シナリオ詳細
<神の王国>Apokalypsis
完了
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オープニング
●在り様
無数の世界の断片が光屑となって降り注ぐ。
その光景を男は一人、詰らなさそうな顔をして見詰めていた。
天より降る世界の欠片は誰ぞかの理想郷であっただろうか。
頬杖を付いているルスト・シファーは指先を動かした。
「ルスト様」
己が姿を借り、そして『己が此処から動かぬ際に動かしていた人形』が現れる。
預言者ツロはルスト本人そのものであるが、権能により自律し動き出すことも出来る。
男の姿を借り、男の目のみを借り、イレギュラーズの生温さは見てきた。奴らは温く、そして、甘ったるい。
反吐が出るとルストは呻いた。馴れ合うことが何の成果になるというのか。
滅びても世界を諦めず、求める強欲は『妹』であったとしても不愉快であった。
そう、誰も彼もが不愉快だ。滅びのアークを無駄に垂れ流した強欲な『妹』だけではない。
竜種(バケモノ)とまで協調したくせに恨み言を叫び死んでいった嫉妬に塗れた『弟』も。
怠け、己が何も動かず与えられるが儘を享受した怠惰な『弟』も。
憤怒に駆られるばかり、衝動に身を任せ結果は破滅の道を辿った『弟』も。
愛だ恋だ情だ何だと下らぬ欲にばかり感けて本質を見誤った暴食の『弟』も。
実に下らない。冠位と呼ぶ存在の面汚し共だ。
ルスト・シファーは神経質な男だ。チェス盤が汚れたことにまずを持って腹立たしくも思う。
だが、塵を払う程度ならば遂行者が行なうと思っていたが――奴らも所詮は愚図だったらしい。
「準備は」
「整いました、ルスト様」
静かに歩み出したのは『アドラステイア』と名乗った遂行者だった。この少年を手元に置いたのは失敗だった。
苛立たしいことばかりである。都市の一つを作らせれば、ファルマコンと呼ぶ死を食らう獣を作り出しはしたが利用すべき『駒』共に言いように支配された。アドラステイアという国を捨置いて、ツロの付き人にさせたがイレギュラーズなどと交友を持った。
「『神霊の淵』は」
「ございます」
静かに顔を上げたアドレはそろそろと取り出した。聖アーノルドの骨が入った小さな棺である。
「今から遣るべきは分かるな。貴様ら遂行者はこの俺を護る。
そして、各地に帳を降ろせ。愚図の命を有効活用してやるのだから光栄に思えば良い」
「はい」
「お前が集めた死も、お前が糧にした怨嗟も、その全てが今だ燻り続けている。
友の思いを晴らしてやりたいと言って居ただろう。喜べ、その機会だ」
「はい」
アドレは無数の子供の怨嗟がその臓腑を作り上げている。誰かが幸せになる事なんて、許せやしないのだ。
そんな――そんな浅ましさを胸に抱えながら、彼は生きている。
それでもアドレがルストを、いいや、ツロを敬愛していたのは彼が居なければ友の怨嗟を晴らすことが出来なかったからだ。
(あの人の側は心地良かった。紛い物であったって、『ツロ様』は全てを受け入れてくれた。
まるで父親のように僕の傍に居たんだ。……僕は人間ではないけれど、人間のような時間を彼と過ごした)
旅をした。砂に足を取られたときに手を貸してくれた彼は存在しない人間だったという。
それでもアドレは彼が好きだった。だからこそ。
「貴方様に勝利を」
ただそれだけを願っていた。
●欲しくて堪らないモノ
美しい歌声。硝子の靴。棘のない薔薇にシルバーチェーンのネックレス。
ふわふわとしたパウンドケーキに屈託なく笑える部屋。当たり前の様に存在する家族。
全てを用意できる『理想郷』。
輝かしき黄金の都。何も、失うことのない全てが当たり前に揃った幸福の海原。
それがこの神の国だった。
遂行者アリアは小さく息を吐く。己は預言者ツロに片恋慕をしている。そうあるように作られたからだ。
だからこそ、ツロとルストが同一の人間であったならばルストを愛し抜き、彼の傍に居ることを選べる。
家族よりも恋を選ぶ事が出来た。儘ならぬ生活から走り出し、何もかもを捨て去って『恋を選んだ』己に戻る途はなかったからだ。
遂行者リスティアは断罪について考える。人が罪だと叫ばなければ理想郷で誰もが笑っていられるだろうか。
誰かが誰かを捌くことにはうんざりだった。父親を処刑する県を握り締めてから、リスティアは正義のために生きてきた。
あれが己の罪だと言われれば、自らの足元は崩れそうになる。諦めて何ていけないのだから。
「リスティアちゃん」
呼び掛けられてからリスティアは顔を上げた。オウカは微笑んで居る。聖職者、正義の塊、天義の象徴。
「……オウカちゃん」
「イレギュラーズに、親友でしょうって。そう言われたんだ。私達の間には歪な正義と、その遂行がある。
本当に親友だったらリスティアちゃんがお父さんを処刑するときに、同じように悲しんであげられたのかな」
「そうだね。もしかすると、あの時のオウカちゃんは冷たかったのかも。
けど、それでいいんだ。そうじゃなきゃ、私達の正義は空っぽになって何もかも残すことがなくなってしまうから」
リスティアは足元に落ちていた誰かの理想を拾い上げた。
暖かな暖炉に、木張りの床。それ程広くはないけれど、幸せそうに笑う女の姿がある。
(これも、本当に在り来たりな『あってほしかった幸せ』だった――)
リスティアは目を伏せてから「あなたは?」と問うた。
「歌声を求めていた」
ロイブラックと名乗った男は静かに言った。
「エゴというのは最も必要な原動力だとは思わないかな、『遂行者』」
「あなたも、そうなったのでしょう? ロイブラック」
問うたアリアにロイブラックは薄暗い笑みを浮かべる。
彼の側から走り出し、楽しげに欠片に手を伸ばす小さな少女は「見て、見て、きれいです」と微笑んで居た。
彼女は人間ではない。
ブーケと呼ばれた少女は、ただの『人形』だ。
彼女の原動力は『ロイブラックの心臓』だ。半分の心臓を『神霊の淵』へと当て嵌めた。
それがブーケを突き動かしている。ロイブラックはブーケが生きている限りは死ぬ事は無い。
ある種の賭けであったが、ルスト・シファーの考えは正解だったのだろう。
――イレギュラーズと言う愚図は幼子を殺す事は出来ないだろう。
ブーケには何不自由なく過ごさせれば良い。本当に無垢な子供として関わらせれば良い。
その通り、殺さずの選択肢を幾度か越えてきたブーケの中で未だにロイブラックの心臓は動いている。
ブーケが倒された際にはアドレやその他の遂行者がその核を持ち出す予定ではあったが、此処まで来たならば潮時だ。
「欲しい物は全て手に入れに行こうと思う。さあ、ブーケ」
「はい。ほしいものは、たくさん、たくさん、宝箱に閉じ込めましょう」
星くずの形の金平糖に、ふわふわしたレースのスカート。それから、お母さんの愛情と――生きているという証。
「わたしたちは、かみさまのために、いきをしているから」
●聖女カロル
――バカみたいな事をしたとは思って居る。
いや、ちょっとだけ、憧れたのは嘘じゃないんだけど。
「キャロちゃん」
呼び掛けられてからカロル・ルゥーロルゥーは「なあに?」と微笑んだ。
何時も通り勝ち気でなくてはならない。何時もより上向きにした睫に、気合を入れてアイラインをガッツリ目に。
正直、似合うかどうかは置いて好きだからで選んだ口紅も遠慮無く塗ってきた。
服だって――そう、服だって。遂行者としてのそれに袖を通してから変わらない。
「大名」
カロルは呼び掛けてからにこにことして近付いてきた夢見・ルル家の頬に触れた。
「私可愛いかしら」
「勿論、今日は何時もより気合が入ってるね」
「ルスト様のお側に居られるからね」
カロルの語尾が徐々に弱々しくなっていく。ルル家はそれが『彼女が恋をする乙女』だからだと知っていた。
カロル・ルゥーロルゥーは女の子だ。
天義建国に携わった聖女の記憶を有する遂行者。天義建国に力を貸したが、結果として女の名声は高まりすぎた為に処刑された。
利用するだけ利用されて捨てられることには慣れっこな女は目が醒めて、初めての自由を謳歌した。
誰の目にも憚らず走り回り、スイーツを食べることも。化粧をし、雑な口調で話し、大声で笑うことも。
その『知らなかった自由』と『美しい毎日』を与えてくれたのは紛れもなく彼だった。
――ルスト・シファー。何れだけ彼が悪であろうとも、カロルにとっては愛しい人だった。
全ての初めてを与えてくれた彼に利用されてもいい。彼のためなら死ねるくらいに、好きになった。
これは、初恋だった。
はじめて、人を好きになった。
「キャロちゃん、そろそろ行く?」
「……そうね」
カロルは立ち上がってからルル家に手を差し伸べた。それでも、初めてできた友達のことも大事だった。
彼女に『聖竜』の力を渡したのはまだ引き返せるという意味合いが強かった。
確かに聖竜の心臓をカロルに与えれば『遂行者』ではなくなり生き延びる可能性があるかもしれない。
(……ルスト様を倒すならアレフの力は必要不可欠。私になんて、使っちゃダメよ、大名)
命と、世界と、引き換えにカロル・ルゥーロルゥーだけを救う事が出来るとすれば、己は世界を救えと言ってしまうだろうか。
それは友情であって、少しだけの恩返しだった。こんな自分に楽しい時間を与えてくれて有り難う。
……もう、それもお終いだけれど。
永かったモラトリアムにさようなら、私達は違う道を進むのかも知れない。
「ねえ、『ルル家』」
ぱっと、ルル家は振り返った。名を呼ばれた事に気付いてから何処か擽ったそうに笑う。
「どうしたの? キャロちゃん」
「ちょっとだけ手を繋いでて」
今は少しだけ、恐くなった。
- <神の王国>Apokalypsis完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2023年12月23日 18時00分
- 章数3章
- 総採用数550人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
恋をするって事は、即ち自殺みたいなものなのよ。
そんなことを軽口で叩いた聖女に対して『俗物』と楊枝 茄子子(p3p008356)は返した。
薔薇庭園のガゼボで何時も通りの茶会を楽しんで居たのだろう『聖女』ルルは「本当よ」と笑う。
「死にたくないけど」
「でも、死んでしまうようなものなの。今までの常識も、自尊心も、それから、自分への愛情だって変化する。
これ以上にないって位にのめり込んで、息も出来なくなる。それが恋するって事なのよ」
茄子子は「ふうん」と返した。目の前の女が恋をする相手が冠位魔種であることも、それが遂行者である理由だってどうでも良かった。
遂行者である女の事は大嫌いだが、その理由には『天義をどうにかするのは自分だ』というある種の信念があるからにも違いない。
そんなことを思い出したのは、聖痕が刻まれたナイフを手にした時だった。
莫迦だと指を差して笑われたって仕方が無いが、少なくとも今の茄子子にはルルの言っていた事が良く分かったのだ。
シェアキムがそうだといえば常識も変わるし、シェアキムに否定されれば自分なんてめった刺しになって死んだようなものだった。
シェアキムが言った。失わせてくれるな、という言葉だけが蟠って己を支えている。
失わせてくれるな、なんて『生きていろ』という命令だ。この世界で一番に価値のある言葉であるように茄子子には感じられた。
けれど、良い子だから。
良い子で居る為には、そうするしか無いから。
――神の国で、聖女は「グラキエスが倒れたわ」と囁いた。
「グラキエス? ああ、アイツか」
「……あの子も、欲しかったのは真実の愛だったのかしら。不憫でならないわ。
私達は幾つもを取りこぼして生きてきた。漸く、得られる奇跡を見出せるかも知れなかったのに」
囁くルルにルストはさも詰らなさそうに鼻を鳴らした。興味は無いとでも言った雰囲気だ。
ルストからすれば聖騎士グラキエスも、その周囲に居た者達も『有象無象』か、はたまた『利用価値が少しばかりはあっただけの者』だっただろう。
そんな男の態度を見て憤慨することも無ければ、最低と罵ることも出来ない。
聖女ルルはルストが好きだ。子供染みた恋をしている。己を救ってくれたのが彼だという認識と刷り込み。鶩の子が親を間違えるような、そんな勘違いの成れの果て。
途切れたいとの先を眺めたルルはふと、その『先』に奇妙な違和感を覚えた。
「……?」
「カロル」
「いえ……」
何だろうと呟きかけたその刹那、カロルの無数の糸がぷつん、と切れる。
侵入者が来た、とカロルは顔を上げた。だが、それ以上は動く事が出来なかった。『その顔に見覚えがあった』から<、そして『それが彼女の起こした奇跡(PPP)』だったからだ。
目的はただ、一つ。ルストに一撃を見舞うこと。
「ツロ―――――!」
『ツロ』を目掛けて、彼女はやってきた。
楊枝 茄子子は『ツロ』が『ルスト』であることを知らない。だからこそ、これは彼女が認識していなかったからこそ出来た事だろう。
怖じ気づくこともない。恐怖心なんて余所にやったのは恋する乙女が強いからだった。
「……ルスト」
「茄子子!」
ルルが声を上げた。その首根っこを掴んだルル家が首をふるふると振る。ルル家は理解する『今』じゃない、と。狙うは次だ――
巻込まれないようにと制止した『友人』にルルが「だって」と声を上げた。
茄子子は止まらない。手には短剣を握り締めている。
まるで人魚姫が王子様に突き立てるような。叶わぬ恋を暗示する刃は『一度保留の恋』だって、失恋にも似ている気がしたから。
茄子子に気がついたルストの意識が余所へと逸れた。選ばれし民の動きが可笑しくもなる。
「私は良い子だ。シェアキムにそれを示さなくちゃならない。
それに、私の『やりたいこと』を横からかっさらいやがって!
――傲慢の魔種だか神だか知らないけどさ。私は人間だぞ。お前らなんかより、私の方がわがままだもんね!」
茄子子の刃は、身を捻ったルストの左腕を切り裂いた。鮮血が舞い散る。
ルストの右腕が上げられ、その掌の先に滅びの気配が宿される。
臆するな。止まるな、突き立てろ。此の儘、『これは遂行者だったから』こそ出来る。
彼が渡した刃が彼の元に届く最短手段だったのは確かだ。
「天義をメチャクチャにするのは私だ!」
茄子子の握る短剣にルストの魔力が叩き込まれた。ばきり、と音を立てる。次は臓腑を、そしてその腑を吹き飛ばし胴に穴を開け――
「ああ、もう――ごめんね、大名。茄子子! 私のことが大っ嫌いなお前!」
手を伸ばしたのは聖女だった。大嫌いで、理解も出来ない、バカみたいに楽しそうに笑う『敵』。
その女が手を伸ばし、茄子子を引き寄せる。
「カロル!」
怒りを讃えたルストの声音に大仰なほどに肩を跳ねさせながらもルルは「私のです」と返した。
「こいつは、私の遂行者です! だから……だから……」
ルルの唇から血の気が引いていく。ルルは知っている。『茄子子とシェアキムの会話』を覗き見ていたのはルルだ。
生きていなくては、いけない。失わせてくれるな、というのは生きていろと云う事だ。
友達の恋を応援する、だなんて女の子らしくてバカみたいだけれど。
『聖女ルルという女はそういう人間らしいものばかりを集めて、人間になりたかった』のだ。
ルストはじろりとカロルを睨め付けた。その視線一つでカロルの左腕に傷が走る。
「持っていろ」
「……は、はい」
ルストと同じだ、なんて今は喜ぶことは出来なかった。痛みに眉が歪む。
「貴様の責任だろう」
「はい」
「殺せば良い」
「いいえ」
「何故?」
何故、と茄子子とて聞きたかった。
「――貴方様は、羽虫一匹飛んでる位で気にはなさらないでしょう。それより……グラキエスが死んだのです。
サマエルも、テレサも、マスティマも、パーセヴァルも……オルタンシアや氷聖達もそうでしょう。
あれが死ななければ貴方様の勝利は盤石。私の玩具くらい、残していてくれたっていいじゃない」
ルルは目を伏せた。本音は――分かりきっている。『友達』だから。
ルストは苛立ちを滲ませながらカロルを眺めてから興味を失ったように眼を逸らした。
「俺は気分が悪い。アドレ、『グドルフ・ボイデル』――奴らを殺せ」
男の指示に、『変容した』イレギュラーズがゆっくりと地を踏み締めた。
正気を保ち続けて居た男は、その身体に狂気を宿し、ゆっくりと変容し、魔種へと成り果てた。
「殺せ」
もう一度、ルストの声が降る――
====第二章情報====
●第二章目標
・ルスト・シファー撃破一歩近付くこと
●追記情報
・フィールド内に存在するイレギュラーズ全員に毎ターン始めに『BSがランダムで2つ』付与されます。
(解除可能。無効系は『付与を試みたが無効となった』として処理されます)
・ルスト・シファーは全てのBSを無効にする状況です。
また、傍に居る聖女カロル・ルゥーロルゥー及び遂行者アドレは強化されています。
・エネミーデータに変化が生じています。
《遂行者》
三人の乙女 → リスティア、オウカが死亡。アリアだけが健在です。
【アリア】
アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんの生き写しのような遂行者です。ヒーラータイプ。
自己回復を行ないながら戦線維持を行って居ます。
ロイブラック&ブーケ →ブーケが死亡し、ロイブラックにも打撃が与えられています。
【ロイブラック】
神霊の淵を分割しているようです。星穹(p3p008330)さんが目的です。その戦力は大きく下がっていますがヒーラーです。
【アドレ】
前線に押し出されてきました。アドラステイアの創始者であり、子供達の霊魂や聖人の骨が重なり合って出来た遂行者です。
彼の神霊の淵の場所は分かりません。騒霊を駆使して戦います。ある意味、彼がこの戦場の有象無象を増やしてる係です。
【グドルフ・ボイデル】
反転状態で姿を現しました。前線で暴れています。山賊らしい戦い方をすると思いきや、彼自身は祈りや聖句を武器とするようです。
山賊と言うよりも聖職者の側面が強いようですね。
【カロル&ルル家】
ルル家が護衛に付きながら存在して居ます。ただし、カロルが茄子子さんを庇ったことで、ルストからは疑惑の目を向けられています。
ルル家さんは『何らかの決意をしたよう』ですが……?
【ルスト・シファー】
嫌な気配を感じて何かに警戒を始めました。カロルには冷めた視線を送っています。
●補足説明
『聖竜の力』、『称号スキル』は発動を記載して下さい。これから先は事態が大きく動き続けます。
使用タイミングや『使用内容(方向性)』を記載し、宣言して下さい。
ただし、代償は求める者に応じて大きくなる可能性もあります。必ずしや覚悟を行なって下さい。
第2章 第2節
●『神』の座I
「で、あんたがツロでルストってわけか」
ほんとに顔良いじゃんと呟いた『世界一のいい子』楊枝 茄子子(p3p008356)は自身の好みではないと否定した。
「新しい世界じゃなくて、これまでの世界を真似て、同じような物を作って見ましたって?
それって結局真似事じゃん。『おてほん』が無いと世界なんて作れないんだね。神様って面白いね」
「はん。裏切ると思っていたが捨て身で来るとはな。ナチュカ・ラルクローク。
安い挑発を繰返すばかりの俗物め。貴様がカロルの気に入った玩具じゃなければ今頃死んでいただろう?」
「そうだよ、安い挑発だよ。耳を貸すべきじゃない。でも、そうした結果が今だよ。私に出し抜かれちゃってさ。
刺したんだよ。羽虫が。まぁ蚊みたいなもんだよね。血も出たし。神様も血は赤いんだね。
ねぇ、痛かった? 私初めて神を刺したんだけどさぁ、すっごく楽しかったよ! あはは!」
ルストが苛立った眼差しで見た。茄子子は『ルスト・シファーに傷を付けた女』だ。男のプライドにも傷を付けただろう。
「知ってる? 蚊は人を殺せるんだよ。私は神を殺せるよ」
茄子子は真っ向からルストを見詰めていた。男の至近距離に居ながら、未だに男が攻撃していないのは側にカロルが居るからか。
茄子子ははた、と気付く。こんな男辞めればと言いたいが、彼はカロルには『あの一撃』以降は攻撃していない。
(まあまあ大事にしてる、ルスト比って事? サイテーな男だけど)
茄子子はカロルの腕を掴んだ。「痛ァい!」と声が弾む。
「そういうとこも、嫌いだよ」
勝手なコトしちゃって。全部台無しだ。跡が残らないように治療しようとする茄子子にカロルは首を振った。
「おまえは敵なんだから」
――なんで、そんなに『良い子』なんだよ。
茄子子の表情が歪むと同じように『ルル家も同じように苦しげに眉を顰めた』。
ルル家が茄子子を助けようとしたカロルを制止した理由は分かる。
夢見 ルル家はカロル・ルゥーロルゥーを救おうとしているのだ。此処でルストの目に止まっては全ての前提が覆る。
嫌になる話だと『銀焔の乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は嘆息しながらもカロルの元へと走る。
状況は大きく変化し、加速した。カロルへの不信感も高まっている。次に何かあれば――
騒霊を薙ぎ払う。カロルまでの道を切り拓きながら、アルテミアは無理を押した。カロルに近付くことはルストに近寄ることと同じ。
(……加減をしてはいけない。加減をすればルストの彼女への疑惑は深まるだけである以上、手加減は無し)
威圧も、殺意も、本気でカロルに向けていた。アルテミアはそれでもカロルを生かすという意志だけは曲げる気は無かった。
生かす為に命をかけるなんて言えばカロルは拒否をするだろう。その眸に乗せた決意にルル家は気付いただろうか。
アルテミアが拓いた道を『豊穣の守り人』鹿ノ子(p3p007279)は一直線で駆けて行く。その眸は真っ直ぐにカロルを、ルル家を見詰めていた。
『少しは戦う素振りを見せてくれないと、怪しまれますよ?』
ルル家は『答えることが出来ない』。己の言葉も、何もかもをルストに読み取られる可能性があるからだ。
だが、豊穣で過ごしてきた鹿ノ子には恐らくの彼女の考えは察知出来るだろう。ルル家は護る為に戦っている。
『僕は貴女を許さない。けれど否定もしない。
――時間稼ぎが必要ならいくらでも付き合いましょう。その代わり、しくじらないでくださいね』
機が熟さねばならない。その為にはルストの意識を最大限カロルから引き剥がさねばならないか。
ルル家の眸が揺らぐ。全く以て荒唐無稽なことを考えると鹿ノ子は息を吐いた。
「漸く本番って感じね。だと思わない、メリーノちゃん」
「呼んだかしら? 可愛い女の子は大好きなの、ねえルルちゃん もう少しだけお話しましょ。
あら、左手どうしたの? 酷い傷 それに酷い顔色ねえ。さっきまであんなに楽しそうだったのに」
「名誉の負傷なの。素敵でしょう。お揃いだし」
そう笑ったカロルは痛みに表情を歪めている。ああ、だから恋なんてものは儘ならないのだ。
『未完成であるほうが魅力的』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は穏やかに微笑んで見せる。
「ねえ、叶わないって自分が思っちゃってる恋って良くないと思うのよ。
女の子はワガママで欲張りで、世界は私を中心に回ってる、ってくらいのほうが輝くわ。
結末は、想像できたとしても、ね、自分だけは自分の恋が叶うって、そう思ってあげたってよくなぁい?
