シナリオ詳細
<嘘吐きサーカス>幻想大公演
オープニング
●サーカス、来たる
日頃、活気の余り無い幻想王都の広場はある種のお祭り騒ぎに満ちていた。
見物客が見物客を集め、野次馬が野次馬を呼ぶ――
人だかりとはこうして出来るのだ、と言わんばかりに。
メフ・メフィートの民衆は降って湧いた特別なイベントに興味の色を隠せなかった。
「さあさ、何方様もごゆっくり。何方様も御覧じろ!」
人垣の理由は声を張ったピエロであり、その傍らで微笑む男だった。
小柄なピエロの声は中性的であり、仮面をつけているから性別も定かではない。傍らの男の体型は独特で突き出た腹はまったく卵型(ハンプティ・ダンプティ)を思わせる風情である。成る程、彼等は非日常の呼び声に相応しくこの辺りでは見ない者達だった。
「夢想楽団――シルク・ド・マントゥールがやって来たよ。
出し物は全部嘘ばかり、いやいや。ボクの言葉も嘘かもね。
だからひょっとしたら本物ばかりかも知れない……あれ、これも嘘?」
「これこれ、お客様に誤解を与えてはいけないよ」
首を傾げたピエロを恰幅の良い卵型が窘める。
「身共、シルク・ド・マントゥールと申します。
私は団長のジャコビニ。こちらピエロはクラリーチェ。
――シルク・ド・マントゥールは、これより幻想での活動を開始いたします。
国王陛下の許可を得まして、この王都でとてつもない公演を。
どなた様も是非、夢想と驚嘆に満ちたこの公演をお楽しみ頂けるよう――」
「――兎に角! もうすぐ公演が始まるよ!」
「これこれ」ともう一度窘める団長ジャコビニだが、声色はのんびりとしており、何処かそのやり取りの間は抜けていた。聴衆はそんな二人に小さく笑みを零し「これが有名なシルク・ド・マントゥールか」と頷いた。
シルク・ド・マントゥールは著名なサーカス団である。
世界各国を回るこのサーカス団はセールストーク通りの素晴らしい公演と、もう一つ。此方は余り名誉な事ではないが『不吉を呼ぶサーカス』としても知られていた。彼等の公演時には近隣で大きな事件が起きやすい、と言われているのだ。無論、公権力が調査をした事はあったが、関係性は認められていない。故にそれは『不幸な偶然』と結論付けられてはいるのだが……
彼等が幻想を目指しているという話は随分前から人々の口の端に上っていた。
「公演は王都広場にて、日々行います。特に最初の公演は――」
「――祭りが開催されるってよ!
陛下直々のお触れで……サーカス記念だそうだ!」
ジャコビニがそう言いかけたその時、遠くから青年の声が響いてきた。
「……まぁ、そういう感じです。どうも国王陛下は大層、身共を歓迎してくれているらしく」
「話の分かる王様だね!」
ジャコビニ三度目の「これこれ」がのんびりと響き、聴衆は納得した。
フォルデルマン三世は民政に興味が無いが、面白い事には目がない。国王肝いりのイベントならば、これは楽しむにも商売をするにも良いタイミングなのでは無いか……
「さあ、サーカスがやって来た!
待ちに待ったお待ちかね、歌に乗って、踊り踊って愉快なサーカスがやって来た!
どなた様もごゆっくり、どなた様も御覧じろ。
シルク・ド・マントゥールがやって来た。
嘘吐きばかりだから分からない。でもきっと、そのサーカスは特别製!」
様々は思惑はあれど、幻想にシルク・ド・マントゥール――サーカスはやって来た。
人当たりの良い笑顔を貼り付けた団長と、じっとしていられないピエロは本当に心から楽しそうに見えた。
――本当に。
- <嘘吐きサーカス>幻想大公演完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年03月24日 22時20分
- 参加人数369/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 369 人
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参加者一覧(369人)
リプレイ
●馬鹿騒ぎ(サーカス)I
「うひゃー。すっごいねぇ。人気があるって分かるよ。
これに便乗してお祭り騒ぎ、って感じなんだろうなぁ!」
ルーニカの発した感心の声が大勢の人々によって作り出された喧騒の中に飲み込まれた。
「折角なんだから、今日という日は楽しもう! さぁ、今日は皆笑顔だ! 笑顔!
暗い顔をしている人は、この僕が笑顔にしてみせよう! ……って、基本的には皆笑ってるかな?」
レガド・イルシオン王都――メフ・メフィート。
無辜なる混沌においても最も長い歴史を誇る都は、政情不安から活気を失って久しかったが今日ばかりはそんな気配は吹き飛んでいた。
王都の中央広場には巨大も巨大、恐らくは千人以上を収容出来る大テントが設営され、その周囲も全く黒山の人だかりを作っている。
「賑やかなもんじゃねえか。
人の多さで言やぁ元の世界の方がはるかに多いけど、こういう気持ちのいい喧騒じゃねえからな。
……案外俺にはこっちの方があってるのかもな」
感心半分、呆れ半分に呟いたオロチはこの時とばかりにお祭り騒ぎに集まった無数の人々を眺めて軽く笑った。
臨時に開催されたこの『お祭り』はあの放蕩王――フォルデルマン三世が自国にやって来た著名なサーカス団を歓迎した事に由来する。何の権威も無い唯の大騒ぎだが、こんな時ばかり無駄な位の親しみやすさを発揮する彼は、費用を国庫からばら撒いて珍しく『市民の為の施政』を行ったという訳だ。
「かの有名なシルク・ド・マントゥールがこの幻想に来ましたけど。注目している演目と、演者さんがいれば、教えてください」
向こうを見れば、大地が市民に取材の真似事を行っている。
「サーカスが来た時の青年のタイミング、あまりにもちょうど良かったらしいわね。
仕込み……だったんじゃないかしら? サーカス側か、王様側か」
「公演前に、いっそ彼を探してみてもいいわね」とペタルダ。
「賑わっているな、結構な事だ。
サーカスをみるのも悪くないし、出店やらをまわるのもいい。
……まぁ、こんな機会だ。日雇いのクチでも探してみるのも悪くないかもな」
「ああ。祭りに参加している面々を見て回ろう。サーカスは興味はあれども、その他の芸も捨てがたいからな」
周囲の言葉に何となく答えるでも無く答えたアンシアが、ヴィルへルミナが言う通り、王都広場にはサーカスの他にも沢山の商売人(やまし)が溢れている。
路上でパフォーマンスを行う者から、露天を開く者まで。国王の思いつきで始まったイベントだが、慣れている市民は変わり身が早い。
幻想という国を生き抜く知恵であるかのようにたくましく、強かにこの機会を利用しようという事だろう。
「不吉を呼ぶサーカスか、面白い。その噂の真偽、確かめさせてもらおう。我はサーカス近隣の警備をせねばな」
「気合いが入ってるねぇ、リュギー」と縁が笑う。
「やっぱり情報屋のオーナーとしては、この手の噂は興味があるかい?」
「以前サーカスが開演した地域で起きた事件の内容、発生場所を調査し、裏付けと予測を進めたい所だ」
「そうですね、特に怪しい人は見落とさないようにしませんと」
頷いたリュグナーにマナが応じた。
【フリホー】――つまりフリートホーフは情報系のギルドである。
情報収集はお手の物で、同時にそれが非常に大切である事を知っている。
「祭りか。いいねぇ。
まぁ、こっちも不測の事態に備えて警備ってのも考えたが、自警はあんまり趣味じゃない上に王都だしな、ここ。
素直に羽を伸ばさせてもらうとしますかね」
「……何せ国王公認なんスよねぇ」
シルヴィアの言葉に応じるように辺りを見回したスウェンはしみじみとそんな風に呟いた。
いっそ全力で警戒し、黒である前提で話を進められればどんなに楽で簡単な事か……
まぁ、そうするにも情報が必要なのだから、情報こそ武器という部分は何ら間違っては居ないのだが。
手掛かりが少なすぎる探索は砂漠で砂金を見つけるような所がある。
「さて、『不吉を呼ぶサーカス』だなんて、中々仰々しい噂よねぇ。
そのサーカス団が不吉な出来事そのものを実行するのか、はたまたその不吉にあてられた別の何かが不吉な出来事を起こすのか……」
「ふむ、シルク・ド・マントゥール……不吉の種類も色々、か」
胡蝶の言葉を受けてレオンハルトは小さく呟く。噂レベルで良いならば、情報(ゴシップ)は集める必要すら無い程に簡単に集まってくるものだ。
真偽の程は定かでは無いが、シルク・ド・マントゥールには不吉を呼ぶサーカスの異名がある。
(私も本当はサーカスを楽しみたいんだけれどね。
ポルホガンの地で嘘吐きサーカスが来る…何て、意味深な手帳を見つけてしまった以上、素直に楽しめないのよね――)
青空にかかる灰色の雲。竜胆の心持ちは言うなればそんな風情であった。
「不吉を呼ぶサーカス、か。
まっ、サーカスの噂話としては定番だろうよ。その辺は異世界でも変わらんらしい。
……別にそこまで警戒する必要はなかろう。現状ではあくまで噂の域を出んからな」
『現状では』にアクセントを置いて魔術師のはしくれ――士郎は少しだけ皮肉に言った。
この世界の破滅を防ぐ為に無理矢理呼びつけられた特異運命座標の身の上としては、噂であろうと何であろうと気にしない訳にはいかない情報なのだが。
実体のない噂に踊るのは、幽霊をダンス・パートナーに指名するが如しであろう。
「こんな日こそ、街の様子を見て歩こうかな――怪しんで調べられる何かがある訳でなし」
空は良く晴れている。季節にしては強めに日差しにアートは目を細めていた。
「……成る程、の」
『情報収集』の玉石混交にさしたる感慨も持たず、Svipulが嘆息を漏らす。
何とも整理し甲斐があるというか、それしか無いと言うか……一人の時間をたっぷりと潰せそうである。
「まぁ――騒げる時に騒いで、また明日を生きる糧にする。それに嘘も本当もないだろう?」
薄く笑うシルヴィアの言葉には自由人らしい含蓄があり、ある種の達観を済ませている風である。
実際の所、何かが起きるか起きないかは――箱の中の猫の生死のようなものであろう。
「噂を聞くたび思うがきな臭ぇ奴らだぜ、シルク……なんとか。まるで運命を捻じ曲げて事件を起こしてる……そんな印象だしな」
ホットドッグを咥えるオクトの心の片隅に『魔種』なる単語がちらついた。
「不吉を呼ぶサーカス……ただの噂ならいいけど……露店を見て回るついでにオイラ、気にしてはおこうかな」
「シルク・ド・マントゥールがどうとかは分からないが、人が集まればトラブルは付き物だ。
……楽しいお祭りで終われば、それでいいんだけどね」
チャロロやカザンは助けを必要とする誰かを感知するのがとても上手い。
何も起きないのが一番だが、何かが起きるならば多少なりとも効果は得られる可能性はある。
「王様のご機嫌を損ねるようなことはしないけど、なんとなく――仕事の種になりそうな予感があるのよね」
「別段サーカスを疑って騒ぐつもりはねぇけどよ。
それより、サーカスの浮かれ陽気に合わせてバカやる奴がいねぇか、そっちの方が気になるぜ」
「随分な人混みねぇ。人に酔っちゃいそう。
こんなに大きなお祭りだもの、浮かれて迷子になる子も出るでしょうし……悪い大人、もいるかもしれないしねぇ」
そう、混雑はそれ自体が問題の温床である。義弘、アーリアの言葉にリアは肩を竦めた。
「妙な噂も聞くが、これだけ人が集れば諍いの一つ二つ起きて当然だろうよ」
「うむ。こういう祭りでは浮足立って問題を起こしてしまう者が出てくるもの。
そのような者への対処も、楽しく祭りを過ごしたい方々の為に必要でござろう」
凱の、そして明寿の言う通り、全てはケ・セラ・セラである。
『開けてみなければ分からない』状態で真実を見つけるのは難しい。成果や結論は簡単に得られるものではあるまい。
(不吉な事件とやらが、国家転覆に繋がらないといいんだけど――)
ちょっとした事件で済まない、もっと大きな事態をルチアーノは不安視していた。
同じように考えた【警戒】の仲間達が上手くやる事を祈り、彼は外の警戒を担当する事になっていた。
要人の安全という意味では一番の危険が想定される公演中の警備は暁蕾とアカツキが考える、という話になっている。
「何かありましたら、いつでも言ってくださいね!」
市民に言葉をかけるノースポール、見上げた蒼穹に確かな存在感を示すアルペストゥスの姿を認め、ルチアーノは一つ頷いた。
上手くいくかは分からないが、いかせる他は無いという事だ。
気を揉むのは真面目な――下々の者ばかり。
「国王様、きっと楽しいもん好きってだけでなんも考えちゃいないって筋……
まぁ、お偉いさまの考えなんて自分にゃわからんッス! この際自分達も、もう素直に楽しむッスよ!」
「……まぁ、全くきな臭い事この上ないですが。
けれど僕らは探りの入れようがありませんからね。警察組織が買収されている可能性もありますし、聞き込みなんて以ての外です」
「ああ。さて、何が問題かというと。不幸を呼ぶとは言うものの今までに具体的に何があったかが曖昧で余り耳に入らない事だ。
私としては曖昧な噂をエビデンスとするわけにはいかず、また事を荒立てるは愚策と考える。
この世界の公権力は信用している。唯一懸念点があるとすれば、横の繋がりが薄い為某の共通点に気付けていないのではないかという部分だが……
……噂のみを先行させ、噂が現実になる、などというのは私の知る限りはフィクションの出来事のはずだったのだがね」
成る程、冷静に応じたアルプス、肩を竦めたアニエルの言葉はもっともであるかも知れない。
「実際に彼らが関わっているかはともかく、根も葉もない噂というわけでも無いのだろうね。
結局何も出なかったという話だから、サーカスに出掛けたところを狙った空き巣や放火といったような話ではないのだろうが……
まあ、何も起こらなかったのならそれはそれで結構な事だし、ぶらぶらしながらひとつ『サプライズ』でも待ってみるとしようじゃないか」
イシュトカは実に冷静である。 不吉な噂と実際に起きる事件の数々からサーカスが公権力の捜査対象になった事は何度もある。
しかして、今まで某かの証拠や関与の話が見つかった事は無いのだから、手や首を突っ込むには尚早過ぎるという考えだ。
(例え本当にサーカスがシロだとしても警戒をして損はない。ならば私はいつ通り、目立たないよう動くだけ)
(他の方々が警戒する気持ちも分かりますが。かといって、表立って動き過ぎるのも考え物。
まずはお祭りに参加して、一通り楽しみながら見て回るとしましょうか。
中からでないと見えない事も、あるでしょうしね――)
市民の楽しみに水を差さず、警戒するならばあくまで内から秘密裏に。エイヴや鶫の考えも道理であろう。
唯でさえ目立つローレット――イレギュラーズが堂々と事件を嗅ぎ回るような事をすれば、藪蛇を突付きかねない部分もある。
「何か起こるにしても防ぎようがねぇからな。今から気ィ張ってたら途中でバテちまうぜ? 楽しめる時に楽しんどけよ」
「怪しいとか色々いわれているけど、何かあって戦う事になるならそれもそれで楽しそうだし、そのときはその時」
「うむ、折角の祭りであるしの! 湿気た面構えでは市井のものも要らぬ不安を覚えてしまうであろうからのぅ」
応じたロクスレイとルクスにコクリと頷いた衣は取り敢えず今日という日の方針を明確に設定した。
なってから、考える。
「手品は知り合いが出来るからサーカスもそんな感じなんだろう。それより露天とかが沢山あるみたいだし、何かおいしい物を探そう」
「うん。それはそれで素敵な割り切りだと思います。
……ところで人口密度ヤバくて僕のボディに小傷が付きそうなんですが何とかなりませんか?」
まだ影も形も無い不吉よりも、現実に差し迫るその問題がアルプスにとっての死活問題である。
シルク・ド・マントゥールの開演までにはまだかなりの時間があるというのに、広場は既に大混雑だ。
(不吉な噂のあるサーカスではありますが、それと関係なく、祭とトラブルは切り離せないものなのだそうです
円滑な祭の運営の、そして楽しむ人々の助けに、少しでもなれればいいのですが……)
空から広場を俯瞰するシルヴィアは恐ろしい程の人の数に思わず苦笑を浮かべていた。
お祭りを楽しむ人々の中には、数え切れない程の市民に混ざってイレギュラーズ達の姿もある。
(すごい人、お祭り、警戒心薄れるし、人込みで逃げやすい、スリの稼ぎ時……あたしは、もう引退したけど。
うん、手が疼いたりとか、しないし、大丈夫、大丈夫。もう盗みしなくても、生きていけるんだから)
ぼんやりとそんな事を考えたコゼットは、
「そうだね、もう、素直にお祭り、楽しめるんだ、普通の人みたいに……露店とか、のぞいてみようかな?」
表情を緩めて、人混みを風景を『今までと違った角度から』眺めていた。
「へぇ、こんなの売ってるんだ……コッチの世界のお祭りって、派手で楽しいなぁ」
「アタシはよく知らなかったけど、シルク・ド・マントゥールって有名なサーカスらしいわね。
マスコットキャラクターや有名人なんかがいたりするのかしら? もしかしたら可愛い着ぐるみとか、グッズとかのお店があったりして!
