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シナリオ詳細

<鉄と血と>Rising Black Sun

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄帝国動乱
『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く――
 混迷する鉄帝では六つの派閥が天を競っていた。

 先帝ヴェルスの治世に戻さんとする帝政派。
 南部戦線の英雄ザーバ将軍率いるザーバ派(南部戦線方面軍)。
 我関せずと政治不干渉を貫くラド・バウ独立区。
 ギア・バシリカを中心に民の救済を願う革命派。
 ノーザンキングスに抗する戦力を持つポラリス・ユニオン(北辰連合)。
 空浮かぶアーカーシュに拠点を持つ、独立島アーカーシュ。

 各地で勃発した戦乱の成果は手札として揃い始めた。
 悍ましき冬の象徴であるフローズヴィトニルの欠片は中央こそ敵の手中に収まったが、各地に点在していた者はイレギュラーズが有する事が出来た。
 帝政派とザーバ派は合流する講話が叶い、ラド・バウ派も来たる帝都決戦に向けての防備を固めつつある。
 各地で蜂起する民草を纏めた革命派は今や『人民軍』の名を欲しいものにして居るだろう。
 東部より来たる北辰連合は女神の加護を手にすると共に理不尽なる冬を終らすが為に帝都へと躍進し、
 天より訪れる独立島アーカーシュはラジオの電波ジャックを行ない、各地に決起を促した。ラトラナジュの火が仇敵に放たれるまであと少し――射るべき先は慎重に見定めている。

 予てよりアプローチを続けて居た海洋王国からの貿易船は氷海に苦戦しながらも到着した。
 コンテュール卿は『嘗ての縁』での協力を約束し、同様に豊穣郷も出兵を宣言したという。
 これら事実は新皇帝バルナバスの即位と勅命から始まった混乱は収束し、着実に帝都への包囲網は整えられたという事に他ならない。
 即ちそれは帝都と帝位を鉄帝国の民のもとに奪還しうる最後の戦い『帝都決戦』に到る道である。

 かくて、決戦を望む号砲は轟く。
 南からはザーバ派が切り札たる列車砲『ノイエ・エーラ(新時代)』に加え、ザーバ将軍本人と精鋭部隊も出撃。
 西からは帝政派も、バイル宰相が決戦兵器『グラーフ・アイゼンブルート』を起動させる。
 東からはポラリス・ユニオン(北辰連合)も『月と狩りと獣の女神』ユーディアの加護を得ながら大兵力を出撃させ。
 北からは天空に浮かぶアーカーシュが、海洋や豊穣の援軍を引き連れ、帝都へ進路を取るか――
 地下からは革命派も多くの武器と共に動き出し、ラド・バウも帝都の中で防衛の意思を見せる。
 手に入れたフローズヴィトニルの欠片や、多くの切り札と共にいざや決戦。

 しかし。今だ帝都に座す新皇帝バルナバスは斯様な状況にすら一切の揺らぎを見せない。
 有象無象が幾ら束になろうとも敵ではないと言わんばかりの態度。
 いや、より正確に言うのなら『これに到るを望んでいたかのような不遜さである』。
 向かい風は依然強い。
 各地に訪れるべき春の気配を打ち消すフローズヴィトニルの冬風。
 更には新皇帝の圧倒的な武を信望する者も、尋常ならざる怪物共も後を絶たない。
 昏き因縁に囚われ、全てに復讐を望む梟の影もあり。
 更には頭上で輝く二つの太陽――バルナバスの権能――も大きな影を落としている。
 いやさ、しかし是非も無し。
 為さねば成らぬのならば他に手段はない。
 それが鉄帝国の流儀に則るなれば尚更の事。
 前を阻む全てを退け、眩き春を求める為に――精強なる鉄の民と可能性の獣はこの決戦ばかりを望むのだから!

●それはそれ
「――って訳らしいが、まぁ……余談だなぁ」
 帝都に轟く悲鳴と怒号、或いは歓声と混乱の音色を聞きながら。
 王城のバルコニーから城下を眺める新皇帝――バルナバス・スティージレッドはせせら笑っていた。
 彼の目的が『支配』の類ならば、或いはもう少し間延びした長閑な話になったに違いない。
 だが、『絶滅』ならば話はどうか?
「まぁ、こうなるな。誰でもそうする。俺でもそうする」
 何処ぞの覗き魔に手品を喰らった時からこうなる事は知れていたのだ。
 窮鼠猫を噛むとは言うが、座して死ぬ位ならば特攻の一つも選ぶのが人の常である。
 ましてやそれが血の気を売る程余らせた鉄帝の連中、それにどうあれ諦めが悪すぎる特異運命座標達ならば言うまでも無い。
 かくて六天を競い合った鉄帝国各軍閥は目的を一つにし、帝都スチールグラードの攻略に着手したという訳だ。
 遅まきながらの話ではあるが、それ自体を実はバルナバスは『歓迎』している。
「ま、何事も無くエンディングじゃ……仕事には上等だが欠伸が過ぎらな」
 原罪(イノリ)は嫌な顔をするだろうが、バルナバスは知った事では無い。
 わざわざ鉄帝国くんだりまで遊びに来たのに、お寒いままに仕事で終わるのはぞっとする。
『七罪である以上、このクソったれた世界がぶっ壊れるのは大いに愉快だが、趣味と実益をついでに叶えて誰の文句があろうものか』。
「しかし、まぁ……俺が言えた義理でもねぇが、鉄帝国ってのは愉快な国だな? おい」
 独白めいていたバルナバスはここで漸く背後に控える部下――『黒狻猊』バトゥ・ザッハザークに水を向けていた。
「愉快、と申しますと?」
「この城さ。皮肉にもこの国をどうにかしちまう俺を厳重に守ってやがる。
 まぁ、俺は別にこんなもん必要でもねぇが……『それはそれとしてこりゃあ上出来な戦争装置だ』」
 バルナバスは武人が武器を褒めるような調子で上機嫌に笑う。
 帝都スチールグラードの中心に位置する王城リッテラムは有史以来唯の一度も外敵に破られた事の無い鉄壁の堅城である。
 一般的に成熟した国家の大都市の中心部に居を構える城ならば、前線基地としての意味も効果も薄かろうが……闘争を信望し、戦争を愛する鉄帝国の歴代の皇帝達は王城の機能を『実用』に振り続けた経緯がある。
 高い城壁に二層の堀を有するその防御は周到に地上軍を阻み、城壁に多数備え付けられた対空対地兵器は隙無く無謀な挑戦者の殲滅を狙っているという寸法だ。無論、建物自体の防御力も異様の一言であり、砲火力で制圧するのもそう容易い話ではない。
 究極最強の個としてのバルナバスは城の防御を気にするような男ではないが、『それはそれとして』一級の芸術品には一言がある。
「リッテラムは鉄帝国の誇りなれば。新皇帝陛下にお褒めに預かれば古き英霊も本望足り得ましょうや」
 慇懃無礼にそう言ったバトゥにバルナバスは小さく鼻を鳴らした。
「愉快なのはてめぇも含めてさ。頭おかしいだろ、分かってて乗るか? 普通」
「優先順位の問題ですな」
 揶揄したバルナバスにバトゥはすげなく答えた。
 彼は元々鉄帝国軍部の実力者である。最も早くからバルナバスの志向に完全な理解を示し、頭を垂れた男だ。
 とは言え、彼はバルナバスの呼び声を受けていない。狂気に染まった風でもない。バルナバスの言葉も尤もというものだろう。バトゥはあくまで鉄帝国軍人として、一人の獣種としてその凶行に付き従っているのだ。『新皇帝の目的が全ての破壊にある事を知りながら、リッテラム防衛軍の指揮官として忠勤に励んでいるのだから言われても仕方ない』。
「優先順位だって?」
「『惰弱な者に生きる資格を与えてしまったからこそ、この国は零落し続けている』。
 嘆かわしい限りではありませぬか。我等は誰より強き鉄帝国の民であったのに。
 足を引っ張る者共を慮るがばかりに、幻想程度も踏み潰す事が出来なかった。
 実に、実に、実に不快な話だ。『それはこの私が産まれた時からそうだったのだから』」
 バルナバスはバトゥの静かな怒りに目を細めた。
 成る程、是非は兎も角筋は通っている。バトゥがバルナバスに共感したのはその『憤怒』が為だ。
「それでグレートリセットに期待か」
「左様ですな。新皇帝陛下の施政は私の希望に全く合致している。
『一度全て吹き飛ばせば良いのです。この程度を生き抜けぬ惰弱はこの先の鉄帝国に必要ない』」
「そりゃあてめぇが含まれてもかよ?」
「無論」と答えたバトゥにバルナバスは呵々大笑した。
「……『人間』やらせとくには勿体ねぇな、バトゥ・ザッハザーク。
 てめぇには兵を全部貸してやる。精々囀った以上の仕事をして見せろよ」
「御意に。我等が戦いを御覧じろ」
 頷き退がったバトゥに視線をやる事無く、バルナバスは考える。
(面白ぇ男だ。生き残ったら真面目に部下にでもしてやるか。
 ……『黒い太陽(ブラック・サン)』発動まではもう少し掛かるな?
 俺の敵じゃあねぇが、連中も随分と工夫はして来やがるんだろうよ)
 城下での戦い、そして王城での戦いを展開する『新皇帝派』の不利自体は否めまい。
 最終的に唯のぶつかり合いならば各地の総力を結集する軍閥が押し切る可能性はかなり高い。
 だが、新皇帝派――厳密にはバルナバスは負けまい。
『権能』が降ればこの国は終わる。そうでなくても自身は『七罪最強』だ。誰にも負けない。
「まぁ、いいや――」
 肌をひりつかせる戦いの風を全身に浴びながら、バルナバスは晴れやかだ。
「――かかって来いよ、特異運命座標。兄弟共とは格が違う所を見せてやるからよ?」

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 もうラリー決戦なんてやらないよ、絶対。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・『煉獄篇第三冠憤怒』バルナバス・スティージレッドの撃破
 ・憤怒権能『黒い太陽』の発動阻止

●バルナバス・スティージレッド
『煉獄篇第三冠憤怒』。七罪と称されるオリジンの大魔種の一角です。
 七罪の常で純種である幻想種に似た姿をしていますが、筋骨隆々の大男で幻想種のイメージから最も遠いタイプです。
 前皇帝ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズとの帝位戦に挑戦し、皇帝位を奪取。
 新皇帝として鉄帝国に統治とも呼べない苛烈な統治を敷きましたが、その目的は全土から『憤怒』を集める事でした。バルナバスの冠位権能は『黒い太陽』。人々の怒りや憎悪を集める事で至上の破壊力を生む最悪の大技であり、それは『鉄帝国そのものを滅ぼし尽くす程のもの』と思われます。(如月=紅牙=咲耶(p3p006128)さんが『過去演算装置ヴェルザンディ』の主機能により、そういった情報を覗き見ています)
 王城リッテラムの玉座の間で『その時』を待っていますが、その前に挑戦者に来て欲しい所もありそう。
 戦闘能力を言うなら『最強』です。命中回避は最強(そこまででもない)位ですが、パワーとタフネスは特に悪夢です。
 非固定値系のBS(割合ダメージ)は一定値までに軽減されます。又、一定確率で行動阻害効果をレジストします。
 せめてもの救いは権能が(現状の情報では)大量破壊にある程度特化している為、他大魔種のような個人戦影響が比較的少ない事が挙げられるでしょう。

●黒い太陽(ブラック・サン)
 憤怒権能。毎度お馴染み黒い太陽。嫌気玉。
 チャージ中ですが、これがMAXになると鉄帝国は滅亡の憂き目に遭うでしょう。

●『黒狻猊』バトゥ・ザッハザーク
 五十前後の獣種の将軍。反転しておらず、狂気も受けていません。
 彼の思想がヤバいのは持ち前のもので、バルナバスと『気が合う』ようです。
 当人の戦闘能力もさる事ながら、指揮能力がかなり高く覚悟ガンギマリなので厄介です。
 バルナバスから(魔種連中を捨て置いて)王城リッテラムの守将に任命されました。