たとえ世界がそれを許してくれなくっても、自分だけは許してあげたっていい わたしはそう思うの。
ねえ、ルル家ちゃん あなたも、『お友達』の恋、まだ叶うって信じてるんじゃない? ……だってお友達だもの、ね」
「さあ、どうかなあ」
ルル家の間延びする返事を聞いてからカロルは「いいのよ」と笑った。
「叶わない恋ほど、思い出になるって歌って頂戴。オリジナルソングで頼むわね」
「ふふ、意地っ張り」
メリーノの視線はカロルから繋がる糸を見ていた。それは何を結んでいるのか。
メリーノを庇う『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)はじいと糸を追掛けてから「その糸は、何でしょう」と呟いた。
「私って、聖女だからね。この国には縁が深くって。一つ一つ、丁寧に結んでいたの。
それが目になるわ。途切れたって、繋ぎ直せばいい。まあ、ルスト様の情報源? みたいな」
「そうですか。本当にそれだけで?」
「ええ。そうよ」
妙見子はカロルは何か隠しているのか、察することは出来なかった。一度、気を取り直そうと彼女を見る。
「あの時の私は…だいぶ冷静ではなかったですねカロル様。
私、貴女とお話してみたいんですよ。いいでしょう? 少しくらい。ちなみに尻尾はもちもちですよ、羊羹みたいな感じです!」
「羊羹食べたくなっちゃった。お前、お茶でも用意なさいな」
明るく振る舞い、まるで本題がそこにはない。その様子が『強がり』に見えて嫌になる。
「……カロル様を見てるとまるで鏡を見ているようで嫌になります。
想いを押し殺して世界の終わりを見届けるとか、正気の沙汰じゃないです。
カロル様はすべてを敵に回しても、後悔しない選択をしてほしいのですよ。幸い、ついてきてくださるお友達はおりますしね!
……想いを伝えることができなかった私の言葉は届かないかもしれませんが、私はその選択を後悔はしてませんよ」
「ううん、私は聖女だからお前を否定しないわよ」
カロルは目を伏せった。だから――
「ただ貴女が恋だと言っているそれが、私にはそうは見えないんですよね」
だから、それ以上の言葉は欲しくない。
「聖女ルル、それは本当に恋なのですか?」
「恋が、良かった」
カロルの唇が戦慄いた。そうでなければ、ただの思い込みの勘違いになってしまうから。
運命の糸を紡いで、断ち切る役割なのか。背後に浮かんだ巨大な鋏がかちんと音を立て糸が伸びる。
「嫌な糸ね。恋を繋ぐのも糸だもの。血濡れの糸は赤い糸かしら」
聖女に走らなかったものだろうとメリーノは敢て糸を掴んだ。糸が本当にカロルの『目』なのであれば、心配などしない。
だが、それがルストの傷を他遂行者に吸わせるためのものであるならば――全ての糸を断ち切ったならばその重みはカロルに重くのし掛かるのだろうか?
「さて、の」
『藍玉の希望』金熊 両儀(p3p009992)はカロルではなく、その背後に居るルストを見ていた。
「雨垂れ石を穿つ、一念通天。儂の剣がルストに届く事は無いやもしれん。
この銘をヤツの意識に刻む事は出来ないのかもしれん……等と、儂が諦めると思うたら間違いぜよ」
遂行者が徐々にいなくなり護りが削れている。己の足を止めるのはアドレやカロルだ。何かがあればルストを畳み込める。
何度でも何度でも執拗に狙えば護りは薄れるだろうか。ヒーラーであるアリアが周囲の守りを固め続けて居る。
「ルスト・シファーは確かに傲慢だが、傲慢の極みでは無い。
傲慢とは言い換えれば絶対なる自信、それ故に他者を見下す心に他ならぬ。
つまり……自分よりも強い"個"が居ると認識して、認めとるおまんは傲慢の極地たりえん……それも仕方ないのぅ。
……おまんには生まれた時から絶対に超えられん親がおるんじゃから」
両儀の言葉にルストは笑った。「奴は『飼い犬』に餌も当てられんだけの無能だろう」と。
その嘲る声音に反応したようにゆっくりと石像が地を踏み締める。それは『グドルフ・ボイデル』と呼ばれていた。
「……ボイデルはついに歪められたか。
外身(そとみ)は変えられたというのに、内に宿した秘めたる魂の在り方を反転して初めて晒し出させられるとは、難儀な男よな」
呟いた『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)は真っ向から彼を見る。構うことなく斬らねばならない。
「躊躇いはない。一度斬ってみたかったのもあるがな!
その技を使う貴様は山賊などではないが、敢えて偽りの名でよばせてもらおう、グドルフ・ボイデル、貴様を斬る!」
――さあ、聖句を唱えましょう。
青年の顔が囁いた。次に、山賊の顔が「さあ来いよ!」と声高に叫ぶ。乙女の顔は「争わないで」と悲しげに泣いている。
(さて、遣りにくい。が、何やら考えがある者が居るならばそれに協力するだけだ)
手加減はしていてはその目的にも辿り着けない。だからこそ一晃は畳み込むことを第一にした。
「アドレが出てくるか……それにグドルフさんも」
呟く『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の声を聞き『初恋患い』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は「グドルフさん?」と手を止めた。
ずっと相手にしていたアリアからぱっと離れたのは、グドルフの姿に衝撃を受けたからだ。
「アーリア」
「……彼が、グドルフさんだっていうの……?」
茄子子が飛び込んできて、カロルが庇って。そんな甘いところも嫌いになれないなんて笑っていたのに。
笑って何て居られない。勢い良くアリアを引き剥がす。その身体が吹っ飛び「何をするの」と叱る声が響く。
「待って」
直感的に彼だと分かった。直視しているのに視界が滲んだ。
バラ庭園で彼は白いコートを着ていた。アーリアはその姿に怒り、子供の様に噛み付いた。信じたいと言えば何時ものように笑い飛ばして、心底落胆して、幻滅して、ああ、けれどやっぱり――そう、思って居たのに。
「待って」
去って行く背中にバカねと投げ付けたのだ。あの時にどんな顔をしていたのだろう? 追掛けて肩を掴めば――
ああ、同じ国で生まれたあの人に何か事情があると思って居たのに。
「大人に何て、なれないわ」
大人ぶいってなんていられない。アーリアにとって彼は『粗野で乱暴な山賊ちゃん』だったのに。
「アーリアさん」
『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の呼ぶ声がした。
「私の知ってるグドルフさんなら傲慢な男の言いなりになったままでいる訳がない。
いつもはふざけててもここぞという時には頼れる大人になってくれたのだから……」
「けれど」
「分からない。分からないけど、良いんだよ」
スティアは何かあるならばそれに応えると決めて居た。何よりも『ルストの思い通りになる』なんて嫌なのだ。
スティア・エイル・ヴァークライトは強い。本当ニ強い親友だとサクラは小さく笑った。
「じゃあ、私はアドレに」
「私はルルちゃんに」
二人が走り出す様子をアーリアは眺めて居た。
「アドレ、前にあった時に聞き忘れた事があったの。私の理想郷の話はしたよね。貴方にとっての理想郷はどんな場所?
アドレの理想郷はこの目で見たけど、貴方の口から聞いてみたいんだ。一応、教えて貰ってもいい?」
サクラの問い掛けにアドレは「何もないから、最初から作るんだよ」と言った。
「うーん、分かるような分からないよな。それにしたって、ルスト・シファー、彼は優秀だね。
事の進め方を見ても、傲慢の名に反して意外なほど慎重だ。部下に敵を削らせて自分は手を見せない。実に正しい。
……アドレは、いいや、『ルスト』、貴方はどう思う?」
アドレに感じていた違和感は彼がツロに付き従っていた所だ。彼にも自我があるがそれ以上に――アドレにはルストに仕える理由がない。
「自分の力や技の情報を見せれば相手に対応されてしまう。なら最後の時まで隠す方が賢い。
対処されてしまえば貴方の兄弟達のように、流石の冠位も危ないからね」
「良く分かってるよね」
アドレは笑った。まるで自らも『ルスト・シファーのお人形遊び』の一つであるかのように。
「僕は失敗作だからね。自我を持ってしまった事も、人形らしくなかったことも」
サクラは神霊の淵を分断しているロイブラックを一瞥した。「まさか」と乾いた声が出たが、それを上書きするように騒霊が襲い来る。
――彼は、何らかの細工をして居る可能性がある。それも、自身に近しい遂行者に。
例外があるならばカロルだろう。彼女だけは『聖竜』の加護があり、遂行者であると同時に聖人の側面が強い。『二つに分けても生きていられる』人間だ。
「益々倒す理由が出来たかもね」
アドレも、そして外で戦う遂行者にも。そんなサクラの思考を上書きするように鋭い声が飛び込んだ。
「ルルちゃん! 前から言いたかったんだけど!」
「何? スティア」
「傲慢で顔の良い男なのは確かだけど、傲慢さが好みじゃないなら! 私の方が顔、良くないかなあ!?」
顔の良いスティア・エイル・ヴァークライトは勢い良く『顔面偏差値』という土台でルストと張り合った。
「は?」
思わずカロルの動きが止まる。
「性格なら圧倒的に勝ってると思うし、優良物件と思わない?
それに普通の女の子みたいな事も一緒にできるよ、そういうの嫌いじゃないでしょ?」
「え、いや、お前――」
「私の方が絶対に良いと思うよ!? 神様じゃないけど、天義の貴族だし、ルル家さんごと養えちゃうと思うけどなあ!」
「お前……」
別に愛の告白をし散るわけじゃない。
リスティアを救えなかった。彼女はルルにとって友人と言っていたけれど――だからこそ、ルルだけは救いたい。
(二度目はない。だから、見定める)
それまで、周囲の気を惹き舞台を整える。それが今できることだ。
成否
成功
第2章 第3節
●『神』の座II
虫螻とは会話する気もないと言うことか。
頭にまで昇っていった血がすう、と身体の内側へと引いて行く。冷たい気配が腹の中に満ちたが、『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)にとっては何ら変化はなかった。
視線の先にはアリアがいる。彼女は倒すべき存在だと頭は認識していようともルストが示した『アリアのブローチ』を狙うことはレイチェルの義に反していた。
「……さて、今までの非礼は詫びよう。『子供達』を殺す事に罪の意識を感じてたのは良くなかったな。
正義の反対は別の正義。アドレ達の義がそちらなら、俺も全力を出そう。怨嗟を受け入れた上で、叩き潰す。どうだ?」
「それが良い。僕はさ、敵に対して優しさを持つことは最も深い罪だと思うんだ」
「……どうして?」
レイチェルの問い掛けにアドレは何処か皮肉そうに笑った。イレギュラーズに対して彼が抱いた感情を、否定するかのような苦しげな笑みだ。
「刃が、鈍るんだ」
ああ、そうだろうとも。
レイチェルの焔が身を何れだけ包もうとも。復讐の気配は、縢り燻らせるだけとなる。
刃が鈍ってはならない。騒霊を弾く、打ち払う。
(――願わくば、次の生で幸あらん事を)
この想いをも彼に否定されて仕舞うのであろうか。
「アドレ……そっか、騒霊達は混沌世界で生きて死んだ子供達……『僕等は』皆に復讐してる……か。
いいよ、なら相手になろうか。以前の時はぶん殴れなかったからね……!」
ヨゾラは真っ直ぐにアドレを睨め付けた。回復手である『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)はアドレを見る。
彼は『無数のこと共達の怨嗟と霊魂が聖人アーノルドの骨と混じり合って生まれた遂行者』だと聞いている。
(アドレさんが小さな子供の姿なのは彼もまた……何かの復讐心の塊、なのかな……)
ヨゾラを支える祝音には騒霊達を癒やす事も浄化も出来ない。これが、復讐と成り得るのかも分からない。
子供達が何不自由なく苦しむこと無く、過ごす理想郷を壊しに来た敵だと認識されているのならば苦しみばかりが産まれる。
(ルストのルル達への態度……ひどいよ。あんな傲慢、大嫌いだ。アドレだって……)
彼だって、ただの道具だろうに。いっそのことルストを殴りたいと声を大にしてくれればどれ程に良いだろう。
「アドレ……ルストは状況によっては君すら切り捨てそうだけど、それでもいいの?」
騒霊を打ち払い、アドレへと向け接近するヨゾラの言葉は少年の在り方の否定でもあった。
「遂行者ってのはルスト様が居なければ生きていられない。僕はルスト様の為に産まれ、ルスト様があるから生きてる。
切り捨てられたから裏切って殴れって思ってるなら、違うよ。それは僕に自殺しろって言ってるのと同じ」
アドレから放たれた魔力の砲撃をヨゾラは受け止める。遂行者達は各々が思い思いに動いている。
だが、アドレは一貫してツロに尽くしていた。ルストへの忠誠心が高いのか。
(なら、神霊の淵を壊さなきゃ。子供の骨……? どこだろう……)
隠し持っているのか、それとも――
「神霊の淵を突き止め、倒すだけ……ですね」
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は地を蹴った。ヨゾラが開いたその場所へと滑り込む。
「アドラステイアの創設者、あまり私は関わっていませんが、あそこは異様なところでした。
そしてあってわかりました、神の国の帳を見た時から感じていた既視感、あれはあのアドラステイアと近しいものだと。
だからこそ私は許せません、同情してしまった自分が、犠牲を生んでいく神の国を許そうとしてしまった自分が! 突き通させてもらいます、遂行者!」
「それがいいよ」
シフォリィの剣を弾いたのはアドレの魔力だった。掌に集まったそれが分散する。騒霊達が後方から波となる。だが、構うことはない。
シフォリィの目的は『次』に続けることだ。
「アドラステイアは神の国の試金石、ですか?」
「ルスト様のご命令なのは確かかな」
アドレはそれ以上は言葉にしまい。はた、と顔を上げたアドレは「まじ」と呟いた。シフォリィが身を捻り、擦れ違うように『黙示録の赤き騎士』ウォリア(p3p001789)が飛び込んできたからだ。
「オマエを一発ブッ飛ばす……待ち望み、狙い続け、そしてようやく……オマエに手が届く!
冠位の前菜としては重めだが……リッツパークで掻かされた恥は必ず熨斗を付けて叩き返してやる」
「ああ、海洋の」
アドレがじらりとウォリアを見た。ウォリアはルル家の同行を気にしている。見定めるのはまた後ほど、聖女と共に生きて居て欲しいと願っている。
ウォリアにとってアドレは苦い思い出だ。遂行者が海洋王国に現れた際に帳を降ろしていったのは正しく彼だからだ。
「……オマエは覚えているか? よもや忘れたか? それとも『あんな小さな事』とでもいうか?
答えはどれでもいい、どう返されても結果は変わらん。踏み躙る事に是非を問う必要が無いのは……どちらも同じ事だ。
出自や成り立ちを哀れんだり酌む趣味は無い。互いの幸せや理想を議論するつもりも、無い」
「そうして。同情されてもうざったいでしょ」
アドレは一度後方に下がったがウォリアの放った一撃が肩を裂いたのだと傷を気にする素振りを見せた。
「……オマエはあの日、海洋に帳を下ろした。
それだけで刃を向ける理由には十分過ぎる縁が出来た。『あの日』から待ち望んだリベンジを果たさせてもらうぞ!」
「それでこそ、僕に相応しい舞台だよ。やっぱり、人間って恨みあわなくちゃならないんだ」
アドレが俯いた刹那――
「何じゃとぉ!?」と『殿』一条 夢心地(p3p008344)は叫んだ。
「我が妹であるルル家が不良になってしまったのは、悪い先輩的存在であるカロル・ルゥーロルゥーのせいじゃと思っておった。
じゃがしかし、カロルもまた、歌舞伎町悪質ホストクラブ問題の被害者じゃった……。
ルル家が決意の表情を見せた。幼い頃からの癖じゃ、あやつがあの顔を見せたということは……間違いなく売掛金廃止を表明しようとしておる!」
アドレがくるりと振り返ればカロルが首をぶんぶんと振った。何を言って居るのかは理解出来ないという素振りだ。
「ルスト・シファー……」
あまりに眩すぎる夢心地。カロルはルストと、アドレ、それからルル家を見比べてから「やばすぎない?」と指差した。
「うん、兄じゃない」
「兄だったらおまえは大名ってより姫だわ」
的外れなカロルの言葉よりも尚、ルストは光る夢心地に「何だあれは」と思わず零した。
「今ならまだ間に合う……なあ、ルスト・シファー、やり直そうや。
そんな斜に構えて生きたって、だーれも幸せにはならぬ。あの頃の夢、まだ忘れたわけじゃないじゃろ?」
「え、ルスト様……何か夢が……売掛金って……ま、まさか、私はまだ頑張れる?」
「黙れ、カロル」
その様子を眺めて居た『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)はぱちくりと瞬いた。
(……ルストは、此方に興味を持っている……。きっと、外での様子が変わったから……)
ならば、と真っ直ぐにルストを見据えるシュテルンは敢て煽るように声を掛けた。
「どうしたのですか? 私達を羽虫だ駒だと思っている割には案外慎重なのですね?
まぁ無理もありません特異運命座標は様々な可能性を秘めています。
あなたが自身を絶対だと思おうとそれはこれまでの実績たる事実ですものね?
でもやはりあなたは強い……油断なんてしないのでしょう。だからこその慎重……臆病とは全然違う事なのでしょう?」
駒の一人が死んだ今、彼がどの様に動くのかは定かではない。だが、この『余裕』はどこから来るのか。
「羽虫の感情は到底あなたには理解し難いもの。でも理解しなくたって取るに足りません。あなたはずっとそう思ってきたでしょう?」
「だからなんだ」
ルストの返答にぴた、とシュテルンは止まった。淡々と返す男は頬杖を付いて嘆息する。
「貴様は己のコンプレックスを俺にぶつけている。確かに俺は貴様等のような羽虫など眼中にない。
だが、貴様等に対して正当な評価を行なっただけだ。それを怠ったのは駒の責任で、盤上で転げ落ちたグラキエスは無様であっただけ」
シュテルンはじり、後退した。自分だけが正しいと、そう思い込んでいる。失敗を認めることが出来ないのではない、男は『傲慢』だ。何ら失敗を犯していないと心の底から思って居るのだ。反省も、新たな考えも何もかもがない。
(この人――)
ルストは「アドレ、まだか」と呟いた。アドレは「直ぐに」と返答してから無数の騒霊を産み出す。
騒霊達が夥しくも地を這いずり、一気に距離を詰め始める。『紅の想い』雨紅(p3p008287)は敢て騒霊を阻止するようにそれらを纏め上げた。
被弾を回避しながらも、傷を仲間にカバーして貰う。アドレへと向かわんとする仲間の支援を行なう『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の目を頼り、連携を深く取り続ける。
(冠位に手を出すにはまだ早い、しかし警戒し始めている。権能への打撃、それへの対処をされては敵わない)
外では何らかの準備が始まっているだろう――冠位魔種を打開するための『準備』だ。
だが、それには準備が必要だ。一瞬でもルストの気をそらせるのだ。虚を突くために、敢て舞台の上で大仰に踊り続けることが目的だ。
「アドレ」
声を掛けるアクセルは彼の身の上話に語られたそれぞれに渋い表情を見せる。
「やっぱりはじめましてだから、アドレやその元になった子供たちが皆と関わってどう変わってきたかっていうのはわからないけど……。
恨みつらみを受け止めるくらいはできるよ。嫌な気持ちだって、いつかは終わりが来るんだから!」
「そう、なら全部受け止めれば良い」
無数の騒霊が波となる。根幹にある恨み辛みを全て吐き出してくれるのならば受け止めるのみ。だが、数が多い。
アドラステイアに居たファルマコンが死を食らうようにアドレとて『そうして』いる。それがこれまでの子供達の死や命を使用した彼による復讐劇なのだろう。
『新たな一歩』隠岐奈 朝顔(p3p008750)はぎゅ、と唇を噛んだ。倒すべき相手に、彼が名乗りを上げた。
思う事があったとしても彼にとっての終わりは彼が定めるべきだ。逃げろとも言えず、救いたいとも声を上げられない。
(私が出来るのは……したい事は……彼の中に未だに燻っている負の感情を少しでも減らす事!)
朝顔はアドレに向き合った。歯に衣着せぬ言い方で朝顔を嫌いだと言う彼に、向き合うならばただ、その一言しかない。
「アドレさん、少なくても他の先輩方よりは私の事、嫌いでしょう? 遠慮なくやって良いよ。
でも私も、簡単に倒れる訳には行かないんですが! ……だって貴方の中に燻るモノはそんな単純なモノじゃない。だからこそ全部受け止めて少しでも軽くしたいんだから!」
アドレは皮肉そうに笑った。やっぱり――おまえのことは嫌いだ、と。
成否
成功
第2章 第4節
●神の座III
一難去ってはまた一難とはよく言った物で。
「第二幕。時は進んだ」
淡々と告げる『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は敵前より舞い戻った『旗頭』の姿を確認した。
彼女の掲げる目的は常に『全員生存』が必須となる。そして、この32名の大所帯は連携を密に取りこぼさぬ事を目標とするのだ。
「うむ」
頷いた幸潮をちらと一瞥して、何処か疲弊したような顔をした『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は「人使い荒い国でスね」とぼやいた。
「三乙女、ルストと続いてアドレでスか。あいも変わらず色んな相手で忙しいスね。でも……元から天義では色々ありましたか」
一枚岩ではない。幻想とはまた違った場所である。美咲はと言えばアドレとは顔見知りだ。
それも、テレサ=レジア・ローザリアと関連してのことである。遂行者として呼ばれはしたが美咲はほぼ彼女の庇護下に居たのだ。
「薔薇庭園以来っスねアドレ氏、アンタはこうなると思ってましたか?
私も遂行者を裏切ろうと裏切らまいとこうなると思ってましたけど……地名の方のアドラステイアで左腕を落とす程度には色々あったので」
「あ、じゃあ、僕はおまえの左腕を養分にしてるのか……」
「そう言われるのちょっと嫌でスけど」
呟く美咲にアドレは肩を竦めた。決着の時には、アドレの神霊の淵を引き摺り出す必要がある。
ドローンで敵配置調査は前提としている。アドレやロイブラックを支援するアリアというのも中々に憎い配置だ。
「はっはっは!
