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シナリオ詳細

<Paradise Lost>Love Begets Love

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●公開処刑
「こうして眺める景色は如何であるか、我が愛娘よ」
「……」
 広く、不必要な位に絢爛に整えられた『大舞台』はその煌びやかさと相反して、主人の終焉を望んでいる。
「全て貴様の為に設えられたものだ。そう思えば万感であろうが――」
 両手両足には枷、身体は動けないように『薔薇十字』に縛られている。
 リーゼロッテは父から向けられたねちりとした言葉に視線を逸らすばかりであった。
「いい日和よなあ。旅立つならば、この上無い。
 日頃の行いはどうも我にも貴様にも大した罰を与えぬものだ」
 リーゼロッテ・アーベントロートの公開処刑はアーベントロート侯爵領で行われる事となった。
 国王フォルデルマン三世はこの動乱に心を痛めており、実に粘り強くアーベントロート侯に再考を促したものだ。
 フォルデルマンの努力虚しく、そして干渉するかにも思われたアベルト・フィッツバルディの『体調不良』もあり、結果として強行される形となった処刑なのだから、メフ・メフィートでの実施が難しかったのは言うまでもない。アーベントロートの本邸が構えられた北部ルヒテノヴは長い彼女の治世の中でも特に大きな『迷惑』を被った場所だったから、代替地として選ばれたのは妥当であると言えただろう。
『処刑場』は街の郊外に準備された。
 十分な『観客(ギャラリー)』が愉しめるよう。
 より多くの人間がショッキングな悲喜劇に酔えるように。
 ヨアヒム・フォン・アーベントロートの肝煎りで準備されたその場所には既に多くの人目に晒されていた。
 処刑場そのものに人々は足を踏み入れる事は無いが、遠巻きに見守る事が出来るその作りはまるでイベント会場のようである。
「しかし――どうも、余り歓迎されていないようには見受けられるな」
「……」
「フッフ! まるでわしが悪党か!
 喉元過ぎれば熱さ忘れるとはこの事よなぁ。
 貴様もアーベントロートの係累に間違いはあるまいに!」
 ……何年か前の彼女ならば決してそうはならなかっただろう。
 領民の犠牲を良しとせず、自身を犠牲にしてでも友人を守ろうとするような彼女でなければこんな風景は見れなかったに違いない。
「お前はそんな娘では無かったろうに。
 蛇蝎のように嫌われ、華やかに疎まれ続ける薔薇十字の姫は何処へ去った?
 この有様を見守る連中はまるで『勇者の訪れ』を期待しているようではないか。
 悪辣な侯爵に囚われた姫を開放する何者かを――まるで伝承歌(サーガ)の一幕を期待でもするかのように!」
 成る程、お姫様の公開処刑に集まった観客は残酷なシーンを望んで居ないようにも思われた。
 揶揄を続けるヨアヒムにリーゼロッテは唇を噛んだ。
(……そんなこと……)
 口にすれば弱さが零れ落ちてしまいそうだった。
 リーゼロッテは愚鈍ではない。感情的でこそあれどむしろ賢しく。
 長く情報機関の長を務めた彼女は事実の分析に長けている。
 ……いや、そんな大仰な理由をつけるまでもない。
 ヨアヒムが密やかに処刑を済ませたならば話は別だが、彼は幻想中に宣伝する勢いで今日という日を際立たせている。
 重武装の邸内で話を済ませればまだ合理的なのに、屋外の『特設ステージ』で民衆を見下ろしている。
『まるでこれは邪魔をしてくれと言わんばかりではないか』。
 当然、会場のあちこちには警備の兵が配されていたし、リーゼロッテの把握している限りでも『正規ではない連中』も厳重に守備を固めている。だが、それでも余りにもこれは攻め入り易い。デモンストレーションめいた処刑場の風景はまだ見ぬキャストを望んでいるとしか言えないだろう。
(来ないで下さい)
 リーゼロッテは内心だけで呟いた。
 彼女はこれ以上時間が過ぎるのが怖かった。
『しっかりと諦めたのに縋ってしまいそうになるから』。
 ……改めて相対する父(ヨアヒム)は余りにも恐ろし過ぎた。
『決定的なまでに勝てない。人間はこんな怪物とは関わり合いになるべきではないのだ』。
 ましてやリーゼロッテは初めて出来た――殆ど唯一の大切な友人達をこんな所に来させたいとは思わなかった。
 だが、同時に決定的に理解もしていた。
 父は自身の望まぬ展開こそを待っているのだ、と。
 つまる所、主導権を父が握っている以上、祈りなんて一つも届かないのだと。
「……して」
「うん?」
「どうして、こんな事を。お父様――」
 幼い頃から、貴方は私に興味等無かったのに――
 唯一、興味を持って頂けたのが『こんな事』では。
 詮無くとも、問わぬままには余りにも浮かばれない。
「どうして、とはおかしな事を聞く。
 親は子の成長を祝福するものであろう?
 貴様はわしの期待、わしのレールから外れ、そんな顔をするようになったではないか。
 ……なればなぁ、もっと万華の顔も眺めてみたくなるというもの。
 自由に抗い、アーベントロートの軛を外す貴様がどれ程やるのか――
 貴様の救いが、貴様の希望がどれ程のものか……知りたくなるも性というもの。
 ……フッフ! 愛娘の相手を見定めてやるのは親の冥利に尽きるというものではないかね?」
「……っ……」
「貴様はその時、どんな顔をするのであろうなあ。
 愚かに直情に貴様を救いに来た『友人』がわしの挑む時。
 無力で無為な連中が一人一人すり潰されていく時に――
 どう鳴くのだろうなあ。怒るのか、絶望するのか。
『今、この瞬間にも親を憎み切れない貴様が、どう振り切れるか楽しみでならぬのだよ』」
「お父様……ッ!」
 リーゼロッテの声はこの時、きちんと憎悪に満ちていた。
「それで良い。我も貴様もアーベントロートなれば。
 何処までも続く、横たえた身を浸す退屈なる毒に――精々華やかに抗おうではないか。
 この良き日に。薔薇十字に落ちる頸はどちらのものか――」
 独白めいたヨアヒムにリーゼロッテは息を呑む。
 未だ底さえ知れぬ『父親』はおかしな紋様の刻まれたキューブを片手にせせら笑うだけだった。

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 パラロス最終章そのいち。
 以下詳細。

●任務達成条件
・リーゼロッテ・アーベントロートの救出

※リーゼロッテが死亡した場合は『完全失敗』となります。

●リーゼロッテ・アーベントロート
 ヒロイン面が板についてきたお嬢様。
 通称『暗殺令嬢』の悪辣さも何処へやら。
 父であるヨアヒムに当主代行の権限を剥奪され、処刑を待つ身です。

●ヨアヒム・フォン・アーベントロート
 御存知銀髪豚野郎。
 幻想三大貴族アーベントロートの正式な当主で今回の動乱の仕掛け人です。
 リーゼロッテから当主代行の権限を剥奪し、フォルデルマンからのとりなしも撥ねつけて処刑に臨もうとしています。
 こんなナリですが暗殺機関の長である事はリーゼロッテと変わらず、むしろ彼女は彼と比べれば児戯のようなものです。
 少なくとも過去の戦い(サリュー事件)から空間転移や相手の行動を掌握する技等を使えると思われます。
 又、現場を誰も見ていませんが彼と対戦した死牡丹梅泉は現在行方不明の状態にあります。
 会敵した幻想種曰く「(魔術師として)リュミエ様と同等かそれ以上」。強敵なのは間違いないでしょう。

●パウル
 掴み所の無い言動が厄介な糸目の男。
 アーベントロートの家令。リーゼロッテの教育係兼執事といった感じ。
 ローレットにサリューの危機を伝えた他、暗躍しているようです。

●クリスチアン・バダンデール
 サリューの王。万能の天才。
 ヨアヒムに大怪我をさせられましたが、大事な幼馴染のピンチに黙っている男ではないでしょう。
 まだ影も形もありませんが。

●チーム・サリュー
 刃桐雪之丞、紫乃宮たては、伊東時雨の用心棒三人衆。
 梅泉の雪辱戦に燃えている事でしょう。特にたては。
 クリスチアンと同道すると思われます。

●ヨル・ケイオス
 薔薇十字機関の腕利き。夢見ルル家さんの姉。実は。
 人当たり良く朗らかに見えますが、実は過剰なサディストで愛情表現が歪んでいます。
 何処かに潜んでいるものと思われます。

●フウガ・ロウライト
 封魔忍軍の頭目。
 アカン感じのスキルを持つ暗殺者。
 兄であるセツナがヨアヒムと同盟している為、恐らく敵方で存在します。
 勿論、居場所や動向は分かりません。
 多分、可愛い妹(サクラちゃん)は暫く口を利いてくれない事でしょう。

●薔薇十字機関(第十三騎士団)
 幻想の闇を司る情報暗殺機関。
『表』と言われたリーゼロッテ派に対して『裏』とされるヨアヒム派は更に強力です。
 数や詳細は不明ですが、薔薇十字機関に雑魚等皆無です。
 彼等はノンネームドであっても時に強力なPCと遜色ない強力さです。

●封魔忍軍
 天義の暗殺機関。フウガ・ロウライト麾下。
 天義の暗闘から逃れ、セツナの意向で困った事にヨアヒムとくっついてしまいました。
 優秀な暗殺集団で最低でもその数は数十。

●処刑場
 アーベントロート領、北部の本拠地ヒルテノヴの郊外の大広場に用意された『イベント会場』。
 広場の中央には荘厳な処刑台が用意され、その一番高い場所に薔薇十字が設えられています。
 リーゼロッテはそこに囚われ、縛り付けられている状態で傍らにはヨアヒムが居ます。
 かなり広い会場には多数の兵や伏兵が配置されていると思われます。
 意図的に処刑場を遠巻きに眺められるように『観客席』が用意されたようです。
 ヒルテノヴの民衆は最近は評判の悪くないリーゼロッテの様子を心配そうに伺っている模様。
 一見して守備に適していないのですが、ヨアヒムは敢えてそうしているようです。
 処刑場は全体として以下のエリアに分類されます。
 下記説明に従い一行目にタグ(【】くくり)記載をして下さい。
 同行者やチームは二行目に、それ以降は自由で大丈夫です。

・広場外周(東西南北)
 最初に侵入するエリアです。
 観衆は処刑場を遠巻きに見つめている状態の為、踏み込めば一発で『そういう勢力』とバレます。
 警備の兵が配置されており、恐らくは薔薇十字機関も潜んでいます。
 つまり、広場外周に踏み込んだ時点で戦いが始まると考えていいでしょう。
 東西南北は侵入する方角です。タグを使う場合は【広場外周・東】等と記載するようにして下さい。

・広場内周
 第二の進行エリアです。
 敵戦力の密度が増している他、外周への攻撃に対しての増援になる場合もあります。
 こちらの牽制や対応をする場合は【広場内周】でお願いします。

・処刑台
 十数メートルもある巨大な処刑台を登る必要があります。
 階段がありますが、一見して無防備なこの場所はその実、最も厳重な守備が存在するものと思われます。
 又、処刑台を中心に『敵』を蹴散らす為のバリスタのようなものが配置されており、メタ的に言うと(無力化しない限りは)一ターンに三発程、破滅的な威力の範囲攻撃が飛んできますのでご注意下さい。
 少なくとも一章の時点では処刑台に干渉する事は不可能です。

・ヨアヒム
 最大の問題を何とかするフェーズです。
 まずはここに到るのが当面の目的になるでしょう。
 但し、彼は明確に『ヤバイレベルの魔術師』です。
 状況に応じて何か(チート)してくる可能性自体は否めないです。
 その為の情報精度Dですから。

●ローレットの意向
 以下はレオン・ドナーツ・バルトロメイからの伝言です。
「『好きな女だか友人だかの為に頑張る』ねぇ。
 本当、俺には分かんねぇ。だが諦めた。後は何とかするからやりたいだけやってこい」

●重要な備考
 進行が遅い(ヨアヒムが飽きる)とおぜう様は処刑されます。
 少なくとも彼が満足する状況(何が満足かは不明です)が満たされないと突然致命的な失敗をする恐れもあるのでご注意下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <Paradise Lost>Love Begets LoveLv:71以上、名声:幻想50以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別ラリー
  • 難易度NIGHTMARE
  • 冒険終了日時2022年11月26日 20時00分
  • 章数4章
  • 総採用数511人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●性格の悪い男
「御覧よ、ユキノジョウ。連中右往左往してる」
「想定通りなのだろう?」
「まぁね。その為に最初から人を仕込んでいたのだし」
 肩を竦めた刃桐雪之丞にクリスチアン・バダンデールは人の悪い顔をした。
 体は万全ではない。怪我を押しての出陣だ。しかし、この登壇は彼にとっては予定通り。
「ある程度、やり合ってくれないと盛り上がらないからね。
 嘘は大きく吐いて――それなりの真実を混ぜ込んでおくものだ。
 人望のあるイレギュラーズが傷付けられるのを見れば彼等も心穏やかにはいられないさ」
 せせら笑うクリスチアンはあくまで余裕めいていた。
 絶対に外せない用件だが、気に入らない連中に『先』を譲ってまで用意した局面である。
「それでこれからどうするんだい?」
「……がるるるるるる……!」
 呆れたように尋ねる時雨の一方で野生動物のように唸り声を上げるたてはは『待ったなし』そのものだ。
 この瞬間まで我慢出来ていた事が奇跡と言っても過言ではない。
「登場するさ。思い切り華やかに、ね。
 第一、処刑台のお嬢様にハッキリご理解頂かないと割に合わないじゃないか。
 貴女様が真に頼りに出来るのはこの幼馴染です、ってね!」
 事こうなればアーベントロート側は兵力の一部を群衆の制御に割かずにはいられない筈である。
 ヨアヒムが遊び半分に用意したギャラリーを敵方の不安要素として動かすのはクリスチアンのプラン通り。
 しかしながら、これはまだ途上である。トドメは、これから。
「さあ、行こう!」
 特別な四騎はかくて、蒼薔薇迷宮に参戦する。
 それは愛の為であり、やはり愛の為なのだろう。
 そんな事、とても面映ゆくて言えないけれど――

●転機
「いやア、性格が悪いなア! 彼!」
 パウルは思わずそう快哉してケタケタと笑い声を上げていた。
 そろそろ頃合いか、と踏み込んでみれば早速の御登壇である。
 他人の事は言えないが、クリスチアンの動きは確かにアーベントロートにとっては大迷惑だ。
「いやはや、これは困ったんじゃないですカ? 兵力が大分落ちますねェ。
 お嬢様、助けられちゃったりして!」
 ……元より不利を承知で構えた陣地だが、滅茶苦茶にされるのはまた別問題になる。
 クリスチアン・バダンデールは幻想切っての名声を持つ大名士である。
 抜群の経済力、流麗な見た目、覇気、何を切り取っても天才と称されるその能力。
 貴族では無いが、北部で独自の勢力圏を保有する程の政治力を見せ続けた彼は幻想民において『最も信頼されている支配層』の一人だった。
 そんな男が、こう言った。

 ――アーベントロート侯を告発する!
   先に起きたサリューでの事件は彼の差し金だ。
   私は彼の凶刃に傷付けられ、これまで療養を余儀なくされていたのだ!

