シナリオ詳細
<絶海のアポカリプス>神威顕現・生存不能
完了
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オープニング
●首を垂れよ
――我は。
――我は、竜。
――天を焦がし、海を統べるモノ。
人間よ。小さき小さき定命共よ。『冠位』を傷つけし稀有なる者共よ。
その勇気と力を称えてやろう。
誇るがいい、この大海の支配者の視界に映る事を。噎び泣き祈りを捧げよ。
我が好奇。我が興味。
ほんの些かなる戯れをするに値すると、我が背筋を擽りおるわ。
知れ。
人よ、我が名を。人よ、我が存在を。
――恐れよ。
――畏れよ。
――称えよ、竦め。許しを乞え。
我は神威。我こそ世界。我こそがこの大海の主である。
我が名を刻めその魂に。
我が名は滅海――
滅海竜リヴァイアサンなり!
●天を仰げ
鉄帝国遠征海軍主力の一角が乗る旗艦ニーベルングの前には『理不尽』がいた。
滅海竜リヴァイアサン――竜種――それは、本来であれば竜の住まう地……
『デザストル』の奥深くにでも行かなければ遭遇すらしない存在だ。
しかし現実として『いる』のだ。正に目の前に。
巨大すぎて――彼我の正確な距離の差が分からなくなる程の存在が。
「撤退は不可能か。近すぎるな」
「左様。もはや後ろには進めん、斯様な隙は即座の沈没となるだろう」
その存在を見上げるは鉄帝遠征部隊指揮官のレオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク。
並びに副指揮官ルドルフ・オルグレン。
彼らがいるは旗艦ニーベルング――鉄帝の誇る鋼鉄艦だ、が。
眼前に聳えているリヴァイアサンの大きさと比べれば石か何かにしか見えない。
海洋との戦では頑強さを誇った筈のその艦が、だ。吹けばまるで飛んでしまいそうで。
「ヴァイセンブルク卿――! 先の大竜の攻撃によりワルキューレにも被害!
海洋軍勢の被害よりは遥かにマシな状況ですが、これは……!!」
そして、かの船に報告へと訪れたは鉄帝でも武勇に優れるスティランス家が長子、アルケイデス・スティランスである。嵐の暴雨に体を濡らしながらも、付近に展開する防衛艦の一隻から駆けつけて。
「これは、もはや戦闘云々の状況では……!!」
「然り。しかしもはや我らに退路は無い……勝機を掴むぞ。全軍前進」
「はっ!?!?」
「指揮官殿の声が聞こえなかったのかアルケイデス殿よ――前進だ」
アルケイデスは驚愕の声を漏らす、が。レオンハルトとルドルフの声は確かなモノであり、嵐の中と言えど聞き間違えようはずが無かった。
前進。前進? あの竜へ? あの大竜の懐へ往くと?
――いやアルケイデスにも分かっている。
幾多の戦場を――本来心優しき彼の本意ではないが――ともかく、巡り巡った戦場の勘は『アレをなんとかする他、生き残る道は無い』と警告を鳴らしている。彼らは、二人の指揮官は血迷っている訳では無い。しかし。
「しかし、ビッツ・ビネガーは先の激流により乗船していたワルキューレ諸共行方不明! パルス・パッションは無事ですが多少負傷しているとの話で……! とても戦力は……!」
「承知している。その上で命じているのだ」
「『行け』とな。生の光は前にしかないと知れ」
見る。誰もが前を。誰もが天を。
そこにおわすは、勇猛なりし鉄帝の荒人達なれど竦む大天上の存在。
今一度言おう。諸君らの目の前にいるのは――
竜種である。
しからば、知れ。
――『絶望の青』を。
- <絶海のアポカリプス>神威顕現・生存不能Lv:15以上完了
- GM名茶零四
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年06月13日 21時06分
- 章数3章
- 総採用数339人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
●鉄帝海軍総攻撃
「ワルキューレ残存1!! もはやマトモに動けるのは本艦のみです!!」
鉄帝海軍・遠征艦隊旗艦ニーベルング。
須らく鋼鉄で固められた船が轟沈している。
大竜の前には鉄帝自慢の鋼鉄艦隊も石ころにすぎないのか――?
「否。否であるとも。まだ我々は生きている。そして『此処』までやってきたのだ」
しかし違うと。遠征艦隊指揮官レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクは言い切った。
ニーベルングは前進し、もはやリヴァイアサンの直近。
その装甲にはいくつもの傷が付いているが――まだ轟沈するほどではなく。
故に号令を。攻めよ攻めよ攻め立てよと。
リヴァイアサンは弱っている。水竜の妨害は未だ続き神威の権能は剥がれ。
そしてイレギュラーズ達の苛烈な攻撃により傷も決して浅いとは言い難い。
「ルドルフ技術大佐。貴殿にニーベルングの防御を任せたい」
「ふむ――この期に及んで守勢を?」
「まさか。だが帰る船も地も無くなれば流石に士気に関わろう。
あくまで攻勢が本命であるが、守りの指揮も必要と言うだけの話だ」
ニーベルング本艦の迎撃をルドルフが。
リヴァイアサンへの直なる攻撃をレオンハルト・アルケイデス・パルスが務める。
其れにて成す。リヴァイアサンの『眠り』とやらを。
ニーベルングが沈むのが先か。
それとも奴がくたばるのが先か――
「ほ、報告――!! 報告します!!」
その時だ。慌てて駆け込んできた、一人の鉄帝兵がいた。
「ビ、ビッツ・ビネガーが……S級闘士ビッツ・ビネガーが、戦線に復帰しました!!」
「――何!?」
思わず驚愕した声を出すアルケイデス――それもそのはず。
ビッツは海洋王国艦隊の二割を吹き飛ばした最初のリヴァイアサンの一撃の余波に巻き込まれ、艦諸共行方不明になっていた筈なのだ。そう簡単に死ぬとは思わなかったが、探す余力は無く。なにより生きているならもっと早く出て来ていた筈で……
「いや……まさか……!!」
●ビッツ・ビネガー
「全くねぇ。イヤよ本当に……あんな化物相手に戦うなんて、ね」
ビッツ・ビネガーはラド・バウの頂点者達が集うS級の門番と言われている。
『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』とも言われその名は轟いているが――その戦い方と性格に関して人気があるとは言い難い。むしろ人気でいうならばパルス・パッションの方が遥かに上である。
それは何故なのかと言うと、彼は基本的に『甚振る』事を専門とするからだ。
徹底的に相手を痛めつけ、動けなくなり、涙する……そんな相手の成り様が好みであって。
「神話の生物? 大海の支配者? アハハ! 悪いけど専門外よぉ!
沈没した船の一角に紛れて、正直終わるまでやり過ごす気だったのだけど」
明らかな格上……どころか。滅海竜と名乗る竜種などと戦う気が一切なかったのだ。
アレはきっと鉄帝の三つの頂点達より強いのだろう。
そんな相手など本気で御免であり。
「はぁ……でもねぇ。そんな熱烈なラブコールを受けたら隠れられないじゃないの」
ビッツがその時視線を横に。
さすればそこにいるのは虎に行人、利一にシラス。そしてリアだった。
ビッツの安否を確認すべく捜索を行っていた者達――
彼らの活躍により事実上『引き摺りだした』形だ。もうサボらせないぞこの野郎!
「サボりとは心外ねぇ! 一応、私は近付いてきた狂王種とかは始末してたのよぉ?」
他の戦場には――今は実質味方だがミロワールがいたり、狂王種の群れがいたりしたのに。
どうしてここにはいないのか。まさか……狂王種達で趣味を満たして……
「アッハッハ! まぁそこはご想像にお任せするけれど――
流石にね。見つかっちゃったらしょうがないわぁ」
リヴァイアサンを見上げる。ああ嫌だ嫌だなんでこんな存在が出て来たのか。
だが仕方あるまい。
如何に戦う相手として全くの趣味でないとはいえ、では無抵抗に殺されるかと言えば――
「それはお断りなのよ」
死にたいわけではない。
逃げられないのなら、精々見せてやりましょう。
「偶には『闘士』として戦うのも、お肌のツヤが良くなる秘訣だわぁ」
相も変わらずふざけたご様子……どこまで本気で戦うか、やはり知れたものではないが。
しかし彼もむざむざ死ぬ戦いはすまい。
ここにて集う。真実、全ての鉄帝の者達が。
では――海の支配者よ。我らの強さを教えてやろう!
=======補足========
・目標『リヴァイアサンを弱らせる事』です。水竜様の力はリヴァイアサンに及びません。
ですので、リヴァイアサンと『ともに眠れる』レベルまでリヴァイアサンを弱らせることが第一目標です。
・カイト・シャルラハ(p3p000684)の『PPP』にて顕現した水竜様は自身の持ち得る権能を使ってリヴァイアサンを覆う絶対権能『神威(海)』を阻害しています。
それにより今まで以上にダメージを与えることが出来るようになりました。
・第三章に移行しました! 『ビッツ・ビネガー』が参戦しました!
・第三章以降ではワルキューレ、ニーベルングという括りは無くなり『リヴァイアサンに攻撃を仕掛けるか』『ニーベルングを護るか』の二つになります!!
・リヴァイアサンに攻撃を仕掛ければリヴァイアサンのゲージが減少し。
・ニーベルングを護る選択をすれば本海域戦闘の味方艦隊ゲージの減少を妨げられるでしょう。
・ニーベルングはリヴァイサンのすぐ近くまで接近していますので、遠距離攻撃は勿論、近接攻撃も非常に仕掛けやすくなっています。普通に届く事でしょう。
・各々の能力を生かし、この戦域を勝利にもっていきましょう!
・前回の攻撃により『神威(A)』にブレイク効果がある事が判明しています!
・前回の攻撃により『天堕(A)』攻撃後、鱗が一定時間剥がれた跡の箇所が比較的脆い事が判明しています!(ただし鱗は再生する様で、一定時間しかそこには攻撃出来ません)
・神威(A):神特レ域 高ダメージ 命中精度:超 BS:ブレイク・他
時折激しい風――それは嵐の如く――が発生します。
それはただ、身じろぎしているだけなのですが。
また攻撃の発生時『空を飛んでいる人物に特攻性能』を発揮します。
具体的にはダメージ・命中率が増加します。
===============
第3章 第2節
「歌が……歌が聞こえたわ……私達、助けられたのね……」
アルメリアは感じた。フェデリア海域の全てに響き渡った、その詩を。
それは温かで、しかし同時に悲しい。
――無為には出来ない。俯いている暇は無く、故に。
「いいわ。いいわ、やってやろうじゃない! あんな竜なによ――奮い立つのよ、私ッ!!」
天を見る。零れ落ちるは破滅の欠片。
天堕の数々を見据えて――迎撃の構えを彼女は取る。起動せし魔法陣は彼女の背より。放つは雷撃だが……只の雷ではない。それは鱗に、一つの対象に纏わり付きそれそのものが粉と成るまで離れぬ破壊の秘儀。
「『緑雷の魔女』の名、刮目して見なさい――ッ!」
壊す。多くの隕石を。一つでも、少しでもと彼女は穿つのだ。
リヴァイアサンの攻撃は真へと至っており捌ききれぬ余波が彼女を刻むが――それでも。
得たモノがあるのだ。拾った命があるのだから。
「……まだまだ、戦える。否。私は戦う事しかできない」
だから――ルクトも往く。空を飛翔し、暴風に叩きつけられどそれでも畏れず。
「……ッ、何、翼も肢体も消耗品だ。ここが正念場であれば……限界まで使い潰すさ」
飛ぶ。まだ行ける。この程度の傷が何するものぞ。
リヴァイアサンの身を滑る様に滑空する。どうせ下には船があり、ならば多少の無茶は上等。
狙うはゼロ距離。超至近距離からの貫通射撃――
身を貫け。血肉を掘り出し尚奥へ。
無論、近ければ近い程に大竜が僅かでも動けばその『しなり』を身に直に受ける危険はあろう……だが。
「命を賭ける価値のある戦いだ、そうだろう?」
削れる限り削る。避けれる限り避ける。
死力を尽くし、ああその先にこそ勝利があるのであれば。
「アハハハハ!! さぁリヴァちゃんヤろうよモット、もっとッ!!」
ナーガも己が全力を振るうのだ。
ああ大竜よアイそう。ココロのソコから偽りなく。だって、だって――
「あんなにおおきなイノチは、きっとタクサンのアイをすいあげて『ああなった』にチガいない!」
そうだろうリヴァイアサンよ?
だからこそアイしあうんだ。全力で、一切の手心無く、アイそう。アイしあおう!!
投擲するは瓦礫。ワルキューレが潰れ続けて尚に投げる『モノ』には事欠かない。
膂力をもって粉砕せん。鱗が剥がれ肉が見える所を紅き眼光が捉えれば――振るって。
「ディフェーンス? ノー!! ここで攻めずにいつ攻める!!?
怠け者のビッツ・ビネガーもようやく出てきやがった、ここが正念場ってヤツだろう!!」
そして貴道もまた攻撃こそ最大の防御であると言わんばかりに。
リヴァイアサンの身を駆け上り――放つ二つの拳。剛腕振るって打撃と成す。
握り締める五指には力が籠り、より硬く。
より強靭な鉄とならん。
暴風が吹き荒れようと自らの細胞の方が尚吹き荒れる。傷を癒す高速回転が血を押し留め。
「ハッハ――!! どうしたどうした滅海竜!! さっきよりも元気がないんじゃないかぁ!?」
一撃でも多くの拳を。一撃でも多くの己が魂を。
刻むのだこの竜へ。見せてやろうではないか、身一つで戦う男の性というモノを!
瞬間、跳躍。
地への踏み込みから瞬時に移動を成せば、天堕による『剥がれ』を得た地点へと。腰に捻りを。全身を利用し集中するは遠心の頂点――右の大振りの拳を叩き込めば。
轟音。爆発物が炸裂したかのような一撃を奴へと。
「いい加減眠りやがれ、ファッキンドラゴン……!!」
されば、閃光一閃。鎧袖一触。
左に込めるは黒稲妻。正に全身全霊たる力がソコに宿っている。
意思を五指に。魂を拳に。ああされば、彼が放つその一撃はきっと――
きっと――光を超えるのだろう。
成否
成功
状態異常
第3章 第3節
綺麗な詩が聞こえたんだ。
綺麗な音が聞こえたんだ。
なら、絶対に勝たなければ――なぜなら。
「生きなければいけない理由ができた」
ランドウェラは前を向く。眼前には大竜……しかしもはや絶望の壁などでは決してない。
乗り越えられる。乗り越えてみせる。心の奥底から背中を押される熱を感じるのだから。
――汝の生命を我が物とせん。
振るう魔術が大竜へ。持久の構えによって少しでも長く戦場に留まろう。
攻撃をしつつ体力の回復も同時にこなすのだ。
「ああ一石二鳥だろう? こんな奴を相手にするなら、多少効率的でないとね」
例え人を大きく超える存在であろうと――必ず倒せる。
「ああ、全く馬鹿げたデカさだよな。本当に」
故にミーナも大竜へ。
これほど巨大な存在はついぞまだ会った事は無い。ああ、だが分かるものだ。
こういう奴程私の事は。私達の事は見ないって。
「よーっくわかってんだ」
天から見下ろす奴は大体傲慢だ。だから、よ。カッコつけるワケじゃねーけど。
「鉄帝の兵よ。今一度、私と共に戦ってくれねーか?」
アイツに一発ぶち込んでやろう。
ただ一つの槍に。ぶっとい槍になる為に!
鉄帝兵の鬨の声を受けてミーナは大きく頷き、仕掛けるは近接の戦闘。自身を遥かに超える身を持つリヴァイアサンへの接近だが――臆さない。全身の膂力を一撃に込める。二でも三でもぶち込むが、一つ一つに全霊を!
「傷ついた場所を狙え! 抉り取るんだ!」
直撃させた一撃――そこへ攻撃を重ねるんだと彼女は声を荒げる。
より深く。より肉を削れ。
必ず奴の芯へ届かせる。その為に――鉄帝兵の攻撃も殺到した。
ああ。多くが命を懸けている。多くが命を削って、それでも尚に前へ進んでいる、ならば。
「この一瞬は逃がせない……リヴァイアサンへ、行くんだ!」
恐れるまい。恐れて足をとどめてはなるまいとメルナも往く。
どれ程強大でどれ程凶悪な存在であろうと――力で、絆で、奇跡で、絶望を振り払う。
怖くったって、ただただ前へ。怖くたって後ろは振り向かない。
だって。
「――歌を、聴いたんだ」
賢明な姿で往く中に、奇跡の詩が紡がれて。
誰もの心に沁み込んだ。誰もの明日が紡がれたんだ。
無駄になって絶対に出来ないから――
「私は……っ、……お兄ちゃんならきっと……!」
見える。きっと兄ならもっと早く、更に一歩進んでいたと。
蜻蛉の如く見える背を追いかける。もう――諦める理由なんて。
「何一つないんだ!!」
繰り出す斬撃。再び顕現せし蒼き焔……
浄化の力を今ここに。
「ギャアアアアウッ!!」
されば天を駆けるのはアルペストゥスだ。
一気呵成。飛行する力にて大竜へと一直線――波飛沫を切り裂き背に乗せるは。
「最早、この神話の戦いにおいて言葉は不要――行くぞ、アルペストゥス」
ベネディクトである。共に往く。共に天へと挑む。
放つ魔弾をリヴァイアサンへ。弱点足り得る傷の場所へベネディクトを運ぶのだ。
ああ何ら問題はない。風も、痛みも、苦難も……
力を合わせれば。
「グルルルッ……!!」
「――俺の事は気にするな、アルペストゥス! 雷鳴が如く、空を駆け抜けろ!」
アルペストゥスが暴風の力より彼を庇う。この風は悪意の塊、彼を晒す訳にはいかぬと。
されば走る激痛――思わず瞬間、目を閉じるが。
それでもアルペストゥスは羽ばたく。
「――――ァアアウッ!!」
再び目を見開いた時、より強くより先へ。
自らの羽を大きく……自らの総てを今ここに乗せるのだ。
超えろ。
風の揺らぎを見据えて往け。
超えるのだ。その先にこそ勝利の光があるのであれば!
