シナリオ詳細
<天之四霊>央に坐す金色
完了
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オープニング
●『四神』
東西南北に座すは神獣――そして央にて眠りにつく守護者の黄金の気は二つに別たれた。
一つは竜の姿を象り、人々へとその存在を知らしめた。
もう一つは獣の姿を象り、罪人らの行末を願う様に眠りについた。
青龍、朱雀、白虎、玄武――そして、黄龍と麒麟。
即ち、それは神威神楽の守護者である。
嘗てよりこの地には精霊が住んでいた。其れ等が形を得、人が如く生業を営むのが八百万。
そして、それらとは違い強大な力をその身に宿して眠りにつく大精霊、神と呼ばれしそれらはこの地を愛し、時折人里に居りては人々に加護を与えるそうだ。
その寵愛を一心に受けたのは外様の青年――今園 賀澄。その名を『霞帝』と改めて前代の中務卿と任命した建葉・三言と共に黄竜の望む『けがれなき国造り』へと乗り出した。
魔なる存在に害され彼が眠りの呪いに落ちてから、四神達は酷く落胆した。
愛した者が眠りについたその悲しみに、そして――『けがれの増えたこの国』に。
だが、再度の刻が訪れた。
目覚めし霞帝はイレギュラーズへと懇願する。
東に座す青龍
南に座す朱雀
西に座す白虎
北に座す玄武
そして――中央に座す黄龍とその力を通わしてほしい。
黄龍の別たれた力は麒麟と化し、自凝島を守護している。
その力を駆使すれば自凝島より脱出する事も叶うはずだ――!
●『央』
「セイメイ、彼らが英雄殿達か? ふむ、成程。強き心をしているのだな。
……所で、黄金の獣について予知を働かせたものが居ると聞いた。それは?」
霞帝は黄龍の顕現を行うが為の陣の上でくるりと振り向いた。先の戦いで、世界より賜った贈り物で黄金の獣の姿を視たという『神威之戦姫』メルトリリス(p3p007295)は「自分であります」と背をぴんと伸ばしてそう言った。
「成程……麒麟がイレギュラーズに助力を乞うているのだろう。
然し、自凝島の内部は肉腫が蔓延っている。畝傍・鮮花なる刑吏が『増やし』ているのだろう」
「やはり……流刑地の島は肉腫だらけであったか。そして、刑吏まで――なんじゃな」
む、と唇を尖らせた『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)の傍らで「畝傍・鮮花を追って島を渡る事は?」と提案したのは彼女の足取りを追っていたマルク・シリング(p3p001309)であった。
「いいや、危険だ。肉腫……それも『強敵』揃いであろう敵の陣地に乗り込むリスクを俺は認められぬ」
「それじゃ、指を咥えて見てろって事? レゾンデトールに関わるんだ。アレクシアちゃんを……みんなを助けに行かせてくれ……!」
懇願する『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)は『膠窈肉腫(セバストス)』との戦いにより眼前で攫われた少女の事を思って歯噛みした。
霞帝は「京を開け、それが天香側に悟られ『何らかの呪術』を使用されたとすれば救出作戦を行うものさえ犠牲になりかねないのだ」と頭を振った。
高天京に霞帝や晴明だけではなく、イレギュラーズが居るだけで高天御所には牽制になる。直ぐにでも自凝島へと兵を出し、救出作戦を行いたい気持ちは分かると晴明は悔し気に呟いた。
「守り、救うことが俺の役目だから。仲間を必ず助けに行く。……だから、止めてくれるな。危険は承知の上だ」
『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)の真剣な眼を受け止めてから、晴明は「帝」と静かに彼を呼ぶ。
「この地に――黄龍の許へと彼らを連れてきたという事は何か策があるのでしょう」
「その通りだ、晴明。お前はつづりを連れて此処へ。
そして、イレギュラーズ。これからの俺の言葉を信じてくれるか?」
霞帝の切れ長の瞳がイレギュラーズを見つめる。頷いたのは『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)であった。
「そそぎ、新道……いや、攫われた者達を助け出す為に出来る事を。
だから、俺達は藁に縋るような思いではあるが……貴殿の言葉を信じたい」
「ああ。目の前で攫われた仲間を見過ごすことは出来ない。なんだってして見せる。……教えてくれ、何をすればいいのかを」
『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は真剣に霞帝と晴明を見た。
頷く霞帝はこの地は自身に力を貸してくれている四神の長たる黄龍が眠っていると告げた。
東西南北の各地に眠るそれらの長なる黄龍はその力を別ち、イレギュラーズが流刑となった地、自凝島の深き底に『麒麟』として眠り続けているらしい。
京か自凝島に何かがあったならば――その時は霊脈を通じてどちらかに転移する用意をしている、と。
「ならば……その力を使えば牢を抜け、麒麟の許へ行けば此処まで帰ってこれると?」
メルトリリスに霞帝は頷く。しかし、それにも条件がいくつか存在しているそうだ。
「流刑となった者が麒麟の許へ辿り着き、彼に認められねばならない。
麒麟は自凝島での行いで『善人』であるかを見極めるだろう。勿論、彼らが麒麟の転移陣に乗らず残る可能性だってある」
「……それは自らの意志で自凝島に残る可能性があるという事か?」
フレイに霞帝は頷いた。そうなれば、陣に乗り帰還した者は助けられるが『それ以外』は――ぞう、と背筋に走ったのは嫌な気配だ。
「……そして、その転移陣を起動させるためには霊脈を浄化しなくてはならないのだ」
「浄化?」
「ああ。妖に怨霊、肉腫と……けがれが多すぎて黄龍が麒麟へと心通わす事が難しい。
皆には其れらを撃破し、この地の汚れを祓ってほしい」
やってみせると夏子は、そして、ウィリアムは頷いた。其れこそが今『自凝島』の仲間たちを救う手立てとなるのだ。
「そして、その一環とし、俺が今より顕現させる黄金の獣とも手合わせを願いたい」
「……それはどういう事だ?」
ベネディクトが驚いたように霞帝を見遣る。燃やせばいいのかとというアカツキをしばし留めるマルクは「黄金の獣、というのは黄龍ですか?」と問いかけた。
「ああ。自凝島と神威神楽を包む結界を強固にしたい。俺は一度巫女姫に眠らされ、『彼』の機嫌を損ねてしまった。
故に、イレギュラーズにその手伝いを頼みたいのだ。晴明やつづりは力足らずであるが、『英雄殿』であれば」
揶揄い呼んだ霞帝は「結界さえ補強できれば自凝島の肉腫の動きを阻害できる。そして神威神楽の『呪』も多少軽減できるはずだ」とそう言った。
「帝、つづりを連れてきました」
「……セイメイ、帝が居る。帝、もう、大丈夫……?」
「ああ、心配をかけたな、つづり。セイメイも有難う」
僅かな再会。そして、彼らの脳裏に浮かんだのは巫女姫の事だった。
天香は『義弟に掛かりきりで此方に意識は向いていない』だろう。何せ、イレギュラーズの一人が付き人として名乗りを上げ彼方側に着いたというのだからそればかりに注目しているはずだ。
だが、巫女姫は――手元に愛しい姉が居る状況で落ち着けば帝が目を覚ました事に気付くはずだ。
「……巫女姫は如何なさいますか?」
「巫女姫の意識を逸らすが為、そして、捕らわれた姫君の奪取を目的に御所に少数の兵を向けるべきだ」
「承知いたしました」
晴明は頷く。巫女姫の『意識を逸らしていれば』この地を狙う存在は格段と減る。
それでも魔種、肉腫、獣、怨霊と清浄なる気配を厭い襲い掛かる者は多数居る筈だ。
守りを固めよ。
神を味方につけよ。
この地は神威神楽――『神』による『神殺し』の準備を整えるのだ。
「……さて、此れより反撃が為の準備を行う。協力してくれ、つづり、晴明――イレギュラーズ!」
- <天之四霊>央に坐す金色完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月27日 23時01分
- 章数3章
- 総採用数475人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
――誰かを護りたい。
――これはエゴだ。
他人の為とは、言わなかった。自分自身の勝手で誰かを救って。自分自身の勝手で手を差し伸べた。
それを他人の為だとは言わず自分自身のためだと胸を張る者達のなんと多きことか。
『賀澄よ』
黄龍は静かな声音でそう言った。今園 賀澄がこの地に訪れた時が懐かしい。彼も同じように『この地の者を救いたい』『悲しみを無くしたい』と言った。青二才が何を言うか、と告げれば「此れは俺の勝手だ。誰かに求められたのでは無い」と馬鹿正直な顔をして言ったものだ。
それに故に黄龍は、そしてそれに連なる四柱――青龍、朱雀、玄武、白虎は彼を認め、彼に加護と呼ばれし寵愛を与えた。彼が護りたいと願った神威神楽を護り鎮める結界を与え、彼が『忌呪』に打ち勝つだけの力を与えたつもりだった。
然し、ソレをも越えた巫女姫と『彼女の持ち込んだ狂気』が彼を眠りに着かせた時、自身らが干渉したことさえも間違え出会ったかと酷く落胆したものだ。
――それでも、この神使は『自身の為』と諦めず、新たな未来を、賀澄も、そして長胤の思いも無碍に為ず未来を綴るとそう口にし、この地の『けがれ』を和らがせた。
『吾はこの者達を気に入った。
故に、吾に一撃を投じよ。そして願え、この結界を――そして、我が霊力が麒麟へ届くことを!』
静かに、そう言った黄龍は確かに笑っていた。
そして、
黄龍は静かに口にした。吾が力を『欲する』者達よ。
――黄泉津瑞神を、我が友人たる『瑞』を救ってくれると約束をしてくれまいか――
=======補足========
【行動をお選びください】
プレイング冒頭にて【1】【2】とご指定ください。
【1】周辺掃討(霊脈浄化)
けがれは2章結果を受け、随分と和らいでいます。此処で取れる行動は純正肉腫『罪架』の討伐及び『ルート上の複製肉腫の撃退(救出)』となります。
(※1:膠窈肉腫(セバストス)『祥月』は『魔種』に終われて撤退しました)
(※2:純正肉腫『???』、魔種『畝傍・柘榴』は討伐が完了しました)
●エネミー:純正肉腫『罪架(ザイカ)』(<巫蠱の劫>折紙衆と異形の巨人に登場)
『異形の巨人』が握っていた金属製十字架です。棍棒のように使われていましたがふわふわと浮か自律行動をします。
そのフェーズごとでその形を変形し物理/神秘の両面の攻撃をしてきます。
●エネミー:複製肉腫
不殺攻撃で肉腫から元に戻すことが可能です。無数存在しています。救出してあげて下さい。
●エネミー:ルート上のけがれ
『回復』等の行動でけがれを消去することが出来ます。
また、『瘴気』に対しては攻撃を行い一定ダメージで怨霊や妖を召喚する行動を打ち消すことが可能です。
○味方:建葉・晴明
霞帝のことは皆さんに任せて、ルート上のけがれの対応に向かいます。回復スキルを持ってきました。
【2】黄龍ノ試練
黄龍に特異運命座標を認めさせるべく、戦い挑みます。こちらは『四神結界強化』となり、黄龍の分離体である麒麟側の結界もより強固にすることが出来ます。
●エネミー:黄龍(ちょびっとだけしっかりモード)
大精霊。神様に連なるような存在なのでお取り扱いには注意です。
黄金の龍の姿ですが、霞帝が神域には二重に結界を掛けているので外よりその姿を見られることはありません。
神使の今までの行動等から『イレギュラーズに協力したい』と願っているようです。
自身の神力を『霊脈(ルート)』を通して麒麟(自凝島)に届け、転移陣を起動させるためにその思いを『一度の攻撃に乗せて自分に当てて見せよ』と言っています。
○味方:霞帝
皆さんのサポート役。霊脈に神力を通わすために念じ、周囲のけがれを一掃すべく黄龍と協力しています。
○味方:つづり
何とか黄龍と疎通できたようです。けがれを受け止めることの出来る少女。霊脈に神力を通わすために念じてます。心が折れないのは、皆のお陰です。
★『黄泉津瑞神』
黄龍が救って欲しいと願った神威神楽の守り神。けがれと大呪の影響を受けて居るようです。
彼女を救って欲しいと黄龍はそう言っています。今、どういう状況であるかは聞いてみなければわかりませんね……。
=======ラリーは第三章で終了予定です。========
第3章 第2節
けがれは薄まったか――それでも、複製肉腫は多数存在していた。
死者との対話を行いながら大地は言ノ刃に力を乗せる。他者の心を抉る刃は複製肉腫の前へアネモネの幻影を映し続ける。
「ふぅン、ちったあキレイな空気になってきたじゃねぇカ。だガ、まだまだ働かねぇといけねぇナ。
――なら、最後の一筆まで。俺はこの筆を運び続けよう」
一人ずつ、余すこと無く。確実に祓い浄めることが死者と、そいて今から生きる者への希望になる事を死霊遣いは知っている。
このけがれは生者にとっても死者にとっても厭うべきものである。急ぎ解放しようと願う大地の傍らで霊樹の体験を握りしめた勇者は走った。
「いつの間にか大変なことになっていたんだねー。今からでも、皆の助けになるならと思ってここまで来たよ!」
華やかで見せる戦いを。ルアナは勇者として――絶望を砕く者としてその剣を振り上げる。
周囲のけがれも幾許かは晴れたのだろうが、それでも未だ燻る火種は多く存在しているだろうか。
その身には信念の鎧を下ろし、正しき審判の一撃を持って複製肉腫達の意識を奪い続ける。
「しんどくても、身体が動く限りは頑張るよ。今行方が分からない人たちもそれぞれの場所で頑張ってる。皆合流して、この国にかかる雲を吹き飛ばしてやるんだから」
暗雲立ちこめる儘では何も救いはない。だからこそ、前を向く。
「なんか大変だからとりあえず手伝ってって言われてきたんだけど……状況がよくわかってないの、カムイグラで色々あったらしいけど。
まあでも、やることは明快だよね。とにかく複製肉腫を殴って救ってあげればいいんでしょ?」
ルツの言葉にルアナが小さく頷いた。その通りだ、とにかく殴りに殴り、複製肉腫を『殺さず』に意識を奪えば良い。
「………ちゃんと不殺は誓うよ。大丈夫、手加減できる。本当だから」
静かに告げる。名前も知らない誰かの為に。役に立てているのだろうかと僅かな不安を抱きながら――それでも、ルツは蹴撃を放つ。見知らぬ人が、此処で命を落とすはずだった人が、きっと新たな未来を目指せるはずだと、そう信じて。
「待たせたなっ! 装備のメンテとかで遅くなっちまった! ラウンドナイツのモルドレッドここに推参っ!」
モルドレッドは『RAMPART』を手ににんまりと笑みを浮かべた。最高級品のソレは今日は爆発しないだろう。屹度――そうだと信じて真っ直ぐに複製肉腫を、そしてけがれとその奥に見えた『純正肉腫』を見詰める。
「あんま深く事情を知ってるワケじゃねーけど、それでも助けを求める声はしかと聞き届けた!
今こそアーサー陛下の騎士として恥じない活躍を魅せる時だぜ! 俺に任せなっ!」
アヴァロン帝国軍で使用される暴徒鎮静用の手榴弾を投げ入れる。鋭い勢いと共に特殊な電磁波が広がり始め、その中に肉腫達がバタリバタリと倒れていく。
「あれが、モンスターに変えられちまった人々か……。
『怒涛の型』っ! 連撃いくぜっ! すまねーけど、ちょいと寝ててくれ! 次、起きた時には元通りの体だからよっ!」
すう、と息を吐いた蘇芳はのんびりとした笑みを浮かべた.矢張りお料理には空気や環境も大事だ。
「うふふー、大分空気が軽くなってきたわねー♪ でもでも、気を抜かずに頑張っていきましょー。
さぁ、綺麗にしていきましょー。ただ作るだけがお料理じゃないわー。お片付けまでお料理よー」
周辺に存在するけがれを祓うために蘇芳は迫る肉腫を『下拵え』し続ける。ふと、背後を振り返れば回復スキルを用いてけがれ祓いを行う晴明が立っていた。
「あらー、晴明くんもお手伝いに来てくれたのねー。助かるわー♪
じゃあ、お邪魔させないように、妖ちゃんや怨霊ちゃんも、しっかいお料理しないとねー♪」
「かたじけない」
「いいえー。ご飯は楽しく食べたいものねー♪」
蘇芳の傍をぐんぐんと走ったのはチャロロ。複製肉腫を押し止め、陣形を護る為に、そしてけがれを祓う者を支えるためにその腕に力を込める。
「ひとりでも助かるなら助けたい! たしかにエゴだろうけどほっとくなんてオイラの気持ちがおさまんないからね」
腕に力を込めた。チャロロの眼前に飛び込んでいく手榴弾。それに合わせて名も無き誰かの役に立つためにルツが攻撃を放つ。そうだ、ゆっくりでも良い、少しずつでも良いからとチャロロはその拳に力を込めて複製肉腫へと攻撃を放つ。
「――元いた世界でもオイラはそうやってきた!」
救う為。複製肉腫も、純種もまだまだ対応が必要だ。ふと、顔を上げた文は純正肉腫――『罪架』の名を呼んで、ぱちりと瞬いた。
「手が足りないと聞いてき……え、浮いてる?」
無数の複製肉腫の撃退を行う仲間達の中で、文は驚いたように目を見張った。
眼前に存在するのは巨大な十字架であった。報告書を確認した彼は「まさか」と小さく呟く。肉腫――大地の癌とも呼ばれるソレは有機物のみであると認識していたが……。
「精霊種の一種だと思えば、成程ね。
しかし何でまた十字架の形をしているんだろう。カムイグラの神様、四神、宗教関係?