ピエロの玉乗りキャンディーとか、カラフルテントみたいなスカートとか!」
みつきは段々『慣れて』きたのかウィッグをつけ、メイクまでして……女性として祭りに参加しているし。
知らなかったなら今回知ればいいとばかりに、はしゃぐギギエッタは少しミーハーに今回を楽しむ事にしているらしい。
「……露店。その存在は知っているが……こうも賑わうものか。
サーカス……のせいか? 色々ある……食べ物……多いな。
……本当に多い。これは混沌ならではのものもありそうだ。悪くない」
「まずはあちこち見て回ろうかな。 何か買い歩きでもしてもいいかもしれないしな……少しは息抜きをって事で。
祭りを楽しんでる人や、子供達を見てると、気持ちも自然と落ち着くよな」
前評判の方はさて置いて、盛り上がっているのは確かである。リジアの瞳には確かな興味の色が宿り、幸福な風景にトラオムの表情は自然と綻んでいる。
「これだけの集まりですから……素敵な茶葉もどこかにきっとあるはずですよね」
言うまでも無くSuviaの目当ては珍しい、或いは上等な茶葉である。
「賑やかで楽しいのう。そうじゃろうポチ。美味しそうなお菓子が売っているぞ」
潮の言葉に嬉しそうに応じる『ポチ』は宙を泳ぐ三十センチ程の小さな鮫である。
「サーカスにお祭り!!! うわぁ、わくわくしちゃうね!! あ、でも何か事件が起きたりもするんだっけ?
誰かを守る剣を目指す私としては、ここは頑張ってパトロールしないとだよね!
……わ、あそこの露店の串肉すごく良い匂いで美味しそう……!」
シャルレィスは「まったく。パトロールが聞いて呆れるな」と零す『巴』の言う通り、忙しなく風景に目移りしている。
「うーん……何か凄い盛り上がりですね。前向きな話が少ないよりは活気があるほうが良いのは確かなのですが。
ただ、こういう時は羽目を外しすぎたり悪い気持ちに負けた行為を行う人も結構いるのですよね。
こういう時は、衛士の真似事と言いますか。目を光らせるというのも抑止力になりますから……
……あ、おじさん。林檎飴をもう一つ」
パティは非常に生真面目な性質ではあるのだが、その愛らしい見た目と相俟って微笑ましい姿になった事は否めない。
「HAHAHA、いいじゃないか。串焼き結構、林檎飴結構だ!
たまには節制せずに食べるのも良いだろう! 我慢は身体に毒だからなHAHAHA!!」
日頃はストイックな貴道だが、今日は羽目を外す事にしたらしく呵々大笑を見せている。
「こうして見てる限りは、普通のお祭りやわなー」
「まぁ、ね。ゆっくりする雰囲気じゃないけれど、これはこれで楽しいかも知れないわ」
「気を抜きすぎてもあかんけどねぇ」
秋葉の言葉に応じた水城は曖昧にそう言った。
気を抜きすぎてもいけないが、状況は間違いなく唯のお祭りデートである。
(……まぁ、ええわ。少し不思議なお祭りだけども、何も起きないならばそれに越したことはないしな)
「これ、水城に似合いそうよ」
と露店の一角を指さした秋葉に水城は微笑んで応じた。
秋葉も実際の所、水城と同じように周囲に気は配っているのだが――好きな相手とお祭りを歩くのに仕事仕事ともいかないのが人間だ。
「食うか?」
「旨い肉? 食うに決まってンだろよこせ。
よし、代わりにオレが見つけた旨い酒もやろう、祭りに酒は付きモンだろォ?」
アルクが差し出した肉にBrigaは犬歯を見せて豪快に笑う。
何時もの如くぎゃあぎゃあと騒いで馬鹿を言って――そんな時間も楽しいが。
少しだけ甘えた雰囲気を見せて尻尾を絡めてきたアルクの頭をBrigaが豪快に撫でた。
「図体はでかくても、ガキだからなァ……甘やかしてやるのは親の役目ってモンだだ」
「そっちの方が年下だろ」
「知るかよ!」
うむ。バブ味は、確かに年齢で決まるばかりでは無い。オギャる技能も又然り。
「……え? 違う、私はサーカスに出るにわとりじゃないわ! 全くもう、失礼ね。ぷんぷん。
そっか、サーカスには動物も出るのね。後でばっちり見に行かなきゃ!」
一方でトリーネがその奇抜な容姿(というかほぼ鶏)から市民にサーカス関係者(関係動物?)と間違われたり、
「祭りだ! フェスティバル! フハハハハハハ!!!
本当は公演観覧したかったが今宵はお祭りの方へ行く事にした私さ!!
さぁ、行くぞパンダくんΖ!! じゅりー!!」
今日も今日とて、訳の分からない位のいつものテンションでカタリナが怪気炎を上げていたりする。
彼には一応『利香を探す』という目的もあるにはあるのだが、お買い物とマーブルするその辺の重要度は定かではない。
「サーカスでござるかぁ。華やかであるのと同時に、どこか面妖なものを感じてしまうのは拙者だけでござろうか?
同じような演芸なら、拙者は断然歌舞伎派でござるな!」
どうにも演芸には一家言ありそうな下呂左衛門が首を傾げた。
「何にせよ、武士たるもの、あのようなチャラチャラとした催しに喜々として参加しては名折れでござる。
け、決して『ぴえろ』が怖いわけではござらぬよ?」
積極的に自白していくスタイルに雲行きが怪しくなってきた。
「……というわけで、屋台巡りでござる。腹を満たすのと同時に、市井の動向を探る。うむうむ。ギルドに所属する者に相応しい、実に有意義な時間でござる。
時折視界に入るふとももが眩しい――いやいや。違う違う。そうじゃない。あちらは尻のラインが実に――カーーーーーツ!」
うん、ダメだ。
「僕は玩具じゃな――」
ぬいぐるみの姿であちこちウロチョロとしていたイザークが射的屋に捕まった。
景品と間違えられた彼は南無三、コルクの弾丸の雨を浴びている。
「ケンカ騒ぎの一個でも起きないかな。そしたら乱入して大騒ぎにするのに」
直感を頼りに些か物騒な捜し物をするイグナートも居る。
「此処からでも歓声が聞こえるなぁ。流石はシルク・ド・マントゥールってやつだね!
……やっぱり見に行けば良かったかな?」
屋根の上の威降は遠目にもハッキリと分かる存在感を示す大きなテントに目を細めた。
「……はぁ、本当に色々ありそうですね……」
巻き込まれたくないが、ローレットに報告位はしてやるか、と。近くに座ったクローネは落ち着きのない眼窩の風景に嘆息している。
似たような所ではその辺りで調達した焼き鳥をむしゃむしゃとやりながら、高みの見物を決め込むナハトラーベの姿もあった。
祭りの喧騒もサーカスの気配も彼女を揺さぶってはいないらしい。良きアレンジを望んだ彼女の本意は風に揺蕩う黒い羽だけが知っていようか。
「どんな祭りをやってるのかを見るってのも悪くはねぇ。ま、何が起きようと俺の知った事じゃないしな――」
半眼で欠伸を噛み殺したMorguxは場に干渉する心算が無い。
(期せずして)集ったチーム屋根にしてもバラバラだ。
……まだ本番も遠いというのに現場はご覧の有様、この世界と同じ混沌である。
いいですね、イレギュラーズ。一パートで三桁近くも来た日には混沌にならない訳は無いのです。
イレギュラーズの多くは今回の話に只ならぬものを感じて赴いた訳ではあるが、それはそれ。これはこれである。
祭りの雰囲気は、日々切った張ったの仕事に励む事も多い彼等の緊張を幾ばくか和らげる意味はあったのだろう。
「一人で回るのだってそれはそれで楽しい物よ?」
それはその通り。おひとりさまで見て回る華蓮はこの時間を楽しんでいるが……
(……はぁ……いつかは、一緒にお祭りにきてくれる人が欲しいな……)
その辺りの本音の存在は否めない。
「あ、こーれ、くっださ、い!」
ギフトの花を散らしながらあっちへウロウロこっちへウロウロ
。キラキラ光るガラス玉に誘われた舞香が満面の笑顔を見せる。
露天の男はと言えば、屈託の無い少女のそんな表情に相好を崩し「オマケね」とちょっとした贔屓を加えていた。
その反面。
「はー、聞きました奥さん? 奥さんじゃない? 知らないですよ、そんなのは!
問題は起こしちゃだめなんだそうですよ。嫌ですよねー、信用ないですよねー。
こういう時ほど皆さんタガが外れやすくなるので、ちょっと煽ると面白いぐらいに無茶なことしますですのに。
煽ったら怒られそうですよねー。はーやだやだ。全く自由も喜びもないとはこの事ですよ。女子供はすっこんでとという事ですか。
もうね、ひまわりはね。御機嫌斜めなのです。
このエッジの立ったナイアガラの如く角度のついた御機嫌はちょっとやそっとじゃ癒されないのです。
こうなったら徹底的に食べてやるのです。屋台のものを片っ端から買い込んで、仮設テーブル占領して山積みにしてひたすら貪ってやるのです。
牛飲馬食、呑み喰らう事、ひまわりの胃袋はスペースワンダーなのですよ。
やきそばたこやき串焼きなんでもこいなのです。全部食べつくしてやるのです。ふーんだ。ばーかばーか」
……何かクソこまっしゃくれて可愛くねぇのが一周回って可愛くなってしまっているひまわりのような幼女系気象衛星もいらっしゃる。
自分で何を書いているのか良く分からない。しかも無意味に盛ってみた。
「何と! これが『(魔王と戦う時までは真の力を封印されているらしい)勇者の剣』ですか!」
如何にも胡散臭い露天商にファリスが見事に騙されているのがいとおかし。
お祭りの時間は実にパラエティに富んでいて、多くの者を楽しませるものとなっていた。
「しかし、あの有名なシルク・ド・マントゥールか。
一流の同業みたいなもんだし結構憧れてるんだよなー。まあ今日は客寄せに使わせて貰うけど」
立ち並ぶ露天に物欲や食欲、或いは浪漫を刺激されるイレギュラーズの一方で、このルーティエのように出し物を出す側に回る者も居る。
得意の舞踏と揺蕩う天使(ギフト)を使った彼女の大道芸は、本人の美貌と相俟って多くの注目を集める事は間違いない。
但し、神様は案外芸道に厳しく粋を理解しているものらしい。彼女のギフトは注目を集めこそすれ、舞踏を良く魅せる訳では無い。
何かと入り用な彼女が、満足する結果(おひねり)を得られるかどうかは、出来栄え次第といった所。
「今日はお祭りだから広場もいつもより賑やかだわ。
私も何か――そうだわ。芸をしましょう! ありふれた宴会芸だけど、此処では珍しいかもしれないし」
持ち前の挑戦心やら冒険心が騒いだのか、焔珠の行動は早かった。
「そうと決まれば、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい!
今日の私は挑戦者。拙い芸ではあるけれど、今日という日の思い出に加えて頂ければ幸いだわ――」
遊火(ギフト)は鬼火を操る程度の力だが――自在に動く火の玉は見世物位にはなるだろう。
声を張る彼女の言葉に興味を引かれた数人が「何だ」「どうした」と足を止める。
「ミセモノー? スはミセモノ? スはスだよ。
オマツリはたのしい? ミセモノはたのしい?
たのしいはよい、ス、わかる。オマツリ、ミセモノ、サーカス! よい!」
ウォーカーであり、体が水で出来ている――つまり存在しているだけで人目を引きつけるスが、本当の意味でそれ等を理解しているかは知れないが。
ともあれ、目立つ事は明確な武器である。
「ボクタチの演劇を魅せて」
『幸せな気持ちになってもらうの!』
「怪しい人や危なさそうなことがあったら……」
『演劇の一部として対処しちゃいましょう? 演出として見せれば怖くないよね』
パペットマスターの肩書を今日程発揮すべき時は無い、とレオン・カルラの一組である。
『ふふっ。不吉なんてないない!』
「楽しい日にしようね」
物珍しいイレギュラーズ達の出し物の中でも『凝っている』のはある意味これが本懐の【旅一座】の面々だった。
(この日の為に俺達【旅一座】は出し物の練習をしてきた。俺達の練習の成果を見せる時だ!)
もうジェイク宜しく気合が違う。
「さぁさ、皆様、お立ち会い! 入れ替わり奇術をご覧に入れましょう! さぁ、不思議への招待のお時間です!」
円筒にカーテンを張った『仕掛け』を一角に準備した【旅一座】は幻の声に従い、ジェイクとNerrを入れ替わり立ち替わり入れ替えている。
仕掛けは回転する円筒に仕切り板を張った程度の代物だが、こういう場は盛り上がってしまえばそれでいいものだ。
ジェイクが変化を解けばそこには獣人。
沸く観衆をすかさずNerrが持ち上げる。
「いや、流石! お客様方、お目が高い!」
おべっかでも演技でも使えるものは何でも使う。ジャグリングをするNerr。
曲芸のような射撃を魅せるジェイクに拍手が飛んだ。
「まだまだ、これからです。是非、お立ち寄り下さいませ!」
幻の口も反応の良さに滑らかさを増している。
一座と言えばもう一つ。こちらはヨタカの率いる【旅一座】。
「俺に出来る事ァ……観客サマに素敵な音を届ける事位ェか……?
旅一座での初仕事……めんどくせェが……ま、いっちょ頑張りますかァ……」
言葉は気だるげだが、月の奏でるリュートの音色は美しい。
「わたくしに出来る芸などあまりありませんが……旅一座の皆様のお力になりたいと思いますの!
」
そう意気込むヴェルフェゴアの奮闘と併せて多くの耳目を楽しませていた。
「うわぁ、凄い! 色々なお店がいっぱい並んでる!
あちこちで色んな人がパフォーマンスをやってたりするし、これがサーカスなんだね……えっ、違うの?」
首を傾げた焔に大道芸人達が声をかけてきた。
「よし、こっちも見てってくれ! 俺達食われちまいそうで商売あがったりだ!」
「いやいや、こっちだってプロだ。勝負はこれからだろ!」
「でもよう……」
地元の大道芸人がちらりと向こうへ視線をやる。
「強い殿方を探す強敵(とも)活じゃ~! 不吉など筋肉で蹴散らすのじゃ! 即ち、野球拳なり!」
力強く威風堂々たる綺亜羅 (おっぱい)に(主に男連中から)歓声が上がる。
鉄帝女子的性向に色っぽい意味合いがあるかどうかはおいといて少女(かわいい)だから仕方ないね。
「……勝てるか、これ」
更に彼が視線を移した先には――
「ふっふっふ、我こそは不吉の前触れ。襤褸布を纏っておどろおどろしい悪の化身なるぞ」
「どんな相手でも負けない! 何があっても必ずイレギュラーズが解決してみせる……!」
「現れた『不吉の前触れ』にも怯まない! 負けるな僕等のイレギュラーズ!
負けるな正義のヨルムンガンド! 今夜の酒場では最高のマンガ肉が待っている!
……えへへ、私ナレーションと宣伝です。『特異点舞台』やってます。是非見ていって下さいね!」
――アリソン、ヨルムンガンド、愛莉、三人揃って【特異点舞台】の姿がある。
美少女達学芸会とかそりゃ盛り上がるに決まってるんじゃね? ほら、深夜帯の美少女動物園も大好評な訳ですし。
「か、勝てるか勝てないかじゃない! 勝つんだ!」
些か弱気ながら芸人達もプロである。イレギュラーズ達のインパクトに負けまいと対抗心を燃やし、場は大いに盛り上がっていた。
暖まってきた場に上手く滑り込んだシュバルツがおひねりと一緒に問いを投げた。
「『シルク・ド・マントゥール』様々だな。だが、そもそもよ。連中の『不吉な噂』ってのは何なんだ?」
同じ大道芸をする身分柄、多少は詳しいのか芸人の一人はご機嫌顔でこう言った。
「『恩人』を悪く言う心算はねぇよ。ただ……公演中には興奮にアテられて……って言うのか。物騒な事件が起きやすくなるのさ。
多かれ少なかれ、著名なエンターテインメントってのは人を集めるし、興奮させる。理屈じゃ分かるんだが、良く、多すぎると」
シュバルツの聞いた限りでは事件は『無差別かつ突然なもの』が多いらしい。
例えば白昼堂々の無差別通り魔事件であるとか、例えば穏やかで通っていた人物の前触れのない凶行であるとか――
迷宮入りするような複雑な事件が起きるというよりは、不幸で短絡的な事件の傾向があるようだ。
(サーカスを黒と仮定して考えると……
サーカスをデコイとして、そちらに人目が向いている間に、別働隊が手薄な箇所に向かい、そこで何らかの行動をしているのか?
