シナリオ詳細
R.O.Oへようこそ!
オープニング
●Rapid Origin Online
介入手続きを行ないます。
存在固定値を検出。
――イレギュラーズ、検出完了。
世界値を入力してください。
――当該世界です。
介入可能域を測定。
――介入可能です。
発生確率を固定。
宿命率を固定。
存在情報の流入を開始。
――介入完了。
Rapid Origin Onlineへようこそ。今よりここはあなたの世界です。
●R.O.Oへようこそ!
練達三塔主の『Project:IDEA』により、練達ネットワーク上に構築された疑似世界。その名も『Rapid Origin Online』
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境は現在、予期せぬエラーにより暴走を行っている。
情報は自己増殖を繰り返し、フルダイブ型MMOの如き世界を構築していた。
ログイン中の『プレイヤー』がゲーム内に囚われる深刻な状況を打破すべく、アバターを作成したイレギュラーズは。
――この日、初めて『Rapid Origin Online』へとログインを行う事となった。
「わー! 来た来た!」
明るい少女の声音が響く。目を開けて、驚愕したのは眼前の世界はあなたが『特異運命座標』として召喚されたときに見た景色と同じだったからだ。
……そう言えばログイン時の座標はDr.マッドハッターと佐伯操女史に任せていた事を思い出す。
空中庭園。
空中神殿。
そして、寸分違わぬ『神託の少女』が微笑んで居る。
それを仮想世界と認識することにあなたは少しの時間を必要としただろう。
吹いた夏の気配を孕んだ涼風も、揺れる草木も、何処までも澄んだ空の色さえも。『幻想王国』の上空に存在したその場所ではないか。
「ねえ、私のこと無視? それとも、世界が綺麗すぎてビックリしたとか?」
あなたを覗き込んだのは桃色のツインテールを揺らせた少女であった。大きなリボンと愛らしいワンピース。
『やり込んでいる』であろうアバターの彼女へと「スノウローズ」と声を掛けたのは黒髪の少年であった。
「困ってるじゃん、これだから雪風は」
「アアアアアアアア言わないでって言ったじゃん! ここインターネットぞ! プライバシー!」
「バレてますよね?」
「なあ?」
「ねえ?」
スノウローズ(p3y000024)と呼ばれた少女の傍には似たような色彩の二人組、蒼い瞳のルナ(p3y000042)とファーリ(p3y000006)が揶揄うように笑い続けている。
その様子にあなたはデジャヴを憶えただろう。例えば、ローレットで情報屋達の日常のやりとりのような。
「こほん、改めてようこそ! R.O.Oの初心者さん。私はスノウローズ……あー、ううん。ローレットの情報屋の山田。
それから、こっちがファーリ、こと、亮くんとルナ、こと、リリファさん。三人でチュートリアルを簡単に案内するね」
出来れば『リアルの名前とか呼ばないように』とスノウローズは口を酸っぱくした。今回、彼が名を明かしたのは『知らないプレイヤー』に説明されても困るだろうという配慮だったのだろう。今後は可愛いスノウローズちゃんとして扱って欲しいと美少女の姿で懇願してくる様は何とも言えない……。
「まず、体を動かせる? そう、上手。現実と変わりないでしょ? 凄いよね、練達って。
じゃあ次、お話しできる? 普通にお話ししてくれたら大丈夫だよ。あ、ボイスチェンジ? えーとね、アバターの選択時に出来るから」
スノウローズは確かに少女の声音である。声も姿も思いの儘――仮想世界でありながら現実のような精巧さ。素晴らしいものだ。
「じゃあ、説明続けるな。此処は混沌、ではなく『ネクスト』
それから、この下に見える国は幻想ではなくてレジェンダリア(伝承)だ。現実(リアル)と違うところも多いんだ」
「そうですね。鉄帝国はスチーラー(鋼鉄)、天義はジャスティス(正義)、海洋王国はセイラー(航海)、ラサはサンドストーム(砂嵐)で深緑はエメラルド(翡翠)!」
ルナとファーリは少しずつ知っていけば良いとそう言った。現実世界では操達が『世界観』を冊子に纏めてくれているようだ。
「今日はネクストの世界の調査に行こうと思うの。何だって出来るわ!
いろんな国を歩き回って見たり、情報を集めたり、勿論モンスターと戦う事だってできるの。あ、クサザコちゃん試してみて?」
早速、空中庭園から移動してからスノウローズは『伝承』付近の街道で出会ったゴブリンを指さした。
勿論ですわ、とぷるぷるとした体を揺らして前線へと飛び込んでいくのは赤いスライム――クソザコスライム(p3y000015)だ。
「勿論、こんなものわたアアアアアアアアアアアア!!!!!!!?」
――死んだ。
呆気もない程に死亡したクソザコスライムにあなたは驚いただろう。
「最初は驚くわよね。デスカウントが表示されるけど、今の所は現実には影響はないって聞いているわ」
あるてな(p3y000007)が苦い笑いを浮かべた傍らで「次は僕だろう」とオームス(p3y000016)が戦々恐々としている。
「今回はチュートリアルのようなものです。ネクストを自在に探険してみて、R.O.Oの世界を体験してもらう。
私達がサポートしますから、安心してくださいね。勿論、自由に行動して貰ってもオッケーですよ」
ファディエ(p3y000149)は練達のフィールドワーカーだ。その彼女が言うならば安心しても良いだろう。
「ああ、任せておけ。『現実と寸分違わぬ私』が不安を解消できるように努めよう。
システムの暴走で私達も理解できぬ事が多い。皆がその目と脚で確認して調査する事が今は一番大事だ」
胸部のあたりはシステムの暴走ではなくて自前なのだというクロエ(p3y000162)。理想の自分になって歩き回るR.O.Oはとても楽しいのだと感じられる。
「さ~~ァ! 行きましょうねぇ!」
「Missさん、えっと……そのキャラ固定?」
「こっちの方が面白いかと思って。顔的に」
フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)へとMiss(p3y000214)は首を傾いでからころころと笑った。
「私達は、最初から誰が誰であるかを明かしあってるのです! ですが、私は皆さんが誰であるかはサーッパリ!」
あなたを見てからMissは悪戯っ子の様に笑った――ちょっとデスゲームの司会者っぽいが気のせいだろう。
「さっぱりだから、いつもと違った動きをしてみても良いと思いますよ。歴戦の英雄が突然スライムに挑んでサクラメントに死に戻りなんてのも愉快痛快だと思いますし!」
「Missさん」
「ふふ。それでは、楽しんでまいりましょう。Rapid Origin Onlineへようこそ、イレギュラーズさん!」
- R.O.Oへようこそ!完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年05月23日 22時40分
- 参加人数371/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 371 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(371人)
リプレイ
●
Rapid Origin Onlineへようこそ。今よりここはあなたの世界です――
●伝承I
伝承(レジェンダリア)――それがネクストでの幻想王国の名であった。
「全然わかりませんでした……つまり、あの、アレですか。よく見た別世界みたいな感じですかね。
知ってる人全然いないし、皆一体どこ行っちゃったんでしょう」
エマは不思議そうに首を傾げる。取り敢えずログインしてみれば『伝承』に変化していたのだ。
「不思議な感覚ですねぇ、確かによく見た場所で、いつも通りに見えるのに、違う場所だなんて。
でも確かに知らない人でいっぱいのような、似ている人もいるような……」
そんな不可思議な世界で、プレイ開始なのである。
「馴染みのある場所を見てみたい。だから、ここ」
周囲を見回したパトラは足を運んでみたい場所は沢山あった。
お世話になってる雑貨屋さん、パン屋さん、お肉屋さんに八百屋さん……どうやらローレットは存在せず、城はフォルデルマン二世が座している。
「お土産を持っていきたいんだけど、何を持っていこうかしら?
うん、決めたわ。カステラにしましょ」
だが、そう簡単には謁見できないだろう。成程、フォルデルマン三世よりも『普通の王様』なのかもしれない。
取り敢えずはリアルとの違いを把握しておきたいバッドラックははじめの街である伝承へと降り立った。
「どんなものがあるんだろう……?」と首を傾ぐハイリ。美味しいものがあれば堪能してみたい。現実との違いより『新しいもの』を発見するのも醍醐味だ。
まずは情報収集から。君塚ゲンムは国内を適当にぶらついてゆく。
幻想と伝承の違いを確認するのも重要な仕事だ。試しに戦ってみたいのは山々だがそれは血の気の多いメンバーに任せて、と。
「血気盛んと言えば……この世界に来てからは“破滅への憎悪”があまり感じられないな。
アクセスファンタズム、その影響かもしれん。おかげで居心地がとてもいい」
歩き回るのも心地よい。伝承と呼ばれた国の治政はある程度は安定しているように思えた。
この国がフォルデルマン二世の統治にあるだけでイメージが変わってくるのだ。
「もう一つの混沌……いや、ネクストだったか」
呟いたCyberGhostはローレットがあった場所や三大貴族の領地などを巡ってみようと周囲を見回す。『アウトサイダー』は何かに気付くことが出来るだろうか。
「あの世界の俺は、ファルケ様への恩義で生きていたが……その義理すらないこの世界に、俺は何しに来たのやら」
亡霊として彷徨うCyberGhostが見上げた空には空中神殿が――あの場所は変わっていないのだ。
「へぇ~、町はこんな風になってるんだねぇ。本当にそっくりだぁ」
のんびりと街を見て回るだけでも愉快そのもの。飛天丸は「新鮮だなぁ、背が小さいとこんな風に世界は見えるんだねぇ、楽しいなぁ~」と呟いた。
新鮮な世界で見かけたのは見慣れたようで見慣れない後ろ姿。「やあ、ファーリさん、ルナさん」と声を掛ければ二人は「一緒に回る?」と微笑んだ。
「此処でルアナと出会う予定だったのだが……?」
ルチアナとの待ち合わせ場所へと訪れたグレイシアは驚いたように眼前の女を見遣った。金の髪と美しいかんばせ、ルアナの目指した『大人』。それが――
「……何故、勇者が此処に居るのだ?」
「あの子がつけた名前は『ルチアナ』よ。……ずいぶん若返ったわね、アナタ」
あからさまに警戒しているグレイシアにルチアナは「分からないのよ。どうして、なんて言われたって。願ってもないのに」と肩を竦める。
「そう言えば、バグが多く発生しているという話だったな。これもその一つ、と言う事だろうか……」
「さあ? けど、人をバグ扱いとはいい度胸ね? ……まぁいいわ。
あの子には悪いけど、理由がわかるまでは当面『私』と仲良くして頂戴?」
流石に別行動を取るわけには行かない。ルアナは「おじさまと会えるの楽しみだなあ! 大人の姿、楽しみにしててね!」と笑っていたのだ。
楽しみにしていたルアナには申し訳ないが元から一つの体に二つの精神。勇者と魔王の呉越同舟電脳編と洒落込もう。
「良いわね?」
「仕方在るまい」
――もしも、ルチアナが先にログアウトしてしまったら「おじさまと一緒に行動してない、どうしてー!? 何が有ったの!?」と大騒ぎになってしまう。彼女の為にもここは勇者と行動を共にした方が良さそうだ。
「……うん、ちゃんと動かせますね。
自由に好きな姿が設定出来るとは言え、余りに掛け離れた姿のアバターを作ると慣れるまでに時間が掛かりそうですから、自分に近いアバターを作成して良かったです」
実家の事も気になるがドウはそれ以上にギルド・ローレットが存在して居ないことが気になった。
確かに、本来ローレットがある場所は現実世界とは趣が変わっているようにも思える。
「……ローレットの立ち上げにはレオン君と、ユリーカさんのお父様であるエウレカ・ユリカ氏が関わっているとのコトでしたね。
伝承……幻想を基にしたこの国は、前王フォルデルマン二世がご存命のようですし、エウレカ氏ももしかしたら、何処かに――」
其処まで呟いて、ふと、彼のことが気になった。レオン君と唇に音を乗せて。彼は何処かに存在して居るのだろうか――?
「ああ、どうしよう! 希望ヶ浜に篭もっていた時もそうだったけれど、 私ってゲームのキャラクリに、数十時間は余裕でかかるのだったわ……!」
種族しか決まっていないし、他はガバガバでやばたにえん。外見は見せれたモノじゃないとすっぽりとゴミ袋を被り、ウサミミだけお外に出しておいた。突然の不審者ムーブだが、不思議な夢の世界で見た姿をイメージしたアバターはもっと完璧に仕上がるはずだ。
お目当てはフレア・ブレイズ・アビスハートその人だ。ティファレティアそのものの姿をする彼女を見れば心がほっこりとしてくる。
「……?」
フレアは驚いたようにまじまじと跳ねている黒い布袋を見た。兎の耳だけが存在を誇示している。
「あやしくないよーう。もそもそ」
「……?」
――あれって、兎……? 誰だろう……?
●鋼鉄I
「いやはや、オンラインゲームとは日々進歩するものでございますねえ。
かく言う私も若い頃は練達の方々と一緒にモンスターをハントしたりしていたものですが……これは失敬。今は索敵中でございました」
肩を竦めたわんたは初心者も初心者。所謂『無課金初期アバター』なのである。それでも、レベリングは必要事項だ。
「この手のゲームは、常に狩場を模索していくのが大事だもんな。
しかも、このゲームは色々バグってると来た。昨日聞いた情報が今日も有効であるってー保障は無ぇ。
そんな状況下で信じられるのは、自分の足で掻き集めたリアルタイムの情報ってな」
――と云う事でやって来ました。鋼鉄。
Teth=Steinerが周囲を見回せば、それは現実世界の鉄帝とは大きく変わらないようにも見える。
(ここが鋼鉄……紫電として動いている現実世界の鉄帝とは空気が若干違うような気もする)
Steifeは不思議そうに首を傾ぐ。どうにも感じる違和感は皇帝の暗殺事件による動乱からくるものなのだろうか。
「――とはいえ新しい環境だ、まずは身体を慣らしていこうか。ゲームといえば定番のレベリングで、な!」
ウーティスは大きく頷く。「力試しか、この地での腕鳴らしにはちょうどいいだろう」と夜の声と名付けられた優美なる銀の剣をすらりと抜き取った。
「それに魔性、獣の類も放置しておけばいずれ弱きものを襲う。宜しくない。
故に、私はそこな麗しき女傑と同行しよう。皆の者、宜しく頼む」
堂々と告げるウーティスは遊撃係である。早速、パーティープレイを始めよう。
「この世界に触れるのに、1人ではどうしようかと思っていたところです。仲間がいるのは安心しますね」
ほっとしたように微笑むボーディガーもパーティープレイに参加である。高位の霊的存在に接続して力を借り受ける彼は頑張りましょうねとパーティーメンバーを鼓舞した。
「神様見習いの武野だ。よろしくな! 雷と剣で近寄ってぶった斬るくらいしかできんが!
この鋼鉄ってとこは何やらゴタついてるっつー噂だが……ま、ちょいと奥地入り込めばカンケーねーだろ!」
にんまりと微笑んだのは武野ミカ。確かにゴタゴタしている国ではあるが、その喧噪を避けてしまえば問題は無いだろう。
「へぇー、これがゲームの中なんて凄いな。……んんっ、今の私はレイティシア・グローリーでしたね、余りのリアルさに思わず素がでてしまいました。
先ずはレベリングするのが良いと聞いたので早速皆さんとレベル上げに行きましょうか」
思わず『リアルばれ』しそうになったレイティシア・グローリーは肩を竦める。索敵は出来ないが、回復役の護衛は務められるはずだ。それがレイティシア・グローリーが本で読んだ『高潔なる聖騎士』の姿なのだ。
先ずはレベリングするのが良いと聞いたので早速皆さんとレベル上げに行きましょうか。
「ここがR.O.Oの世界、ですか……凄い、本当の世界と見分けがつかないですね。
それで、ええと、ボク――じゃない。私達は今回、何をするのです? ブラッド?」
首を傾いだのは†聖天使†セシリアである。品行方正で誰にでも優しく接する天使のような美少女というキャラクリエイトをされた結果、妹によって新たな業を背負うことに為った美少女は首を傾げたまま問い掛ける。
「フハハハハハ! 世界は! オレ様の生誕を祝福するだろう! †漆黒の竜皇†ここに参上である! フハハハハハ!!」
――まず、前口上は邪魔してはならない。勿論其れがリアルでは妹であろうとも、だ。
「この手のゲームは、何はともあれ、まずは効率よくレベリングをするべきだと聞いた! 良かろう、我が暗黒竜の力、存分に振るってくれる!」
†漆黒の竜皇†ブラッドへと†聖天使†セシリアは大きく頷いた。
「なるほど、レベリング……訓練、みたいなものですか。
そういう事なら分かりました、全霊を尽くしましょう。皆さん、宜しくお願いしますね!」
初心者でも皆と一緒なら安心かなと花楓院萌火は微笑んだ。この狩り場でパーティーを組む以上皆フレンドだ。
踊ることで魔法を発動するロールプレイを楽しむ花楓院萌火は「頑張るね!」とにんまりと笑みを浮かべる。
「皆でパーティーを組んでいっぱいモンスターを倒すよ。レベル上げだー!」
さあ、頑張ろうと微笑んだセララによってパーティーメンバーに訪れた幸運は早速のモンスターの襲来だ。
空を翔るセララは呼び寄せた天雷を聖剣から放ち、眼窩のモンスターを早速一体打ち倒す。
何か良いことを求める彼女に呼応したようにモンスターがぞろぞろとその姿を現した。
狩り場では『釣り役』も求められる。じぇい君はシーフとして素早く前線へ飛び出し、モンスターをセララやトモコ・ザ・バーバリアンの前へと誘い込む。
「さ、こっちだ!」
索敵スキルを活かして、駆けるじぇい君は直ぐ様に身を隠す。「トモコねー!」と呼んだのはルージュだ。
足に力を込めて跳ねる。愛の力は何だかよく分からないけれど、最強の力は愛なのだとアピールするようにモンスターへと叩き付けられた。
じぇい君と同じくウーティスは敵を引き付け、裁きの光を身に纏う。風の気配を纏いながら、電子の仮面舞踏会を楽しみ続ける。
「それは?」
「ああ、銀の横笛だ。得手は弦楽器の類であるが、持ち歩くのには不便故、笛にした。
休憩中に曲を聞くのは、良いものだ。心がほぐれる。それに、つわものにしろ、そうでないにしろ。
一時でも運命をともにした我らだ。例えデータの集合体で儚き影絵、すぐに蘇るとはわかっていても、逝った者に何かを捧げたい……その気持ちは、こちらでも変わらんのだよ。それを忘れては、いけないような気がしてな」
微笑んだウーティスにじぇい君は成程、と首を傾いだ。
「R.O.Oの中で生きるっていうのも変だけど、こっからがおれの人生なんだ。おれはルージュ。産まれたばかりの妹だぜ!!」
トモコ・ザ・バーバリアンは「よーやくのサービス開始だ!」とデルさんを片手運用しながらずんずんと進んでゆく。
前線で戦うトモコ・ザ・バーバリアンの危機察知能力は原始の直感、ネアンデルタールの補助で再現された彼女の才覚は確かに研ぎ澄まされいる。
「うぬ。なるほど、見覚えのある光景がスイと出た。
このままではユリーカ殿にも負けず劣らずのへそ出し美少女が立ち往生するところじゃったが、見覚えのあるゴリラと見覚えのあるセララ殿たちがいてくれて助かったのじゃ!」
にんまりと微笑んだ玲は堂々と名乗り上げる――緋衝の幻影は地を蹴り……何処へ往くか分かっていなかったのだった。
「そんで? 手頃な獲物が集まりそうな場所を見つけりゃいいのか?
ならオレは水場をに行くかね。ゲームっつってもある程度常識(ルール)はあるだろ?
それぞれ生息域や行動原理があるはずだぜ。ま、そんな感じに獲物を探して、見つけたら一足先に狩り始めるぜ。
――こういうのは先手必勝! 早いモン勝ちだ!」
勢いよく飛び出していったのはキサラギである。死なないように気をつけて、右手で二刀、左に一刀、三刀流の流派『狐月三刀流』の使い手は勢いよくモンスターへと稲妻の如き太刀筋を叩き付ける。
次いで、パツィルーイを手にしたTeth=Steinerが『スキル1』で攻撃を叩き付けた。因みに、ゲーム内のスキルは自分でカスタム可能なのだそうだ。
「にしてもなー。我ながら、スキル1だのスキル2だのと味気無ぇ名前のままになってんのはどうかと思うわ。
そろそろMODでもぶち込んで、カッコイイ名前と派手なエフェクトのスキルを振り回せるようにしてぇもんだ。やっぱさ、そういう自己満足って大事だと思うわ」
モチベーションアップにはやはり様々なスキルが必要なのである。
花楓院萌火は気付いたように仲間達へと癒しの波動を舞踊らせる。演技に、ボーカル技術とダンスの技術を加え、踊り続ける彼女の周囲にはきらきらとしたエフェクトが舞い散った。
武野ミカが手にした両手剣は雷の気配を纏う。剣を叩き込んだモンスターの叫び――そして、反撃へと軽やかに放ったのは蹴撃。
横薙ぎに切り払い、剣の隙を狙わんと無数に姿を現したモンスターを見据えたのは槍一来主。
「体が小さい、武器が軽い、体が軽い……記憶力ってのもバカにならないもんなのね。
ガツガツしてるのは『あっち』の趣味じゃないけど、アタシは戦うのは好き『だった』からね。さて、ひと暴れするわよ!」
唇で三日月を描く。槍一来主は激しく死なない程度にを心がけて走り回る。
死ぬのは御免、死なれるのも御免。仲間との連携は優先事項である。
レイティシア・グローリーが引き寄せた敵へと槍を叩き付ける。レイティシア・グローリーはふと、本でも――と考えて、此処ではリアルと同じようには行かないことを改めて体感したのであった。
後方より、砲撃を行うボーディガーは携帯型歩兵式セーカー砲による驚異の力で敵を退ける。レイティシアが護ってくれる事で安心して後方支援を行うことが可能であった。
Steifeの雷光の刃が敵を穿つ。周囲に展開された無数のエネルギー鎖がモンスターの体を縛り付ける。
「閃雷、轟いて! ブリッツストライド! ――眩しくなっちゃえ!」
Steifeに続くのは玲。パーティーボーナスでうまうまじゃあと斧を振り下ろす。
「地域柄、ブリキロボみたいな敵ばかりじゃのう。
スクラップを量産するのもよいが、そろそろ休みたくもなるのう。こういう時にクソザコスライムは人をダメにするソファになってくれるのでは?」
――やめて! その子はクッションじゃないわ!
「おや、お疲れですか?でしたらお茶でもいかがですか。ええ。私、リアルでは一応執事ですので――」
微笑んだわんた。美味しい狩り場を割り出すためのメモも滞りなく行っている。
ルージュは「なぁ、せっかく人数が居るんだし、もうちょっと奥に行ってみようぜ」と手を広げてみせる。
「雑魚を永遠と狩ってるだけじゃつまんねえしさ。
こういう世界ならなんかエリアボスみたいな奴も居ると思うんだよな。ねーちゃんやにーちゃん達とせっかく遊べたんだ――なんか、こう記憶に残るようなことをしてみたいぜ!!」
その期待に応えるようにトモコ・ザ・バーバリアンは大きく頷いた。
冒険だって勿論楽しい事ばかりだ。だが、奥へ行く世云う事は危険が付き物なのである。
「フハハハハ! 雑魚どもめ、暗黒の書ネクロリークスの錆となるが良い!
――って、痛だだだ!こ、こやつ他よりレベル高いではないか! セ、セシリア! 早く援護するのだセシリアー!」
「はっ、ブラッド、危ない!! ――ふふ、どうですか? しっかりサポートでき……え、違う? そうじゃない?」
前衛で杖で殴る彼女を見て、お前はヒーラーだろうという叫びが木霊したのだった――
●鋼鉄II
「ワーイ! ゼシュテル、じゃなくてスチーラー!
すごいや、空気が本当のゼシュテルと同じような気がするぞ。ヤッホー!」
素早く動き回るのはフラッシュドスコイである。しゅんしゅんと走り回るフラッシュドスコイはテンションもマッハであった。
「そうだ! 闘技大会があるということは、スチーラーラド・バウもあるんだよね! 試合の観戦したいなあ。応援も得意なんだ!」
――と言いながら、スチーラーでは皇帝が死んだばかりで未だ動乱が続いているのだ。
最強を関しているはずの皇帝が死んだ……と、考えてからNPCは死亡することもあるのだと実感しフラッシュドスコイは肩を竦める。
「なんとも物騒だなあ。ボクはゲームの中でもなるべく生きていたいな。いのちだいじに!」
こちらの世界にも『ギルド』があるかを確認しに訪れたシスネは記憶の手がかりがあれば嬉しいけれどと首を傾げる。
NPCとして自身の友人達が居たならば、一先ずはその場所へと向かってみようか。
希望ヶ浜の生徒が取り込まれたという話を聞いて、捜索を手伝いに来た蕭条は物騒だと聞いた鋼鉄を確認しに来た。
取り敢えず、話を聞けば何とかなるはず――
「むりです。さっきまでの楽観的な私を殴り鯛。だれ? 話をきくって言ったの。このすぴーどであるいてる人にはなしかけるの?
むり。ぶつかったら死んじゃう。そんなキルカウントやだー!
はっ! もしかしたら私だけ視界倍速モードになのでは? なってない……そう……へぇ……ふぅーん」
その時、蕭条は今からオブジェクトですとぴしりと硬直した――壁に刺さって抜け出せなくなったのはご愛敬なのだ。
「ゲームの中でもお酒が美味しい! 街並みも現実とあまり変わらないし、さすがは練達の技術力ですね!」
夢見・ヴァレ家に「とってもゲームの中とは思えないよ!」と同意したのは夢見・マリ家であった。
「ちゃんと料理もお酒も味がある……! 拙者びっくり!」
ふと、マリ家がヴァレ家を見遣ればその視線は噂話を話す若者に向いて居る。
「ふうん、有力者が皇帝を自称して……現実ではどうだったでしょうか。ただただ必死だったから、もうよく覚えていませんね」
「ふむ……この国は中々困った情勢みたいですね……ヴァリュー……じゃない……ヴァレ家……」
彼女の纏った空気に哀しくなるマリ家であったが、ヴァレ家は直ぐにジョッキを傾けて笑みを零した。
「でももしかしたら皇帝になれるかもなんて、夢がありますね!」
「確かに夢がありますね! きっとヴァレ家なら夢じゃないですよ! 拙者も協力します!」
「拙者が! 拙者こそが皇帝です! ――あっあっ、嘘です御免なさい集団で囲まないで……逃げましょうマリ家、これだけの数と手合わせをしたらとても身が持ちませんよ!」
「うおおお!? に、逃げようか!! ヴァリュー……じゃない! ヴァレ家! 拙者に騎乗して! ――ついでにどこか略奪していくかい?」
言ってることが最早、盗賊の類いであるが、二人は楽しげにルル家宅が現実ならば存在した方向へと逃げ果せるのだった。
Ignatは首都近くを調査していきたいと考えていた。R.O.Oでは普段の口調の訛りもでず、何時もと少し違った雰囲気だ。
「最強だった筈の皇帝がどうやって殺されたのか? 皇帝が殺された時の三強がどうしていたのか?
