PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夢檻の世界

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 カロン・アンテノーラは『怠惰』である。

 複数の権能を駆使する力を持ちながら、自らが戦う事を好まない。
 何故ならば、それが『怠惰』として産まれた存在の在り方であるからだ。
 カロンは己の所有する権能を配下とした者に分け与える能力を有していた。
 自らが所有していれば万全な護りであろう。自らが所有すればイレギュラーズなど撥ね除けられよう。
 だが、カロン・アンテノーラはそうしなかった。

 ――面倒くさいにゃあ。

 全ては『怠惰』であったが故に。
 カロンの権能の一つ、夢の牢獄――それは『夢檻』と呼ばれた深き眠りに誰もを誘う強力なものであった。
 その一部を複数の魔種に分け与えたのだ。

 ――面倒くさいにゃあ。管理して置いて欲しいにゃあ。

 その権能の配布は大なり小なり、それぞれによって変わっただろう。
 配布された対象が撃破されれば能力はゆっくりとカロンの元へと戻ってくる。
 そうして、カロンはまた別の対象に権能を分け与えるのだ。怠惰を極めるために。
 この能力のデメリットがあるとすれば『分け与えた権能』が大きければ大きい程、使用者が喪われたときにカロンの元に戻る時間が長く掛かる事だった。
 それだけだとカロンは認識していた。

 だが――『不出来な奇跡』がカロンの認識外の出来事を産み出したのだ。
 アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の起こした奇跡(PPP)は彼女の全てを懸けて、一人の魔種を『短期間だけ』人へと戻した。
 怠惰の魔種の強き戒めから『一時のみ』解き放ったのだ。
 ライアム・レッドモンドが渡されていた権能こそが『夢の牢獄』

 夢の檻に閉ざされたイレギュラーズを救う為にその牢獄への門を開くと彼は言った。
 信用しても良いか。
 信頼しても良いか。
 ……さて、其れは分からない。
 だが、この夢は『カロン・アンテノーラ』が斃されるまで醒めることがないのだ。
「僕を利用してくれ。君達を眠りから醒まし、リュミエ様をお助けして必ずやあの魔種を斃して欲しいんだ」
 ライアムは言った。
 森に訪れた停滞は、これ以上の不幸を生み出さないために彼が望んだものと等しかった。
 しかし、『大切な妹』の一大決心で斯うして己の身は揺り戻しにあったのだ。
「……君達なら、この世界を良き方向に導いてくれる気がしたんだ。僕が正気である内に、少しでも手伝わせて欲しい」


 カロンの権能である『夢の牢獄』には致命的な欠点があった。
 それは、夢の牢獄に閉じ込めている対象が『そもそも抜け出すことがない』という前提での権能であるからだ。
 多少、夢から覚める者が現れても問題はないだろう。
 だが、ライアム・レッドモンドが夢の牢獄への門を開いたことで状況は一転する。

「ここから、皆は夢の牢獄に入ることが出来る。
 勿論、『夢檻』……この夢に閉ざされているわけじゃない。出入りは比較的自由なはずだ。
 けれど、入れば夢魔が多く存在している。危険がつきまとうのは確かだ」
 不要なオブジェクトを排した荒廃した大地。月と大地、それから広がった空。その下に無数の夢魔が跋扈していた。
「夢魔を出来るだけ撃破して、『夢の牢獄』に打撃を与えるんだ。
 そうすれば、カロンの牢獄には罅が入る……あの権能を打ち破れる可能性が広がる筈だ」
 夢の牢獄に閉じ込める、その強き権能はカロンが駆使すれば一瞬で誰もが眠りに落ちてしまうだろう。
 その強力さ故に、カロンは自分で使用すると「疲れるにゃあ~」と言い出し、使用することはない。
 だが――直接対決になれば状況は一変するはずだ。
 カロン・アンテノーラは自身でその権能を駆使し、イレギュラーズを眠りに閉ざすだろう。
「少しでもこの力を削っておきたい。もしも、危険を顧みない者がいるなら、どうか……」
 暫くの間、この門は開いておくとライアムは言った。
 夢の牢獄に閉じ込められたイレギュラーズの帰り道にもなるからだ。
「勿論、入り込めば、肉体は徐々に変化してしまうかも知れない」
 自身の肉体は、この空間で活動すればするほどに反転状態や狂気状態に近付いていく。
 それはあくまでも『この夢の中』だけの話だが――その状態で、耐えず響く呼び声は耐えがたいものになるだろう。
「どうか、気をつけて帰ってきて欲しい。……此れが君達の助けになる事を願ってるよ」

GMコメント

●重要な備考
 ・当シナリオ中は『無数の原罪の呼び声』が響いています。縋るようなその声に耳を傾けない様にお気を付けください……。
 ・『夢の牢獄』『夢檻の世界』は同時進行していきます。
  両方のシナリオでの【クリア者数】が多ければ多いほど、カロンの権能の一つである『夢の牢獄』が弱体化して行きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●夢の牢獄
『冠位魔種』カロン・アンテノーラの権能の一つ。ライアム・レッドモンドが門を開いた場所です。
【夢檻】状態となっている対象が閉じ込められている場所と似ていますが、どうやら異なる空間のようです。
 この空間には『眠りの核』が存在し、それを破壊することでカロンの権能にダメージを与えられそうです。

 周囲に不必要なオブジェクトは存在せず、適当に大地、空、月が存在した非常に寂しい空間です。
 この世界がカロンの作り出したものだと思えば、そうしたオブジェクト設置が面倒であったのかも知れません。

 絶えず呼び声が響いてくる空間です。周辺には夢魔と呼ばれる存在が縦横無尽に歩き回っています。
 夢魔はイレギュラーズを確認すると襲いかかってきます。

 活動中に皆さんの肉体は『反転/狂気状態』に近付いていきます。
 それは精神にも作用し、常時Mアタック状態にも等しくなり活動時間が長くなればなる程に使用できるスキルがランダムで減って行きます。
 抜け出すことを宣言しておけば、簡単に抜け出すことが出来ます。
 よりカロンの権能にダメージを与えるためには長時間活動し、『眠りの核』を破壊することが求められます。

●夢魔
 夢の世界の住民です。カロンの眷属であり、有象無象がうろうろとしています。
 余計なオブジェクトがない為に身を隠すのも少しばかり難しそうでもありますね。

 ・大怪王獏(グレートバクアロン)&怪王獏(バクアロン)
 本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。
 ここに居る個体は、魂を食う恐ろしい怪物です。近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時に稀にパンドラを直接減損させます。 
 大怪王獏が数体、そして小型の怪王獏を連れて群れのように歩き回っています。

 ・スロースサキュバス/スロースインキュバス
 本来は世界にあまねく邪妖精『夢魔』ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。
 神秘HA吸収攻撃の他、恍惚や魅了のBS、神物両面の戦闘能力も持ちます。

●『眠りの核』
 世界の至る所に散らばっているボールのようなものです。怪しく光っています。
 大きさはそれぞれであり、ビー玉サイズから巨大なものまで。
 これらがカロンが『夢の牢獄』を維持するために駆使する『眠りの力』のようです。
 非戦闘スキルなどでも『人のような気配』『息づかい』を感じることが出来れば察知可能です。

●参考:夢の牢獄
 カロン・アンテノーラの権能の一つ。
 対象を理不尽にも夢の世界に閉じ込め、深き眠りに閉ざす事が出来ます。
 その力は非常に強力で『理不尽』であり、カロンが意識的に仕掛ければ対象の抵抗判定を大幅に下げた状態で【夢檻】状態へと移行させる事が出来るようです。【夢檻】状態に陥った対象は行動不能となり眠り続けることとなります。
 また、その力は深緑全土に及んでおり、カロンに近付けば近付くほどに効果はより強くなります。
(具体的にはカロンが居るファルカウ上層部ではカロンが意識的に権能を駆使すれば【夢檻】判定が1Tの内に10度行われる状態になります)

 シナリオ『夢の牢獄』と『夢檻の世界』のクリア者数によってこの権能の強弱に変動が出ます。
 何故ならば、夢を抜け出す者が多けれ多いほどに『夢の牢獄』は不安定さを増して行くからです。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

それでは、ご武運を。

  • 夢檻の世界Lv:10以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月13日 18時15分
  • 章数2章
  • 総採用数265人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

 ――眠りの核が破壊され続けて居る。
 ――夢の檻より、誰かが出て行った。

 その感覚を感じてカロン・アンテノーラは瞼を押し上げた。
「ふああ」
 欠伸を漏してから、自身のコントロールの下にリュミエ・フル・フォーレが外れていることに気付く。
 ……気付きはしたが、問題は無かった。『出て行ったのならば仕方が無い』
 そして、権能自体も『此れが一つ』というわけではない。
 様々な権能を部下達に分け与えた。其れ等を駆使すれば、カロンにとってイレギュラーズは敵ではないという認識だった。
「ベルゼーはどうしているかにゃあ」
 ファルカウのコントロール権が剥がれた以上、外の様子は見ることが出来ない。
「ブルーベル、見てきて欲しいにゃあ」
「……了解しました。主さま」
 面倒くさそうに呟いたカロンにブルーベルは小さく頷いた。少女は、危機感を感じずにはいられない。

 ……イレギュラーズがその牙を突き立て『大切な主さま』を食い殺してしまうのではないかと。
(ま、そんなこと思ってても意味は無いか。『月』には、守護者がいるってお決まりだしさ)


 荒廃した大地には月があった。その美しさは霞むことはない。
 無数の『眠りの核』を破壊したことで『夢の檻』の鍵は開いただろう。眠りから覚めたいと願う者はその場所から飛び出すことも出来る筈だ。
 だが――これは仲間達を救うと同時に、待ち受ける冠位魔種との戦いを有利に運ぶための戦闘だ。
 冠位魔種の権能の一つである『夢の牢獄』の効果を激減させるためにはより大きな核を潰しておかねばならない。
 イレギュラーズは見上げる。あの、核を。美しき、月を――

【補足説明】

●プレイング冒頭
 2度目の提出となる場合は、探索を【続行】しているか【新規】であるかを明記して下さい。
 探索を前回プレイングより【続行】している場合は使用スキルに制限が及ぼされます。
 また、【新規】である場合は使用スキルに制限はありませんが、先程まで活動していた場所に直接戻ることは出来ず、別の場所からの探索スタートとなります。

●『眠りの月』
 世界の中に配置されていた巨大な月です。イレギュラーズの攻撃で少し傾いでいます。
 飛行スキルを有せば、空を飛んで攻撃を仕掛けることが可能でしょうが、『飛行スキル』さえも戦闘中に使用不可能となる可能性もあります。
 攻撃を重ねることで、大地へと引きずり下ろすことが出来そうです。

●『月の守護者』
 どうやら月の裏側に存在するようです。どの様な姿をしているか分かりませんが夢魔である事は確かでしょう。
 気配は余り存在せず、ぴったりと月に張り付いています。月が地に落された時に守護者は動き出すようですが……?

●『夢の牢獄』(夢檻状態について)
 引き続き『眠りの核』を破壊することで更に、イレギュラーズが夢檻に陥った際に危険が少なく行動することが可能となります。
 また、『眠りの核』は森の中で眠っている幻想種や妖精にも影響を及ぼします。彼女達を救う為に核を破壊して行くのも良いでしょう。


第2章 第2節

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
越智内 定(p3p009033)
約束
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
カフカ(p3p010280)
蟲憑き
レナート=アーテリス(p3p010281)
きっと平和のために
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈

「なるほど……確かにあのデカブツを潰せば、この世界にでっかい風穴開けられそうだ」
 でかいなあと『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が笑えば眠気眼を擦った『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は「……寝ていましたか?」と首を捻った。
「おはよう」
「おはよう、ございます。……っ……ほんの一瞬、微睡むような一瞬に別の場所に居た記憶が脳裏に染み付いていますが、あれは……。
 こちらが夢なのかあちらが夢なのか……少し混乱してしまいますね。冠位魔種の権能とは、恐ろしいモノです」
 肩を竦めるドラマに「それが冠位ってやつなんだろうな」と風牙は囁いた。身体に感じた重さはスピードを活かした攻撃を行う風牙にとっては何らかの攻撃を封じられた状態である事が良く分かる。
(まだ大丈夫。……まだ全然いける)
 胸の奥でぐつぐつと煮立っている気持ちが眠気を吹っ飛ばしてくれる。
 母を救うために命を投げ出した娘。兄を踏みとどまらせるために己を投げうった妹。
 奇跡ばかりだった。友と呼んだ存在がその手からこぼれ落ちていく刹那さえも見た。
(――あいつらの決意を、少しでも無駄にしないためにも、あいつらが『そうせざるを得なかった』元凶を叩くためにも、まだまだ寝てらんねえ!)
 風牙が走り出す。その後方からドラマの采配の声が響いた。眩き光が広がって、魔力を纏った蒼い刀身が魔術礼装から産み出される。
「眠りの世界の核は月か。確かにな。そうであるなら……そこにも当然、敵は潜んでいるのだろう」
 仰ぎ見れば赤い月。『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)はそこまで手は届かないかと唇を噛んだ。
 ならば、拠点となるこの地の周辺の敵を掃討する事こそが必要不可欠だ。
 夢檻から脱したイレギュラーズ。そして、囚われた者も居るだろう。『鳥籠の周辺』から誰かの気配を感じたのは――屹度、『彼女』が夢先案内人として残る決意をしたからだ。
(彼方と此方が双方に影響を齎すならば。彼方に囚われたままになる者も救えるかも知れない。
 さて、月には何が潜んでいるやら。月といえば兎か、蟹か。蛙というのも聞いた覚えがあるが……)
 此処で、諦めることなどない。それはドラマと風牙だけではない『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)とて感じていた。
「寂しい空間に呼び声が響き渡って心がやられそうだけどこんなのに負けてたまるか!
 一人でも多く夢の檻から抜け出せるようにオイラたちも戦わなきゃ!」
 鳥籠を護る為にチャロロは立っていた。悪夢から助けて欲しいという誰かの声が聞こえるならば、その場所へと走って行こうと考えた。
 この森の妖精、精霊、幻想種。彼等はこの荒廃した大地で夢を見る。逃れられぬ冠位魔種の囁きが静かな停滞をもたらしているはずだからだ。
(オイラはまだまだ戦える――!)
 機煌重盾を握り締めてチャロロは前線を睨め付けた。
「なるほど……HP1に空中戦闘を要求するのは酷がすぎるので引き下がるか。1ダメージでも喰らったら地面と衝突して死ぬっつーの」
 ぼやいた『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)。引き下がると言いながらも退却諏訪家ではない。
 純粋なリソース量だけを指してもセレマにはまだ余裕があった。天の月を破壊することに時間が掛かるというならば『戻らない』事を選ぶ仲間達に撮って『鳥かご』の近辺は安全な範囲に感じられる。
 この世界の中でもっともココロが落ち着く領域。それこそが、セレマの場所であった。何時か、ファミリアー達とのリンクが途切れようとも、テレパスが通じなくなろうとも立っていることが出来れば其れだけで安全地帯は護られるのだから。
「…怠惰な猫には全てが終わった後も地獄で働いてもらってツケを払わせるか」
 眠りの核は無尽蔵に存在して居る。鳥かごで軀を休めてから自身の現状を確認した。『剣に誓いを』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)は武器に魔力を纏わせる事が出来なくなっていることに気付く。頼りにしている耳も、平時程度にしか作用していないだろうか。
(─────何もしないことが無への近道だ)
 ムエンは唇を噛んだ。うるさい、私は興味しかないんだ。無そのものになる気はない、と苛立ちを滲ませる。
(───────あなたの大切なもの、独り占めしたくない?)
 ムエンは首を振った。黙れ、私の大切な存在はみんなと共にあって輝いているものだ。
(──────────お腹空かない?)
 ムエンは小さく笑った。気のせいだ、お前はフランスパンでも食ってろ。フランスパンのフランスって何を指すのか知らんがな)