いや、しかし事件が無計画な通り魔的な犯行だとするならば、犯人は挙がっているという事だ。
第一、その目的は……? 騒ぎを起こすこと自体が目的なのか、それとも……?)
ウィルフレドは沈思黙考するが、これといった答えには到らない。
分かっている範囲、それも多分に噂を含む話の精度にどれだけの信頼を置くかどうかは受け手による話ではあるのだが。
成る程、不吉の噂は『鵺』のようなものである。捉え所が無いというか、話が本当で十分ならば公権力も無理にサーカスの責任にも出来まい。
「いっそ、夜中にでも忍び込んでみようか?」
「ダーリン?」
「夜のサーカスを洒落込もう。調査ついでにデートみたいかも知れないし――」
「……いいかも知れないわね。流石ダーリン」
出来るかどうか、やるかどうかは慎重に考えねばなるまいが。レ・ルンブラとアイオーラのカップルが強行突破を考える向こうでは、
「フムフム、情報提供ありがとう! 諸君等の健闘も祈っている! ム、そこな御婦人! 話を少々宜しいか!」
『探偵』を自認するフギンムニンが非常に精力的に調査に励んでいる。
「今回は珍しく逸れずにすみましたね」
『たしかに、意図してまとまって外出するのは久しぶりではある』
「さて、アワリティアがいれば食べるものの……量には困りませんから贅沢しましょうか」
『初見の食べ物はある意味普通に購入した方がいいかもしれないがな』
「見た目や作り方で味の予想がつくやつならいいんだけどねぇ」
『最悪はグラ達に任せて処理になるな』
アーラとイリュティムの言葉にブラキウム、アワリティアが応じた。
届かない信念――物質の複製(ギフト)は強力だが使い方が難しい能力でもある。
水を向けられたストマクス、そしてグラの方もマイペースである。
「チョコを楽しみ過ぎて金欠だったのでとても助かります」
『まぁ、構わないが食べ過ぎには注意しておくように……負担が掛かるのは我だからな?』
【七曜堂:祭】の面々は三人に見えるが実質的には六つの意思が交錯している。
実にイレギュラーズらしい特徴の持ち主達であった。
「妹御も喜んでいるようでよかったな、サラ。
なに、普段は立派に倹約しているのだからたまに羽目を外すのも悪くは無かろう。ただ、食べすぎもほどほどにな……」
意思を持つ短剣たるブローディアも又、そんな一人(?)である。
「うーん、噂のことで他のみんなは色々考えてるみたいだけど、こっちが変に気張っても仕方がない気がするんだぬ」
呟いたニルは食べ物系を中心に屋台巡りに精を出している。
「多分平和に終わるはず! へーきへーき! この際だから、レッツ食べ歩き! しつついろいろ怪しいものがないか見て回りましょ!」
決して警戒意識が無い訳ではない! 渓である。
成る程、祭りを楽しむならば道理の一つであろう。芸人も居れば市民に負けじと露店を出す連中も居た。
(噂の魔種が関わってるかも……だけど……公権力が調べて……シロ……
……なら事件は……外で起きる可能性が高そう……なの。
お祭りで稼げそ……だし。店でも出してみるか……にゃ……?)
ミアとしては渡りに船と言うべきか、丁度最近、捨てる所のないテリヤキチキンに関わったばかりである。
「サーカス……凄そうだよなぁ……色々視て回りたいのもあるが……
でも、折角だ。この機にフランスパンでも売るか」
スタイリッシュフランスパンこと零の例外に漏れず、如何せんイレギュラーズというのは妙に商売に向いた能力の持ち主も多いのだ。
【無銘堂・1】
で仲間と共にこの場所を訪れた彼の視線の先には、
「無銘堂の美味しい飯に、アクロバティックな演戯だぞーっ!」
立て看板を持ちながら宙をすいすいと泳ぐカイトの姿があった。
無銘堂はカイト曰く「戦士のギルド」だが、人生にはオンとオフが重要だ。
「ボルカノ印の串焼きである! 材料はちゃんと仕入れたおにく! 下処理もバッチリ、スパイシーでジューシー! そして豪快!
イレギュラー印の鉄板焼きであるよー! 美味しいので食べて欲しいのであるよー!」
「そこのお嬢さん方良ければうちのお店を見ていきませんか?」
串焼きを売るボルカノの一方で、ノワが何処と無くクールに決めている。
「こちらそろそろ完成致しますワ」
「ラム肉のサンドイッチ、二人前完成だ。アルム殿、手渡しをお願いする」
「お客様お待たせいたしましタ」「次は焼きそば一パック? しばし待て、すぐに用意しよう」
お手伝いのアルムと店を切り盛りするエリシルの動きは機敏で、かつ機能美に満ちていた。
「何? 退屈だから芸を見せろ? また無茶な注文を…… 芸の類に心得は無いが……アレならばイケそうだ……要はお手玉だろう……よし、少し下がれ」
「ん? なになに? ウォリア君がお手玉するって? じゃー手伝うよ! だいじょうぶ、私の三半規管は無敵だからねっ!」
プティも食べ終わったか。良し、いいぞ。ならば共に……いいだろう……いっつしょーたいむ、だ!」
ウォリアとプティが即興で芸を始めている。戦士達は祭りの現場においても実にストイックだった。
ストイックと言えばある意味でキングオブストイック――ストイックの中のストイックと称して間違いではなかろう、かの雷霆は……
「試食だと思って食ってみろ。自慢の仲間の自慢の料理だ、美味いぞ、何にも代えがたいほどに。
うむ、パフォーマンスに興じる者も居るんだったな。
実に愉快だ。
さあ、楽しんでくれ。まあ、味わってくれ。武闘派無銘堂一同、この場を借りて心行くまで遊ばせて頂こう!
」
「さ、さすが雷霆君!」
……もう、まさに予想通りと言おうか意外と言おうか『楽しむ事に全身全霊でストイック』だった。
こんな場所の定番――ホットサンド屋を狙ったのは「催し物がある。これは稼ぎ時だよねっ!」と腕をぶすルアナとグレイシアである。
「稼ぎ時……というのはわかるのだが、相変わらずマスターは不在か。
昨晩出店の話を聞いた際は、マスターも一緒だと思ったのだが…
…」
首を傾げるグレイシアに構わず、ルアナの方は「ルアナは看板娘だもん。笑顔を振りまいてお客さんたくさん呼ぶよ!」と気合十分だが、その彼女も。
「マスターってホントにいるの?会ったことないんだけど」
ミステリーは深まるばかりである。
ルアナやグレイシアのライバルになりそうなのは【Bカステラ出店】の面々だろうか。
軽食とおやつの差はあるから直接競合はしないものの、お客の財布も胃袋も有限である。
「……自分、サーカスや、祭り楽しむ柄じゃない……でも、食料やら資金やらを確保しておくにはいい機会……
」
手伝いをする事になったあい・うえ男は相変わらずのんべんだらりと客寄せのように看板を持っていた。
「包装、は……焼き立てで、まだ温かいカステラ数個を……ふ、袋の中に入れて……
食べる時用に、ピックを、二つ……さ、刺しておくよ。
複数、なのは……お、お友達と一緒だったり……落としたりしたときの、予備用で……」
「お手伝いしてくれて、ありがたいわぁ~。報酬は店の商品になっちゃうけど」
自分に言い聞かせるように呟いて(多少テンパっている)カシャにのんびりとスガラムルディが声をかけた。
ベビーカステラの生地には、少し蜂蜜を入れて甘さをたっぷりと足している。
普通に焼いたものと、抹茶を混ぜたもの、チョコチップを混ぜたもの。幾つかの種類に飲み物も用意済みだ。
「観客も沢山いることですし、すかさず露店設置。つまり、出張パッチワークスです。
手作りのピエロぬいぐるみと、当店名物! ……になったばかりのパチワチョコ!
ぬいぐるみに所々違う布が縫い付けられているのはうちのアピールポイントってことで。じゃんじゃん宣伝していきますよー」
練達上位式を使った動物のぬいぐるみ達がピエロの服を着て葵の宣伝を手伝っている。これは中々愉快な光景だ。
「まあ、何かがあるとすればサーカスのテント内よりは外ではないかなと思いますし。
そういうわけですから、簡単な露店でも開きまして、生地の販売でもいたしましょう。
色んな人が来ますからね。書き入れ時でもありますし、新しい顧客を見つける貴重なチャンスでもありますから
」
オフェリア曰くは「仕立て屋もイレギュラーズもどちらも大事なお仕事でございますからね」との事である。
「やぁやぁ、賑わってるよー。稼ぎ時だよー。
何なら、名前も彫るよー。お土産の定番だよね、そういうの」
「カンコウメイショデ タマニ アルヤツ?」
「そうそう、それー」
お手伝いメカの正宗君と掛け合いをするコリーヌの姿を珍しがって道行く人々が寄ってくる。
加工しやすい真鍮を用いた、即興のアクセサリー作成は手間暇が弱い割に受けがいい。即ち商売の鉄則である。
(不吉な噂のあるサーカス団ねぇ。実はもっと恐ろしい事態が起こっているのを『普通の』大事件に見せかけてるとか? なんてな)
心中だけで呟いたエルディンはその内心を一分さえも気取らせる事無く、辻のカード占いの店を出していた。
彼が扱うのは悪い結果を抜いた特製カードの束である。的中はしないだろうが、折角の祭りの日に余計な真実を伝えるのも粋ではない。
「お祭りだっキュ! お祭りだっキュ! お祭りだっキュ! 初めてのグリュック以外と行くお祭りだっキュ!」
【海豹狼鷹】の面々の内、一番今日の現場を素直に楽しんでいるのはレーゲンであると言えるだろう。
「信頼性の高い調査でシロっていってもねー」
「ま、最低限楽しみながら周囲に気を付けておくべきだな
」
アクセルの言葉にウェールが頷いた。
お祭りは拍子抜けする程に平穏で、おかしな様子は全く無い。
だが、気をあんまり緩めて油断し過ぎるのも上手くはない――といった所だ。
「大規模な危ないことは起きないとしても、お祭りならではの迷子とか落し物とかありそうだし」
「そういう対応で済む日なら良いんだけどな」
アクセルの感情探知はその手の役には立つだろう。
「レーさんはおごってもらうなら大きなキャラメルポップコーンが良いっキュ! 皆で分けて食べながら人助けして、お祭りも満喫するっキュ!」
屈託の無いレーゲンに二人は顔を見合わせて笑う。
「お! シグさん、これおいしそうだよ? あとで食べる?」
「欲しいと思ったら取って置くといい。帰って一緒に食べるのも悪くはないからな」
ペリ子の背負った剣――剣に化けたシグが彼女の耳元でそう応えた。
【月夜二吼エル】仲間達は今回の催しで何か重大な事が起きないように――公演の中と外の双方を警戒し、連絡し合う事を決めていた。
祭・露店側にはこのペリ子とシグ、公演にはレイチェル、レスト、ボトヴィッド等が向かう手筈となっている。
「あ、これも美味しそう」
決して食べ歩きが主目的ではない。人助けセンサーで困っている人を探している。ここ大事。テストに出る。
「少し前まで、こういうお祭りは馬車から眺めるだけだったので……
とても楽しそうだったのに手が届かなくてずっと参加したかったんです。イレギュラーズになった今、思う存分楽しまないと!」
かつては蝶よ花よと育てられていたシフォリィは、成る程――お祭りと聞けば率先して関わりたがる王様等よりは余程育ちが良さそうだ。
「露店を食べ歩いたり遊んだり……ちょっと行儀悪くてもいいですよね、せっかくのお祭りなんですから!」
焼いたイカを小さな口でモグつく彼女は買い食い姿も百合の花である。
凄く楽しい筈なのに一抹の嫌な予感が否めないのが――気の所為なのかは今の彼女には知れなかったけれど。
「サーカスのついでに露店も沢山出るとの事。お嬢様が気に入られる物が見つかるかも知れないと思いましたが……」
ティスタの表情が幾らか晴れないのは『現場にお嬢様をお連れしなかった事』の起因する。
下手なお土産を渡せば逆効果。さりとて、手ぶらで帰るのはもっての他。
行くも地獄、帰るも地獄。何か適当にお茶を濁せる甘味等はないものかと辺りを探している。
「さあて、裏側があるかどうかはさておいて。祭りだしね。頑張ってみようか」
「大きなタコ焼き。一舟八個入り
。これはお得」
【秘密結社XXX】
の一振が、我等が総統クイーンが、ベビーカステラやたこ焼きを売っている。
(……とことん、秘密になってない気がするんだけど)
持ち込んだトロンボーンで客寄せの演奏をするみや子は、首を振って内心の疑問を追い出した。
「美味しい料理がいっぱいあるパンダ!是非食べにくるパンダ!」
「見た目はよくねえが!! 味は保証するぜ!! ひとつ買ってくれないかね!?」
パンダの着ぐるみで親子連れに声をかけるラクリマは非常にアットホームで、クテイはとても商売熱心だ。秘密結社とは何なのか行方不明。
如何せん総統自身が「ゴミは綺麗に。来た時よりも美しく!」とか掲げている時点で、何とも字面とは裏腹に人畜無害な人々である。
「うむうむ。大変結構! んー、まぁ、あれじゃ。
ショーとかマジックとかは、ちと見飽きていたりするからのぅ……。
以前に観まくり過ぎたせいなんじゃがな、うむ。度が過ぎるのも考え物か。
それよりも何よりも、儂の眼には『こちらの世界独特の飲食物』というモノの方がより魅力的に映るのじゃ!
そういう訳でそこから……ええと、そっちまで一つずつ宜しく頼む!」
ルアの注文の仕方は中々豪快。
「修理屋だ。丁寧に直すぜ、お任せあれ!」
「ちょっとこれ、頼めるか?」
「はい、毎度。ええと、ちっと待ってろよ」
愛想も口も悪いが、仕事は丁寧だ。持ち前の情報網で技師の出張露店を出す鴇に旅人らしき人物は杖の手入れを頼んでいる。
【tailor】の二人――カシエとガドルは今回も自店『tailor taylor』の営業とそのお手伝いである。
「回ってみたい気持ちもあったけれど……今回はやっぱりチャンスだったわね。
ガドルさんには付き合わせてしまったかも知れないけれど……」
冷やかしも含め、ひっきりなしに顔を見せるお客に充実感のある顔をしたカシエが呟く。
「布製品の『tailor taylor』! 祭りのお土産にアクセサリーなんかどうだい!
……ガハハ、カシエさんの布製品は天下一品だ! この俺が休日に付き合いたい位、お墨付き!」
ガドルはと言えばそんなカシエの言葉を逆手に取り、宣伝しつつも、言内言外に「好きでやっている」との構え。
元よりカシエを誘いたかった位なのだ。これはこれで――いいじゃないか。
「へぇ……本当に色んなモンがあるな」
「ほんとだ、いろいろあるねっ」
喧騒を背に受けながら広場を眺める。小さなリリーを肩に乗せたメルはノンビリと露店の間を歩いていた。
玩具じみたアクセサリーの類から立ち食いグルメ、果ては『伝説の武具(笑)』まで無責任かつ無軌道に売られているのが如何にもお祭りだ。
「いいですねー。皆楽しそうで。こんな風にずっと楽しいことが続くと良いんですけど……」
ぼんやりと唯適当に見て回る――ナインに目的は無く、同時に全てが目当てだった。
(まあ、無理でも私達が何とかすれば良いか。何と言ってもイレギュラーズですから)
「きれいだね、これっ」
「んー、これ幾らだ?」
リリーとメルの視線が偶然にも同じ蒼色のトパーズに止まった。
「あら、お二人共、お目が高いわね」
ハートマークすら散りそうな魅力たっぷりの接客を心がける利香がちらりと傍らの店主(おっさん)の顔を見る。
「……ま、しゃあねえな。少しだけオマケしてやるか」
一瞬だけ顔を見合わせた二人は軽く笑う。
「んー知り合いに加工してもらってなんかアクセサリーにでもしてもらうか?
