PandoraPartyProject

ギルドスレッド

潮騒の従者斡旋所

酒に対ては当に歌うべし

標本のように、棚に並ぶ瓶を見ていた。

似た色で固まる瓶もあれば、漬けられた果実の色を思わせる瓶もあり。

中でも店主が手に取ったそれは、光の色を蜜へと変えて、琥珀を思わせる美しさだったのを覚えている。

中に、なにかを閉じ込めているのが本当に琥珀のようだと。

飲む前に言う冗談ではないと、あの時の私は笑ったと思う。


……お酒の瓶を机に追いた従者は、唐突にそんな昔のことを思い出したのでした。

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グラスを二つ。大と小ならぬ、小と極小とも言えるような。
おつまみを少々。これもまた少々とも極小とも言えるような。
(小さくテキパキと、机の上にセッティングを進めながら)

そして椅子の上に椅子を。ううむ、固定させるためにベルトが欲しいですね。
(わくわく、うきうき。そういう感情を、お姫様は学びつつあります)
(心の臓が高鳴る代わりに、並べられるグラス達を眺めて、きりきりと歯車の音を鳴らして)

これが、お酒を飲むための場というものなのね。
なんだかとっても、大人という感じがするわ。
(……という発言をするのが、内面が未成熟な証左やもしれませんが)
ねえ、レモラ。わたしにも、手伝えることはあるかしら。
おや、姫様。お待たせしてしまい申し訳ありません。
まあ普段はここまでするところではないのですけれど、今日は特別ですもの。
(姫様の椅子を通常の椅子に固定させる作業から、ようやく顔を上げて)

ではそうですね……銀食器を並べていただいてもよろしいですか?
重いようであれば決してご無理はなさいませぬよう。
いいえ、謝ることではないわ。むしろ、わたしがお礼を言わないと。
こんなに懸命に、準備に励んでいてくれるのだもの。
(食器ね、わかったわ……と、言われるまま、一つひとつ慎重に食器を運んでゆきます)

酒場へはよく遊びに行っていたけれど、こうして自分が飲む立場になるのは初めて。
なんだか、緊張? してしまうわね。
(きりりり、きりりり)
ほう、酒場に行かれたことがおありで。
ならば雰囲気というのはご存知でいらっしゃるのでしょうね。
(作業を止めて、運ぶ姿を見つめながら)

賑やかな空気で飲むに相応しいお酒もあれば、静かな雰囲気で嗜む目的で作られたお酒もあり。
緊張されるお気持ちはわかります。
私も、最初お店に入った時は目を奪われて……落ち着かなかったものです。
ええ。わたしは基本的に、お料理を食べたりしている程度だけれど。
今度からは、お酒をいただけるようになるかもしれないわね。
(ある意味、お姫様にとってはこれが成人の儀のようなものと言えましょう。)

お酒が並べられているのは、いつも見ているけれど、どれも綺麗だものね。
今日は……静かな雰囲気でたしなむお酒、になるのかしら。
ねえ、レモラ、それで今日用意してきたのは、一体どんなお酒になるのかしら?
お料理もお召し上がりになっているのですね。ますます結構にございます。
食べるものに合うお酒を探すのも、また楽しみ方の一つですから。
(主の問いに、机上から瓶を一本抱えて微笑めば)

最初は甘いお酒が良いかと思いまして。
果実のお酒が良いかと思ったのですけれど……市中で面白いものを見つけたものですから。
(瓶を蝋燭の灯に近づけると、暗い中身は鮮紅色に染まりゆくようにも見えて)

深く、甘い、紅茶のお酒でございますわ。
おつまみ、と言うのよね。それならわたし、知っているわ。
甘いお酒には、一体どんなものが合うのかしら……。
(やがて、眼前に置かれたお酒を目にすると)

紅茶の、お酒?
まあ……紅茶とお酒は別物と思っていたけれど。そういうものもあるのね。
それじゃあ、コーヒーや、ココアのお酒もあったりするのかしら。
(じい、と。瓶の中に輝きを湛える雫は、初めてのお酒であるからか、どこか神秘的にすら見えました)
甘いお酒には……そうですね。蜂蜜をかけるイメージでチーズなど。
脂に甘みのある生ハムも合うでしょうか。
(紅茶ですからドライフルーツでフルーツティーにもできますね、と笑って)

