シナリオ詳細
<Paradise Lost>Love Begets Love
完了
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オープニング
●公開処刑
「こうして眺める景色は如何であるか、我が愛娘よ」
「……」
広く、不必要な位に絢爛に整えられた『大舞台』はその煌びやかさと相反して、主人の終焉を望んでいる。
「全て貴様の為に設えられたものだ。そう思えば万感であろうが――」
両手両足には枷、身体は動けないように『薔薇十字』に縛られている。
リーゼロッテは父から向けられたねちりとした言葉に視線を逸らすばかりであった。
「いい日和よなあ。旅立つならば、この上無い。
日頃の行いはどうも我にも貴様にも大した罰を与えぬものだ」
リーゼロッテ・アーベントロートの公開処刑はアーベントロート侯爵領で行われる事となった。
国王フォルデルマン三世はこの動乱に心を痛めており、実に粘り強くアーベントロート侯に再考を促したものだ。
フォルデルマンの努力虚しく、そして干渉するかにも思われたアベルト・フィッツバルディの『体調不良』もあり、結果として強行される形となった処刑なのだから、メフ・メフィートでの実施が難しかったのは言うまでもない。アーベントロートの本邸が構えられた北部ルヒテノヴは長い彼女の治世の中でも特に大きな『迷惑』を被った場所だったから、代替地として選ばれたのは妥当であると言えただろう。
『処刑場』は街の郊外に準備された。
十分な『観客(ギャラリー)』が愉しめるよう。
より多くの人間がショッキングな悲喜劇に酔えるように。
ヨアヒム・フォン・アーベントロートの肝煎りで準備されたその場所には既に多くの人目に晒されていた。
処刑場そのものに人々は足を踏み入れる事は無いが、遠巻きに見守る事が出来るその作りはまるでイベント会場のようである。
「しかし――どうも、余り歓迎されていないようには見受けられるな」
「……」
「フッフ! まるでわしが悪党か!
喉元過ぎれば熱さ忘れるとはこの事よなぁ。
貴様もアーベントロートの係累に間違いはあるまいに!」
……何年か前の彼女ならば決してそうはならなかっただろう。
領民の犠牲を良しとせず、自身を犠牲にしてでも友人を守ろうとするような彼女でなければこんな風景は見れなかったに違いない。
「お前はそんな娘では無かったろうに。
蛇蝎のように嫌われ、華やかに疎まれ続ける薔薇十字の姫は何処へ去った?
この有様を見守る連中はまるで『勇者の訪れ』を期待しているようではないか。
悪辣な侯爵に囚われた姫を開放する何者かを――まるで伝承歌(サーガ)の一幕を期待でもするかのように!」
成る程、お姫様の公開処刑に集まった観客は残酷なシーンを望んで居ないようにも思われた。
揶揄を続けるヨアヒムにリーゼロッテは唇を噛んだ。
(……そんなこと……)
口にすれば弱さが零れ落ちてしまいそうだった。
リーゼロッテは愚鈍ではない。感情的でこそあれどむしろ賢しく。
長く情報機関の長を務めた彼女は事実の分析に長けている。
……いや、そんな大仰な理由をつけるまでもない。
ヨアヒムが密やかに処刑を済ませたならば話は別だが、彼は幻想中に宣伝する勢いで今日という日を際立たせている。
重武装の邸内で話を済ませればまだ合理的なのに、屋外の『特設ステージ』で民衆を見下ろしている。
『まるでこれは邪魔をしてくれと言わんばかりではないか』。
当然、会場のあちこちには警備の兵が配されていたし、リーゼロッテの把握している限りでも『正規ではない連中』も厳重に守備を固めている。だが、それでも余りにもこれは攻め入り易い。デモンストレーションめいた処刑場の風景はまだ見ぬキャストを望んでいるとしか言えないだろう。
(来ないで下さい)
リーゼロッテは内心だけで呟いた。
彼女はこれ以上時間が過ぎるのが怖かった。
『しっかりと諦めたのに縋ってしまいそうになるから』。
……改めて相対する父(ヨアヒム)は余りにも恐ろし過ぎた。
『決定的なまでに勝てない。人間はこんな怪物とは関わり合いになるべきではないのだ』。
ましてやリーゼロッテは初めて出来た――殆ど唯一の大切な友人達をこんな所に来させたいとは思わなかった。
だが、同時に決定的に理解もしていた。
父は自身の望まぬ展開こそを待っているのだ、と。
つまる所、主導権を父が握っている以上、祈りなんて一つも届かないのだと。
「……して」
「うん?」
「どうして、こんな事を。お父様――」
幼い頃から、貴方は私に興味等無かったのに――
唯一、興味を持って頂けたのが『こんな事』では。
詮無くとも、問わぬままには余りにも浮かばれない。
「どうして、とはおかしな事を聞く。
親は子の成長を祝福するものであろう?
貴様はわしの期待、わしのレールから外れ、そんな顔をするようになったではないか。
……なればなぁ、もっと万華の顔も眺めてみたくなるというもの。
自由に抗い、アーベントロートの軛を外す貴様がどれ程やるのか――
貴様の救いが、貴様の希望がどれ程のものか……知りたくなるも性というもの。
……フッフ! 愛娘の相手を見定めてやるのは親の冥利に尽きるというものではないかね?」
「……っ……」
「貴様はその時、どんな顔をするのであろうなあ。
愚かに直情に貴様を救いに来た『友人』がわしの挑む時。
無力で無為な連中が一人一人すり潰されていく時に――
どう鳴くのだろうなあ。怒るのか、絶望するのか。
『今、この瞬間にも親を憎み切れない貴様が、どう振り切れるか楽しみでならぬのだよ』」
「お父様……ッ!」
リーゼロッテの声はこの時、きちんと憎悪に満ちていた。
「それで良い。我も貴様もアーベントロートなれば。
何処までも続く、横たえた身を浸す退屈なる毒に――精々華やかに抗おうではないか。
この良き日に。薔薇十字に落ちる頸はどちらのものか――」
独白めいたヨアヒムにリーゼロッテは息を呑む。
未だ底さえ知れぬ『父親』はおかしな紋様の刻まれたキューブを片手にせせら笑うだけだった。
- <Paradise Lost>Love Begets LoveLv:71以上、名声:幻想50以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度NIGHTMARE
- 冒険終了日時2022年11月26日 20時00分
- 章数4章
- 総採用数511人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●STAGE I(東)
その状況は、予定調和の如く訪れた。
それが幸福な事であるかどうかは立場に拠るとして――大方にとっての予想の通り。
「騎兵隊である! 道を開けよッ!!!」
多くの戦場でそうであったのと同じように、この日もイーリンの号令は鏑矢のように鉄火場を切り裂く。
ヨアヒム・フォン・アーベントロートの登壇から始まった一連の幻想政変はまさに今、最終局面を迎えようとしていた。
即ち、公開処刑の会場にローレットの一派が殴り込みをかけたのである。
まさに力づく、問答無用。
「あーもう滅茶苦茶……感情的なバカが一番嫌いなのに……ローレットの大義名分も無いし……」
リカが嘆いて見せる位には、実に堂々と華やかに――何の言い訳も出来ない位に!
「リーゼロッテ殿の処刑なんて……罠よね、あからさますぎる。
それに、これ。リカ殿も言ってるけど、政治的に大丈夫な話なの?」
混乱と怒号に包まれ始めた処刑場でイーリンを守るように前に出たレイリーが肩を竦めた。
「大丈夫じゃないわよ。私の予想通りなら。それに罠よ。予想と言うか、ほぼ確信で」
「問題ある?」と尋ねたイーリンに振り返らないでレイリーは「まさか」と応じた。
「そんな罠踏みつぶしてやるわよ。それに、彼女を死なせたくないしね」
「ええ。敵はどうやら見世物をご所望の様子、お望み通り目に物見せてやるのが良いでしょうね」
陸鮫を駆るライもこの意見に同意なようで、涼やかな美貌に浮かぶ皮肉な笑みは幾分かの嫌悪感と酷薄さを滲ませていた。
「あー、そう言えば。果ての迷宮の成果、あのキモデブにってのは許せないわよねぇ」
気を取り直したリカが薄く笑う。そうだ、勝てば官軍という言葉もある――
何れにせよこれだけ全面対決を作ってしまった以上はヨアヒムにご退場願わねばならないのは明白だった。
「……俺は幻想の事情には不案内だが、この仕打ちに仲間が怒っていることは分かる。
いや、この反応を見るに『納得いっていないのはローレットだけではないようだ』。
理由はそれだけで十分過ぎる。俺も共に戦うぞ」
果たしてエーレンの言葉を裏打ちするように、処刑場を取り囲む形だったギャラリーからは応援の歓声が飛んでいた。
……領主の処刑を邪魔する暴動者に対しての応援である。
これは小さいようで実に大きい事実だった。少なくとも結末の向こうをどう収めるかを考えるならば捨て置けない事実であった。
(しかし)
観衆に潜み、その様子を確認する至東はそんな反応をそう素直に信じていない。
(ええ、こんな大イベントですもの。『浮き足立つ者』だってきっとおりましょう)
『仕込む』なら観客は木を隠す森になるといった所か――
閑話休題。
(令嬢殿、ギルドのお得意さんだしなぁ。
……例の肉達磨のツラが気に食わないし、突っつき甲斐は十分だわな)
剣呑な道行きに同道するマカライトは内心で肩を竦めていた。
紆余曲折を経て逮捕、拘束されたリーゼロッテ・アーベントロートの処刑はローレット(の特に一部のイレギュラーズ)に看過出来る話ではなく、主に有志に突き動かされる格好でギルドマスターであるレオンが折れたのがつい昨日の出来事。最後の堰であったレオンが止めるのを辞めれば、全面対決は避け得ない事だったのである。
「報告書見てたらなんというか……頭にきた。……さ、仕留めに行こっか」
リリーの言葉は単純だが、それ故に本質を真っ直ぐ射抜いていただろう。
「お嬢様とは縁が深いワケじゃないが、騎兵隊が動くなら力になるとも。全力を尽くすよ」
「収集要請だろうと救出だろうと、それが求められる需要であるならば。
商品でなくとも提供に参りますとも」
「くふふ、やはり大事になっておりんすねぇ!
