シナリオ詳細
<竜骨を辿って>亜竜集落フリアノン
オープニング
●
クスィラスィアより――
親愛なる『砂の旅人』の皆様へ。
我らクスィラスィアの民は皆様方の『お通り』の許可を竜人様より頂戴した次第で御座います。
恐れぬ者はどうぞ、お通り下さいませ
「成程」
ラサより届けられたのは獣の皮を乾燥させて加工したと思われる筆者用の材料であった。紙ではないが、その用途で用いられているのだろう、木の実などを搾って作られたインクで描かれた文字には独特の癖がある。
砂漠の幻想種で知られるイルナス・フィンナ(p3n000169)には判読も不可能な程に『普通の意味合い』とはズレた文字列ではあったが、イヴ・ファルベ(p3n000206)が「ファルベライズでも見たことある」と言ったことで手紙を読むことが適ったそうだ。
「バベルの効果で発生された言葉は通じるとは思いますが、どうにも混沌に残された常用語以外は難しいのです。
ああ、深緑にも同じような『古語』がありますね。ひょっとすればファルベライズのものも似ているのかも知れません。
古語の場合は其れそのものが呪文である事から『発声と意味』を理解していなくては使い物にならないとされていますが……霊樹の民達は好んで使用する者も多く居るようです」
特異な魔術式としての発展であれば『言語』に用いられるバベルは関係もない。もしかするとクスィラスィアでも独自の言葉が用いられたのかも知れない。彼女達は亜竜種の里を護る為の『秘匿』を行う立場だ。常人には読み解けぬ『独自の言葉』を当て嵌めた可能性もある。
リンゴと書いてバナナと読ますような……特異な文化を考えるのも面白いが、そんな場合ではないか。里長であるスィアリェアより指定された期日が迫ってきたのだ。
「一族の巫女、スィアリェア殿からの指定は斯う続きます。
竜人様――彼女達は竜信仰の一族ですから、竜の因子を持つ人々もそうだと認識されるのでしょう――は皆さんの来訪を是としたそうです。
滅海竜『リヴァイアサン』を打倒し再びの眠りにつかせた者に彼の地の亜竜種が興味を持っているのだとか」
R.O.Oでは『亜竜種』や『亜竜集落フリアノン』をよく知っているイレギュラーズでも現実世界では確りとした対面は初である。
くれぐれも無礼は為ぬようにと口を酸っぱくして言うイルナスは通してくれると許可をくれたスィアリェアへと気遣ってのことだろう。
「里の年若い姫君……フリアノンの『里長』である珱・琉珂殿が竜骨の道の先でお待ちくださっているそうです。
彼女の案内を受け、亜竜種達との交流を行う事こそが『覇竜領域』攻略の足掛かりではないでしょうか。
スィアリェア殿からはフリアノンに隣接する集落を幾つか教えていただけました。其方も、琉珂殿の紹介で赴くことが出来そうです」
――亜竜集落『フリアノン』
この地はフリアノンと呼ばれた竜種の骨の内部に里を作った亜竜種達の住まいである。
洞窟と一体化した巨大な竜種を絶対の守護とし、逸れた竜種やワイバーンの育成を行っているとされる。
覇竜領域では最も『外』に友好的であり、フリアノンの尾である『竜骨の道』を通じて外へと出る事の出来る場所だ。
そして、スィアリェアが琉珂より聞き及んだのは二つ。
フリアノンの近隣にあり、それ程の危険無く往来が可能である里だ。
一つは地竜とあだ名された亜竜種達が住まう洞穴だ。暗い洞穴に穴を掘り、地中に独自の里を築いた『ペイト』。
もう一つが隣接するピュニシオンの森の程近くに存在する地底湖周辺に住まう『ウェスタ』
「生きて返ってきたいのならばピュニシオンの森は立ち入り禁止、だそうです」
「死んでしまう?」
「ええ。危険なことには間違いありませんよ、イヴ。
我らが赤犬だって尻尾を巻いて――……おっと、この言い方をすると叱られてしまいますか。
スィアリェア殿曰く、フリアノンとペイト、ウェスタはそれぞれが安全に往来できる地中の道を用意しているのだとか。
里の外に出たら――……」
そこまで口にしてからイルナスは首を振った。怖い物知らずは行方も知れず、その後、帰り着くことはないとでも言われたか。
ある程度の友好を深めることが出来れば、ペイト近隣でのワイバーン退治などを今後、琉珂より紹介して貰えるかも知れないが……さて。
「一先ずは亜竜集落フリアノンを目指し、竜骨の道を辿るところからですね。
聞けば、本物の竜の尾が地中深くにまで潜り、その上に地が重なったことで出来た道であるそうです。
冒険心に火が付くような場所ですね。抜ければ、尾の付け根――フリアノンです。
そちらで珱・琉珂と名乗る少女との合流を行ってください。その後は、彼女達と交流を行えば良いかと」
亜竜種の集落に辿り着けば、彼女達がリヴァイアサンを打ち倒した以外で『イレギュラーズ』の訪問を許諾した理由が知れるかも知れない。
例えば――練達で観測されていた『怪竜』ジャバーウォック。
例えば――……考えられることはあるが、さて、今は『覇竜領域』へと踏み入れることを考えようか。
- <竜骨を辿って>亜竜集落フリアノン完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年01月10日 22時20分
- 参加人数146/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 146 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(146人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●竜骨の道
頭上に広がるは骨。その下に掘られた通路を照らすカンテラは魔法仕掛けであるのか人の気配を感じるとふわりと灯る。
竜骨の道と呼ばれたその長き道はぐねぐねとした坂道であった。何処へ繋がっているか先さえ見えぬ不安感を抱かせる通路をゆっくりと下り続ける。
「これが『竜骨の道』……文字通り、でかい竜の骨の中を通っていくわけか。すげえなあ。
ま、とりあえず……通らせていただきます! ……地元の人にとって神聖な道らしいしな。こっちもそのように扱わないと」
柏手を打ち、拝んだ風牙にイヴは首を傾げてから同じように倣う。
「ああそうだ。ついでに、一緒にウェスタ行かねえか? 覇竜領域に住む人たちと、交流しにいくつもりなんだ。なんか面白い話、聞けるかもしれないぜ?」
「うん」
小さく頷く彼女に決まりな、と風牙は微笑んだ。どこまで続いているのかと見詰めるだけで底も知れぬ道に正純はほうと息を吐く。
「正純、さん、は知らない所?」
「ええ。R.O.Oでも縁が無く……まさかラサからこうして繋がる道があるとは」
イヴ・ファルベの護衛役を兼ねて共に歩こうと手を差し伸べた正純にそ、と手を差し出してイヴは「不思議」と天蓋を見遣る。竜骨の名を宜しく、竜尾の骨を頭上に望んだ空間は流石に巨大そのものだ。人の手によって掘られた穴の中は時折躓く箇所もある。
「亜竜種……最近皆がやっていたげーむ? で出てきたのだったかしら? それが現実にもあるのね。イヴが行くって言うなら私もご一緒しようかしら!」
転ばないで、と慌てるイヴに「この義足にも慣れたものだけれど、もう一人居たらバランスがいい……わね?」と揶揄うようにヴィリスが笑う。
イヴにとっては夢の様な電脳空間の物語を語るヴィリスの傍らからひょこりと顔を出したのはルナである。
「ラサからこんな道があったたぁな。知らねぇもんだ。
ま、俺ァ別に商人よろしく販路拡大やら若ぇ連中みてぇに冒険だなんだって熱くもなりゃしねぇがよ。
……んで、イヴよ。元気にやってんのか? その後、ハウザーの野郎とはよろしくやってんのか?」
「ハウザー?」
「そうだ。おまえさん、見た目の割に割としっかりしてるっつーか、人に頼るのが苦手そうだからな。
たまには甘えてやれよ。アイツも、その方が喜ぶかもしんねぇぜ。口じゃあぁだこうだいいながら、尻尾振り回してる姿が目に浮かぶぜ」
ふ、と笑ったルナにイヴは尾を振るハウザーを想像してくすりと笑った。
「それで――聞きてェんだが、俺に似たタウロスを見ちゃいねぇか? 部族が失踪しているが、死体もなく、あの屈強な連中が抵抗もせずやられるとも考えられねぇんだ」
特に兄のソル・ファ・ディールは身内贔屓抜きで強いと告げたルナにイヴは分からないと首を振った。追い求める彼の答えが何処かで得られるだろうか。
「イヴさんは、彼らの何にそんなに興味津々なんですか? いえ、今までにお会いしたことのない種の方々ということで私も気になってはいますが。
何か惹かれる部分があるのかなぁと。ファルべライズとの因果関係とかもあるのでしょうか」
「竜の伝説は、あったけど……気になった、からかも」
正純はイヴの手を引きながら成程、と呟いた。下る道そのものにも興味はそそられる。それだけ、不思議な空間なのだ。
「お久しぶりですね。その後、体調等おかわりないですか?」
優しく声を掛けたグリーフにイヴはこくりと頷いた。決戦の折に、個人的な願いを委ねたと感じるグリーフは久方振りのイヴとの再開にほっと胸を撫で下ろす。彼女がどこに向かいたいのかは分からないが、それに同行し彼女を危機から守りたいと願ったのだ。
「竜などに出会えると良いですね」
「うん。ファルベライズにも、竜に関する伝承があった気がして……気になったんだ。
でも、危ない目に遭わない程度にしようって、イルナスと約束した。だから、大丈夫」
グリーフに危険なことはしないと約束するようなイヴの前をひらりと躍ったヴィリスは「さ、ご挨拶しましょう?」と微笑んだ。
イヴと――いや、イヴだけではない。我らにとっての『新たな友達』を。
「──というわけで、はるばるきたぞぅデザストル。なにゆえここにこれたのか、わしは事情を全然知らぬが……興味は尽きぬ」
心を躍らす白妙姫。あらゆる物をその目に映し、竜と洞窟の合わさった神話のような世界に降り立つのだ。
「こんにちは。貴方達が『イレギュラーズ』と呼ばれるヒトね?」
桃色の髪を纏め上げた『亜竜種』と呼ばれた少女が立っていた。背には巨大な裁ち鋏を背負い、勝ち気な瞳が値踏みするようにイレギュラーズを見据える。
「皆、領域(クニ)に興味を持ってくれたのね。喜ばしい限りだわ?
ふふ、こんなに大所帯だもの。どうやって招きましょうか。注意事項は外で聞いてきていると思うわ。どうぞ、ごゆっくり」
彼女の姿を見て幾人かが「あ」と声を発した。亜竜種の少女――それも、R.O.Oでは見慣れた姿であったからだ。
珱・琉珂。
そう名乗った彼女はこの亜竜集落フリアノンの族長である。
\やって来ましたフリアノンっ!/
R.O.Oでは確認していた場所に現実で踏み入れられるのだ。あちらではリトライ可能だが、現実ではそうもいかない。
花丸は「初めまして」と琉珂に丁寧に挨拶をした。此の世界では初対面だ。彼女がイレギュラーズを歓迎してくれたとしても礼は尽くすべきだろう。
「それと改めて里に足を踏み入れる許可をくれてありがとう、琉珂さん。
私は笹木 花丸。よければ私と、私達とお友達になってくれると嬉しいな」
「珱・琉珂。この領域(クニ)の里、フリアノンの里長よ。ええ、オトモダチなら大歓迎! どうかゆっくりしていってね?」
其れだけ明るい彼女だ。領域内の亜竜種達がイレギュラーズを警戒していても気安いのはR.O.Oと変わりないのだろう。
そう感じたエイヴァンは「さて、先に情報交換でもしておくか?と問いかけた。
「こちらとしてもアレの情報がほしいところなんだよな。どうやら、観測していた領域から居なくなったらしい」
「ああ、ジャバーウォックね。ええ、立ち話は何だし何処かでしましょう?」
「……まぁ、それだけというのもつまらんだろう。
外ではグラオ・クローネの準備も始まっているようだし、こう何かしらイベントを設けられたらいいんだがな」
エイヴァンの提案に琉珂は「ええ、何か交友を深められる事があれば良いわね。色々とわたしも考えては置いたのだけれど」と微笑んだ。
(竜を祀る集落、ねぇ……生憎相対した竜がどれもコレも災害な連中だから良い印象はない……が。
それはそれとして憧れがあるのは哀しき男の性なのか。良い機会だし色々見に行って来るか)
マカライトは竜を祭っていたクスィラスィアを後にして、亜竜種達の集落へと踏み込んだ。未開の民族とされる彼女らに「踏み入れてはいけない所はあるか」と先に問うたのは、禁足地などには気をつけて起きたからだ。
「死にそうな所は入っちゃダメよ」
微笑んだ彼女にマカライトはふむ、と息を呑んだ。それ以外ならば集落での情報収集は可能だろう。ワイバーンの育成を行っているブリーダー達に習性などを聞くのも琉珂は大丈夫だと頷いて見せた。
立ち話はなんだし、と告げた彼女に縁は「なら宴会でもするか?」と土産物の白秋25年を掲げる。
生きている間に覇竜領域に踏み入れることが出来るとは思わなかったとおっかなびっくりした様子の縁は龍は旅人達でそこそこ見慣れたが本物となれば別だと呟いた。
(初……だと思うんだがね。なんでも、俺の親父は亜竜種らしいが……会った記憶がねぇんでわからん。
まだ稚魚だった頃、おふくろが毎日のようにそう言っていたってだけの話だ。本当かどうかは知らねぇが……)
縁は一先ず何処かで話しましょうと背を向けた琉珂の肩をぽんと叩いた。
「お前さん方、亜竜種は海洋には来たことあるかい? 今度近くに立ち寄ることがありゃぁ、うちの店にも顔出してくれや。いい酒が揃ってるからよ」
「ふふ、皆ここからほぼ出たことはないの。出る子が居たら是非声を掛けてやってね」
さて、集落内を出発だと歩き出したルーキスはルナールの手をぎゅっと握りしめる。
「流石にこの歳で迷子にはなりたくないしなぁ…現地の人に大人しく従うのが一番」
「もちろん知らないことだらけだし、現地の人の言葉には従っておこうねー。間違えて危ない場所に行って丸呑みにはされたくないし!」
「丸呑みされたら助ける…いや、この場合は二人一緒に呑まれる感じか……?」
好奇心を溢れさせる奥さんに振り回されるルナールはくすりと笑う。ルナールには馴染みない竜。その背に乗せて貰える日を夢見て覇竜領域の見学を開始するのだ。
●亜竜集落フリアノンI
無数の目を受けながらも敢えて非武装で此の地へと訪れたシキとリアは琉珂に着いて広々としたエントランスへと辿り着いた。
「……旋律がいっぱいですぐには分からなかったけど、貴女、前に幻想に来たことなかった?
