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シナリオ詳細

<鉄と血と>Rising Black Sun

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄帝国動乱
『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く――
 混迷する鉄帝では六つの派閥が天を競っていた。

 先帝ヴェルスの治世に戻さんとする帝政派。
 南部戦線の英雄ザーバ将軍率いるザーバ派(南部戦線方面軍)。
 我関せずと政治不干渉を貫くラド・バウ独立区。
 ギア・バシリカを中心に民の救済を願う革命派。
 ノーザンキングスに抗する戦力を持つポラリス・ユニオン(北辰連合)。
 空浮かぶアーカーシュに拠点を持つ、独立島アーカーシュ。

 各地で勃発した戦乱の成果は手札として揃い始めた。
 悍ましき冬の象徴であるフローズヴィトニルの欠片は中央こそ敵の手中に収まったが、各地に点在していた者はイレギュラーズが有する事が出来た。
 帝政派とザーバ派は合流する講話が叶い、ラド・バウ派も来たる帝都決戦に向けての防備を固めつつある。
 各地で蜂起する民草を纏めた革命派は今や『人民軍』の名を欲しいものにして居るだろう。
 東部より来たる北辰連合は女神の加護を手にすると共に理不尽なる冬を終らすが為に帝都へと躍進し、
 天より訪れる独立島アーカーシュはラジオの電波ジャックを行ない、各地に決起を促した。ラトラナジュの火が仇敵に放たれるまであと少し――射るべき先は慎重に見定めている。

 予てよりアプローチを続けて居た海洋王国からの貿易船は氷海に苦戦しながらも到着した。
 コンテュール卿は『嘗ての縁』での協力を約束し、同様に豊穣郷も出兵を宣言したという。
 これら事実は新皇帝バルナバスの即位と勅命から始まった混乱は収束し、着実に帝都への包囲網は整えられたという事に他ならない。
 即ちそれは帝都と帝位を鉄帝国の民のもとに奪還しうる最後の戦い『帝都決戦』に到る道である。

 かくて、決戦を望む号砲は轟く。
 南からはザーバ派が切り札たる列車砲『ノイエ・エーラ(新時代)』に加え、ザーバ将軍本人と精鋭部隊も出撃。
 西からは帝政派も、バイル宰相が決戦兵器『グラーフ・アイゼンブルート』を起動させる。
 東からはポラリス・ユニオン(北辰連合)も『月と狩りと獣の女神』ユーディアの加護を得ながら大兵力を出撃させ。
 北からは天空に浮かぶアーカーシュが、海洋や豊穣の援軍を引き連れ、帝都へ進路を取るか――
 地下からは革命派も多くの武器と共に動き出し、ラド・バウも帝都の中で防衛の意思を見せる。
 手に入れたフローズヴィトニルの欠片や、多くの切り札と共にいざや決戦。

 しかし。今だ帝都に座す新皇帝バルナバスは斯様な状況にすら一切の揺らぎを見せない。
 有象無象が幾ら束になろうとも敵ではないと言わんばかりの態度。
 いや、より正確に言うのなら『これに到るを望んでいたかのような不遜さである』。
 向かい風は依然強い。
 各地に訪れるべき春の気配を打ち消すフローズヴィトニルの冬風。
 更には新皇帝の圧倒的な武を信望する者も、尋常ならざる怪物共も後を絶たない。
 昏き因縁に囚われ、全てに復讐を望む梟の影もあり。
 更には頭上で輝く二つの太陽――バルナバスの権能――も大きな影を落としている。
 いやさ、しかし是非も無し。
 為さねば成らぬのならば他に手段はない。
 それが鉄帝国の流儀に則るなれば尚更の事。
 前を阻む全てを退け、眩き春を求める為に――精強なる鉄の民と可能性の獣はこの決戦ばかりを望むのだから!

●それはそれ
「――って訳らしいが、まぁ……余談だなぁ」
 帝都に轟く悲鳴と怒号、或いは歓声と混乱の音色を聞きながら。
 王城のバルコニーから城下を眺める新皇帝――バルナバス・スティージレッドはせせら笑っていた。
 彼の目的が『支配』の類ならば、或いはもう少し間延びした長閑な話になったに違いない。
 だが、『絶滅』ならば話はどうか?
「まぁ、こうなるな。誰でもそうする。俺でもそうする」
 何処ぞの覗き魔に手品を喰らった時からこうなる事は知れていたのだ。
 窮鼠猫を噛むとは言うが、座して死ぬ位ならば特攻の一つも選ぶのが人の常である。
 ましてやそれが血の気を売る程余らせた鉄帝の連中、それにどうあれ諦めが悪すぎる特異運命座標達ならば言うまでも無い。
 かくて六天を競い合った鉄帝国各軍閥は目的を一つにし、帝都スチールグラードの攻略に着手したという訳だ。
 遅まきながらの話ではあるが、それ自体を実はバルナバスは『歓迎』している。
「ま、何事も無くエンディングじゃ……仕事には上等だが欠伸が過ぎらな」
 原罪(イノリ)は嫌な顔をするだろうが、バルナバスは知った事では無い。
 わざわざ鉄帝国くんだりまで遊びに来たのに、お寒いままに仕事で終わるのはぞっとする。
『七罪である以上、このクソったれた世界がぶっ壊れるのは大いに愉快だが、趣味と実益をついでに叶えて誰の文句があろうものか』。
「しかし、まぁ……俺が言えた義理でもねぇが、鉄帝国ってのは愉快な国だな? おい」
 独白めいていたバルナバスはここで漸く背後に控える部下――『黒狻猊』バトゥ・ザッハザークに水を向けていた。
「愉快、と申しますと?」
「この城さ。皮肉にもこの国をどうにかしちまう俺を厳重に守ってやがる。
 まぁ、俺は別にこんなもん必要でもねぇが……『それはそれとしてこりゃあ上出来な戦争装置だ』」
 バルナバスは武人が武器を褒めるような調子で上機嫌に笑う。
 帝都スチールグラードの中心に位置する王城リッテラムは有史以来唯の一度も外敵に破られた事の無い鉄壁の堅城である。
 一般的に成熟した国家の大都市の中心部に居を構える城ならば、前線基地としての意味も効果も薄かろうが……闘争を信望し、戦争を愛する鉄帝国の歴代の皇帝達は王城の機能を『実用』に振り続けた経緯がある。
 高い城壁に二層の堀を有するその防御は周到に地上軍を阻み、城壁に多数備え付けられた対空対地兵器は隙無く無謀な挑戦者の殲滅を狙っているという寸法だ。無論、建物自体の防御力も異様の一言であり、砲火力で制圧するのもそう容易い話ではない。
 究極最強の個としてのバルナバスは城の防御を気にするような男ではないが、『それはそれとして』一級の芸術品には一言がある。
「リッテラムは鉄帝国の誇りなれば。新皇帝陛下にお褒めに預かれば古き英霊も本望足り得ましょうや」
 慇懃無礼にそう言ったバトゥにバルナバスは小さく鼻を鳴らした。
「愉快なのはてめぇも含めてさ。頭おかしいだろ、分かってて乗るか? 普通」
「優先順位の問題ですな」
 揶揄したバルナバスにバトゥはすげなく答えた。
 彼は元々鉄帝国軍部の実力者である。最も早くからバルナバスの志向に完全な理解を示し、頭を垂れた男だ。
 とは言え、彼はバルナバスの呼び声を受けていない。狂気に染まった風でもない。バルナバスの言葉も尤もというものだろう。バトゥはあくまで鉄帝国軍人として、一人の獣種としてその凶行に付き従っているのだ。『新皇帝の目的が全ての破壊にある事を知りながら、リッテラム防衛軍の指揮官として忠勤に励んでいるのだから言われても仕方ない』。
「優先順位だって?」
「『惰弱な者に生きる資格を与えてしまったからこそ、この国は零落し続けている』。
 嘆かわしい限りではありませぬか。我等は誰より強き鉄帝国の民であったのに。
 足を引っ張る者共を慮るがばかりに、幻想程度も踏み潰す事が出来なかった。
 実に、実に、実に不快な話だ。『それはこの私が産まれた時からそうだったのだから』」
 バルナバスはバトゥの静かな怒りに目を細めた。
 成る程、是非は兎も角筋は通っている。バトゥがバルナバスに共感したのはその『憤怒』が為だ。
「それでグレートリセットに期待か」
「左様ですな。新皇帝陛下の施政は私の希望に全く合致している。
『一度全て吹き飛ばせば良いのです。この程度を生き抜けぬ惰弱はこの先の鉄帝国に必要ない』」
「そりゃあてめぇが含まれてもかよ?」
「無論」と答えたバトゥにバルナバスは呵々大笑した。
「……『人間』やらせとくには勿体ねぇな、バトゥ・ザッハザーク。
 てめぇには兵を全部貸してやる。精々囀った以上の仕事をして見せろよ」
「御意に。我等が戦いを御覧じろ」
 頷き退がったバトゥに視線をやる事無く、バルナバスは考える。
(面白ぇ男だ。生き残ったら真面目に部下にでもしてやるか。
 ……『黒い太陽(ブラック・サン)』発動まではもう少し掛かるな?
 俺の敵じゃあねぇが、連中も随分と工夫はして来やがるんだろうよ)
 城下での戦い、そして王城での戦いを展開する『新皇帝派』の不利自体は否めまい。
 最終的に唯のぶつかり合いならば各地の総力を結集する軍閥が押し切る可能性はかなり高い。
 だが、新皇帝派――厳密にはバルナバスは負けまい。
『権能』が降ればこの国は終わる。そうでなくても自身は『七罪最強』だ。誰にも負けない。
「まぁ、いいや――」
 肌をひりつかせる戦いの風を全身に浴びながら、バルナバスは晴れやかだ。
「――かかって来いよ、特異運命座標。兄弟共とは格が違う所を見せてやるからよ?」

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 もうラリー決戦なんてやらないよ、絶対。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・『煉獄篇第三冠憤怒』バルナバス・スティージレッドの撃破
 ・憤怒権能『黒い太陽』の発動阻止

●バルナバス・スティージレッド
『煉獄篇第三冠憤怒』。七罪と称されるオリジンの大魔種の一角です。
 七罪の常で純種である幻想種に似た姿をしていますが、筋骨隆々の大男で幻想種のイメージから最も遠いタイプです。
 前皇帝ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズとの帝位戦に挑戦し、皇帝位を奪取。
 新皇帝として鉄帝国に統治とも呼べない苛烈な統治を敷きましたが、その目的は全土から『憤怒』を集める事でした。バルナバスの冠位権能は『黒い太陽』。人々の怒りや憎悪を集める事で至上の破壊力を生む最悪の大技であり、それは『鉄帝国そのものを滅ぼし尽くす程のもの』と思われます。(如月=紅牙=咲耶(p3p006128)さんが『過去演算装置ヴェルザンディ』の主機能により、そういった情報を覗き見ています)
 王城リッテラムの玉座の間で『その時』を待っていますが、その前に挑戦者に来て欲しい所もありそう。
 戦闘能力を言うなら『最強』です。命中回避は最強(そこまででもない)位ですが、パワーとタフネスは特に悪夢です。
 非固定値系のBS(割合ダメージ)は一定値までに軽減されます。又、一定確率で行動阻害効果をレジストします。
 せめてもの救いは権能が(現状の情報では)大量破壊にある程度特化している為、他大魔種のような個人戦影響が比較的少ない事が挙げられるでしょう。

●黒い太陽(ブラック・サン)
 憤怒権能。毎度お馴染み黒い太陽。嫌気玉。
 チャージ中ですが、これがMAXになると鉄帝国は滅亡の憂き目に遭うでしょう。

●『黒狻猊』バトゥ・ザッハザーク
 五十前後の獣種の将軍。反転しておらず、狂気も受けていません。
 彼の思想がヤバいのは持ち前のもので、バルナバスと『気が合う』ようです。
 当人の戦闘能力もさる事ながら、指揮能力がかなり高く覚悟ガンギマリなので厄介です。
 バルナバスから(魔種連中を捨て置いて)王城リッテラムの守将に任命されました。

●王城リッテラム
 二重の深い大堀、高い城壁、無数とも言える対空対地兵器を備える要害。
 曰く『成熟国家の儀礼的な王城にあるまじき、本当の戦争芸術』。
 城攻めには守り手の三倍の戦力が要る、とまことしやかに言われますが防衛力は強固です。
 プロの軍人であり、思想に問題がある以外は実に有能な『黒狻猊』バトゥ・ザッハザークが守将である為、進軍は難関を極めます。全軍で玉座の間に到達する事はほぼ不可能だと思われるので、必然的に少数精鋭を送り込み、バルナバスを討つというプランが想定されるでしょう。

●リッテラム防衛隊
 新皇帝派の諸兵、諸将、魔種、天衝種等の複合部隊です。
 敵の数は多く、精強であり、その数や詳細は限定的な情報しかありません。
 重要なのはこのシナリオの下限レベルが『80』という事です。

●友軍
 本シナリオにはPC以外の友軍が存在します。
 現時点で参戦済み、或いはPCサイドに伝わっているものは以下です。

・帝政派(グラーフ・アイゼンブルート)
 進軍中。本シナリオ一章時点ではまだ王城まで到達していません。
 壱花GMのシナリオをご確認下さい。かのシナリオ次第でバイタルが変わったり不測の事態が起きるかも知れません。

・ザーバ派(南部戦線精鋭隊)
 朗報です。かの『塊鬼将』ザーバ本人が率いる精鋭部隊が本攻略に参加します。
 南部戦線は最戦前である為、鉄帝国でも屈指の実戦部隊となっています。
 ザーバ・ザンザが戦場に健在である限り、PC、NPCを含めた全ての味方は防御面にプラスの補正を受ける事が出来ます。

 スチールグラード全体が戦場になっている為、戦いの規模は非常に大きいです。
 しかしながら、王城の早期攻略に入れる友軍は全体で精鋭を中心に数百程度の規模です。
 敵側も各地で戦いを進めていますが、王城は本拠地である為、兵力自体は敵の方が多いものと推測されています。

●備考
 本シナリオの情報はゲームの進展と共にガンガン更新されます。
 又、他シナリオの結果や判定により状況に変化を及ぼし得ます。予めご了承下さいませ。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

 もうラリー決戦なんてやらないよ、絶対にだ(二回目)
 このシナリオの背景は折角なのでレッドさんご提供のものを使いました。
 太陽は一つですが角度の見え方の問題です。
 以上、宜しくご参加下さいませ。


特殊兵装
本作戦に参加するPCは以下の特殊兵装を借り受ける事が可能です。
何やかんや鉄帝国は古代文明(オーパーツ)の宝庫です。
戦いのスタイルに応じてお好きなものを選択し、作戦を有利に進めましょう。尚、プレイング投稿毎に選び直せますが、それはなんやかんや上手く補給を受けたという扱いになります(特に触れません)
選択毎に機能は停止していても復活します。

【1】強化外格『カイザーストーム』
攻撃力(両面)を大幅に強化するパーツです。
攻撃回数に応じて効力が減少していきます。(10発撃つとゼロになります)

【2】対撃装甲『ローゼンキルト』
HPと防技値を増強する追加装甲です。
一定以上のダメージを受けると防技値増加効果は消失します。

【3】疾空踏破『ブリッツクリーク』
機動力を大幅に強化し、飛行性能を付与(或いは強化)するユニットです。
ダメージを受けるか10ターン経過すると機能を停止します。

【4】熱式義体『オメガシステム』
少量の能率を獲得し、充填を得るシステムです。
保有する自身のAPが20%を下回ると以降は機能停止します。

【5】無し
男(女性でも)はそういうのに頼らないんで使わない!
その心意気が集中力を増す為、クリティカルが少しだけ増えます。


攻勢判断
攻撃作戦の参加個所を決定します。
尚、攻撃作戦の支援としてNPC(モブ)等が砲火力支援を行う前提があります。(その辺の統率をしてもいいです)
自分の行動に概ね近しいものを選択し、プレイングをかけて下さい。
チーム等で連携する場合は、プレイングの一行目にタグ(【】)をつけるかキャラIDを記載して下さい。
ラリー決戦タイプですので、シナリオの進展と共に『対バルナバス』、『グラーフ・アイゼンブルート』等が追加される場合があります。

【1】正面攻撃
王城リッテラムの正面側から攻勢を仕掛けます。
当然ながら敵側は最も分厚い防御を備えていますが、正面攻撃が不十分だとそれ以外の選択肢の効果が激減します。最低限、正面に戦力を引き付ける事は攻略の絶対条件です。
ザーバ隊は正面攻撃に参加します。

【2】側面攻撃
正面攻撃に比して時間差をつける等、小細工を含め側面からの攻撃を試みます。
王城リッテラムは全方位に絶大な防御力を備えていますが、守兵は人間です。
正面と連携し、効果的な多方位攻撃を仕掛ける事で戦況を優位に変えましょう。

【3】特殊遊撃
比較的少数で敵側を攪乱する特殊な奇襲を仕掛けます。
『奇襲の内容なりに具体性が伴い、尚且つ有効であると判断された時、効果を発揮します』。
玄人向きの選択肢ですが、戦争のアクセントに一つまみ入れられれば僥倖でしょう。

【4】グラーフ・アイゼンブルート
彼方より現れた帝政派の空中戦艦を支援します。
彼等は戦艦であり空母である為、砲撃と航空戦力で戦いを強烈に支援してくれますが、『黒い太陽』が変化したのが問題です。
黒い太陽の産み出した無数の『亜魔種』の大攻勢を受けます。
事前の戦いにより魔種『焔心』により襲撃を受けているのも気がかりです。
飛行能力を駆使してグラーフ・アイゼンブルートに到り、旗艦を守りましょう!

【5】バルナバス
玉座の間に到り、バルナバス・スティージレッドと対決します。
様々な情報が不足していますが、自称『七罪最強』の彼は生半可な相手にはならないでしょう。
ヴェルス、キールはこの場所に登場します。
しかしながらメタ的に言えば皆さんの活躍が無ければ彼等は絶対に勝てません。
最精鋭を送り込み、勝利への細い道筋を掴み取りましょう!

  • <鉄と血と>Rising Black SunLv:80以上、名声:鉄帝50以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別ラリー
  • 難易度NIGHTMARE
  • 冒険終了日時2023年03月30日 20時30分
  • 章数4章
  • 総採用数401人
  • 参加費50RC

第4章

第4章 第1節

●終焉の時 I
「おいおい、マジかよ……」
 空に近ければ感じる圧迫感は何より大きい。
「冗談にもなってねえぜ……?」
「こ、これは大変な事になりましたの……!」
 思わず茫洋と呟いたサンディ・カルタ(p3p000438)にノリア・ソーリア(p3p000062)が蒼褪めた顔を見せていた。
 空の戦いを展開していた彼等は誰よりも先に『異変』を察知していた。
 黒い太陽がその質量を爆増させたのだ。
 それだけばかりか――重く静かに動き出し、地上目掛けて降下を開始したのだ!
「あんなものが堕ちたら……」
「……最悪ですね。少なくとも下は――誰も生き残れない」
 アルテミア・フィルティス(p3p001981)に応じたシフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の言葉の言外には「バルナバス以外は」が含まれている。
「そんなこと……ッ……!」
 アルテミアは思わず唇を噛むが、状況は最悪だった。
 最善を尽くし、死力を振り絞った戦いとて、バルナバスを止めるには至らなかったという事だろう。
 戦いの中、憎悪を怒りを喰らい続けた『権能』は凍れる大地の全てを溶かす審判そのものだ。
 それは昏き七罪の意思のままに生命を貪り喰らい、大地を焼き尽くす決定だった。
 それを阻む人智は無く、見上げた誰もが終わりを確信する以外の術を持たなかった筈だった――

 ――だが。

 重苦しいムードを振り払ったのは拡声器でがなり立てた『提督(バイル)』の声だった。

 ――特異運命座標、聞こえるか? この艦はもう『無理』じゃ!
   これまで良く戦ってくれた事に心より感謝する。
   これより当艦はあのデカブツめに質量を武器とした吶喊攻撃を敢行する!
   お主等は急ぎ離れ、避難するも――クソ皇帝をしばき上げるも己の為したい事を為すがいい!