●王城リッテラム
 二重の深い大堀、高い城壁、無数とも言える対空対地兵器を備える要害。
 曰く『成熟国家の儀礼的な王城にあるまじき、本当の戦争芸術』。
 城攻めには守り手の三倍の戦力が要る、とまことしやかに言われますが防衛力は強固です。
 プロの軍人であり、思想に問題がある以外は実に有能な『黒狻猊』バトゥ・ザッハザークが守将である為、進軍は難関を極めます。全軍で玉座の間に到達する事はほぼ不可能だと思われるので、必然的に少数精鋭を送り込み、バルナバスを討つというプランが想定されるでしょう。

●リッテラム防衛隊
 新皇帝派の諸兵、諸将、魔種、天衝種等の複合部隊です。
 敵の数は多く、精強であり、その数や詳細は限定的な情報しかありません。
 重要なのはこのシナリオの下限レベルが『80』という事です。

●友軍
 本シナリオにはPC以外の友軍が存在します。
 現時点で参戦済み、或いはPCサイドに伝わっているものは以下です。

・帝政派(グラーフ・アイゼンブルート)
 進軍中。本シナリオ一章時点ではまだ王城まで到達していません。
 壱花GMのシナリオをご確認下さい。かのシナリオ次第でバイタルが変わったり不測の事態が起きるかも知れません。

・ザーバ派(南部戦線精鋭隊)
 朗報です。かの『塊鬼将』ザーバ本人が率いる精鋭部隊が本攻略に参加します。
 南部戦線は最戦前である為、鉄帝国でも屈指の実戦部隊となっています。
 ザーバ・ザンザが戦場に健在である限り、PC、NPCを含めた全ての味方は防御面にプラスの補正を受ける事が出来ます。

 スチールグラード全体が戦場になっている為、戦いの規模は非常に大きいです。
 しかしながら、王城の早期攻略に入れる友軍は全体で精鋭を中心に数百程度の規模です。
 敵側も各地で戦いを進めていますが、王城は本拠地である為、兵力自体は敵の方が多いものと推測されています。

●備考
 本シナリオの情報はゲームの進展と共にガンガン更新されます。
 又、他シナリオの結果や判定により状況に変化を及ぼし得ます。予めご了承下さいませ。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

 もうラリー決戦なんてやらないよ、絶対にだ(二回目)
 このシナリオの背景は折角なのでレッドさんご提供のものを使いました。
 太陽は一つですが角度の見え方の問題です。
 以上、宜しくご参加下さいませ。


特殊兵装
本作戦に参加するPCは以下の特殊兵装を借り受ける事が可能です。
何やかんや鉄帝国は古代文明(オーパーツ)の宝庫です。
戦いのスタイルに応じてお好きなものを選択し、作戦を有利に進めましょう。尚、プレイング投稿毎に選び直せますが、それはなんやかんや上手く補給を受けたという扱いになります(特に触れません)
選択毎に機能は停止していても復活します。

【1】強化外格『カイザーストーム』
攻撃力(両面)を大幅に強化するパーツです。
攻撃回数に応じて効力が減少していきます。(10発撃つとゼロになります)

【2】対撃装甲『ローゼンキルト』
HPと防技値を増強する追加装甲です。
一定以上のダメージを受けると防技値増加効果は消失します。

【3】疾空踏破『ブリッツクリーク』
機動力を大幅に強化し、飛行性能を付与(或いは強化)するユニットです。
ダメージを受けるか10ターン経過すると機能を停止します。

【4】熱式義体『オメガシステム』
少量の能率を獲得し、充填を得るシステムです。
保有する自身のAPが20%を下回ると以降は機能停止します。

【5】無し
男(女性でも)はそういうのに頼らないんで使わない!
その心意気が集中力を増す為、クリティカルが少しだけ増えます。


攻勢判断
攻撃作戦の参加個所を決定します。
尚、攻撃作戦の支援としてNPC(モブ)等が砲火力支援を行う前提があります。(その辺の統率をしてもいいです)
自分の行動に概ね近しいものを選択し、プレイングをかけて下さい。
チーム等で連携する場合は、プレイングの一行目にタグ(【】)をつけるかキャラIDを記載して下さい。
ラリー決戦タイプですので、シナリオの進展と共に『対バルナバス』、『グラーフ・アイゼンブルート』等が追加される場合があります。

【1】正面攻撃
王城リッテラムの正面側から攻勢を仕掛けます。
当然ながら敵側は最も分厚い防御を備えていますが、正面攻撃が不十分だとそれ以外の選択肢の効果が激減します。最低限、正面に戦力を引き付ける事は攻略の絶対条件です。
ザーバ隊は正面攻撃に参加します。

【2】側面攻撃
正面攻撃に比して時間差をつける等、小細工を含め側面からの攻撃を試みます。
王城リッテラムは全方位に絶大な防御力を備えていますが、守兵は人間です。
正面と連携し、効果的な多方位攻撃を仕掛ける事で戦況を優位に変えましょう。

【3】特殊遊撃
比較的少数で敵側を攪乱する特殊な奇襲を仕掛けます。
『奇襲の内容なりに具体性が伴い、尚且つ有効であると判断された時、効果を発揮します』。
玄人向きの選択肢ですが、戦争のアクセントに一つまみ入れられれば僥倖でしょう。

【4】グラーフ・アイゼンブルート
彼方より現れた帝政派の空中戦艦を支援します。
彼等は戦艦であり空母である為、砲撃と航空戦力で戦いを強烈に支援してくれますが、『黒い太陽』が変化したのが問題です。
黒い太陽の産み出した無数の『亜魔種』の大攻勢を受けます。
事前の戦いにより魔種『焔心』により襲撃を受けているのも気がかりです。
飛行能力を駆使してグラーフ・アイゼンブルートに到り、旗艦を守りましょう!

【5】バルナバス
玉座の間に到り、バルナバス・スティージレッドと対決します。
様々な情報が不足していますが、自称『七罪最強』の彼は生半可な相手にはならないでしょう。
ヴェルス、キールはこの場所に登場します。
しかしながらメタ的に言えば皆さんの活躍が無ければ彼等は絶対に勝てません。
最精鋭を送り込み、勝利への細い道筋を掴み取りましょう!

  • <鉄と血と>Rising Black SunLv:80以上、名声:鉄帝50以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別ラリー
  • 難易度NIGHTMARE
  • 冒険終了日時2023年03月30日 20時30分
  • 章数4章
  • 総採用数401人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●苛烈なる猛進
「バトゥ殿!」
 悲鳴にも似た伝令の声は実に皮肉に、実に親切な事に聞かなくても用件を教えてくれるものだ。
「――外堀を超えられ、第一門を破られました!」
「馬鹿な!?」
「早すぎる……!」
 ざわつく将校達の反応は当然と言えば当然である。
 史上最高の堅城リッテラムに精兵を山程詰めて、この有様を想像した者は多くは無かろう。
「――想定内だ」
 されど鼻を鳴らしただけのバトゥ・ザッハザークは数少ない例外の一人であった。
「史上最高の堅城に精兵を詰めていたとしても、敵攻略方も史上最高の将軍に率いられた同等以上の精兵であろう?
 加えて我々が城外に出したのは主立ってが捨て駒の天衝種共だ。あの連中は強くてもそれだけだ。それ以上にはならない」
「へえ、焦ってない辺り流石じゃねーか」
「……ナルキス殿には『ここから』動いて頂く。
 もう少し切り札を吐き出させたかったが、フローズドヴィドニル、列車砲等見れるものは見れた故」
「『敵の強さも大体分かった』ってか?」
 バトゥの言葉にへらりとした笑いを浮かべたのは一人の魔種だ。
 ナルキスというこの男はバルナバスの麾下を気取る者らしく恐ろしいまでの武闘派だ。
 撃って出るとした彼を先程止めたのが当のバトゥなのだから、おかしな反応をしていたら首の一つも飛んでいたのかも分からない。
「新皇帝陛下にもう少し『人望』があれば楽だったのだがな」
「残念。あの人は群れるの好きじゃねえからな。俺達魔種も物好き以外は麾下にいねえよ。
 何人だっけ? 十には足りねえな。他何ざ興味もねえから知らねーけど」
「『特筆戦力』として当てにはなるのでしょう?」
「少なくともアンタ達よりゃ強ぇな。圧倒的に」
 そう言ったナルキスにバトゥは怒るでもなく「素晴らしい」と頷いた。
「深い外堀と高い第一門が破られた以上、内壁と内堀で食い止められると考えるのは甘すぎる故。
 城内での戦いは早晩不可避になるものと考えている。
 ナルキス殿等は城内に浸透した兵力を掃討。俺は前線で連中の進軍を食い止める」
「そりゃあ――食い止めるが幾らかは漏らすって意味だなあ?」
「理解が早くて恐縮だ。特に強力な、突破を図る連中は逃して貴君等にお任せする。
 要は敵が勝手に分散してくれるのだから、我々にとっては有意義故にな」
 ただ『勝つ』のなら全戦力を一か所に固めて戦うのも良いかも知れない。
 されどバトゥは『この先の全滅』を知っている。必要なのは『将兵を残しての勝利』ではなく『最悪を回避する遅延』である。
 ナルキス等主力を自身等と共に置けば『最悪』何かで吹き飛ばされないとも限らない。
 なれば遊撃的に神出鬼没な少数の最精鋭を城内に潜ませる事はリスクヘッジとして機能しようという事だ。
「成る程、大将が気に入る訳だ」
 ナルキスはそれを理解しているのだろう。
「――俺もアンタが気に入ったよ、バトゥ・ザッハザーク」

●バルナバス・スティージレッド
「さぁて、こりゃあ面白くなってきたかね?」
 玉座の間から一歩も動かず。しかしバルナバスは戦場の全てを『理解』していた。
 何の事は無い。頭上に浮かぶ黒い太陽は『バルナバスそのもの』だ。
『彼』はこの戦いの全てを俯瞰しているのだから、知らぬ話等ある筈も無い。
「第一防衛ラインは破られ、これから第二か。
 バトゥが前に出て……どう使うかと思えばナルキス達は前に出さねぇのか。
『結果的に正解』だ。本当に面白ぇな、あの野郎」
『くっくっと笑うバルナバスは実を言えば余人がまだ見えていないものも見えている』。
 黒い太陽の知覚する彼方からは件の空中戦艦(グラーフ・アイゼンブルート)が接近している。
 火力に特化した浮島(アーカーシュ)も恐らくは『何か』を仕掛けてくるのは確かだろう。
「仕方ねぇから、あのデカブツとは俺が遊んでやるか」
 地上軍にグラーフ・アイゼンブルートは手に負えまい。
 黒い太陽は『バルナバスそのもの』なれば、力の向きを少し弄ればあれを落とす戦力を産み落とす位は可能なのだ。
「まぁ『戦略』もそうだが、それ以上に『個』だな――」
 更にこの戦場に『至極に面倒臭く歓喜なる二人』が飛び込んでくるのを彼は知っていた。
「――前皇帝に手品師か。成る程、ナルキス等が後方なのは実に正しい」
 首をゴキゴキと鳴らしたバルナバスはそこまで言って「待てよ」と呟いた。
「これで止まったら全く正しくねえじゃねえか。勘弁しろよ、イレギュラーズ。
 ちゃあんとここまで来るんだぞ?」
 合理主義者(バトゥ)の正解は新皇帝の最適では有り得ない。

 ――憤怒は滾らんばかりの猛戦ばかりを望んでいる!


