シナリオ詳細
神奈備之黒曜
オープニング
●獄人と呼ばれし者
建葉・晴明。
それが彼の名だそうだ。絢爛なる高天京より幾分か離れれば山間に存在する社が存在した。美しき倶蘭荼華が咲き誇り、茂る深緑が周囲を取り囲み鬱蒼とした雰囲気さえも感じさせる。
「先ほどは済まない。天香は貴殿らを歓迎する事無く、神を害する者だと……。
俺は天香や巫女姫とは志を別つ者ではあるが貴殿らをそのように扱いたくはない。謝罪させていただきたい」
頭を垂れた彼は泥に濡れた自身の恰好も『英雄』の前に在るべきではないともう一つの謝罪を重ねた。
鬼人種(ゼノポルタ)――それが彼らの種であるらしい。
豊穣郷カムイグラでは八百万(ヤオヨロズ)と呼ばれし精霊種と鬼人種が大部分を占める。その他の種は『神隠し(バグ)』で『外』より召喚された者が子を成した事等で少数ながら存在しているらしい。
しかし、自身らを神と称する者の多い八百万達は額より黒曜の角を生やした鬼人達を『獄人(ごくと)』と呼び忌み嫌っているそうだ。然し、建葉・晴明と言う男は『巫女姫』と呼ばれる乙女への謁見や対話も可能であり、宮中を自由に歩き回る事の出来る立場とし『中務卿』という地位を得ている。
獄人と白眼視されながらも、彼はこの国を統治する主――それは彼らにとっての生神である――『帝』により指名された事で得た地位であるそうだ。
「貴殿らに話をしたい、と言うのは『帝』の話だ。
俺は鬼人種、そして天香は八百万だ。しかし、『帝』は貴殿らと同じ特異運命座標だ。
遥か昔、彼は神隠しによって我らが黄泉津に召喚され、神の使いであると帝の位についた」
霞帝とその名を呼ばれた青年は晴明の事を『セイメイ』と綽名し懇意にしていたのだそうだ。
晴明にとっても――そして、彼が特異運命座標を呼び出した『この場所』の巫女にとっても、霞帝は良き理解者であり、兄のような存在であったという。
存在で『あった』というのは帝が隠れてしまったからだ。
「彼は旅人(そとのもの)だ。俺達とは勝手が違うことも承知しているが、おかしいのだ。
天香が『巫女姫』と呼んだあの少女が呼び出されてからというもの、帝は姿を隠し、その座には巫女姫が在る」
晴明は唇を噛む。その事に疑問を投じ、彼は宮中を探したのだそうだ。
――そして、醒めぬ眠りについた帝の姿を見つけた。
「俺は天香と巫女姫がこの一件に噛んでいると、認識している。
魔種と呼ばれる忌むべき存在為る奴らより帝を救いたい。それに力を貸してほしいのだ、英雄殿」
そこまで、口にした後、晴明は「急な話で済まない」と再度その頭を下げる。
深々と謝罪を見せた後、一先ずは長きに渡る航海であっただろうとイレギュラーズを労わった。
鬼人種は現在は高天京の外の仕事を主としている。
先ずはこの場所――此岸ノ辺は『けがれの地』とも呼ばれ、黄泉津に発生する淀みやけがれを一手に引き受けるのだそうだ。そうしたよどみの除去を行っているのも彼らである。
そして、都の外や都に発生する怨霊や妖と言った類の対処も彼らの仕事だ。
「――簡単には、俺達はそう言った『雑務』を熟している。
しかし、急に仕事を、と言うのも酷な話であろう。神威神楽を知ってほしいという気持ちは俺にもある。
貴殿達さえよければ神威神楽を巡ってみては如何であろうか。勿論、俺達の仕事を手伝ってくれるというならばそれは喜ばしい。
……天香はああ云ったが貴殿らには『判断する材料』が必要だ。
俺の話、天香の話、そして、巫女姫――急な話ばかりで混乱するかもしれないが、貴殿らの『今後の方向』を決めるのは黄泉津を知ってからでも遅くはないだろう?
貴殿らは『外』より交易の話を持ち込んだ。ならば、この国を知っておいても悪くはない筈だ」
高天京の中も出入りは自由であると晴明は言う。もとより神隠しで『外の来訪者』が来る土地だ。都の者達も特異運命座標を不審に思うことはないだろう。
「……俺たち、鬼人の中にも貴殿らと同じく外なる神の寵愛を受けたものは多い。
貴殿らの信が得れるというならば――俺達も貴殿らと共に在りたいのだ。
……『外』について教えてくれるか。俺達も、貴殿らに『豊穣』についての知識を与えよう」
特異運命座標の力を有する鬼人種たちもいる。
「『セイメイ』……?」
「つづり」
そっと、社の中より顔を見せた少女は、不思議そうに首を傾ぐ。この場所の巫女であるという彼女は丸い瞳をイレギュラーズへと向けて、一つ言った。
「――その人たちは、魔ではない?」
「ああ。……英雄殿だ」
この国を救ってくれる。晴明はつづりと呼んだ少女に微笑みかけ、イレギュラーズとの『和平』を求めると交友を深めるが為の時間を欲したのだった。
- 神奈備之黒曜完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年07月03日 22時15分
- 参加人数129/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 129 人
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参加者一覧(129人)
リプレイ
●此岸ノ辺I
此岸ノ辺――美しき倶蘭荼華の咲き誇る社である。代々『けがれの地』と呼ばれたその場所で、建葉・晴明は『つづり』と言う名の少女を特異運命座標へと紹介した。
「まさか――海の向こうにこんな国があって、こんな場所があるなんてね。世界はまだまだ発見に満ちている」
フニクリはほう、と感嘆の息を漏らした。ちら、と視線をやった先では英雄殿と畏まった様に特異運命座標を呼ぶ晴明が立っている。天香長胤からはぞんざいな扱いをされているが彼自身の位を聞けば地位は十分なものだ。
「随分、迫害されているのね。八百万以外の種は、あまり扱いが良くないみたいだけれど――私達が活動する事は国盗りと扱われたりはしないの?」
最初に聞いておきたいと、フニクリが告げたその言葉に晴明は首を振った。逆なのだと、彼は言う。
「奪還だ」
「奪還――?」
それ以上、晴明は口を開くことはない。「まったく、セーメーは堅物でごぜーますからに、つづりは兎も角」揶揄う様なラグラは悪い子ではないんですよ、と晴明の頬をぷに、と突いた。
「……勿論、こうして『大陸』と縁を繋いだのだ。此れより俺と旧知の者も貴殿らローレットの仲間入りだ。状況は追々、語らおう」
「ふーん? しかし、私ちゃんが兵部で濡れ仕事してた時とはまた情勢も変わりましたねえ……内も外も」
ぽつり、と呟いたラグラ。カブトガニの砂糖漬けもありますよ、と磐座に腰かけて、皆に語らおうと彼女は促した。
「私は糸杉秋葉。冥神『黄泉津伊邪那美』様に仕える巫女勇者『黄泉醜女』です」
秋葉は恭しく頭を垂れる。黄ああ泉津と呼ばれた地名とその景観に彼女は自身の故郷を感じていた。黄泉津――それは『根の国』に置いては『死者の国』と言う意味であった。
そして、其処では『鬼人種』のように角を持つ者達が官吏として仕えていた。この地は、この世界における『彼岸』を想定されて気付かれてきたのではないか。
そう思えばどうにもこの土地が好ましいのだ。つづりとはぜひ仲良くしたいと告げた秋葉へと少女は戸惑ったようにゆっくりと頷く。
「……絶望の青を抜けた先に……こんな国があったなんて!」
グレイルは感嘆の息を漏らす。海の先の事は、どう考えられていたのかな、と問いかけた彼に晴明は「そも『外がある事をあまり意識してなかった』」という。
「……ええと、魔種への認識も聞きたいけど……それは話せるならで……こっちについて……の話もしないといけないかな……?」
これは情報交換会だ。其れも、晴明たちがローレットに『加入を考えている』と言うのだから、できるだけ情報を与えておく方が良いのだろう。
グレイルが何でも屋だと告げたギルド・ローレット。こうして鬼人達との話に集まった者達を見ればそれも何となくは感じられるだろう。
「私は『未知』が好きでね。私の知らない話を聞くことを好むんだ。
此岸ノ辺にずっといたつづりなら、そういったことを見聞きしているはずだろう?」
柔らかにそう告げたシキにつづりは晴明をちら、と見遣る。警戒を露にした彼女は『神使(イレギュラーズ)』に何か思う所でもあるのだろうか。
小さく笑みを浮かべ、シキは言う。警戒されているならば、自身が『物語』を語るだけだと告げるは海や森、人の街。混沌大陸の――黄泉津の外についてを口にすればつづりは物珍しそうにその話を聞き続ける。
「あの、私は此岸ノ辺にずっといたのです。黄泉津の事なら……セイメイの方が」
「そっか。だから、『黄泉津の外』を知らないんだね! それならボクにお任せ!」
じゃじゃん、とセララは『漫画』を差し出した。冒険の記録を記載したコミックは楽しめるものだろう。つづりは「セイメイ、これなら、そそぎも喜びそう」と口にしてからはっとしたように口を噤む。
「そそぎ?」
「――つづりの片割れの事だ」
セララが首を傾げれば晴明はさら、と返してその記録に目を通し始める。サーカス、天義、そして、ギアバジリカに海洋の航海。これまでの冒険は膨大だ。
「豊穣の事も教えてもらっても良い? やっぱり日本っぽいのかなー?」
「日本――ああ、霞帝の故郷ものその様な場所だと言っていた気がするが……俺は余りそのあたりは詳しくはない」
済まない、と告げた彼にセララは首を振った。成程、彼らは『神隠しに合ったもの』から外の情報を得てはいるが練達を擁する混沌程『外の世界』の知識はないのだろう。
「さて、まあ。状況はよく分からねぇが、俺達イレギュラーズを歓迎していない組と歓迎している組がいるのは分かった。
聞かせて貰ってもいいか? まず、此岸ノ辺、けがれの地と呼ばれているようだが何故だ? お前さんらが居るから、奴等がそう呼んでいるだけじゃねぇだろ」
義弘の言葉につづりはゆっくりと頷いた。この地は元はと言えば『禊の地』だそうだ。神々のけがれを祓う為の神聖なる場所――しかし、何時からか神々のその身より落ちたけがれがこの地に蔓延するようになったのだという。それが神隠しを引き起こし、妖をも呼び寄せる。その事よりけがれの地と呼ばれ、その地を清浄に保つが為の巫女を『親和性の高い一族』が務めているのだそうだ。
「英雄殿はまだ黄泉津には詳しくないだろう。何でも聞いてくれ」
「ハッ、英雄殿ときたか! こいつぁ気分がいいねえ。 だが、さっきの連中の口の聞き方はなっちゃあいねえな。もっと褒め称えられなきゃ張りが無ェぜ!」
グドルフは揶揄うようにそう言った。天香は特異運命座標を不届き者と呼んでいたが、晴明やつづりは彼らを英雄と湛えているのだ。どうにも、『面倒』な場所ではある。
「で、おめえらはどうやらここいらじゃ爪弾きモンらしいなあ?
