シナリオ詳細
<神の王国>Apokalypsis
完了
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オープニング
●在り様
無数の世界の断片が光屑となって降り注ぐ。
その光景を男は一人、詰らなさそうな顔をして見詰めていた。
天より降る世界の欠片は誰ぞかの理想郷であっただろうか。
頬杖を付いているルスト・シファーは指先を動かした。
「ルスト様」
己が姿を借り、そして『己が此処から動かぬ際に動かしていた人形』が現れる。
預言者ツロはルスト本人そのものであるが、権能により自律し動き出すことも出来る。
男の姿を借り、男の目のみを借り、イレギュラーズの生温さは見てきた。奴らは温く、そして、甘ったるい。
反吐が出るとルストは呻いた。馴れ合うことが何の成果になるというのか。
滅びても世界を諦めず、求める強欲は『妹』であったとしても不愉快であった。
そう、誰も彼もが不愉快だ。滅びのアークを無駄に垂れ流した強欲な『妹』だけではない。
竜種(バケモノ)とまで協調したくせに恨み言を叫び死んでいった嫉妬に塗れた『弟』も。
怠け、己が何も動かず与えられるが儘を享受した怠惰な『弟』も。
憤怒に駆られるばかり、衝動に身を任せ結果は破滅の道を辿った『弟』も。
愛だ恋だ情だ何だと下らぬ欲にばかり感けて本質を見誤った暴食の『弟』も。
実に下らない。冠位と呼ぶ存在の面汚し共だ。
ルスト・シファーは神経質な男だ。チェス盤が汚れたことにまずを持って腹立たしくも思う。
だが、塵を払う程度ならば遂行者が行なうと思っていたが――奴らも所詮は愚図だったらしい。
「準備は」
「整いました、ルスト様」
静かに歩み出したのは『アドラステイア』と名乗った遂行者だった。この少年を手元に置いたのは失敗だった。
苛立たしいことばかりである。都市の一つを作らせれば、ファルマコンと呼ぶ死を食らう獣を作り出しはしたが利用すべき『駒』共に言いように支配された。アドラステイアという国を捨置いて、ツロの付き人にさせたがイレギュラーズなどと交友を持った。
「『神霊の淵』は」
「ございます」
静かに顔を上げたアドレはそろそろと取り出した。聖アーノルドの骨が入った小さな棺である。
「今から遣るべきは分かるな。貴様ら遂行者はこの俺を護る。
そして、各地に帳を降ろせ。愚図の命を有効活用してやるのだから光栄に思えば良い」
「はい」
「お前が集めた死も、お前が糧にした怨嗟も、その全てが今だ燻り続けている。
友の思いを晴らしてやりたいと言って居ただろう。喜べ、その機会だ」
「はい」
アドレは無数の子供の怨嗟がその臓腑を作り上げている。誰かが幸せになる事なんて、許せやしないのだ。
そんな――そんな浅ましさを胸に抱えながら、彼は生きている。
それでもアドレがルストを、いいや、ツロを敬愛していたのは彼が居なければ友の怨嗟を晴らすことが出来なかったからだ。
(あの人の側は心地良かった。紛い物であったって、『ツロ様』は全てを受け入れてくれた。
まるで父親のように僕の傍に居たんだ。……僕は人間ではないけれど、人間のような時間を彼と過ごした)
旅をした。砂に足を取られたときに手を貸してくれた彼は存在しない人間だったという。
それでもアドレは彼が好きだった。だからこそ。
「貴方様に勝利を」
ただそれだけを願っていた。
●欲しくて堪らないモノ
美しい歌声。硝子の靴。棘のない薔薇にシルバーチェーンのネックレス。
ふわふわとしたパウンドケーキに屈託なく笑える部屋。当たり前の様に存在する家族。
全てを用意できる『理想郷』。
輝かしき黄金の都。何も、失うことのない全てが当たり前に揃った幸福の海原。
それがこの神の国だった。
遂行者アリアは小さく息を吐く。己は預言者ツロに片恋慕をしている。そうあるように作られたからだ。
だからこそ、ツロとルストが同一の人間であったならばルストを愛し抜き、彼の傍に居ることを選べる。
家族よりも恋を選ぶ事が出来た。儘ならぬ生活から走り出し、何もかもを捨て去って『恋を選んだ』己に戻る途はなかったからだ。
遂行者リスティアは断罪について考える。人が罪だと叫ばなければ理想郷で誰もが笑っていられるだろうか。
誰かが誰かを捌くことにはうんざりだった。父親を処刑する県を握り締めてから、リスティアは正義のために生きてきた。
あれが己の罪だと言われれば、自らの足元は崩れそうになる。諦めて何ていけないのだから。
「リスティアちゃん」
呼び掛けられてからリスティアは顔を上げた。オウカは微笑んで居る。聖職者、正義の塊、天義の象徴。
「……オウカちゃん」
「イレギュラーズに、親友でしょうって。そう言われたんだ。私達の間には歪な正義と、その遂行がある。
本当に親友だったらリスティアちゃんがお父さんを処刑するときに、同じように悲しんであげられたのかな」
「そうだね。もしかすると、あの時のオウカちゃんは冷たかったのかも。
けど、それでいいんだ。そうじゃなきゃ、私達の正義は空っぽになって何もかも残すことがなくなってしまうから」
リスティアは足元に落ちていた誰かの理想を拾い上げた。
暖かな暖炉に、木張りの床。それ程広くはないけれど、幸せそうに笑う女の姿がある。
(これも、本当に在り来たりな『あってほしかった幸せ』だった――)
リスティアは目を伏せてから「あなたは?」と問うた。
「歌声を求めていた」
ロイブラックと名乗った男は静かに言った。
「エゴというのは最も必要な原動力だとは思わないかな、『遂行者』」
「あなたも、そうなったのでしょう? ロイブラック」
問うたアリアにロイブラックは薄暗い笑みを浮かべる。
彼の側から走り出し、楽しげに欠片に手を伸ばす小さな少女は「見て、見て、きれいです」と微笑んで居た。
彼女は人間ではない。
ブーケと呼ばれた少女は、ただの『人形』だ。
彼女の原動力は『ロイブラックの心臓』だ。半分の心臓を『神霊の淵』へと当て嵌めた。
それがブーケを突き動かしている。ロイブラックはブーケが生きている限りは死ぬ事は無い。
ある種の賭けであったが、ルスト・シファーの考えは正解だったのだろう。
――イレギュラーズと言う愚図は幼子を殺す事は出来ないだろう。
ブーケには何不自由なく過ごさせれば良い。本当に無垢な子供として関わらせれば良い。
その通り、殺さずの選択肢を幾度か越えてきたブーケの中で未だにロイブラックの心臓は動いている。
ブーケが倒された際にはアドレやその他の遂行者がその核を持ち出す予定ではあったが、此処まで来たならば潮時だ。
「欲しい物は全て手に入れに行こうと思う。さあ、ブーケ」
「はい。ほしいものは、たくさん、たくさん、宝箱に閉じ込めましょう」
星くずの形の金平糖に、ふわふわしたレースのスカート。それから、お母さんの愛情と――生きているという証。
「わたしたちは、かみさまのために、いきをしているから」
●聖女カロル
――バカみたいな事をしたとは思って居る。
いや、ちょっとだけ、憧れたのは嘘じゃないんだけど。
「キャロちゃん」
呼び掛けられてからカロル・ルゥーロルゥーは「なあに?」と微笑んだ。
何時も通り勝ち気でなくてはならない。何時もより上向きにした睫に、気合を入れてアイラインをガッツリ目に。
正直、似合うかどうかは置いて好きだからで選んだ口紅も遠慮無く塗ってきた。
服だって――そう、服だって。遂行者としてのそれに袖を通してから変わらない。
「大名」
カロルは呼び掛けてからにこにことして近付いてきた夢見・ルル家の頬に触れた。
「私可愛いかしら」
「勿論、今日は何時もより気合が入ってるね」
「ルスト様のお側に居られるからね」
カロルの語尾が徐々に弱々しくなっていく。ルル家はそれが『彼女が恋をする乙女』だからだと知っていた。
カロル・ルゥーロルゥーは女の子だ。
天義建国に携わった聖女の記憶を有する遂行者。天義建国に力を貸したが、結果として女の名声は高まりすぎた為に処刑された。
利用するだけ利用されて捨てられることには慣れっこな女は目が醒めて、初めての自由を謳歌した。
誰の目にも憚らず走り回り、スイーツを食べることも。化粧をし、雑な口調で話し、大声で笑うことも。
その『知らなかった自由』と『美しい毎日』を与えてくれたのは紛れもなく彼だった。
――ルスト・シファー。何れだけ彼が悪であろうとも、カロルにとっては愛しい人だった。
全ての初めてを与えてくれた彼に利用されてもいい。彼のためなら死ねるくらいに、好きになった。
これは、初恋だった。
はじめて、人を好きになった。
「キャロちゃん、そろそろ行く?」
「……そうね」
カロルは立ち上がってからルル家に手を差し伸べた。それでも、初めてできた友達のことも大事だった。
彼女に『聖竜』の力を渡したのはまだ引き返せるという意味合いが強かった。
確かに聖竜の心臓をカロルに与えれば『遂行者』ではなくなり生き延びる可能性があるかもしれない。
(……ルスト様を倒すならアレフの力は必要不可欠。私になんて、使っちゃダメよ、大名)
命と、世界と、引き換えにカロル・ルゥーロルゥーだけを救う事が出来るとすれば、己は世界を救えと言ってしまうだろうか。
それは友情であって、少しだけの恩返しだった。こんな自分に楽しい時間を与えてくれて有り難う。
……もう、それもお終いだけれど。
永かったモラトリアムにさようなら、私達は違う道を進むのかも知れない。
「ねえ、『ルル家』」
ぱっと、ルル家は振り返った。名を呼ばれた事に気付いてから何処か擽ったそうに笑う。
「どうしたの? キャロちゃん」
「ちょっとだけ手を繋いでて」
今は少しだけ、恐くなった。
- <神の王国>Apokalypsis完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2023年12月23日 18時00分
- 章数3章
- 総採用数550人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
――そして、天に穴は穿たれる。
その目映さに眉を顰めたルスト・シファーは「何?」と驚愕したように立ち上がった。
雷の気配が鳴りを潜める。目を見開く男の顔をカロル・ルゥーロルゥーは初めて見た。
「え……、驚く顔もイケメン過ぎる……」
「キャロちゃん!」
避けてと叫んだ夢見 ルル家は『穿たれた穴』の気配に手を伸ばす。
その穴を通り、外から何か眩い光が一つ奔った。それは余裕を浮かべていた冠位魔種の左腕を弾き飛ばす。
「……シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト―――!」
ルストの怒号が響いた。『理想郷』がびりびりと揺れ動く。その衝撃に足元が眩み、咄嗟に『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は己の身を立て直した。
「キドーさん」
支える『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は「揺れるわ」と呟いた。天が嘶き、地が揺れる。まるで男の感情を表すようだ。
「なんか、そういうのダサいよね。男が騒ぐとか」
やれやれと肩を竦めた『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)へ「しっ!」と呟いてからタイムがまじまじとルストを見た。
男の腕を跳ね飛ばすそれは外より放たれたものだったのだろう。
直ぐさまに腕を『修復』しようとしたルストの横面へ石像の聖職者飛び込んだ。
それがキドーを始めとしたイレギュラーズの願った『アラン・スミシー』の最期だ。
生き長らえてくれたら良い。だが、魔種は戻らない。その絶対的な定めから、唯一僅かな自我は冠位魔種に傷を付ける。
「っ、グドルフ・ボイデル!」
ルストが歯を剥き出し叫んだ。
「ざまあみやがれ! 『一度死ね』!」
グドルフがルストの胴を穿った。傷口が修復されるが理想郷修復にまでのコストは払えまい。
「アラン!」
叫ぶ『司祭』リゴール・モルトン(p3p011316)の前で、魔種グドルフの肉体が霧散した。滅びのアークとなり打ち消えたが最初ばかりは彼は確かにイレギュラーズの男であったのだろう。
家族の死を悼むリゴールの傍らで傍らでカミラ・アーデルハイトは呟いた。
「天の杖……」
それは天義の至宝である。天の杖の代償(コスト)はネメシスの行為新刊の魔力や法力である。
シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世を始めとした聖職者の祈りによって動いた支援砲撃に他ならぬ。
それは、『あの日』――冠位強欲を打ち倒したように。
――ネメシスの正義を見よ。
この国の矜持を、信仰の盾を、譲れぬ意味を背負って悪を撃て。
果てるまで、尽きるまで、勇者が刃を突き立てるその瞬間まで――決して手を緩めるな!
我が国の、正しきの分水嶺はここにある。
退くな、譲るな、神は望まれ――否、人も望まねばならぬ。
戦い、必ず勝利するのだ!
その日の言葉がリゴールにも、カミラにも覚えがあった。
天は見放しては居ない。己は進む道を見定めた。天の杖による砲撃はそれきりだ。代償(コスト)が足りない。
ルスト・シファーは自らの『理想郷』を健全に保つことを辞めた。選ばれし民を創造する事も辞めた。
理想郷は罅割れたが己の腕は『元の通り』に戻した。グドルフにとって抉られた『腹』は常人ならば死したのだろうが、見たとおりのことである。
男にとっての理想郷は僅かな穴が開いたことにより、綻びが産まれたのだ。
「……」
ルル家はそっとカロルを庇った。聖竜アレフは聖女カロルを愛する献身の竜だ。カロルの魂を護る事こそが、アレフが力を貸した理由だろう。
(キャロちゃんを助けたい。キャロちゃんなら、生き残れる可能性がある。
……私の聖竜の力を使ったら……きっと。でも、それがルストにばれてしまうかも知れない。
聖竜アレフがキャロちゃんの魂を保護してるから……ルストにばれればキャロちゃんが殺され、アレフの力諸共霧散する可能性がある)
遂行者を守らねばならぬなど、皮肉な事だろう。『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は「どうしますか」と問うた。
「どうあれ、聖竜の力を行使するまでは貴女に生きていて貰わなくてはならない」
マリエッタはルストの前に立った。カロルを生かすつもりはないが、それよりも先に『こなさねばらない』事があるか。
「理想郷が崩壊していますよ、ルスト・シファー。
……ああ、どうやら貴方が傷を修復する度に理想郷が壊れていく。外からの攻撃は予測していなかったのでしょう?」
「マリエッタ。ルストを殺そう。殺して、殺して、何度でも殺せば、理想郷が壊れる。そうしたら最期に残った彼を殺せばお終いだわ」
セレナ・夜月(p3p010688)は静かに言った。罅割れたロウライトの聖刀を構えたサクラ(p3p005004)が立っている。
「神霊の淵、ずっと持っていないなと思って居たけど……この理想郷こそが、そうだったんだね」
「えっ、そうなの?」
ぱちくりと瞬いたスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)に「そうだよ」とサクラは頷いた。
「残念だけど種明かしが終ってしまったみたいだよ。どうする?
貴方は理想郷のリソースを使って回復して『不完全』な『不死』っていう馬鹿げたことを得ようとするのかも知れないけれど――」
「心配ないわ」
ゆっくりと踏み出したイーリン・ジョーンズ(p3p000854)は美しく笑って見せた。
「何度だって叩き潰して上げましょう。そう――『神がそれを望まれる』!」
====第三章情報====
●第三章目標
ルスト・シファー撃破
●ラリー進行頻度
これより、当ラリーは目まぐるしく状況が変化していきます。
トップ更新も随時行なわれます。トップ(及び特設ページのトップLOG)にて状況の確認が可能です。
●追記情報
・聖騎士グラキエスの『聖骸布』によって『理想郷』に穴が空きました。
《遂行者》
【夢見 ルル家】
ルル家さんが遂行者になった理由は聖女ルル(カロル)の生存という奇跡を起こすことです。
特殊判定で付与された聖竜の加護を利用してルル家さんはその目的を果たそうとしています。
ただし《ルル家さんの所持する聖竜の加護単体では奇跡は如何程の物になるかは定かではありません》。
※このルル家さんの特殊なアクションに対して、何らかのアクションをかけることが可能です。
【カロル・ルゥーロルゥー】
聖女ルルと名乗って居る遂行者です。カロルは天義建国にも携わった聖女を元にした遂行者です。
その当時の本物のカロルを愛した聖竜《アレフ》は彼女の魂に加護を与えています。
滅びの気配を纏う遂行者カロルと聖女カロルを別個の者として扱う事が可能です。
カロルの周囲を包む『滅びのアーク』を撃破することも可能です。(その場合は遂行者カロルと指定して下さい。カロル本人ではなく、カロルを包む気配です。滅びのアークのみでは神霊の淵が存在するため、カロル当人はまだ死にません。何だか浄化されます。)
また、『聖竜の力』はカロルが生きている事が前提でアレフが力を貸したものであるため、カロルはイレギュラーズとルストそれぞれの敵となった状態です。
《冠位魔種》
【ルスト・シファー】
は? 貴様何をした。状態です。冠位傲慢もコレにはお怒りです。
此処からは本気を出して参ります。また、《穴》が空いたことにより『聖竜の力』が使用されることを危惧しカロルを危険視しています。
a、『天地創造』:全BS乗せではなくなりました。BS付与は数ターンに一度ランダムに疏らに行なわれます。
b、『生命誕生』:選ばれし民にもなれやしないような真白い顔の異形が無数に生み出されて居ます。数は多いですがザコです。
c、『天の雷』 :フィールド全体攻撃。威力は重ねることで多くなります。一度発動すると連続で繰り出されます。
d、『嘲笑の日』:単体への強攻撃です。とても痛い(現時点情報)
e、『神罰の波』:???
●その他情報
『聖竜の力』、『称号スキル』は発動を記載して下さい。これから先は事態が大きく動き続けます。
使用タイミングや『使用内容(方向性)』を記載し、宣言して下さい。
ただし、代償は求める者に応じて大きくなる可能性もあります。必ずしや覚悟を行なって下さい。
・『聖竜の力』を使用可能です。【各人一度のみ】。使用する際に宣言を行なって下さい。
例:外の攻撃に合わせて更なる打撃を行なう、ルル家さんに協力する、個人敵に利用するなど。
・リンツァトルテ・コンフィズリーの『聖剣』がゴリョウ・クートン(p3p002081)さんの『聖盾』と共鳴し始めました。
ただし、リンツァトルテ側はあまり使いこなせていないようです。何方かが支援しても構いませんし、イルでも構いません。
・イル・フロッタの所有する『聖ミュラトールの杖』の発動も可能です。プレイヤーの皆さんで使用を行なって下さって構いません。
第3章 第2節
●エンピレオの薔薇
――そうしてあなたはベルナードの茨冠を戴き、月光に導かれる者達の手を引かねばならない
『赤き血潮の書』の一文を読み上げたのはリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)であった。
「赤き血潮の書、それから……」
『白き薔薇の書』をつい、と見遣ったリースリットに水天宮 妙見子(p3p010644)が頷く。
「ティナリス様、痛みを伴うと聞いておりますよ。大丈夫ですか?」
父が死した。別れを経験したばかりの聖騎士、ティナリス・ド・グランヴィル(p3n000302)は蒼白い顔をしながら頷く。
「大丈夫です。どの様な痛みであれど、天義の民として為すべき事でしょう」
「……ティナリス……支える、ね……。どれだけ、白く、綺麗でも、負けない。
薄鈍(うすにび)だって……意地が、あるから」
チックは『白き薔薇の書』を押し当てるティナリスに手を重ねた。
光り輝く幻影の紋が礼拝堂を包み征く。鋭い痛みが走り幻影の茨が締め付ける。
ティナリスの手が、思わず引っ込みかけたが、堪えるように押さえ付けた。
浄潔の薔薇。
気高き血潮に咲く花よ。
一滴ずつ、血が染みこむ。一線ずつ、もどかしげに薔薇を描く。
ティナリスは全身に走る責め苦に堪えきれぬと眉を顰めた。その手をチックが、妙見子が、リースリットが重ねてくれる。
分かち合い、背負わねばならない。――輝きが満ちた。
第一射。それは眩く光咲いた薔薇。天を目指し飛び込んで行く。
大聖堂を包んだ敵全てが散り散りに消え去り、フラヴィアが剣を降ろす。
第二射。それは浄潔の光となって、神の国を捉えた。
その眩い光は冠位傲慢の元へと届きその肉体を焼いた。肉が盛り上がり、人の形を取り直し、直ぐに『復活』を果たす。
「届いて――――!」
あと、もう一度。ティナリスは苦痛など気にする事無く叫んだ。
第三射。その光は、理想郷の殻に更なる罅を入れ、薔薇の花と共に霧散した。
第3章 第3節
●死の階段I
『遂行者』としてのカロル・ルゥーロルゥーは悪辣な女だ。
そうあるように求められ、ルストの願ったままに悪事を重ねる。
『聖女』としてのカロル・ルゥーロルゥーは苦難の多い女であった。
元はと言えば小さな部族の娘だった。千里眼の能力があるとされた女が聖女と呼ばれたのは何も不自然なことではなかった。
ルゥーロルゥーというのは天義の片田舎にあった村の名前だ。少女カロルはその地より連れ出され、巡礼の旅に出た。
そうして、聖女とまで謳われた女は竜と心を通わせ、人々を慈しみ国をよくすると決めたのだ。
しかし、彼女は政治には疎い。そうした悪意に晒された時に犠牲となったのは『純真無垢な聖女様』だったからである。
歴史にさえ刻まれなかったそれを拾い上げ、丁寧にパーツを組み合わせてくれたのは紛うことなきルスト・シファーだ。
聖竜の加護は厄介だが、それだけ彼女が『遂行者』として適性があった、というワケだ。
「だから、私はルスト様が好きなのよ」
聖女ルルと名乗った『カロル・ルゥーロルゥー』に対して男は何も興味を示さなかった。
「あの人は屹度、聖女である私に何て興味が無いから」
遂行者ルルと名乗ったときにあの男は「悪くはない」なんて事を言ったのだ。
「あの人は、優しいところだってあったのよ。性格は最悪だけど、それでも、ね」
好きだと言えば表情は鬱陶しそうにするのに否定はしないのだもの。
カロル・ルゥーロルゥーの周囲を包み込んだ滅びのアークは顕在化する。魂だけは聖竜が守り抜くと誓ったように。
「……成程。詳細は分かりませんが、その滅びのアークは鬱陶しいですね」
目を瞠るほどに、それは悪意の塊として存在して居た。のっぺりとした能面達の間を走り抜け『豊穣の守り人』鹿ノ子(p3p007279)はカロルへと向かう。
夢見 .ルル家に何か考えがあるのは大前提だ。その上であの滅びのアークを払い除けるが為に。
「カロル、応戦しろ」
「ルスト様」
何処か躊躇いを見せるカロルは男の軀が徐々に修復されていく様子を眺めて居た。不死、それはこの絡繰りが破られなければ男の勝利を確約していたものだ。
急激に周囲の温度が冷めていく。天が鳴り、地が脈動する。目のまで焼き切れた男の肉体が『修繕』されると共に世界が罅割れた。
(今のはエンピレオの薔薇……それに、さっきのは――!)
『世界一のいい子』楊枝 茄子子(p3p008356)の眸がきらりと輝いた。ああ、だって、分かって居た。まだ聞こえてくる、祈りの言葉があの人の存在を確かなものとする。
「シェアキムだ。シェアキムがやってくれた。ルストなんかより、やっぱりシェアキムの方がよっぽどかっこいいもんね」
べえと舌を見せた茄子子は笑う。あの日だけじゃない、シェアキムは何時だって祈っている。天義の勝利を、誓いを、有るべき正義を。
(けどね、私はもう正義じゃないから、ネメシスの正義を遂行出来ないけど、私は私の想いをぶつける。
私、もっと良い子になるから――ちゃんと見ててね、シェアキム。えへへ)
茄子子はうっとりと笑みを浮かべた。セールワゴンの中で適当に取り出した掘り出し物を見付けたような怪しさを思わす笑みと共にルストを一瞥する。
「シェアキムの排除を私に任せたのが間違いだったね。ほら、私って良い子だからさ」
それを見越して全部が全部の罠を仕掛けた。茄子子が『悪い子』だったならば、シェアキムは排除されて天の杖は起動されなかっただろう。
事を起こした『妹』がイレーヌ・アルエを巻込んだことでエンピレオの薔薇の機動も難しいことであった筈だ。だが、外ではレオパル始めとする騎士団が任務を終えたティナリスと共に機動を行なった。
(何だ、『ルスト様』の企みは全部失敗に終わったんだ。完璧であるはずの神様に綻びが生じた。理想郷はいつか打ち砕かれる)
ああ、残念な人だ。茄子子の周囲に癒やしの気配が漂った。その傍らを駆け抜けていく『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)が苛立つルストに肉薄した。
「なんていうか、もう余裕無いよね。なんか怒ってるし。どんな時でも余裕を崩さない方が神っぽくていいと思うけど」
ルストの囁きに「それはそうだねえ」とラムダの飄々とした声が響く。
「……綻んだこの瞬間にどれだけリソースをルストに支払わせるかってところか……おーけい了解。
解り易くて良いね? ルストの首何度でも撥ね飛ばすとしようか」
先程の光景を見る限り、ルストは『常人ならば死んでいる』ような攻撃を食らってもその肉体を修復している。
遂行者達が神霊の淵を手にして死なないことと同じなのだ。エンピレオの薔薇の攻撃から己を修復するルストへと向けてラムダは飛び込んだ。
「こっちだよ」
それは無我の境地に至りし極技。斬り伏せるそれは確かにルストの首に八葉蓮華を叩き付けた――筈だが、直ぐに男の傷が塞がっていく。
「はははははははははは! ようやく、ようやっとおまんを斬れるぞ! おまんと死合えるぞ!
ルスト・シファー! 一度目の死ば先越されたが、2度目の死ぃ……いや、おまんの最後の死は儂が与えちゃる!」
口角を吊り上げて『藍玉の希望』金熊 両儀(p3p009992)は笑った。ラムダの躯がルストの掌に押し退けられる。地に叩きつけられたかのように見えた彼女を越えて両儀は飛び込んだ。
「その口で何度も他のもんの名前を呼びおってぇ……その手足で何度か他のもんを攻撃しおって……
今度こそ、儂を見ろ! この銘を刻め! 儂こそが金熊両儀ぃ! 神を、傲慢を! おまんを殺す、鬼の名じゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「黙れ」
ルストは静かに呟いた。雷が男の身体を包む。万全な準備を行なわずしての特攻はカロルに言わせればただの蛮行だ。
「ッ――」
息を呑む。そんなカロルの姿を一瞥してから『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)はぎゅうと杖を握り締めた。
(ゴリョウ様やリンツァトルテ様、イル様たち、ニルたちの切り札になるひとたち……ニルは、ルスト様のことが、だいきらいだから。
ぜったいぜったい、ルスト様の思い通りなんかにはさせない、だから、ルスト様に切り込む力、きちんと届けられるよう、まもるのです!!)
ルストの気を引き続け、彼のリソースを削れば良い。それこそが、ルスト・シファー撃破に繋がっていくことを知っている。
周囲に群がる異形はニルの姿を見付けて両腕を上げる。異形達を双眸に映し、『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が勢い良く刀を振り下ろした。
「Go to ルスト!」
散々やりたい放題の『バカイレギュラーズ』達。そんなの秋奈は「大好き」だ。
「ここは敬意を表してぶっ転がす! ウチらの礎になれ! エモいエンディングよこせ! こんにゃろ!
平常運転過ぎて、私ちゃんも鼻が高いぜー! ガハハ!」
からからと笑った秋奈は全部吐き出すだけだ。人間遣れば何でも出来る。
「山賊ちゃんがやりたい方題したんだぜ。私ちゃんたちだって出来るだろ?」
「グドルフさん……」
名を呼べば『この手を貴女に』タイム(p3p007854)の胸が痛んだ。最期は彼そのものだったのだろうか。
(――彼自身として逝けたなら、一番、いい。わたし達の目的は叶ったのに、どうしてこんなに苦しいの。
打つ手はまだあったの筈なのに、できなかったことが何より歯がゆい)
タイムはぎゅうと拳を固めた。
「だめね。切り替えないと……”果てるまで、尽きるまで、決して手を緩めるな” か」
自らの在り方を定めなくてはならない。拳を固め、前を向く。タイムが出来る事が何かを示すのだ。
「ルスト。今わたしとても虫の居所が悪くて。だからあなたの余裕をなくした顔、すごく気分がいいの。
誰も彼も、心も命も。虫けらのように利用して使い捨てて来たあなたにはお似合いの顔だわ――おかわり、もらっておいで頂戴」
エンピレオの薔薇によって焼かれた肉体に。その部分を『修復』するルスト目掛けてタイムが一撃を叩き付けた。
その傷の修復も未だ叶わぬうちにタイムは叩き込む。ルストの眼球がぎょろりと女を見た。だが――『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)は更に一閃する。
ここまでルストを狙い続けた一晃は『明らかにルストが攻撃を避けようとしていない』事に気付く。防御行動をとるよりも、リソースを自らに当時、イレギュラーズを排除すべきと認識したか。
雷が肉体を打つ。だが、これきしの事を気にする事は無い。
「ようやく引きずり降ろされたか、冠位傲慢。歯牙にもかけないかけぬ相手と同じ高さに落とされた気分はどうだ?
……やっと貴様に刃が届く。未だここに思惑が渦巻くが俺が成すことはただ一つ斬る事だ。神の国等というつまらん地獄もここで終わらせてやろう!
――黒一閃、黒星一晃! 一筋の光と成りて、傲慢なる王を斬り潰す!」
睨め付ける男を癒す気配が周囲に漂った。茄子子は「ルストごと殺してやるのも慈悲なのかもね」とカロルを一瞥した。
カロルの周囲に漂う滅びのアーク。その悍ましさを前にすれば『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はそれらに対して鋭い星の魔術を叩き付けた。
煌めく星の粒子を眺めた『遂行者』の唇が吊り上がる。後方に鋏が浮かび上がり、それがかちんと音を立てた。刹那、切り刻む刃が周囲に飛び交っていく。
「……私……」
カロルは呟いた。自らの力が、自らの意志を反して動いている。徐々に、滅びのアークは『カロル』を形取った。
「私……?」
そっとルル家が『聖女ルル』の前に立つ。『遂行者カロル』はルストの指示に従うように動いている。
それは別の存在に見えて同じなのだ。ただ、聖竜の加護が『カロルの魂』だけを分けたに過ぎない。肉体は、遂行者の側なのだ。
ヨゾラがルル家に伝えたかったのは大切な友人を護る事だった。だが、屹度彼女は分かって居る。決意も固めている。
(ああ、グドルフさま……貴方らしく、終えられたのです、ね……ありがとう、ございまし、た)
小さな祈りを一つ。『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)はゆっくりと顔を上げる。聖女ルルを見詰める瞳は穏やかだ。
「……カロルさまには、伝えたい事がありました。
鉄帝の国境近くで、黒い狼の獣種……魔種の男に、聖遺物を与えたのを覚えています、か?」
「狼の……」
「はい。……彼は、その聖遺物の力で、己を失いかけていました。そして、グドルフさま達が、苦しみから解き放って下さったのです。
……彼への『施し』が、カロルさまの思い遣り、だとしても。
逆にカロルさまがそうしなかったら、わたしの知らない何処かで、彼は彷徨っていたままかもしれない。
そう思うと、少しだけ、その巡り合わせに感謝をしているのです、よ」
「それは、おまえに恨まれるのではないの」
聖女だからと、全てが肯定されるわけではない。石を投げろ、人民を先導した魔女だ。
苦しげな顔をしたカロルにメイメイは小さく笑った。
「普通の女の子に、滅びの気配は似合いません、よ――カロルさまらしくあれ」
貴女が恋する乙女だから。敵意の中であっても好きな人の中には自分がいる。カロルはルストが名を呼ぶだけで幸せだと言うのだ。
紛い物の恋などと、言ってやりたくないような。ただの少女らしい恋心。たったひとつだけが、全てだと。メイメイも分かる。
恋とは、なんて難しいのだろう。メイメイは「遂行者を排除しましょう」と囁いた。
「ええ、ええ。遂行者は『皆殺し』にしましょう」
『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は地を蹴った。黒衣が揺らぐ。
「ねえ、遂行者『カロル』。八つ当たり? 上等でしょう。今の私は、全ての遂行者をぶっ潰したくてたまらないのですわ。
とりあえず皆さん、こいつの滅びのアークは私が何とかしますから、そのお友達は生きてる間に連れ帰ってくださいな!」
リドニアの髪がふんわりと揺らいだ。八つ当たり程度で構わない。命のオールインワンなんて上等だ。
すべてが正義のために――!