わっちとしても彼女に死んでしまわれると、些か困ってしまいんすからねぇ。
ここはひとつ。上手に救助いたしんしょうか」
「レディが苦難に陥っているならば助太刀するのが筋というもの。当たり前でしょ?
向こうはわたくし達の乱入を楽しんでいる節すらある。ならば全ては期待通りに――
舞踏会には精々、堂々入場して差し上げましょう!」
(リーゼロッテお嬢様ね…ボク個人は面識すら怪しいのだが。
こういう時に騎兵隊とのコネクションを強くするのも悪くないだろう?)
先のマカライトやリリーを含め、倉庫マン、ゼフィラ、エマ、メルランヌ……幾ばくか打算を含めたシャルロッテ。
イーリンの呼びかけに応え集まった【騎兵隊】の精鋭達は千差万別の動機でここにある。
温度差はそれぞれだが、精鋭であるが故に、遂行する意志はハイ・ルールに縛られずとも変わるまい。
それに何より――
「多分色んな思惑や策略が裏でぐるぐると回っていて!
でもそれはルシアには難しくてよく分からなくて……
でも! 『ローレットの、そして特異運命座標のお友達』が『悪い人に捕まってる』ことだけは分かるのですよ!
助けに行く理由は、もうそれだけで全然バッチリ十分でして!!!」
――結局の所、恐らくは理屈以上にルシアの言葉は納得出来るものになる。
「愛されてるねえリーゼロッテさん……!
死んだら悲しむ人がいるなら助けなきゃ!」
「オトモダチ、だものね。であれば、助けぬわけにはいくまいよ」
……フラーゴラが勝気に笑い、武器商人は頷いた。
(ワタシだってアトさんの悲しむ顔は見たくない。笑っていて欲しい
誰だって――そうでしょう……!?)
『大切な誰かの為に』。
口にすれば面映ゆい言葉は実際の所、人間を最も強く突き動かし得る『動機』たる。
蛇蝎のように人々に嫌われた『暗殺令嬢』だが、この数年、イレギュラーズにとっては確かに『奇妙な友人』だったに違いない。
あれこれと理屈をつける事は容易いが、結局の所、一番重要なのは『誰か』が『このエンディングを求めていない』事に尽きるのだろう。
リーゼロッテと直接の友情を感じる人間は言うに及ばず、関係が薄い人間だったとて、彼女から連なる誰かの為と思わば握る刃にも力は入ろう。
『狼藉者』達を『待ち構えていた敵勢』は捨て置かない。
広場の外周、東から処刑場へ乱入したイレギュラーズをアーベントロートの兵が迎撃する。
「本当に酷いお父様ね! この光景を目の当たりにしても娘を殺してしまう気なの!?」
「かの令嬢は大勢の盟友に慕われている、彼等がその手を掴めるよう影から支えるとしよう」
憤慨する章姫(つま)を宥めるように、静かに鬼灯が加速した。
糸切傀儡――最も彼らしいとも呼べる掌握魔術が手向かう複数の兵を翻弄する。
「令嬢そのものより、俺もお前も――『アレ』が気に入らぬのは動機になるのでな」
「!!!」
義を口にして参戦するよりも自身の為、妻の為と思わば鬼灯の足取りも軽くならん。
「ああ、いいねぇ!」
『二人』のやり取りに傍らで新手を縫い止めたカイトが高く笑った。
「いやねぇ、俺正直この国の事は嫌いなのよ。
ドロドロ貴族社会とか巻き込まれたら笑い話にも出来ないし、目も合わせたくない。
だから、今回は簡単で例外だ。
……特等席で、まるでこうなるのを愉しんでる、あのボンレンスハムが、気に入らねぇ。
気に入らねぇ奴ってどうする? そりゃあ――殴るよなあ!」
「ま、政治だお家事情だより暴のほうがスッキリしていて好きでスね。
あー、やべ!!! 完全に鉄帝が感染ってきてる……?」
カイトの高速展開を『連鎖』で助けた美咲がわざとらしく冗句めいて、嘆く顔をした。
「おっと! そっちは行き止まりだよ!」
「うんうん。正直あの令嬢に縁も絡みもありませんが……ああして余裕ぶっている男を殴りたくはありますのでねぇ」
庇う格好で敵側の反撃を軽く食い止めた武器商人の一方で、バルガルは隙の出来た敵兵の横腹に喰らいつく。
「今回は、しっちゃかめっちゃかに動きましょうかねぇ!」
跨ったバイクのエンジンは静かに、而して猛る様に吼え――敵の防衛を穿ち抜く。
「やれやれ、また面倒なことに首突っ込んだもんだぜ。
ま、お嬢さんは兎も角、これも良い暇つぶしだ。やらせてもらうか。
今の戦闘形態を試すのにも――丁度良いしな!」
歯を剥いたエレンシアが可憐な外見からは想像も出来ない程に獰猛な『一の太刀』を見せつけた。
「手加減が苦手で『悪い』な」
言葉も無く血の線を引いて斃された兵は己がどんな業で屠られたのかも解し得まい。
(助けに向かいながら、救けられた……)
決定的なまでの口惜しさはエクスマリアが殆ど覚えの無い位の強い感情だった。
(己の不甲斐なさの償いと、命を守られた恩に報いるために)
今、何が出来るかは彼女にとって大事だった。
この進軍は彼女にとって最も偉大な復讐戦そのものだった。
「取り戻そう、絶対に――二度目の失敗は、あり得ない!」
流星の暴威。黄金の衝撃。
迎撃に動きかかった敵の陣地に膨大な暴力の雨が降り注いでいる――
現状までにおいて、戦力の一つ一つの個はイレギュラーズ側が大きく上回っていた。
アーベントロート兵は精兵と称して良いレベルではあるが、ヨアヒム子飼いの十三騎士団の影は現状無い。
「近寄ればどうにかなるってか? ――いちいち、甘いんだよッ!」
反撃への反撃、返す刃に放たれたミーナのフルルーンブラスターが兵を一撃で打ち倒した。
(……ちっ、面倒くせえな)
しかし、裏を返せばそれは彼女が『寄られた』事実を指し示している。
アーベントロート側は現状、数を頼みにした反撃が中心となっていたが、この戦いは明らかな長丁場だ。
もし、向こうが『本命』を出す前にイレギュラーズを『削る』意図ならば、成る程、それも効果的と呼ばざるを得まい。
「負けられないね」
「うん!」
だが、敵方の勢いがどうであろうと意気軒高たる【宿木】の乙女――サクラとスティアには余り関係の無い事だったらしい。
処刑台近辺からは巨大兵器による反撃が味方を脅かしている。
実際の所、無理攻めを果たすイレギュラーズ側の損害も甘くみられるものではなかった。
「当面の問題はアレかな。大問題は……あのニヤニヤしているおじさんだっけ」
「うん。ごめんね、スティアちゃん、我儘に付き合ってくれる?」
「えー……?」
愛らしい顔を難しくしてみせたスティアにサクラはぎょっとした顔をした。
「うそうそ! サクラちゃんは、一度言い出したら止まらないしね
どこまでも付き合ってあげる! オッケー! 全力でぶっ飛ばそう!」
「ありがとう!」とお礼を言うサクラは実に朗らかだが、その内心は決して見た目程は穏やかではない。
(……センセーが帰ってきていない以上、ヨアヒムの関与は確実だよね。
センセーを取り戻す為の手がかりを得る為にも! それにあの――)
『わたしのはじめて』をだいなしにしてくれた落とし前をつけてやる為にも。
――サクラの獣性は今はまだ味方のサポートに徹しながらも、地底のマグマのように煮えていた。
「……ホントに放っておけないんだから」
スティアが誰にも聞こえない声で小さく零す。
(――レオンさんが分からないなら私達が見せてあげないとって思うのだわ
やりたいだけやってやるのだわ、だから見ていてレオンさん!)
白翼は天使の姿を思わせる――
幾ばくか個人的な、そしてそれ以上に優しい華蓮の存在は強く仲間達を支える祈り(ねがい)となる。
彼女を中心とした支援者(ヒーラー)が傷付いた仲間達をカバーした。
「足を止めずに。極力全速を維持する事の優先を」
そして、端的に述べた黒子は乱戦に綻ぶ【騎兵隊】の隙を埋める最後のパーツだった。
アーベントロートの兵は多く、伏兵も数多く存在していると考えられる。
主目的たるリーゼロッテの身柄の確保も考え、ヨアヒムがどんな手段をも取り得るという事を考えても時間が勝負になるのは明白だ。
(やれやれ。目は薄いが……しかし、ぼやいていても始まらない)
官僚の如き苦労人の気質だが、肝心の主人(せいじか)はそんな事はお構いなしだろう。
「過去の罪業であの子が断頭台へと上がるのなら。
それを拒む過去達が居ても良い。それが重ねた罪の刹那の事でもよ!」
……この、イーリンは【騎兵隊】の名を武器に使っている。
士気は高揚、知られた部隊が斯様な号砲を放てば敵(ヨアヒム)をこれを無視出来まい。
「さあ回せ、どんどん回せ! この時を待っていたのは何もヨアヒム(あなた)だけじゃないの!」
そしてこの戦いはまさに始まったばかりだ。
注目を集め、その吶喊力で横合いを叩けば好機は無数に産まれ得よう。
彼女の作戦は我が為であり、誰が為でもある。
ローレットの、イレギュラーズの乾坤一擲たる攻勢は何も『東』ばかりではないのだから!