何かのパーティだったか、貴女の旋律を聴いた事あるわ。不思議な音色だと思ったけど、まさか本当に亜竜種だったとはね」
「旋律?」
不思議そうにぱちりと瞬いた琉珂に「あたしのギフトなのよ」と告げる。彼女はファントムナイトの際に出自を隠して出掛けていたらしい。
「んで、あたし達はジャバーウォックって奴の事について調べに来ていてね。
情報が欲しいってのもあるけど、なにかあたし達に協力できる事あったら力は貸すから、よろしく」
「勿論、よろしくね!」
にこりと微笑んだ琉珂に「はじめまして。私はシキ。シキ・ナイトアッシュだよぉ」と挨拶したシキはリアと琉珂が知り合いなのかと不思議そうに瞬いた。
「そういえば、もう一人おじさんみたいな人と来ていたと思うのだけど、今日は居ないのかしら? あの人の旋律も不思議な感じだったから覚えてるのよ」
「オジサマ? そうなの。外に出るときは何時も保護者をしてくれたのだけれど、あの人も放浪者みたいなものだから」
中々、逢うことが出来ないのだと困ったように琉珂は目を伏せた。成程、『オジサマ』の行方は今は分からないのか。
「あとさ、よかったら君ら亜竜種のことを教えてよ! 仲良くなるのにも、信頼してもらうのにも、相手のことを知るのは欠かせないものさ。
……なんて、私が知りたいだけだけどね! だから、よかったらお話ししようよ。もちろん情報交換も!」
「これで『普通の人なのよ!』っていうとアナタ、びっくりするかしら」
くすくすと笑う琉珂にシキは「それでもとっても面白いよ」と笑って見せて。
琉珂の姿を見ると思わずハイタッチしそうになる気持ちを我慢してからシラスは「ご招待に心からの感謝を、里長殿。仲良くして貰えたら嬉しいよ」と声を掛けた。
此処に至るまでの道中で「こちらの世界でも琉珂君と会えるなんて!」とアレクシアが喜んでいたとおり、R.O.Oでは『観測隊』と琉珂は友人だ。
「初めましてからっていうのも変な感じだけど、リュカちゃんといっぱいお喋りしにいこー!」
「うんうん。こっちでもリュカちゃんに会えるなんて楽しみだね。変わらず仲良くできると良いんだけど!」
そんな焔とスティアの前でしっかりと挨拶をしたシラスはうずうずと身を揺らす。
「……私の向こうの姿はこの面子にはバレてるし、気楽なものねぇ。
そういえば、ゲームで会った人と外で会うのは『おふかい』って言うみたいだけど、この場合は……うぅん」
「おふかいっていうんだ。アーリアさんは物知り!」
バレて少し気まずさもあるアーリアは琉珂がシラスと挨拶している傍へと歩み寄る。手土産には甘いチョコレートだ。
「お招き頂きありがとう。本や伝承――あと『ゲーム』でしか知らなかった覇竜に来られて、とっても嬉しいわぁ!」
「皆が私を知っている風なのは、その『ゲーム』で?」
琉珂に頷くアーリアは「そうよぉ」と微笑んだ。「あっちでは琉珂ちゃんって呼んでたから」と前置きするアーリアにシラスは頷く。
「里長殿、えっと琉珂でいいかい? 俺のことはシラスと呼んでくれ」
「琉珂ちゃんでいいわ! 『別の世界の私のオトモダチ』ね」
その言葉に飛び付きたくなる衝動を抑えてアレクシアはにんまりと微笑む。
「私はアレクシアというの! 深緑出身の魔法使いだよ! よろしくね!
昔から覇竜のことはとっても興味があって、いつか行ってみたいなと思っていたの! だから、もし良かったら仲良くしてもらえると嬉しいな!」
とびきり素敵な世界に連れ出して、と向こうの琉珂が言って居た。その一歩になると思えば心が躍る。
「おーいっ! リュカちゃん……って、違う違うっ。
えっとね、ほら! 同じくらいの年代の女の子が色々教えてくれるって聞いてたから、お話してみたいなって思ってたんだ!」
慌てる焔と一緒に突撃したスティアは「あわわ、初対面だった!」と慌てた様に身を固くする。何事もなかったように淑女の礼を取ったのは少し遅かったかも知れない。
「ごめんねー、同じくらいの年齢の子がいたから嬉しくて駆け寄っちゃった。良かったら仲良くしてね」
「勿論。オトモダチなんでしょう?」
ほっと胸を撫で下ろしたスティアと焔は頷く。一方的な質問はなしに、気になることがあれば聞いて欲しいと告げて『観測隊』は交流を始める。
「リヴァイアサンのこととかジャバーウォックのこととか、そういうお話もしたいんだけど…・…でもね、まずはリュカちゃんのことを教えて欲しいな!」
「お茶とお菓子を添えてね?」
目標は彼女と仲良くなること、なのである。焔に微笑んだアーリアはブランデーを一滴垂らしたお茶を飲み髪色の変化を見せて琉珂の興味をそそった。
「……しかしまぁ、中々こっちでも不穏な話は聞くのよねぇ。何やら竜を『観測』したとかしなかったとか。まぁ時々うちの領地にも気まぐれに遊びに来る子も居るのだけれど!」
「竜も格付けみたいなのがあるから、逸れた子なら飛び付くかも知れないわね?」
琉珂の言葉にあれではぐれ竜と呟いたアーリア。シラスは「琉珂」と笑う彼女に真摯に声を掛けた。
「琉珂も俺達に用があって手紙をくれたのだと思ったけど? よければ聞かせてくれよ」
「うんうん、何か困ってるならお手伝いさせて欲しいな。色々な苦難を乗り越えてきた私達にできないことはないはずだからー!」
力になってみせるから、と力強く言うスティアにアレクシアは悩ましげに「そうだよね」と頷いて。
「どうして私達がここに入ることを許してくれたんだろう?
ずっとこんな風に隠れ住んでいたということは、知られたくなかったってことだものね。
それを敢えて……となると相応の理由があるんじゃないかなと思ってさ」
アレクシアとシラスの声に琉珂は「リヴァイアサンを倒して、ジャバーウォックを観測したのでしょ?」と問いかける。
確かに気になっていたというスティアはこくりと頷いた。
「練達という国でもデカい竜種が見つかってるよ、俺たちはそれをジャバーウォックと呼んでる。誰が名付けたのか知らないけどね。
何だかんだで竜種って覇竜の外に出てくるんだな、それって琉珂から見て珍しかったりするの?」
「珍しいわ。アーリアさんのところに言ったみたいな下位のはぐれ竜ならまだしも、ジャバーウォックは上位種だもの」
それは強敵なのだと告げる言葉そのものだ。それを観測した彼らを招き、其れによる被害を未然に防ぎたかった、それが彼女の意図なのだろう。
「きっと、フリアノンに来たら一溜まりもないわ。外の国は分からないけど……あれが自由に動き回ってるなら出来るだけ情報を集めておきたいの」
どうやら、考えることは同じのようである。情報がまだまだないのは確かなのだろう。
「どうも、初めまして。俺はレイチェル=ベルンシュタインだ。この里の『姫君』はアンタか?」
「ええ、わたしよ」
「……あー。すまん、丁寧に話すの、得意じゃないんだ」
頭をがりがりと掻いたレイチェルに大丈夫だと首を振った琉珂はにんまりと微笑んだ。腹芸や言いくるめはこの際、あてにしてはならない。
「練達で聞いた情報で…気になるのがあるんだよ。
『観測コード Jabberwock:観測域から離脱しました』……つい最近、練達での祝勝会での事だったらしい」
「ええ。聞いたわ。怪竜。それは覇竜領域でもよく見られる存在よ。凶暴性は言わずもがな、『わけもわからない』存在だと言われているわ。
亜竜種の子供達は皆、『悪いことをするとジャバーウォックに連れ去られ八つ裂きにされる』と教えられるの。……まあ、其れしか知らない、けれど」
その姿を外で見たときに驚いたのだと琉珂は言った。そうも言われる竜が語られた姿の儘、実在し、空を蹂躙したのだから。
「初めまして。リースリットと申します、琉珂さん。
『怪竜』ジャバーウォック……ラサで観測されておらず、かつ練達の観測からも外れたのなら北と東の可能性は低い。南の海……或いは……この山脈の西側へ?」
問うたリースリットに琉珂はこくりと頷いた。オジサマと彼女がベルゼーを呼ぶことはR.O.Oでも知り得たことだ。
「ベルゼーという方は……亜竜人なのですか? このフリアノン以外の?」
「私が生まれた頃にはフリアノンに居た亜竜種だって教えられたわ。ミンナが言うような存在であるかはわからないのだけれど」
成程、彼は何となくでも上手くやっていたのだろう。その性質が苛烈ではなかったからであるのかもしれないが。
「――しかし、だ。その前に、気になる事を聞かせて欲しい。御主は、何故にそれらに対して興味を抱く?
