シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2020>雪色綻ぶイルミネーション
オープニング
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再現性東京2010街――希望ヶ浜と呼ばれたその場所は、有り触れた日常が溢れている。
東京を模した練達の街は、潮騒が近づくにつれて幾許かその表情を変えた。
石畳を叩いて進めば、光の海が迎え入れる。橙色の南瓜と魔女の悪戯を冬風が攫ってゆけば訪れたのはクリスマス――混沌世界では『シャイネンナハト』と呼ばれたイベントだ。
石畳の向こうに広がるは中世を思わせる異国情緒の街並み。屋内型の施設は天蓋に青空を描き、晴れ空を思わせた。並ぶ店舗は赤と緑のクリスマスカラーを粧い、訪れる者の目を楽しませる。
噴水広場に広がったイルミネーションは冬の悴む寒さから遠く離れたその場所で、淡く光を帯びている。幻想的、とその言葉を紡いだならば光が自身を包み込むような奇妙な感覚が傍らに存在した。
ショッピングモールより歩み出せば、見上げるほどのクリスマスツリーが鎮座していた。この日のためとリースに靴下を飾り煌めく白い大木は雪を纏い周囲の光に照らされ続ける。淡い光を辿るように広がったクリスマスマーケットは馨しいホットワインを楽しむことが出来そうで――クリスマスソングが鳴り響く、その通りを抜ければ光を纏った観覧車が音立て揺らぐ。ゴンドラより見下ろせば街の灯りが地上を照らす星のように耀くだろう。
クリスマス。そんな聖なる夜は光溢れて――祈りの日を心ゆくまで楽しもう。
●
「Buon Natale」
微笑んだ『探偵助手』退紅・万葉 (p3n000171)は「とっても素敵なクリスマスね」と微笑んだ。「ぶおん、なたーれ」と首を傾げる『聖女の殻』エルピス (p3n000080)に万葉は「イタリア語ではそういうの。つまりは――『輝かんばかりの、この夜に!(メリークリスマス!)』ね」
クリスマスを迎えた希望ヶ浜は華やいでいる。イルミネーションが光を粧い鮮やかに。
通りに並んだ特設されたクリスマスマーケットでは可愛らしいテディベアやスノードーム等の雑貨類、ヴルストはシュトーレン、ホットワインを楽しめる。
光の饗宴を抜けたならば、15分だけの空中散歩。観覧車が楽しげに此方を見ているのだ。
「観覧車でのんびり地上を眺めるのだっていいかもしれない。違った景色が見えるかもしれないもの」
「空から、ですか?」
「ええ。貴女のような翼や、飛行能力は『希望ヶ浜』では本来は存在しないものだから。
だから、人は人工的に空をお散歩する方法を作り出したのね。
……まあ、こんな夜だもの。闇に紛れて、のーんびり飛行したってバレやしないわ!」
揶揄うような万葉に『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は「目立たないようにね」と囁いた。
希望ヶ浜は変化を怖れた停滞の安寧。現実から目を背けられなかった者達にとっての唯一のよすが。
非現実的な魔法も、神秘も怖れられるものだから。イレギュラーズとしての『スキル』はこの際無かったことにして、普通の少年少女のようにクリスマスを楽しむのも良いかもしれない。
「海沿いのショッピングモールなんだけど、屋内型の施設で、ヨーロッパみたいなところなんだ。
そこは屋内で寒さもないしレストランで食事を楽しんだりショッピングが出来るよ。
クリスマスのプレゼントを買ったりするのもいいかもね」
「プレゼント、ですか?」
「……サンタさんの代りに渡すんだよ」
首を傾いだエルピスに雪風はそう微笑んだ。ショッピングモールで買い物や食事を楽しむのも屹度楽しい。
屋内の噴水広場ではイルミネーションイベントが開催され其方を見にいくのも良いだろう。
「ああ、そういえば、えーと……音呂木さんたちが学園は解放日だって。
その、パーティーとかするなら教室とか使ってイイらしい」
「なんだか池が凍ったそうなの。丁度、雪も降っているし……雪合戦とか凍った池でスケートも楽しそうじゃない?」
心躍らす万葉に雪風は「怪我しないようにね」と小さく笑った。
「恋人同士のイベントって感じかも知れないけど、そうじゃないわ。
お友達同士でも家族でも、なんなら、今からお友達になる誰かと一緒に過ごすのだってきっと、きーっと楽しいはず!
あ、一人で迷っていたら気軽に誘ってね、私も、雪風も、エルピスも。楽しいことには目がないのだから」
ステキな一日になりますように。微笑んだ万葉の傍で面白山高原先輩と言う名の犬が「わん」と吼えた。その背に乗っていた猫の蛸地蔵君が欠伸を噛み殺し寒さに身を縮めてみせる。
そんな2020年のクリスマス――それは一度だけだから。
心の底から楽しもう。あなたも、光の海に酔い痴れてみませんか?
- <Scheinen Nacht2020>雪色綻ぶイルミネーション完了
- GM名日下部あやめ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年01月12日 22時14分
- 参加人数98/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 98 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(98人)
サポートNPC一覧(3人)
リプレイ
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人工灯がふわりと白雪を照らす。足下にご用心と言わんばかりに手を差し伸べたスティアはモールの外に存在したクリスマスツリーをぼんやりと眺めた。
「装飾が色々と施されていてとっても綺麗だね。
このピカピカ光ってるのは電気……雷と同じものを使って光らせてるみたいなんだよ。すごいよねー!」
再現性東京は初めてだというイルは「すごいな」と小さく頷いた。天義の騎士である彼女には新鮮なことばかり。だから、存分に見て回ろうと手を引いて。
「ねえ、せっかくだし、リンツさんへのお土産とか買ってみたらどうかな?
練達でしか買えないような物だと喜ぶかもしれないね。とはいえ、無難そうなのは食べ物だよね……何種類か食べてから決めるのもいいかも!」
「うむ。先輩にお土産を探していこうと思う。すごく迷うと思うが、一緒に見て貰えると嬉しい」
イルは頷いて、ごうん、ごうんと音立て回り続ける観覧車に首傾ぐ。光の海を上空から見る空中散歩、それは屹度――今までに無い経験を齎してくれる筈。
「すっげーキラキラしてる!」
冬服に身を包んだ亮はリリファの手を引いて、あっちいこうと歩き出す。『今日は月原さん達と色々見て回る』と覚えていたリリファは兎に角楽しもうと頷いた。
「今日の目的覚えてる? 事前に伝えたけど、リリファなら忘れて……嘘嘘!」
「ふふん、覚えてますよ! クリスマス限定品とか、こういう時期ならではの物が並ぶのは見るだけでも面白いですし! あ、シャンメリーも買わないといけませんね!」
「うんうん。今晩パーティーの準備も。何食う?俺、チキンが良い!」
こっそりと二人揃って互いへのプレゼント選び。目移りして気付かないから、屹度帰れば「ふぉ~」と喜んでくれるだろうと胸躍らせて。
「すごい人出!」
聖なる夜は再現性東京でも盛り上がるとチャロロはぱちりと瞬いた。目に付いたアイスクリーム屋さんではクリスマス限定の赤と緑、白のクリスマスカラーを使用したパフェが販売されている。
暖かなモールの中で食べるアイスも中々オツなものなのだ。
「これおいしい!冬に温かい室内で食べるアイスっていいよね……。
ハカセたちにもおみやげにアイス買っていこう、ドライアイス入れてもらえばしばらくもつよね?」
勿論と店員が微笑めばチャロロはお土産アイスのためにメニューとにらめっこ。
「……ん。『再現性東京』……っていう、所に来るのは。……今日で、2回目。
この前は……ハロウィンだった、けれど。今日は、シャイネンナハト」
楽しい想い出は作れるかと見回せば、建物の雰囲気は幻想王国を思わせて、チックは再現性東京にもこんな所があるのだと不思議な心地を感じていた。
仔猫のミィへのプレゼントは毛糸玉の玩具に、お昼寝用の毛布。赤色や雪結晶と色とりどりで、迷うけれどミィに似合うとっておきを探すように見回して。