……行き当たりばったりになっちまったが
、たまにはな。うん、いいだろ」
少しだけ気恥ずかしそうに言ったメルにリリーが大きく頷いたのは言うまでも無い。
「こりゃ凄いお祭り……おい、待てってー
!」
「いっくよー!」
制止するサンディに構わずズンズンと進むルナシャは『自分がヤバくなりそうかどうか分かる』ギフトの持ち主である。
具体的に何がどうヤバイのか、どういうベクトルでヤバイのかを全く教えてくれない不親切な能力ではあるが、例の不吉なサーカスがこれだけの人を集めたのだ。何かが起きるならば多少の反応は得られるか、とまずは試してみた彼女である。
「……あ、これは……」
「そっか、ルナシャのギフトが何か反応し……え、何? え? えーっ?」
露骨にススス、と距離を取るルナシャの動きにサンディは目を白黒させている。
しかしこれは彼女の意地悪だった。
「相変わらず良き反応。くひひっ
」
笑うルナシャのギフトは『たちどころに自身が危険になる』という情報をまるで感知しなかったのである。
「なんだ、脅かすなよもー
」
大仰に安堵の溜息を吐くサンディをルナシャはニコニコと見つめていた。
「シンジュゥさまっ。わたくし、こちらの食べ物気になっているのですが、ご一緒にいかがでしょうかっ」
「ツクモさんっ、こっちもこっちも!」
ツクモとシンジュゥの二人は全力でお祭りを楽しむ構えである。
「わ、わ、凄いですよ! ツクモさん!」
一際の人だかりを見つけたシンジュゥがその翼で軽く浮き上がり、覗き込めばそこには。
「おさるさんのジャグリングです!」
「猿です! 猿がジャグリングなのです!? すごいです!
」
本命のシルク・ド・マントゥールを前にして、既に十分な曲芸は二人の気持ちを否が応にも盛り上げた。
「今日くらいは欲張りになっちゃいますっ」――そう言うシンジュゥは愛らしい。
幾らでもその夢を頬張って欲しいと、誰しもがきっと――そう思う事だろう。
人混みは得意ではなく、スッポリと被ったフードもマントも脱ぐ事は出来なかったけれど。
「……大丈夫か?」
「ええ」
自身の手をぎゅっと握るラノールの手の確かな熱にエーリカは迷い無く頷いた。
未だサーカスという物を見たことないというエーリカをラノールが連れ出したのはその楽しさを知って欲しかったから。
曰く付きのサーカスではあるが、相手がサーカスであろうと人混みであろうと彼は彼女を守り抜く、と固く誓っている。
「皆楽しそうだ。気持ちがいいな!」
「ラノール、あそこ……」
「ん? ああ、見えないか。任せろ」
「ちょっ……ラノ、……わ、わわわわっ……!」
自身を抱え上げるようにしたラノールにエーリカは少し混乱してそれから、小さく唸り声を上げた。
暴れたら人を蹴ってしまうかも知れない。それは良くない――
「仲がいいねぇ!」
見知らぬおじさんが二人のやり取りに快哉を上げる。
顔を見合わせた二人に「奢るよ」と焼いたとうもろこしを差し出した彼は人のいい笑顔を浮かべていた。
客引きピエロの大道芸、人気役者の似顔絵売り。
麦酒を交わし合う人々の笑い声、何処からか漂ってくる食べ物の香ばしい匂い。
すれ違う人が皆一様に笑顔を浮かべているのが、エーリカはなんだか不思議で、嬉しかった。
●馬鹿騒ぎ(サーカス)II
観客を相手にステージを魅せる事は非常に甚大な気力と体力を消耗する大仕事である。
それも国王肝いりの一大公演――それも初演――とあれば、演者の緊張感もかなりのものである事は想像するに難くない。
「ふふ、サーカスなんて初めてですのー……! 楽しみで落ち着かないですし、気になりますから少しだけ演者様に会いに行きましょうー。
あの可愛らしいピエロさん……えぇと、確かクラリーチェ様、いますかしらー……?」
「サーカス、俺も初めてだよ。今まで観に行った事なんて無かったしなあ。
あのピエロ……クラリーチェって呼ばれてたっけ。会えるかな
?」
マリアとウィリアムの期待は開演が近付くにつれ、大いに高まっていた。 イレギュラーズ達がシルク・ド・マントゥールの演者達に面通しを行いたいと申し出た事は、当然だったと言えるかも知れない。
「移動サーカスか。こういう発生する時間に制限がある時限イベントには、レアアイテムが隠されてることが多いんだよな」
「……道を間違えてしまったか…ううむ」
中にはカインのように多少目的を間違えた者や、ランドウェラのように『期せずして』の者も居たが、大半はサーカス団員に興味を持ってここにある。
「素敵ねぇ、とっても素敵。私、サーカスって大好きよ。
お話を聞いた時から、是非とも団長さんにお会いしたいと思っていたの」
しなを作ったリノが「可愛いお腹、何が詰まってらっしゃるの?
」と冗句めいた。
全く澱みのない動作でジャコビニのスーツに赤い薔薇の花をさしたリノは全く大人の女性の武器を十分に理解しているようだった。
「本公演にも興味はあるが、祭りは初日だけだろうからね。
それでも顔を見たいと思って来た次第だ――まだ暫く公演の予定はあるのだろう?」
「噂を聞いた時からずっと楽しみにしてたんだ! 会えて本当に嬉しいよ!」
「ジャコ団長殿にピエロのクラりん殿ですね!! 舞台楽しみにしてます!」
リノにやや相好を崩しかけたものの、イースに頷き、冥利の、ルル家の言葉に「光栄です」と応じたのはサーカスの責任者である団長その人である。
イレギュラーズ達にとって望外だった事は、彼等の願い事が、事の他あっさりと受け入れられた事だろう。
面会を申し出た面々にサーカスはあっさりと許可を出したのである。
「開幕直前のお忙しい時間に申し訳ない。混沌各国を回る有名なサーカス団で出される料理について、是非お話しを聞かせたいただきたいのですが」
「料理、ですか。確かに我が団秘伝のメニューはございますがな、流石に料理人は抱えてはおりませぬ」
パン・♂・ケーキの問いにジャコビニは肩を竦めた。
「お初にお目にかかる。ワシはこの地でマジックギルドのオーナーをしておるギルバートというものじゃ。
これほどの祭りは幻想でも極めて異例。今日は噂に名だたる芸を楽しませてもらうよ」
「よォ……シルク・ド・マントゥールさん? 今後、手が足りないって事ァねぇカ?」
持ち合わせる『裏』を気取らせぬ好々爺然としたギルバート、対照的に『悪さ』を匂わせた豪真にジャコビニは如才なく「ご贔屓に」と応じた。
その実、内心と同じく裏を持ち合わせる【梟の瞳】はシルク・ド・マントゥールと近しい存在であると言えるのかも知れない。
何処か露悪的な豪真と、『嘘吐き』を自認する彼等には似た所も感じられるとも言える。
「えぇ……と、たしかお届けしたいのは『ライオンとなかよしのお兄さん』だったかな。団長さん、分かる?」
「ふぅむ」
ミスチェが『配達先』について尋ねるとジャコビニは二重顎の下に手を当てて思案顔をした。
「動物さんたちに会いに来たんですけど……」
「あ、そうそう俺も!」 上目遣いをして言外に「駄目ですか?」と尋ねるふわり、そして慌てたように付け足した一悟にジャコビニは「少しだけなら何とかしましょう」と応じた。
「但し――何分、公演前の事。多少ゴタついているのはご容赦願いますぞ。
それから。忍び込むような悪戯はいけませんぞ。分かりましたな? お嬢さん方」
念を押したジャコビニに正座をするヨキとクーが「はあい」と応じた。
然程広くはない楽屋裏、かなりゴミゴミとした空間に多数の団員達が居る。
ヨキの超感覚を頼りに忍び込んで何かを見つけてやろうと考えた二人だったが、これは流石に無謀過ぎた。
「……楽しいサーカスの裏はもっと楽しいと思たねん」
(せめて、迷子とか、言えばいいのに)
言い訳染みたクーにヨキは内心で嘆息する。しかし予想外にもサーカスはこの暴挙にも大して怒った様子がない。
「まぁ、夢を売るのが商売でしてな。探る腹はこのジャコビニのものだけにしておいて下さいませ!」
かえって罰の悪そうな二人をフォローするようにそう言うのだ。
(まぁ、噂は噂として……ちょっとサーカスの動物たちに聞いてみるぐらいならいいんじゃね? てか、起きてよ。偏屈屋)
まるで人の良い相手をいいように騙しているような気分になった一悟は内心だけで多少言い訳じみた。
彼が頼りたい頭の中の友人(?)は面白い位に彼の呼びかけを無視している。案の定獣臭いイベントには何の興味もないらしい。
「いやあ、ここまでご期待頂けるとは光栄ですな!」
笑顔の形をその顔に貼り付けたジャコビニの背後では、成る程。間もなく始まる公演への準備が着実に進められていた。
(ワシはサーカスなどという子供だましに興味は無い。
じゃが、サーカス旅団が各地で持っておるコネクションは侮れん。
ワシの情報網とコネクションを拡げる、よいチャンスじゃ)
大二は中々目の当たりにする事は無い、サーカス団の舞台裏を見回してほくそ笑んだ。
大仕事前とあってか若干殺気立ったその様子は海千山千のこの団長程、上手くその本音を隠してはいないといった所か。
だが、彼等も流石にプロである。人気のある団だからひょっとしたらこの手の飛び入りにも慣れているのかも知れない。裏を返せば著名なサーカスでありながら、大所帯の押しかけにも如才なく応じてしまうから人気者であると言えるのかも分からない。
(さて、さて。まずは状況を知らねばなるまい。サーカスの実情は裏から見るのがよかろう)
舞台裏で――『動物疎通』を用いれば情報も集まるかと考えたシフカには好都合である。
確かに動物には人間程の箝口令は敷けまいが、まぁ――動物は動物で相手方と思えば、難しいには難しい。
それは「確信犯? いえいえ、そんな」と『迷い込み』同じく動物への聞き込みを行おうとしたカルマリーゼも同じである。
まぁ、実際の所――そういった超能力の類も別にイレギュラーズの専売特許では無い。
公権力とて遊んでいる訳ではないのだから、簡単に何かが分かるならば最初から苦労は無いといった所だろう。
同時に、簡単に掴まれて困る尻尾があるならば、ジャコビニは舞台裏に一同を招くまい。
(このサーカス、戦いにしか頭にないような私でも噂が耳に入っていた。
不吉を呼ぶとかどうとかって噂があるのは、何かあるに違いない。間違いない。
何かこう、凄い力があるかもしれない。それっぽい戦闘技術とか、それっぽい戦闘技術とかさ。ああ、気になる!)
シルヴェイドの思考を知ってか知らずか、サーカスは忙しなく準備を進めている真っ最中だ。
そこにあるのはステージを務める者の気概ばかりであり、荒っぽい気配は見えなかったのだが――
「こういう時には楽屋見舞いというものを贈る習慣があるとお聞きしました。
何が縁起が良いのかも詳しくはないので、王都のお花屋さんにお任せしてしまいましたが
……」
ユーイリアは独自の『おまじない』を以って、公演の成功をお祈りしている。
「すいませーん! お花の差し入れっす! 差出人は僕っす!」
花と言えば花屋の出番という事か。
「僕は花屋をやってるジルっす。ここに滞在中に花が必要な時は声かけてくださいっす!
あ、そうだ。お名前とやってる芸を聞いてもいいっすか?」
強かに営業もこなしながら、団員達に話を聞いているのはジルである。
「生来の名は持たぬ身だが、R.R.と名乗っている。
さほど大したものでもないが、俺なりのアンタ達への応援だ。少なくとも腹は満ちるだろう」
同じように舞台前の『差し入れ』にかこつけて――R.R.は破滅を聞く己がギフトを発動する。
しかし今の彼には目の前の風景から差し迫る破滅は聞こえない。
彼が聞く事が出来るのは当然ながら世界のすべての音では無い。
『そこに直接的な破滅があるか否か』であるから、引っ掛からなければ問題が無いという訳でもないのだが。
「サーカスですよっサーカスっ! なんて文明的で文化的な興行なんでしょうっ!
こういう見世物っていうんですか? ヨハナ初めてですしワクワクして――そうだ! 折角なので握手して下さい!」
「元の世界が異なれど。こうしてお会いできて光栄です。差し支え無ければ、サーカスの名のその由来をお伺いしても?」
興奮気味にジャコビニと握手するヨハナの一方で、今日は折り目正しくネストが尋ねた。
「嘘を吐く」と教えるのはある意味正直者より誠実だが……正直者のサーカスに名を変えはしないのだろうか? 疑問である。
「サーカスは嘘が多い程、面白いのですよ」
ジャコビニは笑って答えた。
「嘘だと先に申し上げれば、お客様は目を凝らしてそれを見破ろうとするでしょう。
しかして、それでもそこにある嘘を見抜けなかったとしたら――公演後もきっとこう思うでしょう。
『あれは嘘に違いない。だが、本当に嘘だったのだろうか?』とね。それが余韻というものです」
「特異運命座標がひとり、シーヴァと申します。
もし許されるなら、サーカスで使われる道具やアナタ達の衣裳を見せてはいただけないかしら……?
予行のお邪魔はしないから」
「まぁ、『種の割れないもの』に関しては認めましょう。
おっと、駄目なものは駄目ですよ。我々も商売ですからな」
シーヴァの言葉に『わざと意味深に』応じたジャコビニが少し悪い顔をした。
「む、団長殿かなりの悪人顔ですね! だから不吉のサーカスなんて呼ばれるんですよ! 顔色も悪いし! お団子食べますか!?」
ルル家の言葉にジャコビニは「これは手厳しい」と苦笑する。
「……失礼ですが、貴団は『不吉なサーカス』という異名もお持ちのようですね」
これは好機と見計らい、アマリリスが一歩を強めに踏み込んだ。
「皆様は……不吉や良くない事が起きるのに、どうして公演を続けるのでしょうか……?
例え迷信、噂、偶々偶然が重なったにしては、頻度が多すぎるようで。公演=不幸が起きるのをわかっていて、どうして……」
「やーすげーっすね。サーカス。僕は、こんな大きな催し物って見たことないっすよ。そんで催しが始まる前に聞いてみたいんすけど。
団長さんって純種っすか? それとも旅人? サーカスって、何か見た目で判断できない人多いじゃないっすか。どーなのかなって……
時に、それは其れとして、団長さんは魔種って見たことあるんスか?
団長さんなら学もありそうだし、サーカスってな、あちこち回るんでしょう?」
アマリリスとヴェノムの言葉にジャコビニは苦笑する。
どう答えても中々に角の立ちそうな――相手の意図の『何となく分かる』問いかけである。
答えかねた彼の様子を察してか、タイミング良く「ストップ」の声がかかった。
声に視線をやればそこには仮面をつけたピエロの姿があった。花形ピエロのクラリーチェである。
「それって、お姉さん。どう聞いても暴論ってものだよ。
『僕達は起きると分かっている訳じゃない』。不名誉な噂は知っているけれど、噂を真に受けて仕事を辞める訳にはいかないでしょう?
僕は、お客様とは楽しいお話をしたいなあ」
立場上、団長より『軽い』クラリーチェは念を押すようにそう言った。
確かに今の一言は礼を欠き過ぎていたかも知れない。強い正義感と感情は腹芸を本分とする連中には格好の的になる事もある。
「白の自覚、黒の自覚、双方混ざりて灰の者。否、灰の仮面。
のう、おぬし、今日は晴れかえ。明日はどうじゃ、未知とあらば口に出来ぬもの。一つ聞きたいものじゃな」
「僕は天気予報士じゃないよ。『特異運命座標』のお仲間なら、そういう能力持ちも多いんじゃない?」
ラ ラ ラの言葉遊びにクラリーチェは額面通りに応じる事でこれをかわした。
饒舌で楽しげなピエロは公演前に楽屋へとやって来たイレギュラーズ達の多くの目当てになる存在だ。
(あのさらさらの金色の髪……ピエロらしい軽い調子の口調。
性別は分からんが、こりゃあ同人誌の新キャラのネタにしたら萌えるに違いねぇ!
これは男の子でも女の子でも美味しいってヤツだろう!?)
……かなり特異な興味の示し方をしている春樹は置いといて。
ピエロが嘴を突っ込んだここが好機と彼等はめいめいに歓談を始めている。
「やあやあ君がこのサーカスのピエロ君かい?
僕もピエロなもんでね。こんな大きなサーカスのピエロと少しお話をしてみたかったんだー♪
例えば君はその仮面の裏でどんな悪い事を企んでるのかなーなんて――
メルはそこで台詞を切って、少し溜めてから言葉を繋ぐ。
「――おっと今のジョークだよ! 笑えたかい?