成否
成功
第1章 第2節
●STAGE I(西)
「まるで処刑を見せつけるみたいに……
オイラたちを誘うみたいに色々なものを配置してるなんていやなヒトだね。
逆に言えば、オイラたちが諦めない限りはどうにかなるって事なら……焦らずに行くしかないね」
アクセルの見た処刑場は不必要な程に煌びやかに思われた。
実の娘を手に掛ける父親の気持ちは知れないが、その華やかさは歪みに歪んだ『愛情』を連想させるには十二分。
「親が子を処刑するのは二児の父親として度し難い!
だから止めに行く! 理由としては十分だろう!?」
「詳しい事情は知らないけど……
リーゼロッテさんが死んだらローレットにいる人がいっぱい悲しむっきゅ……
だから止めるっきゅ! 止めてみせるっきゅ!」
【灰銀森桃】――ウェールの御する馬車がアクセル、レーゲンとトウカを乗せ、強引に外周の柵をぶち抜いた。
「世界や日常は大切な人や友情愛情……いろんな意味で好きな人が同じ世界で生きているから。
だから、そんな場所だから――守りたいと思えるんだと俺は思う。
だから俺も止めに行く。先輩方が豊穣を守ってくれたのと同じように、今度は先輩方の想いを――この俺も守りたい!」
晴天の嵐であろうとも、青天の霹靂ではない。
何ら予想外にあらぬ『当然の展開』は今、悪辣に君臨するヨアヒム・フォン・アーベントロートに対する挑戦の意志を明らかに肯定していた。
「曲者が――!」
「馬鹿な事を」
怒気を吐いて槍を繰り出した兵の一人を会敵したヲルトは軽く一蹴する。
「王が心を痛めている。ならば、オレの、リーモライザの為すべき事は決まっている。
国を正さなければならない。彼の意志こそ遂行されねばならない。
曲者はどちらか? 不敬は何れか。
敢えて言ってやるのなら――王の庇護下で、余計な事はするな、アーベントロート!」
一喝に怯むような敵兵ではないが、この緒戦において『攻め掛かる』を許されたイレギュラーズの勢いは確かに猛烈なものだった。
リーゼロッテ・アーベントロートの処刑会場を強襲したイレギュラーズの数は多かった。
始まりの号砲を告げた【騎兵隊】を中心にした会場東側と同様に、逆の西側からも多数の戦力が雪崩れ込む事となっていた。
「全く、非合理的とはこの事でせうね」
程無く始まった乱戦はあちこちに怒号と悲鳴を響かせていた。
各所、各方位で同時に侵攻を始めたイレギュラーズに相対する敵方はそれは困難な防御を強いられている事だろう。
(敢えて処刑を大々的に行うとは誘いかつ遊びなのでせうが……
元より、そうでなければ救出の目は無いに等しかったのです。
それなのに、この有様。つまりはそれこそを望んで居たという事でせうね)
呆れ半分、興味半分のヘイゼルは目を細めて胡乱な戦場に肩を竦めていた。
時折、仕掛けて来る雑兵を軽くいなしながら、全く守りに適さない迎撃を半眼で眺めている。
「ならば、その稚気に謹んで――食い破って見せませう」
ヘイゼルの内心を知った訳では無かろうが――
「わざと 隙を見せる 戦いかたなら わたしも 得意技ですの……!」
ノリアもまた、捉え所のないヘイゼルとは別の形で敵方を受け止め、翻弄していた。
―― 大海の抱擁に身を委ね 溟海のひそめきに思いをはせれば。
わたしの 自慢の つるんとしたゼラチン質のしっぽはつややかなかがやきに 満ちて、満ちてくれますの……!
「さあ……兵士さん! 任務もわすれて、おいしそうなのれそれに、夢中になると、いいですの!」
「私個人として因縁があるわけではないが……
助けを求め伸ばされる手があるのならばそれを掴みに行くのが騎士というもの!
朗々と高く、ブレンダの声はまさに戦場に我有と告げる名乗り口上の如しであった。
「おのれ――」
「我々はこの処刑に異を唱える者!邪魔をさせてもらいに来た!
貴殿等も兵であり、武人であるならば。その武技をもって罷り通ってみせるがいい!」
正義でもない。悪でもない。
但し、意志があり、想いがある。
噛み合わぬというのなら、話を推し通すべきは『強い方』になるだけだ。
ブレンダの啖呵は時に暴れ、時には自由に吹く風のように霧を晴らし、戦いの論理を明らかにするものだ。
『防御的』な面々に負けぬのは攻勢に出る面々も同じである。
むしろ彼女達以上に攻め手は猛り、処刑場までの道筋を食い破らんと前に出る。
「貴様等、あくまでアーベントロートの邪魔をする……!」
「うるさいです」
目の前に立ち塞がりかけた兵長をルル家の渾身の『泥』が呑み込んだ。
何時も朗らかな彼女からすれば信じられない位に一方的で容赦のない口調は強い決意を滲ませていた。
「リズちゃんを助けに行ってリズちゃんに助けられて……
あれほど悔しかった事は、無力を感じた事はありません……!
リズちゃんは絶対に助け出して見せます!」
「私はルル家が無茶をするのを見張るためにここにいますから。
……どうせ無茶をするなと言ったところで聞かないでしょうから、せめて目の届くところで無茶をしていただきましょう」
友人の為に握るその弓の何と心強い事か――正純の声色は口調よりは随分と柔らかい。
「うんうん! あのお嬢様はルル家先輩のお友達なんだよね!? んじゃ守る! かんたん! よし!」
「リーゼロッテさんは確かにいい人……とは言い切れない面もあるのは確か。
それでも、こんな風に処刑されていい由なんてあるわけない!
ルル家君のためにも、必ず助け出してみせるよ!」
「出し惜しみはなしで!」と力を振るうフランが乱戦、前線を力一杯支えに掛かり、アレクシアもまた広い視野と前線維持能力を如何なく発揮していた。
「友達が助けたいというのであれば刀を握らない理由はないよね。
処刑人の、処刑荒らしとか――皮肉がすぎるけれど、悪くないさな」
冗句めいたシキの黒顎が『冗句ではなく』邪魔する敵兵をブチ抜いた。
「どんな敵だって蹴散らしてみせるさ――ルル家(ともだち)の為なら!」
単純な事実である。
それは、単純すぎる事実である。
『強いのだ、このローレットの精鋭は』。
(――そう、彼女は敵だ。だが、敬服するべき敵だ。
こんな面白半分の汚辱を赦される相手ではない。
私は、きちんと彼女と殺し合いたいのだ。
そうでこそ、今まで喪われた命が精算される。
だから、行け。行って彼女を救え――)
エッダのそれも含め、想いは様々、されど腕前もさる事ながら、恐ろしく統制が取れている。
「声を聞き、剣を取った――
ルル家が助けを求めているならそれに手を貸すのは当然よね。
それに、リーゼロッテにここででっかい貸しを作っておくのもいいでしょう。
楽しみにしておく事ね、暗殺令嬢閣下!」
「これで何かあった時、伯爵の味方をしなかったら承知しないけど!」と『半分だけ冗談で』リア。
友達の為に頑張る、なんて。言葉にすれば余りに語るに落ちる。
面映ゆくて、むずむずして――素面で言い切るのは難しい。
されどそれは何処までも否定し難い真実の一部である。
『最初からこんなもの損得では無いのだ』。
レオン・ドナーツ・バルトロメイの制止(ごうりせい)を振り切ったその時から決まり切っている。
動機の大半は恐ろしくウェットであり、情実的なものでありながら、それ故に譲らぬ意志を持ち続けていた。
(さて、あのご令嬢の事となると、熱くなる人が多いからね。
『バランサー』として、一歩引いて戦場全体を広く見えるように……
出来る事はしていかないとね)
マルクは油断なく戦場の隙を埋め、不足を補い、有利を更に上乗せする。
「私自身はリーゼロッテさんと殆ど面識はなく………ええ、ですが。
善か悪かは置いておいても、友人が助けたいと願うのであれば。
ルル家さんが救う物語を望むのであれば――その紡ぎを、お手伝いいたしましょう」
「道を、拓きます」とリンディスもまた言い切った。
言い切り、その言葉に違わぬ力を尽くす――
「――ありがとうございます……皆さん!」
思わず胸を詰まらせそうになったルル家は――【銀絆】なる旗に集った仲間達に心底感謝し、背後の仲間に振り返らずに声を張った。
「各々の理由で集った方も、拙者を助ける為に集ってくださった方々も……
リズちゃんを連れ、無事で帰りましょう! この後の宴会は奮発しますよ!」
「ふふっ……」
ルル家の言葉に場違いに華やかな笑みが零れ落ちた。
「宴会の……では無くて、ルル家の頼みであれば、断る理由はありませんわね。
貴女の進む道は、私達が切り開きましょう。ですから、お酒は吞み放題で!
……マリィ、準備はよろしくて?」
「ルル家君! よく頼ってくれたね! この私に任せたまえ!
