シナリオ詳細
<絶海のアポカリプス>わだつみの涯
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オープニング
●
壮大なる海の涯、眠り妨げられしわだつみの咆哮が響く。
大気揺らがせ、海を割り、深海の怒りが顕現したが如く雷光が嘶いた。虚空をも埋め尽くすが如き水滴は『ソレ』が動いた事で雨が如く降り注ぐ。
人は、強大なる存在を見た時、恐怖に竦み怯え、膝を着く。『ソレ』は正しくそういう存在なのだ。冠位魔種を前にした時とは比ではない――それは悪夢を体現したかの様に蜷局を巻いていた。
荒れ狂う波濤の中、断末魔を上げ海を割る閃光は青白くイレギュラーズを嘲笑うかのようであった。
「竜種――」
その言葉を口にしたのが、誰であったのかは分からない。絶望に棲まう悪夢。
巨なる海原に黒き影を落とし、わだつみは神鳴りを喰らい大地を揺らすが如く海面を混ぜ返す。立つ波は全てを水泡の下へと誘わんと手を伸ばす。
背筋に奔る恐怖は人間の本能に植え付けられた絶対的な生存本能。死を覚悟した時に、人は――その視界を昏く染め上げる。呼吸する事さえ許されぬようなその場所を、絶望と呼ぶのだろう。
――称えよ、竦め。許しを乞え。我が名は滅海――滅海竜リヴァイアサンなり!
越えねばならぬ。
冠位を、斃さねば。纏わり着いた饐えた死の臭いは消えず、死の運命からは逃れられぬ。
――人間共。『冠位』を傷付けし者共よ。その顔を見てやろう。
首を垂れよ、項垂れ、竦め、そして、その御身を『生きて眼へ映せた』事へ感謝せよ。
竜は語らう。
竜は嘲る。
竜は、小さき者を僅かに認めた。
許しを乞わず、項垂れず、竦むことなく、前を向いた兵をを。
「かみさま。どうか……みていてくださらない」
少女は、大いなる存在へと恭しく言った。黒き靄に一層纏わりついた死の気配は竜にとっても心地よくはないだろう。
だから、少女は――『ミロワール』は一層頭を下げた。
「かみさま、、わたしがイレギュラーズをころすわ。だから、」
毒の如き怨嗟に蝕まれ、その命が海原へと溶け往く前に少女は祈るように言った。
――どうか、許してください。
●
――かがみよ、かがみ。ねえ、この世で一番幸せなのってだれかしら。
「もちろん、セイラよ。セイラ・フレーズ・バニーユ! わたしの大切で大好きなあなた」
手を伸ばして抱きしめる。ひんやりとしたその掌が心地よかった。
頬を寄せれば擦り寄って「甘えないで」と揶揄われる。まるで母の様な、その胸の中、微睡むように目を閉じて。
セイラ、と呼べば可笑しそうに笑った声が耳朶に転がる。背を撫でて、優しい歌を歌うの。
大好きな歌声が、幸せそうに響いている。陸になど行かずに、この暗がりの底で一緒に過ごしていたかった。
冠位様は意地悪だ。セイラの嫌いな海の国を見ておいでというのだから。
冠位様は意地悪だ。セイラが苦悩して涙を流しても知らんぷりなのだから。
だから、わたしは――助けたかった。
この怨嗟の海から解き放たれるのがしあわせだと、誰かが言っていたのに。
セイラの怨嗟が、わたしの事を蝕んだ。リーデルの薔薇が萎れていく。
二人が、傍に居るような気がして、わたしは、嬉しくなったのだ。
ねえ、ひとりじゃないわ!
ねえ、かみさま。わたし、ひとりじゃないの!
見ていて、見ていて、見ていて、かみさま。わたし、今度は、今度は、今度こそうまくやる。
あの人を殺すことが出来たら、私の罪は終わるでしょう?
――だから、そうしたら、もう一度、ぎゅっと、抱きしめて。
黒き靄が付き纏う。狂ったように夥しい怨嗟と毒を飲み喰らいながら。
嵐海の上、世界の涯に立つように魔種は――水没少女<シレーナ>は微笑んだ。
一層の、狂気を擁いて。
――もしも、わたしがわたしじゃなくなったら、
この海で『ビスコッティ』として殺して?
もしも、わたしが戻ってこれたら、
この海の外でもう一度『シャルロット』って呼んで。
ビスコッティに綺麗な花を一輪買って、弔いを行った後、
わたしのことを、彼女の許へ送ってほしいの。
約束よ、イレギュラーズ――
- <絶海のアポカリプス>わだつみの涯完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年06月13日 21時11分
- 章数4章
- 総採用数539人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
嘲笑う様な海の聲が響き渡る。
その荘厳なる姿は神と呼ぶにふさわしい。この海原の、唯一とも呼べる竜の姿。
「竜種……神様って、きっとこんな見目をしているのだろうね」
文は、そう呟いた。我に返れば恐怖心にその膝が震えだす。自棄に冷静になれたのは、リアリティを損なったその存在が眼前に在るからだろうか。
逃げ出したくなるその足に力を込めて――文は「ミロワール」と少女を呼んだ。
黒、影、のっぺりと埋め尽くす死の気配を纏わせた少女。
「……いや、シャルロット。
君を――そう呼ぶためにはどうすればいいんだろうね」
己の名を、イレギュラーズに口にした魔種はその姿を昏い闇に埋め尽くす。
嗚呼、それを見遣れば文は唇を噛むのだ。
少女は、ビスコッティと名乗った彼女は一つの約束をした――悲しい程の、可愛そうなお願いを。
「僕は、気持ちを言葉にするのが苦手なんだ。
……ここは海洋風に、歌って気持ちを伝えることにするよ」
その歌声を聞きながら、イルミナは脚に力を込めた。前へと、飛び込まんとするその足を竦ませる事はない。
オオオオオ――――!
唸る波の音に懼れる事なきように、イルミナはミロワールの許へと飛び込んだ。
「私情はありません、イルミナは……彼女のお願いを叶えなければならないのです。
それがイルミナ、私の……ロボットの使命ですから!」
『ロボット』は、人が為に作られた。イルミナは人が為に作られた。ならば、ミロワールという『人』の願いを叶えるのもまた、自身の使命だとイルミナは迫る薔薇の腕を払う。
曖昧に、笑っていた『彼女』がいた筈なのに。その姿は影に塗れ、そして『自身の姿』を映し返す様にミロワールという魔種そのものを見遣ることは出来ない。
「……でも、でも。できることなら……シャルロットと、一度でいいので呼びたいものですね」
その名を口にして。盾となるが為に立ちはだかる。
「こんにちは、『イレギュラーズ』。わたし、あなたを――殺すわ」
まだ、まだ遠い。シャルロットの心には届かないかとイルミナは昏く降り注ぐ濁流の中、ミロワールを見上げた。
成否
成功
第1章 第2節
『竜馬を躓かす愛と正義の虹光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
びしりとポーズを決めるは愛(ぴんく)の魔法少女。愛――インフィニティハートは『S.O.H.II H.T.』を手に、眼前を覆い尽くすような強大な海龍の姿をしかと捉えた。
「確かに竜は巨大なものですが、私達が心に宿す愛と正義はそれ以上に重厚にして長大なものです。
――さあ皆さん、自らの力と心を信じ、あの竜に立ち向かいましょう!」
その視線がちら、と傍らへ向けられる。魔種ミロワールのなんと小さなことか!
自身らは人間だ。しかし、それ故に竜種(きょうだいなそんざい)と比べてちっぽけだと感じられる。だが、竜種の心に愛などない。しかし、ミロワールには――?
(私は愛と正義を守る者なのですよ――!)
愛が走り出す。撃ち込んだは『魔砲』。蛍光ピンクが狙うのは竜種の鱗――そして、その『狭間』。しかし、手応えがない事に彼女は眉を顰めた。
「グゥルルル……」
アルペストゥスは唸りを上げる。
――おおきい、つよそう、ぼくもこうなりたい――
神竜醒(ライズ・ワン)による雷の能力が反応している。荒れ狂う海原の上に存在する『自身と似た存在』はこれ程までに心揺さぶるのか。
脚の動きを恐れる事はない。近づきたいとさえ願った。喉奥から漏れ出すのは懇願の合図。
気を引きたい、――『あなたと、おはなしがしたい』
降り注ぐ竜の雷。此処に居ると言うように躊躇いなどなくその雷が降り注ぐ。
リヴァイアサン、わだつみの主。それは、確かにイレギュラーズにとっての絶望だが、アルペストゥスにとっては『初めて出会ったこの世界の竜』なのだ。
「グオオオオオオォォウッ!!!」
「でっけぇな!!!!!! 私の声とどちらが大きいか勝負してやろうか!!」
黙っていても煩い事がチャームポイントなのだというハッピーは「ウォー!」と大きな声を発する。
「やっぱり死にたくないよね!! 死後の生活も悪いものじゃないけどさ、誰かが死ぬのは良くないからね! ――私!? 死んでるよ!?」
勢いよく笑ったハッピーは自身の『死者の体』をより発達させる。全力で空をかけて、『フルパワー』で飛び込んで行く。
竜の唸りより仲間たちを救い出しコンテュール家の船団へと運ぶのが彼女なりの戦いだ。
「コンテュール家がセーブポイントだ!!! 後は帰るなり回復してまた挑むなり好きにして!!!!!!!」
成否
成功
第1章 第3節
降り荒む雨を見上げる。降る雨の下、クラリーチェとエンヴィは『深海に咲いて居た薔薇』の姿を目の当たりにした。
リーデル・コールの『忘れ形見』。美しく咲いて居た筈の薔薇はセイラ・フレーズ・バニーユの『毒』により萎れ黒く爛れている。それでも尚、動かんとするのはセイラ・フレーズ・バニーユと、そしてミロワールの力に呼応したからなのだろうか。
「倒しきれなかった敵が、こうやって現れるなんて……厄介ね」
その体は間違いなく嫉妬の海蛇<レヴィアタン>たるエンヴィの視界には、自身に連なる存在がこの世界ではこれ程までに脅威なのかと息を飲んだ。ああ、それよりもまずは自身がその命を刈り取り損ねた存在だ。
蔓を伸ばし死を蔓延させるが如き薔薇の花。それを見つめるエンヴィの掌にそっと安全無事を祈るようにクラリーチェが重ねる。
「そうですね……。確かリーデルさんは潰えたはずなのですが。今度こそ、お仕舞いにしないといけませんね」
「まさか、魔種を守って行動するとは思わなかったわ」
「ええ、けれど悲しい女性と、その腕に抱かれていた赤子……だったもの。
まるで、『母の想いに応える様に』ミロワールを守っている――のかもしれませんね」
クラリーチェの言葉にエンヴィはそうね、と小さく呟いた。
リーデル・コールは元は心優しい女であった。ならば。
(……ミロワールを我が子の様に可愛がっていたのかしら? 妬ましいわ……そうやって愛し会えていたのに)
こんな、悲しい事は終いにしてやらねばならない。クラリーチェは『母』の許へと返しましょうと囁き、花を狙うエンヴィの支援へと走る。
荒れ狂う海の中、エンヴィはただ、真っ直ぐに薔薇を狙った。頬を裂いた一撃、そして自身の体を縛り付けるような気配をクラリーチェが打ち払う。
(脅威ね。――本当に)
成否
成功
第1章 第4節
――オギャア、オギャア。
泣き声が聞こえる。目を伏せて、縁は「リーデル」と呼んだ。
「なあ、リーデル。『 』が泣いてるぞ」
困ったような縁の言葉に、リーデルは「まあ」と慌てたように駆け寄ってくる。そうしてから、愛おし気に『 』を抱き上げるのだ。その丸くなった小さな体に手を添えて、あやす様に背を撫でる。
「泣かないで、『 』」
――それは、何時の事だっただろうか。縁は思い返して唇を噛んだ。
今は確かわだつみの主を倒さねばならない。しかし、薔薇が、ミロワールが此処を守る事も確かだ。
薔薇の異形、リーデル・コールの忘れ形見。彼女の子供。
(……俺のやり残した“償い”の一つだと思うからよ)
それを斃さねばならぬのだと、縁は異形の許へと一直線に飛び込んだ。茨を切り落とす様にして、彼は顔を上げる。リーデルの悲鳴が、呪いの様に悍ましくもその身の内を回り続ける。
とどめを刺すにはまだ遠い。切り裂くたびに掌に感じるその感覚が『彼女の子を害する』感覚をより強くさせた。
「いけず」
ころころと蜻蛉が笑う。縁は、『この子』を背負おうとしている。重たい荷物なんて、分け合うものなのに。
深紅の蝶は縁の肩へとぴたりと止まる。まるで戸惑う様に背に触れて、ふわりと消えたそれを見てから蜻蛉は薔薇の異形を見遣った。
あれは『あの人』の忘れ形見だ。目の前で、息絶えた――彼の好きだった、彼女の忘れ形見。
蜻蛉の脳内から消える事のない風景。縁に声をかけるわけでもなく、蜻蛉は薔薇を見た。
「一人きり、寂しいやろ?
……うちも、貴女を忘れへんよ。ずっと……ずっとこの先も」
きっと、子守唄なら謳ってやれる。母と子は、共に在るべきなのだから。
海を叩いた蔓に眉を寄せて、蜻蛉は目を伏せる。
彼が、あの蝶に気付きません様に――どうか、今は。為せることを。
成否
成功
第1章 第5節
「なんかやけにでかいのがいるわね、んまあそれはそれとして……」
深海に咲き誇る孤高の薔薇、ロザリエルはリヴァイアサンよりもなによりも、眼前で萎れながらも魔的に揺らめく薔薇の異形を見やり憤慨した。
そう、彼女は薔薇なのだ。美しくも気高い(自称)無双の薔薇なのである。
「うるせー! 誰よあんた! しらねー!
それよりこないだからいるそこの薔薇っぽいのが気に入らないわ!
情けない姿晒して! 孤高! 無双! 頂に咲く薔薇はこのロザリエルのみ!」
己の胸に手を当てて、そう言い放ったロザリエルは無双の薔薇ポーズで異形の薔薇へとアピール。
「薔薇とはこれこのこと! 居座られても厄介だしまずはあんたから散らすわ!
