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シナリオ詳細

<鉄と血と>悪しき狼

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『悪しき狼』
 それは、ひたひたとやってくる。
 おぞましき冬の知らせ。びゅうびゅうと風が吹けばその獣は氷の牙を突き立てるだろう。
 扉をも蹴破り、獣は全てを蹂躙して去って行く。それは災いの象徴だった。
 冬の狼は唯、腹を空かせていた。目に映る者全てを食べてしまうのだ。
 月を喰らって、深い夜を作った。
 太陽を喰らって、陽など遠ざけた。
 そうして世界を深い深い冬に閉ざしてしまうのだ。
 そんな狼は、手脚をもがれ、首を落とされて封じられた。
 いまや、静かに眠るその狼が暗い夜には姿を見せる。
 ――だから、雪深い夜は一人で外に出てはいけないよ。悪い狼に食べられてしまうから。

「おばあさま、救いはないの?」
 兎の耳を生やした少女が、血の繋がらぬ『祖母』に問うた。
 ふかふかとしたベッドで子供にこの御伽噺を語り聞かせる風習がヴィーザルには旧くからあったのだ。
 冬の夜は一人で出て行ってはいけない、フローズヴィトニルに食べられてしまうから。
 そんな御伽噺が教訓として語られるのだ。耳を傾けた娘の頭を撫でながら『祖母』は笑う。
「いいえ、そんな狼にも少しだけ救いが合ったのでしょうね。狼を愛した人が居たのです。
 その人の心が、狼の力と混ざって『狼の唯一の理解者』になった。その優しい心こそ、冬を終らせる春の魔法なのですよ」
 アルア、と呼んだ『祖母』は腹をぽん、ぽんと叩きながら微笑む。
「春?」
 眠気眼を擦った娘に『祖母』は――ブリギット・トール・ウォンブラング (p3n000291)は微笑んだ。
「ええ、春ですよ。冬の雪が溶ければヴィーザルにも春が訪れます。
 春の訪れを告げる白花を見付けに行きましょう。だから、今日はお眠りなさい。アルア、わたくしの可愛い子供達」

 死の神よ。スケッルスの槌よ。まだ振り下ろさないでおくれ。
 空の盃に並々と注ぐその日が来たならば、この体など雷に打たれて朽ちても構わない。
 革命派だけではない。出会った全てのイレギュラーズがブリギットにとっては優しく、可愛い子供達だった。
 大切な命の数々。例え、『村の子供達だと誤認していた』だけであったとしても、愛着は本物だった。
 無条件で愛した。無条件で護りたかった。ただ、子供達が――イレギュラーズが笑っていてくれるだけで良かったのだ。
わたくしは、ただ、幸せになって欲しかっただけなのです。
 だから……だからこそ、この『冬』を終らせなくては――例え、何が起きたって」
 フギン=ムニン。
 貴方がフローズヴィトニルでバルナバスの権能を喰らい寝首を掻くことが狙いならば。
 ……わたくしだって。
 この命が朽ちて仕舞っても構わないのですから。

●フギン=ムニン
 男はラサの出身である。言葉には出来ぬ薬品ばかりを扱っていた薬屋の跡継ぎとして産まれた。
 だが、生活は切り詰めても足りない程。だからこそ、悪い薬に、悪い人間に、と縋るように手を伸ばしてしまったのだ。
 ある時、母は幻想貴族の男に求められて合法ではない強い薬を調合して売りつけた。
 薬を盛られたのは名のある貴族だったらしい。薬の出所を突き止められ、傭兵は青年の生家を蹂躙した。
 命辛々、幾許かの薬を手に逃亡した男を拾ったのは『蠍座』の如き輝きを有した男だった。
 男には力も無い。持っていたのは僅かな薬と薬学の知識、それから、ほんのちょっとの貴族とのコネだった。

 ――生きていたいのです。

 懇願し、その膝に縋り付いた時、プライドなんてチンケなものは持ち合わせてやなかった。
 男は詰まらなさそうに「勝手にしろ」と言った。興味も持たなかったのかも知れない。
 彼に認められれば生活も楽になろう。その気持ちで彼の傍に居ただけだったというのに、情が移った。どうしようも無く魅せられた。
 所詮は下層の、底辺の人間だ。恵まれてなんかいない。
 だと言うのに、莫迦みたいな理想を、莫迦みたいに追掛けるその人が眩くて、堪らなかったのだ。
 そんな理想の後を継ごうとした己だって莫迦者だ。何とでも云って笑えば良い。
 だが――たった一つの命の使い方ぐらいどうしたっていいだろう。

 バルナバスだって、どうでもいい。
 鉄帝国だって、どうでもいい。
 すべては、あの人が、眩きただ一つの蠍座の光が目指した『もの』を得たかっただけなのだ。

「いやあ、お涙頂戴だねえ」
 手を叩いた『脱獄王』ドージェは寒々しい氷の城の中で笑っていた。
 フローズヴィトニルの冬の力を伴い、急造されたこの場所は鉄帝帝都の郊外に位置している。
『アラクラン』の本拠とされたその場所の最奥で『フローズヴィトニル』の覚醒が始まろうとしていた。
 そんな危険地帯に彼が居るのは単純明快、この場所に居ればイレギュラーズがやってくる。綺麗な目玉に、美しい腕、特別なパーツを持った者達を多く見、殺せば奪う事が出来るからだ。
「それで? 総帥はどうするんだったかなあ」
「あはは、ドージェがとぼけてる」
「絶対、言わせたいだけだよね」
 手を叩いて笑っているのは魅咲と乱花と言う二人の魔種だった。少年のなりをしている二人は外交官ローズルに連れられ遣ってきた。
 ただの賑やかしのつもりなのだろうが、魅咲はフギン=ムニンの理想の物語に興味を持った。
 ただ、その飽くなき知識欲だけがこの場に二人を留まらせ、二人を戦いに駆り立てているのだ。
「……茶化していますか」
「「いいえ!」」
 不機嫌そうに眉を吊り上げたフギンに乱花と魅咲が首を振る。クロックホルムが嘆息し、ローズルは笑った。

「――フローズヴィトニルの『覚醒』を」

 生憎ながら欠片自体はイレギュラーズの手に渡ってしまった。だが、フローズヴィトニルの『首』たる主の封印はフギン=ムニンの手の内だ。
 現在ではビーストテイマーとして高い能力を有していたクラウィス=カデナが『自身の使役生物』であった相棒の2匹の狼を引き換えに『フローズヴィトニル』とパスを繋いでいる状態になる。クラウィスの生命力と2匹の狼の力を引き換えにしながらフローズヴィトニルは無数の分霊を作りだし獲物(イレギュラーズ)を待っているのだ。
「クラウィスだけで足りなくなったらどうするの?」
「ええ、勿論。何だって餌にしましょう。そうしてその肉体が実体化し、覚醒にあと一歩となればフローズヴィトニルはこの場所を飛び出して行くはずです」
 目的はバルナバスの権能たる太陽だ。それを喰らえばフローズヴィトニルは覚醒し、この国を冬に閉ざすだろう。
 だが、制御は『要石』を有すれば容易だ。クラウィスが死したならば、次はエリス・マスカレイドを捉え、その力を要石にでも込めれば制御しきれるだろう。
 ……余波で幻想や天義、ラサ辺りは冬に飲まれるかも知れないが必要な犠牲だと認識しておくべきだろう。
 猛吹雪に閉ざされた鉄帝で新たな王国を作り上げることこそがフギンの目的なのだから。
「そんなに上手くいきますでしょうか」
「さあ?」
「おや、珍しい。貴方ともあろう人が曖昧な答えを返すのですね」
 ローズルは穏やかに微笑んだままフギンを眺めた。強い精神力を有する青年は悪辣で有ながら憤怒の声には靡かない。
 ただ、愉快だからトコの場所に居座っている外交官にフギンは「少々、困ったことがありましてね」と肩を竦めた。

 一つは、革命派を瓦解させるべく送り込んだブリギットの事だった。
『革命派の象徴』であったアミナを反転させ、派閥を分解させてイレギュラーズの余力を削る事が目的であったが、失敗に終わっている。
 アミナは改めて人民軍と共に戦う決意をし、ブリギットなど『狂気』に蝕まれながらも僅かな正気を保っている。
 あれだけ愛情の強い女だ。イレギュラーズの事を我が子のように思って居る。何をしでかすかは分からない。

 もう一つはと言えばエリス・マスカレイドがイレギュラーズと好意的である事である。
 どのみち彼女はフローズヴィトニルのためにこの場所にやってくるだろうが――さて、その時にイレギュラーズがその命を守り抜く可能性がある。
 エリスならば何処で死んだとて、その気配をフローズヴィトニルが逃すわけがない。さっさと何処かで野垂れ死に糧にしたかったのだが銀の森のガードは強かった。

「……バルナバスが太陽を喰わせるわけがないというのは考えないのですか?」
「よい質問ですね、クロックホルム」
 嘗ては幻想騎士であり、己の主人であった貴族に手酷い裏切りを受けた事で憤怒に寄り添った男は肩を竦める。
 フギンは「あの男はその様な事を考えやしないでしょう」と静かに告げた。
 どのみち、其れは最期だ。その前にあの太陽が全てを無に帰す可能性もある。その場合はフローズヴィトニルの氷で己達だけでも守り抜けば良いのだ。
「だからこそ、心配事の二つだけをどうにかするだけです。イレギュラーズはあの手この手でこの城の陥落を狙うでしょうからね」
「しつもーん! この城って、フローズヴィトニルが死んだら消え失せるんすか?」
「はい。乱花。その通りです」
 ならば――護るべきは単純明快フローズヴィトニルなのだと魔種の少年達は笑った。

●氷の城にて
「……途轍もない気配です」
 ふるり、と震えたのはエリス・マスカレイドであった。『氷の精霊女王』はわがままであっても連れて行って欲しいとこの場までやって来た。
 城の周りは吹雪に包まれ、雪が聳えるように積もっている。
 その一体だけが深い冬ののようであったのだ。春を忘れた『冬』の領域だ。

「この先にフローズヴィトニルがいます」
 エリスは指差した。封じられ悪しき獣が腹を空かせて待っている。
「あれを封じなくては……わたしの、命に代えたって」
 エリスは震える声で、そう言った。封じる為にはフローズヴィトニルの近くに行かねばならない。
 エリス・マスカレイドは『善性』の欠片だ。フローズヴィトニルの中に存在したそれは分かたれ、力の管理者としての役割を担う。
 外付け制御装置、と表現するのが正しいのだろう。彼女の強力なくしては封印を行なう事は出来まい。

 ――エリスは要石を破壊するように言っているが、フローズヴィトニルの再封印には要石が必要なのではなかろうか。
   まさか、エリス自身が要石の代わりになるつもりなのでは……

 その様な推測を行なった者も居た。その通りだとはエリスは答えやしないが『最悪の場合』はそうする事も出来る。
 ……その決断を出すには未だ遠い。その前に、この城を攻略し狼の前に辿り着かなくてはならない。

 降り積もる雪が全てを閉ざす。
 天は鳴くように光を走らせた。
 春は、まだ遠い――

GMコメント

夏あかねです。

●作戦目標
 ・『悪しき狼』フローズヴィトニルの再封印
 ・フギン=ムニン及び敵勢魔種の撃退、撃破
 ・『氷の城』の崩壊

●重要な備考
 当ラリーは『悪しき狼』フローズヴィトニルが『氷の城』から飛び出した時点で失敗判定となります。
 皆さんは<鉄と血と>系ラリーのどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
(決戦シナリオ形式との同時参加も可能となります)

 ・参加時の注意事項
 『同行者』が居る場合は選択肢にて『同行者有』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。

 ・プレイング失効に関して
 進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
 そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。

 ・エネミー&味方状況について
 シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時の情報です。詳細は『各章 一章』をご確認下さい。

 ・章進行について
 不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
 (正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●フィールド
 鉄帝国帝都近くに作り上げられた『氷の城』です。非常に巨大な建造物であり、帝都外郭に位置する場所に存在しています。
 この内部には『フローズヴィトニル(氷狼)』が存在している他、魔種などが配置されているようです。
 内部の現状は把握することは不可能ですが、フローズヴィトニルは完全覚醒に至っていないため、最奥部分で目覚めるのを待っている状況でしょう。
 皆さんは、氷の城を攻略し、フローズヴィトニルへと到達、そしてその『再封印』を行なって下さい。

●『フローズヴィトニル』
 悪しき狼と呼ばれた鉄帝国の厳冬の原因。猛吹雪を産み出し、全てを雪に包み込む力を有しています。
 精霊であったとされていますが、意思の疎通は不可能であり、現状は全てを呑み喰らう妄執の塊ともいえます。
 非常に餓えて居るためか、原動力に人の命を引き換えとしています。ですが、完全覚醒時にはバルナバスの権能たる太陽を喰らうことを目論むでしょう。
(そして、完全覚醒した際には鉄帝国の全てを終らぬ冬に飲み込み、その余波は近隣諸国をも包み込むことが推測されています)

【データ】
 ・現時点では巨大な首だけでしょう。章の進行(時間経過)と共に徐々にその肉体が取り戻されて行きます。
  ※アラクランの目的はフローズヴィトニルの掌握及び完全覚醒である為、イレギュラーズを侵入者として食い止めるでしょう
 ・実体化している部位とは他に、その姿を小さくした分霊が無数に産み出されイレギュラーズと相対することが推測されます。

【主だったステータス】
 ・分霊召喚:複数の分霊を召喚し、それぞれを個別ユニットとして動かします。一定ダメージで消失、ダメージは本体に蓄積します。
 ・狂吹雪:P。フィールド上の全ての存在に対して『凍結』系統のBSの付与を行ないます。
 ・凍て付く牙:単体対象に対して強烈なダメージ。『出血』及び『不吉』系列のBS付与を行ないます。
 ・氷の息吹:幅広い複数対象に対してランダムで何らかのBSを5つ付与。中程度のダメージ。

 ・狂化:???
 ・使役:???

●魔種
 ・『総帥』フギン=ムニン
 魔種。『アラクラン』総帥。革命派ではギュルヴィと名乗っていた男。
 新生・砂蠍と呼ばれた幻想王国を襲った盗賊団の頭領キングスコルピオの副官。イレギュラーズには一度の敗北経験が有。
 その際にはイレギュラーズ三人を捕虜に取り、取引を持ちかけ二人が応じて寝返り死亡しました。
 バルナバスに声を掛けられ憤怒により反転し、現在は彼の側近のように動いていますが、目的は別です。
 フギンの目的はキングスコルピオのための国を得る事。バルナバスをも打ち倒し、己が最期に立っていればよいと考えて居るようです。

 ・『爪研ぎ鴉』クロックホルム
 魔種。前線で戦う事に長けた青年。筋骨隆々であり、所持するは無骨な斧です。フギンの副官であり、彼に付き従っています。
 フギンを庇う他、指揮官のように動きます。基本はフギン第一です。元は幻想の騎士。その矜持も落ちました。

 ・『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラング
 魔種。ハイエスタの魔女。ウォンブラングと呼ばれた村の指導者であり、非常に強力な雷の魔術を使用する事が可能です。
 イレギュラーズを本当の我が子のように扱い、慈しんでいます。それでも為さねばならぬ事があると認識しているようです。

 ・『無銘の』ローズル
 鉄帝国の外交官の青年。フギンと共に活動して居ます。平凡な日常が詰まらなかった為に手を組んでいるようです。
 いっそのこと誰かがこの力ばかりの国を蹂躙してくれればなどと思って居るようですが――

 ・『奔放の白刃』乱花
 ・『狡知の幻霧』魅咲
 魔種。暴食の魅咲と怠惰の乱花。互いのみが大切であるため、仲間でも最悪死ねば良いと考えて居ます。
 乱花は剣を駆使し戦います。我流としか呼べぬ変幻自在な太刀筋は読みづらく強力なユニットと言えるでしょう。
 魅咲は蒐集した知識を駆使した神秘アタッカー。物理的な破壊は知識の消失や欠損になると幻惑などの搦め手を得意とします。

 ・『ビーストテイマー』クラウィス・カデナ中佐
 魔種。鉄帝国軍。中佐。ビーストテイマーです。元々はアーカーシュアーカイブスの編纂にも関わっていました。
 刀を獲物としていますが、本職は獣たちを駆使することであり卓越した技能を有します。
 フローズヴィトニルの封印である『要石』を所持しています。意識朦朧としており乱花と魅咲に護られています。
 また、『要石』とクラウィスを繋ぐのは彼の相棒であった2匹の狼であるようですが……。

 ・『脱獄王』ドージェ
 犯罪者として収容されていた男。恩赦を受けて最近出て来ました。受けなくても出てくるけど。
 ハンティングトロフィーとして人間も含め、パーツを奪い取っていく収集癖があります。此処に居ればイレギュラーズの目玉取り放題ってマジィッ!?

●味方NPC
 当シナリオでは『海洋』『豊穣』のNPCなどが皆さんの支援に向けて動き出しているようです。
 シナリオの進行により援軍は変化します。詳しくは『ラリー各章 の 一節目』を参照して下さい。

 ・ラド・バウ闘士
 ランク帯で言えばBまでの闘士達が疏らにお手伝いに訪れています。

 ・アルア・ウォンブラング
 ブリギット・トール・ウォンブラングの義理の孫娘。彼女の最期を看取るために皆さんと戦います。

 ・『氷の精霊女王』エリス・マスカレイド
 フローズヴィトニルの欠片。ある程度の自衛は可能です。フローズヴィトニルの居場所を探知します。

 ・月原・亮 (p3n000006)、ウォロク・ウォンバット (p3n000125)&マイケル、建葉・晴明 (p3n000180)、珱・琉珂 (p3n000246)
 夏あかね所有NPCです。何かあればお声かけ下さい。ご指示頂けましたらその通り活動致します。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者(プレイング採用者)全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran


同行者確認
同時に行動する方が居るかの確認用です。
【同行者】が居る場合は【同行者有】を選択の上、プレイング冒頭に
【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をご記入下さい

【1】ソロ参加
個人参加です。

【2】チーム参加
プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】をご記載下さい。
チーム人数については迷子対策です。チーム人数確定後にご記入下さい。
例:【月リリ(2)】

  • <鉄と血と>悪しき狼Lv:50以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別ラリー
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2023年03月29日 21時30分
  • 章数4章
  • 総採用数573人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

「こんにちは、イレギュラーズの皆さん。ローズルと申します。それから、こちらは『クロックホルム』
 皆さんとダンスを楽しむ為にエスコートに参りました。氷の下で踊るのはお嫌いですか?」
 氷の城の中で『外交官』ローズルはそう言った。予想よりも早い『到着』だったと賞賛するローズルの傍には膝を付いた魅咲の姿が存在していた。
「乱花は……?」
 魔種の片割れ――乱花の名を聞いて『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が目を伏せ、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が首を振る。
 真っ青な表情をした魔種は「そっか」と呟いてから立ち上がった。
「なら、遊んでる暇はないな。死んで貰わないと……」
「やる気が出ましたか、魅咲」
 ローズルの前へと歩み出す魅咲と共にクロックホルムは武器を手に言った。
「各々に事情がある事は承知済みだ――だが、此処で歩みを止めるわけには行かない。
 申し訳ないが退いて貰おうか、イレギュラーズ。この先に待ち受ける冬は鉄帝国ならず各地を凍らせ、我らの為の力となるはずなのだから」
 フローズヴィトニルが徐々に顕現しているのだろう。
 冷気が強い。狼は、少しずつその身体を『顕現』させている。この戦いは何も全てが一つの目的のために存在していない。
 フギン=ムニンは顕現したフローズヴィトニルにバルナバスの権能を喰わせ、其れ等全てを横取りするつもりなのだ。
 バルナバスのことも、フローズヴィトニルのことも何方も捨置くことは出来ない。
 ならば――押し通らなくてはならない。

「倒せば良いのか」
 淡々と聞こえた声音に、イレギュラーズは振り向いた。
 優美な笑みを浮かべていた男は「青龍」と呼ぶ。
「……」
 風に乗って、『何か音』が届けられた。耳の良い物にはそれが発砲の合図だと理解したことだろう。
 背後で着弾の音がする。海洋で使用されている艦隊の砲弾だ。
 海洋は『わざわざ北側』の海に回り込みこの氷の城に一撃を投じたのだ。
『――着弾致しましたわね!?』
「ああ、カヌレ嬢。有り難う。引き続きの援護を頼む」
『分かりましたわ! このカヌレ・ジェラート・コンテュール! 此度ばかりは海賊のように戦って見せますわよ!』
 その声が響いたのは何ぞかの権能なのだろう。
 突然の砲撃。そして、突然姿を現した『主』に建葉・晴明 (p3n000180)が「賀澄殿」と呆けたように男の名を呼んだ。
『霞帝』今園・賀澄――カムイグラの主である男は扇で口元を覆ってから笑う。
「白虎」
「オッケー! がおー!」
 四神が一人、白虎は勢い良く呼び込んだ。周囲に満ちた『金』の気配。硬質な鉛玉が作り上げられ、
「朱雀」
「……ん……ふあぁ、こうかな……」
 炎が纏わり付いた。四神が一人、朱雀は眠たげに賀澄の服を引っ張り抱きかかえることを所望している。
「玄武」
「パアアアリイイイイ! さあ、神使達よ、何をするか示すがいい!
 我らがこの弾丸を以て支援を行なおう! 何じゃったか? シレンツィオの礼、それから『神逐』の礼じゃわい!」
 楽しげに跳ね上がった四神が一人、玄武に賀澄が大きく頷いた。
「遅れて済まない! 海洋・豊穣の連合軍より参った。
 我は『霞帝』、今園・賀澄である。貴殿等と共に轡を並べこの冬を遠ざけんとする者よ――!
 我が友人たる神使よ。俺達を手脚として使え。貴殿等の為ならば、海洋と豊穣は斯様な手段をも取ろうよ!」
 堂々と宣言する賀澄は青龍の放つ風に乗せて声を届けてから、くるりと振り向いた。
「共に戦うのを楽しみにして居ったのだよ。国は庚と瑞神に任せた。
 心配することはない。俺も案外戦えるのだ、神使よ。さあ、俺は何をすれば良い?」

=== 現在位置 ===

・氷の城のエントランスホールです
・『狡知の幻霧』魅咲、『外交官』ローズル、『爪研ぎ鴉』クロックホルムが居ます。
 どうやら、『攻略時間の早さ』と言えギュラーズの戦力確認にクロックホルムが現れたようです。
・『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラングの気配を感じます。
・魅咲は手負いです。
 漁夫の利を狙っていた『脱獄王』ドージェも手負いです。本気で仕掛けてきます。
・『氷狼の欠片達』が中心です。
・アラクラン兵士達(魔種、通常の兵士)と数が随分減ってしまった天衝種(アンチ・ヘイヴン)の姿もあります。

 ・氷狼の欠片達:フローズヴィトニルによって産み出された幻影です。非常に獰猛。牙や爪を駆使し攻撃します。詳細不明
 ・アラクランの兵士達:様々なスペックを有するユニットです。

 ・ヘイトクルー(機銃型):機銃のような幻影による怒り任せの射撃や掃射で物理中~遠距離攻撃してきます。
 ・ストリガー:燃えさかる爪を怒り任せに振るいます。至~近距離の単体や列への攻撃を行い、『火炎』系のBSを伴います。
 ・ヘァズ・フィラン:空を飛行し、弱者と思わしき者を集団で嬲ります。反応、機動力、EXAに優れ、牙には毒もある模様です。
 ・プレーグメイデン:怒り任せの衝撃波のような神秘中~超距離攻撃してきます。単体と範囲があり、『毒』系、『凍結』系、『狂気』のBSを伴います。威力は高くありませんが、厄介です。

===フローズヴィトニルに関して===
 エリス・マスカレイド曰く、『首よりももう少し顕現してきたそう』です。
 現在地は城の内部……地下……でしょうか……?