君が進む道は私達が切り開く。準備は万端さ! 行こう、ヴァリューシャ!」
受けに回っては処刑場は程遠い。
今求められるは速さであり、威力であった。
例えるなら強き虎のように、獰猛な鰐のように。
「敵が多いね! だけどヴァリューシャと一緒なら負ける気がしない! 我が雷撃を見せてやる!」
雷装深紅を纏うマリアと、
「――さあ、主の御許へ送られたい方から掛かって来なさい!」
些か聖職者らしからぬ『剣呑』を見せるヴァレーリヤが敵陣に喰いかかる。
「ヨアヒムの目論見は俺の頭が及ぶところにはないだろう。
公のお考えについてもそうだ。
……しかしこれはローレットとしてヨアヒムを退場させる唯一無二の機会。
アベルトには悪いが手柄を立てさせて貰うぞ……!」
【銀絆】を中心とした奮闘に押され気味の敵陣だったが、強く前に出たシラスを否定するかのように『見えない銀光』が閃いていた。
「おっと」
『見えないにも関わらず』首を竦める事で必殺を外したシラスはやはり飛び抜けた個人の強さを見せつけた。
自他共に認める黄金双竜の走狗は然したる驚きも見せず、第十三騎士団(あらて)の投入に唇を舐めた。
「……いいね、気合が入るぜ」
敵方に切り札を切らせねば何時まで経っても危険は潜み続けるだけである。
第十三騎士団の潜伏を予め警戒していたシラスは温度視覚(サーモグラフィ)で鋭く警告を発していた。
アーベントロートの兵に暗殺者を加えた迎撃とイレギュラーズが更に強くぶち当たる。
「言っておきますが――」
目を細めた空観は『新手』にむしろ喜色さえ滲ませていた。
「――私の大目標はまず梅泉さんを取り戻す事です。
あの時、私はその場に居らず何も出来なかった、この忸怩たる思い……晴らすべきは貴方方なのですよ」
アーベントロートの兵に非ず、彼女の三つ目が睥睨するは薔薇十字機関。
否、もっと言えば『あの太り肥え慢心しきった豚』ばかりである!
「無論、ルル家さんの事も気掛かりです。詰まる所やるべき事は単純明快。
嗚呼、申し上げておきますが――少々殺気立っておりますので、詰まらぬ茶々はご遠慮下さいね」
地面を割るか否かと強烈に踏み込んだ空観が魔道冥府、鬼道必滅の大業物を無尽に振るう。
恐ろしく正確に潜む敵の頸を狙った切っ先に血の線が迸り、空観の頬を濡らしていた。
「同感です」
恐ろしく怜悧に、そして愛らしい外見を裏切る程に冷徹に。
頷き、短い同意を見せたのはドラマである。
「リーゼロッテ様の生存可否は……正直、私個人にとっては重視するコトではないのですが……
ルル家さんやレジーナさんが悲しみますし、ね。
何よりこれは、あの不愉快な魔術師をぶちのめす、ついでですから」
『アレ』が何もかも好き放題に――思った通りに物事を進めるのは許せない。
(あの魔術師が私の――、君を――を――した以上は、『報い』は分からせてやらねばなりません)
――オマエ、分かり易いから――
(そんな事はありません。それはレオン君の主観です)
叡智の捕食者は賢いので、難消化性の苛立ちは表に見せない。
意地悪な師匠の評価は兎も角、ドラマは絶対にそれを口にしない。
但し、口にしないのと不感症はまるで別の問題だ。
腹心(ヨル・ケイオス)をして全方位に不快な主人である。
当然ながら、『腹に据えかねた』のは空観だけではない。
他人の『地雷』なんてものは好き好んで踏みに行くものではないのに――
ヨアヒム・フォン・アーベントロートだけがそんな事を理解していない!
「おいおい、熱くなってんな。何処もかしこも!」
熱くなった銃口を軽く吹き、ジェイクが小さく肩を竦めた。
「ローレットも、今回は私情に走り過ぎだろ……
……ま、そういう俺も、他人の事は言えないが。
家庭の問題は兎も角、父親が娘を殺すなんてありえねえ。
これだけでもヨアヒムをぶち殺すには十分って訳でな!」
「大切な弟も、守ると約束した少女も…手を伸ばす度にこの手から滑り落ちてきた!
オウェード殿にそこまでの覚悟があるならば、傍観してはいられない。
誰かが大切な人を失う姿を見るのは、もう沢山だ!」
「あらあら……大変な状況がもっと大変になって来てるわね。
……でも、そうね。同じ薔薇を掲げる者同士、少し位は助けてあげないといけないでしょう?
私は正義的な善悪や過去の諍いに触れるつもりは毛頭ないし、ね」
猛烈な勢いを見せる【銀絆】に負けじと処刑場を目指すのはジェイク、弾正、飄々と微笑うヴァイスを含めた【黒鉄】である。
「……義によって助太刀参上! ってトコ?」
幻想の貴族は嫌いだ。
ミルヴィにとって『彼女』は決して望ましい人物では無かった。
(……でも)
何かが変わってきたのかも知れない。そうも思う。
(これからも見守りたい……これ以上、今は上手い言い回しが思いつかないケド)
思うなら、この戦いへの参戦はきっと正解に違いなかった。
「幻想も貴族色が強いとは思ったが親子でここまでの争いがあるとはな……
どちらが正しいかなんてわからんが、ローレットに縁があったのは暗殺令嬢の方だと言うのは知っている。
ここは一手助力としてみようか!」
「随分な状況だが……袖擦り合うも多生の何とやら。
街角で交流した縁がある……少しばかり手を貸そう……」
「オウェードとは天義の依頼で何度も世話になったからな。満足いくまで付き合おうじゃねぇか。
……いや、実際。女絡みの後悔ってのは、どうにも後に響くからな」
錬が、サイズが、ベルナルドが【黒鉄】を差配し、前を目指すオウェードを援護した。
「……そういうモンかい?」
ベルナルドの言葉に小さく尋ねたのは同様に戦いを続ける飛呂だった。
救出対象(リーゼロッテ)は必ずしもプラスとは言い切れない人物なら、正直彼の心境は複雑だった。
「ああ、本当に悪い癖になる。実体験だから信じていいぞ」
「やっぱり、そういうもんか」
ベルナルドの脳裏を過ぎるのは『あっかんべえ』をする捻くれた天使(アンジェ)だ。
「……確かに。ここで力にならなきゃ、好きな人に胸を張れる男じゃなくなっちまいそうだ。
男なら、格好つけるのも大事だよなあ!」
声を張った飛呂が想像したのはやはり可愛げのない、あの――
「今日のお祭りの会場はこちらかしら~?
ノリが悪いの! 公開処刑はエンターテイメント。
それなら――場が盛り上がらないならやらない方が良いと思うのよ」
遠距離兵器(バリスタ)を警戒しながら後衛の胡桃が邪魔を排する。
戦いはまだ緒戦に過ぎなかったが、あくまで攻め手(ローレット)は意気軒昂に満ちている。
全ては一つの目的の為に。意志と力が束ねられている。
神様が望まないかも知れないハッピーエンドを奪い取るなら、立ち止まっている暇は無い!
「リーゼロッテ様の危機だと言うにも関わらずわしはこれまでその場に立つ事が叶わなかった……!
だが今は違う……ワシは今リーゼロッテ様の為に動く! 例えこの命を失おうとも……
ワシはリーゼロッテ様の事が好きじゃ……故に、何としても彼女を……!」
闘志を燃やすオウェードの血を吐くような決意の表明は此度、何をしても揺らがない。
「ン。フリック 最後マデ 主 護リ抜イタ。
死後モ 護ッテル。オウェード 君モ ヤリ通セ。
……我イル限リ 黒鉄 朽チサセナイ」
「うむ! ワシはオウェード――オウェード=ランドマスター!
蒼薔薇に忠誠を捧げし、黒鉄の守護者なり!!!」
フリークライの激励にオウェードは声を張った。
……情実的な動機という意味において『男の子』のそれに勝るは存在し得まい。
成否
成功
第1章 第3節
●STAGE I(南)
「悪辣オーケストラアンサンブルへようこそみたいなシチュエーションだ!」
悲鳴じみた声は定の上げたものである。
(ぶっちゃけ、陰謀渦巻く中世ヨーロッパみたいな場面に出くわすなんて……
ホント、数年前の僕には想像も出来ない状況だぜ?)
自問自答しても状況は変わらない。目を閉じて、開けても『夢』は醒めない。
(……ぶっちゃけ、めちゃくちゃ怖い。
暗殺者集団って何? 漫画? アニメ? ビビらない訳がないだろ!?)
冗談のような現実は、されど定にここに立つ事を求めていた。
「でもね。誰かに助けて貰ったらちゃんとお返しをしなさいってのが越智内家の家訓なんだ!
だから、やるぜ。新田さんの為にもね!」
そして――に、胸を張る為にも、だ。
「青春っぽいじゃねえか、少年!」
豪放磊落なグドルフの笑い声が定の決意を肯定した。
「それによ、イイ歳したオッサンがオンナの為に必死になってんだ。
アツいじゃねえか、面白ェじゃねえか!
いいぞ、こっちも気合いが入るってもんだぜ!」
武骨な戦斧を繰り、至近距離の暗殺者(プロ)に相対する彼は一見の印象を裏切って実にクレバーでテクニカルな戦いを見せている。
「そうさなあ」
グドルフの言葉に応えるでも無く応えたのはルカだった。
「カンジに貸しを作る機会なんざそうそうねえ。
それに、好いた女を助ける為に……ってのはどうにも他人事に思えねぇしな。
ハッピーエンドってやつを見に行こうじゃねえか、誰の為にも!」
「ああ。その、好きな女の為にっての、いいじゃん?
いいぜ新田さん。手伝ってやるよ。
上手くいったらその時は、俺の名前を功労者として挙げてくれよな」
軽やかに笑ったのは千尋、
「愛する者の為に立場を脱ぎ捨て人として立つ!