「よくやってくれた……! ならば大竜よ――この我が一撃、勇敢に散った戦友へと捧げよう!」
ああ。
届け天へ。届け友へ。
ベネディクトの一撃が嵐の中でもまるで光り輝くように。槍を握り込む力はかつてないほどに力強く――意識を研ぎ澄ませ、振るう閃光は至高。
リヴァイアサンの身へと穿ち、解き放つ。
さぁ攻勢を。
誰もが帰る場所を探している。
それはリヴァイアサン――神代より死を迎えず迷い続ける、あなたもでしょう?
天へ紡ぐ咆哮。自分は此処にいるのだと、彼は吠え続ける――
成否
成功
状態異常
第3章 第4節
「くっそー! しかしいくら攻撃しても効いてるのかわかりゃしねぇぜ!!
だがオイラだって諦めねぇ!! 銃口が焼け爛れるまで――やってやるぜ!!」
銃撃の乱射。ワモンは背負うガトリングの口を只管に回し続ける。
幾末と発生するマズルフラッシュ。渾身のアザラシパワーだ。
全弾発射、全弾全力! 天堕の余波が彼を襲おうと、今更諦めるものか。
「舐めんなよアザラシの力……! ぉぉおおおッ!!」
傷を負い、血を流そうと。
得るのだ勝利を。信じるのだ勝利を!
「やーっとちょっとは弱ってきたにゃ? ならこっからはやられる前にやった方が勝ちにゃ」
故にシュリエもまた大竜へと己が攻撃を。押せる所まで押しまくるのだと。
紡ぐは魔術。熱量を載せた破壊の一閃を――鱗の下へ。
味方に合わせよう。重ねられた負はいずれ自らの攻の力ともなるのだから。
「どんだけ巨大でも強くても、生物である限りボコって死なない道理はないにゃー!!
あれも結局魚と同じにゃー!! ちょっとでかい鰻みたいなもんだ、にゃ――!!」
ああこれが終われば高級魚料理店が待っている。
明日の昼飯を想うのだ。上質なタレに乗せた鰻の身――じゅるり。
口元拭って跳躍。無限の夢を想起させん。
幻覚を見るがいいほんの欠片でも。後に紡ぐ虚無の剣が、その夢を更に抉るだろうから。
「リヴァイアサン……ついに、ここまで……」
頭上と言える距離にまで接近。ドゥーは見上げれば、微かに唾を呑む。
少しずつ弱ってきているのだという、あの滅海竜は。
それでも、その存在感は圧倒的で――ともすれば今この瞬間ですら己を呑み込みそうだ。
怖い。
だけれども。
「それだけで……怖いだけで、終わりたくない……!」
握る杖は戦意の証。戦うと決めた彼の意思。
優れた瞳で敵を見据える。そう『敵』だ。抗いきれぬ神などでは決してない!
飛ばすは不可視の刃、鱗の下を見据えて一閃せん。シュリエやワモンと同じ個所を狙い。
「俺は、俺達は一人じゃないんだ……!」
誰もが助け合い勝利を願っている。
誰かの助けになれるなら、それで全力。
「絶対に勝とう……!」
願う。祈る。掴み取る。
リヴァイアサンの打倒を。己らの勝利を……!
「ああ。ここからが本当の正念場だ……踏み止まるべき最後の舞台でもある」
言うはライセル。握る魔剣への力の強さが、彼の想いの強さでもあるか。
リヴァイアサンを封印し、廃滅病の原因たるアルバニアを倒さなければ――『彼』が病にて溶けてしまう。
そんな事が看過出来るか。こんな所で死なせない。俺より先に死ぬなんて許さない。
「――俺はラクリマより先に死ぬって決めてるんだ」
紫の双眸がリヴァイサンを見据える。アルバニア打倒の為の邪魔な存在よ――
直ぐにでも殺す。
跳躍。甲板を踏み砕く勢いのソレは一飛びでリヴァイアサンへと。
駆け上り、鱗の剥がれた身の面を見つければ。
「血を啜れ――力を出せよDáinsleif!!」
剣を突き立て深く深く。
血流が溢れ出る度に魔剣へと。暴風吹き荒れようと離さず奥へ奥へ。
生きるのだ。生かすのだ。
ああ、俺はこんなとこでは死なないし死ねない。俺は必ず生きて帰る――だって。
『想い』をまだ伝えてもいないのだから。
「ぉ、ぉぉお、あああああ――ッ!!」
立ち上がる。吸血の魔剣よ、竜の血を欲するがいい。
この世の神代から存在する世にも珍しい血だ。
かような機会が二度訪れるかも分からぬ。存分に貪れ――ッ!
「で、っかぁ……海に来れたと思ったらこれかぁ……っべーね、リヴ」
「……ん。すごい、ね。おっきい。でも、頑張って……行こっか、リネ」
瞬間。マリネとオリヴァーの二人もまた同様にリヴァイアサンを見て吐息を一つ。
ああなんたる巨大な存在か。なんたる巨大な『圧』を持つのか。
――しかし絶望はしない。互いを見合わせ、その表情の色には信頼と希望を。
「しゃーない、覚悟決めてやるしかねーっしょ! リヴ、援護よろしく!」
「……うん。リネも、そっちの方が、やりやすい、よね……任せて」
軽く飛ぶ。体勢を維持できる程度の高度で、大竜へと戦闘の姿勢を。
旗艦を護るのも一つの手だが――己らの性質的にソレは『合わぬ』と。故にマリネが前、オリヴァーが後方の陣形だ。格闘の一手が繰り出され、大竜の身を削らんとし……
「――リヴ、今だ! 思いっきり撃っちゃえ!」
稼いだ一手の後、オリヴァーの弓が音を鳴らす。
研ぎ澄まされた狙撃者の一撃は狙いを違わず空を薙ぐ。正確に、確実に。
「……リネは、いつも通りだから、ね」
前往くマリネを援護するのだ。
彼女が傷つけば癒しの術を紡いで、危うければ声を飛ばして。
どれだけ危険な戦場であろうと――二人でいれば大丈夫。
勝とう。
どんな相手でも絶対に。生きて帰って勝つんだ。
「ふむ……更なる流れがここで齎されるとはな……
一気に決めたい所だ。俺の一撃が――尚に一助となればいいんだが」
だからこそ重ねる。コルウィンは移動しつつ、依然として天堕の後を狙うのだ。
全力全霊。見据える先は幾つもあるが、特にダメージが深そうな所を見つけ。
「ふむ……次はあそこだな。Feuer!」
掛け声一つ。引き金を絞り上げて銃弾一閃。
「まだまだ終わらんよ。ふむ……そうだろう? 希望を抱く限り人は進め続ける」
嵐の暴風にも決して膝は付かない。
歩む限り戦いは終わらない。歩む限り負けはしない。
さぁもう一撃放とう。リヴァイアサンよ、お前はどこまで歩める――?
「後には退けない、生きるか死ぬか……それだったら選ぶのは決まってるよね」
瞬間。どうせ退く道は依然としてないのであればとムスティスラーフは語り。
「みんな、生きて帰ろう」
往く。ああ無駄に散らしていい命なんて一つもない。
それでも未だ死を撒き散らすというのなら、大竜よ。滅海竜よ……!
「誰も死なないように一秒でも早く僕が討ち取ってやる!
旧き神なんて! 暴虐を撒き散らす神なんて要らないんだ!!
――未来を切り開く光指す道となれ!」
狙う鱗痕。何度目の死力か。何度目の全力か。
足に力を、籠めるは意思を。吐き出すようにリヴァイアサンへと穿つは一つの光帯。
何度だって立ち向かう。
この手が動くのなら。この足で立てるのなら。この声が響くのなら。
恐れることはない、まだ生きている。
まだ足掻けるんだ。
僕達は勝てる。
「こんな所まで来て諦めたりなんてしたらさ、息子と孫に会わせる顔が無いよ」
ムスティスラーフの瞼の裏に『かつて』が映る。
息子が、孫がいた世界が。ロスティスラーフ、ヤロスラーフ。ああ……
君達に立派な親だったと誇れるように。
僕は――
「『現在』を生きるんだ……! 見てろよ、カッコいいところを見せてやるから!」
吠えろ。天へと届くように。吠えろ。彼らに届くように。
生き様を見せて過去へと誇れ!
成否
成功
状態異常
第3章 第5節
「成程。幾度目かの奇跡を経てなお、神威は眼前にありけり、か」
レイヴンは疲弊していた。騎兵隊の一員として此処に在り、大竜へ幾度と向かい。
それでも尚に神威は健在。それでも尚に神威は倒れぬ。
未だ貴様ら脆弱なりと天に座すか――
「――是非も無し」
元より容易ならざるは承知の事。ならば己も未だ死力を尽くそう。
顕現せし無銘の執行者はどこまでもどこまでも。貴様の首を穿つまで。
「強靭、どこまでも生命の強さを見せつけるか。
ならば良し、振るい続けるのには慣れている……とことん付き合ってやる……!」
手の平を握りしめ、何もかもを内に隠す。
疲労も血糊も何もかも。
「ハハッ――誰も彼も命知らずな事だね。全く、これだから騎兵隊は……」
同時。そんなレイヴンに言葉を紡ぐのは、アトだ。
左腕に注射しているのはリフレックスのポーション。神経に作用する一時的な増幅剤を自らに打ち込み、視界をクリアに。疲労は彼方へ、耳が澄む。されば甲板上へ乱雑に放って――器を踏み砕けば。
「最高な連中の集まりってヤツだよねぇ」
自らが出せる全力を此処に。
薬でもなんでも使ってやるさ。ん、必死だなって? そりゃそうさ。
「必死にもなるさ、もうこの瞬間しか存在しないんだからさ」
これより『後』はきっと無い。『あの詩』が紡がれたのを、確かに聞いたのだから。
奇跡は起こり、破滅は回避され。
そして僕達は生きている。
「灯火は、消えていない。確かに受け継いでいるよ」
「ええ――皆、あの声を、聞いたわね」
リアナル、イーリンの二人も同じ考えだ。
聞いたんだ、聞こえたんだ。『彼女』の呟きが。フェデリア海域に沁み込んだ願いが。
リアナルは心中で思いを燃え盛らせ、イーリンは――静かに語る。
「あの歌を、聞いたわね!」
ならばと。
ならば進むのだと。踵を鳴らし、声を張り上げ、旗を掲げて!
我らは此処にあるのだと。騎兵隊は未だ健在なりと!
「ええ、聞こえましたとも! 見届けましたとも! この嵐の中に瞬いた光を!
伝説を!! 我らが――必ず生きて届けるべき彼女を生き様を!!」
「宜しい! ならば進みましょう! 前へ! 前へ! ただ明日を見つめよ!!
あの竜の血肉を以ってして、全ての英霊たちの弔いとする!」
与一の滾りが混じりし声を受け、イーリンは号令の統率と成す。
あぁ。AHEAD AHEAD GO AHEAD――
与一の脳髄に響き渡るは『前へ進め』と望む言葉。いつの間にか覚えていた見知らぬ言語。
でも今はこの言葉の通り前へ、前へ。
猛るままに。
後悔など後ろに捨てよ。必要なのは『今』であり、明日へと続く『未来』であれば――
「悩むのも涙を流すのも『昨日』に想いを馳せるのも、きっと後でできるだろうさ」
武器商人は笑みを携えるのだ。
今こそ大竜を超える時。与一の狙撃が放たれ、レイヴンの一撃が紡がれる。アトによる超速度の接近が果たされれば身を露出している部位へと一閃。武器商人は己に、あらゆるを無効とする魔術を武器に、彼らの護衛と成れば。
ただ只管に攻め上がろう。ただ只管に勝ちに行こう。
今更恐れるものか、天からの一撃も暴風の領域も……
「いくよ! 騎兵隊! 絶対に最後まで生き抜こう! 勝利の凱旋を――果たすんだ!」
「っは! ったりめーだ! 勝つには奴を倒す以外に選択肢はなかろうがよ……!」
レイリーやエレンシアの勇気には決して及ばない。拳を携え、往くエレンシア。
「行くぜぇ!! 散った連中に情けねぇ姿なんざ見せれねぇんだよ――ッ!!」
殴る。己に出来る事は『殴る』事だけなのだからと、奥歯を噛み締め嵐を踏み越え。
穿つ。一撃の赤が、二撃の黒が。天すら打ち倒さんとする意思と共に!
先に逝った者達と特別に親しい訳では無い。それでもここで武勇を示す事こそが――
手向けであると信じて彼女は拳を握るのだ。
そうだ、勝ち筋が見えたのだ。これからまだ続く戦いの中で……それでも希望たる一筋の道が、確かに。
示してくれた者がいた。『彼女』はもうここにはいないけれど……
「いや……だからこそ……!!」
ならば最後まで走り切らねばならないだろう――この身が倒れるまで、全力を尽くすまで。
「騎兵隊一番槍、レイリー=シュタイン。倒せるものなら倒してみろ滅海竜!」
レイリーは此処に在り続けよう。
武器商人と同様に皆の護りを成すのだ。決死の覚悟たる盾として、決して崩れぬ城塞の構えと共に――天堕による一撃を捌く。
嵐による苛烈な環境などなにするものぞ。
果てにある鱗の先など捉えてみせよう。
お前が砕かれるまで、私は倒れない!
「――あぁ。見ておるか、我よ」
故に。誰もが大竜へと向かう様を見て――クレマァダは呟くのだ。
先の詩が紡がれて、自らがかの庭園に呼ばれ。
全てを悟った彼女は全力を持って戦線へと往く決意を果たした。
姉が。あの愚かな姉がどうなったのかなど……訊かなくても分かる。
愚姉はもう、どこにもいないのだ。
例えばこの世の果てまで行こうと、もう、どこにも。
あの片割れは存在しないのだ。
「……だからどうした」
そして存在の半分を担っていた姉が消えた事により、自らの力も弱り果てた。
我と『我』は二人で一つ。欠ければ即ち弱るのも道理であり――
祭司長としての力も失った、今の我はただの海種。
「それが、どうした!!」
それでも。
それでもクレマァダは吠える。大竜の更に先、天へと届くように。
力を失った。ああそんな事は応報を止める理由の何の一つにもならぬ!
「力を寄越せ、騎兵隊。貴様らが”そう”であるならば、我を支えよッ!!」
紡ぐ魔術は幾末も。冷気の一撃が、冷たい呪いの声が大竜へ。或いは癒しの術が皆を満たして。
彼女は今の全力を紡ぎ上げる。
歩む力を緩める事はしない。誰もが、誰もが『我』の繋いだ道を走っているのだから。
誰も忘れてなどいない。見よ。お前を想う人は、もう我だけではない。
……よかったな、我(カタラァナ)。
その呟きは嵐に掻き消える。零れて溶けて、きっと――彼女に届くだろう。
「今だ! 騎兵隊、往きますよ! 風穴ぶち開けてやります!!」
「進め、進め、鏖殺せん!! 好機を逃すな、神代など踏みつぶせ!! 鬨の声を鳴らすのだッ!」
そして、竜の攻勢の隙を見たウィズィとアレックスが声を飛ばす。
天堕の剥がれが特に『大きく』なっている箇所がある。撃てば当たる薙げば切り裂ける絶好地点。
「今この時我らに許される弔いはこの海にかの龍の血を捧げる事のみだ!!
下を向くな、腑抜けるな!! 覚悟を持って踏破を成さん!! 先達へ栄光を見せるのだ!!」
アレックスの声は人の心を掴むかの如くだ。心の臓から震わせる。
仲間の死。先んじて散った者への想い。ああだがしかし、報いとなるは我らの勝利であればと。
「続けェ――ッ!!」
前進する。駆け抜け武具を振りかざし、意思を力に竜へと振るわん。
これは誰も失わせぬ為の前進。
生きる為の歩み。生きる為の死力。
「……ああ、くそ。本当を言えば私だってサボりたいがな……皆が戦ってる中、一人で帰るなんて出来る訳がないだろ。私はたたかうよ、ちゃんと、死ぬ気はないけれど、この戦いが終わるまで、燃え尽きるまで、退きはしない……! だからッ――!!」
なればリアナルもそれに引き続くように。皆に力を分け与え、支援と成さん。
侵されざるべき聖域の力を。対象の戦いを最適化する力を。
天に抗う力を。明日へと向かう一滴を。
「ありがと……! さあ、喰らえ、喰らえッ――目を醒ませ、私の獣ッ!」
ウィズィへと齎すのだ。
されば突き進め。熱を持って、止まらぬ者よ。
そうありたいと願うならば、そうあるように振る舞い生きて、世界に示すがいい!
瞳からは蒼炎の火花が。黄金に染まる髪が彼女の夢見た未来を駆け抜けて。
炎を作る。鱗の破壊された部位を狙い穿ち、奴へと届かせ魔眼をも撃たん。
「ああ……歌が聞こえた。手伝う理由はそれで十分だろ」
ならばとマカライトも往く。先程に聞こえた歌――聞こえた時は何事かと思ったが。
「『奇跡』を起こした奴がいたらしいな。命を賭して……
だったら、報わなきゃいかんだろう」
目の前の海蛇に目に物見せないとな。
少なくとも足踏みしている様を天に見せる訳にはいかない――故に彼は苦無型の刃を生成し、投擲。
脆き地点を狙うのだ。貫通する一撃がリヴァイアサンのより奥へ。
進め、穿て。奴へと届かせ神など超えよ。
「攻めろ攻めろ攻めろ――今この期に及んでは小難しい事をごちゃごちゃいう段階ではあるまい」
イーリンの号令、アレックスの一喝。更にそれらを繋ぐようにシャルロッテの指揮が紡がれる。
攻めて攻めて攻め潰せと。戦場において勝利は99%前方にある物だ。
前へ前へ。栄光の道を進むのだ。不要な心配はするなかれ、全てボクが――
「取り除こう」
あらゆる贈り物を。あらゆる力を分け与えん。
集中せよ攻撃に。集中せよ攻勢に。叩かねば勝てぬ、守りに入るだけでは潰される。
故にボクは君達の足を軽やかに。
軍師たる声は戦域に満ちて。その指揮棒は大竜へと向かい。
「さぁ――天を堕とそう」
リヴァイアサンよ刮目せよ。人の力を、ボク達の力を。
そうだ、奴に屈すれば彼女の最後が無為に帰す。彼女が命を賭して紡いだこの一時が……!
「そんな真似だけは絶対にしてはならない……! そうだ、勝つんだ!!」
メリッカが捧げた黙祷はほんの一時。
彼女に想いを。そしてイーリンの喝に、演説に耳を傾ければ自然と頷きを。
戦意は充分。敵は『絶望の青』の主なれど、臆するまい!
