PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ノーブル・レバレッジ

完了

参加者 : 239 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●千載一遇
「まずはお疲れ様、と言っておこう」
『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の言葉にイレギュラーズは何とも言えない難しい顔をした。
「……疲れてるみたいだな。そりゃあそうだ。何分、大きな仕事だったからな」
 幻想(レガド・イルシオン)を覆う危険な気配はイレギュラーズの活躍で一先ず消えた。
 国中で企図された『無謀な反乱』――幻想蜂起は概ね未然に防がれ、多少の流血こそ免れなかったが、貴族軍が本格的な鎮圧行動を取るよりも圧倒的に少ない犠牲で解決するに到ったのである。
「全部が完璧とは言えないが……話としては概ね成功だったと言えると思う。
 しかし、一連の事件が『原罪の呼び声』を理由にするものだとしたら……」
「そう」とレオンは頷いた。
 当面の事件は解決したが、一連の事件を産んだ『原因』の方は未だ手付かずである。
 硬直する状況は幻想の社会構造が生み出している部分もあり、公然とこの国の頂点に位置する国王フォルデルマン三世がサーカスを庇護する限り、誰にもおいそれと手を出し難いのは間違いない事実だった。
「……ま、その辺りの『景気の悪い話』は先刻承知の通りだな」
 国中で起きる目を覆いたくなるような惨劇にローレットも手をこまねいていたかった訳では無い。
「だが、お蔭でようやく事態が動かせる」
「と、言うと?」
「オマエ等が活躍した<幻想蜂起>の存在さ。
 フォルデルマン三世は他人事かも知れないが、各地で領地を経営する貴族連中にとっては今回の話は『洒落にならない事態』なんでね。
 たっぷり売った恩と実利を梃子にすれば連中を動かせる可能性がある」
 神託の少女――ざんげ(p3n000001)との会話、周辺に横たわる幾つかの確定的事実から、不吉な事件の元凶を魔種に――その根源があのシルク・ド・マントゥールにあると判断したローレット、レオンは或る意味で虎視眈々と状況を動かす為の『てこ』が生じるのを待っていたという訳だ。
「成る程な。貴族は国王程は馬――鈍くはない」
「そういう事」
 レオンは頷いてこの先のプランを披露する。
 要約すれば話はこうである。

1、今回の事件対応でローレットは貴族連中からの覚えが良い
2、国王はサーカスに楽観的だが、貴族連中は疑いの目を向ける者も居る
3、信頼を買ったローレットが呼びかければそういう連中が味方につく可能性がある
4、特に幻想三大貴族を味方につけられれば国王も無碍には出来ないだろう
5、かくて貴族連中を味方につけ利用して国王にサーカスの庇護を辞めさせる

「……ま、貴族連中も馬鹿じゃないが曲者揃いだ。
 国王への点数稼ぎに忙しい彼等がそう素直にこちらの言う事を聞いてリスクを買うとも限らないが、領地へのダメージで俺達の言う『魔種の脅威』はある程度実感出来ただろう。上手い事煽てて宥めて脅して――国王説得に一枚噛ませろって話なのさ」
「俺達のするのは貴族の説得か?」
「それだけじゃあない」とレオンは言う。
「市民レベルの嘆願も重要だし、貴族連中の援護射撃も重要だが、それより何より国王に気に入られているオマエ達の直訴が作戦の結果を決めると言っても過言じゃない。
 兎に角、あの鈍いが人は良い王様が『何だかサーカスを庇ったらいけないのかな』と思わせるだけの流れを作る事。これは全てオマエ達次第って訳だ」
 レオンの長い説明にイレギュラーズは大きく息を吐き出した。
 社会の闇に潜み、何とも『合法的に狂気を伝播させている』サーカスは単純な武力でも解決をのらりくらりとかわす難敵だ。これから先始まる魔種との戦いを予感させる何とも厄介な一番手だが、ようやく反撃の時は来たという事か。
「……まぁ、出来る限りはやってみるよ」
 そう応えたイレギュラーズにレオンは手を差し出した。
「ハイタッチは、終わってから」

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
<幻想蜂起>の結果を受けた大きなイベントシナリオとなります。
 以下詳細。

●任務達成条件
・フォルデルマン三世にサーカスの庇護を辞めさせる

 国内の公演許可を取り消させ、メフ・メフィートから退去(追放)させる事です。
 レオンは国王の後ろ盾を排除の上、武力行使を辞さない構えであるようです。

●行動(プレイング記述)
 以下の内から近しい行動を選び、下記の注意を必ず守り、プレイングを書いて下さい。
 守られていない場合、カットしますのでご注意下さい。

・国王説得
・レイガルテ説得
・リーゼロッテ説得
・ガブリエル説得
・貴族諸派説得
・民衆周知

一行目:【行動】(【】も必ず付けて下さい。上記行動から選んで下さい。
二行目:同行者名(ID)(無い場合は不要。複数人で組む場合は【グループ名】でタグを作り表記して下さい)
三行目以降:自由なプレイング

※一、二行目は指定された内容以外を一切書かないようにして下さい。

 参考までに国王はサーカスに好意的で、レイガルテは権威主義者で実利主義、リーゼロッテは享楽的で残酷、ガブリエルは(悪く言えば)日和見で勇気が足りません。貴族諸派はこれまでの全シナリオで出番のあった貴族をはじめ性格は様々。民衆は一連の事件に疲弊しています。
 国王や貴族への謁見はローレットが上手い事手配しています。

●注意
 多少の無礼は特異運命座標様のなさる事なので流してもらえます。
 が、どう考えても洒落にならない事態が推測されるような行動はお避け下さい。

●重要なお知らせ
 本シナリオは有効なプレイングを中心に描写を行います。
 原則全員描写は行いません。
 又、本シナリオは参加人数如何によってはリプレイ返却締め切りを延長させて頂く場合がございます。
 上記特別な措置を取る場合は、改めて本サイトの『おしらせ』等で告知させていただきます。
 予めご了承の上での参加をお願いいたします。

 結果次第でこの後の展開が直接的に変化する可能性があります。
 以上、宜しければお願いいたします。

  • ノーブル・レバレッジ完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別イベント
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年05月28日 20時40分
  • 参加人数239/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 239 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(239人)

スウェン・アルバート(p3p000005)
最速願望
シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
鏡・胡蝶(p3p000010)
夢幻泡影
夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
生方・創(p3p000068)
アートなフォックス
エンヤス・ドゥルダーカ(p3p000069)
手を汚さずに手柄をたてよ!
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
はぐるま姫(p3p000123)
儚き花の
鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
アート・パンクアシャシュ(p3p000146)
ストレンジャー
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
御幣島 戦神 奏(p3p000216)
黒陣白刃
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
エマ(p3p000257)
こそどろ
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヘルマン(p3p000272)
陽気な骨
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
セアラ・シズ・ラファティ(p3p000390)
flawless Diva
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ギルバート・クロロック(p3p000415)
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
銀城 黒羽(p3p000505)
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
エブリデイ・フェスティバル
シェンシー・ディファイス(p3p000556)
反骨の刃
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)
屍の死霊魔術師
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
暁蕾(p3p000647)
超弩級お節介
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
プロミネンス・ガルヴァント(p3p000719)
潰えぬ闘志
モモカ・モカ(p3p000727)
ブーストナックル
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
オルクス・アケディア(p3p000744)
宿主
コル・メランコリア(p3p000765)
宿主
アレフ(p3p000794)
純なる気配
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェニー・ジェイミー(p3p000828)
謡う翼
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
アーラ・イリュティム(p3p000847)
宿主
ミミ・ザ・キャッスルガード(p3p000867)
子守りコウモリ
シャロン=セルシウス(p3p000876)
白い嘘
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)
幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る
新納 竜也(p3p000903)
ユニバース皇子
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
久遠・U・レイ(p3p001071)
特異運命座標
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
カザン・ストーオーディン(p3p001156)
路傍の鉄
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
ローラント・ガリラベルク(p3p001213)
アイオンの瞳第零席
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
トート・T・セクト(p3p001270)
幻獣の魔物
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
パン・♂・ケーキ(p3p001285)
『しおから亭』オーナーシェフ
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
コルヌ・イーラ(p3p001330)
宿主
カウダ・インヴィディア(p3p001332)
宿主
百目鬼 緋呂斗(p3p001347)
オーガニックオーガ
黒杣・牛王(p3p001351)
月下黒牛
レーグラ・ルクセリア(p3p001357)
宿主
桜小路・公麿(p3p001365)
幻想アイドル
キュウビ・M・トモエ(p3p001434)
超病弱少女
ブラキウム・アワリティア(p3p001442)
宿主
ストマクス・グラ(p3p001455)
宿主
アミ―リア(p3p001474)
「冒険者」
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ジョー・バーンズ(p3p001499)
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
シーヴァ・ケララ(p3p001557)
混紡
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
カノープス(p3p001898)
黒鉄の意志
九条 侠(p3p001935)
無道の剣
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
長月・秋葉(p3p002112)
無明一閃
シルヴィア・エルフォート(p3p002184)
空を舞う正義の御剣
ガドル・ゴル・ガルドルバ(p3p002241)
本能を生きる漢
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
ガレイン・レイゼンバーン(p3p002261)
特異運命座標
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
美面・水城(p3p002313)
イージス
アリソン・アーデント・ミッドフォード(p3p002351)
不死鳥の娘
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ニル=エルサリス(p3p002400)
ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)
性的倒錯快楽主義者
ファリス・リーン(p3p002532)
戦乙女
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
ノーラ(p3p002582)
方向音痴
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
プリーモ(p3p002714)
偽りの聖女
カシエ=カシオル=カシミエ(p3p002718)
薔薇の
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
マリス・テラ(p3p002737)
Schwert-elf
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
リジア(p3p002864)
祈り
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)
エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)
ShadowRecon
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
セレスタイト・シェリルクーン(p3p003642)
万物読みし繙く英知
アベル(p3p003719)
失楽園
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
コルザ・テルマレス(p3p004008)
湯道楽
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
白銀 雪(p3p004124)
銀血
ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)
特異運命座標
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)
幸せの提案者
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
シレオ・ラウルス(p3p004281)
月下
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)
解き明かす者
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
Morgux(p3p004514)
暴牛
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁
竜胆 碧(p3p004580)
叛逆の風
オカカ(p3p004593)
兎に角
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
クロガネ(p3p004643)
流浪の騎士
城之崎・遼人(p3p004667)
自称・埋め立てゴミ
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)
TS [the Seeker]
ルーニカ・サタナエル(p3p004713)
魔王勇者
ジェーリー・マリーシュ(p3p004737)
くらげの魔女
Svipul(p3p004738)
放亡
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠
鳴神 香澄(p3p004822)
巫女見習い
最上・C・狐耶(p3p004837)
狐狸霧中
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered
モルテ・カロン・アンフェール(p3p004870)
灯先案内人
ロクスレイ(p3p004875)
特異運命座標
ウィルフレド・ダークブリンガー(p3p004882)
深淵を識るもの
疾風(p3p004886)
超軼絶塵
ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)
トラッパーガール
オロチ(p3p004910)
悪党
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ティアブラス(p3p004950)
自称天使
ココル・コロ(p3p004963)
希望の花
リーゼル・H・コンスタンツェ(p3p004991)
闇に溶ける追憶
牙軌 颯人(p3p004994)
黄金の牙
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
フォリアス・アルヴァール(p3p005006)
彷徨う焔
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)
煌きのハイドランジア
キリカ(p3p005016)
禍斬りの魔眼
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ミシャ・コレシピ・ミライ(p3p005053)
マッドドクター
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
小鳥遊・鈴音(p3p005114)
ふわふわにゃんこ
ミラーカ・マギノ(p3p005124)
森よりの刺客
ディジュラーク・アーテル(p3p005125)
いつも鳥と一緒
ティリー=L=サザーランド(p3p005135)
大砲乙女
ラビ(p3p005205)
神速
イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)
魔法少女魂

サポートNPC一覧(4人)

リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039)
暗殺令嬢
ガブリエル・ロウ・バルツァーレク(p3n000077)
遊楽伯爵
フォルデルマン(p3n000089)
放蕩王
レイガルテ・フォン・フィッツバルディ(p3n000091)
黄金双竜

