シナリオ詳細
<天之四霊>央に坐す金色
完了
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オープニング
●『四神』
東西南北に座すは神獣――そして央にて眠りにつく守護者の黄金の気は二つに別たれた。
一つは竜の姿を象り、人々へとその存在を知らしめた。
もう一つは獣の姿を象り、罪人らの行末を願う様に眠りについた。
青龍、朱雀、白虎、玄武――そして、黄龍と麒麟。
即ち、それは神威神楽の守護者である。
嘗てよりこの地には精霊が住んでいた。其れ等が形を得、人が如く生業を営むのが八百万。
そして、それらとは違い強大な力をその身に宿して眠りにつく大精霊、神と呼ばれしそれらはこの地を愛し、時折人里に居りては人々に加護を与えるそうだ。
その寵愛を一心に受けたのは外様の青年――今園 賀澄。その名を『霞帝』と改めて前代の中務卿と任命した建葉・三言と共に黄竜の望む『けがれなき国造り』へと乗り出した。
魔なる存在に害され彼が眠りの呪いに落ちてから、四神達は酷く落胆した。
愛した者が眠りについたその悲しみに、そして――『けがれの増えたこの国』に。
だが、再度の刻が訪れた。
目覚めし霞帝はイレギュラーズへと懇願する。
東に座す青龍
南に座す朱雀
西に座す白虎
北に座す玄武
そして――中央に座す黄龍とその力を通わしてほしい。
黄龍の別たれた力は麒麟と化し、自凝島を守護している。
その力を駆使すれば自凝島より脱出する事も叶うはずだ――!
●『央』
「セイメイ、彼らが英雄殿達か? ふむ、成程。強き心をしているのだな。
……所で、黄金の獣について予知を働かせたものが居ると聞いた。それは?」
霞帝は黄龍の顕現を行うが為の陣の上でくるりと振り向いた。先の戦いで、世界より賜った贈り物で黄金の獣の姿を視たという『神威之戦姫』メルトリリス(p3p007295)は「自分であります」と背をぴんと伸ばしてそう言った。
「成程……麒麟がイレギュラーズに助力を乞うているのだろう。
然し、自凝島の内部は肉腫が蔓延っている。畝傍・鮮花なる刑吏が『増やし』ているのだろう」
「やはり……流刑地の島は肉腫だらけであったか。そして、刑吏まで――なんじゃな」
む、と唇を尖らせた『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)の傍らで「畝傍・鮮花を追って島を渡る事は?」と提案したのは彼女の足取りを追っていたマルク・シリング(p3p001309)であった。
「いいや、危険だ。肉腫……それも『強敵』揃いであろう敵の陣地に乗り込むリスクを俺は認められぬ」
「それじゃ、指を咥えて見てろって事? レゾンデトールに関わるんだ。アレクシアちゃんを……みんなを助けに行かせてくれ……!」
懇願する『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)は『膠窈肉腫(セバストス)』との戦いにより眼前で攫われた少女の事を思って歯噛みした。
霞帝は「京を開け、それが天香側に悟られ『何らかの呪術』を使用されたとすれば救出作戦を行うものさえ犠牲になりかねないのだ」と頭を振った。
高天京に霞帝や晴明だけではなく、イレギュラーズが居るだけで高天御所には牽制になる。直ぐにでも自凝島へと兵を出し、救出作戦を行いたい気持ちは分かると晴明は悔し気に呟いた。
「守り、救うことが俺の役目だから。仲間を必ず助けに行く。……だから、止めてくれるな。危険は承知の上だ」
『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)の真剣な眼を受け止めてから、晴明は「帝」と静かに彼を呼ぶ。
「この地に――黄龍の許へと彼らを連れてきたという事は何か策があるのでしょう」
「その通りだ、晴明。お前はつづりを連れて此処へ。
そして、イレギュラーズ。これからの俺の言葉を信じてくれるか?」
霞帝の切れ長の瞳がイレギュラーズを見つめる。頷いたのは『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)であった。
「そそぎ、新道……いや、攫われた者達を助け出す為に出来る事を。
だから、俺達は藁に縋るような思いではあるが……貴殿の言葉を信じたい」
「ああ。目の前で攫われた仲間を見過ごすことは出来ない。なんだってして見せる。……教えてくれ、何をすればいいのかを」
『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は真剣に霞帝と晴明を見た。
頷く霞帝はこの地は自身に力を貸してくれている四神の長たる黄龍が眠っていると告げた。
東西南北の各地に眠るそれらの長なる黄龍はその力を別ち、イレギュラーズが流刑となった地、自凝島の深き底に『麒麟』として眠り続けているらしい。
京か自凝島に何かがあったならば――その時は霊脈を通じてどちらかに転移する用意をしている、と。
「ならば……その力を使えば牢を抜け、麒麟の許へ行けば此処まで帰ってこれると?」
メルトリリスに霞帝は頷く。しかし、それにも条件がいくつか存在しているそうだ。
「流刑となった者が麒麟の許へ辿り着き、彼に認められねばならない。
麒麟は自凝島での行いで『善人』であるかを見極めるだろう。勿論、彼らが麒麟の転移陣に乗らず残る可能性だってある」
「……それは自らの意志で自凝島に残る可能性があるという事か?」
フレイに霞帝は頷いた。そうなれば、陣に乗り帰還した者は助けられるが『それ以外』は――ぞう、と背筋に走ったのは嫌な気配だ。
「……そして、その転移陣を起動させるためには霊脈を浄化しなくてはならないのだ」
「浄化?」
「ああ。妖に怨霊、肉腫と……けがれが多すぎて黄龍が麒麟へと心通わす事が難しい。
皆には其れらを撃破し、この地の汚れを祓ってほしい」
やってみせると夏子は、そして、ウィリアムは頷いた。其れこそが今『自凝島』の仲間たちを救う手立てとなるのだ。
「そして、その一環とし、俺が今より顕現させる黄金の獣とも手合わせを願いたい」
「……それはどういう事だ?」
ベネディクトが驚いたように霞帝を見遣る。燃やせばいいのかとというアカツキをしばし留めるマルクは「黄金の獣、というのは黄龍ですか?」と問いかけた。
「ああ。自凝島と神威神楽を包む結界を強固にしたい。俺は一度巫女姫に眠らされ、『彼』の機嫌を損ねてしまった。
故に、イレギュラーズにその手伝いを頼みたいのだ。晴明やつづりは力足らずであるが、『英雄殿』であれば」
揶揄い呼んだ霞帝は「結界さえ補強できれば自凝島の肉腫の動きを阻害できる。そして神威神楽の『呪』も多少軽減できるはずだ」とそう言った。
「帝、つづりを連れてきました」
「……セイメイ、帝が居る。帝、もう、大丈夫……?」
「ああ、心配をかけたな、つづり。セイメイも有難う」
僅かな再会。そして、彼らの脳裏に浮かんだのは巫女姫の事だった。
天香は『義弟に掛かりきりで此方に意識は向いていない』だろう。何せ、イレギュラーズの一人が付き人として名乗りを上げ彼方側に着いたというのだからそればかりに注目しているはずだ。
だが、巫女姫は――手元に愛しい姉が居る状況で落ち着けば帝が目を覚ました事に気付くはずだ。
「……巫女姫は如何なさいますか?」
「巫女姫の意識を逸らすが為、そして、捕らわれた姫君の奪取を目的に御所に少数の兵を向けるべきだ」
「承知いたしました」
晴明は頷く。巫女姫の『意識を逸らしていれば』この地を狙う存在は格段と減る。
それでも魔種、肉腫、獣、怨霊と清浄なる気配を厭い襲い掛かる者は多数居る筈だ。
守りを固めよ。
神を味方につけよ。
この地は神威神楽――『神』による『神殺し』の準備を整えるのだ。
「……さて、此れより反撃が為の準備を行う。協力してくれ、つづり、晴明――イレギュラーズ!」
- <天之四霊>央に坐す金色完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月27日 23時01分
- 章数3章
- 総採用数475人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
「反撃の狼煙を上げましょう」
燻るだけの刻は疾うに過ぎ去った。ならば此れよりは刃を振るうのみ。
掲げるは大妖之彼岸花、鬼道必滅の大業物の切っ先に滅海竜の残滓を帯びた魔石の妖気を揺らめかす。
無量はその脚に力を込めた。二対の腕がある如く、その刃を閃き地を蹴り進む。
その武勇は霞む事はない。霞帝が朋友と称するイレギュラーズは誰ぞの為ならばその身で悪しきを切り伏せるのだから。
「初めてここに来た上で状況を確認したのだが……」
ルーチェはそう呟いた。流れる赤き血潮が戦いの始まり告げる。掌上に浮かび上がるは昏い球体。魔力の気配を孕ます其れより放たれるは薙ぎ払う光の奔流。
「先の戦で味方が敵に捕まり自凝島という危険な島へ送られたようであるな。その味方を救出するためにもここの敵を倒さねばならぬとは……」
「その為に支援か。このような形で仲間の脱出支援を行えるのは嬉しいな、……一刻も早く、助け出せるよう、尽力しよう」
静かにそう呟いたシューヴェルト。戦闘貴族なる彼は貴族の誇りを胸にThunder.R(レプリカ)の銃口を『けがれ』へと向けた。降り注ぐ鋼の驟雨を割くが如く、光の奔流が走り続ける。
「まぁよい、味方がどのような状況になろうとも余がなすべきことは敵の殲滅、ただそれだけのことよ!!」
ルーチェの笑みに頷いてシューヴェルトは声高に名乗り上げた。
「この世界に蔓延る厄災の種よ! 聖断刃に代わり、この貴族騎士が貴様らを成敗しよう!」
前線進む仲間たちを癒すゲオルグは結界の様子を見遣る。自身の眼で見ても京の周辺に結界と呼ばれしものが存在したようには見えない。晴明に問いかければ彼も「俺の眼にも何も見えないがつづりや霞帝には見えるようだ」と静かに囁いた。
「成程……何か支援が出来ればいいが……」
回復スキルなどで強化や修復が出来ればと願うゲオルグに晴明は「今は、まだ」と小さく頷いた。
「賀澄――あっ、ごめんなさい『霞帝』、おはようっ!」
気さくな人だから、つい名前で呼んでしまったとぱっと掌で口を覆ったハルアに『霞帝』は穏やかに笑う。
「おはよう」と返す彼は「俺の事は賀澄でも構わない」と笑みを浮かべた。晴明やつづりとは違い『外』から来た彼は寧ろ、帝などという大仰な役割ではなく、自身を見てくれたことが嬉しいかのように目を細める。
「賀澄。無理せずに。折角目覚めたというのに、負傷してしまう様な事があれば、晴明やつづりも悲しむだろう」
本陣たる霞帝に対して穏やかに声かけたのはゲオルグ。魔術に呼応する微細な振動が最小の魔法人を宙へと描き、霞帝に対して聖なる哉を下す。
「……有難う。皆、協力してくれ」
「うん……! こちらこそ、起き抜けからありがとう、ボクも頑張るね!」
捕虜になった友達や皆の事を思えば目を瞑りたくなる苦しさがある。それでも、前を見る限り折れる事はないとすう、と息を吐いた。指輪飾った指先だけではない、足に手、その体全てを武器にする。
地を蹴ったハルアの背を見送ってううんと小さく背伸びをしたラグラは「言われなくてもわざわざ湿っぽい島まで行くつもりはねーですよ」と常の調子でそう言った。
「――にしても自ら光っているようで嫌な月だぜ」
「魔的な色を帯びているな」
「ええ、ええ。てなわけで、賀澄君の儀式、見てますね」
仕事は、と小さく問いかける晴明に「セーメーは厳しいですね」と足元の石ころを拾い上げ魔力光を放つそれを投げ入れた。尾を引いて飛ぶそれを眺め「固定砲台」とさらりと返すラグラの様子に小さく笑み浮かべハルアが眼前の『けがれ』を蹴り飛ばす。
「『けがれ』って……こんな妖みたいな形をしてるんだね?」
「その様ですね。陰の気により生み出された怨霊、妖に『けがれ』と呼ばれし呪獣。
一概にそれらすべてを把握する事は出来ないのでしょうが――斬る事はできましょう」
無量が宙を蹴る。その双眸がしかと見据えた穢れへと振り下ろすは瞬天三段。頭、喉、鳩尾、三か所を一突きで叩く絶技を放ちながらその掌が僅かに震えた感覚を覚える。
(――……私だけの戦なれば果てるまで血に塗れるも一興。……されど此度は違う)
此度の戦いは囚われた者達の、囚われたこの國の行く先が掛かった大いくさ。
容易く斃れる事は罷り成らないとその剣は『けがれ』を切り伏せ続ける。
「ふふ、我ながら私らしくもない戦仕草。されど……悪くはないですね」
――誰が為。鬼らしくなく、人らしい。無量の浮かべた小さな笑みの背後で暖かな癒しが齎される。
「賀澄の事は任せてくれ。皆は『けがれ』や彼らを護る怨霊たちを頼む……!」
ゲオルグの言葉に頷くハルアは「あれって……」と息を飲んだ。けがれ――『大地の癌』によって影響を受けたかぞろりと姿を現す複製肉腫たち。
「ッ、直ぐに救ってあげるからね……!」
彼らの病を『治癒』するが為、『夜照らす』如くハルアは宙を舞い踊った。
「……セーメー、賀澄くん」
ラグラは静かに口を開く。
「長胤君は残念でしたね。いい子ではなかったけども、悪い子でもなかったそうですからね」
「……天香殿はこの国を愛している。行いが悪事と呼ばれようとも其れは確かだ」
愛国の心、そして、自身が統治者であるという強き意志。ラグラは「そうでしょうね」と目を伏せる。
「再会のセリフは考えてます? 私ちゃんが考案した印象抜群捧腹絶倒間違いなしの挨拶案があるんですが」
「――再会が叶えばよいが」
霞帝の言葉にラグラはまたも、そうですねとだけ唇を震わせた。この『月』の行末を、誰もまだ知らぬのだから。
成否
成功
第1章 第2節
「とんでもないことが起こっていると聞いて遥か海向こう、『練達』から駆けつけてきました!」
タクトを振るう。無敵の進軍を約束する指揮者は『英雄』たちの歩みを見つめ笑みを浮かべる。
「友達を思う気持ち、仲間を助けたい気持ちはきっと誰もが同じ! 微力でありますがお力添えできましたら!」
縁は困難な時こそ笑顔を浮かべるのだとその心中は冷静沈着に、偉大なる女王の加護に包まれてしかと眼前を見据える。
「――皆様の無事と、希望を信じて! なんたってアイドルですので!
さあさ、お手を拝借。歌いましょう、踊りましょう。
私にはいつだってそうすることしか出来ませんから!」
伸び伸びと声が響く。吟遊詩人の歌声は神秘の魔術を帯びて先往く『英雄』達を包み込む。
その目を凝らす。精霊と疎通により自身達が悪しき存在ではないと揶揄い伝えるセリアに黄龍の聲が降る。
『けがれがこそ痒くて仕方がないのだ』
成程、と。小さく頷いた。寓喩偽典ヤルダバオトは雄弁に語る。『とにかくやばい』その力を発揮するべく自身の精神力を弾丸に変換(かえ)る術式でセリアは『けがれ』を打ち払う。
「黄龍様、結界に対して何か出来る事は?」
『賀澄と共に汚れを祓ってからだの。今、結界に触れてもすぐに亀裂を入れられては敵わん』
セリアは小さく頷いた。『けがれ』を祓う――つまりは顕現した妖や襲い来る肉腫、魔種を霞帝と『霊脈』より除去しなくてはならないのだ。
「ハ。なるほどねェ……つまり、『なんでもいいから手当たり次第、雑魚をぶちのめせ』ってことだろ? ったく、もっと簡単に言えってんだよ!」
山賊刀をすらりと引き抜いたグドルフの言葉に「ソレは済まない!」と霞帝が彼を見て快活に笑う。
「なら、言おう! 『あたり一面の雑魚をぶちのめして』くれ!」
「その言葉を待ってたぜ! こちとら暴れ足りなくてウズウズしてんだ。
魔種だろうが、肉腫だろうが関係ねえ、このグドルフさまがすべてぶちのめしてやるぜ!」
踏み込む。その脚先に力を込めて、ゲップを吐き出すグドルフにふらつく複製肉腫が小さく呻く。その隙を逃す事はない。執拗に叩きつけるは山賊の極意。斬撃放ち、歯を見せ笑ったグドルフは肉腫共を睨め付けた。
「オラオラオラ、雑魚どもお、このグドルフさまにビビってんじゃねえぞお!」
雑魚。その通りだ。それでも――今後『何が出て来るか』は分からない。星影の術式で呪いを帯びた大太刀を握る指先に力を込める。
「隠岐奈朝顔……いいえ、星影 向日葵、参ります!!」
極度の悲観主義者は前を向いた。『最悪の未来を防ぐ』事よりも――尚、目指すのは最高の未来。
演じることを止め、本来の名を堂々と名乗り上げた朝顔、否、向日葵の心は想いと願いを込めて、『夢』へと突き刺さる。
命までは奪う事はない。それを甘いというならば自分の心を問うて欲しい。黄龍様と肉体言語を用いて向日葵は語り掛ける。
「確かに頼りすぎ、と言われても仕方が無いのかも知れません。
けれど、今は貴方の力をお借りしたいのです。今、遮那君が……私の最愛の人が苦しんでいます。彼に夜明けを与える為の力が、私は何よりも欲しいのです」
『夜明けか。ふむ、今日の月は美しいとは思わないか』
「いいえ、あの月は淀んだ澱に浮かぶかのよう。……私は弱いですが、何度も立ち上がってみせます。そうでなければ、貴方様は認めないでしょう?」
『分かっておるではないか!』
笑う。声がする。ならば、周囲に存在する『けがれ』を今は祓い黄龍の力でこの夜をも吹き飛ばす力としたい。
「――生憎と月は奇妙な形をしておりますが、星々は変わらず私にその在処を伝えてくださっております」
浄き想いを届けるは星への信仰。夜空の星が瞬くほどに正純の躰は縛り、締め付けられる。星色の瞳を細め、鋼の驟雨を降らせる。
「黄龍様と麒麟様の道を繋げる、と。なるほど確かに、それには邪魔な気配が沢山ありますね。
まずは道を繋ぐためにこれらを祓いましょう。――ええ、たまには巫女らしいこともしなくては」
星々は瞬き、その存在を教えてくれる。何も恐れる事はなく、流刑地に居る鳴を思い出して正純は目を伏せる。
――母を見る、ひとりの娘。その心が揺らぐ事を知っていた。
(……あの時、彼女を助けられなかったのは私の不徳。
であれば、きちんと取り返せねば星にも彼女にも顔向け出来ませんので!)
空に瞬く星よ、その魔性よ――邪悪を穿て、この信仰を遮る者を貪り喰らえ!
「祓い清めるっていうならボクの得意分野だよ!
アレクシアちゃんや鳴ちゃん、大事なお友達も捕まってるんだ。いつも全力だけど、今回は皆が無事に戻ってこられるように全力の全力でいくよっ!」
しゃん、と音鳴らすあカグツチ天火。『神子』は父の焔で創られた槍の穂先をけがれへ向ける。
神意のまま行う炎の神子――焔の穂先が裂かせた紅蓮の花。然し、『けがれ』は依然と揺らぎその姿を見せている。
「くぅっ、向こうの世界みたいに神としての力が使えればもっと簡単に祓えるのにっ!
祓え給い、清め給え! 神かむながら守り給い、幸さきわえ給え!」
地を踏み締める。信じる神は遠い世界に存在する――けれど、と焔は炎の揺らめきが如く目を伏せる。
「ここはボクの産まれた世界とは違うから、祈りも届かないかもしれない……。
それでもお願いお父様、この世界で出来た大事なお友達を助けるために力を貸して!」
愛しき『炎』よ守り給え、と願うその身を包む籠は一層に強くなる。
成否
成功
第1章 第3節
巫女姫と戦った時、メルトリリスは晴明を護らねばならないと、そう願った。しかし、彼は自身の事等構わず此度の窮地を救うイレギュラーズにこそ無事でいて欲しいと願った。
(なんて、なんてお優しい方……! 豊穣に初めて来たとき、つづりさまの『魔』であるかという問いに角のある『悪魔の形相』たる鬼人こそ魔であると言った自分は恥ずかしい)
歯噛みする。大切なものを見失っていたとメルトリリスは剣を構えた。
誰しもが安寧を望む。それは国の括りも見た目も関係ない。己は恥ずべき行動をしたと認めた、だからこそ、力になりたいと思った。彼らを、この国を守りたいと願う。
「穢れを嫌う麒麟は、穢れ無き國を望んだ!