「焦るな……焦るなよ……まだだ、まだだぞ……!」
神秘を増幅させる術式を紡ぎながら、彼女は機を窺って魔砲による一撃を狙う。
一斉攻撃はもう少し後より。イーリンの合図があるその時まで。
そう、騎兵隊は攻めに長ける。例えばこれが地上であったのならば、地平を騎馬で駆け抜けていただろう。
「だからこそ今は……好機を得るまで支える役目がいるのであれば……」
故にココロは治癒を紡ぐ。イーリンが反撃の大号令を掛けるその時まで。
皆を保たせるのが私の仕事だと紡ぐは天使の如き祝福。多くを癒す治癒の神秘。
特に傷の大きい者を優先し、保たせるのだ必ず必ず。
「海は誰にでも平等に死を与え、平等に生を振舞う」
見据えるは暗き海。この大海は多くの生命が謳歌する生の宝庫でありながら。
時として誰にでも牙を振るう大自然の洗礼もある、死の領域でもあるのだ。
ならば。
滅海竜だけが例外などとあり得ない。
奴は――必ず打倒できる。
「だから、やるのよ」
力を尽くしこの戦いを乗り越えよう。
ココロは呟き魔法陣を展開。治癒の手は――決して止めない。
「……嫉妬、しちゃいそうね」
少しずつ戦いは揺れている。絶望に傾いていた筈の天秤は少しずつ、皆の力で揺れ始めた。
それは華蓮の力も決してゼロではない。ゼロではない――が。
彼女自身の心はどうしても『嫉妬』の心に揺らいでいた。
皆の輝きが眩しい。皆の力が、上手くやれる在り様が――
蒼き剣の本を胸元で握り締め、彼女は天を向く。書かれた教えよりも、それそのものを心の支えに。ココロと同じく癒しの術で皆を支えるのだ。鱗が剥がれた攻勢のタイミングがあれば、付焼刃の強化魔術にて己の力を少しでも増大。放つ小さな棘にてリヴァイアサンへの一撃と成す。
それでも思う、思ってしまう。ああ――本当は癒しの者として上手くやれたはずなのに、と。攻撃を放つこの一撃すらもっともっと上手く上手く……皆の様に……
つまらない――私の嫉妬。
自覚しながらも心の奥底から湧き出る自らの闇。それでも今は、せめてこの攻撃が。
棘が刺さる程度だけでも役に立ちますようにと――心から願う。
――煩わしい。
そこまで死にたくば――神の火を知るがいい――
その時、天より声が響いた気がした。
刹那。リヴァイアサンより放たれしは死の閃光。
天より堕ちる隕石でも無くば全てを吹き飛ばす暴風でも無し。
リヴァイアサンが保持する明確な神秘が一角。
『神火』
鱗の一角が光りて、感じるは魔力の鳴動、生命の龍脈。
広がりて、それは『天使の梯子』の如く騎兵隊の面々を覆わんとする。光の柱は幾末にも連なっており――
連射する。
業火ともいえる神代の閃光が放たれた。それは無数の刃の如く、或いは無数の魔弾の如く。
船諸共粉砕せん。全て巻き込み灰燼と化さん。
我こそがこの大海の支配者。我こそがこの大海そのもの――海の怒りを知れ。
超級規模の魔力の『叩き付け』はあらゆる敵対者を許しはしない。
海に蔓延る汚れを一掃してくれる。人間どもよ、天を仰ぐ暇も無く――
死ね。
「総員――対『神火』陣!! 耐えッ、反撃用意――ッ!!」
されど。イーリンは今まで見据えて来た様子から、次なる攻撃が『天堕』でも『神威』でもない『モノ』が来ると思考を超速に高めていた。
故に僅か、僅か一瞬早い声の飛ばしが致命を防ぐ。
光の抱擁がこちらを焼き尽くす前に防御の姿勢を整えさせたのだ。凄まじい領域を隔絶した威力で焼き払う竜の一撃――それでも庇い、防御し。耐え忍び堪える意思が間に合えば!
「ぉぉおおお生存確認! 反撃じゃあ!
魔力蓄積による強化の結果を、とくと味わうとよいじゃろう!」
クラウジアの魔力が放たれる。
おお、おお……カタラァナ殿の歌声が聞こえたのだ。カタラァナ殿の声が聞こえたのだ。
ならば後は勝つしかあるまい。儂の仕事は奴を撃つのみ、己が魔力でぶっ叩く。
精神を魔力に変換。放つ魔弾は恍惚を帯びて、奴めに更なるダメージを齎すだろう。
「過充填? いやいや、もっとじゃろ、もっといけるじゃろ儂! なぁ――そうじゃろう!!」
そして――神の火を乗り越えた者は彼女のみに非ず。
生きる面々は即座に反転。ああ穿とう!
「攻撃に転じれば自然と防御は甘くなるという……貴様はどうだ? 仕留めたと驕り散らかすか!」
「全くやってくれるものだよね……!
だがこの程度の死線で死んでやれる程、僕の命は軽くないんでね……!」
「ッ、落ちた奴はいないな……!? 生きてるな、全員!!」
与一の更なる射撃が、弓鳴りが発生し。アトもまた速力を武器に鉄槌が如き一撃を。マカライトはなんとか凌いで小型船を操縦すれば、海へと退避した者がいないか探し。誰もが無事だと分かれば――魔砲の一撃を紡いで。
傷を負うは皆皆々。それでも死した者はおらず、戦意は挫けず未だ神へと。
灯火は消えていない。カタラァナが、彼女が紡いだ命はまだ此処に在る。
「貴女が守ってくれた『騎兵隊』は……! まだ燃えている……!」
だからリアナルは言うのだ。天へ、カタラァナへ届くように。
私達はまだ生きている。
奴を倒す為に戦えている。騎兵隊は――健在だ!
成否
成功
状態異常
第3章 第6節
神の火が吹かれた。
それは全てを包み、絶望はまだ此処に在りと大竜が吠えている様で……
「ああ、竜の前ではこんなにも人も、船ですら小さいのねぇ」
故にアーリアは言葉を零す様に。
あちらでもこちらでも。各地で戦う彼らにもきっと友人や、恋人や、家族が居て――
「生き残る為にはリヴァイアサンを倒さなければいけない。
けれど……それと同時に私達は護らないといけないのよねぇ」
隣で戦う者を。帰る船を。大切な者を、その命を。
これ以上失わせないために。
見据えた視線の先に居るのはラピスとアイラ。
繋ぐ手は想いの証。決してその手は別たれる事は無い――竜如きには、特に。
「――ねぇ二人共、向こうに帰ったら私の大好きな人にも会ってくれない?
素敵な二人が守ってくれたのよ……って、是非紹介したいの」
「わあ、ほんとうですか? ふふ、勿論です。向こうに着いたらきっと。楽しみだね、ラピス」
「アーリアさんの大切な人ですか。きっと、とても素敵な人なんですね」
だから、生きて帰ろう。こんな所で朽ちるだなんて、出来ないんだ。
「その為にももうひと頑張り、行こう、アイラ!」
「うん、ラピス……一緒に、行こう!」
陸での出来事に夢を馳せ、しかし夢で終わらせぬ決意を背負い。
ラピスは往く。彼の指揮は二人へ流れ、同時に紡ぐのは保護なる結界。
アイラと共に同じを展開。二つの結界が合わされば幅広く船を保護する事に繋がり。
「頑張れ。負けないで――折れないで。ボクが必ず支えます」
アイラの声が響く。
海洋や鉄帝の皆さんが振るった力を、命を、そして――あの歌を。
ここで終わらせるなんて出来ない。ここで繋がないなんてそんなの。
「ボクには出来ないから」
だから全力を尽くすのだ。傷を負った者に癒しの術を紡ぎ、その傷を塞いで。
リヴァイアサンより訪れる攻撃――その前に立つのはラピス。
己の後ろにいる二人は決して傷付けさせぬと、盾になるは不屈の意思。
手の届く限りを護りたいんだ。
ニーベルングを護り、アーリアさんを護り、そして――
アイラ。
彼女を、必ず守り抜く。
「皆さん、勝機は見えてます――あと一歩」
リヴァイアサンは弱っている。確実に。紡がれた詩や水竜の助けだけではない……
明らかに動きが鈍っているのだ。
冠位魔種との決戦も始まったのだという。ならこっちだって負けられない。
綺麗な歌が聞こえたのだ。あれを決して無駄にしない為にも。
踏み止まる。
「この船を、全力で護りましょう!」
どうか共にこの海を超えましょう。
帰りを待つ人の為に。共に帰りたい者の為に。
「ええ――だから、いい加減もう毒に身をまかせちゃいなさい!」
故にアーリアもまた力の限りを尽くすのだ。何度だって何度だって弾いてやる。
胸の奥底から力を。天より堕ちて来る隕石を弾かんと。
陸で――陸で待ってる人がいるんだもの。
「貴方達もそうでしょう……!? ならもう少し、もう少しだけ明日を見るのよ!」
周囲の兵を叱咤。その動きを本来のモノに、命を繋がんとする。
思い起こせ自らの大切な人を。大切な場所を。そうすれば生き残れる。
ああだって――愛はパワーなのだから!
成否
成功
第3章 第7節
敵は追い詰めている。されど味方の被害は甚大――なれば。
「……確かに帰る艦は残さないと士気に関わるわね。
攻撃は最大の防御、ではあるけれど多少はそちらに意識を割く事も重要ね」
アンナは堕ちて来る鱗を見据え、跳躍。
当たる前に接触し、ソレが艦に直撃する前に――逸らさんとするのだ。
「ッう……! 重い、わねッ!!」
全力。呼吸一つ、肺の奥まで吸い込んで込められるだけの力で弾き飛ばす。
如何に鉄帝自慢の鋼鉄艦と言えどこのようなモノが連続して直撃すれば限界もこよう。事実、この一番巨大な旗艦であるニーベルング以外はリヴァイアサンの攻撃により轟沈してしまっている。
重傷者に、或いは重要機関に被害が出てからでは遅いのだ。
騎兵隊を消し飛ばさんとした神の火――あれは流石に受け止めて逸らす、とはいかないが。
「ニーベルングまで落とされたら流れが向こうに行きかねない……
なんとしてでも守り抜くわ。文字通り身を盾にしてでも――ねっ!」
ならば立ち塞がろう。ならば此処に在り続けよう。
暴風のダメージだろうが神の火の一撃だろうが耐え続けてみせる。只のダメージなら幾らでも。
「しゃあッ! ここが踏ん張り所だわなぁ……気合入れていくぜぇ!!」
「ああ勝って皆でホームに帰るんだ!! それまでこの船は沈んじゃいけない――当然の事だぜ!」
であればゴリョウや洸汰のその守護に続く。この船だけは決して沈めさせないと意気込んで。
「オレも家の布団で寝るまでは、バタンキューってならないもんね! ……それに、水竜様、ミロワール、カタラァナ……みんなみんな女の子ばっかに頑張らせてちゃ、カッコ悪いだろ?」
男の子の意地の見せ所だぜ、と洸汰は続けるのだ。
見据える大竜には対抗の意思。決死の盾であらゆるを庇わんとする。攻撃から船を。仲間が負の要素を受けて見悶えれば邪悪を祓う呼び声を。いつまでも立ち続け――己が役目を果たし続けるのだ。
「しぶといなー、しつこいなーって? オレもお前もお互い様だろ? ちょっとやそっとじゃ負けねぇよ!」
ここまで来たら我慢比べだとばかりに。さすれば。
「来るぞ――奴さんの攻撃だ!!」
ゴリョウが天を視れば落ちてくる隕石の数々。
躱すは出来ぬ。成すは受けるか逸らすか――四肢に力を漆黒の装甲を身に纏いて。
「ぬぅうううおおおおお――ッ!」
咆哮一つ。船に直撃だけはさせない……必ず力の限り『逸らして』いくのだ。
凄まじい衝撃が身を襲うが、奥歯を噛み締め踏み耐えて。腕に力を足に全力を!
「やらせるかよ……しぶくと長く、付き合って貰うぜ!!」
「おおさおおさ!! さぁ鉄帝の皆々様方ぁ!!
帰りの船が欲しくば自分で守りなせえ! 海洋の船には乗せてやりませんよ!」
耐えきるゴリョウ。その背後より跳び出しのはカンベエだ。
庇うも良し号令も良し。奮起させこの船を守り通そう、あと一刻あと一歩勝利の光を見るまで。
沈ませるか、させてたまるものか! いつかまた袂を分かつやもしれぬとしても!
「この戦場、この時において貴方達鉄帝人は掛け替えのない仲間なのですから!」
一期一会の縁の紡ぎ。これも何かの啓示であればと。
カンベエは吠えたてて前へと向かう。
――空っぽの詩を聴いた。何も持たない、空っぽの詩を。
しかし最後に響いた声には、多くの物を、抱えきれないほどの物で溢れているようで――
「――止まるな! 続け! 余分を考える頭など捨てろ! 敵はそこに居るぞ!!」
しかし頭を振るってカンベエは念を振り払う。
そうだ。海洋の為、竜を滅し、廃滅を消し去り、青を越える!
今は、それだけで良い!! 他の総ては不要なりと、向かう神の火に――彼は抗う。
「なんてことですの……カタラァナ、さん……」
そしてかの歌を聴いたのはノリアも同様だ。
カタラァナ。破滅を回避した立役者――そして散ってしまった彼女――
彼女は……彼女の人となりは、正直、不気味な所もあった。いやそれは同じ海種のわたしが……
「……一方的に『そう』思ってただけかもしれませんけれど……お友達でしたのに!」
歯を軋ませる。思わず力を込めた彼女の表情の色は――怒りの一色。
あの海の神とやらは未だあり続けている。破滅を撒き散らし、全てを壊そうとしていて。
「……これ以上、カタラァナさんが、お守りになったものを、害するのなら……
わたしにも、考えが、ありますの!」
だからこそ許せない。カタラァナが紡いだ全てを無為にしようとしているあの大竜は。
故にノリアは己が知恵の総てを振り絞る。アレも魚の一種であれば、海に潜む存在であれば。
「予測できる、筈ですの……! 海に慣れ親しんでいる、からこそ、海流の癖が、ある……!」
その動きが少しでも予測できる筈だと。
例えば漁業というのは魚の動きを予測して、それに自分をあわせてやる事。
要領は同じ事だ。海の支配者であろうときっと変わりはしない――
故に声を飛ばす。ニーベルングに『ソレ』に合わせて動いてもらえば、きっと被害を軽減できる。天堕の一撃は強力なれど見えているのであれば、躱してしまえば被害は各段に減るのだから……!
「帰る船も地も無くなれば流石に士気に関わるか。いいこと言うね。
――なら僕はニーベルングを守るよ。ここまでやってくれた鉄帝の人たちのために」
「この船が鉄帝海軍最後の希望なら、絶対に沈ませる訳にはいかない! 死力の尽くし所だ!」
そしてノリアの『見』により動きが良くなったニーベルングの甲板にて史之とチャロロは互いに天を。
攻勢の為の人材は多く前に出ている。なんでもあのビッツ・ビネガーすら復帰したとか……
「なら俺は守勢へ回ろう。なに……もうこうなったら国とか関係ないよね」
既に一蓮托生の仲間だと史之は言う。
大事なのはあのデカブツをこの海に封じる事。二度と出て来れないように――海の奥底へ! 故に大天使が如き祝福を戦場へと。皆の傷を癒し、皆の戦線を維持せん。
「みんなで生きて帰るんだ――オイラの眼が黒い内は、好き勝手させるかよ!」
チャロロもまた守勢の為の行動だが、それは史之とは少しばかり異なる。
奴からの攻撃が船に当たりそうなら庇うのだ。その動きはゴリョウ達に近い。
多少のダメージならば自己で回復を成す。ああ、ああ倒れてなるものか。
「みんなで生きて帰ろうね……! オイラも『また』死ぬなんてごめんだし!」
二度はない。いや三度も四度もありはしないが。
チャロロは全身を駆動させ駆け抜ける。生きて必ず勝利を得るのだと。
「ったく、リヴァイアサンの野郎もいつまでも元気だな……
こちとら怪我人を復帰させるだけで手一杯だってのによ……!!」
一方でヨシトの動きこそ史之に近いか。ヨシトは己が充填の力を活用し、癒しを紡ぎ続ける。
一手でも多く。一手でもより広範囲に。
届かせるのだ己が手を。そして傷が癒えてなお戦う事を望む者がいるのなら。
「行くのか? ああならここが正念場だ! 動けるようにはした――あとはオメェ次第だ!」
その背を叩いて激励する。味方を一人でも癒して多くの者を戦線に戻し、維持することが俺の仕事なのだと――サングラスの位置を整えて。
往く。次なる者を癒すべく。次なる者の戦意を繋いでやるべく。
「やれやれ、鉄帝海軍その旗艦であろうと……あのリヴァイアサンと比べると小さく見えてしまうな」
特にこうも近くあっては――と紡ぐのは錬だ。
この船、ニーベルング自体相当巨大な船であるがあの大竜と比べればなんとちっぽけか。
だがここで退く事は出来ない。あんな歌を聴いてしまったら尚更に、と。
「なに。こんな船だからこそやれるべき事というのがある。
鉄を鍛える鍛冶師の仕事、存分にこなすとするか!」
故に彼が行うのは『修理』だ。工兵、整備術、鍛冶屋――あらゆる技量を総動員し、彼は損傷個所の修復を超高速で進めていく。装甲版の復旧を……いやむしろ魔改造を施して耐久性能を特化させようか。今更こんな戦いで船の速度などあっても仕方あるまい!
「最適化してやるから苦情は勘弁してくれよな……!」
より強靭に、より素晴らしく。
普段であれば『止めろおおお』と止められる所だろうが、かような緊急事態であれば彼を止める者などどこにもいない。故、存分に振るうのだ。鍛冶屋としての総てを此処に。これが彼なりの『守護』という一つのやりかた。
「ここが鍛冶屋の踏ん張りどころだ。絶対に沈ませてなるものかってな」
傷つくより早く直せば問題ない。場合によっては小型船を繰り出して外からの修繕を果たそう。
しかしリヴァイアサンの攻撃はやはり激しい。
鱗を堕とし、身を捩らせて暴風を吹かせ。神の火ともいうべき業火を時折。
しかしこれは奴が遂に『必死』になっているが為だろう――と。
「竜への攻撃は着実に効果を発揮しているわ。私達がやってきた事は無駄なんかじゃない……!」
アルテミアは前を見据える。攻撃の苛烈さこそ奴が追い詰められている証。
だけれども、同時にこちらへの被害もそれ相応に出ているのであれば……守護に回るのも一つの手だ。
敵は倒した。しかしこちらも返るべき場所を失くした――では意味がないから。
「でも諦めるもんですか! あと一歩でも二歩でも抗い続けてみせる!!