「凄いショッピングモールがあるのだねぇ。どんな店が入っているのか、店のディスプレイを見てまわるだけでも楽しそうだけれど……その前に、やる事を先にやってしまわないと」
友人達へのプレゼントを購入するために。文はどれにしようかと悩ましげに見て回る。お菓子にオーナメント、防寒具。何でも揃ってしまうから迷い続けて困ってしまう。
「誰かの意見を聞きたい所だけど……? あれは万葉さんに面白山高原先輩、それに蛸地蔵君だっけ。可愛いな、仲が良いんだねぇ」
楽しげに歩く万葉に文は学生が好ましいアイテムは何かとアドバイス求めて声掛けた。万葉は「一緒に探しましょう?」と文の手を取り楽しげに。屹度素敵な物が見つかるはずだから。
広告や雑誌の記事で見た事あるバックやコート、化粧品に雑貨品。ショーウィンドウに並んでいるその様子を見詰めながらシルフィナは行き交う人々の幸福そうな微笑みに、胸が温かくなる。
同時に感じた寂寞は、自身には無いその心地よい空気はどのようなものなのだろう。
必要最低限の物を、とコスメを買い回り、リサーチと運動兼ねて周囲を見回して。
流行もメイドの嗜み。シルフィナはのんびりとクリスマスマーケットを眺め回る。
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ウロとリコリス、リーディアは一緒にレストランの食事を、と。モール内のレストランのテーブルを取り囲む。
寒すぎて寝ていたウロと言えばリコリスに叩き起こされ、恒温動物って怖いと肩すくめる。リーディアが持たせてくれたカイロとぽかぽかした衣服があればある程度は動けるかなあとぼんやりとメニューを眺めて首傾ぐ。
「こ~~いうとこ、ネズミとか出してくれないよね。じゃあ、トリたべる」
「そうだな、どれも美味しそうで悩んでしまうが……私はこのステーキと赤ワインを頂けるだろうか」
こんなに美味しい食事を楽しめるの、とリコリスは涎を溢れさせながら匂い似感動を覚えている。
リコリスが興味を持ったワインを「駄目だよ」と取り上げて、リーディアは彼女の涎を拭いてやる。代りに葡萄ジュースをと飲む彼女はふと不思議そうに首を傾いだ。
「うわっ! ウロウロおにーさんそれどうやってるの!? 顎の骨が凄いことになってるよ!? え? 自分で取り外し出来るの?」
トリを丸呑みしたウロの真似を為ようとしたリコリスに駄目だよと止めるリーディアはチキンの丸呑みは駄目だとウロに注意を一つ。そうした喧噪が心地よいのだと楽しげな空気に息を吐いて。
「美味しい、好き。はやく、たくさん、食べる、するぞ。
直感、いう、してる。こっちだ!! アルム、はやく、くる、するぞ」
カルウェットに誘われてアルムは「いくよ~」と手を引かれる。はやく、はやく、と急かすその声に、マーケットの楽しみを二人で存分に味わおうと笑み浮かべる。
「あ、ドリンクだってさ。カルウェット君は甘いホットチョコレートの方がいいかな? はい、どうぞ。俺はホットワインにしようかな。おつまみもあると嬉しいんだけど」
「……これ、なぁに? 真っ黒……はっ、珈琲!
前、のんだ……黒い珈琲苦い、学んでる。直感外す、した……うう。
うん? 違う、する? ……ほっと、ちょこれーと……あったかいあまい……おいしいねぇ」
珈琲じゃ無くてチョコレートは甘くて美味しくて、『好き』だから。カルウェットの幸せそうなその声にアルムは柔らかに笑みを浮かべる。
「これもあるよ」
「おぉ? これは? ヴルスト……?
うまー。すごいぞ。ここ、おいしい、たくさん、幸せ。両手、いっぱい、うま」
「はは。お土産も見ていく? 今日の想い出に、クリスマスの飾りとか……
ほら、天使のキーホルダーもあるよ。イルミネーション、綺麗だねえ。見ながら選ぼうか」
ベネディクトはリュティスへと私服をプレゼント。いつだって、従者のようにメイド服着用しているのも外出では困ってしまうだろう。
「着慣れないといいますか……普段と違うので落ち着かないといいますか……」
「よく似合ってると思うんだが……」
自身の見立てだけではなく、店員にも確認をし間違いがない物を購入したはずだがと唸るベネディクトに「いいえ、良いものです」とリュティスは照れくさそうにはにかんだ。
これは『ご主人様の息抜き』だ。ショッピングモールを共に廻って、紅茶やお茶請けを探そうとゆっくりと歩くリュティスに「リュティス」とベネディクトが呼び掛ける。
「今日ばかりは争いも起きない聖夜だ、領主としてでなく只の個人として息抜きが出来る――が、人が多い。
リュティス、手を。人が増えてきた、逸れないように」
「ふむ……逸れると合流できなさそうですね」
埋もれてしまうから。リュティスはベネディクトの手をそうと握る。冷たい手だと笑いかければリュティスはこてりと首を傾げて見せた。
「そうでしょうか? 御主人様の手は温かいですね」
煌びやかなイルミネーション。まるで御伽噺の世界をご主人様と二人旅するようで。
ベネディクトは「綺麗だな」と優しい笑みを浮かべてみせた。
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「世間はクリスマス! と、くればすることは一つ! 買い物だ! いざ戦場に行くぞぉ二人とも!」
何時もよりおめかしして、イルミナと茄子子を引き連れてクリスマスセールへと突入するブレンダ。服や化粧品、アクセサリーを買い漁らんと準備は万端だ。
「行くぞー! ッス! クリスマスでどこもお安くなってるッスね! 目移りしてしまいそう……とと、待ってくださいッスー!」
慌てるイルミナに茄子子は「シャイネンの買い物って恐ろしいんだね……!」と生唾をごくりと飲んだ。
とはいえファッションは二人とも明るくなくて――ここはブレンダ先生に教えを乞うのが一番だ。
「ならばイルミナ殿にはこのネックレス……茄子子殿にはこのマニキュアなんてどうだ?」
「えへへ、似合いますか?早速身に着けて行きたいッス!」
「マニキュア……そういうのもあるんだね! 流石ブレンダくん!ㅤ頼りになるぜ!」
戦利品は今日の記念に。付け慣れないネックレスも、慣れないマニキュアネイルだって一つあれば心が華やぐから。
買い物終わりはレストランのテラスでイルミネーションを見ようと誘うブレンダに荷物持ちのイルミナは「楽しみッスね!」と笑みを浮かべた。
「……へぇ、イルミネーションって綺麗なんだねぇ。ちゃんと見たこと無かったや。今日は疲れたけど楽しかったよ!」
だから――今日の記念に大きな声で『乾杯』と叫んでみよう。
マーケットの食べ歩き。フレイは紫月に何が食べたいかと問い掛けてマップを眺めてチキンを探す。
「私はクレープとかあるんならたべようかねぇ……」
悩ましげにマップを指さす紫月の横顔を伺ってからフレイはふと思い出す。
「そういや紫月は血を好むんだったよな。ちょくちょくこういう場に誘ってるが、楽しめているか? 本とかで見る吸血鬼は普通の食事じゃ味を感じないとかあったが……」
「私は楽しんどる方やねぇ。
確かに血は好むけど嗜好品で食べ物食べるのはするしなぁ。普通の食事でも好きやねぇ」
淡く笑みを浮かべた彼女にそれならよかったと頷いて、耀くイルミネーションを見にいこう。
美味しい物がお供なら何倍にも楽しめるはずだから。
「アイツ、服が無駄に気合入って無い? 再現性東京に合わせた服装なんだろうが……。
あとまだ約束の時間の20分前だぞ?あまりに早く来過ぎだろう。……まあいい、風邪引く前にさっさと店に行くぞ」
ぶつぶつと呟く世界にメルーナは「再現性東京らしい格好だよ」と胸を張る。トレーナーとショートパンツにハイソックス、モッズコートとスニーカーで再現性東京の何処にでも居る少女を演出してみせる。
スイーツ巡りはクリスマス限定は入念に。
「定番のケーキにマカロン、シュークリーム、パンケーキ……こっちは美味しいものが多くて良いわ。ブッシュドノエルっていうの? これも可愛いわね」
「お? ブッシュドノエルを気に入ったのか? 買ってやるから後で食べてみろよ」
メルーナはそのやさしさに有難うと一言呟いてから、もだもだと言葉を紡ぐ。
「あ……と、ところでアンタ……こないだのアレは本気……? その……私が、あの……可愛い、とか……」
「ん? 今何か言ったか? もう一度言ってくれ。もう少し大きい声で……えっ、忘れてだって?
