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シナリオ詳細

<神の王国>Apokalypsis

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●在り様
 無数の世界の断片が光屑となって降り注ぐ。
 その光景を男は一人、詰らなさそうな顔をして見詰めていた。
 天より降る世界の欠片は誰ぞかの理想郷であっただろうか。
 頬杖を付いているルスト・シファーは指先を動かした。
「ルスト様」
 己が姿を借り、そして『己が此処から動かぬ際に動かしていた人形』が現れる。
 預言者ツロはルスト本人そのものであるが、権能により自律し動き出すことも出来る。
 男の姿を借り、男の目のみを借り、イレギュラーズの生温さは見てきた。奴らは温く、そして、甘ったるい。
 反吐が出るとルストは呻いた。馴れ合うことが何の成果になるというのか。

 滅びても世界を諦めず、求める強欲は『妹』であったとしても不愉快であった。
 そう、誰も彼もが不愉快だ。滅びのアークを無駄に垂れ流した強欲な『妹』だけではない。
 竜種(バケモノ)とまで協調したくせに恨み言を叫び死んでいった嫉妬に塗れた『弟』も。
 怠け、己が何も動かず与えられるが儘を享受した怠惰な『弟』も。
 憤怒に駆られるばかり、衝動に身を任せ結果は破滅の道を辿った『弟』も。
 愛だ恋だ情だ何だと下らぬ欲にばかり感けて本質を見誤った暴食の『弟』も。
 実に下らない。冠位と呼ぶ存在の面汚し共だ。
 ルスト・シファーは神経質な男だ。チェス盤が汚れたことにまずを持って腹立たしくも思う。
 だが、塵を払う程度ならば遂行者が行なうと思っていたが――奴らも所詮は愚図だったらしい。
「準備は」
「整いました、ルスト様」
 静かに歩み出したのは『アドラステイア』と名乗った遂行者だった。この少年を手元に置いたのは失敗だった。
 苛立たしいことばかりである。都市の一つを作らせれば、ファルマコンと呼ぶ死を食らう獣を作り出しはしたが利用すべき『駒』共に言いように支配された。アドラステイアという国を捨置いて、ツロの付き人にさせたがイレギュラーズなどと交友を持った。
「『神霊の淵』は」
「ございます」
 静かに顔を上げたアドレはそろそろと取り出した。聖アーノルドの骨が入った小さな棺である。
「今から遣るべきは分かるな。貴様ら遂行者はこの俺を護る。
 そして、各地に帳を降ろせ。愚図の命を有効活用してやるのだから光栄に思えば良い」
「はい」
「お前が集めた死も、お前が糧にした怨嗟も、その全てが今だ燻り続けている。
 友の思いを晴らしてやりたいと言って居ただろう。喜べ、その機会だ」
「はい」
 アドレは無数の子供の怨嗟がその臓腑を作り上げている。誰かが幸せになる事なんて、許せやしないのだ。
 そんな――そんな浅ましさを胸に抱えながら、彼は生きている。
 それでもアドレがルストを、いいや、ツロを敬愛していたのは彼が居なければ友の怨嗟を晴らすことが出来なかったからだ。
(あの人の側は心地良かった。紛い物であったって、『ツロ様』は全てを受け入れてくれた。
 まるで父親のように僕の傍に居たんだ。……僕は人間ではないけれど、人間のような時間を彼と過ごした)
 旅をした。砂に足を取られたときに手を貸してくれた彼は存在しない人間だったという。
 それでもアドレは彼が好きだった。だからこそ。
「貴方様に勝利を」
 ただそれだけを願っていた。

●欲しくて堪らないモノ
 美しい歌声。硝子の靴。棘のない薔薇にシルバーチェーンのネックレス。
 ふわふわとしたパウンドケーキに屈託なく笑える部屋。当たり前の様に存在する家族。
 全てを用意できる『理想郷』。
 輝かしき黄金の都。何も、失うことのない全てが当たり前に揃った幸福の海原。
 それがこの神の国だった。
 遂行者アリアは小さく息を吐く。己は預言者ツロに片恋慕をしている。そうあるように作られたからだ。
 だからこそ、ツロとルストが同一の人間であったならばルストを愛し抜き、彼の傍に居ることを選べる。
 家族よりも恋を選ぶ事が出来た。儘ならぬ生活から走り出し、何もかもを捨て去って『恋を選んだ』己に戻る途はなかったからだ。
 遂行者リスティアは断罪について考える。人が罪だと叫ばなければ理想郷で誰もが笑っていられるだろうか。
 誰かが誰かを捌くことにはうんざりだった。父親を処刑する県を握り締めてから、リスティアは正義のために生きてきた。
 あれが己の罪だと言われれば、自らの足元は崩れそうになる。諦めて何ていけないのだから。
「リスティアちゃん」
 呼び掛けられてからリスティアは顔を上げた。オウカは微笑んで居る。聖職者、正義の塊、天義の象徴。
「……オウカちゃん」
「イレギュラーズに、親友でしょうって。そう言われたんだ。私達の間には歪な正義と、その遂行がある。
 本当に親友だったらリスティアちゃんがお父さんを処刑するときに、同じように悲しんであげられたのかな」
「そうだね。もしかすると、あの時のオウカちゃんは冷たかったのかも。
 けど、それでいいんだ。そうじゃなきゃ、私達の正義は空っぽになって何もかも残すことがなくなってしまうから」
 リスティアは足元に落ちていた誰かの理想を拾い上げた。
 暖かな暖炉に、木張りの床。それ程広くはないけれど、幸せそうに笑う女の姿がある。
(これも、本当に在り来たりな『あってほしかった幸せ』だった――)
 リスティアは目を伏せてから「あなたは?」と問うた。
「歌声を求めていた」
 ロイブラックと名乗った男は静かに言った。
「エゴというのは最も必要な原動力だとは思わないかな、『遂行者』」
「あなたも、そうなったのでしょう? ロイブラック」
 問うたアリアにロイブラックは薄暗い笑みを浮かべる。
 彼の側から走り出し、楽しげに欠片に手を伸ばす小さな少女は「見て、見て、きれいです」と微笑んで居た。
 彼女は人間ではない。
 ブーケと呼ばれた少女は、ただの『人形』だ。
 彼女の原動力は『ロイブラックの心臓』だ。半分の心臓を『神霊の淵』へと当て嵌めた。
 それがブーケを突き動かしている。ロイブラックはブーケが生きている限りは死ぬ事は無い。
 ある種の賭けであったが、ルスト・シファーの考えは正解だったのだろう。

 ――イレギュラーズと言う愚図は幼子を殺す事は出来ないだろう。
   ブーケには何不自由なく過ごさせれば良い。本当に無垢な子供として関わらせれば良い。

 その通り、殺さずの選択肢を幾度か越えてきたブーケの中で未だにロイブラックの心臓は動いている。
 ブーケが倒された際にはアドレやその他の遂行者がその核を持ち出す予定ではあったが、此処まで来たならば潮時だ。
「欲しい物は全て手に入れに行こうと思う。さあ、ブーケ」
「はい。ほしいものは、たくさん、たくさん、宝箱に閉じ込めましょう」
 星くずの形の金平糖に、ふわふわしたレースのスカート。それから、お母さんの愛情と――生きているという証。

「わたしたちは、かみさまのために、いきをしているから」

●聖女カロル
 ――バカみたいな事をしたとは思って居る。
   いや、ちょっとだけ、憧れたのは嘘じゃないんだけど。

「キャロちゃん」
 呼び掛けられてからカロル・ルゥーロルゥーは「なあに?」と微笑んだ。
 何時も通り勝ち気でなくてはならない。何時もより上向きにした睫に、気合を入れてアイラインをガッツリ目に。
 正直、似合うかどうかは置いて好きだからで選んだ口紅も遠慮無く塗ってきた。
 服だって――そう、服だって。遂行者としてのそれに袖を通してから変わらない。
「大名」
 カロルは呼び掛けてからにこにことして近付いてきた夢見・ルル家の頬に触れた。
「私可愛いかしら」
「勿論、今日は何時もより気合が入ってるね」
「ルスト様のお側に居られるからね」
 カロルの語尾が徐々に弱々しくなっていく。ルル家はそれが『彼女が恋をする乙女』だからだと知っていた。
 カロル・ルゥーロルゥーは女の子だ。
 天義建国に携わった聖女の記憶を有する遂行者。天義建国に力を貸したが、結果として女の名声は高まりすぎた為に処刑された。
 利用するだけ利用されて捨てられることには慣れっこな女は目が醒めて、初めての自由を謳歌した。
 誰の目にも憚らず走り回り、スイーツを食べることも。化粧をし、雑な口調で話し、大声で笑うことも。
 その『知らなかった自由』と『美しい毎日』を与えてくれたのは紛れもなく彼だった。
 ――ルスト・シファー。何れだけ彼が悪であろうとも、カロルにとっては愛しい人だった。
 全ての初めてを与えてくれた彼に利用されてもいい。彼のためなら死ねるくらいに、好きになった。

 これは、初恋だった。
 はじめて、人を好きになった。

「キャロちゃん、そろそろ行く?」
「……そうね」
 カロルは立ち上がってからルル家に手を差し伸べた。それでも、初めてできた友達のことも大事だった。
 彼女に『聖竜』の力を渡したのはまだ引き返せるという意味合いが強かった。
 確かに聖竜の心臓をカロルに与えれば『遂行者』ではなくなり生き延びる可能性があるかもしれない。
(……ルスト様を倒すならアレフの力は必要不可欠。私になんて、使っちゃダメよ、大名)
 命と、世界と、引き換えにカロル・ルゥーロルゥーだけを救う事が出来るとすれば、己は世界を救えと言ってしまうだろうか。
 それは友情であって、少しだけの恩返しだった。こんな自分に楽しい時間を与えてくれて有り難う。
 ……もう、それもお終いだけれど。
 永かったモラトリアムにさようなら、私達は違う道を進むのかも知れない。
「ねえ、『ルル家』」
 ぱっと、ルル家は振り返った。名を呼ばれた事に気付いてから何処か擽ったそうに笑う。
「どうしたの? キャロちゃん」
「ちょっとだけ手を繋いでて」
 今は少しだけ、恐くなった。

GMコメント

 夏あかねです。

●作戦目標
 『冠位魔種』ルスト・シファーの撃破

●重要な備考
【各章での成功条件】
 各章の第一節に個別成功条件が掲載されています。確認を行なって下さい。

【参加】
 当ラリーは<神の国>の各種シナリオ/レイドの結果と連動しています。
 皆さんは当ラリーには何度でも挑戦することが出来ます。(決戦シナリオ形式との同時参加も可能となります)

 ・参加時の注意事項
 『同行者』が居る場合は選択肢にて『同行者有』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。

 ・プレイング失効に関して
 進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
 そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。

 ・エネミー&味方状況について
 シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。

 ・章進行について
 不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
 (正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●フィールド
 神の国。つまり、ルストの権能内部です。フィールドの様子はと言えば、周辺に様々な『世界の欠片』が降り注いでいます。
 天井の高さ、空間の広さの制限はありません。が、ルストの権能内部である事を見越せば油断ならない場所であることであるのは確かです。
 この空間はルストが作り出していますので、彼の気紛れ(章変化などで)で変化することがあります。
 フィールドの現状については『各章』の第1節目の『フィールド』の項目を参照して下さい。

●エネミー
・『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファー
 冠位魔種。七罪(オールド・セブン)の一人。非常に強力なユニットである事が推測されます。
 預言者ツロのガワを被って活動して居ました。イレギュラーズの気持ちを削ぐためならばツロの顔を使うことも辞しません。
 司る冠の通り、彼は非常に傲慢です。性格は、素直に悪いです。基本的に人間は虫螻、遂行者は愚図の駒と認識しています。
 常に余裕を滲ませています。何かを盾にすることが多いようです。愚図と虫螻はそう使うものです。

 以下の能力は現状のものです。ラリー変化によって能力は【大きく変更されます】

 a、『天地創造』
 ルストの能力の大部分をしめています。神の国を作り出す能力です。
 異空間に世界を創造し、内部に理想郷を作り上げます。膨大なリソースが必要となるためにルストは基本的には戦闘行動を好みません。(あと、己が戦わねばならない必要性を感じていないからです)
 神の国はあくまでもベースを容易した上に粗造乱立させているものです。世界に降ろすためには『核』を必要とします。
 その核が様々な聖遺物である事からもルストの能力だけで出来上がっているわけではなく、聖遺物という『力ある物品』を利用している事から彼自身の権能は『世界を作り出す』に留まるようです。
 【この能力の注目すべき点は『フィールド効果』が付与されることです(詳細は各章をご覧下さい)】

 b、『生命誕生』
 遂行者達を作り出す能力です。己が聖痕を付与した『神霊の淵』に聖遺物や心臓などを入れ込むことにより相手に盟約を課します。
 ルストには攻撃できず、ルストの指示に従うようにインプットされる(意志での抵抗は可能のようですが……)のです。
 遂行者達はその盟約が存在する代わりに強大な力を手にし、神の国内部では死ぬ事はありません――が、『神霊の淵』が壊された場合は消滅します。
 聖遺物容器から『力の源(聖遺物の欠片など)』を取り出すことで力のリミッターを解除できるようです。ルストはこの場の全員にリミッターを解除し戦うことを命じています。
 【この能力の注目すべき点は『ルストが神の国では不死であること』です】

 c、『天の雷』
 d、『嘲笑の日』
 e、『神罰の波』
 名前からして攻撃技のようですが詳細不明です。
 ただ、ルストは皆さんを侮ってますので聞き出せるかも知れませんね。

・遂行者『聖女』ルル(カロル・ルゥーロルゥー)
 遂行者。神霊の淵である、聖遺物容器はカプセルを思わせます。頌歌の冠の欠片と小指の骨が入っています。
 ルストの側に常に付き従っています。ルストを愛する恋する乙女。
 天義建国に携わった聖女ですが人民を扇動し竜と心を通わされた罪に問われ断罪されました。不要な人間だったのでしょう。
 天義への憎悪を燃やしていましたがイレギュラーズを関わることで彼等に情が湧きました。
 攻撃はバッファータイプですが、それなりに遠距離からの攻撃も得意としています。あくまでもルストを護る事を前提に動くようですが……。

・『遂行者』アドラステイア
 遂行者。『アドレ』と名乗る少年です。アドレと呼んであげてください。 
 聖アーノルドと呼ばれる聖人の骨と子供達の怨嗟が結びついた結果生まれた遂行者です。
 ツロの側近ですがルストである事には気付いています。ツロを敬愛しており、彼しか頼る者がなかったようです。
 イレギュラーズの事は好ましく思っていますが、それでも遂行者として存在して居ます。己の中の子供達は、まだ、苦悩を叫んでいます。
『騒霊』と呼ぶ存在を使役します。それらは無数に湧いて怨嗟を叫ぶようですが……。

・(遂行者)『三人の乙女』リスティア、オウカ、アリア
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)さん、サクラ(p3p005004)さん、アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんに良く似た姿の『遂行者』です。
 ルストの配下で在り、それぞれが思う事があるようですが彼を護衛しています。
 騎士のリスティア、聖職者のオウカ、医術士のアリアと認識して下さい。

・『遂行者』夢見・ルル家(大名)
「ルルバトルだ!」とカロルと対話する中で「そっちはルル取られても本名になれば良いですけど拙者なんて家になるんですよ! 家って! 夢見家ですよ! 大名ですか!」と叫んだことでカロルに気に入られて大名と呼ばれています。
 カロルを生き延びさせたいという願いと、遂行者となりイレギュラーズの手助けをして冠位を退けるという目的の元で活動して居ます。
 カロルの差配により『神霊の淵』を有していないため狂気状態ではありません。カロルを護ります。
 聖竜の力の欠片を有しています。任意で発動が可能です。

・『遂行者』グドルフ・ボイデル
 反転状態になった遂行者です。その姿は徐々に歪な者に変化し、自我も時間経過で欠落します。
 己が己でなくなる前に、ルストに向けて何らかの『傷』を与えるべく隙を狙っています。
『神霊の淵』を有しているため、彼自身はルストを傷付けられませんが、イレギュラーズの手引きを行ないたいようですが……。

・『遂行者』ロイブラック
 魔種。とある新興宗教の教祖ですがフォン・ルーベルグで喫茶店を隠れ蓑として営んでいる男です。
 歌声を蒐集する悪癖があります。『声』や『音』を愛しており、美しい音色に恋い焦がれます。
 どうやら目的のために自らの心臓を渡し遂行者となっています。神霊の淵を手に『歌』『音』に携わるイレギュラーズを全て自らの理想郷に引き込もうと画策します。
 どうやらヒーラータイプです。非常に強力なヒール能力を有します。

・『神霊の淵』ブーケ
 可愛らしい少女。ロイブラックの『神霊の淵』が埋め込まれています。ブーケを殺して中にある神霊の淵を壊さなくてはロイブラックは撃破不可能です。
 両親から引き離され兄と共に過ごしていた少女は遂行者達に従って唄を歌い、日々を楽しげに過ごしています。

●味方NPC&【使用可能な能力など】
 当シナリオでは天義騎士団(関係者含む)が協力を行なっています。

・リンツァトルテ・コンフィズリー
 天義貴族。コンフィズリーの不正義で知られる『断罪された家門』の当代。
 現在はそうした評判は払拭され聖騎士として一隊を率いています。フェネスト六世の近衛騎士のように活動する事も増えたようです。
 聖剣(聖遺物)を有して居ます。正義そのものです。
 騎士としての実力はお墨付です。指示があれば従います。無ければそれなりの無難な行動をします。

【聖剣】
 ルストの権能に対しての対抗手段の一つ。過去に冠位魔種ベアトリーチェ・ラ・レーテの撃破にも使用されました。
 リンツァトルテ個人では発動できません。聖剣は未だ沈黙しています――

・イル・フロッタ
 リンツァトルテの後輩の聖騎士。本名をイルダーナ・ミュラトール。
 旅人の父と天義貴族ミュラトール家の母を持っていますが、旅人との婚姻が不正義と見做されたミュラトールを名乗ることを認められていませんでした。
 死地に赴き、騎士としての責務を全うすることと引き換えにその名を名乗っています。
 騎士としての実力は『それなり』です。猪突猛進型ガール。元気いっぱいです。

【聖ミュラトールの杖】
 術者の生命力に呼応して使用できる強力なヒール技です。危機的状況になった場合に利用可能です。
 ただし使用は【2回】まで。イル以外の方が使用可能です。後述の『聖竜の力』を合わせることで広範囲に効果を与えることも可能。

・その他
【聖竜の力】
『ゲマトリアの選択』を経て、一部イレギュラーズに渡されている能力です。
 本来の力として必要とされる代償はPPPの発動と同じく、重い物になりますが非常に強力な一撃となります。
 また、本来の力の解放は【各人一度のみ】です。
  ・各種決戦の結果を受け、外より聖遺物を駆使する際に同時発動しルストに打撃を与えること
  ・聖ミュラトールの杖を発動すること
  ・その他、望むことや工夫があれば。
 任意で発動が可能ですが、発動を宣言しても上手くいくかは定かではありません。発動していない場合は再度の使用宣言が可能です。

【<神の王国>の結果を受け、他シナリオより配布された称号シナリオなど】
 当ラリーでルスト・シファーの権能を削り、彼に打撃を与えるために利用可能です。
 使用時に代償は付き纏うでしょうが、その覚悟の上でのご使用を推奨致します。

  • <神の王国>Apokalypsis完了
  • GM名夏あかね
  • 種別ラリー
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2023年12月23日 18時00分
  • 章数3章
  • 総採用数550人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

神の国に至る――

 騎士としてこの場所に入るイルダーナ・ミュラトール――イル・フロッタは深く息を吐いた。
「死を覚悟せよ」
 静かな声音が響く。目の前には『憧れたあの人』が居た。
 リンツァトルテ・コンフィズリー。聖剣を有するコンフィズリーの現・当主。嘗ての『不正義』の象徴。
 彼の不正義の全てを払拭したのは冠位強欲ベアトリーチェを退けた際の事だった。
 彼の有する錆びた聖剣がパンドラの奇跡に呼応したのだ。その美しさはイルも忘れることはない。
(もう一度、だ)
 屹度、『先輩』は聖剣を振り下ろさねばならない。
 しかし、彼には聖剣を遣いこなせるほどの力は無いと言う。彼がイレギュラーズではないから、滅びの力は可能性を持たぬ者には厳しいのだ。
 手酷い現実を前にしても、彼は聖騎士として進むのだと言った。
(私が、この命全てを賭けてあの人の剣を握る事が出来たなら)
 そんなことを夢想した。『親友(スティア)』なら「出来るよ」なんて言ってくれるだろうか。
 イルは深く息を吐いてからイレギュラーズへと振り向く。
「作戦をおさらいしておく。
 現時点でのルスト・シファーは無敵だ。死なないと言うべきだと思う。あいつを護る物も多く居る。
 けれど、彼の意識を『外』から逸らすことと、彼の周辺を護る遂行者達の数を減らすことも私達へのオーダーだ」
 直ぐに倒しきれるわけじゃない。
 様々な『手段』を講じなくてはならない。

 ――神の杖。
 ――エンピレオの薔薇。
 ――コンフィズリーの聖剣、そして、その対なる盾。
 ――ヴァークライトの指輪、ロウライトの聖刀。
 ――『聖竜』の力の欠片。
 ――『可能性(パンドラ)』

 それだけではない。遂行者達は聖遺物だ。その力を逆に利用してルストに打撃を与えられる可能性だってあるのだ。
 その準備とも言える。
「ルストの気を惹く。遂行者の数を減らす。大忙しだと思う。
 ……それから、遂行者達と話を出来るのだってこの機会が最後だから」
 イルは『大名』『山賊』と呼ばれていた二人のイレギュラーズの事を思いだしてから目を伏せた。
 それから。
「正直、私は傲慢なあの男、腹立つから殴りたい」
 イルは可笑しそうに笑った。
 皆が皆、様々な思惑を抱えているだろう。だが、此処で踏ん張らねば『大切な世界』が失われてしまう――

====第一章情報====

●第一章目標
 ・ルスト・シファーの意識を『外』へ向けない
 ・遂行者2名以上の撃破

●追記情報
 ・フィールド内に存在するイレギュラーズ全員に毎ターン始めに『BSがランダムで2つ』付与されます。
 (解除可能。無効系は『付与を試みたが無効となった』として処理されます)

 ・ルスト・シファーは全てのBSを無効にする状況です。
  また、傍に居る聖女カロル・ルゥーロルゥー及び遂行者アドレは強化されています。

 ・エネミーデータは『GMコメント』を基本的に参考にしてください。
  現時点では大きく変更はなく、全員がフィールドに揃っています。
  三人の乙女(リスティア、オウカ、アリア)とロイブラック&ブーケが前線に。その他はルストの近くです。
  また、アドレの騒霊や『選ばれし民』が前線に姿を見せます。

 ・第一章エネミー『選ばれし民』
  第一章時点ではこのフィールド内に『選ばれし民』と呼ばれる人々が乱造されています。
  彼等は心を有していませんが、理想郷で皆さんが出会った人々であったり、アドラステイアや現実世界の友人の姿をしているかもしれません。
  殺さないで欲しいと叫びながら訴え掛けてきます。数は酷く多いですが、ルストの意識が向けられている証拠です。
  彼等の姿は人間を精巧に作っている者も居れば、化け物が混じって居る者も居ます。アドラステイアの聖獣のような変化をしている者も居るようです。


第1章 第2節

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
成龍(p3p009884)
洪水の蛇
桐生 雄(p3p010750)
流浪鬼

●前哨戦I
『神の国』『理想郷』――その呼び名は実に傲慢な男の在り方を表している。
「おうおう、世界作っちまうとは大したもんだな」
『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)は僅かに腰を屈めた。指先が帯刀した四聖刀の柄へと触れた。
 慣れ親しんだ感覚に息を吐く。ひりつく空気は眼前の男から感じられる。特異運命座標と相対することになれども未だに臨戦態勢へと移行しない男は涼しげな眸をじらりと動かしてから雄を見た。
「構わん、存分に見ていけば良い。冥土の土産にする程度の事を許せん程に狭量ではない」
 鼻を鳴らし笑った男は煉獄篇第一冠に名を連ねる傲慢の徒、ルスト・シファーである。
 雄は己を、そして、共にこの場へと馳せ参じたイレギュラーズ達の様子を眺めてから独り言ちた。
「そんで人も何も思いのままってか。流石傲慢、神様気取りかよ。
 オレ様世界で好き勝手絶頂してオレ様サイコー、なんて傍から見てりゃみっともないったらありゃしねえ。
 ……まぁそういう奴ぁ酔っぱらってっからわかんねーんだけどさ。酔うのは酒だけにしとけ。のんだくれの俺が今から目ぇ覚まさせてやんよ」
 ルストはその言葉に何ら反応を示さない。相手にされていないか。多少の『話し相手』にはなってくれそうなものだが――
(……『神様』からすりゃ小蠅がブンブン飛んでる程度ってか)
 実に『傲慢』だ。周囲を取り囲んでいるのは創造されただけの存在である。だが、見覚えのある顔がちらついて雄は息を吐いた。
「ハァー……」
 ここで、臆して等行けない。走る青年の背後では『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が酷く居心地の悪そうな顔をして居た。
 目の前に居るのは人間だ。紛れもなく、そう見える。だと言うのに助けを呼ぶ声も、救いを求める声も亡い。
 酷く痛くなる。苦しさだけがウェールを閉める。ああ、こんなにも人たり得る要素を持っていてもそれは人手はないのだ。
(老若男女誰だって死にたくないよな。でも俺も、ここで戦っている皆も消えたくないんだ……!)
 ウェールはぎり、と奥歯を噛み締めた。神の国が消えてしまう時にまで、『殺される』経験はして欲しくはない。
 ウェールは父親だ。愛しい子ども達の事を思えば無闇矢鱈に命は奪いたくはなかった。

 ――この声が聞こえる死にたくない奴は来い!