 YAMIDEITEIです。
 ぴえん><。
 これでも遅れているのでプレイング期間は2.5日となります。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・『煉獄篇第三冠憤怒』バルナバス・スティージレッドの撃破
 ・憤怒権能『黒い太陽』の発動阻止

●バルナバス・スティージレッド
『煉獄篇第三冠憤怒』。七罪と称されるオリジンの大魔種の一角です。
 七罪の常で純種である幻想種に似た姿をしていますが、筋骨隆々の大男で幻想種のイメージから最も遠いタイプです。
 前皇帝ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズとの帝位戦に挑戦し、皇帝位を奪取。
 新皇帝として鉄帝国に統治とも呼べない苛烈な統治を敷きましたが、その目的は全土から『憤怒』を集める事でした。バルナバスの冠位権能は『黒い太陽』。人々の怒りや憎悪を集める事で至上の破壊力を生む最悪の大技であり、それは『鉄帝国そのものを滅ぼし尽くす程のもの』と思われます。(如月=紅牙=咲耶(p3p006128)さんが『過去演算装置ヴェルザンディ』の主機能により、そういった情報を覗き見ています)
 王城リッテラムの玉座の間で『その時』を待っていますが、その前に挑戦者に来て欲しい所もありそう。
 戦闘能力を言うなら『最強』です。命中回避は最強(そこまででもない)位ですが、パワーとタフネスは特に悪夢です。
 非固定値系のBS(割合ダメージ)は一定値までに軽減されます。又、一定確率で行動阻害効果をレジストします。
 せめてもの救いは権能が(現状の情報では)大量破壊にある程度特化している為、他大魔種のような個人戦影響が比較的少ない事が挙げられるでしょう。

●黒い太陽(ブラック・サン)
 憤怒権能。毎度お馴染み黒い太陽。嫌気玉。
 チャージ中ですが、これがMAXになると鉄帝国は滅亡の憂き目に遭うでしょう。

●『黒狻猊』バトゥ・ザッハザーク
 五十前後の獣種の将軍。反転しておらず、狂気も受けていません。
 彼の思想がヤバいのは持ち前のもので、バルナバスと『気が合う』ようです。
 当人の戦闘能力もさる事ながら、指揮能力がかなり高く覚悟ガンギマリなので厄介です。
 バルナバスから(魔種連中を捨て置いて)王城リッテラムの守将に任命されました。

●魔種(3/11追加)
 ナルキスという優男を事実上のリーダーとする武闘派連中。
 数は「十に足りないがよー知らん」位だそうで、リッテラム内部に遊撃的に存在します。
 この連中は『バルナバス麾下を気取る酔狂』であり、戦闘力が『極めて高い』です。
 特にナルキスについては相当ヤバめの敵なので注意が必要です。

●王城リッテラム
 二重の深い大堀、高い城壁、無数とも言える対空対地兵器を備える要害。
 曰く『成熟国家の儀礼的な王城にあるまじき、本当の戦争芸術』。
 城攻めには守り手の三倍の戦力が要る、とまことしやかに言われますが防衛力は強固です。
 プロの軍人であり、思想に問題がある以外は実に有能な『黒狻猊』バトゥ・ザッハザークが守将である為、進軍は難関を極めます。全軍で玉座の間に到達する事はほぼ不可能だと思われるので、必然的に少数精鋭を送り込み、バルナバスを討つというプランが想定されるでしょう。

 →外堀を超え第一門を突破。
  内堀と第二門を残しますが、前線にバトゥが出現した事から指揮精度が向上しています。
  また使い捨ての天衝種を兵力に優秀な鉄帝国軍人が防備に当たるので連携や実戦的な殺傷力が圧倒的に向上しています。

●リッテラム防衛隊
 新皇帝派の諸兵、諸将、魔種、天衝種等の複合部隊です。
 敵の数は多く、精強であり、その数や詳細は限定的な情報しかありません。
 重要なのはこのシナリオの下限レベルが『80』という事です。

●友軍
 本シナリオにはPC以外の友軍が存在します。
 現時点で参戦済み、或いはPCサイドに伝わっているものは以下です。

・帝政派(グラーフ・アイゼンブルート)
 進軍中。本シナリオ一章時点ではまだ王城まで到達していません。
 壱花GMのシナリオをご確認下さい。かのシナリオ次第でバイタルが変わったり不測の事態が起きるかも知れません。

 →壱花GMのシナリオによりバイタルが変化している可能性があります。
 本シナリオから参戦し、砲撃と空戦による攻撃支援を加え始めます。

・ザーバ派(南部戦線精鋭隊)
 朗報です。かの『塊鬼将』ザーバ本人が率いる精鋭部隊が本攻略に参加します。
 南部戦線は最戦前である為、鉄帝国でも屈指の実戦部隊となっています。
 ザーバ・ザンザが戦場に健在である限り、PC、NPCを含めた全ての味方は防御面にプラスの補正を受ける事が出来ます。

・ヴェルス&キール(3/11追加)
 前皇帝と手品師の組み合わせ。『特記戦力』です。
 特殊遊撃(城内浸透)に登場しますが、【正面攻撃】参加の人は関与できます。
 またそれ以外でも目撃自体は可能ですのでプレイングかけたければかけてOKです。

 スチールグラード全体が戦場になっている為、戦いの規模は非常に大きいです。
 しかしながら、王城の早期攻略に入れる友軍は全体で精鋭を中心に数百程度の規模です。
 敵側も各地で戦いを進めていますが、王城は本拠地である為、兵力自体は敵の方が多いものと推測されています。

●選択肢について(3/11追加)
 以下のように内容が補足されます。

・正面攻撃
 バトゥ率いる敵主力部隊と戦闘し、城門の突破を図ります。
 彼等を十分に引き付ける事が出来なければ様々な弊害が生じ、特に城内浸透兵力が挟撃され退路が消えます。
 ここが不足する事があってはいけません。非常に重要です。

・側面攻撃
 正面攻撃に対して支援攻撃を仕掛けます。
 適量のアクセントを加える事で戦況を優位にします。
 一章における『特殊遊撃』のポジションになります。

・特殊遊撃
 名前こそそのままですが、本章では『城内浸透兵力』となります。
 敵主力を避け、城内に侵入します。
 オープニングの通りバトゥはこの動きを(まあまあ止めますが)比較的黙認します。
 非常に危険なので戦闘力やプレイングにめちゃくちゃ自信のある人向けです。
 尚、シラスさん、ソアさん、貴道さんのお三方は『既に侵入している』事を選んでもOKです。
 主な敵はナルキス以下『十足らずの魔種』となり、友軍はヴェルス及びキールとなります。
 又、低確率でバルナバスと会敵する可能性もあります。余程すごければ。

・グラーフ・アイゼンブルート
 新選択肢です。選択肢を確認して下さい。

●備考
 本シナリオの情報はゲームの進展と共にガンガン更新されます。
 又、他シナリオの結果や判定により状況に変化を及ぼし得ます。予めご了承下さいませ。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。


 選択肢はこのように取り扱わないと過去の選択肢も変化してしまう為、補足+新設で行います。
 あと20日しかない><。
 以上、宜しくご参加下さいませ。


第2章 第2節

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

●鉄が嗤うI
「中に居る時はそんな感じは余りしなかったけれど本当に飛んでるのねえ……」
 高度故に風は強く。容赦なく吹き付けたそれを構う事も無く、長い髪を空に流した小夜は呟いた。
「余り『得意』な場所ではないのだけれど……」
 飛行戦艦グラーフ・アイゼンブルートの人の立つ予定は無かった『甲板』に立つ彼女は誰にともなく「落ちそうなら何とかしてね」と念を押した。
 戦艦が見下ろす眼下の戦場は至上の闘争に満ちていた。
『そうなるに到った経緯は兎も角として』。
 戦争は常に死の隣に立っている。その戦闘は全ての瞬間が遊びならぬ真剣そのものだ。
 確固たる表記をするに信じ難い事実ではあるのだが――
 鉄帝国の民――軍人たるもの、それを羨ましいと思わない事は無かったかも知れない。
「流石にそう易々と空から侵攻出来るほど冠位魔種は甘くはない、という事ねッ!」
「さすがは冠位魔種、空中戦艦に対しても打てる手があるとは。
 ……感心している場合じゃないですけど」
 とは言え、零したアルテミアとシフォリィの言葉は全く道理だった。
 世の中には『叶ってしまえば困る望み』もあるという事か。
 より強い闘争を望んだであろうグラーフ・アイゼンブルートを囲うように無数のエネルギー体が浮遊し、憤怒の匕首を突き付けている――
「……まぁ、でも。こうなれば是非もなし、という事よねぇ」
 嘯いた小夜の繰り出した斬撃が肉薄したエネルギー体の一体を横薙ぎに割った。
「直視したくない程に禍々しい太陽、産まれる敵はキリがありません。
 しかし、厳しい冬の寒さに耐えつつ幻想とやり合い続けた鉄帝は、あんな太陽に負けませんよ!」
『宿敵』の強さには思う所でもあるのか、続いたシフォリィの舞い散る光刃が複数の敵を搔き乱し、
「『そろそろ本気』で負ける訳にはいかないの!
 それで簡単に叩き落とされるほどこちらも甘くはないわよ!」
 気炎を上げたアルテミアの無数なる斬撃の影が強かに敵影を穿ち抜く。
「おっと、なんだ。俺が攻撃するよりもっといいモンあるじゃん。
 フューリアス対処してたのに――そっちはすっかり忘れてたぜ!」
 水を得た魚のような軽快さを見せたサンディは新手を相手に見事な『ドッグファイト』を展開すれば、
「今も家に帰れない人が大勢いる――家族と過ごせる場所、弱みを見せても平気な場所に。
 ……俺は。俺『も』いつか必ず――胸を張って帰るために、誰かの日常を取り戻す!」
 負けじと気を吐いたウェールの全力全開の銀時雨が無数の敵を叩きのめした。
「そっか、あの黒い太陽は…皆の怒りなんだね……
 ……怒ってる相手は、ひどいことした奴等やバルナバスなのに。
 そのバルナバスに皆の気持ちを利用されるなんて……そんなの絶対許せないよ!」
「黒い太陽……集めた皆の憤怒からこんなものを……!
 皆の怒りは鉄帝を守る戦艦を墜とす為の物じゃない!」
 地上軍より旗艦の支援に急行した祝音が、ヨゾラが強い憤りを見せていた。
 グラーフ・アイゼンブルートの登場は地上軍を大いに沸かせ、同時に更なる作戦判断を突き付けるものとなっていた。
『頭上よりリッテラムを砲撃していればいい』というのは確かに『鉄帝国の好み』では無かったのだろうが、果たして状況はそれを許しはしなかったという事だ。肉薄し、乗り込んできた魔種といい、この状況といい予想外と言えば予想外だっただろう。絶大な航空優勢を有し、砲撃力で敵地を圧倒する筈だった『解放軍』の旗艦は敵の――あの『黒い太陽』が繰り出してきた新手に対応を余儀なくされている。
 現状においてはイレギュラーズを核にした防衛隊の奮戦と、バイルが『しこたま』用意したらしい飛行ユニットによる戦闘でグラーフ・アイゼンブルートの防備は保たれているが、それが何処まで保つかは疑問の余地を生じる話だ。
(私の目には、たくさんの怒りの色が舞っているのが見えます。
 それが、もともとは誰のもので、何に対するものだったのかは、分かりません。
 今この状況故に、怒りを悪感情と思う方もいるかも知れませんが――)
『亜魔種』とでも称するべき憤怒の子達がどういうものかは、感情に鋭敏な祝音やヨゾラ、そしてこのグリーフでなくとも伝わり得るものであった。
「――少なくとも、感情は、その人だけのもの。私はそう思うから。この怒りの太陽は、間違っています」
 生命の創造、戦力の創造にも等しい『権能』は人智の及ぶ所ではない。
 しかして敵が新手を繰り出してきたという事は、グラーフ・アイゼンブルートの登場を喜んでいないという事に相違ない。
 そして戦争である以上、敵が嫌がる事をする事こそ妙手と評して妥当であろう。
「渾身の――力一杯の『男のロマン』ってヤツを……簡単に墜とさせて堪るかよ!」
【航空猟兵】を自認し一団を率いるアルヴァなれば、やはり『空』には一家言あるらしい――
「空母がありゃ俺らも十二分に戦えるんだ、何としてでも守って見せる!
 全力で前に出る。総員、存分に暴れまわっちまえ!」
「――グラーフ・アイゼンブルートへ。聞こえますか?
 こちら航空猟兵、旗艦の援護に回ります!」
「バイル宰相の切り札……失う訳にはいきませんからね。
 招集も掛かったことですし――チェレンチィ、出ます!」
「あらあらまあまあ! 空母の乗員さん達がいよいよピンチなのだわ!
 おねーさんがしっかり護ってあげなくちゃ、ね!」
『誰にモノを言っておる!? こんなもの、万倍来ても堕ちてやらんわ!』
 ブランシュ、チェレンチィ、そしてガイアドニス……【航空猟兵】の声に応じたのは快哉なる応答だった。
 オペレーターからマイクを引っ手繰る姿が想像出来そうな位、意気軒高なバイルの声は成る程、その気に満ちている。
「この様な厳しい戦いは初めてです……ですが、負けられない気にさせられますね。
 生還の為にも、ここは全力で参りましょう――」
「黒い太陽、嫌な空気でいっぱいですね。でも、私は嫌いじゃないですよ。ふふ……
 ああ、みなさんは私が守ります。まだまだいい子にならないと、ですからね」
 守りに来た相手に叱咤激励され、愛奈はむしろ気が引き締まった想いだった。
 疾空を踏破する愛奈の一撃が敵影を貫き、一方で不敵なる茄子子が敵の反撃を阻み、不穏な恋心のままに『いい子』を遂行する――
 戦いのステージは次へと進み、より鋭利で辛辣な結論を急ぎ始めているが……
 グラーフ・アイゼンブルートのみなればかなり厳しい戦況だっただろうが、一時的に空での戦いは拮抗を見せていた。
(例え翼が焼き焦がれたとしても墜ちるわけにはいかない。上へ、蒼穹へ――太陽へ、手を伸ばして……
 ここで『勝て』なきゃ意味ねぇだろ!?)
 アルヴァの目に映るリッテラムは砲撃により防御をかなり寸断されているように見えた。
 最終的にバルナバスを仕留める事が勝利の絶対条件なれば、地上の進軍は極めて大きな意味を持つ。
 しかして、問題はこの航空支援を何時まで続ける事が出来るかであった。
 繰り返すが【航空猟兵】を気取る彼の――彼等の正念場が、戦場がここにあるのは誰の目にも明らかだ。
「数が多いわねえ」
「斬り甲斐の無い相手は好みではないのだけれど」と小夜。
 血の滾るような一対一に比すれば燃えぬ敵には違いないが、寄る辺の足場ごと落ちるのは御免被る話であろう。
「敵もきっと無限ではない、必ず『黒い太陽』を崩せるチャンスが来るはず――」
 声を張ったアルテミアは自分自身の言葉を信用していない。
 さりとて、張れる虚勢もなくて何の戦争に勝てようものか?
「ええ、ええ――それまで落ちる訳には、『落とさせる訳にはいかないわ』ッ!!!」
 ――可能性の獣(イレギュラーズ)は自分も騙せない下手な嘘をしばしば本当にするものなのだから。