 ───────せめて夢ぐらい見させてやれ

 終わらない夢はないぞ、寝坊助。
 そう囁くムエンの傍でふわりと光が瞬いた。『ヒーラー見習い』レナート=アーテリス(p3p010281)は祈るようにして治癒魔術を放つ。
「月へ向かう人は気をつけて行ってらっしゃい。この場にいる人はよろしくですよ。
 今眠ってる人もこの場にいる人も、誰一人欠けずに帰るべき場所へ帰りましょう! ……ただいまを言う為にね」
 レナートの紅い髪がふわりと揺れた。手を組み合わせて、祈る。背後に存在する籠は『仲間達にとって重要な拠点』となる。
 月を望むこの場所から漂う気配はレナートにとっても随分と心地よいものだった。
「まるで故郷のようですね」
「ここはふわふわして、とてもきれいなかおりがしますね。
 ニル、ニルは……眠っていました……。でも、ちゃんと目覚めることができました。
 だから……他の人も目覚められるように、少しでも、できること、を」
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)の周囲で高位の霧氷魔が輝いた。最も美しい術式の一つ、そう呼称されるほどの魔力の輝きは荒廃した世界を包み込む。
 足掛かりになる場所は、ちゃんと護る。此処を基点に皆が捜し物をしてくれるならば。その為には眠りから覚めたばかりのニル自身が『帰れる場所』を『戻れる場所』を護り続けてみせるから。
(夢からさめて、もう一度夢の中――子守唄は消えないけれど。月に向かうともだちの、戻る道をニルはまもりたい。
 ニルは、まもりたいのです。なくしたく、ないのです。ただ、それだけなのです)
 うっかり眠ってしまっていた、と『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は鳥かごへと直ぐさまにやってきた。『レーザー・ジュッテ』を取り付けたビーム/リボルバーを構え直し、堂々と宣言する。
「宇宙保安官ムサシ・セルブライト現着ッ! 居眠りの分、取り戻させていただくでありますっ!」
 月が見える。あの巨大な核。地にも無数に眠りの核が存在して居る。其れを破壊するために命を張るものが無数に居るのだ。
「ならばっ!!! それを邪魔させるわけにはいかないっ!!!」
 ムサシは破壊のために進む仲間が居るならば、彼等を庇うことを選んだ。脚は恐れることなく動いた。
「ここから先は……宇宙保安官が絶対に通さないッ!」
「ええ。ここが拠点。ならば、この周辺の核を探しながら護る事が出来れば其れだけで支援と成り得ます」
 もしも月が落ちてきたとしても暗闇を見通す眸は持っている。誰かのぬくもりを内包していれば、そのぬくもりだって感じ取れるかも知れない。
『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)は仲間達を護る為に決死の盾となる。複数の仲間達が月へと向かっていく、その束の間。
「安心してください。守りますから。帰りましょう」
 グリーフは只、真っ直ぐに囁いた。その頭に声が響く。
(私達は睡眠を必要としない存在。けれど、夢という物をしらないわけではありません。
 そこに留まりたいという思い、そこに至る悲嘆を、想像できないわけではありません。
 けれど、夢は束の間だからこそ。いつか醒めるもの。誰かによって縛られ続けるものではないと思います)
 そうだ、もう一度眠ってしまえば良い。秘宝種は封印(ねむり)から醒まされたばかりの存在だ。けれど、今、もう一度の眠りに『今のグリーフ』が着いて停滞したとして――満たされるのだろうか。その疑問ばかりが胸を過った。

「月が落ちる?」
 荒唐無稽な話だと『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)は『ケイオスイーツ』カフカ(p3p010280)を振り返った。
「月が落ちてくるってめちゃくちゃ怖いんだけど!」
「さぁて、とりあえず月には手が届かへんし、縦横無尽に駆け回ろうにもバテてまうし……。
 大人しくこのRPGなら間違いなくセーブポイントにされてそうな鳥籠護るのに力使おうか。
 ジョーくんは大丈夫? やれそう? やれそうやな、よし。後で噂のお友達に今日の活躍たっぷり話したるわ」
「大丈夫かって言われると大丈夫じゃないぜ! やれそうかって言われてもやれなさそうだぜ! 聞いてる? ねえ? 聞いてないだろう!」
 聴いてと叫んだ定の声をスルーしてからカフカは月を眺めた。
 定は脳内に響いた声を聴く。苛立たせるような、おっかない『声』だ。だが、そんなものよりももっと厄介でおっかない子を知っているのだと言い掛けて――……傍に居た気がした。先輩って、こんなところまでいませんよね、と言いたくなる。
「死なないから大丈夫とか馬鹿な事言うもんじゃないぜ、そう言うの……僕は嫌いだ!」
 寧ろ、おっかない子は死にそうな時に側に来るタイプだ。彼女がいないならば『死なない』から大丈夫だとでもいうように定は核を破壊して。
「うえ」
 気持ち悪い声がすると『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は呟いた。
「のんびり眠るのは、確かに嫌いじゃないですが…これはよくない、早めにどうにかしたいっすね……」
 皆を助けたい気持ちはある。其れは嘘では無いはずなのに、全てを放り出してしまいたくなる怠惰の気配。
 鳥籠の周辺に辰巳ながら慧は盾と回復を担い、核を探す。
 八重守石が熱を帯びた気がする。慧が慧でいられるための、確かな証。それがあれば、此処で膝をつくこともない。
「どーせゆっくりするならね、もっといい夢でゆっくりしたいんすよ」
 呪われた血を厭うことなく攻撃に使用できるようになったのはいつからだっただろうか。それが死を遠ざけるならば仲間達を支える為に使用しようと決意できたのだから。
 見知った顔が何人も囚われた。見知らぬイレギュラーズが友を思って居る。出来る限りの事を為ねばならないと『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は走った。
 呼び声に耳を傾けることなど、必要なかった。風牙やドラマと友にこの戦場を駆けるだけだ。
 サザンクロスは亡者を切り伏せるための剣だった。鳴神抜刀流。その剣戟は淀みない。まだまだ戦える。
 エーレンは地を蹴って夢魔達を睨め付けた。空は高い。存在する月はまだ遠いか。
「あの月を撃ち落とす、というのも良いですがさすがに攻撃が届きませんか」
『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)はひらひらと掌を掲げて見せた。天星弓を引き絞れども、月は空似張り付くように存在して居る。
「月が墜ちれば夜の帳は幕を開け、太陽が昇り朝が来る……成程、道理よな!
 であればやる事は決まっている、見えている。そこいらじゅうにある核とやらを引き続き破壊し尽くすのみ」
『戦旗の乙女』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)はふ、と笑った。『我が星』と正純に呼びかければ彼女は「はい」と穏やかに返す。ベルフラウの呼びかけを気にすることもなく、正純は核を探すように耳を欹てた。
「この世界には星が無い……それではつまらぬと思わんか。我が星よ。
 ふふ、斯様に目映い星が地上に居れば空の星が逃げるもまた道理であるか。私が此処に立つ内はこの星を落とさせはしない」
「ええ。お願いしますね?」
 その旗が護ってくれるのでしょうと囁かれれば、ベルフラウは大仰に頷く。美しき星が望むならばその身を盾にすることは吝かではないのだから。
(――激情も強い思いも、未だないけれど。それでもこの国を、大切な人たちを見捨てたくはないから)
 だからこそ、誰かのために進むだけだと。
 正純は「行きましょう」とベルフラウを振り返って。

成否

成功


第2章 第3節

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
ハビーブ・アッスルターン(p3p009802)
何でも屋
ファニー(p3p010255)

「月が核であるのなら、逆に大地の下に『眠りの核』が隠されておったりはせんのかな?
 この歳には地面を掘るのはキツいが……そうも言ってはおれんからな。ラサで砂嵐に遭った町を復旧するようなものだと考えて、地道に掘ってゆく事にしよう」
 一念発起して『何でも屋』ハビーブ・アッスルターン(p3p009802)は地を掘ってみようかと考えた。
 ラサで砂嵐に遭った街を復旧するかのようなものだ。地道に掘って行けば何か見つかる可能性さえある。
「わしは長年の商人の勘ゆえか、宝探しのコツも多少は齧っておってな……。
 例えば、何かを隠してある場所は、隠したいあまりに地面を盛りすぎてはおらんかね?」
 ハビーブがざくざくと掘り進む一方で、その傍を隼のように通り抜けていったのは『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)。
(今は一人で良いッス――有り体に言えば。憂さ晴らしというやつッス。
 きっと今、イルミナはあまり人に見せられない顔をしているでしょうから。ヤツへの憎しみと怒りは、ここで吐き出してしまいましょう。
 ……片付く頃には、きっといつものイルミナッスよ)
 沸き立った怒りを静めるように、その目をこらし攻撃を加え続ける。長期戦に備えて余力を残すをモットーに夢魔を斥け続けると決めていた。
「あーいいねぇ、寝るにはぴったりの場所じゃねぇか? この暗さがまたちょうどいいよな。サボるには最適な……。
 ……ああ、俺様は旅人だし、もともと怠惰の化身みてぇなもんだし、別に今更。
 しかしあのお月様が核とはねぇ、月の裏側には、さて、ウサギでも住んでんのかね」
 そんな御伽噺を夢想してから『スケルトンの』ファニー(p3p010255)はニヒルに嗤って見せた。
 伽藍の頭蓋を揺らがせて、広域から俯瞰する。地上の核を壊すならば、獏が敵となるだろうか。全てを吹き飛ばす勢いで魔力を放出すれば良い。
 太陽(きぼう)に焦がれたが故に、焔に塗れたと逸話を持ったアルキメデスレーザーを構えたファニーが俯瞰する。
 美しい月。その『守護者』が愛らしいウサギであればどれ程に良いか。
『医神の傲慢』松元 聖霊(p3p008208)は「へえ?」と首を捻った。
「わざわざ月の形にするなんざ怠惰の魔種様の癖に随分凝ってんじゃねぇか。
 はっ、ご苦労なこったね。怠惰の冠返上したらどうだ?」
 唇に乗せた皮肉。適当に月を置いとけば良いだろうかという箱庭を作成するテンションで置かれたにしてはその月は余りにも美しかった。
 鳥籠の近くで休憩し、月へと向かう仲間を支援しなくてはならないか。
 聖霊は己の変化を確認する。純白の白衣は薄汚れて居ようとも。アメシストと蛇の意匠を飾ったスタッフに魔力を込める。
「成程ね」
 支援をする術が一つ塞がれたか。ならば、次はその軀を癒やせば良い。元より備えは万全であったのだから。
「……なぁ、アネストなにか気づいたことはあるか? なんでもいいんだがよ。
 あと体調は大丈夫か? お前は聖蛇だからな……邪な気配とかには敏感だと思うが、ヤバくなったら出るから無理に人型を保つ必要はねぇからすぐ言えよ」
 聖霊と呼んだアネストは酷く苦しい気配がすると呻いた。それだけこの空間に響く声が頭を掻き乱すのか。
「月を壊すなんざ面白ぇじゃねぇか、守護者様とやらのご尊顔、拝見してやろうぜ?」

 ――空へは追わせない。
 ――空へは撃たせない。

『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は全て攻撃を担うようにその場所に立っていた。
 腕時計の針は正確だ。男は棒立ちの儘、獏たちを惹き付ける。元より、仲間達が周囲にいれば一人だけではない。支援があれば、囮役は一分でも一秒でも長く立っていられるのだから。
「さて――」
 ミッションの内容は簡単だ。身体を傷付ける敵を引付けて『空』へと駆けて行く仲間を支え続けるだけ。
 手札を入れ替えて立ち回りを帰れば問題など無い。攻撃の手が減るならば、防御に回せば良い。
 それはビジネスでも変わりない『大人の立ち回り方』なのだと寛治は眼鏡の位置を正して唇に笑みを灯した。
「うーん、あの月を落とせば良いのね。あれが核の本体ってことになるのかしら……?
 一応飛べるから、近くまで行って攻撃をしようかしら。でも落ちてしまったら……まぁなんとかなるでしょ」
 精霊達をクッションにすればいいかしら、と『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)はこてりと首を傾げた。
 何処かに月の守護者がいるらしい。裏に存在すると言うが、さてどうしようか――月へと放った一撃が、赤き月の欠片を振らせる。
 精霊達は皆、その様子を美しいと囁いた。フルールはその気配を感じながら「もう少し力を貸して頂戴ね」と呟く。
 月の守護者の居る裏側は、まだ遠い。
 ぱらぱらと、降って行く其れを破壊するイルミナは天を仰いだ。
 斯うして落ちてくる月の欠片はまるで星が毀れ落ちてくるようで美しいとさえ感じていた。

成否

成功


第2章 第4節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
マリア・ピースクラフト(p3p009690)
希望の魔法少女
囲 飛呂(p3p010030)
君のもとに
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

「くそ、あの冠位のおっさんほとんどなんも言わなかったな!」
 ――内心、『彼』が少しでも言葉を費やしてくれれば歩み寄れるとでも感じたか。それとも、同情を抱く立場にならずに済んだと安堵するべきか。
『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は毒吐いた。斯うしてこの地に遣ってきて、友人を夢から覚ます一助になろうとも苛立ちは滲むのだ。
(――だからこそ、落ち着け、落ち着け。冷静になれ。俺は狙撃手だ狙いが乱れる。狂ってなんかやらない、俺は友人達を悲しませたくなんかない)
 飛呂は周囲を警戒し、狙いを定める。飛ばなくともその手が届く範囲に月を引き摺り堕とすのだ。飛呂が狙いを定める傍らで、地を蹴ったのは『心優しきオニロ』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)。
「『眠りの月』……そっか、月も意味があるんだね。この世界の空に星は月しかないけれど……もしかしたら眠りの核が星かもだけど。
 あの月、引きずりおろそうか……いっそ砕き切っちゃうくらいの勢いで行くよー! 核だけが地面に落ちてるのも不公平だしね!」
 その為に空を駆ける。仲間達の支援が、ヨゾラが空に昇る手助けになった。襲来する夢魔達がクスクス笑う。
 その声を聴きながらも最高火力を叩きつける。己の腕が軋もうとも、己の魔術紋に力を湛え一撃を投じるために。
「地上に落ちたらもう一発叩き込んでやるからね!」
 狂気に陥るならば己を殴ってでも耐えるつもりだった。ヨゾラは月を睨め付ける。傾いだ其れがぱらりと崩れ、かけらが落ちた。
 その欠片が美しい、と感じたのは気のせいではないのだろう。『希望の魔法少女』マリア・ピースクラフト(p3p009690)は地上の核を探すように歩き回った。
 天啓よ、己の心が赴くままに誘ってくれ。マリアは柔らかな黒髪を揺らがせて『魔法少女』の希望の光を絶やすことはない。
 此処で挫けることはない。此処で挫けず魔法少女セイントマリーとして清き灯火で悪しき空気を浄化するのだ。
 こんな場所では恥も醜聞もない。思う存分に『世界を浄化する』為に、マリアは走る。
 その体に暖かな気配を感じたのは気のせいではないのだろう。支援を行った『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)は少しでも長く仲間達のリソース回復に努めていた。
 耳を揺らがせて、銀製のカトラリーセットに魔力を注ぎ込む。ミザリィの背丈ほどに大きくなった其れはくるりくるりとティーカップの中身を掻き混ぜるように周囲へと魔性の直感で繰り出された号令を響かせた。言霊は空気に溶け込み混ざり合う。まるでマグの中のコーヒーにミルクを混ぜ込むような単調で慣れきった仕草で――ミザリィは仲間達を支え続けた。
(夢に囚われて自分の大事な物を再確認した。
 きっとみんな大事な物はあって、それが譲れないから争う事になる。そんな中で重要なのは自分を見失わない事。
 ――私は私の為に私を押し通す。それが他の人の助けになればいい)
 脳裏に過ったスピネルの笑顔。『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)の指先がふるりと震えた。
 月を落すために飛び乗ったリトルワイバーン。空へと駆け抜けるルビーの手にはカルミルーナ、大きな鎌を構えマントがひらりと揺らぐ。
「ッ、冠位魔種がどんなに強大な存在でも! 私には一緒に戦う仲間がいる!
 こうして力を合わせて進めるなら、魔種にだって竜になって負けはしない。今までも、これからも!」
 あの竜は、帰って行ったという。それでも、また相まみえる。その時まで、挫けている時間なんて無いのだ。
 リトルワイバーンの背から落ちないように。ルビーは周囲で眩く光った夢魔の攻撃を耐え凌ぐ。
「ッ、落す――!」
 自身のリミッターを外せ。そして、ワイバーンの背から跳ね上がった。叩き切れ、追い詰めるように。月を傾げて落してしまえ。
 月の軋む音を聞きながら『ためらいには勇気を』ユーフォニー(p3p010323)はワイくんとリクサメさんに協力を乞うた。
「眠りの核の数=眠らされている人数だとするなら……1つでも多く早く破壊しないと……! でももう一つ気になることが……」
 空より広域を眺め遣る。月の裏側、その場所に存在するのはべたりと『月に張り付いていた』何かだった。
「あれは……」
 脈動する。どくり、どくりと音を立てた其れは月に張り付き剥がれ落ちない。月を、落さねばならないか。
「落しましょう!」
 月を落す為にユーフォニーは躊躇うことなく最大火力を叩きつける。大好きな子の世界のために、みんな、みんなの為に。
(ゲーラスとの戦いで、できるだけのことを、しようと思った。
 ――したつもりで。でも結果はどうだろう。目の前で倒れた人がいて、遠くで眠りに落ちた友達がいて、おれはただここにいる)
『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)は地上からユーフォニーやルビーを狙おうとする夢魔へと呪術を放った。
(なにをしてるんだろうな。なにも出来てないんじゃないかな。
 おれはまだ、ずっと、目まぐるしい地上の激動に、みんなの歩みに着いていけずにいる。
 ……まだ。やれることが、きっとあるはず。
 おれでも、……ほんの少しでも、穿つ助けに、なるのなら。……きっとまだ)
 誰かを支えるなら。その為ならば挫けている場合はない。身の中を巡る魔力があろうとも、苦しい。
 身体を風が吹き抜けて、心が凍えてしまいそうだと呟いた。それでも、踏ん張り続ける。
「停滞を。……退化を、押しつける。でも君たちも、怠惰から生まれたのなら、それも望みのひとつだろ」
 夢魔達が、夢見るように此処で閉ざされる一時を。その支援のためならば、トストは身体が凍えてしまおうともこの場所を離れる気は無かった。
「星を追いかけて夢檻から脱出することが出来たけど……今度は月か」
 夢檻に囚われているアルティオ=エルムの人々。そのひとつ、ひとつを失うことを『選ぶ』事はマルク・シリング(p3p001309)には出来やしない。
 そうやって進んで来た。命の選別を繰り返してきた青年はこの戦線を支え続ける間にも気付いた。
(――ああ、そうか。僕たちがこの月を攻撃していると『あちら側』では星が降った。
 夢の核が、月から堕ちて行くように。だからこそ、あの星を追掛けて僕が脱出したように、これが誰かの助けになるなら……!)
 月へと向かって飛び上がった仲間達を『落させはしない』。もしも、己のリソースが尽きたならばその身だって盾にした。
 マルクの意思と魂を、世界を接続する。ワールドリンカーは彼の『決意』の表れだった。
「ここから先は通さないよ――!」

