シナリオ詳細
<夏の夢の終わりに>理性と恋とはまるっきりそっぽを向いた
オープニング
●『いつかの想い出』
恋なんて想像上の存在で、馬鹿じゃなくっちゃ夢見ることもしないんだ。
ただ、僕は馬鹿だからさ、何時だって恋してる。そうしなくっちゃ生きていけないから。
そう、云ったのは――
深緑の森の中、魔種の『研究』のフィールドワークで偶然鉢合わせた少年はイルス・フォル・リエーネに向かってそう言った。
「どういう意味だ」と問いかける彼の背後からひょこりと顔を出したのは空色の髪をした少女、これまた魔種である。
「ま、気にすることないさ。出会ったのが運の尽きだね。会いたくなかったよ、人間。
あたしはどっちでもいいんだけどさあ……どうする、リュシアン? 殺す?」
「放っておいていいよ、ブルーベル」
ふうん、と少女はそっぽを向いた。イルスは自身の名を名乗り、魔種を研究していると二人に告げる。一方は「悪趣味」と悪辣に罵り、もう一方は楽しげに目を細める。その対照的な二人からイルスは目を離すことは出来なかった。
「二人は共に行動している?」
「偶然会っただけ。あたしは大好きな主様のために、捜し物をしてるんだ。
あんたも研究者ってんなら文献でも漁りなよ。ヒントは『咎の花』。もう一つは『冬の王』」
「ブルーベル、喋りすぎだ」
はいはい、と少女は掌をくるりと回した。ごめんなさいねと悪びれもしない彼女に少年は構うことはない。
「あたしは――と言うことは、君は?」
「ああ……聞いておこうかな。魂に不純物が混ざったとき、それを元に戻すにはどうすればいいと思う?」
は、とイルスはそう呟いた。少年は続けるように「体そのものは混ざり合い、めちゃくちゃだ。ただ、魂が其処にあると仮定すればどうすれば取り出せると思う?」と問いかける。
「……難しい話だな。『空の肉体』に魂を移し替えられるかどうか、と問われても……」
少なくともその様な技術をイルスは持ち得ていなかった。少女が少年の服をくい、と引く。
「もう行く。じゃあね、リュシアン。それから、イルス・フォル・リエーネ。
気をつけなよ、ソイツ。有用だと思えば平気で誰でも反転させるし、平気で殺すから」
「ブルーベル」
「へいへい。それじゃ――『もう二度と、会わないようにね』」
少し、眠っていたかと瞼を押し上げた。アンテローゼ大聖堂では冬に包まれたという妖精郷を救うが為の救援、魔種の討伐の為の作戦会議が続けられている。その様な未曾有の事態に陥ってから、イルスは『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)、そして妖精フロックスと共に進軍の話し合いを続けていた。
「女王様を守って欲しいのです。魔種タータリクスは必ず女王様を狙ってくるのです。
それに……『冬の王』を封印するには『妖精女王』の力も必要なのです。どうか、どうか、お願いするのです」
ここで女王を喪うわけには行かないと震えるフロックスにイルスとフランツェルは頷いた。深緑の迷宮森林警備隊の助力を得、妖精郷から冬を『退けなければ』ならない。
「それで? キトリニタスを阻止、魔種タータリクスと『冬の力』の対応にはそれぞれ向かっているんだろう?」
「ええ。タータリクスとそして『冬姫イヴェルテータ』は……妖精城アヴァル=ケインが戦場になるでしょう。
それよりももっと広範囲での防衛網を引くわ。先ずはエウィンの街、みかがみの泉、とばりの森……私たちの目的は連勤モンスターと、それからアルベド、冬の精霊の討伐」
女王は城よりも安全であるエウィンの街での防衛を行おうとフランツェルは云った。敵地より出来る限り離れた場所に居た方が防衛網を敷きやすい。
「質問なのです。あの、『冬姫イヴェルテータ』って誰なのです?」
「良い質問ね、フロックス。魔種ブルーベルは『咎の花』と呼ばれる秘宝……まあ、永久の眠りを与えると呼ばれる宝玉を狙っていたわ。彼女の目的は最初からそれだけ。同時に、クオン=フユツキはそれによって解き放たれる『冬の王』の力を狙っていた。
連れ去られた『冬の王の力』は兎も角、王と共に眠っていた邪妖精が今回の関門となるのね」
連れ去られた冬の王とクオン=フユツキ、ブルーベルとは何れ戦う機会が来るだろう――が、今回の問題は『冬姫イヴェルテータ』である。彼女は邪妖精を扇動し、攻勢に転じている。籠城作戦に出ているタータリクスよりも妖精郷を冬に包み滅ぼさんとする冬姫の方が問題だ。
「イヴェルテータの討伐には討伐隊が向かうことになるわ。それでも外で彼女の『言葉』に扇動される邪妖精が数多く居るでしょうね、と言うことで。フロックス、どうなると思う?」
「はっ、エウィンの街が危ないのです!」
その通りだとフランツェルは頷いた。その茶番を眺めて居たイルスはまたもぼんやりと外を眺める。穏やかな夏の日差しが鬱陶しいほどのこの森から『虹の橋』を渡れば存在した華やかな春はとうに凍り付いたというのだ。
「イルスさん?」
「あ、ああ……大丈夫だよ。フロックス。それじゃ……準備をして女王様を守りに行こうか」
立ち上がる。熱い日差しが肌を焦がす。けれど、その武装は冬の物である。
その向こうに咲いていた花は、今は刻を止めたように凍り付いてしまったのだから。
●
小さく震えた『タイプ・マルベート』は「寒い」とそう言った。その傍らでぐちゃりと潰れている黒い錬金モンスターを指先でつん、と突いた『タイプ・ヴァイス』は「風邪を引くわ」とそっと振り返る。
「冬が来たんだね。一体どうしたことかな……『最高権限(アドミニストレーター)』は喜んでいることしか分からないけれどさ」
「ふふ、けれど嫌いじゃないわ。白い雪がちらついて総ての時が止まってしまったみたいだもの」
うっとりと微笑んだ彼女は手にしていた小瓶を錬金モンスターの口の中に放り込む。
ひとつ。
ふたつ。
「何それ?」
みっつ。
よっつ。
「おまじない」
「おまじない?」
いつつ。
…………。
「素敵なおまじない」
唇にそうやって笑みを乗せればぼこり、と何かがうごめいた。黒きモンスターの体がみるみるうちに人体へと変化する。
歪に腐り落ちた肉を掻き集め、ぺた、ぺたとその身に貼付け続ける異様な光景を白き少女――アルベドたちは見詰めていた。ぐうと『タイプ・マルベート』の腹が鳴ったが気にすることはない。メインディッシュは此方に向かってきてくれているだろうから。
「ほら見て。素敵でしょう?」
其処に立っていたのは――深緑のルドラ・ヘスをかたどった『黒きモンスター』である。ついで、冒険者であるアルテナ・フォルテや情報屋のリリファ・ローレンツが形取られていく。
「これに『要素』を食わせたら形になるって事か。ふうん、面白いね」
「ええ、『最高権限(アドミニストレーター)』が下さったの。此れを連れて女王様をお迎えに行ってきてね、って」
ころころと笑った彼女は楽しげに歩き出す。その周囲に舞う氷精と共に、向かうはエウィン――
「へっくし」
小さく震えた『月天』月原・亮 (p3n000006)は寒いと腕を擦る。冬のコートを着用しろと言われても外は絶賛夏であったのだから、今、冬を纏うなんて馬鹿げていると云った自分を殴りたい。
「もう、亮。言ったでしょう? 冬の格好を……って、まあ、ご友人よ?」
「ん? あー……あの黒い錬金術モンスターのこと? フランツェル、よく見ろよ。
どう見てもあっちの方が胸部の膨らみがある。って事は偽物だ」
指さされたその場所に立っていたのは自身の友人であるリリファ・ローレンツのアルベド未満であった。ニグレドとアルベドの中間であるそれにあからさまな嫌悪を出した亮に「す、すごい着眼点なのです!」とフロックスは生唾を飲む。
「まあ、それは兎も角」
「兎も角」
「ああいうモンスターまで出てくるって事は俺とかフランツェルも髪の毛一本、肉片一つ転がしときゃ『こんにちは』出来るってか?」
気持ち悪いこと言わないで、とフランツェルが一蹴すれば、背後でイルスが小さく咳払いをした。
「兎も角だが」
「兎も角」
「ニグレドとアルベドの中間であるモンスターにアルベド、それから氷精か。
女王奪還には余程の戦力を割いてくるようだね。けど……ああ、そうか……この『アルベド未満』は形だけで只のニグレドみたいだ」
そうやって此方の敵意を削ぐつもりなのかなとイルスは『弟子』の形を作っていたそれへと勢いよく魔力砲を放った。「ひえ」と呟くフロックスに「生憎、押し掛け弟子は色白でね」と彼はさらりと返す。
「皆さん、余りご無理をなさらないで下さい。
……総て、ストレリチアより聞きました。あの日、私が『外遊び』をしたのも元凶なのですから」
そう呟いた女王にフロックスは首を振る。誰の責任か、なんて言っては居られない。今は、この『国』を救う為にも彼女を守り、襲い来るモンスターの被害を軽減することも必要だ。
「どうか、妖精達をお守り下さい。彼女たちには何も罪はないのです」
祈る妖精女王ファレノプシスにイルスは大きく頷いた。
ふと、脳に過った言葉はいつかの日、『あの少年』が言っていたことだ。嗚呼、そういうことか。
――理性と恋とはまるっきりそっぽを向き合ってる。
僕らが魔種であるように。君が人であるように。
恋をすれば生き物は狂ってしまう。どうしようもなく、愛しさで潰れてしまうからね。
- <夏の夢の終わりに>理性と恋とはまるっきりそっぽを向いた完了
- GM名夏あかね
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月02日 23時31分
- 参加人数337/∞人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 337 人
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参加者一覧(337人)
リプレイ
●理性と恋とは、
まるっきりそっぽを向き合ってる。
僕らが魔種であるように。君が人であるように。
理性と現実とは、
まるっきりそっぽを向き合ってる。
僕らが侵略者であるように。君が救世主であるように。
理性と――
●外郭I
凍て付く気配にぶるり、と震える。さむい、と小さく呟いたフェリシアは首を振った。自立式防御短剣の切っ先が凍て付く空気を切り裂いた。夏空の広がる深緑から急転直下した『冬に染まった春の郷』をその双眸に映す。
「――なんて、……言っていられません、ね。いきましょう。それで……春を、迎えましょう……!」
大きく頷く。幻介は女王に手渡された小さなハンカチを握りしめる。集中を高める、明確なるヴィジョンをそこに見る。勝利という名の――未来を。
「友を守るは武士の誉れ……今日の拙者は、負ける気がせぬで御座るな――!
背には守るべき仲間達、隣には数多の戦友……そして、目前には滅すべき敵。
なれば、この剣……振るうべきは今――『咲々宮一刀流』皆伝、咲々宮 幻介……いざ、尋常に!」
地を踏み締めて前線進む。飴が如くその刃は止まらない。有象無象が飛び出そうとも怯む必要は此処には無かった。
「魁の功……戦士としてこれ程の誉はない。
この寒波を塗り替える様に、我が焔は燃え滾る……故に、オレ達は『焦土』。屍山血河を築くは今……露払い、しかと請負った」
エウィンの街やみかがみの泉、とばりの森に――そして望は妖精城。何処をとっても敵のエリアだ。このフィールドを『抑える』為にウォリアは堂々と進む。ぐちゃりと動いたニグレドを終末の炎で燃やし尽す。
瑞鬼はその柘榴の色の瞳を細める。幽世歩む隔世の鬼は「敵も味方もわらわらと……」と疎ましそうに小さく呟く。有象無象が跋扈する。小さき少女の叫び声を追いかけるは地獄の小鬼よりも尚、悍ましい人工生物か。
「ほぉれ、鬼はこちらじゃ。捕まえてみるがよい」
茨描いた刺青に魔力が走る。魔性の呼び声に応える慟哭響き渡らせ冬の郷を行く瑞鬼を追いかけて十七号は息を潜める。破魔の術式より滾る熱が、凍る息をも溶かすが如く。手が握れれば刀は振れる。脚が動けば避けられる。竦み怯える時間が此処に必要あるか、否――!
「恐れるな、血路を開け! ――先へ進め、イレギュラーズ!」
己に続け。堂々たる名乗りと共に決戦の地へと赴くは300超える特異運命座標達。美しき常春を凍らせる忌むべき冬を退けんと進む者達だ。敵を引き寄せる十七号を支援するように星が煌めく。オリオンを形作る一つ星は特異運命座標にとっての明けの明星。進むべき場所を知らせるかのように。
正純はこの吹雪の中でも星を感じると心躍らせた。こんな寒さの中だって痛みもなければ快調な位だと前線へと先行する正純は唇に笑み乗せる。
「言ってみたかったことがあるんですよね。――ここは私達に任せて先に行ってください!」
ぶるりと震えたエマはただ只管にニグレドを相手していた。長く長く一体ずつ。『黒くて弱そうでぐちゃぐちゃ』で……そう思えば気持ち悪さも感じられる。
「さ……さむっ。寒いです! さっさと制圧して帰りたいですねもう!」
小さく震え、祈りの手は静かに命を掠め取る。『こそどろ』はちくりちくりと痛みを重ね、ニグレドの身よりどろりとした黒ずんだ液体を流させた。
「なぐるよ!」と前線駆けるリインは勢いよくニグレドを殴りつける。自身の痛みも厭わず、真っ直ぐにダメージディーラーとして戦う様は狂戦士か。
「私にできることは限られてるけど、やれることがないとは言ってないわ。久しぶりに大暴れさせてもらうわよ!」
ゲーミング林檎を手にオデットは堕天の杖を揺らがせる。無限の紋章をその身に浮き上がらせた光の妖精は熱砂の精霊を使役し、周囲に嵐を巻き起こす。何処かに――この近くに、冬の精霊が、このエリアでも特に力が強い精霊が居るはずだ。知らさねばならないと1680万色に輝く林檎を握る指先に力が籠められた。
「これがこの世界の、イレギュラーズの戦いか……。……いや、圧倒されてる場合じゃないね」
ぴしゃ、と自らの頬を打ったブラスは気を引き締めるように静かに息を吐く。スプリング・エルムの加護を手に、仲間達を支えるが如く中域に座した。長い髪を揺らがせ、せめて牽制になればとニグレドへと魔力を放つ。
凍気耐性があれど寒いものは寒いのだ。温かな装いのブラスの傍らでくち、と小さなくしゃみを漏らしたラズワルドは色違いの眸でニグレドを捉えてげんなりとしたような表情を見せる。
「げぇ……スライムみたいなのはしばらく見たくないんだけどなぁ。
……冬が外に出てきちゃったら困るし、まぁやるけどさぁ……」
背後へと通したくはないとニグレドの攻撃を受け流し、多段牽制を放ち続ける。アクロバットに飛び上がるラズワルドを支援するブラスが「そっちに行った」と告げれば尾を揺らすラズワルドが宙よりその切っ先落とす。
「んー、そっちには行かせたくないかなぁ。はい、とまってー」
瓶詰めの炎を翳し見詰めてそっと握る。ラデリは肩を竦める。「全く」と溜息交じりに吐き出す息には少しの笑みを含んで。
「……全く、決戦前に実の父親に傷を負わされるとはな。帰ったら文句を言ってやる……」
「つーかよぉ、相棒、親子喧嘩? ローレットも巻き込んで?
いやぁ……うっすら聞いてちゃいたけどなかなか壮絶な」
小さく笑ったジョゼが地面を蹴る。後方から支援を行うラデリを振り仰ぎ、小ぶりの剣を握り乱撃の花びらをばら撒き続ける。その反射神経を生かし、体を反転、ステップ踏めば小さな傷をラデリが癒やす。相棒、と呼べば言葉無く癒やしが施される安心感に包まれた。
虚之香が只管に攻撃重ねる中で、胡桃は迫り来る有象無象を真っ直ぐに見据える。
「コャーコャー。まさか妖精郷がこんな寒さになってしまうなんてねぇ……」
もふもふ爪のグローブを装着した胡桃はその瞳を丸くする。狐火をぱちりと音立てれば深緑では肩身が狭い自身もこの場所でならば大活躍だ。
後先考えるより――その体は爆発的に圧倒する。初速こそが大事だと狐の炎は旋風を巻き起こして氷精を巻き込み続ける。
「大きな戦ですね! 詳しい事情はわかりませんが、わっちも手助けできればと思ってきました!