なるほど、今度はアイツ(アドレ)が目標か。まあ、全く見知った顔ではないが冠位との戦いに邪魔なら踏み潰すだけだ!」
快活に笑った『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は地を蹴った。
「アタシは『騎兵の先立つ紅き備』! 止められるものなら止めてみろ!」
エレンシアは味方が巻込まれぬ位置をある程度、確保為ながら宙より一撃を投じる。その眩い光に眉を顰めるアドレは「誰も彼も眩しいな」とぼやいた。
「どうしたよ? この程度で止まるアタシ等じゃねぇぞ!!」
「僕もだよ」
アドレを支援したアリアは周囲を一瞥する。
前線に出てくるグドルフもアリアの支援範囲内か。後方に下がったカロルと守りを固めるルル家というのも無いか含みがあるのだろう。
(……神霊の淵……その解放に使えるのは……。
初めてグドルフ氏と行った依頼。あの時私達は作戦上の合理の為に子供を殺した、それも非道いやり方で)
美咲はそのメンタルダメージが廻り廻って左腕を無くしに至ったと考えて居る。子供殺しの業は、屹度この場でも――
「美咲」
呼び掛けに「さ、スタートでスか」と美咲は地を蹴った。標的は定まっている。
「遊撃将の次は兵屯所か。やった後はさぞ見晴らしいいだろうな……!」
ティンダロスは地を蹴った。『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)の振り撒く全面飽和攻撃は前線の盾たる仲間をも巻込むが騒霊の数を只管に打ち消して行く。
それでもアドレは騒霊を使役し、召喚し続けるのだ。根競べである事は確か。彼が自身のリソースを削って召喚しているのも確かだ。
「このままあの身勝手な『大人(カミサマ)』に命捧げるのか?」
「勿論、それしか『ない』からね」
アドレの言葉にマカライトは何かがひっかかると眉を顰めた。お気に入りのヘッドフォンに小石がぶつかったが、気にも止めることはない。
狼の牙が迫る。無数の騒霊諸共『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が無理にでも叩き付けたのは義手による磁力的衝撃。
その貫く力は騒霊、騎兵隊の隊員、そして、アドレにまで及び、少年の肌に傷を付けた。
「突貫だぁ?! そいつぁなんとも俺好みだ。得意も得意、大得意ってもんだ」
「そう」
アドレは「痛いな」と呟く。傷を庇うように確認してからじらりと睨め付ける。
「有象無象増やすならその有象無象の尽くを踏み潰していきゃいいってこったな」
なんともシンプルな解法だった。バクルドの口角が吊り上がる。
アドレに対してバクルドは個人的に何ら思想を抱いていない。アドラステイアがどうという事も無い。彼の成り立ちを知りたいとも思わない。
「ただ眼前にいて、互いに敵だと認識してる。それだけで十二分だろう。ガキが相手だろうとも確実にその首を斬り落とす。
どれだけ騒霊を出そうともどれだけ復活しようとも、何度だってその尽くを踏み潰し目の前に立って断頭してやろう」
そっちの方が良いとアドレは何度も繰返した。
「騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! アドラステイアの創設者、覚悟してもらおうか!」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)はするりと剣を引き抜いた。横を駆け抜けて行く仲間の輪より敢て外れ、その討ち漏らしを『確実』に撃破するのが目的だ。
それがアドレに二対する騎兵隊の今回のスタンスだ。見て見ろ、騎兵隊が来て居るぞ。直ぐ側にまで、お前を殺しにやってきた。
それを『印象づける』為に、エーレンは輪より外れ強敵を狙う素振りを見せる。
「俺の事情で申し訳ないがアドラステイアのことは最初から気に食わなかったんだよ。
弱者に偽りの希望を見せつけ生命や尊厳ごと搾取する、宗教の悪い所の煮凝りめが!
騎兵隊がお前の首を獲りに行くぞ! せいぜい首を洗って待っているがいい!」
「それなら、天義こそ、そうだ。先鋒」
アドレの渋い言葉にエーレンは「それでも、この国は変わろうとしている!」と叫んだ。
「変わるからと犠牲が生まれた。それが今の僕そのものだ」
騒霊達が無数に産み出される様子を『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)はまじまじと見詰めていた。
美咲に支援を、そして、仲間達に順番に。位置を確認する。エーレンを、そして美咲達を取り囲むように騒霊は山のようにやってくる。
斉射の機を前にして、フォルトゥナリアは「準備、しておくね」と声を掛けた。征く仲間達が溢れ落ちぬように。ヒーラーは戦況を見極め、戦線を保つ重要な役割を担う。
「これ以上罪のない人たちの魂を利用させはしない――全て吹き飛ばして、お前とルストに届かせる」
静かな声音で。『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は斜角を確保為た。
仲間を巻込まぬ立ち位置を意識する。発射準備を整え、息を吐く。乱戦状態ではどこも危険か。
だが、その一撃が突撃路となる筈だ。狙い定め――叩き込む。
焼き付くさん勢いで放たれる超高圧縮魔力。その勢いに背を押されるようにして『命の欠片掬いし手』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が飛び込んだ。
「遅ばせながらも参陣に参ったワイ! 遅れた分は取り返す! 相手はあのアドラステイアの創設者じゃな……これで終わらせてやろうッ!」
幼い少年のナリをして居るのはやり辛いか。だが、だからといって情け容赦をするわけではない。
オウェードは堂々と向き直った。斧を手にアドレを睨め付ける。眼前の少年は「僕の騒霊と一緒だな、わらわらと」とぼやく。
「わらわら――しかし、それが集まるッ! 驚くが良いッ! この司書殿の騎兵隊は最後まで相手をするッ!」
オウェードは悪夢から醒ませてやらんと言わんばかりに斧を振る。騒霊達が掻き消え、また後方から新たなる騒霊達がやってくる。
「将を討ち取った後はさらに別の将か。
大立ち回りとはこのことだな、そりゃ大ボスから司書殿が名指しで討伐命令が下るわけだ。
面白い……このレイヴンを抜かずして司書殿はやらせんよ。が、まずは……アドレだ」
囁く『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の鉄の雨が降る。戦線の仲間達をも巻込むそれを『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が癒し立て直す。
兎にも角にも、多くを払い除けることがレイヴンの役割だ。前へと進む『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)や『決別せし過去』彼者誰(p3p004449)をも巻込むが、それらをヒーラーが出来うる限りの支援を行ない癒し続ける。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は「レイヴン、手を」と声を掛けた。
旗頭は目的を掲げている。アドレの視線を奪うのだ。総大将は、その為には努力を惜しまない。
「私の駒損は0よルスト。貴方が取りこぼした物は?」
「イーリン・ジョーンズ。僕諸共仲間を巻込んで、それでも僕を打ち倒そうともルスト様は困らないよ」
皮肉そうに笑ったアドレにイーリンは振り仰いだ。降り注ぐ鉄の星はイーリンの肉体をも叩き付ける。だが、治癒の手はまだ足りている筈だ。
「騒霊は増えますが、それでも此方の撃破スピードが上回る可能性の方が高いです!」
ココロは状況報告を行ないながら味方、敵の区別無く降り注ぐ攻撃より仲間達の命を守り続ける。
ただ、一つだけ気にはなったのは騒霊達の役割だ。彼等の霊魂に直接声を掛けるココロはその応えを求めていた。
『あなたたちはなぜアドレに味方するのですか。その理由、できたら教えてもらえませんか――そもそも仇かもしれないのですよ?』
『アドラステイアが無かったら、僕達はもっと酷い目に遭っていたかも知れない』
「けれど――」
アドラステイアで行なわれた悪逆は、肯定できる物ではないだろう。ココロが言葉を震わせて、はたと気付く。
アドレという少年はアドラステイアを作った後は聖銃士として潜伏していた。彼があの場所を放棄した理由は「人間の手が介入すると、こうも狂うのだ」と言う理由だった。騒霊達は『アドレも同じだから』と繰返すのだ。
(この戦場で数を支えるアドレが私達へ対応しなければ三人の乙女同様一気に孤立させられる。そうでなければ戦線を支える数が減る。
逆に騎兵隊も、全員生存を掲げるならここで数による下支えを排除しなくてはいけない。……お互いここで打たなければ、取られる)
これが騎兵隊とアドレの根競べだ。アドレを支援するのはアリアだけであり、ルル家はカロルを護り、ルストは未だに高みの見物を続けて居る。
「虫けらの首も取れずに盤面が成り立ってる、もっと、私達を見るがいいわ!
けれど、聞きなさい。アドラステイア……悼みましょう。この戦いの後、必ず。奪った命の中に、子供達も含まれているから」
「僕が生き残れることだけを祈って居てよ」
まるで葬列のように。騒霊達が飛び込んでくる。それらを悼む『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)は苦しげな表情をした。
ファイナル・ファイア・フルバースト。その火力を持って、Lilyは四連ガトリングから通常の攻撃を叩き付けた。
ずん、と音を立て狙撃する。最初に持ちうる限りの弾丸を叩き込む。
「葬儀屋として、死者には安らかに眠って欲しいのです。だからこそ、アドレさん……貴方を葬送させて頂きます」
呟き――そして頬杖を付いていたルストを見遣る。掠めるくらいは出来るだろうか。
「手が滑ったのです」
「アドレ、その女を殺せ」
ルストの頬をひゅ、と掠めたLilyの魔弾。ルストは避けることも無かったが、前線で『苦戦』するアドレに新たなオーダーを繰り出した。
「成程、アドレはルストの先兵。拓け、勝利への最短の道! 翠刃・逢魔!」
シュヴァリオンに騎乗してシューヴェルトは走り抜けていく。アドレの視線は揺らぐことは無く、堂々と前を見据えている。
シュヴァリエが探し求めるのはアドレの神霊の淵だった。アドレが所持しているのか、それとも肉体に隠しているのかは定かでは無い。
遂行者である彼は『人』とは別の生命維持を行って居ることが推測される。それを予測できたならば――
(勝利に近付く筈だが……)
アドレはルストの指示に従っているだけだ。余りに読み取れる部分は少ないか。周囲の騒霊を斬り伏せるシュヴァリエの戦略眼がぎらりと光る。
「人使いが荒いのでは? 何も兎も角、先輩の為、与一! 参戦します!!!」
与一は大地を蹴った。イーリンの魔力を帯びた首輪が揺らぐ。イーリンの後方からばら撒く鋼の驟雨は騒霊達を逃しやしない。
味方の位置を確認し、自ら達の布陣が崩れぬようにと尽力し続ける。
「殺すとはなんとも物騒。Shall we Dance? 一曲と言わず、何曲でも踊りましょう――タンゴでもチャチャでも、なんでもね」
「僕は踊りは得意じゃ無いんだよね」
アドレの騒霊達を引き寄せる彼誰時にとって、彼は憎き相手でもある。周囲に存在する騒霊も罪無き子供だろう。
喩え、アドレそのものが天義で非業の死を遂げた子供達の騒霊が聖人の骨――聖遺物そのものだ――と結びついて生まれたものであろうとも。
彼が友人を求めるように非業の死を遂げて怨嗟に狂った子供達を使役することは遣る瀬なく、許せない。
仲間達を庇う。後方で自らを支える物は赦しはしない。己がこの『防衛線』の要になると強く、強く心に決める。
それは『騎兵隊の一番槍』と名乗る『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)にとっても同じ事。
愛馬と共に駆け抜けて、唄うのだ。「騎兵隊のお通りよ!」と声高に宣言し、アドレの注目を引き続ける。偶像騎士は後光を背負い眩く輝いた。
「どうしてイレギュラーズって光るの?」
「キャロちゃん、しっ」
先程の『殿』の後光を思い出すカロルにルル家が首を振った。じろりと睨め付けるルストからカロルを庇うようにルル家は立つ。
(まだ、ばれてない)
ルル家は息を呑んだ。
(聖竜の力が此処にある。『友達』も手伝ってくれると言ってる。
……私が、キャロちゃんを救うことが出来るかも知れない。私だって、もしかすれば……)
気を強く持つ。それをルストに気取られてはならないのだ。ルル家は息を呑み、騎兵隊と敵対する物であるかのように振る舞ってみせる。
その様子を『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)はまじまじと見詰めていた。
「さて、レイリー。前だ」
「ええ」
レイリーは真白き盾を手に前線へと踊り出す。守られてばかりの偶像(アイドル)なんかじゃない、人々を護り導く偶像(アイドル)なのだ。
「アドレ、一緒に唄いましょ? 楽しいわよ」
「動揺しかできないよ」
アドレは困り切った様な顔をした。騒霊を引き寄せながらもアドレの様子を伺うレイリーが後ろ手に合図をする。
そうだ。アドレの騒霊の『増加数』が緩やかになったのだ。流石に相手にもリソースの限界がある。それに近付いてきているのだろう。
ここが耐え時。騎兵隊が『穴』を開け仲間達を前へ、前へと進ませる為の『基盤』が出来上がる。
「さあ騒霊ども、騎兵隊の動きを見よ! ここは守るしかあるまい!」
シャルロッテは朗々と声を上げた。一番に数が多くその姿を『アドラステイアのファルマコン』を模した騒霊が揺らめき立ち上がる。
「あいつがこの集団の要だ、攻撃を集中し優先的に排除してくれ」
――それを出してくるほどにアドレは本気か。イーリンは「全軍、攻撃準備」と声を掛けた。
ファルマコン。その存在が威圧感を与える。だが、『本番』程ではない。仲間を守りきれるか、その瀬戸際かと総大将が拳を固め。
「さあ行こう、何処までも傍で支えて見せるよ。
この世の果てまででも、君と共に在る騎兵隊なら進撃できるとも!」
シャルロッテの声音が弾んだ。ずんずんと進む『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)の唇が吊り上がった。
自らは見せ札。詰まりは脅しだ。自らの固さは自己完結している。それ故に前線を食い破るように飛び込む牡丹はルストにまで届く可能性を示唆させるのだ。
「面倒だなあ」
呟くアドレに「だろう?」と牡丹が声を弾ませる。ファルマコンの姿をとったそれは牡丹の前に立っていた。味方を守るように立つ牡丹は「よし、戦おうぜ!」と軽やかに声を弾ませる。
「あれを、倒すんだね」
『歩く禍焔』灰燼 火群(p3p010778)が囁いた。揺らぐ炎の如く、その掌に灯が灯る。見据えたのはファルマコンだ。
「――だめだよ、彼らは『死んだ』んだから。もう一度連れてくるなんてそれこそ『ルール違反』だ。
俺の焔は導になるだけじゃない。煌々と一緒に『燃え尽きる』為のもの」
「僕も『死んでない』んだ、今はね」
命を得たのだから。アドレが囁けば「同じようで違うよ」と火群は渋く微笑んだ。
滋賀遁れ得ぬものだと口にするアドレに、燃え尽きること無く絶えず火が灯される火群。その両者の考えは相反する物なのだろう。
ファルマコンの身体が弾ける。攻撃は受け止めるがそれにしたって堅牢だ。
「見たことある存在でありんすね。ふむ、あのアドラスティアを創った存在でごぜーますか。
それにしても賑やかでありんすなあ?子供達の怨嗟とは……わっちにしてみれば、くふ。
子守唄にも等しい。くふふ、さてさて、今度はわっちらが寝かしつけてあげないと、ねえ?」
コロコロと笑う『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は後方からファルマコンやその周囲の騒霊目掛けて飛び込んだ。
「怨念、怨み、辛み……言って良いさ。お前達に何かあった時、オレは居なかった。どうにもできなかったヤツだ
ぶつかってきて良いさ。やりたい事を邪魔しようとしてる、倒すべき敵なんだから。
何もかもぶつけにきて、恨んで、倒しにきて良い。今、それをオレにして良い理由がお前達にはあるんだ。
だから、お前達は悪くない。怨みたいだけ恨め! 言いたい事全部言え! それは理不尽じゃない!
その全部受け止めて……オレ達は前に進んでいくからな!」
堂々と叫んだ『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)や『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)を護る事だけを意識していた。
治癒班を守り抜けば、生き残れる。死のリスクを遠ざけられる。アドレの騒霊達にも声を掛け、堂々と叫んだマッチョ☆プリンにファルマコンの腕が伸びた。
「本当にイレギュラーズってのはお人好しだな」
アドレが呟けば「だからいいんだろ!」とマッチョ☆プリンが楽しげに笑う。出来うる限り『攻撃手』とファルマコンの距離は必要だ。全てが巻込まれては元も子もないからだ。
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は『幼子の姿をした遂行者』はそもそもに置いて、アドラステイアの怨念そのものなのだろうとも感じていた。
「アドラステイアが最初から誰かが『誰か』を利用する為の場所ならば、類似性も納得は行く。
けれども、死んだ後位は、そっとしてやるべきだとも思うのさ。子供は……寝る時間だ。誰にも使われず、静かに。……な?」
だからこそ、彼はアドラステイアを利用したと言うよりもアドラステイアそのものに楽園を築こうとしたのか。
それを誰ぞの手が介入し『良からぬ方向』に位置したときに、死を糧として死を食らい、死そのものを代弁するように振る舞ったのか。
(……遣る瀬なくはあるが)
だからといって手は抜けぬ。カイトが放った雨は逆向きに天へ。その気配の中を騒霊達が進む。
「アドレ 霊魂 遺骨 墓標ソノモノデアルト同時二 心持ツ一人ノ存在デモアル。
ン。アドレ一人ダケジャナイ。遂行者達 ルスト 生ミ出シタリ 心 与エタ。生ムダケ産ンデ 与エルダケ与エテ 無責任」
フリークライは癒やしを与えながらも、淡々と言葉にした。フォルトゥナリアやノルンと共に仲間を支え、全ての戒めを打ち払う。
「ン。只 ソレガ傲慢故ダトイウコトハ理解デキル。
七罪 自分ノ持テル機能用イテ 定メラレタ罪二沿ッタ在リ方 レゾンデートル 全ウセントシテイル。
ソウイウ意味デハ フリック 別二 ルスト嫌イデハナカッタリ」
ただ、定められた存在だとフリークライは認識している。ルストもそうだが、他の七罪だって『そう有るように生きている』のだから。
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は「そういうものなのでしょう」とそう言った。イーリンと共に動き、周辺妨害を行なう黒子はフリークライが回復を行なう際に仲間達を苛むこの神の国の戒めの対応を行って居る。
「さて、アドレ周辺の数は減って、粗方『此方』に向いたようですが」
それでもぽつぽつと現れる騒霊達は皆、『アドレ』を守るように存在して居るのだ。そんな少年の姿が『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)には知ったる聖銃士の姿と被った。
「……そうか。相手がアドラステイア創設者だというのなら、挨拶位はしておかないとな。
尤も。交わすのは言葉ではなく、刃(こちら)になるが……必ずこの攻撃を奴に届かせてみせる!」
シュナと名乗った彼とは余り多くを語り合うことは出来なかったか。それでも、アドレに責は幾許もある。
騒霊を斬り伏せる、ルーキスを横切る者達が居る。だが、彼はアドレにただの一撃を放つことを目指した。
騒霊の行く手遮り、声張り上げたのは『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)。
「こっちっすよ! 後輩が入り用と聞いて馳せ参じてきたっす! 被害を受け止める役目が必要なんすね?」
アドレを討ち取る役割は『騎兵隊』でなくても良いのだ。ただ、この後に控える冠位戦に盤石に挑まねばならない。
ウルズは仲間達の様子を一瞥する。傷付いた物は後方へ。救える命を零さないことこそがウルズの在り方だ。自らを『救命者』と認識し、重傷者をフリークライやノルンの元へと運び続ける。
「戦うなら、消耗は避けられません。その消耗を少しでも減らすために……!」
扇を揺らがせ、仲間を鼓舞するノルンは「虫と呼ぶには随分と、意識を割くのですね」とそう言った。
ルストの意識を引付けて、敢て煽るのがこの場のイレギュラーズの役割だ。外では大きく事態が変化している。
遂行者達の命が失われれば、それだけルスト側の戦力が減る。ルストが『外に意識を向ければ』、彼が何らかの介入を行なう可能性がある。
(……ここで食い止めなくてはならないんですね……!)