了解。じゃあ可愛い可愛いメルーナちゃんの今言ったことは忘れておいてあげよう」
ああ、聞こえていたじゃ無い。メルーナは頬を膨らませて恨みがましく世界を見遣る。
「すごいね、街中がぴかぴかしてる!」
「……お前も本当に物好きというか、何というか。折角のシャイネンナハトを俺みたいな仮面野郎と一緒で良いの?」
イーハトーヴへと問い掛ける日向へと、彼は首をこてんと傾げる。日向と一緒なら楽しいと浮かべた笑みは楽しげで。
「つか、再現性東京って昔を思い出すな。こうも似てると、本当に元の世界に戻ってきちまったみたいだぜ」
「へええ、ここって、日向の元いた世界にそんなに似て……あっ、ホットワイン! あっちはカリーヴルストだって! 美味しそう!」
走るイーハトーヴを追いかけて日向は「はぐれちまうぞ?」と声掛ける。ぴた、と止って振り仰いで、イーハトーヴは久々の『おでかけ』で迷子になってはいけないと背筋をぴんと伸ばした。
「ねえ、日向は本物のトウキョウを知ってるんでしょう? トウキョウのクリスマスの歩き方、教えてもらえないかな?」
「んァ?本物の東京だって? 確かに知ってるには知ってるが、多分俺から見た東京は参考にならねーぞ? 俺はどちらかと言えば、真っ当に歩いてこなかったからな」
そんな風に反面教師だという日向にイーハトーヴは俺も良い人じゃないよと揶揄うように。
それでも、案内してくれるというならば今日はその流儀に任せて見て回ろう。
沫雪舞い散るその下で、弾き語りをとミルヴィは息を吸い込んだ。肺の奥まで凍て付く空気を吸い込めど、温まった喉はするりと声を踊らせる。
練達には『お母さん』が居るかも知れないから。少しでもミルヴィ=カーソンという乙女のことを知って欲しくて。
天仰ぎ歌う。弾き、楽しげに踊る様に。何時ものような悲しい歌は似合わない。だから『故郷を夢見る』人々へ、郷愁の――見果てぬ夢を届けるように。
――いつか、必ず遂げてみせるよ My fair dream♪
貴方達がいつか故郷に帰れるよう、いつか家族と再会できるように
小さな夢 きっと叶う My fair dream♪
だから、今は此の手を取って笑っていて。
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「オーホッホッ! 噂の再現性東京にやってきましたわ!
ここでは獣の耳や尻尾はNGらしいですから隠してきましたわ! 格好いいアイドル姿で!」
顔だけ出した獣の着ぐるみに身を包んだ伊織は好奇心の無数の目にさらされながらも胸を張る。
「ええ、これこそ百獣の王に相応しき装い……そうは思いませんか? 山田様、エルピス様?」
「すっごい、けものでフレンズって感じで良いと思う」
「……愛らしい、王様です」
頷くエルピスと雪風に伊織はふふん、と胸張り笑う。
「ホットワインなど飲みつつショッピングですわ! もっとお酒も持ってきて構わないですわよ!」
そうやってグラスを片手に意気揚々と歩く姿はへべれけの王様――ちょっぴり残念なのでした。
「トリック・アンド・トリート♪ お菓子くれても悪戯しちゃうぞ。クリスマス? 聞こえませーん」
マリカに雪風は「でもクリスマス!」と周囲を指さした。
「しょうがないにゃあ……ほら、赤い服を着て大きな袋を持てば誰がどう見てもサンタさん♪
みんなに手作りのお菓子のプレゼントだよ。コウモリの装飾? 袋がジャック・オ・ランタン柄? こまけぇこたぁいいんだよ」
ハロウィンだっていつでも楽しめる物だから。マリカは悪戯気分でお菓子に辛い味わいを仕込んで――どうしてか自分にも返ってきたとぎゃあと叫んだ。
「大変失礼致しました、この様な場所に足を運ぶのは初めてでして」
「いいえ、こちらも可愛らしい物に気を取られて注意散漫でした。お怪我などありませんでしたか?」
慣れない再現性東京で、不注意でぶつかったセレーネとジュリエットは慌てたように互いを確かめ合う。まだまだ召喚されたばかりのセレーネにジュリエットは「よければご一緒しませんか? お詫びにご案内致します」と恭しく微笑んだ。
姫君に誘われて、モールを歩むセレーネはふと、ぬいぐるみのショップで足を止めた彼女の視線を追いかける。
「あら、可愛らしいぬいぐるみ……猫に、犬に色々と種類がある様子ですが。イーリスさんはどのような動物が好きですか?」
「まぁ、本当に可愛い。……私は、そうですね……」
可愛らしいリボンの兎を手に取ったジュリエット。セレーネは爬虫類以外なら大丈夫と呟いて、目の前でぴょこりと動いた人形の腕に瞬いた。
「シルヴァラントさん、お友達になってくれますか?」
「ええ、私でよろしいのでしたら、喜んで」
スポーティな私服に身を包んでSpiegelⅡは緊張したようにショーウィンドウに映り込んだ自身を見遣る。
「……やはり、戦闘服(コンバットスーツ)以外の服を着ることに違和感を感じますな。
いえ、この場においては、これこそが戦闘服。そう言うことですね」
ふんすとやる気を満ちあふれさせれば、エッダは「そうでありますな」と頷いた。
「知らない場所を楽しむというのも醍醐味であります。
行きますよ、シュピーゲル。色々と買い物をした後はレストランで食事。
あまりお高いのをぶっつけても味わからんでありましょうし、シンプルな洋食屋に、分かりましたか?」
「はい。では、この近くのレストランを検索します」
足を踏み入れないその場所を興味深そうに眺めるSpiegelⅡをエッダはまじまじと見遣る。
戦い以外のことを知らない彼女。それは決して不幸なだけではないかもしれない。己もそうあれたらと――そう、思うことがあれども。
「美味しいですか?」
微笑んで、人間らしいその言葉を求めるようにエッダはSpiegelⅡへと問い掛けた。
「クリスマス……シャイネンナハトのようなものだろうなぁ」
「こっちではそう呼ぶのか。まあ、折角だからのんびり楽しもう」
頷くレイリーにエレンシアは行こうと頷いた。異国情緒のマーケット、練達に売られる品は何処か不思議が連続していて。
「ティーセット、一緒に買わない? エレンシア殿。そして、一緒にお茶会しましょ」
「ん-? ティーセットか……あたしの柄でもない気はするがそれはそれで悪くはないな」
一緒に茶会をするのも楽しいから、笑みを浮かべたエレンシアとレイリーは茶器をレジカウンターへと運んでから、次はどうしようと首を捻り――
「実はあたしは、あれだ、『クリスマス限定メニュー』というのが少し気になっているんだ」
「確かに! 再現されたクリスマスの料理って気になる!」
一緒にレストランに入ってクリスマス特別メニューを楽しもう。ハンバーグステーキにサンタクロースの微笑むケーキ。混沌世界の料理とは余り変わりないようで、チープでなその味わいに二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「自分達でもつくってみたいなぁ!」――なんて、次の約束はもうお決まり。
「待たせて悪いな、コルク」
