シナリオ詳細
<Rw Nw Prt M Hrw>Hor-em-akhet
オープニング
●『Rw Nw Prt M Hrw』
――さぁ、力を貸して。ファルベリヒト。
君の願いを叶えよう。
我らは皆、罪を宿した獣だ。我らは皆、苦しみを抱いている。
我らは皆、死は救済ではない事を知っている。
死で罪を雪ぎ、永遠の余生を辿るべきなのだ。
もう一度を。君なら出来る。
君ならば死者さえも愛せるだろう。
さぁ、往こう。ファルベリヒト。
我らは共に在るべき存在なのだから。
●博士と呼ばれた男
――ピオニーよ。何を考えているのだ。
想い出だよ、ファルベリヒト。久しぶりに、旧友と会ってね。
ニルヴァーナ……ニーナと言うのだけれど僕と同じ異界の人なんだ。君の知らない世界だね。
彼女を見るとどうしても思い出してしまってね、君と出会った切っ掛けを。
アカデミア――それはラサのある遺跡の一部に『博士』プスケ・ピオニー・ブリューゲルが開いた私塾である。
元の世界では錬金術師やマッドサイエンティストに分類されていた彼は混沌世界に転移後、直ぐに異界の知識が織り交ぜられた此の地で自身の研究を続けようと考えていた。
『死者蘇生』『人体錬成』『不老不死』
それは錬金術師ならば誰にとってもの夢だろう。ブリューゲルが『ファルベリヒト』と出会ったのは偶然であった。
砕けた彼の力は万物の願いを叶えるエリクサーだ。此の力を利用したならば、願いを叶えることが出来る!
だが、どうしても上手くはいかない。『混沌肯定』とは厄介なものだ。世界が拒絶しているなど、聞いたことがない!
協力者と『生徒』を得て、ブリューゲルの研究は大きく進んでいった。その機転となったのが『ジナイーダ』の存在だ。
「ねぇ、せんせい……今日ね、飼っていた犬が死んでしまったの。リュシアンとブルーベルと一緒に飼っていたのよ。
ブルーベルが今朝、蒼い顔をして帰ってきてこの子……チー助……あ、犬はチー助っていうの。ブルーベルが付けたの。
チー助が死んでるって。狼にやられたんじゃないかって。昨日は狼が良く鳴いていたから……」
犬の死骸を抱き締めて少女はそう言った。幼馴染み三人組の中で一番大人しい娘だ。泣くときだって下手くそなのだ。
その風貌だけで其れなりの商家の娘であることが分かる。純粋で、危なっかしい可愛い女の子だというのが万人が彼女から受ける印象だろう
「ねぇ、せんせい……どうして、生き物って死んでしまうのかしら。どうして、生き返らないのかな」
「そうだね、ジナイーダ。どうしてだろう。
……けれど、チー助は幸せ者だね。ジナイーダにそう思って貰えるのだから。
博士(せんせい)がチー助とジナイーダをもう一度会えるようにしてあげるから。だから、待っていてね」
「ほんとう?」
「本当さ。リュシアンとブルーベルは今日はまだだろう? 二人には秘密にしておいて、後で教えてあげよう。
さ、博士は研究があるから、今日はタータリクスと『実験』をするんだけど、手伝ってくれるかい?」
「――うん!」
そうして、タータリクスと共に彼女を『キマイラ』へと変貌させた。実験は成功だった。
その様子を見た時のリュシアンの取り乱しようには驚いたが、彼が『何かの声を聞いて通常とは違うメカニズムで変貌を遂げた』時には驚いた。
その力の素晴らしいこと――ファルベリヒトはそれを『魔種』だと呼んでいた。
嗚呼、成程。魔種か。魔種。次は魔種を捕えて実験しよう。
此の世界の人間は魔種から許に戻る事ができないか考えているのだろう? なら、僕が戻す実験をすれば文句は言わないだろう。
どうせ、魔種は世界を破滅させるだとかで淘汰される存在だ。人体実験を行ったところで誰も文句は言わないだろう。
野良の魔種を捕まえるのは難しい。ならば、幾人も『作っておけば』問題は無い。呼び声を発生させる個体Aを設置し増やせば良い。死者の人形を持って行って、目の前で壊して絶望へと叩き落とすのも悪くはない。
ファルベリヒト、君の力を貸して呉れ。君の望んだ平和で誰も悲しまない世界を作るためなんだ。
多少の犠牲は、許してくれるだろう?
●ファルベリヒト
その遺跡はファルベライズ。嘗ては光彩の精霊が住まうた場所である。
人々の願いを叶える為に存在したのではない、人々と共存し彼等の祈りを受け止めて過ごし続けた精霊だ。
心優しきファルベリヒトはある日、『伝承の魔物』と対峙した。
民を護り、その体を砕けさせ、自身の『依り代の子』イヴを作り上げた。いつかの日、イヴと言う器を使用して復活するために。
だが――そうはならなかった。
欠けた体にするりと入り込んできたのは『博士』と自身を名乗るプスケ・ピオニー・ブリューゲルだった。
彼は言葉巧みに自身の正当性を主張し、ファルベリヒトの望んだ世界を作るためにとその力を使用することを願った。
気付いた頃にはファルベリヒトの張りぼての体には『魔種』が食い込んでいた。
誰かは分からないが、歪な叫びを上げ続けた。次第にファルベリヒトは蝕まれる。
蝕まれ、蝕まれ、自我の中にもう一人居ることに気付いたときに、ぽっかりと足下に穴が空いていることに気付いた。
――お前は誰だ。
初めまして、僕は『博士』と呼ばれています――
――……博士?
はい。けれど、ファルベリヒト。貴女にならピオニーと呼ばれても良い――
――ピオ、ニー……。
はい。ファルベリヒト。光の精霊、地平線の貴女。復活を象徴する者よ――
語りかける男の声は心地よかった。それが何処に居るのかなど、ファルベリヒトには関係ないほどに。
それは酩酊にも似た心地よさだ。男の声を聞きながらファルベリヒトを蝕む狂気は驚くばかりに膨れ上がる。
ファルベリヒト、光彩の守護神。地平線の君、僕と共に夢を叶えに行きませんか?
魔種となった者は戻らない! 死した者は還らない! そんな『混沌世界』など壊してしまう程の事を!
貴女の力があればできるのです。『屹度、皆、喜んでくれるでしょう』『屹度、皆、賛同してくれるでしょう!』
ファルベリヒト、ああ、愛しいエリクサー。その力があれば死者を永久の別れから解き放てる――!
死は、恐ろしいものであることをファルベリヒトは知っている。
死は、決して逃れ得ぬものであることをファルベリヒトは知っている。
……この者はそれで、悲しむ者を救おうというのか。
反転は、永劫の別れであると感じていた。パサジール・ルメスの中にも時折そうなる者は居た。
彼等が不和であることを知っていたからだ。
ファルベリヒトは、其れ等との別れを悔やんでいた。
ファルベリヒトは、其れ等を救えるのなら救ってやりたかった。
家族であったパサジール・ルメス。愛しい子たち。
ファルベリヒトは、疑わなかった。
万物を叶える秘宝『エリクサー』と称されし色宝(ファルグメント)――それを使ってでも、その願いを叶えよう。
例え、この身が砕け散ろうとも。
●『魔種』の少年
リュシアンという少年は、博士が嫌いであった。
彼のその思想も、彼のその理想も理解は出来ない。ただ、護るべき相手であったジナイーダが彼の元に行くから共に在っただけだ。
『あの日』、博士とタータリクスがジナイーダを『キマイラ』へと変貌させた日に、リュシアンは激怒した。
愛しい愛しいジナイーダ。彼女のために重ねた努力は何の成果も見せず、全てが無駄になった。
――くすくす、あら、可哀想に。助けてあげてもよろしくてよ?
愛しい人のためにその愛でたっぷりと、『可愛がってあげましょう』? 大丈夫、皆喜びますわぁ。
その声が聞こえてから、リュシアンは博士を探し続けている。いつか、奴を殺すまで。
イレギュラーズに殺されてなる者か。『オーナー』に取り入って、彼女に気に入られている内は庇護下にいられる。
彼女に愛されている内に、あのクソヤロウを殺さなくては――
ああ、今日、その機会がやってきた。彼が『其処に居るか』は分からなくても。
これだけ探し求めたのだ、一度くらい殺しておかなければ気は済まない!
●ファルベライズ遺跡を進む
「――リュシアンという魔種から連絡が入った」
開口一番、驚愕したようにそう言ったのは『月天』月原・亮 (p3n000006)であった。
先遣隊が最奥から帰還し、同行していたアカデミアの関係者『ニーナ』が取り残されたという情報がローレットへと舞い込んだ。
その後、ニーナを連れて最奥から幾許か脱出が叶った旨と『最奥でファルベリヒトが暴れている』という情報をリュシアンが齎したのだという。
「博士の目的をニーナとリュシアンがある程度推測してくれていた。
博士は元の世界では錬金術師だったらしい。『死者の蘇生』や『人体錬成』なんて有り触れた事を夢見ていた彼が、混沌世界で目的にしたのは『魔種』とは何かの解明……その為なら、人体実験でも死者の蘇生でも何だってやってみせる、らしい。
ホルスの子供達は『死んでしまった人達を再度復活させて、仮初めでも幸福を与えるため』の機会と『それが壊れた瞬間に発する絶望が反転に至るまでのメカニズムの解明』に使用する目的らしい」
亮は胸くそ悪いとでも言うように眉を顰める。そも、此の情報を齎したのは魔種だ。魔種は不倶戴天の敵ではあるが、今回ばかりは『都合が違う』らしい。
「リュシアンは今回は俺達ローレットに協力すると言ってきてる。全て博士のお気に入りのファルベリヒトを止めるためだろう」
「……はい。普段なら魔種の言葉は疑って掛りますが、あの形相を見れば思わず頷いてしまうのです。
リュシアンさんはあの『冠位魔種』ルクレツィア――幻想のサーカス団の手引きをしていた魔種です――と繋がっているのです。妖精郷の一件やカムイグラでもその関与が噂されているです。情報を沢山持ってる魔種であることには違いないのですが……」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は歯切れ悪く「今回は優先順位が違うのです」とそう言った。
「もしも、ファルベリヒトが暴走すれば、その力がラサ全域に及ぶ可能性もあります。
ファルベリヒト自体が未知数で在る事、それから『色宝』の爆発的な力が危惧されるからなのです。
ええと……リュシアンさんを捕まえたい気持ちも山々なのですが、今回は彼と面識をつくり次の手を作ると考え、協力しファルベリヒトを止めて欲しいのです」
「まあ、放置しておけば知ってる奴が人体実験やらなんやらで犠牲になるかも知れないってのは見過ごせない」
「はい。……進歩には犠牲が付きものいえど、これは許せないのです。
ファルベリヒトは博士が『何らかの魔種』を実験で埋め込み狂気状態に陥っています。博士自体も同化しているように思えますが、本当に同化しているのか、その意識がまた別の場所に存在するのかは分かりません」
現在、判明しているのは狂化したホルスの子供たちが進軍していること、ファルベリヒトの力が暴走し、クリスタルの遺跡内部から非常に強い狂気を感じられるという事だ。
「……今は、ファルベリヒトを倒すしかない、か」
「はい。ラサを護る為にも皆さん、協力して欲しいのです! 魔種から再反転、ボクだってそれを考えないことはないのです。
そうなったら、皆さんを……助けられたのではって……けれど、その為に多くの犠牲を孕みすぎるのは、ボクは許せません」
ユリーカは声を震わせた。
――犠牲が付きものだ。
そんな言葉に頷いては居られない。未来のために国一つ分の犠牲を孕む可能性を今、見過ごせるだろうか。
「どうか、どうか……『心優しかったファルベリヒト』を助けてあげると思って止めてあげて下さい。
あの狂気は、パサジール・ルメスと過ごした心優しい御伽噺の精霊には余りにも、悲しいことなのです……」
- <Rw Nw Prt M Hrw>Hor-em-akhetLv:25以上完了
- GM名夏あかね
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年02月24日 22時20分
- 参加人数102/100人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 102 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(102人)
リプレイ
●『Rw Nw Prt M Hrw』I
理性と恋とはまるっきりそっぽを向き合っている。
愛しさの余り、喪われた彼女を取り戻そうと願う人が居る。
理性ではそんな禁忌を侵してはならないと理解していたのに。
――良いかい? 死者の霊魂とは肉体を離れてから死後の楽園へ向かうんだ。
『取り戻したい』なら……そう。死後の楽園に入る前に『呼び出して』しまえば良い。
魂の名を。土塊の体に。
魂の名を。幽世と現世を結び付けるが如く――
「まいどー。こんな場所まで出張の傭兵よ! 上からの指令とは言え、まさか魔種と共闘しろだなんてね」
ひらひらと掌を揺らがせてCauterizeを構えたワルツは美しい光放ったクリスタルをまじまじと見遣る。
仕事でなければ綺麗だとはしゃいだものだが今回はそうも行かない。この光放つ全てが『願いを叶える宝石』なのだから。
「はぁー、ここがファルベライズですかぁ、綺麗ですねぇ、心が洗われるようです。
あ、この子達が『ホルスの子供たち』ですか。ほらほら、私もここ臍部に綺麗な石、お仲間ですよぉ?」
姿を変えるという土塊。鏡がにんまりと微笑むが、姿を変えて長くはない存在は『言葉を碌に有さない』
「……反応薄いですねぇ、やっぱ対話は無理ですか。えぇっと、誰か故人の姿をとってもらった方がいいんでしたっけ?
