PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ローレット・ワークス

完了

参加者 : 379 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●漸く仕事が始まって……
 人は過ぎ去った平穏を、唯懐かしく思い返すのみである。
 どれだけ胡乱とした時間が長かろうと、いざ始まってしまえばそれも又懐かしい。
 まったく、ギルド・ローレットは蜂の巣を突いたような騒ぎであった。
 待ちに待たれた『仕事』の案内が来たのはつい先日の事。長い凪が嘘のように立て続けに舞い込む厄介事、厄介事、厄介事の山に、ギルド機能はフル回転している状態だ。猫の手も借りたいとはこの事で――力を持て余していた救世主達はと言えば、ここぞとばかりに熱心に依頼書や告知を読み耽っている。
「暇か?」
 そう問われれば断じてノーである。
 しかし、動きたい程動けているかと聞かれれば――それはまだまだだ。
 何せ、何ヶ月も待ったのだ。多少忙殺された位では収まるものも収まるまい。
 有り体に言えば、皆仕事がしたくてたまらない。
「よし、丁度いい。ギルド全体の仕事になるが――でっかいのがあるぜ」
 カウンターの奥で頬杖をつく『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ (p3n000002)のそんな言葉に、忙しなく動き回る特異運命座標達(イレギュラーズ)が視線を向ける。
「……でっかいの?」
「所謂、顔見世、お披露目営業ってヤツさ」
 言葉に首を傾げたイレギュラーズにレオンは軽く笑う。
「大規模召喚からこっち――多少の例外こそあれ、ローレットは幻想で活動してたからな。
 ここの連中は幾らか気安いが、そうでない連中も居る。
 要するに諸外国もオマエ達の動向には興味津々なのさ。散々、顔を見せろって督促されてかなわん。
 ……ま、彼等もクライアントになる連中なのは事実だからね。
 たっぷり勿体もつけてやった事だし、いい加減、オマエ等をお披露目するのもいいかと思って」
「と、いう事は――」
「そう」と頷いたレオンは「ちょっとした冒険だな」と嘯く。
「今回は、鉄帝(ゼシュテル鉄帝国)、天義(聖教国ネメシス)、傭兵(ラサ傭兵商会連合)、海洋(ネオフロンティア海洋王国)、練達(探求都市国家アデプト)何かを見て回る機会って訳。当然現地の見聞を深めるも良し、会うべき人間に挨拶するも良しだ。当面の冒険の舞台はこの幻想になるが、何れオマエ等も外へ目を向ける事になるからね」
「……深緑(アルティオ=エルム)は?」
「まぁ、連中は難しい所だな」
 イレギュラーズの指摘にレオンは肩を竦めた。
「迷宮森林の近くで、多少の接触は出来るかも知れないが――今回は奥には入れまい。
 連中は温和だが、ラサ以外とは殆ど付き合いがなくてね。ローレットのコネも無い。
 その辺はオマエ達の今後に期待するとして……勝手知ったる幻想も今回は主役じゃないが、『果ての迷宮』やら『国王と三派閥』やらに興味があるヤツはそっちに触れるのは構わんよ」
 長口上に咳払いを一つしたレオンはもう一度、面々を見直した。
「まぁ、オマエ達も暇な身じゃあるまい。身体は一つしか無いだろうから、どこか選んで貰う事にはなるが……今回に限っては比較的気楽な話と思っていい。
 気が向いたら、広き混沌を巡り、一つローレットを宣伝してきてくれたまえよ」

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 今回は一発目はイベントシナリオでいかせていただきます。

●依頼達成条件
・取り敢えず元気に帰ってくる事

●各国
 詳細なデータはゲームマニュアルをご確認下さい。
 この場では今回赴く事になる国々の簡易な紹介をいたします。
 PCは下記の何れかを選び、ローレット・ワークスをこなします。
 物見遊山でも挨拶でも、特異運命座標の宣伝でも行動は何でも構いません。
 偉い人に会いたい等の場合、面通し等は予めローレットが手配しています。
 引率(NPC)がその辺りを段取りしてくれますので可能という前提でOKです。
 ただし、どういうアプローチをかけるかはPC次第となります。

・幻想(引率無し)
 勝手知ったる幻想です。腐敗門閥貴族とファンタジーの国。
『果ての迷宮』という建国王が踏破を悲願した大迷宮が存在します。
 偉い人はフォルデルマン三世、三貴族等。

・鉄帝(引率カルネ)
 北の帝国。脳筋の楽園。大闘技場ラド・バウは闘技のメッカです。
 皇帝を倒せば皇帝になれるとかいう凄い国ですが挑戦しないで下さい。
 偉い人は皇帝ヴェルス、有名人はチャンピオン・ガイウス等。

・天義(引率アルテナ)
 白に染まった町並みが印象的な白亜の宗教的ディストピア。
(彼等基準の)正義と信仰に厚く、曲がった事は大嫌いです。彼等基準ですが。
 偉い人は国王フェネスト六世、騎士団長レオパル等。

・傭兵(引率レオン)
 砂漠の都ネフェルストを拠点とします。商会と傭兵団が結びついた緩い自治体。
 サンド・バザールには掘り出し物があるとかないとか。
 あ、ゴールドありませんね、イレギュラーズ!
 偉い人は傭兵団長ディルク、ハウザー、大商人ファレン、フィオナ兄妹等。

・海洋(引率オリヴィア)
 冒険と開拓精神溢れる海洋王国です。異国情緒豊かで貴族の喧嘩も何処か呑気。
 優れた航海技術を持ち、絶望の青の向こうを目指しています。
 偉い人は女王イザベラ、大貴族ソルベ等。ちなみに正月に水芸してた鳥です。

・練達(引率月原亮)
 ドームに覆われた都市。技術レベルは西暦2018年に日本より歪に上です。
 内部はマザーと呼ばれるコンピュータにより快適に制御されています。
 完璧に疑う余地もなく幸福ですね。
 偉い人は塔主のマッドハッター、佐伯操等。一番偉いカスパールは偏屈です。

・深緑(引率(一応)ラーシア)
 今回、恐らく入れません。迷宮森林の先に存在する大樹ファルカウが首都です。

●プレイング記述
 下記の注意を必ず守り、プレイングを書いて下さい。
 守られていない場合、本当に高確率でカットしますのでご注意下さい。

一行目:【国名】(漢字二文字版の国名を入れます)
二行目:同行者名(ID)(無い場合は不要。複数人で組む場合は【グループ名】でタグを作り表記して下さい)
三行目以降:自由なプレイング

●注意
 大抵の事は特異運命座標様のなさる事なので流してもらえます。
 が、どう考えても洒落にならない事態が推測されるような行動はお避け下さい。

●重要なお知らせ
 本シナリオは参加人数如何によってはリプレイ返却締め切りを延長させて頂く場合がございます。
 上記特別な措置を取る場合は、改めて本サイトの『おしらせ』等で告知させていただきます。
 予めご了承の上での参加をお願いいたします。

 各地に引率のNPCがついていきますが、単なる案内役です。
 今後のイレギュラーズの活動に影響を与える『かも』知れません。
 イベントシナリオは全員描写をお約束するものではありません。
 以上、宜しければお願いいたします。

  • ローレット・ワークス完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年01月29日 22時40分
  • 参加人数379/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 379 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(379人)

ルルクリィ(p3p000001)
断罪の竜精
スウェン・アルバート(p3p000005)
最速願望
ノイン ウォーカー(p3p000011)
時計塔の住人
ロザリエル・インヘルト(p3p000015)
至高の薔薇
夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ローリエ・オーネスト(p3p000018)
弱気な若執事
R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
リュスラス・O・リエルヴァ(p3p000022)
川越エルフ
ジュア(p3p000024)
砂の仔
アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
朝倉 まいち(p3p000030)
リザシェ・トグラフ(p3p000031)
花守
アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
ノアルカイム=ノアルシエラ(p3p000046)
絆魂樹精
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
心野 真奈子(p3p000063)
一ツ目
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
ロアン・カーディナー(p3p000070)
賊上がり
クルーレア・ヴェンシルト・アリスティーニ(p3p000082)
未来を映した瞳
ハイド・レイファール(p3p000089)
紫陽花の逢香
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
はぐるま姫(p3p000123)
儚き花の
オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
レンジー(p3p000130)
帽子の中に夢が詰まってる
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
アート・パンクアシャシュ(p3p000146)
ストレンジャー
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)
夢は現に
ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
リィズ(p3p000168)
忘却の少女
ヴェッラ・シルネスタ・ルネライト(p3p000171)
狐目のお姉さん
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
メド・ロウワン(p3p000178)
メガネ小僧
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
アリア・セレスティ(p3p000189)
特異運命座標
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
ルミ・アルフォード(p3p000212)
ルミナリアの姫
マリネ(p3p000221)
サンセットスワロウ
オリヴァー(p3p000222)
ディープスパロウ
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
レオン・カルラ(p3p000250)
名無しの人形師と
ダンデライオン=フワ=ダンタリオン(p3p000255)
水底に咲かず
エマ(p3p000257)
こそどろ
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
セララ(p3p000273)
魔法騎士
テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
戸口 彩音(p3p000280)
先を迷いし者
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ロク(p3p000306)
ユーイリア=ク=ジャイセ(p3p000309)
天の愛し子
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ルアミィ・フアネーレ(p3p000321)
神秘を恋う波
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
フィンスター・ナハト(p3p000325)
幻眼
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
アルバート・サン・ダームス(p3p000335)
従順な拷問神官
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
蜜姫(p3p000353)
甘露
雲野 杏(p3p000355)
特異運命座標
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
ウィリア・ウィスプール(p3p000384)
彷徨たる鬼火
ヴィルヘルミーネ(p3p000386)
うろこさかなびと
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
ギルバート・クロロック(p3p000415)
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
リリル・ラーライル(p3p000452)
暴走お嬢様
ティバン・イグニス(p3p000458)
色彩を取り戻す者
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
栂瀬・なずな(p3p000494)
狐憑き
銀城 黒羽(p3p000505)
エリック=マグナム(p3p000516)
(自称)海の男
嶺渡・蘇芳(p3p000520)
お料理しましょ
ジェームズ・バーンド・ワイズマン(p3p000523)
F●●kin'Hot!!!!!
ユリウス=デア=ハイデン(p3p000534)
破顔一笑
逢魔ヶ時 狂介(p3p000539)
きぐるいドラゴン
シェンシー・ディファイス(p3p000556)
反骨の刃
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
由貴(p3p000567)
刀使いの戦巫女
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)
屍の死霊魔術師
ロルフィソール・ゾンネモント(p3p000584)
金環蝕の葬儀屋
雲英 カミナ(p3p000587)
紅綿
歳寒松柏 マスターデコイ(p3p000603)
甲種標的型人造精霊
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
トラオム(p3p000608)
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ケント(p3p000618)
希望の結晶
シュクル・シュガー(p3p000627)
活菓子
キーリェ=V=ディアス(p3p000629)
鋼汗鉄血
世界樹(p3p000634)
 
オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
ソフィラ=シェランテーレ(p3p000645)
盲目の花少女
暁蕾(p3p000647)
超弩級お節介
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ナハイベル・バーンスタイン(p3p000654)
オクト・クラケーン(p3p000658)
三賊【蛸髭】
メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
江野 樹里(p3p000692)
ジュリエット
フィーリエ・アルトランド(p3p000693)
侵食魔剣
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
エスタ=リーナ(p3p000705)
銀河烈風
フロウ・リバー(p3p000709)
夢に一途な
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
ノア・マクレシア(p3p000713)
墓場の黒兎
プロミネンス・ガルヴァント(p3p000719)
潰えぬ闘志
モモカ・モカ(p3p000727)
ブーストナックル
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
オルクス・アケディア(p3p000744)
宿主
ルドルフ・ファッジ(p3p000757)
爪を隠した猫
コル・メランコリア(p3p000765)
宿主
エンアート・データ(p3p000771)
終ワリノ刻ヲ看取ル現象
メテオラ・ビバーチェ・ルナライト(p3p000779)
鉄華繚乱の風切り刃
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
アレフ(p3p000794)
純なる気配
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
オロディエン・フォレレ(p3p000811)
盗賊のように抜け目ない
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェニー・ジェイミー(p3p000828)
謡う翼
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
リルクルス・フェルンベイン(p3p000840)
獣の王
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
アーラ・イリュティム(p3p000847)
宿主
シャロン=セルシウス(p3p000876)
白い嘘
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)
幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
新納 竜也(p3p000903)
ユニバース皇子
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ユラゥ=ハワェシュ(p3p000919)
気ままに倣う者
クー=リトルリトル(p3p000927)
ルージュ・アルダンの勇気
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)
混沌の娘
ユウヒ アシガラ(p3p000953)
英雄の刀鍛冶
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
ナルミ スミノエ(p3p000959)
渦断つ刃
スガラムルディ・ダンバース・ランダ(p3p000972)
竜の呪いを受けしおばあちゃん
スリー・トライザード(p3p000987)
LV10:ピシャーチャ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
シキ(p3p001037)
藍玉雫の守り刀
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
久遠・U・レイ(p3p001071)
特異運命座標
狗尾草 み猫(p3p001077)
暖かな腕
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
オクト=S=ゾディアックス(p3p001101)
紅蓮の毒蠍
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
オズウェル・ル・ルー(p3p001119)
贄神
レイン・ラディア・クレイドル(p3p001124)
勇者魔王
紫月・灰人(p3p001126)
お嬢様に会いに
カザン・ストーオーディン(p3p001156)
路傍の鉄
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
モルフェウス・エベノス(p3p001170)
堕眠
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
幽邏(p3p001188)
揺蕩う魂
マリア(p3p001199)
悪辣なる癒し手
ノイエ・シルフェストーク(p3p001207)
駆けだし治癒士
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
ローラント・ガリラベルク(p3p001213)
アイオンの瞳第零席
リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)
咎狼の牙
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
フィオナ=バイエルン(p3p001239)
牛柄ガーディアン
ティシェ・アウレア(p3p001249)
空疎の宝物庫
ヨキ(p3p001252)
なんでも食べる
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
古木・文(p3p001262)
文具屋
トート・T・セクト(p3p001270)
幻獣の魔物
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
パン・♂・ケーキ(p3p001285)
『しおから亭』オーナーシェフ
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
花園 芽依(p3p001323)
フラワーマスター
トゥエル=ナレッジ(p3p001324)
探求者
葛西・城士(p3p001327)
セレン・ハーツクライ(p3p001329)
虹彩の彼方
コルヌ・イーラ(p3p001330)
宿主
カウダ・インヴィディア(p3p001332)
宿主
百目鬼 緋呂斗(p3p001347)
オーガニックオーガ
蔓崎 紅葉(p3p001349)
目指せ!正義の味方
黒杣・牛王(p3p001351)
月下黒牛
レーグラ・ルクセリア(p3p001357)
宿主
祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
桜小路・公麿(p3p001365)
幻想アイドル
フレイ・カミイ(p3p001369)
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
フルクオール・フォルクローレ(p3p001392)
特異運命座標
アト・サイン(p3p001394)
観光客
カイン=拓真=エグゼギア(p3p001421)
特異運命座標
ブラキウム・アワリティア(p3p001442)
宿主
ストマクス・グラ(p3p001455)
宿主
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
あずき・フェル・守屋(p3p001476)
見習い騎士
諏訪田 大二(p3p001482)
リッチ・オブ・リッチ
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ジョー・バーンズ(p3p001499)
シクリッド・プレコ(p3p001510)
海往く幻捜種
シーヴァ・ケララ(p3p001557)
混紡
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
エリク・チャペック(p3p001595)
へっぽこタンク
ナハトラーベ(p3p001615)
黒翼演舞
ジオ=トー=ロウ(p3p001618)
夢幻
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
サイード=ベルクト(p3p001622)
果てなき償い
雷霆(p3p001638)
戦獄獣
笠鷺 舞香(p3p001645)
はなちらし
七鳥・天十里(p3p001668)
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
ユズ(p3p001745)
狼の娘
メイファース=V=マイラスティ(p3p001760)
自由過ぎる女神
センキ(p3p001762)
戦鬼
ランディス・キャトス(p3p001767)
風雲猫
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
リカナ=ブラッドヴァイン(p3p001804)
覇竜でモフモフ
リモー・C・カークシー(p3p001806)
妖怪盗
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
アルク・ロード(p3p001865)
黒雪
朝長 晴明(p3p001866)
甘い香りの紳士
陽陰・比(p3p001900)
光天水
プティ エ ミニョン(p3p001913)
chérie
九条 侠(p3p001935)
無道の剣
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
神宿 水卯(p3p002002)
ムドニスカ・アレーア(p3p002025)
暗夜司教
リック・狐佚・ブラック(p3p002028)
狐佚って呼んでくれよな!
ズットッド・ズットッド・ズットッド(p3p002029)
脳髄信仰ラヂオ
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
長月・秋葉(p3p002112)
無明一閃
アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)
α・Belle=Etoile
ミーシャ・キュイ(p3p002182)
ただの手品師だよ?
シュー・レウ・ラルトス(p3p002196)
猫島・リオ(p3p002200)
猫島流忍術皆伝者(自称)
メリル・S・アステロイデア(p3p002220)
ヒトデ少女
ナイン(p3p002239)
特異運命座標
ガドル・ゴル・ガルドルバ(p3p002241)
本能を生きる漢
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
メルト・ノーグマン(p3p002269)
山岳廃都の自由人
ラァト フランセーズ デュテ(p3p002308)
紅茶卿
美面・水城(p3p002313)
イージス
Pandora Puppet Paradox(p3p002323)
兎人形
アリソン・アーデント・ミッドフォード(p3p002351)
不死鳥の娘
サブリナ・クィンシー(p3p002354)
仮面女皇
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
ヘレンローザ(p3p002372)
野良犬
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ニル=エルサリス(p3p002400)
リョウブ=イサ(p3p002495)
老兵は死せず
ファリス・リーン(p3p002532)
戦乙女
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ティラミス・ノーレッジ(p3p002540)
どうぶつマジシャン
あい・うえ男(p3p002551)
ほよもちクッション魔王様
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
XIII(p3p002594)
ewige Liebe
クァレ・シアナミド(p3p002601)
額面通りの電気くらげ
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
ぺリ子(p3p002675)
夜明けのハイペリオン
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
秋嶋 渓(p3p002692)
体育会系魔法少女
霧小町 まろう(p3p002709)
その声のままに
プリーモ(p3p002714)
偽りの聖女
カシエ=カシオル=カシミエ(p3p002718)
薔薇の
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
セリス・アルベルツ(p3p002738)
ギルドの王子
ネスト・フェステル(p3p002748)
常若なる器
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
ソフィア・マリ(p3p002850)
特異運命座標
ダレン・アドリス(p3p002854)
灰肌の
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
リジア(p3p002864)
祈り
ミランダ=グラディウス(p3p002905)
無双の老剣士
フルオライト・F・フォイアルディア(p3p002911)
白い魔女
ティスタ・ルーンベルグ(p3p002926)
白の書
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
カロン・カルセドニー(p3p003157)
深海の月
シャスラ(p3p003217)
電ノ悪神
レイア・クニークルス(p3p003228)
いかさまうさぎ
キーリ(p3p003303)
魔王の成り損ない
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
三崎 亮(p3p003441)
情報マニア
コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)
クロ・ナイトムーン(p3p003462)
月夜の仔狼
朝比奈 愛莉(p3p003480)
砂糖菓子の冠
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
シルヴィア・C・クルテル(p3p003562)
ノーブルブラッドトリニティ
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
棗 士郎(p3p003637)
 
セレスタイト・シェリルクーン(p3p003642)
万物読みし繙く英知
アルズ(p3p003654)
探偵助手
エレム(p3p003737)
虹の騎士
オルトグラミア=フラムウォール(p3p003844)
魔石泣かせのオリー
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
フィオリーレ・ヴェスパタイン(p3p004059)
鎧竜
小此木・絢斗(p3p004086)
無名のヒーロー
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
ミリアム(p3p004121)
迷子の迷子の錬金術師
白銀 雪(p3p004124)
銀血
リエッタ(p3p004132)
カレイド
エリニュス(p3p004146)
Liberator
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
エルディン(p3p004179)
よーいどん!
アリーシャ・エバーグリーン(p3p004217)
色彩
アイリス(p3p004232)
呪歌謡い
カシャ=ヤスオカ(p3p004243)
カイカと一緒
速武 瞬(p3p004244)
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)
幸せの提案者
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ロスヴァイセ(p3p004262)
麗金のエンフォーサー
神埼 衣(p3p004263)
狼少女
Ring・a・Bell(p3p004269)
名無しの男
ノブマサ・サナダ(p3p004279)
赤備
ミスティ=セイレム(p3p004280)
磔刑の片割れ
ー(p3p004294)
Nrvnqsr
百橋・薊(p3p004319)
オリヒカ・フィニス・フォリッド(p3p004338)
動き出した歯車
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
イーサン(p3p004429)
特異運命座標
フランチェスカ(p3p004432)
天翼
黒鉄 豪真(p3p004439)
ゴロツキ
ラ ラ ラ(p3p004440)
螺羅乱
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
根古屋 アンネ(p3p004471)
7号 C型(p3p004475)
シーナ
安宅 明寿(p3p004488)
流浪の“犬”客
アメリア アレクサンドラ(p3p004496)
願いを受けし薔薇

リプレイ

●幻想
 特異運命座標(イレギュラーズ)が無辜なる混沌(このち)に降り立ってそれなりの時間が過ぎた。
 最初は見るもの全てが珍しく、右も左も分からなかった彼等も――すっかりとここでの生活に慣れ始めていた。
 世界が彼等に下した一方的な命令(オーダー)は世界破滅を防ぐ為に、可能性(パンドラ)を集める事。
 その効率良い集積装置である所のギルド・ローレットに集ったはいいが、図らずも『準備』を待つ事になった彼等はその力を大いに持て余していたのだが――この程、そのローレットが冒険者となったイレギュラーズに仕事の斡旋を始めたのは記憶に新しい所だろう。
 かくて、ギルドマスターレオンは言ったのである。