「お待ちしておりましたわ、ウィリアム様。ふふ、レディを待たせるなんて酷い殿方ですわ」
くすり、と小さく笑みを浮かべたコルクに「あんまり意地悪なことを言わないでくれよ」とウィリアムは小さく微笑んだ。
「――なんて、ワタシも今着いた所なんですの。ね、ウィリアム様。ワタシ、シャイネンナハトってあまり知りませんのよ」
だから、教えて下さいと伺う彼女にウィリアムは頷いた。『輝かんばかりのこの夜に』争いは全て失われ、願いの成就する日。そんな御伽噺を語り聞かせれば降る雪が暖かくも感じられて。
「ああ。今日一日が、混沌で一番綺麗な日なのは間違いないだろうな」
戦いも無い美しい風景。知らない事を、知りたいから。コルクは「もっと教えて下さい」と微笑んだ。
「俺だって何でも知ってる訳じゃない。でも……俺に教えられる事なら、教えてやるさ。
未知を知る、それはとても楽しい事でもあるからな。護る世界……だなんて、大袈裟だけど」
耀かんばかりのこの夜に。その言葉を口にすればどこまでも暖かい。
「えりちゃん寒くない? こうすれば暖かいかな?」
体をくっつけるように寄り添って、腕を組んで肩へと顎を乗せる。その距離が愛おしくてエリザベートはユーリエに微笑んだ。
「ここの風景……、中世のヨーロッパを意識した造りなんだって。えりちゃんが元居た世界と似た建築物もあるかな?」
ユーリエに問われればエリザベートは幼い頃の街並みを思い出す。ワラキア、東欧羅巴――あぁ少し懐かしいと望郷を想い笑む。
「そうですね、私の故郷ににています。遠い昔。
ユーリエくらいの年齢の頃でしょうか……城からみた街並みがにてますね」
想い出に浸り、アクセサリーショップとにらめっこ。ユーリエが選んだリボンと其れに合わせてエリザベートはネックレスを選択れば噴水広場の光が淡く溢れ出す。
「寒くなってきましたね……」
「外は寒いけれど……えりちゃんは暖かいね。お家に帰ったら沢山暖めて貰わなきゃ!」
口付けを一度、至近距離で目を合わせ「そう、たっぷり暖めてあげる……」とエリザベートは微笑んだ。
もう一度重ねれば、それは深く濃く。溺れてしまいそうな気配で。
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「イルミネーション! 近くで見てもキラキラしてて綺麗ですし、きっと高所から見られればもっと綺麗ですね」
窓の外に見え溢れる光にLumiliaは夢中。嗚呼、此の景色を巨躯にして皆に伝えるならばどうしよう。翼をぱたりぱたりと動かしてまじまじと見遣るLumiliaを見詰めるマルベートはくすりと笑った。
「観覧車か。ロマンチックで良いものだね? ルミネーションが綺麗だね。まるで地上に瞬く星々のようだ。
翼を動かす事なく、寒さに耐える事もなく、美しい景色だけに集中できるのは実に嬉しいものだね」
けれどゴンドラの中に彼女の匂いがするから『変な気を起こしそう』なんて言葉は飲み込んで。
「あっ…ご、ごめんなさいマルベートさん。私、夢中で。
……ああ、そうでした。昨年度は何度もいろんなところへ連れていって頂きました。ありがとうございます。今年も是非、よろしくおねがいしますね」
「ああ、もちろん。この楽園のような小部屋を出るのはとても名残惜しいけど……まあ、これからも君と一緒に過ごす時間は沢山あるからね」
お手をどうぞ、お嬢様。そう微笑んだ彼女にLumiliaはゆっくりと頷いた。
「レッドさん、大型観覧車一緒に乗りましょう? きっと綺麗な景色が見れますよ」
「こういうのに乗るのは初めてっすから緊張するっす」
手を引かれたレッドは緊張したようにアルヴァを見遣った。手を繋いだまま外を見るために身を寄せ合えば寒さなんか感じない。
「その、すごく綺麗……です」
夜景じゃ無くてレッドのことを、そんなことはぺろりと飲んだアルヴァはこの時間がずっとと願い掛けて首を振る。
「レッドさん、その……! ――来年も一緒に」
「そうっすね! また来年も出来れば一緒に楽しもうっす!」
来年かぁと思い浮かべて小さく笑う。まだまだこれから時間は沢山あるから。
けれど、『関係』のもう一歩を進めたいアルヴァは半人前だと困った笑みを浮かべる。
レッドは彼の顔を見て、くすりと笑った――本当は、薄々気付いているけれど其れは今は秘密だから。
「安寧の夢の為、己の翼を縛る者達が……空を再び望むとは。
……その底無しの欲には恐れ入る限りではあるが、その想いが彩る今宵を空から眺めるも一興」
乗り込まんとしたウォリアへと混合っているから相乗りをオススメしますと声が掛る。
「観覧車は相乗りなので御座いますね。混んでおりますから致し方ないことでしょう」
のんびりと乗り込んで幻は袖振り合うも多生の縁かと顔を上げた。
「はじめまして、奇術師の夜乃幻と申します。どうぞご贔屓に。貴方の名前はなんと仰るのでしょう?」
偶然に生まれた15分。幻の穏やかな声音にウォリアはヨロシクと一声掛けてから「様々な名で呼ばれるが『ウォリア』でよい」と言った。
巨躯を思わす鎧。だが、素直な返答が帰ってくると思えばどこか不思議で。
「そういえば――狼鎧様に暖かい所でアイスは乙ですよ」
「ふむ……頂こう」
ヒトが嗜む氷菓。その不思議な感覚を感じながらウォリアは賞味した。その様子がどこかおかしくて、幻の唇にはふ、と小さな笑みが乗って。
「再現性東京、はじめて来たけどびっくりねえ。見たことないもの、たくさんだわ。
ね、ジルは高い場所は平気? ねえねえ、あんあに大きな、あの観覧車、乗ってみましょうよ」
「……ってアレ乗れるんすか?! 凄いっすねー。僕、乗ってみたいっす!」
ポシェティケトに誘われて観覧車に乗り込めばごうん、ごうんと響く音。ポシェティケトは乗るのも回るのも凄いと地を指さして「今までワタシ達は彼処に居たの」と微笑んだ。
「本当にお星様がいろんなところにあって、まるで、空を飛んでいるみたいっすね。
本当の『東京』という場所でもきっとこんな風に空を楽しんでたんすね……」
「ええ、ええ。ピカピカで綺麗ねえ。ねえ、ジル。降りたら知らない食べ物を食べに行きましょう?」
「おいしいものだったら、ラーメンとかどうっすか?
再現性東京には、色々なラーメンがあるっすよ! 寒い日だから、暖かいラーメンは最高っす」
ジルの言葉にポシェティケトの相棒は金色綿毛をふわりと揺らしご一緒しますと返事した。
(はわ、2人で来ちゃった)
高いところは少し苦手、だけれど、興味もそそるしと緊張に身を固くしたメルトリリスをちら、と見遣ったシュバルツは「アリス」とその名を呼んだ。
「あそこ見てみろよ、イルミネーションがまるで星のようだぜ」
「はわわ、すごい、練達の文化ってとても凄い。
……こんな回る乗り物、何が面白いのかな? と思ったけど」
乗ってみれば心が騒ぐ。溢れる光から離れるからだが空へ向かって登っていく。心騒ぎ、笑みを湛えたメルトリリスの横顔にシュバルツは共に来た甲斐があると微笑んだ。
「シュバルツ、みてっ、来た道とか全部小さくなった!