竜信仰という文化がある御主等の方が、かの竜に関する知識をより多く有していそうなものだが。
……一体、御主達の間では、『リヴァイアサン』や『ジャバーウォック』はどういう存在として伝わっているのだ? 御伽噺としてだけ? もし良ければ、その辺りの話もしたい所だ」
汰磨羈の問いかけに琉珂は「いつかの日にね、ある人に言われたの」と口を開いた。
「ある人?」
「ええ、私は両親を竜種撃退で早くに亡くしてるから、親代わりだった人が居た。その人がね、『ジャバーウォックには気をつけろ』と言っていたの」
それが誰であるかを彼女は語らないが、汰磨羈は其れは信用できる話なのだろうと彼女の表情を見て感じ取っていた。
「里長の琉珂は君でいいのか?」
問うたジェイクに琉珂がこくりと頷く。挨拶を行い、今後ローレットが仕事を引き受けることになると考えてしっかりと向き合っておきたかったのだ。
「君達が抱える厄介事で魔種に関わる件を教えてほしい。いるんだろ? ここにもよ。
俺達にとっては不倶戴天の敵でな……そいつらの始末をまっ先に優先したいのさ」
「魔種、は分からないわ。けど、居るというならば居るのかも知れないわね」
琉珂はそう言った。此の地は、誰の手も届かぬ領域。故に、竜種の驚異の前に生きてきたからだろう。彼女はそうなったら守って頂戴ねとジェイクへと微笑んだのだった。
「うォ…ッ なん また寒気? 嫌な予感……? いやコレは……ん~わかんないしいっか~」
琉珂ちゃんと声を掛けた夏子は流石にワンチャン狙えるほどイージーではないと考えていた。
「HIリュカちゃん! っひょおぉ~かわぃーねぇ~! 俺は夏子リュカちゃんの夏子ですよ! ふふっ!」
「あら? わたしのナツコなの?」
可笑しそうに目を細めて笑う琉珂に脈有りではなどと考えてみる夏子。違うと首を振るイレギュラーズを愉快そうに見た琉珂に「語るならこれだな~」と夏子が選び取ったのはリヴァイアサンの伝説的な終わり。
「世界の伊達千尋って立派なヤツが居てさ。魔種を一撃で粉々にし、リヴァに手をかざしただけで光の粒子にした……って話よ。
まあまあ一緒に戦ってたから、現場見てないけどわかるぅ~。多分そう」
「そ、その人は勇者王か何かなの……?」
――新しい勘違いが産み落とされる。
「遂にここに足を踏み入れてしまいんしたね。かの竜種が住まう人外魔境……ROOでもフリアノンは行きんしたけど、本物にも会わないとねえ?」
エマは琉珂に挨拶をしてみる。彼女が持っている情報はイレギュラーズとも大差は無いようだが、亜竜種という『人種』に関しては詳しく聞けそうだ。
此の里はイレギュラーズ達の訪れで何か変化を得ているかのようでもある。そう思えば、これからの交流も楽しみなのだ。
「今はただの確認済飛行物体、ェクセレリァスだよ。どうぞよしなに。
そういやリヴァって推定何歳だろ。私より上でも下でも尊大で高慢で気にくわなかったけどさ……」
「分からないわね。私も、リヴァイアサンには会ったことがないもの」
亜竜種といえどもただの人なのだと告げる琉珂にェクセレリァスは成程と呟いた。地下や洞窟住まいなのはどうにも自由度が低くて息苦しいとェクセレリァスは感じていた。混沌公邸の影響下で安全の担保がない以上、飛ぶのも危険だ。今日はここでのんびりと文化を見聞するべきだろう。
心揺さぶられるとは正にこの事。積極的な交流を望みたいと考えていたクロバは琉珂にリヴァイアサンと戦った事を語りたいと席に着いた。
「仲間達から聞いてるとは思うが、リヴァイアサンと戦ったんだ。恐ろしくも立ち向かうべきであった相手だった。
……と、琉珂も同じ話を聞くのもアレだろ? 一つ聞いても良いか。ワイバーンの飼育について何だが……。
ほら、竜の背に乗って空を飛ぶ。夢でよくきく話だろう? あぁ、俺もその夢を追いかけたくてね、ってところさ。憧れは伝染するってものだよ」
揶揄うように笑ったクロバに琉珂は「竜に乗りたいの?」と楽しげに目を細めて笑った。
「そうね、幼体達が今いるなら少しなら飛べるかも? でも、彼らって飛ぶ練習中だから死ぬかも知れないわ!」
ジョークにしてはなんとも恐ろしいとクロバは小さく笑ったのだった。
●亜竜集落フリアノンII
琉珂を影から眺めていたハリエットは普通の女の子のように見えるな、と首を捻った。
(今年はね、少しずつあちこちに出向いてみようと思ったんだ。
これまでの私は、日々の腹を満たすことしか考えてなかったけれど、そろそろ『これからどうやって生きていくか』を考えなきゃ。
あちこちを歩いて、なにか見つかればいいな)
そう思って、長である彼女を見ていたはずが――どう見ても、普通の女の子のようだった。
「琉珂さんだあ……! ずっと会いたかったんだあ。琉珂さんは知らないだろうけど……ROOの琉珂さんとは会っててね。
あっちの琉珂さんは辛いものが好きだったけど、こっちはどうだろう? 同じピリ辛煮卵作って来たよ」
「……! え、なにこれ、とっても美味しい!」
フラーゴラの差し出す食事に瞳を輝かせた琉珂は「美味しい」と嬉しそうに微笑む。竜域の外の料理も作ろうかと声を掛ける彼女に琉珂はうんうんと頷いた。
異文化コミュニケーションが友情に繋がるのならばそれが一番だ。
「よぉ、しがないイレギュラーズだがちょっといいか? オレはシエル。よろしくな」
挨拶を行うシエルに琉珂は「こんにちは」とフラーゴラの料理を食べながらひらりと手を振った。
「単刀直入に亜竜種って種族について聞いておこう。空は飛べるのか? 飛べるならどれくらいの速度で。
肉体の強さはそこそこありそうだが……もしオレより空に愛されている奴がいるなら……そっちにも挨拶に行かないとな」
「私は飛べないわ」
翼はお飾りかも、と首を捻った彼女はイレギュラーズって飛べるのねと不思議そうに目を丸くしたのだった。
ラダは考える。昨今は海洋が豊穣との交易路を手に入れた。遠国との独自の交易ルートを確立するのはラサだけではない。
深緑交易に加えた新たな武器が必要なのだ。それが覇竜であると視察に訪れたラダは共に生きたいと願った祖母が竜信仰の里でロマンを探して立ち止まってしまったことを思い出す。
「さて、文化は少々無骨な感じか? 地下や洞穴暮らしも多そうか。
ではランタンや燭台の工芸品はどうだろう。或いは織物、琉珂が訪れていたサンド・バザールの品もいいかもしれないな」
ラダが広間に広げた品々に興味があると顔を出した亜竜種達は「これと交換しないかい?」と獣骨で出来た細工品などを取り出してくる。
「私の住んでた世界の子達とどういう違いがあるか興味があるから見学してみたいんですがいいですかね?」
そう問いかけたのはクリム。育成している場所を見てみることも勉強の一つだ。
「ワイバーンの飼育などを行っているのだな」
問うたエクスマリアに「孵化しなかった卵は絶品ですからね」と軽い様子で答える亜竜種たち。幻想ではその他孫が珍味として扱われているのだ。
ワイバーンの卵を手に入れてくる依頼を請け負って失敗したことを思い出すエクスマリアは譲っては貰えないかと問いかけた。
「それはお貴族様からのご依頼で?」
「ああ、そうだ」
「なら、商売だ。またお貴族様にいい伝手が出来たとお伝え下さい。こうするべきだとラサから入った本に書いてましたから」
エクスマリアはその言葉にふ、と笑みを漏らして。
ヴァイスは植生や文化の違いが気になるのだと不思議そうにフリアノンを見て回る。工芸や生活様式などは幻想王国などの発達した西洋文化とは違い、岩や木々といった自然細工を用いた者が多いようだ。植物なども珍しいものもおおくありそうです。
「この子たちはいったい、何を思っているのでしょうね……」
花の種を分けてくれるという亜竜種を待ちながら生まれたばかりの幼い竜種の前に座り込む。無垢にも思えるそれはヴァイスを見付けてばくりと口を開いた。流石に竜種。幼くとも危険はつきものなのだろうか。
「ここがホンモノのフリアノン……! 凄い! ワイバーンや竜種の赤ちゃんもいるんだ……近くで見るとなんか……かわいいっ!
いつか乗って空を飛んでみたいなぁ……。ねえねえ、何か食べさせてあげてもいい? 撫でてもいい? 色々触れ合ってみたいの!」
「ワイバーンでしたら、どうぞ」と笑う亜竜種にリリーはぱあと笑みを浮かべた。真面目に挨拶を、と考えていたがそれは好奇心に変化したのだろう。
溢れんばかりの興味を抱いて「竜種は外に放ったらどうするの?」と問いかける。
「まあ、危険なので孵してから少しして、外に放った後はそれ以上はないですよ。友好的な竜種なんてものはそうそうお目にかかれませんから」
肩を竦める亜竜種にリリーは成程、と呟いた。フリアノンでは竜種を拾う事も少ないのだそうだ。
「ねえ、もしかしてここで面倒を見ている小竜が人懐っこく戯れて来てるんじゃ……いや、疑ったり糾弾するわけじゃないのよ? なんとなくね」
そう告げる利香に「そのサイズになればもうウチでは面倒見れませんよ」とブリーダー達が笑う。
ワイバーンはまだ狩れるらしいが成長すれば狩りの道具に変化するらしい。亜竜種達から情報収集をする利香はひしひしと『あいつ』の気配を感じていたのだった。
そう、あいつとは彼女の眷属である少女だ。火竜に巡り会うことを考えていたクーアは本場の火竜に逢ってみたいと琉珂に話しかけていた。
「うーん、温厚な竜に心当たりはないのよね。火の属性の亜竜種で良いなら居るけど」と首を捻っている。
亜竜種達はそれぞれが属性を宿しているらしい。そう言って見せた琉珂こそ火の属性を持つ亜竜種なのではあるが、クーアの求める火竜とはまた違うのだろう。
「我等の領域(くに)では比較的、よく食される代物と謂えよう。頬と胃袋が悦びのたうち素晴らしい味わいを与えて躯れるのだよ。
問題ないとも、我が身は如何足掻いても肉の襞で在り、一切を抱く事しか出来ない『物語』故、
それとも子供達と遊んでいた方が好いのかい? 成程、ならば語り明かそうではないか!」
笑うオラボナの言葉にシグルーンは「ママが大好きな物だから皆喜んでくれるかな?」と微笑んだ。ママの語る冒険譚はとびきり愉快で奇天烈だ。
「さぁ、ママ。教えてあげよう? 私たちのこれまでのお話。寝物語にするにはちょっと刺激的かも?
でも、スパイスがちょっとくらいある方が……それはとっても美味しいディナーになるよね?」
「特異の連中が辿ってきた事柄を『私の知る範囲』で吐き、書き、伝えるべきだ
交流とはつまり『今まで』『これから』の確認だろう? 美しい、彼等or彼女等のなんと劇的な!
貴様等も我等も等しく人物像だ、じっくりとお互いを視認すると好い。言葉を手繰り給え」
シグルーンは「伝わるかな?」と微笑んだ亜竜種達は不思議そうな顔をしたが――屹度、琉珂達が用いる『古亜竜語』よりは分かり易いはずなのだ。
「何かしてはならない事ってありますか?」
出来れば仲良くなりたいというリディアはしきたりなどを教わりたいと考えていた。深緑では森にみだりに火を使ってはいけないといったしきたりがある。其れと同じように――と問いかけた彼女に亜竜種達は「竜種を此処に連れてこない!」と其れだけ言った。
……なるほど、連れてきたら生き残れないという意味合いなのかも知れない。思わず息を呑んだリディアの傍で文はぱちりと瞬いた。
考古学的視点からも珍しい場所ではあるが、植物由来のインクなどを取り扱う店である程度物々交換(紙は大層喜ばれた)してきた彼は「竜種はそれ程危険なのに育ててるんですか?」と問いかける。
「危険だから此処には近寄るなと教え込んで仲間の竜種にもそれを呼びかけさせてるんですよ」
「成程。……子供と言えど竜種を見れるとは思ってませんでした」
マルクは小さなワイバーンの背をそっと撫でてみる。
「このワイバーンは、背に人を乗せたりはできるのですか? 鞍や鐙を付けたりすることは?」
野に放さず育てている個体は余り多くない。危険性を鑑みて、成体になれば狩猟動物に変更するからなのだろう。
「時折、優しい子が居れば飛べる事もあるかも知れませんね。あくまで慣れた場所だけですけれど」
そう笑ったブリーダーの傍をふよふよと通り抜けたのはポチである。潮は皆で何処かに行くのならば、と学びの機会にもなるだろうとフリアノンへと訪れたのだ。
幼体のワイバーンはポチを不思議そうに見詰めている。その様子もなんとも不思議そのもので、潮はついつい笑みを浮かべて頷いたのだった。
「驚きだよ、大発見だよ。被害を起こし火を撒き散らすドラゴンを手懐けさせ、さらには共存にまで至るなんて。
どうやって調教したんだい? 餌は? 収容場所は? 睡眠時間は? 触ってみても構わないかね? ……おっと、急かしてしまったね。僕の悪い癖だ」
ずい、と身を乗り出すエクレアに亜竜種達は「幼体の内だけなので手懐けたわけではないのかもしれませんね」と期待に応えられたか首を捻っている。
(来るまではワクワクしていただけだったけど。いざ来てみると緊張もしてくるなぁ……
……でも、来たからには何かしらの繋がりを持って帰りたいよね…。……うん、頑張ろう!)
緊張を滲ませるシャルティエは亜竜種達の日々の娯楽や困り事に焦点を当てて生きたいと考えた。それが自身等の仕事に繋がるのもそうだが、彼らがどう過しているのかを知る事が全てに繋がっている。
例えば、飼育する獣の餌をとりにいくのも骨が折れるだとか、時々襲来する小型の亜竜の対応が大変だとか。そうしたことを知っておきたかった。
ただ、ただ、助けたいという心だけではどうにもならないことが無数にあったのだ。何れだけ行動しても、結局何にもならないならば、知らなくてはならない。
「音楽は好きだろうか」
問うたアーマデルは練達や豊穣、様々な地方の局を取り混ぜでケマンチェを弾くのだと亜竜種達へと声を掛けた。
「誰か、ここの曲も教えてくれないか? 歌だとなおいいぞ。歌ってくれるなら一杯奢ろう、俺はまだ飲める年齢じゃないんだ」
アーマデルの生歌を披露したいと弾正はアコースティックギターを奏でる。深緑から出奔した頃は、練達の街で歌った者だ。
竜域踏破の冒険活劇を歌う弾正は『竜王ベルゼー』だけは歌わぬようにした。それは、彼の姿が集落になかったことから控えるべきかと考えたからだ。
「少し休んでいいか? 弾正の演奏を聴きたい。俺のこれは奉納と冠婚葬祭用でな、故郷の世俗の曲は殆ど知らないんだ」
「成程。ちょっとその…アーマデルに向けて、即興のラブソングなんかを……いいか?」
「聞きたい!」
びしりと手を上げた亜竜種の少女に弾正は何処か気恥ずかしさを感じながら、楽器を奏で始めたのだった。
●亜竜集落フリアノンIII
「始めまして、ワシはオウェードと言う脳筋戦士じゃ!」
「こんにちは、オウェードさん」
琉珂を始めとした代行達と挨拶をするオウェードはウィツィロやスラン・ロウ、ハイペリオンの話を始める。幻想王国は彼女達にとってはまだ見知らぬ土地なのだろう。
「幻想の歴史には勇者王がおって、それに同行したハイペリオン様が復活して……まあ記憶は少し失ってしまっているが……」
「竜に乗った勇者の伝説ならしってるわ!」
それは勇者王の話とイコールなのであろうか。興味深いと頷いたオウェードに琉珂達は「同じ話なのかしら」と口々に情報を交わし続ける。
プレゼント用に様々な本を用意したルネは本はないが、情報を纏めた束ならあるのだと告げる担当者達に「素晴らしい」と頷いた。
「無論タダでとは言わないよ、共存の為の教育をしていると聞いたからね混沌各国の歴史や文化の本をそれなりに持って来ているからお近づきの印にこれはプレゼントしよう。それで出来ればここにある本を写本させてもらえないかな?」
「良ければどうぞ。あまり身の内ものかも知れないけれど」
肩を竦める亜竜種にそんなことはないとルネは首を振ったのだった。
そうしてみれば、この周辺では文化レベルは高いとは言えないのだろう。黒子はまじまじと眺める。ある程度はラサから流入したものを使用しているのだろうが、『物』が足りず文化の発展は緩やかなのだ。農耕も少しずつ岩場や拓けた場所で行っているようだが、此処から発展するには少しばかり骨が折れそうだ。
「よぉ、久しぶりだな」
ルカが手をひらりと振ったのは琉珂であった。「お名前がわからないわ!」と顔は分かるのにと頭を抱える琉珂にルカは小さく笑う。
「あん時は名乗りそこなったからな。改めて名乗っておくぜ。俺ぁラサの傭兵、ルカ・ガンビーノだ。よろしくな、似た名前の琉珂ちゃんよ」
ルカとリュカ。似通っていると笑う彼女へとルカは「覇竜領域にはどんな竜がいるんだ? リヴァイアサンクラスはいないかも知れねえが、強い竜はいるんだろ!?」と瞳を煌めかせて問いかける。
「見たことはないけれど、伝承だと森の中とか、いろんな所に居ると言われているわ。でも、会ったら私でも死ぬし……」
「成程な? そうそう。ベルゼーってよく会うのか?話をしてみてえんだがな」
おじさま、と首を傾げた琉珂は「ううん、時折ふらっと帰ってくるのよ。どこに行ってるかはわからないの」と困ったように首を振ったのだった。
「俺やローレット等の里外の者でも、竜人様方に頑張って習って覚えれば、竜の育成と調教をできるようになるかなぁ……?」
きらきらとした目でそう問いかける真に亜竜種達は「どうだろうねえ」と笑う。
「姉さん姉さん姉さん! 見て見て!! ワイバーン! 可愛い竜!! すっげー近いの!
