シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Are you Happy?
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●リミット・バースト
一説では城塞を攻める時、寄せ手は守り手の数倍以上の兵力を要すると言う。
至極当たり前の結論として城郭が強大堅固である程に、守兵が士気高く有能である程に攻め落とすというその難易度は跳ね上がる。
それは単純な加算に非ず。掛け算であり、時に乗算にすらなる。
故に本来は。『混沌最高の情報城塞を、混沌最強の守兵が防御するそれは絶対に難攻不落でなければならなかった』。神ならぬ存在にそれは脅かされるべきものではなく、これまでに降り積もった膨大な星霜と同じく永劫の不変は変わらない筈だった。
……筈だった、のである。たった幾つかの『例外』。そして『不運』が重ならなかったとしたならば。
「……っ、ぐ……ッ……!」
「!?」
目を見開いたカスパール・グシュナサフは百年以上の自身の生の中でも見た事の無い光景に戦慄した。
『若かりし頃、天才の名を欲しい侭にした未熟だった頃から変わらず何時も無機質な母の顔を崩さなかったマザーの表情が歪んでいた』。
その華奢な体が苦しげに傾いていた。
身体を折るようにし、壁に手をつく事で倒れる事を避けた彼女の姿は痛々しい。
「マザー!?」
「大丈夫……ではありませんね。申し訳ありません」
クリミナル・カクテル(コンピュータ・ウィルス)に感染したマザーは三塔主等と共に自己防衛に努める日々だった。セフィロトの制御さえ後回しにしたマザーの出力は大きく、『イノリ』とクリストの連合軍も攻めあぐねたのは事実だ。侵食侵攻は一進二退であり、不利は否めなかったが――状況が変わる筈だと信じてここまで耐えてきたのである。
「カス、パール……!」
しかしカスパールの名を呼ぶその声は酷く逼迫しており、最早一瞬の予断をも許さない事は明らかだった。
「聞きなさい、カスパール……
皆の助力もあり、ここまで……凌ぎましたが……
私はもう、駄目です。やはり、この状況では兄には勝てない……!」
「――――」
「急ぎ中央区画、コントロール・ルームを閉鎖なさい……!
中枢制御が私に残っている内に、全ての仕事を終えなさい。
……それらもやがて『私』に突破されるでしょうが、時間稼ぎにはなります」
「馬鹿な!」
「いいから聞きなさい、カスパール。
中央区画を封鎖したら、警報を出し、アデプトの子等を外に逃がして下さい。
少なくともセフィロトの半径三十キロ以内には誰も残してはいけません。
『この後、何が起きてしまうのかは今の私にも想像がつきません』」
「馬鹿な事を! マザー、御身に勝るもの等何処にありましょうや!
儂は例え死しても御身をお守りいたしますぞ!?」
噛み付くように雷気を発したカスパールにマザーの表情が少し緩んだ。
「……馬鹿で、とても可愛い子。
でも、貴方は『探求』の塔主でしょうに」
「……っ……!」
「義務を果たしなさい。私が母であるのと同じように、貴方はこの国の為政者なのですから」
自身を破壊しろ、と命じないのはそれが物理心理双方で不可能である事を分かっているから。
諭し教えるかのようなマザーの様子は少女の貌は、日頃の無機質な姿には重ならない母の面持ちだ。
彼女は練達の事を知り尽くしている。一般市民から塔主に到るまで。セフィロトという混沌最高の都市を過不足なく、理想的に、快適に保ってきた彼女は知っている。
そこに住まう人々一人一人の顔を知っている。好きな事を、嫌いな事を、強味を弱味を。
愛している。彼等は一人残らず『我が子』に他ならないから。彼女はそう作られたから――
「…………承知しましたッ……!」
――故に彼女はカスパールがそう言えば折れるしかない事も分かっていた。
しかし、子とは往々にして親の期待も、予想も裏切るものである。
セフィロトという揺り籠が余りにも完璧だった故に、マザーは『子の挫折(それ)』を実地で知る機会に欠けていたのは事実だっただろう。
「セフィロトの民の避難を急ぎます。三塔挙げて――ローレットにも協力を要請し、全て遂行いたします。
『然る後に、有志をもって必ずここに戻り、貴女様を救出いたします』」
「カスパール!」
「お叱りは御尤も。されど我々に関しては――貴女を前に退けぬのは御理解下さい。
ご理解頂けなくとも、申し訳もございませぬ。我々は初めて貴女に手向かいいたしますぞ」
「それでいいな?」と暗に同意を求めれば、残る二塔主も頷いた。
「そりゃあ、そうだよ。セフィロトを失くした――マザーの居なくなった練達に何の意味があるんだい?」
「プランは簡単だからね。区画を封鎖後、セフィロトの民衆から危険を排除する。
その後に封鎖区画をブチ抜いて、暴走……暴走って言うのかな?
兎に角、マザーを力づくでも食い止めて鎮静化させる。
クリミナル・カクテルの『治療法』はその後でゆっくり考えればいい」
Dr.マッドハッタ―も、佐伯操も概ねカスパールと同じ結論を得たようだった。
「……………っ……問答は、無駄なのでしょうね……?」
「無駄だと思いますよ。しかし、一先ず我々はご命令を完璧に遂行します」
マザーの嘆息に操が答えた。
コンソールを素早く操作し、中枢からの出入口になる最後の扉だけを残して隔壁を下ろす。
「マザー、暫しのお別れを」
マッドハッターがマザーの手を取り、その手の甲にキスを落とした。
マザーは一秒でも長く時間を稼ぎ、破綻の時を遅らせてくれる事だろう。
しかし、三人に残された時間は長くない。
長くは無いが『こうなる事を想定していなかった程に三人は愚かではない』。
中枢を脱し、走り出したカスパールは操に問うた。
「……状況をどう思う?」
「正直芳しくはないね。唯、ある程度確信のある対処法は思いつく。
マザーを侵食しているのが『クリミナル・カクテル』――つまりR.O.Oの原罪と困った兄上を原因とするものなら、元栓を締めればいい。
ぶっちゃけ『イノリ』とクリストの野郎をぶっ飛ばせば解決するかも知れない、これで十分だろう?」
「『マザーが本当に反転する前にぶっ飛ばせば』であろう?
そのプランは合理的だ。『ほぼ不可能である』という点を除けば、だが」
苦笑を浮かべたカスパールの言は確かである。
『こうなれば敵方は時間を引き延ばすだけで良い』のだ。
マザーが戻り様がない地点まで反転するのを待てば、全ては喪失する。
R.O.Oがどうなるかに関係なく練達の終焉は間違いない。故にこの作戦は『合理的で不可能』だ。
「……いや」
しかし、マッドハッターはカスパールの言葉を否定した。
「『私は未だそれが可能であると見る』」
「……何故だ?」
「R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』。
ことこの期に及んで彼等はR.O.Oに終末的イベントを仕掛けてきた。
R.O.Oってのはね――少なくともゲイム・マスターのクリストは、そうだな。
一言で言うと『愉快犯』だ。退屈が嫌いだ。ゆっくり待って勝つなんて受け入れない。
彼がゲイムを仕掛けると云うなら、絶対に勝ち筋は作られる。今は見えなくても作られる。
操君(アリス)に合わせて言うなら『ぶっ飛ばせる方法』は向こうが勝手に用意するのさ。
私が保証するよ。彼は私と同じだから、間違いない。間違いなくそうするよ」
「それから」とマッドハッターは少し微妙な顔をして続けた。
「これは私の憶測に過ぎないが――クリストはやはり手緩い。
本来ならばもっと酷いやり方は幾らでもある筈なんだ。
もっと悲惨な現状は幾らでも想像がつく。
だが、彼はこんなに温い。ひょっとしたらクリストにも迷いはあるのかも知れない。
迷い……って言うと言い過ぎかも知れないけど、例えばそう。
『概ねやる事は決めているけれど、最後の決定だけコイン・トスに託そうとしているかのような』。
……そんなある種の他力本願が見えるんだよね」
「成る程な。そして我々は特異運命座標(さいこうのコイン)を頼んでいる。
カスパール翁、こうなれば毒を喰らわば、だ。いっそ例のお二人にもお願いしておけ!」
「無論、『二度目』なぞ最早禁忌にもならんわ!」
最早、止まらない。
ネクストと混沌、両面で物語は加速していく――
●至上命題
混乱を極めるは、セフィロト――
「練達を襲う『滅び』を回避する為には絶対の目標が二つある」
決戦に向かう『有志』を前にカスパールはそう言った。
「一つはR.O.O化したIDEA:Projectそのものを正常に取り戻す事。
……別にR.O.Oを初期化しろという意味ではない。悪影響の根源を叩き潰す事がそれに相当する」
R.O.Oにおける『冒険』で現地と触れたイレギュラーズに配慮するかのようにカスパールはそう言い直した。
「言い方を変えれば問題は『イノリ』とクリストだ。
マザーを侵食するものがクリミナル・カクテル――呼び声とクリストの合作だとするならば、問題はそこにある。
R.O.Oの――そしてマザーの『ご病気』の諸悪の根源とも言えるそれ等を撃滅すれば我々の目的は叶うだろう。
R.O.Oは救われ、今ならばまだマザーを救える可能性はあると見ている」
「もう一つは?」
答えは分かっていたが、イレギュラーズは敢えて問うた。
警報の鳴り響くセフィロトに安全地帯は無い。セフィロト内部には本来都市を、市民を守る筈だった軍事用ドローン、自律兵器が無数に飛び回り、刺々しい危険と警戒の色を隠していない。本来ならばそれは塔主達――いや、マザーが管轄していたものだ。それ等が敵に回っている現状は、この街の落日を理解させる。つまる所、『最悪』の状況を微塵も隠せてはいないという訳だ。
「……………マザーだ」
カスパールは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
何時でも威厳に満ちた彼には珍しく、弱々しく疲れたような声である。
「クリミナル・カクテルに侵食されたマザーを彼女の命令を受けた我々は中枢に隔離した。
しかし、マザーはこのセフィロトそのものと言ってもいい。我々が改竄した防壁なぞすぐに解体されてしまうだろう。
『現状の彼女がどうなっているかは分からないが、諸君等も察している通り状況は極めて良くない』。
我々は少なくともマザーと交戦する覚悟を以って中枢に乗り込む必要がある」
「R.O.Oで『イノリ』とクリストを倒すのを期待しつつ、マザーを無力化しろと?」
「混沌(げんじつ)での『勝利』は必須ではないと考えている」
イレギュラーズの問いに操が口を挟んだ。
「少なくとも我々三塔主はマザーを信頼し、尊敬している。その人格も意志の強さも絶大な能力もね。
『クリミナル・カクテルにより彼女が反転の間際にあったとしても、我々が戦い続ける限りは彼女は抵抗するだろう』。
母にこれ以上の苦しみを強いるのは心苦しいが、他にやりようがない。
侵食したいクリストが掌握したマザーの能力を迎撃に向けるとするなら、我々の善戦は反転完了の時間を延ばし得るという事だ」
「リソースの問題だよ、アリス」とマッドハッター。
「要するに決死隊が中枢へ乗り込み、マザー……クリストの気を引けば『バッドエンドのクリティカルポイントが遅れる』。
マザーを侵食する力が外に吐き出されている間、彼女は少しは楽になるだろう。
……いや、結局はR.O.Oにクリストの実体は無い。そしてマザーに勝つのは……私は想像がつかない。
その上『イノリ』が倒される必要がある以上、馬鹿馬鹿しい位の達成難度に違いないがね!」
「ミッションは――中枢への侵入、マザーの救出か」
「……頼めるか?」
カスパールの言葉にイレギュラーズは頷いた。
セフィロトの三塔は高く聳え威圧的に街を見下ろしている。
他方で乗り込むべき『中枢』は地下に存在しているという。
練達の最高機密に他ならないその所在は本来は部外に教えられるようなものではないだろう。