気になってしょうがないね! 今回は鋼鉄首都の中央でヴェルス陛下が何やってるのか調べたいよね!」
ヴェルスと出会ったときに何が起こるか分からないが――鋼鉄と鉄帝の違いを確かめるだけでも面白い。
探るIgnatの傍ではイチカが活動していた。適当に路地裏を歩いていたら何か落ちていないかと調査していたらしい。
「最優先として武器もスキルもない以上、現状戦闘をするのは避けた方が賢明よね。
適当に路地裏を歩いたり本を流し読みしたり、出来るだけ人が少ない場所を散策してみるわ。ゲームなんだから隠された情報とかアイテムとかあるんじゃないの? ついでだし死んだ皇帝ってどんな人間だったか聞いてみるのも面白そう」
聞くことが危険ならば、行動も考えなくてはならないが――それでも、今は平穏を味わっていたいのだ。
「機械の体になったので、鉄帝には色んな古い機械(スチームパンク)ぽかったので来てみましたが、なんだか不穏な空気を感じますよこれは」
ミカは焦っていた。何だか、鋼鉄に来るタイミングを間違えた気がするのだ。
「色んな人がいそう。喜ぶ人に悲しむ人、あれれこれこの人たちの願望を基に変な空間作ったりしませんかね。
どうです! 私の名推理!! ……ネクスト……? すでにおかしい場所がある……?
忘れましょう。忘れて。忘れよう。 忘れてくれないならビーム出しちゃいますからね! ほらビームビーム!!」
忘れろビームでリセット決めて行こうではないか。
「わぁ! ここがR.O.Oかぁ! 本当にこんな世界なんて作っちゃってたんだ、凄いなぁ……はっ!
――こほん。
今の私はクールなお姉さん、だからあんまりはしゃいだりはしないわ。もちろん鉄帝、ではなく鋼鉄だったかしら、この国に来て確認すべきことと言ったら1つしかないもの」
吹雪の眸はきらりと輝いた。そう、目当てはパルス・パッションだ。まだ見ぬパルスグッズやパルスの新曲が聴ける可能性だってある。しっかりと下調べしておかねばならないのだ。
「『こちらでは』侵略戦争を始める可能性もありますし、用意はしておいたほうが良いでしょう。
とは言え、国内情勢を鑑みると、あからさまではしょっぴかられる可能性もあります。
まあ、観光がてらで彷徨いて変に思われたら『迷った』と弁明しましょうかね」
サクラメントの探索を行っている黒子は此方でも何か算術に使える道具を手に入れられるのではないかと考えていた。此れからに備えて、鋼鉄の情報も得ておくべきだろう。
「え~皇帝さんが死んだんですかぁ~ こわ~い でも、どうしてなんですかぁ~
やだ、このまま戦争になったら私ももしかして殺されちゃう~」
バーチャルネコミミロリババジジィはその後、裏道へと抜けてからげらげらと笑い続けた。
「――なーんっつってなぁ! さすがガキの身体は違うなぁ!
元の俺の身体とは町の奴らの警戒心が全然違うぜ、訊きゃあなんでも答えてくれるたぁな!
ハハハ! この世界とこのアバターならいけるかもなぁ? あのざぁこ♡皇帝の…っといけねぇ、口調が移っちまった、あの雑魚皇帝の後釜に座るってのがよぉ!」
作り物の世界でも皇帝の座へと座れるならば――!
「おー、声が伸びないっすね。扇風機としての自分の唯一のコンプレックスが解消されたっす。これはテンション上がるっすね!」
アルヤンは早速モンスター目掛けていざ、出陣である。今の自分を知るのは大切なことだからだ。
だが――「あれ? これ自分も不味いんじゃ?」
どかんと一発、物の見事に死亡がカウントされて強制ログアウトなのであった。
●鋼鉄III
「はぁーっ! やっと、アバター作成だなんて面倒くさい奴の登録が終わったわ!
ふぅん……色々出来るみたいだけど、まずは地元(鉄帝)をモデルにした鋼鉄に行きたいわね
やっぱり、地元をモデルにした所って色々気になるじゃない? 何かきな臭い事件が起こってた? 起こってる?
……なら、有るわよね! 刑 務 所 が !!」
セチアは鋼鉄に刑務所があるのかを調べたかった。看守として知っておきたい。どんな刑務所であるかも理解しておきたい。
「鋼鉄、実力主義だろうしなぁ……装備やレベルが足りてるなら挑戦したかったのだけれど……」
屹度、1つくらいは存在して居るだろうが、現在は大騒ぎで、そうそう雇っては貰えなさそうである。
「R.O.Oにログイン完了ー! ……は良いとして、事前情報にゲルツ・ゲブラーという人名が見つからなかったのですが?!
え、ゲブラーさんという偉大な人を実装していない? そんなはずはありませんよね? こうなったら、あやめ、ゲブラーさんの実装確認をしますよ!」
捲し立てるミズキにあやめは「確かモデルになった鉄帝って相当な実力主義だったはずですし、ラド・バウにいるのなら、下手すると私達、初デスカウンター喰らいますよ!?」と大慌てである。
いや、偉大なるゲルツなら居ると信じています(私情)。それはミズキも同じ気持ちである。
「私はまぁ、死んでも構わないのですが、あやめがデスカウンターに拒否反応示してますしね……」
「そりゃ……」
「ならば! RPGで情報を集めるといえば、酒場!
お酒は飲めませんが、飲み物や食べ物を買うという対価を払う事で、店員さんにゲブラーさんについて、平和的に聞けると思うのですが!」
どうでしょうか、と問うたミズキにあやめは頷いた。それならば――屹度、良い情報が得ることが出来そうだ。
装備も何かもが違う事に驚きながらもじょーじは散歩気分でうろうろとして居た。
此の儘、飛び込んだとしても囚われたプレイヤー達を助けることも出来ない。
「しかし、此処は一応私の生まれ故郷がモデルのハズだが……いやあ、住んでたの十年以上前だし懐かしいかどうかも分からんね、はっはっはっは!」
全く知らない場所のような気がして仕方が無かったのだ。大部分は現実を参考にしているそうだが――大きく違うのは。
「……まあ、皇帝の殺害か。
私達は此処で何が起きているのかを知る所から始めねばならない、噂話でもいいから、色々と話を聞きに行こうか」
まだ慣れていないソール・ヴィングトールも聞き込みからスタートである。情報があっても困ることはない。
「しかし興味本位で男の体にしてみたはいいですが、頭の位置が高くてクラクラするでありますね。……おっと、しばらくは正体は秘密秘密」
リックはゲームの中で里帰りだと銀の森を訪れた。歴史の人物達にも変化がある。銀の森は静かそのものだが精霊達の姿は余り見当たらなかった。
古代兵器の残骸はあるが、木々は鬱蒼としている。砂嵐からの影響も大きいのだろうか。
「エリス様ー! どこですかー! おれっちエリス様を守る騎士型のアバターになりましたぜー!」
ばたばたと手足を動かして、リックはエリス・マスカレイドを探し続けた。
「この姿にもやっと、少し慣れてきたとこだ。次はこの世界に慣れていかないとな。
さて、ここで薫さんと待ち合わせをしているんだが……なんだか大きい人がいるな」
お龍は目印は『猫耳』だと薫に告げていた。可愛らしい少女がいる、と薫が近付けば――
「あの、薫さんですか? あぁ、びっくりしました。……か、かっこよくなってらしたので……」
「あの、参考までに聞きたいのですが、栄……お龍さんはそういう外見の女性が好みなのでしょうか?」
「え!? い、いえ! 俺の姿はその……趣味とかではありませんので!」
大慌てのお龍に薫はくすりと笑う。二人の目的地は鋼鉄――ではなく、鳳圏だ。だが、時節が悪かっただろうか。
「お龍さん、私から離れないでくださいね」
「……えっ!? 手……繋……は、はい、そうですね! はぐれてはいかんですし!」
女の子扱いに大いに緊張しながら、顔を赤らめて、お龍は進む。二人のデートは始まったばかりである。
「わぁ、ここがROO! 僕もお兄さんやお姉さんと同じ二本足ですね!
まだちょっと慣れないところがありますが、今回のお散歩で上手く動けるようになるといいなと思います。
今日も楽しく頑張ります!」
にんまりと微笑んだ小黄はダンジョンをお散歩に。一緒に行こうかと微笑んだのはファーリであった。
「唯一手に入ったドラム缶は防具というより敵が来たら手足を引っ込めて隠れんぼするためのものです!」
「えっ、それだけ!?」
慌てるファーリに小黄は「はい、でも大丈夫ですよ!」と力強く頷いたのである。
体がどれ位動くのかを確認しておきたい。迅牙はR.O.Oに降りたって最初に自身の内部データに存在した兵装がどれ位再現されているかを考えた。
「先ずは……右肩側に多連装ロケット砲、左肩側に単装のミサイル発射機か。
鋼鉄で地理的経験値を得れば良いか。周囲を回るぞ、喩えモンスターをトレインしてでもな」
アーゲンティエールは周囲をきょろりと見回した。
「うs……アーゲンティエールだ。ウサギではないよ。……耳? なんの話かな?」
気のせいなのだと首を振って目指したいのは故郷に当たる土地、鋼鉄だ。
「我の故郷にあたる土地に向かおうと思ったんだけれど……えっと、政情不安定? というか、時系列が変なのかな、これ?」
銀の森に相応する場所は静寂が漂っているが、普段よりも者寂しい。後ろ盾らしい後ろ盾がない今は喧嘩も出来る限り控えて、進むのが良いだろうか。
――鉄帝、それとはまた違う地。当機構自身、彼の地については調査不十分な点が多いと判定。
――調査、実施します。
アンジェラは見物程度に情報を入手するためにラド・バウも調査コースに入れて、単独行動を始めた。
鉄帝では蒸気工場工場を中心に見学したが、鋼鉄とは大きく違っているようにも感じられる。
技術特異点について感情:好奇がポップするが、逸れも一旦無視である。
出来ればラド・バウでの模擬戦もしてみたいが、普通に戦ったら壊れてしまうのでレクリエーションでお願いしたいところだ。
●伝承II
「まだこちらでの私のあり方や喋り方も覚束ないですし……今回は一人で散策しましょう」
そう決意したパンジーはふわふわとしたドレスを身に纏い、頼りなさそうな幼い少女の声音で話していた。
自身のリアルでの姿は伏せて行動する事に決定し、単独行動でモンスターの出なさそうな賑やかな街を歩み行く。
何時もならば共に居る猫たちと出会うことが出来れば幸福なのだけれど――……
那由他の心は躍っていた。唐突なインスピレーションで作られたアバターは現実の自分よりフレンドリーだが『やること』は変わらない。
「新天地で私のやることなんて決まってますよね?
勿論、物語の収集ですよ! 現実とこちらとで違う内容の物もたくさんあるでしょうしね。
なにしろ、微妙に歴史がずれているようですから、現実では悲劇として伝わっているものが、喜劇になっているかもしれません」
町中で見られる書物や噂話だって違っているはず。そう思えば楽しみだと胸が躍った。
そう、現実に存在するならば此方にだって。ヨハンナは練達がなければ伝承で人捜しだと意気込んだ。
肌を撫でる風も、香りだってそっくりだ。そんな場所だからこそ、『スターテクノクラート』は存在する筈だと信じている。
「さて、『スターテクノクラート』について民から話を聞いてみよう。どんな些細な事でも良い。情報が欲しいンだ」
尊敬する故にシュペル先生とその名を呼んだ。ヨハンナは気付かなかった。尊敬し続ける彼の告げた言葉を思い返しているばかりに。
『魔眼の見る世界に乾杯』――魔眼が嫌いだったヨハンナの世界をまるごと変えてしまった彼を探すばかりに。
擦れ違った、『同じ顔』の存在に。赤い髪の、同じ顔をした娘の事になど。まるで気付かぬままで。
雪と名付けた真白の馬に跨がっていたマシロは間違いのマップを散策し続ける。
「オープンワールドゲームは……マップ散策が、楽しい……ふふっ」
ぼんやりダウナー名雰囲気を纏っていた真白はモンスターと遭遇すれば戦うしかないと決意していた。
今は気儘な一人旅――だけれども、NPCが助けを呼ぶ声が聞こえたら直ぐさまに駆けつける。それで、死んだって気儘に過ごすゲームであれば、何だって楽しいのだ。
「ふふ、待った?」
にんまりと微笑んだスノウローズにアイは「いいや?」と首を振った。
「今回は試運転も兼ねていろいろ情報が知りたいってのがあってネ。
ほラ、君はこの世界での先輩的存在ダ。なら色々分かる事も有るだろうシ、色々聞いておきたい事があってネ」
「ほうほう」
「……例えば重要NPC的な存在とか。そうだネ。『イデア』なんて名前の人が居たりすル?
居ないならいないで、混沌であまり聞かない存在なのに名前が伝説みたいに残ってる感じの存在でも良いんだけれどサ。
ほら、この手の違いが何かのクエストフラグに繋がるかもしれないだろウ? だから知りたいのサ」
問い掛けるアイにスノウローズは「うーん、私も知らないかも」と肩を竦めた。アイにとっては『気になる要素』ではあるが、スノウローズは「それって、現実でも重要な人?」と不思議そうに首を傾げるだけだ。
さて――その『イデア』がどう関わるのかは……まだまだストーリー進行が行われていないR.O.Oでは不明なのである。
「あ、鏡禍……じゃなかった、濡羽君発見」
アルビレオ・エトワールの呼び掛けに慌てたように振り向いた濡羽は唇を尖らせる。
(――確かに僕のアバターお教えしましたけど明かさないでくださいよぉ!)
そうは言いたくても現実が怖いので、言えなかった。肩で小鳥の花が笑っていても聞こえないふりなのだ。
「とりあえず一緒にサクラメント探してみない?」
「サクラメントですか? いいですけど……」
アルビレオ・エトワールに頷いた濡羽は捜し物などの簡単なモノが良いと考えたが――やはり、モンスター退治である。
「アルビレオさん、演じてるって言っても中身やっぱり変わってないですよね。
……それじゃ、鏡、お願いしてもいいかな?」
もちろん、と頷いた鏡にアルビレオ・エトワールは敵を引き付けるからあとは濡羽にと提案し――「あれ、僕ってスキル設定どうし、ちょっと待っ」
ニアサーは憧れの人のロールプレイを懸命に頑張るレモンを眺めて居た。
「今日の所は伝承の街をゆっくり見て回るとしようか。行こうぜニアサー……ま、軽いデートみたいなものだよ」
微笑んだレモンは憧れの人ならば色んなお姉さんには声を掛けるのだと早速道具屋の娘の前でウィンクを一つ。
「道具屋のお姉ちゃん君可愛いね? これからしばらくお世話になるよ、良ければプライベートでも……」
じっとりとした眸でニアサーが睨め付けてくる。違った人を演じるロールプレイになんだか複雑な気持ちなのだ。
「あっ……まってココ……ニアサー、違うから、NPCにしかこういうのしないから!!」
慌てるレモンにニアサーは「気にしてないよ、私のかれ……いや、可憐なレモン」
揶揄うように笑ったニアサーにレモンは肩を竦めた。憧れの人も中々難しいのである。
「マナ、久しぶりだね。きみと離れ離れになってから随分長い時間が経った……。
イレギュラーズに復帰してくれてボクは本当にうれしい。まだ体の方は本調子じゃないんだろう?
R.O.Oならいくらかマシだと思う、ゆっくりで良いから一緒に頑張っていこうね」
微笑んだゼロにまなはこくりと頷いた。風景や感触はリアルで、自分自身の姿が変化したことにも何処か緊張し続ける。
「だ少々慣れていないのもあってむず痒いところもありますが、えぇと……ぜ、ゼロ様はいかがでしょう?
器用なゼロ様ですし、すぐに慣れていそうな気もしますけれど……慣れるまでは……お手を引いていただけると……嬉しいです……」
「ふふ、マナ……じゃない、まな。この世界でも、現実の世界でもずっときみの手を引いていくよ。
きみを傷つける者すべてから守ってみせよう。そのためにボクは戦い続けてきたんだ」
微笑んだゼロがまなの手をぎゅっと握る。何時の日以来か、遠い時間が過ぎ去った気がする。
まなが「何処へ往きましょう」と問うたその言葉にゼロは柔らかに微笑んだ。何処へだって行ける気がするんだ、君となら。
「――おかえり、まな。また歩いていこう、二人で」
●伝承III
「ふむ、伝承のリーゼロッテ・アーベントロートについて調べたい、と。……構わぬが、R.O.Oのそれは別人だと聞くが」
ジャック翁の言葉に♱✧REⅠNA✧♱は別人で在る事は理解していると前置きした。
「だけれども、我(わたし)がレイナである以前にレジーナ・カームバンクルであるならば、避けて通るにはちょっと難しいかしら?」
「――だからこそ、か。言わずとも承知しているだろうが、伝承と幻想は似て非なるものだ。忘れるな」
ジャック翁の言葉は気遣いに溢れている。バーチャルとリアルを混同してはならない。それは♱✧REⅠNA✧♱とてよく分かっている。
「しかし、女王よ。R.O.Oは偽りの姿を纏う……が、見たところ現実とあまり変わらぬようだな。それが其方の理想か」
「元の姿が落ち着かないから変身しているだけよ。これが理想の姿と言われると色々思うところはあるけれども。
――さて、行きましょ。この世界についてもっと知らなければならない」
そう口にしてから彼女の姿は変化する。男性の姿形に変化して、その声色さえもまた別に。
「…そいつが、オレ達がまずしなきゃならねぇ事だろうからよ。よろしく頼むぜ、ジャック翁さんよ」
練達の技術であると知っていてもLenaにとっては不思議な感覚であった。幸い『半身』がゲーム好きでそれ程、違和感なく没入することが出来たと周囲を見回した。
アサシンの見習いとして、NPCとの会話や各種ギルド、クエスト掲示板を確認し続ける。
「それにしても……なるべくソロで動きたいものね。皆にアバターバレしたら恥ずかしいもの」
猫の獣人である姿は中々、リアルの友人には見せづらいのだと小さな声音で呟いて。
「ああ、光景は全く『同じ』に見えるが、兎角、適当に散策すると為そうか」
酒場に入り浸っていたユグゴト・ツァンは普段なら飲まないアルコールを鯨飲し続けていた。
「おお、この珈琲みたいな酒、飲み易いな。何、ゲーム内限定の品物だと。其方もどんどん寄越せ――普段飲まない分ペースがわからない。何、ツマミだと? しかし貴様、楽しそうに歪んでいるな」
酩酊の拍子に妙なところに迷い込むかも知れないが――死んだら死んだで良い経験だ。
裏路地ならば表沙汰にもならない。醜悪な化物の姿を見せようとも問題は無いはずだ。喩え死んでもこの頭痛、酩酊、楽しまないわけにはいかない。
「ふふふ。私は、そう、ママ。さあ、触手(えもの)を喰らうが好い。我こそが貴様等の母親だ
胎へと還る心地は遊戯内、味わえるとは思えないな。――貴様等、貧しそうだが、如何なのだ? この胎の中nおぼrrrr」
ティアはリアルとは全く変わりない気配に驚いた様に周囲を見回した。死なない程度に街の中を散策したい。
出来れば口説いたりもしたいが、暗殺令嬢との逢瀬は中々難しいだろうか。一先ず、屋敷の前までは行けそうだ。
「ここがR.O.O……本当に現実みたいだね、混同するまではいかないけど。
リーゼロッテも居たりするのかな? もし居るのであれば探してみようかな。
もしかしたら性格とか違ったりしてそうなら――それはそれで楽しそうだし」
さて、享楽的な彼女がどうなっているのか。変化の有無さえ、楽しいのだから。
「リュ……んん。プロメッサさんは、随分と暑そうな格好なのね?」
全身強化装甲であるプロメッサを興味津々に眺める花糸撫子は前から後ろから、くるくると回って様々な角度から見てみせる。
「そういう貴様は、普段とあまり変わらぬのだな……いや、貴様――」
プロメッサは気付く。花糸撫子はこの世界では目が見えているのだ。
彼女は目が見えない。だが、彼女も随分とプロメッサの姿が違ったことに気付いている。長い髪はない。繋ぐ手の力強さは分かれど、温度は分からないと小さく笑う。
「私? そう、私、見えてるの! 周りの建物も、行き交う人も、あなただって見えるのよ! ふふ、とっても嬉しいわ!
ねえプロメッサさん、この世界ではどこを見て回りたい?一緒にいきましょう!」
――案外悪くない。
そう思った。見えているなら手を繋がなくとも、と言いかけたが、何時もより楽しそうな彼女に水を差したくなくてプロメッサはその手をしっかりと握りしめた。
ヨハナはR.O.Oにログインしたときに獲得したモノが3つあった。
『伝承』の下級商人の娘としての地位、自分の家族であるNPC(父・母・祖父)、商人の娘ヨハナとしての記憶である。
「………ここは? なんだか長い夢を見ていたような……今もどこか現実感を欠くような……」
ヨハナ、と呼び掛けた男性に「あ、お父様」と微笑んだ。
「……ええ、はい。そうでした。思い出しました。今日はこちらに沢山の冒険者様がいらっしゃるので、そのご挨拶ですよね。
冒険には様々な道具が入用ですから、これからが書き入れ時で……はい、憶えてます。
何週間も前から何度も仰ってましたものね。ヨハナも一緒にご挨拶しますよ。商人はまず覚えてもらわないと、でしょう?」
そう告げてから、父ノートルダムが去っていた背中を眺めてヨハナはぼんやりと、呟いた。
「…………すごいですね。この世界。まるで本当に、生きていたみたい」
今まではローレットのイレギュラーズだと告げれば良かったが、ローレットが無いとなれば一般人なのだろうかと桃果は首を傾いだ。
バグだらけのこのゲームでは何時、設定が変化し、増殖するかも分からない。ネクストと混沌は違うが、特異運命座標として認識はされているらしい。
「伝承の酒場をはしごして情報を収集するのが一番だろうか。レオンやエウレカ・ユリカ、それに娘のユリーカのことも分かるかも知れない」
桃果に頷いたのはシキ。ケンタウロスの姿から二足のアバターになった事で動きやすさは上がっているらしい。
「最後にもふもふ隊で集まって話し合いできるといいんですが……さすがに捕まったりしませんよね?
世の中には知らない事がいい事もある……バーン! とかされませんよね? ね?」
不安げなシキにエクセルは「そ、そんなことないはずニャー」と震え上がった。
ローレットは存在して居ない様だ。其れがどうしてなのかは分からない。バグだらけのR.O.Oで明日出来上がるなんて事も在るか知れないが、エクシル達がログインしたその日には、『それ』は存在して居なかった。
「空中庭園やざんげは普通に存在して、オイラたちは特異運命座標らしいニャー」
「一般の肩に聞いてもバーン! されませんでした!」
安心したシキにエクシルは「分からないことがたっぷりなのニャ」と小さく呟いたのだった。
●正義I
「こっちの天義は色々と違うんだなー。
シリウス様も健在だし、天義に比べて……というか昔の天義に比べて寛容な感じなんだね。
清廉潔白なアブレウとか、アストリアとか見ると結構複雑な気持ちになるけど……」
桜の呟きにスティアは「平和すぎてビックリするくらい」と呟いた。二人にとっては『有り得なかった世界』だからだ。
「スティアちゃんは見てみたいところとかある? 私はこっちのレオパル様に会ってみたいなぁ。
……シリウス様がいるなら幼いリゲルくんもいるのかな?」
「私はちっちゃい頃のイルちゃんとかリンツさん見てみたいー! こっちでは平和そうに暮らしているのかな?」
「ああ、ちっちゃい頃のリンツァ様やイルちゃんにも会えるかもね!」
天義では懇意にしている面々の過去が見えるかも知れない。心を躍らせたスティアに桜は「行ってみようか」と微笑んだ。
散歩をして、大聖堂や騎士団には『忍び込んでしまえ』と提案するスティアに「ダメダメ!」と桜は首を振った。
「もしシリウス様やレオパル様に会えたら写真撮りたいなー! 銀獅子、金獅子のツーショット!」
「桜ちゃんって意外と有名人に弱いよね……
いや、目指す所があるのは良いと思うんだけど! ちょっと心配! せっかくだし私も一緒に写真撮ろ!」
小さいイルが居たら持って帰りそうなスティアちゃんに言われたくない――と桜は言いかけて口を噤むのであった。
「さて、統治が上手くいっている天義と聞きましたが……見慣れた街並みのはずなのに、雰囲気に違和感があります。妙な気分ですね」
ハルツフィーネにとっても不思議な光景でしかない。此処まで幸福そうだなれば自身――『アンナ・シャルロット・ミルフィール』も何処かにいるのだろう。
(きっと父様も母様も死んでおらず、それなりに幸せに生きているのでしょう。
…何の慰めにもならない上に、微妙な気分になりそうであまり見たいとも思いませんが)
現実から変化している世界。幸福と不幸が混ぜ合わされた――吐き気が出るような、見たくなかった何かがある世界。
「今のところ悪趣味、以外の感想しか湧かないですね」
ハルツフィーネは静かに呟いて、フォン・ルーベルグの街並みから目を逸らした。
「これが新しい人生。新しい自由!