祓いましょう、武を以て魔を――清め、奉る。この神威之戦姫が!」
聖女は、願うように黄龍の力を賜る為に『けがれ』を祓う。神が、彼らを護れとそう告げたかのように。
堂々進むその背を眺め、魔であるかと問うていたつづりは「みんな、優しい……」と小さく呟く。
「ねえ、貴方が結界の要でしょう? だったらアタシにできるのは、霞帝を守ること。妖、怨霊、肉腫の相手はおまかせあれ」
「彼女も、そして貴殿も。どうして俺達に対してそれ程までに命を懸けてくれるのか」
霞帝は静かに問いかけた。恭介はぱちりと瞬いてから可笑しそうに笑う。醜悪にして悪辣なるグラン・ギニョールを指先手繰り悪意の霧を放ちながらも小さく笑う。
「戦う理由? ――つづりちゃんみたいな可愛い女の子には、笑っててほしいのよ」
けがれの巫女。此岸ノ辺を任された双子巫女の陽の娘は黄龍と、そして、各地でイレギュラーズを待って居る四神との疎通を続けている。
「こうして面と向かっては初めてかな、つづり……ちゃんと呼んでも良いかい? 俺は伏見行人……旅人だよ」
柔らかに、行人はそう告げた。精霊と共に旅する青年は大役に緊張したように表情強張らせるつづりの頭をぽん、と撫でる。
「精霊とは大きな存在だが害されるのではないからね。焦る気持ちは判るが落ち着いて行こう……俺も手伝うから、さ」
「……はい」
――焦り、不安、緊張。それらがマシになるように。つづりの心と霞帝の意志が伝わるようにと願う。
「つづり、泣いてないのね。えらいわ。
そそぎは絶対私たちが助けるわ、だって『助けて』って言ってくれたんだもの、ね?」
オデットはそっとつづりのその不安げな瞳を覗き込んだ。両手をそうと握れば弱弱しくも握り返してくる。信じている、とそう告げるかのように唇が小さく揺れ動いた。
「……いい子、あなたみたいな子ほんとうに好きよ。じゃあ、こいつら蹴散らしてやろうかしら!」
そ、と手を離す。太陽の恵みを揺らし、多数の小妖精を放ったオデットは『けがれ』に向けて一斉攻勢に転じる。熱砂の精をも使役し、周囲一帯を叩きのめすがために『光の妖精』は魔力を満たしながらつづりの前で踊り狂う。
「安心したまえ。つづりくん。そそぎ君は取り戻す。『次』という約束もしたゆえに。
羊羹でも食べて待っているといい。本当は二人にと思って買ってきたが。渡しそびれた。それに疲れた時には甘いものがいいらしい」
気遣う愛無は周囲に保護結界を展開した。精霊と疎通し、その気配の濃い場所を探しては重点的に守るように堂々とその身を盾とする。地を踏み締めた愛無の『仕事』はまだ始まったばかりである。
「そそぎ君を助けると協力した者もいるゆえに。支援の一つもせねば不義理だろう」
「そそぎ……」
呟く。妹の名を。彼女を助けるとそう、約束してくれる神使達に守られながらつづりは『お役目』を全うする様に祈りを捧ぐ。
霞帝を護る恭介の傍らでドレスをついと持ち上げたジュリエットは「ジュリエット・フォン・イーリスに御座います」と簡易的な挨拶を霞帝へと行った。
「ご挨拶はゆっくりさせて頂きたかったのですが、どうやらそうも行きませんね。守りの要たる貴方様を失う訳にはまいりません」
霞帝を守護するが為に、魔弾を放ちジュリエットは迎撃に転じる。目を配れば、不安げなつづりがそこに居る。
「つづりさん、お辛い心情お察し致します。ですが、ここからです。
頑張ればきっと黄龍様は応えてくださいます。皆でそそぎさんを助ける為に、今は前だけを見据えましょう」
「……みんなで、頑張る」
「ええ。そそぎさんの為、そして、私達の仲間の為、『巻き返す』為に頑張りましょう」
雷がその指先から降り注ぐ。笑みを零してジュリエットはつづりと霞帝を護ると誓った。
そうして支えてくれる人がいる。それがどれ程に少女にとっての幸福か。行人は「つづり」と彼女の名を、役目を背負ったちっぽけな少女を呼んだ。
「大丈夫だ。霞帝がいる、晴明もいる、そして何より俺がいる。さあ、お話しをしに行こうか」
成否
成功
第1章 第4節
「これ以上、失う事が無い様に──大切な物を奪われる事が無い様に、力を示せというのなら!
認めさせて見ろと言うのなら! 見せよう、俺達の力を!」
堂々とベネディクトはそう言った。手にするは銀槍。希望に至る物語が為に顕現したその槍の穂先を『龍』へ向ける。
ベネディクトの号令に直ぐに答えたのはリュティス。主君が臨みを叶える為に従者は存在すると言うようにフリルを重ねたスカートをつい、と持ち上げその手は武器を握る。
「待っていろ、そそぎ、新道……それに、敵に捕まった特異運命座標の同胞達よ。
皆が抗っている様に、俺達も皆を助け出す為に全力を尽くそう!」
「ご主人様がそれをお望みならば。私が戦う理由はただそれだけです。
それでは私達の戦いを始めましょうか――皆様を救うため、そしてご主人様の力となるために」
静かに爪弾くは宵闇。漆黒の矢は『けがれ』を打ち抜いてゆく。冷静に周囲を確認し、仲間たちを支援するがために自身の立ち位置を決定したマルクは神秘の杖をゆっくりと振るった。
「天は自ら助くる者を助く。
示そう。僕らの力を。この国を護るに値する、『彼ら』を助けるに値する力だということを。――それが今の僕にできる精一杯なら、それを全力で全うするだけだ」
根源を探す魔術師の神秘は万能に通ず。仲間が斃れぬ様に、それだけを最優先でマルクは立ち回る。
「冷静に戦況を見極めるんだ。皆の熱量を、後ろから支えられるように……。
このまま魔種が、肉腫が蔓延れば、この国で多くの命が失われる――止めなきゃならない。だから、力を貸してほしい……!」
神に願う。マルクの願いの傍らより躍り出るのは花丸。助けたい、そう思えど助けられない。伸ばしたその手は届かない――悔しい。悔しさで立ち止まる事を少女はしない。
「思いだけは今も皆と繋がってるって信じているからっ! 花丸ちゃんは、私は……っ!
最後まで諦めたりしないよ、絶対にっ! 黄龍さん、貴方に魅せてあげるっ! 私達の想いの強さをっ!」
地を蹴った。けがれの向こうに見えたのは美しき女の姿だ。それが『霞帝の好みの女子』を象っただけではなく『弱弱しい女であれば手を抜く者も居る』という経験によるものであるのは理解が出来た。
リュティスがけがれを祓い、ベネディクトと花丸を前へ前へと押し出した。拳に力を込めた花丸が傷つけ壊すしかないその拳を黄龍へと突き出した。
「誰かが欠けたんじゃダメなんだ。今度こそは皆で乗り越えて、絶対に認めさせるからっ!」
『だから認めろと』
囁く黄龍のその声に真っ直ぐに襲い来るは魔性。貪り食う黒き大顎があんぐりと口を開けた。
「ごちゃごちゃ五月蝿え!! そそぎや仲間を助ける為に、力貸しやがれぇ!!」
『よく鳴きおる』
ルカが歯噛みする。頭に血液が登る。「洒落臭え」と小さく吐き捨てた彼はその拳に力を込めた。
「俺ぁ頭に来てんだよ。……つづりにもそそぎにもくだらねえ事なんざ全部ぶち壊してやるって約束したのに、むざむざとそそぎを連れて行かれちまった」
『ふむ』
「自分の不甲斐なさが心底頭に来やがる。要するにぶん殴って言うこと聞かせりゃいいんだろ。
だったらやってやる――今の俺にゃ加減は効かねえぞ!」
『主は自己の為に拳を振るうのか?』
違うとルカは吼える。膝を付くことなどしない――そんなことマルクも許さない――助けると決めた者が居るのだとルカは苛立ち叫ぶ。
「黄龍……この地の中心を守りしもの。――力を認めれば、協力してくださいますか。
私たちは神威神楽の人間ではなく、訪れた旅人です。ですが……少しでも、少しでも神威神楽の力になろうとしている中で大事な友達が攫われました。苦しんでいます。
――助け出す為の力がいるのです。皆と綴る未来のための力が」
リンディスは緋色のインクで未来を綴る。文字に力を与えるべく、願うようにそう囁いた。仲間を支え、そして、前へ前へと送り出すために。
記録者は参謀として、決して折れぬ筆先で未来を描いた。
「証明してみせましょう。力があると。そして、ことが済んだら貴方達と改めて話す機会を下さい――!」
それが神であるならば。この行いこそ無礼だと糾弾される可能性があるとリンディスは認識していた。しかし、黄龍は楽し気にルカを見遣り、リンディスの声を聞いている。
「グルルル……」
――おおきい。きれい。かっこいい。
アルペストゥスにとって、黄龍とは美しき黄金のドラゴン、自身の仲間として認識されたのかもしれない。
「Amor autem――quod est」
竜の言葉を呟く。ドラゴンロアは輝く結晶体を作り出し――そして、投げつけられる。
竜の言葉は、破壊と混沌。だからこそ、どんなに美しく言葉を連ねようとも話すことは出来なかった。
嗚呼、けれど!
相手は『龍』だ。それを、心地よく投げかけられる相手だとアルペストゥスは喜んだ。
こんなにも嬉しい事があるだろうか!
「――Gloria――!!」
その背に乗っていたアカツキはむう、と唇を尖らせる。反撃と救出。その為に、島に乗り込むつもりであった。それが危険であると承知の上で――『風ちゃん』を救いたいと願っていた。
「ううん、このように迷っていては黄龍も困ってしまうな。ベー君」
「ああ」
アカツキの言葉にベネディクトが槍で風を切る。黒き狼はその『力』を共に合わせて発する様にその牙を研ぐ。
「黄龍、四神を束ねる大精霊よ……今宵の妾はいつもよりちょいと燃えておるぞ。
友を想う気持ちと直接は助けにいけぬもどかしさ、全て抱えてぶつけさせて貰おう!!」
「ああ。仲間達を救う為、これ以上この土地に不要な戦火を広めぬ為にも──黄龍よ、何が何でも認めて貰う!」
一度で駄目なら何度だって。ベネディクトが進めばリュティスも舞うように戦い続ける。
『黄龍』の『期待』に見合うものとなる為に黒き狼は皆、その牙を突き立てた。
「……ただ燃やせば良いのなら妾の右に出る者はおらんぞ!
煉獄と呼ぶに相応しい炎を受けるが良い、お主が妾達を認めるまでどれだけでも!!」
嗜虐的に笑う。それは煉獄と呼ぶにふさわしき魔術師の最大火力。
その中で、黄龍は微笑んでいた。愉快愉快と笑うように。
『問おう。その戦い――誰の為であるか』
成否
成功
第1章 第5節
「調査……果たしてまともな生物なのかどうか」
そうウブ焼いたのはリアナル。イーリンとココロと共に第一陣として調査へと赴いた『騎兵隊』。彼女ら三人の背後から追従する様に隊員たちが追いかけてくる。
「可能な限り敵の攻撃を私が受けるわ。見てから殺す――私に土をつけさせないでよね?」
黒剣を構えてウインク一つ。揶揄う様なイーリンの声に大きく頷いたのはココロ。師匠の言に従う如く、その瞳は真っ直ぐに『彼女と相対するけがれ』へ向けられる。
「後ろはおまかせください、ご無事を!」
前に出るイーリンとリアナルを支える様に。医術士は死地での経験を基に編み上げた魔法式医術を展開する。今を生きる者の為に――生を望む者にその未来を授けるために福音を奏で続ける。
「周辺に負傷者は居ないわね、ココロ?」
「はい!」
頷く。その傍らで、戦いの教本たる居住まいのリアナルは扇子を揺らしイーリンに襲い来る『肉腫』らへ熱砂の嵐を放つ。
「成程。……『けがれ』が作る妖も怨霊も、肉腫でさえもそれぞれ此処で持ち得る特性が違うか」
「けれど、それ程強くはないのね。大本営は『黄龍』との試練で『けがれ』は無数に周囲に存在する有象無象――大勢だけれど簡単に散らすことが出来る蜘蛛の子とでも言った所かしらね」
呟くイーリンはなるべく類似個体に生かせるようにとその戦術を引き出した。肉腫らのバリエーションは豊かであるが怨霊たちは遠距離での攻撃が多く、妖はがむしゃらに牙を突き立てる者が多く感じられる。そうした情報があるだけでもいいだろうと一歩後退したイーリンの背にウィズィの声がかけられた。
「イーリン!」
「あら、ウィズィ」
間に合ったねと小さく笑い、鳥を先行させて敵対戦力を確認し続ける。複製肉腫ぐらいならば熟せる。そして、本陣より突出していなければ囲まれて退路を断たれることもないだろう。
旗頭に集うようにウィズィはハーロヴィットを握り笑みを零す。不敵に笑い、その身を屈め、棘を纏う。
「さあ、Step on it!! 行くぞ、【騎兵隊】が押し通るッ!」
地を蹴り進むウィズィを支援するようにエルはふわりとワンピースを揺らした。神意執行の大鎌握り、刻むは簡易封印。怨霊の攻撃を阻害する様に筆記用具を手に、簡易的な地図を作成し続ける。
「怖い場所に囚われている方を、エルは助けたいです。なので、エルは頑張ります」
静かに決意を固め、支援する。霊脈を辿り出す騎兵隊は誰もが前のめりに『安全』を確認し『周辺』の情報を得るが為進んでいた。
「エルが封印します」
「OK! それじゃ、騎兵隊は全員生存が旨、ですからね! 無理は禁物という事で!」
小さく笑う。ウィズィが駆るラニオンは真っ白な気を靡かせて、走り出したら止まらないとぐんぐんと進む。迷うことなく突き進むウィズィの背後より同じように軍馬を駆り進むのはステラ。
「目的はまず情報収集、との事ですが……取り敢えず片端から倒してしまえば構いませんね?」
それは『最高にシンプル』な提案だ。ステラがそう言えば、頷くのはリリー。ウィッチクラフトでその意思を疎通する鳥が偵察に向かう中、リリーはお任せと笑み浮かべる。
「さてと、脱出を支援すれば良いんだよね? だったらまずは偵察しないと、だよっ。
こういう時こそリリーの面目躍如! 騎兵隊としてずっとやってた事だからねっ、これ位慣れっこ!」
ふふんと笑い、大きな九尾を召喚して妖らを蹴散らし続ける。カヤと共に翔ける事にも随分慣れた。溢れんばかりの興味を胸にリリーは周囲を確認し続ける。
手近な存在からと、攻撃を仕掛けるステラは情報収集と解析はリリーに任せると一任した。早退した種類、特徴、特性はしっかり頭の片隅に置きながら放つは魔術と格闘を織り交ぜた独自の技。
癒し手たるココロは道を切り開き少しずつ情報を収集する仲間たちを癒し続けた。その道程を支えるのはリアナルである。式神と上位式に周囲の土壌を調べさせた結果、厳かなる神気に侵食する様にけがれが蝕んでいることがわかる。
「これが『大呪』という事かしら? 中々根は深そうね」
「……このけがれが『実体化』するすべてを蹴散らせば霊脈の浄化が出来ることは分かった。
それにしても相手はバリエーション豊かだ。こっちで把握しきれないほどに」
イーリンはリアナルの言葉を聞いてから「ココロ、どれ位なら持つ?」と問いかける。
「退路はまだ確保できています!」
彼女が退路を確保し、切り拓く道が狭まり始めたならばすぐにでも旗を翻し撤退を宣言する。命を大事にしながら何度だってトライすると決めた騎兵隊の在り方だ。
「ウィズィ、ステラ、あまり行きすぎない様に!
エル、リリー。情報の共有を。私達はこれから一度本陣へと撤退し情報を共有するわ!」
無数に浮かび上がる『けがれ』から一度体勢を立て直そうと提案するリアナルにイーリンは頷いた。周囲を確認していたココロは「こっちならまだ安全です、皆でまとまって引き上げましょう」と静かに提案する。
騎兵隊の戦いはまだまだ始まったばかり。穢れ払い――それこそが重要なミッションだ。決して、しくじる訳には行かないのだ。
成否
成功
第1章 第6節
ルートを辿る。その邪魔になる敵を倒しながら情報を収集したいとシルキィは使い魔のクロジロウに「お願いねぇ」と情報収集を頼んだ。
「防衛戦になりそうだし、敵の種別や攻撃手段が明らかになれば少しは楽になるかなぁ。それじゃあ、威力偵察と行くよぉ!」
その指先で手繰る糸は二つ。ラサを思わせる熱砂の嵐を吹き荒らし、野良黒猫の泣き声を聞く。
「そっちに敵性対象がいるのかなぁ?」
くるりと振り返る。確かに『けがれ』を祓いきるまでは防衛線になるだろう。黄龍を相手取る者も居るが支援となるべくルートの確保は中々に骨が折れそうなのだ。
「やァ、今回も大所帯になりそうだ」
武器商人が行ったのは味方の情報を参考にした拠点の形成であった。周辺地理に関しては晴明のサポートを受ければ容易に把握することが出来た。黄龍の霊脈の真ん中に負傷者の手当てや補給の出来る場所として築く拠点はバリケード等を利用し、十分なものを用意できただろう。
「ここを拠点にして、敵と同じく『長丁場』で行くのさ」
ゆらりと袖を揺らす。『気の合うコ』の声が聞こえる気がして、武器商人はさながら、皐月の儚き月の様に月の魔法を――猫の多くが『そう』呼ぶ狂気を齎した。
「イーリン殿に雇われたで御座るが……いやはや、中々大事に御座るなぁ。
まぁ、仕事であるならば相応の事はこなすで御座るよ。斬った張ったは某の領分……お任せ頂こう、雇い主殿?」
調査に赴き一度撤退した彼女から聞いた情報を無碍にはしない。馬を駆り進む仲間たちの中で幻介はふうむと小さく唸った。
「しかし、騎馬で御座るか……嗜む程度になら乗れるで御座るが。拙者の場合、自分で走った方が速いで御座るな」
その影を誰にも踏ますことはなく、八艘跳びで獲物の首へと咲々宮家に伝承されてきた御神刀を突き立てる。身を捻り、一気呵成に放つは速力。威力に変換された一撃が易々と妖の首を刎ねれば、次だと言わんばかりに『傭兵』は動き回る。戦闘する敵についての情報を共有すれば拠点を形成する武器商人が承知したと言うように情報を集約し続ける。
その情報を強化するのはカイトの役割だ。レーダーに、エネミースキャン。全てを生かし、闇をも見通す瞳が敵性対象を捕らえる。
「……せめて情報をかき集めるしかねぇか」
出来る範囲でのクリアリングに――何かが引っ掛かった。何かが居る。それが魔種、いいや肉腫と呼ばれる存在であろうかとカイトは目を細めた。ぞ、と背筋に走った嫌な気配に一歩後方へと移動する。
(まだ仕掛けてはこないが……魔種か肉腫かそれとも……なんにせよ一人で行くのは得策じゃ、ないな)
息を飲む。軽量弓を抱えて、後方餌がったカイトの撤退経路を支援するようにメリッカの破壊のルーンは魔力を帯びた。宙を泳ぎ進む騎空士は暗ラックノートに刻まれた神秘を指先なぞる。
「で、敵が多いってことはやはりなるだけ高いところから戦場を見渡してざっと把握したいんだよなぁ……。何から逃げた?」
「嫌な気配がした」
「……何かいるんだろなあ」
ふむ、と小さく呟いた。カイトの支援を行ったメリッカは上空から見た限りでは『厭な気配』は存在しなかったと告げる。だが――確かに何かの存在を感知したというならば点在する『けがれ』の中に最も強い存在があるという事であろうか。
「さて、情報を制するものが戦を制する」
静かに息を吐いたのはレイヴン。ゲイザー・メテオライトは遥か遠方に存在する森に伝承される星狩りの大弓だ。それを手に情報統合の為に撤退した旗頭らを視界に治める。飛び回る小鴉のファミリアーはアトの後ろに追従しているが、レイヴンは「アト」と静かに声を掛けた。
「五感を共有してるんだ。痛い目に合わせないでくれよ?」
「やれやれ、そんなにひどい男に見えるって事か?」
揶揄うアトにレイヴンは肩を竦めた。『不明領域』まで進む――馬での移動を行いながらも何者かに気付かれぬ様にと馬を隠して身を屈める。
「『公義を行うことは、正しい者には喜びであるが、悪を行う者には滅びである』、と。さて見てくるか」
傍らの小鴉を通じて、レイヴンの指示が飛ぶ。「アト。10時方向に靄だ、2時方向に敵がいるので気を付けてくれ」の指示はレイヴンという『目』によるものだ。
アトは「OK」と小さく返す。カイトが先程悍ましい気配を感じたと口にした地点に存在したのは『けがれ』である。それが靄を作り出し――成程、有象無象を生み出し続けているか。
「大部隊が移動しているようだな……一度戻る、防御態勢を整えてくれ」
静かな声音で告げれば「了解」とレイヴンが返す。拠点で待機していたねねこは『危険な対象』が接近しているとの情報を受け武器商人との連携を心掛けた。
「拠点作りはある程度進んだと言っても良いでしょうか?
