PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<絶海のアポカリプス>厄災のケテル

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

たそかれ。

●怒れる王冠

 ――馬鹿な、馬鹿げている。
   吹けば飛ぶような小さき者が。羽虫のような力で。
   我に歯向かい、我を倒さんと向かってくる等――

 荒れ狂う海に存在感を刻む滅海の竜――リヴァイアサン。
 されど彼は圧倒的に優勢な戦況に関わらず激しい苛立ちを隠す事が出来ないで居た。
 眼窩に見下ろす艦隊――イレギュラーズを含む連合軍は、リヴァイアサンにとって何処までも矮小な存在であった。人間の技術と意地の集大成とて『厄災そのもの』と言っても過言ではない、超自然現象(リヴァイアサン)の前では無為に等しい。
 事実、多少の抵抗は褒美に許す事があったとしても。
 全てが暴力という名の静寂に飲み込まれるのは時間の問題だった筈なのだ。
 そう、本来ならば――

 ――おのれ、同じ竜属でありながら、王の邪魔をするとは――

 滅海の王の怒れる最大の理由は突如として戦場に出現したもう一体の竜によるものだ。
 リヴァイアサンは彼女――『水神様』を近海の主と承知している。彼女が人間贔屓であった事も承知している。関わり合った事は無いがそれは暗黙の了解なる『縄張りの違い』を理由にする部分も小さくない。なのに今、彼女はその了解を越えて己が海へ侵入しているのだ。現れた方法や理由は知れないが、リヴァイアサンが怒り狂わぬ筈はない。
「アタシの気持ちが分かったでしょうよ、リヴァイアサン。
 連中はしつこい。連中は有り得ない位にしつこい。連中はまだまだこんなもんじゃないわよ。無理難題を平気で平らげ、有り得ない位に未来(さき)を歪めて――そう、アタシだけじゃなく、今度はアンタにも肉薄するかも知れない。
 小さき者、大いに結構! でもアンタも薄々気付いているでしょう?
 アレは力の多寡で軽侮するべき相手じゃあないわよ――それはアンタでも同じ事!」

 ――成る程な、読み違えておったわ!

 頭上に乗るアルバニアの言葉にリヴァイアサンは轟と吠えた。
 大声を発するだけで突風が巻き、海が揺れる。全てを飲み干す絶大なる力はリヴァイアサンの本質だが、その力は最早見る影もない位に小さなものになっていた。
 彼の権能は『神威(海)』。
 この洋上では何者にも劣らず、何人にも侵されぬとされる力の象徴。
 全ての攻撃力の大半を防御し、無効化し、絶望を刻む波濤の壁――その権能とて同属に侵され薄れているならば『一方的蹂躙』はやがて『戦い』へと姿を変えざるを得まい。
「……老婆心だけど、経験則から教えてあげる。
 アイツ等、時間を与えた方がヤバいわよ。ふんぞり返って敵を叩くのもいいけれど、それより何より攻めた方がいい。ドレイク達もあっちについた以上、それがマシよ」
 リヴァイアサンに生物らしい部分を見出すとするならば、頭は最大の武器であり、弱味でもある。その全長、全高からこうしている限り頭部は殆どのダメージを受けない事は確実だが、各部に取り付いた連合軍の動き次第では姿勢を保てず『引っ張り出される』可能性も否めない。
「……アクアパレスに踏み込まれたアタシが言うのもなんだけど。
 アタシが言うからこそ、本当みたいに聞こえるでしょうが」
 後手に回るよりは、と経験済みのアルバニアは苦笑した。

 ――言われるまでもないわ! 全て吹き飛ばしてくれる!

 猛るリヴァイアサンはアルバニアの忠告を一喝した。
 この期に及べば出し惜しむまでもない。弱りに弱った己が力にこそ憤怒する滅海竜は、漸く連合軍を倒すべき敵と認識したと言えよう。

 ――この海が誰のものか知るが良い。
   神威に弓引いた愚かさに朽ちるが良い。
   なめるなよ、小さき者共! 我はリヴァイアサン、厄災の王冠(ケテル)なり!

 リヴァイアサンとアルバニア――
 冒険の末を阻む二つの力が今一度動き出す。
 連合軍が掴むのは未来か、終焉か――

●尊大なる横撃
 リヴァイアサンの頭が揺れた。
 天にのた打つ雷のように左右に軌跡を残したそれは、怒りの声と共にやがて眼窩のイレギュラーズ達――竜に立ち向かう艦隊をねめつけた。

 おおおおおおおおおおお!

 くねり、猛スピードで獲物を襲わんとしたその顎は哀れな犠牲者――軍艦の一隻を冗談のように噛み砕いていた。

 ――ハ、ハ、ハ! 脆い。余りにも!

 天が笑う。
 次はどれだ、とばかりに獲物を探している。
「き、緊急退避――!」
 悲鳴にも怒鳴り声にも近い命令を発したのは果たして誰だっただろうか。
 大顎が開き、その奥で激流が渦巻いている。海洋王国艦隊を薙ぎ払った破滅の水が。
 何事も無かったなら、その艦が辿った運命は間違いなく一つだっただろう。
 何事も無かったなら――
「させるかよぉぉぉぉぉッ――!
 おいタコ野郎、この上ヘマしやがったら承知しねぇぞ!」
「誰にモノ言ってやがる! 今すぐ船から叩き落としてやろうか!?」
 ――横合い死角より、猛スピードでリヴァイアサンの頭部に突っ込んだ魔種『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)の艦が居なかったなら!

 ごああああああああああ――!

 衝角(ラム)のぶち当たった竜種の頭が咆哮を上げた。
 僅かな、それでも確かな痛みに暴れのた打つ。滅茶苦茶に荒れた海、大波、小波をかわすようにオクトは見事な操舵を見せていた。
「……それにしてもお前、良く生きてたな」
「あん? 俺様が死ぬ訳ねぇだろうが」
「……カカ、確かに。そういやそうだったな。それで、兄弟は」
「立派な奴だったよ」
 短く応えたグドルフ・ボイデル(p3p000694)にオクトは「そうか」とだけ答えた。
 オクトの艦が『キロネックス』との激戦の末、彼の兄弟――スクイッドと共に海中に沈んだグドルフ・ボイデル(p3p000694)を拾い上げたのはつい先程の事だ。
「……本当に、な」
 グドルフは全身を侵す廃滅病と傷に死に体となったスクイッドとのやり取りを思い出す。

 ――おい、ふざけんな! しっかりしろ、テメエ、男だろうが!

 ――アイツ(オクト)の兄弟分なんだろうが、黙って捨て置けるか!
   クソ、狂王種共が群がってきやがる――

 ――スクイッド、しっかりしやがれ。オクトと約束したんじゃねえのか!
   俺はまだ死ぬわけにはいかねえ。あいつらを残して死ねねえんだ。
   お前もそうだろ!? 勝手にくたばるんじゃねえ。生きて、帰るんだよッ!

 スクイッドの巨体の隙間――から空気を得たグドルフは、帰還の為の戦いに尽力した。最早人語らしい人語を発する事さえ難しいスクイッドとグドルフのやり取りは或いは一方的なものであったかも知れない。グドルフは死に体のスクイッドを必死で支援して、あくまで彼と共に戻らんとやれる事を全てやった心算だった。
(なあ、カミサマよ。全くそのやり口は分かってた。
 全く都合のいい話だぜ。お前が誰も救わねえのも知ってるからな。
 だが――今日だけは少し位は感謝してやるぜ……)
 スクイッドと共に沈みかけた暗黒の海に沈んだ船の残骸があった。
 貴重な時間を犠牲にし、辛うじてその船を暴いた時――そこにはグドルフの望んだ最後のチャンスが残されていたのだ。
 何の事はない。それは『単なる財宝』である。
 海賊が目を輝かせそうな、煌びやかな財宝。金貨に宝石褪せない輝き。
 それを全力で撒き散らしたなら――うろつく狂王種共の注意を奪う力はあった。
 いよいよ、よろつくスクイッドを励まし、水面を目指した。だが、結局は――
「テメェにゃ勿体ない『兄弟』だぜ」
 ――スクイッドは最期の瞬間、自身を盾にしてグドルフを守り切った。
 オクトの船に辿り着けたのはグドルフだけ。狂王種の群がったスクイッドの巨体は二度と浮かび上がってはこなかったからだ。彼の挺身の理由をグドルフは聞いていない。唯、そうなった理由を思うなら。『敵であった己さえ見捨てぬグドルフの行動』と『そんな男にならば兄弟を任せられる』と考えた彼の期待であったかも知れなかった。

 ――我をこの上怒らせたな――

 暴竜の威圧は止まぬ。
 全力の一撃を叩きつけたとて健在なるそれにオクトは肩を竦めていた。
「兎に角、ここからが勝負みてぇだな」
「ああ……ま、そりゃあそうだろうよ!」
 不敵に笑う『海賊』と『山賊』。
「キドーの野郎も……プラックも。どっかでもう一度拾ってやれ!
 カカカカカカカ! 『三賊』揃って、もう一丁――暴れてみせてやろうじゃねぇか!」
「そういう事だぜ」
 グドルフは力をぶす。
「『主役は遅れてやって来る』って言うだろうがよ!」

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 さあ、決戦です。

●重要な備考
 このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)

 皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。

●作戦目標
 リヴァイアサンの封印。
 そのために頭部分に出来る限りの打撃を加える。

※リヴァイアサンが一定以上弱った場合、水神様による封印が発動できます。

●ロケーション
 自身の各部を攻撃する艦隊に業を煮やし、頭部が『降りて』来ました。
 リヴァイアサンは全長・全高共に非常に巨大な敵の為、姿勢次第では攻撃の射程範囲の外に出てしまう場合があります。頭部が直接攻撃や近接攻撃を仕掛けてきた時は至近・近距離、中距離、頭部が離れた時は遠距離・超遠距離攻撃が有効になるでしょう。

●敵
・『厄災のケテル』。即ちリヴァイアサンの頭部です。
 極めて理不尽な破壊力、戦闘力を誇ります。
 行動は毎ターンではありません。
 不定にまとめて数個、複数回の攻撃を行う場合があります。

・神威(海):P
 海に居る限り滅びぬ神性。廃滅病でも死なない理由。
 元々の性能は殆どの攻撃ダメージやBSを激減し、無効化する絶対障壁。
 水神様の『渦潮姫』により弱体化している為、性能は激減しています。
 激減してもヤバいのですが……

・威圧:神特レ
 超範囲にダメージ。
 同時に強烈なMアタックと精神BS、麻痺BS複数をばら撒きます。

・大顎:物至域
 一撃必殺の噛み砕き。軍艦すら瞬殺。スマッシュヒット時【即死】。
 発動後数ターンは近距離攻撃が可能になります。
 シナリオ開始時点でこの状態である為、開始時は近距離攻撃が可能です。

※リヴァイアサン頭部の疑似移動力が極めて高い為、戦場全域に飛んできます。

・激流:物特レ
 リヴァイアサンの放つ主砲。この世の終わりのような超範囲攻撃。
 多くを語る必要はないでしょう。

・『煉獄篇第二冠嫉妬』アルバニア
 遂に本性を現した冠位魔種です。リヴァイアサンの頭部に乗り連携します。
 体力と防技、抵抗が極めて高くそれ以外のステータスも怪物級です。
 廃滅病の主であり、権能保持者。
 詳細な攻撃能力等は不明ですが、一部実戦で明らかになった分を考えても明白な『弱点』はないでしょう。(ブレイク出来ない、必殺ない等)
 弱体化したとはいえ三種の権能はPC陣営には有効です。

●味方
 皆さんと一緒に戦ってくれます。

・海洋王国軍
・鉄帝国軍

 リヴァイアサン頭部に対しても果敢に攻撃を仕掛けてくれます。
 砲撃の攻撃力はPCのそれと比べてもかなり高い為、砲撃能力を守る事も重要です。
 彼等はそれなりの技量でリヴァイアサンの攻撃にも対応しますが、限度はあります。
 PCはこの船に乗り込み攻防を行う事を選択出来ます。

・ドレイク艦隊
 旗艦『ブラッド・オーシャン』及び幽霊船群。
 幽霊船は現時点で十数隻程度現存しています。
 幽霊船はドレイクの指揮の下動き、命を惜しみませんが動きの精密性は欠きます。
 PCは『ブラッド・オーシャン』に乗り込み攻防を行う事を選択出来ます。
 ブラッド・オーシャンはドレイクないしはバルタザールが操舵、指揮します。
 他の船に比べて圧倒的に堅牢で回避能力を持ちます。しかしだからといって安全という訳ではありません。ブラッド・オーシャンは剣です。頑張って攻めなければ敗勢です。

・『偉大なる』ドレイク
 伝説の海賊。色々あって同盟者になった。

・『海賊提督』バルタザール
 近海海賊の首領。色々あってドレイクに心酔した。

・水神様
 カイトさんの関係者であり、本作戦の切り札。
 権能『渦潮姫』によりリヴァイアサンの『神威(海)』を阻害中。
 しかし、代償に戦闘余力はほぼありません。水神様は竜種の圧倒的なバイタリティを武器に不沈艦としてその背をPCに貸してくれます。しかしブラッド・オーシャン程は回避できませんので注意して下さい。又、彼女が死んだら敗北確定です。
 PCはこの背に乗り攻防を行う事を選択出来ます。

・蛸髭海賊団
 何だかんだ仲間だったオクトさんと愉快な仲間達。
 亡きスクイッドの想いも背負って、タコ、がんばる。
 グドルフさんとの横撃でリヴァイアサンの頭をゴリッと飛ばしたすごいやつら。
 PCはこの船に乗り込み攻防を行う事を選択出来ます。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

  • <絶海のアポカリプス>厄災のケテルLv:30以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別ラリー
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2020年06月13日 21時29分
  • 章数2章
  • 総採用数268人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