神代の竜なんて御大層な称号に屈するほど、人は弱くないわよ!!」
剣を掲げて宣誓す。竜の攻撃はどれも強大、なれど須らく諦める理由にはならないのだと。
下を向くな、前を向け。
生き抜く為に、立ち向かい続けよ!
「無茶は承知の上!! それでも!! フィルティス家の炎を――なめるなぁッ!!」
簡易なる飛行の力をもって天堕の一撃へと向かう。
多重残影。数多の手数をたった一息に詰めて、刹那の狭間に生きるのだ。
――フィルティスの名を天に轟かせろ。
無視させるな切り刻んでこっちを向かせろ。
鱗など、たかだかデカい岩となんら変わりはすまい。一閃し――生き残れ!
成否
成功
状態異常
第3章 第8節
「よいか聞け諸君!! 我々はリヴァイアサンに対し――攻撃を仕掛ける!!」
嵐の中。ニーベルング――ではなく、小型船で進むのは百合子の一団だ。
彼女が操縦する船は荒れ狂う海だろうが負けずに進み続けている。ニーベルングとは少し離れた距離にあり……もし直に天堕により狙われたとしても、その被害が向こうに及ぶことはあるまい。
「つまりこれは向こうに負担を掛けぬ……いやむしろ負担を軽減するための策である! この部位がどれほどこちらを認識し、正確な攻撃を行って居るかは分からぬが……攻撃を受けて無視することもあるまい!」
「ほほう、守るよりも攻める、と言う訳か。それも吹けば飛ぶ様な命で遮二無二奔る……
良いものだな……それでこそ『戦場(ここ)』にいる価値があるッ!!」
しかし百合子のいう作戦は危険なモノでもある。負担の軽減と言えば聞こえはいいが、あれの攻撃を『受ける』というのは想像を絶するダメージが訪れるかもしれないのを覚悟しないといけないかもしれないのだ。
だが、故にこそ奮い立つウォリアもいる。
不利劣勢承知の上。むしろ戦場であればそうである事など幾らでもあるとばかりに。
故に迷いなく甲板へ。百合子の舵は真っすぐリヴァイアサンへ。
臆すれば、動きが鈍ればそれが原因で死ぬ。故に勇猛をこそを胸に抱いて――前進。
「やれやれ……だれだこの最高に頭の悪い戦法を考えたのは。
全速で向かうGだけで僕は一回死ぬんじゃないか?」
さればセレマは額を抑え、雨に濡れる己が髪を一薙ぎ。
元より体力が圧倒的に低い特徴を持つセレマだ。ほんのちょっとしたことで『再定義』が始まる事を考えれば確かにGだけで彼は致命を受けてしまうかもしれない。いやそうか……? 流石にGを受けて再定義が始まる事は無いのでは……?
ともあれ言うは冗談に等しい。本気でそう思っているのなら彼は元々此処に居らず。
「それでも必要な仕事は全部やり切るからボクは美しい――だろ?」
リヴァイアサンへと船が近付けば各々の行動を即座に。鹿ノ子も汰磨羈も動けば。
「こーこまで来たらどっちが先に折れるかの勝負ッスよ!!
あの竜か! 僕達か!! 最後まで粘り強く立っていた方の――勝ちッス!!」
「全く……漸くS級闘士も御登場したのだ! 此処からという時に倒れる訳にもいかんな!」
リヴァイアサンの気を引くべく攻撃を重ねるのだ。
弱点があるのならお任せあれと鹿ノ子は往く。繰り返し繰り返し断ち切らんとする攻めを奴へと繰り出すのだ。それは攻撃が外れるまで止まらぬ雪の型。刀を大竜へ。回転するように体を捻らせ斬りつけて。
「右から来るぞ――躱せェッ!!」
汰磨羈は声を走らせる。敵の動きを見て、天堕の直撃ルートを回避するのだ。
囮とはいえ当たってやる道理はない。躱せるなら躱す。残れる限り残り続ける。
「やれやれこの状況――いよいよ極まってきたな。竜は荒ぶり、こうも熾烈とは!」
良くも悪くもあと数手か。長引きは――すまい。
ならばこそ今は一手でも早く、一手でも多く! 勝利をもぎ取るまで邁進あるのみ! 本音を言えばS級闘士の戦いぶりというものを、この目に焼き付けておきたかった所だが、そう贅沢はいえないか――ッ!
「あと数手。一手を見極め、少しでも長く生きた方が勝つ。
背筋が冷えれば血沸くものだ! これが戦の醍醐味よ!!」
そして汰磨羈の霊力による撃の後、ウォリアも往く。
強烈な怒りと闘争心を呼び覚まし己が力と成して。万物一閃。
渾身の一撃をリヴァイアサンヘと叩き込む。一部でも切り取ってやろう。勝利の為に!
「むぅ! 奴め、いよいよもってこちらを羽虫に思ってきたか……!? ちと荒っぽく行くぞ!!」
「なんだって? ああ待ってくれこんな事もあろうかとエチケット袋を――」
見えた百合子の視線の先。暴風に乗った天堕が山のようにこちらへと押し寄せてきている。切った舵の判断は瞬時に。セレマは味方に治癒術を展開しながら懐に袋も携え――
直後。荒れ狂う波にドリフトするかのように機動した。
まだだまだだここで沈没する事は決してならない。まだ生きるのだ!
「うわああああ!? ええい、叩くなら、折れるまで!! 一撃が軽いからって甘く見ると後悔するッスよ!」
瞬時。超反射神経による鹿ノ子の感覚は攻撃をしかと捉えていて。
往く。跳躍し、再び斬撃を。
艶やかに舞い軽やかに往き――胡蝶の嵐を吹き散らす。
成否
成功
第3章 第9節
どこまでもどこまでも――桁が違う。
追い詰めてはいる。それでもまだなお遠いのだ。
「元から簡単に勝てるだなんて思ってはいなかったけれど……
それでも予想以上に、竜との戦いは大変ね……此処まで被害が拡大するなんて……」
「ええ。あちこちの損害が予想以上に早いし、大きいですね……この船もいつまでも保つか」
これが『竜と戦う』と言う事なのかとエンヴィは呟き、クラリーチェと共に天を見据える。
姿を見た時から感じてはいた。だがこれだけの人数で掛かってもなお天は遠く……
死は舞い起こり絶望を吹き荒らす。
祈りを捧げる余裕もなく、敵は『神』であると自称するならば祈る先も無いというのか。
ああ。
だけど、それでも――
「もう少し、頑張ってみましょうか」
クラリーチェは全身を確認する。
手も足も動く。心の臓は脈動し、呼吸が出来て、意思がある。
私達はまだ――戦える。まだ、生きているのだから。
「えぇ……戦える以上は、戦って生き延びましょう。私達はまだ負けていない」
「陸に帰ったら……なにをしましょうね」
「――なんでも、きっと出来るわ」
微かに。隣で震える小さな肩をクラリーチェは見て。
ほんの微かな軽口を。
されば往く。陸に帰る為にこの船を失う訳にはいかない――必ず守り通すのだと。立ち向かうは天より降り注ぐ絶望の嵐。天堕による鱗の破片。
指差しエンヴィの魔力が直進する。幾つも幾筋も。落下軌道を逸らすべく。
故に彼女だけは傷付けさせまいとクラリーチェの『祈り』が彼女を包むのだ。
その身を癒す。倒れさせなどしない。ああ神よ天よいま少し私達に力を。
天に仇名す一時を。
「行くぞハンス! 奴に一撃入れるから手伝え!」
「もちろん! 全力で連れてく!! ……そっちこそ振り落とされないようにね!」
そして頼々とハンスは正にその天を飛ぶ。厳密には空を飛ぶはハンス一人であり、頼々は彼の背に乗る形だ。
巨大なるリヴァイアサンへと一直線。絶望に自ら向かうその歩みを支えるのは勇気かそれとも。
「どうか、もう少し……!」
ハンスの翼からの恩寵か。
彼の羽には力が籠る。天からの祝福――ギフトによる効果が心を奮い立たせるのだ。
どうか。どうかもう少しだけでもいい。彼からの信頼に応えられるようにと願いを込めて。
――羽ばたかせる。
召喚されるまで『何』にもなれなかった自分だけど、どうかどうか彼の為に。
今この時、僕と言う全ては。蒼翼(僕)を駆る彼の為だけにあるのです――
「行くんだ! 前へ!!」
暴風が横から彼らを襲うが、ハンスの強き意思と警戒がその進みを緩ませない。
飛ばされそうになろうとも食らいつく。
雄々しく飛び立ちましょう。嵐程度なにするものぞ、天が闇でもそれでも舞う。
湖面から往く白鳥の様に。暗黒の中でも失われぬ、かの輝きの様に!
「よし! ありがとよハンス――喰らえクソ竜め! 虚刃流の神髄を見せてやる!!」
そして見事接近を果たせば頼々の番である。
構える太刀に刃は無い。無き刃を振るうが虚刃流。空想の刃を真として斬る彼の秘儀。
「例えお前が本物の神であろうと虚刃流の“有り得ざる太刀”は貴様の魂を穿つ!!」
天よご照覧あれ。我が技を、その身そのもので――!
一撃。一閃。
肉が露出している点を過たず捉える。血飛沫舞わせ、肉を抉り空想は真となるのだ。
「ハンス、退くぞ!! 次の機を待つ!」
「分かった!! 行くよ――帰りはちょっと荒っぽいかもしれないから気を付けて!」
故に二人は離脱する。無理はせずに戦うために。一撃を二撃とする為に。
しかし行きも過酷だが帰りもよいよい。さぁ気を付けよ、まだ奴は健在なのだから。
「それでも犠牲を無駄にしない為にも……必ずここで決着を付けなくては。主よ、どうか私に力を……!」
「……生まれたチャンス無駄にはできないッス。まだまだ損傷は許容範囲内!!
ここが正念場ってヤツッス――頼むッスよ、ヴァレーリヤさん!!」
ヴァレーリヤとイルミナもまた、ハンス達の様に二人になりながら大竜へと挑む。
犠牲は出た。破滅を回避した歌が紡がれソレを感じ。
それでも――いやだからこそ止まれない。
必ず生きて帰らねば。必ずこの戦いに勝利せねばと心を奮い立たせるのだ。
リヴァイアサンは傷ついている。アレは無敵の存在ではないのだ――必ず勝てる!
「イルミナ、準備はよろしくて? 一気に畳み掛けますわよ!!」
「勿論OKッス!! いつでも行けるッスよ!!」
跳躍。さぁ行こう勝利の為に、皆の為に。
幸か不幸かニーベルングは既にかなり大竜へと接近している。もはや近接攻撃も容易となった現状ならば――届く。ヴァレーリヤの全力全開なる一撃が。全身に力を、メイスを振りかざし、雄叫びの如く――
「どっせぇ――いッ!! 主よ、我が道をご照覧あれ!!」
振り下ろした。凄まじい衝撃が響き渡り、リヴァイアサンの一角が揺れる。
さればその好機を逃さない。先往くヴァレーリヤの身を庇う様にしていたイルミナが攻勢へ転じ。
「unus,duo,tres,quattuor! ……initiate! ……ヴァレーリヤさん! 今ッス!」
「勝利万歳……!! さぁ行きますわよ――ッ!!」
繰り出す一撃により奴へと害を齎さん。そして再びヴァレーリヤへと繋ぐのだ。
絶え間なき連続攻撃を。途絶えさせぬ連撃を。
勝利へ続く道を必ず舗装せん。
戦いに犠牲は付き物とはいえ、散った者に報いるならば――
「……アア。まだまだ先に進むしかナイじゃないカ」
道を切り開く事しかないのだからと、ジェックは言う。
多くが散った。見知らぬ軍人だろうと、背中を預けた仲間だろうと。
命は等しく失われる。戦いの中で命の価値など同じであり、須らく一個の命である。
「ワかってる」
分かっている……筈だった。
指先に込める力が拳となり、手の平から血が滲む。
自らはどこにいる? この期に及んでも前に出れぬ身が、何を想うというのだ?
仲間や友が目の前で散るのを後ろから見る、自らが。
――臆病者。
誰も守れぬ狙撃手よ。友の手を取るのではなく、両の手を常に銃に預ける者よ。
「ああ、なら精々……」
汝には何が出来る?
「派手に戦って、アタマから気を逸らせるしかナイじゃないカ!」
ガスマスク越しの眼光を神へと。あらゆる加護が彼女を包み、その両手に至高を齎す。
撃ち込むは銀の華。身体の中で花開く死の弾丸。頭の中で響くは『彼女』の声。
ああ、ああうるさい、うるさい、うるさい。
どうしてそんなにきれいに、ここまで響く歌を唄うんだ。
「ああ、モウ」
忘れられない。
歌を聴くたび、きっと思い出してしまう。
脳裏に過る姿を思い浮かべながら、次なる弾を即座に込めて。切り開くは王の道。
徹甲の弾が空を切り裂き、天を穿ち。
それでも瞼の裏にはこびりついて離れない唄が残っているんだ。
「ああ」
雨の所為で。
ガスマスクのレンズが潤んで見えた。
成否
成功
第3章 第10節
「――シュバルツさま、御無事ですか!?」
「ああこっちは大した事はねぇ……だが、一刻も早く奴を叩かなけりゃヤバイな」
メルトリリスは荒れ狂う天候にさえ負けずシュバルツの下へと。
多くの仲間による攻撃が重ねられているが竜は未だ健在。鉄帝自慢の鋼鉄艦もいつまで保つ事か……早く終わらせなければならない。
この厄災を、悲劇を。
多くが失われた。命の嘆きを想えば吐き気を催し、恐怖を感受すれば涙も止まらない。
今この瞬間にも――どこかで一つ、仲間の灯が消えている。
「うぅ……!!」
どこかで船が轟沈した。悲鳴か怒号か、発せられしかし数刻もすれば嵐の轟音に掻き消えて。
命が、先程まであった筈の命の温かみが海に溶けていく。
締め付けられそうになる己が心――それでも。
それでも止まっている暇はないのだ。
「……誰もが命を賭して戦ってる。誰もが明日を夢見て、前に進んでるんだ。俺は、いや俺がこんな所で日和ってるわけにはいかねぇ……!! あのデカブツに一発ブチかましてやろうじゃねぇか……!」
「ッ……そうですね、シュバルツさま。ええ行きましょう! あの竜を――倒しに!」
滅海竜を、叩く。
シュバルツと顔を見合わせ、互いに意思を奴へと。これ以上好き勝手させてたまるものか。
メルトリリスは涙を強く拭って前を向き。紡ぐは魔術、狙うは鱗剥がれし露出点。
恨みでも憎しみでもない。正義も悪もここには無く、あるのはただただアンフェアな力量差。
「ならば……私に出来る事は……!!」
この戦いを早く終わらせる、それだけ。
神様、どうか。
どうか、もう誰も犠牲になりませんようにと祈りを捧げて。
シュバルツも往くのだ。天を舞う飛行の力を用いて急速に接近。
天より注がれる天堕の一撃を躱し――暴風を乗り越える。例え被弾しようとも止まらぬ覚悟。
「『絶望の青』の主だと?」
ならば俺が、俺の刃がお前を打ち倒そう。
「絶望を切り開くための――刃だ!」
全力なる一撃。放ちて竜を血をより深く流させる。
「ぜぇ……ぜぇ……ちっくしょう……! 流石にしぶてぇ……! なんつー硬さだよ!」
ルカもまた希望を見据えてリヴァイアサンへと攻撃を仕掛けている一人だ。
シュバルツらと同様に露出点を狙って……しかしやはり倒れない。
これだけの巨大であれば容易いなどとは思っていなかったが――一体どれ程殴った事か。時間の感覚は薄れ始めており、死線を幾度も彷徨えば周りの状況を掴みづらくなっている。
水竜サマとやらはまだ無事なのか? 味方の艦隊は――あとどれほど――
「――オオオォォォォォ!!」
考えれば考える程に気力が消耗しそうになる、故に。
ルカは雄叫びを挙げた。天に吠える様に、誰しもに届くように。
鬨の声は人を奮い立たせるものだ。特に彼のウォークライによる力は人々の芯から響いて。
「どうしたテメェら! もうへばったか!? 鉄帝も名前倒れだなぁ、オイ!
仕方ねぇ、もう駄目なら後ろの方で休んでおきな! アレは俺達が倒すからよ!」
武勇に優れるとの評判は偽りだったかと発破をかける。
ここまで来ればもはや後は気力が勝負を決めるのだ。どちらがより長く戦場に立っているかの違い。
両手で頬を叩いて気合を入れ直す。直視の一撃を奴へと、抉り込ませる為に。
「ふー……やれやれ、皆ボロボロじゃが、まだ生きておる。
諦めもしておらん。指揮もまだあるのじゃ……ならば!!」
つまり妾達が勝つのだと――アカツキはルカの雄叫びに続く。
幾度でも攻撃を仕掛けよう、大竜へと。奴が倒れるまで再度!