「ご主人(ロイブラック)さま」
 振り向いた少女は無垢な笑みを浮かべていた。明るく、華やかで朗らかな微笑み。ブーケは『ウェールの子供達よりも更に幼く』見えた。
「しにたくないです」
「ああ」
 ロイブラックの頷く声音が聞こえた。ブーケは首をこてりと傾げてから掌を宙へと突き出した。
「戦わなくっちゃ、いけないの?」
 望めば『彼女達は何だって得られる』。ここは理想郷だから。だからこそ、少女は武器を持った。
 望んでも『何も得られなかった』生まれであった『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)はブーケを見て、そして後方を見る。
「冠位傲慢」
 呼び掛けた。息を吸う、喉の奥から痺れが走るような感覚がする。緊張は年若い天義の娘は悍ましい花の気配を感じ取る。
 ああ、なんて美しいのに歪な華なのだろう。シュテルンはごくりと息を呑んでから言葉を続けて行く。
「冠位……天義で目の前にするのはあなたで二人目です。私は前の大戦でも少しばかり戦いに参加していました。
 強欲に傲慢……今の天義には支配されても仕方の無い感情なのでしょうか」
 ルストの眸がじらりとシュテルンを見た。彼と話す事でその意識を『外』に向けないようにすることが目的だ。
 作戦遂行の鍵でもある。シュテルンは彼は己を見ていないとは気付いて居た。
「でもあなたは策略家で慎重派だと言うことはわかります。
 一部の特異運命座標をそちら側にしたり、遂行者によって特異運命座標達の情をも動かしている。
 ……あなたの望む通りの展開かはわかりませんが私にはどれも関係がない。
 私はあなたに興味がありますよ、ルスト・シファー。お話が出来たらって前から思っていたんです」
「何故貴様と話さねばならん」
 ――ああ、そうだ。彼にとっては遂行者もイレギュラーズも駒に過ぎないのだろう。
(あの人は私に興味が無いんだ。私は、救われたかったんだ。……私は、どうしたら良いんだろう。
 あの時、生きたいと思ってしまったから、ずっとずっと辛かったのかな)
 ルストは詰らなさそうに頬杖を付いていた。二人の間を遮るように『遂行者』アリアが姿を見せる。
「無礼者め、誰と話しているのですか」
「流石に、主人を護るか。それも私情だろう? ならばこちらも私情を語らせて貰っても?」
『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)は自らの身に染み付いた攻勢戦術を持って、防備に当たる『理想郷の住民』を払い除ける。
 どうして奪うのだと叫ぶ声がする。振り上げられた鍬を避け、その腕を払い落とした。周辺に浮かび上がった魔力が斬撃として聖獣を象った者の翼を断った。慟哭、それを越え――
「俺は傲慢が最も好まぬ感情でな。研鑽もせず胡坐をかく、羽虫を羽虫としか捉えぬその在り方があまりにもつまらない。
 故に俺はこうして傲慢と対峙する機会を与えてくれたことに感謝しよう。最も嫌いな感情を斬れるのが神と同時とはな!
 ――黒一閃、黒星一晃! 一筋の光と成りて、神の帳を切り開く!」
 一晃とシュテルンは対照的であった。理解し得ぬ存在を斬り伏せる一晃と対話を行ないながらも相手の気を惹かんとするシュテルン。
 その何方も必要な在り方だ。何せ此処は神の国そのものなのだ。最も理解出来ないのは『選ばれし人』であることを『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は知っている。
(星灯聖典の連中に渡された『理想郷』は偽物どころじゃない欠陥品だったな。
 その作り手の品性も推して知るべしって感じだな? ただルストを信奉する形だけの人形、アレを見せた後で命乞いは通らんだろう)
 助けてくれと叫ぶ子供達が武器を持つ。創造された玩具のピストルは実弾が込められた。理想郷の人間は霧散しても作り上げられる。
 相手に利があるのは確かだが、頭を潰せば『多少の時間は必要となるだろうか』
 符が宙を踊った。錬の式符が作り出す魔鏡に屈折し映りだしたのは暗黒の雫。地へと溢れて、周囲を包む。
 あれは歪んだ存在だ。玩具のピストルが撃つ弾丸を弾いたのは絡繰兵士。口のパーツを抑えた部分が軋みを上げた。
 かたり、と音を鳴らすその背後から聖獣が立ち上がる。ルストが歪んだ笑みを浮かべたことに気付いた。
(――歪んでる)
『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は唇を噛んだ。彼が遂行者を作り出した大元なのだという。
(冠位傲慢……あいつが居たから、僕にとっての『後悔』があったんだ。
 大切な仲間は、取り戻したけど……諸悪の根源のあいつは許せない。
 ――僕に殴る力がなくても、できる事はある。僕は、僕が望む皆を癒すよ)
 目の前で涙を流した子供を見れば祝音の心は痛んだ。名も知らず、顔も知らない幼い子供であれど人の心は傷むもの。
「おにいちゃん」と呼ばれれば祝音は歯列をかたかたと音鳴らす。
「……酷い。無断で複製したんだ。こうやって、使うために……!」
 傲慢なんて嫌いだ。冠位魔種ルスト・シファーが余裕綽々であるのは彼が不死だからだ。不死であるが故に、気を惹くというオーダーが存在して居るのだから。
「皆、気をしっかり持って。あんな奴等には……冠位傲慢には絶対勝たないといけないんだ。
 偽物作って何もかも叶うなんてうそぶく傲慢野郎には、どんなに心が痛まされても、その痛みの分ぶん殴って勝たなきゃいけない」
「偽物だなんて」
 眼前でルストを護るアリアはせせら笑った。信仰は時に強大な力となる。その側で創造された『刀』――誰を真似た者だろうか――を手にしていたブーケも「いつかは、ほんものになるかも」と楽しげに笑う。
「だって、シーツで隠せばなかったことになるかもしれないですよ。
 零したスープの染みも、跳ねてしまったミートソースも、砂で出来た擦り傷だって」
 明るい声音は『分り合えない』事を物語る。それが子供達の在り方で、ブーケと共に前へと進み出る選ばれし人々は「そうだ、そうだ」と叫び来る。
「無辜の民に聖獣に……ってますますアドラステイアを思い出しちゃうね。もうお終いにしよう……!」
 ゆっくりと、その視線はアドラステイア――『アドレ』を捉えていた。『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は紅いドロップを口腔に含んでから前を見る。
「だめだよ、アドレ」
「ダメじゃないんだよ、フラーゴラ」
 アドレに「ワタシのこと、ちゃんと覚えてるんだね」とフラーゴラは肩を竦めた。アドレは「アドラステイアの子供達だって、救われたかった」と言う。
「ここならば、救われるかも知れないのに『また』殺すんだ」
「どういうこと……?」
「聖獣も人だったんだよ、フラーゴラ」
 フラーゴラは唇を噛み締める。聖獣は人語を宿し、助けてと声を上げる。ああ、そんな声――
「皆! ワタシの声を聞いて! 負けないで! がんばれえー!」
 振り絞った鼓舞を背に『洪水の蛇』成龍(p3p009884)は走り行く。貴方がわたしにくれたもの、それが何かは分からないけれど。
「冠位魔種とはまた強敵な! 拙者も気合いが入るというものです。むん!
 拙者の役割はバッファー。皆様への支援ですぞ。さあ皆様、共に存分に力をふるいましょうぞ!」
 フラーゴラの声と共に、誰かを力づける方法だけは知っていた。成龍も負けじと支援を、鼓舞を、与え続ける。
「皆様ならやれます! 拙者も助力いたします!」
 これは持久戦だ。出来うる限りの時を稼ぐのも肝要だ。ヒーラーは重点的に仲間を癒し、出来る限り『ルスト・シファー』の視線を釘付けにする事を求めるだろう。
 成龍はフラーゴラと共に声を上げた。求めるのは勝利だろう。その形が誰もが違えども邁進していかねばならぬ。
 戦いは始まったばかりなのだから――!

成否

成功


第1章 第3節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

●前哨戦II
「さあ――神の国を騎兵隊が穿つ!
 冬の王(オリオン)を捉え、絶海(アポカリプス)を超えた私達の序幕。全軍突撃!」
 神がそれを望まれる。
 見果てぬ先へと目指すが如く。果てなき道標は『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が旗印として隊となる。
 騎兵の軍勢を連れ行く紫苑の娘が掲げたのは『全員生存』の作戦だった。
「良いわね、ルストをより『内側』に引き込む。神の国の外に意識を向かせることなく私達は凱歌を響かせる!」
 指示を聞き、前線へと飛び出したのは『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)であった。
 その身に纏う純白の鎧と巨大な盾は彼女の存在をこの神の国でも目立たせる。騎兵隊の『一番槍』と自認してムーンリットナイトと共に駆ける、戦場。
「私の名はレイリー=シュタイン! 騎兵隊の一番槍よ」
 声を上げ、自らの姿を縒り印象づけたのは自身の存在を『囮』とする為だった。
 冠位傲慢。彼の在り方は一発殴りたいとレイリーも考えて居た。この理想郷には反吐が出る。
「見なさい、聞きなさい、叫びなさい! 私はここにいるわ!
 命乞いも恨みも全て聞いて、全て切り捨てる――敵意も攻撃も私のものよ! さぁ、私達を止められるかしら!」
 真っ直ぐにルストを見たレイリーに、冷めた眼差しで一瞥をしたルストが鼻先を鳴らす。
「リスティア」
「承知しました」
 すらりと引き抜かれた『ヴァークライト』の聖刀がぎらりと鳴る。その後方では「オウカ」と呼ばれた聖職者の祈りが『ロウライト』の指輪に込められた。
「これから先には行かせないよ」
「全てが主が為に」
 二人の遂行者と、そしてその前を行くのは巨大な聖獣を模した選ばれし人。それも『人間であった』とアドレは言った。
 叫ばれた不協和音は悍ましく、救いを求める声である眦を吊り上げ、鎌を握り締めた『紅風』天之空・ミーナ(p3p005003)の表情は苛立ちが滲んでいた。
(くそ……)
 元は人間で合ったものが幾つかの要因が合わさって、獣へと転じた。それは自我を未だに有した子供であると言う。
 その姿でこの場に現れたのは冠位傲慢が『人間を駒であるとしか思っていない』からだろう。アドレならば屹度、楽しげな子供の姿を選んだ筈だ。
「生憎私は割かし病には強いんでね……そして頼れる皆がいるなら。私の歩みを止められるなら、止めてみせろ!」
 足元を確認する。眼前の聖獣は壁となったか。ならば、それを直ぐに薙ぎ払い、次々に攻め来る選ばれし人を、そして遂行者をこの場で退けるのが騎兵隊の役目である。
 前線へと遠く、弾いた剣戟を届けるリスティアに、その支援を行なう聖職者のオウカ。実に良いタッグであり――『面倒な相手』でもある。
「行くぜ」
 ミーナが地を蹴った。遂行者が戦う事を選んだならば、その行く先を開くのが騎兵隊の役割だ。
 見えていたリスティアの剣戟を模倣したように聖獣へとミーナは叩き付けた。続き、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)がするりと聖獣の前へと飛び込んだ。
「騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! この戦場、押し通る!」
 背後には天義の聖騎士がいる。彼等は所謂『ヘルプ要員』だ。エーレンは彼等は戦場に出るべきではないとも考えるだろうか。
 騎兵隊の掲げる全員生存に乗っ取るならば聖騎士が前線へと現れることは、即ち彼等の命を失う可能性を危惧しなくてはならない。
 前方には冠位傲慢が位置取り、彼を護るように遂行者が断っている。ルストの傍らにはカロルとイレギュラーズの姿もあるか。
(為すべき事が多いが、上等だ――)
 エーレンは地を蹴った。鯉口を切った太刀はその身に馴染む。抜刀すると共に、斬り伏せる。幼い子供の腕が弾かれた。
 泣くこともなく「あいつを殺せ」「邪魔しないで」と文句を叫んだ子供達に『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は『人間ではないもの』を見たのだと眉根を寄せる。
 それは人の姿をしているだけの紛い物だ。理想郷では諍いもなく、誰もが幸せそうに笑っていたが、この場ではそんな彼等も『自身等の住処を荒す無頼者を殺す為の兵器』となっている。
「司書さんに続くよ! フリックさんも任せてね!」
「ン フリック達 個人デナク集団 シッカリ対処スル」
 頷く『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は重くのし掛かるこの『フィールド』の効果を実感していた。
 成程、天地創造とはよく言ったものである。ルスト・シファーにとって最も過ごしやすい空間は戦場に屈し、襲い来る外敵を自らが手を下さずとも排除されていくものをいうのだろう。
(……屹度、この空間で私達が倒れなければ冠位傲慢は目を離さないはず……!)
 フォルトゥナリアはそう決意してフリークライと共に仲間達を支え続ける。強制的に、且つ、『ランダム』で与えられるバッドステータスを適宜回復することが体を保つこととなる。
 サポート役として、そして支援を行ない周辺状況の把握を行なう事を重視する『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は後方で静かに佇んでいた。
「あちらに」
「ン フリック 見エタ」
 フリークライが頷き、黒子の指示を聞いたミーナが横面を付こうとした選ばれし人と、『騒霊』を押さえ込む。
「あんまり暴れないでよ」
「その様なわけには参りませんでしょう」
 黒子にアドレは「困ったな」と呟いた。アドレに課せられた使命は『外敵の排除』だろう。それはカロルも同じだ。
 だが、彼等が出てこないのは前哨戦としてルストがイレギュラーズを侮っているからに過ぎない。前線に出てこなくとも『ちょっかい』を駆けられる彼等はイレギュラーズの敗北を求めるように振る舞っているのだ。
(ルル家……グドルフ……)
 フリークライが顔を上げれば、二人の『遂行者』の姿も見えた。彼等はまだ後方で立っている。騎兵隊の行く手を遮るのは有象無象と、三人の乙女で構わないとルストが判断したのだろう。
「侮られていますね」
「ほんまに」
 黒子に『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は肩を竦めた。ウォーワイバーンと共にやってきた彩陽の眸が細められる。
 黒衣に身を纏い、手にした矢を天へと打つ。それは堕天の煌めきを帯びて、眼前の聖獣の胴へと突き刺さった。
 叫ぶ声が耳を劈いた。たすけて、いたいと声が響く。だが、留まって等居られない。その程度に怖れ、慄いていては勝利は手繰り寄せられない。
「そこのけそこのけ騎兵隊が通るってなー!
 力は束ねてこそ。一人一人は小さくとも、束ねたら幾らでも強くなる。だからこのまま押し通らせてもらうで!」
 進むべき光は、そこにある。彩陽の矢は天を穿ち、地を叩く。
「――冠位傲慢、聞こえているかしら。貴方達の弟達に尽く襲いかかった。明けの流星を!」
 イーリンは前へ、前へと進む。一人ではない。大激励をし、前へと進むだけの準備はしてきたのだから。
 前へ、前へ。進むというならば道を開かねばならない。騎兵隊はその『道標』となるべく遣ってきた。
『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は声を上げる。天義には踏み入れるつもりも毛頭無かったが、戦意の削ぎ方も、その在り方も『悪趣味』で虫唾が走ったのだ。
「生憎だが俺は見知った顔でも躊躇せん、余計腸が煮えるからな!」
「そのようだね?」
 にこりと笑ったリスティアにイレギュラーズの少女の面影を感じてからバクルドは「本当に反吐が出るな」と吐き捨てた。
 似通った顔をして居るのではない彼女達、三人の乙女はそのものを真似て作られた存在だ。天義に由緒ある家の出身である娘の有り得たかも知れない姿である。
 バクルドはリスティアの手にした聖刀に弾丸を撃ち込んだ。剱が弾き「直ぐに」と声を掛ければ桜花の指示を聞いた子供達がわらわらと現れた。
「どうして邪魔をするの」
 手を伸ばし、まるでせがむように子供が叫んだ。その姿も実に不愉快だ。
 幼子の姿を借り受けて、邪魔立てばかりをするのだから。
「行って来いてめぇら、ここは俺らが開けてやる!」
 背を押されるようにして、『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の魔術が子供達へと降りかかった。
 堕天の煌めきを、そして流転する運命の兆しを。選び取るようにして雲雀の血液が凝固した刃が宙に閃いた。
 その魔術媒介は妖しく光を帯び、獅子を思わせる巨大な聖獣の目を眩ませる。それは堅牢な防御力を有し、牙を剥く。
 だが、それっきりだ。『そんなものに退く』ほど、騎兵隊は甘くはない。
「冠位傲慢の辞書には『窮鼠猫を噛む』という言葉がないのかな。
 なら教えてあげないと。未来を選ぶ権利が自分だけにあると思い上がるな――ってね!!」

成否

成功


第1章 第4節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

●前哨戦III
「い つ も の!」
 堂々と宣言した『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)が胸を張る。
「へぇ……そう。成る程。そうか、そうか。
 いや、上部しか追ってなかったが故に"今"知ったのだが。此度の敵は我と同じく物語の創造能力があるらしいな」
 旅人である以上、それは失われた能力ではあるのだが冠位魔種の在り方は何かと理解は出来る。
 行間を読んでみれば、観測できるものもあろうか。幸潮は騎兵隊の一員として謳いながらも進む。
「成程、この空間は『やべー』みたいだな! けどオレは硬い、オレは無敵だ!」
 胸を張った『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)はにいと唇を吊り上げた。聖獣を前にして、苛む者を退けて、引付ける。
 紅色の髪を揺らす乙女は声を大にする。
「趣味が最悪だな、ルスト!」
「ルスト様はすべて正しいのです」
 憤慨するアリアの声を聞きながらも「どうだか」と牡丹は呟いた。真っ向から聖獣の前に飛び込み、それらの戦力を判断する。
 聖獣はこの中では壁となる存在だろう。遂行者に従い、遂行者を守り抜き、そして『ルストへの射線』を塞ぐ巨体がある。
 其れ等の背後から『補充』でもするように現れる子供達は皆、怯えも竦むことも何もかもがない。
 人間を作り上げるが如く、戯れ毎のようにしてルストは『民を選んで』いるのだ。その所業は神そのものか。
「くふふ、遂に神の名を騙る不届者へ至ろうという訳でごぜーますか。
 いやなに、原初の魔種を差し置いて、神を名乗っているのでごぜーましょう?」
「貴様こそ、誰にその様な事を指図している、愚図め」
 ぴくりとルストの眉が吊り上がった。『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)はと言えば『地雷を踏んだ』気配がしてからついと顔を上げる。
「それに……くふ。この世に神などおりはしぃせんで、いるのは力を持たぬ者達と、化け物ばかりで。魔種も……イレギュラーズも、ね」
「良い事を教えてやろう。旅人がこの世界から出れんのは俺ではない神と名乗った者の仕業だろう。
 俺はそれを上書きしてやろうとしている。喜べ、神が居ないというならば貴様は俺という神が真にその頂きに達するのを見ることが出来るのだ」
 鼻先で笑った。ルストにとっては他の冠位魔種も、ましてやイノリさえも歯牙には掛けぬ存在なのだろう。だからこその冠位傲慢か。
 ルストの指先が揺らぐ。弾かれるように聖獣の爪がエマへと襲いかかった。鋭く切り裂くそれを受け止める熱砂の嵐。
 その熱砂を乗り越えて、叩き付けるのは鉄の星は仲間をも巻き込み全てを痛烈に叩き付ける。レイヴンの星は牡丹を、そしてエマを地へと叩き付け、聖獣と諸共にダメージを与え続ける。
 支え、癒す者との連携をとりながら前線へと攻撃を与えなくてはならないか。この戦場では乱戦状態だ。誰ぞを巻込むことなきように格段と注意をしなくてはならないか。
「緊急招集とは頭目も無茶を言う。が、征くというならば従うまで。
 この強行軍は……ああ、かつての絶海を思い出すな。騎兵隊一番翼、参る」
 レイヴンは嘆きも、怨嗟の声も聞いていた。全てを掻き消す鉄の雨は遂行者への道を開くが為に落ちて行く。
 落下の軌跡を見詰めていた『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は静かに息を呑んだ。
(ついに出てきたか、冠位傲慢。
 ……仲間を愚図に虫けら呼ばわりとはどこまでも腐りきって……その傲岸不遜……目に余る!)
 ぎり、と奥歯を噛んだ。人間など蟻を踏み潰すように容易く死に耐える存在だと思っているのだろう。
 正しく傲慢だ。ムサシは地を蹴って『変身』する。見知った姿の――手を取り合うイレギュラーズの彼女の姿を借りて微笑む『民』が見えて苛立ちに声を上げた。
「虫けらと呼ぶなら呼べばいいであります。
 ……だが、竜種や冠位と渡り合った我々騎兵隊は、ただの虫けらではないこと、今から教え込んでやる……!
 ――行け! ディフェンダー・ファンネルッ!」
 叫ぶムサシはすり抜け、早撃ちを、そして攻撃を繰返して聖獣を削り、姿を見せる子供達や『知り合いの顔をした者』を薙ぎ払う。
「――神の王国が何するものぞ、今より押し通るのは『騎兵隊の先駆け』である!」
 ただ駆け抜けていく事が目的だった。相手がコレを前哨戦と位置付けたとしても、それをも『演出上』のものだと認識し、終盤へと持ち込むのが『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の、役者の在り方だ。
 観客(ルスト)の眼を引き続けばそれで構わない。役者であるイレギュラーズはただ、相手の出方を見極めて、戦い続けるのだ。
「簡単に踊り子に手を触れられると思ったら――大間違いだ!!」
 聖獣を食い止めるべく、黒き雨が地より天へ。沸き立つように彩った。
 ルストは頬杖を付いたまま動かず、遂行者であるリスティアとオウカが聖獣に指示を出す。潰せとオウカが指示したのはヒーラーか。
 雄叫びを聞き、カイトは『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)を振り返った。
「おおお――!」
 マッチョ ☆ プリンは両方の拳を固める。護るべくやってきた。聖獣を受け止め、その身を僅かに後退させる。
 じり、と足が動いた。胴体が傷だらけでも止まらない聖獣の声が響く。
「『自分は凄い』『何でもできる』『一番だ』……前の自分を見てる見たいで、でももっとずっと、酷くて。
 何だか、すごく嫌になってくる! 1人で出来る事なんて、限られてる。でも皆で一緒になったら。
 イレギュラーズが何度も証明して来た事、お前にも叩きつけてやるぞ!」
「それでも、成せることは少ないんだよ」
 リスティアは冷たく言った。冷めた瞳は諦観までを滲ませている。
「オウカちゃん」
「そうだね、リスティアちゃん」
 二人は頷き合ってから、オウカの魔法がリスティアの剱へと纏わり付いた。
「あんまり、長居はしないでね」
 リスティアが振るい上げた聖刀が真空の刃を作り出す。マッチョ ☆ プリンの腕を切り裂き赤い血を流す。
 その血に反応した様子で、またも後方より一回り小さな獅子が飛び出した。聖獣を戯れで作るルストは「これも人だというのだから愉快だな」と実に可笑しそうに言う。
「お気に召しましたか?」
「いや?」
 何となく零しただけの言葉にアリアが反応したことが不愉快だとでも言う様にルストはそれ以上は何も言わなかった。
「酷い……」
 葬儀屋である『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)はその様子に耐えられなかった。
 死者に安寧と良き眠りを与える事がLilyの仕事だ。人を人と見ないからこそ、このように民を作ることが出来るのだ。
 低く空を飛びながら聖獣の翼を断たんと付け根を狙う。オウカと視線がかち合った。彼女に狙われぬように距離をとり、聖獣を薙ぎ払うことを考える。
(苦しそう……殺さないで……そんなことを言われたら、私が壊れてしまいそう……)
 彼等は死者なのだ。軒並み、『再利用』されている。
 だからこそ、決意しなくては。彼等に安らかなる眠りを与える為に。
 マッチョ ☆ プリンの前へと飛び出した獅子は助けてくれと叫ぶ。その声は聞こえてきて、苦しくもなった。
 だが――「あんまりにもザツだ。心がない事がまるわかりだ!」
 首を振った。遂行者達だって信念がある者も居る。
(敵が、絶対の悪いヤツだけじゃないなんて、分かって覚悟を決めて来てるんだ。
 こんなヤツらで止まるわけない! それともそれも織り込み済み、ってか?
 まだ、あるだろ。冠位なら切り札が――こんな程度、できるヤツはいっぱいいるものな!)