領地に襲って来るのじゃなくて、生きて友好的な状態で会えるの! すっげー!! ……あだっ」
「はいはい、落ち着いて。確かに凄いわね」
「はーい。でも、見て!! あっち! 見たことねーのあんのっ。すみませーん! これ何ですか? 何に使うものなのー?」
燥ぐ真を見遣って舞はくすりと笑う。古語を読み解く方法も知りたいと思いながら、一つの所に定住して時代の移り変わりを楽しんできた彼女にとってはまだまだ知らぬ情報が無数に存在したのだ。
まだ知らぬ事が多いというのはエルスもそうだ。深層意識で竜種に惹かれる心がある彼女は覇竜にずっと訪れたいと願っていた。
「混沌ではドラゴンの存在は恐慌と憧憬の象徴だと聞いたの。
海洋の時のリヴァイアサンを見て私もそう思ったし、作り物と言えど宝石竜……ライノファイザ……彼の勢いも凄まじかった」
ドラゴンに対して何と言えば良いのか分からない感情を抱いたエルスに琉珂は「竜は弱き者は相手にしないからね」と頷く。
「強くなれば話せるかしら?」
「もしかすれば?」
ふふ、と笑う彼女にとってもまだまだ未知数なのだろう。
「リュカの名前は混沌では珍しいタイプの名前だよね?オレの師父もそうだったけれど表意文字で一文字の家名で珍しいね。
集落がそういう文化なのかと思ったけれど、フリアノンもペイトもウェスタも普通の混沌風の名前だしこの集落だとリュカ風の名前がメジャーなのかな?」
「いろんな名前の人が居るけれど、同じような人は古いおうちの出身かも知れないわ?」
琉珂は迅と名乗る家など一文字家名の者は多く居るが、集落の名は古代の竜達の名によるものであるため、文字にするとどうなるのかは分からないと告げた。
「琉珂おねーさん、竜種は幼い頃から養育すれば人を助けてくれるのね? あと、美味しいお菓子なんかもないかしら?」
「個体に寄るけど、私が生きているうちには、大人になっても協力してくれた竜はいないのよ。
お菓子……実は木の実を砕いたものの蜜漬けばかりなの」
美味しいかなあと首を捻る琉珂にフルールはくすりと笑った。
「ジャバーウォックは……私は知らない。
似た名前の精霊が私と一緒にいるのだけど。竜種ではないわね。巨人の精霊だし。見てみる? 3mくらいあるわよ?」
「ほんと? 見せて見せて!」
ワクワクとした様子の琉珂に「おいで」とフルールは自身の精霊の名を呼んで。
来訪できることを熱望していたウォリアにとって、斯うして使節と共に訪れられたのは僥倖と言うべきか。
礼儀には疎い彼ではあるが、持てる全てを尽くして今後の友好が続くようにと心掛けたいと考えていたのだ。
元の世界では竜の血を引くともされた彼にとって、此の地の竜種とは異なるのかも知れないが、『竜』の名を持つ者と出会えたことは喜ばしいのだ。
「神威、世界と称した、ただ強大なる圧倒的な力の権化。
嬉々として語るべからず、されど確かにあった激戦、勝ち取ったものも、失ったもの――」
其れを見たまま、駆け抜けてきた日々を語るウォリアに琉珂は「アナタってお話が上手ね!」と楽しげに目を細めて。
カムイグラもそうではあったが、此の混沌で知らないことが沢山在るのだとグレイルは改めて実感していた。学園に居た頃は地図帳に書かれた土地こそが全てであった筈だ。
「……そうだ……この場所には本がたくさんある場所ってあるかな……?
……無くても……この土地に伝わる伝承や昔話……あれば聞かせて欲しいな……。
……まずは情報収集…有用な情報があればいいんだけど……」
グレイルの問いかけに、本は存在していないが竜に纏わる伝承ならば様々な者があると亜竜種達が提案してくれる。
「マリィ、マリィ、早く来て下さいまし! ここからの眺め、すごく綺麗でしてよ!」
駆けて行くヴァレーリヤを追いかけて「あ! ヴァリューシャ! 分かったよ! すぐ行くー!」とマリアは追いかける。
心を良く案内人を引き受けた琉珂に「友人にも龍の化身みたいな子がいるんだけど、いつか紹介したいな!」と微笑んだマリア。琉珂は「是非」と大きく頷いた。
「そういえば、今後のローレットのお仕事に結びつくような交友をした方が良いのだったかしら?」
「仕事に結び付くような交流ってどうすればいいんだろうね?」
「なんでも屋ー、なんでも屋でございますわー。困ったことがあればお気軽にー。ぱーららー、さおだけー♪」
さては天才では、と息を呑んだマリアにヴァレーリヤは「さおだけー♪」と歌い続ける。不要な酒があれば処分すると笑う彼女達を見て琉珂は「ローレットって凄いところなのね?」と不思議そうに首を傾いで。
●亜竜集落フリアノンIV
「ここが、"こちら"のフリアノン……大きく変わったところはないようですけど所々違うところがありますね。
再現性都市のイタリアンワイン&カフェレストランの難しすぎる間違え探しみたいな……これ伝わります?」
むうと唇を尖らせた卯月は琉珂さまと膝を突いた。驚いた琉珂が「えっ!?」と周囲のイレギュラーズを見回した。
「私は、有栖川卯月……貴女に忠誠を誓いたい者です。信じられないのも無理は無いですよ。
貴女は知らないだれど、わたしはとある場所で貴女とあと一人に指針を貰った、光を貰った。
それを此方でも返したいだけです。許される範囲で構いません、お傍においてくださいませんか?」
「う、うーん、でも、私、フツーの亜竜種よ? オトモダチならいいけど」
困ったような彼女に友達で、と微笑んだ卯月は何時かベルゼーとも会いたいと願っていた。だと、言うのに――どうしてだろう、彼の情報は『何も聞こえない』。
物珍しいと集落に訪れたメーコは本は外のものばかりで紙が余り存在しないと聞き「そうですかめぇ」とぱちりと瞬いた。
彼らのことを教えて欲しいと願えば、琉珂が集落内を巡る道を教えてくれることだろう。
「すごい……憧れの亜竜種! ちゃっかり同行させてもらっちゃった……はぐれないようにね、ぼんちゃん!」
五郎八が声を掛けたのは『ぼんちゃん』と呼んだ守護精霊:神鶏「梵天丸」であり。フリアノンでの様子に心が躍る。
「こう……ドラゴンライダーとかいるんでしょうか!? 皆さんはドラゴン体からニンゲン体に変体するんでしょうか! あぁ……聞きたい……けど」
「私は此の体だけよ。竜にはなれないの。あと、ワイバーンになら乗れるかも知れないわね? お世話をすれば」
気安く応えてくれる琉珂に五郎八の瞳がキラリと輝いた。生活を体験させて欲しいと願う彼女を快く受け入れてくれたのは琉珂の声あってのことだろう。
「亜竜種……ええ、気になる存在です。数百年生きて来て、聞いたことは……あったかもしれないけれど。初めて見ましたから。
……気になると言えば、存在だけでなく歴史や生活などもです。
里の外には危険が広がり出られず、外と繋がりを持つでもなく、どうやって生きているのか。
ここ最近で状況が変わりそのようになった、という可能性も考えられますが……慣れた様子ですから、その線は薄いでしょうか」
首を傾げるネフェルティは「ふふ、ごめんなさい。未知って新鮮で、年甲斐もなくはしゃいでしまいました」と微笑んだ。
里の外は危険ではあるが、其れなりに安全圏を築いては居るようである。その位置を教える前にイレギュラーズが多勢で押しかけ外に出ないようにと気を遣ってくれたのは気遣いだったのだろうとネフェルティは目を細めて。
「やることは決まっておる。ズバリ……『観光』だ。郷土を知り、風俗を知り、民草を知るならばこれが一番であろう?」
イオルデアは一人で寂しくないぞ、と呟いた。寂しければ相手になると笑う琉珂に彼女は頬を掻いて。
「それで、ワイバーンの育成などの話を聞くことは出来ないだろうか? 姫君」
「ああ、案内するわね」
こっちよ、と手招く琉珂に着いていこうとするイオルデアに「俺もいいかい?」と声を掛けたのはニコラスであった。
人との共存を目指しているというのは特に興味深いとワイバーンを眺めるのはヴェルグリーズ。
「もしかしてオルドネウム達もこの過程で育った竜だったりするのかな?
そうじゃなくてもこうして人に友好的な竜を増やしていけば。いつか竜を隣人として呼べる日もくるかもしれないし夢があるよね」
「オルドネウムとは御伽噺の竜を知ってるんですね」
驚いたと笑うブリーダーは餌やりをしますか、と何かの生肉を投げて寄越してくれる。掃除や食事の世話なども手は足りない部分は多いのだろう。
「ワイバーンをこんな近くで見れるとは……」
辿り着いた先ではワイバーンをまじまじと見詰めるボディが息を呑む。本物の竜なのかと見詰める彼は息を呑む。
「小竜の内に放すらしいですが、そういった竜は大きくなっても人間と友好的だったりするのですかね?