此処で食い止めるというならば、戦況をよく見定めろ。『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)はすうと息を吸った。
「……見る視界全部におるか。どうも命を無駄に消費させる奴ばっか。
そんなのに負けへんわ。ちょっとだけ力貸してな。夜明を運ぶ。闇祓い切り裂き進むが騎兵隊ってな!」
ゆっくりと声を掛ける。彩陽とて現世と幽世の境を見る瞳を宿している。その声は、アドレと同じ志なのだろう。
ならば、その無念を晴らすのも自らの役割だ。天を穿つ、その為に矢を番え、引き絞った。
ファルマコンは巨大だ。だからこそ、打ち砕く為の一撃が必要だ。廻り廻れば、奇跡を求めて希う、ただの男の願いではあるが。
それは、確かに霊力が乗せられていた。倒された騒霊達は、仲間の解放を求めているのか。それはきっとアドレに対しても。
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は「やれやれだね」と囁いた。
「……アドラステイアではたくさんの子供たちが犠牲になった。
その子たちが今も現世に縛り付けられているというなら、解放してあげなきゃね」
全ての運命は流転している。少なくとも、雲雀が見た限りではアドレという少年は絶対的な悪ではないように見えた。
「子供たちが何人も何人も、あそこで犠牲になった。
けどアドレ、君はそれを良しとしていたワケではないんだね。じゃなきゃ経緯がどうであれ怨嗟たちに寄り添おうとしないもの」
「……僕は悪でいいんだけどな」
「……敵の方が迷ってばかりだね、普通逆じゃないかな? でもそれだけ君たちは人間らしくて、みんなも気にかけるんだろうね」
「それも、辞めて欲しいけどね」
アドレは鼻先で笑った。それだからこそ、困るのだ。
「――だからこそ、俺は君もカロルも殺して道を拓くよ。もし救いたくても救えなかった時、罪を背負うのは汚れ役の仕事だから」
ああ、そうだろうと雲雀は頷く。アドレも、カロルも。手を差し伸べる者は居るだろう。
アドレは聖竜の加護があるわけでもないただの遂行者だ。ひょっとすれば、があるならばカロルなのだろうが――
何も成せなかったときに彼女達を殺せる物が必要だ。その覚悟だけは雲雀は何時だって持ってきた。
「――さ、踊ろうか。我らの輝ける一番槍。
誰よりも、美しく。何よりも、愛らしく。森羅万象が信仰すべき素晴らしい偶像の姿をさらに強く、強く引き立たたせて見せよう」
幸潮の言葉にレイリーは唇を吊り上げた。
楽しむ幸潮と同じように、思う存分に踊ってやれば良い。騎兵隊の存在にアドレが気取られ、騒霊が集まる。
理由など単純明快だ――この大所帯を無視をする訳にも行かぬ。
『アドラステイア』と名乗る少年は、ルスト・シファーの防衛が第一だ。
そして、自らは高みの見物を行ないながら騒霊の制御を以てイレギュラーズを蹂躙しているのだから。騒霊達の包囲網を抜けられては堪らぬとアドレが騎兵隊に狙いを付けたならば、ここが狙い目。
レイリーが、そして幸潮が唄って踊るのであれば『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)もそれに会わせるだけだ。
「はっはー! 騒霊が何だ、鳥騒ぎの方が強いぜ! 楽団の回避バッファー、落とせるもんなら落としてみやがれ!」
宛ら音楽隊のように。楽しげに奏でられるのは行進曲だ。鳥種勇者を名乗り上げるカイトは唄い奏で、響かせる。
目立ったならばそれが一番。集めて爆ぜる。羽根の全面制圧飽和殲滅は仲間諸共騒霊達を弾け飛ばせる。
「凄まじいな」
アドレはぽつりと呟いた。ファルマコンが揺らぐ。穴の空いた腹を気にする事無く蠢く騒霊を引き寄せ受け止めた『闇之雲』武器商人(p3p001107)は「おやおや」と囁いた。
「コッチに来ると良いさ」
引き寄せ、イーリンとの連携を密にとる。後方に引き寄せるようにして騒霊達を集めれば何れはアドレの周囲は伽藍堂になる筈だ。
武将人は傷を負えば追うほどに強くなる。自らの在り方は『痛みさえも享楽のうち』だ。
紫苑の眸が揺らぐ。死を体現したその騒霊は否応なく手を伸ばすのだ。まるで自らを死神。であるかのように振る舞って。
アドレも、所詮は『傲慢』だ。奪い取る事さえ当たり前だと生きている。
「私はまたアンタらから奪う! そうする理由があるから! 止めたいなら命獲りに来いよ!」
美咲は叫んだ。アドレの紫苑の眸が妖しく光帯びる。その聖痕が輝いた。
成否
成功
状態異常
第2章 第5節
●『神』の座IV
アドレを前に戦いながら『死血の傍ら』セレナ・夜月(p3p010688)は考える。
騒霊達は騎兵隊が相手している、ならば、前へと進めるのだ。
「マリエッタ。ルストの権能をどう、思う?」
問われた『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は「セレナは?」と敢て問い返した。
マリエッタの選択は『カロル達遂行者全てを解放する』ことだ。それは絶望の中に沈んだ夢と希望を有する者を葬送する事を意味する。
解き放つ事が出来るのであれば、それが一番だと、自らの手に握り込んだ聖竜の力に意識が傾いた。
「『神霊の淵』と言う箱、神の国という箱庭。そこでの不死と、環境を変える力。神を称するなら頷けるもの。
……ルストの権能はいわば『箱』を操るものなんじゃないかと。
神の国と言う箱庭を自由にできるのも、神霊の淵という箱を媒介に盟約を結び、力を与えるのも。
そうだとしたらこの戦場も……腹の中に居るような気分になるわね」
にしたって、違和感があるとセレナは呟いた。
「ルストは神の国では不死、権能と遂行者。『あれが生きてる限り勝利は盤石』……。
神の国で不死であるのはルストと盟約を交わした遂行者のはず。なのになんで『ルスト本人』まで不死なのか?」
マリエッタは「あれって本当にルストなの?」とぽつりと呟く。
「確かに『ルストが神の国では不死であること』というのは…まるで遂行者のようではありませんか。
彼の性質や余裕。茄子子さんの結果。ツロに繋がる情報は在れどルストではない事を示す情報になる。
遂行者を解放する為にはルスト本人の権能を断ち切る他はない。だからこそこの領域を見定めて…傲慢の盤面をひっくり返す……!」
この盤面で『ルスト・シファー』本人がその座に座っていないとすれば彼は何処に居るか。
もしくは、とセレナはひっそりと囁いた。
「ルストの権能範囲内だと自分が契約した相手には何だって自由に出来るから自分を取り込んで盟約を課してたりするのかしら」
「もしかしたら、ルスト・シファーは全ての遂行者にダメージを分配しているのかも知れませんね?」
何気なくそう言ったマリエッタに「確かめなきゃね」とセレナは微笑んで――後方を驚いた様子で見た。
『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)だ。明るい声音が弾みカロルが「意味分からない」と腹を抱えて笑っている。
「ルストさんに花冠被せてダンス……ルルさん、その夢叶えましょう!
ムシャムシャくんたち特製の花冠です、どうぞ。ダンスは多分ルルさん次第ですけど、まずは花冠被せるところまで叶えましょうね!
……って、雰囲気それどころじゃないような……?」
「それはそう! 面白いわね、ユーフォニー!」
面白そうに笑ったユーフォニーがカロルとルル家をドラネコに集荷して、ルストの元に向かおうとしていた――が、カロルは「いや、まじで其れ処じゃ無いと思うわよ」と更にけらけらと笑い出す。
「うーん、ルルさん。一度深呼吸して、立場とか全部忘れて。
まっさらな心に浮かんだ夢、願い、想い、思いっきり叫びましょう。はいっ、せーの!」
「ルスト様、付き合って―――――!」
しん、と戦場が冷えた気がしたがアドレは「あいつ」と呟き、アドレと相対していた『玉響』レイン・レイン(p3p010586)もぱちりと瞬く。
「あ、いやだ、もう。うふふ」
カロルは頬に手を当てた。その真意こそ『普通の少女になりたい』なのだ。カロルが当たり前の様に『人間らしく振る舞えば』、屹度誰かが動き出す。
ユーフォニーの視線がルル家を見る。彼女は何かを心に秘めて機を伺って居るのだろう。
「はい、ということで。私は終焉に行きたいんですけど! ルストさん! 終焉はどんなところですか!」
「知らん」
「誰がいますか!?」
「居るだろう」
「なんで嫌そうな顔したんですか!? トラウマでもあるんですか!?
ついでに神の国の秘密教えてください! 羽虫に教えたって余裕ですよね!?」
「カロルが気に入る玩具は皆、喧しい」
ルストが嫌がるような素振りを見せた。『世界一のいい子』楊枝 茄子子(p3p008356)は「ほんとにさあ」と息を吐く。
「私は私のやりたいことしかやらないし。ルルは傷付けたくないから触らない。大人しく回復されろよって感じだけどまぁいいや」
「違うわよ、茄子子。私、今、まだ、滅びが身体を包んでるから……お前の回復、通らない」
仕方ないのよねえとカロルは何気なく言ってから茄子子は「それもどうでも良いや」と呟いた。ルスト曰く『喧しい玩具その1』である。
「私はルルの恋は応援するよ。私はルルを嫌いなだけで、ルルを好きじゃない訳じゃないんだから。
なんかみんな考え直すよう言ってるけどさ。恋は恋なんだよ。好きに理由なんて無いんだよ。
ルストはクズでカスで神だけど、それでもルルはアイツが好きなんだよ」
「おっ、言うわね」
「言うよ。だから、私がルスト共々殺してやるよ。少なくとも、私はそのつもりで動くよ。
好きな人の居ない世界なんて、あっても意味ないもんね。――あは、お礼なんていいよ、友達だもんね」
茄子子は「その代わり、ルストが勝ったらちゃんと玩具にしてよね。私は死にたくないからさ」と囁いた。
屹度、大多数のイレギュラーズが彼女を救いたいと願う。叶わない恋じゃなくて叶えれば良い。不服だけれど、茄子子の恋は何となく叶って仕舞った。
死が二人を別てない程度にぎゅっとしがみ付いて死んでくれ――そうするため茄子子は動いているのだから。
「はい! はい! 一ついいかな? まだ決着がついてないことがあるんだ」
「ん?」
「ルストと私のどっちの顔が良いかバトルを始めるしかないんだ。
顔が良い傲慢な男が相手でも顔が良い聖職者の女がいたって良い。傲慢な男がどれだけ顔に自信を持ってるかわからないけれどね!」
『アホくさくて隙を生んでくれ』の勢いで『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がずいずいと歩を進めた。
その場だけ妙な空気が漂っているのは気のせいではない。
「審判はルルちゃん。せっかくだし、お互いの近くに寄って見てみる!? 存分に堪能していいよ。でもそんなに見られると照れちゃうかも……」
「キスしてあげましょうか」
「ががーん、それ聖痕じゃない」
べえと舌を見せるカロルの舌には聖痕が刻み込まれていた。それはカロル特有の『頌歌の冠』そのものである。
スティアはそれをじいと見詰めてからやや違和感を覚えた。聖女カロルの聖遺物が今のカロルを作っていたとしても、『聖竜の加護』まで有しているならば『遂行者』と『聖女』を分けられる可能性があるのだろうか。この頌歌の冠に滅び全てを押し付けて、聖竜がカロルを生かすという奇跡を願えるような――
「スティア殿」
「えへへ」
ルル家にやんわりと止められて、その瞳を見る。彼女も何かを考えて居る。あまり近付きすぎて気取られてはならない、か。
「ねえ、ルルちゃん、恋する乙女の顔はもっとキラキラしてるんだよ。私はずっとイルちゃんの傍で見守ってきたからわかるよ」
――貴女にそんな顔をさせる男は相応しくない、と言いたい。素敵な恋はこれから出来ると教えてやりたかった。
(これ以上、悲しい顔をしなくても良いように全力で頑張るから、少しだけ待っていてね……)
それにしてもルストは何をしているのか。遂行者達が減ってきたならばこれから彼が動く可能性もあるか。
「さーてと」と『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は声を発した。
「ぶはははッ、よぉ! 初めましてになるかな? ゴリョウってもんだ! 色々と経緯は省くが、今俺が『聖盾』を継いでる。
奴さんにバレねぇよう火焔盾『炎蕪焚』に重ねて偽装して力も抑えてるけどな。
で、こいつから得た情報なんだが『聖剣』とのシナジーがある、らしい。
そいつが何なのかまでは分からねぇが、少なくともこの状況に一刺し入れることが出来るモンと見てる。
――なので、お二人さんと打ち合わせ及び共闘させてもらいたくてな! 壁は任せな!」
「ゴリョウ殿、宜しく頼む」
リンツァトルテ・コンフィズリーは己の聖剣を手に大きく頷いた。ゴリョウもリンツァトルテもその力の引き出し方は分からない。
イル・フロッタとてその助けにはなれないだろうが、好機を待てば為せばなる可能性がある。
「さて、壁は任せな!」
「私も剣を振るう。先輩とゴリョウ殿を守る為に! ……私にも、なにかやらせてほしいんだ」
にこりと笑ったイルがゴリョウに集う敵を叩ききる。イルとリンツァトルテの姿を確認してからスティアは小さく息を吐いた。
「カロル君……いや、立場の違いっていうのはその通りだ。ごめん。でも俺、やっぱりこんなやり方は違うと思うんだ」
「いいわよ、立場が違うから」
『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)は『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)を支援する。
立場の違いは分かり合うことが出来ない気高き壁である。しかし、歩み寄る事が出来るとアルムやムサシは感じていた。
「聖女ルル。先程はその……塩対応、失礼したであります……貴方は本当に……ルスト・シファーが好きなんでありますね……?
恋してる仲間……ちょっと親近感湧くかも……」
「誰にしてるの!?」
ぐいぐいと身を寄せようとするカロルをまたもルル家が諫める。そう、全ては機が熟すまで待たねばならない。
ルストに目を付けられないように、少しずつ、じっくりとーーけれど、カロルはそんなことで止まる女ではないのだ。
「人々を……自分が創ったものまでもを愛さない人が、神様でいいと思うかい?
部下を虫螻扱いするような人が、新しい世界を、そして君を……大事に守ってくれるかな?
俺にはルスト君のどこが良いのか、よくわからないな……顔、ちょっと怖いし……」
「顔、めっちゃいいでしょ!」
「そ、そこは怒るんだね……」
「いや、ルスト様は顔面が良すぎて、私の息の根止まりそうだと思うのよね。顔の良さだけは認めて頂戴よ」
アルムにずいずいと食ってかかるカロルに、ムサシはふ、と笑った。
「聖女カロル。貴方が本当にルスト・シファーが好きなら……少し。お話してもよろしいか? 今度はもう塩対応はしませんから。
ルスト・シファーはたしかに自分の変身した姿とは別ベクトルでいい顔をしてるでありますよね。
他に……ルスト・シファーについて。貴方から聞きたいことがあるんであります」
「何かしら」
カロルは『お前は誰が好きなのだ』と言いたげにじろりとムサシを睨め付けた。
「ま、俺も愛とか恋とかは疎遠だから、人になにか言える立場じゃないんだけどさ。
恋と言うなら、相手に振り向いて貰いたいものだよねぇ。ね、ムサシ君! ムサシ君は本当に好きな人が居るから」
「ちょっ――まあ……恋バナをしないか?
同じ『恋してる仲間』だから、少し話がしたくなったんだ。こういうのは女の子同士の方が良いんだろうけど」
ひっそりと、声を潜めて、ムサシは言った。好きだというならばそれは否定しない。それだけは否定してはならないと思ったからだ。
敵だろうと味方であろうと、その気持ちだけは誰にも侵されざるものだと理解している。
「貴女の恋。本当なら……俺は、応援するよ。
だからさ。貴方の好きな人の好きなところ。教えてくれないか? 顔以外の好きなとこ、気になるんだ。俺の方も……少しくらいは教えるから、さ」
「余裕ぶっこいてるところ」
「……」
「時々優しい所。人の事、玩具程度にしか思って無さそうなのに『否定』しないところ」
何か役に立つのだろうか。そんなことを思いながらカロルが『ルストの好きなところ』を話す声に耳を傾けた。
その一方で――
「リュコスさんを迎えにいくと、決めてましたので? 取り敢えずその辺り、片っ端から吹き飛ばしていけば良い訳ですね」
『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)はゆっくりと『薔薇冠のしるし』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)へと向き直った。
「ステラ! 来てくれた……これで百人力!
ルストをぶっ飛ばしたい。でも普通にやっても届かない、から、ちょっと考えがあるんだ……とにかくめいっぱい暴れよう。
暴れて、暴れて、ルストにも、遂行者たちにもぼくとステラがここにいるんだってことを教えてあげよう」
考えて居ることはある。リュコスとて聖竜の力を手にしている。その機を狙うのだ。
「やい、ルスト」
何度でも名前を呼んで気を惹けば良い。周囲に蔓延る騒霊が邪魔だというならば引き寄せ、アドレでは無くルストの元へ進む。
「普段なら通りすがりみたいな物ですが、今回はまあ、リュコスさんを巻き込んだ落とし前はちゃんと付けて頂かないと、ね?」
囁き、そしてステラは地を蹴った。大地を踏み締めて攻撃は常に全力で叩き込む。
ルストへの道は困難を極めるか。グドルフと、そしてアリアが居た。アリアは回復手だ。邪魔立てするならば――進むステラの傍らを『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が走り抜けた。
「アーリアさん、アリアは任せて。グドルフさんをお願いするね」
アドレのことも気になる。まずはアリアだ。アリアが自らに回復を施せばアドレに向く支援が消える。
リスティアとオウカが居ないならば回復手であり、自らを支え続けることの出来るアリアと真っ向に向かい合えば『斬り伏せる』可能性は格段に向上する。
「アーリアさんじゃなくて申し訳ないけど、貴方はここで斬るよアリア」
「そう簡単じゃ無いですよ」
「そうかな? 3人で戦う貴方達は脅威だったけど、貴方1人なら倒すのはそれほど難しくない。
神霊の淵がどこにあるかもわかっている以上、不死性もない。正直に言って、他人が大切にしてる思い出の品を斬るのは気が進まないけど……」
それでも背負って行くと決めた。アリア自身はある程度の自己回復を終えている。だが、じり貧だ。
サクラが此の儘向き合い続ければ直ぐにでも倒す事が出来るだろう。周囲ではグドルフやロイブラックとの戦いが続いている。
「恋した相手の望みを叶えたいと思う気持ちはわかるけど、相手が悪かったね。
ルストの理想は叶えるわけにはいかない。天義の騎士として、イレギュラーズとして、この世界に生きる1人の人間として!
――だから、今だけは私は悪になる。恋する女の子の思い出を打ち砕く悪党に!」
「カロルのことは?」
サクラがぴくりと指を動かした。
「カロルはどうするんですか?」
好きな人の夢ならばなんだって叶えたい、なんて事を言う『女の子』をどう扱おうか。
アリアの周辺にも残る騒霊や選ばれし民達が居た。サクラがぎらりと睨め付ければアリアは笑う。
「私、か弱い女の子ではないのですよ。『アーリア』だってそうでしょう?」
ああ、彼女はどれだけ変質してもサクラの知っている『彼女』そのものなのだ。
「……やれやれだね……この状況、先ずは不確定要素を無くすのが先決かな?」
嘆息した『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)は仲間達の目標の障害を打ち払うべくアドレと肉薄した。
叩き付ける一撃に、魔導機刀が動きと共に擦れた音を立てる。エネルギーが破裂して、騒霊の護りが薄くなったアドレに傷を付けた。
抜刀されたそれがアドレが集めた霊力そのものにぶつかる、だが、ガス欠か。アドレが小さく舌を打った。
「この神の国を破壊し、冠位魔種ルストを討つ。今までになく困難であろうが、まだ諦めるにはには早すぎる――征くぞ、我等もまた、道を切り開くために進む時だ」
進む大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)と共に『新たな可能性』レイテ・コロン(p3p011010)は奔る。
数の暴力には数で。騎兵隊が集めてくれた騒霊達。残るアドレはガス欠だが、それでも強敵である事には違いない。
未だ、騒霊が幾許か産み出されるならばムサシはそれを薙ぎ払うのみ。
「――主砲、全門斉射!!」
「武蔵!」
武蔵が放つ。その大ぶりの一撃を避けた様子で現れた騒霊を全て受け止めてからレイテは「こっちだ」と声を発した。
「レイテ」
「無理? するに決まってるでしょ。だってボクが耐え続ける限り、武蔵が薙ぎ払ってくれるよね? 信頼してるからさ! 相棒!」
彼女を守るのが己の役目。痩せ我慢をするレイテを見て、武蔵は更にアドレを攻め立てる。
「武蔵自身の装甲でもある程度は受けられる、無理はするなよ……!!」
「任せて」
レイテの微笑みを越えて、武蔵は進む。先でレインが皆を癒す。彼はただ、アドレと向き合っていた。
「君達の本当のこころがそれを求めてるの……あたたかい場所を求めてるのは知ってる……。
君がもう、本物の自分がどれなのかが分からなくなってるのも何となくわかる……気がする……」
「そう」
「アドラステイアで子供たちがどうなったかも知ってる……君が……僕達で間に合わなかった子達を背負うなら……。
僕達は……まだ間に合ってる子達を守るだけ……そして……間に合わなかった子達の事……忘れない為……。
その子達が……世界を巡って産まれてくる時、もう少しマシな世界にしておく為に……生きて、笑える為に……僕は君を壊すよ……」
「それがいいよ」
アドレは笑った。レインの放った光の羽が突き刺さる。
アドレと共に居れば、平和だというならば側に寄り添えば良い。そうじゃ無いならば、誰かが誘う声を掛けてくれるはずだ。
「アドラステイアを作ったけど……そこを捨てたアドレには……その子達の声は……それを受け容れた上で戦うなら……君は臆病で優しいんだよ……。
遂行者は皆優しい……少なくとも僕が出逢った人達は……だから、余計に僕は負けられない……その人達の思いを少しずつでも掴んで進むって決めたんだから」
「遂行者に何て、肩入れするもんじゃないよ」
アドレは言った。傷だらけだ。幾許もの攻撃を受けた。騒霊が減れば騎兵隊を始め、イレギュラーズと直接戦う事になる。
ルストは助けてくれない――?
それは勿論だ。その人を守る為に居るのだから。
「アドレ様」
『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)は眉を顰めた。
「かなしいきもちが押し寄せてきても……ニルは、引かないって決めたのです。
やめてもいいよってアドレ様は言うけれど、アドレ様だって……やめてもいい、とニルは思います。
……ニルがかなしいのは、アドレ様が笑っていないこと」
「でもね、ニル。僕が辞めれば僕は死ぬんだ。だから最後まで戦わなくちゃいけない」
アドレは肩を竦める。もうじり貧の少年は一歩、引き下がった。
「ルスト様の顔は確かにキレイかもしれない? ですけど。
アドレ様のことも……カロル様たちのことも、大事に思っていない感じがします。ニルはそれが、とってもとっても、いやです!」
カロルの刷り込みって凄いなあ、と全く別の事を考えた。ニルはルストがアドレを見る目が嫌いだった。
誰かに作られたから駄目なわけではない。ニルだってそうだ。失敗作だと己を位置付けるアドレのことは『かなしい』のだ。
「アドレ様――」
「僕は、生きるか死ぬか、それしかないんだ」
アドレは囁いた。『ただの女』小金井・正純(p3p008000)は「結局、そうなんだろうね。喧嘩をしよう」と笑う。
「此処まで来たら、この喧嘩もお終いかも知れない。思えば、長くて短かったね」
「正純は僕の人生の大半にいたよ」
「……それは、どうなのか」
「それだけ、僕にとっての正純は大きかった」
アドレの霊力は、大した形を作りやしない。騒霊達は鳴りを潜め、ただの女と、少年が向き合うだけだった。
「さっきのキャロちゃんを見て、貴方はどう思った、どう感じた?
人になろうと、人であるためのものを頑張って集めてる彼女をみて、大好きな人にあんな風にされ、……いや、それは少し喜んでそうだな、こほん。
とにかく、キャロちゃんはキャロちゃんなりに考えて、やりたいことしてるでしょう」
「まあね」
正純はゆっくりと顔を上げた。
本当に目があう友人(ルル家)は何か考えて無茶を手伝わそうとするし、前の前の彼だって生まれも育ちも抱えている物も全部ないまぜにこっちを見る。
仕方が無い、手の掛かる奴ばかりだと苦い笑みが浮かぶ。
「それでもまだ貴方はやりたいことをハッキリと言えない? 貴方が、そう生まれたから?そういう役目を与えられたから?
