シナリオ詳細
<絶海のアポカリプス>神威顕現・生存不能
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●首を垂れよ
――我は。
――我は、竜。
――天を焦がし、海を統べるモノ。
人間よ。小さき小さき定命共よ。『冠位』を傷つけし稀有なる者共よ。
その勇気と力を称えてやろう。
誇るがいい、この大海の支配者の視界に映る事を。噎び泣き祈りを捧げよ。
我が好奇。我が興味。
ほんの些かなる戯れをするに値すると、我が背筋を擽りおるわ。
知れ。
人よ、我が名を。人よ、我が存在を。
――恐れよ。
――畏れよ。
――称えよ、竦め。許しを乞え。
我は神威。我こそ世界。我こそがこの大海の主である。
我が名を刻めその魂に。
我が名は滅海――
滅海竜リヴァイアサンなり!
●天を仰げ
鉄帝国遠征海軍主力の一角が乗る旗艦ニーベルングの前には『理不尽』がいた。
滅海竜リヴァイアサン――竜種――それは、本来であれば竜の住まう地……
『デザストル』の奥深くにでも行かなければ遭遇すらしない存在だ。
しかし現実として『いる』のだ。正に目の前に。
巨大すぎて――彼我の正確な距離の差が分からなくなる程の存在が。
「撤退は不可能か。近すぎるな」
「左様。もはや後ろには進めん、斯様な隙は即座の沈没となるだろう」
その存在を見上げるは鉄帝遠征部隊指揮官のレオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク。
並びに副指揮官ルドルフ・オルグレン。
彼らがいるは旗艦ニーベルング――鉄帝の誇る鋼鉄艦だ、が。
眼前に聳えているリヴァイアサンの大きさと比べれば石か何かにしか見えない。
海洋との戦では頑強さを誇った筈のその艦が、だ。吹けばまるで飛んでしまいそうで。
「ヴァイセンブルク卿――! 先の大竜の攻撃によりワルキューレにも被害!
海洋軍勢の被害よりは遥かにマシな状況ですが、これは……!!」
そして、かの船に報告へと訪れたは鉄帝でも武勇に優れるスティランス家が長子、アルケイデス・スティランスである。嵐の暴雨に体を濡らしながらも、付近に展開する防衛艦の一隻から駆けつけて。
「これは、もはや戦闘云々の状況では……!!」
「然り。しかしもはや我らに退路は無い……勝機を掴むぞ。全軍前進」
「はっ!?!?」
「指揮官殿の声が聞こえなかったのかアルケイデス殿よ――前進だ」
アルケイデスは驚愕の声を漏らす、が。レオンハルトとルドルフの声は確かなモノであり、嵐の中と言えど聞き間違えようはずが無かった。
前進。前進? あの竜へ? あの大竜の懐へ往くと?
――いやアルケイデスにも分かっている。
幾多の戦場を――本来心優しき彼の本意ではないが――ともかく、巡り巡った戦場の勘は『アレをなんとかする他、生き残る道は無い』と警告を鳴らしている。彼らは、二人の指揮官は血迷っている訳では無い。しかし。
「しかし、ビッツ・ビネガーは先の激流により乗船していたワルキューレ諸共行方不明! パルス・パッションは無事ですが多少負傷しているとの話で……! とても戦力は……!」
「承知している。その上で命じているのだ」
「『行け』とな。生の光は前にしかないと知れ」
見る。誰もが前を。誰もが天を。
そこにおわすは、勇猛なりし鉄帝の荒人達なれど竦む大天上の存在。
今一度言おう。諸君らの目の前にいるのは――
竜種である。
しからば、知れ。
――『絶望の青』を。
- <絶海のアポカリプス>神威顕現・生存不能Lv:15以上完了
- GM名茶零四
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年06月13日 21時06分
- 章数3章
- 総採用数339人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
滅海竜リヴァイアサンへの攻撃は重ねられていた。
多くの意思が集い――しかし、それでも。
奴は全く意に介していない。
冗談とも思える程の差だ。打開の策が全く思いつかない程に。
全力を重ねてようやく少しだけ奴を削れたか――
「……だがこのままではジリ貧だな」
ルドルフ・オルグレンは冷静に状況を視て呟いた。
皆の士気は高い。それは率先して奴へと向かうイレギュラーズ達の気迫故だろう。
それでも押し切れない。違い過ぎる。奴が本格的に攻撃して来たら――此処は――
「いや。どうやらそう悪い事ばかりでもないらしい」
瞬間。言葉を放ったのはレオンハルトだ。
どういう事か――それは旗艦ニーベルングに届いた情報故。勝機を伝える一筋の希望。
「海洋の伝説的人物、海賊ドレイク……とやらが味方になったらしい」
「それは先の戦いで敵だった、と聞いているが?」
「さて。何やらイレギュラーズとの交渉の果てだそうだ。フッ、面白い事をやってくれるではないか。だがそれだけではない……我らにも直に関わる事としては滅海竜リヴァイサンが――弱体化しているらしい」
何?
見ればリヴァイアサンの様子が確かに――少しだけおかしいように感じる。何がどう、とは上手く説明できないが、先程までとは少し、動きが。雰囲気が異なっているような……
それはイレギュラーズの味方として現れた『水竜』なる存在故。
イレギュラーズの一人、カイト・シャルラハの決死の願い――PPPの果てに現れた水竜は、滅海竜を覆っていた権能である『神威(海)』の阻害行動を行っているらしい。成程、リヴァイアサンは巨大であるとはいえ異様に強靭であると思っていたが。
「強力な権能があった訳か。自身を守護する能力か?」
「恐らくな。権能の詳細はこちらでもまだ分かっていないが……
重要なのは今、奴が弱体化しているという確実な事実だ」
今が好機。リヴァイアサンへのダメージは今までよりも遥かに深く届くようになっている。
ここまで保たせた故の勝機。ここまで艦隊が体を成したが故の転機。
イレギュラーズがいなくばどれ程の被害があった事か。
一筋の光が、今確かに見えた。
「よし、ニーベルングを更に前進させろ。この艦は最悪潰しても構わん――
リヴァイアサンへ接近を」
故にレオンハルトは即断する。今は攻撃こそが最大の重要点であると。
味方として現れた水竜はリヴァイアサンに対抗しているが――対抗以上は出来ないらしい。故にやる事はリヴァイアサンを更に弱らせ『眠らせる』事にある。先程までは強固な鱗と権能に阻まれていた様だが、今の状態ならばそれも可能だ。
ニーベルングを潰す勢いで接近させれば近接の攻撃も届く。
全力全開で奴に挑めるのだ――ただし。
「……動きが変わったのは、どうやら弱体化と言う意味だけではなさそうだな」
ルドルフは見た。
奴の動きが。奴の気迫が変わっている。
今までは『ただ移動』していただけだった。その余波で『生じたモノ』が降り注いでいたのだ。
だが、これからは違う。
奴の『攻撃』は苛烈さを増す事だろう
「それでも進むのだ」
この先に、勝利があるのならば。
往こう。
絶望の青を――踏破せよ!
=======補足========
・目標『リヴァイアサンを弱らせる事』です。水竜様の力はリヴァイアサンに及びません。
ですので、リヴァイアサンと『ともに眠れる』レベルまでリヴァイアサンを弱らせることが第一目標です。
・カイト・シャルラハ(p3p000684)の『PPP』にて顕現した水竜様は自身の持ち得る権能を使ってリヴァイアサンを覆う絶対権能『神威(海)』を阻害しています。
それにより今まで以上にダメージを与えることが出来るようになりました。
・前回の攻撃により『神威(A)』にブレイク効果がある事が判明しています!
・前回の攻撃により『天堕(A)』攻撃後、鱗が一定時間剥がれた跡の箇所が比較的脆い事が判明しています!(ただし鱗は再生する様で、一定時間しかそこには攻撃出来ません)
・神威(A):神特レ域 高ダメージ 命中精度:超 BS:ブレイク・他
時折激しい風――それは嵐の如く――が発生します。
それはただ、身じろぎしているだけなのですが。
また攻撃の発生時『空を飛んでいる人物に特攻性能』を発揮します。
具体的にはダメージ・命中率が増加します。
===============
第2章 第2節
「さぁ、ボクを称賛してくれ。このような劇的な窮地でこそボクの美は一際輝く……
ああこの海はボクの舞台。ボクの公演だ――」
状況の変わったリヴァイアサンとの戦い。
その渦中にてセレマ――美少年を名乗る故『彼』とするが――彼は歓喜していた。
勝機が幾らか見えたとはいえここは死地。誰もが追い詰められ、だからこそ魂が輝く大舞台。
「ふふ、ふふふ。ボクはボクの自尊心の為ならどこまでだって強くなるんだ」
ならば映えよう。死が吹き荒れるこの地にて、舞い踊る様はどこまでも美しく。
ともすれば――竜の一匹ぐらい殺す程に。
飛び込む。海の中へと、何の躊躇も無くローレライの如く。海もリヴァイアサンの巨体移動で荒れてはいるが、潜れば潜るほどに影響は少なくなるものだ。エコロケーションの反響で周囲の音を捉えながら奴へと近付き。
『さぁ――その精髄まで受け取り給え!』
放つ。奴めの鱗の下に、生身に呪われし代償を。
多少の海流の奔流はなんのその。『自身』を『再定義』する事によりすぐさま誤魔化し――
輝き続ける。暗き海の中で、誰よりも誰よりもと。
「がゔぉらっ! 生きてる!? 俺ぁ生きてるっ!!?」
と。海に潜ったセレマとは対照的に海から現れたのは夏子だ。
リヴァイアサンからの攻撃によって海に投げ出され――しかし海だったからこそ大した傷も無く。状況の確認の為に呼吸を整え上を見上げれば、夏子を吹き飛ばした大竜は未だ悠々としていて。
「ンのヤロウ……こっちに気づいてもないんじゃないか……?」
海に浮かぶ木っ端の如くしてくれやがって――悪態付くが、腐ってもいられない。
あれは理不尽。不条理にして悪夢のような現実。
とどのつまり『ああいう』のを粉砕しなければ。
「【世界平和】ってヤツは訪れない……だろ? いいさ、お前が気付こうが気付くまいが、やる事は変わんない! どっちが最後まで生き残ってるか……生存競争だ!」
泳ぎ、近場のワルキューレの甲板に駆け上がって。
守護の力と共に敵の攻撃を見据える。
護るのだ味方を。護るのだ――特に女性を! この戦いを超えればすぐに夏!
「何が何でもモテる! 生きて帰ってモテて!! そうすれば!!
麗しの水着女性が待ってるんだぁ――ッ!!」
ええい、理由は大分不純なれど、生の意思は確かに彼に在るようだ!
成否
成功
第2章 第3節
「おうおうおうなんでぇやる気になったかよ! あのままでも俺ぁ別に良かったんだがな!」
からからと天に向けて笑いながらキドーは紡ぐ。しかし状況は悪そうだ。
これからは恐らくただ撃っていればいいというものでもないだろう――味方艦が沈めばイレギュラーズにとってもどうしようもない。この『絶望の青』の海と空はたった一人。体一つで挑むにはあまりも過酷すぎる。
「つーことは守りに徹するのもアリだな……いやむしろそうするべきかよ」
天より至りし鱗の破片。それを壊すか逸らすか。
発散しきれぬ感情。わだかまり、腹の底に溜まってゆくソレらを力に。
見上げるは未だ大竜の威厳保ちしモノ。倒さねばならぬモノ。
「ったく……こんな一大決戦って大見せ場の時にアイツはなにやってんだ!!
――オイ、早く戻ってこい山賊!!
テメェが居なきゃ俺はそろそろ駄目かもしれねえぞ!」
それは天への叫びか、それとも海の底への叫びか。
はて。どちらと知れぬが――しかし、なにやら心がざわつく。
アイツが近いと。
なぜか心が確信していた。
成否
成功
第2章 第4節
「なるほど、つまりあのデカいウミヘビの右脚の小指を集中的に狙ってやっつければ良いのじゃな!」
間違ってはいないが、なんとも難しい事である事を平然に言ってのけるのはデイジーだ。
リヴァイアサンの一角を潰す。ここは言うなれば右足で、小指の先をガツーンと。
「しかしとりあえず飛ぶと危なそうじゃのー。ここは妾の領域分野で行くのじゃ」
わざわざ暴風吹き荒れる天を往く道理は無しと。
故にデイジーが往くのは海中だ――海は上が荒れ模様でも下はそうでもない事が多い。
リヴァイアサンの巨体が動けば妙な海流が発生するやもしれぬので油断はしかねる――が。
「でっかいのーだが生物ならどこかに弱点がある筈じゃ」
射程に捉え慎重に。魔術を行使し敵を穿たん。
大竜なれど死なぬ筈がない――必ず倒す道はある筈だ。
「――うっそ、鱗でワルキューレが爆沈したの!!?」
そしてデイジーの出撃したニーベルング――の甲板上にいるのはアルメリア。
見据えた先には天堕の衝撃により破砕したワルキューレ。
あれも鋼鉄艦だというのにまさかあんな簡単に……
「ああ……数秒後の自分を視ている様だわ……し、しかも動きが変わった!!? 攻撃が激しくなる予兆だなんてもしかしてもう――ええい! ひるむなアルメリア! 今は手を動かす!!」
しかし怯んでいて事態は変わらない。ならばアルメリアも腹を括って大竜に向かわん。
落ちてくる鱗――天堕。
それの一つに狙いを定めるのだ。幸いにしてあんなに巨大であれば当てるは容易く。
「やるしかない……さもなきゃミンチよ!!」
撃つしかない、撃つしかない! 自己暗示の様に己を奮い立たせ、向かうは絶望。
「あぁ、大樹ファルカウよ、どうかこの海にも御身のご加護を……!!」
逃げ場なんて今更ないのだ――死力を尽くそう、と。
「だけど逆転イベントきたにゃ――!! この流れで負けるとかゲーマー的にありえんにゃ!」
絶対かーつ! とアルメリアに続いてリヴァイアサンへ吠えるのはシュリエだ。
海より攻めるデイジー。天堕を迎撃するアルメリア。さればシュリエは大竜へ向かい。
「攻撃した箇所が脆いとか流石ボスにゃ! ギミックがあるんだにゃ!!」
狙うは天堕で剥がれた鱗箇所。鱗が再生する前にそこを叩く。
全力だ。魔光の一撃、災厄を引き出し根源たる一閃。しかる後に虚無の剣で斬りつけて。
攻める攻める攻める――呪殺は通る様だ。尤も、付与した負の効果自体はどれだけリヴァイアサンに影響を及ぼしているのか察知しにくいが……! あまりに巨体である故に!
「でかすぎてわかりにくいのずるいにゃ! ボス特権はんたーい、ニャ!!」
それでも往くしかない。リヴァイアサンの加護が剥がれた今が好機。
時間はそんなないけど情報はできるだけ得ておかないと――にゃ!
成否
成功
第2章 第5節
「こりゃ、ヤバいことになってきたじゃないか。まさか海の底から竜だなんてね……!」
嵐。その果てにいる大竜リヴァイアサン。
なんでも神代から存在する伝説だとか――ああ、聞くだけでヤバい事がリズリーにも分かるが。
「でも……熱い、じゃない? そうさ、気圧されるどころか燃えて来たね……!
っしゃあ! 行ったろうじゃないか! クレイグの戦士に後退なし!」
内より至るは闘争の魂。燃え盛るは竜へ挑む気迫と気質。
口端が吊り上がるものだ、相手が巨大な存在であればあるほど――!