竜と言えば、ジャバーウォックは亜竜種と関係があったりは?」
「それ程友好的ではないですが、流石に生まれた場所を襲うほどの薄情さはないですね。
ジャバーウォックは……関係はないですけれど、関わってはならないときつく親世代からも言い付かっています」
ブリーダーの青年の言葉にボディが成程と頷けば後ろから騒がしい声が聞こえてくる。どうやら琉珂達が到着したのだろう。
「まさか混沌でもここに訪れることができるとはなぁ。
あっちじゃ色々と世話になったがこっちでは初めまして、だな。……こっちでも良い縁が繋がれるといいんだがよ」
ニコラスは竜やワイバーンが嫌いな男の子はいないだろうと、餌やりをしたいと参加していた。亜竜種曰く、肉食のワイバーン達の餌を確保するのは中々に骨が折れるらしい。
「へえ、それは困りごとだな」
「琉珂が、イレギュラーズは何でも屋だと言って居たから、それも今後頼むよ」
揶揄うように笑った彼らにニコラスは肩を竦める。その傍から勢いよく飛び出したのは夢心地。
「フリアノンを散策するのじゃ。麿が興味あるのはやはり竜の調教じゃな。
動物はみな大好きじゃし、パンダもとらもアライグマも育てたことがあるが……さすがに竜を育成したことは無い」
パパ竜やママ竜に襲われないのかという問いには「捨てられた卵なので」と返答が返る。肉食らしく、その辺りで生け捕りにした獣を餌にやっているらしい。そして、成体になる前に野に放ち集落に寄らぬようにと言い伏せるのだという。
「そしていつの日か、麿も竜を育ててみたいものじゃ。分かるじゃろ、男子ならば。
竜との交流は、そう! 浪漫なのじゃ。ぬおおおおおーーーーーーーっ! テンション上がってきたわ!!!!! 麿も竜! 育てたーーーーーい!!!!!」
「えっ、ワイバーンくん!?」
茄子子の記憶の中にはワイバーンに食べられたりオルドネウムに食べられた記憶ばかりである。
「少し聞きたいことがあるのですが、この地ではやはり竜を信仰されているのですか?」
「オ、オルドネウムに食べられたの!? あ、ちがう。ううん、私達はそうでもないわ。竜は畏怖すべき偉大な者だけど、信仰の対象ではないの」
琉珂が首を振る。どうやら、フリアノンには宗教と呼ぶべき者はないらしい。入り込む隙があると感じた茄子子のスカートをぎゅっと噛んだのは。
「違うよ、ワイバーン君、食べちゃダメだよ!?」
くすりと笑ったゼファーは「まさか、覇竜に踏み込む日が来るとは、ねえ?」と周囲を見回して。
「こればっかりは、何処ぞの爺も青筋立てて悔しがるかしら」
亜竜種達は本当に『伝説』のようなリヴァイアサンを倒したのかと見定めるように視線を送る。
「いやね、私達が強いわけじゃないわ。単純な力としては恐らく、リヴァイアサンの方が圧倒的に強かったんでしょうけど。
廃滅病とやらで多くの権能を失った上で、大砲を何百、何千受けてもまるで効いてる気配すらありやしなかったんだから。強い、って尺度で測れる様な存在には思えなかったわね」
そう笑ったゼファーは肩を竦める。園はナシを傍らで聞いていた琉珂はぱちりと瞬いた。
「竜って奴がどれだけ偉大で、優れた存在であれ。あの海じゃ、良い男も良い女も死に過ぎたもの。
危険も冒険もそれなりに。それなりに好んじゃいますけれどね――あんなのは二度とごめんだわ?」
悪戯めいたように笑った彼女に「私も泣いて拒否しそう」と琉珂はくすりと笑って。
ここが亜竜種の集落なのかとシューヴェルトは周囲を見回した。ジャバーウォックの観測はされているが、練達で観測された以外にそれを観測した履歴はあるのだろうかと彼は里長代理達に問いかけたかったのだという。
「伝承の中でだけ」「今生きてる者の中には直接見た者は居なかった」「ああ。琉珂が最近見たか」などと言う情報だけしかない。
暴虐の竜とされたそれは奇怪な言葉を有し、危険の象徴とされているらしいのだった。
●亜竜集落フリアノンV
「……気分を害さないでほしいのだが、俺はとある怪物を追っている。『水すら燃やす黒い焔』を吐く巨大な謎の怪物だ。
知らなければそれでいい。もし少しでも知っていたら、教えてはもらえないだろうか。俺の……故郷を焼いたモノなんだ」
「どんなものなのかしら。この里で分かれば良いのだけれど」
真剣に悩んでみせる琉珂にユールは分からないなら大丈夫だと首を振った。竜の骨に住まう彼女達。怪物が竜種と呼ばれる物であったならば――その可能性に行き当たったユールはまだ『怪物』の正体を知ることはないのだろう。
「竜ですよ!ㅤ竜!ㅤドラゴンです!ㅤすっごいすごい!!」
ウテナはテンションあげあげハーモニア状態で「うっひょお!ㅤ……おっとはしたない声が」と叫んで息を呑んだ。
「そしてこれで赤子だっていうんだから成竜も見てみたいですね!ㅤどっか飛んでたりしないんですか!!
ㅤあの山の向こうとか行ったら会えますか!!ㅤすいません行かないです!!
貴重なものを見せていただきありがとうございました!!ㅤお友達から始めさせてください!!」
「是非! あの山の向こうに行ったら死んじゃうからびっくりしちゃったわ!」
可笑しそうに笑う琉珂にウテナはとんでもないと首を振ったのだった。
「この度はお招きいただき、ありがとうございます。詰まらないものですが、よろしければ……」
笑顔でそう告げるウィルドに琉珂は「宜しくね」と微笑んだ。ワイバーンの育成ノウハウは彼女らの里から聞くことは出来そうだ。
幻想のワインを里長代行に渡してから彼女は「ミンナ、沢山情報を提供してくれるから嬉しいわ」と微笑んだ。
「うおーーー! ここが亜竜種のみんなの里かぁ! とくゆーの空気だな!
りゅかってやつは、ここのさとちょー、ってやつなんだよな!見た感じ大人って雰囲気じゃねーけど、頑張ってんだな〜。
……あ! オレはエドワード。オレさ、この世界中の色んな人と、色んな生き物達とともだちになるのが夢なんだ」
エドワードの声に琉珂は「じゃあ、私ともオトモダチね」と微笑んだ。好きな食べ物は辛いもの。興味があるのは外だという彼女の様子を見ればR.O.Oとは変わりなさそうだと澄恋はほっと胸を撫で下ろす。
「双角に鋭歯を持つ乙女として勝手ながら親近感が湧くのです……!」
「オソロイってやつね!? わー、やったわ」
嬉しそうな琉珂に澄恋はにこりと微笑んだ。そんな楽しげな彼女だからこそ、問いかけてみたいことがあるのだ。
「ところで、竜は恐ろしい生物と聞きました。里を蹂躙する危険もあると思うのですが……
ワイバーンや竜の子を育て共存を目指す琉珂様としては、竜種とも分かり合えると思っているのですね?
伝説として竜を従えた存在の記録はあれどほぼ幻らしく……しかし共存なら実現できるのかもしれません」
「その伝説をなぞりたいと願ってるの。屹度、いつかは適うと思って。けどね、まだまだ幼体の内しか世話できないから野望は遠いわね」
語らう二人を眺めていたイズマは恭しくも頭を下げる。
「こういう場所だから、外の人間を入れるのは難しいだろうに……招いてくれてありがとう。もしよければだが、これから少しずつ交友を深めていけたら幸いだ」
「ええ、喜んで」
「さて、俺は音楽が好きでな。友好の証……と言うとわざとらしくなってしまうが、一曲、演奏してもいいか?」
嬉しいと微笑んだ彼女にイズマは骨の笛を奏でる。洞窟内では不思議な音の響きをすることで、変わった音色で聞こえるが其れも実に心地よいのではないだろうか。
「て、こういう時に医師の身分は便利だ。命の存続を願う心は、大抵の地において共通することだからね。
とはいえ、医師の仕事の手伝いは、さすがに外部の者が行える範囲内では無いかな。
手土産に本や図鑑も持ってきた。興味があるようならプレゼントしよう。有益に活用してくれ」
「医療が得意な方を呼びましょうか」
ルブラットに琉珂が「先生を呼ばないとね」とワクワクした様子で走り回る。彼女達亜竜種とは別の竜種。それを解剖してみたいと願うのは――医学の為なのだ。
混沌へ訪れてから新参者だと感じていたブライアンはローレットの名声や実力が斯うして此の道を開いたのだと感じていた。
「いや、なにも世の中全部が敵か味方かで分けられるシンプルな作りだとかは考えちゃいねえよ。
ただ、相手の腹の中が1ミリも分からねえ内から、ニコついて仲良しこよしってのは好かねえ。
ローレットに求めるのは滅海竜やジャバーウォックってヤツの情報だけなのか? 或いは未来に待ち受ける困難への戦力として期待されているのか?」
「私は、アナタ達が訪ねてきたから其れを受け入れただけなの。だって、私達はアナタ達と『まだ』共には闘えないんでしょう?」
それだけイレギュラーズという存在が特別なのだと知っていると笑った琉珂はブライアンに手を差し伸べた。
「どっちも同じよ。私達を信用してくれるかどうか、なの」
信用――するには、見たことのない存在ばかりなのだとノアは息を呑む。
「竜種……実物は見たことはありませんが、混沌でも最強格の生物だとか?
それに近しいワイバーンを観察してその体の構造を技術的に再現できれば私たちにとってもプラスになりそうです!」
練達の技術を使用すればそうすることも可能だろうか。ワイバーンは肉食ではあるらしいが、その知識欲を活かせば亜竜集落のことは更に知って行けそうだ。
「忘れてた! 最近私達以外で変わったこととか起きたり見たりしなかったですか?」
「ジャバーウォックが見られた事だけ、かしら?」
琉珂のその言葉は練達も含めて大きな事件になりそうな予感をさせていた。
「初めまして、琉珂さん。たぶん琉珂さんにとっては変な話だろうけれど。わたしは、あなたと友達になりに来たんだ」
「ミンナ、そうだから何だか面白くなっちゃうわ」
微笑む琉珂にЯ・E・Dは肩を竦めた。『妹』と仲良くしてくれた彼女と現実でも友人になりたい。其れが別人であろうとも、好感度に変わりは無いのだ。
「もう一つ。リヴァイアサンは無理だけどジャバーウォックの話はできるよ。
練達の方で観測を続けていたみたいなんだけど、この前、少し騒ぎがあってロストしてしまったみたい。
それで……それに関連して琉珂さんに聞きたい事があるのだけれど、ベルゼーさんの事って、琉珂さんは知ってる?」
「オジサマは、私の世話役だったの。ふらっと何処かに行っちゃう放浪癖の在る人よ?」
詳細は知らないのか。琉珂の様子を見るに、混沌側での彼のことは琉珂は余り詳しくないのだろう。
何処かに行った世話役――そんな彼の話を悩ましげに聞いたЯ・E・Dは「そうなんだね」と小さく頷いたのだった。
●亜竜集落ペイトI
「……! ……♪」
どこかそわそわと、落ち着きない様子のアルペストゥスは首を忙しなく動かして周囲を見遣る。目に映るものも感じる匂いのどれも興味深い。
「グゥゥ」
小さな唸り声を漏らしたアルペストゥスに「竜種!?」と身構えたのはペイトの亜竜種か。暗き洞を住処にしていた彼らはアルペストゥスが竜種ではなく旅人である事に気付いてほっと胸を撫で下ろした。
(すこし にてる)
彼らのその身に感じた竜の因子がアルペストゥスは心地よい。「竜種はいませんよ」と笑いかけた亜竜種は肩を竦めた。自分に似た形のものは此の辺りでは出会えなさそうか。
ここに至るまで竜種は見なかった。だが、それは対抗策の研究が為されているのだろうかとシフォリィは挨拶をして興味深そうに問いかけた。
「竜種を倒したのはそちらでしょう?」
「……リヴァイアサンを倒した事については、あれは私達自身で倒したのではない、犠牲を払ってようやく退けたのです。
だから力の研究は怠れません。もう誰の犠牲も出さないために」
「成程! 我らも、上位存在である竜種に対してはそれ程、対抗できては居ないのですよ。里を護る為、こうして地下に住まう事以外は」
肩を竦めるペイトの住民にシフォリィは彼らも努力を重ねているのだろうと里の中に散乱する武具を見遣ってから感じ取っていた。
「こんにちは! お近づきの印に、これは幻想で売ってるクッキーだよ。日持ちするから持ってきたんだ!」
にこりと微笑んだセララはイレギュラーズに興味を持っている亜竜種達に冒険譚を漫画や小説として持ち込んだのだと披露する。
「リヴァイアサン討伐の時のリプレイも持って来たよ。これは絶対人気出るの間違い無し!
