シナリオ詳細
ローレット・トレーニングVII<豊穣>
オープニング
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夏空に流れる白雲は鮮やかに。広がる晴れ間に訪れた静寂を擽る潮騒は遙か大陸より海を隔てた小国の存在を表すが如く。黄泉津の名で親しみ識られたその場所に存在を誇示するように鎮座したその国の名は神威神楽(カムイグラ)。黄金の穂揺れるその国を人々は『豊穣』と――そう呼んだ。
常ならば深と落ちた静寂の帳は決して揺らぐ事は無い。朱の色彩を綻ばせた美しき曼珠沙華は枯れる事など無いと言う様に神秘の中に誇らしげに微笑んだ。その地は『けがれ』の地と呼ばれている。神々の纏う汚れを拭い去るその場所は、唯一の安らぎ与える神奈備とされていた。しかし、空中庭園より『転移』を行える事により常の静寂は喧噪の色へと塗り替えられた。
「セイメイ、今日は賑やか……」
その丸い曼珠沙華の瞳をぱちり、ぱちりと瞬かせたのは『けがれの巫女』つづりであった。淡い藤の色の少女の言葉に大きく頷きを返したのは七扇――ゐや、実際は『八』扇であったか。紆余曲折の末、朝廷より出奔し中務省が抜けたことでそう称される――中務卿の責を担う建葉・晴明という青年だ。射干玉の髪を結わえ、黒曜石の角をその額より二本覗かせた彼は「今日は神使の皆が『ローレット』に大量召喚されたことを起因する運命が流転した切っ掛けの日なのだそうだ」とつづりへと告げた。
えにしの交わったばかりのカムイグラには馴染みの無い言葉ではあるが三年前のこの日、爽やかな潮騒が響いた夏の燦々たる日差しを受けたその日に、空中庭園は満員御礼にごった返していたらしい。曰く――『神様が選んだ』のだという。世界破滅の危機を感じた『神』が神使をその膝元へと召喚した日を祭日とすることに晴明もつづりも抵抗はなかった。寧ろ、カムイグラではそうした日が都度存在するからだ。
珍しくも高天京へと訪れた晴明とつづりは常の如く買い物や観光を楽しむのも悪くは無いだろうと『神使』へと提案した。彼らの視点に立てばローレットのイレギュラーズこそが英雄であり、そして尊重すべき相手だからなのだろう。
「其処に居るのは巫女と中務卿殿では? 何かあったのか?」
どうしたものかと『下手な観光案内』を行おうとしたつづりの背に、軽やかな声音が掛けられる。結い上げた濡羽の色が美しい。そのかんばせは生娘がうっとりするほどに整っている――天香・遮那はまるで旧知の友人に声かけるようにそう言った。
「遮那殿。実はローレットでは今日が祭日に当たるらしく、各地で鍛錬や観光、里帰りなどをして過ごすのだそうだ」
「鍛錬? 成程! ならば、神使と共に鍛錬をさせて貰っても?」
神使に好意的である遮那は好奇心旺盛な青年だ。ころころと笑みを零し楽しげに微笑んだ彼に晴明は大きく肯く。彼は義兄こそ『政敵』ではあるが、その人柄は疑う事も無いほどに無垢そのものだ。彼がそうしたいというならば其れを否定する理由も無いと晴明は「山での鍛錬も良いだろう」と告げた。
「山。海も良いな。神ヶ浜での海水浴も楽しそうだとは思う。
ああ、それに、山ならば妖も存在しているし、対処に向かうのも良いだろうな」
「あの……山、って……その、天邪鬼がいて返してくれないところ? それに、海も、海坊主が居るって……」
つづりが告げた言葉に晴明と遮那は顔を見合わせて笑った。何、季節は夏だ。そして、お誂え向きに和の国だというのだから肝試しだって良いだろう。
高天京を浴衣姿で練り歩く観光も良ければ、自身らが力を得たと故郷に戻るのだって悪くは無い。
「中務卿。鍛錬というならば、友好を深める茶会などは如何であろうか?」
冷やかかな声音ではあるが、決して冷めているわけでは無い。平静な鬼の乙女――治部省に所属する鬼人種の娘、式部・雅の言葉に晴明は「高天京で行おう」と肯いた。
茶室の用意は出来ている。抹茶や茶菓子を『マナー良く楽しむ』事もある意味で鍛錬であろうか。
「拙は『情報共有』も良いかと思います。皆様方よりお教え頂ける書物や歴史があれば、是非に」
そっと歩み出したのは式部省の祇・紙萃であった。歴史語りを主とする彼女は特異運命座標の紡いできた歴史や『旅人』の世界について興味があるそうだ。是非に教えて欲しいと微笑んだ彼女の側より古賀・朝霧がずい、とその身を乗り出す。
「こんにちは! 神使の皆様、今日は何処へ参りましょうか!
私、そこの周り角にある幸福堂の限定お団子が食べたいのです! ああっと、街の名物を識り見聞を広げることも鍛錬なのですよ!」
刑務省の役人として警邏の仕事を行っている朝霧ははっと晴明に気付いたように「お団子どうぞ!」と慌てて差し出す.その様子に遮那が可笑しそうにからりと笑えば「神使の好きなように過ごすと良い」とその笑みを向けてくる。
「折角の休日なのだろう? 誰と過ごしても文句は言われない筈だ」
「ああ。俺もつづりも――遮那殿も七扇の役人達も貴殿達に協力しよう。
流石に巫女姫や天香……長胤殿とは相見えることはないだろうが……」
折角だ、あの龍神を『眠らせた英雄』の力を見せてくれ、と晴明は柔らかな笑みを浮かべて見せた。
- ローレット・トレーニングVII<豊穣>完了
- GM名日下部あやめ
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年08月17日 23時05分
- 参加人数260/∞人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 260 人
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参加者一覧(260人)
リプレイ
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雲の随より覗かせた夏の陽光に汗が滲む。鍛錬の日と位置づけられた佳き日は幸いなことに晴天に恵まれた。複数のイレギュラーズが足を運ぶは豊穣の郷、遙かなる航海を経て辿り着いた黄泉津とその名を呼ばれし島であった。
鍛錬の日――そう位置づけれども豊穣について識りたいと願うのは決して悪くはない。津々流は此岸ノ辺で特異運命座標を迎え入れたつづりへと避ければ案内を頼みたいと穏やかに笑みを浮かべた。
「……私で、いい?」
曰く、余り市井については識らぬと言う巫女に名が似ているから親近感があるのだと彼は柔らかな声音でそう、と手を差し伸べる。
『けがれの巫女』たるつづり――そして彼女の妹――に興味があるとエリザベートはシンパシーを感じるのだと微笑んだ。
「何分私も、吸血『鬼』ですから。角は生えて無くっても似たような物でしょう」
微笑んだエリザベートにつづりは「神使は、不思議な種もおおいのですね」と角の無き鬼を不思議やるように瞬いたのだった。
「というわけでつづりん、モフモフの情報をちょうだい?」
そうやって訪うたリカナにつづりは首を傾げる。もふもふ、と口にした彼女は「セイメイ、もふもふ」と彼を探してうろうろと……。どうやら『もふもふ』探しは中々に難しそうだ。
新天地。趣と情緒溢れるとセルウスは散策へと向かう。土地ごとに食事も違えば文化も違う、呪いの類いだって変化する。昔の話でも聞けぬ物かと彼は小さく笑みを浮かべた。
「高天京でうまいもんいっぱい食う! オレもこの島生まれだけど、山の方の村から出て来たし、京ははじめて来たぞ。すっげーなー、人も建物もいっぱい!」
キラリ瞳を輝かせた琥太郎は『でっけー男』になるために体作りが為にずんずんと食事に向かう。京の食事は盛りだくさんで、たらふく食べるために走り出す。
「えっと、今更やけど……『ぎるど・ろぉれっと』って?」
首傾ぐ鮎香は受付嬢のようにいらっしゃいと笑みを深める。神使の集まりはその様な名を掲げた傭兵連合であるという新しい見地に合点が言ったと頷き、此れからの出会いを祝福するように「いってらっしゃい」と送り出す。
里帰りをしようにも兄や母が号泣し、そもそも、遠出の経験が無く帰り道も覚束ないとアステールの供をするトウカは「背が低いとはぐれますよ」と囁いた。
「むむ。取り敢えず、好きな物を探しに行くにゃ! トウカさん、パーフェクト……略してパーさん! アスはオムライスが食べたいから付き合って欲しいですにゃ!」
統制してずんずんと前へ前へと進むアステールは父が好きな黒ごまおはぎを探すとパーフェクトを振り返る。『環境の変化によって名を変える甘露なる黒き宝石を探す遊戯』への誘いを快く受けたパーフェクトはバラバラでははぐれてしまいそうだと恩人のための『おはぎ』探しを行うウェールに「虎さんが逸れないように留意しよう」と声かけた。――つまり、ファミリアーの烏はアンファングに、レーさんニャーさんは鼻を生かして、ウェールは大人で大丈夫と言うことなのだろう。
「うにゃうにゃ……おはぎ探しとかぶっちゃけ面倒だけど、最近魚料理食べてないから今夜は刺身がいいと思うにゃ」
ニャーは首をこてん、と傾げる。レーゲンの探さぬ方を鼻を生かしてくん、くんと嗅げば仄かに良き匂いが漂う。
「問題があるにゃ」
「何だ? 春はぼた餅、夏は寄る船、秋はおはぎ、冬は北窓と俺の世界で呼ばれていた以上に大変なことか?」
ウェールの言葉にニャーは「おはぎは沢山にゃ、でも美味しいのが何処かは鼻じゃ分からないにゃ」と呟いた。
「すまないウェール。ゆっくりと一人の時間を過ごさせたかったが、一人で五人の面倒を見るのはさすがにきつくてな……そういえばなんで恩人の為に探すんだ?」
肩を竦めたアンファングはおはぎは好ましく――決して家主に世話になっているからではない――捜索を手伝おうとウェールへとそう告げた。
「先輩は妖怪おはぎ寄越せでな、思いがこもったおはぎを食べないと死ぬとか言い出すおはぎ馬鹿なんだ」
「うきゅうきゅ……つまり保護者さんの先輩が喜びそうなおはぎを見つけた人は、今晩の晩飯に好きな物を頼める権利が貰えるっきゅね!」
レーゲンの言葉にウェールの周囲に立っていた『みんな』ががばりと其方を見遣る。夕食という商品の為、レーゲンとグリュックも手を抜くわけには行かないとおはぎ探しに精を出す。