別にルストに従うのが、やりたいことならそれでいいと思う。でもそれが貴方の真の望みじゃないなら、私は友達としてそれを止めたい。
だから、教えてよ。聞かせてよ。貴方の言葉で。生まれとか育ちとか抱えてるものとか全部投げて、貴方自身のことを」
正純にアドレは――
成否
成功
第2章 第6節
●『アドラステイア』
死とは遁れざるものだ。決して『歪む』事の無い終着点である。
己はそうした概念の元で産み出された。曰く、生も死も清濁併せ呑みその全てをも愛するという『強欲』な妹に「お前に成せぬ事を為してやる」と示しただけなのだという。
そんな勝手気ままな主は「お前の為したいことは何だ」と問うた。
――罪を犯した者が居る。一族は連帯での責任をとるべきだ。
――貴様、泥をかけたな? なんと穢らわしい。絞首にすべきだ。
――食い扶持が無くてパンを盗んだ。何と可哀想な子供だ。ならば、首を刎ねてやろう。死すれば腹は空きませんよ。
それは天義の騎士が、貴族が、聖職者が口にしてきた言葉であった。
それらの在り方に異を唱えた聖人が一人居た。天義の司教である。彼は「幼子に罪はない」と繰返した。戯言半分と受け流されて居ただろう。
かの司教は天義の貴族の一人であり、それなりの地位に立っていたからだ。気が触れたとておいそれと処刑は出来まい。
司教は個人を営み、親無き子供達の保護をした。彼等に教育を施し、騎士に育て上げた。兄は弟を育て、子は共に成長して行く。
親が罪を犯したからと言え、子が罪人では無いという証左を得たかったのだ。
だが、有るとき、男の孤児院で保護されていた子供は罪を犯した。父の処刑を行なった聖騎士に「報いを受けろ」と叫び襲いかかったのだ。
当然、子供は処刑された。見るも無惨な姿で吊し上げられて見世物になった。
風当たりが強くなった男は苦悩した。それでも、自らの在り方を全うし続けたのだ。
――だからこそ、彼は聖人と呼ばれるようになった。『子供達の救世主』、そんな「天義では恥ずかしい通り名」までも与えられて。
「僕は……天義という国に復讐がしたい」
少年は言った。この国は変わろうとしていると言うが、それならば聖人が最後まで感じた苦悩は何だったのだろうか。
それまでに犠牲になった子供達を蔑ろにして未来を見ろというのか。その歴史全てを塗り替えて、素晴らしい物にしてしまえば良いのでは無いか。
「僕は――」
少年は、聖人の骨に滅びのアークと『天義によって処刑された子供達』が混ざり合ったものだった。
両親の犯した罪は子にも償わせる。一族に流れる血が汚れているのだと以前までの天義は不正義の烙印を押し断罪してきた。
故に、抱いた復讐心には曇りは無かった。冠位強欲ベアトリーチェの『行ない』により多く出た戦災孤児を集めた都市を造ったのは、子供達だけの楽園が欲しかったからだ。
導く為の者達を用意してみれば、それらは子供を利用し、子供そのものを食い扶持にする『クズ』ばかりだったではないか。
「人間なんてクソだな」
アドレは呟いた。そうだ、自分だってクズだ。同胞の想いを利用して天義という国を塗り潰そうとしてきたのだから。
どのみち、この想いは晴れることはない。いっそのこと、何か強い光にでも照らされて、全てが変わらねば意味など無かった。
アドレにとってツロは『導き手』だった。――ルスト・シファーとてそうだった。彼が居るから己は遠慮も無く己の想いをぶつけることが出来る。
怨嗟も、嫉妬も、恐怖も、ないまぜになったそれらを与え、天義に爪痕を残す。
漸く自分たちが生きてきた意味がそこに記されるのだ。だからこそ、此処で無残に散っても構わなかった。
(ルスト様は屹度怒るだろうけれど、僕は満足してしまうんだから……やっぱり人間なんて物は碌でもないよ)
アドレは目を伏せた。そんな『失敗作』な自分に、手を差し伸べる物好きが居るのだ。
『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)が困ったように言う。
「誰かに造られたモノだっていうのなら、ニルもおんなじです。こころがあります。
想いがあります。それは、失敗作なんかじゃないです」
『ただの女』小金井・正純(p3p008000)は何時だって、友人のように声を掛けてくれるのだ。
「貴方はやりたいことをハッキリと言えない? 貴方が、そう生まれたから? そういう役目を与えられたから?
別にルストに従うのが、やりたいことならそれでいいと思う。でもそれが貴方の真の望みじゃないなら、私は友達としてそれを止めたい。
だから、教えてよ。聞かせてよ。貴方の言葉で。生まれとか育ちとか抱えてるものとか全部投げて、貴方自身のことを」
正純は屹度、馬鹿正直だ。何処まで行ったって、誰かのために必死になれる女なんだろう。
アドレはそう思ってから、彼女の事が愉快で堪らなかった。『新たな一歩』隠岐奈 朝顔(p3p008750)のように「受け止める」と言うわけでもなく、『黙示録の赤き騎士』ウォリア(p3p001789)のように怨嗟を晴らそうとするわけでも無く。
「遂行者と友達になるもんじゃないよ」
アドレはぽつりと呟いた。
「けど、僕は生まれながらに遂行者だから遣りたいこと何てただの復讐しかなかったけどさ。
……まあ、そうだなあ。最後に見るのが――」
ちらついらのはもの凄く光り輝く『殿』一条 夢心地(p3p008344)だった。視線を逸らす。
「お前で良かったよ、正純」
「今違うものを見てませんでした?」
「正純だけを見てたよ」
アドレは首を振ってから「もうちょっと僕も強いと思ってたけど、無理だったな、バレたら」と呟いた。
「これ以上戦ったって苦しいなら、僕を殺すのはお前で良いよ」
「――随分と、自分勝手」
正純はゆっくりとアドレの聖痕に触れた。突き刺さった鏃が何かにぶつかった。聖人の骨に罅が入る。
「カロルを宜しくね、アイツ、寂しがり屋だからさ――」
ゆっくりと正純は顔を上げた。その視線の先には『薔薇冠のしるし』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が、そして『夢見 ルル家』が居る。
――私はキャロちゃんに生きて欲しい。もう友達を失いたくない。
(ああ、さっきからやけに目が合うと思ってましたが、勘違いではなさそう)
聖竜の力を『聖女カロル・ルゥーロルゥーを遂行者ではなくす』事に使えば、ルストを相手に苦戦する可能性もあるだろうか。
けれど、ルル家は決めて居る。何を伝えたいかなんて、エクスマリアも正純も問う必要は無いと感じていた。
(……覚悟を決めなくては。その前に『グドルフ』さん――いいえ『魔種』を倒さねばならないか……)
幸いにして『聖盾』の力もある。『聖剣』もある。
それに――外ではサマエル撃破の一報が飛び交っている。
あと少し。ロイブラックとアリア、そしてグドルフを打ち倒せば機が熟す――
第2章 第7節
●『ロイブラック』
――男には半分だけの心臓が残された。
その手法には疑問や疑惑が残る。彼は深くを知らぬだろう。ただ、分かるのは男の目的が『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)である事だ。
「セラスチューム」
呼び掛けるセナ・アリアライト――いいや、セアノサス・グラヨールは静かな声音で問うた。
「いいのか」と。己がセラスチュームである事を認めれば、彼と向き合う事には深く意味が作られていく。
「いいのです」
星穹は言った。ブーケの死を仲間達には背負わせてしまった。母の愛も知らず、唯一の肉親とさえ引き剥がされた彼女はさぞ苦しかった事だろう。
「元より、ロイブラック。あれが欲しいのは……ずっと、ずっと私でしょう。なら私を奪いに来なさい。
命なんかじゃ足りないわ。私の全てを奪うことでしか、お前は私を殺せない。だからお前も全てを賭けなさい」
「分が悪い賭けは嫌いなのだが」
ロイブラックはやれやれと肩を竦めた。星穹は美しく、殺意を込めて目を細め微笑む。思わず息を呑んだのはセナだった。
「……だってそうじゃないと、お前が奪ってきたものと釣り合わないじゃないですか。
多くを踏み躙り嘲って生き長らえるお前を、私は絶対に許さない」
――おねえさん。
ブーケがそう言った。彼女と共に居たシアも、彼女の兄も、何もかも。人を踏み躙って生きてきた男を許せるわけもない。
「ロイブラックさまの『そこ』に、もうひとつ、あるのです、ね」
確かめるように『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)が問うた。神霊の淵、ルスト・シファーの用意した『不死の妙薬』はさぞ心地良いだろう。
それが偏執狂となった魔種にとっては利用しやすい能力であった事は言うまでもない。
「想い焦がれたものを、手に入れたいと望む気持ち、その執念。……いつから、そうなってしまったかは、知る由もありません、が。
そのために、色々なものを、踏み躙ってきたのでしょう? 星穹さまは……貴方のものではありませんし、そちらには行かせません」
メイメイは静かに言った。薫る風は嫋やかに、セナを守るべくメイメイは一、歩を進める。
「メイメイ殿」
「セナさま、おまかせください。壊れた鳥籠はもう、戻りません、よ」
メイメイは『神霊の淵』を駆使したロイブラックが自らの身を堅牢たる加護に包んだことに気付く。
「……ふん、まだ邪魔が多いのぅ、ルストば相手したいというんに鬱陶しい。
おいっ、一晃! 居るのは分かっとる! 手ぇ貸せい!」
大声を響かせた『藍玉の希望』金熊 両儀(p3p009992)に名を呼ばれてからやれやれと肩を竦めたのは『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)であった。
「フッ、やけに張り切っているのがいると思えば貴様だったか。丁度いい、合わせてやる。
少々こちらも不完全燃焼気味でな、まだ丁度よく試し切りするのにいいのが残っていた。
将の首欲しくばまず馬を射よという事だ、まずは目の前の奴を叩き潰すぞ。力で押し通るのは貴様の得意分野であろう、金熊よ!」
「ぬかせ」
両儀の唇が吊り上がる。飛び掛かるようにロイブラックとの距離をつめた。指先がぱちん、と音を鳴らす。
真白い羽根が周囲に巻き上がっていくその光景に両儀は「こりゃあ目を瞠る美しさきに」と小さく笑った。
「美しいだけでは意味も無いだろう」
「その通り、よう分かっとる」
一晃は両儀の木刀を受け止めたロイブラックの胴を狙う。無視できない威力だ。
「俺の方が早いぞ、花を持たせなくて良いなら後で構わんが?」
唇が吊り上がる。美しい音色など持ち合わせては居ないが、骨身が軋む音ならば見舞ってやろう。
「随分と手荒だ」
「手荒にされる理由があるんだよ。星灯聖典の連中の分までルストはぶちかまさないと気が済まないからな!
なーにが傲慢の冠位だ、あんな紛い物の理想郷でプライドが痛まねぇのかよってな!」
そんな傲慢の手を借りて不死を気取るのも気に食わない。『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の符が中へと浮かび上がる。
式神の『目』はグドルフに、そしてアリアに向かう仲間のことを確認していた。
(しかし、ロイブラックか。加護を得たとしても所詮は『半分』……相手も油断していたとみるべきか)
錬はまじまじと見る。相手がヒーラーであるならば此方の消耗よりも、相手の消耗が早いかの戦いだ。
無視できない威力を与えると告げた両儀と一青いを支援するが如く、符が宙を踊りロイブラックを翻弄し続ける。
「よーしイイ感じに幹部どもまで来れたか。
聞こえてくる分にゃ遂行者に縁のある連中がいるみたいから、そいつらはそれぞれ任せて俺はヒーラーを狙うか。回復役から潰すのは鉄則だしな」
うんうんと頷いた『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)は「なあなあ」とロイブラックに気易く声を掛けた。
「あん、お前新興宗教の教祖だって? そういえば練達でも綜結教会っつー新興カルト宗教が悪さしてたっけな」
「それも、此度の事件だろうね。深くは興味も無いさ」
「だろうよ。まあ、これは俺の感想だ。そん時も思ったけどホント宗教絡みの連中ってロクな事しねぇなぁ。
日々の暮らすための心の支えにだけなってりゃいいのに。神様と同じだ、いらん事すんじゃねえ!
――ちゅうわけでお前、特に何の因縁もないけど死んどけオラァ!」
新興宗教などと神を騙り、民を謀る物を許容できる物か。距離を詰める。雄の一撃を弾くように真白き羽根が舞い上がる。
しかし、距離を詰めるように雄は奔った。
「さて、心臓はあと一つ……お前の中、だな?」
自らに与えた加護と共に、響く音色は怒りを湛えている。
旋律には演奏者の気持ちが乗ることを『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は知っている。
これはイズマの怒りだ。幼子を利用し、歌声をも利用しようとする男を許して等居られない。
「星穹さんの自由を縛る権利などない。歌声もその持ち主も何一つお前のものではない。
お前の執着は音楽家が責任を持って阻止しよう。どんな歌声も、お前がいない方が自由で美しい響きになるんだよ!」
ロイブラックを睨め付ける。彼は星穹ばかりを見ている。それで良い。ならば――横から崩すのみ。
イズマの旋律と共に、するりと前へと走った『女王陛下の名の元に』プエリーリス(p3p010932)は小さな手で武器を握っていた。
「感傷に浸るのは後だわ。行けるわね、ミザリィちゃん?」
「ミゼラブル、で構いませんよ…………陛下」
『レ・ミゼラブル』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)にとって『母』は御伽話<メルヒェン>を冠する『王』たる存在だ。
娘たる『無情なる御伽噺』は、その無慈悲な牙を研ぎ澄ませる。
「……そう、では行進を始めましょう。もはや慈悲は無し。粛清を。我らに仇名すものに粛清を!」
ミザリィは御意、と応えた。星穹ばかりを見ている男の横面に叩き込むのは嘲笑う月の魔力。
王たる女は痛みを知る。幼子の苦しみが、この男の行いによる物だというならば――
「判決は死刑。罪状は言うまでもないわ。首を寄越しなさい」
生命を愚弄する者をプエリーリスは許せない。人の生きる道筋は、その当人が決めることが出来る筈だからだ。
「人生を返せと言いたくもなったけど、もうそんなことを言うほど子供でもない……解ってる。返ってこないものだって。
聖竜の力はお前のためになんて使ってやらない、私の未来は竜に頼らずとも切り拓ける。
私には未来を歩む剣がある。彼が居る――彼と生きる未来をこの手で掴む!」
メイメイは星穹を見た。きっと、彼女は決意をしている。
自らはヒーラーだ。倒すに至るほどの力を有しているとメイメイは思わない。その決意と覚悟もまだ、甘いかも知れない。
だが、隙は作れる。視線だけ、星穹にくべて地を蹴った。
「美しい歌声、美しい音色……結局どれも貴方のものにはならなかった。それが全て、だったのです。自分自身で、そうなさってきたのです、から」
鳥籠の雛鳥は、ただ、愛おしい愛おしいと家族を思って鳴いていた。
最初から何も手には入らなかったのだ。
「さあ、覚悟はいいかロイブラック。ここでキミを倒して星穹と義兄上の憂いを断つ……!」
『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)はただ、ロイブラックを見ていた。
男は胸を庇うように動いている。やはり人間は人間らしい行動をするのだ。急所を逸らすことは出来ない。
胸の奥深くで鼓動が鳴り響くことが必要だったのだ。
「キミの企ても此処までだ」
ヴェルグリーズは鋭く睨め付けた。
「ブーケ殿のような幼い命まで利用していたんだ。
キミが星穹を手に入れたとして彼女がどんな扱いを受けるかなんて目に見えている。人の命や尊厳を弄ぶような行いは決して許さない」
奔るヴェルグリーズの世を星穹は見詰めていた。
――この世界は間違っている。ずっとそう思っていた。
星穹は静かに息を吐いた。世界を否定すれば、ヴェルグリーズと結んだ縁も、空や心結が産まれたことさえも否定してしまうのだ。
ロイブラックへと積み重ねた怒りは傷である。過去は痛みである。流した涙は喪失でもあった。
「星雛鳥」
呼び掛ける男の声音は重苦しい。
ああ、そう呼ぶお前に恐怖した過去など、全て受け入れて進む強さは『彼』が、『兄』がくれたから。
「私の名前は星穹、そしてセラスチューム・グラヨール。お前には手に入らない女の名前です」
「まだ勝敗は喫し――」
まだだと、言い掛けたロイブラックに影が落ちた。跳ね上がった狼は牙を突き立てる。
続く、視界には美しい三日月が見えた。命を狩り取る形をしている、その鎌が鮮やかに振り下ろされる。
「星穹さま!」
メイメイが呼ぶ。ロイブラックが僅かに後退したその場所に、メイメイの魔力が叩き込まれ、姿勢がぐらついた。
「くっ」
「全ての報いだ、ロイブラック!」
イズマが叫び、錬の符が周囲を取り囲む。
ロイブラックが地へと叩きつけられる。
「殺すか」
男の瞳がヴェルグリーズを見ている。愚問だと男は思った。
元から、相棒の身をも弄ぶ存在をどの様に許容できようか。
「殺す」
ヴェルグリーズの手にする刃の切っ先が男の胸にぴたりと宛がわれ。
「ヴェルグリーズ。私達に殺させてくれますか……私とお兄様が、未来を生きるために。
――これから殺すであろう両親に、胸を張って報告できるように」
星穹は穏やかに微笑んだ。ヴェルグリーズは「それは一緒に背負うのは?」と囁く。
共に握り締めた刃は肉を断つ、中に存在する『容器』が罅割れて男の肉体が霧散した。
成否
成功
状態異常
第2章 第8節
●『神』の座V
「ふふふ! 恋って難しいわねぇ でもわたし、ルルちゃんのことは本当に好きよ だってとっても可愛いもの。可愛いものはみんな好き」
嫋やかに微笑んだ『未完成であるほうが魅力的』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)に「あら、ありがとう」とカロルは何気なく返す。
彼女を見て居ればここは戦場などではなく、カフェテリアで雑談でもしているような雰囲気なのだ。
冠位魔種の傍らに居ながら、そうして戯けてみせるのは彼女が『聖竜の加護』に包まれているからなのだろうか――
「……恋という感情はすごく不安定です。愛に変わったり、執着に変わったり……時には憎悪に変わったり」
妙見子は知っている。叶わない恋をしていたと告げれば傷付いた顔をしたカロルに「そんな顔なさらないで」と肩を竦めた。
カロルに傷付かれると、何と言葉にするべきかも分からなくなるでは無いか。彼女は敵であるのに。
「護りたい、だけじゃダメだった。支え合っていきたい、と思わなければダメだった。気が付けば恋慕は違うものに変わっていて……。
……貴女が恋と言い張っているのは、そう思い込みたいからでしょう?
だって『普通の女の子』は恋をするものでしょうし……でも女の子はそれだけじゃない、もう気付いているでしょう?」
「羊羹ちゃん」
「呼び方、どうにかなりません?」
妙見子は尻尾のことを言っているのだと気付いてからカロルを見て肩を竦めた。
「羊羹ちゃん、それでもね、人間って縋らないと行けないことがあるのよ」
囁いた。ああ、だから――腹が立つのだ。ルル家に視線を一瞥する。もう『構わない』だろう。
「聖女ルルで宜しいですね。私、リドニア=アルフェーネ。ただの天義の女。
あなた方遂行者に家族がお世話になりまして。そのお礼参りに来ましたわ」
勢い良く至近距離を目指し飛び込んで行く『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)にルル家が相対した。
睨め付けるその視線は『戦わねば、疑われる』事を前提とした防衛術のようにも見える。
「ルル家様も大層そのお友達が大切でしょうけど、私にもその女を殴る権利はあるのですわ。
それに、貴方が苦戦したとしてルストがこっちを向く事などないでしょうよ。使える駒に感情など向けないのがオチでしょう?」
「良く解ってんじゃない。嫌になる」
カロルが呟いてから手を天へ翳した。周囲に鮮やかな紅色の糸が広がっていく。
「姉を傲慢に堕とされ、遂行者として殺戮を繰り広げ、殺す事になった。
カロルを殴る理由など復讐の二文字で十分でしょう――私が貴方を、殺す」
「リドニアと言った? 八つ当たりじゃない。私が原因じゃないのに殺すだなんてちょっと酷くない?」
「いえ、そういうものでしょう」
それもそうか、とカロルは呟いた。戦闘の気配を醸すが、それでもカロルは防衛行動だけに徹している。それは『対話相手には話すことを優先する』というカロルの甘さなのだろう。
「ご機嫌よう、カロルさん。ここでホットな話題は、恋、ですか……僕は恋を経験した事がないので力になれそうにない。
でも僕にも気になる女の子はいる。一緒にいると楽しくてドキドキして、もっと笑顔が見たいし色んな顔を見せてほしいと想う」
「おい、お前。それ恋でしょ!?」
違うのか、とトールを指差すカロルに「つくづく甘い人だなあ」と『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は呟いた。
「どうでしょう? それが恋心なのか自分でもハッキリとは分からない。
ただ、その子が幸せになってほしい。振り向いてもらえなくても良い。
自分の気持ちが届かなくたって構わない。純粋にその子の為に世界を救いたいと願う確固たる意志がある」
カロルがトールを見る、そして「嫌になる」ともう一度呟いた。リドニアのように容赦なく殺しに来てくれた方が幾分か良い。
トールも、ムサシも己を友人のように、好む会話をするのだから『嫌』になる。夢を見そうになる。
『聖女カロル・ルゥーロルゥー』が、普通の人間としてイレギュラーズ達と、共に走り抜ける未来があるのではないか、なんて夢想してしまう。
(ダメよ。そんなの、願っちゃダメ。私は……遂行者。ここで死ぬのが役目。
そうじゃなくっちゃ、大名が死ぬかも知れない。私が分けた力じゃ、私とあの子の二人を生かすことは出来ない。私が死んであいつを戻してやらなきゃ)
カロルはルル家に聖痕を刻んだがその狂気は目玉だけに抑えている。カロル・ルゥーロルゥーは意図的に『友人』を生かそうとしているのだ。
そんな彼女にルストがさしたる興味を持たないからこそなのだろう。
「聖女カロル……貴方の好きな人、優しいんでありますね。相手を『否定』しないのは、中々出来ることじゃないでありますよ」
ムサシはそれが心の底からの恋なのかどうか。それを見極めねばならないとカロルと向き直る。
「……もう少しだけ恋の話を続けさせてもらおうか。今度は、俺から好きな人の話をさせてもらう。
俺の好きな人は、綺麗で、パワフルで、いつでも頑張ってて……色んな人に暖かなその手を差し伸べられる。
俺にとって、一番星みたいな人。『頑張らなきゃな』って思える人なんだ。貴方にとって……その人も『そう』なんだろう?」
「ええ。だから私、ここまで遂行者してるのよ! 私はルスト様が大好きなの。
あの顔面が良くて性格がクソ、あ、ごめんなさい、違う。性格がお捻り遊ばされてても! そこが良いのよ!