成否

成功


第2章 第5節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
神倉 五十琴姫(p3p009466)
白蛇
暁 無黒(p3p009772)
No.696

「支佐手のばかものめ……しくじりおったな! すぐ助けてやるからの!」
 拗ねたようにそう言った『白蛇』神倉 五十琴姫(p3p009466)の傍らで『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は悄然と立ち竦んでいた。
「あの時、こんな私を助けるために必死になって下さった幻介さんが、夢檻に囚われてしまうだなんて……。
 きっと幻介さんにとって、私の力なんて必要ないとは信じています、それでもここで私が何もせぬという選択肢、果たしてあって良いのでしょうか?」
 エルシアの知っている幻介は『日の目を見る場所を恐れてらっしゃる方』である。ならば、彼はどの様に出てくるのだろうか。
 行く手を阻む夢魔を斥ける為に当てもなく進むエルシアは落ちていた『眠りの核』を何となく踏み躙った。
「……あら?」
 母の声にもその身を委ねる勇気を持てなかったエルシアは、其れを踏んだとき奇妙な感覚を感じた。彼が、走る気配がして――『夢から目覚めた』ような感覚。
「の、のう……『分かるか』の?」
 問うた五十琴姫も同じ感覚だった。何時だって支佐手に助けられてきたという自覚を持っていた彼女は彼の為に月を壊すと決めていた。
 その刹那、空から降ってきた『眠りの核』を一つ破壊したのだ。天之瓊矛が閃き、陽光の巫術が小さな五十琴姫の身へと下ろされる。
(あやつの苦しみに比べればどうということはない! ――待っておれよ! 支佐!)
 増強された魔力をその身に彼を思って破壊したとき。彼が『光に向かって』走った気配がしたのだ。
 相手を思いながら戦ったからこそ、彼等を導くことが出来たのだろうか。外へと一歩踏み出せば、屹度彼等は目覚めているはずだ。
(……ったく! 娘のように可愛がっていた子まで夢檻かよ)
 流石は『冠位魔種』だと毒吐くように嘆息した『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は大型のリボルバー銃を構えた。
「さて、ここらで一発大勝負を決めた所だが……」
 ジェイクが一瞥したのは『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)であった。彼女までもが無茶をしないか心配だったのだ。
「アトさんとお師匠先生が夢檻に……! 絶対絶対ぜーったい助ける……!」
 その為にはあの月を落さなくてはならない。胸には大切な人たちの事が過った。
 リトルワイバーンの背に乗ってフラーゴラはミラクルキャンディーをぺろりと舐める。
「シャール!」
 呼んだ『マイクロビキニを着てローションまみれになった』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は亜麻色の金属質な鱗を持ったワイバーンの背を撫でた。
「まだ力は残ってるよね? こっからだよ!」
 月を足場に出来るだろうか。さっさと地へと叩き落として無数の攻撃をあの月に届けるのだ。
(……どうして譲渡出来てどうして複数もってるの?
 もしかして怠惰の力って何かに依存してるからこそ複数持てて、譲渡できるんじゃ……?
 それともそういう風に生まれ落ちてきたのかな……? 怠惰の権能は『他人を利用する事』こそが主題なのかも……?)
 これが『冠位魔種』の権能の一つであれば、それに対する何らかの策を講じたい。ミルヴィは無数の権能を有する冠位魔種を警戒することは怠らなかった。
「悪いケド、この夢の世界じゃ一切の加減はしないよ!」
「ゴラちゃん!」
 ミルヴィの背後から顔を出した『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)はフラーゴラの名を呼んだ。
 ミルヴィが、ジェイクが周辺の露払いをしてくれたならば、アリアとフラーゴラは最大火力を叩きつけるだけ。
「恋する乙女の旅路を邪魔する者は馬に蹴られるんだから……!」
 アリアは自らと対峙したもう一人の自分をその身に下ろす。『私』と『彼女』、その願いは共に。約束が限界を超えていくはずだから。
 ――Possession Citrinitas Aria Terria。
 蝶の様にひらりと舞うアリアの一撃に月ががこん、と音を立てた。何とも無機質な音。だが、先程より傾いだことは確かである。
「……此の儘押し切るぞ!」
 ジェイクへとフラーゴラとミルヴィは頷いた。「オーケー!」とアリアが声を上げ、もう一度攻撃の準備を整える。
 接近してみれば地上で見るよりも月は水晶を思わす形をしていた。はらはらと砕け落ちていくその破片を月を狙い穿ったジェイクの弾丸が諸共に粉砕して行く。
「うおお、月が傾いでるっすよー!」
 ジャバーウォックと一戦交えたから小休憩ともいかないかと『No.696』暁 無黒(p3p009772)が手をわさわさと動かした。
 遠く、遠く、自由気ままに。ただ、駆け抜ける無黒は落ちてきた破片そのものに突撃を駆けた。
 地を駆け抜けて、眠りの核を破壊する。『牢獄』が軋む音がする。こうして、全てを破壊してゆく事が出来たならば、アルティオ=エルムは救われるか。
 ナイフで長く伸びようとした髪を切り裂いて『麗しきカワセミの君』チェレンチィ(p3p008318)は舌を打った。
「夢檻。夢の牢獄。閉じ込める。……ああもう、嫌なワードばかりですねぇ、カロンとやらの権能は……!
 無理やり自由を奪われるのは気に入りません。
 誰かを助けるため……なんていう大それた動機ではなく。ただ気に入らないから潰しに行くんです」
 鳥籠の鍵は、都合良く開きはしない。それをチェレンチィは知っていた。故に、苛立ちが滲むのだ。
 自由というものは自分で掴み取るものだ。だが、儘ならぬと言うならば手を差し伸べる者が必要でもあった――彼女は、その為に来たのではないと唇に乗せる。自分が気に入らないと破壊を行えば偶然にも『誰かが救われる』だけなのだ。
 とりわけ大きな月。翼に向けて飛ぶ自由。両刃のコンバットナイフが閃いた。
「呼ばれて狂えるほどマトモじゃないのよ。遠に狂っているというのに、これ以上どう狂えというの?」
 謳うように『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)は囁いた。
「私は非力な魔女だけど、少しは役に立てるかしら? 同じ終わりのない悪夢でも現実で見る悪夢の方が余程味わい深い。
 絶望の揺り籠にあやされようとも、光を求めることをやめられない。それがニンゲンというもの、でしょう? ――さあ、起きて」
 ほうら、月が落ちてくる。手を伸ばすルミエールの胸元でアメジストのブローチが輝いた。
 月へと向かって、光を降らす仲間達。何て美しい光景か。
 ルミエールはその下で美しい光を瞬かせながら囁いた。
「哀しい夢魔の貴方達とも。いつか分かり合える日が来るかしら? ――今はこうして楽しく遊びましょう!」

成否

成功


第2章 第6節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
パーシャ・トラフキン(p3p006384)
召剣士
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)
メカモスカ

「ルル家は攫われたり捕らわれたりするプロだからね。どーせすぐ戻ってくるわ」
 ――何とも『雑』な扱いをチームメイトにぶちかました『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)に躊躇うことなく頷いたのは『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だった。
「それより、あいつの為にもあの月ぶっ壊さないと! 頼りにしてるわよ、たまきち!」
「ああ。砕くべきはあの月という事か。中々どうして無茶な所業と言えるかもしれないが、私達は、無理も無茶も通して道理を引っ込ませてきたクチだ。
 ならば、今回もそうするまで。では行こうか、御二方。これは――私達の十八番というヤツだ!」
 地を蹴り空を目指す汰磨羈の言葉にリアがぴたりと止まる。その背後には『雪解けを求め』クロバ・フユツキ(p3p000145)が立っていた。
「…………あら、居たんですか兄上殿? 気持ちよく御就寝なさっていらっしゃったと思いましたが?
 ははぁ、重役出勤とは随分とご立派な御身分です事。とりあえず、黙って死ぬ気で働け」
 びしりと指し示すリアにクロバは大きく頷いた。起き抜けで色々と状況が動いていて全容を理解するには遠いが、中々『拙い』タイミングで眠りに誘ってきた冠位魔種には腹が立つ。
「……言われずとも寝てた分以上には働くよ。
 リュミエ様が起きたところに立ち会えなかったあれこれと犠牲を以てそれをさせてしまった無力故の悔しさも、入れ違いに寝たらしい弟子を助けるのも全部乗せてな」
 弟子、と言葉にされてから汰磨羈は嘆息した。師匠(クロバ)が起きたのに、入れ違いで弟子(シキ)が眠ったそうだ。
「とんでもないシーソーゲームだな? まったく、相も変わらずに世話が焼ける奴等だ。
 いいか。今回の件がまるっと片付いたら、『全員揃って』大反省会だ!
 どこぞのいい温泉宿を取ってやるから、そこで疲れを癒した上で、酒の肴にお説教を垂れ流してやる!
 分かったか? 分かったなら――生きて、勝って、必ず帰るぞ! 全員でだ!」
「寝てた奴に少し払わせたら?」
「……それは俺も含んでいるか?」
 三者三様。リアは支援をすると二人へと悪戯な笑みを浮かべた。クロバは白い飛竜の背に飛び乗った。宙へと踊り出す汰磨羈の簡易的な足場くらいにはなれようか。
 するりと飛び抜けて行く汰磨羈は唇を吊り上げる。
「さて、球技大会といこうか。種目は"月落し"だ!」
「ああ、取り戻すぞ、眠りに落ちた仲間と深緑を!! でなきゃ文字通り、『目覚めが悪い!』」
 剣に乗せるのは前哨戦であろうとも『本気』なくてはならない。反撃の狼煙を上げるならばそれはより派手であるべきだ。
「たかが冠位の妨害程度であたしの奏でる音色を止められると思わないでよね! さっさとアンタの喉笛を嚙み切ってやらないといけないんだから!」
 月へ向かう勢いは留まらない。ソング・オブ・カタラァナ――『二重奏』を響かせた『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は唇を噛んだ。
「フェルディン、イーリン。待っておれ。お主らのことは、必ず――必ず」
 その声は、『彼』に届いていただろう。迷おうとも、その脚はクレマァダの元へと帰る為に動くはずだ。
「お母様と、轡を並べる。これほどの栄誉がありましょうか。叔母上も、お義兄様の事が気にかかるでしょう。
 大丈夫です。あの海に比べれば。夢などぬるい、モスカは、そう思います」
 ほんわかとしたムードで告げる『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)にクレマァダは思わずずっこけそうにもなった。
「緊張感削ぐのうお主……我は母ではない!」
「待っていて下さい、お兄様――必ず、お助け致します。は、はい。私、いてもたっても――って、お、叔母ァ!?」
 叔母とは何なのか、と衝撃的な発言に慌てる『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)にビスコッティは首を傾げる。
「お母様」
「違うと言っておろうに!」
「叔母上」
「叔母ァッ!?」
 思わず気も抜けてしまうが、損場合ではない。リディアは兄の代わりに今はクレマァダの『騎士』となると剣を握りしめた。
 ならば、彼の為に空を駆け抜けるクレマァダは戸惑うことはなかった。あの月を彼も見上げているはずだから――
「母上、これが私のゼッカイケン、じゃ!」
 掌をドリルにさせて、勢い良くビスコッティが攻撃を重ねて行く。無垢な瞳。モスカは翔ぶと指差すビスコッティにクレマァダは頭を抱えた。
「……リディア、何か間違っておったか?」
 リディアは首を振る。クレマァダには分かった。ビスコッティとて真面目に遣っている。
「……好きにするが良い。母ではないがの」
 その世話はリディアに押し付けながらもクレマァダは奇妙な感覚を抱いた。――彼が、此方に向かってきている。
(この場にいる全ての仲間と一つになって、あの月を貫き穿つ――!)
 リディアの決意が、伝わってくる気配がする。クレマァダは手を伸ばした。叩きつけたは音を置き去りにした波濤。
 この世界から飛び出せば、屹度彼は困ったように笑っていてくれるのだ。
 ちらちらと、炎が燃える。『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は苛立ったように唇を噛みしめた。
「何がどのくらい封じられたか分からないのが厄介千万なのですが……怖気付いてもいられないのです。
 ――怠惰で在ることしか知らぬ紛いモノの分際で、よくも夢魔の領分を侵してくれましたね? 一時とはいえリカを眠らせた報い、受けて頂きましょうか!」
 利香が――自身と共にあるべき存在が眠らされたのだ。リトルワイバーンに乗り空を駆けたのは『八つ当たり』であったのかもしれない。
 彼女ならば夢魔達を斥け、出て来てくれる。だから、これは八つ当たりだ。燃やせる限りは燃やし続ける。
 その炎が途切れてしまうまで。
「焔色の終焉で、私が夢見た激情で、その怠惰をも終わらせて差し上げましょう!」
 クーアの声に応えるように『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が手を伸ばした。
「利香!」
「……ったく! 封じられてんのか寝ぼけて感覚がにぶってるのかもよくわからないわ……続けましょう、趣味悪いもん見せてくれたお礼にね」
 頭が痛いと苛立つ利香はシェーヴルの背に乗った。飛行形態となったシェーヴルの背に乗って、利香は狙いを定める。
 クーアの声も聞こえた気がした。星の光が導いて、自身を此処まで連れ出してくれたのだ。
 魅惑の宝玉に魔力が灯った。防御の構えから飛び出して、勢い良く叩きつけた一撃が月を更に傾げて行く。
 此の儘、真っ逆さまに月が落ちてくれたならば。そのまま『ぱっかーん』と勢い良く割れてくれたならば、どれ程楽か。
「ま、……冠位だものね、そう簡単にはいかないでしょうけれど!」
 それでも亀裂は走った。苛立ちと共に叩き込んだ一撃が確かに手応えを感じさせたからだ。
 ――走った。友達の名前を呼んで、傾いだ月を眺めてから、『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)は走った。
「この世界でその、眠りの核というものを壊してまわるほど、みるくちゃんの助けになりますか?
 ……がんばって、みるくちゃん。私達も頑張るから!!」
「……みるくちゃんが起きないよ。アンジュたちの邪魔、しないでくれるかなあ?」
 僅かな苛立ちは、パパも屹度、驚いてしまうだろうか。『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)は「みるくちゃん、返せよ」と呟く。
 アンジュもパーシャも。どちらもみるくの為に戦った。パーシャを支えるアンジュの傍でパパ達が「頑張って」と応援してくれている。
 みるくは、今、一人で走っている。怖いだろうか。不安だろうか。
 それを感じ取りながらも、パーシャは念じた。
「戦うのは、怖いです。でも、戦わないことで……大切な人が帰ってこないのは嫌だから!! お願い、とどいて――!」
 ――応えてくれた、気がした。みるくの瞼が動いて、『連れ戻せた』という実感が何故か沸く。
 大切な誰かを思えば、その人を導く光となる。
 なんと素晴らしいことだろうか。その支えとなるならば、『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は努力も惜しまない。
「やっほー! 空飛ぶしにゃこちゃんですよ! 某電気鼠も飛ぶので! 夢じゃないです現実です!
 しにゃも寝てたら誰も起こしてくれなかったんですよ! 普通に起きれる奴ですけど!?
 とりまあの月を撃墜すればOKですね! 月より眩しい太陽の如き輝きのしにゃを見よー!」
「裏側の守護者は任せて下さい」
 ベークは自らが盾になると告げた。しにゃこはまだまだ元気なのだと遠方から月を穿つ。空を駆ける翼は美少女には必要不可欠。
「しにゃはまだ来たばかりで元気ですので! ビターンってなったらクソ痛いでしょうし、飛べなくなって落下する人がいれば引っ張り上げ救出です!」
「鯛焼きって飛べると思いますか?」
「飛べなくっても支えますよ! なんてって、しにゃは美少女ですから」
 にまりと笑ったしにゃこのパラソルから不可視の弾丸が飛び込んだ。月を穿つ、そして亀裂の入った隙間からびりびりと身体が痺れるような気配を感じ取る。
「見えます!?」
「はい。猫に見えますね……」
 指差すしにゃこに応えたベークは月の破片から顔を出した守護者は黒い猫を思わせることに気付いた。
 猫。カロン・アンテノーラの姿も猫であった。成程、自らの権能であるためにその姿は酷似したか――
「じゃあ、月を落してから猫を斃さなくちゃならないんですね。食べられないようにしないと……」