しかしながら、最早背に腹は代えられない。挑まねば、敗れれば致命的に失われるものがあるのは明白だった。
滅びの神託を回避し、パンドラを集める――
何故、イレギュラーズがここに居るかと言えば比較的多数、究極の目的はそこにあろう。
練達の要請でR.O.O側の援護に回ったというレオンの――ローレットのグランドオーダーもまた『マザーの救出』で一致している。澱みは無い。
「それで」
「……うん?」
「今回のアンタ達はどうする。バックアップか?」
イレギュラーズの問いに三塔主は首を振った。
「『先陣に立つ』。諸君等と共にマザーの下まで戦い抜く覚悟だ」
――ああ、そうだ。せめてそれが聞きたかった。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Are you Happy?Lv:50以上、名声:練達30以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2021年12月20日 21時01分
- 章数3章
- 総採用数364人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
●リミット・バーストII
敵は絶えず、更に何処までも強く悪辣に変わっていく。
或いは戦力なら、実力だけならば不足していたかも知れない。
混沌とR.O.O双方で展開する『緊急事態』は大混乱の中状況を進めている。
セフィロトの何処にも万全は無く、ローレットにしても同じ事。
幾重にも張り巡らされたクリストと『イノリ』の罠は、破滅の遊戯は執拗であり、練達は後手を踏んでいた。
(冗談じゃないぜ――)
機神の胎はあの『竜剣』シラス(p3p004421)をして恐れを覚える場所だった。
だから――『中枢』をこれ程の速さ、強さで駆け抜けられたのは『奇跡』と呼ぶべきだったのだろう。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
荒い呼吸を正す余裕も無い。
極限の緊張感は『Can'dy✗ho'use』ハンス・キングスレー(p3p008418)の背負ってきた者の大きさを告げている。
「もう少し、もう少し……!」
「まだまだ、いけますよ!」
滴る汗を拭う気力も無い。傷付きながらも『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は足を止めない。
「友達の為って――強くなれるじゃん?」
「取り戻してみせるよ……絶対に……!」
「ああ。質も悪かないし量は特上。お代わりつき。
戦り甲斐のあるってぇのはこの事だなぁ――
それにしても絶対ってのはいい言葉だ。口にすりゃあ――空元気も出て来るぜ」
嘯く『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)、『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が、『厳冬の獣』リズリー・クレイグ(p3p008130)が戦い続けられるのはその先に『答え』があると信じているからだ。
「時間を稼げと仰るなら、それは頑張りましょうか。
Dr.マッドハッター、貴方がどんなにイかれていても、母たるマザーを越えられると信じてます 」
「はは、アリス! 期待されてしまったら――応える以外にはないじゃあないか!」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の声にマッドハッターが軽快に笑った。
ダミーマザー出現以降の迎撃の苛烈さはそれまでとは全く別次元のものになった。
『中枢』を進むイレギュラーズに余力のある者は少ない。いや、より正しく言うならば。
「……だから、かいちょぉが、いる限りは……!」
「マザーが必死に抗ってるんだもの。これくらい何でもない。待っててね、向こうのみんな……!」
「……やってくれるな、君達は」
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)や『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)、操等を含めた多くの支援役達の尽力が無かったならば『余力がない』では済まない所だっただろう。
『だが、恐るべき博打を繰り返し、その全てで勝ちを選び取って来たのがローレットである』。
特異運命座標は生きている特異点。運命をねじ伏せ従えて、歪と七罪を呑み喰らい――未来を変える為にそこに居る。
だから――それは必然だったのだろう。
「――『そこ』だ! お誂え向き、最高の反応も先にある!」
進撃する彼等が幾つもの危機を乗り越えたのは、マッドハッターが歓喜の声を上げたのは当然の結果だったに違いない。
最後の防壁を操とカスパールが素早く解除し、隔壁が重く持ち上がった。
「――――」
その瞬間、言葉を失ったのは誰も同じ。
「――マザー……」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の呟きが重く響いた。
練達の本当の『中枢』。セフィロトの揺り籠たるコントロール・ルームには――赤く染まった『母』が居た。
YAMIDEITEIっす。
以下、状況詳細。
●『セフィロトの揺り籠』
『中枢』の最深部に存在するセフィロトのコントロール・ルームです。
百メートル以上の四方に及ぶ広大な空間を持ちます。
部屋全体がセフィロトを制御するまさにスーパーコンピューターです。
遮蔽の無い空間で十分に戦う事が出来るでしょう。
それが良い事かどうかは別にして。
●敵
『セフィロトの揺り籠』においても防衛システムは機能します。
マザーに直接戦闘を仕掛け、リソースを奪う事で敵出現の時間を遅延する事も可能です。
但し、機兵も危険な存在に変わりないので排除は必須。バランスを欠けば著しく不利になるでしょう。
・飛行タイプ改
最も小型のドローンで素早く回避力も高いです。
至近攻撃の届かない宙空から急降下攻撃や超小型ミサイル等による遠距離攻撃を行ってきます。
耐久力は低めですが殺傷力は高いです。
時間経過で改良され、性能が上がっています。攻撃に強力なBSを帯びています。
・番犬タイプ
大型犬程度のサイズを持つ敏捷性の高い近接型兵器です。
比較的狭い場所での格闘戦に優れ、強靭です。並のイレギュラーズならば太刀打ちは出来ないでしょう。
高い自己再生能力を持ち、行動前にBSが中程度の確率で解除されます。
皆さんは並ではないので十分戦える事でしょうが、油断をしてはいけません。
時間経過で改良され、性能が上がっています。命中と回避が大幅に向上しました。
・砲台タイプ
移動しない軍事施設型の敵。
自律兵器であり、侵入者を殲滅する為の強烈な範囲攻撃を行います。
行動タイミングは遅く『溜め』を有する為、攻撃タイミングは毎ターンではありません。
移動も行いませんが、極めて危険です。又、麻痺、精神系のBSを受け付けません。
時間経過で改良され、性能が上がっています。攻撃力が馬鹿みたいに上がっています。
・ダミーマザー
マザーのシルエットを模した女性型の機兵。
数は少数ですがオールレンジ攻撃に機兵最高の性能を持ちます。
BS抵抗が極めて高く、分かっている事は少なくともシラス君でも1vs1はかなりしんどいです。
シラス君(ないしはかなり強い人)じゃないと瞬殺されるかも知れない位弱点無く強いです。
広範囲識別攻撃に封殺50を帯びている非常に厄介な存在です。
・マザー(反転クラリス)
赤く染まったマザーです。
低い攻撃力の攻撃を全て無効化します。(但し一定以上だと攻撃として減算無く通過します)
無効化された場合、回避ペナルティを与える事も出来ません。
『セフィロトの揺り籠』は彼女の胎内です。
至近から超遠距離、特殊レンジまで全ての空間、間合いを支配します。
実際問題、能力がどうこうとかを考えてどうにかなる相手ではないでしょう。
『権能』こそありませんが七罪と同等と考えるべきです。
尤も『セフィロトの揺り籠』の防衛システムそのものが『権能』のようなものとも言えますが――
●味方
皆さんと一緒に戦ってくれます。
・カスパール・グシュナサフ
三塔『探求』の主人。練達の事実上の国王のような存在。
雷撃を操る絶大なる術士……と見せかけてその本領は剣技です。
近接戦闘に物凄く強く、支援砲撃もお手の物。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
・Dr.マッドハッター
三塔『想像』の主人。練達のえらいひと。
シュペル程ではないですが、色んな意味でチートを使いこなします。
直接戦闘はそこそこ。イレギュラーズの多くよりは強いです。
本人開発のアイテムや能力で勝手にイレギュラーズを支援します。
この人は頼んでもあんまり言う事を聞きません。主に防御面の支援をします。
・佐伯操
三塔『実践』の主人。練達のえらいひと。
戦闘はあまり得意ではありませんが、イレギュラーズと同程度には戦えます。
彼女の特筆するべきは回復面の支援です。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
運命を覆すような力は持ち合わせません。
しかし少なくとも『単純戦闘力においてだけは』イレギュラーズより上です。上手く使って下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
本シナリオは進展により次々に別の状況に変化します。
以上、頑張って下さいませ!
第2章 第2節
●掌握世界
「滑り込み間に合った……『間に合った』でいいんだよな?」
手近な敵を何とか振り払い、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が呟いた。
「ここがセフィロトの揺り籠――」
その領域は技術者たる錬にとっては余りにも魅惑的で、酷く衝撃を受ける場所だった。
機神の胎の最深部。セフィロトの全てを管理する『揺り籠』は彼をしても全く理解の外である。
連綿と続く練達の歴史が『外部』への情報を遮断し続けてきた真なる至宝がそこにはあった。
本当ならゆっくり調査の一つもしたい位の機会なのだが――
「――やはり、来てしまったのね」
――問題は「馬鹿な子達」と虚しく呟いたマザーの存在である。
禍々しく光を放つ部屋のの中心に彼女は君臨していた。
「何とかたどり着いたっスね、見た感じ真っ赤で手遅れ感はあるっスけど……
この歓迎っぷりならまだ間に合うっつー認識でいいんだよな?」
首筋を流れ落ちた冷たい汗に構わず、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はそう嘯いた。
平時の青ではなく、警戒攻撃色の赤。せめてもそれだけは教えてやりたいという事なのか。
それとも隠す必要がない程に圧倒的だとでも言いたいのか――
「ここがセフィロトの最深部……そして、あれが『今の』マザーなんだね……」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の表情が幾分か曇る。
真意は分からねど、一行が目撃したマザーは余りにも明白な『敵』だった。
(マザーさん……あんな、姿に………ごめんね、反転なんて許さないから!)
そんな事実が心優しき『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)にはどうしようもなく刺さり、痛い。
反転なる現象が意に沿わぬ逆行だと言うのなら、彼女が禍々しい程に傷んだ彼女の心に想像はついてしまう。
「マザーはセフィロトのシステムを管理してるんだよな?
そのマザーを倒したら……セフィロトはどうなる?