ええ、紅茶のお酒です。
不思議なもので、紅茶は紅茶、お酒はお酒で楽しめばいいところを、一緒に楽しみたいという考えの持ち主がこの世界には多く存在しておりまして。
紅茶の香りで酔いたいという、そういった贅沢な思考とも言えます。
ココアはまだ聞いたことはありませんが、珈琲は確か。贅沢な思考は止むことを知りませんからねえ。

さて、ではそろそろ姫様にお席についていただきましょうか。
待たせてばかりでは、喉も心も乾いてしまわれるでしょう。
甘いものには、甘じょっぱいものということかしら。
今度酒場へ行くときにも役立ちそう。勉強になるわ、レモラ。
(チーズぐらいしか実際に食べたことはないのですが、あれこれと想像は膨らんで)

やっぱり、おいしいものとおいしいものは組み合わせたくなるのかしら。
チーズに生ハム。生ハムにフルーツ。そういったものも組み合わせてしまえるかもしれないわね。
(童子がカラフルな粘土をこねくり回すように、与えられた材料を次々と頭の中でくっつけてゆくお姫様です)

ええ、ええ。はじめてのお酒。はじめての一口。
もう楽しみで、待ちきれないわ。
(きりりり、きりりりり)
食べ合わせの基本さえ抑えれば他にも応用がききますからね。
ご参考になれば何よりです。
(主人の様子を面白そうに眺めながら、自分も席に座れば栓抜きを手にとり)

(抱いた瓶をしっかりと握り、力を入れて栓抜きを捻れば軽快な音を立てて)
……さて、と。では失礼して、注がせていただきますね。
グラスに色が満ちていくところを見るのも、また楽しみ方の一つと言えましょうか。
……どうぞ、まずは匂いを確かめて頂けますと。
(栓抜きから立てられた音に、身をすくませる代わりにギリッ、と一度だけ金属の擦れるような音)
(けれども瞳は、グラスの内に注がれてゆく液体を映して、輝くばかり)
すごいわ、レモラ。宝石の溶け込んだ水を注いでいるみたい。

………………
(きらきらと輝くように見えてしまう液体に、顔を近づけて、わずかばかり香りを確認)
……鼻の奥が、つうん、とするわね?
ええ。その良質な素材やかけられた手間を思えば、宝石の溶けた水というのはまさにその通りの表現で。
料理人と同じように、お酒にもまた造り手がいらっしゃいますからね。
我々はその試行錯誤の、努力の結晶を頂くわけです。

(自分のグラスにも注ぐと、静かに瓶を置いて)
ふふ。紅茶の匂いを期待したところ、つうん、とするのはアルコール特有の匂いですね。
こう、グラスを少々揺すって液体を回してみるとですね……お酒が空気に触れて、また匂いが変わるのだとか。
何故そうなるのかは詳しくありませんが、不思議なものでして。
(グラスの脚を握った手を多少左右に揺らして見せて)
王族というのは、民草の作り上げた結晶によって生かされているのだものね。
こんなに綺麗なお酒を作っただれかに、わたし、感謝しなければいけないわ。
(きりきり。自覚してかせずか、絵本のお姫様のような理想に満ちた思考は、幻想の「王族」からはかけ離れているようです)

回す……こう、かしら。
(自分に合ったサイズのグラスを、ゆっくり、ゆっくり揺らして)
(波立ち、渦巻き、グラスで煌めくお酒の泉)
……本当ね。すこし、芳醇な香りが漂ってきた気がするわ。
ねえ、レモラ。そろそろ、飲んでみても大丈夫かしら。
(やはり初めての体験を前にすると、お預けをされた子供のように、待ちきれなくなるのもまた性でございました)
はい、これ以上焦らすのは酷というものですもの。
……ああ! されどいきなり喉を鳴らして飲むのはお勧めしません。
最初は舐めるように、が宜しいかと。

では、姫様?
(はたと喋るのを止めれば、一拍待ってから)

乾杯。
(自らのグラスを、主の方へと近づけました)
ええ、ええ。
……わたし、これを言うのは、生まれてはじめてになるかしら。

——乾杯。
(小さなグラスを掲げて。かちんと、甲高い音をひと鳴らし)
(それから、そうっと小さな唇をグラスにつけて)
(言われるまま、舐める程度のひと口を)

………………。

(つう、ん)
……嗅いだ時よりも。
ずっと、つうんと、するわね?
(顔をしかめるのは、まだ難しいようでしたが。めいっぱい目を閉じて、「つうん」を堪えるお姫様でした)
ツウンといたしますか。
お酒はまず苦味……そういったものが喉に残るものもありますね。