リプレイ

●チェック・フォルデルマン
 レガド・イルシオン国王、フォルデルマン三世の名前は或る意味において混沌中に轟いている。
 賢王として名を馳せていた父王フォルデルマン二世の跡を継いだ彼は全く政治にも外交にも興味を示さなかった。
 彼が即位してから僅か数年の間に長い歴史を誇る大国レガド・イルシオンの屋台骨は見事なまでに傾いでしまった。元々強くなり過ぎていた有力貴族連合の力をギリギリの所で抑えつけていた父王の努力も虚しく、表面上のおべっかと貢物に目を眩ませた彼は貴族達の専横を気にもかけず、国家のコントロールとパワーバランスを激しく損ねてしまったのである。
 貴族は彼の治世に喜び、国民は暗君に絶望し、諸外国は呆れ果てた。
 繰り返すが、フォルデルマン三世の名前は混沌中に轟いている。
 名前が売れるという事は必ずしもプラスに働くものではない――稀代の暗君はそれを良く教えてくれる存在なのである。
「うむ、ようこそ来てくれた。我が友人諸君よ!」
 ――そして、今。国内外、そこかしこの話題をさらう当の本人が決意を秘めて王城を訪れたイレギュラーズの前に居る。
 両手を大仰に広げ、人好きのする顔に満面の笑みを貼り付けた彼は、イレギュラーズの内心を知らずに今日もご機嫌そのものといった風だった。
 常識的に考えれば数十人からなるイレギュラーズが強い意志を漲らせて(それもローレットの根回しを受けて)謁見の場に臨んでいるという事態は『国内を最近騒がせる何某の事件に関わるもの』という類推をする事は容易なのだろうが、常識で彼を測ってはいけない、というのは殆ど共通認識である。
「ご足労をありがとうございます。心から――感謝いたします」
「うむ! 私に会いに来てくれるとは嬉しいぞ!」
 表情を固くする傍らの花騎士は当然その意味を理解しているが、善良な国王はイレギュラーズの友情を素直に確信しているようだ。
「……おっ、おじゃま……して、ます……」
『前回と同じく緊張してて悪いな、王様』
「良い、良い」
 インヴィディアのフォローをするカウダにフォルデルマンは手を振った。
「幻想には思うところはありますが国王様個人へというわけではないですしね」
『ある意味、歪まずに育ったともいえる御仁ではあるな』
「……?」
「ああ、いえ。お久しぶりです。またお会いできて光栄です」
 アーラと頭を垂れたイリュティムのやり取りはさて置いて。
「……遊びに……来た……」
『フォルデルマン三世殿をどう思っているのだ、我が契約者殿よ?』
「……ん……友達……?」
『無礼はご容赦願えればと思います』
 コルに小首を傾げて答えたメランコリアの言葉にフォルデルマンは大きく頷いた。
「ああ、ああ! そうだ、その特徴的なやり取りは……
 そう、諸君は……そう、七曜堂の面々だな! そうして、また――私の退屈を紛らわせてくれるのか?」
 以前に国王の無聊を慰めた事がある彼女等【七曜堂】の参加者は彼の記憶の中に残っていたらしい。
 成る程、一人で二人。呪具との掛け合いを見せる面々はフォルデルマンでなくても強く覚えやすい存在であろう。
(………まぁ、悪い方ではないのですよね)
(『興味をサーカス以外に移しうる土台を作り得れば、な』)
 嘆息するアケディア・オルクスの一方で、
「運命特異点が会いに来ると楽しみにしてもらってるなら期待に応えないとですねぇ」
『……』
『無口』なレーグラは答えないが、水を向けられたルクセリアの方は何処か悪戯っぽくそう言った。
「楽しい話なら幾らでも出来そうね。例えば、風景が最高だった水鏡の迷宮の話とか――」
『月が浮かぶ水面へと足を踏み入れると鏡写しの異世界へと誘われた件か。確かに得難い経験だったな』
「ボーロとかいう球体の魔物を追い払う依頼がありまして……」
『その対処方法がそのボーロで遊ぶという方法だったり』
 スペルヴィアとサングィス、イーラとコルヌのやり取りにフォルデルマンは玉座から身を乗り出しかけた。
「王様っていつも何食べてんのかね? 何なら用意してやろうと思うんだけど――」
『さてな? 調理場を借りられればわかるのではないか?』
 アワリティア、そしてブラキウムが言えば、
「美味しいものを食べればみんな幸せ、です」
『多分に私情が混じっている気がするがな』
 グラとストマクスがそう続ける。
【七曜堂】がいい切り口になり、場は早速暖められていた。
 遅ればせながらに今更に。説明すれば、イレギュラーズが今日この謁見の間を訪れたのは言うまでもなくフォルデルマンと遊ぶ為では無い。
 現時点までの調査、予測、状況証拠により高い確率で彼等が『魔種』なる世界の天敵であると結論付けたローレットは当然の事ながらこれの排除を狙っていたが、腐ってもこの国の最高権力者であるフォルデルマンが幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』を庇護し続ける限り、ローレットにも彼等を排除する事は困難だ。
 そこで先の幻想蜂起事件の解決で恩を売った貴族連中の力を借り受け、国民を煽り、国王の気持ちを動かす――即ちそれこそが『国王への嘆願によるサーカス庇護の中止』を究極目的にした本大作戦『ノーブルレバレッジ』の全てである。
 国王は愚鈍だが善良である――その一点のみに賭けた何とも不確定な作戦ではあるが、現状で取り得る最善手である。
「ラノール・メルカノワです。 一時の退屈を紛らわせるため、私の冒険譚をお聞きになりませんか?」
 ラノールの言葉に歓迎の意を示すフォルデルマンだけは気楽だが――
(空気ピリピリしてるな……)
(ノーラ、こういう場所では丁寧な口調で話すんだぞ?)
 ――辺りに蔓延する緊張感に不安を隠せないノーラの手をポテトがぎゅっと握って安心させた。
 一瞬のアイコンタクトを見せ、頷き合った【星芋猫】の面々はここでの結果が幻想という国の、混沌世界の非常に重大な岐路になる事を知っていた。
「HAHAHA! タロウ君、お久しぶりだね! タロウ君、HAHAHAHAHA!」
 やたらフランク&フレンドリーに公麿が切り込んだのがリゲルにとって最大のチャンスだった。
「陛下と過ごした先の時間は、とても楽しいものでした。
 城下の人々も笑顔を浮かべ――幸せそうでしたね」
 騎士の礼をもって跪き、頭を垂れたリゲルにフォルデルマンは頷いた。『国王陛下の気紛れ鬼ごっこ』――ローレットに残された報告書には、リゲル達イレギュラーズと『タロウ』ことフォルデルマンの過ごした休日の出来事が克明に記録されている。まぁ、隣のシャルロッテの口元が引き攣ったのは余談だが。
「ですがサーカス来演以降は――街の平穏が乱れ、暴動を起こす人々が絶えないのです」
「ええ。今、この国では人心は荒れ乱れています。
 このまま行けば、この国の明るい未来は望めないでしょう――私達はそれを望みません」
 どうにも切り出し方の難しい話ではあったが――覚悟を決めたリゲルが踏み込み、ポテトがこれを援護した。
「王様、王様。お願いします、どうか私達の話を聞いてください。
 今、幻想の人達皆が悲しんで、泣いちゃっているの――サーカスを見て、それから皆が変になってしまったんだって!」
 続くアリスの必死の言葉に首を傾げたフォルデルマンは不思議そうにこれに応える。
 それは頭ごなしにイレギュラーズの言葉を否定するではなく、純粋な疑問を返す――何ともやり難い反応だった。
「国の治安に『多少の問題』が生じているのは聞いているが――何故それがあの素晴らしいシルク・ド・マントゥールに関わるんだね?」
 ……切り返しは当然の一言であり、同時に手痛い反撃である。
 フォルデルマンは子供のような人物であるが、同時に非常に純粋でもある。
 今回、かなり回りくどい『てこ』を必要とする最大の理由は『魔種』の悪影響――『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』に証拠を突きつけるのが非常に難しいという点であった。確固たる証拠を突きつけ、庇護の中断を強く求めれば話は早いが、それは今回準備出来ていない。
 ある種の『正論』を力で捻じ曲げなければいけないのは分かり切った困難である。
 イレギュラーズの狙いは『証拠はないが疑わしいから排除せよ』であり、これは事情を理解しない人間にとっては中々聞き入れられるものではない。
 フォルデルマンが(多々の問題はあれど)善良な人間性を持っているのが尚更悪い。
「サーカスが原因って言う証拠はないです。でも、サーカスが来てから皆おかしくなりました」
 上手く言葉を尽くす事は出来ないが、ノーラは必死にそう言った。
「そうオーバーシンキングするでない!
 数はパゥワーよ、皆の言う事に耳を傾けるも悪くあるまい! なに、もしサーカス達が原因でなかったなら疑ったことをアポロガイズでよい! ゴッドもキングもそれくらいのパゥワーはあろうよ!」
「王様は楽しい事が好きなのよね? わたし達もサーカスの様な事が出来るのよ?」
 すかさずそこに何の事やら解らぬが兎に角パゥワーは感じざるを得ない豪斗が、『種も仕掛けもない魔女である』エルメスが言葉を併せた。
「最近の幻想各地の様子はご存知ですか?
 この国では今多数の事件が起きています。実際に私も事件に対応し――依頼で行った村の人に『何とかしてみせる』って約束しました」
「……今の幻想、陛下はどう見ているのでありましょうか」
 アレクシアと、瞼を伏せた碧はフォルデルマンに問う。
 国の惨状はまともな視野をもって見回せば、余りに痛々しいものである。
 事実その問いにシャルロッテは酷く悲しい顔をして――彼女だけではない謁見の間の人々は同様に難しい顔をしていたのだが。
 当の国王だけは余りその問いの意味を分かってはいないようだ。
「どうも何も、この幻想は私の国だとも。多少の問題が起きるのは自然の出来事だ。今に始まった話ではないぞ。
 今日も、明日も。メフ・メフィートには楽しい事が一杯だろう?」
(蜂起とか起きるほどの大事になってたのにまだ知らぬ存ぜぬで好意的な振る舞いなのか……ある意味では頑固だな?)
 ヨルムンガンドは思わず僅かに苦笑した。
 砂糖菓子に包まれたかのような彼は、外界の地獄を知らない。知る心算も無い。
 悪意は無く、そう育てられ、育ち、その状態を疑っていない。だからこその強敵か――と、イレギュラーズは短いやり取りでそれを思い知る。
(国王様はサーカスがもたらした悪意と被害、そして民衆の疲弊等々を把握していらっしゃらないようですねぇ)
 内心で溜息を吐いたセレスタイトだが、それは先刻承知であった。
 肝心要の『サーカスとの関連性』は事件頻発化の時刻位しか証明する手段が無いのが弱いが、資料検索は彼のお手の物である。
「先ずは再考を頂くため、状況をお伝えしますよぅ」
「王様見てよ! サーカスが来てからこんなに犯罪が増えてるの!」
 セレスタイトやセララが差し出した資料はローレットの報告書、犯罪発生率等のデータを纏め直したものである。
 長い文章を国王が読んでくれる保証は無かったが、千里の道も一歩から――戦いに挑むイレギュラーズは粘り強い戦いを既に覚悟し切っていた。
「王様、ボクらは国を救うために動きたいの。だってこの国が好きだから。王様も協力して! お願い!」

●レバレッジ・ガブリエル
 ほぼ同時刻――
 王都に存在するガブリエル・ロウ・バルツァーレクの屋敷にもイレギュラーズ達の姿があった。
「よぉ、大変だな貴族ってのは。領地の統治に領民の整理、果てはイレギュラーズの応対と来た」
「まったくです」
 アランの気安い言葉にガブリエルは澄ました顔でそう言った。
 言葉では「大変」と言うが、アランが見た限り彼は自身等の来訪を『迷惑』と受け止めているようには見えなかった。
(まずは――それだけでも『マシ』か?)
 善良な方とは言え、ガブリエルも幻想貴族だ。彼がどう出るかはまだ分かっていない。
「説明をする必要はありませんよ。直言で結構です」
 暗君(フォルデルマン)とは異なり聡明たるガブリエルは彼等が自身の屋敷を訪れた理由を知っていた。
 実に話は早く、前置きをする必要はないと述べた彼の応対は時を急ぐイレギュラーズにとっても渡りに船の一言だったと言える。
「ガブリエル様、領民や諸侯貴族からの信も厚い貴方なら、既に思われていることと思うが。
 シルク・ド・マントゥールをこのまま幻想に居させておくのは宜しくない」
 創の言葉は鋭い切っ先を備えたナイフのような鋭利さで問題の本質を突いていた。
「芸術は、人々を楽しませるものであって、疲弊させるものではない」
 そう言った創にシャルレィスと颯人が続く。
「サーカスを止めるのに、協力してください!
 このままだと、また多くの人たちが傷つく事になるかも知れない。
 アーブラハムさんの事件みたいに、ガブリエルさんやガブリエルさんが直接知っている人たちだって、巻き込まれるかもしれないんだ!」
「ガブリエル卿、今はまだ小さな火種。我々が消火仕切れるかも知れん程度の。
 だが、放っておけばその火種もやがては小さな小屋ではなく王の住む城ですら焼くかもしれん」
「今回、僕はここの領地の民衆を説得しに行ったけどここ自体には狂気の影響は出てなかった。
 それでも狂気があった場所につられて蜂起寸前まで行ってた。
 直接的に影響は無いとしても周りに流されてしまう事はある。
 今の民衆はそこまで疲弊している状態だよ、だから大元の狂気を伝搬させる魔種⋯⋯
 つまりサーカスをどうにかしないと民衆が疲弊する一方だ。
 あなたも薄々気づいてるんじゃ無いかな?サーカスがこの事態を引き起こしてるって……
 ……お願いだよ、民衆を救うためにも僕らと一緒に王様を説得してくれないかな?」
「このままで良いと思ってないとは思うが、手をこまねいてたら間に合わなくなるぞ?
 船乗りとしての勘だけど、嵐の後に、でかい波が来る。対策はしたか?」
「懸念はもっとも。それに、その節は非常に助かりました」
 礼を言い、カイトとムスティスラーフを見やったガブリエルは言葉も事態も重々承知してはいるのだろう。
 流麗な面立ちに何とも言えない苦悩の色を滲ませた彼が、国王とは異なり多くの事態に苦慮し、想定を巡らせているのは想像するに難くない。
 されど、ここまでガブリエルが根源的に有効な手を打てていない――動いていないのも事実である。
 事態を改善するにはあの国王を動かし、サーカスを放逐する必要があるのを解らぬガブリエルでは無かろうが、人道的に心を痛めている筈の彼も又、貴族らしく幻想のパワーゲームに参加しているのは間違いない。
「こちらこそ。先日は希望の持てる依頼と、寛容な処置をありがとうございました。
 でも貴方は――貴方なら解ってるハズです。本当に必要なことが何なのか。
 僕らに出来ないことが出来る。ソレを行使しない、コレはもう罪だってコト」
「わらわ達は汝を担ぎ上げようとする旧友の愚行を止めたが、逆に汝には行動を起こさないという愚行に一言申したいのじゃ。
 この混乱が続けば続くほど、今よりも多くの民が犠牲となってしまうのじゃ。
 どの貴族よりも、民を思い国を思っておる、汝の言葉は強く王を動かすじゃろう」
 夏子の、華鈴の言葉は些か辛辣ながら正鵠を射抜いている。
 ガブリエルは善良だが、結局は貴族である。国王に働きかける力を持ちながら、イレギュラーズがこの機会を得るまでじっとしていたという事は保身の誹りを受けても仕方のない一面もあろう。確かに彼にその『義務』は無いが、ノブレス・オブリージュたる概念がこの幻想に存在するのだとしたら、ガブリエルの他に有り得ない。
「……あぁ、まだるっこしいのは性に合わないわ! 伯爵!
 あたし達はサーカスを守っている後ろ盾を排除する。協力しなさい」
 リアは自身の『クオリア』で幻想の人達の不安の旋律を嫌というほど聴いている。
 負の旋律は曰く「キンキン響くから、ここ最近は頭痛が収まらなくてホント嫌になるのよ!」。
「なんだったら、この負の旋律でも演奏して聴かせてやろうかしら!?
 民を守るのが領主の仕事…だったら、やる事分かってんでしょうが!」
「実際のところ、サーカスが昨今の凶行の原因であるかは明確ではありません。
 しかし、あの日――『幻想大公演』を境に『異変』が起き始めたことは確かです。
 また、他国に於いても同様の凶事があったことは既にご存知のことでしょう。
 私はこの国に住むみんなが笑顔であってほしいと思っています。
 その想いは、貴方の方がより強くおもちではないでしょうか?」
 かつてこのガブリエルに「力になる」と告げたみつきだからこそ、言葉には熱が篭もる。
「この街のみんな、悪い意味で地に足がついてない。それは皆が見えない不安に怯えているから。
 見えないものって怖いよね。噂とか、人の心とか」
 結乃の語る『噂』が何を指すかは余りに明白である。
「勿論、証拠がない以上、断言なんて出来ません。間違ってる可能性も十分ありますから。
 でも、今回サーカスの影響を受けた人たちを見るに、元々持っていた不安が表面化というか、過激な方向に誘導されてるように見えました。
 ガブリエル様が何もしていないなんて事はない、と思います。
 皆の心の支えになっていると思いますし、後は――この先の陛下への直訴の援護さえ貰えれば」
 イリスが少しフォローをするようにそう言った。
 ガブリエルに最終的な決定権は無い。つまり、この場にいるイレギュラーズの狙いはイリスの言に集約される。三大貴族の一角であるガブリエルに今まさにフォルデルマンと奮闘する王宮組の援護をさせる、援護に赴かせるのがこの場の作戦目標という訳だ。無論、この動きは同時多発的に行われているものである。暫く前から国内各地には民衆への周知を努めんとするイレギュラーズが飛び回っている。今日この日がターゲットに定められたのは、彼等に十分な時間を与えるのと同時に、三大貴族が王都に集結しているタイミングを狙っての事だ。
 だから、決着はその結果にかかわらず今日つけなければならない。その必要がある。
「他の気難しい方たちの説得も重要ですが、貴方が動いてくださると――とても心強いですね」
 シルフォイデアの見立てではガブリエルは実利に訴えるよりも情に訴える方が『効く』ように見えた。
「わたし達も今回の騒ぎを解決したいのは同じなのです。
 レオンさんも立場と考えがあって……今回の騒ぎで動きやすい状況になるまで待たなければならなかったのは、心を痛めていると思うのです。それは貴方も同じでは無いでしょうか」
「伯爵って領民からとても好かれているようだね。
 熱狂的になる人たちもいたようだけど……羨ましい限りだと思う。
 それって今まで伯爵が頑張ってきたからだよね? それを急に来たよそ者に台無しにされてもいいの?
 このままだと、芸術も文化もめちゃくちゃになるよね? 綺麗な町並みも、美味しい御飯も」
「……子供達を守るために力を貸して下さい。未来の可能性を守るためにガブリエルさんの力が必要なんです」
 久遠、ティミの言葉――取り分け『子供』の一言に伯爵の柳眉が動く。
「単刀直入に聞こう。ガブリエル・ロウ・バルツァーレク殿、民衆を愛しておいでか?その深さは如何程か?
 現状は嫌でも耳に入っているだろう。サーカスが振り撒いた混沌は人心を乱し、痛ましい事件が各地で頻発した。多くの者が犠牲となり、血が流れた。その内幾らかは……我々イレギュラーズの手によって」
 ガブリエルは応えず、ただジョセフの言葉に耳を傾けている。
「いや、脅すつもりはない。事実を述べたまで。そして私はこのような事、繰り返したくないと思っている。
 頼みがある。難しい事では必要はない筈。ただ、一言言ってほしい。
 NOと。サーカスはレガド・イルシオンに不要であると。一人では無い。我々と一緒に、だ。
 愛が人を狂わせるならばその逆も然り。私利の為でも、享楽の為でもなく。どうか民の為に愛を」
「貴方はお優しく聡明な方です。
 故に、貴方も、貴方の民も、拙らの血を持ってでも守るに値するものと、愚考します。
 故に、貴方様なら、取るべき道は既に見えていると、信じております」
「以前旅人からこんな事言った人がいるって聞いた事があるわ。
『もしあなたが、わざと自分の能力以下の存在であろうとするならば、あなたは残りの人生ずっと不幸になるだろう』。
 ……今動かなければきっと後悔する事になるわ。
 他の貴族の事もあるだろうけど、貴方の力になろうとする人達が居る事を知ってるし、アタシ達だっている。
 個人的にはアンタの、どっかのほほんとした治世を支持したいしね!」
「領民を助けてやってくれよ!
 事件の当事者になった人は当然のこと、関わりの無い人たちだって漠然とした不安と不満を抱えてんだ!
 こないだアンタが依頼した、レジスタンスの反乱を未然に防げって話、覚えてっか?
 アレだって、起こした連中一人一人はそんな悪いやつじゃない、なんとなく今まで溜まってた不安や不満が、ちょっとしたきっかけで変にこじれちまったんだ。
 ここでひとつ、スカッとした話題の一つでも提供してやろうぜ!」
「あんたは領民にも比較的慕われてるし、実際他所様に比べりゃ遥かにマシな統治をしてるんだろうよ。
 私が受けた仕事でも、誰もあんたの事は悪く言ってなかった。
 だがそこに甘えてる部分もあるんじゃねえか?
 自分のとこの統治はギリギリ上手くいってるからまだ様子を見て……って部分がさ」
 更に続けた雪之丞、ルーミニス、風牙、そしてリーゼルの言葉にガブリエルは深く息を吐き出した。
「結論から言えば、貴方方の言う事は事実だ。私はとうにそれを理解していた。
 ですが、私はこれまで一つも動かなかった。それにも又、理由がある」
 ガブリエルは正眼にイレギュラーズを見つめ、その顔を一つ一つ見回した。
「自己弁護や保身と取って頂いても構わない。実際、そういう所が無い、とは言えない。
 ただ、こうして私の元を訪れ、真に国や民を憂いてくれている……貴方方には私の本心を伝えましょう」
 語るガブリエルの厳しいままの表情にイレギュラーズの表情が引き締まる。
 彼からは強い信念が感じられた。『動かない理由』がその信念によって生じているものならば、結末がどちらに転ぶかは全くもって分からない。ガブリエルは低俗や欲や保身の為だけに現状を維持している訳では無いのだから。その、ノブレス・オブリージュが何を語るのか――身構えざるを得ないではないか。
「私は、大いに自分を買い被るならば、ですが。ええ、ここは敢えて言い切っておきましょう。
 ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは、この国の最後の防波堤なのです。私は、決して失脚する訳にはいかない」
 優男の甘いマスクから迸るのは彼には似合わない壮絶な覚悟である。
「分かりますか? いえ、この国の暗部を、恥部を、多くの問題を見つめてきた貴方方なら分かるでしょう。
 重大な病に侵されたレガド・イルシオンは到底まともな国の機能を有していない。
 貴族は今後も専横を強め、王の目が届かない事を良い事に人々に過酷を強いる事でしょう。
 諸外国はそんな我が国を虎視眈々と狙っている。何時、大規模な内戦が起きるかも知れない。
 この国は――そんな状態なのです」
 公然と国を、他の貴族派を批判するガブリエルの言葉が外に漏れれば、彼の立場が悪くなるのは確かである。
 成る程、イレギュラーズを信頼すると言った彼はハッキリと今危険な橋を渡っている。
「私が何故失脚する訳にはいかないのか、もうお分かりですね?
 大公と侯爵令嬢の仲はのっぴきならぬものだ。そして彼等は笑顔を浮かべた民政家では無い。
 二人は国王陛下を最重視しているが、同時に私を決して無視もしていない。ほぼ互角と言えるパワーバランスを持つお二人は力の無い私を軽視しながらも、自分の味方に取り入れようと画策している。
『やがて来るかも知れない、その時の為に』ね。彼等が私を軽視しないという事は、理由無くば、私が断固として嫌うであろう行為は避けるという事でもある。例えば、幻想大司教の暗殺。例えば、民衆からの収奪。内戦の開始。この国は広く、民は多い。ブレーキを失った結果は想像したくもありません」
「三すくみ、という訳か」とリーゼル。
 頷いたガブリエルは続けた。
「先程、リーゼル嬢は『緩やかな破滅を望むか』と問いましたが答えは少し違う。
『私はあくまで性急な破滅を嫌っている。嫌っていた』。
 私が出来る事をした結果生まれる危険よりも、出来る範囲で可能な事を優先していた、という訳です」
「もう様子を見るっていう時期じゃないんです!
 もしこのままの状況が続いて内乱でも発生したら大勢の人が犠牲になります!
 そうなったら、その状況を鉄帝や天義が見逃すはずがありません!」
「アンタが評判通りのイイ人で動けない理由も領民、国民、アンタの部下、家族……
 彼らの血を流さない為、全て他人の為だって位はこうして話してても分かるよ!
 ケドな! アンタがそーやってイイ人してる間に何人家族と別れて、奪われて泣いたと思ってる!」
 頑としたガブリエルに思わずサクラが、ミルヴィが声を上げた。
「ローレットは必ずレイガルテやリーゼロッテを動かすわ。
 幻想三大貴族の内二人が動けば、国王も無視出来ないと思うの。
 ……そんな時、貴方が動かなかったなら周囲はどんな風に思うのかしら?」
 鋭く抉るのはエスラの言葉。
「結局あんたはその程度か。
 自分の身可愛さに民の現状に見て見ぬ振りをしてヤバくなったら他人任せ――随分ご立派なこって!」
 賭けとばかりに黒羽は酷く挑発めいた。
「……最初に言った通り、言い訳、保身と誹って頂いても構いませんよ。
 貴方方にはそれを言う資格がある。私への貸しも、同様にです。
『ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは健在でいる事に最大の意味があるのです』」
 これでも届かぬか――ガブリエルの言葉はイレギュラーズの願いを否定するものだったが、しかして。
「ガブリエル先輩、意外と意地が悪いっすね」
 ヴェノムは人の悪い顔をしてそんな風に話を切り出した。
「はて?」と惚けた顔をした彼に、ヴェノムはもう一言を連ねてみせる。
「『私はあくまで性急な破滅を嫌っている。嫌っていた』――過去形っすよ。
 ついでに言えば『先輩の理念はこうして僕らに話を聞かせた時点で崩れてる』っす。
 先輩は絶対に本音を言っちゃいけない立場っすからね。
 つまり、結論から言って――先輩は動くって決めたって事でしょう?」
 冷静に距離を置いていた事が奏功したかヴェノムのそれはまぁ見事な切り返しにイレギュラーズは息を呑む。
「魔種の脅威が排除されねば、反乱などのリスクがより高まるのは明白っす。
 この機に動かねば世界の危機に際して傍観をした者として、他の主要二家からの圧力は免れない。
 提言を行う事で先輩が孤立する可能性は低い事――理由はこれで十分っすよね。
 何せ、他の二家も今聞いた通りの説得上手が頑張る筈っすから!」
「十分です」
 涼しい顔をしたガブリエルは頷いた。
「私もリスクを負うのです。ならば、貴方方の本気を見たいと思いましてね」
 どれだけ善良でも彼もまた幻想貴族。その腹芸が伊達ではない事にイレギュラーズは安心しながら苦笑した。
 却って頼りになる事が知れて良かった位だ!
「いや、流石! 分かります、分かりますぞ!
 なにせこのご時世、娯楽がなければ領民の不満は領主に向かうもの。
 サーカスもあれで……『まとも』ならばどれだけ有用だった事か!
 私もイレギュラーズである前に幻想貴族ですからな、その苦労は身に沁みておるのです!」
「貴方らしい」と微笑まれたエンヤスの言葉に、皆が安堵として人心地をついている。
「……む? どうかしたかね?」
 幻想貴族然としたキャラクターとは裏腹に憎めない彼は、何ともムードメーカーのようだった。