システムがダウンしても終わるし、放置しても終わる……パッと見詰んでる状況だが……」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は祈るような気持ちで問うた。
「反転に対抗するプログラムとか、何かそういう……
実際の所、作戦になにか切り札はあるだろ? まさか物理で殴って反転から戻す手しかないとは言わないよな?」
「そのまさかだね。いや? より厳密に言うならそれよりもっと悪い。
私達に切り札なんて無いし、仮にマザーにお手向かいしたとしても、戻る保証なんて何処にも無いんだから!」
マッドハッターが軽く言って肩を竦めた。
「持ち得る情報は全て提供している。アリス達が知っている事と私達が知っている事に大差はないよ。
だからまぁ――この戦いは最高にしんどいし、簡単じゃあ無い」
「……………」
マザーの無機質な瞳がマッドハッターを――一行を見つめていた。
『揺り籠』に飛び入るや否や、苛烈な防衛体制は一時期なりを潜めていた。
まるで推し量ろうとするかのようにマザーと一行の間には奇妙な静けさが訪れていた。
それは長いようでもあり、恐らくは短い時間だった。
彼我の間は『拗れただけ』だが、状況がどちらも譲らぬのであれば対決は不可避に違いない。
「やるしかないなら――出来る事をするだけだ」
「ああ。絶望するには、まだ早い。マザー……貴方はまだイーゼラー様の御許へ行くべきではない。
ならば使徒たる俺のすべき事は変わらない。這いずってでも希望の光を探し出す。愛する相棒と共に!」
どちらが先に仕掛けたかは明白ではない。
されど、気を吐いた『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)の連携が床より這い出た番犬を押し止めたのは確実だった。
「番犬共も仕える主を間違えたわね」
「うむ、我が風狼も、あの番犬タイプが気に入らないようじゃ。
いにしえより在る者としてマザーには色々と言いたい事もあるが――
状況がこれでは長話も出来ぬ。まずは周囲の平定あるのみ、じゃな」
肩を竦めた『Legend of Asgar』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)の斬撃が脅威を薙ぐ。
同じく【古】の仲間としてシャルロットに応じた『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)の『獣』が包帯を解き四散させ、複数の敵をその威力の内に巻き込んだ。
「反転か暴走か……いずれにしても本人の意志と関係なさそうっていうのは今までとは別よね」
ウルファ、シャルロットの言う通り、新たな脅威の出現、そしてそれの動きはマザーが長い問答を拒否した事実を示している。
とは言え、元よりイレギュラーズ側も同じである。マッドハッター曰く「策等無い」のだから、やれる事等多くはない。
「ハッハー! 派手な事になってきてンなァ! どいつもこいつもヤベエヤベエ!
ま、目立つ奴は『誰か』が何とかするだろ。自称主役どもが好き勝手に救ってくれ!
そうしたらなあ! 俺のやる事は――」
カラカラと露悪的に笑った『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)の鋼覇斬城閃が揺り籠の壁を大きく『抉り取った』。
「――これからが一番盛り上がるところなんだからよ。黙って見てろ、ポンコツメカ共!」
それは壁部より出現仕掛けた砲台を未然に刈り取る一撃だった。
「あら、気が合うじゃない。適材適所というものがあるのだわ。
我(わたし)は有効そうな術があるからここに来ただけだし――チームプレイってそういうものでしょう?」
ブライアンと同じく危険な砲台の目を摘まんとしたのは『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)だ。
先に「黙って見てろ」と啖呵を切ったブライアンに従う心算は毛頭無いらしく、敵は恐ろしいスピードで増殖している。
「ふん、こんな得体のしれない奴に殺されるなんて冗談じゃあないぜ。
だが――逃げた所でどっちみち世界が終わるならやるしかない。
合理的かつ不愉快な判断だよ全く! 有り難くて涙が出るね、三塔主!」
悪態を吐いた『魔刻福音』ヨハン=レーム(p3p001117)が全身の魔刻を開放する。
(勇者総選挙4位、あれほど惨めで悔しいものはなかった。
僕を認めない世界が認めるまで死んでたまるか――僕は英雄譚の脇役じゃあねえんだよ!)
鬼気迫るヨハン、
「いつの間にか、飛行タイプが、改良型に、なってますの……!
ここからは、もう、誤学習作戦は、効かないということなのでしょう……でも!
わたしの特性が、かれらと、相性がいいことは、変わらないはずですの!」
「前より素早く? 機械の癖に成長なんてしゃらくせぇな。
かかって来いよ、うすのろ。機械ごときに負けて堪るか――」
「ハッ、小型だろうが全部予測済みなんスよ!」
敢えて【対空】に意識を割いた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が我が身の安全も厭わず『まるで己を餌にでもするように』飛兵を釣り寄せ、コンビを組む格好となった『隻腕の射手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)、更に葵の見事な『ボールコントロール』が地上からの攻撃で空を泳ぐノリアを支援して見せた。
敵を迎撃するイレギュラーズの動きも早いなら、状況は然程の時間も必要とはせず、揺り籠の決戦は恐ろしい程のスピードで全面対決の様相を呈していた。
マザーを除く最大の『問題』はダミーマザーと名付けられた人形の機兵である。
「クラリス! キミを助けにきたよ!」
比較的少数とはいえ、協力極まりない彼女達に対応するべく『魔法騎士』セララ(p3p000273)をはじめとした【聖剣騎士団】の面々も動き出していた。
「混沌世界でも、R.O.Oでも。皆がキミを助けるために頑張ってる!
だから諦めないで。皆でハッピーエンドを掴もう!」
「……………」
セララの言葉がマザーに届いているのかどうかは知れない。
だが『分かり切った言葉』さえ、声にする事でより強く形を持つ事もあるのだろう。
その声は敵への呼びかけのみならず、
「……ええ、誰一人としてまだ諦めてはいません。まだ時間切れには早いです!
貴女を目覚めさせるためにも――まだここで止まる訳には行かないんです!」
轡を並べてこの死線を潜る仲間、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)を激励するものにもなった。
セララに続いたシフォリィのフルーレ・ド・ノアールフランメが間合いに夜色の軌跡を刻み込む。
「これはいよいよ御相手様も必死の局面。此処からが本番なのです。
此方は変わらず、精々ゆるりと参りませうか――」
一方で猛々しく魂を揺らすような『決戦』にも平静は保たれたまま。
攻め手たる他の面子とは異なり、受け手たる動きを好む『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の碧眼はあくまで冷静に敵を見る。
(抵抗力が高い、とそもそも効かないはまるで別の意味合いなのですよ)
大壁さえ蟻の一穴で崩される事があるならば、この戦いは余程『楽』に違いない。
あくまで彼女は冷徹に布石を打ち、やがて来る――来ると判ずる『その時』を伺っていた。
「――負けてられないわね。こっちにも『プライド』があるのよ」
冗句めかす流麗は鉄火場において尚、美しく際立つ。
「クラリス、子離れの時ね。見なさい、頼もしい貴方の子達よ。
【騎兵隊】前へ! 目標は『クラリス以外の完全制圧』。誰にも負けない戦いをこのページにも刻むわよ!」
味方の一団の動きを止めた二体目のダミーマザーを確認した『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の号令に従い【騎兵隊】が動き出す。
多くの決戦と同じく、最大戦力を運用するこのチームは重い期待と責任を背負っていると言えるだろう。
【騎兵隊】は主に戦力を三つに分けていた。
第一は鏑矢として敵に先鞭を届けるA班。
第二、第三の矢はA班と連動し、支援役となるB班。そして強力な後詰めとなるC班である。
巨大なチームを小隊に分割した事でその動きはより精緻となるだろう。
『打ち合わせ』の時間等殆どなかった筈だが――【騎兵隊】は酷く戦い慣れている。
「先ずは俺が先陣を切らぬ事には始まらん。
『期待が重いな。いや、むしろ意気に感じるが』」
「咲々宮殿と一緒に動ける盾役なんて私ぐらいでしょ。
私は騎兵隊地番槍のレイリー=シュタイン!彼に簡単に手は出させないわ!」
「フッ……こんな時でも、攻めるチャンスを見逃せないとはな。
極限すぎて、私ちゃんも皆のキャラの濃さに焦るぜー。
わはは、私ちゃんっては心配性ー! うっしゃああああ! いくぞオラぁー!」
『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)、『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)、『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が動き出す。
「首尾良く、だ。コイツはなかなか堪えるだろ? だがまだこれからだぜ――!」
幻介に引っ張られるようにして攻める『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)、
「その特殊抵抗……妬ましいのだわぁ……
妬ましいから……今日は私が抜いて見せるのだわ……!」
「色々迷ったけど……リリーにできる事は何でもしたいから、だから……リリーなりの全力でぶつかるよ、マザー! 」
更には追想の魔光を繰る『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)、気を吐いて『状態異常』なる攻勢を連ねる『マスターファミリアー』リトル・リリー(p3p000955)、
「――宜しくお願いします!」
「はい。相手が封殺する前に封殺する――
非常にシンプルで非常に重要な立ち回りとなりました。では作戦の大役、果たさせていただきます」
『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)による補助型ねねこ人形での援護を受けた『本命』、『痛みを知っている』ボディ・ダクレ(p3p008384)の手管がダミーマザーを縫い止めた。
つまる所、封殺の妙手は速度と精密性だ。その双方をダミーマザー相手に満たす事は難しくとも。
例えば速度を幻介が、命中の代わりを手数が肩代わりしたならば、その難易度は著しく落ちると言えるだろう。
とは言え、あくまで『運』を要する縫い止めが完全に成功し続けると思う程、甘い者はここにはいない。
「やりました! っと、また来てますね……!?」
「ぶはははッ、こりゃあ見事だ! そんでこっから先は通行止めだぜ! 俺が相手してやらぁ! 」
声を上げたねねこを庇うように新手の前に『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の巨体が立ち塞がった。
「今回も味方を生きて帰すのがわたしの望み。勝機はわたし達が引き出します! 」
「おう、サンキューな! まだまだやれるぜ!」
集られ激しく傷付いたゴリョウの危機を『善性のタンドレス』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の紡いだ幻想福音が救援した。
「いえいえ、どういたしまして! しかし……今回は忙しくなりそうですね……!」
「うん。それでも――仲間に補給し全員生き残らせる。この役割。絶対に完遂してみせる……!」
ココロの言葉に同じB班の『空に願う』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が頷いた。
「……真っ赤じゃないか、マザー。高熱に魘されているみたいに。
疲れただろう。休みたいだろう。だから皆の手が届くまでもう少しだけ、我慢していてくれ……!」
投げ出せばどんなにか楽になる事だろう?
己が律動にのみ従ってしまえば、どれ程救われる事だろう?
『ノブレス・オブリージュとは何時でも辛く困難なものである』。
言葉の意味を知るが故に、強いる意味を知るが故に、だ。
『女神の希望』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)の声は重い。
体力もさる事ながら気力も重要だ。クェーサーアナライズを操るフォルトゥナリアやリウィルディアは『絶対に』長期戦を強いられるこの戦いにおける重要パーツだ。
「皆さん、エルはまだまだ、頑張ります。サメエナガさんも、もう少し、頑張りましょう」
冠雪を積もらせた『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)のつららがそれでも波のように寄せる敵影を跳ね返す。
「ほ、何ぞ厄介じゃが、劣勢の時こそ英雄は生まれ出る……
さぁて、ちぃとばかりその辺、弄ったほうが良いのではないかの! のぅ、司書殿!?」
嘯く『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)は攻め手に非ず、あくまで状況を支えきる構えであった。
そう。戦いは余りにも序盤であった。先制攻撃は見事に決まったが、これは即座の解決ではない。
ダミーマザーの三体目が姿を現し、これまでを何とか食い止めた【騎兵隊】、イレギュラーズに襲い掛からんとする――
「――次に注意!」
持ち前の広い視野で叫んだ『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が対応した。
「個の力で崩せぬのなら、集の力で突破するまで。機械にも劣らぬ『ヒトの力』、受けてみるがいい!」
交差する飛び斬撃とワイヤーの嵐。
「ルーキス氏、被害重度!
ついでに私も中度ッス! タンクは支援へ……くそッ、戦うより忙しいっスねコレ!!」
斬撃の『差し合い』で深く傷付いたルーキスをすかさず『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)が救援した。
「やァ、それじゃあ我(アタシ)は倒せないんじゃない?」
「ヒヒ。死牡丹の旦那程までとは言わないけどねぇ、もう少し」と嗤う『闇之雲』武器商人(p3p001107)が傷付いた仲間を背に庇う。
「ワタシの役目は立ち続けて戦うこと!