跳躍。弱点は剥がれた鱗の部分だという。接近したニーベルングの今の状況であれば駆け上がる事が出来て、機と見たら真っすぐ行ってぶっ叩く――それが戦士の定めであれば!
「ハっハァ! 荒熊の一撃を見せてやるよ!! 一発と言わず何発でもねぇ――!」
振るう。己が全力を。
暴君暴風たる異名を持つ己と共に――数をぶち込む。
混じりっけなし、自前100%。神威の風なぞなんのその。舐めるなよ大竜!
「あっはっは!! ここまでおっきなドラゴンさんははじめてみたよ!」
更にリズリーに続き肉弾戦を仕掛けるのはナーガだ。
リヴァイアサン? あの大きな竜がそのことなのかな? じゃあ――
「――あのコとじゃれあえばイイんだね?」
口端が凶悪に綻びる。歓喜しているのだ魂が。喚起しているのだ闘志が!
足に力を。周囲には先の爆散したワルキューレの残骸が沢山あり『投げても平気な重たいヤツ』には事欠かない。片腕に力を。持ち上げ、呼吸一つ。深く、深く吸い込めば――
投げた。己が膂力で瓦礫を高速に。
狙うは同一。鱗が剥げた弱点部位。
下手な事はしない。どうやれば鱗を更に剥がせるとかどうやれば船を――とか。
んな事はいいのだ。上手い人に任せればいい!
「よーし! すこしでもヤクにたてるように、ガンバルよ! ドラゴンさんあっそぼー!!」
多分――色々やる暇なんてないだろうから。
ナーガはナーガに出来る『最大』の事だけに集中して、やってのけるのだ。
「よーし、攻撃が通るならこっちのモノですよ……どーやら希望が見えて来たようですね!」
そしてルルリアもまたこの状況に光明を視た一人である。
何をどう攻撃しても通りにくくモヤモヤしていたが……その原因たる加護が剥がれたという事ならばやりようもある。『倒せない』は絶望だが『倒しにくい』は話が別なのだ。
「それでも一筋縄ではいきませんが……皆の力を合わせれば……!」
やれる。彼女は心から確信していた。
己もまたその『皆』の中の一人になるべく――繰り出すは全身全霊の魔弾。
ニーベルングの甲板上からリヴァイアサンへと。再度顕現させし聖浄の槍が彼方の身へ。
味方の攻撃しやすい場を作るのだ。鱗を少しでも剥がして一撃ッ!
「――ッ! 何か悪影響があったみたいだけ、ど! やっぱりまだ頑丈……っだね!!」
しかしやはり簡単にはいきそうにないとマリアは思考を重ねる。
なんとなし、攻撃が通じやすくなった様な感覚はある。
『だがそれだけだ』――未だリヴァイアサンの身は揺らがず、この攻撃も通っているか。
「私のことなんか蠅程度にしか思っていないのだろうけど! でもね……」
それでもマリアは駆けるのだ。
この雨の中を雷光の如く。
この雨の中を照らす様に。
紅き一閃は大竜へと挑み続ける。その拳は、その蹴りは決して諦めない。
「効いてない? そりゃそうさ! 私が見ているのは此処じゃない! 私が見てるのは――遥か先!」
決戦の決着。
勝利への未来。
それに繋がる為に――彼女は全力を賭すのだ。
「点滴岩を穿つ――ってね! って言うだろう!?」
いつか大竜の身を穿ち。
その魂に届かせる為。
成否
成功
第2章 第6節
鉄帝艦隊は前進を選んだ。
竜という規格外に対して――しかしそれでも前に、と。
何が起きるか分からないものなのにかような手段を選択できるとは。
「流石鉄帝の将というべきか……機運を視る眼は確かな様で」
舞花は思考する。絶望的な面持ちで大竜に挑むよりも。
意気揚々と高まる戦意の元に挑む戦いの方が――遥かに天の運を掴みやすいというものだと。
元より進むしか残ってなき道。押して通るのみの戦い。
「人の力、人の技の粋。
神だろうと竜だろうと、あまり甘く見ないでもらいたいものね……!」
見るがいい神よ竜よ――人の強さを、人の意思を――!
刀身に満ちる『気』と共に、大竜の身へと斬撃を一閃。さすれば、。
「相手が伝説の龍であろうとも、木漏れ日の魔法少女リディアとして立ち向かいます!」
リディアもまた奮い立つ。
頑張り所は正にここ。踏み止まるはこれより先に非ずんば。
至高を尽くすのだ。天堕による攻撃が訪れようと自らを癒し、傷を抑え。
「うぐ、ぐ……! なんて、激しい……!
ですが、私も手の拱いてみている訳にはいきません……! 押し通します!」
足に力を。見えた一筋、鱗の剥がれた箇所へ向けて。
放つは青い衝撃波――煌めく光を纏い、嵐の中に木漏れ日が。
放つ。放つ放つ。
防御の薄い場所へ少しでも。与えるのだ傷を、皆の助けの一手を。
「うむ――しからば拙者もそろそろ参るとしようか。なに、もはや逃げる事も叶わぬのだ」
されば、よっこらせ……と呟きながら姿を現す咲耶。
傷が癒える一時はまだ様子を見ていたが、過ぎ去れば万全。見上げる天に恐れなし。
「たかが竜如き何するものぞ!! 図体の大小は強さに非ず!!
窮地に追い詰められた鼠の恐ろしさ、しかとその身に刻んでいけ!」
往く。如何なこの海に永く支配者として君臨した者であろうと、だからこそ廃滅病からは逃れてはいまい。少量の毒でも万回打ち込めばいずれ無視できぬ毒となろう。無数の鴉を顕現させ、共に往くのだ懐へ。
倒す。一刺しでも二刺しでもいずれその心の臓へ必ず。
「幾度倒れようと最後に勝てばそれで良し――拙者のしぶとさを侮るな!」
忍びの誇りを胸に抱き、彼女は天災へと駆け抜ける。
そうだ何を恐れる事があろうか。水竜の出現で弱りもした奴を。
「嵐がなんだ……船乗りを舐めんじゃねーぞ! こちとら何度も乗り越えてんだよ!」
だからこそ今宵もまた水竜様の為にも、と。
カイトだ。水竜の顕現へと繋がる一手を打てた彼は戦線に復帰し、リヴァイアサンへと。
海面スレスレを低空飛行。高速で、しかし暴風に負けぬ彼は一気に距離を詰める。
「絶望の青の支配者だなんだとほざきやがって……!」
構える。彼の瞳に恐れなく、彼の瞳に闘志あり。
切り刻む一撃を奴へと。翼を広げ、一気に飛翔。
鱗の落下を躱し近付き一閃。
神威の暴風吹き荒れど負けはせぬ。風読みの力がその流れに乗らせるのだ。如何に強靭な風であろうと、抗わず、その流れを見切る事が出来れば――容易い。自在自由に活動できるとまでは言わぬが、傷さえ軽減出来ればこちらのモノ。
「ちょこざいか? だがソレが俺らだからな!
何度吹っ飛ばされようが、何度弾き飛ばしてこようが……負けないぜ!」
乗り切り、再び翼を広げて。
眼下に見る大竜へと吠え荒ぶ。必ずお前に――勝ってやる、と。
成否
成功
第2章 第7節
かの竜種未だ巨大。されど撃退出来ねば未来無し。
どこかに潜むアルバニアを打倒する為にも。
「諦める訳にはいかないわ……! 私は、この剣を手放す事なんてしない!
例え相手が大海の支配者であろうと、神代の伝説であろうと必要ならば乗り越えるのみ!」
アルテミアが掲げる剣は心と共に一片の曇りなし。
輝かしき猛りは剣に蒼炎を。魔力も加護も、鱗の強靭なる護りすら貫こう。
この嵐。その全てが大竜の影響であったとしても――
「我が纏いし焔は……絶望を越える道標なり!!」
火を灯せ。
救いの光をその手で斬り開け。
勝利は我らの行く末に必ず存在してるのだから――ッ!
跳躍、接近。駆け上る様に鱗が剥がれた地点へと一閃。
削ぎ落す。肉を切り裂き必ず滅ぼす。幾千でも幾千でも斬撃を放とう。
「無茶は元々よ、これ位やらないと勝てる物も勝てないわ!!」
「ふふ。まったく、誰も彼も『進む』選択が出来るとはね。興味深いよ」
さればアルテミアに続き至るはシキである。
どう見ても絶望。どう見ても乗り越えられぬ。それでも一筋の光を求めて皆が生きている。
鉄帝の兵も。海洋の兵も。誰も彼にも物語があり――生きているのだ。
「全て終わったら飲み交わしてみたいもんさ」
その為に往こう。見据えるは天。堕ちて来る鱗の軌道を視つつ、駆け抜ければ。
穿つのだ彼女も。鱗が脆くなっている箇所を。あるいは無き場所を。
――セプテムマリアに口づけを。蒼き宝石に、信念と誓いの結晶に心を通わせ。
敬意を。
海洋の民に。その歩みに。
「さぁ――勝利をこの手に掴むまで、諦める選択なんて私にだってないさ!」
見極め一閃。絶望を砕かんとする。
「ハハハ、そうだね! 相手がでっかい分だけ殴りガイがあるってもんだよ!」
そしてイグナートもその勢いに続く。自らの船を操り、リヴァイアサンへと接近し。
「世界最強のセイブツがシラナイ敗北ってヤツを教えてやろう! さぁ――新シイ伝説だよッ!」
拳に秘める全力。幸い相手は見上げても足りぬ超巨体なればどこを殴っても当たるものだ。
所詮戻れぬか知れぬ片道切符。懸ける命はいつもであれば。
畏れぬ恐れぬ。己が武威をここに示そう!
「竜のウロコだろうがオレの右腕で砕けないモノは、ないッ!」
狙うは二撃。一撃目の拳で穴をあけ、二撃目の拳でより深くその傷を抉るのだ。
苦難を破り、栄光を掴み取るはその一手。
大海の支配者だろうが知った事か。砕けて滅びろ神話の生物!
そう、如何に強かろうが見えたのだ勝機は。ゴールが出来たのならきっと。
「ずっと……がんばれます。がんばったら、この先に未来があって、勝利も、あるのですよ、ね」
フェリシアにも希望が灯っているのだ。
攻撃は激しくなっているのだろう。風は強くなり、鱗は更に激流と成しているのだろう。
それでも先程までとは世界が違う。絶望に塗れた暗黒ばかりではない。
アルテミアやシキ、イグナートが狙っている箇所を彼女も狙って――
「だったら、いきます。いけます。攻撃が激しくなったって……負けません……!」
精神の弾丸を紡ぐ。指差し狙い、魔弾を一閃。
通じているのか通じていないのかは依然として分からない。顔でも見れれば分かるのかもしれないが――いや関係のない話だ。通じると分かるまで、一切合切叩くだけ……!
「ッ……! あ、鱗、が……!」
と。その時、反撃の天堕がやってくる。
先よりも更に密に。更に数を増して狂気と攻撃の意欲がそこにあるのだ。
まずい――あれに当たる訳にはいかないと、寸でで回避。海に飛び込み浮上して。
「まったく、なんとも予測のつかない戦場だな。
有利になったかと思えば敵は本気になり、好機なのかそうでないのか」
かの天堕の奔流。見定めるのはフローリカだ。
戦場の推移は一転二転。翻弄されるは戦場の前線に立つ己らであり、全く。こちらの身にもなってほしいものだが――愚痴る暇もなさそうか。それに。
「敵が弱くなっているのは間違いないだろう――? やらねばならぬというなら」
殺してみせるさ。
呟き、構えた武具を振り抜けば衝撃波。狙うは鱗と身の間、そこから裂いて剥がんとせん。
弱点を露出させるのだ。攻撃をわざわざ待ってやる道理など無い。
こちらから殺してやる。必ずお前の身に到達させてやる。
船が近付けば跳躍。振り落とされる前に上へ上へと。大きく構えた一撃を、剥がれた所へ。
振動。身動き。
それだけで誰もが振り落とされかける。フローリカもまた同様に襲われる、が。指先に力を。振り落とされるまいと凌いで――更に一撃。
「やれやれ、死ぬつもりはないが。
我が身を大事にして勝てる相手でもないだろうからな――多少は無茶もするさ」
奥歯を噛み締めまだ足掻く。
海に落とされる前にもう一手でも深く、深くと。
成否
成功
第2章 第8節
神威を沈めよ。海の底へ。
神威は滅ぼせぬ。だがやりようはある、と。
「……水面の静けさに微睡むのが勝利条件か」
ちょっとしゃれた物言いだったかな、と悠は微笑み。大竜を見据えながら。
「やる事は単純だ――戦って、勝つ。それだけだ」
「ふふふそうであるな! 思わぬ援軍もあれば、流れはこちらにあろうというもの!
この絶好のチャンス逃すものかよ、第二波行くぞ!!」
猛る百合子。一歩踏み出し闘志を抱けば、天へと向かって吠えたてて。
「――吾等の凱歌をこやつの子守歌にするのである!!」
往く。震えあがらせる各々の気力がより強く力を滾らせるのだ。
神威の暴風で剥がされる? 知らぬ存ぜぬかような事に怯えるものか!
攻撃されればどうせ気にする程長くは戦えぬのだ。ならば太く短く亀裂を残す。美少女の権化たる力を総動員――鱗よ剥がれよその身を晒せ。生物としての強度が上なのは恐れ入るが、鱗の下は多少脆いと知れば。
「狙わせてもらおうか! 穿ちて往くぞ、これもまた美少女の礼儀なれば!」
全力だ。手は抜かぬ、抜けるような相手でもない。
「水連微睡抱擁拳、八田 悠。参る」
それに剥がされるのなら張り直すのみ。悠は支援をどこまでも継続させるつもりだ。
妨害程度で人の歩みは止まらない。神威に怯える者はここにはいない。
そうだ好機が訪れそれを無為するなど出来ようか。
「誰の仕業か分からぬが、なんとも頼もしい味方が加わったものだな。
――これで負けては正に恥。応えねばならぬ場面となればッ」
そして汰磨羈もまた同様に。水竜の加護によりリヴァイアサンの防御を貫けるこの刹那――
物に出来ねば末代までの恥となろう、ならば!
「さぁ、今こそ押し通ろうか!!」
抜き打ち放つ霊刃で一閃。古びた大竜への攻と成せば、更に睡蓮の結界を。
八方妙技。全身全霊の意味を知るがいい――滅海竜。
「より深く、更に深く。その命に届くまで、斬り進むのみ!
例え我らの一撃一撃は貴様にとって雨の一滴の様であろうと……
涓滴、岩を穿つともいう。何時までも無敵ぶっていられると思うなよ?」
我らの強さは汝に届かなくても。
我らの意思は汝の身に届かせる。
人の意思と言うものは上位存在が思うよりも遥かに強い。
幾年生きた存在すらも凌駕しうる可能性を秘めているのだ。
「私は、それを何千年も見てきているぞ……!」
だからこそ己も諦めぬ。
その輝きこそが神代の怪物にすら必ず届くのだと信じて。
「あーくっそ、本当に面倒くせぇ野郎だな……さっさとどけよ!!」
自らに再生の力を。サンディは防御の構えを万全にしつつ、往く。
敵の攻撃には構えの姿勢を。凌いで穿つは己が攻撃。
鱗のない所を狙って――負の要素を齎すべく。
「効くだろ? さっきまではどうだったか知らねぇが、いっとけオラァ!」
毒に窒息、不吉に呪い……無数複数なる攻撃をサンディは途絶えさせない。
殺す倒す押し通る。こんな所でウミヘビ如きに止められてたまるものか。
そこをどいてもらう。どかないのならば倒してでも!
