PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夢檻の世界

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 カロン・アンテノーラは『怠惰』である。

 複数の権能を駆使する力を持ちながら、自らが戦う事を好まない。
 何故ならば、それが『怠惰』として産まれた存在の在り方であるからだ。
 カロンは己の所有する権能を配下とした者に分け与える能力を有していた。
 自らが所有していれば万全な護りであろう。自らが所有すればイレギュラーズなど撥ね除けられよう。
 だが、カロン・アンテノーラはそうしなかった。

 ――面倒くさいにゃあ。

 全ては『怠惰』であったが故に。
 カロンの権能の一つ、夢の牢獄――それは『夢檻』と呼ばれた深き眠りに誰もを誘う強力なものであった。
 その一部を複数の魔種に分け与えたのだ。

 ――面倒くさいにゃあ。管理して置いて欲しいにゃあ。

 その権能の配布は大なり小なり、それぞれによって変わっただろう。
 配布された対象が撃破されれば能力はゆっくりとカロンの元へと戻ってくる。
 そうして、カロンはまた別の対象に権能を分け与えるのだ。怠惰を極めるために。
 この能力のデメリットがあるとすれば『分け与えた権能』が大きければ大きい程、使用者が喪われたときにカロンの元に戻る時間が長く掛かる事だった。
 それだけだとカロンは認識していた。

 だが――『不出来な奇跡』がカロンの認識外の出来事を産み出したのだ。
 アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の起こした奇跡(PPP)は彼女の全てを懸けて、一人の魔種を『短期間だけ』人へと戻した。
 怠惰の魔種の強き戒めから『一時のみ』解き放ったのだ。
 ライアム・レッドモンドが渡されていた権能こそが『夢の牢獄』

 夢の檻に閉ざされたイレギュラーズを救う為にその牢獄への門を開くと彼は言った。
 信用しても良いか。
 信頼しても良いか。
 ……さて、其れは分からない。
 だが、この夢は『カロン・アンテノーラ』が斃されるまで醒めることがないのだ。
「僕を利用してくれ。君達を眠りから醒まし、リュミエ様をお助けして必ずやあの魔種を斃して欲しいんだ」
 ライアムは言った。
 森に訪れた停滞は、これ以上の不幸を生み出さないために彼が望んだものと等しかった。
 しかし、『大切な妹』の一大決心で斯うして己の身は揺り戻しにあったのだ。
「……君達なら、この世界を良き方向に導いてくれる気がしたんだ。僕が正気である内に、少しでも手伝わせて欲しい」


 カロンの権能である『夢の牢獄』には致命的な欠点があった。
 それは、夢の牢獄に閉じ込めている対象が『そもそも抜け出すことがない』という前提での権能であるからだ。
 多少、夢から覚める者が現れても問題はないだろう。
 だが、ライアム・レッドモンドが夢の牢獄への門を開いたことで状況は一転する。

「ここから、皆は夢の牢獄に入ることが出来る。
 勿論、『夢檻』……この夢に閉ざされているわけじゃない。出入りは比較的自由なはずだ。
 けれど、入れば夢魔が多く存在している。危険がつきまとうのは確かだ」
 不要なオブジェクトを排した荒廃した大地。月と大地、それから広がった空。その下に無数の夢魔が跋扈していた。
「夢魔を出来るだけ撃破して、『夢の牢獄』に打撃を与えるんだ。
 そうすれば、カロンの牢獄には罅が入る……あの権能を打ち破れる可能性が広がる筈だ」
 夢の牢獄に閉じ込める、その強き権能はカロンが駆使すれば一瞬で誰もが眠りに落ちてしまうだろう。
 その強力さ故に、カロンは自分で使用すると「疲れるにゃあ~」と言い出し、使用することはない。
 だが――直接対決になれば状況は一変するはずだ。
 カロン・アンテノーラは自身でその権能を駆使し、イレギュラーズを眠りに閉ざすだろう。
「少しでもこの力を削っておきたい。もしも、危険を顧みない者がいるなら、どうか……」
 暫くの間、この門は開いておくとライアムは言った。
 夢の牢獄に閉じ込められたイレギュラーズの帰り道にもなるからだ。
「勿論、入り込めば、肉体は徐々に変化してしまうかも知れない」
 自身の肉体は、この空間で活動すればするほどに反転状態や狂気状態に近付いていく。
 それはあくまでも『この夢の中』だけの話だが――その状態で、耐えず響く呼び声は耐えがたいものになるだろう。
「どうか、気をつけて帰ってきて欲しい。……此れが君達の助けになる事を願ってるよ」

GMコメント

●重要な備考
 ・当シナリオ中は『無数の原罪の呼び声』が響いています。縋るようなその声に耳を傾けない様にお気を付けください……。
 ・『夢の牢獄』『夢檻の世界』は同時進行していきます。
  両方のシナリオでの【クリア者数】が多ければ多いほど、カロンの権能の一つである『夢の牢獄』が弱体化して行きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●夢の牢獄
『冠位魔種』カロン・アンテノーラの権能の一つ。ライアム・レッドモンドが門を開いた場所です。
【夢檻】状態となっている対象が閉じ込められている場所と似ていますが、どうやら異なる空間のようです。
 この空間には『眠りの核』が存在し、それを破壊することでカロンの権能にダメージを与えられそうです。

 周囲に不必要なオブジェクトは存在せず、適当に大地、空、月が存在した非常に寂しい空間です。
 この世界がカロンの作り出したものだと思えば、そうしたオブジェクト設置が面倒であったのかも知れません。

 絶えず呼び声が響いてくる空間です。周辺には夢魔と呼ばれる存在が縦横無尽に歩き回っています。
 夢魔はイレギュラーズを確認すると襲いかかってきます。

 活動中に皆さんの肉体は『反転/狂気状態』に近付いていきます。
 それは精神にも作用し、常時Mアタック状態にも等しくなり活動時間が長くなればなる程に使用できるスキルがランダムで減って行きます。
 抜け出すことを宣言しておけば、簡単に抜け出すことが出来ます。
 よりカロンの権能にダメージを与えるためには長時間活動し、『眠りの核』を破壊することが求められます。

●夢魔
 夢の世界の住民です。カロンの眷属であり、有象無象がうろうろとしています。
 余計なオブジェクトがない為に身を隠すのも少しばかり難しそうでもありますね。

 ・大怪王獏(グレートバクアロン)&怪王獏(バクアロン)
 本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。
 ここに居る個体は、魂を食う恐ろしい怪物です。近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時に稀にパンドラを直接減損させます。 
 大怪王獏が数体、そして小型の怪王獏を連れて群れのように歩き回っています。

 ・スロースサキュバス/スロースインキュバス
 本来は世界にあまねく邪妖精『夢魔』ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。
 神秘HA吸収攻撃の他、恍惚や魅了のBS、神物両面の戦闘能力も持ちます。

●『眠りの核』
 世界の至る所に散らばっているボールのようなものです。怪しく光っています。
 大きさはそれぞれであり、ビー玉サイズから巨大なものまで。
 これらがカロンが『夢の牢獄』を維持するために駆使する『眠りの力』のようです。
 非戦闘スキルなどでも『人のような気配』『息づかい』を感じることが出来れば察知可能です。

●参考:夢の牢獄
 カロン・アンテノーラの権能の一つ。
 対象を理不尽にも夢の世界に閉じ込め、深き眠りに閉ざす事が出来ます。
 その力は非常に強力で『理不尽』であり、カロンが意識的に仕掛ければ対象の抵抗判定を大幅に下げた状態で【夢檻】状態へと移行させる事が出来るようです。【夢檻】状態に陥った対象は行動不能となり眠り続けることとなります。
 また、その力は深緑全土に及んでおり、カロンに近付けば近付くほどに効果はより強くなります。
(具体的にはカロンが居るファルカウ上層部ではカロンが意識的に権能を駆使すれば【夢檻】判定が1Tの内に10度行われる状態になります)

 シナリオ『夢の牢獄』と『夢檻の世界』のクリア者数によってこの権能の強弱に変動が出ます。
 何故ならば、夢を抜け出す者が多けれ多いほどに『夢の牢獄』は不安定さを増して行くからです。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

それでは、ご武運を。

  • 夢檻の世界Lv:10以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月13日 18時15分
  • 章数2章
  • 総採用数265人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
風花 雪莉(p3p010449)
ドラネコ保護委員会