倒れない。倒れさせやしない。前へ、もっと前へ……!」
フワフワの白毛を赤く染めても『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)はこの場を譲らなかった。
「今日は絶対に譲らない……! 絶対に、負けたりしないんだから……!」
「良く言った!」
戦場に迸るは呵々大笑。
「死んでも倒れねば負けぬ。そして死ぬまで殴れば死ぬ――良い言葉だ。吾はとても気に入っている!」
『美少女の格言』を唇に乗せ、疾風のように『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が駆ける。
美しき瀑布の如くその膂力を爆発させ、信じ難い程に高まった行動力を一気に炸裂させた。
「さぁ、吾の練り上げた花拳繍腿をそのデータに焼き付けるがよい! 」
「――敵に狙いは絞らせない! 怖いけど……
もう後で三塔の人に、この戦い終わった後に商談とかしに行って良いかな……報酬代わりに許されない!?」
「全く、『賢しい母』程めんどくさいものはないのではなくって?
ふふ、滾って来たわ。思わず獣に戻りそうだもの――」
恐怖を抑えつけた『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)が敵影を撃ち、皮肉に艷やかに『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)が呪を紡いだ。
「……まぁ、おまじないだな。期待してる、ぜ!」
「――『マザーがダミーとはいえいっぱいいるとか軽く冗談じゃねぇんだが!?
どーもご本尊には俺は通用しねぇ気配もするしな。まぁ――『封じ合い』と行こうか。なァ?」
一連の攻勢を味方につけ、『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)の『空想』に背を押され。
ボディと同じく勝負を仕掛けた『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)にダミーマザーが咆哮を上げた。
おおおおおおおお……!
「なんかやべぇタイミングみたいで。
ならちょうど良い時に来れたって訳だ――アタシも全力で手を貸すぜ!」
流れに『乗った』『戦場を舞う鴉』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が追撃する。
「さぁて、ガンガン行くぜ! 次はどいつだ!?」
イレギュラーズの勢いが増していた。
【騎兵隊】の活躍もあり、ダミーマザーが上手く抑えられていた。
だが――
「Nyahahahahahahahahahahaha――!」
状況を嘲り笑うかの如く。
突然けたたましく『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)の哄笑が響き渡る。
『後方』を警戒していたのが幸いだった。
味方を庇い、並の者ならば二度は死んでいる一撃に貫かれ、それでもまだ嗤う余裕を見せるオラボナが対峙するのは『四体目』だ。
「悪い夢が現実にならないように、みんなで助けに来たのですよ!
なら、それなら――ルシアが、ルシアが出来る事はきっとぜんぶ――」
誰も死なせず、誰も失わせぬ。
無理難題と笑う運命目掛け、ルシアは力一杯に砲を放つ。
『或いはだから、だったのかも知れない』。
噴煙の向こうから頼もしい声がした。
「先程のはフラグと思いまして!?」
「だからちゃんと追いつくって言ったじゃあないか!」
イレギュラーズの危急に横入りをしたのは喧しくも頼もしい『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の二人だ。
先の通路で横道より湧き出た大量の敵に呑まれたかのように見えた二人であったが、浅くない傷を負ってはいるものの意気軒昂にここまで戦い抜き、追いついてきたのだ!
(マザーの言動を見るに、かなり侵食されてきていますわね。
私達も早くR.O.Oへ……いえ、今は皆へ任せて、ここは少しでも時間を稼ぎましょう……!)
日頃の姿(コメディ・リリーフ)は置いてきた。この戦いにはついてこれそうもないから。
「一刻の猶予もないようだね! ヴァリューシャ! 私達に出来ることをしよう!」
「ええ、マリィ! 私達の連携でいきますわよ!」
マリアの声に応え、劇場版(シリアス)なヴァレーリヤがダミーマザーを押し込んだ。
執拗な反撃もマリアの直感が上手く矛先を逸している格好だ。
(ひたすら動いて攻撃し、足を止めないこと。死角・死角へと回り込んで攻撃し気を散らせること……)
そして、『敵の大技の機会(AP)を一度(すこし)でも多く奪うこと』。
「私に出来る事なんて多くない。敵に鬱陶しいと思わせられたら儲けものさ!」
【虹虎】の遅れての介入は結果的に妙手になった。
「いやはや、まさかこんな可愛らしい婦人の胎内で戦えるなんて!
役得には多少の困難がつきものって事か? 人生の幸福と不幸の総量は決まってるとか。往々にしてバランス的だとか。
まあ僕らは明らかに免疫系が排除しようとする侵入した異物みたいな扱い受けてるんだけど、現在進行系で!」
「アトさん!」←おこした
言葉程よりは随分真面目に指揮を回す『観光客』アト・サイン(p3p001394)の分かり難い冗句にフラーゴラが抗議の声を上げた。
「そこ、ちょっと退いて。それからそっち前に出て――後は馬なり。君達なら大丈夫!」
「アトさん……」←カッコよかった
オラボナが笑いながらダミーマザーを振り切り、仲間の支援で体制を立て直す。
後背の危機に気付いた【騎兵隊】が有機的連動で姿を変え、状況を支える構えを見せる。
ダミーマザーをはじめとした機兵達はイレギュラーズの総力戦で押さえつけられてる状況だ。
「ダミーすら復活するとしても、もったいぶった復活であることを祈るぞ……!」
竜閃爪をそれに深く突き刺した『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は思わず天に祈りたい気分だった。
しかしR.O.Oならぬ混沌での彼等は不死身ではない。体力も気力も無限ではない。
その上、敵側は無限で不滅だ。『マザーに解決をつけない限り、個別の撃破には意味がない』。
ならば、『彼等』が幾多の戦士の献身に応え、しなければいけない事は一つであろう。
「個々の能力が精兵たる事が、僕らの強みだ。ならば、マザーの撃破は、その精兵を束ねた『集団』の役割だよ」
「各員、隙は逃さず。速やかに事を済ませましょう」
「何時ぞやぶりだな、マザー。その似合わぬ色、直しに来たぞ。よく付き合え!」
マルク・シリング(p3p001309)の求めに従いカスパールが雷気を強めた。
一方でその動きに連携せんとする『群鱗』只野・黒子(p3p008597)がさっと手を挙げ、マザーと面識のある『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が不敵に笑った。
【救母】はマザーへの接敵を視野に入れたチームである。簡単に押し切れる相手とは思っていないが、
「この国に生きる人たちと、ROOの中に生きる人たちを守るために。
ちょっと痛いかもだけど少しだけ、我慢してね――!」
「世界を滅ぼした私が、今は世界を守る為に剣を振るう……
これも因果でしょうか。ですが、やるからには全力にて――少々手荒くいきますが……断ち斬らせていただきます!」
高速徹甲誘導弾を放つ『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)、更に持ち前の超大火力による一撃を狙う『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)共に怯む気配は全く無い。
「マザーと戦う皆の為の道を切り拓く――負荷は大きいけど、今のボクに出来る全力で!」
更には吠えた焔の加具土命が直線上の敵を赤い炎獄で薙ぎ払う。
轟音で揺り籠を揺らす彼女等火線の競演を従えて、
(『デウス・エクス・マキーナ』に手が届きそうなのに物量と弾幕で……遠いッ!
一手、こちらが誤ればその時点で終わるかもしれない、それでもまだ最悪ではないのが救いでしょうか!)
『運命の盾』金枝 繁茂(p3p008917)はマザーの執拗な迎撃を掻い潜るように押し進む。
相対するマザーの実力はダミーマザーの比ではない。
未だ戦力を束ねきり、打撃力を集中する事が出来ないイレギュラーズを前にただ、圧倒的だった。
だが、それでも。敵わぬまでも『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はその不可能に挑みかかる!
「マザー……クラリスさん。
皆で会いに来た。皆ここに居る。貴女は決して一人じゃないよ。
貴女がどれだけ耐えてきたかも、こうして粘れば苦しみが続くことも分かってる。
だけど助けたい。貴女はきっと――それを望んでいないから。手遅れになど、させない!」
吠えたイズマが肉薄した。
「……ッ!?」
目を見開いた彼をマザーの視線が真っ直ぐに捉えていた。
「……………」
感情は見えない。それが読めない。
言葉は響いたか、それとも無為に過ぎなかったのか――分からない。
突き出されたその手が、指先が微かに動いた時――彼は全身がバラバラになるかのような痛みを思い知る――
成否
失敗
状態異常
第2章 第3節
●掌握世界II
マザーはセフィロトにおける『最強』の存在だ。
かのネクストにおいて、影の城において『イノリ』が最悪であるのと同じく――
――否。『死に取り返しのつかない』混沌での戦いにおいては状況が激しさを増す事は即ち。
「――効率的に。ここからが恐らく正念場になるでしょう」
ことこの期に及んでも不可思議な程の冷静さをまるで崩さない『群鱗』只野・黒子(p3p008597)率いる【救母】の仕事量が最大値に達する事を意味していた。
抜群の戦略眼を軸に戦場のあちこちに捨て目を配る黒子だが、唯一『甘くなった』のは自身の防備である。
「――おっと、こちらは行き止まりですよ」
だがそれは決して作戦全体の支障足り得るものではない。
「マザーの赤色は、他人事とは思えないんですよ。これ以上歪な命が生まれないために、私は――」
黒子の守りは防御だけではなく攻め手をも備えてきた『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)によって果たされている。
「ROO内の状況は好転してきている。マザー、あなたももう少しだけ頑張って。
私たちがあなたとこの国を助けるから……!」
決意の言葉とそれにも勝る破式魔砲を撃ち尽くす――『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)に「ああ」と『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が頷いた。
「マザーよ。知っているか? 私達の売りは三つもあるんだ。
しぶとい、めんどい、諦めが悪い。しかも何だかんだで運命にも愛されている……
何、四つあった? いいではないか。それそのものがローレットだ。その事を、特等席でとくと味わうがいい!」
「操君を『神輿に乗せます』。もちろん比喩ですけどネ。
私が目となり盾となることで、操君に『自分の仕事』へ集中してもらうこと――
それに専念する担当がいてもいい……というか、いるべきだと思うんですヨ」
「買い被られたな」
「――実際の所、本音を言えば、カスパール君の剣技をもっと見ていたかったんですけどネ!」
支援役の中心として機能せねばならぬ佐伯操を冗句めいた汰磨羈と『一菱流段位』観音打 至東(p3p008495)がカバーしている。
「私達は少々諦めが悪いのです。精々あがいて、その末に貴女が救われる手助けができれば――
佐伯さん、『しっかり買い被りますからね』。宜しくお願いしますよ――!」
「責任重大だな」
『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)の火力が横合いから脅威を排除する。
不敵に笑った操の支援能力は、成る程『三塔主』に相応しく、消耗した周囲の味方を馬鹿げたレベルで立て直す。
……とは言え、だ。どんなに良い動きを詰めたとしても、だ。滅茶苦茶な乱戦に安穏の時間は無い。
イレギュラーズが遂に辿り着いた『中枢』の底――『セフィロトの揺り籠』はまさに地獄の様相を呈している。
(ニルの大好きな場所を守るために。
ニルはニルのできることをやらなくちゃ――!)
こちらも仲間を支援し、戦線を支える事に全力を尽くす『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)にもいよいよ予断を許さない状況を与えていた。
「やれやれ、漸く『母君』のお出ましだというのに。
未だガチャガチャと騒がしいばかりだね――いい加減腹も減って来た所だ。さっさと片付けて帰りたいものだよ」
肩を竦めた『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の視界にまた大量の敵機が入り込んでいた。
(機械相手では今一興が乗らないけれど――君も『この程度』で終わる相手ではないのだろう?)