どういうキッカケでああなってしまったのか何か掴めたらいいのだけれど、そう簡単には観察させてくれないか……」
小さく呟いた。玲瓏に歌うがごとし魔力を帯びた楽器を弾き鳴らす。英雄を見守る旋律が伸び上がり続ける。
成否
成功
第3章 第3節
「いやはや、元の世界に似た文化の国があると聞いて来たものの、波乱の真っ只中ですか。
ローレットのイレギュラーズも捕まってるとか? 助けませんとね」
こてん、と首を傾げたロウラン。元の世界でも名前以外の記憶がない彼女は魔石師である。
「私は来たばかりの人間ですから、この世界に対する情とかまだ、抱けてないんですよね。
でも、呼ばれたってことは私にしかできないことがあるって思うんです」
静かに、そう口にすれば複製肉腫達を睨め付ける。そう、自分に出来ることが此処には存在している。フォトン・シュリケンを投げつけて、交戦の意志を示したロウランは静かな口調で眼前の敵へと背に生み出した光翼による乱撃を放った。
「これが魔力の……自爆です!」
そうして、倒れていく鬼人種――その体を疫病で蝕まれた人々を見て、ユスラは息を飲む。
生まれも神威神楽の八百万。この地は故郷である。それ故に、鬼人種の迫害に関しては自身は何かもの申す立場ではないと、そう感じていた。人間はそこに存在するルールに沿って動く生き物である。
『獄人は八百万よりも立場が弱い』『迫害される奴隷階級である』と幼い頃から教えられていたならば「そういうものよね?」と難なく受入れる。だが、今までとこれからを親と子の関係で見るというならば――
「子(これから)が親(今まで)から離れようとしているのだから、応援しない親はいないわね!」
そう、未来はまだ、生まれたばかりだ.それ故に、子供達のためによりよい『先』を作り出すことは悪いことでは無いのだとユスラは神楽舞を踊り続ける。
「あら、随分と見通しが良くなりましたわねー。ピリピリくる感じも薄らいできましたわー」
鈴の音響く中で、占星術に使用される魔術具を手にしたユゥリアリアはにこりと笑みを浮かべる。
先程までの烟る『けがれ』は祓われルート上の瘴気への対処の方法も分かっている。自らの血を媒介にして作り出された氷の槍を投擲し続ける。幻が如く捉えがたいそれは瘴気を霧散し、怨霊をも退けた。
純正肉腫、複製肉腫――そして、けがれ。この地の霊脈(ルート)から浄き力が周囲へと進んでいく。それだけで一歩前進と、そう安堵することが出来るのだから。
「これからこの国は変わるかもしれないのですー。
それをほんの少し、お手伝いしたいだけですわー。あなた方はどうなのかしらー?」
誰もがこの国のために――そして、『捕まった仲間』の為に、この地で出会った人のために。
そう口にした。そして、その足を止めることはない。
「それにしても皆さん本当に人の話を聞きませんね?」
セレステが溜息を吐いた。その視線の先にはカティアとアーマデルが立っている。
「はいはい、セレステの話は後で聞き流してあげるからさ」
さらりと言葉を返したカティアにアーマデルは黄龍へと一礼した後、セレステをまじまじと見た。
「カティア殿の話もセレステ殿の話も聞いてはいるぞ?
セレステ殿のは8割位聞き流してるけど、学者や研究者の話は長いんだよ、3行に纏めてくれ」
今は黄龍に敬意を示す方が大事だと言う視線を崩さぬアーマデルをまじまじと見たカティアは2割も話を聞いて遣っているのかと驚いたように二人を見比べた。
「……何ですか?」
「ううん?」
おじいちゃん、ご飯も食べたでしょうと言いたげなカティアの傍で話を聞くと言えばとアーマデルは「セレステ殿は?」と問うた。
「私ですか? 大丈夫聞いてますよ(その瞬間だけは)」
二人の視線が一心にセレステへと注がれる。ある意味で一番話を聞いていないのは彼であるかも知れない。
「……なんですかその『ダメだこいつ人の話聞いてない』って顔? ほっぺたうりうりしますよ?」
呟くセレステを『さておいて』カティアは二人と統率をとりながら罪架より距離を取り複製肉腫を救うが為に進み続ける。
「……結構減らした気がするが、まだ随分いるんだな。もうひと頑張りって所だろうか」
「で、しょうね」
頷く。複製肉腫の命を奪うこと無く、救うが為に三人で力を合わせる。その性質を確認し、強い個体を弱らせるのはセレステに一任すると抜群のチームワークでずんずんと進む三人の背後には黄龍が存在している。それは、龍――セレステに言わせれば巨大な蛇だ。
「黄龍さん……きっとご立派な鱗をお持ちなのでしょうね……。
じゃりじゃりで……すべすべで……そういうのでいいんですよ……はっ、すみません、蛇神さま成分が不足していてつい……」
セレステの言葉に黄龍か、とカティアは小さく呟いた。興味は無くは無いけれど届くほどに強い思いを抱えては居ない。混ざりきらない灰色は主張することも無いのだと澱に立ちサポートを続けている。
蛇。そう口にするだけで双弥は「蛇か」と小さく頷いた。ドラゴンであろうとも龍であろうとも、それは蜷局を巻いた蛇を思わせる。
「さて、蛇はしつこいんだ、仲間(おまえ)達の希望に一枚噛ませろよ。離さねえでついていってやる」
罪架の下へと進む双弥は周囲の瘴気を打ち消すように攻撃をし続ける。今の自分にとって『救う』や『倒す』というのは実に烏滸がましいことだと双弥は認識していた。
だからこそ、此度、掲げるオーダーは『仲間達をサポートする』である。罪架野本へ向かう仲間への道を切り開く。それこそが、今一番大事な行動なのだ。
「己に成せる事は『何ひとつ』と変わらず、無貌極まって聳え立つ黒の體壁よ。貴様等の救出劇の『暗幕』と見做し、削り尽くすが好い。私の三日月には汁気が不可欠なのだ!」
Nyahahahaha――!
オラボナはそう笑った。複製の攻撃には参加せず、仲間達を庇いながら全員が生存する未来のためにと闇夜に浮かんだ赤い三日月を揺らがせる。
それは無窮にして無敵。黒の體壁は不滅たれと寓話の如くその堅牢さを保ち続ける。邪剣を振るうことはない。今は甘ったるい臓物による甘ったるい応酬など必要としない。ただ。『英雄』を前へ、前へと送り出す事が必要なのだ。
「───どうやら、終局には間に合ったようだな」
一晃は自身は長くは持たないとそう認識していた。しかし、オラボナが壁となったならば。ならば攻めている限りは圧倒的たる自身の実力を罪架へと知らしめる事ができる。
変型する。そして、攻撃の方法が変化する。地を蹴った。零式閃刀技。大跳躍、そして突撃し速力を破壊力へと変換し叩き付ける。
「他人の為なぞに俺は力を使う気はない。それ故に此度の戦に参加する気はなかったが……興が乗った」
妖刀『血蛭』。高みを目指すその剣に輝くは蹂躙の魔石。青年はぎらりとその眸に敵意を乗せて罪架を睨み付けた。
「俺は己の教示も持たぬ肉腫なぞに幅を利かせられるのは腹立たしい。
ただただ穢すしか能のない塵芥に、いずれ俺が斬るべき強者を食わせるのは何より惜しい!
他者の為の生き様あれば、ひたすら我が為の生き様を見せようぞ!
黒一閃、黒星一晃。一筋の光と成りて、穢れし罪架を切り捨てる!」
成否
成功
第3章 第4節
「豊穣の事は分からないけど、報酬たんまりなら参戦しがいがあるってものね!」
傭兵として馳せ参じたワルツの傍らには彼女曰く『何故かいつも一緒』のアイリスが立っている。
「こっちに来たの、つい最近だものねえ。お姉ちゃんも詳しくないの。
でも、お仕事があるなら頑張らなきゃいけないわよワルツちゃん!」
にんまりと微笑んだアイリスにワルツは「そうね」とだけ返す。アイリスから見れば、放っておけない妹分のようにも思えるワルツだが、ちょっぴり『ツンツン』しているのだ。
「此処も大変そうだけど、帰ったら家事とかやる事色々山積みなのよ! とっとと終わらせましょう!」
「そうね、お家の事もやらなきゃだもの。お姉ちゃんと一緒に頑張りましょ!」
微笑むアイリスは地を踏み締め、そしてゴア・セイラムの切っ先に衝撃波を乗せる。
瘴気を打ち払うように、敵を捉えアイリスが振り向く其の至近距離怨霊が飛びかからんと狙いを澄ます。
「――甘い!」
魔力駆動の大口径スナイパーライフルで炎が爆ぜた。カータライズの弾丸は焔を抱き、怨霊達を打ち払う。
「アイリス!」
「ええ。ワルツちゃん、沢山居るみたいだから一杯ボコボコにしましょうね」
にっこりと微笑んだアイリスにワルツは大きく頷いた。その脚に力を込めて、跳躍。弾丸が雨の如く怨霊達へと降り注ぐ中、剣士たる藍の娘はにっこりと笑みを浮かべた。
「いいわ、おねえちゃん頑張っちゃう!」
けがれを払う二人の傍らでその行動をサポートするが如く、圧倒的な声援を花開かせるのはフリークライ。
概念断楔・UR――ミスをしないことを重視した継続戦闘の術式を手にしながらフリークライは仲間達を支え続ける。大地に芽吹いた草木を護るが如く、墓守は黄龍を振り返った。
「黄龍 助ケタイ 友人 イル。フリックタチ 助ケタイ 友人 イル。
助ケヨウ ミンナ。肉腫 サレテシマッタ ヒトタチモ」
誰もを助けたい。そうして悲しむ者が居ないように――フリークライはそう願う。
「力 『欲する』 合ッテル デモ 少シ 訂正。
フリックタチ 黄龍タチ 霞帝タチ 力 『合ワセル』 者ナリ」
そうして、静かに告げる。そうだ。自分自身一人に『力』を得なくても良い。全ての皆の願いが、そして、力が『救国』に繋がるように――
「……全く、夜顔兄さんに呼び出されたと思ったら。
獄人、双子……私達は差別を受ける側、豊穣を救う筋合いないのに。
まぁ私、1番大切なのは彗星だけど。それでも姉と兄も大切に思う情はあるし、その手伝いはね?」
そう首を傾いだ瑠璃の傍らで彗星は俯いた。瑠璃ほどに割り切れない心。迫害を受ける側であれど――それが国を助ける事に繋がるのならば、と。そう考える。
「結果的に向日葵姉さんが命を賭けなくても良い状況になるのなら……協力しよう、あくまで死なない程度に。僕が1番大切なのは瑠璃で、死ぬ気は更々無い。そこは信じてよ、夜顔兄さん」
二人の言葉を聞いてかあ夜顔は頬を掻いた。姉――朝顔、いや、向日葵が命を賭けて戦っている。
弱いからと故郷で待っているよりも、姉の力になりたいとそう願うのは間違いではないだろうと夜顔は妹弟を見てそう言うが――「……所で、実兄の前でいちゃつくのは止めろよ……お前ら……」
「「え?」」
自覚は無いのかと。唯一無二のかたわれと共に進む瑠璃と彗星を見て夜顔は息を吐いた。
『奴』が死にかけてるのは、今の今まで現実を見なかった、そいつの自業自得。死んで当然。
それが実弟の気持ちだった。相手は八百万の特権階級。獄人は彼等の『当たり前の生活』で虐げられていたのだ。だと、言うのに――「……向日葵姉さん、それ程までその八百万が大切なのか?」
夜顔は毒吐く。その傍らで、夜顔の護衛を行う彗星と瑠璃は何も言わなかった。
「……彗星、辛そうな顔をしないで。少しぐらい私に良い顔をさせて頂戴な?」
「瑠璃が傷つくのは見たくない」
それは夜顔も同じだった。大切な姉は愛しい人を護って満足だと笑って逝こうとするのだろう。その命など、捨てても良いと文字通りの捨て身で進んでいく。
「俺はそれだけは許さない……ッ、俺は……俺の大切な者に生き続けて欲しいだけなのにな?」
だからこそ、癒やす。けがれを消すために。それが姉が生きていく未来に繋がるのならば。
「私達は忌むべき存在でも。貴方とだからこそ、戦えるもの」
「僕達は忌むべき存在だとしても。貴女とだから戦える…!」
手を繋ぐ。獄人二人は、兄を護りそして、地を蹴った。
「豊穣にゃ大した縁もねぇが領地貰ってっからな……ま、あそこの連中の為に俺もいっちょ協力すっか! 所で蚩尤ってな黄龍の敵の筈だが、ま、俺んとこのおとぎ話とこっちじゃあ話も違うか」
所変われば姿も変わる。そう言って飛は不思議そうにカムイグラの様子を眺める。乗り込んだのは強化パイロットスーツ。最下級のレント級AG出複製肉腫の下へと繰り出した。
「全部を救えなくても俺の領民連中と縁があるかも知んねぇ奴らだ。一人でも多く助けてやるさ」
幾重も繰り出した怒りの暴力。余分な武装を外して挑発を兼ねる。複数が襲い掛ってきたとしても飛は畏れ慄くことはない。ぐるりとその体を捻る。あらゆる護身術を駆使し、飛びかかる者全てを退ける逆転魔術。
「俺に構うんじゃねぇ! 一人でも多く救うんだよ!」
一人でも多くを――頷き地を蹴った。自分の勝手で人を助ける。その言葉にハルアの唇は小さく笑みが浮かんだ。
「ボクのすることも、誰かの、皆の幸せになればいいな」
戦場でだって夢見るようにハルアは言う。鋭い格闘の術は、誰かと手を繋げるように、誰かを抱き締めてあげれるように。武器を握ることはない。
――希望って何処でだって芽吹くんだよ。心を其の儘に光を帯びて。複製肉腫の『けがれ』を祓うように、言葉で、心のぬくもりを渡す。
「まだまだ頑張れるからね。一瞬先に笑い合えればいいんだ。あなた達を信じ抜くよ。
傷つくのも抗うのも辛いの知ってる、でもお願い――もう一度おはようを言おうって、笑おうって、望んで…!」
――おはよう、と笑ってくれる誰と手を繋いでいたい。その為なら、傷つくことだって厭わない。
成否
成功
第3章 第5節
「さーて、そんじゃ最後の一仕上げっす! 気ぃ抜かないよう頑張らねばっす!」
最期まで確りと構築した陣地の修理と防衛を務めるとリサは陣地最前線での修理を行う。前に出て、感じ取っていたけがれが薄れたことに気付く。茨のバリケードと壊れた箇所を工具で『ちゃっちゃか』直し続ける。
顔を上げた先、仲間達が複製肉腫を退けるソレを支援するように鋼の驟雨を降らせ続ける。一流の技術者たるリサは工兵として陣を護る為に走り続けた。
五行結界符を手に、陣の中か錬は自身の後ろ――陣の中で黄龍の試練に答える仲間達の後ろ姿を見遣る。
「全く、あそこまでやる気なら内向きにも何か用意しておくべきだったか?」
小さく笑う。リヴァイアサンの時に感じた恐れは、何時の間に仲間達と挑む楽しさに変換された。防衛陣地の作り手として最後まで守り抜く、その代わりにここの補強をとリサに頼めば「了解!」と返事が返る。
「代わりに此処は俺が護るさ。俺たちが作ったんだ。最後までこの陣地は破らせないぞ?」
魔性の直感で状況を把握する。味方全体を立て直す大号令を掲げ、言霊となったその声が苦境さえも乗り越えよと叫んでいる。
錬が留めるけがれ。晴れやかなる気持ちになるのはその靄が失せていくからだろうか。
「さーもうひと踏ん張り! 仕事を任された以上はしっかり此処は守ってやらなくちゃ名が廃るってもんっすよ!」
「ああ。最後の一仕事だな。陣地のことは残る仲間に任せ、他のメンバーは打って出よう」
リサは任せろと胸を張る。ラダが背負うのは身の丈サイズの欠陥ライフル。アンティーク趣味の大口径。Schadenfreudeが瘴気へと鋼の週を降らせ続ける。その雨の中、走り寄ってくる複製肉腫に向けて、放つのはゴム弾。
死ぬほど痛いが死にはしない。例え打ち所が悪くとも、それが命までもを奪わぬ事をラダは知っている。
「数人まとめて搬出するなら私がやろう。
さぁ、もうひと踏ん張りだ。これが無事終われば、幾らか希望も見えてくるだろう」
陣地へと倒れ伏した複製肉腫を運び入れ、その命を失わぬようにと気を配る。そうして、人々の命を救うことこそが必要不可欠なる事であるとラダは知っていた。