何か大きな意志を貫こうとする方の想いを繋ぐことをお手伝いです!」
これは希望を繋ぐための戦いだ。ひばりはグロリアスを握りしめ、防御重視にその体を切り替える。敵の動きを止めての多段牽制を放ち続ける。皆で協力すれば、氷精など畏れるに足らずなのだ。
テルルは淡いラベンダー色のメイド服を揺らしてのサポーターとして立ち回る。寒い場所、的も無数。様々な攻撃と災難が降ることが想定される。
「皆様の戦いの一助になりますように」
そう願う。露払いを行う者は多ければ多い方が良い。それでも消耗が出るのは仕方が無いが――その消耗を少しでも減らせるようにと心がける。
「俺のいた世界では、強い縁はあまり良いモノではなかった。
死を迎えた時に相手を道連れにするから……そうせずにはいられないのがヒトなのだとも知ったけれど」
アーマデルから見れば悪いのは魔種そのものだった。女王や酒飲み妖精――ストレリチアが気にすることでは無い。しかし、気にしてしまう事が人の心というものなのかもしれないと、そう感じ取った。
仲間を巻き込まぬようにと呪殺を用いてニグレドを巻き込み倒し続ける。ふと、顔を上げれば妖精城、諸悪の根源が存在するその場所にも『人の心』は溢れているのだろうか。
「……この世界には至ったばかりですが危険な状況の様ですね。
私も出来る限りお手伝いさせて頂きたく思います。外郭にて押し寄せる敵を撃ちましょう」
クルバスは距離を取っての狙撃を行い続ける。なるべく急所を――と言いたいがドロドロと腐ったニグレドはどの部位が急所となるかは分からない。それでも培ったものはある――世界が変わっても役目は変わらない。須く裁くだけだと言葉にして。
戦っていればいつかは分かるかも知れない。父と母が戦い続けてきた理由を。自分の命を削ってまで戦い続けた理由が――
「白波だ──駆け出しだが、きっちり相手をして貰うぜ」
狛斗は淡々とそう告げる。クルバスが穿ったニグレド向けてコンビネーションでの攻撃を重ね続ける。一匹一匹でも言い。それでも着実に相手を倒せるはずなのだ。
狛斗が踏み込む。潰れるニグレドが黒き『肉』と変容した刹那襲い来る邪妖精の切っ先を弾丸で弾いたのはクラーク。
「やれやれ……寒いのは、好きじゃ無いんだけどな」
溜息一つ。射撃戦を展開するクラークは仲間達との連携を意識し単独行動を控えての攻撃を重ねていた。武器を弾かれた邪妖精が慌てて顔を上げたことこそが好機であったか。再度弾丸が襲い行く。
「やはり敵の数が多いな……とはいえ、私達の数も決して少なくはない。今こそ、個の力を結集し、立ち向かう時だ」
つい先日に行われた大規模なトレーニングの成果を見せる場所であると堂々とアレフはそう言った。伝説の魔道書のレプリカを手に放つは全身全力の魔力弾丸。その向き先に、氷精達はぱちりと退かれて飛び散った。きらりと美しく舞い踊る氷の片を追いかけて、気持ちで押されては勝てぬとアレフは仲間達を鼓舞し続ける。軍勢の数は多い、何方も削り凌ぎ合いだ。
●外郭II
街角でその姿を見た小さな妖精。善良な妖精達の住処が害されていることをヨゾラは見過ごすことは出来ない。無数に存在するニグレドを前に純白の竪琴を掻き鳴らす。
「はい、びりびりいくよー」
天より降り注ぐは鋭き雷。その傍らでフィオナはとにかく敵を殴り続けた。破壊の手甲に包まれた拳はニグレドを只管に殴り続ける。
「決戦かい? それならこの私も及ばずながら力になろうか、死なない程度にこき使ってくれて構わないよ」
微笑んだセオドアは悪意の花を咲かせ続ける。ヨゾラの雷撃と合わされば煙る毒花が僅か、鮮やかに煌めいた。
「さぁ、ほーら、当たると毒がついて、苦しくもなるおまけもついてる魔法だよ! どうだい、少しは通用……」
「――するよ。じゃあね。次は平穏な純種か、可愛い猫に生まれてきてね」
――出来れば猫なら嬉しいけれど、とは言わない儘、再度降り注いだ雷がニグレドの体を劈いた。
一人でダメなら、二人でならば。そう言う様に降り注ぐ雷撃が邪妖精やアルベドの脅威を拭い去る。
こうして仲間達と共同戦線を張ることがダナンディールは少し楽しくも感じられた。しゅるしゅると素早く進み、高揚する気持ちは隠せない――言わないけれど、どんぱち大騒ぎは少し楽しくて『ひゃー!』という気分にもなってくる。
あの『うにょろしい塊』と経由したセレステは真顔で言った。「ぶちこみましょう」と。
淡々とそう告げれば有言実行。放つのは衝術。その衝撃にニグレドがべちゃりと一度潰れたが又動き出す。分類的にはスライムなどと同じだ。錬金術の基礎、賢者の石へ至るための道半ばなのだろう。
「技術の無駄遣い……」
そう――もしも、タータリクスが味方であり、賢者の石に至っていたのであればそれは褒められるべき希代の天才であったのかも知れないが敵であり、しかも『うにょろしい塊』での蹂躙戦なのだから技術の無駄遣いと形容するほかに無い。
「数が減らない……けど、増え続けるよりはまだいいはずだわ」
ルーナはそう告げての雑魚殲滅を心がけた。前線の味方の内漏らしを至近距離にて攻撃を重ね続ける。一人になって逸れないようにと気を配った彼女――便宜上、そう称する――の傍らからぐんと距離を詰めたのは和真。
「冬を押し返すとか、面白そーな話だよね。オレも一枚噛ませてよ」
と、言ってもと和真は笑う。出来ることは癒やしだけだと式神を囮にしながら仲間達を癒やし続ける。相手の意識の外から攻撃できるならば『ハッキング』するだけだ。無理もせずほどほどに。生き物も化け物でも『ハッキング』出来るのならば何の変わりも無いのだから。
「邪魔だ、退け退けぇッ!」
侠は堂々と叫ぶ。全てを『めちゃくちゃ』にする勢いで道なき道を切り開く。先陣切って敵陣走れば、その道を更に拓く者が何処かに居るはずだ。
「道を拓きさえすりゃ俺以外の誰かがまた道の続きを切り拓いてくれるだろうからな。
道なき道を切り拓く事こそが無道の剣、閃剣と呼ばれた俺の師の教えだ」
師の道を辿って――いざ、前線へと進み行く。
「彼らの行手を阻む者は、全て斬り捨てるまで……御免」
無銘を手にルーキスはそう言った。地面を踏み締めて邪妖精を受け止めて放つは紫電一閃。
鋭い軌跡を描き一刀に。畳み掛けるかのように一面の冬景色の中で踊り続ける。
早く戦いを終わらせるためにも、己の役目をそつなくこなすが為にルーキスはずんずんと進軍した。
「ああ、これら全て愛の為に起こったことなのか。
なんて素敵な……しかし悍ましい。悪意ある者の手が入った、歪みきった愛。
悪意ある者よ。お前は何を思う。何の為に動く。貴様もまた愛なのか」
朗々と歌う様にそう告げたのはジョセフ。ニグレドに冬の精霊、邪妖精を相手にとって――ブルートは仲間達へと任せようとジョセフは多勢を相手に気迫で負けるわけがないと声を張る。
「私だって恋をしている。愛する『人間』に、オラボナにいつだって恋をしている。
いいか、私は頑固だ。意地でも倒れんぞ。なぜなら『物語』を『人間』にした程だからな」
堂々と、告げて邪妖精を殴りつける。その拳はただ、力強く邪なる思いを切り捨てるように。
「……流石に数が多いわ、相手も当然勝つ心算で来ている訳だし」
一世一代の恋の表現だというならばこれだけの『敵』を用意するのだろうか。奏は自身が取るのはいつも通りの行動だと遠距離からの援護を繰り出した。ジョセフの背後で撃鉄を落とし放つ弾丸が邪妖精のその身を貫き通す。
(数が多い。怯まない。けれど――トリガーを引くわ。それが私が行ってきた任務に置ける、ただ一つの揺るぎない事実だから)
勇者王の剣を手にティスタはその行く先を塞ぐ。メイドは優雅なだけでは務まらない。オーダーには絶対的。要塞の如き卓越した防御技術で妖精を狙う者を受け止める。
「残念ですがそう簡単にこの方々へ攻撃を通す訳には参りませんね、今しばらく私にお付き合いくださります様にお願い致します」
数が多い。確かに、膨大な攻撃を食らえばその脚は挫ける事だろう。希望を続けて欲しいと願うその手を取るように、イグニスはティスタを狙う者全てをなぎ倒すように暴風を作り出す。
「うおっしゃああ、行くぞ! 敵の陣形に穴を開けてやらぁ!」
眠たい等とは言っていられない。武器も、防具も見つけることが出来た。攻撃が外れても少しでも攻勢を崩せば妖精が救われる可能性が上がるのだから。
「ガハハハハ!! とうとう決戦みてぇだなあ!!
よし、俺様に任せろ!! 敵の一匹くらいならたぶん引き受けてやれるからよ!!」
一匹位と宣言したからには最後まで受け止めてやるとバルバロッサは剣を手に隙を突いて毒霧を蔓延させる。最後まできっちり抑えてみせると堂々たる宣言と共にぐん、と敵を押し込んだ。
「俺だってやりゃあ出来るって事を見せてやるぜ! 此処は任せて先に行きな!」
見渡す限り――
「何処を見たって敵、敵、敵……って感じ。
まあもう何回か経験したから絶望ってわけでもないけど、うんざりしてくるのよ。
向こうの思い通りにやられるのもシャクだし、絶対守ってやるけど!」
むう、と唇を尖らせたリーゼロッテは煌めきの羽ペンで魔術を描く。女神エウメニデスの魔法陣より繰り出されるのは『ジャッジメント』
慈悲深き女神は命を害さぬ白き雷を落とし続ける。罪には罰を、罰には愛を。慈悲深きその雷の最多を駆けるは大地。
「それにしてモ、冬の国カ。確かにもうじき夏は終わるガ、随分と早い冬だナ。
いずれにせよ、寒さで凍って足を止めている場合じゃない」
敵軍を殲滅するが為の白き光が周囲へと広がっていく。息切れせぬようにとリーゼロッテや仲間を支える号令に「有難う!」と軽やかな声が返る。
命あっての物種。死にたくは無いから――此処で、邪妖精を退ける事が今は大事だ。
「あらあら、色んな子の偽物が沢山ねん?
確かにリリファちゃんの胸は 揺れぬ、弾まぬ、震えぬの三原則なのにおかしいわねん♪」
輪廻が可笑しそうに笑ったその言葉に大きく頷いたのは亮であった。
――一方で大好きで大切な『輪廻お姉様』が眼前に現れた鈴鹿の心中たるや。偽物も居るみたいと軽く考えていたが輪廻のアルベド・エーテルが鈴鹿に向かってくるなんて『許されざる』と怒り溢れさせ幻影刀を振り上げる。
「オマエの敗因は一つ……鈴鹿を怒らせたことなの」
確かに怒らせたのだろう。輪廻の形を取っていても所詮は紛い物だ。めった差しにされていくその様子にぞうと背筋に冷たい気配を走らせたのは聖奈であった。
「ひぇぇ……何あのドロドロしたのに外見可愛いのに凶悪そうな妖精に聖奈達イレギュラーズと同じ姿形の敵とか!
何、ホラーな依頼だったのこれ! ええい! けど戦うしかないなら聖奈だって全力で抗うのみなのです!」
そんな聖奈が突如として何かに殴られた。ぐえ、と声を出して顔を上げたところには闇妹、こと、友人の姿がある。
「由奈ちゃん!?」
「あっ、聖奈さん居たんだ……フフフ、ごめんなさい。てっきり偽物かと思って……まあ本物でも一緒に片づけちゃうと思ってつい……。
……仕方ないので共闘といきましょう……貴女は私のライバルですからね。でもお兄ちゃんは私のですから!」
つらつらと言葉にされているが明らかに恐ろしいのである。妖精に何て興味は無いけれど、今日は『お兄ちゃん』が一緒なのだと由奈のテンションもマッハなのだ。その当人の『お兄ちゃん』――死聖は由奈や聖奈の姿を取ったアルベド・エーテルに構うこと無く攻撃を重ね続ける。
「僕が愛してるのは姿かたちだけじゃない。
愛しい人に化けてもその心は違う……君達は愛していないから、遠慮しないよ?」
「お兄ちゃん!!!!!!!」
――その場だけ、空気が変容していた。
●外郭III
「特異運命座標として、妖精郷は必ず守って見せる。必ず勝つわよ」
堂々とそう告げたヴィオラは敵の前へと躍り出る。外郭へと溢れ出るニグレド達を相手取り暴風を巻き起こす。美しく舞う金の髪が揺れる中、ヴィオラは小さく笑みを零した。
「どう? 少しは効くでしょう? ――まだまだ、これからよ」
唇を震わせた。美しき薔薇を纏って癒やしを送る。ヴィオラを支える福音を奏でてからアメリアは目を伏せる。
「起きたばかりの所をごめんね。ボクは妖精郷を守りたいの。
皆が仲良く過ごして行けたらいいのにといつも思う」
甘い、甘すぎて、胸焼けしそうだとアメリアは目を伏せてから、道切り拓くロズウェルへと癒やしを送る。
「――叶わないからこそ、ボクはボクの守りたいもののために戦うよ。
人が好きで楽しいことが好きな妖精さんたち、皆の笑顔を守りたいんだ」
「ええ。ロズウェル・ストライド──これより戦場に参戦させて頂きます、頑張りましょう!」
これ以上先には進ませぬと騎士として、民を、そして戦友を護るためにその力を発揮し続ける。
それは矜持だ。決死の盾として、堂々たるその立ち振る舞いで決して折れやしない強き意志でニグレドを押し止めた。
「なに、足止め程度ならば拙者でも何とかなるでござるよ」
ブルートを殺(と)りに行くのならば、その面々の為にとレンは攻撃を重ね続ける。軍師として立ち回るリックの側より離れぬようにと戦い続ける。
「城からの相手の大軍を切り開いて戦い抜く、攻城戦ってやつだな! 英雄譚の軍記物でたまにあるシチュエーション、燃えるぜ!」
楽しげに笑ったリックがタクトを揺らし指揮する『戦いの譜面』に沿うように、レンが跳ね上がる。勢いの儘強かな投げを放ちふうと小さく息を吐いた。
「こうも寒いと夏の暑さが恋しくなるでござるな……早く終わらせて水着に現を抜かすでござるぞ!」
活路を切り拓くために萌黄はサウザンド・ワンを手に精密射撃を重ね続ける。突出せぬように、周囲の状況を確認した彼女の傍らで、リリーは静かにキレていた。
「……あのさぁ……冬の王だかなんだか知んないけどさぁ……。
めちゃくちゃ寒いんだけど………こんなんじゃ家にこもってられないんだよねぇ……」
今回ばかりは逆切れとは言えないのかも知れない。取り敢えずは戦闘なのだと敵を手当たり次第に殴りつける。血染めのバールを握りしめて、当たっても痛いはずだとやどかりの怒りをぶつけ続けた。
「数は力です。その数を、減らさせない事。
これ以外に、私にお手伝いできる事はあまりありませんから。せめてこのくらいは、微力を尽くさせて頂きます」
フィーネは導きの因果――混沌肯定に封じられた異能の一部を応用し続ける。世界を拒絶し、厄災を拒絶し、そして――仲間を支援するが為に、彼女は詩の、歌の魔力を手繰る。
「ここを踏ん張れば……後ろが楽に、なりますから、ね……。
ボクの力で、守れるものが、あるのなら……立ち塞がりましょう」
閠は周囲の音の反響へと気を配り、閠は見回す。妖精達を救う為にニグレド達を退けるのは悪意の花。悪意を殺傷の霧に変え、包み込むそれがニグレドをぷちゃりと潰す。
「まー、城のリフォームにも限度があるって見た目してんな。とっとと雪溶かしでもぶっかけてやんねぇとなぁ」
カイトはそう笑った。基本は狙撃にて支援を行うフィーネ達を護るように立ち回るのだとカイトはニグレドを打ち続ける。この戦場の何処かに存在するという『エリアボス』――氷精が何処かに居ない者かと警戒心を露わにする。どのようなときだって丁寧に『先触れ』を載せて、『墓標』を突き立てる。それに何の違いも無い。
「とりあえず出てきた邪妖精やモンスターを倒していけばいいんでしょ?
それなら簡単ね、出てきたモンスター達をとにかく倒していくわ」
楽しげに、フィリアはそう言った。ロケットボーイで自身を異常加速させて全力で飛び込んでゆく。その体が宙にぐん、と浮き上がろうともフィリアは構うことは無い。ニグレドに、邪妖精、その真ん中に落下してビートを刻むように加速を続けていく。
「大事な住処、踏み荒らされんのは嫌っすよね、そりゃ。
それにずっと冬なんて草花にも良かない。寒さは、眠る夜みたいに来て、朝とともに去っていくくらいが丁度いい」
慧の頭に根付いた呪われた鬼角。大きく歪み垂れている。何故に背負う者であるかは分からぬが今は其れが『重り』であり『お守り』なのだ。名乗り、ニグレドを受け止める。ノーモーションで弾き飛ばしたニグレドの体が潰れ弾けた刹那、凍て付く氷が迫り来る。
唇にそ、と指先添えて笑みを堪えるようにライハは詩の魔性をその身に纏う。肯定された破滅を胸に、タクトを振るい英雄譚を奏でた。
「……妖精郷の滅亡か否かを掛けた戦いか。素晴らしい。不謹慎だが、実に心が躍る。
後に退けぬ戦い。後に引けば滅びる戦い程英雄譚にふさわしい物はない。
この事態を齎した者には究極の感謝をするとしよう――おっと。斯様な事を口で紡いだりはしないがね……ふふふ」
英雄とは勝手には立ち上がらない。だからこそ、『其れを見る者が必要』なのだとライハの指揮は進み行く。
●外郭IV
「何故かこのチームの纏め役をやらされてしまったわ……あたし豊穣出身者じゃないんだけど……。
いえ、妖精たちを助けるのには異論はないわ! 少しでも役に立つ様にしっかりしないと!」
凜と自身を励ますように桜華は仲間達を統率する。与太集団のような仲間達を代表しなくては鳴らないとなれば、オーラソードも霞むというものだ。
「本当は私だってもっとシリアスな感じで戦いたいのに――!」
そう叫ぶ桜華を見遣ってから雷電はぱちりと瞬いた。妖精、と言われればどこか不可思議に感じられる。雷電達北条の出身者からすればそれは八百万の一種なのだろう。
「しかし、敵の妖精たちとは分かり合えないのだろうか?」
那美も気にしているようだと雷電は其方へとちらりと視線を送った。邪妖精(アンシリーコート)、そして氷精――それがモンスターに近しい存在だというならば、八百万と言うよりも妖に近いのかも知れない。
「……この世界に生きる一つの意志ある生物ですのに。説得は無意味……なのですね」
それは、氷に包まれたこの世界ではあまりにも希薄な言葉であった。冷たい氷を溶かすことが出来ないならば、スコープを覗き込んで標的を定めた那美は悲しげに弾丸を放ち続ける。災厄を齎す者として、その姿を変貌させながら。
「……そうか、中々に厳しい物だな…なら、俺は斬るよ……大切なモノを守る為に」
雷電は速度を生かした斬撃でニグレドを翻弄し続ける。その傍らで、踊るように秋葉は神刀を握りしめた。
「私の世界ではあまり馴染みがなかったけど……八百万の一種という事でいいのかしら、妖精って。
とはいえ、こうも醜悪なものすら妖精とは思いたくないけど
……所で私も豊穣出身ではないのだけど? いえ、別に……まあ悪い気はしないわよ」
的の団体を退けるが如く巫女勇者は奥義を放つ。それは術者の身をも焦がす火之迦具土の力を最大限に引き出した煉獄の炎。業火を持って凍て付く氷を退ける。
成程、と美咲は大きく頷いた。アレが『妖精』というのかと瞬けば外ツ国には様々な文化が存在しているのだと改めて感嘆の息を漏らす。
「――だが、敵であるならば容赦するべきではないのでは?
一部は対話不能と聞くし、説得を試みても聴いてくれる保証はない。寧ろ仲間を助けたく思うなら非常に徹するべきだ、そうだろう?
では……ここよりは我等修羅となる……さあ、死ぬ気で挑んでこい、妖精諸君」
真っ直ぐに、そう告げた。防御を固めて勝機を見出す。瞬時に背後へと回り込んだ美咲は一撃加えて離脱する。突然のことに振り返ったその眼前で美鬼帝はにんまりと微笑んだ。
「可愛いわね。まあまま、妖精さんなんて可愛らしい生き物がいたなんてママとしては興味深いわ。
けど『グレ』ちゃだめね? 昔は『愚連隊』としてぶいぶい言わせたママの名において我等豊穣の者達で妖精さん達を助けるわよ! 統率は任せたわ! 桜華ちゃん!」
「ええ……」
桜華のげんなりとした声に返すようにウィンクをしたママ――美鬼帝は全身全霊の魔砲を放つ。其れを追いかけるのは娘、芹奈。父の言うとおり存外愛らしい者だが邪悪というならば刀の錆とするだけだ。
堂々と自身に視線を集めるように名乗り上げるが豪徳寺流。矜持を胸に芹奈はくい、と手招いた。
「拙を倒せるものはいないのか? 豪徳寺・芹奈は逃げも隠れもしないぞ!」
ぱちりと瞬いたのは比丘尼。頬に手を当て不思議そうに目を細めては死者の怨念の一条を解き放つ。
「あらあら、遠くこの様な土地で戦争の真似事をするとは……私としては貴重な経験でございます。
ええ、一介の尼僧では殺生を行うなぞとてもとても……ですが、これも仏のお導きでしょう」
これも必要な事であるというように、オーラの縄で捕まえながら、比丘尼は攻撃を重ねた。無いよりはマシであろうとそう言うが、数が多い中では一人たりとも欠けて欲しくないのが実情だ。
「成程成程……つまりここに居る者達は不完全な生物と考える事を止めた愚者達と……
ンン!! それはいけないのだ! 我等イーゼラー教の教義とは知恵を! 考える事を尊ぶ!」
誰かの命令に従うという事は思考を放棄した愚者であるとネメアーはそう言った。生きる意味など無いとそう堂々と告げた彼女は『イーゼラー様』のもとへと送るようにマッスルボディーでニグレド達を受け止める。
その傍らでのサポートを行うのは橙子。勇壮のマーチが鳴り響く中、走るのは首輪同盟。
「ンっフッフッフ! いやぁ、久々にお誘いを受けたから気になって顔出ししたら……中々どうして! 面白そうな事になってるねェ!」
くひひと、小さく笑ったのはツキノ。その言葉に応えるように頷いたのはクラウであった。小さなロザリオを手ににい、と笑ったそのかんばせは『殺戮人形』に余りに似合う。
「HAHAHA! いやはや我等『首輪同盟』の初お仕事がこの様な賑やかな戦場とは光栄の事で!
感謝感激雨霰ですねぇ! そう思いませんか、我が同志お三方!
まあ我々、本質的には『悪人』ではありますが各々が信念により此度はこちらに加勢をば」
本質的には悪人であれど、ショーは『信念』を持って行うのだと堂々と立ち回るクラウの傍らで17は――『希望』の花の名を頂いたはずの貴族令嬢はちら、とクラウを見て溜息を吐いた。
「……静かにしてくださいませんか、クラウ様。貴方の欠点はその賑やか過ぎる部分だと思いますわ!
しかし……フフ、その言葉には同意致しますわ。ええ、ここで彼らを斬り捨てれば冬将軍の思惑を潰せる……それってすごく気落ち良さそうですわ!」
くすくすと微笑む。ニグレドも冬の氷精も『屠る』だけの対象だ。奴隷・No・51は自身と彼らが同一視されることを厭うように首を振った。
「……貴方たちと付き合っているのも『ご主人様』のご意向だという事を忘れずに」
「おやぁ、冷たいことを言う」
「……お静かに、クラウ様」
首を振る奴隷・No・51の言葉を繋ぐように17はそう言った。降り注いだ雷は奴隷・No・51の苛立ちのようにニグレド達を劈いていく。
「氷に覆われた城というのも、なかなか良い舞台装置になりそうだね。
願わくば一幕、ここで演じてみたいものだけど、どうやらそんな余裕はなさそうだ。
此度の騒動、無事にコメディとして終わらせるため微力を尽くそう」
堂々と宣言したのはカタン。戦闘用人形・コッペリアをたぐり、アヴァル=ケインの外郭にて喜劇を作るが為に悲劇を絡め取る。不幸を告げる操り糸に絡められたニグレドを斬るは真鶴の一刀。
「真鶴の一刀、今こそお見せ致しましょう」
豊穣より飛び出したばかり。啾鬼四郎片喰を握りしめ周囲を巻き込むようには鳴った暴風域。獲物を旋回させる乙女の傍らで雪青はぱちりと瞬き率先してニグレドを殴り続ける。
妖精郷だって深緑の一部だ。此処がどうにかなってしまったならば、自身の生まれ郷にだって何か影響があるかも知れない。
実力不足? そんなこと、口にする事なかれ。ローレットのイレギュラーズとなったのだからやってやると力を籠める。
(防御を捨てるような戦い方はじーちゃんに叱られるかもだけれど、今日だけは勘弁してほしいよな!)