リドニアが至近に接近する。滅びのアークを僅かに削った一撃に、直ぐさまに『形を取り戻そうとする』その存在が酷く憎らしい。
「どうやら物理攻撃でも聞くようですわね。根競べと行きましょう」
鹿ノ子はルル家に肉薄した。彼女を見れば、琥珀色の瞳を細めて笑うあの人が脳裏に浮かぶ。
(……遮那さんは、きっとルル家さんに「帰って来い」とは言わない。
あの御方ならば、きっと、成すべきを成せと、そう望むに違いない。そして僕も、出来ることならば彼女の選んだ道を尊重したい)
それが『天香を支える者同士』の在り方だからだ。
「ねぇ、ルル家さん。この戦いが終ったら、僕とお友達になってくれませんか?」
嫋やかな桃の花、舞い踊る夏の若葉。揺らぐその色彩を宿した豊穣の守り人は穏やかな笑みを浮かべた。
成否
成功
状態異常
第3章 第4節
●死の階段II
「僕の身勝手を成す為に……皆、ごめん、お願いね」
ぎゅう、と拳を固めた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)に笑みを返したのは『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)であった。
「ルストを、倒すよ」
祝音にとって神を騙る冠位傲慢。それは神ではなくただの魔種である。故に、誰かにとって望まれる存在であろうとも許せない。
カロル達への態度や愚行、それが本人達にとっての救い出会っても、何であっても祝音は許せない。悪行だと認識するからだ。
「何度だって何度だって、貴様なんか聖ならざると否定してやる!」
――もう二度と合う事の出来ない『氷聖』のような悪意の親玉が、目の前でぶちのめされるのをその目で見届けるが為に。
奔る祝音と共に、『物語領の愛らしい子猫』ミニマール・エアツェールング(p3p010937)は懸命に仲間を引き摺り上げていく。
「わたしも頑張る。……みゃあ。弱くても、あいつを否定し続ける……!」
分かって居るのだ。仲間達の中で自分が弱いことを。それでも決意は持ってきた。
「一番弱いわたしでもわかる……おまえは、神なんかじゃない馬鹿野郎だ!」
肉体の修復を行なうルストの元へ、祝音達を届ける為に異形を殴り飛ばす。自らの役割はルストの気を惹く事なのだから。
ミニマールが突撃して行く。後方から放たれた神鳴りはルストの雷にも重なった。『気紛れ変化の道化猫』ナイアルカナン・V・チェシャール(p3p011026)はじいと見詰めて目を細める。
「ああ、万能で完璧だから、自分がいるだけで満たされてそれで良いだろうって思ってたのか。愚かだね。
君に何が足りないのかを知ると良い。神でなくても、聖ならざる人間でもできる事を君は疎かにしたんだからね……!」
神様なんてものはそうやった思いやりのない存在なのだろう。
無慈悲でなくせは世界の統治機構にはなれなかったように。感情というのが厄介だという事をナイアルカナンは理解する。
原初の魔種イノリが『人間を間引く事で世界を正しく運用する機構』と成り得なかったのは、七罪のような感情があったからだ。
人間の罪。愚かなる感情という災い。全てを削ぎ落とした神託の少女(ざんげ)は余りに無機質で――
「いずれ報いは受けますわね」
それは、ルストだけではない。彼等が生れ落ちるに至ったこの世界の神様もそうだ。異形達を打ち払う。
『物語領の兄慕う少女』コメート・エアツェールング(p3p010936)は叫ぶ。
「あなたが大事なのは自分だけ…あなたならできたはずの『一番大切な事』を蔑ろにした。だから負けるのですわ、冠位馬鹿野郎!」
ルストは修復に払うリソースの傍らでその言葉が気に触った様子でコメートを見た。
「コメート!」
呼ぶのは『物語領の猫好き青年』メテオール・エアツェールング(p3p010934)。冠位相手に戦うのは初めてだ。その恐ろしさも今、身に沁みている。
理想郷という紛い物を作っても自身の危機には他を切り捨てる。その哀れな存在だと見做した男は雷を呼ぶ。
コメートを貫くそれに乙女が目を見開いた。「コメート!」ともう一度メテオールが呼ぶ。ぎゅ、と掌に力を込めてミニマールは恐怖に打ち克った。
立ち上がるコメートを支えるメテオールに小さく頷いてから『ひだまり猫』もこねこ みーお(p3p009481)は駆ける。
「にゃ。何と言われようとやりますにゃ。みーおも猫の手貸しますにゃー!」
強い相手だ。それは分かる。みーおはルストから遠距離を保ちながらも拳を固める。
聖な(にゃ)る哉――自らがこうして相手になる事でルストの目がカロルから離れることが目的だ。
誰だって、傷付きたくはない。苦しいままでは終われない。自称神様であったとて、許せない行いを前にして黙っていられるほどにみーおは冷たくもないのだから。
「にゃ。大丈夫ですかにゃ?」
「大丈夫。……いこう」
メテオールは小さく頷いた。その側で「えっと、しゃおみーに……まかせて!」と『初めてのネコ探し』曉・銘恵(p3p010376)はぎゅと祈りを呼んだ。
『しゃおみー』と言い掛けた自らの事を私、と糺してから前を向く。祝音と共に前へ、前へと征く。癒やしを与え、そして、自らを守る『おしゃべりしよう』彷徨 みける(p3p010041)の姿を見た。
「しゃおみーちゃん。任せてね。あんなふざけたやつ、ぜんっぜん神様じゃないしね!」
「みけるさん……!」
銘恵を起点とする作戦行動だ。『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)は「そうだな」と頷いた。
「冠位傲慢、貴様の今までの行いが返される時だ……!
みける、我以外を庇え。我はルストに攻撃されたとて構わん。奴の行いが奴を焼くのだから……!」
駆け抜けていくフィアノーシェの背中をみけると祝音が追掛けた。
「何度でも切り刻み証明の一助となろう。貴様は非神、聖ならざる有限の魔種であるとな……!」
「人間風情が、何を囀る」
ルストの雷の下を潜り抜け、フィアノールは肉薄した。鋭く剣を翻す。地を蹴って身を捻る。
滑り込んだみけるは祝音と銘恵の位置を確認し「大丈夫!?」と問うた。
「耐えるよ」
奥歯を噛み締める。痛みなんて、構わない。今、泣いている場合じゃ無い事をしているから。
「あんたなんか、顔は良いけど性格悪いし、神じゃないし聖じゃなくて魔でしょうがーーー!」
少女は鋭く声を響かせた。ぱちくりと瞬く銘恵に憤慨していたみけるは「こっちよ、バカー!」とぶん殴る。
雷なんて、なんとやら。痛みだって越えていく。それだけ、誰かが『何かを為す機』が産まれるはずなのだから!
成否
成功
状態異常
第3章 第5節
●死の階段III
「グドルフ氏はやりましたか……んじゃ、私もやらないとスかね」
呟く『無職』佐藤 美咲(p3p009818)はぽつりと零した。彼が何の『能力』を残しているのかは定かではない。
騎兵隊の良いちんとして前へと走り抜ける中で、美咲は思考し、前を見た。
ひらりと翼を広げ征く『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の唇が吊り上がった。
「ルスト・シファー。その傲慢、漸く歪んだな。動揺している暇など、与える訳ないだろうが……!」
その黒き翼が影を落とした。漆黒の気配が地を塗り潰す。意図的にルストの正面から詰めかけたのは彼の意識を向かすことだ。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と共に前征く騎兵隊。その中でも空を駆け抜けながらも雷を避ける『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)はからからと笑って見せた。
「お前の理想郷は不完全だったんだよ! やっぱ理想郷には空がないとな!」
空を駆ける勇者たる青年は神風の如く吹き荒れる騎兵隊の在り方をまざまざとその場に表した。飛べば最悪どうにかなるだろうか。
男の隠し球が何か解らないからこそ警戒には警戒を重ねねばならぬ。
「ルスト・シファー。何の能力を残しているかは定かじゃあありませんが、本当にそれで私らを殺れると思ってるんスか?」
そんな彼女の声を聞いてルストはじろりと睨め付ける。
集中砲火に『エンピレオの薔薇』と『天の杖』によって抉れたその場所を修復しきる前に得た傷が生々しくも肉を露出し、ぼとりと落ちた。
(これは少しでも情報を引き出すためのハッタリ。発動したらアウトな類なのかは探っておく必要がある。聖遺物を使うタイミングを図る為に。
私は弱さ故にローレットを造反しかけた。
でも……私は元・スパイ――ならば、ある意味これが本領って奴になるんじゃあないスかね……!)
息飲む美咲に「貴様等には雷程度で十分だろう」とルストは嘲笑った。
「ははーん」
カイトはぴーん! と何かを思い浮かべたように笑う。白き風が吹き荒れる。閉じた世界には穴が空いた。そこから届く光は確かに、自らを後押しする。
風が吹く。世界を入れ替える、生きた心地のする風にその背を押されるように青年は飛んだ。
「舐めてるな! 俺が上、お前が下! その傲慢に伸びきった鼻先叩き堕としてやらあ!」
にんまりと笑った『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)はピースを一つ。
「どうもー、〝あの女を殺せ〟と言わせたLilyだよ。ブイブイ」
雷に身を打たれようとも構いはしないのだ。仲間を支え、この盤上を支配する。
ルストは自身こそがキングであり、他者をポーン程度にしか見ていない。ひょっとすればカロルやアドレは何か役を与えたつもりだっただろうか。
Lilyはルストという男は高慢で自らの在り方に自信を有するが、一度揺らげば短気さをひけらかすだけなのだとも認識していた。
(クイーンはイーリンさん、ルークはレイリーさん、ビショップはレイヴンさん、ナイトはカイトさん。
ポーンはその他の騎兵隊のメンバー、かな?
でもポーンはプロモーションでどの役にも成れる、つまり1人1人が主役なのです。
騎兵隊にキングは居ない上下関係なんて無い――だからこそ強くなれるのです)
彼と違う。彼とは思い方が、考え方が、動き方が違う。からこそ、『神がそれを望まれる』と進むのみ。
(絶海の嫉妬にも、鉄帝の憤怒にもアタシは届かなかった……だが。
第二冠にも第三冠にも届かなかったアタシが第一冠に届くなるようになるなんざぁな。まったく、世界ってのはどうなるか分からんもんだ)
小さく笑う。それだけイレギュラーズは奔ってきた。残る冠位魔種が二人のみだというのだから。
ああ、世界だって救えてしまうかも知れない。なんて希望を『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は抱く。
「騎兵隊が先駆け! 赤備たるこのアタシが道を開く! そして冠位傲慢ルスト! 貴様にこの刃を、絶凍の光を届かせる!」
ルストの前を塞がんとする異形達を打ち払う。出し惜しみなんてするものか。仲間を巻込まぬ場所を探す。何処からだって攻め込める。
何せ、男は一人だ。
騎兵隊には30を越える兵(つわもの)が集まった。
「少しずつ少しずつ戦場の天秤は揺れていく……さあ、この天秤に騎兵隊の重みを改めて分からせてやろう。
さあ、万雷の如き鬨の声をあげよう! 殺到しろ、今こそがその機だ!」
堂々と声を上げる『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)の声音が響いた。
一度は攻勢を、そして、遊撃に。周辺掃討をも行ない、一気に攻勢に転じる。仲間の消耗はいつも以上に深刻だろう。
「やれやれ……」
前に出る軍師というのも疲弊するものだとシャルロッテは息を吐く。
眩い光と共に前へ、前へと進んでいく。エレンシアの開けたその花道を、シャルロッテの支援を受けて声を響かせ、堂々たる姿で『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)は飛び込んだ。
「鉄帝のアイドル、ヴァイス☆ドラッヘよ!」
鉄帝という言葉にルストが僅かな反応を見せた。
「貴様等はバルナバスを下し、アルバニアのような軟弱者を打ち倒したと言ったか。
……己が中にも存在する傲慢に、強欲に、輪を掛けるようにしてこの朽ちかけた世界を救おうとするなど貴様等のエゴではないか」
どうだか、とレイリーは笑った。それをエゴだと言われたならば『アイドル』なんてもの、いつだって輝き誰かを魅了するための『エゴ』で成り立っている。
謳う。愛しい人に捧げる愛の歌を。線上に立つレイリーは仲間を守る事だけを目的としていた。
「私が貴方を護るから。今度こそ、大切な人を護るから、幸潮、貴方の色、世界で傲慢に度肝を抜かせちゃってよ。
さぁ来なさい傲慢の輩――この物語の舞台で偶像騎士を倒せるかしら!」
名を呼ばれた『虚栄世界の支配者』夢野 幸潮(p3p010573)はやれやれと肩を竦めた。
「真の名を語ろう。『敗れた幻想の担い手』など偽りの名。
此は蠱毒の末に生まれた唯一絶対の虚夢を綴る"万年筆"。
文にて構築された世を意思の赴くまま『描写編纂』せし孤独なる独裁者。
……『虚栄世界の支配者』その二次創作──Ne-World存在定義概念拾伍項『悪魔』を為す『悪縮魔羅』である」
筆をくるりと回す。幸潮は世界の法則によって自らの持ち得る権能が削れている。故に、全てを表すことは出来ない。
理想郷を揺るがす脅威は『エンピレオの薔薇』が、そして『天の杖』が存在する――が、それだけではない。
外から、そして内側から斬り伏せることは出来よう。ルストをまじまじと見詰めていた『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)はにんまりと笑った。
「なあ、ルスト、随分とカロルの方を見てるじゃねえか。熱い視線ならおめでとうとなんだけどな!」
「くだらん」
――恋バナをしようと誘われたことも、『好きなのか』と問われたことも。
ある意味ルスト・シファーに最も縁の遠く、有り得やしない感情の確認であった。それが不愉快であったのかは定かではないが――
「すでに激怒してるか?」
牡丹が飛び込む。リソース勝負といえど、相手のリソースは流石に莫大だ。それを大幅に削った天の杖も、エンピレオの薔薇も、確かに役割を果たしただろう。
「リソース管理しながら騎兵隊と戦いつつ、カロルも気にするとなるとストレス極大だろ!
業を煮やしてカロルを攻撃するようならカロルかばうが、むしろカロル警戒してるどころじゃねえくらい押しまくってやらあよ!」
にいと唇を吊り上げた。騎兵隊という存在を彼に刻みつけてやれ。此程の数なのだから、ルストが『避けず』『攻撃を受け』、『すぐにでも修復し続ける』現状ではリソースを使用させているという状況だ。
何て分かり易い戦い方か。物量で押しつぶせというのならば潰してやれば良い。命を賭してでも男の回復速度が追い付かぬほどに蹂躙しろというならばそうすればいい。
「なら試そうか――『どっちの方が先に倒れるか』。 だって、『何度でも死ねる』んだよね?
何度でも付き合ってくれるかな。一緒に。何度でも。『死んであげる』。
だって俺も、そんな簡単に死ねないから、さ。――ね? 死んで?」
からからと笑った『歩く禍焔』灰燼 火群(p3p010778)。必罰の雷を受けて身が崩れ落ちそうになろうとも火群はそう容易に死する事など出来まいと理解していた。
ルストは苛立った様子で火群を見る。「死ねない」と言い出す男と、「死のうとは思わない」男が相対しているのだ。
「ならば死ねば良い」
ルストが指を打ち合わせた。火群と、そして仲間達を包み込むように飛び込んでくるのは津波か。それは立ち上り、全てを飲み食らわんとする。
「絶海が何と言ったか。貴様等の見た『滅海竜』の波を模倣しただけだが、この程度でも無様に飲まれてくれるだろう」
命を奪う無慈悲な波をまじあmじと眺め、顔を上げた美咲が「げぇ」と呟いた。「アイツ、マジ激怒って感じッスね」と思わず呟いた。
「まあ、その方がやりやすいんちゃいます? 怒ってる相手の方が隙は生まれるわけですし。
自分らも傲慢さやったら負けてないんですわ。お前らの弟分みたいなもんですから。うちらの方が傲慢さは上。
――人は皆身勝手よ。せやから此処におる。したい事をする。それだけですわ」
波間を穿つように『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)はルストを狙う。この強大な波は広範囲を飲み込み、命を奪う事に適しているのだろう。
しかし、その模倣を行なう為に僅かな隙があった。そこを狙えば良い。
弓を構え、天より叩き落とすが如く翼を穿つ。六翼の内一枚は重なる攻撃で襤褸同然であった。ルストの眉が吊り上がる。
「しつこい」
その呟きと共に降り続ける雷に「分かり易い相手の方がやりやすいもんでしょ?」と『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)に問う。
「ああ、本当にね」
雲雀は小さく笑った。遂に腰を上げたのだ。しかも、相手の余裕という仮面が剥がれ落ちた状態で。
「ずっと待っていたよ――その無駄に面がいいだけの高慢ちきな顔に一発見舞える瞬間を!!」
ある意味でカロルという女が『顔面が良すぎる』『顔面は天からの贈り物』『顔だけで神様』と言い続けた事があったのか、顔が良い事が共通認識になって居た。
どれだけ顔面が整っていたとて、攻撃を受け、皮が吹き飛び肉を露出した所からの修復時は見るも無惨な姿である。
(ここまでしても死なないんだからな……)
ルストの『妹』がレーテーの川をも支配する強欲さを出したのと同じように。妹よりも強欲で、より傲慢な在り方だ。
彼の攻撃を見ていれば、焔の一撃はバルナバスを、全てを呑む滂沱は滅海竜とあったアルバニアを思わせる。
遂行者達を手駒に使うのは怠惰なるカロンの在り方のようでもあるではないか。
(兄弟思い――かは知らないけれどね)
思えば、遂行者は覇竜領域を襲わず、幻想でもある程度の手を抜いた。彼は兄弟思いではないのだろうが『傲慢故に』貴様等が何かを零しても全てを塗りつぶせるとでも思って居たか。
「……どうだい冠位傲慢、散々羽虫だ虫螻だと見下してきた連中に殴られる気分は?
未来は定まっているなんて誰にもわかりやしない。
誰だってやり直せないことを悔いながら生きて死んでいって、それが重なって今がある」
彼の兄弟を下してきた。戦い続け、そして、未来を乞うてやってきた。足を止めることはない。
雲雀は奔る。穴が空けばそこから雨が降るのだと、天を指差す『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の側を駆け抜ける。
「――俺も望みの為にそれを何度も否定してきた側だった。
混沌にくるまで何度も繰り返したからこそ、この戦いでその重さを改めて痛感した。
だからこそ……お前の傲慢を絶対に許さない!! 許すワケにはいかないんだよ!!!」
知っているのだ。傲慢の過ちを。望みとは叶わぬものであるとも。自然の摂理だと告げるカイトの雨の下を雲雀はただ征く。
「理想ってのは舞台のような物だ。だが、舞台は必ず『幕を引かなきゃならない』物だ。
聞き分けの良くない占領するだけの座長サマは俺は大嫌いでな?
カーテンコール? そんな物はない――カーテンフォールだよ」
叶わないからこそ、それを奇跡と呼ぶのだとも知っている。まるで奇跡の光のような薔薇の花、天より降る信仰の光。
其れ等を前にして違えた未来を打ち払うが如く彼等は征く。
「母さんを奪った傲慢、神霊の淵で後戻りをさせないその在り方……。
暴食たる弟君の人間臭さを見た者からすれば、ルスト、貴方の在り方は到底許せるものじゃない……!」
「人間くさければ何か救えるのか? 貴様は殺しただろう、ベルゼーの事を。
悔みながら殺したとでも? 世界に仇為すと言い訳をすれば許されるか。ならば、『人間らしさ』を出してやろうか」
ルストの唇が吊り上がった。その顔を見詰めてからロレイン(p3p006293)は息を呑み、苛立ちを滲ませる。
――貴様等は、俺の弟と妹を殺し尽くしただろう。
それが男がロレインが言う『人間くさい冠位魔種』を真似た事だったのだろう。確かに冠位暴食は人らしすぎた。
だが、ルストのそれとは大いに違う。睨め付ける。放つ魔力がルストが翳した掌にぶつかった。
「ルスト、砲撃をくらいなさい――指揮官狙いは戦場の常。でも倒せるほど甘くないわ」
「貴様が人間らしさが欲しいと言ったのだろう。人らしければ、躊躇うのだろう?
弟妹(きょうだい)を殺されたからこその行いだと言えばコレは『傲慢』ではなく、復讐にでもすげ変わるか」
くつくつと喉を鳴らしたルストに『闇之雲』武器商人(p3p001107)は「実に最低なやり口だね」と囁いた。
イーリンとの連携を意識し、牡丹と徒共に仲間を庇う。ルストを真っ向から見据える武器商人は簡易的な暗号を以て周辺との連携を意識する。
「やァ、本当運が悪いし因果な巡り合わせだね。
かつて『妹』に贈られた言葉が『兄』にまで贈られるとは。悪いね――『不死』(それ)、みんな我(アタシ)で慣れてしまってるんだよね」
必殺の波濤を前にしても臆することはない。
此処で退くわけには行かぬ理由があるからだ。あの時、神が望まれるからこそこの国の信仰は新たになった。
罪の在り方が定まり、正義の在り方が見定められた。
「さ、『カミサマ』を殺すとしよう、『イーリン・ジョーンズ』、"それをキミが望むなら"」
波濤を産み出すルストを真っ向から見据える。『こそどろ』エマ(p3p000257)は駆けた。怯えるリトルワイバーンの背中を擦り笑う。
「グドルフさん――アランさんの作った希望を無駄には出来ません。できませんとも。今こそ好機!」
アラン・スミシーが畳み込んでくれたのだ。冠位魔種ルスト・シファーを『殺して』、『生き返ってきたら殺して』。
繰返せば良い。この理想郷が全て、崩れ落ちてしまうまで!
「漸く顔が歪んだな、『カミサマ(クソ野郎)』」
駆け抜けていく『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はまじまじと彼を見た。
アドラステイアから始まった。神の国、帳だと胸糞の悪い理想郷(地獄絵図)ばかりであった。
其れ等諸々の鬱憤は溜まり溜った。そうして余裕かまして天を舞う首謀者が目の前にやってきたのだ。
「異界の邪神紛いの『蟲(ニンゲン様)』が、そのバサバサ五月蝿え翼と今日限りのお別れさせに来たぞ!!!!!」
噛み付くようにしてマカライトは飛び込んだ。出来損ない事、ルストの翼に飛び込む。リソースを注ぎ肉体修復を優先していた男の翼は呆気なく一度折れた。だが、その位置にまたもその輪郭が現れる。
「よく吼える」
ルストの唇が吊り上がる。ああ、本当に『シンプルすぎて反吐が出る』!
「漸く、漸くだ、漸くシンプルな道になった。傲岸不遜なあの魔種に俺達の刃を突き立てよう
俺にとっての道(放浪)は終わりがないが、今日この場において、この瞬間だけは終着点がある――ルスト、お前さんの死がそれだ」
見ているだけで解るではないか。何度だって傷を負わせれば男は容易に修復する。だが世界が軋み、悲鳴を上げる。
『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はじらりと睨め付けた。この箱庭の終わりが近付いている。
「この理想郷が壊れるまで後どれだけ殺しゃ良い? 百か? 千か? 万を越そうとも最後の一片すら残さず殺し切って砕ききってやる」
砕けば良い。ならば、弾丸を放て。それが全て『道』となる。
「私は先輩の槍、だから先輩が前線に行くと言うなら私も一緒に行きます!
それに騎兵隊のみんなの邪魔も絶対にさせません!! 私だって騎兵隊なんですから!!」
長い黒髪が揺らいだ。駆け抜けていく『紫苑忠狼』那須 与一(p3p003103)の眸がルストを見る。
高慢な男は傷など気にする事も無く、雷を降らせ続ける。天より降るそれが神の怒りであろうとも、人は髪をも凌駕することが出来ると信じているのだから。
「御主は、どうやら不死を気取っているようだが。"どこまで不死でいられるか"を試した事はあるか?
さて、では実地試験といこう。テーマは、『不死気取りはどこまで殺し続ければ死に至るか』だ!」
引き抜いた刀は生と死を別ち、どちらに対しても自らの権能を有するものだった。神性を帯びた刀を手に『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が駆け抜け笑う。
ルストに肉薄する。その掌の魔力が刃を弾いた。が、汰磨羈は負けじと胴を折り曲げ腹へと飛び込まんとする。
ここで徹底的に刈り尽せ。全てを終らせるが為に。汰磨羈の身体を弾いた焔が爆ぜる。奥歯を噛み締め、痛みを堪える。
「根競べだ! ルスト・シファー!」
「うぉおおおおおお!」
飛び込んだのは『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)だった。有象無象が何だ。ルストが目の前に居る?
兎に角、誰も彼もを引き寄せろ。治癒班をその身に背負うようにして、彼等を連れて『目的』を果たすのだ。
「今度も皆で、生きて帰る――『オレもそれを望んでいる!』」
プリンに小さく頷くのは『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)であった。
畳みかけることが重要だ。味方が欠けることなく、この場で『耐えきる』事が肝要なのだ。
「最後マデ立ッテイタ方ガ勝者。立チ続ケル 支エ続ケル フリック 使命。
ルスト 回復 コスト=理想郷必要。フリック 回復 コスト=AP不要。
成程。我二 永久機関搭載シタ我ガ主 ドウヤラ君ヨリ有能ダッタラシイ」
「俺は死すら凌駕しているのだが?」
ルストは鼻で笑う。ああ、そうだろう。フリークライも、イレギュラーズも死したらもう二度とは戻らない。
ルストは『死んでいる』ように見える。普通ならばそれは死だ。心臓が弾け飛び、腕が飛び、脚を無くせども、直ぐにその場に肉が盛り上がり、全てが元の通りとなる。
男が消耗している事は理想郷で理解出来れども、まだこの箱庭は保たれている。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。死 護ル者。死者 遺族 心護ル者。
グドルフ・ボイデル。敢エテ ソウ呼ボウ。君二 オヤスミナサイヲ。
後ハ任セロ――君ガ遺シタ ルスト傷 無駄ニハシナイ」
グドルフ、グドルフ。忌々しいとルストは呟いた。あの男にはしてやられたが『もう死んだ』ではないか!
「お待ちしてました。ルストを殴り飛ばす瞬間を、子供達と対峙した時から、遂行者と対峙した時から、お前を殴らねば終わらないと」
大田やカニ『決別せし過去』彼者誰(p3p004449)は微笑んだ。仲間達を致命的な攻撃から庇い、支えるのが彼者誰の役割だ。
「今も天義が苦手だが……変わろうともがいてる事は知っている。
だがルスト、お前は変わる事なく、お前の箱庭の王であり続けた。永遠不変を望んだ。それが傲慢なら、美しくない」
「変わるべきではないと告げる遂行者も美しくはないと罵れば良い。力を貸したのみだろう」
ルストが鼻先でふんと笑った。彼者誰は「ああ、まったく」と目を伏せる。
――全く以て、彼とは相容れぬのだ。その存在が、その在り方が。全隊の疲弊具合を確認し、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は直ぐさまに「回復を」と指示をした。
世界崩壊の進行度を見れば、それは聖骸布と天の杖によって打撃を受け、綻び、エンピレオの薔薇による追撃で更なる打撃を受けたか。
だが、足りやしないのだ。ルストは自らを修復し終えたならば、次に理想郷を修復する。そうやって男の不死性が担保されることとなる。
(外からの支援砲撃でルストが打撃を受けたことは確か。此の儘、根競べで更なる打撃を与えれば――)
更に削り続けることが出来る。騎兵隊は大多数の兵をぶつける戦法だ。物量戦を行なう彼等が同じ場所を狙い続ければその箇所の修復は追い付かないのだ。
戦闘を続ける仲間達を支えるのが『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)や『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)と言ったヒーラーだ。
フォルトゥナリアは美咲を、そしてプリンを支えながらも『波濤の気配』を感じ取る。
「冠位の本気だとしても全員生存を達成するよ! 欲張りでも全てを掴んでみせる! それが私の仕事!」
必罰の嵐、天より降る雷など何も気には止めることはない。フォルトゥナリアに支えられ『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が駆け抜ける。
騎兵隊の戦法と名乗る青年は刀を引き抜くと共に一撃を投じる。居合の型はルストの腕に叩き付けられた。
「俺がいて、他にも大勢攻撃手がいて、それを護るレイリーたち盾がいて、皆を支えるフリックたち癒し手がいる。
ただ強いだけの個などなんの問題にもならん。此処には強く、そして目的のために連帯する大勢がいるからな!」
ただの一人を相手にするならば、騎兵隊は対照的な存在だとエーレンは認識している。仲間が寄り集まってより強大な力となるのだから。
「思えば冠位傲慢、貴様が天義を担当することになったのは正解だったんだろうな。
つまるところ傲慢とは揺らがぬ強い意志力、それが貴様の力の源だ。
上位存在(かみさま)を精神的な支柱にする国にはそれ以上の意志力は生まれづらい向きは確かにあるだろう。
だが俺達がやってきた後もお前はその在り方を変えられなかった。
――自分の在り方にしがみつくことしかできなかった時点で、お前は最初から負けているんだよルスト・シファー!」
冠位強欲、ベアトリーチェの在り方のような。冠位傲慢、ルスト・シファーの考え方のような。
それは、上位存在を支柱とする国にとっては入り込みやすい毒だった。その気配を振り払うべくイレギュラーズは邁進しているのだ。
『どうも。ルスト様。私は倉庫マンです。
此度は戦場というあらゆるものの需要が増す場を提供して頂き、誠にありがとうございます。お陰で仕事が捗ります。
ああ、ちなみに今目になされたのは暗号で「大技の予兆あり」との意味で……』
適当に話しかけて見せる『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)はと言えばルストを翻弄する目的で語りかけては居るが、仲間達を支える事が目的だ。
雷だけではない、ルストが産み出す波濤に飲まれて仕舞わぬように。その予兆を読み取るのだ。
「イーリンさまが進むのなら、それを支えます。全員生存のオーダー、叶えてみせます。
ボクが皆を支えれば、それだけ貴方を狙う機会は増えます……!」
それまでは、ノルンが支える。癒しはこれ以上は傷付くことも、崩れ落ちることもないように。天の息吹として吹き荒れるのだ。
神罰は、優れた攻撃だとノルンも認識している。必殺を伴い、全てを洗い注いで行く。それこそ『神罰』の在り方だ。
「それが何れだけ強大だって――」
『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は息を吸う。ルストの進路上の敵を打ち払う。
地に足を着けて、ルストを見詰めた。仲間達が一度引いた。その隙だ。
「ようやく届いた。撃つべき敵。倒すべき悪。
マジカルジェネレーター、出力最大。ターゲット、ルスト・シファー。
受けてみろ。これがお前が羽虫と侮ってきた私たちの力。何度でもお前を撃ち貫く私たちの光だ……!」
ルストの半身に叩き込まれたそれが男の腹に穴を開けた。じわじわと肉が盛り上がり修復されていく。理想郷の壁がぱき、と小さく音を立てたか。
それでもまだだ、と黒子は認識する。オニキスは「もう一度!」と声を上げた。
「ええ、何度だって」
『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)は大地を踏み締めた。これで心置きなく『ルストを何度でも殺せる』のだ。
男はその場から余り動かないが、攻撃は痛烈だ。それに翻弄されて命を落とさぬようにだけ、ただ、確かな覚悟を持たねばならない。
「言っただろう? こちらに何をしようと『結果は変わらない』と。即ち、俺達の勝利は揺るがないということだ」
闘志を全開にして斬り伏せる。ルーキスと入れ替わるようにして『命の欠片掬いし手』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が飛び込んだ。
「フンッ!」
斧は振りかざされたルストの腕を受け止める。じろりと睨め付け、痛みに備える。
「冠位であろう者がそろそろワシに傷を付けるべきじゃないかね?」
「はん、強がりは痛い目を見るが?」
ルストの後方から波が立ち上る。その波を受け止めても尚も、オウェードは立ち続けた。此処で挫けてなどなるものか。
「気合入れてけ~あたし!」
自らを奮い立たせた『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)が駆け抜ける。
前に立つ。ルストを受け止める。ウルズの背中をプリンは見ていた。
「『自分が負ける訳ない。』イレギュラーズと戦う時、そんな事を言って結局敗れていったヤツがいっぱいいた
お前は今どうだ、ルスト。オレには…オレ達の勝ちが見えてきたぞ。
自分の力を過信して、1人で好き勝手突っ走って。そんなのは、いつまでも続かない。必ず思い知る時が来る。
今がその時だ、ルスト! 今度はお前が、絶望に打ちのめされる時だ!」
「俺は絶望などせん」
幾らでも嘲笑ってくれても構わない。ウルズは真っ直ぐにルストを見る。
こんな奴に負けてなんかやるものか。何れだけ痛みを覚えようとも、支えてくれる仲間が居る。
大海原の絶望を越えてくるような、そんな美しい経験なんて無い。此処にあるのは崩れ落ちていく理想郷という『箱庭』の終わりだけ。
だが、それも大いなる戦いの結果になるだろう。卵が罅割れるように、ぱきり、ぱきりと音立てる。天を眺めて『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は「ああ」と笑った。
「おやおや、おやおやおや、かの神を語る男が創り上げた理想郷に大穴が! これが理想郷でごぜーますか!