「さて、酒を飲んでとれいにんぐじゃな。鍛えるんじゃから嘘は言っておらんぞ」
高天原にて。藤治郎はからりと笑って見せた。市井の様子や人の様子を知ってこそ国の在り方が分かると堂々たる彼にシキはその肩を竦める。
「一体何を鍛えるのさ……。まぁ、私も楽しみにしていたけれどね」
豊穣に生きとし生ける者達。それを理解することもまた鍛錬だ。ザルである藤治郎に合わせれば『痛い目』を見ると「お手柔らかに」とシキはその形良い唇に音乗せた。
「うむ。そこらじゅうの飲み屋をはしごするぞ。何、酒の肴に趣味や好みの話でも堂だ。ワシはもっぱら酒と喧嘩と後ろ暗い過去だけじゃが――ま、明るく語らおう」
折角だからと観光へと歩み出したアルテミアは装飾品や織物を眺め文化の違いをその双眸へと移し込む。記念にと試着を勧められたアルテミアが纏うは上質な織物だ。
「普段とは大分印象が変わるわね。アランさんの和服姿、似合っているわよ?」
「いつもはコートだからな。お前も似合ってるぞ。……つか、お前の場合は何着ても似合うんだろうけど」
揶揄う声音に、重なる笑い声。行きましょう、と甘味処に腰掛けて遠く見遣るは高天京の中枢、内裏と呼ばれたその場所――その視線を追いかけてアランは「大丈夫か」と囁いた。
「ううん、なんでもないわ。さっ、休憩もこれ位にしてまた街を見て周りましょう!」
ぴく、と肩が跳ねた。一瞥し、アランは目を伏せる。逃げるように進む彼女のその掌を握らんとゆっくりと手を伸ばした。
小さなあくびを漏らしたアルペストゥスにの背をそっと撫でたソロアは「アル君寝ているのか?」と首を傾いだ、眠たげな彼の背によじ登り、遊ぼうと撫でれば掌の内側でふるりと震える気配がする。
「……グゥ!」と、お返事は明るい音を響かせて。背にぺたりと感じたソロアの掌のぬくもりを話すように大きく翼広げて空を舞う。
「うわぁ、上から見ても美しい国だ!」
風に落ちないようにと鬣に捕まった彼女を気遣っての空中散歩。揺れた穂に豊かな恵みは二人の腹をきゅるりと鳴らす。次は美味しい食べ物屋さんを探そうとからりからりと笑う声を聞いてアルペストゥスは相づち打つように尾をゆらりと揺らした。
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「ふぅ……このような催しがあるのですねぇ。
平和の証、と言うところでしょうか。あまり近づきたくないタイプの催しなのですが……」
琴文美は残忍にすう、と目を細める。生暖かい方法は好まない。徹底的に腕すら切り刻み一つも動かぬように――と、そう思うがこそ、甘い考えでの鍛錬には余り同意できないのだ。
「ちょっと古めかしいけど、アタシのいた世界の昔の風景ってこんな感じだったのかしらね。
この時代の服装、いいわね。着物も仕立ててみたいと思ってたのよ。参考にさせてもらいましょ」
不思議そうな顔をして、ほう、と息を吐いた恭介へと幸福堂の限定団子を朝霧は楽しげにお勧めした。その声音は明るく、美味しい物はと問いかければ様々な場所をお勧めしてくれる。楽しげな彼女たちを見ていれば京に重く圧し掛かった暗雲など何処かへと消えてしまったかのように感じられて――
カムイグラは自然豊かで、それでいて体に妙に馴染む。ユーリエにとっての居心地の良いこの京で大なうべきはスイーツ巡り。カムイグラではどのような甘味が人気であるかを『レポート』に纏めるのだ。自身とて『Re:Artifact』の店主だ。カムイグラ流の経営術も得てみたいとしっかりとその戦略眼を生かす。
アカツキにとってこの場所は只の名所を回るだけではなかった。美しい黄金の穂揺れる豊穣の京。現状こそ中務卿より効いて吐いたが、この国の成り立ちそのものには触れていない。
「俺の故郷と似たこの国だ。
故郷を離れて久しいが、久々にあの国の事を思い出すのも悪くないだろう……」
出会ったのは三年前、交際を始めたのが二年前、別れ、結婚、と怒濤の一年を。四季を巡らせ、幻は「もう離さない」と唇より落ちた愛を喜ぶように傍らのジェイクをそ、と見遣る。
此れからは人生を共有する婚礼を『人生は二人三脚』と称する者が居た――からだろうか。二人が選んだのは神ヶ浜での二人三脚。
互いに息を合わせタイミングを大事に足を出す。特訓としての意味がある。これからの『二人の絆』が解けぬようにと固く結んだ紐で一本になった足。残る別々の半身を動かすタイミングさえ合わせて、いち、に、いち、にと走り行く。
「幻想とは随分違った感じのところなのですね~」
不思議そうに周囲をきょろりと見回したひかりにひかるは頷いた。折角ならば『豊穣風』の衣服を着用して国内をゆっくりと巡ってみたい。
「どれもなんだかおもしろそうなものばかりだね!」
西洋を思わせる幻想と比べればどれも此れもが珍しくて――何処か心が躍ってしまうのだから。
警邏を手伝うこととすると云う鶫は仰々しすぎるのも問題だろうとリコシェットの浴衣を着付けて見せた。
「あら、かわいい」と囁けば、リコシェットは「照れる!」とからりと笑みを浮かべる。風土、言葉使いに町並み。何も知らぬ海向こう。
「あっ……スリやひったくりは、どこでも居るものだなぁ。
よし! 鶫、アイツ捕まえるぞ! 御用だー!!」
団子片手に『見回り』をしているリコシェットが顔を上げれば鶫も同じように頷いた。
折角の新天地というならば皆で名店巡りをしようとルーキスは幸福堂の団子始め『土地勘』を得る為冒険の時間。
ぱくり、と一口甘味を口に含んだルナールが楊枝をテラへと差し出した。
「おー、これ美味いな。テラも食うだろ?」
その言葉に、見た事の無い建築美に瞳輝かせていたテラはぐるん、と首をルナールの側へ。口を開け、ぱくりと食いつけばその口内には幸福が広がってくる。
「これも調査の内ということで」
『どんなものでも情報は多いに越したことは無いからな』
それっぽく自身を言い聞かせるマリスの傍らで同じように団子を一口食べた鈴音の尻尾と耳は一緒にピンと立ち上がる。
「はぅ! これが噂に聞いたお団子!!!! ………しかも凄く美味しいですぅぅぅ!」
折角だからお土産にしようと瞳輝かせた鈴音やルナール、テラを見てルーキスはくすりと笑う。
「ルナールといいマリスといい、皆甘いものは大好きだからね」
「っと、奥さんの分はこっちな」
ほら、と口の中に放り込まれた甘味は確かに幸せな味がする。簪や茶器、様々な物を探そうと提案する彼に釣られてゆるりと歩き出す。
佳い国だとエリシアは周囲を見回した。イヤミでなく、自身が居た世界、国、そして地は、豊穣に酷似していたのだから。それが『過去形』であるのは悲しいかな、時代は直ぐに流れ、様々なことを忘れ去る。文明の進化によってつながりを得た者は信仰を忘れたか――
「……嗚呼、別に寂しいだとかそういう感情はない」
神であるから、とエリシアは目を伏せた。天に住まう者はその様な寂寞に胸締め付けられることはない。
きょろりと、周囲を見回して。陣雲はぱちりと瞬いた。
「……ん、ここがカムイグラか。まだ来たばかりだ。知らない場所が沢山あるに違いない」
湖があれば潜ってみるのも良い。空を駆けて村々を見て回る。周辺の住民とのコンタクトも忘れずに――
「仕事というわけでないから……のんびりこの国を巡るとしよう」
力がなかったから、『あんなこと』担ってしまったと無明と白亜は悔やみ続ける。幸いにして『外つ国』より渡り来た者達も居る。ならば、強くなる方法だって見つかるはずと――妹を心配するように白亜はちら、と視線をやった。
「無明は元気やなぁ、妹が元気なのはええことや。
笑顔でいられるよう姉ちゃんも頑張らなあかんなぁ」
くす、と笑ったのはひらりと手を振った白亜。無明は「おねーちゃん、何売ってるの?」と屋台の様子に興味津々と手を振った。
里帰りをするとひばりは実家の扉をゆっくりと開いた。
「父さま! 母さま! ただいま元気に帰りました!
知っていますか? 最近は都ではたっくさんのすごいことが起きていますよ!
龍神を『眠らせた英雄』さん達が来て、わっちみたいな鬼とも仲良く、対等に接してくれます!」
きらり、と瞳を輝かせた。祭日で、沢山の人々が訪れる京の素晴らしさを語るその瞳は雄弁で、父母はひばりの言葉に耳傾ける。
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「やあやあ。絶景哉、絶景哉。こうも強者に美男に美女に、と揃うのは壮観なもんねェ。アタシもいっちょ混ざって鍛えて行きますか?」
レイニーは久々に獲物を握ってみたが、サボり癖が抜けない物だとぐるりと腕回す。其処負けの負けず嫌いをその胸に掲げ、いざ行かん、模擬戦闘。
依頼で出向くことばかり、ゆっくりと観光をしたことはなかったと咲耶は京の観光に繰り出した。楽しげに走り回る朝霧に「案内をお願いしたい」と告げれば彼女は楽しげに合意した。つづりは――と言えば、朝霧に緊張した様子。お土産を楽しみにと笑み零し、幸福堂へと脚はこぶ。
「では、甘いタレの掛かった限定団子を――うむ、これは旨い! 茶の渋さともあって口の中が幸せでござる」
土産にと差し出せば緊張したようにそろりと団子を口の中に含む。つづりの眸がきらりと煌めいた。
「街の名物を識り見聞を広げることも鍛錬なのですよ!」――と言っていたと氷彗はきょろりと周囲を見回した。鬼人種達が居るのは新鮮で、不思議で。
露天で食べ物を買って買い食いをして、新しい国を巡ろう。歩めば見聞だって広がるはずだ。
ゆるりと笑った瑞鬼へと幻介はまだ不慣れであるという早苗と共に豊穣の案内を頼んだが――
「まずは、山じゃ」
成程、と首を傾ぐ早苗に幻介は「それだけ?」と問いかける。それ以上もそれ以後もないと次に案内されるのは墓、そして、川――くる、と振り返った瑞鬼は「それから酒場じゃ」と指さした。
……どうやら彼女の目的は酒を『奢って貰う』事なのだろう。
「まぁよい、ここはわしもちじゃー! 飲めー!」
まだ不慣れな早苗にそんなコトさせるわけにはと幻介は「くっ、路銀……足りるで御座るかなぁ?