しっちゃかめっちゃかに『ぽこちゃか』叩き付けたその勢いは緩むことを知らない。
●外郭V
「錬金術というのは、魔法と化学の中間のようなものだと記憶しています。
ならばその錬金術生命体とは、私のような魔導と科学の人造人間にも近いのでしょうか?」
ウルリカは首を傾いだ。夜を抱く剣と共に歌うのは月夜の子守歌。流れるようなその響きにニグレドを巻き込みながらも、そうと見遣るは『もぬけの殻』
「しかし、その核に他の生命を、それも同意なしに使っているのでしたら、そこに正義はないと、断言できます。――死を以て、解き放ちましょう」
そう、錬金術とは術者の勝手だ。その様なものを許容してなるべき物かと食らいつく。
突入を続ける仲間達の背後で三叉の槍でつんつんとニグレドを叩き続ける瑠璃。その傍らで、くちゅりと小さなくしゃみを一つ零したのは章姫。
「この氷で閉ざされた場所がかの妖精郷だというのか……」
『大変なことになっているのだわ……! このままじゃ皆寒さで死んじゃう!』
不安げな愛しい『嫁殿』に鬼灯は大きく頷いた。舞台の幕は上がっている。その中で、飛び込むように敵を薙ぎ払う。魔糸に連なるは鎖に繋がる鉄球。まるで付が落ちるが如く、紫苑の光は的確にニグレドの弱点を指し示す。そのぐちゃりと潰れた体へと降り注ぐ一撃が『腐った錬金術モンスター』を霧散させてゆく。
「我は海賊マヤ・ハグロ! 恐れを知らぬ者はかかってくるがいいわ!」
ポケットからラム酒を出して一気に飲み干した。これで寒さなど無縁であるとマヤは銃とカットラスを引き抜いて堂々と名乗り上げる。掛かってきなさいと間合いを取れるように注意して放ったは精密射撃。
海賊はそう簡単にはやられないとラム酒を爆弾とする自律自走式の『弾丸』の影響で空飛ぶようにニグレドが跳ね上がる。
「よっしゃー!」
これがチャンスというようにリサが飛び上がったニグレドに向けて小型のレールガンを使用して弾丸の雨を降らす。ニグレドに氷精の数はまだまだ多い。それでもこの場に集まったイレギュラーズであれば『一心不乱に攻撃すれば』勝機がそこには存在している。
「攻撃実験成功! 成程~こうやれば当たるんだね~」
那由多が手にしていたのは世界征服砲。全身全霊の力を籠めて放った一撃がニグレドを巻き込み続ける。前線の仲間を護るための『牽制』を放ちながらも那由多は前には決して出ない。
何故か? ――当たると危ないから、なのだ。
那由多と同じように遠距離での戦闘を行うのはリーディア。その反射神経を生かして不意打ちを避けながらシューターは正確性を研ぎ澄ませる。
「この弾丸は、お前たちが蹂躙してきた者たちの怨嗟だ!」
鼻先に感じた氷の匂い。氷はゆりかごで、好ましいはずなのに。この氷は嫌な匂いがすると吐き捨てる。他社を蹂躙する冬の氷、勇者王に眠りを授けられた其れを溶かすように弾丸は飛び込んだ。
「大人数の決戦となれば士気の意地は大事! 張り切って行こう!」」
今日はスマートフォンも存在しない。それでも紅璃は努力を怠らないと苛烈な赤で仲間を奮い立てる。ここまで進軍され、そして冬を齎されるとは妖精郷も大忙しだ。
「それでも――此処で負けてなんてやらない!」
その様子を見て、アザーはまるで世界が終わるかのような感覚を覚えた。春が凍り付き冬が全てを閉ざす。それが世界を終わらせる情景に見える。
(決戦です、決戦です! 覚悟の御旗持ち戦いましょう! 微力ながら、全力でお手伝いさせて貰いますよー!)
華を、全てを護るが為に少しでもと這い寄って、大一番たるブルートに向かう者達の余力を願う。
ここから先、パンドラがあっても余波で倒れてしまうかも知れなくても、それでも気を抜くことはしたくは無い。
「未だ縁浅き身なれど、イレギュラーズの末席として力の及ぶ限り剣を振るいましょう。私の記憶に燻る魔剣に賭けて!」
綾姫は短節防御術において、襲い来るニグレドを退ける。放つは極度の集中による居合い一閃、飛び散る黒に迸った紫電は美しい。
「さて……どこまでやれるか、シルヴァスタの槍、存分に味わって貰うとしよう」
レアはこれが決戦というのか、とその状況を目の当たりにしたように息を飲んだ。
今、気圧されている場合ではないとその掌に力を籠めて情念の刃をしかと握る。シルヴァスタの極意を見せるが如く暴風が吹き荒れた。無数のニグレド、そして凍て付く氷の気配を払うようにその風は舞踊る。
「無用な争いは好まんが……此処で止めにゃあ女王とやらが望まぬ婚姻を迫られるってんならオレも力を貸そう」
三毒は狂気劇場で指先手繰る。この先には油化せぬと園からだを要塞の如く鍛え上げニグレドを受け止める。くすくすと笑いながら凍て付く冷気を払った氷精を睨め付けて三毒は口元にゆったりと笑みを浮かべる。
「最後まで立ってたヤツがいる方が勝ちだ。その手伝いが出来りゃ上々よ……なァ、氷精とやらよォ?」
goodmanは「いいおとこ」である。つまり――大規模戦闘は懐かしいのだ。
着実に、確実に。相性は此方が有利だというように『いい男』は余裕を崩さない。
地獄の獄炎が赫々たる色彩を醸し出し、氷の精霊達を燃やし尽す。こんなこともあろうかと作成する炎の陣地を中心に彼は堂々と微笑んだ。
「――いい男は細工に通じているものだ」
その言葉に大きく頷いたのはクライン。雑魚を蹴散らしてやるぜと鋼鉄の拳に力を籠める。
格闘に多段牽制。その体を生かして一匹狼はずんずんとニグレドを叩き付けてゆく。妖精へと襲わんとする其れをぐるりと投げるはスーサイドアタック。
「大丈夫か? 逃げろ!」
全身タイツとパンツとマントを纏い、超高速移動で悪を倒す――いざ、見参と飛び込んだのは正義のヒーロー・フラッシュシルバー。
「はは! 遅いな! アンタら!」
ブルートへ向かう者達を無傷で通すが為に。他の『センパイ』太刀のためにその体を張り続ける。徹底的にサポートするのもヒーローの勤めであるとコンビネーションで一気に攻撃重ね続ける。
「って、うへぇ、ヘドロが足に付いちまったぜ! クソ! 俺のスニーカー弁償しろ!」
●外郭VI
「妖精さんの国がピンチ……
わたしたちの国も魔王が現れてピンチ、だったはずだから状況似てるよね。今どうなってるんだろうねー」
ううん、と首を捻ったルアナの言葉にグレイシアは「吾輩は、このように突然国を襲ったりはしなかった……と思うのだが……」と小さく唸った。ぱちり、と瞬いたルアナ。本来ならば彼女たちの『法則』は魔王が現れたならば勇者も現れる。然し、当代の勇者ルアナが異世界に居るのならば魔王が国を滅ぼしたか――それとも。
「吾輩達の世界は、長い期間魔王が居た故、多少は安定していたはずだが……
さておき、冬の精というのは厄介なものだ」
「魔王が安定? 人間滅ぼす存在なのに? ……とと。今は目の前の事に集中しようか」
まるで自身の国を見てきたように言うグレイシアにルアナは『真実を知らない儘』変なのと笑った。前を見ろ、と彼が言うその声に従えば冬の気配が一層に強まった。
「アハハ――アハハッ」
笑い声が響く。寒い、と身を縮こまらせるルアナは目の前の冷たい色彩の精霊をその双眸へと映す。
「『ブルート』――あれがこのエリアの司令塔か」
狙うはブルート。ニコラスとシキをちらと見遣ってからヴァイオレットは天賦の才を見せつけるが如く『ゲイム』を支配する。
「妖精達が魔種に蹂躙される…そのような不幸は面白くありません。
早すぎる冬の訪れを、我々の手で跳ね除けてみせましょう」
夜空色の宝石を煌めかせた短剣を翻せば宙に影が浮かび上がる。生き物のように飲みくらい、話さぬその鋭き苦痛より逃れんと飛び上がった氷精の脳天へとシキの刃が落とされる。
「痛ァい」
「痛いか。順番を間違えた子には仕置きが必要だ。冬が来るにはまだ早いだろう?
自分の出番も守れないとは、おいたがすぎるんじゃあないかい? 冬とは決して、全てを止めるものではないよ」
処刑人の刃は鋭く研ぎ澄まされていく。魔術と、格闘の二種を織り込んだ攻撃をすんでの所で避けたブルート目がけニコラスが飛び込んだ。
「ああ、冬はまだ早えわ。氷つかせて停めてそれで終わりってか? 気に食わねぇよ。冬は停滞だがよ、それは歩む為の安らぎだろうが」
狂った冬を終わらせるが為に、周囲の気質と己の魔力を混ぜ合わせて放たれた一条。超高速であり、高密度である、弾丸が氷精の身を掠める。
「どもども! おはようございます! 寝起きですか? テンション高いですね!
そのままジャンプしてみたら、もっとハッピーになれちゃうかも!?」
にっこりと微笑んだのはフィナ。不誠実な聖杯(偽)を手にして、悪運に超幸運に。そうして願うように楽しげに。5割くらい当たらないし、5割くらいで耐えると自身の運試しをするようにブルートに微笑み続ける。
「――我が最愛の契約者よ。――剣を執り給え」
「――ああ、執ろうじゃないか。我が最愛の男にして、我が最高の刃。我が聲に応えよ!」
レイチェルの堂々たる詠唱にシグは応える。その体を剣として、レイチェルが為に敵を――ブルートを屠る為に進む。
「さぁ、何を断てばよいのかね?」
「俺の願いは冬を終わらせ春を取り戻す事!
断つべきは有象無象。有象無象を斬り伏せ、燃やし尽くす!!」
この冬を燃やし尽せと鮮烈なる緋の色で氷を溶かす。巡る魔力に吸血種は牙を覗かせ、堂々進めば二人を狙うように現れる氷精達をシグは勝利願う光を持って貫き祓う。
「願え、我らが勝利を――敵の敗北をッ!!」
「ああ――覚悟しろ、ブルートォ!」
召喚されるまで閉ざされた。自由になって嬉しいと言う気持ちだって痛いほどに分かる。けれど――可能性をその身に宿して、シグルーンは地を駆ける。
「本当は君にも広い世界を見てほしい。だって私は冬が好きだもん。共存できないかな?」
ブルートが首を振る。冬の姫が、それらの『主』がそうしてくれないのならば出来ないとでも言う様に。
「あと数年でいいもしも世界がそれでもつまらないものだと思ったら、改めて滅ぼそうとしても構わない。
だから、私の手を取ってくれないかな。私の遺体は永遠だから朽ちることもない……寂しいなら一緒にいてあげるから」
「一緒に死んでくれるというコト?」
ああ、なんと楽しげに笑うのか。精霊は悪戯めいた。その言葉にシグルーンは「此処では死ねない」と小さく口にする。足枷がなくなったコトを喜ぶ余りに他者を害するのならば――それは、共にある資格なんてないのだ。
「ふん、夏の暑い盛りにはちょうどよい。とは言え、少々季節外れが過ぎるな。
ゆくぞ冬の妖精共! 貴様等の氷はカキ氷にされるのがお似合いである!」
堂々と指示を下すダークネス。妖精郷には不干渉で居たが、ブルートが、そして『冬の王』が不快であることがよく分かったと世界を征服するように攻撃を放つ。
「なに、謝辞はいらぬ。どうせ言えぬようになるのだからな」
「ケラケラ、でも干渉してないんでしょうー?」
「干渉しないのと、不快な存在を抹殺するのは別の問題だ!」
苛立ったダークネスの言葉を繋ぐように、颯人はオーラソードを用いて剣戟と格闘を混ぜ合わし、剣と魔を両立させた特異の戦闘術でブルートを動揺させる。大群も驚異だが、頭の回る個体というのは厄介だ。個々を群れとして統率する存在だというならば――
「例え異界であろうと、無辜の人々が犠牲になるというのであれば我が剣を振るうに足る理由となる」
負けてなる物かと放つその一手をブルートが僅かに避ける。しかし、掠ったか。僅かに姿勢を崩したその場所へと再度双剣を振り上げた。
「考える暇は与えん──はあああッ!!!」
颯人に続き、千歳はすらりと霊刀を引き抜いた。
「さて、余り俺もお喋りは得意じゃなくてね――語るならこっちで語ろうか」
ブルートをその双眸に映す。月下に舞い散る桜が如き可憐なる剣捌きで千歳は研ぎ澄まされた殺意を滾らせた。防御すらも不可能な、ただ斬る事だけに特化した剣術を前にけらけらと笑うブルートが反撃を行い続ける。
千歳の傍らで響子が重ねるのは特殊な格闘術式。河鳲式防御術を利用しての一撃にブルートの視界が僅かに眩む。其れこそがチャンスだ。
「氷精がなんだってぇのよ……そんなもん、私の熱で溶かし尽くしてやるわ!!」
砲撃を放つ。大乱戦に何時だって『いつも通り』を心がければメルーナが放った全身全霊の魔砲が敵を穿つ。
それに続くようにレイチェルが『シグ』を振り下ろした。ブルートは其れを受け止める。
まるで、諦めたように氷を割くようにぱちり、と堅い音が響く。
「レイチェル」
呼ぶ声に頷いた。
「――これで終いだ!」
●泉I
鏡のような氷の張った泉に渦巻く憎悪は計り知れず、あそこへ行けば何かに飲まれそうな恐怖がヨタカの心を苛んだ。流行る鼓動のビートを戦意へ変えて進み行く。その手に握るは夜明けのヴィオラ。そして、その双眸に映るのは――
「ッ、心をかき乱すな……俺の中には……大切な星と月がある……偽物のお前は……違う……!」
大切な番。鮮やかな銀の月。――夜空に煌めく星になりたい自身の大切な存在。ステップ踏んで距離詰める。自身の敵と認識した『アルベド・エーテル』を飲み込む昏き運命は破滅を誘った。
「待って、落ち着いて下さいまし! 私達は貴方達の住処を壊そうとしているわけでは……。
駄目ですわね。やはり、戦うしかないということですのね」
ヴァレーリヤは小さく首を振る。ああ、言葉で回避できればと願ったけれどと祭服に妖精を匿いながら走る。聖句を唱え、進む脚を止める事無く妖精達を救うが為に邪妖精を退ける。
「わわっ、聞いてたより寒くて変な妖精さん達がいっぱいですね!
何か言ってるみたいですけど、怒っててよくわからないです。わかるように言ってください、かき氷にして食べちゃいますよ?」
ライムはぱちりと瞬いた。凍て付く冷気を放つ氷精達を『やっつける』がための支援を行い続ける。『いただきます』と堂々とそう宣言する様子も異質だが、ライムに向かってきたのが運のツキなのだ。
「無限に敵が出てくるんなら、無限に倒し続けるまでよ。
氷精とか邪妖精は、まぁおとなしくなって逃げてくれるなら歓迎だけど。
ニグレドとかアルベド・エーテルは倒してあげるしかないみたいだね」
肩を竦めるセリアは多数の小妖精を具現化しての総攻撃で畳み掛ける。
「こんな悪趣味なこと、ここで終わりにしてやらなきゃね!」
そう叫んだのはチャロロ。『アルベド・エーテル』と名付けられた異形は成功作品への仮定か。自身らを形作る其れ等が妖精を襲う風景は成程、気分の良いものではない。
「おっと、避難の邪魔はさせないよ!」
「避難誘導に戦闘、バランス取りが難しそうな戦場ですね。
中途半端になるよりはいっそ分担してしまった方が迷わずに済むでしょう?
僕たちは戦う事によって避難誘導を支援する! 行くぞーっ!」
びしり、と指さすヨハン。反撃の刃のリーダーとして仲間を鼓舞する。冬を溶かして春を求めるが為、名も無き兵士を統率する全号令が響き渡る。
「我々は力無き者を守り通す聖盾、我々は盟友に害するモノを討つ聖剣!
我々は反撃の刃! さぁ報復を始めよう! オールハンデッド!!」
えいえいおーと、やる気漲らせる冰星は「くしゅ」と小さくくしゃみを一つ。常春の国、妖精の街とは聞いていたがこれほどに凍えるのかと周囲を見回せば凍て付く息吹を吹き出す精霊達が存在している。
「道理で寒いと思いました……。各の健闘祈ります。私達は私達の為すべき事をしましょう!
ふふ、大丈夫です。我々反撃の刃には心強い兵士達と最高の軍略家がいますからね!」
その拳を鋼に変えて、周囲の冷気になど苛まれぬと冰星は周囲に暴風域を作り上げる。ぐりん、とその身を揺らがせる冰星の傍らでスカートをついと持ち上げて淑女の礼をひとつ見せた数子はうっとりと笑みを浮かべて見せた。
「大勢でお出迎え、どうもありがとう! 手間が省けて嬉しいわ。
悪いけどここから先は進めないし、傷も付けさせない。
踏み荒らしてしまって申し訳ないけど、話を聞いてくれないなら倒すまでよ」
流星の軌跡を描いた宝石剣を手に、その身を修復しながら鉄壁の要塞として『ぐちゃぐちゃのめちゃめちゃ』にしていく数子に「みぃちゃんこっちです」とヨハンの声が掛かる。
「ええ、今行くわ!」
妖精郷の滅亡を目論む『冬の王』。其れがどのような存在か分からずとも、この常春が滅ぶのは忍びないとルチアはカルウェットへと聖なる福音の加護を降ろす。その身は神と共にある。信仰者は無力な者を救うが為に仲間達を鼓舞し続けた。
「誰一人……というのは難しいかもしれないけれど、できる限りは落とさせやしないわよ? 退く気がないなら、かかってきなさい」
妖精には優しくされたこともある。カルウェットは勇者王の剣、そのレプリカを握りしめた。勇者王の軌跡を辿るその場所にそのレプリカを持つとは南東運命的であろうか。
「優しい人、護る、しなきゃ。仲間も、いる。頑張って、戦うぞ。
みんな、頑張る、してる。ボクも、最後まで、諦める、しない」
「そうね。女の子の悲鳴を聞いたりするのってイヤなのよ。妖精ちゃん達はちゃんと安全なところに逃してあげましょう」
鉄拳を武器にするシャッファはゆらりとその身を揺らした。酔仙龍火息――一気に喉へと落とした酒を焔と変えて吹き出せばドラゴンの息吹のようだと妖精達が眸を煌めかせる。
「さあ、お逃げなさい!」
「ええ、ええ、ありがとう! 特異運命座標!」
すいすいと進んでいく妖精達を追いかけるニグレドに小さく笑う。此処か先は通すべからずとちくりちくりとその黒き体に焔を吹きかけた。
「あんた、霜焼けできてんじゃないの? ちょっと暖まっていきなさいよ!」
妖精達を庇いながらネージュはその脚に力を籠めてアルベド・エーテルと向き直る。自身と瓜二つのその姿――
「邪魔だ……吹っ飛べ!」
真っ直ぐに声を発する。会話することは得意ではない。だからこそ、その行動全てで妖精を護るという意志を見せたいと、そうネージュは願った。姉も、友人も、皆がこの国を護ろうとしている。それを『見過ごして』居て何が得られるか。魔物に襲撃されたそのときを思い返し、ネージュはニグレドを、そして『己自身』を受け止める。
「よいしょっと! さ、僕が抑えておくから、今のうちに!」
特異運命座標として召喚されて時は経ったが戦場に出るのはこれが初。そう思えば創は緊張したように高鳴らす。上手く出来るかどうか、自信が無いと竦んでいる場合ではない――救うべき妖精達が逃げ惑い助けを叫ぶその声を、無視する事はできないのだから。
「……想像以上に寒いよな……それにこれが長引いちゃぁ絶対大変だしな」
零の傍らでアニーはひゃあ、と首を窄める様な動きを見せた。刺すような寒さの中で、凍える妖精達が居るのだと思えば急がねばならないと気も逸り出す。
助けてと言う声に手を伸ばす。大丈夫だと優しく声を掛け小さな妖精をそっと抱き締めたアニーを護るように零は周囲を見回した。
「俺たちがしっかり護るから、な?」
「よしよし、怖かったね……安心して、私達がしっかり護ってあげるからね」
まだまだ広い戦場は不安が多い。優しく声かけ、あっちなら大丈夫と庇いながら進路を示す。
(魔種は、個人的な想いを実現するためならどんな犠牲も顧みないように成るんだね……)
理性が働いているならば、破滅に向かうそれを停めるのかも知れない。自己中心に独善的に。そんな様子を厭うように公は魔神の指輪を煌めかし、妖精達の避難誘導に当たる。
「――ボクらは誰かの大切なモノを守って戦おう! それが彼らに抗う唯一の方法だと思うから」
だからこそ、命を。無数に存在する可能性を拾い集める。学園制服を身に纏って救いの声を上げて『引き継ぎコード』を入力した。セーブデータから拾い集めるカンストした最強主人公の力を伴い、真っ直ぐに魔力を放つ。
「妖精郷は兄が、シャハルが張り切っていましたのでお任せしていましたが大変な騒ぎですね。
向こうへ行ったシャハルは大丈夫かしら……いえ、きっと大丈夫でしょう。私は私の出来る事をしましょう。まずは目の前の敵を倒す事からですね!」
そうやる気を漲らせたハンナは迫り来るニグレドと向けて殲滅神楽を見せる。『殴り系幻想種』は武神に捧げる血の舞を舞い踊った。
「妖精ね。精霊……とはちょっと違うのかな。ま、とにかく。助けに来たよ」
風を纏ったニアの傍らで、雪は「あっちにいます!」と人助けセンサーを用いて妖精達を発見し続ける。ニアが前線駆ければ、其れを追いかけ妖精を安全地帯へと送るための手助けを雪は行い続けた。
(ニアちゃんとはぐれないように気をつけなきゃ……妖精さんの救助、がんばりますっ!)