「――一人でも多くの患者を救う、で今回は原因もわかってる上に治療法もある。
 ただそれがかなりキツイってだけでな。……上等じゃねぇか! 救える命は全て救う、その為に医者は俺は、ここに居る」
 唇を吊り上げてそう笑った『ヒュギエイアの杯』松元 聖霊(p3p008208)は真白の白蛇と共にその世界を進んでいた。
 荒廃しきった世界は必要以上のオブジェクトも存在して居ない。
「アネスト」
 聖霊は傍らの彼を呼んだ。眠りの核からは呼気を感じるらしい。ならば、それは周囲の無機質な存在と違って生き物のように脈動し、体温を有するか。
「俺と一緒に『呼吸をしている物』『周囲と温度が違う物』を探して、見つけたら俺に教えてくれ。
 あと……俺が正気を失いかけた時は、麻酔で気絶させてくれてもいいから。俺を止めてくれよな、これは主人としての命令だぞ」
「――聖霊」
 顔を上げたアネストに聖霊はふ、と笑みを滲ませた。
「……なぁ、アネストもし俺にも奇跡を起こす力があったら、親父は、死なせずに済んだのかな」
「聖霊、それは――」
「……聖霊らしくない? はっ、違いねぇな!」
 そんな言葉を口にする暇があるなら治療してやれば良い。なんて『不良医者』らしく進むべきか。
「まずいね……ここに長く居るのは無理かも。それでもやるんだ、急いで回って少しでも『眠りの核』を破壊しないと」
 聖霊が己に起きるかも知れない不安をアネストに頼んだように。肌でその違和感を感じていたのは『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)であった。
 聖霊が言うとおり『原因が分かっている』状態だ。R.O.Oでもログアウト出来なくなったЯ・E・Dを救う為に懸命に努力を重ねてくれた仲間達が居た。その恩に報いるときが今来たのだ。
「日頃の感謝の気持ち、この借りでお返ししちゃおうぜー! 貰う方だって、嬉しいに決まってるもんね! さぁーて、王子様とお姫様の救出、やったりますか!」
 任せて下さいと言いたげに腕まくりをしたのは『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)であった。
 全員生存、絶対救出。その為には『カロンの権能を削り、脱出を容易にしてやる必要がある』のだ。
「私ちゃん役立たずでも、鼓舞して立ち直らせてあげんのが役目だからよ! わっはっは!」
 胸を張った秋奈はさてさてと荒廃した大地を眺めた。呼び声なんて自分の声の方がでかいぞと言いたげに楽しげに声を張る。
「探す! 探すの! どうあるのか知んないけど!全部ぶっ壊してやらぁ! まさか月も核とか言わないよね? ちょっと月を穿つか!」
 月と、秋奈の言葉を耳にしてからЯ・E・Dは顔を上げた。
「眠りの核か――大きさ的に巨大な方が影響を与えているなら、それを壊すべきかな」
 探索は空から。だが、破壊には一人では心許なければ『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)を始めとした【打破】のメンバーがいる。
(……頭が痛い。まあ原罪の呼び声の真っ只中に飛び込むんだから当然なんだが。
 気をしっかり保とう。オレまでアグリアみたいな狂気に染まったら……秋奈が大変なことになる、流石に恋人と殺し合いたくはない)
 頭痛を感じながらも『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は夢魔を足すことに決めていた。
 仲間達が探索するならば、その為の露払いだって必要不可欠だ。狂気に抗う紫電は怠惰よりも本能に忠実な色欲の方がまだ性に合っていると自嘲して――
「あれ、紫電ちゃん、やっほー!」
「秋奈!」
 合流することが出来たのならば十分だ。共に進めば安心できる。
「特異運命座標の方にも、深緑の同胞と同じような眠りの症状が出てきましたね。
 この先の異界は未知ばかり、僅かに足が竦みそうになりますが……それでも進まなければ、現状は変えられない!
 ……私のギフトは睡眠への耐性を持っておりますが、それでも何処まで進めるか」
 呟いたドラマは眠りの核の配置には何らかの法則性があるのかと考えた。怠惰であるカロン・アンテノーラの思考回路は未だ読めない。
「みんなどうしちゃったんですよ……? 此処はいるだけでなんだか嫌な気持ちになるですよ……。
 あっちから呼んでるようなそんな声が沢山聞こえてくるですよ。でも、呼び声には応じませんですよ!」
 何だか『にゃあにゃあ』言っている声が聞こえると『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は頭を抱えた。
 これが冠位魔種の力、しかもその『一つ』なのだという。途轍もない力だとブランシュが慄けば、『舞い降りる六花』風花 雪莉(p3p010449)は「危険な場所ですが、囚われた方々を救い出せるのならば……」と息を呑んだ。
「進まねば、行けませんね。大事な人を救うために力を尽くされた方が開いてくれた道です。今動ける私が力となるべきでしょう」
 時間と共に狂気や反転、そうした状態に身が晒される。だが、雪莉はじわりと感じていた。見方を変えれば此れは冠位魔種に挑む際の糧となる。
 危険を承知にこの場に赴き、冠位魔種の権能を削る。そうする事で戦場でより優位に運ぶようにするのだ。
「うう……凄く頭痛がするのですよ……」
 がくりと肩を落したブランシュはわらわらと歩き回る夢魔の姿を見下ろした。
「居るな――行くぜ!」
 仮面を着用し、地面を蹴った。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は眠りの核からは感情は発されていないが『眠っている人間の呼吸』にも似た気配を感じさせる。
(アレクシアさんが、自分の『存在』をかけて作り出してくれたチャンスなんだ。絶対に取りこぼしはしねえ!
 ライアムのことを信用してるか? 信じてるのはアレクシアさんだ。彼女の決意と覚悟の結果が目の前のライアムなんだ。
 ――なら、何を疑うことがあるもんか)
 突入し、砕き、解放するだけだ。まるで眠っているかのような眠りの核を眺めて、風牙は夢魔へと攻撃を叩きつけながら呟いた。
「……ひょっとして、この眠りの核は『閉じ込められた誰か』の意識だったりするのか……? 此れを壊したら、眠りが醒める、とか」
「有り得ますね。幾つか壊して回れば、現在、夢檻に囚われた方の意識が浮上しやすくなるかも知れません」
 ドラマが頷けば、ならばやってやろうと風牙は更にやる気を漲らせた。
 広域からの視点を活かし、眠りの核を探す『春の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は耳を欹てる。
 出来るだけ仲間達との情報を共有しておきたいが、傍で叱り付けるような声が聞こえイーハトーヴは肩を竦めた。
「そんなに怒らないでよ、オフィーリア。危険は重々承知だけど、ここで得た縁を大切にしたいんだ」
 可愛いオフィーリアが怒っている。だが、その声がイーハトーヴの脳内を掻き乱す『声』を遠ざけてくれる気さえした。
「そうだ、こうやって話しかけ続けてくれたら嬉しいな。呼び声なんかより君の声に耳を傾けるよう心掛けるからさ。
 ――ギリギリまで粘るけど『これ以上は本当に拙いと思ったら離脱する』よ」
「そう、だね。引き際は自分たちで考えないと」
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)は様々な思いを見てきた。
 夢檻に囚われた仲間を救い出したい。冠位魔種を打倒したい。そんなそれぞれの想いの中でも何よりも煌めいているのは『大事な人を助けたい』という気持ちだった。
(……うん、そうだ。その気持ちが大事だよね。
 だって私は正義の味方。悪を倒したい、誰かを救いたいと願う人たちの声に答えるのが私のするべき事だもの。
 それが例えどんな危険な場所でも、私は力になりたい人達の為に向かうよ)
 ルビーは自分だけじゃない。仲間達に後を任せることも出来る筈。だからこそ、探索を行って仲間と協力することで『夢を削り取る』事を志した。
 冷たい夢に、何時自分が閉ざされるかは分からない。
 ――だからこそ、出来ることは今、しておくのだ。
 夢魔達がぞろぞろと歩き回るこの冷たい夢の牢獄で――

成否

成功


第1章 第2節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
エリス(p3p007830)
呪い師
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

「ここが夢の牢獄、どうにも体が引きずられる様な気がするでござるな。
 …...急ぎで参ろう。アレクシア殿が命がけで紡いだ奇跡を無駄には出来ぬ」
 何者かに影でも踏まれたか。それとも後ろ髪を掴まれたかのような奇怪な感覚を覚えながら『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は進む。
 今は何も気にしてはならない。ならないというのに、声が心地よいのだ。
(……成る程、流石は冠位怠惰の呼び声。昔の後悔、誓いも忘れて全てを投げてしまいたくなる。
 しかし父や祖父はこの様な事には決して揺るがなかった筈。ならばまだまだ拙者もここで折れるわけにはいかぬでござる、な)
 咲耶は平常心を保ちながらふう、と息を吐いた。大きめの『息づかい』を感じ、其方へ向かっての道筋を辿る。
「アレクシアさん……彼女を助ける為にも夢の牢獄で暴れて、少しでもカロンの権能を削ってやりましょう!」
 みなと行動を共にしていれば、眠りの核を探すことは難しくない。だが、『呪い師』エリス(p3p007830)の目の前にのそりのそりと現れたのは巨大な漠を思わせる夢魔だ。
「皆さん、後ろへ!」
 エリスは魔力をネージュ・リュヌ・エ・フルールへと込めた。指先で弾き鳴らせば収縮した魔力が破壊的な貫通力に特化して放たれる。
 魔砲を放ち、巨躯の夢魔を受け止める。身を軋ませるような感覚、直接的に魂を喰らうかのような痛みを振り払う。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
 頷くエリスに『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は回復は任せてねと微笑んだ。
「それにしても、……すっごい殺風景な所だねぇ。目も痛くなりそうだしあんまり長居はしたくないね。
 それでもここで頑張れば助かる人が増えるんだよね? なら全力でみんなを支えに頑張ろう!」
 此処で取り残されたならばどうなるか分からない。帰還するタイミングは全員がそれぞれに一任されているが、油断は大敵だろう。
 帳は【打破】の面々と協力して進む。核を探す仲間達を支えることが彼にとっての第一目標だ。
「核は何処かな……」
「核を探したいのに、夢魔がうろうろして――! ああ、もう! 急がなくっちゃ……!」
 焦燥を滲ませたのは『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)であった。自身こそが前衛に立ち、夢魔を惹き付ける。
 蛍は願うように『片翼』の無事ばかりを考えた。深い眠りに着いたそのかんばせはまるで死んでいるかのようだったから。
(珠緒さん……必ず助け出しに行くから、どうか生きていて……! この世界でボクを独りにしないで……)
 不安ばかりが心を占める。だが、それでは何者かに影が囚われてしまう。首を振り、気を強く持つ。
「夢魔だろうが何だろうが、後ろの仲間達には指一本触れさせないわよ!」
 その意気や良しと『戦旗の乙女』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は頷いた。
「仲間がこうも多く夢に囚われるとはな。……しかし彼らもヤワではない、反撃の一手を打つ機会を見計らっているはずだ」
「ええ。アレクシアさんは、あの方を一時とはいえ救えたんですね。ですが、今度は彼女や他の方々が夢に囚われてしまった。
 皆さんを救うためにも、クエルさんの信仰の果ての想いを無駄にしないためにも、この牢獄を突破します」
 これから援護するのは自らの役目であると『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)はベルフラウを振り返る。
 魔種が、人となる。それは刹那の出来事であるかも知れないが確かに為し得た奇跡であった。
 故にその奇跡の代償を支払うことになろうとも――その出来事全てを無駄にはしたくはない。
「行きましょうか。護りは、ベルにお任せします。頼りにしていますからね?」
 正純は、最大限に己の力を振り絞る。ならば、ベルフラウはその為に努力する『美しい花』を支援するだけだ。
「我等は何故此処に居る? 終わりなき夢を貪る為か? 飽くなき怠惰に浴す為か? 断じて否!!」

 ――友らをこの夢幻の檻より救う為である!

「我が腕は花を二輪抱く。が、今日は卿専用だな正純!」
 光栄ですねと揶揄うように囁く正純にベルフラウはふ、と笑みを漏した。余裕を滲ませ言葉を重ねる。
 それが『この世界で生き残る為の方法』であるかと『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は肌を刺すような気配を感じながら呟いた。
(さ、此処が『夢の牢獄』か。油断したら堕ちる、な。こりゃ。
 ――だが、仲間が、その兄が作ってくれたチャンスを無駄には出来んだろ?)
 呼び声に揺らぐならば、妹の形見であるネモフィラの懐中時計をその胸に懐くだけだ。『レイチェル』が生きているとヨハネが言った。
 ならばこそ、彼女との再会のためにこのような場所で怠惰に堕ちて行く訳には行かないのだ。
「くそ――荒廃とした景色が目を眩ませる……! けど、諦めて堪るかよ!」
 レイチェルの眸がぎらりと輝いた。月下美人の花を香らせ、彼女が見据えた先に僅かに光を帯びた核がある。
「核――ええ、任せて下さい。なんと寂寞とした世界でしょうね。ゆっくり見物したい所なのですが……生憎と、時間が無さそうだ。
 それに、目の前に存在する『漠』もさっさと退場頂かねばなりません」
 夢魔が眠りの核を隠している可能性さえあると『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)は夢の世界である為にその尋常ではない数を誇る大怪王獏を睨め付けた。
「巨大だというならば、その腹の中身、捌かせて頂きましょうか。その内部に隠しているのでは?」
 地を蹴った。刀で腹を捌いて内臓を検めれば良い。大怪王獏と呼ばれる存在だ。わざわざこの世界を根城にするのだ。夢の核を餌としていても可笑しくはない。
 盾となった蛍を支える帳の背後、レイチェルが弓を構え、ボディが攻撃を重ね続ける。
(さて――これだけの敵の数、一筋縄ではいかぬでござるが……核は確かに破壊し続けられている。
『あちら』の皆にも良き影響が及んでいることを願わずには居られないでござるな――……)
 咲耶は荒廃とした大地と同じ景色を見て居るであろう『彼等』を思い浮かべてから、再度武器を手にした。