……ヒールを出来る様に、いえ、それ以上に医療を行っても大丈夫な拠点である必要があります。
一先ずは大本営――霞帝側との連携もとりましょう! こちらの動きに『けがれ』が瘴気として吹き出し活性化している可能性があるようですから!」
ねねこにより直ぐ様にその情報は晴明らと連携される。黄龍が動き出し、停滞していた澱が刺激されたことにより『けがれ』が活性化して暴れているのだろうと彼らはそう言った。
ならば――それらを受け止め切るだけの『拠点』を維持しなくてはならない。一度撤退するアトとレイヴンを受け入れ、レイリーが馬車で持ち運んだ柵やテントで拠点の防備をより徹底しなくてはならない。
簡易的な住居を作るまでは時間も足りないだろうが、テントでの一時避難の場所はこれにて完成と言っても過言ではないだろう。
愛馬『ムーンリットナイト』に跨り、レイリーは撤退する者を支援するように自らを盾として戦場を奔る。
「私はレイリー=シュタイン! さぁ、悪霊共よ討たせてもらう!」
白き装甲をその身に纏う。レイリーが堂々たる声音で怨霊たちを惹きつける中、カイトとメリッカは『活性化したけがれ』についての調査を行ったと報告を行っている。
黄龍を始めとする四神――その影響を受け『けがれ』が活性化している。
今までは『大呪』で蓄積し続けた澱だったのだろうが、此度の作戦で大量に消去され霊脈が浄められていることへの強き反発なのであろう。
それらの中に、『純正肉腫』が混ざっていることが判明している。まるで仏の様に涙を流す異形なる存在だ。まだこちらを見ているだけだろうが――『仕掛ければ』直ぐにでも戦闘が始まるはずだ。
「軍勢と言ったけれどね、どれ位だい?」
静かに問いかけた武器商人にアトは「皆で力を合わせれば敵じゃないさ。情報があれば苦戦することも無い」と小さく笑う。
「無論――情報戦は制した方が勝利を掴む。ならば、此方の勝利が為、この調査結果を基に切り伏せて呉れよう」
幻介の刃はきらりと煌めいた。
成否
成功
第1章 第7節
「ご機嫌麗しゅう、霞帝様。こうしてお目にかかるのは初めてですわね。わたくし、神宮寺塚都守紗那と申します」
穏やかな笑みを浮かべた紗那を見て、霞帝は「神宮寺……塚都守? 雑賀の家の者か」と合点がいったように頷いた。
「えぇ、兵部卿……我が弟がお世話になっておりますの。
わたくし、姉に厳しい心無い弟にたたき起こされこき使われている最中ですのよ? 今度、帝様よりきつく言っておいてくださいまし!」
「はは、アレも姉君を大層大切に思っているのだろう」
「まあ」と紗那は膨れ面を見せる。快活に笑う霞帝はこの分ならば弟に『釘を刺して』はくれないだろう。目を伏せる――勇敢な兵の元へ向かうが為に歩を進める紗那はふと思い出したように霞帝を振り返った。
「もし、また悪夢にうなされる事が御座いましたら、いつでもお呼びくださいまし。
紗那が夢幻の使いとして、いいこいいこして差し上げますわ」
「それは魅力的だな」
帝、と晴明の咳払いが聞こえたが――霞帝は楽しげだ。そんな彼の護衛として傍らに座したシガーは普通の青年を見ているような、何処か不思議な違和感を感じていた。
「まぁ、護衛と言っても、相手によっちゃ自分の身を護るので精一杯になりそうだが……出来る限り帝を護れるよう努力させてもらうよ」
初めて見る相手ではあるが人となりは『普通の青年』と言った様子が強い。晴明や長胤を見れば平安貴族的な存在が出てくると思ったがプライベートはこうもフランクで良いものだろうか。
「ところで、帝って煙草は嗜むのかな?」
「こっちに来てはらや止めたがね。貴殿のオススメをこの闘いが終わったら一本、どうかな?」
ああ、とシガーは頷いた。帝を護る為にと腰を上げて剣を構える。『けがれ』へと向けて防衛を行いながらも剣を振り下ろした希紗良はゆっくりと振り返った。
「お初にお目にかかります。豊穣が鬼菱の里に住まう、希紗良と申します。
此度の騒動の根幹を絶つために、全身全霊をもって御身の防衛の一端を担わせて頂きます」
普段とは違う改まった口調、片膝をつく希紗良に霞帝は「もっと気楽に話しかけてくれ、希紗良」と大きく頷く。
霞帝を護るが為、鬼渡ノ太刀を握る掌にぐ、と力を込める。この役目は重要だ――鬼菱の里の娘として、そして、神威神楽の頂を護るが為の闘いだ。
「し、知らなかった……」
愕然と見詰めているのは葬屠であった。長らく豊穣には暮らしているが、霞帝に関する知識や四神については碌に知る由もなく――京の事情には触れるべからずと社で眠り続けていたのだ。
「い……一は葬屠なり……宜候……」
一先ずは座礼を、と混乱し続ける葬屠に霞帝は「それ程、姿勢を低くせぬとも」と揶揄った。
「……う……」
起き上がるのもめまいがするが――一先ずは霞帝の手伝いを行おうとその手に妖刀を握り李絞めた。精霊達の声を聞き『けがれ』へと馳せ参じよう。
「あらまぁ、帝さんったら随分と色男! うぅん、帝って呼ぶのも堅苦しくて性に合わないし、名前で呼んじゃダメかしら?」
「気軽に賀澄と、お嬢さ――痛」
にんまりと微笑むアーリアに色男の笑みを浮かべた霞帝が後頭部を押さえる。護衛であったシガーと希紗良が何だ何だと振り返れば扇を手にした晴明が溜息を吐いている。
「此度は重要な戦でありましょう」
「嗚呼、分かっているさ。親父殿と変わらずお前も頭が固い」
「……ふふ。さぁて、全てが片付いた後は中務省持ちで大宴会よぉー! ね、晴明さん?」
アーリアの言葉に「ああ、酒類は用意しよう」と晴明は頷いた。とびきりの地酒を楽しみにすると微笑むアーリアはレーダーや鳥の偵察を使用しての増援警戒を行っている。
(黄龍にご挨拶しようにも、まずは場を何とかしなきゃよねぇ……)
黄龍との手合わせだけでは気付けば活性化した『けがれ』で周囲を囲まれて酷い終わりを迎えることになる。アーリアは「さあ、皆で『浄め』ましょう?」と微笑んだ。
「貌を晒せば騒々しい状況だ。学園生活の次は肉々しいの連鎖とは面倒極まりない。
彼等が加工される輪郭は滑稽と言うよりも不快と記さねば。兎角――私の成せる事は壁面のみ。相応の體と知るが好い」
オラボナが握ったのは邪剣ホイップクリーム。その甘く優しい香りとは対照的な曰く付き。『畸形心』を抱きし闇黒神話大系(ものがたり)は楽しげに笑い『けがれ』を受け止める。
敗れざる英霊の鎧をその身に纏い、『誰かの好きな御伽噺』を詰め込んだ脳がフル回転する。さて――どうするか。
敵を害する事は無い。神性に偽りなく、不滅であれと己に語りかけ、オラボナは笑った。過ぎゆくというならば過ぎて見よ。ソレさえ許さぬ攻撃がこの肉壁の後ろから飛び込むことだろうと朗々と語り出す。
成否
成功
第1章 第8節
――水臭いよな、ほんとあの二人ってさ。
クロバは小さく笑みを浮かべた。頬を描く。恋人と、その親友。
二人揃って無茶と無理が好きで、互いの為だと剣を握り傷つき拐かされた。
「だが、今は悩むよりも前に己の為す事をする!」
地を踏み締めた。ガンエッジ・フラムエクレールの内部で雷鳴が爆ぜた。轟音と共に、『けがれ』へ放つ封刃・断疾風。鬼気がクロバの髪を、目を、その色彩を変えていく。
唇に笑みが乗った。
「俺は己のためにしか動けなかった。
……奪うしかなかったものも沢山ある、だからこそ俺は背負うと誓った! それが資格に示す為のものになるのなら、幾らでも注ぎ込む!!」
無数の命を背負ってきた。そして、そんな自分が手を伸ばし救いたい相手が居ると、そう足掻いた。
――少しでも良い明日を迎えるために!
「そして大切なものを喪って残った痛みは本物だから、もう二度と繰り返さない!
――俺は、ここにいるぞシフォリィ!!!!」
何度だって、彼女の名を呼び続ける。クロバの傍らより襲いかかろうとした『けがれ』を切り裂いたのは暗器。
「時は来たでござるな。誘拐された仲間を救い、これを反撃の狼煙とするでござる!」
咲耶は殺意を具現化し、ぬばたまの業炎を以て連撃を放つ。怨讐の焔が咲耶のその身を灼こうとも彼女はの足は止まらない。
巫女姫に敗れた。そして敵に仲間を奪われた。今こそ汚名を雪ぐ最後の好機であると――この『希望』を繋げなければならないと咲耶は『荒帝』と『封』を構えた。
「ハロルド殿、シフォリィ殿、そしてアルテミア殿。どうか、ご無事で……。
矜持の為、義の為、己が護りたい人々の為。――己の忍術の全てを奮い紅牙斬九郎がいざ参る!」
黄龍。けがれの向こうに見えたその姿を双眸に映してからリゲルはゆっくりと頭を下げた。
「どうか大切な仲間達の為にお力をお貸しください。
どのような試練であれ、斬り払ってみせましょう!」
『吾に認めさせるが為に剣を振るうが良い。だが、吾はそう簡単には認めぬぞ』
けがれを相手に戦い続ける仲間を背に、リゲルは息を飲む。華奢な女を形作った『神』は此方を値踏みするようにじろりと舌舐めずりをして居る。
「……アルテミアさん、シフォリィさん。ルル家、皆……そしてユーリエ。
ここで失うなんて――皆のいない世界なんて考えられる筈がない」
ユーリエは人々を笑顔にするために頑張ってきたとリゲルは言った。皆が笑う世界に彼女の姿が無いのは許せない。
「これまで沢山助けられてきた……だからこそ。今度は俺が力になる番だ!
想いを剣に乗せ、後には引かない、譲らない――絶対に認めさせてやる!!」
リゲルの眼前に『けがれ』が飛び込んだ。『黄龍』だけではない『霊脈のけがれ』も自身らの敵なのだ。
駆ける仲間を眺めた後、秋奈はにんまりと笑みを浮かべた。
「かすみちゃんもやっと起きたしっ! さぁ、反撃と行こうかっ!
祈るなら今っ! 願いはかなうと! 黄龍ちゃん、そこんとこヨロシク!」
びしり、と黄龍を指さした。姉妹刀をその手に握り、マフラーを揺らした戦神は牡丹の花を散らす如く、天翔る双刃を翻す。世界など遠く置いて、美しい白皙を朱に染め。
「ここでスッキリ、キメておけば、私ちゃんもみんなも仕事が捗るってもんよ!
くっそー! 飛んでいけるなら、ばびゅーんと飛んでってお姫様たちを攫ってこれるのにー!」
お姫様達はアクティブに自分の脚で駆けてくる。エスコートが必要の無い姫君だというならば――足下の石ころは拾って『王子様』への道を開いてあげようと秋奈は小さく笑う。
「シフォリィさん、はやく追いかけてきなさいよっ! ほらほらっ、早くしないと置いてっちゃうぞー?」
成否
成功
第1章 第9節
「さぁさぁ勝負! 胸お借りするッス! 僕は他の神使と違って一癖あるッスよ!」
若葉に、桜。二色を揺らして鹿ノ子は黒蝶の切っ先を黄龍へと向けた。精神を研ぎ澄ます――息を伯は鳥の型。圧倒的な眼力は黄龍の動きを見定めるべく細められる。
『成程、来るが良い。吾に全て出し切るが良いぞ』
言われなくとも、と鹿ノ子は呟いた。余すこと無く誰かを愛したい――その未来(さき)が天国でも、地獄でも、君となら。何処へだって。
その脚に力を込めた。形作るは星の型。降り注ぐ数多の流星の如く。天より落つる幾多の涙の如く。煌めきを重ね続ける。黄龍の腕が持ち上がり、鹿ノ子の刃を受け止めた。
「――一度きりじゃないっすよ! 甘く見る事なかれ」
翻す。二撃目。そして、三撃。幾重も重ねるように。その体に蓄積する痛みなど構うことは無い。
支援の如く包み込んだのは緑の祝福。大気中のマナを使用したフランは淡い光の種をその身に宿し体内の魔力を循環させ続ける。
「一緒に戦って来たみんなが大変……!
みんな大事だけど、アレクシア先輩にはまだまだ教えてほしいことがいっぱいあるもん! ぜーったいみんなをこっちに連れて帰るよ!」
その為に、仲間を支え続けると。大丈夫だとエールを送る。頑張ろうと応援し、背を押すように鹿ノ子を、フレイに声をかけ続ける。
「アレクシア先輩が帰ってきた時に「すごいね」って褒めてもらうんだもんー!」
「ああ。その為に救おう。守り、救う。それが俺の役割だ。
……あの時俺が動けていれば、白香殿で仲間が連れ去られることもなかっただろうに」
唇を噛む。フレイは『白香殿』でのことを思い出す。巫女姫――彼女に敗れた時を思えば、自分も霞帝のように四神に愛される素質があれば良かったのだろうかと羨んでは仕方が無い。そうであれば――屹度と目を伏せる。
「……考えても栓が無いか」
複製肉腫を相手取る。黄龍の試練に挑む者達を遮る者を拒絶するように不例は敵を退ける。純正肉腫が何処かにいる可能性もある。『大地の癌』と呼ばれた存在がこれほどにいるのだから――
「さて……周囲は任せてくれ」
「ええ」
頷いた。竜胆はゆっくりと剣を構えた。周囲に自身らの歩みを邪魔する『けがれ』が存在する。そんな物に構っていられない――全て浄め、勝利を掴まなくては為らないのだから。
「ルル家――あの子の大変な時に私はいつだって手が届かない。
けれど、だからこそ今度こそは貴女の手を捕まえて引き寄せてみせるわ。――絶対に」
彼女が試練に挑むというならば『師匠』が挑まずしてどうするか。竜胆は小さく笑う。
「その為に必要だと言うのであれば試練だって幾らでも越えてみせましょう。
言葉は不要。想いは刃に込めましょう。――いざ、尋常に」
地を踏み締めた。心折れない限りは幾度だって立ち上がれる。後の先から先を撃て、縫い付ける刃は邪三光。その身を反転させれば黄龍の反撃が降り掛かる。
然し笑うはゴリョウ。『黄龍』――神と呼ばれしその存在の一撃を経験できると言う喜ばしい機が巡ってきたのだ!
「『黄龍』殿の試練、その一撃を経験することが出来るってわけだ!
タンクとしての技術を上げていくためにも、ここはちょいと一発殴られに行ってみますかねぇ!
どんだけ耐えることが出来るかってのも一つの指標ってわけだ! 勉強させてもらうぜ!」
『その意気や良し』
「だが、聞いてくれ『黄龍』殿」
ゴリョウはにやりと笑う。腹をぼんと叩き、その足下さえも揺らがす一撃を受け止めて。
「ハッキリ言おう。俺ぁ一人だと弱い!
タンクとしての役割を特化してきた以上、この技術は防御に特化して攻め手は零に等しい。
故に一人じゃ単純にボコられて終わりだ。ただの木偶の坊だな! だが! それでも、それでもだ!
この技術を極め続けることによって他のイレギュラーズが気兼ねなく攻める『時間』を得ることが出来る! ――そういう豚も居るってことを示してやるぜ!」
「ああ。ならば攻撃は私が担おう」
刃がひらり、と泳いだ。黄龍と『友人』になって力を貸して貰う。その友情に戦が必要だというならば処刑人はそうするだろう。眸を煌めかせ、『心』を探すように囁いた。
「私は嘘つきで人殺しの処刑人だ。隠しも否定もしないよ。
だけど共に戦った奴らが帰ってこないのはなぁんか寝覚めが悪いし。都に気に入りのお団子屋さんがあるから平和でいて欲しいわけ」
友人に語らう様に。シキはそうと刃を向けた。斬り合いの中で芽吹く友情だって在るはずだ。
「理由になってない? ふふ。どうだろね。自分でもわかんないや。
そんじゃま、気が向いたら君の話も聴かせて。友達になるってのに、黄龍のこと全然知らないしさ――私の名前はシキだよ。…さて、勝負願おうか」
成否
成功
第1章 第10節
四神の伝説に麒麟の話。それこそ、御伽噺のようなものであったと鬼灯は小さく笑った。
元いた世界でよく聞いた伝説の一端に触れることが出来るとなれば『黒衣』として名誉であると心を躍らせれば、その腕(かいな)に抱かれた小さなプリンセスは本陣で待っているわと小さく笑う。
「でも麒麟さんと遊べるのはまだ先なのだわ、頑張るのだわ!」
「鬼灯殿、姫君はどうぞお任せを」
晴明は特等席を用意したと帝の傍に章姫をちょこりと座らせた。「俺の膝でも良いが」と揶揄う帝に晴明が溜息を交える。
「ならば、章殿、見ていてくれ――懸命に抗う役者の為に黒衣は影を」
『けがれ』を払うが為、大切な者の為に戦う鬼灯の背後より柳のようにすらりと前線へと飛び出したのは沙月。
「そそぎさんのことも気になりますが……今は連れ去られた人の退路を確保する方が先でしょう。
信じて待つしかないのが悲しいところですが……今できることをやると致しましょう」
黄龍の霊脈を阻害する『けがれ』の中から飛び出した妖は腹を空かせたようにぐるると喉を鳴らす。
「人影が多く食事の時間と勘違いでも?」
目を臥せった沙月はだらりと腕を落とす。一見すればその姿勢は無防備だ。大口開けて飛びかからんとする妖へと叩き付けたは動作をおも思わせぬ雪村の防衛術。
「生憎ですが、食事になっている暇はありませんので」
「お食事の時間? いいえ、違うわね。さてさて、大変な事になってしまっているの。
わたしの向かった方でも鳴が浚われてしまったし、帰還の為の手伝いなら張り切って頑張らせてもらうのよ」
霊脈の浄化ならばと胡桃は兎にも角にも悪いモノを『探す』が為に『こやんぱんち』を放った。周囲に相手の数が多い――ならば、ふぁいあすと~むを以て炎の旋風で包み込み、飛ばし続ければ良い。
「彼方に濃い靄があるようなのよ」
「……靄、ならばその辺りに邪気が存在するのだろうか」
鬼灯に「固まって動きましょう」と胡桃は提案した。アムネジアワンドをぎゅうと握りしめたアンジェリカは霞帝の防衛が十分であるかを確認する。
「試練へ挑むことも重要ですが、此方も人は必要でしょうから。
皆さんならきっと彼の存在にも認められると、そう信じています」
「ああ。此方は大丈夫だ。『邪気の靄』にも対応を願う」
「はい」とアンジェリカは頷いた。幼い少女のかんばせに、微妙に乗せた会社員の哀愁がどこか親しみを覚えさせる。鈴木 学(アンジェリカ)は「行きましょう」と静かにそう声音を乗せた。
胡桃の炎が浄め祓うのを支援し、沙月とアンジェリカは攻撃を展開していく。逸る心を抑え、仲間達を癒やすエリザベートは唇を噛みしめた。
ユーリエ。
その名を呼ぶ。彼女がここに居ない事を悔やむように頭を振った。
――ユーリエを取り戻す為にはここをどうにかしないといけない。
その掌から溢れた。握りしめた掌が離れたことを許せないとエリザベートは何度も繰り返した。
今の敵意と殺意は全て投げ捨てた。そんな状態で周囲を浄められるはずが無いとエリザベートはそう、認識したからだ。
「私は吸血鬼。精霊であり鬼でもある。
同じ好とはいわない。私の愛するものを救うためにあなたに協力してもらう。私の大事な、愛しい、ユーリエを私の手の元に――」
純粋な愛情だ。それが浄く無いとは言わせない。
――帰ってきて。
襲い来る妖を受け止める様にその身を滑り込ませた沙月。一歩後退する妖へとアンジェリカの魔術が飛び込む。
鬼灯が手繰るように『けがれ』を切り裂けば、溢れる正気を胡桃が燃やす。その姿を見て、エリザベートは唇を震わせた。
――帰っておいで私の元に私の手の内に。
抱きしめてあげる口づけをしてあげる愛をささやいてあげる。
だから、愛しのユーリエを。どうか、どうか。ここへ。
成否
成功
第1章 第11節
「あらあらまぁまぁ♪ 首がたくさんね♪ これらを刈れば皆が帰って来やすくなるの? ふふ~ん♪ お姉さんにまかせなさいな♪」
にんまりと微笑んだのは斬華。その手にとるは『首を刈った涯て』に辿り着いた到達点。振り袖揺らしてうっとりと『けがれ』の首を刈り取り続ける。
囲まれないように留意して、放つ『決戦首刈術』。究極の脱力状態より放たれるは無形の斬撃。楽しげな笑みはますますその心を躍らせた。
「首が無い? またまた~♪あなたは首でしょう?」
それが首だろうが首では無かろうが。関係は無いのと微笑むように斬華は無数に攻撃を重ね続けた。
「捕われた人たちを、助ける力になりたい、です。わ、わたしにも、出来る事があるはず」
メイメイは黄龍の護符をぎゅうと握りしめる。一人だと押し潰されてしまいそう――だから、皆と一緒ならば。
小鳥と共に周囲を見張る。メイメイは継続して戦えるように仲間を支援すると首を刈る斬華に迫る首なし『けがれ』へと妖精を放った。勇敢なる牙は畏れ慄けと口をあんぐり開けて『けがれ』を蝕む。
周辺情報を共有し、湧き出る敵に囲まれ退路を喪わぬように、呼び掛けるメイメイの言葉に小さく頷いてマギーは二つの銃をその手に握る。明けと宵。美しい夜明けに飾った銀梅花と黄昏空色に踊る星月草。その二つをそうと向け妖を打ち抜いてゆく。
「新参者の身ですが、今は少しでも手が必要な時。いま力を振るわないで、いつ振るうというのでしょうか!」
微力ながら、と宣言し放たれる葉精密な射撃。精神力に優れ、熟練の技で妖の接近を許さぬ様に――幾度も幾度もマギーは弾丸を放ち続ける。
(ああ、そうだ。攫われたあいつを……皆を助ける為なら、何だってしてやる)
ウィリアムは唇を噛んだ。悔しかった。護れなかった自分が、何よりも、追い縋れなかった結果が。
危険を顧みず戦った仲間達に自分が出来ることが何かあるはずと、そう願っていた。
魔術師は誰の運命をも逃さぬようにその指先で未来を手繰る。『エタンセル・エトワール』――激しく瞬く星の輝きを力に変えて。ウィリアムは幾度も妖のその行く手を阻害する。
「もっと力を高めなければ。智慧を磨かなければ。心を鍛えなければ――そしてそれを十全に活かす経験を積まなければ! 要は――これは修行でもある、って事だ!」
修行を重ねれば、皆が戻ってきた後に『災厄』を叩けるはずだ。今の自分では、また見過ごすのかもしれないと思えば思うほどに悔しさが煮え滾る。
「頼むぜ皆 俺ぁ今回アッチだ」
夏子はそう呟いた。視線の先には『黒狼隊』がいた。ぐ、と掌に力を込めた。
分かっている。男もんんあも関係なく、思うことがあるから戦っている。メイメイが、マギーが、誰かのためと願うのも、沢山の首を刈る斬華のその鮮やかなる手腕も――悔しいともがくウィリアムも。
誰もが思うことがあって此処に立っている。やれる力があるからこそ奮っている。
理解している納得している飲み込んでいる――護られることだって在るし、頼りにだってしてた。
「理屈じゃ理解してるけど――」
夏子はダメだと叫んだ。
女性を守れず目の前で――2人も攫われたこの事実だけは!