実に、実に清々しい。新田寛治よ、これは素晴らしい男ぶりだ!
相分かっている。任されよ。この戦場においてはこのベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ、卿の為だけに旗を振ろう!
暗殺集団大いに結構。私が旗を振る場所即ち今此処にいる戦士たちは皆悉くを蹴散らす殲滅兵団とならん!」
ベルフラウの華やかかつ勇壮な口上、
「正直貴族の権力争いとか、お嬢様がどうとか知ったことじゃない。
でも、アーベントロートのブランデーの香りは好きだし……
いつも(トゥデイ・トゥモロー)のボトルも気になるわ。
……何よりいつも胡散臭い、冷静な新田さんがこんなに感情を出すなんて!
イイ女なら、男の子の恋路くらい応援しなくちゃね。
腰が痛い中年だって、胡散臭い眼鏡だって――恋をすれば『男の子』。
ね、そっちの方が――ずっと、ずぅっと素敵じゃない?」
そして取り分けアーリアのこの言葉は良く『効いた』のだろう。
如才ない大人の顔に僅かばかり困らせて――小さな苦笑を浮かべた寛治は小さく肩を竦めて言った。
「皆さんには感謝していますが、その辺りの盛り上がりは『後』に取っておくとしましてね。
そういえばヨアヒム侯には、ご挨拶がまだだったことを思い出しましてね」
「お嬢さんを下さい」は大人の男に課された通過儀礼そのものである。
多くの局面がそうであったのと同じように、父親は今日も娘を望む誰かの壁になるという事なのだろう。
(それにしても……手痛い『弱味』を見せたものです)
まさか自分がこんなに情熱的な男だったとは――寛治自身、自分に嘘を吐かれた気分である。
『友人達はどれもこれも、ここぞとばかりに口さがない』。
それは決して悪意ではない、むしろ友情の発露ではあるのだが、寛治の生き方は『良くも悪くも』反省すべきものであろう。
閑話休題、寛治に居心地の悪い『愛の話』はさて置いて。
「誰の思惑がどう、なんてわたしにはわからない!
でも。あなたが熱くある間、わたしは新田さん、あなたの副官ですよ。
さあ、吼えましょう! 猛々しく、何処までも真っ直ぐに――『彼女』を助けにいきましょう!」
恐らくは『今日だけ』の副官(ココロ)に寛治の口元が緩んだ。
「ありがとうございます。御礼は後日……おっと、中身は内緒にしておきましょう」
「何だか不穏な予感がするのですけど!?」
軽口の余裕は寛治を証明するバロメータだ。
状況は絶望的でも『悪くない』。
まだ何一つ先は決まっていないのだから。この場所にはこんなにも助けてくれる仲間が居るのだから。
事実、南側から処刑場に攻め入ったイレギュラーズの戦力の大半は寛治が頼んだ【銀弾】に集中していた。
(ヨアヒム・フォン・アーベントロート……
彼の考え、あれだけの悪意……少し、理解してみたい気持ちがあったりはしますが)
娘をこれだけ悪辣なエンターテインメントに使い潰す怪物はマリエッタからしても『深淵』である。
彼女は魔女なれば、興味の対象として彼を見る事も出来るのだが――
「お世話になっておりますし。何より、悪いことをするのは血を奪う魔女の特権ですから」
――覗き込めば不幸になりそうな洞よりも、今日は優先する事が他にある。
見るからに参戦の動機は様々だが、目的は可及的速やかな攻略で一致している。
「この時を待っていました、そう、カチコミの時間です!
拙の仕事はただ一つ、真正面を斬り開いて新田さん達の道を作る事!
警備兵、薔薇十字、纏めて真っ二つですとも。いざ、尋常に!」
「リズはボクの友達だからね。絶対に助けるよ!
ボクの役目は前衛で敵を排除すること。全力で行くだけだッ!」
裂帛の気合を吐いたステラ、セララが第十三騎士団の援護を受け始めた危険な敵陣へと飛び込んでいる。
多くの人間がそうであるのと同じように、戦う理由が情なれば善悪の彼岸はあな遠い。
(陛下の仲裁さえも無視しての強行。幻想にとってまさに火種。
立場を理由に動けぬからとリーゼロッテ様の処刑を見過ごせば、アーベントロート候がこれ以上何もせずとも更なる凶事を招くでしょう。
それこそ『小火』では済まなくなる予感があります。アーベントロートの問題は、此処で解決を――禍根を断たねば)
リースリットはそこまで考えてから、内心で臍を噛んだ。
『しかし、どんな理由をつけた所で、これは露骨過ぎる内政干渉である』。
国内法に鑑みても勝てる目は一分も無い。
事こうなった以上は是非も無し、政治力に長けるレオンに腹案はあるのかも知れないが――
究極的に言うならば『アーベントロート侯を討ち取って有耶無耶にする』以上のプランがあるとは考え難い。
果たしてそれは『善』か? 『秩序』か?
貴族の子女として教育を受ける彼女はファーレルが動けない理由も十分に承知していた。
究極的に言えば自身も参加するこの戦いは『蛮行』に他ならず、如何な精神的大義を帯びていても論理的な拠り辺は薄い。
アーベントロートが拙速な処刑を選んだ結果、ローレットもまた拙速かつ危険な綱渡りを余儀なくされたのは必至なのである。
(それでも。他が動けないのならば、新田さんに助力する形でせめて……!)
これは恐ろしく物分かりの良い『優等生』の見せたほんの僅かな例外なのだ。
「今回は堅苦しい大義とは一切無関係。
『まだ』正常な秩序の下の処刑を潰す、なんて――
これまで積み上げてきた信頼を失い疑念を生む何とも酷い蛮行だ!」
実際の所、リースリットの内心も知らず高笑うブライアンの言葉は言い返せない程の正論に違いない。
しかし、彼の内心は、ここまでの言葉とは実はまるで裏腹であった。
「それなのに躊躇い無く行くのかよ!
ハッハー! オタクら最ッ高だ!
こんなにタノシイ祭りをよォ、見てるだけなんて有り得ねえよな!
そらそら、バケモノ共! これまで控えた『銀の弾丸』がアンタ達を撃ち抜くぜ!
この俺が文字通りの道を作ってやらァ!!!」
……古今東西、情愛は人を狂わせるものである。
愛が肉親のそれであろうと、男女のそれであろうと、友人同士のそれであろうとも変わるまい。
人は正義を掲げた時、最も冷酷になれるとも言うが、愛を掲げた時、最も無分別になるのは確実だろう。
だが、それは一概に否定し難い人間の常である。
「どうせおぜうさまは、なんもかんもみーんなおしつけられて、重量過多で斬られるんでしょ?
……そうやって大切なひとがいなくなると、みんなに天変地異が起きたりするからさ!
何かもかもみんなスッ転んで、大ケガする前に、私ちゃんたちが止めに行かないとな?」
秋奈の言葉は『胡乱な真実』だ。
「行くぜ野郎共! お宝を奪いに行くぞ!」
情は人を脆く、盲目にさせ。同時に何より強くするのだから――
「それじゃあ……殴り込みと行きますか!
マネージャーへの借りもあるが、なにより親が子をどんな意図であれ殺す図が気に入らねぇしな」
姿勢を低く黒い影が躍動する。
『死神』を自認するクロバは今日も切り込み隊長のように先を狙う。
「幻想の一部がややこしいことになってるらしいってのは知ってたが……
『か弱き乙女』が処刑されるなんざ気持ちいい話じゃねーよな?」
「相手が父親じゃ救われない。いよいよ滅入る」と嘯いた誠吾が『正しき』を掲げる審判の剣で幾度目かの『ジャッジ』を下す。
「感情的で悪ぃけどな。判官贔屓は得意でよ!」
「政治は全然わからない。
けれど……あんな真剣な眼差し、初めて見たよ。
人って、あんなに真剣になれるんだね――」
「あのお嬢様が殊勝な事と言ったら! それだけ親父さんが恐いのかな。
新田さんも何時に無くマジだし、こりゃ気合入れるっきゃないね!」
「さぁて、我らがヒロインの救出だ、張り切ろじゃないの!
ついでに……全部掌の上でございっつー感じのクソ野郎に力一杯吠え面かかせてやりたいよなぁ!」
「貴族のことはよくわからないけど……
ぼくの友だち含めてこんなにたくさんの人から『生きて』って願われてるなら助からなきゃだめだよね!」
ハリエット、朋子、プラック、リュコス……シンプルに力を漲らせたイレギュラーズは他方に負けじと猛烈な攻勢を見せる。
「人を殺すことを楽しむなんて私は嫌です!
それにこれまで依頼で知り合ったみなさんがすごく本気だから……
私も力になれたらって……!」
ユーフォニーが拙くも、力と共にその『決意』を吐き出し、
「お貴族様の問題に興味なんてさらさらないのよね。
でも新田さんにはお世話になったし、なにより人の命を弄ぶのは好きじゃないの。
だから邪魔をさせてもらうわ。処刑なんてものよりもっと『いいもの』を魅せてあげる!」
麗しいステップで魅せるヴィリスの『脚技』が言葉通りの彩を添える。
「このステージは――素敵な恋物語の前座になれるかしら?」
乱戦は一秒毎に彼我の被害の激しさを増していた。
「正統だろうが元祖だろうが知ったこっちゃねえよ!