『政治的な綱引きをするならば、これでもヨアヒムを仕留める事は出来ないだろう』。
 だが、ローレットとの争いで信を揺らがせる群衆の、『この場の心理』を更に乱れさせるに彼の登場と衝撃的な言葉は十分過ぎた。
 余計にややこしくなった状況にアーベントロート派の足並みが大きく乱れていた。
 これは先に攻め込んだローレットに利するものであり、混乱の隙を突き同様に鉄火場に飛び込んだ四騎にとっても同じであった。
「……クリスチアンはん」
「うん?」
「もう、あんま止めんといて下さいね。うち、おかしくなってしまいそうやから」
 たてはの言葉が『静か』だったのが致命的だった。
「分かってる」と苦笑したクリスチアンは考える。
(出来れば、集団行動をして欲しいが――難しいな。
 だが、平気だろう。私の考える所によれば、恐らくはローレットの誰かが)
 彼女は懐かない野生動物のようなものだが、兎に角連中は物好きだから――



 YAMIDEITEIっす。
 パラロス最終章そのに。
 以下詳細。

●任務達成条件
・リーゼロッテ・アーベントロートの救出

※リーゼロッテが死亡した場合は『完全失敗』となります。

●リーゼロッテ・アーベントロート
 ヒロイン面が板についてきたお嬢様。
 通称『暗殺令嬢』の悪辣さも何処へやら。
 父であるヨアヒムに当主代行の権限を剥奪され、処刑を待つ身です。

●ヨアヒム・フォン・アーベントロート
 御存知銀髪豚野郎。
 幻想三大貴族アーベントロートの正式な当主で今回の動乱の仕掛け人です。
 リーゼロッテから当主代行の権限を剥奪し、フォルデルマンからのとりなしも撥ねつけて処刑に臨もうとしています。
 こんなナリですが暗殺機関の長である事はリーゼロッテと変わらず、むしろ彼女は彼と比べれば児戯のようなものです。
 少なくとも過去の戦い(サリュー事件)から空間転移や相手の行動を掌握する技等を使えると思われます。
 又、現場を誰も見ていませんが彼と対戦した死牡丹梅泉は現在行方不明の状態にあります。
 会敵した幻想種曰く「(魔術師として)リュミエ様と同等かそれ以上」。強敵なのは間違いないでしょう。

●パウル
 掴み所の無い言動が厄介な糸目の男。
 アーベントロートの家令。リーゼロッテの教育係兼執事といった感じ。
 ローレットにサリューの危機を伝えた他、暗躍しているようです。
 登場しました。処刑台を目指している(?)ようです。

●クリスチアン・バダンデール
 サリューの王。万能の天才。
 ヨアヒムに大怪我をさせられましたが、大事な幼馴染のピンチに黙っている男ではないでしょう。
 登場しました。それもド派手に。怪我人なので戦闘力は落ち気味です。

●チーム・サリュー
 刃桐雪之丞、紫乃宮たては、伊東時雨の用心棒三人衆。
 梅泉の雪辱戦に燃えている事でしょう。特にたては。
 雪之丞と時雨はクリスチアンを護衛。
 たてははかなり前のめり。
 今回に関してはそれ所ではないのでイレギュラーズに敵対的ではありません。

●死牡丹梅泉
 行方不明中。たてはちゃんのIQが野生動物になってしまいました。

●ヨル・ケイオス
 薔薇十字機関の腕利き。夢見ルル家さんの姉。実は。
 人当たり良く朗らかに見えますが、実は過剰なサディストで愛情表現が歪んでいます。
 本章の何処かでイレギュラーズを強襲します。

●フウガ・ロウライト
 封魔忍軍の頭目。
 アカン感じのスキルを持つ暗殺者。
 兄であるセツナがヨアヒムと同盟している為、恐らく敵方で存在します。
 勿論、居場所や動向は分かりません。
 多分、可愛い妹(サクラちゃん)は暫く口を利いてくれない事でしょう。
 本章の何処かでイレギュラーズを強襲します。

●薔薇十字機関(第十三騎士団)
 幻想の闇を司る情報暗殺機関。
『表』と言われたリーゼロッテ派に対して『裏』とされるヨアヒム派は更に強力です。
 数や詳細は不明ですが、薔薇十字機関に雑魚等皆無です。
 彼等はノンネームドであっても時に強力なPCと遜色ない強力さです。

●封魔忍軍
 天義の暗殺機関。フウガ・ロウライト麾下。
 天義の暗闘から逃れ、セツナの意向で困った事にヨアヒムとくっついてしまいました。
 優秀な暗殺集団で最低でもその数は数十。

●アーベントロート兵
 所謂雑魚敵ですが、質はそこそこです。
 クリスチアンの策で動きが大幅に制限されています。

●処刑場
 アーベントロート領、北部の本拠地ヒルテノヴの郊外の大広場に用意された『イベント会場』。
 広場の中央には荘厳な処刑台が用意され、その一番高い場所に薔薇十字が設えられています。
 リーゼロッテはそこに囚われ、縛り付けられている状態で傍らにはヨアヒムが居ます。
 かなり広い会場には多数の兵や伏兵が配置されていると思われます。
 意図的に処刑場を遠巻きに眺められるように『観客席』が用意されたようです。
 ヒルテノヴの民衆は最近は評判の悪くないリーゼロッテの様子を心配そうに伺っている模様。
 一見して守備に適していないのですが、ヨアヒムは敢えてそうしているようです。
 処刑場は全体として以下のエリアに分類されます。
 下記説明に従い一行目にタグ(【】くくり)記載をして下さい。
 同行者やチームは二行目に、それ以降は自由で大丈夫です。

・広場外周(東西南北)
 最初に侵入するエリアです。
 観衆は処刑場を遠巻きに見つめている状態の為、踏み込めば一発で『そういう勢力』とバレます。
 警備の兵が配置されており、恐らくは薔薇十字機関も潜んでいます。

※攻略済みです。

・広場内周
 第二の進行エリアです。
 敵戦力の密度が増している他、外周への攻撃に対しての増援になる場合もあります。
 本章のメイン攻略エリア。
 東西南北は侵入する方角です。タグを使う場合は【広場内周・東】等と記載するようにして下さい。

・サリュー
 サリュー組と合流ないしは関わりたい場合は【サリュー】です。
 参戦個所は内周~処刑台のどの辺かですが、サリュー組に依存します。

・処刑台
 十数メートルもある巨大な処刑台を登る必要があります。
 階段がありますが、一見して無防備なこの場所はその実、最も厳重な守備が存在するものと思われます。
 又、処刑台を中心に『敵』を蹴散らす為のバリスタのようなものが配置されており、メタ的に言うと(無力化しない限りは)一ターンに三発程、破滅的な威力の範囲攻撃が飛んできますのでご注意下さい。
【処刑台】で干渉可能ですが、不発する場合があります。
 不発時はGM判断で描写(ないしは不採用)になりますのでご了承下さい。

・ヨアヒム
 最大の問題を何とかするフェーズです。
 まずはここに到るのが当面の目的になるでしょう。
 但し、彼は明確に『ヤバイレベルの魔術師』です。
 状況に応じて何か(チート)してくる可能性自体は否めないです。
 その為の情報精度Dですから。
【ヨアヒム】で干渉可能ですが、低確率です。
 不発時はGM判断で描写(ないしは不採用)になりますのでご了承下さい。

●ローレットの意向
 以下はレオン・ドナーツ・バルトロメイからの伝言です。
「『好きな女だか友人だかの為に頑張る』ねぇ。
 本当、俺には分かんねぇ。だが諦めた。後は何とかするからやりたいだけやってこい」

●重要な備考
 進行が遅い(ヨアヒムが飽きる)とおぜう様は処刑されます。
 少なくとも彼が満足する状況(何が満足かは不明です)が満たされないと突然致命的な失敗をする恐れもあるのでご注意下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。


第2章 第2節

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
アト・サイン(p3p001394)
観光客
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
観音打 至東(p3p008495)
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
倉庫マン(p3p009901)
与え続ける