誰も私を『不正義で断罪された画家』として扱わず、堂々と白亜の建物の間を歩いていられる」
現実には苛むモノが多すぎる。スキャット・セプテットは画材を集めるべく堂々と歩き出した。
うっかりして女性の姿でアバター登録したのは誤算だが、手が変われば馴染む筆が変わる位だ。寧ろ、第二の人生が始まったと思って画材を探す楽しみがある。
「この世界でも私は思い出を沢山描いていきたい。電子の世界にいる時だって、その情熱は止められないのだ!」
シンは周囲を眺めてふむ、と小さく呟いた。
(……だが、村人に説法を朗じている宣教師には嫌な予感がするな。
あまり深く聞いてしまわぬよう注意し、場合によってはするべき対処を確認し、行動を起こすとしよう。
現実ではチェスでも妻に勝った試しの無い私だが、この世界ではこれのおかげでチェスは勿論、様々な行動において最適解を選ぶことができるようだ。それで失敗するとしたら、運が悪かったのか、相手の知恵が上回ったのか、或いは世界のバグか……まぁ、そんな頻繁に起きることではあるまい)
右も左も分からぬ身だが、用心した方が良いことは無数にありそうなのである。
「んー賑やかでよきよき。どんちゃんパーリナイしたいところだけど、そゆ時にちょっち逆を行きたいのがアタシってやつで」
まだエイルに慣れていないのもあるし、と。エイル・サカヅキは正義という国が気になるとフォン・ルーベルグを見て回っていた。
「アタシってば正義のギャルだからさ。ふふん。
レオパルっぴとかシリウっさんには会えないかもだけど、アスアスとか会えないかなー。
別に何話したいとかはないけどさ。……この国は平和なのかなとか、そういうの見てみよっかな」
驚くほどに安定した政治に、屹度「現実がこうだったら」と思ってしまうときが、くるかもしれないのだ。
「ここが正義。なんと素晴らしい名称なのでしょうか。
私は正義を重んじる者。ここで正義を学びましょう。まずは教会です。この世界の神について訪ねるとしましょう」
シャルティエは礼儀作法などを学のだと、この世界の『正義』について勤勉であった。
閉じ込められた研究員よりも根源こそが大切だ。掃除を手伝い、学び、子供達と戯れて、『剣神』で在る事は隠し、人々のための正義の徒で有るために――シャルティエは努力を積み重ね続けていた。
●伝承IV
「へぇぇ……これが『フルダイブ型MMO』の世界というやつか。
正直な所理屈はよく分かっていないのだけど、いやはや、人の技術というのは凄いものだね」
肌撫でる風さえも現実と同じ。パルフェタムールは早速、食事を――とも考えたが流石に、此方での食事は実際の血肉にはならない。そう思えば食事の魅力も半減だ。
ならば、自分の性能を試しておきたい。腹を空かせた野良犬へと自分の血肉を切り分けてみるのもいい。救いなき聖餐はパルフェタムールそのものだ。
究極の饗膳たりえる彼女の肉を喰らうた犬は多幸感の内に徐々にその体を硬直させてゆくが、纏う香りから彼女へ飛びかかるモノは多かった。
「仮想空間、と言ってもこの身体に感じる空気はまさしく本物だ。もう一つの世界と言っても過言じゃない。
このアバターも本物の身体のように動かせる。自由に歩いて物を持つことができて……痛くない。
現実の僕の身体は動く度に痛む――だからこそ飛行やギフトに頼って動いてた。自由に動けるって本当に気持ちいいね」
と――なれば。
「よし、これは男を漁るしかない!」
なんともアンドレイらしい結論に出た。好みのアバターにしたのだ。ロールプレイだって好みにしておこう。俺様の『ラブティメットワールド』で早速お出かけなのである。
アバターの設定に沿う形に自動的に情報をフィルタリングする事が可能になったザミエラは始まりと言えば、空中庭園のざんげだと微笑んだ。
「んー、お出かけは楽しそうだけどその前に。『神託の少女』さんとお話したいな?
まずは自己紹介ね。■■■……じゃなくて私、ザミエラ! あなたは? 良かったら、一緒に降りてみない? ね、だめ?」
首を振る――どうやら、降りられないのは現実と同じらしい。「そうなの」と唇を尖らせるザミエラは「お土産、買ってくるわね」と微笑んだ。
伝承の街へと降りたならば幾歳・千穂乃はアバターデザインを聞いていたが故に直ぐにザミエラを見つけることが出来たらしい。
「伝承の街でお茶したりショッピングしてみない? それから、ローレットがある場所にも行ってみたくって」
「うん。行ってみようね」
伝承の城をまじまじと眺めたナハトスター・ウィッシュ・ねこは「わー! すごーい!」と手を叩いた。
流石に入ることは今は許されなかったか。多くの冒険者達が本日は多く来城を試みるために、厳重警戒中だそうだ。
「貴殿は?」
「ボク? ボクは星の魔法少年☆ナハトスター! 可愛い猫はいないかなー☆」
ちょっぴりノリが厳しいと感じながらもナハトスター・ウィッシュ・ねこは憲兵に「猫なら彼方に居ますから」と進められた。
一先ず、王城には入れなかったが、郊外に拠点を持とう。名付けて『ナハトスターの館』である。
「へぇ、ここがR.O.Oかぁ……とりあえず、ボクの小さい体じゃ踏まれそうだしさっさとどこかに……。
と思ったけど、折角だし屋根の上からでも店を見回ってみようか」
リリィはどんなお見せがあるかも分からない。此方で飼育を行うなら、店は知って置いた方が良いと考え旅行気分。
だが、小さな体で王都を回りきるのも中々に疲労が蓄積する一方で――
「んー、良い天気だぁ……なんか眠く……現実じゃないのになんか変な感じ。
まぁちょっとお昼寝しちゃっても……良いよね、おやすみなさーい」
その時、ナズナさんには衝撃が走っていた。フルダイブ型MMOというのは何とも楽しい状況だが、だが――
「私が拠点にすべき場所……聖域は何処にあるのでしょう? だって、此処には練達も再現東京も無いでしょう……?」
スノウローズ(リアルバレは知らないフリだ)に先輩に聞きたいことがあると問い掛けたナズナさん。
――なりきっているスノウローズちゃんのリアルなんて絶対に絶対に知らないのだ。
「わりかし、切実な問題なのですよ……まさか何処にもないなんて嘘でしょう?」
「ナズナさんちゃん、けど、スノウローズは思うのだけれどこのゲーム自体がそう言う場所だしー……。
もしそういう聖域(と書いて安息の地と読む)が欲しくなったら私の所に来てよ、ね♪」
ナズナさんはこの世界でも聖書(バイブル)を綴り続ける――唯、其れだけなのだ!
(んん……正直知っている方に出会ってもわからないでしょうし。なじみさん辺りがいたら心強かったんスけどね!)
イルミナは折角のニューワールド、楽しまなきゃ損だと「とりあえず一狩り、行っておくかなー!」と笑みを浮かべた。
切れ味抜群な大ぶりな刀剣を手に、か弱いモンスターを相手に経験を積んでいく。逸れでも少し不安ではあるが……。
「大丈夫大丈夫、はじまりの街の周りにはレベリングしやすい弱めのモンスターがいっぱい居るってのが『常識』って奴だから! ……まぁ一応? 出かける前に商店街とか覗いて傷薬なんかは買っていくけど!」
スライムとのエンカウントが定番ッスと言いかけて、ロールプレイに慌てて直す。ロールプレイはとても難しいのである。
●伝承V
「めーい☆ちゃんねるー♪
ハーイ、メイなのですよ! 伝承のサクラメントからお送りするのですよ。
続々とプレイヤーさん達がログインしてきているですね? 皆さん、思い思いに行動を開始しているですよ」
Mayはウィンクを1つ。ライブオン☆ブラウニーを駆使して配信を続けている。
「……おや? あれは? 路上の一角で何やら人が集まっていて楽しそうな雰囲気……
メイもお邪魔しちゃうのですよ! いざ、突撃ーーー!!」
カメラを片手に、いざ、出陣。勿論、取材OKは主催さんから出てます!
魔法少女プリティー♡ハクは自分の姿を確認してから伝承の街並みを見回した。
「ほぅ……これがROOなのですか…街並みとか殆ど変らないのですよ。
なら、ハクがやる事は一つ! 食い倒れをするのですよ! うぉぉぉん!!! ハクは今なら何でも食べれる気がするのですよー!」
叫ぶ魔法少女プリティー♡ハクの姿を確認してからVIVI・IXは「予備知識もなぁ~~んにもないんすよね~」と呟いた。
ログインしてみたはいいけれど、さて、何処へ往こうか――
「らぴっどおりじんおんらいん……。
仕組みは分からないけど、もう一つ『混沌』を作ってしまうなんて、練達の人達は本当にすごいねえ……!」
しかも自分の好きな姿になれるなんて、天にも昇るような気持ちである。皆色々な姿になっているから見ているだけでもたのしいとちゅん太は小さな翼をぱたぱたと動かした。
「現実と寸分違わぬ仮想世界で遊ぶなんて面白い事をするわね、この世界は」
呟いたのはシャルロット・デュ・シェーユ。本当に現実と変わらないのならば――そう、確かめなければならないことがあるのだ。
白い福良雀がふと見遣ったのは幻想の路上での宴会だ。シャルロット・デュ・シェーユは丁度良いと手を打ち合わせる。
「本当に現実と変わらないというのなら……そう、食べ物だってちゃんと味がするはず。
スイーツを食べて美味しかったら合格ですわ! まさか見た目だけのハリボテなんて出しませんわよね? 私の舌を唸らせてごらんなさい!」
勿論料理は美味しいのだ。路上宴会で甘い物が存在して居るならば堂々と参加しようと輪の中へと飛び込んでゆく。
「では、プレイヤーのみんなで集まって宴会と行こうか。ちなみに最初だし、プレイヤーバレは極力避ける方向で行こう」
自身の口調はあまり変わりないが、とレインリリィは小さく笑う。それでも、できるだけ『バレなければ』面白いイベントは広がりやすいのだ。
「やっぱりゲームをやるにあたって色々な人とコミュニケーションを取るのは大事ですよね。縁って奴です♪
そう言うのを深める為にも宴会は実に良いと思いますね♪」
アカネは個人的にお願いしたいことがあるという。曰く――宴会に出す料理として魚を解剖したい。
お刺身にすれば良いが、その前に魚の解剖をどれ位使用できるのかを試してみたかった。勿論、知識としては存在するが、R.O.O内にリアルの都合は持ち込めない。
「むむ……」
少し難しそうに唸ったアカネはお刺身の準備を続けてゆく。
フルダイブ型のゲームは初めてだというシャドウウォーカーは敢て自分の素性には触れなかった。
「さて、拙者、変幻自在でござるが、最初ってことで、基本の姿である黒豹の姿で顔を出すでござる。
まぁ、宴会なら、死ぬこともないでござろう。これで、基礎をどうにかしようと思うでござる」
忍術で姿が変わるのだという空我もまだまだ未調整の身。今日は市街地で過ごそうと考えていたそうだ。それはレグルスとて同じだ。宴会の気配を感じたならば、スキルの調整を終えるまではのんびりと食事での楽しみたい。
「わしとしては、やはり、宴会に肉を求めてやってきたのじゃ。
酒もいいが、やはり、肉食獣の性として、肉は欲しいのじゃ。そんなこんなで、楽しんでいくのじゃ」
そんなレグルスへとちゅん太は「姿はリアルと同じ?」と問い掛ける。そうした違いを楽しめるのもMMOの醍醐味だ。
ちゅん太が「アバターのコンセプトは?」と問うてもシャドウウォーカーは「秘密」と笑う。
アカネは「皆凄いですねえ」と微笑んだ。因みに天使であるという彼女は解剖を行ったりする故に天使っぽくないと言われるが――ぐぅの音もでないのである。
「ワタシ達も宴会を楽しもうよ。ワタシは見せての通りの体だから、飲み食いするにもジュースとお菓子くらいだね」
元の世界でだって飲めるかは分からないけれど――と呟いてから、何か一発芸も面白いかもと考えた。例えばダメージを受けて服が破れてスク水がお披露目、なんて、キャラじゃないっすよ!
「やっほー♪ 美少女合成獣(キメラ)のアルスちゃんだよ☆」
手を振ったアルスは誰も正体を知らない謎の合成獣として新しい人生を送る為にオートパイロット『アルスちゃん口調』で訪れるプレイヤー達を出迎えていた。
ゲーム内では知り合いが少ないからと使い魔を連れて参加していたSikiはR.O.Oの中でも食事は美味しいのだと驚いたように瞬く。
「ふふ、酒も食事もきちんと感じるんだね。冒険のしがいも倍増ってものだね」
ふよふよと空を漂い食事のお裾分けを運んでくれるSikiにちゅん太は有難うと礼を言った。
「宴会、シキは楽しめたか?」
「ん、中々良い時間だったねぇ」
ひょい、とSikiがアルスの手から酒瓶を奪い去る。Sikiだけは『アルスの中の人』を知っているのだ。
「性別設定は間違えちまったけど、シキもいるし何とか頑張ってみるよ。
――っておい、これは俺の酒……え? 中身は未成年だからダメだって? そ、そんな、この世界なら飲めると思ったのに!」
溜だよと笑うSikiにちくしょうと呻いたアルスは――背後に気配を感じて直ぐさまに『アルスちゃん口調』に戻ったのだった。
「しかし、どこかで見た事がある光景だ。そこで、どこかで見た事がある気がする奴等との酒飲み、悪くねえな」
義弘が盃を掲げたのは主催者であるアルスに対してであった。挨拶というのは大切だ。世の中、腕っ節も重要だが、それ以上に礼儀を弁えることが処世術なのだと義弘は心に決めている。
「現実では再現できないような、味や匂いもしっかり感じられるとは。まあ、奴等の技術力なんて想像する必要がないくらいにヤバいんだろうが」
尾を揺らがせるすあまは不思議な感じだと感じていた。二本足で歩くのは何とも不安定で仕方が無いが、ごはんが美味しいのは確かだ。
「幾らでも行けるな」
「ふふ、こっちのも美味しいよ」
Sikiにすあまは「有難う」と礼を言った。美味しいモノを分け合えば仲良くなれるのだと力説するすあまに同居人は成程と首を捻る。
「宴会しようって言った人はアルスちゃんだって。美味しそうな人。食べないけど」
――すあまちゃんはちょっとだけ猟奇的なのである。
「ここが噂のアールオーオー!! これはもうね! 飲むっきゃないですね!!
え? アバターの年齢が未成年だと飲めないですか? なるほどそりゃそうだ!
代わりにハイになれるものを摂取しなければなるまいな! こういうとき、一番ハイになれるものって知ってますか?」
BX16っはじゃじゃんと白くて粉状で、多数の死者を出す――砂糖を手にした。そう、砂糖、つまりは砂糖が沢山入ったジュースだ。
「さっきちょっとそこで買ってきたので今日はガブガブ飲みながら踊ろうかな!」
ジュースでハイになれる! やったぜ!
「ふぇー……すっげえ、これマジでゲーム……?」
すごいな、R.O.Oと呟いたレオンはのんびりと伝承の街を歩き回る。
然うして見かけた宴会は楽しげな人々の笑い声が響いていた。快諾され席に着けば笑い声が心地よい。
「ねえ、何の話をしているの? 私も混ざっていいかしら?」
空想鏡の問い掛けにレオンは勿論と微笑んだ。
「俺はレオン! あ、この名前は深く考えずにつけただけで、あのローレットの兄ちゃんとは関係ないから注意してな! アンタは? 名前なんてーの?」
「私は空想鏡。その時々で姿も口調も変わってしまうけれど……ふふ、なんでも映し出す鏡の物の怪なの。どんな姿でも、どうぞよろしくね?」
にんまりと微笑んだ物の怪、空想鏡はサラダを食べてみて――味がすることに驚いたとぱちりと瞬く。
「私は猫魔導士のあんころもち! こちらは路上NPCのねこさん!
今日は初心者同士の顔合わせみたいなのって聞いてお菓子やら飲み物やら持ってきたよ!」
絡みは大歓迎にゃ! と合図するのはあんころもち。賑やかなのは楽しいのである。
「ここで飲み食いをすると聞き、馳せ参じました。デイジーです。人間の頭部を持ったのが初めてですので、色々と不慣れですが、よろしくお願いします」
大凡生きてきて余り聞くことのない自己紹介を発したデイジー・ベル。人間の頭部が存在するからこそ、舌を有し味を感じられる。
其れは非常に素晴らしい経験だが――炭酸はぴりりと舌へとアピールする。
「そこのお方、肩を貸しては頂けませんかな?頭でも宜しいのですがこの小さい身では移動だけで一苦労でして……。
しかし不思議な世界ですな。死んでももとに戻るとは様々なことに挑戦できそうですな。個性豊かな姿の方が多くて賑やかですな。今後が楽しみですぞふぉっふぉっふぉっ」
にんまりと笑ったクロアは体のサイズを自由自在に変化できるそうである。今回はとても小さな体を駆使してやってきたようだ。
VIVI・IXは「宴には催しが不可欠っすよね!? 一肌脱ぐっすよ~と!」と眸を煌めかせる。その舞は戦闘にだけ使える物ではない。尾をゆらゆらと揺らして耳をぴん、と立てて笑みを零す。
「さぁさ皆々様方、飲めや歌えや踊らにゃ損々! ウチの舞はちょいと見る価値あるっすよ……♪」
舞踊るVIVI・IXをちらりと見遣ってからプリティー☆リィラは微笑んだ。「さぁどんどんアゲてくよー♪」と手にしたのはマイクである。
宴会と言えば、カラオケ。カラオケと言えば、そうアイドル(自称)なのである。
「アイドルの道も一歩から。魔法少女系アイドル♪ プリティー☆リィラ! 名前だけでも憶えてネ☆」
ウィンク、そしてアピール、その動きに合わせて発生するエフェクトは圧巻ながら物理なのが玉に瑕。ちょっぴり邪魔なのである。
カナタ・オーシャンルビーもアイドルとして踊り続ける。まずは名前を覚えて貰うところからだ。
「コーレスいくよー! せーの、『カッナタちゃーん!』」
まずは名前だけでも覚えていってねと『カナタちゃん』はステージのカリスマとして踊りを続けていた。
「宴会に華を添えるのもやぶさかではない。時に歌い、時に踊り、時に演奏を行い場を盛り上げられるよう努めよう」
ファントムはオペラ風味であれど、パフォーマンスを続けている。周囲の明るさを変化させプチステージに演出を施してゆく。
aMaTERAsはその様子を見ながら、あれだけ動けるようになるのかと両手をぐーぱー、確かめる。調子はどうやら良さそうだ。
「行く当ても特に無し。酒は飲まぬが少し邪魔させてもらう」
此処でなら人間観察にも精が出そうである。最近は引き籠もりがちだが、RPは出来る限り徹底していきたい――押しが強い相手やファンタジー要素には押し負けるかもしれないけれど。
「アハハハハハ、みんな面白い」
ジオは酒を片手にふらふらと歩き回り笑い続ける。見つけたアルスの背中からそっと「ふふー可愛い子みーつけたぁ」と声を掛ければ、彼女は驚いた様に振り返った。
「一緒に飲みましょーよー」
ルイは「ごはん?」と眸を煌めかして飛び込んだ。「ぴゅーーーーん! ボク参上!」と両手広げて飛び込めば美味しそうな匂いが漂ってくる。
「きゃふふー! ボクねー、トモダチいっぱい欲しいのだ! だから今日逢った人達はみーんなボクのトモダチなのだ!
これからいっぱい遊ぼうねぇ。おいしーもの食べるの大好きだし、お買い物もだーいすき!お 洋服とかいっぱい着たいねぇ。遊園地なら朝から晩まで遊び尽くしたいにょ!」
凄く楽しいにょー! と微笑んだルイに「面白い」とジオがくすくす笑い続ける。
「友達百人できるかにゃーっ いぇい!
……ハァ。この……一定の確率でな行がにゃ行に変換される仕様……マジでにゃんにゃのだ。こんにゃんで友達百億人できるにょだろうか……」
「きゃふふ、できるよ!」
お友達、と微笑んだルイにれおにゃは「よお~しっ、余のお友達とにゃる光栄を許すにょだ~!」と胸を張る。
ふと、視線を送る――宴会の中にも気付けば輪が出来上がっているのだ。
(え? なんかグループで固まってない?
え? リアル知人? そういう……あ、そういう、あるんですにゃあ、はい。はい……)
●伝承VI
「ってーわけで、こっからは桃花チャンだぞっと。桃花チャンはゲームは慣れっこだから平気へっちゃらだぞ」
桃花の傍らでは、ゲームは全くの門外漢で全てのことが初めてで新鮮だという空梅雨が立っている。
突如台詞の変わった桃花に驚いたように空梅雨が桜陽炎を見遣れば「ロールプレイと言うのですよ」と普段と違い見下ろしながら柔らかく告げた。
「ロールプレイ……成程。そういう風にキャラクターを演じるのですね。やってみます」
三人で攻略を進めるならば共に行動する『チーム』を組んでおきたい。目的地は何処だろうかと。一先ず、今回のクエスト用のチームを組むために近場のギルドで登録を行おうと考える桜陽炎に誘われて空梅雨は恐る恐る歩き出す。
「ツユ、段差があります。――転ばないように。手を貸しましょうか?」
「はいっ、ありがとうございます! サクラは頼りになりますね」
「優しいじゃん、カゲちー!」
揶揄うように笑った桃花に桜陽炎は「モモ、お前は先に行き過ぎない。見失ってしまうでしょう」と肩を竦める。
「ツユちゃん、カゲちー。女性のゲーム初心者をヒメって呼ぶんだぜ!」
「ヒメ……成程。私も"姫"、と呼びますか。よろしくお願いします、姫」
貴族のお姫様という意味もあるのだろうかと感じて首を傾いだ空梅雨は「タオが言うならそうなのでしょうね?」とぱちりと瞬いた。
「それで、今回のチーム登録ですが……マスターは……」
「リーダーねぇ。ヒメがいいんじゃねえか? 面白いシ! カゲちーが良いならナ!」
「モモのいう通り……ですね。じゃあツユにしましょうか」
オロオロしているのが面白いと揶揄う桃花に空梅雨は「タオ!」と叫んだ。
「ま、待って下さいルルさ……リンディ……ちが、ええっと……! こういうのってゲームに精通してる人の方が都合良くないですか!?」
慌てる彼女を他所に決定し、チーム名を入力しましょうと桜陽炎は話を進めてゆく。
渋々折れて、意を決した空梅雨は桃花と桜陽炎に向き直って――
「……わたし達の、失われた何か。それを見つける旅に。『ロストガーデン』なんて、いかがでしょうか」
「まさか、初ログイン日にぶっ倒れるとはなぁ……」
後ろ髪を引かれつつもリラグレーテは彼から託されてログインし黒狼隊の待ち合わせ場所に合流することにしていた。
「ふおお、ほんとに現実と同じように動けてふしぎー! 黒狼隊の皆はあんまり変わってな……あれ!?」
ルフラン・アントルメの様子を見て「えーと、フランさんのアバターは分かりやすいな」と微笑んだマークの視線の先では金髪でふりふりアイドルな現場・ネイコが立っている。
「あっ、ネイコさんて花丸さんなのか」
「あ、私は花丸ちゃん……もとい、こっちでは現場・ネイコで活動してるから宜しくね!
こっちの子は友達のヨシカさん! 今日は私達の活動に協力してくれるーって来てくれたんだ!」
にんまりと微笑んで紹介するネイコの傍らで身を縮めていた指差・ヨシカは突然ポージング。
「ネイコの友人、指差・ヨシカよ。宜しく」
ネイコの「どうしたのいきなり」という視線がキツい。一緒に遊ぼうとログインしたら待ち合わせがあると引き摺られてきたそうだ。
練達から出ないヨシカでも黒狼隊の活動はよく聞いている。浮いてないかどうか、ちょっぴり不安だが、ヨシカは息を吸って――吐いて――
(僕、いや私は『ご安全に!プリティ★プリンセス』のヒロインの一人。なりきれ、なりきるんだ……)
にんまりと微笑んで拠点近くでハウジング出来る場所ね、任せて、と胸を張ったのだった。
因みに立地的にはサクラメントと呼ばれるポータルに程近い繁華街までの便が良い場所が良い。ハウジングの基本なのだ。
「それは心強いな」
待ち合わせ場所に立っていると聞いていたベネディクトを探していたマークとルフランは足下でぽてぽてと歩いてくるベネディクト・ファブニルに驚いた様にその姿をまじまじと見遣る。
「えっ、もしかしてポメ太郎がROOの中に?!」
「俺だよ、ベネディクトだ。メインに使うアバターは今調整中でね、今日はみんなにも解りやすいかと思って。なかなかいい出来栄えだろう?」
其処に居たポメラニアンが主人だとは思って居なかったのだろう。リュティスは「ご主人様でしたか」と微笑む。
「失礼致しました、御主人様でしたか。この世界ではこのようなこともできるのですね。
少し驚いてしまいました。現場につくまで私がお運びましょうか?」
従者はこの世界でも従者である。
「べ、ベネディクトさんが可愛すぎる……何ですかコレ……やばくないですかアイラさ……ッと!
危ない危ない、私はリラで。貴女は…フィーちゃん、かな?」
慌てるリグラーテ。ハンスくん、と呼び掛けたフィライトは「リラちゃん、でしょうか」と『ねっとりてらしー』に配慮する。
「夫が歌を歌うのが得意なので、ボクは――いいや、わたしは、踊り子にすることに、したの。……RPって、こう、かな?」
「もー、惚気ちゃって。ふふ、素敵だと思いますよ、踊り子。きっとそれで合ってます、うんうん」
フィライトはお名前はしぃーでロールプレイを徹底するために頑張るようである。
「ウワー!! ポメべきょうですね!! 滅茶苦茶可愛いです! まぁひめの方が可愛いですけど!