成否

成功

状態異常
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)[重傷]
騎兵隊一番翼

第1章 第5節

エマ(p3p000257)
こそどろ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ノルン・アレスト(p3p008817)
願い護る小さな盾
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

●前哨戦IV
「ちっ……くっそムカつくヤローだな。その傲慢たる性格がてめーを滅ぼすって事を思い知らせてやるか」
 呟く『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)の苛立ちは、滅海竜の鱗から作り上げられた大太刀の柄にまで滲んでいた。
 冠位傲慢の司るその属性に恥じぬ『傲慢』さは鼻につく。ルストの在り方に苛立ちながらも低空で飛行を続けるエレンシアは障害となった聖獣と相対していた。
 騎兵隊の役目は遂行者への途作り。その先駆けとしてエレンシアは飛び、聖獣を相手取り続けて居た。彼女を支えるのは『ポロキメン』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)。
(……ルストの興味を此方に惹かせるなら、まずは懸命に戦うこと。それを面白がる心根であればいいけれど。
 屹度、こちらが相手にならなければ直ぐさまに興味を無くすけれど善戦していれば次々に戦力を投入する『指示』をするはず)
 ココロがそう踏んだのは騎兵隊が進撃する際に、聖獣が改めて姿を現したからだ。
「速さをもってまずは騎兵隊が楔を打ち込む。
 すぐ目前に迫る状況すら少しも予測できない。でも。みんなが生き残れるように、わたしは努力します――だから」
「ああ。だからこそ行く! アタシは『騎兵隊の先駆けたる紅備』エレンシア=レスティーユ!
 騎兵隊の頭目が望む事を成すための先駆けとなるのみ! 邪魔するなら纏めてぶっ飛ばす!」
 翼を有した獅子を模した聖獣の翼が弾け飛ぶ。エレンシアが身を捻り、目標を睨め付けるココロはその背後から姿を見せた有象無象をも払い除ける魔力をその指先へと集めた。
 何処かで見た顔に姿。アドラステイアで擦れ違った子供の様な。そんな誰か――でも、それにばかりは感けていられない。
(わたしは、今、傍に居る人達の命を重視するのだから)
 戦うココロとエレンシアを確認してから『こそどろ』エマ(p3p000257)はひょこっと顔を出した。
「おや?」
 ん、と首を傾げる。それから、ギギギと錆び付いたぶりきの人形のように歪な音を立てたかの如く首を動かして「ええ!?」と叫んだ。
「――グドルフさん! 久しぶりに見かけたと思ったら、これは一体どういうことなんですか!? なぜあなたがッ!」
「あぁ?」
 名を呼ばれた遂行者がエマを見た。その眸に一瞬だけ何か違う色が過ったが直ぐさまそれは消え失せる。
「聞いてない……私何も聞いてないですよ!? キドーさんにも何も言ってないでしょう!
 それに……それにその姿! その気配! なんで……なんでぇ!?」
「うるせェな。名声に金、特別な立ち位置が手に入るってんだ。雇い主を換えただけだろが」
 グドルフはさも興味なさそうに言った。混乱した様子で「ええ……」と妙な子声を上げたエマは「イーリンさんッ!?」と目を剥いている。
「ええい、仕方ない。このバカげた騒動の首魁がグドルフさんの雇い主だって言うなら、ちょっとお話しするしかないですね!?」
 何故知った顔が居るのかもこの際置いて老いて、戦わねばならないか。低空で駆け抜け、聖獣を蹴散らすのが目的だ。
 ああ、頭がぐちゃぐちゃになる。聖獣は『絶える投入』されるだろう。ルストがそれだけ此方にリソースを割いていると考えれば良い。
「ん? あー、見知った顔もあるよーな、ないよーな。イレギュラーズが居るのもあれだけどさ!
 ま、立ちふさがるなら敵ってことだな! とりさん考えるのめんどくさい!!」
「いいんですか!?」
 慌てるエマに『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は「選ばれしナントカを倒すぞ」と頷いた。
「神を堕とすは緋色の翼! 騎兵隊の航空部隊の鉄砲玉! さあ俺を撃ち落とせるならやってみな!」
 堂々と言い放ったカイトは紅色の翼を広げ特攻して行く。波打つ三叉の槍を手にして、『赤い鳥さん』は目の前に立ちはだかる聖獣の眼球目掛けて飛び込んでいく。
 眼は獣にとっての弱点の一つだ。狩りの手法でもある。空ならば傲慢に飛び交える。ルストの背にも翼があるが己の方がより力強く、美しく、空を飛べると自認している。
「さあ、行くぜ――! っと……」
「人間を盾にするような、悪趣味……!」
 思わず『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は呻いた。倒すべき敵が目の前に居る。
 何としてでも引き摺り出さねばならない。オニキスの睨め付ける視線に気付いてからルストは頬杖を付いて「不愉快な眼だな」と呟いた。
「騎兵隊と言ったか。あれはさっさと処理しろ、リスティア、オウカ」
「はい」
「承知致しました」
 二人の返答を聞きながら『未来を見据える瞳』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は「ここまで酷い戦い方が出来るとは」と呻いた。その為に、選ばれし民と呼んだ理想今日の住民を取りそろえ、歩みを止めさせようとするのだ。
 人間とは情に脆く、見知った顔は倒せないとしたか。それが策だというならば彼は随分と細々と用意したものである。
「冠位の策略に惑わされるな! 僕らを信じて突き進め!」
 シューヴェルトは叫び手にしていた刀を振り上げる。斬り伏せる事は出来ないが、聖獣の腕に叩き付けたそれは僅かに弾かれる。
 硬い。だが、それも続ければ眼前の獅子は倒れることだろう。護るように両手を伸ばし首を振る子供達。
 だめ、やめてと告げる声音をも払い除けるが如く――叩き込まれたマジカル☆アハトアハト。
「……惨い……!」
 子供の命乞いならば、引くとでも考えたのだろうか。呻いたオニキスの側で『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)は眉を顰めた。
 癒やしを与え、出来る限りを耐え続ける。苛む者を遠ざけて、フィールドで立ち続けることを求めるのだ。
「敵は強大……まずは一歩ずつ……一歩ずつ……」
 確かめるように進むノルンの声を聞いて、『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は眼前の様子を眺めてから頭を振った。
「この間までそっち居たこと考えるとやりづらさは無くはないスね。
 私がテレサに殺されて、ルストが私らに殺されたら、目的を失ったテレサだけを残すことになりまスし。
 それに、そっちは私を微塵も信用してなかったとはいえ、この機会に色々と感じさせられることはありましたから」
 遂行者の一員として活動したが聖痕を与えられなかったのは僥倖だったか。
 薔薇庭園での一件と、それから遂行者テレサと共に動いていた事は美咲にとっても直近の出来事である。
 遂行者達のやり口に殊更反感を覚えたわけではないが、一番の気がかりはと言えば。
「……やっぱ私がグドルフ氏に言ったことをガン無視してるから気に食わないや。
 一度私の思いに反した以上、グドルフ氏は自由であるべきなんでス。聞いてないとか知らないから」
 呟く。生存を優先し、聖獣の様子を確認する。グドルフもルル家も後々の『役割』でもあるのだろうか。
(まあ……私達が攻めてきたら前に出すって感じかな)
 美咲はそう考えてから、傷だらけになりながらも尚も動く『片翼』になった獅子を眺めた。
 ――助けて、痛いよ。恐いよ。
 本当に、趣味が悪いのは確かだ。美咲は敵へ向けて歩き出した。

成否

成功

状態異常
エマ(p3p000257)[重傷]
こそどろ
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)[重傷]
天下無双の貴族騎士
ノルン・アレスト(p3p008817)[重傷]
願い護る小さな盾

第1章 第6節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
リゴール・モルトン(p3p011316)
司祭

●前哨戦V
「なぁ、”正義”って実に傲慢な概念だと思わないか?
 だが最近ちょっと考えてる事があるんだ。その答えを得るために、その傲慢を打ち破らせてもらう――」
 己とて傲慢だ。『傲慢なる黒』クロバ・フユツキ(p3p000145)は翌々分かって居る。
 だからこそ、アドレを前にしてその剱を握った。ガンブレイカーに弾を充填し、構え直す。
「悪いな、俺は自分に自信が無い。
 だが傲慢らしいのは最近妙に自覚がある。どうやら相当俺は我が儘なようだからな」
「僕も結構我が儘な性質だから、奇遇だね」
 アドレはさらりと返してから無数の騒霊を盾とした。その姿、そして敗北なんて知らない顔をしている事が良く分かる。
「だが、お前らの親玉よりも傲慢である自覚がある。この世の誰よりも俺は我が儘だ。
 生きとし生ける者、全てに権利やエゴが存在する。だからこそ、俺はそのエゴを通すぜ」
 それが良いよ、とアドレは囁いた。その声音の意味は分からない。だが――『譲れない物』がある者だって居た。
 海洋に降りた帳は『黙示録の赤き騎士』ウォリア(p3p001789)にとって不服なるものだった。あの一件は必ず熨斗を付けて返すと決めたのだ。
「この戦場に来た一つ目の理由はアドレ、貴様だ。だが、二つ目は神を騙りし者を殺しに来ただけに過ぎぬ。
 そして、三つ目――友(ルル家)に会いに来た。
 遅すぎるくらいだが……今なら言える。確かにあの日の弁当は美味かった、花見は楽しかった。
 この戦場にしか言葉を交わす機会が無いとしても、オマエの『覚悟』が何をも凌駕する程に固く決まっているとしても……戻って来て欲しい、もう一度あの日と同じ席を囲みたいと願ってやまない……オマエの道を、この戦場に問いに来た!」
 もう帰れないかも知れません。そうやって豊穣より離れた地まで遣ってきた赤き騎士は眩い炎の気配と共に、騒霊を薙ぎ払う。
 有象無象を前にして、子供の人形遊びだ。ままごとの方がまだ洒落ていると口にすれどもルストは頬杖を付いてみているだけ。
 所詮、小物が吼えているとでも思ったか。ならば、押し通るのみ。そうして己の姿を焼き付ける。それがウォリアの成せることなのだから。
 不良になってしまった、と。『殿』一条 夢心地(p3p008344)は頭を抱えた。
「我が妹、夢見・ルル家が不良になってしまったのじゃ!
 なにが大名じゃ……ただの守護職で満足しておるのではないわ。
 それもこれもすべて悪い先輩的存在であるカロル・ルゥーロルゥーが悪い!」
「ブフッ……え、やば、誰あれ……ねえ、大名の兄なの? ねえ、本当に? 血縁?」
 吹き出したのはルストの側で神妙な顔をしていたカロル・ルゥーロルゥーだった。聖女ルルの呼び名で知られる彼女は破顔し腹を抱えている。
「いや、違うけど」
 夢見・ルル家は普通に首を振って否定した。「殿とは何も」と告げたのが悪かったのだろうかカロルは「殿!?」と夢心地を見る。
「アンタ、大名より偉いじゃん! 征夷大将軍!」
「褒められて居る気がするが? いや、あれは……話せば分かるかもしれんでな。
 そうじゃ! あの賢くて優しい妹であれば、分かってくれるはずじゃ。
 なにが聖竜の力じゃ、そんなものはポイしてしまいなさい妹よ。
 代わりに麿のむにむにパワーをあげよう。こっちの方がぜったいに良いぞえ。なんといってもむにむにしておるからの」
「どうするのよ、聖竜もむにむにしてたら」
「キャロちゃん」
 夢心地とカロルの相性は最高に良かった。テンションのベースが一緒なのだろうか。行く手を遮る選ばれし人は増え続ける。
 故に、行く手を遮るのは確かなことだが話をするには『クッション』が合った方が丁度良い。
「グドルフちゃん……1度はまともな内に顔面ぶん殴ってやりたかったんですけどね……自分の意志で人を辞めたとはとても思えないのよ」
「はん、自分の意志じゃなきゃ何だってんだ。『山賊』ってのはそういう生き物だろうが」
 鼻で笑った男を見てから『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)は「どうだか」と呟いた。
 山賊を名乗り粗野な態度をとってみるが、彼の本質は別だ。リカが後方を見遣れば神妙な顔をした『司祭』リゴール・モルトン(p3p011316)の姿があった。
「神の国……理想郷……何もかもが嘘偽りだらけの紛い物……
 こんなものが。こんなものの為に。いったいどれだけの悲しみが生まれたのだ。
 ……神よ。私達に……勇者達に紛い物の神に抗う力を!」
 祈るリゴールを一瞥してからリカは「お友達が来たわよ、『山賊』」と静かに声を掛けた。自身の行なうべき行動は理解している。
 支援を行なう者達を助く為に選ばれし民を惹き付ける事だ。兎に角暴れる事が一番に必要なのだ。
 何せ『遂行者』を倒したとしても数が多い。何よりもルストが選ばれし民を投入しているこの現状が男の意識を惹いてることにもなる。
(己は只人だ。剣など振れぬ。もう若くない。それでも進むのは、世界の為。信ずる神の為。――友の為だ!)
 若い命を散らせる物かとリゴールは決意していた。前には、カロルよりも前線に立ち騒霊を操るアドレの姿がある。
(あの様な幼子も――)
 そして、そのアドレに声を掛ける『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)と『ただの女』小金井・正純(p3p008000)の姿も見えた。
「アドレ、来たよ。貴方の想いと言葉を聞かせてもらいに。
 そしてカロルさん、貴方とのお茶会のお礼にも。あとついでにルル家!」
「ルルでいいわよ。キャロでもね。ついでの大名も喜んでるわ!」
「カロル……」
 アドレがどこか拗ねた顔をすれば「お母さんとのお話に口を挟んでごめんなさいね」と彼女は引き下がる。
「いいえ、けれど。貴女達と落ち着いて話すには些か邪魔が多い。全力でそこに向かわせて貰うね」
 正純は弓を引き絞った。矢より放たれた漆黒の気配が選ばれし民を包み込む。
「かなしいきもち、くるしいきもち、伝わってくるのです。ごめんなさい、ごめんなさい。
 ニルは……あなたたちを、たすけられない。ニルは……あなたたちにも、笑っていてほしかった。
 でも、ニルは……ニルはまもりたいから……ニルのすきな世界を、まもりたい、から」
 決意するようにニルは紡いだ。選ばれし民を前にして、割り切れるワケがない。
 誰も彼もが、それを『敵』だと。紛い物だと割り切れるわけではない。かなしくて、くるしい。
 それでもニルは決意をした。せめてひとつも取りこぼさないように。忘れないように――ニルがこれから先の『かなしい』をなくすために。
「ニル、辛いなら止めなよ」
「アドレ様……ニルは、アドレ様がすきです。
 アドレ様を傷つけたくない、傷ついてほしくないきもちは、変わらないのです。
 でも、ニルは……ニルは、今の世界がすき。ルスト様が作る世界ではなく、今の世界をまもりたい」
「……分り合えないよ」
 アドレはルストが居なければ生きていけない。アドレはルストがある意味の救いだった。燻るばかりの悔恨から光のように救いが現れたのだから。
 けれど、ニルはそれを許容できない。許容する事はこの世界の終わりを意味してしまうから。
「ニルを気にかけてくれた、やさしいアドレ様。ニルがかなしいのは、みんながかなしいから、アドレ様がかなしいから。
 ……ニルは、どうすればいいのでしょう」
「分からないよ」
 首を振ったアドレにニルはぎゅう、と拳を硬く握り込んだ。
「誰も彼も迷ってるくせに、本当は優しく在りたいくせに。踏み出せない。
 それを邪魔するそこの高慢ちきな男が悪いんですか? 皆さん男の趣味悪いんですよ!」
「……」
「……でも、正純は僕が好きだろう。お前も大概だよ」
「……なんですかその顔、何か文句でも!? 何を云ってるんですか!?」
 息子だなんてジョークでも、愛情深い女は恋情ではなく親愛を向けているのは確かだろうとアドレは感じていた。
 アドレに言わせればカロルに気を配るのも、自身に話しかけるニルも正純も皆大概趣味が悪いのだ。なんて、笑っていられる時間も短いのだけれど。
「革命派を助けてくれた恩をどこかで返せたら……と思っていたのだけれど、まさかこんな形になるなんて、ね」
『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は首を振った。こんな現実があってしまった事が何とも苦しい。
「あの二人には恩がある。そして唯一無二の戦友だ。二人を無慈悲な破壊者になんてさせちゃ駄目だ!」
「ルル家、グドルフ、待っていて下さいまし。貴方達がこの国を壊してしまう前に、貴方達を止める。
 ――それが私の恩返しでございますわ。行きましょう、マリィ」
 行こうと、手を差し伸べるヴァレーリヤに何時もの如く『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は応えた。
 偵察をしていた白鳩に導かれて遣ってきたヴァレーリヤは前を塞ぐ選ばれし民には手出しをしなかった。
 ただ、それらは行く手を遮る。騒霊がわらわらと姿を現しマリアの身に稲妻の気配が走る。
「どきたまえ! 君らに構っている暇はない!」
「ええ、ええ、そこをどきなさい! 私には、会わないといけない人がいるんですのよ!」
 二人の形相を眺めて居たアドレは「そうやってムダだったらどうする?」と問うた。
「ムダ、だなんて。ええ、だって、もしかしたらまだ戻って来られるかも知れないでしょう?
 ……叶うはずのない話だなんて、そんなの私だって分かってございますわ。
 でも、ここで何もしなかったらきっと一生後悔する。そんな簡単に諦めたくないんですの」
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤは後悔を背負って生きている。愛しい『姉』、そう呼んでいた聖女は闇に落ちた。
 二度とは微笑まぬその人の面影は、後悔となって常に寄り添っている。だからこそ、諦める事はしたくなんてなかった。
「待って、話を聞いて下さいまし!
 どうして遂行者側に付きましたの? 何かの契約で、無理やり言うことを聞かされているのではありませんこと?
 私達にできる事があったら、手伝って差し上げますわ。だから……」
「違うよ」
 ルル家は首を振った。ヴァレーリヤが唇を噛む。マリアは「聞いておくれよ」と叫んだ。
「もうどうしようもないのかい? 君達のことだ。きっと何か考えがあってのことなんだろう?
 私達にも何か手伝えることはないのかい? 私達は頼りないだろうか?
 ……これで終わりなんてあんまりにも寂しいじゃないか……友よ……ハッピーエンドは難しいかもだけど、私は全力で最善を尽くすよ」
 ルル家のぎこちない笑みを見てマリアは「どうして」と囁いた。どうしようもないことが『そこ』にはあると言うのだろうか。
「くそったれ」と『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は呟く。
 今は何も考えたくもないし聞きたくも、見たくもない。見ないわけにはいかないが、半分は見えなくなったと人ギロ義他。
「……くそ」
 今は、目の前の敵を潰せば良い。『本物』はこんなに簡単にはくたばってくれないのだから。
 キドーは毒吐く。実に『腹立たしい』舞台ではないか。山賊がいる。
(俺が何をしようと変わらなかった。結局はあいつ次第。でも後悔している。
 ……俺ァ肝心な時にいつもその場にいない。山賊の事だけじゃない。運だから仕方がないとしても、割り切れるモンじゃない。
 いや……もっと普段から何か、積み重ねられた筈だ。それをしたか? ――しなかったな)
 思えば、己は積み重ねてこなかったのかも知れない。嫌だった。肝心なときに隠し事をする男だった。
(賊の成りして本当は……根っこが違う。俺らとは別物。人は変われねェ。分かってても正面から見たくなかった)
 知らない姿を見ることがどれ程に苦しかったか。キドーを見たグドルフの眸は細められた気がした。
「ああ」
 その眸で良く分かる。払い店で酷く詰られてもその人は変わっていないと思えたのだ。『この手を貴女に』タイム(p3p007854)はこの場に訪れた『きっかけ』が彼である事が喜ばしくて堪らなかった。
「グドルフさん!」
 駆け寄れない。だが、寄らなくとも彼の気配が変わった事くらい分かる。
「グドルフさん」
 タイムの唇が震えた。選ばれし人を引付けて、震える声を絞り出す。悔しい、本当に、嫌になる。
 マルク・シリングを失った。グドルフとて闇に飲まれ、ルル家も――?
 友人達が世界の為に命を賭けた。自分は何かを成せたのだろうか。今だって、彼の元に行くために進むだけでも精一杯なのに。
「グドルフさん、グドルフさん!
 わたしはわたしの大切な人がいるこの世界を守ります。グドルフさんだってきっとそうなんでしょう!?」
 背後でリゴールが切なげに眉を寄せた。タイムはその気配を感じ取って苦しい思いばかりが迫り上がってくる。
 どうして。
 どうして、届かないんだろう。届かなくたって、声を掛けるけれど。
 ……私は――どうしたら、いいんだろう。
「……リゴール」
 囁いた声音に、リゴールは勢い良く振り返った。今だ、ルストの側に立っているグドルフとてその姿には苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
 願わくば二度とは会いたくは無い姿ではあった。カミラ・アーデルハイト――長命種たる彼女が纏うのは旧き聖騎士団の衣。
「まさか、先生……!?
 お願いです、先生、アランを……あいつは、俺の為に!
 俺は、友の死を二度も見届けたくはない! ……これが最後の機会なのです。この命に換えても救いたいのです!」
 懇願するリゴールの声音にカミラは悲しげに目を伏せる。『息子』の姿を双眸に映したのだろう。
「ねえ、『山賊』」
「……なんだ、ルル」
 グドルフはただ、カロルを見ていた。カミラを見据えるカロルは「あの女、アーデルハイト?」と問う。
「カミラ・アーデルハイト。孤児院のシスター、それだけだ」
「じゃ、あのハゲは?」
「……同郷だ」
「ごまかすなよ。まあ、いいけど。
 ……あのシスターは旧聖騎士団の女でしょう。聖女カロルが処刑されるときに、あの女は現場にいたわ。どうやら、私の復讐の相手が出て来ちゃったみたい」
 カロルの眸は怪しい色を灯していた。ルル家はその手を握り締めて首を振る。アランを救うためにやってきたリゴールも、共に姿を見せたカミラも。
 全て、ルスト・シファーの掌の上にあるかのようだった。

成否

成功


第1章 第7節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
雨紅(p3p008287)
愛星
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

●前哨戦VI
 三人の乙女とは、ルストに作られた遂行者である。その姿はイレギュラーズの生き写しだ。
「泣いても笑っても、最後だね」
 決意をし、そして向かい合ったのは『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)であった。
 柔らかな銀の髪を揺らがせるスティアの背をイル・フロッタが見詰めている。嘗ての戦いで、彼女に生きて欲しいと希ったイルは前行く彼女の姿が『あの時』とは大きく違うとも感じていた。
「イルちゃんとリンツさんも準備は良いかな? 生きて帰って行末を見届けさせてね。
 あ、その為にもあの傲慢な男を殴らないとね。イルちゃんならできるよ。聖剣でバシッっといっちゃえ」
「けつま―――」
 はっとした様子でリンツァトルテ・コンフィズリーを見たイルにスティアはくすくすと笑う。
 誰も彼もが未来を乞うている。だからこそ、進むのだ。スティアは一人ではない。『初恋患い』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の姿もあった。
「いこう、スティアちゃん、アーリアさん、リンツくん、イルちゃん!」
 頷いて、サクラは真っ向からオウカ・ロウライトを睨め付けた。ようやっと此処まで来た、けれどまだ届かない。
「少しずつでもあの男の権能を削がないといけないってわけだね。目眩がするような険しい道だけど……それでも私達なら!
 ね、だから、大丈夫。大丈夫だ。リンツくん、聖剣は必ず応えてくれる」
 己が有する聖刀も、リンツァトルテの聖剣も応えてくれる筈だから。それまで耐え、戦うのだ。
「自分を信じて。それに貴方は1人じゃない。私達もいるし、誰よりもイルちゃんがいる」
「えへ」
 イルが何処かに妬けた表情をしたのを見てからアーリアは「いいわねえ」と揶揄うように笑った。
「ほんっと、世話が焼ける人ばかり。……やっぱりね、なんて思っちゃったのよ。『あの人』に。
 山賊だからとか、そういうのじゃないわ。私は、彼がこの国で生まれたことも識っていたの。だから向き合わなきゃね」
 アーリアは真っ向からアリアを見た。己の生き写し。本当は彼女になったかも知れない姿。
「あの時、聖竜の滅びへと手を伸ばして、女の子は馬鹿で、でも聡いから――彼が『傲慢』なのだと気付いてしまったの。
 ……本当はね、わんわん泣いて、みっともなく喚いて、当たり散らしたいのよ。けれど、今はまだその時じゃないみたい」
「愛したならば、受け入れなくては」
「いいえ、愛したならば正すのだって、必要よ?」
 アーリアの指先に魔力が灯された。アリアはヒーラーだ。リスティアを、そして、オウカを支援する。
「――リスティア、私は以前に言った事を諦めていないよ。それが困難な道であっても成し遂げる。
 だから貴女も自分の想いを全部ぶつけてね。全て受け止めて、負けを認めさせるよ」
 スティアを前にしたリスティアは眉を顰めた。「戦うなんて、嫌だよ」と。スティアはそうだねと笑った。
 それでも、この戦場には様々な思いが入り乱れている。自らの道を貫くグドルフ、愛する人の為に行動するルル。
 ――それに、『聖女』となるべく進むスティア。
「リスティア、私はね。聖職者を志した時から目指していた存在、私も皆の拠り所になれたら良いなと思っていたんだ!
 ……それにルルちゃんをただの女の子にしてあげないといけないしね。立場に縛られて苦しそうだったし、見ていられないかな」
「そんな物になってどうするの? 責務も、なにもかも、しがらみが私達を縛り付けるのに」
 正義に雁字搦めになって生きてきたのにとリスティアが叫んだ。
 その声音にサクラは唇を引き結ぶ。正義に雁字搦めになって『サクラ・ロウライトの祖父はスティア・エイル・ヴァークライトの父を殺した』。
「私は4年前にスティアちゃんと話した。あの夜があったから今の自分でいられる。それは伝えておくべきだと思ったから。
 許されたいと思っていた……許されるべきではないと思っていた。
 だってそれは正義で、不正義だった。あの日があったから、私は正義以外の正しさにも目を向けられるようになったから」
「それでも、正義は遂行されるべきでしょう」
「そうかもね。でも、私達は人間だ」
 人は生きているからこそ考える。
「私はそうは思わない。秩序は必要でしょう。サクラ・ロウライト。我々は頼るべき信仰をよすがとしているべきだ!」
 サクラの剣を絡め取ったオウカの聖骸布がふわりと揺れた。アリアの支援に気付きアーリアは声を張る。
「余所見をしないでよ、アリア。これは女の意地の張り合いよ!
 アリアも、リスティアも、オウカも、全員倒して私達は進まなきゃいけないの!
 きっと今にも泣きそうなのに、涙に強いメイクで頑張っている友達が居る。馬鹿みたいに強欲で、戦ってる山賊が居る。
 私はその全部、引っ叩いてやるの――ね、傲慢でしょ?」
「お前の感情なんて全て踏み躙って私は愛する人と一緒に居たいもの。女って、傲慢なのよ」
 アリアの眸が怪しく光った。彼女の唇が揺れ動く。前線にぞろりと姿を見せた『選ばれし民』達が進軍する。
「また、増えた……!」
 ああ、もうと叫びたくなるような心地ではあったが生きているだけ『奇跡』だったのだろうか。『薔薇冠のしるし』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は地を蹴り走る。
 生きて此処にまで戻って来た。遣りたいことは実にシンプルだ。ルストをぶん殴る、それだけだ。
「ルスト」
「簡単に名を呼ぶな」
 眉を顰めて嘆息するルストは『面倒だと言わんばかり』の顔である。相変わらずの男だが、リュコスは返答を行って居るだけでも彼の意識が此方を向いていることにも気付く。
「すっごい力があるくせになにもしてこないんだ。もしかして神の国をつくって遂行者に力をわけてもう限界きちゃってるんでしょ」
 ふんと鼻を鳴らしたリュコスに「あら、ルスト様が手出ししなくてもいいということではなくて?」とアリアがせせら笑う。
 秘めた竜の力はまだ温存だ。『ここ』ではない。何か、決定打を作り出さねばならない。
(遂行者を倒すには、決め手が必要。アリアも、リスティアも、オウカも……それは、どこだろう……?)
 観察を行なうリュコスを苛んだ戒めを回復する『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)の目標は『立ち続ける』事だった。
 それはネロのような可能性の未来を失わないためである。
(……ああ、それに。彼、冠位傲慢は、致命者や遂行者として人の在り様を弄んだから。
 そしてなにより――ラトラナジュの護ったものを塗り潰そうとしているから)
 ラトラナジュが守ったこの世界を塗り潰し、全てを虚無に帰ることなど理解が出来ようか。
 少なくともそれをグリーフは受け入れる事は出来まい。グリーフのサポートを受けながらひらりと舞うように前線へと飛び出す『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)は「お任せ致します」と囁いた。
「はい。必ずしや戒めを遠ざけましょう」
 この神の国に満ち溢れた戒めなど、感じさせない程に遠く、軽やかに。
 雨紅が幼い子供の姿をした民を引き寄せた。軽やかな舞踊をも思わせるその動き。つい、と視線が仮面の奥で揺れ動く。
「冠位は遂行者を、その願いをどうでもいいもの扱いしているのでしょう。
 倒す覚悟はしましたが、縁あった遂行者とその願いは好ましかったから、気に食わないのです。
 かの願いを軽視するのなら、こちらもあなたの願う世界をそう扱いましょう」
「願いを持つ事が間違いだ。何故ならば、全てを享受できるなどと思ってはならない。人は、動くべきだろう?」
 ルストは当然だと言わんばかりにそう言った。その声音に雨紅は不快感をも示す。
 本当に腹立たしい存在だとも『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は感じていた。
 選ばれし民と呼ぶ『無断複製』は未だに増え続け、三人の乙女――遂行者への道を塞がんとする。
 立ち塞がった巨大な聖獣を相手にする騎兵隊も、その間を掻い潜り接敵したスティアやサクラ、アーリアも。
(誰も彼もが油断ならない状態だ。目の前に出てくる『無断複製』だって――)
 ヨゾラは苛立った様子で選ばれし民達を払い除ける。遂行者はその意思を有し、思考を行なう存在だ。
(僕の心が痛もうとも、僕は『僕が叶えたくない願いは叶えない』願望器だ。
 ――誰にどう似ていようと、僕等が冠位傲慢に勝つ願い以外は叶えない!)
 誰に似ていようと自身にとっては識らない相手だ。仲間の顔をしていたって、仲間の声色で笑ったとて、それに理解は示すまい。
「遂行者達には弱点が……『神霊の淵』があるはず。あの三人娘の『神霊の淵』はどこにある……?」
「そうか。それを探さなくちゃならねーんだな。寧ろ、分かり易くて良い」
『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)はにいと唇を吊り上げた。
「理想郷なんざ最終的にどこかしらから破綻するに決まってンだろ、ばーか。
 オレたちも騎兵隊に続こう、秋奈にも負けてられん。クソみたいな傲りと慢心が身を滅ぼすってこと、教えてやりにいこうか!」
「ん? あ、オーケーオーケー!」
 ひらひらと手を振ったのは『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)であった。紫電は「秋奈は何から行く?」と問う。
「オレは邪魔な『選ばれし民』から片付けていくとするか。
 ……『その姿』は真似てくれるなよ。ルストが作った言葉を話すだけの人形程度に、遅れを取るほどオレもヤワじゃねぇよ!!」
 紫電が地を蹴った。その姿は秋奈にも良く似ていて――まるで姉妹を思わせたからだ。
 秋奈はそんな彼女を一瞥してから「うーん、なんか現場暖まってんねえ!」と声を弾ませた。
「わたしわたし。そう、みんなに優しいJK秋奈ちゃん。『これから絨毯爆撃するヤツが優しいわけないだろ』って……?
 いやこのフェス会場ではエンジョイ&エキサイティング(主観)推奨なので。
 それはそうと不測の事態に対して当JKは一切責任を負いかねます――じゃあの!」
 周囲を可撒くことなく暴れ続ける。秋奈は何処から、と紫電が聞いた。ならば、狙うは前線に居たブーケから!
「おめめ開いて私を、見ろ!今日イチ好きに盛り上がって満足して帰ってく女をよ! いくぜみんな! 音呂木の巫女なめんなおらー!」
 紫電の『開いた道』に秋奈が飛び込んでいく。立っていた黒髪の少女は「わあ」と声を上げてからぱちくりと瞬いた。
「どうしよう! 来ちゃった!」