どれ、私も一口。
(口に含むと、目を瞑り。それから唇を小さくなめて)
ふぅむ……少々濃度が高いですかね。
何か別のもので割ってみるのもいいかもしれません。
姫さまはミルクティーなどはお好きですか?
割る。それなら知っているわ。カクテルというものね。
(ぱん、と両手を合わせて。舌先に残る、どうやって感じているかもわからない苦味も何のその)
ええ、ええ。ミルクティーの柔らかい口当たり。
日差しの射す王宮のティータイムを思わせて、わたし、大好きよ。
(むろん、王宮でなんて実際に過ごしたことはございませんが。)

紅茶のお酒なら、きっとミルクがよく合うのね。
お願いしてもいいかしら。
おや、さすが酒場に足を運んでいらっしゃる。
では早速、カクテルにいたしましょう。
(椅子を飛び降りれば、またすぐにミルクの入った瓶を抱えて戻ってきて)

ええ、ミルクティーは口当たり柔らかく、それでいて口の中に広がる茶葉の香りが優雅な午後を演出するもので。
またカップだと分かりづらいですが、ガラスの器を透かして見える、この濃い赤に白が雲のように行き渡る様子も私が好きな画にございます。
(言いながら、高い位置からグラスへとミルクを注ぎ入れて)

あとは此方をマドラーで少しかき混ぜれば……よし。
これで大人のミルクティーの完成ですわ。
飲みやすくなっていると思うのですけれども……
……本当、お酒というのは不思議ね。
見た目だけなら、本当にミルクティーみたいなのに。
(香りを楽しむのが紅茶なれば、やはり「つうん」が漂ってくるのは歴然たる違いでした)
(従者が高くよりミルクを注ぐのもどこか様になっていて、ついつい視線があちらこちらへ。)

それじゃあ、もう一度。いただいてみるわ。
(「つうん」に警戒しながら、ゆっくり口をつけて。舐める程度の一口を)

……まあ。本当だわ。
まろやかで、飲みやすくて。ほんのり甘くって。
(ちびちび)
後から「つうん」がやってくるのが、気持ちのいい刺激になるみたいで。
(くぴくぴくぴ)
…………さっきのが嘘みたいに、あっさり飲めてしまうわ。
(気づけば綺麗に、小さな一杯を飲み干してしまっておりました。)
(口をつける様子を、小鳥のようだと微笑ましく見つめながら)

よかった、お気に召していただけたのなら何よりですわ。
ええ、甘いお酒ですのでミルクティーと違ってシロップはなくともちょうど良いかと。
牛乳で割ると大抵口当たりがマイルドになって飲みやすくなりますね。
そうやって、好きなお酒をいただきながら美味しいおつまみを口に入れるのが……

(ヒレ耳を動かしながら解説を進め、ナッツ類を乗せた小皿を差し出そうとしたまま、ぱちぱちと瞬きをして)

姫さま。姫さま?
あの、飲みやすくなっているとは思うのですけれども、お加減は大丈夫ですか?
大丈夫よ。飲んでいると、なんだか体がぽかぽかして、気持ちがいいの。
胸の奥の方で、歯車が陽気に歌い出すのよ。
レモラも、いっしょに飲みましょう?
(実際、きりきりといつもより高い音が鳴ってはおりますが)
(何より、目に見えて表情が平素より弛んでいるのがわかることでしょう。)

おつまみ、だったわね。ええ、ええ。そちらもいただくわ。
(大きさが大きさなので、両手でナッツを手に取り齧る様は小動物のようにも映るでしょうか。)
……うふふ。なるほど。しょっぱいものが、甘いお酒にはよく合うのね。
なんだかもう少し、飲みたくなってきてしまったもの。
(返ってきた回答を、過去の記憶に逡巡させて)
お酒は飲むと陽気になりますものね。
そういった効能を早速実感されているようで。
ええ、ええ私も頂きましょう。
(再び席に飛び乗れば、静かに計算を始めて)

そうですね。塩気のあるものがあれば喉は乾きますし、喉が乾けば口は水分を求めるもので。
おつまみも同じ味ばかりだと飽きますから、それを洗い流して飽きさせない為でもあります。
チーズなども、良いですね。
(自身のグラスを傾けつつ、皿を押して勧めながら)