」
「おはよう。こんにちは。こんばんは。初めまして。我等『物語』はオラボナ=ヒールド=テゴス。ラーン=テゴスと呼んでも構わない。
此度の嘘吐きには興味を擽られ、我等『物語』も観る事に決めた。されど観る前に視るべきだ。名前は何だったか。クラリーチェ。道化師様。
一個だけ質問を投擲する。サーカスとは如何なる物語だ。遊具『ジャンル』だ。喜劇か。悲劇か。他の遊戯か。
因みに我等『物語』は娯楽的恐怖。折角の遭遇故、質問の答えは贈物『催し』の後に」
オラボナの描く『娯楽的恐怖』に「わあわあ!」と声を上げたクラリーチェはしかし怯えた風も無い。
「うーん、どっちも悪趣味な挨拶だね!
おにいさん? おじさん? それ以外? ええと、分からないけど。言葉が難しくてピエロには良く分からないかなあ!
多分、馬鹿騒ぎ(サーカス)は何でも無いんだと思うよ。見た人の魂を揺さぶるだけ。嘘ばっかりで、同時に全て真実でもある。
言うなれば、実物を得た虚構かなあ。『ジャンル』で言うなら偽物のドキュメンタリー。あれ、偽物じゃ……ヤラセじゃない?」
「にししっ、一体『何を思いながら』道化を演じてるのかなー!
」
幾ばくか剣呑に、それ以上に楽しそうに――ミーシャが食えないクラリーチェに水を向けた。
肩を竦めたピエロの表情は仮面に遮られ、まだ見えない。
『暗殺者』のミーシャがこのピエロに同業の匂いを感じたのが気の所為であれば良いのだが――
(演者の面を見に来たら……これは中々食えない連中だな)
――鋭敏なるハロルドのハイセンスをもってしても、血の匂いやらは掴めない。
まぁ、より厳密に言うならば猛獣も近くにいる現場である。餌には生肉を使っているようだし、区別がつかないと言った方が良いかも知れない。
「――クラリーチェちゃん」
肩をポン、と叩いた竜也にピエロが小首を傾げた。
超銀河コズミック宇宙帝国の第101010皇子的に全く不自然は無く、さり気無く。
性別不詳のピエロの正体に思いを馳せた彼は、彼だか彼女だかが『どちら』なのかを知りたかっただけなのだが……
やたらに線が細いピエロはやっぱりどっちなんだか分からない。
(俺のユニバースセンサーによれば、俺好みの可愛い子であろうということだけはわかる。しかし……)
「んー?」
竜也をじーっと見るクラリーチェが「あは」と笑った。
「お兄さん、どっちでもいいひと?」
「いや、そんな事は無く……性差の問題はナイーブなので否定するつもりは無いが、俺の好みは女の子で。求婚するには、まず」
「――これこれ! ああ、失礼。躾のないピエロなもので」
ジャコビニはクラリーチェの言葉をフォローするように、あっちこっちに頭を下げた。
……この二人は実に凸凹だが、傍目に見ても良いコンビである。どちらもまだ、全く底を見せる気配は無いが。
「いやあ楽しみにしてるんですよ、ホント。田舎育ちなもんで サーカスは子供の頃から数少ない娯楽でしょ?
それがこんなグレートサーカス楽しませてくれるってんだから――ああすいません つい興奮してしまって」
少し煮詰まった雰囲気を夏子がタイミング良く撹拌した。
「そう言って頂ければ何より。お帰りになる頃には更なる期待を頂戴出来るよう努めましょう」
「このサーカスが、どんな物語を携えてきたのか。楽しみにしている。
多くの人を魅了するショーマンはかけがえのないものだ、私はこの得難い機会に感謝し、最大の敬意を払っているよ」
続いたケイデンスの言葉にサーカス団員達から拍手が上がった。
「一流のショーマンには、一流の観客が必要だからねえ!」
口調こそふざけてはいるものの、クラリーチェの言葉はこれまでよりは大分真摯な響きを帯びていた。
「おっかないスポンサーも満足するような――最高のショウが僕達には求められてるんだし。
あ、今のごめんね。聞かなかった事にしといてね!」
ジャコビニは何かを言いかけたが苦笑でそれを飲み込んだ。
本公演のスポンサーと言えば、あのフォルデルマン三世だろうか。彼は到底強面の類では無いが――
「著名な移動サーカス! もしこのサーカスに入団すれば混沌でも僕はスーパーアイドルッ!
幻想にいる間だけでもイイ! 僕を働かせてみないかいッ!」
「同じうそつきとしては嘘つきサーカスに興味があるね! 非常に気になるとも。
あぁ、入団条件はあるのだろうか。ワタクシメのような存在でも入れるのかな。だとしたら是非とも入団したいね。
ああ、ワタシは嘘つきだがこれは本心さ。サーカスは夢。嘘は刹那の愛――」
――何処でもあくまでもマイペースにキャラクターのブレない公麿とライアに団長が「ほっほっ」と笑った。
「幻想への滞在はこれまでよりも長い期間を予定しておりましてな。機会があれば是非、検討してみたいものですな」
答えは多分にリップサービスを含んでいるだろうが、公麿は力強く頷いた。
為せば為る、為さねば為らぬを地で行く彼のアイドル道は果てしなく遠い。バラドル道ならそこそこ近そう。
「………帰って眠りたい」
『プロフェッショナルの話を聞くことも悪いことではない』
「むしろ、善意の行使者の暴走が怖いんだけど……」
『それでついて来たわけか
』
「さぁさぁ、もうすぐ開幕ですよぉ」
『………楽しそうで何よりだ』
「もちろんですともぉ、踊りを嗜む身としてははしゃがずにはいられませんともぉ
」
【七曜堂:演】
の面々――オルクス・アケディア、コルヌ・イーラ、レーグラ・ルクセリアはやはり『二人』で一組の掛け合いを続けている。
「あ、あれ知ってる! ライオンとゾウだ!」
動物はやはり子供には人気がある。目を輝かせたノーラにサーカス団員が「近付き過ぎなければいいよ」と場所を開けた。
「ありがとう! なんて言うんだ? 僕はノーラだ! どこから来たんだ? 普段何してるんだ?」
矢継ぎ早の質問に動物疎通をもってしても明確な答えが返らないが、ともあれノーラは楽しそうである。
ノーラが一緒に来た『パパ』と『ママ』――【星芋】のリゲルとポテトは屈託の無いノーラの様子に目を細めている。
「……ノーラ、普通に楽しんでるな。まぁ、初めて見る動物だし、沢山お話すると良い」
「ああ……」
ポテトにリゲルが頷いた。それ自体はとても良い事だ。
(『不幸を呼ぶサーカス』か……これで、そんな噂が無ければな)
ポテトはその情報だけを至極残念に思い、
(ここにレオパル様が居ればな…
…)
リゲルはかのネメシスの重鎮の眼光を思い出し、それが果たされぬ事を残念に思った。
「天義での公演予定はありますか? 実家の母に見せたいのですが……」
「あそこは、馬鹿騒ぎ(サーカス)とか嫌いそうじゃない。許可がまず下りないよう」
クラリーチェから返った答えにリゲルは苦笑せざるを得なかった。
『嘘吐き』の問題はそれで解決するだろう。しかして、裏を読まなくてもクラリーチェの言葉はある意味で真実である。
リゲルの脳裏でサムズアップするかのレオパル・ド・ティゲールにサーカス公演を認めさせるのは確かにかなり困難そうだった。
●馬鹿騒ぎ(サーカス)III
「サーカス!サーカスですよ、サーカス!」
はしゃぐエマの声が心地良く響く。
「私、サーカスのテントに入るのなんて生まれて初めてです!」
「エマ、なにか食べたいものとか無いかしら?」
「……食べたいものですか? というか、そのバスケットは一体……?」
「……別に、エマのためよ」
大量の買い食いの責任を傍らのエマに押し付けたイーリンは普段の少し大人びた調子も無く実際大いに可愛らしい。
「結乃はさーかすは初めてじゃろ? 凄いのじゃぞ、さーかすは!」
「さーかす、ってなぁに?」
「うむ、さーかすとは、人や動物がとても普通では出来ないような事ばかりを見せてくれるのじゃ!
わらわもさーかすを見るのは久し振りじゃからな……驚いて泣いたりするでないぞ?」
小首を傾げた結乃が悪い顔で軽い脅しを掛けた華鈴にふるふると震えている。
「サーカス! 見るのは初めてなんだよね、楽しみだな! 今日は友達も一緒なのが何より嬉しいよ!」
「ん。嬉しすぎて倒れないよう、昨夜は充分休みました。準備万端なのです
」
ガールズトークに花を咲かせるアレクシアと珠緒の雰囲気が華やいでいる。
「ふーん、街の皆の感情から『楽しい』がいっぱい伝わって来るね」
サーカスなんてものを知らなかったけれど――A 01が興味を惹かれるのは無理からぬ事だった。
強い感情は伝播する。無より有が生まれる事は稀だけれど、純白が某かの色に染まる事はままあるものだ。
知れば、変わる。変われば、知れる――それはある種の必然にもなるだろう。
少し長くなってきた陽が落ち、辺りが帳に包まれる頃。
馬鹿騒ぎ(サーカス)に集まった人々が待ち望んだ時間がやって来る。
「あ、はい。人の圧がやばいんだけど。人混みがやばい。体潰れる。
でも俺は、俺は――近くで見たいんだよおおおおおおおおぉ――!」
フユカの叫びが虚しく響く。 成る程、開場した大テントは入り口から内部まで人、人、人でごった返していた。
「……帰ろう……辛い」『行きと同じだけの人混みをかき分けることになるが?』
「無理、どこかで寝よう…というか…なんでここにいるんだろう……?」
『一応、我が契約者殿の希望だったはずだが? スペルヴィアが酷い表情になっているぞ?
』
コル・メランコリアの視線の先には――
「スリや当たり屋……それに誘拐とか? どれだけ気を付ければいいのかしらね?」
『アワリティアからの依頼だ無下するわけにはいかないだろう
』
苦労性が忍ばれる護衛役のサングィス・スペルヴィアの姿がある。
「……あ……あぁ……」
『はっはっは、せっかくの機会だってぇのにいつも通りだなぁ!』
「……むっ……り、とい……うか……こんな場所にぃっ……!」
『メランコリア達もいつも通りみたいだが……まぁ、我が契約者殿はちゃんと楽しんどけよ?』
もう一組の護衛され役――カウダ・インヴィディアも御覧の通り。
【七曜堂:観】
――つまり七曜堂の観覧組は中々前途多難であるようだ。
(すごい人混みね、周りに注意……って学ラン!?)
人混みに眉をハの字にした蛍の眼光が鋭くなった。
「ねえ! そこの学ランのあなた!」
「……ぁ? なんか用か?」
振り返ったリオネルの面立ちはそこそこガラが悪い。
「う、この赤髪ロンゲ長ランとどめにボンタン……ボクの目は誤魔化せないよ。あなた、ふ、不良ね!」
「良くわかんねーけど。これからサーカス見んだけど。この辺にいるならアンタもそうだろ? 話あんなら中で聞くぜ」
リオネルからすれば「一人じゃアガらない」気分だった所――蛍は渡りに船である。
「!?」 不倶戴天の敵(ふりょう)(と思った相手)にそんな風に誘われ、蛍は面白い顔をした。
人混みはドラマを作るものらしい。
「……おや、大丈夫かい。不注意だったよ、すまないね」
「いててて……ごめんなさい、私のほうこそ」
ぶつかって尻餅をついたセレネに鼎が手を差し伸ばした。
人混みは大抵悪だが、たまには縁を結ぶ事もあるらしい。
「私、実は一人なのです。よければ一緒に観覧しませんか? あ、セレネといいます」
「ふふ、どうやらお一人様仲間だね。誰かとわいわいみるのも良いものだし――恋歌鼎と言うよ、よろしくね?」
小さな幸いはあったが、大変なのは確かである。
「最後尾はここだ! 割り込みするんじゃねぇぞぉッ!」
如何にもオークな癖に何とも面倒見の良いゴリョウがボランティアで列整理を買って出ていた。
気の利く男なのである。オークだけど。心優しい男なのだ。村を焼くとか言われるけれど。
基本的に冤罪なのだ。オークだけど。唯オークなだけだったのだ。オークだけど。ゴリョウ・クートンです。
まったく、現状は前を進むにも大変な状態だ。
日頃、活気の薄いメフ・メフィートの何処にこんな熱気があったかと問いたくなるような光景である。
「サーカスを実際に生で拝見するのは初めてですが、すごい盛り上がりですわ」
買い物に街に出て――ついでと顔を出してみればアンジェリーナも驚く程の騒ぎである。
「うーん、しかし凄い人ね。ローレットのギルドの人達、どれくらい来てるのかしら」
正直これ程に混み合うとは思わなかった――ヴィエラが呆れ半分、興味感心半分に辺りを見回した。
酷い人混みの中をつぶさに調べれば、見知った顔も出てくるだろう。
依頼で同席したり、関わったり、或いは依頼主も居るかも知れない……まぁ、流石に探すのは徒労なのだが。
「うっひゃー、すっげぇ大賑わいだなー。噂にゃ聞いてたけど、結構デカイサーカスなんだな」
「やぁ、かのサーカスを観られる日が来ようとはね。楽しめるか、事件が待ってるかはまだわからないが――
いや、実はね。こんな大きなサーカスなんて見るの初めてでね、年甲斐もなくワクワクしている所だよ」
「そりゃあな」
リョウブに応えたジョゼにとっても、改めて見れば、聞きしに勝る――というヤツだ。
「オレの国ではこの時期は雨の神に子供の生贄を……いややめておこう。
今は大人しく神の島の祭というものがどんなものか、見せてもらうとしよう……」
サーカスの趣旨を勘違いしているトラウィスは置いといて。
「サーカスのテントの中に入るのは初めてなんだ。だからもうそれだけでドキドキしてくるって言うか……」
ごく素直な反応を見せるシラスは元より、
「へェ、不吉なサーカスってか? 面白ェ、すこし見て行こうじゃないか」
比較的大騒ぎにはそんなに興味のないグラムを多少なりとも引き付ける程に今回の主役の期待値は高い。
「不吉を呼ぶサーカス……ねぇ。サーカスが無くても世間は毎日事件だらけで手が足りない感じだけどな。
まぁ、それはそれとしてもこの機会に本物ってヤツを見ておくか」
「そうだな……、此方に来てからというものやれ戦闘だ、やれ探検だと忙しなかったからな」
勇司やエレムにとってもいい機会なのは間違いない。
恐らくはこれ以上の規模のサーカスを直接見た事がある人間等、そう多くはないだろう。
勿論、イレギュラーズにとっては、唯のサーカスの芸事として以上の――『曰く付き』がその一助になっている事は確かなのだが。
「この国にはパソコンとか動画サイトとかそういうのってねぇんだよな……
数少ない娯楽がこういうお祭りって訳だ。さて、どんなショーが見れるのやら」
醍醐の言う通り、科学技術や文明程度、民度を考えれば『如何にもなファンタジー』は色々難しいものである。
ならば、面倒な背景情報は別にしても、これは中々良い機会であった。
「セリカちゃんは、こういうサーカスに来たことある?」
「実はわたしも初めてだったり……だからわたしも結構、その楽しみだったり……っ……!」
「でも、凄い……百人、いや千人位入りそうなテントだよ~」
「きっとスゴイことたくさん見られそうだし……何だか、ドキドキが止まらないね」
「出来ればいい席を……と」
ついでに非常口を抜け目なく確認したユーリエとセリカのやり取りの通りである。
千人以上を収容出来るという触れ込みの大テントの内部には、ぐるりと円を描くように観覧席が設えられていた。
観覧席は中央の広い舞台を囲うように設置されている。舞台は楽屋裏と繋がっており――余談ながら先程イレギュラーズがお邪魔した場所である。
「サーカスなのに、テントに魔法かけてあるんだって……不思議だねェ?」
「魔法のテントねぇ……一体どんな魔法がかかってるのかしら? やっぱり設営周りとか」
ヨダカの言葉に思案顔を見せたエルメスは、「普通に折り畳んだのでは展開も輸送も一大事になりそうだ」と予測しあたりをつけてみる。
「わわ……、ひとがいっぱい、です……迷子にならないようにしないと……」
「俺も似た様なもんだな。逸れない様に手ぇ繋いでこうぜ、迷子の呼び出しなんてお互い嫌だろ?」
「ん……、ありがとうです……」
強烈な人混みに目を白黒させたセレンの小さな手を侠の手がしっかりと握った。
自分も同じ、と言ってやる所が何ともニクい侠である。
会場は本当にメチャクチャに混み合っていたが、参考までに言うなら、このテントの中で一箇所だけが空いている。
人混みは一箇所だけ見事に存在していない。本公演――一等賞の貴賓席にはフォルデルマン三世以下幻想重鎮達の姿もある。
「親衛隊長は協力的だったけれど……」
遠く貴賓席を見つめた暁蕾が苦笑いを浮かべた。
「一筋縄ではいかないか」と目が口以上にモノを言うアカツキも似たような表情を浮かべていた。
暁蕾が頼ったシャルロッテと同様にアカツキが頼んだガブリエルもまた協力的ではあったが、幻想重鎮のパワーバランスは極端だ。
「護衛ならば身共にお任せ下さいな」と笑顔でかわす超一流の暗殺者(リーゼロッテ)と、「まさか我々に不足があるとでも?」と威圧するレイガルテを前にしては直接的警備の担当は叶おう筈も無かった。しかし辛うじて【警戒】の二人の呼びかけは貴賓席の警備の強化はもたらした。
暁蕾の口にした「占いで悪い結果が出た」というアプローチが当のフォルデルマンに刺さったからだ。これはファインプレーである。
(何とか陛下か――偉い人に掛け合って、被害が出ないように話を通しておかないと)
U里は焦るが、如何せんフォルデルマンの周囲には近付けない。完全に警備が固められている。
彼の傍らに立つレイガルテの背後にはこの幻想最強の男と名高い黄金騎士の姿さえあるのだから。
「……まあ、武力は有り余っていそうです。でも、少し見ておく事としませうか」
「王様ですしね」
「今夜が特别になり得るとしたらば、あの方が居るか居ないか、でせうから」
【梟の瞳】の二人――ヘイゼルとドラマもまた貴賓席の方を見やって頷いた。
以前に知ったとても後ろ暗い感じの依頼で、とても後ろ暗そうな依頼主が仄めかしていた話をヘイゼルは気にしていた。
黒い噂の方が真実ならば、今夜は気をつけなければいけない日だ。
「王様、良い方ですしねえ」
「……、まぁ……、ええ。たぶん」
遠目に見ても盛り上がっている国王の興は削ぐまいとドラマは使い魔を飛ばして周囲の警戒に努めていた。
ちなみに彼女の人物評は王宮図書館を貸してくれたから良い人、で決定している。
焼くか本か(ただし図書館は火気厳禁)。応じたヘイゼルの笑顔は実に生温いが疑う理由が何処にある。
(大方テントに仕掛けがあるんじゃねーの?)