成否

失敗

状態異常
サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り
ウェール=ナイトボート(p3p000561)[重傷]
永炎勇狼
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)[重傷]
【星空の友達】/不完全な願望器
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
白薊 小夜(p3p006668)[重傷]
永夜
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)[重傷]
暗殺流儀
綾辻・愛奈(p3p010320)[重傷]
綺羅星の守護者
ガイアドニス(p3p010327)[重傷]
小さな命に大きな愛

第2章 第3節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
一条 夢心地(p3p008344)
殿
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

●鉄が嗤うII
 空に浮かぶ鉄帝国の切り札から大砲撃が放たれる。
 大きく粉砕された外壁を超え、多数の解放軍が城内を目指し進軍した。
 阻むは内壁、そして敵方主力部隊。
 巨大な暴力の塊が唸りを上げる。
 轟音と呼ぶ事しか出来ない『咆哮』と共に武骨過ぎる鉄球が敵陣を薙ぎ払った。
「ふぅ――――」
 城壁の一角に突き刺さり、それを豆腐のように突き崩したのは無数の攻撃を浴びながら最前線で盾になり、矛になるザーバ・ザンザその人だった。
「おいおい、大丈夫かよ。幾らアンタが化け物でも……」
「どうも爺さん、こっちに航空戦力を回す余力はなさそうだ。
 なら、やるしかないだろう? それで漸く身体が温まり始めた所だな!」
 呆れ半分で声を掛けたルカにザーバは豪放磊落な笑みを見せる。
「そういや、そんな化け物だったよ。
 ……しかし、随分敵の動きが良くなりやがったな?
 こいつは指揮を取ってるやつが前に出てきたか?
 面白え、前線で指揮を取るなんざ実に俺好みの相手じゃあねえか!」
「第一門を抜けた事で兵士の練度が上がってる……! やっぱり本体戦力を温存してたね。
 どうやら皆さん、ここをこじ開けることが我々の使命のようですね!」
 ルカの言葉にアリアがにっと笑みを浮かべた。
「この布陣……防衛の手際。反撃の士気。
 リッテラムが攻め込まれた事など初めてでしょうに、見事なものです。
 守将は評判通りに――余程に『優秀』と理解出来る」
「成る程。門を一つ越えたくらいではびくともしないと……
 まだ主戦力はこれからって言わんばかりね。
 ここから新皇帝にどれだけの戦力を送れるかにも掛かってくるだろうし……」
 リースリットとイリスの端正な顔に浮かんだ苦笑の意味は続く二人それぞれの言葉が示していた。
「まだまだ先は長そうね……
 それに、支援砲撃も何時まで保つか……」
 イリスの見上げた空でもこことは別の激戦が起きているのは明らかだった。
「……あの太陽が落ちれば、間違いなく誰一人生き残る事はできないというのに」
 リースリットの言葉は重く、深い。
 歪んだ理想とはいえ殉じる者は死兵である。
 そして戦場における死兵の恐ろしさは戦争を知る者ならば誰もが痛感しているものだ。
 是非も無し。簡単に済む場所で無い事は最初の最初から知れている――
「――騎兵隊である!」
 故に頃合い。凛と鳴る。
「敵将、『黒狻猊』バトゥと見受ける、名乗られよ!」
 イーリンの声が悲鳴と怒号に満ちた戦場の空気を切り裂いた。
 彼女の双眸が彼方に見据えるはリッテラムを守る二つ目の堀の向こう。
 執拗に攻め立てる解放軍を正面に回して受け止める敵軍を取り仕切る差配者であった。
「威風堂々としたものだ。
『騎兵隊』ここにあり、と意地でも自己主張したいものと見える」
 獣面の将軍は馬鹿正直な程に分かり易い【騎兵隊】の名乗りにむしろ清々しい笑みを浮かべていた。
 特異運命座標の参加した幾多の戦場で赫々たる戦果を残し続けてきたその勇名を知らない男ではない。
 個人主義者の多いローレットにおいて、こと組織力という意味では出色の存在である事を知っている。
「将軍は、名乗り方を忘れてしまったのかしら?」
「いいや。名乗るとも。この俺がバトゥ・ザッハザークだ。
 高名な敵との戦いに胸が躍る気分だぞ!」
 一瞬の間にすかさず煽りを入れたイーリンをバトゥは笑い飛ばした。
「呼び声を拒絶し、人の身のままで其処に立つか。その憤怒、余程のモノと見た……!」
「おうともよ。試してみるが良い。味わってみるが良い。
 さすれば、この戦いは特別なものになろうよ。この場に在る誰にとっても!」
 朗々と言い放ったバトゥの一声に汰磨羈の口元が三日月を作った。
(……不器用な生き方だ。だが、不器用が過ぎていっそ清々しくもある)
 間違いない。この男は惰弱なる者を嫌っている。嫌い続けて生きてきた。
 なればこそ――それが敵であれ、強者は彼にとっての特別だ。
 歯ごたえのない敵を蹂躙するよりも、己が特別な価値を感じる敵を撃破してこそ『滾る』とでも言いたいのだろうか?
(……うわぁ、あっちもこっちも嬉しそう! せ、せめて私は冷静にお師匠様を支えてあげないと……)
 そういう風に出来ている――二人の内、主に味方であり師匠であるイーリンを傍らで見上げてココロは内心だけで呟いた。
 時に大ポカをやらかしかねない仕様のない人を副官として支えるのが自分の役割であると自認していた。
 今回の作戦においても一大戦力を組織した【騎兵隊】の状況は戦いの趨勢に影響を与えないとも限らないのだから責任は重大だ。
「こんなチンケな連中しか揃えられなかったのかよ。舐められたモンだよなあ──このおれさまを、誰だと思ってやがる!」
 悪態を吐くグドルフという男は実際の所、『素直ではない』。
「ああ、まだ『無数』に敵がいますね。では……全部堰き止める要塞にでもなりますか。
 ええ、そんな気概で挑みましょう。挑むしかない」
 一方のボディはそんなグドルフよりも幾分か素直に敵勢の動きを睥睨する。
「敵の連携、実践的殺傷力、大いに結構。『全部、真正面から捩じ伏せるまでですから』」
 解放軍に相対し、その行方を阻む部隊はこれまでよりも更に強力な抵抗を見せていた。
「御覧の通り、期待の通り――皆々様の言う通り。
 あっちも最精鋭よ。さあ、きりきり行きなさい!」
「期待されたものだな。新皇帝派の最精鋭主力、相手にとって不足なし――」
 イーリンのその声にエーレンは小さく肩を竦める。
「行くぞ、騎兵隊! 貴様等、敵に後れを取るなよ!?」
 バトゥの号令と共に射撃による制圧攻撃が降り注ぐ。
「ぐへぇ! あっぶねぇな! 油断するとすぐこれだよ!」
 秋奈の口元に皮肉で『堪えない』笑みが浮かぶ。
「やりたい放題やりやがって! 莫迦将軍め! そういうの好きだぜ!
 ……いや、なんかハラ立ってきたな。やっぱ全員爆発しろ!」
「外壁は割れた。工兵としての仕事はここまで……ならば、ここからは俺も術師としてやらせて貰おうか」
 秋奈にせよ、この錬にせよ撃たれた程度で折れる気持ちは微塵もない。
 負けない。負けはしない。ここで撃ち負ければ戦線は後退しよう。
 そんな想いは、共通認識はまさに猛烈な攻め手たる【騎兵隊】には是非もないものである!
「バトゥへの道は幾分か混み合っているように見えるな?」
 故にレイヴンは力を絞り、鉄なる星――大いなる術式を展開する。
「あの列車砲ほど大きく派手な爆発はありませんけども!
 ルシアの殲光砲魔神は一点狙いの威力なら自信十分というヤツでして!
 つまりは……防衛線を城ごとぶっ壊してやるって事でして!」
 胡乱にして過激なる対抗の言葉と共に、ルシアの『砲撃』は幾度でも間合いを駆け抜ける。
「僕は死神。貧者も貴族も神父も囚人も、手を取り合って踊りの輪に加えよう。
 業火が渦巻き、死しか呼吸できない地獄の底であろうとも、僕は立ち続けよう。
 邪魔立てするというのならば歌うがいい、その――断末魔だけを道連れに!」
 朗々と謳うように、フロイントが躍動した。
 引き裂く光に導かれるように【騎兵隊】の吶喊が敵戦線を脅かしている。
 猛烈なる戦いは我が為ではなく誰が為に。或いは誰が為ではなく我が為に猛烈なまでの加速を見せていた。
「誰よりも速く、誰よりも先に!
 真っ直ぐ行ってかっ飛ばす!! 自慢のバイクでかっ飛ばす!
 スピード自慢のおれの変身……捕まえられるもんなら、そうしてみろやッ!!!」
 矢と弾丸の雨の間を駆け抜けるのは消耗しながらもへこたれない、プリンを起点にした騎兵隊の『先陣』だ。
「分かりやすく暴&暴って感じだわ。
 まぁ、つまり逆に言うとしちめんどくせぇ小細工よりやりやすいって事なんだけどな」
 カイトの凍獄愁雨が弾幕を展開する敵陣を狙い、牽制する。
「鉄火場? 上等だ。今はただ、前に進むのみ!」
 裂帛の気を吐いたルーキスが鎧袖一触、進撃を阻みかけた敵兵に強かなる一撃をお見舞いする。
「前に出るとは……敵ながら騎兵隊の素質があるねぇ」
 嘯いた武器商人はバトゥの在り方にむしろ好意的に妖しい笑みを零し、すかさずルーキスの隙を埋めている。
「――喝ァッ!!!」
 一方でゴリョウは立ち塞がった天衝種の重い一撃をその体躯と守りで受け止めて大喝と共にその巨体を敵陣目掛けて弾き飛ばしていた。
 幾分か混乱した前線の兵を逃さず、鋭き切っ先――見事な一閃が切り裂いた。
「騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! この上、俺達を止められるか試してみるがいい!」
 激しいぶつかり合いに戦場が軋みを上げる。
 乱れに乱れた状況は簡単に面白い程に瞬時に事の是非を塗り替えるだろう。
「実に! 実に激しい! 凄まじい!」
 哄笑を上げるオラボナはまるで人の形をした要塞のようだった。
 騎兵隊(なかま)を脅かす敵を執拗に阻み、常人が幾度も死ぬだけの打撃を受けても怯み、後退する事もない!
 そしてそれは、
「私自身は何かを変える力を持っていない……でも、それが出来る仲間を支える事が出来る!
 お生憎様なのだわ! 傷付けるだけが戦いじゃない――それが私のやり方なのだわよ!」
「ああ! されど何もかも――誰も彼も。成すべき事柄は常と変わらず!」
 前線で敵の攻勢を捌きながらも、必死でオラボナを支援する華蓮あっての戦いでもある。
「先に向かう人が少しでも動きやすいように――ニルも、できるかぎりのことをやらなくっちゃ!
 かなしいのはいやなのです。想いを、力を杖に込めて……今こそ前へ!」
「全てが整った今こそ前に進まねばなりません。
『バトゥ・ザッハザークはある意味で鉄帝そのものだ』。
 この国の間違いを、我が身なれど常にそこに在り続けた――そんな敵を超えて!」
「『あんた』も相当やり手のようだがね。『アイツ』の方がまだ上だ。
 ……生憎とそれを証明してやらなくちゃならないんでな。『悪く思うなよ』」
 共闘の形となったニルの支援を、オリーブの掃射撃を受け、ミーナの刃が邪魔をした目前の敵を切り裂いた。
「空いた穴を塞げんようこじ開けるぞ! 押し通るぜ、バトゥ・ザッハザーク!」
「ただでさえ堅牢なのに天衝種を使い捨てで出してくるとか……これ以上は勘弁してもらいたいけどね。
 まぁ、ボクのやることは変わらない――殲滅の極光……思う存分に味わうといいよ」
 鬼気迫る調子で奮戦するバクルドの声に呼応したラムダの極光が敵陣を白く灼いた。
 攻防は激しく敵が傷めば味方も傷む。
(ぜ、全然休まらない! 人手が足りない……
 ……ちょ、ちょっとでも粘って……引き続き! 怪我はなんとか回復したし……!)
 目が回りそうな位の戦いの中、零は力の限りに声を張る。
「フランスパンが欲しい方々は如何ですかぁ!!!
 戦場だろうと何処へでも! あなたの腹を満たすパンは如何ですかぁ!!!」
『営業文句』は場違いな程に無茶苦茶だが、そうでも気合を入れていなければここに居続ける事も難しかっただろう。
 血で血を洗う、が生易しい戦いは当然、一筋縄でいくようなものでは有り得ない!
「眼前の敵を踏み潰し、前進することだけを考えなさい! 我等が打ち砕くべき巨悪は目の前よ!」
「はて。モメンタリーを優先するべきか、コントロールを重視するべきか」
「お互いに苦労する立場みたいね」
 味方の突出に気を配り、広い視野で戦線を支えるのはアンナも黒子も同じだった。
「いやはや、ここは勢いを優先すべきか。全く――胡乱に見えて実に合理的なものですよ」
 そう言った黒子はとても精神論を嗜むような男には見えないが、乱戦を統制する楔の彼は半ば本気でそれを言っていた。
(郷に入りては郷に従うべきと言うのなら――これも『当然の話』になるのでしょうね)
 為せば為る。無理を通せば道理は引っ込む――
 運命の行く先は勝利の女神の『好み』よりも移り気で、戦いはそんな女の後ろ髪を力一杯引っ張ってやるようなものになろう。
 黒子は理解している。ローレットの誰もがそれを分かっている。
「脈打つ太陽……怠惰の時といい、つくづく悪縁だわ。
 ……どうも冠位の権能に喧嘩売られやすい体質みたいねぇ、私達」
「あの太陽……アレ自体が『冠位憤怒そのもの』なら。
 ……アレが『純粋な』紅蓮であれば、アレで滅んでやるのもまあ悪くはないと思いかけたんですけどね」
 リカの言葉にクーアが渋面を浮かべている。
「こうも連続でピンズドだと嫌になるけど……ったく! さっさと片付けるわよ!」
「はい。前言撤回です。全力で討ち滅ぼしに行きましょうか――」
 二人は鉄火場を前に実に気楽に言ってのける。
「ハッ、この鉄帝においてラド・バウの乙女☆無双を知らない奴なんてそう居ないでしょうよ!」
「……ハッキリ言って、とてつもなく知られたくないのですけれども。それについては」
 泥だらけに傷だらけ。とても愛しい人には見せられない『はしたない』格好のリアが傍らのドラマの言葉を笑い飛ばす。
「その位の気じゃなきゃやってられないでしょ、こんな状況!」
「リアさんもこのトロコに比べて随分と吹っ切れた顔して、何があったか知りませんが何よりですよ!」
「アンタの方こそ、何か『進展』したって顔してない?」
「黙秘権を行使します」
 言葉は丁々発止と、仲良く煽り合っているような所があるが、
(あいつにはいつも通り好き勝手やってもらって、あたしがそれを補佐する。えぇ、いつも通りよ!)
(リアさんが居ると出し惜しみしなくて済むので助かりますよ。ええ、一体ずつ着実に潰していきましょうか!)
 連携しての戦いは恐ろしく息が合っている。
 外壁での戦いに比して内壁での戦いはイレギュラーズに苦難を強いていたが、それでも彼等は精強だった。
 頑強なる抵抗に幾度と無く喰らいつき、やがて来る――そう信じて止まない好機の姿を待っている。
(……思った以上に戦い慣れている……!
 いや、違う。そう呼ぶよりはこの連中は――)
 結論は知れている。『知れ過ぎている』。
「敵戦力は未だ健在、とはいえこのまま引き下がる訳にもいかないわね」
「ルチアさんが引き下がらないという事は、僕が下がる理由は一歩分も無いという事ですからね!」
「戦いも、魂も……歯痒いわね、『戦争』は」
「……?」
「ううん。ありがと」
「ええ、ええ! 僕はそのための貴女のための盾です――決して割れませんとも!」
 最前線で支援に奔走するルチアや、その彼女の盾として傷付いた身を厭わず献身する鏡禍を見るまでも無く。
(確定的に明らかだ。この連中は理屈ではない。理屈ならば退く場面でも関係ない。これ等は――)