「納得する訳にゃいかねんだよっ!!」
拳に力を込める。果てない栄光に包まれたグロリアス。全力丁寧横薙ぎ払い――そして注いでのように爆音と光が周囲を包む。
無数の汚れの中で、楽しげに刈り続ける斬華に、周囲の情報を共有してくれるメイメイが居る。内漏らすこと無く、全てを狙うマギーの後ろで星の魔術に語りかけるウィリアムがいた。
『けがれ』は一つ余すこと無く刈り取ると夏子は幾重も幾重も攻撃を重ね続ける。
「帰ってこい……っ! ココに居るぞぉっ!」
成否
成功
第1章 第12節
「あの戦いにおいては、俺も目の前で仲間が拐われてしまった。他のいくつか戦場でも、そうだったと聞く。
……彼等を助けるために、少しでもできることがあるならば。俺は迷わず、この筆を取ろう」
大地は静かな声音でそう言った。彼等を助けるべく、幽世に揺れた花の気配を感じ取る。
言ノ刃は誰かを奮い立たせる。羽ペンは『けがれ』へ向けてその言葉を刻み込んだ。
激しく瞬く神聖なる光。ソレこそ邪悪を裁くかの如く、大地は『けがれ』を睨め付ける。
「俺を誰だと思ってル? 死霊術師を舐めんじゃねぇゾ。
ほラ、隠れてるお前モ、フラフラしてるお前もかかってこいヨ」
脱出の手引きを、と。求められたならばエマはこなしてみせるべく、ひっそりと忍び足。息を潜めて華麗なる参上を――気配を隠しその姿や今は闇の中。
(知ってる顔も一人か二人捕まっちゃってますし、ここは頑張らせていただきましょう!
とはいえ、私はあまり戦いは得意ではないので……まずはどさくさに紛れて身を隠し、戦場を嗅ぎまわってみますか。情報精度も怪しいですしね)
襲い来る『けがれ』が存在すれば、その道中も危険に満ちる。『ルート』の周りを確認し、五感を駆使して危険を察知する。足音立てずひっそりと――そして、帰路を塞ぐ『けがれ』へ向けて放ったのは暗殺剣。執拗に絡め取る我流の暗殺剣が深々と突き刺して、またもその気配を消した。
「蛇と霊と呪殺の被りパーティ再びですね。
私、知ってますよ、回復専門ですって顔をしてるカティアさんが、ごっついBS攻撃魔法を覚えてることを……」
揶揄う用に失蟹告げたセレステにカティアの表情が歪む。蛇霊林檎と自身らのチームの名を掲げれば、カティアは「どうしてこんな名前なんだ」と呻く。
「『神殺し』か。確かに神の力でも借りなければ、そうそう成りはしないだろう」
悩ましげに呟くアーマデル。その様子をまじまじと見ていたカティアは呪いに対抗するために呪殺。何だか不思議に思えるけれど、と首を傾いで、はっと思い出したように「晴明」と彼を呼ぶ。
「……何でもするとか言っちゃダメだよ?」
「何故――」
「何でも!」
駄目、と注意するカティアにアーマデルとセレステが顔を見合わせる。神と言えば自身らとて信仰者だ。アーマデルは『死神』を、セレステは『蛇神』を信奉する其れ等のことを思えば其れ等が『反転』することもあるのだろうかとトークの内容は明後日へ。
「ところで全然関係ないけどうちの神様、邪神じゃないからな。語ると長いから、詳しい事はまた今度な」
「うちの蛇神さまだって邪神じゃないんですよ。
昔はちょっとやんちゃだった事は……もしかしたらあるかもしれませんけど、ご先祖様の観察日記にはそういう記録ないんですよねえ」
そんな会話を交えながらアーマデルは呪術と言えば関連する霊や怨霊が存在するだろうと蛇鞭剣を撓らせた。
「彼らが往くべき所へ還れるように、という気持ちもあるな。
勿論、今はここに居ないイレギュラーズが、待つ人の元へ帰れるようにとも」
願わくば、誰もが迷うこと無く帰れるように、三人は連携を取る。悍ましき悪意の霧で妖を絡め取ったセレステの傍らでアーマデルがとどめを刺すように剣振るう。加護を与えたカティアは自身立つ限りは戦場は指揮してみせるというように戦場を支配した。
襲い来る――『けがれ』の数はまだまだ多いか。三人は『戯れ』るようにして、その刃振るい続ける。
成否
成功
第1章 第13節
\晴明さんがあっという間にやってくれました!/
そう言った希。高天京の闘いでは自身が参上することは緊張を伴った――けれど、今ならばとやる気を溢れさせる。
この数を相手に取るとなれば、どんなに人を集めても事故は起りかねない。相手は『無尽蔵に沸いてくるけがれ』なのだ。防衛と、そして遊撃を兼ねて無鉄砲に戦う中で要となるべき霞帝が気がかりだと希は「晴明さん!」と名を呼んだ。
「一夜城は無理だろうけど、何か土の壁とか柵みたいなのできないかな手伝うよ、晴明さん。霞帝を護る為」
「承知した」
承知された、と希は大きく頷いた。本陣にも防衛柵を設置する用意を調える中で、逢華は体制を立て直すべく撤退してきた仲間達を癒やす。前線にいる仲間達を、そして、この場所まで一時的に戻ってきた仲間達を――皆が無事に笑っていて呉れるように。願うように福音を授ける。
「――だってそれが、医療班である僕の役目だもの!」
「ああ。必要な事だろう」
逢華に大きく頷いた霞帝。神威神楽では言霊は大事にされているとそう聞けば、言葉にするのは大事だ――そして、それが『願い』に、『祈り』に通じるのならば。何度だって口にしたい。
「早く、はやく無事に帰ってきて、僕らの大切な仲間たち」
話したことがなくても、会ったことがなくても。
――貴方たちは僕の、僕らの大切なギルド『ローレット』の仲間なんだ!
「ミンナ 心置キナク 戦エルヨウ フリック 頑張ル」
フリークライはずん、ずんと前へと進む。大地も、精霊も、そのけがれを祓ったならば元気を取り戻す筈だ。だからこそ、仲間達を支えるべく『ルート』を浄める仲間へと声掛ける。
「此岸ノ辺 大地 植物 建造物 全部 要素 大事 ダッタ。
大地 植物 癒ヤス 龍脈 浄化 精霊 元気 足シ ナル?
……ン。タダ フリック 見過ゴセナイカラ トモイウ。
敵 沢山 理解シテル。デモ 合間 合間 戦場 汚レ 余波 元気ナイ 草花 手入レ スル。癒ヤス」
癒やす。穢れ祓う。それこそが必要な事である。野に咲いた花も、揺れる草木も罪は無い。
ソレを癒やし救うことこそが必要な事なのだ。
「なんだか霞帝様や四神様が目覚めたらしいですけれど、やるべき事はいつもと変わりませんね。
思いっきり、敵を叩いていきましょうか! 私も一人の獄人、この黄泉津は守りたいのですから!」
今日は吐血もちょっぴり控えめに。孤屠は何もかもを駆逐するための武器をぎゅうと握る。
力過疎パワーであると、怪物の如き破壊力を伴って、何時もの如く『けがれ』を祓う。その導線――複製肉腫が揺らぎ、存在する。ならば純正も何処かに存在するだろうと孤屠は探すように見回した。ああ、だが『戦いたいならばあちらから』来るだろうか。
「さ、誰でも来てください。ただし、私の前に立って無事に済むと思わないで下さいね。……私の槍は、強いですよ?」
飛び込む複製肉腫を打ち抜いたのはシラスの遠術演算法。思考の一部を自動演算化し、魔力を簡便に遠くへ遠くへ届け続ける。並列処理を走らせて、自身のその身の内で完成度を向上させる。
「自凝島の皆はきっと今も戦っている。必ず援護してやるからな」
様子見の挨拶はこんな所かと探し求めるは純正肉腫。何処に何かが存在するか――そう周囲を見回すシラスは少しでも尻尾を掴んでやるからと歯を食いしばり、『仕留める』ために目をこらす。
『けがれ』の靄――濃いその内側で誰かの泣く声がする。ソレが、何であるのか。確かめるには少しばかり体制を整える必要がありそうだ。
「『道を阻む悪を貫く愛と正義の光閃! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』」
びし、とポーズを取ったのは愛――こと『魔法少女インフィニティハート』
『S.O.H.II H.T.』を構え、ゆっくりと目を伏せる。そう、全ての道は『愛』に通ずるのだ。
「……さて、この道は囚われた皆さんを救うための道、いわば黄龍さんの愛の道です。
それを愛なき化生が踏むということは、愛の威力を思い知りたいということなのでしょう。
魔種・肉腫の別なく、その邪悪な心臓(ハート)に風穴を抱いて帰っていただきましょう」
びしり、と指さした。最大火力を放つように。放て、魔砲 type.D!
魔法少女の進化に終わりは無いと『新世代』の魔砲を放ち続ける。周囲を蹴散らせて、その想いに魔力を乗せて、邪悪を打ち砕き続ける!
成否
成功
第1章 第14節
――たくさんの人を死なせてしまった。ティスルさんも誘拐されてしまった。
また目の前で誰かが死んでしまったら。この手が届かなかったら……。
アイシャの目の前は昏くなる。恐怖で、可笑しくなりそうだと唇は白く、震えが止まらない。
「行こうか」
アイシャへと静かに声を掛けたのは汰磨羈。ファミリアーで先行する鳥は全ての情報を統合し、『矛』として馳せ参じるための力を与えてくれる。
「……血の赤も、脳を揺さぶられるような絶望ももう味わいたくないのです」
「そうだな」
「だから、だからこそ、私は――唯一の術(すべ)に私の全てを懸けます。
倒れるまで癒やし続けるのです。待っていて下さいね、ティスルさん、帰路をお作り致します!」
アイシャは乞うた。未来を願うように指を組み合わせ、汰磨羈に背を押されてその命の息吹を広めてゆく。
――お願い。何度でも守らせて。目の前の命を、未来を、繋ぎたい……!
指揮官なる汰磨羈は冷静に黒子へと指示下す。防衛線の構築状況、周辺戦況、敵戦力の特性を確認し居続ける。
「黒子、どうする?」
「一先ずは進みましょう。近傍の地点を優先的に支援先し、トリアージを実施するのです」
頷く。黒子と汰磨羈の二人が司令塔となり、指示を行うその声を聞きながらアシェンは鋼の驟雨を降らせ続ける。
「助けたい気持ちはあるのだけれど、私に何ができて、何をするべきなのかなって。
そう、考えるとその手で大事な人を助けに行きたい人に道を作ってあげることなのかしらと至ったわ!」
劣勢へと乗り込むならば状況を整える時間が必要だ。複製肉腫がぞろりと顔を出し続ける。汰磨羈と共に切り込む用に進むアシェンはくすりと笑う。
「まだ幕は上がったばかりなのだわ!」
「ああ。だが、此方の優勢は変わることは無い――!」
二人が前線での戦線構築を行う中、鶫はゆっくりと息を吐いた。周囲には無数の『けがれ』。それらの特製は様々なのだろうが唯一共通しているのは此方に対して敵愾心を抱いているという事だ。
「これは選り取り見取りですね。では、盛大に頂いていくとしましょうか」
ゆっくりと囁くようにそう告げれば、メイド服がはためいた。雷が轟き肉腫を穿ち続ける。
魔性の矢で狙い穿つ鶫のその背後で、冷静に周辺分析を行い続ける黒子は「進みましょう」と淡々と続ける。
威力偵察を図るモノ、防衛線の補強を行うモノ。この戦場では何を優先するか、取捨選択も必要だ。黒子は生存を優先し、その防御こそ最大の攻撃と言わしめるかの如く戦場に立っていた。
闘いの教本たる彼による統率を受けながら、汰磨羈はその目でしかと『前線』の確認をし続ける。
(邪魔な敵はまだまだ数多いが――大本営までは到達しないか。
それとも、純正肉腫や魔種は『一斉攻撃を受けたくないからか穢れの濃い場所』に止まっているのか?)
切り込み役を担う汰磨羈は「何にせよ」と小さく呟いた。
「あの向こう――『けがれ』の靄野中に到達しないわけにはいかないようだな……?」
そう呟いた汰磨羈へとアシェンは小さく頷いた。「行くのならば共に」と囁くその越えに合わせ、背後から飛び込む鶫の雷。
「戦線をしっかりと構築し、靄へと進むために周辺へも声かけを行いましょう。決して単独での攻撃はしないように……」
彼女のその言葉に誰もが頷いた。あの場所は――危険だ。
成否
成功
第1章 第15節
「ついに帝が目覚めたか。一転攻勢と言ったところだな。
しかし足場が悪くては思わぬところで躓くこともある、てな。
これだけの大人数で連携するのは絶海を思い出す。工兵としての腕の見せ所だな?」
に、と小さく笑ったのは錬。工兵たる自身のその能力を生かして陣地構築を行う錬は霞帝や『黄龍』との試練を続けるイレギュラーズを囲む防衛陣地を作成することとした。ここが豊穣の大一番、ならば出し惜しみもなしだと準備を続ける彼の傍らで馬が怯えたように嘶いた。
「この大儀式、どれだけ長丁場になろうと成功させてみせるさ。その準備のためにも力を貸してもらうぞ」
頑張ってくれ、とその背を撫でる。リサは「本領発揮っす!」と腕まくりをし、メカニックとして陣地の構成に一肌抜いた。攻撃は皆に任せ、仲間を護る為のバリケード。
茨の即席バリケード、そして土を削って敵を迂回させるためにと即席陣を展開し続ける。
「少しでも役に立てばいいっすけど……」
「ああ。霞帝、つづり、晴明……それから『黄龍』と戦うイレギュラーズを護らねばならない」
襲撃してくる敵への防衛と排除を目的とした陣地構成を行いながら、その最中に襲い来る敵を十七号は全て引受ける。
リサと錬が作業を行っているその様子を支えるべく――ルスト・ウッシュは錆び付くこと無く強き色を宿している。
触れる者は皆傷つける。攻防一体の構えを取って、粘り強く頑健なるその身を生かし防衛を行い続ける。その耳は襲い来る敵襲を逃すことは無い。
「わざわざ現地に行かなくても、脱出の支援ができるというのは良い事だね。
僕のできる範囲で少し――いや、今回はかなり頑張ってみようかな。新道……お店の常連さんも捕まっていると聞いたしね」
小さく肩を竦めるシルヴェストル。魔術知識を生かして、その身の内に溢れる神秘は万能に通ずると言わんばかりに高まり続ける。夜侯の矜持を胸へと頂き、シルヴェストルが降らす雷の中で、リサは懸命に作業を進めた。
「仲間、危。支援、当然。頑張」
仲間が危険ならば。支援は当然だとシャノは確りとそう言った。タクトを奮う。古き精霊が用いた防衛術式に身を包む――錬やリサが陣地を形成するまでの時間を、と稼ぐために放ったのは意志の衝撃波。虹色の軌跡を残す小さなリリカルスターが舞踊れば、その敵全てを十七号が受け止める。
受け止める十七号に任せ、一つ一つと敵を払いのけるように尽力するシャノに合わせるようにシルヴェストルが露払いに飛び出せばメルランヌより小さく声が掛けられる。
「彼方ですわ」
白鳩のチョークに鴉のタール。襲い来る敵影を見つけて小さく泣いたそれと意思を疎通する。その声が『気をつけろ』と告げていることもよく分かる。
「逆転、攻勢、いい響きだわ。反撃の時です。何としても道を開いて――囚われの方々を助けましょう!
とはいえ敵側がどう攻めてくるか情報が少ないのも事実。この場合、情報を集めるのも攻撃の一つ。違って?」
「ああ。頼んだ」
十七号に小さく微笑んで、メルランヌは「さあ、鳥の皆様。調査を手伝って頂戴」と声掛ける。
「報酬はそうね、沢山の米で。晴明様に後で用意してもらえるか掛け合うわ」
「晴明……そうか」
はっと気付いたようにシューヴェルトは晴明の元へと駆け寄った。陣地作成のために尽力する仲間達のために人員が欲しいと晴明へと打診する為である。
「晴明、悪いが中務省のほうから人員を出してほしいのだが大丈夫か?」
「……済まない。余りに人員を大々的に動かせば巫女姫側に気付かれる可能性もある。
神使の皆が自由に行動していても何の咎めもないが『扇の一枚』が動き始めれば――」
首を振った晴明にシューヴェルトは「そうか……」と呟いた。それは理にかなっている。中務省はナナオウギを離脱したとは言えども神威神楽の省庁の一つである。
晴明本人も手伝えはするが、現状霞帝の側を離れるのは控えたいとシューヴェルトに幾重も重ねての謝罪を行った。
「仕方ないな。中務省は『巫女姫』や『天香』側に気付かれないようなカモフラージュが必要だ」
静かに息を吐いた。交渉術を用いていたラダへと晴明は「中務省ではなく、村人との協力であれば繋げるであろう」と提案した。
「村人?」
「ああ。英雄殿達は皆、祭りを――そして京を護ってくれた。帝もお目覚めに成られたのは偏に皆のお陰であろう。ならば、手を貸して呉れる筈だ」
だが、彼等はそれ程に迎撃などに早くに立たない。資材の調達が必要ならば声を掛けてくれ、との提案にラダは小さく礼を言った。
「さて、まずは後顧の憂いを断つとしようか」
アンティーク趣味の欠陥ライフルを構える。振らせるは鋼の驟雨。プラチナムインベルタ――確実な『死』を与えるべく無数の攻撃が降り続ける。
「資材ならお任せあれ!」
そう告げたカインは儀礼剣を翻しこんなこともあろうかと、と用意しておいたと小さく笑う。
「どうやらまだまだ動乱は落ち付きはしないみたいかなー……息つく暇もないとはこの事かってね。
まぁでも、此の地の平和の為だ。もう一頑張りしてみようじゃないか!」
地を蹴った。冒険者としては工兵の真似事くらい出来るはずだと、陣地を警戒する者達を罠に掛けるように『『霊亀』の気配』を吊るし近寄ることを拒む。
「準備万端整えて、敵さんをお出迎えしてあげようじゃないか!」
その言葉に大きく頷いたのはイナリであった。しゃん、と身につけた髪飾りを音鳴らし目を伏せる。
「連中の思い通りにされるのも癪だわね……。
思い通りに事が進んでいると思っている連中に目にもの見せてあげましょうか!」
鉄条網を張り巡らせる。イナリはファミリアーで警戒を怠らずしっかりと周囲の確認をし続ける。
「全く、一途なことは良いけれど、ソレばかりでお留守になれば、というのは身に詰まされるわね。
まあ、その方が此方はいいのだけれど――!」
二種の結界を自身のその身に下ろした。魔力障壁に破邪の結界。それらが有象無象を祓うように、その結界が砕け散るまで、異界の神を下ろし踊るように妖を受け止め続ける。
イナリの眸がちかりと光る。鋭利なる獣の爪牙を見くびる勿れ。
「俺ァ豊穣生まれですし、霞帝にゃ良い印象あるんで。
じっとはしてられねぇっすわ。それに、呪いってのはロクなもんじゃない……そんなのやらかす奴らの、思い通りにさせるかってんですよ」
彼は獄人と呼ばれる種である。迫害を受け続けた種なればこそ、霞帝への好感度は八百万に対するよりも高い。だから――否、それ以上に、この国を害されることが気に食わぬと慧は十七号とイナリを癒やすように問題を消し去り行動力を与え、進め、支援能力を持ってその身を軽くする。
頭で拗くれた角も、流れる血も、呪いと呼ばずに済む国ではないが――それでも、この国が『呪い』に支配されることを黙っては居られるわけもない。
怯えるような植物の声を聞く。慧は「大丈夫っすよ」と小さく小さく声を掛けた。有刺鉄線を張り巡らせた。誰もこの最奥には進ませはしないため――サポートとして陣地を作成する慧の支援を受けながら、迫りくる『けがれ』の状況を逐一伝えるメルランヌが「気をつけて」と声を張る。
「成程、こうも陣地が出来たならば相手も『興味』がでたか?」
十七号は小さく笑う。さあ、ここからが迎撃戦だ。ここから先には通す無かれと武器を向ける。
幾重もの攻撃が雨霰のように重なり続ける。『神使』は自身らの護る為に、その力を抜くことはしない。
成否
成功
第1章 第16節
「成程」と悠はそう言った。目を伏せて、肩を竦める。態々霞帝を眠りに着かせて天下を得たというのにその国力を削るのは愚策では無いかと感じていたからだ。
「納得。わざわざ乗っ取った国で、国力を削ぐような事していて不思議だったんだよ。
思惑もそこそこ見えてきたところだし、お礼参りといこうじゃないか」
本拠地に座する悠は霞帝の支援をと『形状可変式具現表出型攻勢領域』を用いて、陰と陽を司る。
「神を讃え、汚れを祓うのは古来より唄や音楽の役目だからね」
朗々と歌い給えと口にするが如く。特殊な技能ではなく、存在に付随した防衛機構で解析し、世界に合わせて調律する。
「センスがあれば一句詠みたかったんだけれどね」
「成程? それじゃあ、お嬢さん。頑張る帝に一句頂けないか」
揶揄うような声音の霞帝に悠は「ふむ」と小さく呟いた。「霧払い 穢土を流すは 天の川――うん、微妙」
歌はこの様な戦場以外で頂きたいものだと笑う霞帝には晴明の注意の声が飛ぶ。
くす、と小さく笑う。ハルアは霞帝にありがとうと視線に込めて、前線へと翔る。複製肉腫は助けられる。純正肉腫は『そう在るように生まれた』けれど――複製は、感染しただけだ。
だから。
ハルアはそのことを思い出す。地を蹴った。救いのために勇気を灯す輝く光。
「あなた達を助ける為に神使のボクも頑張るから、あと少しふんばって!