成否

成功


第2章 第7節

Solum Fee Memoria(p3p000056)
吸血姫
セララ(p3p000273)
魔法騎士
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
アンジェラ(p3p007241)
働き人
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
海紅玉 彼方(p3p008804)
扇動者たらん
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人

「――何が月よ、夜よ!
 もう寝て来たわ、飽き飽きよ。というわけでしゃっきり起きて来たし、今度は暴れてぶっ壊すわよ!」
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は叫んだ。
 空へと飛び上がれば、月は傾いで随分と低い位置にある。至近距離に近付くまでは精霊の力を借りて、至近距離へと飛び込んだならば最大火力をお見舞いするだけだ。
 ただ、壊すことを意識する。よい子は眠る時間だと囁かれるならばオデットが答える言葉は決まっていた。
 その翼は木漏れ日のように光を灯す。『夜』が閉ざすというならば――
「今はもう昼よ。私が少しでも太陽の代わりになってあげる!」
 救護要請を感じ取る。月まで飛翔する翼が『失われる』ならば、こんなこともあろうかと『働き人』アンジェラ(p3p007241)は付与する術を用意した。
「たとえ水の中雲の中、どこへでもお供いたしましょう。
 付与係がかばって墜ちる訳にもゆきませんから、私自身が付与能力を失うまでは、歯痒いですが墜ちてゆく生殖階級の皆様を見送るしかありません。
 ……どうせいずれはお役に立てる時が来ると思いましょう」
 翼を授けなくてはならないならば、誰かを庇い続ける事は出来ない。自らを盾にする前に『職務』を全うしなくてはならないからだ。
 ならば、と赤い旗が揺れた。アンジェラの文まで盾となる。『鳥籠』を基点に翼を与えるアンジェラが居れば、その地を中心に仲間を支え続ける『血反吐塗れのプライド』百合草 瑠々(p3p010340)も立っている。
 狂気が何だというか。肌をひりつかせる緊張感。脳内を揺さ振り掛ける声音は低く囁く。
「守りにゃ一つ自信があるんでね……殺してみな。てめえら纏めてかかっても死なねえよ」
 瑠々のプライドは簡単には砕けやしない。幻影を産み出して、己こそが盾である事をアピールし続けるのだ。
 ―― 我が想いよ、一騎当千の力を見せよ。
 瑠々の唇が吊り上がった。華奢な肉体であろうとも、粘り強さは乙女の生存の意識そのもの。執念深く、執拗に。ただ、立ち続ける彼女の傍をひらりと通り過ぎたのは『吸血姫』Solum Fee Memoria(p3p000056)。
「クレープ屋が眠ったまま起きない、らしい。そんな噂を聞いた。それは困る。だから来てみたけれど……もう起きたのね。
 この世界で、これまで活動らしいことをしたことはなかったけれど、同じように眠っている誰かがいて、皆必死に何かを守ろうとしてる」
 それは、Solumにとって『前の世界で、同じ人間の目を見た記憶があった』。
 だから、という訳でもない。それで、という訳でもない。誰かが目覚めたとしてもこれからの戦いで更に眠りに落ちる可能性はある。
 これは、屹度気紛れだ。武器を取ったのも、戦場に遣ってきたのも。戦おうと思ったのも。
「月が、傾いて落ちてくるんだって。亀裂が入って、其れから中から何かが出てくるんだ」
 不思議だね、と指を差したのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)。アンジェラの翼があれば戦える。鳥籠を上空から狙おうとする夢魔を、纏めてたたき落とせるはず。
 此処で長く戦う事を願ったならば攻撃スキルは余り使用しないべきだ。まだ使用できるものに絞って、一つずつ――
(大丈夫、まだ戦えそう。
 さっきよりもキツくなってはいるけど、鳥籠の近くで戦ってたからか思ったよりは影響が少なかったのかな)
 この美しい気配はなんだろうか。澄渡っていて心が落ち着いてくる。ファルカウの清廉さ、アルティオ=エルムの生命の息吹。
 其れ等が全て、身を包み込む。
「月を狙う方、鳥籠を守る方、したいことは様々で。
 ……それなら、皆様を狙う夢魔たちを倒すのも、また冠位の権能を抑えるための、一助となるでしょう」
 身を隠す場所がないのならば先手を打つべきだった。焔が纏めて攻撃を繰り返す中、其れ等を避けて突撃してこようとする夢魔に気付き『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)は雷を纏った一撃を放つ。
 呼び声なんて、うさぎの耳には聞こえやしない。纏わり付くようなその声も『あのひと』と比べれば軽い者だった。
 ルド様。兄のように慕っていて、喧嘩別れをして、それから――その呼び声に答えることはなかったけれど、彼の居ない世界はどれ程までに空虚だろうか。
 彼の言葉に応えなかった自分が、他の誰かに応えるものか。彼の声に応じなかった『自分』が誰かの手を取ることなど有り得やしない。
「彼方」
 呼びかけた『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)に『レディ・ガーネット』海紅玉 彼方(p3p008804)は「はい、師匠」と肩を竦めた。
「……狙いは?」
「あの月だ」
「……あんな巨大なものを壊そうというのですから、こちらも最大の攻撃力で迎え撃たなくては……さあ、参りましょうか」
 準備は宜しいですかと問いかけた彼方にシューヴェルトは頷いた。リトルワイバーンに騎乗して、月を目指す。
 ワイバーン達の鳴き声がこの地に怯えていることに気付く。耐えてくれと声を掛けたのはシューヴェルトの優しさからか。
「行くぞ彼方! こちらも攻めていこう」
「行きましょう師匠。他の皆さんを助けるまで私たちは倒れませんよ」
 天を仰ぎ見れば殺風景な割に、何とも賑やかだ。『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)は「騒がしいところですな」と周囲を見回した。
「なに、成すべきことがわかっていれば惑わされることもありますまい! 目標の“月”に向けて全速前進ですぞ!」
 リトルワイバーンに騎乗して月へ着陸する事が出来るかを試し見る。足場としては余りにも頼りないが、亀裂の入った部分を避ければ立っていられるか。
 守護者、猫のかたちをしたそれがヴェルミリオを見た。目があったと感じた途端、身体が宙に投げ出されたかのような感覚がする。
「おおおっと!?」
 ヴェルミリオが思わず仰け反れば、その手を握ったのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)であった。
(ところで、何でスキルが消えるの? 何かの場所や物質に封じられてる?
 それとも消えたスキルを吸収する敵がいて、後から使ってくるのかな?
 ……ううん、これは。これは、『イレギュラーズだった自分を忘れようとしてる』んだ)
 狂気が、その身に影響を及ぼしている。高度を上げての探索を行い地上に目を光らせていたセララはぎゅっとヴェルミリオの手を握ってから「大丈夫、まだいけるよ!」と声を掛ける。
 アンジェラの翼が、ヴェルミリオを空へともう一度羽ばたかせてくれる。セララはドーナツを頬張ってから、地上の夢魔へと勢い良くその聖剣を叩きつけた。
「スキルは消えてもボクが手に持ってるドーナツは消えない。この世界の主は消す対象を間違えちゃったね」
 ――食べたら、胃の中に消えてしまうけれど。
(よし、身体はまだ動く。私は私だ。
 月が巨大な核ということはやはりこの世界に不必要なオブジェクトは存在しない。
 つまり在る物すべてに意味があるということ。そして鳥籠のように私たちも使える物もある)
 イレギュラーズが目を覚まし続ける中で何か増えた者があるのではないか。後続の誰かのために得るものがあればと『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は走り続ける。
 荒野に現れたこの鳥籠は霊樹レテートの力で起こされたリュミエとファルカウによるものだった。
 これ以上の何かがあるかは分からない。そして、此処を走り続けるだけでも身体には負担が掛かる。
 故に、ブレンダは繰り返す。
(……大丈夫。まだ私はブレンダ・アレクサンデルだ)
 ――己を、見失わぬように。

成否

成功


第2章 第8節

グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎
雨紅(p3p008287)
愛星
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者
葵 夏雲(p3p010384)
りゅうのたいせつ
風花 雪莉(p3p010449)
ドラネコ保護委員会
スースァ(p3p010535)
欠け竜
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊

「普段ならこんなところには来ないのだけれど、私の大切な幼なじみが捕らわれているなら話は別よね。
 だって私は龍ですもの、たいせつが損なわれそうなら容赦はしないのよ」
 こてんと首を傾いで見せたのは『りゅうのたいせつ』葵 夏雲(p3p010384)。憂炎が夢に囚われたのだ――救い出す為に、夏雲は態々此処までやってきた。
 彼が、走る気配がする。この檻を抜け出すために進む気配。眠りの核を壊しながら、夏雲は夜刀神をそうと構えた。
「……私は死ぬわけにはいかないわ、それに眠るわけにもいかないよ。これは私のためにね」
 戦う事は好ましかった。けれど、これは『抑えめ』に。最優先事項があったからだ。『たいせつ』をこの手で取り戻すため。ひとつ、ふたつと破壊するために『たいせつ』が傍に近付いてきてくれるかのような気配がした。
(――ええ、ええ。核の息遣いが聞こえて、それから遠離って……)
『たいせつ』が、外へと、踏み出せてのならばそれでいい。それは向こうで確認することだから。今はその手で壊せる限りを壊すために。
『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)は、ふと、空を眺めた。
「……一度外に出て……少しだけ……落ち着いて考えてみたんだけど……。
 …月が核なのだとしたら……それなら……今立っている地面はどうだろう……?
 ……これはあくまで思いつき……ハズレの可能性も十二分にある。……でも…今はとにかく情報が欲しい……ダメならそれで…目標を絞れる訳だし……」
 大地に落ちていた格。其れ等を破壊スルだけだ。天より落ちてくる眠りの核。この世界の大地には秘密は隠されてはいないのだろうか。
「あの月までも核だったとは、なるほどあの位置なら全てを睥睨出来ますね。それを見抜き攻撃を仕掛けた方々もまた見事です」
 目を伏せてから、恐らくは月が落ちてからが本番だろうと地上の敵の掃討が為に支援に徹するのは『舞い降りる六花』風花 雪莉(p3p010449)。
「……心身の変異は増すばかりですが根を上げてなどいられません。むしろこれを冠位との戦いへの糧にしましょう」
 冠位魔種と戦うためならば、此処でへばっている場合でもない。身体に感じた違和感がじわりと精神をも蝕むようで。
 雪莉が表情を歪めた刹那、『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は「わあ!」と声を上げた。
「……月まで核とは恐れ入るね。それでも僕らは退かないね! だってみんなの力で傾いた!
 なら壊せるんだから怯える必要なんて何処にもないね! だったらみんなを支え続けるだけなんだ! ……この耳障りな声もまだまだ耐えられるんだから」
「ええ。そうですね。この様な声音に応える必要などありません」
 雪莉の癒やしの気配と共に、帳の支援が広がった。その中を駆け抜けて行くのは『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)。
 一呼吸置いて再度のチャレンジ。鳥籠の位置は遠目からでも確認出来た。その場所を目指して破壊した核は『出入り口が違う』が為に其れなりの数となる。『音』が減ってしまおうとも――それでも、夢魔と戦う事は恐れはしない。無名のトランペットを吹き鳴らし、勇壮のマーチが響き渡った。
(ここで、もう、何も考えなくて良くなってしまえたら、楽なのでしょうけど。始めて来ましたが、声に引きずられますね、いけない。
 ……何も考えず、誰かに従うだけでいるのは楽ですが、そうしたらきっと、私は舞を捨てることになるので――それは、嫌なのですよ)
 舞うことが『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)にとっては大切だった。白銀に紅の走る美しい仮面は外れぬ枷だ。
 雨紅は月が落ちてきた後の危険に備えて、地上の掃討に当たり続けた。雨紅と同じように地を走ったのは『欠け竜』スースァ(p3p010535)。
「声、まともに感じるのは今回が初だが……気持ち悪い、なのに引っ張られるような。
 いつも以上に気を張っとく――こんなのに負けたら、妹に合わせる顔がないよ」
 思わずぼやいたスースァはだからといって止まって入られるものかと地を蹴った。乱撃を叩きつけた執念の刃は決して惑うことはない。
 圧倒的な破壊力を有する一撃は淀みなく、その五感を活かして周囲の状況を把握する。
「月が傾いでいます」
「ああ、本当に……あれが落ちてくると思えばぞっとしないよ」
 スースァに雨紅は頷いた。巨大な核だ。無数のイレギュラーズが攻撃を放ち『守護者』を目視しているらしい。
「夢の中に浮かぶ月を落とすって? どデカいこと考えるねぇ。
 まあ、夢の中でまで夜の象徴浮かばせとくのは良くねぇな、見守ってる訳でもなくただ眠りにつかせる夜の核、ぶち落とすのにひとつ噛ませてくれや!」
 にいと唇を吊り上げてから『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)は走り出した。朱い旗は揺らぐ。全身を使った引き絞るような拳の構え、それから、青年は一気に一点集中した一撃を叩きつけた。
 拳に響いた痛み。されども、それに構っては居られない。タツミが身を捻る、『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)の剣が晴れ渡る晴天のような――雲一つない空を映したように澄んだ片手剣を振り上げた。
 一点集中した魔力。それは破壊の為に最大限特化した一撃と変貌する。
「月に何かがある、ね。そうと決まれば話は早い。ぶっ壊してやるよ。――こいつなら、多少は効くだろうよ!」
 ミーナが睨め付ける。ドレスが揺れ、全力を放つために駆使したのは万物を焼き尽くす一撃。
 月の亀裂が更に広がった。黒猫だ。微睡むようにして身を丸めているそれはくあ、と欠伸を繰り返す。
「およ」
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はぱちりと瞬いた。守護者とは聴いていたが可愛らしいものである。
「マジパないっすわー! マジウチらパないっすわー! え? なんかお月さん傾いてね? マジで?
 しかも割れてるし、猫がいるじゃん! フッ……だったら私ちゃんも手伝うぜ?
 鬼が出るか蛇が出るか! 名付けて、月撃墜作戦じゃい。いくら頭バーサーカーだからって、アレが怪しい気配してんのはわかるもんね」
 いーと歯を見せ笑った秋奈が地を蹴った。
「馬鹿兄を起こさないといけないもんな! これが咲々宮流ホームラン予告じゃい! 違うか! ぶはは!」
 現実に戻れば彼は起きているだろうか。罰が悪そうな顔をして、そうやって頬を掻くなら自慢してやれば良い。『月は落とせそうだぞ』と。
 秋奈の一撃に続きタツミは再度その拳を引き絞った。
「どんなでかいのがいるのかは知らねぇけど、この夢の中に閉じ込めとく訳にはいかねえ奴らが沢山いる。
 夢は見るものだけじゃない、叶えるもんだぜ!」
 ――空から、更に傾ぐ。亀裂が入り欠片が地上に堕ちて行く。