んーと……故人、故人。あ、いいですよぉそこの子っ、そう、その顔です上手ですねぇ――ま、名前も知らないんですけどね」
名を呼べない。けれど、顔は思い浮かんだ。鏡は微笑みながら首をすぱりと切った。
それを躊躇うことはない。
「おうおう、色宝関係もクライマックスと来たが、相手は変わらず例のガキどもか!
結構ぶっ壊してきたけど、そろそろコイツらも見納めにしてぇ所だな!
見た目は子供だが、中身はただの殺人兵器。一つ残らず俺達がぶっ壊してやるぜ!!」
子供、土塊。微笑み揺らいだ『ジナイーダ』――ルウは長剣を折った短刃を振り上げる。
獣の爪牙に乗せるのは無謀の如き剛力。膂力を生かしてホルスの子供達へと立ち向かう。
「クソったれ、あんなんが外に出たら取り返しがつかねぇっスよ! ここで何としてでも止めねぇとな」
僅かな焦燥が支配する。白銀の軌道を描き土塊の人形を打ち倒し続ける葵は真紅のガントレッドに包まれた拳に力を込め――
「お、まさかアイツはあの時の褐色のヤツか?」
擦れ違った影に顔を上げた。先程、この戦場に辿り着くまでに『共闘』の形を取った者が居た。
褐色の肌に獣の耳。幼さを感じさせるかんばせは決して敵意を滲ませているわけではなかった――だが。
(……魔種)
戦場に紛れ込んだ魔種に、葵は必要以上に関わらぬ様にと、そう考えた。
ルウは勢いよく突進しながら、葵の視線の先を追う。アレが魔種。だが、今回は『味方』であるというならば。
今回は『轢』く相手ではないと考えて意識の端へと位置させる。
「その髪飾りは……故人を象ると申しましても、自らの手で変えて於きながら変わる前の姿とは……。
なんとも度し難い方のようですね。博士とやらは」
ヘイゼルにとってジナイーダと呼ばれた少女は知った存在であった。ラサのアカデミアの一件で自身が討伐したキマイラ――それが『ジナイーダ』だったものだ。
キマイラと同じ髪飾りを付けた少女はまだ人間の姿をしている。赤い魔力糸の結界術式に魔力が広がっていく。
「……度し難いよ。あのクズ」
背後から聞こえた声に、ヘイゼルは振り返った。「……貴方は」と唇を動かせば明るい翡翠の色の瞳がヘイゼルを捉える。
「リュシアン。『種』は違うけど加勢させて貰っても? 別に共闘じゃなくて構わない。
……さっきの『アイツ』らは不利益にならないならって言ったけどそれを全員に強いるなんてことできないだろ」
利口な少年だとヘイゼルは感じていた。地を蹴ってホルスの子供達の中に突入していくリュシアンにワルツは「おお」と瞬く。
「魔種――なのは知ってるけど、単独で無理すんじゃないわよー」
仕事なのだから、利用価値がある相手ならば手を組んだ方が良いとワルツは引き金に手を掛けた。
狙う、ホルスの子供達。群れをなす其れに向けて不可視の悪意が狙い穿つ。続き、飛来する翼へ向けて葵がその拳を突き立てる。
(……死者の投影ね。この間天寿を全うした近所の山田の爺さんだけだし……まあ、仲間に任せましょ)
大群だ。その中で前線に飛び込む者と他の回復手を確実に含み、敵味方の状況を俯瞰するように見続ける。それは魔性の直感。状況把握し言霊が味方の苦境を救うが為に、響き渡る。
「初めまして、私はヴァイスドラッヘ。いわゆるヒーローよ! 貴方を護りに来たわ!」
堂々とそう微笑んだのはレイリー。ドラゴンの角を模した純白のランスを握りしめる。リュシアンが大切な想いの為に戦うならば、盾となる。
故に、決死の覚悟でリュシアンを護ると決めた。
「さぁ、かかってきなさい! 私、ヴァイスドラッヘが相手してあげるわ」
浮かぶ両親や兄。それらの前で変えた名を筈事は無い。生きると決めたその決意が揺らぐことはないのだから。
「余裕のない面してるじゃねえか、手を貸すぜ」
にい、と小さく笑ったシラスは『ルクレツィア』の傘下であるからこそリュシアンには利用価値があると考えた。
彼は幻想に魔の手を伸ばす冠位の直属だというのだから。相手を知る為には必要な事だ。
「あなたがリュシアンだね? ちょっとだけBちゃんから話は聞いてる」
「ブルーベルから?」
驚いたようにアレクシアを見遣ったリュシアンに、彼女は大きく頷いた。魔種から『友人』の話が出るなど、何処か可笑しな話で。
「……協力するよ。私もこの状況は許せないって思うから。
……それに、落ち着いたらあなたと話してもみたいの。だから無茶はしないで」
アレクシアは悪い結末なんて望まなかった。彼が傷付けばブルーベルが寂しがるかも知れない。アレクシアという少女にとって、魔種とは『友人になれる存在』であるからだ。
「……ああ、うん」
彼の死角を補うように援護を約束して。調和を咲かせるアレクシアの傍らでシラスはジナイーダの集団を深紅の光芒で灼き続ける。
彼には借りがある。触れてはならないものをあっさりと汚してきた博士という存在を倒すという意味では手を結べるのだ。
リュシアンの過去をシラスは知らない。知る由もない。それでも、彼の怒りは察せられて。
博士――『ファルベリヒトを通して話す存在』と対峙してあれが正真正銘の外道であることが分かったから。シラスはリュシアンを支援した。
「──ようやく逢えたなリュシアン。今回限りはお前の敵ではないよ」
クロバは、ジナイーダの群れを相手にするリュシアンの背にそう声を掛けた。僅かに、少年が振り向いた気配がする。
傍らに立っていたシフォリィは両親や元・婚約者の姿を象り始めるホルスの子供達に惑うことはなかった。
(――本来の敵を間違えるほど愚かじゃない。私も、愛した人の模倣は許せないから!)
それがリュシアンと志が同じと言える部分なのだろうかとシフォリィは考えた。此度は共闘が正しいか。夜闇の刃は愚直なほどにまっすぐに。
アルテロンドの乙女の誇りを宿して『人形』のその体を斬り伏せる。然し、その数も多い。
唇を噛んだシフォリィは背後を振り返る。仲間達が保護するニーナが此方を向いて居る。
「……リュシアン」
「ニーナ、無事で良かったよ。それじゃ、正義の味方に護って貰いな」
更に前線で敵を、否、『ジナイーダ』を倒そうとするリュシアンの背中にクロバは「リュシアン」と再度呼び掛けた。
その声音の硬質さにリュシアンとニーナが振り向く。一方は無表情を、一方は驚愕を浮かべて。
「俺の顔に見覚えがあるか? なくても構わないけどな。だが、俺はアンタを知っている。
タータリクス――エルメリア・フィルティス。前者の名前には聞き覚えがないとは言わせないが……」
クロバのその言葉に、リュシアンは「俺は君を知らない」と首を振った。
「タータリクスの事を知らない分けないだろ。アイツがあのゲス野郎と一緒にジナイーダを……ッ!
人生が狂うのは簡単だよ。お前がタータリクスに何らかの縁を感じて俺に『会いたかった』ってんなら、それも奇妙な縁さ」
少年は妖精郷の決戦の際にはブルーベルの側に居た。故に、タータリクスと相対したクロバを知らないと言ったのだろう。
エルメリア、の名には僅かな反応を。アルテミアはその反応を見て僅かな核心をした。
「そう……知っているのね」
「似てるとは思ったけど、ああ、そういう。……アイツはちゃんと好きな人のトコに戻ったんだな」
アルテミアの拳が震える。愛した人が模倣されることも、利用されることも、許せない。彼の心はよく分かる。
ああ、けれど――彼の表情の意味を『理解したくはなかった』
「リュシアン……ッ、今は良い。今は……けれど、次に相対するときは覚悟していなさい。
色欲である貴方も、貴方の上司も、この刃で貫かせてもらうわ、必ず。私は、絶対に許さないのだからッ!」
瀟洒なる短剣が銀蒼に輝く様子を見遣りながらリュシアンは目を細めた。まるで、ただの少年のように。
「恨んでよ、『エルメリアの家族』」
愛しい人を思い、その身を持ち崩す。そんな永劫の中に存在するように。少年を見ている事ができなくてアルテミアはホルスの子供たちへと向き直った。
ああ、恨んでいるとも。人形が『あの子』の姿になるのだから。神威神楽で微笑んだ彼女。好き、の言葉を束ねた愛しい片割れ。
切り裂くのは赤き恋情。彼女の、欠片。
リュシアンの姿を見てルル家は唇を噛んだ。苛立ちがじわりと滲み続ける。
豊穣の動乱に一枚噛んでいたと噂される彼。ある種で『最初から破綻していた』関係性であった八百万と獄人の溝を深める切っ掛けになったのは彼が反転させたとされる魔種が居たからだ。
愛おしい人の姉が殺されたことは関係はないが、彼自身がその身を以て感じた苦難は元を正せば彼の責任である――と。
「貴殿に思うところは多いのですが……想い人が斯様な仕儀とされた憤りは多少なりと理解出来ます。故に、この場はその首預けます!」
この場でその憤りをぶつけるには似付かわしくない。この騒ぎを鎮めるならば彼をフォローし、動き回るのが正解か。
死する怖さは知っている。召喚前に、ゆっくりと死に近づく感覚と、息子のすすり泣く声を忘れられる者か。
残される側が傷を癒す為に使うのなら土人形もいいかもしれない。ウェールはそう感じていた。そうだ、遺された者は傷を癒す筆お湯があるのかも知れない。
「……だが、死んでいった者たちの思いはどうする?