===第一章援軍===
 ・豊穣軍(『霞帝』、『四神』青龍&朱雀&白虎&玄武)
 ・海洋軍(海洋軍人、海洋艦隊)
 ※海洋艦隊は外からの援護射撃です。外への指令は青龍の『権能』を使用して下さい。


第2章 第2節

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
もこねこ みーお(p3p009481)
ひだまり猫

「『予想よりも早い』ときたか……まだ何某かの余裕を残しているような言いまわしだな。
 ならその余裕の源を突き止めるか、あるいは直接叩き潰すかだが……主戦力が出回った今こそ調査の時とみるか」
 唇に指先を当て、悩ましげな仕草を見せた『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は何かを生け捕りにすべきであるかと考えた。
 アラクランの兵士であれば場内の構造を少しでも得られる可能性がある。それは、地の利という意味での戦略不利を埋めることに適しているだろう。
 氷狼の欠片に何らかの影響を及ぼす事に関しては難しそうか。ならば、前者だ。セレマは仲間達の背後で虎視眈眈と『相手』を見繕う。
「セレマちゃんは、誰かを捕まえるのですか?」
「ああ、精霊女王か。……そうだな、城の内部情報を得られることが一番だ」
 セレマにエリスは成程、と頷いてから『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)へと目配せをした。
 自身の護衛役であるジルーシャにも『城内の構造』について知る為に力を貸して欲しいという事なのだろう。フローズヴィトニルへの気配はエリスがその体で感じている。ならば、地下への通路を確保することが戦況の打破に繋がる筈だ。
「分かったわ。……エリスちゃんの頼みですものね」
 微笑んだジルーシャは僅かに引き攣った笑みを浮かべていた。右眼が燃えるように痛むのだ。じくじくと傷みを孕み眼球を抉り出したくなるような気味の悪さ。
(……でも、まだ大丈夫、まだ戦えるわ。ここで止まるわけにはいかないのは、こっちだって同じよ)
 目の前に襲い来る兵士をジルーシャは襟首を掴んでからセレマの側へと押し遣った。天衝種が続き襲い来る。
「アタシたちはフローズヴィトニルの所へ行かなくちゃいけないんだから――さっさと退いて頂戴な!」
 叫ぶジルーシャは唇を噛んだ。フローズヴィトニル、聞こてやしないだろうが悪態くらいは吐きたかった。それを封じる為に誰かが犠牲になる可能性があるのだ。それを納得など出来るものか。
「さぁてフローズヴィトニルちゃんは何処かなー。まずは居場所を探るのが最優先だけど。
 その辺りはお任せしておこうかな。探りを入れるのは得意技ではあるけれどエリスちゃんに群がられるのも困るからね?」
 くすくすと笑った『氷狼の封印を求めし者』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は近寄ってくる欠片達を一掃しながらも、ファミリアーを利用し、そして自身の耳や目を頼りに戦場地形を確かめていた。広々としたエントランスホールの天井は高い。吹き抜けにもなっているのだろうか。
 だが、相手が地下に存在しているというならば精霊による認識阻害でも存在していると考えるべきだ。美しい氷の気配。門番のように立ちはだかる魔種達を此処で打ち倒さねば道が拓けない――何て事が有り得そうだと小さく笑って。
 後方から聞こえる砲撃の音は周辺で暴れ回る天衝種への威嚇射撃か。海洋軍による援護射撃が続き、兵士達も船から下りて国内の支援に向かっているらしい。
「海洋軍の人達とは共に死線を潜り抜けた縁がある……頼もしいわね。盛大なダンスパーティにしましょう」
 笑みを浮かべた『少女提督』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)に「お任せあれ」と海洋軍人の青年が頷いた。
 アンナは彼等のサポートを兼任しながら指揮系統を崩さぬように戦況を鑑みて指示を送っていた。だが、それだけではない。少女提督は自らもがまた、戦う事を諦めない。
「あの過酷な海を踏破した我等にとって、この程度の冬は春も同然だと犬っころに見せつけましょう!」
 唇を震わせる。ひらり、くるり。魔性の舞を見せ付ける。不滅の布は夜よりも、あの絶望よりも尚も深く暗い色彩にアンナの魔力を宿らせた。
「豪華な援軍の到来だ。これは弱気を見せる訳には行かないよね! もう一押し、頑張らないとね……!」
 後方からは豊穣軍の気配までもある。到着が遅れてしまったと詫びては居たが、心強いと告げた『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は前線へと走り出す。
 数が減ったと言えども、戦場を握っているのは彼方だ。場が混沌として来ているが相手も予想だにして居ない援軍を受けて混乱の最中であろう。何せ、鉄帝国は侵略国家だ。『数年前までの常識』であれば海洋が援軍に来るわけもなく。そもそも絶望の向こう側の豊穣など認識されているわけがない。
「コッチの手札が増えたのだから、此処は攻めるだけだね」
 状況が状況だ。不測の事態には備えておくべきだ。だが、それ以上に此処で一気呵成に攻め立てること事が勝機を掴む可能性ともなろう。眩き光が広がっていく。カインの片手剣に魔力が宿った。
 眩き光の中で、飛び込んできた氷狼を受け止めたのは『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)。盾も、回復も。その何れもを担当し、出来うる限りの被害を低減させるのが慧の役割だ。
「さて、お手並み拝見ってやつっすかね?」
 氷狼達は鋭い爪と牙での攻撃が中心だが絶対零度の息吹を吐出しイレギュラーズ達の脚を竦ませることがある。其れ等の戦闘のクセを見極めることがフローズヴィトニルとの戦いにも有用であると考えて居たのだ。
「欠片達が何処から出てるのかと思えば……奴っすかね。ローズル……」
 外交官を名乗る青年の傍からそれらが飛び出して来ている。どうやら、それをこの場に発生させるための何らかの細工を有しているのだろう。
 その所為なのであろうか。近付く度に寒々しい空気が周囲を包み込む。小さく震えたのは『お昼寝ひなたぼっこ』もこねこ みーお(p3p009481)。
「にゃ、寒いにゃ……」
 雉白のふわふわとした小さなみーおははあ、と白い息を吐きコートの前面を手繰り寄せた。身を縮み困らせたみーおは『世界征服砲』をそろそろと持ち上げる。
「でも……みーおも戦いますにゃ! 敵を1体でも多く倒して、皆が先に進めるようにするのですにゃー!」
 皆で進まなくてはならない。此処で寒いままなら『ずっと冬が消えてくれない』のだ。
 そんな事は嫌だった。ひだまりでのんびりと眠る日々が愛おしいのだ。周辺へと降る鋼の驟雨。その下を走り抜けていくのは『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)や『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)であった。
 襲い来る天衝種を真っ直ぐに見詰めて、猫の耳をぺおこりと折り曲げる。
「皆進まなきゃいけないのですにゃ! これ以上邪魔しないでほしいですにゃー!」
 そう。進まねばならないのだ。状況が動いたが、それでも尚、決定打には至らない。オリーブはロングソードを握り、感じた『雷の気配』に眉を顰めた。
(この気配は――『ドルイド』でしょうか)
『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラング。その彼女が何処かに居る。奥に控えているのか、それとも。
「……彼女とはあの時以来です。あの時の選択が彼女を魔種としました。
 選択の是非善悪妥当か否かは今でも分かりません。だから、決着を付けなければなりません」
「ブリギットさま、と」
 震える声音が聞こえた。『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)も彼女との再会を望んでいたのだ。
「ブリギット様の教えてくれた『かなしい』を、ニルはなくしたい。
 だからニルはここに来たのです。だってニルは、かなしいのは、いやなのです」
「……そうですね。前提として、自分はイレギュラーズで彼女は魔種。
 結末は決まっているでしょう。それでも聞いておきたいのです。彼女が何を想い、何を願うか」
「はい。だから、ブリギットさまを、探しましょう」
 ニルはぎゅう、とミラベル・ワンドを握りしめた。眩いアメトリン、その光の下をニルは走る。
 寒くなってきて、身体もぎしり、と音を立てるような気がする。豊穣や海洋の援軍が居たって、その寒さすべては消えやしない。
 冷気を余り吸い込まぬようにして、魔力を叩きつけた天衝種が倒れる光景は『かなしい』のだろうか。
 そんなことを思うニルの前で射撃戦を披露するオリーブは表情を変えることは無かった。
「さて、遅参しました……が……流石、この様子なら押し込むこと自体は問題無さそうね。
 霞帝に四神まで国を出てきたなんて、カムイグラにとっても歴史に残る一事でしょうね。中務卿の胃は苦しそうですが」
 舞花は後方を見遣った。酷く青褪めた表情の中務卿が苹果ジュースを差し入れられている。何とも言えぬ光景だ。
 だが、霞帝は旅人。彼の過去については小耳に挟んだ程度だが『豊穣の危機を救うだけの力』を嘗ては有していた存在だ。
(……頼りにさせて貰う方が良い。
 ――一方のアラクランは、あの男、確かギュルヴィ……フギン=ムニンの副官。
 彼を前線に出してくるとは、余程戦況が気になっている様ね。
 何処まで時間を稼げるか確認しに来た、という所か。
 ……ならまだ時間が欲しい可能性が高い。一押し二押し、一気に押し切ってしまうのが良さそうですね)
 目の前のクロックホルムが此処で倒されればフギン=ムニンにとっても予想外の打撃になる筈だ。
 舞花は舞う。心に応じ、身体が動く。水月の境地に至った、その剣戟を以てその道を開くように。

成否

成功

状態異常
八重 慧(p3p008813)[重傷]
歪角ノ夜叉

第2章 第3節

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

「賀澄殿!」
 酷く狼狽している『中務卿』建葉・晴明 (p3n000180)に悪びれた様子の一つも見せない『霞帝』今園・賀澄は輝かんばかりの笑顔であった。
「セイメイ、安心しろ。俺は案外戦える」
「その様な事を申している訳では! 御身は高天京にとってどれ程重要な……」
『過保護な弟分』に賀澄は慣れきっているのかからからと笑い続けるのみである。
「帝……以前からアグレッシブだとは思っていたが……よもやこんな前線に出てくるとは。ROOの時を思い出したな。彼らも元気にしているといいが」
 呟く『やさしき愛妻家』黒影 鬼灯(p3p007949)の腕の中で章姫が「帝さん!」と手を振っている。「章姫、前線は危険だ」「御身が言えた事であろうか」と未だ落ち着かぬ豊穣郷の面々を眺めては鬼灯は後で彼には胃薬を差し入れなくてはならないかと考えた。
「……あっ晴明さま、お薬飲んでおきます、か?」
 オロオロとしていた『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)が考えるに霞帝が踏み込むならばその更に前を進み、彼の眼前に敵を残さぬようにすればその身を守れるだろう。鬼灯もその役割を担うが為に敢て霞帝の盾となっているようでもある。
「はい晴明様、こんなこともあろうかと! お薬持ってきて正解でした。よろしければどうぞ……あ、メイメイ様もすみませんお水とかあれば……」
『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)が差し出したとてもよく効く胃薬にメイメイが飲み水を用意している。
「妙見子殿は――……」
「あぁ……すみません、心配してくださってるんですよね、妙見子のこと。
 ふふっ! もうどうせこの場にいる時点で筒抜けになってますし気にしないでくださいませ」
 己がどの様な存在であれど霞帝は何も気にせぬだろう。混沌はそう言う場所だと納得でもしてみせるかのようだ。
「貴殿が妙見子殿か。うちの晴明が世話になっているな。メイメイ殿、苹果ジュースは後で章姫と飲んでも構わぬか」
「め、めえ……」
 やけにフランクな霞帝に晴明が頭を抱えている。突如としてやって来た霞帝に驚きはしたが晴明の顔を見るとメイメイは妙に可笑しくなってしまったのだ。
「ふふっ……賀澄さまはそういう御方、なのでした、ね、晴明さま」
「ああ……」
 後ろで大人しくしてくれるような存在ではない。危機があれば走ってきて、誰よりも真っ直ぐに言葉を放つ彼。
 ――屹度、豊穣郷が抱えている小さな問題を神使に頼むためにやって来たのだろう、なんて霞帝の政治的思惑を感じながらメイメイは「どっかんと、やってしまいましょう」と前を見据えた。
「さ、もうひと踏ん張りです! 春を迎えに行きましょう、我々の手で、掴み取るのです。こんなにたくさんの方が力を貸してくださるのですから」
「ああ、任せ――」
 妙見子より前に歩み出そうとした霞帝の腕を章姫がぎゅっと掴んでから鬼灯が首を振った。可愛い章姫にとっては父のような存在だ。
「ダメなのだわ、帝さん! これが終ったら遊んで良いって鬼灯くんが言っていたのに前に行くと怪我をしてしまうのだわ」
「大丈夫だ。俺の剣は結構鋭い」
「ぶははははっ!」
 前に行きたがる霞帝を見ているだけで思わず笑みが浮かんできてしまう『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
「霞の帝さんよ! 『脱獄王』ドージェって奴が居る。それへの警戒をしてくれねぇか?」
「成程、構わぬ。黄龍、前征く者に加護を与えて遣ってくれぬか。朱雀と白虎は好きにするといい!」
「はい、がおー!」
「……ん」
 何処からか現れるのであろう相手に備えることが己の役割と認識したのだろう。ゴリョウは妙見子と共に迫り来る敵を引付ける役割を担っていた。
 的となれば、ヒット率も上がる。敵の攻撃を集中させ、後方から朱雀が放つ攻撃を集めた敵に叩き込むのが狙いだ。
「朱雀、ゴリョウ殿を倒すなよ」
「……うん」
 こくりと頷く朱雀の傍で玄武が「何をすれば良いかのう?」と『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)に問うている。
「いやはや霞帝と四神が揃い踏みとは壮観だ。これは猶更張り切らないと行けないな! 玄武は……そうだな、何が出来る?」
「祭りじゃーーーーー!!!!」
 楽しげな『おじいちゃん』に錬は霞帝を振り返ったが彼は楽しそうに笑うだけである。因みに玄武は堅牢なその身を武器に戦う事も出来よう。
 錬と共に前線を駆けることも出来るが、どうやら神使による指示を待っているようだ。
「優秀なタンクが多い。霞帝を護る事が必要不可欠だろうな」
 長杖を手にしていた錬の符が形作って行く。五行の気配は四神にとっても心地良い。ゴリョウの集めた敵へと放たれた陰陽の暗黒の滴。
 その上空より降り注いだのは鮮やかなる雷。懐中時計の針が進む。
「私は豊穣のこと、何にも知りません。何にも知りませんが、貴方達が味方であること、そしてこの戦場に馳せ参じてくれたことは知ってます。
 ですから、一緒にこの冬を乗り越えます!」
「俺を信頼してくれ、ノア殿。俺も晴明も、貴殿等の友人だ」
 堂々たる霞帝に『雪花の燐光』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)は頷いた。その真摯な眸を見れば信の置ける相手であることが分かる。
 周りの反応を見れば、彼が誰であるかは分かった。霞帝――つまり豊穣郷の国家君主に君臨するその人が国を部下や『大精霊(神霊)』に任せて此処までやってきたのだ。
(その決意に答えねばならなのでしょう。『王様』が少しでも傷付かないように、楽をさせてあげないと!)
 ノアは決意する。全てを断ち切るために前線へと進むのだ。帝が現場に出るのは如何なものかと『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)は考えたが、他国のことを言えないのは確かだと鉄帝国の『在り方』を考えた。
「こちらイレギュラーズ。海洋艦隊一同に感謝する。射撃支援はこのまま続けて頂きたい!」
 青龍を通じて声を送れば『お任せくださいませ~!』と明るいカヌレの声が返された。海洋王国で彼女の兄も胃が痛んで苦しんでいることだろう。
「参る!」
 十七号は明るく笑う霞帝を一瞥してから、皆が惹き付けていた敵を敢て陰より狙う。戦場で十七号が担うのは不意を衝き、敵陣に穴を開けることである。
「霞帝や四神まで参られるとは。これは拙者も負けてはおられぬな。さぁ、一気に駆け抜けてしまおうぞ」
 頬を緩め、そして気を引き締めてから『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は真っ向から敵を見遣った。
 気配は感じている。鼻がその『居場所』を覚えて居るのだ。
『脱獄王』ドージェは四神にも興味があるだろう。何せ、それらは顕現した大精霊だ。興味を抱かぬ訳がない。
「逃げ回り続けるのももはやここまで。年貢の納め時でござるよ、脱獄王。これ以上はお主の好きにはさせぬ!」
「いや、モテる男は困るな」
 ドージェの声が聞こえて咲耶は柱を睨め付ける。
「お主の体など興味はござらぬが四肢を落とせば何もできまい? 土産にその両腕置いてゆかれよ」
「ヒュウ、見つかった」
 ――居る。脱獄王が此方を見詰めている。無くした者は多いのだろうが、それも納得の上だろう。
 男の瞳が語っている。
 今までの人生で、過ごしてきた日々の中で、狩りを行ない続けたその毎日で、この場所こそが一番『面白い獲物が多い』のだと!

===補足情報===
四神の行動指針が一部決定されました。
各位には戦闘方針を提示し指示を行なうことも可能です。

黄龍:イレギュラーズを『加護』による支援を行ないます。重傷率の低下に勤めます。
白虎:前線で戦います。アタッカーとして立ち回ることが可能。不意打ちを受けません。
朱雀:後方で援護射撃を行ないます。また攻撃を『溜』めて置くことで強大な『炎』による攻撃が可能です。

成否

成功


第2章 第4節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
赤羽 旭日(p3p008879)
朝日が昇る
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
囲 飛呂(p3p010030)
点睛穿貫

「逃げられ――あ、居た!」
 指差した『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)がドージェを睨め付ける。今のドージェは万全の状態では無い。だからこそ、姿をハッキリと探し出せるのだ。
 ドージェの他にも敵は多い。手負いの男も『現状を楽しんでいる』節がある。四神などの援助が来ると同時にどうしようもない程に男の心は躍ったことだろう。
「エリスちゃん、大丈夫だからね」
「焔ちゃんも、気をつけて下さいね」
 小さく頷いた焔はカグツチの炎を鮮やかに照らす。ドージェは咲耶の搦め手を前に真っ向から戦っているのだろう。その姿を双眸に映してから『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は決意した。
「賀澄さんに白虎さん達……外には海洋からも援護が! ここから一気に進みたい所だね。エリスさん……ごめんね、一旦近くを離れる」
「いえ、ヨゾラちゃんは為したいことをして下さいね」
 自分は大丈夫だと微笑んだエリスに頷き、『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)へとエリスを任せてヨゾラはドージェの元へと走り出した。
 強敵を前にして祝音はどくりと跳ねた古道を押さえるように息を吐く。四神達頼もしい味方がいることは安心できるが、エリスを護るという役目は重大だ。
「エリスさんに手は出させない……敵は殲滅する……!」
 震える手で魔力を手繰る寄せる祝音にエリスは「無理をしないで」と声を掛けた。そう言えども此処で無理をしなくては守り切ることも出来ない。
(ブリギットさん……どの戦場にいるんだろう。フギン・ムニンがここにいるなら……もしかして……?)
 祝音はエリスを護りながらも、ブリギットを探していた。彼女が何を思うのか。彼女がどの様に進んでいくのか、その道が気になるのだ。
「エリスさん、すこしだけ、お話ししてもいい? みゃー……」
「はい」
「エリスさん、もともとがフローズヴィトニル……外付け制御装置、って言ってたけど……。
 大本のフローズヴィトニルに何かあったら、エリスさんにも悪影響があったりする……?
 フギン・ムニンが何かしてたら……呼び声とか……そんなのは嫌だよ……」
「どう、でしょう。ですが……今は切り離された命ですから、影響は無いかもしれませんが……」
 封印には、奇跡が必要かもしれない。曖昧に笑うエリスに祝音は自分でも何かできることがあるだろうかと、そんなことだけを考えて居た。
 その会話を背に、ドージェに向けて走るヨゾラとて唇を噛み締める
(……僕の阿呆。叶えたい願いを叶える願望器なのに、エリスさんを苦しめるのは駄目だろ……!)
 エリスはフローズヴィトニルの欠片だが、別個の存在ではあるのだろう。だが、共存の道がエリスとフローズヴィトニルがひとつになることだとするなら?
(エリスさんも無事で生きて、フローズヴィトニルと話し合う……場合によっては戦って理解する? のが大事なのかな……)
 ――まだ答えは出ないヨゾラの前に無数の天衝種がやってくる。その射線を遮るように、『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)は飛行を駆使しながら穿つ。射撃の手を止めることは無く遊撃に走る旭日の赤い瞳が鋭く天衝種を睨め付けた。
「フローズヴィトニルは地下に居る……地下かぁ……尖塔とか天守閣みたいな高い位置に陣取ってくれれば空飛んで偵察できたかもなんだが……。
 いや、それこそハエ叩きされかねなかったか。慎重になれてラッキーってことで。でも――」
 外の海洋軍の『援護射撃』が及ばぬ場所に隠すとは流石だとでも云うべきか。思いつける限りを探す。
 室内戦が苦手なのは『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)も同じであった。旭日は上空、一番高いエントランスの部分から射撃の雨を降らすことで仲間達の道を切り拓く。地上より、海洋軍の砲撃を『届け』る事、そして『後方の出入り口』の確保に意識を裂いていた飛呂は退路の確保に気を配っていた。
「室内ってだけで遣りにくいってのに、あそこを通り抜けたら地下か……!」
 しかし、最奥に行き着いた後に、氷の城が瓦解する可能性がある。その時に誰もが安全無事に帰られるように道を開くのも大切だ。
 だが――
「外に逃げられるのは有り難いよね」
 ドージェのように外部に逃げ出そうとする者も居るか。そうした者達を『遮る』ように手当たり次第をしっちゃかめっちゃかに『殴る』のは『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)。
「……この戦いは未来の歴史の教科書にも載るんだろうな。
 そこに我らの勝利と綴らせるためにも、正しい春を迎えなくっちゃね。ボクも全力を尽くします! 力こそパワー!」
「げえ、闘牛がいる」
 ぼやいたドージェはリュカシスを見ていた。あちこちを壊しまくれば隠し部屋が出てくると共に敵の退路をも破壊し尽せる。
 暴れ回るリュカシスは正しく『暴れ牛』の如くである。
「逃げ場は、ないよ……!」と真っ向から声を掛けたのは『時には花を』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)。
「追い込んだ……! ワタシは狩人を狩る狼……! ドージェさん、ここで仕留めるよ!」
「狼か、猟師が獲物に喰い殺されるのはよくあることだからなあ」
 まるで己が猟師、フラーゴラは『狩られるはずだった獲物』であるかのようにドージェは呟いた。
 寒々しい雪山で、その卓越した技術で獲物を狩る。熊を、狼を、鹿を、ウサギを、そうして獲物を喰らって来た。それがドージェの生き方だった。
 生きる為に、糧を得るために、そうしてきた男が『それ』に飽きたのは何時の話しであっただろうか。飽きて、人を襲うようになったのは――
(まあ、どうでもいいな。脱獄王が『逃げられない』ってんなら最後はヴィランらしく戦わないとさあ?)
 ドージェがフラーゴラの至近距離へと近付いた。手にしていたコンバットナイフがフラーゴラの頬を切り裂く。柔らかな雪色の髪がふわりと揺らいだ。
「ッ――!」
 出口が見えなくったって、構わない。ミラクルキャンディーを舐める。ただ、自分だけを見ていろとその瞳が決意を乗せた。
 地を踏み締めて、凶き爪を突き立てる。一人では勝てないかも知れない。一人では、耐えられないかも知れない――けれど、一人では無い。
「ドージェ!」
 走り寄るのは狩猟団。角笛を吹き鳴らす『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)の唇が吊り上がる。
 外には海洋艦隊の砲撃が響き渡る。絶望の青で聞いたあの音色よりも遥かに澄んだ勝利の気配。何て気分が良いか。『可愛いスタッフ』達も船から下りて各地の戦場に向かっているだろう。
(スタッフを派遣したんだ、思いっきり暴れろよ。
 ハッ――傷は追ったが俺もまだまだ余裕があるってことか。それともかわいいスタッフ達の到着に浮かれているのか。
 なんでもいいか! まだまだ楽しめるってことだからな)
 社長がこんな所で『くたばって』堪るか。ドージェの横面に向けて叩きつけたのは『横槍』の刃。
「ダラダラ長引かせるのは好みじゃあねェ。全力で楽しもうぜ!」
「モテると困るね」
 ドージェの刃が翻るが、その先はフラーゴラには突き刺さらない。ナイフが弾かれ宙を舞う。弾丸が、無数にそれを外へ、外へと叩き込んで行く。
「さぁ、大一番と行こうじゃないか、脱獄王!」
 声を張り上げたのは『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)。銃の叫声が響き渡る――叩きつけるのは故郷の『砂』の如き銃弾の嵐。
 全てを巻き上げるように弾嵐が襲い征く。天穿つ娘は爽快に銃を唸らせた。
「こちらもそちらも手負いそのもの。さらさら取り逃がす気は無いが、数の暴力は嫌いじゃ無いだろう?」
「勿論、『燃える』ってもんだ!」
 咲耶に脚を絡め取られ。フラーゴラを前にして、男は戦う脚を縺れさせた。その頬を掠めた刃は『先』をも見通すが如く。
 人の身に余った魔導の気配はこの世界では宿らない。黄金色が煌めき、『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の片手刃が冷ややかな気配を乗せた。
「さぁこのままフィナーレまで付き合ってもらうぞ。根競べといこうじゃないか、ドージェ。尤も私は独りではないがな」
 フィナーレまで踊り狂えばそれで構わない。飄々としている男はそれでも余裕を滲ませていたのだ。最も、それもこの場においては消え去ったか。
「それでもこの眼はくれてやれない。昔は忌々しかったこともあるが今はこの眼も込みで私なのだから」
「土産にくれよ、ブレンダちゃんよ」
「くれてやるものか。お前になど!」
 出し惜しみはしない。可能性よ、その身に宿し『運命の間違い』等乗り越えて、導け。
 ブレンダの刃を避けたドージェの脚が縺れる。搦め手、そして、崩す為の策は万全だ。
 目を見開いたドージェの前にフラーゴラが立っていた。
「終わりにしよう……!」
 狼の声が響く。キドーの指令と共に飛び交った攻撃の嵐、そして――全てを振り切る銃弾が男の肩を抉る。
 鮮やかな赤。凍り付く気配の世界で全てがスローモーションにも見える。
「終わりだ、脱獄王!」
 血を辿り、そして、命の最果てまで、届けた刃は、確かに男の命を奪った感触を掌へと残していた。