成否
成功
第2章 第9節
敵は弱まった。狙うべき場所もわかった。それでも未だ遠い。
大竜の身は未だ健在。砕ける様子無く、退く様子も無く嵐である。
「しかし、しかし、だ!」
それでも見た。カンベエは――戦場の変化に光を視た。
「その肉の芯に未だ遠けれど! 海洋ネオフロンティアがここへ至るまでにどれ程の旅を、どれ程の気の遠くなる道を歩いたかを想えば――眼前の敵を倒す事に苦などありましょうか!! 挑むことに恐れなどありましょうか!!」
鉄帝艦隊もまた、故郷より遠く離れたこんな海の果てまで訪れて。
なにも成せぬまま死にたくはないでしょう?
「やる事は変わりませぬ」
己は己に出来る事を。
天堕の一撃を見据える。攻撃だけでは奴への勝利には届くまい――船も守らねば。
一つでも多く生き残らせるために。
一つでも多く命を届かせるために!
「戦え、戦え! 勝利を掴むために! 栄光を視るのだ、生きて、生き抜いた末に!!」
彼は駆ける。戦場を。
天堕への迎撃の一手と成るのだ身を挺して、破損個所を的確に『視て』
戦う。
どこまでもどこまでも――勝利の栄光を掴むまで。
「やれやれ。攻めねば勝てず、しかし攻めるだけではこちらが先に潰されるとはなんたる厄介」
ならば私もまた支援に務めましょう、とはベークで。
体力の少なくなった者の庇いに入る。
例えば先のカンベエの様な、積極的に攻撃に対して動いている者へ。神秘なる属性を向こうかする術を己に付与すればダメージの軽減も見込めるものだ――尤も、庇う特性上下手をすればこの術自体が剥がされるかもは知れぬのだが。
それでも可能な限り戦力を維持できるように努力を。
ああアルバニアを撃つはずがかような大竜をも相手にしなければならないとは……
「まったく、度し難い……!」
愚痴りつつも、ベークは動く。
ここで止まれば、アルバニアを倒せねばやがて己の身を廃滅病が回るのみ。
その前になんとしても前へと進むのだ。
成否
成功
第2章 第10節
「ひゅーっ! 怪獣大決戦じゃないですかーっ! この地点にはほんと特撮も真青なド迫力な超展開が目白押しですねっ! 是非将来的には映画化決定、海洋ウッド劇場監修で頼みますよ!! あ、そうだ! 今回の援護のお礼を水竜さんに述べねばですねっ! 挨拶は大事です万国共通っ!」
テレパスびびびっ! へろーっ! じゅてーむっ!
果たしてここから届くのか。さて、まぁヨハナは相変わらず捲し立てる様に。
ごきげんよう、こちらは戦う未来人です――と。
「まぁ挨拶はそこそこにですね、引き続きリヴァイアサンへ挑みましょうか!」
鱗の剥がれた地点が弱点なれば狙わぬ道理は無し、と。光の柱を放ち、奴めへの攻撃とせん。
狙うは極大エネルギー、即ちパッッッション!!
「波を砕け、イモーショナルブレイカーっ!!!」
感情のエネルギーを変換し直撃の一手を放つ。
未来へ繋げこの一撃を。明るい未来・レボリューション!!
「あそこじゃー! 鱗が剥がれておるぞ、撃て撃てー! そうじゃ、集中させろ――!!」
さすればアカツキもまた攻め立てるものだ。攻撃の手応えは確かに変わった……
「何やらこちらに追い風が吹いたようじゃのう。暴風は未だに吹き荒れておるが……
なぁに! 吹っ飛ばされぬ様に気を付け、そうした上で攻撃を届かせる姿勢は変わらんよ!」
吹っ飛ばされたら目も当てられんからの! とからから笑い。
放つ。奴へと届く攻撃を。近付くだけでも一苦労の大竜に対し。
「でもやる事は変わりないっす! 遠距離からぶっ放して穴を開ける!!」
リサも続くのだ。設置したバリスタを酷使。壊れるまで付き合ってもらう。
まぁ尤も職人気質として壊す気はないが……ともあれ今しかないのだ攻め時は。
動じるな。集中力を研ぎ澄ませろ――プロだろうが。
「こっから反撃が出来るんなら……そのチャンスを逃さずモノにするのが当然ってもんっす!」
手持ちの道具で少しでもバリスタを有利に。
ネジ固定。威力増大。照準精度合わせ!
時間が無いので超即席。しかしだからこそ、今こそ己の力量が試されるのだ。
ここまで培ってきた全てを費やせ。
プロなら血反吐吐いてでもやり遂げる!
「職人の技巧凝らした技術を見せつけてやるっすよ……! 胡坐をかいたあの竜に!」
狙う。集中。見せてやれ人の力を、職人の芸術を!
引き金絞り上げ――射出!
成否
成功
第2章 第11節
「エンヴィさん。大きな隙ができるまで、回復しつつ耐え凌ぎます。
好機は必ず来ますので――貴女はその時を狙ってください」
クラリーチェが語り掛けるのはエンヴィへとだ。
滅海竜リヴァイアサン――その在り様、いやルーツと言うべきか。
それはかつての世界でのエンヴィに非常に似通っている……のだが。
「えぇ、鱗が剥がれた箇所を狙えば良いのよね……
剥がれた鱗だけでも脅威となるんだから、私と同じルーツの存在とは思えないわ……」
エンヴィが見上げる存在は自身が『知る』ソレとは大きく異なっている様だった。
世界が違えばこうも変わってしまうものなのだろうか。
一筋の困惑。一筋の寂寥。
しかし今は思考に耽っている余裕なく。クラリーチェと共に耐え凌ぐ。
敵の天堕――鱗を落とすだけで攻撃とするその規模は脅威だ。
下手に受ければ吹き飛ばされる……それは避けねばならぬ故、に。
「エンヴィさんの自然に剥がれ落ちた鱗、お守りになりませんかね」
クラリーチェは緊張をほぐすべく軽口を、一つ。
余裕なき、故に余裕を作る為に。
海竜の――ルーツを同じくするエンヴィの鱗には価値がありそうだ、が。
「鱗のお守り……? ……そうね、ええ。余りご利益の無いお守りになりそうだわ」
なったとして、それは守護の力かそれとも射撃の精度か。
思わずくすりと笑みを零す。ああ、全く何を言っているのかと――
直後、射撃。
天堕の間を縫ってリヴァイアサンの身へと到達させん。
たった一滴でもあればよい。その程度の隙間であろうとエンヴィは必ず命中させる。
だから。
「私が、必ず保たせます」
クラリーチェの癒しの術が覆うのだ。
負の要素がもたらされたとしても跳ねのけよう。私が必ず。
「そうね――頼りにしてるわ」
だから。
エンヴィもまた全力を賭すのだ。己が射撃に、全てを乗せて。
海の竜よ。大竜よ。恨みの類がある訳では無いが。
滅びるがいい。だって。
「そんなに巨大な神威だなんて――妬ましいから」
成否
成功
第2章 第12節
本当にとんでもない世界に呼ばれたものだとリディアは痛感していた。
大竜未だ健在なり。加護が弱まった? そうは全く見えない。
肌を撫ぜる死線の風は冷や汗を。
油断すればこの風はきっと私の首を削ごう。
本当に、参った者ですが――
「それでも今の私に出来る事を……竜を封ずる一手を成しましょう!」
絶望し、弱音を吐いて終わるより。
希望を抱いて前に進もう。
狙うは一か所鱗の内側。敵の攻撃の後に出来る短い時の狭間の一点。
――悔しいです。本当は真っ先に先陣を切って、皆の盾にもなりたいのに。
今の己は機を伺い、一撃浴びせるのがやっとだと。
邁進出来るのか己は。勇気を持って行けるのか。
不安が首をもたげてきそうだ――しかし、それでも。
「この力、未だ未熟であろうとも!」
竦む前に足を進める。
死神が後ろ髪を引く前に、一欠片の希望を抱いてリディアは前へ。
「その全てを以って、皆さんの一助を!!」
放つ。戦乙女の加護を謳え。貴女の勇気に祝福あれ!
それに――挑むのは決して一人ではないのだから!
「奇跡が起きて、伝説の竜に攻撃が通る……かも! なら!」
一気に飛び込んで挑んでみせるよとティスルも往く。
奇跡は起こった。しかし奇跡が一度だけだと誰が決めた?
神か? 神なら今、胡坐をかいて私達の前に、せせら笑いながらいるぞ?
「次の奇跡は私たちで起こしてやろうじゃん!」
誰か、ではない。勇気の一歩が奇跡を成すのだ。
リディアの背を押す様にティスルもまた進み。狙うは同じ、天堕で剥がれた一点。
攻撃出来る時間が限られていようと――十秒もあれば十分以上。
切り刻み、血飛沫舞わせ。より深くとその攻撃を重ねるのだ。
「あとちょっとで……この海を超えられるんだからね!」
振り落とされぬ様にバランスを保ちながら。攻撃の手は決して緩めない。
されば近接のみならず遠距離からの援護も来るものだ――
「……インカムは充電が切れたな。まぁしかし状況把握出来た。
――友軍の協力によって加護は剥がれ、弱点もある事は分かった」
ならばやれる事は充分と、ルクトは依然飛行しながらリヴァイアサンへと攻撃を。
風は奴が動くから起こる。では鱗は――?
鱗が落ちる原理はなんだ。奴が意図的に落とせる動作を出来るのであれば……
「私に出来る事は――囮か」
低空で飛行しながら射撃を重ねる。牽制程度、気付かせることが優先である故に。
そして鱗が落ちて来れば回避にも専念。マトモに当たればそのまま海に叩き落とされよう。近くへと沈んだ鱗の破片。思わず死の匂いを嗅ぎ取る、が。
「だが、死と隣り合わせなのは嫌いじゃないんでね。もう少し私と踊ってもらおうか……!」
それでも彼女は空を飛ぶ。
味方の支援の為に。誰かの為に。
成否
成功
第2章 第13節
「弱体化、であるか。正直此処まで相手が強大だと実感も難しいであるが……」
ローガンはリヴァイアサンの身に変化が――あったのか良く分からかった。
しかし彼のいう事は尤もである。何せリヴァイアサンの身が縮んだわけでもないのだ……加護が失われたと聞いても、その莫大な奔流と嵐の如き苛烈さは健在。疑問視する方が当然である、が。
「……しかし、そう聞くと欲が出るのである。そも、目の前のコレは右腕である。奇跡的に此処を突破しても、右腕一本落としただけで竜を鎮められるわけもなし――故にこそ我らは此処に勝ち、先へと踏破しなくてはならんのである!」
されど情報に嘘はあるまい。むしろ希望が出たと意欲が湧く程だ。
戦士よ立ち上がれ。彼の紡ぎが周囲の者らへと伝播し、力となす。
「吾輩自身も、死力を尽くして此処に立ち、この先へ征くのである! かの海洋王国の悲願をこの目に! しからば、お前もやる気になったようであるな……付き合ってもらうであるよ、滅海竜!」
意思を。闘志を漲らせ。
彼は周囲を鼓舞する。さぁ行こう――この先へと、竜を倒して。
「――戦場が変化したか。この機を逃す訳にはいくまいな」
さればベネディクトもまた同様に。此処にきて奴の、大竜の無敵ともいえる状況が変わってきている。他の戦場も士気が昇っていると――確かに感じ取れば。
「ならば今はその隙を抉じ開け、少しでもダメージを奴に与える。
それが我々のすべき事だ。行くぞ! 神代の存在如きに臆する者はこの戦場にはおるまい!
号令を鳴らせ、進軍せよ! 奴を――滅海竜を叩き伏せる!!」
人々を導くように彼の在り様が照らすのだ。
狙うは天堕の後。その瞬間までは耐え忍び、しかる後に好機を穿つ。
かの一撃は隕石の如く。当たればタダではすむまいが――
「……ッ! 今だ! 各々、自らの生み出せる最高の一撃を奴に叩き込んでやれ!」
僅かな隙を『モノ』にする。
一点集中、一転攻勢。導き往くは勝利への道。
誰をも指揮し、タイミングを合わせ――直撃させた。
成否
成功
第2章 第14節
勢いは更に増す。士気と共に風も波も。
ニーベルング甲板最前。フーリエは猛る荒波にも高笑い――
「来た、来た来た来た! 波が来たぞ!! 風が来たぞ!!
かの海竜の生み出す荒波ではない、余らを乗せて奔る追い波じゃ!!
これこそが戦の醍醐味! 皆、気力を奮い立たせよ……ここからが本当の勝負じゃ!!」
自らに再生の加護を。腕を振るい、大仰なまでにその姿を誰しもの前に晒すのだ。
なぜなら己は魔王であれば。偉大な姿をなぜ隠す必要があろうか――
見よこのお手てを! 見よ余の後光を! 嵐如きにこの光遮られてなろうものかッ――!
「余が威光を視るがいい大竜よ!!」
言うなりその五指より放たれしは光流。フーリエより溢れる魔王オーラが形となり神秘を伴って敵を穿つのだ! 具体的にどうやってそんなものをって? なぁにこの程度魔王の嗜みなれば!
「小さな雨の一粒一粒も、積もり積もれば大河となって激流を成す。
かの竜の護りが薄れた今が好機ぞ! 我こそはと思う者は余に続くのじゃ!!」
周囲を鼓舞し更なる前進を。
今こそゼノバルディア銀河帝国の力を見せる時。全軍前進!
「ふふ、みんなのおかげで希望が見えて来たって感じかな!
正にここが正念場。踏ん張り所だね……!!」
全力で頑張るよ――とフーリエに次いで大竜を眺めるのはアレクシアだ。
空から降り注ぐは依然破壊の権化。隕石が如き超質量。
降らすだけで負傷者を続出させる魔の一撃だ――ならば己は護りを重視せんと。
「一分一秒でも皆が長く戦えるように……少しでも皆の灯と成る様に……!」
その手の平に形成せしは魔力の矢。されど内に秘めしは食い破らんとする毒の仇花。
露出点に向けて放つ一撃――動きを視て、敵の攻撃に当たらぬ様に。
鱗を剥がす天堕の後は攻撃の機会であるが、躱せねば甚大なる被害が齎される凶の場面である。故に着弾地点を予測。皆が退避できるように声を走らせ。
「ッ……あぶない!!」
それでも回避出来ぬ者がいれば、庇いに入るのだ。
背中を抉る様な感覚がアレクシアを襲う。致命ではなく、動けるに足る程度の傷であるが。
それでも、後悔はない。
「みんなで……この海を越えるんだ!」
その為に私はここに居るのだと。誰も犠牲になどさせないのだと。
ああそうだ。
誰もが求めた新天地は――きっと、すぐそこにあるのだから!
成否
成功
第2章 第15節
「あーん! パパが死んだ! このひとでなし! 鬼、あくま!!」
まぁパパは沢山いるから何匹かいなくってもあんまり問題ないんだけどね、とアンジュは前述の言葉選び方からは想像もできない程ケロッとしていて――酷くないか娘よ!! パパショック!!
「でもそれはそれこれはこれ!! めちゃくちゃ悲しいし、ひどいよ!!
いわしの仇――思い知れ!」
問題ないかと言う事と感情の問題は別と言う事だ。死すべしリヴァイアサンくらえいわ死兆。全力なる攻撃と共に放つは指先から顕現せし水の奔流――これぞいわしビームである! 貴様が神威なる権能をもっているのなら、こちらにはいわしの権能があるのだ。
無論、敵も黙ってはいないもの。
天より注がれし破片がアンジュを掠め――
「えーい! いわしの歌を聞きなよ! いわしの声には治癒の効果があるんだよ――!!」
されど即座に治癒を。一撃でも大ダメージならば即座に即座に。
この歌が聞こえる者も対象に。少しでも延命を――と。
「ぶははははっ! 相手さんの攻撃も激しくなってきたな、やる気になったって所か!