 ――恐ろしく、諦めが悪いのだ。

「麿クラスの殿的存在が正面以外の道を往くことはあり得ぬ。
 引き続き、わっしょいわっしょい突き進むぞよ!」
 東村山、そして長介。妖刀に名刀、二振り構えた夢心地。
「ジャンジャンバリバリ敵を切り捨ててゆくのじゃ!
 ええい邪魔をするでないわ。そなたらも見たいじゃろ? 麿のネタを!
 いやいやいやいやぜーーったい見ておいた方が良いから! 悪い事等、言わぬから!」
 彼は本人の気質や台詞よりは随分と『笑えない』突破力を見せつけている。
 まさにアンナや黒子の口にした『胡乱なる合理性』こそ幾多の戦いで敵を食い破ったイレギュラーズの武器である。
 それは常に諸刃の危険性を帯びながら、相対する敵にそれ以上の威圧を与え続けてきた。
 成る程、どの冠位も――或いは更なる高みリヴァイアサンも――人間等に敗れる心算は毛頭無かったに違いない!
「ツーマンセル、いやスリーマンセルで守りしっかりと時間を稼げ。
『防衛側』の強味を忘れるな。問題になる長距離砲撃もそう無尽蔵に続けられるものではない!」
 配下に向けたバトゥの命令がやや守備的にその色合いを変えている。
 この期に及べば、優秀なる彼は敵の評価を更に上方修正せざるを得なかった。
 味方の迎撃は十分に機能している。むしろこの防衛は恐ろしく効率的なものだった。
 されど、敵方はそれ以上だ。『想像以上の勢いをつけて攻め立てられた結果、想定よりも厳しい状況を強いられているのは間違いない』。
「具体的に酒が切れた。ウオッカとか持ってこい。
 とりあえず前に逃げてッた猫頭(バトゥ)とか狩るかってな。
 逃げた獲物に興味はないが。『お利口さん』とか、あんま好きじゃないんだが――狩るべきは狩る。それも傭兵の仕事だろう?」
 獰猛に愛無は嗤い、
「ゲハハッ。連中も必死だねェ! 『効いてる効いてる』ってやつかあ?」
「さて、まだ暴れる時間は終わってないよってね!」
 グドルフが過酷な状況さえ笑い飛ばし、アリアの声に応じてザーバ派の兵達が鋒矢の陣形で吶喊する。
(頼んだよ、皆……!)
 アリア達の動きは城内へイレギュラーズの一部を突っ込ませる為の大掛かりな陽動(テレフォンパンチ)だった。
(……読めているさ。煉獄の檻へようこそ、だ!)
 バトゥもまたこれを想定している。
 城内に潜ませた魔種戦力で浸透兵力を撃滅するのは彼のプランだ。
 故に思惑の一致を見た一部の戦力はこれより前に行われたものも含め城内への浸透に成功している。
 その先の可能性/阻止を信じて――挑戦者と門番は互いの都合を戦わせている!
「我が名は騎戦。それは、全ての仲間に捧げるが故に!」
「バルナバス、多勢を活かして平地での決戦を選ばなかったのは判断ミスだと解らせてあげますよ!」
 イーリンが、ココロが乱戦の中、表情すらも捉えられる距離までバトゥ隊に接近していた。
「守将との距離。目に見える成果には実にやる気も出るというものだな」
 クールにそう言ったラダの射撃がバトゥを含む敵主力の一団を遂に脅かした。
「俺はこれでも戦場の生き物でね。奥からする強者の気配にすごく興味を引かれるけど。
 今の戦場の勘所はここだからね、外すわけにはいかないんだよ」
 ならばヴェルグリーズが何を為すべきかは単純明快だった。
(バトゥ殿へ集中して攻撃を仕掛ける――!)
 月並みだが、状況を好転させるには指揮官を落とすのが最良だ。
 無論、敵方もそれを察知しているに違いないが、頭を潰す価値は警戒を搔い潜る以上の価値がある。
 将軍を守る姿勢を見せる近衛の防御の前にこの攻撃は阻まれたが、確かな楔を打ち込んだ事実は変わるまい。
「たっぷり付き合って貰う事にしようか」
「ま、要らぬ心配だろうがね。此方の『将軍』が身を張る程度には張らせてやるとも。嫌でもな」
 ヴェルグリーズに珍しく冗句めいたラダは規格外(ザーバ)と一緒にされてはバトゥも気の毒だが、と幽かな笑みを浮かべてみせた。
 全く以て恐ろしい事に、イレギュラーズは堪えていないのだ。
『滅亡』へのカウントダウンを前にして。
『最強』の七罪を敵に回しながら。一分の疑いも無く最終的な勝利(ハッピーエンド)を信仰している。
『まるで、運命のねじ伏せ方を知っているとでも言うかのように』。
 それもその筈、特異運命座標は最初から決められた滅びの瞬間を前に戦い続けているのだから!
 だから。
 きっと、だからなのだろう。
『運命』なる不公平は往々にして彼等の味方をする。
 天に、或いは神に愛された可能性の獣達は時に見る筈も無い、見れる筈も無い光景をその目に焼き付ける事が出来るのだろう。
「……皇帝陛下!?」
 冷静なオリーブが思わずそんな声を上げていた。
「陛下生きてたの!? いや、生きてるとは思っていたけれどね?
 ……こんな局面になってからサッソウと登場するのはズルくないかな!?」
「待たせたな。まぁ、許せよ。これは『自分の為』だ。
 帝位戦で負けた以上、俺も『公職』じゃあ無いんでね」
『嬉しそうに抗議じみた』イグナートにヴェルスは笑って応じる。
「まあイイや! オレは今回はバトゥのヤツに用があるからね!
 ここはオレたちにマカセテ、バルナバスをぶっ飛ばしに行きなよ!」
「そうそう。ご隠居ファイト~、で。元皇帝のリベンジに期待しながらbetしておくって訳なんだよ」
「恩に着る……と、責任重大だな」
 ヴェルスは鈴音の何とも言えないエールに些か上手過ぎるウィンクで答えてみせた。
「……あ、でも言っとくけど。
 あんまりぐずぐずしてたらバトゥを倒したオレたちがバルナバスも倒しちゃうからね!」
「そりゃあ一大事だ。誰が皇帝か分からなくなっちまうからなあ――」
 前皇帝の『声』にざわめきが広がる。敵にも、味方にも同様に。
「なんかつい最近聞いた事ある旋律って思ったら……キールまで!?
 今までどこ行ってたの! 急に居なくなったからビックリしたじゃない!」
「まあ、野暮用(レベリング)でね。皇帝陛下とはそこで友達になったって訳だ」
「……あぁ嫌だ、嫌ですねぇ!
 一目見ただけでも、また一段と強くなっているのが分かってしまいますよ。
 全くもう、直ぐに追いつきますから先に行っていると良いのですよ!」
「そうそう。あたし達も追いつくから――ついでに通り道位はお願いしたい所だわね!」
「了解」と安請け合いしたキールとヴェルスの前にまるで『モーセ』のような道が開く。