成否

成功


第2章 第5節

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
優しき水竜を想う
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

「……少しだけ……少しだけ下らないことを聞いても……良いかな……?
 ……エリスさん……フローズヴィトニルは……あの狼は……僕と姿が似てる……?」
 静かな声音で問うた『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)にエリス・マスカレイドはぱちくりと瞬いた。
「……内面的な話じゃなくて……外見的に……どうかな……。
 …いや……何か抱え込んじゃってないかなって……えっと……見た目だけだけど……。
 あの狼と似ていたら……話せることもあるんじゃないかなって……。
 その……ここには助けになってくれる人も……沢山いるだろうし……きっと……もっと良い解決法だって……」
 たどたどしくも、そう紡ぐグレイルに「グレイルちゃんは優しいのですね」とエリスは目を細めた。
「いいえ、けれど、あなたのような優しい瞳も、柔らかな毛並みも、フローズヴィトニルは持っていないのです」
「……それって……?」
「氷の狼、その通り。ふれることも、怖がってしまうような、そんな姿をして居るから」
 あなたのように、優しくて、あたたかではないのだとエリスは何処か悲しげに目を細めた。
 その表情を見るだけでエリスにとってフローズヴィトニルが『大切な存在』なのだろうと『氷の女王を思う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は感じ入る。
「この小さな氷狼はエリスが制御してる。意思がないってことなのよね、きっと。
 ……でもこの子は契約してくれたわ、私はまだ欠片でも幸せにするって目標諦めてないからね、エリス!」
 真っ向からそう告げるオデットにエリスはぱちくりと瞬いた。
「よーちゃんとオデットちゃん、二人をオオカミちゃんのところまで連れて行くわ。
 エリスちゃんが何を隠してるかはわからないけど 対峙してみないと何も始まらないものね」
 お任せあれと言う様に『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)が拳を振り上げた。欠片達を倒しながら、地下の入り口を探す。
 鉄帝国の地図は未完成と呼ぶしか無い。帝都付近は煩雑であり、古代遺跡などが存在していた。
「此の辺りに必ず地下への入り口があると思うのだけれど……」
「ああ、俺もそう思う。めーちゃんが言う通り何処かにフローズヴィトニルとは関係のない地下への入り口がある筈だ」
 くまなく探す『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)にオデットは頭を悩ました。
 急いで進まなくては。フローズヴィトニルの欠片に声を掛けても、答えが無いのはエリスによる制御が『強すぎる』からなのだろうか。

 ――制御を緩めてしまえば、イレギュラーズちゃん達に害が及ぶかも知れませんから。

 そんな言葉を重ねたエリス。フローズヴィトニルもエリスも、その何方をも助けたいと願うオデットは眼前を進むレイチェルも同じ考えだろうと認識していた。
(けれど……)
 足元のフローズヴィトニルに「ワンコ、ここ掘れワンワンじゃないが直感で分からんか?」と問うているレイチェルもエリスの言わんとしていることに気付いていた。
(俺を殺したくない、か。……エリスの言葉の真意を聞く為にも、先ずはフローズヴィトニルの前に辿り着かねぇとなァ。
 逆を言うと……俺の命を、鎖として封印に使えばエリスもフローズヴィトニルも救えるのだろうか)
 屹度、そうした意味合いなのだろう。
 メリーノはそっと、エリスにだけ聞こえる声音で、言った。
「ねえエリスちゃんわたしね別にあなたに思い入れもなにもないの。あなたかよーちゃん、どちらかしか選べないなら、迷わずあなたを差し出すよ」
「メリーノちゃん。必ず、そうしてください。わたしを差し出して下さい。わたしを助けるためにイレギュラーズちゃんが犠牲になるなんて、いやです」
 強い意志の籠められた眸にメリーノは「なんてね」と揶揄うように笑った。
「……でもそうならない方法を必死に探すね そのためにわたしがここにいるのよ。だから、一緒に行きましょう、エリスちゃん」
 緩やかな歩みで、地下の道を探しているのは『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)も同じであった。
 戦力を配置しているか何らかの細工を施している可能性もある。だが、それ程簡単に見つかる様にフギン=ムニンが道を示すとは考えられなかった。
 つまり、フローズヴィトニルの力を利用して地下への道を塞いでいる可能性だ。お誂え向きに門番だと戦力を配置しているのだから、彼等がその道をフローズヴィトニルの氷で塞いでいると考えるべきか。
「他の人が氷の城に攻撃したけど、すぐに修復された……。
 なら地下への道も塞がれてる可能性が高いな……氷狼が作った氷狼の欠片を倒していけば道が開かれるかな……? もしくは魔種共か……」
 呟く『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は氷狼――精霊の一部を切り裂けば直ぐにそれが霧散していくことに気付く。
 どうやら、小さなそれらはそれ程多くの力を分け与えられていないのだろう。数を以て行く手を阻んでいるつもりなのだろうか。
 熱は上に――いや、その理論で行くならば『上は太陽が熱い』が為に地下に遁れたと言うべきなのだろうか。
「それにしても、エリスは精霊としての長い時間の一部だからわかるが……クラウィスの命がまだ尽きていないのはどういう事なのだろう。
 欠片の制御ですらエリスは私達にさせようとはしないのに。要石の制御となれば負担は計り知れないはず」
「ゲオルグちゃん、それは屹度――」
 エリスの唇が震えた。ああ、屹度、彼の相棒達がその命をつなぎにしているからなのだろう。そう思えばこそ、急がねばならないと目を皿にして探す。
「ブリギットの気配……確かに」
 呟いた『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はセレナに視線を送った。何とは言われずとも『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は感じ取る。
「そう、マリエッタが会いたい相手が近くに居るのね。なら、今度はわたしがその助けになるわ!」
 姿を隠しているのであろうブリギットは何処か。マリエッタは言いたかった。

 ――アミナさんを勝手に押し付けないでください。彼女を支えてあげるのは、貴方だったはずでしょう?

 そう口にしたならばブリギットは何と云うだろうか。文句の一つでも言わなくてはならない。マリエッタと共に進むセレナは常にエリスのことを考えて居た。
 この戦いでエリスを護ると決めて居た。もしも、エリスに害が及んだならば。
「セレナさん、大丈夫ですよ」
「うん。もしも彼女に何かあったら……マリエッタと一緒に戦いたいけど」
「お互いに、目的を果たしましょうね」
 為すべきは分かたれている。マリエッタは雷の気配を感じ取りゆっくりと進む。その行く手を遮るのは外交官ローズルであった。

成否

成功


第2章 第6節

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

「ごめん、みんな。今から、戦いに個人的な動機を挟み込む。露払い、頼めるかな」
 踏み締めた大地の固さも、頬を擽った風の冷たさも。その全てが世界を揺るがす惨事を感じさせるというのに。
 その様な事を言う己は、愚かなのだろうか。
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は唇を吊り上げて、背を向けたままそう言った。
 華奢な背中に、震える肩。握りしめた槍は僅かに欠けてしまっただろうか。
「振り向かず行け、安心してくれ。後ろは俺達がフォローするさ」
 その背に声を掛けたのは『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)であった。
 穏やかでありながらも力強い声音。風牙の本懐を遂げることだけに注力すると決めた黒狼隊は『彼女』の為に戦場を走る。
「今回の役目は露払いだねっ! 風牙さんを連れて目的地を目指しれレッツゴーするよっ!」
 にんまり笑顔の『堅牢彩華』笹木 花丸(p3p008689)が漏したくしゃみにぱちくりと瞬いてから『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)が笑う。
「寒いな」
「さ、寒いね」
 春を忘れてしまったようなこの国に、暖かな陽射しを求める為に――あの氷狼は遠吠えの如く、『冬』を誘ってくるのだろう。
「防寒具をお渡し致しますね」
 準備を確認していた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の気遣いに礼を言ってから黒き外套を身に纏った花丸はそそくさとカイロを挟み込む。
「フルアーマードハナマルに、私は……なるっ!」
「……暖かそうですね」
「えへへ、これで完璧だよ!」
 花丸はにんまりと笑い、襲い来る天衝種を睨め付けた。その拳に力を込める。傷付いたって、皮膚が硬くなったって――誰かを護る為の勲章だ。
 誰かの成し遂げたい事の為に動く事が出来るなら本望だと誠吾は漆黒の輝きを掲げる。
「因縁浅からぬ相手に決着を着けに行く新道さんの心情は俺には計り知れないが、その動きが報われるように祈るし、その手助けもする。だから――」
「ああ」
 真っ直ぐに、進む風牙を送り出す。誠吾が叩きつけたのは竜撃の一手。蒼い外套を翻し『狼の牙』を突き立てる。
「後ろです」
 囁く声音と共に、ひらりとその身を翻したリュティスの魔力が漆黒の矢を形作った。天衝種へと指示をするアラクランの兵士を睨め付けた紅色の眸がぎらりと光を帯びた。
「びえー動いてるのにまだ寒い! リュティスさん手袋ちょーだい! 手がかじかむ!」
 かたかたと震えていた『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)はノームの加護をその身に纏いローブを手繰り寄せた。白い息を吐いてから身の内に滾る魔力を感じ取る。
「んむ、風牙先輩の道を開くのが今回の仕事なんだね! じゃあ風牙先輩の道は、あたし達が切り開くよ!」
 眩き光と共に。『ノーム』の娘は人が為にと育てられた。霧氷の術式が、フランが大気中より得た魔素により煌びやかに広がって行く。
 周囲の冬を彩る鮮やかな気配と共に。普段は人を支える彼女も誰かの道を開くが為に戦い続け――
 ドォン――と血を揺るがす音がした。
「ひぎゃっ!?」
「この砲声は……北回りの艦隊か! 海洋に豊穣……味方勢力が集結しつつある。この勢いを活かして、さらに前進していこう」
 後方の確認を行なった『独立島の司令』マルク・シリング(p3p001309)にベネディクトは頷いた。外は海洋軍の砲撃が、そして内部には豊穣軍による支援がある。
 黄竜の加護のお陰が、防衛の加護が眩く光り自身等の傷をも癒やす。
 露払いこそが目的だ。風牙が、何の恐れも無く魅咲の元へと辿り着くために。マルクが上空から俯瞰する。
 鳥の鳴き声と共に行く手を遮る物を切り裂いたのは蒼穹へと至る誓いの剣。
「背中はこちらに任せて、風牙さんはやるべきことを貫いて!」
「そうよ。雇い主が言うのなら、露払いでもなんでも任せなさい。貰うもん貰ってるしねぇ。
 やりたいことあんなら、後悔したくないものね。気張ってくのよぉ。あ、防寒着ってアタシでも貰えるかな……さみぃ……」
 リュティスが外套を投げて寄越したことを確認し、いそいそと羽織った『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が白い息を吐く。
 花丸の元に集まり始めた天衝種を襲うのは鉛の弾丸。拳銃を形作った福音(まりょく)は生命力を鉛と化す。
「こうも寒いと手がかじかんで引き金も弾きにくいったらありゃしねぇわ」
「早く冬を終わりにせねばならないな」
 ベネディクトは静かに呟いた。風牙の本懐を遂げられたならば――コルネリアは頷く。次の目的地は、屹度、地下だ。

「……来るんだから、救いがないよね」
 嘆息する魅咲を前にして『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)はやれやれと肩を竦めた。
「魔種(したい)と何度も口論を重ねるほど私はもの好きじゃあ無いんですよね。
 自然の摂理を語るなら、大人しく狩られる獣らしくしてれば良いのです」
 黄金色の瞳が些か不機嫌そうに細められた。魅咲を睨め付けているリカの後ろからひょこりと顔を覗かせたのは『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)であった。
「……かたわれと同じところへ行きたい、なんてさ。どうして魔種ってやつは憎みきれないやつばっかりなんだろう。
 でも、僕にだって譲れないものがある。そのために剣を振るう覚悟だって出来てる。だから……きみを、倒すよ!」
「人殺しになるとしても?」
 魅咲の問い掛けにサンティールはぐ、と唇を噛んだ。
 ああ、分かって居る。リカの言う通り『獣』なのだと、『死体』だと認識していられたら何れだけ楽だったか。
 自分たちと同じ生き物だと考えるだけで、息も苦しい。
「それと言っときますが…他人を庇う様な楽な戦場じゃないですからね、ここは」
「もちろん! リカちゃんの足を引っ張ったりするもんか。
 僕ってばとっても背伸びしてるけど……ぜったい無様なすがたはみせたくない!」
 やれやれとリカが肩を竦めた。魅咲の元へと飛び込んで行くサンティールの春が光を帯びた。碧霄(あかつき)の気配が奇襲の仕草を見せる。
 魅咲の不意を衝いた一撃。ばちん、と音を立てて張られた魔力の障壁に「小癪な」と呟いたリカは夢魔術の奥義を叩き込む。
 指先が踊る。 T・C(トゥルー・チャーム)が見せたのは。
「乱花――!?」
「チャームと言っても魅せるのは私の美しさではなくそうですね……失った片割れというのはどうです? ふふ、想起でもすれば私を潰す理由には十分でしょう?」
「ッ――」
 奥歯を噛み締めた魅咲の周辺に目玉が産み出された。それらは穢れた泥の濁流となりリカへと襲い征く。
 苛立った魅咲の腕を絡め取ったのは細い気糸であった。『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は苦しげに眉を顰めて魅咲を見詰めている。
(乱花の強がりが魅咲を生かす事になって……僕達は、乱花の……その命を食べて……今度は魅咲を食べようとしてる……
 魅咲は……どうなんだろ……このまま生きたいのかな……。
 それとも乱花みたいに……後の人を生かす為に……自分の為に……戦うのかな……)
 二人のことをレインは知らない。二人も『過去』を語る事は無い。知っているのは二人がラサから来た事だけだ。
 二人の結びつきの強さも、何かがあったであろう場所だって――屹度、今は亡き故郷を思う気持ちだけが絆だったのか。
「乱花は……魅咲を必ず殺して……って言ってた……魅咲を生かしたのに、殺して……って……。
 動かなくなった自分を見せたくない……けど、魅咲とも離れたくない……。それは……」
 レインがそれ以上二人について何か言葉にすることは出来なかった。魅咲を乱花の元に導く為に力を使うだけだ。
 人の身体は、炎に焼かれるより凍える冷たの方が苦しまないと聞いた事がある。だからこそ、出来るだけ苦しまないように導いてやりたかった。
「そうよ」
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は呟いた。
「ほんっと、我儘な女の子よ」
 アーリアは唇を尖らせる。乱花は二人一緒で眠りたくて。二人一緒に居たくて――そうなれないなら、自分の散り際も、片割れの散り際も見たくなかった。
 行き着く先が一緒でも。
 ただ、恐ろしいことから目を背けただけだった。
「『殺しても良い』から、『魅咲の事も殺してよ』だなんて、敵に言うことじゃないでしょ!」
 ああ、なんて、皮肉なのだろう。
 アーリアの戦い方は魅咲と良く似ている。惑わせる気配、それから戦い方が手に取るように分かる『在り方』
 魔女の気配を宿した魅咲はそれでもリカに憤っていた。
「魅咲ィ!」
 風牙が叫んだ。一瞬、視線を向けた魅咲の頬をサンティールが切り裂いた。
「乱花は死んだ。魅咲。お前も後を追え」
「ッ」
 乱花が、魅咲を思って。
 魅咲が、乱花を思って居た。
 大切なものを喪う痛みは、魔種だろうが人だろうが変わらない。だからこそ――上手い言葉がでなかった。
 立場も心情も、殺し合う以外の選択肢が此処にない。
「お前を殺して、ここにいる敵を悉く打ち倒して、オレは先に進む。この地に住まう人たちを救うために」

 だから――お前も、好きにすればいい。

「ああ、もう! 本当に我儘な女の子『達』だわ!」
 アーリアの言葉に風牙が小さく笑った。援護射撃を放った『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)は魅咲の散り際を確かに見る。
 その視線が穿ったのは誰だったか。
 ひょっとすれば魅咲はイレギュラーズではないものを見ていたのだろうか。
 その散り際は美しく忘れられやしないとアーリアは呟いて。
「……魅咲は、死んでしまったよ」
 ハリエットは呟いた。視線の先にはローズルが立っている。
「ああ、そうですね……。それは、とても悲しいことだ」
「……ローズルさん、この前の問いに、私なりの答えを返しに来たんだ」

 ――この国に今、信念の置き場所があるか。

「信念は国に置くものじゃななく、自分が信じても良い相手に、行為に置くものだと思う。
 ……見つけられたらいいね。貴方が信念を置ける対象。そうしたら、つまらない顔なんてしていられない筈」
 ローズルは、鉄帝国の在り方が好ましくはないのだろうと考えた。
 冷めてしまっているのだろう。この国の在り方に。信が置ける物に出会えないが故に、革命という『熱中できる玩具』に向き合おうとしただけなのだ。
「そうですね。ただ、今のこの国は愉快そのもの。見ているだけで面白いのは確かですよ。
 魅咲や乱花を連れてきたのは僕でしたが……その生き様も見ていて好ましかった。
 話し相手になってくれた序でに一つ、お教えしましょう。『地下へ繋がる鍵』は僕が持っています」
 さあ、どうしますかと男は唇を釣り上げて笑った。

成否

成功


第2章 第7節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
トール=アシェンプテル(p3p010816)
プリンス・プリンセス