「体当たりで止める気……?」
「……みたい、だね」
 アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の呟きにヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が頷いた。
 成る程、超巨体のグラーフ・アイゼンブルートは質量兵器である。
 その上、バルナバスJr他、多数の亜魔種の猛攻を受けてきた船体は最早死に体に近い状況だ。

 ――総員、聞いたな?
   わしは艦と運命を共にする! 貴様等は――

 バイルの『最期の命令』に誰もが息を呑む。

 ――退避しろ、等と言う訳が無かろうが!
   わし一人でこんなもん動かせるか!? 貴様等も全員艦と運命を共にせよ!

 ――宰相閣下、最高!

 ――その御命令を待ってました!

 ――任せて下さい。ブチ当てて見せますからね!!!

 全会一致、『最高の命令』にブリッジからは拍手喝采が伝わってきた。
「心の底から鉄帝国じゃねーか……」
「……すっごい男の子な結論なのよねぇ」
 アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が呟く一方、ガイアドニス(p3p010327)は思わず納得せざるを得なかった。
 頭鉄帝、それは時に最高の誉め言葉! 彼等は未だこの戦いを諦めてはいないらしい!

●終焉の時 II
「おお……勝ったぞ!」
 バトゥはその輝きに歓喜し、ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は「ジーザス!」とばかりに天を仰いだ。
「困りましたね」
「困るで済めばいいんですけど……!」
 只野・黒子(p3p008597)の言葉に長月・イナリ(p3p008096)が思わず声を上げ、
「さて、どうする詰みか?」
「Nyahahahaha!!!」
「馬鹿野郎――」
「――試合はここからっスよ!」
 試すようにそう言ったカイト(p3p007128)の言葉をグドルフ・ボイデル(p3p000694)と日向 葵(p3p000366)が笑い飛ばした。
 最悪の状況、間近に迫る終焉に向かうのは人だけでは無かった。
 敵にこれ程までに理不尽な権能があると言うのなら、可能性の獣が積み重ねた時は奇跡めいた運命を紡ぐ事もあるだろう。
「これは……」
 思わず息を呑んだリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はその輝きに目を奪われていた。
「……こんな事が」
「あったのね……」
 ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)もレイリー=シュタイン(p3p007270)また同様だった。
 各戦場で活躍を見せるイレギュラーズの内、『フローズドヴィトニル』の欠片を有する彼等はこの瞬間、文字通りの奇跡を目の当たりにする事になる。

 ――コオオオオオオオオオ――

 鳴り響くのは絶対の凍気を司る遠吠え。
 しかしながらそれを発したのは氷の悪狼……ではなく随分と可愛らしい『氷の子犬』のようなものだった。
 エリス・マスカレイドが制御する魔狼(フローズドヴィトニル)はこの分水嶺で権能にも近しいその異能の一角だけを最悪の事態に向かわせる事に成功したのだ。吹き付けた吹雪が落下してくる太陽を押さえつける。僅かにそれが遅くなり、抵抗は時間を産み出した。
 だが、止まっては、いない――

 ――何じゃ、そろそろ儂の出番かの。
   言うとくが長くは持たぬぞ。兄ちゃん、姉ちゃん、はよ何とかせえ。

「……あら、責任重大になったわね?」
 手にした『槍』を一撫でしたゼファー(p3p007625)が笑った。
 戦場全体に響いたその声は戦場ならぬラド・バウのど真ん中でこの時を予期していたかのような大精霊(ミシュコアトル)のものであった。
 バラミタ鉱山の地下からやって来た『怠け者』は炎の結界を巻き、氷狼の食い止めんとする黒い太陽に二重の守りを展開したのである!
 ジリジリと進む黒い太陽を阻まんとするのはバイルと同じように人も同じであった。
 可能性の獣、特異運命座標のみに任せるでは余りに鉄帝国流ではない。
「出力100% 臨界点突破 出力120%、140、160、200! ……250!」
 融解が始まりました! 砲身崩壊まであと7秒!」
 鉄帝国の切り札たる『新時代』の内部は蜂の巣を突いたような大騒ぎであった。
「287%、限界だ。撃てーーーっ!」
 彼等の砲撃先は黒い太陽の中心だ。
 不可能であるかではない。為すか為さぬか。
 少しでもダメージを与え、その威力を軽減する――守りに対しての援護を加える。
「ダメージの算出を急げ!」
「――およそ、4%です……!
 太陽の膨張……依然として止まりません!?」
「次弾装填!」
「ですから、もう無理です。ぶっ壊れます! いやもうぶっ壊れてますってば!?」
「いいから、撃て――ッ!」
 一致した想いが『焼き切れるまで』の限界稼働を求めている!

●終焉の時 III
「……本当にテメェ等諦めが悪いんだな?」
 目を丸くしたバルナバスは思わず彼らしくも無い苦笑を見せていた。
 動き始めた黒い太陽を死力を尽くした全ての抵抗が辛うじて食い止めている。
 即座に思われた破滅の時は、もう幾分かばかりの猶予をこの戦いに与えていた。
「言っておいてやるが――時間稼ぎにしかならねぇぞ。
 俺は『権能』は不得手だが、ぶっ壊す威力だけは誰にも負けねえ自負がある。
 どれだけ邪魔をした所で『黒い太陽(ブラックサン)』は止まらねえ。
 原罪(イノリ)でも、ルストの野郎でも無理だ。せめて神代種(ガラクシアス)でも持って来ない限り絶対に、な」
 バルナバスは断言するも、その声色は先程のような軽侮が薄い。
「テメェ等に敬意を表してやる――」
 赤いオーラの量を増したバルナバスが姿を変える。
 黒い髪を逆立てて、猛然たる戦闘の為の形態を取っている。
 それは羽虫を潰すかのようだった先程とはまるで違う、競い合う好敵手を見つけた喜びにさえ満ちていた。
「――さあ、時間切れまでやり合おうぜ。
 安心しろよ、特異運命座標。テメェ等は俺を殺せる。
 だが、俺はその百倍はテメェ等を殺しやすい――分かって、とっとと。
 何度でも、全力全開でかかってこい!」



 YAMIDEITEIです。
 うわああああ、やっと最終章だあああああ><。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・『煉獄篇第三冠憤怒』バルナバス・スティージレッドの撃破

※憤怒権能『黒い太陽』が落下するより前に達成する必要があり、これが地上に落下した場合失敗となります。
 
●バルナバス・スティージレッド
『煉獄篇第三冠憤怒』。七罪と称されるオリジンの大魔種の一角です。
 七罪の常で純種である幻想種に似た姿をしていますが、筋骨隆々の大男で幻想種のイメージから最も遠いタイプです。
 前皇帝ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズとの帝位戦に挑戦し、皇帝位を奪取。
 新皇帝として鉄帝国に統治とも呼べない苛烈な統治を敷きましたが、その目的は全土から『憤怒』を集める事でした。バルナバスの冠位権能は『黒い太陽』。人々の怒りや憎悪を集める事で至上の破壊力を生む最悪の大技であり、それは『鉄帝国そのものを滅ぼし尽くす程のもの』と思われます。(如月=紅牙=咲耶(p3p006128)さんが『過去演算装置ヴェルザンディ』の主機能により、そういった情報を覗き見ています)
 王城リッテラムの玉座の間で『その時』を待っていますが、その前に挑戦者に来て欲しい所もありそう。
 戦闘能力を言うなら『最強』です。命中回避は最強(そこまででもない)位ですが、パワーとタフネスは特に悪夢です。
 非固定値系のBS(割合ダメージ)は一定値までに軽減されます。又、一定確率で行動阻害効果をレジストします。
 せめてもの救いは権能が(現状の情報では)大量破壊にある程度特化している為、他大魔種のような個人戦影響が比較的少ない事が挙げられるでしょう。

→赤いオーラを纏い、本気になりました。やべえ位強いです。
 但し、元からですが余り防御意識が高くない為、実は攻撃自体はそれなりに効いているようではあります。

●黒い太陽(ブラック・サン)
 憤怒権能。毎度お馴染み黒い太陽。嫌気玉。
 チャージ中ですが、これがMAXになると鉄帝国は滅亡の憂き目に遭うでしょう。

→落下開始。フローズドヴィトニルの吹雪とミシュコアトルの炎の結界で時間を稼いでいる状態です。
 又、『新時代』の砲撃で多少勢いが落ちていますが、代償にあちらもぶっ壊れています。
 これよりグラーフ・アイゼンブルートも特攻を行う模様。

●『黒狻猊』バトゥ・ザッハザーク
 五十前後の獣種の将軍。反転しておらず、狂気も受けていません。
 彼の思想がヤバいのは持ち前のもので、バルナバスと『気が合う』ようです。
 当人の戦闘能力もさる事ながら、指揮能力がかなり高く覚悟ガンギマリなので厄介です。
 バルナバスから(魔種連中を捨て置いて)王城リッテラムの守将に任命されました。

●魔種(3/11追加)
 ナルキスという優男を事実上のリーダーとする武闘派連中。
 数は「十に足りないがよー知らん」位だそうで、リッテラム内部に遊撃的に存在します。
 この連中は『バルナバス麾下を気取る酔狂』であり、戦闘力が『極めて高い』です。
 特にナルキスについては相当ヤバめの敵なので注意が必要です。

→ナルキスとはシラス、ソア、貴道さんが戦闘中です。
 お三方はシナリオに参加する場合、【特殊遊撃】でナルキスとの戦闘を強いられます。
 ……が、代わりになる援軍が来ればナルキスをスキップする事も可能です。
 スキップする場合、それが成功するかどうかは自他のプレイングの掛かり方によります。
 勿論、後顧の憂いを絶つ為にも先に彼を倒しても構いません。

※その他魔種達との遭遇戦も同じです。
 そういう意味でより多くの浸透戦力による戦力を向けなければ前章【特殊遊撃】選択者は進軍が難しい状態です。

→【杪冬】は突破。自由です。
 それ以外の遭遇組は前章と同じルールです。

●王城リッテラム
 二重の深い大堀、高い城壁、無数とも言える対空対地兵器を備える要害。
 曰く『成熟国家の儀礼的な王城にあるまじき、本当の戦争芸術』。
 城攻めには守り手の三倍の戦力が要る、とまことしやかに言われますが防衛力は強固です。
 プロの軍人であり、思想に問題がある以外は実に有能な『黒狻猊』バトゥ・ザッハザークが守将である為、進軍は難関を極めます。全軍で玉座の間に到達する事はほぼ不可能だと思われるので、必然的に少数精鋭を送り込み、バルナバスを討つというプランが想定されるでしょう。

 →外堀を超え第一門を突破。
  内堀と第二門を残しますが、前線にバトゥが出現した事から指揮精度が向上しています。
  また使い捨ての天衝種を兵力に優秀な鉄帝国軍人が防備に当たるので連携や実戦的な殺傷力が圧倒的に向上しています。

 →内壁での戦いが進行中。
  状況は一進一退ですが戦力が抜けた分、やや押されています。
  正面戦闘が敗北した場合、シナリオ成功は絶望的になるので引き続き強力な抑えが必要です。

 →正面戦闘はいよいよ不利です。騎兵隊が特攻を見せましたが、防衛は決壊寸前。
  兎に角何とか耐え抜き、跳ね返す必要があります。対バルナバスと同等に非常に厳しい戦況と言えます。

●リッテラム防衛隊
 新皇帝派の諸兵、諸将、魔種、天衝種等の複合部隊です。
 敵の数は多く、精強であり、その数や詳細は限定的な情報しかありません。
 重要なのはこのシナリオの下限レベルが『80』という事です。

●友軍
 本シナリオにはPC以外の友軍が存在します。
 現時点で参戦済み、或いはPCサイドに伝わっているものは以下です。

・帝政派(グラーフ・アイゼンブルート)
 進軍中。本シナリオ一章時点ではまだ王城まで到達していません。
 壱花GMのシナリオをご確認下さい。かのシナリオ次第でバイタルが変わったり不測の事態が起きるかも知れません。

 →壱花GMのシナリオによりバイタルが変化している可能性があります。
 本シナリオから参戦し、砲撃と空戦による攻撃支援を加え始めます。

 →特攻します。イレギュラーズには避難指示が出ていますが……

・ザーバ派(南部戦線精鋭隊)
 朗報です。かの『塊鬼将』ザーバ本人が率いる精鋭部隊が本攻略に参加します。
 南部戦線は最戦前である為、鉄帝国でも屈指の実戦部隊となっています。
 ザーバ・ザンザが戦場に健在である限り、PC、NPCを含めた全ての味方は防御面にプラスの補正を受ける事が出来ます。

 →ザーバ自身が皆さんの盾になるように最前線に立っています。
  配下精鋭部隊もかなり消耗しており、皆さんと同様に厳しい状況です。

・ヴェルス&キール(3/11追加)
 前皇帝と手品師の組み合わせ。『特記戦力』です。
 特殊遊撃(城内浸透)に登場しますが、【正面攻撃】参加の人は関与できます。
 またそれ以外でも目撃自体は可能ですのでプレイングかけたければかけてOKです。

 →チーム【鉄腕】withアリシスと合流しました。
 本章においては選択肢【バルナバス】に登場します。

 →バルナバスと対戦中。キールは援護をしてくれます。ヴェルスは回避タンク兼アタッカーです。使い倒しましょう。

 スチールグラード全体が戦場になっている為、戦いの規模は非常に大きいです。
 しかしながら、王城の早期攻略に入れる友軍は全体で精鋭を中心に数百程度の規模です。
 敵側も各地で戦いを進めていますが、王城は本拠地である為、兵力自体は敵の方が多いものと推測されています。

●選択肢について(3/11追加)
 以下のように内容が補足されます。

・正面攻撃
 バトゥ率いる敵主力部隊と戦闘し、城門の突破を図っていましたが……
 本章において重要なのは耐え抜く事です。
 勿論、方法は何でも構いません。バトゥを討つ事も重要な手段の一つでしょう。
 ただ、非常に厳しい戦況です。

・側面攻撃
 正面が圧力に綻び始めている為、本章では正面攻撃に合流する事が望まれます。

・特殊遊撃
 本章では引き続き『城内浸透兵力』となります。
 前章五節のリプレイにおける魔種戦力を何とか抑える役割です。
 ここの数が足りない場合、選択肢【バルナバス】を選択しても足止めを喰らった扱いになります。
 前章までのリプレイにおいて魔種戦力に遭遇したPCは特に後詰めの追加戦力が無い限り先へ進む事は困難です。
 というか、魔種を自由にさせると非常にまずいので倒しましょう。

・グラーフ・アイゼンブルート
 旗艦たる空中戦艦は遂に特攻の覚悟を決めました。
 イレギュラーズには避難要請が出ていますが……

・バルナバス
 勝ちたいならば、倒して下さい。次のターンはありません。

●備考
 本シナリオの情報はゲームの進展と共にガンガン更新されます。
 又、他シナリオの結果や判定により状況に変化を及ぼし得ます。予めご了承下さいませ。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。


 ひ、瀕死……
 以上、宜しくご参加下さいませ。


第4章 第2節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢
一条 夢心地(p3p008344)
殿
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

●冠位憤怒 I
 その罪は人間の業である。
 生きとし生けるものが、極めて高度で自由な意思を持つ人間が。
 他の動物に非ず、理性で本能を塗り固める事に成功した人間がそれでも本質的に切り離せない生物としての性である。
 本質的罪に冠位を背負う――たった七体の産まれながらの魔種はそんな人間ではない。しかしながら『誰よりも人間から遠く、誰よりも人間らしい原罪』の子、『七罪』と称される存在は常に彼の一側面を映す鏡であった筈だ。

 ――産まれた時から戦う事が好きだった。

 バルナバス・スティージレッドがそういう性質を持っていたのは特段おかしな事では無かったに違いない。
『憤怒』とはしばしば激しい闘争を伴うもので、彼は他の七罪よりも自身の属性に真っ直ぐだったから。
 彼は本能的に常に最高の戦いを求めていた。敵を欲していた。友愛よりも、平穏よりも。
 我が身を焼き尽くすような滾る闘争ばかりを求めていた筈だ。

 ――産まれた時から『最強』だった。

 彼は意識を有した時点で大抵の何よりも強かった。
 文字通り『そういう風に産まれついたから』としか言えまい。
 何かの努力をした訳ではなく、何かの技術を追い求めた訳でもない。
 天与のギフトのように彼は最初から『強かった』。
 兄妹達よりも強かった。もしかしたら、父親よりも強かった。そういう風に出来ていた。
『否、仮にそうでなかったとしても彼がその気になって鍛錬をしたならば、簡単に抜き去る事は目に見えていた』。

 ――産まれた時から怒りばかりに満ちていた。

 怒りが突き抜ければ却って静かになるもので、頭の中から余計な雑念は消えていた。
 彼は短くも無く退屈ばかりの日々の中で良く物事を考えた。
 腹の底に溜まり続けるマグマのような憤怒は一体何処からやって来たものなのかと。
 ……長く、短く、やはり長く。
 そうして考えて、考えて、考えて、また考えて。
 何時しか答えに思い当たったのを思い出す。
(そうさ、要するに俺は――)

 ――『何の理由も無く最強』だから腹が立って仕方ないのだと。

 何の事は無い。単純な話だ。
 産まれてこの方、一度たりとも収まる事のない『怒り』の正体は自身をこういう風に作り出した世界と。
 自身を絶対的に絶望させる、貧弱極まりない他者全てを呪うものに違いなかった。
 彼はフィジカル的に正しい戦いを望んでいた。自身の命さえも脅かす強烈な意志と力を望んでいた。
 そんなものは『無い』。否、少なくとも『無かった』。
(牢屋か? これは)
 バルナバスは、この世界は自分の望むものをくれないという事に誰よりも早く気付いてしまっただけだった。

 ――つまらねぇ。



●極戦 I
「ババンババンバンバルナバス!」
『緩い』調子とは裏腹に夢心地の熱き想いが迸る。
「エンディングの時間が迫って来たのじゃ。
 ケツカッチンでこれ以上押すことはできぬ。
 バルナバス・スティージレッドにはもう退場願わねばならんからの――」
 これが最後の分水嶺である事は誰の目にも明らかだ。
 今日、この時。多くの人間が力を尽くし、繋ぎに繋いだ――然して長くもない時間の価値を知らない者はここには居ない。
 無数の犠牲と、夥しい血が舗装したこの勝利の為の道筋を行けぬ人間はここには居ない!
「あまりにも強い力の塊……もちろん怖いよ、でもね。
 ここで勝たないと色々な物が終わっちゃうんだ……だからやるよ。『やるしかない』から――」
 燦然と華やかに目立つ夢心地の一方で、後詰めとして参戦したЯ・E・Dは彼の存在感を『上手く活かした』。
 威力に特化した魔神の砲光は防御の姿勢を取ったバルナバスを光の中に飲み込み、赤味を帯びたその体に容赦のない熱を叩きつけている。
「……本当の時間切れにはまだ少し猶予があるな?」
「うむ」
 イズマの言葉に咲耶が小さく頷いた。
「ならば、バイルさんの分も仲間の分も――コイツを殴り返さねば終われない!」
「例えこの身が無事ですまぬとしても今この時を生き延びなければ明日は無い!」
 どうあれ鉄火場でも『彼らしさ』を失わない夢心地の。
 不可能を『やるしかない』で振り払ったЯ・E・Dの。
『時計(のこりじかん)』を見ず前を見て魔光を撃つイズマの、朗々と言い切った咲耶の戦いは、まるで『風車』に挑む騎士のそれを思わせた。