●レバレッジ・リズ
 王都に存在する別邸も薔薇の庭園に囲まれている。
 メフ・メフィートで最も美しい邸宅と呼ばれながらも、大半の者が恐れ嫌って近付かない薔薇のアーチを潜ったのは言わずと知れたイレギュラーズ一行である。
「うふふ。皆さんも季節と香りに誘われたのかしら? 正規のお客様なら歓迎いたしますわ。
 この国の貴族として――先の蜂起に多大な貢献を果たした皆さんを、おもてなしをする位の心得はございましてよ」
 五月の良い季節だ。心地良い風が花の香りを運ぶオープンテラスで一行を出迎えたのは言わずと知れた侯爵令嬢――『暗殺令嬢』の通りが恐ろしい華美なる幻想の毒花、リーゼロッテ・アーベントロートその人だった。
「御機嫌よう、お嬢様。何時かのパーティ以来ですわね」
 折り目正しくスカートの裾を摘むようにした善と悪を敷く天鍵の女王(レジーナ)が優雅に礼をする。
「あぁ、私は貴女と一度間近でお話をしてみたかった」
 極上の美少女の完璧なスマイルを受けて呟いたのはエリザベートだ。
「貴女は何処か惹かれる物がある。
 懐かしむものがある。似た雰囲気を感じる物がある。
 そうですね。私は貴女のこと好きになれそうです――」
 独白するようにそう言ったエリザベートにリーゼロッテは小首を傾げて小さく笑った。
 成る程、ある種『当てられた誰か』を惹き付ける危険な魅力は否定出来まい。
(……この前の発起でアタシの担当は暗殺令嬢様の依頼でしたからね
 ……目の敵にされたくも、逆に気に入られたくも無いんッスけどねぇ……)
 同時にこのクローネのような『触らぬ神に』の反応も頷ける。
 と言うより、少なくともこの国の一般的な反応はこちらの方だ。
 ……とは言え、イレギュラーズがここを訪れたのには確固たる目的意識が存在する。交流を暖めるだけが目的ならば、どれだけ気楽か知れないけれど、『関わり合いになる事が危険な相手に、お願いをしなければならない立場』はなかなかどうして難しい。
「リーゼロッテ卿、先日はまたとない依頼の機会を与えてくださって、大変感謝しております」
「また逢う機会があるなんてね。今回は『私』じゃない、『公』のほうだけど」
「この間ぶりかな。御機嫌よう、暗殺令嬢様。
 ……まぁ、前回は愉快な仕事だったが、今日は真剣な話をしに来たんだ」
 利香に続きミラーカが、ウィリアムが挨拶をする。
「それが身共の仕事ですもの」と応じたリーゼロッテは分かっているのかいないのか、からかう調子のままである。
「相変わらずね、暗殺令嬢。
 今日私達がこうして貴女の下まで訪れた理由はもう把握してるんじゃないかしら?」
「それともあくまで言わせたいの?」と問うた竜胆に鈴の音が転がった。
「ええ、ええ。分かっておりますとも。ですが、聞かせて下さいな?
 ゲームは難しい方が燃えるでしょう? 是非、仰って?
 皆さんの思いの丈を、薔薇も恥じらう乙女に何をさせたいか、なんて。
 ……あら、口にしたら随分と現金ではしたないお話になりましたわね?」
 ガブリエルは案外人の悪い所を見せたが、此方は正真正銘の性悪だ。
(……一見好意的に見えるけど、その分面白半分で致命的な意地悪しそうな雰囲気があるにゃあ)
 果たして、シュリエの直感は概ね正解であると言えるだろう。
 リーゼロッテは下手に踏み込めば茨でズタズタにするような嗜虐性を見せながら、イレギュラーズの事情を汲む心算は無いらしい。この国の最も高貴な者の一画でありながら、この事態に余興の余裕を見せているのである。
「ハァ……言うと思ったわ」
「結論から言えば、サーカスに対する王様の庇護を止めさせる、その説得の為に力を借りたい。
 どうもこの事件には魔種が絡んでる。魔種ってのは――」
「――『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』でそこかしこに狂気を感染(うつ)す、世界の天敵、ですわよね。
 御伽噺だとばかり思っていたけれど、確かに今の幻想には頷ける話ではありますわね」
「ソレで貴女がはい、そうですかって頷くとは思っていないけれど。
 でも、分かっているでしょう? このままアレを放置していれば貴女にとっても『不愉快』なイベントが続くって事は」
 ウィリアムと竜胆が連携良く言葉を並べた。
 二人は最近の依頼でリーゼロッテと長い時間を過ごしたばかりである。
 だからといって気楽な関係にはならないが気休め程度は期待したいのが人情であろう。
「よぉ、態度が悪いのは勘弁してくれ。私は……あんたの領地で起きた蜂起の鎮圧を行った者の一人だ」
「その節はどうも。まぁ、確かに強いて望む展開ではございませんけれども」
「確かに一度は私らで強引に沈めた。
 しかし、蜂起を企てる奴らは多い。このままほうっておく事もできないのはわかるだろう?
 歯車が狂ったのはサーカスが来てからだ。
 アイツラを残酷に見せしめに潰せば……暫くは蜂起なんて起きやしない、違うか?」
「単純に、自分の領地を荒らされるのって不愉快ですし。
 それで物とか人が傷つくのも、お金がかかって問題ですよね?
 原因のサーカスははやく取り除いたほうが良いのと思うのですよ」
「リーゼロッテさまから国王にシルク・ド・マントゥールの比護を打ち切るよう進言していただきたいのです。
 私はこれまで、猟奇的な殺人を犯した者、民衆を狂わせて反乱を起こしていた者、と会いましたが、そのどちらもシルク・ド・マントゥールの公演を見ていたことが解っています。
 人心操作、あるいは洗脳、人格乗っ取りの方法をあのサーカス団が持っているとみて間違い無いでしょう」
「こんにちはリーゼロッテ様! 私はシエラ・バレスティ、ブルーブラッドの戦士です!
 単刀直入に言います! サーカスと戦っちゃいましょう!」
 ミーナに続いて絵里が、リアが、シエラが言った。
「理屈ですわね。ですが、状況証拠にも満たない。違いまして?
 公正な裁きを得られる証拠が揃っているならば、あの花の騎士にでも突きつけたら宜しい。
『お優しい陛下』は悪行の証拠を見てまでも、サーカスを庇護等なさらないでしょう?
 そんな不確定なお話をもとに、身共が先陣を切って――動く必要までは感じませんわね」
「次の蜂起が起きるかも知れないのに?」
 ミーナがもう一度食い下がる。
「そんな事があったら、今度は皆さんの手を煩わせませんわ。
 私自ら、二度と――ええ、二度と私に刃向かうなんて気が起きないように、徹底的に、ね。
 何なら本当に『私が』先陣を切っても宜しくてよ?」
 案の定、人道派のガブリエルと異なりリーゼロッテの言はすげもない。
 美少女のスマイルはそのままに、その言葉は凍り付く刃のようだった。
 戦い慣れたイレギュラーズの肌さえ粟立たせる殺気は、まさに『暗殺令嬢』である。
「先のバダンデール家のゲームの件はアーベントロート家の勢力圏ッスよね。
 あのゲームで改めて人の欲の純粋さと、そのベクトルが些細なことで振れることを学んだッス。
 リーゼロッテさんもそれは元々知ってたはずッス」
「クリスチアンがどうかなさいまして?」
 スウェンの言葉をリーゼロッテは涼しい顔で受け流した。
 彼の『遊び』を感知出来ないような暗殺令嬢では無かろうが、咎なしとは逆に恐れ入る。
 幻想蜂起は貴族にとって非常に不愉快なイベントだったに違いないが、彼女のような幻想貴族は自分にとって民衆の痛みや人命に酷く無頓着な事は知れていた。今後の蜂起は嬉しくないが、フォルデルマン三世を巡るレイガルテとの綱引きで先に動くのは好ましくない、といった所だろう。証拠が上がらず、フォルデルマンの不興を買えばアーベントロート家に取り返しのつかない損失が出る、計算はそんな所か。
 この国で民政が後回しになるのは日常だが、酷薄な言葉は『リーゼロッテのイレギュラーズへの対応が特別である』と改めて知らしめるに十分だった。イレギュラーズだから相手にしているのだ、彼女は。そうでなければこんな嘆願、「仰って?」と言うまでもなく叩きのめしてしまうのだろう。
 だが、これは逆にチャンスでもある。
「死人に口なしとはよく言ったもんですがね。
 断られた手前、しつこい男は嫌われるかも知れませんが――
 もうちょっとばかりちょいと口を利く躯の話を聞いちゃ貰えませんかい?」
「冗句の心得は見事ですわね。ええ、ええ。幾らでも話して下さいましな」
 骸骨然としたヘルマンの軽口に気安く応じる姿を見れば分かる。
 ここに居るのはリーゼロッテに話を聞かせる事の出来る数少ない存在――イレギュラーズなのだ。
 滅びの未来同様に、『ゲーム』と言った以上は、彼女の結論も定まっていない。多分、まだ。
「――まぁ、説得も良いがの。そう。良ければ、もっと具体的に御主の話を聞いてみたいんじゃ。茶でも飲みながら」
 案の定つれない侯爵令嬢の言葉を受け、ルアが上手く場を仕切り直した。
「お茶が欲しい」と言った彼女に、にっこりと笑ったリーゼロッテはサービスたっぷりな事に自分で白磁のティーカップに給仕までもしてみせた。それは恐らく彼女曰くの『オトモダチ』に見せる特別なのだろうが、この国の一般的な常識から言えば『暗殺令嬢が自ら入れた茶に口をつける』のは至上の恐怖である事は言うまでもない。
「孤児院焼き討ちの依頼ではどーも。あの時の茶も美味かったぜ」
 様々な問題を一顧だにしないレイチェルは肝が座っており、
「リーゼロッテ嬢はとてもかわいらしいよね。なかなかつれない所も最高だ」
 ……ちゃっかりと勧められるままに彼女の横の椅子に陣取った竜也等、殆ど奇跡の産物である。
 閑話休題。
「今のサーカスをどう思ってるにゃ?」
「単刀直入に聞くのであるが、リーゼロッテ殿はそも――
 証拠云々は一度さて置き、今回の一連の事件にサーカスが関係があると考えておいでであろうか」
 シュリエが、ボルカノが問い掛ける。
「まぁ、素敵な公演でしたわね。個人的な興味はそこまで。奇術の類は一度見れば十分ですわ。
 もう一つ、ボルカノ様の質問については――そうですわね。状況的に黒に限りなく近いグレー、かしら。
 ああ、念の為申し上げておきますけれど、これは皆さんの信頼を担保にしての評価ですわよ」
 イレギュラーズが言わなければ聞く耳持たないが、お前達が言うならば聞いてやる、という先から知れた話である。
「有り難くも、半ば以上は信じていただいていると仮定して。
 サーカスがもたらす混沌は非常に消費が激しいものになります。
 村人や、それに付随する作物や商品を消費しなければならない。幻想全体の体力を奪う行いです。
 ……それでも、手伝っては頂けませんか?」
 リーゼロッテからの言質を引き出した上でキュウビが話をもとに戻した。
 小細工無しの直球勝負はある種彼女の覚悟を示している。
 そもそもイレギュラーズが為すべきはこの一点のみである。別所で『戦う』仲間達の為にも何とかこの令嬢の首を縦に振らせなければならない。何時機嫌を損ねるか分からない『乙女』相手に食い下がるのはそれ自体が大変なリスクだが、怯んでいる場合では無かった。
「ローレットはサーカスへの攻撃を考えています。
 自分達が保護されていると思ってやりたい放題して――安全地帯にいると思い込んでいる連中を炙り出して叩きたいのです。その為の力を貸していただきたいのです」
「へぇ」
 キュウビの言葉に赤い目を細めたリーゼロッテの口元から小さな牙が覗いた。
 ピンク色の舌で薄い唇を軽く舐めた彼女はこれまでとは打って変わって蠱惑的に楽しそうな顔をしている。
 キュウビにその心算があったかどうかは知れないが、この一言は多大な意味を持っていたらしい。成る程、これまでの説得では『リーゼロッテに何をして欲しいかを言っても、具体的にローレットが何をするかまでは言っていなかった』。その中身が『攻撃』なる物騒だった事が、この危険な令嬢の興味を引いたのは間違いない。
「リーゼロッテちゃん!!!
 このままじゃ殺しのオシゴトがお国がなくなって無くなっちゃうから! なんとか考え直してほしいんだ!」
 必死の体の奏が言う。
「以前依頼で愛を語りましたよな、そのよしみということで、なんとか!
 なんとかサーカスへの対応を良い方向に考えて頂けませんでしょうか!?
 何なら、また愉快な話もしますから。きっとご満足させますから、何卒。何卒!」
 平気の体で泣き落としに走れるのはこの灰の強みである。
「サーカスを野放しにしておけば、今以上の何かが起きるかも知れない。
 このままにしていては『暗殺令嬢好み』の……楽しい、と言ってしまったら不謹慎だけど……事案まで無くなってしまうかもよ? 民衆が無くなれば享楽も潰えると、そんな感じにね」
「暗殺令嬢。貴様、それとも……敵の手の上で転がされるのが趣味なのかな?」
 ファインプレーから生まれたここを好機と捉えた津々流とリュグナーが幾らか煽るように、挑発めいてそう言った。
「サーカス如きにウカレまくって、貴女へのキョウフすら忘れるナンテ……
 ねぇ、オジョーサマ、有頂天に伸びたハナッパシラ、思い切り叩き折ってみたくないデスか?」
 ジェックが続く。
「伸びた鼻を折るのに大したことをする必要はありません。
 少し国王陛下にお話するだけ……きっと他の貴族も動くことでしょう。悪目立ちはいたしません。
 それに、実際の後始末は私共が請け負います。勿論、お望みならばリーゼロッテ様もご参加いただいても構いませんが」
「ローレットは事件の現状を非常に重く見ている。
 その原因となったサーカス排斥のため、現在総力を挙げて動いているという訳だ。
 民衆の扇動はもちろん、諸貴族やあなた方三大貴族の説得。
 最終的には国王への説得をもって、この国からあのサーカスを完全に消し去る想定だ。
 これだけのお祭り騒ぎ、傍から見ているだけではつまらないだろう?」
 挑発めいた二人と対比を作るようにカシエとガドルは丁寧にそう述べた。
 この四人が織り成すのは【令嬢唆し隊】のチームワーク。
「それに、御令嬢の先の話を逆手に取るなら、『動きが遅れる事も失点に成り得る』のではないか?」
「更に敵が尻尾を見せるのを待つか、それとも我らを動かすか。
 悠然と構えるのが淑女のたしなみとはいえ、好き勝手にされるのを看過するのはリーゼロット嬢の趣味ではないだろう?
 ならば我らを使い、幕を開けるといい。さすれば、俺は、貴女のために踊って見せましょう」
「幻想蜂起が起こった通り、もう個々の事件じゃ済まないわ。
このままじゃきっと兵隊や貴族にも、心の弱いものから狂乱が伝播する。人間なんて生き物はどんなに恵まれてても大なり小なり不平不満なんて抱えてるものだもの。
 好き勝手した連中には相応の代償を払って貰わないと、幻想という国自体が舐められる一方よ。付け入る隙を見せれば他国の介入もね。
 それに、色々言ったけど……その、貴女の後押しがあれば私だって心強いわ」
「リーゼロッテ様……愛しているのです。
 完璧とは言えないでしょう。私の目から見ても悪しきところは多い。
 それでもどうしようもなく、この故郷を愛してしまっているのです。
 この気持は損得では表せない。だから我が故国を笑いながらかき乱す、あの者共を許しがたいのです」
「サーカスに乗じて民衆虐めるのは悪かねぇが、このままだと幻想自体が滅ぶぞ?
 お前の遊び場無くなっちまうんじゃねーか?」
「糞鼠(サーカス)どもは纏めて晒し首にしてやりゃあいい。
 アンタに逆らった民衆より無様に――皆殺しにすりゃあ、きっとサーカスより面白いショーになるぜ?」
「本当に愉快な方々ですこと!」
 ここが勝負と殺し文句を遅れて添えるのはガドルとミラーカ、ジョーに情熱の竜也、更には露悪的なシュバルツとレイチェル。
「向こうは元々の演目に無いものを、公演の外でお披露目してくれたみたいですし。
 ……いや、実はそれも演目の内だったって握っているなら笑いますけどね。
 とりあえず、芸を見たなら御捻りを、彼らの懐に投げ込みませんと。
 ということで、まあ第二部みたいなものだと思って、見物をお楽しみになっていただけたらなという所存です」
「ええ、きっと特等席でご覧に入れます。
 ――サーカス第二幕、演目は、『シルク・ド・マントゥール』vs『ローレット』。
 求めるお代は『サーカスなんて鬱陶しい』、麗しき御身のその一言ばかり」
 そして、悠に続き、恭しく――芝居がかって礼をしたマルクに、再び鈴の音が転がった。
 畳み掛けるような説得は奏功したか、一頻り笑ったリーゼロッテは楽しげな雰囲気のままこう言った。
「ええ、ええ。皆さんがそんなに私を楽しませてくれると言うのでしたら、協力するも吝かではありません。
 陛下にご進言申し上げれば良いのでしょう? 『サーカスは、もう十分』と。
 それに、申し上げておくならば、私も別にこの国を愛していない訳ではございませんのよ?」
 リーゼロッテの言葉は恐らく真実、恐らく本音なのだろう。
 己が享楽を絶対的に保証する『この国』を他ならぬ彼女が愛していない訳は無い。
「ああ、そうそう。幾つか注文を足しますわ」