体が乗っ取られてても、この声は聞こえてるよね! 聞いて心で頷いてくれること、ちゃんと力になってる! 頑張ってるの、ちゃんとボク知ってるから、ボクを何度傷つけても良いから、あきらめないで!」
励ましの声を聞きながらつつじは風鷹剣『刹那』を握り、多段の牽制で複製肉腫の行く手を遮った。その体に揺れるは神威之狐面――この地の者たちとの親和性を高めた『化かす』面の下で悔しさが滲む。
「高天京での戦いでは情けないところ見せてしまった。けど、それで諦めたら、死んでしまった人らに顔向けできん。落ち込んでる暇があったら未来のための戦いに赴かんと……!」
『カキケシ』は、『オシツケ』は、ソレを思い出しながらもつづじは首を振った。
「足の速さにだけは自信あるんや。自凝島に囚われてる皆も、ここにいる皆も、きっと誰も足を止めない。
――それならウチも全力で走るだけ。せっかく生まれたチャンスなんや、最大限に活かそうな!」
「うむ!」
大きく頷いたのは百合子。『美少女』は成程成程と大きく頷いた。
「ふむ、麒麟へと力を送るための線、であるか
まぁ細かい事は分からぬが、今は邪魔ものを片付ける者が必要なのであろう?
さすれば、吾の使いどころというもの! 今園殿の目もカッ開くほどのほどの美少女っぷりをお見せしよう!」
堂々と宣言する百合子を指さして霞帝は「セイメイ」と自身の侍従たる青年を呼ぶ。
「美少女、とは彼女の美しさを言い表しているわけではないのか」
「百合子殿は『美少女』と呼ばれる種族であると存じますが――如何なさいましたか?」
いや、と霞帝は小さく笑った。成程、『美少女』と言えば美しい女の子を想像したか。意味が違うとくつくつ喉を鳴らし「期待して居るぞ、美少女殿!」と応援の声一つ。
「うむ。……浅からぬ縁も出来てしまった場所である。
少しばかり役に……否、命ある限り全力で駆けるが美少女作法よ! ゆくぞ!」
翔る百合子を支援するようにラクリマは煌めく空の魔力を称えたグリモアを手繰った。自身に物理攻撃を遮断する魔力障壁を張り小さく息を吐く。
賛美と生け贄と祈りの唄を――髪に捧ぐ賀のように蒼き剣を天空に作り出す。
「全ては仲間を救うために! 黄龍の霊脈を阻害する敵を仲間と共に全力で打ち滅ぼしましょう!
――この蒼き魔剣オスティアスに貫けぬ物はない!」
咲き誇る薔薇が如く蒼き剣が『けがれ』を突き刺した。仲間達を支援するのは永遠と光の聖歌。
金の髪を揺らして静かに声を響かせて――透き通った氷杖を揺らめかす。
夜は、未だ長い。けれど、この歌は途切れることは無いのだから。
成否
成功
第1章 第17節
「さてさて、出来うる限りの力はお貸ししますよ。
今は自分のような悪党でも貸せる手はありますので」
バルガルは眼鏡の位置を正してそう言った。にんまりと笑みを浮かべる彼は脱出を支援するための『けがれ』を祓い続ける。有象無象の中には伽藍の骨や身が窶れ萎れている相手も存在していた。大漁の怨霊――百鬼夜行の様相ではあるが、バルガルはソレを気にする素振りはない。
「成程。さて、倒れて頂きましょうか」
その一撃は必殺と呼ぶに相応しい。背後に回り込み一撃を加えて、離れていく。
がしゃりと落ちた体。その様子を眺めながらヨゾラはホワイトハープを奏でた。
「魔種やら肉腫やらには割と怒ってるけど、霞帝さん達には協力したい。
四神も黄龍も麒麟も興味あるし、力を発揮してほしい……まずは脱出路の確保からだね」
放つは雷。ヨゾラにとって猫は愛でるべき存在だが、今日と言う日は猫の妖が飛び出そうとも容赦はせぬと攻撃を重ね続けた。
「邪魔するなら可愛くても倒さないとなんだ、ごめんねー」
例えどれ程可愛くとも容赦をすることはない。冒険のスペシャリストは周囲へも気を配る。仲間達を巻き込まぬようにと気遣い、落ちる雷を追いかけて、祈りの声が響く。
長く美しい髪を揺らしたエルシアはただただ、祈り続ける。力なき筈の祈りであれども、運命を手繰り寄せることが出来るはずだと――そう信じるように目を伏せた。
魔砲(いのり)が『けがれ』を浄化する。エルシアは唇を震わせた。
「介入を目論む魔種が現れたなら、一矢報いましょう……この先は決して彼らが自在に欲望を満たせる場ではなくて、罪を犯せば相応の酬いを受けねばならない場所なのだと知らしめてやります」
人々が助かりますように、とそう祈った自分はここには居ない。今、願うは人々の安寧は何人たりとも邪魔はさせぬと、誓うが如き尊い祈り。
「私には、それを実現する力がある筈です。
……だって私は、支えはありましたけれど最後は自身の力で、母を――魔種を退けたのですから」
誰を支えることをスティアは得意としていた。それでも、支えきれなかったことを悔やむ。目の前で攫われたアレクシアとルクト――あの時、止める事ができていたならば。
唇を噛んだ。起きてしまったことをもう一度、と言うことは出来ない。だからこそ、『次』の準備を今、行うだけだ。
「今度こそ力になれるように……全力で頑張るんだ!」
聖域の中で、終焉もたらす氷結の華が散ってゆく。命は花弁、儚くも美しく――そして無情に揺蕩う様に。
想いを糧に力を得る。無垢なる願いを込めてスティアは決意のように口にした。
「今はどんなに辛くても諦めるわけにはいかない!
捕虜になっている人達の方が辛いはずだから……少しでも手助けをしてあげないと!」
手助け。その言葉に小さく頷いたのはシャルティエだった。豊穣のため、捕まった人のため、そうやって皆が誰かの為と働いている。イレギュラーズも、そしてつづりもだ。
つづりとは一度会ったっきりしかし、シャルティエもそそぎという妹のことは聞き及んでいた。気持ちが通じ合った――その心の影を払えたのに、助けられなかった。それを悔やみ涙を流したであろうつづりはイレギュラーズの為と役目を全うしている。だから、助けになりたい。
――友達になりたいと思った子を『励ます』位、してやりたいとシャルティエはそう願った。
「約束する。皆とそそぎちゃんを助けて帰ってくるって。
そしたらさ、豊穣の話をもっと聞かせて欲しいんだ。二人から!
だから、つづりちゃんも頑張って。きっと……その頑張りに応えてみせるから!」
「……うん」
そうと歩み出たクレマァダは「霞帝殿」と静かな声音で呼んだ。
「つづりが、力不足……? お身内の言葉とはいえ、それはどうでしょうな」
クレマァダの言葉に目を丸くした霞帝は小さく笑う。「君はつづりの事を役不足とは思わないのか」と試すような声色にクレマァダは頷いた。
「俺はつづりは常々友人というものを与えたかった。俺の言葉に否定し、彼女に『信』を置いてくれる者が居ることが、何よりも嬉しい」
「……どういうことじゃ?」
「兄代わり、父代わりに懐いているだけでは巫女は本来の力を発揮できぬだろう」
彼女も鬼人――迫害され心を閉ざした娘なのだから、と霞帝はそう言った。クレマァダは彼の言葉を聞いてからゆっくりとつづりへと向き直る。
「双星の巫女よ。同じ命が、何のゆえかふたつに分かたれてしまった者よ。
お主の焦燥や、傷心や……そういうのは――わかるよ」
「……え?」
「そういうのを今は我慢せよ……などと言わぬ。焦っても、哀しんでも良い。
じゃが、目的だけは忘れるな。お主が生きたい世界の為に、昏い感情すら前に進む力に変えて欲しい」
我は、とクレマァダは――『おねえちゃん』は唇を開いた。からん、と何かが落ちた音、あの日はあれ程、昏い一日だっただろうか。そうと目を伏せてから唇を震わせた。
「我は、救えなかった……いや、気付いた時には全てが終わっていた。
お主は、まだ救える……だから、守れ、かたわれを。
海の彼岸と此岸で、同じ双子の巫女が居た。それは我が嬉しいのじゃ」
――もう、彼女の対は存在しない。その想いを彼女には味わって欲しくない。
『おねえちゃん』が『妹』を見送るなんて、そんな悲しいことあっては為らないのだから。
成否
成功
第1章 第18節
無事に皆が帰ってこれますように。そう願うように蜻蛉は目を伏せた。
「いつか受けたご恩は還す……それが礼儀やわ。
此処で戦う人が少しでも動きやすうなるように、頑張らせて貰います」
願うように――祈るように。いつかの海で皆が共に戦ってくれたように。
せせらぎの音に耳済ます、天上に咲き誇るは蓮の花。扇で纏うその音色が仲間達へと広がってゆく。
心を澄ませ、雲一つも無く空を仰ぐように。蜻蛉には迷いは無い。
「悪い子たちにはご退場願って……早いとこお迎え出来るようにせんと。
覚悟はええやろか? こっちやって、遠路はるばるあの海越えて来たんやから、大事なお仲間、無事に帰して貰うまで容赦はせんよ!」
蓮の花の加護よ、届けと祈り給う。その加護を見に受けて、ハンスはぐんぐんと空を飛んだ。
ハンスが『運搬』するのは何時もの如く『虚刃流師弟』タッグだ。腕に抱えた頼々のその目が届く範囲へと進み行く。
「いくよ、頼々くん! 僕たちの力、思いっきりみせてあげよう!」
「攫われた仲間がたどり着く頃には掃除も終わらせておかんとな。さあ、久しぶりに2人で行くぞハンス!」
今日は君の翼だよ、と笑うハンスに頼むと頼々は僅かに心が逸った。今すぐにでも紫を――頼々が『クソ鬼』と呼ぶあの女を見つけ出したい。彼が苛立つ『鬼』だらけ。その黄泉津であろうとも、その中でも一番に醜悪たるは彼女の行いだとでも言うように頼々は怨敵の右角より虚刃にて抜刀絶技を放った。
無を抜くが故に最速、無を奮うが故に距離の概念など持たず、『けがれ』を害し、誰かの模倣の構えを空上であろうともしかと取る。運ぶハンスは『暴力的な才能』と揺らがぬ思考より生み出されるその流派を支援するように翼として宙を躍った。
「さあ、カッ飛ばすよ! きっと成果を持ち帰るんだ!」
「ああ、行こう……!」
霊脈(ルート)がそこには存在した。だが、『大呪』と魔種による『けがれ』の増加は見過ごすことが出来ない――だからこそ、文は助けられるならば助けたいとそう乞うた。
「集まってくる敵の露払い程度なら手助け出来ると思うからね……」
ぱちり、と瞬いた。霊力を伴う言の葉はびりびりと周囲に毒を響かせた。
「……と、確かに僕は云いましたが。
思ったよりも敵の数多くないかい!? ねえ、これ長期戦になるのかな!? ああ、もう、呪い勝負なら負けないよ!?」
呪いを制するなら毒を以て制する、とでも言うように。「チキンじゃないよ、安全策だよ。被弾を避けて仲間の負担を減らすんだ」と文は言い訳めいて幾度も繰り返した。
「今園 賀澄……あだ名をつけるならやっぱりかすみんっきゅ?」
「かすみん。ああ、そう呼んでくれ!」
一方で、霞帝とレーゲンは『渾名』を付けあっていた。霞帝はと言えば利口で気さくな男だ、という評価がぴったりと当てはまる。神使がそう呼びたいというならばソレを否定することも無いだろう。
「かすみんの事は護るっきゅ!」
「有り難い。然し、貴殿も気をつけろ」
「ありがとうっきゅ! 鳥さんは上空で旋回させて状況確認っきゅ! 靄が在るのは『危ないところ』に見えるけど……」
「ああ――それは『けがれ』が黄龍の神気を帯びて具現化したか、悪しき者がいるかだ。くれぐれも一人で行かぬように」
囁く霞帝にレーゲンは「ありがとうっきゅ!」と大きく頷いた。神使は英雄だ。黄龍との『対話』のために儀式を、そして結界の維持を続ける霞帝は気をつけてと大きく頷いた。
「……これ以上……仲間がいなくなるのを……黙って見ていたくない……。
……そのためにも……いち早く道を作ってあげなきゃ……道を邪魔する存在は……。
退けないとね……こういうことは……今まで何度もやってきたこと……いつも通り……全力で……!」
グレイルは幻狼灯を揺らがせる。手に持てるその間寺は青白い炎と共に宿った魔力で狼たちが具現化してゆく。四大元素を中心にした攻撃魔術を扱う練達の術士は鼻をくん、と鳴らした後、集まる『けがれ』と相対した。
地を走る葉投影魔術。複数の術式を重ねて神秘を纏い走る獣性はその牙を覗かせる。ハティは術式を解放し、一気に『けがれ』を蝕んだ。
それは人の形をしていない物も存在する。獣を、そして、無形のモンスターを思わせる影がぴたりと寄り添うように地を這いつくばった。けがれ――それが何かをイレギュラーズは知らない。
――けがれとは、『誰ぞの嘆きだ』と霞帝は言った。
獄人と呼ばれ、迫害された者達の怨みと嫉み。其れ等が魔種の狂気に触れて呪術を用いた結果、吐き出された悪しき感情。
全ては高天京を包み込み――何れは黄龍等を蝕むだろう。
だからこそ、護って欲しい。
だからこそ――倒して欲しいと、そう霞帝は声高にイレギュラーズへと告げた。
成否
成功
第1章 第19節
「さて、霊脈(ルート)を浄化しその神力を『自凝島』へ届ければ良いという事ですね」
眼鏡の位置を正して寛治の目は周辺を良く見遣る。『けがれ』により発生する妖の合間よりぞろりと姿を見せる肉腫達へと振らせる鋼の驟雨の中で、杖でこつりと地を叩いてやれやれと言うように肩を竦めた。
「捕まっている方々の中には、弊社のクライアントもいらっしゃいます。
ビジネスパートナーへの適切な支援は、Win-Winを目指すビジョンに必要ですからね」
クライアント達の事を思えば、彼女たちを窮地より救い出さねばならない――そして、寛治は大いなる野望を口にした。
――そう、私はまだ最終目標(エンドコンテンツ)である「アレクシアさんをファンドする」を達成していないのですから。
「さー、やれることを頑張りましょー。大切な仲間ですもの、助けなくっちゃねー」
にんまりと微笑んだのは蘇芳。包丁を片手ににんまりと微笑んで嶺渡流料理術を疲労する。
調理場とは戦場。戦場とは調理場。詰るところ、目の前の肉腫――肉とついているから食材だ――も妖も――よく見ればお肉だ――怨霊も――美味しそうなお野菜かも知れない――食材なのだ。
「万事終わって、皆帰ってきたら、皆でご飯にしましょー♪
たかがご飯、されどご飯、かけがえのない日常よー。
……そう、大切な『毎日』のためにねー。その時は、帝さんもみんなで笑い合いましょうねー」
ふと、蘇芳に声を掛けられた霞帝は「ああ」と小さく頷いた。かけがえの日常、大切な毎日、その言葉に僅かな憂いが浮かび上がる。
(何を憂うのか……この国の行く末か? それとも――)
アルムは魔導演算器を手に重苦しい空気に肩を竦めた。
「聞いたよ。何人かのイレギュラーズが敵方の手に落ちてしまったと。
脱出支援に人手が要ると聞いて、慌ててカムイグラまでやってきたけど……なんだい、ここは……
開けて明るい場所だというのに、随分と淀んだ空気を感じる……嫌な雰囲気だねぇ」
それは『大呪』で蓄積した結果だろう。浄化し続けていた霞帝の結界に亀裂が走ったことにより隠しきれない邪気が当たりを包み込んでいるのだ。
「黄龍とやらの力、是非お借りして、浄化していきたいね!
……ところで、この『小さな石像』、一体なんだろう……?
黄龍を祀るための像かな? それとも……もっと違うもの……?」
「ああ、それは黄龍殿のために帝が設置した物だ。彼の方へ呼び掛ける際に導として使って頂いている」
成程、とアルムは頷いた。晴明が言うにはその石へと向かって黄龍が『降りて』来てくれているのだろう。
「豊穣との縁はあまりないが仲間との縁はあるからな。よろしく頼む」
出来うる限り対応したいとランドウェラは目の目でふらふらと歩み寄ってくる複製肉腫達へと蝕みの術を放った。
神威之狐面で隠したかんばせは相も変わらず笑みを浮かべテイル。複製肉腫は救える存在だ。しかし、数が多すぎると対象の敵対心を確認しながらランドウェラは一人一人を確認し続ける。
自身を苛む呪いを否定する星の下、ランドウェラは地を蹴り走る。
「皆様、麒麟は任せましたよ。皆様の強さはよく存じております。きっと成功するでしょう」
「奴らならきっと、麒麟に認めてもらえるさ。そこは一切心配しちゃいねえよ。
……だから、俺達の出来ることを精一杯やる――俺達で奴らの帰る場所を作るんだ!」
幻は、ジェイクは――二人は仲間を救うために、仲間を取り戻す『帰る場所』を作るためにと邪魔立てする物を攻撃し続ける。幻の唇が、つい、と釣り上がる。
「そのために邪魔な者は全て排除してくれましょう。隣に旦那様がいますから、僕達『幻狼』は決して死にません。幻狼は死ぬ時は共に死にます。ですが、その時には相手を蜂の巣にしてみせましょう」
旦那様、と囁く声に頷いた。ああ、オーダーは簡単だ。愛する人が側に居て共に戦場駆けてくれるならばこれほど嬉しいことはあるまい。
「難しいことなんか何一つありゃしねえ。要は周りの敵を一匹残らず始末すりゃいいんだろ!
餓狼と狼牙の弾数も十分だ。隣には愛する妻もいる。不安は何一つない。
――さあ、かかってこい! 魔種でも何でも来やがれってんだ!」
吼えるジェイクに合わせるように、舞踊る幻。奇術を齎すスティッキの先に降り注ぐは鋼の驟雨。
『けがれ』を見詰めるジェイクの――獣の瞳に光が灯る。その美しさに笑みを零して可憐なる蝶は、そうと触れるように幻(ゆめ)を落とし行く。
「さあ――『幻狼のショー』へご招待致しましょう」
成否
成功
第1章 第20節
「これって上手くいけば遠くに行っちゃったみんなが戻ってくるんでしょ?