この世界最強の山賊たるグドルフさまも、ちょいとばかし似たような境遇でな──やれやれ、肩身が狭いモンだ。なあ、爪弾きモン同士仲良くやろうぜえ? ゲハハハッ!」
「最強……?」
つづりが興味を示したように晴明の袖をくい、と引いた。どうやら「強いなら頼りになるかも」と言う合図のようだ。其れに気付いたグドルフは「見る目がある嬢ちゃんだな」と大仰に笑う。
「大陸(あっち)じゃ腕を鳴らしたこのおれさまも、この島じゃ全くの無名だ。
おめえらの気に食わねえ奴を全員ブチのめし、この島でもおれさまの名を嫌というほど刻み込んでやるのも面白ェ」
「報酬は弾もう」
分かってるなァ、とグドルフは晴明の肩をぽん、と叩いた。淡々とした様子の晴明ではあるが、どうやらある程度の冗談は通じるようだ。
「建葉・晴明。……晴明?ふぅん。しかもミスタ、アンタも特異運命座標なんだな。
俺はローレットの晴明。ここまで似てるなら、実質もう兄弟みたいなモンだよな? って訳でローレットの流儀に則り、義兄弟の契りを交わそうぜぇ。なぁに仰々しいモンじゃねぇ」
「セイメイと綽名されるが俺も『ハルアキ』だ。その様なものだな」
揶揄う朝長 晴明に晴明も同じように笑みを返す。ところで、と朝長が気にしたのは年齢だ。38となった彼の方がどうやら『年上』にあたるようで――「兄者と呼べば?」と揶揄う晴明の声に朝長は大きく頷いた。
「『英雄』とされるには、わたしは、全然……なので、あまり、ご期待に沿えないかもしれません、が……。……でも、カムイグラの方と、仲良くなれたら嬉しいな、って」
ぺこぺこと頭を下げたメイメイ。声を震わせて「つづりさま、のお好きな食べ物って」と不安げに声を掛ける。緊張をほぐそうとするメイメイにつづりは晴明をチラ、と見てから「ええと」と呟いた。
「甘い物も、好き……だけれど、余り皆さんと違わないものを食べてると、思うのです」
「そう、なのですね……!」
耳をぴこりと動かすメイメイのその仕草を視線でぼう、とつづりは追いかけた。どうやらその耳の動きが物珍しいのだろう。
信を得たいならば自身の身分を明かした方が良いだろうか、と大地は晴明に向き直る。
「改めて、俺は大地。自由図書館の司書を務めている。時に、このカムイグラには、どのような書物があるだろう?
というか、一般人も出入りできる書庫や書店はあるだろうか? こちらで用意できる本は幾ばくかだけど、良ければ取引させてほしい」
「京に行けばそう行った場所もあるだろう。また、案内しよう」
頷いた大地はもう一つの名があるとがらりとその声音を変える。
「俺のもうひとつの名ハ、赤羽ダ。何か悪霊にでも困っていたラ、相談してくれヨ。
これでモ、少しは腕の立つネクロマンサーだ。アンタ達で言う所ノ、陰陽師のはしくれだとでも思いナ」
彼のその様子に瞬く晴明へとアーリアは「面白いでしょう?」と微笑んだ。手土産の洋菓子は晴明が進んで毒味係をしたいと提案し、その後つづりへと手渡した。
「私達、依頼があればなんだって引き受けるのよぉ。悪者退治から飼い猫の捜索、沢山作りすぎたご飯を食べる! なんてものも。
……不思議でしょう? 竜と戦ってる横で飲み会してるんだから! だから、貴方達も気軽に、困ったら私達を頼ってちょうだいなぁ。こうして出会えたのも、一つの縁だもの!」
アーリアのその言葉に晴明は面白いものだと小さく笑った。ローレットとは個性豊かだ。だからこそ――興味がそそられ、だからこそ、自身も、と提案したくなる。
「刀を佩いていますし、豊穣での剣術はどのようなものか、鍛冶技術などについて聞いておきたいですね!
あ、有名な業物とかあるのならそれに関しても! 出来れば――一手、手合わせしたいものです」
そう微笑むすずなに「機会があればお相手致そう」と晴明は柔らかにそう告げた。彼女が語り聞かせたのは自身の冒険譚だ。
サーカス、砂蠍、冠位『強欲』、モリブデンでの攻防、冠位『嫉妬』――そして滅海竜。それは誰もが語った事であろう。だが、自身にしか語れぬものもあると言葉を続け続ける。
――ここが数多の絶望の先、ソラよりも深い青の向こう、その場所。コスモは美しい景色を見ることが出来る、と幾度も足を止め、ニャムリが「……こっち」と強制移動させたのだ。
「……あぅ、ニャムリ様、私一人でも歩けます、よ?」
色々なものに目移りするから、と移動することとなったコスモはニャムリと共に晴明たちへと自己紹介と挨拶を行う。
「どうもはじめましてだね……ニャムリだよ、よろしくねぇ……」
彼に聞きたいのは旅人の話である。帝は旅人だという話を小耳にはさんだ以上、神隠しで此処に訪れる者が多いと言うのは気になるポイントなのだ。
「帝は確かに其方で言えば旅人(ウォーカー)と呼ばれる存在だ。彼は嘗ては巫女――シスター、と呼ぶのか?――のざんげという少女の元へと導かれ、その後、神隠しに会い、此方に来た。
……初めての事だった。それ故に、あの人は『帝』としてこの国の頂点に立つことになったのだろう。詳しくは俺もつづりも彼から聞いただけで知らないが――」
そちらも、何か解っているのではないか、と晴明は告げた。ニャムリもコスモも特異運命座標だ。様々な戦いを経てきただろうと問いかける晴明にニャムリがちら、と後方を見遣る。
「奇跡の話をしましょう。私の目で見た、廻る運命のお話を」
その奇跡が芽吹いて自身らはこの場所に辿り着いたのだと、コスモはそう告げた。魔種と一時的にでも手を取り合えたという事――それこそが、奇跡だとコスモは告げる。
「素晴らしい場所だわ。これだけの見事な彼岸花が見られるのは、ここだけじゃないかしらね?
それと、私達と龍神――リヴァイアサンの激闘の冒険譚? の話でもしましょうか」
微笑んだイナリ。彼岸花、と聞いて彼女の頭に浮かんだのは『此岸』と『彼岸』であった。この場所はあの世とこの世の境界が曖昧なのかもしれないと、そう思えばこそ不吉な出来事が起こる可能性はどうにも頭から離れない。
「あの龍は、自らを滅海竜リヴァイアサンと名乗りました。遭遇して初めて存在を知りましたが、こちらでは存在は知られていた様子。何か古い伝承があるのでしょうか?」
舞花は静かにそう問いかけた。大陸――自身らの過ごした場所にはデザストルと呼ばれる竜種の住まう場所があると言い伝えられている。
感覚としてはきっと神話や伝承による竜と似たようなものなのだろうけれど、と舞花が問いかければ晴明は「察しの通りだ」と言う。
「御伽噺と言った風で申し訳ないが、俺達から見て神ヶ浜に住まう竜は正しく神威であると伝えられていた。
……それも、俺は『リヴァイアサン』を見た事はない。あくまで空想上の信仰であった、とだけしか伝えられないが」
舞花はふむ、と呟いた。鬼人達からしてもリヴァイアサンは『実在しない御伽噺』の存在なのであろう。エクスマリアは問いかけたい、と晴明たちの前へと歩みだした。
「マリア達イレギュラーズや、海洋の船より先に、この海を越えてきた者が居ないか。僅かな痕跡、噂程度でも、構わない。
何かしら、知ってはいないか、教えて、欲しい。知らないようなら、可能なら捜索を願いたい、な。
ブラッドオーシャンなら、それなりに目立つ筈、だ。カムイグラの何処かに潜むにしても、土地勘のない国で、短時間ですぐに隠しきれるものではない、筈」
「貴殿らの言う存在が黄泉津に辿り着いているか――実はそれは分からない。貴殿らのように大人数で、と言うならば俺とて、直ぐに駆けつけることが出来た。
だが、黄泉津は思ったよりも広い。我らは『黄泉津を大陸だと認識し、国を作っていた』。島国の中での小競り合いだと笑ってくれるな。だからこそ、他集落に着いていた場合――」
それを自身が把握することは難しいのだと晴明はエクスマリアへと謝罪した。
『まあ! とっても綺麗なところなのだわ! 鬼灯くん』
其処に咲き誇る死人花。それを見て、『嫁殿』は幸福そうに微笑んだ。鬼灯はその花にも所以はあるが、それとしても好きだと告げた。
晴明と話してみると告げる鬼灯に嫁殿も同意する。彼らの元居た世界によく似ているこの場所では、外の世界の文化を知る為に船を出す事はあった。ならば、カムイグラからは、と純粋な疑問が沸き上がる。
「俺たちのいた所ではかつて『絶望の青』と呼ばれた海でここへ来ることが出来なかったのだが……この国から、海を渡ろうとした者はいないのか?」
『お船なんかはあるのかしら!』
晴明は首を振った。外に出ようにも龍神様が居る外海はとてもじゃないが航海などできなかった、と。それも『嫉妬』の権能によるものだったのだろうと、今になればイレギュラーズ達も理解はできる。
私達にとっては、『不知の地』、彼らにとっては、『不知の旅人』。互いに知らぬ存在である事をリンディスは前提に置いた。
「彼らが『信』を得たいと思ってくださっているのと同じように、私たちも貴方がたへ信じて欲しいと願います。
お話しましょう、私の記録している限りのローレットの物語を。こちらでの英雄譚、怪談――珍しい本などありましたら是非教えてください!!」
つい、熱が入ったのは彼女が本を好ましく感じるからだ。書物の中でも語られる異種の話。こうして新たな島へと訪れる異邦者は大体が『侵略者』である事も多い。だからこそ、手を取り合うと言うならば互いに知り合うことが必要であるとリンディスは頭を下げる。
「許していただけるのならば、教えてください。この地から始まっていった物語たちのお話を。
良い意味で忘れられないことなども、どんな人たちがこの地に至ったのかを」
「ああ、まずは――神隠しだ」
「一先ず私から質問を一つ。黒い彼岸花は誰かが作り出したものなのか、そしてその神隠しの被害者は全員こちらに辿り着いているのか」
「済まない、黒い彼岸花と言うのは分からないが、神隠しは『けがれ』の所為だ。
……どうした事か、此岸ノ辺では抑えきれないほどの穢れが溢れ出して――そして、神隠しが起こっていると見受けられる」
しかし、神隠しも大陸側の話で全容は分からないと晴明はミーナに告げた。彼女はアイリスにも質問はあるかと問いかけるが美味しい物とかあるかな、と首を傾いだ彼女は朗らかだ。
「私は元人間で、元堕天使で元死神、の、今は一般人だ。まあ、面白い話があるなら教えよう」
「……そして、この世界で縁を得た――という事か?」
晴明の言葉にミーナは「ん、あー、アイリスとの関係? まあ、その色々あったって奴で」と呟く。アイリスはくす、と笑ってそっとミーナと腕を絡めた。
「ミーナとの関係は恋人だよ~? 私の大切で大好きな人なんだ~ずっと一緒にいたい人だよ~」
そうしてぎゅっとして微笑むアイリスに晴明はそうか、と頬を掻いた。どうにも刺激が強いのである。
「晴明さん、つづりさん、黒い彼岸花を知ってるッスか? ここにあるような彼岸花で、真っ黒いやつを」
鹿ノ子は自身は女中であり、主人が魔種とかしたことを告げた。そして、その主人は神隠しにあったのだと。
真っ黒な彼岸花咲き誇ったその異様な光景――それがこの地と繋がりがあるのではないかと疑わずには居られない。
「だから、その警戒心は解かないほうがたぶんいいッス。
魔種が此岸ノ辺に召喚されるっていうのは、これから先もあることだと思うッス。
ひょっとして、魔種が集められているのだとしたら……何か、とんでもないことが起きるかもしれないッス」
「神隠しで……? 魔が……?」
ぞ、としたような顔をしたつづりを晴明は宥める。だが、神隠しと言う言葉に『黙って居られない』者が居るのも確かだ。
「ほう……見事な彼岸花じゃ……彼岸花の精霊でもある妾としてはとてもここは居心地がよいのじゃ。
さて此岸ノ辺か……妾はよくわかっておらんが……空中庭園と似たよな所なのじゃな? と言う事はつづり殿もざんげと同じくずっとここに居るのか?」
「この、お役目を頂いてからは」
「それはご苦労な事じゃな……呵呵! よう頑張った! 大切なお役目を務めて偉いのォ」
微笑んでタマモはつづりの頭を撫でた。そして、神妙な表情を見せる。聞きたいのは神隠しの事だ。
「……ここでバグ召喚されたものの行く先について詳細な事とかはわかるかのォ……。
もしその中に妾と同じ白狐の獣種の巫女服を着た男子が居たら……教えて欲しい。妾の大事な人故に……な」
「……お見かけしたら、お教えいたします」
けれど、それが『知り合い』であるのかを判断するすべはないのだとつづりはどこか悲し気にタマモへと告げた。
「ならば、吾も問いたい。彼奴めは吾と同じ世界から召喚されたと思しき神人でな。
吾共の拠点である海向こうの土地で殺人を繰り返していたのであるが……黒い曼殊沙華の中で忽然と消えたのである。
その様な者がこちらに召喚されていては大事であろう?