 一つ、皆さんは今後共私の『良いオトモダチ』でいてくれること。
 二つ、『良いオトモダチ』は私のお願いを喜んで聞いてくれる素敵な方達でありますように。
 三つ、灰さんは後で本当に面白いお話をしてくれること。

「――約束を破ったりしたら、片っ端からうっかり首を刎ねてしまうかも」

●レバレッジ・レイガルテ
(……まずはレイガルテ殿を説得出来なければ、実際何も始まるまい。
 武力においても影響力においても、『幻想』においては比類なきお方。
 その方に、サーカスを排除すべきと進言するのであれば、理を尽くすしかあるまいが)
 恐らくガレインの考えは完全なる事実だろう。
 他の二人が仮に味方についてもレイガルテが徹底的な敵であるならば、話は恐らく通らない。二人がサーカスを排除すべし、と述べてもレイガルテが逆を張れば結果は裏返る。そういう政治権力の持ち主だ。
 何れも一筋縄ではいかない幻想貴族達だが、その最たるものは黄金双竜である事は違いない。
 彼こそ幻想において最も強大な貴族であり、最も貴族らしい貴族である。
 市民を賤民と見下し、己が正当性を微塵も疑わない――傲慢が服を着て歩いた貴族主義、権威主義の塊である彼は有能な政治家でありながら、その力を下々の為に振るわない。
 そんな人物を説得せねばならないのだから、レイガルテ・フォン・フィッツバルディをローレットの望むてこにするのは今回のミッションの中でも指折りの難所と言える。
 果たして、他の二名の説得と同じようにレイガルテのもとにも多くのイレギュラーズが訪れていた。
 イレギュラーズが彼との謁見を許されたのは、偏にこれまでの貢献からに他ならない。
「まずは貴族に恩を売れ」と大号令をかけたレオンの目論見は正しかったという訳だ。
「……して、何用か。ローレットの特異運命座標よ」
 黒壇の机を前に、深く椅子にもたれかかったレイガルテに代わり、その傍らに立つ黄金騎士がそう問うた。
 護衛のザーズウォルカ・バルトルトは相手が今をときめくローレットのイレギュラーズであっても、主君の傍らを離れる事は無く、同時に一同を油断なく睨めつけていた。
 他の二名とは別の意味でレイガルテは厄介だ。気分を損ねたら間違いなく話はそこで終わる。
 薄氷を踏む展開はリーゼロッテと同じだが、あちらが直接的な身の危険を担保にしている分、多少の無礼が許されるのに対して、こちらは殺されはすまいが即座に失敗が有り得る分、中々厄介だ。
 頷き合ったイレギュラーズは実に慎重に話を進めんとしている。
「まずは、御目文字叶いました光栄を感謝いたします。
 お初にお目に掛かります、フィッツバルディ卿。
 私は先だって御領内における武装蜂起への対応を拝命いたしました一団が一人、アイリス・ジギタリス・アストランティアと申します。本日は身共一同、卿にお願いしたい義があり、拝謁賜りました」
 折り目正しく頭を下げたアイリスにレイガルテが短く「うむ」と応じた。
 主君の頷きとアイリスの態度を見たザーズウォルカが「申してみよ」をイレギュラーズに促した。
「初めまして、レイガルテ君。今回は報告とお願いに来たのだよ。
 例のサーカスの一団、アレが今回幻想で公演してから暴動が起き始めたのは間違いない。
 それには――例の御伽噺の『魔種』が関わっていると私達ローレットは疑っている。
 それでサーカスの公演の許可を取り下げてもらいたい、と」
「公演許可を与えたのは陛下であろう」
「その通り。だが、我々は知っている。この国で一番力を持っているのが誰なのかを。
 何も損になる話じゃない。むしろ断れば損になる話だ。
 今暴動が起きている最中というのは他国からの侵略の隙になる。
 内戦の隙に鉄帝や天義に侵略されたらどうなると思うかな?」
「フツウの反乱というのがどんなものなのか、オレには分からないのだけれどさ。
 シュギもシソウもなく、カンジョウだけで反乱がおき続けるとしたら止めるテダテがあなたにはあるのかな?」
「不敬であるぞ!」
「戯けが。わしに児戯を語るでないわ」
 ジークとイグナートの物言いにザーズウォルカが声を荒らげるが、鼻で言葉をあしらうレイガルテは取り合わない。
 少なくとも、フォルデルマンよりは余程国王らしい風格を持っている。
 普通ならばこれで終わり、話にならない所だろうが、これまでの積み重ねがモノを言っている。
 多少無礼であろうと、貴族で無かろうと――イレギュラーズは使える駒であるという評価を勝ち得ている。
 イレギュラーズが踏み込めるのは、人材を好むレイガルテが、政敵を持つ彼が今後の世界のキャスティングボードを握るかも知れない自分達との関わりを簡単に断つ事は無いという読みがあっての事かも知れないが。
「流石のご慧眼でございます。
 無論の事、此度の事態に対しては御身もご把握なさっているものと存じますが……
 敢えてのご進言をお許し下さい。現状に対しての対症療法には限界があるものと存じます。
 なれば、この問題を解決するには根治を目指すしかないものかと」
 わざとレイガルテを『持ち上げた』シルヴィアは中々強かである。
 権威主義の魔物とは言えど、彼は幻想の大黒柱だ。決して無能でも愚鈍でも無い。
 ……と、言うよりこれだけ派手な問題が起きているのにのほほんとしている者等、国王位のものであろう。
「……人の口に戸は建てられん、と言うのが私の世界であった言い分だ。
 如何に隠そうと、何れ民衆はそれに気づき、確信は得られずとも噂は広がる。その時点で、未だ国王がサーカスをサポートしていたのならば……民衆がどう思うか、推して知るべきだと考えるが?」
 シグの言葉にレイガルテが答える。
「そうまで言うのならば陛下に具申するまでの証拠でも固めておるのだろうな?」
 有能を好み、無能を嫌う――取り分け口だけの者を唾棄するレイガルテの問いは奇しくもリーゼロッテと同じものだったが、『危険度』は此方の方が段違いに高い。リーゼロッテは『分かっていて尋ねた』だけだが、レイガルテは『答え次第では話にならない』と判断する可能性すらある。
 この危急を救ったのは【月夜ニ吼エル】の二人、クロジンデとレストだった。
「ご機嫌麗しゅー。ローレットから耳寄りな情報のサービスだよー」
「レイガルテ様は、例のサーカスについての細かい情報はご存知かしら~?」
 些か間延びした声に気安い調子。ザーズウォルカは咳払いをしたが、「続けよ」と短く言ったレイガルテはいい加減『イレギュラーズの属性』に慣れているのか、普段の貴族主義を妥協して気に留めていない様子である。
「どうやら、彼等サーカスが民を徒に混乱させているらしいって話があるのよね~。
 これって貴族様にとっても一大事じゃない? だって、大変でしょう。もっともっとあんな事件が続いたら。
 それに、実はこれいい加減な話でも、あてずっぽうでもないのよね~」
「ボクはさー、この間の群発蜂起の時にフィッツバルディ領の町の鎮圧を担当したんだよねー。
 蜂起を煽ってた革命家気取りたちの首をチョンってねー。その時さーそいつら、全員全部隠蔽系のギフト持ちだったんだよねー」
 クロジンデは自身の話にレイガルテの厳しい眉が少し動いたのに気付いていた。
 長くローレットの受付をしていた彼女は、調子とは裏腹に観察眼に優れ、捨て目が利く。
 そんな性質が彼女のGifts Sorting Clerk (ギフト)に現れているのかも知れない――のはさて置いて。
「そのことで思い出したんだけど、シルク・ド・マントゥールの公演を見に行った時も、連中全員ギフトが隠蔽系だったんだよねー。
 偶然にギフトが揃ってるってそうそうないことだよー。諜報機関がスカウトで揃えたとかじゃなければねー」
「皆を楽しませる為のサーカス団員にそのギフト要る?」と問うたクロジンデの言葉は中々説得力があった。
 これまでの積み重ねで上手い調査を繰り返した結果とも言える。
「状況証拠と言えばそれまでだけどー、これって明らかに怪しくないー?」
「一連の騒動が有為に頻発し始めたのは、『幻想大公演』以降だ。
 ならば時系列上、原因はサーカスにあると見るのが普通だろう。
 もし、他の貴族が国王にサーカスの退国を進言していたら?
 その時、誰あろうレイガルテ・フォン・フィッツバルディが関わっていなかったとしたら?
 民衆や他の貴族達、果ては国王からどのように見られるか……もはや言葉にしなくてもわかるだろう。
 だが、逆に他の貴族よりも先んじて国王に進言していたら?
 幻想の為に先んじて行動したという実績を得られるだろう。
 少なくともこれだけの騒動が起きたのだ。事態は確実に動く。
 迅速に決断しなければ他の貴族達に出し抜かれるぞ。動くは失点ではなく、動かぬこそが失点だ」
「相次ぐ理無い狂乱に、苛立つ民衆、彼らを煽動する外国の勢力。
 個々の暴動それ自体は擁する私兵で解決出来るとしても、税収・物流等の悪影響は免れません。
 私兵を動かすにもコストは必要で、動かした時点で損といえば損になります。
『暗殺令嬢』の動きも捨て置け無い所でしょう?
 公爵様にとっても、この混乱は終結させるべきものと思います」
「政敵であるアーベントロート領主が王にサーカスを危険性を『進言』し、その結果今回の事件が終息に向かったとしたら、卿は政敵にアドバンテージを取られることになる。そりゃあ、面白くねぇよな。
 そうなる前に卿も王へ『進言』して手柄を独り占めされないようにした方がいいんじゃないか?」
「不敬に不敬を重ねよる。実に胡乱な物言いよな」
 クロジンデの重ねての言葉と、ゲオルグ、ミニュイ、ハロルドの進言に鼻を鳴らしたレイガルテだが、ガブリエルよりは動きやすく、リーゼロッテよりは真っ当に政治家である彼は実際動き方を考えてはいたのだろう。
 顎髭に触れながら片目を閉じる彼は、沈思黙考の風である。
「私はフィッツバルディ公領内での幻想蜂起を収束させる依頼を遂行した。
 どちらも先導者や首謀者がおりそれに民が扇動される形での蜂起だった。
 逆説首謀者、扇動者がいなければ民衆は蜂起することはなかっただろう。
 そして今回の件の扇動者達は件のサーカスによる影響を受けている可能性が高い。
 聡明なフィッツバルディ公であれば分かるはずだ。
 シルク・ド・マントゥールさえいなければ今回の蜂起は起きなかったし、これからも起きることはないだろう。
 フィッツバルディ公の権威を以てすればサーカスの一つぐらい追放するぐらい簡単なはず。
 貴方だからこそ、この仕事は児戯にも等しいのだ。どうぞ、ご決断を」
「民を疲弊させ、領地の力を失わせるこの暴挙は、ひいてはレイガルテ様の威信に傷をつけることになる。
 支配者の所有するものに傷をつける者を野放しにしては御身の名誉を汚されたも同然。許してはおけませぬ」
「そうそう。貴君とは前々からお会いしたかったのだ。
 人心乱れ蜂起は跳ねっ返りの塵芥が威を唱え、民という虫は鳴き喚く。
 無論、卿には些事、しかし王には如何?
 不敬を承知で申しますが彼という楔無くしては理想的な均衡にあらじ。
 なれば此処で卿の存在を示し、均衡の主として存在を示しませい
 卿こそ貴族そのもの。高貴なる者を従え、誰よりも君臨する――即ち黄金の竜が如く、ね」
「公爵様、先の騒乱を以て、もはや事態は捨て置けぬ段階に至ったものと存じます。
 公爵様のお力は存じ上げております。しかしながら、覇気の足りぬ伯爵や享楽的な侯爵令嬢に先を打たれては、この国の未来にも影がさすというもの。陛下を動かすにあたり、三大貴族を代表する立場として動くに相応しき方は、公爵様をおいて他に居りませぬ」
 エイヴ、ガレイン、ラルフに続いたリースリットは幻想貴族の子女であり、教育を受けている。
 四人のこの言葉は実に幻想貴族のプライドをくすぐるものであり、当のレイガルテ以上に傍らのザーズウォルカに響いているようにも見えた。その言葉に頻りに頷いた彼を見たリースリットはそちらにも水を向けてみせる。
「――とは、思いませぬか、ザーズウォルカ殿」
「全くその通り!」
 思わず応えた彼は咳払いを一つした。
「……不敬を失礼いたしました。レイガルテ様」
「良い」
 顎髭にもう一度触れたレイガルテは集ったイレギュラーズを見回した。
 二十人近くを数える彼等は謂わば『レイガルテを頼りにしてきた者』である。リーゼロッテの元に集まった人数を知らなかった事が救いだったが、これは一定の満足を得るものだったらしい。
「結局よ――腹が立つんだよ、俺ぁよ」
「物言いは勘弁してくれよな」と前置きしたオロチが言う。
「要するにアイツラは舐めてんのさ。幻想もローレットも、『黄金双竜』もな。
 お膝元で好き勝手してもアイツらにゃなんにも出来ねえって思ってんのさ。
 だから潰す。アンタに代わって潰してやるよ。生憎、舐められるのは大嫌いなもんでね」
「その結論は嫌いではない。
 そう、この国ではわしを軽んじる事は許されない。
 何人もこの威光を前に頭を垂れない事は罪業よ。
 貴様等も例外では無いぞ、イレギュラーズ。だが、貴様等は助力を得る相手にわしを選んだ。
 それは真っ先に評価すべき事柄よ」
 レイガルテは「なあ、梟よ」と珍しく自身からギルバートに水を向けた。
 無論「は」と恭しく応じたギルバートはここぞと彼に働きかける。
 何ヶ月も前から幾度と無く名前と顔を売っていた甲斐があったというものだ。少なくとも他のイレギュラーズよりは『覚え』の良いだろう彼は同じく【梟の瞳】のヘイゼルを傍らに従えてここぞと一押しを仕掛ける。
「貴族社会の崩壊がサーカスの目的ですぞ。
 既に蜂起の機運が高まり始めており、このままでは御身の害になるは必定。
 また蜂起を利用する痴れ者が出てくる可能性もございましょう。
 先に誰かも言った通り、早期に手を打ち卿の主導の下で被害を抑えることが出来れば三貴族の中でも更に優位に立てるものかと愚考いたします。
 ガブリエル様とリーゼロッテ様も動き始めているとの情報もあります。
 お急ぎください、幻想の覇権は卿にこそ相応しいもの――どうかこの梟の瞳にお任せを」
 ガブリエルとリーゼロッテが動いている、とは酷いマッチポンプもあったものだ。
 だが、レイガルテもその辺りは承知の上だろう。お互いのやり取りは多少の腹芸を含んでいる。
 但し、『一応』ギルバートのファーストチョイスがレイガルテなのは事実である。
「さて、先の幻想で一旦は鎮圧をローレットに任せて頂けたのは、武力制圧により兵を動かすことによる戦費の高騰、兵員の疲労などの『コスト』の面もあるとは思いますが、一番は蜂起自体は少数の扇動による陽動に過ぎず、本隊、本命に備えたと云うことであると思われます。
 幸い、そういった事態は起こりませんでしたが、これは杞憂であった等という単純なことではなく先の蜂起は本番のための演習と仕込みに過ぎなかったという可能性が高いのですよ。
 つまりは此処は相手の動きを待つのでは無く、打って出るタイミングである、と進言致しますですよ」
 ヘイゼルが言葉を添えるとレイガルテは大きく頷いた。
 彼は恐らくイレギュラーズが同時多発的に働きかけを行っている事を読み切っている。
 そして自身をそれなりに上手く説得せしめたその手腕を評価している。逆にこのタイミングで動けば――恐らく若造のガブリエルや小賢しいリーゼロッテも流されるだろうから――まさに『損は一つもない』という計算が立ったという事だろう。
「いいだろう、特異運命座標。貴様等の戯言に乗ってやろう。
 だが、ゆめ忘れるな。貴様等が第一に為すべきはこの黄金双竜の威光を広め、この事件の解決が誰の力であったかを知らしめる事である。決して小賢しい小娘や若造に遅れを取るな。
 一つの漏れも無く、完全完璧に我が下命を遂行せしめよ。
 それが叶うなら――貴様等が得るものも少なくはなかろうよ。間違いなく、な」
 レイガルテの言葉はまさに誇り高い竜のそれである。
 彼は誰よりも傲慢で自負が強い。ならば一つの間違いも無くその宣言を遂行せしめるだろう、と。
 彼の言ではないが、イレギュラーズが場違いな安心を覚えたのは当然だ。