おや、気が利かず大変失礼を。
おかわりをご所望ならば早速お作りしましょう。
その間、良ければそこな水さしからお水でも飲んでいてくださいな。
ありがとう、レモラ。
……お酒を飲んだら、レモラも陽気になるのかしら。
ふだん見るレモラは、いつも知的で落ち着いているから。
そうなのだとしたら、わたし、すこし興味があるわ。
(お皿からチーズの小さな欠片を一つまみ。されど煌めく瞳は、まっすぐ従者のお顔に注がれております。)
……あら、おいしい。本当ね。口の中のお酒の味に、とてもよく合うわ。

それに、酔いが回ったときは冷たいお水。本で読んだことがあるわ。
(言われるまま、少量の水で口の中の酒気を流してゆきます)
ええ。これなら、きっとまだまだ飲めてしまいそうね。
ええ、それは、それはもう。
陽気になりすぎて瓶が空っぽになってしまうぐらいで。
知的とは、嬉しいお言葉ですね。そのようにあろうと生きておりますから。
(マドラーを指揮棒のよう遊ばせてから、グラスに渦を作って)
はい、お待たせでしたね。

そうです。お酒だけだとすぐ酔いが回ってしまいますから。
お水とともに、楽しい時間をより長く感じることもできます。
(そう言いつつ、従者は静かに静かに、少しずつグラスを傾けます)
わたしが知らないことば、知識、考え方。たくさん教わっているもの。
お姫様の身ではあるけれど、従者の在り方からも学ぶべきことは、たくさんあるわ。
ありがとう、レモラ。いただくわ。
(早速次の一杯も、くぴり、くぴり。するすると飲んでしまえるようです)

物語に現れるひとびとはどうして、あんなにもぶどう酒や蜂蜜酒を好むのかと思ってたけど。
簡単な話だったのね。お酒を飲むと、気持ちがよくなって、お話が弾むのだわ。
それに、ええ、目の前にいるひとが、もっと魅力的に見えてしまうのね。
(顔が明らむことこそありませんが、目尻は下げられ、宝石をはめ込まれた瞳が微かに覗いておりました。)
だって、レモラもなんだか何人にも増えて、いつもより強そうだわ。
たくさんいるのは、強いということだものね。すごいわ、レモラ。
(グラスを傾けたまま、目の前のグラスが空になって行く様子を見送って)
(テーブルに飲みかけのグラスをおけば、残した中身が光を波でかき混ぜるように揺れています)

うーん? ううーん。
姫さま、大分お気に召していただけたようで何よりでございますわ。
そうですね、お酒は愉快になりますから、物語の登場人物もそれぞれ好まれていたことでしょう。
一方でお酒にまつわる物語には、失敗談と呼ばれるようなものも……姫さま? 大丈夫ですか姫さま?
(眠そうとも上機嫌ともとれる表情と、その発言から察するに今の主人の状況は単純明快で)

魅力的だなんて、とても情熱的なアプローチで焦げてしまいそうですけれど。
今ここにいる私は一人ですし、多ければ多いほど希少性が減るという問題も……姫さま?
ああ、それもそうだわ。だって、そっちのレモラは、なんだかぐにょーんと、縦に伸びていて。
まるで、抱っこされたときの猫のようだものね。猫よ。ねこねこ。
やっぱりスマートにまとまっているいつものレモラの方がいいわよね。
レモラよ。れもれも。
(元より手探りで喋るような部分はございましたが、語調はいつも以上にぽやぽや、ふわふわ)

けれど失敗談だなんて、こわいわ。飲んでも呑まれるなという言葉を聞いたことがあるの。
お酒で失敗すると、お酒が牙をむいて、わたしを呑み込んでしまうのでしょう。
うふふ。けどお酒のおなかの中って、もしかしたらとっても心地いいのかも。
(聡明な眼であれば……というか、恐らくそうでなくても、簡単に理解できることでしょう)
(このお姫様、どうやらお世辞にも、お酒は強くないのだと――。)
ね、猫。私をあのような獣と同列に扱うとは……いえ、怒っても仕方なさそうですね。
れもれもとはなんですかれもれもとは。
(咄嗟に浮かした腰も諦めたように落ち着けると、ゆっくりと背もたれによりかかって)

