく短くなっていく。
そこへウルマの射撃支援が追加。ライフルによる銃撃がマシュマロ巨人へと刺さる。
「手伝うよ!」
アミ―リアの一閃が、マシュマロ巨人の足を決定的に切断した。膝を突き、派手に手を突くマシュマロ巨人。押しつぶされないようにアミーリアは距離をとる。
対するマシュマロ巨人は再び大量の砂糖をはき出し、砂糖の津波を引き起こした。
防御姿勢で踏ん張る潮。
が、それを庇うようにダーク=アイが宙にぶわりと浮き上がった。
開いた目から発生する円形の障壁が津波をかき分け、虚無の視線がマシュマロ巨人の方を穿った。
「夢か──もはやヒトとしての生を捨てた吾輩には、遠き儚き記憶の彼方。
睡眠を必要としない吾輩は夢を見ない。何も感じない。だが──ヒトにとってひとときの快楽である夢を、いいように操る。吾輩はそれが許せぬというだけである」
「そーにゃ! 一日中だらだらして眠ってたいのは同意だけど、お日さまもないこんな所ではちょっとねーにゃ。この地に日向ぼっこを取り戻すのにゃ!」
シュリエは胸に手を当て、獄式『災禍』を発動させた。
内に封じられた災厄の獣がわずかに解放され、まがまがしい球体となって手の上に収まる。シュリエは飛びかかり、マシュマロ巨人の顔面めがけて球体を押し当てた。
ぶくん、と派手に膨らみ、爆発を起こすマシュマロ巨人。
砂糖の泡となって散るなかで、巨人の中に取り込まれていた騎士たちが流れ出てきた。
ハイ・ヒールの光に薄れかけた意識を取り戻す騎士たち。
ナイジェルは手を翳し、奇妙にわざとらしく腕を振った。
「我が信仰は、その外にある者たちの為に……教義に従い、キミらを救いに来た。
感謝の言葉は不要。今は傷を癒すことを第一に考え、大人しくしていたまえ」
●大草原の不愉快な動物たち
無限に思えるほどにどこまでも広がる草原地帯。
花束で出来た熊が、白銀の鎧を纏った騎士の顔面を掴み上げていた。
だらんと手がぶらさがり、流れた血が指先から落ちる。
ぴくりと動く指。
花束熊がトドメの一撃を入れようと、毒爪を振り上げたその時――。
リョーコのソニックエッジが花束熊の腕を瞬時に切り裂いていった。
ごく低空での飛行から舞い上がり、散った花びらを引き連れながら空で反転する。
「アタシは速さが強みッス。もっともっと疾く……ッス!」
その間、屍が開放された騎士を抱え、急いで止血処理を施した。
「大丈夫です。助けに来ました」
運び込む先は味方のヒーラー。ウィリアムである。
「どれだけ暗い夜霧に包まれようとも、明けの光は全てを裂くのさ。――おはよう皆。目覚めの時だよ」
ウィリアムは癒やしの水を生み出すと、メガ・ヒールとアウェイニングの使い分けによって騎士の怪我を素早く治療した。
「くっ……助かった。まだ戦えそうだ。君はどこの教会の所属だね」
騎士に問いかけられて、ウィリアムは穏やかに首を振る。
「どこの教えもうけていないよ」
一方で空中のリョーコを襲うカミソリのカラス。
大量のカミソリがぐちゃぐちゃにより合わさったカラスが、リョーコめがけて飛び込んでくる。
が、その途中でロゼッタのフレイムバスターがカミソリカラスを包み込む。
標的を変え、燃えるままに突撃を仕掛けてくるカラス。
ロゼッタはさらなる攻撃をしかけるが、横から打ち込まれたパーシャの剣がカラスを貫通、撃墜した。
「たくさんの人達が傷つくのは見たくない。私は、迷いません。いつか、夜は明けなきゃいけないから! どうか私に、人々が明日を迎える為の力を! 夜霧を払う、双星の瞬きを! ──召剣! ウルサ・マヨル!」
更に召喚した剣をそれぞれ握ると、地面が破裂するかのようにして巨大な花束熊が飛び出してきた。
同時に、地面に引きずり込まれて埋まっていた騎士たちも飛び出し、草地をごろごろと転がる。
素早く駆け寄るエリカ。
天使の光をライトヒールの力に変えて、転がる騎士のひとりへと翳した。
「ローレットのものです。ああよかった。直ぐに治療して、移動しましょうね」
エリカの呼びかけにほっとした様子ではあったが、騎士はすぐに首を振って腰の剣をとった。
「だめだ。奴を放ってはおけません」
「そういうことなら手を貸すわ」
ミシャは白衣の裾を靡かせて、覚えたての治癒魔法を唱えた。
(私は元の世界じゃ魔法機械の専門家だったけど、ここでイレギュラーズとして少しは力になれるようにこの術を覚えたのよ……)
「ねぇ、この世界の神さまとやら。ちょっとは私たちに味方してくれるのかしら?」
その一方では、別の騎士に駆け寄ったアクセルが素早く医療鞄を開き、恐ろしいスピードで適切な治療を施していった。
「医者か……た、たすかる」
患者に頷き、キッと巨大な花束熊を見上げるアクセル。
「……逃げる事は構わない。だが、今を生きる人間まで巻き込むのはやめろ」
「騎士さん、しっかりしてください!」
治療を施した騎士を更に高速で回復すべく、ライムが自らの一部を患部へ塗り込んで治療していく。
これでなんとか動けるはず。そういって騎士を引き起こし、ライムは別のけが人へと走って行った。
騎士たちを扇動するかのように、身体から漆黒の炎を放つアクア。
「守らなきゃ……助けなきゃ……声が、悲鳴が、あちこちから……!」
幻聴に頭を押さえ、アクアはわき上がったダークファイアを花束熊へと放射した。
「Doom……一緒に闘おうね 大丈夫、キミの呪いは、全部わたしが受け止めるから……一緒に堕ちよう」
禍々しい剣を握りしめ、迫り来る巨大な花束熊へと挑みかかる。
と、そこへ。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!
悪を倒せと私を呼ぶ!
この真っ赤な拳にかけて!
全ての悪を駆逐しよう!
変身…!魔法少女『ジャスティス・レイナ』!」
赤き鋼鉄のロボットスーツを身に纏った麗奈が、巨大花束熊めがけて跳躍した。
更に。
「HAHAHA! 怪人居る所に正義の味方アリ!
皆の笑顔を守る為!魔法少女プリティ☆マッスル…見参!」
マッスルポーズで現われる武。聖杖『マッスルエクスタシー』を振りかざし、仁王のごときポーズと顔で笑った。
「あ、麗奈君、それに皆さん!協力して悪に立ち向かいましょう!
筋肉を鍛えるのだ!筋肉!筋肉!! フォォォ!」
同じく飛びかかり、殴りかかる武。
ジェット噴射をかけてパンチを繰り出す麗奈。
二人の打撃に、巨大花束熊は大きくぐらついた。
「魔法少女は絶対に負けないの! 愛と勇気と正義の心があれば! 誰だって魔法少女になれるんだから!」
「愛!?」
そして突如現われるサルビア。
「フヘへへ…嗚呼! この戦場にも『愛』が溢れておりますわ!
誰かを助けんが為に動く愛! 嗚呼、私とっても感じて火照ってしまいますわ!」
身体をくねくねとさせるサルビア。どこからともなくマジックロープを生み出すと、花束熊めがけて投擲。ぐるぐると縛り上げていく。
その様子を見上げるアネモネ。
「おぉ! たしかに大変な事になっているのだぞ! 確かにこれは我々も出張らなければいけないのだな!」
赤槍・紅花翁を握り、ぐるぐると振り回すと、花束熊めがけて猛烈な勢いで突撃を仕掛ける。
「アネモネ・キルロード参る! のだ!」
「オーホッホッホ!」
突撃を支援するように、黒曜鉄扇を広げて花束熊へ飛びかかるガーベラ。
「何の因果かここに集いし皆様、この非常事態に各々の力の限りを尽くし無辜の民を一人でも救いましょう! キルロード三姉妹、突撃ですわ!」
突然現われて突然強敵に飛びかかっていくどうかしてる人たち。
その有様を見て、騎士はわなわなと震えた。
「な、なんだこのどうかしてる人たちは……これも悪夢なのか……?」
「現実ですわ! 魔種など私達の敵ではありませんわ!」
くわっと振り返るガーベラ。
沙愛那が禍津刀「首断」を肩に担ぎ、大きなウサギの耳を振った。
「アハハ! 正義の味方はいつ如何なる時にも全力投球しなくちゃですからね! さあ、悪い子の首は狩り取っちゃいましょう!」
といいつつ、やっぱり突撃。
武器もスタイルも違えどとりあえず全員突撃だけするという偏りっぷりに、騎士はまたわんなわな震えた。
「いきます、沙愛那ちゃん★キック!」
巨大花束熊のすねを蹴りつける沙愛那。
「これでも「善い狐」を目指しておるからのォ…人助けするのも善行の一つじゃて」
ぐおーといってよろめく花束熊へ、タマモがやっぱり突撃して『結界「彼岸花」』を発動。草原地帯に咲き乱れる彼岸花。花束熊の体表をも浸食する花に、悲鳴のようなものを上げて暴れ始める。
「悪夢は悪夢らしく燃え尽きろ…妾がまだ大人しくしているうちにのォ?」
チーム【特攻B】による合体攻撃(主に殴る蹴るの暴行)により、巨大花束熊は砕けるように倒れていった。
●牢獄塔と不機嫌な看守たち
首から上の無い、鎧を纏った看守兵たちが槍を手に歩いていく。
その足音が消えるまで、二人の騎士は物陰で息を潜めていた。
先行した騎士団が帰らなくなったことで投入されたネメシス正騎士団の一角、白梟騎士団。その若き団長であるジェニーは血まみれの腕をひいて呻いた。
僅かな声を聞きつけ、首無し看守たちが集まってくる。
逃げ場は無い。万事休す、かと思われたその時。
彼らの後ろから氷精の標本針が大量に飛び、首無し看守たちを地面や壁に縫い止めていった。
針を抜き、振り返る首無し看守たち。
「覚めない夢があるなら、それは悪夢であってはならない――と、精霊も言っていた。ここは、俺が相手になる」
氷の鳥籠をさげたアルクが、さらなる針を発射する。
槍で防御する首無し看守たちに飛び込むモルン。
「むむむ、なんか怖そうなやつがおるのぅ」
マジックフラワーをぱちぱちさせ、ひるむ首無し看守たちに攻撃をしかける。
「あなた方は……!」
物陰から姿をみせ、剣を握り戦闘に加わろうとする白梟騎士。
「まだけが人だ。下がっていろ」
舞妃蓮は騎士を庇うように前に出ると、戦闘態勢になった首無し看守たちめがけて死霊弓を連射した。
「さて、初陣にしては随分と物騒な場所に出たものだが……」
放たれた呪いの矢が首無し看守に突き刺さり、大きくよろめかせる。
反撃のために突撃してくる敵を、同じく割り込んだコロナがライトニングの魔術で吹き払った。
「踏ん張ってください! 我らが神の名のもとに! 呪いに屈しない天義の力を見せる時ですよ」
「これが魔種の力……」