 ――本格的な仕事が始まるんだ。世界を見て――ついでに宣伝もしてこい、と。

 即ち、それこそがローレット・ワークス。
 イレギュラーズにとってみれば、(気は早いが)史上最大規模のお仕事である。
 かくて、レオンの要請を請け負った各人は世界各地に散ったという訳だが……
「……あー……他の、イレギュラーズは、宣伝とか頑張ってるの……?
 ……んー……抵抗するのも、面倒だし……なんか、知らないけど、自分の体……好評、ぽいし……
 ……休むのにでも、使えば……?」
「お土産話くらいは耳に届くかな。……みんな、無事で楽しく過ごせていると、いいけど……」
 人を駄目にするクッション系のあい・うえ男を一瞥して、カロンはしみじみと言う。
 幻想の地図を広げ、決意する。
 知った顔の減った街をのんびりと散策するのも、ひきこもりの身にとっては大冒険のひとつ。始まりのお仕事だった。
 ギルドの扉をくぐるカロンを屋根に座ったナハトラーベが眺めている。
 もしゃもしゃとフライドチキンを頬張る彼女はサボっている――いや、仕事をしている。
 彼女の背には『ローレット』の文字の書かれたノボリが立って揺れていた。



「……」
 全身をボロ布に包んだ-が辺りをキョロキョロと見回している。
 決して十分な活気があるとは言い難いが……
 今日もそれなりの姿を見せている幻想王都メフ・メフィートを行くのはリィズだ。
(この世界に来て大分たったけれど、あんまりお外を出歩く機会もやる気もなかったし?)
 レオンの言葉は彼女にとっていい切っ掛けであった。
「街角にはたまーに、本当にたまーに顔出しはするけれど、他の、例えばお菓子屋さんとか、全然探したことがありませんでしたし?
 他所の国よりもまずはこの国のことをきちんと知らないとね♪」
 言われてみればそんなものである。彼女の場合、勝手知ったる近所は生活圏位なもので、見て回れと言われれば外国も幻想も大差無い。
 ならば、と幻想の見聞を深めようと思った者も少なくはなかった。
「観光だって、顔を売るのだってここで充分事足りるでしょ。好き好んで遠くまで行くなんてかったるいのは他の物好きに任せるよ」
 ルフナからすれば遠出は至極面倒な事だ。
 実際の所、好き好きこそあれ、目的も含めて気ままな時間はいいものだ。
「私は……この機会に、一度家に帰ってみようかと」
 そう言うノイエの脳裏に寡黙ながらに家族思いの優しい父と、おっとりして包容力に溢れる母の顔が浮かんだ。
 父はノイエを心配してイレギュラーズとして活動する事を反対し、母は逆に背を押してくれた。
 素直じゃない弟は「出来る訳ない」なんて言っていたっけ――顔を見たいのは、当然だった。
「自分は、初期の大規模召喚とやらより遅れて来ましたので。みなさん慣れていそうな幻想も、まだまだ不慣れで……」
「自分自身、学ぶことはいくらでもある身」と生真面目に言った珠緒にリィズは「似たようなもんだって」と軽く応じた。
(身の振り方を覚えておかないと、危ないかも知れないからね。
 虎の尾を踏むのは御免だねb。特に貴族の、要注意人物について知っておきたいし――)
 面々は別に知人では無いが、リィズは可愛い洋服や甘いものの店を、ルフナは猥雑さの無さそうな郊外を、ノイエは帰省、珠緒は学校の類は無いものか、そしてこのシラスは独自のコネクションを利用した『地元』の情報収集――興味の先は様々だが、今街を行くのは同じ。
(生きてる人間は色々うるさいし……)
 もし『人ならざるもの』の依頼を請けられるような事があれば面白い、とルフナは考えた。
「ここは活気があるねぇ。……へぇ、今日はイレギュラーズの御披露目なんですか。……ここだけの話、イレギュラーズってどう思います?」
 己がギフトと持ち前のセンスで見事に化けて溶け込んだイーサンが観光がてら、街行く人にそんな質問を投げている。
 街を見て回る面々の一方で、もう少し強い目的地意識を持った者も多かった。
 幻想という国の成り立ちの根幹に存在し、冒険者たる人間の冒険心をくすぐる存在は――言わずと知れた『果ての迷宮』である。
 多数のイレギュラーズが今回、この場所を見学しに行く事を選んだのは必然だろう。
「よーし、じゃあ張り切って果ての迷宮探索をしようか!」
 勝手知ったる場所とばかりに快活な声を上げたアトを秒殺で衛兵が却下した。
「入れないって? そんなー……」
 彼は如何にもガッカリしたという調子の声を上げたが、その声色には余り真剣味がない。
 当然である。苔むした巨大な遺跡の入り口を臨む一団の中で――彼は最も多くこのやり取りを繰り返してきたからだ。
 とは言え、ローレットのコネが利いている今回の『視察』は多少の公的効果があるのか、衛兵のアトに対する態度も幾らか甘い。
 つまる所、中に入れるかどうかは兎も角、様子を伺う程度なら十分にチャンスという事だ。
「……そうね……入り口の雰囲気……だけでもと思ったけど……」
 何処かぼんやりと呟いた幽邏の見た遺跡は、半径にしてニキロ以上はあろうかというとんでもないサイズである。恐らくは迷宮への入り口の存在する表層部だけでも王城にも劣らない巨大な遺跡が街の真ん中にあるという……中々思い切りのいい状態だが、成る程、この遺跡は多数の衛兵により完全に管理されているように見える。
「……果ての迷宮、やはり、一番気になるのはここですね」
「周辺の情報収集だけでも土産話には充分だしね」
 フロウの言葉に、威圧感と厳重な警備に逆に納得してしまったメルトが相槌を打つ。
「迷宮内部は観光できるほど安全じゃなさそうだが……何処かに秘密の入り口でも無いものか」
「あったら面白いよね。はい、お茶」
「ありがとう……ところで、何でアクセルは一緒に来たんだ?」
 たまり場にあった古めかしい地図に迷宮への誘いを感じ、何となくこの場所を訪れたウェールだったが、彼は彼に同行したアクセルの意図を知らなかった。
「普段行かない場所へ行こうかなーって。運送屋には意外と縁遠いしね」
 そんな風に応えたアクセルにウェールは「そんなものか」と合点した。
「……いつか本格的に探索する日が来るのかもね」
「パンドラを集めるなら、いろいろなことをいっぱいした方がいいもんね! はい、どうぞ」
 社交的なアクセルはそんな風に呟いたメルトにもお茶を勧めている。気分は軽くピクニックといった所か。
「何でも、この迷宮は数百年の時を経て、尚踏破されていないのだとか」
 一方で問うたフランチェスカに衛兵は「うむ」と頷いた。
「『果ての迷宮』の踏破は我が幻想の悲願とされている。
 この国家的事業に幾多の英雄・傑物が挑み続けておられるのは今も昔も変わらない。
 当然、我が主たるフィッツバルディ大公も……」
「成る程。許可や証明などの手続きは……かなり大変そうだ」
 フロウが苦笑する。言葉を半ば程まで聞けば状況は大体理解出来た。
 要するにこの場所は『冒険者垂涎の働き場』であると同時に『権威そのもの』なのだ。
 この衛兵はフィッツバルディ旗下のようだが、迷宮の警備には確実に『それ以外』が存在していた。
 恐らくは国中の貴族達がこの場所に私兵を振り分け、互いに互いを監視しているのだ。
(成る程、特別な場所には違いありませんね)
 衛兵の話に適度に調子を合わせたフランチェスカは己が能力で精霊との疎通を試みたが、その印象はてんでバラバラだった。
 この場所はひどく不安定で魔術的な影響が強いのか、他の場所に比べてそういった存在を『掴みにくい』。
「周りに危険な存在は感じられないように思いますが……」
 真奈子のギフトは殺気を放つ存在を関知しなかったが、彼女をしても何処か不思議な感覚を捉えたのは事実である。
 イレギュラーズ達がこの場所を訪れて得た情報と言えば、『迷宮の実物は兎に角ヘビー級だった事』と『迷宮の管理には多数の貴族が関与している事』と『恐らくはこの場所は何か魔術的な意味を持つ事』程度だが、翻って『スポンサーをまずつけなければ攻略は出来まい』という情報も導き出された辺りは十分か。
「冒険といったらやはりダンジョンです! まだ見ぬ財宝、未知の知識……モンスターとの激しい戦闘。心が躍るようですね!」
「色々調べてみるのも良さそうですね!」
 ルルリアがやがて来る冒険に思いを馳せ、『探求者』の名に相応しく好奇心に瞳を輝かせたトゥエルは少し思案顔をした。
 二人はこの迷宮の事を調べようとする目的は同じだったが、アプローチは大分違っていた。
 情報は人の集まる場所に湧くものだ……
(情報収集は酒場が相場と決まっているので、まずは色々なお話を聞きましょう)
『果ての迷宮』は遥か昔からこの場所にある大遺跡だ。調べるならば必然的に古書が要る……
(本といえば書斎か本屋か図書館か……でも秘密なのだとしたら、堂々とした表にはないはず!
 裏路地で面白そうなお店がないか探してみましょう!)
 ルルリアは早速市井で賑わっている酒場を目指し、トゥエルは取り敢えずの目的地を流行らない古本屋に定めた。
 しかし、意気揚々と考えたトゥエルは但し一点だけを失念している。
 それはあの本の虫――ドラマ・ゲツクが以前に国王に閲覧を所望した、恐らくは一番『芽がある』王宮図書館の存在であった。



 閑話休題。
 話の繋がりが円滑になった所で、舞台は王宮へと移る。
 当然と言うべきか『ローレットの営業』を任されたイレギュラーズ達は、放蕩王フォルデルマン三世の下へ出向く者も多かったのである。
 他の貴族連中と違って少なくとも彼は付き合いやすいタイプで――色々足りないが善良(と言うべきかは難しいが)な部分もある。
「親愛なる友よ! 良く来てくれた!」
 ……両手を大仰に広げ、歓迎の意を示す王様は、ローレットの働きかけが無かったとしても、恐らくは喜々としてイレギュラーズ達を出迎えたのだろう。
「お目にかかれて光栄ですわ、フォルデルマン三世閣下。わたくしは、はぐるま王国が姫君、はぐるま姫。
 混沌においては意味を持たぬ肩書きなれど、陛下の寛大な御心により謁見の機をを賜ったこと……人形たる我が身の心をも、強く打ちました」
「おお、異世界の美姫よ。私もこんな機会に感謝するぞ――ダンスの相手は難しいかも知れないが!」
 僅か四十センチ程度のはぐるま姫がスカートを持ち上げ優雅に挨拶すれば、フォルデルマンも玉座から立ち、貴公子の一礼をしてみせた。
 彼としては彼女も含めたイレギュラーズ達が沢山やって来たのが嬉しくて仕方ないといった風で、非常に御機嫌な様子であった。
「退屈そうだな、国王陛下」
「全くその通りだよ。変わらない日というものに嫌気が差す!」
「何なら一緒に外でも回ってみる……のは、流石に無いか」
 軽口めいてそんな誘いを投げかけたアートは玉座の横でギン、と目力を増した花の騎士(シャルロッテ)の眼光に肩を竦めた。
 王様本人は乗りかねないが、ここでそれは悪手という事だろう。
「何、出歩かなくても今日は退屈しないだろう」
 そう結んだアートは【七曜堂】の面々を見ていた。
 七曜堂は日によって店主が変わる実に珍しい店である。
 それだけでも退屈屋の王様は喜びそうだが、
「………アケディア」
「どぉも、ルクセリアと名乗っておりますぅ。よろしくお願いしますねぇ」
「……メランコリア。……よろしく、王様」
「……っ、イ、インヴィ……ディア」
「グラと名乗っております、お見知りおきを」
「アワリティアって……と名乗って……ます」
「以前は失礼いたしました。イリュティムと名乗らせていただいています」
「イーラと名乗ってるわ。一応、私達は店を構えている……といってもあまり縁のない品だろうけど」
「スペルヴィアと名乗らせて貰ってるわ? よろしくお願いするわね」
 ……今回その面々はご覧の通り、九人も纏めてフォルデルマンの無聊を訪ねたのである。これが喜ばない筈がない。
 加えて言うなら実の所『九人』という表現は正解では無いかも知れない。
『宿主の非礼はご寛恕いただければと』
『………』
『敬意が無いわけではないのですが失礼で申し訳なく』
『はっはっはっ、契約者が人見知りで悪いな!こっちはカウダというよろしく頼むぜ、王様!
 あと、こんな口調で申し訳ない。許して貰えるとありがたい!』
『姿を見せられぬ無礼には同胞ともども謝罪を……胃を模したストマクスと申します』
『両腕を模したブラキウムという! 敬語は契約者ともども苦手で聞き苦しかったらすまない!』
『翼を模したアーラと申します。今回はお会いしていただき感謝の限りです』
『角を模したコルヌという。防具や冒険の小道具に興味があればご用命を』
『血液を模したサングィスといいます、同胞ともどもお見知りおきを』
『宿主』の契約者の少女達と同様に個性も性格も様々な『異世界の儀式呪具』達もここに『居る』からだ。
「無口でごめんなさいねぇ、『こっち』がレーグラといいますぅ」
 言葉を発しなかったレーグラに代わり、ルクセリアが慌ててそう言うが、王様はこの姿見えない二倍の来客に大層喜んでいる。
【七曜堂】が音を奏で、舞を紡ぎ、更にはマジックまで見せると言えば――フォルデルマンはいよいよ満悦してはぐるま姫に手を差し伸べ、アートに水を向けた。
「姫よ、何なら私の肩にでもとまりたまえ。そして親愛なる友人よ、酒に肴は如何かな?」
 王宮を訪れた面々は、早々と自分達の求めんとした所が上々の結果となった事を理解していた。
 歓談は十分に盛り上がる。少なくとも退屈屋が今日退屈する事は無さそうだ。



「……何か『私の国の過去を見ている』ような気分なんですよねぇ」
 半ば無意識の内にそんな風に零したサブリナは今、アーベントロート領に居た。
 イレギュラーズの中には、王都を離れ、幻想の国内を見て回る者達も居たのである。
 王都とは又別のピリピリとした雰囲気の街中に苦笑半分、興味半分のサブリナは至極冷静に考えを巡らせていた。
(何処を回るにしても一癖も二癖もある場所ばかり。
 鉄帝は脳筋。天義は宗教国家故の厄介さ。深緑は排他的。傭兵は国家と言えず、海洋は種族対立の火種。
 練達はこちら側として計算できる味方ではあるが戦士ではない……
 幻想は欲得づくでしょうが、利害調整で味方も敵も作りやすい……後ろ盾を得られそうな友好関係は必要ですものね)
 ローレット――ひいてはイレギュラーズ自体の立ち位置というものもこの先変わるかも知れない。
 状況にただ流されるよりは、何かを思索しておくのも重要であろうという事である。
「とは言っても……まだどうなるものでもありませんが……あら?」
「……ん?」
「おや」
「流石に一人では貴族様には会えないか」と考えていたサブリナだったが、偶然はやはりイレギュラーズの味方なのだろう。
「珍しい所で会ったな。目的は似たような所か?」
「俺はあの人の弟子にして貰おうと思ってさ……」
 ジョーの言葉に灰人が少し答えにくそうに答えを返した。
 灰人が、リーゼロッテの凄味に魅せられたのは事実なのだが……本人の自意識がどうあれ、彼のギフトは『リーゼロッテ可愛い惚れてますよ好き好きラヴュー!』を全力で周りに伝播している。全く気の毒で――全く挑戦者な事に、この有様で本人に会いに行こうというのだから何ともはやである。
「……此方は『椅子』をお勧めしようかと思っていた所だ」
 咳払いを一つしたジョーは平然とそんな言葉を口にした。
 商売相手としては生きた心地のしない相手ではあるが、商人は捨て目を利かせるのが第一である。
 取り入るならば彼女、と判断したジョーは今は顔見世程度でも、と彼女へのご機嫌伺いを選んだという訳だ。
 何とも凸凹なパーティではあるが、一先ず見に行く位は良いか、とサブリナは嘆息した。
 会えなくて元々。様子の一つも見れれば上々である。



「最悪この混沌で生を終える可能性も……ならばこの世界に僕の爪痕を残さないと。
 ソレがアイドルという生物さ。アイカツするなら人の多い土地が良い。そしてアイカツするにもスポンサーは必要だ!」
 気合の入った公麿の言葉にロアンが何となく相槌を打った。
 こちらも偶然、フィッツバルディ領で出会った二人は――何となくお互いの目的を話していた。
 公麿は今言った通り――要するに『アイカツ』のスポンサーにレイガルテを当て込んでやって来た。
 気難しい人物と聞くがイレギュラーズの動向にはかなり気を配っているという話だから、勝算はなくはないと考えたのだ。
 何時の世にも広告塔は必要なのである。
「まぁ、一人じゃ危なっかしいなあ……じゃなくて、俺は三貴族の領地を巡りだな。
 王都と比べてどう違うのかってのが気になって」
 ロアンは比較的整然と整ったフィッツバルディ領の主都を眺め「ふうん」と曖昧に呟いた。
 レイガルテは民政家では無いが、政治が出来ない人物という訳ではないのだろう。
 街の規模は王都には及ばないが、治世の状況は却って王都よりはマシかも知れない……といった所だ。
 もっとも、街の中心部に存在する黄金双竜が居城の威圧感はかなりのもので、市民が十分に幸福である気は全くしないのだが。
「兎に角、僕は僕なりに――全力で売り込んでみるさ!」
 謂わば、それはオーディションのようなものである。
 勝てると決まったオーディションは多いものではない。
 ましてやこの地には事務所の力も及ばない――だが、怯まないのが桜小路公麿だ。
「おう、頑張れよ」
 ロアンはこれから遊楽伯爵の領地も巡り、最後は王都のスラムを確認する心算だった。
(……ま、難しい国だな)
 ちなみに。結果から言えば、公麿は『会う』事に成功した。実際の所、かなりの根性が無ければ出来ない事だっただろう。



 幻想の今現在を説明するには、最後にこのシーンを見るのが良いだろう。
「この冗談みたいな国の偉い人の中でとんでもなくイイ人がいる。と聞いたことがあります」
 だから、とエマは笑う。あの独特な笑い方で。
「出来れば直接会って、御話を聞いて……
 誰に手を貸していいかわからないので、まずは貴女を見極める……ってところですかね。えひひっ!」
「私も、もう一度面会したいと思っていたのだよ」
 王都の中央大教会にイレーヌ・アルエを訪ねたのはエマとジョセフだった。
『こそどろ』として生計を立て、この国の何とも言えない問題を身近で浴び続けたエマが『偉い人』に好感を持っている事や、己が世界で異端を審問する存在であったジョセフが、全くもってどうしようも無い程に『異教徒』である人物に好意的である事は非常に稀有だ。
 イレーヌ・アルエはエマが言った通り、誰に聞いても非の打ち所のない、と称されている人物である。
「私みたいな薄汚い盗賊を見て何を思います?
 私達を救うというのであれば、どういう手段をとるつもりです?」
 エマはそんな風に意地悪い質問を投げた。
 まさに、ジョセフが彼女に尋ねたかったのはその辺りでもある。中央教会がこの国に担う役割、そして貴族達や天義との関わりについてであった。
「同じ人であるとしか思いませんよ。そうですね。この国に暮らす人々の中央教会は心の支えになっているのでしょう」
 動じないイレーヌは来訪者の質問に迷う事無くそう答えた後、更に言葉を続けた。
「しかし、我々は唯の『心の支え』だけであるべきとは思いません」
「……と、言うと?」
「敢えて申し上げませんが、時に病人には外科手術も必要であるとだけ申し上げておきます。
 勿論――腕のいいお医者様の存在は不可欠になりますが」
 静かな意思の力を漲らせるイレーヌにエマは何とも言えない顔をした。
 彼女は逆にジョセフに問い返す。
「先程の質問に質問を返すようですが、てっきり天義に興味があるものかと」
「正直、迷ったのだがな。私はこう……頭に血が登りやすいタチでな。冷静に振る舞える自信が無かった」
「同じですよ」
「は?」
 澄ました顔で言ったイレーヌにジョセフは思わず問い返した。
「『何を信じているか、どれ位信じているかが大切なのではなく、その想いが何の役に立つのかが大切なのです』。
 私は貴方の神を存じませんが、きっとそれは素晴らしいものなのでしょうね。
 全く、居心地が悪い場所かも知れませんが、今日これから炊き出しがございます。
 温かいシチューのご相伴のついでに――お二人とも、ボランティアは如何ですか?」
 ニッコリ笑うイレーヌにエマは少しバツの悪い顔をして、ジョセフは口元だけで苦笑した。
(よく出来た人物だ。……勿論異教徒にしては、だが)
 嗚呼、何ともそれを認めない訳にはいかなかった。異教徒だけど。