……お酒に呑まれるとはそういう意味ではなくてですね。
いえ、姫さまにしてみたらそのような心地よいお気持ちかもしれませんけれど。
それではなりません。ええ、なりませんとも。
(理想の主となって頂くには酒に呑まれるなどあってはなりません、と口の中で呟きながら)

姫さま、お水です。
お水を飲んで、そしてお酒の量を控えめにすれば酒に呑まれることはございません。
お水? ええそうね、なんだか、冷たいものが恋しい気分だものね。
それでお酒に呑まれないで済むなら、お安い御用だわ。
(言われるがままに、また冷たい水を飲んでゆくと)
(酔いの回っていたからだもこころも、ほんのり落ち着いてゆく心地がします。)

……ふう。お酒って、本当にいい気分になってしまうのね。
けれど、レモラ。もしかしてレモラは、猫が好きではないのかしら。
幻想でも、愛らしいと飼っているひとを多く見たものだけれど。
(酔っていても、先の反応は印象に残ったようで。こてん、と小さな首が傾きました。)
(目の前で少なくなっていくグラスの水を確認しながら)
猫は、得意ではないですね。なにを考えているかわからぬものですから。
あれを愛らしいと思って飼っているのは、爆弾を抱え込むようなものです。
にゃあと鳴かれると背筋もヒレも伸びる思いなのですけれど。

人の衣服に抜け毛をつけるわ、買ってきた魚は横取りしようとするわ、嫌がらせのように狩ってきた骸を目の前に置いていくわ……全く。
(淀まず流れ続ける愚痴。それは、まるで体験談のように)
(ぱちくり。猫が嫌いというのに、なんだか常日頃から猫と接しているかのようです)
(さすがに、飼っているということはないのでしょう。だから自然、浮かぶ予想は)
もしかしてレモラ、猫がご近所さんにいるのかしら。
狩りの成果まで献上されるなんて。悪戯な猫に懐かれてしまったのね。
(Remoraへの同情というよりは、純粋な興味から、想像が膨らんでおりました。)

でも、それじゃあ犬はどうかしら。
犬も、みんなが愛玩しているでしょう。わたしも背に乗せて貰ったことがあるわ。
レモラは、犬も嫌いかしら。いぬいぬ。
(……酔いは、さすがに水一杯で簡単に抜けきってはいないようですが。)
近所……ええ、近所ではありますね。
(言葉を選びながら、ようやくのことで自らのグラスも空にして)
狩の成果というのは中々好意的な解釈で。
あれはきっと、次はお前だと私のことを脅しているに違いありませんわ。
懐かれているだなんて、とてもとても。

一方で犬は好きですよ。
従順で、賢くて、可愛くて。
何を考えているのか、ある程度はわかりますもの。
(記憶の意図を手繰り、表情を綻ばせると)

姫様は犬も、猫もお好きなようですね?
やはり普段から猫と戯れることもお有りなのでしょうか。
レモラはなんだか、剣呑な世界に生きているのね。
でも大丈夫よ。レモラは猫よりも強いもの。
わたしにだってこんなに丁寧に、いろんなことを話して聞かせてくれたのだから。
きっと、猫とも分かり合えるわ?
(天真に、爛漫に。やはりお姫様は、たいへんに好意的な解釈をするばかりでございました。)

ええ、犬とも猫とも、遊んだことがあるわ。
猫は気まぐれで、なかなか長時間遊ぶことはできないのだけれど。
猫が子猫を咥えて運んでいる様だなんて、見ていて楽しかったわ。
(ぽんやり、言葉は明瞭になれども、焦点はまだいささかばかり合っておりませんでした。)
有能な従者は、食うか食われるかの世界ですからね。
ええ、まあ猫よりは強いです。そして猫と姫様は違います。
……猫と分かり合えるかどうかは不安が残ります。
(唇を尖らせると、グラスの縁を指でなぞりながら)

ええ、猫は気まぐれですもの。
全ては猫の都合でしょう。全く、恐れを知らない。
されど、親子同士の情はしっかりとあるようで。
(全く、自分達本位なものでと笑いながら、水差しを傾けて)
そう……猫との和解は、難しいことなのね……。
(これほど物知りで頼りになるRemoraが言うのなら、きっと本当のことなのでしょう)
(たぶん旅人と、混沌の住人とでは、猫と和解せよと言われても受け取り方がまったく異なるのです)
(……と、お姫様は解釈するに至ったのでした。)