リコリスは蹴散らされてもなお襲いかかってくる首無し看守たちを前に、青白いランタンを振るようにしてヴェノムクラウドの魔術を発射した。
首無し看守を中心に、爆発するように広がる毒の霧。
そんな中を鋭く走る、桧。
大剣を握り込み、首無し看守を一息に紫電一閃によって切り払った。
桧が合図をすると、用意していた味方の馬車が看守たちを撥ね飛ばして門の向こうへと突っ込んでいく。
その間にどらは黒い猫耳をぴこぴことさせながら騎士に駆け寄り、同じく駆け寄ったレリアと共に騎士の回復を始めた。
「しっかり。大丈夫です。一人でも多く生還させてみせます!」
そこへ攻撃しようと近づいてくる首無し看守を二人は魔弾や遠術で牽制した。
「安心して眠れなくなるのは僕も嫌だからね。
昼寝のつもりが永遠の眠りとか悪い冗談だよ。
後ろのほう手伝っておくから、突入する人は頑張ってきてねー。
……どうせなら無事に帰って来てよね」
「大分人手が必要みてぇだし…人じゃねぇがまぁ多少は力になれっかね」
チラリゴケはロベリアの花を門へ打ち込むと、突入の邪魔をしようと群がる首無し看守たちを追い払っていった。
「さて、こんなもんでいいだろ。そっちは任せたぜ」
塔へと突っ込んでいった馬車というのは、キドー率いるチーム【マンハント】による救護馬車隊のものであった。
「オラ! こいつらは俺たちの獲物だ! 化け物なんかに渡すかよ!」
倒れ、牢に閉じ込められた騎士や市民を鍵をこじ開けることで救助すると、駆けつけてきた首無し看守に小鬼の懐鎖を振り回し、叩き付けるようにして牽制した。
「今のうちだ、運び込め!」
「無理はするなよ」
マカライトは素早く牢の中にとらわれた市民を抱え上げると、用意した馬車へと積み込んでいった。
取り返そうとしているのか、襲いかかる首無し看守には『眷属生成「ウェボロス」』を発射。叩き付けることで足止めする。
何人かを積み込んだ所で、ティンダロスに飛び乗って馬車を出した。
邪魔しようとする首無し看守に銃撃をしかけて牽制しつつ、すれ違う仲間に『あとは任せた』の合図を送った。
頷き、塔の上階を見上げるヨルン。
「まだ上に何人か残ってる筈だよ。ついてきて」
階段を駆け上がるヨルンを、首無し看守の剣が襲った。
腕が切断され吹き飛ぶも、まるでなんてこともないように蹴りつけ、駆け抜けながら口と片手を使った弓のワイズシュートを打ち込んでいく。
話の通り、上階の牢にも市民が何人かの市民がとらわれていたが、ミミは猛烈なマインドシュレッダーで格子を無理矢理破壊。
子供を両脇に抱えると、なぜか手慣れた動きで馬車へと走って行った。
「これで全員! ハイヨー!」
馬車に飛び込んでせかすミミに言われたまま、ランドウェラは馬車につないだ馬を叩いて走らせた。
「キドー、乗れ」
左腕を伸ばし、飛びついてきたキドーを馬車へ引っ張り込む。
ランドウェラそのまま、追ってくる首無し看守たちを衝撃の青で払っていった。
「相手にしている暇は無いのだよ!」
馬車はやがて霧を抜け、首都の風景へと移り変わっていく。
一方、西側。同【マンハント】チームの東側メンバーが粗方の救助活動を終えたのとほぼ同じ頃。
ヨハナは未だ混乱した町の中を全力で捜索していた。
ファミリアー、ハイセンス、エコーロケーションの三つを複合的に利用した捜索術で、スリーパーに連れ去られた人々を見つけ出そうとしていた。
「この先から多くの気配を感じるのですが……」
セフィはやや高所を飛行しながら捜索に加わっている。
防衛部隊と先行した救護部隊がスリーパーの侵攻を止めたとはいえ、まだ戦いが完全に終わったわけではない。
どこかで戦い続けている騎士や、逃げ遅れて隠れている市民もいるはずだった。
「眠りは傷つき疲れた人類に必要な癒しです。
他の誰にも害がなければ、私は存在を認めたでしょう。
例え誰が許さずとも」
ノースはそんなふうに呟きながらも、仲間たちと共に逃げ遅れた市民を発見。
弱いスリーパーが付近をうろついていたので、衝術と名乗り口上を駆使して戦闘を始めた。
その間に智子が物質透過を使用して隠れていた市民に接触。助けに来たことを伝えると、逃走ルートを確保し始めた。
そこへ駆けつけるアリシアの馬車。乗っていたセフィたちを市民の救出に向かわせると、アリシアはシャドウオブテラーを用いてスリーパーを攻撃し始めた。
「天義からの要請、マゴノテ神父様とお茶が出来なくなる事は避けさせてもらうわ!」
伸びたアリシアの影がスリーパーを切り裂いていく。
そうこうしている間に智子たちは市民を馬車に乗り込ませ、発射OKの合図を出した。
「行くぞ、つかまっていろ!」
トルハは鼻息荒く馬車を引いて走り始めた。
スリーパーが行く手を阻もうと飛び出すが、知ったことでは無いという風にソニックエッジで踏み蹴散らし、そのまま西側拠点へと走って行く。
彼らは遼人の確保した西側拠点へ、一方のキドーたちは比較的近いトゥヨウたちの確保した東側拠点へとけが人たちを運搬し、彼らの安全を確保した。
こうして市民たちは教会内に作った医療拠点へ避難し保護され、まだ戦える騎士たちは助けてくれた救護部隊たちと共に残るスリーパーの掃討や突入部隊への露払いを始めたのだった。
一方で、ネメシスの騎士や民間人のうち大部分を救出し終え、かつ首都の防衛ラインを確たるものとし、新たなスリーパーの都市部発生が無くなったことを確認した所で、温存されていた『常夜の呪い』突入部隊及び魔種特別攻撃部隊による侵攻が開始されるのであった。
●飢えなき幸福のみを喰え
立ち並ぶ祭り屋台の列は賑やかで、明けぬ夜に増えの音や賑やかな話し声だけが聞こえている。
筋肉質のスリーパーが、大量のバク型のモンスターを従えて立ちはだかる。
「何があろうと、今この夜が続くのは間違いです。夢のあとは、目覚めが無ければいけません。この夜を終わらせて、新たな夜明けを開きます!」
救出された騎士たちが追加戦力となり勢いづくなかで、シフォリィは先陣を切るように突撃を始めた。
剣を抜き、人型のスリーパーへと接近をかける。スリーパーは筋肉質の腕を振り回し殴りかかるがシフォリィは脇の下を潜りぬけるようにしてカウンターのS・エンラージュを繰り出した。
「私にこの夢を明かす力はありませんが、それを為す人の為に道を切り開くことならばできます!勇者王を支える人の様に、私も戦います!」
斬撃にたいし僅かによろめくスリーパー。
その隙を逃すこと無く、マグナは磨き上げた特技である『近接術式「クラブハンマー」』を叩き込んだ。
「クソッ、夢ん中に逃げたいってんなら、テメェらだけ永遠に寝てろってんだ!
こちとら夢に逃避するほど、現実に退屈も絶望もしてねえんだよ!」
効果的な追撃を受け、派手に転倒するスリーパー。
その間にヘイゼルはバク型スリーパーたちの中へと飛び込み、誘うように手招いた。
「まあ、鬼ごっこは得意な方なのですよ。少々……と云うにはだいぶ長い間ですが、お付き合い頂きませうか」
赤い魔糸を飛ばし、バクたちを次々と結びつけては襲いかかる彼らの攻撃をひらひらと回避していく。
「夢などと云う所詮は脳内の事象を安寧とするなど、魔種らしく実につまらない方ですね。
喜劇に悲劇に茶番劇に狂言。世にはこんなにも面白いことしかありませんのに」
彼女の横を猛烈な速度で駆け抜けていくベーク。
「うわああああああああああああああああああああああ!!」
たいやきたいやきといいながら口を開きかじりつこうとするバクの群れから、ベークは死ぬ気で逃げていた。
「なんか僕別に人間じゃないし国政とか悪人とかどうでもいいのになんでこんなに頑張ってるんだろ……」
急に素に戻るベーク。
追いつかれたからである。
しかし追いつかれたということは密集したということ。
リジアは破壊の翼を強く広げ、Sacris Impulsumの破壊術を行使した。
「無限に湧き出る軍勢か。…面倒だ。だが、誰かが止めねばならない。
故に、破壊する。夢幻は、現より滅び去れ…」
不可視の衝撃がバクを打ち払い、更に破壊の閃光が打ち抜いていく。
包囲から逃れたベークを後ろに庇い、『徒花の道(ロード・ニヒル)』を行使。虚無の力がバクたちを穿ち、後方の屋台群すらも破壊していく。
この世界は虚構の満腹。
偽りの幸福。
飢え苦しんだ者をとらえ、現実を捨てさせる甘い罠だ。
破壊された屋台の残骸をなぎはらい、ヒトガタのスリーパーが新たに複数体現われる。
ニャンジェリカはここぞとばかりにショルダータックルを仕掛け、仲間への連携をつなぎにかかった。
「子供の魔種……若干やり辛いところがあるニャ。
とはいえ放置もできニャい。
イレギュラーズの一人として、倒させてもらうニャ」
すかさず飛びかかる絵里。血蛭の刃がスリーパーを切り裂き、反撃の手をするりとかわす。
「辛いことから逃げるの、悪くないと思うのです。うん
楽しく生きていければそれが最高なのですよー
きっとこの世界の人達とは気があうと思うんですよね。だから……」
身を翻し、再びの斬撃でスリーパーの首をはねた。
「殺して私の『お友達』になってもらわないと、くふー」
そこへ飛び込む新たなスリーパー。
屈強な腕で彼女たちを薙ぎ払い、周囲の屋台ごと破壊した。
対抗するようにリディアがハイ・ヒールの治癒魔法を詠唱。
高く翳したフォールーン・ロッドが魔力を常に充填し続け、リディアはほとんど底なしの回復術を連発していった。
「前線の皆さんに守ってもらいながら私たちが前線の皆さんを支援して、力を合わせることで突破口を開きましょう」
ついでとばかりに放った衝撃の青がバク型スリーパーへと命中し、別のスリーパーへとぶつかった。
下呂左衛門は素早く詰め寄り、名刀雫丸を振り抜いた。
「この光景が夢の産物だとでもいうのでござろうか? だとすれば恐ろしい話でござるな。だがそれこそ、心で後れを取っていては勝てる戦も勝てぬ。気合いを入れて参ろう」
返す刀でスリーパーを切り捨て、屋台の群れをも破壊する。
「夜は必ず明ける。皆で共に朝日を拝もうではござらんか」
するとどうだろうか。
屋台の群れを破壊した先に大きな丸いゲートが見え、その更に向こうには古い孤児院が見えた。
先へは行かせまいと立ちはだかるスリーパー。
だがそれが、この先に行くべき場所があることを示していた。
ショゴスはぎらりと不自然に笑い、玉虫色の粘液を伸ばして襲いかかる。
「虚構の存在、不死の軍勢。
良い、好いぞ。喰らい甲斐がある。
空腹だ。寄越せ、寄越せ」