そういう事ならカナも協力するよ! たくさん敵もやってくるならカナも好都合だしぃ……うぇへへ……♪ じゃあ頑張ろー!」
うっとりと笑みを浮かべたカナメ。月明りを帯び淡く美しく輝くその刃で肉腫を受け止めて『痛み』に僅かな快楽を感じ取る。
「あっちの邪魔なんかよりカナと遊ぼ! ずっとずーっと楽しいよ!」
自身は痛みで『悦んで』、儀式の邪魔は減って一石二鳥とうっとりと笑みを浮かべる。
その身には侵されざる聖なる哉を、そして、堂々たる名乗りは「遊ぼう」と誘う手招き。
その傍らで響き渡るは道征きのキャロル。蒼海の守護を起動し、奉じ舞踊るユゥリアリアは唇を震わせる。
(逃げるしかなかったとはいえ、無念極まりない事でしたのでー。
多数対多数という得意分野でこそ、わたくし力を尽くさせていただきますわー)
氷水晶の戦旗に括り付けた旗を揺らがせて、ユゥリアリアは未来(さき)が為にとその声を響かせる。
英雄達が進む道を明るく照らすために、運命を手繰った支配の指。歌劇騎士はこの『儀式』の間、仲間達を支えるが為にその声音を響かせた。
「ここから先には行かせませんわー。さあ、とくとお聞きになって」
響き渡る絶望の海を歌うその声音。冷ややかな呪いが『けがれ』たちを包み込む。
「お任せください。必ずやお守りいたしますわ」
星穹は淡いスプリング・ノートの魔力を身に纏い、ユゥリアリアを狙う『けがれ』を受け止めた。自身は盾である。その底力を全て発揮して――それは『教え』を乞うた者達の背中を追うように。
「ええ、ええ。この程度の傷、他の皆様に比べましたら月とすっぽんですわ。
師走先生も酷い傷を受けられたのですから。私が逃げよう等と、烏滸がましいことです。
光往く者の道となり、影となり、支え、護る――其れが、忍たる私の在り方ですッ!!」
身寄り無き娘はアイスグレーの瞳の青年を思い出す。自身の血潮で作り出すあの要塞。その時の彼の痛みを思えば自分なんて何てこと無いのだと星穹は小さく笑みを零した。
「さて。それなりに情報も集まってきているようだが。
此方の『本陣』を積極的に狙ってくる者は、まだいない感じだろうか。座標たちが良くやっているという事だろうが……ならば引き続き守りを固め情報を集めていくのがベターか」
愛無はその爪を武器に遊撃を行い続けた。くん、と鼻を鳴らし敵を探す。精霊と疎通を行う者やつづりを護る為に、拠点を護るべく立ち回る。
「精霊との疎通は、この作戦における肝だろう。ならば彼らを守る。それが『効率』という物だろう。
状況に応じ手札を変える。それが傭兵たる僕の強みゆえ。傷つけさせはしない。それが仕事ゆえに」
だからこそ自身の傷を顧みないと、そう言うのだろうか。その様子を見ながらゆっくりと前線へと歩み出たのはゲオルグとフェリシアであった。
一方は「賀澄、此処は皆に任せ俺は前へ」と歩み出て、もう一方は祈るように手を組み合わせた。
「ふむ、賀澄の防衛にも大分人員が集まってきたようだ。
ならば、私が次にやるべき事は――なるべく多くの仲間が常に万全の状態で戦えるようにする事だろう」
「はい……! たとえ、その場に行けなくても……できることがある、なら。
わたしだって、頑張れます。皆さんが無事に帰れるように、お手伝い、です……!」
なんだかひらめいた気がします、とフェリシアはタクトを奮う。栄光の象徴たる指揮杖を握りしめる彼女は「通信教育で、勉強したのです」と効率の良い陣を形成し続ける。
闘いの教本たる彼女は仲間達を称えるように、詩を諳んじて願う。
支えるように――ゲオルグは周囲の対象を強烈に支援した。その『聖域』の中に広がる魔力は心地よい。
「囚われた仲間達が島から脱出し、結界が完全に修復されるまで、どれくらいの時間が必要かはわからない。
とはいえ、出し惜しみをしている余裕もそんなにはないだろう。
それなら常に全力を出していられるように支援すればいいだけのこと」
全力駆けて、誰かを護る為に走る仲間が居る。『穢れ』を祓わんと戦う者が居る。
其れ等を支え、霊脈(ルート)を浄めて皆が帰り着く場所を作り出すが為に。
ゲオルグの癒しの中でフェリシアはタクトを振るい願った。
――どうか、誰かの力になりますように。
成否
成功
第1章 第21節
「オイラは高天京での戦いには行けなかったけど、まさかこんなことになるなんて……」
唇を噛んだチャロロは仲間達の事を思う。流刑地であるという自凝島には危険だらけだ。
脱出を支援するが為『けがれ』を何とかしなくてはならないと、そう告げられたときにチャロロは「オイラが出来ることがあるのなら!」と胸を張った。
機煌重盾を手に、仲間達を庇い続ける。攻撃を受けるだけでは無い。全てを跳ね返すが為にその腕に力を込める。要塞が如き堅牢さを武器にしながら、チャロロは確りとその地を踏み締めた。
「オイラだけじゃどうにもなんないかもしれないけど、みんながいるからこうして多くの敵とも渡りあえるんだよ! みんなを守るためにもここで倒れるわけにはいかない!」
「……――はいっ、そのご期待に応えましょう! リディア、全力で参ります!!」
輝剣リーヴァテインは煌めいた。滅海竜の事を思い出す。あの悍ましき絶望の海。荒れ狂う波濤の中で、がむしゃらに戦った事への恐怖。それに打ち勝つように、リディアは声を張り上げる。
「それでも徐々に経験を積み、力をつけてきた自覚はあります!
此度こそ眼前の同胞を救う為、精一杯この手を伸ばします――力を貸してください、リーヴァテイン!」
煌めく刃を怨霊へと振り下ろす。頼れる仲間が居る、自身と共に戦場を進んでくれる人が居る。
それだけでリディアは、『バルムンク』は威力を増した。翠の闘気が有象無象を両断し続ける。悉く蹂躙するその刀筋の上にはらりと黒き羽が舞い降りた。
手には咥えた唐揚げ(ライム味)。ナハトラーベは正気を放つ異形に、金色たる神獣をまじまじと見遣る。聖魔綯交ぜとなり無秩序に渦巻く空気の中でも彼女はオクすることも無く鞭通津に、自由に、飛び回った。
占事略决なりと言葉薄く何皆へと『デリバリー』。さあ、当たるも八卦、当たらぬも八卦……ではあるが、先程から彼女は霞帝をちら、と見ている。
「――」
目が、逢った。
「セイメイ、先程から彼女に見られているが」
「彼女はナハトラーベ殿。聞き及んだ話であれば霞帝は『フランクに話すおじさん』と認識しており、そのフランクを大陸の食べ物であります『フランクフルト』と誤解しているのでは無いかと」
「……そ、そうか」
この戦いが終わったらそのフランクフルトを鱈腹食べさせてやらねばならないか、と霞帝は上空より支援を行うナハトラーベを見遣って目を伏せた。
「さてと、まだ島に捕らわれてる仲間がいるって話だが……
黄龍の試練も気になるが、この地に馴染んでいない俺では役不足だろうからな」
結依はさて、と周囲を見回した。『けがれ』は周囲一帯に沸き立ち霊脈を阻害するが為に――そして、この儀式を邪魔立てしようと襲い来る。成程、と結依は小さく呟いた。
「龍の血脈だからこそある程度、破邪の力もあるしな。
もう少しけがれを祓えば黄龍に呼び掛けたら声が届いたりするんだろうか? ……遠い祖と同じ龍に一度相見えたいものだな」
腕に僅かにある鱗を撫でた。は虫類を思わす眸とうっすらと浮かんだ鱗を確認し、『燃費の悪い』青年は腹も空いて堪らないというように息を吐く。さて、そうしている時間も惜しいかと一体ずつ『祓う』が為にと前線へと歩み出た。
「穢れは祓わせてもらうぜ」
その攻撃の中できりがないものだとセレステは息を吐いた。浅く広くというよりも皆で一体ずつ確実に撃破するという戦法は中々に苦しいものだ。
「向こうは――流刑地『自凝島』はどうなってるんだろうな……」
そう呟いたアーマデル。セレステとアーマデルの視線の先ではどうしたことか晴明に対して『お説教』を行っているカティアの姿があった。
「晴明……何でもするとか言うとトンチキなことやらされかねないよ? そういうのは祝勝会の座興にしてよね」
「トンチキですか。成程……?」
「ほら。だから、晴明『何でもする』はだめだよ。分かったね?」
セレステについ、と視線を送るカティア。アーマデルはその穏やかな様子に小さく笑みを浮かべた。
各個撃破ではなく集中攻撃を行えば一体ずつは可能だ。しかし、セレステの言うとおりキリがないのが実情である。
(……『けがれ』もあの『靄』を叩けば数が減るのか……?)
三人の視線が向いたのは正気のように立ち上った『けがれ』の靄であった――
成否
成功
第1章 第22節
「――話は聞いた。ローレットから離れてる間に大変なことになったみたいだな?」
紅蓮の海賊風のコートを揺らしてプラックは静かにそう言った。『あの海』での戦いが自身へと突きつけた現を嚥下出来ない儘で居た彼は『これ以上誰かを失うことを避ける』が為に拳に力を込めた。
「で? 俺はどいつから蹴っ飛ばせば良い?
もう、失うなんてのはごめんだ。仲間が囚われたんなら、必ず助ける……!」
力を込めたプラック――その傍らよりぐんと前へと走り出たのは沙月であった。雪村に伝わる徒手空拳――靱やかに、優雅に『けがれ』へ向け神経を研ぎ澄ませて攻撃を重ね続ける。
「さあ、命のいらない方からかかってくると良いでしょう」
今はただ何も考えずに敵を屠るのみ。無事を願う心が霞むわけでは無いからと、効率を重視して『けがれ』へと攻撃を重ね続けた。
神速の踏み込み。そして、一瞬の隙を突く攻撃技法。流れるような所作で繰り出される攻撃は何処までも美しい。
(少しでも労力を減らさねば……『靄』とも相対せねばなりませんしね)
『けがれ』が多く飛び出してくるその場所へ沙月は鋭い視線を投げかけた。
章殿が信じて待っていてくれるのであれば。鬼灯は何にでもなれると魔糸を引いた。
空くはずの無い右手の軽さが寂しくもあるが、その分は糸を手繰る『指』が増えることを喜ぶべきだろうか。
「さあ、舞台の上へ上がってこい。とびきりの演目を見せてやろう」
魔糸が巨大なる手裏剣に形を変えた。菊が咲くのは鸚緑の月。心揺れるは幻惑の月と、口に乗せれば風雅なる。
黄緑の光と共に飛び込む神経毒を見詰めながら鬼灯はふと、章姫の事を考えた。待っていると、そう良い霞帝と共に過ごす彼女は遊んでいるのだろうか――
一方で、章殿はちょこりと座り鬼灯の帰りを待っていた。その様子を見ていた霞帝へと影が落ちる。
「さて、どこまで行けるかわからんが、行けるとこまで往こうか。
俺は変わらずタンクとして前線で敵を引き付けることに専念するが……一つ良いか?」
フレイの問い掛けに霞帝は「ああ」と頷いた。
「『大呪』、あれは元からこの土地に根付いたいた呪詛なのか、外界から持ち込まれたものなのか。
ヤバイ感じがするとはつづりも言っていたが、そこまでヤバイ力が果たして小道具と日取りを合わせた儀式だけで成り立つものなのだろうか?」
小道具のいくつかは此方でダメにした、とフレイが告げれば霞帝は「この『大呪』はこの地に根付く者だろう」と告げた。
「成程? ……小道具が壊れた分で別の代償があったとかはないか?」
「いいや、逆だ。『大呪』の効果が僅かに薄れた――歪に発動を行った、と言う方が正しいな」
「と、言うと?」
「予てより迫害された獄人の怨み嫉みが形を為した。それ故の『大呪』――四神が忌避したそれが、貴殿等の力で僅かに効力を失った、と言うことだ」
成程、とフレイは頷いて一先ずは目の前の敵を倒さねばならないかとゆっくりと歩み出す。
「霞帝。手ェ貸すぜ」
傍らで、レイチェルは霞帝へとそう言った。護るわけでは無く傍らで手を貸すと、そう告げたレイチェルを見詰める霞帝の視線は僅かに戸惑いを感じさせる。
「何故側で手ぇ貸すかって? 俺は『今園 賀澄』の人となりを知りたい。
少なくとも、遮那の前で長胤はまともな兄貴だった。其れが反転して、こんな大騒動になった。
鬼人種への差別は無論正すべきだが、お前のやり方にも多少の問題があったンじゃねぇの?」
レイチェルの言葉に晴明が「お前」と止めに入ろうと手を伸ばしたが霞帝は――賀澄は其れを留めた。
「俺の施策が天香にとって致命的な事態を引き起こしたのは事実だ。その責任から逃れる心算は無い」
「……其れは時間を掛けるべきだった所を、理想を強引に推し進めたと言うことか? ……ま、全部後の祭りだがなァ」
賀澄と長胤の『個人的な事情』等知ったことでは無いと誠司は声高に言った。
「中枢でごちゃごちゃと惚れた張れたはそれぞれの自由だ。けどそれで…そんな個人の理由で、苦しんでるやつがいる。
鬼人種だってだけで虐げられて、苦しんでるやつらが、そこに居たってだけで命を刈り取られたやつがいる」
誠司は唇を噛んだ。その意思だけを見れば彼と賀澄は同じ事を考えたのだろう。
――何故、ヤオヨロズは獄人を抑圧するのか。そうするべき理由は何か――
其れが歴史であったからだ。そうして国が成り立っているからだ。
『政治家』である長胤はそう言っただろう。正義感が強く、そして弱者を助けたいと願った賀澄は彼と同じように『誰かを救うため』に強引に施策を推し進め――起るべくして事件が起ったのだ。
「……誠司殿。俺の為し得かった事を、どうか」
「……」
誠司は小さく頷いた。泣いている者を一人でも多く救うが為。彼は走り出す。
――だが、それを『正義感』で『善人』である『政治家』が行ってはいけないことに、若かりし賀澄は気付かなかったのだと苦しみ呻いて。
「で……こんな大規模な事をしてるンだ。落とし前はつける気で居るンだろ?」
「そうだ。だからこそ、『今回はもう失いたくは無いのだ』」
気に入らなければつまみ出してくれても良いと告げたレイチェルは「どういう意味だ」と賀澄を見た。
「長胤が魔種であり、『二度とは正気に戻らぬ』ならば彼の志を背負いこの国を正さねばならない。彼を滅さねばならない。
俺は……民を護る為に、彼を――『友』を――失わねばならないというこの苦しみに向き合わねばならないのだ」
震える声音に、誰も口を開くことは出来なかった。賀澄は一つの決意をして居たが――今はそれを告げること無く胸に秘めて。
成否
成功
第1章 第23節
「……本当は天閣に行って物申したいことがあったが、こっちでもやれることはある。さっさと流刑地から仲間を呼び戻してやらねえとな」
そう呟くのはマカライト。『騎兵隊』は拠点を設置し、現在は敵陣偵察含め、掃討を行っている。現在集まったその総数は22名――その護衛役として、ティンダロスと共に進むマカライトは「行こう」と静かに声掛ける。
狼を思わせる意匠の重装鎧に身を包み、進むマカライトの背を追いかけるのはステラ。軍馬と共に歳出撃と、騎乗戦闘での突撃を、そして『眼前の靄』へ向けて飛び込む覚悟はとうの昔に決まっている。
「霞帝が目覚めた、か。残念だが、のんびり挨拶をしている余裕も、無い。
この騒ぎが全て済んだら、快気祝いでも、贈らせてもらおう」
静かにそう言ったエクスマリアは軍馬の背を撫でた。あの靄の中に進まねばならないのだ。『けがれ』が絶えず吹き出すその場所に何かが居る――そうと撫でられた軍馬は僅かに恐れていたがエクスマリアのぬくもりに一つ返事を返した。
「馬が恐れぬようにも、気をつけねば、な。帰ったら、お前の名を、考えるとしよう」
静かに囁く――そして、前を向く。
その中に純正肉腫が存在することは嫌でも理解している。無論、其れがこの『けがれ』や『魔種』により更に強化されている可能性も認識していた。だが、マカライトは、ステラは此処で止まるわけには行かぬと露払いのために進む。
「一気に、全力で行きます」
ステラが放つは剣術と魔法の融合攻撃。押し込みその体を靄の奥へと進めれば、胃へと不快なる感覚がこみ上げる。
(これが『けがれ』――?)
享楽的なる香りがその心を静めるように漂った。未だ、進めると力を込める。美しく冷たい薔薇が如く、二つの業をその身に宿してステラはずんずんと進み行く。
「敵の種別も割れて来たし、ここからは大分動きやすくなるねぇ。という訳で、今回の目標は純正肉腫の撃破!」
びしりと前を指さしたシルキィ。朱(あか)と碧(あお)の糸を手繰り、外套を揺らして靄の中へと進み行く。恐れるように鳥が一歩後退した様子を感じ「ごめんねえ」と小さく呟いた。
「……とはいえ、相手しなきゃいけない敵は他にも沢山。騎兵隊の皆が動きやすくなるよう、邪魔する敵の排除も頑張るねぇ」
目と、耳と、鼻。その全てを駆使すれば『けがれの靄』の中に存在する有象無象がゆらりと影の如く揺れている。純正肉腫まで届く前にそれを庇う様に複製達が飛び出すか。
熱砂の嵐を巻き起こす。執拗に絡みつくその熱さが複製肉腫が呼吸をする間も与えぬほどに苛烈に吹き荒れ続けた。
メモをとり続けるエルはシルキィの後ろから確認するように進んだ。警戒し、囲まれぬように、退路に気を配り続けるエルは僅かに緊張を感じさせる様にその表情を強張らせた。
「大丈夫?」
「はい。だいじょうぶ、です」
小さく頷いた。不安が胸の中で揺らいでいる。エルは天使の名を冠する大鎌をぎゅうと握り込んだ。
ワンピースを思わせる雪模様の防具を揺らし、迫り来る複製肉腫を『封印』し続ける。ペンもメモもどのようなことがあっても良いように予備も用意した――暗闇も見極めるその眸が真っ直ぐに全てを見通している。冷たさなど、エルの前では『敵では無い』のだ。
戦略眼を用いたエクスマリアが「後方に注意だ」と告げればシルキィとステラがぐるりと振り返る。騎兵隊は決して『一人きり』にはならず複数人で行動を行う。それが命を守る為であることを知っているからだ。
「さて、どこから来る。肉腫」
まさに有象無象だと随伴歩兵としてエクスマリアの傍に立っていた武器商人は小さく笑った。防衛拠点は工兵たる仲間達も更に拡張を行っていることだろう。ならば――今は『この靄の中』を進み、けがれを祓わねばならないだろう。
「さあ、行こうか」
秘銘は答えるかの如く、武器商人の掌に収まっている。響く『呼び声』など何のそのと言うように儚き月を忌鎌で描いた武器商人が響かせたのは破滅――『アレ』とは何かと考え始めればその身は直ぐに蝕まれ、武器商人を排除せねばと襲い来るだろう。
自身へと向けて飛び込んでくる肉腫達を受け止め続ける武器商人の傍らで華蓮は白き翼で低空飛行しながら、肉腫へと霊力を送り込み続ける。敵の気力を一気に奪うじわりじわりと蝕んだ変幻の神託。差し伸べ、抱き留めるための手は今は他者を害するために使い続けられる。
ああ、と唇が揺らめいた。
(ええ、ええ、妬ましいのだわ……羨ましいのだわ……
何を取っても誰かに負けている……司書さんに、アトさんに、ウィズィさんに……)
それは恐ろしい嫉妬のように存在した。だが、華蓮は――『嫉妬』の中から立ち上がるように前を向く。
「妬ましいのなら……近くでそれを見続けて、自分の力にするしかないのだわ!」
「アト殿達が最重要の情報を得てくれで御座るな……! であれば、拙者が仕損じる訳にはいくまい」
本気を見せてやろうと。幻介が握りしめるは神刀。鳴り響け、と命の音を奏でし刃の刃をすらりと引き抜いた。逆転魔術と底力、全てを生かすべく幻介は地を蹴った。
「では……本気を出すとするか。
見せてやろう、咲々宮一刀流の真髄――向こう側って奴をよ。この一刀で……全てを断ち切ってやろう!」
機動力と、そして逃げ足を生かして『けがれ』を破壊し続ける。何処ぞに居る純正肉腫と接敵するまでに自身を『温存』していては勿体ないでは無いか。
幸いにして支えてくれる仲間が居る。それ故に幻介は周囲の有象無象を祓うが如く『けがれ』へと叩き付けた。
「……数が多い」
「左様でござる」
リリーの呟きに幻介は囁くような声音で返した。
「偵察してみて分かったけど、思ったより数が多いねっ。一体ずつしか倒せないリリーには、中々だけど、頑張らなきゃ! ……こんな時、littleの皆が居ればもっと倒せるのに。みんなどこだろう……?」
ぽそりと小さく呟いた。カヤと共に進むリリーはイーリンやアトが『本命』として決定した純正肉腫を目指すことに決定した。ファミリアーとハイセンス、全てを生かしての索敵を行い続ける。
「どんな強い相手でも怯まず行く、それがリリーだよっ!」
怯んでいるわけには行かないから。周囲を包み込む複製肉腫達へとと向けてリリーが放つ冥闇の黒炎烏。しっかり『悪いもの』をやっつけるために攻撃を重ね続けた。
「騎兵隊のお通りだ――吹っ、飛べぇえッ!」
ずんずんと進むはウィズィ。ラニオンと共に地を翔るウィズィと共に進むのはラムレイで統率する旗頭イーリン。
アトの見つけた『けがれの瘴気』が吹き出す地点の制圧を試し見るために堂々と放ったのはカリブルヌス・改。
「行くわよ!」
髪は紫苑へ、精気は幽世へ。然し、眸だけはその紅玉を称えさせて光の尾を引いた。紫の燐光を置き去りに、イーリンが吹き飛ばすべく放つ攻撃に続くウィズィは跳ね上がる。
光に向かって飛び込んだ。淡い光を纏った武器が投擲された――障害を吹き飛ばす二対の下には複製肉腫がごろりと転がった。足下にはラニオンが。そして、二人はまだだと進む。
「お姉様を傷つかせはさせない!」
ウィズの後を追う。真っ赤な体つきをした馬の赫塊、ココロにとっての『陸の相棒』が彼女の言葉に応えるように嘶いた。急がぬようにと進めていく。周りがよく見えるように、そう一層に心がけたのは誰も失いたくはないと言う決意。
自分の医療ミスで誰かを失ったならば? そう思うとココロはぞう、と背筋が凍る気配がした。荒波のような気持ちを抑え、強烈に支援を送る。魔法式医術を用い、仲間の安全を守り続けた。
何処かに純正肉腫が居るはずだ。緊張をその胸にウィズィは確かめるように口を開く。
「騎兵隊は全員生存が旨、勢いに乗るのは大切だけど、引き際は無理せず」
「ええ、許さないわ。余力を残し――純正肉腫を討伐しましょう」
そう告げるイーリンとウィズの前へと複製肉腫がぞろりと顔を出す。背後に隠れていた純正肉腫は「来てしまったかあ」と頭を掻いた。
「そうやって余裕を出せるのも今のうちよ?」
「まあ、俺を倒すぐらいならなあ。でも、そうやって余裕を持てるのも今のうちだなあ」
面倒そう呟いた。彼を真っ直ぐに見詰めたのはレイリー。盾として前へと飛び込み地を踏み締める。
「騎兵隊一番槍! レイリー=シュタイン。肉腫よ、我ら騎兵隊で討たせてもらおう!」
「やだなあ」とぼやいた。鬼気迫るレイリーとは対照的な肉腫ははあと溜息を吐く。後ろから雑踏のように集まるのは複製か。
「なっ……」
「まあ、どっちかっていうと『増やす』のが仕事なもので」
この靄の中で複製肉腫を増やし続けていたというのか。息を飲んだレイリーの背後からウィズィが男へ向けて攻撃放つ。
(固い……!)