 聞き込みは十分。丁寧にこの城を攻略するのも大概時間の無駄だ、と『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は言う。
 しかし、構造上弱い箇所を確認してもフローズヴィトニルの権能か、直ぐに道が防がれてしまうのだ。
「さて……先程の兵士は『ローズル外交官』とやらが下へ通じる鍵を有していると言っていたが。
 成程、クロックホルムという男は敢てその男の盾の役割なのだろう」
 おとがいに指先当てて呟いたセレマは自身の行動を持って『鍵』がなくては下には進めぬ事に気付く。
「誰ぞが倒すだろうが――さて」
 セレマが天を見上げれば、上空より飛翔していたヘァズ・フィランが叫声を発した。一気に地へとその身を叩きつけん勢いでやってくる魔物に『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)が反応を見せる。
「ええ……どうぞお好きになさって下さいな。嬲るだけでは物足りないと思うなら、人質にでもなされば宜しいのです」
 くすくすと笑ったエルシアの眸が妖しい色を帯びた。単体火力としてセレマが指し示した位置の壁をぶち破らんとしていたエルシアは恰好の的だったのだろう。
「……尤も、私などに構っているお暇があるのなら、の話ですけれどね。
 それに、都合の良い標的があるという事は、守る側もそこに注力すれば良いという事」
 囮になる事は出来ようと、エルシアは焔を揺らがせながら微笑んだ。その気配を傍らに思わずたじろいだアラクランの兵士に「フリッツではないかな」とラフに声をかけたのは『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)であった。
「ああ、それにギータもいるのか。覚えて居るだろうか」
「……革命派のルブラットか」
 眉を顰めたフリッツの傍でギータがぎこちない表情を浮かべた。同じ釜の飯を食べた相手に攻撃する事はギータの良心を刺激したのだろう。
「――君たちは真っ当に人を救い、感謝される仕事が、楽しかったか?
 私は楽しかったよ。答えがどうだろうと今更分かり合えるとは思わないが……いいだろう? 死ぬ前に思い出話を交わして、感傷に浸るぐらいは……」
「ああ、そうだな。私も楽しかったよ、ルブラット。でも『この国は此の儘では何も変わらない』
 弱者は相変わらず敷いたげられ、強者だけがのさばる。アラクランはバルナバス帝と志を共にして居ない。奴が倒れたなら、此処で新たな国を築くんだ」
 ギータは夢見るように語る。ルブラットはその志が革命派閥の掲げるものに似通っていることに気付いて何とも口にすることが出来なかった。
 ――ああ、けれど。アラクランはアミナの夢をへし折ったのだ。そう感じずには要られないのは『彼女の心を砕く』かのようだったから。
『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はゼラー・ゼウスと共に城の内部に走ってきていた。
「俺はラド・バウ闘士。命を守る為に戦う彼の在り方に魅せられた人間だ。
 だから、さっき彼の前で宣言したことを絶対に嘘にはしない。この場を、あくまでも守る為に戦い抜くのが俺の矜持だ!」
「……それは此方もだろう」
 アミナにした事を許さない。そう言われればアラクランの兵士達はそれ以上は何も言うことはなかっただろう。
 その傍から飛び込んで来る氷狼の欠片を受け止めてイーハトーヴは渋い表情を見せた。アラクランの兵士達の表情を、もう伺うことは出来ない。
「その為だ、死んでくれないか」
「それは、屹度出来ません」
 光の守護魔法がきらりと輝いた。うちより出でる炎は『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)の信念だった。
 柔らかに揺らいだブラウンの髪、少女と見紛うその姿であれど、心意気は確かに少年のものだ。
「此処で退くわけには行かないのです」
 彼等が護るクロックホルム達の元へと仲間達を導く為に。トールはセレマが調べた地下へ繋がる場所を知っていた。丁度、その位置に『ローズル外交官』が立っているのだ。
(あの人を倒さなくてはならないのでしょう。強い冷気を感じる……!)
 悍ましい風が頬を撫でる。握りしめたプリンセス・シンデレラを軸に、その身を武器に天駆けるが如く一撃を放つ。
 優しく降り注いだ桜色の祈り。桜花のブレスレットに魔力を宿していた『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は自身に任せて欲しいと仲間達へと癒やしを運ぶ。
「敵さんも手負いだけど、こっちもみんな怪我いっぱいね。でも負けないのよ! みんなの怪我はルシェと蜻蛉ママが癒すの!」
「ええ、キルシェちゃん。しっかり癒しましょ」
『猫の手』もつこて下さいなところころと笑った『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は仲間達を癒やし続ける。その位置からは動かずに怪我をした者には後退をと声を掛ける。
 医療の知識を有する蜻蛉と、そのサポートを行なうキルシェは豊穣・海洋連合軍の生存率を大幅に上げることだろう。
 キルシェは声を掛ける。キルシェだけでは、無理だと本人が感じても『ママ』が一緒ならば何だって上手くいく。
「蜻蛉ママはルシェが守るのよ!!」
「二人やから、心強いわ。頼もしい娘に育ってしもて……でも、無理は禁物やよ?」
 頷くキルシェの傍を走り抜け、前線に飛び込んだのは白き姿。
「――輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上!」
 更に先へ。氷の城の地下へと通じる場所が『閉ざされている』事を確認し、ローズルの周辺を確認する『魔法騎士』セララ(p3p000273)の眸にキラリと光が宿った。
 セラフィムの燐光が鮮やかに舞い散り、ローズルを狙わんとするが――その行く手を遮ったのはクロックホルムだった。
「あの人は……騎兵隊が向かっているね。なら、ボク達はその後は外交官を倒さなくちゃ!」
 魔法騎士は光を纏い、そのタイミングを見計らう。眩い雷の気配、ブリギットの存在をひしひしと感じ始める。
(確かに進軍スピードは予想より早いんだろうけど、これ以上の速度を求めるなら闇雲に探すわけにもいかない!)
 だからこそ、混線の極み。地下にあるとエリスが言うならば――そして『ローズルが情報を漏した』ならば『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は容赦はしなかった。
「青龍さん!」
「……」
 青龍の権能を以て、城の内部に広げろとアリアは叫ぶ。そう、『狙うのはクロックホルムとローズル。地下が空いたら全力で進め!』と。
「フローズヴィトニルを止めなくちゃならないんだ。エリスちゃん! それでいいよね?」
「はい。アリアちゃん。『鍵』というのは、恐らく……氷の扉は彼のいのちに紐付いたのでしょう」
「い、命に……?」
 こくりと頷くエリスは「悪しき狼は他者の命を喰らいます」と静かな声音で告げた。その力を得、その力を駆使する代償は大きすぎるのだろう。
「なるほど。一足飛びに結果は得られん。千里の道も一歩から。地道に行くとしよう」
 淡々と告げた『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)は己は博愛主義ではなく、ただ、殴られる落ち宇野も性には合わないと告げた。
「本質というものは追い詰められて出るものだ。ならば追い込んでいこう。追い込まれていこう」
「追い込む――ええ、そうでしょう。追い込み地下の扉を開けさせるのですから」
 目を伏せっていた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は静かにローズルを眺めた。その行く先にはアラクランの兵士達が詰めかけ、彼を護っているようにも見られる。
「此処で待ち構えていたと言う事は……目的地も近くなってきた、か。
 貴方が扉を閉ざしたというならば、恐らくはその扉も貴方の背後にあるのでしょう。地下は『遺跡を氷が取り込んだ』ものですね?」
 リースリットの声が精霊の風と共にローズルへと伝わって行く。小さく頷く青年の傍からは確かに『フローズヴィトニル』の気配が感じられた。
「しかし、その扉は厄介だな。フローズヴィトニルの心を読み解くことも出来ない。生憎だが、僕達はフローズヴィトニルについて知らない。
 まぁ、相手を理解するには対話だろう。とーくは大切だ。愛も理解も僕には無縁だが。まあ、努力だけはしてみよう。恋話とか結構すきだし」
「こいのおはなしですか」
 エリスがぱちくりと瞬けば『煉獄の剣』朱華(p3p010458)は「難しい話?」と首を傾げた。
「トーク内容は分からないけれど、なんだか熱くなってきたじゃない。此処からは朱華も一緒に戦わせてもらうわっ!
 氷を『溶かせない』ならその為に雑兵達をえいやってすればいいのよね? こういうのはちょっとアレだけどそういうの得意なのよね、朱華は」
 にぃと唇を吊り上げた朱華が煉獄の焔をその刃に宿した。ローズルへの道を開き、そして、彼を打ち倒して地下へと下れ。
「それにしても寒いじゃない!」
 唇を尖らせながらも朱華は強烈な斬撃を放った。炎の剣の真なる力が氷にちらりと反射する。眩い炎共に溢れ出てくる氷狼たちを受け止めた愛無は「とーくにもしちゅえーしょんが大事なのだろうな」と独り言ちた。

成否

成功


第2章 第8節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
エマ(p3p000257)
こそどろ
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
騎兵の先立つ赤き備
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

「先駆けいってくるっす!」
 前線へと走って行くのは『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)。後方からは騎兵隊本隊が進軍してきている。
 仲間達が開いた道、しかしフギン=ムニンの副官たるクロックホルムを庇うのはアラクランの兵士達だ。
 彼等がいては『本命』へと届かない。ならばこそ、ウルズは先駆ける。前へ前へと進み、全てを巻込み攫うように。
 騎兵隊の次なる狙いはクロックホルムだ。それを知っているからこそウルズが駆ける足は止まらない。
「さあ、行くっすよ!」
 忘却していた記憶より復元されたのは死をも恐れぬ暗殺の術だった。黒いピアスがきらりと光る。堂々と声を張った狼に続くのは魔性の直感による号令。
「はーい☆ 第三の私だぜぃ☆ ………Ptuberなのでそれっぽい事やってみたかったんだ。うん」
 髪を指先で弄った『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は共に進む仲間達を苛むもの全てを『なかったもの』にすべくリソースを投じていた。
「じゃ行くかぁ。キーをセットオン。捻ってスタート。レリゴーっ!」
 下手な小細工は難しいだろうが、エフェクトならば場を盛り上げることにも適していようか。幸潮がにんまりと笑った背後より、黒き影が飛翔する。
「騎兵隊一番翼、参上。狙うは副官クロックホルム。同じ"鴉"を名乗る縁だ……手合わせ願おうか……!
 その鉄槌がクロックホルムを狙う。番えた矢が死を嘲笑うかの如くぎりりと鳴った。
『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の放つ鉄の星はアラクランの兵士達を蹂躙する。だが、天より飛翔するという事は的にもなりやすいと云う事だ。無数に飛び込んでくる遠距離攻撃を躱しながらも耐えず攻撃の手は緩めない。
「まだ征くわよ、前進! 霞帝へ、四神へ、海洋にも私達の凱歌を轟かせるのよ!」
 堂々と叫んだ『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の傍らで笑い声が響き渡る。
「霞帝、ご照覧あれぇえええいいい!!」
 朗々と叫ぶ。騎兵隊が――『童女(わっぱ)』が前に進むというならば『鬼刑部』梅久はその背を護るのみ。
 死なずの戦を城攻めで掲げるとは酔狂な者達だ。豊穣での戦いと比べればなんと大きくなった者かと小さな背中を眺め遣る。
(……あの小さなままの背に、何を背負えばああなるのか。のう、黒百段よ)
 イーリンの必須とする目標は全員の生存だ。フローズヴィトニルの元に到達するためにはローズルを倒さねばならないか。
 ああ、あの男は後方でクロックホルムに護られてのうのうと過ごしているのだ。
「敵の首が一つ降りて来たのよ。『ここで獲らなくては』名が廃るわ」
「はいはいっと。いきまスかね」
 うんと伸びをしてから『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は嘆息した。二十二式自動偵察機が最短ルートを計算している。
 他の仲間達が開いた道がクロックホルムへ届く為のルートを示しているかのようだ。騎兵隊は一団となって動く。
 その為に、美咲は仲間を引連れる。爆発的スピードで、前へ、前へと目指すように。
「新皇帝から横取りしようって気概は認めまスがね。巻き添えが大きすぎたんスよ。
 だから……私も新皇帝のついでにお前らを殴る。私にしみったれた鉄帝市民を見せたお前らが悪いんスよ」
 眼鏡越しの世界は死に溢れているようだった。四神の加護がそれを遠ざけていると云えども、深い傷が可能性(いのち)を削る事は分かりきっている。
 ならば、進むだけだ。
「私の名はレイリー=シュタイン! 騎兵隊の1番槍よ!」
 その身は盾として。『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)の声が響き渡った。白騎士は『白亜の城塞』として戦場に立っていた。
 ドラゴンを思わせた武装を有する娘は己が傷付こうとも構わない。その槍の先がクロックホルムに届いた。弾かれようとも、構わない。
「私を倒さない限り、誰も倒させないわよ!」
「……統率の取れた軍隊とは厄介な。ここで時間稼ぎをさせて貰おう」
 戦斧を振り上げたクロックホルムはその為にやって来たのだと酷く嘆息した。本来ならばフギン=ムニンを護る盾であったのだろう。その彼が此処に出て来ているという事は――
「フローズヴィトニルは何処まで顕現した?」
 イーリンは静かに問うたがクロックホルムは答えずに斧を振り下ろす。その鋭さが氷の床を抉り取る。ぱきり、と音を立てた氷の破片は氷狼へと変化をし勢い良く飛び込んだ。
「っは! イイねイイねぇ! 殺り甲斐のある相手は歓迎だぜぇ!」
 唇を吊り上げて『一ノ太刀』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)のアメジストの眸が戦意に満たされた。
 飛び込んできた狼たちを眺めていた『こそどろ』エマ(p3p000257)は『馬の骨』と呼んだイーリンに「どうやらこの男を倒してローズル外交官を狙わないといけないみたいですね」と囁く。
 ローズルが地下への『道』を封じていることは確かなようだ。青龍の権能により伝達されていた事が確かである事を伝えるエマは「あの辺りの氷は『氷狼』を産み出しそうでもありますし、構わず全部巻込んだ方が、止さそうかもしれませんねぇ……」と観察眼を活かし戦略を伝え続ける。
「了解よ、なら簡単だわ」
 イーリンがひらりと手を翳せば頷く者が居た。
「ん、指揮官が出てきた。敵も余裕がなくなってきてるのかな。何にしろここで倒れてもらう。逃がさないよ」
 マジカルゲレーテ・シュトラールは魔力を吸収する。最大出力。
『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)が出せる全てを集めて征く。クロックホルムの周辺に『何か』がいるならば。
 号令と共に放つのはフルパワーのマジカル☆アハトアハト・QB。
「――発射(フォイア)!」
 ずん、と地が揺れた。仲間達を巻込まぬように。その再三の注意を払わなくてはならないが、それでも出し惜しみをしている場合ではない。
 遁れんとするアラクランの兵士の前へと滑り込んだのは『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)。
「道が拓けたな。次の狙いはクロックホルムだな。了解した……あの澄ました顔に一撃入れてやろう」
 昴自身、静かな声音ではある。その身には破砕と金剛の闘氣に溢れていた。戦場では冷静でなくてはならない。
 目の前には強敵がいる。その拳が叩きつけることが出来るのは不可能なる幻想を砕く一撃だ。暴力性を有する修羅の如く、ずんずんと進み征く昴を睨め付けたクロックホルムの斧が振り下ろされる。
 斧を受け止めたのは黒き蓮。『Himmlischer Lotus』が鮮やかな花を開き防護の魔術を展開させて行く。
「まだまだ想定の範囲内って感じだね。いいよ、面白くなってきた。魔種の行動原理は興味深いけど、まだ鉄帝を終わらせるわけにはいかない」
「魔種であろうと、人だからだろう。其方はどうして終らせたくはない?」
「何故って、面白くないからだよ。僕も君達に負けず劣らず自分勝手だよね。
 それじゃあ、エゴとエゴのぶつけ合いといこうじゃないか。国の存亡をかけてね……クロックホルム!」
『友人ハイン/死神』フロイント ハイン(p3p010570)が笑いかければクロックホルムは丸い瞳を彼へと向けてから唇を揺れ動かした。
「ああ。その方が戦いやすい」
 エゴである。クロックホルムはフギン=ムニンという男を支えてきた。
 男は多くは語らないが、それで構いやしなかった。エゴとエゴのぶつかり合いと呼ばれた時に何となく理解したのだ。
 男は、楽しい戦いをして居たかっただけなのだと。
「名のある武人と見受ける。俺は騎兵隊先陣、鳴神抜刀流の霧江詠蓮! 一手お手合わせ願おうか!」
 声を張り上げた『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)にクロックホルムは頷いた。一閃の気配。
 それだけでも良きものだ。太刀筋は研ぎ澄まされている。実直であるからこそ、見極めることが易いが、尚も重たい刃は磨き抜いた彼の決意を感じさせる。
 クロックホルムの斧とぶつかったエーレンの刃が僅かに欠けた。ぎん、と音を立てて飛んだ破片を眺め、自己修復をしながら立ちはだかっているハインは問う。
「楽しい戦いになればいいね」
「ああ。思う存分に、護る者がなく戦う事は久方振りだ。故に――退くわけには行かない」
 退かないと堂々と宣言した男にエレンシアが吼えた。
「クロックホルム! てめぇこそ退きやがれよ! 万年冬なんざまっぴらごめんだぜ!
 体あんな化け物がお前らに御せるもんかよ、自滅すんのがオチってもんだぜ。
 アタシが! アタシこそが騎兵隊の一ノ太刀! 一番の刃! ここで貴様らを蹴散らしてそれを示す!」
「一ノ太刀。……『エリス・マスカレイド』なら制御できるだろう」
 朴訥とした男の言葉にエレンシアは意味を理解し「クソ」と呻いた。狙いは最初からエリスをこの場に誘い込むことだったのだろう。

成否

成功

状態異常
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)[重傷]
騎兵の先立つ赤き備
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
騎兵隊一番槍
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)[重傷]
母になった狼

第2章 第9節

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

 ――騎兵隊員に通達。のこのこ出てきた指揮官だ、首を食い千切ってやれ。総大将(かのじょ)がそれを、望まれる。

 堂々と、告げたは『闇之雲』武器商人(p3p001107)の鬨の声。
 仲間達を庇い、全員生存のオーダーを護る武器商人の眸がクロックホルムを捉えていた。
 何のしがらみもなく、戦う事を望んだ男は『主を護る』責務を忘れた幼子のようでもあった。
「悪いね、消し飛んでくれ」
「それは此方の台詞だ」
 叩き込まれた戦斧の重たさを感じながら武器商人はその両足に力を込める。立っているだけで構わない。己が立っていれば彼を打ち倒すために仲間が更に進むことが出来るのだ。
 役割は必要だ。男が副官として主を護り、主を支えてきていたそのしがらみを忘れ戦っている様子を眺めながらも『オンネリネンの子と共に』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はそう思う。
「我ら騎兵隊、渦となって氷を粉々にしてやりましょう!」
 背後には豊穣の霞帝が立っている。師を指揮官と仰げば副官として立ち回るココロはクロックホルムとの戦いで出る負傷者の癒やしを専念する事に努める。それが医術士の在り方で有り、戦場で指揮を獲るイーリンのオーダーを叶えることになるのだ。
「絶対生存、それだけは必ずしも!」
「ええ、ええ、その通りなのだわ!」
 ヒメ、と名を呼んだ『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は低空飛行をするファミリアーに騎兵隊全体の戦況を見て回るように指示をした。
 仲間達の生存を意識するならば戦況の要である攻撃手を庇うことも肝要だ。自身の立ち位置は常に司令塔たるイーリンへと連携する。
「大丈夫、すぐ行くのだわ。攻撃を受けているならそこに行く、そのままになんて絶対しないのだわ!」
 白き翼で進む。皆が進むというならば華蓮はそれを支える役割を担うのだ。
「素晴らしい連携だ」
 クロックホルムが斧を振り下ろすと共に呟いた言葉に華蓮は華奢な腕で張った障壁の向こう側を見通すように微笑んだ。
「私には、何かを変える力なんてあんまり無いから……。私はその力を持つ仲間達を支える、それこそが今の私の天命なのだわよ!」
 己の在り方をそこに定める。クロックホルムの動きを確認し支えることを目的にして居た『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は華蓮や武器商人との応酬にも耳を傾ける。
 クロックホルムという男が我武者羅に戦っている時点でフギン=ムニンの元に離脱する意思はなくしているようだ。それが『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の言う通り『様子見で済まなくなった』と言うこともあるのだろうが――
(……様子を見るだけなら『本人』が出てくる必要は全く無い訳だしな?
 つまりは、此処に出て来ても良くなった。フギンの傍には必要がなくなったって事だろう)
 恐らくはフローズヴィトニルの顕現は更に進んでいる。その身全てを作り出すことは叶っては居ないだろうが自在に動き回ることは出来る程度には。
(だからこその『時間稼ぎ』か――!)
 唇を噛み締める。舞台を彩る演出は正しく死を齎すが為に。この男を乗り越えて、進まねばならないことは確かなのだ。
「クロックホルムを此処で打ち倒すしかありません。背後は任せることが出来ましょうが横槍はアラクランが行なうようですね」
「それ諸共、だ!」
 カイトが声を張れば黒子は大きく頷いた。其れ等諸共、倒さねばならない。心残りのように背後を確認していた『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は視線がかち合った空木に気付き唇をはくはくと動かした。
 毒空木の異名を有するその人は『天子が海を越えて戦いの赴く』との一報に、我先にと同行を申し入れたのだそうだ。ルーキスにとっては養父にあたる獄人は「寒ぃ!」と声を上げる。
「なっ――」
「コイツはとんでもねぇ場所に来ちまった様だな。俺は『霞帝の護衛』ってことで宜しく頼むわ。
 こちらに向かって来る有象無象を全て斬り捨てる。長い船旅で身体が鈍ってたからな、準備運動には丁度いいだろう?」
 ルーキスが目を丸くすれば「なぁに心配は無用だ。仕事はキッチリこなすからよ!」と手を振る空木がアラクランの兵士達を切り捨てて行く。
 ならば、とルーキスは前線へと飛び出した。共に、その陰より忍び寄るのは『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)。血潮が鋭き刃と転じる。
 有効打を、それだけを狙うのが雲雀の役割だ。掲げたのは不吉なる紫帳。其れ等は狂気に誘う月の煌めき。
「これだけ乱戦状態なんだ、敵がうっかりフレンドリーファイアしたっておかしくはないさ。
 悪いけど、貴方たちに対して選ぶ手段なんて持ち合わせてないんでね」
「それも戦法だ――構わない」
 クロックホルムは無骨な斧を振り下ろす。アラクランの兵士ごと叩きつけられたそれをルーキスは難なく受け止めた。
 奥歯を噛み締める。人の命を何だと思っているのか。だが、これが戦場だと言われれば納得せざるを得ないか。
「ここで前線に出て来たのが運の尽き。その首、貰い受ける!」
 地を蹴ったルーキス。その背後で廻る運命。死兆星の輝きと共に雲雀は術式を宙に描いた。黒き魔術の気配と共に無数のアラクランの兵士の身を閉じ込める。
 背後で「天子よ、前に行かぬように」「この鬼刑部を置いては征かぬでなああああ」と叫び声が聞こえてきて思わず『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は振り向いた。
 炎の障壁を前へと展開させ、白銀のヒーロースーツに身を包んだ青年は走る。ただ、狙うのは大将だ。
『それを倒さねば平和が守れない』と口にされたとき、命の天秤が大きく揺らぐ。此処で迷えば冬が全てを閉ざしてしまうのだから。
「……迷っては居られない」
「ああ。ま、やる事は変わらんな」
 ティンダロスと共に駆ける『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はムサシへと頷いた。
 お気に入りのヘッドホンから流れるのは心地の良いミュージック。そして、戦乱の気配を掻き消し集中を高め――一気呵成に責め立てる。
 クロックホルムの周辺より飛び込んできた氷狼の欠片なぞ、有象無象として扱えば其れ等全てを捩じ伏せるのは容易なこと。
 ディメンション・デス。騎兵隊の前に立ち塞がる者はなしと思えと告げるかの如く駆ける青年を一瞥してから『老いぼれ』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)がくつりと喉を鳴らした。
「罠として敵が降りてくるなら結構、踏み抜く通り越して踏み潰し敵の素っ首噛みちぎれ!」
 平時であれば氷の城はどれ程に美しい物であったか。ただでさえ攻城戦だ。入り乱れているから風情の欠片もない。
 見るからに『此方を狙え』と言わしめる男は、時間稼ぎだろう。本来倒すべき相手を隠す囮の役割にも思えて仕方が無いが――
(やはりな)
 バクルドはクロックホルムの後ろで微笑むローズルを見ていた。スティッキで地を叩く。氷狼を巧みに扱う『外交官』は何も知らぬと云った様子で微笑むだけだ。
 だが――
「そう来るのを待ってたんだ、邪魔の邪魔をさせてもらうぜ」
 突破力を重視する戦い方を崩そうとするローズルの『氷狼』たちを払除けるのもバクルドの役目である。
 相変わらず、盾のようにその強靱なる肉体を駆使して立ち回るクロックホルムにも飽きが来る。『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はそう告げる様に身を縮め困らせてから死角から飛び込んだ。
「生憎だが、寒いのは大嫌いなものでね。意地でも止めさせて貰うぞ!」
「動けば気にはならないだろう」
「脳筋め――!」
 呻いた汰磨羈が翻す、『愛染童子餓慈郎』。蕃茄の神性が欠片として光を帯びた。
 太極を引き摺りだした汰磨羈の長い白髪がふわりと揺らいだ。その一束を切り落としたのはクロックホルムの斧の衝撃刃か。
「まだまだやる気か。だが――」
「ああ。最後まで」
 踊るのならば楽しむしかない。汰磨羈は分かって居る。男は満身創痍だ。孤立無援と呼ぶべきか、回復の支援はもう途絶えている。騎兵隊の集中砲火を受け止めきれる余裕は最早ないだろう。
「逃さんッ! イグナイト……ストライクッ!
 ――もう一撃! ブライト・エグゼクションッ!」
 クロックホルムへと叩きつけたのは、必殺剣。
 ムサシが放った輝勇閃光がぱちりと弾け、男が膝を付く。『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)はその隙を見逃すことはない。
「まだ戦うつもりか」
 睨め付ける。斧が振り上げられ、ミーナの希望の剣をぶつかり合った。蒼穹が、弾かれる。
「ッ、死ぬまで踊るのなら付き合ってやろうか?」
 一撃目はその太刀筋を見極めるため。二度目ならば『模倣できる』。ミーナが剣を振り下ろす。実直すぎる斧の振り、そして、膂力を活かしただけの重さ。
 くるんと身を翻し死神は無数に弾丸を放つ。残忍なる鉛玉を受け止めたクロックホルムへと『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)がにんまりと微笑んだ。
「頑張ってドアをぶっ壊した甲斐があったのですよ! このままどんどん反応がある方に向かうのでして!
 えーっと、とりあえず下に反応があるって話だったのです?」
 床を『ずどーん』は出来なくとも、全てを巻込み『どかーん』としてみれば云い。
 クロックホルムがルシアに向けて叩きつけた刃を受け止めて、華蓮が微笑んだ。
 ならば――『お城の壁をずどーん!』するだけのとっておき。クロックホルムはそれでも尚も食らい付く。
 地下に繋がるその場所は氷が張り通り抜けることは叶わぬとローズルがくつくつ笑えばルシアは合点が言ったように頷いた。
「次の狙いはこの人とあの人でしてー!」
 ――照準(ねらい)が定まったならば、次は決まったようなもの。