●STAGE II(東)
「サリューのアリーナを爆破を試みた魔種!
 裏で糸をを引いた者こそ、あのヨアヒムだ!
 道楽で魔種に与した大罪、それに仕える者達よ、その罪の重さを知れ!」
 イーリンの宣言に戦場が揺れた。
 ヨアヒムの悪辣さを知った所で第十三騎士団は揺らぐまい。
 しかしながら一般の兵、ましてや処刑場を取り巻く観客は心穏やかにいられるとは限らない。
『イーリン・ジョーンズなる名声はクリスチアン・バダンデールに続く一撃である』。
「我に続け、誉と続け! 騎戦は宣言する。これは幻想を守る戦いである!」
「……やだねえ、僕はか弱い観光客なんだから手練になんて襲われたくないんだがなあ!」
「ああ、もう、まったく!!!」
 惚けたようにアトが笑い、ヤケクソめいたリカが声を上げる。
「オーダーの一つはバリスタ周りの脅威をこちらへ向ける事、との事ですが。
 いっそ商品として回収してしまっても構いませんね? あれはとても需要がありそうです」
 何処まで本気か、そう言った倉庫マンにイーリンは「ぶんどってやりましょうか!」と笑って応じれば、
「攻勢支援、継戦の方もお任せ下さい!」
 頼もしき倉庫マンが気炎を上げた。
【騎兵隊】の方針は自分達が敵精兵のヘイトを集め切る事である。
(敵攻勢の誘引と誘引後の継戦力維持こそ主目的。
 目的への具体化、その方策として隊の火力班近傍にて各種回復や攻勢の補強を重視。
 調整とバランスが肝要。極めて柔軟かつ高度な連続判断は必要不可欠か――)
 戦略眼による状況の俯瞰と分析こそ、この黒子の真骨頂である。
 当然ながら【騎兵隊】の安全は全く担保されないが、何処かが危険であるという事は何処かのマークが緩むという事でもあった。
 目立つだけ目立ち、暴れるだけ暴れて――『戦い全体』を優位に変える。
 主役が一番目立たなければならない法等無いが、一番目立ったならそれは或る意味の主役と言えるだろう。
「サリュー……はい、もう何しても面倒な人に関わるのわかりました……
 どーせ次はあの玩具をこっち向けろとか言うんでしょ。分かってるわよ!
 ……ったくだから嫌、あんたと組むと本当に面倒よ、イーリンちゃん!」
 リカの声色は台詞程にこの状況を厭うていない。
 イーリンのオーダーは無茶苦茶だが、それが故にその気にもなるというものだ。
「目立つ……潜む存在が目立つのも……まぁ仕事は仕事、頑張りますとも」
「さて、周囲を警戒しろと言われても難しい。まぁ、向かってくるなら仕方ないがね!」
 バルガルは小さく肩を竦め、何時もの『無茶』の付き合いにアトの瞳が爛々と燃えていた。
 相棒(イーリン)は何時もそんな風で、アトはそんな風が実は案外嫌いでは無い――
「おんやまあ、VIPの登場で大将等も元気になったこと。
 主役は遅れてくるものと言われておりんすが――やはりクリスチアン様達がいないとねぇ?」
 軽妙な笑みを浮かべたエマの冗句めいた一言は様相を変えた戦いを指すものだ。
 外周での戦いはイーリンも即座に利用した『クリスチアン』なるカードで決着を迎えたように思われた。
(流れには乗じるものです。止めるエネルギーが無駄ですもの)
『観客』の動揺は至東の観測通り、イレギュラーズに利していた。
 彼等の戦いを利用し領民に決定的な不信感を植え付ける事に成功したクリスチアンの仕掛けにより、アーベントロート派は少なからぬ兵力を減じる事となったからだ。俄かに不穏さを増した観客の暴動の可能性は最早捨て置けるものではなく、手薄になった一般兵力の動きから敵勢は内に向けた縮減をしたという事である。
「流石に令嬢の処刑だけあって『ギャラリー』が多かったな」
「ええ。実に見事な手並みでありんすが、それにしても……敵の数、それでも多すぎやしぃせんか」
「まぁ、そんなもんだろうよ」
 マカライトの言葉に頷き、余裕めいた口調のエマにミーナが軽口を叩いた。
(おー、色々出てきて……こうなると混乱に乗じて動くのも居るはず。徹底的に探さなきゃ!)
 複数の鳥(ファミリアー)を展開したリリーが緩み、乱れた戦場を俯瞰する。
 クリスチアンのアシストは見事だったが、実際現状はまるで油断出来る状態ではない。
 彼女等――【騎兵隊】の行く手を阻む敵勢の練度は上がっており、その数は事実程には減ったようには思えなかった。
 それもその筈、敵が内向きに後退したという事は守備範囲が狭まったという事でもある。
 イレギュラーズは目標である処刑台には確かに接近したが、守備範囲の減少から生じる防御の密度は兵力減を補おう。
 だが、『関係ない』。
「馬氏(イーリン)もサリューの人もずいぶん吹かしまスねー。ま、私はこそこそと、ね」
「俺は残念ながら場作りする側、『盛り上げる』為なら幾らでも身を捨ててやろうじゃねぇのよ!」
「このまま? ううん、ここからですよ! さらにペースを上げていくのです!
 此方の狙いは最初から……勿論! あれでして!」
『こそこそ』と言うには余りにも派手に。
 美咲が『引っ張り』、カイトが『止める』。放たれたルシアの殲光は『行方を薙ぎ払う』暴力の塊だ。
「……あれだけでして!」
 改めて――ルシアが攻撃動作のままに指差した『目標』は言わずと知れた薔薇十字。
 少女の白い指先は、傲岸不遜たる侯爵が君臨する処刑場ばかりを示していた!
 道のりは遠いが、不可能であるとは思わない。
 それは手の届く場所であり、彼方の幻影ではないように思われた――
「まぁ自分のやる事は変わらん。敵を叩いて、沈黙させるのみ――
 シンプルだが、分かり易い分はやり易い」
「ああ。どっちみち関係ねぇよ。やる事が決まってるならな」
 マカライトが気を吐き、ミーナは嘯く。
 絶望的な状況を塗り替え得るのは何時の世も勇者の胆力である。
 諦めの良い誰かに勝利の女神は微笑まず、その後ろ髪たる奇跡を引くには値すまい。
「まあ、いつも通りながら。いつも通りだよなぁ……うん。
 変わらずに叩き潰し、薙ぎ払う。それだけだ。
 だからこそ、ココロも乗って来るってもんだ。なぁ、分かるだろ?」
 同意を求めたエレンシアの口元がニヤリと歪む。
「さぁガンガン行くぜ!アタシらの突撃、そうそう止められると思うなよ!」
「さて、現代に生きる暗殺者達。過去の暗殺者の亡霊が相手してやる。かかってきな!」
 エレンシアは景気良く啖呵を切って敵陣目掛けて飛び出した。すかさずミーナが素早く彼女の支援に動く。
 一方で応じるように第十三騎士団なる幻想の闇が猛攻を仕掛けんと動き出す。
「やれやれ、だ。じゃあ、やるとするかねぇ――」
 武器商人の破滅の呼び声は自身を排除せよと相手の心に働きかける呪いのようなものだ。
 怪異なる武器商人はただ圧倒的な存在感で敵の意識を塗り潰さんとするものである!
「――騎兵隊一番槍! レイリー=シュタイン、只今参上!」
 続け様。妖しくも美しい武器商人に続き、此方は何処までも白く、鮮烈に。凛とした声は処刑場に届かんが如く轟き渡る。
「誰も失わせないわ! 騎兵隊の仲間も、蒼薔薇のお嬢様もね!」
 白亜の城の如きレイリーは敵方の猛撃と激しくぶつかり、致命的な一撃さえも弾いて飛ばす。
 無傷ではないが、受け止めた――それはレイリーの技量が故である。
「幻想は、ヘレナの故郷。
 彼女は、囚われの令嬢を救い出す手伝いをしたと聞けば、微笑むだろうさ。
 この国が幾分かでも『マシ』になるなら――意味はそれだけで、十分だ」
 薄く笑ったヤツェクが辛うじて敵の勢いを跳ね返す。
 正面衝突を一時凌げば、殆ど時間を置かずに彼我の『後ろ』――火力達も動き出している。
「流石に戦い慣れてるな。
 だが、この場の混沌、大いに結構! 切り抜けるなら――必要な事をするだけさ!」
 蹂躙の殲滅頌詩。終わらざりし弾幕の進撃。
 ゼフィラの展開した弾幕が敵の接近を阻みに掛かる。
「ここまでは、作戦通り。恐らくは、敵にとっても。
 だが、この先はそうはいかない。『ここからはマリア達の都合を優先して貰う』」
 広範かつ暴力的な攻勢はエクスマリアも負けてはいない。
 恐ろしい程に派手な大技は万物を粉砕せし、鉄の星。
 可憐な彼女の印象を裏切る程に熾烈そのものであった。
 ……外周での戦いは多分に様子見の部分もあった。
 しかして、内周以降は敵方も本気と言えるのだろう。
 アーベントロートの一般兵力に対しては大いに強気に、圧倒してみせたイレギュラーズではあったが、やはり主力は精強であった。
 イレギュラーズの猛攻もたちどころに敵陣を崩れさせるには到らず。
 それ以上と言わんばかりに繰り出される危険な殺傷力は容赦なく【騎兵隊】を襲い来る。
「――――ッ……!」
 華蓮の愛らしい、優しい顔に強い決意が滲んでいた。
 譲らぬ彼女は仲間を守り、敵を引き付け、
(私の神様にお祈りを……いいえ、誓いを立てる、この祝詞を捧げましょう。
 必ずやみんな無事で帰って、一緒にリーゼロッテ様の無事を祝う日を迎えるのだと!)
 真っ直ぐに『敵』を見て心の中で言い放つ。
 人間を傷付ける事を酷く厭う華蓮はそれに怯えていると言っても過言では無かった筈だ。
 だが、この戦いはそんな彼女の成長さえ思わせるものだった。

 ――世の中には、譲ってはいけない局面もある――

 優しさで守れないのなら、時に挑む事さえ不可欠だ。
 例え誰かとぶつかろうとも『やり切る』エゴは凛然とした強さであり勇気にもなる。
『ならば、この華蓮の戦いこそ長すぎた少女時代の終わりを告げるものなのになるのだろう』。
「――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ!」
 そして華蓮が決死で作り出した時間を『埋める』のはエーレンである。
 鋒矢陣の第二陣より、恐ろしく鋭く踏み込んで華蓮を脅かした影を雷気帯びる抜刀で一閃する。
「その、余所見――命取りだぞ?」
 鮮やか極まる剣劇は流麗にして苛烈。
 飄々と口元を歪めた彼を前に崩れ落ちた敵は『遅すぎる』忠告に恨みがましい目を向けていた。

成否

成功

状態異常
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王
アト・サイン(p3p001394)[重傷]
観光客
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)[重傷]
黒鎖の傭兵
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)[重傷]
ココロの大好きな人
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)[重傷]
流星と並び立つ赤き備
天之空・ミーナ(p3p005003)[重傷]
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)[重傷]
人間賛歌

第2章 第3節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
彼岸会 空観(p3p007169)
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
紅迅 斬華(p3p008460)
首神(首刈りお姉さん)
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

●STAGE II(サリュー・前)
「――ぶはははッ! 護衛させてもらうぜサリューの旦那!」
 何時如何なる時も気が良い豪放磊落はゴリョウのトレードマークのようだった。
「何だ、随分とサービスがいいな」
 飄々とした笑みを浮かべたクリスチアンは処刑場に侵入するなり、イレギュラーズとは関係なく処刑台を目指している状態だった。
 駆ける四騎に合流し、並びかけたゴリョウは「まあな! 今回はオメェさんを死なせてもハッピーエンドには思えないんでな」と笑みを浮かべる。
「おっと、怪我人の旦那は大人しくしてな!」
「相変わらずのお人よしだな」
 クリスチアンを狙った射撃をゴリョウの分厚い防御が跳ね返した。
『守られた格好』のクリスチアンはそれを鼻で笑ったが、実際の所を言えばそれは彼の計算の内であった。

『あれだけ目立って登場すればイレギュラーズは確実にサリューの援護に動く』。

 ハッキリ言えば個の力においてサリューはイレギュラーズより『ずっと上』である。
 クリスチアンは自身を含めた特記戦力の貫通力を疑っていなかったが、ヨアヒム戦の敗退は「戦っても負ける気はしない」と公言し続けてきたクリスチアンに疑念を抱かせるだけの衝撃であった。一方で彼はイレギュラーズの実力は『力の多寡では測れない』事も知っていた。
(クリスチアン、ヨアヒムの『他者を強制的に操る技』はキミも見たでしょ?)
(理屈は分からないが、アレは『普通』じゃ防げないな)
 隣に追いついてきたセララの念話にクリスチアンが同意した。
(多分、ヨアヒムの狙いはリズを操り、彼女自身の手で親しい人物を殺させること。
 タイミングは彼女が救出される瞬間とか――上げて落とすような事はきっと得意でしょ?)
 ヨアヒムの人物像を『想像』してクリスチアンは苦笑した。
(その時にリズはキミか新田さんを殺しに来るかも知れない。
 だから協力しよう。ヨアヒムの呪縛から彼女を解放するために!)
「そうだな。つくづく君達は『普通』ではないから」
 繰り返すが、クリスチアンはまともな相手に劣後した事が無い。
 彼は常に完璧で、彼は常に圧倒的な勝利者だった。
 凡そ、格上に等遭遇した事は無かったのだ。あの日、あの瞬間までは――
「期待してるよ」
 相手が普通ならば兎も角、ヨアヒムであるのなら『可能性の獣(イレギュラーズ)』の随伴は何とも心強い武器になると考えていた。
 合流を果たしたのはゴリョウやセララばかりではない。
「チームサリューへの回復支援。そちらの方は任されました」
 併走しながら静かに告げたグリーフに時雨は「助かる」と頷いた。
 時雨にとってグリーフはあの恐怖の夜で共に戦った仲間でもあった。
「借りが二つだな」
「返さなくて構いませんよ。どうぞ、心のままに進んでください」
 最優先で叶えるべき目的があるのなら、多少の問題を呑み込む事は難しくはない。
 最優先で打倒するべき不倶戴天が嘲笑を浮かべているのなら、その鼻をあかすに方法を選ぶ余裕は無かろう。
「お変わりなく、雪之丞さん」
「うむ。あの夜以来か。そちらこそ息災のようで何よりだ」
 舞花と雪之丞のやり取りを見ても分かる通り。
 二人のやり取りからは奇妙な友情や信頼関係すら感じられるものだ。
「来ないという心配はしなかったけれど、何時来るかは読めませんでしたから気を揉む所でした。
 ……タイミングを測って仕込みの上での登場とは、流石ね」
「若が見たらさぞや渋面を浮かべた事であろうがな」
 何事にも如才ないクリスチアンの小器用さを確かに梅泉は嫌いそうである。
「ははあ」と納得した舞花は悪戯気に雪之丞に尋ねる。
「では、雪之丞さんは?」
「俺か?」
 雪之丞の思案顔は一瞬だった。
「俺は――助かったがな」
「助かった」
「うむ。派手に登場したお陰で君がすぐに駆け付けた」
「――――」
 一菱の男だわ、という胡乱な感想は捨て置いて。
 呉越同舟の道のりの供は鼻歌で――彼我の因縁が多少なりとも『複雑』なら否定する理由も産まれまい。
「はあああああああああ――ッ!」
 一方でいよいよ性急に、のんびりしていられない人物もそこに居た。
 貫く槍の穂先の如く、人数を増しつつあるサリューの小集団の先頭で怒涛の刃を振るうのは紫乃宮たてはその人だった。
「あら、お見事!」
 軽妙な口調と共にぱち、ぱちと拍手をした斬華が目を丸くした。
 神速必殺の居合は恐ろしい位の冴えを見せていた。
 ともすれば『面白くなりがち』なたてはからは悍ましい程の妖気が立ち昇り、或る種の『彼女らしさ』は失せている。
「……斬華はん。手伝ってくれますの?」
「勿論、たてはちゃんの助太刀に来ましたよぉ♪
 ふふん! 梅泉さんはきっと無事ですよ! なので帰ってくるまでにお礼参りしちゃいましょう!
 獲物を取られて悔しいかも知れませんけど――背中は任せて下さいな♪」
「おおきに!」
 前のめりになれるだけなれるのはたてはにとって最高の好都合だった。
 生粋のアタッカーであるたてははスタンドアローンでも手強いが、隙を埋める誰かが居れば相乗効果が大きくなる。
(血の気の多い方もいらっしゃいますし、フォローしておきましょうか。
 こういう時ほど冷静に動かなければなりませんから――)
 そういう意味において同様の凶手でありながら今回はたてはのサポートに回る斬華と、『冷静』を自認する腕利き、沙月はうってつけだ。
「あんたもうちを――」
「――どう見ても危なっかしいので見ておいた方が良いかなと思いまして。
 余計なお世話かもしれませんが、今回だけは我慢して下さいませね」
「……っ……」
「たてはさんは『らしく』いなさいませ」
 目前を塞ぎかけた敵目掛け、大妖之彼岸花が閃いた。
 朱天の絶叫が邪魔する影を引き裂けば、返り血を浴びた空観はあくまで静かに笑んでいた。
「あの時、私達がもっと早く駆け付けて居れば……等とは申しません。
 たてはさん、ただ――今日は止まらないでくださいね。
 たてはさんは前だけを見れば宜しい。最短距離であの忌物を目指しませ。
 脇より溢れる有象無象など、私が斬り捨ててみせましょう」
「……」
「恋のさや当ては休戦といたしましょう。地獄までお供しますよ。
『今回はあの時同じ思いをした貴女と共にでなければ意味がない』」
 言葉に息を呑んだたてはは一瞬だけ返答に窮した。
 筋金入りの我儘お嬢様は口の中でもごもごしかかり、
「……どいつもこいつもお節介で……お節介な。ええ、恩に着るわ。着てやります!」
 やがて可愛くない一言だけを吐き出した。
 今日は随分と殊勝でしおらしいたてはに「えらいですね!」と斬華は笑い、沙月は「はい。着られます」と頷いた。
 クリスチアンの目的はリーゼロッテを助く事。
 たてはの目的は梅泉に繋がる情報を得る事、或いは彼を取り戻す事。
 何とも『悪役』には不似合いな有様だが、戦いはこの局面でも激しさを増していく――

成否

成功

状態異常
ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
黒豚系オーク

第2章 第4節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
シラス(p3p004421)
超える者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
冬越 弾正(p3p007105)
終音
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために

●STAGE II(西)
 ――リズちゃん!! 助けに来ました!!!