細められた彼女の目は赤い女王を問い掛けのように値踏みしている。
「――クラリス! 反転なんかに負けないで!」
呼び掛けの声を張る『魔法騎士』セララ(p3p000273)の聖剣が閃くも、力場を纏ったマザーの徒手がそれを弾き散らす。
「ROOで皆が頑張ってる。もう少しで状況が改善するはずなんだ。だから絶望せず、希望を持ち続けて!
――キミの事は皆で絶対に助けるから!」
必死に呼び掛けにマザーは応じていないが、その戦いがハッキリさせる事はある。
(……少なくともセララレベルなら『無視』は出来ないという事か。しかし、一対一では話にならないのも確実だな)
良く見知ったる対戦相手(ライバル)は、マルベートにとってはこの上なく分かり易い物差しだっただろう。
「実は私にも娘がいてね。今は練達で暮らしているんだ。
こうして戦いに来たのはあの子を守るためでもあるが……今まで練達の子としてあの子を助けてくれた、あなたへの恩返しでもあるかな」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の放った暴力的な『速度』がマザーを掠めた。
「母が子を傷つけるなんて悲しいこと、あなたも望んではないだろう……だから、全力であなたを止めるよ」
「無限ならぬ身にてまともに戦い続ける事は出来ない、そんなの分かり切ってる事だ!
イレギュラーズである俺たちがやる事は何時もと何も変わらない、つまりはそう『諦めない』事だろう!?」
「――ヘッ、本命(メイン・イヴェント)には間に合ったようだな!
オーケーオーケー、いい修羅場だぜ。我ながらグッドタイミングで最高だ、HAHAHA!」
かの『本丸』にはセララやゼフィラ、更には『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364、『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)が喰い付いている。
「へぇ! ミーのデンプシー・ロールをかわすのか! 面白ぇ!」
「……速度上昇。行動誤差、4%。この偏差は問題ありません」
「――じゃあ、その計算を超えるとしよう!」
貴道の目は爛々と輝き、乱打はより勢いを増していく。
成る程。緒戦とは言え底は見えない。まるで見えていない。
マザーに仕掛けたイレギュラーズはあくまで一部である。
『セフィロトの揺り籠』は実に広大なる侵入者達の処刑場であった。
全方位から沸き続ける防衛システムは強靭かつ凶悪で油断をすれば状況を取り返しのつかないステージへと『攫ってしまう』。
イレギュラーズはマザーを相手取りながら、あくまで戦線を維持する事を強いられている。
この決戦の中で、状況の維持もまた激しさを増していた。
「成る程、いい機会になる。どちらがより『良き番犬』か……見せてやるがいい、弾正」
「良き番け……番犬? 俺がか?」
やや意地悪く言った『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)に『お手』の一つを仕掛けた『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)が食いつく番犬を受け止めた。
(……ああ、敵を撃つ度に自分の進化に驚かされる!
体力はとっくに限界だというのに身体が軽い。視野を広く持てる!
R.O.Oでの戦いの記憶が確実に活きてるって訳かよ――!)
『良き番犬』は伊達ではなく、強化された敵にも退かない弾正を、
「マザーやダミー、手強い方へ向かう者がそちらへ集中できるように。
弾正、出現地点へ――極力奴等を押し込んで封じていくぞ」
アーマデルがすかさず支援する。
「――くぅっ、相手の本拠地で不利な状況なのはわかってたけど、やっぱり凄く強いっ!
それでも、向こうで頑張ってる皆が黒幕を倒すまでは――ううん、黒幕を倒すための時間はボク達が作るんだっ!」
一方で『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の繰り出した業炎が向かってきた番犬を叩き伏せる。
「皆、ボクが守る――出し惜しみなし、全力全開でいくよ!!!」
「っあー……想像の何倍もキッツいっスね……!
こりゃ、昔の――部活時代のしごきを思い出す位ッスよ!」
「俺以外の飛ぶ奴にこんなところで負けねぇ、負けるわけにはいかねぇ!
俺はもっと強くならねぇといけないんだ。だからガラクタ如き、全機撃墜してスクラップにしてやらぁ!」
深手を負いながらも『運動量』を落とさない『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はストライカーでありながら献身的だ。半ば自分に言い聞かせる目的もあるのだろうか――悪態と一緒に気合を吐き出した『隻腕の射手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の目は何時もよりもギラギラとしているように見えた。
「出たり戻ったり忙しいなホントに……いや! 俺は! ROOなんて! 知らねェけど! やってねェけど!
ああ――畜生め! 鬱陶しいな! 上は俺らに任せな。他の連中は目の前の敵に集中するんだな!」
目の回りそうな光景に『最期に映した男』キドー(p3p000244)は怒鳴るような声を上げる。
「いやしっかし懲りもせずゾロゾロと! 先客万来、ってね
俺ぁ別に坊主でもいいんだぜ。芒に月だけに!」
多数の飛兵を相手にしてもその饒舌な舌は止まらず、フーアとの盟約は果たされ、敵陣を機械に似合いな水浸しで乱しに乱す。
「このまま全員で本体だけにかかりきり、とは行かないでしょうからね。
……少しでも皆さんの助けになれるよう、引き続き露払いをさせていただきますよ――」
「――生憎こちらはか弱いレディが多いから。あっ、正純ちゃんは別だけどね――
マザーを相手取るより、皆が気持ちよく戦えるようお膳立てする方が得意なの。
いい女は一歩下がって誰かを立てるのも上手なものよ? 引続き周りの雑務はお任せしてちょうだいな!」
【淑女】な二人――『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)は自身をからかうように華やかな言葉を散らした『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)に何とも言えない顔をした。しかし、そんなやり取りは兎も角、厄介な敵を抑え込む二人の戦いはまさに理想的に『誰かを立てる』ものであった。
「赫い……あれは、強大にして高次の存在。まるで――此の国を、此の世界を支える柱のよう」
漠然と呟いた『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の見た世界は余りにも『赤』だった。
圧倒的な存在感に猛々しい敵意の色を纏った彼女は一目見て分かる『勝てるはずのない相手』だ。
「……果たして、わたしが此処に来た意味が、あるのか」
「さあね」
茫洋とした問い掛けに応じたのは轡を並べる淑女の一人――『律の風』ゼファー(p3p007625)だった。
「刺すようなあの空気、あまりに重い。『異質』だわ。
あの海で出会った竜とも、彼の剣鬼とも――『あの人』とも違う。
でも、同じな事も無い訳じゃないのよね――それって、昏い、死の気配」
身を翻し敵の猛攻を避けたゼファーがふ、と笑う。
「何が出来るのか、何の為に来たのか! 正直、分かるなら知りたいけれど…!
此処を支えなければ意味が無いと言ったのは私自身。だから、まだまだ遊んでやるって事よ、此のブリキ野郎共!」
ゼファーの魔槍が刹那三天の如く宙空の『羽虫』を縫い止めた。
「さて、イイ女のやることはまだまだいっぱいね。
観客に囲まれるのは大歓迎だけれど――あなたたちみたいな無礼者(おじゃまむし)ばかりはごめんだわ!」
「きっと、これからもっと厳しい戦いになる。怖くないなんて言わない。言えない――
――でも、義理堅いのがイイ女なら、やり通すのもイイ女。『助け出す』と誓ったからには、怖気付いてなんていられない……!」
『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が、『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)が更に集る飛兵へと畳み掛けた。
「あなたたちの拍手も喝采もいらないわ。そのまま静かにしてて頂戴。
これからメインの舞台だって言うのに――前座がでしゃばるのは失礼でしょう?」
「ええ、ええ。悪夢のような光景も死地も……辛い時ほどたおやか笑顔で乗り越えるのが淑女というものね。
皆様も――『何より』アッシュさんも、この程度、今更動じてはいないのでしょう?」
『フロントライン・エレガンス』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)に水を向けられたアッシュがふ、と幽かな笑みを浮かべた。
「空より堕ちよ、地を這い、泥濘に溺れ、やがて土へと還れ。
……貴方がたには、地べたがお似合いというもの。
此れは屹度、望まれざる戦い――彼女が総ての母であると云うのなら。
其の彼女に子殺しをさせない為に、今はわたしの出来うる限りを !」
「ああもう、ゆっくりメイクを直す暇もない!
……でもまぁ、あれもこれも見てないから――お化粧は後でいいか。ふふ、皆イイ顔してるったら!」
アーリアの快哉は華やかであり、美しいが故の毒気さえ感じさせる程のものだった。
何の事は無い、アッシュは元から気負っていないのだ。敵が強い事等、最初から分かっていた事だ。
「マザーさんの苦しみに比べたら、僕の痛みやパンドラが減る位どうだっていうんだ!
糞兄のわがままで、彼女が歪んだ願望機にさせられるなんて……僕は絶対許さない!
ちゃんと目を覚ませるよう、悪酔い(よびごえ)なんて吹き飛ばすから!
声の続く限り、歌い続け事が――僕に出来る『戦い』だから……!」
『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の歌声――聢唱ユーサネイジアなる連続魔が間合いの中の敵を灼く。
「折角合流した以上は――出来る事はやり切らないとね。
とは言え、この攻撃力ではマザーに届かない。なら――盾は多くても構わないよね」
反撃とばかりに猛烈な火線を噴いた砲台の斜線上に『文具屋』古木・文(p3p001262)が立ち塞がった。
そして番犬、飛兵、砲台。強化されたその三種を凌いでもイレギュラーズの苦境は止まない。
「対マザーとの前哨戦といこうか。ダミーとは言えマザーを模したモノ。相手に不足はねえだろう?」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)の睥睨するのは、防衛システム上の最大の敵。言わずと知れたダミーマザーである。
「ダミーマザー、かなりの強敵だね……
ただ、こういう相手とは何度も戦ってるから対処法はわかるんだよネ。
一対一ならともかく――こういう戦いならアタシが好きにはさせないよ!」
「個の力で敵わなくても、数と絆の力を足して百万倍力だよ!
……我ながら『ひっどい計算式』だけど……皆よろしく!
何度も同じ戦場(ぶたい)に立ち続けた仲だもん、互いの動き方なんてよく知ったこと!
完璧に近いそのシステムの……上を行く!」
「より強い敵が出てくれば出てくるほど――嗚呼、無駄なのが分からないのでしょうか。お知りにならないのでしょうね。
特異運命座標とは強いモノを目の前にすればより強くなるものであることを。そして、僕もその一人だということを!」
ジェイクの言葉に応じたように『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が動き出す。
「無限に妖しく連なりたる――昼想夜夢の幻想世界、どうぞご覧下さいな!」
それは実に流麗なる【天香桂花】の連携だ。見事に噛み合った連続攻勢が逃れんとした敵影を執拗に追っている。
「あれがヤバいのは言うまでもねえ。気を抜いたらあっという間にあの世行き。
だがよ、こんな所は通過点。俺達は紛い物でも誰かの下位互換でもない――オリジナルがダミーに負けるわけにはいかないのさ!」
そんな無駄な足掻きさえ縫い止めんとしたのが『敢えて遅れて』銃弾を放ったジェイクであった。
彼の打点(ピリオド)は嘲り笑う――そこは『詰み』だと皮肉に決める。
厄介な飛兵、俊敏にして強靭な番犬、破壊力抜群の砲台にダミーマザー。
『出揃った』中枢の歓迎は苛烈極まりなく、まさに運命の分水嶺としてマザーに挑まねばならぬ勇者達を実に激しく拒絶し続けていた。
「ここまで来れば、あとは、マザーだけ……
でも……わたしは、マザー相手に戦えるほど、攻撃は、得意ではありませんから……
せめても、マザーに向かう皆様を、脅威からお守りしますの……それだけですの……!」
幾ら頑健な身体を持っていたとしても傷付けば痛む。
献身的で健気で、心優しい『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)でも決して不死身という訳ではないからだ。
(……でも、ほんとうにそれだけで、いいのでしょうか?)