……ほかに薔薇イメージな人とかこっちに居ないわよね」
恐る恐るとロザリエルの視線が横へ――そこに立っていたポムグラニットはぱちりと瞬いて微笑んだ。
(薔薇だ――!?)
そのどちらもが薔薇の花。みんな違ってみんないい(味方に限る)とアピールするロザリエルの隣でポムグラニットは異形を見やって「ずるい」と呟いた。
「ばら。ばらだわ。ここはうみなのに。ばらがさいているわ。
……ずるい。わたしはさけないのに。
わたしはばらで ばらだから うみではさけないのに。ずるいわ。ずるいわ。……じゃま だわ」
その目は異形を映していた。ただ只管に花弁散らすように魔砲が撃ち込まれていく。
ポムグラニットの攻撃を利用して、前線へと踊りだしたイグナートがにやりと笑う。
「まずはアイツには退場願おうか。ミロワールとはもうちょっと落ち着いたジョウキョウで話をしたいところだからね」
その視線はイレギュラーズに取り囲まれたデモニアの少女へと向けられていた。
薔薇の茨が襲い来る。その棘に構う事はない。イグナートは自身の赤い血潮を洗い流す荒波など気にはしない。
「オレたちは竜に勝つためにここまでやって来たんだ! 前哨戦にはテゴロなアイテさ!」
その拳に力を込める。竜。頂の存在。ラド・バウの戦士とてそれらの前では膝を着くのかもしれない。嗚呼、ならば、それを超えることこそが戦士にとっての大一番ではあるまいか。
「フィールドでジャマになる相手には退場してもらわないとね!」
「ええ。どいて もらいましょう。あのばらは じゃまだわ」
静かに囁くポムグラニットの声を聞きながら、ここに咲いていなくてよかったとロザリエルは感じたのだった。
成否
成功
第1章 第6節
「はぁ……次から次へと引っ張りだこ。休憩する暇もないのね」
カロンはそう呟いた。魔女は『ここへ向かえ』と言われた。それは彼女の真価を発揮できる場所へ誘われたのだろう。
魔女帽に手を添えて、敵を射抜くが為の集中力をその身に宿す。魔弾の射手は天すら穿つ伝承宿したその指に指先添える。嵐海をも切り裂くという天穿つアーカーシャ――そこから吐き出されるは魔女のその実に宿された魔力そのもの。
「ミロワールについては思うところがあるイレギュラーズが多いみたいだし?
愛想の悪いウミヘビちゃん相手の貧乏くじを引いてあげるワ! 感謝しなさいよね!」
圧倒的な破壊力を伴うその一撃に合わせるは不可視の悪意。
マルクが手にする神秘の杖は癒しと守護の魔力を宿す。それが誰も倒れぬようにと願った軌跡。
癒し手としてだけではない。少しでもあの竜種――わだつみの主にダメージを与えられたらと彼の魔力が淡く揺らいだ。
(僕の力は雨垂れ程度かもしれない。それでも、ただ、それを、愚直に続けるしかない)
そうだ。諦めなければ届くかもしれないのだ。
海へ往く。それが魚というものなのかもしれない。大いなる海を泳いで、過ごして。
その豊かな日常を壊す暴力的なその力を前にしてベークは溜息を漏らした。
――あまり、長くは甘えていられない。
己の身にも、この海域にも、ミロワールにも――そして、アルバニアにだって。
死の呪いは付き纏う。あらゆる災厄を退ける術式に魔力が点される。
敗れざる英霊の鎧。その闘志――そして、揺ぎ無い決意を持って、仲間たちのその身を支援する。
大いなる海を泳ぐように、空を行く。ぴちゃりと魚が跳ねる様に、その身へと降り注いだ一撃をマルクが癒しの術式で支援した。
「大丈夫かい?」
「はい。ありがとうございますの。……ここは、避けて逃げ回っているだけじゃ越えられませんの」
ノリアはそっと不思議な貝殻を握り締める。お守りのように、ぎゅっと、きつく握り締めたそれを手に大いなる海を行く。
(大いなる海は竜のことだって受け入れますの。わたしができるのは、避けずに体力でたたかう。
空を泳いで、竜の弱点を探しますの。それが、みなさんが倒す大いなる一歩になるのならば)
臆することはないのだと、ノリアが手を伸ばす。するすると泳ぐ彼女の背後より、降る水滴そのものを押しのけるようにカロンの魔力が飛び交った。
少しでも『陸へ戻る』事ができるように、ベークが光臨させたよろいをその身に纏い泳ぐノリアを決して大海に飲ませやしないとマルクがその手に力を込める。
リヴァイアサン。それはどれ程脅威であるかなど、ここに立った時点でわかっている。
雨垂れ石を穿つように。
何か一つでも傷を負わせることができれば、そう願わずにいられないとノリアは空を泳ぎながら鱗に叩きつけられる攻撃が薄らと傷をつけていることに気づいた。
「ソコね?」
くす、と笑みを浮かべたカロンの声に頷いた。魔力は、一気呵成にその鱗へと叩きつけられた。
成否
成功
第1章 第7節
「やれやれ、早くアルバニアを追撃しなければならないというのに、竜種が出現するとはな……」
第一次と称するわけにも行かぬだろうか。アルバニアと戦っている最中に横槍の様に姿を現さなかっただけかとゲオルグは呟いた。
寧ろ、アルバニアの事を冠位だからと懼れぬ竜種――リヴァイアサンにとってはアルバニアさえも自身の安寧を妨げる存在であったのかもしれない。
「うむ。冠位だけでも面倒だが、それを含めても魔種までもが海域に存在する……
奴の能力含め、厄介な存在じゃが、ひとまずはリヴァイアサンを削らねばならんな」
歯を覗かせ不敵に笑ったフーリエはこれ以上は好きにはさせぬと聖杯を握り締めた。魔道の真髄を知る者として天穹翔けたゲオルグの鼓舞を聞きフーリエは魔王のオーラを満ち溢れさせる。
「今の余の力がどこまで通用するかは分からんが、悩んでおる暇があれば行動じゃな!
ーー超☆宇宙魔王である余の力をとくと見るがいい気高き竜種よ!」
宇宙魔王のその力は天翔けるゲオルグの傍を煌きと共に抜けていく。見上げたロトは「酷い嵐だね……」と呟いた。
「それでも、嵐を超えられるからこそ、人って奴さ。
まぁ、僕にはイレギュラーズの皆みたいに嵐は超えられそうに無いけどね! ただ、まぁ、乗り越える手伝いくらいは出来る」
ゆっくりと、その拳を固めた。自身は前線を進む特異運命座標の様にこの荒れ狂う海を駆け抜ける事は出来ないかもしれない。だが――少しでも、手伝う事ができればと朗朗と歌い上げるバラードに精霊たちが小さく笑みを浮かべる。
――力を貸すわ。
凪ぐ海の声に混じる精霊の囁きにロトは頷いた。精霊は言う。リヴァイアサンの左脚には鱗の欠ける部分がある。そこならば『少しでもダメージを与えられる』可能性があるのだという。
「それが知れただけで上々だ」
呟いた利一は圧縮した空気を打ち出すように指先に力を込める。ぴん、と音を立てるソレは自身の中の感覚と合わせればきっとーー見つける事ができる。
「ミロワールも気になるが、リヴァイアサンを放置しておくことはできない……。
ここで喰い止めないと、被害が甚大になっていくだけだ」
自身一人では止められないが、仲間と連携すれば対峙することだって叶う。鱗の薄い場所を見つけたとしてもかすり傷を負わせられるだけになるかもしれない。
だが、その魔弾はまっすぐに放たれた。訓練の賜物を見せ付けるように利一は、確かな実感がある。
自分だけでは僅かな抵抗にしかならないが、多くの力が集まればいつかは届くはずだ。
ソレは信じるという事か。
利一が進めばゲオルグが支援を続けていく。その傍ら魔王オーラを全開にしたフーリエがにたりと笑った。
「成る程! この儘、『攻撃すれば』届くか。叶わぬ夢を追いかけるのもまた一興! 魔王も噛ませてもらおう!」
「ああ。雨垂れとも呼べぬ一滴でも穿つ様に届けよう」
ゲオルグにフーリエがにやりと笑った。ソレを聞き、利一は走る。立ち止ってはリヴァイアサンの大波が自身そのものを飲む感覚がする。甲板を走り、そして顔を上げた。
其処に在るのは息を呑むほどの巨体と、天より落つる神鳴りであった。
成否
成功
第1章 第8節
「あらあら、これは本当に修羅場ですわねー」
ユゥリアリアはぱちりと瞬き、そして口遊む。母なる大海に歌と踊りを奉じれば、彼女の体には魔術的な加護が施される。
訥々と零すように連なる旋律は、 未来を切り拓くべく進む人々がための祝い歌。歩を進める者に幸あれと道往きのキャロルはユゥリアリア自身の行く先を明るく照らすだろう。
「わたくしも歌が好きです。いろいろな人の背を押し、励まし、希望となることが出来るから。
だからわたくしは折れません。……あんな巨体が相手だろうと、わたくしはわたくしの歌に勇気づけられているのだから」
その言葉はミロワールへと向けられた。大いなるリヴァイアサン。其れへの攻撃を阻害するせいレーン、否、ミロワールの歌声は、嗚呼、聞くに堪えぬ敵意が纏わりついている。
「小物と侮るがいい。歯牙にもかける価値もないと視界にすら入れないといい」
その呟きと共にパティリアが奔る。豪雨に紛れるように、静かやかに地面を蹴っては進み往く。機動力を武器に進むパティリアは自身には爆発的な攻撃力と呼べるものは存在せず、リヴァイアサンの鱗に傷一つつける事も出来ぬだろうと感じていた。
「ならば逆に考えるでござる。いくら撃ってもダメージすらないなら、気付かれすらしないのなら……」
ならば、見えない傷をつければいいと。リヴァイアサンにとっては小虫が自身の体を這い回る程度の不快感しか感じられぬというならば、其れでもいいのだとパティリアが奔る。
そうだ。小さきものなのだ。何せ、あの赤犬と蒼剣さえ逃げ出すほどの脅威なのだと言うのだから。
「竜種か――そうか、竜か。竜にはいつかは会って見てえと思ってた。
それがまさかこんな海の果てたぁ想像してなかったがな! これが竜か!」
その姿にルカの喉奥から漏れ出したのは何とも言えぬ感情であった。『レオンの旦那』と『ディルクの兄貴』と呼んだ彼ら――逃げるしかなかった相手。其れがどのようなものか、御伽噺の中でしか知らなかった存在を目の当たりにした時、唇から飛び出したのは「冗談キツイゼ」という言葉であった。
「こんなやつがラサの目と鼻の先にゃうろうろしてるってぇのか!?
危険領域だとは言うが……『アチラサン』から出て来たってんじゃしょうがねぇ! ぶっ倒しゃあちっとぐれぇ自慢も出来んだろ!」
にぃ、と唇を歪めたルカがその片手に闘気を漲らせる。喰らいやがれと固めた一撃に確固たる覚悟を乗せる。
その一撃を支援すべく望むは死をその名に関する一弾。歴戦の凶手が望むのはただの一撃で相手を仕留める、ただそれだけだ。ジェイクの唇が、つい、と釣り上がる。
「神だからどうした? 覇竜だから何だ?
上から目線でものを言ってるんじゃねえぞ。矮小なる人間の力がどれ程のものか見せてやる」
銃弾が飛び込んだ。鱗を掠め、弾丸さえも小鳥啄ばむだけと言うなれば、それで構う物かと引き金に指を添える。
その弾道に姿を入れるは茨の腕。そして、向こうに見えるは『影の少女』――否、ジェイクの姿を映した『鏡像』か。
「邪魔をするなら、てめえも一緒に打ち砕くだけだ。
セイラを裏切った時点でお前は敗北したんだ! 敗者は消えろ!」
「ああ――そうね。そうだわ。私はセイラ・フレーズ・バニーユを『裏切った』!」
響くその声は笑っている。其れを何とも思わぬようにジェイクの鏡像の唇を借りてミロワールは言った。
「だから、やり直すのよ! ここで、赦しを請うの。
わたしは、セイラの悲しみを癒すがために、あなたたちを――ころすわ!」
成否
成功
第1章 第9節
「……取り乱したら終わる。どんな状況でも私のやる事は変わらないわ」
口にする。荒唐無稽な存在を前にして、『取り乱さずに』入られるものか。しかし、それでもアンナは――ミルフィール家の淑女は極めて冷静に戦場に立っていた。
「勝利の為に、1秒を繋ぐために。皆の盾になる」
深く息を吐く。あの大いなる海原の神の前で抜いた淡い水晶の剣が輝きを灯す。
意志が折れぬ限りはこの剣の輝きは潰えぬ。その煌めきは自身が立って居られるという証左と、自身が折れぬという勇気を与えてくれた。
美しい薔薇は嫌いではない。だが、あれ程までに萎れた薔薇には意味があるもんか。アンナのその体の内に力が込み上げる。傍らで『ぴょこん』と跳ねるような動きをしたオカカは「わあ」と驚いたような声を上げた。
「わーーー! おっきいのだけでも大変なのに、海にバラが咲いてるーー!!