成否

成功


第1章 第3節

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人

「さて、融通の利かない死神を探しに行きましょうか。
 ……ヴェルグリーズ。無茶をするならば二人で、ですからね。貴方を失っては私、戦えませんから」
『盾』である『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)にとって、剣たる『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は失われてはならない存在だ。
 この世界を抜けるタイミングも共に。どの様な声だって、傍らに互いがいれば撥ね除けられると、そう感じているからだ。
「折角仲間が掴んでくれた機会なんだ、最大限活用しないと、冠位相手に多少の無茶は承知の上だよ。
 ……それにここでの活動が囚われた仲間を助けることにも。繋がればいいかなと思っているよ。クロバ殿もみんなも必ず取り戻してみせるよ」
「ヴェルグリーズ、無茶は――」
「大丈夫だ。行こう、星穹殿。キミと一緒なら何も恐れるものはない。今回も頼りにしてるよ、俺の相棒」
 そう言われてしまえば星穹は頷くだけだ。相棒を信頼しているのは互いに同じ。星穹が盾として夢魔を受け止めて見せるのならば、ヴェルグリーズはその剣で切り裂くのみ。
 眠りの核を探すことの第一目標は、有象無象の邪魔立てで効率よくとは進まないだろう。だが、夢魔の数も確かに減ってきては居る。
(この世界が夢魔の世界だというならば、戦闘に駆り出される冠位魔種の眷属を先んじて減らして行けているのでは……?)
 星穹の考えはヴェルグリーズと同一だったのだろう。この世界での戦闘は決して無駄にはならないと、その実感が確かに感じられたからだ。
「……何やらきな臭え話になってきやがった。
 まあそれでもここをぶっ潰せばあの猫に一発食らわせられるんだろ? いいぜ。やってやろうじゃないか」
 あんな『面倒くさそうに人を蔑ろにする』猫に遣られて死ぬなど五面ではないか。『血反吐塗れのプライド』百合草 瑠々(p3p010340)は限度一杯までこの世界で過ごそうと足下を隈無く確認した。
「――常に夢に生きてるようなもんだろあいつ。
 怠惰とはよく言ったもんだ。ちょっとばかり知り合いも巻き込まれてんだ。取り戻させてもらう」
 怠惰の魔種と言うだけの事はあって夢にばかり生きている冠位魔種。夢魔や漠たちを見遣ればその感想はより実感を帯びる。
 自身を苛む攻撃を反射するシールドは二重に。瑠々は旗を揺らがせて、この荒廃した牢獄を進み続ける。
(……怠惰の世界、夢檻。
 何も置かれていないからこそぞっとするほど美しい世界……必ず夢に囚われた人を助け出しましょう。怠惰が私の体を蝕む前に)
 その世界に美しさを感じた己の心に『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は問いかけた。
 どうして、と唇が震える。この夢檻の世界に居れば、自身の心の中に秘めていた感情(おもい)が転び出て来て仕舞いそうなのだ。

 ――救われたいのに、なぜ戦うの? 誰かのために戦わなくっても良い。傷つかなくって良いんだよ。

(いいえ、いいえ……誰かのためなら戦えるんです。私は、私のためなんかには戦いたくないけれど。
 皆を救うためなら……大事な皆を奪った色欲の冠位に、こんな世界を作る怠惰の冠位に、そして魔種達に剣を突き立てる為なら戦える……!)
 誘惑が、頭を掻き混ぜる。泣き出しそうな程に、膝が震えた。前世の自分にも、皆のためにも、戦いたくないなんて思ってはいけないのに。
「シフォリィ?」
 ふと、背後から声が掛けられた。震える足を立たせて振り向いたシフォリィの背後には『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が立っている。ひゅ、と息を呑んだシフォリィは「ブレンダさん……あ、それに焔さんも」と世界を探索していた二人を眺める。
「ここは、あんまり長居して良い場所じゃ無さそうだよね……」
 周囲を見回した『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はライアムのことを信じて此処に遣ってきたと言った。
 流石に『魔種の世界をこじ開ける』だけであって、その中の全ての障害を取り除く能力を青年は持ち合わせてなかったのだろう。だが、アレクシアが自分の全てを賭けてまで救ったライアムに信頼できないなどとは外方を向きたくはなかった。
(アレクシアちゃんやフランちゃん、他にも夢の世界から戻って来られなくなった人が沢山いるけど、絶対に助け出すよ、待っててね!)
 だからこそ、焔は此処に来た。ブレンダとて、そうだった。まじまじと眼前の出来事を見ているだけしか出来なかった己が居る。
 だが、こうなったのならば眠れる姫君を起こすのが騎士の役目である筈だ。適任者は他にいるかも知れない――と『王子様の役目』は他に譲るブレンダはシフォリィに手を差し伸べた。
「狂気は、恐ろしいが……斥けられよう。少しずつ私達で進むのだ」
「恐ろしくはありませんか?」
 シフォリィの唇から飛び出した言葉は『彼女の意思』と言うよりも『魂』が問うたようにも感じられた。微笑むあの人、この森を故郷だと笑った同じ魂を有した人。
「怖くはないさ。狂気が身体を蝕もうとも私にはこの左眼がある。この瞳と私の意思がある限り私は剣を振るい続けるだけだ」
「ボクも。怖くないよ。だって、囚われている人の方がもっと、ずっとずっと、怖いはずだもん」
 二人の声を聞いていると、心が軽くなった気がしてシフォリィは「探しましょう」とゆっくりと立ち上がった。
 これだけの恐ろしい世界なのだから、『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は「最悪!」と叫ばずには居られなかった。
「あぁ、最悪だわ……よりによってフランがこんなものに囚われたなんて。面倒なんて言ってられないわ、助けないと」
 兎に角、夢魔を撃破すれば良い。それが彼女を助ける一助になるというならば。アルメリアは容赦はしなかった。
 敵集団へと攻撃を仕掛け続ける。そうして、夢魔達の隙を付いて仲間が『眠りの核』を破壊してくれれば良い。
 僅かな息遣いを探す眸は広域を眺め遣る。『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は『隠れる場所』を有さず固定砲台として攻撃を加えていくアルメリアの背後で比較的小さめの核を探していた。
(大物はチームで動く皆さんに任せるッス……! 幸い……というべきか、イルミナはそれなりに燃費もありますからね!)
 イルミナは『無理はしない』『余力は常に残す』事を念頭に置いていた。そう考えておくだけでも、随分と動きやすさは違ってくる。
 成程、流石に夢という事だけあるのだろうか。頭に直接的に響く呼び声は煩わしく意識を阻害するが『夢の中では強くあれる』と感じれば、体が軽くなる感覚がしたのだ。
「すごく寂しい世界ですわね。空も地面も空っぽで、すべてを飲み込んでしまうような深く冷たい洞。
 こんな場所に、アレクシア達は……行きましょう、マリィ!」
「本当に何もない世界だね……ここにアレクシア君達が閉じ込められているのかい?
 だとしたら早くこんな所から助けてあげないとね! うん! 行こう! ヴァリューシャ!」
 天へと手を伸ばした『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は頷いた。
 ヴァレーリヤが勢いを込めて「どっせえーーい!!!」と暴力的にも『教義』を伝えるならば、マリアはヴァレーリヤの盾となる。
「私と違って彼女の一撃は痛いよ? といっても邪魔はさせないけどね! ふふ! 君の魂は持って行かせないさ! その前に削り切ってみせる!」
「マリィ! アイツ、私が狙った眠りの核を持ち上げましたの! それは私の!」
 びしりと指差すヴァレーリヤは叫んだ。
「私の魂が欲しければ、好きなだけ持って行きなさい! ただし、ここは通してもらいますわよ! ついでに其れを返しなさい!」

成否

成功


第1章 第4節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

「夢檻に、『夢の牢獄』……原罪魔種の権能を何とかできるチャンスだし、夢檻状態の人を解除できるかもしれない……なら、僕も突破させてもらうから!」
 やる気を漲らせたのは『心優しきオニロ』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)。
 自分自身が狂気に陥るというならば、自分を殴ってでも正気に戻るという気概を胸に一人、荒廃とした大地を進む。
「カロンおにーさん、可愛らしい姿とは裏腹になかなかえげつない能力をお持ちなのね。
 ……それにしても、こんなことで弱体化するなんて。しかも、自身や直属の強い配下に守らせるではなく、モンスターなのね。
 決して弱くはないでしょうし、こちらも苦戦はするでしょうけど、それでも絶対に勝てないというわけでもないし――そういうところはやっぱり怠惰ということかしら」
 契約した精霊と共に進む『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)はこてりと首を傾いだ。夢魔はカロンの眷属にあたり、そしてこの空間は『カロンが分けた権能』の一つだ。この権能がカロンにとって唯一というわけではないだろうが――少しでも磁力を削っておきたいところだ。
「大きい獏がいる、あれが、原罪魔種の眷属……?」
「ええ、ええ、そうなのでしょうね」
 追い払うだけではなく倒しきる事が叶えば、今後の戦いでも有利に働くかも知れない。フルールの傍でフィニクスが羽ばたき、紅蓮の一閃が飛んでいく。
 続くのは『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)。この空間でも暗き輝きを放った光輪がその頭上で存在感を放つ。魔眼を光らせるサルヴェナーズは夢魔らの思考を混濁させることを狙った。
(この違和感は、周囲に何もないが故でしょうか……捕われてしまった方のためにも、一刻も早く突破しないといけませんね)
 出来うる限り、『眠りの核』を破壊しておくことが出来れば――そして眷属の数を減らすことが叶えば。
 サルヴェナーズとフルールが夢魔と戦う中、ヨゾラは「あった!」と叫んだ。夢魔の周辺に小さなビー玉サイズの『核』が転がっている。
 それは吐息を感じさせ生き物であるかのような違和感を感じさせる。夢魔諸共、叩き込んだのは高位の霧氷魔。
 星空の竪琴を弾き鳴らすヨゾラは出来うる限りの破壊を心掛けた。

 ――僕の力を借りないの?

 借りないと『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は首を振った。
 獏馬の夜妖憑き――つまりは、夢のエキスパートが憑いている。憑いているが彼の力を借りれば、もう一人の『夜妖憑き』に影響が及ぼされる。
 その力を借りることは出来ないが、一人でないというのは心強い。
「やれやれ。『奇跡』か。『差』というモノを改めて思い知らされた気分ではあるが――是非も無い。
 僕は『ヒーロー』ではないが。『ヒーロー』にもなれないだろうが……さぁ、征くとしよう」
 目の前で起きた奇跡に少しの嫉妬と劣等感はあった。だが、それでも彼に誇れる『親』ではありたい。格好付けて、この面倒な夢の世界を破壊して、さっさと幕引きしてしまえばいい。
「――生きるという事は喰うという事だ。奪うという事だ。それを、あの猫に思い出させてやろう」

 ――食べるの?