●泉II
「……気のせいかな……また頭の悪い作戦に巻き込まれた気がする……」
そう呟く沙織は一先ず変身するしかないとポーズを決める。黒綺羅星の名を冠する邪悪の刃を手にしゃらりと変身するのは『愛と正義の魔法少女スノードロップ』なのである。
「そして原点回帰でまた特攻野郎Bチーム……まあ脳筋馬鹿に戻ったね」
そう言ったのは沙愛那。特攻野郎『B』のBは『馬鹿』のBだと堂々たるキルロード家のご令嬢の話を聞いたには聞いたが――
「……直球で馬鹿って言われて流石にムッとくるよね。と言う訳で、そんな苛立ちをぶつけるから。
悪いね、妖精さんやなりそこないさん達……君達の首狩らせてもらうね!」
飛び込むように沙愛那が放つのは剣戟と魔力が重なり合った一撃。重なるように沙織が攻撃放てば、其れと合わさりニグレドの姿が霧散する。
「おお……神よ! 何故貴方はこのような悪意を差し向け、我等神の子に試練を与えるのですか。
我等が何をしたというのか! どうして無垢なる妖精たちに斯様に傷つけるのですか!
ええ……ですから私は抗いましょう。かの特攻野郎の皆様と共に…この悲劇を終わらせましょう」
願うようにそう言ったカルロスは回復役として前線を立ち回る仲間達、こと『特攻野郎』を癒やし続ける。特攻野郎とこの凜とした青年が口にするのはどこか不可思議な感覚を覚えるがさておき。
「ふむ……魔性のモノを狩るのも異端審問官の務めなら今回もチームを組むのは吝かではない。
……しかし、一つだけ疑問があるんだが…何故【特攻B】というチーム名なんだろうか?」
悩ましげにそう言ったカンナに前述の通りの沙愛那が文句を呟くが彼女は気にする素振りはない。まるで自分はそこには含まれていないかのような素振りで愛銃アスモデで異端たる命を打ち続ける。
「……ふむ……まあ人の感性など千差万別…そう言うこだわりもあるのだろう」
「ええ! ガーベラお姉様の名付けた素晴らしい名前でしてよ!」
堂々たるルリムは15歳の誕生日に両親よりプレゼントされた大剣を手に戦場で名乗り上げる。
「オーホッホッホ! 貴方達の様な出来損ないなど怖くもなんともありませんわ! 貴方方一度生まれ直した方がよろしいのでは?」
キルロードの令嬢としての権威をその背に胸を張る『女騎士』にガーベラは大きく頷き自身も同じく盾となるべく名乗りを上げる。
「オーホッホッホ! 私こそキルロード家のガーベラ・キルロードですわ!
さあ、かかっていらっしゃい! 相手になりますわ! 敵は脅威の冬将軍一味ですが我々ローレットの総力を集結すれば決して勝てない相手ではありませんですわ!」
新たな仲間を加えた特攻野郎Bチーム。6度目の出陣に仲間を送り出すために死守すべく道中の守りを固め続ける。
「うむ! 大変なことになっているこの状況だ! 仲間の為にも此処を死守しよう!
ガーベラ姉、サルビア! ナデシコ! 困ってる人達を助けるのだぞ! では……アネモネ・キルロード参る! のだ!」
血に飢えた魔槍の切っ先をぐるりと向けて奇襲攻撃を仕掛けたアネモネはぺろ、と舌を覗かせる。猟犬として地を駆り敵を屠るアネモネが背後に抜けた敵を振り向けばガーベラとルリムが受け止めているその安心感に前線を立ち回れると胸を撫で下ろす。
「フヘへへ……嗚呼! この戦場にも『愛』が溢れておりますわ!
誰かを助けんが為に動く『愛』! 嗚呼、私とっても感じて火照ってしまいますわ!」
鼻血をたらりと流したサルビアは貴族として、そして『愛』の名の元に戦ってみせると聖遺物を手に異能の炎を生み出した。
「オーホッホッホ! 妖精さん達のピンチに私颯爽と登場!!
ええ! 今こそ立ち上がる時ですわ! さあ、立ち上がりなさい!!
オーホッホッホ! この私のドリルがあれば邪悪な妖精さんや私達の偽物、後ついでになんか変なドロな様なものまでまとめて貫き通してやりますわ!」
特徴的なドリルを使用して――と言っても、その頭に着いている二つのドリルとは別だ――リアナは攻撃を重ね続ける。ドリルで掘り続けるドリルアタックでニグレドを蹴散らすために立ち回れば、キルロード家の末の子であるナデシコは戦闘人形シレネ・アルメリアをちらと見る。
「出番があるだけラッキーだよね、シレネ!」
『イエス、マイフレンド。この機会に存在感をもっと増していきましょう!』
不安げなナデシコの背を押すようにシレネが戦闘を始める。手繰る糸に戦闘人形シレネより伸び上がった無数の糸がニグレドを切り裂いていく。まだまだ、特攻は始まったばかり、妖精達を護るために此処は通してなる物かと砦として彼女たちは立ち回った。
「妖精サン困ってル……! ボク妖精サン好きだヨ。だから困ってるの助けてあげたイ。妖精サンたくさん助ける、ボク頑張るヨ!」
シェプは助けを求めるその声を探すように耳澄ます。助けを呼ぶ声感知して実体の無き死に神の鎌を手に走るシェプを追いかけるのはハルバード振う蓮。
「こんな可愛い妖精たちが傷つけられるなんてゆるせないっ」
「ウン、頑張ろうネ……!」
シェプが探した妖精の元へと走り、敵を退ける蓮は前線を行くではなく後方支援に徹している。
「元気だして下さい~。お友達も待ってますよ~」
応援するペルレは弱り切った妖精をとにかく励まし続ける。たすかるよ、と声を掛けたが首を振る。「がんばれ」「いきろ」と励まして。安全な道を探すように周囲をきょろりと見回した。
願わくはアラーナの警戒の如く。双眼鏡を手にしながら周囲を見回し、安全地帯を辿り続ける。
「戦と雖も、蟷螂の斧さえ振れぬ者まで踏み潰すのは頂けないね」
それでも尚――ニグレドは迫り来る。受け止めるのは彪呑。無銘とぶつかり合った連勤モンスターのぐちゃりとした感触を押し返す。妖精達が安全地帯へと迎えるように、そして、傷つく者をソフィラに癒やして貰えるようにと気を配る。視認すること出来ずとも、此度が危機であることはその皮膚でも感じ取る。凍て付く寒さに目を閉じたままソフィラは彪呑とシェプの声を聞き、妖精達を癒やし続けた。
「ほらほら。助けに来たよー。怪我、大丈夫?走れるようならさくっと移動するよー」
ルクスは妖精は珍しい薬なんか持っているのかなとぱちりと瞬く。基本的には手に負えない事態が起らぬようにと『おたすけ』を心がける。妖精達の技術だって屹度、これから仲良く出来れば色々得られるだろうと心を躍らせる。
迫り来るニグレドを退けるように魔力を放ったルクスに続き、牽制を行う者達は多い。
「この混沌においては妖精達もまた人類。襲われ、故郷を滅茶苦茶にされ恐ろしくないはずがありません。……どうかこの両手が1人でも多くの彼らを助けられますように」
堂々と声を張る。ビギナーズグッドラック。貴方に幸運訪れますようにと、希望の道しるべを手にしてイースリーはニグレドを引きつけた。恐ろしかったでしょう、もう大丈夫、私達がお助けしますから。沢山の言葉を重ねて、妖精達を癒やし救うが為にその手を休めることはない。
「はじめての妖精郷、いきなり大ぴんち」
「ええ。故郷に冬が訪れるという最大危機なのでしょうね」
イースリーに小さく頷いたルルゥ。御伽噺ならば勇者パーティご一行が救いの手を差し伸べたらしい。自身は居るだけで皆を強く出来る『おたすけリーダー』だ。
「助けに来たよー」
声を掛ける。一人一人の力が小さくたって、伸ばす手が多ければ救える存在が増えるから。その掌から取りこぼさぬように『おたすけ』するためにルルゥは走る。
「女王人を守ることにかけては、働き人である私にお任せ下さい」
『働き人』たるアンジェラは女王に忠誠誓う存在だ。それでも『別コロニー』の住民たるアンジェラは此度は少し違ったオーダーを任される。
「今回、私に要求されている仕事は女王人の近衛ではなく、前線の生殖階級の方々の間接支援でしょう」
彼女の論で云えば、逃げ惑う妖精達の階級は生殖階級や『働き人階級』なのだろう。其れ等を喪えばコロニーは潰えてしまう。ならば、コロニー存続のための支援を行わねばならないと『立派に働き続けて』みせる。
「助けましょう」
「かしこまったでござる!」
大きく頷いたのはパティリア。ルルゥやシェプ、彪呑の『指示』を聞いて飛び上がった彼女は即座に飛び込む役割を担っていた。掌をぺたりと冷たい木々へと張り付けて器用に身を捻って妖精を救うが為に体を押し込んだ。ならば――あとは逃げるだけ。
「しからば御免!」
治癒府を使用してぺちぺちと投げながらワタクシは癒やしを送る。支援も重要な仕事だ。
(わたしにできる事があるのならお力になりたいです。今、お助けしますね)
ミュエルは初めての戦地で強張る顔に無理くりの笑顔を作る。きっと、妖精達はもっと恐怖に苛まれている。自分以上に故郷が禍に襲われることは恐ろしいであろうと凜と立つ。
仲間達が役割に専念できるようにサポートを行い続ける。ちら、と視線を向けたのは旭日の作る『秘密の隠れ家』――少しでも安全が確保できるように。この乱戦状況では危機は何処からやってくるか分からないから。
(……これの出番がないと良いけど)
旭日はスリングで吊したライフルをちら、と見る。その目をいかし、妖精を『ヒミツの隠れ家』にご招待。『あったかい紅茶』に『あまーいチョコレイト』で歓迎し、寒さ対策の毛布を被って息を吐く。
そうして心落ち着かせ、妖精達を安全無事に送り届けるのが自身の仕事であると乱戦を眺めれば、ビーム銃でニグレドを一撃放つココアの姿が視界に入る。
「妖精郷……こんなことになってたなんて、気付かなかったのです。
でも、ここが瀬戸際。一人でも多く救って手助けなのです。
ここが妖精郷なら妖精は民、民をどれだけ守れるかが『終わったあと』に響いてくるのです」
襲われる妖精を出来る限り救うこと。其れこそが『国』の今後に響いてくる。この冬が過ぎたなら――屹度訪れる春。
●泉III
気味の悪い化け物に人型の敵。やりにくさは確かに存在するが、それに心を痛めている場合でも無いかとリョウブは仲間の支援に徹する。癒やし手が少しでも臆することは問題だ。
「ここで安定した支援を行うよ。皆、頑張ってくれ」
淡々と、癒やしと――そして禍を退けるリョウブの声に頷いたマテリアは静かに息を吐く。
「酷く憤慨しているようだが、言葉が上手く聞き取れない。少しおとなしくしていてくれると助かる」
周辺に存在する『敵勢対象』は憤る者、最高権限(アドミニストレーター)に忠実に従うだけの者、それから――『形だけ』のもの。
「所詮は形だけだろう。こんな事に何の意味があるのか理解が出来ない」
リョウブが感じていたやりにくさをマテリアは感じることは無い。淡々と、悍ましい闇へと内包していく。その傍らで怯える妖精を救うが為に居合い斬りを放つ明日は飛び込んだ。
「落ち着きなさい! みんな、あなたたちを助けようと、命がけで頑張っているのよ?
それなのに、勝手なことをしていては、助けられるものも、助けられないでしょう」
慌て泣き叫ぶ妖精達を宥める訳では無い。ぴしゃり、と叱ったのはアルフィンレーヌ。
「おかあさんみたい」と妖精が告げたその言葉にママは偉大であることがよく分かる。慈愛に満ちあふれたバブみを発揮して、妖精の背をそっと撫でる。
「大丈夫。貴女のお母さんが見つかるまでずっと側に居てあげるからね」
皆、不安なのだ。その不安を拭うための努力を今惜しんでは鳴らない。
とばりの森の中で林檎は妖精達を救うが為に『元気』を漲らせて声を探す。助けを呼ぶその声を追いかけて「こっちだよ」と妖精の避難ルートを確認しながら誘導を続ける。
「守る、などと人殺しの私めには恐れ多いことでございますが……怯え助けを求める方を見過ごす事は出来ませぬ。この身、この命が尽きるまで刀を抜かせていただきます……!」
「ありがとう」と妖精がそ、と明日の手に触れる。大丈夫です、と穏やかに告げる明日は「下がっていてください」と真っ直ぐに迫り来るアルベド・エーテルを見た。
「ふむ。吾輩はあまり戦いが得意ではないのだがな。
しかし、こうして駆り出されるという事は手が足りぬという事であろう。
気温等感じぬ身体である。活動自体に問題はあるまい。であるならば、助力する事は吝かではない」
ダーク=アイはそう言った。邪魔なニグレドを打ち払うはその魔力の砲撃だ。妖精達を追いかける者の足止めもを担う自身が見てもニグレドは『命のなり損ない』だ。動いては居るが感覚器官はないだろう。
その機動力を生かして、妖精達の救助をメインに走るアクセルは泉と森の周囲を見回した。
(アルベド・エーテル……誰かの姿を借りる『存在』――かなり危険な存在だよね……!)
索敵と、牽制を含めて。アクセルは逃げ遅れた妖精を抱えてバッグの中に入っていてと囁いた。仲間達の多い安全地帯まで運ばなければならない。
洸汰は人助けセンサーを生かして、進む。助けを呼ぶ声あればどこからともなく駆けつけるのがヒーローだ。元気をチャージしてその脚に力を籠めて、妖精達の元へと進む。
護りながらもニグレドへと反撃するのは確固たる意志。
「護るのは大事だけど護ってばかりじゃ勝てねぇからなー」
「……こういう。ゲリラ的な戦場ですと、逃げる方達が戦闘の妨げになったり危なかったりするんですよね……」
樹里はそう呟いた。周囲を見回せば泣き叫ぶ妖精達が居る。えいや、と 祈り花。癒やしによる満足感で心を落ち着けて欲しいと妖精達に笑みを浮かべる。
「さぁ、避難先はあちらですよ?」
こう言う戦場には何か『不審な人物』が存在するかも知れないと周囲を見回す。何か、誰かが見ている気配があるが――其れが『誰』で『何』で有るのかまでは分からない。
「やれやれ、これはずいぶんなお客さんだな。
ま、いわゆる招かれざる客とか言うやつか? とりあえず街を護ればいいんだろ? んじゃ行くぜ姉貴!」
前線へと飛び込むエレンシアの背後でフォルテシアは「お客さん? はちょっと違うような……」と首傾ぐ。取り敢えずは『追い返せば良い』
エレンシアを支援するように連携を行い戦うフォルテシア。突出しすぎず仲間達の中で攻撃を重ね続ければばしゃり、とニグレドが破裂した。
「妖精ちゃん達の住みかがめちゃくちゃになっちゃうなんてダメだわ! もちろん私も一肌脱ぐわよ! こけぇ!」
ぱたぱたと翼を揺らしたトリーネは出来る限り回復すると声を掛ける。凍えて大変そうな人にはそっとふかふかな羽毛でぬくもりを与えて、氷なんてへっちゃらなのだと(鶏)胸を張る。前線へ行く者達が竦んで畏れてしまわぬように――この戦場に存在するニグレドも、アルベドも、そして邪妖精も打ち払わんと小さな翼をぱたぱたと動かした。
「ちょっとお邪魔するぜい!」
浩美が小さく笑う。マジックグローブに魔力を乗せて、放たれる死者の怨念の一条。飛び込んでゆくそれが邪妖精へと掠めれば、凍て付く冷気が浩美を包み込む。
「そんなので畏れるわけないっすよ!」
にい、と小さく笑う。どいて、と言って聞かないならば『どかす』だけだと実力行使だ。
「妖精、か……儂らドワーフから見れば、遠縁みたいなもんじゃのう」
尤も、世界が違うかとゲンリーは小さく笑った。重い腰を上げ、その手には情念の刃を、そしてその身には峡湾の覇者たる素養を。怪物の如き破壊力を用いて、邪妖精を退け続ける。
自身は持久戦には向かない。その力量は博しており、後進の特異運命座標が自身を追い越してゆく事を知っている。
「故にの。儂はここで、全力使い果たして倒れるまで暴れられる、という寸法よ!」
「でも今は皆の協力が大事って事だね! それにしても……うひゃー、大変なことになってるね!」
クランベルは驚いたようにぱちりと瞬く。不気味に蠢く黒き命に冬の気配。邪妖精の隙間からニグレドが迫り来るそれを退け顔を上げればクランベルの表情は一転する。
「…………ああ。自分が出てくるの、忘れてた。悪いけど、さっさと退場してね。イライラするから、嫌いなの」
クランベルのその声に「ふんっ」と声が聞こえ、アルベド・エーテルの身が消し去った。
「何やら知らぬ間にぴんちであったなんて……! 我が輩も少しでも力にならなきゃ!
大丈夫であるか? 妖精さんの救助は任せるのである!」
暴風に巻き込まれ消え去ったアルベド・エーテルにクラリベルがぱちりと瞬けばボルカノは堂々と微笑み浮かべる。敵を屠るならば勢い任せ、それでも妖精乃子とは忘れてはならない。
「うげ……ニグレド……。腐ってて臭そうで最悪じゃ……本音を言えば相手したくないのう。
じゃが、ここで踏ん張らねば妖精郷がダメになってしまうからの。
せっかくのキャッキャウフフスポットが失われるのはいただけん!」
その翼を生かしてボルカノの暴風の側に居た妖精を探し出したミカエラは「怖かったのう、でももう安心じゃぞ」と静かに声かける。戦闘は自身らに任せ安全地帯へ逃げろと声かける。
「妖精郷ってもっと長閑なところを期待してたんだけどね……。
シルキーには残念なことながら、ここは戦火の真っ只中。だからまぁ、さっくり解決しましょうか」
肩を竦めたシャルロット。追う邪妖精のその脚をくじくように不知火を抜き放ち放つ一打。
「後の先とは、混戦の戦場において、冷静に見極め最善手を尽くすその極意を言う!」
乱撃を放つたびに尾を引いた青白い妖気。揺らぐそれを其の儘に、この背後へと通すものかと敵を退ける。その切っ先を受け止めた邪妖精が嘶けば、その喉を潰すように、飛び込んだのは行動を阻害す簡易魔術。
「私は医者だがこの状況ではな……治療より敵を減らす方が患者を減らせそうだ。
戦闘する私と治療する私、自分が二人欲しいところだな」
悔しげにそう呟いたヤタガラス。此処は任せておけと敵を蹴散らし、妖精を救い続ける。
「ハハ、数が多いなんてレベルじゃないなこれは。ザッと数えるのが嫌になるぐらいには。
しかも怪我したヤツや見知った情報屋やオレたちの姿を模して……流石量産型アルベドと言うだけはある」
自我も持たず、命の概念もちぐはぐな儘の模造品。そう思うからこそ紫電は思う存分暴れてやると有象無象を薙ぎ払う。紫電一閃にアレンジ加え、『マガツ』それは紅黒く閃光を迸らせる。居合一閃、鋭い切り裂きにアルベド・エーテルの姿が霞む。
「むむ! 錬金術という科学の親戚みたいなものでこんなことをするなんてゆるせませんね!