くふ、くふくふふ……ええ、ええ、まったく大した理想郷でごぜーますよ!
ねえ? ルスト様? 神の名を語る貴方の創りたもう世界とは! 穴のあく世界だったとは! くふくふくふふふ!」
からからと笑うエマを包み込むなりそこないの命達。のっぺりそちた白い顔が周囲に集まり手を伸ばす。
その様子を眺めながらも『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はふと思い出した。
子供達の救世主と呼ばれていた聖人がいた。シュヴァリエの祖先も同じような罪に問われたことがあった。故に、彼の事を知っている気がしたのだ。
聖人は人が為にあったのだろう。それを愚弄して良いなどとシューヴェルトは言いやしない。罪深き所業だ。
「さあ、地に堕ちろ! 蒼脚・堕天! ――騎兵隊シューヴェルト、いざ参る!」
引き抜く剣に確かな気配を宿した。駆け抜けていく男の背を追掛けてバグルドが征く。
「――アイツはそれを望んだみたいだからな」
それが『騎兵隊』の征く理由だった。バクルドは吼える。此処で傲れ、傲らぬと言うならば何が冠位魔種だと。
ルストは「貴様等如きでは俺の権能は打ち破れん」と声高に言う。
幾度となくリソースが注がれる。物量で押しつぶし、『未だに治らぬ翼』を捨置けば、只の人間にしか見えぬでは亡いか。
「万雷の羽虫達は騎兵隊であり、その鳴き声が呼ぶ名。今一度覚えてもらいましょう。私が名は――!」
「囀るな、愚図」
ルストが低く囁いた。その掌に焔が宿される。その燐光にイーリンは身構えた。男の至近距離。胸を穿たんと狙ったそれは避けられるものではない。
「――死ね」
「司書殿やらせんと、言った……!」
レイヴンが滑り込む。男の真っ正面で弾けたそれにイーリンが息を呑んだ。だが、それだけに構って等居られない。
己達は、絶海を越えた。
己達は、最強と戦い龍とさえも打ち合った。それでもなお、『私達』は一度もブレなかった。
「全員生存」
馬鹿げていると笑えば良い。自らを守る為に何人もがいる。心臓が燃える。髪は燐光を宿し、眸が宝石のように輝いた。
「私が願うから。その願いを皆が信じてくれているから! そうやって立ち上がったただの小娘が、あんたの首を狙っているのよ!」
――全員生存。
そうだ。それをずっと、願っている。癒やして、癒して、それでも足りなくて。
崩れ落ちていく足元は崖を前にして臆していた。此の儘波に呑まれるように消え失せること何て出来ない。
あの海で、あの時に、少女は確かに望む未来があったのだから。
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は叫んだ。
「聖なる山賊、聖なる義士グドルフ、共にわたしと生きる定命なるものよ、我等を……守られよ!」
此の儘進め。進め。臆するな。相手が何であろうとも。
――神がそれを望まれる!
成否
成功
状態異常
第3章 第6節
●死の階段IV
「ルストを倒して……倒して……倒しきれば……」
息を呑む。動く事止めてはならない。『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は真っ直ぐに向き合った。
一度でも動くのを止めたら、考えるのを止めたならば死ぬのと一緒だ。仲間達を支え、癒やし、向き合うのだ。
(今……この場で出来ること……すぐ先の未来を……流れを見ながら、確実に…1つずつ……。
じゃないと……アドレ自身と連れて行った子達が、他の子達もまた来れなくなる……)
レインはぎゅうと拳を固めた。此処で、挫けては鳴らないのだ。
堂々と、目の前に立っている『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)の唇は三日月に嘲笑う。
「貴様――私はな、何処までも人間だったのだ。
人間で在るが故に、神とやらを模倣して、否、神と持て囃されて此処に存在している。
嗚呼……最早、奴はいない。私が殺したのだ。私が喰ったのだ。
実に甘ったるい人間の味を教えてくれた事に感謝し、貴様にひとつ頼み事だ――いや、違うな。これは貴様に対しての罵りだ、蔑みだ。
私は貴様を莫迦にしているのだよ、『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファー」
ルストは「何が言いたい」と鼻を鳴らした。身体を修復する男を前にしてロジャーズは『ここまで煽ったのだから殴ってくれなくては困るのだ』と言いたげな顔をした。
「貴様は未だに傲慢だ。まさか、私の方が傲慢なワケがない。何せ私が傲慢ならば、貴様よりも私の方が、煉獄篇第一冠に相応しい!」
「貴様は傲慢だ。ああ、確かにそうだろう。だが、貴様の下らぬ感傷に何故俺が付き合わねばならん?」
ルストが嘲笑う。権能を奪い取る事は出来ない。その全てを飲み込むように、波が襲い来る。
「おっと、本当に『神様』らしい存在だな」と『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は戯けたように呟いた。
前方の仲間の撤退支援を行ない、後方へと『戻る』道を確保するのがルナの役割だ。前を見れば、『母たる矜持』プエリーリス(p3p010932)と『ヴァナルガント』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)の姿がある。
「さて、それじゃあ此処からは支援モードね。数多の母として子どもたちを送り出すわ。いつものやるわよ、ミザリィちゃん」
「了解です、母上」
ルストを雄仲間達を支えるが為にミザリィは支援を行なう。危険行為であるのは確かだ。異形達だけではない。相手はルストそのものなのだ。
どれ程に悍ましい存在であるかは良く分かる。
(……名前も知らない、顔も分からない、そんなイレギュラーズたちでも、私にとっては愛しい子どもたちなのよ!
子どもの行く末を親が決め付けることは出来ないけれど、未来を切り拓くお節介くらいは焼かせてちょうだいな!
どの物語(子ども)たちも、私は母として死なせるわけにはいかないのよ!)
ここは理想郷だ。だからこそ、祈るプエリーリスの想いを届けるように『娘』は声を上げる。
「負傷者は一度引きなさい! 回復が必要な者は私か母様の半径10メートル以内まで退避を!」
迫り来る異形達を吹き飛ばす『新たな一歩』隠岐奈 朝顔(p3p008750)はその巨躯を屈めて立っている。
「……アドレさんを悼むのは後だ。ルスト、予想外の事に弱いみたいですね?」
皮肉そうに笑った。朝顔の脳裏に浮かんだのはただの一人だった。
――私のことなどで、心を傷つけることはあるまいに。
セレスタン=サマエル・オリオール。その人に会えて良かった。あなただから、胸が痛かった。
彼の喪失が苦しい。彼との約束が温かく感じられる。この感情の名前を『今』の私は知らないから、塗り潰される事の無いように抱えていく。
私は『天香・遮那様を愛した隠岐奈 朝顔』じゃない――
「私は……セレスタン=サマエル・オリオールを想う星影 向日葵です!」
堂々と告げる『向日葵』はルストの一撃を受け止めた。傷付き崩れ落ちる仲間達を受け止めるのはルナの仕事だった。
「出口が空? 閉まりそう? 足場が崩れる? 飛びゃいんだろうが!」
からりと笑う。相手が相手だ。死ぬ気で奇跡を願う者は居るだろう。だが、簡単には死なせてなどやらないと男は言った。
「俺も月の王国じゃ願おうとした側だ。でかい口叩くつもりはねぇがな。
勝手に託して置いてかれんのは、だりぃんだよ。……なんにも残さねぇで、よ。
だから、そんくれぇ賭ける奴等の覚悟は否定しねぇ。その分俺みてぇな生き残っちまった奴は、そいつらを連れて帰るために、走ってやるだけだ。
――仮に、そいつの身体は光に飲まれて消えちまったとしても、その場に残った、そこにいた証っつーのかな。残渣だけでも、拾って届けてやるんだよ」
その言葉に息を呑んだのはリンツァトルテ・コンフィズリーだった。
己とイレギュラーズとの違いは、覚悟だろうか。如何すれば良いのかさえ分かりやしなかった。剣はまだ、応えてくれない。
「それまでの時間稼ぎか。オーケー。
聖遺物を間近で見る機会だぜ。職人として見逃せないなぁ。聖剣と聖盾、万全に使わせなくてはな!」
にいと唇を吊り上げて『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は奔る。ただの『通りすがりの一流職人』だと笑った青年は符によって騎士団の支援をした。
リンツァトルテが迷えば騎士達も惑うのだ。イルが「先輩、指示を!」と乞う。リンツァトルテは「展開し、敵を打ち払え」と叫んだ。
「安心しろ、支えてみせる」
「しかし――」
リンツァトルテは聖剣を握った。扱うに相応しい血筋だ。コンフィズリーという名家に生まれ、その家督を継ぐ男である。
それらは眩いものだが、揃って輝く場面を見たいとも『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)は考えて居た。
「剣と盾は普通一組、一人で扱うもの。ですが剣はリンツァトルテさん、盾はゴリョウさんの元にある。
分かれている以上、もしかして二人の気持ちが合わなければうまく共鳴しないのではないでしょうか」
リンツァトルテは顔を上げた。自らを盾とする『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が立っている。
彼は、セレスタンに認められた存在だ。聖盾を渡すにふさわしい存在だと彼が選んでくれたと知っている。
「盾は守りを、ゴリョウさんはそのおつもりでしょうし受け継いだのを僕らも見ているから知っています。
では剣は? リンツァトルテさん、あなたはどうしてその剣を振るいますか?
……前に立ち、ゴリョウさんと共に敵を打ち砕く覚悟が、ありますか?」
鏡禍を真っ直ぐに見たリンツァトルテは「俺は、覚悟が足りないのだろう」と静かに言った。
「父は、不正義を見ていられず、友を――シリウス・アークライトを救う為に死を選んだ。潔い人だった。
そんな父を疑い、不正義だと認識し続けた俺は未だにそればかりを考えて居る」
俯くリンツァトルテにイルは「先輩」と呟いた。彼を支えられるような言葉が『後輩』の身の上では届けにくかった。
あなたが好きだ、なんて簡単に言ってしまった言葉に雁字搦めになって終う気がしたのだ。
「守る為…それ以外にも色んな理由があるでしょうね。
私は聖遺物を持たず、イレギュラーズであれど特別強いわけでもない。それでも、あの冠位には一発食らわせてやらなければ気がすまないのです。
願いを持つ事が間違いだ、などと言ったあいつを。願いなき世界など、寂しいでしょう」
前へ、前へと『紅の想い』雨紅(p3p008287)は出た。騎士達と共に、進むのだ。
雨紅が引き寄せ、そして薙ぎ払う。その動きは騎士達との連携に役立った。
「冠位に一発、か。分かり易い理由だなあ」
それが一番だとリンツァトルテがからりと笑う。年齢寄りも幼く見えた青年の笑顔に「貴方も単純でよろしいのかもしれませんよ」と雨紅は囁く。
「みて」
静かに『銀翼の羽ばたき』チック・シュテル(p3p000932)が言った。
「ティナリスが……痛みと決意を胸に、灯してくれた力。一緒に見届ける、出来た事。嬉しく、思う。
彼の……リンツァトルテが灯すであろう力の気配も、徐々に大きくなってる。そんな気が、する。……行こう。皆と、一緒に」
大丈夫だよとチックは笑った。『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は「そうだ」と頷く。
天義を変えたい。歪んだ天義の被害者を減らしたい。その為にもう一つの『武器』を振るうと決めて居た。元医者として、戦線を維持する。
ヨハンナから見ればリンツァトルテも歪んだ天義の被害者なのだ。それが良く分かる。背の翼は自らの在り方をもう一度定めてくれた。
その翼を誇るようにヨハンナは手を差し伸べる。
「――リンツ。俺は友の為に来た、友を支える為に。聖盾が守り繋げる者なら、剣は敵を断つ者だ。
ルストが天義の癌ならば、アレを切除する事で……天義を変える為の一歩にしたい。
天義を変えたくはないか?このまま、偽りの神の手に堕ちていいのか?
剣も盾も本質的な役割は一緒……大切なものを守る為にある。俺はそう考えてるンだ」
からりと笑ったレイチェルは「だからさ、リンツは素直に考えて良いと思うぜ」とそう言った。
彼が抱えたままの不正義はどこまでだって、重たいままなのだろう。その荷物を少しでも背負ってやることが出来たならば。
「託された剣の重みは、他でもないリンツァトルテが今……一番感じてる事だと、思う。
だけどその重みはね、一緒に背負う事が出来る。その覚悟を持っておれは……イル達もきっと、此処にいるのだから」
沈黙する聖剣とルストを見比べる。大丈夫だ。託された想いがある。ほんの少し、彼に勇気を分けてやるのだ。
「守りたいもの達の為に戦う。それは、おれも同じ。君が守りたいと、切り拓きたいと願う意志を……示してみせて」
「俺が――」
護りたいもの。呟くリンツァトルテに『魔法騎士』セララ(p3p000273)は「大丈夫?」と微笑みかけた。
「ボクの聖剣ラグナロクは想いの強さに応えてくれるんだ。コンフィズリーの聖剣もきっと同じじゃないかな。
……リンツァトルテ。君の正義ってどういう想いなのかな。その想いを強くすれば聖剣も反応するかも。
ボクの正義は『皆の笑顔を守る』事だよ。君の正義はどうかな? それは、皆の言う護りたいもの、そのものだよね」
セララは微笑んだ。敵を倒すことが正義じゃないんだよ。護りたいものこそが正義なのだ。
天義の正義は不安定だ。彼は『正義』の名の元に奪われたのだ。それは良く分かる。
「……大丈夫だよ。リンツァトルテ」
その手にそっと手を添えた。剣を握る無骨な掌はこれまでの鍛錬の傷が付いている。
「聖剣もきっと応えてくれるよ。それでも足りなかったらボクの正義も分けてあげる! 正義パワー注入!」
からりと笑ったセララは聖剣に呼び掛けた。
――聖剣さん。どうか、どうか力を貸して。
ボクは皆の笑顔を守りたいんだ。皆が幸せそうにして居るのが好きだから。
皆で一緒に戦おう! ボク達の大切なモノを守るために!
ゴリョウはリンツァトルテの背を叩いた。「リンツァトルテ……えぇい堅ッ苦しい! 俺もリンツって呼んでいいか!?」と唐突に掛けられた言葉にリンツァトルテは「あ、ああ」と大きく頷く。
「リンツ! オメェさんの守りたいもんは何だ! 俺にとっての『それ』は俺の『背を支えるもの』だ!
守るべき家族、背を預ける友、共に歩む最愛!
一歩一歩踏み締め結んだ縁(れきし)こそが俺の背を支えるものであり、俺が守りたいもんだ!」
「俺は――」
幼い頃にセレスタンにあった事がある。父の側で穏やかに笑っている人だった。
コンフィズリーの不正義と言われたときにリンツァトルテは懇意にして居た者との縁を切った。巻込みたくは無いからだ。
それでも、イルは着いて遣ってきた。先輩などと言って。天義の正義は可笑しいと疑うように呟いて。
――先輩が幸せになってくれたら私なんてどうでも良い位に貴方の事が好きなんだ!
「思い浮かべろ! 守りたいものは何だ!? 今パッと出てきたな!? 『それ』だ! そいつを離すな!」
順序が逆なのだとゴリョウは言った。剣を振るうことで何かを護れるのではない。何かを守る為に、剣を振るうのだ。
「剣と盾は併せて一対! 俺の守りたいもんとオメェさんの守りたいもんは決して相容れぬものじゃねぇ筈だ!
俺に友と呼ばせてみろリンツァトルテ・コンフィズリー!」
「ゴリョウ、あなたを友として呼ぶならば、一つだけ情けないことを願ってもいいか?」
リンツァトルテは『友人』に気易く声を掛けるように言った。言ってみろよとゴリョウは笑う。
レイチェルは頷き、チックはその言葉の続きが分かったように笑みを零し、セララは「素敵な事だね」と言う。
「……一つ、保留にした返事があるんだ。それに応える相談に乗って貰っても?」
案外簡単なものなのだ。聖剣が答えてくれないなら、セララが分けてくれる。側に居てくれる。
支えてやるとレイチェルが言ってくれる。そんな『仲間』が居る事を、理解しなくてはならない。
『今度こそ』コンフィズリーは守り切るのだ。守るべき家族、背を預ける友、共に歩む最愛を。
――眩く光る、気配がした。
ゴリョウは「行くか」と囁く。前に立つ、ルストと向き合う一人の女の背中を見詰めながら。
「ねえ、ツロ」
呼び掛けてから『初恋患い』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はそっとその胸に『とっておき』を秘めた。
(……ルルちゃんはきっと、青いの恋を捨てて普通の女の子になる。そんな奇跡は、仲間達が作り出す好機そのものよ)
アーリアはアーリアの戦いがある。自らは向き合わねばならないのだ。
「『ツロ』――ううん、ルスト、『貴方』とは初めまして。成程、確かに顔だけは良いのは認めるしかないかも」
ルストの傷が修復されていく。だが、それを畳みかけるように仲間達が攻撃を繰返す。
アーリアは八つ当たりのように恋をしていた。みずぼらしいほどの愛を信じていた。
勝手に溢れそうになる涙を隠して、決意したように向き直る。
「ねえ、聞かせてくれない? どうしてあの人の姿になったの。貴方が付け入ろうと選んだのが私だったの?
隙がありそうだったから? 酔えば口が滑る、初恋を抱えた馬鹿な女だと思ったから? ――全部、悔しいほどに正解だわ」
「いいや」
ルストの言葉に、アーリアは彼を見た。
アレフの滅びに触れたとき、その気配に感じたのが『あの人』だった。
アリア、そう呼んで心配なのだと頬に触れてくれる。愛おしい掌。
アリア、あなたの声が心を擽った。痛いほどに胸が、高鳴った。
「……最悪よね。世界の敵とお酒を飲んで、話を零して、私、皆に顔向けできないじゃない」
アーリアはぽつりと零してから「どうして」ともう一度問うた。
「貴様はエンピレオの薔薇の『発動』を行なった術者の一人であろう」
純種であれば、コレまでの過去を知ることも出来よう。イレーヌ・アルエのような女ではダメなのだ。
あの様な女は幻想に拠点を置く。もう一人の術者はそのルーツが混沌にはない。
だからこそ――
ああ、なんて。打算的なの。
アーリアは唇を震わせた。
「だからこそ、お前だった。『アリア』」
貴方が、そうやって呼ぶだけで苦しくなったのはこの恋が幼いものだったからだった。
青くて、青くて、とてもじゃないけれど受け止められないそれ。
「……ッ」
躊躇った攻撃がルストに弾かれた。痛みも、朦朧とする意識も、何もかもがアーリアにとっては必要な事だった。
「そう」
決別をしよう。
――貴方の事が、好きでした。
遠い遠い、過去の話だった。幼い子供の勘違いだった。
けれど、痛くなった胸は本当だったの。呼ぶ声が、私を掻き立てた。
「女は一度騙せたって、二度目はない。……次は躊躇わないから」
成否
成功
第3章 第7節
●死の階段V
(怒り――それとも、焦っているのか?)
『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は唇を吊り上げる。理想郷と呼ばれているが、この場所はルストにとっての理想郷には成り得なかったか。
「驕れる人も久しからずってか。傲慢が過ぎたなァ?!」
アルヴァと擦れ違うように前へと征く『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)がその手をひらりと揺らした。
ルル家が何かを考えて居ることは分かった、どうやらそれはルストにはばれてはならないことなのだ。
だからこそ『遂行者』となったカロルにアルヴァが向かい合う。その際にルストの気を惹く役目も必要だというわけだ。
「今の怒ってるルストなら、虫の羽音でも注意を向けてくれるかもしれない。ルル家とカロルから意識を逸らしてくれるかも。
そしたら私の勝ち。カンタンでしょ! ねぇ、ルル家。君のやりたいことを、わがままを、全て叶えて戻ってきて。
そのためなら、私は神様だろうが王様だろうが、世界だろうが敵にして、小さな奇跡を望んであげる!」
誰を敵に回したって、世界は有るように存在し続ける。
シキ・ナイトアッシュという娘は只管に走り行く。『殿』一条 夢心地(p3p008344)は天晴れと扇を揺らがせた。
「我が妹ルル家よ。兄は、泣いておる。そなたの友への想いに心を打たれ、さめざめと泣いておる。
良いじゃろ。覚悟を決めた妹に対し、兄ができることはひとつ。
そこなカロル・ルゥーロルゥーを救う手助けをしよう。妹が救いたいと願う者は、即ち麿の妹と言っても過言ではないからの」
「それって恩義の売り掛け金ってこと!? 殿! 安くて頂戴よ!?」
「本当に救って良いのかの?」
夢心地が指差せばカロルは踏ん反り返った。遂行者――滅びのアークが襲い来る。それをまじまじと見詰めていた夢心地は眩く光った。
「少年少女たちの居場所を作り出すこと、それがそなたの役目じゃぞルル家。
そしてそれさえ分かっておれば、後は麿が照らしてやろう……奇跡へと至る輝ける道を!
シン・シャイニング夢心地アルティメット。全身から黄金の光が放たれ――!」
パンドラパーティープロジェクト 天義編――完
「終ってないけど! 終ってない!!!」
カロルは叫んだ。夢心地が相対する『滅びのアークを前にアルヴァは肩を竦めてから向き合った。
「随分難儀な身体してんじゃねえか。なァ? 聖女サマ!」
「本当に。やばそうな私も可愛いけど」
言ってろとアルヴァは呟いた。ああ、本当ニ嫌になるのだ。仲間が全てを賭してでも救おうとしている命。
大きな代償を払って願った事なら、報われて欲しいではないか。その為に、『オオカミの願声』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)がルストの元に飛び込んでいくのだ。
征く『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)はリュコスの『切り札』の発動を待ち続ける。
滅びのアークと相対する『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)はカロルをまじまじと見た。
「ゴリラは戦後の宴の余興として特等席で見せてやる、約束だ。
という事でルル家、ようやっと表立って助力だ。右目? あれはオレとオマエが殺し合う事になればの話だろう!」
解らないから、分かろうとする。理解出来ないからと何も全てを否定したくはない。
そんな彼女は実に人間らしいのだ。ウォリアは気に入った、と呟いた。
(――生きろよ。この一瞬すら想い出に、笑って長い時を過ごす友人となれる……甘い理想、大いに結構じゃないか。
此処までオマエの身を案じてきたルル家とどちらが欠けてもならん。
これまで見てきた『一瞬の奇跡』では意味が無い、一人の『女子』が『恋』よりの新たな門出を歩み、その旅路の最中で数多の輝きを見られるように己は全力を尽くそう――何より、女は笑った顔が一番いい!)
嗚呼、だからこそ。滅びのアークを打ち払う。聖竜の力をウォリアが手にしていなくとも、可能性は手にしている。
パンドラがある。可能性は屹度、彼女を救う道標にも縁にもなろう。
「聖女ルル。恋の話……まだまだ、やりたいだろう? それに。あるんだろう? 立派で大切な夢が」
「結構くだらない夢よ」
囁くカロルに『今を守って』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は首を振った。
「夢の話もしたいなら……勿論付き合うとも。素敵で普通な女の子になりたいって夢。誰が笑うもんか。俺が笑わせたりしない。
今でもスーパーヒーローになりたいって子供っぽい夢を持ってる人間がここにいるから。
だから――もっと一緒に話をしよう」
言葉を交せば分り合える。ムサシとウォリアは征く。
「理想郷は穿たれ、ルストの余裕も剥がれた……ようやく『時』が来たわッ!!
ここからは時間との勝負……ルストが手を下す前に滅びのアークからルゥを切り離し、ルル家さんに繋げるっ。
どれだけ傷付こうとも、命を賭けてルゥを生かしてみせるッ」
ああ、だって――これを期待していたのだ。幻想で出会ったあの日から、彼女の事を知らずには居られなかった。
『双焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は一気にカロルの元へと飛び込んだ。
「素敵なお召し物ね」
滅びのアークを打ち払う。ルストに気付かれぬように、『カロルと敵対しているように見せかけて』
「アルテミア」
空気が変わったと呟くカロルに「ルゥ」と柔らかな声音で呼び掛けた。それだけで彼女は理解するのだ。彼女は――ルル家と同じ思いを抱いてきた。
「ふふ、以前言った事があるけれど、"守ると決めたモノを手が届く限りは守る"、私はそうしているだけよ。
ルゥ……私はどれほど傷付こうとも、貴女を守り、生かすわ。拒否したって無駄よ?
幻想貴族は欲張りで傲慢なんだから。だから――大人しく『滅びの側』から『こちら側へ』引きずり降ろされなさい!」
赤い糸が飛び掛かる。アルテミアの肉を断つ、が、それでも彼女は止まることは無い。
切っ先は鋭く振り下ろされた。身体を反転させて前を見据える。
「諦めやしないわ! 何度だって!」
奔るアルテミアが顔を上げる。ルストがぴくりと指を動かしたのだ。一直線に『一緒に進みましょう』ユーフォニー(p3p010323)が飛び込んでいく。
「ルストさん! 冠位とお話しできる機会はそんなにないですし、終焉に行くための足掛かりが得られないかなあくらいの気持ちで来てたのですが!」
それでも『キリエス』に一緒に進もうと言った。皆で彼を倒したとしても止めを刺したのは自分だった。
聖骸布を利用するだけでは終りたくない。おふざけだったここでお終いだ。
(ルルさんの夢も叶えなきゃ、仲間の邪魔だってさせるものか! 少し逸らすとかほんの少し軽減とか、それくらいだけでも! 私が!)
自らを壁とするユーフォニーは痛みをも堪えて我武者羅に向き直る。
「ルスト、良いことを教えてあげる。わたしの世界の神話の一節よ。
――『傲慢な神は、人の手によって地に落とされる』
理想郷を壊されてその不死が不完全となったあなたにはお似合いじゃないかしら!」
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)の眸がじろりとルストを見た。降り注ぐ雷も叩き込まれる焔も、攻め来る滂沱も。
何もかもを受け止める。其れ等全てから仲間を――二人を守り抜くと決めたからだ。
周囲にやってくる出来損ない達を眺めながらも『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はうっとりと笑う。
「何を驚いているのですか、ルスト。これは奇跡でも貴方の油断でもなんでもない。
ここまで多くの人が遂行者が生き足掻き、進んだ。
奇跡でもなんでもない……この結果は必然であり、だからこそこの魔女が、アタシが、私が。
傲慢なる理想郷から……その一切合切を奪いつくしてあげましょう」
己は、魔女だ。聖女カロルも魔女と言って迫害された。宗教のお終いには何時だって魔女という怪しい女の姿があるのだ。
神の威光を傷付けるのだって――ああ、屹度魔女なのだ。
「不死……ふふ、行きつく先は同じですか。ルスト・シファー。私は貴方に共感すら覚えますよ。
……けれど、生き足掻く人の可能性を愛しているのは、こちらの方が上のようですね?」
自らの抱えた聖竜の力は未だ温存していた。それは強力な手札だ。戦いの後にカロルや竜に返す事だって出来るはずだ。
(何より……カロル、私の選択は『ルストから貴方達の存在を含めた何もかもを奪い返す』事なんです。
そのうえでどうするかは私が決める、だから私の可能性の一片でさえ、冠位傲慢を相手に費やしてやるものかとね)
ただ、意志を貫くためにマリエッタは其処に居た。セレナを支え『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)は真っ直ぐにルストを見る。
「ねえ、神様ってどうやったらなれるんだい? 信者がいればいい? それとも権能があればいいのかい?
――遂行者たちは散り、理想郷は崩れ始めた今、君に神を名乗る資格はないよ!」
「ならば遂行者達をみだりに否定すれば良い。俺を神と信じた者共を愚弄して行けば良いだろう」
嘲る男へとアルムは唇を噛んだ。
「ルスト・シファー。神を目指す傲慢なる魔種よ。
創世神に成り代わると言うなら、世界を……人々を、君が虫螻と一蹴するものたちを、もっと愛したらどう?
創ったものさえ愛せない神が、理想の世界を創ることなんて出来やしないよ。」
傲慢だというなら全部愛せば良い。全部愛していると宣うこともきっと傲慢だ。
「俺なら、全部愛して護ってみせる!