「ま、俺には関係ねーけど」と狂介。その辺りの裏があるのかどうかはさて置いて。
大多数の人間にとっては、いよいよ始まる一大イベントである事に違いはない。
もし、狂介の言うような大掛かりな仕掛け――問題があるならば、これはもうこの場を作ってしまった絶対権力者の問題だ。
だが、そうは言ってもそこはイレギュラーズ達である。
【月夜二吼エル】第二幕、公演パートの皆さんもやる気は十分だ。
「なんとまぁ、ここまで大規模なサーカスとは! 外のお祭り露天つきといい……これはワクワクがドキドキの予感がしますよ?」
ボトヴィッドは自身の中にある期待感を隠していない。
(サーカスにはよくない噂話があるらしいじゃない? それで、ギルドの子と秘密を探っちゃおうって事になったのよね。
何もわからなくても、みんなで探偵ごっこするのは楽しいし――)
レストの視線の先には
「ククク、どっちに転ぼうが愉しいには違い無いさ。不吉を呼ぶサーカス……本当に周りを『不吉』にしてたりしてなァ?」
等と嘯くレイチェルが居る。しかし悪ぶった事を言う割に案外レイチェルはこの公演自体も楽しみにしているように見えた。
しかし、何だ。レストが何処と無く保護者然としているように見えるのは気の所為なのか何なのか。
「『Where there is smoke, there is fire』。
煙のある所に火はあり……私のいた世界にこのような言葉がありました。
彼らがその『不幸な偶然』の首謀者であるならいずれ火の手が立ちましょう」
「少なくとも公権力による調査の結果はシロ。その上幻想国の王は歓迎しているとの事。
なればローレットの特異点が騒ぎ立てるわけにはいかない、と。まぁ、道理と言えば道理です」
不安が無い訳ではないが、仕方ない。「つくづく損な性分ですね」と苦笑したクロウディア、そしてアルファードの悩みは尽きないものだ。
「それにしてもひっじょ~~~に怪しい!
まあピエロならそんなもんだと思うんだが、なんていうかな。胸騒ぎがあると言うか……」
リュスラスの言葉にムスティスラーフは苦笑した。
「まぁね。でも、証拠は出ないと思うよ。そもそも形になって、あるかも怪しい。
公権力と僕らとの違いはパンドラ関連だからね。仮に彼等がどれだけ優秀でも無いものは見えない」
真偽こそ確かめようがないが、全く見事な推論である。つまり、イレギュラーズが仕事をするだけでパンドラを溜めるのと同じこと。
仮にこのサーカスが黒だったとして、関連しない何かを行うだけでそこに影響を及ぼす力があるのだとすれば証明問題の難易度は跳ね上がろう。
「まあまあ。何か気づけば儲けもの、今回は観覧に徹しましょう。
だって、こんなの、一度だって見たことがありませんもの。
気になってしまうのは仕方ありませんこと? たとえそれが虚飾にまみれた偽物であっても、です」
「うんうん。見てる人を楽しませてくれる気があるのは間違いないんだから――そこは楽しまないとね!」
「うむ。思い出すのは、元の世界の西洋方面の彫刻だ。
何時動くのか、どう動くのか想像力をかき立てられる点に美がある――この観点だと動いた後も見ることが出来る贅沢よな」
人間は危ういものにこそ惹かれるという。それは古来より続くサガというものである。
だからこそ、涼やかにそう言ったミディーセラにムスティスラーフとリュスラスは実に素直に頷いた。
「さて、穏便に楽しめるといいのですが……」
「出来れば何事も起きずにいて欲しいなぁ、普通に楽しみたいし」
しがないマジシャンを自認するフロウ、溜息半ばのエンジュとしてはそれを祈るばかりであった。
如何なローレットとは言え、この国でフォルデルマン三世の希望を捻じ曲げる事等、出来はしないのだから。
「しかしサーカス。実は名を聞くのも初めてだ。故郷にはこんなものは無かった。演劇の類はあったが、私には縁のないものだ。
一所には留まらず、芸を売って暮らす。私には想像もつかない生活だ。ありえない生活だ。理解できん。だが……」
「分からないものを拒絶していても始まらないか」とジョセフ。
「サーカス……様々な芸を見られるもの、か。ヒトの発想は幅広いな。芸を嗜みはしないけど、単に楽しむのも悪いことじゃあない」
「芸に携わる者としては興味があるな。まさか、詩歌や舞踊ばかりやるわけじゃないだろうけど、何かしら、感じることもあるだろうさ」
「……サーカス……おぼろげだけど……小さい頃に……一度見たことがある……くらいだから……」
「お客としては、彼らがどのような芸をするのかとても楽しみですね!」
多くの観客と同じように、このシェンシーやジェニー、そして賑やかな気配に期待を高めるグレイルやセルビアもその時を楽しみに待つ一人である。
「私、生でサーカス見るの初めて。たのしみだなぁ~♪ どんなパフォーマンスが見られるんだろう!」
待ち切れないとばかりに瞳の輝くフェスタ等は言うまでもない。
何せ『お祭りちゃん』がお祭りと天秤にかけて選んだサーカスだ。余程のモノを見せなければ嘘である。
「こっちの世界にもサーカスなんてあったのね。元の世界のサーカスも凄かったけど、此方のサーカスは一体どんな事をするのかしら?」
『さあなあ』
結の言葉にズィーガーが相槌を打つ。
『妙に胡散臭い空気は感じるけどな。
まぁ、サーカス自体元々胡散臭い部分を売りにしてる部分が有るからただの気の所為かもしれんが……』
「うむ! サーカスとはスキルをアートまで高めしものと聞く。
ゴッドとしては人の子の努力のクリスタルを是非とも鑑賞したいものだ!
しかし、人を惑わす嘘はいかんな! 嘘こそ優しくあるべきよ!
」
魔剣の呟きに神――豪斗が応じる実に貴重なシーンであった。
「あ、お兄ちゃん、興奮し過ぎて騒いだりしちゃダメだからね?
」
「いや……俺も生まれて十八年経つが、こういう催し物には参加したことがなくてなぁ」
リィズの忠告に「お兄ちゃん」と呼ばれたナハトの方が照れたように笑みを浮かべた。
「リィズは前にこういったものを見たのかどうかもわかんないけど……
……でも何だか、こういう楽しい場所にお兄ちゃんと出かけるのってとっても楽しい♪
」
続く言葉は諫言以上の殺し文句である。
「ジュースよーし! ポテトよーし、あとお菓子!
」
注意事項を一つずつチェックしたオロディエンが満面の笑みで頷いた。
「わーい! 人間のサーカスなのだわ! 一度見てみたかったのだわ! 私あれ見たい!
人間が縛られて爆発するけど死なないやつ! 絶対、ちょっとくらいスリリングな方が楽しいのだわ!」
その瞳を物騒なる期待に染めたロザリエルは今日は『いい子』に席についている。
「一体どんな演目があるのか楽しみだな」
「何だか不穏な噂がとか聞いたけど」
「まあ、警備に出てる人達もいるしね。あ、そろそろ、公演がはじまるわ。お行儀よくしましょ」
TPOを守れるアルラウネの好物は基本的に人類である。
ロザリエルからすれば多少の噂等問題にならず、頷いた黒羽やアクアもこの時間の過ごし方をもう決めていた。
「この公演、どんなものかじっくり観賞させて貰おうか。
色々と悪い噂も耳にするけど、それでもなおこれだけ盛況ということはそれだけ公演の内容が素晴らしいという事なんだろうから」
メートヒェンは値踏みをするような顔である。
「サーカスって事はあれか!!? 空中ブランコとか、玉乗りとか、火の輪くぐりとか。
それや、切断マジックショーとかも見れたりしちゃうの!? すっげー!!!」
洸汰の周りには子供達が集まっていた。異様に早く打ち解け、盛り上がっているのは彼の性格によるものか、はたまた童心の伝道師(ギフト)の影響か。
「たーのしー!」
「これうめえ! うめえなあ! あ、いる?」
更にはその輪に観覧前に買った食べ物で盛り上がるリックが加わった。
「サーカス♪ サーカス♪ 楽しみだな~」
露天で買い込んだ食料を両手にたっぷりと装備したニーニアも準備万端といった風だ。
「ふーん。サーカスかぁ。俺の世界ではあんまりポピュラーじゃねぇけど。それでも……興味はある、かな」
「面白そうなら歌のネタにしたい所だけど」とトート。「音楽に関するものとか、動物……猛獣ショーだっけ。それを見てみたいなって……」
「世界を回るパフォーマンス集団ということであれば、あらゆる技術や音楽も集うのでしょう。
せっかくの機会ですし、確かめない訳にはいきませんよね。特に音楽は、私にとっても有益なもの。
素晴らしい技術、特别な旋律、そこに華やかなる文化があるならば、ぜひ吸収して帰りたいものです」
歌という言葉を受けてチック、Lumiliaが応じた。
「サーカスとか、僕の故郷じゃ、一生に一度どころかご先祖様に経験者がいるかどうかもあやしいですよ?
やっぱり都会は違いますね、いい土産話が出来そうです。 それにこれは王命ですからね。全力で楽しまなければ不敬というものです」
そんなチックに言葉を向けたニゲラにとっては少し残念な事に――お土産にしたかったパンフレットの類はないらしい。
「おう、俺が元いた世界にゃサーカスなんてモンはなかったからな。何でも持ってこいってな」
だが、何が出るかは全くもって観客には分からない――それもルウの言う通り楽しみの一つである。
手品の種は割れていない方が良い。ビックリ箱は開けてから驚くものなのである。
「火の輪をくぐったり、空中でブランコしたり、剣を呑みこんだりするのですね。
きっと、このイベントで好感度上げたり、別イベントのフラグを立てたりするのですよ。
私には分かります。イベントCGもジャンジャンバリバリとさぞたくさん集まることでしょう。よきかなよきかな」
虚空に向けて何処かメタい発言を飛ばす絵里(ぼっち)の一方で、相手が虚空でない人々も居る。
「サーカスにお祭りと聞いて我慢できずに駆けつけた海洋民――つまり、私です」
「あれよあれよと流される間に公演のチケットを握っていた方、わたしです。
あー、火事と喧嘩はリッツパークの華とかそういうテンションなのですね……」
テンションの高さを全く隠せないイリスに、シルフォイデアが乗っかった。
「まあ、シルク・ド・マントゥールの公演がメインなので、これを見ずに帰るわけにもいかないよねー。
ちなみに、一番楽しみなのは空中ブランコね」
家族やら友人やらそれ以外と連れ立ってこの場を訪れた者は多い。
「皆さんわくわくしているのだしきっと楽しいコトがある筈だわ……」
しかし、胸の内に燻る小さなざわめきにエステルはきゅっと拳を握った。
「こわい噂もあるけれど、僕がエストをまもるんだ。何が起こったってへっちゃらさ!
」
そんなエステルの緊張を偉大なる安請け合いでサンティールが吹き飛ばした。
照明はまだ落ちたまま。
(うーん、不幸を呼ぶサーカスねー。サーカスとか旅芸人とかってそういう逸話が多いからねー、何かと。
……ちょっと見極めさせて貰おうかな。純粋に楽しむのとは違っちゃうけどね)
目を細めたリンネが少しだけ残念そうに愛らしい唇を尖らせた。
(ゴーレムを狂わせた骸の手帳に残された、嘘吐きサーカスの文字。
嘘吐きの道化師に唆されたと、死人返りの鎧。嫌だねえ、死人に口無し、か)
この観覧が何の心配も無いものならば良かったのに、と自嘲気味にロアンは苦笑した。
何が始まるのか。何も始まらないのか。何かが起きるのか――それとも唯の『嘘つき』なのか。
「……うん、調べても問題はなかったって言ってたし身構えてたら何とかなるよね!」
「誘っておいて随分ね! いいわよ、付き合って上げる。今更だからね、毒を喰らわば皿までよ」
大雑把なセシリアに「やれやれ」といった感じのユウが覚悟を決めた。
「曰く付きのサーカス。何故あのお方は受け入れたか不思議でなりません」
「さあねぇ。何も考えてないのかも」
傍らの恋人(アラン)の『洒落にならない本当のような言葉』にルミは苦笑した。
貴賓席の彼はいよいよ盛り上がって遠目にも分かる位にじっとしていない。
「……ま、アレだ」
ルミの頭痛は止まず、だから一瞬隙が出来た。
「何かあったら観客含めて俺が守ってやるさ。安心しろこの野郎」
意識の空隙にするりと滑り込んだその言葉の破壊力よ。薄い唇を戦慄かせたルミは一瞬絶句して――言葉もない。
(騒ぎを起こせば一般の人々にも被害が出てしまいますから……ここは慎重に。
それに、良く考えたらサーカスは初めてなので……それはそれとして楽しみ、でもありますよね)
「なーんか怪しいとか言ってる人もいるけどー、そんなの気にしなーい!