死人に口無しと言うが死んだ俺は今ここで、混沌に召喚されて生きている。だったら他もそうかもしれない」
幽霊になったかもしれない。まだ、言葉を交わせるかも知れない。死したことを無かったことにされるのは酷すぎる。
拳を固めて声を振り絞ったウェールの傍らでオパールグリーンのハンドベルを揺らしたのはグリュック。その腕に抱かれてレーゲンは静かに言った。
「悲しみのない世界なんてない。死者は帰ってこない。
レーさんはグリュックの事でそれを知ってるから――止めるっきゅ!」
そう言ったレーゲンの目の前に作り出された姿は『鏡の魔種』シャルロット。何時か会いに行くと願った相手、ピクニックをしようと約束を。ああ、その約束まで愚弄するかのような。
――……ねえ、なら『また』おしえてくれる? レーゲンの楽しいを。
教える。教える気に待っている。
レーゲンの前に作り上げられたその人形は、ミーナの見た者であったのかも知れない。
「静かに眠っていたところ悪かったな、シャルロ……いや、ミロワールと呼ぼうか。
安心しろ、すぐにもう一度。今度はきちんと眠らせてやるからよ」
死んだ者は二度とは現世に戻らない。その輪廻は世界が変わろうとも変わらぬ真理。混沌肯定が死者蘇生を認めぬように――だ。
故に、こうして歪に起こされるか。彼女の心はそこには存在せず姿を借りただけなのに。
「どうか、した?」
その声音は鏡の魔種そのものか。ミーナのヴァルキリードレスが揺れる。合わせ、レーゲンは目映い光を放った。
「別れは終わりで始まりなんだ。再反転なんか無くても、泣きながらも笑顔で別れた魔種の仲間がいる! 今もレーさんの心で生きている!」
「レーゲン!」
ウェールがレーゲンを庇う。目映い光を反射するように、何かが掠め、消えていく。
――あなたは、誰かを愛せるでしょう。わたしは、愛せなかった。
嘘だよ、シャルロット。お前は、ちゃんと人を愛していたじゃないか。
「リュシアンおにーさん、手伝ってあげたいのだけど良い?」
「……何?」
うっとりと微笑むようにフルールは夢見る声音で囁いた。
「あのね、博士って人を殺したいのよね? それは一人でできること? 確実性を増すために手駒はいらない?」
「……どういう意味か聞いても良い?」
「私ね、あなたを手伝いたいの。ええ、ええ、呼び声でね。あなたは、あなたの手で博士という人を殺さなければならない。でなければその心は満たされない」
そうと、その指先が立ち止まった少年の背をなぞった。蠱惑的な声音。どちらが捕食者であるかは分からない。
エメラルドの瞳が、フルールを見詰める。
「呼び声でなくても良い、一時だけの道連れでも良いの。博士を殺すまで死ぬわけにはいかないのでしょう?
反転させなかったら、私を人質にもできるでしょう? どうかしら?」
「……残念だけど、俺は一人で良いよ。どうせオーナーは『イレギュラーズと遊ぶ俺』を見て楽しんでるだけだ。
俺はオーナーが求めた時にしかそうしない。俺個人でってんならそれは無理だよ。
余計な荷物を背負って、護る者が増えたら、俺は簡単に死んでしまうよ。だって、博士のことしか考えてないんだから」
そっと、少女の手を掴んでからリュシアンは首を振った。その誘いは魅力的に感じた。
けれど、少年は――弱かった。一人のイレギュラーズを連れて行けるほどに、その心に余裕でもないかとでも居ように。
●『Rw Nw Prt M Hrw』II
「さあ……始めましょうか」
静かに無量はそう告げて刀を構えた。額の眼が真っ直ぐに見遣る――宛ら二対の腕が有るが如く、幾度となく刃は閃くと。
誘うが如く水晶亜竜を引き寄せて。
犠牲は付き物だ。それは無量も感じていたことだった。
だが、それは犠牲とならぬ者の詭弁である。世界は常に区別する。踏み付けられる者が存在し得るならば、それを当然と肯定してはならぬのだ。
(――自らの進むべき道が血に塗れているのであれば、それは尚更であるのです)
博士は明確に狂っている。女は狂っては居なかった。まだ人心があったか、否、人心を宿したのかも知れなかった。
紫月は黄昏とその名を冠する銃を手に、紅に染まった妖刀と共に進んだ。
「嫌やわぁ」と小さく呟く。放ったのは邪剣士の業。野が匙の殺人剣は天蓋近い水晶亜竜を叩き落とす。
濡れ羽色が揺らぐ。ステップ踏んで飛び上がり、堕ちた亜竜へと叩き付けるのは後の先から先を打つ、縫い付ける一打か。
「今度はわたしがキミを助ける番。勝手だけど、キミの戦いを手伝わせて……大事な人を弄ばれる辛さは、わたしも良く知ってるから!」
澄み渡る。真白のこころのかけら。映した、それに微笑みがとけるように。
シルキィはリュシアンに合わせ続ける。彼を起点とした雷。魔種は回復が届かない。
そんな当たり前に恐ろしいか。パンドラが、アークを拒む。彼が『助けてくれた』けれど彼を『助けること』は難しい。
シルキィは抑え続ける。熱砂の嵐で絡みつく。指先から放った碧。輝く糸がぱちり、と音立てる。
「俺の神は死の領域から死者と生者の境界を保つもの。死は別れ、再び生まれるまでの旅路、また休息でもある。
生と死の境界を侵すことは理を破壊する事……それは奇跡、或いは破滅に属するもの」
故にアーマデルは蛇銃剣を、蛇鞭剣を握って居た。数多を束ねれば理さえも歪め覆す。それはファルベリヒトを正気に戻す事ができるだろうか。
色宝を握りしめ、アーマデルは英霊が残した未練の結晶で奏で続けた。
「ぼく、嫌いです。
今迄、悩みに悩み抜いて生き抜いた者の生を。己で、望んで選び取った死を。愚弄、する事は。
……――ええ、すみません。少し、感傷を」
瞬いた未散。言葉に誓え、溢れる空に。溢れぬようにと掌に言葉を載せる。
「……愚弄、ですか。そうですね。何かしら思うことがチル様にもあるのでしょう。
……びっくりするほど、何も思わない自分が一番嫌になりますね。とかく此度はオーダーに従いましょう」
そう、其れは全て『青い小鳥』の仰せのままに。
ヴィクトールは呪い帯びた機械仕掛けの臓腑が吐き出す煙の如く守護者としてその身を投じる。
共闘ですよ、とリュシアンへ囁いて。土塊がつくる『ぼく』に未散は嫌悪を躍らせる。
「――土人形は土塊に。魂は在るが儘に」
変わり果ててしまったジナイーダを殺したのは確かだった。キマイラ、その姿であったことは幻の目には焼き付いている。
だが、目の前に存在する土塊は可愛らしい少女の姿をして居るではないか。
「全く反吐の出る話だ。あの博士って野郎がやった事を許すわけにはいかない。
そして、その博士が作ったジナイーダ共を世に放つわけにはいかねえ」
弾数は十分だ。となりには幻も居る。問題は無い。出来る、出来ると言い聞かせた。
狼のレリーフの大口径は取り回しを犠牲にしてもジェイクの手にはよく馴染む。
笑う声がする。くすくすと、耳朶を滑った少女の。
(欺されるな――これは)
幻の「化物、でしょう。こんなもの」という声が響いた。嗚呼、そうだ。妻の言う通り。『あれは人間ではない』のだから!
放つは鋼。驟雨の如く降注ぐそれに重なるのは夢まぼろしの奇術。朝から晩まで恋い慕う。それは走馬灯の甘い夢。
「……それをこんな形で復活ですって?! 冗談も休み休み言って頂きたいですね。ただの人形じゃないですか、こんなもの。
大体こんなことが感動的だと勘違いできる『博士』という方はよっぽど気が触れているのですね。こんなもので死者蘇生した気になっているのもよっぽどイカれてますよ」
故に、撃鉄を起こせ――!
幻の指先より蝶々が踊る。淡い其れに誘われるように弾丸が飛び込んだ。
孤児院時代、死に別れた仲間達を思い浮かべてからグレンはフルフェイスの兜を深く被った。
前回は倒したくはない相手は出てきちゃくれなかったが。今回は倒さなくてはいけない相手――ああ、薄情とは言わないでくれ。
此れも必要なものなのだと意志抵抗力を破壊力に変換し続ける。滲んだ涙は見せぬ儘。
傷など、誰にも悟られなくても良い。嗚呼、この力が幼き日に会ったならば未来は変わっただろうか――そんなifに溺れては居られなかった。だから、この力で護るのだ。今の仲間達を!
「歪に願いを叶え続ける色宝……悲しいね」
歪だからこそ、本来は叶えたい願いが叶わなかったのだろうか。ヨゾラは純白の竪琴を手に眉根を寄せた。
願望器にはまだ不足。それでも、志望の魔術紋に魔力を迸らせる。眼前でジナイーダを相手取り、苦しげに動くリュシアンにニーナはかける言葉に惑うように目線を逸らす。
「リュシアン、博士は君を利用するか……実験台にするかも。奴の研究対象が魔種ならば。奴の望む結果になるのは……癪だろう?」
「けど、」
「……けど、じゃないよ。イレギュラーズはイヴとニーナを護る。だから、リュシアン。君は君自身を守って」
その言葉に、リュシアンは小さく頷いた。ヨゾラは彼を巻き込まぬようにその周囲に氷槍の陣形を展開し続ける。
突撃する槍兵の如く制圧する支援網。その中で、リュシアンは「お前達は優しいな」と小さく呟いた。
「偽物でも人の心をかき乱すには十分だからね……さてルナール、ちょっと派手にやるからその間のカバーはお願いね」
ルーキスは微笑んだ。月光人形といい、今回といい大変なことだらけだと肩を竦める。
ルナールは静かに頷いた。慌ただしいが、ルーキスがそう求めるならば阿吽の呼吸でカバーは担当できる。
「えーと味方は避けて、密集地密集地……と。はいはいドカーン!」
放たれる刃収束性を高めた破壊的魔力。魔力砲が踊る様子を眺めながらルナールはサファイアの鮮やかな蒼を覗かせて槍の穂先を標的へと向けた。
「やれやれ結局乱戦か……! 可能な限り無茶はお互い気を付けような」
ルナールはルーキスと共に戦う。共に二人、命は大事にを掲げるように。彼女のウチ漏らした敵へ向けて死の大鎌の如き刈り取る様に槍を持ち上げた。
「ッハ! 懐かしい顔だなぁ……もう本物のアンタはいねぇってのによぉ……」
エレンシアはそう呟いた。黎明槍を握る、その手を緩めずに。
――大切な何かを護るために強くなれ、か……今のアタシはアンタの教えを守れているかねぇ。
想い出に浸るわけにも行かない。遠慮無く粉砕するしかないのだと。エレンシアは雷をその身に纏う。
「『雷神』推して参る! ってな!」
それは全身全霊。雷鳴嘶く様に、少女はその身を敵陣へと投じる。
――ヨハネス。ロアン。クリス。レオナルド。
それは嘗て海へと還った仲間達。ジョージは煙草をくわえて紫煙を吐いた。心を落ち着かせるように。
だが、それではちっとも落ち着く素振りはなかった。男は馬鹿げた人形遊びに『友』が利用されることが許せぬと腸の煮えくり返る想いを堪え、拳を固める。
錨を揺らがせ、海洋式格闘術、その弐式を放つ。許さぬ大波の如く、立ちはだかる全てを叩き潰す。
空を舞い、躍る。トウカは息を飲んだ。一族のお役目で眠っていた間に見た夢、思い出せない誰かが故郷の夢を見せてくれた。
家族や仲の良い知り合いは何時だって泣いてくれた。それでも時が経てば泣いてくれる人は居なくなった。
――それは酷く恐ろしくて。
「作り物の夢と聞かされるまで、起きても本当に死んだと思われてるかと恐ろしかった。
……もしも死が、別れが無くなったら、冥福を祈る人がいなくなる。
それはとても悲しい事だと俺は思うんだ博士、ファルベリヒト――だから止める!」
水晶亜竜を打ち倒すように。放つ。桜の木刀を叩き付ければ破壊力を返すように翼から放たれる魔力の一撃。
「剣を掲げよ、号砲を放て! 我等の誇りは其処に在る!」
揺らぐのは朱い旗。折れぬ旗に込めた埃は気高く、尊い。両手に花を抱くように。号令を放つ。
全軍指揮は、仲間達を進ませる。ベルフラウは不屈なれ、不折なれ、不撓なれ。それこそがローゼンイスタフなのだから。
「とにかく敵の数が多い。飲み込まれて分断されないように、集合して陣形を維持しよう」
そう告げたのはマルク。寄ってくる無数のホルスの子供たち。其れ等を光の濁流で包み込む。
死を遠ざける者としての使命。誰もを護る為にと護符を編み込んだ法衣に身を包んだ青年はニーナを庇うリンディスをちら、と見る。
ニーナの無事に胸を撫で下ろす。前を進まんとするリュシアンに一抹の不安を抱いたリンディスは震える声を絞り出した。
「貴方へ回復は届かない、知っています。ですからこのくらいの協力は良いでしょう?