「大詰めっすかね。呪いもけがれも、植物たちの恐怖も、取り払ってやんなくちゃ。
……植物たちの声で、けがれの強そうな場所や接近察せたら、活かせるんですがね」
慧は呟いた。自然と融和し、共存する彼は頭に根付く呪われた鬼角とその身に流れる鬼血を厭うこと無く、重りにしてお守り、のろいにしてまじないを抱き、仲間達を癒やし続ける。
複製肉腫の命は失いたくはない。どうしてか――それは自信が神威神楽で生まれたからだ。
「もしかしたら、同郷の俺だって『あちら側』だったかもしれない。
その程度には近く感じるものっすから、早く、多く、助けてぇんすわ」
頷く。シャノはキングブレイスの振動で魔方陣を描く。旧き精霊が用い、遺した防御術式が防衛の障壁を作り出す。
「助、戻、今我慢」
――助けるし、戻れるから。今は我慢して。
静かにそう告げた言葉。威嚇術を用いて複製肉腫の意識を奪い、命を奪わぬように留意する。それは『治療』だ。
「速掃除、早滅」
――速く掃除しないとね。さっさとやられちゃえ。
瘴気が近くに存在する。慧へと草木が怯えたように声を掛け、シャノは意志の力を衝撃波に返還し、一気に『けがれ』を霧散させていく。
シルヴェルトルは周辺の掃除を行おうかと『瘴気』の除去へと向かった。夜侯の矜持を胸に走る。陽光に灼かれず、流れ水を渡り、鏡像を生み出し、契りを交す力は失われる。蔓薔薇の下で語らう自由を得た。それこそが、彼の矜持。
己の影より溢れ出す蝙蝠達が『従僕』として爪牙で敵を裂いていく。決して複製肉腫の命を奪うことはない。それは彼の気配りの一つ。
「……外聞が悪くなるからね。助けられる人を後ろから撃ったとなると……僕でもそのぐらいは理解しているさ」
そう、彼等は未だ助けられるのだ。シルヴェストルの背中を見詰めながらシューヴェルトは村人達の撤退を支援する。今まで手伝ってくれていた彼等の安全のため、よりよき場所へと誘うことが必要だ。
「大丈夫だ。この貴族騎士が必ず、君たちを守って見せる」
迫るけがれを退ける。複製肉腫の中には村人達の友人もいただろう。痛ましい声が聞こえるがシューヴェルトは今は耐えてくれと静かに言った。シルヴェストルを始め、シャノや慧が屹度助けてくれる。ラダが安全な場所までその身柄を運んでくれる。
だから、安心して、今は生きるために逃げてくれとシューヴェルトは静かに、そう言った。
「良いメンバーだ。流石は十七号の友人たちだ。友の力になれるならこれほどありがたい話はない。
フィナーレを飾る最高の演奏を約束しよう」
泥人形のギターライフルを秋鳴らす。マッダラーは愛用する改造アコースティックギターを掻き鳴らし――その制作者は錬だ。その彼もこの陣の中で戦っている――『もうひと踏ん張りだ・諦めない心は・どんな敵にも屈しない(M・A・D)』を生み出した奥の手である泥の壁。高らかに叫び、味方のサポートを行い続ける。
勇壮なるマーチは仲間達の歩みを、英雄を讃えるその歌は魔力を帯びて背を圧した。そして、詩が齎す魔性は黙示録の破壊をも肯定する。
十七号は「良い演奏だ」と静かに笑った。村人の誘導、けがれを祓う者、そして――防衛を行う者。
十七号はマッダラーの演奏を聴きながら大樹の太刀鞘を手に走る。逸話があると呼ばれたその鞘。その逸話がどういった話だったのかは少女は知らない――けれど、この鞘に収まった刀は錆びず、色あせることさえ知らない。
地を蹴った。そして、仲間達を振り返る。
「――よし、では行くぞ。これがきっと最後だからな」
だからこそ、此処まで共に戦ってくれたことに感謝を告げる。声を高らかに上げ、集める敵。安全地帯で燻るなど十七号『らしくない』。だからこそ、彼女は刃を振るった。
その刃は後の先より生ずる斬撃。 義手の少女が戦場で鍛えた業のひとつ。
十七号を見守り、高台よりマッダラーは堂々と告げた。
「我らローレット。市井の民に平穏を、仇なす悪には鉄槌をもたらすものなり!」
――仇為す者は許さない。それが神使也。
成否
成功
第3章 第6節
「黄龍。一つ問いたいことがあるの。『黄泉津瑞神』とは……?」
けがれを祓う。それはこの場の皆で出来ることだとセリアは静かに告げた。彼女は今から複製肉腫を救いに行く前に、どうしても問うておきたいのだとそう言った。
『瑞は――我が友人は、最早、けがれに害され苦しみ続けている。
この地のけがれを祓ったとて瑞を蝕むものは祓えぬだろう。そしてこの国に仇なす者となる』
「それは……どういう」
セリアの問い掛けに黄龍は口を噤んだ。それ故に、救ってくれとひしひしと感じた切なさにセリアは黙ることしか出来なかった。
(屹度、彼等にとっても瑞と呼ばれた神はどうすることも出来ない存在なのだろう。
それは魔種がそうで在るように。この世界に存在するだけで悪となる存在であるのかもしれない)
愛無は静かに息を吐く。流れはイレギュラーズにあって、けがれが薄れ、ルートを辿る神気は堂々とその黄金の光を帯びてゆく。燻った。それは、苛立つほどに。
「豊穣に来てからこっち、今まで後手後手に回っていたんだ。ここらでへし折ってやるとしよう。鼻っ柱ってヤツを」
誰のことをとってもそうだ。全てが全て神様とやらの掌の上で転がされていたかのようで。愛無は複製肉腫に攻撃を叩き付け続けた。武官や文官、そして女房など――その中に『内情』を知っている者も居る可能性がある。見せる戦いで纏め上げてその行動を一気に絶つ。
愛無に迫るけがれを鎮めるように癒しを放ったヨゾラは周囲で揺らめく影の多さに溜息を吐いた。
「肉腫にされた人、まだ結構いるなぁ……皆、元はカムイグラの人なんだよね。
ああ、本当に……自分も他者もこんな風にされるのは、僕的には嫌だなぁ……」
肩を竦める。鬼人種であろうとも八百万であろうともヨゾラにとっては何方もカムイグラの住民で、大切な民である。その彼等がこうして『大地の癌』に蝕まれる。その恐ろしさにイヤだとヨゾラは小さく首を振った。
「彼等、できる限り元に戻そう……。
平穏な生活……いや、新しい日々に戻って? 猫とかをのんびり愛でられるようになるといいな」
カムイグラの平和も、そして、カムイグラで過ごす猫たちが穏やかな日々を過ごせるように。ヨゾラは幾度も肉腫を『鎮める』為に戦場を翔る。
「黄龍ノ試練に向かおうかとも思いましたが。まあ、あちらは多分大丈夫でしょう。
皆さん素晴らしい心の持ち主の方ばかりですから、きっと思いが届くはずです。ええ、私は信じていますよ? ふふふ……」
四音はくすりと笑う。物語であれば『此処で認められずに世界が崩壊した』何てことがあるだろうか。しかし、そんな『くだらない物語』は四音も観測しても楽しくない。それ故に――『楽しい物語』を描くためにとルートのけがれごと癒しの気配を放つ。
「……ということで、私は私のお役に立てそうな所にいくとしましょうか。
他者救済は得意分野ですからね。皆さんの命、守ってみせますね。お任せください」
「ええ、お任せ致しましょう!」
大地を踏み締めポーズを取って。輝く蛍光ピンクを煌めかせたのは愛。
「まあ」と四音はぱちりと瞬いた。その輝く蛍光ピンクが肉腫達へと飛び込んでゆく。
「『救い求める者を導く愛と正義の光明! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
……さて、私たちの愛と正義の前に、巨悪は去りました。複製肉腫の方々もご安心を。
敵が去った以上、この愛の力は貴方がたを傷つけるものではなく、その心に再び愛の火を灯す導火線となるのです」
巨悪たる『認められぬ存在』は今やこの場では数少ない.其方も淘汰されるのは時間の問題であると愛は語る。ならば、どうするか。悪の幹部に動員された人々を解放しなくてはならない。
放たれるピンク色を追いかけてナハトラーベは空を踊った。瘴気の晴れ往く空に徐々に活力を取り戻す空気。
清々しい、秋の空。ずんずんと風切り進むナハトラーベは言葉無く唐揚げを手にしている。
「―――」
空では彼女は自由だった。だが、絡みつくようなけがれが煩わしかったのも確かだ。今はその煩わしささえ遠く――晴明や回復行動を行う仲間達をサポートするためにナハトラーベは空を走る。
彼女は自身をデリバリー担当と認識している。必要箇所に直ぐ運搬。運搬性能と機動力には自信あり。インターバル短縮率業界No.1(当社調べ)と掲げて今なら占事略决のオマケつきと無表情の儘行動が示す。
この後に唐揚げとフランクフルトの交換会をしたい。やはり、美味しい食事は美味しい空気とセットで無くてはならない。
淀む空気を祓うようにマギーは息を吸う。
怖かった、と言った。
助けてくれ、と言った。
屹度、助けられなかったのは彼が弱すぎたからだ。彼の心が耐えられなかった。甘い蜜を啜り逃げた彼。
「そういった彼の声がまだ頭に強く残っています…
彼を……柘榴さんをどうしてボクは助けられなかったのでしょうか? 何故……?」
彼を救うにはこの国は余りに『傾きすぎた』。叱咤し、彼を支えてもその家紋を蝕む毒を拭いきることは出来なかったのか。何をすれば良かったのかとふがいなさにキツく拳を握りしめてからマギーは涙を拭う。
「ボクはここで立ち止まるわけにはいきません……。
柘榴さんを助けられなかった分、ボクは、他の方を助けます!
見ていてくださいね、柘榴さん。貴方の名前に誓って、貴方の分を助けられなかった分も多くの方々を助けてみせます!!」
Eosphorus――明けの明星。光を齎せと銀梅花に魔力を込めた。
足りない、とレンはそう唇に乗せた。力も、早さも、技も、何もかもが足りなかった。
足りない我が身で試練など受けるわけにはいけないのだと悔しげにさざ波のナイフを握る。
「精々が複製肉腫となった者を不殺に留めるのが関の山か……
ともあれ、元宇宙警察忍者として人を救うことに何ら抵抗はござらん。救われる礼は体の良い修行相手を務めてもらうことで払ってもらうと致そうか」
それこそが責務であると言うようにレンは地を蹴った。ルートの上に存在する敵勢対象を撃退することを掲げる。風のように体勢崩し、強力な技を仕掛ける。強かに地へと打ち付けられた複製肉腫の向こうから覗いたけがれを祓うように刃を投じる。
その最奥に。十字架が変形しながらがちゃりと、音を立てているのが見えた。
成否
成功
第3章 第7節
常に、先陣を切るのはその旗であった。『騎兵隊』――全て背負ってイーリンは進む。
複製肉腫の救出を、そして純正肉腫への道を切り開き、ルート上のけがれを排除する。
その目標を掲げたイーリンは『突破のための最短ルート』を辿る。
「味方の首一つは敵の首十に値する千金よ。さあ、払い戻しの時間よ!」
イーリンの言葉に頷いたエクスマリアは姿を消した祥月の立っていた場所を眺め悔しげに呟く。
「不甲斐ない様を晒した、が……まだ、果たすべき務めは、ある。怖いだろうが、もう少し、我慢してくれ」
恐れる軍馬。それに未だ名前はない――だが、この戦いが終わったら相棒にも名を与えてやろうとエクスマリアはそうとその背を撫でた。毛並みの良いその馬はエクスマリアに答えるように小さな声で返事を返す。
騎乗戦闘で足並みを揃え複製肉腫の群れを纏めて飲み込む。騎兵隊は『救う』為に隊を上げて走り続ける。
解放できた者は余波に巻き込まれぬように、髪で掴んで後ろに放り投げておこうとそう告げるエクスマリアに「特別な体験が出来そうね」とイーリンは揶揄うように小さく笑った。
複製肉腫達へと広がっていく聖なる光。その輝きの中でココロは「マリアさん!」と彼女を呼んだ。
「後はわたしが引き受けますね」
神秘の力での回復と、そしてささやかな医療技術。死地での経験を下にアレンジを加えた魔法式医術を使用して誰の命も失わせぬようにと医術士は――ココロは走り続ける。『好き』を覚え、『好き』を失うことを拒むように恐怖に打ち勝つが如く、彼女は手を伸ばし続ける。
大丈夫。
救える。救える命だ。
「救出活動とは……やれやれ。だが、起動が出来る僕達には向いている、か」
司書とアトはイーリンを呼んだ。取り敢えずは周囲を調べると馬で先陣を翔るアトは闇市で手に入れた軽金属で出来た筒を投げ込んだ。閃光と共に魔力渦が広がっていく。
「索敵のための周辺警戒、そういうしぶといのは僕の役目だろう」
アトは小さく笑う。共にはシルは年老いた影の国の馬。鋭い眼光が見通すようにずんずんとアトの背中を押してゆく。願わくばアラーナの警戒の如く。遠くを見通すのに便利な携帯式の双眼鏡を用いて周囲をぐるりと見回した。
「救出ね……良かろうさ、救出した者達が役に立つのなら……ね」
静かに呟いたのはシャルロッテ。練達式戦闘車椅子壱型は四輪駆動で軍馬並みの速度を誇る。ぐんぐんと進むシャルロッテは第八の戒と、そして、鷹と共に戦場全てを見通すが為、目を見張る。
その戦略眼は曇ることはない。進軍するタイミングは――伏兵は――考えることは無数にある。音が、視界が、そして、匂いが。全てがシャルロッテにとっての情報。脳神経に対する魔術的作用は疑義的並列思考を可能とする――多数の事象を同時且つ高速で処理しながら統合的な見地より意志決定を下すタイミングを見計らう。
「……ちっ。殺すなって一番苦手な事じゃねぇか……まあいいや。それが指示なら仕方ねぇ。
やるなら削りまでか。トドメは他に任せる。そん代わりしっかりやりやがれよ?」
エレンシアは肩を竦める。『黎明槍』を手に地を踏締めた。触れる者皆傷つける攻防一体の構え、そして、自らへ帰るダメージさえも省みず、防御すら砕く戦闘方式の彼女にとって『手加減』とは中々に難易度が高かった。
だが――オーダーが救うという事ならばその努力を『出来る限り』はこなしたい。
「出来るだけ殺さねぇように気は付けるが……手元が狂ったらすまんな、そんときゃ存分にアタシを恨め!」
叫ぶ。そして、眼前に漂う瘴気を祓うように蹴散らした。エレンシアがダメージを蓄積させた対象を視認する。
殺さず、そして意識を刈り取る。それが難しいことであることをエル走っている。神意執行の大鎌が血の涙を流しながら不可視の悪意を放つ。何処までも追い詰めるかの如く。複製肉腫の導線を防ぐ粉雪の娘はワンピースを揺らし、気丈にも前線を見据える。
「助けられる方は、沢山助けたいって、エルは思いました。
なので、エルは騎兵隊の皆さんと一緒に、頑張ります」
エレンシアもエルも、二人とも『救えるなら努力をする』とそう宣言した。じわじわと、苦しみ藻掻く複製肉腫。その様子に僅かに唇を戦慄かせたエルは「直ぐに、助けます」と静かにそう言った。
「まぁ助けられる人は助けた方が良いですよね!
助けれなくてもそれはそれで肉腫を解剖する楽しみもありますしね♪」
にんまりと微笑んだ。ねねこにとって『研究対象』であるか『患者』であるかの違いしか無い複製肉腫たち。上質な手提げかばんを揺らして進むネクロフィリアは肉体知識を利用して、どうすれば治療が効率的か、どうすれば怪我をしても行動できるのかを示す。
仲間達へと同行し、倒れ伏せた鬼人種の支援を行い続ける。本格的な治療は拠点に戻ってからも出来るが先ずは早期的な対策も必要だ。
「それにしても、数が多いですね。これがけがれですか……」
「はい。けれど、がんばれば、きっと上手く行くと思います」
エルが頷く。同行するシャルロッテがゆっくりと目を開く。好機を見つけたと静かに息を吐く。
――今だ!