●レバレッジ・ノーブルズ
 貴族諸派を個別に説得するのは手間が掛かる。
 これを解決する為のローレットの仕掛けは簡単だった。
「説得かぁ、あまり得意ではないんですがね?
 ま、物の数が必要なのは見ての通り、参加させてもらいますよ」
 アベルの言う通り、『会場』には沢山の貴族達が居た。
 バラバラの貴族達を一箇所に集めて同時に畳み掛ければより効果的であるという――有象無象扱いすれば途端にへそを曲げそうなレイガルテやリーゼロッテには使えない手段だが、最近の蜂起で心配事の多い貴族達はローレットの「今後について相談したい」という言葉に乗って見事に集められてしまったという訳だ。
 先に述べた通り、貴族達が王都に集まっている日程を狙ったのはこれを含めての事である。
 無論、王都に居ない、今回集まらない貴族達も確かに居たが、そこはそれ。曰く「馬より速く、パカダクラより長く走れる」と豪語するアルプスが文字通り大車輪の活躍でそちらは何とかしてくれる事だろう。
 ホログラムの双肩に乗る責任は重たいが、走る事が仕事になるなら本望には違いないだろう。
 飛び回るのはイシュトカも同じく。
 彼に車輪はないが、彼には経験という武器がある。
『悪徳貴族を引きずり下ろせ』事件の結末は圧政を敷いた非協力的な貴族は地位を失いガブリエルの信頼する貴族が新たに統治者として着任したというもの。
 この事実は諸派の説得に少なからず効果を与える事は間違いない。
 無論、関わり合いがあった『彼女』からの協力も期待出来る所である。

 ――『   は特異運命座標諸氏が『サーカス』に介入する案に同意する』

 そして幻想中を駆け回るのは今回のキーアイテムである『同意書』を作成したゴリョウも然り。
 彼が目指すのはイレギュラーズの関わった事のない貴族領。彼が託したのは沢山の同意書。それは今回の件が『オール幻想』で無ければならない、それがより強い効果を生むだろうという事実に拠るものだ。
 同じく王都外での活動を行うR.R.の集めた情報もきっと役に立つ事だろう。

 ――肝に銘じろ。交渉とは己の望みを押し付けるのではなく、互いが納得する結果に至る事。
   或いは、相手に『そう思い込ませる』事こそが目的だ。

 交渉に一家言ある彼のこと、きっと上手くやる。
「自らの私財を投げ打ってでも事態を収めた領主様なんだもの、小細工は無用よね」。
 先にそう言って出立したアーリアは『スタンピード、スタンピード!』事件で関わったヴィルフリート・ロザウッドを頼る事を決めていた。彼の胆力と人間性は十分に信頼出来ると見込んでの話である。
 同様にはぐるま姫も先の依頼で十分な温情と説得するに足る人間味を見せたエイボス・イミニール男爵を頼ろうと動き出していた。「屋敷から眺める町並みの穏やかさが好き」といった彼がそれを守る事に力を惜しまないと信じたいという想いもある。
 一方でシラスも『憎しみと蔑みの交錯点』事件で十分な恩を売ったグルブーム領主のムーフ家を動かそうと既に急行を済ませている。上手くムーフ家の顔が効く他の貴族の紹介を受けられれば、更なる戦果も期待出来よう。
 王都の貴族達にはセティアが儚き花でかなりエモめに五月雨訪問する事になっている。
 ぱなく下手な方向から、相手のプライドをくすぐり倒す決意をした彼女はきっと――帰宅後にさぞ嫌な顔をするのだろうが、その辺りは何処かでエモくバランスを取っていただく余談として。
 さて、兎に角貴族諸派の説得を託されたイレギュラーズが為すべきは一枚でも多い『同意書』を集める事である。王宮で国王に直訴するのは力の弱い貴族にはかなりの酷である。だが、同意書を携えて『名前貸し』をする位ならば心理的抵抗は弱まろうという、これもイレギュラーズ達の作戦である。
「サーカスはね、ミミお出掛けしててよく知らないままなの!
 貴族サマにYesと言われれば完了? ナールホドー、それまで待ってればいいんだね!」
 細かい事をぶっ飛ばして極論を言えばミミの言う通りである。
 さあ、ローレットの用意した広い会場を舞台に、乱獲無双の如きイレギュラーズ達の戦いが始まった。
「私はロズウェル・ストライド。皆様方で言う所の旅人で、元々は騎士でした。
 今ではローレットに所属させて貰っています」
 強いカリスマを感じさせる佇まいはロズウェルをひとかどの人物に見せている。
「単刀直入に。我々、ローレットに所属している者達でサーカスに関して王の庇護を止めさせようとしている動きは、前回の事件の被害も踏まえての本気です。このままでは前回よりも大きな被害が出る恐れもあります。
 どうか御身の為にも積極的なご協力を。どうか我々の嘆願にお力添えをお願い致します」
 そんな彼が繰り出すのは実にオーソドックスな周知・説得である。これは正しい。
「サーカス連中の追放は確実に、完全に行わなければならないのです。
 近頃幻想を席巻する民衆の狂気。アレは連中に魅入られた人間の末路なのです。
 ……ご自身がそうなる可能性なんて、可能な限り潰したいですよね?」
 クーアの言葉は正論でこれには貴族も頷く他は無い。
「昨今の事件は経済に影を落としているだろう。
 ローレットの試算に過ぎないが、被害額はざっと――この額を下らない。
 これは先の事件までの被害だ。対策が遅れれば、この先はこんなものでは済まないぞ」
 早速、理詰め実利での説得を始めたラダに何人かの商業系貴族が呻き声を上げている。
 彼等にとって赤字の数字は至極見たくないものだ。民政に興味はなくとも、自身の収入には敏感なのだ。
「これがサーカスの国内入りから各事件の発生、幻想蜂起の現場で取得した情報。
 それでこっちがローレットが手に入れたそれらを統計としてまとめ、相関性を示すデータ」
 持ち前の捜索能力、資料検索能力をフルに発揮してこの場にデータを持ち込んだアニエルに何人かの貴族が食いついた。
「ルアナはね。幸せって人それぞれだと思うの。
 生まれや階級、経歴、性格。みんな違うでしょ? だから幸せも人それぞれ。
 誰かの幸せは、誰かの不幸せ。だから『みんなが幸せの為に』って本当は難しい。
 ……あのね。このままサーカスが皆に不安の種をまき続けたらどうなると思う?
 貴族は、貴族たらしめるものがあってこその貴族。領民とか守ってくれる私兵とか。
 不安が不安を呼び、疑心暗鬼に陥り、暴動が起き続けたら。
 貴方達を守ってくれるそれらは機能しない。何れ、機能しなくなる」
「住民が頭おかしくなったり、殺人事件の多発、市民の暴動……
 サーカスが来た直後に色々と変わったと思わねぇか?
 まぁ、これで何とも思わねぇなら良いんだが……次は、お前らの従者とかが発狂しなきゃいいよな?
 例えば今夜皆が寝静まった時とか。例えば明日お前が出かける時とか」
 丁寧に言葉を連ねたルアナの説得に、恐ろしげな顔を見せたMorguxが合わされば、気弱そうな貴族達にはかなり効果的な脅しになった事だろう。
 一方で『太陽』を軸に話を進めるのは鈴音に侠、レイヴンだ。
「どう考えてもサーカスが来てから危ない事ばかりですの。
 もっと危険な事が起きてからでは遅いですわ。
 国が疲弊しきってから何か事が起これば大惨事にしかなりませんの。
 今ならまだ間に合う、今動かなければいけないのです」
「礼儀作法はあまり知らない身でして。どうか貴族様の寛大な処置のほどを。
 実はですね、。サーカスの話。我々としては貴族の皆様に危害が及ばないかをまず心配しているのですよ」
 今ひとつ反応の鈍い貴族を捕まえた侠は持ち前のカリスマで彼を引き込み、言葉を続ける。
「この国を動かしていくのは皆様方です。我々が余所者で信用ならない、という気持ちを抱かれても仕方ないかも知れませんが……この大きな転機、今回は我々を利用する、くらいに考えて貰えませんか?」
「民に慕われていると噂が広まれば人が集まります。
 人の集まるトコには需要が生まれます。
 サーカスを追放すれば民は新たな娯楽を求めることでしょう。
 ……此処まで語れば、ね?貴方のお力添えを期待しますよ」
 笑顔で差し出された同意書を思わず貴族は受け取ってしまう。
 強かなレイヴンは三大貴族からの信頼の証と称して懐の黒布をちらっと見せる『奥の手(スパイス)』も忘れない。
 現在進行中の作戦を『てこ』に取る両得を狙うのはオフェリアだ。
「現在、イレギュラーズによってとある動きが行われております」
 少なくとも聡明ではありそうな貴族を捕まえた彼女は声のトーンを落として密やかに告げる。
「三大貴族の方に上手く話が通ったならば、次は皆様の番です。
 その際、どれだけ敏速に動けるかどうかは後の評価にも影響するかもしれません
 ……早めに備えておくのが得策ではないでしょうか?」
「イレギュラーズの作戦が失敗すれば何もしなければいいだけなのです」と告げた彼女の言葉は説得力があった。
 念の為、も含めて一枚噛んでおこうと考える貴族達が現れるのは時間の問題だった。
「既に三大貴族の皆さんにも、本件についての働きを行っております。近隣の方々からも続々と同意をいただいております。速やかにご同意いただくことは、貴方様の今後を考えるに最善の策と愚考致しますが……」
 脳裏に友人(ゴリョウ)との乾杯を思い浮かべ、力を尽くすタツミの言はそつがない。
 より直接的に、直線的に、そして或る意味最も効果的に仕事を進める者もいる。
 リノ・ガルシア――彼女は兎に角色っぽく、彼女は兎に角自分の美貌を良く存じ上げていた。
「是非とも貴方様からも応援をして頂きたいの、この国の要の一人である貴方様に」
「む、そうか」
「これからもローレットと良い関係を築いていきたいと思いませんこと?」
「そ、それは、そうだな」
「後悔はさせませんわ、きっと。ええ、個人的にも絶対に。ですから一筆下さいな」
 しなを作って同意書を差し出す彼女が狙い撃つのは言わずと知れた鼻の下を伸ばしそうな男の貴族である。
 慌ててサインをする彼に見えないようにぺろりと舌を出した彼女は、成る程女豹(ハンター)そのものだ。
「ご機嫌麗しゅう」
 仕立ての良い着物を着て、自身の魅力を十分に発揮して――誘蛾灯となるのはキリカも同じ。
「昨今の蜂起の元凶と目される魔種がサーカスに潜んでいる可能性があります。
 それを解決する為、国王陛下の説得が必要で、その為に貴方様のお力添えを頂ければ……」
 ひらりを身を翻した彼女は貴族のややこしい手を見事にあしらう。
「ああ、でもお手を触れてはいけませんよ?」
「領民在ってこその貴族様、そして貴族様在ってこその国でございます。
 足元が崩れると途端に国(ヒト)は倒れてしまいます。
 貴方達こそが崩さない為の脚で支えなければこの国は成り立ちませんもの。
 えぇ、えぇ、決して利に損をする事もなく。情をも濁しません。
 どう取るべきがこの国の『未来』か わかっているでしょう。
 安心して下さい、こちら、天の使いと書きまして、所謂一つの天使ですので──」
 にっこりと笑うティアブラスにせよ、
「前回は少数派になっちゃた強硬策がこれからは多数派になるって云うのは凄い魅力的だと思わない?」
 敢えて前回ローレットを頼らなかった強硬派を狙い撃つ芒といい、イレギュラーズの手管は様々。
 総力を結集して貴族諸派を切り崩すその様はまさに怒涛のようだった。
 彼等の『猛攻』は止まる暇を持ち合わせていない。
「こんな事が増えたのは、サーカスが来てからだ。全てそれが原因だ。
 貴方達の統治に落ち度はないんだから」
 嘘も方便と言うがこの際使えるものは何でも使え。
 ジェニーの言葉に傲慢な貴族達の何人かが頷いた。彼等は自身を顧みる事はない。
「全くその通りだろう? ゲイヤ卿」
「うむ。イレギュラーズとは流石、物の道理を理解しておる」
 ジェニーの関わったトリコット村の領主たるゲイヤ卿は酷く傲慢で乱暴な鎮圧を図っていた。
 これを上手くそらしたのがジェニー達イレギュラーズだったのだが、彼はその辺りを察知してはいない。唯この場で貴族の絶対的正当性を持ち上げる言葉に強く賛同させるには非常にコントロールしやすい人格である事が知れていた、という事だ。
 果たしてジェニーの狙い通り、イレギュラーズの言葉を肯定的に広めだしたゲイヤ卿は見事に策に嵌っている。
「説得、か。俺が最も苦手とするところなんだが……ああ、丁度いい所に」
 知己と縁を生かして『苦手な仕事』に活路を見出しているのはプロミネンスも同じだった。
『籠の中の平和主義者』事件は幻想には珍しい良心的な貴族の依頼だった。プロミネンスは口が上手くはないが、件の事件で完璧な解決を見せた彼に対する貴族の信頼は厚く、同意書を得るのは簡単だった。
「皆様、是非、イレギュラーズの皆さんにご協力をお願いいたします」
 貴族の中でも取り分け好意的な働きかけを買って出てくれたのは先の『一を奪るか四を捕るか』事件で遼人等が救出した公女・テレーゼ・フォン・ブラウベルクだった。
 知己のあった貴族の中でも特にイレギュラーズに恩義を感じていたらしい彼女は今回の動きを知るや否や、王都まで馬車を飛ばし、周囲の説得を買って出たという訳だ。
(正直面倒ではあるんだけど……このままだと、さらに面倒な事態が増えそうだと思ったけど)
 事の他上手く行ってしまった事態に遼人は頬を掻く。因果応報、人助けはしておくものだ。
「大きなメリットって訳ではないけれど……
 私達ローレットは魔種の件もそうだけど、この国の被害もこれ以上は放っておけないと思ってる。
 貴族の皆様方が力を貸してくだされば、私達自身に大きな貸しを作れると思っては下さりませんか?」
 実際の所、ヴィエラのこの言葉への受けは非常に良く、貴族諸派の説得は驚くほどスムーズだった。
 それは彼等が見えない不安と戦っている事実を意味し、同時に。
 この幻想に短期間で強く食い込んだイレギュラーズの驚くべき能力を肯定するものだった。
 彼等はきっと自身が思う以上にこの国で無視出来ない存在として認められていたのである。
 そしてそれは――実は『民衆周知』に努めた仲間達の援護のお蔭だったりもする。
 当然である。貴族とて、領民なしには貴族足り得ないのだ。領民の意見を積極的に容れる事は無かったとしても、選択を迫られた時の判断材料になる事は十分に有り得る。
 貴族達は意識、無意識に拠らず――『ローレットの狙い通りに動かされている』。
「ヤー、一連の事件にもよーやく解決の糸口が見えてきたなー。ここが正念場だ。気を引き締めてかないとな!」
 ロクスレイの、イレギュラーズの士気も自ずと上がろうというものだ。
 不可能を可能にする事が英雄の業績ならば、確かにこの日イレギュラーズは英雄の一歩を踏み出した。
『不可避の破滅』なる神託に抗う事に比べればそれは余りにささやかな奇跡に過ぎまいが――
 私欲と保身に塗れた幻想貴族の意見を纏める事は他の誰にも出来はすまい!
 ぱち、ぱち、ぱちと拍手が響く。
「いや、実に素晴らしい。私も賛同させて頂きますよ。皆様も一口如何ですかな?」
「戯けた道化よ」
 厳密に言えば貴族ではない。だが、この場に居ても何ら不思議はない――
『梅泉を伴ったクリスチアン・バダンデールのその言葉に流石にいい顔をしたイレギュラーズは居なかったが』。