……貴方とジナイーダさん、Bちゃんさんのお話。その物語、教えて頂きたいですが」
パンドラが、阻害する。其れを識っているからこそ、沢山の物語が知りたいと声掛けて。
「リュシアン、どうしたい?」
「……行くだろ」
「行けません。けれど、どうしてもと言うならば……約束してください。ニーナさんを悲しませない、と」
リンディスはそう言った。リュシアンが博士に取り込まれることなど無きように。そう願ったのだ。
少年は笑った。悲しげに、どこか困ったように。
「優しくされると、驚く」
肩を竦めた少年にニーナは「何時だって優しかっただろう」と揶揄うように笑った。それが、過去の想い出のようで、擽ったかったのだ。
「偶然の出会いが悲劇の始まり……有り触れた物といえば有り触れた物だけれど、こうして後始末に駆り出される身としては堪ったモノではないわね」
それは御伽噺と称するのも何処か可笑しくて。竜胆は業物握り唇に皮肉を乗せる。
悪趣味と、囁く声は酷く苛立つようで。迫りくる人形を退けるように乱撃を放ち続ける。
鋭利なる刃、それを止める事は無く。煙のように捉えどころなどない娘はひらりと舞踊る。蝶々の如く、刀を振り上げて。
「人形であれど意志はありましょう。死にたいと思うならどうぞかかってきて下さい。
……何体でも、そして何度でも相手をして差し上げましょう」
沙月は静かに息を飲む。攻撃や踏み込みの動作を感じさせることはなく、只静かに人形達を相手取る。
露払いはお任せあれと、そう告げる。四季折々の風景を体現するが如く。極意を宿し、流れるように連撃を放った。
さながら水面揺らいだ月影の如く。美しき雪村流。柳の如くしなやかに。緩急付けて見極めて。
「数で来ようが、こっちにだって手段はあるんだよ!」
複数が襲い来る。例えば、シフォリィが『両親』を相手にするように――後方へと進み来るホルスの子供たちを姫喬が受け止める様に。
八尋火を握り姫喬は堂々と声を張り上げる。彼女のその背後ではリュシアンの登場を予感していたかのようなニーナと、現状に驚いたように眉を寄せたイヴが立っていた。
「そぉらこっちだ! あたしゃ相当活きがいいよ!」
「ラサには世話になって店があるんで、他人事じゃないんだよねぇ。
とりま敵じゃない女性を支援しようってのは大歓迎! だけどさ、雑魚向けタンクにゃちと重い敵な気がせんでもないが~?」
黒狼の加護を身に纏う。難攻不落たる盾として夏子がその身を滑り込ませたのはニーナの前だった。
「……無理をしないように」
「まあ、任せてよ。女性の護衛だぜ?」
夏子はにい、と小さく笑った。
死んだヤツは死んでいてくれ。生き返ったりしないでくれ。
「……はあぁ 相容れねぇなぁ 死を弄る連中とか」
溜息を吐いた。戦場じゃ当たり前。見覚えのある奴等を忘れたわけではないからタチがわるい。
「ああ……犠牲がつきもの? 確かにそれはあるでしょう。
けれど、それを進んで強いる事だけは見過ごせません。絶対に」
アンジェリカは夏子が「サヨナラ」を告げる土塊達を見遣る。ニーナは余裕を感じるがイヴは不安げだ。彼女は、精霊ファルベリヒトの欠片の存在。母たる存在が脅かされているように感じるのだろうか。
「我が声を聞け! イヴ、卿は贄などではない。一人の人間だ!」
ベルフラウの鼓舞に、アンジェリカは穏やかに微笑んだ。贄、ファルベリヒトに本来ならば取り込まれるはずだった人形。
だが、そうではないと言うようにベルフラウが道を示す。彼女の背を望んでくれるなら、アンジェリカも、ベルフラウも護りきることができるから。
「大丈夫です、私達がついています。きっと私達が何とかしてみせますから。
……だから、怯えないで。聞こえる声に引きずられないでください」
「……分かった」
頷く彼女に微笑んで。アンジェリカは魔的な力を破壊力へと変え放つ。神秘の杖は開けぬ扉などないと先導するが如く光を帯びる。
「博士を討って、色宝はどうなるのか。彼らを静かに眠らせてあげるには。
かつてのように、家族であるパサジール・ルメスと共に在るには。
新たなファルベリヒトが必要なのではないでしょうか。……えぇ、貴方が。だから、護ります」
彼女がファルベリヒトの縁者で、ファルベリヒトがその身を分けた依り代の子であるならば。
グリーフは奇跡を乞うように彼女を護る事に決めていた。ファルベリヒトとなるべき光彩を受けた彼女を。
「人々の祈りに寄り添ってきたファルベリヒトをこんな風にして……ホルスの子供達だってそう。
博士のこれは誰の何の為の願いなの。これ以上の怒りや悲しみや増えるのはいや」
タイムは唇を噛んだ。リンディス、マルク、夏子。知った顔を見れば緊張も和らいで。
癒しの一手を。堅実に。皆が無事で居てくれたらそれでいい。
「何が博士よ、せんせいよ。人の命のその先を好き勝手にしていい訳ないわ」
「好きにはさせませんよ!
はっ、しにゃに負けた分際共が束になった所で勝てる訳ないんですよ! また纏めて片付けてやります!」
どどんと言い放ったのはしにゃこ。ラブリー・パラソルは愛らしくもない鋼の驟雨を降注がせる。
殴ったって強いのだと、少女は『デカブツ』なんて早く倒してやるのだと美少女ぢからを発揮した。
「それにしてもあいつら空を飛ぶとは卑怯ですね! しにゃも飛べますけど!」
宙を躍る。数を減らして、護る為に。
「今は、貴方を信頼する。行ってくれ」
マルクの言葉に背を押されるように、リュシアンは向かう。ジナイーダの元へ、そして――博士の下へ。
●『Rw Nw Prt M Hrw』III
「魔種と肩を並べて戦うなんざ無いと思ってたけどな、仕方ねぇ。お互い利用し合おうじゃねぇか」
そう呟いたアランに「リュシアンくんには以前の借りがある」とカイトはそう呟き返した。
「本当なら僕が殿をするはずだったのに、魔種に助けられてしまった。
ここが天義なら罪罰の謳われていたのだろうが、お国の外では赦されてほしいもんだ。
……例え魔種であるとはいえ、彼に借りを返さなければ」
「へいへい」
肩を竦めたアランに「有難う」とカイトはそう言った。神を信ずる国では意単なる行いであろうとも、ロストレイン家の騎士は怖くはないと魔剣を握る。
今だけは天義の騎士などと呼ばれたくはないが、そもそも叛逆の一族だと揶揄されるのだ。今更何を怖れるものか!
「さあ、こっからが本番だ。派手に行くぞ」
前線へと飛び込んだアラン能勢を追いかける。何をやりたくて何を為し遂げるか。この場合、青年二人は『リュシアン』を護る事を念頭に置いた。
妙な心地であろうとも、夜叉の加護を得た衣服に鬼人の殺意を宿し前へ前へと進み続ける。
「さぁ! 死にてぇ奴から掛かって来やがれ!」
疑似聖剣の二刀。紅と蒼。ヘリオスとセレネ。その全盛を見せつけるように宙より飛来した水晶亜竜達を斬り伏せる。
「リュシアンくん、此方はお任せを」
「――……感謝する」
借りを返すだけだと、そう言ったカイトはその翼を生かして空中から攻撃放ち続ける。
「魔種に背を預けるなんざ、妙な気分だ。しかし、初恋の相手……ね、青いな、お前」
――崩折れよ、頭を垂れよ、眼を鎖せ。
我は、汝が帰り着く家成れば――
呪歌が響き渡る。宵闇の旋律を運ぶのは海の嵐をも切り裂いた伝承の弓。
ティアが纏うは奇跡を束ねたバトルドレス。ふわりと揺らし、唇に音乗せる。
「私達の魔弾から逃しはしない」
飛来する。その翼へと放たれたのは最大出力の魔力。只の全力。反射的に返された水晶亜竜の魔力撃を癒すのは治癒薬の大放出。
ミミは不思議なバスケットからポーションを散蒔いて、周辺警戒をするように「やっちゃえー!」と応援一声。
孤児院のきょうだい達が微笑んで居る。寒い冬を、病を、乗り越えることの出来なかった彼等の笑顔。
壊すことを、躊躇わすような――そんな姿。
(……でも、あれは偽物なのです。皆が今も居るとしたら、神様の御許の筈ですから)
途惑うことはなかった。それは、眼前行く魔種が『初恋の人』を壊すように。動揺を拭うようにミミは割り切るように応援の声上げる。
「古き狩人は竜すら狩ってみせたって聞いたぜ。今の俺なら出来る筈だ。さあ、一狩行こうぜ!」
ミズハはそう笑った。狩猟の技術が何処まで生きるか。太陽弓を手にして核たる色宝を狙い続ける。
切り札たるはミスティルテイン。錬成し、浴びせるのは天地を揺るがす大号令が、ティタノマキアの閃光を確かに受け止めたからだ。
「あれが竜か!! こんぺいとう食べるかな?! ……偽物……? そう……殺そ」
ランドウェラのテンションは急転直下した。水晶亜竜。ラサにも飛来したという其れは『偽物』なのだという。
所詮は色宝で生み出されただけの存在なのだろう――嗚呼、なんと。なんと、残念な存在か。
溜息と共に迸るのは一条。翼を狙い続けるが、流石は亜竜を元にした存在か。そうそう容易には倒れない。
こんぺいとうを齧り、大弓で亡者の嘆きを奏でれば、穏やかに醜く熟れた笑みがランドウェラには浮かび続ける。
戦う程に強くなる。加速する、その命。水晶亜竜を前にしようとも逆境の中で決して笑みは崩れやしない。
(あんなにも悲しそうな顔で戦うっていうんスか……)
イルミナは眼前を行くリュシアンを見遣った。アイ・レンズで見通した世界。水晶が輝いている。美しいその世界で、少年が跳ねる。
彼の攻撃に巻き込まれないように、ジナイーダへとは鳴ったのは蒼雷の軌跡。エネルギーフィールドを纏った手で突けば土塊の体が飛ぶ。
もしもの世界。絶対に有り得なかった戦い。イルミナにとって少年の苦悩の表情の意味が分かる『有り得ざる世界線』
それでも――それでも、その手を止めるわけには行かなかった。それが、『敵』であるからだ。
「貴殿の想い人の形、破壊してもよろしいですか?」
ルル家の問い掛けと予測していなかったとでも言うようにリュシアンは目を見開き「……いいよ」と小さく告げた。
我楽多を、人形を、壊していると認識できていればどれ程良かっただろか。
「ならば、いざ!」
ルル家は跳ねた。地を蹴って、天をも穿つように。それが誰かの命を奪う行いだと、そう考えるように。
「此度の戦場はいつになく胸糞が悪い。往くぞ、有象無象共! 我が世界征服砲の極地、味わうが良い!!」
叫ぶ。無数へ向けて放ったのは固定砲台としてのダークネスの激しい一撃。教典より浮かぶ魔力は何処までも破壊的に。
「見るが良い、これぞ高みに至りし悪の総統が究極必滅奥義ーーー真・世界征服砲!!!!!」
迫りくる。有象無象。その無数に対してダークネスは叫び続ける。
「世界征服砲!! 世界征服砲ッ!! 世界せいふくほーッッ!!! ええい、次から次へと!!!」
進まんとするリュシアンにヴィクトールは「待ってください」と静かに声を掛けた。
「これ、これ、困ります。此処より先に行かれるのでしたら。
一度のみならず、十度程ぶっ殺して頂く気概でなければ困るのです」
「……もし、それがあるといったら?」
留めるようなヴィクトールの傍らで未散は悩むような仕草を見せた。
「俺は大丈夫だよ。誓って言おう、『アイツの思い通りにならない』」
「言い切れないでしょう」
もしも、そうなりそうならば――『止めてくれ』と少年はそう言った。
星に願いを。イヴの祈りがこの結末など認められない。彼女は平穏を願っていた。
「貴方が大精霊の声に屈さないというならば――それを認めましょう」
正純はイヴを護り続ける。イヴがファルベリヒトの声で変質しないように。彼女が『彼』に苛まれ、一つにならないように。
祈りを届けることを、諦めないで居てくれるなら。