シャルロッテは「進軍すべきだ」とそう宣言した。ならば、軍師の言葉に従うのみ。
旗頭はその旗を、騎兵隊の行く道を示す。
「全軍――突撃!」
「どうぞお師匠さま! いっちゃってください!」
イーリンへ圧倒的な声援で、ココロはその背を押した。今、彼女たちの足を止める者は居ない。
「司書、前だ」
「ええ。分かったわ――射線を通して! こいつの制圧の間横槍を抑えて! 回収班準備を!」
叫ぶ。イーリンの旗が揺れる。
眼前に存在するのは罪架。ソレの影響が及ばぬ内に――騎兵隊は走る。人々の命を救うために。
成否
成功
第3章 第8節
今、やれることを。そう掲げ、レイリーはイーリンの号令を受けて前線へと飛び込んでゆく。
助けられる者の為に戦いに来た。助けられる者が居るならば、助けたいと願うのだ。
ならば――そう願う者を何と呼ぶか。レイリーは小さく笑う。
「――それが、ヒーローというものであろう?」
盾を、剣を。武器を構えて一番槍は声を張る。只、敵を受け止め『先』を切り拓くために。目の前に迫る罪架の存在を退ける一助となるが為に。
「私はレイリー=シュタイン! 君達を助けに来たぞ!」
複製肉腫を受け止める。囲まれても動じることはない。難攻不落、無欠城塞の矜持、心持。
決して砕けることはない。仲間を護る事こそ本領と笑みを浮かべ、攻撃を受け流し捌き、仲間の危機に庇い続ける。
「……ったく、『傭兵』が『邪神』を仕留めきれんとは……いや、撃退出来ただけ良いか。故郷の様にはいかんのも仕方がないと飲み込もう……」
マカライトが嚥下し切れぬのは姿を消した祥月の事であった。『それ』は強敵である。魔種と肉腫、その両方が溶け合い混ざり合った異形。その本質は大地の癌と呼ばれた『けがれ』否、『滅び』であろうが自身を神と称するのならば邪神と呼ぶに相応しいか。
「……ティンダロス、もう少し踏ん張るぞ」
進む。エクスダークGを駆動させ、体より生やした鎖が眷属の腕甲へと変化する。命を奪わぬように、防御を剥がし裸の体へ叩き付けるが如く魔力経路が作用する。
「助けた者は馬車に避難させといて!」
レイリーの言葉にマカライトは頷いた。任せろとでも言わんばかりにティンダロスと共に倒れた肉腫のその体を馬車へと詰め込み続ける。
「どけよどけよ(ピー)ろすぞ〜♪ 」
『可愛い女の子には似合わない』言葉を発してレニンスカヤはにんまり笑う。乙女の研究心(こいごころ)が作り上げたイクリプス・フレーム。ソレを手にしながらも彼女は『わりかし安全地帯』をチャリオット・ヴォードビリアンを運転しながら進む。
「――あのね! うさね! 思うんだけど!
この複製肉腫って、大丈夫だよね?! もう動かないよね?! これ持っていくの?! ぬるぬるしてるけど大丈夫なのかな?!」
ぬるぬるしていやだなあ、とレニンスカヤは怯えたように複製肉腫を見遣る。「彼者誰はどう思う?」と恐る恐る徒問い掛けられたその言葉に「ウサビッチお嬢様、大丈夫ですよ」と微笑みを浮かべる。
「いえ、私も思ったのですがこうもブヨブヨですと本当に救出できたのか不安にはなりますね」
「ね!? ぬるぬるしてるよね!?」
「暫くすれば姿も許に戻るのでしょう。……と、先程『中務卿』殿も仰っていましたので」
安心して下さいと微笑んだ彼者誰の傍ではリスのリリスが通信状況を伝えている。前線を進むイーリンの式神との連携で、前が切り拓かれ後方より『拠点』へ向けての脱出劇が繰り広げられる。
「さあ、往きましょう。ウサビッチお嬢様。一人でも多くを拠点まで連れて行きますよ!」
ぶよぶよしてても、ぬるぬるしてても、彼等を救わねばならないことには違いは無いのだ。
「改めて、肉腫って奴の悪辣さを感じるよ。
けど僕らには組織力がある、護るべきを護りつつ目標を達成しようじゃあないか」
人々に『付着する毒』のように、広がっていく。それが戦いに赴く戦士達だけではない。何もしらなう無辜の民を害するのだ。
メリッカはそう呟く。丁度よく『殺さずに済む』為の技法は習得しては居ないが、騎兵隊と言う仲間の力を合わせれば分業していける。仲間とは素晴らしいのだと、心の底から安堵するものだ。
偽眼で真っ直ぐに睨み付けたのは瘴気。肉腫を巻き込み殺すことは避けるべく、上空からいざ――放つは最大火力。魔砲が飛び込み、瘴気を消し去ってゆく。その傍に立っていた肉腫には注意しメリッカは「邪魔だ」と小さく呟いた。
「だが――」
振り仰ぐ。傍より飛び込んできたのは獣式ハティ。
「……さて……ハティ……出番だよ……」
小さく呟いたグレイルの傍には複数の術式を重ねて作り上げた神秘の黒狼の姿が存在した。
手にしたカンテラの炎が揺れる。グレイルは走る。複製肉腫――全ての元凶を絶つことは、きっと、難しい。肉腫とは何か。それが精霊種が可能性(パンドラ)を帯びてその命を『肯定された』ように、魔種達が活動することで集まる破滅(アーク)が肯定した新たな命。
悪意在る精霊。それが取り憑いたと言うのがしっくりくるのかも知れない。グレイルは「せめて」と口を開いた。
「せめて………被害に遭った人は……助けたい……見過ごしておけないね……」
ハティは飛びかかる。複製肉腫の無力化のために。前へと出すぎぬようにと獣が神秘魔術を用いて襲い往く。仲間達が『とどめを刺すのに困る』相手は、全て引受けるように。
ハティの傍らに広がったのは神聖なる光。二対の糸は朱と碧で彩り、そして、踏破者の指先へと繋がって往く。
「――今回の目標は複製肉腫の救出。つまり、倒す為じゃなくて命を助ける為の戦い……責任重大、最後までやりきってみせなきゃねぇ」
シルキィは動きの鈍った複製肉腫をとにかく多く多く巻き込むようにと光を放つ。20発、そう計算する。全て誰かの命を救うためにそのリソースを注ぎ込む。自分の脚は、自分の体は人を助けるためにあるのだと――そう、自身に言い聞かせるように。
だが、メリッカが言ったように『分業』だ。攻撃が自身でそれだけで精一杯だというならば、ソレを支える者が騎兵隊には存在している。それこそが、安心と安全だとでも言うように。
「さぁ、ちょっとだけ辛抱してねぇ。直ぐに『痛くなくなる』から」
囁く声と共に。シルキィの前で複製肉腫達のその行動を『留める』のは武器商人。嘲笑う怠惰に、そして、『純粋なる力の顕現』。詠唱などない、術具もない、法則まで捻じ曲げて――
「すまんね、今はちょいと力が有り余っててさ。死んでくれるなよ?」
理解されない献身を、人は愛と呼ぶのだろうか。
愛情は裏返る.絶対に殺すというその『理想』と共に赤い刺繍糸の紋章が『いのちのこたえ』を示すが如く。
ヨモツヒラサカは主の感情を聡く感じ取っていた.この場の誰よりも殺気立っている。それは、傍らで歌声を響かせるアウローラも気付いている。
神威神楽の闇は深く、夜は濃く、それでも――
「救える命があるのなら救ってあげたい! アウローラちゃんは不殺は苦手だけど……不殺し易い様になるべく満遍なく削っていくよ!」
だからこそ、放つ言の葉に力を込めた。感情(こころ)を響き渡らせる。聞き入る者は動きを制限される。だから、この刹那に『助けて欲しい』。分業を行いながら、アウローラは救いの手を差し伸べる仲間達の傍らでただ愛らしい声音をのびのびと響かせ続けた。
「お前にできるか? ハイドロイドよ」
問い掛けるレイヴンにその召喚獣は不服そうに濁流を生み出した。アウローラの歌声と共に広がるハイドロイドの水流にレイヴンは落ち着いてくれと言うようにそうと声を変えた。
「不満だろうが今回は食らうのは控えてくれ」
喰らう事が仕事であれば、それを『手加減する』のは骨が折れる。だが、此度は皆で救う為に戦っているのだ。それ故に――我慢を強いる事を謝るようにそっと魔力を練り上げた。
「救出は不得手に御座るが、雇い主殿の意向なら従わぬ訳にはいくまい――やれるだけはやってみるで御座るかね」
剣を手に、無傷の敵を只管に攻撃を繰り替えす。多数の攻撃が飛び込めば複製肉腫の命が簡単に潰えてしまうことを幻介走っていた。それ故に、複製肉腫に、そしてこの地を害する『けがれ』に――多数の攻撃を放つ。
地を叩いた爪先に力を込めての八艘跳び。裏咲々宮一刀流 弐之型――天高く、飛翔する華麗なる燕。天を舞う翼を捉える事は何者にも敵わずと速力と、そして強襲の制空技が穢れた瘴気を打ち払う。
(出来てるのかしら……私はちゃんと出来ているのかしら……分からない、分からないのだわ……
きっと足りていないのだわ……まだ……まだ……だってほら、未だに周りの誰もがこんなに妬ましい――)
華蓮の心で燻る炎がちらついた。白き翼で空を駆け上がる。低空飛行と共に騎兵隊の仲間を支えるべく、癒しを与え、そして解析し続ける。
巫女として働く華蓮を愛する神々は彼女の迷いを肯定するだろう。神威結界、神意結界、そして神維結界の加護を受けながら、差し伸べる手と抱き留める手は、迷うこと無く伸ばされる。
――妬ましい。けれど、『遣るべき事をこなすだけ』
ただ、そう願うように味方全体を立て直す大号令を放つ。響く、そして――その眼窩には罪架の姿が映った。
成否
成功
第3章 第9節
「つづりさん!」
フランはつづりと、そして彼女を支援する『先輩達』へと声を掛けて微笑んだ。
「行ってくるね!」
そう声を掛けて、一番力を発揮できる場所までダッシュする。けがれを祓うには、誰かの傷を癒やして、元気にする力が効く。ならば――ここで黄龍と相対する皆と、つづりの為に『活かせる力』を。
何時もの如く淡いマナを宿す。そして一面に現われた花々が楽しげに歌い始めた。どんなに苦しいときでも大丈夫、がんばろうと声を掛ける――が、気分が乗って歌い出すフランの駄目な方の『歌声』が驚くほどに伸びやかにけがれを浄化する者だから心地よさが胸を支配する。
「……」
「晴明さま?」
「よ、良い歌だな……」
メイメイはぱちりと瞬いた後、「めえ」と小さく呟いた。晴明の護衛をして、自分自身の力を振り絞るために神秘的な力を扱う『本能』を覚醒させる。当たるも八卦、当たらぬも八卦。ならば、今一度自分に力を。
「あと少し。もう少し。きっと、道は開かれる。わたしは、まだ、立ち止まりません、から」
祈るように、メイメイは言った。彼と共に、この地のけがれを祓い浄め、そして――『ルート』を走る黄金を遙か遠く自凝島へと届かせる。
「晴明さま、今の内にお願いします……!」
「嗚呼」
迫りくる怨霊に妖、複製肉腫。背後より奇襲し、そして速力を攻撃力として放つエマは「ひぃ、ひぃ」と小さく呟いた。
「もうひと踏ん張り……ですかね。『けがれ』とやらに手を出しましょうか。正しくは瘴気って奴ですね。
どういう理屈かは知りませんが、アレが妖を呼び出している様子。上手くいけば、わざわざ出てくる妖や怨霊の相手をする手間が省けるというものです」
ならば、とけがれを吹き飛ばす。メイメイもそれに追従し瘴気を祓い、フランと晴明が浄め鎮めるその力を乞う。
「……私が頑張れている内に、事が片付けばいいんですが……!」
「大丈夫です……きっと! あの、光は、皆さんに届きます……!」
エマとメイメイの足下を走り抜ける黄金。それは――瞬きさえ与え前にけがれの失せた霊脈をひた走る。
「数は随分と減ったか――ならば、あともう少しか。
異常にけがれに執着して……ふむ、あれは戦略的撤退というより普通に逃げている気がするが。
魔種に任せているようで癪だが気にする時間が惜しいな。ベインを、豊穣の人達を助けなければ」
逃さないように。浄められる瘴気の中から飛び込んでランドウェラはこんぺいとうを小さく食む。
離れろと、飛ばす衝撃に複製が転がれば直ぐさまに叩き込む威嚇術。注目すべきは『まだ生きたい』という意志だ。ソレさえ無く、此方に仇為す者達を救う道理も存在しない。だが、彼等は生きたいと、よりよい未来を乞うだろう。
その為ならば。けがれも随分と晴れ渡り、視界にはっきりと見える『十字架』がこの場で一番の『不安要素』である。
がちゃがちゃとパズルのように変型し、放たれる光は決して聖なる物ではない。悍ましくもその肉体に害を為す破滅だ。
「その様な物――」
沙月が地を蹴った。罪架。そう呼ばれた純正肉腫。ソレは逸話があるらしい。観測された地点での物語の一幕だ。
――罪を告白すると罪悪感を背負ってくれる不思議な十字架で、村で独自に信仰されていましたが、そのカラクリは村人の脳に肉腫埋め込んでいくのです。
ならば? 罪など消え失せ、幸福になるのです。その体が化け物で有ることなど知らないまま――
その様な存在を是とするわけには行かぬと沙月は飛び込む。攻撃動作さえ見せぬ美しき柳の動き。無拍子は優雅で美しくあれと雪村の娘にとっての必要技法。
すう、と息を吸う。放つ攻撃で脚に感じた感覚は一度目と二度目と違う。それが、この『変型を行う十字架』か。
「形状が変化するという敵は珍しいですね。ですが、良い経験になりそうかなと……攻撃パターンを覚えながら対処するように致しましょう」
これも鍛錬であるかのように。流れるような動作から攻撃を放つ。只、その『攻撃』を見極める為に。
「罪架……?」
その名を呼んでから葬屠は瞬いた。相手は動く武器、名前もどこか似ている。
それ故に葬屠は期待した。自分と似た存在であるかも、分り合えるかも、と。
ふらり、ふらりと歩み寄る。「気をつけて」と告げる沙月の傍でばたり、と葬屠は倒れた。
「……いたっ! やっぱり……それしか無い……? 戦うしか……
対話を――そう願ってはいた。もう自分以外の地は流れなくて良いのでは、とそう願う。
ソレとは裏腹に、流れた血はぞわりと罪架へと敵愾心を抱き襲い掛かった。好戦的なる自身の血液、血で象られた猫に、狼は主の為、大地を蹴り走る。
成否
成功
第3章 第10節
地を蹴った。祥月に『やられた』怪我のこと何てソアは気にすることは無かった。
痛くっても今日のソアは平気だった。『カンカン』に怒り、複製肉腫を元に戻す為に走る――走っていて――そして、
「危ない!」
叫んだ。罪架の至近距離に存在した複製肉腫の手を引いた。威嚇術を放ち、助けるためにと声を張る。大いなる天の使いの救済の如く――ソアのその掌は武具を纏うこと無く、伸ばされる。
「こんなふうにされていいはずがないよ!」
力を使いすぎた。ばちり、ばちりと音を立てる雷がにソアが唇を噛む。
自身の体じゃないみたいに重たい――それでも、前に進めば取り戻せる笑顔があるはずなのだ。
(立って! 進んで! 今、ボクが前を向けば助かる人が居るんだ!)