成否

成功


第1章 第8節

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
オラン・ジェット(p3p009057)
復興青空教室
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
プエリーリス(p3p010932)

●前哨戦VII
 ブーケという娘は、天義に産まれた少女である。
 セナ・アリアライトにとって親友であったライナス・ファーレラインの妹に彼女は良く似ていた。
 産まれた頃より疎まれていた妹には名前が無かった。そもそも半分の血の繋がりがあれど家族と呼んではならなかった。
 妹にライナスは『マートル』というあだ名を付けた。
 騎士の家門であるファーレライン家に生まれた『マートル』は妾の子であったらしい。妾は身体が弱く、彼女を産んでから直ぐに隠居した。
 残された彼女はと言えば、大した世話もされず納屋で歌ってすごつ日々を過ごしていたらしい。
 ライナスはそんな妹が可愛くて堪らなかった。年齢の随分離れた妹であり、落ちこぼれであったライナスにとっての支えでもあったからだ。
 ファーレラインのから離れた全寮制の神学校に進路を決定されたライナスは『妹』の事だけが気がかりだった。
 卒業し、屋敷に戻った時には彼女はいなかった。
 そんな彼女の話をセナは聞いていた。
 聞いていたからこそ――「マートル……」
 セナ・アリアライトはブーケという娘にそう呼び掛けた。
「わあ、あの、お兄ちゃんも呼んでくれていました。わたし、ブーケって名付けて貰いました。
 けど、お兄ちゃんだけは、ずっとマートルって……うれしかったなあ、お兄ちゃん……わたしには、もう、必要ないけど……」
 俯いたブーケの姿にセナが息を呑んだ。気遣う様に「セナさま」と呼んだ『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は苦しげに眉を顰める。
「色々な、事が……起こりすぎ、て。思考が、追いつかず……いえ、そのような事も言ってられません、ね。
 ……それに、あのお二人、が居ます。ロイブラックさまに、ブーケさま……もう、此処で終わりにしましょう」
 なんと酷い事だろうかとメイメイは考えた。ブーケは『聖遺物』がその内部に埋め込まれているらしい。
 ただの人形めいた存在だ。本来の彼女は何処に居るのだろうと考えてから不幸な真実を前にしてしまった気がした。
(……ロイブラックさまは、ブーケさまを支援スル。けれど……それを上回らなくちゃならない。
 死にたくない、と泣かれるでしょうか。きっと、痛いでしょう……けれど、わたしは……)
 覚悟をしなくてはならない。行く手を阻む選ばれし民たちを掻い潜るようにメイメイは手を伸ばす。
「周囲は私が担当させて頂きましょう。ブーケを『倒しきる』のが目的ですね」
「はい……!」
 すらりと細剣を引き抜いて『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が大地を踏み締めた。
「……見知った別人、遂行者に……傲慢冠位ルスト・シファー。
 夢が実現できるならそこは正しく理想郷なのでしょう。
 人は間違うものです。それでも……今までの歴史を否定したら、そこに遺した意志が無駄になります」
 確かに、もしも目の前の少女が紛い物であれど。不幸な身の上を承知の上で接すれば『そんな苦しみがない世界』は理想郷だろう。
 シフォリィとて忘れたいと願うような不幸は幾つも存在してた。それを超えねばならないのだ。それを越えて、己が生きた証を証明しなくてはならない。
「ッ、私はエルメリアも、ジナイーダの命も奪っていきました。今更命を奪う覚悟無くここに立っていません! 退きなさい遂行者!」
 夥しい死骸の上に立っている。シフォリィが踏込むその背中を追掛けて「助太刀参上!」と声を弾ませたのは『覇竜相撲闘士』オラン・ジェット(p3p009057)であった。
「強敵と戦えるとも聞いてやってきたぜ! ――名乗り口上、ババンと決めるぜ!」
 聞いていけと声高に叫んだ己の在り方。オランジェットは乱戦状態の仲間達の中を掻い潜り『突破口』を作り出す。
 ブーケの元へと向かわんとする仲間達を、三人の乙女の元に向かわんとする仲間達を。
 送り届ける為に雑多に何度も何度も攻撃を繰り出す。つまり、こんな乱戦状態だ。精密な戦闘は仲間に任せてやたらめったら攻撃するべきだ。
 切れ長の眸には不敵な笑みが宿された。
「さあ、来いよ! こっちだぜ!」
 オランが微笑み、ブーケが「もっと、もっと、遊びませんか?」と鈴鳴る声で微笑んだ。周囲には聖職者達の影が見える。
「一緒に、歌いましょう」
「ああ、歌なら奇遇だな。俺と歌わないか?」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の声が弾んだ。イズマはブーケの背後に立っていた男をぎらりと睨め付ける。
 ロイブラックは絶対に許せない。彼は、イズマの事もブーケの事も見ていない。彼は執着している。それも、酷く歪な感情だ。
「お前の愛とも呼べない醜く歪な執着を、打ち砕く!
 ……俺の音も欲しがるか? 悪いが、俺の魂と人生の全てはお前には抱えきれないよ」
「いいや、君の『音』は必要ない。何故か分かるか」
 ロイブラックの問い掛けにイズマは「本命か」と揶揄うようにそう言った。そうだ、彼の目的は軽やかに歌う夜啼鳥の娘だ。
 それも酷い執着の証だとイズマはブーケの前へと躍り出て、その音色を響かせた。
「すてきな、おと」
「ブーケさんは、この音色は好きかな?」
「……わかんない」
 ただ、言われるままに歌っていた。そんな彼女を見ているだけで『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は苦しくも、悔しくもなる。
 そうして唄を歌うだけの道具として『相棒』は求められているのだ。
「ロイブラック――」
 ぎらりとヴェルグリーズは睨め付けた。ヴェルグリーズの傍に居る『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)は「お兄様は下がっていて」という。
「セラ」
「……大丈夫ですよ、お兄様」
 もう泣いてばかりの弱い妹ではないのだもの。星穹は真っ直ぐにロイブラックを睨め付けた。
「幾つもの戦うと、想いと、志をこえて私はここに居る――ならば折れるわけにはいかない。私の過去に恥じないために」
「ああ、そうだ。だからこそ、俺はキミと一緒に居る。星穹」
 囁くヴェルグリーズはロイブラックが下らないと吐き捨てた様子を眺めても表情を変えることはなかった。
「自分の理想を遂げる為に冠位魔種に加担までするなんて。ロイブラック、本当に度し難いね。
 何度でも言う、キミに星穹は渡さない、俺が守り切ってみせるよ」
「……ええ。ええ」
 星穹はすう、と息を吸ってからヴェルグリーズを、そしてロイブラックを見た。彼とならば、向き合える。
 ロイブラックと話す事に恐怖心さえ感じる事無く進むことが出来る。
「あの時、本当ならブーケは終わっていた。そうでしょう、ロイブラック。始まるからこそ終わりがある。命はもう二度とは蘇らない。
 お父様も、お母様も、私も、お兄様も、みんなみんなそうなのです……貴方の作る理想郷は、これまでの歩みに対する冒涜です」
「冒涜? 何を可笑しな事を」
「その判断さえ、お前はできないのですね。ただ、己の求めるが儘にあるだけだ。
 だからこそこの場で、私達はお前を倒します……そこで首を洗って待っていなさい」
 星穹は囁いた。ヴェルグリーズは相棒の決意を聞いてから愛刀を握り締める。
「ブーケ殿はきっと巻き込まれただけなんだろうけど…これ以上は見過ごせない。すまないね、ブーケ殿。この場でキミを斬るよ」
「どうして、わたし……しなないと、だめですか?」
 ブーケの眸が揺らぐ。その眸の陰りを見詰めてから『母たる矜持』プエリーリス(p3p010932)は苦しげに息を呑んだ。
「ブーケちゃん……できれば生きていて欲しいけれど……悪いことをする子どもを諫めるのも大人の役目ね。数多の子どもたちの母として、覚悟を決めましょう」
「母様」
 ミザリィはブーケの元へと道を開きプエリーリスを送り出すことを目的としていた。
 命乞いをする選ばれし民。その姿がミザリィにとって友誼を結んでいる『怪異を好んだ娘』に被る。
(本当に下品な業だ)
 ミザリィは眉を顰めた。どんな姿だって、構わない。「退きなさい」と鋭く告げるミザリィは『母親』を支え、進む。
「……ミザリィちゃん」
「大丈夫です。母様。必ずしや彼女の元に向かいましょう」
 ブーケは人間離れした膂力を生かし戦っている。肉薄したイレギュラーズの腹を穿つ事を狙う。その身体は鉄のように硬い。
(ああ、本当に、可哀想な子――)
 プエリーリスは唇を噛んだ。見れば見るほど、彼女は人ではなくなっている。
 ただの物だ。だと、言うのに感情が芽生え、言葉を欲し、愛されることを望んでいるようにも思えた。

 ――死にたくない。

 そうでしょう。だって、あなたは『生きている』のだもの。

 ――わたし、お兄ちゃんがいたの。もういらない。

 ええ、だって、こんな場所に『兄』が居ては心配でしょう。
 星穹がセナを守るように。ブーケ――マートルだって兄(ライナス)が必要だった。
 彼しか居なかった己を見て、愛してくれる人。それがロイブラックに移っただけ。少女の依存のなれ涯だったのだろう。
「わたし、いきていたい」
 その言葉に、星穹が唇を噛んだ。それを許して等居られない。
 だって、もう命の駆け引きの場ではどちらかが失われるまで、引く事なんてできないのだから。

成否

成功


第1章 第9節

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
シラス(p3p004421)
超える者
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
金熊 両儀(p3p009992)
藍玉の希望
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱

●前哨戦VIII
 ただ、只管に駆け抜けて行く――片や三人の乙女を相手取る者達、片やブーケとロイブラックと相対する者達。
 彼等の道を開き、そして攻め行く為に見定める場所は決まっていた。

 ――ルスト・シファー!

『藍玉の希望』金熊 両儀(p3p009992)は勢い良く木刀を振り下ろす。慈悲などはない。
 遂行者も聖女も、縁ある物に任せた。両儀にとっての目標は『神』だけだ。
 ルストの意識を『外』へ向けない――神と呼ばれる絶対者と心踊る戦いを行い殺してみせる事。
 それは己の目的と、ローレットの目的が同意である事を示している。
 則は冠位魔種に敵として、個人として意識して貰う事こそが男の目的だ。金熊両儀の銘を傲慢へ刻む為に挑む。
 ルストは相変わらず詰らなさそうにイレギュラーズを見ている。羽虫だと言われようとも耳元で飛び回れば鬱陶しいだろう!
 届かない。
 その行く手を邪魔をするのは遂行者に他ならないか。
「選ばれし民とは中々に悪趣味なようですね。
 天義系の依頼とは関わり合いが薄く、ローレットの外には友人の少ない私は問題なさそうですね……知り合いの顔が居て問題と成るかは別問題ですが」
 嘆息した『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)はルストを守り抜かんとする『選ばれし民』達を眺めて居た。
 有象無象と呼ぶに相応しいほどに、夥しい人間がその場には姿を見せる。道を拓かねばならないのだ。
 両儀が行く事を決めたとしても、ルストは『この場の要』である。遂行者は命懸けでルストを守り抜くのだ。
「些末な問題ではありますけれど」
 ヘイゼルは目を伏せて、錆びていた棒切れで地を叩いた。周辺の確認は出来て居る。流石によく統率されていると言うべきか。
 ルストまでの道を塞ぐのは確かだ。男の意識を惹くには彼を攻撃するのが手っ取り早い――が。
(そうも行かないならば、遂行者の撃破から)
 ヘイゼルが選ばれし民を地へと叩きつける。同じく、指先に香る魔力を漂わせる『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は幼子を前に表情を曇らせた。
 ヘイゼルのように淡々と『処理』出来る者も居れば、眼前の選ばれし民の姿が知る者の姿に転じたそれだけでも心を痛める者も居る。
(ああ――)
 悔しげにジルーシャは唇を噛んだ。涙も命乞いも正面から受け止めるしかあるまい。ずきりと胸が痛めども、それを受け入れなくてはならないのだ。
「……だって……この痛みは、他の誰にも渡したくないもの」
 何方が正義なのかなんてどうでも良かった。張った魔力の障壁に僅かな振動が感じられる。
 己も痛みを抱えて進まねばならない。お互いの理想を胸に此処まで来たのだから――目の前の冠位は今だ詰らなさそうにしている。
「冠位傲慢……あなたは正しく傲慢なのでしょうね。そりゃ冠位ですから当然だとは思いますが。
 自分の力を過信して、私だけではなく全てに興味が無いのは明白です。
 きっとあなたはあなた一人でも構わないのでしょう? 私のような小さな芽など取るに取らないでしょう」
『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)は唇を震わせた。拳を固め息を吐く。
「私はそう言う方々が羨ましかった。自分の意のままに周りを動かせる器量も、自分の力を過信出来る事も……。
 それはある意味で才能でしよう。私は自分をどこまでも信用出来なかったのです。
 だから。だから……クズのようなあなたが羨ましいのです!」
「だから貴女は何も成せないのです」
 ルストの代わりに応じたのは『ルストを守る使命を帯びた』アリアであった。
 アリアが戦い、この戦場を保てばルストはそれ程外に意識を向ける事は無い。それは分かる。
 シュテルンは唇を噛んだ。冠位傲慢は自己肯定感が高い、屑という低俗な言葉一つに揺らぐこともないか。
(……何か彼の気に障れば……弱点が見付けられたならば良いのですけれど……)
 ああ、彼は『言葉ではそれ程の煽りにならない』のかとシュテルンは息を吐いた。そうだろう、屹度彼には羽虫程度に感じられているから。
「ルスト・シファー! せこせこと嗅ぎまわってくれていたらしいじゃねえか、人形遊びは楽しかったか?」
 声を荒げ、せせら笑うように『竜剣』シラス(p3p004421)はそう言った。
「死にかけの妹を吹っ飛ばす他に能があるなら見せてみろよ」
「この空間こそが、ルスト様の権能そのものではありませんか」
 どちらかと言えば、反論を行なったのはアリアであった。シラスは「へえ」と呟く。どうにも遂行者達はルストを崇拝している。
 後方で控えるアドレやカロルもそうだが、アリアは特にその性質が強い。流石は『ツロ』に用意されただけあるのか。
「ベアトリーチェを吹き飛ばしたのは正しく神の御業って訳か」
「その通りでしょう。……ルスト様と話したいのならば遂行者である私達を越えて行くべきです」
 アリアが囁けば後方から騒霊達が姿を見せた。前線に立つのはリスティアとオウカ、そしてロイブラックとブーケだ。
 このうちの二人を倒せば流石にルストも無視は出来まい。
「HA――! 預言者の正体こそが神とは、何故に私は気付いていなかった。
 成程、冠位傲慢! 手紙を寄越しても、奴に頼んでも『うん』など無かったか!
 私が愚かだった事は認めよう、しかし、私もかなりの傲慢なのだよ」
 手を叩き合わせた『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は『遂行者に至る』道を探していた。
 けれども、ルストからの招待は来なかったのである。それはロジャーズにとっても不服である
 真名を明かした彼女が遂行者アーノルドに対して並々ならぬ感情を抱いていたのは確かなのだろう。ルストはそうした事情にも頓着はしない――故に、『傲慢の背比べ』なのだ。
 何が相手であっても殺すと決めたロジャーズはグドルフの姿に気付く。
「まったく奴も奴で莫迦をしてくれる。海賊共々……嗚呼、私も随分と特異運命座標とやらに絆されたか。
 嗚呼、弁当の……『燃える石』の味は如何だった?」
「悪くねぇ味だ」
「何……? 美味しかったとでも? まあ、貴様の舌の事情など如何でも好い。私が貴様に『謂いたい』事は、だ。
 ――あらゆる物を、者を、奪ったと宣うならば。その証拠を見せ給えよ」
 朗々と語らうロジャーズを前にしながらもグドルフは何も言うことはなかった。そんな彼にも思うところがあるのだろうと感じ取りながら周辺の選ばれし民を引き寄せるのは『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)その人である。
「喝ァッ!!!!」
 声を上げ、飛ばす。群がる民達を引き寄せるのがゴリョウの役割だ。
 見知った姿というのは悪趣味だ。ゴリョウにとって守るべき領民の姿をしている者が命乞いをするのだ。
「まぁ悪ぃがあいつらはそんな腰の抜けたことを言わねぇってのは確信してる!
 揶揄うように声音を弾ませて、ゴリョウはずんずんと進む。その背後で支援を行なっていた『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は「しっかしなあ」と呟いた。
「天義……天義かぁ。正直元々そんなに居心地のいい国じゃねえが、そうも言ってらんねえか」
「……この現状では居心地の良さは最悪ですが」
 囁く『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)は『お掃除』をしなくてはならないと周囲を見回す。邪魔な舞台装置として存在する民達はルストからの嫌がらせだろう。
「此処ではない理想郷でしたが選ばれし民と申される方々に、心どころか『魂』も存在し無いのは確認済みです。
 彼等は死者ですらない唯の風景、舞台装置に過ぎません。練達風に申しますと『ゔぁーちゃるりありてぃ』の様な物……」
 その状況が如何に『可笑しな者』であるかを詩織はよく分かって居た。
「ルスト・シファー様でしたか? 『神』を名乗る貴方は、『神』に捨てられた『原罪』の劣化品でしかない様で」
 詩織が囁けばぴくりとアドレの肩が揺れ動いた。手近な民を殺した詩織を睨め付けるアドレは彼女の次の言葉を理解していた。
「私の空腹が満たされる程度の『魂』位、この御飯事の『世界』に創り出して下さいますか? ――『神』や『原罪』は創られましたよ?」
「僕らは、魂ではないと?」
 遂行者はルストが作り上げたと言っても過言ではない。より緻密に作られた命だ。その声音に詩織がはたと顔を上げサンディは「遂行者」と呟いた。
(……神の国ってのは、まあ居心地が悪いよな)
 サンディは粘ることを目的としていた。と、言っても遂行者に選ばれし民に、居心地はといえば最悪だ。
「嫌なフィールドだ。できれば長居は避けたいが」
 呟いたのは『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)だった。勝った方が正しいという話であるのは確かだ。
 サンディがルストの目を引いて『此処で粘り続ける』策を講じたように、アルヴァが一矢報いる為に中央で暴れ続ける様に。
「見え透いたまやかしだらけだ。遂行者が聖遺物やそれに殉じた者だとして、神の国を壊すには……。
 それを胸糞悪いというのは、只の言い訳に過ぎない。手応えのねえ雑魚共が。纏めて相手してやるから掛かってこい」
 アルヴァはぎらりと睨め付けた。
 きっと『彼女』は此処に居ない。だが、一度踏込んだ『彼女』を救うことを目的とするならば。
(……茄子子を連れ戻すならルストを倒さなくちゃならない。無理を承知で進まなくては。それが航空猟兵の隊長としての在り方だ)

成否

成功

状態異常
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
同一奇譚
金熊 両儀(p3p009992)[重傷]
藍玉の希望

第1章 第10節

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
リサ・ディーラング(p3p008016)
特異運命座標
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
トール=アシェンプテル(p3p010816)
男の矜持