●海洋
「れっつごー海洋ー! おいでませ海洋ー!」
 メリルからすれば目的地であり、懐かしい場所でもある。
 誰かに紹介する時、愛すべき地元の昨今の様子が分からないでは困る、困ると。
 遠出の第一歩の場所に選んだのは極自然な結論だった。
「わ、わっわぁー!!!
 み、ず!みずた、く、さっーん!! ……? ち、がう? う、みこれっ、うみ。うみー!?」
 初めてそれを見た時の衝撃は――舞香にとって生涯忘れ得ぬものになっただろう。
 嬉しくてソワソワ、海の上を滑るように進む船から落ちそうな位に身を乗り出して、吹き付けた風に目を細めた。
「懐かしい潮風、気持ちが良いぜ!」
 冷たい冬の潮風も、カイトにとっては郷愁を誘う故郷の香りだったかも知れない。
 海洋の漁村出身の彼にとってはこの近海は庭のようなものだ。
「海……海は素晴らしいです。おじいちゃんから色々聞いたのです……」
 実際の所、マリナにとっても聞くと体験するでは大違いだった。
「私もいずれは船を持って、たくさんの部下を持つのです。
 その為には、まず船を…自分用のが、欲しいです。ちょうかっこいいの……」
 近海を渡る『航海』は冒険と呼ぶには余りにもささやかだが、第一歩には違いない。
「これが海。どこまでも青く、不思議な光景」
「クラリーチェさん、海は初めて……だったかしら?」
 船体に寄せては砕ける波は、瞬く間に灰色のキャンパスに溶けていく。
「私は大規模召喚の日まで、ほぼ教会の中で過ごしていましたので……確か、海水は塩の味がするとか」
「私は逆に、海辺の町で育ってきたから…初めて海を見るという状況が、少し、妬ましいわ。……海、後で少し舐めてみる?」
 エンヴィの問いに小首を傾げて応えたクラリーチェは初めての風景をじっと見つめていた。
「海か、海ねぇ……こっちに来てから、今までそんなことあまり考えたことも無かったけど……」
 遥か彼方水平線を見やり、葵は呟いた。
 水平線の向こう――外洋には『絶望』とさえ称される無限の可能性が広がっているという。
(この世界の海の向こう側に行ってみるか……ああ、いつかはっス、いつかは……『絶望の青』、何か楽しくなる響きだろ?)
(……海の冒険、するの、気持ち、わかる。大きな、海の先、見たことない、なにか。新しい、世界、じぶんが、いてもいい場所……)
 それはコゼットの小さな胸を突くような、心を揺さぶるような『大きさ』だ。
「これも動き始めた運命、かしら」
 小さく呟いたティシェは行動あるのみ。彼方にも負けぬ、見果てぬ夢がある。
「偉大なるドレイクの領域と言うのも、そう遠くないかもしれないわね。
 私はただ、レア・アイテムを探すだけなのだけれど」
 連絡船に揺られ、幾ばくか。
 諸島を形成するネオフロンティア海洋王国の首都リッツパークにたどり着いたイレギュラーズ達は異国情緒溢れる美しい町並みに感心させられる事になった。
 建物の造りも、街の区画も幻想のそれとは大きく異なる。為政者の性格か、それとも文化の差なのか……『外国』の風情は十分だった。
「海の近くだし、海賊の宝物の伝承とか、そういうロマンがありそうなお話きけないかな!」
『梟の郵便屋さん』――ニーニアにとっては配達のついでの遠出でもあるが、折角ならば聞きたい異国の話も山とある。
「すっごい、素敵! この先もきっとワクワクドキドキで楽しいのー!」
 感嘆の声を上げた鳴の言葉を肯定するかのように、街は活気に満ちていた。
 身を切るような冬の寒さも、リッツパークに来たら、心なしか穏やかになっているような気さえする。
「街の雰囲気も何処か大らかで……幻想とは、やはり違うのですね……」
 呟いたアリーシャをこの地に赴かせた最も力あるものはやはり海だっただろうか。
 同時にまだ見ぬ海の先に想いを馳せるというこの国の気風は彼女にとっても好ましいものだったと言えるだろう。
「かいよーにはどんなどうぶつさんがいるんだろう? ぺっとだとなにがかわれてるんだろうっ?」
 動物と通じる能力を持つリリーにとって、大きな関心事はやはりその辺りだ。
 やはり場所柄、海洋生物は多いのか、どうなのか……
「うっわー……流石都やわぁ。うちんとことは大違いの賑やかさや……」
「そうなの? ……あ、でも、今度は水城の生まれた場所が見てみたいわ……」
 テンションを上げた水城に物珍しげな顔をしていた秋葉が言った。
 水城は海洋王国出身だが田舎の出である。折角だから、と今回は海洋王国での旅行(デート)を選んだ二人だったが、秋葉としてはそちらも気になる所だった。
「今度はうちんとこを? ……ん、ええよ。任せとき♪
 それはそれとして、今日もバッチリ案内したるからなー!」
 ショッピングにスイーツにと余念がないのは流石に女子故か。
「それにしても、実際、凄い賑わいでござる。拙者の里とは大違い――」
 周囲を見回し、思わず口を突いて出た言葉を下呂左衛門は頭を振って否定した。
「――いやいや、この都に負けないくらい盛り立てていかねばならぬ。こうして外の世界を知るのもまた、拙者に与えられた役目でござろう」
 気を取り直した彼の視線は思わず道行く着飾った婦人に釣られかけ……
「いやいや」
 いやいや。
 成る程、なかなかどうして大した都である。
 イレギュラーズ達が知る幻想の王都に比べて人々の表情は皆明るい。流通の盛んな港町らしく、そこかしこで景気の良い声が飛んでいた。
「山産まれ山暮らし、海なぞ絵空事のようなものじゃったが……くっふっふぅ。美味し物に出逢えればよいのぅ♪」
 寒空にも負けず、そこかしこで湯気を上げる露天に目移りしたラ ラ ラが釣られている。
「さて! 何してもいいってことなので、物見遊山……どころか、堂々と遊び尽くすぞ! くらいのはっちゃけた気持ちで!」
 仕事というお題目(本当に建前なのだが)を全力で放り投げ、力強く宣言したクィニーに傍らのまろうが笑う。
 くすくすと楽しそうに、それから少しだけ居住まいを正して言う。
「神は言いました、『常に学ぶことを忘れずにいなさい』と。これも、社会勉強というものですね。
 新しいことを学ぶことは喜びですが……それ以上に、QZさまと共に一時を過ごすことが、とても嬉しく、楽しいです」
(なにそれ、ものすごい殺し文句!)
 海洋王国――取り分けこのリッツパークは特殊な工芸が盛んである。
 ならば、と考える事は同じで……お互いに似合いそうなものを見つけようと、考えていたりする。
「な、観光を兼ねた親睦会ってのも悪くねぇだろ」
「ええ。で、でも。そ、その……海に入るのは怖いので、できれば十夜様のお隣で過ごしたいと思っています……
 ご、ご迷惑でなければ、ですが……」
 少し不安そうに自分を見上げたマナのリクエストを、軽く笑った縁は「ああ、そうしろ」と請け負った。
「海岸が気になるか? ほれ、あっちに見えるのが『絶望の青』だ。
 いざこざもそれなりにあるが、海みてぇに大らかな国さね。貝拾いでも何でも、好きに過ごすといい。
 ただ――水の深い所には行くなよ」
 それでなくともこの寒さである。案内役というか保護者というか……
 何とも頼もしい縁に返事をしたのは【フリホー】の仲間達。
「ババアが一人でぶらつくのも寂しいからね。そんな理由で来てみたが、なかなかいい所じゃないか!」
 ミランダの言葉はきっと多くの者の代弁になっただろう。
 港から少し外れて海岸に降りた面々は思い思いの時間を過ごし始めている。
「未知なる世界の地形、環境、住まう生物。その全てが我にとっては魅力的な情報だ!」
「あら、あら……! 海って不思議な匂いがするのね!
 まあ、足元を何かが擽っていったわ! これが波かしら?」
 自身の手を引くリュグナーに目の余り見えないソフィラはまさに華やぐ少女の顔を見せた。
「……ちなみに海の水には味があるのだ。舐めてみてはどうだ?」
「まあ!」
 意地悪く誘ったリュグナーが人の悪い顔をした事を、勿論ソフィラは知らない。
「そういえば……海は遠くで見るだけで近くで見たことはなかったの……何とも大きなものじゃ。
 しかして……この砂場はほんに歩き辛いの……これでは、上手く重心を取ることも難し……ん? これを使って稽古でもすればよいのか」
 何やら閃いたヴェッラの向こうでは、
「……貝って、小さいですね。
 すぐに壊れそうです。これは、拾ってどうするものなんですか? 食べるんですか?」
「……拾って、お土産にしましょうか。花みたいなのがいいですね」
 少しピントのずれたシキを、淡く微笑むティミが促していた。
 貝を拾おうとして――偶然に重なった手に、瞼を伏せたティミの唇が薄く開いた。
 儚き雫のその言葉はシキ以外の誰にも届かなかったけれど――
 季節は悪いが渚の風景は中々盛況だった。
「……海に、来てみたかった。冬の海だから、やっぱり寒いけれど」
「オレは見慣れたものだが……まぁ、こんな機会もいいだろう」
 オズウェルに自身の大きなケープを被せたサイードは白い息を吐く。
 冷たく吹く風を翼で避けながら砂浜に立ったまま、彼は浜辺にしゃがみ込んで返す波を見つめるオズウェルを見守っていた。
「あれ、なんの鳥――」
 答えが返るとも期待しない問いに、サイードは短く海鳥の名を告げる。
「わ! シュクルくん、ホントに海がしょっぱいです! 水に塩味があるって、不思議ですね」
「本当だ、しょっぱい!」
 寒さに負けず水をバシャバシャとやるあずきにシュクルが乗っかった。
「でもシュクルくんの近くは、甘じょっぱいです……? 海の不思議ですね!」
「え? 甘い? ……マジで?」
「まさか溶けたか?」と少し焦った顔をしたシュクルは『生きている砂糖菓子』だ。
 これはニコニコと笑うあずきの冗談だったのか――シュクルはほっと胸を撫で下ろす。
「うわぁあ……! これが海! とっても綺麗! キラキラしてて――向こうには、船がいっぱい!」
「ノースポールは海、見たことなかったんですか」
 ノインの案内を受けたノースポールも含め初めて海を見る者も多く、混沌に来て以降殆どの時間を幻想一国で過ごしたイレギュラーズ達は刺激に飢えていた。
「いいですよ、海は。日々のストレスが流されますし」
「ノインさん、見てください! これ面白いです! こっちは綺麗ですし、これは格好いいですよ!」
「ああ、海水は、飲んではいけませんよ。はい、綺麗ですね。そちらは貝ですね、あとそっちはヒトデですね。
 海藻が流れてきましたね、回収しておきましょう」
「凄いです、物知りなんですね!」
 執事然としたノインは余り劇的に表情を変えなかったが、案外楽しんでいるらしい。そして、ノースポールの表情は逆に万華鏡のようである。
「折角会った偶然だ。これも縁だし――一緒に回るとするか」
「そうだな。今日は任せるとしよう」
 豪気に笑ったエリックにシャスラが頷いた。
「確かに、とりあえずは酒場にでも行けばいいかな。
 美味しいものや見どころを現地でいきなり探し回るのは手間がかかるし――時間がもったいないからね」
「折角だから海で泳いでもみたいし」と水卯。余程寒いのに強いのか……は置いといて。
 何せここは海洋王国だ。美味い飯に酒もある。
 酒場で海の向こうを目指す冒険や船の上での生活、色々な話を水夫にでも聞けば――肴にも困らないだろう。
 飲食はさて置いて、未知への憧れを持ち、挑戦の意思を示す冒険心をシャスラは極めて好ましく感じるのだ。
「やっぱり、『絶望の青』の向こうにはとても興味があるのです。
 ソレを諦めない国にも。果ての果て、見えぬ先への想いは止められないものですわ」
「そんなの、素敵だとは思いません?」とミディーセラ。
「ああ、アタシもそういうのは嫌いじゃないさ。だから今回は宜しくな」
「こちらこそ、オリヴィアさんにはお世話になります。とてもとても、悩んだのですけれど……ここへ来て良かったと思っていますわ」
 ミディーセラが微笑む。
「海洋の文化は勿論の事、食事情についても非常に興味ありますからねぇ。
 おすすめ等ありましたら、是非教えて頂きたく」
「私は海洋方面の工芸品に興味があるわ。それがどんなものか分からないけど、国の特徴として挙げられるものなんですもの」
「任せときなよ」
 早速、あちらこちらで『仕事』を始めたイレギュラーズ達を眺めてそう言ったハイド、彩音の言葉に引率役のオリヴィアが大きな胸を張る。
「どんな風に特殊なんですか?」
「細工も染めもこの辺り独特って聞くね。まぁ、アタシは職人じゃないけどさ」
 彩音は「成る程」と頷いた。興味は尽きない所である。
「腐敗した空気にも飽いてきた所ですし、息抜きついでに羽も伸ばしておきたい所です」
「そうそう、オリヴィアちゃんがお酒すっごく強いんだって? 一緒に一杯呑みましょうよ」
「そうさね。じゃあ、勝負といくか。……まぁ、飲んだくれるのも何だが、『宣伝』なんてのは自然とついて回るもんだ」
 ハイドに、アーリアに応じたオリヴィアの言う通り、やはりイレギュラーズというものは人目を強く引くものである。
「えっと、お嬢様……あの、これほんとに必要だったのでしょうか……? その……周囲の視線とかなかなか痛いのですけど……」
「必要に決まってるじゃない。座って食べないと落ち着かないもの」
 大きな専用の椅子を背中に担いだローリエが思わず抗議めいたが、主人たるルルクリィは素知らぬ顔である。
 ……と言うより半ば虐める心算で持って来いと命じたのだから、却って計算通りという話。
「……くくっ、良かったわね、目立てて」
「……………はい」
 嗜虐的なお嬢様の表情に全てを察したローリエが頷いた。
 そんなやり取りも含めてである。外見も、雰囲気も特別な連中が多いのだから目立つのは当然だ。
 今回で言えば――それも『手間が省ける』メリットで実に話は早いのだが。
「いまからみんなで、もっすごい、ほんともっすごい、面白いことします、だから全員注目!」
「魔法騎士セララ、華麗に参上! イレギュラーズの漫画配ってるよ。タダだからぜひ貰って!」
 にわかに集まり始めた注目を幸いと、セティアがその一言で思い切りハードルをバリ上げたかと思えば、セララは自身の異能(みらこみ!)で生成したこれまでのお話(マンガ仕様)を配りだし、
「面白そうと思って私も混ざってみたものの……一芸、ですか」
「ふむ」と思案顔をした牛王はならば、と大きな布を探し出す。
 人身と牛の姿を切り替えられる彼の『変身』は特性を活かしたものに過ぎないが、傍から見れば完全な――種のない――手品である。
「わたしはー、わたしたちはー、いれぎゅらー、ろーれっとのー、とくいーうんめいーざひょーっ」
 セティアが調子外れに歌いだした所で、
(あ、ああああ……)
 少し慌ててアイリスがサポートに回った。
 確かな歌唱スキルと演奏スキルに裏打ちされた彼女の技は付け焼き刃のセティアを何とかそれらしく誤魔化す作用があった。
 一同【宣伝部】は、この後、『偉い人達』に余興を披露出来たら……という予定なのだ。そう思えばいいリハーサルにはなるのかも知れないが……
「ざーひょー!」
 ……まぁ、それでもセティアの自称『エモい』ミュージックはかなり独特の世界観を持っている。これではいけない。
「ああ、もう! 目立ちたくなかったのに!」
 惨状にチラシを配る手を止めて、思わず声を上げたのは杏だった。
「なんてむちゃくちゃ演奏をしているのかしら! ちょっとそれ、貸してみなさい!
 ガチめにエモいメロディなら、こうやってこうやってこんなかんじで演奏す(や)るのよ!」
「!」
 セティアから得物を引ったくるようにした杏とアイリスの競演に、集まった人々から拍手が起きた。
 何とも騒がしく忙しない話だったが、『宣伝』的には十分か。
 突然現れた珍妙な集団にも、リッツパークの人々は(恐らくは)好意的な興味を向けているように見えた。
「いい所だ。だが、光が有れば、影もまた有るもんだ」
「さて」と一つ息を吐いたオクトは裏路地の方へ歩を進める。
 のんびりとしたこの国にも『そうでもない部分』もある。彼が求める情報は、依頼人は、そんな所に転がっているかも知れなかった。
 海賊は不敵な笑みを浮かべてきっとこう言うのだ。

 ――商売敵の商船や敵対貴族の船が海賊に襲われてほしい、不幸な事故が起こってほしいと思った事は?
 雇ったは良いが用済みになった海賊の処理に困った事は?
 誰かが見つけた財宝の横取りをしたいとは?
 ……つまりはそう言う事だ、ローレットじゃ、そんな依頼も請け負ってる――



 物見遊山に宣伝――何なら偉い人にでも会ってこい。
 実にいい加減なオーダーだったが、一国の公人に大手を振って会える機会も多くはない。
 今後の活動への便宜を期待したり、ちょっとしたコネクション作りになったり……
 期待は淡いが、海洋の重要人物との謁見を望んだイレギュラーズも相応に居た。
 リッツパークの中央に位置する王城、その謁見の間にはこの国の二大巨頭である女王イザベラと貴族派筆頭ソルベの二人が揃っていた。
 仲が良くないと聞く二人が揃っているのは意外だったが、それは逆に『仲が良くないから』か。今回の件について、お互いの動向を探り合う面倒を避けた結果、こうなったか。或いはイレギュラーズが『どっち寄り』なのかを見極めようという判断もあるかも知れない。
「謁見感謝いたします。ローレットから参りました、デイジーと申します」
「苦しゅうない。楽にするが良いぞ」
 名門の誉れ忘れず、折り目正しく挨拶をしたデイジーにイザベラが『定型句』を返した。
 何とも上から目線に女王の威厳を見せるイザベラの傍らでソルベはニコニコと笑顔を浮かべている。
 風下に位置するイレギュラーズの一団から、まずはイシュトカが言葉を返した。
「ユア・ハイネス。
 畏れ多くも謁見の許可を頂き、光栄の極みでございます、陛下。
 流石にうたかたの宝玉、大粒の真珠の如くにお美しい方であらせられる……ああ、失礼。
 陛下のご興味はこのような聞き飽きた当然の賛辞には無いかと存じますが――」
 ……獣頭のイシュトカは実に良く回る良い舌をお持ちである。
「お目通りできて光栄です、女王陛下。お会いできて、とても、とても嬉しいです」
 一方で素直に己が感情を述べただけのクーの言葉は朴訥としていたが、彼女は同じ海種として燦然と輝く女王に実に真っ直ぐな憧憬を向けている。
 イシュトカの言葉を受けてか、クーの視線がくすぐったかったのか。
「海洋は美味しいもの、沢山ある、から、好きだ。女王、は、美味いか?」
「あ、あかん、たべたらあかんえ!」
 それとも、慌てて止めるクーの姿とヨキのこの『冗句』がお気に召したのか……
「ほほ」と笑ったイザベラは「妾もじゃ」と返し、一同を値踏みするように眺めていた。
「はじめまして、女王様。私はシャルレィス・スクァリオ!
 今はまだ駆け出しだけど、ここは冒険の国とも聞きます。未来の大冒険者の予定だから、しっかり覚えておいてね!
 もちろん、イレギュラーズとして世界の破滅だって絶対止めて見せるんだから!」
「スミノエ家が嫡男、ナルミと申しまする。
 拙者の剣は女王陛下、ひいては王国とすべての人々の為に磨いて参り申した
 今はローレットの食客なれど、どうぞ女王陛下の、そして王国の刀として働く機会をお与え下され。
 絶望の青のそのまた向こうでも、陸地の果ての終焉の彼方に向かう事になろうとも、熱誠をもって応えまする故」
 非常に元気と思い切りのいいシャルレィスに何を思ったのか、イザベラは楽しそうに含み笑った。
 続いたナルミの非常に丁寧な言い様にイザベラは「そなた等の事は覚えておこう」と応じて見せる。
「何れにせよ、殊勝な心がけじゃ。海洋王国は、多くの挑戦者を求めておる。
『絶望の青』を越える勇者を――まぁ、もう少しスケールを小さくすれば海のならず者共を掃除する戦士もな。
 この国には可能性も仕事も溢れておる。それはそなた等の望みにもそぐうじゃろうて」
「個人的に海洋での仕事が多くなると思うッス……じゃない。思いますので、この機会にご挨拶をさせて頂こうと」
 イザベラの言葉を受け、些か不器用にシクリッドが言う。
 聞いてはいたが――イレギュラーズという立場はやはり特別な価値を背負う存在で間違いは無いのだろう。
 恐らくは海千山千、多くの冒険者達を相手にしてきたであろうイザベラでも、初対面の一団にかなりの期待を寄せているように感じられるのがその証左だ。
「折角新しい世に来たのだ、磨り減った既知への執着を捨てて0から愛する未知を取り込みたい。
 そう考えるならば――我が無知も愛すべき天佑となりましょうな」
「大変前向きで結構ですね」
 ラルフの言葉にソルベが応じた。
「探究心に理由を問う事は愚かなのでしょう?」
「そうですな、私はこの混沌世界の可能性全てを知りたいのです、理由はそれだけで十分でしょう」
「然り。その通りです」
 イザベラに負けじ、という事か。口元を笑みの形に持ち上げたソルベがイレギュラーズ達に水を向けた。
「皆さんには、是非『海洋王国の為にも』力を奮っていただきたいですね!」
 ソルベは『僕の為に』とは言わなかったが、彼の腹芸を良く知るイザベラは軽薄な言葉を鼻で笑う。
 ソルベはソルベで恐らく彼女がどういう反応をするか分かっている上で言っているのだから、確かに二人は中々相互理解が深そうだ。
「流石、毎年凶を引く御方」
「あ、次。何か芸するのソルベさんの番だから」
「誰がですか!」
 ティシェといい、セティアといい……
 ……如何にそれらしく見せようともソルベはソルベでしかないというのは、何ともどうしようもない事実ではあるのだが。
「お仕事、お待ちしていますとも」
 同じ鳥種として――イザベラの手前そう言う事は無かったが、正装のレイヴンは(些か頼りのない)鳥種の筆頭殿に深く頭を下げた。
 果たして、この国の勢力争いの趨勢がどうなるかは知れなかったが――レイヴンにとって久々の里帰りでも、確かにこの地は変わっていないように感じられた。



「『絶望の青』がなんなのかとか。『偉大なるドレイク』ってどんなひとなのかとか――教えてくれたら嬉しいんだけど!」
 一仕事を終え、暇を持て余していた水夫にムスティスラーフが尋ねた。
「『絶望の青』は……まぁ、何だ。誰も戻らない遠洋。ドレイクは最悪の海賊だよ。
 少なくとも海の上では誰も勝てない、勝った事が無い。『絶望の青』を根城にするなんて、規格外の化け物さ」
 水夫の口調は大いに恐れが混じり、唾棄するような調子である。
「なーなー、このへんって何が釣れるの?」
 洸汰の持ち合わせる『童心の伝道師(ギフト)』は彼を馴染みの知り合いのように子供達の輪の中に溶け込ませていた。
「このへん、海賊とか出んの? フック船長や、黒ひげみてえなの!」
「この辺かは分からないけど……ドレイクっていうすごい強い海賊がいるんだって」
 リッツパークの子供達は大人とは異なり、ドレイクの名を恐怖の対象としているようには見えなかった。
 要するに子供は何時でも『カッコいい』方の味方であるという事だ。
「よぉ、隣いいかい?」
 一方で何となく釣りをしていたレインに声を掛けたのは顔見知りのRingだった。
「おじさんだー、隣どうぞー」と軽く応じたレインの横に座ったRingは早々に仕事を終え、手持ち無沙汰の最中だった。
「ねえ、聞いてもいいかな?」
「ん? ああ」
「なんでこの世界は言葉の通じる同族に近いものを虐げるんだろう? 反感を買うのに……」
「さあなあ」
 天を仰いだRingは何処まで本気か少しだけ逡巡して言う。
「弱い者を虐げないと自身の弱い心が保てないんじゃないかなぁ……っておじさん難しい事は分かんねぇけど!」
「引いてるか!?」という言葉にレインはあわてて竿を引っ張った。
 だが、それは実の所、二人の釣り糸が絡み合っただけの事で――バランスを崩した二人は見事冬の海に落ちてしまう。
「おじさんが釣れたー! 君とでもこんなに笑いあえるのにね……あ、僕レイン。今後もよろしくね!」
「……おう、オレはRing・a・Bell……宜しくだ」
 考えてみれば、互いの名前を知ったのはこれが初めて。そんな出来事だった。