オレにとってはお嬢……リーゼロッテこそがアーベントロートなんだ。
自称親のポッと出に――あんな銀豚にお嬢を殺らせてたまるか!」
前を阻んだ兵を迸る闇の如き抜刀で薙ぎ払った紫電が啖呵を切る。
「助力を求められたのであれば応えるのが黒狼としての努め。
この牙、その喉元に突き立てて差し上げましょう」
静かなるリュティスは何処か艶然にも見える風情で微笑う。
「ご主人様に情けない姿を見せる心算も無いのです。
言っておきますが――逃げるなら今のうちですよ?」
実際、この緒戦がローレットの素晴らしい攻勢である事は間違いない。
如何な守り難い現状とはいえ、罠を張って迎撃に出た敵方を加味すればその評価は適切だ。
だが、かなり甘めに見積もっても『確実』でも『十分』でも無い。
攻め側の優位で押し込むイレギュラーズだったが、それでも戦場は混沌とした色合いをも見せている。
「甘く見てくれるな」
低く声が響き、乱戦に不可視の悪意が暴れ回る。
「……ッ!」
鋭い悲鳴は誰のものか、少なからず味方が傷んだ事は知れていた。
多勢の兵をブラインドに暗躍する暗殺者は至上の危険を孕んでいた。
何れも異常な程に研ぎ澄まされた殺傷力の塊は、イレギュラーズの僅かな隙を何時如何なる瞬間も狙っているのだ。
「流石にね、やられてばっかり、ってわけにもいかないでしょうよ。
やられたらやり返す、取られたら取り返す。
そっちの理屈も分かるけど――都合も事情もこちらも同じ!」
だが、一線の暗殺者であっても彼女を――イリスを仕留めるのは相当の難題だった。
決死の盾を携えた彼女が防衛するのは攻撃、支援、パーティの要である。
「微力ながら、わたしもお手伝いをさせていただきます。
少なくとも、多くの人がこの状況を望んでいないことは分かるのです。
ならば、この戦いに――何の躊躇もありません!」
咄嗟に庇ったシルフォイデアの支援が傷付いたイリスを賦活する。
「正直、腕前では敵うまい。
正直、何が出来るか等――知れておる。
だが、この話自体気持ちは良くないというのもあるが……
淑女を救わんと燃える男がいるなら、老骨はそれを支えるのみよ」
同じく。血を滴らせ、鋼糸を食い止めたバクの言葉には強い意志が宿っていた。
「ああ! ホント、もう! 処刑とか――ヨアヒムに腹が立つし!
リーゼロッテさんには生きて幸せになってほしいから……僕も全力を尽くすんだから!」
枯れよと叫んだヨゾラの声は僅かも譲ろうとはしていなかった。
守り手の、癒し手の――執念めいた矜持は簡単に崩せるものでは有り得まい!
「……俺の信頼する人たちがこれまで必死になるんだ。
俺が手助けをする理由には十分過ぎる。
こういう時はこう言うべきなんだろう?」
――義によって助太刀させてもらうよ。
踏み込んだヴェルグリーズが姿を現した暗殺者に肉薄する。
「噂に名高き薔薇十字の刃、どれ程のものかたっぷり味わわせて貰う!」
頻繁に入れ替わる攻防、潮目を引き寄せ続けるのは玲瓏たる意志。
「退くというなら追撃はせん。だが、そうもいかぬのだろうな」
静かに、冷徹に告げたベネディクトの目が細くなる。
「ならば――互いに納得、覚悟の上で刃を交えるとしようか」
整ったその顔に凄味が走り、その武威が剣が守勢に回った敵勢を鋭く速く追い詰めた。
「……寛治!」
「助かります」
脇を駆け抜けた寛治の背を守り、ベネディクトは先を思う。
寛治の見え過ぎるグラスが遠く見つめるのは茨に張り付けられた姫の姿に違いない。
(焦るな。俺も、他もここに居る)
語るに落ちるを口にするはしないけれど。
新田寛治はそんな事、誰よりも分かっているのだけれど――
「――リズ!」
届くかも分からない、否。恐らくは届かない距離で寛治は声を絞った。
「必ず行く! 私が……俺が行くまで――待っていろ!」
ひゅう、と無黒が口笛を吹いた。
「おろ? 新田さん? ……リーゼロッテ嬢の呼び方……
……ふふっ、新田さんもなかなかアツイ漢だったんすね!
これは一層お手伝いをしてあげないと! もう一切の手加減してやらないっす!」
成否
成功
第1章 第4節
●毒花、魅せられ
――これはきっと、いつか辿り着く事もあった結末。
今までの悪徳、因果が還って来たのだと思えばそうでしょう。
穢れた両手は拭えない。積み上げた罪は決して消えはしない。
貴女は何時だって誰よりも罪深く、貴女は誰よりも甘やかだった。
こんなに恋しても、愛してもそれを否定させてくれないのだから。
きっと、貴女は『そう』だったでしょう?
戦いの中でレジーナは考える。
一目惚れのように出会ってしまった日の事を。
無数の可能性をより合わせた結果、辿り着いてしまった今日という日の事を。
確かに、リーゼロッテ・アーベントロートは罪深い。
彼女は華やかな罪業と毒に塗れていて、そんな彼女を是が非でも助けたいのは自分自身のエゴである事を知っていた。
だけれども。
「愛は、残酷なものだもの。倫理だけでその結末を肯定する理由は無いでしょう?」
故に彼女は【銀紅】を開いた。
美しくも悍ましい『愛』なる感情が曇らぬように。
自身ならぬ、他の誰にも。
あの至高の薔薇を手折られる事の無いように――
●STAGE I(北)
「流石にこんなもんを、放っておける訳はないよな」
一人ごちたウィリアムの睥睨するのは悪辣に捩じれ曲がった悪意の罠だ。
「頼むぜ、アイラ。頼もしい弟子よ。
俺は――微力でも道を拓く力になりたいんだ」
「はい! 道を切り開きましょう、ウィリアムくん!」
傍らのアイラは――美しき氷蒼の蝶は花のように笑っていた。
「青い薔薇の花言葉は不可能だとは言いますが……夢叶うなんて言葉もあるみたいです。
ウィリアムくんは、どっちを信じたいですか?」
「言うまでもない」
諦めたなら願いは決して届かない。
誰も彼も終焉に弓引き、定めを呑み喰らう可能性の獣(とくいうんめいざひょう)なら――
「しょーじき他人の色恋に首を突っ込む気はないんだけど!
まあここで黙っとくのも男が廃る、ってことで――俺、参上!
とにかく邪魔な奴をぶっ飛ばして処刑台を目指せばいいんだろ?
狩人らしくないけど、今日は狩人はお休みってコトで! さあ、突撃!」
――運命と戦う『ノリ』なんてこのミヅハ位でも丁度いい!
「我は吸血鬼シャルロット、この処刑に物申す者!
義のない処刑をあくまで遂行しようとするならば、主諸共我が剣の錆にしてくれよう!」
玲瓏たるシャルロットの口上が場を切り裂き、互いに望んだ実力勝負が彼女の得物に血よりも赤い軌跡を描かせる。
「ならば、最早――是非も無い!」
互いの意志が何処までも平行線と言うのなら、話し合い等眠過ぎる!
イレギュラーズによる暗殺令嬢処刑阻止、処刑場の強襲は一層激しさを増していた。
(うーん。いつの間にこんな事に?
僕自身に縁はあまりないけど、彼女が死んだら楽しくないし。
悲しむ者が沢山いるよな……ならば助けに行かない理由は無いね!)
ランドウェラが確認した観衆の様子は『困惑』であった。
彼等はアーベントロートの領民であり、本来の主人たるヨアヒムと最近評判の悪くないリーゼロッテ、そして『幻想の英雄』たるイレギュラーズとの戦いに態度を決めかねているようだった。東西南、三方向からの猛撃はこの北方位からの進撃をもって包囲攻勢を完成させているが、それを眺める民達はまるでコロッセオの観衆のようである。
「……しかし、舞台は好きですが、これは主催者も演目も悪趣味過ぎますね」
『演出』を理解する雨紅はそれがヨアヒムの狙い通りであると踏んでいた。
文字通り全ての方角に守りを不可欠とする『防御に最悪なロケーション』だが、敵はそれを望んでいるふしさえ感じられる。
そうする理由はと問われても、狂人の発想を探すのは無為ではある。
「何が処刑だクソッタレ!
捕まえて何かするのはなんとなく分かってたっスけど、そこまでするか!
挙句、こんな風に見せつけるようにやりやがる……
性格が曲がってる奴は――ああ、畜生! どこまでもねじ曲がってんのな、貴族って奴はよ!」
葵の整った顔にハッキリとした憤慨の色が乗る。
「悪趣味な公開処刑だ。わざわざ助けに来るよう仕向けて、後悔すんなよ」
「隊長(アルヴァ)から召集があったとあれば、参加しない理由は無いな。準備はとっくに十分だ」
元々嫌いな幻想貴族がもっと嫌いになれそうな対戦相手にアルヴァの顔が渋みを帯びるが、ルクトは淡々と冷静沈着なままだった。
強いて『想像』するならば『そうしなければ盛り上がらないとでも思っている』と嫌気な結論に到るのは必然だ。
そこまで甘く見られるのはどうにもこうにも愉快ではない。
(子供の成長を喜ぶ親は多いけれど、こうも歪んでいると気持ちが悪い……
リーゼロッテさんとも長い付き合いになったし、これはあまりと言えばあんまりだ。
最初は彼女が怖かったんだけどね、いやはや。奇妙な縁と言うか何と言うか……)
アルヴァの悪態や文の『感想』は恐らく多くのイレギュラーズが同意出来るものだろう。
ともあれ、これまで喰らいついた三方位それぞれの健闘もあり、『北』の戦域もまずまずの推移を見せていた。
「お嬢様とは会ったこともないし、悪い人だとも聞いている。
けれど彼女を助けようとしている者が居る。死を見世物にしようとするもっと大きな悪がいる――
なら今ここで私が撃つべきは明らか。オニキス・ハート、これより支援砲撃を開始する!」
オニキスによる斉射が火を噴き、
「知人友人を手助けするのに特に理由は無いよね。
それに、私はお祭りには取り敢えず参加するって決めてる方だから」
Я・E・Dの鉄の星が広域に問答無用の破壊力を降り注がせている。
「処刑されちゃいそうということはか弱いということよね!