じゃあ殊更気合入れてやってかねぇとなぁ!!」
さればゴリョウも往く。彼は引き続き船や攻撃を受けんとする者達の庇いに入るのだ。
己よりも、己が庇う者達の攻撃をこそ優先させる。
夜空の様な漆黒の装甲にて天堕の一撃を身代わり。
肉の壁として。崩れぬ一線として彼はあり続けるのだ。
それでも直接真正面から受ければやがて倒れるに繋がるは遠からぬ事。故に彼は力の限り『逸らして』直撃を避けていく。決して力で対抗しようとはしない。己が工夫を持って、敵の攻撃を捌いて。
「豚でも肉の壁くらいにはなれるんだぜ? ぬぉらぁッ!」
押し返す。負担が深くなれば自己治癒を。
倒れず果てずただ立って。底から力を振り絞り――
「まだまだァ! どうしたそんなもんか、今日は蛇鍋、いや鰻の蒲焼きが晩飯って所だなァ!」
天に向かって吠え盛る。
俺は立っているぞ。俺はここに居るぞと。
されば瞬間。ゴリョウの背後より跳び出したのは――愛無だ。
状況の変化によりこちらの士気は上がり、相手も潮目が変わった事は理解したようだ。先程まで存分に余裕ぶっていた割には実に滑稽な事だと思うが――
まぁいい。どうせ変わりはしないのだ。
余裕ぶっていようとそうでなかろうと。
「ただ殺す」
愛無に在るは殺意のみ。力の差は歴然、であるがそれでも変わりない。
茨の鎧を身に纏い。触れば痛む力を与えながら。
伺う出方。狙うは天堕の後に開かれる弱き点――そこへ、見据えれば杭を穿つのだ。
敵の癒しを止める為、鱗の再生を少しでも留めんとせん。巨体であるが故にそうそう全身に回ったりはしないだろうが……例えばそれが刹那の時間であろうと無意味に非ず。
「必ず殺す」
有無を言わさずただ死ね大竜。
傷口より浸食しよう。貴様の総てを喰らわんとする粘膜を齎さん。
一個体でありながら滝の如き殺意を。愛無は駆ける――奴を絶対に殺すべく。
同時。ポムグラニットの一撃が舞う。魔砲の閃光が後方より瞬いて。
「びょうきのおともだちを たすけなきゃいけないの」
リヴァイアサンへ直撃させる。呼吸を整える必要あらば、死滅結界による一撃を。
戦える。まだまだまだまだ己も戦える。
状況は変化したという。何やら加護が剥がれたと聞く――しかし関係は無い。
有利になろうと不利になろうと、元より変わる戦意ではないのだ。
友達が、いるのだから。苦しんでいるのだから。
「まだ たたかえるわ」
ここで退路を見る気など一切なく。
ただ見据えるは大竜の命のみ。
天堕による一撃の破片が彼女を襲おうと頓着しない。いや――気付かない。
この身はソンナモノは知らないから。
血が舞えど。飛沫を上げど。
彼女はただ己の在り方を変えはしない。
ああ――友よ。わたしのわたしのおもとだち。
「どうか」
いきて と。
彼女は紡ぐ。魔砲の光を力の限り。
成否
成功
第2章 第16節
ほんの小さな光なのかもしれない。水竜の参戦というのは。
リヴァイアサンはそれでもなお巨大な力を誇り、絶望は薄れていないが――
「少しだけ……うん。突破口が見えたのかな」
ラピスは微笑む。だったら、そこを拓かないといけないねと。
「アーリアさん、それに、アイラ。任せたよ」
二人の事は僕が盾となって。
必ず護るから。
さればアイラは頷き一つ。微かに綻んだ頬の赤が、彼から受け取った勇気となり。
「ラピス、アーリアさん。もうひと踏ん張り、頑張りましょう!」
絶望の闇の中でも前を向くのだ。
ああ。ああ――いいものだ。互いを想うというのは。互いを愛しく想うというのは。
「ふふ――愛する人を護るための願いが奇跡を起こすなんて、素敵じゃないのぉ」
ほぅ、とアーリアは吐息を一つ。
ああ私にも陸で愛する人が待っている。彼は私を待っている。
信じて陸で待っている。だから。
「私が裏切る訳にはいかないのよねぇ……!」
必ず帰る。脳裏に過る、グラスの先の彼の顔。
忘れない。忘れられない。だけどもう一度、思い出の中ではない現の貴方の。
――貴方の顔が、見たいから。
「愛はパワーって所、お見せしましょ!」
誰もの未来を護ろう。皆で帰ろう、愛しき場所へ。
巨大な竜とて生物ならば変わりはしない。アーリアの密は毒となり、いずれ大竜に回ろう。されば同時にアイラの癒しが皆を癒し、ラピスの警戒と指揮が二人を護りその動きをスムーズに。保護結界も満たせば、艦の守護の一助ともなろう。
――そして、来る。来る。天よりの一撃。破滅を齎す死の一閃。
天堕。
『死ね』という大竜の意思そのもの。
ラピスは即座に。二人を護るべく決死の盾にて奥歯を噛み締めた――上で。
「――アーリアさん!」
「ええ、いきましょ!!」
アイラとアーリアは目配せ一つ。瞬時の動きは瞬くように。
熱砂の精と青き衝撃を大竜の鱗へと重ねるのだ。
弾き飛ばす押し返す。絶望などに負けはしない、希望の明日を視る為に。
頑張って――
「頑張れ、アイラ!」
その声は透き通る。例え嵐の中であろうと必ず彼女の耳に届く。
盾たる僕がいる。だから安心して全力を――と。
言ったでしょ? 愛はパワー。
結びつき合う力を持っているのだから。
「ぁ、あああ、ああッ!!」
愛しき愛しきふたつ星。
幾千光があろうとも。
互いを見つけるふたつ星。
彼女の嵐に乗せて――届いて!
「二人は必ず、帰すんだからッ――!!」
アーリアの力が自らの底より。
亀裂を満たす。天堕の鱗に。破砕と成す。絶望の壁に。
砕け。
負けられないのだ。
打ち勝ち。
未来を掴め!
さすれば耳に届いた轟音が。
天堕を砕いた真を、彼女らに伝えていた。
成否
成功
第2章 第17節
「よくわかんないけど、色んな人のおかげでリヴァイアサンにダメージ与えられるんだな! よーし! 負けないぞー!!」
「あぁ、この好機を生かさない手はないな、行こう!」
流れは変わったのだとそれは幼きノーラにも感じ取れ、片腕上げてえいえいおー! 意気揚々と魔弾による射撃を紡ぎ、その着弾地点はファミリアーにより紡いだ鳥にて確認を。鱗が剥がれた地点に叩き込んでやるのだ!
ならばポテトの癒しの紡ぎもまた同時に。
ノーラは護る。一歩手前、それが彼女の立ち位置で。
いつでも手を伸ばす事の出来る領域に陣取れば――前はリゲルに。
「滅海竜の勢いをこのまま削ぐ……! 勝機が見えてきた! いくぞ、二人共!」
「おー! パパの背中は僕も守る!! 皆で勝つんだ――!!」
さればリゲルも保護結界にてニーベルングを守護。
この船は潰させない。直接攻撃は凌げずとも、余波の一つも防ぐことが出来るのなら意味はあり。
「ノーラもリゲルたちが攻撃している所を狙うんだぞ?
なるべく攻撃は集中させるのが――皆の助けになるコツだからな?」
「うん! あ、海に落ちた人がいたら僕、助けに行くぞ! 水中でも空中でも行けるからなー!」
そして皆の傷は、活力はやはりポテトが万全と成す。
更に見るのは神威の風。暴風がいつ来ても対応できるように視線を巡らせ、至れば注意を。
「ここで止まる訳にはいかないんだ」
手を貸してくれる人達の為にもまだ倒れられない。
この嵐の先に必ず、皆が求めた地平線があるのだから
――瞬間。降り注ぐ天堕。
絶望の隕石が誰をも覆わんとする時――リゲルは抗う様に天を見据えて。
「そうはさせるか……! 水竜様が味方してくださっているんだ!
カイトさん、リリーさんが紡いだ奇跡を、俺達で絶やす訳にはいかないッ!!」
奇跡の起点は必ず繋ぐ。嵐を切り裂きこの海を必ず超えるのだ。だから負けてはいられない――例え天より降り注ぐ死であろうと。
邪魔をするならば乗り越える。
抜き身で放たれる、静かなる断罪の斬刃。万物を断ち切りその道を斬り開かん。
交差。衝撃。自らの身に突き走る痛みにも頓着せず、彼は。
「今だ――鱗が剥がれた箇所を狙えッ!!」
剣を輝かせ道を指し示す。それは嵐の中に点在する希望の一角。
カイトやリリーに応える為。皆で生きて帰る為。
そして最高の勝利を必ず掴むために。
「俺達は諦めない! 絶望を、希望へと変えてみせる!」
「ああ必ずだ! この先にある絶望の青を踏破するためにも――皆で協力して勝利を掴もう!」
「いっぱい攻撃して、最後は頭だー! リヴァイアサンめ、覚悟しろ――!!」
愛しき伴侶と共に。愛しき家族と共に――前を見据える。
成否
成功
第2章 第18節
暴風暴雨破壊の権化。
天が轟いている。海が暴れている、これが竜――
「っ、ダメ……! 何を怖がってるの、私は!」
頭を振ってメルナは現実に視線を。あやうくリヴァイアサンの『圧』に飲み込まれる所だった。
混沌に召喚されて、それはきっとお兄ちゃんの代わりに呼ばれたのだと悟って……なら、お兄ちゃんの様になる為に、戦うために。握った事もない剣を取って――ここまで来たのに!
「戦う恐怖も死ぬ恐怖も、何度も乗り越えてきたでしょ! お兄ちゃんなら戦う筈だって!」
今更怯えてなんとするか。奥歯を噛み締め瞼を強く閉じて。
思い起こすは兄の姿。
頼りになる、視れば安心するその姿――ああ。
私『が』
他の誰でもない召喚された私『が』ああいう風に『ならないと』いけないのだから!
「此処に居るのは、弱くて何にもできない”私”じゃない!
此処に居るのは……此処に居るべきなのは――!」
自己暗示。己はやれるのだと心にまた一つ、傷を刻んで。
恐怖心を抑え込む。
それは天からの祝福にして月の呪い。勇猛に至る、果敢へと成る彼女の在り様。
直後。放つは光の柱。
天堕により露出した点を狙い穿ちて――彼女は前へと進むのだ。
「弱い自分なんて……いらない! 懸命に戦う皆を護る為に……ただ前へ!」
ただただ怯えた己を殺して。
彼女は戦場に在り続ける。
兄ならきっと――そうしたのだろうから。
成否
成功
第2章 第19節
絶望の最中に起こった奇跡。そんなもの、御伽噺か何の様だ――
「伝説の海賊に、伝説の竜まで味方になるなんて――ね!」
神威の暴風。耐え凌ぎ、雨に濡れる髪を掻き上げてサクラは大竜へと視線を。
水竜の支援。海賊ドレイクの参戦。あぁあぁまさにこれぞ奇跡なる。そしてまごう事なき勝機なれば。
「行こうみんな! リヴァイアサンもアルバニアもやっつけて、絶望を踏破して希望へ至る為に!」
煌めく刃をその手に携え。サクラは絶望を切り開かんと前へ進む。
跳躍、前進。刃に纏わすは凍気の気質で――それは兄譲りの氷の刀技。兄より教わった至高の一閃。
駆け上り。露出点へと己が全力を。さればリヴァイアサンの移動の身じろぎにより振り落とされんとする。それでも、刃を突き立て喰い縋る。この程度で手を離す事はしない!
「私は神代の時代なんて知らない! ほんの少し、そう、貴方からすれば瞬き程度だろうね! でも! 何万分の一しか生きてはいなくても――これまでに培った全てで超えてみせる!」
力を貸して禍斬!
私達の未来を切り開く力を!
手に力を足に力を。身体を捻り姿勢を確保すれば――正義の光が轟いた。
「ふむ……戦の気配は変わり、流れはこちらに……か?
或いは竜の反撃も激しくなっているようだが――ふむ、まぁ良い。やる事は変わらんさ」
故にコルウィンも全力だ。引き続き対戦車ライフル仕様のソレを構えて。
射撃。粉砕。射撃、粉砕。
撃ち続ける。鱗の下以外にも有効な場所、或いは効かない場所はどこなのか見定める為に。
「情報は蓄積により形作られるものだ……ふむ、新たな知見を得られればよいが」
放つ放つ放つ――暴風にも甲板上で踏ん張り耐えて。傷を負えば後方へ。
まだだ。まだ倒れる訳にはいかないのだ。
簡単に倒れ、足を引っ張る訳にはいかんと。万全至れば再出撃。
「やはり鱗の下は弱かったか……大竜と言えど生物と変わらんな」
とはいえ、再度生え変わるその速度は驚嘆に値するが、と吐息一つと共に述べるのはラダだ。
驚異的な生命力。尋常ならざる生物としての強度。
「ああ、だがそれでもいい」
元より手強いのは分かっていた事。
それよりも僅かにでも。嵐の中の雲の中に見えた光があるのなら。
「押し通るのみだ。神代の大竜よ」
往く。コルウィンと同様に彼女もまた火力支援を。
天堕の波による影響で大きく船体が揺れるが――それも金具付きロープで体を固定していれば被害を最小限に。瞳は変わらず大竜の身を捉え、優れた視力が鱗の落下を見据える。
動く。巨大であるが故にこそその揺れは眼にしかと映り。
だからこそ――放つ。
それはLBL音響弾。嵐を切り裂き着弾し、爆風と共に『無音』が奴を穿つのだ。
耳には聞こえぬ音の波。縛る鎖、見えぬ鎖が奴の身へ。
「規則正しい鱗の列は鱗同士が互いを補い合ってもいる……ならば、それが僅かでも乱れた所へ放てば『ズレ』が生じよう」
好機は待たぬ。
「好機とは手繰り寄せるモノであり待つモノではなく――でなくば勝機などない」
第二射。ライフルを構え、再び大竜へと。
竜よ竜よ不幸たれ。他人の不幸は密の味。
汝に不運の風穴を開けん。
成否
成功
第2章 第20節
「ふん、どうせ眠らせるなら……
いっそ永遠に眠らせちゃったほうが後腐れないのに……まぁやることは一緒か」
セリアはリヴァイアサンを眺め、不満そうに言葉を述べる。
封印、殺害。二つは似ている様で意味は全く違う。滅ぼした方が良いだろうに――とは思うが。
どちらにしろ己がやる事は一緒かと頭を振って。
「まだ見せてない技もあるみたいだし、警戒は必要ね」
鱗を落とす天堕。暴風を震わせる神威。
それだけではない筈だ。敵が『攻撃』をしてきているのならば更なる奥の手への警戒を。
周囲の補助をしつつ、天堕の隙が見えたのならば弾丸を放ち。
それでも視線は決して全体から外さない。
いつ暴威を振るわれようと対処してみせよう――
「リヴァイアサンもこっちを敵として認識した……のかな? それならここからが本番、か」
そしてセリアからの支援を受けながらドゥーもまたリヴァイアサンへと。
少しずつだが戦況は刻一刻と前に進んでいる。
ここまで皆で繋げて来た。誰か一人ではない――皆の縁の果てに今があるなら。
「もっと進もう」
大竜の先へ。奴に、勝とう。
不可視の刃を繰り出せば、やはり狙うのは鱗の下だ。
一撃で足りなければもっと足そう。皆と共に同じ点へと放つのだ。
可能な限り落ち着いて。大竜の暴威に心臓が跳ね上がりそうになるが――
呼吸を抑えて前を視る。
奴は、化物だ。優れた視力で見れば見る程実感する。
それでも勝つんだ。ここで逃げ出してしまっても何にもならない。それに。
「ここに来た時点で覚悟は出来てるんだ」
大いなる戦いに身を投じる事を。
最後まで食らいつく事を。
だから彼は戦う――力の限り。魔力の続く限り。
「左様。このような戦いで猛らぬのであれば、如何いたしましょうか」
ドゥーに続いて紗夜は前へ。刃を携え大竜へと向かう。
この刃が届くのであれば重畳。ただ一刀、一念において斬るのみ。
目の前にあるのならば。それがえてして斬れるモノであるならば。
「まして『竜』を斬れるなどという好機――挑まざるをえませんね」
自らがどこまで辿り着けるのかを試せる好機好機。
試し、そして示したいと思うから、彼女は往く。
優れた視力、優れた聴覚は敵の巨体なる動きをしかと捉える。巨大であるが故にこそ動きも、動きに伴う音も巨大で――天堕の一撃を大きく躱し、大太刀構えてなお跳躍。
刀に込めるは全身全霊。意思に込めるは剣心一如。
速度を力に音を超えろ。
病を探してそこを穿て。
「水泡の花となり、散りて消えるは」
どちらかと。
斬撃にて、試してみたく候。
大竜の身の上。悉くを裂かんとする剣の閃光が――瞬いた。
成否
成功
第2章 第21節
鱗が剥がれた時が攻撃時――それは理解した、が。
「向こうからの攻撃を待つことになるのはとても恐ろしいヨ」
ジュルナットは言う。当たれば死ぬ可能性なんてごまんとある、と。
ワルキューレは爆散した。ニーベルングにも攻撃を受け、いつまで耐えられる事か。
あれが人間に直撃したのなら――それも一発ではなく何発も――
「でも、それが機というのなら図ろうじゃないカ」
脳裏に過るは死の予感。それでも彼は不敵に笑って、弓を構えるのだ。
狙うは一時。剥がれた鱗の内側の柔肌に向けて、ネ!