なんでー、水草じゃないでしょー! あれ……水草だったっけ?」
「雑草だ」
オカカのその言葉に苛立ったように返したセレマの瞳が『薔薇の異形』を睨みつける。その存在は明らかに異質であり――そして、セレマという『自己欲の塊』を害する存在に他ならなかった。
「とにかくジャマだよ、引っこ抜いちゃうよー。えいやーって引っこ抜いちゃうよー」
一角の角は其の儘に。飛び上がってその体を反転させる。
ぐるり、とその身を動かして、小さな体を旋回させたオカカに合わせて『ぶちりぶちり』と薔薇の蔦を引き抜き続ける。辞めろと非難の声を上げる様に絡みついたそれを拒絶するように、セレマはその苛立ちを露にした。
「お前はボクが目をつけたものに対し、勝手に手を出したな。
邪魔だ。不愉快だ。お前は要らない。前座にもならないお前にはここで消えてもらう」
ミロワールの鏡像が邪魔となるのならば、絶望の海に歌う。その指先で『肖像の悪魔』が笑っている気配がしてセレマは唇を噛んだ。
「ミロワール。勘違いするな。ボクはボクの為にお前を望んだんだ。
ボクの粗悪品を作るなんて許すはずがないし、多少手荒くもする」
鏡像を前にして、セレマが吠える。その鏡像に絡みつく茨ごと、燃やすが如く焔が灯される。
「私達はあなたが守りたいものを奪うわ。生き残るために。それが嫌なら、全力で抵抗してみなさい!」
萎れた薔薇にはない赤い花。その中でアンナは薔薇の異形を睨みつける。意志があるのかすらわからぬその赤い花。それはミロワールを守護するように蠢いているのだから。
そうなったのは、セイラ・フレーズ・バニーユの意志か。それとも、リーデル・コールの意志か。
どちらであれどアカツキは『セイラ・フレーズ・バニーユを屠った者』としてミロワールの事を『終わらせる』責務があると口にした。
「ぬおお、当たらずに近づくだけで精一杯か……」
薔薇が、邪魔をする。ミロワールに近づくことも。これがセレマの言った『自分のモノに手を出した』という事か。アカツキが唇を噛む。両の腕には刻印を。その焔が赤く光を帯びてゆく。
悪意は薔薇を絡めるように切り裂いた。それでも尚、それを飲み込むように伸びる茨がアカツキの体を海へと突き落とさんと追い込んでくる。
「怨念が渦巻いておるのう……死してなお面倒な奴じゃ。今度はその怨念ごと祓ってやるぞ、必ずな……!」
アカツキを支援するリンディスはペンで未来を綴る。その萎れた薔薇がミロワールを隠さぬ様に。世界(ページ)が進んでも、物語が停滞した儘など、寂しいではないか。
「――まだ、希望はあるはず。まだ選べるんです、貴女の物語は……!
選んでここから未来を紡ぎましょう、大丈夫。
私たちは貴女を――そう、『貴女』をしっかりと覚えています!」
あの時、自身を映してくれたミロワール。彼女が示した道を辿って討ったセイラ。
リンディスは願う。
一分でもいい。一秒でもいい。
ミロワールを蝕む呪いが和らげばいい。
彼女を、解き放ってほしい。縛らないでほしい。彼女の物語を終わりにしないでほしい。
「リンちゃんは優しいのぅ……妾、頑張っちゃうのじゃ」
にい、と笑ったアカツキは焔の如く闘志を燃やし幾重も不可視の悪意を放ち続ける。
薔薇を切り裂く悪意の中で、セレマは唸った。魔種、ミロワール。薔薇の異形。
それを双眸に映しこんで美しいかんばせを歪ませた。
「それよりもお前だ。お前は、ボクの結んだ契約を総動員して潰すと約束しよう。
死霊騎士よ、肖像の悪魔よ、悪徳の公主よ――『その精髄まで受け取り給え!』」
成否
成功
第1章 第10節
エルシア・クレンオータにとって、『鏡』というのはどうにも見過ごせぬ話であった。魔種ミロワール。それは『鏡の魔種』――人を映しこみ、そして鏡像を作り出す性質を持ったデモニアだ。
「私は、とある村で『私と似た何者か』がその村を燃やしたと聞いたのです。
……その人物が何を考えていたのか? 私はその人物に会った時、何をすればいいのか? 貴女に――教えて欲しいのです」
祈るように彼女はそう言った。攻め立てるような攻撃の雨の中、彼女は泥のように溶ける影の少女を見上げた。その悪意に満ち溢れた鏡が『正しい返答を行うかは分からない』――けれど、聞いてみたくなったのだ。
「聞けばいいのよ」
「聞く――?」
「私は鏡。そして、貴女の鏡かもしれない存在に。私は、分からないわ。私は、鏡だもの」
鏡。彼女が鏡であること位、愛無は知っていた。鏡(ミロワール)とその存在を表す名を口にして愛無は目を伏せる。
「幸か不幸か、彼女は一人では無い様だ。うらやましい事ではあるが、ある意味都合がよいと言えば都合がよい」
彼女を取り巻く環境は、イレギュラーズ達という善性が変化を及ぼす可能性は十分にあった。幾重にも言葉を重ねなければならないという事には違いないだろうが――『他』に行ったところで恨まれることもないだろうと息を吐く。
「未練というモノは、さっさと捨てるに限る。この海は、未練だらけだ。さっさと片づけて『先』に進むとしよう」
自身に纏う茨の鎧は薔薇の異形よりも尚、刺々しく感じられた。その身の粘膜を展開させ、体表に無数の眼を持つ蛇と化す。正しく異形たる己の身がずるりと音を立てて薔薇へと絡みつく。
薔薇がその往く手を塞ぐというならば、愛無は薔薇を散らしてしまおうと口にする。無粋だと言ってくれるな。そも、海には咲かぬ物なのだ。このような『悪意の薔薇』は――
「やぁミロワール君。初めましてかな?
君にも戦う理由があるのだろうけど、こちらも負ける訳にいかなくてね。いざ尋常に!」
赤き神鳴りがマリアの身に纏わり着いた。雷光殲姫は紅雷をその身に纏い、一気に跳躍する。自身の纏う電磁フィールドの性能を一気に強化してゆく。その身に纏わせるは超速の雷に他ならない。
「私が出来るの一つ! 敵のスタミナを削り続けること!」
薔薇を退け、そしてその最奥に居るミロワールまで。自身と同じ姿をした鏡像へと放つ雷がぶつかり合う。どうやら、『デッドコピー』の存在は甘くはないようだ。
「流石はは私とでも? ――まあ、コピーに負けてやる謂れはないけれどね」
マリアの傍らを駆け抜ける。プラックは只、叫んだ。その喉の奥より、声を張り上げ、手を伸ばす。
「―――ミロワァァァル!!」
その声は、ミロワールの脳裏にべたりと張り付いている『彼女』の怨嗟にも似ていた。誰かが、心の奥底より呼ぶ声は、どうしてこうも心を揺さぶるのか。
「いや、今はシャルロットか? お前を殺す事は無い、だからシャルロットだ。絶対に。
前回はお前を苦しめた元凶を殴りに行った。今回は元凶も殴る。お前も助けるっ! 友達だからな!」
プラックはその拳に力を滾らせる。シャルロットーー約束を諳んじれば、彼女が『彼女』であるならば、その名で呼ぶにふさわしい。
「――それに女の子1人助けようとしないなんて選択肢は最初から無ぇ!!」
友達の名を間違えるわけがないと薔薇を殴りつけるプラックはミロワールへと声を届かせんと叫び続ける。
ミロワールは遠い。遠くて、その手を握りしめる事さえかなわない。
それでも尚、意志は貫く。足を止めず、勇気と幸運をその胸に。
「貴女が貴女でなくなったら殺してと言った! お願いは聞くよ、そう約束したもの!
でもまだ、確かめてない! 本当に貴女が――『シャルロット』がいなくなったのか!」
アレクシアは何度も何度も、ミロワールの視線を奪う様に毒の魔術を放つ。デモニアとはこれ程までに、脅威であるか。昏き影の瞳に居られたような気がして、背筋に走った悍ましさを振り払うように何度も、叫んだ。
声を、届かせたくて――まだ、『諦めたくなくて』
「貴女の心がまだあるのなら私は諦めない! その狂気を祓ってみせる!
だから応えて! あなたの『本当の名前』を呼ばせてよ!」
アレクシアの腕で魔力の花が咲く。巡る魔力を枯らすことなくアレクシアは、『ヒーロー』となる為に声を響かせた。
届いて欲しくて。空を駆けた。
受け止めたくて。手を伸ばした。
ビスコッティ、ミロワール、シャルロット。名前を並べるだけならば簡単なのに。
――どうしても、遠い。
ハルアは叫んだ。
「ビスコもシャルも代わりはない大切なそれぞれだっ――取り返しがつかずあなたが代わろうとする通り、あなたを罰してるのはあなただよ……!
かみさまやビスコが許しても、あなたが許さなければ苦しいよ。いつか自分で癒すんだ」
友達になれない。だから、受け入れる事は出来ない。それが、世界の為だ。
デモニアは世界を壊す。だからこそ、その手を取ることを拒んだ。
ハルアは小さく笑う。ああ、そんなことを言っておいて、『貴女の事ばかり』考える。
「ねえ、これってさ。友達だよね。何が出来るか、どうしたら笑ってくれるか考える。
あなたはセイラを受け止める優しい子で、ボクを殺したらもっと苦しむんだ。
――おいで、『映して』『見て』、普通の女の子のあなたがボクの心にいる」
手を伸ばす。届け、届け、と祈るように。その手が届かないことに唇を噛む。
影の揺らぎに、言葉を投げかける事は悪くないんだと、ハルアは確かに確信した。
「――シャルロット。お前の願いは妹の元に行く事じゃなかったのか?
遅くなっちまったが……俺はお前との約束を果たしに来た。妹の元に送り届ける為に来たンだ」
大切なかたわれへ。愛しい人の傍に居たい。
そんな在り来たりなロマンスの様な言葉をレイチェルは、否、ヨハンナは口にした。
どうして、なんて聞いてくれるな。ただ、その境遇がどこか重なって――『復讐』なんて今はない程に、彼女の心に触れたくなったのだ。
見据える。
遠い彼女を――まだ、届かぬその存在を。
自信を取り戻すためには声を届けるだけではまだ甘い。薔薇を取り払わねばならない。茨は絡みつき、彼女を守るナイトの様に存在している。
まるで――母が子を守るように。だからこそ、レイチェルは薔薇へと一撃を放った。
――俺は諦めない。自分を失ったままのお前を葬っても意味がねぇ。
約束は、確かにそこにあった。彼女が『ビスコッティ』の儘、終わるなんて、彼女にとっては何の意味をなさないのだと、強い意志を固めて。
成否
成功
第1章 第11節
デモニアミロワール。彼女が棺牢(コフィンゲージ)に囚われたのは――『呪われてしまったのは』、窮地のセイレーンの最期の力を彼女に向けさせたからだとノースポールは口にした。
もしも、あの時『セイラを逃がさない』と決めて居たら? 結末は変わっていたのだろうか。
「……ミロワール、貴女をセイレーンから解き放つ!」
「ああ、僕もポーに協力するよ。ミロワールは僕達を助けてくれたんだ。
……今度は僕達が助ける番だ! ミロワールを取り戻そう!」
ノースポールの手をぎゅっと握ったルチアーノは真っ直ぐに『ミロワール』を見た。彼女は鏡だ。全てを映しこんでその性質を飲む魔性。
彼女を捕らえた薔薇の茨より、彼女を解き放たんと二人は考えた。雁字搦めに彼女を守った薔薇。
「……棘も霧も構っていられない。
ミロワールの苦しみは、悲しみはこんなものじゃない!」
唇を噛んだノースポールは偉業に向けて攻撃を集中させる。彼女の白い肌に傷が刻まれることを傷ましく思ったルチアーノはノースポールの覚悟を感じ取る。
そうか、傷を負うから。そんな風に臆している時間もないと、彼女は判断したのだ。
「……傷は覚悟の上なんだね。うん、行こう! 障害を撃ち開くよ!」
夢幻の如く翻弄するは短刃。それが蝶々の揺らめきと共にメアレートへと変貌する。白く眩い一弾はまるで『傍らの君』の攻撃にも似ていた。ノースポールのその弾丸に合わさるは死弾。
「ミロワールから離れて!」
届くはずだと、手を伸ばす。まだだ、まだ。遠い。
声を響かせるには――まだ、薔薇が邪魔立てしてくるのだ。
成否
成功
第1章 第12節
セリアはヤルダバオトを抱きしめる。ミロワールの迷宮で彼女を『受け入れるか』『拒絶するか』その二択を迫られた時、自身は彼女を拒んだ。
受け入れず、そして、イレギュラーズとして前を向いたセリアは『ミロワール』との決着をつけるのは自分ではないと首を振る。
「……だから、どんな結末にしてもあなたと決着をつけるのは他の人に任せるわ。
せめて最後に、誰かがあなたを棺桶からだして頬に口づけしてくれるといいわね」
囁き、そして、魔砲は真っ直ぐに薔薇の異形の許へと飛び込んだ。鏡像をも破壊し、そして、ミロワールの許へと一撃でも届けられればと願うセイラの前にずるりと触腕が伸びあがる。
ミロワールの体を覆い尽くす様に存在する不可視の棘は薔薇の庇護であろうか。ゆっくりと顔を上げた利香は『常の如く』にんまりと微笑んだ。
「はーい♪ ミロワール、覚えてるかしら?」
ひら、と手を振った利香。見上げるミロワールの表情は分からない。だが――利香の眼前に立っている『利香』は蠱惑的な笑みを浮かべて、唇をぺろりと舐める。
「私は覚えてるわよ、鏡の魔種、貴方(わたし)も同じでしょうね
愛には愛を、快楽には……実は勝手に共感覚えちゃってたりしてね? いひひ♪」
サッキュバスは恍惚の笑みを浮かべ、『鏡像』の前へと飛び込んだ。焔に変化させた鞭が音立てる。自分の弱点は自分が良く知っていると彼女は『愛』も『恋』も知らぬ夢魔に最後の終わりを齎さんと攻撃を重ね往く。
「ねえ、ミロワール。随分と変なのに取りつかれちゃってるじゃない、ああ可哀そう……。
そんな奴らじゃなくて、みんなを愛してあげれる私を映せばいいのに……今は助けてアゲル」
「ねえ、『私』ったら――こっちを見てよ」
鏡像のその笑みに「見てるわ。けど、見つめ過ぎたら貴方ったら夢心地で死ぬかもね?」と利香は唇を釣り上げた。
鏡像との戦いはじわりじわりと続いていく。自身のコピーであるならば、それもむべなるかな。
「なんですかあのでっかいおにく。憎たらしいですね。
おにくは黙っていてください――脂身でも赤身でも何でも構いません、さっさとお鍋に入りなさいよ。この魚肉ソーセージ。あ。ハンバーグは豚と牛の方が美味ですよ宜しくお願いしますね!!!」
憤慨するもつはベーコンをベッコンベッコンにしながら薔薇の異形を『ホイップクリーム』にしてしまう。鏡像と戦う者がいれば、それを支援する者だって必要だ。
「成程! 鏡像というのは自分自身。戦い出すと其方に手を取られやすいのは理解の内です!