それに幻想的な風景がずっと先まで見える、観覧車ってとても凄いのですね」
「ああ、そうだな」
「えへへ――は、はわ。シュバルツは、子供っぽいのはそ、その、えとあの、あまり好みではありませんか? 早く、大人になりたいです」
慌てたメルトリリスの頬に朱が昇る。『大人な彼』には子供っぽく映ったかな、と頬に被さる髪をつい、と弄ったメルトリリスへとシュバルツは「大人なんて損ばっかりだぞ?」と揶揄い笑う。
「……そういや、観覧車って吊り下がっているからこうすれば揺れるのか?」
「ゆらす!? それはだめ、あ、落ちる!」
慌てるメルトリリスに「アリス、落ちない」とシュバルツは可笑しそうに微笑んだ。
●
より美しさを引き立てる場所へ――気分良く羨望の眼差しを貰うためにとロケハンに訪れたセレマの傍らでよく分かっていないという顔をした百合子が立っていた。
(……人選ミスか? だがこいつもガワはよく傍に置く事がステータスになるのは確かだ。食って飲んでばっかで色気ないけど)
溜息着いたセレマの傍らで、美少女と呼ばれた種族の百合子は『己を飾ることはめんどくせぇである』と屋台でヴルストを楽しんでいる。
『ガラス細工の薔薇のような薄幸なボク』に似合う場所をと探す彼を見遣りながらaPhoneで写真を撮る百合子は後で見せてやろうかと小さく笑みを浮かべ――
「しかしこの美少女はボクに称賛の言葉をかけるどころか端末ばっかり触って暇そうだな。
なんか腹立つから観覧車にでも放り込んでやろうか。美少年であるボクに付き合わせてやってるだからもっと喜べよ」
観覧車か、と頷いた百合子はその景色を楽しもうとし――夜景を背景にする自分にうっとりする美少年を一度殴った方が良いのかと頭を悩ませた。
飛べないからこそ、空を憧れて――
観覧車の大きさに圧倒されたようにぽかんと見上げたマルクは「天辺はあんなに高く。あのゴンドラで、あそこまで登れるんだね」と呟いた。
「ええ、一周が終わるまでのゆっくりとした時間、だそうですよ」
パンフレット片手のリンディスはマルクの真似して見上げてみせる。飛行術を使ったときとは違って慣れない感覚と変わっていく景色、ゴンドラに揺られ中が変わりゆく空を眺めて丸くはリンディスと呼んだ。
「ほら、こっち見てよ。さっきまで僕らがいた通りが、あんなに小さく!それに、こうやって空から見ると、イルミネーションってまるで地上の星みたいだね」
「ええ――あ、あちらで見上げてるお二人が少し前の私達みたいな感じでしょうか」
こうして空から見れば不思議な笑顔を浮かべているように見えて。
イルミネーション、地上の星も。下から見遣れば強烈な光に見えるのに。空から見れば淡く美しい。
「シャイネンナハトに、この素敵な光景を二人で見ることができて、嬉しいよ」
「ええ、私もご一緒出来て良かったです。降りたところに夜景の写真を売っているところがありましたし、見て行きましょうか?」
想い出を閉じ込めた写真は今日という日を刻むように。
「東京、だったかしら。キラキラして……綺麗な光景ね」
ルルリアの横顔に視線がつい、言ってしまうけれど。アンナは特別な日にふたりっきりのゴンドラで意識していることがばれないような平静の声音でそう言った。
「アンナ、見てください! 景色が綺麗ですよーっ」
「……ねぇ、ルル。そっちに行っても良い?」
人恋しいんですか、と顔を覗き込む。ルルリアの頬にも朱が昇る。共に在る事は友情だと思っていたけれど――考えると胸がどきどきと、高鳴ってしまうから。
「……じっとしてると寒いからよ。こうしている方が落ち着いて眺められるわ」
ぎゅう、とその腕を抱き締めて。恋人のように寄り添えばルルリアの耳はぴん、と立った。
まるで愛しい人に寄り添うような、その空気が恋しくて。ルルリアは今の関係が壊れることを怖れるようにそう、と寄り添った。
「……好きよ、ルル」
名残惜しいその体温に、アンナが呟けば、喧噪の中でルルリアは「空耳……?」とぽつりと零す.何時か、『確かな声』が聞けることを切に願って――
「私観覧車って初めてかも! VDMランドにもあるんだけどまだ試験中だし……」
おっかなびっくり、まじまじと確かめるようなマリアにヴァレーリヤはあら、であれば私達、両方とも初経験ですわね?」と小さく笑う。
「ありがとうマリィ。開園よりも先に観覧車を楽しめるだなんて幸せ……素敵な思い出にしましょうねっ!」
「君のそういうポジティブなとこ、大好きだよ。よっと……ヴァリューシャ、足元気を付けて」
差し出された手を取ろうとして、脚が縺れてマリアに抱き留められて、ヴァレーリヤの頬に朱が昇る。
「その……! 隣に座っても……いいかい……? 普段は飛行している空も、こうやって見ると素敵だね」
「ええ、一緒に座って、夜景を楽しみましょう? 何度見ても、空から見る景色は綺麗ですわね……」
寄り添って、共に空を散歩した日を思い出す。こんな日がずっと続けばと唇から滑り出た言葉へとヴァレーリヤは目を細めて「ええ」と頷いた。
「そうですわね……ねえマリィ、私、今とっても幸せでしてよ?」
甘えるようなその体温が何よりも愛おしいから。マリアはもう少しだけ時間よ続けと祈るように微笑んで。
空に浮かんだゴンドラを、見上げたディアナの手を引いてセージは「行こうか」と乗り込んだ。
エスコートひとつに胸が高鳴り頬が赤らんで、そんな純情。彼は平然と手を引いていくから。少し悔しくて、カップルのように手をぎゅうと握り直す。
「嫌なら戻すわ」
指先絡めて握りしめて。嫌なわけがないさ、と恋人を意識するように握りしめた。
ゴンドラが動いていくその刹那に、ディアナは唇を噛み締める。ああ、大人って狡いのだから。
「そろそろ天辺かしら? 綺麗ね。地上が煌めいて」
「ああ、綺麗なもんだな」
夜景に見惚れてはしゃぐディアナはちらとセージを盗み見て。大人って狡いと唇を尖らせた。
セージは――はしゃぐ彼女の姿に見惚れている、なんて。口には出さないけれど。
「来年も、そのまた来年も……連れてきて頂戴ね」
一緒に居たいと素直に言えなくても、伝わっているから。可愛いおねだりに、セージは大きく頷いて。
●
「クリスマス、いいよね。僕も、クリスマス、祝ってて……祝いに……祝うのに……何をしてたんだったっけ……」
朧気テオも出せない、けれど、ここは綺麗で遊園地みたいで楽しそう。祝音はふわふわとした心地で観覧車へと乗り込んだ。
一人きりのゴンドラから眺めるイルミネーションは美しくて。綺麗だと思わず唇から言葉が漏れる。
「観覧車、前もこうやって……皆と……」
家族が居たはず――けれど、詳細は思い出せないとううんと首を捻ってみせる。
「皆と……皆は……召喚されたの、僕だけ、だったかも……また、会えるかな」
再会を望むように頭を悩まして、ゴンドラを下りたら美味しい物を探しに行こう。
「てっきり『誠吾さん、高いところ怖いです』っていうかと思ったんだが、お前飛べるんだったな」
想像とは違ったとソフィリアに声を掛ける誠吾へと、んーと悩ましげなソフィリアは「普段はよく飛んでるのですよ」と胸を張る。
再現性東京は自由に飛べないのが少し残念だけれど、こうして空からツリーやイルミネーションを見られるのは喜ばしくて。
「俺、お前が鳥になった姿未だに見てないんだよな」
背中に翼が在るのは見慣れても、『鳥』そのものになった彼女は見た事はないから。
「んー……鳥になったらお話出来ないのですよ」
「綺麗っていうから見てみたかったんだが……無理強いはできねーな。喋れないと不便だし」
今度、と揶揄うソフィリアに、ふと誠吾は忘れていたと彼女の膝に小箱をぽいと投げ寄越す。
「やる」
「……! うちは用意して無いのです! えっと……ありがとうなのですよ……」
そうやってプレゼントを貰えたことが嬉しくて、頬が赤らみ心がぽかぽかと温かくなっていく。
ソフィリアがはにかめば誠吾は頬を掻いて柄じゃ無いけどとそっぽを向いた。
「わ……練達って、凄いですね。ボク、あんなの初めて見ました」
「観覧車、というそうです。乗る前から、わくわくして、乗ってからも、わくわくします」
心躍るネーヴェの傍らで魔法使いたるアイラは風の魔力ではなく電気で動く観覧車に胸躍らせた。
どんどん高く、二人を空へと運ぶゴンドラ。別の国が、世界が見えればわあ、と声を上げて指さして。
「アイラ様、すごい、すごいです! 上がってます!
あ、ち、違うのですアイラ様! 初めてだから、興奮してしまって」
「ふふ、うんうん。そうだね、初めてだもんね?
きらきら光るネオンのライトが、とっても新鮮。鮮やかで華やかで、なんだか夢心地」
二人揃って頬赤らめて、もう少しだけ子供のようにはしゃいでいようと指を差す。
天辺はまるで星すら掴めそうな程で。硝子越しの夜空に手を伸ばす。
「今ならシャイネンナハトのツリーの上に飾る、星を用意することだってできちゃいそうだ……なんて!」
揶揄う声に小さく笑って。そうであれば、幸せだと目を見合わせた。
グリューワインが欲しいのだけど、とルチアは言ってはみたけれど未成年にはNGと断られたとふてくされる。
「ルチアさん。偶然ですね。観覧車から見る景色は綺麗らしいので、ご一緒にいかがですか?」
「……一人寂しく街並みを眺めて居ただけだし、それは名案」
知らない中でも無いからと、ルチアがゴンドラに乗り込んでから鏡禍はは、と思い浮かぶ。
女生徒二人っきりの観覧車。デートと言われるものではないかと緊張に身を固くして。
「……あら? どうしたの? やっぱり、私のような女が相席じゃ楽しめないかしら?」
揶揄うように微笑んで、「けれど綺麗よ」と宝石のような夜景を指さして。
ルチアの貌を見ては赤らんでしまうから。「そ、そんな! とても楽しいです、よ?」と、取り繕った声音は僅かに震えて。
お手をどうぞと誘って。廻は怖くないようにとしっかりと支える。
「ふふ、ぎゅうぎゅうになっちゃうかしら……って、もしかして、そういえば……観覧車ってあのてっぺんまで行くのよねぇ!? あああ私高い所駄目だったわぁ!」
慌てるアーリアに廻はぱちりと瞬いた。魔女たる技能を持った彼女は空を飛べるはず――だが。
「違うのよ、飛行は使えるけど戦ってる時は真剣だし箒に乗ってる時は自分でコントロールできるんだけど、これは信用できないわよぉ!」
「確かに、ゴンドラですから」
くす、と笑えばホットワインを握る手も少し震えて。アーリアは怖いけれど、皆と一緒で在る事が楽しいと下を見ないようにただワインを見詰めていた。
「見て、塔があんなに小さいよ! それにこんなに高い!