 ――勝てる筈は無いのだ。或いは勝つ意味さえ失われているやも知れない。

 だが、どれだけ滑稽であろうとも、どれだけ追い込まれていようとも。
 幾度と無く繰り返される嘲笑は、一体誰に意味を持つだろう。
 この戦いは誰が為のものであると言えるだろうか?
 最後の瞬間まで諦めないと言うのなら。成る程、話はまるで終わっていないのだろう――
「ここまで一気に駆けてきたのもこの時の為――」
 覚悟は決めた。とうの昔に決まっていた。
「――いざ、今こそ! やるべき事を為す時でござる!」
 終焉なるレーヴァテインが炎を巻き、意志なる刃を研ぎ澄ませた咲耶の背を強く押した。
「バルナバス・スティージレッド。今一度、いやさ何度でも! お主に窮鼠の一撃をくれてやる!」
 ぐん、と強く押した咲耶の刃をバルナバスの膂力が振り払う。
 威力も危険をも倍に増した一撃は無敵の肉体を傷付け、同時に彼女の意識を一撃で吹き飛ばしていた。
「ああ、ああ。いいねェ――そうこなくちゃあなあ!」
 轟と上がったバルナバスの咆哮が、彼を囲み攻め立てんとしたイレギュラーズの動きを止める。
 物理的な威力さえ伴った衝撃波は牽制ながらに、それ自体が並の戦士ならば打ち倒すだけの威力を持っている。
「イレギュラーズよ、分かるか? このクソったれた戦いの意味が!」
「分かるよ」
 姿勢を低く、床を連続で蹴る。
 咆哮の圧を切り裂くように黒い影(クロバ)が躍り出す。
「ああ、一応。初めましてにはなるが――『多分』俺もアンタもそう変わらないんだ。
 最強を誇るアンタと、その最強すら『倒せる』と思う俺。どっちも似たような『傲慢』で――
 ――結果だけで判断すればいいんだよ。戦いなんて――大抵、そんなもんだろう!?」
 爆発的な威力と連続性は死神を気取る彼の代名詞の一つでもある。
 至上とも言える堅牢性に敏捷を備えたバルナバスの究極のフィジカルを攻め立てるにこれ以上のものも少なかろう。
(――チ、だが簡単じゃねえな……!)
 それが嫌になる程のタフネスをも備えている事は明白で、クロバは内心で舌を打ったが気取らせるような真似はしない。
 反撃に出たバルナバスにクロバが息を呑む。攻め一辺倒(フルアタッカー)の彼はこの怪物を受けられるような作りはしていないのだが――
「他ならない『黒い太陽』を砕く機会なんて、逃せるはずがないな!」
 割って入るようにした錬が至近距離、横合いからバルナバスの巨体に極撃をねじ込んだ。
「最後まで付き合って貰うぜ! 権能に『おかしな名前』をつけた不運を嘆く事だな!」
 式符より出でて、五行相克の循環を象る斧撃は彼が虚空より鍛造した渾身の一打である。
 命中精度は高くは無いが、この乱戦ならばいよいよ『刺さる』――
 イレギュラーズとバルナバスの最後の戦いは加速的に熾烈さを増し続けていた。
 明らかにタイムリミットの迫ったこの局面でイレギュラーズは持ち得る精鋭戦力の多くをこの玉座の間へと振り向けている。
 支えるに限界を迎えつつある城門の戦いも含め、戦争が何らかの決着を急いでいるのは最早火を見るよりも明らかだ。
 遠からず、どちらかの結論が出るのは明らかだったのだ。
 つまり、それは――鉄帝国が死ぬか、バルナバスが死ぬかである
「ねぇ、マリィ」
 猛烈な打撃に吹き飛ばされたヴァレーリヤが膝さえ折らず、傍らのマリアに声を掛けた。
「私、最っ高に頭の良い作戦を思い付きましたの。
 一発でも当たったら倒されてしまうのであれば、その前に百発殴ってボコボコにしてしまえば良いのでございますわ!
 時間短縮にもなるし、これが一石二鳥というものでしょう?」
 真っ直ぐに前を見たままのヴァレーリヤは傷付き、疲れている。
 しかし嘯く彼女の目に宿る闘志は恐らく当初から僅かばかりも衰えていない。
「そうだね、ヴァリューシャ」
 僅かに口元を綻ばせたマリアは想う。
『だから、大好きなのだ。いや、そうじゃなくても大好きなのだけれど』。
「隠し玉、どうせ取ってあるんでしょう?」
「まあね!」
 ヴァレーリヤの悪戯気な顔にマリアが得意顔をした。
「私が前座を務めてあげるから、ケチケチせずに有り難くぶっ放しなさいな。行きますわよ!」
「何時だって君は――最高に天才だよ! ふふ! 私の切り札、しっかり見ててね!」
 少なくともマリアはヴァレーリヤが信じる限り如何なる道をも諦める事は無い。
 盾であり、矛であり、絶対の味方であり、運命の守護者である――
「――不完全でも、雷装深紅、その極天を見せてやる!」
 鉄帝国の名誉と誇りを胸にヴァレーリヤが、赤雷の如く間合いを灼くマリアが仕掛ける。
 両者共に切り札を切り、威力を、或いは手数を劇的に増した猛攻はこれまでの連続攻撃に幾分か辟易したバルナバスを更に苛烈に攻め立てた。
「どっせえーーい!!!」
 聖職を自称するにしては余りにも無遠慮な暴力(メイス)が唸りを上げ、
「――もう一発、喰らって行きなさい!」
 力づくで捻じ曲げられた軌道がもう一度閃いてバルナバスの肉体へと突き刺さる。
「面白ぇ女だなぁ? ええ!?」
(速く! 長く! リソースを削ってみせる! バルナバスのあの破壊力を『削ぎ落とす』!)
 ヴァレーリヤに気を取られたバルナバスを阻止するように。マリアの攻勢は実に瞬間、七発までも閃いた。
 バルナバスの肉体を物理的に脅かすには余りに貧弱な赤華だが、その雷撃が狙うは彼の持つ『武器』の方である。
「皇帝は退位してもらう! 君はその器じゃない!」
 戦いは続く。
「おら、よ!」
 バルナバスの一撃が目の前のセレマを『木っ端微塵』に変えていた。
「ああ、もう。面倒くせえ野郎だな!」
 常人ならば確実に死んでいるシーンだが、「フン」と鼻を鳴らしたセレマは『足』を拾った百合子に言う。
「今すぐボクの脚拾ってくっつけろ!」
「繋げてやるから早く立て。吾の足は何処からでも間に合わせられるがお前が立たなきゃ走れぬからな」
「……妹(ベアトリーチェ)を思い出す、そりゃあ見事な『不死性』だが……
 この俺に割れた手品が何度も通じるたあ、思うなよ?」
「……だ、そうだ」
 肩を竦めたセレマは百合子を庇ってここまで来た。
 乱戦に確実な個別対応を強いるセレマという盾は暴風のように吹き荒ぶ百合子と実に相性が良くここまで来た。
「だが、まだやれるなら吾の、お前の望みは叶えられよう」
「……分がいい話にはならないぜ?」
「『傾国』は美少女が得手の一つ故。大舞台に煌々と在り。一厘一毛の先、この太陽も払うも一興というものよ!」
 太陽が堕ちるか、バルナバスが堕ちるかのスピード・レースは明らかにイレギュラーズに不利な賭けに違いなかったが、少なくともこの期に及んでも最前線から退かない彼等はこれを不可能だと思っていないのだろう。
「しつけぇガキだな?」
「子供じゃあないのよ! 子供じゃ!!!」
 喰らい付き振り払われたエルスは消耗しているが強い対抗心を捨てていない。
「ふふ、それに――線の細い弱い女だとか思った?
 期待はずれでごめんなさいね、私は頭で考えるのが苦手なのよ」
 戦いも恋も『本能』寄りという事か――
「特異運命座標としての建前はあるけれど正直、強い方と戦う事はアドレナリンが高まるタイプの女なのよねぇ?」
 惚けた調子でそう言うエルスの闘志は深手にさえまるで頓着していない!
 戦いは続く。今度ばかりは、決まるまで終わらない。
「待たせたな、バルナバス!」
 新手としてまた一人――今度は朋子が現れた。
「……」
「……うん?」
「本当に長く『待ったよ』。嫌気が差す程にな――」
「???」
 奇妙な視線と言葉を向けてきたバルナバスに朋子は思わず首を傾げた。
「……えっと、アンタはきっとあたしを覚えてないだろうけど……覚えてないよな? どうせ……?」
「覚えてねえよ。今んとこはな」
「言いやがった! ハッキリと!
 じゃあ、覚えてけ! 本気になったあたしは殴っても殴られてもメチャクチャ痛いからな!!!」
 腕をぶす朋子は色々考える事を辞め、至極真っ直ぐにバルナバス目掛けて駆けていく。
「――さぁ! 喧嘩しようぜ!!!」
「足掻きやがる。勝てるなんて、本当に信じちゃあいねぇ癖によ!?」
 鼻で笑うバルナバスの声色はまるで友人に向けるようなおかしな親愛に満ちていた。

成否

失敗

状態異常
クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
願いの星
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)[重傷]
夜砕き
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
エルス・ティーネ(p3p007325)[重傷]
祝福(グリュック)
セレマ オード クロウリー(p3p007790)[重傷]
性別:美少年
長谷部 朋子(p3p008321)[重傷]
蛮族令嬢
一条 夢心地(p3p008344)[重傷]
殿
天目 錬(p3p008364)[重傷]
陰陽鍛冶師
イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)[重傷]
赤い頭巾の魔砲狼

第4章 第3節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
冬越 弾正(p3p007105)
終音
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

●死戦 I
「連中……魔種でもないのになんて強さだ」
 肩で息をするフロイントには余力が薄い。
 体力は消耗し、大きく傷付いている。彼だけではなくこの場で無傷の味方等、もう数える程しかいなかった――
「――でも、僕達も負けるわけにはいかないんだ!」
 正面戦闘、城門での戦い。
 劣勢、劣勢、そして劣勢。
 元より五分にやり合えたのは新時代を冠した列車砲の砲撃があったからだ。
 圧倒的な存在感で空を支配した旗艦(グラーフ・アイゼンブルート)の援護があったからだ。
 当初のように全戦力を城門に振り分ける事が出来たからだ。
 今はどうか?
 列車砲は黒い太陽に抗する為に主砲を融解させ、旗艦は特攻を口にする程に死に体と化している。
 地上軍の主力は勝利の為に分散し、城内に精鋭の半数を送り込んでいる状態だ。
 それは即ち、城門での戦いは戦力を半減以下にしているという事実に他ならない。
「貴様と謂う愚か者は!」
 戦場の風に集散離合し、結果的に膨れ上がった【騎兵隊】なる戦力を統括するイーリンの言葉を受けた時、オラボナは思わず歓喜の声を上げていた。
「手の甲を舐る事も出来ない獣など糞以下だ!
 我が名は這い寄る混沌、同一奇譚――Nyarlathotepで在れば!」
 誰より多くの機会傷付きながら、酷い消耗を重ねながら。
 それでも意気軒高に嗤う彼女は幾度と無く敵軍を食い止める壁であり、その流れを阻み続ける堤であった。
「聞いての通りよ」
 汗だか血だか埃だか――秀麗な美貌を汚したイーリンが改めた。
「私達騎兵隊は今度こそ――何度目か分からないけどね――バトゥの首を獲る。
 いやさ、仮に無理でもその為の道をこじ開ける!」
 暫く前の戦いでは互いのフロントラインが急接近し、お互いの指揮官の首が危ういシーンはあった。
 しかしながら敵もさるもの。時間を稼げば勝ちという局面において、バトゥの動きは実に的確で厄介だった。
 拮抗の状況において攻勢は寄せては返すものである。仮にどちらかが攻め立てたとて、それは交互の繰り返しにしかなるまい。
『ましてや実際の所を言うなら、戦いは拮抗ですらなく解放軍の不利である』。
 バトゥは危機一髪を辛うじて脱し、最前線から多少の距離を取る事に成功している。
 それはザーバやイーリンも同じ事だったが、持てる意味合いは全く別のものであると言えるだろう。
 とは言え、
「勝った気で油断すると痛い目見るもんだぜ……?」
「全くだ。中々、いい事を言うのう!」
 解放軍は――【騎兵隊】は零やザーバのやり取りを見るまでも無く意気軒高のままである。
 先程からザーバは最前線で敵の波を薙ぎ払い、不落の要塞の如く立ちはだかり続けている。
 その高名と存在感は自ずと敵の猛攻を集めたが、それでも落ちない彼は味方の士気を高め続ける象徴だった。
「見え見えの『強振』が当たらないのは必然です。
 強く振るなら当てるための搦手は当然必要な事。しかして、『振る気の無さ』はもう少し上手く隠すべきだったでしょうね――」
 淡々と言った黒子の口元が少しだけ皮肉に持ち上がる。
『強振を当てるための搦手』と『搦手を当てるための強振』は紙一重、そして表裏一体だ。
 言ってしまえばバトゥの『消極的』な戦いは或る程度勝利を意識したものだ。
 黒い太陽が輝き、堕ち始めたその時から『守り』に入っていた。黒子の言う所の『当てるだけの打撃』は確かに賢いやり方で、残りの時間を大過無く、解放軍を引き付けたままでいれば仕留められるという合理的な大人の計算に根差していた。
 繰り返すがそれは至極合理的なのだ。合理的であるが、故に。
 時に論理の通じない連中はその盤面を蹴っ飛ばす。
「ああ、まあ――要するに。
『どれだけ不利』とか『お前達が強いか』とか関係ないんだ。
 おれも皆も、今ここでお前を超えていく――『おれ達が、それを望んでる!』」
「目的はバトゥの首『だけではない』。さらにその先にある――
 ――ああ、叶うかじゃない。叶えるかだ。この場に後退は無い。ただ前を目指すのみ!」
 今一度力を取り戻し、前に出たプリンやルーキスの言う『駄々』なる【騎兵隊】の戦いに確率はきっと関係が無い。
「押してダメなら押し通れるよう――その足を引っ張ってやるまでだよ!
 片っ端から引きずり回してすっ転ばして――さあ、騎兵隊のお通りだ!」
 頭上に破滅が迫った終わりの戦場でもまだ空元気を引っ張り出せる雲雀には通用しない!
「……ったく! 隙見て皇帝にちょっかい出そうと思ったのに押されてんじゃないわよ!
 ……今回は貸しにしたげるから、あのケモ頭早くぶん殴ってやんなさいよね!」
「ええ、これまで色々好き勝手に転戦してきたのですが、最後に一番気になったのはバトゥという訳です。
 望むところは決して私と相容れませんが、正気にて大業を成すその志や大変善し!
 その末路の彩りに、是非我が紅を加えて差し上げましょう!」
 リカとクーア、【紫炎】の二人が死線に見事な『艶』を添える。
「『新』騎兵隊員」さんに勝手に『よろしく』なんて、まったく。
 練習場で常々私に勝ってから言ってくださいとでも言いたくなりますが……さておき」
 共に轡を並べてきたマリエッタを先に送りここに残ったユーフォニーは珍しく不敵に笑い、
「帰り道まで護りましょう。
 先行くひとたちの帰り道を護る為――私はここで、万華の光を照らし続けるだけ!」
『大人の理屈』は聞こえない振りをして、今出せる全力をこの場に叩きつけていた。
「聞いての通りの次は見ての通りよ」
 余りの光景に少し胸を詰まらせたイーリンにザーバは「おう」とだけ頷く。
 こうまで背負って背負われて――意気に感じぬ女ではない!
「閣、っ――ザーバ! 後背を任せたい! もう暫くもたせて!」
「あん? 誰に言っている。巷では――この俺は『史上最高の将軍』だそうだぞ?」
 振り返らずに応じた彼にその背を見るイーリンは「上等!」と口角を持ち上げた。
「『分かってる』わね?」
「今更だろ」
 念を押したイーリンにミーナは呆れたように言う。
「イーリンのオーダーだ。それは、絶対に叶えられる。何故なら、神たる私がそう望むからだ!」
「我等の勝機、風前の灯火か……ああ、確かにそうだな」
 軽く目を閉じた汰磨羈は笑ってみせた。
「確かに消えかけではある。だがしかし、まだここには火種(いのち)がある。
 伊達も酔狂も山と集って――くべる火種は山と残ろう?
 ならば、我等は我等を以って――再び、否。幾度でも! 激しく尽きんと燃え上がるまで!」
「負けられますまい」
 ムサシは力強く首肯した。
「――さあさあ! 行くわよ、騎兵隊! 『私達はそれを望むから』!」
「いいとも、イーリン・ジョーンズ! 『それをキミが望むなら』!」
 イーリンの号令を受け、幾らか芝居がかった武器商人が高らかに言った。
「『今一度、勝鬨をあげよう。この無明の戦いに終止符を打つように』!」
「『勇者』が望むなら……自分は強く答える。それだけであります。
 それに、ここには『よろしく』と頼まれた彼女もいる。負けられません。
『新』騎兵隊員、ムサシ・セルブライト……推して参る事といたしましょう!」
 そうして、ムサシの――【騎兵隊】の乾坤一擲、最後の吶喊が始まった。
「さぁ、正念場です。戦い続けましょう。
 ザーバ派として戦線に立ったのです。将軍の下に付いたのなら、勝利を信じて戦い続けるのみ」
「おう。嬉しい事を言ってくれるわ! どれ、俺も一つ餞別だ!」
 ウルリカの言葉に笑みを浮かべたザーバの鉄球が敵の一団を吹き飛ばした。
「外格、リロード。残弾10……これよりバトゥまでの道を開きます。これぞ実に鉄帝らしい戦闘というものですね」
 ザーバに轡を並べたウルリカは負けじと敵の前線を強烈な弾幕で叩きのめせば、
「不躾ながら、ザーバ将軍。貴方たちを守りに来た、という事です」
 猛烈な集中攻撃を浴びたザーバをボディがカバーして見せた。
「……」
「何か?」
「……いや、正直な。俺を『庇う』なんて奴を数十年振りに見たんでな」
「それはそうでしょうが――貴方が倒れたらとてもマズい。だから誰かが守らねば。故に私がやる。
 さぁ、最後の最後まで『生きて』戦場に立つ事といたしましょう!」
 これは恐らく解放軍の取り得る最後の大攻勢だ。
「……で、これで押し込めなけりゃ全滅か?」
「黒い太陽(アレ)が墜ちてくる来るまであと少しといった感じ。
 ……となるとこれがラストダンスには間違いないね」
 淡々と言ったレイヴンにラムダが小さく肩を竦めた。
「ならば」
 為すべき事等決まっている。元よりそれは多くない――
「ユーフォニー、ラムダ!」
 飄々としているようで今回ばかりは随分と熱が篭る。
「『俺に合わせろ』!」
 そんなレイヴンの声にユーフォニーは「はい!」と頷き、対照的にラムダの方は
「Haha、起きろ無明世界……Showtimeだ!」
 目を見開き、ここが見せ場だと禍々しくも魔力を繰る。
 三者三様。渾身の破光の斉射が、まさに一本の槍の如く研ぎ澄まされた【騎兵隊】を先導し先を奔った。
「攻撃は最大の防御。守るだけではじり貧になるばかり。
 何より、体を張っている鉄帝の漢気を見せられて――時間稼ぎの防戦じゃ格好もつくまい?」
『平蜘蛛』と共に躍動した弾正が敵の攻撃をまともに受け止め、やり返す。
「少しずつでいい。皆で一つ無茶でもするか!?」
「そりゃあいいな――」
『名案』に否が応なくその口角は持ち上がる。
「――こっから先は誰も通さん! テメェら全員血祭りにしてやらぁ!」
 昔の血でも滾ったか、何時になく荒っぽい笑みを浮かべたバクルドが強引に前に出て敵兵を相手に見栄を切る。
(バトゥ、あなたは強い。私がその強さを語り継ぎたくなる位には――)
 瞬間に力を尽くすココロは凛と前を見つめていた。
「戦の露に濡れ、獅子が太陽を飲みこむまで戦い続けるのでしょう。ですが、わたしのお師匠様を奪わせはしませんよ!」
 負けられない理由等、誰にでもある。
 ココロとてその場所を一分たりとも譲る心算は持っていない!
【騎兵隊】は活性化し、それに引っ張られるように解放軍全体が僅かに息を吹き返していた。
(……馬鹿げている!)
 優秀なバトゥは僅かな潮目の変化――状況の微妙さを見逃しはしない。
(攻め切るべきだったか……? いや、そのリスクは小さくない。
 陛下の『黒い太陽』は完成したのだ。連中は愚かな時間稼ぎに縋っているに過ぎん!)