●ゼシュテルの矜持
 海洋王国大号令――
 それがネオフロンティア海洋王国の悲願である事を知らない者は居ない。
 彼等がどれ程遥かな海に焦がれ『絶望の青』の先を求めたか知らない者は居ないだろう。
 ……その究極の大願が叶うか否かの瀬戸際にある。
 大いなる海を制覇し、冠位魔種さえ追い込んで。今まさに突破が現実性を帯びた時『それ』は現れた。余りにも巨大な暴力装置。どうしようもない程の理不尽。破壊の神――
「当たり前だけど頭おっきい……歯鋭い……痛そうだなあ……
 この戦い生き延びたら、『竜種との冒険譚』とか……書いちゃおうかな?」
 感心したかのように呟いたアリアも現実感を持っていなかったかも知れない。
 神威を見た刹那、誰もが竦んだ。誰もが状況を正しく理解出来なかった。理性や意志よりも先に立つ『制御しようがない原初の感情』はそれと戦う選択肢を確かに拒否していた筈だ。
 しかし、それは責められるべき話ではない。『高度な知的生命体としてそれは正しい判断であり、同時に人間にも確かに本能が残っていた証明ですらあるのだから』。
 だが、それでも――どうしても納得出来ない者は居る。
「はぁ……だる……
 ……何か竜だの神だの色々言ってるけどさぁ……
 ……この遠征で朝から働いてるあたいの方がよっぽど神なんだよねぇ……
 ……だからこんな暴れて邪魔するとかもう完全ギルティ……
 残業代がわりに頭ボコ殴りの刑だよぉ……」
「はっ、ようやく顔を見せたな。
 身じろぎ一つで命が消し飛ぶような相手を、いよいよ舞台に引きずり下ろした訳だ。
 小さき人間様がよ、んなに偉そうな神様をだ!
 いいねぇ。正々堂々、正面切って盾突いてやるぜ!」
 訪れた幾つかの幸運が勝利への道を微かに照らした時、歴史の歯車は確かに動いた筈だ。
 少なくとも何時もの調子を崩さないリリーは、気を吐いたグレンはこのさきを諦めていない。
 又、遥か北よりこの戦いに参戦した援軍――誰よりも勇猛なるゼシュテルの戦士達は、一瞬の放心を認めたくはなかった。特にゼシュテル陣営は――確かに海洋王国程の動機はない。グレン等、イレギュラーズのように廃滅の仲間を助けねばならぬという想いも、有り得ざる神話との戦いに身を投じた経験もない。されど彼等はゼシュテル人である。誰かの後塵を拝する事等、その誇りは許すまい。
「――ってぇええええええええ!」
 指揮官の声と共にゼシュテルの鋼鉄戦艦、その砲門が火を噴いた。
 目標は言わずと知れたリヴァイアサン――その厄災のケテルである。圧倒的な重量と火力を持つゼシュテル艦は法撃力という意味では飛び抜けた攻撃力を持っていた。火線の先で威力に咽ぶリヴァイアサンがリヴァイアサンでなかったとしたら気の毒にも思う位。
「これ以上の戦いはないわ! あんた達全弾枯らす勢いで突っ込みなさい!」
「情報なしが怖くてやってられっかー!
 頭が離れてる間は海側に近づかないようにして見てるしかできないけどっ!
 撃つの得意でしょ!? 準備出来たら次撃って! はやくはやく!」
 利香に、秋奈に急かされるまでもなく、恥ずべき戦いを認めないゼシュテル陣営の士気は高い。
「やれやれ、ようやく此方を向いたでござるな、滅海龍よ。
 迷えば死ぬるのが戦の必定、この勝機を逃したら次は無い!
 十三代目・紅牙斬九郎、微力ながらも義によって龍を討つ!」
 咲耶の見栄に周囲が沸き立つ。
「鉄帝魂は鶏にも負けない勇敢さが売りでしょー! もっともっと、ファイトよー!!」
 トリーネの激励に戦士達は「応!」と声を上げた。
 リヴァイアサンの暴虐の瞳が自身を捉えたとて、今更恐れるものではなかった。
「リーヌシュカさんと約束したから。
 どんな絶望をも希望にする為――皆さんの希望の力となりましょう!
 そう、英雄は……最後まで諦めない!」
 唯の一睨みで歴戦の戦士さえ脅かし、竦み上がらせるその威圧を勝利の信仰さえ思わせるユーリエの凛とした言葉が、的確過ぎるその分析が打ち払う。

 ――どれも、これも――

 震える大気が苛立ちを含む。
 粟立つ肌に気付かぬふりをして。
「幻想種の根気と根性、見せてやろうじゃない?
 ここまで頑張ったんだし、最後まで気合いれていくしかないし――」
 日頃の眠たげな様子さえ嘘のようにセリアが強気にそう言った。
 ……味方という味方が有機的に、しかし出鱈目に。やれる事をやり、やれない事もやり、連携し飛び回るフェデリア最後の戦いはまさに大忙しの様相を見せていた。
 強大にして巨大なるリヴァイアサンを叩くには広範の戦いが必要であり、彼のパーツともいうべき各部位をそれぞれの艦隊が相手にしている状態だ。
 その中でもイレギュラーズが乗艦するこの鋼鉄艦を含んだ戦力は主力である。
 リヴァイアサンの頭部と冠位魔種アルバニアを叩く為に使える戦力は鉄帝国及び海洋王国の連合艦隊――その一部。イレギュラーズの活躍で一先ずの味方となったドレイク艦隊。更にカイトの起こした奇跡でこの戦場に出現した最大の福音――人間贔屓の少し変わった水神様(うずしおひめ)。
 のんびり共有している時間も、作戦の精度を検証している暇もないが、この場で為すべきは同じ竜種である水神様がリヴァイアサンの権能を抑えている間にそれを叩き、封印に持ち込む事。
 つまりこの作戦はリヴァイアサンに挑む全ての人間の想いと責任を受け取る『アンカー』のようなものである。
(荒波蹴立てていざ行かん……ってね。
 生憎とまだ死にたくはないが、命の賭け場位は分かってるさ)
 大波に揺れる船上で彼方の敵を見据える行人は戦いの意味と為さねばならぬ事を承知している。
 彼が砲撃能力の守護者たらんとしているのは全く妥当であり、圧倒的なサイズと縦横無尽の攻撃範囲を誇るリヴァイアサンに対して確実な攻撃を届けられるのは飛行しての肉薄戦かこの砲撃位のものである。過剰なリスクを帯びる前者を排除するとするならば、当然ながら戦い方はロングレンジでの砲撃を主体にその攻撃能力を守ることになろう。
 唯、ほぼ間違いなくそれだけでは不十分に違いない。
「やり合うにしても、あの威力はちょっと笑えないね……
 直撃なんて受けたら流石に鉄帝の船でもひとたまりもなさそうだ……
 でも、私が動ける間はそう簡単には沈めさせないよ!」
「本当にね。ぞっとする『クジ引き』じゃないのよ……」
 メートヒェンも、利香も危惧する所は近しかろう。
「いい!? 顎だけは絶対に避けるのよ! あれだけは絶対に!」
 持ち前の統率力を発揮する利香が操舵手を叱咤激励した。
 軍艦すら噛み千切るリヴァイアサンの大顎は最大の恐怖の一つである。だが、見るからに例の『主砲』はそう乱発出来ないようだ。オクト率いる蛸髭海賊団が主砲を一発止めた以上、竜の威圧をもってもこの船が止まり切らない以上は、次に来る攻撃は利香の予測する通り直接の噛み砕きである公算が高い。そして、ピンチはチャンスという言葉の通り――その瞬間こそが味方陣営の求む『もう一つ』に他ならない。
「……合図を出したら、一斉に一点集中で砲撃してくれませんか?」
 利香やアリアの指示に周囲が慌ただしくなる。
 果たしてリヴァイアサンの頭はいよいよ『小癪』な砲撃を続ける鉄帝国艦を向いていた。
 猛烈な唸りを上げてリヴァイアサンの首が伸びる。地獄の洞の如く開いたその口が船を掠めればそれだけで激震が走り、世界は揺れる――
「うてぇぇぇ――!!!」
 ――至近距離での砲撃がリヴァイアサンの首を叩いた。リヴァイアサンは豆鉄砲等効かぬと言わんばかりに身を捩るが、この攻撃姿勢はイレギュラーズにとって総攻撃の仕掛け場であった。
「修理が必要な所があったらすぐに知らせて!
 人も物も、出来る限り僕が治していくよ!
 鉄帝の砲撃力、あてにさせてもらってるからね!」
 ダメージを受けた艦の様子に『裏方(エンジニア)』を自認するニーニアが声を張る。
 一方で『あちらが攻め、攻撃距離に入るなら黙って帰す理由はない』。
「ふっふっふー、人間を侮ったわねリヴァイアサンちゃん!
 ここからの皆の強さを私はよく知ってるわ! 援護は任せて!」
 サポートに入るトリーネの援護を従えて、
「――はっ!」
 メートヒェンの打撃が巨大なる頭部を叩く。
 大凡外す筈もないサイズ、分厚すぎる手応えは『至極叩き甲斐のある的』である。
(これがリヴァイアサン、凄い圧力っ……
 こんなのを……ううん、どんなのが相手でもやるしかないんだ!)
 続く焔はその威圧に一瞬だけ竦むも、
「――ボクのお父様は炎の神なんだよ!
 それに比べればこんな弱り切った神威なんて! 皆、もうひと踏ん張りだよ!」
 自身を鼓舞するように言葉を放った彼女は怪しく輝くリヴァイアサンの目を狙うように炎の斬撃を撃ち放つ!

 ――それだけか。そんなものか。雨垂れが石を叩いたとて。
   貴様等は我が牙より一体何年逃げ回れる心算なのだ――

 間近の竜がせせら笑った。
 生物の急所である瞳を緋燕に灼かれてもそれを雨垂れと笑っている。
 元より違い過ぎる生物としての格、有り様の差は成る程、こんな場では縮まるまい。
 されど、
「そういう野郎の面に一撃くれてやるのがいいんだよなぁ――」
 ベビーフェースに不似合いとも言える獰猛な笑みを見せたシラスは構わずその顔を強かに叩いていた。一呼吸で『零域』に入り、飛沫の一粒、この恐怖さえ鮮明に捉え。その癖、決めたカウンターに満足気に笑っている。
「竜の横面引っ叩いたなんて、公にもいい土産話になるかもな――」
「あら、可愛い。剥製にしてやりたくなる」
 不敵なシラスに頭部に乗ったアルバニアが笑い声を上げた。
 全く余裕の姿だった。リヴァイアサンが一撃を食らった事自体も楽しいのか愉悦を見せる彼を、セリアの強烈なソウルストライクが牽制した。
「……ちぇ、ダメか」
 大して残念そうでもなく。
 近距離で対峙した竜と冠位とイレギュラーズは互いに嘯く――
「うんうん、それでこそ。
 この世界の竜はどんな『味』がするか興味がある。
 冠位にも興味はある。姿形は違えど、彼らも、ひどく人間の様だ。きっとうまそうだ」
 ――そしてそれは今、獰猛な爪牙を研ぐ愛無にとって何より素晴らしいニュースだった。
「――さあ、食事にするとしよう」

成否

成功


第1章 第2節

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

●ネオフロンティアの渇望
「よう上谷、生きてるようだな。重畳重畳。
 ここまできて死んでは恰好がつかないからな!」
「ははは」と軽妙に笑ってラダが軽口を叩いた。
「し、死んだら――元から格好つける事も出来ないだろ!?」
「死にたくないし!」と抗議めいた零にラダは目を細めた。
「それ位の場所って事だ――だから上出来って言えるだろう?」
 遂に出現した滅滅竜。
 圧倒的暴威を示す海王の前に挑むは意志の集合体、思惑をそれぞれに持つも今纏まった大連合。
 巨艦を揺らす大波は、吹き付ける風は、空を裂く稲光はこの最大の舞台に相応しき演出か。
「どうしたって、長期戦にはなり得ない状況かも知れないけど……
 体感的じゃ、人生で一番長い時を過ごす事になるかもね。
 ……ゲロ吐きそう」
 船酔いでそう思ったならどんなにマシか、とミニュイは皮肉めいた。
 超巨体を誇るリヴァイアサンの各部には艦隊それぞれが決死の攻撃を加えている。それは頭に挑むこの艦も、友軍たるゼシュテル、ドレイク、水神様も同じ事だが、苛烈なる攻撃にも関わらずリヴァイアサンはまだまだ斃れる気配は無かった。
「あの大顎をどうにかしないと火力が減る一方ね。
 私ができることは……まあ、『これ』しかないかしら」
 得手は守り。されど攻撃手段があったとて、それを捉える事は容易ではない。
「……本当にね。でも、やれる事はさせて貰うわ!」
 彼方の敵を見るアンナが軽く臍を噛んだ。
 フェデリア海域の大乱戦は激しさを増しながら続いていた。
 幾ら叩いても倒れないリヴァイアサンは存在自体が暴力である。その攻撃の精度は『比較的大雑把』だが、圧倒的な質量による攻撃を全て無効化する事等出来はしない。友軍は、僚艦は次々と打撃を受け航行不能に陥り、戦闘能力を失い、冷たい奈落海へ沈んでいる。
 元より勝利の目が現れた事自体が僥倖であった。
 されどこの戦いは長引けば長引く程に事態を悪化させる事は間違いない。