「鉄帝の皆、あの鰻野郎を蒲焼にしてやるのじゃ……祖国への土産とせよ! 勝って帰るぞ!」
おおお! と鉄帝兵達の士気を誘う。あと一歩踏ん張るべし――と。
飛行能力は温存だ。暴風の一撃は依然として脅威、それに船も近付いているのであれば。
「あそこじゃ、攻め立てよ! 火力集中なのじゃー!!」
此処からでも十分だと。天堕の攻撃の後に出来る弱点へと攻撃を紡ぎ上げる。
甲板から投げ出されるな踏み止まれ。
勝利の為には戦場に留まる他ないのだ。海に落ちれば救出の余裕があるかは分からず。
「……どうやら、残っているのは実質この艦のみのようだな。
文字通りこの船が最後の一線ならば――今度は最後まで抗うことにしようか!!」
「ワルキューレが沈んでしまいした。余力無し……しかしだからこそ守りを集中させられるモノ!」
ワルキューレももはやないのだからとルーチェとエリスは言葉を放つ。
ニーベルングこそがこの戦場最後の一線。これが落ちれば留まる『地』なく、全てが海に投げ出されるか暴風吹き荒れし空になんとか留まるしかない。故にこの艦を護りつつリヴァイアサンへと攻撃を仕掛けるのだ。
「リヴァイアサンが眠るまで、なんとしてでも……!!」
故にエリスは治癒を紡ぐ。怪我人を中心に多くの者を癒し。
「余の力と威光を知るがいい大竜よ! 神などに屈するものか!!」
むしろ貴様こそが首を垂れろとルーチェは攻撃を。
光帯が再度放たれる。有効打となりうるタイミングと場所は分かっているのだ――
紡ぐ。魔術を力の限り。リヴァイアサンが倒れるまで。
無論大竜の攻撃は激しい。イレギュラーズ達が重ねても尚、隕石が如き一撃を。
全てを吹き飛ばさんとする暴風を繰り出してくるのだ。
ルーチェやエリスもその対象となり、吹き飛ばされんとすればアカツキは手すりに力を。
メルトリリスとシュバルツはそれでも尚に奴へ抗い、ルカもまた戦気を漲らせ前へ前へ。さすれば。
「ワルキューレの船員の皆様っ! 本当にここまでよく頑張りましたっ! ですが――ここでもう一つ死力を尽くしましょうっ! まだ戦いは終わっておりませぬ!! 戦場の要であるニーベルングが落ちれば勝利は潰えますっ!」
ヨハナの演説が響き渡る。その声は特にワルキューレの乗員へと。
ワルキューレの艦は最後の一隻が残っているのみ。それも、いつ朽ちてもおかしくないダメージを背負っている故――もはや『残っている』という表現が正しいかすらも分からない。浮かんでいるだけ、と言ってもいいが。
だからこそヨハナは語るのだ。やれるべき事があると。
「ですがヨハナ達が一撃を肩代わりするたび、ニーベルングと戦線は維持されますっ! もしかすれば死ぬやもしれませんっ! ですが、ですがっ!! 鉄帝が血と命を積み重ねずして勝利することが在り得ましたかっ?」
否やっ!
「常に戦場にて命を燃やす鉄帝人に恐怖しない敵が在り得ますかっ?」
否やっ!
「これよりあの竜畜生の気を全力で引きましょうっ! その手に刃をっ!
もはや立てぬ方は凱歌をっ! そして未来と勝利をっ! 鉄の名を、この『青』に打ち立てるのです!」
その演説はもはや轟沈寸前のワルキューレに最後の光を灯す。
たった一撃。或いは二撃? いやいや三撃ぐらいなら保つだろうか?
総員奮起し稼ぐは何秒か――なんと凄まじい。
轟沈寸前のこの艦が幾秒か戦線を維持させる事が出来ようとは! この艦が無ければニーベルングが幾秒か早く沈没してしまうかもしれないのだ。責任重大、名誉絶大、数刻稼ごうか鉄帝の魂よ!
砲弾を打ち鳴らせ沈むその時まで。最後まで吠えながら。
「進みましょうさぁ!! あのクソ竜へ――一発かましてやりましょう!!」
意地を見せてやるのだとヨハナは言う。
空より迫るは無数の天堕。
反撃の一撃を打ちながら――巨大な水飛沫が上がった。
……時間が無い。一刻も早く大竜を……いや。
「アルバニアを たおさないと」
いけないのだと語るのはポムグラニットだ。廃滅病を受けた『友達』――そう思っているのは自分だけだけれど――に残された時間は僅かしかない。滅海竜などという存在にかまけている暇はないのだ。全て、その奥にいる冠位に手を届かせる為に。
攻勢に出よう。
例えばその結果において自分が大怪我をしたとしても、命と引き換えたとしても。
「だって あのこがいなくなってしまうことのほうが なによりも ぜつぼうだもの」
呟いた言葉は絶望の青へと溶け込む。瞼を一瞬だけ閉じ、開いた後には迷いはない。
紡ぐは術式。我が身さえも顧みず、より収束性を高めた魔砲。
反動が自らを襲うが関係ない。鱗の剥がれた点をただ見続け撃ち続け。
どかせるのだ必ず。
どうか――どうかあのこが たすかってほしいから。
「はぁ、本当にいったいどれだけ殴ったら眠ってくれるのかしらね」
そしてオデットも続く。守勢――護り――そういうのはタイプではないのだ。
代わりにやれる事に全力を注がせてもらおう。今、あの竜を叩く必要があるのなら。
「全力でぶん殴ってやるわ」
距離を維持しつつ放つは魔術。多重展開した魔法陣が四つの閃光を造り出し――
直撃させる。炸裂、破砕。
『負』を与えられたのならば殴って野郎。土塊の拳が神秘の一撃となるのだ。
例え天堕による余波があろうと関係ない。その前に倒す。その前に殴り殺す。
眠れ大竜。味方からの支援も貰いつつ、彼女は前を見据える。さすれば。
「へぇ、こぉんなに近いとまた別の手段も出来そうだワ」
カロンも往く。彼女もまたリヴァイアサンへと攻撃を続けるのだ。
好き勝手に船をやられるのは腹立たしい。腹立たしい、がカロンもオデット同様に『出来る事』をやるのだ。
すなわち攻勢。得られた好機を逃さず掴む大攻勢。
「ああしておけば良かったなんてダッサいセリフは嫌いよ。
一度決めたら状況が好転するまで続けるのよ! 竜が何様っ!!」
構えた弓に魔力を纏わせ――一撃。
天を穿て嵐を斬り裂け。滅海竜よ滅びるがいい!
「散々人を見降ろしておいて封印されるなんて憤死ものよねぇ、その時の『つら』が楽しみだワ! ニャハハハ!!」
高笑い、連射。柔肌を狙ってその傷を抉り続ける。
どれだけの船をぶち壊したと思っているのだ。どれ程の命をぶち壊したのだ。
封印の安眠なんてさせてやるものか。泣きべそかかせて許しを請わせる!
「相も変わらずやる事は変わらない。ただ全力を出し続けるだけだ」
「……ああそうだね。行こう。あの歌に――応えてみせるんだ」
「うん! 聞こえたよ……カタラァナちゃん! ぜったい、絶対忘れない、声が……!」
フレイとリウィルディア、そしてアリアは共に行動していた。
歌が響き、光が齎され状況は間違いなく好転した。多くの命が救われたのだ。
無駄には出来ない。みんなと共に、あの歌を伝えていくのだ。
ここで朽ちれば全てが無かった事になる。それは許されない。
あの歌を残すのだこの先へ。後世へ、功績を。救ってくれた彼女の名を!
「だが油断はするなよ……脅威は未だに健在。焦って全てを台無しにしてしまわないようにな」
しかし、とフレイは慎重だ。『彼女』のおかげで破滅は避けられたが――リヴァイアサンはまだ生きている。いつまた破滅が齎されるか分からないのだ……故にフレイは決意する。リウィルディアとアリアを必ず守り通すと。
誰も死なせぬ様に、そして自らも死なぬ様に。
「勿論だ。援護は徹底した上で、命を繋いでいこう。死んでは意味がないからね」
「彼女が創り出してくれた『奇蹟』……ここで無駄にしないためにも、すすめー!」
故にリウィルデイアの支援とアリアの治癒術が齎される。アリアの治癒はフレイの傷を癒し、リウィルディアの指揮と立て直す号令は皆に力を与えるのだ。決して陣形は崩させない。防御を徹底し、天堕で消し飛ばさせたりなどしない。
そして奴に隙が見えれば――
「悲鳴を挙げてくれ」
リウィルディアは土葬の一撃を叩き込む。
あの子に届く程の咆哮を挙げろ、リヴァイアサン――
「絶対勝つよ!! あと一歩……必ず辿りつくんだー!!」
アリアもまた総攻撃を。呪言と重ね合わせた一撃で大竜の体力を削る。
耳に残るその歌を残すため。
ギアを挙げて挑んでいく。必ず明日を、見る為に。
成否
成功
状態異常
第3章 第11節
誰しもに響く声はどこまでも。ああ――
「……一人の少女の幕が下りたか。素晴らしい演目だった。此度の景色、永劫忘れるまい」
鬼灯は呟く。閉じた瞼に映る世界の、なんと輝かしき事か。
悲しい。胸を締め付ける痛みが走る様だ。
それでも我らは……歩かねばならないから。
「嫁殿、どうか泣かないでくれ。我らには我らのやることを成すまで――
さあ、舞台の幕をあげようか。或いは……大竜の幕を下ろすとも言うかもしれぬが」
自らと共にある嫁殿の目元を拭う様に。
されば見据えるは共に往く面々。リアに行人、シラスそれから。
――ビッツ・ビネガー。
「ビッツはどうするんだ、当然攻めるよなァ?」
「うーん、まぁ仕方ないわねぇ。ここで行かないと機を逃すでしょうし……はぁ、お肌が荒れそうだわぁ」
「く、くそ……こいつ、心配して損したじゃない……!! ホント、ピンピンしてるし……! おら、生きて帰る為に働きなさいよ!! あとまたちゃんとテレビの撮影に呼びなさいよ!」
シラスは知らずして口端を挙げながらビッツを煽り、案外以上に無事な様子を見せるビッツにリアは憤慨。全く、それなりに心配して探したというのにコイツは……とんだ食わせ者である!
だが復帰したからにはキリキリ働いてもらうとリアは睨めば。
「おっと、雨の所為か化粧が取れてるぜ? こいつでも使いな」
「あら。私も使ってる化粧道具じゃない――イイモノ持ってるわね、あ・な・た♪」
だろ? と行人は化粧道具をビッツに投げて。
「さ。皆、準備はいいか? これから先は一気に最前線だ!
観客は後ろに山程居る。魅せてくれよ、S級の戦いっぷり!!」
行人が契約せし水の中位精霊『ワッカ』を用意。乗り込んでリヴァイアサンへと直進する。
皆と共に。挑むは滅海竜、ラド・バウのS級たるビッツを載せていざや戦場。
天より降り注ぐ鱗は躱し、更に前へ。さぁ――
「致命の毒蛇よ、敵を喰らえ。魔の剣よ、虚無にて敵を呪え」
『悲しいお話は私好きじゃないのだわ! ハッピーエンドに塗り替えてあげるんだから!』
鬼灯の一撃が先行した。
これよりは一辺倒にて攻め上がる。躊躇は不要、恐れは捨て置け。
大竜よ。汝が劇はこれより幕へ至るのだと――教えてやれ。
「ワッカ! 右斜め上から来るぞ、躱せッ――!!」
しかし奴めの攻撃もやはり侮れるモノではない。広範囲、超威力を持つ数々は余波だけで危険。
故に行人は攻撃よりも船自体がダメージを負わぬ様に回避、あるいはダメージの重い者を庇う行動を優先とする。精霊ワッカに言葉を発しながら、周囲の警戒を決して怠らず――
「ふぅ。さて、行きましょうかねぇ」
瞬間。操縦に全力を尽くす行人の肩に励ますように手を置いて――跳躍したのはビッツだ。
速い。高速の軌跡を描いてビッツは至近へと。天堕の鱗を蹴り、空の足場として駆け上り。
同時、彼の暗器がリヴァイアサンへと。されば瞬時に血飛沫が発生。
それはまるで道を作るかの如く。ビッツの眼前に見えぬ暗器が舞っている。
「……って、化物かよ。あんなに出来るならサボってないで始めから働けばいいものを……!」
リアの眼に映るはS級の戦い。ラド・バウの頂点達の領域。
追うだけでも精一杯。シラスや、他に強い者達の存在は彼女にも覚えがあるが……
「やっぱりS級はすごいのね……とはいえ、あたしだって負けてられないわ! こんな所で死ねる訳がないじゃないの!! おらあああああ鰻野郎、さっさとくたばれやあああああッ!!」
とってもシスターらしかぬ発言を繰り返しながら、しかし紡ぐは星の道。
彼女にとっての全力だ。脳裏に過る、帰るべき場所を想起すれば決して死ねない。
大竜を封じ、アルバニアを打倒するのだ。必ず、必ず――ッ!
「ッ……あれが、ビッツの力かよ……!」
そしてビッツの戦いを見るのはリアだけではない――シラスもだ。
シラスは、彼はこれまでにビッツに二度挑んだ事がある。
初めはまるで遊ばれて戦いにすらならなかった。二度目はグレイス・ヌレにて邂逅し、結果――気を失うまでボロッボロにやられた。
ああ苦い記憶である。しかしそれでもビッツは、あいつは少しも本気を出しちゃいない。
「くそ、だけどなぁ……!」
奥歯を噛み締めながら、しかし思うのだ。
『いつか必ず』と。
「――おいビッツ! 俺が負けたまんまだと思ったら大違いだからな――覚悟しとけッ!」
「あらぁ、なぁにまた遊んでほしいの? うふふ楽しみにしてるわ」
ほざいてろ! シラスは言を飛ばしながら負けじとリヴァイアサンヘ。
知らずの内に固く握っていた拳。しかしこれは今ビッツに向けるモノではない。
どんなヤバい場所だって食らいついていってやる。
ここでその背を追いかける事も出来ないのでは――永遠に追いつけないだろうから。
降り注ぐ鱗を躱し、暴風は耐え忍び、進む進む。
傷の痛みなど頓着すまい。足手纏いにだけは死んでも成らぬのだと。
硬い決意。抱きながら大竜へと己が渾身を撃ち込んだ。
「ビッツ、やっぱりサボってたんだね! 今回はミカタだから期待してるよ! ヨロシクね!」
「いやね! さっきから言ってるけどサボりじゃなかったのよぉ!」
アッハッハと互いに笑いながら更にイグナートも続いた。
彼にもまた『彼女』の紡いだ声は、歌は届いている。あの輝かしき光の様な歌が。
「オレたちが戦える場を作り上げてくれたカノジョの為にも、ここで退いちゃオトコが廃る!」
同様に見据えるは鱗が剥がれている地点。脆くなっている場所をわざわざ見逃す道理はない。
紡ぐは二連。苦難を破り栄光を掴み取る一撃と、勝利を求む更なる一撃で。
「心を燃やせ! コブシに魂を込めろ! ここで燃えなきゃ――ドコで力を出すんだッ!」
S級ビッツもやってきて、ここで攻めないなどあり得ないとばかりに。
全力を叩き込む。
倒れろリヴァイアサン。倒れないなら何度でも打ち込むと。
「……ふむ。あの動きならば情報の共有よりも暴れさせた方が有効的だな」
そしてビッツらとの共闘を見て利一は呟く。
彼女も参加した捜索が功を奏してビッツ・ビネガーが復帰した。S級闘士の名は伊達ではなく、確かにその動きは一線を画している。心強い仲間と共闘して、一気に叩き潰そう、あの竜を!
「支援する。存分にその力を振るってくれ」
「うふ。助かるわぁ――楽が出来る分には幾らでも歓迎ですもの」
全く、喰えない性格の奴だと利一は言を。
直後、狙うは遠距離からの一閃。天堕を誘発させ弱点部位の露出を加速させてやる。
防御も勿論怠らない。有利な戦況になりつつあるとはいえ……敵は竜。
「今だその攻撃は脅威、か」
一片の油断もできない。一度でも攻撃が直撃すればタダではすむまいと。
故に、勝利を掴むその時まで気を緩めることなく継戦を。
「やーっとS級闘士の参戦アルネ! はー前は有耶無耶にされちゃったけど……その動き、今度こそじっくり観させてもらうアルネ! 後、ちゃんとウチの名前を憶えて帰るネ!」
「はいはい。えーとあれでしょ、貴方――猫ちゃん」
「王 虎アル!! なんで『虎』だけ微妙に覚えてるネ!!」
次、猫とかワンコとか言ったらぶっ飛ばすアルヨ!!
虎は憤慨しながらも――ビッツの動きを追い続ける。かのS級の戦いぶりを視れるとは貴重だ。流石のビッツも迂闊な動きをすれば死ぬかもしれぬ相手であるが故か――『遊び』は少なく見えて。
「っと……戦いの場では常に臆病になれってジジィが言ってたヨ。警戒は必要アル」
しかし観察だけに留めるわけにもいかない。ここは戦場だ。
それにまずは虎も生き残らなければ話にならない――故にリヴァイアサンへの攻撃を再開。ビッツと同じく鱗の剥がれた肉の地点を狙い定め、雷撃一閃。遠当ての技を用いて、戦場へと往けば。
「フッ――ラド・バウS級の門番と呼ばれる御仁が復帰とは心強い。ならば拙者も負けていられぬな!」
「歴戦の勇士とやらがいるならその補助だって立派な攻撃だろ? 支援させてもらうぜ!」
咲耶とリックもまた続く。リックは己が支援の効果を周囲に渡らせ、軍師としての動きを併用。誰もの動きを良くし、戦場の多くを支援せんとするのだ。その渦中にて咲耶も出撃し。
「かの竜の勢いと生命は未だ衰えず。更なる一撃が必要なこの場面……
拙者等の勇姿を門番殿にも見せ付けてくれよう!」
そしていずれ――かの御仁の領域へ、我々も必ず辿り着いてみせるのだと。
決意新たに。彼女は竜へと進撃する。
振舞われる天堕に暴風、そして神の火とも言わんばかりの光――
全て恐ろしい。ニーベルングの甲板を薙ぎ、進撃した者達やリック、咲耶も等しく破壊せんとする破滅の光だ。しかし、奇跡が紡がれ皆が生きたのだ。
「これ以上は――誰も失わせぬ!」
傷を負いながらも前へ前へ。一撃当てて、意地を通す。
例え相手が竜だろうと大海の支配者であろうとも!
そうだ。勝たなきゃいけない理由も、負けられない理由も……
「山ほど積み重なっていくんだねぇ……」
だからわたしも足を止めてはいられないとシルキィは前を向く。
どれ程の絶望が聳えていようと、色んな人が集まり、助け、繋いでくれたこの戦い。
最早一個人だけの理由ではないのだ。絶対、絶対に。
「負ける訳にはいかないから……勝つんだよぉ!」
ニーベルングより射撃を。精神の弾丸が大竜へといくつも向かっていく。
火力と、火力の支援を成す一撃を捻じ込んでやるのだ。気力が続く限り、力の果てまで。
「少しでも傷を残してやるんだ……! 必ず――生きて、帰るんだ!!」
彼女は紡ぐ。確かな意志と共に、滅海竜を見据えて。
「ハハハハハ!! どうですかリヴァイアサン、ちょっとは人が怖くなりましたか!!」
そしてヨハンは最前線で指揮を執る。攻勢に出るべきか、船の守備を固めるべき悩む事はあるが。
最前線で戦える参謀というのもそうはいないでしょう――?