吾も今度こそは彼奴めを打倒せんと思うておる故、お尋ねした次第である。奴めは古代美少女……強者の皮を剥ぎ、被る事で力を示す風習のある種族――皮剥ぎ事件が起これば是非、吾を呼んでいただきたい」
「ああ、申し伝えよう」
刑部省などとの連携の内に、と晴明は百合子へとそう告げた。古代美少女なる彼女がカムイグラで『大暴れ』しているならば美少女として止めるのが自身にとっての責務であろう。
「神隠しの召喚バグで此岸ノ辺に来た人で、あたし達とはべつの大陸から来たって人は、いないのかな?
心当たりがあったら、教えてほしいな。海はね、とっても広くて、あたし達の大陸と、このカムイグラの大陸をつないでて、ここに来るのも大冒険だったよ。ほかにも、そんな大陸があったら、きっとたのしいなって思ったの」
コゼットのその言葉に晴明は「把握していない」と首を振る。彼らにとっては黄泉津こそが世界であったのだろう。その海の外に対して何かを考えるという事も――あまりに『遠い絶望』が横たわっていた事で考えられても来なかった。そして、神隠しに合った者達の話を聞けども、彼らは『突然の召喚に混乱することも多い』。それ故に、詳細な地域を把握はしていないそうだ。
この場所が『神隠し』の辿り着く場所であると聞いた時にアルテミアは深緑での噂話を思い出す。神隠しで召喚された者はこの場を通ると言うならば――
「二人に聞きたい事があるの。数年前、この地にエルメリアという名の私と瓜二つな純白の両翼を持つ飛行種……天狗の女性が召喚されなかったか教えてほしい」
凄むアルテミアを嗜める様にクロバがその名を呼ぶ。アルテミアの妹が『関わっている』以上、その情報を聞きたいと彼は自身らの知る情報を伝えると晴明に約束した。
「私達にとって、此岸ノ辺にあたる場所は空中にある庭園なんですよ。
晴明さんたちはローレットに興味を示してくれましたが、此方にはそのような組織はないのですか?」
穏やかに微笑んだシフォリィに晴明は首を振る。神使と呼ばれる者も数人存在するが、宮仕えの者も多く、特段組織めいては居ないらしい。晴明とつづりはアルテミアの言葉を気にするように顔を見合わせる。
「貴殿らの探す娘とは――エルメリア……エルメリア・フィルティスと言うのではないか?」
晴明のその言葉にアルテミアがは、と息を飲む。クロバは「知っているのか」と確かめる様に問いかけた。
「……同一人物であるかは定かではないが」
「ずっと探し続けている、私にとって掛け替えのない、血を分けた双子の妹なのッ
だから、お願い……ほんの僅かなでもいい、あの子の消息に繋がる手掛かりを……ッ」
その言葉に、つづりは「セイメイ」と晴明を呼んだ。どこか不安げな表情をして――それは巫女姫と呼ばれる娘ではないか、と告げた。
●『神隠し』
突如として『けがれの地』へとその少女は現れた。美しき銀の髪を揺らし、失意の中で呻く、娘。その背には大仰な翼を背負っている。
「また、か」と呟く晴明につづりは唇を閉ざす。
「晴明、その云い方――」
つづりと瓜二つの少女は苛立ったように晴明へと声を荒げ、「そそぎ」と背後に立った男の声に窘められる。
此度もまた、七扇の長たる天香は『けがれの一族』を叱るのであろうか。そう考えていた晴明の予想は裏切られる。
美しき倶蘭荼華。咲き誇る此岸ノ辺にその姿を現した天香は幸福そうに声を張ったのだ。
――けがれの巫女よ。よくぞやった。
――ああ、貴女は、清き乙女。巫女姫様ではあるまいか!
●高天京I
豊穣郷、絶望の青の向こう側。あると信じられていた新天地。鳴は実際にあったのならば交流こそが自身らの『仕事』だと認識している。
子供心がワクワク、としているが、それは一先ず隣に置いておいてしっかりと調査である。
料理と土産物を確認するべくさっそく高天京を散策する鳴の耳には居る噂話は最近ならば『夏祭りに神使を招く』という事であろうか。
カムイグラの気候は四季折々。海も陸も有するが、目立つのは黄金の穂であろうか。風土もそうした面から悪くはなさそうだ。
「民に寄り添い、民の感じたことを聞き入れる事も、民を護らんとする者の努め。
カムイグラの民も私の護るべき民なのです。しっかり、共に歩みたいですね」
混沌に来てから日も浅いというグリーフは情報をアップデートするためにカムイグラの散策を行おうと高天京の中を歩く。『視』える色彩の確認も兼ねた街歩きは様々な結果を齎した。
例えば、笑みを浮かべた物は明るい色に満ち溢れる。喜びや幸福、楽しみなども暖色である。そして――鬼人種を小馬鹿にし声を荒げる者などは強い色彩を発していた。
「働かされていると思われる鬼人の方の色は、また違いますね。あれは……?」
傍観する様に、グリーフは小さく首を傾ぐ、まだまだ、勉強になる事は多そうだ。
「軽くて丈夫でロバがもし食べちゃっても大丈夫な植物で作られたやつ! あっだめだよお金払う前に食べないでよォ!」
「あっ、先にお代は出すんで! ロリババア、食べちゃダメだろ!」
ロクと共に高天京を散策する亮。ロクは「亮くん、この国にあってるね!」と楽し気に尾っぽを揺らした。
「俺の故郷と似てるんだ。ロリババアの背負える籠は買えたけどここからどうする?」
「お金が余ってるからお肉食べようよ! わたしのおごり! 人の金で食べる肉はおいしいよね! 肉! なんで豊穣にまで来て肉だって……?」
聞いちゃう? とロクは笑った。いつか来た交易の時にロバ肉が相手にされない事を危惧しているという。先ずはこの国の食文化からチェックなのだ。
「市場調査、というやつです」
寛治が担当したのはイレギュラーズを仲介役として大陸と黄泉津の貿易の一助だ。カムイグラではどのような物産が産出されるのかを京の中から隈なくチェックしていく。
織物や装飾品、貴金属、そして美術品だ。カムイグラと大陸では様々な違いがある。衣服や装飾品も大陸とは変化が存在し、使用される素材なども、目新しいものが多い。そうしたものを大陸側に輸出する事が出来たならばカムイグラでは様々な『利益』が上がるだろう。
その傍らで食事方面を担当するゴリョウ。本場といっても良い豊穣の食材には興味がある。米の本場はやはり『流石』だ。
「この味は上手く使えば幻想にも受け入れられそうだよな」
食材、加工品、調味料、酒、レシピ、それを大陸に受け入れやすくするかと言うのがオークの腕の見せ所だ。寛治と話し合いながらコストを考えて流通させるのも良いだろう。
(ご当地ハンマー……その考えはなかった。ご当地闇市は? あるのか?)
真剣に考えるアーマデル。物見遊山を兼ねてふらりふらりと街の様子を見て回らんと高天京を行くが、都の中では武装しているものもあまりに少ない。
普通に購入できる品々もそれほど悪くはなく、食品、雑貨、何でも取り揃えられている様子だ。此処で人の営みが存在していることがわかる――が、アーマデルの目に付くのは精霊種が基本は雇用主であるという様子だ。鬼人を中心に他の種は『使用人』が多いのだろうか。そう思えば、中務卿と言う立場についている晴明の事が気にはなる。
「しかし……馴染みのない文化だな……『赤』と呼ばれる色すら違うぞ」
所変われば色彩も変わる。紅葉の様な鮮やかなる紅の色とクリムゾンと呼ばれた真紅は成程、違うものか。
メモリーはカウンセリングを生業とし、使命とする機会として、今後の活動に生かすがためにカムイグラの景色を記録した。細々とした困りごともしっかりと対応していきたいと心に決める。
「リヴィ」とニアは声を掛けた。『デッカイトカゲ』の時は余りに会話も出来なかった――とニアはリヴィエールと共に高天京の観光へと繰り出した。
「さ、甘いものでも食べに行こう。甘味処、ってのがあるらしいよ。せっかくの機会だし、色々食べてみたいね」
「新しい土地ってワクワクするっすね。ニア、こっちっすよ!」
リヴィエールがにんまりと笑ってニアの手を引いた。肝心な時に元気をもらったから、そのお礼……だなんて面と向かっては言えないけれどニアは何時ものお礼だよとリヴィエールと共に高天京を進んでいく。新しい土地で過ごすと言うのがニアにとってはどうもむず痒い。何か買って帰ろうと提案するニアにリヴィエールは嬉しそうに微笑んだ。
肉料理で『優勝』したい至東はまじまじと人々を観察し続ける。肉に対する偏見はどうやら内容だ。それも、この国は『神隠しに合った者』へと寛容である。
杞憂だったかと大路に繰り出して優勝パレード――と呼んでみたが、実際は『肉を食べに行くというものだ』――を行った。勿論、酒は成人にのみ与えられる娯楽だそうだが。
「おじさま! 『袴』って言うんだってこれ! にあう?」
新天地で食い倒れツアーを企画。ルアナはグレイシアの前でくるりと舞った。グレイシアは食事にと駆けだそうとする彼女にまずは現地の衣服を、と告げ、着用を始める。
ルアナが着れば可愛らしく、大きな裾を見ればスカートを思わせるが普通は男性の着用するものだったのかとグレイシアは小さく呟く。
「おじさまもかっこいいよー!」
「格好良い、か……違和感もあるが、これはこれで良いものだ」
特段動きにくいというわけでもなく、寧ろ足運びが分かりづらいと言う面では戦闘にも向いている気さえした。
まじまじと衣服を確認するグレイシアと対照的にルアナは自身に染み付いた変なにおいも感じなくなったのだと上機嫌だ。
「えへへ、折角だし沢山美味しいもの食べようねー」
「そうだな、一部は練達で観た事はあるが、此処にしかない料理もあるだろう」
未知の食材に未知の料理。知らないものというのは心が躍る。そんな様子のグレイシアにルアナは揶揄うように笑って彼の手を引いた。
「じゃあお腹いっぱい食べて、持って帰れそうなものは持って帰ろー!」
「美味しかったものは幻想でも作れるよう、調味料も買っていくとしよう」
海洋では悲しい事もたくさんあったが、今も楽しもうとはしゃぐ彼女が『気に入るものがあれば』――グレイシアはルアナが喜ぶ顔を想像して笑みを浮かべた。
「ボク達が住んでる大陸の方も、まぁまぁ色んな文化が入り乱れてるけど、カムイグラも凄いね!」
和服を着てみたいなあと高天京を散策しながらノアルカイムは楽し気なステップで呉服屋をちらりと伺った。
やはり、自身は異邦の者だ。現地の者からすれば『違和』があるのに違いないだろうと考えたノアルカイムの耳に入ったのは忌子の話だ。
――奴らは此岸ノ辺から来たんではなかろうな。今代の巫女が双子であったばかりに……。
海を渡ってきた彼女とは別に『此岸ノ辺』へと召喚される者がいる。それも穢れを浄化するための作用だとは言われるが――神隠しは黄泉津では歓迎されぬ事なのであろう。
双子で、忌子と言われるとついスンとした表情をしてしまうのは、やはり仕方がないのかもしれない。
「……ここも、世界の1つなのです、ね。……すごいです。こんな不思議な街、きっと今まで見た事……ない、です……!」
瞳を輝かせるフェリシアは高天京を堪能しても良いのですね、とワクワクしたように周囲を見回した。神威神楽に住まう者達の纏う『和服』を見て居ればつい、羨ましくなるものだ。
呉服屋立ち並ぶ通りをきょろりと見回した。店主に頼めばフェリシアに似合うものを選んでくれるだろう。それに合わせたアクセサリーを欲せば、その清らかな髪に一刺しの花飾ってくれるはずだ。
「ご飯は、お洋服や……綺麗なアクセサリーを買った後、です」
――もしも、先に食事をしたら、服のサイズが上がってしまうかもしれない、なんて。
「あっ! そうだ! 豊穣行こう! おいでやす豊穣! おこしやす豊穣! という事で修学りょこーだっ! しまっていくぜー!