成否

成功


第2章 第9節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

「さっきから頭の中がにゃーにゃーうるせーですよ!!! こんなところ、さっさとぶっ壊しておしまいにするですよ! 航空猟兵、突撃――!!」
 堂々とそう宣言したのは『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)であった。
「アルヴァさんを返してくださいですよ。航空猟兵の主役がいなきゃ、意味ないじゃないですか……!」
 空中戦ならば『航空猟兵』にとってはお手の物。月に風穴を開けてやると飛来し、空から狙い続ける。
 守護者が見えたならばそれを斃すだけなのだ。どくり、と心臓が跳ねる。鳥籠の周辺から気配を感じる。
 斯うしている間にも、夢から覚めたようにして彼が屹度帰ってくる。其れまではこの戦線を継続させないくてはならない。
 そう。誰かが帰ってくるのを待つ。それはどれ程の無力感と怒りだっただろうか。迎えに行くための手を伸ばして、その手を握り返してくれるまで、何れだけ苛まれたか。
『2年前』と同じだと『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)は唇を噛みしめる。
 置いてけぼりだった自分は騎兵隊の仲間が帰ってこなかったことをどれ程恐れただろうか。今は、まだ救える。その実感がある。
「私のはレイリー=シュタイン! 夢檻よ怠惰の魔種よ、そして、眠りの月よ! 堕とさせてもらうぞ!」
 竜に跨がれば、誰もを護る事が出来るはずだった。月の守護者の『目』がレイリーを見詰めている。そんな者に臆するものか。
「私がいる限り絶対に誰も折らせない! 私が私である限りどんな姿でも絶対に倒れない! ――それが私の小さい誇りよ!」
 何れだけ小さな誇りであろうとも。レイリーは臆さない。白き騎士は守護者の腕が伸ばされたことに気付いた。
(ッ――早い!)
 受け止めたレイリーの身体がぐらりと傾いだ。だが、地に叩きつけられることはない。
「まあまあまあまあ! 月ね、月を落とせばいいのね!
 さっきまでのおねーさんなら手を伸ばせば届いたし、抱きしめることだってできたかもだけっど!」
『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)はくすくすと笑った。
「でもでもええ! やっぱりこっちの方がおねーさんね! 大き過ぎたらみんなと並んで歩けないもの。それはとっても寂しいのだわ!」
 ガイアドニスはにんまりと笑った。月の落下までもう少し。落しきるまでは『神様よりも頼れる仲間』が傍に居る。
「有り難う」
「いいえ! うふふ、お空から手が伸びてくるのね! おおきなおてて! あらあらまあまあ、とっても小さい皆を護らなくっちゃ!」
 ガイアドニスの視線を受け止めてブランシュと『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)が頷いた。
「夢から覚めねえやつらがいるって聞いた時は心配したけど、ちょっとずつ解決に向かってるんだな。
 狂気に呑まれないうちに速攻で片づけるぜ! 前にエリス様がやられちまったみてえな状態、みんなにさせられるかよ!」
 銀の森で、精霊女王がその状態に陥ったように。リックは『知っている彼女の苦しみ』を仲間達に与えたくはなかった。
「支えるぜ!」
 その支えがあればこそ――狙いを定める事が出来る。『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は「起きろ」と唱えた。
「ったく、前部隊の発足人が寝ちまうとは想定外だ! 今に見てろ夢見野郎、浮かんでる薄っぺらい月叩き落としてやるからな!!」
 発起人――『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)を起こすが為に航空猟兵達は月を狙い、亀裂が入り中から覗いた守護者を狙い撃つ。
 猫の形をした何か。黒い靄のようにも見えた。『猫そのもの』ではないそれをマカライトはジーヴァと共に空を駆け視界に収める。
「ベルゼーに力入れててすぐこっち来れなかったけれどあの猫はよぉ!!
 龍やら封鎖やら眠りやら諸々のせいでアニーのご両親は大変だろうしこの状況よ!いい加減おこだよ俺は!! キレそう!」
『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)は叫んだ。髪に混ざり込んだ金の色はR.O.Oの己を思わせた。
「ッ――狂気が何だよ! 俺がその程度で折れるかよ!
 戦いは怖い。でもアニーのいない世界の方がもっと怖い!
 冠位だろうが知るかぼけぇ! 狂気なんざ落ちてる場合じゃねぇんだよ!」
 愛しい妻のためならば、何だって出来る。月に奇襲(カチコミ)だと叫んだ霊は地面に落ちて堪るかと噛み付くようにして守護者へと一撃を叩きつけた。
 月から覗いた腕。裏側に張り付いていた黒い影は『猫の靄』を作りだし長い呼び声を上げる。
「ッ――」
 頭が痛いと『朝を呼ぶために』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は劈くようなその声から耳を庇うように抑えた。
「やはり巨大でござるな。だが、未だ外では目が覚めぬ者達も大勢居る。ここで諦める訳にはいかぬでござる。
 黒き靄。それが『月の守護者』、否、眠りの核の正体か。
 夜の王はまだ生き、妖精の女王も一人でやつの権能と抑え続けている筈。
 ここで立ち止まっているわけにはいかぬのでござるよ。だからさっさと――――――――落ちよ!!!」
 咲夜が跳ね上がった。跳躍し、三段攻撃を放つ。
 多段に、月へと叩きつけたそれは靄を分離させる。もっと早く、もっと、強く。
 そう願った咲夜の背後から、勢い良く叩き込まれたのは神の怒りにも似た雷。
「アルヴァさん!」
「重役出勤だな」
 ブランシュとマカライトの声に笑ったのは『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)。
「あの玉は俺らが貰う――空のエリート、航空猟兵を舐めんなよ!
 何もない静かな場所が好きなら、文字通り何もなくしてやるよ!」
 ない筈の腕が痛んだ。背筋に凍るような違和感さえ在る。振り返って堪るものか。
 退路なんて捨ててしまった。今更だろう。食らい付け。こんな馬鹿げたところで仲間を失う訳には行かない。
「落ちろよ――――!!!」

成否

成功


第2章 第10節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)
優しきおばあちゃん
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

「―――当然っ! まだまだ行けるわよね、花丸っ?」
「大丈夫、まだまだやれるよっ!」
 あの月を『ぶん殴って引き摺り落とせ』。目標が決まればそれ程簡単なことはないとでも云う様に『竜交』笹木 花丸(p3p008689)と『煉獄の剣』朱華(p3p010458)は天の月を見遣った。
 軋んで、傾いで、そして内部から見えた黒い靄。猫のようなその姿。それを蹴散らし『中身が空っぽになった』月を地へと叩き落として破壊するだけなのだ。
「琉珂の心配の一つや二つ、解決してみせないとね。こっちもやれる事はやってみせる。だから、いつまでも眠ってるんじゃないわよ?」
 小さく笑った。泣きそうな顔をして、泣いて堪るかと踏ん張った里長。友達。そんな彼女の心配事ぐらいさったと無くしてやりたかった。
 剣に纏った炎は朱華は月へと一気に剣を叩きつけた。それは花丸とて同じ。傷だらけになった拳を受け止めた巨大な靄。
「ッ――実態がないように見えたけど、堅い!」
 流石は守護者と呼ぶだけのことはあるのだろうか。まるで『本物の核を殴りつけた』様な感覚が花丸の拳に走る。
 守護者の腕がぐん、と伸びた。寸での所で避けた花丸の至近距離に飛び込んできたのは『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)。
「猫じゃないですか! でももやもやしって可愛くないんですよ! ぶっ飛んで下さい!」
 ロスカと共に空を駆けるウテナは守護者諸共、月を大地に叩き落とすが為に攻撃を放つ。
「ロスカっ!ㅤブレス!!」
「くぁ〜!」
 ロケット加速で夢魔ごと――! そう考えようとも流石に落としきるにはまだもう一押しか。
 最悪、攻撃の手段がなくなれば出来ることを遣ってやるとウテナは「ハーモニアタックです!」と叫んで――
「くぁ~」
「……すいません今の無しでお願いします!!! ロスカやめて!ㅤ言わないでっ!!」
 聴いてしまった花丸が非常に曖昧な表情をしたのは言うまでもないのであった。
「実はまだ状況がよく飲み込めていないのだけれど、あの月に何かがありますのね?
 行きましょう、マリィ! 皆が攻撃しているということは、壊せばきっと良いことがあるに違いございませんわー! 酒代が無限に湧き出てくるとか!」
 そんな都合の良いことがあったならば『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の為に何度でも月を壊したくなる『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)。
「ふふ! 実は私もさ! 何も分かってないけれど、何かありそうなのは分かる!
 行こう! ヴァリューシャ! とにかくあの月をめちゃくちゃにすればいいんだと思う! ――無限に串カツの材料が湧き出てくる可能性も……!!!」
 屹度、傍に居る時間が長ければ似たもの同士なのである。ヴァレーリヤとマリアは共に月を目掛ける。二人で同じ場所を狙えば良い。
 守護者の腕を斥ける為に叩きつけた物理的信仰心。「どっせえーーい!!!」の勢いでマリアは同じように連打を重ね続ける。
「それにしても、現実ではどれだけ手を伸ばしても届かない月を撃ち落とすだなんて、何だか不思議な気分ですわね?」
「ふふ! そうだね! けれど君の為なら私は現実の月だって撃ち落としてみせるよ!
 それを考えれば夢の世界の月を皆で撃ち落とすなんて、あっという間だと思わないかい? ――さぁ! やろう!」
 なんてロマンチスト。そんな風に笑ったマリアにヴァレーリヤは「黒い靄はこのシチュエーションには似合いませんわね!」と守護者を睨め付けた。
「さあ、このまま落とそう、ヴァリューシャ!」
「ええ、ええ。黒猫の手など借りなくてもよろしくてよ!」
 賑わいの声を聴き『エピステーメー』ゼファー(p3p007625)は「ああ、なるほどねえ」と頷いた。
「やれ。まるで終わりが見えないと思ったら……こんなデカい的まで用意してたとはね?
 ま、そりゃそうよね。天下の冠位魔種がチャチいタネの手品で終わるワケがないもの!」
 月に手が届くわけない。そんな常識が今日ばかりは歯痒いのだと、覗く守護者の腕目掛けて攻撃を放つ。
 靄が霧散する。だが、『罅割れた』感覚がゼファーに確かな実感を与えた。
(――多分、屹度。余裕があるとは思えない……其れなら、強引にでも見える敵は潰すべきよね?)
 何だって、不必要なものはない。この夢魔達が月を、眠りの核を護る為に歩き回っているというならば。
 ゼファーの槍は縫い止める。其れ等全てを打ち払い、月を、守護者を、夢魔を、何もかもを蹂躙してみせる。
「ああ。月その物が敵、ですか。凄い事ですが、巨大な物なら竜で見飽きました。あれと比べたら、そう恐怖も無い」
 天を仰げばなんと美しかった満月がもはや下弦の月と呼ぶべきか。内部から現れた月の守護者の重みに月が傾いでいるようにさえ思えた。
『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)は至近に飛び込んだ。平常心だ。意識しろ。今は『月を落とす』以外の感情が必要か。
 限界まで全力を叩き込む。只、それだけなのだ。ボディの表情は変わらない。淡々と『攻撃する』事だけを自身の中にインプットし続ける。
 月の中から出た黒き靄。それを打ち払うように叩きつけた一撃に月の守護者の耳がびくりと揺れる。
 ボディの目には『猫の形の靄』は僅かに罅が入ったようにも見えた。
「守護者は裏側に張り付いて、姿を現した。攻撃をする度に、罅割れていく――月と同一の核だという可能性は」
「有り得なくはないでしょうね? ねえ、だって。
 貴方は『猫の形をしている』もの。ひょっとして権能を護る為にに月に隠していたのかしら」
 唇を吊り上げたゼファーの声にならば、この猫を斃しきれば冠位魔種の権能は削れるのかとボディは真っ直ぐに守護者を見詰めた。
『静観の蝶』アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)は空をひらりと躍るように進んでいた。
「戦うのが得意ではない私でも、情報くらいなら拾えるでしょう。私は、私にしか出来ぬことを」
 守護者の姿が見える。仲間達を此処で支えなくてはならない。雷霆の瞬きは、遠く置き去りにした過去――それは夢を穢す者を赦しはしない。
 夢を聞き、夢の傍らで佇む淑女。アルチェロは緑の気配で仲間達を支援する。
(――そう。あの『守護者』こそがこの牢獄の番人なのね。
 それが『罅割れて』壊れてしまっては、錠は壊れたままになるのかしら?)
 アルチェロは聴く。守護者は酷く美しい気配をさせていた。外と繋がっているかのような、穏やかな微睡み。
 ならば、それを壊しきれば『冠位魔種』の影響は大きく斥けられるのか。アルチェロは「あの子を、壊しましょう」と決意したように囁いた。
「あの月を落とせば良いンだな? 任せておけ、射落とすのは得意だぞ。一応、な」
 それに猫だ。『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は月下美人の香りを立たせ、弓を引き絞る。
 紅蓮の炎が、鷲の片翼と共に迸った。羽が迸る。レイチェル。ヨハンナ。二人の在り方が其処に顕現する。
「俺は此処で止まるつもりなんざねぇ。夢に捕らわれて停滞なんてな……御免だ! 前へ前へ、進み続ける!! 邪魔だ、退け!!!」
 牙を剥き出し、人ならざる姿に見えようともヨハンナは動きを止めなかった。
 ――そう、停滞を嫌う故に。苦しくとも前へ進む道を。抗い続ける道を俺は選ぼう。
 ヨハンナの炎が迸った。苛立ちをも表すように、その一撃は光の如く赤い空を裂く。
「狼はな、月を食むモンだろう?俺も喰らってやろうじゃないか。
 月が落ちる? 届かないかも知れない? ――否、絶対に届かせる! 当たれぇえぇえ!!!」