●練達
「ふわああ、海洋や幻想とは建物も何もかも全然違うのですね……! とってもびっくりなのです!」
 余りに違い過ぎて、違うとしか言えないとはこの事だ。
 ルアミィの感想は非常に素直なものだったが――『他国とこの国が同じ時代、同じ世界にある事自体が冒涜的なのだから仕方ない』。
「無辜なる混沌め、全てを巻き込みながらどこへ向かおうとしているんだ。まったくたまんねぇな」
 吐き捨てるように言った狂介の目には、『練達という異物』はこの世界の我侭の象徴であるかのようにも映っている。
「何処かでここの研究のお話が聞ければ良いのですけれど……」
「はー、確かに……ここは住環境は最高そう……」
 思わずそんな声を上げたのは由貴だった。
 運び屋をしている友人からの勧めで、この辺りに居を構えたいと考えていた彼女だったが……実際に訪れた練達――探求都市国家アデプトは、衝撃の存在だった。
 彼女は『近未来日本』とでも呼ぶべき場所からこの世界に来たウォーカーだが、その彼女をしてみても、この国はオーバーテクノロジーに満ちている。
「テレビを求めて練達にきたっす! 魔法……神秘だったっすか、そんな感じのリモコンはあるっすけど!
 やっぱりオイラの原点はテレビのリモコンっすよ!」
 リモーはここにはテレビは売る程ありそうだ……と考えた後、『リモコン』なる概念が型落ちしている可能性に気付きはっとする。
「それにしても島国に研究者がひしめいてるなんて……まさしく日本みたいだね」
 縁があるならその『日本』の実践の塔主――佐伯操かと思っていたルチアーノは、何だか良く分からない材質で出来た建物の壁に触れて呟いた。
(これだけの科学力……軍事転用はどうなっているのだろうか)
 出自柄、職業柄、瞬がまずそれを気にしたのは当然だろう。
『しかしこうして見ると、実に不思議だ。
 この力があれば世界の一つや二つ(ザッ)飛び越えられそうなのに! 不在証明とは奇妙なものです』
 この地面にラジオ受信機を探しに来たズットッドは実に不思議そうに首を傾げた。
 練達は『混沌法則(ふざいしょうめい)』の影響を最も強く受ける地域ではあるのだが――考えてみればその力、その源泉こそがまず偉大な謎である。
「成る程、どこもかしこも見晴らしが良さそうな建物が沢山ある。パノラマビューも楽しめそうじゃ」
 見分を広めるという意味では『元の世界と一番違う場所』を選んだ潮の選択は間違いなく正しいだろう。
「……うん、練達は……色々技術が……発展してる……みたいだし……
 ……街を……歩いてるだけで……いろんなものが……見られそうだな……」
「つー訳で練達に来てみたんだが……人づてに聞くと実際に見るんじゃ、受ける印象が全然違ぇな。なんだこの発展具合」
 異常に発達した街並み、空を突くような摩天楼達を見回したグレイルが呟き、半ば呆れたようなシュバルツが嘆息した。
「ま、幸せそうでいいんじゃないか」と続けたシュバルツに、アンネが小首を傾げた。
「……幸福、って何かしら。まだ感情が乏しくてごめんなさいね」
 アンネの言葉はそう企図したものではないだろうが、非常に哲学的な問いである。
 果たして幸福とは何か。
(……色々、観察してみましょう)
 それが良い。幸福は主観なのか、脳内麻薬の錯覚なのか――さて置いて。
「おねーちゃん……ボクの手、離しちゃやだよ……?」
「今日は、この珍しい町を見て回ろうと思っての。案ずるではない。離したりはせぬ」
 見慣れない風景に不安気な上目遣いを見せた結乃の手をぎゅっと握り、華鈴が応じた。
「此処は練達……正式には探求都市国家あでぷと…じゃったか。此処にしか無いような、珍しい絡繰りが一杯あるらしいんじゃ!」
「から、く、り?」
「あー……機械仕掛けと言った方が良いかの?人が動かしてないのに、勝手に動いたりする……あれじゃ」
 人間は爪牙の代わりにモノを作り出す。
 人間は考える葦である――という有名な言葉がある。
 外の寒さすら遮断する透明なドームに包まれた快適な都市はそんな葦達が造り上げたある種の楽園であるかのようだった。
「ここが一番、前に居た所に似てるんですよね、多分。懐かしい空気を感じます。科学の匂いっていうか?」
 ナインは口の中だけで「まあ、人を改造して電池にするようなろくでもない世界でしたけどねー」と続けた。
「科学技術に独特な文化。学術的興味をひかれる国だね――時間旅行みたいでワクワクするよ」
「ほんとにすごいな、どれだけの世界の技術が集まってここまで進歩したんだろう!
 電気で動く機械のことに、元の世界とは違う魔術大系……!」
 文の言葉に頷くチャロロの表情はまさに『魔動機仕掛けの好奇心』そのものだ。
 セフィロトと呼ばれるこの街は『塔』によって統べられるという。だが、遥か彼方に見える一際巨大な三塔は、塔と呼ぶよりビルと呼んだ方がイメージが近い。
 幻想と科学が極めて高い次元で融合した街並みは――外国に来たと言うより、異界に迷い込んだ位の衝撃があった。
「んー、なるほどなるほど。レトロではあるけど、きちっと発展してるねぇ」
『ニセンネンダイ ノ ニホンニ チカイミタイ?』
 但し、相手はイレギュラーズだ。当然ながらその感想も画一のものではない。
 ギフトの正宗君と都市を寸評するコリーヌはかなり先からの視点で目の前の風景を見ている。
 閑話休題。
『わー! 顔がある頃の私だったら、間違いなく大喜びしていた様な場所だね!
 神秘と科学の融合については研究が進んでいるのか、どうなのか。まったく興味は尽きないな』
「……しかし、思ったよりも、ずっと平和そうな都市ですね」
 科学者的見地でこの地に興味を禁じ得ないジェームズに相槌を打つようにエンアートが呟いた。
『経験談だけど――科学者って病みやすいからね。娯楽施設何かも充実してると良いんだけどね』
「成る程」とエンアートが頷いた。
「練達ですか……色々と面白い物がありそうでこの先もワクワクしますね♪
 個人的にはこんな街ですから――食事ですね! 食事も気になります。練達の食事ってどんなのがあるんでしょうか?」
「何か、大体のモンは出てくるみたいだよ。本当の天然素材というか、それっぽく合成したものも多いみたいだけど。
 最近の流行りは、わざとキューブとかドロドロ状とかで出して……ほら、あそこに屋台あるじゃん。『ディストピア飯』だって」
 質問に応えた亮にナハイベルは「ははあ」と感心した。
「あ、やっぱりあるんだ。『ディストピア飯』」
「うん? ディストピア……? 事前情報では天義がそれに近いと聞いていたが、こっちは俺の世界にあったゲームに近そうだな。
 残機とか階級付けとか、ギフトによっては出来そうで怖いんだが……」
 苦笑交じりの文や城士の気持ちは推して知るべし。
 言うに事欠いて『ディストピア飯』とは。科学者らしい皮肉の混ざった流行である。
 恐らくは城士と同じ世界出身の誰かが悪ふざけでつけたものに違いない。
「流石は混沌で随一の技術都市国家、ですね。観光ついてにお勉強も出来れば良いのですが……」
「アウトドア派の私としては、難しい話とかはちょっとね……! まぁ、探求の道は一日にして成らず……で!」
 妹(シルフォイデア)の口にした不穏な単語(おべんきょう)にバリケードを張る姉(イリス)は全く分かり易い。
 唯、イリスの鋭敏な直感が告げた『面白そうだから』は結果的に間違っていなかっただろう。
「お披露目営業って何すればいいんだろうね? 海洋の国民的美少女をよろしくお願いします? うーん、この言い方だとあちこちに角が立つかなぁ……」
「この間いらっしゃったマッドハッターさんの口振りだと、私達に何か頼みたい仕事があるような雰囲気もしましたけれど」
 街を行く姉妹(ふたり)の歓談は何だかんだでのどかである。
 混沌世界の一先ずの標準を幻想国においたイレギュラーズ達にとって、快適な未来都市は出色の存在だった。
 人口や都市の規模こそ幻想の王都には遠く及ばないが、快適な空調といい整然と保たれた衛生環境といい、住民の表情といい……生活水準は高そうに見えた。
(強いて言えば気になるのは、マザーなる中央管理装置、ね……
 確かに統制は完璧に見えるけど、正直を言えば、思ったより窮屈なのかな――とも感じられる)
 グラスの奥の瞳を細めたヨゾラは「ふむ」と思案を巡らせる。
 セフィロト内部には余り目立った不幸の種は見えていない。少なくとも、来訪者がすぐに見つけられる範囲には。
 果たして、見えない部分にはどうなのだろうか――?
「娯楽施設……あんのか!? 先輩! ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」
「いや、あるのかな? でもありそうな気もして来たけど……」
 ジェームズの言葉を聞いた一悟が、案内役を仰せつかった亮の腕を引く。
 一悟の頭の中の誰かは「お気楽だな」と小馬鹿にしたような声を届けていたが、それはそれである。
「旅人が多いってことだし、僕は練達にいる人達がこの世界へ来る前、どんな世界で何をしていたのか聞いて回りたいな。
 まぁ……期待までは出来ないけど、僕のいた世界の人間もいるかも知れないし……
 可能性としては、同じ世界の過去や未来、かと思えば平行世界の人間だって有り得なくはない。
 街中でもう一人の僕とばったり……なんてなったら最高に愉快な旅行になりそうだし」
 冗句めいたミリアムが研究者らしい顔を見せた。成る程、タイム・パラドクスは多くの研究者が情熱を捧げる大テーマの一つである。
「研究と言えば、ここの人達は元の世界に戻る方法を探しているって聞くわねぇ」
 ふと、思いついたようにスガラムルディ。
「私自身は、戻る気なんて無いけれども、戻りたいって思ってる人達のお手伝いはしたいわ~。
 やっぱり『ディストピア飯』なんてダメよ。缶詰で研究している人達にキッチンを借りて……
 暖かくて、お腹に優しくて、早めに食べられそうなもの……スープ系にしようかしらぁ~」
 控え目に言っても生活力のまるで無いマッドサイエンティスト達にとっては素晴らしい名刺代わりになるだろう。
「つかぬことをお聞きしますが、惚れ薬のある世界から来た方とか――いらっしゃいません?」
 向こうでは、シルヴィアが道行く白衣の男に何処と無く物騒な質問をしている。
(私の世界でも科学というのはありましたが、こちらでは随分と発展している様子……
 正直、興味は尽きませんね。例えば他国との関係、主要産業は何か、主食は何か等、聞きたい事は幾らでもあります。
 中でもマザーコンピューターとは何か、そもそもコンピューターとはなんなのか?)
 忙しい旅行になりそうだ、とヘルモルトは頷いた。
 練達は発展した技術の街。
 ファンタジー世界におけるオーパーツ。
 あってはいけない者たちの集合体で、ある事を許された檻の中の徒花。
 それに触れるべくして触れたこの機会はイレギュラーズ達の知見を十分に深めるものとなる。
 それはそれとして。
「わたしは、召喚されて、陸に来てから、いろんな、海の中にはないものを、知りましたの。
 そうしたら、もっと、いろんなものを見たいと思うように、なりましたの。
 特に、旅人の方々は、不思議でいっぱいですので――今日をとても楽しみにしていましたの」

 ――うんうん、そうだね。

「発明家の方々は、自分の作ったものを見てもらえることが、嬉しいと思いますの。
 ですので、皆様のお話を、たくさん聞きますの。わたしも楽しくて、皆様も嬉しい、いいことずくめですの」

 ――何と言ういい子だろう。

「もちろん、触らせてもらったり、体験させてもらったりもしたいですの……
 ……って、体験だと思ったら、ベッドに捕まってしまいましたの…!?
 わ……わたしを、実験に使わないでほしいですの……!」

 ――何処ぞのラボに迷い込んだノリアの命運は兎も角、物見遊山は十分に楽しめている事だろう。



「あ、あの!こここここんに、ちは!
 わ、わた、わたし、朝倉まいちです、あ、ローレットです!!
 昨年は楽しい催しをひらいてくだすって――ありがとごじゃいまひゅっ!!??」
 まいちのとんでもなく不器用な挨拶に『想像』の塔主が笑う。
「緊張しないでくれたまえよ、可愛いアリス。ここは私の塔だ。何も堅苦しい事は要らないから、ね」
 相も変わらず派手な扮装に身を包んだ奇人は――なりと気安さは兎も角として、練達を統べる三塔主の一人。
 Dr.マッドハッターは『律儀に挨拶に訪れたアリス達』を見回し、友好を表すようにその両手を広げていた。
 まぁ、些か芝居っぽい調子ではあるのだが――
「お茶会、開いてくれた御礼をしたいな、と思って」
 レオン・カルラは二つで一つ。人形使いであり、人形使われでもある。
 フォルデルマンが寄越した王衣の白兎も一緒に頭を下げれば、マッドハッターが喜ぶのは当然だった。
 何せ、白兎だ。彼はイレギュラーズを常にアリスと呼び、アリスに見立てている。
「『塔主』の中じゃ、あなたが一番気になってな。出来れば本でも読ませてくれねぇかと思ってさ」
「この塔には幾らでもファンタジーがあるよ。童話の品揃えは三塔一、だ」
 大地に応えたマッドハッタ―に何となくそんな気はしていた――とイレギュラーズは顔を見合わせた。
 彼は研究家というより、もっと何か違うものにも感じられる。ただし、ある種の天才に違いないと確信させる『異質』は常に覗いているのだが。
「お初にお目にかかります。っと、お時間は取らせません。
 言いたいことは少しだけ。私も元の世界に還りたいの。なにか協力できそうなことがあれば手伝わせて欲しい」
 そう言った久遠に「むしろたっぷり時間を使ってほしい」と懇願するマッドハッタ―は困った構われたがり屋である。
 その癖いざ彼女が『マザー』について問えばお茶を濁すのだから、中々困った人物である。
「どーも、イレギュラーズです、ってね。お会い出来て光栄だよ。
 フィールドワークのお手伝いから荒事まで何でもお任せあれってことで、何かあれば頼ってほしいな。俺には優秀な部下もついてるしね」
「……こほん。お逢い出来て光栄です、今後ともお見知り置きを
 俺は荒事専門になりそうですが、我が優秀な主はきっと貴方の慧眼にも叶うかと思います」
 ルドルフに『優秀な』と紹介されたリュグナートは少し居心地が悪そうに咳払いをした。
「マッドハッターのことも聞きたいな。三塔主がどんな御知恵を持っているのか、是非知りたくって!」
「嗚呼、それは俺も気になっていました。敵を知るには先ず味方から、とも言いますしね?」
「うんうん。実はずっと気になってたんだが……叡智のセフィロトって結局何なんだ……?」
 手渡されたフランスパンを齧りながら、口々に問うルドルフ、リュグナート、零にマッドハッタ―が応える。
「知は知。セフィロトはセフィロトさ。それ以上でもそれ以下でもない。叡智は叡智で、集積体。
 君が今居るこの場所もセフィロトの一部で、叡智の上に君は立っている――分かるかい? 愛しいアリス達。全ては一にして全だ。
 強いて言うなら、アリスは常に想像上の奇跡でなければいけない。『想像を下回ってはいけない』んだよ」
(成る程、ちっともわからねぇ)
 聞く相手を間違えた零に代わり、ジークが声を掛ける。
「マッドハッター君、実は私はギルドで研究所をやっていてね。
 物は相談だが、練達から量子コンピューターを取り入れたいと思っているんだよ。
 もしあるなら、売ってもらえるかな? 研究に必要なんだ」
「今のパンの代価にしては高すぎないかい? アリス、購入には対価が必要なものさ。パンも、帽子も、機能もね!」
 マッドハッタ―が指をパチンと鳴らすと、煙が上がり、部屋の中央には幾つものテーブルが現れた。
 原理は全く不明なまま、テーブルの上には湯気を立てた紅茶とクッキーの盛られた籠が人数分用意されていた。
「ゆっくりしていくといい。ここには君達を歓迎する者しかいないのだから――」
 そう言う彼と、部屋の壁のトランプ兵が笑っていた。



「アデプトの偉い人たちですか!? はじめまして! どうもどうも! はじめましてー!
 いやー、やっぱりアデプトの人達は凄いなって! あれもそれも本当に! そう思ってた所だったんですよ!」
 ペリ子が物凄く気楽で、物凄く気後れしないのは最早才能の領域と言える。
「はじめまして、レスト・リゾートと言うの。よろしくお願いするわね。
 よかったら、練達で一番有名な観光名所を教えていただけないかしら~?」
 この才能は案外多くの人物に備わっているようで、レストも確かな持ち主だった。
「どうも、お偉いさん方。俺はレイチェル=ベルンシュタイン……しがない旅人だな。荒事から失せ物探しまで、何でもこなすンで以後お見知り置きを」
 二人のあんまりな有様に肩を竦めたレイチェルが、辛うじて場の空気を引き締めた。
「随分な遠路を……はるばると、御苦労な事じゃな」
「カスパール翁は、そう言うと思っておりましたよ」
 肩を竦めた『実践』の塔主・佐伯操は、気難しい顔をした『探求』の塔主・カスパール・グシュサナフにイレギュラーズを引き合わせていた
 元々、自分の元を訪れたアルプス、スリーに、セレスタイト、アリア、ついでにバクルドとイルミナ、【月夜二吼エル】の面々、ペリ子、レスト、レイチェル、シグに自身を加えた合計十一名は、かくて『実践』の塔より舞台を『探求』の塔へと移したという訳だ。
「初めましてだな、練達のお偉さん方 イレギュラーズのバクルドだ。
 もしかしたら直接の依頼を受けることもあるだろうし顔見せぐらいはするのは礼儀だと思ってな」
「はじめまして!えっと……同じくイルミナッス!
 イルミナも顔を売り込んでおこうと思いまして! ……ちなみに元の世界に帰る研究とかって進んでます?」
「いきなり切りこむな君は」と操が笑い、カスパールは呆気に取られたようである。
「一日で進むものか」と零すカスパールを操が宥め、目配せをする。

 ――翁は非常にプライドが高い。気を付けられたし――

「僕の体はデリケートではないんですが、整備が必要です。
 練達に居た方が環境は良いでしょう。ガソリンだって質が良い。是非ともこちらを拠点にしたい、なんて」
 続くアルプスの言葉に操は頷いた。
「まぁ、整備性の話をするならばその方が良いかも知れないね。
『特異運命座標』なんて連中が――私も含めてだがね――一般的な機械と同じかどうかは知らないが。
 むしろ君の場合、カタログスペックは『混沌法則』に邪魔されるだろうけど」
「舗装路なら300km/h出ますよ」と語るアルプスに操は肩を竦める。
 ほとほと気分屋というか――科学者にとっては受け入れ難い『法則の邪魔』には彼女も何度も煮え湯を飲まされているのだろう。
 所謂一つの『神』に対しての敵愾心の理由が知れる。
「神って――この世界では具現化されている存在だったりするのですか?」
『神』への敵愾心を目の当たりにしたルチアーノが問えば、操は小さく首を振った。
「君は私と近しい出身のようだから話は早いかも知れないが――実体化した神等、少なくとも私はその権能を振るえる状態で目にした事は無いよ。
 特異運命座標と化した――権能を失ったそれならいざ知らず、だ。
 この世界の神は偶像ですらない概念に過ぎない。唯の権能の塊――但し、間違いなく本物で存在する、力の塊と言える」
 神託の少女が存在する以上――神の存在は疑う余地は無い。
 混沌法則が存在する以上――その権能は間違いなく存在している。
 だが、神とは何だと問われれば、そこに答えは無い。
 そもそもそれが信じられている通りの正しいものであるかどうかすら、人理には不明である。
「私も外から来た者ですし、なにより様々な書を読み解きあらゆる知識を収集するのが好きなので……その辺りの探求は気になりますね」
「ふむ。調べるのは好きか?」
「ええ、得意な方です」と応じたセレスタイトにカスパールが微かな興味を向けた。
 科学者は常に刺激を求めている。外から来た者はそれ自体が意味と価値を持ち――まがりにも『同好』ならば尚良しといった所か。
「ローレットのアリア・セレスティといいます。
 一緒に研究するのは流石に難しいけど、フィールドワークや資材の調達のお手伝いぐらいはできるはずです」
 アリアが売り込んだタイミングは実に完璧だった。
 カスパールは白い髭に触れながら「考えておこう」と――それこそ先の話題ではないが『偶像化された神のような威厳で』応じた。
「一つだけ聞いておきたかったのだが――」
 カスパールを、操をじっと見据えながらシグが切り出した。
「我ら研究者はただ、好奇心の元に新たなる『未知』を追い求めるのみ。
 この世界の未知を解明し尽さずに、元の世界に戻りたい……と考えているのかね?」
 カスパールの白い髪に、髭に青白い雷光が瞬いた。鋭い音を立てた雷撃の発露に場が一瞬凍りかけるが――
「――知れた事。手段を見つけてから、『探求』すれば良い。
 この世界を掘り尽くしたとして、その時に去る手段が整っていなければ、時の無駄ではないか。
 愚問だが、その問いは良い。『探求者』たるもの、それ位愚かでいなければ」
 むしろカスパールはこれまでで一番に機嫌良く『生意気な』来訪者に応じていた。
「この通り、好奇心旺盛な奴の集まりでなァ……アンタらとは探求者同士話が合いそうだから真っ先に挨拶に来たンだよ」
「成る程な、正解だ」
 優雅に一礼してみせたレイチェルに機嫌を良くしたカスパールは同意した。
 気難しい老人だが、元々イレギュラーズへの好奇心はかなり強かったのかも知れない。
 偉大なり、特異運命座標(パスポート)の存在よ。
「……私自身も、ここ練達に、興味が尽きず。皆様からのご依頼、大変、楽しみにしております故」
 そう話を締めたスリーに操は「期待しているよ。何て言ったって――」と言ってから声のトーンを落とした。
「やはり、君達は特別なのだろう。まったく運命に愛されている」
 イレギュラーズにだけ聞こえる小声で操が言う。
「雷翁――カスパール・グシュナサフに一見で肯定的台詞を言わせるなんてもう、土台間違いだ。論理的じゃない。反則のような才能と言える」