何だこの町並み! 映えが凄いの! もうメッチャ映えてんの! とんでもないヤバみを感じるよね!」
楽し気にびし、と拳を掲げた秋奈。勿論、お土産も大事だが『映える様子』もしっかりレポートに認めたい。これだけの海向こうだが、この食文化が伝わって『神威食』の店がずらりと並ぶのだって期待できるではないか。
「なんかわかる、この感じ……修学旅行で京都を思い出すよね。仕事は今回あるわけじゃないし、ちょっとくらい観光しても……ねぇ?」
何となく思い出すは修学旅行。誠司は『こうした場所に来た時の義務』を忘れやしない。とりあえず木刀やカッコイイ感じのドラゴンが宝玉持ってる風のキーホルダーを探す。
観光産業はある程度、存在しているのか――黄泉津にはカムイグラ以外の部落も存在することで、その地方の者が買いに来るようなアイテムが揃っている。
「ここがかの新天地! お偉方は思惑あるだろうけど、折角歓迎されているんだから僕らは僕らでこの機会、楽しまない訳にはいかないよね」
カインは異郷の地に来たならばこの国特有の食、土産、景色を楽しまなくては損だと言うように京内をぐるりと見まわした。
「……ここが、新天地──カムイグラか。こちらの呼び方で神威神楽というのだったか。
先輩……もとい、秋奈に『修学旅行行こうよ!』と誘われて、それなら折角だからと人を誘って来たはいいが、なるほど」
海向こうはまるで違う場所なのだと言うように十七号はぱちりと瞬いた。平凡な京には確かに存在する種の差別が見て取れる。これはレポートに記しておこうと筆を取る彼女の傍らで誠司は「これは……?」と愕然としたように手元に存在した『妖キャンディ』をまじまじと眺める。折角の新天地だと本や書物を物色するルネを始めとし、観光を楽しむ者は多いようだ。
「む、あれは──団子屋、というのか? ふむ、この三色団子とやらは綺麗な色合いだな」
十七号が三食団子を手にしている側でカインは『神威神楽』と毛筆で――達筆だ!――描かれたシャツを堂々と着用している。
「……むむっ、この龍が巻き付いた剣型の装飾品、良いね……」
「練達でも殆ど見なかった扇子などの和雑貨は良いものだな、質が違う。職人の腕が良いのかね、角のある人らかな。ううむ話を聞きたい」
そうした伝統工芸を作る者も鬼人の中には多く、精霊種達もそれらに精通する者も多いが――ヤオヨロズの多さに圧倒されてしまうと錬は静かに呟く。
「――って、おーい!? 逸れるなよー!?」
修学旅行は迷子が付き物だ。慌てたようにそう告げる錬にトゥリトスははっとしたように顔を上げた。新しい文化を楽しむ中で、ついつい見た事のない物に目が行ってしまうのだ。
「あの、棒を組んだ奴って鳥居って言うんだよね? 何の為にあるんだろう?」
鳥居は神社などの神域と人間が住まう俗界を区切る為の結界なのだそうだ。いわゆる、神域への入り口を示すものだとされている。八百万達が自身らを神と言う認識をしていた頃の名残であるようにも思えた。
「折角の新天地、どうせなら色々と回ってみたいがまずは食じゃな! 余の超☆宇宙魔王神殿に集ってくれてどうもありがとう! 今回は無礼講で余の奢り、目一杯楽しんでくれ!」
堂々たる魔王様。フーリエはこれを機会にジャパニーズ刺身的なものを食べてみたいとわくわくして料亭へと足を運ぶ。
お誘いだ、とヨハンは「カムイグラ」とその言葉で唇を濡らす。子の存在を海洋王国はどう受け止めるのか――と言うのはまた違う話なのかもしれないが……。
「フーリエさんや大地さんは食べたことがあるんですか? この……えっと、……油揚げ?」
珍しい食べ物が多いとヨハンはぱちりと瞬いた。
折角ならばギルドメンバーの友好を深めたいと言うのが一つの狙いだ。「うおー!! 新! 天! 地!!」と声高に叫んだ大地は魔王仲間と親睦を深めるチャンスと心躍らせる。
一昔前の日本を思わせる、と感じたのは大地自身もそうした『世界』に馴染みがあるからだろう。
「うむ、和食はいいぞ! 旬の味、素材の味を十二分に感じられる!
まぁ、やはり俺のような男には肉が少なめなのは物足りないが……それはそれ! このもてなしにはしっかり応えねばな!」
「こうしてギルドの皆さんとこうした会食は初めてでしたね。美味しいものがたくさんありますね。海を越えるために苦労した甲斐がありました。
今まで見たことのない文化があり新鮮ですね。こういう雰囲気もいいものです」
にこやかにそう告げるフォークロワ。全部『超☆宇宙魔王』宛の領収書で食事を続けているが――きっと、魔王様なら許してくれるはずだ。
お面や扇子だってこれからのギルドでの生活に必要だとか、そういう『言い訳』を添えて置けば万事OKの筈なのだから。
「ふむ、此処がカムイカグラで最も賑わいを見せる場所『高天京』であるか。
なるほどなるほど。右も左も鬼の方ばかり、新天地に来たと実感するのう。居心地も不思議と良いし、まずは散策しながら情報を得るのが定石か」
紅華禰はにゃふふ、と小さく笑った。あたりの喧騒を聞き分けて評判の良い店を探す。気さくな雰囲気でカムイグラの事を世間話ついでに聞けば、商人たちは今日はヤオヨロズ以外の客足が途絶えないと忙しそうに告げる。並んだ酒類や食品類も一部の旅人からすれば『好ましい』モノばかりだ。
「もぐもぐ。わーくにはわをもってたっとしとな~す!
ローレットを代表するお菓子ドーナツをたべながら露店を食べ歩きじゃ~。ドーナツみたいな油であげた菓子どやぁ!」
鈴音は美味しいぞ、と待ちゆく人々に告げる。目的は交易する様な美味しいものがあるかどうか、だ。果物はどんなものがあるか、梨やリンゴ、様々なものがあるがジャンクフードはあまりないようだ。
「確かに似ている。都というくらいだから少々華美ではあるが田舎へ行けばまた違う風景なのだろう」
流星はそう呟いた。自身の出身世界、国との相似点を懐かしんでいたが、その気持ちも今日の任務を思い出して咳払いで少し拭う。
黒衣を脱ぎ、蒼い花のドレスを纏えば異国の少女を思わせる。闊歩するだけでつい、頬が緩んでくるが――気を強く持とうと流星は微笑んだ。
「あら。店主さん、こちらの簪、手に取ってみても? ふふっ素敵! 外の国ではとても珍しいから自慢できるわ。
帝様や巫女姫様もこういった美しいものをお召しになっているのかしら。ねえ、何か知ってらっしゃる?」
「帝は此岸の巫女や建葉殿を連れてよく買い物に来てくれたねえ。巫女姫様は実は見た事はないが――天香様が貢物をお渡ししてるんじゃないかな?」
店主の言葉に流星は小さく瞬いた。
「国によってそれぞれ個性があるものだが、豊穣はやっぱり個性的だ。都は活気があって何より……さて、何を見て回ろうか」
やはり医者としてジェラルドが気になったのは薬だ。西洋医学と東洋医学では様々な違いがあると言われているが――カムイグラでも医術は違っているのだろうか。
薬問屋をまじまじと眺めていた彼は絶望の青の先には希望が広がっていたのだと、学びの機会を得れたことを心より喜んだ。
●高天京II
「新天地!もうそれだけでワクワクなのに、これはまた文化の違うところ! 創作の糧もそこここに落ちてそう!
……交易はともかく、交流を図るなら政治制度なんかも含めて把握しておかないと厳しいよねえ。幸い、精霊種の力が強いみたいだし……できるよね」
アリアは食文化を知る為には食べ歩きだと露店を見て回る。高天京の中には様々な食文化が所狭しと並んでいる。
目移りしちゃうとおにぎりを手にしたアリアは「すみません、そちらの鬼人種さんともお話しさせてもらっても?」と伺った。
鬼人種はこの地では従業員をしていることも多いのだろう。主人を気にするようなそぶりを見せた後、柔らかに笑みを浮かべて了承してくれた。
しかし、虐げられるものが居るのも確かだ。ユーリエはそれを『助ける事』は叶わぬのだろうと唇を噛み、拳を握りしめる。今は天香に『気にいってもらう』事が先決だと晴明も言っていたではないか――
(……いけないのでしょうが……っ)
悔しさが込みあがるのは確かだ。立ちすくんでいたユーリエに八百万の店主は「見ていってください」と笑みを浮かべた。食材などは全て黄泉津の大陸で得ており、彼らにとってはこの島は『巨大な大陸』の扱いであったのだろうとさえ思えた。
異国情緒あふれる場所だ、とロゼットは周囲を見回した。然し、獣種という者は珍しいのかとも考える。ヤオヨロズたちの姿は様々ではあるが根本的に種が違うと言うならば――変化をする方が安全だろうかと首を傾いだ。
「ふむ」
ロゼットの視線の先には甘味処。団子が並んでいるそれを興味を以て一つと注文すれば甘いみたらしが彼女へと手渡される。その甘い香りにそそられて、暫くは通って見よかとも考えた。
「―――」
モグモグ、とナハトラーベはひた歩く。異郷の地であれでもいつも通りのゴシックロリータのドレスを、と考えたが和とのマリアージュを見せれば新たな装いとして楽しめた。
そんな異邦の者たる彼女は一心不乱に焼き鳥、串カツ、肉団子。肉類を一目散に買い込んで頬張り続ける。天空散歩with肉はどうやらまだまだ続きそうだ。
「へー、これが海の向こう、カムイグラ……! 海洋のみんなが目指してた海の先、なんだねっ! 一人じゃ寂しいし、霧緒さん誘ってよかったー!」
ほっとしたようなリリーに霧緒は「奇妙なものじゃなぁ」と高天京の様子をまじまじと見遣った。座敷のある飯屋で並んだ料理を見るとどうにも涎が滲むのだ。
「とりあえずご飯たべよ、ご飯! 色々食べたこと無いのもあるし、なんだかわくわくするねっ!」
「ああ、湯豆腐、漬物、油揚げの卵とじ……あぁ~っ、練達でもそうそう食えなんだ舌に馴染む味……! なんとうれしや!」
興奮隠せぬ霧緒は食事が終われば、露店向かおうとリリーへと提案した。歩幅が『大きく違う』二人だ。リリーを谷間にすっぽりと挟んで闊歩する様は流石は『異邦の者』である。
「しかし新天地。何処に行っても、この世界はキナ臭いようだ。
魔種がトップなようだが、市井では、それが受け入れられているのだろうか。海洋側としても国の情勢という物は気になるところだと思われる」
悩まし気な愛無は礼儀作法を駆使して巫女姫の評判を聞く。だが、驚くほどに『情報がない』のだ。
(天香に関しても魔種であるなどと言う情報はない。宮中より巫女姫は出来ないという事だが――……?)