 爆弾のような大声が戦場に轟いた。
 渾身の言葉(スピーカーボム)は西の戦場で暴れるルル家の余りにも真っ直ぐな宣告である。

 ――私は絶対にリズちゃんを置いて逃げたりしない!
   リズちゃんは、大切な友達だから!
   リズちゃんが私を心配してくれたみたいに、私も貴女が心配なんだから!

 囚われのお姫様に届くように。
 真深い闇が彼女を包んでいたとしても、その光が届くように――

 ――これからの毎日に貴女がいないなんて嫌! もう友達を失うのは絶対嫌!
   すぐにそこに行くから! 待っててね!
   心配しなくても大丈夫! 貴女を縛る鎖の全部は私が、私達が断ち切って見せるから!

「情熱的なのです」
「私にはいまいち分かりませんが」とは口にせず、ヘイゼルは状況を評価した。
「外周は殊の外、鎧袖一触の風でしたが……
 サリューの方々も参戦して場も温まり、いよいよ愉しくなって参りましたね」
 西側の部隊はルル家を中心とした【銀絆】、オウェードを中心とした【黒鉄】が主戦力を担っている。
(まだ内周に入ったところ……外から中、より相手の術中に入るところですね。
 どんな策を仕掛けているのか、どのような用意をしているのか……読めません。
 しっかりと情報を掴んで、皆さんが対処できる備えを出来るようにしていくしかない!)
「敵の数も増えてきて、乱戦の様相になってきましたね。
 これだけいると忍びたちの奇襲も厄介ですし、敵の主力も引っ掛けてきそうです」
 正純の言う通り、ミッションの密度が高い(Very Hard)は知れている。
(どれだけ警戒しても足りないのなら、より警戒をするだけです。星の声も、願わくば)

 ――、――、―――――。

「ふふ、ありがとうございます」
 真昼の星に祈りを捧げ、正純は決意を新たに目の前の敵へと挑みかかった。
 無論、広域俯瞰で広範の視野を持つ支援役のリンディスは一切緩まず。
(『順調』はそう長くは続かないのでせうね?)
 最前線で防波堤となり続けるヘイゼルは内心で肩を竦めた。
 まだ積極的な姿を見せないヨル・ケイオスが『掛かる』ルル家の縁者なら。
「ヨル・ケイオスは強かった。彼女一人で盤面が裏替える可能性だってある」
 意見は同じだったのか、援護とサポートを中心に【銀絆】を支えるマルクが言った。
「敵の数は着実に減らしつつ、集団で警戒陣を貼って奇襲を防ぐ。
 サポートにしてアシスト。求められるのが『バランサー』なら――やる事は変わらないんだけどね」
「レーダー並の精度を期待してるぜ」
 マルク、冗句めいたシラスの読みもヘイゼルと同じだった。
 公開処刑というイベントをよりショッキングに彩り、リーゼロッテに打撃を与えようとするならルル家は確実なパーツとなる。
 増してやヨアヒムだけではなく、実働する襲撃者(ヨル・ケイオス)にまで理由があると言うのなら、そんな事は尚更だろう。
(これに探知されずに潜り抜けるのは普通なら無理だ。
 しかし、相手が『普通』であるという保証は無いな)
 シラスは自分自身に言い聞かせる。「瞬き一つで死ぬと思えと」。
「任されたのです。『仕事』ですから」
 一方のヘイゼルは淡々としたものだった。
 マルクとシラスの二人から探知強化(テスタメント)を預かったヘイゼルの感度は尋常ならざるものとなっている。
 ヘイゼルも又、リーゼロッテとの関係、この処刑の主催者の性格の悪さを考えても『要所はここ』と断じていた。
 抜群の身のこなしで敵をあしらいながら、彼女は俄然『見えない敵』への警戒をも強めていた。
「多少の無理はハナから上等!
 命を張るつもりがなきゃ、進んでここまで来ないさね!」
 凛然と声を上げ、敵陣に切り込んだのは幾度目か。
「私は打たれ強いのさ」。そう嘯いたシキは率先して敵陣を割り、自身の危険も省みず、周囲の敵を巻き込むように暴風の存在感を見せつけた。
「負けてられんな」
 艶やかな唇を三日月に歪め、不敵に笑うのは豪奢黄金の美貌である。
 乾燥した時間を、ひりついた空気さえ我が前にひれ伏せと宣誓する――
「前へ進めているのならこのまま突き進むのみ! もはや進む以外の道はない!
 かの曲者が姿に勿体をつけたいと言うのなら――この烈火疾風の両剣で、その姿暴き出してやるまでだ!」
 ――複数の敵を引き付け、『追走曲』を奏でたブレンダが吠えた。
「彼女たちの絆を断ち斬りたいのならば私を倒してからにして貰おうか!」
 強烈な乱戦は誰にも安全を約束しない。
「どんな奇襲だってなんだって、あたしが守ってみせる!
 だから……いけいけー! 突き進めー!」
 精霊との疎通を続けながら危機に備え、強力な支援能力で周囲を支えている。
(……まだ、まだ届かないなら突き進むだけだよ!)
 何度跳ね返されようと、どれだけの妨害があろうと変わらない。
 折れないフランは圧し掛かる疲労にもプレッシャーにも少しも怯んではいなかった。
「――さあ、どんどんこいっ!」
 敵と味方が入り混じる戦場は壮絶だったが、互いが喰らい合った先に望む結末(Happy End)があるとするのなら、足を止める理由は何処にもない!
「処刑台までもう少し、ですわね。もう少し、という事にしておきましょう!」
「うん。大分『本番』って感じだね!」
 気を吐いたヴァレーリヤにマリアが頷いた。
 攻撃的なヴァレーリヤが夜を払うように太陽を燃やす。
 反撃で別の角度から彼女を襲った暗殺者をカバーに入ったマリアが食い止めた。
「ヴァリューシャ! あんまり突っ込みすぎちゃ駄目だからね!
 それに……ヴァリューシャに何をするんだ!!!」
 滅多に聞く事の出来ないマリアの荒れた声色に応えるように雷撃が荒れ狂う。
「早く駆けつけてリーゼロッテ君やルル家君達を安心させてやらないと!
 ……骨が折れる仕事なのは間違いないけど、やってから考えればいい事だ!」
「ええ。ルル家、こんな時こそ焦らず落ち着いて。道は絶対に、私達が切り開いて差し上げますから!」
 果敢な戦いを見せる恋人にマリアは「でも、本当に無理だけはしないでね」と小声で付け足した。
「有難う、でも大丈夫でしてよマリィ。私が、足手まといになるような真似をするとでも思いまして!?」
 熱量は増す。一方的に加速していく。
「役者がどんどん増えてくねぇ――」
 ランドウェラが放った砂嵐が熱く激しく舞台を焦らした。
「近付いて手が届きそうで、それでも見えるよりその距離はずっと遠い。まさに迷宮だな?」
 ふ、と笑った錬の顔には自身の言葉を厭うている雰囲気は無い。
 目標は近付けば近付く程に遠ざかる。
 それはこの迷宮も魔術の深奥も同じ事である――
「『ヤバイレベル』の魔術師が何ぼのものだ。俺の目標はもっと先――まさに、星の如きだからな!」
 嘯いた錬が脳裏に描いた顔は『ヤバイレベル』ならぬ『混沌最高の存在』である。
 人智の極限に在る星(シュペル)を掴もうとするのなら、こんな負荷に怯んでいる時間等無い。
 成し遂げたい何かを阻もうとする者が居るのなら、中核に近付く程に圧力が強まるのは必然だ。
「コャー、内周に雪崩れこむのよ!
 簡単になったのね。ここで仕掛けてくるひとはみんな向こうサイドと考えて良いのかしら!
 もう、てかげんはしないのよ!」
「――盛り上がってきてるってことでヨアヒム……リーゼロッテパパはまだお開きにはしないはず。
『時間がある内にやれるだけはやっていかないとね』!」
 ハッピィ・トゥーンを背中に背負い怪気炎を上げる胡桃の言葉に「ああ」とランドウェラが頷いた。
「しかし……くそ、敵の壁が厚いな…非戦闘員にはきっつ過ぎる、というか暗殺機関多すぎないか……?」
「あくまで戦闘は続行ね……少し状況が動いたみたいだけれど、誰か来たのかしら。
 負担は軽くなったから、このまま勢いで押しこめるといいのだけれど」
 一方で轡を並べるサイズが思わずぼやき、消耗を抑えるように正面の敵をいなすヴァイスが広い視野でクレバーな立ち回りを見せている。
「その誰かさん……
 クリスチアン殿の派手な登場が助かった。場の流れはこちらにある。ならばこれが好機は言うに及ばず」
 同じく【黒鉄】の一員として力を振るう弾正は力の限り声を張る。
「怯えろ、竦め、雑兵共! 正義は我ら黒鉄にあり! オウェード殿に続け!!」
「うむ。ファンナイの一目惚れから始め勇者選挙で青薔薇を授けられ……思えば積み重ね過ぎたというものよ。
 ここは死地。これよりが佳境だが――まだ本番は来ておらぬ!」
「ン。種々様々 リーゼロッテ 救出 来タ。
 コレモ 縁。 ヨアヒム 持ッテナイ リーゼロッテ 力」
「うむ」
「縁 引キ寄セルモノ。
 リーゼロッテ 呼ンデイル。
 オウェード 君モ リーゼロッテ 呼ブ!」
「……うむッ!」
 フリークライの激励にオウェードが力強く同意すれば、【黒鉄】の勢いが見る間に増した。
「状況は厳しいね、でも、ちょっと薄情に感じちゃうカナ?
 薔薇騎士団の人達もあれだけ以前お嬢様への忠誠が厚かったのに。こんなに何事もなく冷静に行動できるなんてネ……?」
 ミルヴィの『皮肉』は第十三騎士団の表と裏の乖離を意味している。
『リーゼロッテに尽くす表』と『ヨアヒムの尖兵たる裏』は長きに渡り誰にも知られぬまま両立してきたものだ。
「そういうの好きじゃないなあ――」
 しなやかな身体を飛鳥の如く飛び舞わせ、剣気の斬撃を閃かせた彼女は囲み掛かった敵勢から逃げ水のように逃れている。
「これ以上進むにせよ――やれやれ、だ。先ずは敵の数を減らす必要があるな」
 シューターのジェイクが自慢の二丁拳銃をくるくると弄び、次の瞬間には仕掛けかかった新手の機先を縫い止める。
「行き止まりだぜ」
 敵もさる事ながら、やはりローレットは精鋭だ。士気が高い上に統率が取れている。
 鎧袖一触に外周を突破したイレギュラーズはクリスチアンの仕掛けもあり、ジリジリと進軍する戦いを進めていた。
「さて、そこそこダメージも蓄積してきた。
 オレの攻撃も、そろそろ無視出来ないほどには『痛い』ぞ?」
 ……とは言え、復讐心を滾らせたヲルトの言葉が示す通り、それは必ずしも『優位』を意味するものでは無かった。
 安定を重視すれば速力が、速力を重視すれば安定が損なわれるのは戦いの常である。
 温度差や動機は兎も角として、この戦いがあくまでリーゼロッテ・アーベントロートの処刑を止める為のものであるならば、イレギュラーズの取り得る手段は多くない。
 傷みを犠牲に、リスクを買って――手厳しい敵である第十三騎士団に挑まねばならぬのだから、状況が予断を許さないのは必然だ。
 そして、果たして。
「……ッ!?」
 その反応はヘイゼルからすれば実に珍しいものだった。
 彼女の探知が『危険』を察する――通常ならば気付き得ぬ幽かな違和感。
 束ねた力で『見つけた』のは幸いだが、『突然出現した』金髪の女に技巧派の彼女の反応すら遅れていた。
(益体も無い!)
 絡んだ鋼糸に引き倒され、悪態を吐いたヘイゼルが地面に叩き付けられた。
「やべぇ女の見本市みたいな戦場だな! こっちとどっこいどっこいだ」
「実体験だって人の話は、なんつーか言葉の重みが違う、な……ッ!」
【黒鉄】として奮闘するベルナルドと飛呂は咄嗟に【銀絆】――ルル家達の援護に動きかかるが、絡む敵兵がそれを阻んだ。
「やあやあ、可愛い妹よ。お姉ちゃんが遊びに来ましたよ!」
 そう笑うヨル・ケイオスはまるで『邪気のあるルル家』であった。
 彼女と見比べれば無邪気なルル家がどれだけ『マシ』に見える事か――
 詮無い話ではあるが、悪意を持つルル家等、文字通りのフリークスと呼ぶ他無いだろうから。
 だが、ヘイゼル等の警戒は決して無意味なものでは無かった。
「これでも腕に自信があるんでね。付き合って貰えるかい?」
 ヘイゼル自身は必殺を軽く外したし、彼女があぶり出した以上、腕をぶすシラスは『ここが働き所』である。
「お断りしたいですねえ。ラド・バウのエースなのでしょう?」
「生憎とこれは『押し売り』だ。合わせろォ! マルク!」
「ついでに正々堂々とも程遠い。これはお互い様でしょうけど、ね」
 シラスとマルクが見事な連携を見せ、ヨルの間合いに襲い掛かる。
 鋼糸を結界のように展開し、この攻撃を迎撃した彼女の眉が小さく動いた。
 彼等の技量は侮れるものではなく――故に、この厄介な女の持つ殺気の量が跳ね上がった。
「ヨアヒム様! いい加減に働いて下さいよ!」