」と呻いたのだった。
「うーん、イレギュラーズだから簡単にいけるだろーって。ローレットの事務方の仕事を押しつけられたんだよねー」
人使いが荒いと呟くクロジンデ。豊穣と『繋がって』から、人が流入するようになった。事務仕事として身元の確認などをきちっと行っておかなくてはと肩を竦める。人の顔を覚えるのには自身もある。一先ずは『ローレットから来ました』と挨拶から始めようか。
初めての場所、けれど友人のチックとなら安心するとカルウェットはそっとその手を取る。
「美味しそう、目立つもの、人たくさんのところ、つい気になる、する。チック、あそこ行く、してみるぞ!」
京に来るのは初めてであるチックは朝霧が言っていた『お団子目当て』――カルウェットを追いかけて、迷子、だめと首を振れば「ごめん」と小さく声が返る。
「チックのいただきます、真似して、言う。食べる前、いただきます。覚えた! チックと一緒、さらにおいしい」
「うん。嬉しい……共有、出来て。とっても、しあわせ」
式部省の祇・紙萃の提案する『情報共有』に協力的であった繁茂は記憶の喪失から、今を楽しみ生きる人々の話を聞けば何かを思い出せるかも知れないと皆の話に耳を傾ける。
面白そうな書物の話だ、と腰掛けてカインは『絶望の青』攻略から籍を置いた故に語れることはないけれどと竜種との戦いについて。短い期間、然れど絶望と称するに相応しい戦いであった。彼が目的とするのは自身が語ることではなく他者の語る豊穣やローレットの此れまでの大戦の事である。
(成程、訓練姿を観察記録する行為のみに留める心算であったが、軌跡(もつ)を語らふような集まりが在るのであれば足を運ばざるを得ない。我の軌跡はそのほとんどを吐き出してしまっている故に語るようなものは存在せぬが、聞いたものをその場で吐き出す程度のことは出来よう)
アエクは小冊子などにすれば良いだろうかと情報(もつ)を耳にする。凄まじいと称するしかない戦いの軌跡には感嘆の息が漏れ出した。
豊穣について聞きたいとユゥリアリアは紙萃に問いかけた。好ましく思う物語は人それぞれ――豊穣はローレットの側から見れば小さな島であるが、彼らにとっては大国なのだろう。
「成程。お礼ですけれど、海洋王国の話もしましょうかー。理想郷とは言いませんが、気のいい人達が多いですわよー」
お国自慢です、と微笑むユゥリアリアに土産の茶だと差し出した行人は貴重な本と『自身の駆けてきた冒険』について語った。ユゥリアリアが海洋王国について触れたように、各国の首脳についても触れておきたいと行人が語り聞かせれば、紙萃は楽しげに頷き耳傾ける。
(イケナイ、ハンモ、公序良俗ニ反スル行為ヲシテハナラナイ、シテハナラナイイイイイイガガガガガガガ。頑張れハンモの理性! 負けるなハンモのTPO!)
――ちょっぴり、危険だけれど。
豊穣独自の魔法や言霊を調べるという試みは面白いと文は『閉鎖的であった島国』独自の物がないかと探し求め得る。
「絶望を、超えた先に、豊穣の希ありけり。
テーマは何でもいいぞ。日頃思ってる事でも、豊穣の自然や建築物を見ての感想とかでも、言葉にしてみると良い」
大地はそう笑みを浮かべた。簡単な物で良い。雰囲気さえ感じれば、きっと心の底から楽しめるだろうと云う彼の提案に文は穏やかに一つ頷いた。
「この機会に豊穣という土地をもっと知ることができたらと思うよ
川柳や俳句を詠むのは、いや読むのは、かな? 良い気分転換になると思うんだ」
「木陰揺れ 茂る青葉に 夏の気配。
……季節に限らず、変化って劇的なモンばかりじゃなくって、緩やかなもの、ふと気付くようなの多いんすよね。豊穣も、今そういうのな気がします。良い変化になるように、したいとこっすねぇ」
慧は川柳ならば季語は必須じゃ無いかと、諳んじる。上手い下手は別として、この文化を伝えられるなら嬉しいとそう告げる彼に文と大地は更に句を詠もうと意気込んだ。
「神使様はこんなこともしてんだぁなぁ。そりゃ強くなるわけだ。んじゃ、俺ももっと強くならないとなぁ」
鍛錬の日を思えばこそ刑部はやらねばとその体に力を込める。薪割りをしての柔軟性を高めんとぱこん、ぱこんと幾つもの薪を割る。
(俺は、弱いからもっと強くならなきゃならないんだ。
でなければ、死んでしまうから。大丈夫、兄ちゃんはちゃんと、生きる努力はするよ)
篝火は無心に戦闘訓練を続ける。強くなるための、その努力を惜しむことはしない。
「お前らそんなんで妖から民を守れると思ってんのか。ハハハ」
一方で狂歌は兵達を相手取り組み手を行っていた。
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「ほぅ、これは確か金平糖じゃったか?」
掌で揺れる氷砂糖に華鈴がぱちりと瞬けば結乃はこくりと頷いた。
「うん。キラキラかわいいねぇ。こんぺいとう……あまくて美味しいよ」
お星様を口の中に放り込めば甘くて溶けて美味しくて――「おねーちゃん。和菓子に詳しいねぇ」と微笑む結乃は『マスターの知識』と似た文化だから分かると胸を張った。けれど、『おねーちゃん』は何でも識っていて、とても素敵で。
「これは……? 、わらわもこれは食べた事が無くてのぅ……試しに食べてみるとするかの
「うん。じゃあこれを食べて、あとはいくつかお土産に買って帰ろうか」
きんつばとお茶を二人で啜って。『新しいお菓子』の試食を――頂きます。
「……おや。長らく湯につかってのんびりとしていれば、新しい地が。
――ああ、とても懐かしいような景色がする場所なのだね」
コルザは町の中を散策して川辺の傍でのんびりと茶屋で過ごすのも佳いかなと『足湯』を許可を貰い作り上げた。この地には屹度温泉もある。湯巡りの計画を立てるのも佳いとほっと一息、茶を啜った。
地理はまだまだ把握できては居ないから。リサーチ兼ねて巡って見ようと周囲を見回せば雪が「こっち」とニアを呼ぶ。楽し気な彼女を見れば、馴染みの情報屋を思い出しては仕方ない。
「ニアさん、お茶屋さんといったら三食団子です! 早速頼みましょうっ」
手招く雪に頷いてニアは「ゆっくり食べるんだよ」と柔らかな声で告げる。お団子は喉に詰まって苦しくなってしまうから、と雪は大きく頷いた。
「なんというか、親近感を感じる国でござるなぁ。
某の『これ』は師匠の影響であるし、師匠もこの国は知らなかったであろうが」
明寿は折角ならば食事をしたいと飯屋に足を向けた。団子も良い、どんぶりも美味しく、何よりも体にいい。食事がうまくともこの土地に根付いた『上下関係』にはイマイチ眉を顰めると小さく小さく息を吐いた。
「おー、此処が噂の新天地か。良いねぇ、良いねぇ。
俺の故郷と似た文化だ。鬼、神様、神社。白米に梅干!」
槐は心を躍らせた。イレギュラーズ歴は長いがまだまだ新米。鬼人種へと声かけて、剣術稽古に勤しめば白米と梅干を美味しく楽しめるだろう。
聖女を思わす衣服に、穏やかなかんばせに色乗せてどらは柔らかに声かける。
「えーと僕は……じゃない。私は遠くの国から『教え』を広めるために参りました。
神は全てを見ています。常に正しく在りましょう。常に清く在りましょう。
困っている者には笑顔で手を差し伸べましょう。猫には優しくしましょう。特に黒猫」
――なんて、『ちょっぴり』猫贔屓をして教えを告げる。
全く違う文化に触れることも楽しいとイアンは旅人達から伝わった衣服とはデザインが異なるとその文化に見惚れるように呉服屋へと足を運んだ。
縫製にデザイン、新しい生地を買い込んで、呉服屋の店主より『その文化』を耳にする。
「あの扇柄の茜色の生地と牡丹柄の濃藍の生地を買わせて貰おう。
ふふ、どちらが姉さんに似合うだろうか。楽しみだな」
今から仕立て直すのが楽しみだと、笑みは深く――うっとりとしていた。
「元いた世界にも似とるしなぁ。この前の紫陽花小路も良かったなぁ……こっちに住んでもええかもしれんねぇ」
目を細め、想い出に触れるように思考を平らにする。紫月は小さく笑みを零してから剣術と狙撃メインの鍛錬に行こうとオリジナルソングを口遊み郊外へと歩み行く。
今日という日は仕事もなければ用事もない。久々に自由気ままにのんびりと歩み回ろうと梅干し入りのおにぎりお弁当を手にイナリは旅へと向かう。
畑の作物の観察を『自称』稲荷神様の眷属として、見て回りたいと立ち寄ったは農作物を販売する小さな家屋。
「一ついただけるかしら? とっても美味しそうな作物ね」
イナリの言葉に神使に褒められるなんて、と喜ぶ声がちらりほらりと聞こえてくる。
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「誰か……ええ、誰でも良いのですが、剣の稽古を付けては下さいませんか?」
そう問う鏡華へと鬼人種達は快く引受けた。刀の力を引き出しきれぬ未熟者であるとそう告げる彼女との打ち合いは鋭く切っ先研ぎ澄ますが如く――躱す動きを主軸にすれど、それでは狙いが定まらない。
(もっと……鍛えなければ)
折角ならば剣士の立ち合いを見てみたいと威降と紡は剣道場へと足を運んだ。自身と紡の剣戟を見せる事で、交流になるだろうとちら、と見遣れば悪戯めいた笑みが浮かぶ。
「教えていただく代わりにこちらも教えますよ。極められるかはさておいて」
そうやって、揶揄って――同情やぶりも楽しそうだと微笑む紡に威降は「できれば仲良くしたい」と冗談めかした。
どこへ行こう、と笑った清。レンが求めるのは『未開の地』――絶望の青を超えた先に存在した海。それは、混沌世界が何処までも繋がっていると感じさせて。
「――という建前で、宇宙一愛らしい水着姿の清ときゃっきゃうふふの巻でござる、くっくっく」
頬に熱が上がっていく。清はいつもと違う事をと手を伸ばした。いつもはレンが『よしよし』としてくれるから、今日は自分がと求めれば、乙女の頬は赤く赤く柘榴が熟れる。そんな様子が尊くてレンはつい、小さく笑みを零した。
最近見つかったという新大陸を、尤もっと見聞を深めたならば風土病や病について知れるかもしれないとアクセルは脚運ぶ。医療携わる者は様々居るだろうが――さて、どこへ向かった者かとアクセルは高天京を見回した。
この国は不思議な空気が漂っているとネムは瞬く。神を名乗る八百万が闊歩する東洋は居るだけでもトレーニングになりそうと海へと歩を進めた。
「何か妖? がいるかもって噂だけれど。出たら出たで倒そう。訓練だからね。
……遊んで戦って休んで。楽しい一日になりそうだ」
只管に剣の訓練をするのみだと刀は新たな『刀』を手に入れるために刀鍛冶の元を巡った。
そうした文化も存在しているからか、店主達は快く彼を受け入れる。新たな刀を手にしたならば、それがその腕に馴染むまで――腕が棒になるまで、懸命に振るい続ける。
「うむ? この国はいささかきなくさいでござるな。
これも魔が中央にはびこる所以か、精霊種以外に対する種族への目が厳しい様でござる」
肩を竦めて烏丸は天狗と呼ばれるのは嫌いではないと伝承に在る『天狗』装束を探しに回る。豊穣の文化であれば、和装の質も高く、伝承の天狗になる夢も叶うのは近い――かも知れない。
「ローレットトレーニングか。随分と久しぶりにその単語を聞いたような気がするな。まぁそれはともかく、いつも通りにトレーニングすれば問題ないだろう」――と考えども、ハロルドはいつも通り――と、いう事で開くは『新クラス』発見の為の統計学。
「……トレーニング? トレーニングなのか、これは?」
士郎は呆然とハロルドを見遣った。内容自体無駄になるタグ異なものではないが、カムイグラに来てまでやることなのかと告げた士郎はスキルを忘却させる事のできるつづりの『小槌』はハロルドにとってもとても興味深いのだろうかと見遣った。スキルをどうとるかに悩んでいるレナードは折角ならば『スキル』についてのQ&Aと志して――違うとゆっくり立ち上がる。
「前提スキル? 新クラス発掘? ……あー、そういやこの人はハンマーマンだった。
え? 前提スキル探すのにレベルは関係ない? いや、確かにそうかもだけどうわなにをするやめ――」
●
「幸福堂の! 限定お団子! いいねぇ、ボクも食べたいな! よし、一緒に行こうか」
わくわくと、火夜が向かうは幸福堂。誰が痒くならば共にと微笑んで、皆で回るのが楽しいときゅうと腹を鳴らした。
「太る? ううん、大丈夫。食べた分は動けば良いんだから!」
人の目線が怖いからと詩音はおそるおそるとお団子のために一念発起。怖いけれど、幸福堂の限定お団子は途轍もなく魅力的で――人慣れする訓練に、ときりと胸が高鳴った。
(対人関係の……その……話す訓練になるかも……しれないし?)