あ、ベネディクトさん、こういう時はリアルネームは言わないのがお約束……あ、ゲーム名がそのままでした」
ひめにゃこのハイテンションも何時もと変わりない。リアルネームと一緒だというのはリースリットも一緒である。
(…………フォルデルマン二世陛下が御健在……王都にはまだお父様がいらっしゃるのかしら……それとも……。
多分、同様に再現されてはいるでしょうファーレルの事も気にはなるけれど……でも、まだ様子を見に尋ねてみるには早い、ですよね)
この世界での自分自身も再現されている可能性もあるのだ。少し悩ましげなリースリットはぽめ太郎アバターをもふもふしたい――けれど中身がベネディクトだと困惑していたのだった。
「なあ」
アバターはミルフィーユによって作り替えられてしまったというトルテ。
「耳しっぽがついてるの、違和感しかないんだが?」
「その尻尾、せ……トルテさんの思ったように動くのです?」
くびをこてりと傾いだミルフィーユは尻尾付ければ良かったかなあと少し悩ましげだ。トルテは目と髪の色は変更するつもりだったのに、とぼやいた。リスペクトの気持ちがモロに出ている気がしてならない。
「んー? あんま意識してねー。多分そうなんじゃねーかな。なあ、ミルフィーユ、あれ……なんだ、あの姫っぽいの」
「お姫様なのです!」
ドヤっとするひめにゃこから顔を剃らせるトルテと凄いのだとはしゃぐミルフィーユ。
「よぉ、ポメ太郎」と声を掛けたリュカ・ファブニルは「お前、ベネディクトなのかよ」とつんつんと突いた。
「流石に俺と兄弟設定なのに犬になってるのには驚いたぜ。にしても大体どれが誰か分かるのも面白いな。一部分からないが」
プリティプリンセス二人のことだろう。意外性の高いアバターというのも醍醐味である。
「その姿でお喋りされるの、なんか、んッ、ふふ……笑っちゃ駄目駄目、真面目にやってるんだから」
「何だ?」
「フフッ……」
アバターもマニュアルもよく分からないけれど、楽しいな~! という気分であったタイムのツボに嵌まったのは穏やかなベネディクトの口調で堂々と話すポメラニアンであった。
ちょっぴりまるまる太り気味ボディで「どうかしたのか、タイム」と声を掛けられると笑えてくる。
「う、ううん。あ、皆さんわたしともフレ登録お願いしま~す」
「おう、そう言うのもあるんだな」
リュカにタイムは「しておくと後々楽だったり?」と練達でのMMO知識をスノウローズ達が話していたのを思い出したように披露した。
「どこか良い場所あるかな?」
「んー、どうかしら」
プリティプリンセス二人が悩ましげな様子を眺めながら思いついたようにリースリットが地図を表示する。
「そういえば、砂蠍事変の時にはその手の砦跡等が幾らか使われていましたね。
例えば……王都近くの山間に、あの時イーグルハートが立て籠もった古い時代の大きな廃砦アルテア・フォート……あれは、流石に手に余るか?」
それでも拠点候補は沢山あると云う事で。
水や食糧も確保して、快適な住まいを手に入れたいと提案するトルテに「お片付けなら任せて欲しいのですよ!」とミルフィーユはやる気を漲らせる。
ヨシカが探してきた廃城は捨て値で譲って貰えるがクエストとしてモンスターを倒さねばならないらしい。
ルフランは「たまり場を作るぞー!」とやる気を発揮。マークといえば「前衛で戦うのは、ゲーム内とはいえ、緊張するなあ」と慣れない戦闘に参加し続ける。
「あ、マークさんも? 奇遇ですね。私も前線」
パンチでえいえいっと連打するのだとタイムは攻め攻めである。ガードも回避も難しいことは分からないが、屹度覚え――アッ。
「アッ!」
R.O.Oはとっても死にやすい(体感)。
「にしても、此処はすっごく……埃っぽい! うさぎのお耳が汚れちゃう……Umm」
ふるふると首を振ったフィライトにひめにゃこは「でもぼっろい玉座がありますよ! 頑張りましょう!」と叫んだ。
「オラッ! モンスター共! 出て行きやがれっ! 此処を何処だと考える! ここはひめにゃこ様の城ぞー!」
べしょっと転んだひめにゃこを見詰めてからベネディクトは何時もと変わりないと大きく頷いたのだった。
「リュティス、現実と変わらない良い手並みだ。皆も問題無く連携を取れているみたいだね」
「ええ、問題ありません、御主人様」
このアバターでは動きづらいだろうかとも考えていたが彼女たちとならば戦いやすい。
此の儘、黒狼城をゲットのために戦い続けようではないか!
●航海
折角ならばリアル世界でも縁ある場所を見てみたい。ヴァリフィルドが訪れた航海には変わらない顔ぶれが――例えば、カヌレ・ジェラート・コンテュール等が居たりするのだ。
「いってぇ……頭を鈍器で殴られたみてぇだ。しかも懐かしい姿になっちまってまぁ」
懐かしいとは何だろうとトーヤは頭を掻く。何時もこの姿であったはずなのに、どうした違和感だろうかと首を捻りながらサクラメントを見て回る。
トーヤにとって航海は『親しんだ場所』である。酒場は人との交流が出来る――が、この姿では出入りできるはずもないのに。
「なぁ悪い、ちょっといいか? 聞きたいことがあるんだが……」
――どこからか、鈴の音が聞こえた。そんな気がして。
「なんか……ふるだいぶ? というのはよくわかりませんが、今後の活動でこれを使う以上、慣れないといけません。
スキルとかアイテムがどうのって話でなく、基本の操作の部分から怪しいのでここからなれようと思います」
そこまで考えてからムーは現実との違和感を無くすために歩いてみて、攻撃動作を確認してという地上訓練が必要だと再度認識し直す。
「そもそも僕は普段から手足を使いませんからね……あっ、今の僕、水中であんまり上手に動けないんですね……」
ふと、自分の姿を確認した。クラスはねこなのだ。にゃー。
「なんでこんな……アバター? 作って僕にわたしてきたんでしょうか……」
いつの間にか組み込まれていたアバターがどうにも自分らしくない気がして困ったように「にゃー」とだけムーは呟いて見た。
フェアレイン=グリュックは航海の片隅に存在して在るであろう花畑を目指していた。
その場所は現実ではミロワールが眠っていた――その墓がない事を願って探す。サクラメント探索もついでである。
虎獣人のレイさんに進化したアザラシのレーさんはグリュックを抱えて運ぶ。
何時もは保護者である梨尾も今回ばかりは護らなくてはならないのだ。
「酒場にアルバニアがいるなど現実で死んだ人もいるんだよな……」
「ああ、だから、シャルロットは――」
梨尾はビスコッティの墓がある可能性は感じていた。だが、それもなく姉妹が幸せに過ごしているのであれば――
そっと『その場所』に訪れてみれば墓は一つも存在して居なかった。
驚いた様に傍らを見遣った梨尾は息を飲む。フェアレイン=グリュックは――レイさんは、遠くを見ている。
(この世界じゃ、シャルロットとは約束していないから。
会ったら虎で大人なのにアザラシのようにうきゅあああぁぁー!! と大泣きして困らせるだろうから――幸せに、平穏に暮らしてほしいから)
だから、こっそりと確かめに来ただけだったのに。走る、二人の少女がいる。
金髪と黒髪の。それが、彼女たちで在る事に気付いて海豹のように泣いてしまうのを一人、堪えた。
「なーるほど、この世界じゃもうカムイカグラ……って言っていいのかはわかんねーけど、繋がってんのか」
あの旅路を思い出す度にミーナ・シルバーは何とも複雑な思いを抱えた。
「……ちょっとそのへんの記録、皆に聞いてみるか」
大号令の成功を。国の人々に聞けば笑顔で応えてくれるそれを辿りながら――『彼』はバーを開いていた。
なら、『あの子』も。そう思って辿り着いた丘で遊ぶ少女達を見て、よかった、と笑顔が漏れた。
「歴史は少し違うみたいだから、元の混沌にあったものが全てそのままとは限らない。
……けれど、だからこそ行ってみたい場所があるんだ」
ホワイティが訪れたのは見晴らしの良い丘であった。――墓と花畑のある『シャルロット』との、お別れの場所。
見回しても、その墓は存在しない。ホワイティは驚いた様にゆっくりと踏み出して、笑い声を聞いた。
(もう一人のあの子のことを、確かめずにはいられなくて。……この世界では、幸せに生きていてくれてるかな? ――なんて)
ホワイティはぐ、と息を飲んで、花畑で笑っている少女に「こんにちは」と声を掛けた。
「このお花畑、とっても綺麗だねぇ」
「わたしとビスコのお気に入りの場所なのよ。今日は沢山の人が来るの」
くすくすと笑った黒髪の少女に、ホワイティは涙がにじむような気がした。
「そうだねぇ……優しいキミが、ずっと幸せでいられますように」
そう、声を掛ければ、彼女は「ええ、あなたも幸せでね」と笑い返してくれた。それだけが――なんて、幸せなんだろう?
●航海II
サメ型アバターで覚め映画らしくNO.8は息を潜めて居た。小型船を無意味に追いかけてみたり、浜を義理まで乗り上げてみたい。
そんなサメ映画らしい姿も楽しい。最後は呆気なくサメとして散るのもそれはそれで愉快そうだ。
「一番気になるのはこの大陸の外にどんな世界が広がっているのかってこと。
未知の場所ってドキドキするから、この青空の続く場所ならボクはどんな場所だって行ってみたい」
瞳を輝かせたブラワーが目指したいのはこの大陸の外だ。『神咒曙光』も、島々も気になる。
けれど其れより何よりも、生みの上で大きな声で歌ってみたい。
(もし、偉い人に会うことになったら礼儀正しくする。
ボクはカワイイけどそれが交渉に通じないだろうから、そして、広大な海の上に行きたい。そのためなら、自分の力を何でも使ってほしいっていうんだ)
ブラワーはそう決めてから、探したい人が居るのだと考えていた。
表の世界の海で、皆を護ったカタラァナ。彼女はR.O.Oの世界でなら、屹度――何処かに。
姿をどれだけ変えてもいいのはちょっと混沌に来る前の自分を思い出しす。ルォーグォーシャ=ダラヴァリヲンの機嫌はすこぶる良かった。
ファントムナイトの時と同様に女性の姿になったのは一番過ごし安からである。
電脳世界なのだから、好きな者をしてみたい。食事やスイーツを楽しみ――味覚を思い出すのもきっと悪くはないはずだ。
アップルパイを食べれば懐かしい味に浸ることが出来る。遠い昔の思い出に触れられる気がするのだ。
(久方ぶりに得た「五感」だからこそ、まずはこれに己を慣らしていきたい……新しい旅の始まりだ)
勿論、この世界に再現された自分がいたとしても決して現われない。それは召喚される前の自分だ。
ここに居る己が紛れもなく、間違いも無く理想も現実も含んだ自分自身だからこそ、分かっていた。
(――ま、気にする事でも無いのだが。今の自分はだらだらするダラヴァリヲンさんだ)
耳の位置も違う、見える景色は見慣れていてもどこか違って。エリクシルは途惑いながらも街並みを眺めて居た。
街の宿屋に部屋を1つ借りて、ビーチへと進む。水着に着替えた際の感触も、砂浜を歩いた足裏の感覚、海水の感触さえリアルに感じてエリクシルは驚き瞬いた。
(凄い――! あ、溺れちゃわないように準備運動もしないと)
しっかりと準備運動をして、ひとしきり海を楽しんだなら、宿屋に戻って眠ってみよう。R.O.Oでも夢は見るのかと楽しみにしながら。
「これがフルダイブ型……想像以上にリアルですね。しーちゃんに触れた感触もそっくり。もっとくっついてみようかな? べたべたしたいな」
近付いた睦月に「ダメ」と首を振った史之。酷いと唇をとがらす睦月はのんびりとクルージングを楽しんでいるようである。
「しーちゃん、日焼け止め塗って。ほら塗りやすいようにビキニもほどいておくから」
「え、カンちゃん日焼け止めを塗れって? いいけどビキニの紐がほどけてるのはいただけないなあ。そんな姿俺以外に見せないでよ?」
リアル婚約者のアバターに文句を言う史之が可愛くて、睦月はくすりと笑う。のんびりと甲板でひなたぼっこをしながら海から見る航海はとても美しく感じられた。
アウラはううんと悩む。初めてのログイン。やはり、旅をしたいが拠点は必要だ。
「きっと人がいないからって、掃除しなければならなくなったりとかはないはず。
……というわけで、航海で拠点を手に入れよう。理由は簡単。船があるから」
海路から進む場所が出来る筈だ。ガレージだって欲しい。メンテナンスが出来るくらいの幅が必要だ。
練達でならば馴染みある乗り物だろう。実装されていることを確認してバイク旅が可能な拠点を手に入れに行こう。
「やっほーセルビーです、よろしくね! ネクストに来るのは初めてだから色んなところを散歩して見るよ!
その中でどこか見たことのある人を見かけたら少し追いかけて見ようかなとは思うんだよね! 所謂、語り部的な? 第三者視点的な?」
にんまり微笑んだセルビーの前には赤ちゃんが居た。本来は赤ちゃんではないが、赤ちゃんの姿をして居るのだ。
「それじゃ、追跡開始っと……」
赤ちゃんが一人で動いてるのを見て、面白く思わない人間はいないのだ。多分、きっと、メイビー。
「ばぶぅ……、ばぶぶぅ、あーうああうー……あうあう」
設定を間違えて赤ちゃんのアバターを付けた雪之丞。「あうあーう」と呟き続ける。
以下、日本語訳だ。
――こんな姿で、どうやって戦えばいいっつーんだ……ちくしょうめ!
――おまけに、おしゃぶりのおまけつきか……バカにしてんのか?
――うお、咥えたら大人になっ……て、10秒だけかよ! まぁ、僅かでも刀を振るえるだけマシかねぇ。
そして赤ん坊が目指そうと決めたのは、まだ見ぬ地、神咒曙光なのであった。
サキは焦っていた。
「雪ちゃんがいない! わたしの可愛いゆきちゃんっ。
一体どこにいるの!? わたしがいなきゃまともに話す事すらできないのにっ……よよよ……。
あの子、というより中の人がいきそうな神咒曙光は未実装だし……一体どこにいったのかしら?」
――色々分かっていて恐ろしいママである。
「雪ちゃーーーん! どこにいるのーーー! ママのところに帰っておいでー!」
●航海III
「新人アイドルのトリスです。何はなくともまずはどさ回りから……、って感じね」
トリス・ラクトアイスはリッツパークの『互換』である航海の街並みを見て回ろうと考えていた。海洋の歴史は様々に違う。
例えばトリスにとっては『歴史上の人物』であったエリザベス女王は御所として存在して居る。大号令は成功を収め、疲弊した海洋とは違い、其れなりの基盤を気付いているようだった。
「いや怖いよね。この中でのアトラクトスというかお父様とかホントにどうなってるんだろうという意味で」
父の姿を探すのもまた一興だろう――例えば、神咒曙光へ向かう拠点等に駐在していたり……とか。
遥か大海を眺めてリュートは「神咒曙光の美味しいもの食べたいッス! ……いや違う、神咒曙光の情報を集めるッス!」と言い直した。
現実世界では豊穣郷カムイグラへと大号令の末、辿り着くに至った海洋王国。だが、R.O.Oのネクストでは『辿り着けているがフィールドが未実装』なのだそうだ。
「この手のは実装されてスタートダッシュするためにフラグ立てなりサブクエストをクリアしていくのが基本ッス!
そのための情報収集。そのための美味しいもの巡り! 序盤のお金は大事ッス!」
ギャーゥと可愛く鳴いて見遣れば腹一杯食べさせて貰えるかも知れないとお団子や五平餅を『奢って貰う』為に此処からひと頑張りだ。
この世界では悪目立ちしてしまうから二人だけの巣(きょてん)が欲しいと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はハイタカへと言った。
今の縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧には仮初の庵も存在して居ない。故に、航海で拠点を探すことにしたのだ。
『小鳥 家 広い』
「紫月が入れるのが前提で~……風通しも良くて~……」
交渉と家捜しを行うハイタカは風変わりな二人でも過ごせる場所を探していると仲介業者へと告げた。
潮の香りに爽やかな風、海鳥の鳴き声は故郷と似ていて少し違う。それでも、この場所に『理想の住まい』が得られるならば喜ばしい。
「紫月、ここは……?」
『ここ 好き』
ゆったりしたキッチンにお風呂の設備、海の見える景色は拠点として申し分ない。さあ、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧とハイタカの二人の巣の完成だ。
「ねぇ、リンドウ。最初に何が必要だと思う? 私は拠点だと思うよ」
紫苑の言葉に「イエス、マスター」とリンドウは頷いた。どうして航海を選んだのかと問えば紫苑は「分かってるでしょ?」と問い返す。
「マスターはまず食べ物を求めるのかと思いました。此処を選んだ理由が、食な時点で同じような気もしますが」
「そ、神咒曙光の和食、航海の海の幸……つまり、1番私好みの食べ物が溢れている可能性があるのよ?」
早速と小さな拠点を手に入れるために家捜しを。そこで気付いたのが不動産購入をする資金だ。
「懸念すべきは、多額の利益を得ている場所だからこそ、物件もそれなりに高くなっている可能性ですが……。
一応、始まりの町らしい伝承での物件も調べておきましょう。お金ならば二手に分けられれば、直に貯まると思います。マスター」
「流石にお金を貯める為にも、クエストは必要かしら……死なないクエストが有ると良いのだけれど」
お遣いくらいならなんとかなるかしら、と呟いた紫苑にクエストを探しますとリンドウは慣れた様子で掲示板を眺めたのだった。
「んー……やっぱり普段は二本足で歩いてるから、ディープシー形態は慣れないねぇ」
そう呟くデュロの傍らでフミは大きく頷いた。「ほんと、体を変えるって、慣れないのよね!」と頬を膨らましたフミはくるっと動くだけで体がぷるぷるして変な慣性が動いてしまうのだ。
「でも……慣れない、って言ったら、口調とかも!
こう、体に合わせた口調に、してみたけれど……ちょっと、とっさに、ロールプレイ?というのが、出てこないわ!」
「ふふ、ボク自身もそうだけど、フミちゃんもオークのおっきな身体にはまだまだ慣れてないだろうしねぇ。
浜辺と海の浅瀬を散歩デートして身体を慣らしてから、交易品のショッピングとかしてみたいねぇ」
刺し句笑ったデュロにフミはこくりと頷いた。この世界での『デュロ』の姿は新鮮で、何時もと違うから――少し寂しくて、けれど中身は変わりないから――デートを思いっきり楽しもう。
「じゃあ、デュロくん。泳ぐときは、こうやって……」
フミは『あっ、今は、水中で息できないのを、忘れてましたの!』と慌てて膨張して難を逃れる。そんな彼女にくすりと笑って、郷土料理を楽しんで見たいねとデュロはショッピングへ彼女を誘った。
「色々悩んだが一部を変えたいつもの自分でR.O.Oにログインっと!
っていうか、何故神咒曙光は実装されてないんだか……やっぱり、色々慣れている地元で最初は遊びたかったんだけどな~」
夜顔は肩を竦める。アイテムは実装されているからこそ、要素を探すのは一番だ。
「やっぱり、1番探したいのは服だよな。着慣れた着物系があると嬉しいんだけど。
航海特有の服装も気になるけど……露出高そうな印象が有るんだよな……流石に男性でそれはキツイ。
でも女性アバターにするのは、つまらなかったからな――こういうのは性別の壁を超えて、可愛らしさを追求するのが楽しいんだから!」
きっと、お好みの装備が手に入る筈だ。その時を切に願っていよう。
「お互いに、考えてる事は同じだなぁ……って笑っちゃった」
「にしても、お互い考える事は一緒ね? えぇ、つい笑ってしまうわ」
彗星と瑠璃は顔を見合わせて小さく笑う。何方もいつも通りの姿で、現実と大して変わりない様子だったのだ。
彗星は瑠璃が居るなら何だって良いと答え、瑠璃も同じくそう答える。
折角だから、街を歩いてみようではないか。
瑠璃は「海の幸を使った物だと嬉しいのだけれど……此処は海なのだし」と提案した。
神咒曙光へと繋がる道を、と探していた彗星は瑠璃の言葉に笑みを綻ばす。
「それに彗星も魚、好きでしょう? 私も、彗星と美味しい物分かち合いたいもの?」
「僕? 僕は、瑠璃が楽しいのならそれで良いんだ。……それに、瑠璃の好きな食べ物は大体僕だって好きだしね」
「全長3mの二足歩行ロボに乗って、『航海』でフツーに生きてるというドレイクに会うってか……いやぁ、新鮮極まりないねイーリン?」
そう笑ったのはWYA7371――パイロットのウィズィである。傍らのIJ0854はくすくすと笑みを零す。
「そうねぇ、まさかこうして憧れだったロボットに乗って、ウィズィと一緒にドレイクとお姫様の茶会に行くなんて」
屹度、薔薇の庭園に居るはずだとその姿を覗き込めば――エリザベス『王女』と共に過ごすドレイクが存在して居る。
ぴたりと立ち止まったウィズィから微かに聞こえた嗚咽は、幸せすぎる幻像を目の当たりにしたからで。
それは、現実には有り得なかった彼等の望んだ『存在して欲しかった未来』だ。
「……そうね、涙の一つも出るでしょう。歴史にIFはなくっても、今この世界は私達にとっての真z――ちょっとぉ!?」
顔なんて見せられないとは思いながら、ウィズィは居ても立っても居られなかった。イーリンのストップの声も聞かずに全力で駆け抜ける。
「――っドレイクッッ!!」
武器なんてない。『あの時』、襟にフックを引っかけてきた彼と同じくらいの衝撃的に――彼の鼻面を目掛け、
(まぁ普通に捌かれるよね、わかってた)
「あっ、ちょ、ちょっと――!?」
物の見事に『王女の護衛』にしてやられたウィズィ。だが、同じ海賊帽を被って泣きながら突っ込んでくる女の姿は確かに彼等の目にとまったことだろう。
「……な、何じゃ……?」
「あ、――初めまして、海賊王」
握手を求めるイーリンは「相方はどうやら、『貴方に死亡させられた』みたいだけれど」と肩を竦めた。
●航海IV
「おー、すげー! 海洋が再現されてるぜー! NPCにとーちゃんもいるのかな?
現実の海洋とどっか違うとこがあるのか調べてがってんだぜ!」
とっかり仮面はこう言う時の情報収集は食事処が鉄板だと航海での情報を集めに進む。
世界が変わったってアンジュのやることは変わらない。つまり、いわしを食べる人をぶちのめす、それだけだ。
「みんなが浮足立ってる今が肝心なんだよね、調子に乗っていわしに毒牙を向ける人も出てくるはず。
もうPCだろうがNPCだろうがそんなの関係ないから、いわしセンサーのお陰で、アンジュはどこにでも現れることができるよ」
――怖い。
呪いの様にいわしを食べることを許さないのである。
「我がスコタコス帝国の海を我が物顔で闊歩する地上人どもを駆逐するため、まずは奴らについて知るべきね。市場調査をするわよ。
どこぞの国との貿易で莫大な利益を得たと聞くから、何を主流に輸出、輸入を行っているか実際に市場を歩きながら見て聞いて回ってみるわ」
――と演じてみたスキュリオラス・ド・スコタコス。悪の女幹部も中々大変なのである。
折角だから美味しいものでも食べてみたい。そうして、味も楽しめるのならばとても楽しいではないか!
「私はロロン・ホウエン。スライムのあの子を作った母親ってところね。よろしくお願いするわね?」
微笑んだロロン・ホウエンはアバターを動かす練習としてビーチバレーのパーティーを募集していた。
「フラ……ントム以外は初めまして、よろしくね。ネリは甚兵衛を着てみたのだけれど、似合うかしら……?」
首を傾いでくるりと回ったネリにファントム・クォーツは「似合っているわ」と微笑んだ。
「ロロンさんなんかは貝殻に葉っぱよ。大胆ね。キースさんは浴衣似合うわね。流石は噺家と言ったところかしら?」
キース・ツァベルは「……やるからには全力で。子供だろうと容赦はしませんよ」と応じた。
浴衣でビーチバレーというのも風流(?)である。
「ビーチバレー、やるわ。ファントムは同じチーム、よろしく」
ネリも大人になればこんな風に――?
そう思うネリの傍らでファントムが落ちてくるボールの許へと走り。
「そこよ! スパイク! ――やだこれボールじゃなくてクソザコスライムさん!?」
クソザコスライムの叫び声が響いた――!
「これでも運動は得意な方なのよ……っと! ってそれボールじゃなくてスライム!
……丸くてぷるぷるしたものが好きなの、私は。ボール代わりにするなら毛玉の方で」
「トスして、アタックして……あ、これオームスか。道理で重いと思ったんですよ
失礼、まあ怒らない怒らない。『短気は損気』って言うではないですか?」
笑うキースにオームスは「ひ、酷いじゃないか!」と叫んだ。クソザコスライムとオームスが犠牲になるビーチバレーが続いていく。
「運動したら喉がかわいたわ。ほら、ネリさんの言っていたクリームソーダ。そこの海の家にもあるかしら?」
「きっと。クリームソーダ……楽しみだわ、行きましょ。ねぇ、こんなのもどうかしら」
楽しんだ海の家の思い出はしっかりとスクリーンショットで保存しておいて。
「この度、ROOの世界に拠点を構えたもので。部屋を彩るインテリアを探しに来ました。
伝承で探すのもよいと思ったのですが、こういう交易が盛んな場所の方が珍しいものが多くあると思いまして。
ぶらぶらと港近くの商店街でも潮風を感じながら優雅に歩いてまわりましょうか」
九重ツルギは周囲を見回す。出来ればアンティーク品が良い。それでも見た目だけでは物足りない。
よいと思った物品に触れて、残留思念を読み取ってゆく。その道具にかつて馴染んだ人々の宝石のような素晴らしい思いでの数々を。
其れを含めて購入したいと――様々な店を回りながら。
仮初めの姿にそわそわとしたコルは『普通のてのひら』を眺めてから「ねぇ、変じゃない……かしら?」と微笑んだ。
嬉しくて仕方が無い。彼の手をそっと握り返して、指を絡める。ずっと、こうしてみたかったのだから。
カロリは「変じゃないよ」と微笑んで。そっと指を絡めて笑みを零して。
「それでね、この世界の拠点を決めるのはどう? 私たち2人の家」
「家かぁ……。面白そうだね! お家みたいな船とか、冒険にいけるような船とか、色々ありそうだね」
考えたのは船での暮らし。拠点に出来る船を見つけて、波風に揺られる拠点でハンモックでお昼寝しよう。
「コルは、どんな船に乗ってみたい?」
「波の音を聴いて眠るの、朝はきっと海鳥が起こしてくれるわ。波の荒れる夜は離れずにいてね、あっでも森も恋しくなるから沢山の鉢植えで緑を育てましょうよ、それと……」
指折り数えて、両手を広げて捲し立てるコルははっとして肩を竦める。ああ、もう――おしとやかにしようと思ったのに!
「ふふ。さっきの君もドキッとしたけど、いつもの君も好き。練習しながら、探しに行こうか」
カロリはぱちりと瞬いてから小さく笑った。
――お日様のような君は、姿が変わったって君なのだと、思わせてくれるから。
「ベルは、アルトさんの背中や、エイラさんの頭の上に、乗せて貰います。
わわっ、とっても素敵で、見晴らしが良いって、ベルは思いました」
体を揺らしたベルを見遣ってから微笑んだアルト。ターコイズの力を借りて、空を舞うアルトはベルとエイラの二人を護る事を心に決めて。
「ターコイズは旅の守り石、きっと我らを守るはずだ。敵はこの偉大な姿での威嚇で遠ざけようぞ……強い敵が襲ってきたら逃げるがな」
エイラは「二人共ぉ海風、気持ちいいねぇ。思わず、波風に流され……ん、アルトォありがと~」とふわふわと漂っている。
素敵な島――『秘密基地』を探す為に三人は冒険の旅へと飛び出した。
「エイラァ光る。島、探索。暗い、照らす、任せてー。基地作りぃベルぅ手伝う~」
「はい。ベルは材料を、剣でえいって斬って、細かい所は、組み立てたり、飾ったり、です。
秘密基地が、出来たら、ベルが持ってきたおやつで、パーティーをしましょう」
その言葉にエイラとアルトは顔を見合わせて大きく頷いた。
「秘密基地が出来たら皆で宴だな。ベルの用意したおやつ、楽しみだ」
「秘密基地でのぉパーティー、楽しみぃ。
ベルのお菓子ぃ食べるぅ。きっとぉ飲食不要じゃないからぁいつもとぉ違う味ぃ」
現実とは違う、新しい感覚を楽しみにしながら、心を躍らせて。三人の秘密基地造りは続くのだった。
●航海V
(やってしまった……自分の姿は醜いけれど、かと言って成りたい姿も特に思い浮かばなくって……
ノリで遮那君をモデルにしたアバター作ってしまった……!! デスカウンターはリアルに影響しないらしいけど、出来るだけ死は避けたいから……!)