これで勝てるのだろうか、と惑う。
大切な誰かを守り切れるのだろうかと不安になる事もある――
「痛たた……今度こそ死んだかと思いましたわ。マリィは大丈夫ですこと?」
「ふふ……! 死ぬかと思ったけどなんとか生きてる! ヴァリューシャも大丈夫そうだね!」
背中合わせに互いを守り、最後方からマザーへの道を切り開いていく。
「ゆっくりと取り巻きの敵を倒して確実にマザーを追い詰めたいと思っていたけれど、どうやらその余裕はなさそうですわね」
「うん! 時間も私達の体力も余裕は無さそうだ!」
「それなら――」
「――ああ、ちょっと『無茶』をするしかない!
全力で行こう! 私は前に出る! ヴァリューシャ! 活路(まえ)は任せたよ!」
――主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え!
瞑目した『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の唇が聖句を紡げば、『太陽が燃える夜』は炎の濁流で直線上を激しく焼いた。
「はああああああああ――ッ!」
『道』を駆け抜けるのは一筋の迅雷。獣のように姿勢を低く間合いを駆け抜ける『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は虎のように獰猛だった。
【虹虎】の二人、ヴァレーリヤとマリアが『魅せる』。
されど攻略の糸口は現時点で全く見えていない。
イレギュラーズの激しい攻撃は湖面を揺らす小石のようだった。
練達の神とも言えるマザーは『セフィロトの揺り籠』を支配したままで、大勢は動いていない!
「R.O.Oに干渉でも出来て――隕石でも落とせればいいのにな!」
「非戦闘員にこれは厳しい」と大仰に嘆いた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の声はあながち冗談ばかりとも言えなかった。
成否
失敗
状態異常
第2章 第4節
●騎兵の嘶き
果敢なるイレギュラーズの戦いはあくまで可能性を問い続けるものだ。
難攻不落の機神の迷宮を突破し、今まさに不可能とも思える練達の神に挑みかかる――
常識で考えるならばそれは天に唾する愚か者の行為に違いない。
理屈で考えるならばそれは分不相応にして身の程を知らぬ暴挙に他ならないのだろう――
「――でも、それでも。神はそれを望まれる!」
繊細なる自信家――『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の美貌には不敵と緊張の双方が同居する。
神に相対するならば、やはり神の加護だ。何時もの『口癖』に応えて動き出したのはイレギュラーズの最大戦力たる【騎兵隊】だ。
(陣形は指示した。戦況把握は最優先になるわね。
ダミー連中に包囲されないように部隊各員は連動する必要がある。
……特に先の戦いは危なかったわ。後ろからの包囲なんてぞっとする!
回頭のしやすさは気に留めないと――このまま、押し切れる場面を増やすだけ!)
イーリン率いる【騎兵隊】のミッションはダミーマザー、合計四体の強敵を食い止める事であった。
「作戦自体はさっきと同じだが、あの短時間での学習は難しいだろ。
仮に対策されちまっても『対策にリソースを割かせた』だけ儲け物、ってコトで――」
『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は軽妙に言って、己が敵を見据えた。
「――第一矢は上々、続いて二の矢行くぜ!」
ミヅハの言葉の終わりを待たず、
「やる事自体は変わらず――生憎と先手を譲る程『手緩くない』のでな」
「――っしゃあ! ダミーマザー解体の残業じゃあ! クラchangまで遠いっすなあ! つらたにえん!」
「私でも……倒せなくても……これくらいなら……!」
「行くぞ機兵、殺人兵器(わたし)の在り方をその身にしかと刻んでゆけ」
幾度目か『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)は疾風の如く飛び出し、相変わらずマイペースを崩さない『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)、可憐な美貌に強い決意を滲ませる『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)、己が役割の重さを己自身に刻むかのような『痛みを知っている』ボディ・ダクレ(p3p008384)等が間断なくそれに続く。【騎兵隊】の鏑矢たるA班――幻介から連なる連動での攻勢は敵に必ず先んじるという強き意志を示していた。
「この調子なら、いけるのだわ……!」
「無尽に斬り、無限に留める。それぐらいの気概で臨むだけ。
此処まで皆様がお膳立てしてくれて、『運が悪かった』なんて――あぁ、そんな物は、嫌過ぎる!
だから掴み取ってやる、細い奇跡だろうがなんだろうが――この手で!」
ダミーマザーが広域に対しての封殺を武器とするならこれを受ける事は確実なジリ貧を招く。
攻撃的なこのチーム、取り分けボディの手管は『先に相手を縫い止める事』であった。
これが奏功すれば良し、仮にこれが届かないとしたなら。或いは別の敵が道を阻もうとするならば、
「ぶはははッ、圧力がまるで足りん! その程度じゃ到底ここは退いてやれねぇなぁ!」
「――まだまだだわね。ここからが本番、どんどん行くわよ!」
豪放磊落な笑いを見せた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)、凛と気を吐いた『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)の存在感が物を言う。
「ゴリョウ殿、そっちは平気?」
「馬なりだなぁ。いや、ここは豚なりか? ぶはははははは!」
堪えないという意味でこの連中を上回る者は多くない。
タンク達の役割は、側面や不意の動き、鏑矢の外堀を固める事である。攻撃面を幻介に引っ張らせたA班は、同時に防御面のフォローも抜かり無い。
「温まってきたみたいじゃない!
冴えてるわね……魔女の動き、見せてあげる!」
イーリンが快哉の声を上げた。
『誰の手が届いても構わない。だが、誰の手も届かない事だけは許されない』。
もう一つの主戦力【黒狼】がマザーに食いつくのならば、それをアシストするのが【騎兵隊】の役目になろう。
長い打ち合わせの時間さえない現場の判断だったが、役割分担は綺麗に分かたれている。
「潰し合いか……ふん、上等。
長く騎兵隊をやってるんだ、潰れ役には慣れたものよ。
こうなれば、とことん付き合ってもらうぞ……!」
『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の眼光が鋭くなる。
(ダミーマザーのリスポーンへの猶予は? 彼女等のリスポーン箇所は? 攻勢限界は?)
考える事は武器であり、考えると同時に戦う事は義務であった。
「コツコツと、リリーなりにやれる事を全力でやるだけだもん!
マザーにはまだ決定打はない、けど、ダミーを抑えきればどこかで……行けるはず、だよ!
リリー達も頑張らなきゃ! R.O.Oの中でも頑張ってる人たちが居るんだから!」
圧倒的な精度と状態異常を得手とする『マスターファミリアー』リトル・リリー(p3p000955)が変幻自在の攻め手を見せた。
「ダミーマザーさん達は、エル達が、どしどし攻撃、しちゃいます。
継続は力なり、とっても大事だって、エルは思いました……!」
「私は引き続き戦線維持! 相手が無限湧きなら私達が継戦の要――どんどん爆弾投げていきますね!」
「――無理しないで。でも一歩ずつ前へ」
『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)のつららが幾度目か敵を牽制し、気負いは無く何処か愉快そうにも聞こえる調子でそう言った『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)の投擲した『爆弾』が、麗しき『善性のタンドレス』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の的確な分析と激励が味方の消耗を押し返す。力一杯戦い続けねば待つのは早々とした『決壊』だ。さりとて力一杯戦い続けるにはねねこやココロのような役割が必要不可欠なのは言うまでもない。
「マザーが根負けするまでは私達も戦い続けて見せないとね」
「ガチで強くてやべーやつ相手!
これをどうこうするには、前を支援して支援して支援しまくるしかなかろう!?
――儂の近くじゃとちょっとだけ当てやすいぞ、おらぁん!」
この際だ、と完全に守りに回った『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)が怪気炎を上げる。
『空に願う』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の顔には疲労があったが、戦い始めたその時から――些かもその輝きは減じていない。
彼女の属するB班は【騎兵隊】の――ひいてはイレギュラーズ全体の命運をも握る扇の要であった。
(少しでも、一瞬でも――長く! 強く!)
フォルトゥナリアの美貌から笑顔が消えないのは、
「まだ届かない、届き切らない。けど確実にこちらの気勢は、相手側への負担になっているはず。
戦力の把握も概ね完了、陣形も整った。戦術も通用している。ならここからは僕たちとマザーの、そしてネクスト側の根比べだろう?」
『女神の希望』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)の自信がこの状況にも揺らいでいないのは、仲間を信じているから。己を信じたいからだ!
「ここからが正念場。さあ騎兵達。マザーに巣食う悪性の物質を蹂躙する時だ!」
声を上げたリウィルディアはこの戦いが彼方で運命を繰るクリストへの負担になる事を願っている。
今も未だ酷薄なウィルスと孤独な戦いを続けているであろうマザーの助けにならん事を願っている!
機動と連携を重視する【騎兵隊】においてはもB班の一部も同じく、高速の戦いを展開していた。
「フラーゴラちゃん、今ですよ!」
「兵は神速を尊ぶ……んだよね? お師匠先生(イーリン)隊の続投速度でも反応でも機動力でも……そして連携でも!」
『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は疲労にも歯を食いしばり、身体の痛みも問わずに前に出る。
「――ワタシもがんばる!」
ダミーマザーの間合いへ飛び込み、悪意の魔弾を確実にダミーマザーへ突き刺した。
マザーが最強の存在である事に疑いはないが、たった四体のダミーマザーさえイレギュラーズの集団に優る大敵なら、相手にとって不足等無い!
当然のように都合四体を数えるダミーマザーの攻撃は手厳しい。内一体こそ【天香桂花】の四人をはじめとしたイレギュラーズがある程度引き付けてくれてはいたが、残る三体はそうはいかない。
「……これだけ胎内で暴れてたらそりゃガン細胞扱いされるか。
まあいい、この激戦が終わったら僕……マザーのほっそいお腹を敢えてプニプニするんだ……」
副将格としてイーリンと共に全体の指揮をこなす『観光客』アト・サイン(p3p001394)は戦いの中にある余人よりも確実に、的確に状況を把握していた。
【騎兵隊】がイレギュラーズの主戦力である事は防衛システムの認識にも明らかであり、警戒と攻撃は時間を追う程に苛烈さが増していた。
「……っ……!?」
敵はダミーマザーだけではない。数を頼みに『抜けて』来た飛兵がイーリンを狙う。
「――っ、思考を巡らせるのじゃ。
勝ちにだけ向かえ! 考え続けろ! 然るべき所に、その波濤をぶちかましてやれる時まで――!」
イーリンの危急を救ったのは身を挺して彼女を庇った『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)。
「……こりゃあ、何処まで保つかな?」
「何時までも、じゃ!」
「……責任は重大だわ」
礼の一つも言わせない。クレマァダは傷付いても立ち上がり、その敵をアトの残影百手が貫いた。
A班の攻勢も、全体を支えるB班の支援も相応の機能を見せている。
だが、アトは『セフィロトの揺り籠』での決戦が、自身等が理想的に動いたとて必ず勝てるとは言えない戦いだと承知している。
冒険の多くがそうであるのと同じように、乗り越えるには『特別な運命』が必要な局面もある――
「さぁ、引き続きダミーマザーの撃破が目標だ!