攻撃をかろうじて受け止めたスリーパーを、ショゴスは大きく口を、否、全身を開けて食らった。
もごもごと暴れるスリーパーを、すりつぶすように食らうショゴス。
その間に、仲間たちはさらなる夢へと渡るのだ。
●機械仕掛けの家族愛
ゲートを抜け、孤児院の広い食堂へとたどり着いた。
食堂には沢山の人々が腰掛けていたが、その全てが不自然にカチカチと歯車めいた音を出し、人形のように首を90度以上回してこちらを見た。一斉にである。
その全てが機械仕掛けの人形であると気づいて、ヨランダたちは身構えた。
「またえらい夢に出くわしたもんだね。ほれアンタ立ち、いっちょいいところみせてやろうじゃないか!」
チーム【縁の下】の三人は、それぞれ広く展開した。
仲間のオーガスト、そして鈴音はそれぞれ身構え、後続の仲間たちを支援し始める。
鈴音は味方集団を指揮しながら、神子饗宴による強化を開始。
持っていたランプをまるごと投げると、部屋をまばゆく照らした。
「命中上げれば針の穴に糸通せるヨー」
そこへ突入を仕掛けたのはチーム【アンナ隊】の面々であった。
「この国に思い入れなんてないけど……首都には父様や母様達が眠っているの。小娘の我儘空間に侵されるなんて許容できないわ」
アンナの黒布が幻惑するように踊る。
機械の大人たちは『かわいいこどもたち』と語りながら腕を電動ノコギリや焼き鏝に変え、アンナめがけて飛びかかる。
「アンタたち!」
「ふふーふ。私達は私達が出来る限りの事をしましょう」
ヨランダとオーガストはそれぞれ全力のヒールマジックを唱えはじめ、敵を引きつけたアンナへのカウンターヒールを開始した。
のこぎりが、焼きごてが、ナイフが、無数の凶器がアンナをおそうが、アンナはそれを次々と回避し、打ち払っていった。
払いきれないダメージもオーガストたちの治癒力によってカバーしていく。
その間の攻撃を担当しているのが、アンナ隊のリーゼロッテである。
リーゼロッテは煌めく羽根ペンで雷神ユーピテルの魔方陣を描くと、大いなる魔術を発動させた。
「雷鳴と共に彼方より来たりて――『雷神の鉄槌(ライトニング)』!」
機械の大人たちを貫き、綺麗に並べられた椅子や空っぽの皿たちをも破壊する。
「魔術的に興味深い事象だけど、手を出せる力じゃなさそうなのよ。
だからここは一つ――魔女の魔術で蹴散らしてあげるわ!」
「それに天義はアンナの故郷でもあります。諸悪の根源たる魔種を打倒すためにも道を切り開いてみせるです」
破壊した機械の大人たちを狙って、ルルリアの氷風乱衝弾が炸裂した。
銃弾のめり込んだ壁に、テーブルに、天井に魔方陣が次々と開き、氷属性の魔弾を拡散させる。
「こんこん。軽く床を舐めさせてあげます!どんどんかかってこいです」
漆黒魔銃テンペスタを指でくるりと回すと、ルルリアは新たな標的に狙いをつけた。
「おや?」
破壊した食堂の壁に、丸いゲートが見えた。
壁の向こうは真っ白に光っており、何かの歌声めいたものが漏れ聞こえてくる。
機械の大人たちは腕を軽機関銃に変え、ゲートを守るように隊列を組み始めた。
「進むべき道ってやつはアレで間違いなさそう、かな!」
シエラは銀色の剣にライトグリーンの光を纏わせ、彼らへと突撃し始めた。
「私はシエラ・バレスティ! 超絶カッコいい戦士! おりゃあぁ、かかってこーい!!」
突撃した彼女めがけて軽機関銃による集中砲火が浴びせられる。
「うあ、普通に痛い! ていうか地獄! ハッ、そうか…私はイレギュラーズだった!! そろそろ本気出す!! 出したい!」
頭を抱えてうわーといってうずくまるシエラ。そんな彼女の頭上にトリーネが突如として着地。高らかな泣き声をひびかせた。
「寝ぱなっしはダメよ!私の仕事がなくなるから!
朝はちゃんと起きる!私の鳴き声パワーで寝坊助な皆の目を覚ましてあげるわー! こけー!」
シエラについた傷が癒え、さらには羽毛の鎧が装着される。
「いまよー!」
「白猫社長ミア…義により助太刀する…にゃ♪」
ミアはぺろりと唇を舐めると、鞄から出した軽機関銃を両手に持って機械人形たちを掃射した。
「天義はこれでも…アンナおねーちゃんの故郷…なの」
打ち尽くしたマガジンを片手で排出、鞄の底を膝で蹴ると、飛び出したマガジン二本をそれぞれワンストロークではめ込んだ。
そして、さらなる銃撃。
一方でテーブルの上にナイトメア・カノンをセットしたイヴ。
ファンシーな歌を口ずさみ、イヴは機械人形たちに狙いをつけた。
「我が同胞の人形達を彷彿とさせる集団ですね
しかし、彼らが送ろうとする先は夢の中であって私が送るのは死の先なのです。
夢に現実を叩きつけてやるのですよ」
銃撃が機械人形の頭を粉砕。くるくると回って倒れる人形をスコープの外においやり、新たな目標へと射撃していく。
そうこうしている間に、食堂の奥から機械の子供たちが大量に現われ、『パパ、ママ』と語りながら襲いかかってくる。
「ここは任せて先に行くのです。……いい台詞なのです」
●偽天使のささやき
白く美しい宮殿であった。
まるで雲の上に建っているかのように白くかすんだ景色の中で、天使たちが舞い降りていく。
偽りの微笑みと見せかけの後光をさし、深い眠りにつくようにと囁きかけてくる。
対抗して飛び上がったマルベートが巨大なディナーフォークとナイフをとった。
「夢に幸福を求めるのは些か勿体無いね。快楽とは常に現、自身の思考と肉体の悦びから得られるものなのに。
まあ講釈を垂れても仕方がない。一先ず私は、食欲を満たすとしようかな」
頭上から飛来する無数の矢をナイフで打ち払うと、巨大なフォークで天使の腹を突き刺した。
自らの胸にも矢が刺さるが、構うこと無く舌なめずりをする。
「友よ。一時の饗宴を共に楽しもうじゃないか」
その横を抜けて次々と着地する天使たち。
メートヒェンはスカートを両手でつまんで優雅に片膝を上げると、どこか妖艶に目を細めた。
「やれやれ、突然こんな数のお客様のおもてなしとなるとなかなか大変だね。
とはいえ、どんな時でも完璧におもてなしするのがメイドの仕事。
ここは気合を入れて対応させてもらうよ」
光の剣を手に飛びかかる天使たちを舞い踊るような連続回し蹴りで払っていくメートヒェン。
よけきれない程の剣が彼女の腕や足を薄く切っていくが、後ろから飛んできた細長いポーション瓶をキャッチ。
ちらりと後ろを見ると、ミミがバスケットから取り出した色とりどりのポーションを指の間に挟んで構えていた。
「良い夢、悪い夢。何れにしろ夢は醒めるものなのです。
こんな事件早く終わらせて、皆で笑って食卓を囲む、平和な毎日を取り戻さないと……。
早く皆さんに、美味しいパンを焼いてあげたいものですね」
そう思いませんか、神様。ミミはバスケットいっぱいに用意したポーションを次々に投げては味方のフォローをしていく。
彼女に投げられたポーションを受け取ってポケットインしたリノが、天使の群れへと自ら連続ロンダート運動で飛び込んでいく。
切り払う剣を跳躍で回避すると、素早く抜いたナイフで相手の首筋だけを器用に切り裂いて抜けていった。
「いやねェ、おっかないのがゾロゾロと。
怖くて怖くて震えが走っちゃうわ、なァんてね」
走り抜けたリノはくるりと反転すると、ナイフを手招きするように振ってウィンクした。
「さぁ、私を見て。どうぞ惑わされてちょうだい」
雲のような霧がかすれ、その中に円形のゲート。先に見えたのは美しい町と大聖堂の風景であった。
天使たちがゲート周囲に固まり、矢を乱射して牽制をしかけてくる。
「この先には進んでくれるなってか。上等だ……」
黒羽は両拳を打ち合わせると、矢の中をあえて真正面から突撃した。
「その程度か? 足りねぇ! そんなんじゃ俺は倒れてやらねぇぞ」
天使たちの攻撃が激化し、黒羽へと集中する。
「スリーパー共、百だろうが千だろうが掛かって来やがれ!」
ダメージを気合いで耐える黒羽――の背を飛び越えるように、洸汰が跳躍。
めいっぱいに引き絞ったバットが、天使の一人を打ち飛ばした。
「助太刀するぜ!」
着地の代わりにPAC-Automaticに騎乗する洸汰。
バットの先端を天使たちに突きつけるように挑発すると、洸汰は天使たちの打つ矢を次々に打ち返していった。
「こいつもオレも、ちょっと打たれたくらいじゃへこたれたりしねーかんなー!」
●女神様(ぜつぼう)のいうとおり
仲間たちに後を任せ、美しい町へと踏み込んだウィリアムとサンティール。
暫く先に進んでいくと、白い宮殿へとたどり着いた。
「怖いか、サティ?」
「……うん、こわいよ。でもだいじょうぶ! だって、ウィルがまもってくれるでしょう?」
「ああ、そうだ。俺が必ず守ってやる。だから、一緒に戦おう」
「僕もだ!僕がウィルをまもってあげる!
だから、いこう。僕たちが、みんなの道を切り拓くんだ!」
二人はそれぞれの武器を構え、宮殿へと突入した。
待ち構えていたのは女神をかたどった美しく巨大なステンドガラス。
そこから浮き上がるように現われた、画に描いたような女神であった。
『幸せな夢のうちに眠っている彼らを起こし、苦しい現実を生きろというのか』
問いかけと同時に激しい炎を放つ女神。
ウィリアムはカウンターでメガ・ヒールを放ち、サンティールは蒼い光閃を放って対抗した。
するとどうだろうか。あちこちのステンドガラスから全く同じ姿をした女神が次々と現われ、炎を放ってきた。
『『幸せな夢のうちに眠っている彼らを起こし、苦しい現実を生きろというのか』』
「粗悪な夢。粗悪な量産品だ。こいつは任せてもらおう」
女神の一体をラノールが受け持ち、自慢のマトックを思い切り地面に叩き付けた。
よく磨かれたタイル床が破裂し、伝わった衝撃が女神を襲う。
「この身は仲間を守り、仲間が十全に動けるようにするための盾。
であるならばこの役割はまさに、私が最も力を発揮できる場所に違いない」
反撃の炎を軽やかな動きで回避すると、後方のエーリカへ呼びかけた。
(この国に立つことは今でもこわい。でも、なにもできなかったわたしはもういない。それに……)
「エーリカ!」
「まかせて、ラノール」
強く頷いたエーリカは願星を握りしめ、ラノールを含む周囲の仲間たちの強化を始めた。
(彼が前だけを見つめていられるように、わたしも、ちからの限り戦うの)
強化を受けたイリスが理力障壁を展開しながら別の女神へと突撃。
「何が起きてるのか正確には把握してなかったりするけど!!