一歩、下がる。増える肉腫達への対応を行わねばならないと、その場面に「露払いだね? オッケー」とアウローラが笑み深めた。
「アウローラちゃん、正直難しい話は苦手だし、分からないことも多いけど……『この周りの肉腫』を良ければいいんだよね?」
分かった、と微笑んだ。放つ言ノ葉は魔力の砲撃として肉腫達を責め続ける。攻めている限りは圧倒的なるアウローラは感情を乗せ全力でその声を響かせる。
ぐん、と腕を上げて殴りかからんとした複製肉腫へと飛び込むのはティアの魔砲。
「こう言った連合隊で動くのは久しぶりだね」
『迷惑かけん様にな?』
「分かってるよ、援護射撃ぐらいしかできないし」
『さて、来たようだが』
「うん。倒そう」
ティアの声音がふわりと振った。後衛位置に居ようとも数がこうも多ければ囲まれてしまう――だが、退路はしっかりと確保していると20余名は孤立せぬよう戦陣を張り続けた。
「多数の戦力が高速で到達、袋叩きにしてくる。
ヤられる側からすりゃたまったもんじゃあ無いだろうね、同情はしないけど……さ!」
メリッカは増えれば増えた傍から蹴散らせば良いと言わんばかりに攻撃を重ね続けた。
それにしても、と小さく呟く。魔力の重点は完了、最大火力を――真っ直ぐに撃つ!
「名前の通りこの作戦における『腫瘍』であることは間違いない、しっかりと切除……もとい撃破してしまおう」
濃い靄の中での露払いと共に『純正肉腫』を相手取る。確かに固いが攻撃動作は存在しないか。寧ろ、攻撃を行う気さえなく『複製を増やす』事しかしないかのようだ。
「やれやれ、毎度騎兵隊らしく馬鹿なことをやる羽目になる」
アトは肩を竦めた。こうして『増やす』事がこの場所と親和性が良いか――果たして。
「司書、おかしいとは思わないか? こんな『けがれ』の瘴気が発生している場所で攻撃せずに増やしているなんて、誰かに従っているかのようだ」
「ええ。そうね。そもそも彼は『前座』なんじゃないかしら? ねえ、『名無しの権兵衛』さん」
そういえば名前を聞いていなかったわ、とイーリンは静かな声音で純正肉腫へとそう言った。
「どうせ殺されるなら名前も与えたくは無いさ」
「名も無いままに死んでいく事を是とするのか。まあ、どうでもいいね。この『けがれ』を祓うことが目的だ」
アトはもう一度やれやれと肩を竦めた。『ダンジョンアタック』で慣れては居るが視界が狭まるのは出来る限り避けていたい。この『けがれ』をストップさせるために目の前の純正肉腫を倒さねばならないのだ。
「司書たちがまた何か愉快なことをしていると聞いた。俺も混ぜてもらおう!
司書たちと行く戦場はどこも楽しいからな! ……それに純正肉腫の血の味にも興味がある。余裕があれば失敬したいところだな」
「喰われるのか? 俺」
純正肉腫の眸がクリムを見た。男の眸を覗き込みながら、クリムはグリムにまたがり最大火力を至近距離で叩き込むが如く意志抵抗力を破壊力へと変える。
(固い――が、でくの坊というだけなら殴り続ければ良い!)
クリムがぺろりと舌舐めずりする様子を傍らに、エレンシアは頭を抱えていた。
「あー……どうしてこうなった? どうしたまたあたしはこいつらと共に居る?」
そんなこと、自分の中で答えは出ていた。考えるより先に体が動いた。戦うのは悪い気がしない、きらいでは無い。そういうことだ。そういうことならば――「どうあれ、戦場に立ったなら敵を倒すのみだ」と『黎明槍』を握る。
「まったく、毎度ながら無茶させやがるぜってアタシが言うこっちゃねぇか」
周囲を吹き飛ばすように槍を振るう。エレンシアの様子を上空から眺めていたレイヴンははっとしたように靄を『吹き飛ばした』――だが直ぐに視界は狭まる。
「ハイドロイド!」
召喚し、本隊を支えるが為に、そして、撤退を促すために、だ。レイヴンの視界にはもう一つ何かが映っていた。サーチに重点を置いている彼はぞわりと背筋に嫌な気配が走ったことに気付いた。
(あれは――人か……?)
本陣にて待機し、得た情報を整理する。『安楽椅子探偵』は軍師として戦況を読み続けた。シャルロッテと華蓮を繋ぐのはファミリアー。任意に五感を共有する鷹は昏き靄の中を確りと見通している。
(倒した敵は……? 撃ち漏らした敵は……? 敵の分布は……周囲の味方の戦況……)
悩ましげにシャルロッテは全ての『駒』を進める。チェスを行うように、その目は全てを見通すように戦場の把握に努め続ける。高速並列思考のポーションは意思決定を下す手助けになっていただろう。
治癒役として、そして霞帝側との連携役として動き回るねねこは別拠点もルート上に存在していることは把握済みだ。騎兵隊だけでは無い周辺の皆のこともサポートしなくてはならないが――
「どうしましょうね……『中に純正肉腫以外の強敵がいた』となれば……」
「焦ることは無いよ。軍師が前に出るのは、まあ、最後になるだろうさ。今は『純正肉腫』――その情報を得て欲しい」
頷く。屹度、一度は撤退してくる筈だ。体制を立て直し全員で討伐に向かえば良い。ねねこは「待ってますからね」とそう呟いた。くれぐれも『好ましい格好』にならないでほしいとジョークも小さく交えて。
――そうシャルロッテが願う頃、騎兵隊の前には何かが『居た』
「黄龍様、黄龍様。エル達は、カムイグラの為に、頑張ります」
エルはそう願った――目の前に存在するのは涙を流した『仏』であっただろうか。
「かみさま、ですか?」
「いいや、あれ程に禍々しい神など、居ないだろう」
エクスマリアが首を振る。エルが神様かと問うた『仏』の顔をしたそれは純正肉腫、否、膠窈肉腫(セバストス)と呼ばれた腫であっただろうか。
成否
成功
第1章 第24節
「妖精郷での惨敗から早一月、己に何が出来るものか、と戦う事も諦めていたが……捲土重来の時が来たようだ。『魂』を食らう者として、数多の想いが強く束ねられているのが見える」
ウォリアはゆっくりと立ち上がった。『けがれ』を見つけ次第全て始末すると拳を固め攻撃を重ね続ける。彷徨う赤騎士は今は『神使』と己をそう名乗った。
「魔種に囚われた者、そして明日を諦めない者……
そして、眠りより目覚めた賀澄殿も立ち上がった……数多の同胞達が抗っているのだ、燻るばかりでは赤き騎士……いや、神使の末席としての名折れ。我が焔と力にて、助太刀仕ろう!」
赤く滾る炎と共にウォリアが前線へ向けて飛び込んでゆく。
「私の主様はゴミが散らかっているのが我慢ならないようですのでゴミ掃除に参りました」
そう静かな声音で告げる沙月は黒子の指示に従うために拠点の確認を行っていた。特に必須とするのが補給路の形成か。
黒子の傍で雷を落としながら沙月はふむ、と小さく呟いた。『掃除』を行っているのだろう――攻撃の手を緩めることは無い。
「まだまだ掃除しなければならない場所が多いですね」
髪を揺らして溜息を吐く沙月に小さく頷いたのは汰磨羈だ。黒子と共に情報を共有し、俯瞰的に鳥を使用しての戦況確認を行い続ける。
本陣たる帝達は幸いにして仲間達の作った神が存在し、それ程不安は無いだろう。中途地点に存在する騎兵隊の拠点の様子を見るに、『瘴気の靄』には何か『異分子』が紛れ込んでいただろうか。
周辺を確認すれど、けがれが濃い部分が中心地点――相手の本拠であろうか――に見えた。黒子が『次』の準備を行う傍らで汰磨羈は小さな声で呟いた。
「思っていた以上に、まともな合戦の様相を呈しそうだな。魔種が統率でもしているのか?」
指揮官相応の相手――其れが何かをまだ彼女たちは、そして、けがれを相手に突き進むクロバは知らない。
「改めてだから言わせてもらうとだな、まともに恋ってした事なかったんだ。
ずっと家族しかいなかったし、恋ってなんだろうと混沌に来てからずっと考えてた事の一つだよ。
未だに答えはわからない――俺に今できるのはどんなに傷つこうとその答えを導くための道を拓く事!」
熱烈なる愛の告白をルートに乗せて届けるように。けがれを斬り伏せてクロバは唇を噛んだ。
「繋がりを断たせない! 邪魔をするなら、死神に斬られて失せろ!!」
好きだとか愛してるだとか。そんな言葉では無い。飾るわけも無い。素直に、その心の奥から『答え』を探すように、叫ぶ。
屹度、側に居れば――この答えを知れるはずなのだ、と。
「穢れを祓うだけじゃ道は拓けない、だとするなら黄龍に認められる為に試練に臨む必要があるという事だな。その辺は仲間を……ともに救いたいと思う人たちに託そう」
そう、黄龍の試練へを行うか仲間達へ視線を送りクロバは目を伏せた。
――黄龍の声が、響く。
『吾へ挑む者よ。その力をよく見せるが良い!』
成否
成功
第1章 第25節
黄龍の試練か、と清鷹は小さく呟いた。だが、その前に自身は神威神楽の武家の出であるが故に重要な責があると霞帝の前へと歩み出た。
「お初にお目にかかります。久泉家が次男、清鷹と申します。
我が久泉家も武家として貴方に支えていながらのこの現状、伏してお詫び申し上げる。
……この現状を変える為にも必ず、何度倒れようとも、神威神楽が為、未だ帰らぬ同胞の為、認めて貰わねば!」
「久泉か。……大丈夫だ。此度の責は誰に取らせるわけでは無くこの俺が取ろう。存分に、戦ってきてくれ」
そう霞帝が指し示したのは黒い長髪を揺らして微笑んでいる『女』であった。それも『女であれば手加減する者も多い』と言う認識の元で黄龍が取った擬態なのだろう。
「それじゃあお言葉に甘えて『賀澄さん』。
私――アーリアが、結界の強化まで貴方を護るわぁ
晴明さんに中務省持ちで宴会の許可も貰ったし、俄然やる気が出て来たもの。そちらの『黄龍』様も、全てが終わったら一杯いかが?」
ちら、とアーリアは黄龍へと視線を送る。なれば『吾も楽しませ貰おうか』と声が掛かった。
黄龍と霞帝は非常に『似ている』。似ては居るが――流石は八百万を見詰め続けた地の神か。黄龍は些か達観し、神使との戦闘も児戯であるかのように振る舞っている。
「あぁ、その為には気合入れなきゃよねぇ!」
ふと、アーリアは周囲の敵へ向けて琥珀色の雷撃を降らす。先程までにっこりと微笑んでいた美しい娘の攻撃とは思えない。霞帝がぱちりと瞬けば、「怖くないわよぉ?」と彼女は首を傾いだ。
「さて、物語が動いたようですね」
静かにそう言った四音は『物語』を見ることが出来るという事にうっとりと目を細めた。
「私もこの先を見届けられるよう頑張ると致しましょうか。
愛すべき、全ての生命のためにも……くふふふ」
サポートAIが解析を行っている。髪を揺らして四音はそう、と黄龍経向かう者達へと癒しを送った。
「まあ、私自身は敵を打ち倒す力は乏しいのですが皆さんの身体を癒すことはできます。私も力を尽くしますので、安心して戦ってくださいね?」
「ええ」
タイムの掌が震える。しっかりと指揮棒を握らねばならない――それでも、不安が指先まで伝わって、揺らいでいる。
「遮那さんやルル家さんの他にも沢山の人が囚われてしまった。
だからって終わってなんかない。みんな足掻いて戦ってる。……諦めてる人なんて一人もいない」
――わたしは? みんなの後ろで立ち止まってる場合? いかなきゃ。やらなきゃ。
顔を上げる。温かな光で黄龍を包み込む。『君への贈り物』は何処までも優しく揺蕩う慈愛。母の腕で抱かれるようなその穏やかなる気配。
「黄龍様、力をお貸しください。わたしは先に進みたいんです!
あの時わたしの、わたし達の言葉も手も届かなかった……届かなかった――ッ、届かなかった!」
黄龍へとタイムは叫んだ。こんな気持ちを抱えて、其れではさようなら? そんなのは絶対イヤだと声を荒げる。
「ルル家さん、あの子をどうか」
『ルル家というのは天香に居る娘か』
自身の力及ばぬかも知れないと黄龍は霞帝を見た.霞帝は「長胤を信じるしかあるまい」とタイムを励ますように、そう言った。
「ユーリエお姉さんたち捕まっちゃったのか……捕まったなら助け出さないとな! その為にも『黄龍』、力貸してくださーい!」
『元気よの。吾が試練へ挑戦してみよ、幼子よ』
「むぅ、試練に合格すれば力貸してくれるのか? なら頑張るー!」
えいえいおーとやる気を満ち溢れさせたノーラ。肉体言語を用いてぽかぽか、と黄龍の身を叩く様子は愉快そのものだ。
「と、とりあえず、捕まったみんな助けたいんだ!
それが帝さんのためにもなるし、この国のためにもなる!
『黄龍』、帝さんのこと好きなら、僕たちに力を貸してくださーい!!」
『ふぬ』
「あてっ」
ぺちん、と額を叩かれてノーラが尻餅をつく。未だ、と言うように煌めいたのはラ・ピュセル。
「皆を助けるためなら、ボクはいくらでも戦える!」
ドーナツをパクリとひとくち。そして聖剣騎士団団長は声高に叫ぶ。
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
黄龍の腕が寸での所で受け止める。座り込んでいたノーラの前で剣を構えセララは堂々と黄龍へと向き直った。
「友人がピンチには駆けつけてあげたい。それが無理ならせめて、救出に繋がることを!
皆で明日を迎えるためなら、ボクにできることだったら何でもするよ!」
『成程、の』
友人という言葉に引っかかりを覚えたか、黄龍の笑みは濃くなって行く――まるで此度の『試練』を楽しむかのように。
成否
成功
第1章 第26節
黄龍は問うた――何故戦うか。誰のための戦いであるか。
その問い掛けにベネディクトは堂々と声を発する。
「俺自身の為でもあり、誰かを守る為の戦いでもある」
地を蹴った。槍の穂先は『人を模した』黄龍の傍らを容易く摺り抜ける。然し、ベネディクトはその脚に力を込めた。
「明日の事を共に当たり前の様に語っていた隣人が突然居なくなってしまう事を何度も経験して来た。
――俺達は、人だ。この命には限りがあり、何時か終わりが来る事は受け入れられる!」
『人か。そうよの。主も、賀澄も死するときはあっけなかろう』
「……だが、力も持たず、理不尽な終わりに抗う事を許されぬ者も多く居る。
俺はそう言った者達を守りたい、そして、その理不尽に立ち向かう者達と共に戦いたい」
幼い頃に夢見た騎士の様に。戦場の果てに散ったかつての友の様に──!
「私の戦いが誰の為にあるかって? そんなの決まってる、私自身の為だよ。
私の心が誰かを助けたい、その手を掴めって叫び続けてるんだ。
私の心が叫び続ける限り、私は決して立ち止まらないっ!」
だから、地面を蹴った。花丸のその視界には今だって焼き付いている。あの時に遮那と共に姿を消した『あの子』が――皆が大切だと告げた遮那が、皆と共に笑っている姿が見たいと願う。
「……だから、戦い抜くの。この地の暗雲を払って、皆で陽だまりに辿り着く為に。涙を超えたその先に、笑顔の花を咲かせる為にっ!」
『簡単に咲くかの』
「ええ。咲きましょう」
目を細めたリンディスは「私も私のために戦っています。友のため、神威神楽のためとは言いません」と静かな声音でそう言った。
「私は、皆さんの物語を記録したいのです。嬉しいこと、悲しいこと、この世界で輝く沢山の物語。
……今神威神楽に巣食うものは、その物語を黒く塗りつぶしてしまいます。
本に刻んだ数多の物語を、私にしか見れない景色を誰かに語り継ぎたいのです」
ここへの道のりで『鏡』の物語を見た。それを記したのは自分自身で、誰かに物語を残すため、そしてその未来(さき)の為だとリンディスは静かに言った。
「誰の為の戦いであるか……じゃと? そうさな……言うなれば妾自身のわがままの為、じゃのう。
妾は、停滞するモノが嫌いじゃ。細かい事情を抜きにすれば、それで生まれ故郷を捨ててきたようなものじゃ」
『主は長命の種であろう?』
「うむ。それ故に故郷を捨ててきたと言えば冷たいかも知れぬな。
じゃが、その妾から見るに、魔種という連中はその筆頭じゃな。
己が欲、己が望みしか見ず、幾時も堂々巡りで変わろうとしない、変われない」
アカツキにとってはそれこそ停滞であると――そして、その中で『鏡』出会ったが故に変わった友人がいたと目を伏せる。
「その嫌いな連中が妾の親友を流刑にし、今なお自身だけの望みに周りを巻き込もうとしておる……散り散りに燃やして、全て塵にしてやる」
「駄目です!」
アカツキへとリンディスの『お叱り』が飛んだ。これは想像もついていたことである。
「……などと言うとリンちゃんから怒られるからちょっと加減して普通に燃やしてやるのじゃ!!」
黄龍へと拳つきたてルカは息を吐く。
「誰の為の戦いか、か。俺の為だ。俺の我儘の為だ」
カノンと言う女がいた。不幸になった彼女。それを差し置いても豊穣でも暴れるザントマン。
つづりが辛そうな顔をした。そそぎが諦めた顔をした。
――鬼人種の迫害も、仲間が傷つけられるのも、全部全部気に入らねえ!!
「この国を包むクソみてぇな暗雲をぶっ飛ばして!
つづりが、そそぎが! この国に住む全てのやつらが馬鹿みてぇに笑って暮らせるようにしてぇ!