 勿論、と愛無は頷いてから荒廃した荒野を行く。
「少しずつ蝕む怠惰、ね。既に死神に堕ちて、狂ってしまった怠け者の私を、蝕めるのならやってみせてもらおうか!」
 聞こえる声音は優しい停滞を促すようではあった。だが、だからどうしたと『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)は言いたげに唇を吊り上げる。
 耳を欹て、不要な戦闘を避ける。仲間達の戦線が瓦解しないように時を配りながら、出来る限り多くの核を探すのだ。
「暫く見ぬ間に事態は大きく変わっていたようだな……さて、これについても一つやってみようか。この貴族騎士が、冠位魔種に打撃を与えて見せよう」
 呟いて『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はするりと剣を引き抜いた。血を吸い、曰くの付いた紅い刃を閃かせる。
 光る球体を探し、進むシューヴェルトの前にはミーナが立っていた。
「何かあったか?」
「……いや、こうもオブジェクトの一つもないと隠れるのも難しいな」
 敵勢対象達はのろのろと歩き回っている。その中で、こうして自身達が活動することは否応なしに目立つのだ。
「だが、そうも言っていられないか」
 ミーナは死神の大鎌を構えた。地を走り抜けて行く『銀雀』ティスル ティル(p3p006151)は勢い良く『眠りの核』を狙う。
「奇跡が起きて、活路が見えた……なら、道を切り開かなきゃね!
 こんな悪夢の世界に長居するのはマズいもの。戻れなくなる前に帰り道を作っちゃおっか!」
 ひらり、と踊るように進んだティスルは至近に迫る夢魔に気付き、流麗なる銀の太刀を握りしめた。
 雷鳴の神の名を頂いた剣戟は夢魔を斥ける為に振るわれる。だが、それだけではない。この悪夢のような世界に自身が囚われないように戦うために振るうのだ。
「怠惰とは、絶望の中にあって前へと進む意思を喪失状態を指す。
 なるほど。精神を停滞状態へと追い込み追い詰め、呼び声で絡めとるというのは『らしい』。
 だが……こっちは身を削りながらも、意思でもって魔性と契約を結び続けた魔術師だ。根比べならこっちに分がある」
『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は三点の測量を持って周辺把握を行う事と決めていた。
 荒廃した大地。何処までも続いていくかのように思える広大さ。それがこの魔種の権能を表しているのだろうかとセレマはまじまじと見詰めていた。
 使い魔達を駆使した定点観測を行い続けることで、何があるかを観測する。
「何事も地盤固めからだ。怠惰の胎の内を探ってやろう」
 ――見れば見るほどに、この地にはオブジェクトが少ない。だが、「あれは……?」
 扉の開いた『鳥かご』が一つ存在して居た。其れには美しい翠が絡みついている。現実世界でリュミエ・フル・フォーレが目覚めた余波で霊樹の清廉なる気配が僅かに入り込んだのか。
(あの周辺ならば影響を幾許かリセットできそうだな)
 ぶすりとした表情をしていたのは『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)であった。
「……著しい風評被害を感じるのです。夢魔とは燃え上がる一夜の夢の権化、即ち色欲と暴食の領分なのですが???」
 それは夢魔であるクーアとその『主人』に当たる『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)、何方もが抱いた『クレーム』だった。
「……なってない。怠惰の夢に誘う存在がその誘惑にどれだけの時間と思慮を浪費すると……こんなの虚無、論外よ、もう!」
 夢魔の領域である以上、己らも夢魔の姿で活動する。
「月、か……派手にぶっ壊して……ふふ、私はどうやら同胞のお誘いがあったみたいだしネ♪」
「リカ。私的にはアレを同胞と呼ぶのはちょっと……」
 低級夢魔とはツルまないと外方を向く利香にクーアは「あれ、四足歩行してよたよたしてますけど」と唇を尖らせた。
 シューヴェルトは空を見上げた。天蓋には紅い月。不要なオブジェクトの配置を好まなかったカロン・アンテノーラが配置した『オブジェクト』
「――さて、ところであの月も怪しいものだが……今は目の前の問題を少しずつ片付けていくとしよう」
 そう、利香も月に付いて気になった。月を派手に壊しに行く仲間達を支援して夢魔を惹き付けておけばいい。
 陽動と殲滅を――『同胞(と、クーアは呼びたくない夢魔)』との楽しい一夜を過ごすだけだ。
「さ、クーアいきましょ」
「やっぱりあれを同胞とは呼びたくないのですが……」
 淡い炎の気配が漂った。それは雷か、それとも。業火の如き危険物がゆらりと気配を漂わせ、夢魔達へと放たれる。

成否

成功


第1章 第5節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
オラン・ジェット(p3p009057)
復興青空教室
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー

「ここが、『夢の牢獄』…本当、まるで悪夢みたいな場所だわ。
 ……でも――このまま皆が目覚めない世界なんて、そっちの方がよっぽど悪夢だもの」
 充填力が高い分自身は長く活動することが出来る筈だと『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は『隣人』たちとの探索を心掛けていた。
 いつからだろうか。その声が聞こえなくなったのは。
 自身に影響が及ぼされたのか。だが、それでも構わなかった。ジルーシャの目的は天涯の月を壊しに向かう『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)たちの支援だ。
「……スキルが全部使えなくなっても諦めない。だってアタシはまだ動けるもの。
 一つでも多く眠りの核を壊してやりましょ――お生憎様、アタシたちには眠ってる暇なんてないのよ!」
 自身が竪琴に込めた魔力が響かぬ事に気付く。ジェド・マロースの息吹は漂い薫ることはない。
 だが、それでも構わないと、支援を行うジルーシャの傍から『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が飛び立った。
「呼び声が煩いが……父親として息子の元へ帰るためには狂ってる暇なんてないんだ。
 こちとらとっくのとうに息子狂いの親馬鹿だ。狂わせたければ本物を連れてこい!!」
 大切な息子達を思い出し、心を奮い立たせる。『飛行時間はジルーシャを見る限り限られているだろうか――だが、それでも良い。
 この場所は夢の世界。夢魔達は自在に飛び上がりウェールが月に迫る横槍を投じてくる。
「どうして、穹に行くの?」
「お前達に言うものか!」
「ふうん」
 言葉を話すサキュバスの蠱惑的な笑みを振り払うように鋼の驟雨を降らせるウェールの足下を『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)は走った。
 学園で学んだ術式は未だ使用できている。ハティが地を蹴りサキュバスへと牙を剥く。嫋やかな女の肢体に食らい付く術式は全ては仲間達の支援のために。
「……月が核の可能性……か……。なるほど……確かに壊せそうなものといえば……パッと思いつくのは月だけ……だね……。
 気力が削れていく……多少は自前で賄えるけど……流石にキツイものがあるね……
 とにかく……それらしきものが一つでも見つかれば……そこから先見つけやすくなるはず……」
 足下に転がっていたビー玉のような『眠りの核』。それを参考に、探せば天の月はどれ程歪な光を帯びているだろうか。
「月は不要な物じゃないんですね!ㅤじゃあぶっ壊しましょう!!ㅤみなさんで! 行きますよロスカっ!」
「くぁ〜」
 ドラゴンライダーたる『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)は強く念じた。 
 夢の世界なのだから届くと言えば届くのだ。夢はきっと叶うと心で念じ続けるだけ。
「届けー!!!」
 手を伸ばす。月、確かに『空に浮かんでいた』オブジェクト。オブジェクトと言うだけあって、それに手は届きそうだと感じられる。
 同じくリトルワイバーンに騎乗していた『復興青空教室』オラン・ジェット(p3p009057)は死なない、反転しないと気合いを入れた。
「プラック、お前の案の通り月の調査に行くぞ!」
「……ああ!」
 プラックが頷く。オランは月に向かう道中に笑い攻撃を仕掛けてくるサキュバスとインキュバスに気付いて舌を打った。
 修正プロトコルを開始して、その肉体を強化する。叩き込んだ邪険士の技は、気付いた頃には使用する事も曖昧になって行く。
(HPが削れてく? いつもの事だ。APが尽きていく? 手足が動けば問題ねぇ。スキルが消える? 俺の意志は消えてねぇ。
 ――撤退? するかよそんなもん!
 俺がずっと見たかった奇跡をアレクシアさんが成してくれたんだ。なら、俺も奇跡を起こさないといけねぇ! 全身全霊、命を限界まで振り絞り、この檻を壊してやる)
 プラックは食らい付く勢いで月へと向かった。飛行を続けることが出来なくなれば『外に出て』、狂気を振り払い飛び込み直すだけだ。
 オランは言った。『月に何かあるかないかを先に確かめておけば良い』と。その通りだ。
「プラックさんの、おっしゃることも、ごもっともですの。
 わたしも、月へ、ご一緒しましょう……ほんとうに、月が、重要な場所ならば、きっと、守護者が、いるはずですから」
 皆の護衛に付いていた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は自身のしっぽは夢魔にも聞くのだろうかとつるりと揺れる。
 いくらでも食べ物にしようとするならそれでいい。ノリアは大海の抱擁に身を委ねて愛しい人のことを考える。
(ゴリョウさんのところへ、かえるため、攻撃も、呼び声も、はねのける意志が、ありますの……!
 ここは、夢の、世界ですから…きっと、意志のつよさこそが、力になりますの)
 ノリアの『のれそれ』に誘われたように夢魔達が集う。ふわふわと空を踊るノリアの被食者の覚悟だけは揺るがない。
「ロスカっ!」
「くぁ〜!!」
 月なんて太陽になっちゃえと叫んだウテナにオランが続く。プラックは我武者羅に全ての力を奮い立たせた。
「なんかもう出来そうなら月を撃ち堕としちゃいますよっ! がおーっ!!!ㅤ落ちろーっ!!!! ちょっとくらい下に動いてくださいっ!」
「堕ちろ!」
 月が僅かに傾いだ。『此れは落とせるものなのだ』と察知したプラックはその拳に力を込める。
「ッ――うおおお!」
 燃える火の玉ストレート。直情的に青年はその拳を叩きつけた。

 ──歩みを、考えを止めよう、疲れただろ? ……だからどうしたってんだ。止まって言い分けないだろが。
 ──なんで世界は理不尽なんだ、力の無い自分が許せねぇ。 ……だからどうしたってんだ。理不尽が何だというのだ。
 ──救いたい、悲劇なんて嫌だから。 ……そんな願いなら何時だって聞こえてる。

 屈するわけには行かないと青年が打ち付けた拳が『月』にごつん、と音を立てた。
「夢見る儘に待ち至り、館の名を記すほど真面ではないのだ。兎角――。
 私の為すべき事は常の変わらず『何者かをかばう』よ。壊すか壊されるか、我慢比べと洒落込むべきだ。
 しかし貴様、私の、同一奇譚(わたし)の狂気を試すとは如何なる手招きだ!
 ああ、見よ! 月が傾いだ! 『あの月は世界に於ける最も巨大な核』ではないかね!」
 両手を振り上げた『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が朗々と叫んだ。
 仲間達を庇う為。目的は『生存』である。味方も含め、生き残る為の術を考案し続ける。
 オラボナの背後から顔を出し「月がプリンのように揺れたぞ!!!」と指差したのは『プリン天使』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)であった。
「夢の世界…… と、いうのはよくわからないが! オレ夢見ないし!
 長時間の探索はオレ達なら大得意だ! 待っていろイレギュラーズのプリン仲間達! 今助けに行くぞ!」
 呼び声など、大宇宙のプリンになって出直して来いと撥ね除ける自身を胸にマッチョ ☆ プリンはずんずんと進む。
「長期の探索となれば私達の得意分野! そして決して倒れないのがシスターさんの本懐!
 出来る限りの情報収集と欠片を壊して皆を助けるよ! ――皆に創造神様の加護がありますように」
 祈るようにそう呟いた『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)の傍らでは永久機関である『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が歩いている。
 耐え忍ぶことが長く出来るのであれば、其れだけ核を破壊し続けられるという事だ。
「ン。フリック達 食眠不要。コツコツ 延々 働ク 得意。ミンナ 怠惰ニ 見セツケヨウ。秘宝種ノ戦イ方ヲ」
「勿論!」
 食事も睡眠も必要としていないからこそ、眠る事が無い二人には『夢』は分からない。それでも聞こえてくる呼び声は浅く、恐ろしいものばかりだ。
(フリック 墓守。眠リニツク フリック違ウ。
 眠ルハ主。フリック 主 墓標 世界 護ル――呼ビ声 耐エル)
 フリークライは信念を、ンクルスは『シスター』の在り方で呼び声などに屈しないと首を振る。皆を助けるために、そんな甘い言葉には乗せられないのだ。
 フリークライ、マッチョ ☆ プリン、ンクルスの三人は互いに連携を取り出来る限りの長期戦線を維持し続けた。
「ン。フリック 月 気ニナル」
「……そうですね。シスターとしても、あの歪な月が落ちてくるのは気になるか知れません」
「月、叩キ落スカ!?」
 夢魔の撃破を行うと共に、堕ちる小さな核を探し求めるマッチョ ☆ プリンは空の月が傾いだ様子に大きく頷いた。
「アレは次第に堕ちてくるか?」
「うん。きっと。夢魔が集まっているもんね」
 眠りの核は無数に存在して居る。『魔法騎士』セララ(p3p000273)は楽しいことや、護りたい人々のことを考えながらドーナツをかじった。
 ドーナツは精神安定、狂気への対策だ。セララは自らのコンディションを的確に管理する。
「あの空の『核』――月がこの世界で一番大きなものだったら、壊すのには時間が掛かるだろうけれど。
 地面に落ちてるビー玉みたいな『核』が星のようなものなら、きらきら輝いているのだって理解が出来ちゃうね」
 セララはとん、と地を蹴った。セラフィムのカードをインストールしていた肉体からその気配が消失した。
 ……それでも、まだ動ける。ドーナツを食べて、『眠りの核』を探し続ける。空へと駆けることの出来る仲間達があの月を地へと落してくれるまで。