夢の兵隊とかなんのそのよー!!
海洋の国民的美少女(自称)はここに、現実に存在してるんだから!」
渦巻く炎をかき分けるように突き進み、障壁を纏った拳で直接女神を殴りつける。
そんな彼女に守られたエリスタリス。
イリスと入れ替わるように前へ出ると、マグダラの罪十字を巨大な盾のように展開。
吹き付ける炎をはねのけた。
「わたしは、どうしてもこのような夢を望んでしまった人の事を考えてしまうのですが……それでも、するべき事はわかるのです」
炎の切れ目に呪術を打ち込むエリスタリス。
ダメージに引いたその隙に、グドルフは女神へと飛びかかった。
(今まで捨て続けた人生だった。夢に逃げたくなる気持ちは理解できた。
だが、そんな与えられた幸福に縋る程、己は純粋な人間ではなかった。
『夜が鬱陶しい』──戦う理由は、それだけで十分だ)
振りかざした山賊刀が、豪快に女神へと叩き込まれる。
血の出ない女神が、グドルフのをぎろりとにらんだ。が、引く必要などない。
「まさかてめえに背中を預ける事になるたあな──おい、どさくさ紛れにおれを狙うんじゃねえぞ」
「あら、それはどうかしらね? せいぜい隙を見せないでちょうだいな」
メリンダはモーニングスターを振り回し、女神目がめて強烈に打ち込んだ。
「おじさまは私に死を運んでくれる天使様だもの。こんな連中に倒されたりしたら興醒めだわ」
次の打ち込みを狙いながら女神の周りを走るメリンダ。
(ずっと夜の世界なんて素敵だけれど、夢の世界には興味がないわ。
私にとってはこの混沌そのものが、永い永い夢の続きみたいなものだもの)
一方、また別の女神にはオラボナが対応していた。
一万を超えるHPを武器に直接殴りかかるという戦法を使用し、女神へ絡みつくように襲いかかる。
「如何なる魂でも。如何なる肉体でも。美的な結末ならば復活するのも構わない。されど冗長は不要だ。我等『物語』は突入する」
オラボナの肉体らしきものが次々と焼かれていく中で、ジョセフが怒りの『異端審拳・威』を叩き込んだ。
女神の胸をジョセフの腕が貫き、心臓を抜き取っていく。
まるで悪魔の心臓を得たかのように、ジョセフはそれを掲げて握りつぶしてみせた。
「夢からは醒めねばならぬもの。心地良い逃避は身も心も魂も腐らせる。何もかも腐り落ち虚無へと至る。ひひっ、さあ! お寝坊娘の寝室のドアを叩け!」
散った女神の血がステンドガラスにふりかかり、まるで砂糖菓子のように溶けていく。
すると不思議なことに、ガラスの先には夜の町が広がっていた。
恐ろしく静かな町の中に、奇妙な笑い声が漏れ聞こえる。
「あそこが道みたいだね」
政宗は妖艶に笑うと、自らの両手に力を纏わせた。
同じく爪を構えるルツ。
「背中は任せてね、ルツ。無事に一緒に帰ろう」
「親友である政宗がこの背を頼りとするならば、私もそれなりに役目を果たさねばな」
間に立ち塞がった女神が炎を放つが、ルツはその中を駆け抜けてショットガンブロウを叩き込んだ。
「…私は難しい事は苦手でな…物理で迎え撃つ!」
更にダイナマイトキックで女神を蹴り飛ばすと、白い柱に叩き付けた。
そこへ政宗のファントムチェイサーが打ち込まれ、女神は柱ごと吹き飛ばされた。
「綺麗過ぎるこの国は好きじゃないけれど、それが助けない理由にはなり得ないもの。
行き先は違えど、死ねない理由も最近増えたし……親友と一緒だから、怖くないと強がって笑えるさ!」
そこへ、竜祢がぎらぎらと笑って飛びかかった。
「私は今、とても昂ぶっている! 皆がああも輝いているのだ、私もそれに全力で応えねばなるまいと!
たまには仲良く共闘といこうじゃないか鳳凰! 背中は任せたぞ!」
「はいはい、分かったわよ。討ちもらしはこっちで始末するから、あんたは好きなように暴れなさい」
竜祢の繰り出す巨大な剣、翠牙・千遍万禍が女神の肉体を周囲の柱や壁ごと粉砕していく。
全ては仲間たちを先へ行かせるためだ。
「行け! 混沌に輝く眩き星達よ! その手に未来を掴んでみせろ!」
その後ろではアニーが追いすがってこようとする女神に炎を放ち赤い眼鏡のブリッジに指をかけた。
「相手が何であれ関係ない。私の往く道を阻むのなら、全て灰にする……それだけよ」
燃え上がる炎と膨らむ風。その中を駆け抜けたなら……。
●鬼さんこちら、無我なる方へ
夜の町には広い公園。
まるで古い日本の空き地にできた公園のごとく、石の土管やブランコや、滑り台や、ジャングルジムや、高い木がぽつぽつと並んでいた。
その中央には、赤い肌をした二メートル近い巨漢が大きな金棍棒を引きずり、侵入者である咲耶へと振り返った。赤鬼、とでも呼んでおくべきだろうか。
牙の鋭い口を開き、襲いかかる赤鬼。
「貴殿等の居場所はもはや夢(ここ)に非ず、いつまでも夢に引き籠っておらずにそろそろ現実を見るが良い」
咲耶は『妙法鴉羽・黒天』を変形させると、赤鬼たちへとあえて突撃していった。
「如何に苦しく辛い事があれど今ある現実を、その先の未来を拒絶してはならぬ。
夢は現実を生きる者が一時の安らぎを得る為の物である故」
振り下ろされる棍棒を、トンファー形態にした武器で受け流す。
勢い余った赤鬼の顔面を、飛翔したセティアのひやっこ斬りが炸裂した。
氷精霊の力によって凍り付いた顔を押さえ、赤鬼は棍棒を振り回す。
セティアは着地と同時に地面を転がり、棍棒の下をかいくぐった。
「敵の子とわたしの違い…なんだろう。
わたしはたまたま勇者になったから?
友達とかになれたらよかったのに」
えもい。そう呟いて、赤鬼の足に再びのひやっこ斬りを打ち込んだ。
声を上げ、転倒する赤鬼。
その真上を、風を切り飛行するマテリア。
「不思議な場所だ、現実感が薄いのに感覚は確りとしている。
これが夢か? いや、違う。こんな物は空想の具現に過ぎない。
打ち砕かなくてはならない。この夢は否定しなくてはならない」
こちらに気づいて駆け寄ろうとする赤鬼たちにロベリアの花を発射。
爆発する殺意の霧の中へ、更に次々とロベリアの花を打ち込んでいくマテリア。
虹色の光が複合して広がり、赤鬼たちを包み込んでいく。
そんな光の中を、黄金のプリンセスオーラを放ちながら駆け抜けるクリスティアン。
「故郷を守る為に鍛えた肉体、いま皆を守る為に存分に振るおうじゃないか!
この身に熱く燃える焔…その熱で、夢から覚まさせてあげるよ!」
防御をかため、黒焔を剣に宿すと、クリスティアンは赤鬼の腹を豪快に切りつけた。
「焔よ燃えろ、熱く、熱く…!