人間をバケットに入れて回すなんて、トーキョーの人はかわったことを考えるんだね」
慣れない観覧車に眸をきらりと耀かせたカルネは心を躍らせる。
「観覧車はちょっと揺れるかもしれないけど大丈夫ですよ」
動き続ける観覧車、不思議が一杯の其れは東京ビギナーのカルネにとって不思議が一杯で。
(飲食もよいだろうが。アルコールは大丈夫なのだろうか。雰囲気によって量が進んでしまう気がするな。廻君はお酒が強いわけでも無いしな)
廻の為にと何種類かノンアルコールカクテルを持ち込んでいた愛無は嘘から出た誠で天辺で止ってしまったらどうしようかと首傾ぐ。
ホットワインを傾けた竜真は「大丈夫だろう」と深く頷く。ノンアルコールで雰囲気を楽しむ彼は元の世界では知らない事ばかりだとグラスを傾けながら広がる夜景に息を飲む。
(……シャイネンナハト、か。あっちはまた同じように、クリスマスを迎えることができたんだろうか。まあ、もう戻れない場所を気にしても仕方ないんだろうが)
――それでも故郷を思い浮かべてしまうから。飲み込むようにごくり、と音を立てて空いたグラスへとノンアルコールのジュースを注いだシルキィは「綺麗だねぇ」と瞬いた。
「空を飛べば、見える景色は同じはず……ううん、きっと、もっと広い景色が見えるはずなのに。
どうして、この窓が切り取った景色の方がずっと綺麗だって思えるんだろうねぇ?」
自分で飛べば、好きな高度で楽しめて。全ての主導権は自分にあるけれど。
観覧車はいとも容易く『天辺』から去って空を下ってしまうから。名残惜しいとシルキィは擽ったそうに笑み零す。
「誘ってくれてありがとう。とっても嬉しかったよ。けど、ううん。まだ終わりじゃないよね。ほらっ――また一緒に、遊びに行こうね。乾杯!」
ワインと葡萄ジュース。勿論、お酒やジュースのお供も存分に味わって。
「来年もこうして続けられたらいいですね」
廻とカルネへと頷いて。もう一週も楽しいかもと揶揄うシルキィにアーリアは「ええ」と怯えたように肩を竦めた。
●
「か、籠を吊るした巨大な車輪が目の前に……カンランシャっていうんだ? よし、乗ってみようか!」
緊張した様子のルーキスは共に乗り込むエルピスをそうと伺う。
「そういえばエルピスは空、飛べるんだよね……やっぱり高い所には慣れてる? 怖くない?
俺、実はこんなに高い所は初めてで、その、あ、これ動くと揺れあ゛ぁ゛ぁぁっ――」
「わたしは、怖くはありません。空は、何にも邪魔されないので、とてもすきです」
慌てる様子のルーキスにエルピスは首を傾いで瞬いた。
息も絶え絶えになるルーキスは「空を飛ぶってこんな感じなのかな……」と呟いた。
種族特徴は、人それぞれ。エルピスは天使のような翼、と自身を称してくれる人が居た。
優しい友人を思い出してから、「ルーキス様は普通のひとですが、それも尊いことですね」と笑みを浮かべる。
「種族特徴と言えば…エルピスを初めて見た時、とても綺麗な翼だなって思ったんだ。いや……勿論、翼以外も綺麗だし可愛いけど!」
「……きれい、ですか?」
ぱちりと瞬く彼女にかあ、と頬に熱が上がる。エルピスは「有難うございます」と何処か照れくさそうにはにかんだ。
(しまった、勢いでもの凄く恥ずかしい事を言ってしまった気がする……)
「花丸ちゃんは自力で飛べるけど、此処は希望ヶ浜。
日常の中の非日常も良いかもだけれど、日常も確り楽しまないとだもんねっ!
ひよのさんが望むなら観覧車とは別にお空の旅にご招待するのも吝かじゃないけどもっ!」
「それでは、いつか」
そう返されれば吝かではないと胸を張った花丸は「任せて」と微笑んだ。
イルミネーションを間近で見るのも楽しいけれど、こうして観覧車から眺めるのも新鮮で。
「あ、ひよのさんっ! 見てみて、あっち! 学園が見えるよっ!」
「本当ですね。灯りが付いている。学園もパーティーをしているのでしょうか」
二人して、覗き込めば笑みが浮かんで。くすくすと、小さな笑みを噛み殺し花丸はひよのを覗き込む。
「ひよのさん、観覧車を降りたらマーケットに行く? それとも、オシャレにレストラン? な、悩ましい……ひよのさんは何処か行きたいところはある?」
「なら、どちらも。まだまだ時間はたっぷりありますから、ね?」
「やーべ、帰れぬまま年越しだわ」
「元の世界に帰れる手がかりはきっと見つかりますよ。私もお手伝いしますから……!」
誠司に微笑んだアイシャはくしゅん、と小さなくしゃみ。アイシャは自分の希望を無視することが減ってきて、随分と良い感じに進んでいたけれど――そのくしゃみは見過ごせない。
「ほら、お前それ寒いだろ。兄ちゃんのマフラー巻いときな」
「長いマフラーは二人で巻けるからとっても温かいですね。ありがとうございます、お兄ちゃん」
二人分をすっぽりと包む長いマフラーに包まって観覧車に乗り込めば、夜景が光のように落ちてくる。
頭を撫でられて、アイシャは自分が誰かに愛されて結ばれる未来なんて想像できないと茫と考えた。
誠司はこの灯りは誰かの平穏の営みだと指さして。温かい家庭の象徴は、彼女が幸福になる未来があるはずだと思わせてくれるから。
「アイシャも何の心配もなく食べて、笑えるようになって、大事な人見つけて。
兄ちゃん居なくなっても大丈夫になるまで一緒にいるから」
「……はい」
――誠司はいつかはいなくなってしまうから。分かっているけれど、彼の幸せが、どうしても寂しくて。
「お兄ちゃん……その日が来たらちゃんと笑顔でさよならを言いますから……それまではいなくなるだなんて言わないで下さい……っ」
アイシャが好きだと撫でてくれる掌が、どうしても、寂しくて。
「再現性東京かあ! いつ来てもここは凄いな。
なじみくんを助けに行ってから久々に足を運んだから……数えて3ヶ月ぶりかな」
カイトを誘うようにリースリットは観覧車へと手招いた。ゴンドラでゆっくりと見渡すのは新鮮だという彼女にぐらりと風で揺らぐことは不安だとカイトは頬を掻く。
「いやはや、練達の文面とかには疎くて……リズはこう言う高いところとかは平気?」
「練達のこういう所は、本当に他国では真似のできないすごい所だと思います。
ええ、高い所は平気ですよ。これより高い高度でも飛べますし、その経験が活きますね。
それが無かったら、流石に平静ではいられなかったかもしれませんけど」
真っ逆さまに落ちていく――なんて恐ろしい事があると驚いてしまうから。ふと、顔を上げたリースリットとカイトは同じように『天義』と『幻想』を探すように指さした。
「……飛んだらいつでも見られる夜景だけど、あえて乗るって言うのもいいものだ」
彼女の微笑みを見れば癒されるから。カイトはリースリットを覗き込み「ありがとう」と微笑んだ。
共にこうして景色を見れたことを喜ぶようにリースリットは「ありがとうございます」と柔らかに微笑んで。
「折角のシャイネンナハトです。輝かんばかりのこの夜を、目一杯。楽しみましょう」
「はい。これは……不思議な乗り物、ですね」
雪之丞はエルピスに自身も初めて乗るのだとその手をそうと握りしめてゴンドラへと乗り込んだ。
「……今日はひとつ、エルピスにお願いを。
我がままですが、様を付けずに、呼んでもらえたら嬉しいです。
呼び捨てでもいいですし、親しい友人は、雪と呼びますから、そう呼んでもらっても」
「呼び捨て、ですか?」
ぱちり、と瞬く彼女。随分と時を共にしてきても、未だ抜けぬクセは『雪之丞さま』とその名を呼んでいたから。
「……無理は言いません。理由は、そうですね。エルピスと、仲良くなりたいから。です。
ただの、一人の雪之丞として、エルピス。貴方と向き合いたいから。です」
「ええと……雪、さん、とお呼びしたいです」
恥ずかしげに、目を細めたエルピスに雪之丞は「はい」と頷いた。少しずつ距離が縮まって仲良くなれることが何よりも嬉しいから――指切りで、次も何処かへ往こうと誓って。
●
ヒトの姿でハイネックにプリーツスカート、ブーツとトレンチコートは再現性東京らしい服装で。
似合うだろうかとショウウィンドウとクレマァダはにらめっこ。
駆け寄ってくるフェルディンはニットセーターとスキニー、ローファーとダッフルコートと普段とは違う装いで。
「ああ、すみません。お待たせしてしまったでしょうか?