うっかり事件にまきこまれるのもそれはそれでそそるというかなんというか! 全然OK!」
「サーカス、ですか。それも不吉を呼ぶと、噂の……とても、良いですね。嘘でも、真でも。どちらにしても、大変、興味深いです」
そんな風に考える冬葵、奏のように気にしない者、激しい知識欲を以ってむしろ貪欲に求めるスリー。
「きな臭い噂があるみたいだけれど、さすがに観客へは手を出さないと思うね。
希望的観測かな。そんなに不用心ならとっくの昔に公演だって出来なくなってるだろうからね」
冷静にそう述べた史之も含め思惑は様々だ。
「くっふっふ、最高の席を確保したのじゃ。もうこれは最初から最後まで楽しむしかないのう」
明日から忙しくなるというならば尚の事。デイジーは前列の席でまだ暗い舞台を見上げている。
「サーカス……! 初めて見るからとっても楽しみ……!」
傍らのオクトの顔を見上げるシオンの顔には珍しく興奮の色がある。
彼の頑固な眠気をも吹き飛ばす魔法がこのテントの中にかけられていた。
「何があるかは解らないけども、俺が見たことのない物なのだろう。それはきっと、とても楽しい事なのだからね?」
そう、行人の言う通り。
刻一刻と迫る開演までの時間は引き伸ばされたように長く感じられ、高揚という名の感情(まもの)を煽り続けている。
(彼らは災いの先触れなのだ。当事者ではなく――といった所でしょうか)
息を呑む時間にアイリスは苦笑した。
(詰まる所、彼ら自身は分かり易い目眩まし、もしくは『彼らの公演を目にする事で何かしらの刷り込みが為される』のかも知れません。
そういう意味ではまだ耐性がある私達が公演を見るのは――良い試金石になるでしょうか)
本当は、何事も考えず観覧出来れば良いのですけれど――それは確かな本音なのだが。
「ま、僕自身はお祭りに水を差すつもりはない。素直に楽しませてもらおうじゃないか!」
席ではなく『杖に乗った』グレイが嘯く。
解放の時はまだか。まだだ。
爆発の時は来たれり――いや、まだ早い。
引き絞られた弓の弦。張り詰めたピアノ線。喧騒の中の静寂。胸の内から競り上がる――熱狂。
「……世にも名高いサーカスか」
今後の『仕事』の参考になれば、と雪は期待し。
「火のない所に煙は立たぬと言うが所詮は噂よな。評判の演目とやらを見せてもらおうではないか」
試すようにリリーが言った。
「神話の時代、芸とは神への供物であり、芸者は神官であり巫女であった。
今、眼下にて舞い踊らんとする彼らが、供物を捧げている相手は……ふん。
余興、いや、予兆。真なる危機は未だ遠く。しかれども、其は妖しき光となりて彼の地に影を生む、か。
そして、此度の観客達が次なる演者となる――いかなる演目も、アイオンの瞳は余さず鑑賞するとしよう」
「シルク・ド・マントゥールを知らぬ身としては、何れもあり得るとしか言いようがない。
この幻想大公演の開催を以て、その忌み名の何たるかも見えましょうが、何が起きるのか――とても、興味深いですね。
ふふ。その時まで楽団員の腕前の程、とくと見させていただくとしましょう」
ローラントの言葉に何処か蠱惑的な調子のアリシスが応じた。
「我等は瞳。どのような事が起ころうと余さず見つめるのみ。
動くにしては今の時点ではありえない。時が満ちれば動く事もありえうるのでしょうけども」
「道化師とは即ち、鬼札(ジョーカー)」とヘルモルトは幽かな言葉を口に含む。
「運命を導く為の舞台が一つ整いつつあるか。
我らがこの場に居るのもまた、彼らは織り込み済みなのか、それとも。
道化師が踊り、この街もまた大きく賑わう事になるだろう。
しかして、その後に起きる事もまた我々にとっては大きな試練の時となるかも知れないな」
【アイオンの瞳】を率いるアレフもまた、一切ブレず澱まず――意味深に呟いた。
(相変わらず、あの人たちなにを仰っているのか全然理解できないんですが………)
ぶっちゃけ、冷静にツッコミを入れるノインが一番常人(ぼく)の感覚に近い。
――三度を超えて連なれば、其を偶然と誰が言う。
相寄る運命(さだめ)の糸手繰る、黒子は姿を見せぬもの。
見えざる敵の見えざる手、然れども我ら円卓の。
アイオンの瞳(め)が捉えるは、地下に広がる因果の根。
我らは古き円卓に座す、出自を問わぬ有象無象。
危険に向かうが本能ならば、戦に向かうは信念か。
始まるぞ。始まり給え。道化達の道化達による、道化達のための狂宴よ!
付き合い踊るも又一興よ――
前述の皆さん、特に直上のゲンリー(オマエ)、ぶっちゃけ意味深な台詞を連ねに来ただけだろう? と、言ってはいけない。
……こほん。
そう、サーカスには全てがある。
長い時間は、さりとて永遠では無い。
「噂のサーカス、とても楽しみですね。噂通り、不吉なことが起きても良いですし。
素晴らしい公演が見れるのも良いですし。喜劇も悲劇も、どちらも良きものです。
ええ、ええ! ああ、私を感動させてくれると良いなあ。素敵、楽しみ、楽しみ、楽しみ! ふふ、ふふふ! ふふふふふ!!」
まるで謳い上げるように――四音の鈴なる声が響いた。
それがまるで合図のようだった。
パッと――
視界を焼くような強い光が舞台の中央から瞬いた。
ジャンジャンと響く大音量の楽器の演奏を切り裂いて――
レディース&ジェントルメン――!
酷く良く通る男性の声が、馬鹿げた位に良く響く男性の声がテントの中の空間、音を支配した。
公演の幕が開いたのだ。
白い視界が元通りの姿を取り戻した頃、まるで転移でもして来たかのように。
シルク・ド・マントゥールの団員達が舞台の上に揃っていた。
「お、驚いたの! びっくりしたの……!」
かぶりつくように目前の光景を見やる蜜姫の大きな瞳が高揚に潤んでいる。
「いやぁ、聞きしに勝る迫力だな! こりゃこの先が楽しみだ!」
「やんややんや!」
人好きのする調子でユウヒが蜜姫に声を掛けた。その隣で世界樹が拍手する。
まだ何事でもない時間(オープニング)でも、その始まりは鮮烈だ。
「今日の良き日に――皆様をお招き出来た事を、このジャコビニ。団長として厚く御礼申し上げます。
これより始まるは『幻想における幻想の一夜』。『虚飾と嘘に満ちた圧倒的現実、そして真実』。
どうか皆々様、このマジック・アワーに、現実とその先の境界に迷ったりしませんよう――」
ジャコビニの口上は聞きようによってはぞっとするような響きを帯びていた。
「サーカスなんて子どもの頃以来だな。なんかすげー怪しいヤツらだけど、サーカスなんてそんなもんかな?」
しかしジャコビニは自身の口で純白の言った怪しい空気を大いに壊した。
「――まぁ、迷っても大丈夫。この私が腹を揺らしてお迎えに参ります。
安心、安全。シルク・ド・マントゥール。商売上がったりですが、こればかりに嘘はございません!
……これ、クラリーチェ。杖で人の腹を突付くでない!」
団長とピエロの示し合わせたかのようなやり取りに客席から笑いが響いた。
(せっかく来たんだから演者ぐらいは憶えて帰るかー)
クロジンデは余り積極的にやる気を出すようなタイプでは無い。
彼女のGifts Sorting Clerk(ギフト)は他人のギフトの内容を大雑把に把握するものである。
他人をギフトで覚えるクロジンデは瞬間記憶でこれを忘れる事が無い。だが、今夜ばかりは訝しむ。
「全部、隠蔽系……?」
シルク・ド・マントゥールとは良く言ったものである。
「このサーカスの興行自体が、何かしらの儀式として成立してしまっている――というのは、流石に考え過ぎかね?」
「『不吉を呼ぶ』って言われているみたいだけれど……まぁ何かあったら、ぶっ飛ばしときゃいいでしょ!」
「不吉なサーカスって言ってもな。まぁ、死神とか言われるよりかはマシなんじゃないか?」
難しい顔をした汰磨羈に対して脳筋発言をキメたのはルーミニス。更には自らを揶揄するようにクロバが言う。
「その死神とつるんでる以上、当然気にする所でもないよな」
「そうそう」
ロスヴァイセはクールでクレバーな調子で言葉を紡ぐ。
「楽しめるならその後の不吉の一つや二つ、大したことないんじゃない? 人生、幸せな時間ばかりが訪れるわけじゃないし――」
【黒白金銀】の面々は歓談しながらそれなりに楽しく舞台を眺めている。
トークが過ぎれば、本格的な演目が始まった。
馬鹿騒ぎ(サーカス)の名に恥じる事は無く、その傾向は混沌そのものだ。
一時も退屈等させてなるものかとばかりに――いっそ偏執的とも呼べる位に、演技を、技術を叩き込んで来る。
それは幻想の夜に押し寄せる大波の如く。
「サーカス、でございますか。人々を楽しませる事に特化した職業は良い勉強になるかと思いましたが……
サーカスを見る機械人形――ハッ、これぞまさしく『からくりサーカス』?」
「夢想楽団――シルク・ド・マントゥール! ああ、まさか直接観れる機会がくるなんて!」
「こういった余興も良いものでござりますなぁ」
タイムリーなボケを決めるエリザベス、感激の声を上げたリースリットにナルミがのんびりと応えた。
舞台の上では団長の合図で団員達が見事なタップダンスを始めていた。
踊るだけではない。踊りながらジャグリングを始めたり、踊った勢いのまま転がってきたボールに飛び乗ったり。
……と、思ったら見事に転んでみせたり。そこに何も無いのに――パントマイムの真似事をしたかと思えばストーリーを創り出したりしている。
「凄い! あんなに、わーって……! 見ましたかっ!?」
「うわーー、すっご! すっごい!」
興奮したまろうが傍らのクィニーを見やれば、彼女は興奮の余り全く語彙すら失っている様子であった。
普段は飄々としてマイペースな彼女のそんな姿にまろうは小さく笑みを零した。
感動を、気持ちを共有したくて一緒に来たけれど――それはどうにも正解だったと言えるだろう。
「――」
「――――」
不意に、二人の視線が絡んだ。何の事は無い。お互いが気になるのはお互い様で――二人はサーカスに興奮しながらもお互いをちらちらと見合っていたのだから、こうなるのも時間の問題だった。うん、甘くて甘酸っぱくて、恥ずかしい。
「いやはや」
ナルミは相応の警戒心を持ってこの場を訪れた者である。
「何かが起きると予見された場所に彼らが出向いてる可能性も大いにありそうでござりまするな」と推論を立てた彼だったが、彼の眼力をもってしてもここまでにおかしな様子は掴めていない。手慣れたトークで場を笑わせ、和ませるサーカスは如才なくステージの仕事だけを勤め上げている。
団員達の芸事に続くのは動物を絡めたショウである。
混沌産の猛獣は、所謂地球のそれとは一味も二味も違う。奇妙奇天烈な魔獣から、間抜けで愛らしいものまで。
「猛獣も一風変わった動物だったりするのかな、と思ったけど――」
それを期待していた天十里からしても予想以上の展開だった。
良く躾けられた『彼等』は団員との見事なコンビネーションでその魅力を大いに発揮していた。
「……誇を失った獣を見るのは少々腹立たしいが、まあ彼等も彼等なりの幸せがあるのだろうね」
ネコ科に近い大型の動物は、どうも他人の気がしない。野性味のない猛獣の姿にグリムペインが何とも言えない複雑な顔をした。
「動物たちを効率よく制御するのにどういったものを使用しているのか……」
同じくプロの観点からそれを知りたい燿は団員の一挙手一投足を見逃すまいと集中力を高めている。
「次はどんな動物さんが出てくるのかな。あの、火の輪をくぐったりするのかな――あ、やっぱり!」
「お、おおー!」
緋呂斗の視線の先で、シンクロするように後方宙返りを決め、燃え盛る火の輪をくぐった猛獣と団員の大技に陽花が熱心な拍手を送った。
大技にはハラハラドキドキ、不思議な事は見極めようと目をこらし、面白ければ笑顔で拍手――彼女は全く素晴らしい観客だ。
「え? 猛獣使い? 火の輪潜り? す、すごい! わー!」
【聖剣騎士団】の総力を挙げ――全力で確保した特等席でセララが歓声を上げ、必死に拍手している。
今日の良き日にエーラはクッキーとお茶を用意し、
「わーい、これぞサーカスだ。ひゃっはー、カレーが煮えたぎるぜ」
小梢は今日も今日とてカレーを準備して持ってきた。
「ぱない」
割とガチ目な声色で放たれたセティアの短い呟きは短いが故に異常な真摯さを帯びていた。
「エモい。ガチ目に」
倒置法から放たれるその端的な感想は間違いない彼女の本音なのだろう。
「シルク・ド・マントゥールは初めてだったけど――おお! 凄い!」
仲間――それも取り分け子供(っぽい連中)が楽しそうにしているのはライセルにとって最高だった。
(空中ブランコとかもやるんだろうな。きっと思い切りハラハラさせる――『ギリギリ』を見事に計算して……)
とはいえ、大人の視点で場を眺めている彼も案外驚かされ、案外楽しめている。
「ふっふーん、団長さんはしゃいでますね? まったくお子様なんですから、しょーがねーですね
」
「これはサーカスを見極める正義の任務! 決して遊んでて楽しいだけなワケじゃないから!
」
「別に言い訳しなくてもいーんですよ? 私は団長さんの付き添いでごぜーますから、ご安心を」
「む、むむううう……」
保護者風を吹かせたマリナにセララが軽く抗議めいた。だが、真実は知れている。
「夢想と驚嘆に満ちた公演とうたっていましたが――流石ですね。あら、可愛い」
動物ショウは猛獣だけでは無くちょくちょくアイリスの望んだ可愛らしいものも登場する。
「もぐもぐ……おお、華やかだね!」
「大したものねぇ」
買い食いに観覧に忙しいレンジ―と、思わず漏れたエスラの声には感嘆の色が混ざっていた。
(ギルドにいる他の人達と比べたら私は結構長生きしてる方だけれど……
特異運命座標になるまでは森に籠もって隠者みたいな生活してたから、初めて見るけれど)
比較対象は持たないがステージが一級のものである事はエスラにも良く分かった。
「ふむふむ、なるほど。こういうものも見せものになるんだね」
レンジーは演目を咀嚼するかのように一つ一つに頷いている。
舞台では団員達がまるで人間並の知性でもあるかのように、動物達を操っている。
しかし動物側にも悲壮感は無い。唯、愉快で陽気なこのステージを高める為に――人獣はまるで一体となっているのだ。
「と、飛んだー! 危ない!」
思わず目の前を手で覆った――しかし隙間から見ている――メリルが悲鳴を上げた。
サーカスの花形は空中戦にこそある。セットの上部から猛スピードで振り子になったブランコが、演者がまさに宙で交錯した。
「空中ブランコ……オレには、無理だな。こん中でできるのはせいぜいパティ位か」
「練習しないと無理でち。見どころいっぱいでちね」
勇者ロイの言葉にパティが応えた。
「猛獣ショーは……空牙か?」
「ううむ、猛獣ショーなぞ、拙者が入るつもりはないでござる」
一方の空牙はショウは心外であるらしい。
「まぁ、たまには、こんな休みも、いいわよね。空牙は、この前怪我してるし、パティも重傷してきたし」
「がっはっは、酒を飲みながら観覧とは贅沢だのう!」
「ワタクシ的には、外のほうが気になるところですよ」
レナがのんびりと言えば、応じたギルバルドが豪快に笑い声を上げ、ダルタニアが「まぁ、それぞれの考えかも知れないですが」と付け足した。
見事な空中芸は続いている。「何かの参考になるかな、とは思ったんだけど……」
暗殺技術にアクロバットはつきものだ。しかし芸として昇華したそれはヴァレットの身体能力をしても『参考にならなかった』。
「……ドキドキ、する」
翼を持つ者も多い混沌ではあるが、『飛べる事』と『飛べない者が技を見せる事』は全く別物だ。
(精霊たちは、何が気になるだろうな? 私は、今の空中ブランコが見ていて心躍る――)
人工物の多い街中だからか精霊の声は小さかったが、空海は案外観覧を楽しめていた。
恐らくは――精霊も驚いているのではあるまいか、そうであったら良いと思う。
「いい肴よねぇ」
「折角シルク・ドゥ・マントゥールが来ているのだから、見物しながら飲むとするわぁ」とこの場を訪れた琴音がしみじみと呟いた。
酒とツマミを予め持参してきた彼女は筋金入りだ。
「わー、すごーい! 今の見た!?」
「すごいなぁ……あの人達も、イレギュラーズだったりするのかな……」
これも『醍醐味』の一つか。傍らについ感想を投げたスティアに同じく興奮気味のウィリアが答えた。
「え、あんな動きができるのか!? アレって種があるんだろ? そうでなきゃ無理だろ!? フツー!」
「なんにゃあのテク意味わからんにゃ! どうやったら再現できんのかにゃ!?
魅せ方もありえにゃいし……こうなったらやけ食いにゃ。食に逃げるのにゃ!」
「これが夢想楽団かあ」と素直に感嘆するタツミの一方で、観客を魅了する御同業の見事さにシュリエが「ぐぎぎ」と臍を噛んでいる。
「ラサにいた頃も大道芸は見たことがあるけど、これ程大きくて見事なサーカスは初めてだな」
鎧兜姿のノブマサの表情は外からは伺い知れなかったが、彼は見た目の厳つさとは裏腹に素直にこの時間を楽しんでいた。
「すごーい! いったいどうやったらこんなことできるんだ!?