――だから、一人でも多く救うためにソアはその脚に力を込めた。
罪架による攻撃が降り注ぐ。受け止める様に、滑り込みその刃の曇りも無く無量は静かに『罪の十字』を見上げる。
「十字架とは、伴天連のようですね。そも肉腫とはなぜ生まれたのか。
……国盗りの類い、と思っておりましたが根は思ったよりも深いのかもしれませんね。
ともあれ、今は目の前の敵に集中するのみ――いざ、参る」
静かに言葉を遺し、そして、地を蹴って飛び込んだ。いくさ場で体を自在に動かすための特殊形状の防具。それを身に纏い、殺した、殺したい、殺した、殺したいと想いながら、願いながら只々、只管に――女は咲う。
「凡ゆる苦行を経た我が心、最早迷わず、惑わず――人体人心全てをもって魔を滅す刃とならん」
余力など残さない。此処で出会った事もえにしであるならば。ならば自身の血肉とする為に命を賭けて相対し続ける。
振り下ろす。真の救済を与える刃。今や一点の曇りも存在しない鬼心が人心へ戻る浄き刃。
ぶつかる、そして、無量が後方へと弾き飛ばされるがその脚に力を込めて再度、戦闘態勢を整えた。
「よおし、一気に叩き込むぜえ!! ついてきなッ!!」
もう一度だ、とグドルフは叫ぶ。死ねない理由が存在している、だからこそ、咄嗟の判断能力と火事場の馬鹿力がグドルフを掻立てた。
「純正肉腫『罪架』の討伐の……お手伝いを、します。とてもお強いの、でしたら……支援もその分必要なはず、です」
後少しなのだとフェリシアは参謀として、そして、戦闘に適応する力を仲間達へと授ける。英雄の行く道を奏でる五線譜を辿るタクト。戦奏し、そして自身を最適化し続ける。
「……あと少し、ですから。私も頑張ります、ね。だから――」
「――ええ、だから。進むわ」
竜胆は自分の出来ることを成し遂げるだけだと深く息を吐く。心はざわめいた。未だに弟子のことを思えば「無茶ばかりして」と怒鳴りつけたい気持ちになって仕方が無い。
「刀を振るっているうちにちょっとは冷静になったのよ、これでも。
あの子が居るのは、きっと―――何て、私もまだまだね。直ぐに惑ってしまうんだもの」
愛しい人と共に。そう思えば、彼女は屹度、決意している。窮地に存在することには変わりなくとも師が惑い刃を曇らせては意味が無いと振り下ろす後の先から先を打つ――縫い付ける、邪剣。
「こうして皆が揃っている今だから討伐の好機と言えるでしょう」
空より囁く鴉の声を聞く。アンジェリカのこと場に頷いてグドルフと無量が走る。無数の攻撃の中で、傷つくことも厭わずに進む彼等を支援するフェリシアは「ご武運を」と静かに祈る。
「――戦いは終盤、最期まで気を抜かずに生きましょう。
ここで倒れては意味が無い。だって、『幸い』にデッドエンドは必要ないでしょう?」
アンジェリカは堂々とそう告げた。魔力を放つ。罪架を食い止めるように聡明なる大魔術が広がっていく。
「進んで!」
アンジェリカの声にグドルフが「当たり前だ!」と吼えた。
「尊き神の象徴である十字架が人の害と為す――だから気に食わない。だから壊す」
十字架。それが神の徒の所有物であることくらい知っていた。
だが、ソレがどうしたというのだ。ソレを壊せば罪となる? 嘯け、『こんな邪悪な神の徒』が居て堪るかと声を張る。
それが何であろうが、それがどうであろうがグドルフ・ボイデルにとってそれは気に食わない存在だ。
「てめえが何なのかなんて興味なんざねえ。ただ、このおれさまの前にてめえが居た。ぶっ壊す理由なんてそれだけで良いんだよ」
――だから、壊す。滅多打ちにするように。慈悲など無い。
壊れてしまえと叫ぶ。その声に、僅かなる苛立ちを孕みながら――
成否
成功
第3章 第11節
――けがれが祓われ、黄金の神気は霊脈(ルート)を辿る。
ならば、その後押しの如く、黄龍は自身へと想いを伝える一撃を与えよとそう言った。
「さて黄龍様お初にお目にかかります。黄泉津瑞神様は敵側に囚われているのかしら?」
恭しく頭を下げたのは恭介。静かな声音でそう言った言葉に黄龍は頭を振った。
「……ならば、穢れで汚染されているのかしら?」
『如何にも』
「ならば、その汚染も祓うわ。それでも、きっと助ける。あなたと友好を結ぶなら、黄泉津瑞神様とももうお友だちだもの」
不敬だなんて怒らないでね、と揶揄うように恭介は笑った。黄龍は彼の言葉に怒ることは無い。
「ったく……人が純粋に心配したのに酷い仕打ちだぜ」
頬を掻く。そんなに怒るなよ、と肩を竦めたミーナに黄龍は『大精霊とは気まぐれなのだ』とそう言った。万が一――そう、大精霊を倒すことは困難を極めるが、万が一があった場合をミーナは心配したのだ。寧ろ、その万が一の心配が黄龍にとっては自身という存在を侮られたと認識されたか。
「ま、遠慮はいらないってことだろ? ……なあ、『黄泉津瑞神』ってどんな神だ?
……ほら、私は顔も見たことがねぇからさ。敵と間違えないようにしないといけないだろ?」
『瑞は我らと同じ大精霊。そして、神威神楽にとっての守り神である。
美しき白き毛並み――一目見ればその権能により瑞を認識できるであろう』
「成程……?」
ミーナは黄龍の言葉に僅かに首傾げ、そして、咲耶は『神も人も護る』と見栄を張ったのだと小さく笑みを浮かべる。紅牙の忍びに二言はない。だから、問うて置きたかった
「お主の恋人か? と問うのは流石に野暮でござるな。
黄龍殿、黄泉津瑞神とは何者でござるか。その者はどうしたら救えるのでござるか?」
『けがれと――そして呪縛より解き放ってくれ。瑞は、苦しんでいる。瑞は、悲しんでいる。
今もこの京のけがれを受け止め嘆き続けている。その心が、吾は酷く悲しいのだ……』
黄龍が項垂れる。咲耶は「ならば瑞神が為、この力を使おう」とその手に暗器を握りしめた。
「黄龍はイレギュラーズの一撃を受け止める準備をしていて、賀澄やつづりは念じることに集中している状態……」
ゲオルグはこの状況こそ、横槍があるかも知れないと賀澄を護る為に零時との連携を心がけた。
「何が来るかは分からない。万が一の事がないようにしっかりと賀澄を守らなければ」
「貴殿達は優しいのだな」
賀澄の言葉に零時は小さく笑った。一番怖いのは唐突な出来事だ、と彼は告げた。
「賀澄君が目の前で倒れてしまう.ソレが一番怖いことだ。
僕が何もしないで済むならそれでいい。だって賀澄君が襲撃されなかったって事だもん」
だから、確りと護らせて欲しいと零時が告げれば賀澄は「幅広いことに対応できる。素晴らしいことだ」と微笑んだ。
そうして、誰かの為にと戦う姿勢――それも、黄龍がイレギュラーズの一撃を受け止めようと考えた理由なのだろう。
「ぶはははッ、オメェさんを通じて起動キーを押すってことか。良いじゃねぇか面白ぇ!
幸か不幸か向こうに行っちまってるのは俺の知り合いも多い! なら俺は、俺の飯を食ってくれるあいつらを喚ぶために想いを乗せさせてもらうぜ!」
ゴリョウは胸を張った。『向こう』で美味しいご飯に恵まれるわけも無い。腹を空かせた者達のその手を引っ張り掴んで助け出して、無理矢理にでもその腹を満たしてやりたい。
だから、聞いてくれとゴリョウは堂々と黄龍へと向き直る。その為の、この四海腕『八方祭』(きょだいなうで)では無理矢理誰かの手を掴む為にある。
「さぁ、攻め手(かりょく)に欠ける俺ではあるが……この想いは本気だぜ!
受け取りな黄龍! そして麒麟! 呪(まじな)いの篭ったこの砲弾をッ!」
ゴリョウの声音と共に爆ぜる火花。ソレこそが想いの一撃。
「それじゃ、行くぜ――私の全力攻撃、味わって貰うぜ、黄龍さんよ。
私は、ここで止まる訳にはいかねーんだよ。向こうにいる、大切な奴を助け出すまではな!」
ミーナの一撃に続き、咲耶が地を蹴った。
「情など忍びに似合わぬが拙者は一度全てを捨てた身なれば仲間の無事を願う事も許されよう。
拙者達はそれぞれ事情があり目的も違う、しかしこの混沌では共に戦った『戦友』をそのまま見捨てておく事など出来ようか。――だから我らが思いよ、麒麟に届け」
縁が紡がれる。ソレによって出来た関係性を失いたくは無い。自身と共に戦場を掛けた時点で紛れもなく、仲間なのだ。
「誰がどう思っていようと拙者達が彼等を必要としているのだから!」
咲耶の一撃に続き恭介は糸を紡ぐ。それは別たれぬ事の無き人の繋がりを思わせた。
「さて、アタシに皆みたいな大層な正義感はない。
綺麗で輝いていて、楽しくて可愛いものが大好きなだけ。敵側のやり方は美しくないから嫌なの。
溢れるのは悲しみじゃなくて、笑顔がいいわ。他人のためじゃなく、自分のエゴになら命を懸けられる性分なの」
肩を竦めた恭介はつづりちゃん、と黄龍のために自身の力を尽くす『けがれの巫女』へと微笑みかける。
「よく、感張ったわね。これからはアタシ達が頑張る番。
切り裂くばかりじゃなくて、今はこの糸で繋ぐ。道を縫い合わせて仕立てるわ――アタシの全力、のせて届け!」
そうだ。頑張る番だ。
エゴだ、と言われればそうなのだろう。
正義などと、大義名分などと、そんなものを掲げるつもりは無い。
ただ、体が動いた.自然なことだった。自分の気持ちに従えば自然と逸り出す。進め、と心が掻立てた。
鹿ノ子は――心の儘に黄龍の下へ、飛び込む。
「助けるッス! 遮那さんも! 捕虜になったひとたちも!
豊穣の人々も! その黄泉津瑞神さんも! ……黄龍さんだって!」
降り注ぐ数多の流星の如く――天より落つる幾多の涙の如く――たとえ一瞬の煌めき、浜に咲く大輪の火の如く、直ぐに掻き消えたとしても。一瞬だけでいい。その命を燃やして飛び込んで。
ただ、彼の命を繋ぐだけだった。
――戦いたいんじゃない。勝ちたいんじゃ無い。彼が笑ってくれるなら、彼が生きてくれるなら。
――好き。好きです。だから、笑っていて。
「だれひとり、犠牲なんて出してやらないッス!」
君が笑う未来に、誰かの死なんて、必要ない――
成否
成功
第3章 第12節
希は賀澄と静かにその名を呼んだ。防衛を行う希は晴明に問い掛けた『長胤』の事を想い出す。
――獄人である個人で言えば彼には俺達からすれば当然の報いとして救う価値もないと思っている。
――俺としては、彼は政治家として、尊敬できた。それ故に、これから共に国を作って行く事ができれば、と。
「……長胤の過去に、何が有ったの?」
晴明の告げた言葉に、賀澄の後悔に、希は触れた。あの遠き蛍火の想い出を――蛍と言う名前の彼の愛しい娘のことを。
そうして、話を聞いてから、希は唇を震わせる。賀澄の顔色は些か悪い。
「彼はもう疲れたんだね。終わらせてあげるのが幸せ……そんなわけないよね」
「しかし――」
希は瞬いた。きっと、この場に居る誰も天香・長胤の死を願っていない。それは希とて同じだ。
「魔種天香長胤……殺すよ」
――魔である彼。そうして訪れる別離を覚悟するように賀澄は「よろしく頼む」と頭を下げた。
きっと、誰もが『不安』を抱く。この国の行く末に――そうして、リゲルは「黄龍様」と頭を下げた。
「瑞神様も救うべく尽力致します。状況は? 一体どうすれば……?」
『解き放って欲しい。我が友を――』
そう告げた黄龍にルーキスは瞬いた。彼等は大精霊。神と称され信仰の対象ではあるが、それらはイレギュラーズが対話する存在と大した違いは無いのだろう。
「神にも友と呼ぶ存在がいるとは、意外と人間的な部分があるのですね。
しかし、救うとは一体……? 穢されている、解き放つ、とは……?」
ルーキスの言葉に黄龍は巫女姫、と告げた。
『エルメリア――巫女姫は我が朋友、瑞の心までも蝕んだ。
無論、我らは大精霊。力を暴走させることはある。瑞は巫女姫に加護を与え、そしてこの地の穢れを一心に受け止め続けたのだ』
静かに――黄龍が語ったその言葉にルーキスは「なんと……」と呟いた。
「この国を救いたい。そして何よりも、霞帝の力になりたい。
長胤を苦しめた、と霞帝は、そう言って居られた。その顔はどこか悲しげで……あの御方はきっと、全ての責を一人で背負っておられるのだろう」
賀澄は顔を上げ彼の理解者たるルーキスに黄龍は喜ばしいと言わんばかりに彼の言葉を待つ。
「心の荷を解くことは難しいのかもしれない。けれど、飛んでくる火の粉を払うことなら出来る。
立ちはだかる障害を砕き、その背を支えられるように――その為の力を俺は欲します」
だから、届け、とルーキスは一撃を放つ。
囚われた者達に縁があるのだとウォリアは静かにそう言った。一つ一つはか細く、頼りにするには、辿るにはあまりにも儚い縁だ。しかし、それでも――ウォリアは見てきた者がある。
「……残された者達が苦しみ……悲しみ……耐え忍び……それでも諦めず、救おうとする意思を。
……賀澄……つづり……そして黄龍……『そなた』が今告げた、その想いを」
見た。聞いた。そして、ウォリアは騎士でも、同胞でもない、己として。『オレ』として想いに応え彼等を助けたいと終焉を打ち破るために進む。
「これは狂える憤怒に非ず……『想い』を繋げる一時の激情――……魂に誓って、そなたの友を救う!」
響く声に、シガーは自分自身との戦う理由とは別の、『誰かの為の理由』を掲げる。
見た事も離したことも無い存在に対して、どう救いの感情を持てば良いのだろう。そう考える。けれど、聞いていて分かった――『瑞』を放置すればこの国は傾ぎ、神威神楽を暗黒に包み込む。
「これがローレットの仲間を救う事になり、神威神楽を救う事になる……つまり、正義の為になるってわけだ」
小さく笑った。ならば、純粋に助けたのだ。今までこの地で見てきた『被害』――この先、同様の被害が減るというならば。
「あぁ、それと……お礼を返したい子が居るし、霞帝との約束もあるからねぇ」
シガーが微笑み、賀澄を仰ぎ見る。そうして、無数の攻撃が飛び込む中でポテトはそっとリゲルの手を取った。
「思いを乗せた攻撃か……リゲル、私の思いもその一撃に乗せてくれるか?
二人の思いが一緒なら、ばらばらよりきっと強く届くさ!」
「勿論だよポテト。俺達の想いを乗せ、転移陣を起動させる!」
二人でならばどんな困難だって乗り越えることが出来る。だからこそ、癒やし支えるポテトはリゲルの攻撃へと己の想いを連れて行ってくれとそう願う。
「私はユーリエやルル家、アレクシアたちを助けたい。
今、囚われた仲間を助けるために頑張っている仲間や、この国のために頑張っている霞帝やつづりたちの思いに応えたい――またみんなで一緒に笑いあうために、みんなに繋がる道を繋ぐんだ!」
「……きっと自身よりも友を案じたアルテミア。
シフォリィやアレクシアを救うべく、今も剣を振るう、クロバやシラス君。
遮那君を傍で守るルル家――霞帝、つづり様」
名を一つ、一つと呼んだ。命を削り、各が戦い続ける。その想いを届けるべく剣へと乗せて。
「遮那、そそぎ、ユーリエ、ルル家、皆――必ず、助ける!
皆を思う君達だからこそ、ローレットには……『俺達』には、君達が居ないと駄目なんだ。今、道を――斬り開くッ!!」
成否
成功
第3章 第13節
「少し出遅れましたが大精霊である黄龍様にお目通り願えたこと、嬉しく思います。
そして、ここで貴方を乗り越えることこそが試練であると」
一矢つがえて、正純は「お聞きしたいことがございます」と黄龍へと静かな声音でそう言った。
「かの女神は穢れに侵され、巫女姫に加護を与えている――ならば現況は。
そして、『けがれを祓う』為に我々はその女神と相対し剣を交えなくてはならないのでしょうか」
『左様』
正純はぐ、と息を飲んだ。女神――『瑞』はその力を暴走させ、大呪を一心に受け止めた結果、この神威神楽に暗き闇を落とすことだろう。
「……承知致しました。我が身と、我が星への信仰に掛けて、必ずや、かの女神を救うために力を尽くすと誓いましょう――それが、この国を大呪から救うための手段だと、仲間を救う方法であると信じて」
一矢に想いを乗せ、そして――届ける。それが決意であるとそう告げるように。
「……ん、わかった、約束するよっ。
『瑞』も、神威神楽も救って見せる、でも、今でも、後でも良いから。『瑞』について、もっと聞かせて欲しいな。黄龍さんの思いも……もっと聞かせて欲しいのっ」
『面白くも無いが、望むなら語り聞かせよう。我が友人、瑞は心優しく――そして、お主も好ましく思う存在であるかも知れぬ』
美しき白き毛並み、その神は朗らかに微笑むのだという。八百万を慈しみ、神威神楽を見守る長命の者。
花と晴天を愛し、雨を恵み、そして雲の流れを見詰めてうたた寝を行う、そんな愛らしい『彼女』は今、苦しんでいる――
(……これが終わったら、黄龍さんとももっと話してみたいな。沢山、聞いてみたいの……!)