 ――それでもわしの麾下か。情けない。

「ヨアヒム――!」
 突然響いたヨアヒムの声にドラマは目を見開いた。
(……あの時会敵したアレの力は……)
 過去の僅かな会敵の時間が彼女の脳裏に焼き付いていた。
(アレは数の優位を容易く崩し得る、こちらを傀儡のように操る異能を扱っていた。
 しかも、それすらアレの切り札ではない。確信して――全然底が見切れなかった)
 一端に魔道を学び、剣を学んだ自信があるからこそドラマは理解する。
『リュミエに薫陶した自身に魔術の底を見切らせず、レオンに師事した自身の剣を軽くいなした』。

 人はそれを――化け物と呼ぶのではありませんか?

「気を付けて下さい! 何が起きるか――」
「……!?」
「……………ッ!」
 ドラマの咄嗟の警告とほぼ同時にシラスとマルクの自由が失せていた。
 それはあくまで瞬間的な出来事に過ぎなかったが、ヨルにとっては十分だ。
「――こちらにも色々事情があるんですよ。ね、ルル家」
「……お姉ちゃん……」
 周囲に鮮血を撒き散らしたヨルは、返り血を浴びたその顔でにっこりとルル家に笑いかけた。
「嫌な旋律がどんどん増えていく……これだから戦場って嫌なのよ!
 本当にあんた、もうちょっと身内の躾位しておきなさいよね!」
 冷や汗を浮かべたリアが背にルル家を庇うような動きを見せた。
「リア殿!」
「守ってやるなんて言わないけど、何があっても大丈夫。あたしが絶対支えるから。
 でも、見返りは、後でたーーーっぷり貰うからね!」
「わあ、ルル家ったら。沢山いいお友達がいるんですねえ!」
 ヨルは楽しそうだった。
「色々、お姉ちゃんに聞かせてね」
 それは大切なものを弄らずにはいられない、壊さずにはいられない――難儀な女の実に厄介な貌だった。

●どうして
 赤く、赤く。
 乾いた地面に鮮やか過ぎる赤を撒いたのは誰だっただろう。
 少なくとも直死の運命に晒されたルル家ではない。
 彼女を支えてみせると啖呵を切ったリアでもない。
「……あらら」
 ヨルが目を細め、愉快気に眺めた先は。その美しい肢体を貫かれたのは――
「――ヴィオちゃん! ヴィオ……!」
 ――『本来ならばここに居る筈の無いヴァイオレット』であった。
「どうして……」

 ――結論から申し上げますと、ワタクシは彼女の救助に手を貸すつもりはございません。

「……どうして」

 ――リーゼロッテ様とて例外ではございません。
   罪には罰を。因果が回り回って応報を与えにきた。
   ワタクシにとってそれを邪魔する理由はございません。

「どうして、どうして……?」
 見た事もない位に狼狽するルル家は抱き起こしたヴァイオレットの身体に力が入っていない事に混乱した。
 いやだ、いやだ、やめて。おねがい。それだけは。

 ――それでも殉じたいのならば、お好きになさい。止めはしません。

「――――」

 ――しかしながら、ワタクシはお力になれません。申し訳ございません。

「どうして!!!」
 声を荒げたルル家に幽かな声が応答した。
「……知り、ませんよ、身体が勝手に……動いたん……ですよ……」
 さっき、あんなに『大声』で居場所を教えてくれたから。
 ヨルがルル家しか見ていなかったから。彼女を庇う事が出来た。
 間に合った。すんでの所で必殺致命の盾になれた――
(悪人には、因果応報の末路があるべき)
 間違いない。
(そう信じているから、私は今まで生きてこられた)
 そうでなければとっくの昔に狂っていた。
(いずれは自分もそうなると信じていたから、居てはいけない存在である事に耐えられた)
 悍ましい、悍ましい。
(僅かにでも善性が在るのなら、彼らもワタクシと変わらない。
 裁きを。それは救済だから。裁きを。求めていない筈がない。
 だから、悪人が応報を受ける事を邪魔してはならない。
 悪人には、相応しい末路を。それが、私の在り方で――)
 ヴァイオレットの視界が滲む。霞んだルル家が泣いていた。

 ――なら。やっぱりわからない。

「……どうして?」

 ――どうして私は、此処に居るの?



※本シナリオには特殊な『重傷』が生じています。
 ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)さんは戦場で致命的な傷を受けた為、シナリオの今後の展開次第で『死亡』判定が生じる可能性があります。
 現時点では『重傷』ですが、ヨル・ケイオス一派が健在である限り、(狙うので)彼女の危険度が上昇します。
 尚、ヴァイオレットさんの危機的状況は本シナリオが終了した時点で解除されます。
 又、御本人がプレイングをかける事は自由ですが、元気に動き回る事は出来ないという前提となります。
 以上、宜しくお願いいたします。

成否

成功

状態異常
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)[重傷]
私のイノリ
ツリー・ロド(p3p000319)[重傷]
ロストプライド
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)[重傷]
黄昏夢廸
ジェイク・夜乃(p3p001103)[重傷]
『幻狼』灰色狼
マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
冬越 弾正(p3p007105)[重傷]
終音
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)[重傷]
咲き誇る菫、友に抱かれ
小金井・正純(p3p008000)[重傷]
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)[重傷]
薄明を見る者
天目 錬(p3p008364)[重傷]
陰陽鍛冶師
ヲルト・アドバライト(p3p008506)[重傷]
パーフェクト・オーダー
フリークライ(p3p008595)[重傷]
水月花の墓守
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護

第2章 第5節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
越智内 定(p3p009033)
約束
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
暁 無黒(p3p009772)
No.696
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

●STAGE II(南・前)
「――ふふ、これだから群舞(アーチスト)はやめられないわ!」
 華やかに華麗に、そして鮮烈苛烈に。
「こんな素敵な恋物語に花を添えられるんですものね。
 冥利に尽きるとはこの事だわ。でもね――」
『一番星(にったかんじ)』に釣られて群がるかのような影達を冗句めいたヴィリスの『黒靴』が蹴散らした。
「――舞台の幕はまだ降りない。まだまだ踊り続けましょう!
 果てるまで、絶えるまで。さぁさぁさぁ! たった二幕で終わりなんてことはないでしょう!?」
 西での戦いが強烈な展開を迎えていたのと同時刻。
 四方を囲み、処刑台を目指す南側の戦場もハッキリと戦いの強度を強めていた。
「この大舞台で自分をエサにできるってなかなか出来ねえよ。
 くっそ、カッコよすぎじゃねえか……
 ……ハッ!?この俺が男気で一瞬負けを認めてしまっただと!?
 いかん! ちょっ、俺もいい男でしょ! なあ皆!?」
 道化めいた言葉も緊張を崩す『わざと』だろう。
 執拗に寛治を狙う敵は千尋の存在感を際立たせるターゲットに過ぎない。
「特記戦力だかなんだか知らねぇが――覚えておけよ『悠久ーUQー』の伊達千尋をな!」
「うんうん! 新田さんの大舞台……だもの!
 ひとりの女の子を助けたいなんて素敵。素敵過ぎる!
 リーゼロッテさん絶対助けたいよね? そうだよね? 手伝わせてね……!」
「役得なんだか、一生の擦られネタを得たのだか――」
 言葉を聞くだけで『前のめり』が知れ過ぎるフラーゴラの勢いに珍しく寛治は気圧されているようにも見えた。
『友情』とやらが素晴らしいのは知っているが、歳も歳なら素直に肯定するのはこれも中々面映ゆい。
(まったく――案外自分の事は知らないものだ)
 彼女の攻勢に呼応するように連鎖した彼の死神(ラフィング・ピリオド)は嘲るかのように身を翻しかけた暗殺者の一人を撃ち抜いていた。
(ヨアヒムの性格と目的を考えれば、私が安全は無いでしょうからね。
 ルル家さんや、レジーナさん等も無事なら良いのですが)
 南側から攻め上がる寛治は敢えて自分の存在感を前に出していた。
 リーゼロッテを痛めつけたいのなら、彼女と親しい人間は必然的に強度の高い的になりやすいというのが寛治の読みである。
「頭がキレる男だとは知っていたけど、思ったよりよっぽど泥臭くてイイ男ねぇ新田さんってば!」
「恐縮です」
「四十路の男が腰痛も知らねえって前に出るなら――その背中を支えるのが、イイ女ってものなのよ!」
 その言葉は実にアーリアらしく、彼女の気質も嗜好も手伝ってか、実に生き生きとした顔を見せている。
「これだけ応援してるんだからねぇ。……負けないでよ?」
「いやはや、『譲れない理由』が増えたというものです。『株主』のご期待には応えねば」
 如才ないジョークでかわす寛治にアーリアは軽く笑って一層の上機嫌を見せていた。
 実際問題『勝ち負け』或いは『誰が一番か』は寛治にとって比較的重要な問題ではあるが、その特定は今の一丁目一番地では有り得ない。
「さぁて第一の関門は突破した、ここからが本番だ!
 作戦はシンプル、新田さんを釣り餌に強行突破ってね!」
 朋子の言う通り言葉にすると単純極まりないが、それだけに吶喊力があるのは確かである。
「かぁぁぁ! 先陣切って仁王立ちとか新田さんやるっすね!?
 ならばこの無黒、最後までその想いお手伝いさせてもらうっすよ!」
「あの寛治が前に出るとはな! 随分魅せてくれるじゃねえか。
 こりゃあ援護に来た以上、大将の為に一層張り切ってやらねえとなぁ!」
 無黒が感心した声を上げ、同意見だったらしいルカも『黒犬』を振るい露払いに力を入れる。
「寛治さんが、自分から囮になるなんて……普通なら無い事でしょうね。
 でも、止めません。止められません! 私は向けられる矛を断つ魔女となりましょう!」
 攻撃を重点的に、必要であらば支援にも回る――気を吐いたマリエッタに秋奈が彼女らしく同意した。
「おおっと、私ちゃんノリでウェイウェイやってたんだけど……
 ああ、新田センセを守るんだって? そうか、ならヨシ!
 細かいこと気にしたら負けだぜ? うははははー!」
 見て分かる通り【銀弾】は一つの貫通力と化していた。
『スナイパーである寛治がその先陣を切る事自体が例外中の例外だ』。
 その寛治を守り、或いは援護し、共に駆け抜ける為に精鋭戦力が纏まりを見せている。
 流動的に移動する――或いは乱戦に引きずられて移動せざるを得ないイレギュラーズの戦力は『第一幕』と比して、やや分散の傾向を見せていた。一方でこの南側戦線は旗を掲げる寛治の統率や決意への支持もあってか、特別纏まり良く【銀弾】の軌跡を紡いでいる。
「あれは仕込みですか。来ないなんて事は無い、とは思っていましたけど」
「それ位はやる男ですよ」
 随伴するように自身をフォローするリースリットに「大嫌いですけど」と付け足した寛治は頷いた。
「――何にせよ、有難いのは確かだ。目立ちたがり屋(クリスチアン)の件も含めて。
 後は我々に任せて寝ていてくれれば一番ですが……まぁ、そういう男ではないでしょうがね」
「……新田さんも、くれぐれも気を付けて下さいね」
 言わずもがな、リースリットの忠告の意味は知れている。
 恐らくは煽られたドラマも口をへの字に曲げて機嫌の悪い顔をしているだろう。
 ヨアヒムは先の戦いで『サクラを操って梅泉を斬った』のだから。
(一部の敵が浮足立ってるけど、他の敵は油断してない気がする……なら)
 星の破撃――零距離の放出で敵を迎撃したヨゾラが内心で呟いた。
 成る程、混乱を増す状況への反応は敵の性質を区分するリトマス紙のようなものである。
「……ありがとうクリスチアン、は兎も角。ここからが、オレ達の腕の見せ場だな。
 雑魚共がてんやわんやで引っ込んだ……が、今度は先程とは比べ物にならない殺気がうようよしてやがる」
「ああ! いいねぇ! いよいよ盛り上がって来やがった!
 雑兵じゃ食い足りねえ所よ。俺様の舞台にらしくねぇ!」
 連携良く【銀弾】に襲い掛かる暗殺者は何れも手練ばかりである。
「見ていろ、ヨアヒム」と気を入れた紫電、純戦闘力ならローレットでも指折りのグドルフが明確な手応えを口にする敵は誰にとっても明らかな脅威。
 クリスチアンの登場以降、前を阻む敵は確実に量から質へと姿を変えていた。
 元々イレギュラーズを消耗させる為にぶつけられていたのは一般兵。倒されてもどうという事の無い捨て駒のようなものだったと推測される。そして、現在寛治を含めたイレギュラーズの前を阻むのはそれよりも上の存在、ヨアヒムの本当の兵の方であろう。
「俺の実力じゃ、恐らく最後の支援になる
 だから……今の内に言っとくぜ、新田さん!
 惚れた女ァ! 必ず救って来いやぁ!!!」
 ブリッツボーイ・ガントレット――装着者(プラック)の一本気を表す『火の玉』が合わせられ、カチンと澄んだ音を立てた。
「誰が先にお姫サマの元に辿り着けるか、そんなの決まってらあな。
 競争だ、競争! さあ、我らが黒服の王子サマがお通りだぜ! とっとと前を――道を開けやがれ!」
「以下に強力な敵であろうとも四方より攻撃されれば守りきることは難しいようですね。
 活路を開く為にもこの調子で攻め続けていきましょう」
 とは言え、敵の精兵が表に出たという事はグドルフや続いたリュティスの言う通りそれ自体に意味が大きい。
 闇のヴェールが剥がれぬままなら、どうあれイレギュラーズに勝ち目はあるまい。
「なるほど、これはあれだね。死の匂いというやつだ。
 沢山の凶刃が手ぐすね引いてこちらを待ち構えている――でもね。
 この程度でこちらが引くと思ったら大間違いだよ。逆に燃える。力が入る。
 特に俺達を率いる人はね――間違いない!」
『別れの魔剣(ヴェルグリーズ)』はその匂いを知っている。
 自身とは似て非なるその気配を見逃しはしない。しかし。
『どれ程に敵の反撃が強力になろうとも、強力になる限りは目的に近付いている』。
 中核の防御が緩んでいる等、幻想だ。ならば防御は分厚い程いい。その方が『当たっている』。
(シンプルで実にいい。予想通りというものです――)
 リュティスと迎撃に出た暗殺者が至近距離で肉薄した。
 元より見え透いた罠に不利な戦場を選ぶような『傲慢』が相手なのだ。この位は想定しない方が温すぎる!
「現代っ子を舐めて貰っちゃあ困るんだよね!」
 啖呵を切ってリュティスを横合いから狙った新手を定が食い止めた。
(とか何とか言いながら……こんな所まで来ちゃった!
 此処、所謂死地……ってコトよね!? いや、まあこれだけ人がいるんだから何とかなる! よね?)
 猛々しい戦士のメンタルを持てるかどうかはさて置いて、守るべき何かを守らねばならないというのは定の『男の子』からしても正しい。
 例えば、あの刑台の乙女の顔が別の『誰か』のものだったら――
「……あ、気合入ってきた!」
「見返り期待して来たって言えばそれまでだけどね。
 雑魚には雑魚向けの餌があるってワケ!」
 嘯く夏子の本心が何処にあれ、不本意なこの『大忙し』を彼は厭うては居なかった。
「台上への茨の道、どれほどふさがっていようとも。わたし達が押し広げる!」
 気合十分のココロが持てる力を振り絞るように傷付いた仲間達を賦活する。