成否

成功


第1章 第6節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊

「はっきり言って恨みますよライアム殿」
 ――夢の牢獄、そう呼ばれた領域に入る前に『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)はライアムに面と向かってそう言った。
 アレクシアの決断に口を出すことはない。彼女は、彼女の信念を形にしただけなのだ。
「……ああ」
 ライアムとて、アレクシアが命を賭して己を救いださんとした事に気付いて居る。だからこそ、謝る事も為ずにルル家の言葉を受け入れたのだろう。
「それでも今はこのチャンスを活かす事に全力を、アレクシア殿を、皆を助ける為に!」
「そうね。どいつもこいつも、無茶ばっかりするんだから……。
 ま、ここを突破すれば夢檻に捕らえられた皆を助けられて、ついでに冠位怠惰の横っ面を殴れる。だったら、さっさとぶち壊してやりましょう」
 リアの脳裏に過ったのは『母親(あのひと)』の姿だった。『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は嘆息する。
 母とは呼ばぬ彼女が先走って何かをする可能性。体を動かし、出来る限りの事を為さねばならない現状だが『あの女』は勝手に動き出すだろう。
「……鬼のような形相だが」
「え?」
「いや。さ、要は『暴れ回れ』という事だろう? 分かり易くて実にいい。そう思わないか、御二方?」
 唇を吊り上げ笑った『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は目の前であれだけの奇跡が起ったのだから我が身可愛さにちんたらと拙速を決め込む訳にはいかないと領域に踏み入れた。
「彼女の覚悟と、それが齎した結果に必ず応える。これは、負けられない戦いなどではない。"勝って然るべき"戦いだ」
 ルル家は『人のような気配』に『息づかい』を探す。夢の世界そのものを解析しようとして――どくり、と自身の体が脈打つ感覚を感じた。
「ルル家!」
 リアが肩を掴む。いつも以上に彼女の戦慄を感じていたリアはその変化に気づき肩を掴んだのだ。
 統率を行い、出来る限り夢魔を惹き付けて持久戦に興じていた。リアの呼びかけにルル家は首を振る。
「世界そのものを『視ようとする』のは危険かも知れませんね……」
「そうね。底知れないわ。冠位魔種の権能なんだもの」
 英雄幻奏第六楽章――その響きは何時しか、ヴァイオリンの音色さえ響かなくなった。
 脳を揺さぶる声音が、煩わしい。

 ――呼び声など、知ったものか! そして。私の心は、泰山よりも巨(おお)きく、固きモノと知るがいい!

 汰磨羈は天で傾いだ月をまじまじと睨め付けていた。
「さて、中々大変なことになってるね。でもお師匠もアレクシアも助けたい。だから行こうか。
 ……それにしてもなぁんもない場所だね。寂しいくらい。私は旅人だから、原罪の呼び声には屈しない。けど、メンタルにも訴えてくるのは中々堪えるな」
 狂気へと至る道。それを傍らに感じながら『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はぽそりと呟いた。『眠りの核』はどうやら規則正しく配置されたわけではなく適当に転がっていた。流石に面倒くさがりの猫、と称されるだけのことはあるのだろうか。
「……けど、夢魔の方はちゃんと『言いつけ』を護ってるのかな?」
 シキは瑞刀を構えた。最大火力で、最少の手数で押し切る。スキルを使用し続けなければ、それを『使用できない』可能性は未だ遠離るはずだからだ。
 ふわふわと妖精の粉と笑い声が響く。異界へと誘う気配は金色砂のクララシュシュルカ・ポッケによるもの。
『白いわたがし』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は薔薇のつぼみの魔女の杖をそうと握りしめて夢魔達を相手取る。
「夢の牢獄の中って、なんだか寂しくって、つまらない場所ねえ。不気味な声も聞こえるし、空気も悪くてイヤになっちゃう。
 ワタシの知ってる『夢』はもっとずっと楽しいわ。だからね、ワタシ達、こんなものには負けないのよ――光を、光を。照らして、クララ」
 クララシュシュルカ・ポッケと共にあれば、停滞なんてへっちゃらだった。振り切って、そうして眠る仲間に報いるために。
「んんんー!」
『メテオ直撃』楊枝 茄子子(p3p008356)は唸った。『世界』がその気なら茄子子だってその気になる。
「会長は旅人なんだから。狂気なんて……とっくに慣れっこだよ!! どれだけお化けにしてやられてると思ってんだ!
 まだやれるでしょ!ㅤ会長も頑張ってるんだからみんな頑張れ!!」
 仲間達を鼓舞した。自身がいれば、支えていられるはずだと具現紙『恋煩』を手に声を発する。
 味方を鼓舞する号令が響かなくなれば、仲間達を回復するだけだ。全てのリソースを出し切って、此処で支え続けるだけ。
(夢で他人を支配するような状況なんて気持ち悪いったらありゃしない)
 無名のトランペットを手にした『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)は呟いた。限界が近ければ夢を抜け出せば良い。其れまでは茄子子の支援やシキやポシェティケトと同じように眠りの核を探すだけ。
 獏が相手となれば少し拙いが、サキュバスやインキュバスならば自身とて十分に渡り合えるはずだと深く息を吐いた。
 フーガに迫り来る獏をその双眸に捉えて嵐止まぬ戦術で弾丸を放ったのは『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。ステッキ傘で、とんと地面を叩いたかと思いきやクラシカルな傘は仕込まれた銃の凶弾を届け行く。
「さて、邪魔するモノが多いのですね。夢の世界でも変わりなく一狩りさせて頂きましょうか。
 ……どうにも、世界中に有象無象が歩き回って居てオブジェクトが少ないのは接敵回数が多くなる」
 世界を幾度か抜け出しても『目安となるオブジェクト』がなければ地図も書けやしないかと寛治は肩を竦めた。獏とてこの有様では無尽蔵に増えている可能性もある。
「全く、いい趣味してやがる」
『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は呻いた。吐き気もするし、頭も割れそうになる。この様な空間ではおちおち眠ることさえ出来ない。
「俺に構わないでくれ、面倒だから」
 獏へと放ったのは雷神の名を冠した一撃。荒れる疾風をその身に纏い、地を駆ける。
 アルヴァは『姉に奪われたはずの左腕』が自身に存在してる事に気付いた。どう見ても人のものではない。血の色をした異形の左腕。
 どくり、と心臓が音を立てた。足が震え、唇が戦慄く。
「使って、堪るかよ――!」
 異形の其れを使えば何もかもが終わってしまう気がする。甘い誘惑。使えば、楽になれるとでも言いたげなそれを駆使することなく狙撃銃を構え直した。
 姉と対峙したときに誓った。魔種すら救いたいなら自分が魔種になるわけには行かない――「俺は進むよ、姉さん。困ってる人が居るなら、手を差し伸べに行くのが義賊の仕事だから」
 何処までも真っ直ぐ突っ込んだ。人の恋路を邪魔する奴は幽霊にだって殴られて死んでしまえと叫ぶように。
『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)は「幽霊は自己中なんだよ本質的にさ!」と叫んだ。それには個人差がありますと注釈も添えておこうか。
 そもそも、幽霊は心が存在の中心だった。精神を揺らがすような声音を風のように振り切りながら、体の形が無くなってしまわないようにハッピーは出撃を繰り返すと決めた。
 一旦休んで、心を落ち着けて。そうしたら何度だって突撃してやれば良い。
 それが『死んだ事のある』幽霊の特権だった。何度でも、食らい付いて離れない。獏たちに囲まれようとも、戦って、命辛々勝利をして「幽霊だから死なないんだよ」と笑ってやるまでが彼女にとっての戦いなのだ。

成否

成功


第1章 第7節

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人
倉庫マン(p3p009901)
与え続ける
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)
アーリオ・オーリオ

 深淵を覗くならば――「弟子達と一緒にしなくてはね」
 そう囁いた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はくるりと振り返る。
「さあ詳らかにしましょう――私がそれを望むから」
 長時間の眠りの核を探す『アビスダイブ』、破壊と離脱を行い誰か一人でも危険に陥るのならば直ぐにでも撤退を決めた。
「こんな場所でも師弟が揃えば問題は無いです。わたしはいつも、そう確信しています」
 荒れ狂う海でも、恐ろしい場所でさえ『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はそう確信しているのだと微笑んだ。
「お師匠先生も姉弟子いるから心強いね。夢……と言うよりは悪夢の中かな? これがいい夢になるようにワタシは臨むよ」
「悪夢を実力行使でぶん殴れば良いだけだしな」
 揶揄うように告げた『無名偲・無意式の生徒』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)に『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)はこくんと頷いた。生きて帰り、生きて助けるその目標だけを全員で掲げるのだ。
 後方に位置するココロは誰も倒れないようにと医学の知識を使用して回復を担当した。そのリソース供給はマニエラが。
 先手を取るべく走るのはフラーゴラ。マニエラとフラーゴラの『無限のリソース供給』をイーリンは無限陣と呼んだ。
「これは……ずっと使用していると、獣の耳さえ遠くなる……のかな?」
「かもしれないわね。経験で得たスキルであっても、この夢では其れを無効化されるかも知れない」
 超聴力や瞬間記憶は継続的に使用するとじわじわとその効能が落ちるようにも感じられた。四人は揃って進む。
 無限陣が崩れないようにと獏を相手取り、眠りの核を眺め、狙うことを諦めない。
「どうやら、月に向かった人たちは正解ね。地に落ちた星屑も拾い集めなくてはならないけれど、大地にまで月を引きずり下ろせば『権能』にダメージは与えられそう」
「そうだな。あの月は『巨大な眠りの核』だったか」
 同じ光り方をしている、とマニエラは眠りの核を破壊しながら呟いた。サキュバスの笑い声が響く。其れ等の中を通り過ぎ、自身等の状況確認は怠らず声をかけ続ける。
 マニエラからの供給が途絶えたことに直ぐにフラーゴラは気付いた。どうやら此処まで。もう一度で『出直さなければ』ならないか。
「……不便だな。少しずつ自分自身の為せることが奪われていくのは」
「そうして、人は絶望を覚えて――自分とは矮小な存在だと思い込むのでしょうね」
 ココロの呟きにマニエラはそうだな、と肩を竦めた。