だからこそ、たった一撃。小細工なんて無い『ありったけ』をリリーは放つ。
真っ正面から。それが小さなリリーの攻撃。捕まっている皆に、そして、麒麟へと想いを放つ。
救いたいと、そう望むので在れば、その一助になるというならば。傲慢と、強欲と言われようとも神の願いをも叶えてみせるとフレイはそう言った。
皆の力が、そして自身の力と黄龍の力があれば救うことが出来る。手が届くならば全てを救いたいと、それは奇跡を乞うほどに強き願望だった。
「……シャルロットという闇に堕ちても光を見た少女がいた。
俺はそれを見て、闇は払うだけでなく、闇自身にも光を抱かせることができるのだと感じた。
だから、俺の全てをここに込めよう。たった一振りに心を全て捧げよう。守りの力が生み出す俺の想いを」
その輝かんばかりの光に、手を伸ばす――
きらきら、綺麗。
世界が、輝いている。
「きれいね」と微笑んだ章姫へと賀澄は「ああ」と頷いた。
「あと少しだ。待っていてくれ章殿。……帝の膝ならば安心だろう、妬いてしまいそうになるがな。
そして行人殿とつづり殿の最大の見せ場。ならば黒衣はその見せ場のために労力を惜しまないさ」
「君の亭主殿に妬かれてしまったな」
「まあ!」
微笑む章姫と賀澄に鬼灯は彼女が楽しそうであるだけで、一先ずは幸福であると黄龍を見詰めた。
美しい、黄金。光り輝き『彼女』が綺麗と言った景色。
君が為、と私情を捨てられないのは忍びとして甘すぎるだろうか。頭領としての自覚が足りないか。それでも――章殿と、友と、部下達の為に生きたい。この豊穣の大地を守りたい。
「……強欲なのだ俺は。なればこそ、俺が選ぶ技は誰も殺さぬ――橘薫は梔子の月。心優しき慈愛の月」
それ故に、その光にかおりを届けよう。香しき慈愛のかおり。輝く光に、そうと添えて。
その光をその双眸に映したつづりの額をこつりと叩いたのはラグラ。
「セーメーがいなくなったからって下向くとか無しですよ、つづり」
つづりは首を振った。ラグラとて、つづりが『何も出来ない臆病者』であるだなんて思っては居ない。いいこと頭を撫でれば擽ったい笑みが覗いた。
「つつりにとってのそそぎ、セーメーにとっての賀澄君、長胤君にとっての何か。
その為にではなく自分の為。分かったこと言いやがりますねこのピカピカは。誰も彼も自分勝手に生きて良い」
自分でそうしたいと願うなら、輝きは誰の目にだって止まる。降り注ぐ声で、それすら曖昧になったラグラは自分には出来ないとつづりのけがれによる負担を少しでも軽減できればと願う。
「ひとまずのゴール。ですが山頂は遠く空も高いということで立ち止まらず行こうぜ!」
ゴールか、と行人は小さく笑った。そうだ。つづりは今、繋がれた。そして黄龍も『こちら』を見ている。
「最初に言っただろ? 俺が居る、ってさ。
だから――好きに伝えてみると良い。何とか出来るから、さ」
背を押した。つづりの右手を握る行人の傍らでクレマァダは「つづり、手を」とつづりの左手をそうと握った。
両手が、ぬくもりに包まれた。つづりが静かに息を吐く。
「巫女とは、神を降ろすものじゃ。即ち神の相似形たらねばならぬ。
我は『そう』ではないが、我と同じものが『そう』であった」
同じもの。それが彼女のかたわれを差していることに気付きつづりは目を見開いた。
手を繋ぎ身体的接触で認識できる『外界の誰か』としてサポートを行う行人は目を伏せた。
――俺の意識と感覚は、黄龍とつづりの感覚を少しでも強めるように使おう。
「彼女は『子供』なんだ。その『子供』が頼まれ事を果たそうとしているんだ。
それをやりたいように出来るようにして、見守るのが大人の役目だ。
Lesson4――信じるんだ。相手を、自分を、そしてこの状況を作ってくれる皆を」
信じる。信じるために、傍らの『祭司長』の言葉に耳を澄ます。
「黄龍殿よ。貴殿の僅かな間違いを、一つだけ謹んで申し上げよう。
ヒトは失敗する。ヒトは浅ましく愚かなこともある。
だが、ヒトはそれを正し越えんとする精神も持つ。
わが血族の幾百幾千の間違いの果てに――生まれる奇跡(カタラァナ)がある」
その奇跡に、涙を流し、そして『受入れる』事が器の片割れとしての仕事だったのだろうか。
其れは分からない。だが、人間は歩みを止めてはならないことをクレマァダは知っている。
「間違わぬのは、貴殿ら悠久の者の特権。我らは幾度も間違おう。
じゃが、幾度なれども正しき答えを求め続けよう。さあ、霊脈を濯ぐぞ――!!」
成否
成功
第3章 第14節
「さて俺は最近カムイグラから足が遠くてな、正直状況の方はよくわかってない。
だが戦況は混迷も混迷と聞いた、ならば手助けが必要な状況のようだな。及ばずながら力を貸そう。これでも一撃の重さはある、少しぐらいの足しにはなるだろう」
静かにそう告げたR.R.は膝立ちの安定した姿勢を取る。黄龍との相対、という状況を皆に任せて送るつもりであったというステラは静かに息を吐く。
「……やるからには、えぇ、全力で叩き込みます」
攻撃タイミングの調整は黒子が担った。数多の想いを束ねる手伝いを、と尽力し続ける。
それは国家であろうとも、その場限りの集団であろうとも変わらない。誰かの思いを一つにして届けること――それはどれだけスケールが変わろうとも区別は存在しないのだ。
「理想を語るには青二才な事を解らないほど子供じゃない。
だけど目の前の願いを諦めきれるほど大人じゃない」
誠司は呟いた。約束も、全て、背負っていく。それがどれだけ重たいに持つであろうとも。
「僕が――……オレが、オレ自身の意思で、ここから先は結果の世界。
だから仲間に頼る。オレは英雄じゃない、だけど一人じゃない」
誠司の言葉に、そうと重ねるのはアイシャの言葉。自分の想いは頼りなくて、小さくて、屹度、眩くは輝けない。
「……それでもいいの。ほんの少しでも誰かを守れるのなら。
誠司さん、ありったけの想いを黄龍さんに届けましょう!
――誰かの想いを届ける『道』になれるなら」
それだけで、輝いていられるから。微笑んだアイシャの傍で、アシェンはそうとスカートを持ち上げ淑女の礼を取る。
「もちろん全てを助け、平穏を迎えられるのが一番だわ。
でも気持ちを乗せて、と仰るのでしたら根底にある、私を動かす理由をと思うのだわ」
一撃のルールに反する訳では無い。一連動作として長距離からの陳腐なバラッドを響かせる。
『後悔』なんて、支度は無い。転移陣を動かせば屹度『皆が無事に戻ってくる』。そうして、其処に救いたい命があるならば出し惜しみ何てしたくは無いのだから。
「一撃でいいなら、これを差し置いて出すべき技も無いだろう。
イレギュラーズとして始めて放つ、完全に攻撃に徹しての全力全開の一撃だ」
R.R.は堂々と、放つ。それが『初めての全力全開』。ありったけの一撃として。
「破滅を滅ぼす、それが俺の心意気だ。それはあらゆるバッドエンドを撃ち砕くという意志。
破滅という絶望に抗うための決意と覚悟――さぁ黄龍、俺の心意気を持っていけ!」
叫ぶ彼の傍らでステラは静かに憤った。動く力があるのに、助けられる力があるのに、と。
『吾は此処から動けぬ』
「――それは、どういう……」
『吾はこの結界を維持する者である」
「……けれど、大きな力を振るうには色々あるのは、全ては無理でも理解は出来ます。
とはいえ、納得出来るかは別というか……ちょっと一回殴らせて頂けますか? すみません、拙は我儘なもので」
『気が済むのであらば』
その想いを飛び込ませろと。ステラに黄龍は静かに告げる。
――この地で綴り、眺めた、一つ一つをみれば小さくありふれた悲劇。そこに名を連ねて欲しくないっていうありふれた想い。
アシェンの『願い』にアイシャは『祈る』
「黄龍さん、私達《ヒト》の想いを信じて下さりありがとうございます。
私達は愛故に過ちを犯し、愛故に身を滅ぼす。あなた達の様に博く愛する事は難しくて……。
それでも大切な人の為に自分の全てを懸ける事が出来る。
黄龍さん、あなたの『大切な方』を必ずお救い致します――尽きぬあなたの愛を共に届けさせて下さい!」
そうだ。叶えるためには動かなくてはならない。光が奔流となる。黄金なる神気まで届かせるように。
「願う、なんて言葉は使わないよ。信じる。あんたがオレ達を信じたように」
そうだ。願うのは。振るうのは。信じるのは汰磨羈は静かに黄龍へとその言葉を連ねた。
「木生火、火生土、土生金、金生水、水生木。森羅万象、遍く巡りて世界を成す――
青龍、朱雀、白虎、玄武、黄龍。五行の何たるかを知る御主等なら、それがどういう事かを承知している筈」
ならばこそ、分かるはずなのだ。『人』とは。『人もそうなのだ』と。
「様々な者が集い、繋ぎ、継ぎ、巡りて歴史を成す。それこそが人の強さ。
己等が過ちと向き合い、正し、未来ヘと進み続ける人の力よ――
その流れを断ち、世を滅ぼさんとする魔種共の思うが儘になど、決してさせぬ」
それ故に、太極律道、斬交連鎖。その為に自身の技が、自身の刃が存在する。
「例え楼閣が如き災厄であろうと、我が一刀にて斬り伏せる――故に『刋楼剣』
是ぞ、我が生涯全てを乗せた『厄狩の剣』也!」
成否
成功
第3章 第15節
「ッ――」
エリザベートは苛立った。何故か、言葉は多数に伝え、そして響かせ、その想いを繋げてきた。
黄龍はそれを汲んだ上で『自身へと一撃を』と求めたのは理解できる。必要な事であることは分かれど、自身の思いは――神様でも仏様でも混沌肯定様でも誰でも良いから『ワンパンで本来の力』を発揮できれば相手を後悔させるほどに伝わるはずなのに。
ぶん殴る。リミッターも全て無視して。腕が変な方向に拉げようとも関係ない。
それだけ、エリザベートは怒っていた。ユーリエ。大切なあの人へ繋がるまでもう少し――その力が、軌跡を描いて広がっていく。
ユーリエ。
――ああ、この言葉を言わずには居られない。
「私の愛が軽いと思いでか――?」
飛び込むエリザベートの一撃を受け止めながら黄龍は『その愛が麒麟の目を覚まさせるものよ』と相も変わらずの態度を示す。
その巨大なる龍を、己の祖を――そして自身の進むべき道導を示してくれたのだと結依は息を飲んだ。
「黄泉津瑞神殿は、貴方の大切な友人なのだろう?
俺にでもできることがあるのなら、少しでも、助力したいと思う。
あぁ、なるほど、この地の守り神殿の名なのか。穢れが酷いのならば、大本である穢れを放つものの排除と、禊か……」
『大祓の儀』と口にした結依に『如何にも』と黄龍は頷いた。生半可な行為では『けがれの巫女』と賀澄の二人に大きな影響を及ぼす可能性さえある。
複製肉腫を元に戻すとき、イレギュラーズは攻撃を重ねてその命を奪わぬようにと心がけた。
それの再現で良いと黄龍は結依へ言う。つまり、黄泉津瑞神を殴って正気に戻せと言うのか。
「助けてほしい相手がいるのね? いいわよ。
言ったでしょ? 『自分と自分の知り合った自分の周りの存在には幸せであってほしい』ってね」
オデットはあっけらかんとした調子でそう言った。何故か、自分と知り合った以上皆が幸せで笑っている事を求めているのだ。
「黄龍、あなただってもうその中に入ってるのよ。
大精霊に向かって何言ってるのかって思うかもだけど、困ってるなら助けたいわ。その神も精霊なのかしら?」
『この地での信仰では神と称されるが瑞も我らも大精霊の一種である』
「目に見えないからこそ神と称されていた――そうかしら?」
『如何にも』
それ故に、大精霊は自身らの加護を徒人へと与え給う。その加護に耐えきれるように――想いに飲まれぬようにと黄龍は慎重に『力を分け与えしもの』を見極めたのだろう。
「神様に、伝えるんだね。ボクの想い……」
焔は緊張したように、ゆっくりと顔を上げた。自身の世界では神様の子、神子であったことで敬意と畏怖が向けられた。八百万の神々が優しく接してくれたが、それは炎堂 焔であるかではない――『初めて生まれた神様の子』であったからだと、焔はそう口にした。
「突然こっちの世界に呼ばれて、神様としての力を失って……。
そんなボクを神様の子じゃなくて、1人の人として、ただの炎堂焔として接してくれて仲良くしてくれたのはお父様とお母様以外ではこっちの皆が初めてだったんだ」
だから――そんな風に自分を見て、笑ってくれた人達と、まだ一緒に居たいと地を蹴る。そして、花拓くは紅蓮桜。
「ガアァウ……!」
呼吸と共に、アルペストゥスは高揚する気持ちを全てをぶつけた。
ねえ、いいの。
問い掛ける。
ほんとうに? ぼく、やるよ。
そして、気持ちを言葉に代えた。この土地は心地よくは無かった――けれど、力が溢れれば、此処は変わる。これ程までに心地よい『黄金』が周囲に芽吹くのだから。
「……Sicut est……Fluit……id sicut」――在るがまま、流れるまま。
電流が溢れる。満ちる。
「Et……vera……wish……」――叶える、願い
領域を定め、変容を促す。ここに居る皆が、この世界を変えるのならば。
「Levate」――掲げよ! 等しくあれ。静寂も混沌も、共に在るがまま――
その輝きの中をイナリは舞踊るが如く、飛び込んだ。想いを乗せた一撃。簡単だ。『黄龍』にぶつけるのではない――黄龍さえ飛び越えて、麒麟(しま)へと届かせる爆発的な力を求めているのか!
「さぁ、負け試合はここで終わり、今までの掛け金を取り返す時間だわ。
負けっぱなしの大損だなんて、皆嫌でしょ?なら、ここから全員で巻き返すわよ!」
敵に奪われた『掛け金』を取り返して、その勢いの儘に敵の有り金全て奪い取る時間だとイナリは堂々と告げる。
「さぁ、帰宅の時間よ、一緒に賽を振るって、敵を素寒貧にしてあげましょう!
そそぎも救い、仲間も救い、黄泉津瑞神も救う、勝負はここからよ!」
此処から。そう告げる言葉にレーゲンはぐ、と息を飲んだ。誰かの為に――そんなの、召喚されたときの自分にとっては興味が無かったからだ。グリュックが見つかるまでローレットを利用して、その後はさっさと去るつもりだった。
「でも――仲間とお揃いなだけで価値のない金メッキはとっても大事になった。
初めての依頼失敗はとっても悔しくてもっと頑張ろうって思った。
……敵だったのに味方になったあの子にまた楽しい事を教えると約束をした」
楽しい、悲しい、怖い、辛い、怒った。沢山の感情に出会いと別れ。そんな経験が――そして、そんな感情をくれた人達の居る混沌が大好きだった。
「これからも色んな事があって、いつか絶対に会う大切な人達にこんな事があったんだと笑顔で話せるよう……レーさんは助けられる可能性があるなら諦めないっきゅ!」
「ああ。俺だってそうだよ。最初は息子が混沌にいたら他人でも助けるだろうから、かっこいいパパでいるためにローレットとして戦っていた。息子以外はどうでもよかったんだよ」
息子のために。何時だってそう考えた。ウェールにとっての演技の『お人好し』は何時の間か自分さえ上塗りする。
「誰かの命を助けられた時は尻尾が止まらず、助からなかった時は悔いと足りない力に自身を呪う。
友人が、大切な人がいなくなる悲しみは知っている。だからその願い、依頼として受けよう――依頼じゃなくても俺は受けるけど!」
召喚される直前にその身が受けた息子の炎を、誰の命も奪わず守りたいものを護る炎を、その身に纏う。息子への想いと、この世界への想いを受け止めてくれとウェールは叫んだ。
――夢を見ていた、とトウカは言った。木刀をくれた誰かは故郷で家族が未だ悲しんでいるのだとそう言っていた。
「父に母、兄ちゃん達の悲しむ姿が目に浮かんで、だから完全に寝たら駄目だよと刀の稽古に付き合ってくれたり……昔話とか俺の知らない事を話し続けてくれた。
きっとその誰かがいなかったら、俺はイレギュラーズとして召喚されず、ずっと怠惰に眠っていたんだと思う」
夢の話だと笑うことは勿れ。それは――紛れもなく何かの『可能性』だったのだとトウカは言う。
「だから助けたい」
誰かに助けられたならば、自分だって。
恩返しでは無い。それが自分というものの進む道。
「助けた誰かが笑顔にできた分、故郷に帰って家族に会う心構えができるから。
――だから自凝島のみんなも帰れように、願っているんだ」
島の内部では、脱出のために仲間達が走っている。
麒麟に認められて転移陣を起動させこ地へと帰り着く為に。
「……一度の攻撃に乗せて、か。上等だ。それならとっておきのをくれてあげよう。
先程私は『力を求めるのは自分の為』と言ったね? 『より良く生きる為』とも。
その為には友が、仲間が必要なんだよ。彼らと共に愉しむ時間に、私は飢えているんだよ」
マルベートの享楽的な感情を満たすには仲間が必要なのだと最上のマナを練り上げた。
幾重にも束ねた運命選抜。そして、選び抜く最良の未来はマルベート・トゥールーズの身を削ろうとも自身の誇りと友の為の相応しい一撃に昇華する。
「……ふふ、かつて世界を滅ぼすために振るった力を使うのが『友の為』とは、我ながら笑えてしまうけれど……さあ、神の如き獣よ!」
マルベートは叫ぶ。災厄の片鱗は今は最上の攻撃となる。黒き奔流に破壊の気配は最早在らず。
――我が『ハルメギド』、とくと見よ!