其処に見えるは新天地。アーネリィはきらりと眸を煌めかす。旅人達は懐かしいと言う様に周囲を見て回るその様子を追いかけて――『別世界』のような食文化を楽しみたいときゅうと腹の虫に返事を一つ。
「おじさん! タレでください!」
絡んだタレによだれが滴る。米料理や煮物も盛り沢山でしばらくは新しい食には困らなさそう。
新天地、豊穣。最近発見したばかりの土地ならば『知らないエピソード』を沢山聞けるはずとクラリスの胸は高鳴った。
街で人々の話を聞きながらそれを詩に起こして回る。時に甘い物を口にして、朗々と口にするのは冒険譚。流浪に響かせるそれが『ろぅれっと』の神使の存在をよりアピールすることだろう。
「よう、あんた海の向こうの人かい?」
「ああ、そうだ。アンタはこの国の人間か?」
首を傾げて問いかけたネージュの頭を大きな掌でがしりと撫でて、犬だと笑った泰舜にネージュは僅か、拗ねた顔。悪い人ではないだろうと共に観光へ繰り出した。
さあ、いざや肝試し。スーの傍らでリオーレは「天のじゃく? とか、ようかいとか、ちょっとだけ怖いけど……これもくんれんだもんね」と小さく呟いた。
「ボクは男の子だから、おひめさま……スーちゃんを守らないとっ。大じょうぶ、ボクがいるから怖くないよ!」
「頑張ってねっ? 頼りにしてるよ、私の王子様……なーんて!」
少し照れちゃうと小さく笑ってエスコートされるために手を繋ぐ。何かが光っているよ、と手を引いて、二人の前に飛び散る蛍は色彩までも鮮やかに。綺麗と笑みを重ね合わせて彩りをその眸で追いかけた。
「なるほど……俺が居た世界と何処か似ていて懐かしさを感じる」
ほう、と小さく息を吐く。颯太が向かうは険しい山道。目的たる都市はまだ向こう側――だが、良い景色は心を擽り安堵を感じさせる。目先の騒乱の予感が胸過れば颯太は唇をつい、と吊り上げた。
「……何故か気が付いたらこの宴席に来ていたのだが…どういう事だろうか、那美さん。
折角トレーニングの依頼を受けたのに……これでは俺は強くなれない
ただでさえ、記憶喪失で迷惑を掛けているのだ……那美さんを守り通せるくらいに強くならないと」
そう、切なげに眉根を寄せたのは雷電であった。その言葉に、首をこてりと傾いだ那美はよく分からないけれど、巻き込まれてしまったのと肩を竦める。
「………嗚呼、でもこれは私が夢見た光景かも知れない。
八百万が獄人が何のわだかまりもなく楽しげに飲み明かす……きっと私が求めていたのはこういう情景なんだって」
そ、と胸に手を当てて小さく息を吐く那美の憧れが確かに其処には存在している。
獄人と八百万に関係なく美鬼帝が声かけたその誘いには神使の姿もいくつか。剣斗にとって『先祖の土地』によく似たこの場所はどうにも心地よい。
「ほう芹奈殿……飲む比べ勝負か! フハハハ! 面白い! じゃあ、飲み比べだ!」
杯揺れる雫ひとつぶ、それをも零さぬようにと喉へと落として、剣斗が三日月描けば、芹奈は「酒は良いぞ」と唇をぺろりと舐めた。
「酒はいいぞ……飲み過ぎねば百薬の水と言われる位に健康にいいのだから!
拙は豪徳寺・芹奈! ――いざ尋常に勝負!」
呷る、酒を喉へと落として心地よい酩酊にぺろと舌を覗かせる。楽しげな娘達へと『豪徳寺』流のおもてなしを見せる美鬼帝は『ママ』の準備した美味しいご飯よとうっとりと笑み零す。
「うぐ……何故、儂はこんな所に居るのじゃ……ご飯をいっぱい食べさせられる……」
最近の扱い酷くない、とタマモはがくりと肩落とす。そんな彼女を解放する美鬼帝の料理を一口齧り美咲は「飲み比べ、アタイも参加する! 面白いじゃん!」と杯をゆらりと揺らした。主催の美鬼帝は忙しそう、飲み友達の姿も見つからなくて寂しい――だけでは、詰まらない。
「やったぁぁぁぁぁ!!! タダ酒だァぁぁぁ!!!
うへへへ……まさかカムイグラのお酒をただで飲めるとは思ってなかったです。これは良い宴会……もといトレーニングですね!」
食事だって立派なトレーニングと秋葉はにんまりと笑みを浮かべた。飲み比べ、ですのね、と比丘尼は『一回の尼僧の飲酒』を今日という日は見逃して下さいと酒を呷る。
(不思議な縁でありましょう。……まさか死んだと思った娘の一人に遭えるなんて……ね)
その視線はそう、と宙を撫でる。不可思議な経験は、其処に確かに存在していたから。
茶会の席に座り響子は礼儀作法を生かしてのんびりと過ごす。河鳲印の特製お弁当を手土産に持ち込めば、喜ばしいと声上がった。隔たりない交流が神使にとっても嬉しいことだと、笑み零す。
「酒の肴ならぬ茶のつまみとして食べてください。普段よりあっさりした味付けなのできっと食べやすいかと……」
まじまじと憂はその作法を眺める。イレギュラーズは悪党を倒すだけではなく貴族階級とも交流がある悪しい。
「……御抹茶、苦い」
その分、茶菓子の甘さが引き立った。色々なものを食べれるように、と言うのも訓練かと。好き嫌いは悪だから。憂は立派な大人を目指すために背をピンと伸ばした。
久しぶりの空気感だとティーザは息を飲む。きちりと姿勢を正しての茶室はどこか心地よい。
「元いた世界では……うむ、こういった茶の文化とかは少々薄れてきていてな。中々に機会がなかったのだが……」
無作法があれば許して欲しいとゆるりと頭を下げる。少しずつ、豊穣文化に触れて下さいと笑み零す八百万にほう、と小さく息を吐いて。
「ほな、お先に。ご相伴させて貰います」
秘巫は慣れたように作法を見せる酒はないけれど、と九内へと目配せすれば「妾が教えたります」の言葉の通り、くるりくるりと器を見遣る。
「取りあえずヒミっちのマネして美味い茶と菓子貰うとすっか! ヒュー!」と九内は笑った。元気やなあ、と揶揄う声に、元気が取り柄と立ち上がらんとした彼は、脚が痺れた、と畳へと伏せった。
●
「おおう、凄い人だねえみいちゃん。これ全部神使なのかな?
まあ私達も今日から同じ立場だけどね! やる気出てきたー!!」
紬希の言葉に美織はゆるりと頷いた。笠を被り「凄いですね」と静かに囁く。
「あの海を越えられて来られた方々と聞いて、もっとこう…益荒男の様な方々を想像していましたけれど……」
見目は普通なのですね、と囁き美織は「姉様」と姉を手招いた。限定お団子に行きましょうと手を引いて、姉の好物の限りある団子を『買いそびれぬよう』走り出す。
「ヒャッハー! 『かむいぐら』! 新しい国ですな!?