実験の成果のテストもとい! 錬金術という新たなアプローチの発見のためもとい! 妖精さんのためにやっちゃいますよー!」
やる気バッチリのフィーア。旅人として訪れたからには仲間の分まで満喫してみせるという彼女の傍らで人助けセンサーを利用して妖精を探すオデット。
「落ち着けないよね、こんな事態なんだ。当たり前だよ。
でも、良かったら、わたしの言葉を聞いて欲しい。きっと助けるから」
自分はちっぽけだ。それでも何もしないままバッドエンドを見過ごすのは胸が痛むから。その気持ちはフィーアも同じであろうか。「ここはまかせなさーい!」と胸を張る。飛んでくるニグレドは、成程、どうやらフィーアの好みでは無いようだ。
●泉IV
「敵に同情の余地こそありますが、それで無辜の妖精達の命が失われていいわけではありません。
やりきれなさはありますが......だからこそ、今は一つでも多くの命を救わねばなりません」
屍はノービスレイピアを手にずんずんと進む。保護対象である妖精を救う為、耳を武器に進み続ける。
効率よく逃げることも必要だ。走る屍の背後で、『寄せ集め』でも妖精を救う為にとリリアーヌはハッピーとドロシー、ライと協力してニグレド達を退ける。格闘戦装を生かして速力を武器に襲いかかる。
敵をえり好みする必要は無いのだとライは慈悲――そう名付けるには少し可笑しいのかも知れないが、呻き声が五月蠅い者達は彼女は嫌いだ――の名のつく魔銃に魔力を籠めてたたき込む。
「妖精達? 敵を削っているんだから自分で逃げなさいな」
「OKOK妖精達!! 助けましょう!!
『寄せ集め』かもしれないけど大丈夫! 出会った瞬間からベストパートナーさ私達は!!ミ☆」
ハッピーは楽しげにひらりと踊る。自分を巻き込んでも大丈夫、なんたってその体は再構成するのだから。皆の攻撃が降り注ごうともちょっぴり痛いだけで笑顔で何とかなってしまうのだ
ハッピーが無事で居られる策があるというならば、手近雑魚を倒してみせるとタクトを振るい魔力を籠める。刹那の疑似生命を創造して、ニグレドへとけしかける。逃げ惑っては余計に危険、統率の取れた逃走をする必要があると妖精達を助言する。
「アルベド・エーテルって誰かの姿になるんでしょ? じゃあ、私の姿のもいるわよね」
Luxuriaちゃんはこてりと首を傾ぐ。「私、私にはめっぽう強いのよ」とぱちりと大きく瞬く。己喰いである自身は全力で『自分』くらい薙ぎ払ってみせると攻撃を放つ。
「……うーん」
そう呟いたのはミリアムだった。にんまりと微笑んだジェーンは「今日は妖精郷でライブだZE」とウィンク一つ。シャドプロも遂にライブだと心も躍ったのは束の間だった。
「一言言わせてほしいっす。薄々感じてたっすが……貴女さては狂ってるっスね!
誰がこんな絶賛戦争地帯でライブやれって言ったスか! どう見ても場違い感半端ないし!
絶対これアイドル依頼じゃなくて決戦依頼でしょ! ほーら! 貴女が言った観客達、どう見てもまともそうな存在に見えないし!」
ミリヤムはお怒りである。ジェーンは「え?」と不思議そうな顔をして微笑んでいる。物理的スキンシップと言う言葉にも違うでしょうとミリヤムが告げる様子にルビアはぱちりと瞬いた。
「まあまあ、これが『音楽性の不一致』でのメンバー同士の喧嘩なのですわね!
成程、これがアイドルユニットの闇……勉強になりますわ!」
――何か大幅な勘違いがそこには存在している。
夢と希望を与えるアイドルとして、こんな姿ばかりではいけませんわね、とルビアはファンへと精一杯のアピール、ヴェノムクラウドをプレゼント。
「ヤベー……このグループ入ってまだ半年経ってもないのに既に人間関係ヤバすぎて空中分解しそうでビックリ。というか、あーしが一番ここでまともとかマジ笑えないんですけど……」
肩を竦めたのはジーナ。ジェーンはと言えば『余りに酷い』のが実情だ。後輩のルビアも感覚がおかしいように思え、比較的マトモなのがミリヤムという地獄絵図。
「あーし……やってけるかなー……」
黄昏れるジーナの傍らで『酷い』と認定されたクリティはしくしくと涙を流す。
「うん……もうわかってたわ……リリーは私達の事嫌いなのね……絶対そうよ!
じゃなきゃ! こんな所でライブするとか言わないわ! フフ……世の中クソだわ……かつての親友にすらこんな仕打ちなんだもの……」
最早論点が違っていたのだった……。
これはライブ会場では無く戦場だ。ルクトはぱちり、と瞬く。
「……狩りか? 狩りだな。では、私も出るとしよう。
しかし……仲間に似た姿の敵も居るとはな。……まぁ、関係ない。ハンター、出撃する」
無数に存在する敵に対して纏めて撃ち抜くことこそが理想だ。高い位置から見渡し、弾丸を放つルクトは護衛の一つくらい戦いながらでも手伝えると淡々と告げれば、妖精を助けに行くと『ロケッ都会羊とブースターシールド』でビューンと飛んでくるメイが妖精達に手を伸ばす。
「やいやい! 怖がる妖精さんたちを追いかけ回すのは許さないのですよ!! シティガールのメイが成敗しちゃうのです!!」
右に左にガンガン突撃をして妖精達を救うが為に『成敗』を行い続ける。シティガールは皆に優しくてこそなのだから。
「まあ……良き魂を迎えられると思ってきてみれば、あるのは上っ面だけの人形でございますか。
その所業、イーゼラー様への冒涜、と判断し……断罪致します」
アンゼリカはうっとりと微笑んでいたがアルベド・エーテルをも退ける。妖精は勝手に逃げろと小さく呟いた。紛い物、上面だけの魂すら存在しない殻の人形へと距離を詰めて攻撃を重ね続ける。
「本日のワタクシは少々蟲の居所が悪いようで。ダンスに興じる気分ではございません。確実に仕留めさせて頂きます」
苛立つアンゼリカの背後へと逃げてきた妖精達へクリスハイトは手を伸ばす。安全圏を探すように周囲を見回す。
(うー、本当は頑張りたくなんてないんだけど目の前で困っている人を見捨てていけるほど薄情でもないんだよね。
……この戦いが終わったら暫くお仕事なんてしないんだから! うん、決めた! そのために今は全力で頑張るよ!)
大がかりな戦いであるとラインナハトはそう、感じていた。その傍らで自身を支えるが為に純白の竪琴を弾き鳴らすシャロはどこか不安げだ。
「これが決戦……こんな大きな戦いは初めてです。
ライさま、どうかご無事で……僕のいま出来る限りを尽くして、あなたの戦いをお支えします」
「噫、噫――……」
一つ、ラインナハトの気に障ったのだとすればアルベド・エーテルが『シャロ』の形を取ったからだ。苛つき隠せず、微かに零した舌打ち。シャロに行くぞと軽く指で合図して、加速を武器に飛び込んでいく。
「偽物が現れても、ライさまを見間違えはしませんとも。
見分けるのは見た目でも、言動でもないのですから。間違えるのは3回まではセーフですからね!」
「……シャロ、その間違いは一度でアウトだ」
シャロはひとりでいい、と戦場に重らした音は唯一無二の彼へ向けた言の葉であった。
●泉V
ボーン、ヒナゲシ、シオンの家族揃っての『アルベド』狩りは淡々と続いていく。
「カッカッカ! これはまた大量な団体さんだな!
冬将軍だか何だか知らねェが妖精の女王さんを狙う力があるだけのことはあるらしい
まっ、俺等には関係ねェな。さぁていっちょ、善行しちゃいますか! いくぜ! ヒナゲシ! シオン!」
ボーンの号令に頷いたのはシオン。凄まじい規模だとと不安を抱いてビギナーズグッドラックを握りしめる。楽観的な両親と比べればシオンは不安を募らせる。
「HAHAHA! 見てみてボーン! あれが妖精だってさ! ヤバい! 生妖精初めて見たよ!
お持ち帰りしちゃ駄目かな? 駄目? 残念! まっ、これから殺す相手に容赦は必要ないか。
ではでは、邪悪な妖精の皆さん、この首なし勇者のデュラハンの剣を味わうといい」
(馬鹿親!)
ヒナゲシの楽しげな声に頭を抱えたシオン。だからといって帰りますとは行かないのが現状だ。ヒナゲシが前線へと飛び出し固有結界の如く斬撃を放つ。ボーンは其れを追いかけて呼び声を響かせた。
小さく笑ったのはかんなであった。規格外(ナンバーレス)をそう、と振り上げる。真白のドレスを揺らし、的の真ん中で暴れ回る葉『世界を喰らう怪物』。禍々しき爪はまるで世界抉り取るようにニグレドを逃さない。
「この世界を……いえ、妖精郷を守るお手伝い、させてちょうだいな。私も少し、妖精さんと遊んでみたいし」
流星がつれるのは玄と勝。射干玉の鷹と藍色の駿馬である。
「まずは憂いを取り除いてからだ。またアルベドやらが増えても手に負えないからな……玄、勝、行くぞ」
「ああ……今日は冷えるねえ……風邪を引かないように気をつけるんだよ?」
気遣うようにそう言った晏雷に流星はゆるりと頷く。妖精達の保護を中心にした索敵行う流星の傍らで精霊達へと寒いだろうと声を掛ける晏雷はそれでも手伝って欲しいと『こんなこともあろうかと』とお礼の品を差し出しながら道案内を乞う。
「晏雷殿! ……たとえ、どのような姿をしていようとも俺は退かないぞ!」
「……戦うのは慣れないねえ……」
現れたアルベド・エーテルを相手取る。互いの姿をしていようとも――それが紛い物であると知っているから。
冬毛のオコジョの姿を取ってアルトゥライネルはするすると進む。
(頼む。少しでもいい、情報が欲しい。冬を退けるため、犠牲を減らすために力を貸してくれ……)
直接テレパシーで語りかけ、安堵させるようにと妖精達を誘導し続ける。
(イレギュラーズが動いている。必ず妖精郷は救ってみせる。だからひとりでも多く、女王のもとへ。きっと彼女の不安を取り除けるのは君達だけだ)
その小さなオコジョに妖精達はほっと胸を撫で下ろしたことだろう。アルトゥライネルは近づく敵の気配に警戒するようにその脚に力を籠めた。
オーダーは『妖精郷に春を取り戻す』ことだ。結構寒いですねと身をかがめるチェレンチィ。宙を踊るように飛行して、逃げ回る妖精達の手を取った。
「さあ、行きますよ。……大丈夫。人より少しすばしっこい自身があるんです」
おだやかにそう笑って。舌を噛まないようにと『注意』を一つ音速のように走り出す。
「ふふん、わしが来たからにはもう安心じゃぞ! この華麗なる戦輪の美技に見惚れるがよい!」
救い手あるチェレンチィのその足下で、鼓舞する早苗は深呼吸一つ。集中する――高鳴る鼓動に赤いき彩りが味方を鼓舞し続ける。放つ渾身の一撃は威力に特化しニグレドの体を霧散させる。
倒れてしまわぬようにと堂々とその脚に力を籠めての継続戦闘。早苗が相手取る『黒くて腐ったモンスター』をその双眸に映してマルカは「何スかこれ」と呟いた。
「アルベド? マジもんの歩くゴミっスか……ま、いいっすよ。塵掃除はウチの仕事なんで」
ちゃっちゃと処理しましょうと駆除を専門とした武器を握りしめる。敵にのみ弾丸の雨を降らせるハイテクアサルトライフルは行動を渇望する簡易魔石でマルカを前へ前へと進ませる。
「僕は妖精郷にはちょっとしか関わってなかったけど、まさかこんなことになっていた何てね……」
「ゴミが闊歩する状況ですか?」
「それに、冬が訪れてる。今は少しでも危難を切り拓いてくだけだね……!」
カインは黄金の儀礼剣を手にその脚に力を籠める。妖精を護る者達を出来る限り護衛するために。臆している場合ではないとその手に力を籠めた。聖なる哉、光が広がり自身の視界にも眩く広がっていく。
「ふむ……これは『私』ですか。此方に来たばかりの時にもこんなことはありましたが――……
此方の方が、何故でしょう……不快、です。いえ、依頼には関係ありませんね」
ふるり、とコスモは首を振った。睫が僅かに震える。あの『鏡』よりも違和感を感じさせる模造品の命。この戦いの大元が恋で引き起こされたと聞いたときにコスモはその感情を理解できないと首を振った。
「恋――苛烈な感情、なのですね……?」
「けど、苛烈すぎる……ッ! 本当に凄い状況……」
四音は息を飲む。コスモの傍らから飛び出した魔弾は彼女のアルベド・エーテルへと放たれる。
「大丈夫……大丈夫。他のイレギュラーズの皆さんは本当に本当に強いんですから……!」
妖精を護る四音。彼女の前へと立ったコスモは戦いましょうと静かに『自分』を見遣った。
「敵がおなごばっかやないかぁぁぁぁぁぁぁぁい!!
ワシが握るタマはどこにあるんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」
悲痛な声を響かせるキンタ。気を取り直して邪妖精や敵勢対象を胴体まるごと握ってやると力を籠める。握道が閉ざされぬようにと――切に願って。
「冬の妖精郷……ねェ。俺に取っちゃあ中々居心地のいいところだが……だからって放っておく訳にゃあいかねぇな!
冬妖精ってぇのか? どうも雪ん子どもが暴れてるらしいな! 相手しねぇといけねぇようだ!」
快活に笑った嗢鉢羅が自身の元へと『雪ん子』――氷精を集め続ける。にぎにぎしながら氷精を掴んだキンタに任せながら集まる氷精へと嗢鉢羅が放つのは騎士の雷撃。衝撃の儘、氷精を貫き通す。
どちらかと言えば寒い方が過ごしやすい嗢鉢羅とは対照的に身を竦めた燐緋は「うう、さぶっ……」と小さく呟く。
「こないに冷たくなって、邪妖精さんが怒って大暴れしぃ、かわいらしい方の妖精さんたちが逃げ回っとるなんて、難儀なもんやなぁ~」
大太刀をぎゅうと握りしめて前線へと飛び出した。鋼の肉体を武器にして襲い来る氷精を巻き込む暴風域を作り出す。
「何を怒り狂っとるのかはわからんけど、せやかて何もかも凍らせていいわけやないんよ~」
「そう。それに、そもそも最初に住んでいたのは貴方達ではないんでしょ?」
朝顔はそう首を傾ぐ。守りを捨てて攻撃力を上げる刀を手に、臆病な恋心をキラリと輝かせる。恋も、未来も、喪う者は何もない背水の陣。
氷精を巻き込んだ暴風の中、朝顔は唇を震わせる。そうだ、凍て付く氷になど、苛まれている暇は無い。
「氷漬けにはされるつもりはないけど。元々、防御を捨ててる鬼人種だからね……さぁ、私が倒れる前に倒させて貰うよ……ッ!」
●泉VI
「なんだか大変なことになってるなぁ。……大丈夫かな、妖精さん」
クリスティアンはそう息を吐いた。皆が助けてくれるから、自身は癒やし手に回るとその背にぺたりと張り付いた小さな妖精を鼓舞し続ける。
「大丈夫だよ。……癒やしの光よ、皆を癒やし手欲しい」
クリスティアンの癒やしを受け取って大地は堂々と両手を広げる。粘り強さが自身の取り柄。
「俺が立っている限りは誰一人やらせんぞ……! さぁ、いくらでも殴ってこいっ!」
妖精達が犠牲になどならないように。ニグレドを先には進ませないように落ち着いて戦い続ける。
クロエは初めて目にする戦場が怖いのでは無いか、と感じていた。それでも。ここで頑張れば『知らない誰か』を、一人でも助けられるんじゃ無いか。そう思えば恐怖に打ち勝つことが出来る。
「……どうか、どうかご武運を」
「ああ!」
頷く大地をサポートするようにクロエは願う。ここから先に進ませないと受け止める彼を癒やし支えることで妖精達を救える。その一助。クロエは妖精に手を伸ばす。大丈夫と、頑張れと声を掛けて。
「私、死にたくありませんので……えぇ、えぇ。さぁ、戦場を楽しみましょう!」
アルテラは気を引き締めなければならないと凜と進む。自称にして脆弱で非力なハーモニア。それ故に仲間達の癒やしに回ると回復魔術を用いての支援を中心としていく。
「我が輝かしき太陽で全てを光り輝かせて上げましょう。
私は皆の太陽であり輝ける光を与える者なのです。さぁ……輝きなさい!」
旭日が降り注ぐ。凍て付く冬をも溶かすようなその暖かさに心を落ち着かせる妖精達は多数居ただろう。
「イレギュラーズの顔した人を味わえるなんて滅多にないですからぁ……あぁ是非斬りたぁい!」
鏡はその人身を煌めかせる。妖気揺れる呪われし刀を振り下ろす。鼻歌交じりに切り刻む。暗殺抜刀術を用いてのアルベド・エーテル『辻斬り』を続ける鏡はふと、思い出したように振り返る。
「もうアナタ死んでいいですよぉ──もう、斬りましたから。
やっぱ見た目だけですかぁ、随分無個性な味です。私は戦って死にたいんじゃありません、ただ斬りたいだけですぅ」
最優先はニグレドとそれから邪妖精であると巴依はそう告げた。手にした妖気のたなびく刀を手にフェデリアからサルベージしたリヴァイアサンのうろこを利用した甲冑で身を包む。
「これも常世の運命、皆さんを支えましょう」
踊るように、特異運命座標を苛む者を切り裂き自由を奪う操り糸。ぱちゅりと潰れたニグレドの向こう側に、此花は『知らぬ誰か』が見えて首を傾ぐ。
「……幸いというべきでしょうか、知り合いも殆ど居りませんし、『敵が知人に似て攻撃し難い』などという事もそうはありません」
知人にバケられた者の気持ちになれば何とも居心地は悪いが――それはそれ、なのだろうか。髪の毛や細胞を取り込んで形作られる連勤モンスターを相手に周囲の手の足りない部分を補うように此花は進み続ける。
「なんだここ! さみーぞ!?
靴履いてくりゃよかったかなー、でもまーオレの足裏はつえーから大丈夫だろ! なんつったって鬼の足裏だかんな!」
ふふんと琥太郎は胸を張る。力底パワーであると淀みの魔席を抱いた戦鎚を手に「鬼だぞー!」と氷精たちの真ん中へと飛び込んでいく。暴風を作り出し「おらおら」と攻め立てる。
「おりゃー! オレはでっかい男になるんだー!」
その様子を秘密の隠れ家からちらりと眺めたのはエミール。深呼吸一つ。恐ろしい物から逃れるようにして自然会話で植物たちと会話を重ね続ける。
「怖い――怖いけど、放って置くわけにはいかないじゃん!」
気配を消してじわじわと妖精に近づいてこっちだよと手招いた。逃げ惑う妖精達を救う為に、そのためならばテントの中から少しくらいなら顔を出したって大丈夫。
(いける……こっち、こっちにきて……!)
ユージェニーは妖精達を救いたいと癒やしを送る。神託を告げるように杖を振るえば福音が仲間達とそして妖精へと降り注いだ。
「大丈夫、妖精さんの怪我は治りましたわ。だから、どうか……安心して」
「わあわあ。妖精達が大慌てのわちゃわちゃーでぐっちゃぐちゃアルネ!