そいつは全部俺の望みだ! 誰の為とか知った事か! 俺がそうしたいからそうする! それだけだ!」
ルカの言葉に黄龍はそっと霞帝へと視線をくべた。『主みたいなヤツも多いことよの。のう? 賀澄』と朗らかに笑っている。
「誰が為の戦いと問われれば、それは僕の、僕の願いの為の戦いだ。
大呪がこの国の人々に齎そうとしている、理不尽な死を遠ざけるための戦いだ。
命の軽すぎるこの世界で、僕は少しでも多くを救うと、目の前の命を諦めないと決めた。
その生き方を己に課した。僕一人に出来ることは限られている。
けれど想いを紡いで力を合わせれば、より大きな力になることを知っているんだ」
『しかし、理不尽は訪れるからして理不尽よ。青年よ』
「……分かっている。けれど、僕が手を伸ばせば届く物だってあるかも知れない。
だからどうか黄龍よ、四神よ。この国の『命』の為に、僕らに力を貸してほしい」
マルクの言葉に黄龍は『皆揃って自己が為と申すか』と揶揄うようにそう言った。だが、一人、けろりとした表情をした娘が立っている。リュティスは「申し上げても?」と常通りに口を開いた。
「恐れながら、それはもちろん、ご主人様の為でございます。それが従者としての正しい在り方。
常に傍に控え、苦しい時には力になりましょう。悲しい時には支えになりましょう。
時には御諫めすることも必要だとは思いますが……今の所は必要なさそうですからね」
『主は自己のためでは無いと?』
「ええ。ご主人様こそが私というならば私のためでしょうが」
首を傾げる。ご主人様が願うから思いを届けるとそう告げたリュティスを甚く気に入ったかのように黄龍は『愉快な従者を持つ者もおるじゃの? のう?』とまたも霞帝を見た。
「揶揄うな、黄龍」
『何、吾もこの様な姿では無くそろそろ正しき姿にならねばならぬかな。然し、其れは主等次第じゃ。神使よ』
ベネディクトは槍を、そしてルカはその拳を黄龍へと向けた。
「明日を見ろと、と友に言われたのだ。故に、望み、描く未来の為に力を貸してくれ、黄龍!」
成否
成功
第1章 第27節
霞帝の元へと無数に狙う敵を――そして、黄龍の試練へ挑む仲間達を護るが為にミルヴィは遊撃手を行っていた。
「お寝坊さんの帝さん、アタシの戦、しっかり見といてね!」
ウインク一つ。にこりと微笑んだミルヴィは跳ねるように『けがれ』へ向けて挑発を行い続ける。
霞帝を護る。そして、襲い来る『けがれ』を励ますのはイレギュラーズを讃える歌。
彼等は、そして自分は英雄では無いかも知れない。それでも、運命をねじ伏せ抗い、未来を手にすることが出来るのだから――だからこそ、舞剣士は己の戦いを見ていてくれと天才的な直感で踊り続けた。
「義兄さまが、師匠が、頑張っているのに……ボクが頑張らないなんて有り得ない――気張って往きましょう、ラピス!」
蝶がひらりと舞踊る。アイラの左手をそうと話したラピスは柔らかな笑みを浮かべる。
「君が頑張るなら、僕はそれを支えよう」
囁く声音と共に、アイラを中心に仲間を支援する。魔力だけでは無い、今日は君がいるのだと再度約束のように指を絡めて離す。
アイラに飛び込む攻撃全てを受け止めたラピスの小さな声音に「ラピス、痛くはない?」とアイラは囁くがラピスは困ったように、そしてとびきり面白そうに笑った。
「痛くないよ、大丈夫。君と共に在る限り、僕は決して砕けやしない」
「――嗚呼そうだね、そうだった。この痛みこそが明日への切符……手繰り寄せて見せましょう。眩しい明日を!」
ラピスが見てもアイラは強くなった。ラピスが護らなければと思う少女では無い。護るように振る舞って、踊るように攻撃を重ね続ける。
けれど――けれど、心はまだまだ小さな少女の儘だ。
「この力をその瞳に焼き付けてください。認めないなんて、言わせません。認めるんです。
その為なら何度だって敵を斬りましょう。喩え同じ姿でも――膝をつこうが血を吐こうが、何度だって立ち塞がりましょう」
それが、アイラが重ねた『努力』だとラピスはそうと掌を重ねた。
「君は一人じゃないよ、アイラ。僕と、君と、2人で――彼に見せるんだ。守る為の強さを」
「ボクは死なないし、ラピスも、誰も死なせない。二人で帰るよ、ラピス!」
だから、見ていてくれと黄龍へと乞うた。
「つづりさん」とエリザベートは静かな声音でつづりへと声を掛けた。
「私は妹さんと一緒にいる姿を拝見した事があります。
私、彼女の事結構気になっていたのですよ。ほら、私は角ではないですがシルエットが似ているなって」
ほら、とツインテールを示すエリザベートにつづりは小さく笑みを浮かべた。二人と仲良くしたい、そう手を繋いで、目を覗き込む。
「貴方が悲しい気持ちはわかります。今、私も大事な人が向こうにいますから。
……いえ、少し違うのかもしれませんね。
ユーリエっていうのですが彼女にはエミーリエという妹がいます
今まで離れ離れだったけど、つい最近、此方の世界に来ていたのを保護して姉妹が再び出会えました」
エミーリエ。笑顔が愛らしい彼女の妹は幻想で今も姉の帰りを待っているのだろう。
「ユーリエを救わないと、エミーリエは姉を失ってしまいます。どうか、力を貸してください」
「……はい」
つづりはゆっくりと頷いた。姉妹を失うことは、とても恐ろしいのだから。
誰かを失うことが怖いことを、ウェールはよく知っていた。
「神様、人って大事なものが結構いるんだよ。家族恋人友達仲間色々と」
『ふむ』
未だ『人の形』を取っていた黄龍は言葉を待つように黄龍を見遣る。
「俺も血の繋がらない息子が一人いる。
息子の世界が混沌の破壊に巻き込まれないようこの世界で戦い続けて、死んでいいと思っていた。
……でも一度悪者になった俺でもここでは誰かの助けになれた。本来は会わなかった別の旅人と酒を飲み交わす仲になれた。
だから今は息子に胸が張れるパパとして――帰る時までは混沌の誰かの助けになると決めたんだ」
息子に誇れる自分になるために。ウェールはその為に黄龍へ挑むことを決めていた。
ポテトはそうだ、とゆっくりと顔を上げる。皆で笑い合う未来を望んでいる――その為に、と願っている。
「仲間が、友達が、沢山囚われているんだ。彼女たちを助け出したいし、助け出す。……その為に『黄龍』、あなたのお力をお借りしたい」
『其れで?』
黄龍の確かめるような声音にポテトは向き直った。
「試練、私一人で超えるのは無理なのは分かっている。……だけど、戦う力ななくても共に戦う仲間を癒し、支えることは出来る――それがヒーラーの戦い方だから」
だから――だから試練に打ち勝ってユーリエやルル家、アレクシア、シフォリィ、アルテミアたちを助け出したい。
その加護が欲しいとポテトはそう懇願した。黄龍は『人とは愉快よの』と小さく笑うのみ。
成否
成功
第1章 第28節
戦い傷つくことをトウカは酷く恐れた。其れを恐れぬ人が居らぬ訳はない。
流刑になった者と神威神楽出身のトウカは『未だ深く付き合いは無い』。他にも強い者が沢山居るのだから任せておこうと背を向けようとして――そして、はたと思い出した。
(でも……たった八人帰ってこないだけで、その八人が今までかかわった人や知ってる人達はすっごい泣くと思うんだ)
その離別の刻を悲しむ者が居る。永遠であるならば深い傷をその心に刻み込む。
ならばとトウカはその掌に力を込めた。肉体の傷ならば易く治せるのでは無いか――と。
「心の傷は治るのが難しいから、俺は守りたいものの為に恐怖を飲みこんで、あんたに全力をぶつける!」
掌に力を込めたトウカの傍らから葵は『シュート』を決めるように攻撃を放った。
これはチームメイトを助けるための戦いだ。霞帝に力を貸して作られた『結界』が崩れても、それを再度助ける道理がないと言うのは確かだ。その観点で言えば眠りの呪いに彼が落ちた際に近くに居た晴明やつづりのことも黄龍は『役不足』と認識していたのだろう。だが、そんな事情は葵には知ったことではないのだ。
「サッカーってのはチームプレーのスポーツっス。強い、多い相手に個人で太刀打ちなんて無茶な話だ。
だからこそな、メンバーを信頼して、協力して1点を取るもんっス。覚えとけ!
アンタが相手にしてんのは無数の個人じゃねぇ! イレギュラーズっつー一つのチームだ!」
『人の子よ。吾は重視する事がある。それに見合うかどうか、吾は其れを試したいのじゃ』
試したいことがある――ならば、その重視する『場所』へと到達せねばならぬのかとシキは地を踏み締めた。
「一度で君の心に届かないなら何度でも――最後に『届いた』結果を掴めればいい」
この身を削れ、この命を削れ。それで届くというならばシキは決して出し惜しみをしないだろう。
ユ・ヴェーレンを握る掌に力を込める。変幻邪剣を駆使し、惑わすが如く地を踏み締める。
「グルルル……」
人の身を形取った黄龍を見下ろしてアルペストゥスは竜語魔術を用いて語りかける。昂ぶる心が隠せない。興味は止まらない。黄龍をその双眸に映したときから、夢中だった。
「グラアァウッ!」
あなたは、何色の吐息を放つの?
あなたの爪は? 牙は? 躍動する力は? もっともっと、見てみたい――!
心ゆくまで、その美しい在り方とちからを確かめたいとアルペストゥスは唸る声を響かせた。
「ギャウッ!」
その笑う声を聞きながら、地をするりと走る朝顔――向日葵は『黄龍』に揶揄われていた。
「ハッキリとした怪我をしていない以上、少しの本気すら出してないでしょうが……
言ったでしょう、何度でも立ち上がると、何度でも挑むと! まだまだです! お相手お願いします、黄龍様!」
『本気、のう……吾の神域で、本気……のう……』
ちら、と霞帝を見た黄龍。「試すだけであろう」と窘める声音を聞いて『ふむ』とどこか悩ましげに黄龍は呟いた。
「……こんな戦い方しか出来ないけど…だからこそ、全力で挑みたいです」
地を蹴った。向日葵は自身の身を削ろうとも全力での攻撃を仕掛け続けると決めていた。怪我も、何も恐れることは無い。彼女の傍らより滑り込むように剣戟を放ったのはミーナ。
「黄龍に力を見せればいい、ね……何をすればいい?
単純に戦えばいいのか。それとも『覚悟』を示せばいいのか」
『どちらであろうとも主が決めることだ』
「ふうん……戦うだけなら話は単純だ。私にできる最大火力をぶつけるだけ。
まあ確かに。アルテミア達をほっとけねぇってのは正解だよ。
ただ、それ以上にな。私にとって大切な奴が向こうにはいるんだよ……命を賭ける理由なんざ、それだけで十分だろう?」
ミーナの声に黄龍は試練の在り方さえ自身で決めろと、そう言ったか。
しかし、向日葵の言うように『単純な火力』だけならば彼の神域であるこの場所では難しいのかも知れない――だが、けがれがその力を阻害しているならば、傷を付けることは可能だ。
其れが必要であるか。そう考える必要もあるかとミーナは目を伏せた。
地を蹴るように至近距離まで詰めた。シキは唇震わせる。心を示すが為に、その心に沸き立った思いを口にして。
「私と友人になってよ――黄龍」
シキと『人の形をした黄龍』の眸が交差する。その掌からぽろりと剣が落ちた。
黄龍の腕が音を立て振るわれるシキのその体が地へと叩き付けられる。
『吾と友人か。ふむ……ならば、本気とやらの吾の欠片と戦ってみるのも一興よの? のう、神使』
成否
成功
状態異常
第1章 第29節
本気、とそう口にした黄龍の前にシュバルツは立っていた。
『あの日』の事を思い出す。沢山の仲間達に力を貸して貰った。今でも感謝しきれない程の恩がある。だからこそ、自身も『仲間』の為にと踏み出した。
「聞いてくれ、黄龍。俺は神が嫌いだ。それは覆しようのない事実。
でも、神が嫌いだからと、この場で何もしない? 拐われた連中が戻ってこれるかの瀬戸際で?
……もしも人事を尽くさずに、誰かが犠牲になったら?「大切なもの」を失う事になったら?
きっと俺はまた後悔する事になるだろう」
『それ故に吾に語りかけるのか』
「ああ。神威神楽を救うなんて大層な事は考えちゃいねぇよ。
唯、この一振りは恩を返すため、仁義を尽くすための刃だ。――力を貸してくれ、黄龍。俺は仲間を助けたい」
『愉快なものよの、人の子よ』
黄龍の目が細められた。斯様に戦いたいと、そう言うのかと人のその身より僅かに『変化』を齎す黄龍の前でゼファーはにんまりと微笑んだ。
「力を借りたきゃ力を示せってワケね?
シンプルで良いじゃない。分かりやすいのは嫌いじゃあないわ。帰らない誰かさんの為に一肌脱いでやろうじゃないの」
此方に『自身の本来の力の欠片』を見せた黄龍を殴ればいい。それ程シンプルな解法は無いとゼファーは言った。
「まあ、あの子が何をしてるのやら、其れは知りませんけど。
最悪の最悪ブン殴ってでも連れ帰ってやるから、覚悟しなさいよルル家」
『長胤に期待じゃな』
「長胤? 期待してて良いのかどうか分かりませんけれどね、さ、遣りましょうよ。
さぁて。こちとら百人組手だって望むところ、片っ端から相手してやるわよ。
――龍だかなんだか知りませんけど。見せつけてやろうじゃない!」
地を蹴った。ゼファーが距離詰めた底へと振り上げた拳を受け止めたのはジョージ。
「本来なら、この結界強化こそが帝の仕事だろうに……黄龍がそれに手を貸した以上、これ以上を求めることは出来ぬ、というのも、それは、当然の道理だ。ならば、力を貸すに値する者だと。それを此処に証明しよう」
『よく分かって居るの』
「ああ。帝には借りができた。幼き巫女は気丈にも力を貸してくれる。ならば、俺たちもそれに応えよう!」
『吾の友人の為と言うなれば嬉しいことよの』
ジョージの前でくつくつと笑う黄龍は先程までの淑やかな女では無い。その世より龍の翼を生やしている。精霊が『信仰』で変貌した姿であるとでもいうのか。
力が込められた瞬間にジョージの体が地へと叩き付けられた。それでも、と彼は立ち上がる。
「幾度でも挑もう。幾度でも、立ち上がろう!
此の身朽ち果てるまで戦い続ける事を、この身に誓う――その覚悟こそ、我が力!」
成否
成功
第1章 第30節
「伊達千尋、豊穣の危機を聞き、海洋より 泳 い で 参 っ た !
だぁーいじょうぶ! まぁーかせて下さいよ! 控えい控えーい! この『黄龍の護符』が目に入らぬか!」
『吾の護符じゃの』
千尋が構えた護符をみて黄龍は『善いじゃろ?』と何故か自慢げである。一先ずは『第一ラウンド』――力試しである。アルバニアやリヴァイアサンと比べればましだと千尋は『黄龍』の戦闘能力の情報収集の為に僅かずつ攻撃を放った。
「特攻隊長としてブイブイ言わせてきた俺だけどこういう事もできるんだぜ?
角とかありゃ掴んでロデオしてもいいな。いいだろ? 朋友候補なんだからよ!」
『良かろう』
黄龍が面白がっているという事に千尋は気付く。同様にキドーは彼が此方を揶揄っている事をひしりと感じていた。
「あの海を越え……そしてまた龍と戦うことになるとはな。
アンタは大精霊。黄『龍』と言ってもリヴァイアサンとは違う。それでも比べちまうもんさ」
『リヴァイアサンというのは彼の海の龍神か?』
キドーの言葉に黄龍は問い掛けた。傍らの精霊が「左様で御座います」と頭を垂れる。
『それを人の子が? 魂消たのう』
黄龍を肇とする四神は精霊だ。リヴァイアサンは竜種である。その種が大きく違うながらも黄龍は黄泉津の大精霊としてリヴァイアサンとあの海を把握していたのだろう。
「長く美少年をやっていると龍に出会うこともあったけど、次は神霊か。
なるほど確かに凄まじい気配を感じる。それだけに魅力的だ。しかも『約束を重んじて』『嘘を嫌う』ってのは好印象だ。つまり、『契約』を取り交わすことができるってことさ」
セレマは楽しげに目を細めて笑った。気に入った。黄龍にセレマは自分自身を見せてやろうと――その美貌だけでは無い『不気味』と称された戦い方――を教えてやろうと手を伸ばす。
「キミはボクのことを気に入り、『契約』を結ぶだろう。その力をボクのものにしてやる」
『自惚れよって』
「いいや、自惚れていないさ。キミはボクを好きになる」
その声音は確信めいている。認めて貰うが為に信仰者は――メルトリリスは黄龍の元へと飛び込んだ。
「未来の麒麟を視ました。あれが助けを呼ぶサインなら見過ごしたくない。それにあそこには、ハロルドたちが……!」
唇を噛む。神は助けてくれる。手を貸して呉れる。だが、その手を借りて突き進むのは、未来を紡ぐのは何時だって人の力だとメルトリリスは知っていた。
「私の一族は多くを殺しました。貴方さまから見たら、私はさぞ滑稽な存在でしょう。
一族が殺した以上に、顔知らぬ誰かを助けたい。
いつか、この世界から魔が消えるまで……それは私の夢。
故に自ら聖女となり騎士となりました。国を越えようと意思は変わりません」
『人殺しの娘と誹られようともか?』
「ええ。この地を平定してみせます。
私たちイレギュラーズには可能性という武器がある――お願いです、お力をお貸しください!」
この地の汚れを祓うと、メルトリリスは曇り無き眸で決意を告げる。
キドーはびしり、と黄龍を指した。
「やい黄龍! 俺があの海で何を見たか教えてやる
塵のように散らされる寸前まで、砲に玉を込め、手にした武器を振り上げた、英雄でもなんでもない人間達の事を……お前らが落胆し見放そうとしているこの国でもそうだ。ただの人間が必死に1を積み上げてきた。
俺はロクでなしだが英雄だ! ガラじゃなくっても無数の1を切り捨てず奇跡を起こすんだよ!」
だからこそ――その奇跡のために。黄龍は『面白い』と笑った。
『賀澄。吾は興が乗ったぞ。暇つぶしで無く、しかと見極めようでは無いか――主と晴明が選んだローレットとやらを』
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。OPへの登場は『カムイグラ』関連のアフターアクションより頂きました。
●当シナリオは
『自凝島へと流刑になったPCへの脱出支援』及び『霞帝の四神結界の強化』を目的としています。
皆さんは当ラリーの終了まで何度でも参加する事が可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●フィールド
高天京、御所より離れた僻地。小さな石像が置かれた開けた場所です。
重苦しい空気を感じさせ、それが『歪な形で発動している大呪』と『魔種の呼び声』である事を実感させます。
周辺は開けていますが、それ故に敵性対象が多く姿を現す事が予測されます。
●『脱出支援』
『自凝島の守り神・麒麟』と霊脈で繋がる同一存在たる『黄龍』の力を借りての脱出支援を目的としています。
四神の全ての加護を受けた霞帝は京(高天京)の守り手を黄龍に、自凝島の守り手を麒麟に、とそれぞれ指示を出し有事の際は黄龍より麒麟、麒麟より黄龍に直接力を注ぐ事が出来る様にと『ルート』を作っていました。
『ルート』を通して、清浄なる気配を送り込むことで自凝島の『肉腫』の動きを阻害することが出来ます。
また、麒麟との『ルート』が上手く形成されていれば、麒麟の下には転移陣が作成され、自凝島より脱出するメンバーが麒麟に認められさえすれば『黄龍』側までその身柄を転移させることができるそうです。
流刑となったイレギュラーズを救う為には黄龍の霊脈を阻害する『妖』『怨霊』『肉腫』を退けなくてはなりません。
また、この儀に気付いた純正肉腫や魔種による介入にも気を付けなくてはならないでしょう。
●『四神結界強化』
上記『脱出支援』に加え、神威神楽を包む結界の綻びを『修正』しなくてはなりません。
これには『黄龍』の力を借りなくてはなりません。しかし、黄龍は霞帝に対しては力を貸した以上、それ以上を求めるという事にはあまり乗り気ではないようです。
黄龍による試練――『自身との戦闘』で力を認めさせる――を超え、その力を借りる為に尽力してください。
(また、期間限定クエスト『黄龍ノ試練』に置いても同様の『黄龍の試練』が行われています)
こちらも、『結界』を強固にすることで、自凝島の『肉腫』の動きを阻害することが出来ます。
●四神とは?
青龍・朱雀・白虎・玄武と麒麟(黄龍)と呼ばれる黄泉津に古くから住まう大精霊たち。その力は強くこの地では神と称される事もあります。
彼らは自身が認めた相手に加護と、自身の力の欠片である『宝珠』を与えると言い伝えられています。
彼ら全てに愛された霞帝は例外ですが、彼らに認められるには様々な試練が必要と言われています。
●『霞帝』今園 賀澄(いまぞの かすみ)
旅人。神威神楽にとって最初にこの地に訪れた神隠しの存在(神使)であり『四神』に愛されし者。
四神の権能により神威神楽全域と自凝島に結界を張っています――が、巫女姫による『眠り』でその結界が綻び始めたようです。
非常にフランクで明るい男性です。前中務卿(晴明の父)の代より懇意にしており、晴明やつづり&そそぎの幼少期より可愛がってきました。晴明をセイメイと揶揄い呼びます。
今回は彼の支援も行う事が出来ます。彼の結界失くしては被害が大きくなるので防衛が必須となる存在です。
●『中務卿』建葉・晴明(たては・はるあき)
鬼人種。この地にて、イレギュラーズに助力を乞うた人物。特異運命座標を『英雄殿』と呼びます。
やや頭は固いですが、帝の影響もありジョークなども交えて会話を行う青年です。英雄が「肉腫や病気じゃない! 熱中症だ!」と言えばその通りにしますし、予算は中務省で、と言えばその通りにしてしまう存在。
前衛タイプのアタッカー。剣を得意としています。霞帝が国の防衛には必須であると認識し、彼を護る為に立ち回ります。イレギュラーズの指示であればなんだって従います。
●『けがれの巫女』つづり
鬼人種。けがれの巫女と呼ばれる此岸ノ辺の巫女(簡易的に言えば『空中庭園』分社の『ざんげ代理』です)
今回は霞帝に乞われて、四神との疎通を行っています。妹・そそぎの事をとても心配している様子ですが、お役目を全うすべく気丈に立ち回ります。泣いていては、四神もそっぽを向いてしまいます。
それでは、どうぞ、ご武運を。
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