鳴らす。天堕の予兆を超越たる視力を持って観察しながら――
「なぁに。おじいちゃんだって、やれるもんサ――ッ!」
星狩りの大弓よ。今こそ竜の命を穿て。
弓を鳴らす。
穿て。研ぎ澄まされた狙撃者の一撃を――奈落の呼び声と共に。
「やれやれ、状況の変動たるやありがたい事でござるが、さて未だ敵は巨大なり!」
さればパティリアの射撃も続く。アンチアストラルライフル――対神秘の兵装を伴って。
引き金を絞り上げる。狙うのは奴の体力ではなく、その活力。
削り削りて力を奪おう。超速の軌道と鉤縄の移動方法が彼女の足に力を与え。
縦横無尽。
止まらない止まらない。決してその歩みを止めはしない。
戦場を、水中を、船から船を駆け巡り。時として人の移動を手伝えば。
「先が見えずとも、先が暗くとも……
その闇を進むのがニンジャの本懐ってもんでござる!」
闇は敵に非ず。闇は友なり。
ならば絶望如き恐れるに足らぬのだ、パティリアにとっては。
「攻撃も少しは通る様になったし『弱らせて封印する』って目標も出来た。
闇雲に攻撃する果ての見えない戦いじゃなくなったからには、もうひと頑張りしないとねぇ……!」
シルキィだ。『何をすれば倒せるのか』が分からなかった序盤と違い、今は大きな目標がある。
ゴールさえあれば辿り着ける。出口さえあればどれだけ時間が掛かろうと往けるのだから。
「さぁ、もう少し付き合ってもらうよぉ……!!」
嘲笑いし大竜よ。君の終わりを知るがいい。
シルキィが位置するは中距離。放つは聖なる光による慈悲の一撃だ。
不殺――の一撃であるが別に手心を加える心算無し。味方を巻き込まず、敵の多くを焼くこの技こそリヴァイアサンへの有効な一打であると考えているだけの話だ。むしろこれは慈悲ではなく打倒の為の強き意思であれば。
「皆、身は気にするな。俺が必ず守り通す」
そうしてリヴァイアサンへの攻撃を続ける者達の支援としてフレイが全力を。
彼の役目は他者の守護。水竜出現、されど脅威健在――であれば。
届く手がなくなれば全て水泡と化す。
それはリヴァイアサンへ致命を届けるべく奮闘している攻撃手達の事。如何に水竜が手助けしようと彼らが大竜を弱らせることが出来なければ、結局はやがて……と言う話であり。
「――だから全力を。前だけを向いてくれ」
攻撃はほぼ出来ないが、俺は護る事は出来るのだから。
あらゆる攻撃から彼らを護るのだとフレイは誓うのだ。己に守護の加護を満たし、その活力を持って大竜へと相対す。かといって死ぬつもりはさらさらない。目の前で仲間が傷つく事が看過できないだけであり……
全てを護り、全てを生かす――自らをも含んだ信条があるのだから。
「さぁ滅海竜よ」
誰も傷付けはさせないぞと。
天を見上げて宣言す。
成否
成功
第2章 第22節
空が震えてる。海が震えてる。世界が震えてる。
それはたった一体の存在によって成されていて、ああ。
「ごらん、私のミレニア。随分と壮観な景色だね? 中々見れる光景ではないよ」
マルベートはミレニアへと言葉を紡ぐ。眼前にあるは神話の再現か。
英雄達が躍り出て、絶望的な大竜へと挑み。
大竜は身をよじるだけでそれを跳ねのける。
ああ、ああ。天と地の狭間にはこのような神の如き獣もいる。
自らを神代の存在と名乗る滅海竜とやら……
「ふふふ、此度は良い見学になったね」
「これが「神様」なの? 違うの? でも凄いね。ここにいても『震え』が伝わって来る」
ミレニアは感じる。リヴァイアサンというあの大竜の巨大さ――でも。
「……けど、煩いな。煩いのは、嫌い」
「ハハハ、そうか。なら、さぁ……見ているだけでは始まらない。共にこの決戦を楽しもうじゃないか。私達もまた戦の渦中にいるのだから! 伝承の中で立ち呆けなど勿体ない!」
故に往こう。マルベートはミレニアをエスコート。
狙うはリヴァイアサン――煩い原因、滅んでしまえ。傷を受けた場所へとミレニアは視線を。
穿つ。これだけの巨体であればそうそう容易く倒す事は叶うまいが……
「どんなに弱い雨粒でも」
穿ち続ければ大地を抉る。それはきっと神様も同じで。
「ああそうだとも私のミレニア。不死身の怪物だなんてね、いないんだよ」
同時。マルベートは獣が如き眼光を大竜へと。
赤々と燃える悪魔の瞳――それはかの竜の肉にすら効果を。
ただそれも『もののついで』だ。全てはミレニアの護衛が優先。彼女が心置きなく舞うのが最上であれば、彼女へと至る暴風の猛りを自ら受け止め。
「あ――マルベート」
さればミレニアの癒しの術がマルベートへと齎される。
今彼女に倒れてもらっては困るのだから。マルベートに、色々教えてもらって。
「今はとても、楽しんだから」
だからもっと一緒にいて。
こんな竜なんかで――倒れないで。
成否
成功
第2章 第23節
風が吹き、雨が荒れ。
髪を濡らし――それでも。
「おまたせ、戻るのが遅くなって悪かったわ。
でも私は此処にいる! 騎兵隊は常に、どんな状況に至ろうと――貴方達と一緒に居るわ!」
彼女は、イーリン・ジョーンズは帰還した。
海賊ドレイクとの邂逅を経て戦場へ。眼前に聳える滅海竜をその瞳に捉え、なお強き意思を。高らかなる宣言と共に輝く果薙は、彼女の髪は、瞳は嵐の中であろうと一切のくすみ無し。
「お帰りなさい。元祖騎兵隊の皆さんっと。
後でカタラァナさんを沢山褒めてやってくださいよ、くかかっ」
「さぁ、Step on it!! 折角掴んだ勝機だ――絶対に勝つ!!」
さすればプラックとウィズィの士気も上がり。『騎兵隊』として纏まった面々が再度集う。
イーリン、プラック、ウィズィ、リアナル、レイリー、ココロ、レイヴンそして武器商人……誰一人として欠けてなるものか。誰一人としてここで朽ちてなるものか。勝利とは生存してこその栄光であり、生きてこそ掴む名誉であれば!
「騎兵隊の一番槍! レイリー=シュタイン! 先陣の誉れ頂くべく――いざ、参る!」
さぁ進撃せよ。城塞の如き守護を自らに、レイリーは吶喊する。騎兵隊一番槍としての責務と誉れ。敵は大竜、不足なし! 天より降り注ぐ絶望の権化、破片の隕石に彼女は真っ向から対峙して。
「みんな、私の後ろへッ――!! これより先には絶対に通さないから!」
構える盾。直に受ければ衝撃との100%の攻防となろう。
それでは一度は防げたとしても二度三度と続かぬ――故に受け流す様な形で盾を構え、斜めに逸らすのだ。衝突、金属音。自らの芯に響く絶大な『圧』がレイリーへと降りかかり。
諦めない。奥歯を噛み締め振り払い、必ず最後まで立って。
皆で絶対、笑って帰るのだと。
「あそこが弱点だ! 今よ、みんな!」
「しゃあッ! いい加減デカい顔はさせねぇぞリヴァイアサン――ッ!!」
凌げば指差す身が晒された地点。さればレイリーの後ろより往くはプラック。
イーリンさん達は戻ってきた、ならば後はあの人だけだが……それは『親父』を視ないって事はそういう事なのだろう――信じてるぜ。だから俺は、今ここを乗り越える。後ろに不安は無い。誰もがいるのだ、戦友がいるのだから。
落ちてくる鱗を利用して彼は駆け上る。
地を蹴る様に跳躍三度。四度目で奴めの身へと近付いた、彼は。
「誰もが必死こいて戦ってんだ……高みの見物は許さねぇぞアルバニアぁ!!」
一撃を叩き込む。まるで未来を奪う様に。まるで未来を掴む様に。
天へと吠えて天への仇と成さん。
大竜の身は巨大にしてこの海そのもの。なれば刃の一つ程度では未だ致命には届かないだろうが――
「あ”あ”あ”あ”!」
それでも。無銘の執行者たるレイヴンには『ソレ』しかなかったのだ。
例え蚊に刺された以下の様なモノであろうと彼は往く。
執行の大鎌を手に『絶望の青』の支配者へと。
「リヴァイアサン! 滅海竜! 神代より存在せしこの海の伝説よ――!
我が名はレイヴン! 世界そのものと言える御身が何故魔種に気まぐれを向けたのか!」
知りたい、竜の意思を。
知りたいのだ、その真実を。
意思一閃。腹の底より繰り出す言の葉――に対して。
煩わしいぞ蠅め。
リヴァイアサンは神威の暴風を持って彼を排除せん。
荒れ狂う風がレイヴンへと打ち付ける。それでも、負けぬ。覇竜の導きたる意思をもって。
「ッ、まだだ負けられない……! こんな程度では!」
「レイヴン、焦らないで! 騎兵突撃と同じよ、最も有効な時まで温存して!」
さればイーリンの声が飛ぶ――全員で生きるのだ。死んでなどいられない。
彼らの方針は二名以上での出撃が絶対の前提だ。プラックの攻撃に更にレイヴンが続いたように、決して単独での作戦は行わない。なぜならば『全員での生存』をモットーにするならば、かの大竜に単独行動など危険の極み。ウィズィもそれを理解しているからこそ、勢いのままに逸りたい気持ちを抑え、守護の意思を優先としていて。
「はぁ……容易くは落とさせんさ。そのための力だ。その為に此処に来たのだ」
故に更なる援護を。リアナルは自己の加護を万全に、野性の勘を研ぎ澄ませつつ――大竜からの攻撃を警戒する。彼女もレイリーと同様に味方の庇いを主とするのだ。別に、前に出て死にたいわけではないが――
「死んでも守らなければ、隣に立つなんて一生無理だろうさ」
雨に濡れ、血の染みた尻尾はまるで染料で染めたいた時の様に。
髪を掻き上げ大竜を見据える。例え嵐の先に聳え立つ巨大な敵であろうと。
「――さぁ、はやく終わらせて風呂に行こう。もうびちゃびちゃで気持ち悪すぎる」
退く理由も怖気づく理由にもなりはしないのだから。
「攻撃が激しくても……耐えて耐えて、そして勝つ! 絶対に勝つ!!」
そしてリアナルやレイリーの守護を支援するようにココロの治癒術が皆へと飛ぶ。
大天使の祝福が如き魔力の奔流は傷を塞ぎ活力を。天堕による一撃は強烈で、彼女の治癒の速度よりも早い事もあれば、彼女自身に時折被害が及ぶ事もあるが――
それでも、彼女は在り続ける。
戦線の崩壊を防ぐために、皆の命を繋ぐ為に。
「フフッ……さてさて海に吹き飛ばされそうな風だねぇ――可愛い子だ」
であれば武器商人もまた皆の為に。尋常ならざる『生』を持つ武器商人が主とするは、船だ。
天堕の一撃は何も人だけを狙ったモノではない……その攻撃範囲は船すら容易に飲み込むのだから、放っておけば当然船自体にも被害が往く。足場がなくなれば戦うも何も無くなってしまう、のならば。
「だが生憎と我は早々『くたばって』あげる程優しくはないんだ」
庇う。天堕や暴風の余波から船を。
暴風の方が些かの警戒が必要だが、天堕の方は物理を遮断する魔法陣で行けそうだ――衝撃、直撃。それでも武器商人の身は不動にして不沈。口端を吊り上げる、微笑みの表情を絶やさずに。
「目を醒ませ、私の獣……! 敵はそこにあるんだからッ!」
さすれば同時。天堕の攻撃の隙間を縫ってウィズィが往く。
狙うは依然として鱗の隙間。鱗の剥がれし弱き点。
勝てない相手だったのは先程までの事。神の権能は弱体化し、味方は現れ運気は此方に。だからこそここで必ず流れも掴み取るのだ……焦らず、落ち着いて。黄金の髪の顕現が嵐の中で輝いて、瞳に纏うは蒼炎の焔――
「絶対、絶対に皆で生きて帰りますよ! 私達はこれから先も歩んでいくのだから!」
放つ。炎の一道を。未来へ繋ぐ天への宣言を。
突き進むよ、迷わない。
なぜなら光はそこに在る。
この嵐を振り払う希望の一滴は、すぐそこに。
成否
成功
状態異常
第2章 第24節
ニーベルングは迫る。滅海竜へ、この海の支配者へと。
「近付くのか! このタイミングで――
いやむしろ、近付くのならこのタイミングしかねぇ、か……!!」
その判断は吉か凶か。しかしアラン・アークライトの口端は吊り上がる。
いいぜ、至近距離はむしろこちらの独壇場。
己の全力を振るうのならばやはり艦ごと前に出てくれるのが一番都合の良いのだと――
「ナイス判断だレオンハルト! 生きてたら一杯奢ってやる!