成否

成功


第2章 第10節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

「今バイブス鬼っててさ、力加減できてないんだよね、これが……ふっ……これも力あるものの定めってやつ?」
 騎兵隊へと『混ぜて~!』と声を掛けていた『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)ははたと気付いて背後を振り返った。
「あ! MIKADO! 霞ちゃんじゃん! やっほー!」
「ああ、秋奈殿。やっほーだ。今日も健勝で何より」
「賀澄殿!!!!!?」
 フランクすぎる挨拶を行なう霞帝に対して傍らの中塚卿が悲痛な声を上げた気がするが――『紫閃一刃』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は見なかったことにした。
「秋奈、それよりも騎兵隊がここまで追い込んだんだ」
「オーケー。騎兵隊のみんなウェイウェイやってんじゃーん! 大将首だぜ? うぇーい! 紫電ちゃんと負ける気がしないのだ!」
 地を蹴って飛び込んだ秋奈と共に紫電は肩を竦める。

 ――待っていろ、ギュルヴィ。クロックホルムの首を携えて、お前を殺しに行くからな。

 私怨だと笑った男を思い出す度に苛立ちが溢れ出す。秋奈と紫電は騎兵隊と共に膝を付いたクロックホルムの『首』を狙っていた。
 それは『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)とて同じだ。
「クロックホルム」
「……サンディ・カルタ」
 呼ばれた事にサンディは「ま、最初に見たときから一緒にいたもんな。覚えてるか」と肩を竦めた。
「積もる話もそんなにねぇ。あいつは牢の見張りでもなかったもんな。
 それでもまぁ、ちょっとぐらい感傷に浸る時間も欲しいのさ。……思い出でしかないからさ」
 気合いだけで全員救えると思って前を見なかった俺。
「甘さ」を捨ててスタートラインにたてるつもりだった俺。
 手の届く結論だけで満足しようとしていた俺。
 ――逆恨みだとサンディはクロックホルムへと飛び込んだ。
「単純な話だよ。幻想の騎士くずれなんかに、このサンディ様が負けっかよ!」
「ああ。メアリ・メアリへの冥土の土産ができたと思うしかない」
「お喋りめ」
 牢の見張りだった彼女は余りこの男を好んでいなかっただろう。屹度、無口すぎて面白みもないと拗ねていただろうと考える。
 そんな感傷を捨てる。サンディが風を切る。
 地を蹴って狙う、が、その刃の間に飛び込んだのは氷の狼か。
(確かフローズヴィトニルも少しずつ顕現してるんだっけか? 急いだ方が良いよな……!
 騎兵隊と合流するのも有りだが…あぁくそもう少し早い段階で行けばよかったッ! そんなら今は……敵を少しでも削る事! そして道を創る事を優先しよう!)
 戦場が何だろうとも自分自身の在り方は変えてはいけないと『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)は知っていた。
「其処を退きな、欠片共!」
 屋台をがらがらと惹いて、勢い良く飛び込んでいく。全ては誰かの道を開くためなのだ。
 零は勢いよく走り続ける。その先に見えた有象無象を吹き飛ばすかの如く。
「彼方は落ちましたか……とは言え、未だ他にも標的は尽きていないのですが」
 乱花と魅咲を倒せども、クロックホルムにローズル。狙うべきは無数にある。
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)はクロックホルムを前にして、意志の雷をその手に宿した。
 マイ・スウィート・リベンジ。苛烈な光を宿したのは、彼を此処で狩り取るための準備でしかない。
「後顧の憂いは断ちたいもので……もとより、様子見などさせるつもりもありませんから」
 鮮やかなりし紅色。指先が灼け爛れようとも気にする事は無い。朱色の気配。
 かりそめの娘の唇が揺れる。震えて、蠢いた。
「ですが、ダンスの時間はそろそろお終いですか?」
「ああ、そうでしょう。運も技量」
『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)が勢い良く飛び付いた。横面を殴るように血濡れの肉体を気にする事も無い。
 茨咎の鎖がじゃらりと音を立てた。クロックホルムが強いことくらい知っている。
 サンディが、秋奈と紫電が、騎兵隊が開いた『穴』に向けて飛び込むだけだ。
「――こんな所でそう簡単にくたばってたまりますか。私が生きる為お前がとっととくたばれ」
 気配を芥子、そして息を止めて背に突き立てた刃が更に深くクロックホルムのはらわたをも穿つ。
「ッ――!」
 呼気と共に振り払われたか。だが――
「歩みを止めるわけにはいかないのはこちらも同じだよ、そこを退いてほしいのもね。
 今この時でさえこの寒さに苦しむ人たちがいるんだ。そんな人たちを増やすようなことを認めるわけにはいかない」
 だからこそ。
「必ず此処で――終わりにしよう」
 全てを別つが為に『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は踏み込んだ。
 黒に浮かんだ星々の美しさの如く。手に馴染んだ神々廻剱(こども)を護る決意の如く。
 ヴェルグリーズは寒さに苦しむ者達と餓えに泣く者達を救う為にバルガルの腕を更に押し込んだ。
 血潮の気配に、紛れたのは一瞬の煌めき。
 男が膝を付いてから斧を振り上げた最後。それが方を切り裂けどもヴェルグリーズは動かなかった。
「お終いだ、クロックホルム殿。……主からの最後の指令(時間稼ぎ)は十分だったよ」

成否

成功

状態異常
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)[重傷]
真打
バルガル・ミフィスト(p3p007978)[重傷]
シャドウウォーカー
ヴェルグリーズ(p3p008566)[重傷]
約束の瓊剣

第2章 第11節

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
劉・紫琳(p3p010462)
未来を背負う者

「ちょっと、リュカ! 狡いわよ、カイロ! しかもラサの方の顔が反則な男から!」
「え、顔が反則なの!? どうしましょう、殴る!?」
 拳を振り上げた『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)に『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)はやめなさいと声を掛けた。
「しかもいつの間に弟子入りしたのよ、お友達紹介きゃんぺーんないの!?」
「さむさむ……さとちょー、ちょっとカイロ触らせてー。りんりんはまたいけめんに負けてる……」
 ぱちくりと瞬いた『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)に鈴花は「ま、負けてないわよ」と唇を尖らせた。
 ラサの方の顔の反則な男、こと、『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は「琉珂」と呼び掛ける。
「琉珂、コイツラの数を減らしたら奥に行くぞ。ここよりちっとばかし危ねえ橋を渡る事になるがついてくるか?」
「勿論!」
 クロックホルムが倒れたならば、ローズルは徹底構成に転じるはずだ。つまり、周囲には氷狼が無数に現れ、天衝種まで更に動員されたことになる。
「師匠を気取れる程上等な戦い方はしちゃいねえが……そう言われたら格好悪ぃところは見せられねえよな」
「お友達紹介きゃんぺーんが必要らしいんだけど」
 きょとんとした琉珂にルカが小さく笑った。何にせよ、『お友達』と一緒に行くならばその先陣を切ってラサの嵐を巻き起こすのみだ。
「しっかりついてこいよ琉珂。俺はデートの時以外は優しく待ってやりゃしねえぜ」
 デートの言葉に鋭く反応した鈴花にユウェルが小さく笑った。
 走るルカを追掛ける琉珂の背に「琉珂様!」と声が掛けられた。上空より狙う『劉の書架守』劉・紫琳(p3p010462)は現状把握を行なうと共に、行く道を開く手伝いをしている。
「琉珂様の進む道を遮る物を全部、撃ち抜いてしまいましょう」
「紫琳! 頼りにしているわね!」
 手を振る琉珂は「私だって」と意気込んだ。鋏を手に走る。こんな所でめげていればオジサマになんて届かないのだから。
 上空より行き先へと落とされたアメイズ・グラヴィティ・ヴァレット。強力な重力が天衝種を縛り付ける。動きを緩めた天衝種へと全てを薙ぎ払うが如く爪を立てたユウェルは「次!」と声を張った。
「わたしたちはまだまだ強くなれる。守りたいものだって守れるんだ。
 1人じゃ駄目ならみんなで! りんりんとさとちょー、それに他の皆もいれば負けるわけないもんね! いつか本当の竜だって倒してみせる!」
 楽しくお話ししたからこそ休憩も十分。体力全開。周囲に現れる氷狼だってこの場で退ければ問題は無い。
「へへーん! りんりんとさとちょーとわたしの三人が揃えば負ける気がしないね!」
「そうよ。もっと、もっと強くならなきゃいけない。あの森を越えられるように、竜にだってこの拳が届くように」
 オジサマのことをぶん殴ってやると意気込んだ鈴花は『グー』で殴り続けた。シンプルだからこそ、戦いやすいのだ。
 勢い良く殴りつけていく鈴花とユウェル。そして先陣を切ったルカと琉珂の援護射撃をする紫琳。
 拓けた道の向こう側を眺めていた『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はローズルではない別の気配を追っていた。
「アルアさん」
「……おばあさまが?」
 頷くスティアは彼女を導く為に仲間達の回復に気を配っていた。ブリギットはローズルの近くに居る。
 此方を見ている。屹度――『地下では話せないことがある』からだ。
「ブリギットさんは、何かを考えてるんだと思う。屹度、私達に伝えたいことがあるんだ」
「……何でしょうか」
「分からない、けど。私はブリギットさんが悪い事を考えて無ければ良いな、って思うよ」
 穏やかに微笑んだスティアが進む。精霊達の導きのように、雷の気配を求めるように。
 それは『聖女(猛)』リア・クォーツ(p3p004937)も同じだった。サンディとシキには一度の別れを告げて、進む。
「早く見つけて、シラスやンクルス……それにアルアに教えてあげないと」
 リアは旋律を辿った。
 ああ、今会わなきゃ、後悔する。あの人を。『ブリギットさん』――いや『おばあちゃん』を探さなくては。
「こっちは急いでんのよ! 邪魔しないで!
 あたしはこれでも強くて頑丈なんだから! 怪我したくなかったら道を開けなさい!」
 叫ぶリアは苛立ったように天衝種に当たり散らした。
「おばあちゃん!」
 呼ばれたその名に――ブリギット・トール・ウォンブラングは何処か困ったような顔をして、立っていた。
「……リア」
 その声音だけは、どうしようもなく優しかった。

成否

成功


第2章 第12節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
ファニー(p3p010255)

 ――少しだけ、時間を遡る。クロックホルムと相対した『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はその時、『言われた』のだ。
「お久しぶりだね……と言ってもそっちはおぼえてないかもしれないけれど!
 ブリギットさんを連れて行かれたあの日のことは、決して忘れちゃいないよ!
 だからこそ、あなたのことはここで打ち破ってみせる! 今度こそはね!」
「ウォンブラングで逢った少女か。……随分と、遠いところまで来て仕舞った」
 その意味を考え倦ねる。遠いところまで来て仕舞った。ブリギットを追掛けて、追掛けて、アレクシアはずっと悩んでいた。
(……ブリギットさんと逢ったら、私はどう言葉を掛けよう?。
 もう少しだけでも言葉を交わしたいのは確か。対峙する覚悟はしている。それでもやっぱり、最後まで足掻きたいんだもの!
 だから――)
 だから、此処までやってきた。彼を退けて進んで来たアレクシアは「ブリギットさん」とその人を呼んだ。
「アレクシア」
 その顔は、正気のようにも見えた。何も、苦しみなどないウォンブラングで平穏に過ごしていたはずのその人の顔。
 アレクシアの唇が震える。苦しさだけが込み上げる。
「よう、やっとのお出ましか? 流石に腰が重いのか、婆さん?」
 呼び掛けた『Stargazer』ファニー(p3p010255)の傍で『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)の唇が震えていた。
 その人を前にすると、どうしようも泣く苦しくなったのだ。
 ここまでやってきた。愚者の行進だと堂々と進むファニーと共に。
(……魔種だってんだからいつかは倒さなきゃいけねぇが……話をしたいやつもいるだろう)
 だからこそ、まだ攻撃を仕掛けては無かった。ファニーは傍らのミザリィの顔を眺めていた。
「ブリギットお婆さん……どうして、どうしてですか……!」
 魔種であっても、殺意は感じない。
 なのに、どうして戦わねばならないのか――
「わたくしが魔種だからですよ、優しい子。……けれど、そう、そうですね。お話をしましょう」
 目を伏せったブリギットにミザリィが息を呑む。その会話に横槍を入れるように飛び込んできた天衝種に向けて『涙と罪を分かつ』夢見 ルル家(p3p000016)は星の気配を宿した太刀を振り上げた。
「おばあちゃん、やっと見付けました。
 革命派と決別した時の話は聞きましたが、拙者は言いたいことを何も言えていません。そんな一方的なお別れ、拙者は認めませんからね!」
 彼女は敵ではなかった。探すことに苦労したのはそうした理由だ。
 武器を構えたまま警戒するファニーとは対照的に武装を一度解いたルル家はブリギットを真っ向から眺める。
 言いたいことが沢山あったのに、逢えた途端にどうしようもない感情が胸を締め付けたのだ。
「おばあちゃん……?」
 『山吹の孫娘』ンクルス・クー(p3p007660)は震えた声音でその名を呼んだ。
「おばあちゃん。私、私は結局何が正しいかは分からなかったよ……。
 それでも私はおばあちゃんが皆の為に行動してると信じてるし、私は皆の為に……そしておばあちゃんの為になりたい!!」
 最初からずっと。ンクルスはブリギットの力になりたいと願っていた。その命を燃やしたって構わないとさえ、思って居たのだから。
「だから、だからね……?
 私も覚悟を決めたよ。おばあちゃんが本当に私達による終わりを望むなら必ず私が終わらせる。もし一時を稼ぎたいなら命も賭ける。
 だから……お願いだから私におばあちゃんの手伝いをさせてよ!!
 おばあちゃんの痛みや苦しみを半分でも背負わせてよっ! 私はおばあちゃんの孫娘なんだよっ!」
「……優しい子達」
 ブリギットはそろそろと、唇を動かした。
「あなたたち。わたくしに一つ提案があるのです。
 あなた達はローズルを殺すでしょう。そうして、フギン=ムニンとフローズヴィトニルの間に至る。
 フローズヴィトニルを再封印する為に、精霊女王を犠牲にしたくはないと願う貴方達よ」
 魔種ブリギットは静かな声音で言う。
「わたくしが、その封印の楔となりましょう。
 信じられると言うなれば、わたくしと、地下へ征きましょう。
 ……わたくしは、あなたたちを救う為ならば死んだって良かったのですから」
 それは、彼女からの提案。結論を此処で出さねばならない。
 信じられないというならば、此処で彼女を倒すべきなのだろう。
 ――『魔種であるならば命を擲っても構わないだろう』という彼女の決意のようにも聞こえていた。

成否

成功


第2章 第13節

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
リサ・ディーラング(p3p008016)
蒸気迫撃
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
レオナ(p3p010430)
不退転

 後方から響くのは砲撃の揺るがす大地の叫び。天を仰げば氷が光を返す。
 目の前にはしたり顔で微笑んでいる『外交官』ローズルと、その側より離れた位置に立った『ドルイド』ブリギット。
(……何方も思惑がある事は確か。魔種と対話できた例は幾つも見たことがあるけれど、その前提を疑えばキリはない。
 私の考えを言うのは簡単だが、答えを出すのは他の者に任せよう。
 良かれと思ったことの押し付け合いにならない未来が来ればいいがーーその為にもなすべき事をせねば。彼女らの邪魔はさせられん)
 ブリギットからの提案に答えるよりも露払いを選んだ『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)が海燕を引き抜いた。
 海色に染まった刀身に乗せられたのは気の気配。指先から伝った闘気は刀身をも己が手脚のように動かした。
「さあ来い、お前達の敵はここだ!」
 全ては『答え』が出るまでの時間稼ぎ。ああ、けれど――『時間』は彼方の味方でもあるのだ。
「征け」
 指示を送ったのは豊穣軍の総大将なる霞帝か。周辺には四神の気配までもがある。其れ等を双眸に映せば豪華絢爛なるサポートだと口にしたくもなるというもの。『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)の足の甲に乗っていたのは灰色のサッカーボール。
「よっぽどヤベェ奴がこの城にいるって訳か……さっさと見つけ出して潰したいトコっスけどそうも行かねぇな。急げど焦らず、しっかり詰めていくっスよ」
 目的はフローズヴィトニル。伝承に準えた悪しき狼。それだけだ。露払いを担う仲間達と共に葵が担うのは数を減らして前線を押し上げ、仲間達が戦い易くする戦場のミッドフィールダー。
「後ろは任せろ、しっかり支えるっスよ!」
 リンクマンとして全てを見通し、死角をもカバーする。仲間達を戦いやすくすると言うのならば容易なことだと『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)の眸が嘲笑う。
「うぉおおおお! ダッッッッ!!!! 腕がビリビリするのう! 然し、少しはヒビが入ったか?!
 修復……ぬぬ、中々に『可能性』を開くのは難しい事じゃが――! こちらからも負けては居らぬぞ!」
 放ったのは『バルバロッサ』――実践的殺人術だ。
 重ねる。連投連打の勢いで。全ては仲間達の道を開くためだ。壁を傷付けようとするニャンタルに襲い来るのは氷狼の牙であった。
 氷の城は即ち、その大精霊にも類する物の『権能』の一つだ。傷付けられる事を厭うたのであろう。
「……数は脅威だ。ならば削るだけ削るも戦法よ。傷を負うも誉、いざ尋常に」
 長く、鈍く、軽い剣。だが、『亜竜祓い』レオナ(p3p010430)の手にはよく馴染む。その身に浮かび上がったのは紋様であった。
 戦化粧は敵意と殺意を表すかの如く。レオナの身を前線へと運んで行く。
「ッ、オオオオオ――――――!」
 雄叫びと共に前線へと特攻して行く。何もに求められぬ進撃を、その体を押し進める猛攻の一撃を放つが為に。
 レオナの束ねた髪が揺らぐ。振り上げた『岩貫』が重ねるのは何重もの攻撃。鋭く放つのならば、重ね続ければ良い。
 地を司る亜竜種は大地を踏み締め、敵前へと向かうのみ。些か数が多いのはそれだけ『地下』への道が近いという事だ。
「さーて」
 破損箇所の修理は完了。弾薬と燃料の補給も終った。準備は完了だ。
「『また』弾幕張らせて貰うぜぇ!」
 にんまりと唇が吊り上がった。『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)が抱え上げたのは魔導蒸気機関搭載巨大火砲。戦闘パワードスーツに装着された火砲はしっかりと的を見据える。
 整備の面倒さはあるが、此処で出し惜しみをして何となるか。鉄帝国の蒸気機構を舐めてはくれるなとリサの唇が吊り上がる。
「――撃ち方、始め!」
 形式張った『台詞』と共に無数に弾丸が襲い征く。鋼の驟雨が纏う蒸気の気配。弾着と共に氷の狼の姿が霧散する。
 その下を、三人娘が走っていた。一人は鮮やかな紅の闘衣を身に着け、一人は斧槍を振りかざし、もう一人は裁ち鋏を握りしめる。
「顔が反則とは言ったけどすぐ殴る!? って拳を出すのはどうかと思うわよ、リュカ。
 このままじゃ各国の顔が反則コレクションが揃い踏みしそうな……えっでもそれって最高じゃない!?」
「りんりんのおばーちゃんは美味しい物に目がないけど、りんりんはいけめんに目がないんだよね。こまったもんだ」
「ううん、鈴花は美味しい物にも目がないから欲張りさんなのよ」
『顔が反則コレクション』を探し求めて心を踊らす『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)の姿を眺めてから『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)と珱・琉珂(p3n000246)が顔を寄せ合った。
「ゆえ、リュカ! まだ見ぬ顔が反則コレクションを探す為にもこの戦いをどうにかするわよ! ……ちょっと何よその顔」
「あんなこと言ってるけどどうする? さとちょー」
「領域(クニ)のコレクションはちょっと気になるけど、取りあえず、やる気の儘にぶんなぐりましょう!」
「そだねー。理由はどうであれわたしたちのやることは変わらないもんね!」
 楽しげに話し合う三人は倒し続けることだけを目的にして居た。倒して、倒して、倒し続ける。ユウェルにとって我慢比べは得意事。
「んもー埒が明かない! さっさと奥に行かせなさいよ!」
 叱り付けるように叫んだ鈴花の拳が天衝種を大地へと叩きつける。焔を纏った鋏を武器に立ち回る琉珂はふと鈴花を振り向いた。
「ねえ、鈴花。私が男の子だったら、絶対鈴花は私が好きよ! 確信!」
「ああ、顔面が反則かって事?」
「あー顔面に限っての話?」
「二人とも酷い!」
 楽しげな少女達の様子は鉄帝国の動乱には似合わない。だからこそ、救いのようにも見えたのだ。
 ブリギットの視線に気付いて十七号は『彼女の見たかった平穏とは他愛のない会話と、穏やかな日々』だったのだろうと気付いて仕舞った。