●鉄帝
 大抵の物事には二面性がある。
 まるでバランスでも取ろうとしているかのように、偏りは別の偏りをもって是正される。
 特にこのいい加減な混沌のスープ(フーリッシュ・ケイオス)の中で泳ぐなら、嫌でもそれを理解する事にはなるだろう。
「こりゃ、すげぇな……」
 義弘は思わず漏れた自分の呟き声をきちんと確認出来なかった。
 耳朶を震わせるかのような音の塊は容赦なく強かに、全身を貫く衝撃だ。
 意味を持たない音。指向性の無い暴力めいたその歓声はまさに熱狂。
 肌すら粟立たせる『雷鳴』の如く――唯、至高なる闘争の場を荒れ狂うように響き渡る。
「戦いを生業としている者としてラド・バウには一度来てみようと思ったのであるが……」
「ああ……」
 観客席から舞台を見下ろすマスターデコイに頷いた義弘は『あわよくば』と思って鉄帝を訪れた口である。
 一方でデータ集積に余念が無く『演習場』を整備中のマスターデコイは、通常の業態を取る大闘技場に興味があってやって来た。
「いまだ混沌における戦いには分かっていない点が多くそれ故に演習場の準備も完了していないのである」
 混沌の北に位置する大帝国の名をゼシュテル鉄帝国という。寒冷な気候と厳しい経済事情に晒されながらも、たくましく精強に生きる戦士の国をローレット・ワークスの行先に選んだイレギュラーズ達の『大半』が大闘技場ラド・バウの見学を求めたのは或る意味当然だったと言えるだろう。
「旅は道連れ何とやらってね。ついその場のノリで誘っちゃったけど大丈夫だったかしら?」
「綺麗な女の子に誘われたら、断るのは野暮だよね。正直どこに向かうとか良く聞いてなかったけど、些細な問題だよ」
 竜胆と並んで観戦する悠が軽口を返した。
(ええと、九重? 竜胆? さん付け必要? 案外同年かもだし、フランクに呼び捨てでいいかな。
 しかしてまあ、立ち振る舞い綺麗だなあ。服装も凄く似合っているし、これはあれかな。
 自分に似合うものがわかって着ているというやつ……胸元開いてたり、手足の素肌出してたりと寒そうだけど、これは御洒落の為には必要な我慢?
 しかし出してる割にはしっかりガードもされてるし。自分の武器を理解して使っているね……)
「ほら、私が向かおうとしてるトコってぶっちゃけアレじゃない。
 私は何れこっちで活動しようと思ってるからいいけど、悠……悠って呼び捨てでいいわよね」
「あ、うん。じゃあこっちも竜胆、で」
 悠が思春期の男子のような(?)高速思考を展開しているのを余所に、ずんばらりんと切り込む竜胆はチェストだった。
 そんな話は兎も角として、だ。
 石と鋼鉄で作られたラド・バウはその建造物自体が素晴らしい技術と、素晴らしい伝統をその身に宿した特別な場所に感じられる。
 初めてここを訪れた者でもそう感じるのだから、この国の民がこの場所をどれだけ誇りに感じているか等――問うだけ無意味な愚問になろう。
「ここ、すっごい面白そう……! 参加した――」
「――いって、言うと思ってたよ」
 瞳を輝かせる衣の言葉をミーシャが継いだ。
 せがまれて付き合った闘技場だが、両親から逃れてローレットに辿り着いたミーシャからすれば故郷で目立つのも上手くない。
 これだけの観衆の中に紛れて『遊んでいる』のは丁度良く、渡りに船といった所か。
「参加は分からないけど、美味しいもの食べたいんだっけ? 個人的には鉄帝国の寒さを一番味わってほしいけどね、にししっ!」
 折りしもやって来た寒波の事を考えてミーシャは悪戯気に笑う。
 熱狂のラド・バウは兎も角、外はさぞかし凍えよう。
「うわー、すごいね。流石鉄帝。迫力が違うね!」
「鉄帝の闘技場! 腕に自信のある猛者共がしのぎを削る地はやはり剣士としても燃え上がるものがあるな。
 いつかオレもここの覇者と斬り合いたいもんだな――」
「俺は槍を振るう事しか出来ないが……確かに。挑戦出来るもんならしてみたいな」
 興奮したように言ったシグルーンに応えたクロバの言葉にプロミネンスが頷いた。
 目の前で展開される試合は――レベルは様々だが――観客に大変な熱狂を与えているのは間違いない。
「これならポップコーンも沢山売れるかも……狙うは売上大黒字!」
 気合を入れるシグルーンにクロバが「お前らしい」と言わんばかりに軽く笑う。
「この国には、わたしと同じ『鉄騎種(オールドワン)』が多くいるから――参考になるかと思ったけど」
「国の雰囲気を知って……これからの依頼の予想とか、出来たらいいな……
 ……皇帝さんとか、参加したりはしないのかな……」
 成る程、確かにいい機会だった、と。舞台を見つめるセンキやノアの目は真摯そのもの。
「皇帝に勝てば皇帝になれる、とかすげーよなー。いや、なろうとか考える訳じゃねーけど」
「ねー、すごいよね……! あ、次の試合が始まったみたい!」
 絢斗に応えた渓の顔が小さな驚きに染まった。
 耳を突く歓声が一際大きくなったのだ。
「どれ」と絢斗が視線をやれば、巨大な得物を振り回す大柄のパワーファイターを小柄な『女の子』がからかうようにいなすシーンにぶち当たる。
 どうやら人気があるのは少女の方らしく、魅せる戦いを十分に意識した立ち回りをする彼女からは格上の余裕が感じられた。
「流石ですね。『ヒートアリーナ』パルス・パッションさん――同じファイターとして剣の扱い方、戦闘のコツなど聞いてみたいですね」
 パンフレットに目を落としたヨハンが言う。予習したという程ではないが、彼女がラド・バウのスターの一人である事は有名だ。
「いやー。化け物ばっかりですねー。下位なら兎も角、上位に行ける気が全然しませんねぃ」
 パルスのランクがAである事を確認したエリクが嘆息した。
 確かに絶対的な実力で言えば武舞台に舞うパルスは上位なのだが、相対的に見ればそれより上が随分居るという計算だ。
「でも、実際理に叶ってると思うわね」
 ロザリエルは勝ち名乗りを受けるパルスから視線を外し、それを彼方の貴賓席まで持ち上げた。

 ――ゼシュテルにおいて皇帝は誰よりも強くなければならない。何故ならば、より強い者が皇帝足り得るからだ――

「やたらと面倒なシステムばかり作る人間にしてはシンプルな国ね。嫌いじゃないわ! やっぱり力こそ真理よ」
「レオン君に色々気をかけてもらってることを忘れるほど蛮族ではないのだわ」そう呟いた彼女はしかし……
(我慢するのだわ。でも、やっぱり見に行く位はしても良かったのだわ……)
 ……少なくない葛藤を抱えながら、試合を観覧する皇帝の所へ『遊びに行った』同じイレギュラーズ達を眺めていた。



『最強』というモノになろうと思った。
 ならば、問題は何をもって『最強』とするか。
 普遍的な価値を持ちながら、誰にも定義出来ない難問だ。
 実にややこしい話ではあるが、強いと目される者を倒し続けるのが、手っ取り早い一つであろう。
 何、完璧な回答は不可能なのだから。一先ず、結局の処、全て通過点なのだ。目の前にいる相手も。
「それが! こんな! お預けくった! 狗みたいな!」
 自身の目の前で地団駄を踏むヴェノムを見て、そして。
「このか弱い姿を晒す事誠にご無礼! 何より強者をみて拳を交わさぬ惰弱の極みをどうか許していただきたい!
 異界よりの種、美少女。咲花・百合子であります。武の至尊の一手、是非味わいたい所でありますが味わうに吾は余りに未熟。
 しかし、何れ挑戦する者として吾を覚えて頂ければ光栄であります!」
 礼節正しい言葉の中に百合子の激しい気性――抑え切れない渇望を読み取った皇帝ヴェルスは軽やかな笑みを浮かべていた。
「噂のイレギュラーズってのはどんなのかと思ったら……やぶからぼうに、激しい女が多いんだなあ」
「嫌いじゃない」と続けたヴェルスは目を細めて『偉大なるルーキー達』を眺めている。
 何の事は無い。ラド・バウが鉄帝国民の最大の娯楽ならば、皇帝にとってもそれは同じだったという事だ。
 貴賓席で今日の試合を観戦する彼は、『ついで』の意味でも非常に気安く謁見出来る環境を与えてくれていたと言える。
 多くのイレギュラーズが望んだ皇帝ヴェルスやチャンピオン・ガイウスとの邂逅と闘技場見学が一度に出来たのは全く僥倖である。
「聞けば皇帝さま、国民の困窮を救いたいとのお考えだとの事。私も飢えとかはない方がいいと思う。
 お茶させて頂けたら、個人的にお役に立てるよう動こうと思っているよ」
「初めまして、特異運命座標のケントと言います。
 自分がいつか登りつめ、貴方と戦うことがあれば。そしてその時、自分が貴方に負けたその時は――生かさずに殺せ」
 ラァト、ケントの言葉にヴェルスは肩を竦めた。
「ラブレターが一杯だね、どうも。
 紅茶の一杯位なら振る舞ってやれるが、指図を受ける趣味は無いな。俺に指図したかったら俺に勝つ前提で話をしなよ」
(ぎゃああ! やっぱりカッコイイ……!)
 身悶えするトートに電撃が走りまくっている。
 一つ一つの所作から溢れ出る圧倒的な自信と余裕は彼生来のものか、それとも歴戦で培われたものか。
「あ、あの! 質問! ヴェルス様は以前から強かったんですか? やっぱり修行とかして強くなったんですか!」
「それなりにね。だが、昨日の自分が強いと思った事なんて無いな」
「まるでインタビューみたいだな。パルス辺りなら喜ぶかも」とヴェルスが苦笑した。
 鉄帝の国民性を考えれば「改めてそういう事を問われる」経験は少なかったのかも知れない。
「強けりゃ皇帝になれるたぁ、いやはやとんでもねぇ国だなぁ。
 初めましてでお願いをするのも気が引けるが、皇帝陛下、あんたの武器をちょっと手入れさせちゃもらえねぇかな?」
「珍しい願い事をするな、お前。ああ、ひょっとして職人か?」
 ヴェルスはユウヒをまじまじと見たが、その時間は数秒に満たなかった。
「まぁ――好きにしたらいいさ。もっとも、愛用品なんてのは、本人が使って初めて意味があるモンだがね」
「……恩に着る、けど。いいもんなんだな、これ」
『二つ返事で己が双剣を初対面の相手に渡した皇帝』の行動に、却って頼んだユウヒが面食らった。
 傍らでヴェルスの放蕩に眉をピクピクと動かす宰相のバイルがどう思っているかは知れないが、少なくとも本人が気安いタイプなのは間違いない。
 そしてもう一つ、彼は気安いだけでは無く――恐らく他の誰にも不意打ち程度で遅れを取らないという『自信』も持ち合わせているのだろう。
『唯強い』という噂が戦う術を生業にする者にとって、どれだけ魅力的に映るのかは――改めて説明するまでも無い。
「その強さの秘密はやはり筋肉に? お許し頂けるならば指でツンツンしたく存じますわ」
「……何だか、御婦人に軽くいいよって応え難い要求だな」
 エリザベスの望みにヴェルスが軽く苦笑する。
 彼との謁見を求めたイレギュラーズはそれなりの数が居た。
 だが、このゼシュテルにおいての一番人気は世論と同じように割れる所となったのである。
「……ほら、次の試合が始まるぜ。俺とどっちが――何てのは試した事は無いがね。
 このゼシュテルで『一番強いかも知れない男』が登場するぜ」
 顎で舞台を示したヴェルスに釣られて舞台に視線をやれば――そこには万雷の拍手歓声に迎えられ、君臨するガイウスが立っていた。



「成る程、大したもんだ。いよいよ燃えるぜ」
 舌で唇をぺろりと舐めたルウは目の前で展開された『戦い』に魅せられた。
「HAHAHA、あれがチャンプか。……ベリーグッド、いい面構えだ。弱っちくなった今のミーじゃ勝てそうもない」
 その言葉に歯噛みする程に弱くなった己への皮肉を乗せて貴道は呟いた。
「ラッキーパンチなんて貰ってくれるなよ、チャンプ。ユーに負けてもらっちゃ困るんだ」
 同じ拳を生業にする者として――『ボクサーの動体視力が、見る事すら出来なかったフィニッシュブロー』の意味を痛感している。
「アレが――スーパーチャンプか」
 出身世界を持つウォーカーのエレムの目に戦いがどう映ったかは定かではない。
 だが、混沌法則に支配されるこの地において――彼がどういう存在であるかは分かり切っていた。
 少なくとも純種として混沌世界に生を受けた者は、少なからず目の前の光景に戦慄した事だろう。
 S級クラス戦を『勝ち抜いた』チャンピオンは十分な実力の持ち主だった筈だが――そんな彼は然したる時間持ちこたえる事も出来ず、血の海に沈み、既に控えていた医療関係者に運び出されている。観客に応える絶対王者は深く息を吐き。愛想も少なく、鋼鉄化した怪腕を持ち上げ――華やかなりし舞台を後にしていた。
「まぁ、話はつけてある。彼と話をしたいのなら、案内はするよ」
 引率のカルネの言葉に息を呑んでいたイレギュラーズ達は人心地を取り戻して頷いた。
「正直、物好きだと思うわあ」
「……ファンの多い人じゃないか」
「アタシよりはね!」
「君は、わざと負けて彼に挑まないから好かれないんだよ」
 カルネに絡んだのはこのラド・バウのS級闘士であるビッツだ。
 軽口を叩くビッツはカルネの要請を受けて、闘士の控室に一同を案内する。
「はぁい、チャンピオン。アンタにお客よ」
「……」
 果たして。望み通り、ガイウスとの対面を果たしたイレギュラーズ達に寡黙な絶対王者は視線だけを投げかける。
「初めまして! ブルーブラッドのシエラ・バレスティです! 盾を使うのが得意です!」
「オレはバリガだ……アンタがガイウス、なんだよな」
「初めまして~♪ 私はクルーレア、君……いえ、あなたがここのチャンピオンなのよね」
 実に闘技場でするに相応しい名乗りをしたシエラ、続いたBriga、クルーレア。
「オレはイグナート・エゴロヴィチ・レスキンです!」
 そして誰より元気なイグナートの挨拶を受けてガイウスは低く重い声を発する。
「噂は聞いている。遠路はるばる――俺を訪ねてくれた、とは思い上がらぬが。ようこそ、と言っておこう」
 余り饒舌な方には見えないが、その職業柄、様々な力を有した戦士には興味があるのだろう。
 無骨ながらに応じた彼は、拳を『整備』するように動かしながら、その注意を面々に注いでいる。
(うわ、本物だ。とても戦いたいなんて言える空気じゃない)
 恐らくはそう意識せずとも、全身から呼吸をし難くなるような威圧が迸っている。
 実際の所、彼の『ファン』であるイグナート等は、これがとんでもない快挙である事を知っていた。
 ラド・バウの絶対王者が飛び入りの客を何時も相手にする位、愛想が良い方だとは寡聞にして知らなかった。
「チャンピオン。可能ならぜひとも。話を聞きたいと思っていたのです」
「まずは勝利をおめでとうございます」
 そう水を向けたフィオリーレと、大輪の薔薇の花束を抱えたアメリアにガイウスは小さく頷いた。
 スーパーチャンプの試合はS級を勝ち抜いた『チャンピオン』が居なければ開催されない。
 そういう意味では彼の試合を目撃出来たのは――イレギュラーズにとっても幸運だったと言えるだろう。
「お聞きしても?」と前置きしたアメリアにガイウスはもう一度小さく頷いた。
「あなたはどうして戦うのですか? どこまで強くなれば満足できるのですか?
 戦いの果てには何がありますか? 私のようなものでも、強くなれますか――?」
「この世界に生を受けたが為に。俺にとっての戦いは生きる事だ。先に何があるか等、考えた事も無い。
 それから――この世に強くなれぬ者など、居ないと考えている。強くなる気が無い者は居てもな」
「……この国は強い方が一番になれるという国なのでしょう? やっぱり現在の皇帝殿は、他を寄せ付けぬ強さなの?」
 ミスティの言葉をガイウスは「知らん」と一言で切り捨てた。
「俺は政治には興味が無い。我が生の何時か、何れかに皇帝とやり合う日も来るだろうが……それは今ではない。
 何故なら、俺はまだ『最強の俺』ではないからだ」
 金色の野獣も、鋼鉄の絶対王者もその考えは同じか。美味いものを先に狩り尽くせば、世界は余りにも苦々しい。
 灰色の世界はゼシュテルの風景だけで十分という事か――
「可能性を持つ者ならば、早く強くなれ。全てその為と思えば、この時間も面合わせも意味を持とう」
 ――ガイウスも又、特異運命座標に『彼なりの願望』を見ている。
「私はこれから必ず強くなります! その時はお相手宜しくお願いします!
 それから! 出来ればこの盾の裏にガイウスさんのサインお願いしたいんですけど、ここです!」
「強い子と命のやりとりを楽しむのが私の趣味なのだけど、うーん、挑戦を受けてもらえるようになるまではまだまだ遠そうねー」
「オレ、今はまだ弱ェけど……必ず強くなる。アンタと同じ位。
 だから、オレが強くなった時、アンタも闘ってて楽しいくらいになったら……オレと戦ってくれよな!」
「俺はテメェを越えるために強くなる。
 何時か手合わせもしてぇって思ってる。必ず強くなってテメェの記憶に残るような戦いを経験させてやる。
 それまでは絶対に負けるんじゃねぇぞ?負けたらテメェを殴り殺しに行くからな!」
 戦士の気配は、闘争心を刺激するものなのだろう。
 口々に言うシエラ、クルーレア、Briga、そして些か物騒で無謀な豪真の言葉を瞑目したガイウスは唯聞いている。
 彼が何を考えているのか、イレギュラーズはサッパリ分からなかったが……
(あら、機嫌いいじゃない?)
 口元に手を当てたビッツは小さな口笛を吹いていた。



「……ま、究極的には同じなのさ。俺もアイツも。
 やり合ってくれって言われたって聞かないよ。手加減なんて戦士への最大の侮辱だろ?」
 ラド・バウの闘技受付には飛び入りで参加させろと要求したイレギュラーズ達が何人も居た。
「ふーざーけーるーなー! つーまーらーねーえーッ! ……ん?」
 飛び入りは難しいと聞かされ抗議していたキーリェが振り返る。
 話を聞いたヴェルスが受付に現れるなり、辺りは一層騒然とした。
 この王様はフォルデルマンとは別の意味で何処までも自由で、何処までも適当なのである。
「出たいんだって?」
「俺は異世界から来た戦士、名をシーナ。胸を貸してくれる鉄帝の戦士が居れば是非とも借りたい」
「あわよくば参加して実際にちょこっと戦ってみたいな……とか」
 近くにいた7号 C型(シーナ)、そして渓にヴェルスは問う。
「やってよさそうで、無料ならね! 忌々しいコインめ!」
「今の俺はどのくらいなのか……知っておきたいしよ」
「ローレットとしての力を示せるかと思ってな」
 ロザリエル、義弘、プロミネンス辺りもそれは同じで……まぁ、この場所に来る位である。
 戦いたい人間は少なくは無かったのである。
「……『特異運命座標』が申し込める方法はあるか?」
 この国最大の責任者が現れたとあれば好機である。
 力を得る事が元の世界に戻る事に繋がるのだとしたら――迷う余地は何処にも無い。
 尋ねたアカツキに肩を竦めたヴェルスは言う。
「作るしかない、だろうねぇ。まぁ――こんなエキシビジョンもたまには、いいか」
「イレギュラーズは可能性に満ちている!」
 キッパリと言い切ったファリスは美しい見た目に似合わず、全力全開で脳筋である。
 そんなファリスを見たヴェルスは少しだけ邪悪で獰猛な笑みを浮かべて続けた。
「いいよ。やればいい。だって、お前達、人並み外れて頑丈なんだろう?」
 まるでそれは試してやる、と言わんばかりで。
「……鉄と、戦士の国……そうか、少しだけ、郷に似ている様、な……
 帰りたいと、は、想わぬが、懐かしいのも……ん? んんん!? 出ろと、出るのか、この流れは……」
 何やらそういう流れの濁流に巻き込まれた凱の一方で、
「そうこなくっちゃ! レガド・イルシオンに呼ばれてから長らく帰ってなかったッスからねー。
 やっぱり、ゼシュテルのピリピリした空気は常に良い刺激になるッスよ!」
 嬉々として登録を進めるスウェンは、まさにこの国の出身といった感である。
「試してみたら?」
「痛み入る!」
 イレギュラーズは(気に入ったのか)笑顔で百合子に闘争を勧める皇帝陛下が額面通りに優しげでも無い事を何となく理解した。



「特に鉄帝に用はなく、あみだで決めたである」
 本当にあみだで決めて、気の向くままこの場所を訪れた我那覇は珍しい方としても――
 イレギュラーズが鉄帝国に抱いた興味の大半は荒っぽい方向に向いていたが、勿論それだけでは無かった。
「――ひさしぶりにとーちゃんとかーちゃんに会いたいし……」
 実に素直な感情を抱いて『しっかり頑張っている所を見せたい』と考えたモモカのような者も居たし、それとは別に闘技場ではなく都を訪れた者も居た。
「たのもー! ……あ、いや道場破りじゃないよ!」
 戦士の国である鉄帝国からして、武器技術に興味を示した者も居た。
「アタイはオルトグラミア。オリーとでも呼んどくれ! この国ならきっと居る名工を探しててね――」
 オルトグラミアは、お国柄活気のある鍛冶屋界隈をこうして行脚しているという訳だ。
【無銘堂】の面々も、目的こそ少し違うがはるばる鉄帝国まで武器界隈を見に来た連中である。
「おお、強者の楽園よ! だが、戦いを挑むには尚早だな。何れは数多瞬く綺羅星のような豪傑よりも強くなってやる心算だが」
「強い人はね、強い武器を使うんだよ。つまり強い人が集まる鉄帝には、強い武器を売るお店がたくさん有るはず!
 そんなわけで武器屋さん巡りだー!」
「ここは、三人でウィンドウショッピングと洒落込むかね」
 雷霆の言葉にプティと汰磨羈が応じた。

 ――なんでだよ! ふっざけんじゃねぇー!