 ――誰もが本能的に。寡兵で止める事は不可能だと知っているのだ。

 全力で阻めば時間は稼げようが、そうすればイレギュラーズに食い破られる。
 冷静で優秀なバトゥは自分のしなければならない事を見誤らない。
「『謁見』ですか、元皇帝」
「『帝位戦』だよ、バトゥ・ザッハザーク」
「……勝てる筈が無い」
「そうかもな。だが、お前は自分の身を心配しろよ。イグナートがそう言ってたぜ」
「――フン」
 かつての主従のやり取りは寒々しく、それすらも刹那の出来事だった。
 二人の挑戦者は阻まれず、イレギュラーズと共にリッテラム内部へ到る。
 物語の酷く重い、錆びた歯車を動かすかのように――

成否

失敗

状態異常
零・K・メルヴィル(p3p000277)[重傷]
つばさ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)[重傷]
Lumière Stellaire
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
同一奇譚
グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
終わらない途
リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)[重傷]
紅炎の勇者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
ディバイン・シールド
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)[重傷]
陰陽式
クーア・M・サキュバス(p3p003529)[重傷]
雨宿りのこげねこメイド
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)[重傷]
願いの先
天之空・ミーナ(p3p005003)[重傷]
貴女達の為に
カイト(p3p007128)[重傷]
雨夜の映し身
アリア・テリア(p3p007129)[重傷]
いにしえと今の紡ぎ手
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
終焉の獣
一条 夢心地(p3p008344)[重傷]
殿
鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾
天目 錬(p3p008364)[重傷]
陰陽鍛冶師
ボディ・ダクレ(p3p008384)[重傷]
アイのカタチ
ヴェルグリーズ(p3p008566)[重傷]
約束の瓊剣
ラムダ・アイリス(p3p008609)[重傷]
血風旋華
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
ニル(p3p009185)[重傷]
願い紡ぎ
エーレン・キリエ(p3p009844)[重傷]
特異運命座標
フロイント ハイン(p3p010570)[重傷]
謳う死神

第2章 第4節

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

●鉄が嗤うIII
 ――歌ヲ護ロウ。春願ウ歌 木漏レ日ノ歌ヲ。

 戦場に場違いな音色が響き渡っていた。
 機械的であり、そう生物的ではない。
 しかしそれは無機質ではなく、『感情』の乗った『歌声』だ。
 フリークライの歌は無軌道な憤怒への抗議であり、そうして失われた命への鎮魂であるかのようにも思われた。
「最高の『ゲスト』だろう?」
 口角を持ち上げたヤツェクは思う。
 この戦いの姿が、単純な憤怒に負けぬ想いが存在し続けている事が遠い誰かに届いたなら、と――
 激しさを増す正面戦闘の一方で、『別動隊』となったイレギュラーズの戦いも重要な局面を迎えていた。
 側面攻撃は奏功し、防衛ラインの足並みが乱れ始めたのである。
「これも国是という話なのでせうか」
 幾分かの『興味』を引かれたのか呟いたヘイゼルの調子は何処か愉快そうだった。
「戦術でまで弱肉強食と首尾一貫していて面白いですね」
 戦いに限らず総ゆる作業にはシナジーが存在する。
 一つの事象に対して複数関わり合う要因は時に大きな効率を生み、非効率を産み落とす。
 いや、視点視座を変えれば一つの赫々たる利益創出は他者の大きな損失にも成り得るだろう。
 こと、それが二陣営が争う戦争であるならば言うまでも無く成功は失敗と表裏一体であると言えた。
「ですが、それが一般的ではないという事は穴があるということ。
 所詮は戦場では強さなどは勝敗を決める一要素以上には成れないと……お見せしてあげるのが良いのでせうね」
「英雄のような力はある人は羨ましいわね。
 どんな戦場でも我儘に身勝手で、華やかでまあまあずるい。
 ……でもまぁ、英雄は英雄らしく戦い、私達は私達らしく戦いましょうか♪」
 ヘイゼルにしろ、冗句めいたイナリにせよ言いたい部分、やりたい部分は同じである。
「うん、中々指揮がお上手みたいだけど――やっぱりそれでも限界はあるみたいね」
 広域の探査能力、視野を持つイナリの目が細くなる。
『性格がそこまで素直でない彼女達は、その気質を裏切らない風に状況を進めていた』。
 解放軍が――と言うと実際語弊はあるのだが、少なくともローレットが――馬鹿正直な戦いを展開する理由は無い。真正面からただぶち当たって強い者が勝利すべしという『鉄帝国のドクトリン』はヘイゼルの言う通り、長らくの幻想との戦争の間で苦汁を喫してきた問題作だ。真似をしたいものではない。
「おっと、ポゼッションが上がってきたか?
 まぁ、何はともあれ90分だ。『試合』はまだまだ長いが、別にこういうのは初めてでもないしな」
 サッカーでも『汗かき役』は重要だ。啖呵を切る葵はフォワードながらにそれを良く良く知っている。
(正門を愚直に突破するには、城からの迎撃の火線が正門前に集中する……そうすれば突破が困難は必然。
 ならばこそ迂回して内堀を埋め、突破先を増やす事が重要でしょう)
 マリエッタの優先事項は敵の撃破ではなく導線の創出に他ならない。
「突破口が増えるのは、帰り道も増えるということ!
 帰り道が多くて困ることはないですからね!」
「難しい事は得意じゃない」と考えるは自身に丸投げて――それでも言葉で正鵠を射抜いたユーフォニーにマリエッタは淡い笑みを見せていた。
「『道』を作るの、了解です!」
「戦闘ですから、他人様が嫌がる事をしていきませんと、ね――」
 二者二様のその台詞から気質が漏れ出しているがそれはさて置き。
 敵は分厚い正面戦力を警戒せざるを得ない。身構えている相手に力攻めをした所で敵もさるもの。簡単な突破を許しはしない。
 そんな事は分かっているのだ、最初から。ただ――
『水も漏らさず、全戦域を同等にケアする事はこの乱戦では不可能だ』。
 敵の不可能状況を突き、蟻の一穴を作り出す事は『別動隊』に似合いの仕事と言う他あるまい!
「――試合は始まったばかりっス、へばるにはまだまだ早ぇ!」
 気を吐いた葵が『空中戦』を見せ、後方の敵――バトゥ等周辺に仕掛けを見せる。
 緩んだ防衛ラインは敵側の連携の劣化を意味するものだ。この攻撃が『届く』事自体が、敵が全方位からの圧力を処理しきれていない証左である。
 度々にバトゥ近辺に攻撃が仕掛けられている事を鑑みても、解放軍の圧力が高まっている事は間違いない。
 正面戦闘、側面攻撃の奏功もあってか――一部戦力が城内への浸透に成功したのも大きい。
 先程『騒ぎ』を産み出した二人組の登場も、士気を上げたという意味では大いに特筆すべき点となろう。
「さあ、もう一度だ! 仕掛けるぞ、ご機嫌な皆!」
「さてさて、ようやくこの地を魔種から取り戻す時が来たと思えば――感慨もひとしお。
 戦闘用人造人間としては、腕を鳴らさずにはいられません。
『真の意味で我が存在意義を満たす解答は、どうあれ戦場にしか存在しないのですから』」
 声を張ったヤツェクに応じて、ウルリカが凄絶なる弾幕の雨を敵陣に叩きつけた。
 その動きに連動して、戦力が幾度目か動き出す。
 無理な力攻めに非ず、しかして油断すれば喉笛を掻き切ろうとするかのような。
 正面戦闘はザーバ隊を含むより多くの戦力に任せているも、此方には此方の為すべきがある。
 側面側から攻めは実に危険なアクセントそのものだ。
 そうして出現する『作業のシナジー』は絶大であり、正面戦闘が激化する程に側面攻撃に出たチームの動きやすさは格段に上昇していた。そして全く同等に側面攻撃が機能する程に正面戦闘の受ける圧力と被害も軽減しているのは間違いない事だろう。
「敵にどれほど読まれてるかは大した問題じゃない。
 策は考えども最後は力づくだ。バルナバスに到達するため、罷り通るだけならば!」
 無論、イズマの言う通り敵もそんな事は承知の上だろうが、『それでも結論は同じ』である。
『この作戦を続ける事こそが、どれだけ長く機能させる事が出来るかが戦争の結末に大きな意味を持っている』。
 正面の健闘は理屈以上に側面にチャンスをもたらした。
 なれば、今度は側面が理屈以上の動きを見せれば正面には更なる好機が訪れよう。
(バイルさん達の無事は祈るしかないが……)
 彼が内心で案じた帝政派(バイル・バイオン)の――空中戦艦グラーフ・アイゼンブルートの登場は取り分け大きかった。
 彼等は彼等で死闘を余儀なくされているのは間違いないがその存在感と砲撃は敵陣を浮足立たせ、側面攻撃の作戦遂行を円滑にしているのは確かだ。
 彼等は正面と側面、或いは浸透戦力――要するに地上軍の全てに絶大な恩恵をもたらしている。
 ただ、逆を言えば優位形成の象徴である旗艦が危機を迎えれば士気は大いに危険を迎える可能性は否めまい。
 実際問題、
「――跳ね返せッ!」
 血走った目で怒鳴るように指揮を執るバトゥにしても、敵軍にしても激戦にも萎れた調子は全くない。
 解放軍が時間制限のある中、バルナバスというキングを取る為に主力を割かねばならぬ事情も考えれば……地上の戦いは全く安穏なものには成り得ないのだ。
 一秒でも長く、一瞬でも長く撹乱せよ。

 ――戦況を欺け、戦場を欺瞞せよ!