黒き焔がこの身を焦がそうと、守り抜きたい民、そして仲間達のために…!」
燃え上がる炎。
打ち下ろされる棍棒。
翳した盾が受け止めるも、あまりの激しさにクリスティアンの身体が揺らいだ。
が、追撃は訪れない。
仙人の如き軽やかなみこなしで、威降が赤鬼の横を駆け抜けていった。
既に振り抜かれた刀には血。
背後には切り取られた腕が、棍棒ごと宙を舞っていた。
「どこもかしこも大騒ぎ、か。
なかなか長い夢だったけど、もうひと頑張りだね。
これが最後の夢になるように精一杯やらせてもらうよ」
反転。ターン横一文字斬り。
鬼の背骨を切断した威降は、次なる対象へと目を向けた。
ジャングルジムを粉砕し、より巨大な鬼が現われた。電柱ほどの棍棒を振りかざし、威降たちをまとめて薙ぎ払いにかかる。
一方で攻撃を逃れていたTrickyStarsは神子饗宴を発動。
『ここは俺達に任せて先に行けってやつ、一回やってみたかったんだよねー!』
ハイ・ヒールで味方を支援しながら、巨大な鬼へと挑みかかった。
打ち下ろされる棍棒を、三角飛びで回避する狐耶。
「ええ、そうですね。少しでもたくさんの手が必要だというのなら、私もまたその手なのでしょう。
猫の手は貸せませんがきつねの手は貸せます。手袋も買える優れものです」
霊力を込めて手を打つと、鬼の意識が狐耶へと集中した。
その勢いのまま棍棒の上に飛び乗り、駆け上がって蹴りを打ち込む狐耶。
衝撃のあまり派手に転倒する巨大鬼。
「わ、わ、わ……!?」
すぐ後ろにいた美弥妃はわたわたと慌てかがみ込んだが、倒れた巨大鬼の脇の下をぬける形で助かった。
かわりに、彼女を集中攻撃しようと群がった赤鬼たちが巨大鬼の身体と棍棒に潰されていた。
「た、助かったみたいデスねぇ……」
顔をあげてきょろきょろとあたりを見回す美弥妃。
破壊された石壁の向こうには雨降る野原が広がっていた。
慌てたように起き上がり、壁の前へ陣取る巨大鬼。
「そこをどいてもらうであります」
エッダは独特な格闘の型をとると、巨大鬼めがけてかけだした。
「多勢に無勢。得られるものは命ばかり。
全くもって大損の戦場でありますな。
これは……大好物であります」
叩き付けられる棍棒を、片手で受ける。
受けた腕から気をおくり、押し込むように掌底を打ち込んだ。
すると爆発が起きたように巨大鬼の手首がはじけ、鬼は思わず棍棒を手放した。
好機とみたアンジュは静寂とバラードを開始。
指先水鉄砲から水混じりの聖光を発射した。
「寝るのは好きだけど、誰かに良いように弄られた夢を見るのは嫌いかな。
エンジェルいわしたちも、好きな時に寝て好きな夢を見たいってさ。ずーっと寝るの、疲れるもんね〜。わかるな〜。
って事で、悪い夢はもうおしまい。ほら。おはようの時間だよ!」
アンジュの猛攻をうけ、再び転倒する巨大鬼。
「ほら、先へ行って!」
そうして空いた隙間を、仲間たちは勢いよく駆け抜けていった。
●町よ雨に沈め
降り止まぬ雨のなか、唐傘をさした少女が見えた。
ひとりふたり、さんにんよにん。数えきれぬほど増えた少女たちの姿に、チャロロはある確信をもった。
「スリーパーだ……みんな構えて!」
チャロロとチーム【ラストスタンド】の面々は、圧倒的な数で増え続ける唐傘少女の群衆を前に広く大きく展開した。
彼らの役目は時間稼ぎとヘイト稼ぎだ。
「ここはオイラが相手だ! みんなの邪魔はさせないよ!」
突入するチャロロに応じるように、唐傘少女たちは雨に紛れて水の魔法を打ち込んできた。
あちこちから打ち込まれる魔法に、チャロロは防御をかためる。
「夜明けをもたらすためにみんなが突き進んでる…。
それなら日が昇るまで闇を照らし続ける灯火になってやる!」
引きつけるだけではジリ貧である。が、殲滅する仲間と回復する仲間がいれば話は別だ。
各個撃破の陣を組むチーム【ブルーハワイ】。
「皆が英雄だってなら、あたしは英雄の介添人? うん、そういうの好きよ」
リアは神子饗宴と慈愛のカルマートの使い分けによって仲間たちを強化と支援を開始した。
Etheric O(エーテリック・オーケストラ)に力を込め、青く光るヴァイオリンを呼び出して演奏を始たのである。
激しく勇ましい音楽に乗るようにして、氷彗の奥義・雪華乱撃が唐傘少女を襲った。
傘を翳すことによる防御を、氷彗の激しい連撃が強引に打ち破っていく。
透き通るような刀『雪月花』を振り抜き、仲間たちへと振り返った。
「さあ、一気にいくよ!」
アオイはこっくりと頷くと、『魔弾銃「ノクターン」』の狙いをつけ、バーストショットを打ち込んでいく。
「ラストスタンドのみんな、もう少しこらえておいてくれ。いざとなったら回復するから」
レバー操作でライフルをリロード。治癒魔術を込めて、アルムへと打ち込んだ。
キュンという独特の音をたてて治癒力が流れ込むアルム。
「回復完了――引き続き盾となり皆を護る。ただ、それだけでございます」
次々と打ち込まれる唐傘少女からの魔術弾を、無骨な剣と盾によって受け流していく。
唐傘少女たちを呼び込み、飛来する魔術弾を無骨な剣で受け止める。
「堅牢なる楯。その真髄をお見せ致しましょウ」
一方でゴリョウが離れた場所から射撃を続けてくる唐傘少女たちへ猛烈に突進。
「ぶはははっ、さぁってまずは道を作らねぇとなぁ!」
駆動星鎧『牡丹』から白い煙を吹き出しながら、唐傘少女の一人に激しいショルダータックルを食らわせる。
更に幻棍『咸燒白』を頭上で激しく振り回し、注目を集め始めた。
「ほら、余所見してねぇでもっと俺と遊ぼうぜ!」
側面から打ち込まれる魔術弾を棍棒で弾き、背後からの魔術弾も強引に弾く。
「このゴリョウ・クートンの防御技術にミスはねぇ!」
どっしりと構えるゴリョウの、視線の先。
円形のゲートの先に石の扉が見えた。
「目的地はあの先……ってことでいいのかな」
リェーヴルはあえてゲートへ向かって走ると、邪魔するように割り込んできた唐傘少女たちに大毒霧を吹き付けた。
「さて、怪盗は夜に生きる者…とは言え、ずっと夜なのはいただけないな?
さぁ、夜が明けるまでのショータイムだ!」
襲いかかる少女たちの攻撃を、軽やかなステップで次々に回避していくリェーヴル。
「そこだ――」
シオンはきらりと目を光らせると、天剱・黒烏招雷を繰り出した。
詠唱によって刀が黒い雷を帯び、鞘から抜いた途端まるで大蛇が暴れ出したかのように唐傘少女たちを薙ぎ払っていく。
それでも尚集まってくる大量の唐傘少女たちに刀を突きつけ、シオンはリアたちチーム【ブルーハワイ】を中心に再び陣形を組み直した。
「ここは俺たちに任せて、さあ、先へ……!」
●デルタの日記、存在しないはずのページ
森のごとく乱立する石柱。
透き通った石の表面には無数の夢が浮かんでは消え、淡い光となって散っていく。
そのずっと奥に、大きな石の扉がたっていた。
「あれが件の『扉』ですか」
響子は黒鉄蜂をどこからともなく取り出すと、もろもろと泡のように現われた無数のスリーパーたちへと身構えた。
カラスのような、消しゴムのような、コスモスのような、ゴム手袋のような、地方公務員のような、泥のような、カミキリムシのような、スペクトラムのような、光化学スモッグのような、包丁のような、それらすべてがいっぺんに混ざり合って全てが反発しあったような、なんとも形容しがたい物体が、形容しがたい形態をもって響子たちを取り囲む。
響子は『河鳲式戦闘術・不浄移し』を発動。体内の気を変換し周囲へばらまくと、その場から大きく飛び退いた。
「お願いします」
「了解――チーム【援撃】、道を開きます」
仲間の手を借りて石柱の上へと陣取っていた鶫が、単発装填式電磁噴射砲『天梔弓』を発射。
「たとえ私たちを取り囲もうと、まとめて薙ぎ払っていくまで」
重金属弾頭がスリーパーたちの中央へ着弾したと同時に激しい爆発を起こしはげしい爆風が包み込んでいく。
素早くリロードし、新たな目標めがけて射撃を加える鶫。
形容不明の重装甲をもったスリーパーを貫く弾頭。
おおきくよろめいた所へ、ニルが猛烈な勢いで突撃した。
「まとめて薙ぎ払ってやるんだお! あっ、台詞被ったお!」
ニルはホップステップの勢いをつけると、竜巻のようなスピンキックでスリーパー集団を蹴り飛ばしていく。
そのうち一体を蹴り抜いて粉砕。背後の石柱をもへし折って倒した。
足を引き抜くその瞬間、形容不明な巨体がニルと周囲の石柱をまとめて殴りつけた。
粉砕された石と共に吹き飛ぶニル。
クローネはその下をスライディングで抜けると、『狂心象』を呼び出した。
幻の疫病がばらまかれ、形容不明な巨体が引きつったように暴れ出す。
更にロベリアの花を打ち込み、巨体を溶かすように消滅させていく。
「タダでは通してくれそうに無いッスね……」
形容不明な四足動物が突進してくるが、すかさず『生者の死牢』の呪いを発動。牽制をしかけると、すぐ後ろから跳躍したコゼットと入れ替わるように引き下がった。
形容不明な四足動物に蹴りを加えると、跳ね返るようにバク転をかけて着地。
細く口笛を吹いて四足動物の注意をひくと、再びの突撃をスピンジャンプによって回避した。
口笛に寄せられて集まってくる無数の形容不明な有象無象を、くるくるとこまのように回転しながら回避を続けるコゼット。
集中攻撃によってついに回避が間に合わなくなったかと思われた所でハイキックを繰り出し、形容不明な拳を受け止めた。
「交代だ!」
その瞬間、マナブーストによって加速した汰磨羈の掌底が形容不明な拳を横からへし折り、斜めの回転の末大地を拳で打った活力によって周囲の注意を引きつけた。
死角から打ち込まれた剣を超感覚的に察知すると後ろ蹴りを繰り出し、高密度マナプレートを仕込んだ高下駄によって衝撃を分散吸収。身体を捻ったさらなる跳躍で形容不明な集中射撃を次々に回避すると近くの石柱へと駆け上った。
ムーンサルトジャンプ。
明らかな隙。
集まる注意。
それこそが、生み出すべき隙。
「じり貧はごめんだ。一気に殲滅しろ!」
「配置完了。殲滅する」
かがんだ姿勢でローブを被り、ライフルを構えるラダ。
石柱の影から飛び出すと、高速リロードによって連射をしかけた。
スローに伸びた風景の中で、練り飴のように重い空気を押しのけながら精密なレバー操作を連続する。
そのたびに排出される空薬莢が一定のラインを描き、別の石柱の裏へと飛び込んで転がった後に人つなぎのからららという音となって地面をはねた。
辺りの形容不明なスリーパーたちに次々と突き刺さる銃弾。
くるくると縦回転して着地する汰磨羈。
と同時に、石柱の上からガンウォンドを二丁水平持ちで構えたニアと目が合った。
「悪いが好機じゃ、うまく避けろよ」
「ぬお!?」
高次波動に干渉する魔術を超高速で自動詠唱すると、キュンという早回しの詠唱音によって高濃度重力子滅法弾がピンポイント解放。死ぬ気で飛び退いた汰磨羈の背後で、スリーパーたちが八つ裂きになってばらばらに吹き飛んでいった。
そうしたことで、石の扉がゆっくりと、そして重い音を立てて開いていく。
突入する特攻部隊たちを阻止すべく、形容不明なスリーパーたちが更にもろもろとわき出すが……。
「夢の世界で過ごすのは構わない…けど! 我々の夢の邪魔はさせられない」
割り込んだ夏子の槍がスリーパーたちを受け止めた。
「嫌でも分からさられた事は多いよ。魔種にも色々あるってのはまあ。
でもそれで我々が同調する訳にもいかない。
…やりきれないけど……やりきるしかないだろう…!」
スリーパーを蹴り飛ばすと、槍を回して理力障壁を展開させた。
「僕は弱い けど 負けてやる訳にも いかない!」
そこへ、公のハイドロプレッシャーが突き抜けるように走って行った。
猛烈な高圧水流によって押し流されるスリーパーたち。
「全てを飲み込みながら広がってゆく『常世の呪い』……。
たとえ彼女が寝ていたいだけだとしても、これだけの影響を見過ごすわけにはいかない。
悪いけど、たたき起こさせてもらうよ!」
さあ、今のうちに。
ダメージを受けること無く、そしてエネルギーを消耗することなく、じゅうぶんに温存された五十名ほどの対魔種特別攻撃部隊が『扉』の向こうへと突入していく。
公は頷き、そしてスリーパーたちへと立ちはだかった。
「あっちの援軍には行かせない。ここからは、徹底的にキミらの邪魔をするのが……ボクらの仕事なんだよね!」
●常夜の谷/呪われた神殿
まるで夜に閉ざされた谷だった。
巨大な石彫刻のような神殿が、深い闇の中にただただ聳え立っている。
美咲はサイバーゴーグルを下ろすと、周囲の様子をうかがった。
神殿の正面には長く大きな石階段。
先はゴーグルを使っても見通せないほどの闇になっていた。ただ不思議なことに、ぼんやりとだが青白い少女の姿は見えていた。
夜のように深い色の布団を被って、目を閉じて眠る少女。
美咲はそれが魔種――『真なる夜魔』であると奇妙に確信した。
と、その途端。
巨大な闇のような、うごめく影のような、わき上がる夜のような、なんともえいない形状のスリーパーたちが次々とわき出てきた。
「早速の歓迎ね」
美咲の放つライトニングの光が辺りを照らす。
その一瞬でアマリリス、ダークネスクイーン、秋奈の三人がほぼ同時に飛び出した。
アマリリスは光翼乱破を発動させると、周囲の敵だけを攻撃していく。
「わかるよ。私もお父様が全てだった。
今魔種たる父を探し続けている私だけど、まるで真なる夜魔は、私の未来の可能性のひとつのようだ。
もっと世界が優しければ、あの子のような魔を生むことはなかったのでしょうか、神様。
まだほんの、少女ではありませんか。それでも私はネメシスの騎士。魔を肯定することはできない。
貴方の夢は確かに優しいものだったのでしょう。苦い現実にひと時の休憩を与えた優しい魔種よ、どうか神様の下で優しい夢を視て眠れ」
「これが夢だと? 性質の悪い冗談であるな!