シャナは思い悩んでいた。口調も『遮那』を模して、ロールプレイの開始である。
「……ふむ、各々が行動していて何をするか悩むが、しかし、悩んでばかりでも致し方在るまい。
私は航海で、神咒曙光の情報を少しでも集めるとするか。かの地へ直接行く手段がない以上、唯一の手がかりはそこしかないしな」
――遮那の口調には余り自信が無いシャナはお喋りはちょっぴり苦手なのであった。
ハンモちゃんは本当ならば神咒曙光へと向かいたかった。だが、其れが出来ないというならば、情報収集に徹したい。
「というより神咒曙光って何て読むんだろう? かみ……ぼん? あけぼのひかり??」
きっと、疑似世界の豊穣と言えども神咒曙光は良く扱われているだけでハンモちゃんは嬉しかった。
己の持っていた角があれば、神咒曙光に関係する人々との間で話をすることが出来る筈だ。
未実装という事は――そう、つまりはフィールドが構築されていないという事なのである。
「あっしはまだどうにも慣れないんでさ、ROO(こっち)での動き方っての。
そも、仮想環境だのフルダイブだのすら、よくわかんねぇまま使ってっからなあ。なんでね、まずは適当に街ぶらついて、情報集めとか無難なのからやっとくとすっかあ」
ビャクダンは『神咒曙光』の話が聞きたかった。いつかはその地へと行ってみたいと願うが、今はまだ――
「……どーなってんすかねぇ、こっちの豊穣(こきょう)は」
何時の日か。渡った後に、素晴らしい場所で在る事を願って。
「俺……いいえ、ワタシね。神咒曙光はカムイグラに似たフィールドらしいじゃない。
ワタシも多少縁があるはず。噂話程度でもいいから情報が欲しいところね。
幸い、貿易が始まって物は入ってくるようになったみたいだし。何か見つけられる可能性はあるわ」
未実装だとされているその場所へ。ロウ・シェンは向かいたいと考えていた。
海洋にはあまり馴染みも無いが、感じる潮の香りまできっちりと作り込まれている。無駄な喧噪がない分、寧ろ居心地の良さは感じられるかも知れないが。
「お散歩! なのじゃ! 我は吸血鬼の姫たるミナちゃん! かわいいじゃろ? 褒め称えるが良い!」
ヴィルヘルミナ・ツェペシュはにんまりである。嬉しそうなミナちゃんを見るとママも嬉しいよ。
「おいら、タヌキのおまんたこだいっ!」
大好物の貝類の食べ歩きをするのだと、おまんたこはてこてこと歩き回って楽しげだ。
商いの盛んな場所のリサーチを続ける崎守ナイトはマーケティングを行っていた。
(……うーん。やっぱ潮風に強い海の男には傘の需要がなさそうだな。
女性や子供をメインターゲットにして卸してみる。何か必要なものは……)
悩ましげに考えながらも、発見したのは乱闘現場。気質ではなさそうな柄の悪い男をぶん殴り叫ぶ。
「何様のつもりだって?社長様だ! 弱きを助け悪を挫く。猛き益荒男、崎守ナイト!
喧嘩にのるなら相手になるぜ。んでもってお前、負けたらうちの社員になれ。
――こんなケチくせぇカツアゲより楽しい仕事をさせてやるよ!」
航海で社会情勢のお勉強である。Thelemaは現実と同じで商魂たくましいな、と呟いた。
「外洋への航路を確保したのもあって、今が一番賑やかな頃だろう。
どこを向いても蜜のように滴る願いの香りが………香り過ぎて腹減るんだよクソが。
ロビーのガチャの前にもいた奴らもそうだけど、身の程知らずが多すぎだろうが。
いやそうだよな。それが人間だよな。わかってたけど舐めてたわ。ゲームも舐めてたわ。クソが」
苛立ったThelemaは小さく溜息を吐く。此処は社会を知ることは人を知ること、故に情報が集まる『一番の場所』なのだ。苛立ちを押さえて社会を学のが一番だろう。
「ここがゲームの世界だなんて信じられないな……でも雰囲気はよく知ってる海洋に似ているね」
ヤーヤーは気になるのはエリザベス王女とドレイクの事であった。ゲームの世界であれど彼等は幸せに過ごしているらしい。
(……あれ、つまりこの世界では死んだ人にも擬似的に会えるかもしれない?
それなら例えば……絶望の青の戦いに関わっていた人達も、そう思うと、すごくドキドキする。
……嬉しいのか怖いのか、その正体は分からないけれど)
それでも、ふわふわの鳥として、強い鳥となって沢山の人に顔向け出来るように努力しよう、と。そう決意をして。
「某は戦闘アンドロイドですが……そうですね。何故か神咒曙光という響きに強く惹かれます。
只、今はその場所へは行けぬということですから、神咒曙光と貿易を始めたという航海に行き先を定めましょう。
航路を開いて利益を得た、ということは港町や市場なんかが有りそうですね。探してみましょうか」
陽炎はまじまじとデータを確認していた。神咒曙光の交易品を確認し、頷く。
最初は如何した者かと考えたがアバターは適当な設定から作り上げて制度も高いと満足している。
(死にやすいと聞いたから章殿は留守番させてきたが、結局『陽炎』の設定にマスターとして章殿を組み込んでしまったしな……この髪飾りなんて章殿が気に入りそうだが…外には持ち出せないんだったか)
そう――マスターとは、
「はい、太陽の如く煌めく金の髪に、慈愛を湛えた海の如く青い目。
そして全てを包み込み、微笑んでくれる…某が出会った方々で一番美しくお護りすべき方です」
愛しい彼女の事なのである。
●航海VI
「とりまチュートリアルクエストで討伐をしたわけじゃが……
チュートリアルが進めば、移動速度のあがる乗り物とか手に入るのが定石じゃが……
あれが欲しいの! 現実世界で使ってる動くお家。
妾風にするなら、なんかめでたい感じの神威神楽風のお屋敷的なやつかのう」
座敷童は突然脇道に入って――何かが居たと息を飲んだ。巨大なモンスターだ。それもミルだけで強いことが分かる。
「あっ」
――死んだ。
泥舟は歩行練習を兼ねてサクラメントを探してお散歩中。
だが、この国はお金の匂いがするのだ。折角なら美味しく噛ませていただいて……細い細い如何にもな裏路地にこっそりと入り込み――
「って、あ”あ”あ”ー!! 挟まった!! 横幅のこと忘れてたーー!!」
いかにもな裏路地に響き渡るのは泥舟の叫び声だ。
「誰かぁーー! 助けてぇえーーー!!」
何かが聞こえた気がするとスフィアは首を傾いだ。このゲームには『SS』機能もあるのかも知れない。
練達では流行のSNSに使用するのも屹度良いだろう。翡翠と迷ったが、航海の海は美しい。
「可愛い魔法少女に綺麗な風景! きっとバズるに違いないわ!
……そういえばこの世界でも海ってしょっぱいのかな? 世界をもう一つ作ったようなものだって聞いてるから多分そうだけど。
気になっちゃうからちょっと舐めてみようかな。ふふふ、いろんなことを試せてとっても楽しいね!」
ゲーム内の様子を外に持ち出す事位はできるだろう。練達の研究者達の研究書を作る要領を学んでおけば情報のやりとりは出来そうである。
「スノウローズ……ドキドキしてしまったが、演じているのは男性なんだな……。
別の自分になりきる世界。俺も、昔なりたかった姿になってるんだし、この姿に恥じないように行動しなければ。
そう思っても、なかなかうまくいかないし……スノウローズはすごいな」
アルザが呟いた言葉に、きっとスノウローズも喜んでいるだろう。めちゃくちゃ仲良くなりたがってくれそうである。
「――それにしても……この海も、この空も、これが現実じゃないなんて、信じられないな」
行動範囲を広げるためにある程度の乗り物などが必要だとホムラは考えていた。騎乗生物を手に入れる方法が航海で知れるかもと考えたのだ。
モンスターをテイムすることも可能であろうが、素材をギャザリングしてクラフとするのも楽しそうだ。説明してくれるNPCの声音もどこか跳ねているように感じた。
「神咒曙光との航路を確保する前はどんな感じだったんだ?
神咒曙光との航路か……特産物が買えたりするのかな? 神咒曙光から来たって人がいたら話してみたいね。
え? パッチ未対応だから無い? それは残念」
アズハは肩を竦めた。かなり、個性的な人々もいるが、歩き回るだけでそうした人々を眺めることが出来て楽しい。
食事を行い、ネクストの情報を集めてゆく。さて、そろそろ、外にも出てみよう――と考え、
(簡単に死亡……したくはないけど、復活できるんだよな。死にながらトライアンドエラーして強くなれってことか? まぁ、R.O.Oはそういう世界なんだって理解しとくよ)
モンスターとの逢瀬にやれやれと肩を竦めることしか出来なかった。
「フルダイブ型のMMO……? つまり、リアルと同じように動けて感じられるってことかな?
まずは、目を隠さず、両目でキレイな世界をみてみたいな。あと、血を吐かないって、この身体? アバター? はすごいね! 言霊に左右されず自由におしゃべりができるなんて」
感動するアイラは、嘘を吐いてリアルに戻ったら血を吐くなんてないよね!?と困惑していた。
「港町なら、珍しいものも多そうだし、なにより活気がありそうだから。
ここに行くか。ここから、更に先への航路も気になるし……まずは、どんなところか調査がてら美味しい海鮮料理を食べに行きますか」
この世界では現実と大きく違ったことが出来るから――それがなによりも、楽しいのだ。
「いぇーい初ろぐいん! あばたーなる姿により胸部に質量を感じる日が来るとは! むふふ!
この究極の肉体美を誇るわたしには最高に綺麗な海が似合うはず!
もしかしたらいけめんに口説かれたりして…そうとなったら早く行かくては! れっつごー!」
走り出した純恋を迎えたのは澄恋である。
「やはり純恋もここへ来ましたか。思った通り。わたしならきっと海へ来る筈ですからね」
「って、え……? 眼前にもう1人のわたし、というか現実世界のわたしがいます。NPCでないなら悪質ななりすましでしょうか。……まあまずプロ花嫁たるもの初対面の方には挨拶しなくては」
ある意味心が強い――のかもしれない、が。
「こんにちは。あなたもスミレというのですね!」
「ああ失敬、プロ花嫁たるもの初対面の方にはきちんと挨拶しなくては、ですね?
こんにちは。初めまして、純恋様。今回は人員救出の為の情報収集が目的でしたね。
万一船を用いた救出中の移動時に事故で人が海に落ちた場合、『溺死となるのか、また如何程潜水すると死亡判定を喰らうのか』
知っておくべきですよね、一緒に入水し試してみませんか?」
「……いきなりやべーことを持ち掛けられましたが、確かにROOで何が死の原因となりうるか。どの程度の損傷で死ぬのかを把握することは大切ですね。――その話、のった!」
大きく頷いた二人である。恐ろしい話だが二人の『すみれ』が話している状況である。
純恋が死んだら良いのに、なんて恐ろしい事を願いながら、二人は海へと向かうのである。
●伝承VII
「亡霊が囁いた……私にここでおにごっこをしろと……。
…………おにごっこ? ……なんで?」
其れは誰にも分からない。おにごっこと聞いて何だか遊びたくなってしまったレイスは参加を決めていた。
「……えと。とりあえずアバターに慣れたいけど…慣れないままいきなり戦いに行くのも怖いし……」
丁度良い機会だと加太を動かす準備をする。スキルやアクセスファンタズムも使用可能であるらしい。
レイスは虚な月の如く、視認され辛くなる事が可能だ。其れで何とか逃げ伸びたいが……。
「おおお! たしかにたしかに! なんだか風景が元の世界に似ているけど違います! そして私も今はこんな姿!
これが旅人の皆さんたちが皆経験したというあの噂の異世界転生! のバリエーションなんですね! すごい!」
感動するフィナは見慣れぬ地なら知る為に鬼ごっこだと頷いた。山奥でオオカミや猪に追いかけられたりも立派な鬼ごっこ――ではない気がするが……。
「早速仕事……ウォッホン、此処では小僧の姿であったな。
余り不相応な言葉は使わぬ様に……む? 何事か? おにごっこ……?? ああ、鬼ごっこをしようと言うのか」
突然の鬼ごっこの提案にユアンは困惑したがここに来てまずは『はじめに鬼ごっこ』というのは悪くない。
アバターに馴染む事が出来て、童心に帰れるのならば素晴らしいではないか。
「やるからには『本気』で……本気でやらねばアクセスファンタズムも使えぬしな」
少年が突然本来の姿に戻ったならばやり過ごせる可能性もある。だが、それに伴う全身の筋肉痛は……発動タイミングを見定めた方が良さそうだ。
「ふみゅふみゅ、おにごっこ面白そうニャ! ボクも操作になれておきたいから参加するニャ!」
ネコモは自身のアクセスファンタズムにも慣れておきたいと考えていた。『とんずら』は移動速度が4倍になるのである。
効果を確認するならば鬼ごっこが一番だろう。こう言う時に役にたつのにゃ!と誇らしげに胸を張る。
「スキルの使用はポシェットが、なんでもあり、って言ってましたから!」
微笑むユキノにポシェットはこくこくと頷いた。改めて天をびしりと指さしたポシェットは「みんなー!」と呼び掛ける。
「おーにごっこするひと、このゆびとーまれっ!」
じゃんけんで鬼を決めることにした。ポシェットは『ぜんりょく』でにげるのだとユキノに宣言する。
こんな風に逃げたり走ったり。現実では出来ない事ができるのがR.O.Oなのだ。ポシェットでなら思いっきり遊べる。
それはアバターの口調で語るユキノとて同じだ。「逃げ切ってみせますからね!」とべーと舌を見せたユキノに霧江詠蓮は「手加減はなしだぞ」と笑みを零す。
はじめての異世界召喚、そしてその後、突然のフルダイブ。霧江詠蓮にとっては分からないことばかりであった。
だが、子供達が遊び相手を探している。寂しい顔をさせるなら、遊び相手になった方が良い。
「いやー……木箱の中に隠れて目の保養……じゃなくてアバターの調査をしていたのですが、偶然箱を開けた瞬間に目が合いましてねー」
目が有ったら鬼ごっこ! ――というわけでミミサキも参加である。『私inネクストinサイバー木箱』姿のミミサキは鬼ごっこって厳しくないっすか、と呟いた。
だが、ちょっとした準備運動で「職場の研修でやった匍匐前進なめんなぁーッ!」と叫んだことによりミミック式匍匐前進を開眼したのだった。
鬼となったレイが数を数えながら、勢いよく走り始める。
(両腕のサイバーアーム、アクティブ。両足のサイバーレッグ、アクティブ。
ダイレクトニューロンコネクトインターフェース、アクティブ。そうか、これは私の、性能試験なんだろう……多分……)
――そう言う理由があれば何だか凄い良い事をしてるような気がしますね!
「はっ……はっ……け、結構辛い、ね……」
アリィは息を切らす。めいっぱい楽しむことは出来るが、走り回るのは中々苦労する。装備にもしっかり慣れておかねばならないか。
勢いよく走り抜けていくミミックに負けじとアリィも逃げ続ける。「鬼にゃ!」と叫んだネコモが勢いよく速度を倍増させた。
速い――!
フィナはぱちりと瞬いた。姿をころころと返ることの出来るフィナは人混みに紛れてやり過ごす事を考えていた。一旦、ログアウトとはならず、始まった鬼ごっこでは姿の変更はまだ適っていない。ホリ・マスヨは「地中に逃げるんだよー!」とわっせわっせと穴を掘った。
警戒心の近いホリ・マスヨは怖いのは苦手。戦うよりも遊びの方が良かったが――『鬼ごっこ』も結構怖いのだ。
「や……はぁあー! 来るなよー!」
叫びが虚しく響き渡る。暁威はアバターの動かし方の参考になると走り回る仲間達の様子をまじまじと見ていた。
スキルやアクセスファンタズムの組み合わせは多種多様。自分の好みの動きが可能なのだ。
「そう簡単に、捕まると思のわっ!?」
霧江詠蓮はべちゃりと転んだのであった……。
「――さて、ログインして最初のスタートダッシュは冒険者として出遅れられませんっ。
早速依頼を……と思ったのですが、それはまだみたいなので。とりあえず、同じ様な境遇の人達の集まりに混ぜて貰いましょう……大体、観光とか狩りとかマップ埋めとかに分かれているでしょうし?」
カノンはしゅういをきょろきょろと見回した。これがネクスト、冒険者の仕事は開拓や探検、冒険だ。
こうした形は慣れているか慣れていないかであれば微妙ではあるが、それが鉄板で有ることは確かだ。
(身体、思考、装備、良し――さぁ、頑張りますよっ。モンスターを狩り戦闘勘を鍛えましょう!)
やる気は十分。探索技能も冒険技能も活かして、いざ、出陣の準備だ。
(んー、何もおかしくはないけど『おかしい』よな、ここ。
カイトの中で見てた世界と寸分違わないけどどこか違うし――)
カイトは違和感を感じていたが、誰かと連携した方が良いとパーティーを探していた。
結界術は『封じる』ものだ。封じるだけでは敵は倒せない。つまり、連携を行ってからこそなのである。
なるべく簡単に怪我を少なく経験を積むためならば火力の高いメンバーと連携する事が一番なのだ。
「おお、おお。ここが新たな世界、という奴じゃの!
さて、どうするかのう。まずは何をしようかのう……悩む所、じゃが、まぁまずは身体の動かし方でも把握しに行くとしようかの!」
レムリアはモンスター狩りに参加すると生命力の高いモンスターの索敵を担った。無理は禁物、HPには注力してパーティープレイを始めようではないか。
そんな折に、壱狐はサクラメントの前で『臨時公平』を募集することに決めていた。
「こほん。折角のこの世界です、町の外に出て共に戦闘をする人を募集します! 我こそはという方はこの刀の下に集まってください!」
流石は練達ではあるが、可笑しな事は付き物だ。刀の擬人態である壱狐はそれに似合う姿を態度を取り、刀を掲げ、パーティーメンバーを集め続ける。
「りんじこうへい……PTの事かな?
壱狐さん、Isaacさん達と一緒にお互いをカバーしつつレベリングしようと思ったのですが。
えっと、このゲーム初めてですが……よろしくお願いします。大丈夫そうな討伐クエストを受けたら、後衛としてがんばります!」
にんまりと微笑んだのは一である。得た弓は射程が長く攻撃力が高い分、潜り込まれれば危ない。
前衛に対して一方的に攻撃する敵や回復を使う敵を優先的に狙えるのが後衛としての良き役割だ。
壱狐は「血を浴びることで回復するなんて、妖刀ですねこれでは……」と小さく呟く。レムリアが指定したモンスターの攻撃を受け止めたラウンドシールドが僅かに軋んだ。
「狩りですか。いいでしょう、リナシタも同行します」
前に飛び出して、青く光る球体を生み出した璃成したは敵を誘惑し続ける。
精神干渉の術。じわじわと怒りを生み、好奇心で誘惑し、侵蝕する狂気がモンスターへと迫り往く。
「問題ありません。リナシタは強いので――ですが、いいでしょう。リナシタを褒める権利を差し上げます」
受け止め続けるリナシタはモンスターの能力を曖昧ながらも察知していた。
「よっと、こちら飛び込みおーけーと聞いたのですが? それならコ……ジェットも参加させてもらうのです。よろしくどうぞなのですー」
ジェットはにんまりと笑ってフリントロックライフルを構えた。混沌に於ける幻想であるこの場所では、果ての迷宮のことが気になるが、其処へ進む前に能力を高めて置いた方が安心だろうか。
「武器と防具を揃えたらスキルに課金するGoldは残らなかったのです。守ってください、えっへん」
「仕方ないです。リナシタが護りましょう」
ジェットは「有難うです-」と大きく頷き――その傍らでダイヤモンドがソルジャースピアで敵を穿つ。
「でも町の周辺なら……って普通に痛い!? 幻想ではそこまで大したの出ないのにー!?」
こちらも装備を揃えたらスキルを得られなかったそうである。取り敢えず足止めをして、死にたくないと叫ぶ――が。
死んでみるのも良い経験だと、思うのですよ。
ダイヤモンドへと癒しの息吹を吹かせたのはティリス、修道女(プーリスト)である。
「――と、思っていたらヒーラー、癒し手を求める声が聞こえましたっ。私で良ければ喜んでお手伝いさせて貰います――!」
ネクストでの戦闘は初めてだ。加減も分からないが、出来る限り耐えるための力添えなら出来る筈である。
少し多めに回復を行いつつ、皆を出来る限り支えてモンスターとの経験を積み続けるのだ。
「はいはーい! 私も参加しまーす。後で配信するけど顔出しNGの人とかいたら言ってね!」
アカリは早速高い場所からぴょんと飛び降りた。MMO名物『臨時公平』での撮れ高を狙っていくのだ。
クラウドコントローラーで懸命に応戦するアカリはP-Tuberとして『実況』をし続ける。
出来る限り面白おかしくパーティープレイをして居る様子を配信して、勢いよく死ねば最高潮である。
「こちらでも僕がやることは変わらないよ。良い子のイレギュラーズたちに協力すること、悪い子なROOのエラー解決だ。
僕はそういう都市伝説、こちら風に言えばそういう『プログラム』みたいなものだからね」
その為にはR.O.Oに慣れておきたい。困ったモンスター退治にIsaacは参戦なのである。
「ほら違うっていうことは『ログアウトできない人』と関わってる可能性も高そうだろう? その人達を助けるのも、僕のやることだからね」
故にパーティーに参加して、ついて行くのだと都市伝説は宣言した。
「モンスターをやっつけに行く人達にくっついてくですにゃ。
元々戦うのニガテだったからちょーっと不安はあるんにゃケドー……いやいや、ビビってにゃいわよ!」
R.O.Oのミミはとっても強いのだと杖を握りしめたミミはふんすと胸を張って見せた。
普段と違った戦闘は彼女を焦らせる。「にゃ!?」と叫んだ後慌てて「助けて下さいにゃー!」と叫べば、パーティープレイだと直ぐにヘルプが訪れた。
「それじゃあ、魔物狩りをする集団に『俺』も混ぜて貰おうかな。皆宜しくね」
男性のように振る舞うのは遣りづらい。編では亡いかと不安に鳴りながらも前衛での戦闘を担うアルヴェールがミミの前へと滑り出る。
随分とリアルとの違いには途惑ってしまうが、慎重に行動すれば慣れも来る。試運転を兼ねて一狩り開始だ。
●伝承VIII
歩く食パンは賑やかなところが好き。街の端っこにお着物のように佇んで街行く人々を観察している。
声を聞いて、匂いを嗅いで。耳を澄ませて何時もの幻想のようで、見た事の無い伝承を楽しんで。
ノスタルジックな音楽をひとつ鳴らしてゆっくりゆっくりと歩き回って見る。
「ワタクシ、せなかに子どもを乗せるのが大好きなパンなのです」
避ければどうぞ、と柔らかに微笑んだ歩く食パンは幸福そうにふわふわと揺れていた。
「……まずは……この世界がどのようになっているか……知っていかなきゃ……だよね……」
本来ならば学園ノアやこの世界の自分を探したいが、練達が存在しない以上、見当もつかないのだとアルヴは呟いた。
ならば、拠点を確認しておきたい。伝承国では自由に動き回れるが、其れなりに冒険者ギルドは存在して居るようだ。
「……あと……確認しておくことは……この世界と僕たちの世界との違い……かな……。
……どうやら……思った以上に僕たちの世界との違いが……あるみたいだから……」
ハウメアも同じく、伝承の中を歩き回ることに決めていた。硝子に映った自分の姿は金髪で四枚の翼、天環を持った天使である。それが現実とバーチャルの違いを嫌というほどに分からせた。
「なんだか、姿形だけじゃなくて歴史も違うのよね。御爺様から何度か聞いた事があるけれど、フォルデルマン二世が存命だとは……」
歴史もそうだが、この世界に慣れなくてはならない。現実世界での自分は一先ず秘密にして、歩き回ろう――として、擦れ違った。
銀の挑発を揺らした貴族のマダム。ハウメアは余所見をして居て彼女にぶつかり尻餅をつく。
「あら……大丈夫? 立てますか?」
穏やかな声音――それが『誰』かに気付いてハウメアは「あ、は、はい。大丈夫です」と慌てて立ち上がった。
エルメリア。現実世界では己の腕の中で息絶えた妹。彼女は「ならよかった」と微笑んで青いドレスの女性の元へと走ってゆく。それが、彼女の望んだ『未来』だと気付いて、ハウメアは何も言葉にする事ができなかった。
「さて、こちらの世界はどんなものかと思って来てみましたが、見た感じそれほど変化はないのね。
他の方は感触がどうのと言っていましたが、あるのは不思議なこと、ということでしょうか」
首を傾いだのは楊回。今までのローレットでの活動でも各国を転移していた事もあり、サクラメントの事も大して新鮮ではないのは確かだ。
だが、各拠点に存在して居るサクラメントを少しでも知っておけば格段と楽になる。
「というか、サクラメントの見た目がわからないから、わからないかも?」
案内されたサクラメントは伝承国内で見た者とは大きく違っているようにも見えた。
メレムは「さてと、スタートはやっぱり拠点確保かな。ねー、ル……おっとグラシア先生?」と『慌てた』
グラシアの本来の名を呼び掛けたからだろう。のしかかって来たメレムに苦笑しながらも、拠点を探しておきたい。
リアルでは喫茶店。此方ではどのような雰囲気のハウジングを使用か。
「うーん……という訳で希望募集だぞおにーさん!
あ、ROOの利点は、爪とか気にしないでグラシアと手が繋げることだよネ」
「……うん?俺は普段から気にしてはいなかったが、実はメレムは気になってたのか?