「指揮者というものは厄介でしょうリヴァイアサン! これが人の力ですよ!!
暴れるだけしか能のない大根役者にはそろそろ舞台を降りてもらいたいですねぇ!!」
彼の号令が満たされれば味方の気力が湧きたち、新たな一撃と成る。
一個体としてみればリヴァイアサンに敵う存在はいないのだろう。
しかしそれがどうした。『勝利』とは一個人だけで決まる様なモノでは決してないのだ。
一個人で全てが決するのであれば我らは冠位に勝利などしていない。
旧き神よ。お前は知るまいな!
「さぁ一気呵成に攻め上がりましょう!」
仲間が力を、僕が力の源を。
単純でつまらない王道ロジックですけど――負けたくないもので。
絶対に。
「リヴァイアサンの足!! やばい、こいつ足とかあるのふつうにびびるっておもう」
同時。リヴァイアサンの身へへばりついているのがセティアだ。
振り落とされぬ様に四肢に力を込めて、見据えるは大竜の足。腹も尻尾もあるのは分かるけど、まさか左足と右足があるだなんて流石竜だなっておもう。やばい、口調移る。
「言っとくけど、わたしもいっぱつなぐってドラゴンスレイヤーになるから。ガシャイヒ村で殴ってるゴブリンとかに自慢して、すーぱーびびらすから、絶対」
ドラゴンスレイヤーにいどむつもり? 処す? 処す? ってゴブリンに言うんだぜったい。
とにかく今は少しでもダメージ入れるターン。虹色に輝くゲーミング・ミュルグレスでばしゅーってするし、なんならガチンコでぶちこんでやる。それでもでっかすぎて中々やばい。これおっきすぎて食料問題かいけつしてしまう。
「やばい、すーぱーでかすぎでやばい。でもおまえなんかちょろいから、ぽんぽこぽこぱんかましてやるから――S級闘士、ビッツ・ビネガーさんが!」
え、そこは貴方頑張りなさいよぉ。そんな声が聞こえて来た気がするのでセティアはがんばる。どうにもならない時は全力で退くから大丈夫! うなぎたべたい。
「見てパルスちゃん、皆もあんなに近くまで来てる!! ほら、ビッツさんまでいるみたいだよ!」
「ホントだ……多分、ビッツさんサボってたな……!!」
行方不明だって聞いてたけど、見つかったんだ! とパルスに語り掛けるのは焔だ。あまりに無傷な様子にパルスはビッツの経緯を瞬時に察したようだが、今更何かを言う暇もない――ので。
今は共に大竜へと攻撃を。パルスの斬撃と、焔のカグツチが鱗の下に。
「どれだけ強固でも内側からなら……!! 咲けっ! 紅蓮の華っ!」
直後、爆発するかのように焔の炎が咲き誇った。
鱗が動く。巻き込まれぬ様に常に動きながら、やがてパルスと視線を向け合って。
「さぁ、行こう! ボク達皆でならきっと勝てるよ!」
「勿論!! 竜になんて負けてられないね――勝とう!!」
アイコンタクト。同時、紡がれるは二筋の光。
竜を斬り裂き勝利へと至る為に――駆け抜けた。
成否
成功
状態異常
第3章 第12節
「おいおい、待てや。ビッツのやろ……おねーさん、サボってたとかマジかおい!」
厳密には狂王種は片付けていた様だが……しかし一番重要なリヴァイアサンは放っておいたなどサボリと言って過言あるまい。レイチェルは大きな吐息を一つ。
「たく、サボってた分は働いて貰わねぇとな――俺は死ぬ訳にゃいけねぇんだ」
約束を守る為に。
こんな所では死ねないのだ。復帰したのならばビッツには働いてもらうとして……己も動こう。ニーベルングの甲板に立ち、見据えるはリヴァイアサン。優れた右目で奴を――特に鱗の剥がれた地点を捉えて。
紡ぎ上げるは憤怒ノ焔。己が血を媒介とした魔術の一角。
術者の生命を喰らい燃え上がるソレは例え遠くの敵であろうと過たず穿ち。
「俺を舐めんなよ――こんなデカブツ外す訳ねぇし、そうでなくても」
針の穴すら通してみせよう。
リヴァイアサンの巨体の更に一点。露出点を狙い焔を一閃するのだ。
死ねない。生きる為に、明日を見る為にお前は邪魔だリヴァイアサン。
「ビッツ……S級闘士が死んだとは思わなかったが、まさか隠れてたなんてのは予想外だぞおい……」
あとでどさくさ紛れに一発殴っておくべきかとアランは紡いで、しかし。
「まぁいい……復帰したってんなら、さぁてと仕切り直しだ!
更に攻撃を加えんぞ! お前らァ掛かれェ! 見えんだろ、あの野郎は疲弊してやがるぞ!」
今はリヴァイアサンが優先と前を見る。
鉄帝兵を鼓舞し再度総攻撃。己を高める加護と共に攻撃を。
激しき踏み込みから一閃するのだ。音の壁すら突き超えて、竜を殺す。
「連携して攻撃しろ! ダメージを拡大させんだ!! 一人になんなよ、死ぬぞぉ!!」
とにかく攻撃を重ねて奴の余力を更に削る。
可能な限り二人以上で行動させて、連撃と共にカバーも果たさせるのだ。攻撃の予兆があれば即退避――攻撃の苛烈さまで失われた訳では無いのだ。こんな所で致命傷を貰い、退場する訳にはいかない。
「では攻め立てましょうか。ビッツさんも復帰されたとの事……」
ここで押しきれねばどこで倒せましょうか、と沙月も言い。
向かう。感覚を只管に研ぎ澄まし、攻撃の最高点を探る。
天堕の切れ間を。暴風の隙間を。
感じるのだ捉えるのだ。戦いなど、刹那の狭間で全てが決まるのであれば。
「――再び破滅の一撃が私達に訪れる前に」
神を堕とそう。
一瞬で己が全てを叩き込むべく、彼女は跳んだ。
戦の極意を身に纏い。大竜へと己が技を通じさせるべく――
さぁ参りましょうかと。
「くっ。他の船はほとんど削られたんすか……なら仕方ないっすね。この船は死守っす!!」
同時。バリスタを駆使し奮戦していたリサも大竜へ。
ワルキューレはもうない。ニーベルングが最後の艦だ――沈めば指揮に影響しよう。
故にバリスタの攻撃の手は一旦止め、成すべき事は修理である。
「メカニックの矜持、舐めんなっすよ。まだ動いてるなら、一秒でも長く保たせてやるっす……!」
外壁の修理は流石に難しいが、内部や手の届く所の機関の修復は可能だ。
供えつけられていた修復剤を手に負傷箇所へと打ち付ける。口には釘を。咥えれば親しんだ鉄の味が広がり――眼前へと集中する。
少しでも長く。一瞬でも長く。
「お前なんか負けてなんかやらねーっす……!!」
打ち付ける。意思と共に、願いと共に。
まだだ。まだ保たせる――まだ我々には戦うべき理由があるのだから。
「……あの子が。海に還ったんですね」
エルスティーネは感じていた。破滅を回避した『彼女』が消えた、と。
素敵な詩を歌っていたあの子が。
歌を教えてくれたあの子が。
レアータへ歌を囁いてくれたあの子が――
「この海域で、命を懸けた……」
口が真一文字に締められる。それでも、感情を発露させる暇はない。
戦いは続いている。ならば役目はただ一つ――繋げる事。
これからへ、今を繋げなくてはならないその為に!
「立ち止まる余裕はもうないの……そこをどきなさい滅海竜!!」
大鎌を持つ彼女に在るのは戦意のみ。
後ろを振り向くのは後で出来る。だから今は前を向き――撃を重ねるのだ。
『あの子』に恥じない生き様を、この海に。そして『あの子』自身に見せる為に。
「はっ……ビッツ・ビネガーねぇ……あぁ、そういや前に一度やり合ったあの旦那か」
そして縁はビッツの復帰にふと過去を想起して。
あの時はとんでもない化物が鉄帝にもいると思ったモノだ。味方になったと思えば頼もしいモノだが。
「そんじゃ後はラド・バウS級闘士とやらに任せて、俺はニーベルングの防衛に回るとしようかね……この船が沈んだら流石にやばかろう? 守りも多少は必要だわな」
故、彼は海へと。ニーベルングを護るためにリヴァイアサンの攻撃を少しでも引き付けるのだ。
水中より重ねる攻撃はその為のモノ。竜種よ反応せよと導きも抱いて。
往く、往く。無視できぬ様に何度でも。一発でも二発でも引き付けられれば艦の護りに繋がる。
ああ。そちらも後には退けないだろうが、それはこちらも同様なのだ。
「――根競べはまだ終わっちゃいねぇぞ、でっかいの!」
この海を制するのはどちらか――今決めてみせよう。
「成程……さ、さすがS級……? ビッツ・ビネガーが復帰……凄いこともあるものだ」
そして文もまた状況の変化を感じ取りながら前を向いていた。
あまりにしぶとい竜だが――もう少しだけ頑張ってみよう。鉄帝の、彼らの勇姿に報いる為に。
「……なら僕は艦の守護に回ろうか。負傷者も多いみたいだしね」
ちらりと見渡せば護衛に残っているルドルフは忙しなく指示を出している。
それもそうだろう。如何にリヴァイアサンを追い詰めているとはいえ、負傷者がゼロな訳ではない。いやむしろ戦いの長期化に伴って多くの犠牲もまた出ているのだ。故に――文はそちらの方へと。
海上にもまだ助けられる人がいるかもしれない。
負傷者を見つければ医療知識を持ってその傷を見据えて。
「大丈夫だ。こういう時こそ、焦らず、冷静に……」
順番を間違えないようにと呟いて、治癒の術を巡らせていく。
一人でも多く救うために。この船を絶対に守るために。
「木漏れ日の魔法少女リディア、癒しと支援が専門です! 私もお手伝いします!」
さればリディアもまた負傷者の救助を手伝わんと駆けつける。
幸いと言うべきか船はリヴァイアサンに相当接近している。これなら多くの人物が攻撃可能であり……だからこそ彼女は癒しの方に注力しようと思考したのだ。大海嘯を防いだ『彼女』の様な事までは出来ないが――
「まだ未熟ではありますが、皆さんの希望となれるようにこの力を使います……!
皆さんを必ず、繋ぎ止めてみせます……!!」
それでも己にも出来る事はあるのだと。天使が如き歌を紡げば――身体が治癒されていく。
相手はリヴァイアサン、どんなに状況が味方に有利でも油断は許されない。神威は健在であり、リヴァイアサンはまだ倒れていない。一寸の抜かりが致命的に成らぬ様にと、彼女は在り続ける。
木漏れ日の様に。暖かく人を癒すのだ。
例え嵐の中でも安らぎを。
『亢竜悔やしむ愛と正義の閃光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
同時。大いなる声が響いたのは別の魔法少女――愛だ!
船は沈めど愛は沈まず。ビッツの帰還は正しくそれを象徴する出来事――
「さあ、最終的にこの海に沈むのはあの人を見下す悪の竜であると。
私たちの力を以て高らかに示しましょう」
最終局面。ここにて必要なのは――魔砲であると彼女は確信し。
放つ。レイチェルと同じく露出した点を狙って、穿つ。一発でも二発でも。
勝利を得るまで。隙あらば超遠距離からの一撃ではなく接近し、魔法少女パンチでも放とうか! やはりこういう手合いに響かせるなら光り輝く神秘よりも拳に愛を込めた物理的衝撃の方が効果があると。
小さな一撃も万に積み重なれば無視も出来まい――
「たぶん世界中のいわしが1箇所にまとまっても、リヴァイアサンほど大きな群れにはなれないだろうね。でも、だからこそ。そうやって唾棄してきた小さいものに噛みつかれて――どうなのかな?」
プライドはまだ維持できているのかとアンジュは大竜へ問う。
ヒトもいわしもさほど変わらない。一人一人は例え小さくても。
「――『大きな群れ』は大きな捕食者だって打ち倒すんだ」
ベイト・ボール。遥か過去から巨大な存在に小さなモノ達は対抗してきたのだ。
敵がリヴァイアサンだろうと同じである。ヒトもまた、対抗しうるのだ竜に。
そして――これがこんなに近付けるかもしれない最後のチャンスである、ならば。
「みんなの想いを力に変えて。みんなの無念をひとつに束ねて……届け!」
彼女の手に光が集う。それは皆の念の証。無数のモノらの集合体。
天を打ち砕くアンジュの全力全開。
見下し胡坐をかく滅海竜よ小さき者の力を知るがいい――そうこれこそ!
いわしオーバードライブッ!!
直撃、炸裂。巨大な爆発がリヴァイアサンの鱗の下に――響き渡った。
成否
成功
第3章 第13節
リヴァイアサンの攻撃は苛烈であり、それでも向かう戦士は勇者とも言えよう。
しかし。そうであれば誰も怪我をせぬかと言えば違う。むしろ前に進まねば勝てぬという極限状況下の所為で見落とされがちだが、加速度的に負傷者は増えていて――
「船自体もかなりボロボロだ……この調子だとあとどれぐらい保つか……
この船が沈んだら全体の指揮に大きく関わるな。ちょいと裏方の仕事と行くか!」
故にアーサーは攻勢ではなくニーベルングの応急修理へと向かった。
例えばこの先勝利したとしても、船が無くなれば共倒れだ。海洋の船が救助に来れば救われる者もいるだろうが……それまでの間に疲弊した面々は海に溺れて死に絶えよう。故にニーベルングだけは最低でも残しておかなければならない。
特に損傷激しい箇所からアーサーは回り、管制室と連絡を密に取り合えば。
「此処の修理は終わったぜ! 次はどこだ!? あと補修材が残ってればそれを――」
瞬間。船を襲うは更なる天堕。
破片だけで威力を持つ無数の撃に対し、アーサーは決死の盾となるべく即時反転。向かう先は。
「あー!! くっそ、畜生!! 死にたくねぇ――!!
んだよこの攻撃はふざけてんのかくそ――!!」
「怪我人を屋根の在る所に運ぶっす!! 追撃貰ったらまずいっすよ――ッ!!」
零やジルのいる地点だ。彼らは負傷者の救助や治療に主に当たっている。
激しい攻撃から放っておき死なせる訳にはいかないのだ。貴重な戦力でもあるし、なにより。
「もう少しで勝てるんす……ここで終わらせないっすよ!!」
命を見捨てる選択肢はない。
ジルは医療知識をフル活用し、負傷者の具合を四段階に分別。傷はあれど動ける者を緑、意識があり応答が見込める者を黄色、意識がない、もしくは簡単な応答にもこたえられない者を赤。そして――『それ以下』の状態の者を黒。
赤・黄・緑の順に回復の優先度とする。なるべく怪我人を多く含められるようにしながら。
「おらお前も生きろ生きろ! こんな所で死ぬのは互いに御免だろうが!
お前らは陸の連中なんだろ!? こんな海の上で死んでいいのかよ!!」
零はそんなジル達、治癒役の下へと負傷者を運ぶ役目を担う。鉄帝の兵士たちに声をかけ、海に落ちた者であろうと水中に適した行動で即座に。避難場所へと急ぐのだ――外にいるだけで死は巻き起こっているのだから。
一人でも多く、必ず。
「救う他あるまいよ」
アクセルは短く呟き、眼前の患者へと集中する。
彼の展開した領域はある一定の区画だけだが、治療行為における最適な空間へと『成る』事が出来る。患者のバイタルを確認し、急変しそうなものがいれば即座に対応。練達より仕入れていた医療セットも準備すれば手術を行う環境すら整って。
「……止まるな、何はともあれ手を動かせ」
救うべきものがいるのならばその最善を。
ジルや零が連れて来た患者――特に症状の深い者にアクセルは向きあい己が本領を発揮するのだ。
「この状態じゃ自分の船を出すのも厳しいし……
ここからは私もニーベルングで負傷者の治療で動く事にするわ」
「うん……攻撃の手は……ビッツさん、だっけ? とにかくイレギュラーズに……負けず劣らずな、選手なんだねぇ……それじゃあ、ぼくもサポートの方に専念するとするよ……」
更に手伝いとしてルチアとニャムリもまた訪れる。
ルチアは治癒の術を負傷者へ。深い傷まで癒すのは叶わねど、せめて衰弱する事がないように。命を繋げばアクセルの方でまだ何とかなるかもしれぬ。
ニャムリも己が船は一端ニーベルングの影へ。ニーベルングを盾としつつ、万が一の時は脱出の為の『安全圏』とする為だ。或いは零同様に海に落ちた者を回収する際や『経路』としても役に立つかと。
誰もが動く。命を繋ぐ為に。
攻撃は最大の防御であるが――しかし命を拾う為には誰かの手を取る必要があるのだ。
生きて帰る為に繋ぎ止めよう。明日を視れず、こんな所では死なせない。
「ったく、リヴァイアサンの野郎め相変わらず無茶苦茶やりやがる」
故にエイヴァンも動く。自らの船を簡易拠点の様にし、負傷者を救助。
優れた機動力を持つ彼なら深く海に沈みそうになっている者すらその手に掴む。運搬の心得もあればなんのその。一人や二人掴んで海上に浮上するのも容易い事だ。
「だが死なせねぇぞ。古い神とやらが俺達の死を願おうが、知ったこっちゃあねぇんでな」
そして負傷者の治癒力を高めながら船へと引っ張り上げて。
竜だの『絶望の青』の主だのなんだの知った事か。
これ以上お前に好き勝手はさせまいと――彼は船を操舵し、攻撃を躱す。
成否
成功
第3章 第14節
「あぁっ!? ビッツ・ビネガー? 誰だよそれ? まあ誰でもいいや、強いんだろそいつ!」
じゃあとっとと手伝わせろ! こっちゃもう余裕ないんだよクソっ――と悪態をつくのは風牙だ。
最も激しい前線で力を振るい続けてきたが流石に疲労が激しくなってきた。リヴァイアサンが異様に生命力が高いというのもあるが、一体あとどれほど叩けば終わりが見えるというのか……
「…………ああもうええい!! やめやめ!! ここはあえて休む、ピットインだ!! アルケイデス! メシと飲み物! なんでもいい、すぐに食えるやつをくれ! 10分、いや5分だけ食事休憩をとる!」
「ええなにぃ!!? 本気か風牙!!」
「バッケロー!! こんな時だからこそだよ休みなしで戦い続けられるかよ!!」
キリがないならいっそ休む。大胆に見えるかもしれないが、本当に限界なのだ。
疲労が頂点に達している段階で何が出来ようか。コンディションを整えるのが最優先である。気力で腹は膨れないし、脱水症状は回復しない。
「その様子だと、お前も前に出るんだろ? 軽く腹に入れとけよ――あとトイレもな!」
言うなりサンドイッチを口の中に放り込み、噛むのと呑むのを同時に。
待ってろよリヴァイアサン。5分もしたらまた殴りに行ってやると――奴を睨んで。
「ビッツ・ビネガーさんが復帰ですか。
心強い味方が重い腰を上げましたし、私達も一層出し切らねばいけませんね!」
そしてフォークロワが前へと進む。不可視の刃を大竜へと繰り出し、思い起こすはこの世界の事。
訪れたばかりの世は何もかもが新鮮。見るべき全てが色とりどりで。
――だからこそまだこの世界を心から楽しめていない。
「こんな所で壊させてなるものですか」
神などと名乗っているからなんだというのだ。竜だからなんだというのだ。
知らぬ存ぜぬ力の限り抵抗してみせよう。
天堕の一撃を躱し、露出点へと全力全開。時折呼吸を整え体勢を立て直しながら。
それでもフォークロワはリヴァイアサンから目を離さない。
アレは必ず打倒してみせよう。
「どうやらビッツが無事に見つかったみたいだ。シラス達の頑張りが実を結んだんだな」
「そうか、ビネガーさんは無事か! よかった……だが、カタラァナさんが、まさか……」
ポテトの言に返答しながらリゲルはふと、別の戦場の方角を眺めた。
カタラァナ。破滅の未来を変じさせた立役者にて――海に散った、イレギュラーズ。
どれ程の決意があったのだろうか。しかし想いを馳せるのは一瞬しか許されず。
今は大竜へと目を向けよう。正真正銘ここが正念場だ!