「……貴方が、イヴさんの願いを届けてくれるのですか?」
「大役だよね」
リュシアンは囁いた。この大地を護る為に、守護者の心を輝かせた。体が酷く痛んだ。
星の煌めきが、イヴの願いを聞くように。
一つ奔った。
「気を付けて。何をしてくるか分からないけど……自分を、強く持ってねぇ」
博士の下に行くんでしょうとシルキィは友人を見送るように微笑んだ。
リュシアンは何処か困った様子で肩を竦める。ああ、どうしてこんなにも彼等は優しいのだろうか。
「またなリュシアン、次会う時は敵かわからないが。――飼い主共々覚悟しておくといいさ」
クロバが指す飼い主――色欲の魔種たる少年の『背後』でほくそ笑むのは麗しき姫君だ。冠位をその名に輝かせた原初。
「ええ。待っていなさい。いつか貴方の後ろにいる主に……私はこの刃を突き立てて見せる」
幻想王国に生きるシフォリィにとって、見過すことの出来ない女を思い出すようにリュシアンは「オーナー」と小さく唇を震わせた。
●祭壇I
「世界の癌みてぇな『博士』。それが皆を狂わせるなら、医者として癌を取り除く。往こう、シグ。今日のオペは大掛かりだ」
月下美人が咲き誇る。純白はレイチェルにとって医者の矜持のようであった。右半身に刻まれた文様が魔力を滾らせた。
傍らには常に共に在る愛しい人――否、愛しくも力を与える長剣。
「さぁ我が最愛の契約者よ。勝利の為今一度、剣を執り給え……!」
シグはその身を剣として『契約者』の掌に収まった。レイチェルが『博士を止める』というならば彼はどのような事でも否定はしない。
「……お前さんの望みの通りに。私はそれを執行しよう」
「ああ、行くぜ……!」
崩れた祭壇、足場に転がった色宝は酷く悍ましい色彩をしている。転ばぬように、そして、足を取られぬようにとレイチェルは進んだ。
「――その姿、魂の器を移す実験を己で試しましたか。
初めまして博士。……ジナイーダもタータリクスも、ブルーベルも……皆、貴方は死んだものと思っていましたね」
「おや、君は随分な相手と出会ったことがあるんだね」
穏やかに微笑んだアリシスの言葉に気が引かれたとでも言うように博士はファルベリヒトのかんばせで微笑んだ。
その柔和な意味はこの空間には似合わない。アリシスは自身へと注がれる視線を受入れながら小さく息を飲む。
「……魔種の再反転……冠位か更なる上位存在による類縁現象なら一度視ました」
「ほう!」
――今のうちに、と後方で仲間達が動く気配がする。気を引いている。これは時間稼ぎだ。彼は対話を好んでいるようだったから。
「結果は悲惨そのものです。覆水不返、奇蹟を用いてさえ成し得なかった……或いは『混沌肯定』による拒絶。
そも魔種が滅びの因子を生むのなら、反転存在とは『混沌肯定』の埒外なのかもしれません」
「……成る程ね。ああ、そうだろうとも。けれど、僕はこの世界の存在ではない。
故に為し得る事があるかも知れない。考え倦ねているだけでは何も為し得ないからこそ今はこんな姿さ」
アリシスは本当に彼自身が其処に居るのか疑うように双眸を通して見た。だが、それを判断する事は中々に難しい。
「……貴方の成果には非常に興味があるのですが、しかし困りました。
――リュシアンは貴方を殺したいそうです。ブルーベルも貴方を否定するでしょう。そして……ジナイーダは待っていますよ、貴方を」
博士は笑った。ブルーベルは存外に優しい子でね、と。まるで幼子が、『人生の狂わされた子供達』がさも今も明るく元気に暮らしているかのような口調で。
「ファルベリヒトと博士の関係性を計り知る事はできませんが、イレギュラーズが何らかのアクションを行うには、まずはその横っ面を叩いてやらないといけません」
文字通り、横面に飛び込んだのはアルプス。制御不能なブリンクスターは天までカっとぶ勢いで瞬間的にその身をファルベリヒトの前へと運んだ。
「やあ」
「突然目の前に飛び込んできて暢気な挨拶を返すとは……驚きました」
アルプスに頬笑み返したのはイヴと瓜二つの精霊――の内部に存在する『博士』か。
一気呵成の雷撃戦。飛び込んだは超絶加速の超新星。風の追従も許さずにエンジン音を響かせて人身事故の勢いでバイクの前輪が飛び込んでいく。
「出会い頭事故ですよ」
だが、其れだけではまだ遠いか。アルプスの体が押し返される。だが、それでも食らいつくように叫んだのは一悟。
「おい、半端野郎!」
叫んだ一悟。自身の中に損じする『影』に博士と対話してくれないかと乞うが気紛れな『影』は其れに応えることはない。
(……それにしても『人体錬成』とか『死者蘇生』ってどっちかって言うとネクロマンサーの領分なんだよな……)
自身が懇意にする存在とは余りに懸け離れた技術であると一悟は感じていた。
「なあ、オレの体を(一時的)に明け渡すからさ、ちょっとファルベリヒトの中の自称博士と知的会話してくんない?」
断るか、返事が来ない。淡い期待も潰えたが、それでも戦わぬ訳にもいかないか。
迫りくるのはファルベリヒトではない。口をあんぐり開けた水晶亜竜か。其れへと直ぐさまに放たれるのは死の凶弾。
目を、耳を、鼻を生かして鋭利なる獣の爪牙が捕えては放さない。ラダが「来るぞ」と囁く言葉に一悟は小さく頷いた。
「魔種からの再反転、確かに欲しい技術ではあるけれど……
それを得るために賭けなきゃいけないものが多すぎるよね。ここは……何とか止めないと」
魔種は倒さねばならないと、そう言われてきた。しかし雷華にとって其れは許容できない者だ。前線として戦闘に参加する雷華はラダの号令にしたがって前線へと飛び込む。
複合戦闘術を生かし、ホルスの子供達へと放ったのは小型の爆発物。雷鳴の如く響く。
その音を聞きながら雷音はコンバットナイフを投擲した。
「そっち……」
「ええ。ええ。あらあら、博士ってなんか凄いことになってるのね。
本当にあれが博士? あんなになってしまっては実験とか研究なんてできないんじゃないかしら?」
どうおもう、と首を傾いだアセナが握りしめたのは天魔の欠片。問われる側に立っているのはグリジオだ。
「まぁそれはそれとして。死者蘇生だとかは興味はあるけれど、あまり人道的とは言えない研究は赦されるものではないわ。
私だってこの子、グリジオの両親とまた会いたい。大切な友人だったから、もう一度会って、お茶を飲みながら語り合いたいのだけど……」
其処まで紡いだアセナにグリジオは妙な顔をした。彼女が望むならば、と僅かにでも考えていないとなれば嘘になる。
「グリジオ、大丈夫よ。
そのために他の誰かが傷付くのは絶対駄目なこと。きっとここまでする人には説いても無駄でしょうから、殴って止めるわね」
「……ああ。師匠。どんな高等な思想であれ、激しい執着であれ、心に決めた野望であれ。止めるのが仕事なら最後まで阻止し続けてやるよ」
――男は、グリジオは『もう一度会いたい死者なんていない』と嘯いた。いや、それが男の思う『本心』だったのかも知れない。
『忘却が自己防衛だなんて可愛い男なのだわ』
『喪失から正気を保つ為に狂ってる可愛い男なのだわ』
『『まるでわたし達のあの子のよう』』
幸せそうに微笑んだ双子姫。その声を聞きながら、グリジオは「行くぞ」と宝石に魔力を通す。
師匠を――アセナを護る。死なせない。傷付かせる此処とは無きように。
「師匠がどんな無茶をしようが護る」
「ええ、ありがとう。グリジオ」
極めた拳骨を落とす。水晶亜竜達を受け止めるグリジオに「行きましょうね」と微笑んで。
「宝もレディも同じ。それを求め焦がれるほど『目が眩む』。勿論悪い事じゃねえさ。人はそーやって前に進むことも大事。
悪いことじゃねーんだが……それが『博士』の狙いじゃねーか、気がかりでな。ま、そうはいっても皆を止めるのもナンセンス、だ」
悪趣味な行いをしてきた博士に対して憤りを感じるのは致し方ないことなのだとサンディは感じていた。
だが、それでも、だ。それでも博士のペースに呑まれすぎているのではないかとさえ感じられる。
特に道中処理を行い続ける魔種が此方の味方になっているのだ。彼のことを考えれば、この場は博士の掌の上とでも感じられる。
(……なあに皆は本来強ぇんだ、空気に飲まれなきゃ反転や敗北はねーさ。心配してんのは、行きすぎること、だからさ)
サンディはアニキカゼを吹かせながらどんと構えて見せた。我に続けと堂々と。軍師の扇子を揺らして『風』を生み出し仲間を鼓舞し続ける。
「んーホルスの子供達は面倒くさそうだからそちらを倒そうかぁ。特に姿を変えていないやつ!
僕は姿を変えられるほど親しい人が一人しかいないけど…顔も思い出せないからね。さ、姿の変わってない奴らを斬っていくよぉ」
硬くとも、繰り返せば問題は無い。玄丁は黒色刀身の脇差しを握る。
密やかに伸ばした毒手は蔵の中での眠りを感じさせる様に。享楽と共に手招き続ける。
「索敵役は迅速に叩き潰すのが鉄則だわ、全力で行くわよ!」
イナリは小さく微笑んだ。御柱ブレードを握りしめる。迦具土神をその体に起す反動に魂が拒絶を起す。
それでも尚、尾を揺らし、焔を纏ってイナリは攻撃を重ね続けた。
水晶亜竜。それが上空からファルベリヒトの支援をするならば、壊しきらねばならぬのだから。
コードデモニア。まるで獣の如く、イナリは牙を剥く。八坂刀売神よ、御神渡りをと氷が割れる音を立て、イナリの牙が水晶亜竜へ突き立てられた。
「あの方と胸をはって再び会う為に、私はこんなところで死ぬ訳にはいかねーんですよー。黙って脚をくださいましー」
ピリムはホルスの子供達と切り結ぶ。死にそうになれば無理はしない。無数の脚が目の前にあるのだ。
それ程までに無理をして脚を奪うことはないかと斬脚緋刀は音速の殺術で『脚』以外を狙い続ける。
脚。脚。ファルベリヒトも気になるが、癒えぬ傷はまだ痛む。そんな体を押してピリムは放った。
暴風が吹き荒れる。自然エネルギーの集約は、執念の刃を包み込む。白薔薇が咲き誇るが如くふんわりと揺れたドレスに身を包んでヴァイスは首を傾いだ。
硬い。ああ、けれど――自身の意志でその姿を変えろというならば。盗賊達を投影するか。
大切な人の死に目には会えていない。誰かの祈りを胸にして、好機を探すようにハーブの香りを躍らせた。
「……不出来な人形遊びであるうちに、終わればいいのだけれどね」
――そう、甘くはないだろうか。
●祭壇II
それは死者の冒涜。それは天義の『二の舞』
アンナ・シャルロット・ミルフィーユはノブレス・オブリージュを掲げる。
民を護る為に煌めきを宿した水晶に魔力を通し、水晶亜竜を狙い穿つ。
「――そのまま私だけを見てなさい。余所見をするようでは倒せないわよ」
誘う言葉はダンスホールに似合わない。ドレスを揺らす。オーギュストの『兵法』は孫娘に戦いを教えるように。
飛来する水晶亜竜。紛い物の命を手招き長い布を身に纏う様に舞踊る。
「お父さん、お母さん、先生……この世界を守るために、力を貸して。
ユウコちゃん、アサミちゃん、ケイゴ君。……私の友達はそんな顔をしない、人を傷つけるような真似はしない」
唇を噛んだ。佐里は途惑わないと叫ぶ。ホルスの子供たちが道を狭める。それは水晶亜竜が索敵した結果か。
前に進んだ仲間達が孤立することが恐ろしい。後方では魔種との共闘でかなり数が減らされたはずだ。
けれど――と佐里は神意執行の刃を振り上げた。躊躇うことなんて、もう、此処にはないのだから。
「死や反転だってそのヒトが最後まで生き抜いた証なんだよ!それを奪うケンリなんて生きてる誰も持ってはいないんだ!