「やれるべきはやってきた心算だ。やれるべきはもうやっているだろう。
 しかし、この海が、この戦場が望むのはそれ以上。あと一歩、その先へ一歩。
 踏み出さねば勝ちはない。信じろ、俺を。信じて目の前の壁を破れ」
「――さあ行くよ、これが最後のチャンスだ。そろって大号令の体現者になってみせろ!」
 海神の軍規(ギフト)をもって艦規律を統率する防衛将帥(エイヴァン)と激励する大号令の体現者――イザベラの信頼が厚い事を兵達は知っている――史之の激励が響く。
 同じ頃、絶望的な戦いに鬨の声を上げた鉄帝国艦隊と同じくこの海洋王国の艦も猛烈な士気を巻き返していた。畏れは確かにあったがそれは永続するものではない。死にたい者は誰も居ないが、命を投げ捨てるかのような海で泣き言に終始するような者も居なかった。ゼシュテル人が戦いに矜持を持つならば、ネオフロンティアの民はこの号令に飢えていた。目の前に近付く果てしない未来にずっと長い間恋い焦がれていた。誰が、何が邪魔しようとも千年の恋は冷めはしない。
「歯車が噛み合い動くのが鉄帝ならば、帆に風が満ち進むのが海洋です。
 わたくしはその末席からも転げ落ちたようなものですが、多少の誇りは掲げられましてよー?
 ならば、わたくしはどんなときでも歌ってみせましょう。
 道行く人々に幸あれ。進みゆく賢者に、愚者に、全てに希望あれ、と!」
 ユゥリアリアの高らかな声は、朗々とした宣誓は、勝利に捧ぐ詩は或る意味で最も海洋王国の民を奮い立たせる自由の気風と勇猛の祝福だった。
「――――ってぇええええええええッ!」
 史之の号令と共に轟音が複数炸裂した。
 ロングレンジによる砲撃は巨体を相手にするこの戦いで最も有意義な攻撃である。
 並の艦なら幾度でも沈めるような苛烈な攻撃を受けながら堪えたようには見えないリヴァイアサンは悪夢めいているが、この愚直に意味がない訳ではない事は知れていた。
(ヤツから見れば、私達は脆くて矮小な存在だ。
 だが『千丈の堤も蟻の一穴から』という言葉もある。
 少しずつでも積み重ねれば、いつかは芽が出るだろう。
 この船が勝てなくても、俺が届かなかったとしても――
 他の船がやるだろう。誰かがきっと叶えるだろう。今はただ諦めずに喰らいつくのみ!)
 利一の鋭敏な視力が捉えるリヴァイアサンの『表情』は苛立ちに満ちていた。
 そんな事実が確かに彼を勇気付けた。
『リヴァイアサン自身がそれを雨垂れと認めたならば、雨垂れで石を穿てばいいだけだ』。
 しかし、そんな決意さえ嘲り笑うかのように。
 彼方、大口を開けた厄災は文字通り『線』で艦隊を薙ぎ払う。
 強烈な揺れ、衝撃。飛沫の余波だけで兵は何人も倒れ、イレギュラーズさえ傷付いた。
 碌な狙いさえつけていない攻撃さえ容易に致命に届き得る。
 怯えろ、竦めと戦士の心を足蹴にする――
「皆さん、もう少しだけ耐えて下さい! 必ず僕が回復します!」
「あの海蛇め、きっと余裕の舞台から引き摺り下ろしてやるわ! その為なら、こんな程度――!」
 ――絶望を体現するリヴァイアサンの暴虐にマルクの、Trickyの支援が対抗した。
 極めて安定的に精度が高く、戦力を維持する為に出来る全てを備えこの場に立つ彼等は、威風堂々とした指揮者、派手な攻撃手ならずとも、最も重要な戦いのピースに違いない。
 幾度となく訪れる危機をギリギリで乗り越え、傷んだ艦を、兵達を辛うじて支え続ける。
 イレギュラーズとは可能性を覆す者である。それを抱えたこの艦もまた、他と同じくリヴァイアサンにとっては何とも厄介な敵であり続けていた。
 故に、だろう。
 しつこい砲撃と粘りに業を煮やしたアルバニアが此方を指差せば。
 リヴァイアサンの大顎は今度はこちらへ接近した。
 喰らえば直死――限りなく濃厚な死のイメージにさえ縁は唇を歪めていた。
「前の俺だったら大人しく尾びれ巻いて退散していただろうが……
 こればっかりは感謝するぜ、嫉妬の『嬢ちゃん』。
 死ぬのが早いか遅いかの違いなら――心置きなく無茶できるってモンだからな!」
 回避行動をとった艦が一瞬間に合わない。
 艦のマストを顎が食い千切る。空間に居た兵達の何人かは永遠にもう戻らない――
「……っ……!」
 中破した艦に、悲惨なまでの暴虐に息を呑んだのは誰か。流石に練度が違い、咄嗟に致命傷を避けたイレギュラーズさえ、何人かは深く、深く傷付いている。
 だが、しかし。
「ここが踏ん張りどころだよ! 無理はしないで、でも頑張って――
 みんなで無事に、ここを、あいつを越えるんだ! いいね!」
「ぜってぇ諦めんな! ここで終わらせっぞ!!」
 そんな時だからこそアレクシアは勇気の花を咲かせる。
 エースストライカーは――日向葵は声を出す。
 劣勢の時、もう駄目だと思った時こそ、彼の気力は漲った。
「何をしてもここで魔種共々ぶっ潰してやる――」
「あら、小娘一人ちゃんと噛み砕けないのかしら!
 厄災のケテルなんて随分と仰々しいけれど――まだ寝ぼけてるのね!」
 猛烈な葵の反撃とアンナの挑発が竜へ向く。
 この鉄壁のアンナは『あの瞬間』。決死の盾を持ちて、危機にある仲間さえ庇ってみせた。
 命を捨ててのものではない。必ず捌き切ると己を信じてやり切った。
 そして『庇われた方も黙って庇われているような男ではない』。
『それをやり切ったアンナの意味を無にするような男ではない』。
「こん時をどんだけ夢見てたか!
 覇竜領域の竜に憧れて! イレギュラーズになって!
 こんな海の果てで運命と出会うなんて――あぁ、面白ぇ! 最高だ!
 テメェの記憶にルカ・ガンビーノを刻んでやる!
 そうしたら――アニキへのいい土産話にもなるだろうさ!」
 ルカは大凡これ以上最悪と言っていい程に防御を捨てた狂犬である。
 代わりに得た圧倒的なまでの攻撃力は研ぎ澄ませた彼の牙であった。
 最大級の攻撃は最大級の隙に等しい。
「食い破れェェ――ッ!!!」
 黒顎魔王がリヴァイアサンの鱗を剥ぎ取る。
「全弾全力全開、マキシマムパワーで殴り飛ばして勝利を勝ち取る!
 最高のショーだ。分かりやすいヴィクトリーだろ?
 こっちはオールオアナッシングには慣れっこなのさ!」
 黙っていないのは貴道も同じだ。
「だが生憎と俺達はくたばらねえ、テメェ等だけにここでおねんねしてもらうぜ!」
 貴道の鍛え上げたその拳は並の武器等物ともしない殺人凶器そのものだ!
 これまでにない程にハッキリとした損傷にそれは怒りの声を上げた。
「あらあら、だらしない。アタシもそろそろやらせて貰うか!」
「あんじゃおらー!!!!
 ちょっとカッコいい姿になってカッコいい龍に乗ったからっていい気に……
 ……くそう羨ましいな! 死んでもう一度死ぬのは正直ちょっといやだけど!」
 竜の頭上から伸びたアルバニアの触手が斬神空波で攻めかかったハッピーを捉え、彼女の霊体に無数の穴を穿った。
「手加減が苦手で、悪いわね」
「こっちもごめんね! もう死んでて!」
 嗤うアルバニアだったが、致命傷にもまるで応えないハッピーに苦笑する。
「どいつもこいつも手を変え品を変え、面倒くさい芸ばかり!」
「さて、どうだい? 『お嬢ちゃん』。海にいりゃぁ強いのはお前さんだけじゃねぇのさ。
 皮肉なモンだぜ。俺を苛むこの『声』が、俺を正気を保ってるなんてよ――」
「あら、いい男。でもアンタ、他の女の『臭い』が消えないのよねぇ。
 例えばこの海の何処かに居る、女。そっちをまず片付けてあげようかしら!?」
「捉えたぞアルバニア! 海洋の望んだモノが目前にある!
 譲れぬ! 互いに! ならば――全てを賭して、決着としようじゃありませんか!」
「……ふん、こっちもいい男。お化粧してる時に会いたかったもんだわね!」
 言葉の応酬と戦いの応酬は同時に過ぎる。
 アルバニアの猛攻にカンベエはすぐに襤褸になる。
 だが一歩も退かない。その程度では彼を折る事は出来ず、食い止めるという意味でそれは十分な意味を持っていた。
 一方で覇竜の導きをもって縁が竜頭の気を引いた。ルカの一撃が再度リヴァイアサンに喰い込み、舌を打ったアルバニアは邪魔をする縁を挑発する。
「さあ、仕留めるわよ! この距離で『撃てば』お終いでしょう!?」

 ――命ずるな、魔種風情が……!

 近距離で炸裂した竜の威圧は逃げ場なく船上の戦士達を襲う。
 行動を封じてからの激流は逃れ得ぬ破滅の連打である。
「……っ……!」
(いよいよ本気になったってことかな……!
 でも、私たちにだってここで絶対に退けない理由がある――)
 アレクシアは見事に畏怖を跳ね除け、その愛らしい美貌で目前を睨む。
 中破した艦にこうもリヴァイアサンが構い続けるのはアルバニアを含めた双方がイレギュラーズを脅威とみなしたからに他ならない!
「……来る!」
 持ち前のセンスで敵の動きを看破したラダ。零はそれに身構える。
 イレギュラーズの視界の中で大顎が大きく開く。死の洞が姿を現す。
 水は渦巻き破滅という名の確定的な未来を約束するかに見えたが――
「――させませんよ!」
 たっぷりの勿体をつけて、颯爽と。
 猛烈なスピードで甲板から飛び上がったのは一台のバイクだった。
 顎の下から突き上げるように渾身の一撃を叩き込んだアルプスは願う、祈る。
(もう一撃! 今だけは、もう一撃を――!)
 かつてアルプスは宿敵・油圧ワニファラオとの戦いにより水生生物の顎を閉じる力は絶大だが、開く力は弱いと知っていた。竜種に当てはまるかどうかは知れなかったが、それを信じて飛び出した。
「撃たれれば負けなら、無理にでも閉じるまで――!」
 ブルーコメットに続き、もう一押し。
 天が叶えたスーパーノヴァがそのエンジンの唸り(トルク)を上げた。
 開きかけた大顎が幾分か押し戻る。
(足りない――)
 痛恨を覚えたアルプスだが、ホロの表情は次の瞬間には別のものになっていた。

 ――私は勇者ではない。
   大いなる暴威、神の威風を纏う竜種を前にきっと何も出来ない。
   踏み止まり、歯を食いしばるような勇者になれる訳がない。
   勇者の物語を読み、心を高鳴らせ、身を震わせただけのほんの小さな読み手に過ぎない。
   でも、でもですよ。何かしなければ、全てが終わってしまう。
   私は勇者にはなれないけれど、きっとあの人は『戦う機会の無かった勇者』だった。
  『お姫様の為に戦えなかった勇者』なんですよ、きっと。
   ……あの人の弟子として、何も出来ないような、逃げるような。
   そんな、恥ずかしいところは見せられない!

「――ゼピュロスの息吹よ、私に力を! 今度は決して貴方を、逃しはしない!!!」
 小さな胸に刺さる僅かな『嫉妬』はアルバニアのそれと似ても似つくまい。
 だが、ドラマはきっとアルバニアを理解していた。少なくとも、僅かばかりは。
 蒼月剣が師匠もかくやの切れを見せ、追撃の二撃で死の竜門を押し戻す。

 ごああああああああああああ――!!!

 激流の暴発したリヴァイアサンは痛みにのた打ち、その頭部は死に体の海洋艦から離れていく。

 ――本当に忌々しい――

 離れ際にアルバニアの見せた表情は苦渋に満ちる。
 どれ程頑張った所で無駄なのに、こうも諦めないのでは――彼の嫉妬は身を焦がす。

成否

成功


第1章 第3節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
彼岸会 空観(p3p007169)
ポムグラニット(p3p007218)
慈愛のアティック・ローズ
遠野・マヤ(p3p007463)
ヲタ活

●要の戦い
「貴女さまが作って下さったこの機会。決して無駄には致しません。
 貴女の上に乗ることを、どうかお許しくださいませ――」
 クラリーチェが静謐と祈りを捧げるように言った一方で、
「うっふふふふ! 竜種に乗って竜種と戦うなんて、こんな経験した魔女他にいる!?
 こんな奇跡が起きた今なら何だってやれる気がするのよ!」
「まさか、竜の背に乗って共に戦う機会なんてものがあるなんて……!
 本当に人生は何が起きるか分からない。混沌らしいと言うのかしら。
 でも、背をお借りする以上、無様は見せられないというもの!」
 リーゼロッテや舞花は言い様こそ違えど、その美貌を勇猛と華やがせていた。
 鉄帝国や海洋王国の艦と同じく、『水神様』――竜に乗ったイレギュラーズも奮闘を続けていた。
 連合軍の――イレギュラーズの戦いは見事なものと呼べる。神の如く海に君臨するリヴァイアサンの暴威に負ける事はなく、見事な連携で各自が各部を叩いている。動けなくなった艦も多く、死した者も少なくはあるまい。
 それでも……
「……余波だけでも潰されそうな程の怒り
 ほんの一年前までふつーのオタクとしてた私が本気の竜と戦うとかどんな笑い話よ?」
 軽い笑いを浮かべたマヤの言葉は裏を返せば連合軍の大健闘を意味している。
「随分お怒りの様ですね。これは全く朗報と呼ぶ他はありません」
 怜悧なる美貌を幽かな熱と愉悦に歪めた無量は云う。
「最初は見向きもせず、尾を揺らし足を動かしていただけのあの神が。
 見れば、今や明確に我々に対して感情を向けている。
 これが象と蟻の戦いであればこうはならなかったでしょう。
 つまりこの場は象と蟻程の差も無いのでしょう。
 我々は人。思考する獣、魂持つ愚者。故に、故に神にすら届き得る。
 天に吐いた唾は己に返ると言いますが――前へと歩む者には中らない」
 成る程、詭弁のようでもあるが無量の言葉にも一理あろう。
 実際の所、運命はまだその行く先を決めかねているようにも見えた。
 少なくとも大勢は決していないのだ。『それ自体が伝承に残っていい位に奇跡的な事に』。
(そうね、今は怯えて弱々しいBGM(おと)を流している場合じゃないのよ、遠野マヤ!
 萌燃両道が私の座右の銘。此処は燃えるべきシチュエーションよ!
 絶対に皆で生きて帰ってみせるわ……ッ!)
 口にすれば面映ゆく、さりとて決意は揺らいでいない。
 この戦いは元より絶望的なものである。
 竜種とはこの混沌で間違いない最強とされる種族であり、その中でもリヴァイアサンは神威を纏う本物なのだ。奇跡に奇跡を重ね『ここまで』持ってきたのは間違いないが、彼等が今駆る『水神様』はこうも言っていた。

 ――滅海竜』リヴァイアサンは強大過ぎる。
   私が知るよりずっと、ずっと弱くなってはいるけれど……
   この場に用意できる力で神を討つ事は出来ないわ。

 同じ竜種であり、今リヴァイアサンを抑えつける彼女の言葉だからこそそれは絶対だった。
 この戦いは元より倒す為のものではなく、暴君を『封ずる』と語った彼女に繋ぐ為のものだ。
 それを己が無力と責める必要はない。『真に無力ならばそもこの場所に誰も辿り着かなかったのだから』。
「水神様、あたしが絶対護るからね!
 すごく怖いけど、鍛えてきたのはこうやって誰かを護るため!
 あたしの護る戦い、やってやるんだからー!」
 寄せては砕ける大波・高波に乗り心地が良いとは決して言えないが、フランのギフト――ハンディ・アイヴィは落ちかけた仲間を引っ張り上げた実績を早くも幾つも重ねていた。
「おにーさんのお仕事は護る事だからさあ。
 リヴァイアサンを倒すのも、アルバニアを倒すのもおにーさんの役割じゃあないんでね。
 ……そういえば水神様、お姫様だっけ。
 可愛い女の子を護る為とか、うん。俄然やる気が沸いてきた」

 ――ふふ、期待してるわね!
   特に女の子扱いされたの、どれ位ぶりかしら!