詰まり、天香・長胤と言う男は『魔種でなかった時代を市井に認知されている』のだ。それが巫女姫の召喚によって引き起こされた野かは分からない。だが、時系列を整理すれば――自ずと想像つくものなのかもしれない。
「ここがカムイグラ……。素敵な所だね。私の世界の東方もかつてはこんな感じだったみたいだけど……。不思議な共通点だね……」
マリアはぱちりと瞬いた。珍しいものが多い。地酒などは友人――ヴァレーリヤにぴったりではないかと買い物の手は止まることはない。
料理とて盛り付けから考え尽くされている。そうしたものに舌鼓を打つのもオツなものだ。出汁メインの薄味で素材の味を楽しむのは他国では中々に経験できないものだ。
口の中が楽しんだならば次は目を肥えさせなければならないかとマリアは京の地図を眺めた。
――閉ざされた国と交易できればどうなるか、深緑との関係で知っている。ラサは深緑の良き友人であるが彼女らに踏み込める限られた存在だ。
海洋にそのつもりがあるかは知らないが後から権利を欲しても遅い。今から恩を売り貢献し、いざという時に手を挙げられるようにしておかねばならないとラダは市場調査に繰り出した。
市場に並んでいるのは海洋などの煌びやかな宝飾と比べれば非常に質素な物ばかりだが織物は素晴らしい。それを眺めてラダはほう、と小さく呟いた。
器や杯、宝飾品は八百万は物珍しいものを好むようだが鬼人達は実用品を購入するのも多い。菓子をチラ、と見遣れば草花や季節ものを模したものも多く見えた。
「……これは土産に帰りたいが日持ちするかな?」
そこまで、ふと気にして。此岸ノ辺より空中神殿を経由すればすぐにでもローレットに戻れることはた、と気づく。ならば、土産にもぴったりの代物だ。
「おお~ここがカムイグラですか、どのような料理やお酒があるのか気になります!」
エリスは露店や店を回って食べ物や飲み物を買い食いしていきたいと周囲を見回した。上目遣いで儚き花はちょっぴり饒舌なのだ。
カムイグラの料理や調味料、食文化を聞けば大陸と比べた所薄味が多い。しかし、海洋王国でも口にすることのできる海の幸に関しては同じであろうか。酒類も黄金の稲穂を生かしたものも多いか。そう思えば、少しばかり変化があるのかもしれない。
そうした部分からも海洋王国には存在しない者を輸入し、同時に大陸側から様々な輸出の機会があるとエリスは考える。
「宮中が魑魅魍魎共によって荒れるのは世の常じゃ。こればかりは世界は違えど、ど~~~うにも変わらんものよ」
夢心地はぱたぱたと扇子で自身を仰いだ。頃合いを見計らって『暴れん坊ショータイム』をご覧あれと『殿』のカムイグラでの活躍に期待が高まり続ける。
「……ともあれ、今は『見』の時じゃ。幸いここには麿の美意識に見合う衣服がありそうじゃからの。
無いならば作ればいいじゃないおおだあめいど! 呉服屋を巡りつつ、麿レベルの殿的存在に相応しき羽織を仕立てるのじゃ。なーーーはっはっは!」
――イレギュラーズで一番、元からカムイグラの住民であったと言われても可笑しくはない殿は堂々と高天京を闊歩するのであった。
「うはーっ、新天地! だけど……ウチが召喚される前の世界を思い出すから、実はそこまで『新しい土地に来た!』って気分にはならへんなあ……」
きょろりと周囲を見回したつつじ。文化レベルで言えば『故郷』の方が進んではいたが、それでも何処かからだが落ち着いて感じるのは親しみやすい景色だからなのかもしれない。
生活様式や文化を海洋王国に報告しようと見まわす中で、彼女が気になったのは八百万と鬼人の格差だ。他国ではここまで種族に格差を感じることはなかった。
「『霞帝』って人が目覚めれば状況は改善していくんかな。そのためにも晴明さん達とは協力していきたいなぁ」
京と言うには賭場の一つや二つあるだろうとニコラスは裏通りへと進んでいく。酒場の裏口の扉が開かれ、じゃらじゃらと賽子の転がる音がした。
「闘犬、闘鶏。サイコロ賭博。あそこでやってんのは花札か?
お、あの数合わせは初めて見たが手本引きっていうのか。──うし! ルールも分かったしやってみっか!」
早速だとニコラスはにい、と唇を釣り上げた。裏社会は新たな神使の話で持ちきりだ。今日はそればかりだろうか。新たな情報は未だ得られそうにない。
「観光をしますよ! 一人だからって寂しくは無い、無いはずです。きっと」
ヘルツはそう言ってからそんなわけない、と首を振る。寂しい物は寂しいのだ。食べ物よりも土産を見ようと意気揚々おt繰り出した。
「此処は精霊種、じゃなくて八百万ですっけ。多いんですよね。
知り合いにバッタリと運命的な遭遇を! ……する訳無いですよね、知ってます」
けれど、新たなものに出会うのは楽しい。何か良き出会いがあれば、と陶器や骨董品の話を聞きに店内へと足を運ぶ。
「成程ねぇ。ここはコメが主食なんだね」
「握った米の中に具を入れておくってサンドイッチみたいよねぇ、皆考えることって一緒なのかしら」
ウィズィとイーリンは手を繋ぐ。イーリンの手には鮭の握り飯が握られていた。口にすれば名産品と言うだけあってやはりその味は美味だ。
しかし――きりたんぽなどはどうにも想像がつかないのだ。彼女の言葉に恋人とのデートに浮かれるウィズィは「それも米かい!」と驚いたように目を見張る。そうしていることが何よりも楽しくて。
「んぁ」
「ん?」
イーリンの視線を追いかければ仕立て屋が存在した。今年の夏祭りへの準備なのだと店頭に並んだ浴衣は可愛らしい。
「ねぇ、今年の浴衣。こっちのもので仕立ててみない?」
反物から1からですって、と呟くイーリンに「いいね」とウィズィは微笑んだ。
「浴衣って言っても色々あるね。イーリンは何着る?」
「何って……おそろい、にするのよね?」
――恋人だし、とその言葉に、二人とも頬が赤く赤く染まっていく。どこか擽ったい気がするお揃いの響きはどうにも喜ばしいのだ。
「驚いたな、同じ世界にこんな国があったとは……紅い鳥居も綺麗だな、何より風景がいい! そう思わないか、リズ?」
カイトに手を引かれながらリースリットは小さく頷いた。カイトから見て、彼女の瞳は美しい紅玉だ。燃ゆる彩の多いこの地は万華鏡のように移ろい、彼女の瞳をより輝かせるだろうとさえ思わせる。
「本当に……全然違う文化。それに、似たような種族の方は旅人の中に見かけたこともあったけれど……鬼人、でしたか」
海を越えてみれば、なんとやら、と言うようにリースリットは驚きを隠せぬ儘、カイトに手を引かれ続ける。
カイトはラサへ旅に出た放浪癖もあってか、こうして世界を見て回ることが楽しくて堪らない。その様子にリースリットは小さく笑った。こうして世界を見れるのは……何とも、楽しいではないか。
「リズ、見てごらん。これなんかリズに似合いそうじゃないか」
「まあ。綺麗……それは確か……簪、でしたか」
練達由来でしたっけ、と呟く彼女に此処では定番らしいね、とカイトはそっとその髪の添える。鮮やかな花を咲かせたそれに「似合う、かな」と首を傾いだリースリットは何処か照れ臭そうである。
「ああ、よく似合うさ! どれ、店主、ひとつ包んでくれないか?」
今日の記念だとカイトは微笑んだ。あの死闘の先にあったのだ。こうした日常を謳歌するのだって悪くはないだろう。
●黄泉津<よもつ>の風景
「はてさて、故郷に似てるが違う国。この世界も面白きものよな。
とはいえ、まつりごとなんぞは性に合わんでな。街をぶらつくのもよかろが、どうにも八百万とか言う輩も偉そうで気に食わん。町の外で遊んでくるかの」
絢神輝夜はそう口にしてからねぐらによさそうな場所を探そうとゆるりと歩き回る。傍らに猫が歩むそれを追いかけながら妖には拳骨一発。
猫たちの寝床はきっと絢神輝夜にとっても素晴らしい居心地であろう。穏やかな空気を感じさせるその場所をゆるゆると歩くのは面白いものだ。
「他の国とはまた違った独特な雰囲気だけど、例えるなら……『のどか』で『和む』っていうのかな」
ヨゾラはリヴァイアサン関連でその心が限りなく純に近くなった魔種を把握していた。しかし、カムイグラではそうはいかなさそうだ。
考えるは猫と呼ばれる動物の事。他の地域にも存在するならば、カムイグラでだって可愛らしい猫と出会える筈だ。
三毛猫や黒猫、様々な猫を見つけるためにヨゾラは田舎町へ向けて歩き出す。田畑の地下に座った猫に小さく挨拶を返せば「にゃあ」と可愛らしい声が返された。
「うーむ見れば見るほど古代日本って感じだな、異邦の世界だが何処と無く馴染むというか……共あれ、此処なら本場のアレが有るだろう……。そう、『米』だ!!」
マカライトは目を見開いた。農村地帯、特に酒造と稲畑地域がある場所との行き来の手伝いをすると古ロリババアを連れ歩く。
「あー……見た目は妖かなんかだが、無害だから安心してくれ。少なくとも人は食ったりしないから」
何処か不機嫌そうなロリババアの声を聞きながら米類や豆、野菜などの文化について楽しむ様に市場調査や素材調査を兼ね歩く。
「ここが豊穣か……気まぐれで来てみたけどなかなか良い場所じゃないかな?
山々や田畑の並んだ田舎町……非常にのどかだ……ちっ、聞いてはいたけど妖も跋扈しているんだったね……行きがけの駄賃駆除しておこうかなっと♪」
穏やかな山々に囲まれた高天京。どうにも徒歩で移動すれば黄泉津は広く、カムイグラを中心としているがその他にも小国――そうは称するが、国として数えられることはないだろう。混沌大陸で言えば少数部族程度だ――も存在しているようである。海を目指しいざ、と魔力の砲撃を中心にラムダは攻撃を繰り返す。妖退治も『駄賃稼ぎ』にはピッタリだ。
都の通貨を確認すれば、どうやらローレットの報酬で貰えるゴールドは同等の価値を持っているようだ。黒子は自身の所有する金銭が利用できることを確かめた後周辺地域の探索へと赴いた。
「購入しても?」と問いかければ村人たちはどうぞ、と快く彼の申し出を了承する。どうやら、外の者と言うのは昔から続く召喚で慣れているのだろう。妖の被害が近年増加傾向にあるらしいが――『大量召喚』が行われた混沌世界の事だ、神の悪戯で神隠しが増えて居ようとも可笑しくはない。妖たちは様々な戦闘スタイルを保有していた。
黒子が目を付けたのは妖狩りに赴く者達が鬼人種に多い事だ。都勤めは八百万が多く、鬼人達は皆、外回りという事だろうか。しかし、それらも使い捨てと言う程では無さそうであり――寧ろ『特異運命座標』の力を所有しているかのようにも思えた。
折角の豊穣なのだから、とハンスはあちこちを飛び回って見る。晴明の話も気になれば店だって気になるが――気持ち的に鬼人と携わる事がハンスには少し気まずかった。
交友関係の中には『鬼は滅するべき』と言う世界からやって来た者も居る。悪鬼の如き存在と鬼人種は根本の種が違えども、その外見から嫌悪を露にする『先生』が居るとどうにも気まずいのだ。
「と、とりあえず豊穣の素敵な景色でも見てみたいなあ。妖も湧くそうだし、出くわしたら斬るって感じでいざ探索だ!」
――そう、ハンスの心配の通り頼々は苛立っていた。『クソ竜』と呼んだリヴァイアサンを眠らせていざ新天地と辿り着けば目の前にあったのは角だ。それも、額より生えたものである。
彼にとって鬼は害虫である。自身の心情的にもそして、所有するギフトを思えど鬼達と関わることは得策ではないと彼は感じていた。実際、鬼人と呼ばれるだけの普通の種なのだろうが、角が生えている事――例えば、角を持つ他種族もそうかもしれない――が心証を悪くするのだ。
「……ヤオヨロズはもうちょっとこう、迫害頑張れなかったのか? 虐殺は? 流石に鬼がのさばりすぎであろう? ……だが、ローレットの立場を悪くするわけにも」
自身の気持ちに決着がつかない儘、頼々は小さく唸るだけだった。辻斬りはNG項目なのだ。
「絶望を越えた先にあった未知の国……いいね、そういうのは大好きだ。ということで、ちょっと散歩、もといフィールドワークに行ってくるね」
楽し気に歩き出したシルヴェストル。妖が居ると聞いた山間の地帯へ向かえば、そこに存在するのは混沌の大陸と大差のないモンスターだ。
個人の欲を出せば少し血が欲しい。味見もしたい――が、胴もおいしくはなさそうなのだ。楽しい実地調査を行おうと、天より穿つ雷が妖のその身を劈いた。
「俺に出来る事は、まぁ普段通りに破滅を滅ぼす事。それだけだ」
妖と呼ばれる存在は混沌大陸に存在するモンスターと大差はないだろう。R.R.は妖を相手に攻撃を重ね続ける。
個人では戦法の幅にも限界がある。出来れば、この妖のデータについてを海洋王国に報告したいと言うのが彼の考えだ。
R.R.と連携する様に、弓を引いたミヅハはトレーニングを合わせて、と攻撃を始める。やはり鍛錬というものは大事だ。妖迫り来るその手を長距離より退けて小さく息を吐く。
(ここは俺の居た世界(トコ)と似ててなんか落ち着くな……)
この世界に来たばかり――懐具合も不安だから、誰か昼食位奢ってくれないものか、と小さくぼやいた。
周辺には多数の動物が潜んでいた。それだけでもこの土地が富める場所である事をサジタリウスは感じ取る。自身の連れ歩く犬――たぬきなのか犬なのか、はたまた――と共に野生動物たちに問いかけたのは近状だ。都では『巫女姫』が顕現してからそれなりに変化が訪れていたらしいが――動物たちからすれば『妖が増えた』という居心地の悪さが問題なのだろう。
「……成程?」
確かに妖は存在する。それ等の討伐も此度のオーダーだ。霞帝が隠れ、巫女姫がその座に立った時の激しい違和はどうにもそのあたりにも滲んでいるのか。
「フハハハ! 黄金の穂が揺れる理想郷……成程これが神威神楽か!