「カ チ コ ミ の 時 間 じ ゃ あ ! ! 最高最速の核狩りRTAを始めようぞ!」
 がらがらとうどん屋屋台を引き連れて飛び込んできたのは『善なる饂飩屋台』御子神・天狐(p3p009798)であった。
 仲間達を引き連れて、勢い良く核を破壊することを狙うのだ。名付けて【核轢き隊】である。
「さて、参りましょうか」
 天狐と共に駆け出す『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)は天狐が仲間を引き連れることが出来なくなれば自信が前に出ると宣言した。
 その足並み揃えた統率は『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)が担う。卓越した方向感覚を駆使し、出来うる限り駆ける方角を見失わないようにスルのだ。
(……原罪の呼び声か。最も激しく聞こえるのは純種の私となるだろうか……)
 十七号はひたりと感じた嫌な気配を振り払うように首を振る。倉庫マンから伝えられる核の息遣いを伝えた十七号に天狐は「来た! 行こうぞ!」とリヤカーをがらがらと引きながら走り続ける。
「サキュバスが着いて来ていますね」
 どうしましょうかと囁いた『アーリオ・オーリオ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)は仲間達のリソースの確保を担当していた。此処では逃げ切ることが難しいだろうか。
「敵の腹の中だ。逃げ切れないなら、撃退するか。このままクソにされちまうのも腹立たしい」
 くるりと振り返った『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は速攻戦をしかけるぞと行った。
 お気に入りのヘッドフォンを耳に当て、武器を基点に伸びた鎖を黒龍の顎に編み上げる。牙を剥く黒龍が前線へと飛び交って行くのを眺め、続き十七号が蒼き刀身を引き抜いた。
 青色のリボンがゆれ、振り下ろされた一閃がサキュバスを切り裂く。倉庫マンの感じた核まではもう少し。五人揃って行動し、出来る限り多くの核を破壊せねばならないが――成程、どうにも敵の妨害は多いようである。
「ふーーむ、ふむ。此の儘我武者羅に走っていても、邪魔立てされそうじゃのう」
「戦いますか?」
「必要最低限に致しましょう。此方の手札が減るのも……困りごとではありますでしょうから」
 アンジェリカは出来る限り戦闘を避け、自身等の持ち得る能力の保持を行いながらリヤカーで核を轢いて破壊しようと提案した。がらがらがらと音を立てたリヤカーを引き摺りながら天狐は「張り切って行くのじゃ!」と叫ぶ。
 まるで何者かが眠っているかのような息遣い。静かすぎるまでの空間に、それは異様なオブジェクトとして周囲に点在している。
(此れを壊せば、夢檻に囚われた奴らが出て来やすくなる――なんて、まるで意識の欠片でも此処に点在しているようだな)
 マカライトは妖刀を構えながらそう感じていた。首から提げたヘッドフォンを装備し直して、魔術式を唇に載せる。伸びた、鎖が敵を捕らえて放さぬ内に。
 複数の核を破壊して、『危険水域』に至る前に早期離脱を繰り返して目標を達成するのだ――

成否

成功


第1章 第8節

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
悲劇愛好家
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン
冬越 弾正(p3p007105)
終音
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

「アレクシアさんが起こした奇跡、皆が繋げた可能性を無駄にしない為にも――私は行くよ」
 確りと前を見据えた『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)の傍らで頭を抑えていたのは『炎の剣』朱華(p3p010458)であった。
 脳へと直接的に語りかけるような声音。ごちゃごちゃと、何らかの話し声がする奇怪な感覚が付き纏う。
「……これが話に聞いてた原罪の呼び声って奴なのかしら? 花丸が盾、朱華は剣。役割分担よ、構わないわね?」
「うん。二人で核を潰し回ろう!」
 アタッカーは朱華の得意分野だ。その炎の剣を活かして振るい、花丸に前衛を任せるだけである。烈火の如き勢いで敵を叩ききる朱華と護る為に傷だらけの手を伸ばす花丸は良き戦術を組めるだろう。
「沢山の人が戦ってるけど……でも、困っちゃうね。それだけ『敵が多い』って事だから」
 花丸は『眠りの核』を探すように周囲を見回し、のそのそと歩き回る巨大な獏をまじまじと見遣った。どうにも、愛らしい姿をしているようにも見えるがその性能は注意を行うべきだろう。
「先に、斃そう」
 地を蹴った。飛び込み、その行方を遮りながら睨め付ける。引き寄せすぎては危険だ。自身の命そのものに打撃を与えてくる可能性があるからだ。
 朱華は速攻戦術だと剣を引き抜いた。直死の一撃を放ち、獏の足下に光り輝く『眠りの核』が落ちていることに気付く。
「花丸、このデカブツごと核を叩ききるわよ!」
 見知った顔が夢檻に囚われたならば、この地にまで赴かねばならないと『無幻皇帝』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)は己の心を落ち着けた。
(……ここの呼び声は頭に響く…耳を傾けてはいけないな。それはそれとして眠りの核を破壊すれば良いという話だ。
 ……1人でも多くの仲間たちを夢から覚まして、おはよう、と言ってやらないとな)
 書斎で本を読みながら語らってくれたり、街角で可愛いと言われて恥ずかしがったり――自身をいい人だと笑ってくれたマリエッタを失うことが怖かった。頬には涙の跡を残したムエンは絶対に助け出すと決めて此処までやってきたのだ。
 それは『悠遠の放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)とて同じだっただろう。殺風景なこの空間に友を連れ去られた事が我慢ならなかったのだ。たった一人の放浪者であり続けたいならば、見捨てるのが正しいのだろう。目を逸らすのは眠ることと同じくらいに簡単だ。
(マリエッタとは約束がある。そうじゃなくともこれ以上仲間や友人を失うのは勘弁だ。
 あの頃は手も力もなかった。今までは守る同胞がいなかった。だが今は違う、見て見ぬ振りをするなんて今の俺にゃ出来ん。
 なら大いに結構! ――売られた喧嘩にゃ幾倍にもして返すってのが俺たちイレギュラーズだってもんだろ!)
 バクルドとムエンは協力し此処までやってきた。落ちた眠りの核を破壊すれば、ぱきりと簡単に音を立てる。
「これがこの場所の引いては権能の要の一つか、つくづくいけ好かねえな」
「ああ。……壊して回らないと行けないな」
 この核を壊すことでマリエッタが眠りの檻より出てくることが出来るのならば――

 ♪俺が成すべき事は、反転しては成し得ない。退け、愚かなる夢どもよ
 ♪怠惰に打ち勝つ活力は我らが胸の歌にあり!

 謳ったのは『残秋』冬越 弾正(p3p007105)であった。共に戦った友が夢の牢獄に閉じ込められてしまったことを黙って弾正は見過ごせなかった。
(アーマデルが守ってくれるからこそ、俺もまた彼の背中を守る。呼び声よりも鋭く熱く、我が歌をこの場に響かせて!)
 マイクを手に朗々と歌い上げて仲間を鼓舞する弾正の声を聞きながら『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は奥へ、奥へと目指した。
「夢と死は半血の兄弟くらいには近しい。
 そして呼び声……俺は旅人で反転はしないが、狂気の危険がある以上、決して安全ではない。弾正、共に往こう、俺はあんたを守り……支える」
「ああ、ならば俺も謳おう。アーマデルが迷わぬように」
 共連れの二人は目の前に立つ『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)に気付いた。
 深緑が此の儘で困ってしまうと呟いたカティアは薬草のリキュール等の仕入れ先として深緑を利用していた。
「カティアが反転でもしたら、R.O.Oのわが社は大打撃ですからね!
 向かうというならお供しますよ。さぁ、怠惰の天敵・24時間働ける敏腕ビジネスマンの出動です!」
 そう言ってカティアに付いてくる『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)に「ビジネスのためだし、人助けとかじゃないよ」とカティアは告げる。
「ええ、構いません! それが人助けに繋がってしまっただけですからね! ねえ?」
「……そうですね。原罪の呼び声なんて、ジャネットの『赤札』を握って耐えてみせますとも。
 我が妻ジャネットと約束したのです。事を収めなくばキャラハンの領地を踏めぬと
 夢檻に囚われたウィリアムさんとマルクさんの事も気がかりですし、立ち止まってはいられません」
 自分が為した事が繋がっていくだけなのだと『悲劇愛好家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)は穏やかに微笑み、『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)はクロサイトとカティアで固まって持久戦のための陣を構築した。
 的の多い場所に効率的に飛び込んで、自身等がエネミーを撃墜する担当となる。仲間の中で誰かが苦しむことになるならばケイクに頼んで退避して貰うようにとジュートは考えた。勿論、ケイク=ピースメイカー自体も無理は禁物だ。
「アレクシアちゃんが命がけで繋いでくれたチャンス、それをつかみ取るのに不幸な奴が出ちまったら、ぜってー寝覚めが悪いだろ。
 幸運な亜竜種として、この戦場にもラッキーを運んでやるぜ!」
「不幸ですか……ええ、それもまたステキでしょうが――此処には似合わない響きですね」
 クロサイトに「だろう?」とジュートがカラカラと笑った。
「ちょっと、先に行くよ!」
 声を掛けるカティア達の様子を眺めていたアーマデルと弾正は顔を見合わせる。
「共に往く者がいる、それだけでも気の持ちようは違うだろう? 帰る為に進むのだ、そう認識を確認しながら……俺も往こう、共に」
 皆が揃えば百人力だ。恐ろしいことなど、何処にもない。そう、認識させてくれる。
 冥夜はなるべく他のチームとの情報を共有して情報網を作成しておこうと考えた。
「――さて、目指すは地に落ちた『星』の撃破と、あの『月』の撃墜、でしょうか。
 月を穿ち落すだなんて浪漫だとは思いませんか? 怠惰の天敵たる『24時間ビジネスマン』が無事にあの月を落して見せましょう――!」

成否

成功


第1章 第9節

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)
優しきおばあちゃん
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

「ここが夢の世界か。嫌な呼び声が響いてるけど……怠惰ね。
 下らない……怠惰とは即ち停滞、停滞は川は淀ませ、物はその場で腐り堕ち、文化は緩やかに衰退する。
 怠惰とは即ち安楽死、未来を殺す行為、そんな非効率的な行為を我々は否定するわよ」
 気配を隠し先行する『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は先行する代わりに、その姿が露見した際には直ぐに逃走を図ることと決めていた。
 核と獏を発見した場合は周囲の仲間達に情報を共有することが目的だ。
「狐達(われわれ)は怠惰に衰退を視ているわけにはいかないのだもの」
 イナリが見付けたのは獏であった。その情報を耳にしてから『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は戦線を支える兵站として前線へと立ち向かう。
 頭が重たい。聞こえる声が華蓮の脳内を掻き混ぜた。嫉妬とは違う怠惰、それでも自身の在り方だけは自分で確りと分かって居るべきなのだ。
「囚われた仲間を救う……一歩たりとも、引くなんてありえないのだわ!」
 心の奥底から沸き立ったその感情こそが己が持ち得た弱さだ。それは子の呼び声のせいで露見しているのではない。
(何で……何でだろう……私はこんなに弱いのに、なぜ皆はまだ戦えているの……?
 あぁ……妬ましい……妬ましいのだわ……私なんかとは違う、檜舞台で活躍する皆が)
 ――分かって居るからこそ、耐えられる。乙女らしからぬ声を大地に響かせて華蓮は叫んだ。
「舐めんじゃねぇのだわ!!」
 こんな所で挫けたらあの人の隣になんて立てやしない。乙女は一念発起して、声を張り上げる。