●前哨戦IX
「行きますか……遂行者達を終らせて……救う戦いに。
 切り札はある……ですが、それを使うにせよ使わないにせよ温存し機を図らねばならない。その為に、力を貸してください。皆さん」
 ゆっくりと振り向いたのは『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)であった。
 その眸に宿された魔力の余韻に『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)はこくりと頷く。
「ええ、マリエッタ」
 セレナには遂行者の誘いは来なかった。マリエッタは一人その手を取って薔薇の庭園に行ってしまった。
 あの時、セレナはマリエッタの傍に居られなかったことが悔しくて堪らなかった。それでも、今は傍に居る。
「あなたの事、何処までだって護ってみせるから。
 あ、ううん。仲間も居る。頼もしい癒し手の妙見子さん、アルムさん、心強い剣のトール、メリーノさん。
 マリエッタ。いま、あなたの傍らにはわたしが、わたし達が居るわ。
 冠位傲慢だろうと恐れる事無い。どこまでだって突き進んでやりましょ!」
 にかりと微笑んだセレナを見詰めてからマリエッタは目を伏せた。相手の力量を見定めなくてはならない。
 真っ正面から相手にすることになるのは遂行者か。マリエッタ達の行く手を遮ったのも遂行者オウカ、リスティアの前に立つ聖獣だ。
「アドラステイアの……」
 苦々しげに唇を噛んだセレナは自らが前へと進む。守り抜くが為に、『結界』を守る夜の乙女が前線に飛び出せば、続くように『至高のシンデレラ』トール=アシェンプテル(p3p010816)が地を踏み締めた。
「神の国――冠位魔種との戦いをここで終わらせるにために、まずは一歩ずつ前へ!
 沢山お世話になったマリエッタさんに今度は私が力を貸す番!」
 長く伸ばした榛の色の髪が揺らぐ。トールがその身に纏う『女装』は彼の身を守るものでもある。
 地を踏み締めるトールの剣が煌めいた。聖剣を突き立てた聖獣は獅子の姿をしている。傷だらけだ、『騎兵隊』を相手にし、遂行者を守ってきたのだろう。
(――強い、けれど、このまま倒す事が出来る)
 トールはそれを強く認識していた。この聖獣は時間稼ぎだ。ルストは各地に帳が降りるまでの耐久戦をして居る。ならば、攻めこむ側であるイレギュラーズの方が幾分か有利な立場ともなる。
 獣の咆哮は真空の刃となって肌を切り裂いた。しかし直ぐに、癒やしの気配が包み込む。扇を揺らがせてから『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)は息を吐いた。
「……遂行者。そして『人ならざる者』」
 獣に転じた人間は、その魂は未だ人として存在して居るというならば何という冒涜か。
「豊穣でも対峙しましたが彼らもきっと、我々と同じように思うことがあるのでしょう。ですが世界を滅ぼそうとするなら話は別です。
 これが悪だと言うならば、私達が正義に変えるまで。そうでしょう? 死地の魔女」
 マリエッタの唇が吊り上がる様子を妙見子は見ていた。その射干玉の髪が揺らぎ、魔力が周囲を包み込む。
 まじまじと戦線を眺める妙見子の側では同じく記憶をこじ開ける鍵――クラヴィス・メモリアを手にした『芽生え』アルム・カンフローレル(p3p007874)の姿があった。
「俺も遂行者って人たちは怒りたい気持ちがあってね……」
「あら、アルム様が?」
「勿論だよぉ」
 妙見子がぱちりと瞬けばアルムは頷いた。何だって許せないことまおる。セレナを包み込む加護に、重なったのは攻撃手達への支援だ。
 無数にランダムで与えられる戒めも二人がいれば敵ではない。ひらり、と踊るようにして聖獣の眼球目掛けて飛び込んだのは『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)だった。
「あらあら、言い忘れていたのだけれど。マリエッタちゃん おかえりなさい」
 まるで自宅でパウンドケーキでも焼きながら話して居るかのような穏やかさでメリーノは応えた。
 戦場のひりついた空気は彼女からは感じさせない。彼女はただ、ただ、ダンスをしているのだ。皆を纏めて巻込んで、仲間を巻込まないようにだけ気を配って。
「なんだか、命乞いをするの」
 メリーノは不思議そうに選ばれし民を見た。その背後で剣を構えたリスティアの姿が見える。イレギュラーズにも良く似ているけれど、それもきっと些末な問題だ。
「倒さないで欲しい? 殺さないで欲しい? 皆勝手ねぇ 自分は傷つきたくなくて、でもわたしたちは傷つけてもいいのね。
 ニンゲンって本当に自分勝手なイキモノね」
「ええ、本当に」
 マリエッタは囁いた。聖獣は盾だ。その後方のリスティア達を倒さねばならない。だが、先を見越すならばアリアやアドレ、カロルに対してもアプローチが必要か。それからグドルフに、ルル家。
(……本当に人間とは自分勝手だからこそ、何かを考え、擦れ違うものなのです)
 マリエッタの魔力が聖獣の目を抉る。メリーノの一撃に加え眼球へのダメージを重ねた獣の慟哭が響き渡る。
 この巨体を乗り越えて遂行者の元へ向かわねば。それは実に分かり易い『オーダー』ではないか。『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)の唇が吊り上がった。
「知った顔も混じってるようだがノープロブレムだ。ミーは誰であろうと思い切りぶん殴れる」
 にいと唇を吊り上げて貴道が駆ける。これはウォーミングアップだ。身体を温め、ルストに一撃を叩き付けるために。
「流石は冠位『傲慢』だな、傲慢なだけでやる事がせせこましい!
 ビッグなプライドに見合ってねえよ、やり口が小物も小物じゃねえか!
 居るんだよなぁ、容量が良いのを優秀だと思う奴! 今までの冠位の中で一番セコいって分かってやってんのかなぁ? なぁ!?」
「舞台を全て整えられるだけの器量は、神を名乗るに相応しくありませんか」
「おっと」
 否定するアリアに貴道は思わず知り合いの顔が被ったが、首を振った。彼女は白き衣を纏っていない。遂行者だ。
 貴道は改めて拳に力を込めて聖獣を地へと叩きつける。ふらりと、未だに立ち上がろうとするそれに降り注いだのは銀の雨。
『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)は「邪魔だ、鬱陶しい野郎共!」と声を上げた。
 構えたのは魔導蒸気機関搭載巨大火砲。大きすぎるが、技術者の夢であるそれを構えたリサは固定砲台として無数の弾丸を降り注がせる。
 目的は倒すのではなく全てに傷を付けることだ。これから先、どう足掻いたって誰も彼もが障害となる。
 ならばその弾丸はアリアやリスティア、オウカだけではない――ルル家やグドルフにも届くべきなのだ。
「根競べっすよ。しょーみ、どこまで歯が立つか知らんっすけどね」
 当たれば、それは儲けもの。リサの弾丸に背を押されるように貴道は前へと走る。

成否

成功


第1章 第11節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
彼者誰(p3p004449)
決別せし過去
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手

●前哨戦X
「目標、全員生存! そして、騎兵隊は三人の乙女の撃破を目的とする!」
 総大将たる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の声が響く。堂々と告げる彼女を連れ前へと向かうのは『無職』佐藤 美咲(p3p009818)と『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)であった。
「私には、皆が居る」
 誰よりも前に、前に。その背を押す美咲がいる。背を押し、手を振るミーナが居る。
 旗印を掲げ、立ち止まってはならぬとイーリン・ジョーンズは知っている。
「私には、並び立とうとする仲間が居る」
 一番槍、一番翼、朱き備――弟子も、死神も、親友も、商人も、プリンも、そこの無職も。
 新入りも、誰も彼も、死地に覚悟と臨んでくれる仲間が居る!
「リスティア。貴方の主が騎兵隊を処理しろと言ったのは『自分が持ち得ない物への羨望』が不愉快だからよ!」
 堂々と告げるイーリンに「ああ、そうだな」とミーナは目を伏せた。
「私達は、私はイーリンを信じて戦ってきた! それが間違いだったなんて欠片も思うものか! お前達に与えられるだけの歴史なんか真っ平御免だよ!」
 叫ぶミーナの声音を聞きながら行く手を遮る民を薙ぎ払う騎兵隊を眺めリスティアが息を吐く。
 スティアが再度、此方に向かってくる姿も見えた。リスティア・ヴァークライトは後方で立つオウカ・ロウライトに声を掛けた。
「ねえ、オウカちゃん」
「……何?」
 オウカの聖骸布が揺らめく。後方に立つアリアの支援を受けてリスティアは剣を握り締めた。
「もしも、私達が勝ったらさ、その時は親友って呼ばせてね」
 リスティアが地を踏み締めた。オウカは――オウカは妙な表情をしたまま「ええ」と呟いたきりだった。
 前線へと飛び出してくる美咲は「おい、イーリン、今、無職かんけいなくない?」とクレームを叫ぶ。
 初手で飛び込んだ彼女を見てからリスティアは「美咲」と呟いた。その姿には見覚えがあったからだ。
「ぶっちゃけ、遂行者が優勢だったらあのタイミングで戻りませんでしたからね?
 アレはテレサじゃなくてアンタの運用ミスが原因、アンタは出し抜くのを防いだんじゃなくて見限られたんスよ、イーリンの部隊運用を見習えばーか」
 それはリスティアに告げたわけではない。その背後に居るルスト――いいや、ツロだ。
 もしも、ルストがツロであると早期に明かしていたならばテレサは本気で引き込んだだろうか。あの時、握られた心臓一つでは持たなかったかも知れない。
「ああ……テレサの連れていた娘か」
 ルストはさも詰らなさそうに美咲を見、その後方に居た田中 舞を見る。びくんと肩を跳ねさせた舞は「なんで美咲センパイ、クビになったのに私を連れ出してるんですか!? 見られてますよ!」と泣き言を叫んでいる。
 盗撮をする舞に刺して興味を示さなかったルストは「テレサか」と呟いた。美咲は「あ、やべ」と呟く。
「奴が生き残ったとしても処分するか」
「全く以て酷い野郎だな」
 思わず毒づいたミーナに「本当にね」と『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)は頷いた。
 踏ん反り返っているルストを倒す為に、リスティアやオウカを倒さねばならない。一方ではロイブラックやブーケとの戦いが続いているか。
「騎兵隊一番槍! レイリー=シュタイン。リスティアの相手は私よ!」
「リスティア・ヴァークライト。正義の騎士として参る」
 静かな声音が降った。地を蹴ったリスティアが飛び込んでくる。レイリーは目を瞠る、彼女の動きは鋭いが何かを彷彿とさせた。
 それがローレットの仲間の剣術であると気付いたのはふとした拍子である。傍に居るイーリンの指示を聞きながら、駆ける『オウカに良く似た顔』を見たときだ。
(……躊躇っちゃダメ)
 罪も犯した、共も無くした、仲違いや失敗があった。それでもイーリンは犠牲を否定しない。彼女は今を諦めず前に進む。
 それは騎兵隊のためにある。だからこそ、彼女と進む勇気をレイリーは抱いていた。押さえ込む、それが目的だが後方からオウカの魔力が降る。
「一人ではありませんよ、こちらも」
「そう……イーリンは私達と一緒に絶対生きて帰ろうと言うわ。ルストはそんなこと言うのかしら? 教えてよ」
「一つ、訂正を。生きて返る場面なんてないのです。私達が求めるのは争いもない平和な世界。……どうして、戦うことが正しいと思い込むのですか?」
 聖職者たるオウカはレイリーを見詰めてから本当に理解出来ないと言った顔をした。
「抵抗なく受け入れれば、平和な誰も失わぬ世界が訪れるでしょうに」
 それが幸福であるかなど分かりやしない。オウカとリスティアを見据えた『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)の前にぞろりと選ばれし民が姿を見せた。
 今だ健在の聖獣の声が響く。痛みに叫ぶその声音に眉を顰めながらも、リスティアを目指す。有象無象が多すぎて厄介だ。
「ああ、知り合いの顔に似てて疑問に思ってたが『紛い物の木偶人形』って訳か」
「酷いね。どちらが本物かなんて知らないでしょうに」
 リスティアが地を踏み締めた。扇動される選ばれし民をマカライトは薙ぎ払う。だが、リスティアは指揮官ではない。後方のルストとて指揮を行なうことはない。その統率は疏らとも言えよう。
「イーリン殿は私達と向き合って下さる素晴らしき指揮者です。愛を以て熱意で勝利を手にする冒険者にして美しき夢見るお方。
 我らが麗しの隊長、イーリン・ジョーンズに道を空けなさい――彼女は貴女達の指揮者なんかよりも戦上手ですよ?」
「良いよ、何て言うわけないでしょ」
 リスティアの瞳に宿された闘志を『決別せし過去』彼者誰(p3p004449)は真っ向から見詰めていた。
 聖獣はアドラステイアに居たものだ。そんなものをこの場所にまで引き寄せるとは、彼者誰は理解も出来ないと呟いた。
 レイリーの前に居るリスティア一人を狙えるわけではない。オウカの支援や未だ健在に暴れ回る聖獣の撃破。手負いの獣は暴れ回るばかりだ。
 彼者誰は手負いの獣の傷口を抉る様に駆ける『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)を庇い立った。抜刀と共に斬り伏せる。
『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)の一撃が重なり、地へと叩きつけられる聖獣の身体を乗り越えてシューヴェルトはリスティアを目指す。
「騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! そこの遂行者3名、相手をしてもらうぞ!」
 剣戟を受け止めたリスティアがすうと息を吸った。騎士を名乗った彼女は遂行者。手負いになろうとも『彼女の核』が見つからねば倒す事は出来ない。
 観察しなくてはならない。武器がそうなのか、それとも。シューヴェルトはリスティアの刀は『核』ではないことを知る。
「――こいつでどうだ、碧撃!」
「甘いよ」
 リスティアがひらりと身を躱した。其の儘に振り下ろす一撃がレイリーの盾に鋭くぶつかる。
 だが、その横面方飛び込んだエーレンはリスティアの腰元を切り裂いた。朱が散る、されど、彼女は止まらない。
「私は遂行者だよ」
 囁く声音にエーレンは「ああ」と呟く。
「だが、それだけ生きていようとも仲間と共に死線を潜る、実力を兼ね備えた美しさを有するうちの頭領には勝てまい。
 ――お前たちのところはどうだ。冠位傲慢はお前たちと共に在ってくれるか?」
「指揮官は前に立ってはならないんだよ。それは王も同じ。私は騎士として主を守る、それだけだ」
 リスティアは『死なない』からと無理を踏ん張り続けて居る。何処かに核が存在しているはずだ。ルストが指を弾く。またも後方から聖獣が姿を見せた。
「おや、まあ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)はこころころと笑った。
「虫螻の囁きに耳を傾ける様な風流を解する心があるとは」
 武器商人はルストを敢て嘲るように告げたが、目の前に現れた聖獣がリスティアへの最終通告のようにも思えた。
 彼女の『核』が破壊され消滅するかは分らないが彼女が敗北に近いことは良く分かる。
「さて、はて、コレも倒さなくてはならないか。厄介だねえ」
 武器商人の声が弾み、聖獣もろとも周辺の適を引き寄せる。厄介者はそれなりの数が居るが構って等居られまい。
「して、よ。いやぁ〜……数が多いんか、これ?
 セリフも得れない有象無象が"居る“らしいが我にはとんと感じられん。
 必殺も持たぬ木端がしつこい、揺るがしたいのならデカい一撃持って来い。ヒーラーも殺せなくて恥ずかしくないんですか〜?」
「分かりました」
 オウカはすうと息を吸い込んでから聖骸布に魔力を集めた。その刹那に、彼女の胸元でチェーンに通された指輪が眩い光を帯びる。
「ん?」
 核、と『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は呟いた刹那に、彼女の煽り文句と同じ『でかい一撃』が飛び込んだ。
 遂行者は自らの命を代償にした神霊の淵を解放する事で強大な力を手にするという。それが、オウカにとっては指輪であったのか。
「リスティアちゃん」
「うん」
 ――彼女の握る刀が淡く輝いた。

成否

成功

状態異常
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)[重傷]
黒鎖の傭兵
夢野 幸潮(p3p010573)[重傷]
敗れた幻想の担い手

第1章 第12節

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

●前哨戦XI
 眩い刀の光をその双眸に映してから『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は「成程」と呟いた。
 乙女達の挙動を見れば、彼女達がこれより本気を出したことは確かだ。リスティアを標的とする騎兵隊を邪魔立てする聖獣が地を踏み締める。
 次から次にやってくるそれらはリスティアの助けにもなって居るだろうが、これ以上はお前のために手は貸さないという無情な通告にも思える。
「聖獣を撃破し安全にリスティア・ヴァークライトを倒しましょう。後方支援のアリアとオウカ・ロウライトは次です」
 静かに告げる黒子に頷いたのは『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)。その表情は危機迫るものが宿る。
 傲慢な冠位。彼は騎兵隊に聖獣を放ったのだ。それは彼の視界に入ったと同然だ。それに礼を以て挑戦は受けると青年は向き合う。
「傲慢なるルスト・シファー! 聞こえるか! 見えるか! ここにいる『勇者』の姿が!
 冠位と渡り合い竜と戦い抜き絶望をくぐり抜けた勇者『イーリン・ジョーンズ』の姿が! お前からでもよく見えるか!
 騎兵隊の御旗と勇者の姿を恐れなければ……我ら騎兵隊にかかってこい!」
「我らが隊長の声を聞きたまえ!彼女がある限り、騎兵隊に敗北はあるまいよ! 騎士とて魔種とて、彼女を止めるには足りるまい!
 あととてもかわいい。これだけの仲間を率いるその徳を見よ! 魔種にはとても手は届くまい!」
「かわいい」
 ムサシに続き堂々と言い放った『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)にリスティアがやや拍子抜けしたように呟いた。
「残念だけど、こっちもオウカちゃんは可愛いよ! アリアちゃんだって! あ、それにルルちゃんもアドレくんもだからね」
「リスティア」
 毒気が抜かれた顔をした聖女ルルは「私はもの凄い可愛いけどそういう場合じゃ無いわよ、うん、私はもの凄い可愛いけど」と繰返す。
 そんな彼女達を見ていれば何も変わらない普通の『女の子』に思えてならないのだ。それが妙な蟠りともなろう。
 シャルロッテが仲間に支援を行ない、空より聖獣を標的に定めた『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が一撃を投じる。
「騎兵隊の頭目たる者、そこなイーリン・ジョーンズと言う女は人を使うのが極めて上手い。
 人を貶すことなどせず、人の長所を誉め伸ばす。冠位傲慢、貴様のように他を駒として扱わない。
 ――だから騎兵隊の奴等はこいつに付いて行こうと考えるんだろうな」
「駒でもいいんだよ。これは国盗り合戦だから」
 リスティアは悲しげな眼をしていた。エレンシアが放った一撃に巻込まれるように幾人かが立っているが回復班が直ぐにその補佐をしてくれるだろう。
 出会い頭の一撃、とは言えど乱戦だ。エレンシアはそれ以後は高濃度の魔力で巻込まぬようにと気をつけその言葉を反芻させる。
 国盗り合戦だから――つまり、切り捨てる者が無くてはならない、と。そう言ったのだろう。
「切り捨てるばかり。けれど、それは大きな損失でしょう」
『ポロキメン』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は美咲を支援し「お師匠様」と呼び掛けた。危機迫る感覚がひしひしと感じたからだ。
 師の安全こそがココロにとって、いいや、騎兵隊にとって重要事項でもある。師との連携が乱れぬように意識をせねばならない。
「行動の速さ。指導力。頼もしさ。勇敢さ。判断力。機智。神聖さ――そして、皆の信頼を集める人望。
 どれをとってもわたしの敬愛するお師匠様に比する者など居ないと思ってます。選ばれし民や乙女のような凡百では止められないのは当然です。
 あのマスティマの口調を真似てやれば――
『愚かな愚かな。最低でも冠位魔種相当でなければイーリン・ジョーンズの相手は務まらぬというのに戦力の小出しとはなんたる愚策か』ってやつです!」
「んふ」
「……」
 ココロがマスティマを真似たからだろう。後方のカロルが笑った。彼女が何をしているのか、目をこらせばカロルはルストを護る為の防護結界を張り巡らせているのだろう。
 思わず吹き出したカロルが「だって、マスティマって、ああいうこというじゃないの!」とルル家の肩をばしばしと叩き続けている様子が見える。
「リスティア」
 静かに呟いたルストの声音にリスティアの肩が揺らいだ。ムサシは自らの口上を受け男が何を云うのかを思い当たり、直ぐにイーリンの前へと立つ。
「この虫螻が挙って名を呼ぶ女を殺せ。俺に指名された名誉に震えろ、女」
 玉座に腰掛けた王が如く。尊大に告げるルストを見遣ってからリスティアは「御意に」と目を伏せた。
 騎士は、王に傅く者だ。リスティアの聖刀が眩く輝いた。ムサシは武器商人の下に集う聖獣を撃ち払わねばリスティア側に向かうイレギュラーズも巻込むように攻撃が放たれる事を念頭に、立ち位置を調整する。
「司書さん」
 呼び掛ける『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の表情にも渋い色が乗せられていた。
 全員生存を唄う指揮官が前に出た。それが騎兵隊のスタイルだ。後ろで踏ん反り返るよりもこちらが良い――けれど、相手も戦場に居るからこそ『標的』には成り得る。
「……大丈夫だよ! この作戦、絶対に成功するから!」
 フォルトゥナリアは仲間を鼓舞すると共に自分を鼓舞した。ヒーラーは戦場の要だ。遂行者達は核を持ち、命を隠す。選ばれし民は『ルストが意識をすれば有象無象』となって襲い来る。
 ルストの指示が向いている事が、大きな問題のようにも感じられるのだ。焦りは僅かに滲んだ。誰もが名を呼ぶからこそ、それは標的となる。
「……イーリンさんが最前線で攻撃役を担うのは珍しいですね。
 隊長のそんな姿を見せられたら、こちらとて奮起せずにはいられないというもの。さぁ、行くぞ!」
 だからといって退くわけもなく。『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)は聖獣に肉薄し、切り裂く。その向こう側で刃交えるリスティアの姿が見えた。
 誰かを送り出せたならば勝機が見出せる。ルーキスが「コッチだ、聖獣!」と声を上げれば、『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が前線へと飛び出す姿が見えた。
「道の邪魔なんでな路端にでも転がっていてくれると助かるんだが」
「ごめんね、それは無理かな」
 リスティアの聖刀に纏った光は力となり纏ったそれが勢い良く叩き降ろされた。
 切り裂かれた腕になど構うことはない。バクルドはリスティアを睨め付ける。彼女が本気を出した――それは多少の人員を此方に割かねばならないと考えたルストの行動の一つでもある。
 気を惹けていることは確かだ。バクルドはリスティアを狙うと見せかけて後方で花弁を纏い、攻撃魔法に昇華するオウカに弾丸を放った。
「ッ――」
 オウカは驚いた様子で僅かに仰け反る。聖骸布に掠めた弾丸、穴の空いたその場所にオウカはじいと見詰めてから息を吐く。
(……相手は三人。仲間と同じ顔なのは確かにやりづらい。リスティアもオウカも……アリアもだ)
 アリアは回復手としてリスティアを支援する。リスティアの手にした聖刀は硬質な気配がする。
 つまり、それを壊さぬ限りはアリアの支援が常に彼女を生かすのだ。ルーキスは狙いは定まったと、真っ向から彼女を見詰めていた。
「行こう」
「くふふ、かの傲慢にお目通りも叶いんした事だし本腰入れんすかねえ」
 にこにこと微笑んだ『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)はリスティアの前に立ち塞がった聖獣を打ち払う。
 リスティアを相手にするレイリー達が前線に、そしてその間を『塞ぐ』ように動く聖獣に隊を分断されないようにとその撃破が急がれた。
 接敵する聖獣に放つ蝕みの術が魔性の輝きを帯びる。引き続き光を帯びたのは『いつか殴る』Lily Aileen Lane(p3p002187)の執行兵器・薊であった。
「私と命を賭けたダンスを踊りましょう?」
 そっと目を閉じて、祈りを捧げる。真剣な眼差しを向けた先にはリスティアと――ルストが居た。
 Lilyとて許せる者ではなかったのだ。眼前の男が『傲慢』に人々を扱う事はLilyの意思に反している。
「私は“葬儀屋”。死を何より大切にするモノ。だから玩具として扱う傲慢が赦せない、です!」
 故に、止まることは無い。別れの文字を刻むため。『葬儀屋』はその信念を胸に戦い続ける。

成否

成功

状態異常
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
老練老獪
エマ・ウィートラント(p3p005065)[重傷]
Enigma

第1章 第13節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
エマ(p3p000257)
こそどろ
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ノルン・アレスト(p3p008817)
願い護る小さな盾
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