ナンカもー状況訳わっかんないアルヨ! ……ハッ! 取り敢えず変な形してる奴、全部ブッ飛ばせば万事解決アル! ワタシ天才ネ!」
「ええ。サポートはお任せを」
レイファは特異戦闘術を身につけて邪妖精を『ぶっ飛ばす』
泉に氷が張って寒そうではあるが痛覚もないし、突然寒さで体動かなくなってるとかなるのは怖いからともこもことした冬装備の彼女の懐から妖精が可笑しそうにぴょこっと顔を出した。曰く、あったかい……らしい。
イロンが目指すのは自軍の犠牲者ゼロだ。その身を挺しての妖精郷を守り切ると神託を告げるように衝術を放つ。
「妖精さんの保護は任せてください!」と胸を張る。体を張って庇うことだって厭わない。それだけ、この『郷』を護るために一生懸命になれるのだから。
●泉VII
「――眠りを、与えましょう」
ハリエットはそう言った。新しく生を受け、それでいて色濃く死の気配を纏う存在。
ネメシス・パラノイアに問わずとも絶対的に何方が正義かはっきりしている。
生まれて、死んで、作られて。自我も曖昧。アンデッドとは似て非なる存在に――
「終わりを、与えましょう!」
ハリエットはそう堂々と叫んだ。やるのだわ、終わるのだわと『葬列』の統率が定まった。
「はー……なんでこんなとこまで付いて来ちゃったんだか。
人多い、とかいうレベルじゃないじゃない。ま、いいわ。ハリエットに付くって決めたのは私だものね。さ、やるわよ? 妖精郷、救えばいいのよね?」
ちら、と視線を送ったイド。ハリエットの言葉の通り終わりを与えるが為、衝撃でニグレドを吹き飛ばす。アクロバットに動き回るイドを追いかけるようにレリークは走り出す。
「この妖精郷での経験、それは即ちとても得難い財産となる事でしょう。
姫王に誘われ戦場にやって来ましたが……さて、私はここで何ができるか」
歯車となるために妖精達を保護し続ける。妖精に近づく存在を退けるイドと協力し、レリークは妖精の手を握る。
「たすけてくれるの?」
「たすける! わあ、ようせいきょーのふゆ、すっごくきれいなの!
まっしろきゃんばす! りゅーのふでで、もっとげいじゅつにするの!」
りゅーは仲間の余力を回復し、衝撃の青を塗りたくる。妖精を害する物は『どかん』と吹き飛ばすのだ。塗り塗りと筆を走らせたりゅーの傍らで「わあ」とぱちりと瞬いたのは雨下。
「私……まだ、怖いけど。まだ、理解し切れないけど。
でも、頑張らなきゃいけないんだって事はわかったから! だから……全力で戦う! 初陣……行きます!」
霊力を伴った言ノ葉に最大の魔力を乗せる。吹き飛ばされたばかりのニグレド。そこに仲間は存在しない。ならば――「いっけぇーーーー!!!」
全力の集中砲火。魔砲を打ち込めばちりりと焦げるニグレドがぽろりと転がり始める。雨下の様子を確認し息を吐いたのは冬夜。
「神城さんも頑張ってるんだ……俺も気張らないと! ……それにしても、寒いな……」
発火で暖を取りながら冬夜は敵の動きを感知する。仲間達へと伝えれば、それに従うようにアルバは動き出す。凍えること無いように――アルベド・エーテルという『厄介な相手』を補足し続けた。その動きを封印し、冬夜は「変な事は先に塞がせて貰う」と告げる。
「聞こえたか! この冬を、この暴虐を消して許してはならぬ!」
アルバは堂々とハリエットの統率に合わせて皆の結束を高め、固めるように鼓舞をする。冬夜の言葉に従い至近距離で相手取ったのはその姿を変容しようとしたアルベド・エーテル。
「ハァッ……近寄るなよ!」
爆裂する気功爆弾の煙が視界に煩わしい。しかし、それで隙が出来るわけでは無い。アルベド・エーテルを受け止めたのはハンディであった。
「みんな張り切っているのだもの……私も頑張らなくちゃ、いけないわね」
小さく息を吐く。殴れば殴るほど私は傷つくのとうっとりと微笑んだハンディはくすくすと微笑んで見せた。
「あなたたちにも手拍子、してあげるわ! ふふふ!
余り詳しくはないのだけど……ニグレドちゃんにアルベドちゃんは……男の子、いるのかしらね?」
錬金術で作り上げられたモンスターに性別が存在するのかは分からない。だが――その中に大量に未熟な魂があるのは確かであろうとハインは小さく頷いた。
(ああ、全く……本当に気分が悪い)
魔種の錬金術であるかは分からないが、『こんなもの』を其の儘遣うだなんてと即席の命を遣って攻撃を重ね続ける。自身の中に巡る魔素を発揮して忌々しいアルベド・エーテルやニグレドを退けた。
「これ終わったらご褒美やるからみんな頑張るでよ~。負けたらお仕置きな」
みにみはビンタのよう委をしたのだとそう言った。少人数でも良い『葬列団』は大仰な集団になっているがその中でも細かくを統率して攻撃を重ね続ける。これが『努力』の発表会なのだと彼は云う。
「弱い僕らが集まって、戦う力を手に入れた。ここまで頑張ってきたんだ……。
絶対に失敗する訳にはいかない! 他のイレギュラーズが戦ってきてくれた事を無駄にしない為にも、僕たちだって全力を尽くそう!」
アレンは過酷な環境にも耐えながら寒くなんてないとその身を動かした。仲間と共に遠距離射撃の体勢を整える。準備は万端だ。
「我妖精郷解放力成事望。皆訓練大変頑張。絶対成功!
邪妖精、氷精、錬金生命体、魔種……許容不可! 憤怒! 憤怒! 怒! 怒!」
納言は苛立ったようにそう言った。魔種は許容できず、敵勢対象に激しい憤りを感じているのだろう。
その言葉にオニキスは頷いた。だからこそ、自身らはここに居るのだ。
「成果を出す時だぞ。よしおめぇら……いくぞぉ!」
弩砲部隊の準備は万端だ。味方が敵をある程度纏めたらばその刹那を狙うように時を待つ。
「クク……烏合の衆が集まって、此処まで力が出せるとはな。我ながら泣かせる話だ。
さて、妖精郷を魔の手から救い出すためだ。誠心誠意努力するとしようか、ああ?」
ネームレスはにいと笑った。仲間達と舞台を整える。バリスタを使用しての射撃舞台。それこそが葬列団のメイン戦力である。
(妖精郷、きっと取り戻す!)
モールス=くんは身振り手振りでアピールを繰り返す。
(クラッカーを使ったら光がすごいだろうから、自分たちも目を気をつける様に注意しておいた方がいいかもしれない。私は大丈夫だけど)
――そう、目眩ましで一気呵成に攻め立てるのだ!
「ふふ、みーんな同じ事をする事になっちゃったわね……。
本当に軍隊みたい。訓練もそうだったけど。ノスタルジーを感じさせる偶像の少女、なんてもう何処かへ行ってしまったわ。……悪くない気分よ。ささ、妖精さん達の国、救っちゃいましょう?」
麦わら帽子の少女はくすくすと小さく笑った。ノスタルジーなんて、もうどこか。絵画の中の少女は抜け出したならば歴戦のヴァルキュリアになりました――なんてのもたまには悪くないだろう。
肩に乗せた小鳥の情報を確認しながらリリアは敵の進行を留めることを願う。いつも通りで良い。何時もとやることは一緒なのだ。落ち着くように息を吐く。
「私たちが、しっかり墓場まで送ってあげるわ!」
衝撃を放ち、その立ち位置をぐらりと揺らがせる。バリスタを手にしていた愛はリリアの放った衝撃で飛ばされてきたニグレドを見てにんまりと笑みを浮かべた。
辰と合わせて放たれたのは全力の魔砲。愛、そして辰。殲滅殲滅と声を張り上げる。
「冬を終わらせるための露払いくらいはやってみせようよなぁ!」
乱射される弾丸に合わせるてオルトは笑う。十分戦力として数えて貰えることは有り難いと皆を見回した。
「あんまり気ぃ張んなよ? 生きて帰ってまた強くなりゃそれでいいんだからさ」
不意を打たれることは無い。乱射を重ね続ける。彼らの隠し球はまだまだ『後』だ。dogmaはハリエットの言葉を反芻する。これは葬列だ。命のなり損ないが向かう先を探している。
「理解」
と口にした。心得た。この状況。
「潤沢」
戦力は十分だ。あとは――攻めるだけ。冬の氷を溶かすように。攻撃を重ね続けるだけ。
絶滅と期待。冬と春。繋がっていく未来が為にdogmaは攻撃の手を休めることは無い。
「我々がするべき事は実にシンプルです。他班や他の方が戦っている間に準備を十全に整え、そしてそれをぶつければ良い。過ぎたる個は存在せず、また必要ありません」
ピンが告げる言葉に頷いたのは迦楼羅。イレギュラーズになってからの初めての戦い。戦場に溢れる殺気に死の匂い。それから――恐ろしい程の緊張感が襲い来る。
心が竦んでいた自分はもういないと迦楼羅は息を吐く。
「全員まとめて、ブチ抜いてあげる!」
一人では無いから――蓮蘭は「おう」と頷いた。トレーニングに参加すればあれやあれやとこの場所に。大規模な戦いに向けられたと思えばテンションは乱高下していた。
「……途中まではちょっとやる気出てたけど現実見ちゃうと俺様だめだわーあー辛いわー死にたくない……
……まあ、このまま唸ってたらホント死んじゃうじゃんかよ。ずるいぜ。
よっし、俺様やってやるよ! 練習した事やればいいだけだもんな! おっらぁ!」
「う、うう……」
やる気を漲らせる者も居れば怖い、と震える者も居る。レクトルは怖いけれど、一緒に戦ってくれる人が居ると周囲のイレギュラーズを見回した。大丈夫、まだいける、大丈夫。何度も同じ言葉を繰り返した。
「いくぞぅ!」
「ふはははは!!!! いけます! 絶対にいけますよ!」
米々の声が響く。鼓舞をするような、そして演説と扇動で皆のパフォーマンスを上げるためのその言葉。
「我々の努力! なんかもう感動ドキュメンタリーか? ってぐらい研鑽と絆を積み重ねたその先がこのバレル・バレル・バレル部隊……え? 違う? まあいいでしょう。
我らは皆で一塊になりました。今も仲間が敵を集めてくれています。
……ふふ、我々の一撃、否万撃! は即ち彼奴らの葬列です! さあ! 気合十分! いけっぞぉ!!!!」
そう此処はまだ最高の戦士とは呼べないのかも知れないと羅々は目を伏せた。魔種にも、御伽噺の中の存在にも立ち向かえるほどの経験は無い。それでも、イレギュラーズ。可能性を得たのだから――
羅々は言う。起きた冬に歪な命。それを葬り去るのは『小さな力が終結した結果』なのだから。
「皆さん準備はいいですか! 撃ちますよー!!!
ハリエットさんの集いのもと集まった我らです。妖精郷を救う為、ここに矢の雨を降らせましょう!」
勢い任せに鹿呉に頷けばオニキスが堂々と発する号令合わせて破裂したアシカールパンツァー。視界を覆った全て。
それを生かして雨あられの攻撃を重ね続ける。
「ガンバッタスガタ、ミンナタベチャイタイクライカッコヨクテカワイカッタヨォ!」
チンドナが楽しげにけらりけらりと笑う。光と音の海の中でキュートでアグレッションな思いを叫ぶ。
「うんうん。お互いがお互いを確認していれば、心配する事は何もない。
全力でやっちゃおう。ぼくも見て、聴いて、嗅いで狙っていくよ。
ぼく達らしい統率で、悪い奴らをみーんな倒しちゃおう! 前へ! 前へ! さあ――行くよ!」
ぼくらは、言う。
――そして、ぼくらは戦うんだ。
●エウィンI
「さて、ローレットの友人諸君。今日の戦いを明日の武勇伝にしようではないか」
マッドラーはそう告げた。戦いに大事なのは意思である。そしてその意思がクリアであればあるほどに良い。濁った意思は心の乱れ。大切なのは冷静になることだ。
「意思無き者は泥以下よ」
マッダラーが指し示すは地を這うニグレド達。英雄を作成する。仲間達を『先へ進ませる』がための支援を欠かさずに。
情報網を生かしてイスナーンは走る。妖精達を給与すべく捜索を続け、何処に其れが存在するかを確認するように。
救助はまだまだ続く。妖精の城から走り、森と泉を抜け、エウィンの街へと進む者の数は多いのだから。
「いっとくけどエウィンはわたし達がまもるから。
わたしも妖精だし妖精騎士で聖剣騎士だから、たぶん。
ここのくにのようせいみんなちいさいけど、わたし147cmある、やばい? でかい? 大妖精だから、わたし」
偉大なる大妖精ことセティアは『てきいっぱいやばいこわい』と言いながら低気圧爆弾斬りを放つ。そんなやばくてすごくてこわい攻撃にニグレドが黒く破裂し続ける。
「大掛かりな痴話喧嘩……でもないんだよね、一方通行ではね?
何故、ヒトは、思い通りにいかないことを、諦められないのだろうね。
……なんて、言っても仕方のない事だけれど。恋も憎しみも、その狂乱は抑えが効かないのが良く似ているのだろう」
カティアはそう呟いた。セティアへ癒やしを送れば「やば、すごいつよくなった」と楽しげな声音が返る。強敵が何処かに存在する戦線を切り開く人が居る。優先順位を決定してこの場を切り開かねばならないと魔導書のページを手繰った。
「わたしはねー。誰かが悲しいのはヤなの。だから……全部守るんだ!」
そう告げる吹雪は妖精達に近づいてくる敵を迎撃し続ける。庇ったりするには余り、むいて良いないかも知れない――けれど、敵の出鼻をくじくことは出来るはず。
恋は盲目。そうは言うが、こんな風に軍勢まで従えて相手を求めるのは如何な者かとウェールは小さく息を吐いた。様々な魔種の思惑が『彼』を変貌させたのかも知れないが、息子のために手段選ばず猪突猛進できるウェールでさえも、それを悲劇と呼ぶことを知っている。
「全力で君たちを助ける! 一人でも多く助ける! だから落ち着いて逃げてくれ!
一人でも多くの妖精がこの戦いを終わった後にお酒やジュースで宴会できるように明日また知ってる誰かや知らない誰かと笑い合えるよう――恐怖を飲み込んで、安全な防衛拠点へ足を止めるな! 怪我して走れない奴は木馬の方へ!」
声を張り続けるトウカは自身へと無数のニグレドを引きつけながら、妖精達を護り続けた。人命優先、倒れぬように、そして、妖精達との『明日』の為にと気張り続ける。
トウカが指し示した先の『妖精の木馬』をアステールは駆り進む。人間用に作られたフシギな動力源の木馬はかなりのじゃじゃ馬であるが今日は乗りこなさぬ訳にもいかない。
「全員助けるのは無理でも、一人でも多くの妖精さんを助けますにゃ!!」
アステールの堂々たるその言葉に頷いたレーゲンはファミリアーの鳥で索敵を行い続ける。冬は嫌いじゃないけれど、常春から一転したこの冬は酷すぎる。
「季節がめちゃくちゃっきゅ!」
「ああ。八月の雪か……こたつとかなさそうなのにこんな寒さじゃ俺や他の猫どもが凍えちまう」
呟いたアンファングは木馬を護るように立ち回る。アステールとニャーへと周辺状況を伝え乍らもトウカとパーフェクト――略して『パーさん』を庇い続ける。
「森アザラシとして、元聖獣としてこんなの見過ごせないっきゅ!
妖精さん達が明日また笑い合えるように一人でも多く助けるっきゅ!!」
力強くそう言ったレーゲンにパーフェクトは頷いた。そう、ウェールが考えるように恋とは破滅であるとパーフェクトは考える。幸福へ繋がるか、破滅に繋がるかはどうかは人それぞれだ。
「恋は行動理由になるが、免罪符にはならない劇薬。愛の劇薬から一人でも多く守ってみせよう!」
堂々とそう告げるパーフェクトはトウカと同時に行動する。アンファングが護ってくれるという確かな実感がその動きを洗練させた。この集団戦闘にまだまだ成れぬ者も居るだろうとニャーはみんなの『心と頭がアツアツ』なのをリラックスさせねばならないと気負った。
木馬が動き出すならば、護るようにと味方の存在するルートを進む。防衛拠点はまだ遠い。女王を狙う敵が存在するならば底に辿り着くまでが危機なのか。それでも「行くにゃ」とニャーは云う。今、止まるという選択肢はないのだから。
「妖精郷……豊穣も肉腫で大変だけど混沌の大陸もすごいことになってるよぅ!?
でも、僕も神使になったんだから頑張らないと。守るのなら得意なんだから!」
ふんす、とやる気を漲らせた金剛はエウィンの街にて少しでも防衛機能を強化するために防衛拠点増設を心がける。
此処で食い止めてみせると錬はアルベドが来ても迎え撃てる防衛拠点の設立を目指す。妖精でも使える防衛拠点に――設置したのは雪玉砲だ。
「妖精も手伝ってくれるか? あの黒いモンスターに『攻撃』だ!」
「わかった! えいえい!」
雪玉がひゅんと飛ぶ。
「よくも!」
どうやら街を害される苛立ちは募っているようだ。
「酷い有様、であります。せめて少しでも被害を減らさなければ……」
呟く憂は助けを呼ぶ声を追いかけて、迫るニグレドを自身の元へと募らせる。そのうちに妖精達が逃げられるようにと願えば、その小さな妖精達はどこか妹のようで愛らしくて堪らない。
(だからこそ……絶対に助けるのであります)
●エウィンII
「魂を核として変質させる……悍ましい真似をする者もいたものね。怨んでも構わないわ、背負う事には慣れているもの」
エトの眸がキトリニタスを捉える。作り手からすれば『友人』をサンプルにした作品なのであろうが、それは命を歪め、倫理など底には存在しない異形だ。
「糞ったれ」とジェイクは吐き捨てた。その命の中に存在する妖精は最早救うことは出来ない。融合し合った新たな命は新たな可能性を芽吹かせて――『核』の自我を殺したのだ。
「もう助けられないのかよ」
「ええ」とエトは目を伏せる。タクトを握る手が震える。救えぬ存在を眼前に見る、その眸には最早恐れは映らない。
「だったら、なるべく早く妖精を楽にしてやるのが俺達の務めだ……汚れ役は俺達が引き受ける」
「殺すの? あたしはいいよ。けど、『中身』はどうかな」
そう笑ったキトリニタスにジェイクは唇を噛みしめた。その顔も、その声も、その『仕草』さえもブルーベル――『Bちゃん』なのだ。それが錬金術師タータリクスの卓越した技術だとでも言うのか。
「その憎ったらしいツラだけはBそのものだな。しかし、お前は所詮Bの出来の悪い模造品だ。偽物のお前には用がない。逝ね!」
銃口を向ける。真っ直ぐに走ってくるキトリニタスを受け止めたのはゴリョウ。自身の仕事として十全に尽くして見せるとその身に降ろすは聖なる哉と奏でた福音。
「ぶはははっ! 流石の火力だねぇ! だが簡単には沈まんぜ俺ぁッ!」
ずん、と腕が震える。その巨躯が僅かに後退する。その勢いに押されるが其れに甘んじていては本物には及ばない。本物相手にどれだけ食い下がれるかの良い試金石になると挑んだゴリョウは楽しげににいと笑う。
「女の子かー……うーん、クライサー様みたいなイケオジ様がいるなら、私は断然妖精郷の味方になるよ。
タータリクスは愛を押し付ける辺りが気持ち悪いよね。愛はちゃんと見守るものなんだから。あとは妄想の中だけでやるのが一番なんだから!」
ぷん、とお怒りのローズ。詰まるところ壁になって二人の愛乃成就を眺める側なのであって、決して自身を押しつけるわけではない。それはそっと受け止めるべき自身の防御の攻勢にもよるのだろう。エトと、そして蜻蛉を護るが為に立ち塞がるローズは決死の盾となる。
「うちが今出来ること、少しでも皆の力になりますように」
蜻蛉は祈る。仲間達が――あの、命を『救える』様に。本当は生きられるはずだった命、其れを奪った『仮初めの命』。元に戻せないのならばせめて『彼女の原型』のあるうちに、終わらせたいと願いを孕む。
ローズに庇われながら、ゴリョウを癒やす蜻蛉は唇を震わせる。彼女の命は、潰えた。仮初めの入れ物に融合(とけ)あって。
「あーあ」と魁真は呟いた。死にたくないから傍観者で居たかった。だと、言うのに――どうした者か戦場に立っている。
「まぁ、いいや……俺は死にたくないからさ。さっさと死んでよね。
あんたが死ねば俺は死なない。実に簡単だね。てなわけで死んでよね」
呟くと共に気配を消した。魁真は隙を突くようにキトリニタスに攻撃を重ね続ける。妖精が救えないのならば容赦は無用だ。相手に情けを掛ける謂れもない。
「……助けられなくて、ごめんねぇ。……それでも、足を止める訳にはいかない。
わたし達を信じてくれてる皆の為にも、ここで勝たなきゃならないんだよぉ!」
真白の欠片からキラリと伸びた赤い糸。魔力を籠めた紅色が付与の解除の魔導を走らせる。流石は魔種の『欠片』とでも言うべきか――超火力とバランスの良いキトリニクスに掛かった魔導を打ち払うように糸で絡め取る。
『β』と名付けられたからには本来のブルーベルではないのかも知れないが、魔種であるという事が刺幻は只管に許せない。ジェイクの周囲に蔓延るニグレドを切り刻み赤き殺戮の剣を更に赤く染め上げる。
「どーして怒ってるのさ」と『魔種』の声色を借りたキトリニタスに「五月蠅い」と刺幻は吐き捨てる。
「模倣して、された時点で魔種共のダブルアウトだ。オリジナルも探しだして、ゲームセットにしてやる」
「うーん、まあ、良いんじゃないかなあ。でもオリジナルって案外イイコかもよ? なんたって、模倣品のあたしがイイコなんだしさあ!」
けらけらと揶揄うような笑い声に苛立ったようにジェイクは黙れと口にした。キトリニタスを受け止めるゴリョウの腕が軋み、蜻蛉とエトの癒やしが降り注ぐ。
「……ブルーベルですかメェ…。……あの消えた魔腫で、妖精郷を滅茶苦茶にした方ですメェ……」
「違うよ?」
「……メェ?」
ゴリョウと立ち替わるようにキトリニタスを受け止めたムーは首を傾ぐ。確かに否定した声音はキトリニタスのものであったか。らんらんと輝き帯びた『オリジナルとは違う眸』確かにムーを見ている。
「違う。『あたし』も『オリジナル』も妖精郷をめちゃくちゃにしたい訳じゃない。
そもそも、この郷をめちゃくちゃに滅ぼしたかったのは『冬の王』以外は存在しなかったんだ」
「それって……どういう意味かなぁ?」
シルキィの声にキトリニタスは上機嫌に饒舌に――それはオリジナルの影響もあるのか、それとも『核』の少女がそうしたかったのかは分からない。
「最高権限(アドミニストレーター)は女王との幸福を望んだ。反転による影響だよな。
うん、それは反転させた奴が悪い。アイツが『ジナイーダをキマイラにした男』とか言われて反転するために手を貸した色欲の魔種も、この郷にある力を強欲にも欲した男も、みーんな悪い。
悪いけど、それは妖精郷を滅ぼしたいわけじゃないよなあ。だって、『欲しいものがあっただけ』だもん」
「それは――『欲した後どうなるか、分かっていない』ということではないのですか?」
静かに、弥恵はそう言った。その美しい瞳が細められればキトリニタスはけらけらと笑う。
タータリクスは反転の影響で幼き日に出会った恋するあの人を求めた。狂気に駆られ、其の儘に。
ブルーベルは『冠位魔種』の為にと妖精郷の秘宝を欲しただけだという。そこに妖精をどうこうするという気持ちはなかった。それはクオン=フユツキも同じであろう。どちらも『妖精郷には興味が無かった』のだ。
「……それでも、クオンとブルーベルが秘宝を奪ったことで冬が来たことは否定できませんメェ……」
「あはは、そっちか」
「……貴方はブルーベル本体ではありませんが、八つ当たりさせてもらいますメェ……」
ムーが受け止めたキトリニクスへ向けて、一心不乱に踊り狂う弥恵がちら、とキトリニタスを見遣る。金のオーラをその身から迸らせ命を消費し続けるキトリニタス。先程口にしたのはオリジナルの心であったか――ならば、と弥恵は問いかける。
「ブルーベルはこの現状をどう思ってるのでしょうね」
「さあ。……ま、『悲しい』よね」
「悲しい……?」
まるで、ブルーベル本人の気持ちを知っているかとでも言う様にキトリニタスはそう言った。
「だってさあ、主様に従わないと居場所がないのに、従えば郷が滅びるんだってさ。
悲しいね。イレギュラーズは『魔種だから殺せ』で相手を殺すくせに、仕事で行った内容をお前だけ悪って言われんだもんなぁっ!」
踏み締めたキトリニタスの一撃でムーの体が僅かに浮いた。回復を送ったエトが「堪えて!」と呼ぶ声が響いた。
「Bちゃん!! やっと見つけ……!? ……き、きとりにたす……?