成否
成功
第3章 第16節
友情に信を。そして、相棒への愛情と、夫への信が自身に力を与えてくれる。
幻は恭しくも頭を下げた。さあ、ショータイムは始まったばかりなのだ。疾き世界へと誘うと奇術師は笑みを浮かべて。
幻の声を聞き、ジェイクは彼女の信頼に答えると大きく頷いた。そして、自身の心の中に存在する想いを吐露してゆく。
そうだ。金次第で人を殺すローレットは正義の集団では無い。それは黄龍だって知っているだろう。ジェイクにとってそのローレットの在り方は気に入らないものだった。一方では人を救うと大義名分を掲げているくせに一方では人を殺す事を是認する。それを厭い乍らも自分の居場所が此処にしかなかったのだから。それでも――今はこの場所を嫌っては居ない。
「……それに、嫁を始めここに集まる連中は大好きなんだよ」
だから、仲間の帰る場所を失いたくは無い。迷いは無い。頭は澄み切って、屠るだけの段数は十分だ。
ジェイクが構える――その傍らでミルヴィは踊るように地を踏締めた。
「カムイグラを救うため、アルテミアさん、シフォリィさん。
やっと因縁から開放されたのにまた囚われかけているクロバ……大切な仲間達を救うために……やるよ! 皆!」
天下一の華、天候桂花の名を掲げミルヴィは儀礼剣を構える。冗談みたいなわざと笑うことは勿れ。人を殺さぬ信念は未だ研ぎ澄まされてる――大切な人のために、力を貸して、と叫んだ。
「アタシは笑ってなんて口では言うけれど奥底ではまた人は裏切るって思い込んじゃってる……。
でも一緒にいる皆と助けたい皆は信じたいって思ってるんだ! アタシの弱い心ごとぶっ飛ばす!」
信じる。それがどれ程に難しいことかをミルヴィは知っていた。そして信念を攻撃に乗せて届けることがどれ程に難しいかも、ルフナは嫌という程に知っていた。
「……力を示せ、ね」
その言葉に僅かな苛立ちを隠せずにルフナは静かに呟く。
「守りたい仲間も守りきれずに大絶賛無力噛み締め中の僕らによく言うものだよ。焦燥と苛立ちの八つ当たり先にでもなってくれるワケ?
それこそ、神頼みしてまで力を借りたいとこいねがってるんだ。いいから、お願い、頼みの綱なんだ」
神様、なんて縋る程に、黄龍の力を乞うていた。それはルフナだけではない黄龍に向けて一撃を投じるもの、霊脈を浄化するもの。そのどちらもだ。
此処で、賀澄が目覚めて霊脈を浄化して――そうして『奇跡』の様に繋がっていくことをルフナは、アリアは分かっていた。全員の努力が、何かを叶えるため――
「よーっし! 行くよみんなー!」
アリアは幻の『行動』に合わせて共に飛び込んだ。高めた攻撃力を使って、その体に込めた全てを発揮する。
自分の攻撃が『向こう』に居る仲間を救うことが出来るのならば、届ける。届かないなんて弱音を吐いている時間は無い。
「いっけえええええええ! 想いも、一撃の重みもぜーんぶ乗せて、あっちの島までとどけー!」
叫ぶ――これがアリア・テリアのやれることを。やれることをやって、後は仲間達に全てを任せる。祈るアリアと同じく、幻は『うつつの夢』を黄龍へと見せる。
「黄龍よ、目覚めるときです。僕達の大切な仲間を助けるために力を貸してくださいませ。
貴方の力で必ずや僕達の仲間を取り戻しておみせしましょう。この国をも守り切ってみせます!」
やれやれと肩を竦めたのはサンディだった。カミサマと言う存在は自分と相性は悪い。
そう告げる彼にシキはくすくすと笑った。護衛が必要だと名乗り出て共に進んできた戦場――今はソレが必要ないとしても。
「ふふ、少年。黄龍に一撃ぶちこむまで付き合っておくれよ」
助けになりたい想いを人の心と呼ぶならば――『心を知らぬ処刑人』は僅かに、心と向き合う切っ掛けを黄龍より得たこととなるのだろうか。
「一撃と言わず、気のすむまで付き合うぜ?」
――君が、友人となるまで。
サンディは「あー」と小さく唸った。想い出すのはフギン・ムニンと言う名の男。
「正直……正直な? あんま思い出したくねーんだ。あの日のことは。
見え見えの罠に自分で突っ込んで捕まった。皆を巻き込んで、皆のお陰でやっとあそこから抜け出した。だっせー話だよな。姫みたいでさ」
お姫様だから待っていろと、そう言う訳にも行かず。サンディは全員無事なら兎も角、助かったのは俺だけだったと小さく呟いた。
「それがさ。ようやく、ようやくだぜ? ここで『リベンジ』できるってわけだ……
邪だろうが何だろうが、ついでに俺からの一撃も受け取ってもらうぜ! 黄龍!」
あの日の『リベンジ』――奇跡と共に起こした風を想い出す。美しき力の奔流の中、シキは眸を輝かせた。
「ねえ黄龍。私は願うよ。笑っちゃうくらい柄にもなくさ。
仲間とこの国の助けになりたい。そんで黄龍と友人になりたい。
その為なら私はどこまででも走れる。どれだけでも剣を振れる。そう思うから――この想いが嘘か真かなんて、もう迷わないさ」
『娘、それを何と呼ぶか知っているか?』
「屹度、心だ。けれど私は知らない。だから、心と向き合うために約束をしよう。
瑞を助けるよ。けがれだって大呪だって、ぜんぶ切り払ってみせる。私の心で何度だって君に言う。
――この心が、そう叫んでいる。そんな気がするんだ。黄龍、私と友人になってよ」
今度は、その一撃が届いた。それはシキを受入れるという意志なのだろうか。
大精霊も優しいものだとセレマは小さく笑った。戯れあい。楽しいお喋り、そして『今度は強めのサドマゾ遊び』というのだ。
「その気もないのに相手を甚振るのはボクの趣味じゃない。そうまでしてボクらを測らなくっちゃあならないのかい?」
『ああ』
「……それほどまでにキミも強く、何かを願っているとでもいうのかい。
形振りに構いすぎて弱みを見せないのは可愛げがないぜ。けど、神様というのはそんなものか」
セレマは小さく笑う。契約魔術師たる自分は契約という縛りの中ならば何だって履行する。黄龍の頼み事が契約だというならばセレマはソレを叶えると誓えるのだ。
「どちらにせよ、だ。願うだけでキミを物にできるなら安いものだ。
オフラハティ、スウィンバーン、フランソワズ……血でも魂でもなんでも取り立てるがいい――この一撃にボクを刻み込む!」
成否
成功
第3章 第17節
「ははっ、なんだそりゃ。頼みがあるんなら素直に言えよ!」
大笑いし、ルカは友人のように黄龍を叩いた。然し、黄龍は為されるが儘にルカの掌を受入れて彼の言葉を待っている。そうだ。偉い精霊だろうが神様だろうが心が、感情があるのだ。
一線を引いていたのは自分たちの方だったかとルカは笑う。自分たちとは何ら変わりの無い存在が、其処に待っていたのだから。か
「良いぜ黄龍。瑞もお前も四神も。霞のおっさんも攫われた仲間も! 八百万も獄人も! つづりもそそぎも!」
――そしてザントマンに苦しめられたアイツ(カノン)も。
あの砂漠の巫女のことを憂い泣いたリュミエも、その咎を背負い生きるディルクだって。
「全員が笑えるような結末を掴もうじゃねえか!」
何もかもを掴めた訳でもない。ずっと勝利してきたわけでは無い。ただ、此れが自分自身であり、これが自慢の力であると暗雲打ち砕くためにルカは地を蹴った。
「救いたい――ええ、困難を乗り越えて、全ての想いを刻み込んで。私たちは、あなたの願いも叶える未来へ進みます」
読書ばかり。物語の世界に閉じこもっているとリンディスは目を伏せた。それでも、信の置ける仲間とならば未来に進み、未来を綴っていける。それが、自分の戦い方。綴り、授け、癒し、そして――『見届ける』
それに、何の狂いも無い。皆を支えて、信を置き、自分の気持ちさえも仲間が連れて行ってくれる。それが、リンディス=クァドラータの一撃だった。
「人を信じて、共に在り、そして笑って泣いてそれでも未来へ。
そしてそれがいつか、書き残す物語がどこかで誰かの力と為れるよう――行きましょう、黄龍さん!」
明日を目指した。明日のために進むのならばマルクはそれを「分かりました」と了承するだろう。
「お見せします。僕の今できる最大限を。願いを、祈りを、それだけに終わらせない。掴み取る力へと変えて、示します」
恭しく、そう告げてからマルクはゆっくりと息を吐く。リンディスが誰かにその心を預けるように。マルクは、ルカは『想いを紡ぎ運ぶ』事を知っている。
「それは、僕だけの願いじゃない。言いましたよね。『想いを紡いで力を合わせれば、より大きな力になる』と。
そこには、黄龍。貴方の願いだって、当然含まれる。『黄泉津瑞神を、我が友人たる『瑞』を救いたい』という願い、確かにお預かりしました」
本当は戦いたくなんて無かった。それでも、戦わなければ誰かを救うことは出来ない。目の前で失われていく命を、見過したままでは進めなかった。
思い知らされた。無数の命が潰えていく様を。だからこそ、仲間と共に積み上げた研鑽を此処で発揮するのだ。
「はは」
夏子は笑う。「ルカルカ、大変良い事言ってらぁ」と肩を竦めて「そのとーり」と笑ってみせる。
「仲間は助ける。何としても。だから黄龍、アンタも仲間にしてやる」
それに、と夏子は言った。『彼女』を――瑞を助けろと言われれば此方から助力すると申すだろう。女性を助けろと言われてソレを拒絶するほどに夏子は『腐って』はいない。
「水臭ぇんだ 力貸してくれんだろ? じゃあ力貸すよ、仲間だからな。助けるぜ。何としても……だろ?」
目の前で女性二人も連れて行かれたのだ。隊のメンバーも、他にも結構。そう思えば夏子は悔しさがこみ上がった。自分一人でどうにか出来るわけではないと知っていた。それでも、「俺はまだやれた」と幾度も幾度も繰り返す。
零したものばっかりの掌でも、救えるモンを救いたい。そのことには――
「お主の気持ちを、共に届けよう」
アカツキが夏子へと笑みを浮かべた。信念の宿した炎の眸は狂うことは無い。
「自分に正直に生きて楽しむのが妾のポリシー、気に入ってくれたなら幸いじゃな。
己がエゴ丸出しでもう一言いうのなら……そうじゃな。妾の友が島の方で頑張っておる、流刑にされたと聞いたがきっと今も生き足掻いておるじゃろう」
豊穣を救いたいなんてそんな高尚な気持ちなんて無かった。それでも、『風ちゃん』は助けたい人と、その信念のために頑張った。此処で、風牙に「お疲れ様」と手を振るほどにアカツキは冷たい人間では無い。
「風ちゃんのその頑張りを無駄にはしたくないし、友達を助けたいのじゃ。
お主を通して麒麟へ届けて見せよう、我が炎、我が力を――そして主の力を欲するが故に約束しよう、妾の友を救い、お主の友をも救うと! とくと見よ! これが我が生涯最高の、炎じゃあああ!!!!」
赤々と、滾る。その美しさを眸に映してからリュティスは「ご主人様、参りましょう」と躍り出た。
協力には対価を。それは正しい契約の在り方だった。何よりもリュティスにとってベネディクトが望むことこそが正義なのだから。
「ご主人様の想い、黒狼隊の皆様の想い、そして私の忠誠心を攻撃に乗せましょう。
望む未来は手繰り寄せねばなりません――この一撃に全てを込めて……!」
それが主人の望みであれば。リュティス・ベルンシュタインはベネディクトのために、彼へと信念を置いて自分の最上の攻撃を放つだろう。
望みであれば。そう告げられたベネディクトは「ああ」と頷いた。
「まだ全てが終えた訳では無い、だが――力を貸すと言ってくれて感謝する黄龍。
攫われてしまった仲間達も、今この国で苦しんでいる者達も、助けられるのであれば助けたい。
黄龍、あなたが望む『黄泉津瑞神』もまた、今苦しめられているというのなら助け出して見せよう。たった今仲間を助ける為に力を貸すと言ってくれたあなたの言葉に応える為に」
――そして、『大切な誰かを助ける役目』を授けてくれたその心に答えるために。
ベネディクトの傍で、花丸は嬉しそうに微笑んだ。
「救って欲しいって、黄龍さんは私達を頼ってくれたんだよね?
だったら私は今こそ言うよっ! 花丸ちゃんに、マルっとお任せっ! ってね!」
ピースサイン。元気な『花丸印』で彼女は答える。
誰かを傷つけることしか出来ない両手で、叫び続けたら少しは誰かの救いに、護れるようになったのだろうか。迷いは何時だって存在した――それを今更うじうじ悩むことでもないし、それこそ『それでも』って話だと笑い飛ばす。
「一人の力で全てを救えるなんて思える程子供じゃない。
それでも皆と想いを繋ぎ、紡ぐことが出来るなら、きっと何だって出来るって信じてるからっ!」
そうだ。皆とならば。ベネディクトは槍に望む未来を乗せる。
今こそ、この一撃を投じるときだった。眩いアカツキの炎と共に飛び込んでゆく。
「そして、未だに行方が分からぬそそぎ、この戦いに巻き込まれ苦しんでいる者達を必ず助け出す為に、未来を切り開く……! 届けぇッ──!!!」
花丸は、飛ぶ。もう一度皆と笑い合う未来のために。泣いている誰かの涙を拭うために両手は空けておいた。
「いっけぇええええっ!」
成否
成功
第3章 第18節
「あら、黄龍様のお眼鏡に叶ったなら光栄だわぁ。
……でも、恥ずかしいからさっきの本音は秘密にしてね?」
ぱちり、と瞬くアーリアに黄流は頷いた。アーリアには目を見張るような攻撃力は無い。自身でそう認識している――けれど、誰よりも的確に『当てる』事はできる。それが護る為に身につけた戦い方なのだとそう、と息を吐く。
「今日の私はハートアンカー、『想い紡ぐ心の使者』!