同時にオレたちが抱える悲しみも奪うケンリなんて誰にもない! この悲しみはオレだけのものだ!」
魔種を造り、魔種を殺し。魔種そのものに知的探究心を抱いている。そんな研究のために『スヴィータ』が利用されたと知ったならば、イグナートは堪えることは出来なくて。
叫ぶ。
エゴールの呪いを授かった右腕で、水晶亜竜を殴りつけて。
ファルベリヒトへと届くように道を開く。水晶亜竜の眼をくぐり抜け、もう少し、後少し――
「分かるかファルベリヒト! お前の愛し子の想いだって、お前が勝手に決めつけてどうこうしてイイ理由なんてないんだよ!」
叫ぶイグナートへとファルベリヒトの視線が向けられた、気がした。
「何より、亜竜とは言え竜! それを更に模したものではありますが……強力な事に違いなし!
私の刃がどこまで通じるのか、腕試しと行かせて貰います!」
すずなの心は躍っていた。亜竜と呼ばれた存在。それが、本来の力に劣れども、刀の錆にする値打ちはあるか。
地を叩く。水の流れさえ切り分ける銀光。すずなの剣戟は一足一刀の間合い、攻めを身に付け、太刀の地獄へと誘うが如く。
利き手を選ばず、剣を握る。実戦剣術は、怖れること無かれと告げるが如く。
「アークが造った癌が肉腫なら、パンドラは『博士』か」
そう紫電は言った。やり方には同意は出来ないが、再反転と呼ばれるものに興味が無いわけでは無い。
例えば、今まで斬り伏せた魔種。それらが死なずに済んだ可能性もある。更には『二度の反転』で来る可能性だってある。
結局はどうなるかは定かではないが、博士のやり方が過激であることには違いは無い。
「さあ、征こうか!」
「いやあ、やっぱりいるねぇ、子供たちちゃんっ! さーって、いこうぜ紫電ちゃん!
なんかこれまでの間に感動的なイベントがあった気もするし、これもう無駄にはできなくなーい?
だからこそあの涙は、あの言葉は、無駄にはさせないってね!」
にいと唇を吊り上げてホルスの子供達を突っ切るように、ファルベリヒトを目指す。目指すが、子供達が其れを遮るか。
「ちょーっと困るな? わたしちゃんたちは『あっち』に用事があるんだからさっ!」
友の名を冠するその刃。マフラーを靡かせて、斬り伏せる。牡丹の花を散らすが如く。
秋奈に続き紫電は道を切り拓くが為に速力を威力に変える。もう少しで届くというのに、なおも遠いか――
「アレはファルベリヒトの『目』の役割を果たしてるって情報がある、さっさと潰して損はないはずだ。
アイツらがこちらの道を遮る司令塔であるかもしれないしね」
アオイの握る蒼白い片手剣は術師向けに軽く作られたものだった。空いた手は魔力を宿す。
リウィルディアを置いていかぬように、その手を引いて奔る。水晶亜竜へと攻撃するために大量の歯車で強襲を。
「援護は任せて!」
「頼りにしてるよ」
頷く。リウィルディアは冷たき霊刀より絡みつく二頭の悪性を放った。主を蝕みながら血潮を捧げ続ける。
アオイを癒し、そして進むために支援する。二人で一つ。
そう告げるように――水晶亜竜の『目』を壊すが如く。
「や~や~、なんかお宝探しの話から随分凄い事になっちゃったね~。
でもま~、ほっとく訳にもいかないし~悪い人はちゃんと懲らしめないとね~。よ~し、フランちゃん吶喊だ~!」
幸福のコインを握りしめたフランドール。声を張り上げ、前進む仲間達の為に道を切り開き、そして水晶亜竜を惹きつける。
「お~こっち見てるね~。やほやほ~、動く死体のフランだよ~。いえ~い」
手を振って。ふらふらと踊りながらそれらを誘う。その傍らから奔るのは紅雷。
「再反転……そんなことが可能なのかな? いや、今はいい……。今はただ……目の前の障害を排除するのみ!」
マリアは唇を噛んだ。ああ、矢張り。姿を現すというのか――「クゥエル!」と叫んだ。
まやかしといえど嬉しい。それは決して嘘とは言えぬ本心だ。宙を舞い、放ったのは蒼雷形態へと移行する膨大な疑似電気・磁力。
フランドールが呼び寄せる全て。それらを一つずつ払うようにマリアの雷撃が走り続けた。
「数が多いね~」
「けど、此処で諦めるわけには行かない! 敵の数に怖れないで進むよ!」
マリアにフランドールは「オッケ~」と頷いた。有象無象。それらは誰かの顔をして笑っている。そんな酷い状況に決意を固めなくてはならぬのだと、そう心に決めて。
傍を這う鼠は怖れるように鼻をひくつかせる。それはノーラが捜索し続ける結果。
「ユーリエお姉さんは実験由来の強毒な薬かもって言ってた。
……博士は何か違うのかも知れないんだ。でも、でも、博士の言う世界が実現しても、ファルベリヒトはそれを見れない。それはきっと悲しいことだ」
まだ、パパとママと、それから皆のために出来ることがあるはずだとノーラは探索を続けていく。両親から離れぬように、先んじて鼠たちに『見えない何か』を探してと、そうお願いし続けて。
「うぃーんうぃーん。どーん」
扇風機流の攻撃方法は流るる川の如く。1/fゆらぎの風と共に心地よくも放たれたのはその穏やかさとは懸け離れた破壊的な貫通力。
破式の威力を受けてみろとアルヤンは自身の起す風に乗り攻撃を続けていく。
「自分は自分に出来ることを精一杯やるっすよー。それが先輩達の力になるって信じてるっすからー」
風を作り送るように。ファルベリヒトの本へ向かう『先輩』達を支え続ける。
「――死者を蘇らせる……それは多くの人々が夢見た優しい願い。でもそれは大抵が破綻したの」
語らう様にミルヴィはそう告げた。二刀を手にもう一つの可能性を、有り得たifをその身へ降ろす。
その苛烈なる怒りに呑まれぬようにと躍る様に放つのは妖しい剣技。茜色の奇跡が躍り、黄昏と黎明を構えて迷いなく戦い続ける。
「不死に苦しんでずっと戦い続けた人もいた、無念の余り歪んで蘇った人もいた――大切な暖かい輝きは壊れたら戻らない! だからこそ尊いの!」
生きるという事が、どれ程に尊いか。
ミルヴィは叫ぶ。もう願わない。真っ暗闇の中でだって、先を信じて進むのだと、そう乞うように。
「ファルベリヒト、光彩の大精霊。人の祈りを受けとめた者。
身に余る願いの代償に、どれほどの犠牲を生んでもいいというのなら……
そなたの願いを、祈りを、終わらせる為にここまで来ましたの。
わたしは蒼火の精霊、全てを燃やし尽くす炎であるのだから。その役目を、果たしに来ましたの」
穏やかに、胡桃はそう言った。こやんぱんちはもふもふと。語らう声は只管に静かに。
ファルベリヒトを、見据え続ける。
「『人体錬成』『死者蘇生』、ありふれた普通の目標だ。
俺にとって錬金術は冶金方面しか触っていないが、決してそれは悪い目標じゃないだろう。
だが、それは『そうしたい人』がいるから持ち得る目標だろう? それなら『過程』は気にしないとダメだろうが」
錬はそう言った。だが、博士と名乗っている男は『そうしたい人』が居る素振りを見せない。根本的に可笑しな存在であるように感じてならないのだ。寧ろ、それを感じさせない程に彼が狂った存在であるとでも言うのだろうか。
水晶亜竜へと術符を投げ付ける。炎の大砲を鍛造し、色鮮やかな大爆発を起し続ける。
エルは庸介と共に探索を進めていた。『博士が作った物』を壊す。そして、ファルベリヒトを救う為の算段を。
「変貌したファルベリヒト。融合したとされる博士。一人だけ花の名がつけられなかったリュシアン。
ホルスの4神の子。ホルエムアケトは地平線のホルス。……二つの相反する何かが融合した神。
何かが繋がりかけている。だがピースが足りない。
確実なのはリュシアンが鍵だということ。
嫌な予感がする――博士を殺してはいけない、リュシアンを博士に近付けてはいけない」
庸介はそう呟いた。ファルベリヒトの周囲を探る。ファルベリヒトそのものに博士が組み込まれていないとするなれば――?
「同胞にこんな惨い仕打ち……絶対に許さない!
それに、私のニグレドを作ったタータリクスの同門なら……ここで本気出さなきゃ嘘だよね!」
微笑んだアリアはBinahと共に進む。道は切り開かれた。仲間を孤立させることはない。ファルベリヒトが『立っている』
「死を無かった事には出来ない、それは死した者達への、生きている者の冒涜だ。
僕はそれを肯定する事は出来ない。死があるからこそ、今という瞬間が綺麗なのだから」
その声音を届けるように。Binahはそう言った。覚めよ、何処までも敵を見据えよ。そう、戦場の心得を胸に秘め。
アリアを護る様に進む。Binahの背に隠れながら、アリアは謳う。悪い神々、ヒトが蔑み迫害した怨嗟を伝えるように――
「偉大なる光の精霊、精霊の同胞よ。これがキミの『願い』なの、これでいいの?
死の克服は彼岸だろうけど、そのために数多の死を生むのは自家撞着じゃない?
……教えて。キミの本当の音色を。その心琴に触れるなら、私もその狂気に触ってみせる覚悟だよ」
手を伸ばせば、伝わる悍ましさ。ファルベリヒトの心に触れるために――アリアは進んだ。
●祭壇III
「ッ――クソヤロウ!!!!!!!」
その声にレイチェルが振り返る。此処まで来たのか、と目をこらせば憤慨したリュシアンがファルベリヒトへと飛びかかった。
大丈夫だ。彼は何かを仕込まれているわけではない。だが――魔種がどうして?
「大方、飼い主が享楽的であったが故に野放しにされただけだろう。此方側が魔種と共闘するかを見てみたかった、等という理由のために」
「……ああ。だが、今回に限っては良い手駒だ」
シグに頷いて、レイチェルは彼の体を苛むものがないことに安堵したように胸を撫で下ろす。
リュシアンに「落ち着いて」と声を掛けたのはレイリーだった。
ファルベリヒトを通して話す博士を見たときに彼より感じた憤りは悍ましいほど。だが、彼を護ると決めたのだから、レイリーはその手を止めることはなかった。
「お体に何かあれば、おしえてください」
エルはそう言った。リュシアンを気遣い、博士が何らかのアクションを仕掛けないかと警戒を続けている。
「リュシアンくん! 気をつけなよ!」
朋子は博士に視線を送りながらそう言った。魔種である彼が博士の実験材料であれば。囚われることだって有り得るかも知れないのだ。
「俺が倒れるか、君が俺に声を届けてくれるか。その勝負だ。
なあ、ファルベリヒトと君は呼ばれているが──君の名前を、君から教えてくれ」
精霊へ声を掛けるように。些細なことでも良い。積み重ねればその心に触れることが出来る筈。
「そして教えてほしい。君を苦しめている原因は、どこだい?」
行人の体を穿った一迅。アントワーヌが「行人君」と苦しげに名を呼んでサファイアのブローチに魔力を込める。
お手をどうぞ、プリンセス。
そんな言葉も袖にしてファルベリヒトは苦しみ続けるか。
「辛かっただろう、怖かっただろう。もういいんだ。もう、眠っていいんだよ。
さあ、私達と踊ってくれたまえ。せめて君の最期に見る夢が楽しく優しく、美しいものでありますように」
彼女は、もう一度を願った。
幸福な世界に生まれ落ちるために『イヴ』を作った。行人とアントワーヌは僅かに感じていた――もしも、此処で彼女が砕け堕ちてもイヴがいる。
その心の欠片を彼女が持っているはずだ。イヴさえ生きていればファルベリヒトは救えるかもしれない。
この、体を捨てれば。
それはどれ程の苦しみか。それはどれ程の悲しみか。
体が痛めども、笑みを絶やさぬアントワーヌは「行人君」と名を呼んだ。
「命って、なんなんだろうね……?」
「さあ――何だろうな」
其れを応えてくれない儘の彼女に、もう一度問い掛けよう。声を、聞かせてと。
「ファルベリヒト、光彩の精霊よ。私の言葉を、願いを聞いて!」
オデットは太陽の恵みに水晶のリボンを輝かせながら真摯にそう告げた。精霊達に疎通するために。
賢く強大な者にはその力を全て発揮することが叶わなくとも――言葉を投げかけたい。
「世界の摂理を覆すことは、精霊として正しいこと?