「『夢の牢獄』……これが冠位魔種の権能の世界……。嫌な気配、それに……これは……なんて悍ましい。
 ……でも。アレクシアさんとライアムさんが作り出してくださったこの好機、無駄にする訳には行きません。
 冠位怠惰の権能を弱める策、必ず……やり遂げてみせましょう」
 救いの手となるならば、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は諦め結愛しないと獏たちを排除することに決めた。
 眠りの核以外にも物質的に存在した夢魔達はこの世界の住民として呼吸をしている。その音を探すのだ。
「冠位が相手だというのなら、元よりリスクは負わねばならぬ相手だ。状況を打破する事が出来るというなら、臆する理由も無い」
 ――縋るような呼び声が聞こえている。耳の奥に残った其れを振り払うように『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はマントをバサリと揺らがせた。
 気にならないわけではない。だが、それ以上に背負っているモノがあるのだ。ベネディクトの目の前では周囲を警戒して立ち向かう『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の姿がある。
「正直リバ相手より現実的よ アレ潜ってると気構え余裕~」
『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)はへらりと笑ってからベネディクトに手を振った。
 今日も京都手強大な敵にカチあって、危機的状況に陥った。夏子の言葉にベネディクトは頷くだけだ。
「ま……ヤれるだけヤんないとね。ウチの連中も結構行ってるみたいだし、現夢両側から噛んで破って石詰めて戻そうね。
 案外『積んだ石が多すぎて』さらっと戻ってこれるかもだけど――なら、このザコを適当にぶん殴って先の戦いを楽にしなきゃいけないワケで」
「ええ。どうせこの夢魔達は眷属。後に戦う相手となるでしょう」
 リュティスに「そゆこと~」と夏子は微笑んだ。周囲を不思議そうに眺めていた『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)は「これが夢の世界ねぇ」と呟く。
「んでもって、この『夢』に冠位とやらが関わっている、と。
 俺、冠位とかいうやばいやつとやりあったことねーんだよな。こえー。
 けども、皆がやるっていうなら俺もやるだけだ。深緑だっけ? この国の連中が穏やかに過ごすために」
 皆で、獏を、夢魔を叩き殺していけば良い。核は見付ければ御の字だ。それよりも、誰かが探しやすくすることこそが最大の目的だ。
「あー。なんか変な声が聞こえてくるな。うっせーよ!
 俺にはそういうのは効きやしねー。俺が殺した命。それを死ぬまで背負って生き抜くって決めてるからな。自己満足かも知れないが」
 頭をぶんぶんと降って振り払う誠吾の髪をわしわしと掻き乱すように撫でたベネディクトは小さく頷く。
「……?」
「ふ――」
 若者の成長を喜ぶ『リーダー』の姿に『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は思わず吹き出した。そうして笑えるようになっただけでも、この場所に慣れてきたとでも言うことだろうか。
「夢の世界ね……まったく、これが夢だってんなら碌なもんじゃねえな。スラムのほうがまだ味気があるってもんだ
 冠位とやらには縁もゆかりもねーが、やり口が気に入らねー。こんな檻くらい、ぶっ潰してやるよ」
 ぶっきらぼうに告げて、地面を蹴り飛ばした。アステラは苛立ちを込めたように黒き魔力を漂わせる。
 何が怠惰だ。鬱陶しい声だ、とシオンは呟いた。こんな所で変わらないまま過ごすなんてまっぴらゴメンだった。
 ――まだ遣らなくちゃやらないことがやまほどあるのだ。
 後ろ髪引かれている場合でもない。夏子が惹き付けたサキュバスをシオンの刃が切り裂いた。それでも、有象無象はわらわらと徒党を組んで並んでいる。
「数が多いな」
「……そう言う世界なのでしょうね」
 呟いたリースリットはそれでも、此処で撃退してしまえば簡単な話だと狙い澄ませる。
「にしても 随分な事してやっちゃったみたいだなぁ アレクシアちゃん 尊敬しちゃうよ……なぁ!」
「そうですね。だからこそ、我らは為すべき事を為すのでしょう」
 ――誰かが為した道を潰さぬように。リュティスは「そうでしょう?」と主人の顔を見遣った。

「ふむ……何とも不思議な空間ですね。怠惰を表現しているかの如く、無駄が省かれていますね」
 呼吸をするのも煩わしいと言いたげな怠惰の冠位魔種が作り出す世界らしいと『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は呟いた。
 力の続く限りは先に進めば良い。眠っている者達のために戦う事が『起きている自分たち』の定めなのだから。
「原罪の呼び声……確かに苦しいけれど、今なお穢される夢の叫びが私には聞こえている」
 眼を伏せって、息を呑んでから。『静観の蝶』アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)は周囲を見回した。
 探すべき核を見つけ出さねばならない。あの月からは『夢の叫びが聞こえる』。息衝くかの様な気配は微かに――それでも。
「あの月が核なのね。それに……眠りの核は、この『夢』は誰かの眠りを捕らえたモノ。壊し続ければその人の意識だって揺さぶれる」
 夢の羽ばたき、耳を欹てその声を聞く。
 アルチェロが情報収集に当たるのならば沙月は障害を打ち払う。互いに、得意分野に分れて戦うだけだ。
「私は夢の守護者であったモノ。例え微睡みの淵であっても、この蛮行を見過ごせるほど、堕ちてはいないのよ」
 この地の微睡みは恐ろしい。沙月は声を振り払うように靱やかな仕草で攻撃を放った。無駄な動作などない、何時だって洗練された一撃には美しき精神が必要となるのだから。

成否

成功


第1章 第10節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
リサ・ディーラング(p3p008016)
蒸気迫撃
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス

「正直魔種が言っている事だからこそ信じがたいかもしんねーっすけど、それであの冠位をぶん殴れる隙を少しでも作れるってんのならやってやろうじゃねぇか!」
 魔種と言えども、仲間が作った『チャンス』だと思えば多少は信頼する余地もある。『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)は自分にそう言い聞かせて味方を夢魔から護るべく狂犬の如く戦闘を実施した。
 距離を詰められぬように、気をつけるリサの目の前を『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)がずんずんと進む。
「たしかにおれさまは面倒くせェ事は嫌いだぜ。だがよ、ただその場で寝っ転がるだけってのも性にあわねえのさ!
 果報は寝て待て? 笑わせるぜ。 最後まで足掻き倒した末に掴んで奪いとるのが山賊だろうがよ!
 さあて――いっちょド派手に暴れてやるとするか!」
「決して堕ちてたまるか! 誰がこんな事で一々狂ってやるってんだボケがよ!
 とっとと片付けて勝利の宴で全力で唄ってやるから覚えておけっすよ! いくっすよ!」
 グドルフがぶった切るサキュバスを、リサは有象無象目掛けて鋼の驟雨を降らせ続けた。
 グドルフにとって、『自身の変貌する姿』はどの様なモノか想像も付かない。だが、不本意な姿を山賊が晒す訳には行かないのだ。
 リサとて同じだ。歯を食いしばって耐え凌ぐ。悪魔の囁きなどFinalHeavenの響きで消し去ってしまえば良い。卓越した整備の技術を活かして、苛むモノを壊し続けるだけだ。
「皆さん、目の前です。なるほど、まぁ今回は下手に色々するより絞って行動しますかねぇ――倒すなら倒す、それだけで動かせて貰いますかね」
 背筋をぴんと伸ばして腐り月のナイフを手にしていた『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は唇を吊り上げる。
「パンドラが削れていく? 上等、幾らでも持っていきなさい。その分食らい付いて見せますので」
 幾らでも食らい付けば良い。一度食らい付かれた程度で怯むほどヤワではないとバルガルは鋭き三撃を重ね続ける。
 確かに巨体だ。そして、強大な敵である。攻撃一つ、体に響いた痛みが肉体と魂を分断するかのような衝撃に変換された。
「ようするに権能の力を弱めるために余の前にいる敵を倒し続ければよいのだな?
 ――簡単な話ではないか、余の魔力をもって敵を蹴散らして見せてやるぞ。ファイヤ――!」
 その口蓋に全ての魔力を集中させて。『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)は吐き出した。
 薙ぎ払う光の奔流が破壊的な攻撃力と化す。ルーチェの魔力は暴走の一歩手前。だが、それだけの火力で地を焼き尽くすことが目的なのだ。
「千載一遇の機会なのは分かっておりますの。ファルカウはともかく、この世界を炎上させるのに迷いはないの」
 勿論、ファルカウもちょっぴり炎上気味ではあったがそれは本意では無いと『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は感じていた。
 獏たちと戦う事を仲間に任せ、核を探す。自身の持ち得る技術を遣い進む胡桃とて分かって居た。
『一度離脱すれば』またもどこから入れるか分からない。対象を見失う可能性もある。長時間潜ることが出来れば、其れだけの戦果を上げられる可能性があるのだ。
(妖精女王と約束したの、彼らの為に戦うと。炎の嘆きと約束したの、最も良き道を選ぶと――そして、わたしは、わたしのままで帰るの)
 そう考えていた胡桃はふと――嫌な予感を感じた。妖精女王、その人の声が何処からか聞こえた気がして……。

「夢檻に囚われたみんなを助けなくっちゃ!」
『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はふと、眠りの核について考える。
「ここの命の欠片のような気配、夢核ってまさか囚われた人達の命?」
「どうかな……誰かの夢なのかも。この世界に閉じ込められている……。
 迷っている暇はないよね! なんか、声が聞こえる……気をしっかり持たないと、戻れない所に行ってしまいそうで怖いもの……迅速に事を運ばないと!」
 頑張ろうと『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は天啓を頼りに進む。共に進む『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)の感覚も素晴らしい頼りとなるだろう。
「要するに『眠りの核』を破壊すれば、あの怠惰な猫を引きずり出す事が出来るんだろ? だったら片っ端からぶち壊してやる!」
「そうだね。この核が眠った誰かを救えるなら!」
 ミルヴィは大きく頷いた。それでも、頭の中に過る声が、自身の中に嫉妬の心を沸き立たせる。
(アレクシアは私の理想を叶えてくれた、けど――あの時アタシがもっと力があればもっと心の想いが強ければ兄さんを助けられたかも知れない)
 背筋にピタリと張り付いて、誘うような声がナイフを握る指先さえも震わせる気がした。
「はー……いい加減うるっさいんだよ! この呼び声! 私は、沢山の人を殺し! 恩人を殺し! 実の親の死も見て、ここにいるんだ!
 いい加減仲間の為に踏ん張れなきゃどうするってんだ! 人間ナメんじゃないよ!」
 声を振り払う。空から落ちてきたかのような星。無機質な世界。それから、『適当に配置されたオブジェクトの周辺には夢魔』が居ると言うこと。
「どうやらアイツらをぶん殴りながらでなけりゃ『気配』を発する光るボールはゲットできないらしいが?」
「戦おうか。でも、深追いは禁物だよ!」
 アリアにジェイクは了解と呟いてから――銃を構えた。狙撃手は息を呑む。夢の世界であろうとも、その照準に狂いはない。
 アリアは短期決戦を仕掛け、核ごと夢魔を焼き払う為狙いを定めた。息を吸って、吐いて。そうしてからミルヴィとタイミングを合わせる。
「最大火力だよ!」
 前線へと飛び込むミルヴィと共にゼロ距離でアリアが放った魔力の奔流にジェイクの弾丸が乗せられた――