 フランやヴォルペの言葉に水神様の背が嬉しそうに震えた。
 他の艦船に比べ圧倒的に巨大であり、圧倒的に頑健である水神様は代わりに砲を持たない。
 身を捩るだけで船を沈めるようなリヴァイアサンに接近し得る船は少ないのだが、彼女だけは例外だ。極度のロングレンジを保ち、被攻撃時に迎反撃を取る他の船と異なり、水神様は積極果敢にリヴァイアサンとの距離を詰め、背中の頼もしい勇者達を攻撃の射程へ届けている。
「……水神様からすればちゃちな支援かもしれませんが、やれる事はやりますよ。
 ええ、小さな底上げしかできないのが悔しいところではありますが……
 せいぜい微力を尽くすとしましょう。気高き海の守護者様、きっとこの戦いに勝てるように」
 幾らか捻くれた調子でそう言ったベークだったが、ありとあらゆる個別、範囲支援を持ち込んだ彼はサポート役ながらに味方全体を活かす為に必死だった。
 水神様はリヴァイアサンの攻撃さえ受け止める力を持つが、的が大きいだけに――そしてイレギュラーズを載せるが故に避ける事は難しい。必然的にイレギュラーズは水神様をサポートしながら攻撃を行うという二つの動きを求められている。
 果たして有効攻撃射程に入ったイレギュラーズはまず距離攻撃をもってリヴァイアサンの体表に火力の弾ける華を散らす。

 ――此度は此方か。小賢しい!

 リヴァイアサンの一喝に大気が震える。
 されど物理的威力さえ伴ったその烈風に抗じるように、
「私は皆さまの回復を致します。どうか怪我が酷くなった方は私の傍へ!」
 クラリーチェの声が凛然と響いていた。
『此度は此方』。リヴァイアサンにあるのは単純な苛立ちだろうが、それこそが連合軍がこの海に見出した一縷の勝機であった。リヴァイアサンはその巨体故に視野が『雑』である。小さき者と敵を見下し、暴れるだけで壊滅する艦隊を侮っている所がある。連合軍は多角度より同時攻撃を加える事でリヴァイアサン側に攻撃の的を絞り切らせていない。『トドメをさされるより先に他に注意を引き付けて、立て直している』。事実として述べるならアルバニアはその危うさに気付いていたが、暴君は頭上の魔種の『適切なアドバイス』を聞くような性質ではない。
(――状況が更に動いている。
 アルバニアを仕留めきれないまま竜種が出てきた時はどうなるものかと思ったけれど、アルバニアには逃げられるよりは、手が届く海上に顔を出してくれた事が有り難い、か)
 賢明なるアリシスの見立てでは完全な時間稼ぎに徹される方がここは苦しい。アルバニア――リヴァイアサンに攻め気が強いのは『引きこもって時間を稼いで失敗した』アルバニア自身の苦い経験が作用している事と考えられた。
「ああ、今度はこちらですか竜王よ」
 戦況は当然ながら厳しいが、優勢故に簡単に逃げは打つまいとも考えられる。
「『厄災の王冠』。『神』を名乗る事が驕りとは思いませんが……
 神故の慢心こそ唯一の好機となりましょう。
 神であろうと王であろうと――先ずはその頭から地に堕ちていただくのは当然のこと!」
 彼女の放った魔砲の火線が降りてきたリヴァイアサンの頭部を迎撃した。
 一撃の威力さえ弾き散らして襲い来る死の門に緊張が走る。

 ――間一髪。

「……ッ……!」
 身を挺する事でイレギュラーズの直死だけは避けたが、暴虐は余波だけで戦士さえ打ち倒す。
 庇うように動いた水神様の脇腹が食い千切られ、絶望の海を鮮やか過ぎる色彩が彩っていく。

 ――私はいいから、彼をたたいて……

 リヴァイアサンの哄笑が、苦し気な声が響く。
 イレギュラーズの判断は早かった。
 或る者は水神様の手当てに動き、或る者は間近に迫った竜頭とアルバニアへ挑みかかった!
「皆の頑張りを無駄にしないためにも絶対に護り通してみせるんだ!
 ここで負けたら、ここで退いたら――これまでが全部だめになる!
 一人一人の力は小さくても集まれば大きな力になるはずだから――」
 一秒でも、一瞬でも長く誰かを、誰かの全力を支える事こそスティアの矜持である。
【光明】は絶望の海にさえ、その光芒を瞬かせる。
 鮮烈に美しく、そう。アルバニアが嫉妬を隠せない位に――
「――ありがとう水龍様! この借り、きっと返します!」
 ――待ち望んだ『瞬間』にサクラという大輪が花開く。
 危うい程に艶やかに、敵が強い程熱烈に。
「確かに私達は貴方から見たらちっぽけな存在かも知れない。それでも――」

 ――生きているなら、きっと殺せる――

 脳裏で嘯いたセンセーの物騒な教えにサクラは漲る。
「ええと、そういう事じゃなくって!
 力を合わせれば! 神威だって打ち破れる!!!」
 親友(スティア)と合わせて動いたサクラの太刀がリヴァイアサンの鱗に食い込む。
 鉄を斬るかのような感触に柳眉が歪むが、更に押す。
「そうそう! やられてばっかじゃいられねぇ! やるときはスパンとお返ししてやるぞ!」
 負けじと洸汰もそれに続き、全身全霊のフルスイングで強烈な一撃をお見舞いした。
「……しぶとい、ここもなのね……!」
 舌を打ったアルバニアが動きを見せた。
 だが、そんな彼の注意を乱したのは、
「……こちら、ですの!」
 ふわりと宙を泳ぐようにアルバニアに向けて動き出したノリアだった。
(リヴァイアサンに、食べられてしまったなら、きっと、どうにもできません。
 でも……大きな魚や魔物に、食べられかけつづけたわたしだからこそ。
 食べられない方法を、いま、できることを知っていますの。それは――)
「しゃらくさいわよ!」
 全身を無数に貫いた強烈な激痛にノリアの視界が明滅する。
 冠位魔種の本気の殺意はイレギュラーズでも中々耐えられるものではないが、
「……それでも……誰かに、一歩でも先に、進んでもらうことができるなら。
 きっと、わたしだって、何もできない子供ではないと、証明できる――はずですの!」
 のんびりしたノリアとは思えない程に気迫のこもったその言葉はアルバニアの暴力をそのまま彼にお返しした。ノリア・ソーリアは容易く傷付き、容易く倒れない罠の餌である。
「……っ、味な真似を……!」
 自身の放った攻撃を棘で返されればアルバニアの表情は醜く歪む。
 そして、彼にとっての予想外、ちょっとした不幸はそれに留まらなかった。
「待たせすぎですよ! ヨハナをスープにする気ですか!
 それにしても、ひょええええええっ! おおきいっ! でかいっ!
 これは今夜間違いなくお漏らししちゃいますが――感想はこれ位にして!
 ええそうですともっ、お漏らしのタイミングはいまではありませんっ!
 今が攻め時っ! どんどん叩き込んじゃいますよっ!」
 こんなシーンでも何時もの胡乱とした長広舌は変わらない。
 何と信じられない事に水中行動を利用して絶望の海、スープの中に潜伏していたヨハナがリヴァイアサンの巨体を駆け上がった。完全にノリアに注意を取られていたアルバニアの隙を突き、彼と彼の乗る竜頭に楔を打ち込まんとする動きを見せた!
「研鑽してきた魔術はきっと今日のためにあったんだわ!
 ええ、それを――存分に見せつけてやるわよ!」

 ――明日なんていらない。未来なんていらない。
   花にとっての絶望は散ることではなく、その蕾を開けないことだから。
   すきなひとの未来だけはどうしたって守りたい。
   この想いがたとえ一方的なものだったとしても――

(あなたも きっとそうでしょう? あるばにあちゃん)
 リーゼロッテの光翼が瞬き、想いを乗せたポムグラニットの破式魔砲が空気を焦がした。
「そういう事です! 今、正にこの死地ですら、私達には旅路の途中でしか無い!」
「ああ、本当に殺してもしなない連中め――」
 裂帛の気合と共に一閃した無量にアルバニアは天を仰ぐ。
 しかし、気を取り直した冠位魔種は同時に、不敵さをも帯びていた。
「でもね。いい加減、覚悟なさいな。『ご高説』を聞くのも少し飽きてきたみたい。
 そろそろ簡単に、そう。簡単に逃がしはしないわよ――!」
 傷付いたノリアが竜の背に落ちた。アルバニアの単純暴力がヨハナを叩きのめし振り落とす。
 再び振るわれた竜の牙に水神様が悲鳴を上げた。
 リヴァイアサン唯一の死角、連合の頼みが水神様ならば、敵の攻め手も又然り。
「どいつもこいつも一切合切。
 ええ、この海のスープにしてやる予定は変わらないわ。
 そんなら、そうね。当たり前の事だわよ。
 まずはアンタ達から――一番『ヤバイ』のを片付けるのは鉄板ってモンでしょう!?」

成否

成功

状態異常
ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚
アリシス・シーアルジア(p3p000397)[重傷]
黒のミスティリオン
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)[重傷]
自称未来人
清水 洸汰(p3p000845)[重傷]
理想のにーちゃん
フラン・ヴィラネル(p3p006816)[重傷]
ノームの愛娘
ヴォルペ(p3p007135)[重傷]
満月の緋狐
彼岸会 空観(p3p007169)[重傷]

第1章 第4節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
セララ(p3p000273)
魔法騎士
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)

●親友と海と
「どいつもこいつも一切合切。
 ええ、この海のスープにしてやる予定は変わらないわ。
 そんなら、そうね。当たり前の事だわよ。
 まずはアンタ達から――一番『ヤバイ』のを片付けるのは鉄板ってモンでしょう!?」
 嗜虐の愉悦を含んだアルバニアの声が戦場に響く。
 竜種の圧倒的な体力と防御力を備えるが、機動と回避にはやや劣る水神様は、彼女と共に戦うイレギュラーズは、自身に喰らいつき追撃を加えるリヴァイアサンと『まずそこから片付ける事にした』アルバニアの苛烈にして執拗な攻撃に圧倒的な劣勢を余儀なくされていた。
「そろそろ死ぬかしらね!? 散々粘って邪魔してくれたけど――」
 水神様にせよ、その背で戦うイレギュラーズにせよ。
 冠位魔種と竜王の攻撃を受け、アルバニアが苛立つ程に――辛うじてここまで耐えられたのは陣営で粘り強く支援を繰り返す支援役の、防御者達の奮闘に他ならなない。
 無論、彼等が恐怖の竜頭を引き付けている間にも連合軍の激しい攻撃は止んでいない。
 されどリヴァイアサンとアルバニアは多少のダメージは織り込んだ上で、まず戦場最大の脅威を取り除かんとしている。水神様による『封印』の情報は伝わってはいまいが、何れにせよリヴァイアサンが己の権能『神威(海)』を取り戻せば勝利は間違いないのだから彼等にとっては当然だ。