 ――しかし、『結果的』にはこうなった。

「人事を尽くして天命を待つ……本物の巫女の『神頼み』だわよ!」
 華蓮の祈りが稀久理媛神の追い風となって仲間達の背を押した。
「かしこみかしこみ……期待して、私も期待するのだわ!
 願わくば、一人でも多くが笑顔で終わりますように――」
 それがどれだけ難しい事か、華蓮は知っていたけれど。それで折れる『子供』は何年か前の思い出の中にしか居ないのだ。
「神頼みか。『たまらん』な……ッ!」
 祈る神等居ない、バトゥは一人の美しい少女のもたらした奇跡(かみかぜ)に苦笑を禁じ得ない。
 バトゥの賢明な判断を失敗と呼ぶのは論外だが、敵が可能性の獣等と称される怪物ならば確かにその目があったのは事実だった。
(仮に。仮に、今の俺達ではバトゥを討つに及ばなとしたら――どうするか)
 エーレンは目の前を切り開きながら考える。
(簡単な話だ。――バトゥを討てるまでに成長すればいい。今、此処で!)
 それは実に胡乱としていて、何よりも恐ろしい『獣の考え』そのものだ。
「まだ終わらないぞバトゥ将軍、どうやら貴君は騎兵隊のしぶとさを知らないな!」
 守将として優秀な彼は優秀が故に無軌道な怪物(エーレン)の咆哮を聞く羽目になったと言うべきなのだろう――
「向こうの勝利条件が憤怒権能の解放までの時間経過だとすれば、こちらの勝利条件も冠位憤怒の撃破で、それまで耐えられればいいわけで。
 決着まで後僅か……僅かが、遠いんでしょうね、お互いに」
「ああ、うん。『お利口さん』なだけじゃ戦争には勝てないってね」
 幾度と無い防戦を乗り越え、また新たな敵を弾き飛ばしたイリスに敵を『喰らった』愛無がへらりと笑った。
 有り得ざる戦いは愛無にとって最も心地良い闘争の風だった。
「勝ったけど犠牲が大きすぎたなんて未来も、防ぎたい、んだけど!」
 至近距離の重打撃にイリスの盾(えいゆうのせきむ)が悲鳴を上げる。
「理想を言えばね。でも、どうなんだか。
 ましてや此処は『鉄帝国』。最後に立ってる奴はきっと一番バカな奴だろう?」
 愛無は嗤う。嗤って戦場を『喰って』いる。
「遊べば良かったんだ。心のままに。帝国軍人らしく――」
 彼女は理解している。確信していた。
 ……いや、恐らくは彼(バトゥ)が『個人』ならば何の問題も無かったのだ。
 理想を抱き死にさえ殉じる彼は実際の所、イレギュラーズの勢いが再び強まる理由を理解している。
『将』で居なければならなかった彼の判断をミスと攻め立てる事は気の毒が過ぎると言えるだろうのだろうが――
「――さぁ、食事の時間だ。精々遊べよ、今からでも」
 当たるを幸い。撃ち尽くし、斬りつくす――牛飲馬食の恋屍愛無はこの卓上が愛おし過ぎる!
「最終局面よ! 押し切れば私達の勝利、押し負けたら皆おしまい!
 案外分かり易くていいじゃない。城内(なか)にだけ頼るなんて、らしくもないし――」
 向かってきた【騎兵隊】を敵方が同様に受け止めれば大激戦と大乱戦は必至である。
「私の名はレイリー=シュタイン! 騎兵隊の一番槍、機動要塞!
 誰も彼も――この白亜を落とせるものなら落としてごらんなさいな!」
 肉薄する敵の切っ先を振り払い、最も色濃い死の匂いにすら臆面も無く。レイリーの戦い振りが凛然と輝きを見せていた。
「気になってきただろう?」
 ゴリョウが珍しく人(ぶた)の悪い笑みを浮かべた。
(バトゥは間違いなく強者だ。
 だからこそ『見られる』不快感は無視出来ても、『無視する』ウェイトは馬鹿には出来ねぇ。
 状況は理解出来ても、この想定外にはさぞストレスを溜めてるだろうよ!)
 金銀蓮花の炯眼にねめつけられれば彼もいい気持ちはしないだろう!
「少しでも元気でいられるように。耐えて、戦い続けられるように――」
 ニル等の回復役の尽力もある。
「――ここで出し尽くしてでも、全部をぶつけてみせますから!」
 ……果たして、正面衝突はこの一時だけ、幾らか解放軍の優位を示していた。
 従前の戦いではかなりの劣勢を強いられていたにも関わらず、攻め手に出れば確実に『強い』のは【騎兵隊】の或いはローレットの、もっと言えば特異運命座標の性質を良く示していると言えただろうか――
「――おのれ、しつこい! 弓兵、あの狼を狙えッ!」
「黒い太陽をおさえるため……でも、それ以上に同じ狼として!
 小さな氷のおおかみさんには傷一つつけさせないんだよ!」
【騎兵隊】の吶喊に分厚い守備の隊列で応じたバトゥがイレギュラーズの泣き所を攻めんとするも、気を吐いたリュコスが身を挺して食い止めに掛かる。
 乱戦の中で『間合い』は取れない。
「……ま、なまくら自称するような奴にも意地ってモンはあるんだわ」
 平素のクレバーな戦い方よりは随分と直接的に『やり合った』カイトが不敵に笑う。
「正直こうやって『直接』やるのは好みじゃないんだが――舞台を崩されちゃ困るのはお互い様。
 暴力は時に何でも解決するし、こんな盤面なら尚更――って、な? 実にこの国っぽいやり方だろ?」
「そういう訳で――退いてもらうわよ?」
 カイトの封殺に縛られた敵を白薔薇の棘と呼ぶには余りにも苛烈過ぎるヴァイスの術式が撃ち抜いた。
「聞き間違いでなければ」
 酷薄に笑うラダが銃声を歌わせた。
「先程、勝った――とか聞こえたな。
 随分気が早いようだが、それなら先に逝って『待ってて』くれたら嬉しいね――」
 華々しくも毒気漂う砂漠の美人の容赦無さに呻いたバトゥがまた少し後退した。
 城門をちらりと『確認』し、中の防御を僅かばかりに意識した。
「――――」
 それと、彼が息を呑んだのはほぼ同時の出来事だった。
「――一度会ってみたかったんだわ。同じ獅子のタウロスのお偉いさんだもんな、アンタ」
 その『城内』から『戻ってきた』ルナがその爆発的な機動力で前に気を取られたバトゥの不意を討ったのだ。
【騎兵隊】の吶喊に対応した敵方は前がかりになっている。
 防衛ラインの最後尾は距離戦闘に優れた者はあっても、突然肉薄してきたルナに即座の対応を見せるのは難しい。
 持ち前の超高機動に『ブリッツクリーク』を乗せたルナの動きは常人、余人の常識の『外』としか言いようがない!
「どいつもこいつも……だが、舐めるな!」
 バトゥは自ら抜刀し、新たな邪魔者を一閃する。
「『殺してやる』」
 剣による強烈な反撃にルナは首を竦めて「おお、怖ぇ」と軽く笑った。
 前と後ろで戦いが荒れている。
 錆びた歯車がまるで動き出すような匂いがしている――
「ああ、お偉いさん、怖い顔するなよな!
 この俺は弱肉強食っつー思考にゃ、大いに賛同してるんだぜ。
 だが、どうにもこの国の冬は寒くて俺にゃ合わねぇからよ――」
 銘無しの古銃がギリギリと刃を受け止めた。
 ルナの口は減りはしない。
「――生き残って、とっととあったかいラサに帰らせて貰うとするわ!」

成否

失敗

状態異常
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)[重傷]
騎兵隊一番翼
ラダ・ジグリ(p3p000271)[重傷]
灼けつく太陽
零・K・メルヴィル(p3p000277)[重傷]
つばさ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)[重傷]
華蓮の大好きな人
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
不遜の魔王
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
老練老獪
リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王
ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
黒豚系オーク
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)[重傷]
陰陽式
クーア・M・サキュバス(p3p003529)[重傷]
雨宿りのこげねこメイド
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)[重傷]
ココロの大好きな人
天之空・ミーナ(p3p005003)[重傷]
貴女達の為に
冬越 弾正(p3p007105)[重傷]
終音
カイト(p3p007128)[重傷]
雨夜の映し身
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
愛を知らぬ者
ウルリカ(p3p007777)[重傷]
高速機動の戦乙女
ボディ・ダクレ(p3p008384)[重傷]
アイのカタチ
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)[重傷]
目的第一
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)[重傷]
神殺し
ラムダ・アイリス(p3p008609)[重傷]
血風旋華
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)[重傷]
ヴァルハラより帰還す
エーレン・キリエ(p3p009844)[重傷]
特異運命座標
ムサシ・セルブライト(p3p010126)[重傷]
宇宙の保安官
刻見 雲雀(p3p010272)[重傷]
最果てに至る邪眼
ユーフォニー(p3p010323)[重傷]
竜域の娘
フロイント ハイン(p3p010570)[重傷]
謳う死神

第4章 第4節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

●決死行
 この世界で一般的かどうかは兎も角として、非常に有効な兵器に大砲やミサイルといった類の重火器があるのは言うまでもないだろう。
 科学技術レベルに応じて仕組みや破壊力に違いこそあれ、レールガンにしろカルバリン砲にしろ、『重く硬い質量を何らかの推力ですっ飛ばせば破壊力が得られる』という大雑把な話自体には大した差が無いと言えるだろう。
 要するにグラーフ・アイゼンブルートがその巨体で体当たりしたならばどんな大砲よりも激しい一打になる。
『新世界』より放たれた砲撃に数十倍する質量と爆発力が担保されているのは間違いない、という訳だ。
「とは言え――大質量攻撃ってのはいいんですけど、それだけで落とせるかはちと怪しいですがね」
 冷静に言ったブランシュの言葉が目の前に展開する『衝撃の展開』を示していた。
「まぁ、無理無茶無謀を通すがイレギュラーズでしょう!」
 力強く情熱的に言った同じくブランシュの言葉が更に『とんでもない現実』を際立たせている!

 ――おいおい、マジかよ? 笑えるぜ……

 この期に及んで、思わずそう零さざるを得なかったのは今度はバルナバスJrの方だった。
「残念ながらな。俺が知ってる連中なら『こうする』って思ってたよ」
 苦笑いして肩を竦めたアルヴァは言った。
「まあ……命を大事にって言って。素直に聞いてくれる人達なら最初から苦労はしませんよね」
 愛奈が何とも言えない調子で言えば「そういうこと」とアルヴァは嘆息と共に頷いた。
「御存知であって欲しいのですけどね。
 私の故郷のこんな言葉――『パイロットが無事なら我々の勝利』。
 ――グラーフ・アイゼンブルートをあの太陽にぶつける事には賛成するものなのですけれど」
 愛奈の言う通り、特攻を口にした国士達はこの後のこの国に必要不可欠とも言える者達なのだろう。
 元よりグラーフ・アイゼンブルートは空にある。
 かなり死に体と言えどもまだ或る程度の機動力さえ有している。
『生き延びようと思うのなら、地上の誰よりも逃げる事は出来るのだ』。
 最も確実な死から遠い連中が、今まさに最も死に近い作戦を実行しようとしているのだから筋金入りと言う他あるまい。

 ――だが、止まらんぞ、あれは。確定的にだ。
   そのデカブツをぶつけた所で無駄だぜ?

「止まらないんですか。そうですか。
 だから止めようとしないって――なんですかそれ。
 まさか物分かりに期待してるんですか? 敵(バルナバス)側の都合なんて知りませんよ」

 ――いいや。正直を言えばそれ位堪えない連中の方を俺は好むね。
   腹が立つ位だぜ。折角、長年待って出会えた連中と今日限りでおさらばなんてな。
  『本体』もいよいよご立腹だろうよ!

 捻くれてにべもない茄子子の言葉にむしろバルナバスJrは愉快そうな声を上げていた。
 黒い太陽から生じたエネルギーが収束して産まれた破壊の巨人は速度を大幅に落としながらもジリジリと地上を目指す『母』目掛けてグラーフ・アイゼンブルートが進行を開始したのに半ば感心し、半ば呆れたような実に人間臭い感情を見せている。
 Jrの『言葉』は別に親切の心算も心配の意図も無いだろう。
 彼は自身が言った通り目の前のとんでもない連中との争いを心の底から楽しんでいるだけなのだ。

 ――何をしとる!? イレギュラーズ!
   はよ避難せいと言ったであろうが!!!

「今更ここまで来て――さっさと離れるなんて出来る訳ないでしょうが」
「本当にね。タダでは沈まないという精神には『敵国』ながら――感服だわ」
 バイルの声にシフォリィは苦笑を見せ、幻想の貴族子女たるアルテミアは何とも複雑な顔を見せていた。
 そう、元々はここは敵国なのだ。国という括りで見るのなら幻想に強く紐づくフィルティス家の娘はこの国を命がけで救う理由は無いのだろう。しかして、彼女は貴族である以前に『世界』を助く特異運命座標であり、それ以前に『至極善良なる人間』だった。
「私達に退艦しろというのはちょっと薄情じゃないかしら?」
「……私はこの国を守る為に命は捨てられませんが、同じ場面になったら同じ事をするでしょうしね。
 鉄帝国で虹の橋を渡るのに、戦乙女の先導が無いのはいけないでしょう?」
「そうそう、このまま向かっても、邪魔をするわよ、どいつもこいつも。
 辿り着ける保証も無いでしょう? だから……最後までエスコートさせてもらうわ。
 私が『噓吐き』だと思われたままで貴方達を逝かせるつもりもないのだから!」
 シフォリィとアルテミアは成る程、空を滑る戦乙女のようだった。
 北欧神話において、戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性――美人が二人も、遥かなヴァルハラへの先導者を気取ったなら。この世界にも似たような『伝承』はあるのだろう。グラーフ・アイゼンブルートのブリッジは「そりゃあいい」と大いに歓声に沸いていた。
「……この国との歴史には思う所はありますが、それでもそう嫌いにはなれませんよね。私に4分の1流れる血のせいかも知れませんが――」
「――きっと、血の所為じゃないわよ。だって、私も同じだもの」
 果たしてシフォリィやアルテミアの危惧はすぐに本当のものだと知れていた。
 艦に集っていた亜魔種はグラーフ・アイゼンブルートが『本体』に近付くのを明らかに嫌がっていた。
 明瞭明確な自由意思を持っていると見受けられるJrは亜魔種と彼女等の激突を面白そうに眺めるばかり。
「バイルさんの 避難勧告を きいていたら……
 なんだか グラーフ・アイゼンブルートに 親近感を おぼえましたの!
 だって 戦『艦』とよばれるくらいですから……
『彼女』は 機械仕掛けの 飛行種というよりも きっと 機械仕掛けの 空およぐ海種。
 その身を 犠牲にしようだなんて……まるで わたしのたたかいかたと そっくりですもの!」
 ノリアもまた船を『同属』と見做すかのようにあくまで守る構えを捨てていなかった。
 ごうごうと轟音を立て、黒い煙を噴きながら艦は征く。
 最後の力を振り絞り、黒い太陽目掛けて飛んでいく。
 イカロスの不遜と結末を知りながら、それよりもずっと愚かに向かっていく――

 ――おのれ、まったく! どいつもこいつも! まるで言う事を聞きやがらん!

「ああ!? どっちの台詞だよ。大体、避難要請とかよぉ?
 気でも狂ったかクソジジイ、俺らが今更そんなの聞く訳ねぇだろ!」
 一方のアルヴァは地団太を踏むかのようなバイルに激しい悪態を吐いた。
 アルヴァ以下【航空猟兵】にとってこの空は特別だ。
 だからその言葉は最初から最後までここは自分達の舞台であり続けるという宣言だった。
「止まんねえならぶっ壊すだけだ。乗ってやるよクソジジイ!
 分かったか? いや、分かれ。分かったな、分かったと言えや! クソジジイ!」
 まくし立てたアルヴァに思わずバイルが圧倒されていた。
「正直に言えば逃げたいさ。
 次男を迎えに行かなきゃいけない。長男にごめんなさいもしてないからな。
 でも、こんな状況でも命懸けで諦めない奴がいるんだろう?
 上にも、下にも。失う痛みを、置いて逝く苦しみを知ってる俺が逃げるわけにはいかないだろ?」

 ――知るかもう! 勝手にせい!

 ウェールが更にそう言った時、もうバイルは『イレギュラーズの無謀』を責めなかった。
「指示通り避難はするけど……それは最後の最後だね。
 意地を通す為の露払い位は――断られても、させてもらうよ!」
 気を吐いたアクセルが攻めに支援に手を尽くしている。
 十を超えるイレギュラーズがこの酷い戦いに残っていた。
 或る者は決死さえ厭わず、或る者は彼等の最後の作戦をギリギリの瞬間まで支援しようと。
 バイルとて、最早ここに問答が必要だとは――問答の意味があるとは思っていなかったに違いない。
 語るべくは既に語り尽くした。後は行動のみが結果を決めよう――
「全くもう、馬鹿ばっかりで困ったもんです」
 アルヴァとバイルの双方に呆れた調子のチェレンチィが雷撃の如く閃かせた一撃で前を阻んだ亜魔種の一体を『撃墜』した。
「黒い太陽に体当たり。実に分かりやすくて彼等らしい。
 でも、ここまで来たからには最後まで付き合います。己の為したい事を為すだけです。
 だって、ボクも――」

 ――多分、まあまあお馬鹿さんな一人ですからね!

「……僕はね。死ぬ気も死なせる気もないんだ。
 やりたい事をやり切って……生きたい人を生かす為に!」

 ――無理だろ。人間は死ぬ時は死ぬ。

「違う!」
 軽侮するJrを祝音は強く否定した。

 ――じゃあ、やってみな!

 動き出したJrの放った無数のエネルギー弾が祝音をイレギュラーズを撃ち、襤褸になったグラーフ・アイゼンブルートに新たな火柱を幾つも上げた。

 ――どうだ? 出来たか? この力を目の前にして!