おねーさんが助けてあげなくちゃ!」
ガイアドニスの『人物評』は聞く人が聞いたら噴き出してしまうものかも知れない。
だが、確かに今日のリーゼロッテは『囚われのお姫様』には違いなかろう。
「リーゼロッテさんとは別段ご縁は無いですが。
『ご貴族様方』が荒れれば幻想もどうなるか分かりませんし、手を貸しますよ。
此処にボクが居る理由はそれ位ですけどね」
「ああ。個人的な義理は兎も角……これまで関われなかった分も、この貴族騎士にも暴れさせて貰おうか!」
混乱をきたす敵陣に【遊撃】の先鋒、鏑矢としてチェレンチィ、シューヴェルトが食らいついている。
幾分か皮肉も見える声色ではあるのだが、『つく側』を迷わせる程ではないという事だろう。
(オレにとっテ大事なモノといえバ、やはりプリン!
そしてコウモ頑張るイレギュラーズがイルという事ハ……)
マッチョ ☆ プリンの結論は速やかで、確実だ。
「オレデ言う『プリン』が『リーゼロッテ』ナヤツがイルッテ事ダロウ!!」
「正直、俺には縁の無い話ではある。
だが、何故だろうな、この状況が『気に食わない』と感じた。
感じたなら……霊が囁いたにせよ、そうでないにせよ。
俺がここに居るのも必然だと言えるのだろうな?」
「幻想の異変はひいてはローレットの異変!
なら僕らも僕らの為に遮二無二頑張らせて貰わないと!
……レオンさんが色々取り成してくれてるみたいだしねっ!」
「……思いの強さも、形も、方向性もそれぞれかもしれません。
ただ、そこにあると感じるから。愛というモノが。
私はそれを、支えたい。そう思います。思わずに、いられないのです」
アーマデル、カイン、グリーフにしても「是非も無い」のは同じらしく。
投げられた賽は、既に乗ったこの船は場に居る誰にも激しい闘争を望んでいた。
……カインの言うレオンが今頃、頭を抱えているのは間違いないが、アタッカーもヒーラーも。
「……嫌いなんですよね、血族を切り捨てるとかそういうの。
僕にできることは多くはありませんが、微力はつくしましょう」
例えばこのベークならディフェンダーとして。戦いの中で誰もが自身の役割を果たし続けている。
「あのお姫様、私は面識は無いけれど……
あんな愉快で可憐で、ローレットを振り回せる人、他に何人もいるもんですか!
何気ない行動が誰かの心を動かすことだってあるのよ、良くも悪くも、ねっ!」
声と共にノアの放った雷撃の蛇がのたうち、暴れ回った。
「まぁ、乗り掛かった船を下りるってわけにはいかねぇし。
このまま処刑されても寝覚めが悪い――かと言って、助ける側がやられても世話ないからな」
攻勢に出た彼女を守るようにエイヴァンが立ち塞がり、にやりと笑う。
「全員無事で帰れることができるように――ちっとは頑張ってやろうじゃねぇか、ってな!」
緒戦で攻め掛かられ、押し込まれたかに見えた敵方もそれは同じ事であり、潜んでいた虎の子の第十三騎士団、更には恐らく封魔忍軍と思しき連中も含めて――イレギュラーズの勢いを受け止める迎撃側も徐々に戦いのペースを取り戻しつつあった。
「おっと、危ねぇ!」
ルナの警告が間一髪届き、直後にバリスタによる攻撃が味方側の陣地を揺るがす。
「メテオスラークん時にゃ澄ましてやがったおっさんが青春してんのは面白ぇが……
……しっかし、あのおっさんも人使いが荒いね。バリスタなんとかしろって、何とかなるかよ、あんなもん!」
悪態を吐きながらも持ち前の機動力でサポートするルナと攻撃、支援役が連動してた動きを見せている。
『民衆の手前』最初は正規兵のみで対応していた敵方も、なりふり構わなくなったのならいよいよ戦いは本番という事になろう。
「それにしても、何もかもが自分の掌の上……とでも言いたいのかしら。
気に食わないわね」
手痛い一撃を受けるも暗殺者の一人を『ブチのめした』ゼファーが肩で息をしながら小さく零した。
強力な手練れとは言え、相手はたかだか使い走りだ。翻って自分はローレットの主力の一人である。
「……ホント、割の合わない戦場だこと。
コイツを観て楽しんでそうなクソ野郎が!
そして、此の状況にちょっとブルってる私自身もね――
何もかにも、ホントにクソ!」
吐き捨てるように言ったゼファーだが『弱気』な言葉はかえって燃料になったのか。
髪の毛をかきあげた彼女の美貌には先程よりも彼女らしい魅力的な勝気が宿っていた。
「浅い仲さ」
内周の脅威を睨み付け、敵陣の突破を狙うも相手は分厚い。
だが、猛攻を受け、傷付きながらも貴道は怯んでいない。
「関わり何て、幾らか言葉を交わした程度。それでもよ――」
渾身の右ストレートが唸りを上げる。
「――胡散臭いオッサンに遊び半分で処刑されそうなのを黙って見てる程、薄情でもねえんだよ!」
……苦戦を余儀なくされ始めたのは誰もが同じであった。
緒戦の吶喊力は時間の経過と共にその鋭さを減じている。
集まったイレギュラーズは大所帯だが、敵部隊はそれに数倍する。
何人潜んでいるとも分からない暗殺者達は常にイレギュラーズの神経を削り続けるし、大型兵器の威力は味方を強く脅かしている。
(決して少なくはない方々が心動かされ、此の場に集ったのです。
ならば、わたしが此処に来た意義や意味も……きっと、必ず。見つかる筈)
アッシュの小さな胸に確かな決意の花が咲く。
「さあ、往きましょう。
全ての死力を尽くさねば、この蜘蛛の巣は払えないでしょうから――」
勇気をもって、暴虐の前に立たねばならない。
「全く……この「仕掛人」が想定外に表情を歪める事なんてあるのかなあ!
まあ、ことここに至ってはやることは一つだけだけど!」
歯を食いしばって軽く笑って、アリアはあくまで前を向いた。
「縁も恨みも持たぬ暗殺令嬢なれど、助けたいと困難にいどむ者達がいる。
『義』は戦うに十分な理由になるだろう?」
まるで揺れずに意志を示す鈴音が前だけを見つめている。
勝敗の分水嶺たるのは常に瞬間の積み重ねなのだから――
「行きなさい、レジーナ・カームバンクル。
貴方の思ったことを成すがいい。女王の命を下せばいい。
兵士は貴方の駒の様に動きますとも」
ブランシュの言葉は【銀紅】の代弁。
「正念場ですね女王。
今までの鬱憤を晴らすのは今しかないとシュピも思います。
その為に、どうか――この装甲をお使い下さい」
SpiegelⅡの言葉はまるで宣誓めいていた。
「追い続けた恋を最悪な形で失うなんて、酷い話だ。
そんなレナを慰める役割なんて、絶対にごめんだよ」
「……それは、その」
奇襲めいた開幕から比べれば今の戦いは泥臭い。
真顔で冗句めいたミニュイの言葉を図りかねて、レジーナが困った顔をした。
「どうしていいか分からないからね。しっかり、助けて貰わないと私が困る」
「――感謝します!」
【銀紅】はこの戦場における女王(クイーン)を前に進める為に動いていた。
「暗殺令嬢に断罪か。本人とて悪名を残すだけの自覚はあろうよ。
……が、否を吠える人がいる。これだけの熱を見せるなら――支えたくなるのが人情、人徳という物よな」
レイヴンは付け足すように「まぁ女王は元々人ではなく神だったか?」と嘯いた。
少しずつ、少しずつ。
ジリジリと物語が焼け焦げる。運命が交錯する処刑台へと、その時へと向かっていく。
(お嬢様……リズ……)
毒の花だと分かっている。
今、この瞬間も分かっている。
でも、だって。
(魅せられたならそんなの仕様が無いじゃない――)
レジーナは命を賭して進むだろう。
どんな結末を迎えたとて、願わくば――そこに後悔ばかりは無いように。
●STAGE I+
「――ッ!」
ギン、と甲高い金属音が泣き喚く。
『見てから受ける』ような生温い戦いは流儀ではない。
すずなが相対してきた――自分とはまるで才能の違う――化け物共はそんな事を許してはくれない。
練り上げた技量は、勘は、凡百を自認する彼女の誇りである。
『普通』にして普通らしからぬ』彼女は水を斬るように流麗に敵方との死闘を繰り広げていた。
「……流石ね、すずなは」
【落花流水】――背を預け、時に預ける相方は何処か嬉しそうにそう言った。
「小夜さんにそう言われると少し複雑ですけど」
すずなが大好きな薊の花は目が見えない。
『見えない侭に見事な戦いを見せる彼女は正真正銘の天才だ』。
尤も日常生活では、その才能は少しも発揮されないのだけれど――
「……どうして?」
「どうしても、です!