私の知ってる精霊は自然そのもの、摂理を壊せばみんなきっとおかしくなってしまうわ。そんなことやめてほしいの」
白い木製の指環。エメラルドが魔力の光を湛え、中規模魔術が広がっていく。毒の緑に焔の紅、呼吸さえ奪う深い青には黄色の稲妻が追いかけた。
「君は、ファルベリヒトに其れを伝えてどうするんだい?」
「どうって……!?」
「僕が彼女を『支配』しているのに!」
オデットが唇を噛む。応えたのは博士か。
「いいや……ファルベリヒト。同じ精霊として問わせてくれ。人が、本当に永遠の命を欲していると思うか?」
ポテトは叫んだ。探る。博士の意識が此方に向いているウチに。感情を探知する――『本来の博士は何処に居るか』を。
『あ――あ――』
その呻きが、ファルベリヒト本人か。
朋子は皆が対話を出来るようにと。出し惜しみなどしないとネアンデルタールを握る。生命力を生かして殴りつける。
そう、最期は体力が全てだと言い聞かせるように。赫々たる輝き帯びて、新人類始祖霊長ホモ・ゴリレンス(ゴリラ)殴る。
突如としたドラミングに言葉が遮られぬようにと膂力を活かして朋子は殴りつけた。
人間に対しての感情は正直な処、エリザベートには薄かった。隠された存在を探すように耳を欹てる。
ファルベリヒトの声を遮る博士の声など、聞こえぬとでも言うように。日常を狂わせる存在を、探し続ける。
「……ファルベリヒト。吸血鬼は意味は明確には違うけど精霊種ではありますけどね。
人間相手にそこまで何をしたいのでしょうか……私には理解は出来ないのですが、永遠の命って人間には意外としんどいらしいですよ」
『悲しみを、減らしたか――』
「ああ、そうだ、ファルベリヒト! そうだよ。大いなる濁流の悲しみを少しでも減らす為に僕らはやってきたじゃないか!」
エリザベートの手をぎゅうと握りしめたユーリエは苦しげに眉を寄せる。
「実験の為に何かを得るという事は何かを切り捨てるという事。
全体的に見れば切り捨てたものは塵なのでしょう。だけど……貴方が捨てた塵は積もって今、山となる!」
幾重の命を、そうして切り捨ててきたのだろうか。
ジナイーダは? 彼女の体を弄んで、リュシアンが反転したとき『ああ、愉快だ』と感じた彼を悪逆非道と断じて何が悪いのか。
「……無数の屍の上に成り立った生命が何を言うんだい? 君の平穏も、君の暮らしも、豊かさも。
其れ等全ては先人が築き上げた者だ。生を謳歌するならば無数の屍の上に立つのは決して間違えではないだろう。
ああ、そうだ。そうだよ。ファルベリヒト――君の『愛しい友人』が『伝承の魔物』に灼かれ死んだのだって仕方なかったのさ」
伝承の魔物、とエリザベートの唇が動いた。ファルベリヒトと、博士。
ユーリエが知りたかったのはファルベリヒトの体に組み込まれたのは本当に魔種であるか、だった。
「……貴方は、『其処』には居ませんね? どうやら、魔種を使用して其処に居るかのように見せかけている。
私達と話してみたかった、だとか、そんなところでしょうか? それとも、リュシアンを捕まえたかった?」
「……――どっちもだ」
ユーリエは周囲を見回す。博士の気配は分からない。色宝が阻害する。願いを叶える存在がこんな時に邪魔をするなど。
アアアアアアア―――――!!
ファルベリヒトが叫んだ。ユーリエ、と名を呼んだエリザベートが癒しを歌う。肌を切り裂く声音の濁流の中でユーリエは「博士!」と叫んだ。
「その永遠の命、自分で放棄できるんですか? ……まぁ、好きな人に永遠の命を私与えましたけどね」
『永遠なんて、どこにも――無かったんだ』
その囁きと共に攻撃が降注ぐ。
セリカは声色を作り出した。ファルベリヒトの体から発された『博士』の陽気な声を。ただ、それが彼本来の声であるかは分からずとも平常心で心を落ち着けて。
「貴女のおかげで成果が出ましたよ。魔種が元に戻る事も、死者が蘇る事も無い、という成果がね。――貴女には期待していましたが、残念です」
「実に愉快だなあ。……ファルベリヒト。そうさ、『まだ発展途中』だからね」
重なる。二つ。
セリカの魔力が防御結界を作り出す。――LightVeil of Kindness。光の帳が、護る様に広がった。
それは皆と共に歩むための道を探す。探求。錬金術と魔術。博士の使用する『錬金術』とはまるで違ったその意味に。
●光彩の精霊
「もう一度聞く、ファルベリヒト! 人は、永遠を望んでいると思うか?」
問い掛けるポテトの傍らで。セリカは皆で無事に帰ると願った。願って、願って。
ファルベリヒトの眸に、僅かな正気が宿った気がした。
「私は思わない……限りある命だからこそ家族を、仲間を大切にする。
大切な人の為に抗う気持ちは私にもわかるが、その為に他の人を犠牲にしては悲しみの連鎖を生むだけだ。
――目を覚ませファルベリヒト。お前の力は、何のためにある!」
「叶えるためだろう、ファルベリヒト」
ポテトの言葉に、重なった。
光の精霊、地平線の貴女。復活を象徴する者。
死は、恐ろしいものであることをファルベリヒトは知っている。
死は、決して逃れ得ぬものであることをファルベリヒトは知っている。
永劫なる別れを惜しみそして人が進むことを知っている。
それでも、その男の声が心地よく、ポテトの問いかけは霞んでいくかのようだ。
「博士」
だが、それらを鎮めるように凜とした声でリゲルは呼んだ。
「魔種の反転。リュシアンの『再反転』を目論んでいるのだろう。
研究者にとって研究とは、命より大切な悲願だと理解している。……蘇らせたい人、永遠の命を求めているのか?」
「いいや! 僕にとっては『蘇らせたい人』が真に居る訳では。あれ? どうだったかな……。まあ、いいか。
つまりは僕は研究のために生み出されたのさ。だから『体をこうして分けるてつだい』もして貰ってね。あれ? どうだったかな」
先程から可笑しな反応だとリゲルは博士を睨み付ける。解析する。嗚呼、確かにファルベリヒトと博士別の存在のようだ。気配を探る。周辺に誰かが存在するわけではない。
「だからといって人の想いや命を踏み躙って良いとは思わない。貴方を倒す方法は、俺達は既に―掴んでいる」
「それは実に興味深い――なァッ!」
突如として周囲に吹き荒れた砂嵐。点滅する色宝に目が眩むとリゲルは白銀の剣を構える。ポテトが「リゲル」とその名を呼んだ。
頬を切り裂く砂嵐に構わぬまま、抜き身で放つは静かなる断罪の斬刃。
「ファルベリヒト。悲しみを減らしたかったのは理解できる。
だが体よく利用されたな。これでは減る悲しみより新たに生まれる悲しみが多い。
そして何より、お前の自己犠牲に私達……いや、ラサを巻き込むのは許さない。――幕引きだ」
ラダの握った銃へと魔力が奔った。現状はどのような状況か――狂化した博士と呼ばれた旅人をその身に宿しても尚、ファルベリヒトは生きている。
『わた、しは――』
唇が動いた。大精霊。ラサに住まう者なら一度は聞いた御伽噺。
『……だれかを――すくいたくて』
そうだ。心優しき大精霊はそう願ったはずなのだ。ラダは唇を噛み、死の凶弾を放つ。
「……ファルベリヒト。パサジール・ルメスは家族だったはずだろ。
それを、忘れた大馬鹿野郎に、あたしは、心底! 腹が立ってるんだ!
あんたの狂気だって聞こえてる。なら、あたしの声が届かない道理は無い!
こんな事で、リヴィ達が喜ぶもんか。家族って、そうじゃないだろう!? ブン殴ってでも、止めてやる!!」
リヴィ――リヴィエール・ルメス。ファルベリヒトの『優しい家族』
ニアは可能性に応えてくれと乞うた。ファルベリヒトと魔種を切り離したいと。
御伽噺の存在でも、願いたかった。願わずには居られなかった。願って、願って、願って。
「ファルベリヒト、そして博士と呼ばれる者よ。貴方達は生と死について何か大きな勘違いをしている。
生の果てに死があるように、死の到る前に生があるように――それは命の一つの状態に過ぎない」
バスティスは静かにそう言った。指揮を執り、進んできた。遠き世界の月は淡く輝いている。夜光が色宝を返すように。
「ただ一つの奇蹟の様な所業で命の大きな流れを妨げる事は出来ようはずもない。
その事実から目を背けた君達が……魔種化の真実に到るとは到底思い得ないさ」
猫の瞳が細められた。ファルベリヒトから感じる悍ましい気配にバスティスは「顔も見せてくれないんだね」と肩を竦めた。
博士は、そこにはいないだろうとさえ、感じさせるから。
「魔種からの再反転。僕も目指す所だ、だけど……。
だけど、許せないことがある。大切な息子と同じ姿をした存在と戦わされたこと。この手でその命を奪わないといけなくなったこと」
ムスティスラーフは叫んだ。
戻す為の方法を探す中で悲しみを増やしちゃ意味が無い。無数の屍の上に立っている其れを赦すわけには行かないと。
悲しみを無くすための研究で悲しみを増やしたら本末転倒だと。
「いいや、君は間違っている」
ムスティスラーフへと、ファルベリヒトの体を通して声が響いた。
「僕は、悲しみを無くしたい訳じゃない」
ムスティスラーフは拳を固めた。
「……あんなやつに、心を砕かなくたって良い。無駄になるよ。優しさが」
「リュシアン」
「アイツを殺すってんなら、俺も同意だ。けど、狡いな。引き摺り出せやしないんだから」
ムスティスラーフは唇を噛んだ。魔種を元に戻す研究は自身が担う。ああ、けれど、博士そのものを探すイレギュラーズが多くとも『意識を分離させている』だけの彼が其処に居るかは定かではない。
皆が探った。気配が違う。
博士は旅人で、魔種にはならない。
ならば、埋め込まれているのは――他の……?
「リュシアン、ファルベリヒトのナカに居るのは本当はセンセイじゃない? いや、ちがうか。
センセイは――もう、別たれてる。それは色宝を使っての行いってコトか……」
「……屹度ね」
イグナートは唇を噛んだ。だが、微かに勝機を願うように。ファルベリヒトの願いを叶える機能が正しく使えたならば――ひょっとすれば『博士』を引き摺り出せるのではないか、と。そう願う。
「あたしも『願う』よ。ファルベリヒトを助けるんだ……!」
ニアの刃が、風を纏う。
風牙は、初めて私情で戦う事を決めた。戦闘も、作戦も何もなかった。ただ、己の心を叩き付け砕こうとするだけだった。
真っ赤に染まった瞳が、苛立ちを宿す。
――殺してやる。
風牙は叩き付けた。火を焼き尽くす焔の如く。叩き付けることしかしなかった。
「欠片も残さず、痕跡も、記録も記憶も何もかも! 消し去ってやる!!
よくもよくもよくもよくも!!オレに! 『妹』を! 殺させたなァッ!! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」
叫んだ。叫んで、叫んで。
その腕を、掴む者が居た。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねくたばって死ね!!
――離せ! くそ、離せ! 殺してやる、殺してやる! アイツを!」
「……呑まれるぞ、ガキ」
リュシアン、とイグナートはその名を呼んだ。
赤い瞳とかち合った翡翠。少年は傷だらけの風牙をイレギュラーズへと押しつけた。
「アイツを殺すってんなら、此処じゃない。此処じゃないところで、呑まれるなよ。俺みたいになるぞ」
呑まれる。その言葉にチェルシーは小さく笑った。
「怒りたくもなるわよね。アイツは報告資料や噂からしてロクな事してないわね?