 ――どうする――

 そう考えた者は少なくなかっただろう。
 広大な戦場各所で死線を繰り広げる友軍に余力はなく即座の救援は難しい筈だ。『通常ならば、集中的に狙われたこの時間、水神様とイレギュラーズが頼れるべき存在は居なかった筈だ』。
「――カカカカカカカカ! 主役がちょっと遅すぎたか? 随分困ってるようじゃねぇかっ!」
 遊撃として誰の指揮下にも入らず、機動力と即応性を武器にする――『単艦』でこの戦場を引っ掻き回すオクト・クラケーン、以下蛸髭海賊団のようなものが居なかったなら!
「……かっ、くかかっ、グドルフさんに糞親父、なんて無茶苦茶しやがる!
 ああ、もう、本当ッ、それでこそ憧れ甲斐が有るぜ!
 糞親父、キドーさん、グドルフさん!
 噂の三賊の力!しっかり見せねぇとすぐに追い越してやるからな!」
「つーか、主役だあ? テメーだけ目立ってんじゃねえぞ!
 俺達は三賊だ! 退け、俺とプラックの立ち位置も作れオラッ!
 一世一代の大勝負なんだからよッ!」
 高らかに声を上げ、危険領域に迷いなく踏み込んだ。
 近距離からの砲撃と華々しいその声を名乗りにしたオクトを眺め、何処か嬉しそうなプラックの一方で「あんまり糞親父を甘やかすんじゃねえ!」とキドーが唇を尖らせる。
「船の上では船長(キャプテン)が絶対だって、陸の連中ぁ知らねぇのか?」
「……くくくっ、まぁいい。
 こんな場で、最後の最大の鉄火場で。並び立つのが、かつての三賊たあな。
 今、この瞬間だけは――三賊同盟復活って事にしといてやる。花をくれてやろうじゃねえか。
 行くぜ、おめえら。あのクソトカゲをブチのめす!」
 丁々発止のやり取りはまるで在りし日のようだった。
「やあタコの船長! オレもイッショに暴れさせてもらうよ!」
「うーむ、しかししばらく見ぬ間に随分と漢前な感じになったのうオクト。
 以前はなんか怖くてうにゅうにょな顔じゃったのに今は硬くてカチコチな感じなのじゃ!」
 腕をぶし、気合を入れるイグナートは相も変わらず。変わらないと言えば何時も気安いデイジーも相手がどうあれ、状況がどうあれその軽妙さは失われていない。
「『ジャッカル』以来か。蛸髭。Nyaha!!!」
「……また世話になる事になったな、キャップテン」
 至極分かり易く分かり難い――オラボナから喜色が漏れた。
 口の端に笑みを浮かべたレイヴンが乗船するのは二回目だ。
 奇妙な縁は繋がり、共闘の時間は再び訪れた。遥か先に霞む勝利の姿を捉えるその為に――
「……本当に無茶ばかりして! これ終わったらたこ焼き奢って下さいっすよ!」
 付き合う事自体には異論はないのか、支援役としてここに乗り込んだジルが華やかに笑い、
「おう。最後……なるかどうかわかんねーが……一暴れといこうぜ!」
 ミーナはデイジーが「カチカチになった」と称したオクトの甲冑をこつん、と叩いた。
『この瞬間、船上の誰にも蟠りは無く、オクトの反転なる事実も抜け落ちていたに違いない』。
「ああ、もうどいつもこいつも! 変わってねぇな! 嫌になる位によ!!!」
 オクトが声を上げ、
「いいや、そうでもない」
「……へ、ひゃあ!?」
 クロバはニヤリと笑って傍らのシフォリィの腰を抱き寄せた。
 まるで見せつけるように、演出たっぷりに――冗句めいて。
「――また、会えて嬉しいよ。『オクト・クラケーン』」
「クロバさん、後でひどいですよ!」等と不穏な事を言う彼女はさて置いて。
 ……これは再会だった。
 戦場各所のイレギュラーズを拾った艦は物騒極まりない同窓会のようなものである!
 とは言え、のんびりと会話を楽しむ余裕がない事は確かである。
 オクトにとっては半身――スクイッドも既に無念の海に消えた。
 これはイレギュラーズにとっても強い印象を残した彼の弔い合戦でもある。
 砲撃を続けながら前進する艦は目標まで数十メートルの位置で足を止めた。
 この距離ならば砲撃、イレギュラーズの攻撃共に有効である。
「……しかし、随分とむさ苦しい船ねぇ、これじゃあ、ちょっと……
 ……うん、イイ女がいた方が士気が高まるでしょ?
 飲み仲間(グドルフ)が戻って来たんだもの、もちろん私も手を貸すわよぉ」
 この海には沈めない、この海に沈められないのも同じ事――
 アーリアの異常とも言える攻撃精度はこんな時に役立った。本来の手管である『悪酔い(BS)』が化け物共にどれ程通用するかは彼女自身にも読めなかったが、逃げ切らせないという一事をもってもアーリア・スピリッツは中々性質の悪い悪女なのだ。
「なーんか、失礼な事言われてる気もするんだけどねぇ」
 言葉こそ余裕めいているが、その内心にあるのは「この海で沈みもしないし、沈ませない――」。今日ばかりは酔いも醒める自分に対しての、仲間に対しての強い誓いそのものである。
「やる男だとは思っていたが。よもや、ここまでとはな!
 オクトにグドルフ、三賊共。全く、惚れ惚れとさせる漢達よ。
 お陰様で気合いが入った。では、参ろうか!」
 距離こそあれど、この距離ならば汰磨羈の技が役に立つ。
 無間睡蓮が閃き、続け様にリヴァイアサンに突き刺さる。
「よーほー! ……いやなんだこれ。ふざけてるよな、絶望の青って奴はさ!
 いつか乗りたいとは思ってたさ! そこで果てを目指して、困難を超えた航海の先に……
 宝とドラゴン! 全くロマンだよ、確かに夢見た通りのパーツだ!
 どれもこれも……そうだけど、チクショウ!!!」
 距離攻撃を仕掛けるサンディが誰にしていいかも分からない抗議の声を張り上げた。
(廃滅にカカってなおコレだから、イヤになる。
 ソレでも表面がクサりかけてるのは、神威が弱ってるおカゲかしら――)
 ブラック・ラプターの照準から覗く世界は相変わらず曇っていた。
 荒れる海に揺れる船、吹き付ける風。『狙撃』という意味なら環境は最悪極まりなかったが、『如何なる悪条件さえ何とかしてしまうのが名人』ならば、ジェックもまた十分その領域に踏み込んでいた。
 当てるだけならば馬鹿馬鹿しい位に簡単な的ならば、彼女が狙うのは『部位』である。
 仲間の戦いで剥がれた鱗の傷口を、廃滅の影響で爛れた個所を、『生物的な弱点に期待なんてしていない』が、目を、口を。
 嘶く銃声は挫けそうになる誰をも激励する『声』である。
「畏れているヒマなんて、アタシ達には残されてはイないんだカラ!」
 彼等の一連の行動の狙いは、即ちリヴァイアサンの頭部を横合いからの砲撃で弾き飛ばし、強引に水神様との距離を開けること――オクトの指揮で始まった突撃は酷く荒っぽかったが『繋がれた』状態であった友軍を救うにはこの上なく適切だったと言える。
 デメリットはと言えば、
「……雑魚魔種風情が、アタシに何してくれてんのよ!?」
 横槍で『実に感動的な痛打・痛撃』を受けたアルバニアの怒りが自艦に向けられたという位だ。
 しかし、それとて。
「これまでいくつの船が、お前のせいで沈んだかも分からない!
 なラ、牙の一本二本でもへし折ってやらねぇト、こっちも気が済まねぇんだヨ!」
 大地の強い言葉が一蹴した。
 そう、元よりこれは悪い展開ではない。自身の身の安全は兎も角として。それは――
(権能が弱体化してるとは言うが、冠位は冠位か。
 ……あぁ、何とも難しいな。死を恐れるつもりはないが、死にたい訳でもない。
 とは言え、これは僥倖と呼ぶ他あるまいな。何れ、最善最高の一手があれ等を討ち貫くまで――それが為される時まで、全力で抗うその機会を得たという事なのだから!)
 ――連合軍にとっても、盾として守り手として聖骸闘衣を身に纏うフレイにとっても効果的な取引なのである。
 この戦いの最大の切り札は水神様による『封印』の方である。『権能阻害』を理由に猛攻を仕掛けてきた彼等が蛸髭海賊団の出現で水神様より注意を逸らしているのは未だアルバニア達がそれを知らないという決定的な証明に他ならない。もし分かっていたとするならば全てを振り切ってでも水神様のみを追撃していたのは明確なのだからそこは疑う余地もあるまい。
 果たして、業を煮やした冠位と竜王は苛烈な攻撃を仕掛ける蛸髭海賊団を迎撃する。
 竜頭が水神様より離れ、彼女はこの隙に幾らかの距離を取る事に成功した。

 ――喰らい尽くしてくれるわ――!

 大気を震わせる轟音、一喝が衝撃波となり艦を叩いた。
 唯の一声が物理的な威力に変わる事は繰り返された光景だ。
 並の戦士ならばそれだけで竦み、或いは倒されてしまうような威力を持っているが――
「これだけの時間実現していない事をさも容易い事のように言わないで欲しいものなのです。
 第一、何が『我をこの上怒らせたな』なのです。
 古く強大である、ただそれだけの奴が、後から出てきてイキり倒してるのではないのですよ」
 ――にべもなく冷淡に威圧の風さえ涼やかな顔で否定する、このヘイゼルは元よりその厄介さを読み切り、潰しに掛かっていた。超高の技量で大半の攻め手を回避する彼女は更に持ち前の抵抗力で戦場の悪影響を殆どをレジストする楔であった。魔性の直感で状況を完璧に理解し、放たれる号令は言霊の如く。その声は否が応無く味方の苦境を許しはしない!
「竜だ神だと上から物言うのも結構だがな……たまには下を見ねぇと怪我すんぜ!
 これ以上は近づけないのかタコ船長!?」
「――っせぇなっ、任せとけよ。この野郎!」
 ミーナの声に怒鳴るようにオクトが応じた。
 座してあの恐怖――大顎を喰らうよりも攻めかかる、その果敢さは蛸髭海賊団が故。
「折角乗るなら、あの竜に一発お見舞いしたこの船かしらと思ったけれど――間違っていなかったみたい」
 小夜は花のように微笑んだ。
 斬り甲斐のある巨体がどんどん近付いてくる。
 勝ちようのない化け物が、狩りようのない獲物が近付いてくる。
 それはどんなにか素敵な事だろう!
「私は刀を振ることしかできないし、この刃が届くかは分からないけれど――」
 是非も無し。だから、戦いは楽しいのだから。
「向かってくる訳ね!? いよいよムカつくわね、この野郎!」
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上!」
 目を剥いたアルバニアの触手が伸びた。
 それをセララが見切り、切り払い……足りない分は、
「――その勇壮、その道程。この物語が任された!」
 オラボナがその不滅の体をもって、暴威を防ぐ。
 艦は竜頭に迫り、満を辞してセララが叫ぶ。
「――ギガ、セララ、ブレェェェェェクッ!」
 一撃が放電し、威力の余波で空気を焦がす。
「お前が海の覇者だろうが! オレたちの方が! 強い!!」
 イグナートは目前の恐怖にも一切躊躇わず、
「こそこそやるのが盗賊の性だが……
 こんなに見下されちゃあ隠れる意味もねえわな!
 一丁、ド派手にブチかましてやる!」
「おう、目にモノ見せてやれ!」
「はい、俺も――行きます!」
「カカカカカカ! やっちまえ――ッ!」
 キドーが、グドルフが、プラックが連携良く攻撃を仕掛けた。
「言っておきますけど!
 私、嫉妬の魔種なんかに負けませんから!
 私のクロバさんに近寄る人への嫉妬の方がきっとすごいですからね!
 行きましょうクロバさん、あの人が羨むくらい凄い事をしに!」
「……あの、その、シフォリィさん。表現!」
 困るクロバに小夜が笑う。
「おあついこと。お先に失礼」
「ああああああああ! 本当に苛つくわね、こいつら! 特にそのバカップル!!!」
 ……どうあれ、これで至近距離。
 水神様を救援した蛸髭海賊団は命をかけてこの時間を食い止めるだけ――!

成否

成功

状態異常
サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
同一奇譚
グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
天之空・ミーナ(p3p005003)[重傷]
貴女達の為に
白薊 小夜(p3p006668)[重傷]
永夜
プラック・クラケーン(p3p006804)[重傷]
昔日の青年
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)[重傷]