そして、見よ! あの海蛇! ヨハナはこういう時何と言いたいか知っていますっ」
胸いっぱいに空気を吸い込んで。ヨハナは拳をぐん、と天へと突き立てた。
「おおいちばんじゃコラァーっ! はい、皆さまも一緒にっ! おおいちばんじゃコラァーっ!
叫ぶと気分が高揚しますからねっ! テンション上げていきましょうっ!」
荒れ狂う嵐の中でさえ、元気な声は曇らない。その雄たけびを聞きながら利香が重ねた攻撃で鏡像は随分と弱りを見せた事だろう。
ずるんと伸びる薔薇にDr.Cartesianがびょこんびょこんとうざったい動きを繰り返す。
「やや……だというのに邪魔っ気な薔薇ですねっ! あなたはヨハナがお相手しますよっ!
海の上で咲いていい薔薇は水夫同士のめくるめくロマンスだけですっ!」
――ロマンスが咲くのも大変なことではあるが、そういう事もあるのだろう。
薔薇を絡めとるヨハナのその傍らからイルミナは走った。自身のその体に張ったエネルギーフィールド。
薔薇の触腕を払う様に、守り固めたイルミナは痛烈なるカウンターを薔薇へと返し、萎れたその花弁の向こうにミロワールを見る。
「イルミナには、心と呼べるものはないかもしれません。あるように見えたしても、それはあくまでもプログラム。それでもイルミナは……自分でも驚くほどに、彼女を救いたいと、思ってしまうのです」
救いたい。我武者羅に手を伸ばす事は人の心であるのかもしれない。だが、イルミナはロボットだ。優先順位は違えない。あの大いなる災厄を――そして、薔薇の異形を倒さねばならないのだ。
「さぁ、まだまだこれからッス……イルミナはしぶといッスよ! 簡単に殺されてたまるか、ッス!」
成否
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第1章 第13節
人間というのは、眼前に存在した『未知』に対して本能的危機を感じるらしい。アランとてそうだ。幾度も猛者を相手にしてきた彼にとって竜は生命を脅かす存在とその本能が告げている。
圧倒的という言葉をまさに体現しているわだつみの主――だが、やるしかないとアルファードを握りしめる。此処で、逃げれば蜷局を巻いた強者はこの海をも喰らうだろう。首を垂れ、その存在に詫びて何も世界が変わらないなど――『下らない程』退屈だ。
「ドラゴン狩りだァ! 今日この日まで生き、こいつを拝めた事を感謝しねェとなァ!!!」
――やらねば終わるのだ。何もかも。アランの傍らで、怯えたように天を仰いだアリアは「これが、竜」と口蓋を満たした唾を飲む。悍ましい程の強大なその肢体が惜しげもなく海原を蠢いているのだ。
「こ、こんなのを相手に……っ、えーいこうなったら自棄だ! 蚊の刺したような一撃でもどんどん与えていくよ!」
近づける距離にも限界がある。アリアの『自棄』の一声にアランが小さく唇を釣り上げる。これだけ巨大なのだから『狙えば当たる』のだ。
仲間たちの話を聞けば左脚の鱗の厚さにはムラがある。海龍の体の『薄い部分』を狙い穿てば――好機が見える筈なのだ。海龍を守るように自身の力を披露するミロワールも不安の種だが、少しでも、只の一匙でも海龍を削ることが出来るならば。
「こうした小さな一撃だけど、それを積み上げれば山にもなるんだよ!」
アリアとアランの前に影が落ちる。それが海龍による攻撃動作である事に気付いた時、青年は吼えた。
「こんな絶望で諦めねぇ! 諦めねぇって決めたんだよクソったれがぁぁぁ!!」
彼の前へと滑り込んだのはどしりとした巨体。楽し気に笑みを浮かべたゴリョウは自身の腹太鼓をぼんと叩く。
「ぶはははっ! 戦友はやらせねぇよ! かかってきな!」
戦いは攻めるだけではない。攻め手を守り、そしていってでも多くを届かせることも必要なのだとゴリョウは笑う。
「なんだか、大変な事になっちゃったなぁ。こんな大きな竜、元の世界でだって聞いた事ないや。
でも……きっとこういう時のため、僕らは召喚されたんだよね」
不安を胸に、唇を噛み締めて――ニャムリがそう呟いた言葉へと、十七号は頷いた。
「―――さて、死地だぞ。成すべきことを、全力で成し遂げろ」
その号令を耳にして、ニャムリは頷いた。錬は顔を上げる。強大な竜への攻撃を『半減』させるはミロワールと呼ばれる魔種か。
「後はイレギュラーズとしての仕事……魔種退治と行くとするか。
因縁も何もないが、竜退治の誉れの邪魔をしないで欲しいものだな!」
攻め立てるイレギュラーズの許へと延びる薔薇の腕をゴリョウは受け止め、海へと堕とす。ずるり、と伸びあがった薔薇の棘だらけの『腕』はその体をずるりと削り取る。
「ッ――」
歯を噛み締め、耐える。その表情からは笑みは消えない儘だ。リヴァイアサン、それに『一打』でも喰らえるために。遮る薔薇の向こうに見えた『影』が『自身の姿』に見えて、コスモはは、と息を飲む。
「今ここに、私、そしてあなたが存在する。それよりも大切なことなど無いのです。
……けれども疑問です。あなたは一体、何を見て私と相対しているのですか?
私と真逆の色を持つ方。名前は……ミロワール様でよろしかった、でしょうか」
コスモは真白の体でで、黒き闇を見据える様に囁いた。美しい清廉なる白。それこそがコスモそのものだ。
昏き闇、毒の如き悪意を身に纏うミロワールとは相反した彼女の傍で大声で泣いた逃夜は「うあああ」と濁り切った叫び声をあげる。
「魔、魔種に、竜……? こ……こんなの、どうしろっていうの……?
でももう逃げられる距離じゃ……ないよね……? バカ手袋は元気に船を操縦してるし……」
背を向ければ大津波にもまれてさようならなんてジョークにしたって面白くはない。仲間たちの足場を『運ぶ』逃夜の『相棒』はその言葉とは裏腹に体を前へと運ぶようだ。
「うぁあああん! や゛っ゛でや゛る゛よ゛ぉ! やるしかないよぉ!」
「そうだね。やるしかない……みたい。
安心は、出来ないだろうけど……でも、大丈夫。万が一があったって……ぼくが、助けるよ」
ニャムリの言葉に「助けてぇえ」と涙ながらに白旗をぶんぶんと振り続ける逃夜。『ギャザ城』の面々は個性豊かにミロワールとリヴァイアサンへと迫りゆく。
その賑やかな声を聞き『生きている心地』を感じながらアリアは降る雨の中、懸命に鱗を狙った。
「あそこです!」
「――そこか! ザマァねェな、竜! 『一点集中』だ。鱗の一枚剥がせてもらうぜ!」
アリアの声に反応したようにアランが地面を蹴る。鱗を狙うそれをちら、と振り返ったミロワールの視線を奪う様に錬やコスモ、十七号は繰り返し攻撃を与えた。
ばしり、ばしりと音がする。鈍いその音と共に薔薇の触腕がそれを受け止めんとする。
その刹那、ゴリョウが顔を上げた。
「退け!」
空が、瞬くよう轟を立てる。まるで、天地をひっくり返すような、海原を割り、降り注ぐような。
それは竜にとっては瞬きをするかの如く容易なものだったのかもしれない。
ゴリョウの声に咄嗟に言って引いたアラン、そしてアリアが空を仰ぎ白い輝きを見る。
美しくも悍ましく。
一点を裂くように空より落ちたその雷がイレギュラーズの体に痺れを与える。急激にその身を蝕んだ雷の中でコスモは美しい白の中で黒き少女が揺れているのを見た。
(まるで、貴女がリヴァイアサンへの攻撃を『跳ね返しているよう』ですね――
『手応え』と呼べるものはまるで失われていく。どうして、竜に味方するのですか)
錬は「薔薇が来る」と静かに告げる。薔薇の触腕はミロワールを守るように、そしてミロワールは竜を守るように。
「――――贖罪よ」
その言葉に、錬は「人殺しが罪滅ぼしになる訳ないだろう」と魔種を見つめて、漏らした。
成否
成功
第1章 第14節
贖罪という言葉に違和感を感じたのはウィートラントだけではない。「はて」と小さく呟けば、デモニアの体は『自身の姿』へと変貌する。
「魔種ミロワール様。はて……。
過去に何処かでお会いしたやもしれないでごぜーますが記憶にないでござりんすね」
首を傾げる。不思議そうな顔をして――そして、それでも魔種を倒さんとするウィートラントは恭しくも穏やかにミロワールへと声をかけた。
「それはともかく……貴女の輝きをどうぞわっちに魅せておくんなんし」
海原に響き渡る神鳴りに、その巨大な体が揺れ動く。降り注ぐ水泡の中、伸ばされる触腕を見つめながらドゥーは「これが竜種……」と呟いた。己の中に恐怖心が存在しないわけではない。
「……怖いけど、やるしかない」
呟く。その視線が向けられるのはミロワールだ。約束は確かに聞いた――もしも、もしも、『彼女』じゃなくなったのならば、その願いを叶えようと考えていた。
「でも……まだ少しでも、君が君のままなら、『シャルロット』って呼ばせて欲しいよ。
君の事を忘れないって誓ったけど、こんな終わりは嫌なんだ……! だからもう一度だけ俺達の方を見てくれ!」
声が嗄れても、喉が裂けても、声を届けたいとドゥーは願った。影が僅かに揺らめく。
見た。
見たのだろうか。
魔種ミロワール。
「……ねえミロワール。前に一度会った時、寂しくないのが一番だと思ったんだよ。
消えていくとしても、少しでも寂しくないようにって。
でも、今のその『ひとりじゃない』状態はよくないよ。だから、止めるよ!」
アクセルは空を駆ける。彼の仲間はミロワールと『約束』したのだそうだ。
だからこそ、彼らの為にも――そして、自身が信じる在り方の為にもミロワールの許を目指す。
触腕を狙う。アクセルとウェールの支援を受けながらレーゲンは叫んだ。
「ミロワール! レーさんは、ミロワールと会えてよかったっきゅ!」
抱きしめた。
その小さな腕で。グリュッグも、きっと同じだ。ミロワールをぎゅ、と抱きしめる。その闇色の体を。
涙も、鼻水も、総てが全て、溢れてくる。それでも、レーゲンはぎゅっとミロワールを抱きしめ続ける。
「約束を果たしに来たっきゅ! 抱きしめに来たっきゅ!
だから、だからミロワールも約束を守ってっきゅ!
魂だけでも、外見が変わっても、シャルロットでも問題ないから、ピクニック行くっきゅ!」
降る雨が、レーゲンの体を叩きつける。
影より響いた歌が、その体を、海原にたたきつけんとしたのをウェールは受け止めた。
「ッ――ミロワール! 俺もレーゲンもお前に助けてもらったのに、何も返せていない。
まずハグする約束を果たしに来た。
お前はもう終わりたいかもしれないけど――短い間でも俺達はもっとお前といたい。シャルロットと呼びたいんだ」
影がぶるりと震えた気がする。見上げたその先から襲い来る薔薇がウェールの肩へと食い込んだ。萎れたそれより感じる毒がその身を蝕む気配がする。
「ッ、ミロワール!」
ひゅう、と風が吹いた。その風に乗りアクセルが薔薇の触腕を海へと叩き落す。
風を身に纏い、ミロワールの前へと踊り出したニアは静かな声音で笑いかけた。
「……約束を、果たしに来たよ。シャルロットって言うんだね。
ああ、送ってやるさ、あんたの片割れの所に。
だから、戻っておいで。あんたを、シャルロットとして送らせておくれよ。お願いだから、さ」
まるで、幼子に言い聞かせるようなその声音。リヴァイアサンはまだ余裕を見せる様に静まり返っているが、薔薇の触腕の動きはミロワールを守らんとするものだと分かっている。
ニアは自分の我儘だと分っているとそう言った。そして、薔薇も――『誰かの我儘』でミロワールを守っているのだ。
「それでも。それでも、あんたをビスコッティとして逝かせてなんてやるもんか」
ニアが纏った風に乗りながら、アクセルは薔薇を叩き落す。頬を掠めたそれが紅の雫を海へと落とせども、レーゲンとウェールが『果たしたい』と願う約束がある。
「シャルロット、君はこんなにも愛されているんだ。
誰かに赦しを乞わなくても良い。セイラを止める必要だって――あった」
「けれど、わたしがセイラを殺したようなものよ。わたしが彼女を受け止めなくちゃいけない。
変わってしまったのは『わたし』よ。『あなた』を映して『わたし』が出来た。
――わたしは、ずっと、彼女の傍に居れば……彼女は、幸せだったのかしら……?
――わたしが、彼女の事を愛してあげれば……彼女は、こうはならなかったのかしら……?」
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状態異常
第1章 第15節
――死にたくない。
足が震えた。薔薇の蔦を、茨を裂きながらシルキィは自身の体が震えている事に気付く。
――死にたくない。
死の恐怖が、すぐそこに存在している。悍ましい程の圧倒的な『予感』。逃げ出したくなる衝動を堪えて、シルキィは彼女を、『ミロワール』を呼んだ。
あの子の所に行かねばならないと、右手には糸を繰り、そして左手には『彼女』を握りしめる。
「『約束』は、キミが戻ってきてから果たす……だから! わたしを、わたし達を映して!」
死への恐怖に惧れるだけの小さな存在は、だからこそ、人を愛することが出来るのだ。
シルキィの許へと、茨の腕が飛び込んでくる。まるで、ミロワールに語り掛けるなとでも言いたげなそれを撃ち抜いたジェックは次は『アテ』るとミロワールを真っ直ぐに見遣った。
「キミはどこまでも、馬鹿なコだね──」
ジェックはゆっくりと、その弾道を次は逸らさぬとミロワールを見据えていた。
鏡の少女、彼女は変わりたいと願ったではないか。歪にも、デモニアでありながら、救われたいと。
「アタシの弾は、ドコにいたってトンでくるのさ。
ネェ、鏡のコ。キミが変わりたいと、スクわれたいと願ったのは……ウソだったのカイ?」
ジェックの弾丸が影の肩を穿つ。流れるのは赤い血潮ではない。黒き靄のが如き影だ。
ミロワールを見据えたジェックの許へと薔薇の腕が飛び込んでくる。成程、とジェックは感じた。
雁字搦めだ。ミロワールを捕らえたまま薔薇は庇護下において、声を遮らんとしてくるのだ。
「はあ……ビスコッティ、いつまでセイレーンの亡霊に取り憑かれているの?