両手が繋げなかっただけで気にしたことは最初からなかったが……うちの奥さんはそういうとこ可愛いな?」
揶揄うグラシアに「ほら、拠点を見にいこう!」とメレムはその手をぎゅっと握って引っ張った。
「さて、教えてくれ。この世界の探求都市国家アデプトは、練達がある筈の場所はどうなっているのか?」
バグの原因の七割くらいはそれがないことにあるんじゃないか、とリアナルは考察していた。
「まぁ原因がどうこうは気になるがそれはそれ。私の故郷、故郷のあった場所なんだから当然気になるだろう?」
伝承から『練達がある場所』に向けてリアナルは進む。それに対してはやはり危険が付き物だ。そう、例えば――モンスター。
それでもいい。答えに近付くためならば努力を重ねなくてはならないのだ。
「……ここが、R.O.O? 驚いた……此れが身体で、此れは視界かしら……いいえ。『私』の殻を被るのはやめよう」
――此処は、わたしの世界だから。
エト小さく呟いた。役者エト。偽ることのない姿。星の姫になる必要も無い。
『彼女がわたしを奪うことも、ない。其れだけが、嬉しい』と物語を演じ続ける。
それは、彼女が役者であるが故であった。
「先ずはR.O.Oのお伽噺でも、探してみようかな。……其れ、から、一番星のきみにも、会えるといいな」
一先ずは現実との違いを探ってみたいシラスは空中神殿そのものが存在して事には驚いた。ざんげも勿論、普通に存在して居る。
だが、王都の周辺は現在と余り変わりないように思えた。だが――もしもデータの再現であれば『貴族の愛妾として過ごす母と嫡子となった兄』がいるのかもしれない。それはそれで複雑だ。
「レイガルテに会ってみたいけど……まあ、流石に謁見は無理か。手段でも探ってみようかな。
この国ではどんな人間が求められて、どんな事件が起こっているか……そういう情報が力になるはずだ」
周囲を見回す珠緒は「わかりやすく怪しい場所がないなら、手近からいくべきですね」と提案した。
(自分で決めたアバターとはいえ、この小妖精姿だとなんだか……珠緒さんの肩に腰掛けたくなっちゃうわね。うーん、メルヘン)
蛍は珠緒をまじまじと見ながら「うん、やっぱりR.O.O特有の動きはチェックしておきたいわよね」と提案した。
何しろ、珠緒は大きな剣を担いだ剣士なのだ。そんな勇姿、めったにお目にかかれる物ではない。
「珠緒さんのパワーを最大限発揮するには、いつも満タンならいいってわけじゃない、絶妙なラインでの体力コントロールが必要なのよね……ヒーラーとしては腕が鳴るというか難易度が高いというか」
「蛍さんには、シビアな管理を要求しますが……やはり練習をして慣れていくのが一番でしょう。珠緒たちらしく、一歩ずつです」
シビアな動きでも、1つずつ絆を深めていこうと二人は決意したのだった。
●伝承IX
『闢かれた世界を啓く愛と正義の無礙光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
真顔に戻った無限乃_愛は「新しい世界が現れたようですね」と目を伏せた。
「しかし行うべきことは変わりません。
『行方不明者を探す』『愛を広め悪を吹っ飛ばす』両方特につらくも無くできるのが魔法少女なのです」
魔法少女は凄い存在なのだ。道すがら困っている人達を助けて悪人を吹っ飛ばす。上手く往けば情報だってドロップ可能なはずなのだ。
だが――悪人にどかーんと吹っ飛ばされるのも、また、魔法少女ならではなのである。
(いずれ魔種絡みの事件が起きないとも限らん。
その時に「ゲームに不慣れで戦うことすら出来なかった」では話にならんからな。まずは基本的な動作をマスターしておくか)
決意したHuitziloの目の前には普通のざんげが立っている。普通だ。他のNPCと何か違ったりしないのだろうかとまじまじとざんげを見遣るが大きな違いは感じられない。
「おい、ざんげ。ハンマーを頼む」
「はい」
Huitziloへと勢いよく振り下ろされたハンマーは、確かに現実とは違いなさそうなのであった……。
色々と違うというのは気になる。国王フォルデルマン二世の政治は現実の三世(息子)に渡る前は此程安定していたのだと凪は納得した。
下調べは大事だ。エルセは「やっぱりファンタジーといえば、こういう雰囲気よね」と頷く。
カフェのチェックは街並みを知る事にも大きく繋がっていくだろう。ふらりと、街を流苦ユリウスが居るように。
目的があって歩き回る二人――ジェックとタントの姿もあった。
「オーッホ……こほん、こほん。うふふ~、……かしら。ねえねえジェックちゃん、おかしくなぁい?」
「タント……じゃない、えっと、姉様。おかしくないよ、綺麗。……でも、危ないからあんまり跳ねちゃだめ」
目線が高くて、お胸が重くて変な感じだと跳ねていたタントはジェックをエスコートするわぁと微笑みを浮かべる。
伝承からスタートして『練達』が存在するかをマップで確認する。マップでは逸れに相応する場所の表示はない。
「この世界の『練達』はどうなっているのかしら。更地? 封鎖? それとも……それをこの目で確かめに行くの。
うふふ、ジェックちゃんとの初めての冒険ねぇ。楽しみだわぁ!」
「1番近いサクラメントは多分伝承。何かあるかもだし、何もないかもだし、そもそも入れもしないかもだけど。
……この世界のこと、なにか分かるといいな。でも、タ、ん……姉様との冒険だし、何もなかったとしても、楽しいよ」
ジェックにはもう一つの気がかりがあった――『Project IDEA』。追い続けていた謎に出会えるような気がしたのだ。
「ところでジェックちゃん……お酒、買って行ってもいいかしらぁ?」
「その、変なBSが付きそうだから……」
「あら、だめぇ? 飲んでみたいのにぃ……」
拗ねたタントは国境近くまで辿り着き――突如飛び出したモンスターに「危なぁい!」と叫んだのだった。
「これは何とも……どう見ても本物じゃないか。だが左眼はなんともないな。不思議な感覚だ。
何はともあれここでの私はイデアという名のメイド。それに恥じない振る舞いをしなくてはな。ふふふ……私も蒸気魔導人形……」
一人笑っていたイデアの目線の先には猫の耳の少女が一人。
クオリアがない世界の静寂に――少女、P.P.は驚いていた。背後から「もし?」と声を掛けられて肩を跳ねさせる。
(うわぁっ、び、びびった……クオリアがないと気付かないな……)
驚き目を見開いた少女にイデアは柔らかに笑う。
「ああ、貴女もプレイヤーだったのですね。私はイデア、見ての通りメイドです。
子ども一人では色々危ないでしょう。私も一緒に行きます。さぁ、これからどこに行きますか?」
「おい、やめろやめろ! 手を引くな! あたしは子供じゃねぇ! あ、いや、今は子供だけど……
ちょ、ちょっと待って……! ねぇ、話聞いてくれるかしら!? ねぇ!!」
叫ぶリアは苛立っていた。折角気合い入れて服や髪型を作ったのに『クソヤロウ』が「リアちゃん元気ぃ」とアバターを組み替えたのだそうだ。
(と、兎に角、あたしのこんな姿は身内にバレる訳には行かない。中身があたしだって事は隠し通さないと――!)
メイドに手を引かれながらP.P.は「離せーー! 子供じゃねぇ!」と叫び続けたのだった。
「……い、いろいろ、間違えてしまった感はあります、が……これが、わたしの今の姿……。おお……視界が、高いです」
きょろりと周囲を眺めるイルーはこうしてみれば本当の街そのものなのだと呟いた。
人の集まるマーケット等で情報収集をしてみたい。果物を齧れば栄養にはならないが確かに味がする。
「青い鳥は、すぐそばに。もしかしたら、はじまりの場所に何かあるかもしれませんし」
白銀の騎士ストームナイトは手をグーパー。癖のないサラサラのロングヘアーを確認。胸部のご立派な主張に。
「鏡、鏡かがみ!! おおおおおおおおっっ!!!!
すっげえーーー!! ほんとに別人になってる! でもちゃんと感覚もある! 自分の体! うははは気持ち悪っ! オレなのにオレじゃない! でも確かにオレだ!」
ひとしきり大騒ぎした後、口調を変えなくてはいけないとぶつぶつと呟いた。此処まで別人ならば、『強く正しく美しい、超かっこいい無敵の最強戦士、ストームナイト』として振る舞わねばならない。
「そう! 私は! この世を乱す闇を打ち祓う一陣の風! 白銀の騎士! ストーーーーームッ ナイトッッ!!」
マントを翻し、剣を抜き振りながらポーズを決め、天へと捧げた剣に光が差した。
「……よし、決めポーズはこんな感じでいいな。 では、いざ参らん! 新たなる地での、新たなる冒険へ!」
――取り敢えず向かう先はゴブリンなのである。
「ニコニコスマイル……smile、だよ。
何しようか迷ってたけど、まだスキルも装備も整ってないから街の散策とか……してみようと思ってる」
死んだら死んだだとsmileはナッツもハチさんもいないのには慣れないと周囲を見回した。smileとニコはイコールではないから身バレしないような寂しくない装備を手に入れなくてはならないだろう。
●伝承X
「Miss、案内を頼んでも?」
「ええ! 勿論ですよー!」
にんまりと笑ったMissにジョージは名乗る。サクラメントもこの世界特有なのかと問えばMissはそう頷いた。
「首都のサクラメントを確認し、ついでに、食べ歩きも試そうと思う。
味覚も再現されているのか、気になってな。お前は……そもそも食べられるのか?」
「あっ、食べられますよぉ! うふふ、おごりですか?」
――勿論、と頷くだけで嬉しそうにビーバーが笑顔を浮かべた。サクラメントは装置ではないなら町中にあったりするのだろうか。
「例えば、裏路地。行き止まりに行けば案外、転移したり。な。まぁ、早々無いと思うが。
Missはどう考える? 物は試しと、実行してみようか」
「そうですねえ、どちらかといえば『都合の良い転移装置』ではないでしょうか? だから、老いてあるのは案外、使い勝手の良い場所――だったり」
例えば、と噴水を指さす彼女は「ここはサクラメントですよ」とジョージを揶揄うように笑った。
「『人々が閉じ込められた』事件、私はどうしても解明したくて仕方ないわ……。
というのも、理由が判れば解決するだけじゃなく、逆に私も現実に戻らずに済むってことでしょ?
だって、現実では働き人に戻るって思うのは気が重いけど、ここでなら私は女王候補のままでいられるんだもの!」
それはある意味、アンジェラ・クレオマトラにとっての幸福だ。この世界には『働き人』は居ないから自分のことは自分でしなくてはならないから大変だ。
「現実で働き人になってからは何も苦痛に思わなかったのに……ああ、そう言えばこの世界に『働き人としての私』はいるのかしら?
まずは、探してみましょ。私は些細なことに煩わされずにWin、こっちの私は仕事ができてWin。
――小さいけど私達の種族の社会が作れるわ!」
自分に自分に奉仕をさせる。狂っているようにも思うが、彼女にとっての幸福のかたちなのだろう。
「こちらの世界ではリーゼロッテお嬢様は大法廷の裁判長をされているとか。
となればまずはお姿を拝見しに行きたいものですね。NPCとなったことで性格も若干変わる方がいらっしゃると聞きますが、さてお嬢様はどんなものでしょうか……」
一先ず、会いに行きたいと大法廷へと訪れたファン・ドルドの目の前には付き人と思わしき書記官が立っている。
「……すごくどこかで見たことのあるようなクソメガネです。というか私ですねアレは。
どうやらネクストの新田寛治は官吏として成り上がっている様子。中々やるでは無いですか。ちょっとお前そこ代われ」
この世界の新田 寛治にアピールをするファン・ドルド。
「そこのクソメガネよりも私の方が優秀である理由をご説明しましょう」と語り出すファン・ドルドに寛治は「裁判長、死刑にしましょう」と進言し――え、自分ですよ、そんな、良いんですか!?
「始めまして! 俺はオルソン=リンゴトンと言う冒険者だ!
今後は冒険者達とお世話になると思うんだ! 宜しくね!」
法廷へと辿り着いて、オウェードはカインやレイガルテ、ザーズウォルカ達の事を確認していた。
リーゼロッテと会話することは出来なかったが、挨拶だけはちらりと見詰めてくれた。本名は敢て告げない。
それと同じ存在がいる可能性もある可能性がある。偽名でも、彼女に知っていて貰えるならば喜ばしい事だ。
「どうも……必ずしもではないにしろ10年位は昔の幻想に近い状態なのかしら、この伝承という国は。
王が先代の名前。王子が居て、多分これがフォルデルマン三世を襲名する前の本名ね。
色々と興味深くはあるけれど……10年前か」
フルダイブには慣れない。MMO自体には慣れがあるからこそ、ある程度は適応できているとリセリアは周囲を確認し直す。
「そういえば、この世界にもサリューはあるのかしら?
0年前といえば、まだ例のクリスチアンがまともだった頃の筈だけど……。
……死牡丹達が居る訳でも無いとは思うけれど、一応サリューを目指してみようかしら、様子が気はなるし」
一先ず行く先が決まったのだとリセリアは旅支度に取りかかったのだった。
「これが噂のR.O.O……!
オンラインゲームというものはやった事はありませんでしたが……これは凄いですね……! 想像以上と言うかなんといいますか」
蒲公英は折角の機会だからと伝承の散策を行い――本音を言えばクリスチアン陣営が目的なのだ。伊東時雨が存在して居るかどうか――あと、梅泉とも会えたらと言う淡い希望を抱き、進む。
ああああは何時もの通りであった。溜息を吐いて苛立ちを滲ませる。
「……豊穣の時も思ったけどさぁ……なんか最近世界すごい勢いで膨張してってない……?
……これアレ……? どっかの旅人が言ってたビッグバンとかってやつ……?
……まぁでもリリファっちの胸は膨張してないっぽいし違う感じ……? ……まぁいいや……」
ああああの背後からムキャアという声が聞こえた気が――した。
果たして安眠は得られるだろうか……?
ラジオ体操を楽しむ名無しの傍らで「私だァァァァァァ」と滑り込んできたのはマッスルくんである。
「もちろんROOに来てもやることは変わらん! 筋トレっ! 筋トレっ! 筋トレであるぅぅぅぅ!!!!!」
勢いの良い二人を見ながらリムは自身のRPも定まっていないのにと取り敢えず皆の脚を撫でることに決めていた。
†プルトキラー・ザ・エンペラー†は取り敢えず叫んでみる。
「私は†プルトキラー・ザ・エンペラー†! 悪い種族を倒すすっごく強い神であるぞ!」
自己紹介も重要だ。アデライード・アイヒホルンは女の子を探すと言いつつ、周囲に居ないと大慌て。
「ゲームじゃ異性アバターになるのが作法と聞いたが、これなら遠慮するこたなそうだ。
リアルじゃ人目を気にしてできなかったお一人様スイーツ食べ歩きをな!」
――折角運命を切り開く力ってヤツを手に入れたんだ、そりゃぁ使わねぇってのは嘘だろ!
レニーによるセルフパロディ。サーカス事変での決め台詞はスイーツ食べ放題のために使われた。
チェネレントラも屹度驚いていることだろう……。
「ゲーム世界で太るかは知らんが、折角の美人が台無しになったらアレなんで量はセーブだ」
女性店員に人たらしで微笑んで、オススメを聞いてチップも弾む。甘くて食感がふわふわしたケーキを思い切り堪能すれば幸運MAX状態だ。
「こうして自由に動きまわるのも久しぶりだな。さてどうすっか」
譛晏?芽!動は周囲を見回してどうするかと悩んでいたが――ヴィオラの姿を見つけにいと笑う。
猫耳の少女の後ろ姿を見ればイケている。どうせなら『見てくれのいい女』と遊びたかったのだ。
対するヴィオラはワクワクしながらも自慢の尻尾と耳がへにゃりと折れている。
「それにしても大通りはすごい人並みですね、何処を探しても、私の探している人は見えませんが。
悲しいものですねえ。灰色の、ポニーテールで赤い目で。ぶっきらぼうで……それでもいちばん大事な人。はーあ。何処かに生えてればいいんですけどね」
呟くヴィオラの前へとさっと滑り込んだのは灰色のポニーテールで、赤い瞳の――
「やっ! そこのお嬢さん。近くで見るとより一層素敵だね。1人? よかったら一緒に遊ぼうよ♪」
「ん? あーはいはい。いくら私が可愛いからってそんな褒め言葉じゃあ靡きませ……ん?
あの。貴方って……。貴方の、貴方の名前を! 聞かせてください!」
●砂嵐I
「さあ、ROOにやってきました! 凄いねこの街! 凄いねこの世界!
砂が舞ってるよ! 気温が高いよ! もとの世界じゃあ温度なんてボクより前の兵器が壊しちゃってたからとても新鮮!」
ルインは周囲を見回して驚いた様に息を飲む。街の人々もちゃんと人間としてプログラミングされているのだ。
「とりあえずネフェルストの街を散策するよ! 行商人さんとか色んなお店とかを廻ってこの国はどんな国なのか聞いてみたいなあ」
情報収集とは『人間』の基本らしい。ルインは取り敢えずは色んな情報を手に入れようと歩き回ることに決めていたのだった。
「ははぁーんこれがラピッ……らぴっど……オリジン? 言いにくいなぁ! そんじゃま遊びますか!」
細かいことは良いんだよ、とカンパニュラはソルフェリノ・ハートビートをぎゅっと握りしめた。
「レベルをあげるよ! R.O.Oってスキルとかも自分で考えるんだね。
リアルでは格闘家的な? 殴って倒すしてるから、魔法使いの戦い方わかんないや。
初ログインだし習うより慣れろかな。スキルはまた次回!」
トゥリはカンパニュラを壁にして本で殴って、死んでの繰り返しだと提案する。
「死んだらサイログイン? ゲームにゃ面白い作法があるんだねぇ。それじゃ従うよ先輩さん❤
死んじゃうのはちょっと慣れないけど、こういう世界は初体験ひゃっほーえっなにトゥリちゃんあーーーっ! いや普通に普通に守るか壁しんどっうおーーーっ!」
――死んだ。
トゥリは思い出す――
「カンパニュラさん自爆スイッチないの? よし、じゃあ戻る時は私が倒すよPKだよ!」
「えっちょ、まって!」
慌てるカンパニュラにトゥリは知識を披露し続ける。因みに、スノウローズ曰くは死に戻りは無理のようである。
カンパニュラさんを迎えに行くか~と取り敢えずの準備を始めるのであった。
ロザリエルの目の前に【?】が浮かんでいる。其れをまじまじ見てから彼女は溜息を吐いた。
「私はねえ……人間をポコポコいじめるのが大好きなのよ。ライフワークというかアイデンティティと言っても良いわ。
そんな私がね 自前で持ってない能力も得られて好き放題エンジョイできそうな環境において、この【?】というスキルを作ったのよ 3つしかない枠を使ってわざわざね」
何故なら――よく分からない単語が多かった!
其れよりも思ったより【?】は邪魔だった。数が思った以上に多かったのだ。イライラした腹いせに取り敢えず盗賊を食べちゃいたい気持ちになったのは現実と変わらないのである。
「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、と、ある科学者が言っていましたが、むしろ魔法の類ではここまでのものは作れないでしょうね」
シャスティアは興味深いと周囲を見回した。データで構築されているのに、全てが『魔法』の様に『科学』で作られている。
「空間の構築だけならいざ知らず、そこに住まう生命まで含めての世界の運営。
神の御業、と呼称するべき段階でしょうか……限りなく相似させた仮想世界を構築し、現実で行う訳には行かない研究はそこで行う、というのは、成程考えましたね」
再現のための情報は何処から集めているか――混沌世界はアーカーシャへのアクセスが本当に可能なのであろうか。
シャスティアには気になった場所が合った。人気を避けて、進むのはラサのアカデミアであった場所だ。
「此方においても既に廃墟なのか、それとも……過去の再現も含まれているのなら、未だにそこに何かしらが在るのか。
……我が事ながら、随分あれを、彼らを気にするものですね。感傷なのか、それとも……」
辿り着いた場所には遺跡が存在していた。だが、人の居た痕跡が残されている。これは何時の再現なのだろうか――
ラピスラズリはファルベライズの伝承を調べてみようと考えていた。砂嵐は用心することが必要だろうか。
砂漠地帯で暫く行動するならどの様な装備が必要かはカール・ラメンターに確認済みだ。危機回避の方法含め、確認は済んでいる。
ファルベライズ遺跡群が潰えたのは何時であるかは分からないが、その場所まで辿り着くために少しばかり『手厚い歓迎』を受けなくてはならなそうだ。
「全く……多少の乱暴は必要そうですが、辿り着くには骨が折れそうですね」
Goneにとって残念なことがあったとすればその姿である。あるてななどであれば彼が誰であるかは気付いてくれるかも知れない。
アバターで有る以上は名乗れば普通に認識してくれそうだが――……
「ってなわけで、まぁ、いっそのこと世紀末な感じらしい『砂嵐』に行ってみっか。
強けりゃスカウトとかそういうのあるかもしれねーし。フギン……はどうでもいいけど。
元気に怪盗やってるメアリ・メアリとかいねーかな。何か捕まってるとかだったらアクファンとかスキルを駆使して助けにいっちゃおうか」
きっと、砂嵐ではメアリ・メアリが今も楽しそうに盗賊でもやっているのだ。彼女に出会えたら、声を掛けてやれば良い。
――彼女は屹度こう言うのだ。「男はツラじゃないと思ってるけど、アンタのその格好じゃ熱烈なキス一つくれてやれないわよ」と。
「ひゃっほうROOだ! 現実なんざ気にせずやりたいことやるぜ!
ゲームなんだし、死ぬの前提で突っ込んだコト聞いても良さそー」
くすくすと笑ったのは天魔殿ノロウ。見たくないモノからは、無意式に目を逸らす。つまりは聞きの察知が上手いのだ。
スラムの子供達の噂話に耳を傾けるのも悪くはない。何処かの傭兵団にも入っておきたいが――さて、どうしたものか。
「あとはー……ちっちぇトコの頭ァ潰して成り代わる、とか? 手頃なの探そ」
有力な傭兵団との交渉のためにも、まずは情報収集が大事そうである。
「へっ。悪の都ネフェルスト、ね。面白い事になってるじゃあねェか。それに大鴉盗賊……いや、傭兵団のコルボか」
其処まで呟いてからクシィの心は躍っていた。勿論、死んだ知人が見事に存在して居ることを知ったからだ。
「丁度いい! あのお喋り金歯野郎の間抜けツラをもう一回拝んでみてェと思ってた所だぜ!
悪の都の大鴉の巣に乗り込んでやろうじゃあねェか!違う道を辿った別人だとしても、一度会って確かめたいんだ」
心を躍らせる。ネフェルストは悪の都、簡単に乗り込むのは中々危険だが恋する乙女の一途さの前では敵ではないのだ。
あわよくばコルボのツラを拝んでキュートな乙女の顔を覚えて貰うため――レッツチャレンジ!
「ROOに閉じ込められた人質は奴隷として捕らえられてる可能性もある。
大鴉傭兵団と繋がりが得られればその辺の情報も入ってくるかも……べっ別に個人的な興味だけじゃねェから! 調査! 調査の一貫!」
なんて、言いながら楽しみにしているのだ。コルボとの再会を――
●砂嵐II
「すごい、です。元の徒花の姿と言えば良いのでしょうか、
あちらではただただ姿かたちを最低限の真似しかできませんでしたが、こちらですとほぼ、まあ真似してることに変わりはありませんが完璧に近い形になります」
サクラは驚いた様に自身を見遣る。ラサの代わりとなる砂嵐をその姿で練り歩こうかと考えていたが――どうにも治安が悪そうなのだ。
「散歩中に死ぬのもまた運命。死なないことが一番良いに変わりはありませんけどね……
私が強かったら良いのですが、無理ですね。断言します。無理です。何もできません」
肩を竦める。そういうこともあるのがR.O.Oと言うことだろうか。
「見れば見るほどこの都、物騒ですね……」
呟いたクランベリーは混沌世界のコルボがいると聞いて首を傾いだ。
死んだはずの人がネクストには存在して居る。点在する情報が現実世界とは食い違っていることが何とも奇妙な感覚だ。
「襲われそうになればすぐに立ち向かえるようにしておきましょうか。
不用意にデスカウント、増やしたくないですし、安全第一ですね!」
悪の都と呼ばれたこの場所で活動するならば、必要な事なのである。
「ハァイ――じゃなかった――やあ、こんにちは。品物を見せて貰ってもいいか?」
微笑んだのはバージェシア。姿も声も、全て変わってしまえば新しい自分に慣れなくてはと心に決める。
ついつい何時もの話し口調が飛び出しそうになるのを堪えて商品を見回ることに舌。
リアルの自分を知っている相手には男口調の自分を見られるのは恥ずかしい。すっぴんを見せるような気持ちだ。
商会に来てから感じるひりつくような気配がラサとの違いか。珍しい香料をまじまじと見遣ったバージェシアは「何かオススメあるかしら?」と問い掛けた。
「盗賊団、悪の都ネフェルスト? やっぱりカジノとかあるのかしらねー、RPGにはお約束だし」
――と、云う事で。アリス・フェアリーテイルは「はっはっは、思いっきり負けて盗賊団に囚えられました☆」とウィンクである。
盗賊団に虐げさせて、囚われのお姫様ごっこを堪能するのだと決めていた。
「ビバ姫プレイ、ビバヒモ生活――拘束させろ? 誰にものを言ってるのかしら?
まぁ、いいわ、ほら。……ちょっと緩すぎではないかしら? そうそう、そのぐらいキツくいい感じよ」
ちなみに、私の頭は大丈夫ですとのことなのである。
「もし宝箱っぽいものがあったらゲットしましょう! 唐突に上級狩場にいって強い装備を手に入れるとかロマンですね!
鍵はテクニカルアーツで開けられますし……自由って素晴らしい、死さえも飛び越えた仮想空間。
死の先にこそ真の幸福があると聞いた事がありますが、この世界なら少し分かる気がします」
にんまりと笑ったアリシアは更なる経験値を稼ぐためにネフェルストをぐんぐんと進む。盗賊を倒せたならば、それでいいが、メイドの嗜みとしての火の扱いではどうにもならないときはばっちり一度死亡を数えられるのだ。
「ほお……こいつがバーチャなんとかってやつかい。
機械だか、何だかってえのはスゲェんだねえ。しかしこう、感覚がリアルすぎて気持ち悪くもあるが…ま、細けェこたあやってく内に慣れるだろ」
グドルフは血の気が多いと言われる砂嵐へと訪れた。挨拶がてら顔を売っておくのも悪くはない。
酒場へと飛び込めば、視線が一気に集まるがグドルフは素知らぬ顔でそれらを見回して溜息を吐く。
「ちっ、シケたツラしてる連中ばかりだな…さすがに見知ったツラはいねえようだ。
ゲームの中で飲む酒ってえのはどんなモンか、気になるね! おれさまがレポしてやるぜ!」
酒盛りは常の通り。酩酊もリアルの通りだ。故に、吐き気よりもめまいで苦しみを覚えたのは『3D酔い』にも似てるのだろうか。
吐き気を治めながら進むグドルフの傍らを赤ッ鼻の山賊が走り抜けてゆく。酒場に用事があるのだろう。
その姿を見て、グドルフは息を飲んだ。知った顔が――あの人が、居た気がする。
「ハッ……マジで酔っ払っちまってるらしい。……まさか、な」
――R.O.Oでは死者に会える。そんな、まさか。
「悪の都なら悪い奴もいっぱいにゃ!