ボクのギフト『みらこみ!』があるから、ボクが参加した全てのリプレイは漫画で持っているのだ」
「読んでみてもいい?」
問うた亜竜種にセララは「勿論!」と胸を張った。
「それにしても、地竜なのにリヴァイアサンのことが気になるのですね。
水竜についてどう思っているのか、関係性を探ってみてもよいかもしれません。近くに住む仲間ですから、嫌っているということはなさそうですが」
ドリームシアターや演奏で盛り上げようと考えるサルヴェナーズ。そんな彼女に地竜達は「だって強いから」と成程分かり易い理由を掲げたのだった。
「――さあ語りましょう。騎兵隊、廃滅の海にて斯く戦えり」
ラムレイの背に乗り、あの日と同じ姿でやってきたイーリンは静かにそう告げた。
「リヴァイアサン……かの竜を目にした時は、恐怖と共に感動すら覚えたよ。
この世界には、これ程雄大な存在がいるのかと。これを乗り越えるための戦いは、どれほどの冒険になるのかと、ね」
語らう言葉にゼフィラは息を呑む。海を越えるための戦いが、その心に刻んだのは様々な誇りや思い出。
「正直な所、あの戦いまで私はこの混沌を何処か他人事の様に思っていたのだ。もう既に、私の命は終わったはずだったのだから。
ここは有り得ぬ後日譚なのだと。だがそこで、私は確かにこの世界に生きる命の煌めきを見たのだ。後日譚などでは無い、今を生きるその美しさを」
アレックスは目を伏せる。『司書』が語るならば共について行こうと決めた。あの海で見たものを伝えよう、と。
「……そしてあの海で私はかの龍と出会ったのだ。海のうねり、嵐の化身の様な暴虐。それを打倒せんと見据える勇士達。
友の為、愛する者の為、守るべき何かの為に絶望を歩むもの達。それを守りたいと、再び私はあの時思えたのだ。それはきっと……あの歌姫も」
伝説となったあの人。深海の語部。竜を鎮めた歌姫。
アレックスは彼女を深く知らない。即興で歌い出す歌が美しく、どこか恐ろしかった。それ以上を知る機会はあの荒ぶる龍神と共に喪われたのだ。
彼女は、彼と眠っている。伝説となって、漂いながら。
――滅海竜リヴァイアサン。
そう口にしたレイヴンはあの出来事から疾うに一年半も時が過ぎているのだと思い返した。
偉大なるあの海の王。その脅威は正しく上位存在たる竜種そのものであったか。多くの血が流れ多くの船が藻屑と化して、命が散ったのだ。
「滅海竜の神威。今思えば、リヴァイアサンという"竜"の形を取っていたが、あれは荒れ狂う海その物との闘いだったな。
……あの大海嘯を見た時は、正直なところ死んだと思った。"海に殺される"とな。故に.….できれば、覚えて、できる事なら伝えて欲しい」
彼が、名を呼んだのは一人の少女であった。
その名を聞いてフェルディンは唇を引き結ぶ。戦場から捉えたリヴァイアサンは途轍もない威容だった。彼の傍に立っていたのはクレマァダだ。
レイヴンが呼んだコン=モスカの片割れ。瓜二つの彼女は、語ることはしない。自身はそこにはいなかったからと唇を引き結ぶ。
「あの海の……リヴァイアサンの話か。正直な所、リヴァイアサン自体について語れることはほぼ無いな。
なんたって、俺は奴の右脚と頭を必死に叩いてただけだからな。奴の全貌なんてもう、デカすぎて全く把握できなかった」
それは大きさだけの話でもない。力も在り方も理解は出来なかったとキドーは呟いて。武闘派であるペイトの民を見据えてキドーは息を吐く。
「こそどろである俺には好き好んでぶつかろうって気持ちは分からねぇ。力を欲する気持ち……強欲と言い換えれば、まあ分からなくはない。
なあ。この世界にはどうしようもない圧倒的な存在がいる。それをどう思う? 正解はない。好きに答えてくれよ」
キドーの問いかけに応えたのは亜竜種の青年だった。
「倒したい」と堂々と応えるその強さ。エマは「なんとも」と肩を竦める。彼らがそう求めるだけの存在を、自身等は越えたのだ。
「はっきり言って勝ちの目なんてどこにもないような有様でした。
鱗が一枚剥がれ落ちただけで我々の乗っていた戦艦に大穴が開き、咆哮を放てば一瞬で一帯が光に包まれ、海の藻屑と化す……。
個々人の強さなどあってないようなものでした。幾重もの犠牲と、ありとあらゆる奇跡。それによって……ひとまずお眠りいただけただけのことです」
エマは「お友達の話をしてもいいでしょうか? 馬の骨(イーリン)さんの友達でもあります」と傍らの『馬の骨』を突いた。
イーリンは頷く。あの海で始めて友達になれた隊員。彼女は歌を歌った。絶海をも海で走り決戦を挑んだ。
暴威に散った命たち。無数の命運の果てに、今ここに持つ旗が続いていること。それを、武闘派である彼らなら、曲解無く聞いてくれる。
そう、信じて語る言葉に彼らは大きく頷いて。
「私はあの戦いで偉大なる竜に触れた。幾つもの奇跡があり、私達は未だここに立っています」
レイリーは目を伏せる。あの地を駆け抜けたのは騎兵隊だけではない。無数の者が、あの地に奇跡を乞うた。
奇跡に頼ることなく、自身等が未来を開くことが出来るならば。ヴァイスドラッヘと、竜種の名を名乗る彼女はあの恐ろしさを、偉大さを、美しさを、ただ、ただ目標としていた。あの様な存在の前でも、誰かを守れるようにと願うのだ。
「あそこで大勢の命が散ったからこそ俺らみたいな部隊が出来た……けどもそれは蛇足だな。
俺が語れるのは軍に保管されていた記録だけだ。直接行ってないからな。それでも良いなら仮に見栄と恥の塊だったとしても俺は語るよ」
旭日は海洋郡部の記録を辿るように、イレギュラーズとは別の視点で語ることが出来るのだと囁いた。歴史に残る対戦は虚構や見栄もなく、淡々と綴られた報告書の羅列だった。
誰かを犠牲にした。それは、竜を厭うたとて仕方はあるまい。
フェルディンは亜竜種に向き合った。不必要に竜を忌み嫌う存在ではないと誠意を持って伝える彼に亜竜種達は頷いた。
「我らも竜種は畏怖すべき存在ではありますが、嫌っては居ないのです。嫌っている子らがいるならば……」
それは竜種によって家族を喪った者だろうと告げる言葉にクレマァダは息を呑んだ。
ならば、その立場からも物を申せる。己は生まれは違えど、『竜を尊んだ一族』なのだから。
(海龍の使徒であり、また人である己。勝ったもの。負けたもの。眠ったもの。海に還ったもの。
敢えて申せば……我が尊ぶのは、その偉大な海竜をも育んだ母なる海と、そこにあるすべての巡り逝き孵る命。
故に。若し一手見せよと言われるのならば、己の中でその答えたる、『海嘯』にて照覧頂こう)
それはモスカの伝承歌に込めた言霊であった。クレマァダ=コン=モスカは堂々と語る。その姿にフェルディンは良き友人として彼らと歩む道が訪れることを願わずには居られない。
「さて、それはそれとして、良ければ今度は地竜の諸君の話も聞いてみたいな。土産として酒でも持っていけば話も弾むかもしれない」
ゼフィラの声かけに亜竜種たちは違いないと笑ったのだった。
●亜竜集落ペイトII
「多分に自慢話になりますが、かの戦で私が一番槍という望外の誉れを得た時の話を致しましょうか。
当時の私は若く無鉄砲で、ついでに言うと混沌に召喚されてから日も浅く。なので、本当に『何も考えずに』向かった覚えがあります」
至東は真の勇気と言えるものではないのだろうとペイトの亜竜種達へと語った。今の勇気が身に馴染んだという気もするのだ。
それだけ、武人とは難しい存在なのだと至東は独りごちる。
「前に来たのは確か……3か月くらい前だったか?
思いの外早く許可が出たねえ。こういう閉鎖的な場所の中で意見を纏めんのは相当時間がかかるって相場が決まってるもんだが、さて」
リズリーは行くならばペイト一択だと波長が合いそうな此の場所へとやってきた。話が先ではあるが、力は共通言語。
彼らが生存に重きを置き、種を大事にしていることを知れば、力を求めると言うことも分かる。リズリーがどうした者だと眺めていれば集まってきた亜竜種達が模擬戦を行うための場所作りを始めたようであった。
「ふむ、ついにというべきか……こちらでも亜竜種と接触できるようになったようだな。
私としてはそこまで用もないんだが……リディアが行くというのならついていくことにした」
「いいじゃないですか、ドラゴン! 我が故郷にもドラゴンと呼ばれる竜達がいて、時には争い、時には手を取り合ったものです。
そんな竜の因子を備えた亜竜種――彼らがどのような文化と考え方を持ち、どのように生きているのか。私はそれがとても興味深くて、ワクワクするんです……!」
微笑むリディアにブレンダは頷いた。ペイトで彼女が何をなすのかを一先ず見ておきたいというのが師としての心構えだ。
リヴァイアサンを打ち倒したと言えば余りにも傲慢だが、その威に立ち向かった証ならあると剣を掲げるリディアに亜竜種たちは「おお!」と声を上げた。
「私はリディア。リディア・レオンハートと申します」
「はい。俺、ペイトに住む亜竜種の大恵。リディア、勝負しようぜ!」
いきなりの模擬戦の申し込みにリディアとブレンダが顔を見合わせた。どうにも、戦好きなようなのだ。
その様子を見詰めていたエルシアはずるずると引き摺られるようにして模擬戦の舞台となる広間に連れてこられていた。
呆気なく辿り着いたこの集落で、戦う必要が無い事を意味していると安心したのは束の間、実力を見せて欲しいと求められた彼女は『悪くない』の評価を求めるように鋭い一撃を放ったのだという――つまり、「お前カッコいいな!」の勢いで彼女はもっと戦いたいと連れてこられたのだそうだ。
(たとえ勝負にはならぬのだとしても、この身が彼らの指先一つで潰れる矮小なる存在であったとしても……と思っていたのですけれど)
亜竜種達もただの人だ。それ故にイレギュラーズの強さに興味を持ったのだろう。
「リヴァイアサンの話に興味があるみたいだし、こっちの集落に来てみた私でした。
あの時は結構一杯一杯な上に冠位魔種アルバニアの相手までしてたので、あんまり面白い話できるかというと自信ないけど、スケールが違いすぎて武勇伝に仕立てづらいのよね」
「弱いの?」
そんなイリスに声を掛けたのは美華と名乗る少女であった。青い竜の尾を有する少女はじい、と見遣る。
「ねえ、強いよね? 手合わせとかは!?」
彼方が言うならば仕方が無いか。イリスはどうぞと美華が手にする剣を受け止める。デモンストレーションが開始されれば盛り上がる亜竜種達の声が響く。
「あたしは負けないよ?」
「私も負けませんけど!?」
――その戦いはまだまだ続きそうなのである。
未知の領域とされていた覇竜に足を踏み入れられただけではなく、そこにある集落を訪れることが出来るとはなかなかの幸運だとゲオルグは息を呑んだ。
そして彼が目にしていたのは模擬戦である。イリスと美華の勝負を眺める彼はリヴァイアサンと戦った事のあるイレギュラーズに興味があるという亜竜種達の在り方には納得していた。戦闘能力は比べようもないものだったリヴァイアサンだ。それと戦ったのだから本気の模擬戦が行われるのは道理――ならば救護班としてしっかりと立ち回らなくてはならないだろう。
「――武闘派! とても素敵じゃあないですか!
皆様得物は何をお使いに? 刀ですか? 刀ですか? 刀とか使いません? ……いえまあ、別に刀じゃなくても良いのですけども」
「刀を使うヤツも居なかったか? おーい」
探しに行ってくれるのだろうかとすずなは亜竜種達の様子を見てわくわくと胸を躍らした。亜竜種としての力を駆使する事もあるだろうが、武術体系は余りに無作法だと思えるようなものが多く見えた。つまり、我流の寄せ合わせ。
「アンタも模擬戦しましょうよ!」
声を掛ける美華にすずなは「はい!」と微笑んで駆け寄った。そんな様子を眺める紫電は「そういえば秋奈は……?」と首を捻る。彼女はどこに行ったのだろうか――少し気になるが。此処で厄介事解決の手伝いに繋がる可能性もあるのだ。
「身を守るための戦い方は結構防戦に寄っているのか?」
「そうだなあ。まあ、相手が脅威過ぎるから」
そう笑う亜竜種に紫電は成程、と頷いた。リヴァイアサンという規格外。そうしたものがこの地にも無数に存在しているならば、思わず身が震えるというものだ。
「っしゃー! ちゃん琉珂にほかにも集落あんべって教えてもらったし!
私ちゃんはペイトに行ってみることにするよ! ROOじゃ、どこもいけなかったしな!」
「あ」と紫電が秋奈の姿を見付ける。「地竜ってんだから飛ばずに防御極振りみたいな?」と問いかける彼女に「模擬戦する!?」と声が掛けられる。
「あ」ともう一度紫電が声を漏らしたのは、秋奈が剣を構えたからだ。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 我は戦神、叛逆の至剣なり!」
ズッ友だと脳筋挨拶(あくしゅ)を繰り出した彼女の様子に紫電は彼女が無事に帰還することだけを願ったのだった。
「地竜と聞くとスェヴェリス君を思い出すな。果たして彼は元気だろうか。
縁があれば、また会う事もあるだろうが、此方の世界の地竜は武闘派らしい。さて、どんな者たちなのか興味はあるな」
そう呟いた愛無に「スェヴェリスは族長の息子の名前ね」と美華が告げる。呼んできて上げましょうかと笑う彼女の代わりに幾人もが模擬戦をと、声かけをする。仕事の斡旋に繋がるというならば、ここで模擬戦を断るのも野暮だ。
●亜竜集落ウェスタI
「幻想の住まう場所――覇竜領域デザストル、その亜流集落ウェスタ、ね。
話には聞いていたけれど……実際に足を踏み入れるとなると興奮しちゃうなぁ!」
ハンスはにこりと微笑んだ。自身のギフトの効果が出るのだろうかと考えるが、彼らは普通の人だ。多かれ少なかれ何らかの効果はあるだろうか。
「やあ亜竜種の方々、僕はハンス。青い鳥のハンス・キングスレー。
生憎と、食事の造詣はそこまで深くないんだけれど……このとおり、場を和ませる歌と踊りだけは得意でさぁ。
僭越ながら歓迎への返礼として、ちょっとした余興でも披露させて欲しいな――ふふっ、よろしくね!」
躍るハンスに亜竜種達が嬉しそうに微笑みを浮かべる。穏やかな地、ウェスタ。外の興味は食事なのである。
「こんにちは。まずはお互いの事を知りたいのだわ。
覇竜領域の事は勿論知りたいけど…それは後。まずは、あなたたちの事を知りたいのだわ」
微笑む華蓮は外の食事に興味があると言うウェスタの民達の元へと訪れた。食料樽セットで仕入れた食材を料理して食後の紅茶までしっかりと準備を整える。
「此処では皆、どんなものを食べるのかしら? どんなことをして日々過ごすのか……どんな文化があるのか……何が好きなのか……嫌いなのか……知りたいのだわ」
微笑んだ華蓮に亜竜種達は是非里を見ていって下さいと笑う。これは覇竜領域の踏破だけではない。漸く出会えた存在なのだ。
外界からやってきた自分たちが、亜竜種達にとって不幸な存在ではないように。何をすれば喜ばれるかを知っておきたいのだ。
書物や人の噂でしか知る事の無かった領域。こうして踏み入れただけでも心が躍る。人里があるなどとはどの書物にも書かれては居なかったとドラマは胸を躍らせた。
「……どちらかと言うと山々に囲まれた荒廃した大地と云う印象があったのですが、このような深い森もあるのですねぇ。少し親近感が湧いてしまいます」
踏み入れたら死ぬのは『ノーコメント』としてもドラマは獣よけの魔術の為された湖を下る。濡れた感覚も無ければ、湖に道のある異様な空間。
「こんにちは、琉珂から聞いています」
イレギュラーズを歓迎してくれる亜竜種の言葉にドラマは「こんにちは」と微笑んだ。彼らは食事にも興味があるらしい。
(まずは信頼を得られなければ、良好な関係は築けませんからね。同じ釜の飯を食べる、と云うのも良いでしょう)
まずは料理からである。そうして距離を縮めるところから始めよう。
「水竜……流石に俺の知ってる水竜さまと同一かは疑問だが、親近感は湧くな。
俺も竜は昔から信仰してるし、礼儀正しく対応していこう。お土産も持ってきたぜ! ……俺は食用の鶏じゃないからな?」
カイトは普段よりも礼儀正しくウェスタの民に声を掛けた。
「招待してくれて感謝するぜ。ここは水竜様が作った集落なんだってな。じゃあ集落の名前ってその水竜様の?」
「そうですよ。ウェスタという竜が作ったとされてます」
微笑んだ亜竜種に自身の知る水流様とは違うのだろうと思いながらも、彼女の話を語る。いつかの日に此の土地から別たれた存在であるかもしれないと考えながら。
「地底湖があるってことは魚とかが主食なのか?俺、船乗りで、釣りが趣味だから興味あるぜ!