……こんなに楽しいサーカスが不吉を呼ぶなんてとても思えないぞ」
ダンスショウもアクロバットもモモカの目には綺羅びやかで――悪いイメージは余り形になってくれなかった。
「いやァサーカスってのもいいもんだな! 中々迫力あんじゃん!」
金貰っての仕事でもあるまいし――今日はオフ、と決め込んでいることほぎがオペラグラスから目を離して快哉を上げている。
(不幸をもたらすサーカス……だなんて噂はもうどうでもいいな。
少なくとも今は忘れておくべきだ。サーカスがこうして人々に笑顔をもたらしているのは確か。
彼等の芸が素晴らしいという事実は変わらないのだから――)
鎧の奥で己も笑ったケントは一人頷く。
「やー、こんな大掛かりなサーカスははじめてだ。魔法や能力を知っている身でも、驚かされるね。炎とか、一度は吐いてみたいなあ!」
「なるほど、サーカスとは己の業を披露する場であったか。
吾は闘争の方がより好ましいのであるが、極まった業を見るのは良い。
うむ、あの素晴らしい体幹を見よ! アレと戦えばどのような動きを見せてくれる事であろうか……」
ジュアの言葉に鷹揚に頷く百合子も演目を十分楽しんでいるようだ。
「はいはい、まったくその通りで。あ、今の動きどうやってるんでしょう。おー、すごいすごい。
なんか食べるもの欲しくなってきますよね、売り子どこです? ちょっと売り子さんー売り子さんー?」
最初は「今後の参考に出来れば」等とのたもうていた狐耶もすっかり観客になっている。
彼女の母様は言いました。元気があれば――じゃない、フィジカルがあれば何とかなる、と。
どうもその教えは正解だったようで、貴女の娘さんは立派にフィジカルに魅了されているのでした。
閑話休題。
兎に角、サーカスは魂を揺さぶるものだ。
「何処か記憶の片隅で引っかかるのは、きっと記憶を失う前の私もサーカスの事を知っていたからなのかも知れませんね――」
唇に指を当てた聖夜が思案顔をした。
「サーカス! きゅーあちゃんこんなのみるのはじめて! すごい!(>ヮ<)
とんだりはねたりものなげたり、たのしそう! どうぶつもいっぱいいる!
」
Q.U.U.A.がいよいよテンションを上げていた。
「仮面! グッズに仮面はないのでござるか! オフィシャルグッズは! ファンクラブに入れば何かしら……!」
公演も途中だが、Mashaにいたってはすっかりサーカスの魅力に取り憑かれてしまったらしく、そのボルテージは上がっている。
「すごいものだね、こんな出し物が出来るなんて!」
「そうですねえ……次に考えられるのは視覚や聴覚を活用しての催眠状態などですが……」
「あああ、危なっ……!! ヒヤッとしたね……!」
「……………ああ、まあ。無粋でしたかね」
何時の間にやら公演に引き込まれ、全力で楽しみ始めたコルザにロズウェルは肩を竦めた。
「つ、綱渡りしながら……!? ナイフや炎の付いた松明でジャグリングとか……大丈夫なのです!?」
とんでもない軽業を始めた団員の姿に分り易い程に分かり易くアニーがハラハラした顔をしている。
「大丈夫ですよ、多分。僕がついてます?」
アニーにヨハンがついている事と、とんでもない芸をかます団員の無事は全く別問題だが、この際置いておく。
(男としてしっかりエスコート……うーん、これ姉弟みたいな目で見られてそうな……)
可愛らしさに極振りしてしまった何かを間違えたヨハンの悩みも中々深刻である。
「あああああああ――!」
アニーがジャグリングしながらステップを踏む演者に又面白い声を上げた。
先程猛獣が出て来た際には驚いてむしろ飛びついてしまった辺り、男と乙女の狭間がギャラクシーである。
ちなみにそんな彼の実の姉は如何にもサーカスに興味が無さそうで、案の定連絡も取れなかった。
見てくれはどっちも美少女だが、こっちの方が勿論ずっと男らしい。
「レウルィア! 楽しんでいるか?」
「はい、楽しい……です。わたしも、こう見えてはしゃいで……ます?
多分、えと、はしゃいでます……です」
満面の笑みでレウルィアを見るルシフェルはその答えに大いに満足したように言った。
「俺一人がはしゃいだとしても、勿体ない光景よ。不吉も去ることながら、一刻の娯楽……故に! 遠慮せずに笑うがよい!」
「笑う……です? えと……今、わたしは笑えて、ますか?」
レウルィアのその顔(かんばせ)がぎこちなく綻んだ。
「今日は誘ってくれて、本当にありがとう……サーカス、初めて見たけど……凄いわ……」
「サーカス、私も初めて見たのですが……すごい、としか表現できないです。あっという間に時間が過ぎてしまうみたい」
持ち芸の嫉妬も忘れて素直な反応を見せるエンヴィとそれに応じるクラリーチェの姿もある。
「仕組みが分かると楽しみが減るかもしれません。だからこそ興味が尽きない……と。そろそろ次が始まる頃ですね」
忙しなく動くエンヴィの尻尾は彼女の機嫌の良さを表しているのだろう――それが分かるクラリーチェは嬉しくなって目を細めた。
丁度、あのピエロと同じ名前で縁もあったという事か。
「……観劇なんかの静かな雰囲気と違って賑やかね。これはこれで楽しいけれど。
……あら、このサンドイッチ美味しい。比さんが作った物?」
「主に作ったのはルルリアだけどね」
アンナの問いに比が頷き、一方水を向けられたルルリアは少しだけ気恥ずかしそうな顔をした。
「沢山ありますから、食べながらのんびりショウを楽しみましょう」
曲芸や火の輪くぐり……舞台はルルリアの予想以上の迫力で、彼女はこの時間を十分に満喫している。
「気の利いたお弁当は作れないけど、お茶なら僕に任せてよ」
「こんなの初めてだし、楽しいね」と頷いたマルクが比にお茶を差し出す。
「マルクの淹れてくれたお茶は相変わらず美味しいねー」
「ありがとう」と応じたマルクがリディアの方を見た。
「良かったらお茶どうぞ。リディアさんも、楽しんでる?」
「少し、甘えちゃいましたね」とリディアが微笑んだ。
お世話になっている宿の面々――【金色流れ星】での観覧はリディアにとってとても良い時間になっていた。
後片付けは頑張らねば――彼女は密かにそんな決意を固めている。
「ルナはこういう催事って来たことないんだっけ」
「……幼少期に一度だけあるらしいが……覚えてないなぁ……」
ルーキスの問いにルナールが応じた。
「かくいう私も公然でこうやって大騒ぎに興じるのははじめてだけど……思ったより悪くないもんだ、ねぇ?」
「……うん、悪くない。日常じゃこんなのは無いしな」
鈍った心は新鮮な感動を覚える周りと同じ視点を持っていないかも知れないけれど――でも、とルーキスは考えた。
「……これが楽しいっていう感覚なら、俺も相当損してたんだろうなぁ」
ルナールの手がこっそり伸ばしたルーキスの手を握っていた。
「……俺的にはこっちのほうがサーカスより楽しいけどな?」
低い体温が熱を増す。ルーキスの白い肌に微かな朱が差している。
へー、何だ可愛いじゃねえか。やっぱフリフリだな。待ってるぜ。
連れ立ってやって来たルーキスとルナールも同じ――何れにせよ来て、良かったという事である。
「いやあ、大したものだ! ねえ!」
何時も通りに熱の篭もらない調子で酷く明朗に声を上げたアリスターが傍らの友人(ラルフ)に同意を求めた。
「折角の催しだ、楽しまなければ損というものだね。科学者は――錬金術師は無駄を嫌う。ならば、それは全く道理だよ」
やや婉曲に同意を見せたラルフはビールを片手に『大人を騙す子供騙し』を実に楽しそうに眺めていた。
「友よ、一つ遊びをしないか? 彼らが白か黒かこのコインで決めるのさ」
「そりゃあいい」
頷いてアリスター。
「黒と、白。君の思い付きは相変わらず面白いな」
(――評判通りか評判以上か、まぁ、楽しめているよ。
これで今後何があっても「あの時見ておけばよかった」と後悔せずに済みそうだ)
内心だけで呟いたラダもサーカス団の黒い噂は知っているが、もしそれが本当であるならば尚更の事。
ひょっとしたらこの先失われてしまうかも知れない目の前の素晴らしい公演をなくなる前に味わえたのはむしろ僥倖だ。
「わ、わ……これが、サーカス……すごい、ですね……!」
目まぐるしく変わる演目に目をぐるぐるさせたメイメイは手が赤くなる位に拍手を続けていた。
派手な音楽とおどろおどろしい演出が胡散臭いマジック――嘘吐きは種が無いと言った――をいよいよそれらしく仕立てていた。
「嘘吐きサーカス、か。そう言われるとどんな嘘か見破ってみたくなるな。
まぁ、そもそも僕の世界ならともかく、この世界じゃタネのないマジックなんかいくらでもありそうだけど――」
「――これも嘘? あれも嘘なの? 楽しいことなら騙されてみるのも悪くないね。
ボクは種も仕掛けもあるほうがすごいと思うよ。それは奇跡に頼らずに奇跡を起こしているのと同じだから」
身近に奇跡があるイレギュラーズ――エデの言葉は中々深い。「成る程」と肩を竦めた遼人の視線の先でピエロの仮面が笑っている。
「私、マジック楽しみにしてたんだ。タネがないって聞いたしね」
「レイさん自分で楽しむ分には構いませんが私にバラさないでくださいね。自力で見破ってみたいのです!」
透視の力を持つレイにトゥエルは厳重に釘を刺した。
必死で目を凝らすトゥエルに「分かってるよ」と応じたレイが見た所、マジックは種があったり無かったり――良く分からなかったり。
(透視とかが効かない素材もあるとか無いとか聞いたけど……)
それ自体がマジックアイテム――『特殊な物品』であるケースは多くはないが稀にある。
混沌でやるからにはその手の超能力に対してのフォローも考えている、という事なのだろう。
「僕もあれくらい出来たら……」
「ヒヒッ……大層お気に召したようで、なによりだとも」
興味津々に舞台を見つめる京司に保護者の商人こと武器商人が笑みを零した。
京司にしては珍しく「これをしたい」と伝えた希望だ。ならば仲良くサーカス観覧も悪くはない。
「本当に、楽しくて時間を忘れるみたいだ。それにしても誰かと手品を観るのも良いですね。これまで友人がいなくて一人だったから……」
普段の無表情気味の喋り下手が嘘のように饒舌な京司に武器商人は「そうかい」とだけ返す。まあ、何とも幸せな時間である。
幾つかのマジックを見せたクラリーチェは「ここから大技」と勿体をつけた。
「純粋に凄イぞ。あれハ一体どうイウ魔術式を使ってイルのだろうか」
「おお、いよいよか」
【無銘堂・2】――観覧するモルテとジークが少し身を乗り出した。
「種も仕掛けも無ければそれは素晴しいショーだし、あったならあったで魂の色を見る楽しみもある。
見破れなければ少し悔しいが、彼等が上手という事になるのだろうが――」
そこまで言ったジークは傍らのエクスマリアの表情が浮かない事に気が付いた。
「どうした?」と尋ねる彼にエクスマリアは小さく首を振る。
(どうも、あのピエロは――)
公演前、彼女は偶然にクラリーチェの姿を見た。その時感じた直感的悪寒の正体は今も知れていない。
彼女の想いに関わらずショウは続く。
「じゃあ、誰か――観客サンにも手伝って貰おうかな?」
大きな箱を用意したクラリーチェが銀色に光る大きな剣を手に客を煽る。
「本当はフォルデルマン三世陛下が良いんだけど、団長にすっごい怒られたから、辞めとこうね!」
わざとらしい言葉に観客がどよめく。名指しされた本人はドラマが使い魔で確認するまでもなく、分かり易い動作を見せている。
クラリーチェはジェスチャーで国王を指差し、わざとらしく団長に視線を送る仕草をする。
両手で頭の上に輪を作り、小首を傾げ……それから腕をクロスして「だめでしたー」と受けを取った。
「そうだなあ。代わりに――えーと、そこの女の子!」
クラリーチェが指差したのは最前列に居たミスティカだった。
「……私?」
「そう。手伝ってくれる? 大丈夫! そこの箱に入って、この剣でぶすーっと刺されるだけだから!」
観客席がどよめく。
「はわわ! 大丈夫でしょうか」
大きな瞳を心配の色に染めたティミが傍らのシキの腕にしがみついた。
「……あれ、僕もやってみたいです。人を斬っても、皆怒らない……なんて。どうすれば、僕を使って貰えるでしょうか……刀、では…駄目でしょうか」
そこまで言った所でシキは気付いた。気付いて、ぎゅっと手を握る。
(……そういえば、リリーさんは、怖がり……なんでした。
それなのに、刀の私の事は怖がらない、不思議な人)
「心配? 怖い?」と尋ねてくるクラリーチェは何処か挑発めいていた。
もっともピエロは何時でもそうだ。何時だってそんな調子なのは変わらないのだが――
(成る程、大したサーカスだわ。
この世界では有名みたいだし、見ていて飽きないけれど――でも『本当』は、そうじゃないのよね)
――赤い目を細めたミスティカは「いいえ」とだけ応えて、箱の方へ向かって行った。
●静寂
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演は大成功に終わった。
誰の予想をも裏切り、上回る驚嘆の公演は人々の魂を震わせ、大いなる感動と喜びを呼んだのだ。
現場には不吉な噂を捨て置かず、警戒に当たるイレギュラーズが多数居た。
彼等の心配を杞憂と嘲笑うかのように、祭り会場も公演も何の問題も起きず。
サーカスの動向を公演後も気にした面々も居たが、彼等は確かに『何もしなかった』。
だが――その夜、王都では三件の殺人事件と四件の暴力事件――殺人未遂が発生した。
公演はあんなに素晴らしかったのに、誰も不吉の噂を否定出来る者は居ない。
――さあさ、何方様もごゆっくり。何方様も御覧じろ!
夢想楽団――シルク・ド・マントゥールがやって来たよ。
出し物は全部嘘ばかり、いやいや。ボクの言葉も嘘かもね。
だからひょっとしたら本物ばかりかも知れない……あれ、これも嘘?
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
YAMIDEITEIです。
タグ無し&ミスも含めて白紙以外は全部書いたと思います。
抜けがあったらお知らせ下さい。
割と真面目に書式厳守だけは気をつけるようにお願いします。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIです。
たのしいさーかすがやってきました。
どなた様もごゆっくり、どなた様も御覧じろ。
●依頼達成条件
・問題を起こさず元気に帰ってくる事
●シルク・ド・マントゥール
著名な移動サーカス。世界各国を回っています。
出し物は様々です。猛獣ショーからアクロバティックまで。
(本当に種がないかもしれませんが)マジック等を行う事もあるようです。
セールストーク通りの素晴らしい公演と、もう一つ。此方は余り名誉な事ではありませんが、『不吉を呼ぶサーカス』としても知られています。彼等の公演時には近隣で大きな事件が起きやすい、と言われています。ただし公権力が複数回の調査をした結果は『シロ』。サーカスが犯罪行為や事件に関わったという結論は得られていません。
●王都広場
シルク・ド・マントゥールが公演を行うかなりスペースのある広場です。
公演は中央に設置された魔法テントの中で行われます。千人以上の収容が可能な大規模なもので、一般的なサーカスの風景と同じとなると考えて下さい。広場にはここが商機と見た露天やサーカス以外のパフォーマー等も集まっています。フォルデルマンの思いつきでお祭りが同時開催されているのです。
本イベントは一般市民も大変楽しみにしています。
●プレイング記述
下記の注意を必ず守り、プレイングを書いて下さい。
守られていない場合、マジでカットしますのでご注意下さい。
・行動について
プレイング傾向に近しいものを選択肢て下さい。
【公演観覧】:シルク・ド・マントゥールを見に行きます。
【出演者】:演者等に用がある場合はこちら。公演前限定。
【お祭り参加】:広場のお祭りに参加します。露天とか出すのもこちら。
【その他】:その他行動。シナリオ趣旨に大きく反するものはカットします。
一行目:【(任意のもの)】(【】も必ず記載して下さい)
二行目:同行者名(ID)(無い場合は不要。複数人で組む場合は【グループ名】でタグを作り表記して下さい)
三行目以降:自由なプレイング
●注意
フォルデルマン三世はこのサーカスを大変歓迎しています。
又、彼等は犯罪者や危険人物の扱いを受けていません。
くれぐれもその点をご注意下さい。
●重要なお知らせ
本シナリオは状況によりリプレイ返却締め切りを延長させて頂く場合がございます。
上記措置を取る場合は、改めて本サイトの『おしらせ』等で告知させていただきます。
予めご了承の上での参加をお願いいたします。
イベントシナリオは全員描写をお約束するものではありません。
以上、宜しければお願いいたします。
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