「強敵との少数戦が戦争の全てじゃないさ」
 幾らかシニカルにそう言ったアーマデルの言葉が全く正しい。
「忙しいな。全く。目が回りそうだ――」
 取り得る手段は多く、為さねばならぬ事柄もまた多い。
 むしろ、酷い希望的観測は厳禁だろう。
 解放軍――イレギュラーズの奮戦は一見にして感覚を麻痺させるが、それは本質では無い。
 彼我の戦力差を考えれば、元より確定的に明らかなのだ。
『地上軍の役割は最後の瞬間までバトゥ等敵主力を押さえつける事』にこそあるのだから――
「まぁ、そうと決めたら行うまでです。誰も彼も。
『まともに戦争をしている連中は此度の戦の元凶ほどに突出した強さではないのですから』」
 ――ヘイゼルの言葉は相変わらず皮肉めいていたが、珍しい本音に違いなかった。

成否

失敗

状態異常
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
ウルリカ(p3p007777)[重傷]
高速機動の戦乙女
長月・イナリ(p3p008096)[重傷]
狐です
フリークライ(p3p008595)[重傷]
水月花の墓守
イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女

第2章 第5節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
セララ(p3p000273)
魔法騎士
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

●鉄が嗤うIV
「先鞭はボーナスかな。それとも」
「……失敗したってヤツかもね?」
「全く。思ってもいねぇ事を言いやがる」
 敵を前に飄々とそう言ったシラスにソアが応じた。
 半ば呆れた調子で嘆息した貴道に可愛らしく舌を出したソアは「バレてたか」と悪びれる風もない――
 他の人間より一足だけ早く城内への浸透に成功した三人はバルナバスの気配を探り、彼への道を急いでいた。
「戦闘は避けると言いたい所だったが、流石に無理だったようだな」
 野生の勘にも等しい貴道の超感覚は己への敵意や殺意を明敏に感じ取る。同様にシラスもソアも潜入、そして急行に必要な『ツール』を幾つも持ち合わせていた。彼等は一流の戦士でありながら、目的以外と戦う事を後回しにしていたのだ。今回ばかりは。
「敵意や殺意を見た、んだろ?」
 三人の前にはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべる一人の男が居た。
「そりゃあ引っかかる訳ねぇよ。俺には敵意も殺意もねぇからな。むしろ在るのは興味と友好だ。
 好き好んであの人と戦いに行く特攻野郎とか、面拝まずに死んだら勿体無くてお化けが出るだろ?」
 場違いなまでに明るい調子でそう言った男は中肉中背、端正なマスクの優男だった。
 見るからに二メートルを大きく超える貴道や、研ぎ澄まされたシラス、(可愛いけど)野獣のようなソアとは違う。
 唯、見た目は確かに違っても――
「――アンタ、かなり強ぇだろ。例えばそうだな、『バルナバスの次』位に」
 ――シラスの眼力を誤魔化す事等出来はしない。
 まぁ、言うに及ばぬ話なのだ。城内には然したる通常戦力は残されていなかった。
 急行の中で遭遇した一部を三人が即座に無力化する事は難しくはなく、その三人が足を止めさせられた事実は何より状況を物語る。
「魔種、だよね?」
「ああ」
「えへへ、白状するともう戦いを待ちきれなかった所だよ」
 屈託ない笑みを見せたソアに男はカラカラと笑い声を上げていた。
「いいねぇ。俺はナルキス。まぁ、物好きな魔種とだけ覚えてりゃあいい。
 お前達は幸運で不運だな。『俺は絶対にお前達を通さないし、お前達はあの人に会わずに済む』。
 まぁ、どっちと判断するかは立場によるが、いいじゃないか。そんなものは――」
 長広舌で笑うナルキスの言葉を三人は最後まで待たなかった。
「今回ばかりは立ち止まれないんでな、押し通るぜ!」
 強烈な踏み込みから『ガンマナイフクロス』が唸りを上げる。
「本気で行くぜ、ついてこれるか?」
「ついてこれるかって? 虎の脚を見くびらないで欲しいの!」
 同時にシラスとソアが連携良く『最初から決めに行く』全力の動きを見せていた。
「――焦るなよ」
 三重殺が空気だけを切り裂いて、ナルキスは掠って散った髪の毛に少しだけ渋い顔をした。
「髪型に何時間かけてると思ってやがる!?」
 態度は冗句めいていて、存在はまるで冗談を感じさせてはいなかった――



「はるばる来たの城の中! わたし、まさかの先陣切っての突入なの。やったー!」
「コャー!」と気炎を上げた胡桃がただ広い城内を見渡した。
「とは言うものの、目的地(バルナバス)はまだ先!
 お城の中は強敵しかいないとお聞きしたの。気を付けていくの!!!」
「そうしなさいな。それにしても……
 さっきのも、今のも……随分デカい花火だったわね」
 乱れた髪をかき上げて、驚き半分苦笑半分のゼファーは言う。
 新時代を冠した列車砲も、超ド級の空中戦艦も。この世界には過ぎたる兵器と言えるかも知れない。
 天下の堅城にこんな短期間での浸透を果たせたのはそれ等の力と、何より戦ったイレギュラーズの精鋭ぶりによるものなのだろうが……
「普通なら此れでもうこっちのモン……なんですけど、ねえ?」
 奥歯にモノが挟まったような――歳不相応の調子で言ったゼファーは『そうならない事を知っている』。
 戦力の一部が浸透を果たしたのは事実だ。だが、しかし――それだけだ。
「情報不足のために思うように動けないのは問題ですからね。
 精々、良い水先案内をする事にしましょう。
 戦う方々と、同じ程度には報酬を頂いているのですから――」
 待ち伏せ、或いは致死性の罠。瑠璃の言う通り、城内には何が仕掛けられているか分からない。
 誰も彼も何一つ成し遂げていない。成し遂げるべきはこの先で、まだ『前半戦』である事を彼女は誰より承知している。
「取り敢えず、目指すは上であるな」
「馬鹿と煙は高い所に登りたがるものだからな」
 百合子の言葉に応じるセレマは相変わらず皮肉気にそう言った。
「吾は馬鹿であるか?」
「馬鹿。そういう意味じゃない。いや、そういう意味なんだが――
 要するに今のは『僕達』を揶揄して言ったのであって、お前に言った訳では……」
 閑話休題。
「やることは変わらん。まずは『傾城』からやってのけるぞ」
「うむ! 一番高い所に旗を掲げるのであるな!
 侵入時にヴェルス殿の姿を見た気がするのだが――そうだ!
 付け足すのは『VVV参上!』とかどうだ? これは滾るぞ!?」
 城内に浸透した、或いはせんと関わったイレギュラーズは三十名もの数に及んでいた。
 百合子やセレマのように城の上部を目指し、制圧を意味する――旗をすり替えようとする者。
「俺がしてぇのはやべぇ奴らとのドンパチじゃあねぇ。
 戦闘狂でも、バルナバストとやりあうような戦士の誇りなんざもねぇよ。
 だが、無駄な血が流れんのも好かねぇからなあ――」
 このルナのように『運び屋』として浸透に尽力し続ける者。
(このまま 城内をめざすことも できるのでしょうけれど……
 ねらうは 銃眼ちかく とどまりますの。
 ……正確には いろんな銃眼のところで 物質中親和による侵入を くわだてますの
 ほかのかたが すこしでもその先をめざせるように……
 重要なのは 対処能力を 城から うばうことですの!)
 ノリアのように後続の支援を狙い敵方の妨害計画を立てる者。
(望遠鏡で覗いた時から頭の中にこびりついては離れぬあの恐怖……
 だが、それは取りも直さず捨て置けばかの地獄が顕現するという事に他ならぬ!
 拙者はそれを実現させぬ為にここに来たのでござる。ここで引ける道理があるものか!)
 無論、運命を先に覗き見てしまった咲耶や、
「詳しい事は分かっちゃいないけど強い魔種連中をぶっ飛ばせ! ……って事よね?
 いいわ、いいわよ――思いっきりやってやろうじゃないっ!」
 清々しいまでの『鉄帝国思考』で真っ直ぐに敵を見て、本命のバルナバスを叩かんとする朱華のような者。
 どうあれ、友軍の死力で送り込まれた多くの最精鋭戦力はこの戦争を終わらせる為に『最強』の敵への道を急いでいた。
 だが、誰もがそうと知るように。
『最強』は言わずもがな。戦いに到る道のりさえ安泰を与えないのが戦争だ。
 それぞれがそれぞれのタイミングで侵入し、それぞれのルートで目的地を目指す戦いだ。
 そしてそれに対応する敵方との遭遇戦も『それぞれ』だ。
「まぁ、そうなるっすよね」
 アルヤンは然したる感慨もなくそう言った。
 扇風機だけに『頭の回る』アルヤンは守将バトゥが自分を含む多数の戦力を『通した』意味を理解している。
 自身を含む浸透戦力を阻まんとする敵が在る事は半ば最初から分かっていたのだ。
「ここは行き止まりだ、特異運命座標」
「自分、対多数より少数戦の方が強いっすよ。だから外よりは『こっち』なんすよね――」
 全身鎧姿の魔種がそう言えば、負けじとアルヤンもやり返していた。
「前線に優秀な将が出てきたとあらば、暫くにらみ合いが続くと見ましたが……
 此度の突入は結果的に良いタイミングになったのでしょうね」
 イレギュラーズは必ずしも一団になっている訳ではないが、途中で合流する事も起き得る。
「鉄帝の強ければ勝者、みたいな所は気に食わないけど……
 悪いけどバルナバスさんはもっと気に食わないの……!
 だから、野望も計画も全部――打ち破らせてもらうよ!」
 犬歯を剥き出し、強く気を吐いたのはフラーゴラだ。
 幾分か遅れて現れたフラーゴラと沙月はアルヤンと挟撃をする格好で魔種の後方に立っている。
「新手か」
「卑怯、と謗られますか?」
「いや、これは『戦闘』に非ず。『戦争』だ。
 数多の局面では我等が優位を得て、貴様等が風下に立たされる事もあろう。
 それをいちいち詰る程、『憤怒』の魔種――いや、『物好き』な魔種は脆弱に出来てはおらんのよ」
「成る程」と沙月は頷いた。
 本当の好みを言うなら一対一に勝る者は無いが、釈然とする理屈ではある。
「しかし……」
「うん?」
「『物好き』の魔種とは」
 沙月が正しく意味合いを理解したかどうかはさて置いて。
『彼』の言う所はナルキスがバトゥに告げた事と同じである。
『そもそも、バルナバスに付き合うような連中は魔種であっても到底まともとは言い難い』。
 尤も『まともな魔種』等というものが存在するのかどうかは議論の余地がある所ではあるのだろうが――
 遭遇戦を始めているのはアルヤンや沙月だけでは無い。
「バルナバス直属の魔種ならば、マリア個人で倒せる程度の相手であるはずもないがな」
 口の端を歪めたエクスマリアが魔剣・蒼(ブルーフェイク・ソードアイズ)――直死たる刃の視線で魔種を狙う。
「だが、派手に暴れてやれば、マリア以外の浸透兵力が上手く隠れて進みやすくもなる、だろう。
 内から城を壊せば、外の仲間が攻め入りやすくなる箇所も、増やせるはず。違うか?」
「誰が為に、か。泣かせるな?」
「『いいや。我が為だ』」
 痩せぎすに羽を有している。『悪魔』のようなフォルムの魔種は防御の上から叩きつけられた不可視の一撃をせせら嗤うも。当のエクスマリアはそんな軽侮さえ一顧だにせず、見事なまでの一蹴を見せていた。
「囀りやがる――」
 凶相に殺意を漲らせ、超高速でエクスマリアに肉薄しかかった悪魔の魔種の刃を、
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上!」
 最高かつ完璧なタイミングで名乗りを上げ、割って入ったセララの聖盾(ラ・ピュセル)が弾き上げた。
「ボクの相手はキミみたいだね――」
 屈託無く『戦える』セララの精神性はまったく鉄帝国に似合いである。
 返す刀で閃いた聖剣ラグナロクの一撃は迸る天雷で間合いを強烈に灼き斬る格別の一撃だ。
「おっと、勝ち目が随分と大きくなったな?」
「えへへ。任せておいて!」
 エクスマリアの言葉にセララは目を輝かせ、尚も不利は否めない少数での魔種撃破に燃え上がる――
 そして鎧の魔種が言った通り、戦線は常に流動的なものであった。
 ナルキス、そして鎧の魔種、悪魔の魔種。三体の魔種は比較的少数のイレギュラーズが相対する事になったが、別の局面も存在した。
「強敵の気配、それに予感ってヤツだぜ。
 どいつもこいつも絶対に先に行かせないって顔してやがるな!」
 風牙の――【杪冬】の行く手を阻むのは『魔種の一団』であった。
「どうせなら、もう何体かは『各個撃破』でも出来れば好都合だったのですが」
 淡々と言った寛治の言葉が指すのは浸透後遭遇した一体の魔種との戦闘であった。
 それも確かに強力な相手だったのだが、浸透したイレギュラーズの中で――事実上、即興での最大戦力を組み上げた【杪冬】は徹底した攻勢で速やかにその一を撃破せしめたのである。
「一人切り込んでいたら、見知った顔に合うなんてね!」
「邪魔する敵は全部倒せばおっけー! 周囲の仲間達は勝手知ったるなんとやらーって感じだし!」
「……ま、今更細かい打ち合わせもいらない程度には『やり慣れてる』のは確かよね。
 最高に話が早いってきっとこの事だわ」
 スティアと、応じたアーリアの言う通り、これは或る種の展開のあやである。
「いやはや、忍者らしく城内の様子でも調べようと思って見れば……
 行きずりでこれだけのメンバーが集まったならば最早敵を蹂躙して進む方が良いでしょうよ!」
『忍者らしくない』結論を得たルル家の言こそ『ここまでは』もっともだった。
 元々同道したサクラやスティアは兎も角として、グループが『やり慣れている連中』で強靭に数を増したのは多少の幸運も手伝った遭遇だったが、効果的なチームを組めた事による必然と言っても間違ってはいまい。
「しかし……」
 ルル家の形の良い眉がやや下がり、展開の変化を教えている。
 今度の遭遇は、早期に撃滅出来るような『甘い相手』では有り得ない!
「軍隊的な集団行動は不得手なものでしてね。
 ではここからは、『スタンドプレーから生じるチームワーク』で勝負しようじゃありませんか」
「うん! 皆、油断せずにいこう!」
「ここが正念場だからね。頑張っていこー!」
 寛治の言葉に剣を構えたサクラが言い、スティアが応えた。
 敵方は三体もの魔種。対するはサクラ、スティア、寛治、アーリア、朱華、ルル家、正純、タイム、そして風牙。
 先述した通り【杪冬】は全部で九人を数える即席の強力パーティだが、『三人で一人の魔種』を相手取るのはかなりの難関だ。
 正直を言えば余裕は殆ど無く、『この局面の勝敗さえ分がいいとはとても言えない』。
 とは言え。
「怪我してる人はどんどん癒していくからね。フォローはどーんと! 任せておいて!
 ……こんな状況だもの。せめて気丈でいないとね」
「この面子なら思い切り戦えましょう」
 胸を張ったタイムの――正純の言葉は恐らくこの場の全員の代弁になった。
「言ってしまえばVery Hard位の局面ですか?」
「出し惜しみはなしです。思いっきりぶっぱなしますよ」
 寛治は嘯き、正純は頷いて力をぶす。
『前の抑えに出たのはヒーラーのスティア』。そして全くシームレスに、
「――天義の聖奠聖騎士、サクラ。推して参る!」
 その役割を親友に任せ、引き出した禍斬の力と共に全力の閃華を瞬かせたサクラが攻め手に出ていた。
「遊撃部隊として魔種の相手、力の限り支援します――『お覚悟を』」
「妬ける位の信頼感ですね。まるで往年のエースと名捕手(じゅくねんふうふ)のようだ」
 正純の放った混沌なる泥が敵陣を荒れ狂い、寛治の45口径が火線を引いた。
「インハイを続けてからのインロー、ちょっとセオリーから外れた『配球』も乙なものでしょう?
 まあ、野球なら全部デッドボールですけどね」
「……希望ヶ浜のセンセ達相手でも思うけど、なんでも野球に例え始めたら立派な中年よ、新田さん」
 寛治の狙撃を呼び水に華やかに笑う――アーリア(いいおんな)の真骨頂がそこにある。
「……女性は良いのですか?」
「あら。知っているでしょう? 野球を嗜む女性はモテるから問題ないのよ」
 惚けた瀟洒なやり取りは彼女一流の手管である。
 甘やかと冷静の入り混じる、幻惑なる赤いルージュが魔種一体の動きを見事に阻害していた。
「こういう分かり易さは嫌いじゃないよっ!」
 アタッカーはやはり『ぶん殴って』こそ輝くものなのだろう。
 朱華の放った一撃は容赦なく立て続けに新手の魔種に突き刺さり、
「元婚約者(ヴェルス)殿の帰還はまだのようですが……その間にお城を乗っ取るのも一興ですね!
 さくっと片付けて奥にいる新皇帝を倒し、政権交代と洒落込みましょうか!?」
 鉄火場にこそ冗句めいたルル家の追撃が更にそれを攻め立てる。
 イレギュラーズの攻撃は見事だった。しかし名うての武闘派の魔種共もこれに簡単に押される程は甘くない――
 強烈な反撃に容易に仲間の生身は傷付けられた。
(何処から何が現れるか分かったもんじゃない。何をしてくるかも同じ――分かったもんじゃないのよ!)
 己の想いが少しでも、ほんの少しでも誰かの力になれると信じて。
 タイムは歯を食いしばり前を向く。
 耐えて、癒し、歯を食いしばって前を向く――
「随分大変な『四回裏』ねえ!?」
 ――アーリアの言う通り。戦いはまだ、前半戦に違いないのだ!