中途半端で終わったあの日の続きを始めようか。スコーンも死闘もぐるぐる混ぜちゃえば同じものさ」
美味しいお菓子を一緒に作ると誓っただろうと『女王の命』の内の一つ――『魔種の撃破』に臨んた史之は肩を竦める。
「ねえビスコッティ、俺はもう君をミロワールなどと呼ばないよ。
セイレーンの影に隠れているのはそんなに快感なの? 君が本当に愛していたのは誰だったの?」
嫉妬の魔種は友情すらも壊してしまう。何故なら、友人さえも妬み嫉みの対象だからだ。
それでも尚、セイレーンの為に、贖罪をというならば――彼女はデモニアではないのだろうとさえ、史之は感じていた。
「精霊たち、海を頼む」
静かに囁いたポテトは伸び来る茨を切り裂くリゲルの背を追いかけたジェックの弾丸が飛び交い、茨に傷つけられた彼女を史之が癒し続ける。
「ミロワール……助けてくれて有難う。だから今度は、私達がお前を助ける番だ。リゲル――」
「ああ」
ポテトが言わんとする言葉をリゲルは察していた。憐れな赤子、リーデル・コールの抱いていた狂った慈愛。悲しみと怨嗟に溢れたこの海原でリゲルはやれることをやるのだと只、ポテトを連れてミロワールの許へと走った。
「君はシャルロットだ! 誰の写し鑑でもない、君自身を思い出せ!
君の生き方も思いも、出会いも、その運命も……君だけのものなんだだ! 人に自分を委ねるな……!!」
ミロワールを守るように伸びる茨は尚も、リゲルの声を遮らんとする。ふと、影が蠢いた気がしてポテトは彼女を呼んだ。シャルロット、と。
「お願いだシャルロット。ビスコッティとして消えないでくれ。シャルロットを見送らせてくれ。
だから帰ってきてくれ。私達と約束したのは、私達を助けてくれたのは、シャルロットなんだから!」
「やく、そく」
僅かに少女の声音が漏れた。刹那、その声は大いなる海原へ捧げる怨嗟の歌声へと変わってゆく。
「貴女の罪は、私を殺しても終わりませんよ」
その歌声を切り裂くように、刃を振るいあげた無量は何処か落胆したように溜息をついた。
まるで、幼い子供が与えられた玩具を取り上げられたかの如く、彼岸会 無量という女は柄にもなくミロワールという少女の名を、呼び、彼女を『掬い』上げたかったのだ。
「忘れているのですね。貴女が私に業を奪いに来てと願った事を。
……いえ、忘れているわけではないでしょう。
ただ暗く、昏く、黯い中に閉じ込められ見えないだけ」
泥濘とした微睡から拾い上げるが為、無量は『ミロワール』が誰かを殺し贖罪を果たすのではなく、罰を与える事を願った。
「貴女の背負う業、私が頂きます」
全身全力を以て、ミロワールを倒す。そして、彼女を救い出すだと、その心を蝕む棺牢(くだらぬいんねん)から解き放たんとした無量の腕に薔薇が絡みつく。
「――貴女も、ですか」
薔薇は、ミロワールを守っている。
この段階になって迄、母という者は子を守りたいと願うのか。誰ぞの慈愛はミロワールを害する者を拒むと言うのか。
約束は、まだ果たされない――絡んだ薔薇を退けて、無量は蠢く萎れた華に一瞥を送るだけだった。
成否
成功
第1章 第16節
「正気を得なければ、あなたに赦しなどない!」
ココロは叫んだ。ぞろりと襲い来る薔薇の花。狂気に濡れたデモニア。
それがリヴァイアサンへの道を阻み『廃滅の呪い』に掛かりし仲間を脅かす。
(邪魔をしないで――!)
救える命も、救えなくなる。強大な竜がその身を『揺らす』だけでこれほどまでに世界が揺れる。降り注ぐ水泡の中、白は薔薇に向かって恭しくもそっと首を垂れた。
「私だけじゃまだ竜を見れない。でも私は私達だから闘える。まずは出来ることをするんだ。
結局リーデルとは縁がなかったけどそれは私達らしい。
水子ですらない『同胞』よ、リーデルの妄執の子よ、せめて、せめて私達と遊びましょう?」
死した者。命の残滓。何も分からぬ白と黒。白は、そっとリーデルの『妄執』へと手を差し伸べる。
薔薇がミロワールを守るというならば薔薇を倒さねばならぬと向き合う白へと茨が叩きつけられる。
その茨を受け止めたカンベエはにい、と唇と吊り上げさせた。背後に控えるココロは「ミロワールの聲なんて聞こえないわ。『呪い』なんて聞こえなければ意味がない」とでたらめな歌を歌って聞かせる。
「愉快痛快!」
からからと笑ったカンベエはミロワールをじろり、と睨みつける。
「いきさつは聞いている。コフィン・ゲージか? その姿と意思……そうか、囚われてしまったのか」
魔種となった者は救えない。だがしかし、ミロワールの様な――そして、『反転したイレギュラーズの様な』、轡を並べることが出来る者がいる事を知れただけ僥倖だとカンベエは目を伏せる。
生まれるカンベエの鏡像はイレギュラーズの攻撃よりミロワールを守り続ける。しかしてそれを『好奇』と感じたのは、彼女への説得時間を稼げるからに違いはないのだろう。
「……わしがそうするように、お前にとっての味方の盾となるがいいだろう。わしはそちらには立てぬからこそ」
廃滅は消えず、強大な敵がある。向かい来る薔薇を倒さねば、何も始まらぬのだとカンベエは仲間たちに向かう薔薇を受け止めた。
「お前の性質が残っている。ならばまだそこに居るのだろう!」
鏡の魔種。ならば、ミロワールだってそこにいる。妄執と怨念の中、『少女』の意識はまだ――
だからと言って、がむしゃらに手を伸ばすだけでは何も救えない。
それをLumiliaは知っていた。翼で空を駆けようとも――『物語の天使』ではないから。
――♪
鳴り響くは英雄賛歌。語る天の遣いはその音色を響かせて目を伏せる。Lumiliaの許へと飛びこまんとする茨へと、『ざばり』と音を立て水中から飛び込んだ夏子はゼイゼイと大げさな程に肩で息をした。
「がぼぉあっ! 溺れるっ!
吹っ飛ばされたり吹っ飛んだりメチャクチャされてて動けるって凄い!」
飛べたらな、水中が自由自在だったらな、超遠距離攻撃で相手のゴールにシュート、なんちゃって。
そう思えども、ないものねだりはしてられない。先ずは支援の彼女を。そして、次は『火力美女』と『美少女』が少しでも実力を長く発揮できるように。
「――俺の仕事ってのは! とどのつまり!! そういう事なんだよ!!!
出来る事をやれば! 勝利に少しでも近づくん……だあっ!」
夏子の体がぐん、と薔薇を押し返す。その背後より薔薇へと一撃投じるは紅の瞳のメイド。
「死しても迷惑をかける……
執念深いと言えばいいのか、往生際が悪いといいのか。まずはその怨念を振り払うとしましょうか」
淡々と、告死の蝶が舞い踊る。手にするは漆黒の魔力の鏃。久遠のリボンを揺らし、リュティスの唇は言葉を紡ぐ。
「あの薔薇には心はあるのでしょうか?」
「さあ。そこまで腐れ汚れ萎れ落ちて尚、動くというならば、妄執の域だ」
ラダは静かに囁いた。リュティスが躍るように蝶々と舞うその背後より、ラダは薔薇の異形と鏡像を吹き飛ばさんと鋼の驟雨を振り注がせる。
「鏡の性質、かけられた言葉。救いの手を差し伸べる事は悪くはない。
私は彼女のことを良く知らず、故に語り掛ける言葉はない。だが――ほかの者にはるならば、道を作ろう」
そして、その背後に存在する竜種への道を繋ぐが為に。
萎れた薔薇の花弁がはらりと舞う。イレギュラーズ達の攻撃も薔薇にはダメージを蓄積させているのだろう。もう少し、そう思えども、あと少し、そう思えども、薔薇へ踏み込む者が増えねばいけぬのだと苦々しくもココロは呟いた。
「邪魔をしないで――!」
鏡像を消すために、光が広がってゆく。ココロの傍らで夏子はにい、と小さく笑った。
「なんとしてでも終わらせて! 祝勝会できれいな女の子と……っ!!
まだ……俺は! 動ける限り……!! モテる努力を……!」
その言葉を聞きエイヴァンは『立つ者がいるならば』自身も胸を張れると荒れ狂う海の上を進んで往く。
「リヴァイアサン直行の片道切符だ。だが、『障害物』はどうにかしてくれ」
退くべきタイミングになれば退いて見せよう。だが、その時間さえも惜しいのだと、士気高揚の策を講じながらエイヴァンは堂々と前を向く。
「鏡像、薔薇、そしてデモニア――大盤振る舞いだが、全力で竜種の許へとつなぐだけだ!」
「ド、ドラゴン! そ、それよりっ、えっ、えっ、なんであの子、ミミをころすーとかおっしゃってるんです……!?」
尾の毛並みを逆立ててビビビ、とビビッたミミにエイヴァンは「デモニアはそんなもんだ」と大きく頷く。
「ええっ!? ドラゴンの目の前で魔種に絡まれるとか冗談じゃねーのです。
ぶ、ぶ、ぶっとばしてやるのです! ……皆さんが! ややや、お手伝いは、します故!」
回復役たるミミは尻尾を逆立てシュシュッと後退しながらシャドーボクシング。しかし、これ以上下がる道がないというならば『美女のために頑張る夏子』へとポーションを分け与える。
乱戦状態の戦場では、船で進めど薔薇が障害となってきている。薔薇を退け、ミロワールに声を届かせ――そして、竜種の許へ向かわねば『傷を負わせねば得られるもの』もないのだとラダは静かにそう言った。
「ちまちまとやっていても魔種の権能が復活して全ては水の泡だ。悠長な暇はない。
薔薇はこちらで引き受けよう。ミロワールへと声をかける者は進め」
「ええ。心がそこにあるかどうか、などと気にしても詮無き事。
ご主人様ならばこうするでしょう――剣を握り、そして『未来を切り開く』」
穏やかにそう告げたリュティスの傍で奏でる音色を響かせてLumiliaは嫌な歌声だとミロワールを見遣った。
悲し気で、そして、どこまでも切ないそれ。
(貴女の心がそこにあるというならば――助けてと、手を伸ばして。
この音色が届きますように。私は天使様ではないけれど、そう、願ってやまないのです)
成否
成功
第1章 第17節
「まさかこんなモンにお目にかかれるなんて、ねぇ……其れもよりによってのタイミング」
ゼファーは圧巻だと顔を上げる。そして、しっかりと少し古びたひとふりの槍を握りしめた。長い銀の髪が雨を吸って重たくなる。
「嗚呼、あまりにあんまり過ぎて……逆に面白くなっちゃうわ?
ええ、ええ。文字通りのデカい面に薔薇の棘をお見舞いしてやりましょ」
薔薇、と唇にそのリズムを乗せてアーリアは目を細める。エール好きの陽気な精霊の力が込められた香水をしゅ、と振りかければ蒼い魔石が優しく煌めいた。
「混沌に生まれ育って26年……まさかこの目で竜種を見るなんてねぇ。
呑み過ぎた夜に見る悪夢かしらって思いたいけど、現実なのよねぇ」
「そうね、悪酔いの集団幻覚ならよかったのかしら。竜……あまりに大きすぎて感覚で掴み切れないわ……」
アーリアへ、小夜は気配は感じるけれど、と掌をそっと上げた。その目で見る事が叶わぬ『竜』――アーリアとて今迄で初めて見たというその巨大な存在。
「竜も素敵ではありますが、何はともあれ、まずは邪魔なものを排除してしまいましょうか」
そっと、顔を上げた鶫。時間をかけている場合はないと向き直るは迫り来る薔薇の異形。綺麗な花には棘がある――ならば、『艶やかな女4人組』とて棘を持っているものだ。
「イイ女には薔薇が付きもの、戦場に華麗に咲いてやりましょー!」
アーリアの号令に、頷くように小夜が跳ねた。薔薇の茨を受け止める。その身をくるりと翻して、すれ違う様にゼファーの一撃が降り注ぐ。
「萎れた薔薇より『私たちの方が綺麗に咲いて居る』んじゃなくて?」
「萎れた薔薇は駆除しなくてはいけませんね。
薔薇(あかご)だというならば、内臓を破損させれば効果は出る筈! 風穴を開けます!」
鶫は手にしたパワードライフルを抱え上げる。霊子(マナ)を限界まで加速する。
撃つ。
撃つ。
撃つ――!