悪夢と言うのも憚られる掃き溜めの様な世界である!」
巨大な剣を振りかざす闇色の騎士が、ダークネスめがけて剣を振り下ろす。
それを自在兵器ダーク・ミーティア・カラミティで強引に受け止めると、至近距離から世界征服砲を発射した。
放出された闇がスリーパーを穿ち、空をとぶ闇色のものどもを穿つ。
すぐさま大量の闇色のものどもが集合し、ダークネスたちを取り囲んだ。
「奥義――クイーン・ストラッシュ!」
闇色の騎士を豪快に切断すると、秋奈が強引に突撃。
戦神特式装備第弐四参号緋憑、および戦神制式装備第九四号緋月をそれぞれ抜くと、鼻歌をうたいながら桜花の刀で切り払っていく。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣が許しはしないわ! 手間を掛けさせないでね?」
次々と飛びかかる闇色のものどもを切り払いながら階段をかけあがる――と、座禅を組んだ僧侶のような男が階段の上で目を開いた。
「幸せな眠りを妨げる無粋なものどもよ。死の眠りにつくがよい」
たちまち僧侶は狼男のような姿になり、秋奈めがけて飛びかかった。
繰り出す剣が素手で掴まれ、肩が強引に噛み砕かれる。
が、もう一本の剣は狼男の腹を貫いていた。
ニッと笑う秋奈。
その途端、ヴェノムの尾が大きく大きく口を開き、狼男の頭を食いちぎった。
(己に酔い。正義に酔い。顧みるべきを顧みなかった愚か者の負の遺産。退屈だ。
興味も恨みも無いが。逃げられないなら。戦うしかない。僕は僕から逃げられない。気無に死地に臨むも一興か。)
「疾く。死ね」
階段の頂上から飛び、ぼんやりとだけ見えている『真なる夜魔』へと襲いかからんとするヴェノム。
が、それを巨大な空飛ぶ獅子が食らいつくことによって阻んだ。
無理矢理離脱し、階段を転げ落ちるヴェノム。
「まずはこの集団を突破する必要がありそうですね……」
Lumiliaは取り出した銀のフルートを口に当てると、神の剣の英雄のバラッドを奏で始めた。
(夜魔、常夜の呪い、数度関わった事件です。
私の関わった案件では、真なる夜魔、噂程度のものでしたが、実在したのですね。
…これ以上の犠牲を抑えるため、この戦いで決着を付けます)
仲間たちが力をつけ、再びスリーパーへと挑みかかる。
演奏をやめさせようと襲いかかる獅子の突撃を、Lumiliaは魔力剣を生成することで受け止めた。
「誰一人として死なせません。英雄は、生きてこそ」
仲間たちが激戦を続ける中、階段を駆け抜け闇の通路へと飛び込んだロクは、鼻をつく異様な悪臭に足を止めた。
「とまってシラスくん! 何か居る!」
追従させたHMKLB-PMのライトで眼前を照らすと、そこにあったのは山であった。
人間の生首がピラミッド状に積み上げられた、山である。
異臭の原因はこれだろうかとシラスが首を傾げたその時、生首がまるで水風船のように次々と破裂し、巨大な、形容不明な闇色をした塊が腕なのか触手なのか判別のつかないものを伸ばして襲いかかってきた。
「ロク!」
「まかせて!」
ロクはうなり声を発して形容不明な怪物の注意を引くと、猛烈な回転をかけて怪物を貫き、駆け抜けていった。
破壊されてもなお、ロクに絡みついて締め上げる怪物。
引きはがそうとするシラスに、ロクは『先に行って』と呼びかけた。
「おいそんなこと――」
気配。ハッとして振り返ると、闇の通路の更に奥。
布団を肩にかけた少女がこちらをじっと見ているのがわかった。
直感――した頃には既に攻撃していた。
飛びかかり『烙印』を繰り出す。
呪いを刻むシラスの手が、『真なる夜魔』に直撃する。
いや、したように見えた。
足下からわき上がった無数の手が、シラスの手をぎりぎりの所で受け止めていた。
ギリ、と笑うシラス。
「夢見が良いようで羨ましい限りだ。それで此処でパパとやらには会えたかい? ハハッ……!」
挑発を払うように、無数の腕がシラスを薙ぎ払って吹き飛ばす。
手は届かず……しかし、シラスの呪いだけは確かに届いていた。
胸に刻まれた烙印に、『真なる夜魔』は僅かによろめく。
「今です――チーム【払暁】、行動を開始します」
寛治は眼鏡を指で押し上げると、アタッシュケースの一部を変形させて軽機関銃を展開。即座に乱射した。
「この度は弊社にご用命いただき、誠にありがとうございます。コーデリア様が十全にお力を発揮できる様、微力を尽くさせていただきます」
弾幕に守られるように飛び出すコーデリア。二丁の銃『ホーリーオーダー改』『HGV-C-15C改』を猛烈に連射しながら突撃をしかける。
「如何な事情があれど、魔種であるならば排除せざるを得ません。
まして、人々に害をなすのであれば尚更――」
「所で外は陽気な季節となってまいりました。藤棚等をバックにポートレートを一枚、などいかがでしょうか。この戦いが終わりましたら、是非弊社からファンドのご提案をさせていただきたく」
「後にしてください」
わき上がる無数の闇色をした手が、弾幕を一つ一つつまんでは放り投げつまんでは放り投げを繰り返す。『真なる夜魔』はその様子を、ふわふわとあくびをしながら眺めていた。
一方で、壁や天井、あらゆる場所から伸びた影がわき上がり、コーデリアへと掴みかかる。
が、割り込んだサクラの聖刀【禍斬・華】が影の手を切り裂き、一菱流(桜花)によってさらなる影を打ち払った。
「魔種はみんな過去に何らかの悲しみを抱えていた。
だから、生まれた時から悪とか、そういう存在じゃない事はわかってる。
だからって他の誰かを傷つけるのはやっぱり間違ってる。
私は私の愛する故郷と、守るべき人々を守る為に、貴女を斬る!
イレギュラーズとして、天義の騎士見習いとして!
この国を愛するサクラ・ロウライトとして!」
(真なる夜魔……どうしてこんな事をするのかわからないけど倒さなきゃ。
これ以上被害者を出さないためにも……。
それに天義の国が大好きなサクラちゃんの力になれたら)
スティアはそんなサクラやコーデリアたちを中心にミリアドハーモニクスを連発し、回復に集中した。
美しい装丁の本『セラフィム』を胸に抱き、天使のような力をわき上がらせていく。
攻防の拮抗。
かに思われた所で、レイチェルとシグ、そしてレストによるチーム【白夜】の攻撃が加わった。
剣にチェンジしたシグを掴むレイチェル。
「…お前さんがこうやって私を構えるのも、久しぶりではあるな?」
『幻想理論「過冷却集電弾」(ファンタジアロジック・フリーズテイザー)』を放出。影の手が大量にわき上がり、卵の殻のように『真なる夜魔』を包み込んで防御する中を、レイチェルは『禁術・憤怒ノ焔(Die Rache der Hölle)』によって追撃した。
展開した血の魔方陣から紅蓮の焔が吹き出し、影の殻を焼いていく。
「…明けない夜は無い、覚めない夢も然りだ。
魔種になっちまったからには滅ぼすしか無い」
影の腕が次々に伸び、炎や冷気の合体攻撃に対して反撃を始めた。
「レスト、言いたいことがあるんだろ?」
レイチェルに言われて、レストはミリアドハーモニクスによる回復支援をかけながら呼びかけた。
「あなたと同じ様に、お父様を無くして悲しんでいる子が居たわ…。
あなたのお父様、たくさんの子から尊敬される方だったのでしょうね。
けどもう大丈夫よ、寂しくなんて無いわ。お父様が天国で待っているもの~」
呼びかけに対して、『真なる夜魔』は眠そうに目をこすって掛け布団を掴んだ。
「なにを言ってるの。パパはここにいるわ」
影の中から泡立つように生まれたのは、顔のない神父だった。
「だめよ、そんなの――そんなの、本当のお父様じゃ」
言葉を言い終えるよりも早く、顔の無い神父は腕を振った。
ただそれだけで通路もろとも神殿が崩壊し、爆発したように吹き飛んでいった。
●朝を呼びに行こう
『真なる夜魔』の姿をついに確認したチーム【夜明】の面々は、あちこちから出現する狂信者スリーパーたちへと立ち向かっていった。
その先頭をきるリゲル。
「狂信者たちは俺たちが引き受ける。あの子を……『真なる夜魔』を頼む! 夜明の騎士団、行くぞ!」
『炎星-炎舞』の嵐をふらせ、無数のスリーパーを引きつけ始める。
夜色の騎士の突撃を、リゲルは銀の剣によって弾いた。
「俺程度の異端者を倒せないのか? 狂信者とは聞いて呆れる! 貴様たちの信念はその程度か!」
一方でポテトは天使の歌を開始。
ロッドを強く握りしめ、リゲルたちに強く声援を送るのだ。
「誰も倒れさせはしないし、最後まで全力で戦えるように支えて見せる。必ず、全員で無事に帰るぞ!」
「そうだな。ダブルアークライトの力を見せてやろう、リゲル」
リゲルと同じく声援を受けたアランは、偽千剣=フラガラッハ・レプリカを強く握った。
「夢は見るもんじゃねぇ。叶えるもんだ。
だから夢を見続けるのはもうやめよう。
俺が夜明けだ。ここに太陽を昇らせてやる!」
リゲルの押さえつけていた騎士に斬りかかり、神速の突きによって騎士の鎧もろとも剣で貫いていく。
更に、メルナの繰り出すイノセント・レイド――つまりは剣よりはしった巨大な光が騎士を真っ二つに切り裂いた。
「…夢に溺れるなんて、さぞ気分が良いんだろうけど。
でも…ダメなんだよ。そんな事…許される筈が無い。
私達は確かに現実に生きてる。それが苦痛だとしても…」
キッと振り返るメルナ。
剣士が、魔術師が、騎士が、神父が、その姿を闇色のスリーパーへと変えていく。
「えりちゃん」
「ん」
ユーリエとエリザベートは手を取り合った。その瞬間、ユーリエの髪色がエリザベートと同じ白銀に変わり、吸血鬼の羽根が生え出た。
「夢だけ見ていたら、何も始まらない。
夢から醒めて見なきゃいけない物もあるよ!」
ユーリエの放った血色の鎖が、スリーパーの戦士へと絡みついた。
強く引き合い、力比べになるなかで、エリザベートは血の鞭を放って戦士の首へと巻き付けた。
「吸血鬼こそ夜の魔に相応しい。だからユーリエが称える愛するのは私なのですよ」
二人は鎖と鞭を同時に引き合い、スリーパーの戦士を強引に引きちぎった。
その一方で、グレイシアはブロックパージによってスリーパーと戦っていた。
「ルアナ、余り突出し過ぎぬように。此処はかなり危険だ」
「だいじょうぶ!ルアナはゆーしゃになって、世界を平和にするまではしなない!」
「何が大丈夫かは分からぬが…油断はせぬように」
そんなグレイシアと共に、ルアナは意気揚々とスリーパーに立ち向かっていく。
力を込めた霊樹の大剣が、スリーパーの腕を切り払った。
「…せめて、ルアナが囲まれぬよう立ち回るとするか」
「ルアナの剣はー。わるいやつをーふっとばすよー。せーの!」
腰に刀をさしたスリーパーの集団が、それぞれ夜色の刀を抜いて襲いかかってくる。
対抗するように、フィーネは生命力を犠牲にして神子饗宴を開始。力を仲間たちに分け与えると、手を強く組んだ。
「私では、敵を倒すことも、敵を押し留める事もできません。
なので…今の私にできるお手伝いを、できる限り。
皆で、ローレットへ帰りましょう」
「いいえ、充分よ」
小夜は高められた力を元にスリーパーの剣士たちの注意を引き、そのうちの先頭一人に向けて高速で切りかかった。
抜刀される仕込み杖。
斬りかかるスリーパー。
相手の刀を紙一重でかわし、小夜はスリーパーの頸動脈だけを正確に切断した。
血を吹き上げたまま反撃に出ようとするスリーパーの腕が、クロバの剣『斬葬・焔魔』によって切り落とされた。
「夢はいつか醒めるものさ、良い夢も、悪い夢も。
だからオレは示さないといけない」
返す刀で首をはね、振り抜いたまま背を向けた。
「暗いだけの天蓋に穴を穿つ。……まぁ、夜が続くのならずっと月を眺めてられるのかもしれないけどな。
だが永遠なんて言葉に興味はない。そんなものに価値なんて無い!