 強烈な衝撃。そして轟音。
 もうもうと煙が舞っている。
 幾多の浸透戦力の中でも彼女等程『胡乱』だった連中は居ないだろう。
「予定通り! 予定通りっス! 所謂一つの計算通り!!!」
 壁を突き破るように、前のめりに。
 ヤケクソ気味に嘯いた美咲の運転するトラックが文字通りの『吶喊』を果たせたのは不幸中の幸いと言うべき事柄だったのだろう。
「ねえ美咲、これ本当に予定通りでしたの!?
 さっきから敵にも味方にもすごく撃たれていた気がするのですけれど!?」
「はは! 弾丸の嵐とは正にあの事だったね!
 だが、私は軍人。戦場のこんなのは慣れっこさ!」
「……う、く! マリィが頼もしい……」
 ヴァレーリヤが呻き、マリアが「ヴァリューシャは私が守るから大丈夫!」と実に小さな胸を張る。
「締まらないなぁお前達と居ると……!」
 車から落ちかけたヴァレーリヤを『引っ掴んだ』エッダが笑みを見せた。
 まぁ、確かに彼女が抗議をするのも至極妥当な、寿命をすり減らしたような気がする時間だったのは確かである。
 人並外れて派手な侵入を果たした【鉄腕】の四人は立ち込める煙の中、壊れたトラックを捨て走り出した。
「……前にここに来た時は」
「恩赦の時ですわね?」
「うん。でも、こんなんじゃ無かったんだ――」
 石造りの重厚な城は凡そ生活感というものに乏しい実に冷たい――寒々とした印象を与えていた。
 ヴァレーリヤに応じたマリアの口調が幾分か寂しげだったのは気のせいでは無かっただろう。
「……兎に角! 玉座の間を狙うっス。理由は分からないけど、私は何故か王城にも詳しいっスからね!」
「ほう。それは耳寄りな話だな?」

 異変。

「――――ッ!?」
 突然響いた低い男の声に美咲の身体が強張った。
 直後に生じた激しい衝撃波に吹き飛ばされた彼女は強かに壁に体を叩きつけられる。
 不意を撃ってきたのは明らかに魔種。それも大いに武闘派の――
「……このッ!?」
 すかさずエッダが構えを取るも、これが遅く彼女も裏拳の一撃で強かに叩きのめされている。
 ヴァレーリヤが『敵』に渾身の一打を見舞うもその一撃とて敵を食い止めるには至らない。
 今度は『床』に叩きつけられたヴァレーリヤの姿にマリアの髪の毛が逆立った。
「――絶対に許さない!!!」
 連打連撃を見舞い、跳ね返されてそれでも屈しない。
 獣の如き猛烈さを見せた彼女を魔種は嘲り笑っていた。
「無駄な事を。この俺はバルナバス様麾下の中でも最強の――」
「――へぇ。聞き捨てならない事を言うじゃねえか」

 異変。
 今度のものは、先程とは全く逆の。
 喰らい付いたマリアに、イレギュラーズに気を取られていたそれは全く新手に反応する事が出来なかった。

「――さあ、俺様の好きにしな!」
 お決まりのフレーズから生じる『遺失魔術』が驚愕の表情を浮かべたままの魔種を縛り付ける。
「キース……いえ、キール・エイラット……様」
 偶にその場を目撃したアリシスが思わずそう呟けば、彼女の『長らくの疑問』はすぐに解決した。
「ああ、誰かと思えば演劇部長の秘書官かい」
「――――」
 知っている。確かに『この本人』を。
「……まさか、本当に『魔神王』とは」
「懐かしい。知った顔に会う事もあるんだな、この混沌では――」
 旧交を温めるワン・シーンは兎も角。
 無遠慮に歩み寄ったヴェルスに対して魔種は混乱の極みにあった。
「馬鹿な!? バルナバス様麾下最強のこの俺が人間なぞに好きに……!?」
「いやいや。好きにするのはこれから。一番勝手なのはこの俺さ」
 瞬間、無数に瞬いた斬撃の嵐に『細切れ』が散る。
「随分遅かったですわね、元皇帝陛下。どこでお昼寝していましたの?」
「低血圧でね」
 ヴァレーリヤが声を上げて笑った。
「ヴェルスくーん! 生きてるって信じてたよ! 我が友も大層心配してたんだよ?」
「さて、問題はこんな小物じゃない。この先、バルナバスの方だぜ」
 チラリと彼方を見たマリアの言葉にヴェルスは表情を引き締めた。
 魔種だったものにそれ以上の興味も示さず、彼は振り返る事は無い。
 振り返る事は無い。
「……ね」
「……………」
 振り返る事は無い。僅かな声を発した『彼女』が居る方角には。
「格好付けても解決しませんからね」
「……聞きたくねえなあ、その先」
 ヴェルスはそう言ったが、彼にとっては幸いだったか。
 襤褸になっても心は乙女。唇を尖らせ、ジト目をしたエッダは胸が一杯でそれ以上を何も言う事が出来なかった。

 ――心配なんてしていなかった。
   今までどこに行ってた。
   シャイネンもグラクロもすっぽかしやがって。
   やい、この野郎。そっちから何か言え。
   何とか言え。せめて悪びれて言い訳位してみせろ。
   おい、分かってんのか。唐変木――


 何も言えなくて。
 言葉の代わりにぼろぼろと零れ落ちたのは頭を抱えたヴェルスが一番苦手な『女の水滴』ばかりだった。

成否

失敗

状態異常
夢見 ルル家(p3p000016)[重傷]
夢見大名
ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
郷田 貴道(p3p000401)[重傷]
竜拳
志屍 志(p3p000416)[重傷]
天下無双のくノ一
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)[重傷]
愛娘
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士
新道 風牙(p3p005012)[重傷]
よをつむぐもの
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)[重傷]
夜砕き
エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
ソア(p3p007025)[重傷]
愛しき雷陣
雪村 沙月(p3p007273)[重傷]
月下美人
ゼファー(p3p007625)[重傷]
祝福の風
小金井・正純(p3p008000)[重傷]
ただの女
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)[重傷]
ファイアフォックス
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)[重傷]
星月を掬うひと
アルヤン 不連続面(p3p009220)[重傷]
未来を結ぶ
佐藤 美咲(p3p009818)[重傷]
無職
煉・朱華(p3p010458)[重傷]
未来を背負う者

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