第1章 第5節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ゼファー(p3p007625)
祝福の風

●絶望の剣
「漸く勝負の舞台に降りて来たってワケ。
 いえ、この場合は引きずり込んだが正しいかしら――
 でも実際。同じ舞台に立ったとして、未だあの暴威だってんだから笑えて来るわね……!」
 言葉とは裏腹にこのゼファーの人を食ったような強気は崩れず。
「まさか、水竜の助力の元、伝説の海賊と組み、海竜に挑むとは、な。
 まぁ、『絶望の青』の――それも、真の主を倒すとなれば、伝説の一つや二つは、必要、か」
「全く。アレが相手ならこの戦いにも、この冒険にも箔がつくってもんでしょうよ!」
 どんな状況下でも表情筋は余り仕事をしていない。エクスマリアの言葉に、歳不相応に怜悧な美貌に薄笑みまで浮かべてみせたゼファーに「お嬢ちゃん、いい女だなあ! 船にスカウトしたい位だぜ!」と海賊達から快哉が上がった。
 フェデリア各所の戦いは刻一刻と激しさを増していた。
 リヴァイアサンの巨大なる全長を連合軍は良く攻めていたが、尾部より放たれた光線が船団の一部を焼き払ったのを見るに――見ないでも、決着を急ぐ必要があるのは明白だった。
「さて、龍殺しか。
 ……色々、試してみるより他ないか。我らが揃えば、成せぬ物など無いがな」
「自信たっぷりじゃないか。こんな場所だから……まぁ、頼もしいけどさ」
 レイチェルが手にした剣は魔性を帯びる彼女の恋人(シグ・ローデッド)。
「弱体化しているとはいえ、本気になった竜を前にして――全く怖くないといえば嘘になる。
 だけど、私達はどんな困難も越えて来た。ここに来た。
 畏れに、絶望に打ち克つ勇気がある。それでも目指したい未来(さき)があるッ!」
「役者も揃ってこっからが本番にゃ!
 ここが一番勢いがあるとこにゃ! いざ、がっつり削るにゃー!」
「はははっ、竜とともに伝説のリヴァイアサンに挑むとは!
 混沌広しと言えど、これほどのロマンもそうそうあるまい!
 悪いがキャプテン。こうなれば運命は一蓮托生だ。
 こちらも自分の命を賭けているのだ、精々頑張って避けてくれたまよ!」
 凛と響くシャルレィスの勇壮、そして全力で拳を突き上げたシュリエに、嵐の空に敵を引き付ける光芒さえ打ち上げた『横暴』なゼフィラに、ブラッド・オーシャンの士気が呼応した。
「はー。もう戻ることはないだろうって……
 全力で煽ってきたのにどうしてこうも早く顔合わせることになるんだか……」
「引き続き、契約通りに行きましょうか。キャプテン・ドレイク」
「……君達は、吾輩を、どれだけこき使えば気が済むのかね!?」
 この上、信号弾を上げたゼフィラに、酔狂な運命にわざとらしく肩を落としてみせたリアナル、寛治の冷静な言葉に半ば本気で抗議めいたドレイクが操舵輪を乱暴に回転させた。
 揺れる船に大波がぶち当たり、バランスが崩れかけるがそれまでだ。
 一瞬前までブラッド・オーシャンが居た場所を吐き出された激流が貫いた。
「流石、見事な腕前で。まるで目が三つ以上ついているかのようだ。
 いやいや、弊社は――私は大いに期待し、応援しているのですよ。これは心から。『第十三回』の不忠にて忠勇なる伝説の海賊が、最初に絶望の青を踏破する。プロデュースし甲斐のある良いシナリオだ。是非、続きを見せて貰いたい。何としてもこれを生き延びて、ね!」
 行きがかり上、ドレイクは連合軍と共闘する事となっていたが、そうなった理由はこの寛治も参加した決死部隊【騎兵隊】の活躍が大きかった。
「ドレイク殿! こき使うだなんて! この船には不沈の加護がついてるんですよ!
 蒼海の女神と伝説の海賊。それだけ揃って船を沈めるなんて無様、しませんよね!?」
「海賊は大大大嫌いなんですが……
 貴方の海の男としての格は最高峰なので……協力はしましょう
 貴方が倒れたら私が操舵するのもいいかもですね――なんて、冗談ごぜーますけど」
 ルル家の言葉に冗句めいたマリナが少しだけ気恥ずかしそうな顔をした。今回の大号令で船の安全を幾度も守ったマリナは何でも陸(おか)では女神像にされているらしい。操舵操船の技術に加え、『クラバウター』――ギフトの加護を乗艦に与える彼女は確かにこの場に最も相応しかろう。
「ああ、それは御免だねェ。
 生憎と吾輩は『ドレイク』でね。『副長』以外にこれは預けないと決めている!」
「……ほんと、アンタ。しれっと言ってくれるぜ」
『副長』のバルタザールが流れ弾に何とも言えない顔をした。
 イレギュラーズもそれを理解しているからこそドレイクの守りは厚い。
「流石は伝説の海賊。
 今回ばかりはホントにダメかもって思ったけど。それでも、まだ、諦められないものね。
 まあ私は『これ』しかできないけど、しつこさはお墨付きってことで――」
「その、この義姉が大変お世話になったようで……いえ、余り含みは無いのですが。
 いざ、味方にしてみると中々頼もしく感じるのは確かで……ええ」
 頑丈な姉(イリス)の事をちらりと見たシルフォイデアは船上の戦士達を支える為の準備を万端と整えている。
 少しだけ複雑な想いはなくはないが、例え危険だとしても、近くで支えたいという想いは間違いなく。自身の力をこの先を切り開く為に捧げんとする想いも又、宝石よりも輝く本物だった。
「皆を返してくれてありがとう。そして、この船では貴殿の命を第一にすると誓おう!」
 一方で、このレイリーは正直、素直に。このドレイクに好感さえ感じていた。
 海賊のやりようにしては時に甘く、ロマンティスト極まりない。余りに人間らしい、人好きのする『悪人』。
 何故伝説となれたのか、今分かる。魅力的な彼の野望に、悲願に積極的に協力してもいい位に思っていた。
「私は騎兵隊、この船の盾であり難攻不落の要塞! 絶対に倒れない!」
「知ってるよ、嫌って程」。嘯いたバルタザールも含め、艦の心臓部である二人を決意の盾は――彼女だけではなくイレギュラーズは――可能な限り守り抜く事を誓っている。
「まさか、海賊さんとご一緒するやなんて思わんかったけど……
 何故、ここに居るかって聞かれたら――それは野暮ってもんだわぁ」
 唇に指を当てた蜻蛉は意味深に微笑う。
「そんなの決まっとるやない、恋する女は強いんよ……!
 ええ、終わったら、美味しいお酒でも一緒に。まずは頑張らせて貰います!」
「ええ、この瞬間瞬間を――私は奇跡と感じています。
 この混沌極めた状況、敵の敵がどう動くか幾らでも転がり得た筈。
 結果として『偉大なる』ドレイクを友軍と出来たなら……
 水神様を除けば、この瞬間こそ望み得る最高だった。その全てを束ねて……今度こそ!」
「……諸君等皆にそこまで買われたら仕方あるまいなあ。
 百人力だよ。望む望まないにせよ、だ。人類の宝は吾輩は預かったぞ、美しいお嬢さん達!」
 更に続いたリースリットの言葉に応じたドレイクは覇気と共に船を又傾けた。
「ま、そっちがどう思ってるかは知らないけどな。
 少なくともこっちはあんたと一緒に戦える事を本気で光栄に思ってるぜ! ドレイク!
 伝説の男と戦場に立つ喜びが沸き立つ。偉大なるドレイクと共に伝説のリヴァイアサンを討つ。
 ああ、これ以上なく。血湧き肉躍る話じゃないか!」
 言えば語るに落ちるから「一緒に戻るんだ、幻と」の一言だけはジェイクは胸に仕舞い込む。

 ――ちょろちょろと小賢しい……
   我が海を這いずる木っ端風情が!

 水柱が幾度も立ち、間近く濃厚な死が艦を掠める。
 避け切れなかった激流ならぬ水球弾がブラッド・オーシャンの一部を小破させた。
「……っ……!」
 恐るべき破壊力と生じた被害に華蓮は小さく息を呑む。
(私は平凡だから、出来る事なんて少ししかない――でも、その少しを全力で全うするまでなのだわよ!)
 心優しい華蓮は傷付く誰かに心を痛めないではいられない。
 本来ならばこんな殺し合いの――戦いの最前線が向いている少女ではない。
 だが、それでも彼女が逃げないのは。彼女がここにやって来たのは。彼女が果てを望む戦いに身を投じたのは。
「見ていてねレオンさん、必ず全員で帰って来てみせるのだわ!!!」
 決意めいた恋が為。淡い想いから、徐々に本物に変わった――恋が故。
 自分達を送り出した優しい人に悲しい顔をさせない為なら、共に戦う仲間の為なら。
 華蓮は――少女は強くなる!
 被害を確認。傷付いた仲間を華蓮達回復チームが支える。
 助からなかった海賊もいる。重傷を受けたイレギュラーズも居る。
 その一方で、
「ぞっとするねぇ! アタシじゃなきゃ今ので軽く死んでるよ!」
 陽気な口調でそう言った武器商人のような者も居る。
「ありがと。助かったわ」
「うむ。流石、だな」
 武器商人が咄嗟に庇ったのはイーリンとエクスマリアの二人。
 武器商人に限らず、防御的な盾は攻撃的な矛を幾つも温存している。
 戦い慣れている。簡単に倒されるようならそもここまで辿り着いてはいないのだ。
「キャプテンドレイク! 操舵はお見事!
 でも、今のはイケてないわね? 何百年で鈍ったかしら。
 今度はアレの――そう、あの大顎を躱す自信はおありかしら!」
「誰にモノを言っているんだい? 弁えたまえよ、イーリン・ジョーンズ!」
「あー、私はキャプテンの手腕に任せよう。多少は勘が働くから、手助けだけはするけどさ!」
 激励するように挑発めいたイーリンに、口髭を扱いたドレイクの操舵が荒っぽさを増す。
 乱暴さにこそ目を細めたリアナルはだが、彼の見事な『運転』に納得するしかない。
(ホント、すっごいわ。これ、実際――ああ、伝説を見てる気分……
 いや、違った。参加してるのね。【騎兵隊】はドレイクに負けない。勝る位に仕事をするわよ!)
 成る程、今度の水弾は全弾水柱を上げただけだ。
 言葉とは裏腹に『司書(イーリン)』はこの物語を収録したい位だった。
 実際、この幾度かの攻防、これまでの戦いでもドレイクは見事な立ち回りを見せている。
 先の被弾も『敵をこの上なく引っ掻き回したが故の結果』と言う他は無い。
 ドレイクは幽霊船団をデコイに使い、リヴァイアサンの主砲を散らし、幾度も無駄撃ちを引き出している。時にブラッド・オーシャン自体を囮にする事も含め、敵陣を見事に翻弄していると言えた。
 捉え難い敵にリヴァイアサン、アルバニアも苦慮している。それの吐き出す激流はより命中度を重視し、回転力を上げた小刻みなものとなっていた。ドレイク以外の者ならば弾幕のような『水弾』に立ち所に動けなくなっているに違いない。
 それは即ち『海上海中最大最強の竜王に、厄災のケテルに小細工を強制しているという事に他ならない』。
 まさに全艦の中でも最精鋭と呼ぶに相応しく、単艦としては最大戦力と呼ぶに相応しいブラッド・オーシャン、そして麾下ドレイク幽霊船団は多数の精鋭イレギュラーズを擁している。『偉大なる』ドレイクと『海賊提督』バルタザールが操舵する大ガレオンは守るよりも攻める為の戦力として、絶望を切り裂く剣としての役割を求められていた。
「そろそろだ。大有効射程に入る。砲撃準備!
 ドレイクならあの大顎も避けるだろ! 切り込み準備も忘れるな!」
「ヘイ、アンタ! そりゃあいい。ご機嫌な命令じゃん?
 言われなくても俺は準備万端よ。サイコーにCoolなトコを見せてやっから、期待して『観客』してなよ!」
 バルタザールの言葉に千尋は不敵な笑みを見せた。
 恐ろしくむらのある男だが『ZONE』に入った瞬間の彼は誰も追随出来ない動きを見せる事さえある。
(実際、アガらない訳ないんだよな――)
 言葉は軽いが極限まで高められた自己肯定感と最高と言っていい大舞台はそんな大言さえ本物に変える価値を持っていた。
「ああ、そりゃいい。期待してるぜ、兄ちゃん!
 さあ、こっちは――もう一発、十発もこの近距離でお見舞いしてやるぜ」
 舌舐めずるバルタザールの言葉通り、ブラッド・オーシャンはロングレンジでの攻撃を選択していない。
『より本気でリヴァイアサンを仕留める為に、近距離まで接近してから砲撃を叩き込む』事に徹底していた。
 ……他艦のように遠距離砲撃に終始していたのでは倒し切れないという判断だった。
 ブラッド・オーシャンは強力な艦だが物資にも限界はある。イレギュラーズは知る由も無いが――『威力を増やす為にリスクを買う辺り、ドレイクは若い頃と何一つ変わって居ないのだ』。
「さぁ始めるぞ! 反撃だ! オールハンデッド!!
 苛烈な反撃が予測される! 精神攻撃や麻痺を受けた者は僕にすぐ報告しろっ!
 傷付いた者は後退し、回復支援を頼る事! 判断を遅れるな。
 ギリギリまで粘って――必要なら迅速に遁走しろ!」
「やあやあ、約束通り全力を尽くそうじゃないか!
 おっと、うっかり強敵の注意を引く魔石を持ってきてしまった!
 お詫びに、僕の最高に当たる天気予報をしてあげよう。即ち、明日は快晴だ!」
 ヨハンが砲兵を号令し、何処まで本気か人を食ったような調子でアトが煽り立てる。
 幾度目かのヒット&アウェーの末、再び艦は暴虐のケテルへと接近を果たしていた。
 長居し過ぎればゲームオーバー、退き過ぎれば周りが壊滅しかねない。直接戦闘に挑むイレギュラーズはドレイクの腕を信じ、粘り強い戦いを続けるしかないのだ。
「――ってぇぇえぇええええええッ!」
 ヨハンが叫び、ショートレンジの砲火がリヴァイアサンの頭部を捉える。
「皆の未来……アタシの未来! こんな所で終わらせるもんか!
 絶対勝てないなんて誰が決めたの? 私達の未来は私達が切り開く!
 私達が、私達自身がこの手で――」
 鬼気迫るミルヴィの頭にラルフの大きな手がポンと乗った。
「竜種……俺の好きな事を教えてやろう。
 俺は『自分の絶対優位を信じて疑わない奴の鼻っ柱を折る』事が大好きでね。
 踏み出そうとしている子に水を差すのは無粋――たっぷりと付き合って貰おうか!」
 ミルヴィ、ラルフ、更にはジェイクの連携攻撃、それに指揮もあり、海賊達の熟練もあり。ブラッド・オーシャンの大火力が竜を、頭上のアルバニアをも激しく脅かしている。
 当然、距離が詰まれば撃ち出される攻撃は加速的に増えていく。
「怯むな、恐れるな! この海流は、今や我らの手にこそある!」
 イーリンの号令が凛と響けば、道は拓く。
「ふふん、あまり私達を見くびらないことね!
 私達はイレギュラーズ、伝説の英雄と共にこの絶望の青を突破する者でございますわ!」
 鉄帝の司祭――ヴァレーリヤが繰り出す『祈りの先』は太陽が燃える夜――
「まさか覇竜にたどり着く前に竜と会えるなんてな。倒させてもらうぜリヴァイアサン。
 この世界の果てを望む奴がいる、志半ばで果てた奴がいる、俺達の都合といえばそれまでだが、犠牲を無駄になんてできねぇ。何よりそこの嫉妬が気に入らねぇ。
 人間の意地、たっぷり味わって海に堕ちろよ!」
「――参ります!」
 ――タツミの『豆鉄砲(ドラゴンキャノン)』が、リースリットの閃熱が大敵を撃たんとする。
「さぁご覧あれ! 拙者こそが神威(宇宙)の使い手! キラキラ煌めいて死にませい!」
「さぁ、魔剣を振るう時だ、我が契約者よ」
「──往くぞ、シグ。未来を掴み取る為に!」
 ルル家が、シグを振るうレイチェルがその力を存分に発揮した。

 ――リリース。『善と悪を敷く天鍵の女王』
   我が誇りをここに示さん。
   屠竜の奇跡を。傲れる神に安らかなる眠りを。

「我(わたし)は、必ずお嬢様の元へ帰るのだわ――!」
 誰かが為さねばならぬなら、そこから逃げぬのは誇りが故。
 善と悪を敷く天鍵の女王(レジーナ・カームバンクル)は天鍵と破軍をもって海を穿つ!
 ……猛烈な攻勢はこれまでで最高のものとなる。
 最早幾度も無いであろうチャンスにイレギュラーズは賭ける他無かったから!