神様って、傲慢なものなんだろう? 俺に代わってくれた方が良い世界になると思うよ!」
――己も傲慢なのだ。仲間を護りきれると認識することも。仲間を支えると願うことも、全てが己の選択であると言うことも。
カロルは三人の姿を見詰めていた。滅びのアークと相対するだけではない。ルストは気付き始めている。
供えるように『未完成であるほうが魅力的』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は「ルルちゃん」と呼び掛けた。
「あなたは生きることを求められてる。もうわかってるでしょ。
ちゃんと選ぶの 自分で……覚悟を決めなさい。
求められてそうさせられた、聖女じゃなく、あなたはあなたの望む『カロル・ルゥーロルゥー』になるのよ 自分の手で」
「メリーノちゃん」
「何かしら、ルルちゃん」
ぽそりと呟いたカロルにぱちくりと瞬いたメリーノは「ガチ目に恐い」と呟く彼女に少しだけ笑った。
「大丈夫よ。大丈夫。……だから、待っていて。
ルル家ちゃん、大丈夫、ここには強い盾も、王子様もいるのよ。絶対あなた達に攻撃は通らない、だからその奇跡、特等席で見させてもらうわ」
そうだ。此処が特等席だ。ルストを倒し、『遂行者』も倒して、彼女達により良い未来を与えるための。
メリーノに「マジ恐い」と呟いたカロルへと『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)はくすりと笑う。
「ああ、もう。縋っているだけじゃ何も変わりませんよバカ! ……貴女を想って立ち上がっている人たちから目を背けないで。
貴女がやらなければいけないのは自分の足で立つことです、そして明日へ、歩みを進めること。手なら幾らでも差し出しますよ」
「尾は?」
「気に入らないで下さい。いいですけど。……ほんと。もう。私、護ることの方が得意なんですよ。知ってるでしょう?」
妙見子の尾にカロルが引っ付いている。ただ、それも今限りだ。屹度、動きがある。
カロルのヴェールをひんむいて「ただの女の子ならそんな隠すようなもの付けなくて良いでしょう?」と妙見子は笑った。
妙見子も同じようにヴェールを取る。
「……このピアス綺麗でしょう? 仲良しの竜からもらったものです……心配性ですよね。
だからアレフ様がどういう気持ちで貴女を護っているのか。ちょっと想像つきます……なんだか似てますね私達」
「羊羹ちゃんも、仲の良い竜が居るのね。素敵ね。私はあの子と長く居られなかった」
呟いたカロルに妙見子は「これから、です」と囁いた。
「――だからルルちゃん、明日に進みましょ。ルル家様、負けないでくださいませ、お友達のためでしょ!」
「ええ、そうよ。ねえルルちゃん、これあげる。ルル家ちゃんが作ったケーキなの。あなたが生まれ変わる日で誕生日。良い日でしょ?」
囁くメリーノに「私、ここから永遠の17歳って事にしてくれる?」と可笑しそうに彼女は言った。
そうやって笑っておどけて。普通の女の子のように振る舞うのだ。『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)はカロルに手を差し伸べた。
「貴女に手を差し伸べる人がいる限り、貴女も諦めてはいけない」
小さな焔の温もりを感じてからカロルがそっと妙見子の尾に宛がおうとする様子にトールは「いやいや」と首を振った。
「レディ、手を」
「……良いの?」
「勿論です。今だけ貴女は僕にとってのシンデレラだ。シンデレラの騎士、トール=アシェンプテルが貴女を絶対に護る!」
騎士として、救うと決めて居た。ルストの雷が雨あられのように撃ち込まれていく。トールは「後ろに」と囁いた。
どれ程に、苦しくとも騎士はプリンセスを護りきる。そんな当たり前のこと、言葉にしなくとも良く分かるだろうに。
カロルの滅びのアークの気配が弱ったことにルストが気付いたか。ムサシが顔を上げる。
「来いよ。ルスト・シファー。狙うなら彼女じゃない。お前の理想郷を破ってやった俺だ。
さっきの質問の答えも聞いてないんだ、もう少し付き合ってくれよ」
カロルも、彼女を思うルル家のこともやらせやしない。夢を見るのは一瞬だ、でも叶えるのは一生やれる。甘い理想、それで結構!
「ウォリアさん」
「ああ」
理想は常に傍にある。
「その理想を、夢を叶えるのも…ヒーローのお仕事だからさ――夢を見たって良い。それどころか、叶えたっていいんだ」
ムサシを避けたルストの掌が宙に翳された。焔の気配。だが、その前に躍り出たのはステラであった。
「……ステラ、手をにぎって、合体攻撃で聖竜の力を叩き込む!」
「リュコスさんの策に乗ると、決めてはいましたから、お付き合いしますとも!」
聖竜とルストが呟いた。ステラは真っ向から叩き付ける。自らの魔力を。
そう、それは『フェイク』なのだ。
ステラの一撃は聖竜の力を使いこなせていないリュコスだと思わせることができだろうか。それで構わないのだ。
目的がある。リュコスは聖竜の力の近い道は「ここだ」と決めて居た。
(そうだ――ぼくには力がある! 聖竜の力でルストにすら認識されない空間を作れるなら……欠片でもあるだけでルストの権能を上書きする力はあるはずだ)
人間は傲慢だ。ルストなんかより、ずっと、ずっと。
聖竜の力横たえてくれ。
(ぼくはルル“だけ”を人にするために力を貸せないけど。
ルストをぶん殴りたい気持ちと同じくらい――ルルに生きて欲しい。
ルストを殴って、ルルにチャンスを作る、どっちかじゃなくて取るなら両方に決まってるでしょ!)
リュコスのギフトは『カミ隠し』。都合の悪いものを隠すのだ。理想郷を壊す毒となれ、聖竜の力が、ルストに仇為すならば。
己を起点にそれが効果を与え続ければ良い。見えず、滴り落ちる毒。
(ぼくの嫌いな世界の贈り物。卑怯で、弱虫なぼくのそのものみたいで。
でも……ここで成し遂げてようやくぼくは自分ごと好きになれそうな気がするんだ)
成否
成功
状態異常
第3章 第8節
●『夢見ルル家』と『聖女ルル』
「リュコス、あんた――!」
カロルの声がした。手を伸ばた女にリュコスは面食らう。
「私にこれ以上、失わせないで」
カロルの腕を掴んだ夢見 ルル家(p3p000016)は首を振る。
これ以上、『貴女を失い』たくはない。ずっと、ずっと願ってきたのだ。実を結ぶ、この時を。
――名前が似ているね。
なんて、そんな事が切欠だった。どっちが『ルル』かなんて、言い合って。
ルルがなければ『家』だと言えば気に入って「大名」と指差し笑う彼女が愛おしく思った。
「ねえ、キャロちゃん」
「……ルル家?」
「私の好きな人の話、したよね。一つだけ秘密にしてた事があるんだ。
あの人はきっと、私じゃない人が好きなんだ。好きな人の事だから……わかっちゃうんだよね」
カロルが目を見開いてからルル家を見た。息を呑む。「え?」と呟いたカロルにルル家は肩を竦める。
「でも優しい人だから、私にも優しくしてくれる。そういうのって、一番残酷なのにね。
だから帰ったら私からフッてやろうと思うんだ。
ねぇ、キャロちゃん。キャロちゃんの事を全然見てないルストなんてフッちゃって私と新しい恋を探しに行こう!
大丈夫だよ。キャロちゃんを1人になんてしない」
――私と、私の仲間の事を信じていて。
「え」
カロルの声がぽつりと漏れた。
これが好機だった。リュコスが願った聖竜による奇跡は確かにルストの意識を惹いた。
だからこそ、ここだ。アイコンタクトを受け取ってから小金井・正純(p3p008000)が「ああもう」と呟く。
動くなら此処。そういうことだ。わかる。分かってしまうんだ。豊穣でどれだけ一緒に居たのか。
「いつも無茶ばかりする。……大丈夫、分かってるよ。否やはない。アドレにも任されたしね。
一緒にキャロちゃんを助けよう。私達みんなで」
聖竜の気配が正純を、そしてルル家を包み込む。正純が弓を引き絞る――だが、それを許さじと『遂行者カロル』が駆けてくる。
「赦すものか」
この時をずっと、ずっと待っていた。『薔薇冠のしるし』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は見据える。
「ルルを、一人の恋する乙女を滅びの呪縛から解き放ち、可能性(パンドラ)と聖竜の力を以て、命を繋ぐ。
あの庭園では力が及ばなかったが、今なら、きっと。アレフも、それが叶うなら、望むところのはず、だ。
だから、頼む。ルル。求めてくれ、救いを。掴んでくれ、伸ばされた手を。
例え要らぬと言っても、絶対に諦めたりはしないが、な――もうマリアは、友を救うと決めたから」
カロルも、ルル家も、エクスマリアも、正純も、リュコスもそうだ。何も失わない。その為にベッドした。
期せずして『四つ分』がここにはあった。リュコス、正純、エクスマリア、そして――ルル家。
「強欲、傲慢、知ったことか、茄子子の言う通り、魔種などより遥かに我儘なんだ。
混沌の神よ、聞いているか。この世界を救ってやるんだ、その褒美を少しばかり前借りさせろ。でなければ、本気で殴りに行くからな」
エクスマリアは叫ぶ。何度も何度も友を失った。恨んだわけではない。だが、今度こそ――!
聖竜の力が溢れ出す。
周囲を取り囲む有象無象を前にして『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は多いなと呟いた。
「よぉ、聖女ルル。いや、カロル、キャロ? どれで呼べば良いんだ? リクエストがあるなら聞くぜ」
「キャロよ。友達のくれた呼び名なの」
嫋やかに笑う聖女から分離したその滅びの気配が弱っていく。
「俺はルカ。通りすがりの顔の良い傭兵だ。
顔の良さなら負けてねえし、俺の方がよっぽどいい男だぜ。乗り換えるならお得な物件だと思うがどうだ?
つっても俺には片思いの相手がいるからアンタの想いには応えられねえけどな」
揶揄うように笑う男は彼女なら、答える言葉が定まっているとそう思った。
「相手はアンタと似た……いや、似てねえな。似てねえけど境遇はちょっと似てる奴だ。
クソったれの神様に狭え場所に押し込まれて、自由も何も知らねえままにそこで役目だけをこなしてる。そんな女だ」
「は?最悪じゃん」
「な、気に食わねえだろ? だから俺はそんなくだらねえ運命なんざぶっ壊して巫女様を攫ってやろうってのさ」
ルカが押し止めてくれている。此処だ。此処で踏ん張らねばならない。『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)は剣を手に駆けた。
「カロル・ルゥーロルゥー、お前は俺の後輩になるかも知れない。ならば、センパイとして良い姿を此処で見せねばな」
高揚しているのだ。カロルを救うという。足元の花を一輪、カロルの髪に挿してから、オルレアンは擦れ違うようにルストの元に駆ける。
花言葉は、愛情だ。これは彼女に贈る想いそのもの。沿う決めた。
「貴様にとっては俺は羽虫程度だろうが、俺達は強い、片目くらいは貰っていくぞ」
オルレアンが跳ね上がる。彼女達は強いのだ。己を燃やしても良いという覚悟も、死しても良いという決断も。
それがあるからこそ、強くあれる。オルレアンだって、そう有りたかった。
花が開くように聖竜の力が周囲を取り囲む。ルストが気付いたように「貴様」と声を上げたが『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)はぎらりと睨め付けた。
「メイ、皆さんの治療に専念するです! だから全力で挑んでくださいです!」
小さな少女でも意地があった。はじめまして、と笑えばカロルは「はじめまして」と返してくれる。
だから、普通に生きていける。何時だって手を握れば傍に在る事が出来る。
「いよいよだね。ヴァリューシャ! ルル家君を迎えに行こう! そしてカロル君も救ってみせようじゃあないか!
カロル君とはあまり面識はないけれど、友人の大切な人だ。そんなのは関係ない!」
「さようなら、グドルフ。どうか主が貴方の歩んだ道に心を痛め、貴方の魂を救って下さいますように。
……ええ、行きましょうマリィ。ルル家にはまだ手が届くはず。絶対に助けましょう!」
もう二度とは取り零してなるものか。『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は決めて居た。
正純の傍を護り、全てを薙ぎ払う『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は攻勢に転じていた。守るだけでは、何も為せ得ない。
「ルル家君! 迎えに来たよ! ハッピーエンドにしてやろうじゃないか!」
相手がリソースを消費しながら攻めるというならば削ってやれば良い。削れ、削れ。それは得意中の得意だ。
「悪いね! やらせないよ! ルスト・シファー! 君の思い通りにはさせはしない!
常に人を見下して超越者を気取るその余裕面、めちゃくちゃにしてやる!」
マリアが雷を纏い笑みを浮かべた。荒れ狂う波濤になど飲まれてなるものか。その下でメイの癒やしが輝き――
「どっせえーーい!!! っとおおおおおりゃっ、もう一発、喰らって行きなさい!」
勢い良くヴァレーリヤが叩き付ける。聖職者らしからぬオーバーな動きにカロルが小さく笑った。
「まったく。世界を救って生き残って、その上に遂行者まで救おうだなんて、欲張りにも程がありますわよルル家。
でも、そういうの嫌いではございませんわ。願いは、理想は、戦って掴み取るものですものね!」
叶わないかも知れない。けれど、良いのだ。正純が『役目』がある。
「ルル家さんには、私は怒っています。成したいコトを成す為に他の何もかもをほっぽり出してしまう。
ルル家さんらしいと言えばルル家さんらしい……ですが、私達の同盟を軽んじていらっしゃいますからね?」
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は眉を吊り上げた。
「リーゼロッテ様にはちゃんと報告してありますし、遮那君にもちゃーんと伝わっていますからね。
帰ったらお説教に剥製は覚悟するのですよ! カロル・ルゥーロルゥー、私にとっては貴女はほんのついでです」
ふい、と顔を逸らすドラマにルル家が「恐いなあ」と笑う。恐い、なら、手を繋いで居よう。カロルはその手を握った。
「ダメよ」
「ダメじゃないよ」
「嫌よ」
「嫌じゃないよ」
カロルはルル家が死してしまうかも知れないことを怖れている。
そんな人間らしい感情を敵が抱いてしまうから彼女は苦しいのだ。
「大丈夫だよ」
だからね。聖竜と『同じ事』を思ったのだ。ルル家は笑う。
――アレフ! キャロちゃんに普通の幸せと未来を! キャロちゃんが普通の人として生きられるように!
ルル家の願いは、エクスマリアが指し示した道だった。アレフが心臓になれば良い。
滅びのアークではなくパンドラで結び、『アレフの加護』を有する魂を得た只の人となればいい。
その願いに応えるように聖竜が声を上げた。カロルを守る者達は「特等席」だと笑うだろうか。それで良い。
正純はゆっくりと弓を構え、放った。
聖竜の力が身体蝕む。まだ、まだ。まだ、死ぬものか。
滅びの力を払い除けるほどの星の力はない。何も聞こえないただの女だ。それでも、だからこそ――今の正純にしか出来ない事がある!
「ルル家! キャロちゃん! こっちへ!」
手を伸ばした。ルル家の『鴉天狗の眸』が砕ける。矢は、右眼に叩き付けられた。聖痕が霧散する。
伽藍堂の眸の内部より『カロルが込めた滅びのアーク』が溢れ出し聖竜がそれを飲み食らう。
ああ、ああ。――あの日見た星のように。今、私は最高に輝いている。生きている!
「キャロちゃん!」
正純を支えるヴァレーリヤとマリアは頷き合った。
カロルを守る『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がルストを睨め付ける。
「ルルちゃん、お待たせ! ようやく約束を果たせるね。
どんなに困難な事だって諦めなければ必ず叶うんだよ。私達は特異運命座標なんだからね……少しは惚れ直したかな?」
「惚れられたら困らない?」
「えー? でもね、もう偽物の恋に焦れなくてもいいよ。
あんな酷い男の事は忘れて新しい恋を探しにいこう? まあ私と始めたって構わないけどね!」
にっこりと笑うスティアは『聖女カロル』を助けてくれると、そう仲間達を信じていた。
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はと言えば「いいの?」と可笑しそうに笑う。
「ルル君、ひっぱたきに来ました……というのは嘘だけど。
私には恋なんてわかんないから、君のあの人への想いは否定はしない。でも放っておくことなんてできないから」
何と言われようとも守り抜くと決めたのだ。ルルにも見せたい蒼穹がある。ルストは屹度、ルル家と正純を、エクスマリアやリュコスを狙う。
(ダメだ。ここでは誰も失わないよ。絶対に守る……。
相手が誰だろうと関係ない。『普通の女の子』から笑顔を奪おうとするヤツなんて、ヒーローが必ず立ち向かわねばならない相手なんだから!)
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は声を上げた。それは『祖父』がそうするように。
「天義の聖騎士、サクラ・ロウライト! 推して参る!」
――ロウライトの娘として、正義を宿して前に進むのだ。
「ルスト! 貴方が何度生き返ろうと関係ない! 生き返るなら、生き返らなくなるまで斬る!!
速く、何度も攻撃する為に鍛えた技だ! それにここには沢山の仲間がいる!
たとえ何千何万と殺す必要があったとしても、私達には十分過ぎる勝機だ!」
嗚呼、お願い。禍斬。あと少しだけ保って。もう何度も使えない。あと一度、一度なら――?
サクラはスティアを見た。彼女は言って居た。
一緒に普通の女の子らしいことをする。その願いを叶えるために来た。それに、『ルストより顔が良い』と認めて貰わねばならない、と。
(スティアちゃんらしいや)
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)はルルを一瞥する。
(『ルルという個人として誰かに恋をした』……大なり小なり各々でぶれはあれど、ルルほど設計から逸脱した遂行者は他に居ないのではないか。
エデンの園に生まれ、恋という名の禁断の果実を得た彼女は、果たして失楽園に至るのか?
まして、恋のお相手はルシファーの如きルストと御誂え向き……その試みが、何を結実させ得るのか……興味があります)
人間は感情を得手はならない。それは嘗てのイノリが『そう』であったように。ざんげが『そう』あるように。実に、皮肉なことだ。
「何を――!」
聖竜がカロルを包み込む。アリシスは男の視線を遮るように立った。
「砂上の楼閣……世界運営の権能も存外な脆さがあるのですね。神の如きと言えど、真に神には至れませんか」
そうして、その前に――
「ルル家ーー!! こいつは貸しだからなァ!!」
『竜剣』シラス(p3p004421)は叫んだ。
「やぁっとテメーに手が届くようになったな、クソ野郎が!」
シラスは真っ向から叩き付ける。ルストが傷付けど直ぐに修復される。
「ハッ、おっちゃんの拳骨は痛えだろ? よく味わいやがれ!」
グドルフの残した傷痕は未だ健在だ。それだけダメージが深かったのか。
『天の杖』も『エンピレオの薔薇』も、その傷が深く、その場所を抉れ、抉れ、抉るように叩き付けろ。
「ルスト、お前にとって人間など塵芥なんだろう?
無視し続けてみろよ、出来るもんならなァ! ――ムカつくんだよ、そのスカした面ァ!!」
シラスの拳は不意を衝いた。勢い良くルストの顔面を殴りつけたのだ。
「ぎゃあ」と叫んだのはカロルだったか。ただ、その声にシラスは唇を吊り上げる。
背後で、霧散していく滅びのアーク。其処に立っているのは、只の人間になったカロル・ルゥーロルゥー。
――そして、遂行者ではなく一人のイレギュラーズとして『立っていた』夢見 ルル家であった。
成否
成功
第3章 第9節
「ヒッ……待って、どういうこと……」
呆然と呟くカロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)はくるりと振り返った。
手を繋いだリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は『聖竜』の力をルストそのものに打ち込んだと見せかけ『理想郷』そのものに影響を与えて見せたのだ。
リュコスの有するギフトは『カミ隠し』。都合の悪いものを隠す事が出来る。
故に――卑怯で弱虫だと厭っていたそれを敢て利用したのだ。理想郷を壊す毒となれ、と。
聖竜の力を理想郷そのものに叩き込み、じわじわと侵食して見せろと。
無論、それを『隠し』た。リュコスの叩き込んだ力がこの理想郷を侵食し、ルストが自らを回復するスピードにも影響を与えているだろう。
「リュコス、生きてる!?」
「も、勿論」
こくこくと頷くリュコスは『欲張り』だったのだ。
ルストを倒したい。カロルを救いたい。だから、そう願った。
「わ、私は?」
「ルルも普通の女の子だし。ルストは顔面殴られたよ」
ひゅ、と引き攣った声を漏したカロルは「うそ、ルスト様の顔面は国宝なのに……」と呆然と呟く。
――『普通の女の子』
それはカロルの夢だった。聖女カロルは普通の少女のように生活をした事が無い。
聖女として扱われ、最期は断罪され有耶無耶に歴史の闇に消えていった。そんな彼女は恋をして、おしゃれをして、普通の女の子になりたいと願った。
それを可能としたのは聖女カロルが『聖竜』の加護を帯びていたこと。遂行者である彼女と聖女である彼女が分離していたことにある。
――ただ、運が良かったとカロルはぽつりと呟いた。
「でも……諦めないでよかったでしょ?」
夢見 ルル家(p3p000016)は笑う。
「大名、あんた」
「ズミちゃんがね、なんでもお見通しだったんだ」
小金井・正純(p3p008000)が右眼を穿ったと伽藍堂になった眼窩を手で押さえながら答える。
ルル家の聖痕は義眼に刻まれていた。その『鴉天狗の眼』にカロルは滅びのアークを詰め込んでいた。
つまり、ルル家は狂気状態に至っていない聖痕を付与された遂行者だった。それがカロルの聖痕という事だ。
「それでも、今、どういう……」
「ビックリするけど、私も普通に生きてるみたいなんだ。ズミちゃんだけじゃないかな、エクスマリア殿も……」
ゆっくりと振り返るカロルはエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は「この時を、待っていたんだ」と手を差し伸べた。
「ルル、聖竜と可能性(パンドラ)で、命が繋がった。庭園で、力が及ばなかったが、この機なら。
ルル家が願った。正純が、ルル家を救おうとし、リュコスもそう願った。何もかも、失わないと、決めたんだ」
「……それって随分なこと」
カロルが呟けばエクスマリアはさらりと言ってのける。
「――強欲、傲慢、知ったことか、茄子子の言う通り、魔種などより遥かに我儘なんだ」
偶然が重なった。ルル家の視線の動きに何かを為すならば自らが代償を負っても良いと正純が覚悟を決めた。
その吐露された想いにスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が仲間を集め、『聖竜』の力を使用するものを救うために尽力したのだ。
「……私、普通に生きて良いの?」
「良いんだよ」
「ルル家の好きな人ぶん殴っていいの?」
「それは、どうかなあ」
――私の好きな人の話、したよね。一つだけ秘密にしてた事があるんだ。
あの人はきっと、私じゃない人が好きなんだ。好きな人の事だから……わかっちゃうんだよね。
ルル家は思い出してから肩を竦めた。
優しい人だから、優しくしてくれる。残酷な仕打ちだとは思うけれど、彼の優しさに甘えていた。
だから、帰ったらその恋に終止符を打とうと思っていた。新しい恋を探しても良いなあ、なんて。
そんな風に笑ったルル家に「ルルちゃんは私が相手とかね」とスティアが戯けたことを思い出してからカロルは「何か、不思議ね」と呟いた。
「こんな事、在って良いんだ」
「良いんだよ。きっと」
リュコスがルストを欺くことを願った。そのタイミング。
エクスマリアはただ、喪わぬ事を願って、正純はルル家の『望み』に応えた。
それだけではない。カロルのためにと幾人もがその力を振り絞ったのだ。
「……良いのかなあ」
呟いたカロルはゆっくりと顔を上げた。何かを噛み締めている時間なんてない。
「ルスト様」
リュコス曰く『顔面を殴られた』男が其処に立っている。
自らを守る遂行者はもう居らず、理想郷は罅割れ続ける。
死しても、自らを理想郷をリソースにし修復し続け不死を保った男は言う。
「終いだ、カロル。貴様も、この天義も。朽ちて消えれば良かったものを――」
天義建国の聖女。人々を先導し竜までもを謀った大罪人。
その恨みが、天義という国を覆い尽くし、壊してしまうほどに兄弟に膨れ上がる『筈』だった。
「ルスト様。私、言いたいことがあるんです。……聞いて下さる?」
――あなたが死んでしまうその刹那なら、私は屹度諦めが付くのだろう。
雷が、空より降る。
焔が、地を包む。
水が、全てを蹂躙し、襲い来る。
終わりはもう、近いのだから。
====三章追加情報====
●追記情報
・聖騎士グラキエスの『聖骸布』によって『理想郷』に穴が空きました。
・聖竜の力がルル家さん、リュコスさん、エクスマリアさん、正純さんによって行使されました。
・『聖女カロル』に変化がありました。滅びのアークが打ち消されています。
(カロルはまだフィールドに居ます。それなりの自衛はできますが。それなりです)
・『夢見ルル家』さんが遂行者ではなくなりました。
・聖剣と聖盾が共鳴しています――! 使用可能です。
《冠位魔種》
【ルスト・シファー】
は? 貴様何をした。状態です。冠位傲慢もコレにはお怒りです。
めちゃくちゃキレてます。そろそろリソースも残り少なくなってきました。畳みかけましょう!
a、『天地創造』:全BS乗せではなくなりました。BS付与は数ターンに一度ランダムに疏らに行なわれます。
b、『生命誕生』:選ばれし民にもなれやしないような真白い顔の異形が無数に生み出されて居ます。数は多いですがザコです。
c、『天の雷』 :フィールド全体攻撃。威力は重ねることで多くなります。一度発動すると連続で繰り出されます。
d、『嘲笑の日』:単体への強攻撃です。とても痛い(現時点情報)
e、『神罰の波』:範囲攻撃。波濤です。必殺やらブレイクやら。ただし、これが出た時点で隙が出ます。
●その他情報
『聖竜の力』、『称号スキル』は発動を記載して下さい。これから先は事態が大きく動き続けます。
使用タイミングや『使用内容(方向性)』を記載し、宣言して下さい。
ただし、代償は求める者に応じて大きくなる可能性もあります。必ずしや覚悟を行なって下さい。
・『聖竜の力』を使用可能です。【各人一度のみ】。使用する際に宣言を行なって下さい。
例:外の攻撃に合わせて更なる打撃を行なう、ルル家さんに協力する、個人敵に利用するなど。
・リンツァトルテ・コンフィズリーの『聖剣』がゴリョウ・クートン(p3p002081)さんの『聖盾』と共鳴し始めました。
ただし、リンツァトルテ側はあまり使いこなせていないようです。何方かが支援しても構いませんし、イルでも構いません。
・イル・フロッタの所有する『聖ミュラトールの杖』の発動も可能です。プレイヤーの皆さんで使用を行なって下さって構いません。
第3章 第10節
●神墜I
敵なんて何も考えずに殺した方が楽だ。特に『終焉』の地では――クォ・ヴァディスではそうしたスタンスである事が求められる。
何れだけ相手が敵意を持たぬ存在であろうとも未知とはそれだけ強大な存在であるのだ。
「話には聞いてたけど、イレギュラーズっていうのは本当にお人好しが多いんだね。
うん、良いね……戦わないととか、勝たないと、なんて想いに縛られてないっていうのが実に良いね」
サングラスをとってから『特異運命座標』オリアンヌ・ジェルヴェーズ(p3p011326)はにんまりと笑った。
鮮やかな赤髪を揺らし、終焉の気配にも慣れた乙女は地を蹴り飛び上がる。目指すはルスト・シファーその眼前だ。
「やっほー。随分男前になったじゃない?」
「貴様、侮蔑かッ――」
鋭く睨め付ける男にオリアンヌは「わあ、怒ってる」と笑った。紅色のルージュの塗られた唇が吊り上がる。
「ま、貴方は悪くないと思うよ。普通に考えればこれは勝てない戦いだったからね。
――でも結果はご覧の通り。イレギュラーズの力とは別の強さをちゃんと見積もれてなかったね。ご愁傷さま!」
からりと笑った乙女にルストは憤慨した。降り注ぐ雷を避けながら進むのは『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)であった。
「不死なんてものに胡坐をかきすぎて技が稚拙にすぎるのじゃないかな?
まぁ、一撃一撃が洒落にならないのは確かでは有るけどね……言っただろう? その首何度でも撥ね飛ばす……ってね」
周囲に群がる有象無象を斬り伏せる。ラムダの導線上にはわらわらと集う者達の姿が見えたか。聖竜の力を使わんと用意する者も多い。
(――さて、ね)
此処から先は戦場がどう転ぶかも分からない。ルスト・シファーから見れば自らの掌の上で転がっていた筈の賽は勝手なことに卓より飛び出し見えなくなったのだ。
その忠信と盲愛。ある種の信頼とも言える『カロルの在り方』が覆された。恋情というルストにとって「最も不要で最も理解出来ない感情」に支配された女が寝返る、いいや、『滅びの手を払い除けた』のだ。
「カロル……ッ」
ルストを一瞥してからラムダはその時を待った。必ず、仕掛ける時が来る。それがカロルを狙うのか、それともルストそのものを畳みかけるのかは定かではない。
「色々悩みはあるんだろうけど、とりま自由になっておめでとう。
そうするしか選択肢がないのと、自由の中からその選択肢を選ぶのは全然違うからね」
オリアンヌはひらりと手を振った。『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)の傍で保護されていたカロルは「有り難うとだけ返すわ」と凛とした声で言った。
ああ、何だ。彼女はそれ程『ヘコ』んでない。叩きのめされる訳ではなく、自らが進むべきを定めたのだ。
「自由になった上でルストくんを好きだから敵対するのは私的には全然オッケー。貴方の人生なんだから貴方が決めなきゃ。
助けて貰った恩義があったって、助けてくれた人の言うことを聞かなきゃいけないなんて事は全然ないんだからね」
「正直」
カロルはぽそりと呟く。オリアンヌとルナは何を言うのだと元・遂行者の顔を見た。
「正直、ルスト様がガチ切れしてる顔、推せるわよね……」
――本当にこの聖女は強かだ。だからこそ、選び取れたのだろう。
「傲慢様にとっちゃ、自分の手のひらの上と思ってたのにどんでん返しされたんだ。
生かしとくにゃプライドが許さねぇんじゃねぇのか? だからこそよ。そいつを生かしきりゃ、いい意趣返しになるってもんだろ」
「あら、それが私の運搬理由?」
問うカロルに「まあな」とルナは肩を竦めた。ひょい、と抱え上げてから「どうする」と問う。
「カロル、やり残しは?」
「ルスト様に言いたいことがあるわ。それに、私が此処に居ればアレフが力を発揮する」
「了解」
ルストの攻撃を避け逃げ回る。そして、護衛役の所にまで『運搬する』と告げるルナにカロルは「もうちょっと優しく抱き上げられないわけ?」と不遜に行った。
「今の私、俵じゃないのよ。そっと降ろしてプリンセスっぽく扱ってよ。白馬の王子様までは求めないけど」
「あ゛? 白馬の王子様が良かった? 知るか。俺だって抱くならラサの女がいいさ」
「天義の女だけど、ラサの女くらい強かで可愛いわ」
うるせえとルナは呟いた。何処まで行ってもカロルは強かで明るい娘なのだ。それでも、彼女が狙われることは確かだ。
「まったく、いつぞやの豊穣の日を思い出しますね。
……ルル家さんは突飛なことをするし、彼女の友人たちはさも当然のように同調するし、本当に――とんでもないひとですよ、貴女は」
嘆息する『豊穣の守り人』鹿ノ子(p3p007279)の視線の先には『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)が立っていた。
ルナと共にカロルを連れて後方に下がらねばルストに目を付けられるのは確かだろう。鹿ノ子はルル家を庇うように立ち「後方へ」と告げてから、はたと思い出す。
悔しいけれど、言っておかねばならない事がある。
「おかえりなさい、ルル家さん。貴女には言いたいことも聞きたいことも沢山ありますが、それは後回しです」
普通の女の子となってしまったカロルと未だ本調子ではないだろうルル家。二人を護衛するイレギュラーズ達と共に安全地帯に送り届けるべきだ。
鹿ノ子の握る刀がきり、と音を立てた。
「ルスト・シファー。此方は取り込み中です。少々お待ちを――」
雷が地を叩く。些か不愉快そうな顔をしたルストに鹿ノ子は嘆息してから向き合った。
「……ひとの話は最後まで聞くものですよ?」
一緒に頑張ろうね。そう告げたルル家は後方に下がったカロルと共に天を見た。
ルストが居る。罅割れた空と崩れかけた世界が居る。軋轢を生むこの世界は彼の不死性を否定している。
――まるで、敗北までのカウントダウンだ。そう思わせるのはルル家にとって全ての事が上手く運んだからである。
「……ここから何があるか分んないわよ」
「そうだね。ここから私達が死んじゃったら本当に笑えないからね!