けど、気まぐれに目的もなく、だなんて。
わたしには想像ができない生き方だから、すこし興味が湧いてしまうわ。
(役割もなく、「ただ生きる」。お姫様にとっては、どこか超然としているとすら思えてしまいます)
(グラスに、再び手を伸ばそうとはしますが……)
……お酒の量は控えめに、なのよね。今日は初めてのお酒だったのだし。
この程度にしておくのが、いいものかしら。
難しいものです。少なくとも私に限っては。
(そんな言葉に重なるように、部屋の向こうで何かが鳴いたかもしれません)

おや、姫さまの姿勢はいつも眩しくて。
どのような者に対しても学びと、尊敬を忘れぬ姿はとても気高いものですわ。
……ですが、時々心配になるのです。
姫さまが悪い志を持つ者に騙されてしまうのではないかと。
(こちらもこちらで酔いが回っているのか、頬杖をついて、いつもより柔らかい微笑みで)
姫さまを拐かす輩が世界には何人いるともしれませんからね。
(私以外にも、という言葉は静かに飲み込んで)

ええ、そのご判断は立派です。
お酒を楽しむにはまず自己を知ることが大切ですから。
今日のところは味見として……明日目覚めて平気なようであれば近いうちにまたご一緒させていただきましょう。
大丈夫よ、レモラ。幻想で出会ったひと達は皆、レモラのように優しいもの。
騙すだとか、拐かすだなんて、ええ。そうそう起きはしないわ。
それにわたし、ある程度は強いもの。悪漢が現れたって、鎧袖一触よ。
(少しばかり難しい言葉も覚えてきたお姫様が、小さな胸を張るのでした。)
(……もっとも、何度か「悪い志を持つ者」に誑かされそうになったり、或いはすでに良からぬ知識を吹き込まれていることを、当人はちいっとも自覚していないのですけれど。)

だから、ええ。レモラは、見ていてちょうだい。
きっとわたし、「はぐるま姫」の名に恥じない、立派なお姫様になってみせるから。
(レモラの柔らかな笑みに安堵したのでしょうか。お酒によらず、お姫様もまた、ごく自然に微笑みました。)
まずはお酒の作法。これからも、じっくり教えてちょうだいね?
(それはそれとして、聞き逃すわけにはいかない音もございまして。)
……ところで、レモラ。
なんだか今、あっちの方から猫の鳴き声が聞こえた気がしたのだけれど……。
(きょろきょろ)
おや、私のように優しいとは。
(全く、ますますもって不安ではないですかと笑って)
でも、そうですね。
姫さまも大変ご活躍をされていて、お力も身につけられているようで。
その辺りの自衛力は、むしろ私よりしっかりされているかもしれませんね。

……ええ、かしこまりました。
では、私は見守ります。
姫さまが、名実・自他共に認められるお姫様になるその日まで。
(向けられた言葉に思わずはにかめば、胸に手を置いて、表情を隠すように深い一礼を返して)
……もしかすると、それは私の声かもしれませんね。
ええと、はい。なあ、と。なー、っと、思わず声が出てしまったのかもしれません。
(重なるように、また部屋の向こうで一鳴き)

……はい、それでは今日はもう御開きとしましょうか。
姫様、お家までお送りいたしますわ。
ええ、ええ。従者が側にいてこそ、お姫様はいっそう気高くあれる。
物語で読んだお姫様には、そういうひと達がたくさんいたもの。
(椅子から降りると、こちらもまたスカートをつまんで優雅な一礼を返してみせたのでした)
(でほそれはそれとして。やはり、小さなお耳に届いた愛らしい鳴き声には、きりきり、好奇の音が鳴るわけでして。)
でも、ねえレモラ、今またあっちの部屋の方から……。
にゃ、にゃー。
それはきっと、反響した私のお腹の音でしょうか。
まったく、はしたないことで申し訳ありません。
後でちゃんと躾けておきますので。
(うふふ、と表情と正反対の笑い声を返せば、玄関に向かう扉を慎重に開いて)

いない……こちらの方にはいませんね。
(では、と扉を引いて従者が室外へと手を翳せば、それが最後)

きゃっ。

(外見に似つかわしく、普段の姿には似つかわしくない悲鳴がひとつ)
(窓からとびかかってきた黒い影が、従者の顔へと飛びついて)

……館でもこうなのですから、夜道は殊更に危険です。
お送りしましょう、姫さま。

(呆然とする主人を後に、それを顔に貼り付けたまま、従者は外へと歩いていくのでした)

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