……ご、ごめんね! Bちゃんじゃなかったんだね……! 遠目だったから……!!」
はっと口を押さえたスーは『ブルーベル』とは仲良くしたいと宣言した。ブルーベルがどこに居るかは分からない、けれど――キトリニタスが『善い者』ではない事くらいは分かる。現に特異運命座標によってその体力は大きく削られている。
「諦めの悪さにはちょっと自身があるんだからね! 今回は味方が沢山居るんだ。
早く倒して、Bちゃんを探しに行くんだから……! どこにいるか、ぜんッぜん知らないけど!!」
スーが重ねた攻撃、そして多数の特異運命座標によりキトリニタスはふらりとその脚を揺らす。
「あたし、ぜんっぜん強くないし!」
「強がり?」
そう問いかけたのはローズであった。「まーね」とキトリニタスはブルーベルのようにそう語る。
「まあ、オリジナルにあったら伝えといてよ。最高権限(アドミニストレータ)は――」
そして、錬金モンスターは潰えた。その核となった命と共に。
――最高権限は、アンタのこと最高の友達だと思ってたみたいだよ。
●エウィンIII
「気がついたら妖精の国が滅びかけてた件」
ティスルはぱちりと瞬いた。人形を手繰り、迫るニグレドを追い返るように魔法を放つ。
「私は白砂。雑魚の掃討において有利を語る。ラサの人形遣い!」
ジョーカーは強力なる魔操人形。シルクハットを被ったマジシャンを手繰るティスルは堂々と戦い続ける。
相手取るのはニグレド。白が歌えばそれに安堵したようにティスルはジョーカーを手繰る。
「妖精が笑っていられないのはオカシイ。掛かって来いよ出来損ない共」
『降ろす』のは名も無き傭兵の魂。それに感化されたように白は只管に攻撃を重ね続ける。
射撃を用いての支援を行うアマリアは単独行動はしないと心がける。
(あまりこう言う仕事は向いていない気がしますけど……これもまあ、良い経験になると思いましょうか……)
迫るニグレドがぱちり、と弾けて黒き液体に戻り行く。『出来損ない』の魂に肩を竦めて辟易したようにアマリアは何度も何度も射撃を行った。
拠点近くでの妖精の保護と、そして仲間達への支援を行うのはルリ。魔力変換術式においてゼシュテル由来の術式で自身の中に大きく魔力を巡らせて、治癒の魔術を持って仲間達を癒やし続ける。
妖精達に大丈夫と声かければ安心したように飛び込んでくるその小さなぬくもりを決して話さないようにぎゅうと抱き締めた。
「襲撃を受けて滅ぼされようとしている街。この状況は昔を思い出して放っておけないニャ。
イレギュラーズとして、そして騎士として。この街は守ってみせるニャ!」
ニャンジェリカは堂々と名乗りを上げて、其れ等を自身の元へと集わせた。『ビギナーズグッドラック』――希望のために防御技術に優れた彼女はその脚に力を籠める。強力なカウンターの傍らを過ぎ去るようにして沙月は魔具と化した指輪より未散る魔力を使用して特異な格闘術式を使用する。
「……まだ間に合う! ここでやつは止める!」
狙うはアルベド。誠司が見た先に雪色の少女がおだやかに微笑んでいる。女王奪還が目的だというならば女王に迫る者全てを退けてみせると誠司が放ったのは挑発めいた狙撃。
「こっちだ!」
地面を蹴る。まるで花咲かせるかの如く、散る一撃にその脚が僅かに絡む。
「わ~お……なにげにえげつない攻撃でも? ボクもオシゴトだからねキッチリ役目は果たさせて貰うよ?」
ラムダは地面を蹴る。咎を喰らうトリッキーな使い手を選ぶ武器はその手によく馴染む。影すら踏ませぬ素早さで速力を威力に変換し打ち付けた音速の刃がニグレドのその身を切り裂いていく。
沙月のカウンターを見遣った後、楽しげに笑ったのは斬華。大変な状況――だけれど、とぺろ、と舌を見せる。
「貴方は悪くない……。そう造られたのだから。ですがお姉さん達とは相容れない……。だから……ね?」
作り物の首を切るのはどこか心地が悪い――けれど、美しく笑ったヴァイスを相手に其れが強敵であることに気付いて斬華は息を吐く。その両手でしかと武器を手に、無形の奥義を繰り出した。
戦略眼を用いて黒子は戦場を淡々と確認し続ける。アルベド・ヴァイスが僅かに見せた後退の兆し。人形であろうとも命は惜しいか――それとも。
(……意思という者がしっかりと芽生えているという事か)
青ざめた月の恵みを人さじ落とした暴虐なる装いに身を包み、相手の行く先を特定させるが為に拠点作成者にも伝達を行い続ける。
グリムグレイサーズに魔力を走らせる。その凍土を溶かすことは出来ないままにグリーフは自身を盾とする。銭形大差の耐久術を使用して、迫り来るアルベドの攻撃を受け止める。毒も、心苛むものもグリーフの前では無縁だ。
「誰かを模して、けれど誰にもなれない、ワタシのような存在は、これ以上増えてほしくない」
「なら作らないようにしよう」とメリロートはそう言った。冬の妖精、この場の凍土の理由が一つをその指先に飾って春風を身に纏いながらもメリロートは進む。
アルベドの撃破を目指す。周辺に迫り来るニグレドはまるで『アルベドを護る』化のように立ち回る。
「こっち」と妖精を手招いて退避経路を指し示したステラは剣戟と魔術を折り合わせた独特な術式でヴァイスへと対抗した。手足を優先する。人形のその脚は伽藍、肉を立った感触など何も感じられない。それでも連携の内に『確かな実感』が芽生える。
もう少し――そう思えばアルベドが走り出す。その背を追うぞと誠司の号令が掛かった。
「誠司さん……無茶はしないで下さいね」
アイシャは静かに想願った。癒やしを行う。アルベド・ヴァイスを相手にするのは『本人』もだ。
「ヴァイスさん」
「有難う。お話をしてみたいわ」
そう呟いた。アルベドとの対話。作られたとはいえ自身に似せられた精巧なレプリカ。
其れ等を見ながらアイシャは逃げ惑う妖精達を見遣る。此処で自身が怯え竦めば彼女たちが犠牲になるのだ。初めての戦いに、ひりつく様な命のやりとりが存在している。誰かの血が舞う度に恐ろしくなる。
(寒くて白い世界……自分が何処にいるかわからなくなりそうで……少し、怖い)
はらり、と羽が舞い落ちる。
「―――」
白く凍ったその町を蹂躙する異形達を見詰めるナハトラーベ。妖精の体を抱き抱え、ぐんぐんと進む機動力と運搬性能任せのちぐはぐな『運び屋』。
敵による追撃は再生能力と『おはぎと唐揚げと、それから』……一先ずは敵の手から逃れる算段はつきそうだ。
傍らにはお月様の欠片をたっぷり浴びた焼きたてパンのようにふかふか可愛いクララを従えて。小さな勇気の欠片と共にポシェティケトは妖精保護のためにひた走る。
「牙の力を、奮って。クララ」
全ての戦闘を避けることが出来ないならば『少し』でも遠くへ遠くへ。ポシェティケトの外套の中からひょこりと顔を出した妖精に「どうぞ夜の内側に。女王様の居るところまで連れて行くわ」と安心の一声をかけた。
拠点は重要な防衛地点だ。マークとブロックでの敵勢体の進行を押し留めるが為、シャスラはその膂力で強烈なカウンター放つ。その周囲を浮遊する刃は守護するようにシャスラを護る。
●エウィンIV
「そちらの方、どうぞ私の方へ。あなたが逃げる時間ぐらいは稼いでみせましょう」
樒は静かにそう告げた。逃げ遅れた妖精達へと声かけながら、長大な射程と貫通力でニグレドを打ち抜いてゆく。
畏れるような妖精達を射貫いたは集中力を研ぎ澄ませた狙撃手の目。逃さぬようにと真っ直ぐに捕らえて救いの声を掛ける。
逃げ惑う妖精を拠点まで連れて行こうと式神と練達上位式を総動員で砂織は妖精達を拠点へと案内し続ける。
事前に調べたルートは完璧。至る所で相手を倒すが為の力を振るう特異運命座標が自身の道を開いてくれているからだ。
「これが……新天地の……戦い……」
葬屠は息を飲む。豊穣に居た頃は片田舎でそれなりに平和であった。新天地では戦いが多く、ローレットに身を窶してからと言うもののこうも危険の連続なのか。
「……」
低血圧と貧血で頭が回ってないのだろうか。「来る」と小さく呟いたのは敵の気配が迫ってきたからだ。
「恋をすることは、素敵なこと……と思っていました。これもひとつの恋のかたち、なのでしょう、ね」
小鳥を使役し、メイメイは迫り来るニグレドを確認してから首を振る。
「けれど。けれど……いけません。
わたしは、それによって起きる悲しみを、見過ごせないの、です」
それは恋心に起因したらしい。一人の錬金術師の初恋がそうやって『はじまり』を与えてしまった。理性と恋はそっぽを向き合っているからこそ、だから――苦しいのだろうか。
「できるだけ町に被害を与えない戦い方を考えてたけど、もうそんな状況じゃないみたいね」
コレットは小さくそう呟いた。その巨躯は妖精達と比べれば差が存在する。自身の足下二隠れていた彼女たちに「行きなさい」と指示をして全てを等しく葬り去る巨大な剣をそうと持ち上げた。
「妖精は大体避難できたかしら。そろそろ遠慮なく暴れるわ」
妖精達を襲うように町の中へと進軍するニグレドをその双眸に映す。黒き『命のなり損ない』へと放つ薙ぎ払い。全身全霊全力で剣を振いその黒き命を散らし続ける。
ニグレドは女王を狙ってくる。それが最高権限(アドミニストレーター)による指令なのだと文は理解した。
「寒い、けど動けないほどの温度じゃなくて良かった。
妖精に会えるのは嬉しいけれどもっと別の用事で会いたかった。今度はゆっくり観光に来たいものだ。そのためにも今日を切り抜けないとね」
「はいなのです。……『今日を切り抜けて』帰ってきて欲しいのです!」
不安げにそう言ったフロックスに文は頷いた。女王の保護を最優先、警備の者達と拠点を護るが為に前線で歌う絶望の声色。今日を切り抜ける、それは誰もが生き延びて、誰もが死なない素敵な未来だ。
「邪妖精さん、じゃbye-bye」
エアルはそう行って手を振った。大混戦状態だ。妖精は小さいから見逃さないように妖精の存在を思い出す――確保確保と口にして頭に浮かぶのは小さな『男の人』を探す捜し物ブック。目指せ全員無事と口にして、エアルが怖がれば恐怖が伝染してしまうかも知れないと凜と戦場を駆け回る。
「はーい、押さない・駆けない・しっかり前を見る。大丈夫、ここは絶対通さないから」
アレクシエルは堂々と名乗りを上げて迫り来るニグレドを抑えた。これから先は本拠が存在する。防衛拠点には行かせ馳せぬと顔を上げたその眼前――そこに立っていたのはアルベド・マルベートか。
「ごめんなさい、手加減している余裕は無さそうだから……全力でやるわね」
手にしているのは対人戦闘特化外骨格。イクリプス・フレーム。乙女の作った試作品。
「強敵はむやみに刺激するよりも手練れに任せるのがよさそうだな……できることと言えば、負担の軽減くらいだろうか」
フラッフルはフリル包まれた袖からそろりと武器を覗かせる。その身は自動修復されるが、それでも尚、仲間達は被害を受け続けている。雑魚殲滅も妖精保護も重要な仕事だ。
「ほら、おちついて……水、は飲めるんだったかな、妖精は……? まあとにかく、ここならまだ安全に過ごせるはずだよ」
「あなたったらおかしい。のめないの?」
「……まあ、飲む必要は無い、かな」
妖精と秘宝種の違いを感じるような気がしてフロッフルは目を丸くする。その場所へと飛び込もうとしたイグレドを受け止めたのは操。暴風を作り出し、体力を確認しながらの攻撃を続けていく。
「この世界に来たばかりで状況もよく分かってないけど、人手が必要だって話だからね。
とりあえずあの黒いモンスター……ニグレドっていうんだっけ?
アレと戦って、可能なら数を減らしておいた方がいいみたいだね」
「はい! 妖精さん助けに来ました!
まあ、私が救助に回るとかえって怖がらせそうだし……ニグレド退治、頑張るぞー!」
見た目は再現性東京の『夜妖』とも間違えられるバリバリの可愛い怪異、藍は案ラックノートを手にニグレド退治に精を出す。
「戦いは好きじゃ無いけど、私ほら、見た目がお化けみたいですし。善いことは分かりやすく行わないと!」
ふんすとやる気を見せて放つエーテルガトリング。無数の弾丸が襲い続ける。
●エウィンV
ベディヴィアは街の中の方が寒くないかも知れないと考えたが……どこに居たって冬は寒いには寒いのだ。乙女の秘密な趣味の本を抱き締めて周囲をきょろりと見詰めた。
「我一人てけとーでもよかろう。働きとーないしの」
ぱちりと大きく瞬彼女は凄くやる気なさそうな雰囲気で癒やしを送るベディヴィアの傍らでコロナはジ・エンドを手に微笑んだ。
「月光人形で想い人の偽物が流行ったかと思いきや、深緑でもなかなか悪趣味な技術が流行っているようですねぇ。私達の形を真似た敵ですか」
ふむ、と首を傾ぐ。全うに生まれた生命でも無いのならば成敗有るのみだと攻撃を重ね続ける。
聖女たる者、敵だけ倒す技の一つや二つは持っている。鮮やかなる神聖なる光がぴかりと輝いた。
「くっ……古き盟友を護るなんて豪語しておきながら、妖精郷が冬に飲まれる事を止められなかったのは私の責任でもあるわ……。せめてこれ以上はやらせない! 女王様や妖精たちを直接守り続けるわよ!」
そう堂々と宣言したのはアルメリア。万物の理、生命流転――魔導書を手繰り、堂々と雷撃を放ち続ける。のたうち蛇のように対象を狙うその雷を見据え、妖精が巻き込まれぬようにヨシトがそっと妖精の不安を拭い、手招いた。
「大丈夫だ、直ぐに逃してやる」
妖精を導き、そして救うが為に。怪我人の治療も行い、救える者は全て救う為にヨシトは戦い続ける。
「この戦いが、如何なる終わりを見せるのか……我が身を以て見届けましょう」
静かに目を伏せたグニオグ。辿末の書に指先添えて、願わくは全てにとっての良き終わりになりますようにと避難誘導を行う仲間を襲う手を自身の元へと集める。反り立つ壁が如く、敵勢対象を引きつけて、倒れぬようにと自身を鼓舞し続ける。
「水の精霊だからわかるってわけじゃないけどさ。
この辺りに漂う瘴気は、ただの氷じゃない……なんか嫌な気がする。こんなところで凍っちゃダメだよ、妖精さん!」
首を振る。妖精郷に存在するこの気配は忌むべき者だとマリリンは唇を尖らせた。悍ましい気配を退けるように戦闘能力のある娼館物をけしかけては宝石剣に神秘の増幅を願う。
「さあ、聞いて。氷を溶かし尽くす水底の歌を――」
「ふむ……次はあそこか。Feuer!」
復讐のアクロルカ――対戦者用ライフルタイプを構えたコルウィンは移動する。その強力は牡牛の如く。圧倒的な破壊力で立ちはだかる者を粉砕してみせると手を伸ばす。防衛拠点へと近づく者を退けるのは威力に特化した渾身の一撃だ。
そう、と背後から飛び出したのは紡。妖精女王を護るという責務を担っていたとしても強敵との戦いは武人として心が躍るもの。その思考を攻める事なかれ――強くなるとは『そういうこと』なのだ。
無形の術を放つは青白くたなびく妖気。不知火のその切っ先を引き抜いて、二刀にて舞うように突きを放ち続ける。
この世界には来たばかり、それでも妖精郷を護るという拠点防衛は大事だ。アルムは前線にて踊る紡へと簡易治癒魔術を施した。近くで戦う仲間を支えるが為、神託者の杖に魔力を乗せる。
(手強そうな敵は……歴戦の勇士に任せなくっちゃな! キトリニタスに、アルベドに……千客万来だ……!)
大仰なくしゃみを漏らす。聖霊は「いやいやクソ寒いわ、風邪引くわこんなん。俺白衣だぞ? 舐めてんのかこんちくしょう!」と叫んだ。
「ともあれ、ここを落とされると滅びるわけだな? つまり目の前のこいつらが死ぬと。
……させるかよ! 目に見える者は全部救ってやる! 何様俺様聖霊様ってなぁ!」
堂々と叫ぶ。味方を苛む禍を退けるように。医者が出来るのはそれが一番なのだから。迫り来る黒きニグレドへと音速の一撃を放つのは雨紅。
「数というのは単純であるからこそ有効で、厄介な力。削る事ができれば、各所の助けになりましょう」
そう告げる。まるで踊るように戦槍をぐるりと回す。刑天はニグレドのその身に突き刺された。
「いれぎゅらあずとしての初戦がこの様な大戦とはのぅ!