かつての想い人と戦うなんてキャロちゃんにとってはつらい戦いだろうけど……」
「今も想ってたらどうするのよ」
掠れた声を出したカロルにルル家はぎゅ、と手を握ってから「私がついてるから。ずっとずっと、一緒にいるから」と言った。
カロルは俯く。彼女は僅かながら聖竜の加護が感じられる。アレフと同化した事により、アレフの魔術が多少なりとも身についているのだろうか。
それとも、聖女とまで呼ばれた彼女には祈りの力と言わしめる者が存在して居るのかは定かではない。
(皆にバフをかけてもらいたいな……けど、辛いよね。だってキャロちゃんの本当の戦いは、きっと今からだからね……。
キャロちゃんがルストに言いたいことを言うまで、絶対に倒れない。絶対に傷一つつけさせない)
聖女だった人。
――迫害されて、全てを奪われた人。
その人はただ、愛おしいと唯一と、己の全てだと言ったその人と決別をする。それまで。傍に居なくては。
(……アレフは喜んでくれるかな。
キャロちゃんが普通の女の子としてこれから生きていけるんだから、きっと喜んでくれるよね。
ありがとうアレフ……貴方がキャロちゃんを守ってくれていたから、力を貸してくれたからこの奇跡は成し遂げられた)
ああ、聖竜だけではない。あのお茶会の会場で命懸けで奇跡を紡いでくれた仲間が居たからだ。
(本当に……私達は幸運だ、素敵な仲間に恵まれた。
まだ、『まだ使ってない力がある』。わがままばっかりで申し訳ないんだけど、もう少し力を貸してね、アレフ!)
ルル家は真っ直ぐに見上げた。その先に、頬杖を付き苛立った様子のルストがじろりと行く先を見据えていることが分る。
「忌々しい。聖竜はだから嫌なのだ。何時も邪魔ばかりをする――」
憎らしげにルストは呟いた。その言葉を耳に為てから『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はふと首を傾いだ。
「なあ、ルナールせんせ」
「どうした。突然魔種が見たいと言いだしただけでも驚いたのだが……本当に行くのか?
付き添いできた身で言うのもなんだが、まあまあ、派手なことが起こっている。ほら、世界が崩壊する場面なんてそうお目にかかれない」
妻の身を守るが為に立っている『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)は後方で楽しげに笑ったルーキスを見た。
ルストに狙いを付ける。先程『殴りつけられた顔面』に激しい苛立ちを有する男の『顔面』に一撃――というのはなかなかの難関か。
「散々ドヤ顔してた魔種がお誂え向きな恨み言を吐いて地団駄踏んでるんだよ。見たかったよね」
「いや……?」
「趣味が悪いって顔している。あっはっは!」
揶揄うように笑ったルーキスは中距離にまで近付き――『威張り散らした男』に向けて破邪の魔術を放った。
それは銀花結界と呼ばれる賢者の法力。ルーキスの星灯の書のページは魔力を伴い音立て開く。
「さ、少しだけ相手をして貰っても?」
ルーキスをその双眸に映したルストが「黙れ、虫螻め」と囁いた。愛しき妻を虫螻扱いされるのも不愉快だが、何よりも――その目が殺意を滲ませ、魔力を宿した指先が揺れ動いたことをルナールは見逃さない。
「おっと、攻撃を食らう様子も格好いいよ。顔が良い、なんて一人にしか言わないからね」
ルーキスのその言葉だけでもルナールは戦う力が漲ってくるのだ。
(……おお……遂行者は人に、仲間は戻って、冠位魔種に手が届く。
いなくなったグドルフだって決意と共に戦った。
英雄譚ならクライマックスな状況だけど、これはイレギュラーたちみんなが積み上げたからだ! おれっちも紙一枚、ルストに届かせるために積み上げるぜ!)
自身の支援は遠くにまでは届かない。だが、『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)にとって慣れ親しんだ支援術はルストと相対する仲間達を励まし続けるのだ。
「任せてくれよな!」
リックの指揮を受け、前線へ。駆ける『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の手には『罅割れた禍斬』が握られていた。
「見たよね、ルスト。人間は貴方の想像なんて遥かに超えていく!
不可能に思える事だってずっと成し遂げてきた――それが特異運命座標……私達イレギュラーズだ!」
サクラ・ロウライトのその身を包み込む魔力は慣れ親しんだものだった。華咲かせる鮮やかな聖域、『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は祈るように指を汲み合わす。
「ルスト、貴方が壊そうとするものは全て守ってみせるよ。天義という国、そこに住まう人達、それにルルちゃんも!
……まだ本気じゃなかったのかもしれない。でもそれはこっちだって同じだよ。
今まではルルちゃんを取り戻す為の戦い。これからは貴方を倒す為の戦いだー!」
びしりと指差すスティアにサクラは「スティアちゃん、行ける?」と聞いた。
「勿論。サクラちゃんこそ間違えて、ががーんしちゃだめだよ!」
「しないよ――だって、私達は!」
天義を護る騎士として――!
決着はまだ遠い。畳みかけなくてはならない。
まだだ。まだ。まだ、ルストを削らないと行けない。勝負の土俵に漸く立ったのだ。
(なんて苦境、なんて苦難。あぁ、こんなに苦しい状況だっていうのに全く不安はない。
だって私の隣にスティアちゃんがいてくれるから、周りに仲間達がいてくれるから、天義で応援してくれている人達がいるから!)
サクラは『ロウライトの使命』を胸に奔る。自らの正義は、揺らぐことはない。
「護りきってみせるから」
スティアは囁いた。思い残すことがないように。ただ、全力で此処まで来た。
生きる為だった。守る為だった。救う為。皆が望む『未来』の為だった。
スティアは、ゆっくりと振り返る。視線の先にはイルが立っている。サクラがひらりと手を振った。
「リンツくん、聖剣は大丈夫そうだね。ゴリョウさんの激が効いたかな? 頼りにしてるよ!
イルちゃん、リンツくんを助けてあげてね。あれ、二人で使ってもすっごくキツかったから!
……別にマウント取ってる訳じゃないからね!?」
リンツァトルテは「確かにアレは大変だったな」と肩を竦めた。イルはマウントと呟いてからリンツァトルテとサクラの顔を見比べる。
「ま、まさか先輩――」
「イル……落ち着きなさい」
嘆息するリンツァトルテにスティアは『ああ、これがいつもの日常だ』と笑った。
「ねぇ、イルちゃん、リンツさんは任せたよ。最後に力になれるのはイルちゃんのはずだから!」
「スティア、私は……」
「……何もできないなんてことはないよ。傍にいて、笑ってあげるのがきっと1番力になれる。
そしてリンツさんが自分を信じられないならその分はイルちゃんが信じてあげれば大丈夫! ずっと見守ってきた私が言うんだからね」
私は、スティアに生きて欲しいよ。
サクラが、言っていたじゃないか。正義って――私は、こうするのが正しいと思うんだ。
そうだね。あの時からずっと生きてきたよ。我武者羅に。
イルちゃんが憧れた先輩の隣を歩いて行くのだって、見てきた。イルちゃんが騎士になったのも自分のように嬉しかった。
それに、ルルちゃんとも今から一杯一杯遊ぶことがあるんだ。
私は『聖女』を目指している。天義の国もよくしないと行けないし、終ったら遣ることが一杯だから。
「ねえ、サクラちゃん」
「どうしたの? スティアちゃん」
「とりあえず、駆け付け一杯、ってことで! あの傲慢な男をぶん殴らないと! スティアスペシャルアタック! 合せて行くよ!」
それはちょっと、とサクラが何とも言えない顔をしたのは、気のせいではなかった。
成否
成功
第3章 第11節
●神墜II
「山賊は男だった! ルルハウスくんは帰ってきた! 始めるか……!
世界の命運をかけたラストバトル! 行くぞおおおお! うおおおー!!!」
雄叫びを上げて駆けるのは黒衣の少女だった。聖騎士の装束は後方に控える聖騎士団の精鋭達を奮い立たせることであろう。
緋い刀身が風を切る。『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は『決戦兵器』である己の身を顧みない。
「ハッハァー! 決戦じゃん決戦! マジヤバくね? 先陣を切ってみんな駆けてくぜぇ!
ま、騎兵隊の反応も良き良き。というわけでー……戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 貴様を抹消する!」
戦神を名乗る娘は容易に倒れない。共に立つは『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)はストッパーであり、同志であり未来誓い合った仲だ。
「はじめましてルスト! そしてさようならだ!」
ルストに『風穴を開けた』のはグドルフと紫電が言ったか。
――いいや、『アラン・スミシー』だ。『盗賊』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は声を張り上げる。
「俺ァ悪党だ。グドルフ・ボイデルと同じだ。だからな、間違った評判が我慢出来ないんだよ。
俺のダチ、山賊グドルフはイレギュラーズを裏切り、そしておっ死んだ。悪事の限りを尽くした悪党らしい最期だ。
その後、ルストの胴を穿ったのはリゴール・モルトンの友にして、聖職者アラン・スミシーだ」
「およ」
秋奈は振り向いた。紫電は「いいのか」と問う。彼が身を挺して風穴を開けた。
「いいんだ。この方が正しい。だから、絶対に譲らねェぞ!」
堂々と告げるキドーに「なら、それでいいだろう」と紫電は笑った。ルル家が賭けに勝った。『アラン』が一撃を放った。
全力でルストに突撃をするキドーと共に紫電は『全ツッパ』で駆け抜ける。
「オレたちに散々やりたい放題させたのが運の尽きだったようだ。
……知ってるか?。クソみたいな『傲りと慢心(プライド)』が、お前を滅ぼすんだ。理想を抱いて、此処で果てろ!」
叫ぶ紫電は秋奈との連携を絶やさない。その様子を見ながらキドーは、先を行く『海賊』と『山賊』を思い出した。
(楽しかったなァ。酒場『燃える石』でさ、安酒かっくらってバカみたいな言い争いをしたモンよ。
……俺、あんな楽しい思いしたことなかった。
元いた世界じゃあ、まともに扱われた事なんてなくて。特に歳上の男からは目に見えてすらいないみたいだった)
身体は小さく力は無い、盗みも平凡だった。ゴブリンに向上心なんてものはなかった。
それでも自分が扱える程度の小さなラッキーを何時も探して――今じゃ、老いて行かれたくないと『彼等』の背を追うのだ。
随分――遠くまで来たな。
「ルスト様……」
後方に下がったカロル・ルゥーロルゥーは激戦を繰り広げる『好きな人』と『好きな人達』を見ていた。
『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)はと言えば、カロルの盾となり立ちはだかる。
「どうですか?『普通の女の子』になった感覚は。
……沢山の人に囲まれて、沢山素敵な経験をして、『普通の女の子』から『普通で素敵な女の子』になっていく。
だからどうか『人と共に在る神様』として、貴女のこと応援させてくださいね……見守ってますよ」
「妙見子も普通の女よ。混沌ではね、認められた命は全て平等であるべきなの。なんて、元聖女の言い分よ」
呟いたルストに妙見子は肩を竦めた。何かを違えれば己もルストと同じような事をしていただろう。
ずっと破壊だけをしてきた。そんな神様は雪解けの日に人と歩む神様になった。人として歩み始める彼女を護れることは妙見子の誇りだ。
何も、全てが幸せなわけではないだろう。苦難もある。それでも、それをも笑い飛ばせる幸福が屹度訪れる。
(どうか、祝福を――)
そっと手を握り締める妙見子の前を『未完成であるほうが魅力的』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は駆け抜けた。
「たみちゃんはルルちゃんの盾――なら、わたしたちは顔がいいルスト様のところ、ね! トールちゃん。
ところでトールちゃん、すっごくかっこいいわぁ びっくりしちゃった」
「ありがとうございます、メリーノさんのような素敵な女性にお褒めいただき光栄です。
僕が『ちゃん』ではなく『君』だった事情はルストを倒し、天義の行く末を見届けた後にゆっくりと話しましょう」
穏やかに微笑む『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)にメリーノは頷き――
「さ、ルルちゃんがとっても褒めてたお顔、一番近くで拝ませてもらうわ!」
「ルスト・シファー、カロルさんの騎士として貴方を倒しにきました。ついでに顔の良さ対決も負けるつもりはありません」
相対した。傲慢なカミサマをメリーノは嫌いではない。けれど、傲慢なカミサマは間に合っているのだ。
ちぃっとも出て来てくれやしない『絶対的なカミサマ』がいるのだもの。
「はじめまして、ルスト 本当にお顔がいいのね。
怒った顔も悔しそうな顔も最高だわ――一緒に踊ってくださる?」
「貴様と踊る理由が何処にある。カロルから俺の目を逸らすつもりか」
「余所見だなんて、酷い男ねぇ」
くすりとメリーノは笑った。――ああ、余所見をしているのは自分も同じだけれど。
「さあ? 応えてくれる相手は居ないわ。お前のまわりは全部敵で、お前は一人ぼっち。
一人ぼっちの神様は、ニンゲンに討たれるものって、相場が決まってるのよ」
睨め付けるメリーノへとルストが掌を翳した。焔の気配は女の身を焼けども構わない。
トールはすらりと輝剣を振り上げてから男を見た。
「僕の周囲にも神様はいますよ。貴方とは比較にならないほどヒトに親身で愉快な神様がね……。
そんな身近な神様だからこそ、僕は信仰ではなく親交を抱いている。だからこそ愛される、だからこそ輪が広がり大きな力になる。
上から世界を見るのではなく、目の前の身近なヒトを大切にするべきでしたね。
その小さな過ちが大きな綻びになったこと、身をもって思い知れ! ルスト・シファー!」
「黙れ」
ルストの怒りが天より地を打った。その気配に身を竦ませながらも『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は駆けて行く。
ああ、けれど――少しだけ、物足りないのだ。
(ネロさま。共に駆け抜けてきた貴方も、此処に居るべきだった、から。
……いいえ。この戦いの先で、きっとまた会える。
だからわたしは、未来を引き寄せなくては。ねえ、ネロさま。待っていて下さい、ね)
行方知れずになったその人が、帰ってきて笑える未来を求めているのだ。手を伸ばすことは、屹度悪い事ではないはずだから。
メイメイは仲間達を護るべくルストの元へと飛び込んで征く。
持ち得る一撃を、続けて、一撃。
「随分と……苦しそう、ですね、ルスト。
人間は、貴方が思うよりうんと強い生き物なのです。生きて、いるのですよ……人形なんか、じゃ、ない」
遂行者たちをそうやって作ってきた。その罪は償うべきだ。
――カロルという一人の女の子の大事な、大事な瞬間を後押ししたい。それはメイメイも女の子だからだ。
「……豊穣にいらした時は、理解が及ばない御方と思いました、が、今は、カロルさまの味方です。
次は、歓迎しますから、ね。雪景色も、綺麗な場所ですよ」
「ホントに、イレギュラーズって、物好きねえ」
カロルはぽつりと呟いた。その姿は、セナ・アリアライトにとっても奇異な存在に映ったのだろう。
「遂行者が――」
「ええ。ルル様が……であれば、私も。すべきを成すために頑張りませんとね。ヴェルグリーズ。背中は任せます」
『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)は小さく息を吐く。
兄は騎士団として周辺の掃討を。そして、己の背中は『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)に任せた。
「キミがその力を振るうのならその想いが正しく届くように俺も力を尽くそう――もちろん、任されたよ相棒。キミの思うままに」
星穹はルストの攻撃を受け止めると決めて居る。嘲笑う焔の気配はカロルやリンツァトルテが喰らえば堪えようがない。
だからこそ、群がる異形を斬り伏せて、星穹に来たるべき瞬間を任せるのだ。
「カロル」
呼ぶルストの声にカロルの肩が震えた。
あの声が呼ぶ事が至上の喜びだった。あの眸が己を見ることが何よりも愛おしかった。
「後ろへ」
囁く妙見子を見詰めてからルストは「カロルよ、敵に護られるのはどう言う気分だ」と問うた。
「聖竜が何を為したとて、お前は所詮はお前だ。
天義建国に携わり、人心を誘惑した罪に問われた魔女だった。この国が憎らしかった筈だろう」
「私は……」
「そうやってお飾りのトロフィーになって流され続けていきたくはないと俺の手を取ったのだろう。
利用されるままに利用され、生きていくのが苦しいと。だからこそ俺はお前がアレフと共に在ろうとも『許して遣った』――が、それが間違えだったか」
ルストの眸はまじまじとカロルを見ていた。
星穹が駆ける。男は真っ直ぐにカロルを見ている。『遂行者』であった女を殺し聖竜の力が借りれぬようにするつもりなのだ。
(アレフ。どうか守る力を与えてほしい。
このままでは真っ先にルル様が殺される――そんなのを未来として叶えるなんて認めない)
掴んだ未来を、星穹は離したくなかった。
「ねえ、応えてくれますか、アレフ。約束は必ず守ります。
……誰かの帰る場所であるこの国と、ルル様が笑う未来を、守りたい。私は――」
飛び込んだ星穹の身体に熱が爆ぜた。冠位傲慢は人一人を殺すが為にその力を放ったのだ。
爆ぜる焔は命の欠片のようにも見えた。天から降る雷に身を打たれようとも、息絶えることは無かった。
痛い。聖盾に任せた方が良かった? 共鳴したあの盾は屹度誰もを守り切る筈。一度きりの、力だ。
(それでも――私だって守りたかった。
ようやく何も気にせずに、ルル様が笑える未来を。
お兄様と一緒に家族を弔う未来を。ヴェルグリーズと歩んでいく未来を。だから引くわけにはいきませんのよ)
唇を噛み締める。星穹の前で、火が爆ぜる。ヴェルグリーズの呼ぶ声がする。
それでも、女は挫けず立ち続けた。真っ向から受け止めた、屹度、冠位傲慢にとっては『目の前の女が生きていること』が予想外だ。
焔は星穹の盾に吸い込まれて行く。神聖なる気配を受け、聖竜の加護が宿された盾はその焔を食らい、糧としたかのように。
「聖竜――ッ」
苛立ちを滲ませる男に星穹はくすりと笑う。
「案外しぶといのです、人間は」
その身体をヴェルグリーズは支え、真っ向から睨め付けた。
「彼女と仲間たちが命懸けで手に入れてきた力だ、きっと俺達の助けになってくれる。
――もうお前を守るものなんて何もない、このまま消え去れ冠位傲慢!」
「今に貴様等に神罰が降るだろう」
地を這うような声音であった。雷は荒れ狂い、空に開いた穴は罅割れ落ちてくる。
倒す為ではなくて、守る為。男の『放った焔を吸収した』星穹の唇は吊り上がった。
「貴方が屠れるものなんてもう何も無い。
この理想郷だって崩れていくのに、貴方だけ生き延びられるなんて思わないで。
沢山の人の命を踏み躙って今更生きたいだなんて、願わせない!」
成否
成功
状態異常
第3章 第12節
●神墜III
「さっきは司書殿を狙ったようだが……言ったよな? やらせん、と。二の太刀だ……!」
司令官を狙う作戦は『当たり前』の事だ。冠位傲慢は定石は外さない。『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は睨め付ける。
「神罰の"波"―と、ほざいたか。傲慢。相手が悪かったな。
海を、絶海を超えた、モスカの奇跡を感じた我々に対して、波と言ったか……!」
あの奇跡は確かに存在して居た。響く音色と竜の器。その在り方に痛烈に魅せられた。
レイヴンの産み出す漆黒の気配を飛び声で、リトルワイバーンが飛翔する。「なんの、まだまだぁ!」と叫んだ『こそどろ』エマ(p3p000257)は痛みなど遠く置き去りにしてやって来た。
「終わらせたいのであれば私を倒すか、あなたが倒れるかです、ルストォ!
この騒動、決着の時は来てますよ! 頑張りましょ、イーリンさん! コイツを倒して、今年はシメですシメ!」
上空から飛び込んで行く。超高速で飛び掛かったエマをじろりとルストが見た。
「小癪な」
「ふふ、でも捉えられますか?」
たとえ雷に打たれようともエマは止まることは無い。そうして繰り返し継続するのだ。空は『己のフィールドだ』と『簒奪者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は自負している。
「レイヴン! それから『俺』! 行くぜ!」
レイヴンが頷く、そして――『俺』こと『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は笑った。
「さぁ舞台も大詰め。
くっだらねぇ独りよがりの能書きにしがみついた外面だけ良い男をふっとばして――盛大なフィナーレといこうじゃねぇか。なぁ、大将? 『俺』」
名が同じであったのは偶然だ。シャルラハ家の嫡男は、舞台演出を手がける男と共に進む。
「――花束をくれてやる。その顔が歪む位の……な?
まぁ、花が『どこから』咲くかは言わなくても分かるだろ? カーテンコールはお前の為のもんじゃねぇんだ。だからお前には聞かせてやらねぇよ」
鮮やかな花。フィナーレを呼ぶその気配と共に、赤き勇者は飛び込んだ。
背を押されるようにして降る緋色の雨。翼が揺らぎ、卵の殻が罅割れたように理想郷がぱちりと音を立てる。
ああ、無様ではないか。聖竜に『してやられる』男を見遣ってから『薔薇冠のしるし』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はその大きな眸をじらりと向けた。
「さて、個人的大一番は、終えた。……あとは、ルスト。ルルの思い出として、散って貰おう、か。
聖竜の力は無くとも、元聖女の応援があるから、な。――お前が神を称するならば、『神話殺し』の務めを、果たす」
盟友の元に欠け参じたエクスマリアは神を殺すが為に構えた。隙を作り出すまで、手にした剣は鋭く研ぎ澄まされる。
聖竜の加護など在らずともエクスマリアは健在だった。その身、その心があれば勝利を掴めると信じている。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と共に、進む。前へ。前へ。欠けてはならない。
流星の心臓を燃やせ。大激励で旗を掲げ、進むのだ。群にして支え合い、欠けることを厭う傲慢――ルストの傲慢との『背比べ』だ。
「この戦場で、誰よりも貪欲で、誰よりも傲慢で、誰よりも望んでいるは。他の、誰でもない『私達』よ!」
吼える女の背を、幾人もが追掛けた。
傲慢とは一度崩れれば須く崩れゆく脆き虚仮威し。
幾多の世界眺めれど其は等しく定められし宿業、運命とも表す。
『虚栄世界の支配者』夢野 幸潮(p3p010573)は知っている。混沌世界に置いて『世界を変化させる可能性』を宿す特異運命座標でなければ運命は覆らないのだ。
「化けの皮から面の皮も剥がされて、汝が被り重ねた全ては失われる。
精々理想郷を御自慢の鉄面皮を以って抗うがいい。然し──今の汝には傲慢よりも憤怒の方が似合いそうだが」
不完全なる権能が理想郷と呼ばれていたのは、それを打ち破るだけの準備がこれまでは存在しなかったから。
何かが欠けては為せ得ぬものである。何せ、誰ぞの決意と覚悟がなくてはならないのだから。
「戦場も終幕が近い。文の世界に生きるモノらよ疾く走れ――汝ら身持つ意思が願う美しき終わりの為に」
自らは『意思生命体』だ。己があるとなればある。だが、混沌という世界では確固たるものはない。メタファーと確定ロールと呼ばれる概念は『そもそもに置いて存在し得ない』事を念頭に、不条理だと叫ばねばならない。
"口癖"というものはいつになっても付いて回るが、この先を書き示すのが役割なのだ。
「もう少しよ! 前へ! 前へ! すすめぇ!」
――彼女だってそうだった。前を目指す。絶対、絶対、絶対。目立って、夢を護って、騎兵隊に名誉を。
己がアイドルだから護ってみせると『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)は告げて居た。
奇跡なんて、願わない。誰も死なないなんて事、『神様に願うような奇跡で』選ろうなんて想わない。
「生きなさい! 魅せるわ全員生存! 私が立つ限り皆の夢は潰えない! 私も絶対生きる。それが私のエゴ(愛)よ!」
叫ぶレイリーの闘志が燃える。行進曲は高らかに。決死の盾としてその身を砕く。痛みなんて、明後日に追いだしてしまえ。
騎兵隊の『盾』として。レイリーは、『歩く禍焔』灰燼 火群(p3p010778)は立っていた。
「俺はね。余程の事がない限り『死ねない』からこそ、『同じ苦痛を味合わせたい』んだよね。
『苦しい』って言ってくれる? 『痛い』って言ってくれる? 言っても言わなくても良いよ。ずっと続けてあげるから。お前が事切れるまで」
火群の唇は吊り上がる。ルストに向けて駆けて行く。敵を呑め、痛みを与えろ。憎悪と共に、闇に蠢く牙を突き立てる為に。
ちり、と淡く火が爆ぜた。呪縛のような命の在り方が火群を立たせ続ける。その痛みを越えて、混濁する意識とて『生半可じゃ味わえない』事だ。
(騎兵隊は健在だ、誰も戦線離脱していない。
――ならば俺達がすることは変わらない。ルスト・シファーの首を獲るまで変わらない!)
何れだけ傷付こうとも進もうと叫ぶ守り手がいる。支援を行なう仲間が居る。だからこそ、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は駆けて行くのだ。
「傲慢になると引き際も分からなくなるのは道理だな。分水嶺はもう越えたぞ、貴様が利用していた駒ももういない。誰にも看取られずに旅立つがいい!」
傲慢さに胡座を書いて、その存在に相応しい力を兼ね揃えているというならば。
世界を敵に回してもなお比肩しうる力を持っているのなら、とうの昔に俺達の首が2、3個程度は宙を舞っていなければおかしいはずだと嘲って見せた。
「いいことを教えてやろう。
できもしないことを言うのは、傲慢ではなくて大言壮語と言うんだよ――実力が伴わないホラ吹きというのは正直言ってダサいぞ」
「ならばほら吹き男に対して貴様等の仲間は無駄死にでもしたと? 殺し尽くしてやろう、貴様――」
ルストはそれこそ一等馬鹿らしく笑って見せた。傲慢たる男の周囲に激しくも雷鳴が瞬いた。その鋭さは身を貫き落ちていく槍の如く。
槍の雨降る戦場と思わせれば、神罰に呼ぶに相応しいか。天の嘶きの中で支援を行なう『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)は「ふむ」と呟いた。
「冠位魔種の首ともなれば、とても需要がある事間違い無しですね。
そういえば直接的に首を欲しておられる方はまさに今大勢いらっしゃいますが…首とは別にまさにルスト様を欲しておられる方もおられるご様子。
……やはり、とても大きな需要がありますね。首だけと言わず全身仕入れたい所」
「何を言って居る?」
「ああ、誤解を招いたなら申し訳ありません。私はお金儲けや商売がしたいというわけではございません。人の需要を満たすのが趣味なのです」
ルストそのものを欲している者が居るのは確か。顔面が良いという言葉からも彼そのものには非常に需要がある。
そんなことを考えながらも倉庫マンは味方周辺に支援を行ない続けた。彼を牽引するのは『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)その人だ。
治癒班を引っ張り、前線を押し上げる。そして、危機的状況に全員が力を合わせられるようにと意識をし続けるのだ。
皆の渾身の総攻撃を受けたルストに回り込む。終る前に途中で吹っ飛ぶなんて事を防ぐが為、男は『一人も倒さずに退くような事は無い』相手だと認識したからこそ作戦だ。
プリンは遠慮無く『寄りかかって』来て構わないと認識していた。ただの一人、それでも彼の権能は絡繰りが破られなければ堅牢だった。
例えば、遂行者として寝返っていた楊枝茄子子がその剣を男に突き立てることが無かったなら?
例えば、薔薇庭園で九人ものイレギュラーズがアレフの力を得るに至らなかったなら?
例えば、フェネスト六世が死亡しており天の杖が利用されなかったり、血潮の書が失われエンピレオの薔薇が咲かなかったならば?
その全ての合わせ技だ。絡繰りが読み解けたからこその賜。それは仲間達との協力のお陰であるともプリンは考える。
「冠位を打ち倒すために、騎兵隊として生きて勝つ! ――これで一つ! 貴族騎士奥義『碧撃』!」
一気に畳みかけろ。『策士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は駆けて征く。鋭く叩き付ける一閃に雷がぶつかった。
ルストは理想郷の維持にも、有象無象を産み出す事にも最早リソースを欠けては射ない。雷は男の意のままに蠢き蛇のように変化する。
「成程、其れは素晴らしい技術だ」
手を叩き合わせて見せたのは『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)であった。仲間達の支援、それはその行動をベースの上で底上げするという重要な役割だ。
「雷が蛇のように地を這い、相手を喰らう。それは毒のように身を包み込み、苛むことさえ忘れぬだろう」
シャルロッテはまじまじと見ていた。ルストは不遜に鼻を鳴らす。『見定めたこと』だけは褒めてやろうとでも言う様に。
「機はこの直後に来る、さあ……最後に向け息を合わせ隊列を整えよう。
我ら騎兵隊が全てを攫おう! 我ら騎兵隊に敵なしと何度でも叫ぼう! 勝利は我らが手にありと、その気迫で敵へと理解させてやれ!!」
あの旗が見えるだろう。揺らぐその美しさを追掛けろ。騎兵隊は旗に集うのだから。
「天からの雷に地は火の海。オマケに津波とまるで終末だな?
だが崩れてるのはお前の理想郷!! さぞ目覚めは最悪だろうな!?」
何が理想郷だ。ただの赤っ恥の妄想ではないか。ティンダロスと共に進む。『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はぎらりとルストを睨め付けた。
大号令まで、ただ、待てば良い。温存しろ。隙を見付けろ。叩き付けるまで男の気を惹くのだ。『騎兵隊』は何ら変わっていないと、そう想わせるぶるために。
「さっき言ったろ? 翼もぎに来たってよ!!!」
太陽神の真似事にも鳴りゃしない。神話のオオカミは牙を立てて直ぐに引き摺り下ろすのだ。鉄帝国のフローズヴィトニルが鎖に縛られ、太陽をも飲み食らったが如く。
「ウチの隊長の言葉、その身に文字通り刻んで地に堕ちやがれ!!!!!」
地に落ちれば、全てが終る。それで『遂行者』達の無念が晴らされるのだ。リスティアも、オウカも、アリアも、アドレも、待ち受けていた者は信念があった。
其れ等を殺す事で越えていくと『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は胸に決めて居た。理不尽にも思えた『宿敵』であった聖女とて、最後は自らの信念でイレギュラーズの手を取った。
――その結果は、分りきっている。
「皆の信念に、願いに! お前はそれに応えようともしなかった! 神であり王であるというならそれに少しでも応えてやるべきだったんだ!!
今この場で生命を賭した者たちすら軽んじるお前には神の資格も王の資格もありはしない!
お前程度の傲慢さで!! 彼女が――『俺たち』が、止まりなんてするものか!!!」
――神が望まれる。
その言葉の通り、雲雀は知っている。彼女は望まれるのだ。
暗黒の海も、大海嘯も、永遠の微睡も、黒い太陽も底知れぬ胎も越え、神罰の波すらをも越えて征く!