瑞さんって方は、貴方の大事な友人なのね。約束しましょ、私はけがれも大呪も祓って、彼女を助けるわ。イイ女は、約束は守るものよぉ」
小さな約束は、今日を生きるために背中を押した。アルフェッカ・ヌサカン――豊穣と葡萄酒の神が愛しい人に送った輝く星の名前を冠し、紅き豹が飛び込んでいく。
「私達ヒトが約束をする時にやることがあるの。こうやって、小指を立ててねぇ。
ねぇ、黄龍様――私と『指切り』しましょ!」
イイ女がいたならば、イイバイクだって存在する。千尋は鉄の馬に跨がって、深呼吸――そして全速力で突撃を。
「殴り合って育んだ友情+ダチの証=マブダチ。つまり! マブダチの願いは俺の願い。
言ったろ? 俺は死にたくない以上に『ダチを護りたい』んだ。
マブダチが助けてくれって言うなら、約束するに決まってんだろ!任せなマイメンゴールデンドラゴン。なんたって俺は冠位魔種をブッ倒して、絶望の青を拓いた男なんだぜ?」
絶望の青を開くその『成功と否定』。左右一対の髑髏を輝かせ、悠久の風が吹く。
「しっかりと俺の名前を覚えとけ! 俺は! 『悠久ーUQー』の! 伊達! 千尋だァーーーーーッ!!!」
希紗良は鬼渡ノ太刀を握りしめ、黄龍へと静かに語る。
「生きる者は皆、己の願いの為に動くであります。それが他者にとって悪であろうとも……」
この地に溢れた悪しきもの。それらを齎したものからすれば、それは自らの願いを果たしただけだ。
善も悪も、その存在の数だけ存在し、それを否定することは出来ないのだと希紗良は静かに、そう言った。
「キサの善が、誰かの悪となろうとも。キサはキサの『想い』の為に、剣を振るうであります。
大事なものを守る力が、欲しいであります。それがキサの願い」
心に浮かんだのは、神使となって出会った人々だった.彼等は何時だって、前を向いて走っていた。
だから――目を閉じて息を整える。構え、そして一歩踏み出すは月の軌跡。
――我が剣よ。心のを映し、皓月の如く輝くがいい。
「キサの一刀。とくとご覧じあれ!」
誰もが願いを託す。それは人も神も精霊も変わりは無く、神はその信仰を力に何かを為すのか。
ならば、神の徒であるメルトリリスは『神様の為に』動くことが正しき行いであると、目を伏せた。
「私たちの我儘だけぶつけるのは理不尽ですもの。
私たちにあなたの我儘をぶつけ下さい。私も確かな希望と願いと夢をぶつけます。
……私がみた麒麟は、けして絶望たるものではなかったはず。希望の未来を見たと信じてます」
だから――その『神が齎した未来』にメルトリリスは歩みたかった。
過去に止まった彼の手を引いて一歩進めるのならば。その為ならば『勇気』を分け与え、微笑み合える。
「私は力が欲しい。これは強がりで、エゴで、傲慢。海の先の他人がなんだ、と言われても……。
私は――私達は――この國で重ねた逢瀬を信じたい! 仲間へ、そして、未来へ手を伸ばすの――!」
届け、と叫ぶ。その声音に百合子はにまりと笑みを浮かべた。今の自身に持てる全てを此処で解き放つ。
その拳に乗せる想いは、誰かの願いを叶えたいと願った自分の心(ちから)。
「強くあれと願われたので、最強の称号たる生徒会長を手に入れた。
生徒会長であることを望まれたので、生徒会長たる態度と意思を持った。――だが、それで誰も幸せにならなかった」
間違っていただろうか。それでも、其処に答えは無い。しかし、この地で答えが手に入るかも知れない。誰かの為にと、乞われたその未来へ歩み出すために。
「その答えを得るために、この地で願われた全てを叶えたい――黄泉津瑞神も、その他に助けを乞われた者も全て!」
「ああ。男らしい事を求めてくるのもシンプルで良い。俺も願いを叶えたいし、俺も男だ。
そう言うのも、照れ臭いけど、嫌いじゃない」
ウィリアムは照れくさそうに笑った。美しき黄金の光が舞っている。仲間達の心が、呼応して霊脈に光を走らせていることに気付く。
「……それから、黄龍(あんた)にも助けたい奴が居る事は判った。
どういう状態か、どれだけ困難か……それは蓋を開けなきゃ分からないけど。その為に全力は尽くす。俺達は、いつだってそうして来たから」
簡単に救う等と口にするな、と笑うだろうか。それでもいい。そうやって安請け合いしても困難を越えることが出来ると知っているから。
――想い願う。囚われた仲間。苦しんでいる、豊穣の友人。
「喪いたくない。まだ一緒に見たい景色が、未来が、誰しもある筈だ。
助けたい。助けたいんだ――その為に力を求めた。だから、今ここでそれを示す!」
畏れなど今のウィリアムには必要なかった。願い求める様に空に飾る星の力を解放する。見ていてくれ、とその輝きを黄金へと放ちながら。
「攻撃? 受け止めますよ。馬鹿だと思わないで下さいね?
貴方様の攻撃を受け止め、超える攻撃と想いだからこそ麒麟様に届くはずだろうから!」
朝顔は――向日葵は自身を憂う弟たちのことを思う。それでも、目を伏せて顔を上げる。
分かりやすい試練に挑むならば分かりやすいシンプルな未来を夢に見る。
「私は遮那君と共に未来(あした)も生きたいの。
彼におやすみよりもおはようを言いたいの。こんな夜より夜明けを共に見たいの。
だから……想いよ届け! ……夜明けを今もたらす為に!」
明け空を眺めるときの感動を、タイムは知っていた。彼女が目指したその未来。
我が身を苛む痛みをタイムは恐れることは無い。屹度、皆の方が痛かったのだから。
「そうだ――夜明けを見よう。ねえ、また遮那さんに会った時にこんな傷だらけじゃあ、ね?
二人共とっくにボロボロだけど、それでも……女の子は可愛くいたいじゃない?」
誰よりも素敵な笑みを浮かべて。そうタイムが告げる言葉に朝顔は頷いた。
飛び込んで。そして、傷だらけの二人でも、夜明け前のその暗がりに光をもたらせると信じる。
「この力が、きっと――未来を生み出すから!」
成否
成功
第3章 第19節
「ボクは友達を救うためなら何でもしてみせるよ! また皆で笑って日常を過ごしたいからね」
微笑んで、セララはそうと黄金の中を歩む。金の髪に舞い落ちた、金の軌跡。
黄龍の神力が霊脈を辿り――届く、その刹那まで、語らうことを彼女は止めない。
「ねぇ、黄龍さん。だからボクは貴方と麒麟さんも救いたいな。
だってこうして皆で語り合って、ぶつかりあって、思いを通じ合わせて……これってさ、もうボク達と黄龍さんって友達だと思わない?」
そう、とその体に触れた。人に非ず。その掌に伝わる固さがどこか擽ったい。
「だからね、ボクは捕らわれているイレギュラーズの皆も、黄龍さんも、その分体の麒麟さんも……全員を助けてあげたいんだ。
黄龍さんにもそう思って貰いたいな。お互い同じ思いなら友情パワーがアップするからね!」
『吾と友人になりたいと、皆おかしな事を言うのだな』
「そうかな? イレギュラーズってね、優しいんだ。だから、黄龍さんが友達だって言うと皆喜んでくれるよ。
だから、ボクの事をセララって呼んでね。それから、この友達への想いを受け止めて! 友情と絆の! ギガセララブレイク!」
友人。それが永きを生きる大精霊にとってどれ程大事であるかをキドーは善く善く理解できる。
「友人を助けてほしいって……ははあ、なるほどね。いままで渋ってたのはそれもあんのかい。
ホイホイ他人に任せられるような事じゃあねえし、出来る事ならてめえ自身で救い出したいわな。よく分かるよ」
そうして、この結界を『維持』するためには動けない理由が無数ある。黄龍が『瑞』を傷つける事ができないとするならば――人が必要だ、と言うならば。
「いいさ! やってやらあ! 知ってるか? 知らないなら教えてやる。
ゴブリンってのは強欲なんだ。欲しい、やりたいと思ったら事なら徹底的だ。
しっかり受け止めろよ! 都で肉腫をぶっ飛ばしたゴブリンドロップキックだ!!」
地を蹴ったキドーの傍でアンジュは神気の中でくるり、くるりと舞い笑う。
「わーーー!! きんきらしておっきいね!!
でもね、いわしの方が大きいよ。一匹一匹は小さくても、みんな集まれば大きな大きな群れになるんだ。
それは人だって同じ。小さな力だって、集まれば世界だって動かせる!」
だから、人に期待しているんでしょう、とアンジュは笑った。微笑んでからいわしたちへと声を掛ける。
「見ていて! パパたちが道を開いてくれる。だからアンジュはあなたの元にたどり着ける!
そして! これが全力全開、いわしオーバードライブ!!!
いつだっていわしはみんなのために一生懸命に生きてるんだ! だからみんなもいわしのために生きてよ!」
『いわし……』
「はは。黄龍も『いわし』の前じゃ困惑するか?
人って面白いだろう。……だから、約束だ、黄龍。
『瑞』がお前の友で。今苦しんでるなら。全力で手を伸ばして、助け出そう。
誰かが助けを求めるなら手を差し出す。其れが俺の貫く義だ……!」
焔が、滾る。レイチェルは静かな声音で「賀澄」と呼んだ。
「俺はお前の想いを聞いた。だからこそ、何としても黄龍の助力を得る。
……この戦いが終わったら見せてくれ。長胤の志も背負ったお前が導く、理想の神威神楽を。差別の無い世界を」
「ああ――だが、その為には貴殿等と歩む未来が必要だ」
レイチェルは賀澄の言葉に瞬いて、笑った。「分かっている」と。それ故に、復讐の炎が、誰かを救う力になることを、今知った。命なんて幾らでも燃やしてやる。
もう、誰かの命を取り零したくは無いと穢れを祓い、そして黄金の世界で声を張る。
「ボクは魔術師。誰かの涙する運命なんてねじ曲げてみせる――ッ!!」
約束する。約束、沢山の言葉が其処にはあった。アイラ・ディアグレイスは『家の名前』を得た。
ラピスという大切な人と、側に居るという『優しい約束』
「越えられない壁なら壊せばいい。厚く堅い壁だって、この力で捩じ伏せる。
………皆がくれた、この力で、貴方が認めてくれたボクたちの可能性と、奇跡を!」
そうだ。彼女が望むのならば。ラピスはその力を使うことを厭わない。
アイラが、ラピスが。互いが互いを愛している。互いが互いを信頼している。
「愛する彼女が、壁を打ち砕く力を望むなら――僕もまたそれに倣うだけ」
ラピスは――ラピス・ディアグレイスは。翳すその手に瑠璃色の光を帯びさせた。
「僕は、僕は何処までも彼女と共に在りたい。
彼女を支え、彼女を愛し、彼女を守り、彼女と戦う――共に、新たな運命を切り拓くために!」
そうだ。支え合うには一人では行けなかった。だから、ラピスと手を繋いでアイラは乞う。
「だって。またね、って言ったじゃないですか、シフォリィさん!
――義兄さまが、呼んでるのに、応えないなんて、冗談でしょう?!」
そうだ。悪い冗談だろう。
喪う痛みは、傷を負うよりも尚も、その体を蝕むことをクロバは知っている。
「……大体さ、勝手が過ぎるんだアルテミアも、シフォリィも!
大切なモノを想って行動してしまう事は知っている!
だけど、本当に許せないのは力になれなかった何もできなかった自分の無力さだ!」
またね、と言った。行ってきます、と言った。
そうして、走って行って――走った彼女の背中に追いつかない。
「ッ――この声よ届け、今も苦しむアルテミアにも、カムイグラ全てに響き渡れ!
シフォリィ、君と俺がいる明日を切り開く為に今一度――この刹那に懸ける!」
君が、笑ってくれる未来のためにクロバの周囲に満ちた黄金の気は霊脈を走る。
叫んで、飛び込んで。挫けることは無い。泥だらけだって、それでも良かった。
「『願え』だとォ! もうずっとそうだよ!?
彼女のことが片時だって頭から離れない!
戦っても休んでも飯を食っても寝ているときだって!
アレクシアの帰りを願わない時間なんて無かった!」
シラスは、叫ぶ。
アレクシア、アレクシア、アレクシア。君が何をしているか心配で、心が叫んでいる。
「今その想いをぶつけろっていうことだな? それが彼女の助けになると?
見ていろよ、何だってやってみせるぜ! 代わりに絶対に受け止めてくれ!」
奇跡が起って、この掌を『彼女が握り返してくれる』なら。
シラスは――そう願う。思い描く蒼穹へ。最大限を――放つ!
「――晴らせ」
黄金が、煌めいた。転移陣は『確かに動き』、起動している。
光が、眩しい。
クロバは、シラスは『祈った』。それが柄でも無いことだというなら笑い飛ばして欲しい。
それでも――祈った。
そして――――
成否
成功
第3章 第20節
そして――
黄金の気が満ちる。浄き、光だ。
信念を、信頼を、期待を、希望を、奇跡を。幾重にも紡いで作り上げた霊脈(ルート)を辿り、自凝島と繋がった転移陣が起動する。
光の奔流はその地へと運び来る。
『麒麟』に認められし存在を――信念を、その胸に抱いた者達を。
その光の中に荒れ狂うが如き嵐が一つ、淡い緑の風が吹き荒れ砂と共に黄金の光を舞い散らす。
「何事だ!?」
叫ぶ霞帝を護るが如く、ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)と時任 零時(p3p007579)が構える。
「――風……?」
呟くつづりの手をぎゅうと握りしめたのは伏見 行人(p3p000858)とクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)であった。
その光が――七つの像が形を結んだ。
GMコメント
夏あかねです。OPへの登場は『カムイグラ』関連のアフターアクションより頂きました。
●当シナリオは
『自凝島へと流刑になったPCへの脱出支援』及び『霞帝の四神結界の強化』を目的としています。
皆さんは当ラリーの終了まで何度でも参加する事が可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●フィールド
高天京、御所より離れた僻地。小さな石像が置かれた開けた場所です。
重苦しい空気を感じさせ、それが『歪な形で発動している大呪』と『魔種の呼び声』である事を実感させます。
周辺は開けていますが、それ故に敵性対象が多く姿を現す事が予測されます。
●『脱出支援』
『自凝島の守り神・麒麟』と霊脈で繋がる同一存在たる『黄龍』の力を借りての脱出支援を目的としています。
四神の全ての加護を受けた霞帝は京(高天京)の守り手を黄龍に、自凝島の守り手を麒麟に、とそれぞれ指示を出し有事の際は黄龍より麒麟、麒麟より黄龍に直接力を注ぐ事が出来る様にと『ルート』を作っていました。
『ルート』を通して、清浄なる気配を送り込むことで自凝島の『肉腫』の動きを阻害することが出来ます。
また、麒麟との『ルート』が上手く形成されていれば、麒麟の下には転移陣が作成され、自凝島より脱出するメンバーが麒麟に認められさえすれば『黄龍』側までその身柄を転移させることができるそうです。
流刑となったイレギュラーズを救う為には黄龍の霊脈を阻害する『妖』『怨霊』『肉腫』を退けなくてはなりません。
また、この儀に気付いた純正肉腫や魔種による介入にも気を付けなくてはならないでしょう。
●『四神結界強化』
上記『脱出支援』に加え、神威神楽を包む結界の綻びを『修正』しなくてはなりません。
これには『黄龍』の力を借りなくてはなりません。しかし、黄龍は霞帝に対しては力を貸した以上、それ以上を求めるという事にはあまり乗り気ではないようです。
黄龍による試練――『自身との戦闘』で力を認めさせる――を超え、その力を借りる為に尽力してください。
(また、期間限定クエスト『黄龍ノ試練』に置いても同様の『黄龍の試練』が行われています)
こちらも、『結界』を強固にすることで、自凝島の『肉腫』の動きを阻害することが出来ます。
●四神とは?
青龍・朱雀・白虎・玄武と麒麟(黄龍)と呼ばれる黄泉津に古くから住まう大精霊たち。その力は強くこの地では神と称される事もあります。
彼らは自身が認めた相手に加護と、自身の力の欠片である『宝珠』を与えると言い伝えられています。
彼ら全てに愛された霞帝は例外ですが、彼らに認められるには様々な試練が必要と言われています。
●『霞帝』今園 賀澄(いまぞの かすみ)
旅人。神威神楽にとって最初にこの地に訪れた神隠しの存在(神使)であり『四神』に愛されし者。
四神の権能により神威神楽全域と自凝島に結界を張っています――が、巫女姫による『眠り』でその結界が綻び始めたようです。
非常にフランクで明るい男性です。前中務卿(晴明の父)の代より懇意にしており、晴明やつづり&そそぎの幼少期より可愛がってきました。晴明をセイメイと揶揄い呼びます。
今回は彼の支援も行う事が出来ます。彼の結界失くしては被害が大きくなるので防衛が必須となる存在です。
●『中務卿』建葉・晴明(たては・はるあき)
鬼人種。この地にて、イレギュラーズに助力を乞うた人物。特異運命座標を『英雄殿』と呼びます。
やや頭は固いですが、帝の影響もありジョークなども交えて会話を行う青年です。英雄が「肉腫や病気じゃない! 熱中症だ!」と言えばその通りにしますし、予算は中務省で、と言えばその通りにしてしまう存在。
前衛タイプのアタッカー。剣を得意としています。霞帝が国の防衛には必須であると認識し、彼を護る為に立ち回ります。イレギュラーズの指示であればなんだって従います。
●『けがれの巫女』つづり
鬼人種。けがれの巫女と呼ばれる此岸ノ辺の巫女(簡易的に言えば『空中庭園』分社の『ざんげ代理』です)
今回は霞帝に乞われて、四神との疎通を行っています。妹・そそぎの事をとても心配している様子ですが、お役目を全うすべく気丈に立ち回ります。泣いていては、四神もそっぽを向いてしまいます。
それでは、どうぞ、ご武運を。
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