「いやいや、何度でも。試してはみますよね――」
 ブランシュは力を振り絞り、嗤う巨体目掛けて己の全てを叩き込む。
「ヴァレーリヤ先輩! この大一番だしあの言葉借りますよ!
 せーのっ! で、どっせえええええええいッ!!!」
 先程までの守りと『その先』を捨てたグラーフ・ブルートの前進は強烈なものとなっていた。
 特攻は即ち完全なる轟沈である。『目標まで持てばいい』という強烈な前進は亜魔種達の『豆鉄砲』では止まらない。

 ――おうおう、いよいよその気かあ!?

 ごうごうと音を立てるグラーフ・アイゼンブルートが黒い太陽を『迎撃』せんとしている。
 イレギュラーズの戦いは熾烈を極め、亜魔種達の『阻止』も本格的なものになっていく。Jrは無駄だと言った。彼はそれを知っている。だが――そこに存在し得る極小の可能性の全てを否定するには、特異運命座標とバイル達の覚悟は重過ぎた。

 ――もう少し、もう少しで……

 ――装填準備良し! 自慢のラムでぶち当たる前に全弾ぶち込んでやりますよ!!!

 黒い太陽は徐々に高度を下げ、蟷螂の斧(ふね)は艦首を持ち上げて必死で高度を上げていく。
 傷みながらも飛び続けてきた艦が軋み音を立てている。

 ――高度が保てません!

 ――馬鹿野郎! 保つで足りるか!? 『上げる』んだよ!

 ――無理、です……!? っ……!?

 飛行態勢がふらつく。
 ここにある、僅かな……最後の希望が潰えかけている。

 ――おしまいだなあ?

 Jrが『両腕』を前に突き出す。
 全身のエネルギーを収束し、放たれる一撃はこれまでの比ではない。
 グラーフ・アイゼンブルートが超巨大なミサイルだとするのなら、それが放つはまるで荷電粒子砲のようであった。
 空気を焼き焦がす絶死の火線は艦とイレギュラーズごとを飲み込まんと牙を剥く。
「まぁ太陽は堕としてみたかったけど。もっと魅力的な言葉が聞こえてきたから今回はナシってことで」

 ――は?

『アトラスの守護を纏った茄子子は超広域を焼き尽くすその火線の全てを展開した自身の意思で阻んでいた』。

 ――PPP(そんなもん)でこれが止まるか、よ……!?

「止まってるじゃあないです、か……!」
 ギリギリと押すJrの出力が上がり、惚けた調子を崩さない茄子子の唇から苦悶の吐息が零れた。
「ルストが止められないんでしょう。じゃあ私が止めます。私が止める。私がアレを越える――」
 天義を根城にするらしい『七罪』は彼女にとっての『恋敵』。
(だって、あの国は――)

 ――あの国は、私が滅茶苦茶にするんだもん!

 圧倒的な力と奇跡が押し合っていた。
 茄子子が押し負ければ待つ結末は『最悪』だ。
 されど、状況は彼女にばかりその負担を強いたりはしなかった。
「バイルくん達には鉄帝を再建する戦いが待ってるんだから!
 ……鉄帝の子が戦いから逃げたりなんてしないわよね?
 だからええ、なっちゃいましょう不死鳥に!」
 グラーフ・アイゼンブルートは翼の折れた鳥のようなものだった。
 力尽きかけたそれを、必死で死の火線から皆を守る茄子子を――ガイアドニスの『手』が押した。
 物理的に大きくなった訳ではないだろう。
 彼女は人のままであり、そのフォルムはJrのような逸脱を見せた訳ではない。
 だが、それでも――包み込むような『大きさ』を誰もが錯覚していた。
 その奇跡が為した意味は誰の目にも明らかだった。
 超巨体の戦艦の背を押し、失われつつあった上昇力を取り戻させる。
 傷付き、疲れ果てた茄子子の背を押し、彼女の守りを蘇らせる。
(無理は承知なの。怒られちゃうかもだけど、でも。
 愛はね、与えるものなの。だから――ごめんなさいね?)
 ――この空の戦いでも最も『余力(パンドラ)』の少ない彼女は奇跡に願うを辞めなかった。

 ――愛しているの。
   儚く小さな星々を。
   あんな、太陽に消させはしないのだわ!

「おい、待てよ」。アルヴァの声は届かない。

 ――は、ははははははははは! 最高じゃねーかよ!?

 哄笑と共に『跳ね返った光』にJrも、亜魔種も飲まれていく。
 声と共に光が弾けてその奔流の後にもう彼等も、『彼女』も居なかった。

 ――感謝する。恩に着る。最期まで……!

 バイルの声が聞こえた。そんな気がした。
 最後の願いはどう響いたか――最期を賭けたグラーフ・アイゼンブルートが加速する。
 黒い太陽に肉薄し、宣言通り残弾を撃ち尽くし――衝角は届かない。太陽の熱量に負けて、蕩けて遂には爆発と共に四散した。大小様々なユニットとパーツに分かたれた艦が遠く地上へと降り注いだ後には、先程よりは傷んだ太陽だけが残されていた――

成否

失敗

状態異常
ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
ウェール=ナイトボート(p3p000561)[重傷]
永炎勇狼
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)[重傷]
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)[重傷]
虚飾
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)[重傷]
祈光のシュネー
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)[重傷]
タナトス・ディーラー
綾辻・愛奈(p3p010320)[重傷]
綺羅星の守護者
ガイアドニス(p3p010327)[死亡]
小さな命に大きな愛

第4章 第5節

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ

●是に非ず
「皆ががんばってるなら――がんばってるんだから!
 ワタシもかっこいいとこ見せなきゃね……!」
 負った深手にさえ頓着せず、フラーゴラは気を吐いた。
「ここを死守するのがワタシの役目! 上等だよ!
 アナタがどんな敵であっても、抑えつけて――最後まで守り抜いてみせるから……!」
 肩で息をするフラーゴラの姿が痛々しい。
 総合的な意味における実力差は元より知れていた。フラーゴラは持ち前の少女らしからぬタフネスを見せつけ続け、目前の敵――鎧の魔種の攻撃を良く止めていたが、果たして彼女の能力は彼を倒すに通ずるようなものではない。同時に。如何な防御と耐久に優れた彼女とて、寡兵で相手にするにはやはりこの魔種は手強過ぎた。恐らくは城内の魔種個体の中でも上位に位置する鎧の魔種を食い止め続けた彼女には幾重にも疲労と傷が重ねられている。
「成る程な。斃しても斃れぬ訳だ。そうならぬ理由があるとするのなら、貴様等ならばそれが『普通』という事もあろうよ」
 四人のイレギュラーズに相対し、その強力な戦闘力で前を阻む鎧の魔種は可憐とも言える少女の『強い』宣言に心地よさをさえ覚えているように見えた。
「もうひと押し。あとひと押し!
 ……よし、ここからオーバートップギアっすよ! 最後まで耐えてみろっす!!!」
 アルヤンの言葉は或いは敵と味方両方に対しての挑戦めいていた。
 封殺による高い精度の行動阻害を得手とするアルヤンは『個性的』ななりながら、イレギュラーズでも上位の技巧派だ。
 無論、フラーゴラがここまで敵の猛攻を食い止められたのは彼女自身の体力根性と同時にアルヤンの支援攻撃による所も大きい。
(とは言え、これは……見た目通り『堅過ぎる』っすね……!)
 だが、問題は決定打の方だった。
 見るからに防御力の高そうな鎧の魔種の能力はフラーゴラの外見の可憐さがあてにならないのとは対照的にその外見を裏切っていない。
 アルヤン自身はかなり技巧派だが、攻撃力という意味において打点の不足はこのマッチアップにかなりの不利を強いていた。
(でも、ここを通したら……!)
 バルナバス戦に挑む仲間が不利を背負わないとも限らない。
 城内魔種戦力の半数程は先んじて吶喊に成功した【杪冬】が辛くも撃破した状態だが、この場の誰もがこれを正確に把握していない。否、把握していたとしてもこれをバルナバスの元へ行かせるのは論外に思えた。場持ちの良さは絶望(バルナバス)を前にした勇者の背後を確実に脅かす。
 ならば、決まっている。鎧の魔種はここで仕留めるか、或いは食い止めなければならないのだ。
「――援軍が必要かい? いや、必要だろ?」
 幸いにしてイレギュラーズ側にとって好都合なチャンスはそんな軽快な声を共に訪れた。
「イズマもあっちで頑張ってる頃だろ?
 新皇帝側の邪魔はさせられねえからな――この鎧の魔種の相手は、俺達も引き受けるっ!!!」
「サンディさん!」
 目を輝かせたフラーゴラに現れたサンディは少し気取って胸を張った。
「ヒーロー参上って訳だ!
 ……ってわけで悪いが、手伝ってくれよな、ウィリアム!!!」
「ま、何が相手でも大丈夫。支えてみせるよ。助太刀が必要なら――喜んで」
「ウィリアムさんもっすね!!!」
 抑え、先に向かわせるには成功したものの。
 勝ち筋のほぼ無かったフラーゴラとアルヤンにサンディとウィリアム――【ウォルタ&カルタ】の二人が加われば話は随分と『マシ』になる。
「……新手か。面白い!」
「面白い、で済めばいいと思うけどね?」
 そう言ったウィリアムとサンディは二人が持ち合わせなかったレベルの純粋な火力を持っている。
 鎧とて、彼等の猛攻を素直に受ければこれまで通りの余裕を見せつけるのは難しかろう。
 だが、それはむしろ楽しそうにそこに在る。
「貴様等があの方を優先するのは当然の事。
 しかし、この私もひとかどの戦士。袖になり続ければ欠伸も出てこようというものだ。
 ならば、これは僥倖だ。漸く幾分か熱を入れて『戦える』」
「食い止めてたのはお互い様って感じだったか」
 ウィリアムが肩を竦めサンディは「……だな」と苦笑した。
 戦いは次のラウンドを迎えようとしていた――




 数的不利を否めないと言えば、悪魔の魔種との戦いは尚更のものになった。
「セララ エクスマリア他 バルナバス 向カッタ……
 ココ 任サレタ ココ 抑エレバ 勝利 近付ク……!」
 一意専心、守って癒す。
 悪魔を相手に残ったのはフリークライとアンナの二人だけであり、鎧とは対照的に殺傷力を重視した悪魔の猛攻を食い止め続けている。
「適材適所って感じかしら。でも、本当に面倒臭い相手だわ……」
「お互い様じゃねえか、クソ女」
 肩を竦めたアンナに悪魔がうんざりした調子で言った。
 それもその筈、フリークライとアンナは双方が非常に堅牢な防御力を持っており、更にフリークライは支援能力を得手とする。
 先の台詞で自分自身を棚上げしたアンナはと言えば、幻惑的な戦いと時折の『一発』すらをも有する技巧派だ。
「カーテンコールまであと少し。死力を尽くして舞いましょう――」
 捕まえ所がないという意味では相当に厄介な相手であり、寡兵で時間を稼がれている側である悪魔が嫌な顔をするのも当たり前だっただろう。
(一瞬ノ 攻メ手 ココマデ回復専念シテイタカラコソ 予想外ノ一手ニナル筈……!
 一瞬デモ思考 止メレバ 読マセレバ キット アンナが……)
(了解、と。任せておいて)
 フリークライとアンナはこの時見事なアイコンタクトを見せていた。
 フリークライが心守――本来は護身スキルなのだが――で撃ち、アンナが死力を振り絞って強かに叩く。
 通ずるかは分からぬが、持ち得る最大の札がそこにあるのならば挑戦しない理由は最早無かった。
(アア。ソレニシテモ。セララ エクスマリア 離脱 トテモ厳シイハズナノニ。
 アンナ 一緒ナラ 負ケル気ガシナイ――)
(……えぇ、姿は違えど『クソゲー』の最終局面で共に戦った二人もいるもの。負ける気は全くしないわ!)
 二人は覚悟を決め、悪魔へ間合いを詰めかかったが――
「――――!?」
 ――予想外は敵の動き。
 大きく退き下がった悪魔はへらりとした笑みを見せた。
「もう、辞めだ」
「どういう事? ……逃げるの?」
「言葉は正確じゃねえな、クソ女。
 テメェ等みたいな遅延戦力相手にしてられねえって言ってんだよ。
 もうすぐ『黒い太陽』も堕ちるのにこんなつまらねぇ戦いで巻き添えを喰うなんてお寒過ぎて――笑えねえな!」
 成る程、原理は『本人』以外に分からねけど。
 黒い太陽の落下は麾下魔種にとっても有り難くない話であるらしい。
 多くの麾下魔種はそれさえ些事に思う連中だったようだが、多少の個体差はあるのだろう。
「バルナバス 所ニハ 行カセナイ……!」
「行かねえよ、アホか」
 それは王のものであり、他の誰のものでもない。
「次は殺してやるが――もう少しマシな戦い方を覚えておけ!」
 悪魔は九分九厘決まった『つまらない戦い』を切り上げる心算らしい――



「――ガオッ!」
 短く獣の咆哮を上げ、瓦礫の中からソアが起き上がった。
 明らかに蓄積されたダメージは小さいものではない。しかしながら未だ致命的なものでもない。
 戦って、戦って、戦い続けて――どうしようもない位に不利な、或いは戦力の不足という意味では対バルナバス戦と大差ない戦いに『興じていた』。
「元気だねえ、虎っ子ちゃん!」
「元気だよ。城内も外もさっきから変だ。
 何だかお空もおかしいね? でもそんなことはいいの!」
 ソアが地を這うように四つ足で駆け抜ける。
「どうでもいいの! この国の未来よりも何よりも今は!
 ――あなたを殺してみたい、それだけだから!」
「告白かよ。何、この役得はさ!」
 魔種をうんざりさせた粘り(しおづけ)の一方でそうでないものも当然ある。
 魔種ナルキスと相対するイレギュラーズの戦いは他の魔種戦より圧倒的に激しいものになっていた。
「バルナバス現皇帝陛下の処に、郷田さんは着いているでしょうかね……?」
「さあな……」
 瑠璃の軽口に肩で息をしたシラスが応じた。
 最初の強かな衝撃で、明滅し(とび)かかった意識を強く持てたのは幸いだった。

 ――立ち上がれ、死ぬぞ!

 負けそうになる意識を叱咤激励する事が出来たのが一つ。
 戦いに対して矜持を持っていた事で二つ。
 最大の理由は三つ目だ。

 ――シラス君!?

 誰より特別な彼女の姿を視界に捉え、鼓膜がその声を認識したなら。
 気絶何てしている場合では無かった。シラスはバネのように勢いをつけてナルキスにお返しの一撃をお見舞いせざるを得なかった。
(だって、頼りになるんだもんなあ――)
「大丈夫?」と尋ねるアレクシアの顔を見て「勿論!」と安請け合いをする。

 ――お待たせ! フィナーレには間に合ったかな!?

『あの』ナルキスの馬鹿みたいに強烈な蹴りを庇って守り、受け止めて。
 ダメージが無い筈も無いのに気丈に言い切る彼女を横にして、無理無茶の泣き言を言える程シラスは『大人』では有り得ない。
「さっきも言ったけど――私が来たからにはこれ以上傷つけさせやしないから!」
 凛然と告げたアレクシアにナルキスが口笛を吹いた。
 幻朧の鐘花を展開し自身に攻撃を集めたアレクシアはかなり手酷く傷付けられていた。
 防御的にかなり優れた能力を持つアレクシアでもナルキスを前に耐え切る事は不可能だという事だろう。
 だが、彼女は少なくとも攻め手たるシラスの突けるだけの隙を作り出していた。
「しっかりしろよ、王子様。こんな彼女を盾にして――伸びかけてるとか有り得ねえだろ、お前!」
「誰が、伸びたよッ!」
 これ以上の軽口は許さぬとシラスが強烈に間合いを詰め、
「貴方は確かに私より強いでしょうが、死牡丹梅泉よりは下! 絶対に下です!」
 言い聞かせるようにそう言って彼のイメージ――死線のイメージに自身を研ぎ澄ませた瑠璃が飛び込んだ。
 アレクシアが守り癒し時間を稼ぎ、ソアがシラスが瑠璃が攻める。
 猛烈な連続攻撃を避け、受け、それでも見事に捌いて見せるナルキスは圧倒的な強さを見せたが――
「――驚いた。イレギュラーズって皆お前達位つえーの?」
 それでもそう言う声色から当初程の余裕の色は失せていた。
「他人の完璧な連打(コンビネーション)抜けて言う事かよ」
 吐き捨てたシラスは言う。
「勝てない相手にはどうするって?
 汚い手なら軽く一ダースは思いつく。小魚(スラムのガキ)ならそうしたかもな――」
 でも。
 今のシラスはこんな『真っ当』な強敵を目の前にして力を試さずにいられないような男ではない!
「確かに強い。これ以上、そう長くは止められないかもね……
 ……でも、チャンスさえ作れば、私たちは勝つよ! 必ずね!」
 アレクシアが信じてくれたなら、それはそう。
「教えてやる、イレギュラーズはここからが強いってなァ!」
 吠えたシラスの拳の冴えは一層鋭くなるだろう。
「何だかあてられてしまいますね」
「同感……」
 瑠璃の言葉に何故かナルキスが頷いて「なにそれ!?」とアレクシアが軽く抗議する。
 肝心要のシラスは満更でもないのか、更に腕をぶしている。
「……あー、もう何て言うか爆発しろって言うか? もっと本気が出せそうだぜ?」
「いいじゃない。ナルキスさんにはボクが居るから!」
 ソアは舌なめずりをして笑っていた。
 噛み合うという意味ではこれまた『運命的』だったのかも知れない。
「こんな戦い方じゃナルキスさんは捕まえられない。
 ここからはもっと激しく行くから――そうだなあ。灰になるまで付き合って、ね?」
「いいね、いいね。最高に可愛いねえ!」
 可愛く甘えるこの獣がナルキスのお眼鏡に叶わない訳は無い!