重なるそれに合わせて、小夜とゼファーが攻撃合わせる。
「ふふ、薔薇の棘もいいけれど、甘い蜜の罠もいいでしょう?」
唇が吊り上がる。『薔薇の異形』のその中央、大きく咲いた黒き薔薇の花弁の向こう側に『肉』の様な感覚が感じられる。
「ナンセンスな生き物ね? 本当に『愛しい赤子』だったのかしら」
「さあ。……しかし、植物ではないだけ、ダメージの蓄積が見やすいというもの」
鶫のその言葉にアーリアは頷いた。支える者として、アーリアは船が波に攫われてしまわぬ様にと耐え続ける。
「死して尚、花と咲けるあなた様がぼくはほんの少しだけ、羨ましゅう御座います」
スカートを持ち上げて、未散は『幸運の成りそこない』は目を伏せる。
「誰より邪悪で、そして無垢の薔薇よ。
愛と憎しみの狭間を揺蕩い、暴虐の限りを尽くすのは、今日で、もう。お辞めなさい」
赤ん坊は泣いて暴れるのが仕事だけれどと唇が遊ぶその言葉にヴィクトールは「ああ」と小さく唸った。
「彼、或いは彼女か。――……それを目にして抱いた感情の名前をボクは今理解したのです。チル様の言葉で気づきました。
これは……きっと妬ましい、或いは羨ましいという感情でしょう」
嫉妬。それは、死しても尚、咲き誇る事の許された妄執の花。爛れて落ちた薔薇の花弁の向こう側に『命が蠢く気配』がしている。
「薔薇は咲き、いずれ枯れる。それが羨ましいのです。
頽廃を知らぬままに死したその命が、妬ましいのですね。一つまたボクがわかったような気がします」
ヴィクトールに未散は目を伏せる。赤子というのは母の腕に抱かれて眠る。ああ――けれど、この腕に抱くことは叶わない。此処に『彼の花』の母はもう、織らぬのだから。
「せめて赤子殺しと言う大罪を共に背負って、くれますか? ヴィクトールさま。其れなら、ぼくも、もう戸惑う事もありますまい!」
「背負いましょう。赦しましょう。
僕らは絶望の先にたどり着くために、犠牲を生む。
――僕らは数多の罪の向こう側へ向かうのです」
愛しい愛しい子供たち。そう口にすれば何とも、甘い響きでないか。
未散が放つ攻撃に合わせ、ビクトールが命を救うが如く庇い続ける。
薔薇より爛れ墜ちたは黒い影。その妄執の中で、それでも尚、『生きている』というように、薔薇は触腕を伸ばし続ける。
「ああ、なんと――」
未散は目を伏せた。ヴィクトールの言葉の続きを識っているかのように。
「――なんと、憎らしいのでしょう」
美しく咲いて、そして、尚も、求められる黒き薔薇。ミロワールを守るが為に、母の想いを答える様に、幼子はぎゅ、と母の愛を抱いている。
その茨の腕(かいな)は、傷ましい程にイレギュラーズに叩きつけられた。
成否
成功
第1章 第18節
「流石に出鱈目が過ぎるんじゃないかな?
混沌に生きる者として竜の伝説は知ってたつもりだけど……伝説通り……どころか伝説以上じゃない!?」
驚愕に息を飲む。幼い日に見た御伽噺よりもそれ以上に『脅威』たる竜を見つめてサクラは唸った。
冠位魔種アルバニアを倒すまでもう一息であった。確かにその手ごたえを感じていたというのに――「とんだハプニングだよ」とサクラは呻いた。
「勝手に縄張りに入ってきてごめんなさいだけど……押し通るよ」
薔薇の異形を打ち払う様に地面を踏みしめて、サクラは神速の居合を見せる。桜の花が散るように薔薇へと打ち付けられた聖刀より、反発の色が咲きほこる。
「ッーー罪は何をしたって消える事はないわ。私達に出来るのは償う事だけよ」
地面を蹴った。長い赤い髪がその動きと共に大きく跳ね上がる。殺人剣の極意を宿し、振り下ろす刃がぼとりと茨を海へと落とす。
その剣戟が親友のものであることをスティアは気づいていた。前線で癒しを謳い、スティアは目を伏せる。
「寂しがり屋のミロワール……。ビスコッティとして殺して欲しいと言っていたと聞いたけど、その結末で納得できるのかな?」
きっと、その性質が変わったのだ。イレギュラーズと関わって、何度も何度も、だからこそ疑問の花が咲き誇る。魔種と自身らが相容れなくとも、スティアは諦めたくはないと彼女の名を呼んだ。
「ねえ、最後には戦う道しかなかったとしてもせめて今だけは味方になってあげたいと思うんだ。例えそれが私の自己満足だったとしても、救ってあげたいんだ!」
手を差し伸べたい。そう願う。癒しが咲きほこるその中で、薔薇の茨が音立て海より伸びあがった。
薔薇の腕を抜ける様にシュバルツはミロワールの許へと走り寄った。その傍らには指先に破滅の指輪を飾ったメルトリリスが立っている。
「何故竜など、まるで厄災ではありませんか!」
聖書に語られる厄災が如く、竜の水泡が降り注ぐ。その中で、メルトリリスは無様な姿は見せられまいと『ロストレインの騎士見習い』として、彼の傍らに立っていた。
「初めましてだな、ミロワール。
お互い事情はあるみたいだが、俺からも一つ言わせて貰う」
夜色の刃をその手に握る。闇を振り払うように、近づく薔薇へと投擲される。
「約束ってのは果たすもんだ。
アルバニアはきっと俺らが倒してみせる。だから、思い出せよ。――希望に縋った時の事を!」
諦めが悪いとシュバルツは小さく笑った。その言葉を聞きながらメルトリリスは息を飲む。目が覚めるまで、手を伸ばす。諦める事無く、『デモニア』へと声をかける。
「ミロワール。……貴女に神の救済を。
願わくば、次生まれてくるときは――幸せな女の子になることを願って」
メルトリリスはそっと、手を組み合わせた。この海が、この世界が、彼女の罪を許さなくとも、イレギュラーズは彼女を許したかった。世界は意地悪で、世界はいとも容易く誰かを弾く。
「……もうそれ以上、罪を重ねてはなりません」
聖なるかな。祈るようにメルトリリスはそう呟いた。その傍を弾丸が通り抜ける。イレギュラーズに守られ続けた魔種。それ故に、『仲間を殺し』『仲間に許しを乞う』様子は醜悪そのものだ。
ジェイクは、己に纏わり着いた死の臭いに眉を寄せる。
「ここは敗者が来る所じゃねえんだよ。
ましては殺す手助けをしておきながら――許しを請うその姿はこの上なく見苦しく醜悪だ」
薔薇の花を払う様に弾丸が飛び続ける。至近距離まで近寄った魔種の眉間に打ち込んだ一撃を「厭」という言葉が払う。
薔薇の蔓がジェイクを海原へ叩きつけんと伸ばされた。何時もの如く魔種を殺す事が必要だ。悪疫を広げる鼠と何ら変わりない『仲間を闇へと落とす』というならば――ジェイクは容赦はせんとその銃口をミロワールへと向けた。
「わたしは、悪い子だもの」
囁く声に、零が顔を上げた。薔薇こそが悪影響だと視線を送る零にメルトリリスとシュバルツは頷く。迫り来る薔薇より『どろり』と落ちた妄執は、まるでその命の終を告げるかのように鮮やかだ。
「……ミロワール……いや、シャルロットが本来の名前だっけか。
前に会ったよな! 忘れてるかもだが久しぶりだな、俺だ」
まるで子供の様にパンの事を口にした魔種。零は優しくミロワールへと声をかかえた。響く歌声が自身の頭を混濁させる。それでも尚、零はしっかりと前を見据える。
「お前が俺らを殺そうとしたって俺はお前を殺さねぇよ。
……前言ったよな。友達にはなれるって。その気持ちに偽りはねぇし変わりもねぇ」
魔種だろうが、純種だろうが、旅人だろうが。種族の差なんて、零にとってはどうでもよかった。この世界から弾かれて、その性質で『斃さねばならぬ者』たる魔種(あくいのたね)。そんな事、分かっていた。分かっていて――零は言う。
「それにお前が俺らの味方を一時でもしたんなら、俺はその恩を返したい。
一度味方になったんなら俺は信じたいと思うのさ」
「そうですね! やっほーシャルロットちゃん! ご機嫌斜めですねえ。
見てくださいよ。拙者の母上位ありそうな大きさの竜種! すごいなー!」
にんまりと微笑んだルル家は「今から拙者達はアルバニアに加えてコイツも倒すんですよ! 大手柄間違いなし、ツイてますねぇ!」と微笑んだ。
「待ってて下さいねソルベ殿! 未来の花嫁が今凱旋しますよ!」
明るい笑みを浮かべながら、薔薇の許へと飛び込んだ。語り掛けるスティアの声を聞きながらルル家が放った銀河の煌めき。
「神様はどうか知りません。ですが、拙者はシャルロットちゃんを許しますよ。
もっと沢山の人に許されたいなら贖罪をしましょう。ね?」
「わたしは、罪の償い方を知らないわ。
セイラ、セイラ・フレーズ・バニーユ――あの人の為に、貴女を、」
殺さないといけないのかしら。震えるような声音が降った。その声にジェイクは違和感を感じる。
『殺さねばならぬ魔種ミロワール』の中には、普通の少女が潜んでいる。ああ、面倒だ。悪意を打倒さねば、その中の救出対象を救えないというのは。
成否
成功
第1章 第19節
「……大きい、ね……」
オーロラは小さく呟いた。視線はミロワールへと向けられる。彼女の許へ進む者はまだまだいるだろう。攻撃する者も居れば、声をかけ続ける者も居る――『周囲の薔薇』が邪魔立てしてくるという以外は、彼女に関しては問題はないように見受けられた。
ならば、だ。見遣るは眼前に存在する竜種。オーロラの視界ではそれこそ、『無視できない脅威』として覆い尽くすような波を立てた。
「流石ドラゴン……巨大ですね。――狂王種とは比べ物にならないくらいに」
そんなもの、まるで彼の餌の様にさえ思える。沙月は静かにため息を吐いた。どこまで攻撃が通じるかは分からない――だが、全力で相手取るならば一人よりも多数が良い。
静かにその姿勢を正とする。冬の雪に秋の月、春の花に――夏に燃える太陽が如く、その体には決意を乗せる。
「参ります」
踏み込んだ沙月の傍らで、百合子は堂々と笑みを浮かべる。嗚呼、何という僥倖か!
「見よ! しかし何たる威容であろうか!
だが、こやつを越さねば吾達に明日は無し! 無理やりにでもこじ開けてくれようぞ!」
『美少女』は強大なる存在に笑みを零すのみ。善い、このような相手と戦えるというならば『美少女』冥利に尽きるというものだ。
海をぐん、と進み往く。彼女の行動を軸として、汰磨羈が狙うは他イレギュラーズより伝令のあった『鱗の薄い部分』だ。
「災厄は全て断ち切る。それこそが、自らに課した存在意義だ。
故に――この程度で、止められると思うなよ!」
降る水泡に、そして、『ミロワールの能力』で届く攻撃の力が半減しようとも、重ねることに意味がないわけではないと。0.01でも隙間を縫い続ける。
「まったく。この海は、余りにも厄で満ち過ぎている。
特に、このヘドロの様に絡みつく想念は最悪そのものだ」
汰磨羈の足元より揺れる清廉なる霊気。結界の花弁が彼女の放つ斬撃を跳躍される。睡蓮を視線で追いかけて「良き哉」と微笑む百合子より漂うは美しき百合のオーラ。其れこそ美少女の基本技。
「……そうなる事情はあったのだろう。そうならざるを得ない理由もあったのだろう。
だが、その果てに災厄の道を選ぶのならば。私は、その全てを叩き斬るのみ!」
「無論!」
白百合清楚殺戮拳、そしてその型は灰降兎(はいぶりっと)。落ちてくる灰にすら当たらぬ様に動く兎を模して、百合子はぐんとリヴァイアサンへ向けてビームを放つ。
リヴァイアサンを狙い穿つその動きに気付いたか、ミロワールの視線が僅かにイレギュラーズを捕らえた。
「微力ながら、助太刀致します!」
地面を蹴って、リディアはメテオライトソードを一気に振り上げた。金の髪を靡かせて、ミロワールの視線の先へと追うように動いた薔薇を切り払う。
「リヴァイアサン――こんな大きな存在が、私達に戦意を……。
本当に、とんでもない世界に呼ばれてしまいましたね……! ですが、諦める訳には――いかないんです!」
その視線よりリディアを庇う様に立つはフレイ。自身は耐え忍ぶことこそが役目であると、『かみさま』を害するイレギュラーズを排除せんとするミロワールをじいと睨みつける。
「竜種、リヴァイアサン……初めて見たが、想像以上に強大な存在だ。俺ごときでは傷一つ付かんだろうな。
邪魔立てするミロワールを倒す、か。倒せるとは限らんが、それでもやれるだけやる。それだけだ」
ミロワールの能力は鏡面となりリヴァイアサンへの攻撃を『吸収』している。その力が半減すれば鱗一枚土産にもらう事も叶わぬか。
ミロワールの周囲より伸びた薔薇を受け止めたフレイの背後より、リディアは全身全力の一撃を打ち込んだ。
「私は、私が出来る事に全力を尽くす!}
降り注いだ水泡が、竜の咆哮が如く激しさを増してゆく。
――まだ動ける。まだ戦える。
――まだ僕は、踏み留まることができる。
その脚に力を込める。マルクがぎ、と睨みつける。自分の役割が見えてきた。
癒す力を、最大限に生かす。それこそが、仲間たちを『死」より遠ざける者になる。
荒ぶる海に、呑まれる人はいるだろう。この海で命を失う者はいる。
哀しみの連鎖が怨嗟を呼んで、繋がっていく不幸の羅列。それを追いかけることなど――もはや、必要はない。
進み往く沙月の一打。ふわ、とその髪を揺らして、身を反転させたその場所へ、百合子の『オーラ』が降り注ぐ。
沙月の立つその場所に、襲い来るは鋭き爪。は、と息を飲んだ彼女の体を包み込む絶対的癒し――そして、乙女は挫けぬと前を向く。
「脅威ですね」
「脅威か。ああ、実に愉快也! 『美少女』は強敵との戦でより美しさを磨くのだ」
百合子の快活な笑みを聞き、汰磨羈は緩やかに尾を揺らす。脅威だと分り切っているならば『全ての力を出し切るのみ』というシンプルな解法がそこにはある。
「ふむ。薔薇とミロワールの横やりを退け、そして届かせるか……。
届かせる際は『自身の持ち得る最大限を』。これ程にシンプルな解法があるだろうか?」
彼女の言葉に百合子は「ない!」と快活に笑った。
イレギュラーズ達の言う通り。リヴァイアサンの脚部、その左は魔種による庇護下に置かれている以外には『破滅的な破壊力』をカヴァーできるだけの回復力さえあれば、決して超えれぬ場所ではない。
総ての力を出し合い、そして、盾となる者、癒す者、『全力で攻撃をぶつける者』そのすべてが必要なのだ。
成否
成功
第1章 第20節
「でけえええええ! あれがリヴァイアサンか!
あんなのほっといたら海洋が滅んじまうぜ!