この下らない悪夢は、このオレが食い殺す!!!!!!!」
首をはねた途端、まるで獣に食いちぎられたかのごとく剣士の姿は削り消えてしまった。
「私は突出した能力は持ち合わせません。この身も、未だ難攻不落と呼ばれる域にも及びません。
けれども、研鑽した技量は、攻めるだけに非ず。
永遠に夢の中で揺蕩い、生を諦め、死を排し、ただ在り続けることを望む貴様らの攻めを、凌ぎ切るためのもの」
雪之丞とスリーパーの剣士はすり足によってじわじわと互いの間合いを奪い合っていた。
先に動いたのは剣士のほうだった。
繰り出された剣が正確に首を狙うも、生み出された水の魔力がラインを僅かにずらした。
その隙を滑り抜けるようにして、雪之丞の剣が相手の脇腹を切り裂いていく。
「永き夢は終わりです。ここで、真なる眠りへお連れ致しましょう。
拙は、ただ自身に都合のいい世界に浸るなど、御免被ります」
振り抜いた剣。
二の太刀はいらない。なぜなら、振り向いた剣士の頭がジェックのライフル弾によって吹き飛んでいったからだ。
「卑怯なんてイわないでね、照れるカラ」
ガスマスクの下でこほーと深く呼吸をして、ジェックは黒いライフルをリロードした。
「肉壁には当てナイから…安心して暴れてネ」
突進をかけてくるスリーパー。
プラックは足下に落ちていた小石を蹴り飛ばして相手にぶつけると、咄嗟に防御したその隙を突いて跳躍。一回転の間に水の魔力を足に集め、豪快な跳び蹴りによってスリーパーを吹き飛ばした。
「夢の中でなきゃ救われねぇって奴も居る。だから、簡単によ、夢から覚めろだなんて言えねぇけど、人様を巻き込むってんなら、話は別だ、キツい目覚ましを受けてもらうぜ」
髪型を整えるようにクシを通すプラック。
蹴り飛ばされたスリーパーは硬く格闘の構えをとって、大地を強く踏みつけた。
それだけで大地に亀裂が走り、激しく地面が壊れていく。
壊れた地面を無理矢理に駆け抜ける百合子。
「白百合清楚殺戮拳・織炎足!」
跳躍。回転。
その際に纏った美少女力によって炎を得た足が、美少女リアリティショックを伴ってスリーパーの顔面へと繰り出された。
「先へ行く者立ちよ。敵は地面に突き刺して立てておく故、存分に戦われよ」
吹き飛んでいくスリーパーを前に再び構え、百合子は仲間たちへと合図した。
『真なる夜魔』と戦うべく先へと向かう仲間たち。
それを阻もうと襲いかかるスリーパーの側頭部へ、毒蛇の入った酒瓶が叩き付けられた。
よろめき、振り返るスリーパー。
深く暗い、夜のような髪色をしたアーリアはウィンクをして、スリーパーを手招きする。
「私がこの国を助けるなんて、酔いが回ったわねぇ。
でもただ見ているだけじゃ、それこそ『夢見が悪い』のよぉ!」
スリーパーはアーリアめがけて大きなハンマーを振り上げた。
その様になにかを重ねて、アーリアは目を細める。
「夢に溺れるよりお酒に溺れた方が楽しいわよぉ?」
打撃を飛び退いてかわし、投げキスを送るアーリア。
発動した魔術が展開し、スリーパーはがくりと膝を突いた。
アーリアは月のネイルアートが施された小指を立てて、スリーパーを見やった。
「もう少し、相手をしててねぇ」
●夜にさよならを
仲間たちの支援によってついに最後の夢へとたどり着いたチーム【白夜】のメンバーたち。
眼前では螺旋状に編み込まれた影の手が塔のように伸び、寝台のように『真なる夜魔』を包んでいく。
そのそばには顔の無い神父が立ち、沢山の夢を混ぜ合わせたような奇っ怪な風景が広がっていく。
「『夢幻の寝室』ってやつか」
「構えて、来るよ!」
身構える貴道。同じくセララ。
夢の中からわき出た極彩色の騎士が、二人を阻むように突撃を仕掛けてきた。
ナイトランスの突きを、貴道は真っ向から迎え撃ち、鋼のような拳で破壊した。
斜めに打ち込んだ拳が槍を粉砕し、続けて打ち込んだ右ストレートが騎士のかぶとを粉砕する。
「夢ってのは寝てる時に見る物じゃねえ、起きて見る物なのさ! アメリカン・ドリームって言うんだぜ、覚えて逝きな!」
更に、セララはきらめきを放ちながら加速すると、正義の剣によって騎士を真っ二つに切断した。
「この世界にキミのパパだけはいないし、いても偽物だ。
天義の神父ならきっとキミの間違いを正そうとするはずだからね。
夢の世界は楽しくても、他人を犠牲にするのは間違っている。だから……キミのパパに代わってボクが止める!」
「私は間違ってなんてない。皆幸せになるだけ」
「それが、大きな間違いなんだよ!」
大量に練り合わさった巨大な手が拳を作り、セララたちへと打ち下ろされていく。
セララはそれを、剣で切り払うことによって破壊した。
壺を振り上げるデイジー。
「妾は献身だの奉仕だのと言った言葉は好かぬ。
人々の幸福? 世界の平穏? 下らぬ。
人々の幸福に自らを含めぬ愚か者。
世界の平穏に自らの家族を手放す大馬鹿者。
手を伸ばせば届く幸福を投げ打つ。それは怠惰じゃ。
この世界に引き籠もるお主と同じじゃ。
無限の幸福?
ここの何処に幸福があるのじゃ。
傲慢に強欲に掴んでこその幸福じゃ。
お主は只の不幸せで惨めな餓鬼じゃ」
まくし立てながらも、デイジーはフォースオブウィルの衝撃を打ち込んでいった。
次々とわき上がる無数の手が、デイジーの砲撃と相殺するようにぶつかっていく。
そんな中を、アルプスローダーは全速力で駆け抜けた。
無数の『影の手』を破壊しながら突き進んだアルプスローダーの車体が、影手の塔を破壊していく。
「事情があるのはお互い様でしょう。
僕は僕達の正義の元に貴女を討伐します」
もう一発を繰り出すためにターンしたアルプスローダーに、あちこちから飛び出したスリーパーが組み付いていった。
車体が派手な音を立てて倒れ、火花をおこして滑っていく。
そこへ繰り出された巨大な影の手を、割り込んだ利香が夢幻剣グラムによって切り裂いた。
「この私が死地に立つなんてらしくない…でもね」
直後、無数の影の手が細く伸び、利香の身体を次々に貫いていった。
一度脱力した利香は、しかし不自然に起き上がり、肌を変色させサキュバス化した。
「夢魔として夢を弄ぶ貴女の悪行を終わらせてやらないと腹の虫がおさまらないのよ!