●レバレッジ・シビリアン
「やっと状況が動きそうか。サーカスに身をやつしている辺り、面倒な相手だが。
 手出し出来ない状況を崩す、ということなら……民衆の一人一人を動かす必要がある。
 生きたいのなら敵を見誤るな、とな」
 全く、シェンシーの言は至言であろう。
 時はやや遡る。
 貴族達への働きかけより先に幻想中にサーカスの危険性を知らしめるという大きな動きは展開されていた。
 何せ広い幻想全体に情報を周知させるという一大事業である。この作戦に従事したイレギュラーズの数は他レバレッジに対しても最高であり、重要なこの動きは最後の一押しとしての機能を強く期待されていた。
「やることはいつも変わらない。
 人助けセンサーで困っている人を探し、助ける。今回はそれに、報告が加わるだけだ」
 カザンの短い言葉は、彼がどういう人間なのかを雄弁に語るもの。
「民衆への周知ね。私も事件に関わったけど、やっぱりサーカスを見に行ってた人がいたのよね……
 それにサーカスが来てからこれだけの事件。サーカスがやっぱり怪しいのよね、でも現状王の保護がある以上どうしようもないのも事実だし、彼らの協力は不可欠よね」
「貴族様達への説得は他の人が行ってくれてるしなら私は、街の人に話しをして嘆願を出して貰うとか。
 貴族様の声と民衆の声があれば王様も考えを変えないと行けなくなるだろうしね!」
 ユウに応じたセシリアは「やっぱり、困った時のおば様だよりかな!」と彼女等の情報拡散力に期待している。
「さて、私の出来そうなことは語ることくらいですか。
 今まで起きた関係していると思われる事件の顛末をまとめて問題にならない範囲で民衆の皆さんに語って聞かせてみます」
「わた、私はそうですね。よく通る裏通りの酒場、スラムである程度会話ができる人などに今から私たちがやることを噂話的に話していきましょうかね、えひひっ……」
「まぁ私にできる事はそんなにないんですけど……とりあえず出張パッチワークス! ということで。
 暴動のあった地点やその近くに向かう事にしましょうか」
 四音は堅実な周知に努め、エマは地元の土地勘を生かした行動に、葵はパッチワーク (ギフト)を活かした支援と共に状況の改善を狙う様子。
(分かりやすく多くの人数に周知させ、意見を集めるとなると……退去を願う『署名運動』か?
 それなりに規模があり、かつ効果が見込めるとなれば、ある程度整った街に行くべきか。
 ああ、宿場町ルズベリーなら、商工会が警邏隊を有する大きな街だな。
 既に商人達にとっても、サーカスの存在は商機ではなく不利益となっている筈だ。
 ここの商工会に狙いを付けて、商人達の署名を集めて貰えるよう頼み込むとするか)
『事実と真実』事件で得た土地勘を活かそうとするのはアカツキである。
(ここん所ゴタゴタ続きで民衆も疲れ切ってる。
 ……が、そういう時ほど人は妙な行動力を出すモンだ。
 また一斉蜂起なんて事にならねぇよう、まずは何が起こっているのか説明して、安心させてやらねぇとな)
 民衆周知は、作戦の重要なピースであると共に縁の考えた純粋な善意によるものでもある。
「熱病のように急に来て急に過ぎて行った幻想蜂起。結局は大山鳴動して鼠一匹……って感じやったもんね。
 疲弊して気力失うんもしゃあない。でも、声をあげようとしたことは確かに勇気ある行動やったから。
 やから、今度は直接彼らとぶつかったイレギュラーズの俺達が力と心を尽くす番やんね。
 その行動がイレギュラーズと貴族さま達を動かしたんやって、俺達は敵やのうて同じ国に住む仲間なんやって、そう勇気づけてあげんといかんわ」
 ブーケは【パダッセさま】郊外の村々を回ろうと考えていた。
 情けは人の為ならず。人心の回復はこれ以上の狂気の伝播を防ぐ意味でも効果的であろう。
「このままじゃ国王の目が覚めた時には国が潰れる」
「国王のほうは、我らが店長が向かっていますから」
 少し苛立ったような苦笑を浮かべたルナールに同道のマリスが言う。
「文句を言っても仕方ないですし、頑張りましょう。活動の褒美は……後で店長に請求で?」
「報酬はケーキ3ホールの請求だ、さーやるとしようか」
 冷笑癖こそあるが、案外面白い受け答えもする――万華鏡がルナールの魅力かも知れない。
「僕は今回の騒動に直接触れた訳では無いけれど、どのように悪質かは知っている。
 深緑育ちの僕だけれど今は幻想に住んでいるのだし、無視してこれ以上面倒な事になるのは望むところではないからね。僕個人が行ける範囲は少ないだろうけど、塵も積もれば、山となるだろう」
「ああ。これから面白い事が起きるだろうから、今はただ耐えて、何もせず静観して貰わねば」
 ディジュラーク然り、暴発を防ぐ事こそ重要と雪は考える。
「とにかく足だ。足で、態度で訴えるしかあるまい。
 疲弊しきった中で、何かあったら遅い、などと言う者もいるだろう。
 何かあったら遅い、ではなく。今何かを起こされるとまずい。とにかく黙って見ているように言うしかないな。
 私が後ろ盾になる。はは、盾だけにってか!」
 冗句めいていながらも、揺らがないクロガネの存在がある。
「私、異世界出身でも貴族ですの。
 貴族然と振舞えば民衆の方達にはそれなりに話は聞いていただけると思いますわ。
 もしかしたら、酷いことを言われたりするかも知れませんけど……ここはじっと耐えますわ。
 これは、非道なサーカスを捕らえるための仕込み、トラップの下準備ですもの。
 そのためなら私、民衆に頭も下げましてよ!
 私の世界の領地でやったら示しがつきませんけど、ここは異世界ですもの! ノーカン、ですわ!
 この鬱憤は後々、サーカスの方達で晴らさせていただきますから!」
 ケイティの心根はきっと、貴族ぶるその言葉以上に優しいものなのだろう。
「ともあれ重要な事は民草の意志を形にすることで整頓する事。
 そしてそれを貴族なりに伝えて国王を動かす突き上げに繋げる事、であるな。
 小さな事とは思うが、千里の道も一歩からと言うからの。手間は惜しまぬつもりであるよ」
 ルクスの言う通り、任務に当たるイレギュラーズの仕事は縁の下を支える重大なもので、これ以上の不幸を、これ以上の犠牲を防がなければならないという彼等の意志は硬い。
「幻想の国王にとって、民衆の声は非常に軽く、そして遠いものでしょう。しかしそれも束になれば話は別。
いい加減、この国へ居残るのも飽きてきました。ここで一連の事件、一先ず幕を下ろしていただくとしましょう」
 ……Lumiliaの決意の固さはこの閉塞感へのうんざり多分だが、それもまた強い動機になるに違いない。
 此方も手管は様々で、一悟とパン・♂・ケーキのように自分の店のお得な宣伝に情報を紛れ込ませる者も居れば、沢山のパンと共に各地を周り、心を癒やさんとするウェールも居る。人の集まりやすい公園や広場、酒場などを周り流麗なる歌に乗せてイレギュラーズを謳い上げたラクリマが居る。
「……こういう時は、夢と希望。
 私のギフト、魔法少女センサーで幻想中の魔法少女を探知し、集めようと思う。
 何処に居るかは分からないけど、反応を始めた近くには絶対に居るはず! 根性だ、私!」
「取りあえずは、さて。食べ歩きでもしながら、噂を流布してみるかなあ。
 民衆がその気になれば、貴族だって乗ってくるかもしれないしね」
 変わり種のイリス、あくまで気負わないグリムペインの一方で、
「アレらの非道は麻縄のように幾重にも固く結ばれ、解ける事もなく危険だと言う事が鮮明となった。
 王や貴族だけでなく、何も知らない民衆こそ俺は絶対にこの事を一番に知らなければならない
 だからこそ俺が……いや、旅一座【Leuchten】の団結力でこの国から退けてやる!」
 ヨタカの強い決意を【旅一座】は共有する。
「サーカスは人を楽しませるもの。決して人を操るものでは御座いません。目には目を、サーカスにはサーカスを」
「サーカスは最高だったぜ!
 ああ、頭の中で奴らの声が響く『自分の欲望に忠実にあれ』。俺は人を! 人を撃ちたいんだー!」
 ヨタカと幻――ジェイクが織り成すのは嘘吐きを揶揄する今回ばかりの特別演目である。
「各地の蜂起や事件を解決してきた吾輩達からすれば、原因は明白なのだが……
 情報の乏しい民衆は、未だ偶然であるという疑いを捨てきれないのであろう。
 元より貴族に不満を持つ民衆だ。いくら貴族がサーカスの事を言ったとして、素直に納得はしまい」
【アイオン】が一角、グレイシアが呟いた。
 故に今回――アイオンの瞳は民衆周知にその叡智を結集させる事を決めたのだ。
「武装蜂起を抑えつけた私達が、今度は民衆を盛り立てていくとは皮肉な話です。
 狙うはあくまで嘆願。まあ、前回同様の武装蜂起になったとしてもそれはそれで面白いでしょうがね」
「神の遊ぶ運命の双六、特異運命座標とて上がりまでは一天地六の賽の目次第。
 鬼と出るか蛇と出るか。突付いた藪から曲芸師が飛び出したなら、そこかしこで信管を銜えた不発弾(イレギュラーズ)が目を覚ます――といった所か」
 露悪的に皮肉を述べるヘルモルトに、相も変わらず読めないゲンリーが厳しい言葉を並べてみせた。
【アイオン】は人の集う広場で、街で、教会で言葉を尽くす。
(不安の火種は、最初は小さなものでも徐々に膨らみ大きな炎となる。
 それが今の幻想。その火種を取り除くためのお手伝いができれば――)
 クラリーチェは真っ直ぐな気持ちと、
「サーカスが来てからというもの、周囲で不思議な事が起きたりしていませんか?
 もしかしたら偶然かもしれません。ですが、偶然じゃないかもしれません」
 真っ直ぐな言葉で理解を求めた。
「フォルデルマン三世陛下は、決して話の分からぬ方ではございません。
 愚か――とは言われているけれど、決して非道という訳でもない」
 アリシスは理知的に語る。
(……選べなかった生まれが、彼の、国の最大の不幸な訳ですが)
 その内心は悟らせずに、たっぷりの説得力をその立ち姿に湛えて。
「ローレットの策は十分な見込みがある。
 王を動かしさえすればいいのだから――その為の手は打って有り、届く所にある。
 正しく嘆願を届けることができれば、必ずや、国王陛下は動いてくださりましょう」
 アレフは語る。
「この場に居る幻想の国民たる君達に問う。昨今、この国を覆う暗い暗雲が立ち込めている」
 まるで信仰を集める天使か、悪魔のように。
「心当たりはないだろうか、噂を耳にした事はあるだろう。サーカスと共に不幸が訪れると」
 美しい男は、美しい声色で人々を導かんとしていた。
「証拠を問われれば、確かに存在しない。だが、理由がある。
 幻想の国王は大層サーカスがお気に入りでね。
 この状況を変える為、外ならぬ国民たる君達の手を貸して欲しい」
 ローラントは憂いを帯びて吠えた。
「我々はイレギュラーズ。同じ世界に住まう同胞として、皆に伝えたいことがある。
 どうか少しの間だけ、耳を傾けてほしい」
 サーカスの魔性に侵されたがために狂ってしまった、悲しき女性の話は涙なしには語れまい。
 ついでに、ドラミングなしにも彼はその場に有り得ない。
「今、我等の話を聞き、協力しても良いと思ったのであれば家族や知り合いに伝えて頂けないでしょうか?
 ここに連れて下さっても構いません。何度でも話を致しましょう。
 今の状況を変えるためには、武力を使い、憎しみ合うのではなく、皆が集まり、結束し、幻想の民の声を国王に届けるという武力に拠らない『戦い』に勝つ必要があるのです」
 そして、スティアの言葉は特別な意味を持って人々の心を打った。
 今日は部活とか書かないよ。あ、書いちゃった。

 ――我等『物語』の成すべき事柄は蒐集で在る。
 我等『物語』の成すべき事柄は虚構に対しての追放で在る。目次に幻は要らぬ。
 要るのは真実への梯子なのだ。皆。我等『物語』の言葉に応え給え。
 其処には本当に狂気など在るのか。其処には本当に地獄は在るのか。答えは在り得ない。
 虚構『サーカス』の内に魔が潜むならば不満を爆発させるべき。王は如何に。王は如何に。王は如何に!
 此れは反逆に在らず。一般市民の為せる言葉の力だ。何。我等『物語』の言葉が狂気的だと。
 暴力沙汰は不要と思考せよ。此処にはイレギュラーズが在るのだ。故に心配は不要。破滅を留める一の手段。揮うのは貴様等だ!