新たな可能性を探すのなら真正面から精霊様の許可を得なさいよ。
そこから出て行きなさい、プスケ・ピオニー・ブリューゲル。私の分の”借り”も、返させて貰うわよ!!」
苛立ちと共に鋼糸を繋ぎ合わせた鞭を撓らせた。音鳴らす、嗚呼、だが、『精霊様』の中からそれは出てこないか。
否、『その中に存在して居るかも定かではない』
「私達は知る権利があるわ。研究の成果を置いてとっととくたばりなさい!」
『わた、し――は……』
ファルベリヒトのその言葉に、ニアが名を呼んだ。
「還ってきて」と。
「ファルベリヒト! お前の過去になんざ知らねぇ。お前の嘆きも知ったことか。
だがよ、過去に頓着して今を見失うんじゃねぇよ。死に囚われて足踏みし続けてんじゃねぇぞ!
お前の愛した奴らが共に歩んだ奴らがそれを望むわけねぇだろうが!
答えろ! お前が手を伸ばすのなら! お前が望んでくれるなら! その淀みから引っ張り出してやる! だから応えやがれっ!」
一直線で飛んでいった。ニコラスは漆黒に染まる大剣を振り上げる。
剣を振るう、手を掴む為にこの腕があれば良い。ニコラスは全てくれてやるとその脚を気合いで立たせ続けた。
彼女の狂気に、触れたかった。誰にもわからない、ささやかな奇跡で良い。
ロロンはそう願った。壊れてでも良いから、伝えたいことがあった。
「やぁ、はじめまして。ファルベリヒト。
仕事でもあるのだけれど、本当にボクにしては珍しく『私情』ってやつでここに来たんだ。
ボクはやりきってしまったから、キミには踏みとどまって欲しい。
誰かの願いのために多くを踏みにじる行いは、きっと後悔する。砕け散ったとしても、キミが狂ってしまったとしても。
……悔いだけはきっと残るんだ」
そんな私情、彼女を揺らがせるかも分からない。それでも、思いが通じてくれるならば。
魔種が苛む其れを止めたかった。ロロンは、そう願っていた。
「ファルベリヒト! 偉大なる精霊よ!! 俺達の声が聞こえていますか!?」
ヴェルグリーズは何度も叫んだ。これ以上罪を重ねさせてはいけない。優しい精霊を蝕んで良い理由など無いのだから。
別れの属性は、別つように、落とされる。
黒子は言った。「今現在は、博士は『狂』ったファルベリヒトの内部には存在しない」と。
「予測されるに、ファルベリヒトの内部に存在するのは『魔種』。博士は旅人で反転することはない。
狂気に犯されていようとも、何処からか捕まえた魔種を媒介に自身とファルベリヒトを繋いでいるだけだ。
いや、最初は存在したのかも知れないが、色宝を駆使して『その体』を外へ……?」
「だから、呼び声がこれだけ歪に――?」
黒子は頷いた。ヴェルグリーズと黒子の前に居るファルベリヒトは呻いている。怖れる様に、救いを求めるように。
博士は何処だと風牙が叫んだ。
殺さねば気が済まないと。
「僕かい? 僕は、君たちが探し続けてくれたお陰で随分と得をした! ああ、そうだ。ファルベリヒトは時間を稼いでくれた」
声が、どこからする。
逃げるというのかと顔を上げた風牙は「何処だ」と叫んだ。
時間を稼いだ――チェルシーがはっとしたようにファルベリヒトを見る。
イヴと瓜二つであったその体に罅が走った。
――あ、あ。
先程まで感じていた歪な声は聞こえない。
其処に存在したのは精霊。そうだと行人は、アントワーヌは、そう思った。
「……声が届くかい?」
ロロンは言った。
屹度、声が届いた。彼女が正気を取り戻すまでの時間が博士にとっては逃げ出す好機であったかのように。
「キミには奇跡なんかなくとも届くと思ったんだ」
差し伸べた手を、重ねるように、ニアは伸ばした。
「――少しでも良いよ。分けてよ、その覚悟」
――わたしは、家族であったパサジール・ルメス。愛しい子たち。
あの子達を、悲しみから掬い上げたかった――――
なら、その心を救う為に。
イグナートは別つ事を願った。ヴェルグリーズは『別れの属性』を手に、飛び込んだ。
色宝が呼応する。イレギュラーズは『ファルベリヒトの狂気を払いたい』と望んだ。
だが、色宝は歪に願いを叶える。
それが確かなことであるならば、ファルベリヒトより生み出された色宝が答えるのは――眩い、目映い光が、放たれる。
――聞こえていました。ずっと、ずっと。ああ、……わたしは、なんてことを。
「ファルベ、リヒト……」
その名を呼んだ。誰でもなく。ただ、その光が収束していくのを。
――わたし、は、間違えて……。
光は。
もはや、輝くことを知らなかった。
●『心臓』
それが少女の名であった。
それが少女の存在意義であった。
「ああ」
彼女はそう、声を漏らした。
「ファルベリヒトが、」
少女が静かに泣いたその肩を正純は静かに掻き抱いた。
「願わくば、イヴがイヴたらんことを。貴方は、貴方を生んだファルベリヒトにならなくても、いいんですよ。自分を持って」
グリーフはそう微笑んだ。
ああ、この願いは叶ったか。彼女はまだ、イヴの儘で居てくれた――
正純は泣き続けるイヴに目を伏せる。
星は、確かに祈りを届けてくれた。
此の地の災いを取り払ってくれた。
心優しき光彩の精霊の命と共に、砕けるように。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
ファルベライズ、中盤からストーリーの構築に関わらせていただき『反転について研究する悪』と『魔種でありながらの善』
その双方について触れさせていただきました。
リュシアンをサポートして下さる方やファルベリヒトとの対話を試みる方がとても多く、
ファルベリヒトを討伐するという手が少なかったことで此度は博士を取り逃がした、という状況となります。
ですが、彼はまた皆さんと相対することとなるでしょう――彼は皆さんに興味を持ちました。
MVPは顧みずに進んだ方へ差し上げたく思います。
その言葉は届いていましたよ。奇跡じゃなくとも。
GMコメント
ファルベライズ。その最奥に存在した『御伽噺』の精霊へ――
アカデミアと呼ばれたラサの因縁も渦巻く此の一件をどうか、皆さんの手で終わらせてあげて下さい。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<Rw Nw Prt M Hrw>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●成功条件
・『狂』ファルベリヒトの撃破
・『狂』ホルスの子供たちの可能な限りの撃破
●ファルベライズ遺跡
『願いがかなう宝物』の眠る土地、ファルベライズ。二つの宝玉を用いて開いた二重構造遺跡の奥には更に『中核』と呼べしクリスタルの迷宮が存在して居ました。
耀くクリスタルで完成された遺跡です。ファルベライズ深部の地底湖の更に先より開かれた扉から侵入することができます。宝で作られた場所であるため遺跡内の各フロアはその姿を大きく変貌させるようです。
――その最奥、ファルベリヒトの祭壇が存在する場所です。
崩れた祭壇付近には複数の色宝が存在して居ます。その色宝は黒々とした光を帯び、悍ましい気配を感じさせます。
それらは願いを正しく叶えることはありません。狂化したファルベリヒトの影響を受けて色宝は歪に願いを叶え続けるでしょう。
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
==例==
【A】
月原・亮 (p3n000006)
なぐるよ!
======
●行動
【A】祭壇周辺
ファルベライズ最奥付近です。輝かんばかりのクリスタルの迷宮は美しい光を湛えています。
●ホルスの子供たち『ジナイーダ』 *無数
勿忘草の髪飾りを付けた可愛らしい少女。ホルスの子供たちです。博士が作り出し戦闘能力は高く、対話も可能です。
数が多く、外へ向けて進軍していこうとしています。リュシアンがある程度押し止めているようです。
ジナイーダは特殊な個体であり、体内に無数の色宝を所有しています。体内の色宝が何かに起因して自由自在に外見を変化させます。
外へと飛び出し、世界各国で『博士』の指令を受けながら動き回る事を目的として作られた個体のようです。
●ホルスの子供たち *無数
色宝を胸に持つ土塊の人形です。自由自在にその姿を変え、故人を象ります。
狂化しており、イレギュラーズに襲い掛かります。その外見は皆さんが思い浮かべた対象になります。
(姿を変えない場合はとても堅牢で壊すのに時間が掛ります)
●ホルスの子供たち『水晶亜竜』 *20体
嘗て、存在した水晶亜竜を元にしたホルスの子供たち。体の何処かにいろ宝が埋められています。
飛行することが可能であるファルベリヒトの『目』の役割を果たしているようです。
○友軍?:リュシアン
魔種の少年。アカデミアに所属しており、妖精郷の様子を眺めていたり、神威神楽の一件にも携わりました。
『外』へとホルスの子供たち『ジナイーダ』が出ることを押し止めているようです。曰く、彼女は彼の初恋の相手であり、其れを悪戯に利用して『返そうとして』歪な死者蘇生をする博士を許せないのだそうです。
本件は単独行動をしているのかイレギュラーズに攻撃を行いません。此処で討伐も可能ですが、彼と戦う場合は戦力が多く必要+彼が相手にするホルスの子供たちが敵となり【A】戦場の勝利は絶望的になります。
○味方NPC:ニーナ(ニルヴァーナ・マハノフ)
アカデミアと呼ばれた組織に出入りしていた少女。不老の種であり実年齢は随分と『年上』のようです。
ファルベリヒトの祭壇に置き去りにされましたがリュシアンの力を借りてある程度の撤退を行ったようです。
彼女曰く「今回は彼は信頼してもいい」らしいですが……。ある程度の戦闘行動は行えます。
○味方NPC:『イヴ』
ファルベリヒトがその身を分けた依り代の子。ファルベリヒトが本来ならば復活の際に使用すべき肉体でした。
彼女はファルベリヒトの子としてファルベリヒトの『声』を聞いています。非常に怯えた様子です。(遺跡全域が戦場となる為に護衛対象となります)
【B】祭壇
崩れた祭壇付近です。色宝より溢れ出るのはファルベリヒトから感じられる奇妙な呼び声です。
それは狂気であるか――果たして……。
●ホルスの子供たち *無数
色宝を胸に持つ土塊の人形です。自由自在にその姿を変え、故人を象ります。
狂化しており、イレギュラーズに襲い掛かります。その外見は皆さんが思い浮かべた対象になります。
(姿を変えない場合はとても堅牢で壊すのに時間が掛ります)
●ホルスの子供たち『水晶亜竜』 *20体
嘗て、存在した水晶亜竜を元にしたホルスの子供たち。体の何処かにいろ宝が埋められています。
飛行することが可能であるファルベリヒトの『目』の役割を果たしているようです。
●『狂』ファルベリヒト
ファルベライズ遺跡の主。色宝として砕け散った能力を『博士』との同化によって歪に進化した結果、魔種や膠窈肉腫(セバストス)並の能力を保有しています。
水晶亜竜を利用して俯瞰した視点を得ています。強力なユニットです。
この能力が進化すればホルスの子供たちが更なる進化を遂げ月光人形のように『死者と気付かせない蘇り』を起こす可能性もあります。また、ファルベリヒトの力を利用する『博士』が外へと『ジナイーダの人形』を大量に派遣することでラサ全域へと大きな影響を及ぼす可能性があります。
分類は『精霊』。正し、博士による何らかの作用により魔種がその体に組み込まれていることから強力な呼び声/狂気を発します。
●『博士』
ファルベリヒトの中に同化していると思われる博士と呼ばれる旅人です。ニーナには「ピオニー」と呼ばれています。
魔種タータリクス、魔種ブルーベル、魔種リュシアンと三人の魔種を生み出した『アカデミア』の主であり、ホルスの子供たちを作り出した錬金術師です。リュシアン曰く「アイツが本当に同化していて此処で倒せるのかは分からないけど、さっさと殺して欲しい。世界の癌だ」そうです。
彼の目的は『人体錬成』『死者蘇生』などの錬金術師的なものですが混沌世界でのテーマは『魔種とは』『再反転』です。その為ならば多くの犠牲を孕んでも良いと考えています。研究者である彼はその答えに至っては居ません。それ程絶望的な事なのでしょうか……。
彼を此処で殺す事ができるかは定かではありません……ですが、ファルベリヒトを通して対話は可能でしょう。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はD-です。
基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
不測の事態は恐らく起きるでしょう。
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