うむ、実に素晴らしい! 我が祖先の生まれ故郷によく似てると聞いて来てみた甲斐があったというもの!
『鬼楽』を興せし先祖達よ! この小刀祢剣斗! 『ジパング』に似た土地を見つけたぞ!」
剣斗はからりと笑って見せた。然し、妖は彼の眼前でも無辜の民を襲い続ける。その様子を見過ごせぬのは『略奪し甲斐がある相手』が餌食にならんとするからだ。
「万死に値する! 疾く去ね! 化生風情が! 民よ! 安心するがいい! この俺が来たから貴様等を守ってやろう!」
カリスマを発揮した剣斗にカムイグラの鬼人達はぽかんと口を開けてその様子を眺めた。
「ここがカムイグラ……新天地豊穣と呼ばれるところなのね……うん、昔懐かしい我が故郷『ジパング』を想い出させる田畑。
……これが郷愁の念って奴かしら……まあ、見た所流石に『ジパング』の様な機械とかはなさそうだけど……」
桜華は自身と似通った外見を持つ鬼人達を見て、ゼノポルタとは自身と同種だと心を躍らせる。ならば、力を貸さぬという訳にもない。
「待ちなさい! 不埒者! この人達を襲うというならあたしが相手よ!
我が名は鬼城桜華! 遠い平行世界の同族の為に今こそ力を振るう時!」
妖へ向け、一歩踏み込んだ。距離詰める桜華は妖の向こうに霧が霞み、『淀み』が晴れた事に気付く。これが、けがれか。
そうした穢れが存在することを見ながらも文は胃が痛いと座り込む。鬼人種も悪くはないだろうし此岸ノ辺も美しい場所だった。だからだろうか、『日本』を思い出して勝手なことで気分が悪くて仕方がない。湿度或る圧力に思わず逃げ出して田畑の前でしゃがみ込む文を心配そうに鬼人種の少女が覗き込む。
「大丈夫……?」
「うん、大丈夫。しばらくすれば慣れると思うから。ところで……えっと、こんにちは……?」
こんにちは、と鬼人種の少女は楽し気な声音を響かせて返した。やはり、悪い人たちではないのだ。
「いやはや、新天地にしても……江戸から召喚された拙者からすると、見覚えのある風景に御座るな。
強いて言うなら、京の都に近い雰囲気で御座ろうか……周囲が田畑というのも、近しくも懐かしく感じるものよ……まぁ、まるで違う所もあるで御座るがな」
様々な文化の入り混じる様子を見れば幻介も歴史書を隈なく眺めたかのような感覚だ。文らの佇む田畑より幾許か進んだ山間で彼は暢気に風景を楽しむが――足元には妖が転がっている。
「よもや、人斬りでは無く妖斬りをする事になるとは……世の中、分からぬもので御座るな?
とはいえ、粗方片付いたか……折角で御座るし、久々に故郷に近しい味も楽しめそうに御座るしな」
故郷と同じ味を楽しめるというならば――早速、高天京に向かってみようではないか。きっと、心躍る食事を楽しめる筈だ。
●此岸ノ辺II
「ども、はじめまして。オレは新道風牙。新しい道、風の牙、って書いてシンドウフウガ。よろしく!
さて、オレらについての話はもちろん聞かせるけど、そちらについてもいくつか聞きたいことがあるんだ。言える範囲でいいから教えてほしい」
風牙はにんまりと微笑んだ。人好きする笑みを浮かべる彼女に晴明とつづりは小さく会釈をする。
「この国は、魔種のことをどれくらい知ってるんだ? 『原罪の呼び声』については?」
「……申し訳ない。そのあたりは我らに魔の存在を伝えた者――カラカサ殿からも聞いた事はない」
カラカサ、と風牙は呟いた。どうやら魔種という存在を晴明たちに教えたのが『カラカサ』と呼ばれるものらしい。
それ以上は知らないと言うならば、魔種が滅びを求めていることも知らないのだろう、と風牙は呟いた。
「こちらが、魔か? ですって? ――失礼ね!!
そっちこそ! 頭の角こそ隠せぬ証拠ッ! 如何にも魔種! 悪魔に、そっくりじゃない。騙されないわよ!!」
酷くおびえた様子のメルトリリスはシュバルツの背よりその顔を覗かせてつづりへとそう告げた。確かに鬼人達の角は彼女たちの『神』を害する悪魔と類似しているようにも思える。
「お前はちょっと落ち着け。イレギュラーズにもツノ生えたやつ居るだろ」とシュバルツは慌てた調子でそう言った。鬼と言う存在は物語や旅人たちの中にも存在するが――純種で鬼人種(ゼノポルタ)と呼ばれるのだな、とシュバルツは驚いたようにそう言う。
「……天義国は魔種の禍により大打撃を受けたわ。私の一族からも魔が2人も出ているから、ロストレインと名乗る人は信用しなくていい。
でも、イレギュラーズたちは信用できる。何より旅人たちは、見知らぬ世界の所以もない者達のために戦ってくださるのだから」
メルトリリスはそう、感激したように告げた。彼女にとって、そうして魔を滅してくれる異邦の者達はどれほどまでに心強いか。
「外の世界の奴らが集っているローレットってのは、特異運命座標が集まって出来た組織だ。
世界を救う為にと言えば聞こえが良いが、依頼とあればそれを遂行する。
要するに何でも屋って事だな。魔種相手との交戦も何回もあった。俺らに任せてくれるなら問題ねぇよ」
シュバルツはメルトリリスの言葉を繋げるように柔らかに微笑んだ。――信じ切れるわけではないと警戒するメルトリリスを宥め乍ら、彼はゆっくりと問いかける。
「そういえば、事実上のトップが巫女姫、魔種みたいだが、お前が知る中で今迄に反転した鬼人種ってのは居たのか?」
「……居たであろうな。然し、それ等を魔であると撃退する事は出来れども原因を知ることは出来ないでいた」
だからこそ、特異運命座標の来訪が晴明とっては素晴らしき出逢いだと彼はメルトリリスに「魔等と疑った非礼を詫びたい」と告げた。
「穢れを祓う巫女に八百万の者は好意的ではない様子……しかし件の魔種は巫女姫等と呼ばれている。
穢れの象徴とも言うべき名の姫を何故敢えて名乗るのか。そして何故、八百万は鬼人種を蔑んでいるのか――否、そもそも何故魔種が堂々と政を執り仕切っているのか。聞いてもよろしいですか」
無量のその言葉に晴明は頷いた。搔い摘めば、八百万は自身らを神と認識している。そして、その神の従として額より角の生えた種を扱っているのは『神との認識があった以上は仕方がない歴史』なのだという。そして、巫女姫は『この地より召喚された娘』だという。しかし、彼女は魔種だ。晴明は言う――「魔種だから、だろう」と。
「天香は神使やそれに類する者を好んではいない。だが、ああも『変わってしまった』のだ。……ならば、その魔の力が影響しているだろうと俺は考えた」
そこから先は推測に過ぎず、『プロフェッショナル』であるイレギュラーズの力を借りたいという事なのだろう。
「……承知しました。私も元々は貴方の様に鬼だったのですよ。然し、今は角も折られておりますがね。そうだ……この辺りには僧兵を要する寺院や神社などは御座いますか?」
無量の問いかけにつづりは首を捻った。わかりません、と。黄泉津は広い――どこかにそうした者が存在する可能性はあるのだろう。
「なるほど、こちらではこういう風になっているんだな。……? ああ、自分は便宜上万能炬燵と名乗っている。
本体は中身の触手だが、見た目は無害な炬燵だろう。晴明もつづりも炬燵を知っているだろうか? 知らぬなら一から説明するぞ?」
「炬燵は知ってはいるが、貴殿のような存在は初めて見た」
そう告げた晴明に番の炬燵は「まぁほれ、一先ずは入ってみて寛がないか?」と勧めて見せる。晴明は悩まし気に小さく唸った後、「またにしよう」と何処か照れ臭そうに微笑んだ。
「私達は西の方から来たけど、カムイグラ周辺には他にも国があるのかな? 交易・敵対・交戦している国はあるのか?」
利一が問いかけたのはカムイグラを取り巻く情勢であった。海洋王国との外交を考えたならば、カムイグラについて知って置きたい。
それにより、軍事力や経済力を知れるのならば、この国との『関わり方』を深く考えていけるだろう。
「国か――勿論、外つ国と呼ぶべき場所は黄泉津にも存在している。然し、カムイグラと比べればどれも小国と呼べるかもしれないな」
黄泉津に置いて、カムイグラは京だ。外に存在する国々はそれ程までの脅威ではないのだろう。真摯に答える姿勢を見せた利一に晴明は好感を覚えたのか笑みを浮かべる。
「ローレットの仕事は様々だよ。海賊退治とか戦争の手伝いとか、走る雑草の駆除とか……」
走る雑草と言うのはそれ程までにオーソドックスなのかと晴明は不思議そうな顔をしてウィリアムに問いかけた。彼もローレットに所属したならば――きっと、雑草を追いかける機会が来るのかもしれない。
「僕の故郷『アルティオ=エルム』は国土の全てが森の迷宮に覆われ、その中央に聳え立つ大樹ファルカウは街が1つ入ってしまう程の大きさで……」
樹の中に街が存在するというのは晴明たちにとっては不思議の象徴だ。ウィリアムにとっては馴染みのある大樹ファルカウもところ変われば『ビックリ箱』という事だろうか。
「天香なる者の物言いは許せぬがそれのみでこの国を量ることはせぬ。
それは誰より先に晴明殿。お主が頭を垂れてくれたおかげじゃ。感謝致す」
クレマァダは堂々と、そう口にした。神隠しを経て此処に訪れた者は居るだろう。しかし『海』を抜けて黄泉津に迎え入れられる初めての存在として彼女は凛と言葉を発する。
「名をクレマァダ=コン=モスカ。お初に御目もじ致す。
さて、一体何を話せば良いか。……我には双子の姉が居った。その歌が海竜の――主らから見れば『神』の怒りを沈めて見せたのじゃ」
語るは自身の『かたわれ』の話だ。そう思えばこそ、双子と言うのが忌むべき存在だとそう称されたことが我慢ならない。
「……この国の澱み、かつての我であれば見通せたのじゃろうか。
つづり殿。何か力になれることがあったら、いつなりと呼んでくれ」
最早失った波濤魔術。しかし、それでも『双子巫女』の事を、クレマァダはどうしても捨て置けなかった――重ねた、のかは分からない。ただ、その声音は優しかった。
「初めまして。私はポテト=アークライト。こちらは私の夫のリゲルだ。
ローレットのことは他の人から聞いているかな? リゲルはイレギュラーズ……こちらでは神使だったか、の中でも有名な騎士なんだ」
「晴明様、つづり様。私達をお迎え下さり、感謝致します」
凛として挨拶をしたリゲルとポテト。リゲルから思えば魔種が国の中枢を脅かしている現状がどうにも捨て置けず、ポテトも神隠しの事が気になると言った様子である。
神威言葉――カムイグラで使用される言葉に直したポテトに晴明は「俺達がそちらの言葉を覚えれば済む」と無理に使用しなくてよいと告げた。