この国でも『俺の神』の供物となるものを探しますぞー!」
テンションはマッハ。トレーニングが目的というならば『俺の神』への祈りを捧げる。
ベンジャミンの力は信仰の力――つまり神への祈りはベンジャミンの力を高めるという理論と共に雄叫びを一つ、遠く遠くの山へと響かせた。
鍛錬と言われても何をすれば良いのかと迷う樒は倉庫の中身と家の掃除を続けていく。
「これは確か……いつぞやの秋祭りで買った櫛ですね。こんなところにありましたか。
で、こちらの箱にあるのは……ああ懐かしい。寺子屋の教本ではありませんか。今あらためて読み返すのも良さそうですね。
……?」
全然進まぬ掃除に、必要な物として山を作った荷物にくらりと視界が歪んだ様な――
「ったく、本当に何もなきゃ呆れ返る位に『風光明媚』って奴じゃねぇの。
こっそり事情視察とか考えたりもしたが――平和が一番とはまま言ったモンだ」
カイトは頬を掻いてからゆったりと椅子へと腰掛けた。皿の上に並んだ団子を一つ、二つ、口に含んで定点観察と仕事の如き市井の営みをぼんやりと見詰め続ける。
「……成程、ここがカムイグラ……うーん、凄い既視感ですねぇ」
神那はこて、と首を傾げた。出生したのは別の土地であれどどうにも懐かしく感じて仕方がない。異国に溶け込むのだって鍛錬だと、団子を一つ口にした。
「はてさて。海を経た先におわす島国。どのような文化があるか楽しみですねえ。
かの地に根付く精霊信仰がありますれば、現地へ赴き学びますよう」
きょろり。周囲を見回してグランツァーは地を均し、地を耕し、地を育むことこそが自身の本意と文書の学にロードワークの検地、精霊達との対話を以て、豊穣を学び続ける。
豊饒の地には精霊種――八百万と呼ばれる彼らが無数に存在している。アドルフは自身が何を元にして顕現したか分からない。その『生まれ』のルーツをたぐるように、知識を求め、八百万達と話をしたいと声かける。老舗の者達は皆愉快そうに知識を披露する。森、川、空、さて、求めるは――
「さて、私が向かう先は……絶望の青の先、新天地は神威神楽、ですね。
幻想の、ギルド・ローレットの側から余り離れたことは、なかったので。少し新鮮な気がします」
零はきょろりと、周囲を見回した。一歩歩めば、何処か近しい雰囲気を感じる。生まれ落ちた世界の想い出に胸を擽られ、知識を求め見回った。
それはノエルも同じであったか。ミクロな日常の出来事に遭遇したいとぶらりぶらりと歩むは路地の裏。高天京の内部には余りに貧困なる民は存在しないか――はたまた、それらは田舎の村へと追い出されたか余りに美しい。時折見える鬼人種達の過酷な労働環境にノエルは僅かに眉根を寄せた。
「いやぁ、様式違えど都市は都市! 建物は素朴されど人は華やか! こいつぁさぼ……調査のしがいがありまさぁ!」
僅かな本音を孕んでから左之助はずんずんと歩き出す。見る物は何処か懐かしく心擽る物も多い。お国柄、似たような物が存在するのだから、歩むに楽だ。
「いやぁ……ずぅっとここで花見てさぼりたいでさぁ……」
静かにそう呟いて、茶と団子――それから茶屋の娘に小さく笑いかけた。
「いやー、面倒な一件も無事に片付いたことですし、ゆっくり交流会と洒落込みましょうかね! といっても、私は直接殴るのは得意じゃないんで……」
手にはお団子をひとつ。きりは後方支援と交流を主体に行動する。幸福堂の団子は今日という日は大忙し。売り切れも近いと店主の嬉しい悲鳴が耳を打つ。
身に馴染んだ浴衣を纏って紅屋へと歩を進める。エスメラルダは紅筆を一つ手に取りほう、と息を飲む。
小町紅を筆で溶かせば色彩は玉虫色から鮮やかに紅へと変化する。淡く仄かに色づいて、唇に乗せれば心から幸福が沸き立った。
「これ、お幾らですか?」と問いかけて悩んだ後、意を決してお一つ、とそう告げた。
「taining……懐かしい響き……」
葬屠の唇が音を乗せる。朧気な記憶が何も思い出すことが出来ず、低血圧と貧血で頭が余り回っていない。誰かが通りかかれば菓子やお茶を用意しようとそう茫と考えて葬屠は目を伏せた。
●
「はじめまして遮那殿! 拙者、夢見ルル家と申します!」
にんまりとそのかんばせに笑みを溢れさせたはルル家。かなりの腕前であるという天香家の遮那に指南をと求めれば神使に好意的である彼は快く引受けてくれるだろう。
「神使の指南役に指定頂ける等、誉れと呼ぶしかないだろう。喜んで引受けよう」
笑顔の裏にルル家はある目的を抱いていた。魔種である天香当主には『婚活』は叶わぬが、彼と懇意にしておけば当主となった遮那の正室となり玉の輿も――と其処まで考えればつい、口元が緩む。
遮那と一緒にと朝顔は共に修行をしたかった。けれど、脳裏に過ったのは『私は無力だ』と泣いていた彼の姿。
「遮那君、少し休憩しない? その……自分は無力なんて言わないで。
遮那君が居てくれるだけで嬉しいし、戦える人だっている。
苦しいなら、悲しいなら隠さないで。1人で抱え込まないで……それだけは、忘れないで欲しいんだ」
やわかに、そう告げた。久遠砂糖を手渡せば、彼は小さく礼を言った。きっと、まだ、懸念は拭えないまま。
「よぅ、ちょっとは『文』に手を出してみる気になったか?」
そう問いかけたウィリアム。座学なんてこの機会には似つかわしくないかと戦いの歴史を彼に語り聞かせたいと口を開く。
様々な魔種との戦いを始め冠位やそして滅海龍――華々しいだけではない、犠牲も伴う長い『人生という名の航海』。口にしながらウィリアムはその双眸に一つの星を煌めかせる。
「『終わりよければ全てよし』と言うには、キツい道のりだったさ。でも、脚を止めちゃいけない。
遮那も、進む為の理由と、支えてくれる味方と……そういうものを大事にすると良い」
「ああ、感謝する」
静かに、遮那は頷いた。柔らかに笑みを浮かべる彼は、何処までも性根の優しい男なのだろう。
「遮那さん! お久しぶりッス!
この前話した僕のご主人が、見つかったッス。逃げられちゃいましたけど……」
そうか、と遮那はへにゃりと眉を寄せた。鹿ノ子は再会が嬉しいと幾重も言葉を重ね続ける。八百万であるという彼は貴族らしく自身のことは余り語らない。けれど――『手合わせ』で実力を知ることは出来るだろう。
「僕が勝ったら、一緒に甘味処にでも行きましょうッス!」
自分のことを知って欲しい、それから、相手のことも知りたいから。そんな乙女心(ジレンマ)に炎を宿し、勢いよく飛び込んだ。
「リュティス。俺に付き合うことはなかったんだぞ?
……ついてくるな、と言うわけではないんだが、ちゃんと自分のための時間を作っているか?」
「ふむ……答えはYesですね。ただし何に自分の時間を使うは人それぞれという所でしょうか」
使用人は主のために仕事をするのが生き甲斐と真っ直ぐ告げた彼女にベネディクトは頬を掻く。どうにも、主人を優先するきらいがあるが――それも気にするのは今ではないか。
「遮那、ベネディクトだ。訓練の約束をしていただろう?」
「リュティス・ベルンシュタインと申します。以後、お見知りおきを。」
仕えてくれている相手だと告げれば遮那は歓迎すると微笑んだ。さあ、約束を違えぬように訓練を始めようではないか。
●
「んにぃ……鍛錬ってのハ分かるけどヨ……頭領と戦うなんてオイラはごめんだゼ? 勝てっこネェ……」
ため息一つ。夜宵は首を振る。まず頭領――鬼灯は先に隠れるであろうから、気配を消して逃げるに限ると脚運ぶ。『みんな頑張ってなのだわ!』と楽し気な章姫がエールを送る。
その声に「行ってくる」と頷いて気配を殺し息潜め――部下より逃げる様に静かに静かに息を飲む。
章姫と見学していると、ちょこりと座ったのは紅染。「蘭月お姉ちゃん、頑張ってくださいね」と静かにエールを送り、頭領を捕まえると意気込んだ蘭月が走り出す。
「紅染に良い所見せようね! なんたってお姉ちゃんだからねー!」
手を振って走り出す。大騒ぎの皆をちら、と見遣ってから『お弁当番』を務める晏雷は「うっかり迷子になったりするのも困るからね」とぱたりぱたりと手扇で仰ぐ。夏の日差しはからりとしていて、肌をじりじり焦がし往く。
「大丈夫ですか、晏雷さん。足取りが震えております、熱中症かな……。
いや、トナカイもなるのか? ええと、胡瓜の一本漬け、食べますか」
睦月様とお買い物に行ったのですと眞踏はにこりと微笑んだ。お茶と塩飴の準備もある。冷やしてもおいしいおかずを霜月様が選んだのだから守りましょうと文系の眞踏の言葉に、大丈夫ですか、晏雷はこくりと頷く。
ただ只管にお弁当をじいと見つめていた我楽多はこてりと首を傾いだ。仲間も家族も大事――「…皆捕まえたら良いのですか?」と無表情に呟いて、傷つけぬ様にと気を配る。
(……自分なんでこんな場違いなところに来ちゃったんだろうなぁ……逃げよう。逃げよう)
こんなのに巻き込まれたら元も子もないと逃げ出す影踏にゆるりと糸が纏わり着いた。極力気配を殺せ、と心がけても見えたのエンドは余りに呆気ない。
「暦の下っ端全員で行けばお強い頭領さまにだって勝てるハズ……。
僕は神無月お兄ちゃん仕込みの術で皆を応援するから――って、わあ!?」
逢華の背後より勢いよく飛び出してきた鬼灯。しかし、直ぐにその姿を隠してしまう――強い、と唇が音を奏でる。
「……皆さま、ほんとうに。頭領様をはじめ、先生方には感謝の念がつきませんから。
ですから。私も頑張らねばなりませんね――今です!」
星穹の魔性のささやきに、頭領とその名を呼んだ。逢華は「待って」と慌てたように声上げる。
「ピャー」という角灯の声が響く。『ミレリーゲ・アラ・ パンナ・コン・イ・ブロッコリ』の為に頑張らなくてはならないのだ。召喚によってレベル1に変化した身体能力の客観的な再確認の為にも此処で負けてはならないとその身をぐい、と起こす。
「くっ……もう少しやれるかと…やはり敵わない、か……」
玄と共に、師たる水無月に成果を持ち帰りたかったと流星は無念を告げる。尋常に勝負としても不運(ファンブル)は襲い来る。その悔しさに唇震わせ、朝香は「あれ、頭領の姿が消え……」とぱちりと瞬く。
「ええっ?! いつの間に、そんなところにいるんだ?! あいたっ」
きゅう、とダメージを喰らって倒れ伏せた朝香。さて、そろそろ落ち着いたかと顔覗かせる夜宵は腹をきゅうと鳴らす。
ごちそうは美味しそうだと正座で待機した我楽多にかちんこちん、と氷の様に身を固くした影踏は「霜月様の手料理」と震えたのだった。
●
「神使の皆様と御山で修行、拙はとても楽しみです。
黄泉津には回峰行にも使われる御山が幾つも有りますので、鍛錬に丁度良いかと思います」
ほら、と氷菓が砂州は高き山。険しい山をご紹介しますと頭を下げて案内役を買って出る。道中の食事は自身も手伝うと鹿と猪を『狩る』が為に彼は歩を進めた。
「山、集う強者、何も起こらないはずもなく……え、そういうのはいい?」
こえ、と首を竦めた宿儺はじっちゃばっちゃに教わったと山師としての実力を発揮する。
「どうするどうする? 余、山菜でも集めておく? それとも猪?」と楽しげに笑み重ね、只管に迷走する錬士郎の傍らを走り抜ける。
「俺は皆の修験のサポートをさせてもらうぜ! 山の麓の水場にて、休憩所を設置するぜ!