あれだけでかけりゃ攻撃当てるのは楽そうだけど、半端な攻撃じゃ弾かれちまうな……」
ぱちん、ぱちんと甲板の上を刎ねていたワモン。彼の言う通り『半端な攻撃』では通じない。特にミロワールの能力が周辺に展開されているうちは――だ。
「鱗の薄い部分を! うつべし! うつべし!」
受け継がれるはアザラシ伝説。只管に打ち続けてやるぜ、と叫んだワモンの聲を聞きロトは「精霊の皆、力を貸してくれてありがとう」と目を伏せる。
鱗の欠ける部分なら、少しでもダメージを与えられる可能性がある、とそれが分かっただけでも僥倖だという様にロトは周囲を見回した。
戦略がんを生かしながら策を練る。精霊たちは怯えたように薔薇とミロワールを指示した。
「そうか……彼女たちが互いに守り合ってるんだね。薔薇はミロワールを、ミロワールはリヴァイアサンを。この部位を壊すには――うん、暖海は分かった」
静かにそう告げたロトの声を聞きながら、フローリカは地面を蹴った。その手に握りしめるは光を持つ死神の成れの果て――ルクス・モルスの名を持つハルバード。
光の刃が降り注ぐ水泡をも弾くが如く痛烈な一撃放つが、強靭な鱗がそれを退ける。
「竜、か……流石にこんなバカでかい相手と戦ったことはないな。
だが、相手が何だろうとやることに変わりはないさ――敵を殺して、生き延びるだけだ」
傭兵のスタンスは決してフローリカを裏切らない。生きるか死ぬか。その命のやり取りこそが、自身らの目の前に存在しているのだという様に、彼女はロトの戦略がんを聞きながら聞き続ける。
ざぶり、とその体が水中に堕ちようとも構う事はない。確かに鱗に放った一撃が理不尽にも『ダメージを吸い込む何か』がある。
「あれが、ミロワールか……」
呟くフローリカの声を聞きながらヨシトは彼女に癒しを施した。下手に攻撃を行う位なら少しでも仲間たちを前線へ送り出すというのがヨシトの今回の作戦だ。
「どうだ、良い作戦は浮かんだか?」
「ああ。前線へ戻る」
頷くフローリカの背を見送ってヨシトは緊張したように戦線を眺める。戦場を支える者として、その身に重く伸し掛かるのは仲間たちの命に他ならない。
「……ハハッ! 今度は巨大すぎるドラゴンか!
本当にここは、退屈しない素晴らしい世界だね。長生きはするものだ」
楽しげな声を漏らしてシルヴェストルはリヴァイアサンとは距離を取る。あくまで狙は薔薇の異形。リヴァイアサンは『ついで』であるように、攻撃の手を緩めることはしない。
「この戦場でやりたい事がある人全員にとって、あれは邪魔なものだろう?
だとしたら、僕の役目は今までと変わらない……道を拓く手助けをするだけだ」
自身の影よい生み出された蝙蝠――従僕はその爪牙で花弁を切り裂いた。薔薇の異形が守るのは魔種ミロワール。ざあ、と降り注いだ水泡の中、ルカは唇を噛み締めた。
「ちぃっ! タダでさえ強力なリヴァイアサンだ!
やっぱ先にミロワールの鏡面世界をぶっ壊す必要があるか」
その視線はじ、とミロワールを見遣る。薔薇の異形、シルヴェストルが狙い定めたそれこそが『リーデル・コール』の忘れ形見にして『セイラ・フレーズ・バニーユ』や『リーデル・コール』の意志を反映しているのだとすれば。
「泣きわめく女をぶん殴るのは趣味じゃねえんだけどなぁ」
錯乱している少女を落ち着かせるためにも薔薇を打ち払わねばならない。ルカが殴りつけた茨がばらりとほどけて糸の様に海へと落ちる。
「よぉ、ミロワール。
お前さんどうしてバニーユを討つ時に俺らに力貸してくれたんだ?
思い出せよ。やっこさんを裏切ってでもやりてぇ事があったんだろ? そいつを思い出さなきゃ話にもなんねえ」
「わた、し――」
嗚呼、確かだ。薔薇を打ち払えばミロワールの心に触れることが出来る。
その心に映ることが出来る。
ルカの言葉にミロワールが唇を開きかけて、またも薔薇の触腕が伸びあがる。
しかし、その勢いが以前よりも薄い事は誰の目で見ても明らかだ。
(ふん、薔薇の方はそろそろタイムリミットか――なら、ミロワールの『鏡面世界』がどうにかなれば、リヴァイアサンに一太刀浴びせる事も出来る……?)
フローリカが見上げたその向こう。まるで空を仰ぐように体が蠢いたと思えば、天より降り注いだは敵を穿つ神鳴りであった。
成否
成功
第1章 第21節
「なるほど、まずはこの異形を沈めねば先にも進めないというわけだな。
ふむ……結構。あの時の借りは返すぞ、ミロワール」
呟いたコルウィンは薔薇の異形に向けて『物量』で攻め当てる。粉砕、即ち、それはありったけの一撃を打ち込むという確かな決意。
長くしつこく、薔薇さを散らすが如く対戦車用ライフルを手にしたコルウィンは萎れる薔薇を睨みつける。
「枯れた枝でどこまでこの木枯らしの猛攻に耐えられるかな……!」
のたうつ薔薇のその触腕が伸びあがる。ぐん、と至近距離まで近づくそれにぐん、と近寄るはランドウェラ。敵を弾き飛ばす衝術放ち、楽爛乱(ラクランラン)とのらりくらりと『壊れた心』で戦場を駆ける。
「殺し損ねた魔種と竜種のリヴァイアサン……とアルバニア。ちょっと情報多すぎないかい?」
首を置傾ぐ。母を亡くした『忘れ形見』。ああそれは可愛そうという他にはないだろう――早く『母の許』へ送ってやらねばならぬかと、ランドウェラはゆったりと笑み浮かべた。
「生命と言うより、むしろ災禍そのものに近いヤツなのです……」
クーアはそう呟いた。降る雨で焔さえもが蹴散らされると非常に不愉快なのは『焔に魅入られた放火猫』の気持ちとしては当たり前だろうか。
「ああ、彼の司るものが海嘯でなく煉獄であればどれだけ良かったか。
そしてそれが私が命運の終わりを彩るものであればどれだけ良かったか!
――もちろん、今私の眼前に在る敵は、そのどちらでもないのです!」
海嘯は焔を消してしまうから。赤々と燃える命を消し去る存在である事には変わりない。リヴァイアサンへと接敵すれど、攻撃による手をミロワールに吸い込まれるのは『不愉快』に他ならない。
空を舞い、降り注ぐ雷を避ける様に進むクーアの傍へと飛び込んだ薔薇の触腕にベルフラウは「嗚呼」と小さく声を漏らした。
「何と哀しき存在か。その身が伸ばす触腕は最早抱かれぬ母を求めてか。
――我々の手で同じ場所へと送ってやろう」
前線にて『金獅子』が掲げるは十字を模した短槍。困難に決して撓む事のない精神は清く、勇ましく。
「汝ら、今此処で英雄足る歴史を紡げ!」
英雄を創造するが如く、ベルフラウの聲は高らかに響き渡る。触腕伸ばされるそれを退けるが如く、ベルフラウは自身の膝が折れるまで守るべきものに触れることは許さぬと萎れる薔薇を受け止め続ける。
「私は貴様の母ではない、母ではないが貴様を憐れむ心程度は持っている」
憐れみの涙を流す代わりにその血潮を流す。流した血潮のぬくもりが、母の腕(かいな)に抱かれるそのぬくもりと感じれば。触腕の棘がぎりりとベルフラウの体へと食い込んだ。
「そして、離さぬ――貴様の誤った命終わるまで私はこれを離さぬ!!」
その痛みの中、リュグナーは薔薇の異形を真っ直ぐにとらえた。リーデル・コールの忘れ形見。その視線は揺れ動く。探すは『面倒だが、知っている顔』だ。
「十夜、貴様のことだ……恐らくこいつの元へ向かったのだろう。
底知れぬ者だ。今回も貴様一人で抱え込むつもりなのかは知らぬが……あまり抱え込み過ぎると、重くなった心と体は海に沈んでしまうやも知れぬな」
溜息を漏らす。重たい荷物は誰かと分け合うが吉なのだ。萎れる薔薇より落ちる汚泥の様な『妄執』。呪いの様に帯びたたしい色をして、それは流れる血潮のようにも思えた。
「ふむ、そうなれば"釣り上げる"のは面倒だ――故に、今……我も行くとしよう」
リュグナーの視線の先に、縁は確かにいた。薔薇の異形を受け止める様に、『前に進めぬ自分』を恥じる様に。
「……さあ、来な。お前さんの“母親”を殺したのは――俺だ」
声がする。
――ねえ、縁。『 』を抱いてみない?
――おっかねぇ。
――ふふ、大丈夫よ。『 』も喜んでいるわ。
声がする。死した彼女の、甘い声。そして、茨がのた打ち回る音と共にそれは叫声の様に変貌してゆく。
酷い人、残酷な人、我が子を。そう罵るリーデルの声が聞こえたとて、縁は自身の罪から目を逸らさぬ様にと薔薇の中心へと一撃を叩きこんだ。
「例え偽物でも……お前さんはあいつの子供で、あいつの心を支えてくれていたんだろ。だから、礼を言うぜ。……ありがとよ」
どろ、と薔薇が崩れる。だがしかし、触腕は『駄々』をこねる様に動き回り続けるか。
アレクシアは唇を噛んだ。
――まだ届かない……でも、手応えがないわけじゃない。
ミロワールは鏡。それも、イレギュラーズを映す、鏡。諦めないことを、その言葉をかけ続ける事を、忘れてはいけないのだと。思いも力も、全部が全部、彼女の『呼び声』すら退ける様に。
「絶対に諦めないよ……私はまだ、貴女と全然友達らしいこともできていないんだから!」
薔薇の異形へと重ねた攻撃。触腕がアレクシアの体を甲板へと叩きつける。
それでも尚、彼女は口端から漏れた血潮を拭う様に、「諦めない」と立ち上がった。
縁の放つ一撃と共に、ランドウェラが、コルウィンが、そして、ベルフラウが。
アレクシアはその瞳に確かに映す。ミロワールを守るようにその身を包んでいた薔薇がわだつみへと落ちるのを。
「――リーデル」
囁く声に、返す言葉はなく。
もはや、遠い――
成否
成功
第1章 第22節
機動力を生かして走る続けるパティリアは、味方の『足』となるとして、戦場を、水中を、そして船から船へと駆け巡る。
『目にも見えぬ黒いノミ』と侮られているうちに、見えぬ傷を刻んで見せるとリヴァイアサンへとチクリチクリと攻撃を重ね続ける。
「先は見えずとも、その先に得る何かがあると信じて……拙者も見たいのでござるよ、青の先を!」
だからこそ、攻撃を行う手を止めたくはない。機動力活かして戦うパティリアがは、と気づいたように手を伸ばせば水中より利一が顔を出す。
「くっ、海に呑まれかけたが……何とか命拾いしたようだ。
さすがは滅海龍、一筋縄ではいかないな。だがまだまだ、俺の心は折れちゃあいない」
死ぬ気など更々ない。だが、戦わぬ訳もないと利一は状況把握に努めるべくパティリアの手を借りてリヴァイアサンの傍へと寄った。自身の感覚を生かす、そして卓越した観察眼を伴って、リヴァイアサンを見遣る。
左足部位には鱗が薄い部分もあるが、それ以外にも傷を負わせることは出来るだろう。ずん、と音を立てるが龍の側面は固い鱗に守られながらも『内側に至る』とその鱗その物が存在しない部分がある。攻撃を与えれど――『鏡面世界』がその攻撃を吸い取るか。
「ミロワールの権能を消さなくてはならない、か……彼女を説得すれば……?」
悩ましげにつぶやいた利一。その傍らではびりり、と赤く輝く雷が煌めいた。
マリアが地面を蹴る。自身の『鏡像』に負けるなんて――そんな『物語』誰が許すというか。
機動力を生かす。自身を破壊する様に、一歩一歩、足運びと速度を返れば『鏡像』は混乱したようにマリアにはついてこない。
(まさに、デッドコピーだね! 押し通らせてもらう!)
マリアの雷が赤く燃える様に光を帯びる。紅のそれが鏡像を『割った』その向こう、ミロワールの姿が見える。
「悪いね! 速さには少しばかり自信があるんだ! 君を滅ぼし龍を狩る!」
「わたしは魔種――あなたを、殺すわ!」
ミロワールのその声に、セレマは「やれやれ」とため息を吐く。何度死ぬような目に合ったか。何度も魔力を吐いたか。毒と狂気に呑まれかけた事なんざ数えちゃいない。そももそも『美しい自分を汚泥』に押しやる事こそが苛立ちの一番なのだから。
ミロワールへと近づき、そして、その手を握る。
「魔種、か。ボクを映せ、『ミロワール』。
ボクの『自己愛』を、歪んで尚折れない『承認欲求』を。
『自分の為ならなんだってやってのける』この傲慢さすら、美しいのだと己惚れるボクを映して見せろ。
――そして自分で選べ。選択をしない奴に都合のいい未来があるはずないんだ」
セレマの体を押しのける様に歌声の波紋が作られる。其の儘の勢いで体が宙を飛ぶ。
「ミロワール!」
冴えぶようなその声に、ミロワールは「わたし」と小さく呟いた。
「わたしは、」
「うん、ミロワール。ボクたちを助けてくれて有難う。
つらい選択をさせてしまって、ごめんね。今度はボクたちが、君を助ける」
アメリアは笑みを浮かべる。鏡の少女、セレマを映した瞬間に破壊的な自己愛で『シャルロット』を映した彼女。
「ねえ、ミ……ううん、シャルロット!