凄まじいの、凄い力だのぅ。とてもではないが脱新人したばかりの儂じゃまともな戦力にはならないだろうのう。なら、それなりの戦い方があるのじゃな!」
鶫は防衛の要にてアンデッドのなり損ないを召喚し使い捨ての駒とする。確実に、着実に、ちまちまとニグレドと戦うのだとノービスシールドをぎゅうと握りしめた。
まだまだ取り残されている妖精達が居る。その事実を考えて唇を噛んだ陽住は地面を蹴りつける。
「俺が助けに行くっ! 真那、フォロー頼んだぜっ!!」
ぐんぐんと進む陽住に大きく頷いた真那は『全弾持ってけぇ!』と声高に弾丸を放ちづける。
「OK! フォローは任しとき!! 妖精ちゃんこっちやでぇっ!!」
降り注ぐ弾丸の雨。その中をするすると進んだ陽住が妖精の手を掴む。俺へ任せろと告げるその声は力強く。
「ハル!」
「ああ、大丈夫。真那、行くぜ!」
つるは神楽鈴を凜と鳴らす。集中力を高め、粘る。生存を優先し、光栄より仲間達を支援する。
「――散り時を忘れし花は、まことに幸いたるや否や」
残された妖精と敵の間を防ぐが如く、精霊達に何処に災難を受ける妖精達が居るのかと確認する。
迫るニグレドを振り払うのはラウル。希望の道しるべを使用して、多段牽制での足止めを行い続ける。その命の終を与えるディスピリオド。一点、黒き体はぺしゃりと音を立てる。
●エウィンVI
「花を奪われた結果がこんなことになるなんて……。
悔しくない……といえば嘘だけど、今は悔やんでる場合じゃないから!」
師匠、とアレクシアはそう呼んだ。傍らに立っていたイルスは「ああ……」と気の抜けた返事を返す。どうやら、師と呼ばれることを今は拒絶する気は無いらしい。
「師匠、ニグレドは皆のお陰で外郭と泉でできるだけ留められてるみたい。どうする?」
「ああ。近くに居るキトリニタスとアルベドの対処が必要だが……『それだけ余裕があるなら』心配はなさそうだな」
フランツェルと呼んだイルスに「私も出陣?」と小さく笑う。女王を護るために立ち回るアレクシアにフランツェルは「人使い荒いお師匠だと思わない?」と揶揄うように小さく笑った。
颯太は小さく笑う。「妖精郷の事情承知、俺も手伝うとしよう」と頷いた。
第三者の視線について二人に問いかければフランツェルもイルスも首を傾ぐ他にない。
「流石に女王は落ち着いているのだな」
「ええ……」
颯太が防衛拠点にて、武器を構えたままに警戒を行っている傍で煌びやかなドレスを身に纏う妖精はどこか切なげに目を伏せた。
「護っていただいて、よろしいのですか」
女王ファレノプシスのその言葉にエリザベートは目を丸くした。くすり、と小さく笑う。
「折角の貴女と縁が結ばれたのだから護ろうと思っただけですよ」
女王を落ち着かせるように。話し相手になれるように。出来る限り不安と責任感を取り除けるように。
「今は、貴女と話していたいのです。貴女のことを護りたいから」
「……私は――」
暗い話は、今は止めましょうと首を振る。狂気が、迫る――それを退けるが為にビジュはこの場に居た。女王とフロックスを護るため。僅かな可能性でも構わない。小さな命を守り抜きたい。
妖精女王の命が奪われればこの国が潰えてしまう。それは、避けたいと願った。
小さな命を『掬う』為に、この命を賭けても良いと言うほどに――汚泥に濡れた手を伸ばすことを厭わぬほどに手を伸ばす人の美しさをよく知っていたから。
SperliedとMeerは背後に存在する女王を護るように立ちはだかる。
「確かに恋は原動力になるけど……言い訳にしちゃダメだよ! 行こう、雀ちゃん」
「心臓に悪いのであまり前に出ないでくださいね、坊ちゃん」
支えるが為に、雷を振らせるSperliedにMeerはこの場所を守り切れば勝ちなのだと、歪んだ恋心に負けてなる物かと根比べ。
「冬があるから春が来るんだよ? 耐えれば芽が出て花が咲くんだから!」
だから、癒やしを乞う。この場所を支えるが為にMeerは花咲かすようにそう言った。
「あの場にいた者として、少しでも、ストレチアさんの願いを叶えたい……私はそう思ったのです……っ!」
アヤメはそう言った。落ち込んでいたストレリチア。
ごめんなさい、と口をして茫然自失であったあの小さな少女。
自身はまだ弱い。弱いからこそ、直接彼女に手を伸ばし、共に戦場を駆けられない。
それでも。彼女の願った全てを叶えてあげたいと、そう思ったのだから。
無造作に作られて捨て駒とかしていく不定形。ニグレド達を退けるグリムは『命』とも認められずに潰えていくなり損ないは看取る者もそれを個と認識する者も居ないのだと悲しげに目を細めた。
「――さあ、生まれたことを祝福されない命達。
たとえ誰が認めずともお前達は一つの命であったと自分は認める。……だからどうか、安らかに死んでくれ」
ユスラはぱちりと瞬いた。此処は妖精郷、深緑に存在する常春の国である。そう聞いては居たが――今になっては冬に閉ざされて寒々しくて困り果てる。
「同胞の危機とあらば見過ごすわけにはいかぬでな? 名乗り合ってのチャンバラとはいかぬが了承せよ」
堂々と、踏み込んだ魔力の矢を放ちニグレドへと打ち込んでゆく。
黒木命がぱちりと音を立てた其れを追いかけるのはオニキス。
拠点近くにて高所から敵を確認していた彼女はエーテルガトリングの弾幕を浴びせ続ける。
マジカルアハトアハトは何時だって『強力』に。鮮やかに敵の殲滅を続け続ける。
こい、濃い、来い、鯉、恋――?
「who you? なんかよくわかんねーけどあいつらぶちのめせばいいんだな? オッケー! 頑張るぜ! ……さっむ! なんだこの(砂漠の)夜みたいな寒さ!」
震えたザハールは眼前の邪妖精を見詰めて動けば暖まるかと小さく笑った。邪妖精を『少ない毛』と書いて『毟る』と宣言しての殴りつけての行動を続けていく。分かりやすく殴りかかってくる存在は殴り返せば良い。つまり、正当防衛なのである。
ザハールの毟る――否、正当防衛が行われる中でフリークライは妖精の保護に向かっていた。
「ン。フリック 妖精達 助ケル。拠点ニ 送リ届ケル。救護 ロボ スル」
「ああ、任せた!」
「フリック 草花 マミレ。フリック 元気 フリック 覆ウ 草花 元気。寒サ 平気。
妖精サン 安堵 デキル カモ。小サイ 妖精サン 草花 隠レテモラウ モグッテモラエル」
常春を身に纏ったフリークライは拠点の安全地点に向けて向かいたいとゆっくりと進んでいた。この戦いが終わったならばアルベド・ヴァイスに花を供えてやりたいと――そう思う。きっと、自我を持ったアルベドを弔う者が居たって良いはずだからだ。
「海洋に手を出して以降活動が大人しくなったと思ったら、こんなところで動いていたのね、イレギュラーズは。いいわ、私も鉄帝戦士としてイレギュラーズに選ばれた身。援護は任せて」
アリーシャはそう告げた。冷静沈着に落ち着いて。絶望と静寂の皆底で発見された魔導具に魔力を走らせる。
妖精達の避難を手伝うために直感を使用しての索敵を行うハーデス。怪我をした妖精達を運ぶために避難所へ向けて走り出す。妙な気配は……ああ、どうしてか此方を見ているのだ。
「主人の命令で妖精の救助に駆り出されたが……おいおいおい、勘弁してくれ。俺ァ荒事が苦手なんだよ!」
以蔵は困ったように肩を竦めた。鉄槌を手にして、人助けセンサーを駆使しながらヨモツヒラサカを駆り走り抜ける。本人曰くで『か弱い』のだそうだ。だからこそ、逃げ足を生かして走り去る。敵を殴るには『適任』が存在するとしっかりとした役割分担はお手の物だ。
「Dude! 一面凍ってるわぁ……恋が発端だなんて、悲しいわね。心の底からそう思うわ。
風の噂で聞いたの、妖精女王が狙われてるって。ワタシ恋愛話大好き! そんな場合じゃないけど」
気になるから首を突っ込んでしまったのとエンジェルは精密なる魔銃をそうとニグレドへと向ける。
女王様を護るため、これはきっと悲恋の物語。
ある男の、一世一代の恋を――終えるための、悲しいお話なのだ。
●エウィンVII
マルベートが相対するのは自分自身であった。食事をするように獲物に向けたディナーナイフ。その切っ先の煌めきが美しくも輝いた。
「殺すか殺されるか、それ以外にはない。君だっていい加減腹が減って仕方がないだろう?」
「ああ、そうだね。腹が減って堪らないさ」
ぺろ、と舌なめずりする自分自身。その違和を切り裂くように飛び込んだのはミレニア。
変なの、と大きな眸を瞬かせる。形はマルベートそのものでも魂の形が違う。その身の内に『核(いのち)』を内包していようとも――全く生命体とは思えない。
(マルベートが楽しそうなら良いのかな……)
小さな呟きと共に支援を送る。ミレニアのその傍らよりぐん、と進むリリーはカヤに乗り戦場を進む。
「さぁ踊ろっか、呪いのダンスを! ……なんて」
気になっていた悪魔の偽物。そんなの、楽しむほかにない。バッドステータスを制するのはバッドステータス。ただ、それだけだ。だからこそ、リリーは自身の『ルーティン』を重ね続ける。戦闘に置いて、全てのルーティンがきちりと嵌まる事は儘無いが、それを鍛錬し続けたリリーの前では崩れることはない。計算された手順が確かに存在する。
「偽物なんかに負けない。ね、マルベートさん! リリー達の本気、見せてあげよっ!」
「ああ――叶うならフェアリーシードごと喰い破って殺してあげよう。
私の血肉となって共に歩めるように。
私の理解者になれたかもしれない『君達』を、心の底から愛してるよ」
だから、牙を覗かせる。その命の終を『ごっくん』と咀嚼できる様に。
「……そうよね、本来なら『前回に』私がやっておくべきことだったのよね。だから、今度こそ私が終わらせてあげるわ」
アルベド:タイプマルベートとの戦いが続く中、その傍らで斬華らと戦い続けていたのはヴァイスと瓜二つのアルベドであった。その純白の肢体は自身とあまり変化の内容に思えるが、ああ、確かに命はない。首に存在する命を奪うが為――今ならば、仲間の支援も鹿と存在している。
「まずは、話をしましょう? それとも、『私』はそんなに争いが好きかしら。
私たちの本質は、言葉を交わすこと。思いを乗せた言葉は、何よりも強いものよ?」
「いいえ、『私』は私と同じよ。おしゃべりが好きなの。沢山お話ししましょう。
どんなことが良いかしら。素敵なお話を聞かせてくれたら、この命が潰えたって良いわ」
対話を行うヴァイス達を横目にンクルスはアルベド・マルベートを相手取る。好戦的な彼女の核を狙うンクルスはマルベート本人へと支援を放った。地を蹴って距離を詰める。そのナイフが腹を割く。
(妖精を救うことは出来ないかな……何とか、妖精の命だけでも……!)
ぐり、と溢れたその血潮を逃すまいとマルベートが口をばかりと開いた。フェアリーシードが零れ落ちる。慌て拾ったンクルスの向こう側で――アルベドは絶命した。
目を伏せて処刑を待つようにしていたアルベド・ヴァイスは満身創痍の最後、こう言ったという。
「花を頂戴。春が来たら。それを私達の墓標に飾って欲しいの。とっても、素敵でしょう?」
妖精を保護しながらランドウェラは周囲を見回す。
「怠惰の魔種とかいないよな……?」とそう呟くが、どうやら怠惰に該当する魔種は存在しない。
その『感情探査』が怠惰でなければ――興味であれば、色欲であれば――『誰か』の存在を探知できたのかも知れない。然し、仕掛けてくることはないだろう。『彼』は悪魔で傍観者だ。
妖精達を保護し、大丈夫だと微笑んだ。イイコ達しか要らないのだ。この場には、『悪い子』なんて蓋をして返品したいのだから。
静寂が訪れる。どうやら周辺での戦闘が終了したようだ。
蔓延する冬の気配の中、女王は「終わったのですか」と怖々と告げる。
「彼は――」
タータリクスは、と。その名を呼ぶことは無かった。
愛しいと好意を向けてくれた何時かの日の少年がどうなったのかは分からない。
それでも、今、妖精郷に救いが訪れたのは確かだったのだろう。
●
「あーあ」
見ていたのは。
頬杖をついた少年であった。砂漠の地で生まれた彼の名はリュシアンと言う。
幼なじみで商家の娘であったジナイーダと、傭兵一家に生まれたブルーベルの三人で度々遊んでいた。
鳥渡した『悪戯』だった。両親には遠くに行ってはならないと注意されていたが、三人で巫山戯合って飛び出した。
それが――『アカデミア』
出会った旅人は、錬金術を生業としてたらしい。新たな命の創造を、元の世界で行ってきた『悪事』を混沌でも為すが為。リュシアンは幼すぎた。ジナイーダもブルーベルもだ。幼すぎた三人は旅人の『博士』の甘言に乗って錬金術の手伝いをした。
ある日、もう少しで研究が完成すると博士が言っていた日に彼は罪人として傭兵団に追われることになった。
……後から聞けば言いつけを破ったブルーベルは奴隷商人に捕まり、手酷い目に遭ったらしい。
博士は研究の更なる完成の為に欠けたブルーベルの分まで『弟子』を得ていた。
タータリクス。リュシアンの忘れられぬ名前。最低最悪の、男。
彼は――博士と呼ばれたクソヤロウとタータリクスは何も知らぬジナイーダを■■■■した■■して、■■■■したのだ。
もう、彼女はいなかった。勿忘草を咲かせて泣いた恐ろしい獣になりはてた。
許してなるものか。
許してなるものか。
許してなるものか――!
「ふふ、恋をしてたんですわね」
声が降った。サーカス団の『オーナー』をして居ると言う鋼鉄の乙女の微笑みに、惑わされた。
目を開ける。自分の昔話なんて関係はない。
何の災難か奴隷商から逃れて怠惰の魔種と化したブルーベルと再会したとき、彼女は『忌むべきタータリクス』と行動していたのだ。
「ふうん」と彼女は言った。「リュシアンの云う事は分かるよ」とも。
反転したあの男を利用しよう。どうせ、あいつは『特異運命座標に殺される』
そう告げたときに、優しい優しいブルーベルは「そう」とだけそう言った。興味が無い振りをして慈悲深いブルーベル。優しすぎた君は、タータリクスにだって同情したんだろう。ばかだなあ。
ばかだなあ。
ばかだなあ――!
「……まあ、いいか」
君の『友達』の恋は潰えたさ。残念だったねブルーベル。結婚式の招待状は来ないようだよ。
理性と恋とはまるっきりそっぽを向いた。
雪が溶ければ春が来る。夏の向こうに冬が泣いた。
――一つの恋は破滅に向かった。何も残さぬままに、冬の殻だけ放置して。
成否
大成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。春を、求めて。
プレイング記載があった方は全員描写させていただいたつもりです。
抜けや著しい誤字など有りましたらファンレターでご指摘ください。
それでは、また、お会いしましょう。
GMコメント
夏あかねです。決戦。
●成功条件
『女王ファレノプシス』を守り切ること
『アルベド』の撃破
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
ご指定のない場合は迷子になる可能性があります。ご了承下さい。
==例==
【A】
リヴィエール(p3n000038)
なぐるよ!
======
●行動
当戦場は『妖精城の外郭』及び『エウィンの街』となります。
以下のロケーションから行動をご選択下さい。
【A】妖精城外郭
妖精城アヴァル=ケイン外郭です。内部より溢れ出す邪妖精たちや冬の精が敵となります。
風光明媚な妖精城は凍り付き、凍て付くような寒さを感じさせます。
●ニグレド *無数
黒く腐食した錬金術モンスター。ぐちゃぐちゃとした気色の悪い存在です。
『最高権限(アドミニストレーター)』に従うように女王が為に向かってきます。意思の疎通は出来ません。
●冬の氷精/邪妖精 *無数
『冬姫イヴェルテータ』に従う邪妖精及び冬の氷精です。氷の吐息を吐き、総てを凍て付かせんと攻撃を重ねてきます。
●エリアボス:冬の氷精『ブルート』
『冬姫イヴェルテータ』に従う氷の精です。意思疎通は可能。妖精郷の滅亡を目論みます。
何故なら、それを『冬姫イヴェルテータ』が望んでいるからです。
解き放たれたことを喜び、非常に狡猾で、『眠りから醒まさせて呉れたイレギュラーズ』に感謝しています。
【B】みかがみの泉
固く氷の張ったみかがみの泉周辺です。とばりの森も含みます。元より住まう邪妖精達が怒り狂い、複数の妖精達が逃げ惑っています。
●冬の氷精/邪妖精 *無数
『冬姫イヴェルテータ』に従う邪妖精及び冬の氷精です。氷の吐息を吐き、総てを凍て付かせんと攻撃を重ねてきます。
住処を害された邪妖精は酷く怒り狂っているようです。しかし、狂気的で余り言葉は通じなさそうです……。
●ニグレド *無数
黒く腐食した錬金術モンスター。ぐちゃぐちゃとした気色の悪い存在です。
『最高権限(アドミニストレーター)』に従うように女王が為に向かってきます。意思の疎通は出来ません。
●アルベド・エーテル *無数
ニグレドとアルベドの中間。『人の要素』をその身に取り込むことで擬似的に『その人間』の形を作る生き物です。
戦場で傷ついた物や『全決戦に参加した者』の形をかたどり攻撃を重ねてきます。屹度、貴方のかたちにも……。
アルテナ・フォルテやリリファ・ローレンツ、ルドラ・ヘスなどの『アルベド・エーテル』が動き回っています。
ニグレドよりも『自我』があるのか意味の分からぬ言葉を発しながらけらけらと笑い進軍してきます。
○保護対象: 妖精達
逃げ惑う妖精(精霊種)たちです。助けて、助けてと走り回っています。
彼女たちは、皆、エウィンの街への避難の途中のようです。
○味方NPC:『月天』月原・亮 (p3n000006)
リリファ・ローレンツはあんなに胸部は膨らんでないと言ってくる前衛少年。指示あれば従います。
○味方NPC:リヴィエール・ルメス(p3n000038)
支援を中心に行います。
【C】エウィンの街
妖精郷の小さな街。エウィンの街です。女王を守るために凍り付いたこの町での防衛戦線を展開します。
『防衛拠点』はイレギュラーズの拠点でもあります。この場所での防衛を中心に遊軍として、戦場のアルベドやニグレドを倒して下さい。
●『アルベド』タイプ・ヴァイス
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921) のアルベド。その体の首部位にフェアリーシードが埋まっています。
にこにこと可憐に微笑みます。元となった妖精の名は『ダンデ』。優しい微笑の似合う少女だそうです。美しい花が好きなのです。拙い自我はどこか悲し気です。傷つけあうのですもの。
・通常攻撃に【呪殺】
・短刃での二刀流攻撃を主流にします。
・どちらかと言えば持久戦タイプ。『当てます』
●アルベド『タイプ・マルベート』
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)のアルベド。その体の右側腹にフェアリーシードが埋まっています。
核となった妖精はイビセラ。マルベートさんと『似た性質』であり貪欲に食事を求めます。それが愛情であるのかもしれません。彼女はその『性質が同化』している故に楽し気に戦います。
・近接型
・バッドステータスを主軸に戦います
・【棘】
●キトリニタス『タイプ・ブルーベルβ』
魔種ブルーベルをイメージして作られたキトリニタスです。非常に高い攻撃力を持ちます。
また、キトリニタスは魔種タータリクスがブルーベルに与えようと思っていたプレゼントらしいです。彼女は姿を消したので渡せませんでしたが……。
アルベドと違い、妖精と深く融合しているため、妖精を助けることが出来ません
●ニグレド *無数
黒く腐食した錬金術モンスター。ぐちゃぐちゃとした気色の悪い存在です。
『最高権限(アドミニストレーター)』に従うように女王が為に向かってきます。意思の疎通は出来ません。
○保護対象: 女王ファレノプシス&フロックス
優しく聡明な妖精女王&その侍女です。エウィンの街の『防衛拠点』たる場所で保護されています。
敵は目前に迫っているようですが……。
○保護対象: 妖精達
逃げ惑う妖精(精霊種)たちです。助けて、助けてと逃げ回っています。
○味方NPC:フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)&イルス・フォン・リエーネ
支援及び女王の援護を中心に行います。指示あればお願いします。
●その他:????
今回は手出ししてきませんが、誰かが見ているようです――
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
どうぞ、宜しくお願いします。
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