この大多数を前にしてルストのリソースが削れて行く。押し切るまで、まだ、遠い。だが、『神罰の波』を一度受け流す事が出来るだけの図体と備えがこの騎兵隊にはあるのだ。
臆するな、進め、進め。空より癒やしを。『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の声が響き渡る。
天上の音色を奏でろ。ルストをよく観察しろ。「恐ろしい波だってわかっていれば取れる手段はあるよ!」と決意をする。
ルストの雷が地を這い迫り来る。焔の気配が濃くなった。花園も、楽しげな子供の声もない。伽藍堂の理想郷。
(この人は、何も持っていないのかな)
持ち得るはずの夢も、理想も。何もかもがない。己が神になろうとも『得られる者』はないのだ。ただ、王で在るべくして空の玉座を与えられた飾りの六翼。
そんな男に、負けて等なるものか。痛みなんて、遠く置き去りにして奔れ。『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)はイーリンを護り続ける。
騎兵隊の盾となり続ける。それが『先輩』の願いだった。後輩は走り抜けてきたその決意だけで冠位傲慢に向かい合った。
「勝ったつもりか、『騎兵隊』め」
「ああ……そのように仰って……まだ殴られ足りない?
では何回で死ぬか試してあげます。ほらほら俺達はまだ元気ですから、幾らでもお前を殺せますので。
さあ、全ての恨み悲しみを背負って跪きなさい、傲慢な箱庭の王――ルスト・ルシファーの劇は幕が落ちたのです」
誰もを守る為の気概がそこにはあった。胸に刻んだのは『全員を救う』という傲慢な想いだ。『決別せし過去』彼者誰(p3p004449)は佇み、その身を盾とする。
粛々と庇い、そして行く手を遮るのだ。その背には『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)達の命が背負われている。
治癒を行なう者が居なければ、進むことは難しい。盾が居なければ、全てが藻屑の泡となる。攻撃手が居なければ、何れは押し負ける。
知っているからこそのチームプレイだった。
(ここまで全員で前に進んできました。帰るときも、全員で帰ります。
全員が前に進むために、傷を負っても、倒れないように――足が止まらないようその背中を支え、押し出すために)
ノルンは決めて居た。皆で帰るからこそ、前を征く『命の欠片掬いし手』オウェード=ランドマスター(p3p009184)たちを救うのだ。
「強がりなのはお互いじゃな……その程度の津波なら流されぬッ!」
闘士を全開にしろ。崖に墜とされた者やリーゼロッテの代理として。ただ、自らの姿を示すのだ。
一瞬でも良い。あの嘲笑の顔を歪ませることを目的に奔るのだ。
叩き付けた斧に雷がぶつかる。まだだ。まだだ。オウェードが斧を叩き付け、ルストの腕に赤一閃が奔る。
「貴様――ッ」
「まだだよ」
『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は静かに言った。まだだ。狙う場面は決まっている。
静かに研ぎ澄ませ。照準を合わせたままで『その時を待つ』ように。糸がルストを包み込む。男がその糸をも切り裂き弾いたが、それだけで細かな攻撃にも適切な対処をしていることが分る。
(なら、狙うのは『それがなくなったとき』)
小さく頷き合ったのは『群鱗』只野・黒子(p3p008597)であった。全隊前のめりであるならば、情報交換を行ない適切な指示を行なうものも必要だ。
各ターンの攻勢の友好度を確認し続けるのも黒子の役割だ。さて、どうしたものか。
仕掛けるまでにも有象無象が消え去ったからにはルストを直接的に相手取るという何処までも負担が重たい行動とが中心となってきた。
「ははあ」と『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)が笑ったのだ。
「いよいよ本命でごぜーますか。くふふ、中々面白いイベントでありんしたが。
そのイベントも佳境――そろそろ幕引きと参りんしょう」
そうだ。幕引きを前にしているのだ。黒子の支援を受けながらも、熱砂の砂漠が吹き荒れていく。
「神を呪い、すべてを穢し、そして堕とそう……お前が堕ちろ」
じらりと睨め付けるエマの傍を飛び込んで行く『紫苑忠狼』那須 与一(p3p003103)の鋼の驟雨が地を打った。
「先輩の為に! 与一! 乾坤一擲で行かせてもらいます!!」
雷などなんとやら。与一は迷うことなく駆け抜けていく。痛みなんて遠ざけろ。
〝あの男にはしてやられたが『もう死んだ』ではないか!〟
「確かにその通りです。ただ『生きているか死んでいるか』だけでしか視ていないのでしょ?」
『volley』Lily Aileen Lane(p3p002187)は小さく息を吐いた。その言葉を聞く前ならばイーリンをルストに届けるだけ、と考えて居た。
けれど、ああ――『あなたの言葉があってよかった』などと皮肉を笑う。
「そうか、よかった。やっぱり、ルスト、貴方は、騎兵隊が、終わらす」
託された意志がある。死んだから、それっきりだというならば余りに無様ではないか。
砲撃を構えろ。葬儀屋は『狙う』のだ。その最後を。葬送の瞬間を。死ぬ気なんて毛頭無い。
Lilyは少なくとも、全員で生きて返るという『目標』を果たすために此処にやってきたのだから。
「怒髪が天を衝いたか、ルスト。アレは随分な決定打となったようだな……!」
くつりと喉鳴らして笑った『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が駆け抜ける。
「不死の神様気取りよ。御主は、懸命に生き抜こうとしたことがあるか?
無いだろう。だからこその傲慢なのだろうからな故に、理解できぬのだろう。私達が、何故にここまで食らいつく事が出来ているのかを」
「貴様等に興味など無い」
「ああ、だろうよ!」
それでこそだと汰磨羈が嘲笑った。
「――ならば。せめて今際の際に、その身へと刻み込んで逝くがいい。
これこそが、人の力。先にある可能性を掴む為に、必死に足掻く命の力──これが、"生きる"という事だ!!」
死んだからと、何を見捨てられるか。それは信念の焔として宿っている。
全てが終るわけではない。脈々と受け継がれるものがあるのだ。
汰磨羈の刀がルストの肩口を裂く。赤い血潮と、砕ける世界。修復される傷に構うことなく『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)が一撃投ずる。
「この世界に不死身の生物など存在しない。死なないならば、死ぬまで斬るのみ! あれだけ蔑んでいた虫螻共に追い詰められる気分はどうだ?」
「ふん、貴様等にしてはよくやるが――」
まだ己に誇るのは早いとでもルストは笑う。顔も、身体も、修復に裂かれるリソース分だけ理想郷が崩壊していく。
瓦礫のように降る、白い欠片。雪のように淡く、世界の終わりには物足りない。
ルーキスの刀が弾かれる。ルストが掌を翳した。その刹那だ、合図が一つ。
「行くわよ」と女は云った。『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は小さく頷く。
ああ、そうだ。これから起こすのは『人間が起こす奇跡』。神頼みなんてしちゃならない。終らせるのは神様ではない、――人なのだ!
「刻め『私達』の名は――!」
紫苑の娘を見据えたルストの唇が吊り上がる。
男は『一度死んでも』生き返る。ああ、世界が崩れゆく。ルストの首を立った、が、直ぐさまに男が戻る。
イーリンはその刹那に気付いた。
「ッ」
来る、と。『あたしの夢を連れて行ってね』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が手を伸ばす。
「聖なる神、聖なる勇毅、聖なるイーリンよ、我等を憐めよ」
カルヴァニヤの仇。虫螻。そう呼び掛けたくもなる。男を何度も何度も殺さねばならない。
神を手にかける意味を問われるかの如く。凜なる花の祈りを胸にしたココロのそれきりでは足りないかも知れないか。
先輩と呼ぶウルズが飛び込んだ。支えるべく彼者誰が滑り込んだ。
「はは、諦め悪くて結構。それが人や。お前も変わらんよ。ルスト。
諦め悪いの一緒やんなあ。って事はよ。人も神様もかわりゃせんのよ。せやったら後は単なる意地なんよ」
彩陽の弓がぎりりと音を立てた。
「……この背には奪ってきた命がある。あんたを、神様を信じてたやつらの命がある。その命を背負って生きるから。
此処で生きる事は諦めんよ。後は根競べ。自分らの兄分なルスト様。これは弟分からの喧嘩や。兄弟喧嘩や。
傲慢なお兄様、より傲慢な弟が喧嘩を希う! ――ってな!」
彩陽を睨め付けるルストの雷は散々な軌道を描く。神罰の波に飲まれようとも幾人かはまだ健在だ。それが騎兵隊の強みだ。
この瞬間を待つように、仲間達が居る。『闇之雲』武器商人(p3p001107)は読み解くように手を伸ばす。
「キミは次にこういうのかな? 『よくもこの俺にその様な不遜を働いたものだな!』」
揶揄うように嘲った。ギネヴィアの嘶きと共に、戦場を見据えている。ルストは、思った通りに言って見せた。
「期待に応えてやろう。下郎。
よくもこの俺にその様な不遜を、その様な姑息な手を以てして浅ましくも読み解こうなど不遜を働いたな」
茨の冠を被り、槍に貫かれる神様の『用意』ならば出来て居た。
「神罰執行、滅却創生ッ! 最高最強の聖遺物だっつうのなら! ――世界を救ってみせろ、ロンギヌスッ!」
彼は何処までも傲慢だった。真偽を見抜くよりも早く、誰の手にもない聖槍を駆使して仕舞えば良い。
ルストが「マスティマ」と呟いたか、それがブラフであれど構わない。『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は唇を噛んだ。
模せ、生半可ではいけない。模して、そして、叩き付けろ。
「縁起ガ良イ。キット マスティマ ヤッテミセロ 言ッテイル」
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)もよく知っている。あの男は七罪などと嘲っていたではないか!
お前こそ傲慢の徒そのものであった。至高の存在であるというならば、神をも射貫け――『マスティマ』!
「サラバダ ルスト。君ハ 傲慢デ性格悪イ言ワレテイルガ真面目ダッタ。
ツロトシテ働キマクッテタコトダケデハナイ。君ハ 興味ガ無イコトヤ相手デアッテモ 無視ダケハシナカッタ。
キット ソコモ君二惹カレタ者達ガイタ所以デアロウ――ソレモ縁ダ。ルスト」
縁が紡がれるからこそ。生者にはその道を、死者には安寧をフリークライは与え続ける。
この地に生きとし生ける物に滅びという絶対的最期は相応しくないのだ。それ故に、支える。命を、続ける為に。
脈々と繋がっていく生命の路を、駆け抜けて行く。
神罰が何だ。その気配など怖れて等居られまい。ルストに生まれた僅かな『隙』を『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は逃さない。
――俺等は誰一人欠けやしねえ、俺等は誰一人として臆さねえ、俺等はただ只管に前へ進む。
傲慢かどうか何て愚問ではないか。冒険者、放浪者。そうやって名乗る者はありのまま傲慢だからこそ、だろう。
個として生きてきた己が群の下にある。それが滑稽だと笑えば良い。嘲笑うならば幾度だって答えてやろう。
「勝鬨を上げろぉ! 唯の一瞬たりともその歩みを止めるなぁ! 嘲笑を踏みにじれ! 神罰なんざ割っちまえ!
その魂の一片まで余すことなく漏れ無く刻み込め! これが『俺達」の名だ――――!」
弾け飛んだ理想郷。男はまだ健在だ。静まり返ったその場所で六翼を広げた男が「慰みが欲しいか」と囁いた。
オニキスの放つ全力全開の砲撃、続き、騎兵隊は一斉攻勢に転じる。
「合わせろオニキス! アタシとお前の細大火力なら十分奴をぶち抜ける!」
『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は叫んだ。先駆けとして、紅を纏って奔った。
あの程度で満足するわけがない。足しになるならば、自らの戦勝の証を掲げることだ。それは、ルストを『盗る』だ。
エレンシアは走り抜け、叩き込む絶対的な魔力の砲撃。
「強がりを言い続け、未だに拘るか――終わりだ冠位!」
歯を食いしばって『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は叫んだ。
アドラステイアから始まった。テレサを終らせても、まだ、まだ、その宿縁は残っている。
「これは、テレサを殺した私の選択に対するケジメの一撃!
00機関のエージェントでも遂行者でもない――私が、選んだのは! ローレットの佐藤美咲だ!!」
込めた、想いは『もう一発』。それはアーカーシュの一員としてのものだった。
(我らがアーカーシュ総指揮官は薔薇庭園で『空中神殿のパンドラは聖竜ではなく冠位に使うべき』と言った。
やるべき男が死んだのなら代行が必要でしょう……私の暴走を抑えるのがマルクだったんスけどね。これじゃ逆でスよ)
ああ、本当ニ。少しでも良い。少しでも良いから。
ウィザードの布石よ、今ここに―――
願わずには居られない。だからこそ、『彼が止めてくれた』気がしたのだ。
眼前の男だけではない。世界は確かな滅びに瀕している。その力は、次だと『こんな男、奇跡なんて非ずとも倒せるだろう』と笑うように。
成否
成功
状態異常
第3章 第13節
●神墜IV
手をぱちぱちと打ち合わせたのは『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)であった。
「宜しい――私の負けだ。私の完敗だ。
何せ、私が憤懣にやられているのだ。最早、ない。最早、何もない」
ああ、本当に。ルスト・シファーを許してなるものか。此度の終いになってそれが人間の在り方だと気付かされるなどなんと苦痛であるか!
肉体を包み込んだ魔術など、簡単に剥げ落ちて仕舞うか。それでも構わない。ロジャーズはただ進む。
「如何だ。私もまったく、人間らしく成れた筈だが。あの野郎が……!」
ああ、何と、何と腹立たしいか。
――しかし、この場に奴が『いない』のは可笑しな事だ。せめて、私の中で、只の一頁として、演出してはくれないか。
いや、奇跡には頼らない。最早、奇跡なんぞは要らないのだ
私は貴様の為に、自己満足の為に、此処に存在している。
私はロジャーズ=ラヴクラフト=ナイア。我が情念を、悶々としたものを、抱えて生きる為!
ただ、周囲に冷気が漂うだけ。それでも、ルスト・シファーはその上位の存在だ。銀の瞳は拝めまい。
雷が地を這い蹲って迫り来る。『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は小さく笑った。
「さ、ちょいとばかり『約束』ありましてね。無茶はできねえんすけど、その代わり支援はしっかりやらせていただくっすよ」
遂行者アルヴァエルのウサギをルストが死ぬまでの命とは言えども面倒は見ると言ったのだ。そんな約束を手にしているからこそ、終わりを待っている。
棘は己の血という毒に纏わった。異形の姿が打ち消えているならば、ルストの元へと飛び込むだけだ。
世界を包む災い全てを慧が遠ざけるべく尽力し続ける。その支援を受けてから重たい肉体を動かした『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)はゆっくりと腕を伸ばした。
「皆々様が必死なのです――ならば私も、より一層の守護を」
二重三重の防御策を講じようとも、何れだけ願えども、冠位相手に壁となるの分が悪い。それこそ、癒やし手である仲間達の支えを乞うて全員で挑むべきだ。
(ああ、けれど――誰も死なせた苦などないのです。胸張って、真正面から立ちつつブン殴る。
あんな異形しか生み出せない奴が、怪物(わたし)を壊せると思うなよ)
帰る場所のある己は強く在るのだ。その背を支えるのは『気紛れ変化の道化猫』ナイアルカナン・V・チェシャール(p3p011026)だった。
自称神様。そんな存在の最後がどの様になるのかを見て見たかった。その瞳が捉えてしっかりと見定めるのだ。
理想郷の罅割れに、天から砕けるそれと共に雷の変化もナイアルカナンにはしっかりと捉える事が出来た。
「さ、さっきと構築を変えたからね。悪意の魔弾、食らいなよ」
ルストの最後は何になるか。恋心に誠実に応えなかったことが、もしは敗因などとなるのだろうか――?
「ここまで付き合ったついでだ。愛しの王子様をぶん殴るでも、最後に唇奪って舌噛み切ってくるでも。
”大名”と一緒に帰るでも。”生”きたいところに運んでやるよ」
カロルの脚になってやろうと『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は笑った。カロルは「あら、優しいじゃ無いの」とその背中によじ登ってから笑う。
「……ぶっちゃけ、遂行者だ聖女だなんだ、俺ァそこらへんの天義周りの事情は知らねぇがな。
聞こえてくる限り、人間様の勝手傲慢汚さなんざ十分知ってることだろう。そうさ、”普通の人間”っつーのは、生き汚ねぇもんだ。
自分勝手で、いんだよ」
「うん」
「いや、もう十分自分勝手で強かで、面倒そうな女だったわ。
その辺はたしかにラサの女にも負けねぇかもしんねぇな。俺の好みは1人だけだがな」
「あら、恋バナってこと?」
からからと、楽しそうに笑うのだ。本当ニ自分勝手で強かな女だ。ルナが肩を竦めれば、ルストに向かう道に立つ『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)がゆっくりと振り返る。
「先程は答えてくれてありがとう。……カロル君、で合っていたかな?」
「ええ。カロルよ。ルルでも、キャロでも、お好みに。ルブラットだったかしら? 素敵なマスクね」
「どうも。……少しだけ貴方のことが好きになれたよ。
人々を慈しみ、愛することは我々意思持つ者の特権であり義務だ。
どうせ最後は同じ結末ならば、怒りや憎しみではなく、愛を以て殺してあげたいものだ
――だから、貴方の理想も知りたいな、ルスト・シファー!」
彼はがらんどうな理想郷で何を思うのだろうか。近付くことが容易になれど、雷の気配が痛みを送る。堪え、己の信念を叩き込む。
「カロル様……あなたも魔女と言われ、苦しんだ事があったのですね。
その痛みや悲しみは少しは理解できるつもりです。希望を得たばかりのあなたを死なせたくありません。これからの日々はきっと楽しいですよ」
にこりと微笑んだ『追憶駆ける希望』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)はコレまでの皆の尽力を無駄には終いと食らい付く。
狙え、定めて通せ。その翼を穿ち大地へと叩きつけるが為に。バカらしい玉座からその『王』を引き摺り堕とすのだ。
無数の弾丸は無策に、男の軀を曝け出した。ジョシュアが振り返る。頷くように、飛び込んだのは『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)。
(……遂行者じゃなくなった、カロル様、よかったって……ニルは思うのです)
本当に、本当に。心の底からそう思う。カロルを作ったのはルストなのかも知れない。
それでも、今此処に居るのは、遂行者でも聖女でもないカロルで。何をしたいのか、選べるカロルなのだ。
それもできなかった遂行者が幾人も居た。その悲しみも、苦しみもニルは知っているからこそ、ありったけを叩き付ける。
「我が妹ルル家もようやく更生し、家出から戻って来たからの。
残るは歌舞伎町の闇を擬人化した男、ルスト・シファーを討つのみじゃ。
バブリーな時代であれば傲慢に生きることもできたやも知れぬ。
じゃがの、もうそういう時代は終わったのじゃ――コンプラとかの。そういうのうるさくなったからの」
頷いた『殿』一条 夢心地(p3p008344)が立っていた。そっと先行く『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)の肩を叩く。
「殿ってマジで兄なの?」
「違いますが?」
ルル家は振り向いたが夢心地は譲らない。
「夢見・ルル家。そして一条夢心地。ふたつの夢が混ざり合う時、世界は光で満たされる────今こそ放つ!」
驚かんばかりの眩い光。
――シン・シャイニング・ダブルドリーミング斬!
ただの斬撃だが、それまで強攻に晒されていた冠位魔種は「何だコイツは」と思わず呟いた。
その修復された拍子抜けした顔にカロルが「え、好き」と呟いたのは言うまでもなく。その声音にほっとしたと同時に思わず笑ったのは『双焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)だった。
「おめでとう、ルゥ、この先貴女は『普通の女の子』として生きていく事になるわ。
幸せだけでなく、辛い事も多くあるでしょう。
でも、その隣には分かち合い、共に背負って支えてくれる『友人』が居てくれるわ……もちろん、私もその一人だから、ね?」
「アルテミア……」
じろりと胸元に不躾な視線を送ったカロルに「胸と話さないで」とアルテミアは首を振った。ああ、遊んでいる場合じゃないのだ。
彼女は、何かを告げる事を目的としている。カロルがルストに向かい合うまでが最後なのだから。
「護りはお任せ下さい」
静かに告げる『豊穣の守り人』鹿ノ子(p3p007279)は背を向けた。カロル達を支え、守り抜くのが己の役割だ。
ルルの事はルル家がよく護るだろう。だが、それだけではいけない。ハッピーエンドの在り方を鹿ノ子は知っている。
やむを得ない事情を胸に離れたというならば、無事の帰還を伝えてこそだ。そう、「任務というのは報告完了するまでが任務でしょう?」と鹿ノ子は囁いた。
雷を刃が弾く。無数にそれは軌道を変える。自在に蠢いたそれらを越えて駆け抜けていくのは『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)だった。
(ルル家とカロルが……よかった――んじゃ、あとはルストの顔面に一発ぶちかますだけさな!)
簡単な理由だ。強そうな相手が仲間を虐めていたから「止めてくれ」と告げる様な、そんな簡単な理由だけでシキは走れる、動く事が出来る。
「ねぇ、ルスト、私は私の好きなもの全部救いたくてさ、わがままに手を伸ばすけど、それは、全てを意のままとする君と何が違うんだろう」
「何も違わないだろう。須く傲慢で、貴様等は俺とは何ら変わらない!」
「ああ、そうだ。世界はあるように、ただそこにあるだけだ。
わかってる、それでも……っ、望む未来を信じる祈りで、願う世界を掴みたい傲慢で――私はここまで歩いてきたんだと思う」
人間なんて何時だって傲慢だ。だから滑り落ちるようにして遂行者達が生まれることがある。
ルストの雷に背を押されようとも、眼前に叩き付けられた火花が散り、シキと呼ぶ声が聞こえようとも。
食いしばれ。
「世界を変えるのは、いつだって人の傲慢だと思うから、だから、私もそうする――私の傲慢で、世界(君)を倒すよ」
男は何度だって、死ねる。死んだら、生き返る。生き返ったら、また殺せ。
「それじゃ、今の命にさようなら、またいつか! 地獄で会いましょう。あ、私も顔はいいと思うよ?」
弾き飛ばされた肉体に、その身体を修復すると共に世界が降る。理想郷の欠片はまるで雨粒の如く。
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はその下を駆けた。
(聖女ルル……カロル。良かったね。さて……カロルには悪いけど、ルスト殴るよ!)
ヨゾラは願望器だ。己の未熟さに振り回され、それを苦しみ抜いたこともある。それでも、不完全なままで希うことが出来ればそれでいい。
「ああ……貴様はさっきまで僕なんかの事、知りもしなかっただろうね。
僕は不完全な願望器だ、貴様みたいに無断複製も何もできないでも『神の国』や『理想郷』、傲慢な不死を見てわかった。
僕は不完全で良い。貴様みたいな傲慢な完成品でなくて本当に良かった!」
ネロも何処かで星空を眺められるなら――魔術師であり、魔術そのものでるヨゾラは意地を持って会いたいし続けるのみだ。
「さあ、貴方を守るものはもう何もありませんよ、ルスト。その傲慢、何処まで続くか見物ですねぇ!」
「貴様等とて、何時まで生きていられるか見物だな」
ああ、彼は変わらない。それが染み付いた在り方で与えられた役割だ。
『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)は一瞥する。聖剣と聖盾が共鳴している。禍斬やリインカーネーションもある。聖竜の聲とて響く。
その機を待つ。チェレンチィはカモフラージュされた聖盾の共鳴の気配を聞いていた。
(――決定打となる機を逃さぬ為にも上手く時間稼ぎを。
セレスタンさんが託した聖盾、ゴリョウさんなら最高の形で使って下さるでしょうから……!)
虫螻らしく鬱陶しい戦いを展開すれば良い。気配を消す。眼前に姿を見せるヨゾラに気取られる男の後方から飛び込むのだ。
(聖女ルル。いえ今は、ただのルル。沢山の人の願い、聖竜の力と奇跡。
『強力に可愛くない?』とあんなに強気だったのに、普通の女の子になりましたねぇ。……普通の女の子、か。少し、羨ましいな)
慣れやしない理想だ。それでも、彼女を守る者が居る。そして、『終らせる刹那』にまで駆け抜ける戦士であるべき者も居る。
遣るべき事を、遣りたい事を。ただ、果たすが為に。
成否
成功
状態異常
第3章 第14節
●神墜V
「後顧の憂いはなし、全力でルストに仕掛けるぞ!!
理想郷の神気取りにはお似合いの零落(さいご)という事だ!!」
堂々と告げる大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)は駆け抜ける。信ずる神の名の元にその神威、嵐を制するものとなる。
ルスト・シファーのその眼前へと叩き込まれる無数の弾丸は雨霰の如く。
波濤を越えることの出来ぬ戦艦(フネ)は沈むのみ。その様な、柔な肉体であった事は無く――
「さあ、いざ、進め!」
正念場は己が進む。地平線をも越え戦線の意地を声高に叫ぶのだ。
雷の被弾さえも、風に後押しさせるように過ぎ去った。『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は駆ける。
(そうか。グドルフのおっさん、どっかいっちまったなぁ。
『ガキなんだから弱くていいんだよバーカ』みたいなこと言ってたあのおっさんさぁ、
こういう大事な局面でいなくなったらさぁ、その台詞なにひとつ意味がねーんだよな。まじで)
ああ、本当に。サンディは唇を噛んだ。もしも己に親が居て、愛していると囁かれたらじゃあ捨てるなよと言うだけだ。
大人には、大人の責任という者が付き纏う。それは当たり前のことだが、そういうのが廻り廻ってここに来る。子供の責任も、大人の責任も、どちらだって遁れられない。
「そんなわけで、今割とムシャクシャしてるわけ。同じ偉そうな大人の連帯責任ってことで。数発殴らせろよ。ルスト」
サンディが地を蹴って駆け抜ける。撃破までのあと一歩。追掛けるように、もう一歩を。
道筋を開き、風が押し通す。『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の翼は臆すことも怯むことも無く。
決戦の舞台を整える者も居る。そうして、皆であの男を大地へと叩き落とすが為に。
「かなり余裕がないんじゃない、ルスト? ベルゼーの仇を取ってみなさいな?
ああ、そもそもわかりあえようとしていた彼に、無慈悲の呼び声なんてものを差し向けた側が仇も何もないわねぇ?」
「『あの女』と俺が同類と言ったか――?」
唇を吊り上げたルストはロレイン(p3p006293)を見た。あの女、とロレインは呟く。
「ベルゼーと同じく、長い長い時間をかけた割には、何一つ思い通りには行ってないようね。
あるいはアストリアやエルベルトのように、国の中枢に座っていればもっと厄介だったでしょう――さぁ、覚悟!」
「何を勘違いしているか分らんが、あの男もただの魔種。
幾ら分かり合うと口で言おうともその存在だけで世界を壊すだろう? 分かり合った振りをするとは無様だぞ、女」
くつくつと喉鳴らし笑うルストとロレインが相対した。弾かれる、剣の先に押し込むように焔の集中砲火が降り注ぐ。
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は息を呑む。今を逃さない。逃しては駄目だから、ここで踏ん張り続ける乃だ。
(……ルストを消さなきゃ、誰も……ここから出られない……今までこころを囚われてた人達も……どこへも行けない……
それは……その人達に何もしないのと同じだから……だから、僕は手を伸ばす……!)
願ったのは皆を救うことだった。ルストに届けた攻撃が大なり小なり、様々であれど世界の亀裂の音がする。
その下に立つレインはこれが『全ての終わり』のように感じられた。理想に殉ずる者達にとっての終焉が秘やかに迫り来るのだ。
その『切り札』まで、『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)は駆抜けなくてはならなかった。
有りっ丈を込めて、叩き付ける。決着を付けたい者が山程居るのだ。最後に居たる為、不死ならざると否定するために。
「我は我が罪を抱き舞う贖罪の巫、この場の誰ほども強くはなかろうとも貴様を斬る!」
空間事、その全てを引き裂くことを願った。重なったのは『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)も同じ。
「ディスペアーよ。絶望の大剣の力、人々の希望を切り拓く為、使わせて貰うぞ」
望みを『希う』この空間に、『望みを絶つべく』剣を振るう。その謂れが正しく影響するかはいざ知らず。
聖骸布により疵が生じて聖竜の力の侵食を受けたこの状況下ならば『空間』をも断てるはずだ。
一嘉が叩き込むディスペアーの災いの力、続くフィノアーシェは鋭くも周囲をねじ切って行く。
「あんたの思う虫らしく、鬱陶しくやってやろうじゃねえか」
にいと唇が吊り上がった。『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は後方に位置取り、狙撃銃を構えた。弾倉は飛呂が手にする狙撃銃の為に調整されたものだ。
だからこそ、狙いやすい。だからこそ――引き金は容易に引く事が出来るのだ。
「あんたに生えてんのは、なんかえっらそうでムカつくんだよな!」
想い人の羽根ならば、美しく心が躍るというのに。飛呂は呟く。あんな羽根、散らして、散らして、全てを取り上げて終るだけだ。
「結局、あなたはエルベルトなどとは関わりないので?
こうも恋バナに目くじらを立てるということは……
案外ざんげ様か、残る色欲の大罪か、あるいは無慈悲な方か……誰かに横恋慕してらっしゃるのではと邪推しますねぇ」
『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)が笑えばルストは「下らぬ事ばかりを考えるならば、生きる事を考えろ」と鼻先で笑った。
「妹(ルクレツィア)のような最悪にうつつを抜かす者の顔が見たい。愚図の傀儡(ざんげ)など以ての外。
――ああ、無慈悲な女という彼奴に惚れたイノリの腑抜けを見て見れば良い。俺には必要が無い。完璧な世界に恋情など何の価値がある?」
ウルリカは眉を顰めた。傲慢な男の全否定を受け、一撃叩き込むと共に返された雷を弾く。
「ッ――何度だって斬る、貴様が死に終わるまで……みゃー!」
その目映さに身構えた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は構えた。
回復だって足りてる。これが八つ当たりだって分かって居る。聖なる哉、と囁くならばそうでは無いだろうと否定したいのは別の相手だ。
(それでも、そいつをぶん殴るチャンスも、心の疵を直す機会だってない。だから……!)
遂行者を作り出した根源を叩くのだ。遂行者の理不尽で厄介な能力の数々を産み出したのはルストだ。
神の真似事をしてそうして力を授けてきたのだ。それを、どうして肯定できようか。巌糸が飛び込んだ。
ルストの至近に位置取れば、皆を支援できる。それが祝音の在り方だ。一瞥する、騎兵隊の動きを確認し『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はにいと唇を吊り上げた。
「理想郷を創り、神とならん魔種よよーく聞け。
たとえ力無き者達であっても勇気と希望があるかぎり、不可能な事など一つもないのだ!」
胸張ってから秋奈は「わーはっは」と笑った。『余の辞書に不可能という文字はない』なんて名言があっても本人はそんなこと全然口にしていない、所謂シメージ戦略だった。
「ふふふっ…もっと欲しいか? ならば教えてやろー。
医師が残した記録にこんなんある。『胸部は豊満、女性の形に似ている』
わかる? つまり記録上男の王であっても実は男装の麗人説がワンチャン。
遠征中に妻が浮気をしてたのも偽装結婚だったからじゃね? 偽装の意味がわからんなったけどどーよ。なんかかっけー歴史物が描けそうっしょ?」
何を言って居るのだと言いたげなルストに「今だぜ!」と秋奈は合図をした。まだ、戦場には健在の仲間達は眉を顰めたルストの元に飛び込む『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)と『オオカミの願声』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)を見守る。
「まだ生きてる……ステラごめん、心配かけたよね……」
「そうですね、文句は帰ってから言いますので」
「Uh……帰るのがこわい」
ああ、でも――『欲張り』なのだ。生きてきたから、生き残れたから、今度こそルストをぶん殴りたい。
「では後は、誰でしたっけ、ロスト……ラスト……リスト……まあ誰でもいいんですが、アレを討ってしまえば良いのでしょう?」
「ルストだよ!」
笑う。笑っていれば生き残れる気がするから。
前を駆けるステラが叩き付けた。翻る、リュコスが後方から肉薄する。
牙を突き立て、叩き込む。ルストの腕が軋んだ。露出した骨に直ぐに肉が纏わり付いた。世界の罅割れる音がする。
ただ、それは終らない。
「リュコスさん!」と叫ぶ声がする。リュコスは顔を上げた。世界が蠢動する。
「ルスト。さっきの毒の味はどうだった?