●前哨戦XII
「……今は、グドルフさんは後回しです! イーリンさんの連鎖に乗っかり、攻撃を集中させますよ!」
『こそどろ』エマ(p3p000257)は「それにしたってなんで狙われるんですか!」とイーリンに不満を言った。
 それこそルストを煽りに煽った騎兵隊。リスティアに殺すように命を下すのはある意味で予想していたようなものだった。
「おっと、邪魔ですよ!」とリスティアとの間を分断しようとする聖獣に一撃を放つ――が、硬い。
 だからといってそれっきりには出来ない。『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は狙いを定める。
「構え――!」
 放つ一撃。照準も準備も整った。聖獣に風穴を開けたいが、僅かに足りないか。肉を抉り骨を断つ。胴より降る血の雨が鼻先を擽った。
 オニキスは淡々とその様子を見ている。リスティアは前線のイーリンを、そして迫り来る者を相手にしている。
 早くこの聖獣を退けねば。僅かな焦りを拭うように意識を上へと向け、ルストの切れ長の瞳を見た。
「ん、目が合った。そんなに私たちが気に障ったかな?
 でも私達を止めたいみたいだけど自分は出ないで部下に任せるだけなんだ。
 キミたちのボスは手を誤ったね――イーリンと騎兵隊(わたしたち)を侮ったこと、後悔することになるよ」
「はん」
 鼻先を鳴らし嘲るように笑うルストに「よくわかんねぇけどよ!」と『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は声を上げた。
「傲慢って言っておけば無能の言い訳にできるなんざ楽だよなあ!
 自分が本気を出せばどうとでもなるとか、てめえの父ちゃん(イノリ)泣いてるんじゃね?
 良かったな、てめえら! 指揮が下手っぴなのを隠そうとするだっせえルストと違い、こっちは天下の騎兵隊長イーリン・ジョーンズだ!
 どっちが格上か、火を見るよりも明らかってえやつだ! はははは!」
 ルストは「イノリか」と呟いた。牡丹にとって母親とは敬愛すべき対象だがルストにとってはどうだろうか。
 イノリなどさして興味が無いか、どうして存在するのかを疑問に思うかもしれない。それが傲慢という性質であり、人間らしさの欠落でもある。
 ルスト・シファーはリスティアやオウカ、アリアをただの道具としてみている。オウカに言わせればそれで構わないのだが、牡丹から見れば余りにも無作法な戦いに見えて仕方が無いのだ。
「レイリー!」
 リスティアを相手にする仲間の元へと走る。「オレは硬い! イーリンの元にも行かせねぇぜ!」と彼女は声を上げた。
 そうだ。『騎兵隊のイーリンを殺せ』と命じているならば意識を退けている証左となる。それを続けてルストを『外』からの支援攻撃に備えさせるのだ。
 ああ、ぞくぞくと背筋を駆け上る高揚感は堪らない。『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は仲間達の後へと続く。オニキスが、そしてエマが相手取る聖獣を余所に向かうのはアリアの元だった。
「本当に面倒な」
 呻くアリアの声がした。広報支援員であるアリアはそれなりに堅牢だ。医術士である彼女は『ツロの元で医学を学んだ経歴』があるそうだ。薬師でもある。
 そんな彼女だからこそ三人の乙女の中でもより一層にツロに――ルストに感情を傾けている。それを利用すれば良い。
「アリア」
 地を踏み締めた彩陽をその双眸に映してからアリアは小さな呪いを口にした。魔女の魔術の如く、尾を引いた魔力が彩陽の前で弾ける。
 頬に一線の傷が走れども弱音など溢れるわけがない。
「目的達成するまで自分らは止まらんし止まる気もないんやで!
 先行く者達の更に先行く魁。それが自分達。行こう、皆。いけすかん奴の顔一発ぶん殴ったろ!」
「はい。遂行者さん……ボクは貴方の言う弱いものになるのでしょう。
 しかし、イーリンさんはただ命じるのではなく、纏め、率いて、前に進ませてくれる旗となる人です。貴方のような自分勝手な存在には負けません!」
 ぎゅうと拳を固めた『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)は声を張り上げた。
 仲間達を支え、輝夜の不死の伝承で宙をも仰ぐ。その鮮やかな気配と共に、進み行く仲間達の姿をただ見詰めていた。
「プリンさん」
 ノルンの唇が震えた。手首を返し、福音を舞う。輝かんばかりの舞踊に後押しされたのは前を行く『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)。
「行くぜ」
「分カッタ」
 共に進む『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は直ぐさまに仲間達を苛む全てを遠ざけた。
 味方の役割を阻害し、パーティープレイを破壊する戒めは腹立たしくも、多い。それらを解除することが『ヒーラー』の役割だ。
(ヒーラー視点 語ルナラ、“自分(ヒーラー)を狙ってくれるのはむしろありがたい”。
 ヒーラー一番サレタクナイコト アタッカー落トサレルコト。
 盾役回復 戦線維持ダケデナク アタッカー護ル為。ツマリ引導火力・決定打欠如 致命的。自分ダケ残ル 打ツ手無シ。
 自己回復シヤスイノモ理由……自己回復 仲間ノ動キ 敵ノ介入 左右サレナイ。
 ヨッテ騎兵隊 リスティア狙イ アリア カナリ頭痛イ 思ウ――圧ニナル)
 それは行動前にフリークライがプリントノルンに告げた言葉であった。
 リスティアを狙われ、リスティアを落とされた場合は幾ら堅牢なオウカとアリアであろうとも前線が瓦解する。
 アリアは後方に下がりアドレ達の支援に回る可能性があるか、それともオウカを支える事になろうか。
 別働隊のように振る舞うブーケやロイブラックの決壊も意識するべきだ。そうなれば矢面に立つのは――
「行こう」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が地を蹴った。
「似た顔でも『もしも』をなぞった生き方をするとこうも違ってしまうとはな。
 惜しむべらくは――お前らの創造主が俺の『親父』みたいに人形遊びの好きな趣味悪だった、ってことか。
 その顔で好きにはやらせないから、さ。最後まで踊り続けて貰うからな――理不尽はそっちの専売特許じゃねぇんだ。分からせてやる」
「踊るのは、嫌いじゃないですよ」
 聖獣は打ち倒された。その足元を通り抜けたカイトがアリアに肉薄した。ヒーラーたる娘を守らんとするオウカの魔力の砲撃がカイトを襲う。
 支えるフリークライとノルンを一瞥しカイトは真っ向からアリアを睨め付けた。
「何も、此処でアリアを倒しきりたいわけじゃない。な?」
 ずん、とオウカを鎖すが如く。降り注ぐ雨が眼前を覆う。リスティアの側には向かわせない。
 それがチームの在り方だ。カイトの視線を受け、マッチョ☆プリンが走る。
「成せる事は少ない、か? いいや、オレは知ってる……オレでも知ってる! イーリンが成して来た事は、多い!
 沢山の人達を惹きつけて、沢山の絶望に立ち向かってきて、沢山の人を助けてきた。
 オレがイーリンの事を知った時にはもう……集まれー! って言った本人が人が集まり過ぎてあわあわしちゃうくらいだった。
 むしろ皆が勝手にイーリンを助けに来る」
 走る。アリアの反撃が狙うフリークライを庇う。マッチョ☆プリンは傷付こうとも仲間達の支えがある事を確信している。
「つまり、だ、これからオレ達がする事……成し遂げる事。それもイーリンの偉業になる。
 やれと言われてやるんじゃない、やろうと言われて応と答える。今日も、また一つ――成し遂げた事を増やして、皆で帰る!」
「ああ、全く」
 一番『翼』として傍に居た『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)はそれも誇らしく思うものだ。
 リスティアを双眸に映す。仲間達の支援が受けられないことはさぞ苦しかろう。
 リスティアの聖刀に僅かな罅が入った。それを壊せば彼女は『消え失せる』。知っている。だからこそ。
「追撃する!」
「させない!」
 リスティアは叫んだ。アリアの支援が今はない。腹は抉れた。まだ、粘る。
「私は、リスティア・ヴァークライト! 騎士であり、正義を遂行するものだ!」
 ――正義って何だった?
 ――リスティアは、どうしたいの?
 その言葉が頭を過った。『スティア』。リスティアは唇を噛む。
 レイヴンの一撃を甘んじて受けたのは意識が逸れたからだ。迷っている、何時までも少女は惑いの中にある。
「また会ったねリスティアさん。流石にもう迷ってはいないよね? ――でなきゃ、貴女の友人の首は俺たちが頂くよ?」
 リスティアを見据えた『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は『リスティア』ではなくアリアに狙いを定めた。
 彼女は三人の中では一番にルストを敬愛している。そしてヒーラーである彼女の神霊の淵の位置は分からない。
 リスティアは手にした刀に、オウカは指輪に。ならばアリアは――?
 後方に居たアリアを狙う。鋭い一撃を受け止めたのはその庇いに入ったオウカだ。それも構わない。
「貴女たちの主は心底ご不満そうで。自分にはないものを持ってるイーリンさんが気に入らないのかな?
 必要ないと思ってるものを彼女は全部持っていて、こうして対等に渡り合ってるものね」
「対等だなんて、まだ『有象無象』を相手にしているのに?」
 アリアのせせら笑う声に雲雀は「どうだか」と鼻先で笑った。
「俺達は彼女を信じている。彼女は俺達を信じている。だからこそ騎兵隊がある。
 ……でも貴女たちの主はどう? 信じてついてきた部下たちの目もまともに見ようとしない。
 応えようともしない! ――そんな奴に俺達が負けてやるワケにはいかないのさ!!」
「神様はそんなにも容易に答えるものですか」
 肉薄したオウカは囁いた。
「違いますでしょう、運命とは見えぬ所で流転する」
 オウカは酷く苦しげに呻いた。
 ――だから、私達は『生きている』のだから。

成否

成功


第1章 第14節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
成龍(p3p009884)
洪水の蛇
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
オルレアン(p3p010381)
特異運命座標

●前哨戦XIII
 オウカは信仰の徒だ。敬虔なる神のしもべ。その在り方を『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)は否定はできまい。
「夢の世界はいつでも美しく優しい、分かるとも。竜の偉大なる父祖……冠位暴食も夢に憧れていたからな」
 彼は、そうやって願っていた。冠位暴食ベルゼー・グラトニオスは竜と人が共存し争いのない世界に憧れていたのだろう。
 だが、オルレアンは今ならば分かる。彼の思想とは余所にその肉体は暴走をする。だからこそ、覇竜以外を襲った。彼も彼とて罪を背負っている。
「だが……夢に憧れ、現実に苦しみ、それでも最期まで己を貫き通した偉大なる父祖の姿を見たからこそ、我ら竜は前を見据えて進まねばならない。
 現実世界の美しさを、彼の代わりに噛みしめなくてはならないのだ。故に理想郷は破壊する。夢の世界の乙女達よ、俺の舞踏に付き合って貰おう」
 ――それでも、彼が夢を見た。その決意を胸に進むことは『竜の誇り』だった。
 オルレアンの白刻は墓碑を思わせた。水晶のように透き通ったそれがリスティアへと叩き付けられる。
「……」
 指先でとん、とんと自らの腰を叩いていたカロルにルル家は「キャロちゃん?」と問うた。
「助けた方が、良いかなって」
「キャロちゃんってさ……」
 案外『優しい』のだとルル家は困った顔をした。ルル家は分かっている。カロルは存外に優しいが、それは無意味な慈悲にも成り得ると。
「……ルル家さん」
 呼び掛けにルル家が顔を上げてから「鹿ノ子殿」と笑った。それは豊穣で、天香邸で見るものと何ら変わりは無い。
『豊穣の守り人』鹿ノ子(p3p007279)は行く手を遮る民と切り結びながら歯噛みした。苛立ちに、憎悪と怨嗟に紙一重の気配を宿す。
「僕は、貴女が憎い。遮那さんから寵愛を受けていながら、遮那さんから離れていく貴女が憎い。
 僕らは友人と呼ぶほど親交が深い訳じゃない。けれど恋敵と呼ぶほどいがみ合っていた訳でもない。
 ――ひとつだけ確かなのは、こんな結末は誰も望んでいなかったでしょう!?」
「……遮那君には言われたくなかったなあ」
 ルル家が天を仰いだ。ああ、そうだ。屹度、彼には何も言わずに姿を消した。それでも彼はどれ程までに苦しんだか。
「何を言われたって、僕は納得しない! 貴女が選んだ道の先を、その結末を、その身を以て貫いてみせろよ!」
「うん」
 ルル家はカロルの手を握り締めた。己は『一つの選択肢』を常に手にしている。
 カロルのために利用すればルストを倒す為の力が足りなくなる可能性もある。だが――目指したいと願った者は山ほどある。
 二兎を追う者は一兎も得ずとも言うが鹿ノ子の言う通り望んだ結末を示さねば『主(遮那)にも申し訳も立たない』。
(もしもの時は「右目」を持っていくといい、等とルル家が言ったいつかの会話――本気か、戯れか、そんな繰り言だって因縁にするには十分過ぎる)
『黙示録の赤き騎士』ウォリア(p3p001789)はルル家が聖女と共に殉ずるであろうと創造していた。それはそれでいいのだ。それが彼女の選んだ道だからだ。
 手を握られたカロルが「やだ、もう。どうしたのよ、大名」とルル家の頬を突いて遊んでいる様子を見ればウォリアは悪感情を抱くわけではない。寧ろ、多少は面白い相手であるとも思えたのだ。何とも、軽ノリで楽しげに話す相手でアル。
(……いいや、相応の覚悟を以て殺し殺される関係性として今は彼我に在る。ただ――そう『運命』が廻り逢っただけの事だ。
 況してや茶会まで開いて通じ合った様な関係性に踏み込む程無粋ではない。
 だからこれはただの我侭だ か細い縁を辿り這った果てが報われずとも、このまま見送るわけ無いだろう)
 ウォリアは息を吐いた。この先はどうやったって跡が残る。意志と意志をぶつけ合うのはいつだってそうだった。
 己が戦場でぶつけ合う刃には曇りも鈍りも産まれはしないが――ああ、唯一。
「また同じ空の下で飯を食いたいのだ」
 ウォリアはただ、それだけだった。他者と心を通わすなどバカらしいと一蹴していたその炎が『変化』したのは何時だったか。
 ただ、鹿ノ子とも同じ、ルル家の元に届くように走るのだ。それから、カロルにも、と。『銀焔の乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は視線を送った。
「ねえ、ルル」
「アルテミアじゃない。相変わらず良い乳ね。……帰りなさいよ、私アンタの綺麗な顔をぶん殴りたくないし」
 殴ること前提でいけしゃあしゃあと喋る聖女にアルテミアは困った顔をした。ファントムナイトで揃いの衣装を仕立て時に彼女はまるで友人のように振る舞った。
 ルゥと名乗った彼女は『カロル・ルゥーロルゥー』でも『聖女ルル』でもなかった。その精神だけでも切り取って生かすことが出来れば。
「……『聖女』、必ず貴女を引きずり降ろしてやるわ」
「うん」
 カロルは何処か寂しそうに言った。アルテミアの思惑なんて、カロルは知らない。ただ、それは決別のようだったのだ。
 敵はルストの権能により無限にやってくる。命乞いをしている姿には胸も痛もう。
「ああ、もう。此方へは小指程も手を出さないほど手加減しているだなんて、傲慢な幻想貴族でもここまで性格は最悪ではないわっ!!
 自らを神と称するなら、か弱くも抵抗を続ける私達にその威光の一つでも教えてくれたっていいんじゃないかしら、ね!!」
「ふむ」
 ルストは眉を吊り上げてからアルテミアを見た。幻想という言葉に反応したのか。アルテミアは彼の『妹』も大暴れ中だったとふと、物思う。
「アリアはブローチだ」
 その言葉に『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が引き攣った表情を浮かべたのは言うまでもない。
 真逆、彼は『か弱い者に情けとして遂行者の弱点』を口にしたのか。ああ、なんて、実に悪趣味だ。
 甘ちゃんだと自称するレイチェルには有象無象の作られた民の相手をするだけで、苦しみが鬩ぎ合うというのに。
 アドレの問いかけのように、人を殺す事への罪が、苦しみが襲い来る中で意志を持ち命を有するかのような遂行者の『殺し方』を告げた?
「……くそ」
 レイチェルは呟いてから、アドレの名を呼んだ。
「――アドレ。お前は『大切な人がいない』と言ったな?
 大切な人は、気付いたら出来てるモンなんだぞ。それはツロかもしれないし。別の誰かかもしれない。
 ……怨嗟と悲しみだけなら、別の感情も抱けば良いンだ。今からでもきっと遅くない」
「さあ、居たらいいね」
 アドレはそれだけ行ってから聖痕に光を帯び出せて、周囲に騒霊を顕現させた。その中には聖獣を思わせる者も幾つも混ざる。
「アドレさん……ッ」
『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は唇を噛み締めた。敵を掃討し、アドレの元に向かう事がフラーゴラの選んだ選択肢だ。
「聖獣が元は人だってのも知ってるよ。でも何もしないことは消極的ではあるけど選択してるの。
『何もしないってことを』、ワタシはワタシ自身にそれをいいと思わない。目を背けず、前を見るの。ワタシはこの道を選ぶから……!」
「フラーゴラは、傷付くよ」
「それでもいい」
 それでいい。ゴラぐるみとミニペリオンを『雪崩れさせる』フラーゴラにアドレは「僕の騒霊と比べたら可愛いな」と呟いた。
 肩を竦めるアドレは普通の少年のように見えて、酷く苦しいのだ。『新たな一歩』隠岐奈 朝顔(p3p008750)はごくり、と息を呑む。
「アドレさん、この前はごめんね……私の矛盾した答えと問いはきっと貴方を傷つけたから」
「いいよ、僕とお前は敵だから」
「そうだね。……それと有難う。その矛盾を指摘してくれて。未だに納得した訳じゃないけど……でも戦う理由を1つ見つけられた気がする」
 変な奴だとアドレが言えば朝顔は「ふふ」と笑った。怨嗟を受け止めるように騒霊を引き寄せる。無意味だと言われたって成仏を試みたのは朝顔なりのけじめでもあった。
「……そうだね、私はまだ迷ってる。何が正しいと思うのか。其れすら他人と違ってばかりで、きっと矛盾ばかりだ」
 ――『誰かの選択を侮辱するというなら、僕はおまえが嫌いだ』
 朝顔はそんなことを言う彼が此処に居るのなら、そこに行くまでの道を切り拓く。彼は、選択を否定しない。ただ、彼は彼で選択しているだけだ。
 正しい事なんて分からない。何処に行けば良いのかなんて知らない。けれど。
「隠岐奈朝顔……否、星影向日葵。参ります……!」
 向かう先だけは定めてきた。『向日葵』が引き寄せた騒霊達。彼女を支えるのは『洪水の蛇』成龍(p3p009884)である。
「継続は力なり! なにしろ冠位魔種との戦いですからな! 小さな拙者の力もお役に立つでしょう」
 サポートを行なう成龍の目から見ても敵は多岐に亘る。
 ――一人の女に惚れ込み、彼女の娘さえも監禁し私慾を見たそうとする魔種。
 ――その魔種によって『道具』とされた家族にも居ない扱いをされた幼い娘。

 ――父を殺すという罪を負うことで正義を遂行した騎士の娘。
 ――ただ正義を直向きに愛し、その遂行だけを目指した貴族の聖職者。
 ――愛しい人の手を取って、他の全てを捨ててでも『未来』を目指した一人の娘。

 そして、遂行者となった二人のイレギュラーズと、聖遺物の結びつきによって産み出された二人の遂行者。
「さて……なかなかな状況ですな」
 成龍のサポートを受けながら前へ、前へと走る『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は「ルストさん」と声を上げた。
 今井さんが傍に居る。その手を握り、『真っ直ぐにぶつかる』事を目指すユーフォニーの姿をオルレアンは双眸に映した。
 最も覇竜領域に親しみ、駆け抜けてきた彼女はベルゼーに接するように友好的にルストに声を掛ける。「無礼者」と叫ぶアリアの声は騒然としたその場の空気に飲まれた。
「ベルゼーさん亡き後も覇竜に遂行者が来なかったのは、やっぱりルストさんも兄弟思いだからですか?」
「……」
 ルストの眉が動く。ユーフォニーは構うことはない。
「終焉はどんなところですか? イノリさんと、他にどんなひとたちがいますか?
 ベルゼーさんが滅びに理由を作るなら、そのひとつは産みの父を救いたいだけ……って。
 なら滅び以外でイノリさんを助ければ、世界も滅ばないと思って。
 私、傲慢の魔種に傲慢と言われたくらいなので。きっとできると思ってます。でも傲慢の頂点、冠位傲慢なら世界もイノリさんも簡単に助けられますよね」
「甘ったれた『弟』はそうした事ばかりを考えて居たのかもしれないが、俺は違う。
 イノリとてどうでも良いのだ。所詮はイノリも神に廃棄された塵だ。我らとて同じ。
 その様な憂き目に遭ってまで、誰ぞを尊重するか? ――ないだろう?」
 鼻先で笑ったルストの声音に『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)はぎゅうと杖を握り締めた。
 ルストは、いいや冠位魔種とは世界の管理者のような役割を有したイノリから産み出された人間の尊厳であり恒久的に存在する欲求だ。
 傲慢な男にとって、そもそもがベルゼーとは大きく役割が違うのであろう。イノリを助けたいと願っていない。
 敢て言うならばこの世界そのものを放棄するように、世界塗り替える事が結果的にイノリを救う事に繋がっている『かもしれない』程度なのだ。
(……たいせつなひとがいなくなるのは、ぽっかり穴が開くみたいだと、ニルは知りました。
 かなしくて、さみしくて、つらい。だから、アドレ様もルスト様をまもるのですね。
 たいせつなひとをまもりたいから……ニルと、おんなじように)
 アドレがルストの傍に居るのは、彼しか居ないからだと言った。ニルの手を取って、ニルと笑い合う事が出来れば彼も幸せになるだろうか。
 いいや、遂行者の成り立ちの中でもカロルのように『聖竜の加護があるかどうか』で大きく違う。アドレを救う手立ては余りにも乏しい。
「アドレ様……。……でも、ルスト様のそばにいたら、アドレ様は笑えるの……?
 ルスト様は、アドレ様にやさしくしてくれるの? たいせつにしてくれるの? ニルは、なんだかそうは思えなくて。
 アドレ様の『おいしい』はそこにあるのですか?」
「……おいしい?」
 ルストはアドレをじらりと見た。その視線が使えぬ物を見ると言う意味合いに感じられて堪らない。
「あたたかくて、みんなわらっていて、たのしくて、しあわせなものです」
『かなしい』が降り積もっていくみたい。深々と、深く、深く。辛く、苦しくなる。それでも、ニルは足を止めてはならないと考えて居た。
 此処で立ち止まれば、何かが変わってしまうから。それも、暗く、苦しい事に。
「アドレ君」
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はひらひらと手を振った。
「どうしたってこうなっちゃうんだね。ルル君もアドレ君も、もう少し何かが違えばきっと手を取り合えたと思ってる。
 ……でも、それが『運命』だったなんて言いたくはないね」
「アレクシアじゃないの」
 カロルは「髪伸びた?」なんて適当なことを言い始める。アルテミアは肩を竦めルル家が「アレクシア殿」と彼女を凝視した。
「うふふ、相変わらずだね。ね、ルル君には前にも言ったけど、私はこの世界が好き。
 そこに生きてる人が好き。それを護るためなら、全力を尽くす。
 力で止めざるを得ないというなら、躊躇いはしない! 護るべきを守ってこそ、ヒーローなのだから!」
「そ、敵よね」
「かもね。でもね、ルル君、でも私はまだ諦めてないからね!
 君があの人を好きだって言うのなら、思い切りひっぱたいて目を覚まさせてあげるから!」
「は? ルスト様は顔が良いだろうが!」
 思わず叫んだカロルに後方のルストが「当たり前だが」と言う表情を見せたのは言うまでもない。
 調子が狂うなあとアレクシアは呟いた。どうしてこうも彼女は人間らしいのだろう。本当に、こんな所で出会いたくは無かった。
「……あと、それからルル家君! 詳しい事情はもう今更聞かないし、君にも相応の想いがあってそっちにいるとは思ってるよ!
 私だってあんまり人に『無茶するな』って言える立場じゃないしね!
 だからせめて、『次に』何かすることがあるなら、私も乗らせてもらうからね!」
 アレクシアはにっこりと笑った。その杖の先に魔力が灯される。
「ルル君が言ったように、私達は我儘だから。
 世界を守りたいのも、手を取り合いたいのも、友を信じる気持ちも、全部私だけのエゴなんだ――だから、叶えられるよう戦い抜く!」

成否

成功


第1章 第15節

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー

●前哨戦XIV
「リスティアの刀、罅が入ってるよ。大丈夫なの?」
「良いんだよ。これも戦いだからね」
『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は向かい合ったリスティアを見てから肩を竦めた。
「そうだね……どうしようもない戦いだから、命の駆け引きだもんね」
「うん」
 リスティアは足元を見てから微笑んだ。「アリアは、ブローチというのはどう言うことかしら」と『初恋患い』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は囁くように問うた。
 リスティアは聖刀を握る。スティアはそれがオウカとリスティアが対になる存在であるからだと理解した。オウカも同じく指輪を手にしている。
 ならば、アリアは――? オウカとリスティアのように何らかの所縁ある品ではないだろうに、と。まじまじと見遣る。
「ツロ様に貰ったんだよ」
 アーリアはそれだけで理解が出来てしまった。心臓に隠し持っていると思えば、恋する女は『そうやって見せびらかしてしまう』のだから。
 困った顔をしたスティアは「リスティア、私は貴女を殺したくないんだ」と言う。
「ルルちゃんが友達って言ってたでしょ? 本気で怒られるのは嫌だなあって」
「そんなのじゃダメだよ、スティア」
 リスティアがゆっくりと刀を構えた。激戦の中で、その時ばかりは静かだったのは同じ顔の娘が並んだからだ。
「ねえ、リスティア、この国を良くしようと思ったらある程度の立場は必要でしょう?
 それには責務が伴うってだけだよ。生まれながらにして、責務が伴う立場であるし、これ以上増えても一緒じゃないかな?
 それなら皆に希望を与えられるような存在になった方が良いよね……って能天気に考えてるかな。
 苦しくなったら皆に相談すれば良いだけだしね、別に一人で解決する必要もないでしょ?」
「でも、私とスティアは共存できない」
「うーん、困っちゃうね」
 スティアは肩を竦めた。アーリアは「本当にいやねえ」と呟いてからはたと思い出したようにアリアに向き直る。
「あーやだやだ、顔も声もそっくりで傲慢で! でも私と貴女の一つ大きな違うところ、見つけたわ。私、貴女ほど性格悪くないってこと!」
「……あら、そういう事を言う時点で」
「酷い事言うわね」
 アーリアが唇を尖らせてからアリアに向き直る。魔女の悪戯は指先に乗せられる。眩い魔力の気配を宿していた。
「私はね、貴女を倒して会いに行かなきゃいけない人が沢山居るの。だからもう、お喋りは止めましょっか。
 ああ、でもそうねぇ、これは私の勝手な印象なんだけど……何でも肯定してつまらない女より、中身がどれだけクズだって顔が好き、ってころころ表情を変える女の子の方がずーっと魅力的だわ!」
「私の事ね」
「あら、ルルちゃん」
 アーリアはくすりと笑った。ええ、そうよ、とはその場では言いやしなかった。
 癒やしの気配を宿したアリアはアーリアを憎むように攻撃の手に重ねる。それが『庇うオウカ』に向かなければそれで良い。
「アリア、一つ前言撤回しても良い?
 私、人が何も出来なくなって苦しむ顔が好きだから性格悪いかも!」
 恋に生きた彼女と、『大好きなお父さん』に想いを閉じ込めたアーリアと。果たしてどちらが正しかったのか。
「でもね、私は今幸せなの。だから私は、私が間違ったなんて思わない」
「私だって」
 アリアの囁きにアーリアはそう、と呟いた。オウカが倒れればリスティアとアリアの『倒し方』は分かって仕舞った。
 命なんて、簡単に壊れてしまう。けれど、だからこそ愛おしかった。
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は「いい顔をして居ますね、ルル」と優しく声を掛けた。
「心配そうな顔をしている。大切ですか?」
「まあ、アリアも、オウカもリスティアもね。友達……ではないかもしれないけど、知り合いだし」
 カロルは屹度普通に情緒を育んで人間になったのだ。そう思わずには居られない。
「恋……ふふ。恋とは、愛とは、確かにそういうものです。それに比べると……心無き人形というものは、実に味気ないものですね。
 幾らでも代わりを用意できるという事は、逆説的に誰も必要無いという事でもある。『誰でもいい』のですから。
 神の国の本質そのものと言えるでしょう。
 神の国に取り込まれてしまえば……もはや、人としての最低限の尊厳さえも奪われる。
 前も申し上げました通り、貴方達の選択を否定する心算は無いのですが……
 ――貴方の理想郷、求めた救いとはそういうものでしたか、アドレ?」
 アドレは「それでいいんだよ」とそれだけを返した。変わらないモノなんてないと、そういう様に彼の視線がグドルフを追掛ける。
「リゴールさんはグドルフさんのお友達……なんですよね?」
 困惑しながらも『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は視線の先のグドルフを見据えていた。
 グドルフには助けて貰った恩がある。ぶっきらぼうな人だったけれど、我欲で生きている人でないと信じていた。
 その考えが間違いで無かっただけでも喜ばしく感じられたのだ。何処かで出会い、掬い取れなかった人の姿や声がする。
「……おかしいじゃない。ここは誰も死なず穏やかに暮らせるって話だったでしょ! こんなの……まるで地獄みたいじゃない」
 思わず呻いたタイムの側ではオウカの元へと進む『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)が群衆に紛れての一撃を投じる機会を狙っている。
 事態の把握は不完全だとバルガルは言う。だが、分かり易い『行動理由』がある。
 これは冠位魔種である傲慢を打ち倒す戦いだ。その為には遂行者の数を減らし彼の余裕を挫かねばならない。
(魔種、聖女、聖竜、恩人、同胞、友達。この戦いで誰か一人でも救えるのかもうわからない……それでも。きっと。まだ。信じたいの)
 これは誰かを救う戦いで、誰かを殺す戦いだ。
 バルガルが魔種を滅すべきと考える傍らで、タイムは誰かを救えるのだろうかと苦難する。
「グドルフさん!」
 叫ぶタイムにグドルフは黙していた。まるでまだ動くなとでも言われるような、そんな素振りで。
「なによ、本気で悪い顔になっちゃって! 黙ってても何もわからないわ。前に出てらっしゃいよ!
 リゴールさんはグドルフさんを追いかけてここまで来たのよ。
 わたし達が諦めていないのだからグドルフさんも遂行者の力なんて放り投げて戻ってきて!」
「出来るかよ」
 ぽつりと零された声音に、重なるようにアドレの騒霊が襲い来る。「グドルフさん」とタイムは呼んだ。
 彼を待とう空気が変容していく、重苦しくなっていくそれにタイムが目を瞠った。僅かに視線が逸れただろうか。ちら、と一瞥するオウカを目掛けバルガルの鎖がオウカを狙う。
「ッ――」
 オウカが一歩下がった。首を締め上げることは出来ないが、それでも掠めただろうか頸筋から血が滴る。
 真白の衣装が汚れた。オウカがぎらりと睨め付けたその眼前に『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)が飛び掛かった。
「オウカ・ロウライトか」
 彼女を倒す為に邪魔立てするのならば誰だろうと一晃は気にも止めなかった。
 アリアにリスティアだろうと、仮に『あちらの軍門に下ったボイデルや夢見』であろうとも――
「……本来ならば特異運命座標としての、かの小娘の冴えた剣と交えてみたかったが、運命(さだめ)の歯車が変われば祈り捧げる僧侶となるか。
 つまらぬ生き方とは言わないが、散らぬ桜はただ枯れ行くのみ。
 火花のように華やかに散る、かの小娘共の生き方と比べればあまりにも大人しすぎる!」
「剣士がいいというならば、リスティアちゃんをオススメ為ますよ」
 オウカはさらりと言ってのける。散らぬ桜は咲き誇るだけだった。満天の桜花(おうか)。
 彼女は神に祈り続けるだけだった。冴えた剣を持たず、ただ、正義を愛する娘となった。
「俺も命はかけてやろう、そちらも惜しんでくれるなよ――貴様らの神のために死に花を咲かせるその時までな!」
 地を蹴った。一晃と共に進むのは『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)、彼女と同じ顔をした娘だった。
「オウカ、貴方の言う事もわかる。秩序が守られ、信仰を胸に、正義を実行する。それが出来れば世の中は平和になる。
 でもそうでない人間を排除して、そうである人間だけを選ぶような世界は、きっと優しい世界とは言えないよね。
 ……本当は貴方達を倒したくはない。それは私の理想とは全く逆の手段だから」
「私達を排除する事こそ、同じ事ではないの? サクラ。私は、だからこそ祈る」
「そうだね。私もそうだ。でも何も思いつかなかった。こんな事を言いながら私は剣を手に取る事しか出来ない。
 私は弱い。私は愚かだ。だからこそどうすれば良かったか、どうすれば良いか。一生考えながら生きていくよ」
 何時か、全てが終るまで――サクラは大地を蹴った。