お詫びに、普段以上に全力でエスコートを――いえ、ですがその前に……」
「うむ。待ってないぞ。今来た。エスコートしてくれるのじゃろう?」
何かと首を傾げたクレマァダにしか聞こえない声音は只優しく、慈しむように。
――とてもお似合いで、綺麗ですね。とその言葉にかんばせが咲く。
動くゴンドラに緊張しながらも体を固めたクレマァダは「……高いなあ」と小さく呟いた。
「ああそうじゃ。フェルディン。シャイネンナハトの贈物じゃ」
「おや……これは!」
ハンドバックから取り出された小箱にはラペルピン。地金は白金で獅子を象り、瞳に血赤珊瑚。
彼の為と選んだ其れにお返しというようにフェルディンは紅の宝石を加工した遍デュラムネックレスを差し出した。似合うと思って、の言葉にぱちりと瞬けば喜びは小さく溢れた。
此の世界は物珍しい物ばかり。愛しい小鳥と――愛しい紫月と『番』になって初めて過ごす聖なる夜を特別な物とするために。新たな輝き湛えたその刹那は夜のとばりなど忘れた煌びやかさに包まれる。
「眩しくって落ち着かないくらいだけれど、小鳥が楽しそうなのが何よりも嬉しいさ」
「……普段自身は空を飛べるけど…それとはまた違う。楽しい……」
――大切で大好きな人と、こんな高いところで二人きり。誰にも邪魔されない空気さえ愛おしい。
ヨタカは武器商人をそう、と覗き込む。戯ける事も無く、言葉は緊張の音孕み唇から遊び出た。
「俺と……番となってともに歩んでくれて……ありがとう……来年も……共に歩いて欲しい……」
とく、とくとリズミカルな鼓動が早くなる。それさえ、心地よく感じられて武器商人は笑み浮かべて頷いた。
「もちろん、おまえが望んでくれるなら。願わくばこの鳥籠(アタシ)を終の住処にしておくれね、ヨタカ」
この鳥籠の鍵は開いているけれど、君はずっと此処で体を預けてくれる。光の海で微笑み合って、それを確かめるように手を重ねた。
「わぁ……! 練達の夜景が凄いのは知っていたが、こんな風に見るのはまた凄いな!」
ポテトが静かに息を飲む。リゲル先生と『再現性東京』だけの呼び方は少しだけ非日常を感じて。
「普段はあの星々の中暮らしていると思うと感慨深い。
今年一年、ポテトは真面目に勉学を頑張っていたね。どの世界でも真摯に向き合う姿は綺麗だったよ」
くすりと笑って頬を撫でられればポテトは長い睫で影を落として「ありがとう」と頷いた。
「先生としてみんなに勉強を教えるリゲルも素敵だったぞ。
毎晩みんなに分かりやすく教えるために毎晩頑張っているから、みんなもリゲルの授業分かりやすいって言ってる」
にんまりと微笑んだポテトのかんせが余りにも『可愛くて』。普段の彼女は美しいが、自分にだけ見せてくれる微笑みが何よりも素敵で、愛おしい。
そうと貌を近づけて唇を重ね合わせる。魔法のような時間が続いて欲しいと名残惜しげに離れればポテトは紺の手作りマフラーをそっと彼の首元へと。
「リゲルがあったかく過ごせますように」
「ああ、寒がりなポテトへ、今年の冬も温かく過ごせるように」
ふわふわとした暖かな手袋を嵌めた指先が頬を撫でる。その感覚さえ愛しくて。
「幻想にはない初めての観覧車、わくわくしちゃいますね!」
「ああ、シフォリィは観覧車は初めてか、実は俺もなんだ。
なんだかこういう夜景を眺めるのも懐かしい気がするよ。都会の街並み、東京という場所もこんなところだったな、ってね」
クロバの横顔をチラリとみてからシフォリィは笑みを浮かべた。年甲斐も無くはしゃぐ彼女と対照的に故郷を思い出すクロバは寂寞を覚える。
「観覧車ってこんな景色が見れたんだな。少しあこがれだったから乗れてよかったよ。
今でさえこんなんだから頂上に登ったらどんな綺麗なものが見れるのやら――」
ふと、顔を上げ、口を開いたその言葉を堰き止めるように。ぐ、と背を伸ばしてシフォリィの赤い唇が重なった。
言葉なんて奪い去るように。天辺での空中での口付けにクロバは驚いたように目を見開いてはにかんだ。
「……突然キスなんかしてきて一体どういうつもりなのかなホント君は。
まったく……そんなに幸せそうな顔なんてされたら夜景なんて見ていられないだろうに」
そう、と肩を抱き寄せれば預けられる体温が心地よい。地上に降りるまでもう少し、その距離で過ごしていよう。
「まぁ……なんて綺麗なんでしょう!」
まろうは眸をきらりと耀かせ、傍らに寄り添うクィニーを見上げる。
「うっわあ……! 明るい!」
地上の光が明るすぎて、星空が薄らいで見える。空と地が一つになったような、溢れる光は願いを叶えるようで。
「まろうさんや」
「はい、QZさま」
それはいつも通り。けれど、いつも通りが嬉しいから。まろうはクィニー見上げて微笑んだ。
「いつまでもずっと、こうして貴女と幸せを分かち合いたいな
――結婚、しようよ。一緒に生きよう」
「……はい、はい、QZさま……!」
手を握って、ぬくもりを分け合って。幸せにすると誓うように。結婚なんて縛る鎖だと思えない程、愛おしさ。
あなただから、つたない愛でも良いと許してくれるから。だから、此の幸せに唇を重ねて。
「どうか、お側にいさせてください」
――溢れる、涙は幸福の証のように。愛しい人と、どうか、とこしえに。
●
希望ヶ浜学園の校舎を散歩しながらシキは近づくことは無かったのに、どうしてか今日はここへ往かねばならないとそう感じていた。
ふと見遣れば暗い教室から漏れる光。ランプの暖かな灯りに誘われて、ゆっくりと歩み寄る。
かつり、かつりの音を聞き希は誰か来るのかと静かに振り向いた。
「こんばんは。いい夜だねぇ?」
へらり浮かべた笑みははじめましてと奇妙な予感を感じさせて。
「私はシキだよ。君に会いに来た、気がする」
――それは、彼女と会うために導かれた、そんな予感を確信と変えるような言葉で。
「藤色の髪に氷のような目をした貴方の名前は……――私は白夜 の……。
ううん、白夜 水希。……よろしく」
知らないけれど、覚えていて。魂名と此の世界で初めて使う言葉を重ねればシキは「水希」と彼女を呼んだ。
「……プレゼントはないけど、お弁当とケーキがあるよ。いかが?」
「なんでタコさんウィンナーばっかり……? かわいいけどさ」
ふ、と笑ったシキに希はチョコケーキもどうぞ、と差し出した。
『東京の学校の夜の教室で貴方はまた見つけてくれたんだね……』
この夜の奇跡に――今は二人で浸っていよう。貴方が見つけてくれたことをこの魂(こころ)が喜んでいるから。
「貴様等を招待したのには『意味』が在るのだよ。
如何にも最近は『美術部』に人が集まらぬ。現れても愛しい者と恋敵では『授業』にも成らぬ――嗚呼。勉強ではないとも。貴様等の芸術性を『愉しく』私に見せてほしい。今回のお題は『クリスマス・ツリー』だ。ユールに相応しい光輝だろうよ」
オラボナはなじみとひよのを招いて、オリジナルツリーを作っていく。ひよのはその様子を不思議そうに眺めていたが、なじみと言えば楽しげで。
「高い所は私が整えよう。何、これでも3mなのだ――妙なファッションだと思わないか? Nyahahahaha!! 素晴らしい。最後に写真として世に残すべきだ。人間的だろう」
「うんうん、実に人間的だよね!」
――ひよのは、それに「はあ」と小さく首を傾いだ。
リディアにとって、雪風は優しく声を掛けてくれた人だった。スケートをしませんかと誘う彼女に雪風は「俺、下手だよ」と照れ隠しのように頬を掻いた。
何時もの魔法少女を思わせる愛らしいコスチューム、脚を包むのは防寒のための黒タイツ。
「雪風さんもスケートは苦手ですか?」
「少しくらいは姉さんと――あ、元の世界に居たんだけど――やったことある、かなあ」
自信が無いのだとくす、と笑ったリディアは「そこで待っていて下さい」と先に立つ雪風の元へとするすると滑り出す。
ああ、けれど、慌てて転んだ拍子にスカートがひらりと上がってしまうから。「わ」と小さく声を上げたリディアへと「見てません!」と驚くような声を上げた雪風が慌てたように目を覆った。
学校の池でスケートを、と緊張するクロエは温かな格好に身を包む。
「万葉さんはスケート得意? よかったら一緒にどうですか?