『物語』を語る『物語』こそがかのオラボナ=ヒールド=テゴスであり、
「安い酒飲んで、目先の問題を忘れる生活で満足かよ?
 この国がやたらとおかしくなっちまったのは、あのサーカスが来てからだろうが!
 なあ。一人一人はチンケな力だが、十人、百人、千人集まりゃあすげえ発言力になるんだぜえ。
 平穏な生活を取り戻そうって気はねえのか、てめえらにはよ!」
 安酒を呷り、敢えて叱咤激励をするのはグドルフだ。
「お代はいりません、こうして周っているいるんです。ああ、少し胃が弱っているのかもしれない、これを……」
「ふふ、改めて付き合うとそこら中に往診してるのだね。慕われてるのは人柄かな?」
 シャロンと微笑む鼎は周知と共に仁術を施し、
(リリー、おもったんだ。さーかすのにんきがなくなれば、やめざるをえなくなるんじゃないかって。
 だから……あたらしいたのしみをつくって、たのしみをすりかえる。
 わんこたちと……もし、きょうりょくしてくれるひとがいるなら。
 ……そして、ほうきをおこした、どーぶつたちにも、きょうりょくしてもらえれば)
 リリーは全く違う切り口からその先の解決を望んでいた。
「あのサーカスが来てから何かおかしいって感じてる人も多いと思うわ!
 でも、実は人だけじゃなくて動物……皆が飼ってるペットにも影響が出ているの。
 動物達が反乱を起こそうとして、私の仲間達が事前に止めた事件もあったわ。
 サーカスがいる限り、また同じ事が起こる可能性があるわ。
 皆の大事な動物達のためにも、皆に協力してほしいの!
 具体的に言えばこの紙にサインを!」
 具体性を帯びて訴えかけるトリーネの声は本人(?)のビジュアルも相俟ってさぞかし動物好きには刺さるだろうか。
「んー。難しいことは僕には分からない!
 でもまぁ、皆が疲れてるって言うならそれを鼓舞するのも役割の一つかなー、とは思うんだ。
 ほら、笑顔の方が良い考えになりやすいでしょ?と言うわけで、幻想の住民を訪ねて回りたいと思ってるよ!」
 勇者で魔王なルーニカの優しい呼び声が、
「……薄暗い日が続く、が。何、夜は明けるもの、だ」
 例え一人でもいい、救いたい、手を差し伸べたいと強く願う凱の声が、
「民衆の皆、聞いてほしい。
 サーカスが来たタイミングに合わせ、色々な事件が起きていることを皆は知っているだろうか?
 僕が関わった事件ではとある者が扇動し、『結婚式』を壊そうとした事件があった。
 今、この国ではそんな日常すら危うくなっている。元凶かもしれないサーカスをこのまま残しておいて安心出来るだろうか。
 僕たちは今、国王に直訴をしようとしている。だから、力を貸してほしい。『民たちの意思』という、力を」
 辻に立ち、地道に声を張るコルザの声が、
「サーカスが来てカラ何をシタ? サーカスが来てカラ何がアッタ?
 人々の暮らしハ何が変わッタ? 疑心暗鬼ガ満ち、殺戮ガ蔓延ったダケではないカ。
 それはいつ頃カラだ? サーカスが来てカラだ。
 故にそれを庇護スル国王に知らしめロ。 貴様がサーカスを庇護スル度ニ我ら民は苦しむノだト!」
 民を奮い立たせるモルテの声が、
「ハイスクールで発生した、生徒が精神に異常をきたし教師を殺害した事件はご存知でしょうか?
 他にも影で盗賊団が市民を煽動して暴動を起こそうとしていた事件も発生しており、サーカスが幻想に来て以来、恐ろしい事件が多発しています!
 そこで市民の皆様にお願いがあります!
 イレギュラーズがサーカスに対処する為に市民の皆さんに協力して欲しいのです!」
 人心掌握術、カリスマ、信仰蒐集――多弁に『技術』を光らせる香澄の声が、
「さて――皆々様方お耳を拝借!
 昨今の情勢。あぁ不安だろう。次は己が巻き込まれるやもしれない、と。
 しかしご安心なされよ……既に一部の有力者お歴々が国王陛下へも事態収拾の嘆願を作成中!
 諸兄らの所へも近々嘆願協力の報せが届くやもしれませぬ。その際はどうかご協力を……」
『技術』と言えば負けていない――詠われる者にしてカリスマと掌握を持ち合わせるライハの声が、
「サーカスは楽しいかもしれませんが、悪いことが起こってしまうのです。
 そこのお父さん! 奥さんが悪いやつに捕まってしまってもいいのですか?
 そこのお母さん! お子さんが危険にさらされてもいいのですか?
 誰だって自分の大切な人が傷つくのは見たくないです。
 だから、サーカスを追い出してほしいって、王様にお願いするのです!
 これに名前を書いてほしいのです!」
 兎に角真っ直ぐなココルの声が、
「突然すみません! わたし達はローレットのイレギュラーズです。
 サーカスが来てから、幻想では酷い事件が多発しています。
 わたし達は仲間の報告からアルルカンという道化師が数々の事件に関与していると確信し、彼等と関わりがあると思われるサーカスをこの幻想から排除せねばならないと考えました。
 彼らは、わたし達には見えない力で人々を狂わせているのです。
 ですが、わたし達だけではそれは叶いません。皆さんの助けがなければ実現しないのです。
 どうか、ご協力いただけませんか……?」
「『荒事』は僕達ローレットにお任せ下さい!
 僕達共通の願いは『街の平和を取り戻す事』。
 皆様の協力を得られるならば、最速での沈静化をお約束致しましょう。
 数は力です。僕達がサーカスの公演を中止させられるよう。
 皆様の想いをローレットに託し、支持して頂けませんか? できるだけ沢山の方への周知を望みます!」
 ノースポールの声が、十分な名声を武器に共に語りかけるルチアーノの声が。
「今最も大切にされるべきはサーカスじゃない……貴方達……なの!」
「サーカスを放置しておくと民衆が傷ついていくばかりです!
 この状況を動かすには今、民衆の力が必要なのです!」
 地方だけではない。メフ・メフィートにはミアとルルリア――【猫×狐】の声が。
 まさに、声達は幻想中に響いていた。
 それは恐ろしく地道で、先の見えない作業だった。
「サーカスが幻想に存在する今、近いうちに再びこのような惨劇が発生するだろう……
 それを阻止しなければならない、幻想国に住まう我ら全ての力を以て! 故に全ての協力に感謝する!」
『神は空にしろしめし』事件の村を再訪したラデリのように歓迎され、協力を受けたイレギュラーズも多かったが、非常に地道な地歩固め、この活動にどれ程の意味があるかを知っていた者等、何処にも居ない。
 確実な見返り等、求められよう筈もない作業だった。
 だが、力を尽くした。遠く彼方に閉塞を打ち破る可能性の存在を信じて。
 パンドラならぬ、自身が起こす『打破』こそ、この局面は求めていたからだ。
 そして、特に多くの人間が参加したのは、
「この幻想で僕達がそれぞれ積み重ねてきた絆を、ここにある手紙で一つに結ぼう!」
 ニーニアのそんな呼びかけから始まった【絆の手紙作戦】だった。

 ――手紙一つ一つに込めた皆の想いをしっかりと届けて。
 幻想にいる全ての人のために僕達は動いてるっていうことを伝えていきたい。
 何より、それが郵便屋さんとして同時にイレギュラーズとしての僕のお仕事だからね。

「先ずは今迄幻想内で関わった連中に対して手紙での呼びかけ。
 内容に関しては勝手に動いてサーカスに詰め掛けない。
 それとサーカスをイレギュラーズに再調査させる事への協力要請か。
 何れにせよ、俺達になら任せられるって思って貰えたらソレが一番なんだが」
 手伝いを買って出た勇司が頭を掻いた。書物は中々難しい。
 だが、ニーニアの呼びかけは彼女にとっての矜持であり、同時に多くを動かすに足る名案だったと言える。
「妾が来たのは他でもない、先ずはこの手紙を見て欲しいのじゃ。
 常朝村にも噂は届いておるじゃろ。全ての元凶はあのシルク・ド・マントゥールにあると妾たちは睨んでおる。
 皆にも協力を仰ぎたい。出来るだけ多くの者に手紙を渡して欲しいのじゃ!」
『常朝村紅茶館段袋』事件の縁で協力を願ったデイジーに村人達は快く応じた。
「神父殿や領主様方にもご協力願えれば、これ程心強い事はありませんね。
 これならば、すぐに街中に広がり――その先にも広がる事でしょう」
 順調な協力を取り付けたのは『籠の中の平和主義者』を解決した牛王、
「皆も気を付けるんじゃよ。何かあったらすぐにわしかローレットに連絡をよこすんじゃよ」
 地元での協力を十分に取り付け、懐かしい故郷の香りに笑みを浮かべた潮、そして依頼の為に立ち寄ったユゼ村を始めとした村々を巡り、村長や代表者、長老に名士達へと手紙を届けたSvipulも同じくである。
「絆の手紙作戦。素敵な作戦ですよね。この絆は民衆だけのものではありません。
 この国に住まう全ての人々に――民衆も貴族も王族も絆で結ばれる奇跡を願い歌いましょう。
 そしてこの世界全てが絆で結ばれますように。わたしに届く神の声さえも絆を尊く願っています!」
 吟遊詩人のセアラが歌う。
【絆の手紙作戦】の肝はこのように今まで得た地縁、人の縁を利用して最大限に手紙を拡散する事にある。
「自分の足で行くのはキツイだろう。パカダクラを使いたい人は乗っていっていいぞ」
「こうして沢山の人達に協力してもらえば……貴族と言えども無視できないくらいにはなるんじゃない?
さぁ、幻想の明日は皆の想いと行動にかかってるわ!清き一票(?)で国を動かしましょ!」
 汰磨羈の操る馬車の上で、アリソンがライヴをする――二人はコンビプレーで挑む次第。
「情より利を取る御方ならほんの少しの組織票として、逆なら言わずもがな。
 貴族である為には民衆が必要とも言いますし、良い考えと思いますわ。微力ながらお手伝いさせていただきます」
「ああ。『民衆の支持を集めるイレギュラーズ』って看板を利用してな。
 どうあれ、今まで関わってきた連中も多いんだ。コネも役に立たない事は無いだろうよ」
 ミディーセラやクロバの言う通り、この作戦は人を信じ、絆を試すものだ。直接的に貴族に働きかける訳ではないが、間接的に彼等に仕掛ける仲間達の援護になるかも知れない。物理的にイレギュラーズだけでは不可能な事も、より多くの力を集めれば可能となる。少なくともその可能性は生まれるだろうと思われた。

 ――私達がサーカスの再調査が出来るように、皆にも協力して欲しいんだ。
 皆の声も、必ず後押しになるから! でも、皆はサーカスに詰め掛けたりしないで欲しいの。
 これ以上、被害が広がるのは辛いから。調査、対応は私達に任せて!
 私達は、皆を辛いままになんてしておかない! だから、力を貸して下さい!

 フェスタの手紙。

 ――オイラたちはこの一連の事件を解明したいと思ってる
 もう猟奇的な事件が起こらないように。みんなもそう思うなら、それを手紙にしたためてほしいんだ。
 字が書けなくても、オイラが代わりに書くから大丈夫!
 みんなの思い、オイラたちが必ず届けるから!

 チャロロの手紙。

 ――僕はもう民衆が傷つくところは見たくない!
 だから今回の一連の事件のことはイレギュラーズに任せて欲しいんだ。
 事件や現場を調べる時はどんな危険なことがあるかわからないし、そういう事は全部イレギュラーズに任せて!
 必ず、良い報告ができるように頑張るから――

 緋呂斗の手紙。
 それは想いだ。訴える手紙を書く者がある。
「馬車を利用して、手紙を配る人達の移動を手伝いまくる――とか。
 正宗くん、家電機能にマッサージのやつ出来たよね」
「アリマスヨー サイキン ツカッテナカッタデスケド」
 コリーヌは主に移動と回復の援護に回る役割。(低周波治療正宗くん(ギフト)には多少の不安はある……)
「私は集まった手紙を宛先の領地ごとに仕分ける作業を手伝うわ。
 人手がいるでしょうから。こんなにたくさん……みんな思いのたけを綴ってくれたのね。
 ……うぅ、こんな地道な作業、駆け出しの研究員時代以来だわ……」
「知ってるヒトたちに手紙を書いてもらって――仕分けとかで協力!」
 主に仕分けに回るのは嘆き節のミシャやアクセル。
「俺は護衛や配達などの体力仕事に回るつもりだ。力だけは自信があるから、沢山の手紙も余裕で持てるぞ!」
「あかん。頭がこんがらがる。何すりゃええんか分からん。そういうわけで、うちは配達させてもらおうか。
 へへ、伊達に鍛えてへん。足には自身あるんやで」
「私にはこの翼がありますから、空を飛び方々へと手紙を集め、或いはお届けします!
道が悪く、陸路では時間のかかる場所であろうとも!」
「誰かの思いを込めた手紙だから大切に運ぶよ。入り込んだ毒は念入りに抜いていかないとね」
「……僕は……今回の事件に……深く関われなかったから……みんなが書いた手紙を……届けに回るよ……
 ……みんなが……気持ちを込めて……書いた手紙……だもんね……確実に……届けてみせる……
 ……大丈夫……何者かに襲われて……手紙を無くすなんてヘマ……絶対にしないから……」
「依頼で行ったサリュの街なら多少は土地勘もあるからそこを起点に周辺にある町や村に手紙を届けるんだお。
手紙を渡す相手とか細かいことは事前に相談して出来るだけ多くの街や村に届けようと思うんだぬ」
「よっしゃあ、足だ!手紙配りを引き受けよう。
 いや、ラビさん書く方さっぱりだからさぁ。あはは! 全力ダッシュだ、ってね!」
「これでも足にはそれなりに自信あるのよね。
 こういうのって速度が命だと思うから多少無理してでも急いで配達して廻るつもりよ」
『ヒヒヒ、郵便配達のバイトか、まぁせいぜい無茶しない程度に頑張りな!』
 ルウ、疾風、シルヴィア、ライセル、グレイル、そして「問題はあのクリスチアンの街って事なんだお」と呟いたニルに、快活に笑ったラビ、魔剣ズィーガーと掛け合いを見せる結は主に配達に腕をぶしている。
「アタイは説得とか得意じゃないから、この作戦で遠くへ出向く人たちを道中護衛するぞ。
 お話は頭のいい人たちに任せたぞ!」
「あたしも、治安の悪い所に行く人の、護衛、するよ。何か、出来ることは、したい、から」
「微力ながら手伝わせていただこう」
「うんうん、いっぱいできることあるよね! よーし、がんばるぞー!」
 一方でモモカやコゼット、ファリス、気合を入れたオカカのように護衛等の協力を申し出た者も居る。
『一人は皆の為、皆は一人の為(ワン・フォー・オール)』は確かに綺麗事に過ぎないだろう。
 されど、そんな綺麗事が本当に実現するのだとしたら、どんなに心強い事だろう。