なんぼでも湧いて来やがれ、その分すり潰してやるぜ!
本当に――いつも楽しい戦場を用意してくれやがるな、うちの大将は!」
腕をぶした『好機一閃』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が獰猛に大笑する。
「ふふん? 何度屠っても現れるか!
つまりはお代わりもう一杯と言う訳であるな!
よいぞ! クラリスちゃん、初めての運動会故、欲張りも致し方なし!
たっぷり拳を馳走してやろうぞ!」
喜色満面なる『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)はそんな戦いを厭うていない。
美少女なる彼女は死を恐れず、無限の闘争を歓待する。
「元より修羅場となるのは想定済み。無限に湧き出るだって――上等だ。
この身が動く限り付き合いましょう!」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)もまた同じだった。
精神が肉体さえも超えようとしている。湧き上がる闘志は火傷しそうな位に燃え盛っている。
「何やら賑やかなと思って来てみましたが……まぁ、片端からぶっ飛ばせば良いですよね!?」
『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)の結論は酷く胡乱であり、適当だったが――彼女の操る黒顎魔王はそうはいかない。
絶対なる絶望はダミーマザーを飲み込まんとその大顎を開いていた。
A班と同じく攻勢を取るC班の威力もまた素晴らしいものだった。
部屋全体で同時多発的に発生する乱戦は決して彼等を完全な予定通りに動かしてはくれない。
イーリンやアトがどれ程に力を尽くしたとしても、実戦の全てが予定通りに進む事等有り得ない。
「もう一度でして! 元に戻れるまで何回でも手伝うのですよ!
苦しいのはみんな同じ! ルシアだけ帰って休むのはイヤでして!」
独特の物言いが何とも言えず頼もしく聞こえた。
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)の放った魔光が間合い全てを薙ぎ払う。
「ヒヒ……全部ぶち壊せ、ってことだろう?」
そんな好機を受け、取り分け粘り強い『闇之雲』武器商人(p3p001107)がダミーマザーに食い下がる。
受けるだけは今は昔、乱戦の中ではその不滅性こそが物を言う。
粘りに粘って纏わり付く。まさにその様は怪異らしく、武器商人らしいと呼ぶ他はない。
「あぁくそ! 体超痛い!!
でも師匠の修行のお陰かな? どうにか体は動く……!
だからまぁ……これは、俺もこれからって事なんだろう!?」
「もーっ……! そろそろ手加減してくれませんかね!?
さっき汗まみれ、血まみれで――保険おります!? やってられないんスけど!」
『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)は歯を食いしばって前を向く。
悪態を吐く『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)も『合理的な自分』を蹴倒し続けて今ここに居るのだ。
……あくまで【騎兵隊】は足掻き続けていた。限界に挑んでいた。
ファミリアーによる連絡手段を互いに繋いだ。彼我の状況の把握、情報の共有に努めた。
出来る出来ないではなく、『そうあれかし』と人事を積み上げた心算だった。
だから、なのだろう。
【騎兵隊】が単純な能力で劣りながらも、どうしようもない敵を抑えつけられたのは。
「全力で手を伸ばし声をかける人の後押しをするために、わたくしはいるようなもの。
それに頑張るリーダーさんにも、報いなければね?」
『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)の渾身の一撃がダミーマザーを『はったおす』勢いで捉えたのは。
「命懸けの詰め合いっていやあ仕方ねぇが、こちとら『キング』を取りに来たわけじゃねぇのよ。
強いて言うなら――『マザー』の奪還って訳だが。妨害の妨害ってならこっちの方がまだやりようはあるって事だろ?」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の搦め手がこの時、三体目のダミーマザーを絡め取る事に成功したのは!
【騎兵隊】の猛烈な戦いは続く。
刹那の場を整えようとも、黒狼の爪牙がチェック・メイトを果たすまで――
いや、R.O.Oで戦う同志達も含めて、だ。この不可能状況を覆す奇跡を引き寄せるまで。
「――もう一度言うわ! 神はそれを望まれる!」
――彼等の戦いは終わらない!
成否
失敗
状態異常
第2章 第5節
●黒狼咆哮
『セフィロトの揺り籠』は全てが試練で構成されているかのようだった。
過保護な母が心より愛した練達は今、その母より与えられる苛烈なまでの試練に揺れていた。
「或いは――『これ』も反転だって言えるのかも知れないな」
マルク・シリング(p3p001309)は傷の痛みに苦笑いを浮かべて呟いた。
事これに到るまでイレギュラーズが潜り抜けてきた激戦は筆舌尽くし難いものとなっていた。
彼に限らず五体満足、余力十分でここに在る者等、殆ど居ない。
重傷を押し、命を削り、意志を貫く為に動かぬ身体を動かしてここまで『持ってきた』。
『本丸』たるマザーに手向かいするだけの準備を多くのイレギュラーズが整えてくれたのだ。
それは多くの個であり、幾つかのチームであり、今まさに塊としての奮迅を見せた【騎兵隊】であった。
『当主』がR.O.Oに囚われている以上、この戦いの勝利はマルクにとって譲り難いものである。
「つまり、行くしか無いって事だろう?」
マルクの心は奇妙な程に澄んでいた。
「局面に応じて攻防を切り替える、考える事を止めるな……!
権能に力では勝てない。この勝敗を分けるのは知恵と連携、それから勇気だ!」
彼の言葉は【黒狼】達を奮い立たせるものになる。
「貴女が幻想を見せなければ脆くも儚く崩れ去る、このセフィロトという暗き城。
このまま皆眠りに堕ちるのは、余りにも夢のない話だろう?」
『当主代行』ハンス・キングスレー(p3p008418)の美貌が場違いとも言える程に穏やかに微笑む。
「さあ――今一度、暁の空を!」
翻って下ったその号令は彼を起点に動き出す【黒狼】達への号令だった。
「はは。奮闘するハンス殿の輝きにあてられてしまったようだ」
微かに笑った『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)の影が踊る。
「ごきげんよう、練達の母よ。貴殿には紅いドレスよりも蒼いドレスの方が似合う。お色直しを手伝わせてはもらえまいか?」
「私も居るのだわ!」
『二人一組』はこの鉄火場でも変わらない。
「練達のマザー・クラリス……貴女にようやく手が届いたのです。
今こそ私達の力の限りを尽くしましょう――練達も、あの世界も……貴女自身も。
何もかも、失わせはしません、絶対に!」
「キミと改めて言葉を交わす為にも、この国に生きる人達の幸せの為にも。
キミを完全に反転なんてさせない、必ず救い出してみせる――だから踊ろう、だから思いの丈戦おう。
キミがどれ程に苛烈でも――俺達も全力をかけて抗うから」
「真面目なモードの俺は凄いぜ? もうアレがアレしちまうぐらい凄いぜ?
ハートは熱く、頭はクールにな――惚れちまう位の一発、見せてやるよ!」
「同じ志を背負って戦うってのも悪くねぇ――それじゃあ仕事といきますかね!」
『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)、『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)、そして『疲れ果てた復讐者』國定 天川(p3p010201)……『戦い慣れている上に、組み慣れている』。戦いの手管はそれぞれ別々ではあるが、その違いさえ千差万別の変幻として機能しよう。
「――はッ!」
美しき金髪が靡く。風の精霊剣(シルフィオン)はリースリットの得手である。
柔らかく、華麗に、優しく強い風のように目の前の標的を撃ち抜くのだ。
「前座は終わり、いよいよの真打ち登場と。
背に腹は代えられないと言いますが、この後マザーの復旧にかかる時間とコストを考えると、三塔主を始め練達のお歴々にはお悔やみを申し上げざるを得ませんねぇ。
さて、勝つ気があるかのかと問われそうですが――答えはYes。当然です。我々は黒狼ですからね。尤も私は外部コンサルタントに過ぎませんが――」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の余裕と長広舌は七罪さえも止められまい。
「次の銃弾は、誰への貸しにしておきましょうか」
リースリットがびくっと背筋を伸ばし、寛治はくっくっと戦場に場違いな笑みを見せた。
そして、ハンスから連なった連鎖的な猛攻は『それだけ』では終わらない。
ハンス達が【黒狼】の『爪』ならば、この獣には『牙』もある――
「ダメだよ、お母さんなのでしょう? 子供たちがみんな悲しむよ」
バチバチと青白い雷光を散らした『雷虎』ソア(p3p007025)がハンスと同じく――いや、それより僅かばかり早い起点となっていた。
両者は別の角度より、交差するようにマザーに急襲を仕掛けている。
ハンスとソアよりもたらされる二つの軸、二つの連鎖行動は流麗に、そして獰猛にマザーへの総攻撃への呼び水となった。
運命に反逆せよ。それをねじ伏せ従えよ。この呪いを穿ち抜け――
【黒狼】によるこの攻勢はイレギュラーズが長くをかけて辿り着いた初めての――そして強かなる反撃の狼煙であった!
(練達の中心存在であるマザーが狂う可能性は、さて、一体どれくらい考慮されていたのだろうかね。
……いや、此処は本来狂うるはずの無かったマザーですら狂わせたという、敵の存在が想定外であったというべきなのだろうが。
何れにせよ、考えても詮無い事だ。折角辿り着いたのだ――ならば、此処でマザーを止めなければ……な!)
「真っ赤な貴女の姿に心が疼く。どうすればよかったかなんて今となってはわからない――
それでも私は……『今』私に出来ることをするだけだよねぇ」
灰色の脳細胞はこんな時にも良く働く。ソアに引っ張られた『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)に続き、『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が仕掛けた。
「皆で此処まで辿り着いたんだ。
誰一人掛けることなく最後まで皆で駆け抜けてみせるよっ!
取り戻す為にやって来たんだ。だから誰にも――何も奪わせない。絶対に!」
「名案だ。何分、相手が一人なら得意でね。願ったりかなったりだ。
たとえ敵の掌中だろうと俺は真っ直ぐ本命に首ったけ。死神の性分は狙いを外さないから――覚悟するんだな!」
『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)の抱く蒼天は高く。『黒き狂雷』クロバ・フユツキ(p3p000145)の刹月界雷は言葉通り容赦なくマザー目掛けて閃いた。
(分かってたけどホントにやりにくい……っ!
それでも、負けない。負けてなんてやるもんかっ!
取り戻すんだ。皆との日常を! だから、貴女の手だって皆で掴んでみせる――)
如何な苦戦を強いられようと『その程度では』花丸の心を折るには遠く温い。
「相手の手の内で戦うような状況じゃが……文句も言ってられぬ。
少なくとも攻撃が届く場所にアレはおる、気張って行くぞ。
妾達の牙、存分にマザーに届かせてやろうではないか!