 まぁ、それがレベル1というアレである。
 ラド・バウで飛び込んだものの――他のイレギュラーズと同じく――然程芳しい結果は得られなかったのはキーリェも同じであった。
 やはり、一足飛びに混沌法則を超える事は難しいのだから、まずは武器である。
「相棒たるものに出会えれば良いのだが……」
「いいのあるといいんだけどねえ」
 唸る雷霆に笑顔のプティが言う。
「団長殿は、並の武器では物足りなさそうだ。ここなら、豪快な武器の一つや二つ、あると思いたいが」
 買えるかどうかは又別の問題か。
 何れローレットにも販路が増えれば良いのだが、と汰磨羈。
 ニコニコしたままのプティはこの時間そのものが楽しそうである。
 ならばこれも重畳か――と。汰磨羈は店頭に飾られた見事な刃紋の太刀の美しさに溜息を吐いた。

●天義
「嗚呼、なんと一面の白! まるで夢のような幻想的光景でございますね!」
 ティラミスの言葉は、全くその風景を的確に表していた。
「生活の基準は高いと思うし、治安も抜群に良さそう――だな」
 リゲルが挨拶に出向いている間、手持無沙汰だったポテトは街を見て回る事にした。
 素晴らしい都市計画で整備された塵一つ無い白亜の街は、一言で言えば完璧だ。
 少なくとも幻想で見たような雑多な澱みは感じられず、少なくとも見た限りには眉を顰めるような光景は広がっていない。
 天義は宗教国家と言う以外余り知られていないから、これを機にどんな国かしっかり自分の目で見てみよう――そう考えたポテトはそれでも。
「……」
 上手く表現するべき言葉を見つけられず、唯黙って頬を掻いた。
 確かに街は美しく、確かにその全ては規律に満ちていたのに。
(気の所為、じゃないんだろうな――)
 黒羽が圧迫感にも似た息苦しさを感じたのは、恐らく無理からぬ事だったのだろう。
 世界各国に散ったイレギュラーズの幾らかは白亜の聖都(フォン・ルーベルグ)を訪れる事を決めていた。
 宗教国家として名が通る大国『天義』――聖教国ネメシスは、高い名声と同じだけ悪名も持つ国である。
(穏健派貴族だったコンフィズリー家が『不正義』により没落したって聞いたことがあるな。その『不正義』ってのは一体何だったんだか)
 天義の正体を自分なりに見定めんとこの地を訪れた黒羽は、辺りを見回しながらそんな事を考えた。
「ごめんなさいね、ティス。我儘に付き合わせてしまって」
「いえいえ、折角他の国を見学出来る機会ですからね。お嬢様の見識を深める為にも良い旅になるのではないでしょうか?」
「そう言ってくれると気持ちが休まるわ。白亜のディストピアをどうしても一度見てみたくって。
 行き過ぎた信仰心の結末は盲目と監視に行き着くのはやはり人の業といったところかしら?」
「……人は多様性に満ちながらも、何時かはそれを忘れてしまう、と。以前の主人様がそう仰っておりました」
 ポテトに何とも言えない感情を抱かせ、エトとティスタの主従にそんな台詞を言わしめた理由は、この場所の特徴――人間味の欠落によるものだ。
 大きな街だが、建物や雰囲気に個性は薄い。道行く人の表情も硬めで、己を律しているような雰囲気は否めなかった。
 とは言え、沢山の人が住んでいる以上――人間味なる漠然とした存在感が希薄になる事は『普通なら』少ない筈なのだが。
「でも、すごく厳しいところって、聞いてたんですけど、その割にみんな幸せそう、ですね。
 ……実際、幻想に比べれば随分満ち足りているようにも思えます。アリシスさんは、どう思います、か?」
「……似た雰囲気の都に属していた身としては、懐かしさと厭わしさを感じる光景だけれど。
 幸せなのは確かでしょうね。同じ色の集う場所なら、住み心地も良い筈です……馴染めない色にとってどうかは、さておき」
 問いに何処か皮肉気に形の良い唇を歪めたアリシスにノブマサは「そういうものですか」と頷いた。
 傭兵(ラサ)と幻想(レガド・イルシオン)しか知らぬノブマサがアリシスに同道を求めたのは、彼女の視点に興味があったからだ。
「……それに、こういう所だからこその暗部というものも必ずある筈。何れ見る機会が来るかもしれませんね」
 成る程、ノブマサに比べればアリシスの視点は冷静で、そして皮肉めいている。
「こういった機会でもなければ中々来ようとは思うまい。全く怖いもの見たさとも言えるかな」
「正義とは何だろう。人を助けることが善いことだとは思っている。
 だが……それでいいんだろうか。救いなんて求めてない、という人もいた。この国に来れば、何かが分かる気がしたんだが」
「なるほど、ここは神を尊ぶ国である。ゴッドワールドとはまた違ったフェイスであるようだが、善良たれというマインドは善きことである」
 古物商を探して辺りをうろつく朱鷺の一方で、見回しても余り見えてこない天義の素顔に肩を竦めたラダと、白く染まる街並みを眺め「正義とは何ぞや」を口にしたフィンスターに「ふむ」と頷いた豪斗がその思案を巡らせた。
(……しかし、ジャスティスが一つとはいただけんな。
 ゴッドは人の子らが自ら考え選び取る正義を尊ぶが、他人に押し付けられたジャスティスに意味はあるであろうか。
 いや、意外とこの国の正義がゴッドと合うかもしれんし合わんかもしれん。それは、言い切れぬか)
 思案する豪斗の一方で、心底楽しそうな笑顔を見せるのはムドニスカだった。
(──嗚呼、神、カミ、かみ。陽光に住まう者達を導く……否、誘う独善者。
 忌々しい、が、聞く限りでは、その姿を顕現させていないと。
 然し、その幻想に溺れ、代行のつもりか民を独善の鎖で縛り付けている。
 ……ンフフッ、この国こそ、幻想と呼ぶに相応しいデスネ。幻想は王が夢を見ているだけですカラ♪)
 面白い口調で面白い事を言う割には、豪斗は正鵠を射抜く人物だ。そしてこのムドニスカも又、歪んだ深淵から歪んだ国を覗き込んでいる。
 ただ、同時に豪斗は天義を否定せぬまでも、恐らくは他の国程、この国は気安く無かろうと確信もしている。
「その、今後……ろ、ローレットも……か、関わる事に、なる……敵対するで、あろうものを知り……備えたい、なと……」
 正直『怖い』印象も否めないこの国で、カシャがレオンの望んだ『仕事』を始めていた。
「ちょっといいかい? 何かあったのかと思って――」
 同じように『正義と信仰の国で、土に生きる人々のもとにある正義を探しに来た』カザンも困り人を見過ごさないセンサーで道行く人に声をかけている。
 人当たりが柔らかく、相手の警戒心を自然に緩める雰囲気のある悠凪は偶然に目の合った若者と信仰について言葉を交わしていた。
「貴方にとっての信仰とは何かを教えて貰えれば――」
「――そ、それは。そう、全てだよ。人間が人間として正しく生きていくには、矜持が必要なんだ。
 それは、偶像化された英雄じゃない。金銀財宝でも無い。正しくあろうと、正しく導こうと――ずっと昔から、混沌にある『意志』なんだ」
 若者は一生懸命にそう語るが、まぁ、凄い美人に話かけられ、御説に力が入った事位は許してくれるだろう、神様も。
「折角の機会だ。彼等の信仰する存在を学び、我等『物語』の糧と見做すべき。
 真の神とは人間が孕む『感情』即ち、普遍的かつ宇宙的な恐怖だが。此度は心中に留める。厄介な『眼』に刺されるのは難よ」
 酷く哲学的なオラボナの『学習』は、天義からすれば『不正義』足り得るのかも知れないが――彼等、イレギュラーズは聖都の文字通りのイレギュラー足り得たのだろう。酷く起伏に乏しかったように見えた人々の表情に未知への好奇心、興味といった温度が僅かに差していた。
 彼等の存在は、白亜の街に現れた色彩だ。白は実は――染まり易い色でもある。
「この国の美術に興味があるって話だったな」
「まぁな。宗教画だの、彫像だの中心みたいだが――お前画家だったんだろ? どうだ、俺と組んで一儲けしねぇか?」
 晴明の言葉にベルナルドは憮然とする。
「絶対に描かねぇよ、他あたれ!」
 何の為にこの国の過去を黒歴史に封じたのか――「残念」と笑う晴明に幾らかの揶揄を感じたベルナルドはもう一度憮然とし直している。
「貴方方の信仰についてお聞きしたくてー……どんな神様を祀っているのかとか、お祈りの事とかー……!」
 宗教関係者を見つけたマリアは彼等から話を聞かんとし、首尾良く聖堂の中へと案内されていた。
 余りいい噂を聞く場所でないのは知っているが、まがりにも彼等も聖職。
「ここは、信仰の篤い宗教国家とお聞きしました。今回は見聞を広めるためにお伺いしようと思い、こうして」
「無学な私ですが、主は信仰することを許してくださるでしょうか」
 マリアにしても、このユーイリア、本気では無いにせよ信仰を学ぶ姿勢を見せたロクにしても同じである。
 敬うべき所は敬いを向ける――少なくとも、天義の聖職に受け入れて貰いたいと考えるならば、そういった姿勢はこの上なく正しかったと言える。
「仕事を得る、というのもなかなか大変なものだな」
「ああ。ガリラベルク殿、あなたは正義という言葉をどう思う?」
 人々の注目を集め始めたイレギュラーズ達から距離を取り、ローラントとアレフは言葉を交わす。
「『正義』、か。各個人が持つ行動の指針、その柱となるもの、と言ったところかな。
 だが、世の中には『世界共通の絶対正義』の存在を信じる者も多いな」
「……私はその言葉は余り好きではないんだ、何より良い思い出が余り無くてね」
「ははは。アレフ殿はそういった輩と色々あったのだろうね」
 快活にアレフの言葉を笑い飛ばしたローラントは続けて言う。
「私は、この国が掲げる正義を否定するつもりはないよ。問題は、この国が他の正義を認めるかどうか、だろうね……」
「全くだ」
 応じたアレフは頭の中でだけ言葉を紡ぐ。

 ――絶対なる正義があったとして、その正義に沿わない物は悪だと言えるだろうか?
 観点の問題にしか過ぎないというのに、その齟齬は大きな歪みを生み出してしまう。
 それは病巣に過ぎまいに、人はその堂々巡りより抜け出せまい――

「どうせ連中は、正義と信仰が服を着て歩いているような存在だろうし」
 唾棄するかのように呟いたミニュイは久し振りのフォン・ルーベルグを眺めながら溜息を吐いた。
(永訣はとうに昔。だけど。応報を始める前に、一度くらい。何を壊すつもりなのか、理解しておくべきだ)
 それは決めた事だけれど、彼女の鋭敏な聴力が拾うのは聖都には相応しくない『普通の市民のやり取り』も含む。
 息を殺して『普通』を隠さねばいけないこの国の何と息苦しい事か。
 とは言え、この国が幾ら歪を抱えていても、きっとイレギュラーズばかりは変わらないのだろう。
「……ここが天義……豪華で綺麗な国だね……
 王様との謁見……お話……難しそうだね……眠くなってく……る……ZZZ……」
 竜胆シオンは何処までもそのままだ。嗚呼、怖いお偉方に放り込んでいいタイプの少年では無い!



 幻想の宮殿が豪奢の一言ならば、天義のそれは荘厳の一言であった。
 贅を尽くしているという意味ならば幻想には及ばない。城の防御力という意味では鉄帝のそれには及ぶまい。
 しかしながらその場所は、神々しさにも近い何かを感じさせる――まさに特別な場所にしつらえられていた。
「リゲル=アークライトと申します。特異運命座標に選ばれ、ローレットにて任務を任されることになりました。
 母国の地を離れようとも、御国の為に尽力したく存じます」
「うむ、リゲル殿。遠路を御苦労。私はレオパル・ド・ティゲール。フェネスト六世陛下より、この国の聖騎士を率いる栄誉を頂戴している身だ」
「存じております。お会い出来て光栄です」と応じたリゲルに、白金の重鎧に身を包んだ巨漢の聖騎士が頷いた。
 リゲルは己が内の不安――天義への疑問を悟られないように努めて冷静に、真っ直ぐに騎士団長を見返した。
 幸いにか、総ゆる嘘の存在を看破するというレオパルの青目はリゲルの中に悪心や偽りを映さなかったらしい。
 ここまでの道のりはそれなりに長かった。少なくとも他の国の数倍は苦労してやっとここまで――である。
 それぞれの武装を『預かられた』一同は、紆余曲折を経てようやくこの謁見の間へと辿り着いたという訳だ。
「は、初めまして……ぼくっ、アルズといいますっ!
 せいぎの国、ネメシスにずっと憧れていました。王様にあうことができて、ほんとに嬉しいです!」
 アルズの余り上手ではない挨拶に、白い法衣を纏った玉座の主――フェネスト六世が頷いた。
 咳払いを一つしたレオパルはそれでも今日に関しては作法の辺りを煩く言う事は辞めたのか「良い心掛けだ」と一つ大きく頷いた。
「天義に伝わる教義を学びたいと考えております。御挨拶と、学びの為に参りました。私も、神に仕える身ですので」
「土着の信仰とはいえ」を台詞から抜いたソフィアが丁寧に述べると、謁見の間の空気は幾らか緩んだ。
 天義の支配階層は外に寛容では無い。だが、外に寛容では無いという事は、内に親しみを感じやすいという事でもある。
 唯の一言で如才なさを見せたソフィアの一方で同道のメテオラの方はそうはいかなかった。
 レオパルの青い瞳が彼の姿を射抜き、その口元には幽かな笑みが浮かんでいる。それは好意的なものではない別種のものだ。
 メテオラにしても同じ事。挨拶の体を借りて、むしろ挑戦的な彼は――この時間を己がローレット・ワークスに定めている。
「――貴方にとっての正義とは?」
 フェネスト六世に向いたリジアの直言に、問いを無礼と捉えた周りの騎士達が色めき立つ。
 しかし、レオパルは表情を変えず、当の国王は「良い」とだけ応え、騎士達をその手で制した。
「我が望みは清廉潔白たる、主の望んだ世界の実現である。その為に我は生まれ、ネメシスは生まれ、これよりも在り続けるのだ」
「その正義って、絶対にしないといけない事なの? 人の数だけ正義の形は色々あると思うけどそれを知った上でその正義だけを行ってるの?」
「えー……至って簡素に拝聴願いたく 不躾を承知でお伺い出来ればと。
 天義が問う敵は概ね承知している心算でありますが、果たして かの敵を滅した後 天義が目指す法とはなんでありましょう」
 もう一歩踏み込んだリジア、そして不倶戴天の『魔種』に言及した夏子に再びざわめきが起きるが、フェネスト六世は動じない。
「無論。間違いは正さん。間違い無き意志は常に一つ――それは主の望みであり、ネメシスの実現のみ。
 この混沌に、世界に、国に、人に仇為す外道共は、一欠片も残さず、白銀の剣で成敗し尽くすばかり。この身、命に代えても、である!」
 素晴らしく良く通るバリトンで言い切った。一つの迷いも無い『頑迷な断言』に騎士達が感動したように嘆息している。
 漲る威厳と意志を込めた王の言葉は、確かに――それをそうと信じる者にとっては格別の意味を持って響く。
(さて、幸福な人生とは何か、私は彩りのある人生を歩めるのがそうだと信じているのですが……
 この国の方々は、どのようなものを望み歩んでいるのでしょうね? とても興味深いです――)
 だが、四音は思うのだ。純白なばかりの人生は、果たして幸福と呼べるのかと。時に、疲れたりはしないのだろうかと。
(宗教……ね、明確な偶像化がされてないってのは、良いことだな。
 いつだって自分の信じたいものを信じればいいんだ。正義は人の数だけ存在し、神は己が内にある。
 そう信じる自分の心に嘘は無い――全く、無いんだろう)
 一方で納得し、感心したようにプリーモは頷いた。
「悪の断罪から薬草探しまでなんでもお申しつけください。
 迷える仔羊を救うのが自分の役目。必要とあらば手を血で染めることも厭わない――それもまた神の思し召しなのでしょう」
「理解してくれるか、特異運命座標のシスターよ」
 恐らくは『シスターである時点で同じ神を信じる者と疑わず好意的であろう』フェネスト六世が、マリアの言葉に目を細めた。
 ネメシスの行動原理が正しいかどうかは別にして、確かにこの国には、この王には自分がそうと定めた正義を持っている。
 恐らくは自身がその正義に反したならば、自身さえも許さぬという潔癖な――高潔さも持ち合わせている。
 この王は、思想はどうあれ確かなカリスマを持っていた。
(私の元世界では神は意思あるシステム、死者は死んだ時点で罪なし、輪廻に戻って巡り直す存在なんだけどさ。
 力持つ宗教国家である天義、彼らのありかたはどうなのかなっと――思ったら)
 リンネは自然に溜息を零していた。
 生前の業にて、死者の魂の安寧が乱されん事を。
 死神の少女はそう考えたが――実際の所、この国は『どちら』なのだろうと判断がつかなかった。
 愚直だが――ある種、馬鹿げている位に純粋で、美しくもある。
 矛盾に満ち、整然としていて、評価すべきで、唾棄すべき存在だ。
 そして、当然と言うべきか。やはりどの国よりも、どんな武力よりも危険だった。
 白亜の街に聳える聖なる城の上空をその時、一匹の竜が飛んだ。
 白い竜は唸り声を上げ、空を旋回し――どこか元世界に似ているその街を懐かしそうに見下ろした。
 人々は、この銀竜を――美しきアルペストゥスを尊んだ。
 彼は人々に恐れを抱かせぬ為に飛んだのだが――それは、まるで吉兆のようにも思えたからだった。