然し、彼らの認識ならば神使はその文字の通りなのだろう。リゲルは特異運命座標とは何か、そして冠位魔種達との戦いについて説明した。
「魔種は、純種……貴方がたのような現地人を、魔種へと変える力も携えています。どうかご留意下さい」
リゲルの言葉に、晴明とつづりは顔を見合わせる。彼らにとっての『天香・長胤』がまさにそうだったのだろう。長胤は普通のヤオヨロズであったそうだが――ある一時を経て変化した。
「天香・長胤は……もしや、ある時期から突然人が変わったかのようになりませんでしたか?」
冬佳の言葉に晴明は大きく頷いた。ならば、『反転』だ。天香はある一定の時期に――晴明曰く『巫女姫』が召喚されて――変わってしまったという。
「ふむ……。私の知っていることをお話ししましょう。あの海には、龍神と共に『冠位魔種』なる存在が共に居ました」
魔種には恐らく『傲慢』『嫉妬』『憤怒』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』の属性があり、それぞれの感情を鍵として『反転』する事で魔種へと『変質』する。そして、魔種にはより上位の存在即ち『冠位魔種』なるものが存在のだ。その内の一つ、嫉妬のアルバニアが外つ海を『絶望』と化していたのだと――
「それを超えることはさぞ恐ろしかっただろう」
「勿論でござる。拙者達はいくつもの命が失われるのを見た。
絶望の海と呼ばれたそこは夢半ばに潰えた者達の嫉妬と共に狂王種や魔種……そして、お主たちの呼ぶ龍神様。
――しかしその場に居た全員がその海の先を夢見て、あるいは己に降りかかった災厄を祓う為にと誓い、命を懸けて挑んだのでござる」
そう聞くたびに晴明は素晴らしい、と静かに告げる。咲耶の告げた『大号令』の話を聞く程に、この国に降りかかる災厄はきっと彼らの力がなければ祓うことが出来ないのだという実感さえ沸き立ってくる。
「晴明、ちょっといいかな。以前、夢の世界を操る魔種が起こした『常夜の呪い』って事件があってね。
沢山の人達が覚めない眠りに堕ちてしまったんだって……帝さんの状態に、少し似てないかな」
「……ああ、似ているな。それは『魔』によることか――ならば、類似かもしれない」
イーハトーヴは緩く頷いた。出身世界そっくりのサイレントスノウと言う場所で死んだ恩人そっくりの誰かと話した。
危険なことはなかったし、その魔種も存在していなくとも――共通点はあった。だから、知っていて欲しいと彼は神妙な顔をしてそう告げる。
「ローレットでは勢力に寄らずどんなヒトのイライも受けて仕事してるよ。戦争に助力したこともあるね。
魔種に対してはトウバツが一貫してるくらいかな? こっちでは魔種はなんて呼んでるの? 『魔』って言ってたけどニンチされてないのかな?」
イグナートのその言葉に晴明は頷いた。然し、此度の会にて大愛は理解したと言うように晴明は頷く。彼らの『討伐』というその方針には同意するという晴明は宮中を思い唇を噛んだ。
「この国の魔種どもの情報があれば知りたいが、まぁ現時点で分かっていることは ほとんどないんだろう? 別の話を聞くことにする。
ここは俺たちで言うところの空中庭園、そしてアンタは ざんげと似た立場らしいじゃないか。なら、俺が聞くべきことは1つだよな。
つ づ り ハ ン マ ー と か あ る ん だ ろ う ?」
ハロルドはそう言った。つづりは「こ、小槌ですか」と怯えたように言う。圧が強い。とにかく、圧が強いのだ。
「俺の持っている情報なら好きなだけ聞いてくれ! つづり小槌があるんだな!?」
「は、はい。その……セイメイに、ぽん、ぽんっと振ると……新しい力が出るとかなんとか……」
詳しくは分からない、と言うつづりに晴明は「ざんげハンマーというものについて、貴殿から詳しく聞かねばならないな」と興味深そうに呟いた。
(つづりちゃんとはあんまり歳も離れてなさそうだから、もしかしたら友達になれるかなー……なんて。
……警戒されてるみたいだし難しいかなぁ……んん、でも頑張りたい……!
カムイグラで友達を作るチャンスだし! 仲良くしたいって気持ちが大事だよね……!)
シャルティエはつづりが警戒するのは『魔種がこの地に召喚される』ことが起因していると知って、その心に安らぎを与えられればと笑みを浮かべる。自身は騎士である事、騎士とは何か、それを告げればつづりは「セイメイみたいなお仕事?」と目を丸くして問いかけた。
「そう……かも? 悪いもの……此処だと、よどみっていう…のかな。そういう存在を対処するの……多くある、かも。
他にも…人を助ける為の、色々な「お手伝い」。している感じ、だよ。晴明さん……も、そうなら……おんなじ、だね……」
チックの言葉につづりは頷いた。中務卿として政に携わる立場であるが晴明は昔から『外』へ向かうことが多かったそうなのだ。
「おれからも、鬼の人達に聞く……しても良い、かな……おれみたいに、翼。生えてる人、この国に……いる?」
「天狗――飛行種であれば、姿を時には見る事もある。神隠しによって、此方に『召喚された者』達だな」
晴明の言葉にチックは「そっか」と小さく頷いた。ジルは晴明の紹介で薬師の鬼人種と意見交換を行っていた。
「僕はかの大陸で、薬師を営むジルっす。なので、最前線で戦う皆様のお役に立ちたいって思っているっす。
僕が効用のある自分の角でお薬を作っているのも、その信念があるからっす」
「妙薬だな。それを考えさせて頂いても?」
まじまじとジルの手元を見遣る鬼人種の男に晴明は「あまりガッツクな」とたしなめた。より良い薬を作りたいと口にしたジルに薬師の男は大陸の情報が欲しいと彼女へと返す。
「つづり。この大陸に、ダンジョンはあるか?いや、いちばん大事なことなんだよ、ダンジョンがないと僕帰るぞ。
何故かリヴァイアサンと戦うとか体張る羽目になってたどり着いた土地にダンジョンの一つもありませんでしたとか。ちょっと観光客として辛い……辛すぎる……」
「セイメイ」
アトの圧ある迷宮への強き意志につづりは「どう?」と晴明へと問いかけた。晴明は「迷宮」と呟いてから悩まし気に言う。
「そうだな……黄泉津にもそう呼ばれる場所は存在し得るだろう。何せ、黄泉津とて広い。貴殿の満足往く迷宮があらんことを」
晴明の説明にほっとしたようにつづりは後を見上げ「帰る?」と問いかけた。どうやら彼女は気配を感じている――自身の祭壇が空中庭園とリンクし、特異運命座標であればワープポイントとして使用できるようになったことを。
「つづり様と建葉様は親しいのですね。まるで兄妹のようでもありますが――」
幻は様々な質問を行っていた。帝は召喚されたことを起因に祀り上げられ、巫女姫は特異運命座標の一人、アルテミアの方がその失踪時期には詳しいだろう。
彼女らが『魔』であるというのは『カラカサ』と呼ばれる男が晴明たちに教えただけであり、具体的な権能は彼らも把握していない。
「しかし、建葉様は中務卿としての職務もありますでしょう。そちらを思えば、此岸ノ辺にずっと、という訳にも行かないのでしょう?」
「ああ。……現状を言えば中務省は天香の手中にある様なモノだ。そして、遮那殿――失礼、天香の義弟殿は兄の長胤殿を崇拝にも近く尊敬していた事で疑うことも……否、『建葉の去った今、宮中で政を滞りなく行える兄上はすごい』等と考えているかもしれない」
幻はそうですか、と小さく呟いた。どうやら遮那は魔種では無さそうだが、その心根が美しいだけに『兄は魔種だから滅するべき』という理論は通じなさそうだ。
「世界を救う為には全ての魔種を倒さなきゃならねえ。これはローレットの役割としてではなく、特異運命座標として生まれた者の使命だと俺は考える。
魔種は呼び声で魔種を生み出して様々な悲劇を巻き起こす。仕組みはわからねえが、魔種はいずれ世界を滅ぼす。だから、教えて欲しい。
豊穣には魔種が居るのか? ――そいつは倒さなきゃならねえ」
ジェイクは一人の少女に誓った。おやすみなさいと眠った彼女が次に目を覚ました時には不幸が蔓延る世界ではない筈なのだから。
その言葉に晴明は「いる」と言った。そして、彼は真っ直ぐにジェイクを見遣る。
「……俺達も、貴殿らと同じだ。蔓延る魔の生み出す不幸など、見たくなどないのだ」
信念はどうやら同じだ。だからこそ――ローレットについて、知りたいと彼は言ったのか。
その信念を知れば『疑う』事は必要ないだろう。ヴァレーリヤはにんまりと微笑んだ。
「状況はまだ飲み込めていないけれど、貴方達が信用に値する事は理解できましてよ!
私の知る事なら何でも答えましょう! 故郷から持って来たお酒(ウォッカ)もサービス致しますわー! さあさあ一献!」
瓶を取り出した彼女に驚いたようにつづりがすすす、と後方へと下がる。晴明は勢いの良い『酒豪』に「良い催しだ、つづり」と告げた――彼もどうやらイケる口だ。
「あら? 美味しいおつまみもあるのだけど、どうかしら? 神隠しを随分警戒していますのね。起こりやすい人や場所に傾向はありまして?」
その緊張を解き解さんとするヴァレーリヤにつづりは悩まし気に「分からないのです」と呟いた。晴明に促されて小皿のおつまみを摘まんだ彼女は美味しい、とヴァレーリヤに笑みを見せる。
(ボクも元の世界では巫女をやってたから、此岸ノ辺の巫女って言われてるつづりちゃんとお話ししてみたいし、出来ればお友達になれたらいいなって思ってるけど……)
こういう時は自己紹介からだよね、と焔はにんまりと微笑んだ。やはり自身も巫女であった。その共通点から沢山のお話をしたいのだという切り口で焔は笑みを浮かべる。
「まずカムイグラと似た雰囲気の世界から来たウォーカー……えっと、こっちでは何て言うんだっけ、神人? 向こうではボクも巫女で、炎の神様に仕えてたんだよ」
「炎の神様、ですか?」
興味深そうなつづりに焔は大きく頷いた。つづりが晴明の袖をくい、と引く。どうやら八百万ではない神様と言う存在につづりは興味津々のようだ。
「そんなに神様って珍しい?」とアレクシアが不思議そうに瞬いた。ずっと隔たれた場所であるカムイグラに伝わる伝承や物語を聞きたいと告げた彼女につづりと晴明はどれがいいだろうかと少し悩まし気だ。
「実は、カムイグラは貴殿らで言う所の神話が多い。かの龍神とてその神話の一部なのだ」
「成程……もしかしたら、大陸側と意外な共通点があるかもしれないよね! そういうわけで、晴明さんイチオシの……というか思い出深い言い伝えとかあったら教えてほしいな!