 ――ねぇねぇ、リヴァイアちゃん。
   魔種ちゃんは同居人と認めているみたいだけれど……それは強いからなの?
   リヴァイアちゃんに認めて貰えたら、こうして強い所を見せたら……
   おばさん達も同居人だって認めてくれるのかしら~?

 レストの届けたテレパスに「囀るな!」とばかりの刺々しい怒りがぶつかった。
「……っ、ちょっと。お喋りしてる場合!? これじゃあ洒落にならないわよ!
 リヴァイアサン、いいこと。良く聞きなさい――」
 アルバニアは触手を振るい、砲弾を次々と撃ち落とす。
 されど、漏れた直撃弾は少なくない。砲弾はリヴァイアサンに確かに傷を刻んでいる。
『神威(海)』さえあれば――毛程も傷付かない、暴君の王冠に傷を刻んでいた。
 先の水神様も蛸髭海賊団の横槍で仕留めるまでには至らなかった。その蛸髭海賊団もかなり痛めつけはしたが、未だ健在だった鉄帝鋼鉄艦隊の支援により逃がした現状がある。
「――連中、腕もそうだけどね。
 それ以上に何か企んでる可能性がある。これだけやられて諦めないなんて土台おかしいのよ。
 アタシの勘だけど、希望もなくこんな無謀な戦闘続けられるもんですか。
 だから、何か企んでるわよ。アンタでもタダじゃ済まないかも知れない、何かを!」

 ――我を侮るかッ!!!

 アルバニアの言葉を受け、荒天が稲光を落とした。
 リヴァイアサンは己の圧倒的な力の無さにこそ苛立っている。絶対の存在だからこそ、それを自認しているからこそ、彼は自身の力を僅かながら疑う言葉を投げたアルバニアに激怒する。
「だから、聞きなさいってば! そういう場合じゃないの!
 プライド抱えてどうにかされたらどうすんのよ!? 混沌最強の海の暴君が! 竜『神』が!
 大体――アタシを誰だと思ってるの、リヴァイアサン!
『この冠位がプライドよりも勝ちを優先しろと言ってるのよ』。
 アタシだって最高にムカついてんだよ! その意味をいい加減――理解なさいな!」
 獰猛な男性性さえ露わにしたアルバニアの怒鳴り声にリヴァイアサンの怒りが揺れる。

 ――我に、アレ等を敵と見做せと?

「遅かれ早かれの問題よ。確かに砲撃(こんなもの)、アンタを倒さないでしょう。
 アタシだってこんなんにやられる程日和ってねーわ。
 でもね、アンタ。予測した? してた?
 他の竜(おんな)の登場やら、人生……じゃねぇや。竜生最大レベルの苦戦とか」
 リヴァイアサンは押し黙る。
 傲慢なる竜王に幾分か納得させてしまったのは偏に連合軍の――イレギュラーズの奮戦が故。
 小さき者と人間(ひと)の想いを見下した滅海竜が、それを否定し切れていない。

 ――どうする、アルバニア。

「アタシが斬り込む。連中、ヒット&アウェーがまだ効くと思ってんのさ。
 アタシが乗り込んで連中の甲板をズタズタにしてやる。
 つまんねー邪魔はさせねぇーから、アンタは『全力』で撃ちなさい。
 釘付けにしたあの船を――ドレイクの腕も加味してさ。
 ちょこちょこした小細工じゃ逃げ場もない位に。もう一帯周囲ごと消し飛ばせ。
 は、は、は。アタシも一緒に殺す気になれば、やる気が一杯出るでしょうよ!?」
 アルバニアはブラッド・オーシャンが敵陣の希望と読む。
 最大数の精鋭を乗せた艦の完全消滅こそ、敵の意志を挫く鍵と見た。

 ――成る程、それは名案だ。
   実に面白くなき、眠い力しか今日は出ぬが、我が真なる神威。
   人間にも、貴様にも、欠片ばかりは見せてやろう!

 引きこもりの冠位の大胆な提案に、滅海竜は場違いに笑っていた。
 気に食わない同居人だが、今日の魔種は嫌いではなかった。
 アルバニアは実に面白い提案をしてきたではないかと。

 ――果たして、運命は激しく、加速度的に動き出す。

「さあ、アンタ達。覚悟しろよな。
 こっからのアタシは『ちょっと気のいいおねーさん』じゃいられねーぞ?」
 重量級の音が響き、甲板にヒビが入る。
「……あ~ら、近くで見ると一層マッシヴ……」
 竜頭より降り、降り立った破滅――『冠位』の姿に千尋はペロリと唇を舐めた。
 死にたくはないし、死ぬ気もない。引き際は心得て来た心算だが、これは、ええと、その――
「むくつけき男が、また一人集ったって訳ですねぇ!」
 ――舐められる訳にはいかない商売だから。取り敢えず、言葉ばかりは、嘯いた。

成否

成功

状態異常
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)[重傷]
蒼銀一閃
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)[重傷]
祝呪反魂
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
ジェイク・夜乃(p3p001103)[重傷]
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)[重傷]
おチビの理解者
アト・サイン(p3p001394)[重傷]
観光客
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
願いの星
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)[重傷]
我が為に
シュリエ(p3p004298)[重傷]
リグレットドール
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)[重傷]
空気読め太郎
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
伊達 千尋(p3p007569)[重傷]
Go To HeLL!
ゼファー(p3p007625)[重傷]
祝福の風

第1章 第6節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
すずな(p3p005307)
信ず刄
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

●殲滅の檻
「――ッ――!」
 目を見開いた千尋が周囲を縦横無尽に襲った触手の薙ぎ払いを『意識しないまま』かわした。
「馬鹿げてる」と呟く暇も無く、続け様に伸びる死の御手は繰り主がそう言った通り『これまで』とはまるで違う残忍と憤怒の色を帯びていた。
(死の海に漂うこの船の――命綱の一本はこのわたし。
 どんな危機にあっても『平常心』だけは保ち続けねば――)
 二撃目、三撃目は手痛く喰らった千尋を辛うじてココロの大天使の祝福がカバーした。
 深く傷付いたのは彼だけではない。
「大顎が一番こわいって思ってたけど……」
 降りて来たアルバニアの一方で降りてこない竜頭から警戒を外す事はしていない。されど、近接戦闘を主体とするコゼットにとっても対戦相手は目の前の冠位となろう。
(……すぐに死んじゃうってことは、あんまりないと思いたいけど。
 リヴァイアサンが何をしてくるのかも、わからないし――)
 甲板に降り立ったアルバニアの戦闘力は圧倒的にして凄絶で、短い時間で周囲に残酷なまでの被害を撒き散らし始めていた。辛うじてコゼットは被弾を回避していたが、『コゼットで辛うじて』ならば、他の面々が無事に済む理由は無いに等しい。
 激変した船上の状況に表情をいよいよ険しく引き締めたウィズィが叫んだ。
「……ははっ、まさかこんな日が来るとは!
 それ、片手間に対応できる相手じゃないでしょ。
 ――キャプテン・ドレイク! 操舵に全力を!」
「……そうしたいのは山々だが、ね」
 操舵輪を握るドレイクには触れさせぬと守りに入るウィズィだが、彼の表情は芳しくない。
「その野郎、どうも触手を水中にも忍ばせているらしい。
 つまり、ブラッド・オーシャンを逃がさない心算らしいねェ。
 そんな理由は幾つも無いから『アレ』と動きは連動しているんだろうさ!」
 ……果たして、ドレイクの言葉はコゼットの不安を肯定するものとなっていた。
 アルバニアは触手をアンカーのように水中に伸ばし、ブラッド・オーシャンを釘付けにしているらしい。人間陣営にその詳細や狙いは分からなかったが、それが楽しい理由になろう筈も無い。
「……………ま、足掻いてはみるさ。出来れば奴を何とかしてくれるのが最良だが」
 苦笑交じりのドレイクにウィズィが僅かに舌を打った。
(まだ耐えられる。集中すれば、まだ粘れる――でも)
 極限の集中と燃える闘志はウィズィの体を突き動かしている。
 会敵したアルバニアの暴力は酷いものだったが、彼女はまだまだ折れる気配は無い。
 だが、状況は決して良いものとは言えない。粘る事は出来ても、攻め手が優位でないのは明らかだ。『アンカー』を飛ばすには即ちアルバニアを圧倒する必要がある。
 ……実際問題、アルバニアを相手取るならばドレイクの戦力を当てにしたいのも山々だが、これまで『砲撃』を目の当たりにしてきた彼等ならば連想を結び付けるのは簡単過ぎた。つまり、可及的に速やかに『問題』を排除し、機会を得ねば取り返しのつかない事態が訪れるのは明白過ぎる。
 つまり、その好機を掴み得るドレイクを動かすのは悪手である。
「――は、こんな日が来るとは、なんてこっちの台詞だぜ」
 バルタザールの短銃が尚もウィズィを狙ったアルバニアの巨体を牽制した。
 バルタザールを含め多くの戦力が船上のアルバニアに相応の集中打を加えていたが、まさに重戦車の如き防御力とタフネスを発揮する冠位魔種は全ての攻撃を想定済とばかりに跳ね返している。
 彼の堅牢なる体は傷付いていない訳ではない。その防御力とて絶望の象徴たるリヴァイアサンに比べればまだまだ脆いとさえ呼べるだろう。『だが、その程度だとて人間の身にはまだ重い』。
「誇れよ。アタシがこんだけ本気出してんだ」
 凄味さえ感じる低い声。
 権能はなくても圧倒的な戦闘力を保持したまま。
「アンタ達は大したもんだ。だけどね、ここまでだよ。アタシが、終わるにしてやるから」
 猛攻に負けぬアルバニアは縦横に暴れる触手に続き、全身から爆発的に噴き出した呪いと猛毒の霧で船上を殲滅の檻へと作り変えていく。
 無論、この動きに対応するのは支援役のイレギュラーズだ。一瞬で生み出された被害は悲惨なものだったが、ココロの、或いはポテトの尽力がアルバニアの『死滅』に対抗する!
「ここで負けるわけには行かないんだ! 繋いだ縁を、想いをこの先に繋げるために!」
 アルバニアにも負けないように。ポテトは枯れんばかりに強くその声を張る。
(まだ――そう、まだ。終わっていないんだ!)
 彼女が祈った縁が、彼女が望む縁がまだ途切れていない。グドルフもオクトも無事だったなら。この物語に唯一となるハッピーエンドを描こうというなら、彼女は役割を果たすしかあるまい。
「頼む、リゲル――」
 青白く決意は燃ゆる。ポテトが願えばその騎士は尚更強くなろう。
「――ああ! 皆がここまで希望を繋いでくれたんだ!
 絶望(リヴァイアサン)なんかに負けるものかッ!!」
 当初の予定と『対戦相手』が変わったのは気を吐いたリゲルも同じだが、元より相手に不足があろう筈もない。冠位と相対すも二度目なれば、臆する事は決してない。目前の闇が如何に深くとも、勝利の道筋が如何に虚ろめいていようとも、銀の剣(リゲル・アークライト)はまるで曇らず。その硬質の誓いを映すかのような絶対零度の凍星をもってアルバニアを撃つのみだ。
「斬神一刀。我が身未だ未熟なれど、神を斬るに不足なし。冠位であれど同じ事――」
 四方八方より分裂して襲い来るアルバニアの触手の悉くを玲瓏の壁、雪之丞の間合い、即ち鍛え、練り上げた彼女の『刃界』が迎撃した。
「――この程度! 拙を余り侮りなさるな!」
 パターンの酷く読み難い変則的な攻撃にも冷静さと驚異的技量をもって対処している。
 この戦い最大の死闘はたった今訪れた。
 ブラッド・オーシャン上で死と生は交じり合って踊り狂う!
「成る程、竜もお前も。我々を羽虫ではなく、敵と改めたか。
 正直を言えばまだまだ侮っていて欲しかったが――なったものは致し方あるまい。
 我々は特異運命座標! 今臆して、先に進む道はなし。
 敵に臆して、掴む未来も末も無し――ならば、是非も無く。
 ――行くぞ! 冠位魔種、アルバニア!」
「さーて、とんでもない戦いもクライマックスって感じだね!
 竜に冠位魔種にドレイクに……! 伝説が多すぎるんだよもう!!
 こんなん、絶対生きて帰って一生――そう、一生自慢してやるから!」
 アルバニアのもたらす精神汚染の権能もベネディクトの強き意志を侵すには到らない。いざ、この場。【速攻】を決意して戦いに挑むティスルは危機の領域へ踏み込んでアルバニアの巨体に残影百手――多重の残像さえ生じる無数の手数を叩き込んだ!
「こんなもん、このアタシに――」
「――そう簡単に通ずると思ってはおらぬがな」
 猛烈な手数と威力を避け、或いは受け止めたアルバニアの言葉を百合子が塞いだ。
「吾とて今度は容易くは逃がさぬぞ、アルバニア!」
 百合子の繰り出したのも又、ティスルと同じ技である。
 白百合清楚殺戮術の極意は瀑布の如き乱打がもたらす敵の隙を突く事にある。技量の差が小さくなかろうと、一撃の威力が致命足り得ずとも、石を穿つ雨垂れが連打、回転力を上げたならその奏功は余程早い!
「その鎧、吾が拳にて砕けるか試してくれよう!」
「ははあ、成る程。そういう手管なら、私も一枚噛むといたしましょう」
「うん、流石百合子君達だ。かっこいいね!」
 時間さえ加速させるような武の競演は、果たしてこれで終わりでは無かった。この動きを瞬時に理解し、全く合理的に『合わせて』見せたのは雪村 沙月の武術家としての圧倒的なセンス、技量とマリア・レイシスの軍人としての判断力の成せる技と言えただろう。
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も。
 元よりそう器用ではありません。近付いて殴る、が精々です。
 ですが、その分。機を見るに敏に動かねばなりません。
 芒に無月、貴方を飾るには幾らか皮肉にもなれど――この愚直こそ届きましょうや」
「私は君にとって羽虫みたいなものかもね。けれど、案外毒を持ってるかもね!
 後で後悔するといい! 私が見据えているのは遥か先! 絶対に生き残る!」
 沙月の『流麗』が巨体へ吸い込まれていく。想いをレイズしたマリアの紫電は無数に瞬きアルバニアの体表に雷撃の痕を刻み付けた。
「……さあさあ! ここが本当の正念場!
 乾坤一擲、全身全霊! 修羅場、鉄火場、大いに結構!
 その全て、見事切り伏せてみせならば。もののふの血が廃るというもの――!」
「私達は絶望に朽ちたりなんてしない! ――いちいち、人間を舐めるんじゃないッ!!!」
 仕上げとばかりに美しき連続攻撃に花を添えたのはすずなとアルテミア。
 瞬天四段、超絶技量に焔が踊る。
 美しき六人のスピードファイターが織り成すは見事なまでの『六重殺』。
 要塞を攻撃する戦闘機達のひらめきは、流麗な演舞の如く美しい。
「あと、これは『さっき』のお返しね!」
 最後に一撃をオマケしたアルテミアのこれはアルバニアに対しての意趣返しでもある。
「こンの、非力な、女共がッ――!
 可愛い心算かよ!? 玉のお肌に一体何してくれてんだッ――!?」
 アルバニアの一喝に六人の体が吹き飛ばされた。至近距離から受けた暴圧は彼女達の背中を船のあちこちに強かに叩きつけた。だが、アルバニアもこの期に及べば理解し得る。
『五人の手数は合わせて恐らく三十を超えていた』。乱打乱撃は威力の爆発力に加え、態勢と防御の集中力を剥ぎ取るもの。マリアの信ずる余力(AP)奪いを成し遂げんとするものである。
 全てを剥ぎ取る事が狙いなら、その手(EXA)は余りに鮮やかだ。彼女等は彼我の実力差に関わらず危険な呼び水と呼ぶ他は無い!
「……っ、くしょうめ!」
 果たしてアルバニアに少なからぬ動揺が生じていた。
「――戦いには集中するものだ、冠位よ」
 主役は勿体をつけて現れた。
 死角より閃いたベネディクトの槍技はイレギュラーズの戦いを肯定するものとなる。
 その槍、何れ竜種に突き立てるべき栄光の楔。まずは冠位を抉った一撃に幾らかの手応えが残る。
(アルバニア様、貴方を倒してご覧にいれましょう。
 そして必ず。必ずや――の、命をお救いします……)
 幻の得手、夢幻泡沫の奇術さえ、深く深く突き刺さねばアルバニアには届くまい。
 故に彼女はこの最高の瞬間を見逃していない。この空を共に抱き、この海で共に揺蕩う――ジェイクを助ける為ならば、彼女はもう自分の命さえ惜しめない――
「ははは! こんなの魅せられちゃ、こっちも全力見せなきゃ気が済まねェってもんだぜ!
『コレ』が一番弱い状態なら。『俺達がここまで追い詰めたなら』!
 やる事なんざ、一つしかねぇ。ここで、全部――押し切るぞ!」」
 大剣を手にしたアランが間合いを詰める。
「――死ねぇぇぇッ!!!」
 裂帛の気合、威力の余波が空気を揺らした。
 イレギュラーズの攻め手、アルバニアの反撃共に激しさを増すばかり。
 絶望的な劣勢にもイレギュラーズは良く喰らいつく。ほぼ全員が満身創痍となり、どれだけ傷付こうとも攻める手を止めはしなかった。
 だが、それでも。それでも――『叶わないもの』はある。
「しつけぇんだよ、いい加減。
 何度も何度もアタシの海を、アタシの静寂を台無しにしやがって――
 諦めなさい。諦めろ、諦めやがれ。この海に先なんて無い。
 ここが果てだ。絶海だ。アンタ達が受け取るモンなんて一つ以外にはもう無いのさ!」
 無数の攻撃を浴びながらも聳え立つアルバニアは傷付き膝をついたイレギュラーズに悪態を吐く。事切れ、動かなくなった海賊達をせせら笑う。
「……ウィズィ君。どうやら、時間のようだよ」
 ドレイクは彼方を見つめる。逃げ道は、救いの道は現れなかったのだ。
 固定され完全な自由を失ったままのブラッド・オーシャンを厄災のケテルは遠く見下ろしていた。
 奇妙に静まり返った海が間近の終焉を思わせた。
「……諦めますか?」
「……………」
「私は絶対に死ねない……
 あなたもそれはそうでしょう?
 あなたはこの先を見ずに死ねないのでしょう? ドレイク『さん』!!!」
 ウィズィの強い言葉にドレイクは破願した。
 彼は、そうして。
「当然だよ、ウィズィ君。吾輩は果てに進むのだ。誰がこんな所で諦めるものか。
 諦めるものかよ――君に言われなくても、君に言われれば決意も新たになるというものだがね!」
 愛銃を抜き、高く笑った。