爪の錆にしてやるわ、覚悟なさい!」
『影の手』を引きちぎり、なおも攻撃を引きつけ続ける利香。
更に増幅した何本もの影の手が利香を貫いていく。しかしそのタイミングこそが、一斉攻撃のチャンスでもあった。
折れた柱から転げ落ちた『真なる夜魔』は布団と枕を抱きしめることでふわふわとゆっくり降下し、自らを影の殻で覆い始めた。
そこへ、ハイデマリーがセララの後ろについてクリティカルスナイプを連射。
素早く『真なる夜魔』を覆った影の殻にいくつもの弾丸が命中し、びきびきとヒビを入れていく。
一方でエクスマリアは激しい跳躍と共に『静かなる征瞳』を発動。影の殻を破り、浸食を始めた。
「1人で眠るのは、寂しい、か? お前の望むものはきっと、どこにもない、ぞ」
『真なる夜魔』が恐怖を感じた子供のように目を瞑ると、顔の無い神父が飛び出しエクスマリアを殴りつけた。
展開した髪によってそれを受け止めるエクスマリア。
威力が拮抗する、そのタイミングで、レジーナ・カームバンクルによる『破軍疾走・蹂躙怒涛(フルーカス・エト・テンペスタス)』が炸裂した。
召喚されたチャリオットが突撃によって顔の無い神父を吹き飛ばしていく。
その時やっと、もしくはついに、『真なる夜魔』は目を大きく開けて、手を伸ばした。
声にならぬ声で、きっと『いかないで』と言ったのだろう。
黒い光が瞬いて、大地と空が崩壊した。
地面に叩き付けた卵のように、滑り落ちたワイングラスのように、ヒビ入り砕けた陸と空は、激しい風が吹き込むことによってそれが幻だと知れた。
目を見開いたままの『真なる夜魔』へ、天十里が心火の銃弾を弾倉の限り連射。
「ずっと夢を見ていれば幸せなのかも、なんてね
嫌いだそんなの。辛くても進まなきゃいけないんだ」
狙いをより近くつけるべく突撃し、『真なる夜魔』の頭上へと跳躍しながらも連射を続けた。
靴から空圧を放って反転し、更に連射。
「夢には何もないって、僕の光と『夕暮れ』で思い出させてあげる」
銃撃の切れ目。高く飛び上がったミニュイが翼にスーサイド・ブラックの呪いを込めて突撃していく。
「白亜は穢れるべきだ。……あくまで人の手で」
直撃をうけたであろう『真なる夜魔』は、ラリアットの要領でさらわれ、上空へと打ち上げられていく。
空中反転によって離れた瞬間、エナによる猛烈な垂直急降下タックルが炸裂した。
「明けぬ夜だと言うならば、ボクが斬り裂いてみせましょう!」
地面に激突。ひび割れた幻の大地が吹き飛び、クレーターと化したその中央でエナは斧を振り上げた。
幾度と無い打撃。
ヒビを深く、細かく、そしてバラバラに散っていく風景。
ハロルドは倒れた『真なる夜魔』の頭を掴んで引っ張り上げると、目と口を大きく開いて拳を振りかざした。
「事情など知ったことか。いつも通り“魔”の存在は皆殺しだ。
最近妙な依頼ばかりで暴れ足りないと思っていたところでな。楽しませてもらおうか!」
聖剣の力を集めた拳に、忘却の気が集中する。
うっすらと開いた『真なる夜魔』の顔面めがけ、ハロルドの黄金の拳が叩き込まれた。
「わ・る・い・こ・は、ここですかぁー―!!!」
夕は両手を高く振り上げ、『アタックオーダーII』を発動。
夜明けを告げる小さな太陽が、『真なる夜魔』の頭上へと現われた。
そのタイミングで飛び込むミーナと一晃。
「眠り続ける夜に何の意味があろうか。現世に目を背けたとて何も得られまいに。
ふん、だが眠り続けたお陰で貴様の様な者を斬れる事は感謝しよう!
墨染烏、黒星一晃、一筋の光と成りて終わらぬ夜を斬り捨てる!」
一晃の繰り出した剣が『真なる夜魔』とその周辺の風景そのものを切り裂き、ミーナの剣が交差するように風景ごと切り裂いた。
「――悪く思うなよ」
直後、叩き付けられた小さな太陽が、風景もろとも爆発した。
「やりましたか……!」
額に手を翳す夕。
気づけば、真夜中のように暗かった景色は消え去り、寂れた谷のくたびれた小さな廃墟だけがそこにはあった。
廃墟の前に、『真なる夜魔』はうつ伏せに倒れている。
様子を見ようと統が近づいたところで、咄嗟にマグダラの罪十字を展開。全力の防御姿勢を取った。
「藤堂さま――いや皆さん、ふせてください!」
統の判断もあってか、エリシアとアレクシアはカウンターヒールを発射した。
ほぼ同時に、大量の槍が天空から降り注いだ。
「案ずるな。お前達の命は我が守る。鳳凰の名において――」
エリシアの放った炎が大きな球となって夕たちを包み、アレクシアのブレスレット『トリテレイア』から『祓魔の浄花(ヴェルヴェーヌ)』が展開。
自らも魔力の盾で槍を防ぎ、アレクシアは『真なる夜魔』を見た。
砂を握り、ゆらゆらと立ち上がる『真なる夜魔』。
まだ戦いが終わっていない。アレクシアはそう確信して、魔力結界を張り直した。
「私達で目を覚まさせてあげるんだ! 街の人達も、魔種も!
眠って夢を見てるばかりじゃ何も変わらない!」
「もう、いい」
『真なる夜魔』は、もう何十日も眠っていないような、青黒く弱った目をして、顔をあげ、そしてゆらゆらと立ち上がった。
「もう、起きていなくて、いい」
もう力はほとんど残っていないのだろう。
降り注いだ槍もざらざらと砂のように崩れ去り、手に握った一本のナイフだけが残っていた。
利香は血まみれの身体を引きずるように立ち、折れた爪を翳して突撃する。
爪が、ナイフが、それぞれがお互いの胸に突き刺さり、深く肉をえぐった。
「現実の痛みが、わかる?」
『真なる夜魔』は……いや、ただの少女は、顔を歪ませて血を吐いた。
それきり、もう、動かなくなった。
●そして朝が来る
『常夜の呪い』事件は、元凶である魔種を倒したことによって終結した。
ローレットによる300名以上もの増援によってネメシス聖教国は(多額の依頼料をギルドに支払ったであろうことはともかくとして)騎士や住民のほとんどを無事に取り戻し、首都を大きく破壊されること無く事件を終えるという素晴らしい結果に喜んだ。
だが『黄泉がえり』をはじめとする不穏な事件も多い現状である。彼らは僅かな死者や尊い犠牲に深く祈ることで、この事件を決着したのであった。
この事件における死者の多くは、『真なる夜魔』に従った狂信者たちであった。
降り注ぎ砂のごとく崩れた槍のなかから、彼らはバラバラになった死体として発見され、事件の場所……つまり『常夜の谷/呪われた神殿』のあった場所の地下へと埋められた。
後の調査によれば、この場に神殿などなく、ただ谷間に寂しい廃墟の小屋があるきりであった。
その小屋の中には過労によって殉死したある神父の写真と、その娘の写真。そして意味不明の日記が残されていたという。
娘の名は、『エルス』。
きっと最後まで分からなかった、『彼女』の名である。
成否
大成功
MVP
状態異常
あとがき
こうして、世界から『常夜の呪い』は消え去りました。
少女は父に会えたのでしょうか。
GMコメント
■■■成功条件■■■
怠惰の魔種『真なる夜魔』の撃破
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
■■■概要説明■■■
宗教国ネメシスの首都フォン・ルーベルグの東西にある二つの町がドーム状の黒霧に覆われる事件が発生しました。
霧は徐々に拡大をはじめ、やがては首都をも飲み込んでしまうだろうと予測されています。
さらには霧の中から特殊なモンスター『スリーパー』が大量に出現し、首都の人々を襲い始める事態へと発展。多くの被害が出始めました。
これは天義各地で頻発した『常夜の呪い』に類似したものだと断定した天義正教会は騎士団を大量に投入。しかし内部に待ち構えていたおぞましく混乱した夢空間と次々に増えるスリーパーたちによる攻撃によって大きなダメージを受けました。
多くの騎士は撤退に成功しましたが取り残された騎士たちも多く、ネメシス正教会は騎士や市民たちの救護と迫り来る霧への突入。そして現況と目されている魔種『真なる夜魔』の討伐を、ローレットへと大々的に依頼したのでした。
■■■行動選択■■■
プレイングには『優先して使用するスキル』を記載してください。
これをもとにPCたちは自分が現状においてより活躍しやすい場所や相手を選んで戦うようになります。
これに加えて『スペックの優れている部分』や『お気に入りの武器やアイテム』を記載することで状況に対する強みを増し、より活躍しやすくなるでしょう。
また、この事件や自分の役割に対する意気込みを台詞にして書き込んでおくと、もっと素敵に活躍できるはずです。
■■■同行設定■■■
特定のPCと一緒に行動したい場合はPCの名前とIDを必ずプレイング二行目以降に記載してください。
下の方に埋まっていたりIDや名前が無かったりした場合はぐれることがあります。
例:レオン(p3n000002)
同行するメンバーが3人を超える場合は【ドーナツ隊】のように独自のチーム名を記載してもよいものとしますが、チーム名がメンバーごとに間違っていたりするとはぐれる原因になるのでくれぐれもご注意ください。
また、一緒に行動できるのは同じ『役割』を選択したPCだけになります。
必ず役割をあわせるようにしてください。
(役割については下の項目で説明します)
■■■役割選択■■■
プレイング冒頭には【防衛】【救護】【突入】【特攻】の四つの内いずれかを必ず記載してください。
これが本作戦におけるPCの役割になります。
いずれも記載されていなかった場合防衛もしくは突入部隊に自動配属されます
詳細は以下に解説します。
●【防衛】
首都に次々と発生する魔物『スリーパー』と戦い、撃滅するチームです。
より早く、より多く、より効率的に沢山の敵を撃滅することが望まれます。
であると同時に、大量の味方をサポートする才能をもっていると重宝されるでしょう。
●【救護】
町や霧内部には、騎士や市民といった無数のけが人が取り残されています。
彼らは戦闘不能状態になるとスリーパーによってどこかへと連れ去られてしまいます。
そうなる前にスリーパーを倒し、意識を失った市民を救出しましょう。
また戦闘不能になりかけている騎士が必死に抵抗している場合もあるので、回復スキル等を使って支援することで状況を好転でき、復帰した騎士たちは味方につきます。こうすることで味方戦力をどんどん増やしていくことができるでしょう。
●【突入】
霧内部に突入し、その中央にあるであろう『扉』を目指します。
ですが途中には無数のスリーパーが防衛についており、これを突破するのは困難です。
扉へと進む仲間たちの道を切り開くべく、スリーパーたちと叩かなければなりません。
スリーパーは無限かと思えるほど大量に沸き続けるため、高い防御力や回避力をはじめとするタンク性能が求められます。
より長く、より多くの敵を引きつけ続ける才能が求められ、同時により長く味方を回復し続けられるヒーラーも求められています。
●【特攻】
霧最深部にあるという『扉』の向こうへと侵入し、この事件の元凶であるところの『真なる夜魔』を打ち倒します。
撤退してきた騎士の報告によると、扉の向こうはほぼ別空間になっており、巨大な石の神殿が広がっていたということです。
神殿にはスリーパーに意識を憑依させた狂信者たちが待ち構えており、どれも高い戦闘力を有していたとのことです。
狂信者スリーパーたちを打ち倒して進み、神殿の奥にあるという『夢幻の寝室』へとたどり着いたなら、真なる夜魔と対決することができるでしょう。
※この戦場は危険度が高く、重傷率や死亡率が高まります。挑むにはくれぐれも注意してください。
■■■エネミーデータ■■■
●スリーパー
形状の定まらない夢の兵隊です。
夢空間を守るためにあるとされ、侵入者を自動的に攻撃します。
今回は現実空間にまで飛び出し、人々を攻撃しては連れ去っていこうとしています。
人間の見た目をしていたり怪物のようであったりと、様々な形状が報告されています。
ですが今回は大量に発生した影響からか個体ごとの戦闘力は低いようです。
●狂信者スリーパー
扉の向こうに待ち構えている強力なスリーパーです。
『真なる夜魔』によって永遠に夢の中で過ごすことこそが救いと信じた狂信者たちが意識を憑依させ操っています。
人間型はごく少数。殆どが怪物の姿をとっており、『真なる夜魔』を倒そうと考えるネメシス正教会の騎士やローレット・イレギュラーズたちを撃退しようと襲いかかってくるでしょう。
●真なる夜魔
はかない少女の姿をした魔種。
夢空間自体を操る能力を持ちます。
仲間たちと協力し、力を合わせて挑まなければ決して勝てない相手です。
Tweet