「決着を付けようか、オウカ」

 サクラは狙う。ただ、彼女がアリアの『回復』から外れた瞬間を。
「ねえ、知らないでしょ。これはね、梅泉センセーに出会った私だから使える。貴方の知識にはないよね、オウカ!」
 サクラ・ロウライトは剣士だ。澄んだ太刀筋は、彼女の在り方を示している。
 親友の父を殺した祖父が居る。
 記憶を失った親友と再会し、罪など消えないとも思い知った。
 それでも、彼女は、サクラは『ロウライト』だ。
「輝け禍斬!」
 ロウライトの聖刀が光を帯びた。
 それは聖遺物だ。オウカが目を見開く。彼女の『紛い物の聖遺物』には大した力は宿らない。
「サクラ――!」
「私は桜花を背負って生きていく。剣を手に取り、戦う事しか知らない私が、成せることがあるはずだから。
 ――さよならオウカ。どうか貴方の魂が理想郷に辿り着きますように……」
 オウカ・ロウライトの姿が掻き消える。リスティアの「オウカちゃん」と呼ぶ悲痛な声が響いた。
「リスティア」と呼ぶスティアに、彼女は「全部を出し切ろうね」と微笑んだ。彼女の言葉に『刀』は応えない。

成否

成功


第1章 第16節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
雨紅(p3p008287)
愛星
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱

●前哨戦XV
 ――「アリアはブローチだ」
 その言葉を反芻し、『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は歯噛みする。
 遂行者の殺し方を教えたのは慈悲か、それとも戯れか。レイチェルは腹の底まで冷たいものが落ちて行く気配を感じた。同時に、沸き立つのは怒りか。
「……さては、俺ら如きにはやられねぇと思ってるんだろ? 俺らじゃ対処不能の隠し種を持っているとかで」
 答えなど得られるわけがない。相手はレイチェルを、いいや、イレギュラーズを虫螻『如き』として認識しているのだ。
(……今はルストを殺れなくても。機が来れば、デカいのを一発お見舞いしてやろうじゃねぇか。
 今に見てろよ、虫螻が逆襲してやる。下剋上の時は必ずや来る筈だ)
 その時を目指すならば『遂行者』を倒さねばならぬ事をレイチェルは知っている。幾人もが彼の手駒だ。その内の一人が『消え失せる』光景は人間の死にしては余りにも無機質でショッキングなものだっただろうか。
 だがそうした事を気にする事も無い。『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)にとっては己が信念を示す場であるからだ。
「『オウカ・ロウライト』が落ちたか――戦況は依然変わりないがこれが効いてくるのはここからであろうな」
 呟く。挑発の意を込めて叩き込まんとした零式閃刀技。青年のその身に染み付いた攻勢戦術は決して曇ることはない。極光の如き輝きを受け止めたのはアドレの騒霊達であった。
「やはり、届かないか」
「違う。届かせちゃダメなんだ。僕らがいる理由だ」
 成程、と一晃は呟いた。ルストがアドレやカロル、ルル家やグドルフを側に置く理由など単純だ。出来る限りイレギュラーズと縁ある者を側に置いておきたいという事だ。随分とよく分かって居るではないか――情ほど流されやすい者は無い。
「だが、俺には関係は無い。
 ルスト・シファー、羽虫の羽音なぞ聞く耳ないだろうが鬱陶しく吠えてやろう冠位傲慢。俺は貴様が嫌いだ。
 勝利は当然、地を這う蟻など常に潰せる、万象を手で捏ね上げることなど造作もないその面が俺は気に食わぬ。
 その玉座から必ずや引きずり下ろしてやろう! たとえ俺のこの命が尽きたとしても、死人の命ごときに降ろされるその時を待つがいい!」
 ルストが鼻を鳴らした。そのいけ好かない態度自体にも苛立ちを覚えるが、届かない。
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は奥歯を食いしばった。口腔に込めた力は怒りをも飲み干す物である。
「本当に……無断複製もいい加減にしろよ!」
「無断複製じゃないなら、受け入れられるのかな」
 アドレはヨゾラを一瞥してから無数の騒霊をその眼前へと踊り出した。選ばれし民は『イレギュラーズの望み』を叶えるように現れることが多い。それが理想今日の在り方だからだ。だが、アドレの騒霊はアドラステイアなどで死した子供の魂そのものだ。
「僕の騒霊は、僕が無理に使役したんじゃない。『僕ら』は仲間だからね。……これも救済なんだ。
 子供に何れだけ世の理を説いたって理解しないよ。だからね、僕らは皆に復讐してる。生きている奴らに羨望を抱き、嫉妬を宿してる」
 それならば相手にしてくれるのかとアドレは囁いた。そうとまで言われ、ヨゾラはアドレを睨め付けた。騒霊の向こうでは今だ、イレギュラーズと相対するリスティアやアリアの姿が見える。
 有象無象を相手にするのは己で良い。彼女達には彼女達を相手にする者が居るはずだからだ。そんなことを考えるヨゾラの側を『新たな一歩』隠岐奈 朝顔(p3p008750)が駆け抜けていった。
(一人の遂行者が死んだ………それを素直に喜べない私は駄目なんだろうな。
 そしてきっと後1人で状況が変わる可能性がある……アドレさんじゃないと良いなと思ってしまう私は彼に怒られちゃうかな。彼はきっと優しすぎるから)
 朝顔から視線を逸らすアドレは尚も騒霊で行く手を塞ぐ。朝顔はアドレの中にある感情を取り除いてやりたかった。
(……私は、神使(イレギュラーズ)だ。それでも、先輩方の答えに納得できなかった私にあの人が1つの答えを教えてくれたから)
 これが恩返しだと、朝顔は言った。アドレは「勝手な考えだ」と笑うだろうか。それでいい。アドレの所に向かうのは己の在り方だからだ。
(……結果的に相手の一角が崩れた。分かっていたこと、仕方の無いことだ。
 私たちには相容れない想いがあって、それをぶつけ合うしか今は出来なくて。
 それでも、少しでも分かり合うために言葉を尽くした。
 キャロちゃんのことも、アドレのことも、本当は時間があれば三人の乙女やほかの遂行者のことだって、知りたかったし話をしたかった。
 でも私が抱えられるものはそんなに多くなくて、なんなら片手しかないから人より少なくて)
『ただの女』小金井・正純(p3p008000)はぎゅ、と拳を固めた。この戦場で抱えられるのはほんの少しだけ。
「ねえ、アドレ、私に出来るのはたった少しだけだよ。貴方と決着をつけること。
 ルル家、貴女の選択を見届けること。キャロちゃん、ここから少しでも貴女を知ること。
 ……だからアドレ、モテモテのとこ悪いけどそろそろ来ない」
「喩え正純が言っても無理だよ」
 アドレは首を振った。確かに、アドレにとって正純はずっと己を追っていた存在だ。だからこそ、知り得た相手とも言えよう。
 彼女の在り方は眩い。アドレもそう感じている。正純は「そっか」と呟いてから笑った。
「私は、わりと話したいこと話したから、あとは貴方の答えが聞ければいいし。言葉にしにくければ、ほら、喧嘩しようよ。
 友達なら喧嘩くらいするし、ね? ……大丈夫ですよ、ほら、そんなに強くパンチしないですから。待てなくなったらコッチから行くね」
「正純が待て出来る分けないだろ」
 アドレはからりと明るく笑った。その笑みを眺めてから『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)は穏やかな笑みを浮かべて見せた。
「貴方がアドレさんですか? 『私と同じもの』を生み出した貴方に、一度也とも御会い致したいと思っておりました。
 ……ああ、『アルマコン』と申しましたら、御分かり頂けますか?
 最も、私は未完成の成り損ないな上、今はその力も殆ど失った廃品同然の出涸らしですけれど」
「そんなものになるべきじゃないよ。どうやったか分からないけど」
「はい。……私は生まれ落ちた瞬間より十五年と余、一日とて欠かすことなく『死』を食して内に取り込み、濃縮し続けた呪いの器。
 食して取り込む魂が本物か偽物か、違える事等御座いませんので、どうぞ御安心を」
 魂に真偽はない筈だ。アドレは詩織を見詰めてから「お前も苦労したんだな」とぽつりと零した。
「僕も器だよ。僕も聖人の骨と死が混じり合って出来たただの紛い物だ。お前、僕と同じなのかも知れないな」
 だからといって、加減するわけでもない。蓄積されていた騒霊達がざわめき暴れ始める。その悍ましさは遂行者との戦いにまで響くだろうか。
 させてはならないと『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は認識していた。何処に居たって、それらは邪魔になる。
「君たちには……本当のこころは……もう、ない気がする……元のところに帰れるように……ここに居ちゃいけないんだよ……。
 安心できて……飢えない場所……平和なところに居たいんでしょ……ここは……真逆……戦場だから……」
「それを作る戦いなんだよ」
 アドレはレインをじろりと睨め付けた。何かを得るには戦わねばならないのだろうか。先行く仲間を支えるレインは「そう……」と目を伏せた。
 遂行者を作り上げたルストは今だ高みの見物だ。彼がそうして居られるのも妨害として選ばれし民が存在するからだ。
「成程。理想郷に作り上げられた『選ばれし民』……ですか。
 此方の心を揺さぶる為だとは分かっていますが。神というのなら、紛い物よりもっと強力なものを創造すれば宜しいのに。
 案外そこまでのリソースは無いということなんでしょうかねぇ。本物は、唯一つだけ。ボクの心は揺さぶられませんよ」
「私とか、強力に可愛くない?」
 聖女ルルの言葉の軽さに『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)はつい笑みを零した。ああ、確かに遂行者は強力だ。
 有象無象の雑兵にまでルストが手を裂いていられないのも確かなのだろうが、カロルが口を挟んだタイミングは『ルストが怒り出す』事への先回りのようにも思える。
(……成程、聖女ルルは戦場のコントロールもになっているとでも言うところでしょうか)
 ひらりと舞うように飛翔する。手にした慈悲の刃は鋭く騒霊達へと突き立てられ、道を拓かんと雷を帯びてその奔流が命を毟り取る。
 チェレンチィがひらりと身を返すのは敵が最も集結した場所だ。その場へと飛び込んで行くのは『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)。
 何とも選ばれし民など大仰な名を付けられた雑兵だ。何処から見たって彼等はただの創造物に過ぎないというのに。
(そうだ。それでも何かを思い動く者が居る。遂行者や冠位に何かしたい人間がいる。ならば私は彼らに邪魔が入らぬよう壁となりましょう)
 強靱な肉体は盾となる。鍛え抜かれたその身体は痛みを恐れる事も無い。ボディは静かにそれらと向き合った。
 喩え言葉を交わせぬとて、己を鼓舞するのは己の信念だからだ。
「有象無象、此処から先は行き止まりです。進みたければ、超えてみろ」
 堂々と告げるボディの側から飛び込むように前線へと躍り出る『紅の想い』雨紅(p3p008287)は選ばれし民に、騒霊に、と向かい合った。
(全てを享受は出来ない、それに反論はできない。でも、私は憧れという願いを得て、個として動き出したもの)
 冠位傲慢には人との繋がりも、誰ぞを思う願いも無いのか。ただ、『己を神であると定義する』為だけに動いている。
 なんと空っぽで虚しいのか。彼にはそうした信念も何もかもがないのだろうか。
「私にとって、願いこそが人を動かし、人を繋げうるもの。持つことすら否定するならば、抗うのみです」
 雨紅は苦しげに眉を寄せ、戦場にて足を踏みならす。舞も武もその双方を背負う軽槍の先が民のその身体を切り裂いた。
「え?」
『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)はぱちくりと『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)を見た。
「行きますよ! ムサシさん!」
「りょ、了解であります!」
 何故かルストに向けて精霊雑草ムシャムシャくんを仕込もうとするユーフォニー。カロルが「え、まじおもしろ」と呟いたのは気のせいではない。
「ぶふ……顔の良い男にオオイヌノフグリのムシャムシャくんが迫ろうとしてる……」
「キャロちゃん、笑ってる場合?」
「私、ルスト様に花冠被せてダンスするの夢なのよね」
 ルストがじらりと睨め付けた。カロルは「ファンサだー!」と燥ぎだし、ルル家は慣れたものだと肩を竦める。
 戦場にしてはあまりにも緊張感のない者達だ。だが、彼女達が壁になるの確か。そして、ユーフォニーの『話』をルストが聞いていないのも確かである。
「貴方がルスト・シファーか。
 苛立ってるところ失礼。ユーフォニーが貴方に聞きたいことがあるそうなので……お話、付き合ってもらうであります。
 残念ながら……そちらに拒否権は無いでありますけどね!」
「お近づきの印の雑草ってことね!?」
「聖女ルルは静かに!」
 ムサシに注意されてからカロルが「面白すぎるんだもん」と腹を抱えて笑い始める。ああ、本当に調子が狂う。
「さっきぶりです、ルストさん! お近づきの印の雑草ムシャムシャくんです!
 それで、終焉ってどんなところですか? 何があるんですか? 誰がいますか? 答えてくれるまで嫌がらせしに来ました!」
「……」
「無視ですか!? さておき私は終焉に行きたいのです」
 彼を倒しきらねば先に繋がらない。だが、出来るだけ何かを知りたいと云うのがユーフォニーの考えだ。
「終焉がどんな危険な地であっても、我々イレギュラーズは行く。お前を倒して終焉に赴き、『終わり』を乗り越える。
 だから諦めろ冠位魔種。俺達は……かなりしつこいぞ!」
「それって、雑草ムシャムシャくんも!?」
「聖女ルルは黙って」
 ムサシが目くじらを立てればカロルはくすくすと笑った。
 終焉。その地の名を聞くだけでルストは僅かな苛立ちと底知れぬ嫌悪を醸すような気がした。
(本当に……その地は、何があるのだろう……?)
 ユーフォニーは彼の返答が聞けるまで粘り続けると決めた。

成否

成功


第1章 第17節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
トール=アシェンプテル(p3p010816)
男の矜持
リゴール・モルトン(p3p011316)
司祭

●前哨戦XVI
「……ああなるほど、道理です。やはり傲慢である者はそう言う事なのですね……。
 羽虫である私になど興味なんて持たなくて結構だったんです。ああやっぱり羨ましいな……」
 ぎゅうと拳を胸の前で作った『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)は俯いた。その傲慢さを見習うことが出来れば己も変われたのだろうか。
 そんなことを考えてしまうほどに、シュテルンには己を保つべき支えが存在して居なかった。
 特異運命座標としての奇跡も自分の可能性も、それを傲慢にも縋って良いかとも考える。これが己の在り方だと理解している。
(……大きな敵に挑む時に自分の力を信じないと何も出来ないって気付いたんだ。私なんか、私なんかって言ってる場合じゃない。
 見捨てられたって見放されたって、ずっと幸せでいて欲しいと願う人々の顔が歪むのはもう嫌だったの。
 私の身勝手な願いだ、私の身勝手な決意だ。私の身勝手な覚悟だ。それでも――)
 シュテルンが決意と共に進むと決めたその傍らに『薔薇冠のしるし』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は立っていた。
 神霊の淵、それが遂行者の命だと知った。リュコスはゆっくりと向き直る。ルストの側に、彼女がいた。
 必要以上の干渉は彼女を危険に巻込むだろうか。「ルル」と呼び掛ければ「リュコス」と彼女は当たり前の様に応じる。
「会えたよ」
 リュコスのその言葉にカロルはただ、普通の友人のように「そう、良かったわね」と言った。啓示の乙女は確かに道を示してくれていたのだろう。
「それと、ごめんね。ルルがルストのことを大好きなのはわかってるけどやっぱりムカつく気持ちが止められないから絶対ぶん殴る!」
 世話になったのだから先に断っておくのが大事だと、リュコスが律儀に告げてから「あ、ついでにルストのいいところ知らない?」と当たり前の様に聞く。ルル家は「お」とリュコスを見た。つまり、何か知られざる能力を問うたつもりなのだろうが――
「顔面が良すぎて特殊能力だと思う」
 ――などと、カロルは真面目な顔をして返したのだった。
 そんなあっけらかんとした聖女の元に向かう『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の背を追掛けていたのは『至高のシンデレラ』トール=アシェンプテル(p3p010816)であった。
 悲報:その場の勢いで『ここは任せて先に行け!』したら本当に置いて行かれてしまったトール=アシェンプテル。
「あ、マリエッタさん居た!」
 マリエッタがカロルを目指す。その道中の支援を行なうのがトールの役割だ。カロルに肉薄し、その攻撃を加えるという作戦は耳に為ていたが、彼女の元に向かうにもこの乱戦状態の戦場では何分敵の頭数が多いのだ。
 何せ、カロルはほぼルストの側に立っているのだから。『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)は穏やかに微笑んで先に立つカロルを見た。
「ごきげんよう聖女ルル、豊穣ではよくも暴れてくださいましたね?
 今回はそのお返し……というわけではございませんが私の悪友がどうしてもとおっしゃいましてね?
 そうそう尻尾が気になってらっしゃいましたね? 触ってもいいんですよ? ……なんて、冗談です」
「え、冗談なの? お前は妙見子と言ったかしら。尻尾はつるつる? それとも案外ふわっとしてる?」
「……戦場でそれを気になさるとは思いませんでしたが」
 妙見子は仲間達の盾の役割だった。カロルの周囲に張り巡らされた糸が気にも掛かる。それはルストを護り、そして何かの意味を持っているのだろう。
(……あぁ……カロル様。その瞳は私もよく知っています。熱を帯びた、恋慕の瞳。
 どうあがいてもその恋はきっと成就することはなく、それでも想うことはやめられず……私と同じように)
 何れだけ愛おしいと願えども、きっと彼女の恋は叶わない。先を見据えた妙見子と、停滞するカロル。そこには違いがあるようで――
「カロル」
 呼び掛けたマリエッタは藪を突くのだと敢て声を張った。カロルまでの距離はある。
 有象無象が多くなる。其れ等を蹴散らす『未完成であるほうが魅力的』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は「もー、マリエッタちゃんってば、大人しくしてくれてる蛇ちゃんをつっつきたがるんだから」と笑った。
「でもわかるわぁ、だって、ルルちゃん、お顔とってもかわいいものね、可愛がりたくなっちゃう。
 セレナちゃんも、まだ、前のめりはダメよぉ お楽しみは取っておかなきゃ。はじめまして、もうすぐさよならね、ルルちゃん」
「あら、可愛いって言ったからお前のことは好きよ、名前教えろ、女」
「女って、メリーノちゃんよ」
「メリーノちゃんね、よろしく、聖女よ」
 ふんぞりかえったカロルに「キャロちゃん」とルル家が肩を竦め、武器を構えた。マリエッタはルル家がカロルの庇い手である事にも気付く。
「本気のぶつかり合いはまだ先ですよ。カロル。この戦いはまだ続きますね。……盤石に、確実に、必然を掴み取らせて頂きます」
「そ」
 カロルを見ていればアレフは側には居ない。だが、アレフの気配は――ルル家か。自らにもそれは分け与えられているがルル家の方が強大な力を有しているとも気付く。
(……本来はカロルにあるはずの物はルル家さんが……? 成程、派手に動いた方が良いか)
 マリエッタはカロルに向き合い、自らを守る『死血の傍ら』セレナ・夜月(p3p010688)の背後から声を張った。
「しかしカロル、私は貴方に自分の意志で……花園で選択を示せませんでした。今度はちゃんと示そうかと思いましてね」
「それ、今聞かせてくれる?」
「いいえ、それは後ほどに」
 ――遂行者を全て終らせる。それは冠位傲慢ルストの死を意味しているとマリエッタは認識していた。
 胸中では『別の事を考えて居る』が、提示するのはそれでいい。後腐れ無くて構わない。
「ご機嫌よう。マリエッタがお世話になったみたいね」
「お前は?」
「わたしは盾。わたしは結界――『夜守の魔女』セレナよ。魔女の力を見せてあげるわ!」
 マリエッタを守るセレナを見てからカロルは「いいじゃない、いいじゃない」と手を叩く。
「どんな敵が来ても、例え竜が相手でも守り抜いてみせる。わたしはマリエッタの隣に居るって誓ったの、どこまでもこの人についていくって」
 睨め付けるセレナのその言葉に薔薇庭園を思い浮かべたカロルは「ごめんなさいね、お前と私は初対面だから招待状の準備が出来なくて」と笑いかけた。
「けれど、お前の所にマリエッタは帰った。許して頂戴」
「……それでも、恐かったわ。長い間帰って来なかった。帰ってきたら死ぬかも、なんて知られて。無事が分かるまで不安だった」
「大事になさいよ。私には出来ないから」
 カロルを見てからセレナは「どういう――」と呟いた。言い訳のように飛び交う真空の刃。それはカロルの背後に浮かび上がった鋏がちょきりと音を立てたと同時であった。
 回復を行なう『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)は「カロル君」と呼び掛けながらも仲間達を癒し続ける。
「遂行者たちの言う理想郷、理想と掛け離れてるから怒ってるんだ。
 精一杯生きた人の経験も思い出も消費して、やり直せるからと命が軽くなっていって……
 カロル君は分かってるんだろ? 誰かを大切に思う気持ちは……命が軽くなると薄れてしまうんだ」
「違うわ。お前達が来なければこの場所では誰も死ぬ事も無く、やり直すこと何て無かった。
 私達から見れば『お前達が私達を傷付け、荒し、命を踏み潰した』の。それは立場が違うからこその意見よ」
 カロルを見てアルムはぎゅう、と鍵を握り締めた。それに理解も出来る、共感はしない。聖女ルル――いや、『カロル』がお喋り出るからこそ聞けた言葉でもあると『薔薇冠のしるし』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は感じ入る。
「会いに来た、ぞ、ルル。そこの性格の悪そうな男が、お前の惚れた男、か。
 ……まあ、確かに顔は悪くないが、目や口に、性格の悪さがこれ以上無く滲み出ている、ぞ?」
「男ってちょっとワルいほうが良くない?」
「まあ、好みは人それぞれだ、が……それと、約束のもの、だ」
 甘ったるいコーヒー入れた魔法瓶をカロルに投げ渡したエクスマリアに「有り難う」とカロルは笑った。
「顔は悪くないじゃなくて、めちゃくちゃに良いに訂正だけして」
「……それでその、ルスト、だったか。お前にも一つ、言っておく。
 此処、『神の王国』とやら。『神』か『王』か、一つに絞っておけ、なんだか馬鹿っぽい」
 カロルは「kingdom of God、つまり唯一神の治める国なのよ、エクスマリア」と楽しげに言う。
「私がルスト様と結婚したらお妃様って事じゃない?」
「……」
 エクスマリアは応えやしなかった。「うるせえ」と呟くグドルフはエクスマリアの目からしても調子が悪そうだ。脂汗が滲み、苛立ちと怒りに満ちている。
(……何だ……?)
 男が強靱な精神力を宿していただけなのだろう。カロルはグドルフを一瞥し、眉を顰めてから「ああ」と呟いた。
「アイツ……」
 その様子を見るだけでも『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は苛立った。「ムカついてきたな」と呟く。
「グドルフ・ボイデルを名乗ってたあの男、何のために出てきた? 動きも態度も言葉もハンパなんだよ。
 何かあんならサッサとしろよ。一から十までこっちが察して気を使ってやらないとイケないわけ?
 下手に出れない理由があるとしてもやりようってモンがあるんじゃないの? どうせ何かしでかそうにもお前一人じゃ無理だろもう。なあおい、聞いてんのか知らん奴」
 その言葉は『ダチ』と『恩人』を前にしても動かぬグドルフを見てのことだった。カロルは何かを言い掛けたがグドルフに制止される。
 男は正気と狂気の狭間にあったか。その姿の変容が始まるまでもう少しだ。聖痕が熱く燃え上がる。
「山賊」
 カロルの呼びかけを聞きながらキドーは「おい、聞いてんのか、山賊!」と声を掛けた。何時もならば「うるせぇ、ゴブリン」と頭でも弾くだろう彼にキドーは声を張る。
「お前なんで山賊で通用すると思ってんの?
 根っからの賊じゃねェのは最初から薄々分かってんだ。俺はお前と違って産まれた頃から否応無しにそういうモンで、年季が違うの。
 でもそうとして扱ってたのはダチだからじゃん。ダチでもねェ奴が賊で通したいならお願いするのがフツー筋だろ。
 空気読んで賊として扱ってくださいってさ……お前がそういう態度なら身内扱いする理由無いんだけど。知らん奴に気を使ってやる意味何?」
 そうだ、グドルフ・ボイデルは『賊』じゃない。海賊でもなければ、山賊でもない。彼は聖職者だ。
 キドーは彼と己が大きく違う存在であると感じてならない。側を見る、『この手を貴女に』タイム(p3p007854)に連れられ遣ってくる『司祭』リゴール・モルトン(p3p011316)が居る。
「……ルル」
 タイムは信じられない物を見るような顔をしてカロルに問うた。「何が起こっているの」と。カロルは首を振る。
「ううん、もうわかんない。も~わからず屋! グドルフさんが前に出てこないならこっちから行けばいいんでしょう!」
『動けない』理由があるのだろうか。彼は何かに抗っているような顔をしている。幾ら傷付いても絶対に退かないと決めたタイムは大切なものを取りこぼしたくないと唇を噛み――
「はいはい」
 あの人が、居てくれたらなんて思ったけれど。
 本当に来るのだから、嫌になる。
「アタイは人捜しに着てましてェ、ついでと言っちゃァ何ですが仕事もシッカリしますから~ネ?」
『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)に「夏子さん」とタイムが顔を上げた。カロルは「タイム、その男がお前の好きなやつ!?」と身を乗り出そうとしてルル家に堰き止められている。
「いいなあ」と零すカロルの声にルル家は何処か悲しげな顔を見せた。
「迎えに行くのも悪かーない かな!? なんつって。
 オラが領地でのびのびと暮らしてる子達はともかく もう一回…… ってのはイヤなモンだねぇ 悪趣味だぜ~」
 アドラステイアでの様子を思い出す夏子に「なんで」とタイムは問うた。
「タイムちゃんってばさ 手紙で伝えてまもなくコレだもの。ホントさぁ……面白い娘だよ ねぇっ!?」
 周囲を弾くようにして、助けにやってきた夏子はタイムの支えとなる。声を絶やさない。リゴールを一瞥しタイムは頷いた。
「タイム様……諦めてはなりません。声を、届け続けるのです!
 アラン。おまえは、山賊然としてなお、このように誰かに慕われている。人は簡単には、変われない。おまえは、誰かを愛する事をやめられない!
 山賊グドルフ。神に背き、人類の敵となったお前は、この場で滅ぶべきなのだろう……それでも私は、愛する友を救いに来た!
 レプロブスは己の過ちに気付いたぞ!! あとはおまえだけだ!! あの日語らった夢の続きを──共に、また三人で……!」
 リゴールが手を伸ばす。
 だが、グドルフは応えず「良いんだ」と囁いた。
「もう、良いんだよ」
 クソハゲなんて言わず。男は唇を吊り上げる。
「分かってんな、リゴール」
 その声音に、分からないと返してしまい気付かぬふりをしてしまいたかった。
「テメェの前に居るのは――」
 愛する男だ。アラン。家族だ。
「『山賊』グドルフ様だ!」
 男の姿の変容にカミラが眉を顰めた。
「ああ……」
 カミラが唇を震わせる。彼も、そしてその側に居た聖女カロル・ルゥーロルゥーとて。
 無実の娘が処刑される現場に居合わせた女は一介の騎士でしかない。女の処刑を食い止める事も出来ず、そして生徒の『反転』を食い止めることも出来やしない。
「当時を知っている私がお話をしても?」
「『今』はいらないわ。アーデルハイト、そう、何を語られたって――『私は死んだ』のだから」