成否

成功


第1章 第11節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精

「身近な人達が眠ってしまったのに何もしないなんてあり得ないよ!
 助ける為に夢檻の世界に向かうね。仮に罠だったとしても打ち破ってしまえば問題なしだしね!」
 案外、肉体言語を用いる聖職者であった『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は『ずどーん』と行けば何とでもナルの精神で世界を探索し続ける。無理をせず倒せる相手だけを狙う方針に同意したのは『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)である。
「じゃあ、どーんと殴って良いですか?」
「うん! 私が惹き付けるからね!」
 リュカシスは体力を温存し、小さな核は全力で自分の攻撃能力だけで叩き割ってきた。するりとその輪の中へと入るように槍をサキュバスへと叩きつけた『エピステーメー』ゼファー(p3p007625)はくすりと笑った。
「やれ。まさか敵の……其れも冠位魔種の手の内に飛び込むことになるとはね。
 あのオネエの権能も大概でしたけど……コイツもまたタチも意地も悪いですこと!
 アルメリアに、フランに……まあ知った顔が少なくなさ過ぎて――放っておけるワケもないのよね、こういうの!」
 知った相手が囚われたのだ。大切なモノって言うのは誰かか何かが護っているのがお決まりなのだ。だからこそ、集団との戦闘を優先する。
 確かに、夢魔達は眠りの核の付近に存在して居た。つまり、それらは護る為に此処に居るというわけだ。
「斃しちゃいましょう」
「ああ。だが――」
 照準が逸れる気がして『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は舌を打った。
「いや本当に、酷い場所だな。傾けるなと言われても勝手に耳に入って来るこの声、嫌でも集中が削がれる。
 ……だがそれでも、普段から世話になっている者達が眠ったままなのだ。やるしかない」
 どうにも意識が揺さぶられる気がしてならない。ラダはゼファーと同じく核の周辺には夢魔が居ると踏んでいた。
 ならば、月の『裏側』にでも敵がわんさか存在して居るというのだろうか。其れまでに地上の敵を一掃する勢いで戦わねばならないか。
 ――不愉快な声が、リュカシスの体に纏わり付く。
(……ケレド、ボクはオールドワンです。過酷な環境での活動には長けている。
 多少怪我をしようとAPが切れようと、このリュカシス、死なない限り動き続けましょう。
 敵の力をもぎ取る為に一つでも多く。増えたら増えただけ、それ以上に消しとばす。夢檻なんて必ずぶち壊してやる)
 こんな眠りの世界、停滞なんて必要ないのだとリュカシスは首を振った。
 心がざわついたのは『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)とて同じだった。これが、権能の力だとでも言うのか。
 それでも頭に思い浮かべたのは大切な人たちのことだった。大勢の人が、仲間が、大切な友達が眠りに着いてしまったのだ。
(……やだな、この感じ。練達の時と同じ気持ち。でもアレクシアさんが、ライアムさんが道を拓いてくれた。
 この先に何があってもやるしかないならわたしもいくわ。だって、じっとなんてしていられないじゃない)
 だから、戦いに飛び出す。攻撃に集中して――狙いを定める。タイムの虹色の奇跡が獏の気を引いた。
 その眼前に眩い光を放ったのは『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)。
「……怠惰は俺の対極、天敵だ。それを受け入れたくないからこそ深緑を、故郷を出たんだからな」
 前へ進もうと挑む足を縛る者が居る。逸れに屈するわけがないとアルトゥライネルはやる気を漲らせた。
 故郷を飛び出した自分が、故郷に意思を示すのだ。的の抵抗が激しいというならば、その地を蹂躙して、故郷を救い出す手を伸ばせば良い。
 アルトゥライネルの眩い光の下でタイムは只管に獏の攻撃を受け止め続けた。
「いやいや、ここまで来てるならハデにやるっきゃないよね! レッツパーリィウェーイ!
 今この戦いに必要なのは活力! そう元気だ! 私ちゃんの作戦的にはバイブス上げてきゃ寝ちゃってる子たちにも届くってもんよ
 士気ってことでこれ統率ってことになんない? 騎兵隊の司書ちゃんいないし。ダメ? ダメかー? ぴえん」
 ジョークを交えながら笑う『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は「あのでっけーバクの下にあるじゃん!」と指差した。
 目視でも確認出来るサイズの核。だが、その上にはどっしりと怪王種が腰を下ろしている。
「邪魔じゃね?」
「退けよう!」
 勢い良く行ったスティアに「そうしましょう!」とリュカシスが同意する。
「なんというか……こんな世界でも明るく殴りつければハッピーな予感がするわね」
「ああ。ならば路を開こうか」
 ゼファーが肩を竦めればラダは銃を構えた。タイムとアルトゥライネルは頷く。狙うのはあの巨大な怪王種だ。
「さあ、私ちゃんのお通りだぜ――!」
 余力は残しながらも、攻撃を放つ。そうして核を多く破壊しておくのだ。あの猫に『泣きべそ』を掻かせるために。

成否

成功


第1章 第12節

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
越智内 定(p3p009033)
約束
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
カフカ(p3p010280)
蟲憑き
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

「魂を食べちゃうとか言葉を食べちゃうとか僕の往きつく先は食欲系の相手ばかりかい!?
 え? 怖くなったら帰っていいの? もう割かしかなり随分結構ビビってるんだけど帰っていい? ダメかい? そうだよね」
 慌て続けた『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)に『ケイオスイーツ』カフカ(p3p010280)は「あ-」と呟く。
「なんや、随分とけったいな世界やなぁ。うわぁ、やばそうな怪物沢山おるやん。
 ジョーくん、誘った俺がいうのもあれやけど、無茶はあかんで? 怖くなったら直ぐに帰ろうなぁ」
「もう帰ろう?」
「だ、駄目だよー!」
 ぷうと頬を膨らませた『桜花の決意』キルシェ=キルシュ(p3p009805)にカフカと定は顔を見合わせた。
 こんなに可愛らしい少女が努力をするというのだ。男二人で恐ろしいからと帰還してしまうのも妙な気持ちになってくる。
「やっぱり目指すのってアレだよね。まん丸お月様。いやだって核だぜ? 丸いだろう? 他のだって光ってるじゃん?
 じゃあもうあれが一番ヤバい核だと思うんだよね。ほら周りの人もそんな感じで動いてるし、という訳で僕らはもっと小さいのを倒していこう!」
「行かんのかーい!」
 カフカは思わず言った。定は「え、何。いきなりこわ」と呟く。壁として動くカフカの背後ではアレクシアが作ってくれたこの機会を無駄にしないとキルシェがそろそろと動く。
 この世界で魔種のような姿になったって、キルシェは大丈夫だと感じていた。大切な人たちを取り戻そうと願うなら、その姿が変貌したって心までは変わらないと、感じていたからだ。髪先に僅かな変化が及び桃色は澄んだ水色を混ざり込ませている。
「……任せてね。皆のことはルシェが癒やすから!」
 そうだな、と『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は笑った。
(ああ、そうだ。此処では『呑まれた』ら駄目だ。俺は強い。屈しない。呼び声も敵も、逆に全部喰らってやる)
 この牙を突き立ててやればいい。レイチェルは唇を吊り上げた。共に進む仲間達と共に足は淀むことはないと知っているからだ。
「捕らわれた同胞の為、俺は前へ突き進むのみだ!!」
 汚泥の中を突き進む感覚だった。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)はそれでも、『気配』を探り続け、深く、静かに、夢の世界に歩く最中で敵影が多く視られることに気付く。
 風牙はそれらを斃さなければならないかと舌を打った。それならば、だ。
 風のように飛び込んできた『最期に映した男』キドー(p3p000244)が、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)と共に『ブッ壊し』に来る事に協力するだけである。
「いつもこうだ!仲間が厄介事に巻き込まれても俺だけ上手いこと避けちまう。
 今回はよりにもよってフランとアルメリア置いて無事に帰ってくるとはな! 千尋くん、後で俺の事ぶん殴ってくれ」
「フランちゃん、アルメリアちゃん、待ってろよ。キドーさん、凹んでる場合じゃねーぞ!
 俺は同じ戦場にすらいなかったんだ、そっちも俺の事殴ってくれよな! 何にせよ、この場をどうにかしてからだ!」
 二人してぶん殴り合えば結果は同じだと言いたげに、走り続ける。千尋は腕に油性マジックで技の出し方を書いて、ご機嫌なナンバーを宇チアながら駆けずり回る。
 眠りの核の上に獏がどっしりと尻を降ろしているのならば殴れば良い。
「千尋君! アイツらケツの下に隠してるぜ!」
「殴るか!」
 ――その勢いや良し。二人が戦いを挑むのならば、仲間の欠けた世界は嫌だと『ためらいには勇気を』ユーフォニー(p3p010323)は攻撃の支援を施した。
 知らなかった人が、何度も見かけて『知っている人』になった。
 その後、共に過ごせばそれは『仲間』になった。仲間が欠けた世界ハどれ程に空虚なモノか。
「月と同じ光……! 怪王種の所から其れを感じられます!」
 大丈夫。握った弓の感覚を信じれば、それらを押し止め、倒しきる事が出来るはず。ふう、と息を吐いたユーフォニーに『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は目を伏せた。
「……此処にいると、何だか……気味の悪い感じ、する。夢に囚われた人達、助けたい。おれも、一緒の気持ち。
 ……夜に閉ざされ続けるだけ、なんて。そんなの……嫌」
 だからこそ。
「大切な皆といる為に……"あの子"にいつか、会う為に。微睡む訳には、行かない…………邪魔、しないで」
 だからこそ。戦う事は止めなかった。精神は、揺るぎなく。心は今だけ静まりかえった。
 チックの雷はその心を告げるように降り注ぐ。塵も積もればってやつだろうと定が叫ぶ。
 覚悟なんていつもない。覚悟できる奴はサイコーに格好いい。定はやらなきゃならない事がある。やれるかどうかはさておけば良いと惨めでも泣きながらでも攻撃を仕掛ける為に一撃を投じた。
 ならばカフカは盾となる。その支援をするキルシェの傍をするりと抜けてレイチェルと風牙が走り抜けた。
 これは不要な戦闘ではない。核の近くに居るならば、叩き潰して『核を破壊する』だけだ。幾つも破壊してきただろうか。
 その分、体に負担は重くのし掛かる。その時、ユーフォニーはふと、思った。これだけの数。そして『眠っていた森の人々』――
(……この核は、誰かの眠り。誰の夢……なら、此れを壊し続ければ、森の幻想種の皆も起こせるかも知れないのでしょうか……?)
 それは希望だった。眠りから霊樹の力を借りて解き放つよりも尚、最短ルート。
 冠位魔種を斃す前に、少しでも多くの幻想種を起こし安全な場所に避難させて上げたかった。妖精達も、幻想種も、森の人々の眠りを覚ましてやるために。

 ――頭を掻き回され続けてどれくらいの時が経ったのか。
 心はとうに決まっているのに踏み切れないのは、召喚されて縁を繋いだ沢山の人が居るから。
 まさか後ろ髪を引かれるような……そんな気持ちが、私の中にあるなんて。

『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の答えは決まっていた。寧ろ、その応えがあったからこそ、此処にやってこれたのだ。
 呼び声なんてどうでも良いくらいに。一つでも多くの成果を残したい。
「旅立つならば最後に『今の私の儘で』成果を。眠りの核を1つでも破壊したい」
 この場所でクラリーチェは『一番に安全』な存在だった。頭の中に響く声は疾うの昔に理解してしまったようなものだったから。
 核を破壊して、彼女は背後に感じた気配にふう、と息を吐いた。
「……そろそろ、時間でしょうか」
 クラリーチェが感じていた、苦しみは飲み込めるものではなかっただろう。
「クラリーチェさん!」
 呼んだ風牙にクラリーチェはにこりと笑った。もう少しだけ。もう少しだけ、イレギュラーズで居させて。
 風牙は、只、我武者羅に槍を握った。

 ――まだこの手に、槍を握る力は残っている。まだこの脚に、前に進む力は残っている。まだこの目に、先を見据える力は残っている。
 ――さあ、起きろ。起きろ。起きろ。目覚まし時計はとっくに鳴ってるぞ!

成否

成功

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