成否

失敗

状態異常
志屍 志(p3p000416)[重傷]
密偵頭兼誓願伝達業
サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
蒼穹の魔女
ソア(p3p007025)[重傷]
無尽虎爪
フリークライ(p3p008595)[重傷]
水月花の墓守
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)[重傷]
星月を掬うひと
アルヤン 不連続面(p3p009220)[重傷]
未来を結ぶ

第4章 第6節

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
セララ(p3p000273)
魔法騎士
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

●冠位憤怒 II
 闘争は憤怒に満ちている。
 どんな聖人君子であろうとも、他人に殴られれば痛いものだし――殴った相手に怒りを覚えないなんてのは夢見がちである。
 極例外的に、やられる事を良しとする人間が居たとしてもそれは憤怒の不在というよりも闘争の不在と称した方が正しかろう。
 故に。どれだけ理由を付けようと争いは生じた以上、憤怒なのだ。是非を問わぬ善悪の彼岸の先なのだ。
 バルナバス・スティージレッドが闘争を愛したのは、それが故なのかも知れない。
 或いは何の関係も無いのかも知れない。
 何れにせよ分かっている事は一つである。
 造物主たる原罪さえ理解出来ない『人間らしさ』というものは、冠位を称する七罪さえも逃さぬ『人格』の檻を作り出したという事だ。
 憤怒は存在意義(レゾンテートル)を問うように怒り続けて『在るべき』だった。
 その為の毒のように、産まれてこの方何の瞬間にも満ち足りた事は無かったのに。

「――いいねぇ、どんどん来いよ!」

 呵々大笑し、加速的にテンションとパワーを上げ続け。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハ――!!!」

 今まさに殴り合う、殺し合う相手に愉悦と高揚ばかりを押し付けるバルナバスは今憤怒ばかりに突き動かされていまい。
 まるで冠位七罪がその冠を脱ぎ捨ててでもいるかのように――有り得ざる戦いは透き通り過ぎていた。



●極戦 II
「人々の祈りと希望、全てをこの一撃に込めて!」
 朗々たるその声は『大暴れ』にまるで廃墟のような様相を呈する玉座の間にも良く響く。
 小さな全身にその力を漲らせ、低い姿勢で地面を這うように加速していく。
 携えた聖戦の剣は小さな体躯には余りに不似合い。その癖その閃きは幾度と無く『誰か』を救ってきた輝きでもある。
「――ギガ、セララブレイクッ!!!」
 迸る剣閃は雷撃を伴い、受け止めたバルナバスの掌をジリジリと焦がす。
 イレギュラーズは止まらない。
(奴の一挙手一投足、僅かな呼吸の変化、細かな視線の流れ、感情の揺らぎ。
 全てを見て、奴の攻撃は確実に躱し、こちらの攻撃は絶対に当てる!
 絵空事のような戦法を、貫き通す。マリアには、それができる筈――!)
 大いなる術式を繰るエクスマリアの集中はまさに今、極限まで研ぎ澄まされた。
「そっちはルシアたちのことを百倍殺しやすい、ということでしたら!
 こっちは百倍のパワーでぶつかればいいだけでして!!!」
 ルシア曰くの『究極のずどーん』は『みんなで力を合わせて何百倍』。
 続け様、至極真っ直ぐな思考で叩きつけられた砲撃は止められたセララの一撃を押し込むようにバルナバスを数メートル以上も後退させていた。
「――いいねぇ、どんどん来いよ!」
「言われんでもそうさせて貰うさ」
 大いに滾り、大いに煽るバルナバスに相対するエイヴァンは静かにクールにそう言った。
「ヒーローは遅れてやってくるとは言うが、遅れてくる奴がヒーローとは限らない。
 ……ま、遅れてきた分の仕事はしてみせる心算だがな」
「ああ。いいから『やってみな』!」
 バルナバスの猛撃がエイヴァンの眼前で動きを止める。
 僅かに表情を曇らせた彼に一瞬遅れて力の結晶が破片と散る。
「――もう一発!」
 硝子のように打ち砕かれた防護(ルーン・シールド)がそれを止めるに十分でない事はとっくの昔に知れていた。
「でも十分じゃなくても、『それなり』には止まりますよね。
 ああ、命が惜しくば、なんて言わないで下さいね?」
 表情は不敵。何処まで本気か挑戦的だ。
「私を殺すまで気を緩めないでください。まぁ、愛する人がいるので死んでも死にませんけど?」
「ははははは!」
 清炎と悠炎を従えて。紅蓮より強く、激しく、残酷な蒼い焔を巻いたフルールにバルナバスは狂笑した。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ――!!!」
 激しさを増しながら続く戦いにイレギュラーズはもうずっと前から満身創痍に近い状態だった。
 笑うバルナバスもノーダメージからは程遠い。彼は確かに個として間違いのない『最強』に違いなかったが、こと集団戦という意味でローレットの精鋭以上の部隊は恐らく混沌にもそう存在し得まい。そこにヴェルスやキールが加わるのだから、此方は此方で最強ならぬ『最優』の一角なのは間違いない。
「どいつもこいつも本当に無茶ばかりして――!」
 暴風のような一撃に吹き飛ばされ、壁にめり込んだ仲間を見てゼファーが思わず声を上げた。
「無茶でもねぇさ」
 バルナバスは笑って言う。
「テメェ等如き――テメェ等が俺を倒そうって言うなら、無理無茶なんてコストの内なんだよ。
 それは当然って話であって、ポーカーのレイズなんかじゃあねえ」
「言うわね」と口角を持ち上げたゼファーはしかしバルナバスが『如き』を撤回したのに気付いている。
「『最強』を倒そうって話になってる辺り、随分と評価されたものじゃない?」
「幾千無駄を積み重ねて――それでもどうしても折れなきゃ、な」
「諦めもしないし、此処で死ぬ気もないわよ。
 個人的な話をするなら――ぶん殴ってやりたい爺が居るのよね。
 アンタにとっては些細な争いでしょうけれど、其れでも私にとっては……やってやらなきゃ始まらない話なのよ」

 ――どれだけ絶望したって、恐ろしくたって、私達は絶対に諦めない。
   知らない? 自由な意志って奴は最高に我儘なものなのよ?

「うん、ああ。いい。それでいい。
 誰かを殴りたいから俺を倒すなんて、憤怒だ、憤怒。
 なら、最高にいい感じじゃねえか、若いのに立派なもんだな――」
 奇妙な理解にも似たやり取りは、しかし同時に凄絶な殺し合いと共に進んでいる。
 ゼファーとて一度受け損なえばたちまち死の淵に転げ落ちる戦いである。
 一方のバルナバスは幾度打ち据えようと攻撃を束ねようと効いてはいても本人曰くの『雨垂れ』だ。まだ遠く命のやり取りの領域までは届いていない。
「つくづく不公平な戦いですね?」
「――新田さん、これ何点差?」
 ゼファーを追撃し掛かったバルナバスの巨体を寛治とアーリアの連弾が牽制し、押し止めた。
「九回裏、七点差ですね。
 ちなみに私の小指は先の激戦で折れていましてね。
 正直を言えば、フィールドプレイヤーとして出場しているのが不思議な位です」
「絶望的じゃないの!」
「おや、絶望しますか?」
「まさか」とアーリアは笑う。
「タイムアウトのないゲームってすごいのよね。
 年に何度も『とんでもない逆転勝利が起きるから』。
 ……だからこそ、勝利の美酒は美味しいのよ」
 自慢の美貌は血と汗に汚れていたが、これまで以上に華やかに――
「満塁ホームラン二本でサヨナラ勝ちなんて最高じゃない?」
「成る程、そのプランでいきましょう。
 ホームランは他所に任せて、まずは我々がランナーを溜める――という事で」
『やり取りは冗句めいているが、ちらりとジェックの姿を確認した寛治の言葉はあながちふざけているばかりではない』。
 一方、寛治の『おじさん癖』が見事にうつったアーリアはやってしまったとわざとらしく嘆くポーズを見せていた。
 アーリアはタイムアウトが無いとは言ったが、それは精神的なものである。
 鉄帝国の運命を問う戦いは始まったその時から恐ろしいまでの非対称戦に違いなく、常にイレギュラーズに背水を強いるものだった。
 しかし『見て分かる終わり』を突き付けた事は或いは戦略的には間違いだったのかも知れない。
 結果として逃れる選択肢を無くした多くの者が実力以上の戦いを展開した。
 窮鼠と呼ぶには余りにも鋭い牙を持つ戦士達が最終決戦(ここまで)の道を切り開いてきたのだ。
 魔種の目的が素直に鉄帝国を滅ぼす事だとするならば、イノリはこれに決していい顔をしないに違いない。
 敵にその死に物狂いこそを求めていたバルナバスにとってこの状況は至適でしか無かったと言えるのだろうが――

 ――爆音が耳を劈き、衝撃が城を揺らしたような気がした。

 ずん、と重いものが落下する音が響き、これまでにない明らかな異変が起きた事を教えていた。
「気にする事はねぇよ」
 バルナバスは言う。
「外の棺桶が堕ちただけだ。
 ……まぁ、正直を言えば褒めてやる所か。
 テメェ等の仲間が『俺のガキ』を沈めやがった――まぁ、相討ちだったみてぇだが」
「――――」
 息を呑んだイレギュラーズにバルナバスは頓着しない。
「驚く事か? 戦争だろ。
 鉄帝国の兵士共も山のように死んでるだろ。
 バトゥの兵も、俺についてくる物好きな魔種の連中もそうさ。
 阿呆みてぇにしぶてぇテメェ等は余程死に慣れてねえんだろうがな――『そういうもん』だろ?」
 嘲るような調子だがバルナバスの言葉の向きはイレギュラーズではあるまい。
 彼は『神の不公平』に冷ややかな冷笑を向けていた。成る程、特異運命座標は可能性の獣である。
 大魔種も含めた多くがその息吹を絶やさんとしてきたが、その試みがどれ程に難しいかは今この瞬間を見るだけで証明されていよう。
「バルナバス……!」
 だが、純粋故に直情的とも呼べるヨゾラの怒りにそんな魔種側の理屈は関係無い。
「バイル宰相を……僕の仲間を、絶対に許さない!」
『会話』に大きな隙を見せたバルナバスの顔面を飛び込んだ彼の全力全開――『魔術紋ヨゾラ』の星の破撃が撃ち抜いた。
 状況の進展は戦いの加速とほぼ同じ意味を持っている。
「見事に最終局面って感じだね。タイミングが良いのか悪かったのか――」
 比較的余力を残していた花丸がバルナバスの突進を奇跡的にかわし、返す刀でエクス・カリバーを振り抜いた。
「どっちにしろ――相手が相手だしこれまで以上に気合を入れないと。
 主役は遅れてやって来るって感じで――皆、まだまだ行けるよね!?」
「無論! 『最強』に挑めるとは何たる幸運か!」
 花丸の言葉に力強く応えたのは彼女の一撃に乗り、更なる追撃を仕掛けた迅であった。
「八閃拳、日車迅。一つ、お相手願います!」
 天甜酒をぐびりと煽れば、高揚に熱を持った身体は迅の想像以上に軽く動く。
(この武、叩き付けんとする是が文字通りの『最強』ならば……!)
 鍛え上げ、練り上げた拳を向ける先としてこれ以上は中々にあるまい。
(双拳密なるは雨の如く。疾きこと流星の如く――燃えよ、我が血。否、我が魂!)
 鳳圏にて始祖が編んだ一撃はバルナバスの防御を遂には破り、その体を大きく仰け反らせるまでに炸裂した。
「どいつも、こいつも……!」
 口から血の混ざった唾を吐き捨てたバルナバスは更に連撃するイレギュラーズを睥睨した。
 誰も彼も、散々に痛めつけられながらその攻勢を緩めていない。
 これ程までの大勢が自分自身の限界等という胡乱な基準を揃って超えてくる姿は最早敵対者にとっての悪夢のシーンと言えるだろう。
 更に間近に迫り、破滅の匂いを増した戦場には躊躇する時間も悲しむ時間も存在し得ないという事だ。
 全てを終わらせる心算の新皇帝を倒さねば、そもこの国の悉くが辿る未来等、同じようなもの。
 All or nothingの酷いゲームは決して撤回されないのだから、前に進む以外の選択肢は示されていまい。
 示されていまいが――
(……ハハハ、普通『そうなる』かあ?)
 ――バルナバスは内心で感心せざるを得なかった。
 せめても一人二人、いやさ半分位は『折れて』居たなら可愛げもあろうに。
「まだ……やれまスよ……!
 生憎新皇帝(あなた)より手のかかる連中を知ってましてね……!」
 襤褸になった美咲が彼女らしくも無い最前線でフラフラと立ち上がる。
「酔っ払いの介護、たまに倫理観が飛ぶ虎の制御。
 歯車卿もすぐ無理するし、遅刻男を女子で囲んで学級会もしなきゃいけませんからね……!」
「全くであります」
 エッダは同じように構えを取る。
 世話が焼ける友人も、季節のイベントを丸々すっぽかした唐変木も。
 まぁ、言いたい事は山程あるが――複雑で、愛すべき祖国を脅かす奴が悪いに決まってる。
(嗚呼――)
 エッダは考える。
 常に何かが憎かった。
 自分より力のある誰か。
 自分より夢のある誰か。
 自分より優しい誰か。
 羨んで、羨んで、妬んで嫉んで不貞寝して。
(――結局、私にできることは前に進む事だけだった)
 だから、ここで退がる訳にはいかないのだ。
 横目で確認した男の顔が――バルナバスを見るその顔が責任感とは程遠い、羨望と充実に染まっているのを知ったなら。

 ――もっと、もっと、もっと!
   あの人に、一瞬でも追いつけ、追い越せ。
   今、この時だけ、私が最強になるんだ。
   焦げ付くようなこの憤怒も置き去りにして。
   この先の世界を、あの人と見る為に――

『乙女』の事情的に考えても、これは大人しくしてはいられまい!
 全力を疾く鋭く叩きつけたエッダに猛烈な反撃が襲い掛かる。
 彼女を抱えるように持ち上げた(おひめさまだっこした)ヴェルスが残影を残してその間一髪を救ってみせた。
「案外気が利くじゃねえか、フェミニスト」
「とっとと下ろせであります、フェミニスト」
 何故か意見を一致させたバルナバスとエッダにヴェルスは小さく肩を竦める。
「……自分を助ける暇があるなら、一太刀を」
 複雑にそう言ったエッダにヴェルスは「それもしてる」と嫌味な位の気障を見せた。
 遅れて、バルナバスの胸元が血を噴いた。
「――本当に『いい』な。テメェ等は!!!」
 それは心からの賛辞であった。
「本当に最高だぜ。この時間を終わらせるのが惜しい位には」
 絶体絶命を前にしてもそれを感じさせない時間が余りにも心地良い。

 ――バルナバス・スティージレッドはまだ軽く三倍以上の余力を残しているというのに。

 磨り潰す戦いはやがては終わる。
 黒い太陽が堕ちるのが先か、イレギュラーズが全滅するのが先かは分からない。
 だが、見るからにイレギュラーズの限界は近かった。
 バルナバスがまだまだ余裕であるのと対照的に――疲労と消耗を重ねた勇者達には死の影が憑り付き始めている。
(嗚呼――)
 依然として猛攻を受けながらバルナバスは考えた。

 ――こんな仕事、受けなければ良かった。

 元々、勤勉な七罪では無かったのだから。

 ――全部、無かった事にならねえかなあ。

 なる訳が無い。しかし、このイレギュラーズならもう暫くすれば更なる戦いが楽しめそうだった。
 長い生の中で最も充実した時間が今現在である事は疑う余地も無い。
 これを過ぎた時、自分には何が残るのだろうとバルナバスは考えてしまった。
 精々が、ルストかイノリと戦り合う位しかない。そしてそれは余り魅力的なプランにも思えない――
 バルナバスの想いを反映するように戦いのテンションが『少し』下がった。
 憐憫と、或いは惜別を思わせた彼はこの瞬間、憤怒でありながら『何時も以上に』傲慢だった。
 勝ったと思ってしまったのは、恐らく。
 彼がその長い生の中で一度も対等以上に自身を脅かす敵を知らなかったに違いない――
 だから。
「――恐らくは、感謝するべきなのでしょうね」
 マルクは言った。
「『貴方が憤怒である事に』。そして……」
 静かに、そして力強く言った。
「『どうしてか今、少しだけ満ち足りてしまっている事に』!」
 バルナバス・スティージレッドの属性は『憤怒』だ。
『憤怒』がこの瞬間、否。この戦いにおいて『憤怒』を忘れたのは胡乱に過ぎる!

 ――目標、射程圏内です!

「ラトラナジュの火――用意!」

 ――紅冠の矢、装填確認!

 ――エネルギー、充填開始!

(アーカーシュの皆の想い、この国に暮らす人達の想い、そして仲間達の想い。今だけでいい、僕に力を貸してくれ!)
 背負い過ぎた荷物は一人の力で支え切れるようなものではない。
 失敗すれば全てが御終いになる瞬間なんて、とても背負いたいとは思えない。
 唯、マルクはその重圧を跳ね返した。彼は、
(僕は、アーカーシュの司令だ!)
 自分に言い聞かせるそんな気合と、
「撃て――ッ!」
 喉も裂けよのその叫びは同時に迸っていた。
 リッテラム付近の空にまで到達した浮遊島アーカーシュの切り札、即ち『ラトラナジュの火』には射手が居る。
 ミーナとジェックの二人は極めて重大な『シューター』だ。
 二人が城門とバルナバスの前、それぞれの最前線に居るのは理由がある。
 それは『確実にバルナバスを捉える為』に他ならない。
(待ってたぜ、この瞬間を――!)
 まず第一射。ミーナは確実に第二射に通ずる『道』を作らねばならない。
 リッテラムの一部を吹き飛ばし、バルナバスを打ち砕く為には間近での観測が必要不可欠だ。
 そして第二射。ジェックはバルナバスの至近に在る必要がある。
 ラトラナジュの火は元より大量破壊兵器のようなものだ。まともに撃ったならば玉座の間のイレギュラーズも全滅する。
『そうならない為には天才的な狙撃能力を持つ彼女が完璧なナビゲートで、超収束させた一点破壊能力をバルナバスだけにぶち当てる必要があるのだ』。
 普通に考えれば出来る筈のない芸当だが、少なくともアーカーシュは彼女ならばやってのけると確信している。
 そしてもう一つ重要な事。
『当人』が最前線に居たならば、射手はどう確保するのか。
 それを成し遂げたのが大精霊セレンディの為した『奇跡』であった。
 砲台の幻影は当人に完全にシンクロし、マルクの号令と共に完璧な発動を霧の戦場にもたらした!

 ――王城が揺れる。

 威力の余波をまともに受けたバルナバスさえも吹き飛ばされた。
 イレギュラーズは尚の事で、壁や柱に叩きつけられ、その動きを失っていた。
 だが、『距離』が出来たのは却って彼等に好都合だったと言える。
(ラトラナジュの火はアタシだけで撃てるものじゃない。
 アーカーシュに住む人、共に戦う全ての仲間の想いと共に、危機さえも乗り越えんと撃つものだ……!)
 芋虫みたいに床に這いつくばって、それはジェックの理想形(フォーム)からは余りにも遠かったけれど。
「だから──アタシは止まらない!
 雨垂れだって石を穿つの。アタシの雨はキミを穿つ!
 アタシ達の『火』が、キミの見る最期の景色だッ!!!」

 ――声と共に彼方から今一度光が瞬いて。

 瞬間、空を駆け抜けバルナバスを直撃したのは『火』。
「こ、の……ッ……!?」
 初めて、と言っていい。
 バルナバスが『必死な声』を漏らしていた。
 彼は自身を飲み込みに掛かる破壊の奔流をその両腕で押さえつけようと足掻き続ける。
「く、しょうおおおおおおおおお――ッ!!!」
 吠えたバルナバスの右腕が肘の先からもげて落ちる。
 血走った目で。痛みと屈辱に『憤怒』を滾らせた彼はそれでも力づくをやめはしない。

 ――おあああああああああああああああああああッ!

 この世のものとも思えぬ悪鬼の咆哮が鼓膜を揺らした。
 爆ぜた苛烈な閃光がその場の誰もの目を焼き、その先はこの瞬間、場の誰にも分からない――

成否

失敗

状態異常
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)[重傷]
愛娘
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)[重傷]
【星空の友達】/不完全な願望器
マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
フルール プリュニエ(p3p002501)[重傷]
夢語る李花
アーリア・スピリッツ(p3p004400)[重傷]
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)[重傷]
冠位狙撃者
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
日車・迅(p3p007500)[重傷]
疾風迅狼
ゼファー(p3p007625)[重傷]
祝福の風
笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華
佐藤 美咲(p3p009818)[重傷]
無職
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)[重傷]
開幕を告げる星

第4章 第7節

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

●死戦 II
「アレでも堕ちないのね……」
 イナリの呟きは殆ど全員の代弁だった事だろう。
 無論、最初から過剰に期待していた訳ではない。
 しかしながら空中で爆散したグラーフ・アイゼンブルートの圧は『それ』を一瞬期待させてしまう程に鮮やかだった。
 意地が、誇りが、運命を後押ししたガイアドニスの強い意志が――本能的に戦士達にそれを理解させていた。
「戦況柄仕方ないけど、ドンパチドンパチの最前線って私の好みじゃないけどね。
 こんなモノうぃ至近距離で観測出来るなんて、気分はまるで木星探査機(ジュノー)なのよね――」
 誰かの悲鳴が響く。
 誰かの怒号が響いている。
 リッテラムの城門は血では血を洗うような死戦が展開されていた。
 苛烈な消耗戦は誰の目にもこの場所が『最悪の激戦地』である事を告げている。
「……ワンコ、あの太陽を止めるぞ。ありったけの冷気を太陽に向けて放ってくれ」
 レイチェルはフローズヴィトニルに『無理』を頼んでいる事を知っていた。
 元より『それ』が無かったのならとうの昔に終わっている。

 ――コオオオオオオオオ――!