飯炊きの煙を立てて遠くからでも場所が分かりやすくしとくぜ!」
とん、と腹を大仰に叩いたゴリョウ。食事を取って鍛錬の活力にして貰おうとおにぎりと豚汁でシンプルな『支援』を一つ。勿論、食材の持ち込みは大歓迎だ。
「さて、毎度の大規模トレーニングの開催だな」
キャンプを行うというならばと義弘は動きやすいウェアに身を包み枯れ木や落ち葉を掻き集める。山の中での自給自足ともなれば火は大きな問題だ。
「……これも日本の原風景、っていうのかねぇ」
どこか懐かしく感じる山や田んぼ、畑に集落。気のせいか、いつの間にか刷り込まれた感情か。そう思いながら義弘は茶を啜った。
「一朝一夕で強さを得られる訳ではないでしょうけど、己を研ぎ澄ますって言うのは大事な事だもの。試練を積み重ね、少しでも腕を磨き直すわ」
滝に打たれ、精神統一を行ってから研ぎ澄ませた心を持って刀を振る。基本はこの繰り返しと竜胆は単純――されども、基礎となるその一太刀を振るい続けた。空の模様を眺め、食事の時間が近づけばゴリョウの手伝いに行こうかと小さく息を吐く。
「あちらとは風土も違います、し、慣れておいた方がいいです、よね」
ゴリョウのごはんも楽しみの一つとメイメイは山の中を散策し続ける。鳥と共に歩み進むは山菜やキノコ、果物、食材になりそうな数々だ。
「あ、わたしも、お手伝い……!」と走り寄り、食事の準備や雑用へと足を向ける。
「大体兄者と居たときにしてることと変わりないけどさー。
やっぱ山は良いよな、なんてかこー、特別感って言うのか、その、なんてーの?」
双樹は周囲をきょろりと見回した。山は歩くだけでも観光地、心も騒ぐという物で。
「はぁ……なんで母様が海を渡ったこんな場所にいるんでしょうね。
あの人の特訓はあまりにも容赦がないというか母様基準というか、真っ当な人間だと死んでるほうがマシとかいう事態に大体なるので私も死んだふりが得意になりました。死体蹴りしてきますけど、あの人」
山にでも籠れば母と出会う事はないかなと『稲荷パワー』を信じて狐耶は山道を進む。それが修羅なる道と知らぬが華と進んだ彼女の目の前に――「母様……」
「修行後の食事が楽しみだな?」
抜き足差し足、忍び足と朧は進む。ラサの過酷な環境も良かったが、久々の山修行も面白い。
彼に提供してもらう食事の礼代わりに何か食材や調味料はないだろうかと探しまわる。それを渡せばゴリョウは美味しくしてくれるであろう。
鍛錬と、そして食材調達。沙月が狙うのは熊や猪。良い鍛錬になりそうと言うのが主な理由だ。
(しかし……熊や猪を仕留めたとして、運べる物でしょうか? 最悪、血抜きとした処理を行った後応援を呼べばいいか)
静かに目を伏せる。風斬るが如く一閃するはその身に宿した体術。独自の美しさと共に重ねた追撃は緩むことはない。
「お見事!」
パティリアの声が天より振る。ぱちりぱちりと手を合わせ、高い位置からしっかりと見据えていた彼女は機動力を駆使して沙月の傍らへと降り立った。
「大物でござるな。良ければ運ばせていただいても?」
自身の運搬性能を生かして麓まで運ぼうと提案するパティリアはゴリョウには食事の権利を融通すると冗談めかしてそう笑った。
皆で体を鍛えるのはとても大事なことで。ンクルスもしっかりと経験積んで強いシスターとなるために走り出す。足腰とバランスとスタミナは何よりも大事だからと険しい道を材料抱えて進み行く。
「良い機会だし食事ってのを勉強してみようかな……?」
「ええんちゃうかな? あい、お待ちどうさん」
上位練達式にも手伝って貰いながら料理の配給を行うてまりはころりころりと笑み零す。まだまだたんまりおかわりは用意してると笑み零した。
「海の果てにまた大陸があったなんて、すっごく運がいいですよね!
結構人々も幸せに暮らしてるようですし、この大陸全体的に色々とハッピーなんじゃないでしょうか」
フィナは道を離れてどんどんと。サバイバルは結構得意、最近は大体50%の確率で正しい方角が分かるようになったと誇らしげに胸を張って――山菜と果物を手にフィナははっとしたように「ここはどこでしょうか!」と首を傾いだ。
その一方――山にアタックとわんこは真っ直ぐ走り続ける。アシストバックで最低限の装備と準備は所有済み。超方向感覚さえ在れば、どこにだって行けるはず。
「どうせなら装いも豊穣らしく……という訳で『絶対無敵最強十二単』を着て行きマス。
ツッコミはノーサンキューデスヨ?? 機動力さえ落ちなきゃどうにでもなりマス!!!」
……動き辛そう――何て言葉は今のわんこには『ノーサンキュー』なのだ。
戦闘系の訓練を積みたいけれどと此花はずんずん山を進む。無理はしない、ご迷惑はおかけしないと心がけ、先達の技術や知識は然る事ながら、何に注目するか、それをどう判断するかが興味深い。
(それは経験よりもむしろ発想……性格的なものが大きいかとは思いますが、咄嗟の行動を判断する際の大事な要素だと思いますので)
そうして周囲を見回す此花の近くでも祈乃は「ローレットのトレーニングちいうんは定期的にやっとるんやねえ」と不思議そうにぱちりと瞬いた。ちゃんと皆について行けるように頑張らないとと基礎の為に山の上へと走り込み――
「……思ったよりもきつかばい。山に慣れてないけんかな。さすがに速く走りすぎたばい」
ぜいぜいと肩で息して一息吐いた。一度休憩所に戻って美味しいご飯を食べに行こうかと心が逸る。
「思えば修行らしい修行などあまりしてこんかったからな! 大体実践というか初手リヴァイアサン。よく生きてたな我ら……」
「初共闘がアレなのは色々な意味で忘れないだろうね……。
あと修行は修行でも精神修行というか……ま、だからこそ肌に合ったんだろうけど!」
二人して小さく笑みを浮かべ合った頼々とハンス。何が『というわけで』なのかは分からないが、山を斬る訓練始めた虚刃流の二人。
(……物語で言えば、頼々くんがあの女を殺すのがきっと一番綺麗な形なのだろうけど)
山程度を斬れねばあの女は殺せないと、唇に音乗せた頼々の横顔に「僕も、殺してやりたいけどね」と小さく小さく言葉を落とした。
「うむ、やはりこのカムイグラとやらの空気は妾のおった世界によく似ておる。
ここでなら安心して修行ができそうじゃ。……もしかしてここでなら格好良い必殺技を編み出すことができるのでは!?」
紅椿は狐面と大剣構え格好良さそうなポーズを取ってみるが――中々それも上手くはいかない。
「うーむ……」と小さく言葉を載せて、焦ることはあるまいかとうん、と背を伸ばして見せた。
「こちら、山に行く馬車です。乗車希望の方や荷物を載せたい方はいますか?」
イスナーンはそう告げて、からりからりと馬車をたぐる。山はまだまだ奥深い。妖の姿が何処ぞにあるかもしれないのだから。
その音を聞きながらアーマデルは食用の物を探したら乗せてくれ、と声かけた。随分と環境が違うから何もかもに馴染みがなくて――いつか別の機会に探してみたいと周囲を見回した。
(音が、匂いが、空気すら違う。満ちているのは生命、だろうか?)
しっとりと絞めるような死が満ちた故郷とは余りに違う――けれど、それが懐かしいとアーマデルは天蓋へと手を伸ばす。
修行で少しでも皆に追いつけ追い越せと花丸は山籠り。霊験あらたかーって感じ、と見回せば鼻先擽る食欲の呼び声。
「うーーん、ゴリョウさんガイルからご飯の心配ないしね……! ってことで!
ゴリョウさーん、ご飯大盛りでっ! んーっ! 疲れた体に染み入る美味しさっ!」
\おかわりっ!/
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ま、まだまだ……足が動く限り、息が続く限り……!
高天京の武を担う兵部省の一員として、誉れ高き武者小路(さむらいろーど)家の者として、なにより神威神楽の平穏を守る一振りの刀として、武者小路 近衛、止まるわけにはぁぁぁ……」
全力で野山を駆けた近衛の腹は危機を告げる。山菜、茸、木の実の採取は全力で。猪より逃げ回った疲労からぱたり、とそのまま地に伏せった。
「これ、ぶっちゃけるとキャンプ活動だな?