あとは、そういう本をよく扱ってる本屋とかも知ってたら是非! 知らないことをたくさん知りたいんだ!」
自身も未知を知識とするのは楽しいと晴明は朗らかに微笑んだ。言い伝えで彼が気にいっているのは『外つ国より霞の如く現れる神人』の話だそうだ。――つまりは、彼が慕う帝の事なのだろう。
「拙者は那須与一、この世界の『外』からやってきた旅人と呼ばれる者の一人でござる。帝と同じでごるかな? よろしくでござるよ~」
与一もふもふとした狐の耳や尾を出して、つづりに「どうでござろう?」と遊び相手として名乗り出した。女子と言うのはもふもふが好ましく感じるものも多いのだ。
それに驚いたようにつづりは「本物?」と瞬いて問いかけた。与一は小さく笑ってから「触りたいならどうぞでござるよ~」と尾をゆらゆらと揺らして見せる。
「そうだ、花は好きか?」
警戒するつづりへとポテトは柔らかに問いかけた。彼女がこちらを警戒するのは『長胤が神隠しを経た者と相対してから魔と転じた』事に起因しているのだろう。
小さく頷く彼女に花を育て、プレゼントすると微笑む彼女の手元では『手品』の様に華が芽吹いていく。
「綺麗だね」とシャルレィスは微笑んだ。自己紹介をしてから、その瞳はきらりと輝く。気になる事は沢山あって、だからこそ、仲良くなりたいと願わずには居られない。
「ねえねえ、つづりさんはやっぱりずっとここにいるの? 晴明さんが仲良しの、帝さんってどんな人?」
「……私は、ずっと此処に居ます。使命ですし。それから、帝は――あの人は、凄く、良い人で、私も、セイメイも、仲良しでした」
けれど、と目を伏せて暗い顔をしたつづりにシャルレィスは面白い話をするね、と走る雑草、叫ぶスイカ、ぴよもふが多い場所に仲間を助けた英雄譚を語り始める。
「……でね、そこで私が立ち塞がったんだよ! ここを通りたければまずは私をもふもふにしてから行けーーー!!! って!」
明るく高らかに語るシャルレィスにつづりの表情が僅かに緩む。ソロアは晴明とつづりの様子をまじまじと見てから「うーん」と小さく唸った。つづりの警戒を出来るだけ緩めたいが、どうしたものであろうか、と首を捻るが打開策は浮かばず普段通りで済まそうかと笑みを浮かべる。
「始めまして、ソロアだ。よろしくたのむ」
あまり、彼女らに勝たれる情報も無い。世間話の方を優先しようかとポテトがつづりに渡した花に「綺麗だな」と微笑んだ。
「でも、ここの花も沢山咲いていて綺麗だ。二人がお手入れをしているのか?」
「私が……。けど、自然に咲くものと言えば咲くのかもしれませんね」
つづりの言葉にソロアは「すごいな」と瞳を煌めかせる。花を褒められたことで、つづりは何処か嬉しそうに笑みを零してから晴明の裾をくい、と引いた。……照れ隠しなのかもしれない。
「つづりちゃんとお話して交流を深めたいかな!
確かカムイグラではシスターさんの事を巫女さんって言うんだっけ? つまりつづりちゃんもシスターさんでナカーマだからね!」
にまりと笑ったンクルス。空中神殿に近いのかな、と告げたその言葉につづりはぱちり、と瞬く。
「えっと、空中神殿はここみたいに特異運命座標になった人が召喚される処なんだよ!
っでそこにはざんげさんって人が居て私と同じシスターなんだよ! 鬼人種の人も特異運命座標が居るんだっけ……?」
「はい。皆さんの言葉で言うならば、きっとここは空中庭園と同じ――それを別った場所なのでしょう。
それに、鬼人種の特異運命座標――セイメイのような人たちは、皆さんの仲間として戦いたい、と、思います」
ンクルスにつづりはゆっくりとそう告げた。その言葉にフレイは「ざんげと同じ存在と言うわけではないのか?」と問いかける。
「私は普通の鬼人種です。その、ざんげさんと言う方とは……多分、違うと、思います」
自身は普通に生を受けた存在だという彼女にふフレイは「成程」と呟く。
「まぁ俺達はこの地のことなどまったく知らん。そちらも教えてくれ。
まずはタブーとされるものや言動か。知らずに地雷を踏んでいざこざを起こしてしまうのは本懐ではないからな。
……何事も、可能な限り穏便に行こう」
「きっと、それほど難しいしきたりなどはないのです。ただ、無用な殺生はお控えいただければ」
つづりがちら、と視線を向ければ晴明はゆっくりと頷く。人の命を奪うと言うのは恐ろしい事だ。だが、英雄たちはその命の重さを知っている筈だ。
「ええ、そんなに無為に命は奪わないわ。豊穣郷カムイグラ、アタシは放浪者だけど元居た世界の文化に似ているのよねえ。――ねえ、つづりちゃん。見ててね? 」
つづりの警戒を少しでも解き解そうと恭介は手持ちのリボンの糸をばらして布へ。正方形の布を縫い合わせて作った折り鶴。その様子に「セイメイ、鶴」とつづりがその袖を引っ張った。
「鶴、だな。素晴らしい」
「ふふ、知っているのね? アタシの故郷の文化のアレンジよ。カムイグラには折り紙とかは存在しているのね」
頷くつづり。自身も良く折り紙はするのだと彼女は嬉しそうに語る。その笑みを見れば、雪之丞は何時かは友人になれるだろうと胸を撫で下ろした。
「人目を遮る、と? ……宜しいですが――俺も見ても良いのですか?」
ヨシツネへと小さく目配せしてから雪之丞は息を吐いた。『変化』は彼女のその身を夜叉樽本性より隠してくれる。
「旅人には拙のような、人間ではない者もおります」
「ほう、これは……」
つづりとヨシツネはその真白の詩型に息を飲む。雪のように美しい、とヨシツネが褒め称えればつづりの視線は晴明に向いたが――人目憚ると言うならば『ヒミツ』なのだろうかと思い留まる。
「あぁ、すみませんな、つづり殿。我々混沌の特異運命座標はご覧の通り様々な人に溢れていて、まるで百鬼夜行の様であります。
きっとすぐ馴染めますので、これからは気軽に我々を頼ってくださいね」
「大丈夫……セイメイは、皆さんを信用していますから」
その言葉にヨシツネは笑った。信用、信頼、それに一つ雪之丞が付け足すのは「ヨシツネ様も、つづり様も、秘密ですよ」という『しー』と口元当てての小さな約束。
緊張もほぐれたのだろう。さて、と、マリナは晴明へと向き直る。
「この航海、こっちも沢山被害が出て大変でした……せっかくここまでしてつなげた世界。
仲良くしないと損です! まぁこれはこっちの都合かもですけど……どうですか、海洋王国と仲良くする感じには……いきなりは難しいですよね」
晴明の顔色を見てマリナは成程、と感じる。『彼ら鬼人種がローレットに所属する』のと『中務卿がカムイグラと海洋の親交をしっかり取り持つ』のはまた別なのだろう。
「じゃあ王国とは言わず、私とだけでも仲良くなりましょう。海のエキスパートですので、海でお困りの事があれば、悪い事以外なら何でもします。
私の乗る船は沈まないって評判なんですよー。ふふん。自分で言うのもなんですけどお人好しも多いので……気軽に受けてくれると思います」
「ああ……本当に、皆、気安いものばかりで喜ばしい。だが、我らの都に魔――否、魔種が居る以上はその脅威を取り払わねば、貴殿らの国にも失礼であろう。
手前の悪を取り除いてからが真の交友の始まりだ。……俺個人とすれば貴殿とは友人で居たいものだが、立場が中々に難しいのだ」
ギルド・ローレットに所属する鬼人種の青年としてなら、仲良くしたいと晴明はどこかぎこちなく笑う。しかし、中務卿として――となるとどうにも難しいのだと。
だが、彼の気持ちは――そして、彼が『空中庭園』に――そして、今迄、此岸ノ辺に召喚される鬼人種の往く道は――決まっていたのだろう。
ギルド・ローレットへ所属し世界へと。それが『その身に宿った力の正しい使い道』だという事を彼はしっかりと認識していた。
「我々に力を貸して欲しい、という事は我々に『戦う為の』力を貸して欲しい、という要請で間違いはないのだろうか」
ベネディクトはそう問いかけた。特異運命座標にとって魔種とは最終的に倒すべき存在だ。
だからこそ、その認識を違えているならば足並みを揃えることが難しくなる。そう、最終的に――天香を討つ事となるからだ。
「我々も可能であれば、出来る限り事を荒立たせたくはないが──」
「……そうは言ってはいられない、と言うのは貴殿も分かっているのであろう。
帝が眠り、中務卿である俺が離反している。ならば、時の最高権力者は『魔』を宿した天香・長胤だ」
晴明の言葉にベネディクトは頷いた。それ以上に『此岸ノ辺』の縁が結ばれ特異運命座標も利用できるワープポイントとなった事、そして、特異運命座標の力を宿した鬼人達に『その身の振り方を与えられる場所』があるという事は晴明にとっては喜ばしい。
彼はすぐにでも、鬼人種達を招集し、ギルド・ローレットへの所属を呼びかけるであろう。答える者達は皆、その地に集い、特異運命座標(イレギュラーズ)としての活動を始める筈だ。
「今は、この国、神威神楽の為に『戦う為の力を貸してほしい』。ギルド・ローレットへの俺からの依頼だ。
そして、同時に、俺達も貴殿ら、ローレットの力となろう。この力は八百万を打倒するためにあるのではない、民草を救う為のものだ。
英雄殿、と他人行儀で済まない。だが、見聞きした事を俺達とて見過ごせない。若輩者ではあるが……貴殿らの教えを請いたい」
それが、『中務卿』建葉・晴明の本心か、とベネディクトは感じた。だからこそ、問いかける。
「――『中務卿』建葉・晴明殿、貴方の覚悟の程をお聞かせ願いたい。帝に仕える一人の人物として」
「幾久しく――」
――この力、この高天京の為、そして、『ギルド・ローレット』の為に使おう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
鬼人種をこれからどうぞ、よろしくお願いいたします。
ご参加ありがとうございました。
白紙の方以外は描写したかと思います。抜けがありましたらご連絡くださいませ。
GMコメント
夏あかねです。先ずは、『新天地』の発見おめでとうございます。
そして、黄泉津にいらっしゃいませ。皆さんを鬼人達は心待ちにしておりました。
どうやら『龍神をも眠らす力を持つ英雄』に鬼人達は力を貸してほしいのだそうです。
宮中の魔種も気がかりですが、一先ず彼らと友好的関係を築きつつ、海洋王国の為にカムイグラを調査しましょう。
※ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※行動は冒頭に【1】【2】【3】でお知らせください。
※プレイング3行目に【海洋王国へ報告】と記載した場合は、海洋王国に交易の為の調査レポートを持ち込むことが可能です。
●豊穣(豊穣郷カムイグラ)
神威神楽。黄泉津と呼ばれる陸(おか)に拠点を構えた和風国家です。
此岸ノ辺と呼ばれる場所には混沌での神隠し対象が送られてくるために『神隠し』関連依頼に関わったPCならば幻視したことがあるかもしれません。
黄金の穂が美しいともいわれており、外界との関わりがなかったため独自の文化を築き上げています。風光明媚な高天京(たかあまのみやこ)では和雑貨や特異な製品を手にすることもできるようです。
今回は『中務卿』なる晴明が来訪者たちを歓迎しての『カムイグラ』の観光・調査と親睦会であると考えてくださいませ。
【1】高天京(たかあまのみやこ)
カムイグラの首都です。鳥居立ち並ぶ美しい和風の街です。
様々な商店や露店が立ち並び、買い物や食事を楽しむことが可能です。観光にはオススメ。
食事は和食と呼ばれるものが中心ではありますが肉類もある程度は食されるようです。(神隠しでの文化流入です)。
また、八百万が中心であり、下働きをする鬼人以外はほぼ別の種は存在しません。
【2】此岸ノ辺
神隠しで召喚される場所だそうです。美しい彼岸花が年中咲き誇る異様な雰囲気の場所です。
晴明やつづりにとっての拠点。けがれの地と呼ばれるためか八百万は姿を現しません。
また、此方では晴明たちとの交友を深めることが出来ます。
・ローレットの事
・特異運命座標としての活動
・その他、外での冒険譚
について知りたいのだそうです。何故か――それは晴明たちは『特異運命座標』であるからだそうです。
また、カムイグラについての質問や鬼人についての質問等も彼らはお返事を致します。
皆さま『英雄』からの信を得たいと、そう願っているからです。
ただし、此岸ノ辺の巫女であるというつづりは『巫女姫と言う魔種が神隠しに合った経験より少しばかり警戒しているようです』。
【3】豊穣のその他の場所
豊穣内を探索することが可能です。妖などが跋扈している場合がありますので対処などの戦闘も可能です。
高天京の外はぐるりと山が囲んでいますが田畑などの並んだ田舎町と言った風景で非常にのどかです。心も落ち着きます。ぼんやりと海を楽しむことも出来ます。
●NPC
当シナリオにおいてはNPCはお名前を呼んでいただけましたら登場する可能性がございます。
ステータスシートのあるNPCに関しては『クリエイターが所有するNPC or ローレットの情報屋』であれば登場が可能です。
カムイグラのNPCに関しましては
・建葉・晴明(中務卿、鬼人の青年)
・つづり(此岸ノ辺の巫女 ※『巫女姫』の事があったため、やや警戒しているようです。)
やその他、鬼人種をお呼びいただくことが可能です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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