●チェックメイト・フォルデルマン
 まさに目にも留まらぬ白刃が、今回最大の危険を摘み取った。

 ――あらぁ。国王様はこれを重篤に考えないのですかぁ?
 こうやって、国王様の命を狙われてもおかしくないのにぃ♪

 そう言って(止められる前提だったとは言え)本当に殺す心算でフォルデルマンを狙ったニエルを、シャルロッテの一閃が一瞬で地面に沈めたのである。奇しくもニエルと同じく『殺す心算の一撃』の後、彼女は主にこう言った。
「――今のは唯の余興ですが、確かにそういう事も有り得るやも知れません。
 陛下におかれましては、話だけでも彼等の言には耳を傾けられますよう」
 考えつく限りでの最大禁則を働いたローレットへの静かな怒りを噛み殺すシャルロッテは、それでも国を憂う正義の人である。イレギュラーズの作戦を最大限守り、譲る形で場を収めた彼女は部下にニエルを介抱するよう命じ、再び静かに二歩下がる。
 今の回避には感謝せざるを得ない所だった。
「まぁ、サーカスは楽しいけれど……あんまり贔屓するとやきもちをやかれてしまうかも」
 胡蝶が上手く場を撹拌(フォロー)して、話を危険な場所から逸らした。
「私が携わった一斉蜂起の事件は、何とか鎮圧できたけれど、街が戦場になるところだったわ」
 アクアの瞳は真剣な色を帯びている。
「反乱は、する側とされる側では終わらない。
 街が戦場になって一番苦しむのは、当然、普通の生活を営んでいる人達よ。
 鎮圧したとはいえ、また反乱が起きないとも限らない。
 貴族まで狂気に触れる可能性だってある。その状態で抗争に発展したら、誰にも止められなくなってしまう。
 陛下は先程『証拠はあるのか』と聞いたけど、証拠のあるなしの問題じゃないの。
 これはもう、そういう現実じゃない。今の幻想には不穏な空気が漂ってる。
 サーカスを訝しんでいる人達も見てきた。陛下がそれを庇護し続けることは、国民の不安を煽り続けているのと同じだわ。国民からの印象はどんどん悪くなって、そして……きっと幻想は崩壊する。
 全然冗談なんかじゃないわ。私、大真面目よ。即刻庇護をやめるべきだわ」
 強い言葉にフォルデルマンの目が泳いだ。
 アクアの説得はこれまでを積み重ね、そしてこれまでにない位に彼に響いた節がある。
「そう思わない?」
 そして彼女は振り返り――仲間達の尽力の結果に視線をやった。
 そこには王城の入り口で何とも都合良く鉢合わせた三大貴族と、幾らかの幻想貴族の姿があった。
「恐れながら陛下、我々もこの場に参加をさせて頂きたく存じます」
「お二方共、くれぐれも――ですよ」
「今日ばかりは休戦、という事になりますわね」
「ふん。くだらん釘を寄越すでないわ!」
 レイガルテ、リーゼロッテが仲良く登場するのは滅多にない出来事だ。
 水と油をつなぎ合わせて最高の援護に変えたのがイレギュラーズにウィンクを送ったガブリエルなら、彼の手腕も中々見事なものだと言える。
「ま、まぁ、構わないが……」
 三貴族の圧に気圧されたフォルデルマンの一方で、自己主張を強めている連中もいる。
「カッカッカ! ワシはリーゼロッテちゃんに全面賛成じゃ!」
「陛下、恐れながらこの者達には理がございます。
 城には今、山のような手紙が届いているようです。それに、外を御覧ください。民衆が陛下とローレットの名を呼んでおられます。
 どうかこの大きな声をお聞き下さいますよう、伏してお願い申し上げます」
 強欲貴族カラック卿に、アーリアを伴ったヴィルフリート・ロザウッド威風堂々とモノを言う。
 気付けば、ガヤガヤと辺りが騒がしい。地鳴りのように王城を揺らす『声』はイレギュラーズの呼びかけを受けて王城付近に集まった国の声に違いない。部屋から溢れる位の手紙は絆の血流が機能不全の幻想(からだ)に廻った証明だろう。
(……恨むぞ、この場を……)
 居心地の悪そうなエイボス・イミニール男爵もこの期に及べば逃げはしない。見れば、『眠るのが好きな彼』の肩にはぐるま姫を乗せているではないか。
「うふふ、陛下? こんな事、とっても巡らしいとは思いませんこと?」
「……むう」
「呉越同舟、貴族も庶民も皆で直訴、だなんて。
 こんなの絶対に――幻想史上類を見ないお話ではなくって?
 でも、親愛なる陛下? 誰も強要はいたしませんのよ。私達はお話をしたいだけ」
 フォルデルマンは唸り、リーゼロッテはコロコロと笑う。
 潮目は変わった。これが最初にして最後のチャンスである。
「縁もありますので、此度は無礼を承知で顔を出させて頂きました。
 言葉は繰り返しになりましょうが、私もひとつ。あえて一言。どうか国にとっての良き決断を、貴方は国王なのですから」
 ルナールやマリスも言って颯爽と踵を返したルーキスにはさぞや喝采を送る事だろう。
「騎士たる身の上で、高貴なる御身に意見を申し上げる無礼をお許し下さいませ。
 王は件のサーカスをお気に入りだとの事ですが、彼らに罪があるかどうかは最早問題では無いのです。
 幻想に住まう民が、彼らに憎悪を抱いている事、それそのものが問題なのですから」
「王様、あんなに楽しくて賑やかだったサーカスが無くなるのは嫌で……
 話を聞きたくないかもしれないけど、レーさんと市民の嘆願や貴族様方の声もしっかり聴いてほしいっキュ!」
「少なくはない貴族様もサーカスに批判的なのは見ての通り、聞いての通りだ。
 その理由が今回の蜂起であり、発端はサーカスではないかという疑いがある事。
 蜂起が繰り返されるようなら国自体が動かなければならないかも知れないだろ。そうしたらもう本当に本当の大事だぜ」
 深く頭を垂れた水城と畳み掛けるレーゲン、シレオが一気に勝負に出た。
「シルク・ド・マントゥール……私も観に行きました……
 ……………あんなに素敵なサーカス、生まれて初めてで……この幻想に来て良かったって、凄く思ったわ」
「アタシもお伺いしましたけれど、噂に違わず不可思議でとても素晴らしいものでした」
 エンヴィに続き、微苦笑を浮かべたシーヴァが言葉を続ける。
「ですけれど…少々刺激が強ぎたのかしら。
 これまでも事件はあったけれど、サーカスが来てから一段と狂気的な事件が増えたように思えるの。
 先頃起きた暴動があって貴族の皆さんもお疲れみたい。それに騒ぎに乗じてラサの盗賊が入り込んでいるとのお話も……
 火の無い所に煙は立たぬと申します。そろそろ不吉を呼ぶサーカスにはお帰りいただいて……別の催しを開いては如何でしょう?」
「一度ほとぼりを冷ました方がサーカスにとってもやりやすいはず。
 治安の悪化で人も集まりづらいだろうから、一旦他の国で公演頂くのが得策では?」
「あのですね、国王陛下。私は思うわけです
 今現在、国内に不安が満ちていてサーカスに対する風当たりも強いわけですが。
 サーカスもあまり長い事ここに抱えておくべきではないと思うのです。
 サーカスは芸人です。移動することが芸の肥やしになることもあるでしょう。
 ですが、一か所に留まり続けていてはネタが切れます。つまらなくなります。さらに飽きます。
 変化をつける、彼らの芸の為に一旦放逐する。それもまた、芸の道の為なのではないでしょうか?
 いいじゃないですか、これ。そういう方向でどうでしょう?」
 シーヴァに頷いたエンヴィ、そしてこの流れに併せたアートと何時も見事な長広舌の狐耶が続ける。
「王様、おばあちゃんのお節介みたいなものだと思われそうだけれど……少し聞いて頂きたいの。
 ジェーリーの声にフォルデルマンが視線を向けた。
「王様はサーカスがお好きなのかしら?
 それともシルク・ド・マントゥールが好きなのかしら?
 サーカスがお好きなら……様々な芸を極めてる方が特異運命座標の方々にはいると思うの。彼等の芸もきっと素敵だと思うのよ!
 ……シルク・ド・マントゥールがお好きなら……私はとても悲しいわ。
 彼等は……あなたの……素敵な国の沢山の民達を傷つけていたのよ?
 あなたの大事な民の為にどうか今一度考えてもらえないかしら……私これからも王様をお慕いしたいわ!」
 フォルデルマンの困惑が一層、一層深くなる。イレギュラーズ達が言葉を尽くす程に深くなる。
「私も、サーカスの演技自体は凄く好きなのだけど……でも、好きでもダメな事はダメだから……」
「僕も公演楽しみましたが! 実際、めちゃくちゃ楽しかったですが!
 サーカスについてぶーぶー言われるのは気分が悪いと思いますけど、国王さまの決断力とリーダーシップを見せつけるチャンスだと思うです!」
「サーカスを皆に楽しんでもらいたい、という陛下のお心遣いは素晴らしい物だと考えております。
 皆に楽しんでほしい――その心は間違いなく尊い物だと。
 ですが、その心につけ込んで……もし誰かが陛下の御心を利用しているのだとしたら……それは許し難い行為です。
 確証はありません。けれど、人を笑顔にするためのサーカスが、人を苦しめる物だとしたら、それは許してはいけない事です。
 せめて、陛下の御心を裏切っていないか。それを確かめる為にも私達に機会を頂けないものかと、強く具申いたします」
 更に念を押すようにヨハンが続け、駄目を押すように凛とシフォリィが言い切った。
「ううむ……」
 唸り声を上げたフォルデルマンは困った顔をしている。
 少なくとも『困らせた』事は『攻撃』が効果を認めている証明だ。
「頑張りなさいませ」と微笑んだリーゼロッテが唇だけを動かしてイレギュラーズを応援した。
 実に密やかに――楽しげな彼女はイレギュラーズとの示し合わせを秘め事のように楽しんでいる様子である。
「包丁がある。
 ……その用途は?
 ……多くが、単に料理の際に材料を切る為と答えるだろう。
 しかし、あれは生き物を殺す凶器としての用途もある。
 全てのものには多様な一面が存在するという事だ。サーカスも、それと同じ」
「占いにも、ここで動くのが好機――とあります」
 切り口を変えてリジア。歓心を引こうと上手い言い回しをした暁蕾が水を向けた。
「あの様な事は、もう起きてはならないのです」
 その脳裏に――残酷なお茶会。死した娘の人形。狂気に侵され、自害を選んだ人形師――絶望的な光景を描いた鶫が真っ直ぐ言った。
 篤実なる繋ぎ手(ハーティ・リンカー)を用いて己が感情をフォルデルマンに伝える事すら――王宮を部隊にその無礼を行えばどんな罰を受けるかも分からないのに――覚悟した彼女は言葉に強い決意を乗せている。
「もはや事の真偽は二の次。国民も貴族達も皆、そのように判断しております。もし此処で陛下のご決断無くば、この国は割れます。
 そうなれば、『タロウ』が王都を物見遊山するなど、永劫に不可能になるでしょう。
『タロウ』が再び良き時間を過ごせるよう、ご決断ください。ビジネスは時流が全て、ですよ」
「簡単に言うと『皆』サーカスにはもう飽き飽き(こりごり)してるんだ……」
 友人めいた時間を過ごした事もある寛治、『皆』に重点を置いたヨルムンガンドのトドメの一言は一連の助力を一度に束ねるものだった。
「……そういう事で宜しいかと。恐れながら陛下、貴族派筆頭、元老院議長として公に御諫言申し上げる。
 イレギュラーズなるローレットの冒険者達、これで中々信頼に足る者共でございます。
 聡明になる陛下ならばわかるはず。ここは彼等の言を受け入れても宜しいものかと存じますぞ」
 満を持して放たれたレイガルテの言葉は本日最大にして最高の火力を持っていた。まさに高貴なるてこ(ノーブルレバレッジ)を象徴するワンシーンは気難しい彼を動かしたイレギュラーズの努力の――もっと言えばこれまでの彼等の活動の――集大成である。
「お優しい陛下。事態は一国を争います。陛下が思う以上に、今彼ら(サーカス)は、とても危険なのです。
 微力ながらローレットがこれまではお助けする事が叶いましたが、事態が悪化すれば我々でもお助けできなくなってしまいます。
 お願いです、陛下、ローレットにサーカスの件を任せて頂けませんでしょうか?」
 トートの大きな目が上目遣いに潤む。
「王様! 拙者とっても困ってるんです! 助けて下さい!」
 涙目でズボンの裾を掴んで嘆願するルル家にここはシャルロッテも手を出さない。
「サーカスが来てからというものなんかもう色々大変で拙者取っても困ってるんですぅ! みんなもそう言ってますぅ!」
 ルル家の泣き真似は実にへたくそだったが、額に脂汗を浮かべたフォルデルマンには馬鹿馬鹿しい程に効果覿面だった。
 泣きそうな彼の顔を見た時、それを知った者も居たかも知れない。
 アリシスが遠い地で語った通り、この王は何処までも愚鈍で、お花畑で、そして底抜けに善良だったのだ。
 生まれてから一度も怒られた事は無く、予定よりずっと早く玉座を継いでしまった孤独な道化(ピエロ)。
 何の悪意も無い能天気――これ以上に彼を評する言葉は、きっと無い。
「……」
「……………」
「……………………」
 長くて短い沈黙が玉座を包み。
 短くて長いその沈黙の後にフォルデルマンは小さく零した。
「……私は、諸君等に迷惑をかけたのだろうか?
 私は……あの素晴らしいサーカスが好きで、皆、それを望んでいると思っただけなのに」
 とある教義においては『無知は罪』であるとされるらしい。
 確かにフォルデルマンは罪深い。幻想が弱体化したのも貴族が専横を進めているのも今回の騒乱も彼の『無知』が原因だ。
 されど、無知を罪とするならば、それは識る事によって贖われるものだろう。そうでなければ世の中には余りにも救いが足りぬ。
「陛下は『楽しい事』を好んでいると存じております。
 楽しいは人生を彩る素敵なスパイスですもの。ええ、私とっても共感できますわ。
 でも陛下、『これからの楽しい時間』も誰かと共有出来た方がより楽しいと思いませんか?」
「あのサーカスの夢のような時間を共有したのと同じように」――アンナの言葉は優しく、諭すよう。
「ああ、そうだ。間違いない。私が間違えたのであれば――正す協力ばかりはしよう。
 君達の友情に感謝する。それから、貴族として――彼等に協力してくれた諸侯にも、礼を言うぞ」

 ――大岩(こくおう)が、動いた瞬間だった。

●グッドニュース
 良い知らせは二つ。
 フォルデルマン三世によるお触れ――『幻想楽団の公演取り消し』は瞬く間に王都中に広がり、人々はこの決定に大いに湧いた。
 イレギュラーズの地道な民間周知により、概ねの事件構造を理解していた国民はサーカス側に立つ事は無く、同時に幻想蜂起に続き貴族を憎悪する流れを回避していたのである。
 良い知らせはもう一つ。
 フォルデルマン三世は先のお触れと共に宣言をした。
 即ち、それは幻想蜂起に関わり処罰を受けた国民への特別恩赦を与えること。
 並びに、被害を受けた人々や街に対して本年度の税金の特別軽減措置を与える旨の表明である。
 人々は彼の言に大いに耳を疑い、困惑し、それから盛大に喜んだ。
 それは即位から数年の時間を経て、初めて彼が自主的に行った『政治』であり、初めて真に国民を喜ばせた決定であった。
 良い知らせか、悪い知らせか。判断に悩むのは一つばかり。
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』は決定に湧く人々の騒ぎに乗じて、煙のように王都から姿を消したのである。
 無論、ローレットは――レオン・ドナーツ・バルトロメイはこれを逃がす心算は無い。
 逃げたという事は逆を言えば黒の証明に他ならない。用意出来ない証拠の上から始末をつけるのは、善良らしからぬローレットをもっても寝覚めが悪い。
「却って、助かったぜ」。そう言ったレオンの言葉は恐らく本音。
 彼等が魔種ならば、幻想から逃れれば終わりではない。
 この国がローレットの側に立つならば、檻からは逃がさない。
 始末はこの国の中でつけるべきなのだ。
 決着に向けての道筋は、霧中より姿を現し、今確かに開かれたに違いない――

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)[監視]
性的倒錯快楽主義者

あとがき

 YAMIDEITEIっす。
 全員書かないと言ったな。あれは嘘だ。
 別に書いてしまっても構わんのだろう?

 ……という何時もの定型句は置いといて。
 本当に書く心算は無かったので、偏にプレイヤー様の努力によるものと言えるでしょう。
 239プレイング中、軽く200を超える位『しっかり』書かれていた凄い回でした。
 とても素晴らしかったので大成功。理由や動きは読んで頂ければ分かるものと思います。

 尚、此方も本文をご確認頂ければ分かると思いますが、監視処置を加えています。
 多くの人が頑張ったからこそ(それを理由にシナリオ結果を水浸しにするのは正しくないので)フォローを加えましたが、どんな意図があったにせよ、駄目な事は駄目です。シナリオ的にすべきではない事は極力避けるようにして下さい。

 シナリオ、お疲れ様でした。



 白紙以外は全員描写しました。
 次回以降は『書式ミスは本当に一律カット』するかも知れません。
 プレイング書式だけは完全に守るように伏してお願い申し上げます。
 作業の維持にご協力をお願いします。

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