でもこれだけじゃお前が悲しませた人の数にも、死後の魂すら踏み躙った人の数にも、まだまだ全然足りない!
終わりだ。報いをうけろルスト・シファー!」
「貴様――」
世界が音を立てている。ただ、希ったのはこの先のこと。リュコスが息を呑み――波の気配が立った。
その眼前に光が溢れ出す。その気配を漂わせたのは『少女』だった。
「リインカーネイション……?」
成否
成功
状態異常
第3章 第15節
●『リインカーネイション』
波の気配が立った。静かに息を呑む、前を見る。『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は目を伏せる。
「長かった戦いに終止符を打つよ。ここまで来たら意地と意地のぶつかり合い……諦めずに全力でぶつかるのみ!」
それが『聖女』の在り方だった。
世界が、崩壊する速度が速くなったとき、スティアを呼んだのは『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)だった。
「来ますよ――!」
鋭いその声にスティアは頷いた。『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)とカロルの無事を確認した。
まだ終っていない。よかった、と安堵している場合もない。
(冠位魔種、傲慢。フィジカルの面で言えば冠位憤怒程ではないとは言え、その権能を含めればこれまでのどんな冠位よりも……っ)
何度も何度も殺した。『殺してきたはず』なのに。相手が死なない。それが権能の所為であるとは理解していた。
世界が罅割れた事に誰もが気付いたはずだ。それが世界へと秘やかなる聖竜の毒を流し込んだ少女に対する物であると気付いた時にドラマが声を上げたのだ。
「準備を!」
駆ける『竜剣』シラス(p3p004421)は「ルル家、ここで死んだら笑うぜ!」と軽やかに一言だけを残す。
カロルを護るのが彼女の役割。意地を見せた仲間に『繋げる』のが『仲間』の役割だ。死なせない。無論、自身も死なないのだ。
瞬きより早く、越えろ。ルストの前へと滑り込み叩き付ける。激痛など知ったことじゃない。後方で温かな気配がする、それが『発動』するまで、崩れる理想郷に更なる打撃を与えるために!
「余裕余裕ゥ! まだ殴り足りねえぜ!」
速度が身を焼く。痛い。肺に空気の一つも入らない。ちりちりと焼き切れる気配、潰れて征く息苦しさ。だから、如何した。ここがじり貧だ!
「ここはもう神の国なんかじゃねえんだよ!」
「ええ。ええ」
聖竜の気配がこの理想郷を包んでいる。最早この場所は神の国などとは呼べやしない。『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は背を向けたまま囁いた。
「傲慢たる無関心をかなぐり捨てて、ルストは今誰よりも貴女を見ている……貴女が見させている。
意中の殿方を手玉に取って振り回している訳ですね……あのように怒りと焦りを露にした、傲慢たる在り方を維持できていない姿は好ましい、というのは正直同意します。私の好みではありませんが、貴女の好みはなんとなく解りました、ルル」
「あら」
くすりと笑ったルルは、それでも危機を察知したように『強大な波の気配』に怯えていた。『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)はぎゅ、とその手を握った。
「大丈夫だよ。最後なんだから、近くで声をかけたいよね!」
手を握り、走る。それが意外な行為だった。スティアが「大丈夫だよ」と手を振っている。
驚いたカロルを連れて、ルル家は前に、前に行く。いってらっしゃいと『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が手を振った。
「私達の、人の、底力って奴を傲慢なあの人に見せてやりましょう!」
微笑むアレクシアに後押しされるように進むカロルの存在にルストは気付いた。『殺さねばならない者』が揃う、なんて好機か!
「それにしても……必死にルルを狙う等と、随分と振る舞いに余裕が無くなってきましたね。
それほど聖竜の力が厄介ですか? 冠位傲慢の名が泣いていますよ、ルスト・シファー」
「今に貴様等を蹂躙してやろう――!」
ざあ、と波が音を立てた。
息を呑んだのは『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)であったか。
「ルスト。……あなたを理解する事なんてとても難しい事だ。だってだって……たくさんの人々が苦しみ悲しんできたもの。
でも私は理解すると言った、それが地獄の奥底まで招かれる事になろうとも。
特異運命座標達の一手に繋がるのならばこの命ごと星のように燃え尽きてあげる。
そのくらいの覚悟であなたを理解すると言ってるの! 羽虫だって何だって絶対あなたから逃げたりしないから……!」
「ならば死ね!」
余りに直情的な言葉だった。
「貴様等を蹂躙し、この地に平穏を取り戻そう――!」
シュテルンは唇を噛んだ。罪を許すことはしない、独りぼっちはさぞ、悲しかろう。ただ、それでも、少女の傲慢(おもい)は男に響くことはない。
波濤の気配は更に強大になって行く。理想郷の天は覆う者を失った。
「二度だ」
ルストが唇を吊り上げる。
「この二度で貴様等を殺してやろう」
――光る、その気配に「させないけれどね」と囁いたのは、スティアだった。
「奇跡は願うものじゃなく、自分自身で掴み取るもの。例え滅びの未来が確定していたとしても覆してみせるよ。
だって私達は特異運命座標なのだから! お願い力を貸して、リインカーネーション! 必ず皆を守ってみせる!」
――わたしは。
リインカーネイションはヴァークライトの女性が代々に受け継いできた護りの守護である指輪だ。
早くに亡くなった母より赤子の頃から受け継いだそれは『セシリア・ヴァークライト』と同じ聖女が受け継ぐ(リインカーネイト)するものだ。
たった一度きりの聖女の力。
「理想郷と共に朽ちてしまえ! 偽りの神!」
波をも覆う花の息吹。眩く揺らぐ、スティアの魔力。その障壁の向こう側でルストは憤慨し、叫ぶ。
「貴様ッ――――!」
ルスト・シファーは『聖女』と呼ばれた存在を厭うている。長い歴史を過ごしたが、それらは須く男の理想をへし折り続けた。
彼の女の所業は、正しく聖女ではないか!
守護の結界。リインカーネイション。指輪に罅が入る。構わない、祈れ、祈れ。願い続けろ。
「私はスティア・エイル・ヴァークライト! お前を滅する聖女だ!
――聖女の守護の名の元に、朽ちて散れ!」
叫んだ。スティアを後押しするように、アレクシアの魔力が花弁となって吹き荒れる。
(大丈夫、大丈夫だ。想いは力になる、想いは刃となって敵を穿ち、魔力は花となり未来を咲かせる!)
アレクシアは「シラス君!」と叫んだ。
「アレクシア!」
分かって居る。『二度』と言ったか。ならば一撃目でそのリソースをも更に削れ。幻想の勇者は伊達じゃない。
「俺が護ってやる――!」
雷が何だ、焔が何だ、切り裂け! ――守り切れ。
シラスの手が伸ばされる。後方から吹き荒れる魔力、癒やしの気配と共に後押しされて走るルル家はカロルを前に連れて出た。
「ルスト、貴方はマジで性格最悪だし良いところは顔だけだし世界の敵だけど……
それでも、キャロちゃんをこの世界に生んでくれた事だけは感謝してるよ。貴方がいないと私はキャロちゃんに会う事も出来なかったから。
……キャロちゃんだけじゃない。きっと、遂行者達も一時の命でも生まれてきて良かったと思った人はいる」
「傀儡に心を傾けるのは弱者ではないか!」
「それで構わない、それでいいんだ」
ルル家は手を握るカロルを見た。傍に居る。何があろうとも、彼女は口にする筈だ。その言葉を。
「好きでした」
カロルはルル家の手を握り締めた。
あなたの事が好きだった。あなたは常に遠くを見ていたけれど、其れで良かった。利用していると言われても良かった。
その人がいなければこんな気持ちを知ることも無かった。顔が好きだなんて――ホントだけど――それしか言わないけれど、けど、屹度。
本当はあなた欠片程度でも持っていた慈悲が、私をずっとずっと、虜にしていた。
「でも、終わりにします。ありがとう、ルスト様。あなたが、私を『産み出して』くれなかったら私はただの聖女だった。
迫害された竜の聖女。人心を誑かす魔性の魔女。そんな私が、沢山の人々を見たのはあなたが如何したって私を自由にしてくれていたから」
カロルは笑った。指先が震える。ああ、その言葉を言うのが怖くて堪らない。
「どうか、あなたに幸福を。願わくば何者でも無い貴方と出会いたい。幸あれかし――」
「カロル、貴様ッ――――!」
叫んだ男の声音がリインカーネイションの魔力に弾かれる。
『ただの女』小金井・正純(p3p008000)はその声を聞いて居た。ああ、そうだわ。
彼にはアドレと出会わせてくれたことを感謝している。それに違いは無いのだ。多少の痛みなんてどうでも良い。
腕ももげてしまうかもと想ったけれど、機械の腕は少しばかり動きが悪くなったかな、と笑う程度で済んでくれた。
「ルスト・シファー。アドレが世話になったね。感謝はしている。
いや、嘘かな。あの子を最後まで迷わさてたのは私と貴方だから。これはあの子の冗談風に言うなら、親権争いってやつ?
ふふ、笑えない。面はいいけど性根が腐ってるし無理。だからこれは今の私の全力全開の八つ当たり!」
お前がいなければ、出会えやしなかった人だった。顔は『国宝級』だから狙わないと言った正純はちら、と空を見た。
佇んでいたのは『藍玉の希望』金熊 両儀(p3p009992)であったか。ルストの肩口をばさりと切り裂いた。
「キエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
声と共に。己が手で『殺しきる』事は出来まい。名を刻むとすれば、それは火曜にするべきか。
無謀な特攻により傷付いた己は、歯牙にも掛けられずとも、不甲斐ないだけでは終れまい――!
「くッ――!」
あからさまなほどに、男の回復が遅れている。だが、イレギュラーズは、吹き荒れる風がある。『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は祈る、指先を合わせ願いを込める。
愛も恋も、カロルの言う全ても分らない。『姉』は修道女には縁がないと言っていた。だからこそ、聖女だったカロルも知らない感情だったのだ。
「ルストさん? でしたか。あのひとはカロルさんが焦がれていた人で、でも。倒すべき人で。
ひとって、ひとのこころって……難しいのですね。結局は、想いが強いほうが道を開く。そういうことなのだと、思うですよ。
あなたは、そうではなかったのです。神様は、人の心を理解してはならない。何故ならば、須く、人を愛しているから」
メイは知っている。ああ、そうだ。
神の愛は万人に贈られる。人は生きているだけで神によって寵愛を齎されている。故、過ちは何れは廻り、その命を持って償うのだ。
『司祭』リゴール・モルトン(p3p011316)は静かに告げる。
「冠位傲慢。おまえが憎む山賊グドルフがその無様な姿を見れば、こう言うだろう
――『神様気取りのゴッコ遊びは楽しかったかよ。クソガキ』とね」
リゴールは小さく笑った。ああ、本当は彼の本音なのだ。グドルフに代弁させて見せたが『聖職者らしからぬ言葉』が溢れ出したのは、仕方が無い。
(でも、そのくらい許せよ。アラン。
なあ――アラン。俺は、おまえを救うためにここに来た。
だが、これからは──おまえが愛した皆を、この世界を。そして夢を守るために。
すべてが終わったら、書を残すよ。きっといつか、おまえの名が――この世界に刻まれるように願って)
願うリゴールの傍で後方へ、下がって行くカロルが「アーデルハイト!」と叫んだ。
振り向いたカミラ・アーデルハイトは「カロル」と呼ぶ。
「もう、お前との禍根はどうでも良い。どうでも良いから、友達になって下さる? そのハゲ、あ、ちがう、グドルフのが移った、リゴールも!」
声を弾ませた少女を見ていれば、ああ、彼女もアランの名をこれから先の世に残すのだろう。
「……ええ」
「アランは、他人の夢の為に生き、そして逝きました。
でも先生、知ってましたか。あいつ自身の夢を。アランは、失われた孤児院を、またあの場所で作ろうとしていました。
あいつと、俺と、先生の三人で、またやり直したい事……。その為に何十年と稼ぎ、貯めた資金の在り処も……。
全て、聖竜が届けた手紙に記されていました。いつに為るかは、わかりません。
ですが今度は俺が……他人の夢を、背負って生きる番なのだと」
「為しましょう。彼を下し、平和が訪れた世に」
祈るカミラにリゴールは頷いた。そうだ、あとは『あの男』を倒すのみだ。
理想郷が崩れて行く気配を『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)は直に感じていた。
「……お前の恋を終わらせるぞ、カロル・ルゥーロルゥー。
謝罪をするつもりはない。これからはただの女として、新しい恋を探すのだな」
「ええ」
小さく笑ったカロルに背を向けて、オルレアンは無垢なる剣を振り上げた。
「お前の負けだ、冠位傲慢ルスト・シファー、お前は確かに強かった、本来なら俺達では手も出ない程強力だ。
だが、我らによって敗れる、冠位憤怒と同じく、究極の個は数多の想いに敗れるのだ」
「バルナバスなどと一緒にしてくれるな、下郎――!」
ああ、彼は腐っても冠位傲慢だ。その方が良い。其方の方が剣は鈍ることはない。
「だが安心しろ、お前が倒れてもお前の為に祈る者が1人だけはいよう。
それが他者を信じない傲慢なお前が産んだただ一つの手向けとなる――眠るが良い、冠位傲慢」
リインカーネイションの魔力が吹き荒れる。鮮やかな花弁の下を『ロウライト』の娘が走った。
正義の執行は、己の義務だ。『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は常に知っていた。
「まだ、一度だ。貴様等を喰らってやる。聖女よ、貴様の権能は此処で潰える、人など無為なる命だと完全なるこの神が証明してやろう!」
「いいや、確かに人間は完璧には程遠い不完全だ。
だけど不完全故に、到達がない。それは限界がないという事だ! 私達は不完全故に、『人間』故に、神を超える!!」
サクラが吼えた。スティアの祈りが周囲を包んでいる。
「祈りとは神に救いを求める行為じゃない! 己の胸の内を確かめるもの!
『神様、どうか我々の成す事を見届けてください』と願う事! それが信仰だ!」
それが、己の在り方で、天義の在り方で、祈り全てが世界の在り方を定めたのだから。
すらりと禍斬・月を抜き放った。
「私はイレギュラーズ、そして天義の聖騎士! ロウライトの名と責を負う者! サクラ・ロウライト!
――『冠位傲慢』ルスト・シファー!祈りの時だ!」
砕け散っても構わない。力を貸して、お祖父様。
「輝け、禍斬! ――禍斬抜剣!」
上段から叩き斬る。振り下ろした刹那、刃がぱきりと音を立てた。
「ロウライト、忌々しい騎士め!」
ああ、そうだ。忌々しい騎士で良い、堅物で正義の執行者として知れば云い。
正義のために光はある。正義の『遂行者』として女は立っている。
「禍斬抜剣……十字閃(クルス)!!」
サクラの禍斬が割れた。ルストの胴に刻まれる十字。
崩壊する世界の波に、修復を行なうルストが叫ぶ。
「『不完全』め――――!」
波が、更に立った。スティアの祈りが包む、それだけでは足りないか。
「アレフ……?」
ふと、カロルの声音が、地を打った。
成否
成功
第3章 第16節
●『恋の終り』
波の気配に、混ざり合ったのは温かな気配だった。
「ルル、気分はどう? まだ素直には喜べないかな
……うん、わかってる。好きピにお別れしたんだものね。ふふ、後はどーんと任せて!」
にっこりと微笑んだ『この手を貴女に』タイム(p3p007854)が前へと歩いて行く。
「ヤりたい事があるんよね、良いよ。僕も手伝うし」
それがこの波の気配を退ける事だというならどんなに荒唐無稽だろう。
冠位魔種ルスト・シファーは二撃、たった二撃をそれに込めた。理想郷のリソースの大半を回し、己の修復を擲つようにイレギュラーズを蹂躙せんとした。
一撃目はリインカーネイションの魔力が、そして禍斬・月が阻んだ。
ならば、もっと強大な力を込めた二撃目がくる。コラバポス 夏子(p3p000808)は肩を竦めた。
「イケずだねぇ~タイムちゃん こういう時こそ一緒が良いと思うんよ、僕ぁ~」
「そうかしら」
――果てやしない。尽きやしない。全てが全て、上手く言った事なんてなかった。
女の子だから、憧れることも多かった。理想のディナーとか、理想の夜だとか、そんな数多の理想が其処にはあった。
けれど、『この理想』ならばっちり叶う気がしているの。
「ふふ、ごめんね夏子さん。あとは任せて。
あなたが一緒なら大丈夫、でも少しだけ怖いから、手を握っていてね」
タイムの周囲に聖竜の気配が漂った。罅割れ、跡形も亡くなりつつあった理想郷のを覆い尽くす程に、天高く、アレフの翼が覆う。
「アレフがルルを護ったの。だからね、わたしも『みんな』を、アーリアさんを守り切る!」
その声に『初恋患い』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はルストへと向かいながら聞いていた。
「私ってば『都合がいい女』だったのね――ねぇ皆、こんなイイ女を弄ぶなんて最低な男よねぇ」
「その最低な男が? 冠位? 俺の出番じゃん! この冠位スレイヤー、『悠久ーUQー』の伊達千尋のよ!
って事でえーとお前冠位の何? 傲慢? はいはい。いっちょ俺の冠位撃墜マークの一つにさせてもらうぜ」
にい、と唇を吊り上げて『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は駆けだした。ルストが痛烈なる『波』を産み出すその隙に飛び込むのだ。
『良い感じに当たれば』冠位だって倒せるのだ。脳内アルバニアニキネキが『そうよ! 千尋! いいわね、やっちゃいなさいな!』と叫んでいる――兄弟だが。
「傲慢には傲慢をぶつけんだよ! 傲慢勝負といこうじゃねえか」
花道を開けば良い。『最高の騎士』が傍に控えているのだ。「参陣して貰って悪いな、千尋。無理を言った」とそう告げる『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が。
「何言ってやがるべーやん、俺達の仲じゃねえか」
これが滾らぬワケがない! 彼が槍を投げるなら、守り切る。仲間の命が焼き切れる前に、己が走ってぶん殴れ。
「友に請われれば手を貸すのが我が騎士道、傲慢の冠位よ、ここで散るがいい」
静かに告げた『薄明を見る者』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は可能性を、その身に纏う。運命の悪戯で女は戦場に立っていた。
何を臆することがあろう。吹き荒れる風を纏う刀身を手に走る。
「さぁ、私の知る限り最高の騎士の一撃と最高にイイ女の想いを受け取るがいいルスト。
生憎と私は貴様がどれほど傲慢だったか露ほども知らぬ
――しかし私たちの傲慢の方が貴様の上をいったらしい。私たちは貴様の傲慢を超えて先へ進ませて貰うとしようかッ!」
喩え相手が冠位であろうとも、それに勝る傲慢は其処に湛えて遣ってきた。
「なーるほど、随分とデカい舞台みたいじゃないの。クソったれ野郎が相手なら躊躇う必要は無ぇな」
唇が吊り上がる。『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は『花道』を開くように弾丸を叩き付けた。
波の気配を弾くように、ブレンダが駆けた。その背後より降る弾丸は理想郷の欠片に叩き付けられ、霧散する。
「うじゃうじゃと鬱陶しいねぇ。今最高に良い空気吸ってる女と野郎が居るんだから邪魔してんじゃねぇ!
成りたい自分に縋り付く奴も居た。これまでを捨てて尚、根底にあった子供達への想いの為に剣を振るう奴が居た。
セレスタン、サマエル、カルヴァニヤ……敵も味方も関係無ぇ――それをも愚図とのたまうなら、その傲慢こそがテメェの敗因だクソ野郎」
フィナーレの前に、踊るのがプリマの役目だった。何もかも、知らずとも乞われたならば躍るだけ。
『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)はくるりくるりと踊り続ける。
漆黒の舞台は前方より迫り来る波の『気配』を前にして、差し込む一撃を知っている
「傲慢にまみれたお話はこれで終わり。ここからは決別の時間よ。今宵の主演女優。私の大切なおともだちの見せ場の時間なのだから!」
男がそれだけ強大な攻撃を叩き込もうとするならば、それさえも殺しきるほどの一撃を見舞えば良いのだ。
翌々知っていると『祝福の風』ゼファー(p3p007625)は小さな笑みを浮かべた。
「優れているが故に、優れているからこそ、傲慢で、他人の心が何処までも分からないのね。
さて。ウチの可愛いお姉さんの女心を弄んでくれたんだもの。一発……いいえ百発ぐらいは殴らせて貰わなきゃだわ?」
恋をしている人が居た。その人の心は、呆気ない程の失恋を間にしていたのだ。
偶には『誰かのため』というのも悪くはない。ゼファーの槍がルストに叩き付けられた。
六翼はずたりと切り裂かれ、ゼファーは槍を握りながらもかなぐり捨てるように拳を突き立てた。
「誰も愛さない貴方には多分、分からないでしょうけれど、知ってた? 好きな子達の為に頑張るって、めちゃくちゃアガるのよ?」
それでも、心を届けるのは自分じゃない。
「ねえ、意地悪を言って上げるわ。良かったわね? 貴方が育てた女は、貴方にも届く女に成ったのよ」
秘やかに、その場に立っている。女の傍には、騎士が佇む。
「天義に生まれたアリアは、貴方の事が好きでした。でもね、その子が患った初恋は今日で本当に御終い。
特異運命座標のアーリア・スピリッツは、貴方を斃す。帰りを待ってる愛しい人が居るんだもの。
私ね、彼と世界一幸せになるの。女の子は――ううん、人間って傲慢なのよ。ルスト、貴方も思い知ったでしょ?」
地を蹴った。靡く髪が鬱陶しくて、決別をするようにばさりと斬った。
まるで『あの子』のようだった。それでいい。あの子も、こうして過去の恋を捨てたのだ。
「貴方、私が昔エンピレオの薔薇を使ったのを見ていたなら聞いていたでしょ?
――この国は、私の故郷なの。だから、魔種になんてあげないって!
サクラちゃんが、スティアちゃんが、アラン・スミシーが、私が生まれたこの国は――神の国じゃなく、人が生きる、人の国よ!」
アレフの名は、耳にするにも難しいものだった。その理由が分った気がしたのだ。
聖女カロル・ルゥーロルゥーは目の前に居たカロルではない。本来の彼女は死したのだ。だからこそ、その時あの竜は名を捨てた。
(此処で決着を――マスティマよ。救いはきっとある、俺達は最後まで歩み続ける)
あの竜の名をベネディクトも知らない。ただ、アレフと呼び語り継げば良い。それがあの竜を生かす未来となる。
「我が軍師の示した道を往く為に。
ルスト・シファー。此処で終わって貰うぞ」
己の軍師は静かに先を示していたのだ。ベネディクトの手が『ロンギヌス』を形取る。
あの傲慢な男は、神をも射貫くはずだっただろう。
(マスティマよ、俺はお前に凶槍とは言ったがその勝利にかつて救われた者達も多く居た筈だ。
そして、そこに願われた祈りは全て本物だった――力を貸して貰うぞ、未来を切り拓くその為に!)
槍が、振るい投げられた。アレフの吼える声がする。
「貫けぇぇぇぇッ――!!」
「貴様など許してなるものか、聖竜の力など克服してやろう!」
ルストの後方から波が立った。竜が食い千切るようにロンギヌスが男の肩口を吹き飛ばす。
くぐもった声と共に、弾丸が飛んだ。
「ルスト・シファー! 傲慢のまま、身を滅ぼしなさい!」
――胸を貫く。恋とは、心を貫くものだから。これが『恋』の終わり。
「貴様ァァァ! 全てを飲み干し、貴様等全てを藻屑と為そう、完全なる我が身の前に頭を垂れよ!」
ざあ、と音がした。理想郷の空から全てが降り注ぐ。
男の掌に湛えられた力が、炸裂する。未だ、と女が笑った。
「タイムちゃん!」
振り返ったアーリアにタイムがにこりと笑った。息を呑む。ダメ、やめて、と手を伸ばす。
――傷付いた女の子達に、これから沢山の恋をして欲しい。
恋して、命を育んで、子供達の笑顔で溢れる、そんな世界が良い。
わたしはもう十分に恋をしたの。だから、大丈夫、幸せだったわ。
「タイムちゃん」
最後までその手を離すことは無かった。夏子はじいとその横顔を見た。
果たしてこの子に何を与えてくることが出来ただろう。君に貰った何遍もの愛情は何も返せちゃ居ないのだ。
もっと思い出を作っていきたい、したいこともたんとある。これからだろ、なんて笑えば「バカね」なんて言うのだ。
「君が居なくなって何も叶わなくなるって――なら、まぁ〜そりゃ無味乾燥さ。
願いがあってヤるべきをヤるならば結果もしっかり満額いただいて、ちゃんと満足しなきゃダメなんだよな。
君は怒るかもしれないね……思い返すと怒らせてばっかな気もするケド」
夏子が『握っていたはずの掌』が其処にはない。
聖竜の奇跡を乞うた女は最初から決めて居た。それが一番だと思っていたのだ。
皆で掴んだ希望も、全部、全部、貴方の事だって、護るから、ごめんね。
「タイムちゃん。多分なんだけど、僕さ、君の事を――」
その声は、届かない。
成否
成功
状態異常
第3章 第17節
●神墜VI
来るべき時が来たのだ。手にしていた杖の輝きを目にする。『レ・ミゼラブル』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)は後方を見た。
人とは浅ましく生きていくとミザリィは知っている。それでも――
それでも、思い願う事は同じだった。行く先が人々にとって希う先であると知っていた。「合わせます」と囁く。
「ミザリィちゃん……いえ、ミゼラブル。私が貴方にその名を付けたのはね……願掛けみたいなものよ。
世界は無情だわ。だからこそ、その無情に立ち向かって欲しいと思ったのよ。
だって、山も谷もない物語では、読者は飽きてしまうでしょう?」
穏やかに笑う『母たる矜持』プエリーリス(p3p010932)を振り返った。
母親は、何時だって優しかった。奇跡が連鎖する、その隙を見たかった。愛おしい母のその声音が愛おしかった。
「ええ、屹度素敵な物語にして見せましょう。母様。
たとえご都合主義でも、物語はハッピーエンドが良い。フローズヴィトニルやネロのように、私も善き狼となりたい。
だから、ミゼラブル(私)はミゼラブル(無情)を否定する……!!
名付けられたことを否定してでも、存在意義を否定してでも――私はすべてを守りたい!!
ルスト――私はおまえの理想郷を否定する!!」
波を否定する、その気配。その波の波動よりたいむが護った仲間達を万全に癒す。これ以上取り零さぬように。
自らの『全力での一撃』は杖の魔力によって防がれた。その杖の行く先は、ああ、『そんなの良い子の元に決まっている』!
「ハッピーエンド? 貴様等、愚図が作った物語に何の価値があるという!」
「はは。そういうこと言う」
駆ける。『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)はルストに肉薄する。首を落とせども生きている、ああ、なんと愉快か!
それでも『理想郷』は伽藍堂。残るリソースも儘ならぬ。雷が雄に叩き付けられた。だからといえども構うまい。
「よーお神様、今どんな気分だ? すっげぇ好き勝手絶頂やってきたのに虫螻と蔑んできた連中に好き勝手されまくるのは。
俺最初に言ったよなぁ、目ぇ覚まさせてやるって。
――部下はどんどん消えて理想のオレ様世界もボロボロになって、さらには虫螻に寄ってたかってボッコボコにされてイケメンも見る影なし。
いい加減目も覚めてきたんじゃねえの? それでもまだ酔っぱらえるほど傲慢振りかざせるなら大したもんだ。
褒めてやるよ、さすが冠位傲慢様だってな」
「貴様ッ」
ルストの唇が戦慄いた。怒りにうち震える男の横面に鋭く叩き付けられたのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の旋律。
旋律は確かな刃となって降る。何人もの遂行者を見た。理想を見て、壊して遣ってきた。
彼等と出会えたことに喜んだ。出会えて良かったと分かち合うこともあった。だが、だからこそ、彼等に潰えること強いたルストを許せやしなかったのだ。
「俺は神に期待しないが、そもそも神は何もしないから神なんだよ。
世界の時が進むのを邪魔するお前は神などではない! 俺達と変わらない、殺せば死ぬ生き物だ。最後は生命らしく……ここで朽ちろ!」
「神殺しなど、貴様、後悔するぞ」
「するものか……俺は、彼らと接した記憶も大事に抱えて生きたいんでな。
故に引き下がらないし、停滞する理想郷ごとお前を倒して先に進ませてもらうぞ、ルスト」
後悔なんてない。どこにだって、『あの人』が繋いだ先を『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は失いたくは無かった。
冠位傲慢と名乗ったその男は実に顔面に傲慢が滲み出ている。
「上司にしたいとも思えないタイプでしょうか? もう少し優しさを持ち合わせて頂きたいものです。
ああ、それに――顔は御主人様の方が良くありませんか?」
自らの主が彼を傷付けた。ズタズタになった半身に衣服など、何とも無様ではないか。小綺麗に整えてくれる使用人さえ男の周囲には居ない。
時間稼ぎこそリュティスが得意とするものであった。打ち倒したって構わない。そう『事態は驚く程にシンプル』なのだ。
「さて、私としましてはルストさんに特に思う処などは無いのですが……。
何か殴りたい顔をしてらしてますので、フルスイングで殴らせて頂きます。
ときに御前を無慈悲に殴りたい。そういう日もあるものなのです。それではいつも取り――ゆるりと参りませうか」
何とも穏やかな顔をして『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が勢い良くルストに一撃を投じた。
顔面を狙って投げたと言うべきだろうか。ミザリィが癒し護ったカロルの妙な叫び声が聞こえたのは仕方が無い事だろうか。
ゴリラになることを約束してしまっている『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)はゆっくりと振り返る。
「任せておけ」と告げるウォリアに「生きていてね」とカロルが囁いた。本当に、それは――呪いのような言葉ではあるのだ。
ああ、だが、悪くは亡い。騎兵隊を率いる『女史』の鬨の声も、『想い』を遂げた者が集う戦場も。
『友』は本懐を果たし、『新たな友』と帰ってきた。そして、この地を守り抜く為に幾人もが可能性を希望に費やす。
「聞こえるだろう、オマエが虫螻と侮った者達の咆哮が。
見えるだろう、オマエが踏み躙って来た者達からの応報が。そして、オマエを守るものは___もう、何も無い!」
ウォリアの『宣告』が響く。冠位傲慢ルスト・シファー。
その眼前に『戮神』が滑り込む。死は万人に訪れる。召喚前から、そして今も『神』たる己は人の事など何ら分るまい。
ああ、だが――神罰も、滅びも、そして死すらも止められない。滾る憤怒が盛り上がり腕の形を作り出したばかりの左腕を弾いた。
「___『恐い』か? 積み上げた全てが崩れ、『死』が迫るのは!