 無理矢理の進軍は【銀弾】の誰をも傷ませている。疲労させている。
 だが、彼等は足を止めず、同時に足を止めさせないだけの決意がそこにはあった。
「あなたの副官が断じます、この戦いはあなたの物。
 途中でへこたれたり――しないで下さいよ!?」
 振り返ったココロと寛治の視線が絡み、寛治は「誰に言ってるんですか」と彼らしからぬ返事をする。
 戦いは壮絶であり、イレギュラーズは誰に恥もしない奮戦を見せ続けている!

●刑台の乙女
「数を頼みに仕掛けて来よる。
 フッフ! 随分と好かれたものではないか、リーゼロッテ!」
「……」
「友人知人の顔は見つけたかね? つい先程、わしが縛った連中はそうか? 違うか?
 ……ふむ。少なくとも幼馴染君は顔を出してくれたようだが。
 大声でお前の名を呼ぶ連中も居たなあ。顔色もしかと変わった。で、どれがお前の特別だね?
 フッフ! 答えなくても想像の方はついてはおるがね!」
「……ああ、嫌になる! 我ながら血筋ですこと! お父様!」
「あれ程欲した父との会話ぞ? もう少し良い顔をしても罰は当たらないのではないのかね!?」
 牙のような犬歯を剥いたリーゼロッテにお構いなく、だ。
 組み上げられた処刑台の上から眼窩の乱戦を見下ろしながらヨアヒム・フォン・アーベントロートは上機嫌に笑っていた。
 四方八方一面の乱戦は激しさを増しており、敵味方双方に夥しい被害を出している。クリスチアン・バダンデールの仕掛け以降は外周を取り囲むようにした観客も不穏であり、不平不満のシュプレヒコールは時間と共に強くなっているようにも思われた。
「頼れる友人は重畳よな。希望を感じるか、リーゼロッテ」
「……」
「この父を前に、父を追い込んでお前の拘束を解く者が現れると――信じたいよなぁ」
「……………」
「何、答えは望んでおらぬのよ。
 お前はわしの娘故。『わしはお前を誰よりも知っておる』。
 お前は諦念しながらも、希望を捨て切れる程強くはない。
 連中が傷付かぬ事を望んで居るが、こうなれば『ひょっとしたら』は首をもたげようなあ――」
 ヨアヒムの軽侮にリーゼロッテは唇を噛み締めた。
『それが本当である以上は、父に抗弁する言葉が無い』。
 誰よりも無関心であり、最も自身に没交渉だった肉親は知った顔で驚く程正確に『リーゼロッテ』を語っている。
(どうして……?)
 不快感と、それ以上の違和感に襲われたリーゼロッテは思案した。
 あてずっぽうで言っているとも思えない。
 示威的にヨアヒムはリーゼロッテへの理解を口にしている。
(スパイでも居たというの? でも、誰が?)
『暗殺令嬢』の近くに居る人間は基本的に知れていた。
 多くを置いた訳ではないから、父に通じる人物等見当もつかない――
「フッフ! 良く考えたまえ。何れにせよ『クライマックス』はもう少し先になろう。
 まぁ、ヨルめも兵も頑張るだろう……それはお前の悲報になる。
 連中が頑張り過ぎてわしの出番が無くならない保証はしないがね!」

●STAGE II(南・後)
「ああ、畜生め! アレ何とかならねぇのか!?」
 プラックの悪態の直後、その至近距離で大きな土煙が上がる。
 寛治の存在が為か【銀弾】の貫通力が故かは定かでは無いが――
 処刑台近辺から放たれるバリスタでの攻撃が苛烈さを増していた。
 イレギュラーズは傷付けられ、部隊が脅かされる事も著しい。
「厄介ですが……でも」
「止まる理由にはまだ弱いよね」
 シルフォイデアは唇を噛み、イリスはそんな風に嘯いた。
 困難と圧力を振り切るように身を削りながら【銀弾】は前を目指していた。
 殆どの人間が酷く消耗している。無傷の者は少ない。
 相応の敵を倒してきたが、暗殺者達の数もまだまだ多く残されている。
 だが、彼等は――先程よりは随分と処刑台に近付いている。
 唯一つの目標を胸に、一心不乱に前を見ていた。
「――、――、――――ッ!」
 埃と汗に塗れ、髪を乱し。まるで怒鳴るように『彼女』の名前を呼ぶ寛治も未だ健在だ。
(――私、ヨアヒムさんの思惑とか、多分きっとわかりません)
 考えても分からない。
 誰かを唯傷付ける為にそこにある悪意の意味なんて。
 理解しようとも思えない。
 その先に何があるかなんて――理解したくも無い。
「……だから、イレギュラーズの先輩方を信じます!
 皆さんが積み重ねてきた時間を無駄にさせない。失わせない……
 ハッピーエンドがどれ位遠くたって――私は希望を繋ぐ礎になりましょう!」
 ユーフォニーの勇気は幾度も灯る。
 彼女の見せる万華鏡の煌めきは言葉よりずっと苛烈に敵陣を幾度も脅かし続けていた。
「わたし達を信じてくれる人たちがいる……」
 両目を見開き、残酷で冷酷な世界に宣戦布告するように凛と。
「ならば、どんな結末も、絶望も!
 止めることが出来るのだと、そう信じられるのです。
 わたしが皆を癒し、そして支えます。どうか、どうか存分に!」
 シルフォイデアの見事な『指揮』と奇跡の力が再び、三度と仲間達に力を与えた。
『後衛』が尽力するなら、『前衛』も負けてはいない。
「まぁ、同感よ」
 誰よりも矢面に立ち、誰よりも傷付いた不沈艦――イリスが吠えた。
「まだ、こんなものじゃないって所を見せてあげないとね。
 私が皆を守り、そして導く! 突破するわよ、あの処刑台まで!」
「もうひとふんばり! まっすぐ行ってぶっとばす、えいやー!」
 防衛力が力を発揮したならば、今度は攻勢だ。
 台詞よりずっと鋭く気を吐いたリュコスが前を塞いだ暗殺者を速力で『圧倒』した。
「使い古された表現、大いに結構!
 御旗を守るのが俺達みたいな『剣』の役割なら――暴れる理由は十分だよな?」
 暴れる死神(クロバ)が黒い風のように敵陣を駆け抜ける!
「それじゃあ、張り切って道を開くとしますか!」
『破壊の軌跡』を振り返らずに『これから』を口にするクロバはまるで満足していないように見えた。

成否

成功

状態異常
グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)[重傷]
花に集う
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)[重傷]
【星空の友達】/不完全な願望器
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)[重傷]
紅炎の勇者
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)[重傷]
真打
プラック・クラケーン(p3p006804)[重傷]
昔日の青年
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)[重傷]
音呂木の蛇巫女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
伊達 千尋(p3p007569)[重傷]
Go To HeLL!
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)[重傷]
黒狼の従者
長谷部 朋子(p3p008321)[重傷]
蛮族令嬢
ヴェルグリーズ(p3p008566)[重傷]
約束の瓊剣
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)[重傷]
星月を掬うひと
越智内 定(p3p009033)[重傷]
約束
ヴィリス(p3p009671)[重傷]
黒靴のバレリーヌ
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女

第2章 第6節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトスはぶっ飛ばす
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