成否

成功


第2章 第11節

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

「よし。まだ戦える。皆も戦い続けるみたいだし、俺も続こう……ん?」
 事態が動いたらしい、と顔を上げた『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)は月より転び出た黒い靄――それも猫を思わす何かを眺めてあんぐりと口を開いた。
「どうやら次に目指すはあの月。それも、その姿を覗かせている『猫』のようですね」
 月を攻撃した者達に続き、黒狼隊も其方に攻撃を開始する――という結論で良いかと問いかけるような『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の目線に『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は頷いた。
「どうやら夢の牢獄の効果が僅かにでも減少したようだ。
 夢檻に捕らわれる者、そして夢檻から解放された者と状況は目まぐるしいが……捕らわれた者達が脱出し易くする為にも俺達が踏ん張る必要がある。
 捕らわれた者達は皆脱出してくる物だとは思っているが――或いは、最悪のケースも十分にあり得る」
 ベネディクトが名を呼んだのはクラリーチェであった。行方知れずの儘の友人。そうなった場所が場所で逢った以上はある程度の覚悟が必要だと、脳裏に過った最悪を振り払いながらもベネディクトは共に戦場を駆ける『狼』達を見回した。
「……なるほどね、だいたい感覚はわかったぜ。ちとめんどくせーところはあるが、だいたい外と変わらねーなら、やることも一緒だな。
 次は月を落とせばいいってんなら、思い切りやってやろうじゃねえか! 月を落とせる機会なんて、滅多とないだろうしな!」
 空へと飛んで、翼を失っても互いにサポートし合えば良い。月はあれだけ傾いでいるのだから『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)のアメジストの眸がぎらりと獰猛な気配を宿す。
 飛行している最中に翼を失って地へと叩きつけられる――何てことは考えただけでもぞっとしないが、さて。
「フゥンなるほど理解理解。月ね、月、夢、夜、うーん。雅だか優雅だか分からんけど……気持ちよ~く粉砕しよって事ね!」
 にやりと笑った『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)の傍らですう、と息を吸い込んだのは『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)であった。
(……この牢獄は、怠惰の末。もうあの夢は、見たくなんてない)
 仲間達がこうして戦ってくれていた。だからこそ、光が自分をこの場所まで導いてくれたのだ。その安堵を胸にして、リンディスは羽ペンを握る。
「同じ思いをする人は増やすわけには行きません――この先で待ち受ける魔種との戦いの為に。
 貰った希望の光のように、まだ、未来を綴りましょう」
 あの時、黒く染まったページも、傷付けた腕も。まだ、幻肢痛のように感覚だけが残っていた。ずきずきと傷んだ身体。
 その苦しみを他の誰かに味合わせたくは無い。リンディスに「おかえりなさい」と優しく声を掛けた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)ははた、と空を眺めた。
「空に浮かぶ、あの月……のような何か。見た所、これまでの皆の攻撃の効果が目に見えてあるようです。
 もしもあれがこの空間の『核』なら、攻め立てれば更なる変化が起きるでしょうね。
 悠長にしていられる状況ではありませんし……私達も加勢して、一気に畳みかけてみる価値はありそうです」
 此の儘世界から放り出される程に『無茶苦茶』にしてやるのも悪くは無いだろうか。揶揄うように笑ったリースリットに誠吾は「はああ」と息を吐いた。
「月、ですか。まさかアレを? ……ほんっと、何でもありだな」
「だからこそ面白いんじゃね?」
 揶揄う夏子に「月なんて、届かない象徴だろ」と誠吾が肩を竦める。
「ご主人様ならば届くやも知れません。さて、護衛はお任せ下さい」
「買いかぶりすぎだろ」
 淡々と応えるリュティスにシオンが頬を掻き、リンディスとリースリットは顔を見合わせた。ベネディクトは「行くぞ」と号令を掛ける。
 月へ、至近距離へと接近し姿を見せていた守護者をその双眸へと映し混んでからリースリットは「権能そのものを煮詰めたような存在にしか見えませんね」と呟いた。
「ならば、アイツを斃すのみだ」
 ベネディクトが宙を踊るように跳ね上がった。
「お月様お月様 世間一般じゃ、貴方は女性として表現されがちですね――地上で僕とデートしようぜ」
 夏子の軽口と共に炸裂したのは『何時ものタンクの在り方ではない』攻撃の手段。
「まだ、この心がある限り。まだ支え続けられる限り。私は――塗り潰させない、絶望に何て!」
 あんなに、苦しいことはもういらない。道の向こう側に誰かの影が見えた気さえした。
 リンディスは唇を噛みしめてから、堪え続ける。
「さあ、とっとと堕ちちまいな!」
 シオンの声が響く。『地』へ叩きつけられる側はそちらだと云う様に――

「ふぇっ!? あの月、物理的にどうにかできる代物なの!?
 そっか、面倒くさがりのカロンが意味のないものを作る訳はないわよね。
 こんな夢の世界だもの。常識なんて関係ないけど『月を落とす』なんて言葉にしたら冗談みたい」
「まぁ、まぁ! 随分と月が近くて……嫌な感じねぇ。
 生憎と私は月に行ったことがないけれど、どうやら私の魔術は夜に輝く月と相性がいいみたいなの」
『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)へと穏やかに微笑んで見せたのは『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
 月は何かに照らされないと輝かない。紛い物の月ではなく、輝く友人達が『目覚めれば』もっと美しく輝けるはず。
 真に美しい月は何方か比べ合うのも吝かではない――なんて、ロマンチストに笑みを浮かべて。
「どなたかしら。この黒い靄。カロン、ではないのでしょう? ほら、すっかり身体全てで出てらっしゃいな! それともシャイなのかしら!」
「アーリアさん!」
 タイムの呼びかけにアーリアは頷いた。ぐん、と伸びた腕を予期したタイムにアーリアは寸での所で回避する。
 癒やしを贈り支え続けるタイムは天を見上げた。月は随分と落ちてきた。もうすぐ手も届きそう、そんな感覚さえもが過る。
(大丈夫、まだ、まだ戦える――!)
 可愛らしい、なんてものではない。あの靄から感じた強烈な不安は『この世界の中で響いている呼び声』のようだったのだから。

成否

成功


第2章 第12節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
もこねこ みーお(p3p009481)
ひだまり猫
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

「せっかくここまで 来たのですから、退くのは そのときが来たらで じゅうぶんですの。
 さいわいにも、夢魔たちは、わたしの、つるんとしたゼラチン質のしっぽに、惹かれてくれたようですの……ならば、このまま、おしとおしますの!!」
 夢魔達を夢中にするほど尻尾が美味しければ、屹度、自身のおいしさを担保するためにこの世界は『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)のリソースを奪わない。そう考えてから、彼女はつるんとしたゼラチン質のしっぽでアピールをし続けた。
 夢魔達を惹き付ける囮の役目。空から飛び出してきた守護者と月への一斉攻撃の最中、惹き付ける役目も必要だ。
「……夢。か。……煩わしい声だな。この声の発生源も、この夢も。全て潰し、終わらせよう」
 月を狙うのも、敵を狩るのも悪くは無いが『地上』の安全を担保しておくのも悪くは無い筈だと『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)は隈無く目を光らせた。
 タイムリミットは仲間が月を壊すまで。その間までは空戦に特化したルクトも地上での戦闘を優先させる。足下がお留守になれば空戦を得意とする者でも落ち着く暇が無いからだ。危機回避については多少なりとの心得がある。ならば、それを活かして『月』の周辺を掃討するのみである。
「困ったな。普段以上に殺したくて殺したくて仕方がない。
 ……成程。丁度よく、殺しても怒られない相手が居てくれて助かったよ」
 地上でノリアが敵を引付け、ルクトが核諸共掃討作戦を行う最中、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はまじまじと周囲を見回した。
 手当たり次第に殲滅、というのもなんとも非効率的だ。狙うならば核を壊そうと狙うルクトや空を眺めて『うにゃー!』と攻撃を開始する『お昼寝ひなたぼっこ』もこねこ みーお(p3p009481)を狙おうとする夢魔達を攻撃した方がよりよいだろう。何よりも彼等を狙おうとして集まってくる夢魔だ。探索の手間暇さえなくなるのは非常に効率が良い。
「皆もこんな場所で最期を迎えたくはないだろう? 私もうまく手伝えたらいいのだが……」
 その殲滅を心掛けることだけでも、十分に誰かの役には立つ。ルブラットの淑やかなる闇色のミゼリコルディアが慈悲の気配を滲ませた。
 傍らを堂々と駆け抜けたのは『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。その唇が吊り上がる。
「けっ……おれさまとしたことが、さっさと逃げ帰るつもりが随分と深追いしちまった。
 雑魚どもに囲まれてタイミングを逃すたあ、ツイてねえ! だがまあ、もうひと暴れしたりねえのも確かだぜ。
 ――どいつもこいつも寝っ放しのままほっとくのも、寝覚めが悪ィってもんだ!」
 ノリアの周囲に集まっていた夢魔を圧倒的にぶった斬る。振り下ろした山賊の斧がびゅん、と風を切る音がした。
 夢魔達は斃せば霧散する。何とも爽快感が遠離る気がしてグドルフは『詰まらない』と唇に音を乗せた。だからといって止めるわけではない。ならば、幾らでも殴りつけて、叩きつけて、ぶった斬るだけなのだ。
 苛烈な山賊の一撃が地上で振るわれる中、天では巨大な黒猫が――靄で形作られて、その姿が見えてから頭に直接的に響く声が大きくなった気さえするその生き物が――存在して居る。みーおは「うにゃあ」と小さく呟いた。
「う、うにゃ……にゃー! みーおも負けませんにゃー!
 混沌にねこ要素と猫の癒しをたっぷり増やすからには悪い事する冠位魔種ねこなんかに、みーおのねこ心は負けないのですにゃ!」
 例え冠位の外見がどれけ可愛い猫さんでも。みーおは容赦しなかった。いざとなればねこぱんちでもねこきっくでも使ってみせる。
 悪い猫はお断りなのだから、無数に降り荒む驟雨。みーおはまじまじと狙いを定める。一弾一殺。その攻撃は最早届くよりまで遣ってきた。
 それでも、月はまだ空だ。ならば、空へと向かう者の『道』を確保するのも地上で戦う者の役目か。
 ひらりと躍る様な仕草で無駄な動作などなく『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は夢魔へと距離を詰めた。
 雪村に伝わるその徒手空は優美に、靱やかに。その隙を作り出すことはない。するりと夢魔の腕を取り、地へと叩きつける。その動作を『忘れた』様に感じたならば、踏み込みからの痛烈な一撃をお見舞いするだけだ。
 誰かが空へと登るならば自身は大地から。そんな当たり前を極めるように。沙月は自身を鼓舞し続ける。
(私は私に出来ることを――出来ない部分は誰かが補って下さいますでしょうから)
 そう言って見上げた月。生存を優先する『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は「Nayhahahahaha――」と常通りの嗤い声を響かせる。
「月に棲むのは猫か蟾蜍だと私は理解している。奴等は槍を構えて拷問を愉しむものだ。
 悪趣味に見せ掛けた悦ばしさ、混ざる機会だ。失せた物語を埋めなければならない。枝分かれを嫌悪していたのは過去の話だ」
 落ちてくる月の欠片。姿を見せた猫の靄。黒き姿は蟾蜍程醜くはないが猫と呼ぶには余りに醜悪だ。
 ぎょろりと動いた月色の瞳だけがその猫を猫たらしめる。オラボナは防衛力を活かして月を狙う仲間達や、地で戦う仲間達を支えると決めていた。
 近くに眠りの核が落ちているというならば、それを破壊するだけだ。天の月は美しいとは言えまい。その光をまじまじと眺めながら『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は地上の核を叩き割った。
 翼がある者は空へ。地を這う者は月の欠片を拾いを拾い集める。何とも不可思議な光景だ。眠りの核は意思を持たないのであろうが『意思を内在し』ているのは確かなようだ。故に、其れを破壊すれば周囲にけたたましくサイレンのように響いた声が中和され彼等は檻から抜け出せるのか。
「まるで生命力を閉じ込めた果実だな」
 嘯く唇は吊り上がった。力を貸そうかと声を掛ける『友』へと首を振ってから愛無は地上を直走る。粘膜の腕を振り上げて、空から降った月の欠片全てを粉砕するように。
「おやおや、またこちらの方に戻って来れましたか。ま、やれるというのであればまた遠慮なく、少しでも暴れさせてもらいますかね」
 パンドラなど犬に喰わせておけと『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は呪詛の鎖と死滅の槍を組み直したナイフを手繰り寄せた。
 月へと向かう仲間達を狙う夢魔の横面を殴りつけ、地を踏み締める。只躍るだけでは勿体ない。華やかに舞うならば魅せ付けてやれば良い。だが、バルガルの攻撃(おどり)は見世物ではなかった。
「ついでに死んで下さいませんかね?」
 切り刻んで、うがち貫いて。鎖で締め潰して。その動作の行き着く先は全てが全て『殺す為』
 殺意滲ませたバルガルと対照的に静かに愛らしい少女人形メアリと可愛らしいうさぎの女の子オフィーリアに語りかけた『春の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は「ねえ」と囁くように問いかけた。
「『夜の王』の足止めとか『夢の牢獄』とか、あちこち付き合わせちゃってごめんね。
 この戦いが終わったら君達の新しいドレスを作るからさ、もう少しだけ手伝ってくれたら嬉しいな」
 メアリは屹度「やったあ」と喜ぶだろう。オフィーリアはどうせなら花柄のドレスが良いとおしゃまにお強請りするだろうか。
 リュカシスにただいまとごめんねを伝えたい。だからこそ、この場をどうにか凌ぎきりたかったのだ。
 可愛いメアリは凜として、愛らしく踊る。彼女と共にあるならばイーハトーヴは挫けることはない。空へと向かう仲間達。その中に友人の姿を見付けてから、頑張って、どうか、その翼を遮る物なんてありませんように、と願うように癒やしの術を唇に灯した。

成否

成功


第2章 第13節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
悲劇愛好家
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン
冬越 弾正(p3p007105)
終音
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
倉庫マン(p3p009901)
与え続ける
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート

 ――トモダチの支えがその身体を包み込む。
 それは、どれ程に嬉しいことだろうか。『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)はにまりと笑う。
「さあ、月が大きな眠りの核だったのですね・アレ。ということは、本当は月じゃないのかな?
 ……まあいいや! それはきっと後から分かるコト! 月には守護者がいるそうですが、まとめて引きずり下ろしてやりましょう」
 月でも核でも構わない。姿を見せた守護者事纏めて引きずり下ろして全てを破壊すれば良い。
 一回では無理でも難度でも何度でも繰り返せ。唸れ全力。走れ。自分の肉体はヤワではないとリュカシス走っているのだから。
「さて。少しうたた寝してしまいましたが、気を取り直して出発致しましょう。
 月を落としにかかる話があり、それには飛行能力が欠かせない――ならばこれらのアイテムの出番です」
 誰かの役に立つために。複数の飛行手段を用意して支える術は準備してきた。『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)はソウコガジェット:ソウコエアフォースを仲間達へと配り歩く。
 空飛ぶ翼を失ったならば、それを有して飛び上がれば良い。倉庫マンは転た寝の傍らに然うして装備を調えてきた。
「お任せ下さい」
 堂々と告げた倉庫マンの眼前に黒い靄の腕が伸びた。にゃあとでも鳴くように伸ばされたその腕に「おおっとー!」と声を上げてから『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)はひらひらと手を振った。
「お月様って手を伸ばしても届かない所にあって、それが当たり前だったじゃん。
 こんな事になるなんて、特異運命座標ってすげーな。反転しないように守ってくれよ、幸運の女神サマ」
 それからケイク=ピースメイカーにもウィンクを一つ。もしも誰かが地上に落ちそうになったならば、ケイクが支えて遣って欲しい。
 彼女は命を賭してでも、どんなピンチになってでも『包容力が高い』軽空母として地上で帰還を待っていてくれるのだから。
「それにしても冥夜は元気だね…いま何歳だっけ? ジュート、ちょっとアクの強いのばかり揃ってるけど気にしないで。キミも充分そうだから」
 うーん、と呟いたのは『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)。ジュートは「地味じゃない? やったー」と何故か喜ばしそうである。うんうんと頷いて見せた『悲劇愛好家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)はちら、と『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)を見詰めてから嘆息した。
「馬の骨は妙にしぶといところがありますよね。なんとかは疲れに気づかないと言いますか……まぁ、幾ばくか空元気の足しにはなるでしょう」
「おい悲劇野郎、それ絶対馬鹿っつってんだろ!?
 カティアはナチュラルに辛辣だし、ジュートもそれ、褒められてるのか微妙なところなの分かってますか?
 ……全く、貴方達へのツッコミをしている限りは、反転する余裕がなさそうですね」
 馬の骨(冥夜)に悲劇野郎(クロサイト)。それだけ軽口を交わし合えるのならばこの空間では怖いものなしである。
「旅人が持っていた文献での話ですが、月の裏側には見た事もない都市が存在して、月の怪物が済んでいるという話もあるそうですよ。
 その性格は残虐なのだとか。ふふ……楽しみですね」
「だからこそ、この呼び声か? 随分なシチュエーションだと思わないか! 悲劇野郎!」
 叫ぶように問うた冥夜はいざともなれば翼を失ったレディをエレガントにエスコートするために気を配り続けて居た。
 楽しげな『悲劇野郎』は地に落ちろと嘯けば、地上でケイクが大丈夫だと手を振っている。
「これが普通の地上と月なら、光が嫌いなのかな? って思うところだけど……ここは夢檻、現実とは違う空間だからさ。
 ああ、守護者が裏に張り付いていたのは隠れていたのかな。『この世界を保つために』とか」
 そう言う役目をカロンから『権能』として渡されていたとするならば納得できるな、とカティアが小さく頷いた。
 冠位魔種は権能を分け与えることが出来るらしい。故に、守護者も分け与えられた夢魔の一種であるならば。その姿を隠してカロン・アンテノーラの『呼び声』を伝播させるための基点となっていた可能性もある。
「……俺の故郷の伝承では、天より落つる兇星が──いや、今は関係ないな。
 練達では、3発殴って隕石からヒトを救うヒーローの話が……げーむせんたーで……行こう、皆、弾正、あの月を叩きに」
 はっとした『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は月を叩き落とすならば、と全員で同じ場所を攻撃しようと提案した。
 頷いたのは『残秋』冬越 弾正(p3p007105)。月を攻めるならばこれを纏めて題材にゲームを作ってほしいものだ。
 さぞロマンチックな出来になるだろう。月をも落し天蓋から見下ろす地上はどれ程までに美しいか。
 弾正とアーマデルは息を合わせる。
「さあ、行くぞ、弾正。プランDだ!(DはDANJOUのDだぞ)
 ――ぬかるみに嵌った馬車を押す時、タイミングを合わせ、一斉に力を込めるだろう?」
「ああ! 分かったぞアーマデル、プランD(DYNAMICのDだな)!」
 二人の意思は少しずれていたが問題は無い。アーマデルと弾正は『守護者が顔を出していない部分』へと攻撃を叩きつけた。
 それはカティア、クロサイト、冥夜、ジュートとて同じだ。地へと誘うように叩きつけた其れが傾ぐ――否、地へと近付いた。
「美しい光だねぇ、最高の夜だ。だが、夜っつーのは朝が来るからいいのさ。
 ”ツキ”を落とすのは縁起がわりぃが、そういう役回りは得意なんでね。さぁ、寝かしつけてやるぜ!
 ――グンナイベイビー……いや、グッドモーニングかな?」
 にやりと笑った『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)。月を捕らえるなんてロマンチストな出来事が怪人にもやってきたのだ。
 月はもうすぐ落ちてしまいそうだ。双月暗黒斬。その第一刀。それは月を盗むが如く叩きつける金色の技。
 月の光を奪い去る暗黒を。
 後少しで齎される夜を求めるようにして英司は双怪刃『煌月・輝影』の刃を閃かせた。

成否

成功


第2章 第14節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
リサ・ディーラング(p3p008016)
蒸気迫撃
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
霞・美透(p3p010360)
霞流陣術士

 今更引き返すものですか、と『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は叫んだ。
 鳥籠で少し休憩を。右目が灼けるように疼いたとて気にしている暇なんてない。止まれない理由が十分ほど合った。

 ――だって、よく考えてみましょうよ。
 あの子……プルーさんだって幻想種。詳しくは聞いていなくっても、彼女だって『この森が故郷』である筈なのだから。

 美しい緑色の髪を揺らがせた色彩の魔女。彼女の故郷の眠りを覚ますためにも。ジルーシャは唇を噛みしめる。
「あと少しだけ、アタシたちに力を貸して頂戴な、大切なお隣さんたち」
「ジルーシャさん!」
「ふふ、大丈夫よ。精霊との契約は代償を伴う。知っているの……知ってるわよ。
 全部終わったら……アタシのぜんぶ、アンタたちにあげたって構わないから」
 其れだけの決意があるとジルーシャは『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)にウィンクした。
 余力は回復したスキルが失われようとも、戦う力と支える力を分け、そして戦うだけだ。
 淡く、光は魔力となってスティアを包み込む。ここから先に、進むだけだ。あの姿を見せている守護者諸共大地へと叩きつけるために。
『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)は「かかっ…かかかっ、かーかっかっ! 予想は大当たりって訳だ!」と手を叩いた。
「あっ、俺の魂が沸る限りぃ! 動く手足がある限りぃ! 月も夢も絶望も! 壊してみせるぜ、漢道!
 心は1つ! 髭は8つ! 名乗るは蛸髭! ――さぁ、殴って、殴って、殴らせてぇ、もらうぜぇぇぇぇ!!」
 その意気やよし、と扇子をバサリと開いてから『殿』一条 夢心地(p3p008344)は大仰に笑った。
「夢に囚われ過ぎるのも考えもの。うつし世にて、夢心地であるくらいが理想の心持ちよ。
 麿が剣にて、世界もろとも両断してくれようぞ。なーーーーーっはっはっは!!」
 月へと迫る。夢心地シャイニングはきらきらと月を照らし守護者諸共光の中へと包み込む。今、此処に太陽が昇ったと知らしめるのだ。
「月世界旅行に準えて、どうやら巨大砲撃を叩き込む『真似』ならできそうね?」
 くすりと笑ったのは『狐です』長月・イナリ(p3p008096)。その視線を受け入れてから『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はこくりと頷いた。
「こんな人に災いを振りまくためだけのモノが美しい扱いなんて冗談じゃないのですよ!
 こんなのさっさとぶっ壊すに限るのでして!! 届く位置にあるのならそれはもうただの月っぽい大きいボールなのですよ!」
 月っぽい悪趣味なボールから猫のおててが覗いている。そんな『可愛いなんて言えない』状況に「ずどんと落ちるのでして!」とルシアは叫んだ。
 この月が地上に落ちてきたならば、月とは呼べない。只の『殻』だ。月のからから産み落とされた黒い靄も霧散させるに限る。
 真っ直ぐ、ど真ん中。イナリと標的合わせて――叩き付けるは最大火力。
「羅睺は星々を喰らい、月食や日食を神々の名!故に、月食の如く、綺麗に月を喰らい、粉微塵にしてあげるわ!」
 イナリの声が響き渡った。切り伏せるように天より叩きつける。月は支えを失ったように地へと近付いた。
 ルシアは今こそと魔砲を放った。
 ――支えることならば得意だ。『霞流陣術士』霞・美透(p3p010360)の陣術は眩い光を帯びる。
 関わる時間は少なくとも、この国の翠は心地よかった。まだまだ、沢山の思い出を作ることの出来る場所だ。だからこそ。
 美透はこの地を護る。
「並び立つ仲間が多いほど、霞の陣術は輝くものさ。さぁ、我らが意気をかの月に示せ!」
 錫杖から広がっていく陣術が戦意を強烈に支援する。霞流はを誰かを支える為にある。人を支えて、人を勇気づける影日向。
 だが、それこそが戦闘に必要であると彼女は知っていた。
「お願い、お願い、お願い。どうか落ちて――とっとと、落ちろ!」
 ジルーシャの声が響く。
「いっけー! 落ちろー!」
 スティアは拳を振り上げた。
「──気づいてるか、冠位魔種。俺は当然諦めねぇ……だが、もしも俺が力尽きたとしても、お前が悲劇の根源なら俺のダチ達は絶対にお前を倒すんだぜ」
 奇跡なんて『この場には必要ない』。プラックは其れだけを為せる力をもう有していたのだから。
 其れを何と呼ぶかスティアは知っている。夢心地とて「助力しようぞ!」とからから笑って手を差し伸べてくれるはずだ。
「もはや月の出る夜は終わり、人は目覚めの刻を迎えた。夢心地・サンライズ・ブレーーーーーーード!!!!」
 きらりと輝いた夢心地の一刀。上段斬りは眩い太陽のように光を帯びる。
 命を賭ける手段があるならば、それを宣言するだけの度胸。決意。敢えて言う。
 無数の騎兵を引き連れた彼女が『何時だって口にした』その言葉を。

「――俺がそう望まれる! SET、BBG! 今こそ、必殺の! ブリッツボーイ・デイブレイクゥッ!」

 月が、堕ちて行く。眺めてから『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)はヒュウと掌を立ちアタ。
「足元を固めることも肝要! だから夢魔共は私が蹴散らしてやる! その分そっちの月の方は任せたっす!
 パンドラなんぞ気にするか! テメェら吹き飛ばせるなら上等!」
 命なんてこの際気になどしなかった。技術者の夢が、全てを吹き飛ばすのだ。降るのは鋼の驟雨。好き勝手されるなんて堪らない。
 リサの弾丸に重なったのは『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の銃声。大嵐のように響いた其れは落ちてくる月から毀れ落ちる守護者の腕を穿つ。

 ――飛べるか? 折角の夢だってのに制限だらけで夢がない。怠惰の冠位ってのは夢の中でも寝てるだけなのか?

 飛ぶ翼は仲間達と共にあれば、直ぐにだって手に入った。落下予測地点へと声を掛ける。「いくぞ!」と。
 ラダの声にリサは頷いた。無数の弾丸、眠たげな守護者。夢魔達の穏やかさ。
 此処の微睡みは怠惰。怠惰が作り出した空間だからこそ『怠惰でいられないラダ達』の方が上手であった。
 ギィン、とラジオノイズのように頭の中に入り込んだ声音は守護者が発したのだろうか。銃の引き金の引き方さえも忘れそうな勢い。
 それから逃れるようにしてラダは「静かにしておけ」と音響団を投げ込んだ。
 音が縛り付ける。地へと叩きつけられた守護者に「ざまあみやがれ!」と叫んだのは決意の嵐、プラックであった。

成否

成功


第2章 第15節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

(長くいれば……いる程、呼び声も鮮明になっていく。
 ……でも。諦めない気持ち、おれも変わらない。手放す……したくない想いは、此処にもあるのだから)
 そう、願い指を組み合わせて。『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は空を見上げる。
 空に浮かぶ月も、その中から飛び出した守護者も。惑わせる声も。この世界は張りぼてだらけ。
 月へと向かうチックの傍らには『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)の姿があった。
「なるほど。良き目覚めには良き朝を迎えたいもの。
 不穏な月は打ち落としてでも太陽を呼び込むつもりで行きましょう」
 そう口にしていた彼女は堕ちて行く月をまじまじと眺め遣る。靄だ。実態がない守護者――故に『それを斃す』事は難しくは無さそうだ。
(魔法も機械も存在する混沌世界ならではの戦法と認識しておりますれば。
 この世界の多様性を尊重し、同じく世界の為に戦う皆様に思いを馳せ――夢檻に囚われた皆さまの無事と解放を願いながら狂気に抗って見せましょう)
 マグタレーナはそっと胸に抱いた思いを力に変えた。白き翼で空を駆ければ、恐れることなど何もない。仲間達が居るだけで、何処までも駆けて行けるからだ。
「……月、落ちる……。この牢獄、……あの靄を消せば……」
 消える、と囁いたチックの白き燈火は真白の旋律となって響いた。灯籠の明かりのように、それは迷える魂を導くが為に。
 永久の眠りを遠ざけるオラシオン。命を摘む術を避けるチックはうすにびいろの庇護欲が伽藍堂に揺らいだ鳥籠を握りしめる。
 ――願うたさいわい。祈りは遠く白夜の涯てへ。月が、堕ちて行く。ゆっくりとしたスピードで、スローモーションにも思える穏やかさで。
「個人的には、夢で終わって安堵したがな」
『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の言葉に「あら?」と『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は笑った。
「なかなか様になってたじゃない」
 無数の『願いを受けた自分』の姿を見た彼はどの様に感じただろう。ふと、そんな事が頭に過ってからイーリンは笑った。気の置けない相手とは、斯うして月に臨むときに何も考えなくてもいい相手。本音を紡ぐ相手でしかない。
 レイヴンにとっては二つの意味での安堵だった。一つは自身の反転。全てを放棄した反転など悪夢そのものだった。
 もう一つはコロコロと変わる彼女の朧気な姿。願いが可能性を広げた後――広がりきったその向こうに待つのは不安定な存在の拡散による消失ではないか。
「レイヴン、私は亜竜を討った。貴方は、竜に一撃を加えた。私は、貴方の力を最大に信じる」
「さて信じる、と言われれば応えるしかあるまい」
「見せてやるわ、私達が月(しゅごしゃ)をも穿つ――」
 燐光が纏わされる。ああ、彼女はどの様な状況であれどラ・ピュセルを揺らがせる。流石は隊長か。
 だが、レイヴンは負けては居られないと唇を吊り上げた。
「どうあれ……一番翼を名乗る以上、何者にも空で後れを取るわけにはいかん。隊長相手でもな」
「スキル総入れ替えで万全。ココロ、皆、今追いつくわ!」
 叩き込む。ワイバーンと共に空を駆け、上空から『月を叩き落とす』が如く。
 迫り来る月。オツなものだろうと『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は口笛を吹いた。
「まあ、怠惰が作り出した偽物なんていう状況じゃなければな。月に住むのは御伽噺のかぐや姫かウサギあたりだと相場が決まっている。
 紛い物の月には堕ちてもらおうか。それに……オレにとっての月は秋奈だけだしな」
 自分の月は真っ直ぐにその腕の中に落ちてきてくれる。だが、この月を抱き締めるほどに紫電は優しくは無い。
 継続して戦っているからこその疲労が、自身の攻撃能力を、全てを奪い去って行く。だからどうしたというのだ。月が落ちていって居る。
 もう、地上が近い。地を掃討する仲間達が受け入れてくれるなら――叩き込め。
「ッ――はぁ!」
 飛ぶ翼なんて、最早必要としない。
 永き夜は無(いま)だ明けず。行き過ぎた善性は光を奪い、明けることのなき夜へと真実を隠す。その刃は、只閃いて。
「来るよ!」
 声を掛けた『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)に『プリン天使』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が「月ガ!?」と顔を上げた。
「主ト見タ 月ノ方ガ ズット綺麗」
 月が落ちてきたならば、その後の戦線の立て直しも自身等の役目であると『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は瑞花をその背に状況を立て直す。
「……うむ。あのツヤ、大きさ、何ヨリも輝き……確かに新プリンの材料に良さそうダナ! きっと凄くて美味いのがデキルぞ!」
「……プリン? ン。主モ好キダッタ。美味シイヨネ」
「落ちてきた! あの輝きを拾いボウルにブチ込んで混ぜるダケだ!」
 勢いの良いマッチョ ☆ プリンにフリークライが首を傾げるが――ンクルスは落ちてくるなら、受け止めて、味方を支え続けようと楽しげに笑った。
「ウケトメルぞ! どれ、早速……お、おお!? こ、これはなんという、味ッ!! ――アイム☆フライング、プティイングッ!!」
 腕を広げてマッチョ ☆ プリンが月の守護者を受け止めた。浮遊した肉体の儘、ゆっくりと落ちてきた月から毀れだした守護者の靄をその両腕が受け止める。
「シスターさんは挫けぬ折れぬ倒れない! ――何故なら創造神様の加護があるからね!」
 支えるよとンクルスが願う、。月の守護者に対して叩きつけたのはゴットクロー。シスターは勢い良く神業(ぷろれす)を仕掛けた。
 靄の様にも思えた守護者に仕掛けた攻撃。フリークライは直ぐさまに仲間を立て直すために圧倒的支援を行った。
「ミンナ 疲労ダメージ 激シイハズ。ソコヲ突カレテ 壊滅セヌヨウ トニカク初撃 凌グ&立テ直ス。
 情報皆無 最初 一番怖イ――凌ゲバ 次 繋ガル」
 守護者の靄が僅かに霧散する。猫の形をした其れが覗かせた月の色の瞳は酷く、歪な音色のように呼ぶ声を響かせた。