あの人は、自分を曲げないわ。性格は曲がってるけど! あの人は、自分を信じてるわ。それで良いのか知らないけど。
ただ、強いのよ。純粋に。私みたいに弱くって、どうしようも無い女に『選択』を与えてくれる」
――悪口だ、とムサシは思ったが口を閉ざしていた。
ただ、カロルには生きていて欲しいとムサシは感じていた。彼女ならば良い友人になれる。
そんな甘い理想が首を擡げるのだ。
「ねえルルちゃん、或る女の話をしましょうか。
その女はね、一人の男の人を追っているの カミサマみたいな人よ すっごく顔がいいの」
「顔がいいの!?」
そこに反応を見せるのか、と。『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)と『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)は顔を見合わせた。メリーノは「勿論、とっても顔が良いのよ」と付け加えて微笑む。
「それでね、この想いが『恋』ではないことを知ってるの 自覚してるのよ。
それなのに、傍目には、恋をしている女が一人の男を追いかけてるように『見せてる』――そうした方が都合がいいって思ってる。
手を伸ばしたって、届かないこともわかっているのに、狡いわよねぇ でも、そんな狡いのも、ニンゲンらしいと思わない?
……ニンゲンって、きれいなものだけで出来てるわけじゃないのよ」
「分かるわよ、分かるからこそ、いやなのよ」
カロルに勢い良く飛び込んだ妙見子は叫んだ。メリーノとトールによる攻撃を受け流すカロルは「いやなのよ」と繰返す。
「神様だって、女の子になれるんです! きっと貴女も『普通で素敵な女の子』になれますよ!
こんな糸に頼らなくたって、きっと素敵な縁がこれからも出来ていきますよ。
だから、こういうのは――自分の手で掴み取るしかないんですよ! ルルちゃん!」
鋭い鈍い音が響いた。思わず「ヒッ」と呟いたのはその一部始終を見詰めていたトールだ。
命の取り合いが行なわれている現場かと思いきや妙見子が叩き込んだのは鋭い頭突きだ。
「いっったい! お前、羊羹じゃなくて石かよ! 石頭妙見子!」
叫ぶカロルに「ええ、だから!?」と妙見子は叫んだ。
「分からず屋め!」
「うびい」
カロルは思わず呟いてから「頭痛い」と俯いた。何処かのんびりとした空気に思わず拍子抜けする。
『黙示録の赤き騎士』ウォリア(p3p001789)はずいずいと前に出た。
「残りの用件はオマエの横の『大名』と後ろの退屈そうな……暇人、もとい暇神。戦況が大きく動く前だ、少し『談笑』にでも付き合え聖女」
「良いわよ」
涙目のカロルは頭を抑えながら言う。ウォリアはと言えば『気配りに定評のあるルル家』がカロルに入れ込んでいる事に対する好奇心だと告げた。
「『後光』も『ユーモア』も『あんなの』は到底真似は出来ん。ゴリラの物真似なら出来るが。
近々結婚を控えているので『こいばな』も生憎と無縁。惚気しか出来ん。どうだ、なんか喋れ」
「まって、ゴリラが死ぬほど気になる」
そんなカロルにウォリアは『それはそれ、これはこれ』のテンションであるのはカロルも同じ事なのだろうと考えた。
アドレが死んだ事に対して、ウォリアの中には未だに燻る物があった。誰も彼もが心を汲み合い、分かり合い、打ち解ける。
それを見ていれば無性にイライラとするのだ。本当の意味で己と人は違い、それは掴めぬものだと感じるからだ。
「まるで蚊帳の外、自分だけが切り取られた風景。
焦がれて、羨んで、いざ問おう聖女――お前は、この状況をどう思う?」
「私は普通の女の子になる事も、誰かと談笑することも出来なかった。お前と一緒だわ、何も解らないから、分かろうとしてるだけだもの」
だから、彼女はこうやって振る舞うのか。後方のルストと大きく違い、まるで友人のように。
一部始終を聞いていたムサシが「あ。そうだ最後にルスト・シファー。お前には好きな人はいないのか?」と爆弾を落とす。
「実は好きな相手とかいたりするんじゃないか……? 終焉に誰か恋人いたりする?それとも実は遂行者の中に誰か……
な? 特等席で恋バナ聞いたんだし混ざらないか?」
――カロルは思わず吹き出した。
ムサシの言葉を受けてルスト・シファーが本日一番の虫螻を見る目をしたからだ。
「くだらない話は不要だが、ああ、そうだな。貴様等にそろそろ、神の御業を見せなくてはならないか」
「もうずっと座ってなよ」
いらないが、と言いたげに『世界一のいい子』楊枝 茄子子(p3p008356)は眉を吊り上げた。
そんな茄子子に気付いてから「ああああ、もううう!」と叫んだのは『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)である。
「いや、無理だろ!? ルルのお気に入りの玩具でゴリ押せるレベルじゃねえだろ、割と最初から!?
くそが、心配になったんでちょっと騎兵隊抜けて見に来てみたら案の定どころじゃねえ!」
ルストに対して鋭い言葉を投げ掛ける茄子子を庇う。ルストの視線が『茄子子を殺せ』と告げて居ることに気付いてからカロルは「茄子子ぉ」と呟いた。
「何やらかすか分かんねえ茄子子の方がてめえの百億倍厄介だよ、ばああか!
ダチに言いたいこと言っとけって焚き付けちまった分、かばってやるのは今回だけだからな!?」
カロルに敢て、一撃を投じた牡丹は『ダチ想いの良い女』に肉体言語を持って青春的な礼を食らわせた。
一歩下がったカロルの周囲を清き気配が包み込む。聖竜アレフの残り少ない加護か。タイムリミットが近そうだと茄子子はちらりとカロルを見てからじいとルストを見た。
「そういえば神様ならルスト様って呼んだ方がいいのか。まぁ私の娘も神様だけどね。つまり私は神様の母。
もしかしてあんたより私の方が偉いんじゃないの
ていうかルスト様はルルの事ををどう思ってんのさ。告白までされたんだからなんか返しなよ
あんだけ好き好き言われてるのになんも言わないじゃん。実は照れてんの? 何も言わないならそういうことにするけど」
「……」
「ちょ、ちょっと茄子子」
照れた様子のカロルは「ま、待って、ルスト様。えへへ、えへ」と呟きながら妙見子の『羊羹』を掴んでいる。
何の茶番だと言いたげなルストは「カロル、貴様がイレギュラーズを全て殺し尽くしたならば、望みを叶えてやろう」と応えた。
「ははーん、照れてんだ。なるほど、なるほどね? 虫じゃないと(※多分)。良かったね脈アリじゃん。
喜びなよ。今この評価を得たのは、聖女カロルじゃなくて、キミなんだからさ」
「いっ、いや、まって、えへ……」
カロルはどこか照れた様子の顔をして――寂しげな顔をした。
ルスト様と花冠を被って踊ってみたいの。
そんな少女の夢は、きっと儚くて。恋に恋をしているだけと真っ向から言われたって其れを肯定はできないのだろう。
『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は良く分かる。彼女はただ、一度で良いから彼の目に映ればそれで十分なのだ。
(カロルさんは……きっと、この恋から卒業するのですね。なら、その為に……)
再度ユーフォニーは声を張り上げた。今井さんと共に目も眩むほどの『目映さ』でルストの前に躍り出る。
「ルストさん、終焉のこと知らないなら終焉の言葉で嫌そうな雰囲気は出ないです。嘘つきはお子さまですよ!
誰がいますか、に『居るだろう』も変です! でも会話してくれてありがとうございます!
ところで魔種以外が終焉に行ったらどうなりますかー! さっきのルルさんへの返事って変です!」
ユーフォニーは叫んだ。
「ちゃんと応えないのは、女の子への侮辱なんですよ!」
万華鏡が弾かれる。神の国の内部では『彼にも盟約』が課されているのだ。『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)も問おうとした言葉を僅かに変化させた。
「ねえ、この国の中では誰もが理想の通り。そうよね?
カロルに傷を移したのも貴方がそうやって余裕なのも権能なのね」
ルストに遠方から叩き込んだ一撃を『カロルは庇わない』。動かず、彼女は糸を張り巡らせたまま、何かを考えるように立っている。
(……糸を此処で立ったならば、カロルがルストの全てを識る事が出来なくなる?
これは確信なのかも分からない。カロルが庇わないなら、これを斬ることが出来る……!)
セレナの魔力が集まった。その傍らには『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が立っている。
「あの糸を切れば良いんだね?」
シキが跳ね上がった。ルル家とカロルにも会いたかった。伝えたい言葉があったからだ。
「やぁ、ルル家。私の友達。…友達だと思ってたけど違った? 違くても、でもいいや。
君が簡単に止まらない子だって知ってれば、十分。だから、絶対。わがまま全部叶えて戻ってきてね……なんて」
シキは笑ってから「それじゃね」と手を振ってセレナが指し示した糸の先に向かって駆けだした。
「あー、すっきりした! ってことで、初めましてルストさん?
私、来たばっかりで戦況とか全然わかってないから……とりあえず、一発殴るところから始めさせてもらってもいいだろうか!」
分かり易い事だ。相手が冠位魔種で。
何だか余裕そうだが、全ての護り手が失われたならば前に出るしかない。
そして――そのヒントが目の前にある。糸が切れる。カロルは「あ」と呟いた。
ルストは相変わらずではあったが、ゆっくりと立ち上がった。
「漸くの幕開けだな」
神の国は『男の権能内部』だ。
だからこそ、彼は死すること無く、傷付くことなく、思い通りになる。
カロルの糸は即ち、カモフラージュだったのだろう。彼女が自らの存在を盾にするための唯一。ルストと己を繋ぐ絆のようなもの。
切れてしまったならば、聖竜は直ぐにカロルの肉体を保護し、滅びの気配を遠ざける。
「聖女の加護が無くなってしまったのならば仕方が無い。そろそろ我が権能を披露しようか、虫螻共め」
成否
成功
第2章 第9節
●『神』の座VI
――一方で、ルストの動きを確認する者達も居た。
ルストは『多少の攻撃行動』をするかのように見せかけるだけだ。実質、彼はこの場では無敵だという証明を行って居るのだろう。
「今の内に言っておくわ。地獄の門はもうすぐ開く。その時は、私達騎兵隊は貴方達を信じて戦う。ベアトリーチェの時のようにね」
告げる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は神罰の波でも、絶海の時のように乗り越えてみせると決めた。
ルストが『あまり』動かない理由を推測しなくてはならない。
彼が一度立ち上がり、指先に灯した光が雷のように降り注ぐ。ロイブラックが撃破され、無数のイレギュラーズがグドルフに向かう今。
(彼との直接対決が近い――)
イーリンは息を呑んだ。どの様にして騎兵隊の仲間を守るか。後方にはリンツァトルテ、イルの姿がある。
彼と共に在るのは『聖盾』を有する者や、その護衛を務める者だ。護りは万全とは言えない。何せ、ここは。
(ここは、彼の権能内。何があったって、思い通り……なんて酷い事なんでしょうね)
イーリンは一人、胸中で思う。その制約を打ち払う為に外では動きがあるというのだから。
「騎兵隊の赤備、エレンシアたぁあたしのことだ! 行くぜ、一番槍に先鋒さんよ!」
地を蹴って走り出す。ロイブラックが撃破され、次はアリアだ。『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)と『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)は周囲に分布する選ばれし民達を引き寄せる。
「騎兵隊の一番槍! レイリー=シュタイン、只今参上!」
未だ、アリアが健在だ。彼女に向かうイレギュラーズ数名の姿が見えた。ヒーラー相手には根競べだ。
相手の回復スピードを上回るダメージを与える事が肝要だ。その為には周囲に気取られぬように。エーレンは斬り結ぶ。
「道はアタシ等が作る! 奴を討つのは任せたぜ!」
エレンシアの髪が揺らいだ。宙より叩き込む気配。取り零してはならないのだ。戦場を支配する。盤上の駒の位置をエーレンは確認し続ける。
「そして俺は騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! お前たちに止められるかな!」
注目するはルストだ。彼が動こうとしている。レイリーはいつ冠位魔種が動いても良いようにと視線を向けた。
「私の歌を止められる者はいるかしら?」
ルストは何を考えて居るのか。理想郷は『彼の権能領域内に於ける再現』でしかない。
だからこそ、選ばれし民は無尽蔵に現れる。寧ろ、それが『外に支援が遅れぬ理由』にもなるのだろうか。
(味方を間接的に殺し自分の力へ……現時点で彼の掌の上? 何か突破口はない? 彼の視界、意識外の油断は?
……違うか。『外』に意識を向けなければいいんだわ。『中』にだけ彼が注力していれば外から突破口が開かれる。それが隙!)
レイリーの報告は大凡、イーリンと同じものであっただろう。
「倒しても倒しても出てくるってのに顔色一つ変えへんのは此処がリソースを消費しないってことか?
何か、嫌やな。まるで『権能内で自分にも盟約があるから死なん』みたいな」
呟く『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)に『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は「我と同じでは!?」と声を上げた。
「あ」
彩陽は幸潮を見る。幸潮はと言えば、丁寧に物語を描くことを意識する。それは万能ではない。
旅人たる彼女の『元世界で使用できた権能』は世界法則に沿って、エフェクトと化している。だが、このルストの権能内、ルストの作り出した『戦場』ではルストにとっては想いのままに己が欲する者が描かれているならば。
「……はいはい。分かったぞ! 相対している敵キャラの在り方と同じなら仕方ないモンだな。
ルスト・シファーって奴は都合の良いように事実を改変してるのか。己が受けた攻撃がカロルの物になったり!」
「だから外からの攻撃が必要……良く分かった」
彩陽はグラキエスの聖骸布を脳裏に浮かべた。それを利用すれば集まった信仰が理想郷に何か変化を与える可能性がある。
簡単な言葉にすれば、こうだ――「風穴ブチ開けてルストに一撃かませば理想郷の崩壊の始まりってワケだ!」
「何てこと無い話ではあるがね。理想郷が壊れきるまで彼は理想の儘に生きているのか。
ああそうだ。妙に既視感があると思ったら『美少年』みたいなものか、彼。なるほど親近感が湧くねぇ、ちょうど不死だし」
成程と笑ったのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)であった。
視る役目は武器商人にある。この場に居たルストが本人でない可能性はあるが、彼はルストそのものなのだろう。
彼がルストであれど『偽物』に見せかけているのであれば――
「理想郷を変化させるだけの力か。実に厄介な戦法だけれど『この場では当てはまる』か。
理想郷を作るのは人の思いだものね。我(アタシ)が視ればよぉく分かるさ。ルスト・シファーは『理想郷から出ない盟約』を自分に課していた」
だからこそ、ツロという人形を利用していたのだ。世界を欺くように自らの姿を変化させ、外に出ていた。
今までルスト・シファーが外に居なかったのはその不死性を担保するためだ。
自らが外に出なければ死なない。ただし、外に出れば死する可能性がある。外に引き摺り出すことは難しいが、ならば『壊してしまえば良い』とは何ともイレギュラーズらしい解法ではないか!
それらの情報の中継地点となるべく『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は立っていた。ルストの特性を看破し、外より理想郷に一撃が投じられたならば騎兵隊の出撃合図となろう。
(……その時が近付いている。ならば、幾度とない攻撃を重ねなくてはならないか)
黒子は淡々と仲間達の情報を収集し――『決別せし過去』彼者誰(p3p004449)は「可能な限り情報は集めた方が良いですしね」と頷いた。
広がった仲間達を護りながら駆け抜ける。作戦概要は『全員生存』が第一だ。遊撃である騎兵隊の仲間を庇い、ルストの動きを注視する。
「また来ます」
それが天よりフィールド全体に降る雷という単調な攻撃である事を把握したならば早い。男はまだ、全容を見せていないのだろう。
「見くびられたものですね」
「脅しってワケか! 痛くないぜ! オレに相手に隠し札があるのは分かる。具体的に見破る力や知恵はない。
でも、それに対抗する味方を、その消耗を。肩代わりはしてやれるから!
――もっとこいよ! オレがピンピン元気でいられる程度の攻撃しかできないのか?」
煽るような言葉を発するマッチョ ☆ プリンにルストは「何時まで吼えられるか」と呟いた。
「貴様等に見くびられるとは落ちたものだな。まだ俺は全てを出し切っては居らんぞ?」
「出せば良いだろ!」
堂々と叫ぶ。マッチョ ☆ プリンが集めた敵影をその双眸に映す。天より降り注ぐ雷の雨は勢いを強めていく。
これが、ルストの権能の一つ――『天の雷』なのだろうか。雷、転じて『神鳴り』は天つ神々が鳴らす音であると言われている。天罰の象徴でもあるそうだ。
徐々に強まっていくのはルストが断罪の意思を見せたから。これが理想郷とは『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)も認められまい。
だが、男がイレギュラーズに意識を向けているのは確かだ。ノルンは「イルさん」と声を掛けた。
「もうすぐで道が開きます。それまで、少しですが回復させていただきます。少しだけ動かないでください」
「有り難う。あの男……ルストってやつ、出し惜しみをしてるが……その、攻撃自体はイマジネーションの範囲なのだろうか。単調というか……」
「恐らくは『そこに意識を向ける事ができない』のかもしれませんね」
ノルンはルストは余裕そうに見せかけているが、サマエル撃破の一方をカロルが告げてからは僅かな焦りが見えるような気がしていた。
理想郷内部で作られる選ばれし民も精巧な出来とは言えない。アドレという『アドラステイアを意識させる存在』が居なくなった事もあるのだろう。
のっぺりとした白塗りの存在を『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は打ち払う。
(これだけ手勢を減らされても動かないってことはルストにはよほどの手があるってこと。
それこそこの場の全員を相手にしても一瞬でひっくり返せるような何か。
……目に見えるものではないかもだけど、何か種が無いか探ってみよう。索敵モード、起動)
オニキスはルストをまじまじと見た。理想郷内部で、最も恐ろしいのは何か。高原を焼く火は『聖書』によれば全ての食物を奪い去る。つまりは死を意味するのだ。
絶対的にこの理想郷に存在してはならないのは『死』するという概念だろうか。
(……理想郷が外から崩壊し、塗り変われば良い。けれど、死が存在すると思えば、私達も……?)
理想を持て、希望を持て、死をも遠ざけることを意識せねばならないのだ。
理想郷は『遂行者達の意のままに作り替えられた』。ルストが己の権能を己に制約を与えて自らを保護するシェルターとしているならば――
「外から、天の杖が放たれるという伝令が騎士かあったっす!」
駆ける『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)にオニキスは頷いた。
「外から穴を開けて理想郷を『塗り替える』時、イレギュラーズは勝利をイメージし、ルストに圧勝しなくちゃならない」
傲慢な男が、この場で絶対的に勝者であるのはその意志が強いからだ。
ならば、それさえも塗り替えるほどの絶対的な希望をぶつけ、打ち克つだけ。
「なんか、根性論ッスね! イーリン先輩」
ウルズがからりと笑いながら『辻ヒール』を行なえば、『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は「根性論」とぽつりと呟いた。
「なら、全部は気持ちからだね! 長丁場になってるからこそ、大怪我を負わないように気をつけて! 油断が危険に繋がるんだよ!」
癒やしを与えるフォルトゥナリアは空から降り続ける雷の強さに眉を顰めた。今だけ、ここだけ、乗り越えれば――『世界に穴が空く』
『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は真っ直ぐにルストを見据えていた。
(アドレは逝きましたか…また一つ天義周りの話にケリがついてしまった。
1つ1つ、これまでの因縁に向き合ってる気分。そして、その根源にいるのは……)
ルストも、そして『テレサ』も。美咲にとっては自らの在り方を変えて仕舞うような出来事だった。
「テレサが言っていたネガ・ジェネシス、本当に出来たのか、勝ったら本当にやったのか教えてもらえません?
正直、私は同じクソ女のよしみとして手伝いに行っただけなので出来るできないは関係ないんスけど、やっぱ気になるじゃないスか」
「テレサか。まあ、あの女が望んだのならば出来るのではないか? 俺の知ったことでは無いが」
はんと鼻先を鳴らすルストが美咲をじろりと視た。『遂行者』として扱われた経歴からか、美咲の言葉にルストは答えてくれやすい。
それは、茄子子に対してもそうだ。男はプライドが高く、他者の在り方を天秤に掛けて有用であるかを判断している。
美咲は少なくとも『テレサ』という女が使うには良い駒として扱われていたのだろう。
「答えに関わらずこちらも殺す気なんで良いスけど。
私は一時テレサ達の味方になったのであって、顔も見せなかった奴に気を使う理由は無いんスよ」
「……俺を茶会の席に入れなかったのは紛れもなく『聖竜』だろう」
忌々しい聖竜――そう呟いた男は聖竜の力の断片を強く領域内で感じていることを不快だと認識していた。まだ、外には意識は向いていない。
『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は「馬の骨」と呼び掛けた。
「ちとばかし離れる、後で合流する」
「いってらっしゃい」
イーリンの返答を聞いて、ただ、バクルドは走り出した。グドルフの元に向かうイレギュラーズを押し止めようと選ばれし民が立ち上がるか。
ルストの指先が動く。稲妻が轟き、天より地を叩いた。苦い表情を浮かべながらもバクルドはじらりとルストを視た。
(傲慢だから搦手を使わないなんてそれこそ傲慢な考えだ。不測を想定して常に裏取りを警戒する。
部隊の勢いの横槍は痛手だ、それが騎兵隊でもイレギュラーズ全体でも変わらん。
あれは正しく脅威の要を理解している。その脅威に対する脅威を理解するのをこちらも務めなきゃならんな)
ルストは自らが行動するときには念には念を入れるだろう。だが、搦め手全てを封じる為に外で仲間が動いている。
これこそ正しく『時間稼ぎ』なのだ。ルストの虚を突いて、理想郷を破壊するための!
「あいつらとグドルフのケジメだ、水を差す真似はさせねえよ」
終わりの時が近付くならば――せめて、真っ正面から向き合わせたいのだ。
成否
成功
状態異常
第2章 第10節
●『神』の座VII
「……まさか返答されるとは思っていませんでした。
傲慢ですから耳もついてないのかと、でも傍らで聞こえてきたカロルの言葉はあながち嘘でもなさそうですね」
焦りが滲む。『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)は息を呑む。
カロルに対してルストはある程度の意識を傾け、信頼を置いているのか興味を有している。それは自らには向けられないものだ。
「顔だけと仰ってる割に随分と彼女に……遂行者に慕われていたのですね。
そこは冠位だから傲慢と言えど上手くやっている証拠なんでしょう……なかなか手強い。
しかも私のコンプレックスどうこうまで出してきて……羽虫になど興味無いのでしょう?