成否

成功


第1章 第18節

メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
プエリーリス(p3p010932)

●前哨戦XVII
 ロイブラックの神霊の淵はブーケに生み込まれている。幼い少女が死する事が無ければ彼は生き長らえる、とそういう事か。
 だからこそ、ブーケを殺さねばならない。それは「酷い話じゃん?」と『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は答えることしか出来まい。
「フフ……何も知らないから、私ちゃんが戦いに専念できるぜい。鬼バイブスぶち上げていってみようぜー? うぇーい!
 目立ってアガってマジ卍! 行くぜふおぉー! この出会いを楽しむべー!」
「うぇーい」
 軽やかに笑った小さな少女。正直を言えば、彼女についてもっと話して知ってやれば良かっただろうか。
 秋奈は真っ直ぐに向かい敢て『その名』を名乗り上げた。相手はブーケだと名乗るだろうか――本来の名は違うだろうに。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! この怪異の巫女は倒れないと思え!」
 不憫になど思ってはいけない。秋奈は地を蹴りブーケに肉薄する。その腕も、その身体も人間のものであろうに、痛みを余りに感じさせない。
 神霊の淵である少女を無防備にロイブラックが晒しているだろうか。もしかすると彼は『自らの手にも持っており』、二等分して居るという事だろうか。
(……どちらにしたってロイブラックは次、だ。ブーケさんを倒せば、彼を倒す機会は必ず巡ってくる)
 幼い少女を『利用』する事への忌避感は『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)も感じていた。
「俺はやろうと思えば『本命』の声も出せるよ? ……出してやらないけどな。
 仲間は渡せないし、音楽を冒涜するお前は許せない。この世から消えろ」
「ならばブーケを殺すと良い」
 苦い表情を見せた。何を余裕を滲ませているのか。ブーケが死したならば、長くは持たないだろうが、牙を立てるつもりだというのか。
 ロイブラックを前にしたイズマは仲間――そう、ロイブラックの本命たる『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)の姿を見た。
(……この男は屹度、星穹さんを手に入れる為ならばどんな事だってする)
 行く手を阻むことがイズマの役目だが、それ以上に彼の余裕を崩さねばならぬのも確かだ。
 ブーケには心臓を半分入れ込んだ神霊の淵が、そして彼の余裕の源は――ルストにでも頼んでそれを分割し己が持っているのだろうか。
 セナ・アリアライトは「ロイブラック、お前の眸は『何だ』」と静かに囁いた。
「さあ」と男が返す声音を『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は逃さず聞いている。
「この後、ロイブラックさまを……はい、覚悟は出来ました」
 そう呟いてからブーケへと渾身の魔力を叩き込む。それは抗うことなき死が待ち受けているのだ。
 メイメイは悔しげに眉を寄せる。こんなにも純粋で、こんなにも愛らしい少女が死に瀕する。己の魔力を真っ向から受け止めても尚、掻い潜るように伸ばされるブーケの掌はメイメイの腕を掴む。筋が痛みを叫んだ。
「ッ――ブーケさま。生きていたいと、願うあなたに手を掛けるわたしを、許して欲しいとは言いません。
 ロイブラックさまから、ブーケさまを自由にします。おうちに、帰れるよう、に」
 少女は家に帰りました、なんて御伽噺ならば幸せであろうその言葉を『無情なる御伽話』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)は思い浮かべる。
 側に居た『母たる矜持』プエリーリス(p3p010932)は母親であると言う『在り方』が強まっているように思えた。
 ミザリィは母からは目を離さない。彼女は平気で自らをも犠牲にできる。何かあったとしても、母親は『子を受け入れる』ものだろう。
 今までプエリーリスがミザリィにしてくれるのも、そうした『彼女の在り方』だった。
「ブーケちゃん、貴女を愛しているのはロイブラックだけではないわ。
 私も……貴方のママになってあげたいくらい、貴女を愛しているの。貴女がお腹ばかりを狙うのは……此処に還りたいからかしら?」
 胎児が育つ場所。それが母に愛された最後の記憶なのだろうか。プエリーリスが問えばブーケは「わからない」と首を振った。
 産まれた時から、彼女はずっと、ずっと分からないことが多かったのだろう。誰かに愛された記憶だって。
 兄は突然居なくなって仕舞って、独りぼっちになった。そんな彼女を愛してくれたのは――ロイブラックだけだったのだろうか。
「いいのよ」
 プエリーリスが手を差し伸べる。その腹にブーケの腕が突き刺さる。抱き締めるプエリーリスの身体が揺らいだ。
「母としても女王としても、その誇りを汚させません」
「……ええ、そうね」
『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)はそれでも尚も離れようとするブーケを見ていた。それは人間の生存本能でもある。
「ロイブラック。ここに至って俺達がブーケ殿を害しないと思っているとしたら甘く見られたものだね。
 今更少女を手にかけることを恐れて更なる災厄を呼び込むような行いは認められない……無垢な少女すら手にかける覚悟はもう済んでいるよ」
「雛は飛ぶことを躊躇っているが?」
 ロイブラックの嘲る声を聞きながらヴェルグリーズはゆっくりと剣を抜いた。
「いいや、覚悟は出来て居る。お前の在り方を許容できないからだ。
 ……ブーケ殿も精いっぱい生きようとした結果なのだろう。その思いに共感する心を利用して自分の命を守っていたんだ。
 ロイブラック、本当に虫唾が走る、その報いはすぐに受けてもらうよ」
「ええ、ええ」
 星穹は頷いた。幼い子供に、『娘』の姿が被さって仕方が無い。
「生きたいと思えることが、どれほど尊いことか……生きてほしいと願われることが、どれほど幸せか。
 ブーケ。貴方の命を摘まねばならないのは、きっと――私が、生きているからなのでしょうね」
 生きていたかった。生きていたいから、戦わねばならなかった。星穹は苦しげに眉を寄せて息を吐いた。
「私だって。生きていたい……ねえ。私は冷たいですか。
 ただのひとつも心を持たぬ人形と同じに、思いますか? 私の温もりは、嘘だと思いますか」
「おねえさん」
 血濡れのブーケが顔を上げる。「あたたかいね」と笑う彼女の掌が、僅かに触れる。身体が、傾いだ。押された肉体を支えるヴェルグリーズが「星穹」と呼ぶ。
「セラ」
「お兄様はロイブラックを!」
 星穹はセナに声を掛け、ただ、ブーケと向き合った。ヴェルグリーズは、心を封じる。
 少女に同情して、刃を曇らせて等居られない。痛い時間が少ないように、傷だらけになって笑う事が無いように。
「ブーケ、キミにさようならを言いに来た」
 ヴェルグリーズは静かに告げた。刃がブーケに突き刺さる。星穹は引き攣った顔をした。
 ああ、だって――貴方だって心が痛む。ぐらりと傾いだブーケの身体を抱き締めたのはプエリーリスだった。
 じくじくと痛む腹。それでも彼女を利用し未だに『細工をして生き延びようとするロイブラック』も、全ての始まりであるルストも、許してはならぬのだから。
「あのね、ブーケ。お兄さんが待っていました。貴方のお兄さんが、私の兄のすぐ近くで……何か、伝言はありますか?」
 問うた星穹にブーケは「んーん」と眠たげに眼を擦った。死には遠く、壊れかけた玩具のような、そんな少女。
 まるで眠るように、これからその命をそっと終えるのだ。
 メイメイはそっとブーケに手を差し伸べた。夢を見せてやりたい。
「ライナスさまとディアスシアさまがいて…マートルさまを、抱きしめてくれて、小さな幸せに包まれる、そんな優しい夢を見せてやりたいのです」
 亡骸も兄へと持ち帰りたいと告げるメイメイに星穹は「そうしましょう」と幼い少女の頬を撫でる。
「ねえ、ヴェルグリーズ、私達、上手く送れたでしょうか……うまく、眠らせて、あげられたのでしょう、か」
 少女の亡骸に剣を突き立てたのはその心臓が『遂行者の心臓』だったからだ。渋い顔をしたロイブラックは「あと一つ」と呟いて胸を押さえる。
 ああ、なんて――なんて酷い人だろう。メイメイはそう思いながらも小さな少女の冥福を祈った。

成否

成功


第1章 第19節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
金熊 両儀(p3p009992)
藍玉の希望
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

●前哨戦XIX
 目的は攪乱である。『群鱗』只野・黒子(p3p008597)はリスティアヘの攻勢で敢て『彼女の意識を余所に仕向ける』事をベースに作戦を組んだ。
 リスティア・ヴァークライトは親友未満(オウカ)を失ったばかりだ。だが、それ故に、その攻撃が痛烈になる事は確かだ。
「交戦します」
 静かに告げる黒子に従い前線へと向け進むのは『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)。
「幸潮によくもやってくれたわね! これ以上やらせない!
 平和な世界は私だって、ほしいわよ! だから、こうやって戦ってるのよ! あんな停止した理想郷を私は平和と呼びたくないわ!」
「私も同じだよ。私にとっての世界が理想郷だった! それを壊せば私の弟も、母も死んでしまう!」
 それは本物の『スティア』にはないものなのだとリスティアは声を張る。レイリーは歯噛みした。共に征く『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)と言えば己の傷を確認してから「許さんぞ」と囁く。
「地獄の底から舞い戻ったぜオウカァァ……汝よォ………え? あいつ死んだ? マ? ッスゥ……マジじゃん……うわいい感じに逝ってら……
 なら、ば……ああ、仕方ない。美しき終わりを崩すことは我でも躊躇する。だから……憂さ晴らしと行こうか!!」
「どっちが悪役かなあ」
 リスティアの鈍い笑み。そして、降り注いだのは幸潮の一撃だ。だが、それはリスティアと肉薄する仲間全てを巻込む者となる。
 レイリーとて例外ではない。前方からはリスティアに、そして後方からは幸潮に攻撃を叩き込まれた事となる。
 無論、立ち続けることは難しかろう。出来うる限りの戦線維持を講じる黒子は「回復を」と指示をする。
 小さく頷いたのは『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)。攻め手をまえのめりにすることは意味がある。もしかしたら、を増やす事は戦法を広げることとなる。
 故に、こうした乱戦状態ではどの様に戦うかを定義し、そして、戦術を組み合わせなくてはならないのだ。
「大丈夫。攪乱役ならなんとかなるよ! 此の儘、前のめりで行くよ!」
 フォルトゥナリアに頷いて、レイリーは再度前線へと飛び出した。『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)と『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は自身等の位置を示し合わせ、リスティアを狙う。
 相手は一角が欠けたばかり。そして、退路もなくなったリスティアが狙うのが誰なのかも良く分かる。
「ほな、追撃いきまっせ」
 囁く。彩陽は弓を構え、矢を番える。希うのは何のためか。彩陽の矢は鋭くリスティアの肩を貫いた。白を纏う娘が悔しげに唇を噛み締める。
「光煌めき魁の暁。夜明を招く為に! 今此処にいるんよ!」
「私だって夜明けを求めていた!」
 彼女の言葉は敵ながら人間らしい。聞けば、遂行者の娘は『本来の歴史では得がたい者』を手にしている。
 それが本物(スティア)の知らぬ母であり、弟である。産後の肥立ちが悪い母は、死した。当然、弟も産まれていない。
 彼等を見て、守りたいと希った彼女に全てが間違いなどと彩陽も言葉にも出来まい。
「ありゃ神の為の意地じゃねえな……容赦はしないが、悪い事言っちまったな」
 ぼやく『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)。遂行者はそれぞれの思惑があるのだろう。
 其れ等全てを手に取るように理解は出来ず、全てを寛容に受け止めてやることも出来まい。周囲を囲うアドレの騒霊は支援を行なうように点在していた。
 其れ等を全て受け止めるように牙を向く。命を奪わない『訳』にはいかない。だが――
「すまんな。アレは覚悟持って戦う奴に言う台詞じゃ無かった」

 ――ああ、知り合いの顔に似てて疑問に思ってたが『紛い物の木偶人形』って訳か。

 リスティアはマカライトを見てから笑った。「私は良いよ」と。
「でも、ルルちゃんには言っちゃダメだよ。私ね、ルルちゃんとずっと一緒に居たから分かる。あの人はもっと人間らしいんだ。私より」
 どう言う意味だとマカライトが問おうとした、が、その声音をも覆うが如く剣げ振り上げられた。
 一度後退したレイリーが再度飛び込む。その横面へ、『黙示録の赤き騎士』ウォリア(p3p001789)が滑り込んだ。
「勇壮なる騎兵隊が長、かの女史ばかりを気にするとは……傲慢を冠する割には全く以て一途な事だ、実に妬けるものだな!
 ならば否応無しに『こちら』へ振り向かせてやるとも。『つれない』神の喉笛に刃を突き立てるつもりまではない!
 だが、此の戦場に数多集う英傑にも、我が道は譲らぬ」
「私も、神様に何てなりたくはなかったから。けど、皆の所為だよ!」
 リスティアは本当に生きた人間のようだった。ウォリアは振り返る。『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)そのものだからだ。
 自らに募った復讐を以てリスティアと斬り結ぶ。その身体は最早傷だらけだ。スティアを見れば、彼女は苦しげな顔をして居るではないか。
「だって、皆揃ってリーダーの話するからだよ。ルスト様ってそういう所有るんだから」
 笑うリスティアに「貴女は本当に人間らしいね」と雲雀は囁いた。
「それにしたって露骨に名指ししちゃってまあ。
 そういうご指名は自分の器の小ささをアピールするようなものなのに。主を選べない騎士というのも大変だね、リスティアさん」
「ううん、私を騎士だと言ってくれただけでも、嬉しい事だよ」
 リスティアは笑った。親殺しの災禍の騎士。疎まれる自分でも最後は『彼女』と共にあれた。
「だから、良いんだ。これが私の最後の戦いだ!」
「ああ、そうだね。殺すならしっかり殺せ――前にそんな話をしたね。
 でも貴女を殺すのは俺じゃない。俺の持つ権利じゃない。だから悪いけど貴女を殺しはしないよ……足は引っ掛けるけど」
 いじわる、と。銀色の髪が揺らぐ。スティアは「リスティアって、私に似てる様で違うのかなあ」と首を傾いだ。
「貴女はお父様を殺めた事を後悔しているよね? 藻掻いている貴女は助けてって言ってるようにも思えるから……
 そして幼い頃の私を見ているようなんだ。
 そんな子に手を差し伸べられたら良いなと思ったのが聖職者を目指したきっかけ……だから余計に助けたいって思うのかな?」
「きっと、スティアは私だから、分かっちゃうよね」
「そうだね。こんな戦いなんて諦めてくれたら良いのに、どうして向かってくるんだろう? って思ってたけど。
 私だからしょうがないよね。諦めの悪い所だけは全く同じだなんて……。
 だから、こうなったら最後まで意地の張り合いだよ! 貴女が諦めるか、私が諦めるか勝負だー!」
 ちょっとだけでも剣術は使えるのだと『父親を真似た』その太刀筋でリスティアに飛び掛かる。叔母が指南してくれたからこそ、似ているのだ。
 リスティアの唇が「お父様」と動いた。スティアも、リスティアも『アシュレイ』を愛していたのは同じ事。
「リスティア」
 呼び掛けるアリアの回復魔法がリスティアを包み込む。
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)はアリアを一瞥してからスティアを見た。スティアを心配している――それはオウカを倒したサクラだからこそだ。
(スティアちゃんは誰だって救いたいと願っている。でも、私がオウカにそうしたように、倒すしかない。
 でもスティアちゃんが割り切って倒せるかはわからない。
 いざとなったら……スティアちゃんが殺されそうになるなら、恨まれてでも私がリスティアを斬る。そう決めてたけど)
 サクラは「私の親友は結構強かったなあ」と笑った。『初恋患い』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は「あら?」と微笑む。
「強かった?」
「勿論。さ、戦おうか。リスティア。貴女の剣術は私に良く似てるね。オウカにも練習相手になって貰ったのかな?」
 サクラはゆっくりと欠けた聖刀を握り締めた。正当な剣技というよりもロウライトの剣技の面影が感じられた。
「貴方にとって、大切な人だったんだね。でもね、私にとってもスティアちゃんは大切だ。
 ねえ、スティアちゃん。彼女は強いよ……気をつけて。でも――スティアちゃんなら平気かな?」
 スティアはにこりと笑った。迷いが無いわけじゃない。けれど、覚悟は出来て居る。
『年下二人』が覚悟をしたことを見てからアーリアは小さく笑った。
「ねぇ、オウカが居なくなっちゃったわよ。寂しくない? 何も感じない?
 私の目にはね、オウカも、リスティアも少しずつ変わっているように見えるの。でも、貴女は何も変わらない。それは強くて――でも、脆いわ」
「アーリア。変われないのよ」
「ええ、そうでしょうね。お互い様」
 ブローチを一瞥してからアーリアは目を伏せた。本当に遣りにくい相手なのだ。
 彼女のブローチも。彼女の在り方も。まるで自分そのもの。メイクが下手で幼く見える彼女は、屹度、それだけの間に研鑽を積んできた。
 アーリアが国を捨てたように、アリアも家を捨てた。アーリアが特異運命座標となったように、アリアも遂行者となった。
「ねえ、ルルちゃん。やっぱりルストって、顔だけは認めるけど性格は屑だわ!」
「性格が屑な男の方が庇護欲枠って言わない? あと、結構優しいところ有るのよ!
 私がぺちゃくちゃ喋ってもルスト様は『囀るな』とか言わない。え、かっこい……言って欲しい」
「あ、ごめんね。ルルちゃんってそっちだったわ」
 アーリアは首を振った。本当に『カロルの盲愛』は精神の基盤のように思えてならない。
 それから、アリアだってそうだ。彼女はツロを愛していなくてはならない。そうその体に教え込まれているようで。
「ねえ、本当に酷いと思わない?」
「いいえ?」
「うそ。女の子の弱いところを勝手に暴くのよ。酷い男よ。
 ……でもね、大事なのよね。好きな人に貰った物は、どんなガラクタだって世界一の宝石にも負けなかった。
 貴女に――アリアにとっての何より大事なもの」
 初めて呼んだその名前はアーリアにとっての『本来の名前』だった。だからこそ、遣りにくい。
 意地の張り合いで癒やし手であるアリアは自らを支えられる。けれどそれはリスティアへの支えがなくなるのと同じ事。
「ねえ、リスティア」
 呼ぶ。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は向き直る。
「私は此処よ」
 囁くと共に、イーリンの旗は揺らぐ。
「それでも良いなら」
 イーリンの旗は光の刃へと変化した。
「私が相手になるわ」
「困っちゃうなあ」とリスティアは笑った。剣が刃を弾く。距離と詰め、腹を打たれたことで地を転がるリスティアが立ち上がる。
「此処を守らなくちゃ、私の護りたい物が消える」
「ええ、そう。私と同じね」
 イーリンは地を蹴った。擦れ違う。リスティアから滴る血潮を彼女は気にする事は無い。
 振り上げられた刃は見慣れた物に見えた。サクラに良く似ていたからだ。だからこそ、彼女の動きから推測できる。
 リスティアの剣術は粗削りだ。――攻める部分は分かる。
 イーリンがその体を地へと叩きつけた。呻く声と共にリスティアが肩で息をする。
「一言、聞くわ。
 それが聖杯として、啓示を受けた乙女として、貴方にできることだから」
 喉に向けた刃にリスティアはにこりと笑った。
「もう、抵抗しないからスティアと話しても良い?」
「ええ。それ位は」
 目を伏せったイーリンがゆっくりと振り返る。
 スティアにとっては慣れない剣だった。リスティアは確かに強かった――けれど。
「今でも殺したくはないけど……。それでも誰かがやらないといけないなら私がやるべき事だと思う。
 貴女の事を救えなくてごめんなさい、でも嫌いじゃなかったよ……友達になれたらよかったのにね」
「同じ顔で?」
「ががーん、それでも良いかもって。大丈夫。託された者は背負っていく」
 貴女が死んだ後に、守りたい未来の為に。
 リスティアがにこりと笑ってから俯いた。母の腕に抱かれることはどれ程に幸せだったかを屹度、スティアは余り知らないから。
「抱き締めて上げる。スティア。お母様がよくしてくれたの。
 イーリン、私はスティアに殺されたくないから、最後は頼むよ」
「……ええ」
 スティアをぎゅうと抱き締めてからリスティアはゆっくりと剣を置いて立ち上がった。
「アリア、頑張ってね」

 一部始終をただ、カロルは見詰めていた。
「ばかみたい」
 呟いたカロルは俯いてから、ふと、張り詰めたいとの気配に顔を上げる。
「ルスト様」
「……何だ」
「何か」
 カロルの唇が戦慄いた。刹那。
「チィッ! 届かんか! 鬱陶しい! 邪魔だ! 何故、戦わせてくれん!
 縁が無きゃ無理か?大義が無きゃ駄目か? 絆が無きゃ届かんか? 挙げ句にその口で違う名を呼びおる」
『藍玉の希望』金熊 両儀(p3p009992)は酷く苛立った。
「許せん、許せん、許せん。儂を観ろ、斬り合え、そん首を落とさせろ」
 ――その視界に、誰かが映り込む。
 ――カロルの糸が一本切れた。
 黒髪の少女だ。その一瞬にルストの視線が逸れた。
「儂を見んかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 両儀の双眸に映ったのはイレギュラーズ『だった』少女だ。
 彼女は遂行者。楊枝 茄子子(p3p008356)が其処に居た。

成否

成功

状態異常
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ

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