成否

成功


第2章 第14節

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

「どうやら前線で動きがあったようですね……思うところはありますがまずはこの辺りの敵を掃討しなくては!」
 決意と共に汗を拭った『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)。寒々しい冬だというのに、緊張は冷たい汗を滲ませていた。
 妙見子の支援を受けてから玄武に「頼んだぜ」と声を掛けた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は前線で戦うが為の万全なる姿勢を整える。
「うぃんたぁぱーてぃーじゃな? 天晴れ! 宴であるぞ!!! パァァァァリィィィィ!!」
 今はその明るさも愉快なものだ。玄武が周辺へと散布した『霧』の気配。光を纏うゴリョウがずんずんと前線へと飛び込んで行く。
 周辺の温度を見極めれば敵の動きも分かり易い。何より、天衝種やアラクランの兵士達はゴリョウの光に向けて飛び込んでくるのだ。それは宛ら誘引突起(イリシウム)の如く。
「こっちだぜ、玄武の爺さん!」
 ゴリョウが声を掛ければ玄武は跳ねるようにしてゴリョウの側へと敵を引連れ遣ってくる。飛んで火に入る夏の虫とはこの事だろうかと『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の唇が吊り上がった。
 無数の符。戦場も激動しているが露払いと共に豊穣軍の護衛を務めるのも重要な仕事の一つだ。青龍には伝達と回復を頼み、ゴリョウと共に敵の攪乱を行なう玄武が引き寄せた者を払除ける。
「うむ、そちらは文字通り鬼門だな? 存分に受け止めてもらえ」
 陰陽を司る攻撃を放つ錬の傍で「俺は出てはならぬか」と何度も繰返す霞帝。「ダメなのだわ」と袖を引っ張ったのは章姫である。
「ダメか」
「だめなのだわ!」
 頬を膨らませる章姫に「章姫に言われると弱いのだが」と呟く霞帝が錬を見遣る。その視線から、章姫の夫君が彼女に霞帝を留めるように指示したことが分かって居るという事が透けて見えていた。
「……章殿には迷惑を……」
「いいや、俺も帝があの様な性格であるのはよく分かって居た」
 首を振ったのは『やさしき愛妻家』黒影 鬼灯(p3p007949)であった。愛らしい章姫には「帝が無茶をしないように見張っていてくれ」と言い含めた。
『晴明殿……貴殿の兄上の胃が大変なことになってしまうからな。
 まあ……章殿とジュース飲む気満々だったから大怪我をする気はサラサラないと思うがな』
 そんな言葉を重ねた鬼灯に章姫は「帝さんは怪我の一つもしないのだわ!」と明るい笑顔を浮かべ――ちょっと嫉妬心が芽生えたが其れ等全ては周辺の敵勢対象に重ねておこう。
 拗ねながらも霞帝が無数に召喚した刀。その力の源が何であるかに気付いたのは大切な『親友』の側を離れてやって来た『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)であった。
「賀澄さん、四神の皆!とても頼もしいよ。来てくれてありがとう!
 愛した国のみんなが命を張ってくれるのだから、私だって力になりたいと思ってここへ来たんだ。
 ……あれ? 賀澄さん。黄龍の加護を感じるのに姿が見えない……けど、その刀の召喚術は――」
「吾を探しておるのかの? 四神が豊穣の地を離れ実態として顕現するのは賀澄の負担になるのでな。吾は後方支援よ!」
 小型の金色の龍が姿を見せ賀澄の肩へと手を掛ける。シキにとっての愛しきその人は賀澄が多重に召喚する刀の『出所』であり、重傷率を下げる加護を与えていたのだろう。
「黄龍。来てくれてありがとう、どうか無事で。……私、戻らなくちゃいけないんだ。誰よりもそばにいたい人の隣にさ。だから行ってくるね、黄龍」
「シキ、御主の頑張りを外で見られた事に感謝を。主の思うがままに羽ばたくが良いぞ。瑞は豊穣で良き便りを待っておるからの」
 送り出す黄龍にシキは頷いた。その姿が霧散する前に『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)は黄龍の姿を確かに見た。
「ウォリア。御主も思うが儘に戦うが良いぞ」
「……黄龍か」
 頷いたウォリアは真っ直ぐに氷を見据える。豊穣よりは錚々たる顔触れの援軍が来た。外では海洋の援護射撃も行なわれている。
『冬の王』も千人力も斯くやと力を振るい、手を取り合い進む特異運命座標達が居た。縁は紡がれている。
(――縁の力とは斯くも強きものか)
 ウォリアはそれを他人事のように見ていた。硝子を隔てた先の景色を横目に、本能が戦え、破壊せよと叫ぶのだ。そんな本能に囁く黄龍は云う。
「御主が行なう『破壊』は転じれば何かの救済に成り得るのかも知れぬ。御主がそう思おうともなあ」
 揶揄うような黄龍の声音を聞きながらも、ただ、『破壊』の一言のみを遂行し続ける。
「悪しき狼よ、冬の獣よ。取り巻く全ては些事、他の命は前菜にもならぬ」
 ――異界の御伽噺で巨狼は隻眼の神を呑んだと云う。
 この混沌に落ち、凍て付く世界で燃え盛る炎。己もまた神たる戦士としてその巨狼を目指すのだ。
「お前が我が叙事詩を彩るに値する者であると願いやまない」
 薄氷が修復される。崩れたそれらが破片となり小さな狼たちが前線へと走り来る。
「内部の状況がかなり動いていますね。
 ならばここで後顧の憂を絶って、心置きなくフローズヴィトニルに会うための準備をしておきましょう。そのために今は進みましょう」
 陽だまりのような暖かさを『雪花の燐光』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)は感じていた。春の陽気のような四神達の気配。
 それらを感じながらも迫り来る者達を魔砲を以て退ける。だが、其れ等を通り抜けてくる者も居た。
「侮らないでちょうだい! 魔砲だけが私の取り柄じゃないのよね!!」
 身を翻し、魔力を伴った剣戟をノアは放つ。内部の状況は大きく動いている。フギン=ムニンのことも気がかりだとノアは白虎に囁いた。
「取引が彼女の独断だとするならば、フギン=ムニンはどう動くかしら。ブリギットに従うか、当初の目的を果たすために忠実に作戦を遂行するか……。
 フギン=ムニンという魔種の気配を常に探知していてほしい。不意打ちを受けない貴方なら彼の動きを阻害できるはずですから」
「多分ね、あの人は『別の動き』だと思う。だから、下で待ってるんだと思う」
 白虎にノアがぱちくりと瞬いてから妙見子は呟いた。「待っているのですか」と。
「うん。時間を稼げば『大きな何か』が出てくるからね」
 白虎が前を見据える。身震いをした四神の一柱を見据えてから妙見子は春の気配をも退けんとする『冬』を感じていた。
「ブリギット様でしたっけ? ……いえ、元の世界の友人を思い出しただけです、何度もご心配を……すみません晴明様……」
「……皆、思うことがあるのだ」
 目を伏せる晴明に『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)も何か思うように頷いた。
「ブリギットさま……魔種となってなお、優しい御方なのですね……あまりに……も……けれど、ただ一人を犠牲に、なんてしたくありません」
 ――神逐があった。
 そう告げた『彼女』の姿がその目には焼き付いている。
「もしも、霞帝さま達がこの地で神逐に近い奇跡……可能性を導きだせるのならわたしも、力になりたいです」
「帝様達が……?
 私は最近召喚されたばかりなので詳しい事情は分かりませんが豊穣でも同じようなことがあったのですね。
 私としては帝様を前線に出すのは反対ですがそう言って聞くようなお方じゃないのはよくわかりましたし……
 奇跡というのは起こるはずがないからこそ奇跡だ、とはよく言ったもの。為せるでしょうか」
 妙見子の問い掛けへ建葉・晴明 (p3n000180)が渋い表情を浮かべた。屈んで下さいと告げるメイメイに晴明が首を捻って膝を付けば。
「えいっ。ほら、皺が寄りっぱなし、です……賀澄さまには皆がついていますから……一緒に、お支えしましょう?」
「……ああ、済まない。……屹度、『起こせぬ事であろう』と、俺は思う」
 晴明は苦々しく呟いた。あれは豊穣の守り神であり、豊穣であったからこそ為せたことだったのだろうか。
「……だが、今は」
「はい。この戦いの先には、フローズヴィトニルが、居ます。
 彼と向き合うのなら、後ろの心配をしないで済むように……今、此処で、憂いを断っておかなくては……です、ね」
 メイメイは朱雀に後方からの援護射撃を頼み、敵の掃討を行なうと共に、周辺の確認を欠かさなかった。

 ――神逐の『再来』を。

成否

成功


第2章 第15節

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
約束の果てへ

 ――神逐(かんやらい)。黄泉津瑞神のけがれ祓いと再誕の模倣が出来ないか。

『光芒の調べ』リア・クォーツ(p3p004937)が呟いたその言葉を、豊穣の者達は耳にしていた。
 勿論、ブリギットの『提案』が纏まってからの話しではある。黄龍は『それは難しい』だろうと一先ずの返答を行ったと言う。
 あれは黄泉津瑞神という神霊があの地に深く根付いて居たこと、けがれ祓いを担うプロセスが此岸ノ辺とけがれ巫女に逢ったことで為し得たことだった。
「それを再現するならば相当の犠牲は必要であろうな」

 そんな言葉を胸にリアはやって来た。リアには家族というものが分からない。それでも、ブリギットにも、リアにも必要な事は分かる。
 大切な人達が為そうとする事を、信じて託す事。そればっかりが、必要なのだ。
「ブリギットさんの提案は、最終手段。その前にあたしに試してみたい考えがある。
 フローズヴィトニルを今のうちに倒し、かわいい子犬として再誕させる。そして、力だけをその内に封印するのよ」
 リアはブリギットを『信じる』事を選んだ。難しいと言われようと可能性はゼロではないなら――賭けたかった。
「わたくしは……」
「成程ね。要になる、か。確かに本当の意味で魔種を救済する手立ては未だ無い。
 封印なんて手段はあったけど、あれは特殊な事例だからね。
 かといってかのフィナリィが用いた術式の模倣では完全封印には足りない。現状はそれを受け入れるしか無いのかな?」
 神逐も『妖精郷の冬』も。どちらもが嘗て誰かの犠牲と共に封じられたものだった。
『氷狼の封印を求めし者』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はそれを理解しているからこそ、ブリギットに敢て問うたのだ。
「……ええ。わたくしは、魔種。生きているだけでこの地を滅ぼします」
「ああ。そうだね。私としては犠牲にすることに何の抵抗も無いけど。
 イレギュラーズは諦めが悪いからねぇ、果たしてどうなるやらって所だよ」
 肩を竦めたルーキスは「話しの邪魔も困るから、彼女に頼もうか」と『西の王』アザゼルへと声を掛けた。阿鼻叫喚を眺めるだけではなく魔術の知恵を貸せと告げれば「ふむ、もっと愉快な劇を見せてくれるのか?」と彼女は揶揄うように告げたのだという。
「最も、封印については――エリスちゃんの手順を確かめなくちゃならないだろうけれど、さ」
 ちら、と後方のエリスを眺めたルーキスの隣をずんずんと進んだのは『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)であった。
 拳を固め、それが小さく震えている。堪えるような何かが、無骨な青年の唇から溢れた。
「ブリギットの想いも願いも、よく分かりました。寝惚けていますね。ぶん殴って目を覚まさせます」
「……オリーブ、良いのです」
 彼女と、面識があった。それはあの『村』でのことだった。
「信じる信じないではありません。
 楔だとか救う為だとか死んだって良いだとか、そんな妥協と諦めと上からの自己犠牲で、貴女を想う人達を悲しませるつもりですか!
 フローズヴィトニルは我々とエリスさんに任せておけば良いのです。貴女の出番はありません」
 その襟を掴み上げるようにオリーブは言った。銀と金、魔種に落ちて、色彩の変わった女の瞳がオリーブを覗いている。
「それに死んだって良いのなら、今ここでなくても良いはずです。
 フローズヴィトニルを何とかして、一緒にフギン・ムニンもバルバナスもぶっ飛ばしてからで良いじゃないですか。
 どうしても死にたいのなら、自分を殴り飛ばしてでもその想いを示し、貫いてください」
「……」
「ッ、そうでもなければ納得できません! 絶対に受け入れません! 『二度も』貴女を見捨てるなどと!」
 二度目だった。イレギュラーズでも、子供や孫でもなく、一人の人間としてブリギットを殴りつけようとした拳が女に受け止められた。
「ッ、倒れてやるつもりはありません。自分にも貫きたい想いがあります。
 ……あの時は届かなかった。今は届きます。放すつもりはありません」
「優しい子。わたくしは、貴方に『わたくしを殺させたく』はないのです」
 まるで母のような口調にオリーブは歯を噛み締めた。受け止められた拳を包み込む掌の力は、強い。
 それが女の元から有していたものではなく、魔種だからだという事に気付けばこそ、『魔種を人へ戻す』事の出来ない世界の実情が苦しくもあった。
(……魔種、ああ、そうだ。
 冥刻のエクリプスや絶望の青での決戦、他にも依頼で敵対する必要のない魔種と同じ敵を攻撃したことはあるから受け入れない理由は無い)
 シリウス・アークライトも、ミロワールだって。『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は手を取ってきた。
(二児の父親としても、いずれ我が子と争う事から逃れられないなら。
 我が子の嗚咽を聞きながら殺されるよりはマシだと考える。似たような状況なら俺だってそうする。
 一度我が子に終わらさせた身としても殺す方も殺される方もつらい。
 でも、封印のの楔にならなければ、この戦いの後にシャルロットの最期のように思い出を作る時間ができるかもしれない……)
 最後に、全てが終わったら『笑いながら』別れることが出来るだろうか。そんなことを思いながらも道を切り拓かんとウェールは考えた。
 道を切り拓くのは『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)も同じであった。ブリギットと話したい者も居るだろう。仲間達のために出来る限りの露払いを行なうのもまた、誰かの為なのだ。
「っ、少しの間、時間を稼いでおいてやる」
 周辺の天衝種への攻撃を。フギン=ムニンはローズルが護る扉の向こうにいるのだろうか。ならば、全てを退けるのみだ。
「弟子のやりたいことを尊重してやるのが、今俺にできることでね?」
 呟く。アルヴァはただ、『人が為したいこと』を手伝うためにやって来た。周辺の制圧を行なう『航空猟兵』の頭目として――空より、穿つ。

 ――ご機嫌よう。セチア。私はドルイド。おばあちゃんとでもお呼び下さいね。

 道を開いてくれる人が居るならば。『秩序の警守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)はその手伝いをすると決めて居た。
 セチアがブリギットと――いや、『おばあちゃん』と話したのは一度きりだ。その時のことはちゃんと、覚えて居た。
 彼女の選択を尊重したくとも、意見が言えるほどの繋がりは自分には無いとセチアは考えて居た。だからこそ、声を張り天衝種やアラクランの兵士を引き寄せる。
「時間がないのは分かっている。それでも彼女の未来の選択の話し合いの邪魔はさせないわ!
 私、祖母は居ないから。おばあちゃんができて嬉しかったのよ?」
「セチア……」
 約束のために、セチアは生きる。だからこそ、彼女のための奇跡も命を賭す覚悟も此処にはない。
(……クェイス、力を貸してあげて?)
 精霊と話す力も、『アイツ』が分けてくれた全てが役に立つように。それだけを告げてセチアは背を向ける。
「たしかに魔種はいずれ倒さなきゃ……でも『魔種だから犠牲になっていい』『しょうがない』はなんか違うかなって……。
 要石を取り返せば誰かを犠牲にしない再封印の道も見つかるかもしれない。
 ギリギリまで考えて、それでもどうしようもなかったらその時考えよう。
 それまでおばあちゃんに何か起きないようにかばう。それがぼくの答え。それじゃ、だめ?」
「リュコスが傷付きます」
「おばあちゃんは孫たちが信じられないの? 愛の形は守るだけじゃないんだよ」
 唇を噛んだブリギットに小さな『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は背を向けたまま、ただ、真っ向から氷狼たちを受け止めていた。
「ブリギッド君。
 多く接した訳ではないが、貴方と革命派の面々が談笑してる姿が目に入るのは、嫌いではなかった――嫌いではなかったから、尋ねたい」
「……ルブラット、なんでしょうか」
 オリーブを傍に、そして悲痛な表情をして居るブリギットを『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は見遣る。
「貴方はアラクランだ。そして、アラクランも彼らなりの理想の為に戦っていた筈だ。
 彼らの心を裏切り、志を挫く事を望むのであれば……彼らのことは、愛していなかったのかね? 彼らと私達に一体どんな差異を見出している?」
「彼等は、同士です。愛しては居ました。ええ、『私がイレギュラーズを我が子』と勘違いしていたのはフギン=ムニンの策略に他ならない。
 ですが、同様に仲間を慈しむ心はあったのです。ですが……ふふ、莫迦みたいな話しですよ」
 ブリギットは肩を竦めて困ったようにルブラットを見た。
「わたくしは、わたくしの為に拳を振るい、涙を見せ、そして、祖母と呼び抱き締めてくれるこの子達を、一番に愛さずには居られなかったのです」

成否

成功


第2章 第16節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
騎兵の先立つ赤き備
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