●STAGE II(転)
「――航空猟兵、出撃する。飛行ルートは任せなって!」
 勇ましいアルヴァの声は非常に厳しい状況を続ける戦場に風穴を開けようという意志を秘めていた。
「まぁ、我ながら無理で無茶だけど――多少はね。
 ――てめぇらが俺を貫こうって言ってもな、こっちも信念を貫かせて貰うぞ!」
 アルヴァの言う所の『航空猟兵』は飛行能力による奇襲強襲に特化したチームである。
 それぞれ準備を統一した彼等は、北方位での戦いを【銀紅】と協力する形で進め――千載一遇の時を待っていた。
「無事に 外周を 突破したいま……つぎに ねらうのは バリスタですの!
 空の皆様と 合流して…… 処刑台を めざしますの!」
(親は子を守り、教え、時に叱ったり叱られるもんだ。
 よそ様の家族観は知らんが……子殺しなんてやらせるかよ。
 その為なら、この位、何て事もないだろう?)
 愛らしい顔立ちに強い決意を滲ませたノリアを背に乗せるのは「ああ」と頷き、内心でそう呟いたウェールである。
 防衛に向かない処刑場での戦いだが、敵側が唯一強力な優位を得ているのは処刑台付近に準備された防御用兵器の存在だった。
 そもそも大型のバリスタは攻城兵器、或いは対軍兵器である。少数の対人に取り扱う事そのものが尋常な事ではないその破壊力はリスクを買って前進を続けるイレギュラーズにとって目下最大の危険であると言えた。
「わたしは はやく 空は およげませんけれど……
 ウェールさんは わたしが守りますの! 大きな船に乗った気持ちでいてくださいましね!」
 バリスタの脅威が地上の進軍を阻んでいるのなら、この速やかな排除は作戦的な寄与が大きい。
(バリスタを壊せればこちらの勝ち――『落ちない』を徹底するしかないが、さて)
 少なくとも地上を進む仲間達を信じるならば、【遊撃】が確実に仕留めなければならないのは『そこまで』だ。しかし、地上の乱戦を避けて一足飛びをするには飛行は確かに有意義な手段であるが、ノリアの言う通り、ブランシュの考えた通り、かなりの危険が存在するのも確かであった。
「今回も壁役だ。何処までもつかは知れないが、無いよりはずっと上等な盾でいる心算ではあるな」
 嘯いたエイヴァンが視線の先に認めた『目標』に腕をぶした。
「そろそろ来るゾ……! 精々、時間を掛けて貰おうかっ……!」
 地上部隊へ苛烈な攻撃を仕掛けていたバリスタ隊が航空猟兵の後手を踏んだのは見るからに明らかであった。
 とは言え、プリンが敵を射程に捉えるのが『先』にはなるまい。
【遊撃】はワイバーンや自身の飛行能力等、様々な準備を進めこの作戦に向かっていたが、当然ながらに宙を進む事は防御的な危険を伴う。
 敵側がざわつく始めた以上は『対応』が来るのはもうすぐそこ。
 つまる所、プリンやエイヴァンが倒れるのはもう決まった仕事の内である。
「おねーさんは盾役だからね。簡単に倒されてやったりはしないのよ!」
 だが、素直にそれを受け入れる程、彼等は、胸を張ったガイアドニスは甘い戦いをしていない――
 アルヴァは作戦に当たり『誰も脱落させない』事を強く意識していたが、実際の所それは不可能と断じざるを得まい。
 彼が何処まで本気でそれを考えているかは微妙な所だが、この強襲の難度の高さは作戦自体に表れている。
 航空猟兵による遊撃は先行チームと後攻チームの二手に分かれているのだ。
 先行するチームは比較的防御が堅牢である事を考えても『受け止める』役割だ。
 やがて続く矛を待つ盾は時間を稼ぐ役割なのだ。
 これは多少の被害を出そうともやり切るという構築であり、甘い考えの逆を行く。
 しかしながら、それは通り一遍の一般論に過ぎない。
 可能性の獣が不可能を打破し続けるのなら、最前線を行く彼等はそれを躊躇する理由にしないのは必然か――
「おっと!」
「……この程度じゃまだまだ」
「落ちてはあげられませんの!」
 エイヴァンが、プリンが、或いはノリアが接近に気付き猛烈な迎撃を加えてきたバリスタと相対する。
(か弱い子達を護るのがおねーさんなのです!
 みんなが無事でありますよーに!)
 ガイアドニスの『おまじない』はオカルトよりも天に届く――文字通り身体を張った守護である。
 強烈な射程を伴って放たれる大矢は並の人間ならば何度殺しても釣りが来る位の暴力の塊だが、それは無意味な仮定だ。
『そも、好き好んで楽園追放の地を征くイレギュラーズに並の人間等一人も居ないのだから当然だ』。
「厳しいな。厳しいが――」
 我が背で傷付いたノリアを見てウェールが苦く呟いた。
 撃ち落され、不完全な格好での着陸を余儀なくされた者が居るのも確かである。
 しかし、言葉には先がある。
「――ここが、攻め所だ」
 大型兵器は再装填に時間が掛かる。
 地上部隊と対空攻撃のターゲットの切り替えも簡単では無いだろう。
 故にこれは確かにウェールの言う通りの好機であった。
「何とか、近付けたみたいだね……!」
 前に後ろに道中の支援に忙しい――アクセルが小さく零した。
【先行】組もよく耐えたが、これは中衛と言うべき位置で続いたアクセルの支援による所も小さくない。
「さぁ、肩慣らしは済んだ。ここからが本番だ、そうだろう?」
 ルクトの言葉に轡を並べる飛兵達が頷いた。
『盾』が役を果たしたならば、『矛』は穿ち貫くまで。
「ああ……隊列を整えて行動するのは少々久々だが……悪くない。
 行くぞ。…『蒼空の眼』ルクト、交戦開始!」
【先行】の部隊はターゲットを集めた時点で地上の圧力を緩め、その次に襷を繋いでいる。半ば目的を達しているのだ。
 最良ならば話は別だが、現実的にそこに切り込むべきは、彼等に続く【後続】の方なのだから――
「ようやくトライの時間だ」
 干戚羽紡は武威を宿す。
『やられる』前を犠牲に肉薄したミニュイの灰翼は言わずもがな、この肉薄と攻勢の始まりを待っていた。
「随分とご立派なものを建てたようだけど、高さが足りないな。此処に天井は無い。
 こうして頭上を襲われたとして――さて、射角は足りるのかな?」
 圧倒的な速力を活かした空中殺法はバリスタを回転させかけた兵の一人を猛襲する。
「気ぃつけな!」
「うん?」
「あの性悪ガマガエル、バリスタも誘いにしかねねぇからな。
 さて、ラダも来て――どうせどっかで暴れてるだろ。それなら脅威は払っておかねえと」
 ニヤリと笑ったルナが皮肉に冗句めいた。
『種族柄、奇襲等という眠たいものを喰らうようには出来ていないのだ』。
 回り込みかけた敵兵の機先を制するように彼は強烈な一撃をお見舞いする。
「合わせて、失礼」
 短く口にしたチェレンチィの無数の雷撃が間合いの敵を焼き尽くす。
「やるねえ」
「どうも」
 連鎖的な攻勢は実に連携良く放たれた攻防一体の一撃は実に鮮やかでルナは小さく口笛を吹いた。
 広い視野と粘り強さを併せ持つ彼女の『降臨』は敵側にとっての新たな凶報と呼ぶしかないだろう。
「甘く見るなよ……!」
 しかし、敵もさるもの。
 士気の高い精兵はそう簡単には崩れない。
 元よりバリスタ隊も会敵は予期している。当然、何れかのタイミングでの攻撃は想定の内であった。
 航空戦による吶喊が予想より早く、想定外な動きだったのは確かだが、更なる近接戦に対応せんと動き出すが――
「何、主役が到着の前の露払いだ。邪魔者(バリスタ)は確実に破壊させて貰う!」
 立ちはだかり、気を吐いたシューヴェルトは臆面も無く言い切った。
「さあ、野暮な君たちはこの貴族騎士が相手をしよう!」
 取り付いてさえしまえば、戦い慣れが武器になる。
 バリスタを取り扱うのは優秀な兵士に見えたが、第十三騎士団の人員は主に前線なのだ。
「隊長に呼ばれて来たㅤ……これは佳境!!!
 流れは大体理解してるからね。めんどくさい親子の喧嘩仲裁といきますか!」
 一度打ち込まれたらそうは抜かせない。茄子子は強力な楔であり、仲間に与える支援者だ。
「あの処刑台には、やっぱり何かの仕掛けでもあるみたいだね。
 まぁ、結局威力が勝つか、防御が勝るか……壊せればあんまり気にしなくて良い事だけど」
 Я・E・Dは実に平然と嘯いていた。
 鉄の星はバリスタと言わず、敵陣と言わず、処刑台そのものまで脅かさんと暴れ狂う。
 通常のものとはまるで違う『強度』を確認した彼女は目を細め、『魔術師』なる敵の事を思う。
(梅泉さんの姿が見えないから……ややこしい事態もあるかも知れないけど)
 ともあれ、吶喊力は十二分。特に攻め始めれば滅法強い。
【後続】した九人のイレギュラーズは【先行】側の被害を文字通りの盾にして実力を十分に発揮している。
 混乱の中、少なくとも三台中二台のバリスタは機能不全に陥っていた。
 残る一台も航空猟兵を中心とした【遊撃】の存在感を無視出来る程、腹は据わっていないだろう。
「知ってるかい?」
 ヘビー級とは思えない華麗なステップインで『距離を潰した』貴道の拳が敵兵の顔面を撃ち抜いた。
 何とも同情したくなる相手が『聞けて』いるかは定かでは無いが――
 彼は強面に似合うような、似合わないような『ロマンチック』な事を云う。
「ヒトのチカラってのは意志力だ。
 俺がここに来たのはお嬢の命を拾う為だが、目指すのが俺である必要はない。
 運命はより強い奴が引き合うもんだ。だから、鍵はそっちだろう?
 俺よりも強く想う奴等こそが、不出来な運命(バッド・エンド)を引き裂くさ」
 ファイティングポーズをとった貴道に敵兵複数が気圧されている。
「――俺のやるべき事は、連中をあの場に届ける事だ。
 邪魔はさせねえ、この俺の全力を以ってな。
 そっちも腕ずくで構わんぜ。文句があるなら、かかってこいよ?」

成否

成功

状態異常
ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾
郷田 貴道(p3p000401)[重傷]
竜拳
ウェール=ナイトボート(p3p000561)[重傷]
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)[重傷]
灰雪に舞う翼
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)[重傷]
救いの翼
ルクト・ナード(p3p007354)[重傷]
蒼空の眼
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)[重傷]
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)[重傷]
虚飾
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)[重傷]
天下無双の貴族騎士
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)[重傷]
彼女(ほし)を掴めば
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)[重傷]
ヴァルハラより帰還す
Я・E・D(p3p009532)[重傷]
赤い頭巾の魔砲狼
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)[重傷]
タナトスはぶっ飛ばす
ガイアドニス(p3p010327)[重傷]
小さな命に大きな愛

第2章 第7節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
レッド(p3p000395)
赤々靴
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
すずな(p3p005307)
信ず刄
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

●STAGE II(北)
「――やるじゃない、アルヴァ」
 小さく漏らしたレジーナは戦場の変化を見落としてはいなかった。
 北での戦闘で自身の率いる【銀紅】と連携していたのが【遊撃】、即ちアルヴァ達を中心とした一行である。
 彼等は北での戦闘から派生する形で飛行部隊を形成し、その先のバリスタを強襲する作戦を立てていた。
「バリスタの有無がどうした?
 そんなの関係なくとも己を信じて歩を止めず前を行けっす!
 ……って事っす。それをやり切っただけッスよ」
 レッドの言うのは些か手厳し過ぎる『だけ』である。
 勿論彼女はその無理無茶を承知の上で言っている。やり切ったからこそ言っている。
(まぁ、依頼でもないのに旧友の為で付き合ってる以上は他人の事言えないッスけどね……)
 あの威力を目指して『飛ぶ』なんて自殺行為に等しくさえ思われたのに。
『やるしかない』なら『ぞっとしない手段も適切』だ。
「聞くからに厄介な侯爵様だ。関わりたくも敵に回したくもなかったんだがね。
 こうも大々的に介入したんじゃ、もう言い訳はできない。
 何としても、マシな結果を手繰り寄せるしかないからな」
 ラダは小さく肩を竦めて言った。
 選択は常に自分自身のものだが、与えられる択は往々にして不合理で不自由なものだと思う。
『実際にこの現場に立つ事を選んでしまった自分も含めて』。
 結局、人間というものは何処までも難しく出来ているという事なのだろう。
「これならヨアヒムも退屈する暇も無いだろうね」
 乱戦に支援を届け、下支えに尽力する鈴音にレジーナは「ええ」と頷いた。
 この鈴音だけではない。
「第一、公開処刑にバリスタとか要る!?
 リーゼロッテをダッカンするオレたちを殺す気満々だったって事じゃん!
 性格悪いよあのおっさん!」
「外周部の制圧は完了。フェーズ2、内周を攻略中。
 バリスタが厄介だったからね。支援砲撃を効いたなら良かったけど」
 思わず抗議めいたイグナート、砲兵火力と化したオニキス等。【銀紅】の一部も強襲を仕掛けた【遊撃】を支援する形の戦闘をも展開していたが、結果として航空猟兵のウルトラCは或る程度の奏功を見せたと言える。地上部隊を脅かしていたバリスタは一時的に機能不全に陥っており、北だけではなく各方位の戦況にプラスの影響が及んでいるのは確実な情勢だった。 
「だが、重要なのはここからだ」
「派手な活躍だけど――だからこそ、この機は逃せない。僕達も役目も果たさないとね!」
 静かにレイヴンが言えば、カインが首肯した。
【遊撃】に出た航空隊は強力なイレギュラーズで構成されているが、彼等は位置柄ヨアヒムに近い事もあり、遠からず敵主力に囲まれる格好になるだろう。彼等が『空挺』である以上、軍事的な後詰めが重要なのは当然だ。
(協力するのは、リーゼロッテさんを助けたいと思う仲間のため。
 しかし、戦いに来たのは、多分……見てみたいからだ。幻想の闇とやらの力を)
 足掻いて、足掻いて、足掻いて――這ってでも前に進む。
 自問自答したイズマに一つ動機を上げろと言われるならば、もしかしたらそんなエゴイズムだったのかも知れない。
「『個人的な縁』は無くともできる事はあろう。
 自分に出来る事を、やれる限りに、限界のもう少し先まで食い付けば――」
【遊撃】に出来たなら、【銀紅】も同じ事、とアーマデルは軽く笑った。
 彼等の奮闘はそこで終わりではないのだ。彼等の奮闘は呼び水である。
 より大きな流れの、より大きな力の先駆けに他ならない。
「――通らぬ道理も通るだろう?」
『北』が処刑台付近の情勢を動かしたのなら、今一番その場所に近いのは【銀紅】だ。
 つまる所、【銀紅】はアルヴァ達が決死の覚悟で一時的に押し込んだ敵戦力の麻痺を『確定』させる役割を負っている。
「まァ、あとは行動回数と連撃に物を言わせて敵をボコボコに叩きのめす! 以上!
 元気有り余った――元男子高校生のバイタル舐めんなよ!!!」
「向こうも大分余裕が失せてきたか? それらしい連中が見えてきたじゃないか」
 怪気炎を上げて突き進むミヅハの一方、レイヴンの言葉は余裕めいていたが、明らかな警告の色を帯びていた。
「うん!? 何だ、こいつら!?」
「恐らく封魔忍軍だろう」
 敵方の前線で激しい戦闘を繰り広げていたのは主に第十三騎士団の凶手共だったが、ここで明らかに『別』の増援が現れたのである。
「敵はどいつもこいつも手練ればかり」
 目を細めたゼファーが睥睨した新手はレイヴンの言う通り『封魔忍軍』と思しき戦力だ。
 天義の非主流派――軍閥の私兵であり、第十三騎士団とは似たような存在だ。
 非合法を中心とした闇の仕事を請け負う特殊部隊であり、あのサクラの兄が首領を勤めている――
 第十三騎士団とは似て非なる、文字通り『毛色』の違う連中は、しかし同様に高いプロの技量を感じさせた。
 短く呼気を吐き出して地面を蹴った『忍』の黒剣がゼファーの喉元に伸びてくる。
「……だけど、此れが未だ序の口だって薄々分かり始めてるんだから最悪だわね?」
 見え透いた必殺を『辛うじて』かわしたゼファーは口元に垂れた血をぺろりと舐めた。
 ひりつく戦場は何時も手酷く手厳しい。十代の女子にはもう少し遠慮してくれても良いだろうに――
「あのでっけぇ処刑台……近付いてきて、いよいよデケェな。
 今すぐ突っ込みてぇが……ちょっとキツいか」
 ゼファーに襲い掛かった忍の一人に横合いから葵が仕掛けた。
「しゃーねぇ、足元から片付けていくか……ってね」
「足元の扱いは得意なんだよ」と嘯く彼は言葉よりは泥臭く派手な攻撃をぶっ放す。
 第十三騎士団に加え封魔忍軍を相手取る北の戦力は兵力を【遊撃】に割った事もあり、守勢を余儀なくされていた。
 されど。
「次々と現れる――強敵程、僕は強くない。
 ……だから僕にできる事は足止めと回復位だけど。
 だけど、それだけでも。足手まといになんかならない。そんな風に言わせないから――」
 傷付けられた味方を祝音の『意志』が救援する。
「皆さんの相手はこちらですよ……!」
「人より少し長時間戦闘が得意」とささやかに自認するベークは健闘するイレギュラーズの中でも際立った粘り強さを見せていた。
「割を食う仕事ですけど、合っているのは否めませんからね――」
 或る程度放っておかれてもスタンドアローンで高い継戦能力を誇るベークは乱戦でこそ輝く。
 彼だけではなく、多くのイレギュラーズが時に不利を囲う局面にもギリギリの対応を見せ続けていた。
『何処かが押し込まれているという事は、何処かが押しているという事でもある』。
「悪趣味で悪辣、享楽的。そんな者が裏で糸を引いているのです。
 ……そんな人物が舞台の上に降り立つとするなら。或いは舞台に上げようとするのなら。
 最も心地良く、希望を潰えさせられる時でしょう?
 最も効率良く、心を折れる瞬間でしょう?
 なら――そもそもそこに到らねば、何一つ始まっては居ないのです」
 アッシュの言葉は儚げな彼女とは思えない程の芯の強さを持っていた。
 悪辣(ヨアヒム)が運命を試そうとするなら是非も無し。
 役割を果たせば――悪の塔の如く聳える処刑台に『届く』と信じ、彼女もまた持てる力を振り絞る。
 全ては一の為に、一は全ての為に――
「――さぁ我(わたし)はここよ!
 この『善と悪を敷く天鍵の 女王(レジーナ・カームバンクル)』を手緩い阻みで止められると思い上がるな!!! 」
 ――どうしても譲れない、特別な理由のある女は尚更だ。