 レイチェルに応じるように冷気を強めた『それ』が我が身を削るように力を絞り出している事を知っていた。
(氷狼の力は、壊すだけじゃない。きっと、民を守る事も出来るって俺は信じてるんだ)
 信じる事が奇跡の呼び水足り得るのなら、彼女の想いもまた力になっているに違いない。
 幾つかの奇跡を糧に、幾多の犠牲を代償に勝敗の天秤は辛うじて傾き切る手前でその動きを止めている。
 ジリジリと迫る黒い太陽の熱気はまるで地上を茹で上げるように徐々に存在感を増しつつある。
 赤い月で敵影を照らし、その憤怒のままに焼き付ける。
「……シュペル先生の専売特許を使って……こんなふざけた事しやがって! 許せねえ!」
「不利な状況に追い込まれてからが可能性を抱えた者の本領だろう?」
 レイチェルの言葉に不敵な自信を見せたヴェルグリーズのその言葉は果たして本音か、強がりか――
 少なくとも戦いは終わっていない事だけは確かであり……ヴェルグリーズの答え合わせはすぐに出た。
「――俺達は最後まであきらめない。可能性を手放さない。
 この戦場を明け渡せ。勝つのは、俺達の方だ!!!」
 腹の底から声を絞り出し、クールにも見える彼ならぬ裂帛の気合と共に勇戦を続けている。
 最悪に最悪を重ねた展開で勝ちを拾うのは砂漠の砂金を探すようなものだとしても、イレギュラーズにはまだ確かに幾分かの時間が残されていた。
 細い糸筋のような勝機を手繰り寄せる為ならば、泥水を啜る事も厭わない事はこれまでの戦いが証明していた。
 とは言え、戦闘全体の綻びは隠し切れないものになっている。
「うお……!?」
 最前線で要塞の如く攻撃を集めまくっていたザーバの巨体がバランスを崩した。
「少しくたびれただけだが――ああ、歳は取りたくないものよなあ」
 そうは言うが……黒鉄の巨体が傾いだ姿を配下の兵は見た事が無い。
 疲れただけでどうにかなる程に彼が弱くない事を誰よりも知っている。
 増してやこの将軍は何十年振りか、味方のボディにガードされていたのにも関わらずだ。
「む、これは……」
 弱った巨星の様を見て敵兵がここぞの仕掛けを見せていた。
 片膝を突いたザーバはこれを迎撃に掛かるも、その動き出しがやはり鈍い。

 ――キン、と。

 刹那、高く澄んだ音が鳴る。
「――何とか間に合ったようね」
「おう。悪いな」
「……ザーバ将軍が自ら最前線で戦っているとは。それでも持ち堪えている辺り、流石ね」
 事態に急行した舞花の銀剣が辛うじて敵方の動きを阻止したのだ。
「何処まで進んでも非才の身。怪物と同じようにはいきますまい。
 私が加勢した所で、大勢は動かないでしょうが――されど、戦の結果は水物です。
 切れるだけの切れるだけのカードは切られている。バルナバスさえ討てれば――バルナバスを討つまで凌げれば此方の勝ち。
 死線、大変結構です。全て終わるまで、剣を振るい続けるだけなれば」
 乱戦めいた状況はこの麗しき月の剣士に似合いの場所では無かったが、その出で立ちには『くしゃみ』をした男連中もさぞ満足の事だろう。
「さてと、魔種は倒さねばなりませんからね……直接関与せずとも、少しくらいは気張りますとも」
 派手な登場は無く、攻め手としては決して頼りになるものでもない。
 だが、そんな風に嘯いたベークはまさに全てが自己完結した防衛者であった。
 終わりの見えない超長期戦をしこたま支えるのに最も適した兵力。
 一瞬で全てを刈り取る敵に弱味こそあれ、そこまでは望むべくもない雑兵を誰よりしつこく阻み続ける妨害者であった。
「耐える必要があると言われたら……ええ、時間は稼ぎます。
 防戦はそれなりに得意ですからね。可能な限りはやらせていただきましょう――」
 ただ、先の舞花の言葉は皮肉な位に真実だ。
『戦いの大勢はどうあれ固定されたままである』。
「……ッ……!」
 強く唇を噛んだ鏡禍は事態の深刻さを理解している。
 鳥以上の広域視野を有する彼が俯瞰した戦場はいよいよ混迷を極めていた。
「どこを見ても敵ばかり。テルモピュライのスパルタ兵にでもなった気分だわ。
 ……とはいえ、レオニダスのようになるつもりもないけれどね」
 三百の勇兵の辿った末を肯定的に見るかどうかは価値観によるだろうが、ルチアの表情を見る限り彼等に殉じる心算は無いようだ。
「私の役目は火力よ、一人でも多く敵をねじ伏せる。
 そのために来たんだから――譲れないわよ」
 至高なる号令(シュトルム・リッター)を背負い、オデットが出色の威力で敵の波を食い止めた。
「防御と支援と、それから攻勢。一度無茶苦茶になったバランスを叩き直すのは文字通り骨だけど」
 鏡禍にルチア、オデットを加えた【ローマ】はそれぞれが防御、支援、攻撃のバランスの良い役割を負ったユニットだ。
 持ち前の連携の良さもあり、スリーマンセルの小単位で良い戦いを見せていたが、全体としてのジリ貧の感は否めない。
「中に入って行った皆がバルナバスを倒すまで耐えきれればいい……!
 ……けど、これだけ押し込まれてる状況じゃ守りに入ったらそのままやられちゃうよ!?」
「確かに……これ以上耐えるといっても数を少しでも減らさなければ話になりません……!」
 焔や鏡禍の言う通り、状況は全く楽観出来るものでは無かった。
【騎兵隊】の特攻により解放軍の一部が敵の喉元に喰らい付いているのは確かである。
 彼等の奮闘は未だ終わらず、守将たるバトゥを討ち果たさんと『暴れている』のは確かである。
 だが、これを振り切られたら術がない。
【騎兵隊】が突き付けている匕首は、バトゥを取る為の最後のチャンスは最早唯一無二の勝ち筋と言っても過言では無かった。
「専守防衛って考えんの……やっぱナシナシ!
 ……まーそのぉ、おつかれちゃん? こんなのもうヤるしかないに決まってんじゃん!
 やりたい放題粘りやがって! バ将軍め! そういうの大好きだぜ!」
 秋奈は『相変わらず』の調子で踊るように敵を切り裂くが、底抜けに強かでポジティブな彼女も傷みに傷んでいる現実は変わらない。
「ああ、まったく! 笑えるくれえに最悪だぜ!
 どいつもこいつもボロボロな癖に、敵はゾロゾロと増えてやがる!」
 多数の敵にも仁王立ちを見せ、幾度となく跳ね返し続けたグドルフにも色濃い疲労が見えていた。
 イレギュラーズが連携で戦うという事は、優秀な守将の指揮を受ける敵も全く同じだという事だ。
 彼我の戦力比や状況を考えればバトゥが分厚い戦力で消耗戦を強いるのは当然である。
 勝利の為に戦力バランスを崩す必要性があった解放軍は正面戦闘において極めて厳しい劣勢を凌ぎ続けている状態だ。
「畜生め! トンズラこくタイミングも失っちまったてワケだ!」
 また敵の一体を振り払い、代わりに槍の一撃で脇腹を浅く抉られたグドルフが怒鳴るように毒吐いた。
 正面での負けが確定すれば、戦線の維持が叶わないのは勿論の事、城内に進軍したイレギュラーズは退路を失う事にもなりかねない。
 不利は主力をこの城門ならぬ城内に送り込んでいるのだから当然だが、悪ぶる彼の本来の気質からして仲間を見捨てる事等論外である。
(全く情けねえ、らしくねえ戦いだ、腹が立つぜ……だがよ、俺は諦めねえぞ!)
「最も厳しい局面だ。だが、少しでもここを食い止める――
『出来る事をするしかないのなら、出来る事をするだけだ』」
 大量の吐血をしたグドルフを敵兵が詰めんとするも、これをアーマデルの鉛の楽団が牽制した。
「……助かるぜ。それにいい事言うじゃねえか。馬鹿らしい位によ!」
「力が足りない『半端』なら、それなりにやりようもあるという話だ」
 アーマデルの『謙遜』にグドルフはニヤリと笑う。
 こんな戦いが共に轡を並べる者に『火』を入れるのは当然だ。
「押しくら饅頭で潰してやれ! あのバトゥを城内のバルナバスのもとに追いやってやる位に!」
 この戦いはイレギュラーズだけのものに非ず。黒鉄の咆哮は元々は鉄帝国軍のものなのだ。
(あー、もう! この際だ! 最後の大立ち回り見せてやるぜ~)
「戦術は――泣くな、戦え! オトコだろ!」
「そりゃあいい!」
 声を上げたのは誰だっただろうか。
 名も無き兵士さえ英雄に設える全軍銃帯の号令は残る鈴音の力を、兵達の死力を振り絞るかのようなものだった。
「押されに押されて、チョークポイントも絞られて参りましたし。
 敵も味方もすべて吐き出して。ここからは意地の張り合い……と言ったところでせうか?」
 幻影のような自身すらも傷付ける戦場だからこそ、ヘイゼルにとっては実に興味深いものだったかも知れない。
「意地だなんてそんな誰もが持ち得ることだからこそ。逆に負ける気は毛頭にないのですよ」
 この期に及べど何一つ変わらないからこそ、ヘイゼルは何時も通りに戦場を支えに掛かる。
 敵を引き付け、まるでステップを踏むかのような見事な動きで翻弄し、一連の動きの中で感慨さえ無く敵を掻き切る。
「うん……だったらっ! これ以上退けないなら……
 ここは一歩でも押し返すしかないっ! 行くよっ!!!」
 焔の放った裁きの炎が敵陣を激しく焼き払う。
「もう、いい加減に――してよ!」
 迫り来る新手に持てる速力を叩きつけ、蹂躙する!
(……もし、もしな?
 点差が絶望的、時間もロスタイム分しかなかったとして、だ。
 どうしようもないって諦めるか?)
 敵と激しく『デュエル』する葵の頭の中で描かれたのは鮮やか過ぎる位の逆転劇だけだ。
「――冗談だろ? 負ける前から負けを認めるのは気が早い。
 勝った負けたなんて所詮は結果論だ、つまりいくらでも変えようがある。
 ホイッスルの前に言うなら『これだけ』だ!」
 全力の『シュート』が敵の一人を薙ぎ倒した。
「――試合はここからっスよ! 諦めるにはまだ早ぇっつの!」
 高く鋼が鳴き喚く。
 敵兵の斧撃、剛力に任せた一撃を細身の緋剣で柔らかに受け流す技量は戦う姿と相俟ってこの上なく美しい。
「――――はっ!」
 鋭い呼気と共に繰り出された絶凍の突きは敵の守りを見事なまでに突き崩し、一撃のもとに巨漢の彼を打ち倒した。
(フローズヴィトニルの欠片とミシュコアトルの盾。それに、グラーフ・アイゼンブルート……
 黒い太陽は、まだ時間を稼げる――筈、『だけど』)
 明敏なリースリットは考える。戦いは寄せては返す波のようなものだ。
 恐らくはこの勢いが出せるのは最後になろう。
 なればこそ、イレギュラーズ側の攻勢に敵方がやや怯んだ様子を見せた今こそが正真正銘の最後のチャンスである。
 彼女の見立ては間違ってはおらず、そしてここまで戦い抜いた勇者達には最高のタイミングで一つのギフトが与えられた。

 ――天より出でし光が瞬く。

 轟音と共にリッテラムの上部を吹き飛ばし、赤き火線を以って『玉座の間』を貫いた。
「今のは……アーカーシュ!」
 リースリットの形の良い目が大きく見開かれた。
 圧倒的過ぎる砲火の衝撃は浮遊島が見下ろす眼下の敵の全てを動揺させていた。
『次』が来るとも知れなければ、文字通り彼等は生きた心地もしなかっただろう。
 決死を固めた戦士も多いとは言え、本能的な恐怖はその動きをこの一瞬だけ――確かに鈍らせ切っていた。
 漸く生じた絶好機を逃すようなイレギュラーズではない。
「派遣会社ルンペルシュティルツ! 社長のキドー、ここに在りってな!」
 流石経営者といった所か、その名乗りにも卒がない。
 この瞬間、解放軍の誰よりも『目立つ広告効果で男を上げた』キドーが怒鳴る。
「大物は他の連中に任せらあ!
 だが、ここまできて残ってるのはたかが雑兵じゃあない。
 どいつもこいつも侮れねェからなあ!」
 彼の目線は喰い付いた【騎兵隊】の処理に動きを制限されているバトゥの方を向いていた。
 このどうしようもない戦況で辛うじて目があるとするのなら将を取る以外にはない。
 将を取っても解決するとは限らないが、まずそれなくしてどうなる話でもないのは明白だった。
「……クッ……!」
 思わず呻き、城門側に退避しかけたバトゥにとって不運だったのは、もう一人。
「コャーッ!?」
 先程のルナに続き、城内からの戦力が漏れてきた事だっただろう。
 あの後、城内で合流し――アンナやフリークライと共に悪魔の魔種とやり合った胡桃は敵の退避と共に城門側へと戻ってきたのだ。
 悪魔の動きは確かに――アーカーシュを想定しないのなら――バルナバスの勝敗には無関係だっただろうが、城内の戦力を結果として零したその判断は最悪に致命的な事に正面戦闘の、より正確に言うのならバトゥ・ザッハザークの運命を決定付けるものになる。
 鉢合わせの格好になった胡桃を排除せんと彼の近衛が前に出た。
 その瞬間が何より貴重。
 アーカーシュによる兵の動揺と、近衛の手を取られた事と、バトゥ自身想定外の状況に慌てた事。
 重なった三つの奇跡は瞬間に全てを賭けていた一人の男を呼び込んだ!
「ゼシュテルが終わるかもって時にまで殴り合いに拘るなんて我ながらバカみたいで笑っちゃうけど――」
 兵の間を駆け抜ける。
「――コレがオレ! 結構、オレらしくてイイよね!」
 そのままの勢いで高く跳ぶ。
 見上げれば彼は――イグナートは、黒い太陽を背にバトゥ目掛けて『降下』する!
「今のオレの総てをくれてやる!
 これが――これがイグナート・エゴロヴィチ・レスキンだッ!!!」
 全力全開、文字通り全てを賭けたその鉄拳は彼の撃ち得た人生最高の一撃だ。
「馬鹿な……」
 呆然としたその声ばかりを置き去りにして。

 ――人身獣面の野望の将の左胸を穿ち、『終わり』を貫く『希望』になる!

成否

失敗

状態異常
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)[重傷]
泳げベーク君
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)[重傷]
社長!
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)[重傷]
鏡花の矛
日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)[重傷]
祝呪反魂
グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)[重傷]
紅炎の勇者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子
久住・舞花(p3p005056)[重傷]
氷月玲瓏
岩倉・鈴音(p3p006119)[重傷]
バアルぺオルの魔人
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)[重傷]
音呂木の蛇巫女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し
長月・イナリ(p3p008096)[重傷]
狐です
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)[重傷]
ファイアフォックス
鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)[重傷]
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切

第4章 第8節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

●冠位憤怒 III
 初めての経験は得難く、刺激的過ぎるものだった。
 単純なフィジカルという意味において、人型では比肩し得る者の無いバルナバスは竜と力比べをしても負けはしないだろう。
 魔種の中でも恐らくは、産まれた時から『最強』だった彼はその衝撃を知らなかった。
 本気になった事も無かったし、何より。
『本気を出さねばならない戦いは痛みに満ちている事すら知らなかった』。
「く、しょうおおおおおおおおお――ッ!!!」
 意志を持ち、全てを飲み込もうとする赤光の奔流に抗い、聞いた事も無い自分の声を初めて知った。
 剛力無双にして堅牢極まる究極の肉体が欠落する喪失感を初めて知った。
 全力全開で抑え込もうとしてもそれが叶わない位の暴力を初めて知った――
(……成る程なあ……!)
 激痛と消耗、腹の底からせり上がる『憤怒』の一方でバルナバスの頭は妙に冷えていた。
 暫く前のイノリとのやり取りを思い出していた。

 ――バルナバス、そろそろ行くのかい?

 ――あん? テメェのオーダーじゃねえのか?

 ――まぁ、そうだけど。親は子供を心配して送り出すものだろう?

 馬鹿か、と思った。
 頼みもしないのに『最強』に作っておいて何が心配だと言うのだと。
 恐らくは『原罪(イノリ)』をも上回る究極の暴力を与えておいてそんな言葉は語るに落ちる。

 ――つまらねぇ冗談をほざくなよ。殺してやろうか?

 ――君は『多分』僕より強いけど、多分それは難しいじゃないかな。

 イノリの言葉には含みがあって、バルナバスは思わず舌を打たずにはいられなかった。
 同属意識は余りない。親は親だが服従する気も更々無い。しかし……

 ――単なる優先順位の問題だぜ。俺は親(テメェ)より爺のがムカつくだけだからな。

「あれは爺なのかな」と笑ったイノリにバルナバスは「知るか」と吐き捨てた。
 魔種の果たさんとする神託の成就は緩やかな自殺のようなものだ。
 しかし、バルナバスにはその気はない。

 ――世界を滅ぼして、爺も潰して。最後は俺が終焉に勝つ。
   何の違和感もねぇだろ。だから、『取り敢えず』俺はお前のオーダーを聞いてやるだけだ。

 ――安心しなよ、バルナバス。君の『望み』はこの戦いできっと叶う。

 ――『たかが』特異運命座標でか?

 ――彼等は『特別』だよ。

 ――馬鹿言え、クソ野郎が。

 吐き捨てて踵を返したバルナバスにイノリは「でも、応援してるから」と何とも言えない笑みを浮かべたままだった。
 鬱陶しいが憎み切れない。それは『爺』とはまるで違う別物だ。
 実に面倒臭く、実に腹立たしい。
『こんなものを殺した所で満たされない』。
 憤怒でなくとも同じ事を考える――『親』はどうしたって『親』だった。

●極戦 III
『最強』を蝕む赤光が勢いを増す。
 ここまで積み重ねて、漸く辿り着いた勝機である。
「仕留めろ」と念じたのはほぼ全てのイレギュラーズだっただろう。

 ――おあああああああああああああああああああッ!