●傭兵
「砂漠の都、ですか。本当に、ファンタジーとかの物語に出てきそうな場所ですね」
「ものすごい活気でありますね! 拙者こういうのは初めてであります! なずな殿はどうでありますか!」
「サンド・バザールでしたっけ。楽しみです」
 全くもって至極スタンダードな女の子トークを交わすのはなずなと、余りスタンダードでない女子(失礼)である所のルル家である。名前からしてな。
 揺れる陽炎の向こうに、千夜一夜の扉が開く――
「砂漠の都……ネフェルストっつったな。オアシスを中心に形成されているのか。混沌にも似たようなもんがあるとはな……」
 アランの目にした砂漠の都は幻想的なまでの美しさに包まれていた。
 ラサ砂漠のほぼ中央に位置する大オアシスは、砂漠に生きる民の生命線であり、受領した恵みだった。
 大オアシスを寄る辺に造られた砂漠の都は『夢の都』と称される事となる。
 ラサ傭兵商会連合の誇る本拠地ネフェルストは、古来より幾多の詩人達にその名を謳われた風光明媚な都市だった。
「……と、いう訳だ。ようこそ、ラサ傭兵商会連合へ」
 燃えるような長い赤毛に、端正ながら獰猛な顔立ち。精悍に引き締まった体は如何にも手練れを思わせる――
 ネフェルストでイレギュラーズを出迎えた人物は、彼等の大半にとって全く予想外の人物だった。
「はぁい、ミスタ・ディルク。お噂はかねがね。
 まさか、直接お出迎え頂けるとは思っていなかったけれど――お会いできて光栄だわ。
 イレギュラーズとしても……個人的にも是非お知り合いになりたいもの。
 ラサの末席に名を連ねるガルシア族が一、リノといいます。私の名前、どうぞ覚えていらしてね」
 成熟した女性の魅力たっぷりにしなを作ったリノを見て。
「高名な『赤犬の群れ』のディルクさま!
 わたくしはずっと昔から傭兵の方達の様な自由な生き方に憧れておりましたの!
 ディルクさまにお目通り叶うなんて、今日はなんていい日でしょう!」
 対照的に少女らしい――子供らしい全く直球な好意をぶつけてくるリリルを見て。
「いいね、お前の所」とレオンに水を向ける彼こそが、言わずと知れたディルク・レイス・エッフェンベルグ。
 そう、イレギュラーズを出迎える格好で現れたのは、ラサを実質的に取り仕切る有力者、傭兵団『赤犬の群れ』の頭目だった。
 その傍らには妙齢の美しい幻想種が立っていた。こちらもラサの有力者である傭兵団『レナヴィスカ』団長のイルナス・フィンナである。
「こうして、何となくコネクションを得られるのが最大の成果かな」
 流しのパン屋――は今回の旅行をそういうものと位置付けていた。
「此度、特異運命座標と相成りました獣種がひとりシーヴァと申します。どうぞお見知り置きを」
 イルナスを訪ねようと考えていたシーヴァにとっては手間が省けたといった所だ。
「畏まった言葉遣いは疲れちゃうわね。幻想種はあまり争いを好まないと思っていたのだけれど……アナタは何故傭兵をしているのかしら?」
「生まれた時から、ラサに居たからな。私は。それに幻想種全てが変化の少ない時間に生きている訳でもない。
 このラサとアルティオ=エルムの歴史は長いんだ。あの閉鎖的な森が心を許す親友――私も、彼等を守る盾の一つなのさ」
「成る程ね」と頷いたシーヴァにみ猫が続く。
「はあ、お初にお目にかかります。うちは、恐れながらもイレギュラーズの一人。狗尾草み猫、言います。以後よしなににゃあ。
「どっちかっちゅうと、荒事以外で頑張りたい所やけど。戦い方についても、勉強させてもらいたい、思っとります。よろしゅうに」
「生来の名を持たぬ身だが、ルイン・ルイナと名乗っている。破滅に抗う戦線があらば、轡を並べ戦う事もあるだろう。見知り置きを」
「傭兵や商人である以上、情よりも益を重視するのは当然の事。ですが、時に情とは金銭よりも『高い利益を齎すもの』だとは思いませんか?
 是非とも私達を試して頂けたらと思います。千の言葉を費やすよりも、一度の成果の方が雄弁に意味を語るでしょう。出来ればどうぞ御贔屓に」
 更に【滅村】の二人、R.R.とアイリスが如才ない挨拶を見せた。
 一方で彼等二人に『いい子についてきた』ユズは「よろしく」と挨拶した後に恐る恐る言葉を投げる。
「何年か前、ラサの端の小さなオアシスでユズの命を助けてくれた隊商のリーダーを探してる。それ、知らない?」
「……ちょっと分からんが、覚えてたら伝手位は当たってやるよ」
 軽くディルクが応える。
「――さて、レオン。案内のほう、宜しく……と思ったのだけど。今日は其方に頼めたりするのかしら」
「傭兵といえば酒飲みなイメージがあるわぁ。そしてここは商人の国でもあるのよねぇ。
 ……ということはぁ、安い酒場や美味しい酒を売ってる店等があるはずよねぇ?」
「お前等が望むなら――特に美人の期待は極力裏切らないようにしてるんでね」
 上役に会いたいと思ったら向こうが来た――フィーリエの言葉に、良い酒を所望した琴音の言葉にディルクが応じ、レオンは肩を竦めて見せた。
「傭兵団からギルドへの依頼は多いと聞いている。その時には是非とも俺と幻のコンビ――『幻狼』に期待して貰いたいものだな」
「僕達『幻狼』の演武を御覧になれば、話は早いかと思いますよ」
 全く強かに売り込みに余念のないジェイクと幻に「後でゆっくり見せて貰うか」とディルクが乗った。
「にひひ、ディルクは気さくな人なんだにぃ」
「まぁ――善人じゃねぇから、そこはお忘れなく」
「でも、余所者でも実力次第で信用して貰えるって聞くしにぃ」
「いずれラサで傭兵として仕事を請けたいと考えている。これは良い機会になったな」
 思いの他簡単に親睦が深められそうなキャラクターに独特の笑みを見せるPandora。
 ゲオルグと左手で握手するディルクを見たレオンは「こういう奴なんだよ。面倒くせぇだろ」と嘯くが、大多数の感想は『類は友を呼ぶ』といった所だろう。
「ネフェルストはあんま変わって無いなー、この喧噪とか懐かしー。
 てゆーか、以外だねー、引率なんてめっちゃ面倒くさがりそーなのにー。
 オーナーのことだから『これ』が居るとかー、とか思ったら、男の人の方だったのー?」
「折檻な」
「あー、あー、あー」
 間延びした独特の口調で混ぜっ返すクロジンデの頭をレオンがグリグリとやっている。
「友達、なのかしら」
「そう呼びたくはないがね。世間ではそんな風にも言われるらしい」
「成る程、素直じゃないわね」
 然して長い付き合いがある訳ではないが、暁蕾はレオンの口振りから合点した。
 中々気安いその調子を見る限りでは、二人は友人関係と言ってもいいのだろう。
 傭兵であればイレギュラーズとしての仕事も得やすいだろうし、自分の記憶を取り戻す術も探せるかも知れない。仕事を考えれば、傭兵団や有力商人に顔繋ぎをするのは効率的だ――ローレット・ワークスからすれば何とも真っ当な『建前』だが、実の所を言えば、今回暁蕾が最も興味深く注意を向けているのは旧友と丁々発止軽口を叩いているギルドマスターの立ち位置や考え方についてだった。
「……答えたくなかったら、いいけれど。あなたもざんげも英雄になる前に一人の人間として叶えたい願いはないの?」
「そうだな。金も名誉も手に入れて――好きな女に『愛してる』って言わせてみたいかな、一回だけでも」
 レオンの本気とは思えない回答は、想定の内った。
 飄々とした彼から真意を掬い取る事は難しかろうが、明確な答えはなくとも構わないと――こうしてついてきた訳である。
「ところで、レオン。あそこの屋台の食べ物美味しそうではないか? 良い香りと湯気が漂ってきているよ」
 目は口程に物を言い「奢ってはくれまいか」と申し立てるロルフィソールにコインを投げ、「買ってこい」とレオン。
「チャンス!」とばかりに愛莉の大きな瞳が輝きを増した。
「面白い物とか物作りに使えそうな道具があったら欲しいかなー、何て。パンドラ集めもお仕事も頑張りますからぁ!」
 成る程、美少女の上目遣いは中々に断り難いマジックである。
「貴方達、ノリ良さそうな人が集まる酒場とか料理屋、知ってたりしないかしら?」
 悪戯気な顔をして問うたアリソンに、ディルクとレオンが全く同時に口を揃えて言った。
『枯れない仙人掌亭!』
「決まりね」
 傍らの相棒――ヨルムンガンドを促すアリソンには一計があった。
 ヨルムンガンドのギフト(ワールドイーター)は世界を喰らうが如き力である。
 より限定的で精密に表現するならば、大食い勝負で彼女に勝つ事はほぼ不可能に等しい。
「ローレットには私達みたいにすごいのがいっぱいいるんだぞーって宣伝してね、いい感じでしょ?」
 確かにヨルムンガンドの言う通り、ローレットの特殊性をアピールする手段にはなりそうだ。
 ラサ特有のゆったりとした自由な空気感は長旅に少し疲れた面々を癒す力を持っていた。
 疲れてはいるが、やる気が漲るとはこの事だ。
「オアシス見に行きたかったんだよね! 近くまで行ける?
 後、商売してる人達にも興味あるかなー! ヘイ、彼女! 一緒にまわらないかい?」
「俺? 私って言った方がいいか?
 ……いや、そんな事はどうでもいい。丁度いい。あんたには話を聞きたいと思ってたんだ――付き合って貰えるんだよな?」
 瞳を輝かせたスティアはみつきを『彼女』と称したが、みつきが『彼女』かどうかは議論の余地がある。
 変に媚びずにバランス感覚をと案外腐心しているみつきに「勿論」とディルクが応じる。
「実力主義でビジネスライクって所もアタシの好みだな。いい滞在になりそうだ」
「売り込み……旅してた頃は相棒が仕事持ってきてくれたからねぇ……
 ま、ここに来るのも久々だし、色んな所行く機会増やす為にも頑張ってみようかしら!」
 機嫌良くシルヴィアが言い、ルーミニスが一つ気合を入れ直した。
 全く、この風通しの良さは、一つ前の閉塞都市に見習ってほしい位である。
「……暑い……景色はいいけど、砂漠ってこんなに、こんなに……?」
 ……まぁ、正直ヘバるシェンシーの言も尤もだ。夢の都も良い事ばかりでは無かったのだけれど。
「わたしも召喚されるまで海とその周辺でしか過ごしたことなかったから――こんな砂漠は初めて!
 ……ってなんかすごく暑くない!? 焼き帆立とか勘弁ですよっ!」
 海種のココロにこの灼熱は厳しかろう。
 目指すサンド・バザールに果たして彼女は辿り着けるのか、どうなのか……
 過酷な環境だ。間違いない。凄まじく、過酷なのだから……
「そういえば、ここは砂漠だけどブルーブラッドたちの毛並みってどう手入れしているの?
 ……ねぇ、レオン。割と真面目な相談なんだけど――こういうのって商売になったりはしないかしら?」
 リカナの台詞にレオンはおろかディルクまでが「あ、良さそう」と手を打っていた。



 大オアシスの根本に栄えたネフェルストは自由を愛する勢力の気風を表すかのように解放感に満ちている。
 砂漠の苛烈な気候風土を凌ぐ工夫の凝らされた建物は石造りや革張りのテントのようなモノも多く、木造は比較的少ない。
 透明感が高い多量の水を湛えるオアシスを臨む広場で、今注目を集めているのはやはりイレギュラーズ達であった。
「当一座【Leuchten】は見て聞いて楽しむのはもちろん、ともに創ってゆく一座。
 さぁさ未来の紳士淑女の皆様方、ママさんパパさん方とご一緒に、お歌を歌ってお手手叩いてclap your hands♪」
 朗々と響くクァレの芝居がかった台詞に広場の子供達が沸いた。
 子供達に釣られ「何だ何だ」と集まってきた大人達も【旅一座】の近くに集まっていた。
「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
 旅一座【Leuchten】だよ! あなたの退屈な一時を煌めく一瞬に!
 どんな演目があるかって? そりゃあ見てから、聞いてからのお楽しみさ。
 さぁさぁ、一時その忙しない足を、耳を、目を、身体を、我ら旅一座【Leuchten】に委ねておくれ!」
「旅一座の事、どうか覚えていって……ね」
 お国柄、こういう催しが嫌いな筈も無い。
 威勢のいいノアルカイムの言葉に、チックの淡い微笑みに誘われた人々は彼等の周りに人だかりを作り始めた。
 掴みは上々、ならば、後は腕次第。
(……俺だけ……違う……皆……居る……大丈夫……!)
 その飛翼で宙を舞ったヨタカが高らかにリュートの音色を響かせた。
 感情の狂詩曲(ギフト)が奏でるは、まさに熱砂のストリートビートである。

 ――――♪

「成る程、道理に叶っている」
 口調は至極冷静で反応は淡白そのものといった風だが、エリニュスが一つ頷いた。
 音色に合わせてチックの歌が優しく鼓膜をくすぐれば、拍手喝采も当然と言えるだろう。
「うーん、やっぱりか」
 時間をかければギフトで氷を作る事も出来るアルバートの近くにはこの季節でも暑さに参る住人達が集まっていた。
「そう遠くない昔の話。
 その村は悪いゴブリンの大群と、そいつらを招き入れた悪者に蹂躙されようとしていた。
 逃げ遅れた子供に残酷にも剣が突き立てられようとしたその時。
 何者かが横から剣を弾き飛ばした。現れたのは輝く銀の鎧に身を包んだ戦士と、黒いローブに身を包んだワニ男。
 戦士は流れるような剣さばきで、ワニ男は異世界仕込みの奇妙な体術で次々とゴブリンどもを退治していった!」
 朗々と謳い上げるエルディンに子供達から歓声が上がった。
「――こんな奴がいる、かもしれないギルド・ローレットをよろしく!」
「私は、ローレットの長所は『あらゆるものがいる』ことだと考えております。
 腕の立つものが居れば、口の立つものも居る。『このように』演奏を得手とするものも居れば、医学を修めたものも居る。
 砂漠のバザーに負けず劣らずの品揃え、必ずや皆様の御眼鏡に適うものがおりましょう」
 渡りに船と、更にこの機会を生かしてリョウブが上手い宣伝をした。
「ふっ、困り事全般元軍人の私に任せてくれ――って、な、何をするんだ? や、やめっ!」
 その一方でオクト等は、その身に帯びた災いの赤星(メルム・アンターレス)そのままに少年誌を飛び越えるか飛び越えないか位の瀬戸際に陥ってたり、
 魔法的な物品を眺めて「私、案外こういう世界から来たのかもしれないわね……」と不明な郷愁に身を委ねた利香が柄の悪い男に絡まれたり。
「これほどリアリティーのあるゲームだから、さぞかしドラゴンのテクスチャやモデリングも凄いんだろう……行きてぇな、デザストル」
 中には覇竜を目指して情報収集を目論むカイン等も居て、イレギュラーズは各々の属性に正直に、実に色々と忙しい。
「五年前(むかし)を思い出すよな」
「ああ。潰れてなけりゃいいけどよ」
 馴染みの酒場で今日、アルクとダレンは酒を酌み交わす。
「『森の時間』に飽き飽きしている若い幻想種にはラサ程面白い場所はない。
 知識や齢でなく金と力がモノを言い、懈怠に沈む暇なく物事が移り変わる――最高だろ?」
「まあ、働きと金次第でどうとでもなるんだが」
「ここだってそう居心地が良くは無かっただろう?」とアルク。
「まぁな」と応じたダレンは「だから味のしない酒が旨い」と嘯いた。
 たかが五年、されど五年。流れた時が何を変えたかは分からない。だが――
「まだ死んでなかったのか、オッサン」
 さて、馴染みの顔でも見に行くか――とグドルフが考えた所で、タイミング良く背後から声が聞こえた。
「てめえこそ、酒のせいで剣持つ手が震えてるぞ、いい加減足洗ったらどうだ」
 口の端を持ち上げて、振り返ったグドルフの視界の中で、可愛げがまるで無い――知った顔が笑っている。
 ローレット・ワークスは見聞の時間で、宣伝の時間だが、里帰りも悪いものではない。今日、彼等は浴びる程呑むだろう。



「ここが、サンド・バザール……い、行くわよズィーガー」
 喋る魔剣を携えた結が珍しかったのか路傍の商人が「それ、幾らで売ってくれるんだ?」と絡んで来る。
『オイオイ、早速絡まれて……本当にここ、大丈夫かぁ?』
 ズィーガーの心配の方はさておいて。
 今回の旅程で最大数のイレギュラーズがこのサンド・バザールを訪れた理由はウィンドウショッピングである。
 ラサのサンド・バザールは世界的に有名な『闇市』である。本来意義的な闇市よりは観光地めいているような部分も少なくはないが、何れにせよ世界中から様々な物品が集まってくるのは間違いない。ガラクタから――ひょっとしたら伝説の――武具まで、眉唾な噂も含めてこの場所に惹かれたイレギュラーズ達は多かったのは必然だったと言えるだろう。
 この雑多な空間には野望と、成功と、危険と、破滅が渦巻いている。
「さてさて、今回は商会連合でちょっと後ろ暗い商会の方々とお知り合いになろうとはるばるやって来た訳ですが」
「敵と戦う上で、優れた武具やアイテムは必須……私達にとって、見逃す事は出来ない機会ですね」
 親切に【梟の瞳】の目的と状況を大体教えてくれるヘイゼルとXIIIのやり取りの一方で、
「うーん、狩猟で使う罠以外のことはよくわかってないんだよな。特にマジックアイテムの罠についてはさっぱりだ」
 ヘレンローザは自分の興味の向く罠の展示に興味を奪われている。
「あら、モケケケピロピロ。本当に多種多様な商品が集まってくるのですねぇ」
 ヘイゼルが自身の称する通り『素直で素朴な私は海千山千の商会主との腹の探り合いなどは出来ない』かどうかは兎も角。
 露天の先にぶら下がった『モケケケピロピロ』を突付く彼女の姿形は――少なくともそればかりは――可愛らしい。
「闇商人ってのは居るには居るらしいが……まぁ、簡単に会えないよなあ」
 先の機会にレオンやディルクにその所在を確認したモルフェウスだったが、「『モグリ』なんて連中は知ってたら俺がぶっ殺してらぁ」と言うディルクに全く合点してしまった次第だ。大きなリターンにはリスクが付き物。そして低い確率を引き当てるのがイレギュラーズなのだから、『闇商人とコネを作りたい』としたギルバートの方針は全く【梟の瞳】らしいのは確かなのだが……
(はてさて、基本的に金(かね)本位制の商人の中で闇などと接頭辞が付けられるのはどういった方々なのでせうか?)
 ヘイゼルの疑問も、もっともで。
「やれやれ。幾つか次善も見繕う必要があるかも知れん。困ったものじゃて」
 ……流石に砂に潜った連中をすぐに見つけるのはこの老獪練達なるギルバートをしても難しい仕事に違いない。
「お洋服からハンカチ、鍋掴みにカーテンまで。布製品なら私達にお任せください!」
「布製品の『tailor taylor』、スマイルはタダ!商品も格安で提供中だ!
 ガハハ、良い手触りだろう?カシエさんの手製は天下一品だからな!」
 そして、【tailor】の二人――カシエとガドルの目的はギルド『tailor taylor』の宣伝だ。。
(束縛を嫌い自由を愛する国民性か。気に入ったぞ。やはり俺は自由気儘に過ごせる方が性に合っている)
 海千山千、善人も悪人も山と居る国だろう。そんな『節操の無さ』がハロルドにはとても好ましい。
「今は持ち合わせがないから、買い物はできないけれど、どんな品物があるかは見てみたい。
 そのうえで、私の科学技術が売り込めるレベルなのかは知っておきたいからね――」
「別に商売がしたい訳じゃないけど、これも転ばぬ先の何とやらよね」とアクア。
「やぁ! やってきました、サンド・バザール!」
「何でお金もないのに、連れてこられたのかしら……」
「一人で行くよりやっぱり誰かと行った方が楽しいもんね~! ユウには悪いけど今日は付き合って貰うよ!」
 楽しそうなセシリアに、そうは言うが満更でもないユウは少しだけ罰が悪そうに付け足した。
「……まあ、何か面白そうな物とかがあるみたいだし、見ていて飽きないのは飽きないのだけど」
 全く飽きない場所で、凄い人出なのは確かである。
 イレギュラーズ達が居なくても人だかりだが、彼等が加わるから尚の事バリエーションに富んでいる。
「ククッ……! 何やら良い魔術の素材かもしれぬし、一見の価値はあるか」
「掘り出し物なんかもいっぱいありそーだしさ。すっげーワクワクすんな。
 ……うーん、新しい手裏剣とかクナイとか欲しいんだよなー」
「狙いは当然珍しい茶葉ですよ。一体、どんなものがあるんでしょう。とっても楽しみです」
「色んな物があるのね。場合によってはこういった物品が厄介ごとの報酬になることもあるのかしら?」
(盗品をどのように上手く捌いてるのかも気になる所だな。まぁ、木を隠すには森の中、か?)
 魔術的な素材でも見つかれば最上、そうでなくてもローレットに卸しが来れば良いと企むディエ、冷やかしのついでに獣種傭兵団のハウザーの噂でも聞ければと考えるリック、金は無くとも文字通り手段を選ばず良いものを手に入れようとするSuvia=Westbury、自分にしっくり来る武器を探しに来たロスヴァイセ、闇市に付き物の噂に興味を向けるネストと人それぞれだが、賑わいのある市は見て回るだけでも楽しいものだ。
「良い物が手に入ればいいんだけど――」
 リーナの求めるのは今よりしっくり来る格闘武器である。
 ナックル系は特に使い心地が重要だ。威力にしても、精度にしても合う合わないの差は大きい。
「きっと裏ショップ的な所もあるでしょうが……今回は表通り中心にいきましょうか」
 より良い武具をリサーチするのは戦う者の嗜み、と。ジオはこの場所の『最高性能』を見に来た。
 まぁ、実際の所『最高性能』に出会えるかどうかは凄まじい運を要するので、中々難しいのだが。
「宝飾品や細工品、盗賊稼業に役立ちそうな道具が見てえな。俺はウォーカーだからな、『モノの価値』を知っといて悪い事はない」
 お目当てのものをキョロキョロ探すのはキドー。
「ギルドで使う黒くて三角の帽子を探しに来たんですが……物々交換とか出来ませんかね?」
 壺を抱えたまま危なっかしく歩いているのはラクリマだ。
「なるほど思った以上の盛況ぶりだ。ここは……鉱石屋か? ふむふむなるほど……こういう鉱石ならば。これは爆弾のいい素材にできるかもしれん」
 些か物騒な寸評をしたテテスが満足そうに頷き、
「お買い物したい……けどお金がないっ! うー、見るだけは辛いけど見ないのはもっと辛い!」
 その向こうでは桜が世知辛い世の中の葛藤と戦っている。
「すごい数のお店と人で賑わってますね! わくわくします!」
「……こんなお店の数、見たこと、無い。あ、待って、アニー」
「クロさまははぐれて迷子にならないように気をつけてくださいね――不安なら手を繋ぎましょうか?」
 ちょっとだけドギマギするアニーとクロのやり取り然り、
「さー、サンド・バザール攻略にれっつごーっ!」
「のんびり散策しようか。見たこともない物がいっぱいだ、すごいなー。珍しい果物があるといいけど」
 ランディスと、彼を肩車する緋呂斗――【猫鬼】の二人然り、
「砂漠のイメージが辛いイメージと結びついているのか悩みがちですね。
 甘いスイーツの有名店を探すとしましょう。この国だけのオリジナルスイーツがあればいいのですが」
「辛い物は好きだけどお腹に来ちゃうから……! 甘い物! 賛成! すっごいケーキとか!」
 大きな日傘を相合傘にして華やぐユーリエとエリザベート然り。誰もが皆楽しそうである。
「あ、……あのお店、気になります!」
「きらきら……いっぱい。私も……見ていきたいです」
 或る装飾の露天に目を奪われたセレネにウィリアがふんわりと首肯した。
 三日月をモチーフにした髪飾りに目を奪われたセレネと、ターコイズのペンダントを気に入ったウィリアは上目遣いでライセルを見る。
 そんな実に可愛らしい同道者を見たアルファードは微笑みを浮かべる。
「まぁ素敵! お二人とも、よく似合っておいでですよ!」
「そうだね。二人共とても似合ってて――とても可愛らしい」
「ふふ、では私もライセル様のご厚意に甘えまして……」
 アルファードが手にしたのはともすればガラクタにも見えるタダ同然の小物だった。
『頼れるお兄さん』は柔らかく笑う。そんな【黒蓮庵】の幸福な雰囲気は格別である。
「ねぇねぇ。何か欲しい物あるの? 見るだけ? こんな可愛いぬいぐるみとかあるよっ」
「……此処には見学に来ただけだ。小物程度の安い物であれば、店の収入で買えるかもしれぬが……それと、商品は勝手に触る物ではない」
 ルアナの手にした『可愛い人形』にグレイシアは苦笑した。若い娘の価値観は良く分からない。
「ルアナたち、まだ生活に必要な物を揃えるのが先だもんね……贅沢はできないかぁ」
「ギルドの依頼で稼げるようになれば、そう言う余裕も出てくるとは思うが……」
 砂漠の気候よりもコロコロと表情を変えるルアナに、ついグレイシアは慰めてしまう。
「……うむ、駄賃代わりに何か部屋の飾りになるようなものくらいは買っていくとしよう」
 少女の表情がそんな事で輝くから――何度も止めるのも野暮というものだ。
「やっぱり世界が変わっても、現場を見るのが一番の勉強になるのかな……?」
「情報は、多いに越した事はありませんね。戦と同じです」
 並んで歩くセリスの言葉に従者たる鶫が応えた。
 古今東西、何をするにしても情報は重要である。情報を制した者が世界を制した事は少なくない。
「二人きりだね」
「人は多いですが」
「……二人だよね」
「はぁ……まぁ」
 少しだけ挙動のおかしいセリスに鶫は曖昧に頷いた。
「あ……えっと、だから、ほら、鶫が迷子になると行けないから……ね?」
「ふふ。手を繋ぎたいと、素直に仰って下されば良いのに」
 ご馳走様!
「向こうの方、沢山可愛いのありそう……」
「そういえばこの間の詫びもまだだったな。見に行ってみるか」
 少し甘えたように自身の袖を引いたセレンに侠が笑う。
『この間の詫び』以上に楽しそうなセレンは「何だか、連れ回しちゃってるみたいですが、大丈夫ですか……?」と彼を見たが、
「俺から誘ったんだぜ? 気にすんな、俺も楽しんでるから」
 そう応じた侠は「何がセレンの好みなのかな」と真剣な顔で商品を物色している。
 サンド・バザールの一時は様々に続く。
 日が暮れて、夜の帳が砂漠を冷たく包むまで――この喧騒は止まないだろう。