まぁ、たまにはこーいいうのもいいだろ。んーじゃ、僕は川魚でも取りに行くとするかね」
升麻は首を捻る。川魚を捕りに行けば良い。難しいのは承知の上だが手掴みで――と願えども何とも難しい。逃げるなと叫びながらばしゃり、ばしゃりと川を走る。
「お山での修行ってなんだか懐かしい気がする! 記憶があんまり無いから分かんないけど」
ハヅキは糸を垂らして良い感じに、と魚釣り。川虫を餌にすると言うことは覚えているけれど――色々忘れてしまっていると集中力高め、水音を聞き分ける。釣れたならば皆の裾ワケがしたいと小さく笑みが浮かんだ。
サボっているのが知れたら怒られるとルーキスは朽ち木にタイして剣術修行。切り刻みバラバラになれば火の世話にも使えると、茸を鞄に詰め込んだ。
「これは……きゃんぷ、と言うのですか? 初めて聞きましたが、皆で食事をするのは楽しいものですね」
ぱちり、と瞬いて。希少な気配にどこか心が躍った。
「何やら賑わって居るな! 人が多い――つまり酒宴! 何……? 山登り?」
蓮華はポロリと杯を取り落とす。勝手知ったる庭とまでは行かぬとも、慣れ親しんだ山だと獣や妖の存在探る。風上に立たず気配を消してその命を刈り取れば、『酒の肴』を手に入れたも同然だ。
「ふーっ、いっぱい走り回って疲れたぞ……ん?」
珠珈斗は肝試し楽しそうと山に飛び込み――そして背後から何かが飛び出したと驚いたように肩を竦める。蛇だ。そのままその身は木枝より地上へと真っ逆さまへ。
「お、おいら……きょ、今日一日で一番、びっくりしたぞ……」
山を歩くと蓮はゆっくりと登る。この豊穣は自信が生まれた場所、兄が居た場所、ココが出発点と、自身の『はじめ』はこの国の――この山に、そう定めた。
「『見えるものを疑え、見えないものにこそ真実がある』
昔見た死霊を操る外法を学んだときにそんな言葉も聞いたしね。
張り詰めた心でなく澄んだ心で自然や霊と共に静かに瞑想を……」
目を伏せたヨルの耳に届いたのは――小さな音。
「……だ、誰もコインとか落とさないヨネ!?」
●
「夏のトッレーーーーーーーーニングじゃ。今こそ成長の時。日差しが麿を強くする」
夢心地は三味線をひきならし超殿様級の美声を持て、ローレットトレーニングに花添える。
『パンドラゲ』 作詞・作曲 一条夢心地
月曜日は 幻~想~
火曜日は 海~洋~
水曜日は スミ~スミ~スミ~
木曜日は も~みもみじ
金曜日は 境界図書館~
……以下、略。響いた歌声は伸びやかに――
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この世の常識を学ぶ機会もなかったとgoodmanは見聞広めるためにふらりふらりと北条を見て回る。
鍛錬を、というのは赫鉄もだ。いつも通りに拳で岩を砕く、持ち上げる、それを続けて巨腕を鍛え続ける。
「わぁ、ローレット全体で鍛錬! こんな催し事があるなんて面白いですn……アバー。
……ですけど、今日は体調がアーッ悪くてオエーッちょっと遠出が出来無さそうでグオー……ッ」
孤屠の唇から地がぼとぼとと落ちる。元より体調の悪い彼女は唇より垂れた血潮を拭う。
「皆さん山に修行しに行ったり観光したり、お話したりして良いなぁ……」
――そうして、割ることになった瓦は『豊穣参加者数×10枚』。
きっと、一日では終わらないのだ。
「さて、丁度いい所に腹立たしいほどサワヤカな笑顔を振り撒く青鬼がいますねェ。
おーいウバラ! 同郷のよしみでちょっと組み手でもしましょうや。いい機会ですからねェ」
ひらり手を振る鉢特摩に嗢鉢羅は「ほぉーう」と彼をまじまじ見遣る。喧嘩と間違っちゃいねえかいと揶揄う声音に「真っ正面から喧嘩は挑まねェでしょ」と小さく笑う。
「もちろん無手、急所狙いもなし……だな。怪我すんなよ鉢特摩ァ!」
3年の月日がどれ程のものかはコスモは分からない。大賑わいだろ、と錬は小さく笑み零す。
「巷は大召喚三周年の話だが、俺らもギルドを作って早三ヵ月か。
ギルドの他の尖ってる連中と比べたら俺は弱いが、まぁこの世界でもレベルは正義だからな、継続は力になるもんだ」
「なるほど、彼らは『咎って』いらっしゃったのですね」
小さく笑み零す。懐かしさを感じさせる絶望は自身らの原点で――もしかして、青春の名を持つのであろうか。
「あらお役人さん♪ オリジナルがお世話になったみたいね?
首を刈るのも良いけれど、たまにはこうしてゆっくりするのも悪くありませんね♪
お役人さんは? 楽しんでますか? あ、首でも借りますか?」
にこりと微笑む斬華に黒子はくびをふるりと振った。
「首は自分の分で間に合っています」とそう告げて、巡る高天京はあまだまだ未知が溢れている。
「いや、私は水が苦手と申し上げたのですが……何故に豊穣の山奥で滝修行を?」
そう問いかける冥夜に晴明は眼鏡をくい、としてから小さく笑みを浮かべる。
「ふふふ、滝修行にビビってるようだが……甘いぜ。鍛錬ってのは場所を決める瞬間から始まってるものだ」
「お待ちください、いくらスマホが防水とはいえ、流石に滝の中では――」
ばちゃん、と水音が立つ。冥夜と晴明が落ちていくのを眺める春樹はどこか喜ばしげだ。『インテリヤクザ』と称された冥夜に春樹は頬杖をついた後にい、と唇を吊り上げた。
「サヨナキドリに新人が入ったと聞いて揉んでやりに来たが、商人志望じゃなくて陰陽師でホストクラブオーナーでパフォーマー? お腹いっぱいすぎるだろ冥夜たん。こりゃあ晴明たんもうかうかしてらんねぇなぁ?」
まだまだ『三バカ』の滝修行は続くのだ――!
訓練に鍛錬すると儀礼剣と云う慣れぬ獲物を手にゆるりと踊る。重心も変われば立ち回りだって変化する。この場で慣れ親しむのが先決と――鍛練を重ねていく。
焔宮の主として、『鳴』として――更なる高みに至るが為、鍛錬は欠かせぬと自然豊かな山々にて滝を浴び続ける。精神を研ぎ澄ませ呪術を更に鋭く出来れば修行の成果が出る筈であると自然と融和する。大気中の存在をその身に浴びれば鍛錬は実を結ぶ。獣の討伐も目的でないならば『お帰り頂き』ながら鍛錬へと集中しよう。
すっぽり。大きな箱を被って周囲を見回すリインは「頑張れ~」と旗を振る。鍛錬には応援は欠かせないのだ。
「なぬ? 技を教わりたい?」と霧緒は目を丸くした。混沌世界での実力は其方の方が上だろうと告げた霧御に首振りキツネは「我流ばかりだったから」と肩を竦める。
「まあよかろう…それはさておき、習うと言う事は『媧』となる事を決めたのじゃな」
「え?」
神妙な顔をした霧御に首を傾ぐキツネ。あくまで『修行』であれど極めるのは悪い話ではない。
「まずは基本技の『一尾腿』――腰をもっと捻る! 尻は引くな!」
霧緒へとキツネは「難しいわね」と肩を竦めた。時間はまだまだある。此れから極める時間だって、屹度あるのだから。
一人。高い山に登っての瞑想を行う竜也は神威神楽の女性達に興味津々ではあるが、先ずはこの地を広く見てみたかった。
――海遠く 黄泉津の上に 立ちしかな 水面の先に 未来思わん。
先へ、更なる先へ。そう心を遊ばせて地に足を付けて大地を踏み締める。自らの両脚に力を込め、都に出れば燥ぐ乙女の声が聞こえる。つまり、英雄『色を好む』なのだ。
明日にとっての『久方ぶり』の実践はどこか緊張を感じさせる。然し、冷静に見極めれば対処は出来ると刃を振り抜いた。
「見敵必殺、悪霊滅殺、太刀の錆に相応しゅうございます」
鍛錬と云えども生死の奪い合い。言葉通り『死ぬ気』で努力を重ねるしかないのだ。
山に籠もって修行を、と思ったけれど、余りに長閑だからとユンはきょろりと見回した。肉腫など、妙な物をよく目にしたけれど、ちゃんとした動物も居るのだと鹿と共に野を駆けた。
「僕の同胞、一緒に追いかけっこしないか? さあ、いこう。僕も強くなってこの景色を守らないとな……」
両手いっぱいの美しい景色に心が躍る。力を付けなければ、彼らとて守れない。強く、決意を固めた。
●
カムイグラの猫を見に行きたいとヨゾラは世界猫歩き。鳥の羽に猫じゃらし。ぴょこりぴょこりと振って見遣れば心が躍る。
「ほーら可愛いにゃんこ、おいでおいでおいであははははは」
ふわふわと丸っこい猫は店の看板娘だろうか。野生溢れる猫について行けば路地の裏で誰ぞが渡した餌が置いてある。時折すり寄ってきたのは――二股の尾を持つ猫であっただろうか。
「さーてと、カヤ。準備は良い? 新しい場所に脚を慣らすよ」
リリーは人の邪魔にならぬようにとカヤのトレーニングに勤しんだ。まだまだ慣れぬ場所であるのだから、ぐんぐんとすすみたい。砂浜も海辺も山の中も精一杯。
「海洋じゃ、ずっとレブンと一緒だったからねっ。
この綺麗な場所で、一杯輝かせたいねっ。この薄みたいな綺麗な尻尾みたいに!」
ふーん、と周囲を見回した絵里。『新しいお友達』が沢山いそうだと、瞳をきらりと輝かせる。
「やっぱり首とかはねるのが基本なのかなー? アハ。ずぶり、ざばり、ばっさり、ぱっくり。
剣は色々あって便利だねー。でも、術とかも良いかも? びーむでどかーんとかとか。うーん、たのしー」
さぁ、と輪廻はウィンクを一つ。『待ちに待った』美味しい時間が今、開幕したのだと笑み零す。
「トレーニングなんて腰の痛くなる事する訳ねぇだろ? もう引退してる身だし、やらねぇよ」
ため息ついて煙管よりすす堕とす。信政は水分補給しろよとドリンクを並べる。腹が減った場合やけがをした場合も遠慮なく一度戻ってくるようにと穏やかな声音でそう告げる。
「さぁ今回は皆で入り乱れ、バトロワ式の特訓だけど……僕は可愛い女の子を叩く様な真似は出来ない。
だから、君達(由奈以外の可愛い女の子&性別不明限定)のぱんつをこのカメラで撮らせて貰うさ♪」
静かにそう告げた死聖に輪廻は「元気いっぱいねん?」とくすりと笑う。
「では早速トレ……ちょ、そのルールはだ、駄目ですよ…!? だ、だって私……このコートの中は……」
悍ましい呪いを受けたというアイリスの胸は高鳴った。恥じらいと同居する胸の高まりはどうしようもないほどに心を揺るがした。
「まさか……鈴鹿達のあられもない姿を撮影するのが目的だったなんて……恥を知れなの!
鈴鹿は鈴鹿自身がパンツ盗ったりセクハラするのはよくても鈴鹿自身がセクハラされるのは大嫌いの!」
拗ねたような声音で鈴鹿は叫んだ。輪廻を先導して山を登ってきた彼女の視線は背後――大暴れの由奈へと向けられる。
――うっとりとしていた由奈は「お兄ちゃん、そんな、撮影会っていつでも撮らせてあげるのに」と身をくねらせた後、何かに気付いたように息を飲む。
「……ハッ! 待って……もしかしてその対象ってここにいる全員……? そんな事させるものか!お兄ちゃんに撮られるのは私だけだー!」
理不尽だ、と顔を上げたのは聖奈であた。今日は水色のストライプ。絶対に撮影されてなる物かと首を振った訳だが――
「何故にバーサーカーモードに!? こうなったら逃げられない……一か八か生き抜くしかない! 絶対に聖奈は生き抜いてやる!」
「なんでこんな所で撮影会する必要あるんだよ! ……って思ったらやっぱり邪な事だった!