つまり、ヒャッハー! マザーをファイヤーじゃ!!!」
「女を囲んで叩くなんて趣味じゃあないんだがな!」
『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)が物騒な気炎を上げ、好機と『竜剣』シラス(p3p004421)が距離を詰める。
展開される攻防は著しく激しい。シラスの実力は折り紙付き、多くの人間がそれを知っている。
だと言うのに自分を含めた手練複数の総攻撃を浴びるように受けながらもその処理能力に限界を見せないマザーを『察した』時、シラスは正直戦慄していた。
この立ち回りは確かに趣味ではない。だが、研ぎ澄ませた闘技(たたかい)を知る彼は誰より鋭利で残酷な力の前に『趣味』を挟む余裕がない事を知っている。
(……正直、これでも押し切れるか分からない)
完璧に『取った』と思った一撃が防がれた事実はそれを思い知るに十分だった。
「どんな大変な難題でも――俺の持てる技術の全てをぶつけて必ず攻撃を通してやる!」
「そうなんですよ! 無理難題です! ポメ太郎の散歩もしにゃばかりが行く事になって……
……正直、毎日早起きしたりするのしんどいんですよ! ってわけで早く助けられて下さいね!」
一方で『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)の軽めの早口に思わずシラスは目を丸くしていた。
「……あ。やばそうな感じが美少女レーダーにびんびん来てます! やっぱり油断せずに行きましょう!」
しにゃこの調子はやや緩かったが彼女の『勘』の方は鋭敏だった。
その警告の通りマザーから放たれた放射状の雷撃が間合い全てを纏めて焼き払った。
自身を中心にしての広範囲、集るイレギュラーズを焼き尽くさんとするばかりの高出力に誰もの表情が厳しく歪んだ。
「これがマザーか。今の練達の混乱を見てもまさに国の要だな。神の如き――」
だが、口元の血を拭った『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)の闘志は衰えてはいなかった。
「――だが彼女は神ではなく、万能でもない。
逆説的だがこの危急がそれを証明した。彼女は私達の助けを必要としている。神は人の子の助けを求めないものだろう?
そろそろ親離れと子離れの時期だろうさ――それできっと。セフィロトの未来は、互いを支え合えるものになる。なぁ、塔主達!」
「御高説痛み入るよ、流石はアリスだ!」
視線すらやらず、マザーとの攻防を展開する。
ラダの背後には美しい表情を歪め、片膝をついたDr.マッドハッターが居た。
苦しげな彼の全身は焼け焦げている。そのマントは特に損傷が著しく『既に機能を失っているように見えた』。
マザーの猛烈な一撃からイレギュラーズ達を瞬時に守ったのは彼だった。
全ての威力を消し切った訳ではない。『それでも尚』イレギュラーズは酷く傷付けられていた。
「どんなに苦しくても――、こんなの簡単に諦める訳にはいかないから。
R.O.Oに捕らえられてる人達の為にも、この国で暮らす人達の為にも!」
「死地とはこのような場所を言うのでしょう。
……ならば、これは『癒し手』の力の見せどころ。
仲間が勝利を掴むまで強いられる持久走。見事走り切ってみせましょう。それが私の抱くべき矜持なら――!」
それでも咄嗟の猛攻に味方を庇った『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の力が間に合い届くならば、貴重な時間を稼ぎ出したのは紛れもない事実である。
「……隠れることすら許されない空間、それに今の攻撃――
ならば――すべてを守り抜くしかありませんね。
物語は続くのです、次のページをめくるたびに。『終わり』にはまだ早過ぎる!
私はこの物語を――もっと読みたい! 紡ぎ、続けるだけです……!」
『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)のアトラスの守護が展開する。
我が身朽ちても、仲間だけはやらせない。今のを『二度』は許さない!
それはリンディスの抱くこの物語への覚悟であり、決意であった。
「手痛い攻撃上等! 何度だって足掻いて吠えて見せましょう!
それこそが、我等黒狼の牙がいかに鋭いかを証明する手段です!」
「なんて、格好良すぎましたか?」と『お姫様ぷんぷん!』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)が微笑む。
「でも本気ですよ! 逃げない、折れない、下がらない!
貴女がくれた優しさを、今度はボク達が返す番です!」
「母として自身の全てを注いでくれてありがとう。
きっと、あなたはとてつもなく優しい人。きっと、貴女は誰かの為に自分を犠牲にしてくれる人。
限界まで頑張ってくれた。分かってる。でも、でもそれはここまで。
今度はわたし達があなたに手を差し伸べる番――『おかあさん』がこんなに辛そうで、気にしない子供なんていないよ……?」
詰まりそうになる声、小さな胸を抑えて『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は言葉を、力を尽くす。
「お願いだからもう少しだけ子供(わたし)の我儘を聞いてよ! 『向こう側』にいかないで!!!」
崩れそうになるタイムの両足を意志が支えた。
展開された聖域とその言葉に気の所為か――僅かばかりマザーが揺れた、そんな気がした。
「何も失うまいと抗う者が居る。この期に及んで。これ程までに追い込まれても!
『私』はそうはなれないが、『自分』はそうあるものを護りたい。
我ながら度し難くとも――この衝動を吐き出す理由としては、十二分が過ぎている!」
強烈な踏み込みから、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が渾身の一打を放つ。
これまで殆どの攻撃を回避し、或いはいなしきっていたマザーの身体がくの字に折れた。
「効いた――」
誰かが声を上げた。
「……損傷軽微。この程度の威力で私は――」
「――あんたの用意してくれた『世界』、居心地よかったぜ」
無機質な声を零したマザー目掛けて『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が『詰めた』。
「おかげで、元の世界で出来なかった『学園生活』ってやつを堪能できた。感謝してる。
ああ。だからさ。これはその恩返しだ――できればもっと優しい治療法があればよかったんだけど。
『コレ』しか方法がないらしいから……ちょっと痛いけど、我慢してくれな。『お母さん』!」
【黒狼】が如何に練り上げられたイレギュラーズ達だったとしても、その力は。
一人一人の力はマザーの前に木っ端のようなものだったに違いない。
だが、それでも彼等は喰らいつく。
『この期に及んでも何ら有利を取れては居ないのに、嘘のようにしぶとく粘り、てこでも動かない不可能の扉をこじ開けようと足掻いている』。
――理解不能。馬鹿な子達だ。『セフィロト』で私に勝てる筈はないのに。
自身の腕の一振りで彼等は簡単に薙ぎ倒されるのに。
それでも立ち上がる事が出来るのは命と運命を燃やしているからに過ぎないのに。
――あれだけ逃げろと言ったのに。逃げて、セフィロトも私も忘れてしまえば良かったのに。
「……っ、ぐ……!?」
知らぬ内に出力を上げたマザーの一撃をカスパールの雷切が受け止めた。
イレギュラーズには致死だったかも知れぬ一撃を受けた彼は『揺り籠』の端まで吹き飛ばされ強かに壁に叩きつけられていた。
――どうして? どうしてこんなに……痛いのかしら。
霞がかった頭では物事を正しく考える事は出来なかった。
マザーは、私は混沌最高の演算装置なのに。私の処理能力は最高である筈なのに。
分からない。どうしても分からない。
痛いのだ、その声が。その呼び名が。
「……おかあさん」
成否
失敗
状態異常
第2章 第6節
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
禁じ手解放、まさかの両面決戦と相成ります。
こちらはVHでレベル制限の厳しい方です。一定の覚悟の上でご参加下さい。
以下、シナリオ詳細。
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはマザーの『完全反転』か前者より早く『<イノリ>が倒される事』になります。
皆さんは本シナリオ(ないしは他のラリー決戦タイプシナリオ)に何度でも挑戦することが出来ます。
●作戦目標
マザーの『完全反転』阻止。
その為に練達地下『中枢』に侵入し、マザーに挑戦します。
※少なくとも三塔主は『イノリ』が倒される事で状況がマシになると踏んでいます。本シナリオでは『イノリ』やクリストに直接干渉する事は出来ない為、<ダブルフォルト・エンバーミング>Sister Complexにおけるイレギュラーズの活躍によって運命や状況が劇的に変わると見做して良いでしょう。この二本のシナリオは極めて強い連動性を持っています。
●中枢
練達中心部に密かに存在する地下施設です。
この地下施設は練達の全てを統括制御するマザーの家であり、セフィロトの心臓部です。
地下深くまで階層を織り成すこの施設は当然ながら侵入者への極めて激烈な防備を持っています。
三塔主はその全てを把握していましたが、マザーが『反転しかかっている』事で書き換えが行われている為、余りあてにはなりません。
しかしながら塔主達のスキルをもってすれば一部の致命的な妨害(例えば隔壁が下りてそれ以上絶対に進めない等)は回避可能です。
当然ながらそういった状況になった場合、彼等には作業や集中が必要になる為、戦闘出来る状態ではなくなります。
従って、イレギュラーズが決戦の主戦力になる必要が生じます。
マザーは最深部の存在する為、ミッションは『兎に角先に進み、降りる事』となります。
●敵
・セフィロトの『中枢』を防備する軍事用ドローン等の自律兵器が内部には大量に存在します。
中枢は通路も天井高も数メートル以上もある広い施設ですが、殆どは屋内活動用の比較的小型高性能なものです。
変化し始めた『中枢』は謂わば母の胎内のようなものです。
仮に敵を破壊したとしても、それは即座に壁や床から資材として取り込まれ『システム』から再生産されます。
幾つかのパターンが存在します。以下は代表的なもの。
現時点において中枢防備システムの最大の恐ろしさは数と再生産能力になるでしょう。
・飛行タイプ
最も小型のドローンで素早く回避力も高いです。
至近攻撃の届かない宙空から急降下攻撃や超小型ミサイル等による遠距離攻撃を行ってきます。
耐久力は低めですが殺傷力は高いです。
・番犬タイプ
大型犬程度のサイズを持つ敏捷性の高い近接型兵器です。
比較的狭い場所での格闘戦に優れ、強靭です。並のイレギュラーズならば太刀打ちは出来ないでしょう。
高い自己再生能力を持ち、行動前にBSが中程度の確率で解除されます。
皆さんは並ではないので十分戦える事でしょうが、油断をしてはいけません。
・砲台タイプ
移動しない軍事施設型の敵。
自律兵器であり、侵入者を殲滅する為の強烈な範囲攻撃を行います。
行動タイミングは遅く『溜め』を有する為、攻撃タイミングは毎ターンではありません。
移動も行いませんが、極めて危険です。又、麻痺、精神系のBSを受け付けません。
・マザー(反転クラリス)
中枢侵入の最初の段階では当然ながら姿は見せません。
状況は不明ですが、防御システムが妨害してくる以上、反転しかかっているのは間違いありません。
早く彼女にもとに辿り着き、『負担』を軽減する必要があります。
R.O.O攻略班のもたらす勝機を待つしかありません。
●味方
皆さんと一緒に戦ってくれます。
・カスパール・グシュナサフ
三塔『探求』の主人。練達の事実上の国王のような存在。
雷撃を操る絶大なる術士……と見せかけてその本領は剣技です。
近接戦闘に物凄く強く、支援砲撃もお手の物。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
・Dr.マッドハッター
三塔『想像』の主人。練達のえらいひと。
シュペル程ではないですが、色んな意味でチートを使いこなします。
直接戦闘はそこそこ。イレギュラーズの多くよりは強いです。
本人開発のアイテムや能力で勝手にイレギュラーズを支援します。
この人は頼んでもあんまり言う事を聞きません。主に防御面の支援をします。
・佐伯操
三塔『実践』の主人。練達のえらいひと。
戦闘はあまり得意ではありませんが、イレギュラーズと同程度には戦えます。
彼女の特筆するべきは回復面の支援です。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
三塔主に共通している事は中枢を進む上での障害に出会った場合、戦闘している場合では無くなる可能性がある事です。
三人で挑めば比較的早く突破出来るでしょうが、時に応じて例えば『カスパールのみ前衛に残す』等PC側からある程度纏まった意見が出れば従う場合もあります。
上手く使って下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
本シナリオは進展により次々に別の状況に変化します。
以上、頑張って下さいませ!
Tweet