……地底湖は駄目なのか? ふーん、神聖なところとか? 立入禁止なら諦めるぜ。でも何喰ってるんだ?」
「まだ危険ですからね。琉珂達の許可が下りたらまた湖もお願いするかも知れません」
穏やかな亜竜種にカイトは成程、と大きく頷いたのだった。
「へぇ、なかなかに良い景色じゃないか。このような場所もあるのだね。是非とも定番の旅行先のひとつとしたい所だけど……」
その為には交友だろうかとマルベートは自宅のセラーからお気に入りのワインを数本持ち込んでいた。自家製干し肉を持ち込み、シンプルなものだが亜竜種達には珍しい物もあるだろうからと試食や試飲を勧める。
「美味い肉に上等な酒。仲良くなるのにこれ以上のものはそうないからね」
マルベートに「やったー!」と喜んだのは里の若者だっただろうか。そうして笑う姿を見れば、近い未来に手を取り合えると実感したのだ。
「母さん達の冒険譚の中でしか知り得なかった、竜の血族に会えるんだ。
……ブラッドどうしよう! 緊張してきちゃった!! 手つないでて!!」
ふう、と深く息を吐いたサンティールにブラッドは「落ち着くのでしたらどうぞ」と手を差し伸べた。それだけかちこちに凍った氷のように緊張していては、水辺で足を滑らす可能性とてある。
「ごきげんよう、英邁なるウェスタの民よ。此度はお招きありがとう!
お近づきのしるしだけれど……みんなは苦手な味はある? 普段食べてるものを僕たちにも教えて!」
緊張しながらも堂々と告げるサンティールに続きブラッドは礼儀正しく頭を下げた。
「水竜の末裔の皆様、この度はお時間をいただきありがとうございます。
亜竜種であり、水辺の環境での主な食事にも大変興味があり足を運ばせていただきました。
サンティールと一緒に持ってきた中に興味深い食事があれば良いのですが」
サンティールは小麦で出来たふかふかのパンに好きなものを挟んでねとバスケットから野菜や厚切りハム、たまご、ピーナッツバターを取り出した。
「ブラッド、こういうときはねえ、優しく微笑んで見せるのが一番だよ!」
「交流の席なのに真面目で堅すぎ、ですか……? そんなつもりは無いですが難しいものですね」
肩を竦めた彼に手本のように微笑んだサンティールに小さな亜竜種の少女が「此のお野菜は里でもとれるのよ!」と嬉しそうに声を弾ませた。
そうして喜ばしいと笑う少女を見詰めればウェールも何か振る舞おうかと考えた。パンプキンタルトは秋向けだ。ベッツィータルトのレシピは映しを用意した。タルトと呼ばれていようともアップルパイだ。タルト生地とアーモンドクリームの作り方を実演するのも悪くは無い。
ビスケットを砕く様子を眺める亜竜種達も楽しげだ。タルトの型などの調理用具はいくらかプレゼントしてやるのも悪くは無いだろうか。
その様子を眺め、情報収集は大事だと礼久は考える。食事も一つの情報源だ。此の地では周辺の山菜や水辺の生物、採りやすいモンスターを主体としているらしい。
「ああ、……そうだ、レシピ本。ウォーカーだからこそ知っているメニューを書いていけばいいか?」
気に入って貰えると嬉しいと差し出したのはハンバーガーなど、ジャンクフードの掲載されたレシピ本であった。
「食ってのは面白いよな。その土地ごとの特色が詰まってる。そして、食を囲んでる人たちの顔のほとんどは、いい笑顔だ。なあ、あんたたちの『食』も教えてくれよ?」
風牙の言葉に亜竜種達が勿論だと頷いたのはイレギュラーズ達が新たな食文化を教えてくれているからなのだろう。
ファルベリヒトの忘れ形見であろうとも、彼女は人として認められた存在だ。ロロンはイヴは不思議そうに周囲を見回す横顔をまじまじと見ていた。
「安全な場所が限られているということは、食糧の確保もそう簡単ではないのかな?
ありのままの暮らしぶりを教えてもらって、観光じゃなく長い付き合いになれるような仕事を探してみようか」
イヴを紹介し、彼女を介した仕事の斡旋が出来るようになればとロロンは彼女を紹介する。仕事だと喜ばしそうなイヴを見れば、矢張り彼女は人間らしいのだと感じずにはいられないのだった。
「異文化交流の始まりに有効なのは、何と言っても飯と酒。飲みニケーションはグローバルなメソッドなのですよ」
眼鏡をくい、とあげた寛治が持ち込んだのはヴォードリエ・ワイン。最早始まった食事の席の端へと座り、実食と実飲にて文化を学べばいい。
どうやら亜竜種達の飲む酒は中々に度数がきつい。果実などから作るものが多く思えたのは地域性だろうか。
「そういえば、ワイバーンの卵を食べる習慣はあるのですか?」
「あるある。孵化しないヤツとかならね、まあ、結構味に癖はあるけど」
そんな風に笑う亜竜種達に寛治はそれは酒に合わせやすいのではと考えてみるようなのだった。
●亜竜集落ウェスタII
「ここが覇竜ね……噂には聞いちゃいたが、思ったよりはフツーの場所だな。
まあ、立ち入り禁止って言われる場所に踏み込んだら『噂』通りの光景が広がってるのかもしれねーが」
周囲を見回すシオンは亜竜種に始祖であるという水竜の話を聞きたいと声を掛けた。
「なんだってここに集落を築いたんだ? そんでもって、そいつはその後どうなったんだ?
竜種はそう簡単にゃくたばらねえだろうしさ……まあ、ここは竜種の領域だから、そうでもねーのかもしれねえが」
「伝承だと、ウェスタという水竜は自分の隷属であった亜竜種を護る為の集落を築いて、死ぬまで傍に居たそうですよ」
シオンはその話の礼に食事くらいなら作るからもう少し話を聞かせて欲しいと告げた。
「わぁ……わぁ……っ! 素敵だわ、ここがこちらの世界での、竜の皆さんのお家なのね……!」
まるで家に帰ってきたみたいだとリヴィエラは目をキラキラとさせる。鉱龍である自身のような人型の龍の因子を持つ者達。
角を採られぬようにと身を寄せ合って過した彼女にとっては初めての『同類』との出会いだ。
「だから、皆さんに会えて本当に嬉しいわ! ねえ、ねえ、お名前を聞いてもいいかしら?
私はリヴィエラ。リヴィエラ・アーシェ・キングストンよ。どうぞよろしくね」
スカートを摘まみ上げてご挨拶をするリヴィエラを歓迎すると亜龍種達は招き入れてくれる。彼女の前に広がっていたのは料理会場だ。
「ほうほう、料理に興味が。然らば、何からお作り致しましょうね。
例えば、キッシュとかパイは間口が広いでありますかね。
自分の故郷の味であればヴルストなんかおすすめでありますよ。
長逗留していいのであれば新鮮な血のヴルストとか好きでありますよ。皆様のお好きな味は? 苦手なものなどおありで?」
完璧な騎士(メイド)だと自負するエッダは酒の気配を感じてぐるんと目を向けた。酒があるならば話は違うと言いたげにずんずんと酒へと一直線なのである。
べん べべん べん――♪
音楽やご飯は万国共通、を掲げたアリアは豊穣の三味線を弾き慣らす。此処にある音楽を知れば、それを即興で奏でてみれば良い。
屹度食事を求める此の集落は平穏だ。そんな場所でのんびりと過ごせるのはなんとも楽しいことではないか。
「あー歌ったり演奏したりしてたらお腹空いてきちゃった! よかったらこの地域のお料理も教えてくれると嬉しいな!」
そんな平和な様子を眺めてアルヴァは集落の外に出れば亜竜種の制止が入るのは胡散臭いと感じていた。其れを口に出せば、彼らは揃って答えるだろう。「客人をむざむざ殺したくはない」と。実力はペイトの亜竜種達が模擬戦で確認している――詰まりは活動はこれからだと言うことだろう。
「ほら、単純に美味しいだけじゃつまらないだろ?」
激マズと評判名料理をそっと差し出すアルヴァに亜竜種の少女がまるでケダモノでも見るかのようにじいと見詰めてきた。
「そんな怖い顔でこっち睨んでこないで。怖い怖い怖い、俺そんなに強くないから、そんな熱い眼差しを向けられたら小便ちびっちゃう! ごめんごめんごめん! 俺が悪かった!!」
慌てるアルヴァの傍からそっと手を差し伸べたのはアッシュ。こんなこともあろうかと、おやつが少しだけ残っていたのだ。
「……その。飴玉ぐらいの、ものですが……お口に合えば……」
斯うして招き入れてくれる以上、一定の懐の広さを持って受け入れてくれているのだろう。異文化交流に興味を持った彼女は地底湖はどのような場所なのかと問いかける。
「重要な食事の供給源で、あの底には地竜が眠ってるって伝承があるんでね」
そう告げる亜竜種になるほど、とアッシュは頷いた。
「亜竜集落ウェスタでは、外の食事について興味を持つ者が居るらしい。もしかすると、俺よりリュティスの方が話が弾むかも知れないな」
そう告げるベネディクトの傍でポメ太郎が尾をぶんぶんと振っている。忙しない索敵係を追いかけて、リュティスは「なるほど。食に興味を持っているのであれば交渉がしやすそうですね」と頷いた。彼女はポメ太郎が迷子にならないようにと注意をしてあるいているようだ。
「そっちに行ってはいけませんよ」
「あんっ!」
吼えたポメ太郎は何かを見付けたのだろうか。ベネディクトとリュティスが覗き込めば亜竜種の少女が一人佇んでいる。
「初めまして、俺はベネディクト。こっちは使い魔のポメ太郎だ。そしてこちらが俺の従者の――」
リュティスですと挨拶をした彼女は座ったままこちらを見詰める少女を眺める。
「静李だ」
「静李というのか。良い名前だな、良かったら俺達と話をしてくれないか?」
リュティスの弁当を広げれば、彼女は驚いたように二人を見た。蛸さんウインナーという伝説の食べ物を目の当たりにして驚いたのだろう。
●亜竜集落ウェスタIII
クッキーや調理用具を持ち込んでいたヨゾラは「おもちっていうのがあってね、白いお米をぺったんぺったんついて作る……」と話し始める。
涎をだらだらと垂らした亜竜種をみればどうにも愉快な気持ちにもなるのだ。
「亜竜集落ではどんな調理法がメインかな。煮たり焼いたり炒めたり?
それから、そういえば、亜竜集落に猫っているのかな?獣よけの魔法があるならいるのかな……」
「ねこ?」
小さな生き物にはあまり慣れて様子の亜竜種にも猫たちを布教してみるのもいいかもしれないとヨゾラは独りごちるのだった。
「覇竜領域に、亜竜種の人達。おれにとっては……どちらも、初めてのことだらけ。
……でも、こうして縁を繋ぐきっかけ、出来たから。仲良くなれたら、嬉しいな」
チックはカーネーボンをお土産に持ってきたのだとそろそろと差し出した。海洋にある島で採れた果物は甘くて美味しい。果物を喜ぶ亜竜種を見れば心躍るという物だ。
「この場所は森や湖が近くにあるから……かな。居心地が良いように、感じる。
此処には、歌……みたいな文化とか。あったり、する? ……もし、良ければ。一節、聞いてみる……してほしいな」
耳に馴染みやすい旋律を歌うチックに少女が「もっと歌って欲しい」と微笑みを浮かべる。大きく響かせるのではなく、穏やかで優しい話を出来た事への感謝を伝える声が響き続ける。
「よお! 俺は放浪者をしてるもんだがこっちの酒に興味あるんだ、俺も色々酒を用意してきたから飲み比べしねえか?」
見知らぬ街に辿りたならば先ずは酒を飲むことに決めているバクルド。地底暮らしは想像していた物とは違うが宇心地は良さそうだ。
集落の食事などはフリアノンから食材を運び込んだ者が多いらしい。バクルドの誘いに応じた亜竜種達と杯を持ち上げて、酒をあおる。
「おお! この魚中々イケるな! 今度はこっちの牛すじはどうだ? 最高だろ」
「その魚は湖で捕れるんだ。肉食だぞ!」
笑う亜竜種に危険生物が多いのだと感じるバクルドなのであった。
「水の竜の集落……どんなお料理があるのでしょう? お魚? お肉? お野菜? 果物? ニルはとってもとっても気になります」
ニルはおいしいは同じなのだろうとその様子を眺めて微笑んだ。イレギュラーズが用意する食事に美味しいと笑うその表情だけでも心が躍るのだ。
(この場所に立ち入ってから、【風の竜玉】を通して伝わってくる風竜の力が昂っている気がします。
無用な混乱を避けるためにもちょっとだけ我慢しててね、イルヤンカ)
エアは文化に寄り添って理解するのだと避けダルとグラオ・クローネを手土産として用意していた。集落の始祖である水竜に興味があると告げた彼女にルビーは「色々とあるんだねえ」とスピネルへと声を掛ける。
「竜の骨の中に作られた亜竜たちの集落! もうこれだけで浪漫だよね。本の中の世界みたいでワクワクしちゃう。
人助けも大事だけどこういういかにも冒険って感じの依頼も待ってたの」
「ルビー、けど食事は作れるの?」
「うーん。練達や再現性東京の料理の本やチョコとかタルトとかコンペイトウとかお菓子を手土産にしてみたんだ!」
どうかなと笑ったルビーにスピネルは頷く。お土産片手に水竜の伝説を聞いてみるのも良いだろう。
「あ、飛呂」
ニルの声に気付いて飛呂が手を振る。
「俺が自分で作れるの、日常的な肉野菜炒めとかくらいなんだよな」
スイートポテトや唐揚げの作り方は覚えている。家庭料理のことばかりになると告げる彼は「食べ物の話するんならさ、俺は覇竜の料理のことも聞きたいな」と微笑んだ。
料理を食べてのんびりと交流を始めてみよう。
●亜竜集落ウェスタIV
「スゥ……ウェスタの皆さん大変お待たせしました! 開店でございま~す!