 総ゆる奇跡を引き寄せよ!
 遥か魔性にけぶるケテルの大海嘯(ほろび)を退けよ!

 不可能である。不可能である。決してそれは不可能である――筈だ。
 だが、戦いがドレイクのものならば。
 いや、この戦いがイレギュラーズのものならば……

成否

成功

状態異常
ポテト=アークライト(p3p000294)[重傷]
優心の恩寵
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)[重傷]
Lumière Stellaire
アラン・アークライト(p3p000365)[重傷]
太陽の勇者
リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣
夜乃 幻(p3p000824)[重傷]
『幻狼』夢幻の奇術師
咲花・百合子(p3p001385)[重傷]
白百合清楚殺戮拳
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
鬼桜 雪之丞(p3p002312)[重傷]
白秘夜叉
コゼット(p3p002755)[重傷]
ひだまりうさぎ
すずな(p3p005307)[重傷]
信ず刄
ティスル ティル(p3p006151)[重傷]
銀すずめ
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
雪村 沙月(p3p007273)[重傷]
月下美人
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)[重傷]
私の航海誌
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
戦輝刃

第1章 第7節

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

●あの日、見た夢
 破滅の時間が訪れる。
 荒れ放題の『絶望の青』さえ黙らせる――終焉と漂白の時間がやって来る。
 神威が前に人の営みは意味を持たず。
 神威が前に抗う意志の全ては無為に堕ちよう。

 ――ああ、ああ。
   そうか、そういう事だったのか。

 無限に引き延ばされたスローモーションのような時間の中、『彼女』は、走馬灯を見るようにこれまでの『全て』を述懐した。
 産まれてきた意味、死んでゆく意味。
 滅びゆく血筋。永遠の停滞。澱。希望の名――コン=モスカ。
 気の遠くなる程遠い年月の彼方から、役目は続く。
『絶望の青』に挑む冒険者や海賊に祝福を与える事もあった。
 荒ぶるかの海より訪れる災厄を鎮め、元に帰す役割を負ってきた。

 ――だから、きっと。すべてはここにつながっていた――

 妹(クレマァダ)は浅き夢を視る。
 神託程確かではなく、しかして必ず当たる遥かな夢を。
 コン=モスカの祭祀として役目を背負った彼女は旧き血の『業』を継いだ。
 翻り、己はそもどうだったか――
『彼女は、空虚である事こそを求められた』。
 クレマァダはコン=モスカの全てを注ぐ事を望まれ、その片割れは何も注がない事を望まれたのだ。何故かと問うが愚問である。『彼女』とて、この瞬間まで考えた事さえ無かったけれど。

 ――嗚呼、嗚呼。わかった。わかってしまったとも。
   あなただったんだね。僕(クレマァダ)の夢。
   海の王様。たぶん、きっと――僕は、このために、生まれて来たんだ――

 死の竜門が水を帯びる。
 圧倒が、絶望が眼窩の全てを押し流す――それは確定的な未来だ。
 他の誰にも止められない、他の何にも止められない。
 魔種であろうとも、パンドラであろうとも。
 或いは何処かに存在するかも知れない神意であろうとも。
 されど、されど。例外がたった一つ、たった一つだけあるとするならば――

 ――――♪


 それは清浄なる蒼の歌。
 コン=モスカの――空っぽの巫女の歌う海の歌だ。
 それは賛歌である。『近海の守護者である水神様が人に乞われたのと同じように、絶望の青を祀るコン=モスカは記録にも記憶にさえ残らないリヴァイアサンを讃えていた』。
 人の身で竜の心を得る事は不可能でも、『空っぽ』ならば話はどうか?
 深すぎる竜のそれを呑み干し、受け止める『竜の器』ならば話はどうか?
 長き時間の果てにコン=モスカは理由さえ忘れていた。忘れながらも理も知らず、愚直にそれを積み重ねた。当代巫女まで。彼女自身、その意味さえ知る事無く。
 故に、今。失われた血筋の、とうに絶えて久しい波濤の奇跡は。
 まさに――大いなる代価を糧に奇跡の道を踏み、この現代に遠き全てを再現する!

 ――緩慢な怠惰。沈みゆく意思。見失った幸福。
   違うんだ。そんなの、人間じゃない。
   僕の信じる人間達は、無理でも無茶でも死ぬ気でも、前に進む生き物たちだ!
   だから……だから、そう。何があっても悲しまないで。
   いや、悲しんでくれたら嬉しいけど、その足ばかりは止めないで。
   僕の大好きな君達の、旅路をきっと『聞かせて』欲しい――
 
「――モスカの加護が、どうか皆に届きますように。いあ ろぅれっと ふたぐん♪」

●わだつみの歌
「……は……?」
 心底、理解が出来ない――そんな声を発したのは他ならぬ冠位アルバニアだった。
 大海嘯が彼の思惑通り全ての愚かなるモノを呑み込み、吹き飛ばすかに思われたその時。
 戦場――この広いフェデリア全域――には、少女の歌声が響いていた。
 それは不思議な音楽だった。穏やかでありながら冷たく、美しくも奇妙であり、心を静めながらも掻き立てる総ゆる矛盾に満ちた『音』だった。
 神聖な奇跡の光さえ帯びながら、ふわりと浮かび上がり音を奏でた少女の名はカタラァナ。

 このままでは艦隊がもたない――
 明晰な頭脳で状況を読むマルクは彼方に轟いた破滅の消失を確かに見た。
(……僕に、もし。もし、リヴァイアサンから誰かを守れる力があったなら……)
 海洋王国の軍船で唇を噛んだ利香は見た。
「雨垂れ、なんて……言うじゃない。言って、くれたじゃない。
 ……こんな贅沢な雨垂れ、ある訳ないじゃない。
 あってたまるか、流石の夢魔だって知らないわよ――」
 無意識にその唇から言葉を零れさせたウィリアムは見た。
「退く訳にはいかないだろう。戦うんだ。勝って、生きて帰る為に――
 負けられないんだ。諦めるなんて、もう何処にも無い」
 激励を、宣誓を、そして確認を。言わずにいられなかったミミは見た。
「……怖い嫌だ逃げ出したい……正直そう思ってるです。
 でも……でも。やるべき時はやるんだって、やらなくちゃって――今は頑張る方を選びたいのです!」
 少女の歌と遠く孤独なる鏡写しの冠位に想いを馳せる縁は見た。
(……お前さんはきっと、心底分からねぇって顔で怒ってるんだろうな。
 分かるぜ。お前を見てるとついこの間までの自分を思い出すからよ。
 未来は変わらねぇって、何をやった所で無駄だって――つくづく、俺が『そっち側』に近かったんだって思い知らされて嫌になる。だが、だがな、アルバニア。
 ……未来は、変わるんだよ。俺も変わったし、今、見ただろう?)
 遠く、目を細めたウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズは見た。
「この世でもっとも『強きもの』、か」
 幾ばくか空虚に響いた自身の言葉に彼は僅かな苦笑を禁じ得なかった。『大海嘯』の結末は、今自身が見ている光景は、届かぬ怪物が見せた弱さだったかも知れない。
「乗り越えなくてはいけないのなら、やってみせるさ。
 僕も――僕も、そう。イレギュラーズだからね!」

 艦の多数を中破状態に陥らせながらも、未だ奮闘を続けている。
 鉄帝国の鋼鉄艦の上で、利一は見た。
「あの、圧倒的だったリヴァイアサンが揺れている――」
 無数の一のその積み重ねが『運命』を引き寄せる様を見た。
 運命が捻じ曲がる刹那を、或いは後世に続く歴史の分水嶺を目の当たりにしていた。
 戦闘を続け、自身も突っ込むべきか否か、まさに今決を打とうとしていた行人は見た。
「……実際、格好つけすぎだろ。俺が続けたかった『旅』にはお前も――」

 傷付いた水神様の背の上で血の匂いに群がる狂王種を跳ね除けながらゴリョウは見た。
「この海はダンスするにゃあヤンチャが過ぎる。
 だからこそ、その歌が、そんなに綺麗な歌が必要だったってか……?」
 己が信ずる水神様を、傷付き疲れ果てた彼女を守るカイトは見た。
「喰われてたまるか、何度か喰われたことあるけど、死ぬわけには行かないってさ!
 だけどさ。こんなの、無いだろ。折角ここまで――ここまで来たのに!」
 羨望を隠さず、遠い目をした愛無は見た。
「尊大な羞恥心。臆病な自尊心。『嫉妬』とはそういうモノだ。
 きっと僕は――この光景を、この時間を。もうずっと忘れられないだろう」


 ……放たれた『滅び』の名は大海嘯。
 それは海神に歌を捧げたカタラァナの眼前で『彼女だけを呑み込んで消え失せた』。
 残された静寂は非現実的な奇跡の光景が少女との永遠の別れを意味する事を教えていた。
 非現実的な光景が、勝利への唯一の道筋を更新した事を教えていた。
 コン=モスカは『絶望の青』を讃える祭祀。
 旧き血が奉じたのは『滅海竜リヴァイアサン』。
 神は時に無力である。己が心に触れる、己が信仰ばかりは――破り得ない。

成否

大成功

状態異常
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)[死亡]
海淵の呼び声

第1章 第8節

 

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