もう無視は出来んだろう、まだ余裕が張れるのならば精々やってみるがいい『傲慢』よ!」
「容赦はせん!」
尚も、縋るが如く雷が走る。そんな物よりも『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)の方が早いと己は認識していた。
後方で共鳴が聞こえる。前を走った『戦神』の姿がある。彼女と共に在れば強くなれる。
「此処に至るまで、沢山の遂行者の屍を踏み越えてきた。
これが本当のラストダンスだ、冠位傲慢――地獄とか天国とかあるかは知らないが向こうで《冠位(あいつら)》が待ってるってよ」
唇を吊り上げる。サマエルにも宜しく言ってくれ。ああ、それと――
裸の王様に終止符(チェックメイト)を与えるが為に――!
「命綱の理想郷が砕けていく様に傲慢の仮面が剝がれたかな? 必死すぎて矮小さが透けてみえるね?
……さて、今がその時…冠位魔種傲慢ルスト・シファー討滅の時間だ!」
「わらわらと群れる蟻がよく物を言う!」
『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)はくすりと笑った。隙が大きくなってきた。理想郷がルストの肉体を保全するほどの『力』を使い切ったのだ。
故に、ルストは前へ、前へと出て来た。ラムダは肉薄する。
「光栄に思え、俺が直接手を下してやろう」
「さて――」
ラムダはルストの作り上げた剣を手にしてから唇を吊り上げて見せた。
一歩、後方へと退く。その刹那だ。飛び込んだのは鮮やかなる朱の槍だった。それは美しく、仇を突き、斬り、殺すが為の物だった。
武と舞合わせたその槍は『紅の想い』雨紅(p3p008287)の放ったものだった。漂ったのは『リーベ』の薬草の香りか。
ルストも其れは良く知っている。リーベ、薬師の女だ。遂行者に居た。それを『知っていようとも』男は興味を示さなかった。
(ああ、そうだ。リーベという遂行者、薬師と何度か話したのだ。
殺すことを選んだが、お互いの願いは尊く、きっと出会いは間違いではなかった。
はづきの君、薬師の貴女、姉妹たち、親友たち。多くの方と出会い、経験し、人形から抜け出しても希薄だった己は、確かに己自身を得た)
ただの『空っぽ』な人形であった自らは感情が為に動くのだ。憧れた舞も、薬師の願いも、何もか違いなどでは無かったのだから。
「ぽっと出の女に目を奪われるなんて、刺されても文句は言えませんよ?」
踊るからこそ、女は冠位の『目を奪う』のだ。釘付けに、たった刹那に『足を止めさせるだけ』。
「星穹」
呼ぶ『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)に『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)は頷いた。
(……もし。アレフが吸収してくれたあの炎を、ルストに『返す』ことができるのなら)
覚悟はしていた。グラヨール家に纏わる家宝があるわけでもない。アリアライト家だって、セナには何ら答えやしないだろう。
だからこそ、星穹は身一つだった。それでも良い。セナが「星穹」と呼ぶ。
「お兄様。私達は勇者になりたいわけでも、英雄になりたいわけでもない。
ただ私達は大切な人と出会ったこの世界で、何度でも、息をして、おはようと言って、愛してると言いたいだけなの」
「……俺も。俺もだ。何度だって、息をして、おはようと言って、家族として愛していると言いたい。星穹一つだけ、約束してくれやしないか」
手を握ったセナに星穹は「何ですか」と問うた。たった一瞬だけの雨紅の作り出した隙を差す、その『刹那』に。
「帰ったら、おまえの子供達に叔父だと紹介してくれ。『雪涙』と名乗って、良い叔父になろうと思う」
笑う彼に、星穹は小さく頷いた。ああ、そうだ。あなたも、相棒も、愛しい子供達も居る。
「手伝ってください、ヴェルグリーズ。最後までずっと一緒です」
たかだか女一人も殺せない男、だなんて口で嘲って。それでも、心に宿した焔は消えないのだ。
それでいい。星穹は『ヴェルグリーズ』を手にした。剣たる青年は冠位魔種の焔をその身に纏う。
「行こう、星穹。君とならば何処までも」
「ええ――ルスト。お前なんて神を名乗るにも足りませんわ。
楽園なんてどこにもない。だから私達は今だってこんなにも苦しい。
それでも生きたいと思う心が、今を想う心が、私達を生かし続ける――運命剪定の時です。もうどこにも逃さない!」
これが報いだ――!
成否
成功
状態異常
第3章 第18節
●神堕VII
テレサは死んだ。満身創痍なのはお互い様かと『傲慢なる黒』クロバ・フユツキ(p3p000145)の唇が吊り上がった。
「それにしてもいい顔だご同輩(ルスト)。もっと怒れよ、その澄ました顔が歪んだ瞬間を心待ちにしてたどり着いたんだからな!!」
唇を吊り上げて、クロバは走った。不正義と呼ばれた存在でも、生きる権利はあるのだ。
不正義と呼ばれたエリカだって自分の娘として可愛がってやれる。アストリアによく懐いていた彼女を引き取って、導く為に。
それはエゴそのものだ。それでいい。己は『死神』、死に纏わる物の不正義は、百も承知である。
「死神クロバ・フユツキ!! すべての者が生きる権利とこの不完全な世界を守る為の――正義と不正義の味方だ!」
過ちだらけでもやり直すことは出来る。ゼロにしてではないのだ。全てを抱えて進んでいく。それが人間の在り方だ。
「有能な傲慢なお前にはわからないだろうぜ。
俺は無能な傲慢だから、お前よりも一歩先を行けるんだよ!! ――敢えて言うなら、弱者なりのプライド、ってやつだ!」
斬り結ぶ男の傍を、駆抜けていく『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)の拳がルストを打った。
「貴様ッ!」
「アッハハハ、なんだよテメェそのツラ! 何事も手のひらの上で御座いって顔だったじゃねえか。
やっぱりテメェは小物だよ、上っ面だけの「傲慢」だ。フィクサーぶって舞台に上がったのが間違いだったな――役者が違えよ、食われてるぜ?」
前線に出て来たルストの杖は、槍の形に変化したぶつかり合う。だが、肉弾戦が得意だという男では無かろう。
貴道が殴りつける。男の腕が吹き飛んだ。修復――だが、襲い。
「ハッ、如何した!!」
貴道の声が響くルストが「貴様、殺してやる」と地を叩く声音を響かせた。
言って居ろ。その程度、笑い飛ばせるほどに――『無様に地に叩きつけられる』だろう!
(さて、今更奴を斬ったとてもはや燃え滓、消し炭も同然のあやつを斬る気など毛頭ない。
如何に斬る事こそが行く道の俺であろうと、決着をつけるのが俺では無いことぐらいは理解している。
――だがルスト・シファーは傲慢、なればこそ特異運命座標に倒されることは奴の驕りが許すまい)
『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)はじらりと男を見た。傲慢は、傲慢らしく驕り高ぶったまま気高く逝く。
彼の産み出す命さえも世界に弾かれ傲慢な神は神を自称するだけの男に成り下がるのだ。なんと哀れな姿であるか。
ただ『目』を奪われた。その刹那だけが男の隙だった。その隙に幾度の攻撃が叩き付けられたか。
『歩く災厄の罪を背負って』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)の唇が吊り上がった。密着し、渾身の頭突きをお見舞いして見せた乙女の『本気』は混濁する意識を更に意味も無くしていく。
「神様気取りの貴方は覚えてないでしょうけど、遂行者の中に私の親戚というか、一部みたいなのがいましてね。
アルフェーネの魔導術式は何も手足だけが武器じゃありませんのよ――刻印さえ刻まれてればどこからだって戦える」
だから、お見舞いしてやる。全ての一撃を叩き付ける。美しい顔面に傷を付けるが如く。当たり前の様に顔を狙う者が増えている様子に『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)はくるりと振り返った。
「わ……」
「あはは。ルルちゃんの『せい』ねぇ」
揶揄うように『未完成であるほうが魅力的』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)の声音が弾む。
「怒って居るだなんてせっかちなおとこは嫌われるわ、ルスト。
ほんと、口調も理不尽なところも、言いたいことを小難しく言うところも似てるのね。
お顔をみせてくれるだけ、ルスト、あなたのほうが優しいまであるの――でもねわたしのカミサマは そんなに弱くないのよ。
さっきはほんの少ししか一緒に踊れなかった。もう少し、わたしに、わたしたちに付き合ってもらうわ」
踊る足は止めない。ただ、『前』を任されただけなのだ。あの子達が進む、その道を。
死地の魔女は何か狙っているのだろう。聖剣と盾の共鳴も響いている。ルストの目を奪う。それだけのためにメリーノは進む。
「ルルちゃん、ルストもやっぱりお顔はいいけれど、わたしのカミサマのほうが、きっとお顔がいいわぁ。
いつか、一緒に会いに行きましょ 聖女様が一緒なら会ってくれるかも、ね!」
「ええ」
そんな未来を話せるほどに、勝利を待っている。芽吹く未来を、楽しみにしている。
妙見子はルストの眼前に躍り出る。女の子を泣かすとは男が廃ると声を弾ませて。
(あぁ貴女も……私のことを普通の女だって言ってくださるの? 竜といい元聖女様と言いこの世界の住人は……。
目の前で生きていく決意をしたたった一人の女の子を見守って送り出すのは、ただ、神様らしい在り方だと思っていたのだけれど。
――人と共に在る、というのはこういうことなのでしょう。
……祝福は成った、あとは熟すだけ。その旅路に幸多からんことを)
貴女にビンタして欲しいと思っていた。貴女が「ルスト様なんて嫌い!」と叫んでくれたら其れで良かった。
さようなら、そんな言葉では足りないでしょう。妙見子は後方に向かって叫ぶ。
「ルルちゃん、良いんですか!? もっと叫ばなくって! 大丈夫。フラれようが何されようが貴女の友人たちはここにいますよ」
「羊羹ちゃん……」
カロルは俯いてから笑った。
「ルスト様、貴方が言って居た言葉、今思い出したの。だから、いいかしら?
――傲慢であるならば、己を誇るべしである。だからこそ、渡しは誇り高く言うわ。私のお友達ってとっても強かったの、ごめんなさいね!」
その言葉に背を押されるように『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)は進んだ。
「神を名乗る貴方にも苛立ちや焦りという感情があるんですね。今からでも神の看板を取り下げてはどうですか?
取り繕う余裕もなく必死に抗おうとするその姿…貴方は神でも魔種でもない、ただのヒトだ!」
騎士として、カロルを守り抜く。メリーノと妙見子、二人との連携をシキしていたトールは理解している。
これは『最後』だ。幕引きまであと少し。神を目指そうとした男の傲慢で愚かな物語に始末を付けるために剣が光るのだ。
「……冠位傲慢ルスト・シファー。ようやくここまで来ました。
神の国の否定、その全てを、今ここで叩き込みます。
もう私は貴方の向こうにいる大物達を見据えています。さっさとそこから失せなさい。
――私の為したい道を塞ぐ程度の物に成り下がった貴方はもう、ただの邪魔物でしかないのだから!」
遣るべき事はただ一つだった。男の胸に剣を突き立てられなくとも良い。その身体を傷付ける。
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は理想郷の砕ける音を聞く。権能(リソース)はじり貧か。
ああ、此処までやっと来た。だからこそ、『意志』が剣に宿されるまで。
『今を守って』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は征く。
(聖女ルル。…良かった。夢、叶ったじゃないか。あとは……ルスト・シファーだけか。……約束したんだ。最後まで、選択を見届けるって)
『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は『姉妹』の無事を願っている。だからこそ、向き合う事に決めたのだ。
「行こう。ユーフォニー。俺達で…マリエッタさんがルストまでたどり着く道を開くんだ」
「はい」
死地の魔女に揺らぐ彼女を心配していた。道を違えるならば撃つ覚悟もした。けれど、あの人は強かったのだ。
行く道は開く。帰るなら護る。ただ、それだけだった。有り触れた奇跡のような日常に、あなたが笑って帰ってくることだけを願っている。
ねえ、マリエッタ。ねえ、セレナさん。
私ね、手が二つあるんです。だから、貴女達と手を繋いで居られるように――こうやって前に来た。
「行って!」
呼ぶ声に、万華鏡の光が重なった。ああ、なんて美しい、『君』の世界だ。
「綺麗な万華鏡だろう?ルスト・シファー。俺は今を守ることを選んだ。
――そして、ユーフォニーが未来を信じるといった相手に……俺は託すことにした」
ムサシはルストの叩き込んだ焔など、どうでも良いほどに、走った。
「最後まで諦めるなよ。『義姉さん』。俺達の仲、認めてもらってないしさ」
シェームの焔が道標になる。だからこそ、護る、護りきらねばいけないのだ。
これが意地だ。
『俺の一番星』が願うのだから、ムサシだって願いを込める。
(聖竜。力を貸してくれてありがとう。だが……代償とは言え一番好きな人と義姉妹は渡せないな)
その声に背を押されるように、彼女は――『魔女』は立っていた。
成否
成功
状態異常
第3章 第19節
●理想郷崩壊
「時は来た。全て終わらせましょう。セレスタン=サマエルさんの想いも連れて!」
『新たな一歩』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は堂々と告げた。
「さぁ、いざ聖遺物の本領発揮。神器たる所以の御開帳だ!」
にまりと笑った『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)にリンツァトルテは頷く。式が周囲を飛び交った。
(聖剣から感じた……あの光は。……うん、きっと、間違いない。
今なら、二人が託された力を……引き出せる機会かも、しれない。皆の事……最後まで支え抜く、するよ)
『銀翼の羽ばたき』チック・シュテル(p3p000932)はすうと息を吸ってから、リンツァトルテを支える。
「さぁあと一歩、届けましょうか」
『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)はシールドでルストの前へと躍り出る。叩き込め、これが『最後』だ。
ルストが叫ぶ。地が揺らぐ。天が割れ、後方からまたも波濤が立った。それが最後。それは誰の目が見ても明らかだ。
「貴様等――赦しはせん、此処で朽ちるが良い!」
男の声音に、身構えた錬が「後方へ!」と声を掛ける。鏡禍は「今ですよ!」とリンツァトルテへと叫んだ。
「さぁ振るってきてください、護りたいものの為に!」
誰にも帰るところがある。だからこそ、その『帰る場所』を目指しているのだ。代償があると言うならば、全て払ったって良いと感じていた。
(この身に流れる鷲の大賢者の血よ、神の御使いの力よ――応えてくれ)
息を呑む。『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はコレこそが本当の予言の力だと示す様に波の気配に顔を上げた。
「ゴリョウ、リンツ、皆。今が“その時”だ、行け!!!! 俺の“予言”、今回は絶対だ!」
何のために生きてきたんだろう。ずっと、考えて居た。きっと『この為』なのだ。未来を見る、予言の力。
(父上、有難う。この翼と目。父上からの贈り物、皆を護る為に使うよ)
セレスタンは力を貸してくれるはずだ。『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が構える。
「ここだぁッ! 行くぜセレスタン! リンツ! そして我が友達よッ!」
『三度目』はかなぐり捨てたような波だ。だが、それ位払い除けれよう!
――聖盾を遺し預けてくれた友(セレスタン)と! 最も新しき友(リンツ)と!
「何より我が友(イレギュラーズ)と共に波濤を止めてみせらぁッ!」
「──行って、リンツァトルテ!!」
最後の最後に、セレスタンと言葉を交したその時を思い出した。理想の終わり、現実の始まり。
彼の笑顔。それから、これ以上は好きになんてさせない。
1番聖盾の重さを知り、1番私達を信じて、1番私達を守りたかったのは貴方のはず。
朝顔はにんまりと笑った。錬も頷く。
その口上はきっと彼のためにある。
「起動(レディ)・展開(オープン)――『聖盾よ、我が友を守りたまえ(セイクリッド・テリトリィ・オリオール)』!」
――ねえ、セレスタン=サマエルさん。
あなたにも聖盾の輝きは見えるかな。先輩達が、あなたの託してくれたモノにきちんと応えてくれたよ。
また『初めまして』と言うときに、この光景を伝えたい。だからこそ。
「私達がリンツさんを守りますので! さぁ、ルストにドデカイのお願いします!!」
「前回、聖剣は二人で発動させたんだよね。だったら、今回も複数人で発動できるはずだよ。
リンツ! 君が中心、あるいは中継となって皆の意志を聖剣に流し込んで。きっと君ならできるはず!」
眩い光だ。皆と願う。セララは手を添えた。「イル」と手を伸ばす。
『魔法騎士』セララ(p3p000273)はにんまりと笑った。
「皆で束ねれば、ルストだって斬り伏せられる! 『あの日』のように!」
――ベアトリーチェを斬り伏せたように。セララにゴリョウが頷いた。「行け!」と。
イルは「スティア、サクラ、行ってきます」と手を振った。貴方と戦いたいと、リンツァトルテを追掛けていた少女はそっと手を添える。
「先輩」
「……ああ」
これが意地だ。ゴリョウとリンツァトルテが飛ぶ。
「行くぞ」
「ああ! リヴァイアサンの大海嘯と比べりゃ数段劣るぜ冠位傲慢!
俺ぁあんな奇麗な歌も歌えねぇし神威を受け止め大海嘯を止めるような神業も出来やしねぇさ!
だがな! この背には今を生きる友達が居る! 死してなお俺を支えてくれる【聖遺】がある!
――聖盾よ! 我が友の正しさを! 奴は死してなお天罰なんぞに屈さずと! 俺とお前と皆で証明するぞッ!
俺を踏み台にして飛び込み、その聖剣を突き立てろリンツ! そして行ってこい! イレギュラーズッ!」
リンツァトルテの剣が眩い光の軌跡を作った。それは真っ直ぐにルストを斬り伏せる。
「貴様の目論見、此処で終わりにする!」
ざっくりと肩口から斬られた男に修復するほどの力なんて残っちゃ居ない。だからこそ――『ここでお終い』にするのだ。
(ああ、やっと理解った。俺は神としての在り方を学びに来たんだ。
異世界の神だった旅人たちと会い、神の端末と会い、君に会って理解した――神は人を愛し、見守り、時に助けるものだと)
人は自由だ。造物種の言いなりになどならず、意志を持ち動き回る。
「それを理解出来なかった君は、神に向いてなかった。さあ、神の座から降りるときだ!」
『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)の前の前には神に共感しながらも神を堕としに動く死血の魔女が。その傍らには夜守の魔女が。
異界の神の一柱は祝福する。彼女達が生きる道を、切り拓くが如く――
「マリエッタ――――!」
『死血の傍ら』セレナ・夜月(p3p010688)の声が響いた。盾だ。何があったって、守り抜くと決めて居る。
「ルスト、お前の命が尽きるまで! 私は護りきってみせる!
祈りと願いが織り成す虹の煌めきよ――命を護る流れ星の結界よ!」
セレナは叫んだ。『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は一人じゃないよ。あなたにはみんながいるんだよ。だから、支えさせて。
その声音に、マリエッタは小さく笑った。
セレナも、アルムも、ああ、いいや、ムサシやユーフォニーもそうだ。皆『ばかなひと』。だからこそ、魔女は笑うのだ。
「ルスト。ああは言いましたが私、貴方を尊敬しているんですよ。人の扱い、悪意、傲慢さ……神、魔王というにふさわしい。
だからこそ、私の夢と目的の為。正義に仇名す罪深き魔女だからこそ……冠位傲慢ルスト・シファー。
貴方を超えて……誰もが成し得ない平和を掴む……今ここで宣言しましょう」
マリエッタは『奇跡を願わない』。自己犠牲をして何かを為すワケじゃない。これは人間の意地だ。
マリエッタは『自身のパンドラをベットして』何度もルストを殴りつけた。
「我は死血の魔女、聖血の奪い手、マリエッタ・エーレイン。アタシが理想郷の悉くを奪いつくし……私が未来を切り拓く!」
血潮が力となる。ルストが叫ぶ。
「貴様――!」
「聖竜の力という奇跡さえも、この魔女が従えて見せましょう! 未来も、お前の死における勝利さえも!」
吹いた風が魔女の身体を包み込む。癒やしの気配だ。その只中に『世界一のいい子』楊枝 茄子子(p3p008356)が立っている。
「ルスト様は全て正しいよ。誰もが救われる究極の権能。信託の乙女よりも、その前任よりも、きっと本物の神様よりも素晴らしい。
――だけど、その正しさは私には必要ない。だからいらない」
前任者がいるなら彼なんかより最も素晴らしかっただろう。やる事なす事、全肯定した上で茄子子は言った。
『個人的にお前がむかつくから殴りたい』と。
「これは、ルスト様に向ける回復じゃないよ。お前を傷付ける毒だ。ルスト様」
くすりと笑った。『良い子』にルストが「貴様」と唇を震わせる。
「私が――この世界を終らせる」
「理想郷を終らせてどうなる? 貴様等にとって大した感慨のないくだらない世界が始まるだけだ」
傷だらけだ。もはや『己を修復する』だけのこともない。だから、この時を待っていたのだ。
もうすぐシェアキムが手に入るんだ。だから、大人しく『良い子』にしていろって?
(それってさ、違うじゃん。そんなのただの自己満足だ。今までの全てを否定することになる。
私は良い子になるんだよ。世界を救うくらい良い子になるんだよ。
――死ぬ気で生きる。ルストの世界を滅ぼして、私が世界を救う。ああ、それってとっても良い子だ!)
茄子子はにっこりと笑った。明るく、曇りない眼で、『良い子』として微笑んで。
「あぁ? 何言ってんのか分かんない。なんで会話が成立すると思ってんの? 神と人だぞ、ばぁか」
「貴様!」
ミュラトールの杖が光を帯びた。癒やしの光が仲間を救う。同時に、転じた毒がルストを蝕んだ。
「世界、終っちゃうね。ま。いっか。これ、本物じゃないし」
茄子子は微笑んだ。
「許さん、その所業――」
「は? 何て? あ、うーん、遊ぶ時間はおしまい。それじゃあ――『良い子でおやすみなさい』!」
崩れて行く世界に『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)が立っていた。
「出ましょう」
静かに告げるカロル・ルゥーロルゥーに『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は名ずく。
「カロルさま、帰り道というか…抜け道ってご存知だったりします、か?」
「ふふふ」
カロルが楽しげに笑ってから、言った。「任せてちょうだいな」と。
呆気なく崩れ去っていく世界の中で、カロルが指し示した道にグリーフは緩やかに頷く。聖竜が示す道が彼女に残った最後の力だった。
(生きようという方々を、これ以上、見捨てたくはないから。……プーレルジールの時のように、諦めたくないから)
だからこそ、騎士団を救うことにも奔走した。諦めるわけではない。時がある。救いの手は差し伸べる。
外は、真白の都が広がっているだろう。
――続く天義の未来、その光景を。『彼』にも届ける為に。
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。
●作戦目標
『冠位魔種』ルスト・シファーの撃破
●重要な備考
【各章での成功条件】
各章の第一節に個別成功条件が掲載されています。確認を行なって下さい。
【参加】
当ラリーは<神の国>の各種シナリオ/レイドの結果と連動しています。
皆さんは当ラリーには何度でも挑戦することが出来ます。(決戦シナリオ形式との同時参加も可能となります)
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は選択肢にて『同行者有』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
・プレイング失効に関して
進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。
・エネミー&味方状況について
シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。
・章進行について
不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
(正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●フィールド
神の国。つまり、ルストの権能内部です。フィールドの様子はと言えば、周辺に様々な『世界の欠片』が降り注いでいます。
天井の高さ、空間の広さの制限はありません。が、ルストの権能内部である事を見越せば油断ならない場所であることであるのは確かです。
この空間はルストが作り出していますので、彼の気紛れ(章変化などで)で変化することがあります。
フィールドの現状については『各章』の第1節目の『フィールド』の項目を参照して下さい。
●エネミー
・『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファー
冠位魔種。七罪(オールド・セブン)の一人。非常に強力なユニットである事が推測されます。
預言者ツロのガワを被って活動して居ました。イレギュラーズの気持ちを削ぐためならばツロの顔を使うことも辞しません。
司る冠の通り、彼は非常に傲慢です。性格は、素直に悪いです。基本的に人間は虫螻、遂行者は愚図の駒と認識しています。
常に余裕を滲ませています。何かを盾にすることが多いようです。愚図と虫螻はそう使うものです。
以下の能力は現状のものです。ラリー変化によって能力は【大きく変更されます】
a、『天地創造』
ルストの能力の大部分をしめています。神の国を作り出す能力です。
異空間に世界を創造し、内部に理想郷を作り上げます。膨大なリソースが必要となるためにルストは基本的には戦闘行動を好みません。(あと、己が戦わねばならない必要性を感じていないからです)
神の国はあくまでもベースを容易した上に粗造乱立させているものです。世界に降ろすためには『核』を必要とします。
その核が様々な聖遺物である事からもルストの能力だけで出来上がっているわけではなく、聖遺物という『力ある物品』を利用している事から彼自身の権能は『世界を作り出す』に留まるようです。
【この能力の注目すべき点は『フィールド効果』が付与されることです(詳細は各章をご覧下さい)】
b、『生命誕生』
遂行者達を作り出す能力です。己が聖痕を付与した『神霊の淵』に聖遺物や心臓などを入れ込むことにより相手に盟約を課します。
ルストには攻撃できず、ルストの指示に従うようにインプットされる(意志での抵抗は可能のようですが……)のです。
遂行者達はその盟約が存在する代わりに強大な力を手にし、神の国内部では死ぬ事はありません――が、『神霊の淵』が壊された場合は消滅します。
聖遺物容器から『力の源(聖遺物の欠片など)』を取り出すことで力のリミッターを解除できるようです。ルストはこの場の全員にリミッターを解除し戦うことを命じています。
【この能力の注目すべき点は『ルストが神の国では不死であること』です】
c、『天の雷』
d、『嘲笑の日』
e、『神罰の波』
名前からして攻撃技のようですが詳細不明です。
ただ、ルストは皆さんを侮ってますので聞き出せるかも知れませんね。
・遂行者『聖女』ルル(カロル・ルゥーロルゥー)
遂行者。神霊の淵である、聖遺物容器はカプセルを思わせます。頌歌の冠の欠片と小指の骨が入っています。
ルストの側に常に付き従っています。ルストを愛する恋する乙女。
天義建国に携わった聖女ですが人民を扇動し竜と心を通わされた罪に問われ断罪されました。不要な人間だったのでしょう。
天義への憎悪を燃やしていましたがイレギュラーズを関わることで彼等に情が湧きました。
攻撃はバッファータイプですが、それなりに遠距離からの攻撃も得意としています。あくまでもルストを護る事を前提に動くようですが……。
・『遂行者』アドラステイア
遂行者。『アドレ』と名乗る少年です。アドレと呼んであげてください。
聖アーノルドと呼ばれる聖人の骨と子供達の怨嗟が結びついた結果生まれた遂行者です。
ツロの側近ですがルストである事には気付いています。ツロを敬愛しており、彼しか頼る者がなかったようです。
イレギュラーズの事は好ましく思っていますが、それでも遂行者として存在して居ます。己の中の子供達は、まだ、苦悩を叫んでいます。
『騒霊』と呼ぶ存在を使役します。それらは無数に湧いて怨嗟を叫ぶようですが……。
・(遂行者)『三人の乙女』リスティア、オウカ、アリア
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)さん、サクラ(p3p005004)さん、アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんに良く似た姿の『遂行者』です。
ルストの配下で在り、それぞれが思う事があるようですが彼を護衛しています。
騎士のリスティア、聖職者のオウカ、医術士のアリアと認識して下さい。
・『遂行者』夢見・ルル家(大名)
「ルルバトルだ!」とカロルと対話する中で「そっちはルル取られても本名になれば良いですけど拙者なんて家になるんですよ! 家って! 夢見家ですよ! 大名ですか!」と叫んだことでカロルに気に入られて大名と呼ばれています。
カロルを生き延びさせたいという願いと、遂行者となりイレギュラーズの手助けをして冠位を退けるという目的の元で活動して居ます。
カロルの差配により『神霊の淵』を有していないため狂気状態ではありません。カロルを護ります。
聖竜の力の欠片を有しています。任意で発動が可能です。
・『遂行者』グドルフ・ボイデル
反転状態になった遂行者です。その姿は徐々に歪な者に変化し、自我も時間経過で欠落します。
己が己でなくなる前に、ルストに向けて何らかの『傷』を与えるべく隙を狙っています。
『神霊の淵』を有しているため、彼自身はルストを傷付けられませんが、イレギュラーズの手引きを行ないたいようですが……。
・『遂行者』ロイブラック
魔種。とある新興宗教の教祖ですがフォン・ルーベルグで喫茶店を隠れ蓑として営んでいる男です。
歌声を蒐集する悪癖があります。『声』や『音』を愛しており、美しい音色に恋い焦がれます。
どうやら目的のために自らの心臓を渡し遂行者となっています。神霊の淵を手に『歌』『音』に携わるイレギュラーズを全て自らの理想郷に引き込もうと画策します。
どうやらヒーラータイプです。非常に強力なヒール能力を有します。
・『神霊の淵』ブーケ
可愛らしい少女。ロイブラックの『神霊の淵』が埋め込まれています。ブーケを殺して中にある神霊の淵を壊さなくてはロイブラックは撃破不可能です。
両親から引き離され兄と共に過ごしていた少女は遂行者達に従って唄を歌い、日々を楽しげに過ごしています。
●味方NPC&【使用可能な能力など】
当シナリオでは天義騎士団(関係者含む)が協力を行なっています。
・リンツァトルテ・コンフィズリー
天義貴族。コンフィズリーの不正義で知られる『断罪された家門』の当代。
現在はそうした評判は払拭され聖騎士として一隊を率いています。フェネスト六世の近衛騎士のように活動する事も増えたようです。
聖剣(聖遺物)を有して居ます。正義そのものです。
騎士としての実力はお墨付です。指示があれば従います。無ければそれなりの無難な行動をします。
【聖剣】
ルストの権能に対しての対抗手段の一つ。過去に冠位魔種ベアトリーチェ・ラ・レーテの撃破にも使用されました。
リンツァトルテ個人では発動できません。聖剣は未だ沈黙しています――
・イル・フロッタ
リンツァトルテの後輩の聖騎士。本名をイルダーナ・ミュラトール。
旅人の父と天義貴族ミュラトール家の母を持っていますが、旅人との婚姻が不正義と見做されたミュラトールを名乗ることを認められていませんでした。
死地に赴き、騎士としての責務を全うすることと引き換えにその名を名乗っています。
騎士としての実力は『それなり』です。猪突猛進型ガール。元気いっぱいです。
【聖ミュラトールの杖】
術者の生命力に呼応して使用できる強力なヒール技です。危機的状況になった場合に利用可能です。
ただし使用は【2回】まで。イル以外の方が使用可能です。後述の『聖竜の力』を合わせることで広範囲に効果を与えることも可能。
・その他
【聖竜の力】
『ゲマトリアの選択』を経て、一部イレギュラーズに渡されている能力です。
本来の力として必要とされる代償はPPPの発動と同じく、重い物になりますが非常に強力な一撃となります。
また、本来の力の解放は【各人一度のみ】です。
・各種決戦の結果を受け、外より聖遺物を駆使する際に同時発動しルストに打撃を与えること
・聖ミュラトールの杖を発動すること
・その他、望むことや工夫があれば。
任意で発動が可能ですが、発動を宣言しても上手くいくかは定かではありません。発動していない場合は再度の使用宣言が可能です。
【<神の王国>の結果を受け、他シナリオより配布された称号シナリオなど】
当ラリーでルスト・シファーの権能を削り、彼に打撃を与えるために利用可能です。
使用時に代償は付き纏うでしょうが、その覚悟の上でのご使用を推奨致します。
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