さぁ好奇心旺盛な方は近くで是非ご覧下さいませ! 物怖じしてる方はまず此方の試食品を是非!」
微笑んだのは無黒。彼が客引きをするのは折角ならば友好を深めたいと考える行商団。
それは販路拡大を念頭に置いている。交易を広げるためにも彼らは様々な品を持ち込んだ。
代表者である武器商人は食材や料理を中心に各自が自慢の商品を紹介することを考えていた。ウェスタの民との継続的な貿易が出来ることを目標にし続ける。
サヨナキドリの為ともなれば、無黒は楽しげに口上を述べ続ける。
「さぁお一つ如何っすか?そこの奥様と可愛いお嬢さん♪ お嬢さんは甘い物好きかな?
うん! お兄さんも大好き! では! 我等サヨナキドリの名物菓子ジュエリー・フルーツシリーズをどうぞ♪
ほら、凄い綺麗でしょ? 宝石の様なフルーツを沢山使った甘酸っぱくて美味しいお菓子っす! お兄さんの一番のオススメっすよ! さぁ召し上がれ!」
人々が集まってきた様子を眺めてはにんまりと笑ったのは天狐。
「彼の地に美味しいうどん文化を広める千載一遇のチャンス! これは腕が鳴るのう!
麺狐亭出張サービスじゃな!
屋台で美味しいうどんを作って異文化交流といこうではないか! こっちの美味しそうな材料や香辛料等の情報や現物を仕入れられれば良しじゃな!」
黄金海鮮出汁も使ってサービスだ。地域事情も屹度分かるはずだと食材情報を仕入れながら、うどんを布教し続ける。
「フリアノンやペイトはいろんな人がいってるから、ブランシュは此処で交流を図るですよ!
あなたたちは、秘宝種とか見た事あるですよ?ブランシュは竜のお人を初めて見たですよ! 色々と自分と違う所を見て、へーと感心するですよ」
ブランシュが外の事を教える行商達がご飯を用意していると瞳を輝かし、紹介すれば武器商人がそうだと頷いた。
運搬や配達はブランシュが担当する代わりに、亜竜集落の食事も楽しませて欲しいと彼女は笑ったのだ。
「我(アタシ)が紹介するのは宝石の様な果物、『ジュエリー・フルーツ』を使った菓子だよ。
基本的に、どこへ行っても『菓子』というジャンルは喜ばれる物だからね」
美しく手間暇掛けた商品だ。亜竜種達の心が躍ったのは間違いなさそうである。
「ぶはははッ、地底湖ってこたぁ水が豊富ってことだよな! だったら米の出番だ!
炊くのに水を多く必要とするが、その辺は地底湖の水量でカバーできるし保存性も良い。
何より腹持ちも良いから、もし亜竜種に健啖家が多いなら相性は抜群だろう
この地の食文化を教えて貰えるなら、亜竜種らに合った調味での米料理とか出せるかもしれねぇな! 大体丼物にすりゃあ何とでもなるってな!」
ゴリョウは炊き方からレクチャーを始める。将来的には此の地でも稲作をしたいと彼は考えているそうだ。
ゴリョウの米に合うようにと料理を行うモカは料理人として、住民達の為にと食事を振る舞っていた。ウェスタの中ではそうした食材全てはフリアノンを介して得ているらしい。
モカの料理の様子を見ていれば黒龍もうんうんと頷かずには居られない。新規の流通路開拓を目指した彼に賛同してくれた者達は心強い。
「古来より人心を掴む術は多々あるが、この度はやはり全員が幸福になれる『食』を介して異文化交流と行くあるよ!
米に酒に麺に菓子に茶諸々と、行商団には頼もしい連中しかいないのである!
吾輩は肉を大道芸で魅せながら調理して振る舞うね。新鮮な肉は生で食っても美味いある。其方側には生肉を食す文化はあるか?」
「あります!」
ぴしっと手を上げたのは年若い亜竜種の青年だった。どうやら、行商団の食事製作に参加してくれているようである。
「厚切りの肉を炙ってミディアムで齧り付くのも乙あるよ。そこの汝、顔に空腹と書いてあるね。煮込みに揚げ物に蒸し料理、じゃんじゃん食っていくがよろし!」
「え、い、いいんですか……」
味見で済みませんよと震える亜竜種に黒龍は良い良いと肩を叩いてやった。
「わっはっはっー! 新たな新天地と聞いたらその土地の酒に興味を持つのが酒飲みの性! という訳で商人ではないけどヘルちゃんも行商団の一員として参加なのだ!」
酒を片手にやってきたヘルミーネは「まずはのどごしスッキリ、ほどよい苦みで幅広い層が楽しめるビールなローレット・エール、キレのある辛口が癖になる人魚姫もお勧めなのだ」と宣伝しながらも酒を煽る。酒飲み仲間が増えれば其れだけでハッピーなのだ。
「ジュエリー・レモンサワーのサワーなのに度数が高くて全く酒臭さが無くて何杯でも飲めるのもいいし、変わり種なら深緑ミルク工房のミルク酒などもあるのだ! 単純にいい酒なら極楽印の祝酒なのだ! でも一番美味くておすすめなのはヴォードリエ・ワインなのだ!」
ウェスタの酒もどうぞと黒龍の元で食事をしていた青年がワクワクとした様子で寄ってくる。
「お、これ美味しいっすね」
料理を食べる側である美咲は農耕に向いてなさそうではある此の土地でも安全圏で野菜を育ててる者が居るのだと驚いたようにウェスタの料理を眺めていた。他メンバーの様子を眺めながらも、そこから情報を得るのも立派な仕事だ。
「初めまして! ルシェはキルシェです! こっちはリチェです! 今日はお招きいただき有難うございます!」
美咲の傍でぺこりと頭を下げたのはキルシェ。傍にはリチェルカーレが鎮座している。
「あのね、ルシェはハーモニアだけど、お水作り出せるの。だから水竜さんのこと気になったの! ご飯食べながらで良いから、水竜さんのお話聞かせて欲しいです!」
「僕で良ければ」
黒龍の元で肉と食べる青年が手をひらひらと振ってくれる。キルシェの水を飲んでみたいと願う彼は行商団の中でも慣れた様子で食事を食べ続けている。
リチェルカーレはぷいぷいと野菜屑などを食べ続け、後片付けに一役買っているようだ。
屋台を引いてやってきたのは零。クリームパンや塩パン、メロンパン。様々なパンを用意して亜竜種達に紹介していく。
「良ければ喰ってくれよ。口に合うと良いが……。あ、もし、興味があるなら作り方も教えられるぜ」
フランスパンも提供する零は「それと此処の料理や食材って教えて貰えるか? 気になるし」と亜竜種達に問いかけた。
「自給自足が多いのと、ラサから入ってきた物をフリアノンから振り分けで」と告げる彼らは外の文化には乏しいのだろう。
「良かったら、定期的にパンとか仕入れて見ないか? 俺も此処の食材の取引とかしてみたいしさ、どうだろ……?」
零の提案の言葉に続き武器商人がうんうんと頷いた。
「外に興味があるならば、貿易という形で交流をしてみるのはどうかな? お互いに、いい刺激になるしね」
「うーん、それはフリアノンかな? 琉珂に交渉してみておくれよ」
此度の営業は成功のようだ。
覇竜領域デザストル――この新たな地で、出会った人々はイレギュラーズと同じように、未来を見据え新たな道を歩むと決めたのだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度は新しい土地である覇竜領域デザストルの亜竜集落探索へのご参加有り難う御座いました。
此処から始まる覇竜領域の冒険、とっても楽しみですね!
GMコメント
お待たせしました。覇竜領域です。
●目的
『フリアノン』や各地の集落での交流を行おう
●本シナリオで出来ることとは?
本シナリオはR.O.Oクエスト『竜域踏破』の結果を踏まえ、現実でも覇竜領域に存在するであろう『フリアノン』へと到達を目指したシナリオの後編です。
前回シナリオ『<竜骨を辿って>隠れ里クスィラスィア』の結果により、『フリアノン』への訪問を許諾されました。
『フリアノン』及び、R.O.Oでは観測されていなかった亜竜種の里『ペイト』や『ウェスタ』に赴き、交友を深めましょう。
また、調査や今後の雑用仕事の斡旋などの話をしてみるのも良いかも知れません。
★【禁止事項】
無用な戦闘や集落外での探索活動は亜竜種達が制止を行うでしょう。
客人を無用なトラブルに巻込みたくないという気遣いです。其れ等を振り払い無理にでも探索を行った場合、やむを得ぬ事態を招く可能性もあります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はD-です。
基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
不測の事態は恐らく起きるでしょう。
●注意事項
※ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※行動は冒頭に【1】【2】【3】でお知らせください。
●覇竜領域デザストル
未踏の領域。R.O.Oのネクストには『土地』の情報が構築されて探索が行われた場所です。
現実世界では踏み入れば帰る者は少ないとされ、入り口から厳重に出入りを忠告されるような場所です。
ですが、その場所へと安全に踏み入ることが出来る道が見つかりました。
大部分をショートカットし、ラサへと繋がる『竜骨の道』を辿ることで亜竜種達の集落へと到達することが出来ます。
フリアノン、ペイト、ウェスタを紹介していますがこのほかにも小規模な集落は点在しているようです。それらに共通するのは人間が住むことの出来る安全な場所(僅かにしかないようですが……)に住まうている事です。
どの集落でも亜竜種達と交流することが可能です。琉珂曰く『警戒してるのは仕方ないからね』とのことです。
【1】亜竜集落フリアノン
竜骨の道から繋がっている集落です。巨大な竜フリアノンが洞窟と合わさり出来た集落だそうです。
竜骨の道はフリアノンの尾であり、隠里クスィラスィアでもそれは神聖なる場所として扱われています。
里長の名前は若き姫君『珱・琉珂』。ただし、トラブルメイカーであるために里長代行が何人か立ち替わりでフリアノンを収めているようです。
ワイバーンやはぐれた竜種の赤子を人が関われる程度に育成、調教を行い共存を目指しているようです(竜種は大体が小竜のうちに野に放ちます。ワイバーンは上手くいけば育てるようです)
・珱・琉珂(おう・りゅか)
亜竜種の少女。R.O.Oではイレギュラーズの『オトモダチ』でした。現実世界ではどうでしょうか?
巨大な鋏をその背に背負い、快活で人懐っこい事は変わりなさそうです。彼女は『リヴァイアサン』と『ジャバーウォック』の関連の情報を有するイレギュラーズに興味があるようです。
【2】亜竜集落ペイト
地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。暗い洞穴に更に穴を掘り、地中深くに里を築いたこの場所は武闘派の亜竜種が多く住まいます。
琉珂の紹介により訪れることが可能です。どうやらリヴァイアサンを倒したイレギュラーズに興味を持っているようですが……。
【3】亜竜集落ウェスタ
ピュニシオンの森と呼ばれる深き森の近くに存在する地底湖周辺に集落を築いた水竜が始祖である集落です。
地底湖に繋がる湖には獣よけの魔法が施されており、許可なき者を決して通さないそうです。また、地中でペイトやフリアノンと繋がる道を有します。
琉珂の紹介により訪れることが可能です。彼らは外の食事などに興味を持っているのかイレギュラーズのことは歓迎してくれそうです。
●同行NPC
外からは
・イルナス・フィンナ(p3n000169):ラサの傭兵団レナヴィスカの団長。砂漠の幻想種で知られる弓使いです。
・イヴ・ファルベ(p3n000206):ラサの古代遺跡ファルベライズの守人。どうにもシンパシーを感じるのか亜竜種達に興味を持っているようです。
がご一緒します。何かあればお声かけくださいませ。
どうぞ、よろしくお願いします。
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