「いやはや……好かれていて良かったですね、ブリギット。泣かせるではありませんか」
「――ローズル」
 ブリギット・トール・ウォンブラングが睨め付けたのは『外交官』ローズルその人であった。
 彼を打倒せねばフローズヴィトニルの元へは至れない。ブリギットもそれを理解しているのだろう。雷の気配が走る。
「クロックホルムは良い時間稼ぎでしたが……さて、もう少し時間を稼がせて頂こうかと」
 ローズルが指を鳴らせばその周囲にはアラクランの兵士達の姿が見えた。息を呑んだのは誰であったか。『革命派』であれば見慣れた顔もあっただろう。
「時間稼ぎ、ね。ええ、そちらの狙いはそうでしょうとも。なら――」
 ちり、と燐光が走った。紅色の眸には決意が載せられている。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はローズルを見据える。
「――止まらないで! 転進! 掃討戦用意!」
 イーリンが、騎兵隊に伝達するのは大掃討の号令。
 ローズルの元へ仲間を届け、的確に相手を倒すが為。そして、ブリギットとの対話を望む者に安全無事に言葉を届かせるため。
「応ともイーリン、俺はまだまだ戦える!」
 答えたのは『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)であった。掃討戦であろうとも、為すことには変化はない。
「騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! 斬られたい奴からかかってくるがいい!」
 鯉口を切る。引き抜く刃は其の儘にアラクランの兵士の元へと肉薄した。彼方も信念があるのだろう。
 決死の戦い振りや見事。敵ながらもエーレンは天晴れと褒め称えたくなると皮肉な笑みを浮かべてみせる。
「指示は分かっているわね?!」
 イーリンが叫ぶ。ラムレイの嘶きと共に彼女は絶対的必須事項を叩きだしていた。それこそが『全員生存』の号令である。
 地を駆け抜けて行く師匠の背を追って『オンネリネンの子と共に』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は副官として支えることを決めて居た。
「情報を!」
 叫ぶイーリンにココロは「はい、お師匠様!」と声を上げる。統率し、他方より迫り来る敵の掃討を行なうならばリソース管理と討ち漏らしを無くすべく敵と相対することこそが必要である。
「All right, ジョーンズの方。張り切って視るとしよう」
 くつくつと喉を鳴らして笑った『闇之雲』武器商人(p3p001107)はギネヴィアと共に戦場を駆けていた。広域での視界を確保し出来うる限りの周辺警戒を行なう事が武器商人に課せられたオーダーだ。
 だが、それだけではない。周辺の敵を引き寄せ、討つ事も思考から抜けてはならない。共に征くのは『冬将軍』と名乗らんとするジェド・マロースであった。
 フギン=ムニンを侵略者として認定した鉄帝国に棲まう精霊種は出来うる限りを作り尽力する。
「これは手痛い話しだ。掃討作戦に出られては、此方の時間稼ぎもままなりません」
「何やら妙な事やってる奴が居るな……接触する魂胆はなんだ?
 まぁ良い、説得諸々は他の連中がやるだろう。こっちはそのお膳立てをするのが仕事だ」
 呟いた『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はブリギットとローズル。それぞれの別の思惑を抱いている事には気付いて居た。だが、それの柔らかな事情に踏み込むのは彼等を知っている者達が行なうだろうとも考えて居た。
 ティンダロスは主人の希望をよく汲んでくれている。近寄るアラクランの兵士達へと突撃をし、冬の気配をその身に纏わせた。
「邪魔しちゃいかんだろう」
「僕の仕事の邪魔も辞めて頂きたいものですが」
 やけにフランクに声を掛けてくるローズルを『一ノ太刀』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は睨め付けた。
「ほいほい、っと! 死にたくねぇ奴ぁ退いてろ! 騎兵隊のお通りだ!」
 嵐の如く。戦場を駆け抜けるエレンシアはローズルの元へと仲間を届ける為だけに尽力していた。
「まあ退きたくても退けないだろうがな! 退く前にぶちのめすだけだしな!」
 騎兵隊一ノ太刀、轟華剣嵐エレンシア=レスティーユ! アタシの名、しかと魂に刻みおけ!」
 吼える。その声を響かせて駆け抜けていくエレンシアの鋭き視線。視線が交わらなくとも、声を掛けなくともエレンシアの動きを『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)はよく把握していた。
「さぁ、行くわよ! 邪魔者は全て私が引き受けるから、ついてきて!」
 己が連れているロージー――氷狼の欠片は小さく、ぽてぽてと歩いてくる。その愛らしい姿は役には立つが、レイリーの命を削って動く精霊を前線へと突出させるわけには行くまい。
「ロージー、分かったわね? 私の傍で手伝って」
 優しく声を掛けるレイリーにロージーが尾をぶんぶんと振って返答の代わりに凍て付く息吹を吐出した。
 自身を倒さねば誰も通させやしない。その意気を胸に走り抜けて行くレイリーの白き盾は光を帯びた。氷柱に混じった陽の光は外を覆い尽くした太陽からのものではなかったのだろう。柔らかな陽射しこそが本来はこの国にも訪れる春の気配なのだ。
 美しい春。それを遠ざける氷の城は寒いが、此処で燻っている場合ではないか。ずんずんと進んでいた『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)はおやれやれと肩を竦めて。
「若者の挑戦には年上が手を貸すのが通りスよね。ココロ氏もそうスけど、皆内戦の間にたくましくなりましたねぇ……。
 私? 私はー……まだまだ若手には負けないということで」
 嘆息する美咲の傍には盾役として動く『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)の姿があった。彼もまた、若人の一人。美咲が手を貸すべき青年だ。
「かなり数は減らせているはずでありますが…それでもまだ出てくるとは…!
 いや! まだまだこちらは気炎万丈! 予想より消耗は激しくないでありますから、ドンドンペースを上げてむしろ一気に一掃でありますッ!」
 傷をカバーすべく戦う者が居る。死を遠ざけるべく動く仲間達が居るからこそ、ムサシは何も恐れることはない。
 勇気と決意が青年の原動力だった。膝から崩落ちそうになろうとも、立ち上がるだけの確かな気概は持ってきた。
「二天一流・宙の技……! ――お借りしますッ! 焔閃抜刀・交ッ!!!」
 必殺剣をも見舞えば、入れ替わるように『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)が不吉へと誘って行く。
 仲間の邪魔をさせるつもりは毛頭無かった。雲雀が注視したのは戦乱の気配を遠ざけなくては『因縁の決着』や『おばあさんと孫』の会話に挟まろうとする無粋な奴が居ることだった。血の繋がりも無ければ、出会ったばかりのその人だっただろう。
 ブリギットが魔種となって、砕けた心を結びつけたのは死した者の代りをピースとして当て嵌めることだったのだろう。それが革命派のイレギュラーズ達を中心に『ローレット』を我が子として認識することだった。
(屹度、彼女にとっては我々だって孫で、子供なのだろうね……)
 ブリギットは誰もを慈しみ我が子のように接していた。そんな彼女を思う者との会話を邪魔立てさせるつもりはない。
 戦況を把握し、気配を消しては直ぐさまに仲間を狙う敵を討つ。影討ちも最も合理的な手段だ。
「さテ、此方も火力で押し切りますか」
「ああ。ぴすぴーす。しっかしウチらが大将は相変わらず無茶言いよりますなぁ……。
 全員生還とは無論素晴らしき理想論だが、それを叶えるだけの努力もせねばならんのだぜ?」
 からからと笑った『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は回復手として立ち回ることを望んでいた。
『労働』は酷く辛いことだが、同時に皆を救うための足掛かりにもなろう。幸潮は自分の回復が届く範囲を示すことで仲間達と『被る事無く』効率的に生存というオーダーを叶えられないかとも考えて居た。
「て、言うか凄い勢いでアラクランの兵士を投入するな」
「……恐らくは、だ」
 静かな声音が空より降った。それは『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)だったのだろう。
(……ここの大物以外、残るはフギン=ムニンのみになると思うが……『フローズヴィトニルの傍』と考えるのが妥当なのだろうな)
 レイヴンの懸念事項は姿の見えないフギン=ムニンであった。フローズヴィトニルの傍に彼が存在し、時間を稼ぎながら過ごしているというならば、兵士も必要は無くなるのだろう。
 何せ、鉄帝国全土を冬に飲み込む可能性のある『悪しき狼』だ。兵士よりも立派にイレギュラーズを退ける要となるのは確かなことだ。
「そういえば氷狼は無限湧きだったか? まぁ構わん。クロックホルムも時間稼ぎ。これ以上の時間を稼がせるのは悪手か。
 生産数を殲滅速度で上回れば……カハッ………魔力回路が悲鳴を上げ始めたか」
 口端から溢れた血を拭ってからレイヴンは前線を睨め付けた。降り注ぐ、星よ。遍く全てを打ち払え。
「ん、だいぶ敵も減ってきた。コレを倒せば――」
『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は低空飛行で追従しながらもローズルの元への道を開いた。
 アラクランの兵士も此処で出尽くす事になるだろう。レイヴンの言う通り『氷狼の欠片(フローズヴィトニルの破片)』はそれが存在する限り無限に沸き出でる。だが、それは同時にフローズヴィトニル自身を削って時間を稼いでいるだけだ。
(……屹度、覚醒してしまえば太陽を食べて全ての力を取り戻せると思っているんだろうね)
 嘆息しながらもイーリンの指示に耳を傾け、ファミリアーで天より俯瞰する。先行するファミリアーが撃ち落とされたならばその場所へ、マジカル迫撃砲凍結弾を撃つ。
 鈍い音と共に、弾着。凍て付く気配が広がれば、気配を察知し『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が地を蹴った。
「魔種を撃破したとはいえ、周囲にはまだ多数の敵が残っている。友軍の妨げにならぬ様、これらも対処する必要があるだろうな」
「オーケー。ならっ! またまたやらせて頂くっす! いってきまーす!」
 大地を蹴って走り出した『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)の眸が爛々と輝いた。素早く走り、黒きピアスに光を灯す。
 真っ直ぐに、ただ、駆け抜ける脚に力を込めてウルズはレイリーの傍へと飛び込んだ。
「ここで後輩の登場っす!」
「あら」
「先輩! ここでいっちょやりますよ!」
 身に着けた拳術は華奢にも見えた少女に何倍もの力を与えた。雷を伴う拳を叩きつける。身を捻り、大地を蹴って蹴撃を与えた。
 しゅ、と風を切る音と共にアラクランの兵士の顎を割る勢いで蹴りが放たれる。ウルズを狙った一撃を弾いたのはルーキスの瑠璃雛菊。正義の一刀。
「こちらだ!」
 声を上げ、叫ぶ。花びらを散らすが如く、己が身を傷付けながらも振り下ろした刃は師より学んだ剣術。
 砕の刀は獄人の体に良く馴染んだ。人の身ではその全てを受け入れがたくルーキスの腕の筋が悲鳴を上げる。
「ッ――」
 それでも。構うことは無かった。後ろには霞帝が、己が頂くべき王がいるのだから。
「無理はしてはならないのだわ!」
 声を掛けた『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が不服そうに唇を尖らせた。白き翼で飛翔する巫女は瑠璃色の光をその身に纏う。
 神罰の代行者たるかの如く、稀久理媛神の加護を纏う弓に矢をつがえた。
 放つ、一矢は奇跡を追い求める。掛けまくも畏き神よ。我が媛神よ、その恩恵を――
「護りを固めるだけじゃないって事、少しは分かって貰えそうかしら!」
 代弁することが出来るのは『巫女』であるからだ。己が身に流れた血潮こそ、支えるべき者だからだ。
 作戦概要を聞き、丁度良いとアラクランの兵士を殴りつけたのは『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)。詰まり、掃討というならば数を『倒しす』事が肝要だ。
 昴は邪魔立てする者は片っ端から殴りつけた。アラクランの兵士の顎を砕き、遠距離より攻撃する魔術の出所を睨め付ける。
 近付く者は容赦はせず。正義の拳を叩きつければアラクランの兵士の腕がぶらんと揺らいだ。
「誰一人逃がさん。徹底的に叩き潰す!」
 昴の荒々しい闘気がアラクランの兵士をも包み込む。流石に数は多いが、その方が『燃える』というものだ。
「誰が何を画策してるか、真偽の沙汰すら分からんが俺がやることは何ら変わらねえ。
 敵に囲まれたからといって俺の動きがどうにかなるわけでもねえ、てめぇら一人一匹たりとも逃がしゃしねえよ!」
 唇を吊り上げ笑った『老いぼれ』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)に『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)はその通りだと肩を竦めた。
「乱戦状態だが、『仲間を送り出す』事が出来ればそれで重畳だな」
「ああ。行くぜ!」
 バクルドの制圧が始まった。無明なる命を絶つ弾丸は、強烈な反動を感じさせるが何とかその手の内に収める。じゃじゃ馬を乗りこなせば、打ち砕くことも用意だ。
 ミーナはドレスを揺らし、全体を確認していた。その双眸はしかと見遣る。
「来るぞ」
「……おう」
 バクルドが静かに答えると共に弾丸が吐出された。ローズル狙いのイレギュラーズの背を狙う者は騎兵隊によって打ち倒される。
 全体を確認することに意識を裂いていたミーナは確かにローズルの元に仲間達が辿り着いたことを確認していた。
「……庇うよな、なら根競べだ」
 ローズルを庇わんとするアラクランの兵士諸共。裏返る命運をその掌に転がしていた『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は酷く嘆息する。
「遅延させて焦らせたいのは向こうの魂胆。ならば――『向こうを焦らせれば此方のモノ』と言えないか?
 指し手ってのは焦っちゃダメなさ。ゆーっくり、真綿で締めるように。じわじわと。
 それでいて『いつでもお前の首は穫れる』と思わせなきゃ。な?」
「貴方は随分と狡賢い。……外交もその様なものですけれどね」
 穏やかに微笑んだローズルにカイトは肩を竦めた。男への道は、最早開いたと言っても過言ではあるまい。

成否

成功

状態異常
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)[重傷]
蒼剣の秘書
夢野 幸潮(p3p010573)[重傷]
敗れた幻想の担い手

第2章 第17節

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
テルル・ウェイレット(p3p008374)
料理人
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

 初対面では、何とも思わなかった。それが『そういうもの』だと認識していたからだ。
 魔種は敵であるという絶対の認識が揺らいだのは乱花を目にし、魅咲を目にしてきたからなのだろう。
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は静かに息を吐いた。ああ、弱くなっていく気がしてならないのだ。
(魔種にも……色んな思いがあるって……他の魔種に対しても思ってきたから……ローズルは……人、だと思うけど……どうなのかな……)
 魔種も元々は人だった。そう思えばこそ、どうしようもない程に苦しくなるのだ。
 レインは前を征く『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)や『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)を支援する。
 仲間達を支え、守り抜くのも一つの戦いだからだ。
「外交官ローズル……鉄帝国にそのような人物が居るのか、と噂に聞いた事はあった。ゼシュテルで生きるのが辛かっただろうと理解はできます。
 こうでもなければこの国が変わる事は無いだろう、というのも恐らく間違っていない。
 だからこその革命。そして既に事は成った。
 鉄帝国史上初めてだろう目前に迫った全てに平等な死と滅びを前に、彼らは手を取り合う事を知りました」
「……知ったような口を利くのですね」
 スティッキでかつり、と地を叩いたローズルの前に氷の狼たちが飛び出した。リースリットは其れ等を斬り伏せながら目を伏せる。
 革命派と呼ばれた者達も同じ心境であったのだろう事は容易に推測できた。この国は強者の為にある。
 それは戦えぬ物にとってどれ程息苦しいことであっただろうか。強者こそが全てである事を是としないものにとっては、何と生きた心地のしない場所であったか。
 男は研鑽し、戦う道を選んだのだろう。ローズルの頬を掠ったのは『時には花を』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)の一撃であった。
 ライオットシールドを構え、氷狼を受け止める。ふわりとした雪色の髪が揺らぐ。
「ワタシはタフなんだから……!」
「女性を殴るのは忍びないのですが」
 嘆息するローズルに紳士的な仕草を見せようとも、本心が見えない。
 男は本心を悟らぬように気を配っているのだろう。お涙頂戴の物語など、自身には必要ないとでも言うかのようである。
「前に、進みたいんだ……っ」
「貴方が傷付く必要はないでしょう」
 静かな声音にフラーゴラは「あるよ……!」と返した。彼女の体を支えるのは『料理人』テルル・ウェイレット(p3p008374)であった。
 今のテルル自身では焼け石に水。そう認識していた。だが、テルルは冒険に憧れた。為せばなる、己の出来うることを全て其処に捧げるのだ。
「コレが終ったら、美味しいお茶やお料理を楽しみましょう」
「そう、だね……っ!」
 テルルにフラーゴラは微笑んだ。全ての事が済んだならば、また穏やかな日常が帰ってくる。
 その為に進む者も居れば死していないのならば『殺す』事に注力するモノも居た。
 バルガルの瞳には強い殺意と敵意が漲っている。己が傷付こうともその体は未だ動く。心臓が血流を押し、肉体を動かす伝達信号は麻痺していない。
 倒れたとしても命を削って、何度だって起き上がれる。鎖を手にローズルの元へと飛び込んだ。
 ステッキに絡みついた鎖にバルガルが唇を吊り上げる。
「何方が悪人でしょう」
「――言ってろ、小悪党」
 死体にはなってないのだから、このまま攻め立てるのみだと男の瞳は語っていた。
「バルナバスを退けた後、この国には春が訪れるでしょう。
 芽は吹きました。新しい時代が来るのです。
 ローズル、そして貴方と志を共にした方々。貴方達がその道を信じられなかった事は、残念でなりません」
 囁くリースリットの傍で『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は考え倦ねた。
 ブリギットのことは皆に任せ、ローズルだけを相手取っていた。此処で時間稼ぎをさせるわけには行くまいと退路を防ぐゲオルグにローズルは嘆息する。
「聞きたいことがあるのですか」
「ああ。本当に氷の扉と自分の命が結びついているというのなら私達の前に姿を表したりせず、暗躍している方が本来ならば都合がいいはず。そうだろう?
 時間は稼ぎたいが、然るべきタイミングで、私達をフギン=ムニンとフローズヴィトニルのいる場所には誘き寄せたいということだろう」
「ええ。貴方方は都合が良い存在ですからね。門番扱いは癪に障りますが……。餌は多いに越した事は無い」
 ゲオルグは嘆息する。イレギュラーズをも糧にせんとするならばフローズヴィトニルは強欲だ。

成否

成功


第2章 第18節

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は大きな嚔をして居た。ぶるぶると震えて「もうやだー!」と叫び始める。
「びえええ奥に行けば行くほど寒い! へぶしっ! かえって温泉入りたいー……って思ったけど、ここをどうにかしなきゃずっとこうなんだよね?
 んむ、それならやるっきゃない! ――へぶしっ!!」
 そう。この奥にはフローズヴィトニルが居る。フランはそれならば遣るしかないのだと目の前のローズルを真っ向から睨み付けた。
「次々と来るわねぇ……向こうも正念場ってワケ、ね……。
 先に進む鍵を持ってると自白するなんて、ブラフか意図があるのか……」
 呟いた『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は疑りの視線を送りながらも銃口をローズルへと向けていた。
「大した意味はありませんよ」
「……ローズルさん」
 震える声音で、『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)は彼を呼んだ。
 狙われることが分かって居るのに、イレギュラーズに『鍵を持っている』事を伝えたのは何故か。
 イレギュラーズ全軍を退ける自信があるのか。
 それとも――
「死ぬ気……?」
「ハリエット嬢」
 それは失笑の気配にも似ている気がした。諦めきれるはずもなく、交友関係にあった人間を討つという現状を受け入れられるはずもなく
 ハリエットは震える声音で吐出す。
「世界の全てを知った気になって、つまらないなんて一蹴しないでよ。
 ……貴方が見ていない世界の先に、心が奮い立つ出来事があるかもしれないじゃないか」
 鍵を渡してくれるなら、逃がしても良いと言う気持ちが見え隠れしていた。『つまらない』から、退屈したから国を壊すという理由を語った男の本心は見えない。
「ありませんよ。その様なものは。……僕はね、この国が嫌いだったのでしょう。
 莫迦らしいシステムに塗れている癖に絶対的強者が驕り、座り続ける玉座。下々の物を見ず、死に絶えていく全て。いっそ、潔い心地です」
「どう、いう……」
「僕には疾うの昔に未練と呼ぶべきモノはなくなったのです。ですが、これはハリエット嬢に伝えるべきものではない」
 男は最後まで本心を直隠しにし、そのステッキを振るった。氷の礫がハリエットの頬を掠める。
「ッ――」
「……ハリエット。
 ……さっきは手を貸してもらったしな。彼女、あいつと色々あるみたいだし……うん……」
 それなら、黒狼隊を頼ろうと『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は声を掛けた。周りの雑音を排除するべく戦うだけだ。
 政治のことも国のことも分からない。ただ、少しだけ分かった事がある気がした。
 男は疾うの昔に『何かを喪った』後で、それを隠しているのだろうと。風牙が氷の礫を槍で弾く。
 入れ替わるように甘い気配を指先に乗せたのは『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。彼が事情を語らないならアーリアは『理解などしてやるつもり』もなかった。
「……『その生き様も見ていて好ましかった』ですって?
 顔は色男みたいだけれど、その曲がった性根は気に食わなくて反吐が出そうよ」
「それでいいのです」
 鼻先でせせら笑う男に風牙は妙な心地であった。アーリアはそれが『男の望み』だと気付いて反吐が出るともう一度呟く。
 ハリエットが力を貸して欲しいのだ。ならば己も黒狼隊の一員として戦うだけ。
「ま、決着をつけてぇってのが居るんなら手を貸すだけよ。それがオーダーならば」
 コルネリアも唇を吊り上げて笑った。此処まで来れば行く先が地獄であろうとも構わないと男は考えたか。
 諦観の先にあるモノが死だというのをコルネリアはよく知っている。福音は奏でられず、最後は朽ちて消え失せるだけだというならば――時間稼ぎ程度のことは行なうだろうか。
「……渡せ、と言って、はい、とはいかぬのだろう?」
 何を、とは言わずに『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は確かめた。
「ええ」
 穏やかな微笑みが曇ることはないか。一礼をした『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は表情をさして変える事は無かった。
「敵として立ち塞がる以上、排除するまで。覚悟はよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
 青年の答えに対してハリエットが唇を噛んだ。その肩を叩いたのは『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。
「アーベントロートで、大きな借りを作っていますからね。あの時に貴女にしていただいたように、今度は私が貴女の道を作る番だ」
「新田さん」
「お任せあれ」
 静かな言葉と共に寛治は周辺掃討を担う。各地で仲間達が拓けた道だ。それでもローズルを護る為に飛び出してくる氷狼の欠片達は邪魔な存在であることには変わりない。
 回復手として戦場を支えるフランの前を走るのは『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)であった。
 大義も戦う理由も誠吾には存在しない。戦わなければ死んでしまう。だからこそ、戦っている青年は何に囚われることなく動く事が出来た。
「助けを求める声があればそれに応じる。いいんじゃね? どのみち『鍵』が要るんだろう?」
「そうだね。この先に進むにはローズルの持つ『鍵』は必要だし、何よりハリエットさんが決意したんだ。
 なら、この戦いは絶対に負けられない。黒狼隊として死力を尽くそう」
 ファミリアーで俯瞰した視界。『独立島の司令』マルク・シリング(p3p001309)はローズルに到達する誠吾やリュティスを見遣る。
 進行経路を確認するマルクの指示を受けて、ベネディクトは真っ直ぐに飛び込んだ。
 肉薄し、槍とスティッキがぶつかり合う。スティッキを弾くが如く銃撃を行なう寛治はローズルを庇うように飛び込む氷狼のかけらない気付く。
「随分と懐いているのね」
「ええ。使い勝手が良いもので」
 手が必要なら『『煉獄の剣』朱華(p3p010458)にまるっとお任せあれ!』と飛び込んできた少女はローズルをぶっ飛ばすためにやって来た。
 躊躇いも戸惑いも、全てを置いていかなければこの地が冬に閉ざされる。
 煉獄の焔を纏うた剣を振り下ろす。朱華が大地を踏みローズルの右腕を切り裂いた。
「苛烈ですね」
「やられたら、やりかえすの。朱華はそう育てられたから。国を壊そうとしたんでしょう? コレじゃ足りないくらい!」
 朱華にローズルが小さく笑う。誠吾は彼が国を壊そうとした事情はどうあれその現実は変わらないことを痛いほどに認識していた。
「信頼できる方に出会えなかったということは不幸なことですね……。
 貴方の行動は褒められたものではありませんが、その一点だけは同情致しましょう」
 信頼できる存在が、この国をよく導いてくれる。それが、玉座に座る名君であれば良かったのだろう。
 リュティスは分かる。あの男は『主を定める事が出来なかった』のだろう。故に、多くのモノを取りこぼしてきたのか。
 ローズルは出来うる限りの反撃を繰り出していたが、人間は何処まで行っても人間だ。フローズヴィトニルの欠片達の力を借りようとも、大きな穴は埋められない。
「国に信を置く……そういう在り方もあんだろうさ。
 だが、現実でアンタ等がやってる事を容認出来ない連中が居た。それだけの事。止める為の露払いはさせてもらうよ」
「構いませんよ。僕とて、革命には犠牲が付き物だと知っていた」
「アンタ――」
 もしかして、とコルネリアの唇が動いた。この様なことがあれば、多少なりとも民草に目を向け弱者の救済が行なわれる可能性はある。
 男の隠した事情が何かは分からない。満身創痍の男がコルネリアの放つ弾丸を弾いた。
 唇を吊り上げ、血に濡れた腕で魔術式を作り出す。
 その魔術式を眺めながらベネディクトはローズルも生まれた場所が違えば別の生き方を選べたのだろうかと呟いた。
「冗談だと聞き流してくれても構わないが、そちらは騎士か何かが向いていたのではないか」
「なれれば、よかったですね」
 囁く声音に唇を噛んだ。未来を奪い合っている。その事には変わりなく、ベネディクトが貫くローズルの肩口はその腕を自由に動かすこともできない。
「外交官である貴方に、大使として相対できなかったのは残念だよ」
 囁くマルクにローズルの眸の色彩が僅かに変わった。「ああ、アーカーシュの」と呟く青年が口惜しそうに笑う。
「僕も、残念ですよ」
 彼が腕をぶらん、と落とした。
「ハリエットちゃん、今よ!」
 アーリアの声に、ハリエットは唇を噛んだ。
 決意は引き金の重さだった。指先から力が抜ける気配がする。
「ハリエット!」
 ベネディクトの声に、ハリエットはひゅ、と息を吐いてから――
「願わくは、安らかな眠りを」
 惜別と、安寧を。その全てを籠めて弾丸でその胸を貫いた。

成否

成功


第2章 第19節

サイズ(p3p000319)
妖精■■として
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
バク=エルナンデス(p3p009253)
未だ遅くない英雄譚