でも私は努力する事に決めました。冠位傲慢……ルスト、あなたを理解します」
必要なのは賛美か。認知と譲歩か。何にせよシュテルンという娘は『ルスト・シファー』を理解出来ると言って見せたのだ。
だが、ルストは「ならば仲間を殺せば良いだろう。俺を理解するというならば、貴様は後ろに居る女の首でも刎ねろ」と鼻先で笑う。
「――どういう、意味ですか」
「羽虫がぐだぐだと。相手をしろと言うからしてみれば、心にもないことを」
雷が降り続ける。不愉快だ、と男の瞳が語ったのは『聖女カロル』を取り込み女を支配することで聖竜が本領を発揮せぬようにするという考えを露呈させるに過ぎない。
「おっと!」
シュテルンとルストの間に滑り込み『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は空を飛ぶ。生き残ることを意識するカイトは天より降る雷を避けた。
「天使っぽい悪魔さんは、自分よりも高く飛ぼうとする鳥にどう思うだろうか。高いところ好きそうだよな。俺も同じなんだけどな!」
「勝手に飛べ」
指差される。天の雷は『ちゃーんと』カイトに当たった。だが、その軌道は妙な確度で曲がる。
カイトは「ズルじゃねーか!」と不満そうに唇を尖らせた。ルストは「生きているだけ感謝しろ」と言った。
理想郷内。ルストの思い描いた彼が死なぬ世界。絶対的に強者である為のルストの意識を集中させる内側。
――外からは薄い殻のようなものだろう。打ち破るには用意だ。彼の意識が内側に向けば向く程に、外から一気に仕掛けやすくなる。
「雷……ああそういえば、三つの預言なんて厄介なものもあったっけ。
『天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとする』
『死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む、刻印の無き者を滅ぼす』
『水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう』……だっけ?」
それは嘗ての天義を襲った災厄でもある。『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はと言えばその預言はルストの攻撃そのものを開示しているのでは無いかとも考えた。
天の雷はヨゾラが考えたよりも鋭く全範囲に降り注ぐものだ。徐々に力が強くなるのはルストがそうイメージしたからに過ぎない。
だが、僅かな綻びは『世界を維持する』という意識のリソースが減ったことで肉体を包み込んだ戒めが、つまり、広範囲に何度となく重ねられたBSが減りだしたことだ。
「……第二の預言が当てはまるなら、火か? ……第三なら、何だろう。水。全てを飲み込む範囲攻撃かな」
ルストの雷が降る中でその『二つ』が未だ披露されていないことが気になったのだ。
「……ふぅ。ようやく話が出来そうな距離まで近付けましたね。お初にお目に掛かります、『顔が良い』と噂のルスト・シファー殿。
今露骨に嫌そうな顔をしましたね? 男に言われても嬉しく無いと? まぁそう仰らず。虫螻の戯言だと思って暫しの間お付き合い下さい」
「噂とは不敬でしょう」
アリアの鋭い声音が聞こえてから『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)ははたと立ち止まった。
「これだけ自軍が消耗していてもバリバリドカーンだけというのはどうかと思いまして」と彼は穏やかに言う。
「な超弩級必殺技の一つや二つあるのかと……自分には想像もつきませんが!
まぁ、虫螻に情報を与えた所で『結果は変わらない』でしょうから、ご安心を――」
「見せて遣らんことはないが」
ルーキスに向けて掌を翳したルストの唇が吊り上がる。それは鮮やかなる焔だ。男の周囲より弾かれるように無数に撃ち込まれ、槍の如く焔が突き刺さらんとする。
刹那、滑り込んだヨゾラが「それが『二つ目?』」と問うた。ルストは詰らなさそうな顔をして「生きているか」と呟く。
「そう簡単には死ねないからね」
『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はと言えば、その機に常時でやってくる選ばれし民達を払い除けた。
「率直に言って、偽の神を奉じ死の在り方を歪める世界なんて嫌いだ。
私が愛した人々が、やっと未来を向いて歩き出そうとした途端、顔すら見ずに踏み躙ろうとしてくれたしな!
だが、それも……誰も涙を流さずに済む、理想の世界を目指す為に造られたならば、少しは好きになれるかもしれない。
で、どうなのだね、首魁の君の意見は? 答えてくれないなら横のお嬢さんでもいいよ」
「……理想の世界は作られる『はず』だったのよ」
カロルが応えればルブラットは「ふむ」と呟いた。
鉄帝国では、無数の人々と居た。彼等は前を向き始めたばかりなのだ。彼等の困窮も、その日に灯した焔も、何もかもを見ずに蔑ろにするというならばルブラットは理解も出来ず、許容も出来まい。
「理想……?」
『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)は唇を震わせた。
「アドレ様が亡くなったのにかなしまないルスト様が、冷たい言葉しか言わないルスト様が、ニルは、だいきらいです!」
人が死んだのに、それを悲しまない神様に『理想』なんて語れるものか。
ニルは生きている。ニルは進まなくてはならない。ニルは此処に居るのだ。
「ニルは、とってもとっても……かなしい。くるしい。でも……それが、望んださいご、だったのなら……アドレ様。おやすみなさい。
もしいつか、なんてものはない方がいいのかもしれない、けれど、また会えたなら……そのときは笑っていられますように。
くるしかったら、戦わなくていい……そんな世界でありますように」
――それを望んだのが『聖女』カロルだったというならば、彼女に「助けて」とアドレが叫んでくれたら良かったのに。
彼はそうはしなかった。失意の中になったことだけが幸いだろうか。
「ニルにできるのはわすれないこと、だけ。アドレ様がいたこと、アドレ様がやったこと……アドレ様はここにいた、から」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は奔る。遂行者は駒で、冠位傲慢はワンマン気質なのか。
態々遂行者を沢山並べている理由が、先程のロイブラックと同じであったならば――?
「そもそも此処が敵の胃袋とも言える場所なのだから、
空間そのものも疑うのは有りだよな。木を隠すなら森の中とも言うが――ルストにとって大事な物がそんな都合よく隠されているかどうかも怪しいけどもな」
己が何もしなくとも遂行者ならば対応できると思っての傲慢な仕草なのだろう。
遂行者達の神霊の淵こそが『ルストを生かす道具』ともなりえるならば、逆に言えば其れを壊せば残るはルスト単体にもなろう。
遂行者は殺さねばならないのだ。聖竜の力や奇跡を駆使して、命を賭す程で無ければ、救えない存在なのだ。
魔種でない存在を救う為に願うべきは「神霊の淵とは別の生命の動力源を与えろ」という何とも荒唐無稽な理由になる。
故に、『神霊の淵』をその肉体に有するアドレが『自らに同情しない方が良い』と、『肩入れしない方が良い』と『玉響』レイン・レイン(p3p010586)に告げたように。
(……もし、ルストが……遂行者それぞれを倒されないと仮定して……自分を生き長らえさせてたなら……。
ううん、それでも……まるで何にも無かったみたいに……なんて……出来ないよ……。
遂行者の皆は……僕よりもずっと背景があって……この世界に思うところがあって、こうなったんだから……)
この世界を少しでも『マシ』にしなくてはならないと、そう考えて居た。
「ルストは……遂行者の思いを増幅させた人…蘇らせた人……。
この世界に復讐させる機会を与えたって言ったら……プラスになるのかもしれないけど……考えたら……お腹が熱くなるのは……苦しくなるのは……
ルストにも……僕にも……世界にも……こんなのに縋るくらい、追い詰め過ぎてたのか……って……改めて思い知る……」
俯くレインの側を駆けて行く『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は呟いた。
「多分、冠位傲慢は周りの遂行者たちに"重要な役割を任せてはいない"。
今までの様子や言動から、部下すら羽虫程度に扱う奴が自分の権能の重要なものを任せたりはしないだろう」
「色々な遂行者の『神霊の淵』がダメージを吸収して、この理想郷がルストの思い通りで『ダメージを無かったことにする』とするだろ。
……なら、遂行者を撃破して、この理想郷を外から破壊した上でルストを叩けば――」
彼は何も無敵でも、不死でもない。雲雀は「それが一番だ。だけれど、相手もより手を抜かなくなるだろうね」と囁いた。
防衛線の構築を急ぐ雲雀の傍らへと駆けて遣ってきたのは『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)であった。
「随分と、駆け付けるのが遅くなってしまったな。申し訳ない。ああ、遅れた分の仕事はさせて貰うさ。徹底的にな!」
彼等の考察を聞いていれば、何を最優先に守ろうとしているかと言えば即ち己の身であるように見えてならない。
神霊の淵を有する遂行者が撃破されていく。残るアリアは幾人もに取り囲まれた。グドルフも同じだ。
この『領域』の中の遂行者が『聖女』だけになれば分が悪いのはルストである。カロル・ルゥーロルゥーが生きていれば聖竜は力を貸すだろう。――つまり、ルストがさっさとカロルを処分する可能性も出てくるわけだ。
「成程……中々の絡繰りではあるが」
汰磨羈は小さく笑った。人智及ばぬ状況だからこそ、外からの攻撃を与える事を目的としている。
内部では歯が立たずとも外からの攻撃を用意する時間稼ぎ――その中で、『聖竜』も一つの鍵となることを『初恋患い』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はよく分かって居た。
己が気持ちを優先したならばグドルフの元に行きたかった。それでも、アリアはアーリアを逃がすまい。
「……そうね。逃げちゃいけないんだわ。だから私は此処で今、貴女を斃す」
傷だらけになった顔。同じ顔だというのに、随分と違って見える。アリアは長く伸びた髪を自身の手にしていたナイフでバッサリと切った。
「アリア」
「髪は女の武器よ。アーリア。けれど、私にはいらないの」
「……そう。そうね。苦しそうで、独りぼっちで、恋だけに縋ってるもう一人の私。
偽物の、作られた私なんだとしても、その恋だけは、最期まで貴女の大事なものだったのでしょう。ねぇ、アリア」
ルストのことが好きだった彼女は、ルストが『カロルをどう思うか』と問うたイレギュラーズ達に「遂行し終えたならば願いを叶える」と応えたことで察したのだ。
彼はカロルの事もアリアの事も恋愛的には見てやくれない。女の恋の終わりは随分と呆気ない。
「……貴女は、ルストを好きで幸せだった?」
「夢の様だった」
「ふふ。……私ね、貴女のこと嫌いよ。幼い私が選べなかった――恋に生きることを選べた貴女は、羨ましくて、大嫌い。
私はあの人を『おとうさん』と呼んだ日に、全部閉じ込めたんだもの。
……でもね、私はそれでも今の私も、歩んできた道のりも、間違いじゃなくて。幸せだって思うのよ」
あの人と旅をした『私』。眩しくてむず痒かった。見ていられなかった。もしかして、を感じた。見て居たかった。こんな風になれるのだと。
アーリアは地を蹴った。隣には『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が居た。
「アリアさん」
スティアは微笑んだ。その魔力がその肩を抉る。微笑みに乗せたのは、ただ、決意だった。
「さっきは勢いでルルちゃんに告白みたいになったけどそういう未来があっても良いのかな?
一緒にいると楽しそうだし、少なくは退屈はしなさそう。真面目に考えてみるのかも良いのかなぁ――なんて。
まあお互いをもっとよく知る所から始めないといけないけどね! そうやって、思っちゃったよ。皆を見てると」
スティアは笑った。イルや、ルルのような、そしてアリアのような、恋心には知らない。憧れだって持ってない。
目を見開いてから「そうやって、私も何となくでも見てくれる人を好きになれたら良かったのかしら」とアリアは苦しげに微笑んだ。
「どうだろうね。……どうかな。
聖女ルルをどうするかって聞いたよね。彼女は私達に好意的だ。
遂行者として生まれてしまったから敵対しているし、それしか道がないんだと思う。
同じ事だよアリア。彼女が遂行者であるならば、善人だろうと、好意に値する人だろうと、私は斬る! ――それこそ、奇跡でも起きない限りね」
奇跡なら、起こせると信じて生きてきた。
サクラ・ロウライトは『親友』を信じている。アリアと斬り結ぶ。アーリアが目を見開く。
ああ、だって、こんなに破れ気触れになっても彼女はまだ愛に生きている。『自分だってそうなのかもしれない』と思う度に胸が苦しくもアル。
「アリア」
手を伸ばす。その指先が絡まった。
「――どうか。優しい夢を見て」
「貴女が、見れば良いじゃない」
「私だものね」
同じだから。きっと、同じ夢を見られる。おやすみなさい、もう一人の私。
消えていく。
ブローチがぱきりと割れて落ちていく様子をアーリアはただ、見詰めていた。
「……ルストの神霊の淵が遂行者達というのは恐らく部分的には合っている……けどそれだけではないように思える。
ルストが自分の命を遂行者に預けるとは思えないんだ。だから……この『神の国こそが、ルストの神霊の淵』なんだろうね」
サクラは呟いた。だからこそ、神の国を破壊するための力を『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が持ってきた。
外での戦いでだって、その力を徐々に用意している。天の杖も、エンピレオの薔薇も、聖竜の力もある。
「聖剣の力の引き出し方はなんだろうね。サクラちゃんを見てる感じだと感情がキーになってるようにも感じるかな?
リンツさんはその辺は得意じゃなさそうだけど、代わりにイルちゃんが力になってなんとかなれば良いな。
……恋する乙女は無敵って事を証明して貰わないと」
「ぶわはっはっは! だとよぉ」
イルの背中を叩くゴリョウは「責任重大だな」と笑った。イルは「勿論」と頷く。
聖遺物は切り札だ。だが、ゴリョウが『カモフラージュ』していてもリンツァトルテはそうはいかない。
狙われぬようにと気を配らねばならないと振り向いたゴリョウは「よぉ、よく来てくれたなぁ! 助かるぜ!」と仲間を振り返った。
「この図体は乱戦で動く面子にとっちゃ目印になる。逆に俯瞰的に見た場合は雑兵の一人に過ぎん。
故に奴さんに気付かれることなく守りを固めることが出来る、筈! 今はまだ好機を待つのみだ! だが、それも――」
もうすぐ、と囁くゴリョウに『命の欠片掬いし手』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は「もうすぐかのう?」と問い返した。
「ああ、もうすぐだ」
「ならば、一時的じゃが加勢するッ!」
オウェードが駆ける。ゴリョウに従い、自らに注目を集めたオウェードは胸を張った。
サクラが言って居た『この神の国こそがルストの神霊の淵そのもの』という言葉、カイトの言った『敵の胃袋の中』という表現。
ならば、この理想郷を壊す外からの攻撃まで、ゴリョウとリンツァトルテを守り切るのだ。
世界が塗り替えられたならばあの美しき青薔薇までもが無になるだろうか。そんなことを許容できるわけがない。
叩き込んだ一撃。続き、オウェードは傷と共に進む。「イルさん」と声を掛けた『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)は奔った。
「聖遺物、少なくとも聖盾はセレスタンから継いだものです。絶対に奪われるわけにはいきません――だからこそ僕にできることを」
セレスタン・オリオールの願いがそれには込められている。シールドは殴りつける攻撃を弾いた。
鏡禍に呼ばれたイルが頷く。後方でリンツァトルテを守るように布陣する彼女は「先輩、大丈夫ですよ」と笑った。
「私が守りますから」
「お前にそんなことを言われるとは……」
困った顔をしたリンツァトルテにイルがにっこりと微笑んでから鏡禍の名を呼んだ。
「右だ!」
「はい!」
右側へ、勢いと共に叩き込む。その鋭さに会わせて奔るのは『紅の想い』雨紅(p3p008287)。
(聖遺物は切り札。冠位の抵抗は少ない方が良い。冠位に一矢報いるならば、私が出来るのは、切り札を撃ち込む隙を少しでも大きくすること)
そのタイミングを見計らうならば、安全無事にその攻勢を整えられた方が良いのは確かだ。
雨紅は舞う。戦場で足慣らし、舞台の始まりに雨紅はかるやりをくるりと回した。見定める、何処から敵が来ても良いように。
この布陣は万全だ。端から見れば『命を失いやすい騎士を護衛しているだけ』に見えることだろう。
「この戦いに臨む前、セレスタンとサマエル……二人の理想の終わりを、見届けた。
彼が託した思い、そして……此処にいる皆の決意を。絶対に、嗤わせない」
『夜明けを告げる鐘の音』チック・シュテル(p3p000932)の胸にあったのは決意だった。戦いが長引くほどにルストからの影響が濃くなる。
蝕むそれが痛みとなれば、地を叩く稲妻より仲間を守るように癒やしが広がった。
( 背に『白』を持っていた彼からは……ううん、『白』でなくとも、灰や黒が滲んだおれの在り方は、可笑しいと映るのだろう。
それでも。どんなに嘲笑われようと、皆が灯した意志は絶やさせない。おれが、絶対に守る)
美しき白をチックは持ってやしない。それでも、高潔な意志は霞むことは無いのだ。
前線で仲間を支える。そうして命を繋げ、『サマエルとセレスタン』が本来は抱いていたであろう理想に殉じるのだ。
リンツァトルテ・コンフィズリーでは決して汲んでやることの出来ない、聖盾の在り方。
「天義は腐った果実だ。ルストみてぇな正真正銘の屑が居城にするのも分かる位の――が、手遅れじゃない。変えられる」
「俺もそうだ」とリンツァトルテは『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)に言った。
「ああ、そうだな。それに、伝えたい願いがあるからな」
聖盾の前の持ち主、セレスタンの新たな願いを叶えたいのだ。彼は『ヨハンナ』達に言ったのだから。
――いつか、また、はじめまして、と、君たちに告げたい。
――今度こそ君たちの、友になりたい。
その願いの前に皆で死するなど、許せるものか。世には父からの贈り物があった。
翼が揺らぐ、開かれた白は激情を思わせた。ルストにとってはさしたる事じゃないだろう。そrがいい。
「ま、ダチがダチの側に行くんだ。其処に兵が増えても違和感はない──否、寧ろ何も感じない。奴は傲慢だから。虫螻が増えても鼻で笑うだけだ」
周囲を打ち払え。
果実が熟せば、その機がやってくる――
成否
成功
状態異常
第2章 第11節
●『グドルフ・ボイデル』
「素晴らしい物語だ」
朗々と『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は言う。
自らがその場に立てないことが最も忌まわしい沙汰だとは思えるほどに、眼前の石像――いいや、聖職者は神々しかったのだ。
「まったく神々しくて、首が無くて、目に毒だな。私に目玉は無いのだが」
眩い光を帯びたロジャーズが一歩ずつ踏み出した。
『どうして来るのですか』
女の首は涙を流した。
『罪を償いなさい。傷付け合う必要は無いのですよ』
男の首は諫めるようにそう言った。
全てを否定するように、ロジャーズは障壁を纏う。某かを仕掛けると耳にした。ならば舞台のセッティングこそが己の役目なのだ。
Lと呼ぶ男が此処に居ないことはロジャーズにとって不服でしかないが、そうも言って居られぬ舞台がここにある。
「ルスト・シファー」
そう、男には考えが合った。
「お前は言ったな。『グドルフ・ボイデル』と」
『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は皮肉に唇を吊り上げる。
天は嘶き、地は脈動する。お世辞にも周囲の気配は良いとは言えまい。
「ありゃあ借り物の名前だ。認めたくなかったが俺は認める。お前は……そうだな。アイツを理解しきれていなかったこと、最期に後悔するといい」
キドーにとって、共にあった時間の否定のように思えてならないのだ。
あの男は聖職者などではない。酒をかっ食らい、時には弱者を虐げる『賊』でなくてはならないのだ。
――ああ、けれど、あの男は『キドー』にとって知らない面があったのだ。それを意味するのは『司祭』リゴール・モルトン(p3p011316)と言う男そのものだ。
「アラン」
彼がそう呼ぶのだ。キドーは「くそ」と呟いた。
「アラン、おまえは、不幸な男だった。しかしそれでも、生きていた。それだけで俺は良かったんだ。
あの矛盾した言葉たちは、ただ一人の人間の、押し殺してきた心情だ。
そこに大人も、男もない。聖職者でも、山賊でも、神でもない。あいつは、平穏に生きたかっただけの……ただの、人間だ」
人間だからこそ苦しむのだ。報われても良いのだと告げるリゴールに答えることなく魔種は蠢いた。
その腕を受け止めるようにするりと飛び込んだのは『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)その人だ。
「グドルフ・ボイデル。いけませんよ。……貴方の大切な方なのでしょう?
魔女ならば、幾らでも殴れば宜しいのです。花園で気を遣ってもらった礼がまだですから……終わらせてあげます。貴方の為にも」
血印に魔力が滾った。「貴方の事です。倒されることも織り込み済み……そうなのでしょう?」と囁けば、リゴールが苦しむように表情を歪める。
嗚呼、屹度そうなのだ。この男は最後まで悪役を演じ、この場にまで誘いその結果が今なのだ。
「……おい、グドルフよ」
『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が駆け抜ける。自らを守る防御陣が罅割れたが気にも止めない。
後方のキドーとリゴールを護る事がルナが此処まで来た意味だ。
「グドルフとも依頼じゃ顔合わせたし、キドーとは酒も飲んだ。
いい歳した男どもが熱くなって何かやってやろうっつーんだ。手なり脚なり貸してやるよ」
「……いいのか?」
キドーが問えばルナは「愚問だろ」とからからと笑う。何があろうとも構わない。ロジャーズが構え、魔種グドルフが祈りと共に降り注がせる光の鋭さに『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が眉を顰めた。
「グドルフさん。……あなたには、アドラステイアで何度も助けていただきました。
だから此度のことは助けたいと思いました。でも、魔種になられてはどうにもならない。あれは我々の許されざる敵」
ココロの言葉にリゴールはまたも悲痛な表情を浮かべた。知っている。魔種はもうどうにもならないのだ。
「だから、せめてお別れを安らかに行えるようにしてさしあげたいです」
彼には何か考えがある。あったのだ。それがココロが此処に辿り着いた理由である。冠位魔種との決戦はグドルフの功績も多い。
暴力的な言動も粗野な素振りも、子供達のためにあった。物事の考え方はココロと違った面もあったが目指す所は同じだったのだ。
(敵として――此処までイレギュラーズを連れて来てくれた、けれど、これで終わりだなんて信じられない)
もう一度があるかもしれない、と。仲間達が集ったのだ。
「グドルフ様……今でも僕は、あなたやキドー様たちと家族のように過ごした依頼を想ってしまいます。
厳しさを説いた人ですから、きっと覚悟を決めろと言うのでしょう。
命を終わらせるのが毒であったとしても、今はあなたを想う人たちの言葉を届かせるために……!」
指先を重ね、祈るように『追憶駆ける希望』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)はそう言った。
仲間達を支える。魔種グドルフが仲間を殺す事がないように。石像の流した血の涙が、人を苦しめぬように。
ジョシュアの祈りは美しく、響き渡る。仲間たちの声を届ける為に尽力し続ける。
「アナタは……グドルフ・ボイデルさん? それとも……アラン・スミシーさん?