後は俺に……いや俺達に任せておきな……!!」
自らに活力を。急速にリヴァイアサンへと近付く度に、握り締める剣に力が籠る。
敵は大竜。依然として剣を振るう相手としては絶好の得物だ。
神話の生物に剣を突き立てられるなど――このような誉れこの先もう一度あるかどうか。
「お前ら! 俺に合わせて攻撃を重ねろ! 功名取り時だ!! 手柄立てろや!!
ここでの戦功を惜しむ奴に、明日はねぇぞ!!」
往く。鉄帝兵の雄叫びを背中に、誰もが吠えながら滅海竜の首を獲らんとするのだ。
敵の攻撃を防ぐよりも勝機を掴む為に。
絶望の先を視る為に――全力の一撃を、此処に。
神速刺突、音を超え、天を割らん。嵐を斬りさけ太陽を見据えろ。
臓腑を穿ち。
栄光を掴め!
「あらあら、旗艦を潰しても構わないって動きですわねー
あまりに危険というか、思い切りが良いですが……そういうところは嫌いではございませんわー」
同時。ユゥリアリアもニーベルングの前進に感嘆を。
彼女は旗艦の外郭に掴まり、狙うのは――天堕の一撃だ。
あれに直撃すれば鋼鉄艦といえどいつまで保つものか。故に、こちらへと向かってくる隕石の内の一つへ己が血を。それは魔力を伴い槍と成る。氷の一閃が空を切り裂き鱗の一角へ――着弾。
華開く。鱗の一撃を押し留める様に。その力を軽減するように。
否。それだけではない、彼女が紡ぐ歌が戦場に響いている。
嵐の中であろうと誰しもに届く旋律が、進む人々を祝福する祝い歌と成りて。
「さぁ、皆様進みましょうー希望を胸に明日を見据えて、ですわー」
されば再び氷の矢を顕現させる。自身の賦活を行い、全力の一投を大竜の身へと。
「ああ全軍突撃全軍突撃さぁいこう。鉄帝の常套手段にして得意技じゃないか――」
ははは、とユゥリアリアより支援を受け取ったメートヒェンは鉄帝兵を鼓舞し。
「さぁ行こう、ここで奴を討ち取れば竜殺しの英雄だよ、国に帰っても死ぬまで自慢出来る武勇伝だ。将来の御伽噺に登場したい者はいるかな? 子孫代々に語り継がれる物語のチャンスだよ」
天堕の一撃を迎撃し、ニーベルングの進撃を援護せん。
敵の動きは変わり、味方の動きも変わり。さぁようやく真実『戦い』となるのだ。
逃がせまいこの好機。逃がせまいよ戦いに身を漬ける鉄帝の民が。
「さぁ皆もう少しだ。キツイ一撃を頼むよ」
だから彼女は立ち続ける。身を癒し、リヴァイアサンの懐に――辿り着くまで。
「はは――成程、な。いつ降りかかるとも、一生来るともしれねぇ奇跡なんてモンはこの方信じちゃいなかったが……こいつはひょっとして、ひょっとするかもしれねぇな」
そしてかの進撃。かの奇跡を視て縁は思わず口笛を鳴らした。
先程までどうしようもなく見えた大竜が、今では気のせいか『そうでもない』様に見える。それはさて、気のせいか。それとも真実そうなったのか……まぁどちらでもいい。確かなのは『流れ』が変わった事で。
「さ。それなら……俺も一応、“龍”を背負ってるんでね。ひとつ根競べといこうや」
故に意思を。故に希望を。
先行艦ワルキューレに乗る彼はリヴァイアサンの身へと容易に攻撃が届く。破滅たる一撃を大竜へ。消耗した体力を少しでも己が血肉にせんとすれば。
穿つ。穿つ。その竜の身を、いずれ海の底へ沈めるまで。
「お前さんが誰をも絶望に沈めるのが早いか。
それともこっちが総出で希望を手繰り寄せるのが早いか」
今少し、前を視よう。
今少し、未来を視よう。
例えばいつか死ぬのだとしても。廃滅だとしてもそうでないとしても――
『痛み』と共に生きるのだと、決めたのだから。
成否
成功
第2章 第25節
大竜への大攻勢。誰もが明日を夢見て前へと進む。
しかし戦闘は各地で続いており、やがて少なからず疲弊する者も出ていた。
それも仕方あるまい。敵が巨大である事もさることながら、被害も大きい故に――
「へばってんじゃあ……ないわよ!!」
それでも、と。利香は天を視る。決して下を向かず、ただただリヴァイアサンを。
「攻撃が届かない? 効くか分からない?
そんなのやってみなきゃわからないじゃない!」
何より私の瘴気に例外はないわ……!
統率の技を駆使し、皆の動きが止まらぬ様に彼女は奮闘する。弱った兵士には喝を、怪我人は庇い、その命を救って。天より降り注ぐ絶望の嵐にすら彼女は決して屈しない。
命を繋いで勝利するのだ――自身の傷を修復する活力を身に纏い、尚も大竜を睨みつけ。
「上等ッ……! 絶対に倒してやるわ……なにが滅海竜よ……!」
リヴァイアサンへの攻撃を成す。一撃の赤、二撃の黒――未来へ繋ぐ、一撃を。
そして。そんな利香の負った傷へリンディスの癒しが更に紡がれ。
「力は届かず、物語達も力を奪われる――ならば。
私に出来ることは一つ、回復の手を止めないこと」
力を奪う暴風、神威。
その一撃は多くの者の活力を奪う――しかし、だからと言って最早手段無しな訳ではない。
治癒術。前線に出向く者らの傷を癒すのだ。
例えあらゆる力が奪われようと剥がされようと、この筆で示せる未来はあるのだから。
「ええ、私たちに気づいたのでしたら次は『私たちが抗っている』証拠を叩きつけて差し上げましょう。もはや高みには在れない事を覚悟してください! どれだけ嘲笑おうと――そう簡単には倒れませんよ!」
「おおよその通りだ! あいつらが運んできた勝機を無駄になんかするかよ――ッ!」
さればハロルドが前へ、前へ。
敵の攻撃を弾く術を幾度でも。たった一歩でも更に前へ。
彼の戦意に底は無く。
「ここは俺に任せろ! この聖剣の輝きがある限り! テメェらに敗北はねぇ!
前を視ろ! 明日を信じろ!! 俺に付いてくるなら――希望って奴を見せてやる!」
自らの剣を掲げる。聖剣が、聖女が勇者の為に齎した己が唯一無二が光を指し示し。
往く。誰をも鼓舞して。誰をも率いて。
彼の言動が周囲に活気を齎すのだ。士気を上げ、味方を庇い、その姿を視てまた戦意の高揚を。
「今だ! チャンスを逃すなァ――! 行くぜ、ありったけだッ!!」
故に見えた大竜の隙。瞬間、闘気が青き刃へと。
宙に浮かぶその剣群を、一喝と共に――投擲した。
成否
成功
第2章 第26節
「あれが本物の『水竜様』!? マジすっげー!! 実在したのかよ――!!」
洸汰は己が持っていた水竜様の鱗を再度見る。先程は『スケールが違う』と思ったものだが、改めて実在した水竜様を目にしてみれば、その神々しさは決して劣るものではない。危機に応じて現れた故か、よりそう見えて。
「なんだ――!? 敵だったやつが味方になったり、別の竜が支援してくれたり、いーい風向きになってきたじゃんか! こりゃ負けてなんかいられないよな!!」
「おうそうだぜ! オレもまだまだ頑張っちゃうもんね!!」
さすれば風牙も同様に水竜の参戦による『流れ』の変動を感じとるものだ。
状況は前に進んでいる。この機を逃す手があるか――? いや、ないッ!
「なら、迷うこたぁねえよな。このまま真っすぐ! 突き進んでブチ抜く!!」
風牙は海面を低空飛行。極力に『上』を飛ばぬ様にしながらリヴァイアサンを目指す。
弱き点はどこだ――鱗の剥がれた所は――
降って来る箇所の真上地点。ここだと見当を付ければ急上昇。
海を蹴り、飛沫を挙げて。空気の壁を感じながら――
「吼えろ――烙地彗天!」
この身を彗星と化し、目の前のモノを穿ち砕け!
その一撃は空を駆けるかの様に。蹴撃一閃、打ち抜いた。
一方の洸汰は防御を主に。リヴァイアサンの攻撃から味方を護るのだ。
特に主砲を、奴の好きにはさせるかと。
「へへ、させねぇぜ! いつまでもいつまでも効くと思うなよ!!」
耐えて耐えて耐え続ける。船がもう少し近寄れるまで。奴の懐へ近寄れるまで。
その時が攻撃に転じる好機だ。相手の勢いも利用し、その鱗へと攻撃を仕掛けてやろう――例えばそれは傷口を抉る様に。
記憶の彼方にあるは膝のカサブタを剥がした一幕。アレ自体は大した事は無くても、ジクジクと残る痛みがあったのを覚えている。それは生物共通。どれだけ大きくても小さくても『成る』痛み。
――お前もそうだろ?
「なんならお前の鱗を、お宝にしちゃうもんね――!!」
さぁ行こう奴を倒しに。お前なんて怖くない!
「神威、守護の権能が、剥がれた、か」
ならば私も剥がしに行こう。更に更にと――エクスマリアが跳びはねる。
海に浮かぶ木片を地として、己が髪を手脚の如く自在に。掴み、蹴り、往く往く往く――
「ならば、さらに地金を、曝け出してもらうと、しよう」
神の威を、謳う竜よ。
「――その神話、今宵、終わらせる、ぞ」
瞬間。一気に前へ。
空から落ちて来た天堕の一撃を躱し、視線は天へ。鱗が落ちて来た、と言う事は風牙が見切ったのと同様に『その上には剥がれた点』があるという事だ。外さない。視線も、狙いも。
穿つは魔砲。より強くより深く捻じ込めるように独自に進化させた破式。
直撃、爆散。撃つ撃つ撃つ。
――只管に、鱗を落とし、肉を削ぎ、骨を穿ち、巨体に風穴を、こじ開ける。
「撃てど、撃てど、これは、山を匙で掘り崩すような、海を杯で飲み尽くすような」
途方も無いことなのだろう。
それでも無限ではない。不死など無く、人の届かぬ彼方に在ろうはずがない。
滅海竜よ。滅海竜リヴァイアサンよ。
「お前の終焉に、必ず、届かせる」
神話を崩し、伝説を築く一族。神威を打ち砕き、人理を打ち立てた一族の果て。
終わりに座す者が、お前の神代を終わらせに来たのだと――知れ。
成否
成功
第2章 第27節
勝機は見えた。雲の中に一筋の光が、確かに見えたのだ――
「今までの攻撃も無意味じゃなかったってことさ! やり方を変える必要はない……! 皆! 折れる事は無い! 絶望に打ちひしがれてる暇はないよ――僕達は僕達のやり方を貫くんだ!!」
ムスティスラーフは確信する。リヴァイアサンは倒せる、と。
露呈した弱点である鱗の下。そこへ攻撃を集中させるのだ……! 決戦はまだこれからだ!
「好機は来た! 攻撃出来る者は続き、守りに自信がある人は船を護れ! ――勝つんだ!」
「ああ全く。人に敵対する竜種がいるなら人に味方をしてくれる竜種もいるんだ……
負ける訳にはいかないな」
さればムスティスラーフに次いで修也もまたリヴァイアサンを狙い。
放つ。ムスティスラーフ渾身の緑閃光と共に、魔砲の一撃を大竜の身へ。
集中させる――水竜が現れ、海賊は味方として。援軍現れたこの流れを手放すものか。
「気持ち的には醒めない悪夢から地獄の現実にまでマシになったって所だな」
「――それは良い流れなのでしょうか?」
「ああ勿論。夢の中じゃ何を掴んでも空虚だが、現実だったら踏ん張れる」
隣のエルシアへ修也は言葉を紡ぐ。無茶をして突出しないように注意しながら、それでもなお攻撃を一点に集中させることも忘れない。タイミングを合わせ、大竜の身へ、肉へ。深く深く攻撃を差し込むのだ。
「そうですか――なら私も微力を尽くしましょう……
尤も、私など余波を受けただけでも、ひとたまりも無いでしょうけれど……」
それでも自分だけ安全圏に要る訳にはいかないとエルシアは言う。
可能な限り集中し、祈りを捧げて此処に在るのだ。勝利を――必ずや、と。
「……ドラゴンと言えど無敵ではない筈。それは水竜様の出現によっても明らかです」
であればリュティスも繰り出すのは一匹の蝶。長大な距離すら跨ぐ不吉を伴う死の具現。
彼女の指先を舞う。舞い――その揺らめきはいつの間にか大竜の懐へ。
不吉なる誘い。不運なる一端。死を齎す一翼を羽ばたかせれば、次ぐ矢を放ちて。
「加護は剥がされ身を晒され。追い詰められて天へと吠える……
その在り様はきっと、竜たる貴方の破滅の足音となっているのでしょう」
直後。見えた天堕の軌道を察知して。
躱す。往く、指先を一点に、ムスティスラーフ達が放つ箇所へ――己も魔砲を。
開かれし魔法陣が天を穿つ。好機逃さず、一気に打撃をと。
「まだまだ! 今日のカロンさんは出血大サービス残業祭り、してやろうじゃない!!」
そしてカロンもそのチャンスへと引き続く。ローレットの――一部の者達は廃滅病に苦しみながらも、重体になりながらも戦う者がいるという。ならばかような状況にて、たった一度の接敵で『良し』とした気になるのは――
「気が引けるのよ!」
故に皆の負を癒す。リヴァイアサンの天堕により、神威の暴風により齎された負の数々。
その全てを打ち払うのだ。大火力だけが魔女の秘儀の総てではなく。
「苦しみを祓うのもまた魔女の嗜みの一つ――ってね!」
放つ光は幾末も。皆を守護して援護と成し。
――ああ希望が溢れている。攻を成す者も、防を成す者も。
誰もが前を視て、明日を視て戦っている。
「希望はタヤすく塗り潰されるモノだ。だからこそ……ソノ灯火を、ケさせはしない」
ならば。ならば――ジェックもまた大竜へと立ち向かおう。
『攻撃』をしてくるようになったとはいえ、それはまだ大竜を真に危険に晒したとは言えないのだろう。鱗は健在であり、肉を削れどまだ奥底は見えぬ。それでも、それでも――今出来る事を積み重ねて。
「灯火をツナぐんだ」
この海に。
絶望の海にセントエルモの輝きを。
「――なんて、撃つシカ能のないスナイパーの妄言サ」
苦笑するように、ジェックはガスマスクの下で見えぬ表情一つ付け。
狙う。穿つ。引き金絞り上げ、放つは徹甲弾。王の道を往く一筋の願い。
どれだけ小さかろうと当てて見せよう。
たった一つのコインを撃ち抜き。
たった一つの頭の上のリンゴを撃ち抜く必要があったとしても。
「当てるヨ」
イレギュラーズってのは可能セイの蒐集装置。
つまりソレは……ノゾむ可能性を!
「無理矢理にでも――ヒっぱってくるってコトさ!」
灯火を繋げ。
君達にはソレが出来る。
勝利を望むのならば。
古き世界より存在する神秘だろうと撃ち抜き進め!