「二人共、一気に叩いていくぞ! これ以上命は――失わせない!」
「勿論だぞー! きっとあとちょっとだ!! 絶対いきて、帰るんだー!!」
ノーラの元気のよい返事を受けながら、ノーラとリゲル、そしてポテトは再度大竜へと。
あと一歩。絶対にあと一歩だ。リヴァイアサンもきっと弱っている。
最初の勢いは確実にないのだ――だから。
「ノーラ、あまり前に出ない様に気を付けるんだぞ!!
さぁ――気力を振り絞ろう皆! 力を得たい者は近くに来てくれ!!」
ポテトの号令が皆に力を取り戻させる。さすれば再度癒しの術を。
体力を、気力をポテトが完全にカバーするのだ。其れは勿論リゲルやノーラも含まれて。
「オネェさんも無事だったんだ! ここで一気にリヴァイアサンを追いつめよう!!」
同時。ノーラはファミリアーの鳥を駆使して視線を確保。
鱗の露出点を眺め――そこへ魔力を放出させる。特に狙うべきは。
「ああ攻撃を重ねるんだ! ミロワールも水竜様も力を貸し続けてくれている……
その期待に必ず報いるんだ!! あと少しで――きっと勝てる!!」
リゲルの刻んだ傷と同じ地点である。
彼はギフトで剣を光らせ全ての力を火力に寄せる。治癒はポテトの力を信じている――
故に何も恐れない。連携し、斬撃を力の限り振るい続けるのだ。
抜き身で放たれる断罪の刃をリヴァイアサンへ。必ず勝利するのだと。
「リゲル、ノーラ!! 来るぞ――奴の天堕だ!!」
さればリヴァイアサンも反撃を紡ぐ。吹き飛ばさんとする一撃は絶望の渦。
「お家帰ってマシュマロぎゅーってするためにもこんな所で負けないぞ!
リヴァイアサンなんてちょっと大きなだけの蛇となにがちがうんだ!!」
それでもノーラの治癒もまた皆を癒せば、決して膝を付かぬ。
皆で勝つのだ。皆で勝利を掴むのだ。
負けられない。多くの人の助けを得て、ここまで来ているのだから――ッ!
「……ああ、聞こえたヨ。ここでは無い場所での、奇跡の歌ガ」
そう。カタラァナの声が聞こえたのはジュルナットもだ。
あの輝きに泥は濡れない。絶望を塗り替える大いなる歌を忘れる事など決して出来ない。
下がる事など許されない。
「以ての外の行動だネ。なら、やるしかないじゃないカ。おじいちゃんの力が続く限リ」
この手に持つ少き力を、たった一発でも多く届かせる為に。
リヴァイアサンを――討つ。
引き絞る弓に迷いはない。最早あの竜を絶望などとは思わない。
優れし五感で全てを捉え、吹き荒ぶ風の声を聴いて。
放つのだ。誰かが通し開けたこの道を――
「――断つ訳には行かないんだヨ!」
指先に力を。己が感覚の総てを預けて、魂の一撃を放った。
「ああもういい加減いらっとしてきたわね。しつこいのよこの竜は」
セリアは天を見上げる。あのでっかいのも頭の上に乗ってるのも。
「そろそろ鳩尾かこめかみあたりに肘鉄ぶちこんで黙らせたいんだけど――焦る訳にもいかないか」
まずは大人しくさせる必要があり、その為にここも殴る必要があるのならその支援と成ろう。
彼女の紡ぐ号令はポテトと同様の効果を齎す。気力を回復させ、戦う力を。
そうして敵のパターンを把握するのだ。どんなモノであれ攻撃の癖というのはあるもので。
「来るわよ、天堕だわ。躱したら一斉に攻撃を――素早く動かないと死ぬわよ」
戦略眼をもって指示を出す。己もまた精神力の弾丸を紡いで。
放つ。人的被害を軽減させることを意識しながら視線を巡らせ。
「やれやれ一体いつまで撃てばよい事か……そろそろ倒れて欲しい所でござる!」
そしてパティリアは空中を依然として限界の空を飛翔する。
リヴァイアサンに打ち込んだ弾丸の数は一体幾つか。黙々と、コツコツと。
いつかこれが奴の命を穿つと信じて。
「おっとぉ、とはいえその前に負傷者が出るのも必然でござるか……!」
されば見つけたのは眼下で海に落ちていく者だ。
リヴァイアサンから振り落とされたか――しかしそうはいかない。急速反転高速機動。
救助し、ニーベルングへの帰還ルートを辿る。ピストン輸送しつつ、敵の気力も削る。
「怪我人一丁でござる!」
全くこんな戦の中でどっちもしなきゃならんのがニンジャの辛いところでござるな!
愚痴は吐かずに役目を賭すべく再び戦場へ。
勝つまでやるのがニンジャの定め。倒れるまで諦めないでござるよ!
「ぬぅぅうう!! 兵士殿達をやらせはせんである!!」
同時。パティリアから送られてきた兵士をキャッチして、即座にリヴァイアサンからの攻撃から守護するのはローガンだ。元々守護の方が気質に合っていると自覚しているローガンは、戦場の接近に伴って守護の方に移行した。
自らの打たれ強さを高めながら、己の手に届く限りの負傷者を庇っていく。
「そう……庇うのである! 正直吾輩、船の事とか全然分からないのである!!」
だから逆説的に、船に詳しい兵士を護った方が結果としてこの船を護る事になるのだ!
超理論だがあながち間違っているとも言えない。少なくともローガンは、今己の出来る最大の支援を発揮できている状況であり。
「さあ、倒れ伏すその時まで……いや、力尽き膝を屈そうとも! 兵士殿達は、吾輩が守るのである!」
そして彼は倒れない。運命を消費しようとも戦場に立ち続けるのだ。
「うん――適材適所だよね、私も攻撃に出る人たちの分まで船を護ってみせるんだ!」
同様にスティアも守護に着く。攻勢に回る者達が後ろを気にしなくていいように。
私達の分までリヴァイアサンに攻撃をと。前往く者達の攻撃を引き付ける様に。
「少しでも皆を守るために……今できることを全部やるんだ!
後で後ろを振り向くなんて、後悔なんて絶対にしたくないから!」
自らに治癒の術を施しながら戦場に留まる。
大天使の祝福が如き癒しが、天使の如き歌声が皆を癒す。
誰も死なせてなるものか。
誰にだって明日は来て然るべきだ。
誰の命も――リヴァイアサンには奪わせない。
「……奇術師と云うものは奇跡を起こしたように魅せるもので御座います」
そして幻は嵐の中で滅海竜を見る。奇術師と云うものは奇跡を起こしたように魅せるモノ。だが彼女の追い求める究極の奇術師というものは。
「奇跡を起こすものにこそ、あるのです」
眼前には未だ驚異的な生命力を維持するリヴァイアサン。
これを超えてようやくアルバニアへ。成すには奇跡が必要に見えるが――
全てはアルバニアを倒す為に。
例え他者からどれ程愚かしい行動に見えようと。
「――僕は僕の信念を貫きます」
「……幻様、メェ……」
ムーはそんな幻を見つめる。
彼女は、他の者には見せないが『彼』と別れて以来食事も殆ど取っていない。それ所か酒に溺れる日々……
どれだけ酔いを得ようとしても解決せぬ。どれだけ淀む感覚に頼ろうと。
失われたモノが大きすぎた。
「……必ず、冠位魔種を倒しましょうメェ……」
呟くように零した言葉ははたして今の幻に届いていたか、否か。
だが想いもここまで。竜からの天堕が始まれば――余波すら危険。
気は抜けぬ。一気に強襲し、その身を削るのだ。
ここで足踏みはしていられない。一刻も、一刻も早くアルバニアを……!
「……幻様、危険ですメェ……!!」
その時だ。眼前に集中し過ぎたか暴風が襲ってきており――それをムーが咄嗟に庇う。
激しく打ち付けられるムーと幻。だが幻の身はムーが完全に保護しており、傷は無く。
「――なぜ」
どうして。ムー様。戦闘を最も嫌っている貴方が。
「どうして」
「……分かたれた恋人同士を見ているのは辛いですメェ……」
なにより。
「……どうか幻様『達』にはまた……幸せになって欲しいですメェ……
その為には……ここで引いては、男が廃りますメェ……」
「――――」
ムーにはなんとなくだが分かるのだ。幻の『彼』の心境が。
だからこそここで幻を散らせるわけにはいかない。彼女は必ず――守り通す。
例え己が戦場に出る必要があろうとも。
――死は悲しいのだ。
成否
成功
状態異常
第3章 第15節
奇跡は幾度紡がれたか。
水竜か。ミロワールか。或いはフェデリア海域に響き渡った伝説か。
それでも永遠というモノはない。
万象須らく終わりがある。
この戦いにも、やがて――
「魔法騎士セララ&マリー参上!」
「魔法騎士セララ&マリー参上☆」
だがその前にさぁシーズンが切り替わったのでポーズ変更のセララ・ハイデマリー魔法少女組である。前シーズンとは異なりポーズを変更。三本指ピースを顔の横に、カメラ目線で今からリヴァイアサンヘ最終シーズン。決めポーズが終わったらハイデマリーさんはスンッ……と成っております。なぜだ……
「あ、マリーパパも一緒にやる? 今度一緒に練習しようね!
鉄帝の魔法少女部隊を大きくするため! マリーと一緒に頑張っちゃうよ!」
「ふむ――面白い試みだが、私では少女の枠組みには収まるまい。
アイリスかアンネリーゼ辺りに話を通した方が――」
待って、待って父上。本当に待って。
もはや家族ぐるみで鉄帝軍人魔法少女科が設立されそうでどうしよう――
と、とにかく今はリヴァイアサンだ。将来の不安を遮るように頭を振り、大竜の下へと。
重ねる射撃は絶え間なく。同時、前をセララ後ろをハイデマリーの陣形として。
攻撃を叩き込む。同じ位置に、寸分違わず。
「「ギガセララ・リコシェット!」」
掛け声一つ。其れは勝利を求む魔法少女達の合体技。
「――鉄帝魔法少女の一撃であります」
決め台詞もしっかりと。勝利の名を刻むのだ。
「さて。竜の御前にて舞う機会を頂けるとは……光栄の極みですね」
そして弥恵が艦の最前方にて舞いを。
古来より龍を鎮めるは乙女の舞と相場は決まっている。一心不乱の輝きこそが魂に響くのだ。
雑念は捨てる。ただ只管、刹那であろうと竜を見惚れさせる舞いを。
「――雨も、天も、人は求める際に天を仰ぎました」
故に限界まで引き絞ろう。己が魂を込めて。
常に最高の自分を引き出すのだ。華やかと言う事象を、衣装に合わせ自らを昇華。
さすれば舞が神秘を生じ、大竜への撃と成る。
巨体であろうと効率よく与える術はあるのだ――竜よ静まり給え、海へと沈みたまえ――
「クソ……クソッタレが! いつまで暴れてんだテメェはよ!!」
同時。天に向かって叫ぶのは――キドーだ。
山賊は帰ってきた。ビッツ・ビネガーも帰ってきた。だが、だだ……
「だが、知ってる奴も、知らない奴も、多くが死んだ。死んだ! 何人生き残ったんだ!? 何人死んだんだよ!! ああもう沢山だぜ!! ニーベルングは絶対に沈ませねえぞ!!」
キドーは見た。先行していた艦が轟沈した時、そこにはまだ人が乗っていた瞬間を。
巨大な爆発が生じたのだ――目の前で確実に失われた命があった。
それもこれも全部リヴァイアサンがまだ生きてやがるからだ。
お前は許せねぇ――もう誰も奪わせねぇ――
強欲なゴブリンが決めたんだ。
絶対に、絶対に思い通りにしてやる。欲しいモノは手に入れないと気が済まねぇんだよ!!
「来いやぁ! 俺は死なねぇぞッ!!」
降り注ぐ天堕。吹き荒れる暴風。
そして時折注がれる神の火――それはキドーの身を削り、ニーベルング自体をも削るが。
それでも諦めない。
意思の力を籠めるのだ。振り払うのだ奴の天災を。何が来ようとやる事は変わらない!
「ああもう! もうひと踏ん張り……と思って、そうやって戦ってきてるけど流石にキツいわよ!」
利香は叫ぶ。『この身体』で長期間戦うのは厳しいと。
なによりリヴァイアサンの生命力が規格外すぎる――この体力馬鹿め!
「でも、今度こそ! 弱ってるわよね本当に!! 一気に――仕掛けるわ!!」
信じれるものは己の鞭と体のみ。ついて来れる猛者だけ付いてきなさい――と鉄帝兵を統制で奮い立たせ、吶喊する。鱗が降ろうが関係ない、一撃入れて逸らして前へ。或いは振り払い庇って前へ。
神の火? 知らぬ恐れぬ立ち上がる! 例え相手が何をして来ようと、私は私に出来る。
「最高の一撃を叩き込んでやるわ!! 覚悟しなさい、滅海竜!!」
――こう見えて私、あきらめが悪いのよ?
潜る視線を幾度も乗り越え至高の一撃を一閃。天衣無縫の輝きを――竜へ。
「やれやれ、でも病院のフカフカのお布団はまだまだ先みたいね……
直行したい所だけど、この戦況なんだもの、我儘を言ってられないわ!」
挑むわよ、とイナリも利香同様に疲弊しているが、己を奮い立たせ力を振り絞る。
新しく超即で届けてもらって補充した新術式弾――重防御であろうと貫き、内部より敵を焼き払う迦具土神加護の一撃だ。優れし目で長距離の目標も捕らえ、露出点へと狙いを定めて――射出。
「急造品だけど威力まで甘く見ないでよね!」
されば直撃、炸裂。いやいや一発では終わらない。
針の穴を穿つように同一箇所に何発も術式弾を叩き込んで、傷口をもっと深く抉り取るのだ。油断は禁物、いや不要。奴めの生命力の高さはもう嫌と言う程思い知っているから。
特に――敵の攻撃は注意だ。こればっかりは『頑張って』回避するより他無く。
「ぉぉおおおお!! させるかッ――!!」
だがそこへ、夏子が割り込んだ。
城塞の如き加護を身に纏った彼がイナリと天堕の間へ。であれば無論、彼へと凄まじい衝撃が襲い掛かって来る。が、彼は倒れない。甲板上で吹き飛ばされようと、即座に立ち上がり。
「……ん、ぐ、ぉあ……! 分かってるさ! 皆キツいんだ……!! だからこそ今ッ!!」
今、立ち上がるんだ。
今、男が意地を張らないでどうするんだ!?
「んなああぁーっ! んどだって! やってやるぁあ――っ!」
故に彼は天へと向かって吠える。
誰も傷付けさせない。特に女性、美少女は特に絶対! だから――!!