 ラサ傭兵商会連合はその名の通りの連合体だ。
 大小様々な傭兵団が存在しており、特に有力なものだけでもディルクの『赤犬の群』を筆頭に、ハウザー・ヤーク率いる獣種傭兵団『凶(マガキ)』、有名な射手であるイルナス・フィンナ率いる幻想種傭兵団『レナヴィスカ』と三つの名前が知れている。
 彼等傭兵団の武力を経済的にバックアップする影の実力者達が商人で、こちらは若き当主ファレンが組織する『アルパレスト商会』が有名だ。
 公的に指導者を頂かず、合議制を敷くラサだが、その辺りは察するべきものである。
 自らイレギュラーズの元へ現れたディルクやイルナスはさて置いて、ローレット・ワークスの目的柄、顔見世は重要だ。
 当然ながら、残りの有力者の元を訪れたイレギュラーズ達も居た。
「私は元々ラサで傭兵家業をして生計を立てておりました。
 獣種の傭兵として、同じ者達をまとめ上げるハウザー殿には憧れの念を抱いたものです。
 とはいえ前までの私はただの一傭兵……ハウザー殿の記憶に残ることもなかったでしょう」
 狼に似た獣頭凶相の大傭兵を前にしても、ラノールの態度は堂々としたものだった。
 戦場で敵対した者を一人残らず殺し尽くすとまで言われるハウザーは傭兵界隈では団名と掛けて『最凶』と呼ばれて久しい。
「ですが、これからは違います。きっと、何かのお役に立てる事でしょう。
 ――お初にお目にかかる。特異運命座標のラノールと申します」
「へえ」と値踏みするような視線を投げたハウザーにビクリとミアが震えた。
 単純に彼の顔は、雰囲気はかなり怖い。
「獣種傭兵団のハウザー様……同じ獣種のよしみで……良くしてくれにゃい……かな……なの。
 ローレットの……イレギュラーズ……白猫ミアの宅急便のミア……っていうの
 幾ばくか腰は引けているが、スカートの裾を摘んで優雅に一礼。十分である。
「そう、それよ」
 ハウザーはイレギュラーズの顔を見ながら口の端をぐっと持ち上げた。
「獣種ってのがいい。まず、人間何ぞよりずっといい。獣種のお前等が、この俺の所に顔を出したってのが素晴らしいじゃねえか。え?」
 非常に柄は悪いが彼の機嫌が良いのは間違いなかった。
(流石、獣種傭兵団『凶(マガキ)』のトップだなあ)
 リックはそういう意味では自分が獣種であった幸運に感謝した。もっとも獣種で無ければここには来なかったかも知れないが。
「テメェ等がクソより役に立つか何ぞ知らねぇけどよ。心がけは誇れ、ああ。間違いねぇ。まずは俺様が認めてやってんだ」
(あ、思ったより歓迎されてる)
 忍び込んだりしなくて良かった――とジュアが頷いた。
 付き合いやすいタイプかどうかは微妙だが、顔売ってゆくゆくはお得意様にでもなれれば得るものは大きいかも知れない。
「記念だ」
 言葉は恐ろしく乱暴だったが――ソファにだらしなく腰掛けたままのハウザーは瓶をラノールに投げ寄越した。
 やれ、という事かと。ラノールは覚悟を決めて一気にやって――ハウザーは手を叩いて喜んだ。



「ハジメマシテ。武器商人、と最近は呼ばれることが多いよ。
 武器の他にも色々扱うから、何か面白い仕入れがあったらぜひ声をかけとくれ。ヒヒ……」
 如何にも海千山千、一筋縄でいかない――そんな印象を与える武器商人にも、ファレン・アル・パレスとは動じなかった。
「やあ、ようこそ。煩い所だが、ゆっくりしていってくれたまえよ」
「にょああああああああ! イレギュラーズ! レア! 超レア!!!
 この超絶美少女の目をもってしても今日という日のとーらいは見抜け無かったのですよ!」
「……煩いのは主にこの愚妹の所為だが、気にしないでくれたまえ。ただのバカだ」
 アルパレスト商会を訪れたイレギュラーズは商会主のファレンに歓迎され、何かとてつもなく騒がしいその妹を目の当たりにする事になった。
 千一夜風の――アラビアンな――衣装に身を包んだ兄妹は全く似ていなかった。
 兄は線が細く色白であり、妹は色黒で長い金髪を一つ結びに纏めている。
「……ええと、僕にとってお金は生命。そのお金を得る算段や術を持っている方に会わない道理は無かった、と。
 どのようにして大商人となったのか、聞きたいですね。それに、今の流行なんかも」
「俺は、見たこともねえ場所にいきてえ! ただそれだけだ。
 だからまずは、様々な場所とつながりのある大商人のお前らと話がしたかったんだ」
「眼鏡! イケメン! 理系! 滾る冒険心! それでこそです。ポイント高め!」
「煩い。黙れ。
 ……まぁ、商売っていうのは口で簡単に説明出来るものではないし。
 それに僕達は旅行斡旋業じゃないからね。そう言われても力になれるかは分からないが。
 それにしたって、僻地へ隊商を飛ばす事だってある。そういった時に仕事の話が出来れば、君達の望みも叶うのではないかな?」
 ファレンは「リスクがあるからこそ、儲かるのだし」と続ける。
「もし、イレギュラーズが未知の食材なんかを手に入れたら……?」
「その時は、是非、当商会で取り扱わせて貰いたいね。それが、美味なら」
 パンの言葉にファレンが応じた。
 妹はまだ何か言い足りないのか金色の長い髪をゆらゆらと揺らしている。
「こうして今日訪れたのは、ラサという国の現状はどうなのか、有力な立場の人間から聞いてみたかったからです。
 民衆は豊かに暮らせているか、大きな問題等はないのか――」
「――少なくとも、この国は『見た通り』だ。問題は抱えていても、多くの者は不幸じゃない」
「成る程」とオフェリアが頷いた。
 彼の言が真実かどうかは知れないが、この国は確かに幻想に比べれば『遥かにマシ』だ。
「でも、この国はまるでコインが全てみたいにも思える。
 海洋は食べ物には困らず、海は暖かいからわたしはお金なんてなくても平気。
 なぜ、あなた達はコインを大事にするの? 砂漠の熱風を愛する気持ち、金貨銀貨を愛する気持ち。
 それはわたしが知らない心だから――」
 心底の疑問を口にしたココロにファレンは気障にこう言った。
「――簡単だ。このラサは皆が求めたお伽噺で、誰かの野望の街だから」
 ……妹にヘッドロックを決めたまま。
「グフゥ……金、金、カネぇ……素晴らしい……商人はこうでなくては……!」
 そんな彼が大二の余りにも濃密な野望と執着(プレゼン)に小一時間も付き合わされた事は追記しておく。

●深緑
「やってまいりました緑の国! 折角のファンタジーな世界なんだから、やっぱりこういうところに来ないとね!」
 快活な声を上げた天十里は綺麗な空気を胸一杯に吸い込むように伸びをした。
「国のこと、街のこと、人のこと。異世界だから何でもかんでも新鮮で楽しいもんなあ!」
 それは良かった。
「……空気が美味しい! 自然が沢山! いやー『私』が喜びそうな所だね。実際の所どうだい?」
 ランドウェラのそれは独り言のようで、実は独り言でない。
『自身の中に在る自身』は酷く無愛想でランドウェラが何と語りかけても大半は無視したり『うるさい』の一言だったり……
 余り話の弾む相手では無いが、往々にして彼はそれを気にしない。
「人込みよりは、森の上でも飛んでた方が気分がいいわ。
 こっちまでくれば、見たことのない花、見たことのない木、見たことのない動物に出会えるかも知れなかったし」
「やっぱり、お花がたくさん咲いているところに行きたいものね」
 そんな風に言ったジェニーにのんびりと応じた芽依の言葉は『フラワーマスター』に相応しく、紛れもなく彼女の本音だった。
「ローレットのツテもない、って聞いたら逆にどんな所なのか気になったよね」
「少しだけでも接触出来ればいいんだけど」と雪が笑う。
 今回の仕事――ローレット・ワークスは世界各国を回る事だが、他国と余り関わりを持たないという深緑について今回レオンはその数に数えてはいなかった。
 しかし、それでも少なくないイレギュラーズが「では、迷宮森林の近くまででも」と深緑付近への旅行を選んでいた。
 実際の所、他の場所とは違って――非常に遠出をしたが、ピクニックのようなものである。
 世界は平和で自然に溢れていた。勢力圏とはいえ、深緑のそれは緩く――全くのどかそのものだ。
「野生の秩序と人の法、どちらも我の生きる世界の枠組みの一つであり、ここもそれに代わりはあるまい。
 善悪を知るならばその自然を見るのが早い。全く、道理だ」
「今後の活動のためにも、この世界のオークとは別モンであるというアピールをしたい所だが……
 まぁそれ以前、何よりもこの自然はたまんねぇな。元居た世界じゃ俺はこんな地域出身だから、すっげぇ懐かしさと安心感を覚えるぜ!」
 森の気配を近くに感じながら白狼――リルクルスが知慧を呟く。見た目に反して理性的かつ紳士的なゴリョウは当然村を焼いたりしない。
 一行の視線の先には深く巨大な森が広がっていた。
「こういう所だとひっそりと隠居生活出来そうですよね、いつかこの国の人たちと仲良くなってこの国の隅っこに家立てさせてくれないかなー……」
 サイズはしみじみとそんな風に呟き。
「これはすごいね! ここまで美しい――見事な森には、なかなか会えるものじゃないよ!」
 いざ迷宮森林を目の当たりにしたレンジーは少し興奮気味にそう言った。
「心地がいいわね。ただ、ファルカウが近くにあるっていうだけで――見返りなんて要らないわね」
 クールに呟いたリアは瞳を閉じ、偉大なる大樹の放つ生命の呼気に身を委ねていた。
「気持ちいい場所、なの」
 幻想種ならぬ蜜姫も又、光と、風と、水と、命の匂いに包まれて、ただただ穏やかな時間を満喫している。
「うむ、素晴らしいね。この地は兎角、大地の誇りに満ちている――」
 カミナの視線の先、鬱蒼と茂る森の遥かな向こう――どれ位の距離があるのかも分からない――から、天を突かんばかりの巨大な質量が生えている。
 樹木と呼ぶ事自体が馬鹿馬鹿しい『超巨大な何か』が幻想種達の根源にして信仰対象である『大樹ファルカウ』なのは改めて説明する必要は無いだろう。
 彼はそのファルカウに丁寧に一礼した。奇抜ななりをしているようにも見える彼だが、礼節を重んじる部分もあるのだ。
「初めまして、シューだよ……ここは自然がいっぱいでいいね! ここに住んでる人たちはどういう人たちなの?」
 植物と通じ合うギフトでシューが近くの植物に尋ねている。
「この辺りの植生をサンプルにしたいんだが――問題ねぇか?」
「僕達の故郷、深緑圏内……森の外だけど、行っても大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ」
「ま、いーや。里帰り出来るなら――お袋の味ってやつ、堪能するに決まってんじゃん! 心配かけたし、事情説明くらいしたげないとね?」
 オーカー、オリヴァーの問いにラーシアが頷き、続いたマリネの台詞にくすりと笑う。
「旅人として一番訪れてみたかった幻想の大樹フォルカウ。すぐに機会が訪れるとは思いもしませんでした」
「冒険者やってると、新しい土地に行ける……ってのはいいよな。これの為に冒険者に……っとと、やることやらねぇと。
 とりあえずは王国の傍の行けるとこまで、行ってみるか?」
「いえ。『迷宮森林』に踏み入るのは辞めて下さい」
 Lumiliaとトラオムのやり取りにラーシアは釘を刺した。
「国の中に入れてもらえたら嬉しかったんだけど……話が聞けたら嬉しかったんだけどね」
 少し残念そうな顔をしてエスラが言った。
 ある意味でラーシアは全体の中で一番引率らしい存在かも知れない。
「ハーモニアに親近感があるので、聖地に来てみたが、ふむ、普通だ。
 我が種族は、大昔にいずこから地球に来たと言い伝えがあったが、その『いずこ』は無辜なる混沌ではないらしい。
 これは生涯わからん。わからんことが分かっただけで十分か」
「そう、ここが僕の産まれ育った深緑。残念ながら、この辺りまでしか案内出来ないみたいだけどね」
「ふふ、別に遠目でもかまわないさ。あれが大樹ファルカウだね?
 どうして倒れないか不思議な大きさだけれど――これだけ離れても見応えがあるから面白いね」
 リュスラスが独白めいて、苦笑交じりに言ったシャロンに鼎が応えた。
 ラーシアやシャロンを含む幻想種は迷宮森林の奥、大樹ファルカウ――即ち深緑(アルティオ=エルム)を故郷とする者も多いが、事情は少し複雑だ。
 世界の大きな変化を嫌う幻想種は同胞が外に出ていく事を止めはしないが、自由に戻らせる事を好まない。イレギュラーズの場合『召喚』という非常に不可避なイベントで強制的に外に出されたのだからかなり理不尽な話ではあるのだが、救世主属性という強いカラーを得てしまった以上、尚更にそこは厳しくなるのだろう。
(故郷を飛び出て早一年弱……
 折角の機会、ですので一度実家に顔見せにでもと思いまして。
 ついでに特異運命座標として、ご挨拶にでもお伺い出来たらな、と――そう思っていたのに)
 少し胡乱とした目をしたドラマは本件の重要な被害者である。
「実家への挨拶は兎も角……私の蔵書……」
 珍しい外の本を土産にも出来やしない。
「深緑、アルティオ=エルム。樹木ガールのわたいとしては――この国の中心に入れないのはちと寂しい所じゃが」
「『郷に入っては郷に従え』と何処かで聞いたしね。徒に他人を刺激する意味はないさ」
 自身が属性を考えれば尚の事。少し悔しそうな世界樹に肩を竦めたグレイが言った。
「信用、信頼といったものは結果で得られるものと信じているよ。そして、世界だって救われる」
『迷宮森林』は幻想種の寛容と非寛容の境界のようなものなのだ。
 君子危うきに近寄らず。物事には順序がある。ローレット・ワークスの性質を考えれば尚更だ。
「ふうん、入れないのか。でもさ、個人的に来るよりは多くのものを得られるかもしれないよね。
 後、こういう国の人は関わった回数がものを言うと思うんだ」
 ポジティブな亮の言葉にラーシアは頷いた。
「アルティオ=エルムが唯一関わりを持つとも言えるラサは、数百年以上の長きに渡り、友誼を維持しています。
 その始まりは……リュミエ様にでも聞かなければ分かりませんが、少なくとも一朝一夕に築かれたものでは無い筈。
 勿論、幻想種も世界の破滅を望んではおりませんので、何れイレギュラーズとして関わる機会はあると思います」
「成る程。道理だ。コネを築くには婚姻がいい。
 というわけで、ラーシア君。深緑の素敵なお嬢さんたちを紹介してくれ。もちろん、ラーシア君本人でもかまわない」
 竜也のあまりと言えばあんまりな発言にラーシアがΣっている。
「それは兎も角。いずれは中に入ってみたいわね。今はとりあえずイレギュラーズである事と、この地域でも活動する事を伝えていきましょう」
「何とか仲良くなりたいけれど……まぁ、お散歩しながら考えてみましょうか!
 お願いできるなら動物さんに頼んで深緑に仲良くなりたい旨の手紙を届けて貰う……とか」
 メイファースの言葉に、ポジティブに話を纏めたエルメスにイレギュラーズ達が頷いた。
 確かに動物が森に踏み入る事を幻想種は怒ったりはしないだろう。
 遠回りをしなければならないのは確かだが、するしかないのならばそれが一番の近道であるのも道理である。
 ファルカウを中心とした迷宮森林に立ち入る事が出来ないのならば『辺境』の村等を中心にして話を広めればいい。
 同じ深緑である以上――ファルカウに届かないという訳でも無いのだし。
「なんでも他の世界では引きこもった神様に出てきて貰うために楽しそうにしている様子を見せつけたそうだよ。
 というわけで、大宴会とはいかないがお弁当も用意してきたから食事にしないかい?」
「お弁当を食べて出てくるとは思えないけど、気楽に近くを見学と考えたら悪くないかもね」
 メートヒェンの提案に「お腹すいたし」とアンナが応じた。
「さあ、この機会に非常食……お菓子を大放出です」
「広大な自然! 澄み渡った空気! そして美味しいお弁当!!
 素晴らしい、素晴らしいわ深緑! あ、もちろんメーちゃんのお弁当と樹理ちゃんのお菓子の腕があってこそだけど!
 国が全部ピクニックスポットみたいで――本当に良い国ね、ここは!」
 嬉しそうに言ったトリーネに樹里が少しはにかんだ。
「こけけ、こっけーこけこっこー♪ こけ! こけ! こけけのけ♪」(ぴよよ、ぴっよーぴよぴっよー♪ ぴよ! ぴよ! ぴよよよよ♪)
「こー、こけー、こけっけここけー……♪」
 歌い出したトリーネに樹里が続き、「ならば」とメートヒェン、アンナも乗る。
【天岩戸】の面々は非常に楽しそうで。
「僕等も、この辺で持ってきたお弁当でも食べようか?」
「お弁当はピクニックの楽しみだね。ふふ、案内のお礼に全部あーんって――食べさせてあげようかな。
 何、遠慮しなくてもいい。上げ膳据え膳、全部やってあげるよ?」
 イチャついてるシャロンや鼎も含めて、まさにこの場はピクニック場の風情へと変わっていた。
 きっと、多分。因果関係は無かっただろう。
 無かったと思うのだが――天岩戸を開けたのが、そんな和やかな雰囲気では無かったと断言する事は誰にも出来まい。
 迷宮森林の奥より弓と軽鎧で武装した一団が現れた。敵意は感じられない。
「ルドラ様……?」
「こんにちは!」
 目を丸くしたドラマがその名を呼び、天十里が誰より早く極々普通にそう言った。
「良い機会ですね。丁度、お会いしたいと思っておりました」
 上流の作法はお手の物。実に優雅に、実に丁寧に一礼したルミはアルフォード家の家格に恥じぬ。確かに領主の娘といった風である。
「……イレギュラーズ達。遠路を来てくれて、嬉しく思う」
 一行の近くまでやって来て頭を下げたのは迷宮森林の警備責任者であるルドラ・ヘスだった。
「申し訳ないが『迷宮森林』に入れる事は出来ないが、君達の言葉はきっとリュミエ様に伝えよう」
 彼女は深緑の中でも重要といってもいい位置に存在する人物で、比較的温和な者が多い幻想種の中では特に腕が立つ武闘派と言われている。
(母のルーツであるはずの幻想種の国。せめて一度は来てみたかった、という思いの有った場所……)
 遥か大樹をいざ実際に臨んでみれば、リースリットの胸には言葉に出来ない感慨が湧き上がってきた。
 彼女の考えた通り、守衛に接触する事が出来たのだ。遥かなファルカウは、つい先程よりもずっと近くにやって来た。
「ローレットに所属するオリヒカです。自分の名前を覚えて貰えるとは思っていません。
 ただ厄介事には俺達に投げてしまうことも出来るようになったという事だけは覚えておいて頂ければ」
「僕は深緑の田舎に住んでるんだけど……大樹の中のハーモニアとも、仲良くなりたいと思って来たんだ!
 君達と仲良くしたいんだ、だから、色々教えてほしいし、頼ってくれたら、嬉しいかなって! 駄目かな……?」
 ようやく現れた『取っ掛かり』にオリヒカが、興奮気味の比がアピールする。
「もしお困りなことが御座いましたら、同胞の経営する【梟の瞳】と言うお店に身を寄せておりますので、ご連絡頂きたく!」
 望外の機会にギルドの宣伝をするドラマは出来る子だ。
「信頼関係は積み重ねるのが大切故。今すぐにとは申さぬが……
 もし何かがあった時、もしも思い出して貰えたならば、声をかけてくれれば幸いにござる。その時は、全力を持ってその声に応えましょうぞ」
「うむ、いつの日か、この国でスローライフを送りつつ魔術を極めたいものだ」
 友情の水を向けた明寿の、士郎の言葉にルドラ大きく頷いた。
 遥かな過去の出来事は分からないが――傭兵と深緑の繋がりも、或いはこんな風に始まったのかも知れない。
「ところで」
「……?」
「ひどく、空腹を掻き立てる美味しそうな匂いがしてならないのだが……」
 ルドラはとっても罰が悪そうに言い、亮は親しみを込めて笑った。
「やっぱりここに来たのは無駄じゃあなかった」
 嗚呼、やっぱり意味があったんじゃないか――天岩戸大作戦――



 ローレット・ワークスは世界各国で大成功を収めた。
 今は幻想(レガド・イルシオン)を中心に活動するイレギュラーズだが、世界は広い。
 様々な国があり、様々な文化があり、様々な問題がり、様々な陰謀さえ渦巻いているだろう。
 この混沌にイレギュラーズが為すべき仕事は数多い。
 それがどんな作用をもたらすかは未だ誰にも分からず――しかし、それは来る破滅を防がんとするものになる。

 ――これからが、本番だ!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 白紙以外は全員描写したと思います。
 プレイング書いたのに抜けてた場合、ファンレターででもお知らせ下さい。

 ローレット・ワークスの結果を受け『幻想』以外での活動幅が広がる可能性があります。どこがどうとかはマスク情報ですが、何かしら変わりました。
 影響の反映はすぐではないです。

 以下、余談であります。
 私は大抵の場合は「皆さん、参加したからには多分出番がないと楽しくないんじゃないかなあ」と思うので、可能な範囲で無理しますが、

・イベントシナリオの全員描写は必ず行われるものではない点
・他のGMさんがやるとは限らない点
・私も次やるかどうかは分からない点

 以上三点ばかりご理解下さい。

 描写量については「もっと欲しいよー」とかあるかと思いますが、こちらもどうかご容赦下さい。


 シナリオ、お疲れ様でした。

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