成否
成功
第2章 第28節
「魔法騎士セララ&マリー参上!」
「魔法騎士セララ&マリー参上……」
えいえいおー! 輝かしきセララと何故か消沈気味ハイデマリー。いや消沈気味なのは声色だけで、表情とポーズはビシッと決めてあるのだが。なぜだろう――父親さんにもバレてもはや鉄帝公認魔法少女になりつつあるというのに。不思議だね……
「ほらマリー! パパの前だよ、いつもよりもっと更にビシッー! と行こうよ!!」
「ああ私の事は気にするな――実に面白い故に」
張り切るセララ。指揮を取りながらハリデマリーを見て来る父、レオンハルト。
消沈すればいいのか軍務として真面目に励めばいいのか思い悩む。が、リヴァイアサンも近くにいる故に満足するまで悩む訳にもいかない。流石にこの戦場、生きるか死ぬかの瀬戸際である――友軍にして同胞である鉄帝兵達を含めて。
「……やむなし。とにかく今はあの竜の撃破に専念するであります」
「うんうん! リヴァイアサンを倒す為に頑張らないといけないからね! 派手に行こう!」
故に往く。いつもならばセララが前、ハイデマリーが後衛という組み合わせが多いのだ、が。
今宵は違う。二人とも後ろより肩を並べ同じ布陣で戦うのだ。
ハイデマリーには新鮮な感覚が。セララにはマリーと同じ場所で戦える高揚が。
二人の魔法少女は進軍す。剣から放たれる斬撃が真っすぐにリヴァイアサンへと。聖銃の狙いもまた同じ地点へ――冷静かつ冷徹なる一撃を、鱗の無い部位に叩き込んでやるのだ。
息は合い、重ねる二撃はより苛烈に。
壊す。倒す。必ずやり遂げてみせる! この技こそ彼女らの親和の結晶――
「「――ヴァイス・ストラッシュ!」」
聖なる輝き。魔法少女の神髄が――此処に。
「これが絶望を切り裂く希望、魔法少女の一撃だよ!」
「これが不本意ながら鉄帝魔法少女の規律の一撃であります」
天すら割ろう。海を切り裂き、大地をも両断する可能性を秘めた大技。
それはリヴァイアサンの身を震わせて大いなる一手となるのだった。
成否
成功
第2章 第29節
イレギュラーズ達も、鉄帝海軍も良く戦っている。
滅海竜に一歩も引かず魂の在り様を見せつけていて。
「くっ――滅海竜め、我が詩を掻き消すとは……これが竜か! 神と呼ばれる者か!」
しかし戦士達を鼓舞するベルフラウは神威の風に苦戦していた。
かの暴風は士気に闇を齎す一撃だ。吹き荒ぶだけでこちらの鼓舞に影響を与える――
「ならば……」
だが、それでも。
彼女は旗を突き立てる。
「止まぬ嵐等あろうか! 我々は皆前を向く力を持っている。例え眼前が闇の壁であろうとも! そこへ踏み出す一歩の事だ――それを人は勇気と呼ぶ!」
勇気がある限り彼女は折れない。
天より注がれし隕石の数々は彼女も、その周囲の者達にも甚大な被害を齎すが――
彼女は猛る。天へと向かって。
私は未だここに在る。
一歩も下がらず踏み止まり、金の獅子は示すのだ。
黄金の意思を。紅き瞳が宿す咆哮を。
「此処が最後の晩餐となるのは我々か! あのデカブツか!!
まだそれが決まっても居ない事に気付いていないあの竜に思い知らせてやれ!!」
皆の歩みは私が支える。
例え幾度暴風に打ち消されようと、この声が届く限り。
私は諸君らと共に在る。
「下を向かぬ限り、我々の歩みは止まらないのだから!」
己が信念の旗を揚げよ。
その誇りを胸に、前へと――進め!
「例え魔の効果が打ち払われようと! ゼシュテル帝国が紡いで来た叡智の数々はソレだけではない! 今まで培ってきた技術、知恵がある! ――ゼシュテル鉄帝国の用兵術を見せてやろう!」
故に鉄帝の誇りを抱くヨハンもまた皆を支援。
彼の声は兵の動きを的確に。味方の狙いを的確に。
指揮の杖が光り輝く。守護の力が打ち砕かれようと――攻撃の支援こそが最大の防御ともなるのだ。
「鉄の名は例え如何なる戦場であろうと響き渡る! 鉄帝の戦が終わるものか!」
戦う力があるのならば最後まで。
死力を尽くせ。
武威で負けてなるものか。武勇を轟かせられぬまま終われるか!
「進軍せよ――勝利を求めよゼシュテル万歳!」
勝利への布石の刃を打ち出し。
彼もまた吠える。ゼシュテルの魂を見せよと。
驕れる天に――鉄の意志を!
「『絶望の青』の怖さはよく理解したわ。でも、私達は決して止まらない」
そして激励を受けたアンナが往く。竜よ、神代より存在せし大竜よ。
「だから次は……私達の怖さを知ってから眠ってもらいましょうか。リヴァイアサン」
人の怖さを知ると良い。
前往く戦士達の援護を彼女は。殺意の塊たる鱗の破片――その衝撃から身を挺して守るのだ。
「支援に感謝を――行きます、唯刀・阿頼耶識」
されば無量の一閃。数多の斬撃の中から『最適』たる一撃のみを抽出。
奴へと放つ。狙うは間接、第三の瞳が捉える僅かな線。
風が凪、地肌を晒した一瞬で跳躍し、切り伏せる。全てが高速、刹那の瞬き。
この後に転じた一撃で叩き落とされようと知った事か。
「戦場を共とする者達の反撃の狼煙となるのであれば、十分以上」
斯様に巨大な体躯であろうとも、一寸の法師が鬼を退治せしめるが如く。
この剣を持って戦況を切り開く。決して、一挙一足逃がしはせぬ。
大竜よ。恐れを知らぬ者よ。
今こそここで朽ち果てるがいい。
「ハッ――良い風が吹いてきたじゃねえか! さっきまでは逆風もいい所だったが――」
こりゃあまだ分からねぇな! と無量に次ぐのはルカだ。
「気合入れろよぉ! ここが勝負の分水嶺だ! 戦場は生き物みたいなモノ……今を掴めなきゃ次の瞬間にはどうなってるか分からねぇぞ! 逃すな! ここで押し切られりゃ明日のお天道様は拝めねえと思いやがれェ!」
鬨の声を挙げて皆の士気を鼓舞し、ルカもまたリヴァイアサンの脆い点へと。
全身の力を込めた一撃を成さん。衝撃を直に、全力を振るって。
「防御は任せて存分に攻撃して。あなたの攻撃が通用するなら恐れる事はないから」
「ああ悪いが防御は任せたぜ……! オラ、あれだけ上から目線だったんだ! 今更服素人で掛かった所で文句はねぇよな――押し切らせて貰うぜ、滅海竜さんよぉ!!」
アンナの護衛を受ければルカも後ろを気にすることなく前だけを向ける。
勝つ。打ち勝つ。必ずここで、運の向きをモノにしてみせる。
「死中に活路あり、というところでしょうか。
いずれにせよある程度の危険は考慮した上で……仕掛けていく方が良さそうですね」
なれば沙月もまた前へ。天堕の後の機会を見定めて一気に切り込むのだ。
死は躱す。天は恐れず、見据えるべきはただただ前。
足を運ぶ様に。鱗の破片にすら当たらぬ様に。
進み。
――僅かな時に己が全てを叩き込む。
「戦の中。かような暴威が吹き荒れれば……」
生と死の狭間はどこにあるか。たった一寸の『線』を見極め。
彼女は放つ。殺意の心得と共に。
己が技を。己が培ってきた古武術を。
「絶望の青の先……新しき世界の扉を意地でもこじ開けさせてもらうわ!」
そしてイナリの一撃もリヴァイアサンへ。天が降り立つのだ彼女の身へ。
火の神よ――迦具土神よ――
「今ぞその威を此処に畏み畏みも申す……!」
優れた視力で狙い先を常に。面を制圧するかの如き一撃を――放つ。
海の支配者を焼くように。膨大な熱量で焼き払う様に。
穿て――穿て――これだけでなくて良い。味方の一撃がより深く潜れるための一手と成れば。
「負けはしないわ! この海は必ず超える!」
良いのだと、強き意思と共にリヴァイアサンへと攻撃を。
反撃の暴風吹き荒れれば、火の神の力を借りた反動も相まって傷を受けるが――しかし。
意思は止まらぬ。意思は決して折れはしない。
往こう。必ず、この先へ。
新天地を――新世界を必ず見るのだ!
成否
成功
状態異常
第2章 第30節
「ハッハッハ!! 援軍に竜の弱体化とは運が向いてきましたね!
やはり世紀屈指のヒロインである拙者を殺すなど神様が許されないようで!」
高笑う。ルル家は己が勝利を確信していた――伝説の海賊に伝説の竜まで仲間となり、敵のボスが出てきて焦りに焦っている様……勝機はこちらにフラグもこっちに! ならば後は救世主たる拙者達が活躍するのみであり――
「勝利は我等の頭上にあり! 勝利とは! 勝機を掴むべき時に掴んだ者に転がり込んでくるもの!」
胡坐をかいて座していたリヴァイアサンには勝利の女神が微笑まなかったのだ。というか麗しき勝利の女神って拙者の事だから当然ですね! なんですかそこの人、何か言いたい事でもあるんですかー?
ともあれ振るうは閃光。超新星爆発を連想させる輝きが大竜へ。
当てる事を優先とする。少しでもダメージを、奴へと叩き込んで。
「神威の権能が弱体化してる? ――やっぱり完全な存在なんていないってことだね」
史之は感謝する。水竜様へ、この一撃を掛けられる事を。
滅海竜へと。その芯に繋がる一発を放てる事を――ッ! 小型船を操舵し、天堕を回避する。辛うじて、なんとかギリギリの所で。暴風に舵が取られそうになるも――それでもあと一歩でもと奮闘し。
「負けてやるもんか……! 女王陛下が望む地平がこの先にあるんだから!」
味方を癒す治癒の光を。強烈なる支援を彼は周囲へ。
相手は巨体。その上恐ろしくタフだ――まだまだ『戦う力』というのは必要だろう。
「だけど負けてやるもんか」
デカい、というだけならとうの昔に戦っている。というよりも撃破すらしてやった。
モング・メグ。光帯を吐き出す鯨の化物。
それの何倍も何倍もデカいからって――調子に乗るなよリヴァイアサン!
「そうさファッキンウミヘビ野郎が! いつまでもやられっぱなしだと思うなよ!!
ここから一気にぶち抜いてやるから覚悟しな――底力ってのを見せてやるぜ!」
「ああつまり……ここ一番の踏ん張りどころって感じかな。正念場だね」
そして貴道とイリスもリヴァイアサンへと。互いに戦場の節目を感じていた。
権能が剥がれても敵の威圧は未だ健在。それでも、先よりは幾分マシであるならば、と貴道は狙う。狙うは皆と同様鱗無き脆い地点。絶対の集中が彼の優れし『眼』と合わさって――拳の槍で狙い穿つ。
着弾、轟音。手ごたえあり!
「ハッハ――ッ!! どうだい、竜種? 今度の拳は、少しくらい効くだろう!!」
音の壁を超える様に貴道は更に腕を振るい続ける。
一撃では終わらせない。幾度でも、お前を倒すまで――この拳は止まらないのだと。
されば天より破滅の一撃。全てを消し飛ばさんとする業火の破片。
至ればイリスが往く。何が恐ろしいものか……この先に進むなら例え相手が竜だろうと。
「『決死の抵抗』ってやつを――見せつけてやらないとね!!」
防御を構えて貴道を庇う。激しい衝撃、身を焼き切るかのような絶大な威力が彼女を襲い。
しかし、それでもその命を奪うまでには事足りぬ。
傷を癒す戦士の福音が治癒となり、なにより彼女の意思こそが。
「負けられないんだ……!!」
滅海竜如きに屈しはしないと、天へ吠えているのだから。
それに戦いは一人で行っている訳でもない。攻撃の貴道や防御のイリスがいれば。
「ややや、相も変わらずすっごい感覚が……あああそれでもヘタったりしませんよ、負けねーですよ!」
皆の傷を癒す衛生兵たるミミもいるのだ。
権能が剥がれた代わりに竜の威圧が増した気がする。それは殺意かあるいは闘気か……いずれにせよ強烈なる敵意。思わず尻尾が震えあがり、電流が流れたかのように毛を逆立たせ。
それでもほっぺたペシペシ。気合を一喝、前を見据える!
「相手が本気出してきたって事は……ミミ達のすべき事がどんどん増えるって事ですからね!」
怪我人を集め振るうはポーション大乱舞! 治療用の魔法薬をこれでもかと盛大に。多くの味方を癒し、その力を復活させるのだ。あ、ポーションのお代は後程よろしくおねがいします!
「うん――いくら攻撃を集中させるといっても、この状況じゃ回復役は必要でしょ」
故にミミの治癒行動に合わせてルチアもまた己が治癒術を。
攻撃一辺倒では体力が保たぬと、己が船――Concordiaを駆り戦場を掛け巡る。
常に状況を見渡し落下した影があればそこへ。活力足りぬ味方がいれば鼓舞をして。
「ほら、まだまだ戦えるわよ。こんな程度の傷なら全然余裕……行ってらっしゃいな」
往く。暴風により舵取りが難しく、天堕による一撃は余波だけでも強烈であり。
彼女自身も救助の仮定で少なくない傷を負う。
衝撃が己に。船体諸共砕けそうになる轟音――それでも、それでも止まらず。
「嵐に気を付けろ……! 天堕よりは威力が劣るとはいえ、決して舐められるモノではないぞ!」
さすればランドウェラも前へ。攻撃の届く距離へ、吹き飛ばされぬ様にしながら。
神威の風は脅威と言うほかない――味方の援護の力を剥がし、空を飛ぶ者は落とし。
更には振り撒く負の数々……対策の為に色々と『無効』する為の手段は用意したが、足りるだろうか。
「だがいずれにせよ退く選択肢はないか……それに、味方が出来たこの気持ち。
高揚が消えてしまう前に押し切りたい所だ……!」
誰もの戦意が挙がっている。ならばこの好機を無駄になど出来るものか。
ランドウェラ自身もその希望に心が救われているのだ。
ならば次は自らが繋げよう。希望を明日へ、この先へ。
「ああ――大竜よ! 滅海竜よ! 今こそお前を打ち倒さんッ!!」
放つは雷撃。迸る一条の雷だ。
嵐にすら負けぬ。大海の支配者であろうと知った事か。
この輝きこそ希望の証。未だ諦めぬ――屈さずの光である!
成否
成功
状態異常
第2章 第31節
「奴さんもエンジン掛かってきたって感じか。かはは! だがちと遅かったな、おい!!
こっちも活路が見えちまったぞ。この火はてめぇなんぞじゃもう消えやしねぇぞ」
様子の変わった『天』へと嘲笑を。ニコラスは今更遅いとばかりに大竜へと紡ぐ。あれだけこちらを見下していたというのに、援軍が現れ風向きが変わったとみるや否や動きを変えるとは。
「ま、だが俺のやる事は変わらねぇ! てめぇを追い詰める為にぶっ叩いていくだけだ!!」
光の柱を放つ。お返しとばかりに天堕の一撃が襲い掛かって来るが――それでも臆さず。
リヴァイアサンは吠えている。小賢しいぞ人間どもと怒り狂っている。
大気を揺らし轟かせて。屈服せよ人間ども――と。
「やっーっとこっちを見やがった、ムカつく」
そんな奴へと、吐き捨てるように辰巳は言う。今更必死になるなどなんてザマだよと。
首は垂れねえ。
天も仰がねえ。
許しを乞うなんて以ての外。
「俺は誰にも従わねえ」
バラ高テッペンの意地見せてやらぁッ……!