というか男も狙うなんて死聖さん節操なさすぎぃ!? というか、由奈ちゃんはキレるポイントおかしくない!?」
愛らしい『美少女系』陰陽師である朝姫は白いパンツを晒しながら叫び声をあげている。彪呑は首を傾ぐ。撮影する死聖に興味津々で「それで絵を描くんだね」と言われるままのポーズを取って見せる。
「その目線の者に見せる光景なら、これじゃないかな? そういえば裸足だったね、草鞋だけでも履けば良かったかな?」
その様子を横目に、リアムは一刻も早く強くならねばと鍛錬を繰り返し、信政の許へと足を運んだ。
「……俺は少しでも力を取り戻し、アイツらを探さなくてはならない……一秒でも早く、強く、ならねば……!」
唇を震わせ、信念を口にした。しかして、腹が空いては戦は出来ぬ――と腹拵えを行うのだった。
●
(もしかして……トレーニングだから、毒草をこっそり漁ってもバレないんじゃないか……?)
そわ、とメリロートがその身を揺らした。カムイグラの植生にはまだまだ熟達していない。赤や橙、黒が熟した果実ならば、まだまだ青い物を持ち帰ろうと山へと向かう。
「やっほー! 今回は『シャドプロ』に新メンバーがまた加入したんだぞ♪
その名もルビア・キルロードちゃん! はい、拍手! パチパチ! みんな仲良くしてあげてね」
ウィンクと煌めく笑顔、豊満なボディをくねらせたジェーンの傍らでミリヤムががくりと肩を落とす。
「アイドル志望? ……いやあ、このブラックな職場っぽいアイドルグループに入ってから早くも3ヶ月? ……色々あったけど後輩ができたよん。よろしくねー……」
「抜けてもいいっすからね」
「絶対逃がさないからね」
ミリヤムの言葉とは対照的なジーナ。背を押されて『逃げられない』姿勢のルビアは明るい笑みで「アイドルチームには言ったからには生まれながらのアイドルとして頑張りますわ」と微笑みを見せた。本日は豊穣での路上ライブ。バッチリ『魅せて』と歌い踊り、アピールを重ね続ける。
まだまだ未知の領域が多い豊穣。ならば、様々な場所を訪れることが必要だろうと世界は周囲を見回した。街や村々、見回して伝統的な甘味を購入することで、食べ歩き――これで足腰が鍛えられるという狙いがある。
「ただの食べ歩きかって? いやいやまさか」
ジャパニーズと火燐あ叫んだ。平安時代や江戸時代、戦国時代にエトセトラ。沢山の物が混じり合っては存在している。ご飯を食べたい、お米を食べたいと口にすれば鬼人種達はよければと勧めてくれるだろう。
観光――あるいは友好。晴明の傍らで煙草の煙を揺らしジョージは「中々好みが分かれるだろうが、晴明はイケる口か?」と問いかけた。
「ああ。煙管ならば帝より教わったことがある。不快ではないが……諸兄の物も特殊だな」
「はは。癖は強いが、香りは良い。海洋で仕入れた物は色々だ。一つ試してみるか?」
葉巻を一つ手渡してにい、と笑ったジョージは紫煙を楽しんでつかの間の休息を楽しめとその背をぽん、と叩いた。
「そういえば。ぼく、まともにお祭りに参加した経験……あったかな……?」
ニャムリはこてり、と首を傾げる。訓練とそう銘打てども、祭りのような側面が強いと感じれば『お祭り』の経験を積むのだって悪くはない。
お祭りと言えばわいわいと騒ぐ物。訓練と言えば戦いの経験を高める物。つまり――
「みんなを癒して、ぶっ続けで戦い続けられるようにする事だね……?」
加減は分からないけれど、屹度、此れが正解だと、癒やしを続け、与え続ける。
お昼寝トレーニングがぴったりところりと転がりクリスハイトは宿屋での休息中。
歩き回れば足はむくんで披露を叫ぶ。足腰の鍛錬の後に睡眠トレーニングで更に強くなるために、ゆっくりゆっくり瞼を下ろした。おやすみなさいと唇に音を乗せて眠りの淵へ――
紗夜にとっては心地よい。細部は異なり、それで根付いて息づくのは違う物でも、自然の景色は身を安堵するよう撫で付けた。山川を辿り、滝へと向かえば、夜にもなれば星と月の光を見つけることが出来るだろう。
水と空の流れ絶えることなどなく理想体を描き目を伏せた。
風のにほいに土の香り、人々の営みに。その要素のひとつ、ひとつが自身の『世界』に似ていて。無量は静かに目を伏せる。
「もう二度と、同じ過ちは犯さない……」
嘗ての流行病や飢餓に絶望し、衆生を彼岸へ送る事で救いとした斬る事への妄執の鬼。
涯てを見つけられぬままの業の血を注ぐことは出来ずとも、次こそは人々の救いとならんと。我が身に心をと、そう願った自分に小さく小さく自嘲した。
「いつの間にか、こんなにも賑やかになったのですね」
神楽耶はまじまじとそう呟いた。ローレットに所属したばかり、まだ、この国から出ることはなく、動乱の兆しを見せる国内情勢を不安に思うばかり。それでも、沢山の顔ぶれと喧噪は心地よい。
もっと強くなりローレットの仕事をこなして、いつか月へと伸びゆく竹の如く鮮麗された力を手に入れる事ができればと、そう願わずには居られない。
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「私は歩くよ、自由に歩く。みんな変なの。お互いの口をパクパク動かして、声を出す遊びをしてる」
ぱちり、と暁之夜は瞬いた。大きな水溜まりでばしゃりと音立てて、虫を捕まえ笑っている。みんなと『同じ』になりたいなら、真似てみれば良いだろうか。大きな水溜まり――海は冷たくて、けれどとても面白い。
神使の名は擽ったい。情報共有にと繰り出して花雪は一分一秒も惜しいとそう告げた。
(父様や兄様に見つかったら、連れ戻されてしまう。あの家には戻りたくない。私は、父様達の――『憑森』のお飾り人形じゃない)
認めて貰うために、もっと、と乞うた。この地の外は何があるのか。まだ見ぬそれに、心を躍らせ。
「ここは…私の元居た世界よりも、少しばかり古い時代なのでしょうか」
そう首を傾いだ茜音。見物と観光かねて、散策をと歩み出せば、団子や茶なあど興味は擽られる。
「私の知る、元の世界での作法と似たものなのでしょうか。それに歴史も。
此処の空気は近いものを感じて落ち着きますが、全てが全て同じではないでしょう」
似ているからこそ、知りたくて。何処か、探しに行くのも楽しいだろうか。
「さて、折角買った煙草だが……」
高天京にきて買ってみた配意が煙管は無理があるかとシガーは息を吐く。どうにも口寂しくて、朝霧お勧め幸福堂へと顔出せば、大忙しの店主の笑みが迎え入れる。
「良ければ一本?」
「有り難うございます」
それでは、と一本手にをった希紗良は喜ばしげに目を細める。観光目的で訪れるのは初めての高天京は思ったよりも広く、愉快だ。のんびりと団子を食べ渋めのお茶を喉へと流し込めば癒やしが胸に溢れ出す。
「一度こうやって、のんびり団子を食べてみたかったのであります…茶屋とは実によきもの」
町の中をぐるぐると、アイリスは傍らの玉蘭を振り返る。浮かれ手歩くイレギュラーズ達が多いねとそう告げるアイリスは「幸福堂の限定お菓子」と小さく呟いた。
「この地に召喚されてから日は浅いですが私もなんだか浮かれている気がします。
……幸福堂の限定お団子……美味しいのですかそれは?」
食いつく玉蘭に買いに行こうとアイリスは頷き返す。きっと、驚くほどに美味しい筈だ。
迷子にならなければ良いのですが、とマギーは小さく小さく呟いた。買い物は勿論、現地民との交流こそが本日の目的だ。
「あ、ついでにボクのカムイグラ風衣裳を見て回りましょうか? あからさまに他国の装いなのは一目で神使と分かって便利ですが……」
同じ衣裳の方が警戒心を解いてくれるかとあちらこちらを見て回る。
つづり君、と愛無は彼女を呼んだ。祭りだ何だと忙しい時期でもあろうが、夏でも日持ちする甘味を一つ。晴明に「彼女は何を好むだろうか」と問いかければ羊羹を勧められたと愛無は静かにそう言った。
「さて、つづり君の労をねぎらいに来たのだが。それはそうとして。そそぎ君は何が好きなのだろう?」
「そそぎ、が?」
「ああ。次はそれを買ってこようと思うゆえに。……何はともあれ、早く二人が共に過ごせると良いな」
巫女装束を身に纏いつるはつづりの許へと歩を進めた。
「巫女様、一つ願いの儀あり。御宮に舞を納め奉りたし」
「ここは、けがれの地――それでも良ければ、どうぞ」
不安げにそう告げるつづりにつるは目は半ば、呼吸は深く体の力は緩めども崩さず、舞う。
神とは万能超越たるものにあらず、天地万物森羅万象にして、ただ座すものなり、彼の方への慰めに踊る。
「ああ、いた」とラグラは手を振った。「セーメー、早く」と彼を呼ぶ。
「背負うのは勝手ですが、潰れられるとこっちが困んですよ。だからそうなる前に頼れる相手を頼れって話。誰か一人に預けてばかりじゃ相手も疲れるわけだ。ちょうど大陸から来た連中がいるわけですし、何かと都合のいい相手じゃん」
つづり、と傍に立っていた彼女を呼べば、晴明の背中からそう、と顔を見せる。
「あれは味方ですよ」
「うん……」
「まあ、貴殿よりはまともか」
呟く晴明に「は? 私ちゃんはいつもマトモやが?」とラグラはきい、と晴明を睨め付けた。
天蓋に星飾る。ひとつ、ふたつと数えては。鍛錬の日は穏やかに過ぎ去った――
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加有難うございました。
豊穣を楽しんでいただけましたらば、幸いです。
GMコメント
Re:versionです。三周年ありがとうございます!
今回は特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングVIIは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングVII<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【アランズブートキャンプ】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●注意
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
●任務達成条件
・真面目(?)に面白く(?)健やかに、トレーニングしましょう。
・楽しく過ごしましょう
・豊穣(カムイグラ)をのんびりと旅しましょう
●GMより
日下部あやめです。大役を担い緊張しております。
ローレットトレーニングカムイグラを担当させていただきます。
お好きなように過ごしていただければ(観光、訓練、里帰りなどなど)と思います。
どうぞ、宜しくお願い致します。
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