シャルロットは一人なんかじゃないんだよ。ほら見て。こんなに君の周りに、君を想う仲間達が居る。
他の誰でもない、君を想っているんだよ……こっちを見て、シャルロット」
アメリアは優しく、そう口にした。今だ、彼女に絡んだままの茨はその命を失いつつあるのだろう。昏いその色は想いが呪いと化したが故か。
「君の本当の名前は、シャルロット、でしょう……?」
「わた、しの、」
囁くようなその声を聞く。ミロワールの声を聞きながら、アメリアは目を伏せた。
ハンスは勝機を探すが為に、ミロワールを見遣る。彼女は『鏡』。だらこそ、イレギュラーズは優しい言葉をかけ、微笑み続けて――そしてその命を救わんとしているのだ。
ミロワールを撃破し鏡面世界を取り払うことが出来たならばリヴァイアサンに有効なる一撃を加えることが出来る筈だと、そっと、観察を続け続ける。
「状況の把握も困難だが。ミロワールに対して、近づく者はあれど攻撃する者は、現状では少ない様だ。
それが吉と出るか凶と出るか……最悪は想定するべきだが」
それは、ミロワールを説得できなかったときの最悪を想定している。もはや『真ん中の薔薇』吐かれてしまった。しかし、端、ミロワールに絡んだ薔薇は怨嗟の残り香の様に未だ、緩やかに動いている。
「何かが救われるなら、それもいい。
誰かが救われるなら、それがいい。一つや二つ希望がなければ、やってられん」
異形の残骸を取り除くように。それは偉業として切り捨てられた憐れなバラ。
子の代替品にすらなれなかった想いの残滓。切り捨てられたそれを愛無はそっと手に取り、どろりと溶けていく様を見送った。
「結局のところ、誰かの幸せは誰かの不幸でしかない。
そして、どう足掻けど、君は幸せにはなれるまい。せめて、母の腕に抱かれるようになればいいが……気の利いた言葉も出ずにすまないが。さよならだ」
目を伏せた。美しい薔薇はもう枯れた。
母の腕に抱かれていた安寧など、当に失われた。
呪いに脅かされるように静かに失せた薔薇を見送って愛無は『かみさま』の前で呻いたミロワールを見つめた。
成否
成功
第1章 第23節
「竜。あまりに大きく、超えられるかどうかもわからぬ恐怖そのもののよう。
ですがそれで止まるは最も愚か。恐怖をこらえ動かねば、笑顔はきっと得られないでしょう」
厳かに雨紅はそう言った。先にミロワールを排除しなくては竜の相手は出来ないだろうと、他アタッカーの盾となる心積りでぐんと進む。
速度を生かしてミロワールの許へと躍り出る。先ほど間に邪魔立てした薔薇の茨は存在しない。ダイレクトに彼女に攻撃を届けることが出来る――だが、相手はデモニアだ。あまりにも脅威である事には変わらないだろう。
頼々はミロワールを相手取る。自身が試すは『鏡の魔種』であるミロワールの性質だ。
「鏡……であるか。ならば写し取ってみよ、この源頼々に流れる鬼殺しの血、我が鬼への怒りをなぁ! あの竜を見よ! 多分頭に角とかあるぞ!
そして角がある奴は鬼だから一緒にはっ倒しに行かない? 無理? そっかー。
――まあ、貴様が首を縦に振るまでいつまでも付き纏うからね我」
にんまりと笑みを浮かべる。詰まる所、鏡像をリヴァイアサンの敵とすることは無理なのだろうが、奔放なその口調には鏡像も『振り回される可能性』はあるようだ。
「私は未来ある者らを愛し見守りたい老いぼれだからね。彼らの邪魔をしないでもらいたい」
肩を竦めたリョウブは海中を動き、癒しに徹する。攻撃行動を行う雨紅へと癒しを送り、ミロワールと相対する者を決して欠けやさせぬと強く意思を固める。
先ほどからミロワールの様子がおかしいと、そう感じた尾はリョウブだけではないだろう。
(幾らでも老体に鞭打つよ、若者だけ頑張らせるわけにはいかないからね――だが、彼女は鏡として『イレギュラーズ』を映したのかね。
若者たちのその言葉を耳にして、何か思うことがあったのだろうか……)
そうやって眼前を見遣ったリョウブの前へと、踊るようにミルヴィが飛び出した。
「シャルロット……ううんミロワール……!
思えば今の貴方に名前なんて意味はないのかもね……だからこそ、アタシは貴方を止める……!」
茨がいないならば、彼女だけ。ミルヴィはセイラの呪縛を弱められればと、魅了する様に踊る。褐色の肌を晒し、美しく舞い踊る剣戟の乙女はミロワールをじいと見つめた。
「……名前のない貴方に必要なのは許しでも断罪でもない!
生きたいように生きていいって背中を押すことなんだ!
だからアタシが押す! 好きに生きて……鳥かごなんて……壊しちゃえ!」
生きたい、と。
そう言った人がいた。涙に濡れて助けを乞うた人がいた。
ミルヴィも、そしてウィリアムとて『ミロワール』という少女の未来を見てみたかった。
「自分の事もなんとかしてはくれないのか、とあの時言ったな。
『望むのなら、お前だって助けたい』――星は願いを叶えるものだから」
天蓋の星をなぞるようにウィリアムは仲間たちを癒す。ミロワールと、その名を口にしてウィリアムは小さく笑った。
「……まだ、そう呼ぼう。鏡の魔種ミロワール。
俺は――俺達は廃滅病を、アルバニアを討つ。ああ、皆諦めてなんかいない、
それはきっと、お前を助ける為でもあるんだ
それを思っている奴が他にも居る事は、きっともう知ってるだろう?」
こうして、イレギュラーズ達が皆、ミロワールに声をかけた。
助けて欲しいと手を伸ばせばすぐにでも彼女は手を伸ばすはずだ。
絶望的なその存在を背にミロワールは薔薇に抱かれた幼子の様にウィリアムの前で影を揺らめかす。
「……それにさ、『なんとかしてくれないの』なんて言われてそのままじゃ、男らしくないだろ?」
影は、笑った。
「バカみたい」なんて、友人に語り掛ける様に。
ミルヴィは僅かに目を見開く。ミロワール、呪いの中から彼女が『視えた』気がしたのだから。
成否
成功
第1章 第24節
「さぁ、お姫様を助けに行こうか」
レイリーは静かに、ミーナへとそう言った。レイリーにとって。救いとは『殺す事』なのかもしれない。だが、ミーナが望むのならば――そして、ミロワールがミロワールで亡くなったのならば、だ。
「無理をするな?そいつは無茶な相談だわな。……私は何時だって、口説く時は本気だぜ?」
唇を釣り上げる。深紅のドレスを揺らして、ミーナはミロワールの許へと飛び込んだ。
「なぁ……『シャルロット』。お前は本当は……帰りたいんだろう? この海から。
だから、手を貸してくれ! そして一緒に帰ろう! こんな、クソったれな海から、一緒に!」
ミーナが飛び込んだそれを受けろ梅るように、レイリーは庇う。ミロワールの歌声の波動が、苛むようにミーナの体を地へと叩きつけんとしたそれをレイリーはしかと受け止めたのだ。
「私の名はレイリーシュタイン! ミーナの邪魔する者はこの私が許さぬ!
お嬢さん、よければ、もう一度だけミーナの話を聞いて欲しい」
「……」
影は揺らめく。レイリーは小さく笑った。「ミーナ、無理しないでよ」と。
「なっ……」
「貴女を庇う私が先に死ぬんだから」
「……そう、だな。ミロワール。手を取ってくれ。
この間離されたこの手、今度は絶対に、離さねぇから!」
殺されたって、この命は砕けぬという自信があった。運命に抗おうと声を発したミーナの前に、落ちる神鳴りはリヴァイアサンの怒りであろうか。
「戦いで行く末を決める以上は、どうした所で刃を交える必要はある。
ミロワールと『今』呼ばれし者よ、お前はそれで良いのか?」
「……」
揺らぐ。そこに惑いがある事をベネディクトは感じ取る。
「お前と刃ではなく言葉を交わそうとする者も多くいる。
例え傷つけあう事になろうとも、それでもなお手を伸ばそうとする者達をお前は知っている筈だ」
「わたしは――」
ベネディクトは魔った。その槍の穂先を向けた儘、只、呪いに塗れた少女の言葉を。
「――……セイラ」
呟かれた言葉に、またもその呪いが深くなる。
「特異運命座標──ベネディクト=レベンディス=マナガルム、いざ、尋常に」
ミロワールの許へと飛び込んだ。呪いに塗れたままでは彼女は『彼女』には戻らない。言葉に攻撃を重ね、そして、ミロワールという少女の心を開くように。
「ミロワールもセイラの友達だね。最後に戦ったって変わらない。
……ボクはあなたの友達。約束覚えてるよ。握ってくれた手も嬉しかった。
今度はボクからだ――シャルロット、一緒に帰ろう」
「セイラ」
零れる言葉は、幼い子供の様に。迷子の様に。
ハルアは宙を駆けるように走った。響く言葉を重ね続ける。
ミロワールは、シャルロットは、セイラ・フレーズ・バニーユを救いたかった。
その救いが、イレギュラーズに協力した事だとしたら、間違いだと誰が言えるだろうか。苦しみ続け、藻掻き続けた彼女に『穏やかな最期』を与えたかった。
それが、イレギュラーズの心を映したミロワールの判断だったのならば。
「ボクを見て。
――ボクたちを映して!」
ミロワールにハルアは声をかけ続ける。
「シャルロット。お前は神様とやらを信じるのか?
神様が本当にお前を助けてくれたのか?
──神は助けてくれねぇぞ。結局、未来は自分で掴み取るモンだ」
レイチェルは静かに、そう告げた。神様なんていない。神様がいて幸せにしてくれるなら『誰も不幸にはならなかった筈なのだから』!
「――鏡でもな、映したい物は自分で決められるだろ」
ミロワールの影の中に『黒い瞳』が見えた気がした。
(響いてる……!?)
ハルアが顔を上げる。レイチェルはミロワールへと手を伸ばす。
「……ビスコッティのまま終わらせねぇ。戻って来い、シャルロット」
魂を分けた片割れと離れたままの苦しみは、痛い程に分かる。
だからこそ、レイチェルは――否、ヨハンナは声をかけた。
ビスコッティに会いに行こう、シャルロット。
『黒い瞳』は泣いている。自身でも抑えられぬという様に、その体から不吉の歌声を響かせながら――
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。
●作戦目標
・滅海竜リヴァイアサン脚部(左)への可能な限りのダメージ
・魔種及び『魔種に類する存在』の撃破
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)
皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●フィールド
『絶望の青』の海の上。水中での行動には『水中行動』、空中では『飛行』等をご使用ください。
足場に関してはリヴァイアサンに対しての超レ距離までは大型船で参りますが、それ以上は小型船の貸与(もしくは皆さんのアイテムの船等アイテムを使用)を行います。
リヴァイアサンの前に、ミロワール&薔薇の異形が存在。リヴァイアサンは固定ユニットですが、ミロワール&薔薇の異形は移動します。
●滅海竜リヴァイアサン脚部(左)
大いなる存在。竜種。大気を震わせ、海原を割る。絶望の主。
それ故に無尽蔵な体力、理不尽な耐性。攻撃の効果があるかもわからぬ存在です。
その脚部(左)となります。非常に巨大な敵であるためにイレギュラーズは部位ごとの作戦を行うこととなります。その一部です。
データ
・正しく命をも刈り取る非常に強力な攻撃を行う為、無用な接近は得策ではないでしょう。
・脚部(左)において鱗等が薄い部位がありますが『飛行』状態または『レンジ超遠(飛行なし)』出なくては攻撃する事が出来ません。
主だったステータス
・波動泡:5ターンに一度フィールド上に降り注ぐ水泡。猛毒/不吉/ダメージ(中)
・大海脚:複数対象に呪いを付与する蹴撃です。強烈なダメージ(大)。
・降轟雷:フィールド広範囲に対してダメージ(中)程度攻撃/感電付与/飛行対象に大ダメージ
・襲爪 :近接単体対象に大ダメージ
・水竜覇道:????
●魔種『水没少女<シレーナ>ミロワール』
『鏡の魔種ミロワール』『シャルロット・ディ・ダーマ』
黒い髪、黒い瞳、影を纏わり付かせ本来の姿を持たず相手を映す『鏡』の性質を持った魔種です。
その性質からセイラ・フレーズ・バニーユを映し、彼女の理解者でありましたが、アクエリア島にてイレギュラーズを映しこんだことで変化を遂げ、セイラを討つ手伝いを行いました。
現在は『セイラ・フレーズ・バニーユの怨念』による棺牢(コフィンゲージ)にて変異し、狂気を孕んでいます。
しかし、彼女は『鏡』であるが故に、イレギュラーズを映すことで変化を遂げる可能性は――
個人的なデータ
・双子の姉妹に『ビスコッティ』がいます。彼女を深く愛していますが、愛憎に駆られ身勝手にもその命を奪いました
・セイラとは互いに良き理解者であり、傍に居たいと願いました。しかし『性質変化』にて彼女を討つ手伝いをしたのもまたミロワールです。
登場シナリオ
・『<Despair Blue>うつしよのかがみ』
・『<バーティング・サインポスト>ミロワールの迷宮に揺れる』
・『<鎖海に刻むヒストリア>終末泡沫エーヴィア』
※参考程度にです。ご覧にならなくとも参加に支障はございません。
主だったステータス
・性質変化:鏡の魔種。相手の姿を映す。その相手の行動や言葉に大きく感化されます。
・原罪の呼び声<嫉妬><不定形>:その呼び声は悍ましくも悲しい。
・鏡像世界:パッシブ。ミロワールが存在する限り鏡像(*後述)が生み出されます。
・鏡面世界:パッシブ。ミロワールが存在する限りリヴァイアサンへ与えたダメージが半減します
その他、神秘遠距離攻撃を中心に使用/歌声によるBS付与も豊富に行います。
・鏡像:フィールドに存在する存在の【鏡像】を作り出す。そのステータスは存在(PC)と同等となるが、その動きは劣化コピーとなる
●魔種に類する存在『薔薇の異形<わすれがたみ>』
『美しき不幸』『呪いの子』。魔種リーデル・コールがその腕に抱いていた『赤子』であった異形。
萎れた薔薇はミロワールを守るようにその茨や蔦を触腕として伸ばし続けます。
『セイレーン』セイラ・フレーズ・バニーユの怨念に蝕まれ、毒が如き霧を発し続けています。
主だったステータス
・薔薇の鎧:薔薇の異形が存在する限りミロワールに棘を付与します
・薔薇の結界:薔薇の異形が存在する限りフィールド内のイレギュラーズはショック状態となります。
○味方NPC
・月原・亮(p3n000006)
・ウォロク・ウォンバット(p3n000125)&マイケル
・コンテュール家の派遣した船団*5
指示があれば従います。基本は退去用船の確保を行っています。
また派遣船団は海域離脱要員です。
それでは、ご武運を。
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