「あわわわ!! あまり無茶しちゃいけませんよ!!」
と、夏子へ降りかかるのはミミのポーションだ。
彼女の癒しの術――いや道具が皆へと舞い散り急速に傷を癒していく。それでも足りなければ神秘の救護用パッチ『救急レスキューパッチDX』だ。これを張ればあら不思議――みるみる傷の塞がる上等品で。
「尊い犠牲者なんて、一人でも少ない方がいいに決まってんですよ! 死んじゃだめですよ!」
「おおありがとう! これでまたもう一度庇えるぞ、うんだらああああ!!」
話を聞いていたのかいないのか夏子は戦意高揚。リヴァイアサンへと立ち向かう。
「うむむ……でも、一発くらいはミミもブチかましてなんきゃー気がおさまんねーですよ……!」
同時。ミミは回復の手を一度止め、リヴァイアサンを見据えて手に持つは――爆弾。
別名イヌミミ爆弾である。白い犬の様な顔が付いてちょっともふっとした耳と尻尾が付いた結構威力高めの危険物である。振り回し、投擲すれば空で炸裂、大竜の身へ衝撃を。
「この船は沈ませません。この船こそ……最後の砦」
旗艦は誇り、彼らの証なれば――と紡ぐのはリンディスだ。
「鉄帝の方たちが友人と、仲間と作り上げた「艦隊」は……
この船がある限り、終わらせはしませんから!」
治癒の術を振るい、傷を負った者を癒していく。例え速度が追いつかなくても只管に。或いは庇ってその歩みの手助けを行おう。
苦難の物語であった。始まりからして栄光ばかりではなかった。
それでも最後はハッピーエンドになるのだと信じている。
最後は。
前で戦う彼らの背中の、そして、この遥か遠く背中の先で彼らを待つ人のため。
待ちわびた人々への帰還の言葉。
「――『ただいま』で、章の終わりを迎える為に」
リンディスは己が力を振るうのだ。
彼らの帰る地を護るために。
未来へ物語を続けるために。
「ふむ。もはやこちらの船がやられるか、先にリヴァイアサンを弱らせるかの勝負になってまいりましたね。ここが真の正念場という所でしょうか? ――どうやら終わりも近い様子」
更にリュティスも前へ。正念場であるのならば死力を尽くそう。
この戦場のどこかにいる御主人さまの為にも――無様は晒せない。
天堕の余波を躱しながら呪いの蝶を巻き起こす。遠き点を穿ちて、その身を縛り。
隙が出来たと確信すれば一気に前進。全力たる魔力の一撃を叩き込む。
「どれ程巨体で、どれ程の生命を抱いていようと、限界はありましょう」
有効な攻撃をただ只管に選び続ける。
ダメージを与え続ければきっといつか倒れる。そしてそれはきっと――遠くないから。
誰しも輝いている。
これ以上失わせぬ様にする者。
リヴァイアサンを倒すべくと立ち上がる者。
命を救うべく誰かの手を取る者――
ああ。
「あなたにもひとの歌が、心が響いたよね。わかるよね。ボク達はあきらめない」
あの歌が響いてから全ての戦況は変わっているとハルアは感じていた。
海を独り占めしたいのはわかる。これ程強大で、誰をも包み込むものはそうない。
でもどうかあなただけのものにしないで。
あなたを畏れる心を慈しんで。
ボクはあなたが憎いんじゃない。ただ世界の皆で未来を掴みたい。
傷つけあう今を吹き飛ばしたいんだ。
「どうか――もう奪わないで……!」
奥歯を噛み締めながら彼女は往く。リヴァイアサンの身を足場に、駆け抜けて。
身が薄い点を狙うのだ。仲間も狙っている点へ、斬撃。
「……負ける理由、無くなりました、ね。あの歌の、ためにも……皆さんの、ためにも……」
「全く、困ったものだよ……命を救われてお礼に混沌世界に恩を返していくつもりが――今日一日でどれだけ次々と重なりあったのか。これは後で……ゆっくり数えないといけないね」
フェリシアの『彼女』を想う言に。長生きできなければ返しきれそうにないな、とシルヴェストルは言葉を紡ぐ。皆の心に沁み渡った伝説。ああ、もし、もしもう一度私が全てを忘れる事があったとしても。
「たぶんこれだけは……忘れない、歌を持ち帰るため、に……!」
フェリシアは確信する。これだけは記憶の芯に残り続けるだろうと。
そしてこの歌を持ち帰る為に、皆に伝える為に――リヴァイアサンへと立ち向かう。
精神の弾丸。気持ちを込めた一撃を、大竜へと。
絶対に、折れない。折れるものなら、どうぞ挑戦してみてくださいと。
「気持ちを、ぎゅっと、詰めていきます、ね」
上手く話せなくても気持ちを込める事は幾らでも出来るから。
紡ぎ続けるのだ。奴が――海の底に、沈むまで。
「ははは、さて。ひとまず、恩の1つに報いるために――
あの竜には、そろそろ海の底に帰ってもらおうか」
可能であれば未来永劫にね、とシルヴェストルはフェリシアより前へ。
往く。魔力を武器に込め、全霊の一撃を。鱗が塞がる前により深い一撃を。
蟻の一噛み、ただの雨垂れだとしても、確かに削れているのなら。
「それなら、僕達が勝つに決まっているだろう?」
千でも万でもその果てに勝利は必ずあるのだから。
ああだが悲しい。この奇跡を齎した人物は、もうこの世のどこにもおらず。
「……もう一度会って、ありがとうって言いたかった」
リリーは呟くように『彼女』の顔を思い浮かべる。
直接伝えたかった心。もう、伝える機会は無いけれど。
でも、想いは確かに――伝わっている筈。
「鱗が剥がれた瞬間が狙い目、なんだよね……? うん、がんばるよ……!」
ならばもう前を向こう。この大竜を倒し、明日の道を繋ぐことがきっと彼女への手向けになるから。
陣取るは中衛。もはや距離近きリヴァイアサンにはどの距離だろうと当てやすい。
これだけのデカブツだ外す事も無い……問題はどれだけ芯に響かせることが出来るか、だが。
「行ける所は……行って!」
優れた五感をフル活用。敵の大きな動作を見極め、天堕の攻撃を見据える。
アレの直後がチャンスだ――周囲の仲間に警告と、好機を伝え。
集中させる。攻撃を。己の放つ式符達も顕現させ――穿つのだ。
「……あの歌は海洋王国を守護する名家の方が、その身と引き換えに人々を護られた徴とか」
同時、エルシアもまた聞こえた歌へと思いを馳せる。
皆を護った伝説。誰かの命の為に紡がれた一筋……ああ私にはそこまでの覚悟はありませんし、彼女が何を思ったのかも解りませんけれど……
「一人でも多くの人命が奪われずに済むのなら、という祈りは、私と変わらないのでしょう」
故に彼女は祈る。それは……きっと起こす神秘の規模は違えど同じ種類の祈り。
どうか無事で。生き残って。私は信じています――
必ずや勝利を。
晴れやかな朝の様にした背伸びが心だけでも清らかに。
不安を全て忘れて、再び為すべき事をできるように……彼女に力を与える。
「……彼女も、随分な唄を残してくれたものだね」
あの唄が聞こえた。マルクの耳にも確かに響いた。
彼女の唄が消えるまで、僕は何も出来ず。だから。
「だから、立ち止まる訳には行かなくなった」
あの唄の残響が、心を震わせる限り。魂の奥底で己を揺さぶり続ける限り。
前に進む力を与えてくれるだなんて――本当に、大した唄だ。
苦笑し、もう会えぬ彼女に刹那の思考を。そしてリヴァイアサンに対抗するべく動き出すのだ。
船を護るイレギュラーズや鉄帝兵を中心に回復の唄を紡ぐ。
分析の号令を、高度な治癒術を。
ああ。ああ――
彼女の成した奇跡にはきっと及ばないだろうけど。
「進み続けるよ」
君の遺してくれた全てを、明日へと繋げる為に。
「くそ、嘆く暇はねぇ。くそ! そんな暇があるなら先に進め、くそったれ、くそったれが!!」
そしてニコラスもまた感情を奥歯で噛み締めながら、前へ前へと進む。
呆けてはいられない。今が。今この時が彼女がくれた最大のチャンス。
無駄には出来ない。このチャンスを活かす事こそが。
「俺たちの今すべきことだろうが!! 俺たちは! まだここにいる!!
彼女のおかげでまだ戦える!! なら!! 全力で今を生きてやるよ!!」
「ああ。もはや出し惜しみは不要……今こそ全霊をもって奴を討つ時だ」
同時、ニコラスに続いてアカツキもまた恐れず大竜の懐へと潜り込む。
彼らの前には全てを焼き尽くさんとする神の火の光――しかしそれがどうした。
彼女が紡いだ今がある。彼女が繋いでくれた明日がある。
だから。
「テメェという脅威なんて災厄なんて屁でもねぇって笑って全力で抗い続けてやる!!」
ニコラスもアカツキも、激痛に苛まれながらも――決して意思は折れなかった。
気力張る突撃で神の火を乗り越える。焼かれようとも弱点は見逃さない。
突撃、吶喊。一撃、必殺。
「一人の力で敵う相手ではない事は重々承知だ。それでも、この傷は。
これらの傷は――皆と同じに築いた勝利の証。倒れよ滅海竜……!」
アカツキもまた拳を振り上げ、同じ個所へと抉り込ませる。
一際大きい血飛沫が舞う――
明らかに今までと違う様子の血流だ。届いている。届いている!
「がはははっ! 見ろよ! もう俺らにも余裕なんざねぇが、アイツも後なんか無え!
いよいよ大詰めってわけだ。腕が成るじゃねぇか、なぁ!!」
「ふむ――確かに、色々と状況が好転してきているのは確かだな」
その様を見てグドルフと修也もまた、敵の限界を感じとる。
あれだけの傷を負っていれば封じるに足る余地が十分にあるだろう――故に。
あと一押しだ。ここで潰す。
「よおし。一丁、派手にブチかましてやろうやあ!」
グドルフは己に抵抗の加護を掛けながら、大竜へと向かう。クソ海トカゲに一撃を。
纏う闘気は可視化する殺意であり、彼の戦意。
例え暴風が彼を妨げようと――止まらない。
強く生を願う心が一線を保ち続ける。ここでは終われない。いや奴を終わらせる!
「ブッ倒れろやオラァアアア――ッ!!」
轟閃。ぶった切る一撃。
さればそれを援護するように修也の魔砲が空を斬り裂いて。
「初めに比べれば『生き残る』から『戦い』になってきた感じがするな。
……ならば尚の事あと少しばかり。本気で『生きる』ために出来る事をし続けようか」
そしてリヴァイアサンの攻撃により負を齎された面々に――打ち払う光を。
立とう。あと少しだけ頑張るんだ。皆が参加出来る方がより強い攻撃になると思考して。
「ああもう……これは追い詰められたが故の抵抗なんですかね。
随分と――起こっているご様子? でしょうかね」
さればベークが気付いた。天堕の頻度が、暴風の勢いが増している。
だが先程までと違って狙いが滅茶苦茶になっている気がするのだ。攻撃の頻度こそ多いが、先程の方がより的確に狙ってきていた様な……
「なんにせよニーベルングを沈めさせるわけにはいきません。
守り切ってみせますよ……! あぁ、もうばかすかとんでもない攻撃しますね……」
しかし、とベークは己に聖なる加護を。
されば周囲に援護の加護を齎しつつ、自身は攻撃の受け止めに走るのだ。
再生力もあり、加護を破られても気力充填できるだけの余地はある――と思考して。
「ふむ――頭部の方でも大きな動きがある様だ。
はてさてそれは好機故か、あるいは絶望でも再び訪れるのか……ここからでは分からないが」
それでも此処の戦況で手を緩めれば頭部に余裕が出てしまうと愛無は言い。
故に今は殺意を此処に。
火力を集中させリヴァイアサンの気を散らそう。さぁ――
「疾く死ね」
爆発する様に飛び出した。
待機、攻撃の軌道を見据え、躱す形で一気に接近。狙うは鱗の下、露出点。
甲殻類を思わせる鋏を武器に――抉る。駆け抜け身を『剥がす』ように。そして潰して同化吸収。
肉を削ぎ。骨を穿ち。その身を喰い尽すまで貪ろう。
伝説の竜の一角であろうと例外無し。
「砲撃手、よく狙え。鱗が再生してからでは遅いぞ」
そして眼下の船へと統制統率の指示を。
あらゆるモノを使い、あらゆる手段で大竜を追い詰めるのだ。全ては今しかないのだから。
「――嫌な感覚がずっと背筋を巡るんだ。これは……そうか、仲間が逝ったんだね」
だから――マリアは仲間の命の灯が消えた感覚がありつつも、前へと進む。
縁がある訳では無い。精々顔を知っている程度。親しいかと言われれば違うのだろう。
でも……それでも。
「私は……悲しいよ」
湧き上がる感情は悲しみと、そして――怒り。
どうして奪うんだ。どうして持って行ったんだ。返せよ、仲間を。
願っても振り返ってももうないから、そんな感情が一滴心に沁み込んで――
「ああ! でも、どんなに辛くとも……悲しくとも……
戦場で私に出来る事なんてやっぱりこれだけさ!!」
咆哮する様にマリアは言葉を飛ばし――往く。
その身に紅き雷を纏い、雷光を瞬くのだ。悲しみを携え、怒りを友とし天へ挑む。
雷華よ吠えろ。裂華よ引き裂け。
削る削る削る削る――敵のスタミナを削り、仲間が楽になるように! もう犠牲が出ないように!
「――ぁあああああッ!!」
募る感情を口から吐き出すように。
拳に乗せる様に――リヴァイアサンへと放ち続ける。
ここは戦場涙はいらぬ! ただ拳を振るうのみ! ああ嘲笑いし天よ!!
「目にもの見せてやる!!」
人の強さを知るがいい!
「どなたか逝ってしまわれたのね……皆を守る為に」
ありがとう見知らぬ人。ありがとう気高き人。
マリアと同様に斬華は確かに感じ取っていた。清らかな唄が、心に沁み込んだから。
「守ってもらったんだもの。お礼をしなくちゃね♪ 祭壇に捧げる首、なんてどうかしら……」
だから――さぁお礼を。
所詮私は影。私は幻。だから少しだけ……為すべきことを成して逝った人を羨ましく思う。
その功績に見合うだけの何かをお返しできるのだとしたら――そうね、やっぱり。
「さぁ! 首、置いて逝って下さいな♪ 竜の首など、なんて珍しい事でしょう!
ああ――刈るべきモノは確かにここにあるのですね! 首を頂きましょう!」
損傷部位は全て『首』となる。それは広義的な意味でなく斬華の中での意味だが。
ともあれ意味は単純だ。竜を倒す。
必ず刈る。天堕の後に隙を見てその首を刈る。首を刈ったらまた首を刈る。あちらとこちらの首を刈る。
さぁ――首をくださいな!
イレギュラーズの総攻撃は苛烈を極めた。
リヴァイアサンの反撃も相当なモノでニーベルングも遂にその身を軋ませ始めるが――
「保たせろ! まだだ、まだ落とせん!!」
ルドルフの指示が的確に飛び。
「ふむ。イレギュラーズの面々にだけ名誉はやれんな」
「左様左様!! さぁ鉄帝諸君進めィ! 勝利は目前だと信じよ――ッ!!」
レオンハルトと――内心はともあれ戦場では武勇を高らかにせしアルケイデスの攻勢が掛かり。
ついに終わりは見え始める。
「全く、鉄帝の諸君は頼もしいものだな。
ならば俺も、絶望の青を突破する。その為に全力を尽くすのみ」
ジョージ・キングマンは鬨の声の中にいた。
どれだけの絶望が聳えていようと向かい続けた。
武威を示す為に。竜であろうと海の上であろうと誉れありと叫んでいた。
奇跡は幾つも紡がれて。
その度に湧き上がった、この戦――
「もはや譲れんな」
竜如きにくれてやるには、惜しい。
ならば此の身朽ち果てるまで戦い続ける事をこの身に誓う。ああ天よ。
「その覚悟こそ我が力! 折れぬ信念こそ、天へと楔を放つ一筋の光となるのであれば!」
往こう。
もはや天からの絶望など恐れるに足らず。
天堕を駆け抜け暴風を五指にてかき分け、己が肉体に全てを懸けて。
神の火すら乗り越えよう。
「我が強さを知れ竜よ! 矮小なりしと貴様が嘲笑った者達が持つ――輝きを!!」
拳を貫手に。ジョージの一撃が――深々とリヴァイアサンへと突き刺さった。
揺れる。
空間が、揺れている。大気が揺れている。
海がざわめきまるで天も地も揺らいでいるかのような感覚が全ての者へ。
「なんだ――!?」
鉄帝の誰かが叫んだ。
ああ。あれは、リヴァイアサンが。
滅海竜が――!
成否
成功
GMコメント
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)
皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●目的
リヴァイアサンの撃退。
その為体の一角――右の脚へ対する攻撃を行ってもらいます。
なんとか、ダメージを与えてください。
●戦場
荒れ狂う海域。嵐の中。
皆さんは後述する戦艦ニーベルングか、ワルキューレに乗っている事が出来ます。
ワルキューレの方がリヴァイアサンに近い形ですが、リヴァイアサンの身は規格外すぎますので、あまり大きな違いはないかもしれません。
●敵戦力
『リヴァイアサンの右脚』
リヴァイアサンの右脚、並びにその付近を攻撃してください。
倒せるか倒せないか、ではありません。倒せなければ死ぬだけです。
眼前に聳え立つリヴァイアサンは巨大で、そもそも近接系の攻撃は届くかも分かりません。確実に攻撃を当てたいなら遠距離攻撃以上が必要となるでしょう。尚、それは『当たるか否か』の話であって『攻撃が通る』の話でありません。
全力を尽くして生き残ってください。
また、気紛れの様に時々以下の攻撃が発生します。
・天堕(A):物特レ域 超ダメージ 命中精度:中 BS:不明
恐らく鱗――が、落ちてきます。
それはさながら隕石の様に。
・神威(A):神特レ域 高ダメージ 命中精度:超 BS:不明
時折激しい風――それは嵐の如く――が発生します。
それはただ、身じろぎしているだけなのですが。
また攻撃の発生時『空を飛んでいる人物に特攻性能』を発揮します。
具体的にはダメージ・命中率が増加します。
・神火(A):??? 高ダメージ 命中精度:高 BS:無数
???
●味方戦力
■レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
鉄帝の軍人。骨格が機械で形成されている鉄騎種。本作戦の指揮官。
ニーベルングに乗船中。
■ルドルフ・オルグレン
鉄帝の技術部門の軍人。皇帝の命により指揮の副官として参戦。
ニーベルングに乗船中。
■アルケイデス・スティランス
鉄帝でも有名な武闘派一族『スティランス家』の長子。前衛型の人物。
ワルキューレに乗船中。
■パルス・パッション
ぱっるすちゃーん! 鉄帝のB級ラド・バウファイターだよ!
前衛型のファイターだよ! ワルキューレに乗船中。
海洋軍勢を薙ぎ払った第一波の攻撃に巻き込まれ、多少負傷している。
■ビッツ・ビネガー
ラド・バウのS級ファイター。自称『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』。
非常に強力な戦力……なのですが、リヴァイアサンの第一派の攻撃に巻き込まれ現在行方不明。
■戦艦『ニーベルング』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。かなり硬い。
硬い、が。絶対的なリヴァイアサンの前ではまるで石か何かの様に見える。
■先行艦『ワルキューレ』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。
複数艦隊が存在し、ニーベルングを護る様に布陣している。
しかし先のリヴァイアサンの攻撃により幾つかの艦が沈んだ模様。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
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