成否

成功


第2章 第16節

サイズ(p3p000319)
妖精■■として
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

(妖精女王様が行方不明……俺がもっと妖精郷の事をよく知っていたら、存在を知っていた妖精の秘術を阻止できていたのだろうか……?)
 悔しげに『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は呟いた。妖精女王は『外』には出られないという。だが、彼女は外に飛び出した。
 女王の証を侍女のフロックスの元に残した理由は。彼女は何処に行ったのか。
 妖精郷のために戦ってきたと言えど、彼女達の事情全てを知っているわけではない。フロックスに全ての話を聞きに行きたくともアルヴィオンへの道は全て閉ざされた。
「くそ――!」
 サイズは毀れ落ちた月の欠片を破壊し続ける。そうすることで妖精達を眠りから醒ます事が出来るはずだからだ。繰り返し、繰り返し攻撃を重ね続ける。
「ステラ、起きない……ステラー……どこー……?」
 眠りに就いてしまった友人の顔を見て『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はぞっとした。真白に染まったその顔がどうしようもないほどに死の気配を感じさせたからだ。
「核を……こわす? ……あれのせい? あのお月様のせい……? あの守護者ってひとのせい……? ゆるせない……ゆるせない……!!」
 返して。つれていかないで。声を響かせれば、屹度、ともだちは応えてくれる。
 リュコスは核の音を聞く。地へと叩きつけられた月から飛び出した守護者がぐん、と手を伸ばした。
「ひっ」
 恐ろしい靄のようにも見えたそれは猫だったか。逃がさないと追掛けるリュコスの直死の一撃が靄を『壊す』。叩きつけた攻撃への実感はつるりとした陶器にも似ているようであった。靄の塊が罅割れたような感覚。
『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は「ねこさん?」と首を傾いだ。猫、まるで冠位魔種にも似た黒い猫だ。深緑や混沌に悪い事をする猫さんにも良く似た姿。
「すごい、声が響く……僕に怠惰な所があってもここで寝る気も怠ける気も全くない。
 深緑の幻想種さん達や普通の猫さん達の為にも、悪い猫さんなんかに負けないから。みゃー」
 悪い猫さんの夢から皆を覚ますために。祝音は駆ける。黒い靄を、守護者を此処で打ち払うが為に。
「夢の檻の力を削ぐ、ために。繋いでいかなくては、ですね。……呼び声の力が、響いて、すこし、苦しいです、が。こわい。こわい、けれど」
「諦めない。みゃー」
「……はい。あきらめ、ません」
 小さく頷いた『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)は少しでも月を削り、守護者をざくざくがぶりと行く為に『羊のきば』を突き刺した。
 不可視の刃は鋭く叩きつけられる。夢の世界。誰かが言っていた――念じればその通りになるかも知れない。
(守護者は、イレギュラーズで、たおします)
 そう願ってきたからこそ、守護者はこんなにも易く罅割れるのだろうか。諦める気など、誰にもなかった。
 メイメイは恐ろしさを振り払うように守護者と月と戦い続ける。

 ――言ってしまうその背中を追掛けることが出来なかった。
 何もかも全部、背負って行かせてしまった。行かないで、といえなくて。泣き出しそうになった涙を呑むことしか出来なかった。
『灯火を求め』蜻蛉(p3p002599)は月のように彼女の傍に寄り添って、灯りのような笑顔を護りたかっただけだった。
「……ッ、クラリーチェお姉さん。ルシェもすぐ近くに居たのに、何も出来なかったわ……。
 クラリーチェお姉さんが何を願っていたのかルシェは知らない。でもね、今は泣く時じゃないの。
 立って、前に進む時――進んだ先に、きっとクラリーチェお姉さんもいるから。だから、一緒に頑張りましょう蜻蛉ママ!」
 ぐしぐしと涙を拭ってから『桜花の決意』キルシェ=キルシュ(p3p009805)はそう言った。
「……キルシェちゃんありがとう……うち、頑張ります。娘ちゃんの方がよっぽどしっかりしとります。
 ええ、進みましょ……何としても、逢わなければ」
 クラリーチェがどのようになろうとも。結末は分からないから。
 何処かにいるはず。どの様な形であれども、助けになるように。蜻蛉は進むと決めていた。
「楽しい夢の時間はもうおしまい。
 辛いこともあるかもしれないけど、起きて、現実で素敵なことを探す時間よ。さぁ、みんな起きて!」
 謳うように囁いた。蜻蛉の髪で揺らいだのは月明かりで仄かに光を宿す花簪。
 灯火。彼女の気配。
 しあわせであって、と願ってくれたその言葉に――『あんたもよ』とは言葉には出来なくて。

成否

成功


第2章 第17節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

「一度囚われたからこそ……この場所でも強く心を持てるような気がします。
 多くの人を目覚めさせるためにも…そして怠惰へ打ち勝つためにも……戦い。私、これでも結構負けず嫌いなんですからね?」
 ――あの時見えた『私』は何だったのだろうか。『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は首を傾げる。
 守護者に狙いを定める。マリエッタの片腕に刻まれた乙女の聖血の印が魔力を宿した。活性化した死血の呪印さえも今は明るみに出る。
 死血の魔女が編み出した魔術の一つ。マリエッタの血潮から作られた大鎌は鋭い太刀筋で守護者を切り裂いた。
 ――がしゃん。
 まるでガラス細工のように靄が崩れる。その刹那に響いた声が脳を揺さぶった。
 ――がしゃん。
「ッ、恐ろしい声音ですね。ええ、ですが……カロンとの戦いが本格化するのであれば、これからも夢檻に囚われてしまう方が出るでしょう。
 であるならば、私は引き続き、眠りの核の破壊に努めましょう。私が大切に思う方々の背負う危険が、少しでも減るように」
 願うようにして『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)の泥の光輪が魔力を灯した。
 汚穢の鎧をその身に纏ったサルヴェナーズは呼び声や、其れ等全てから護るようにマリエッタを庇う。
 泥のように溢れ出した『怠惰の声』
 酷く、身を包み込まんとする逸れにサルヴェナーズは息を呑む。
「なんて、酷い――」
 魔眼が魔力を帯びた。幻影魔術は汚泥のような声を打ち払う。大蛇の群れが濁流のように溢れ出した。
「かはは! 寝てる間に楽しいこと起きてるじゃねぇか!
 月が落ちた? 中から出て来た守護者が呼び声ばっかり叫んでる? 荒唐無稽な無理難題! 寝起きにゃ丁度いい目覚ましってな!」
 シュート/ザ/ムーンを達成したならば、鳥籠を避けて落ちた月を切り裂くだけだ。
 漆黒に染まる絶望の大剣を振り上げた『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)はギャンブラーらしく『賭け』に出る。
「連れて行きたいなら然うして見ろよ木偶の坊!」
 ――がしゃん。
 剛毅なる斬撃は守護者の靄を打ち払った。地を蹴った。そしてその勢いの儘叩きつけるはウィール・オブ・フォーチュン。定まらぬ運命の輪の轍の如し。
「ああっ、もう! やっぱメテオスラークがどうとか言ってる場合じゃねーじゃんかよ!!! もう!!!!
 廃滅病の時のリアもそう!!! しってたけど!!! リアはリアでベルゼーに居合わせてるし!! 人に御守り託してる場合じゃねーだろ!!」
 ぎゃあ、と叫んだのは『ゴミ山の英雄』サンディ・カルタ(p3p000438)。
 リアの母親がどうだとか、シキが眠りに囚われただとか。そんな『アニキ』を放置して好き勝手。
「……ま、言っても仕方ねぇ。レディにゃ振り回されんのが『サンディ・カルタ』だ。止められるわけがねぇ。
 せめてシキが自由に戻れるように帰り道でも作りながら、後を追っていくとしようか」
 シキならばひょこりと戻ってきて笑っているだろうか。それならいい。ならばアニキがその背中を追掛けるだけだ。
 サンディ・カルタ。自分の過去の記憶も半端で、魔術の世界に碌に縁が無い自分には『夢』なんざ歩き方を知る由もない。
 少しばかり教えてくれと『声を掛けた』相手はコツを教えてくれた。
 曰く、好きに動け、だ。
「ンなの、分かってるよ、クソ――!」
 好きに動けというならば。上等だ。守護者が出て来た。そのツラを拝んだ。
『最期に映した男』キドー(p3p000244)は「千尋君、行くぜ?」と唇を吊り上げる。
「おうよ、デカブツに気を取られずにチクチク地道に遣ってきた甲斐があったぜ!」
『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は同じように意地悪く嗤って見せた。
「だろォ~? キドーさん。俺ってやっぱり冴えてると思うんだよな。
 どのスキル忘れるかなんてわかんねえから、使える限り最大威力のスキルを使っていく。そろそろ腕のマジックも消えてきちまう頃だろうしよ」
「油性で書いてないのか?」
「水性しかなかったからな! ケド構わない、行くぜ!」
 悠久の風のように。キドーと千尋が走り出す。手当たり次第分かる攻撃を叩き込め。
 色宝であった藍銅色のネックレスが光を帯びた。ファルベリヒトの力が失われていても、精霊との約束がキドーを導くはずだから。
「ッ、壊れちまえよ!」
「いい音聞かせろよな、デカブツ!」
 髑髏型の指輪に魔力を灯して千尋は疾走(はし)った。奇跡を信じるように、街の亡霊は全てを穿つ――

 ――にゃあ―――――ん!

「喧しい!」
 キドーのナイフが深々と守護者に突き刺さった。周囲を払うサルヴェナーズ囁きが響く。
 それが何だったかは分からない。だが、決め台詞は決まっていた。千尋はド派手にクールに決める。
「――GoToHeLL! だぜ、デカブツ!」

成否

成功


第2章 第18節

シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

「うーん……守護者かぁ。月を落とせばそれで全部終りってわけにはいかないみたいだね。
 そもそも月を攻撃すれば襲って来るんじゃなくて、月を落としたら襲って来るって事は、月以上の目標が何かあるか、その守護者自体を倒さないとカロンの権能を弱める事ができない可能性もあるし……」
 つまりは、この守護者を斃しきる。あと一歩。猫のような鳴き声を上げて酷く歪な呼び声を発する其れを前にして『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)は赤い月諸共守護者に言霊を放つ。

 ――信用して欲しい。

 そう告げたのはライアム・レッドモンドであった。幼い頃に笑って世界を教えてくれた『兄さん』
 血の繋がりが無くったって、妹のように可愛がってくれた彼を前にして『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は真っ直ぐに向き直る。
「……兄さん……話したいこと、紹介したい人、いっぱいいるんだ。でも……今はのんびりしていられないよね。
 どんな相手でも、みんながいればきっとなんとかなる。だから、行ってくるね! 待ってて! 兄さんが開いてくれた道は、必ず繋いでみせる!」
 気をつけてと送り出してくれるその声が、アレクシアにとっては誇りだった。
 貴方と共に走れる未来を、どれ程までに焦がれたか。
「……やっぱさ、お互い見慣れた姿がいいよ。こうじゃないとね。またおかしな姿になる前に反撃だ。
 アレクシアの兄さん――ライアムに残されてる時間も分からない。手間取ってるわけにはいかない。あと少しだ! 行こうか!」
『竜剣』シラス(p3p004421)へと『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は頷いた。まだ眠い。少しだけ重たい身体を引き摺って早くのんびりと眠る事を夢想する。ああ、けれどそれは全て終わった後で。
 自分の根っこにあった姿を見せ合ったのだから余り悪い気はしなかった。ライアムが心配そうにしていたことを思い出す。
(――なあに、心配は要りません。ぼくは、彼女の騎士だから)
 なんて、揶揄うように笑った未散にライアムは「頼もしいね」と笑った。その笑顔もおひさまのようで、ああ、彼と彼女は良く似ている。
「ふふ」
「未散君?」
「……いいえ、太陽が月を喰むとは揶揄しやしましたけれど、まさか落とす事になるとは」
「其れが落ちてくるともね」
 シラスが揶揄えばアレクシアは頷いた。迷う事なんて、何処にもない。
 怠惰は罪か。齷齪働いて身銭を得る事が美徳か。其れを問うなんてナンセンス。未散は睡るのが好きだ。でも悪夢は懲り懲りで。
「冠位魔種を倒して、深緑に平和を取り戻す! そのために後少しの所まで来たんだ、もうこんなところで立ち止まってはいられない!
 だから、こんな牢獄くらい、壊してみせる! 照らしてみせる! 私の魔法で! みんなの想いで!」
 守護者が罅割れる音がした。綺麗だ、硝子が赤い色を帯びて砕けて行く。
 響いた呼び声なんて、遠くに消え去るようだった。これだけ大きな月だったのだから、出てくる守護者も大きな猫だったのに。
 今はもう、小さな小さな子猫のようで。
「月を落したなんてさ、後でお兄さんに絶対に自慢できるぜ?」
 揶揄うシラスにアレクシアは嬉しそうに笑った。にゃあ、と『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は鳴いてみせる。
「猫の手も、と云ったところでしょうか。幾ら手があったとて、多すぎることはないでしょう。
 それはどちらも、皆同じだったという事で――」
 こてりと首を傾げてから、ひらりひらり。アッシュは舞った。暗夜の蝶々は淑やかに躍る。
「怠惰な眠りの如く、人を底無き微睡へと引きずり込む其の権能。
 もとより、薄氷の上での闘いなのです――此処で此れを絶たねば、沈むは必定でしょう」
 アッシュの攻撃にアレクシアの魔法が交わった。シラスが走る。その拳は月も、何もカモを打ち破ると宣言していたから。
(恰好良いな、追いつきたいな)
 未散はそうやってシラスとアレクシアの背中を見ていた。並び立ててるとは未だ云えないけれど、寄り添う位は出来て居たなら嬉しいもの。
 ――魔種とは何だったのだろうか。到底、計れやしなかった。
 それでも、信じられることがある。アレクシア。君の勇気が戦いを照らしてくれるから。
 どれだけの代償を払っても、彼女は屹度走って行ける。なら、せめて道を塞ぐ奴は俺が取り去ってやるだけだ。
「邪魔するんじゃねえよ」
 声を聴く。
 アッシュの耳を劈いた怠惰の声。猫が、駆け抜けて行く。
 その背中を追掛けて。
「月はもう、失われましたよ」
 月ごと、疾うに破壊し尽くした。
 月の欠片が砕ければ、それは『夢の牢獄』を揺らがした。
 Я・E・Dが云う様に子の守護者は『夢の牢獄』のカロンの権能の一つを持っていた。
 月に寝そべり、月に張り付き、月と同化し――この月を源にその権能の強さを保っていた。
「此の機会の為に、命を賭した人々は決して少なくはありません。
 其の想いを、無駄には出来ないのです。ですから……此処で折れるわけには」
 アッシュは小さな猫の前で膝をつく。銀の刃は、羽ばたけば朱が咲いた。今は、欠片のように罅割れるその守護者にナイフを突き立てるだけ。

「――根競べはこちらの勝ちですね」

 がしゃん、と音がした。世界が揺らぐ音だ。

「アレクシア! 皆! 早く外へ!」
 ライアムの声が響いた。扉の『鍵』は壊れたか。夢の世界の大地が罅割れた。
 権能は全てが全て『無くなった』訳ではない。流石に冠位魔種は『全てを渡した訳』ではなかったのだろう。
 無数に『夢檻』へと閉じ込めんとするその声はこの世界の夢魔達と月の守護者の声が幾重にも重なって響いていたからだった。
 其れ等を壊した。徹底的に。
 只の一度限りか、それとも二度か。その程度にしか響かぬ夢への誘いに変貌した。
 故に、カロン・アンテノーラの『強力な権能』の一つは瓦解する――

成否

成功

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