……それは兎も角、まだ、あの人たちは動いていないようですね。
若干一名、居てもたっても居られないのではと思っていたのですけれど。
うまく抑えているのでしょうけど」
すずなの脳裏を過ぎるのは『姉様』と大騒ぎをしていた紫乃宮たてはの顔だった。
すずなや「そうね」と頷いた小夜がこの場に在るのはリーゼロッテの為というよりも、もう少し個人的な事情に近しい。
「クリスチアンやたてはさん達がどこに居るのかはわからないけれど、そのうちお会い出来るでしょう。
来ない、なんてことはありえないでしょうし、来ているならば目的は同じ、ならば進んだ先で必ず。
あの男に借りを返す為に、ね」
サリューでの会敵、グラン・ギニョールの夜は二人――そして別所で奮闘するサクラや空観――にとっては特に口惜しい『借り』だった。
やり返さずにはいられない。武芸者として、或いは別の意味でも。
すずなにとっては小夜が誰かさんの為に頑張るのは複雑だが、正直を言えば『これ』についてはすずなも理解(わか)る。
「……お、やっぱりまだ元気そうじゃない!」
「………あら、ゼファーも来てたのね 」
ローレットきっての武闘派の一角である二人にゼファーが合流した。
乱戦は気長に陣形を維持させてくれる程に甘くはない。行ったり来たり、会ったり別れたり。
しかし、こんな場所でも頼りになる知己に出会えば嬉しくなるものだった。
「……」
「……?」
「……………」
「小夜さん?」
突然黙り込んだ小夜にすずなが首を傾げた。
「たてはさんの匂いがする」
「――――!?」
「何ですか、それ」と問わずすずなは目を見開いた。
代わりに小さな声で尋ねてみせる。
「……あの、小夜さん。そういうの、私も分かったりしますか?」
閑話休題。
小夜がそう言ったのと『観衆』に騒ぎが起きたのは殆ど同時の出来事だった。
「……ローレットが敵対するなんて聞いていない!」
『誰か』が大きな声を上げていた。
「ローレットが敵対して、今後我々は特異運命座標の協力が得られるのか!?」
「御領主様はいきなりやってきて代行を解任し、処刑すると仰られた――」
「近年の代行は良くやっていたではないか」
『幾つもの声』が不満の声を上げ始めていた。
「……あ、これは。もしかして……」
「成る程、そういう事か」
観衆の様子に気を配っていた至東、ランドウェラは動きの意味にすぐに気付いた。
『全てのからくりを理解するには知り得た情報が足りなかったが、何かが変わったのは確かだった』。
「静まれ!」
「栄光のアーベントロートに何を言う!?」
潮目の変化にアーベントロートの兵の一部が声を張り、浮足立ち始めていた。
状況の沈静化に動きかけるが、群衆心理を見誤れば火に油が注がれるのは想像出来る話である――
「さてどうしたものか、と思ったが。うん、やはり大先生はずっこいな!」
何となく状況を察知したヨハンは何とも複雑な顔で合点した。
「紫乃宮流剣術を今回も働かせる算段でいたのだけど、これなら却って助かるか」
純ヒーラー(くすりばこ)は攻撃手が優秀な程、輝きを強める。
ならばあの猪突猛進のブルドーザーは支援し甲斐があって、丁度いいのだけど。
ちょっと、ブラック過ぎる職場である事を除くなら――
「今回、新田さん、凄いやる気出してるけど……」
「はい」
傍らの花丸の呟きに寛治は思わず苦笑を浮かべていた。
『何時もの自分』なら如何にもやりそうな手段である。
確かにそれは選択肢だ。『重役出勤』が許されるなら考慮には値しよう。
「やる事は一つだよね。政治だ、合理的だって話じゃないもん」
「多分、女の子はそっちの方が喜ぶし!」と花丸は拳を握る。
「はい。ですから、私は私で罷り通ろうと」
「任せておいて! 今日ばかりは邪魔なんてさせない。全部押しのけ、通らせてもらうから!」
これで、STAGEは変わるだろう。
まだまだ、この位。
もっと、もっと――このわしを愉しませよ。
不快な幻聴に耳を貸している暇は誰にも無い。
新たなキャストを迎え入れた蒼薔薇迷宮はその主を含め――踏破の時を待つだけだ!
成否
成功
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
パラロス最終章そのいち。
以下詳細。
●任務達成条件
・リーゼロッテ・アーベントロートの救出
※リーゼロッテが死亡した場合は『完全失敗』となります。
●リーゼロッテ・アーベントロート
ヒロイン面が板についてきたお嬢様。
通称『暗殺令嬢』の悪辣さも何処へやら。
父であるヨアヒムに当主代行の権限を剥奪され、処刑を待つ身です。
●ヨアヒム・フォン・アーベントロート
御存知銀髪豚野郎。
幻想三大貴族アーベントロートの正式な当主で今回の動乱の仕掛け人です。
リーゼロッテから当主代行の権限を剥奪し、フォルデルマンからのとりなしも撥ねつけて処刑に臨もうとしています。
こんなナリですが暗殺機関の長である事はリーゼロッテと変わらず、むしろ彼女は彼と比べれば児戯のようなものです。
少なくとも過去の戦い(サリュー事件)から空間転移や相手の行動を掌握する技等を使えると思われます。
又、現場を誰も見ていませんが彼と対戦した死牡丹梅泉は現在行方不明の状態にあります。
会敵した幻想種曰く「(魔術師として)リュミエ様と同等かそれ以上」。強敵なのは間違いないでしょう。
●パウル
掴み所の無い言動が厄介な糸目の男。
アーベントロートの家令。リーゼロッテの教育係兼執事といった感じ。
ローレットにサリューの危機を伝えた他、暗躍しているようです。
●クリスチアン・バダンデール
サリューの王。万能の天才。
ヨアヒムに大怪我をさせられましたが、大事な幼馴染のピンチに黙っている男ではないでしょう。
まだ影も形もありませんが。
●チーム・サリュー
刃桐雪之丞、紫乃宮たては、伊東時雨の用心棒三人衆。
梅泉の雪辱戦に燃えている事でしょう。特にたては。
クリスチアンと同道すると思われます。
●ヨル・ケイオス
薔薇十字機関の腕利き。夢見ルル家さんの姉。実は。
人当たり良く朗らかに見えますが、実は過剰なサディストで愛情表現が歪んでいます。
何処かに潜んでいるものと思われます。
●フウガ・ロウライト
封魔忍軍の頭目。
アカン感じのスキルを持つ暗殺者。
兄であるセツナがヨアヒムと同盟している為、恐らく敵方で存在します。
勿論、居場所や動向は分かりません。
多分、可愛い妹(サクラちゃん)は暫く口を利いてくれない事でしょう。
●薔薇十字機関(第十三騎士団)
幻想の闇を司る情報暗殺機関。
『表』と言われたリーゼロッテ派に対して『裏』とされるヨアヒム派は更に強力です。
数や詳細は不明ですが、薔薇十字機関に雑魚等皆無です。
彼等はノンネームドであっても時に強力なPCと遜色ない強力さです。
●封魔忍軍
天義の暗殺機関。フウガ・ロウライト麾下。
天義の暗闘から逃れ、セツナの意向で困った事にヨアヒムとくっついてしまいました。
優秀な暗殺集団で最低でもその数は数十。
●処刑場
アーベントロート領、北部の本拠地ヒルテノヴの郊外の大広場に用意された『イベント会場』。
広場の中央には荘厳な処刑台が用意され、その一番高い場所に薔薇十字が設えられています。
リーゼロッテはそこに囚われ、縛り付けられている状態で傍らにはヨアヒムが居ます。
かなり広い会場には多数の兵や伏兵が配置されていると思われます。
意図的に処刑場を遠巻きに眺められるように『観客席』が用意されたようです。
ヒルテノヴの民衆は最近は評判の悪くないリーゼロッテの様子を心配そうに伺っている模様。
一見して守備に適していないのですが、ヨアヒムは敢えてそうしているようです。
処刑場は全体として以下のエリアに分類されます。
下記説明に従い一行目にタグ(【】くくり)記載をして下さい。
同行者やチームは二行目に、それ以降は自由で大丈夫です。
・広場外周(東西南北)
最初に侵入するエリアです。
観衆は処刑場を遠巻きに見つめている状態の為、踏み込めば一発で『そういう勢力』とバレます。
警備の兵が配置されており、恐らくは薔薇十字機関も潜んでいます。
つまり、広場外周に踏み込んだ時点で戦いが始まると考えていいでしょう。
東西南北は侵入する方角です。タグを使う場合は【広場外周・東】等と記載するようにして下さい。
・広場内周
第二の進行エリアです。
敵戦力の密度が増している他、外周への攻撃に対しての増援になる場合もあります。
こちらの牽制や対応をする場合は【広場内周】でお願いします。
・処刑台
十数メートルもある巨大な処刑台を登る必要があります。
階段がありますが、一見して無防備なこの場所はその実、最も厳重な守備が存在するものと思われます。
又、処刑台を中心に『敵』を蹴散らす為のバリスタのようなものが配置されており、メタ的に言うと(無力化しない限りは)一ターンに三発程、破滅的な威力の範囲攻撃が飛んできますのでご注意下さい。
少なくとも一章の時点では処刑台に干渉する事は不可能です。
・ヨアヒム
最大の問題を何とかするフェーズです。
まずはここに到るのが当面の目的になるでしょう。
但し、彼は明確に『ヤバイレベルの魔術師』です。
状況に応じて何か(チート)してくる可能性自体は否めないです。
その為の情報精度Dですから。
●ローレットの意向
以下はレオン・ドナーツ・バルトロメイからの伝言です。
「『好きな女だか友人だかの為に頑張る』ねぇ。
本当、俺には分かんねぇ。だが諦めた。後は何とかするからやりたいだけやってこい」
●重要な備考
進行が遅い(ヨアヒムが飽きる)とおぜう様は処刑されます。
少なくとも彼が満足する状況(何が満足かは不明です)が満たされないと突然致命的な失敗をする恐れもあるのでご注意下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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