●STAGE II(サリュー・後)
 リーゼロッテを奪還せんと動く集団の中で最も先行しているのは最後発のサリュー組だった。
 それは彼等が強力だからという理由だけではない。
 当のローレットが彼等を一つの囮、或いは矛として扱う事を是認しているからだ。
 事実上の共闘となったこの局面はそれぞれがそれぞれの役割を果たす事を優先している。
 桜花破天。麗しく苛烈に銀の乙女(シフォリィ・シリア・アルテロンド)は戦場を舞う。
「バダンデール卿、ハッキリ言いますが、貴方のやり口は気に入りません。
 虚偽で都合のいいように操作する、私を陥れたあの人達と同じやり口。
 ですが今回ばかりは乗りましょう。私の生まれた国(あのひとのつくったくに)に……
 これ以上、あんな罪業が巣食う事、絶対に許せませんから」
「手厳しいな。だが、敵の敵は味方……でいいかな」
 互いにかわす言葉は温かみのあるものではなく、何処かひりつく緊張感を帯びてはいたのだが……
 味方にすれば頼りになる男(クリスチアン)は同様に有用なローレットの援護を歓迎しているようだった。
 一方で(沢山)面識がある事からも、多少気安い者も居る。
「でもクリスチアンさん。一つだけ女の子としてアドバイスしておくけどさ」
「……聞きたくないが、傾聴しよう」
「……自分のピンチに計算高く出番を伺ってる男は多分好かれないよ?
 正直、全然ぐっとこない。来ないよりはマシだけど……ぜんぜん、ときめかない」
「サクラちゃん……本当のこと言ったら可哀想だよ。
 クリスチアンさんも頑張ったんだからね?」
「でも、スティアちゃん。やっぱ男ならセンセーみたいに……」
(……何を聞かされているんだ、この私は)
 女三人寄れば姦しいとは言うが、サクラとスティアは二人で十分だったらしくクリスチアンは複雑な貌で押し黙る。
「あー、コホン! 病み上がりの大先生? 
 チーム・サリューのクローザー、歩く薬箱としてはね。
 一応確認しておくけど……あのバーサークメスライオンは僕が手綱を握ってもよろしいか?」
「巻き込まれて斬られないように気を付けたまえよ」
 おどけて言ったヨハンに同じく咳払いをしたクリスチアンは頷いた。
 彼が『バーサクメスライオン』と称した当の本人(しのみやたては)はこれを聞いたら烈火のように怒るのだろうが……
 幸いに吶喊に夢中な彼女は大先陣を切っている。
「うわあ……もう完全にスイッチ入ってますし……
 あーあー、これはもうクリスチアンさんも完全に手綱離してますね……」
「あら。むしろ私は、今までよく堪えたと思うわよ。
 たてはさんが暴れるならこちらもやりやすいんだけれど……
 あまり放ってもおけないしまずはお手伝いといきましょうか」
「実際、私も思い切り暴れたい位なのだけど」と零した小夜にすずなは少し唇を尖らせた。「分かりますけど」。
 近場で戦い、何だかんだと自身の『隙』をフォローする……『匂い』の件では複雑だったすずなと、存外以上に面倒見のいい(そしてむくれるすずなで遊んでいる)小夜のやり取りも耳に入っていない位である。
「あらあら! たてはちゃんお上手! お姉さんも負けないようにしないと!」
「ええ、ええ。より上手に八つ当たり出来た方が『勝ち』という事で」
「――そんなん、うちが負ける訳ないやろ!!!」
 同じく『たては係』の感のある斬華や空観も加え、サリューの先陣はさながら『混沌で一番ヤバい女共の集団』と化していた。
「うわあ。おっかねー……」
「げに恐ろしきは女性の性かな?」
 ヨハンとクリスチアンの『後方』でのやり取り、
「御苦労、お察しします……」
「うむ。若も、少しばかり反省して欲しいものだ」
 更には舞花と雪之丞のやり取りも届かなかったらしく、今も敵兵に猛烈な八つ当たりを続けていた。
「すずな! ……と、多分すずなの彼女! ……彼氏?」
 乱戦に時雨の蛇剣が唸り、すずなと小夜を狙った凶手を牽制する。
「可愛い妹分なんだ。泣かせるなよ」
「姉様! あと小夜さん、何ですかその顔は!」
「あらあら」と笑みを零した小夜にすずなは顔を赤くして抗議している。
 やり取りは幾分か胡乱としてはいるものの、展開される戦いはそれとは余りに程遠い。
 サリューの四騎にせよ、周囲のイレギュラーズにせよ、この集団は圧倒的な『武闘派』だった。
 敵陣をまさに妖刀のように切り裂いて、諸悪の根源たるヨアヒムの元を目指していた。
 四方のイレギュラーズが圧力を加え、迎撃部隊を引き付けたから。
 イーリン・ジョーンズをはじめとした【騎兵隊】が鮮烈に軌跡を刻み付けたから。
 新田寛治が最前線で囮になったから。
 オウェード・ランドマスターが黒鉄の奮闘を見せたから。
 夢見ルル家がそこにいるだけでヨル・ケイオスを呼び寄せたから。
 ヴァイオレット・ホロウウォーカーが鬼札たる彼女の興味を惹いたから。
 アルヴァ等、航空猟兵達が我が身を犠牲にしてバリスタを封じたから。
 寡兵にて、敵に囲まれながらも。レジーナ・カームバンクル達『北』が決して折れはしなかったから。
 バタフライ・エフェクトと呼ぶには余りにも大きすぎる尽力と運命の積み重ねが進軍を支えていた。
 サリューもまた貴道が口にした『役割』を果たしているに過ぎず、彼等もまた突出する事でイレギュラーズを助けていた。
 しかし、破竹の進撃にやがて色濃い影が差す。
「――――」
 前触れ無く生じた明確な殺気にシフォリィは思わず息を呑んだ。
 彼女自身、十分に腕の立つイレギュラーズだが、速力を優先し、リスクを買った進軍で全ての襲撃を外せないのは必然だった。
 サリューの四騎に合流したシフォリィがイレギュラーズ全体の中でも先行していたのも理由の一つである。
 北のカバーを始めたのと同様にサリューの行く手を阻んだのは言わずもがな、敵の新たな主力であったのも理由の一つである。
 故にシフォリィは迫り来る一撃を受ける事を『覚悟』した。
 願わくば命残るように、と一瞬で『最悪の回避』に動いたのは戦い慣れた彼女が故だった。
 しかし、『長い刹那』を待てど暮らせど、彼女が覚悟した瞬間はやって来ない。
「――全く、世話が焼けるなア」
 響いた声に視線をやれば、そこには細い糸目が特徴的な鴉の魔術師。
「今のは貸し……と言いたい所ですケド。
 フィナリ――まぁ、個人的な理由もあるのでいいでショウ」
「ありがとうございます、でいいんでしょうか?」
 どうやら助けられたようだが……
 パウルの言葉を理解しかねてシフォリィは僅かに苦笑した。
「お嬢様まであと少しですガ……うーん! また強敵が出てきたみたいですネ!」
 パウルの視線の先には何処から現れたのか――一人の男と麾下が居た。
「忠勤で結構な事だな。君達は所詮使い捨ての外様に過ぎないと思うがね」
「古今東西、世において忍が使い捨てじゃなかった事があったかい?
 それに、生憎と政治的な判断は兄貴に任せる事にしている」
「それで、真昼に姿を見せる暗殺者か。君はベビーフェイスに転向でもした方が良いのではないか?」
「こっちにも事情があるんでね。
 アンタ達に何度も奇襲が通じるとも思えないし……過ぎた小細工は戦気を鈍らせる。
 ……何より、妹がすごい顔してるだろう? いや、兄としては些か堪える……」
 クリスチアンの皮肉にも動じず、正面に表れた男が肩を竦めた。
「何れにせよ、ここまでだ。『封魔忍軍』としてはこの先へ行かせる訳にはいかないんでね」
 フウガ・ロウライトは封魔忍軍の首領である。
 兄であるセツナ・ロウライトがヨアヒムと同盟を結んだ事から蒼薔薇迷宮に参戦しているのだが――
「今、兄様どころの話じゃないの。分かる?」
 ――視線をやった妹の反応は冷たいを通り越した氷点下だった。
「私の、大切な人が大変な事になってるの。
 私に、人生最悪最低の思いをさせた奴があそこでふんぞり返ってるの。
 いいからどいて。今すぐどっか行って。構ってる暇無いから」
「……サクラちゃん。張り切るのは良いけど冷静にね?」
「ごめん。約束出来ない。たてはちゃんを笑えないよ。もう私も自分を抑えられる気がしないから」
「……だよね」
「ごめんね。付き合って」
「分かってるよ」と応じたスティアは最初からそんな彼女を支える心算だった。
 ……たては係は沢山居たが、サクラ係は誰より何よりスティアである。
 人を指さしてはいけない所か、聖刀で指した剣呑なサクラにフウガは複雑な気分になる。
 情報機関に隠し事は出来ない。それ所かサクラは『猛烈な感情的事情』を一分も隠していない。
 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねばいい――
 理屈は分かるが、フウガは正直少し珍しいものを見た気分だった。
(義憤は兎も角、こうも素直に怒れるとはな)
 妹に『理解者』が出来たのは、嬉しいようでもあり、少し悔しいようでもあり――
「雪辱戦でもあるし、絶対センセーを取り戻さないとなの。
 あのニヤケ面をたたっ斬る為に、力貸してね」
「お兄さんは?」
「前座。適当にやっつけて本命に行く。嫌な本命だけどね!」
 いや、妹よ。兄としてはお前だけを行かせるのはそう吝かではないのだが……
「……まぁ、封魔忍軍フウガ・ロウライト。推して参る」
 ――容赦のない妹の言葉には幾分か気落ちして構える以外に術は無かった。

成否

成功

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