私は初心者だしついてて貰えると嬉しいなぁ……あ、私はクロエと言います」
宜しくお願いしますと微笑んだクロエに「面白山高原先輩も得意なのよ」と万葉は微笑んだ。
すいすいと滑ってみせる万葉は「ゆっくりで大丈夫、だから頑張りましょうね!」とクロエを応援する。
「よーし、滑りますよーっと、わっとっと」
すってんころりん、と転んだクロエの手をそうと握って「ゆっくりゆっくり」とくすりと笑う。
慎重に。重ねた練習で一緒に池をぐるりと回ろうと手を握って。
「ふふ、一緒に遊べたことがすごく嬉しくて楽しいです! ぶおんなたーれ万葉さん」
「ええ、私もクロエさんと一緒でとっても楽しい!」
「フゥー!! 雪がいっぱいで、池も凍っていてメイは大興奮なのですよ!
凍った池を見たら、スケートに行くのが都会のマナーなのですよ! さっそく、突撃なのですよ!!」
意気揚々とシティガールの嗜みとして飛び込んで――ああ、けれど、つるつるは慣れなければ脚が攫われてしまうから。
「む? むむむむ? アワワワワ……ツルツルで上手く立てないのですよ!?
しっかり足に力をいれ……足が開いていっちゃうですよ!? アァァ!? バランスが!? 転んじゃうですよ!? だれかー!! 助けてほしいのですよぉぉぉ!?」
叫ぶその声が木霊する。スケートはシティガール・メイにはとってもとっても強敵なのだ。
その様子を眺めながらイナリは校長を説得してパーティーに合わせて校内放送でクリスマスツリーの林を作成していた。
きらり、きらりと耀く其れはロマンチックで。イナリは無数のツリーを飾り立てる。デモンストレーションは一晩の奇跡のように堂々と。
「おお! 池が凍ってるでありますな!
これは吾輩の華麗なるスケーティングテクニックを披露せざるをえないでありますぞー!
いざ! ジョーイアクセル! ふははは! どうでありますかこの華麗なるスピン!
ひよの殿ー! みてみてー、吾輩のスピンすっごーいですぞー!
って止まり方がわかりませんぞー! あーれー!」
ぐるぐるぐると回りながらフェードアウトしていくジョーイを視線で見送ってひよのは「木に堰き止めて貰えて良かったですね」と淡々と返した。
「……ッふぅ、流石にスピンはまだはやかったでありますな、では次なる奥義!
イナ・バウアー! ひよの殿ー! どうでありますかー!? あっ腰がぐきっと!」
そのまま、フェードアウトしていくジョーイを見詰めながらひよのは「体はお大事に」と静かに返したのだった。
そう、と手を握りしめてゆっくりとアレクシアは未散の手を引いた。
「ゆっくりでいいから、落ち着いて! そうそう!」
氷の上を統べるなんて初めてで、エッジの分高くなった視界に心許ない接着面に身が進みながら、アレクシアの手を求めて氷の上をゆっくりと進む。
昨年の冬、アレクシアの大切なひとが教えてくれた『受け売り』を生かすようにすうと滑り緊張に身を固くした未散を誘い――
「……って未散君大丈夫!?」
止まれないから、体は子鹿のようにふるふる震えて『すってんころりん』とアレクシアを巻き込んで空仰ぐ。
二人揃って冷たい氷の上。「へへ、私もあんまり上手くないの、バレちゃったね」と照れくさそうに笑ったアレクシアに未散は「アレクシアさま、ねえねえ」と声掛けた。
なんとなく、写真を撮りたくなったから。此の楽しい時間を続けるように、笑って見せて。
写真の中でならスケートのプロのように踊ってみせられるのよ。
「無名偲校長ちゃんと一緒に酒盛りするぞ!
無名偲ちゃんどこだー! ハンモちゃんと呑もー!!」
手を振った繁茂に「何だ?」と顔を出したのは無意式校長。どうやら管理をするために彼は一人でうろうろと歩き回っていたのだろう。
「ハンモは年齢不詳だから念のため甘酒だよ~。それじゃ、はい、乾杯!
無名偲ちゃんはなんかいつも変なお酒飲んでる気がするよ。
すごい長い名前だったりすごい髙そうだったり……いつかハンモもそういうお酒を飲んでおいしいって思える日がくるかな?」
「そりゃあ、そうだ。世界ってのは単調だが人間ってのは簡単に変わっちまう。
変化を怖れなけりゃ新しい扉が開けるだろうよ。まあ、夜妖みたいな奴がいる此の場所じゃ停滞するのも無理な話か」
無意シキの横顔を眺めながら繁茂はちびちびと甘酒を飲む。
こんな眠らない街に、少しだけの穏やかさは聖女の祈りが齎す物か――
だから、今日はこの夜に少しだけ酔い痴れて。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加有難う御座いました。
良きシャイネンナハトの想い出になりますように。
またご縁が御座いましたら、宜しくお願い致します。
GMコメント
日下部あやめと申します。素敵なシャイネンナハトになりますように。
こちらは練達の『再現性東京2010街:希望ヶ浜』を舞台にしております。
●『クリスマス』
再現性東京では、皆さんがご存じの通り『クリスマス』と呼ばれるイベントが開催されています。
(1)希望ヶ浜に存在するマーケットを楽しむ
東京で具体的地名を告げるならばお台場をイメージして下さいませ。
屋内型施設。外の寒々しさはどこへやらの大型モールです。
異国情緒の溢れる建築物はまるで中世ヨーロッパをイメージしたかのようです。
クリスマル限定メニューを販売するレストランは勿論、ショッピングモールをめいっぱい楽しんで下さいね。
現実に存在するブランド名やキャラクター、歌などはマスタリングさせて頂きますことをご了承下さいませ。
また、中央の噴水広場では屋内でのイルミネーションを楽しめるようです。
(2)観覧車&イルミネーション
モールに併設された大型観覧車に乗って夜の空中散歩を楽しめます。
また、モール外はクリスマスツリー&イルミネーションが施されており、のんびりと歩き回ることが出来そうです。
クリスマスマーケットも設置され、ホットワインやヴルスト等々が販売されています。
観覧車からイルミネーションを見詰めるのも良いですし、食事片手に回ってみるのも楽しそうです。
(3)希望ヶ浜学園でのクリスマス
校長のご厚意で解放されているようです。教室などでクリスマスパーティーなどささやかなイベントを行うのもとっても素敵かも知れませんね。
学園敷地内の池が凍ってしまったようですのでそこでスケートを楽しめる、と一部生徒がはしゃいでいました。皆さんも良ければチャレンジしてみては如何でしょうか。
●同行者や描写に関して・注意事項
・ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭にお願いします。
・暴力行為等は禁止させていただきます。他者を害する目的でのギフト・スキルの使用も禁止です。
●NPC
日下部担当のNPCにつきましては山田・雪風とエルピス、退紅・万葉(+ペットの犬の面白山高原先輩と猫の蛸地蔵くん)が参ります。お声かけがなければ出番はありません。
また、希望ヶ浜地区のNPC(音呂木・ひよの、綾敷・なじみ等担当者の居ないNPC)もお声かけ頂けましたら登場が可能だそうです。
何かございましたらお気軽にお声掛けください。
クリスマスと言えばカップルの定番イベントですが。クリスマスマーケットやスケート等、大人数でも楽しめる要素もありますので、恋人同士、気になるあの人とは勿論のこと、仲良しグループやお一人様も大歓迎です。
素敵なクリスマスを楽しめます様に!
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