ううん。ワタシの中ではグドルフさん。グドルフさんって呼ばせて」
にっこりと微笑んだ『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は『何時も通り』の様子で声を掛けた。
「闘技場で優勝したらアトさんとデート出来るって公約かかげてた時に……グドルフさんは手伝ってくれた。
最初グドルフさんはお礼を言われるようなことしたっけって言ってたけど、ワタシは応援してくれるようで嬉しかったと返した。
それでね、アトさんにグドルフさんは甲斐性ないな。デートくらいタダでしてやれって言った。
……あの時のやり取り嬉しかったからワタシはここにいるんだよ。
デート出来たんだ! グドルフさん! 聞こえる?! グドルフさんのお陰だよ」
好きな人が居た。その人と結ばれる恋のキューピットだと言えば彼は馬鹿らしいと笑うだろうか。
そんな血の涙を流し、人々の生を憂う人ではないのだ。もっと豪快に笑い飛ばしてくれるアナタがいたからだ。
「グドルフさん!」
届けたい言葉は山ほどにあった。『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)は目を伏せる。
――レブロプスさんをまた独りにしないために。
――リゴールさんを死なせないために。
「それが、彼が。アランさんであり、グドルフさんが望んだことならば。そして残される彼らが、たしかに友であったと、胸を張れるように」
彼等は強欲だった。負けず嫌いで、本当に良い未来を欲していたのだ。
グリーフの見た山賊はそうやって自らを奮い立たせていた。
もしも。
彼が此処で朽ちるのであれば、山賊ではなく、聖職者として終って欲しい。せめて、とグリーフが手を伸ばした。
「貴方が生きた証が、私は欲しいのです」
どうして、そんなことを思ったのかは分からない。ただ、悲しむ人を減らしたかったのだ。
石像のその身にロケットペンダントがあった。ロザリオが揺らいでいた。掴んだのはロケットペンダントだった。その中で、笑うともの姿がある。
これがアラン・スミシーだった証なのだ。レブロプスも、リゴールも。
屹度、生きていて欲しかったはずなのだ。グリーフを殴りつけるように石像の腕が動いた。腹が抉れ、大地へと横たえられる。
その衝撃を受け止めてから『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)は「さて」と呟いた。
「……障害も減ってきたね。
とはいえ……いまだ堅牢ってところか……はてさて、次は何処を崩すとしようか? 何か狙っているみたいだし……あそこにするか」
魔種グドルフを受け止める。アイコンタクトと共に、『グドルフ・ボイデル』を留める事を決めた黒衣の娘はひらりとその身を躱した。
「大振りだね」
勢い良く叩き込まれた腕を避ける。だが、それだけではない。ロザリオの祈りが眩く光を帯びた。
周囲を焼き払わんとしたそれにラムダが眉を顰める。
「そうじゃないかと思っちゃいたケド、ヤッパというかなんというか、ハードそうな現場だ事。想定より早く合流できたのは僥倖福徳勿怪の幸い」
にんまりと笑う『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)にタイムが唇をつんと尖らせた。
『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は「もう」と呟く。先に夏子と合流したときにカロルに挨拶をしたのだ。
――わたしの好きな人。ルストは……ふぅん、顔立ちはいいわね。でも性根が腐った顔つきよ。
夏子さんの方がイケメンかな。ね、ルル家さんもそう思うでしょ。
ああ、あの時の困ったルル家の顔と言ったら。タイムは思い出してから「一緒に側に居て。わたしを守って」と夏子を見る。
こうやって追掛けてきてくれるから好きなのだ。好きになると負けなのだ。カロルに「そろそろ泣く準備は出来た?」と問うたのだから。
(貴女も屹度、勝負には負けてしまったのよ。『ルゥー』ちゃん)
彼女は苦しそうな顔をして居た。ルル家に信じて託した。タイムはそれだけだった。身体が一つしか無いから、彼の所に来たのだ。
「わたしにとって貴女はグドルフさんなのよ。アランさん。
ルストは無理やり魔種に変容させていた……決して自分で望んだ反転じゃないのでしょう?
ルストの呼び声で反転するのなら、わたし達の声で再び呼び戻せばいいでしょう!?
ルストにいいように使われて! こんな終わり方でいいの? 誰も納得しないでしょう! ねえ!」
グドルフが腕を振り上げた。タイムが「アランさん!」と悲痛な声音で呼び掛ける。側に居る、勿論。そうやって笑ったのだから――
「正直顔立ちは普通くらいの認識だケド、さっき、タイムちゃんがイケメンって言ったからさ。
心なしかイケメンの顔してるんだからさ、顔は止めてよね」
揶揄うように夏子はその腕を受け止めた。
「ま、それはそれ。賊のオッサンかぁ。気風の良いヤツだと思ったけど、なんだいなんだい? 好かれとるやん?
事情も何も知らねーし 口を挟む余地もねーケド こんだけ気持ちの良いセリフ浴びせられて 何も響かんオッサンだったかあ~?」
魔種グドルフはそれでも腕を振り上げる。聖職者の首が涙を流す。
『しかし、神は望まれません。皆さんを救わねばならないのです』
「いやいや、ウチも雰囲気負けしてるんだけどさ、救われそうにないわ、その顔」
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はからからと笑った。
「やっぱり人間らしい心を持つもんじゃないね。
戦う破壊する以外をやろうとしちゃうなんて、みんながキラキラして見えて、ワクワクしちゃって止まらないんだよね。
ゴブリンが何かやろうとしてるんでそれにのっかり的な?
私ちゃんはなぁーんか、みんながすごくて大して目立てないんだなーふっはっは!」
にこにこと笑った秋奈に「でも此処に来ただろ?」と擦れ違うように『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)がその肩を叩いた。
「まあね! つーわけで、山賊よォ! 最後になにやりてぇか言ってみな! 声が小さくて聞こえねぇなあ! 魂から声出さんかい!
ここはウチらの人によっては最後フェス会場! 最後のライブぐらい花持たせてやらあ! みんなスッキリして初詣しような!」
傍らを駆け抜けていくルカが剣を振り上げた。ラサではベルトゥルフとの決着をつける際に舞台を整えてくれた恩義があった。
こんな借りの返し方『らしくない』が、仕方もない。
「随分らしくねえ格好じゃねえか。それともそっちの方が『らしい』格好なのか?」
アランに一時でも正気を取り戻させることが狙いなのだ。
(さて、傲慢な男はこっちを見てすら居ない、か。
本当ならバレねえようにするべきだが……だがルストの奴は自分が反転させた魔種が反旗を翻すなんて思いもしてねえだろう。
そういう意味ではやりやすいぜ。たぶんアランもそれを狙ってたんだろう。遂行者……魔種になれば自分に反抗する事はねえと思われるってな。
だから今がチャンスだ――何を狙ってるかはわからねえが、アンタの本懐を遂げさせてやるぜ!)
ルカの唇が吊り上がった。笑え、何時も通りに。バカらしく腹を抱えてくれ。
「随分湿気たツラになったじゃねえか。違うんじゃねえか? これから一発カマしてやる男のツラはそうじゃねえだろ。
気に入らねえ事なんて全部笑い飛ばしてぶっ壊してみせろよ! アンタの過去なんて知らねえ――俺の知ってるアンタはそういう男だ!」
それが『グドルフ・ボイデル』なのだから!
「皆の言うとおりだ。
俺はアラン・スミシーとしてのアイツを取り戻したい。俺もルストも知らない部分でしか支配に抗えないと思うから。
――ただの魔種として終わらせない。最期に一矢報いさせる。それが俺が知ってるアイツに一番似合うしキマるんだ」
キドーがそう言えばルナは「よし、行くぜ」とキドーを背負い込んだ。
「礼は酒で返せよ。……だからよ。てめぇまであっち側に飲まれんなよ。
チンピラから成り上がって会社まで興した男が、ただの1人の雄になって命賭けんのは勝手だがよ。酒代払うまでは死ぬなよ? 新興社長さんよ」
踏み倒しはいけないと揶揄い笑うルナにその背を押されてキドーは駆け抜けた。
「こうなっちゃったら……こうなっちゃったら、いよいよお別れも近いんですけど。でも! まだ何かあるんでしょう!?
私、さっきのあなたの言葉全然信じてませんよ! 勝ちそうな方につくなんて!
そーもそもおかしいでしょう! 勝率で言えば魔種側なんて負けっぱなしじゃないですか!!」
『こそどろ』エマ(p3p000257)は苛立ったように叫んだ。真っ正面から暴れてるグドルフに声を掛けたって届かない。
「もう!」と叫び、キドーの願いを届けるようにエマはグドルフに肉薄した。
「話聞きましょうよ! どうせこれくらいじゃ死なないんでしょ!」
叫ぶエマを見て、リゴールは「帰ってきておくれ」と言った。
魔種は帰らない。
グドルフ・ボイデルというイレギュラーズを取り戻せるわけではない。
「特異運命座標には、運命を変える力があると言います。俺は、神に選ばれました。今の俺にも、その力があるのです。
しかし――俺の可能性の炎は、未だに燃え続けている。燻ぶれば、より大きな力を引き出すことが出来る──」
続く言葉をカミラ・アーデルハイトは理解していた。
嘗て、魔種が人に転じたことはない。精々が封じ込めその命を繋いだ程度だ。カミラとて長く生きてきた幻想種だ。それを理解している。
「先生。お願いします。俺を斬ってください。この血肉を神に捧げ――アランを救います。
魔種が人に戻る等有り得ないというのなら。例外を作れば良い。今ここで!」
「私に、あなたを殺せというのですか」
カミラが苦しげに眉を寄せる。
「私に、愛しい子供を殺せと、いうのですか。……私の愛しい子……」
カミラはこれ以上にない程に苦痛を滲ませた。銀の剣は愛しい子供を斬る事を選んだ。それはリゴールではない、『アラン』を、だ。
リゴールは「先生」と呟く。もしも、リゴールを斬り伏せ、奇跡が起こらなかったときカミラは子殺しの罪を背負って生きていく。
その苦しみを理解出来ぬリゴールではない。
「先生」
苦しみ呻いたリゴールは「アラン」と呼び掛けた。
「山賊グドルフは、ここで死ぬ。そうしたら、おまえはもう、何者でもない。アラン……」
戻って来てくれ。唇が、ただ、そう蠢いた。
「もうおしまいにしよう」
キドーは飛び付いた。エマが「キドーさん!」と呼ぶ。
危ない、こっちへ来て。そう呼ぶ前に魔種の腕が振り上げられた。
「こっから起こること、お前がすることはグドルフ・ボイデルとして記録されないし、俺がさせない。
お前の名前を刻むなんて俺ァ御免だよ。
俺はROOのキドーじいさんとは違う。三文作家でもなけりゃ絵本作家でもないんだ。だいたいなんでそこまでしてやんなきゃならねェんだよ。
……その代わり、悪役として半端なことはさせねェから安心しな。だからもう充分だろ! アランさんよお!!」
キドーの言葉を聞いて、リゴールは「ああ、そうだ」と呟いた。
――おまえは、為したいことがあるだろう。
魔種はキドーを殴らなかった。それがリゴールが願った奇跡の半端な形である。カミラは「アラン」と呟いた。
狂気に飲まれた男は、一匙だけの『自我』を取り戻した。ただ、それも限定的なものだ。
『何かの気配』を察したように男が顔を上げる。
「来るぜ」
魔種『グドルフ』は勢い良く飛び上がり――
●理想の紗幕を穿つもの
「グラキエスを倒したことで、俺たちは二つのものを手に入れた」
『ハーフボイルド探偵』ことスモーキーは指を二本立てて見せる。
「それは?」
小首をかしげるアーマデル・アル・アマル(p3p008599)。
「ひとつは、天義を中心に蔓延っていた『星灯聖典』を壊滅するという功績、だよな」
「ああ。その通り」
冬越 弾正(p3p007105)が頷く。
「グラキエスが死んだ後、彼から下賜されていた聖騎士たちの聖骸布は力を失った。ただの布きれだ。信徒たちも皆投降するだろう。だが、もう一つは何だ?」
「グラキエスの纏っていた『聖骸布のオリジナル』だ」
異端審問官メディカ――彼女は集まった大勢のイレギュラーズたちに説明を続けていた。
「『聖骸布』の力を大まかに述べるなら、『理想郷に干渉する力』。
これを用いてグラキエスは自らの母を作り出し、その信徒たちも失った仲間や家族、あるいは村といった環境を理想郷の中に作り出していました」
「それだけで満足出来ない子も、いたけれどねぇ」
アーリア・スピリッツ(p3p004400)がため息交じりに言うと、ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が肩をすくめる。
「それで? 私達には不要なものだと思うんだが」
「確かに。しかしこう考えてみてはどうでしょうか? 『理想郷なんてない。こんなものは嘘だ』という願いを聖骸布に込めるのです。それは、理想郷に干渉し『穴を穿つ』ことができる」
集まったイレギュラーズの中に混じって、アンバー・キリードーンは深く頷いた。
「聖骸布のオリジナルには沢山の力が蓄えられていました。
おそらく、星灯聖典の信徒たちから集めた信仰心です。それが干渉するためのエネルギーになっていたのでしょう。おそらくは、その力を使ってグラキエスは自らの母を……」
ピリア(p3p010939)はそっとアンバーの背に手を当てる。
「うん、その気持ちは……わかるの」
失ったものを取り戻したい。それをいつまでも残しておきたい。そんな考えは、誰にだってあるものだ。
ピリアが声をあげ、周りに呼びかける。
「ルストは理想郷の紗幕の奥に隠れています。ここから……天義の地からでは手を出すことが出来ません。けれど、その紗幕を穿つ穴を開けられるなら話は別。皆さん、力を貸してください!」
ムサシ・セルブライト(p3p010126)とユーフォニー(p3p010323)は手を繋ぎ、そして空を見上げた。
聖骸布が天へと掲げられ、ぱたぱたと展開していく。
「グラキエスさん……いいえ、キリエスさん。これはあなたの想いを利用することになります。けれど」
「自分たちの未来のため。そして『今』を守り抜くために……! グラキエス、この理想郷を否定する!」
展開した聖骸布はまるで巨大な大砲の如き姿をとり、集まったイレギュラーズたちの想いを集約していく。
そして聖骸布に込められた、理想郷へ、神の国へ干渉する力が光となって天に放たれた。
『『――届け!』』
――そして、天に穴は穿たれる。
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。
●作戦目標
『冠位魔種』ルスト・シファーの撃破
●重要な備考
【各章での成功条件】
各章の第一節に個別成功条件が掲載されています。確認を行なって下さい。
【参加】
当ラリーは<神の国>の各種シナリオ/レイドの結果と連動しています。
皆さんは当ラリーには何度でも挑戦することが出来ます。(決戦シナリオ形式との同時参加も可能となります)
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は選択肢にて『同行者有』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
・プレイング失効に関して
進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。
・エネミー&味方状況について
シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。
・章進行について
不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
(正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●フィールド
神の国。つまり、ルストの権能内部です。フィールドの様子はと言えば、周辺に様々な『世界の欠片』が降り注いでいます。
天井の高さ、空間の広さの制限はありません。が、ルストの権能内部である事を見越せば油断ならない場所であることであるのは確かです。
この空間はルストが作り出していますので、彼の気紛れ(章変化などで)で変化することがあります。
フィールドの現状については『各章』の第1節目の『フィールド』の項目を参照して下さい。
●エネミー
・『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファー
冠位魔種。七罪(オールド・セブン)の一人。非常に強力なユニットである事が推測されます。
預言者ツロのガワを被って活動して居ました。イレギュラーズの気持ちを削ぐためならばツロの顔を使うことも辞しません。
司る冠の通り、彼は非常に傲慢です。性格は、素直に悪いです。基本的に人間は虫螻、遂行者は愚図の駒と認識しています。
常に余裕を滲ませています。何かを盾にすることが多いようです。愚図と虫螻はそう使うものです。
以下の能力は現状のものです。ラリー変化によって能力は【大きく変更されます】
a、『天地創造』
ルストの能力の大部分をしめています。神の国を作り出す能力です。
異空間に世界を創造し、内部に理想郷を作り上げます。膨大なリソースが必要となるためにルストは基本的には戦闘行動を好みません。(あと、己が戦わねばならない必要性を感じていないからです)
神の国はあくまでもベースを容易した上に粗造乱立させているものです。世界に降ろすためには『核』を必要とします。
その核が様々な聖遺物である事からもルストの能力だけで出来上がっているわけではなく、聖遺物という『力ある物品』を利用している事から彼自身の権能は『世界を作り出す』に留まるようです。
【この能力の注目すべき点は『フィールド効果』が付与されることです(詳細は各章をご覧下さい)】
b、『生命誕生』
遂行者達を作り出す能力です。己が聖痕を付与した『神霊の淵』に聖遺物や心臓などを入れ込むことにより相手に盟約を課します。
ルストには攻撃できず、ルストの指示に従うようにインプットされる(意志での抵抗は可能のようですが……)のです。
遂行者達はその盟約が存在する代わりに強大な力を手にし、神の国内部では死ぬ事はありません――が、『神霊の淵』が壊された場合は消滅します。
聖遺物容器から『力の源(聖遺物の欠片など)』を取り出すことで力のリミッターを解除できるようです。ルストはこの場の全員にリミッターを解除し戦うことを命じています。
【この能力の注目すべき点は『ルストが神の国では不死であること』です】
c、『天の雷』
d、『嘲笑の日』
e、『神罰の波』
名前からして攻撃技のようですが詳細不明です。
ただ、ルストは皆さんを侮ってますので聞き出せるかも知れませんね。
・遂行者『聖女』ルル(カロル・ルゥーロルゥー)
遂行者。神霊の淵である、聖遺物容器はカプセルを思わせます。頌歌の冠の欠片と小指の骨が入っています。
ルストの側に常に付き従っています。ルストを愛する恋する乙女。
天義建国に携わった聖女ですが人民を扇動し竜と心を通わされた罪に問われ断罪されました。不要な人間だったのでしょう。
天義への憎悪を燃やしていましたがイレギュラーズを関わることで彼等に情が湧きました。
攻撃はバッファータイプですが、それなりに遠距離からの攻撃も得意としています。あくまでもルストを護る事を前提に動くようですが……。
・『遂行者』アドラステイア
遂行者。『アドレ』と名乗る少年です。アドレと呼んであげてください。
聖アーノルドと呼ばれる聖人の骨と子供達の怨嗟が結びついた結果生まれた遂行者です。
ツロの側近ですがルストである事には気付いています。ツロを敬愛しており、彼しか頼る者がなかったようです。
イレギュラーズの事は好ましく思っていますが、それでも遂行者として存在して居ます。己の中の子供達は、まだ、苦悩を叫んでいます。
『騒霊』と呼ぶ存在を使役します。それらは無数に湧いて怨嗟を叫ぶようですが……。
・(遂行者)『三人の乙女』リスティア、オウカ、アリア
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)さん、サクラ(p3p005004)さん、アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんに良く似た姿の『遂行者』です。
ルストの配下で在り、それぞれが思う事があるようですが彼を護衛しています。
騎士のリスティア、聖職者のオウカ、医術士のアリアと認識して下さい。
・『遂行者』夢見・ルル家(大名)
「ルルバトルだ!」とカロルと対話する中で「そっちはルル取られても本名になれば良いですけど拙者なんて家になるんですよ! 家って! 夢見家ですよ! 大名ですか!」と叫んだことでカロルに気に入られて大名と呼ばれています。
カロルを生き延びさせたいという願いと、遂行者となりイレギュラーズの手助けをして冠位を退けるという目的の元で活動して居ます。
カロルの差配により『神霊の淵』を有していないため狂気状態ではありません。カロルを護ります。
聖竜の力の欠片を有しています。任意で発動が可能です。
・『遂行者』グドルフ・ボイデル
反転状態になった遂行者です。その姿は徐々に歪な者に変化し、自我も時間経過で欠落します。
己が己でなくなる前に、ルストに向けて何らかの『傷』を与えるべく隙を狙っています。
『神霊の淵』を有しているため、彼自身はルストを傷付けられませんが、イレギュラーズの手引きを行ないたいようですが……。
・『遂行者』ロイブラック
魔種。とある新興宗教の教祖ですがフォン・ルーベルグで喫茶店を隠れ蓑として営んでいる男です。
歌声を蒐集する悪癖があります。『声』や『音』を愛しており、美しい音色に恋い焦がれます。
どうやら目的のために自らの心臓を渡し遂行者となっています。神霊の淵を手に『歌』『音』に携わるイレギュラーズを全て自らの理想郷に引き込もうと画策します。
どうやらヒーラータイプです。非常に強力なヒール能力を有します。
・『神霊の淵』ブーケ
可愛らしい少女。ロイブラックの『神霊の淵』が埋め込まれています。ブーケを殺して中にある神霊の淵を壊さなくてはロイブラックは撃破不可能です。
両親から引き離され兄と共に過ごしていた少女は遂行者達に従って唄を歌い、日々を楽しげに過ごしています。
●味方NPC&【使用可能な能力など】
当シナリオでは天義騎士団(関係者含む)が協力を行なっています。
・リンツァトルテ・コンフィズリー
天義貴族。コンフィズリーの不正義で知られる『断罪された家門』の当代。
現在はそうした評判は払拭され聖騎士として一隊を率いています。フェネスト六世の近衛騎士のように活動する事も増えたようです。
聖剣(聖遺物)を有して居ます。正義そのものです。
騎士としての実力はお墨付です。指示があれば従います。無ければそれなりの無難な行動をします。
【聖剣】
ルストの権能に対しての対抗手段の一つ。過去に冠位魔種ベアトリーチェ・ラ・レーテの撃破にも使用されました。
リンツァトルテ個人では発動できません。聖剣は未だ沈黙しています――
・イル・フロッタ
リンツァトルテの後輩の聖騎士。本名をイルダーナ・ミュラトール。
旅人の父と天義貴族ミュラトール家の母を持っていますが、旅人との婚姻が不正義と見做されたミュラトールを名乗ることを認められていませんでした。
死地に赴き、騎士としての責務を全うすることと引き換えにその名を名乗っています。
騎士としての実力は『それなり』です。猪突猛進型ガール。元気いっぱいです。
【聖ミュラトールの杖】
術者の生命力に呼応して使用できる強力なヒール技です。危機的状況になった場合に利用可能です。
ただし使用は【2回】まで。イル以外の方が使用可能です。後述の『聖竜の力』を合わせることで広範囲に効果を与えることも可能。
・その他
【聖竜の力】
『ゲマトリアの選択』を経て、一部イレギュラーズに渡されている能力です。
本来の力として必要とされる代償はPPPの発動と同じく、重い物になりますが非常に強力な一撃となります。
また、本来の力の解放は【各人一度のみ】です。
・各種決戦の結果を受け、外より聖遺物を駆使する際に同時発動しルストに打撃を与えること
・聖ミュラトールの杖を発動すること
・その他、望むことや工夫があれば。
任意で発動が可能ですが、発動を宣言しても上手くいくかは定かではありません。発動していない場合は再度の使用宣言が可能です。
【<神の王国>の結果を受け、他シナリオより配布された称号シナリオなど】
当ラリーでルスト・シファーの権能を削り、彼に打撃を与えるために利用可能です。
使用時に代償は付き纏うでしょうが、その覚悟の上でのご使用を推奨致します。
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