 この世のものとも思えぬ悪鬼の咆哮が鼓膜を揺らした。
 残った片腕に抱き潰され、爆ぜた苛烈な閃光がその場の誰もの目を焼き、視界が全く利かなくなる。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
 獣の呼吸が浅く早く空気を揺らしていた。
「はぁ、はぁ、は――」
 徐々に戻る視界の先に。
「ここまで来たら後は決着だけ、かな」
「ああ。これでやっと最終局面という訳か――」
 朱華が、ブレンダが見たのは片腕を失い、荒く息を整える絶対の皇帝の姿だった。
「七罪だろうと何だろうと朱華の炎で焼き尽くしてやるからっ!」
「期待せずにはいられないな。ここを抑えて凱旋(パレード)と行こうじゃないか――」
 バルナバスのダメージは深刻であり、その様相はとても先程までのものではない。
 赤黒く膨張した肉体は焼け焦げ、痛々しい程の損耗を隠せていない。
 怒りと屈辱、痛みという不自由に歪んだ顔に余裕は無く、釣り上がった目と剥いた牙はまさに鬼のようだった。
「……やってくれたな」
 地獄の底から響くような低い声にはこれまで以上の殺気が込められていた。
「やってくれたな!!!」
 燃え盛る『憤怒』は恐らくこれまで以上のものだった。
 しかし。
「よお、『憤怒』って割りには、随分と楽しそうじゃねえか?」
「まったく。いい面しやがるなぁ――おい」
 風牙とルカの見出したものは恐らく同じだ。
 衝撃から身を起こした二人は思わず――鉄火場も忘れて実にいい笑顔を浮かべていた。
「単純明快は嫌いじゃないぜ。ま、お前は謝っても許さないけどな!」
 敵を憎しみばかりで見ない風牙だからこそ、感じ取ったバルナバスは余りにも純粋だった。
『何せ、怒ってはいるが憎んではいない』。
 ……実に奇妙な位に純粋で透明だった。
 憤怒は憤怒のままに殺意を湛え、その癖憎悪とは程遠い。
「ゾクゾクするぜ。……ワクワクするって言ってもいい。
 恐らくは似たような事を考えてるんだろうよ。そりゃあきっとそうだろうよ。
 もっとこの喧嘩を楽しんでいたかったんだがな……時間切れを設定したのは失敗だったな!」
 或る種の同類だからこそ嗅ぎ分けたルカの言葉にバルナバスは「ああ」と頷いた。
「まさか『本気』を出せるとは思って無かったぜ。
 おっと、冗談やハッタリと思うなよ。俺の腕を見て、これなら勝てるなんて――寝ぼけた顔をするんじゃねえぞ?」
 短いお喋りはまるでイレギュラーズが態勢を立て直すのを待っているかのようですらある。
「――こんな滾る戦いで『秒殺』なんざ真っ平なんだ」

●幕間 I
「いいえ」と――は応じた。
 心の中に呼び掛けてくるその声に何度も首を横に振った。
 確かに他に選択肢は無いのかも知れない。
 最早、それしか手段はないのかも分からない。
 それでも「いいえ」を繰り返す――はもう一度――の笑顔が見たかった。
 ――の言葉がそれが永遠に叶わなくなる覚悟の発露だと知っていた。
 そんな『お願い』を聞き届ける訳にはいかない。
 どうしたって、頼まれたって。勝てば良いなら、『最強』を超えれば良いのなら。
 その手段が、ゴールが目の前に在るのなら。
 首を縦に振らなくたってそれでいい、――は自分に言い聞かせ続けるだけだった。

●極戦IV
「……リアさんまだ、動けますか?」
 声はやや力無く、意思こそあれど強い消耗の色は隠し切れなかった。
「当然でしょ。大丈夫、あたしはまだ――まだまだ、やれる」
 相棒のドラマに応じたリアの胸もまた荒くなった呼吸に大きな上下を余儀なくされている。
 死神は余りにも堂々とそこに居た。噎せ返るような死の臭いは、染み付いてしまいそうで怖かった。
「ボロボロなのはいつもの事よ!」
「我が事ながら、実に嫌な『いつも』ですよね。
 圧倒的に理不尽で、暴力的な……先程(アーカーシュ)も酷かったですけれど。
 一体今日はあと何回、死んだ気にさせてくれるのやら」
「言うんじゃないわよ!」
 口元の血を手の甲で拭ったリアの双眸は『いつも』と同じように凛と前だけを見据えていた。
「だから、『いつも通り最後には勝つ』! 最後までへばるんじゃないわよ、ドラマ!」
 かくて始まった最後の激突は――嗤ったバルナバスの言葉に何ら嘘が無かった事を教えていた。
 ミーナとジェックのラトラナジュの火により極大のダメージを背負ったバルナバスだったが、より攻撃性と凶暴性を増した彼は片腕とは思えない程に恐ろしく強かった。自身の言った通り万全であった時よりも尚速く、尚鋭く、尚強く――
 勝利への道筋を見出し、同様にピークを迎えたイレギュラーズと真正面から激戦を繰り広げていた。
「ははっ、すげえ、すげえな!
 あんなにバラバラに見えたこの国が、今ひと塊になってバルナバスにぶつかってるぜ!
 空の汚ねぇ太陽なんかより、ずっと強く、輝いてみえる。
 ああもう、こりゃ諦めも何も全部吹っ飛ぶってもんだろう!?」
 諦めない風牙は何度でも壁に立ち向かう。
(全身が悲鳴を上げています。つまり、まだ戦えるという事です……!)
 バルナバスの左の裏拳をまともに受けたオリーブは瓦礫の中から何とか体を持ち上げた。
 一撃で骨の何本かは折れている。普通ならば今すぐ病院送りで妥当な所だ。
 だが、それでも。
「――まだ死ねない、まだ倒れられない! 唯、お前を殺すまでは!」
 敢えて至近距離に舞い戻ったオリーブは気炎を上げて全力全開を目の前の敵に叩きつけた。
 それは彼と仲間とバルナバスが顔すら見なかった人々の怒りの代弁のようですらある。
「これが――力には、お前には砕けはしない、人の意志です!」
 戦いは続く。
 暴風のようなバルナバスの本気にぶちのめされ、吹き飛ばされ。
 それでも何度でも牙を突き立てる可能性を試すような戦いは続く。
「ハッハ! どうした、イレギュラーズ!
 俺を殺すんだろ? ああ、殺せるとも――効いてるぜ、十分に!
 だから、だからよ――俺を失望させるな。もっと熱くさせろよ。まだまだ俺は強くなる――!」
 成る程、『憤怒』は怒れる程に強くもなろう。
 彼は本当の意味で怒らねばならない程の敵に出会った事が無かっただけなのだろう。
 傷付きながらもバルナバスの『ビート』は強くなる一方だった。
 元から手を付けられない攻撃力が、膂力がいよいよ化け物染みている。
「言われずとも倒れるまで、倒れたとしても何度でも食らいついてやるわよ!」
 朱華は堪えない。常人ならば折れるような一撃を幾度も受け、その度にふらつく足でも立ち上がり続けている。
「イレギュラーズは……朱華は諦めが悪いんだから!
 ――アンタを倒して掴んで見せる。皆の明日って奴をねっ!」
「まだ力のなにもかもを思い出したわけじゃない……
 ですが、尽きず、倒れず……私の血の魔術は命の巡りの如し。
 見出して見せます……勝つ、可能性を!
 求めてみせます。最後の瞬間まで……
 絶対に終わらない、終わらせない……そんな力を!」
 朱華にせよ、マリエッタにせよ同じである。

 風車に挑む騎士は愚かか?
 否。夢見がちと笑わば笑えと胸を張る。
 牙を剥く誰もが、全ての運命をねじ伏せ従える特異運命座標なのだから!

「――ああ、いいな! 乗ってきた!」
 動きは軽やかに、しかして一撃は重く、麗しき暴風の連弾だ。
「たった独りの最強では、何れ限界に吞まれよう!?」
 ブレンダの仕掛けた超接近戦は彼女の決死の覚悟そのものだった。
 技巧派にして攻撃的。彼女程の腕前ならば彼我の差は分からぬ筈も無い。
「例えこの刃が届かなくとも次なる刃が貴様を狙うのだからな!」
 だが、言葉は真だ。『彼女は自身が捨て駒になる事さえも厭うていない』。
「――テメェの強さも怒りも絶望も! この俺が叩き斬るッ!!!」
 果たしてブレンダの死力が作り出した隙をルカは見逃す事は無い。
 真正面から強引に仕掛けた彼の黒剣が赤々と魔性を纏い、受け止めたバルナバスの掌に食い込む。
 パタパタと血が零れ落ち、悪鬼の顔が苦痛に歪むが――
「……こ、の……!」
 犬歯を剥き、青筋を立てたルカが力任せに振り払われ、石床を何メートルも後退する。
「確かにテメェの圧迫感はメテオスラーク以上かも知れねえな……ッ!」
 竜と力比べしても負けない所か、軽く竜を捻る領域にまで届いているかも知れなかった。
 だが、最強が輪をかけて強くなった位で黙っていられるような人間は元よりここには居ないだろう。
「お返しだ!」
 ルカの一撃に更に上がったらしいバルナバスが左腕を前に出し、前方広域に破壊のエネルギーを叩きつけた。
「ここは守り抜くよ! あたしができるのはそれだけだから!」
 これに応じたのは、
(……王子様には足りないとか、それでやってることとか言ってることがあれなのずるいよ。
 こんな状況なのに、本当に仕方ないし……でも、あの楽しそうな顔見たら全部許しちゃうや)
 ルカとはまた違う意味で強い覚悟を決めたフランであり、
「我ながら不器用だと思うけど」
 敢然と仲間達を守り抜かんと前に立つタイムであった。
「わたしね、今、ここに居るのはすごく怖いけど、でも嬉しいの。
 だってこんなに頼れる仲間と一緒に居られて、わたしの手で支えて護ることができるのよ?」
 支援に、或いは防御に死力を尽くすフランをタイムを嘲笑うかのように。
「知らねえよ」と吠えたバルナバスが『もう一撃』をそこに重ねた。
 圧力を増した破滅に少女の細い声が苦悶を漏らす。だが、二人は希望なる刃を守る事を止めていない。
「知らないでしょうね、分からないでしょうね!
 でも、私はとても嬉しいの。あなたにはこんな幸せ、届かないんでしょうけど――バルナバス!」
「――タイムちゃん!?」
 気合が弾け、フランの悲鳴が響く。
 タイムの小さな体が宙を舞い、ボロボロの床にバウンドした彼女はそのまま完全に動きを失っていた。
「何時までも……ッ!」
 正純の穏やかな美貌に何時になく硬質の怒りが燃えていた。
 この瞬間、彼女に過ったのは確実に『違うもの』だ。
 自分を騙すのが上手な、現実主義の彼女は『クソ喰らえの諦念』をこの時完全に捨てていた。
「何時までもメラメラと! 燃え盛られていては迷惑なんですよ!」
 引き絞られた天星弓が薄闇に輝く星の一撃――夜残の軌跡を間合いに引いた。
「たいよう、ええ。因果なものを感じずにはいられない。でも、そんな『悪縁』もここまでです!」
 巨体を貫いた一撃にバルナバスが激しく咆哮した。
 物理的な破壊力が全周のイレギュラーズを襲い、咄嗟に防御の魔術を展開したキールの顔が歪んだ。
「『最強の手負いの獣』……というのも、キール様のお好みなのではありませんか?」
「オマエ、やっぱり思ったよりいい性格してんじゃねーの?」
 襤褸のなりでも余裕を見せたアリシスに獰猛な笑みを見せたキールは言う。
「『当然だろ』」
 終焉はミストルティンの穂先に輝く。
 相も変わらず瀟洒に見事な連携を見せた魔術にバルナバスの巨体が吶喊する!

●幕間 II
 ――は分かっていた。
 最後には「はい」と答えなければいけない事を知っていた。
 可能性は幾らでも広がっていたが、収縮する運命は徐々に『それ以外』の結末を奪い始めていた。
 分かり切っていた事だ。
 何もかもを失う位ならば、一つを失った方が余程マシなのだと。
 分かり切っている話なのだ。
 究極的に言うのなら、他者の自由意思を自分の都合で歪める事等出来はしないと。
 他ならぬ――だからこそ、それを痛い程に知っていたのだ。
 ――は、心を求める者だから。そんな事は知っていたのだ――

●極戦 V
「もう一回聞きますが――」
 仰向けに転がり、見た事もない位に消耗したドラマが傍らの相棒に尋ねた。
「『リアさん、まだ動けますか?』」
「……ったりまえ……でしょ……!」
 正直を言えばドラマは『返事』があった事に安堵した。

 ――勝てない。少なくともこの延長線上では。

 どれ程に抗っても、どれだけの意志の強さを以てしても。
 単純無比なる最強の暴力の壁は厚過ぎた。
 イレギュラーズの悉くが深手を負い、戦える者はもう数える程である。
 本当にギリギリまで追い詰めたのに、あと一歩。あと一枚の手札が足りていない。
「そろそろ、終わりか?」
「……反則にも程があるだろうがよ」
 最終局面まで良くバルナバスを引き付けていたヴェルスさえも膝を突いている。
 この結果は余りに口惜しく、余りにも無慈悲過ぎた。
 不出来ばかりの運命が勇者を見放しては物語にもならないのに、バルナバスはそれ程までに絶対だった。
「まだ――折れてないよ」
 スティアが立ち上がり、バルナバスを見た。
「そのなりでか?」
「どんな姿でも、笑われても」
 彼女は噛み締めるように言い切った。
「皆の力を信じてる。私は皆が出し切れるように、全部受け止め切るだけだから……!」
「それでも、私は進みます。この戦争を、冬を終わらせる為にも。
 アーカーシュの全力も叩き込んだ。盾の力ももう残ってはいない……
 ……けれど、私も皆さんもこの国も。絶対に負けない意志を見せてあげましょう、バルナバス!」
「そうかよ」と応じたバルナバスはもうスティアの、マリエッタの覚悟を笑わなかった。
 事これに到ればイノリの告げた言葉が冗談にも何もなりやしない。

 ――安心しなよ、バルナバス。君の『望み』はこの戦いできっと叶う。

「確かに、な」
「……?」
 ふっと笑ったバルナバスにスティアが怪訝そうな顔をした。
「いいや。何でもねぇよ。唯、テメェ等に少なからず――『感謝』してるだけだ」
 勝っても、負けても。
 成る程、バルナバスの満願は遂に成就したと言えただろう。

 ――決着の時は来たのだ。

 バルナバスの勝利は――
「――――」

 ――今一度瞬いた『三本目の矢(ラトラナジュ)』により、お預けになる!
 
 爆裂、閃光。しかしこれまでの二射とは異なり今度の一撃はイレギュラーズに衝撃を伝えない。
 むしろ、吹いた風は柔らかく包み込むように傷付いた彼等をほんの僅か励まし、力を与えていた。
「……三度目!?」
 正純の顔が驚きに染まる。
 切り札は二枚。一枚はミーナが、一枚はジェックが切った鬼札。
 有り得ざる三枚目の正体は――
「ラトラナジュ、そのものですよ」
 ――答えを言ったのはグリーフだった。
「あれが『ラトラナジュの火』ならば、ラトラナジュ自身を『くべた』なら――その『奇跡』は当然でしょう?」
 運命を問いかけて、我が身の犠牲をよしとして。
『絆』で繋がったグリーフに彼女は自身という一打を託したのだ――
 グリーフの脳裏に彼女の優しい笑顔が蘇った。

 ――いつか、もう一度、あの空に帰りましょう。
 あの空を取り戻すために、せめて今だけは見ないふりをして!

「一人で全部できる必要はないよね。
 皆と力を合わせたらなんだってできるんだから!
 それに誰かを護るという意志は強さは何倍にもしてくれるんだ!」
 スティアの言う通り、これは『全ての結集の結果』だった。
 バルナバスは最初から一人で、イレギュラーズにはより多くの仲間が居た。想いがあった。
「ごあああああああああああああ――ッ!」
 胸に開いた大穴に絶叫するバルナバスは大きな隙を晒していた。
「みんな、ここが勝負どころだよ! 押し切れ――ッ!!!」
 サクラの号令に【杪冬】の面々を含むイレギュラーズが動き出す。
「さあ、ご機嫌なナンバーだ!
 新皇帝の旦那。アンタに最期の曲を聞かせに来たぜ!
 奏でるはご機嫌なAll You Need Is Power! 味方には鼓舞を、そして支援と勇気を!」
 まずはヤツェク。その口上が動き出した仲間達を強く激しく激励し、
「キール殿! お疲れの所申し訳ありませんが、拙者にもバフを! 主にCT等頂ければそれで充分ですよ!」
 ルル家の言葉に応え、出涸らしのキールが「持ってけよ。最後の分だ」と笑ってみせる。
「冠位強欲、冠位嫉妬、冠位怠惰、リヴァイアサン。一つとして勝てる勝負はありませんでした。
 全く嬉しくないことに、不可能任務には慣れているんですよ!」
 俄然、直感を増したルル家が苦し紛れのバルナバスの迎撃を見事に避けて、崩れた態勢に更なる連打を叩き込む!
「禅譲のお時間ですよバルナバス・スティージレッド!」
 風牙もまたこの時を待っていた一人であった。
(諦めない!)
 残影百手を繰り、神鳴神威を従えて。
(諦めない――!)
 天凌拝にて敵を撃つ。
「一手、二手……更にもう一手!」
 ゼピュロスの息吹と共にドラマが躍動した。
「あらん限りの喝彩を、貴方にお送りしましょう!」
「せめて最期は静かに眠りなさい」
 リアもまた、彼女に続き――淡い鎮魂を手向けるだけだ。
「アンタとは、もっと違う形で会いたかったわ――」
 イレギュラーズ最後の猛攻は確実にバルナバスを追い詰めていた。
(あと一分か、それとも一秒か。
 分からないけど――この短い時に今の私のすべてを叩き込む!)
 サクラは思い出す。幾度も味わった切っ先を。
 思い出す。戦いに勝つ為のその術を。
 禍斬を抜き、聖刀を解き放つ。
「相手が最強だろうとなんだろうと、あの人以外に負けられるもんか――!」
 竜墜閃は幾度と閃き、天高き『最強』を地に塗れさせんと叩き落す!
 出し惜しみは誰にも無い。決定的に分かり切っていた。
『これで倒せねば必ず負ける。ならば、この後前のめりに倒れたとしても上等過ぎる』。
「Rock you!」
 無茶苦茶に残った左腕を振り回し暴れるバルナバスを掻い潜り、今度は貴道が肉薄した。
「仲間と共に……誰かの為に……ああ、良いさ、悪くない。
 だがな、相手は『最強(てめぇ)』なんだぜ?
 正義の味方だけで終わらせるなんて――そんな勿体無い事あるかよ?
 ただ一度きりの機会、求め続けた最終ラウンドだ。やりきらなきゃ嘘ってもんだろう!?」


 連打、連打、連打。命さえも吐き尽くさんとするかのような超連撃――
「喜べよ! 俺の可能性――全部てめぇに賭けてやる!」
 ――そして、渾身のフィニッシュ・ブロウ。
 『蒼い太陽(ペテルギウス)を握り潰せば、運命さえも弾けて割れる』。

 おおおおおおおおおおお……!

 猛然果敢たる攻勢に、怨嗟と満足その両方が乗った声が響く。
 空気を震撼させ、間近なる戦士達の肌を粟立たせ。
 そして、バルナバスに亀裂が走った。

 ――ああ、畜生。だが、まぁ……いいか。悪くは無かったぜ?

 頭上間近に迫った黒い太陽が爆ぜ飛んだ。
 新皇帝派の兵達は失意したかのように武器を取り落とし、解放軍は各地で歓喜の声を上げる。

 ――そうして最初から何事も無かったかのように鉄帝国に平穏の時が訪れた。

成否

成功

状態異常
夢見 ルル家(p3p000016)[重傷]
夢見大名
アリシス・シーアルジア(p3p000397)[重傷]
黒のミスティリオン
郷田 貴道(p3p000401)[重傷]
竜拳
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士
フラン・ヴィラネル(p3p006816)[重傷]
ノームの愛娘
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
タイム(p3p007854)[重傷]
女の子は強いから
小金井・正純(p3p008000)[重傷]
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)[重傷]
薄明を見る者
グリーフ・ロス(p3p008615)[重傷]
紅矢の守護者
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)[重傷]
人間賛歌
煉・朱華(p3p010458)[重傷]
未来を背負う者
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女

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