そんなわけで早速悪い奴らからお宝を盗みに……じゃにゃくて砂嵐の内政を調べるために潜入するにゃ!」
にゃにゃんと決めポーズの神谷マリアを凝視したのは神谷アクアである。
「えっと、それ、ねこの真似事のつもりなのですお姉様? ねこなめんななのです」
「……なんにゃその顔は、凄いきついキャラつくってんなって顔するんじゃないにゃ。ここじゃ妹、にゃーはお姉ちゃん、そう言う事にゃ」
どういうことだ、と言いたくなったがそれはそれで『まあいい』らしいアクアはマリアの計画に耳を傾ける。
「にゃー達はとりあえず砂嵐の情報が集まりそうな豪邸……あるいは大きな街、そこらへんに潜入して盗賊達の内情を探りつつお宝をゲットしに奔走するにゃ。目指せ金銀ざっくざくにゃ!
もしかしたら死ぬかもしれないけど死んだら死んだで戻れるらしいし、無茶もしてみるにゃ!」
「私は現世の力にしか興味がありませんし、まして現世以外で雑に死ぬなど、普段ならたとえやり直しがきこうが絶対に御断りなのですが。
貴女の隣でなら、貴女の自称妹が一人増えてもいいのなら、まあ妥協してやってもいいのです。金銀財宝目指してゴーなのです!」
――ゴーして普通に死にました!
デスカウントを全力回避する。それがルナ・ファ・ディールの目的であった。
アバターは女性からだである。自分が女だった場合の部族における価値や、現実の傭兵で生きてきたケンタウロスの若い女、そいつが生きる上での苦労や、今の強さの影にあるものへの興味が彼を彼女にしたのだろう。
「傭兵……こっちじゃ砂嵐か。ま、熱砂の国にゃかわりねぇが、ちぃと傭兵以上に荒れてそうだな。
このアバターじゃ、面倒事も多そうだが……その方が、女が生きる苦労ってのもまぁ、さっさとわかりそうだな」
さて、部族は何処に存在して居るだろうか――
●砂嵐III
「悪の都ネフェルストですか……現実の世界とどう違うのか見て回りましょうか。
どうやらこの世界では死んでも問題ないとのこと、何かあっても最悪自決すれば良いでしょう」
凄い決意の沙月は取り敢えずは自由に歩き回って見ようと考えていた。
だが、悪の都と名高いこの場所ではどれ位『影響』があるかわからない。己の元へと悪党が現われる可能性と手ある。
(応戦を、とはいえ、無月を使用して攻撃するしかできませんが……こういう所は少し不便ですね)
もしも攫われるならば自決して全てを無に還してしまおう。その判断は未帰還である研究員達の事を考えての事であった。
「ラサではない、砂嵐。悪徳の街。大なり小なりラサも、そんな街ではあったが。此方は、それよりもひどいらしい。
『有名人』の一人にでも会えれば面白そうだが。さて。向こうでは兎も角、今の僕は此方では無名も良い所だしな」
真読・流雨はキングスコルピオに会ってみたかった。あの頃はラサには居た。名前を聞いたこともある。
(死んだ者が生きているなら。多少の期待もこの街にはある。
まぁ、結局の所、よく似た別人というだけなのだろうが。それでも期待はしてしまうというものだろう――)
真読・流雨と呼ばれた存在にとって、興味があったのは幻戯の『団長』ルウナ・アームストロングであった。
もしも、彼女がここに居たならば。――そう考えて、古巣へと脚を進めてみようと考えた。
「んだここは……あっちとこっちでは偉い差だな。随分人荒れた国になっちまって……さて、俺は何をすべきか」
アクセルは好き放題に暴れるあくのネフェルストを見て悍ましいものを見た気がした。
現実のラサがあのような国になったのも傭兵団のお陰なのだろうか――さて、視線が多く散らばっている。
「んん? 現実に俺と似てるヤツがいるって? そいつはまた偶然だな。ま、そんな事もあるさ、適当にやろうぜ。適当にな?」
アクセルは会いたいというよりも見たい奴がいるのだ。それは、そう! ディルクさ――いや、赤犬のディルクだ。
(様なんて付けたら直ぐに誰かバレちゃう! 気をつけなさい、私……!)
出来れば会いたいが――会えば『帰れない』予感はとてもしていたのだった。
「さーって、そんじゃここで一旗揚げてやろうじゃねぇか!
悪の都? んなもん知った事か、俺はやってやるからな!
とはいえ最初っから全部敵にするのは出来ないのは当然だ。それくらいは俺でも分からぁ!」
ダリウスが行うのは調査である。普段の行いと変わらないのはつまらない学長だけでも変化させれば愉快になる。
街に向かい、盗賊達に気をつけて進む。悪には悪なりの法があると知るからこその立ち居振る舞いだ。
「さって、ここの首魁だとか有名な盗賊団とかを中心にある程度調べられたら一華咲かせようじゃねぇか!
――やる事? んなもん喧嘩に戦闘だ! せっかく死亡すら良き経験ってなるんだぜ、文字通り死ぬまでやってやらぁ!」
そう言って飛び込んだのは、傭兵団のアジトである。流石にネフェルストを悪の都と呼ばせるだけの実力者揃い。ダリウスは見事に『死ぬまでやってやった』のだった。
「私はモモカリバー、この桃木剣で悪を斬り邪を祓うヒーローだ。
ムムッ、この地には激しい悪の匂いを感じるぞ! 街をパトロールして、見つけた悪を撲滅せねば!」
木刀で殴ったモモカリバー。ヘルメットを脱がず、正義のヒーローとして戦うが、ダリウスを助けることは叶わなかった……。
AllocesBに誘われてログインを行ったBelethRはサイバネテックなドレスを着込んで砂嵐に立っていた。
「R.O.Oログインを確認……目標はこのR.O.Oでの戦闘の感覚をつかむこと……というわけであのモンスター討伐しましょう」
静かな声音でそう言ったAllocesBにBelethRは大きく頷く。
「ここがかの"R.O.O"とかいうものか……。なるほど、確かに元の世界とは似て非なるところのようだな」
「敵がこちらに気が付きました。行きますよ"姫様"」
直ぐさまに出現モンスターに対してカウンター態勢を取った。ビームカノンによる時間差砲撃で支援を行う事に徹するか、と考えてからBelethRは肩を竦めた。
「"姫様"とは……まぁよい、援護してやる。ただし無理はするなよ」
小さく頷き――戦闘開始である。
私は一体何故此処にいるのだろう。私は一体どこから来たのだろう。
私は一体どこへ行くのだろう。私は一体何をして生きて来たのだろう。
私は一体幾つなのだろう。私は一体何を愛しているのだろう。私は一体何を嫌っているのだろう。
私は、私は、私は、私は、私は一体――私は、一体何者なのだろう。
ベルンハルトにはその全てが無かった。故に、空洞である。
虚、洞とも言えるだろうか。何もかもが内故に、迷いが滲む。どうして、と問うても頼る縁も無いとでも言うように――
●翡翠I
「フルダイブ型のゲームかぁ……まさかこうなるとは」
そう呟いたのはグリース・メイルーン。アバターのキャラメイクの際に間違えてランダムを押して女性キャラになってしまったが、作ったからには親しい人にはばれないようにしようとグリース・メイルーンは心に決めていた。
だが――
「でもこれはゲームなのでまずはどうしたらいいんでしょう……皆不思議な名前つけてますし……どなたに聞けば……」
目の前で首を傾いだ彼女。どう見ても見た事があって親しみを感じる、そんな彼女にグリースは微笑みかける。
どうかしたのかと、何が知りたいのか。ゲームは得意だからと胸を張ったグリースに彼女は「有難うございます!」と微笑んだ。
「それじゃこれで僕らは友達だね。僕、グリース・メイルーン。君の名前は?」
「シフォリィです」
――本名プレイだー!?
思わず笑いかけるが、この世界でも彼女と一緒に遊べるならば喜ばしい。恋人としてではなく一人の友人として彼女とネクストを歩んでいきたい。
そう考えるグリースの心を知らないままのシフォリィは初心者で優しい先輩プレイヤーであるグリースが名前を聞いて不思議な顔をした理由を考え続けているのであった。
「翡翠が深緑を模して造られたのなら妖精郷もあるはずだ……。
直接ワープ可能ならそれを使うに限るが……ないなら大迷宮ヘイムダリオンをまた踏破しないといけないのかな?
一応誰よりもあの迷宮の知識はあるつもりだが……ここは幻の世界、同じと思っていくと死ぬな……参考程度にしないと」
呟いたシフルハンマの目的は妖精郷である。翡翠で情報収集をするが妖精郷は深緑でも『御伽噺』であった。
その場所へと辿り着くのは中々至難の業だろうか――もう少し情報収集をしなければ簡単に古代遺跡に入ったら呆気なくポックリデスカウントが増えてしまうのだから。
「うーん…迷いますが、私は翡翠に行ってみましょうか。
色々歴史も変わっているそうですし故郷がどのように再現されているのかも気になりますしね」
さて、どうしようかと悩ましげにFinはファルカウへの道を辿る。気分は散歩気分で気楽に往くのが良いだろう。素材を拾うのもMMOの醍醐味だ。
「……ところで、らぶりーざんとまん、とは一体……?」
それは可愛い妖精さんです。悪い子じゃないよ。
目標は『死なないように』。ロードは翡翠の町中で驚いた様に自分の体を見回した。
「おおすごいすごい。俺、だな。で、俺たちは人を助けないといけない。なら情報収集が必要だろう。
……姉ヶ崎博士、エイス、イデアはここで知れそうにないから、団体について調べるか」
呟く。ロードは視界に入っている存在がNPCであるかどうかを確認する。真白の姿であるならばNPCだ。
「そこの人! ロードって知らない?! 俺はそいつらから皆を守るかっこいいやつになりたいんだ。
だから、ロードが作る変な生き物を欲しがってる所とか知らない? 知らないなら知らないで良い。ありがとう!」
問うたランドウェラに翡翠のNPCは首を捻る。その集団の活動が観測されたのは正義だ。閉鎖的なこの国では、余り外の情報を知らないのだろう。
「かみだよ」
神様は何食わぬ顔でそう言った。
「何時も見てるよ」
神様らしい口調である。
「この度はこの世を救うため、ひいては残存民草救出のため、神が奇跡を起こしにやってきた。
……可能であれば全ての土地土地を、見て回りたかったが致し方あるまい」
サクラメントを始め様々なモノを確認したいが、美しき麗人集う『楽園』は炎を求める魔術士が多く住まう地になっている。
「朱に翠は逢い色か 意外であった コレはコレで――其処ゆく御婦人 困った事はないか」
突然、神様に話しかけられた幻想種は驚いた様に見詰めてから「え、あ、大丈夫です」とぎこちない笑みを浮かべたのだった。
「やってきました……この世界って何て名前だったかしら? とにかく来たの! ゴッドバードがきたのよー!」
こけこっこー! と登場したゴッドバードは自分の力のチェックに迷宮森林を使用していた。
神々しい輝きを身に纏ったゴッドバードによる『ゴッドぴよちゃん』達はぴよぴよと姿を現し続ける。
「よしよし、皆元気ね! まずは……歌と踊りの練習をしましょう! じゃないと人前で歌えないものね!
ぴーよぴーよぴっぴー、ぴっぴぴっよー……。そこ! 翼の動きがずれてるわ!」
リアルのぴよちゃん達にも勝るゴッドぴよちゃんになるべく! 日々訓練なのである。
「砂嵐へは視界が阻まれそうな名前なので行かないのデス。
ここは、周囲の敵に姿が認識されずらそうな場所へナノ。まずは情報収集で、どんな者がどんな活動してるのか調査するのデス」
エステットは危険地帯には赴かないように気をつけて降り掛かる危険から逃れることを意識して進んでいた。
個人で向かうのは危険かも知れない――だが、活動は名を挙げるための礎となるはずだ。
●翡翠II
「なんとまあ。あの……クッ、フフ、失礼。つい嗤いが堪えきれず。
あの唐変木どもが、こう、愉快な事になっているとな。まあ良い。過去のあれこれも今更、今更よ」
フー・タオは面白おかしいところを発見できればと考えていた。色は匂へど 散りぬるを、とも言うが『あの』深緑でさえR.O.Oの内部では変化せずには居られなかった。
この常磐の国さえ、一睡の夢のようなものなのかもしれないが。
仮想現実! ってなんか楽しくなっちゃって飛び出したはいいんだけど――
「はあぁ、さっきから同じような場所をぐるぐる……ぐるぐる……ここどこぉ……?
もうダメ……なんか食べたいよぅ……」
残念、MANAの冒険は此処で――
「……あれ、なにか人影が…? というか倒れてる?? 助けないと!」
「ん? あれか? ……なにもフラグらしきものがない。NPCじゃなくてプレイヤーだろうあれ。とりあえず、木陰で介抱しようか」
ミドリとディリの声が響く。二人で翡翠の調査に訪れていたところに行き倒れのプレイヤーを発見したと云う事だろう。
介抱をすればぐう、とMANAのおなかが大きく響く。顔を見合わせたディリとミドリは小さく笑った。
「私たちもそろそろお腹が減ってきた頃合いですし、お食事を作るのも良さそうですね」
「そうだな。時間もいい。よければ俺たちと食べていかないか」
その提案はMANAにとっては喜ばしい――けれど。
「あのね、私、MANAっていうんだ……! ただご馳走になる訳にもいかないから私にも何か手伝わせてっ!」
彼女の提案に大きく頷いて。食事の準備はミドリに任せておけば良い。
従者の早換え術を駆使して食事を作るというミドリに「獣が寄ってきた」とディリは囁いた。
「獣……?」
「ああ、君も行くか?」
獣を狩りに往こうとディリが立ち上がればMANAは「任せて!」と勢いよく立ち上がり――ぐううう、と大きく腹を鳴らしたのだった。
「らーしあ……ラーシア!! いる、いない??」
どうやらまいまいの目当てであるラーシアの姿は見えない。お花の妖精となったまいまいは皆をもっと喜ばせるのだと自然達へと微笑みかける。
(え、えむえむおー……というのは初めてなので、右も左もわかりませんが、仮にもお姉様の身体を模したもの。
勝手に死なせるわけには……って、そうでした。今の私はソニア・ウェスタではありません。フレアお姉様なのです)
今日の自分はフレアなのだと、言い聞かせた後、周囲を見回した。ファルカウのサクラメントの周辺探索ならばそれ程危険は感じないだろうか……。
「……こほん。まだ、右も左もわからない。無理は禁物、命大事に。
探索中にうっかりモンスターと会ったら大変。今の私はぼっちだから、酷い目にあわされちゃう
だから無理せず逃げる。追ってこられても、人のいそうなところに逃げ込めばきっと誰かが……」
上に立つ者は自らの力でゴリ押すようではだめだと再認識して、ジト目をしながらフレアは探索へと進む。
「エメラルド!ㅤ実家のような安心感だね!ㅤ多分私の前世ここの木だよ!
ってことでさっそくここらへんの邪魔にならなさそうなところに私達(フィールドセル)の楽園(畑)を勝手に作ろう!」
――きうりんは気付いた鍬が――無ェ!ㅤ掘り起こせ!
「爪とかガリガリ削れるけど片っ端から回復して行くぜ! そうか、私の再生力はこの為にあったんだね!!
よーしこのまま畑をつくって仲間を増やして、翡翠に住んでる主な種族にフィールドセルを追加するぞ! だれが外来種だ!」
叫んだきうりんの背後にざ、っと揃ったのは。
「きうり……でぇ根……ぬんずん……!ㅤお前ら……!!
加勢に来てくれたんだね! ……あれ、違うのかもしれない。多分翡翠に群生してる野菜だね。いたんだね。
ってか別に彼等との間に友情とかなかったや」
どういうことだろう。それでも、何だか手伝ってくれそうだからオールオッケーなのである。
――目的は探索、この世界での身体の感覚を調べる、そして死ぬこと。
とりあえず死んでみたいという考えを持つ。強そうなモンスターとかが居れば挑んでみよう。
とはいえただ死ぬのはダメだ。それは面白みに欠ける。死を実感できるようなギリギリ限界を目指す。
そう考えていたのは名も無き泥の詩人である。
他プレイヤーの迷惑にならない程度にNPCには快く挨拶をして――さて、眼前にはモンスターが立っている。
「さて、君に俺を殺せるかな。――どうした、まだ俺は死んで無いぞ」
名も無き泥の詩人は、泥人形は。
「……なるほど、これが『死』か」
得ることのない可能性をその場で得ることが出来たのだと歓喜して。
「わあぁ、これがRapid Origin Online、本当に夢に見る様なゲームみたいじゃないですか。
凄い、すごーいです……! ……こほん。何はともあれまずはこの世界を知る事からですね」
縁はなくとも冒険するなら何処でも良い。環境破壊にはくれぐれも注意して、ルナリスは歩き回る。
多く見られるのは長耳の幻想種(エルフ)達だ。
可能性は低いかも知れない。それでも、カインは『現実で居なくなった両親』の足取りを追いたかった。
大樹ファルカウの居住地からスタートする。バグだらけの世界だが、もしかすれば『有り得た未来』があるかもと、緊張しながら歩を進め――息を飲んだ。
(お母さん――……)
自分と、両親が普通に生活している。そんな様子を見て、驚かぬ訳がない。カインはぽろぽろと涙を流し、俯いた。
なんて、なんて優しくて残酷な世界なんだろう――
●翡翠III
アルフィンレーヌは周囲を見回した。妖精郷、その入り口を探す為だ。
「妖精ちゃんは、どこかしら~かくれてないででておいで~おいしいおいしいお菓子があるのよ~」
声を掛けるが、妖精達はまだまだ見つからない。モンスターにも構っている暇はないのである。
「邪魔する悪い子は、おしりぺんぺんよ!」
拗ねるアルフィンレーヌははっとした。ゲームは1日1時間。その教えを徹底するならそろそろ帰らねばならないか。
「わぁ、これがROOかぁ……森も風も、まるで本物みたいだ!」
其処まで口にしてからハッとしたように壱轟は首を振った。「……失礼、初めての経験でまだ慣れてなくてな」という口調はロールプレイによるものだ。
「ふしぎだよねぇ!」と微笑んだゴルドは何時もと変化はない。幻想種と交流するならば、是非と楽しげに長い耳をぴこりと動かした。
「炎を使う魔法使い……格好いいよね。俺も憧れてたよ。似たようなこと出来ないかなーと思ってスキルを作ってみたんだぁ」
炎とゴルドが告げた言葉にイルシアの眸が輝いた。翡翠の出身者として認識される『アナザーライフ』が在れば小枝をポッキリと折ってしまっても叱られやしないだろう。
イルシアが語る翡翠は『森に住まう幻想種は炎が好き』と云う事である。木々と共に住まうのに使用するのが火の魔術と言うのはアッシュにとっても不思議そのものだ。
「とにかく俺たちは翡翠の民たちの信頼を得られるよう尽力しなければ。こっちの世界でも炎の技、使いこなしてみせる!
翡翠では小枝一本は腕一本と言ったか……むやみに自然を壊さぬようそっと進むべきだな」
翡翠は現実の深緑と違って過激な場所だ。イルシアが「私達は唯の客人ではない事をアピールしなくてはね」と微笑む。
燃やして燃やして燃やしまくって、翡翠の良き友人であることをアピールしなくては。
「親睦を深める為、防衛の手伝い……こちらでも基本、やることはそう変わらないのですね。
まぁ、変わってないわけでもないのですが……何故火が好きに……いえ、お役に立てること自体は嬉しいのですが」
呟いたアメベニはそんな場所であっただろうかと首を傾ぐ。
「しかし、こちらで手に入れた武器、今回のにちょうどよくて助かりました――偶に何故か笑われますが」
手にしていたのはヒートロッドだ。先端が光っているそれはお線香みたいな武器だとしてたまに笑う人も居る。
だが、それは今回には丁度よいと、森の中で炎の魔力を増幅しながら舞い続けた。
全ては囚われている兄弟機を救出するための一歩なのだとアメベニは「むんっ」と気合いを入れて。
「俺も炎の精霊種の端くれ。火には長けているつもりだ。
いずれにせよ、森の木々には傷を付けないように積極的にアピールしてみるか。首尾よく交流が持てたら、彼らの使う火の魔術に関して色々教えてもらいたいところだな」
アッシュの傍らで灰哉は「クエストが始まるぞ!」と仲間達へと合図した。確かに、何処からか炎の気配を感じる」とアッシュは頷く。
壱轟は『名前もまだ付いていない炎のスキル』を使用し、ゴルドも身構える。「往きましょう!」と意気揚々と告げるイルシア――実は母の姿をアバターにしたらしい。母ならこのクエストも乗りきれる筈だ――に灰哉は頷く。
「待て! そこの悪党ども! この町から出て行ってもらおう!
出て行かぬと言うなら! 私達の正義の炎がお前達を焼き尽くす!」
実は灰哉はアバターを作って見たけれど勝手が分からない故に、イルシア達とチームを組んでクエストへと臨んでいた。
翡翠なら『火ぢから』強い方がいいと思う、という判断で炎のスキルを連打し続ける。
死んで堪るかと炎の魔術を使う壱轟は「ウッ」と小さく呻く。その様子を微笑みながら見て居たのは再現性母――その人だ。
『食らえ! この灰哉の炎を!』
幾國祥怨により炎に包まれて、飛び込んでゆく。勿論、最初の任務にデスカウントは付き物なのです。もう一度リトライ!
●伝承XI
「貴族の財産を奪って山分けにしよう! 王族を滅ぼして法律を無くそう!」
叫び続けるのは赤井・丸恵。様々な主義主張がそこにはあるのだろう。
千花はロールプレイを心がけなればと何度も自身に言い聞かせた。
「それにしても、見た感じ幻想と変わりませんね。ここまで細かく再現されてる……それとも完全に再現はされてなくて結構端の方は適当な作りになってたりして?
まぁ私は幻想の隅から隅まで見て覚えてるわけではないから、わからないですが」
苦笑いをし――見遣ったのはオームスだ。可愛いR.O.Oのモンスターとして彼女は認識しているが、当のオームスは「あの」だとか「その」だとか繰り返している。
「私はばんの……千花っていうの。よろしくね。それにしても可愛い……中に入れてマッサージしてあげたくなります」
――オームスは彼女が誰であるかを何となく察知出来たような、気がした。
「オンラインゲーム……? チェスやポーカーとどう違うのでしょうか?
現実に似て非なる場所と言われても、よく分かりません……境界図書館から外の世界に来た感じ……に似ている様な……」
アインスにとってはその地も何処か不思議な場所であった。住んでいる国に良く似た伝承を観光してみるが、それは現実と何不自由なく変わらないような――逆に違和感さえ感じさせる。
「吾輩は猫である。名前はにゃこらす。ネクストの何処に降り立ったのか頓と検討がつかぬ。
何でも目を瞑って適当にサクラメントを選択したせいだという事だけは記憶している。
さてせっかくログインしたのだ。体に慣れるためにも少し歩き回るとし……って、あぶな!? おい!
そこの通行人ちゃんと下見ろよ!! 猫を蹴飛ばすところだったぞ!! ……人ってこんなでかいのな。いや猫になった俺が小さいのか」
ぶつぶつと呟くにゃこらすの前の前には楽しげに歩いているMissの姿がある。
「お、そこ行くみーちゃん様や。すこーしばかり提案があるんだがよ。俺を頭に乗っけて散歩なんてどうだい?」
「ほほー?」
「いや寧ろ乗っけてください。お願いします。操作慣れしてねぇ今だと踏み潰されちまいそうなんだよ。頼む!!」
「あはは! いいですよぉ! じゃあ、頭乗りにゃこらすさんですねぇ!」
ドーナツのビーバーの頭の上に乗っている猫。謎の組み合わせが完成していたのだった。
「いやぁ、ゲームの中って凄いなぁ。
こんな精巧に現実の幻想と変わらん街作れるもんなんやなぁ。いや、ゲームの中やと伝承やったっけ」
入江・星は周囲をキョロキョロと見回した。
「んー、他国に行くんわちょっち怖いし、伝承の街ん中で情報収集でも
確か、この前クエストの事とか教えてくれたバーがあった気がするしそこにいってみよか。
この手の情報収集は酒場でが基本って星の声も言っとるし……バー・アルバニアやったっけ。そこのママ見た時何人かは無茶苦茶驚いた表情しとったけど知り合いだったんかなぁ」
入江・星は知らないがバー・アルバニアでは凄く噂されているのだそうだ。
「……ん? 私の顔になんか付いてます?」
ダテ・チヒロはフィットアドベンチャラーとして名を馳せるためにランニングアピールをしようとして、その噂を聞いた。
「……バー・アルバニア? そっか、ネキいるんだな」
そして訪れたバー・アルバニアに勢いよく飛び込んでゆく。
「たのもーーーう! 我こそはフィットアドベンチャラーのダテ・チヒロだ!
これからお世話になる故、見知りおいてもらおう!
とりあえずお近づきの印に材料を集めて魔法の力でスムージーです!」
材料を集めて魔法のリングでちょっちょっと作った健康的なスムージーは美肌効果も高そうだ。
「何なら俺を店員として雇ってくれても……フフッ、いいんだぜ?