回復薬を飲み捨てて、地を蹴り往くは闘志と共に。姿勢を低く、被弾面積を少なくし。
駆け抜け目指すはただ一点――ぶん殴る。
喧嘩は臆した方が負けなんだよ。足りねぇ分? んなもんこそ気合で補うんだ。
やれなきゃ死ぬだけだ。そして俺は死んでも死ぬつもりはねぇ。なぜなら
「てめぇに一発かまさなきゃ、気が済まねぇんだよぉおおおおッ――!!」
必ずテメエのその傲慢な面に一発入れてやるって決めてるんでさ!
跳躍、一撃。バラ高舐めんなオラァ!!
「ここで畳みかけるわ。一撃は針の先よりも小さなものでしょうけれども……
それが千本万本集まれば穴だって穿てるのだわ」
レジーナが構えるは麗しく雅なるその一端。打ち倒すべき竜を見据えて。
辰巳の後に連撃を叩き込まんとする。指先にあるは一枚の札――闇で悪魔なお嬢サマー。
リリース。指先から煌めくように消える神秘が在れば、レジーナの心中に宿りて。
されば最早絶望は絶望に非ず。
ただの壁であれば恐れるに足らず――さぁ。
「神話の竜よ。今こそ終焉を」
奴に対する効果的な一撃は何か。魔術と格闘の混合か、戦車と軍馬による蹂躙か。
いや。違う。そうだ。
「――全部叩き込めば関係ないのだわ」
幸いにして相手は強靭。撃てども倒れぬ絶好の『的』
驕れる神に。
子守唄ならお任せを。
「我が無数の剣戟が安らかな眠りを保証するのだわ!!」
ジャイアントキリングといきましょう。
流星の如くレジーナは往く。激突し、閃光を瞬かせて。
「まったく、こちらの支援は打ち消してあんな広範囲の一撃を打って来るなんてね……
まぁそれならそれでやり方というのは他にもある」
「ああ頼りになるお仲間さん達が大勢いるんだ。なら、そいつらの援護が幾らでもあるわな」
されば文とヨシトは互いの顔を見合わせて治癒行動を。
ブレイクしている神威の風――厄介ではあるが、それなら『そう』であると前提の動き。ブレイクされる事無き治癒の齎しに集中すればいいだけの話である。戦線の維持とは多彩にある。攻撃だけが戦でもないのだから。
「ははっ。少し前まで本当に絶望の青に来る事になるなんて思ってもいなかったよ」
身が削れ、それでも尚に立ち続ける文。
その傍らに在るのは――ディスペアー・ブルーの神秘だ。長い付き合いになっている、技能の一つ。なんとなく……お守り代わりになっているような気分である。自らが生きているという事は、それだけコレと常に共に在ったという事でもあるのだから。
「ああ、うん。本当に夢にも思わなかったけど」
最後はきっといい夢を。
絶望の青でもきっと、善い思い出に。
「悪い思い出には――したくないな」
手の平に力を。己が意思に喝を入れて。
味方の援護を成す。聖なる光で味方の負を打ち払うのだ――
「ハッハ。全く、どいつもこいつも明日を視てやがる。
絶望してる暇もねぇときた! あんだけ巨大な奴なのによ!」
そしてヨシトは精霊たちの助けを得ながら要救助者の位置へ駆けつける。回復させて、さすればすぐにでも戦線復帰する者の多さに、思わず笑いも出るものだ――
もう一度挑めば死ぬかもしれないのに。それでも皆、恐怖よりも明日を求めて。
「いいぜ。なら俺も全力だ。アンタらの道筋……全力でこじ開けてやらぁ!」
故に彼もまた先往く者達の背の後押しを。
活力を満たし、体力を回復させて。さぁ、皆で明日へと行こう!
「水竜、海の守り神の援護か……ありがたい加護だ。無駄には出来ないね――
さぁ反撃開始といこうか! 奴の力を、僕たちが削ぐんだ!」
「だけど決して無理はしないように――ね。過酷な戦況だ、勇み足が過ぎれば死に繋がる」
リウィルディアは絶好の好機を感じ取り、マルクもまた同様に。リヴァイアサンへと攻撃を繋げていく。鱗が剥がれている箇所、あるいはそうなっていそうな場所……不幸中の幸いと言うべきか、奴の巨体さ故にこそ攻撃しうる所は多々あって。
「より取り見取りだね――今回出し惜しみは無しだ。全力で吹き飛ばす……!」
後の消耗を考えず、リウィルディアは勇敢成る牙の顕現を。
今こそ全力なのだ。後を考えて何とかなる相手ではない。どうしても活力が足りなくなったのであれば――その時は魔力を奪いし二頭の悪性を召喚すればよいだけの話。敵の内を貪り、自らの血肉としよう。
「例え雨垂れ程度の突きであろうと、いつか必ずその山を穿つから」
だから僕は決してあきらめないんだと、マルクは治癒と攻撃を交互に。
天堕の前は皆に祝福を。天堕の後は露呈した弱点に見えざる一撃を。
身体が動く限り、一人でも多くを助け、一つでも多く打撃を与えるんだ。
身体が動く限り、腕が動く限り。
「この目がまだ開いている限り。僕が僕として此処に在り続ける限り」
意識を手放す瞬間まで、雨垂れとなって穿ち続ける。
大竜よ、知れ。この海は広い。それでも、元は一滴の集まりなのだ。
万を超え億を超えた先の水は、大海へと至る。
そう。
君が支配するこの海こそが、君を打倒する証明でもあるのだ。
成否
成功
状態異常
第2章 第32節
「ぷ、は! 焔ちゃん、大丈夫!?」
「うぅ、パルスちゃんを助けに来たつもりが逆に助けられちゃったよ……ちょっと冷静になれば避けれたかもしれないのに、ごめんね。それと――ありがとうパルスちゃん」
パルスと焔は海面へと浮上していた。
ワルキューレを爆散させた一撃から逃れる為に海へと飛び込み――そして今、だ。
泳ぎ、近くの船へと至りて回収してもらう。まだだ、まだ終わってはいない。まだ戦える!
「よし、もう大丈夫だよ……今度こそあの大きな鰻をやっつけちゃおう!」
「うん! どうやら状況もちょっと変わってるみたいだ。さっきまでと同じとはいかない……!」
リヴァイアサンを指して鰻と。
なんたる不遜か――矮小なる人間が――
反応したか定かでないが再び天より至る隕石群。それでも、絶望の感情は瞳に宿らず。
「やっぱり鱗を飛ばした後の場所が攻撃が通りやすくなってるんだ……!
ほんの少しの間だけなんだろうけど――なら、これで!!」
剥がれた場所に即座に攻撃を。生えてくる場所を焼き、細胞を殺すのだ。
それでせめて遅くなるだけでも十分。攻撃出来る機会は増えるし、ダメージは広がるものだ。
「上手く行けば大分戦いやすくなる筈――行こうパルスちゃん!!」
「そうだね! 必ず勝って……生きて、帰るんだ!」
二人で駆ける。大竜の身を駆け上り、斬撃を。炎を。
イレギュラーズとラド・バウファイターの共闘がリヴァイアサンへと吹き荒れていた。
ならばと。『探す』者はやはりいるモノだ。
戦力としてはパルスを凌ぎ――しかし行方不明となっているラド・バウファイターの一人。
ビッツ・ビネガーを。
「水竜様の力とやらでリヴァイアサンが弱体化したようだな。奴の動きが変わり、味方の士気も上がっている……今なら第一波の攻撃に巻き込まれた鉄帝軍人の救助をすることができるんじゃないか?」
「……そうだね。いやむしろ今しかないのかもしれない。
戦いが本当に佳境に至れば、誰かを構っている余裕は無くなってしまう」
故に利一や行人は探索へと向かう。S級闘士がまさかやられたとは想像出来ない故に。
利一は優れた五感の性能をもって溺れている人影、助けを求める声を拾いながら順次一人ずつ船へと引き上げる。こうして一人ずつ虱潰していればいつかはビッツにも辿り着けるかもしれず。
「尤も――二次遭難しては元も子も無いが!」
瞬間。己が天に降りそそいで来た天堕を間一髪で躱してみせた。
リヴァイアサンがどれほど戦況の把握を正確に行っているかは分からない。分からない――が。余波だけでも十分危険だ。適当に放っているモノだけでもこちらを下手すれば致命に追い込んでくる。
「くっ……どこだ、どこにいるビッツ・ビネガー……!?」
大きな水飛沫を挙げながら、しかし負傷はせぬ様に行人は海の中を。
水の精霊、風の精霊に手伝いを頼み――少しでも情報が無いかと模索する。
ビッツでなくとも人がいればワッカ……中位の精霊の助けを借りるのだ。ワッカならば人をある程度乗せても足りるだけの力を宿している。無論、何十人と乗せられる訳ではないので積載限界が来れば一度人を下ろしに行く必要はあるが。
「リヴァイアサンに攻め時が来ているんだ――頼むッ――!」
喉の奥から焦りを灯し、それでも希望を捨てずに捜索を。
「アヤヤヤ……なんだか大変なことになっちゃったアルネ……! でもウチ達だって負けないヨ!! 水竜様? も来てくれたみたいだシ、戦いはこれからアル! ハイヤこれも修行ヨ――!!」
そして虎は攻撃してくるリヴァイアサンへと気功技を繰り出して反撃を。
いやはや全くこんな竜が海の底にいたのは……しかし驚いている場合でもない。己が身を万全に、茨の鎧と激しき闘争心を纏うのだ。天堕の一撃が至れば大きく躱し、またも気功を放ちて。
「アイヤー! しかしキリがないアル! こうなったら……やっぱりビッツさんネ!」
しかし効いてるか分からないリヴァイアサン。ならばと彼女も海へ一直線。
ビッツ――先の戦いではあまり力を見せてくれなかったけど、故にこそこんな所で終わらせてなるものか! 攻撃よりも優先し、彼の行方を捜すのだ。沈んだと思われる場所へ一直線。
「こんな所で犬死なんて許さないアル――ッ!」
どこだどこだと虎は探す。早く出てこいアル、死んだなんて思えないカラ!
負傷者の捜索。行方不明者の捜索。それは得てして危険な行為でもある。リヴァイアサンという絶対的な敵を前に攻撃でもなく防御でもない行為は隙にもなるからだ。無論、彼らとてなんの警戒も無しに無防備に捜索するなどあり得ない訳ではあるが――
「くっ……なんて激しい攻撃! リヴァイアサンの旋律が弱まったと思ったら、奴の……奴の敵意の旋律が強まっている……!!」
リアは感じ取っていた。リヴァイアサンは弱体化したが、それは『攻撃が通るようになった』という意味であって『全ての能力が弱くなった』という意味ではないことを。むしろ先程よりもマトモに相対している事もあって攻撃に関しては強化されていると言っても過言では無い。
しかし、くそ。探すならこの時しかない!
絶望しかなく余裕が無かったと気でもなく、佳境にて最高点に激しい時でもない、今しか!
「おい、そこのシラス!! ……おいコラ小魚ァ!! 聞けやァ!!
忙しいのは分かってる! でも、ちょっと手を貸せ! あたしはビッツを探してんの!」
「おお奇遇だな――分かってる! 俺も探してる!!」
故にリアは嵐の中で声を張り上げ近くにいたシラスへと言葉を。
ビッツは探す。あのウナギに勝つ為ならS級闘士だって利用してやる――しかし、リア一人だけではとても探せない。だから、欲しい。誰かの知恵が、案が。
それはシラスにとっても同様だった。
ビッツが死んでいる筈がない。アイツが、絶対に。
だから、リア頼む。リアの『心の耳』ならば――
「絶対捉えられる……! だから頼む! 攻撃は俺が、必ずなんとかする!」
ビッツの旋律を探ってくれ、と。
天堕の破片を打ち落とし、彼は言う。この嵐の中で頼りになるのはリアなのだと。
「えぇ、と言ってもこんなどこにいるのかすら分からない中で……いややるかしない、か!
よしあたしのクオリアの範囲内の旋律、すべてを当たるわよ! だから――信じるからね!」
「任せとけ! 知らねぇかもしれないけど、俺って実は結構……強いんだぜ!」
祈りを捧げるようにリアは集中。シラスは彼女を引き続き援護するように、天を見据えて。
薙ぐ。鱗を一片たりとも近付けてなるものか。
蹴りの一撃が交差。衝撃が彼を襲い、しかし倒れない。
「――ッ、ぉおお!」
幾つも砕く。幾つ来ようと全て撃ち落とす。
ああ。なぁビッツよ。
虎が。行人が、利一が。
シラスが、リアが。皆が探しているんだ。
だから頼むその姿を見せて欲しい。今こそ――
サボってないで出てこい――ッ!
ビッツ――ッ!!
「――やれやれうるさい子達ねぇ」
瞬間。
誰かの耳に、声が聞こえた――
成否
成功
状態異常
第2章 第33節
GMコメント
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)
皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●目的
リヴァイアサンの撃退。
その為体の一角――右の脚へ対する攻撃を行ってもらいます。
なんとか、ダメージを与えてください。
●戦場
荒れ狂う海域。嵐の中。
皆さんは後述する戦艦ニーベルングか、ワルキューレに乗っている事が出来ます。
ワルキューレの方がリヴァイアサンに近い形ですが、リヴァイアサンの身は規格外すぎますので、あまり大きな違いはないかもしれません。
●敵戦力
『リヴァイアサンの右脚』
リヴァイアサンの右脚、並びにその付近を攻撃してください。
倒せるか倒せないか、ではありません。倒せなければ死ぬだけです。
眼前に聳え立つリヴァイアサンは巨大で、そもそも近接系の攻撃は届くかも分かりません。確実に攻撃を当てたいなら遠距離攻撃以上が必要となるでしょう。尚、それは『当たるか否か』の話であって『攻撃が通る』の話でありません。
全力を尽くして生き残ってください。
また、気紛れの様に時々以下の攻撃が発生します。
・天堕(A):物特レ域 超ダメージ 命中精度:中 BS:不明
恐らく鱗――が、落ちてきます。
それはさながら隕石の様に。
・神威(A):神特レ域 高ダメージ 命中精度:超 BS:不明
時折激しい風――それは嵐の如く――が発生します。
それはただ、身じろぎしているだけなのですが。
また攻撃の発生時『空を飛んでいる人物に特攻性能』を発揮します。
具体的にはダメージ・命中率が増加します。
・神火(A):??? 高ダメージ 命中精度:高 BS:無数
???
●味方戦力
■レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
鉄帝の軍人。骨格が機械で形成されている鉄騎種。本作戦の指揮官。
ニーベルングに乗船中。
■ルドルフ・オルグレン
鉄帝の技術部門の軍人。皇帝の命により指揮の副官として参戦。
ニーベルングに乗船中。
■アルケイデス・スティランス
鉄帝でも有名な武闘派一族『スティランス家』の長子。前衛型の人物。
ワルキューレに乗船中。
■パルス・パッション
ぱっるすちゃーん! 鉄帝のB級ラド・バウファイターだよ!
前衛型のファイターだよ! ワルキューレに乗船中。
海洋軍勢を薙ぎ払った第一波の攻撃に巻き込まれ、多少負傷している。
■ビッツ・ビネガー
ラド・バウのS級ファイター。自称『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』。
非常に強力な戦力……なのですが、リヴァイアサンの第一派の攻撃に巻き込まれ現在行方不明。
■戦艦『ニーベルング』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。かなり硬い。
硬い、が。絶対的なリヴァイアサンの前ではまるで石か何かの様に見える。
■先行艦『ワルキューレ』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。
複数艦隊が存在し、ニーベルングを護る様に布陣している。
しかし先のリヴァイアサンの攻撃により幾つかの艦が沈んだ模様。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
Tweet