 ――近くに居る。
 そう呟いてアルアと共にやって来た『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はブリギットの傍にやって来た。
 目の前のブリギットは何処か草臥れた表情をして居る。手伝って欲しいとヴァレーリヤに請われたならば『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が断るはずも無かった。周辺の敵を退けて此処までやってきたのだ。彼女の思いだけではなく、自分の思いも全て伝えたいと考えて居た。
 アルアの護衛として出来うる限りの戦闘を避けてやって来た『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はブリギットを見詰めてから唇を震わせる。
 彼女は魔種だ。その事実は変わらない。だが、驚嘆を抱いている。
 魔種とは、魂を歪めるものだとエッダは認識していた。だが、彼女はフギンの計略で一時的にはイレギュラーズを護るべき存在だと認識していたとはいえ、己の在り方や魂の矛先を喪っては居ない。
 在り方を損なわなかった者を尊敬し、声を掛けるとするならば懇願だった。ただ、己は凜とした彼女の在り方全てを歪めたくはなかった。
「ブリギット嫗」
 膝を付いた。軍帽を足元に置いて頭を下げた。
「エッダ!?」
 ヴァレーリヤが目を見開くがエッダはその行為を辞めることはない。
「貴女の耳に、どうか私の友の声を届けて下さいませんか。魔種という存在ではなく、貴女の魂へ希っているのです」
「……エッダ、ええ、わたくしは子供達を困らせている自覚はありますもの」
 話は聞きましょうとブリギットがエッダの頬に触れた。柔い、幼子の頬を撫でるような仕草で彼女は『祖母』の顔をして微笑んでいる。
「ブリギット君……ずっと、ずっと謝りたかったんだ。君の村を守れなかったこと。フギン・ムニンに敗北したこと。自分の無力を。
 ずっと君に恨まれている思っていた。憎まれていると思っていた。そしてそれは仕方がないことだと思ってた……」
「いいえ、恨んで等居ません、マリア」
「……ッ、ブリギット君本当にごめんなさい。今、君がどう思っているのかは分からない。
 でも私達に何かできることがあるならどうか力を貸させて欲しい。今度こそ君の力になりたいんだ」
 マリアの声が震える。その様子を眺めていた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は彼女達の対話に口を挟む事はしなかった。
 この主題はフローズヴィトニルの封印の仕方だ。封印と言われれば個人的なスタンスはサイズ自身も決定していることだ。犠牲が付き物だというのはそれだけ強大な魔術を駆使する必要があるからなのだろう。
(……どちらにせよ、氷狼の所に辿り着かなければならないからな……)
『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)はううんと首を捻った。確かに、エリスが封印を執り行い、その要にブリギットが入ればエリスは犠牲にならない。しかも相手は魔種だ。存在するだけで世界を滅ぼす、世界の癌とも呼べる。
「んー……言ってることは論理的には正しいんだけど…でも…こっちもこっちでなんか納得が……
 ええい、何をするにしてもとりあえずはフローズヴィトニルの所へたどり着くトコからだ! 後悔しないように決めてくれよ!」
 周辺は自身が支え護るからと声を掛けるリックにアルアは頷いた。アルアが話すことを促したのは『堅牢彩華』笹木 花丸(p3p008689)である。
「皆がどういう選択するのかは分からないけど、落ち着いてお話しできるのはこれが最後かもしれない。
 ただ最後を看取ろうとするだけじゃなくて、アルアさん自身が伝えたいことは今此処で確り伝えるべきだよ。……じゃないと、きっと後悔しちゃうから」
「はい」
 屹度、此処から先に進めばフローズヴィトニルとの戦闘がやってくる。途惑いも躊躇いも、今は感じている暇もないことを花丸はよく分かって居た。
「私が貴女と会うのは初めてだよね? 今回話があるのは私じゃなくて……ほら、アルアさん」
「おばあさま……花丸さんに、エッダさん、マリアさん、ヴァレーリヤさん、シラスさんやリアさん……沢山の方に連れてきて貰いました」
 アルア、とブリギットの唇が乾いた音を奏でた。
 その横面に不躾にも攻撃を仕掛けようとした天衝種に気付いたのは『未だ遅くない英雄譚』バク=エルナンデス(p3p009253)。
「……この身は脆弱。なれども容易く砕ける程の意志は持っておらんぞ」
 対話のための時間を稼ぐ。歩を進める味方の為に全力で尽くす事がバクの『英雄譚』だ。
 彼等が歩み寄る物語の端。その物語を彩るように言葉が尽くされるのならば、毀れ落ちることが無いように。
 バクは硝子のような透明な結界をその身に纏い、英霊の生き様を顕現するかの如くその身を盾にする。
「……バクさん、ありがとうございます。おばあさま……」
「アルア……」
 アルアの肩をそっと抱いたのはヴァレーリヤであった。
「ずっと、考えていました。そのつもりがあれば出来たはずなのに、どうしてあの時、私達を殺さなかったのか。
 飢えや寒さに苦しむ人々や残された子供達を守りたかったはずの貴女が、どうしてフギン=ムニンに従っているのか。
 貴女の村に行って確信しました。ブリギット、貴女には成したい事が他にあるのではありませんこと?」
「……わたくしは、フギン=ムニンを殺す機会を伺って居ました。先程、オリーブに叱られてしまいましたけれど。
 ええ、わたくしはただ……あの男を殺し、冬を閉ざし、暖かな春を与えたかったのです」
 ヴァレーリヤはそっと、子供が作った小さな髪飾りを差し出した。それはブリギットの村でアルアと探した品である。
「……これは……」
「アルアさんは、ブリギットさんを思って此処まで来たんだ。……どうか、私達の言葉を聞き届けて欲しい」
 花丸はアルアが『宝物』を手に笑っていたことを思い出す。
「わたくしは、魔種です」
「覚悟は済ませています。全て分かった上で、もう一度貴女と共に戦うためにここに来たのです。
 独りで抱え込まないで下さいまし。私達、過ごした時間は短かったけれど、仲間で、家族でしょう?」
 ヴァレーリヤは気丈にそう言った。唇を震わせるブリギットは、どこか切なげに眉を寄せているばかりだ。

成否

成功


第2章 第20節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
優しき水竜を想う
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
シラス(p3p004421)
竜剣
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

 ローズルが撃破された。残る問題が何か、それだけを考えて居た『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)は静かに息を吐いた。
 男を護っていたのはブリギットにとっては同胞であっただろう。革命派の者達は顔を合せたこともあった筈だ。
(……戦争というものは当然な事だけれど、喪うものも多いのね)
 毀れ落ちていった数々を掻き抱き集めるようにして、ブリギットも此処までやってきたのだろう。
 彼女が魔種であることを誰もが知っている。知っているからこそ、舞花はその選択に納得していた。
「彼女は……『魔種』を自覚している。認識している。何たるかを知っている。……だから死に方を、命の使い方を選んでいる……のね」
「で、でも、だからって……!」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は慌てた様に振り返った。視線の先には暗い表情をした『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)や『あたたかな声』ニル(p3p009185)の姿もある。
「ねえ、ブリギットちゃん、何を言ってるの? 代わりに犠牲になるなんて、そんな必要ないよ。
 だって、ボクは最初からエリスちゃんを犠牲にするつもりなんてないんだもん。だから代わりなんて必要ないよ。
 また、一緒に戦えるんだよね? まだ、一緒に戦えるなら、信じるよ!」
 捲し立てるように、言った。
「焔」
 ブリギットは手を握りしめる彼女を呼び止める。
「一緒に行こう! いつか、殺し合うようなことになる時が来るとしても、その時までは……ねえ、ブリギットちゃん」
 唇が震えた。心が宙ぶらりんだ。魔種だから、なんて『そんな何時もの事情』がどうしようもなく歯痒い。
「ブリギットさん……」
 誰かのために命を擲つ覚悟をアレクシアは理解できない訳ではなかった。何かが食い違えばアレクシアだって『そうなる』未来があったかもしれないからだ。
 その気持ちが分かって仕舞うから、止めることは出来なかった。逆の立場なら同じ事を考えてた可能性もある。
「……私達と、戦いたくないんだね。そうだよね、お互い、戦わずに済むんだよね」
「アレクシアちゃん……」
 焔の手が冷たくなっていく。体温が抜け落ちて、恐怖ばかりが胸を支配している。魔種である以上、戦うべき存在だというのは『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も理解していた。
「今、正気でも……ブリギットさんがフギン=ムニンに何かされる可能性がある……だよね?」
 ヨゾラはエリスもブリギットも犠牲にはしたくなかった。エリスを犠牲にしない方法が他にないのか、そう考えずには居られなかった。
 不安そうな表情を見せる『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は「ブリギットさん」と呼び掛ける。
(もし……エリスさんもブリギットさんも犠牲にしない方法があれば……)
 不安げな表情をエリスに向ける祝音はブリギットが事をどう為そうとしているのかを知りたかった。
「でも、フギン=ムニンは…エリスさんも、邪魔ならブリギットさんも襲うはず。
 さすがにエリスさんとブリギットさんは近づけていいかわからないけど……絶対、守らなきゃ。みゃー。だから、地下に一緒に行くのは……」
「そうだね、地下に行くのは賛成。護る為にも一緒の方が、良いと思う」
 ヨゾラと祝音はブリギットを信頼しているのだろうか。そんなことを考えながらもその全てを信用できない『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はブリギットを真っ向から見ていた。
「………本当に、どうしてそんな交渉なんて。
 はっきりわかりました。私は貴方が嫌いだと……気に食わなくて、頬を力強く叩いてあげたいぐらいに。
 歳や魔種だからと、自分が犠牲になって解決すればいいなんて考えが。私の心の内が……死血の魔女も気に食わないんでしょうね」
 歯噛みした。苛立って堪らなかったのだ。ハイエスタの魔女の心が尊いものであると疑っている。何かあったときに、『策略』のひとつでないことを願いながらも――嫌われ役にはなれたものなのだとマリエッタは敢て一線を引いた。
「わたくしの我儘でしかありません。マリエッタ」
「……ええ、そうでしょう」
「わたくしが、あなたの隊馬を胸に突き立て絶命するなど、そんな、苦しみを厭うた甘えでしかないのです」
 マリエッタの唇が震える。苛立ちにも似た、気配だ。
「ニルはブリギット様を信じてます。でも、でも……エリス様も、ブリギット様も……誰が犠牲になるのも、ニルは……かなしいです」
 かなしいを教えてくれたその人はさみしさまでも残して逝くのだろうか。『あたたかな声』ニル(p3p009185)はぎゅ、と胸の前で指を組み合わせた。
「ブリギット様のこと好きなひと、たくさんたくさんいるのです。そのひとたち、みんな、きっときっとかなしくなります。
 他に何か手はないのでしょうか? かなしくない方法は、ないのでしょうか?」
「優しい子。わたくしは、魔種なのに」
 彼女が魔種であるならば、その性質が純種に戻らない限り、『たいせつなもの』を壊してしまう事は分かった。
 空っぽの体に感情を満たすように。ニルはその苦しさばかりに責め立てられる。ブリギットが居なくなるのが嫌だった。
 ブリギットに飛び込んで『涙と罪を分かつ』夢見 ルル家(p3p000016)は勢い良くその胸を叩いた。びくともしなかったのは、力が入らなかったからだ。
「灯里くんもBちゃんもおばあちゃんも! みんな勝手ばっかり言う!!
 幸せになって欲しいとか、傷つけたくないとか、殺したくないとか、死んだって良いとか!」
「ルル家」
「どうしてわかってくれないの!? 私だって同じなのに! 友達を傷つけるのも殺すのも嫌に決まってるのに! 死んでほしくないと思ってるのに!」
 涙が止まらなかった。子供がそうするように駄々を捏ねた。
 ブリギットの傍に居れば彼女が魔種だという事が良く分かる。彼女だって呼び声で人を傷付けることがある事は知っていた。
「ルル家」
「ブリギットちゃん……ッ!」
 そっと腕が掴まれた。だらりと腕を降ろしたルル家が嗚咽を漏しながら俯く。
「ブリギットちゃん」
 エルスが一歩踏み出そうとしたが『氷の女王を思う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は押し止めた。
「エリスは無理をしないで」
 今は正に、制御をして居る。オデットや『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が連れる氷の狼はエリスの制御下に存在しているのだ。
(……蒼い顔をして。制御を緩めて害が及ぶかもしれない。
 私はそれだって構わないから私の子だけでもと思うけど、優しいエリスは許さないわよね。
 私だって、愛して混ざった人の心のように、自分がどうなってもフローズヴィトニルと共にあっても構わないと思うのに)
 メリーノとレイチェルがローズルを討つ為に協力してくれた。地下に向かいたかった。早くしなくてはエリスに影響が出ると思ったからだ。
「エリスもブリギットも、どいつもこいつも自分を犠牲にしようとしやがって」
 レイチェルは歯噛みした。自分だって、人に云えたことではないのかも知れないとさえ思えてしまう。
「……おばあちゃん」
 震える声音で『革命の用心棒』ンクルス・クー(p3p007660)は呼び掛けた。
「私がおばあちゃんを信じれないなんて事はないよ。だからおばあちゃんがそれが一番良いと思うなら、私はおばあちゃんについていくよ。
 唯、もし……もし『誰も犠牲にならない方法』があったとしたら……
 もう一度考え直してくれないかな? 私は『おばあちゃんを含めて』誰も犠牲になって欲しくないよ。
 それはおばあちゃんが魔種であっても変わらないよ。『魔種であるならば命を擲っても構わない』なんて事は絶対に無いよ」
 ンクルスの優しさに『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)は何も言葉に出来ないと唇を引き結んだ。
 クロックホルムは死んだ。彼もまた、何かが違えば違う道が拓けたのだろうか。
 魔種で、革命派でもな。ただ、それでもブリギットと『話せる機会』はもう来ないだろうと感じてならなかった。
「フギン・ムニンという男を、その性質を、手口を。あれだけ身に染みて知っていながら。
 あなたも、ノルダインの戦士たちも、ちゃんと救えなくて。ごめんなさい……」
「……あなたも、あの男で何かを喪ったのでしょう」
 ブリギットは穏やかな笑みを浮かべていた。その表情を見れば、得も言われぬ感情が溢れ出す。
(正気を残しているのなら、そもそも当たり前の話。
 彼女の村を襲った実行犯はクロックホルム……そしてそれを命じた者が居る。
 彼女の村と彼女の大切な家族を奪った真の仇が居るならば、即ちそれはフギン=ムニンに他ならないのだから――)
 彼を殺す為に、彼の作戦を壊す。その為のフローズヴィトニルの封印だと言われれば舞花は頷けた。
『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は黙した儘、イレギュラーズを眺めているブリギットを見詰めていた。
(自分の命を擲ってでも再封印……優しいブリギットさんらしい提案だと思った。誰かの命を使うのは嫌がるような人だから……。
 皆が幸せになれる結末があればいいのに。そう願わずには居られないのに……)
 スティアはブリギットを真っ向から見詰めることを考えて居た。魔法は見て覚えろと言っていた。
 ならば、彼女が誰かを護る為に身に着けている優しい魔法を――彼女の生きた証を全て、覚えていたかったのだ。
「……あのね、私はブリギットさんを信じるよ。守りたいものはブランデン=グラードで話をした時から何一つ変わっていない。そう思ったから……」
「スティア……」
「あ、もちろん途中で狂気に呑まれるリスクはあるけれど。私達が支えれば良いだけの話だよね。
 アルアさんと一緒に集めた大切な思い出の品だってあるんだから!
 それに、さ。ただ封印の楔にするかどうかは少し考えさせて欲しいな」
「ですが――」
 方法なんて、と呻いたブリギットに『竜剣』シラス(p3p004421)は「おばあちゃん」と呼び掛ける。
 シラスは母の愛を知らず、家族の温かさは雨降る日に抱き締めてくれた兄の温もりだけだった。
「……おばあちゃん、俺さ……こんなこと俺が言うと頭が変になったと言われるかもだけど。
 誰にだっていつか帰る場所があると思ってる。こんな俺にも魔種になったおばあちゃんにも」
「わたくしも、あなたの帰る場所になりたかった。シラス」
 おいで、と手招く腕に、大人しく収まる事があるなどシラスは考えていなかった。ブリギットがシラスの頭を撫でようと腕を伸ばす。
 穏やかな声音に、絆されたわけじゃない。ただ、思ったのだ。
「だから駄目だ、おばあちゃんが帰るのはあの狼の隣じゃあない。ウォンブラングの村に行って間違いないと感じたよ」
 俺達では力不足か? フローズヴィトニルに及ばないと思うか? 見くびってもらっちゃ困るぜ。
 俺達はこれからバルナバスだって倒すんだ。こんな所で止まってられるかよ」
 気丈に笑った『孫』にブリギットは「強い子」と唇を動かした。乾いた響きだ。何処か、苦しげでもあった。
 ブリギットはこの場のイレギュラーズを『全員、自分の家族』だと思い込むように仕向けられていた。それが、女の抱いた狂気の形でもあった。
 正気へと至っていたとしても、それは変わりない。血の繋がりも無くとも、家族で、傷付いて欲しくはない子供達だ。
「考えてもみてくれ。『誰かが生贄になって丸く収まります』
 そんな作戦で俺達が全力を出せると思うか? そんな覚悟でこれまでいくつも死線を超えてきたとでも?」
「……無茶をする子」
「子供の我儘に付き合うのは慣れっこだだろう? おばあちゃん。全部片づけて一緒に帰ろうぜ!」
 にんまりと笑ったシラスに重ねるようにルル家はぎゅっとブリギットに抱き着いた。
「そう。私は嫌。ブリギットちゃんを犠牲にするのは絶対嫌。勿論それは信用できないとかここで戦うっていう意味じゃないよ。
 一緒に奥まで行って戦って、フローズヴィトニルを何とかしよう。エリスさんも、ブリギットちゃんも犠牲にせずに何とかする方法を探す」
 二人とも、死んでも譲れぬ物がある。それが伝われば良いと思っていたのだ。
「甘い夢かも知れない。でも私はいつだってその甘い夢を実現する為に、厳しい現実を張り倒す為にここまで来たんだ。
 手伝ってくれる? 嫌って言っても無理やり連れて行くけど! もう離して上げないもんね!」
 明るい笑顔を浮かべたルル家は気丈に振る舞いながらブリギットの手をぎゅっと握りしめた。
 その様子を傍らに見、俯いていた焔は「そうだよ」と呟く。
「代わりになれるってことは、やっぱり封印のために使える何かがあれば、エリスちゃんが必要っていうわけじゃないってことだよね?」

「……そうね。そうじゃないと可笑しいわ。
 だってわたし、まだなんとでもなると思っているの いくらでも方法は考えられる。
 誰かを礎にして築いた平穏はそんなに意味があることかしら。ね、エリスちゃん、きっと大丈夫 うまいことやってみせるわぁ」
「……メリーノちゃん」
『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は「エリスちゃん、どうやって封印するのかを教えてくれる?」と静かに問うた。
「人間なんてとても強欲で傲慢だわ。一番いい方法を探しましょう だって誰かが悲しいならそれは良いことではないでしょ?
 とはいえ、魔種のおばあちゃんを楔にするのはわたしは反対。
 オオカミちゃんの半身たるエリスちゃん――ちゃんとここにいる理由があるってことでしょう」
 はっきりと言ったメリーノに「めーちゃん」と呟いたヨハンナは唇をぎゅ、と噛んだ。
(俺はエリスもフローズヴィトニルも救いたい。
 ただ、他を救う為に「おばあちゃん」を犠牲にするのは違うと思うンだ。幾ら魔種でも、それは違う。
 ……なんとか、エリスの負担を減らした状態でフローズヴィトニルを封印出来ないか?
 俺が、少しだけでも負担を引き受けられりゃ良いんだが……)
 傍らのフローズヴィトニルの欠片を眺めていたヨハンナに、小さな子犬を抱き締めたオデットは頷いた。
「私は貴女が楔になるのは反対。別に信じてるとか信じてないとかじゃなくて、貴女は別に人は愛しててもフローズヴィトニルは愛してないでしょ。
 御伽噺を考えるなら、愛してもらえないフローズヴィトニルなんて救いがないわ。彼も精霊、救われないなんて絶対駄目よ」
「……わたしが、フローズヴィトニルと同化し一緒に眠るのです。それは個を失うからこそ、死を意味していると、言えるでしょう」
 メリーノは「続けて」と静かな声音で言った。
「わたしはフローズヴィトニルが再顕現した際に、そのコントロールを行なうべく、産み出されています。
 冬を管理する者。エリス――『ディスコルディア』。災いの名を持ったわたしは、災いを管理することが出来るのです。
 ブリギットちゃんは、わたしとフローズヴィトニルを繋ぐ楔になって、わたしを生かすつもりでしょう?」
 アレクシアが伺うようにブリギットを見た。ブリギットが頷けばエリスは目を伏せる。
「フローズヴィトニルは巨大な精霊です。遺失魔法である封印は、ここにはなく、わたしはわたしとしての在り方を全うするだけ。
 ……ただ、魔種であるブリギットちゃんはとても大きな力を持っているから、よりしろとして機能することができる。
 それに……あなたは、ウォンブラングの出身だから……」
 何か、其処に含みがあることをメリーノは見逃さなかった。ブリギットの出自が大きく関係しているのだろうか。
「……誰かを依代にしなければ、エリスちゃんが溶け合って眠りについてしまう、んだね……」
「はい。わたしは、そのやりかたしか、しりません。
 フローズヴィトニルはとても大きな力です。だからこそ、同じ精霊の欠片であるわたしが混ざり合うか、『わたしの制御下』でつなぎになる何かを用意しなくては……」
 そのつなぎというのは人の命では耐えきれぬと云う事なのだろう。
 リアが言っていた黄泉津の『神逐』はあの地のけがれや信仰、様々なものが重なり合って出来た事だった。フローズヴィトニルは鉄帝国では『悪しき狼』だと信じられているのだから精霊がそうあるように作られた以上『そう』はできないのだろう。
「人間以外は、ダメなの?」
 ンクルスが問えばエリスは「わたしは、人間じゃありませんよ」と困ったように微笑んで、目を伏せた。
「……今時点で、分からないなら、おばあちゃんと一緒に地下に行くことを選ぶよ。でも、諦めてない」
「うんうん。あーんーとねー!」
 にんまりと笑っていた『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がブリギットの肩を叩いた。しんと静まり返っていたその場に明るい気配を連れてやってくる。
「あくまで『現時点』では、信用するぜ。
 でもね! 私ちゃん以外の頭のいい人たちが他の手段考えてっから。覚悟しろよー?
 いくら頭バーサーカーだからって、アレがそういう都合のいい話だなんて思っちゃいないもんね」
 行こうぜ、と秋奈は開かれた地下の扉を指差した。凍て付く気配がそこから感じられる。
『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は恭しく頭を下げた。
「今は、全ては棚上げ。けれど、一緒に行くことは変わらないわね。
 ブリギットちゃん…アンタの優しさと決意に、心からの感謝を……でも、でもね、その命は受け取れない。受け取らないわ。
 信じる信じないじゃなく、アタシは――アタシたちは、まだ諦めていないから。
 エリスちゃんも、誰も犠牲にならなくてすむ方法が、きっとあるはずだって」
 それぞれが思う事がある。信念だって其処にはあった。ジルーシャは唇を吊り上げる。
「だから『反対に提案するわ』ね。命を擲つのなら――一緒に戦いましょうよ、ブリギット。
 ……欲張りかしら? でも、偶にはいいでしょ。誰だって、本当に欲しいものがある方が頑張れるに決まってるんだから!」
 ジルーシャにブリギットは頷いた。今はフギン=ムニンを倒す事だけを考えて居よう。
「それにあのバカちんにいつみられても平気なように、どこにいても、すぐに見つけてもらえるように。
 今いる混沌はこんなにもエモいんだって、めいっぱい伝えられるように。
 私はいつだってキラキラしていたいんだ。っしゃあ! 弔い合戦続行じゃーい! 待ってろ、フギン=ムニン!」

成否

成功

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