ジョブクエスト的なやつさ。あるんだろ? そういうの。なーいいだろー? 俺とネキの仲じゃんかー。なーなー」
「世界救いなさいよ、ちょ、近いわ!」
「馴れ馴れしい? 多分俺たちは前世で会ってるんだって! マジで! 信じて!」
まるで新手のナンパのようである――
「此処が、R.O.O……凄いです、感覚が現実と何も違わない……ある意味、恐ろしい所……ですね」
首を傾いだカスミ。何から始めるかも大きな問題だ。
「今の私は、レベルも装備も足りてない。デスカウンターも本当に現実に影響しないのか疑わしい所ですし……。
やっぱり、オーソドックスらしい伝承の町を散歩する所から始めましょう……後、食べ物が有るらしいので」
実際に食べてのも良い。カロリーがないと聞けばその感覚を味わえるだけだろう。
「……確かにウォーカーで現実の方も色んな見た目の方がいらっしゃったけれど、
R.O.Oだと更に個性的な見た目の方が多い気がします……! えぇ、歩くだけでもとっても楽しいですね!」
見ているだけでも心躍ると笑みを零したカスミは早速伝承の街の探索の始まりである。
アバターを作った友人との待ち合わせ。青いオーラの角を持った人らしいときいてAdamは周囲を見回した。
発見した、と笑みをおぼしたAdamはこっそりと近づき――
「わっ!」
「! えっ、わっ眞……じゃないAdamさん!?」
慌てて振り向いたオルタンシィアにAdamは「ビックリした? ごめんごめん、ちょっとしたドッキリでした」と微笑んだ。
不意打ちと、見知った姿に驚いたオルタンシィアが頬を膨らませば彼はからからと笑う。
軽い食事と観光の後――オルタンシィアは「ガオ!」と龍の姿へと転じた。
「ボタ……じゃない、オルタンシィアさんスゲェ! 本当にドラゴンだ! かっこいい!」
大空へと飛び立って――オルタンシィアは小さく笑う。ぐるぐると回れば「ちょ、わ!? あはは、面白い!」とAdamは微笑んだ。
「Adamさん、今度はきっと私がお力になりますね!」
「あそこが海洋……いや、航海ってやつ? 焼いたら美味しいモンスターとか居そうじゃない?
今日は見るだけだけど、また今度ちゃんと観光しに行こうか――って、今度はって……今まさに力になってくれたじゃん! 俺だけじゃこんなこと絶対できないし。だから、ありがとう!」
彼のありがとうが嬉しくてオルタンシィアは勝手に一回転。「ぎゃー!?」と叫んだ彼に「お返し、です!」ところころと笑みを零した。
全自動フルカラー複合機はフィールドの端で只管に皆の様子を観察していた。印刷機であるというアピールをし続ける。
――印刷物をガイドに合わせてスキャンしてください。
――静電気除去マットに触れた後、デバイスを接続しOKボタンを押してください。
――投入金額が不足しております。
台車でコロコロ転がりながら移動して、新しい情報を収集しに往くのである。
●伝承XII
「まずは狩りで慣らそうかと思ったんデスガ……そこの神父サマ? シスターサマ?
どっちでも良いや、今お一人デスカネ。宜しければパーティ組みマセンカ?
おっと申し遅れマシタ、しがない狼ロボのうるふと申しマス。袖擦り合うもなんとやらだ、宜しく頼みマスヨ!」
にんまりと微笑んだうるふに「。良いけどアタシなんも知らねぇけど大丈夫か? なら良いけどよ」とマチルダは肩を竦める。
リアルでは知り合いであるが、R.O.Oでは互いのアバターを開示していないために初対面であるかのようだ。
(狼、ロボ……うるふ……なーんかどっかで聞いた覚えが、似た様な奴を――)
少し悩んでみたマチルダだが、ここに来てアバターの中身を探すのも居心地が悪い。
「まぁ中身なんざ気にしても仕方ないわね。よろしく」
頷いたうるふに続いてぎこちなく冒険を続けるマチルダはスキルの競っていってどうやるんだとぼんやりと呟いた。
「きましたわきましたわきましたわ!! Rapid Origin Online、期待通りのリアル感ですわね。
攻略勢としてまず初めにやることはズバリ!!
アバターが想定している通りに機能するかどうか、ですわね。十分なテスト無くして、R.O.O攻略を成し遂げることなど夢のまた夢!」
かぐやはすっぽりと(・◡・*)を被っていた。巨大な筆を振り上げて只管永遠と(・◡・*)を描き続ける。
スキルの使用感のチェックなのだが――衛兵さんが来ている!
「ういうい、行方不明の人の探索っスね
ちょうどいいアクセスファンタズムをゲットしたっスからこれ使うっスか?
立て看板に<情報募集>とか書いて置いといたらその内NPCとかからタレコミとかあるっスよ」
どうっすかね、と#SweepersMarukaは胸を張った。NPC達からのタレコミは中々少ない――が。
「てことでウチこれから人に会う約束があるんでアディオスっス。
イレギュラーズじゃない仕事の関係っスけど現実じゃなかなか会えない人なんスよね~って勿論詮索無用っスよ?
探検っスか? あんま興味ないっスねこの前転移して来たばっかで別世界は初めてじゃないっスし現実とそんな違わないみたいっスし、それじゃっス」
一先ず好きなことを好きなだけが一番なのである。
「ふふ~ん♪ これがゲーム? の世界なんて信じられませんね!
五感もちゃんとあるんですね……へぇ……これは思っていたよりも危険なやつかもしれませんね……」
斬華はなさそうだけれども『彼女』が居たら嬉しいなあ、なんて考えていた。
いやはや、もしかすればもしかするかもしれない。結構似ているようで違うこの世界で『似ているようで違う関係』を気付くことが出来るかも知れないのだ。
「うん! 美味しいですね♪ お腹は~どうなんでしょう? 満腹中枢は刺激されるのかな?
現実に戻ったらお腹がすくのかしら? よくわかりませんね!」
食べている感覚を感じながら周囲を見回して――ふと、見上げれば空を飛び回るЧтоの姿が見える。
『目を付ける』のが目的だ。探し人は居るけれど、本当に居るのか、逆に絶対居ないのかさえ分からない。
膨大な情報が必要になることをЧтоは理解していた。故に、情報のハブになりそうな場所を探して進み続ける。
『おつかいマスター』だ。クエストの多い場所を見つければ、きっとヒントを見つけることが出来る筈である。
「ここがROO……?? 聞いてた以上に混沌と似てるんだ~!!
…………あそこにあるのはアイドル力測定器……??
うーん元本業がこういうのやるのどうなんだろ? ちょっとやってみようかな……」
その時、三月うさぎてゃんに衝撃が走る――
「えっまって!!! 予想以上にダンスも歌も上手さが落ちてる!!??
アイドル力が高くてもうさてゃんはこれをアイドルとは認めれないんだが!?!」
ネクストがこの程度をアイドルと呼ぶのならば――三月うさぎてゃんは最強アイドルになってやるのだ。
偶然受けたクエストがビラ配りであったパロパロは兎に角数が多い飢えに誰が受け取ってくれるかもわからない、パーティークエストに頭を抱えていた。
引受けた仕事は確りとこなさねばならない――が、さて。只管、街でクエストを熟し続けなくてはならない。
報酬効果の消耗品ドリンクを飲んで……あ、あまり意味も無かった。これから、ゲーム慣れ、しようねえ……。
一先ずゲームを始めて見たにとって、友達も誰も彼もがどんな姿で有るかも分からないと火柱・慎吾は周囲を見回した。
先ずはPTプレイを見詰めながらソロで効率的にレベルを上げてゆけば良い。
ああ、けれど。疲れてきた。
「どこかにきっと巨乳美少女のアバターがブルンブルンしてるに違いない。そういう要因のNPCっていませんか?」
「お呼びですのねーー!?」
「あ、いない。そう」
突如として飛び出したクソザコスライムのことを彼は見ない振りをしたのだった。
「こういったゲームではまずレベルを上げるのがいいと聞いたよ。
それに混沌と瓜二つの新しい世界という事だから冒険もしてみたい、ということで街の外を探索しながら戦闘にも手を出してみたいなと思っているよ」
さて、何処から行こうかとスイッチは周囲を見回した。空を飛べるみたいだからペナルティを受けない程度に空を飛んでモンスターを見極めたい。
モンスターとの戦闘経験も得ておけば良い。体力の無くなる感覚さえもリアルに感じるのか、そうした『経験』が全てにおいて有用になる筈だ。
「似ているが故に、異なる部分が気になるな……じゃなくて、気になるよね」
まずははじまりの街から、と伝承を歩き回るイズルは『イシュミル』に似たアバターで立ち居振る舞いも真似てみるが、慣れていない余り中の人が時々ちらちらと見えてしまうのだ。
「……ところで、さっきから後をついてきているキミ、何か用かな? いもうと? 心当たりがないけれど……?」
振り切れども付いてくる。アイテム欄に付いていると言われてイズルは凝視した。さて、どうしたら良いのだろうか。いもうととは――呪いの様な何かだっただろうか……。
「ふむふむ、なるほどこんな感覚かぁ……ちょっと楽しいかもね~。
まずは情報集めといいたいところだけど……はしょって定番のレベル上げにてしまおう?
ということで騎乗ユニットを……どうやってこれ変形させるの? 操作ヘルプどこ? あーこれか……カモン黒麒!」
Λが名を呼んだのは真紅の鬣を持った麒麟型のメカユニット。変形可能な魔導甲冑はこの世界ならではだ。
さて、そのままノールックで行動開始――狩り場に辿り着けたかは……。
●伝承XII
(まだ入ったばかり……何をするということもしたいということもない……しかしこの『私自身の姿を選べる』というの感動した。
何せこの世に居ない者も作り上げることもできたのだから。――その現身を模れたのだ涙が流れる)
それは、今はもう居ない彼女になりきるのだ。彼女が生きた『生き方』を辿ることだって出来る。
思い出の中で生きることはない。この姿の見たらきっと馬鹿にされるだろう
――それでも百蓮は構わなかった。彼女の生きた証を、彼女が生きた意味を、此処に残せるのだから。
「問題は……名前ね。まさか、同じ名前が使えないなんて思ってなかったわ……
知人からは『この手のものはお約束』と教えられたけど。
まぁ同じ文字が存在してよかったわ、これで私もジュリエットよ。ええ、誰が何と言おうと。そう私が読ませるように活動してやるわ」
――と云う事で。ジュリ工ット……ジュリ『工』ットはアバターを完璧に作り出して行動していたのだった。
「ふひ……こ、ここがR.O.Oの中なのね……! ここなら……あ、あたしもチヤホヤされるかも!
は、恥ずかしいけどカワイイアバターも用意したし……完璧じゃないの……? 今までのあたしよさらば……!」
と言うことで、ナナミンはログインして直ぐに『ご挨拶』を行った。
「ま、ま、マジカル☆アイドル……ナナミンよ――じゃなくてナナミンだよ~!
R.O.Oの事は初めてでわからないけど……な、仲良くしてね~☆
え……アイドルだから歌ったり踊ってほしいって? …………今後のアップデートをお待ち下さい☆」
慣れないことは中々アバターでも厳しいのである。
Ri・Riは困っていた。めちゃくちゃセクシーに仕上げたのに、変なボタンを押したら直ぐに変化してしまったのだ。
「しかも、焦ってそのまま決定しちゃったわ!
こんなチビっ子で活動する事になるなんてね……何故かアバター変更出来ないし。
今は、兎に角目立たずに、街の散策をしてるわ! 本格的に交流するのは……もうちょっとこの身体に慣れてからでっ!」
つるぺたでケモ耳尻尾のロリになってしまった。何の因果かアバター変更が出来なくて、鋭い目付きでじとりと周囲を見回してふくれ面をして見せた。
バイクに乗って気儘に「ドエレー『CoooL』な旅気分」を感じるセフィーロは不運と踊らないように基本は安全運転であったが――
(何か轢いた時はそれはそれ、細かいことは気にしない。其れが旅を楽しむ鉄則!)
気儘に風を感じて見晴らしの良い場所へと目指そう。仮初めの世界に仮初めの体。何が起こるかさえも分からない。
(何処まで行けるものか、何処まで行くべきなのか、其れはまるで分からないけれど。
……ま。此れを楽しまないんじゃ、損でしょうからね。今日は今日。明日は明日。なるようになるわよ)
エクレールは図書館で学習に徹していた。情報がある場所に優先的に赴き書物を漁る。
「ぼかぁ、エクレール。未知を探求するしがない美少年さ。
とまあ誰に言っているのか僕にも分からないが、とりあえず自己紹介は大事だからね。古事記にも書いてあるし……コジキってなんだ?」
首を傾げながらも、学習を。毒や麻痺には耐性はあるが、空腹には勝てなくて――誰か助けてください。
「R.O.O……Rapid Origin Onlineですか。元の世界に居た頃のゲームを思い出しますね。
あの頃は仕事が終わって家に帰ったら頻繁にインしてましたっけ……」
そう呟いたロゼに「わかりみ」と真顔で返したのはフレアである。わかりみしかなかった。
「私も~」とスノウローズが大きく頷く。
「今日はお二人とも、手解きよろしくお願いしますね。
え、どうして……この人選を、ですか? それはほら、色々と……そう色々と。気を使わなくていいですから」
ロゼの言葉に顔を見合わせたフレアとスノウローズは「確かに!」と声を合わせて笑い声を上げた。
取り敢えずはモンスター狩りからの試運転。的そうにスキルを取得したけれどとウィードは悩ましげに見回した。
「すっごいなぁ、本当に現実みたい? ……まぁ、死んでも大丈夫っていうし?
じゃあとりあえず突っ込んでみようか……突っ込んでみましょうかね、いきますよ!」
ウィードは走り出す。好奇心に『兎の穴の中』という言葉から僅かな安心感と開放感が肥大化していく感覚がする。
死んだって、生き返られるならば。其れだけでも何とも楽しい感覚なのだ。
「あのっ、あなたもろぐいん? したばっかりなんですか? よかったら、ニ……アマトと一緒に回りませんか?」
アマトの呼び掛けに梔子は驚いた様に振り返った。アマトは今日は一先ずは動き回ってみようと考えていたが――声を掛けられたならば、応えないわけにも行かない。
勿論だと頷けばアマトはほっとしたように微笑んだ。
「……ん、美味しそうな匂い。屋台でしょうか? アマトさん、一緒に食べませんか?
飲み物も一緒に買って食べ歩きもよさそうー……」
梔子はその時気付く――この世界で酒飲んだらどうなるのか。酔えるのか。
「……サンドイッチと、ジュース、をください」
「……? 梔子様のお口には合わなかったですか?」
とっても『おいしい』ことを喜ぶアマトが首を傾げるが堪えた顔をした梔子は「なんでもないよ」と苦しげに息を飲んで。
――葡萄茶色の髪と紅い瞳を持つ顔だけはとびきり良い男。チュートリアルでよく似た男がいた気がしたが幻だったのだろうか。
コーダは初心者ではあるが、一つ一つ各員し乍ら歩き方を覚え続ける。だが――
「何だか、時折視線を感じる気がするんだが……」
知り合いもいないはずなのに、この姿が悪いのかとコーダは叫んだ。この姿がもしかすると『誰か』に似ていたのかも知れない。取り敢えずはデスカウントが増える前に安息の地に辿り着きたいものである。
「獣種の方のように耳や尻尾が生えているように感じるのはとても面白いですねぇ。
この体になれるためにも、まずは伝承の街を回ってみましょう。あちらと同様、この国を中心に動き回るかもしれませんし! 拠点を知ることは大事ですっ」
カメリアは上空を飛びながら色々なものを見てみようと考えた。サクラメントを見つけて、積み重ねていけば良いだろう。
「あれ? あ、デスゲーム風って噂になってる人だ」
中の人は確か――澄原水夜子。アオイは彼女を見て、声を掛けようとしたがリアルの事を告げるのはタブーだろうか。
(龍成氏や澄原先生の事があるから、彼女とも知り合いたいとは思っていたけれど……)
美少女としてのRPを行いながら「Missさん!」と手を振る。リアルは関係なくR.O.Oで友人になってしまえば良いのだ。
「はあい?」
「折角だし、何処に何があるか教えて欲しいかなって。Missさんのおすすめの店とかあったら、それが知りたいな」
勿論ですよ~と、Missはぴょこんぴょこんと跳ね上がった。早速、お散歩の開始である。
●伝承VIII
「いやーまだスキルも何も取得しておりませんので、一先ず街中の探索に留めておこうかなー、と思います。
街中ならモンスターも出ませんし……出ませんよね、流石に? まぁ出ても他の方に任せられるでしょうし、安全なことには変わりないでしょう。多分」
危なくないところの探索から開始したアクイラ・クイラ。その傍らでは初めてのログインを行ったブルスク君。
グラフィックが設定時より青くなっているが、もう其れ等はステータスに異常が無いならば「まあいいか!」なのである。
……文字も勝手に変換されてる気もするけど、とりあえずはブルスク君はフルダイブを体験するために――
「となればまずはご飯デスネ!」
ゲーム内通貨のことを考えてからブルスク君はoh……と小さく呟いたのだった。
「みゃー。ぼくはねこ、です。よろしく……リアルで練達にあたる場所……に行こうと思ったけど……リアルで練達にあたる場所が、ない……?」
未実装の所の説明にもない……どういう、事なのかな……みゃー……」
行く先を失ったねこ・もふもふ・ぎふとはどうしようかと探しに出るが、その道程にはモンスターが存在して居る。今は其処を乗り越えるのは危険そうである。パーティーを組むなりしてみた方が良さそうだ。
「まだまだ仮想空間どころかイレギュラーズとしても若輩の身デスノデ、R.O.Oと言われてもまだまだピンと来マセンネ。
今できる事と言えば語尾をカタカナにする程度のキャラ付けデシテ、後は腕力とメイド的行動には多少自信がある者でアリマス」
婚前女中・マグタレーナは酒場のお手伝いを行い看板娘を目指そうと考えていた。冒険者達をその場で労る事ができれば一番である。
「すごーいですにゃ! 見える景色が高くて広ーいですにゃー!」
高身長でやや筋肉の付いたイケメンのイケボな台詞である。ろおもこね・こみおはパン屋を開きたいとうろうろとし続ける。
パン屋を得る為の拠点をゲットして、さっそく『ろおもこねこパン屋』を此処でも営もう。
パンを作るためのアイテムをゲットして……クエストを受けて遂行しながら、よりよいパン屋作りに精を出そうではないか。
「アバター、よく分からないまま登録したけれど……これで良かったのかな? 何でも出来るって、何でも?
例えば、画材を買って色んな場所にお出かけして絵を描く事も?
例えば、自分の家を買って、工房にして町中で作った物を売る事も?
……取り敢えず、何が出来るのかを詳しく知る為にも、色々ありそうな、伝承へいってみよー、おー」
ナナの考えたことは粗方出来る。画材もきっと売ってある場所を直ぐに見つけられるだろう。
スノウローズに言わせれば理想の『疑似世界での生活』を体験できる場所なのだ。
「料理の味はどうなのかしら。栄養にならないのは少し残念だけれど、実際に食べなくても食べられるのは面白いわね。歴史が違う……、人の営みの積み重ねが違うなら、食べ物の味も違うのかしら」
大きな『たこさんウィンナー』になったたこさんウィンナーはこの姿で動けるのは懐かしいと伝承を見て回る。
小野さんと知り合えて良かったとオッサンである小野さんと共に伝承を歩き回るH。渋いオッサンである彼と一緒に散策するのも愉快な寛治である。
「話しかけられる相手には会いに行こう」
「おうよ」
――返事してくれる小野さんにHは知り合えて良かったともう一度、感動するのであった。
安全圏で死なない程度に行動を。ネフィルは詰み系のバグがないかとデバッグをし続ける。
「なにしてるのかしら」と誰ぞが呟けば「変な挙動しないか探してるだけよ! 気にしないで!」と返す。
ネフィルの趣味はデバッグだが――アバターレベルでモンスターのデバッグは中々厳しいかも知れない。
「はーん。なるほどねェ。アバターも問題なし、ちゃんと貴族らしい猫獣人になってる、と。
じゃ、ボイスチェンジャーも動いてることだし……この世界での『第一歩』を踏み出すとするか」
ドリカ・ファン・デル・ラーンは郊外にて魔物を排除し続ける。魔物を社会から排除するのは貴族としての義務であるからだ。
「物を遠方から狙って一撃、を基本とする。泥臭く敵と取っ組み合うなど、貴族らしさに欠けるからな。……必要に応じて同様に国内で魔物退治を行う者とも協力しよう」
そう告げるドリカにチュートリアル的に模擬戦を楽しんでいた天狐は「手伝うぞー!」と飛び込んだ。
何でかよく分からないが、うどんがドロップするらしい天狐の加勢でモンスターが……う、うどんに……。
「早速覚えた『せつなさみだれうち』の試運転から…なんか街中で試しに振った時から挙動が怪しいんだよね、このスキル」
それより、う、うどん……。
レイリィはそっと目を閉じた――
(ゲーム感覚でアバターを登録して、思いっきり厨二全開な見た目にしたものの……動かしてる中身は変わらないんですよねぇええええ………………ここは……どこ……?)
人の波に呑まれ飲まれて迷子になって仕舞ったのだ。
そんなレイリィの傍らで、星芒玉兎は『クソザコスライム』が散っていた様子を思い出す。
「成程、あれでこの世界の理解が少し進んだように思いますわ。
良き御引き廻しでした。あまり痛い思いをされていないと良いのですけど」
そう、呟いた。未知の世界に気後れする前に慣れ親しんだ書から初めて覚えてゆけば良い。
街を散策しながら、違いを知っていくのも大事な行いだ。
クロミミは「最初は……どうすれば」と呟いた。ルナは「何がしたいですか?」とにんまりと微笑む。
「ええと、そうですね……まずモンスターと戦ってみたいです。
体の動かし方や戦い方は、実際に試してみて感覚を掴まないと」
「じゃあ、俺達と行ってみるか。行くぜ、ルナ!」
「あ、待って下さい、ファーリさん!」
走り出す二人を追いかけて。兎の耳を揺らしたクロミミは力試しだとモンスターに素手で殴りかかったのだった。
そうして、経験を積み重ねてゆく。それが何よりも楽しいことだと――そう、知っていけば良い。
「召喚されて肉体を得たのに、再びデータの身体も手に入れるなんてね。
何が起きるか分からないものだ――せっかくだから楽しんでいこう」
サロはオーソドックスな場所から行動開始である。
「五感は再現されてるね。適当に買ったパンを摘まんでみるけど、きちんと美味しい。
このパン屋さんも元になった場所があるのかな……帰ったら探そう……。
風のそよぐ感触も、人々の話し声や生活音も、全てリアルで……いやぁ、すっごいなぁ」
今日はパンを片手に珈琲を飲みながらまったするのも良いだろう。
――だってボクらの新しい冒険は始まったばかり、ワクワクしていこう!
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――R.O.Oへようこそ!
MVPは一番R.O.O初心者っぽかった方に!
GMコメント
Rapid Origin Onlineへようこそ!
初めての場所と言えば、そう、探検だ!
●経験値ボーナス!
・当イベントシナリオは参加者数等により経験値ボーナスが加算されます。
●シナリオの内容
R.O.O『ネクスト』を探索してみましょう。皆さんの初めてのログインを歓迎します!
皆さんは其れ其れの『サクラメント』からログインすることとなります。
・R.O.Oを体験してみよう
R.O.Oは簡単な言葉を使えば『フルダイブ型MMO』です。ですので、現実世界で行えることは一通りできる……と考えてくださいね。
こんなのは出来るのかな? これってどうなんだろう、なんかも試してみても良いかもしれません。
・ネクスト
混沌世界と瓜二つ。それでも色々と違うところはあるみたい。例えば、フォルデルマン王は『二世』だし、海洋王国はエリザベス王女が居たり……様々な情報を飲み込んだシステムが勝手に構築し続けた結果、現実と擦れ違うところは覆いようです。
詳細な世界設定は『R.O.O特設ページ』をご覧下さいませ。
・サクラメント
『サクラメント』は各国の首都や其れに類する場所、集落やダンジョン入り口など様々な場所に設置されています。
引受けたクエスト次第では『クエスト地点』近くのサクラメントへの転移が指定されることもあり、移動ストレス無くR.O.Oをプレイすることが可能です。
※クエストを受注した場合はクエストクリアか失敗迄はログアウトが行えません。
※死亡時はログアウトされ、次にログインした際には近郊のサクラメントを利用可能です。
●プレイング書式
一行目:【場所】
二行目:【グループ】もしくは、【同行者名(ID)】
三行目:自由記入
【場所】
以下から、ご選択下さい。
また、カムイグラ=神咒曙光はまだ未対応パッチらしいです。アイテムだけ先行でゲットできるようになっている模様。
簡単な説明を添えてみましたが、詳細は世界観をばっちりご覧くださいね。
【伝承】:リアルでは幻想。オーソドックスなはじまりの街。色々歴史が違うみたいですが……。
【鋼鉄】:リアルでは鉄帝。皇帝が殺された事件が起こったばかり。ネクストに影響を与えそうな事件ですね……。
【正義】:リアルでは天義。嘗ては思想的弾圧や抑圧等があったそうですが、今は政治的に安定しているそうです。
【航海】:リアルでは海洋。『神咒曙光』との航路を確保し莫大な利益を得始めたそうです!
【砂嵐】:リアルでは傭兵。傭兵団――ではなく盗賊団たち。悪の都ネフェルスト!?
【翡翠】:リアルでは深緑。小枝を折られたら腕の一本は覚悟しろ。火も大好きなエルフたちです。
●できること
調査、探索、冒険です。
例えば、歩き回って見てサクラメントを探索してみるとか。
例えば、街の中を自由に行動するとか。
例えば、NPCを求めてチャレンジしてみるとか。
例えば、この世界でも自分の拠点を作ってみるとか。
例えば、モンスターと戦ってみるとか……。
何でもできます。『様々な世界』の情報収集を行えると考えてください。
今後、皆さんが行うR.O.Oでの重要なクエストは『閉じ込められた人々の救出』です。その為には情報は多い方がいいでしょう。
けれど、折角R.O.Oに来たのですから関係なく色々遊んでみたいのも確かです!
歩く事、話す事、戦う事、手を繋ぐ、動物の育成や、ハウジング、食事も(栄養にはならないですが……)なんだってできます。
仮想世界でありながら其処で生活する様なリアリティ。それが、この世界です!
……ああ、忘れてました。イベントシナリオではありますが平気で死にます。ゲームなので。
●NPC
同行するのは以下
・スノウローズ(山田・雪風)
・ファーリ(月原・亮)&ルナ(リリファ・ローレンツ) ←『きょうだい』合わせですがどちらが上かをいつも喧嘩してます
・あるてな(アルテナ・フォルテ)
・クソザコスライム(ビューティフル・ビューティー)&オームス(ギルオス・ホリス)
・ファディエ(ファン・シンロン)
・フレア・ブレイズ・アビスハート(普久原 ・ほむら)
・クロエ(クロエ=クローズ)
・Miss(澄原 水夜子) ←「やだなァ~~デスゲームの司会者じゃないですよォ!」
……つまりは、SDが所有している『R.O.O NPC(ステシ有)』+スノウローズちゃんです。
同行者ではないNPCは『会えたり』『会えなかったり』(ここ重要)します。ネクストのNPC達と会える可能性もありますが会えない場合もしばしば……。
ご要望に添えない場合もありますのであらかじめご了承ください。
●重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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