PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<絶海のアポカリプス>子午線の向こう側

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 諸君等に折り入って、尋ねてみたいことがある。
 島との交戦経験はあるか。
 そう、島だ。
 たとえばアクエリア島を自慢の太刀で真っ二つに斬り裂いたことはあるか。
 ないか。そうか。
 では山ならばどうだ。
 あの島の巓きを魔術の一撃で木っ端微塵に砕いたことはあるか。
 城か。戦艦か。
 ああ、これは答えてくれなくて構わない。
 その程度では無理だ。どうにもならない――

                   ――――海洋王国提督バルザック・ビスクワイア

 海は荒れ、雷鳴が轟いている。
 ここから見えるのは、おそらく『尾』であった。
 うねる尾が海を断ち割る度に、迫る高波が船を軋ませる。
 弓なりにたわんだマストが弾けるたび、甲板に亀裂が走る。
 クルーは船に侵入した水をかき出し、破損の応急処置に追われていた。
 度重なる交戦に傷ついた艦隊は、降って湧いた事態にてんてこ舞いの有り様なのであった。

 海洋王国最後の大号令は、このフェデリア海域での小戦闘全てに勝利を収めた。
 大規模と予測された戦域においても同様であった。
 ただ一つの例外、アクアパレスでの死闘を除いて。
 追い詰められたアルバニアはアクアパレスを崩壊させ、そして――この事態を引き起こした。
 果たして、暗い水底から現れたのは竜種であった。
 滅海竜リヴァイアサンを名乗る『それ』は、正に絶望そのものである。

 攻めるか、退くか。
 一体全体どうすればいいのか。
 魔種アプサラスの戦列無敵艦隊アルマデウスを打ち破った一行は、未だ判断しかねていた。
 攻めるならばどうか。
 尾の一撃は、いかな船舶をも転覆せしめるだろう。
 そもそも高波が問題だ。近づくことさえ容易ではない。
 では退くならどうか。
 本格的に退くとなれば、海洋王国大号令はここで終わりだ。
 終わればどうなるのか。アルバニアが生存している以上、廃滅病の進行は決して止まらない。
 この決戦で、更に多くの者が罹患した可能性も大いにある。故に退路はない。
 一時撤退はどうか。
 封じていたアルバニアの権能が回復することになるだろう。結果は同じだ。

 答えは決まっていた。
 攻める他にない。
 ではどうやって攻めるのか。
 海洋王国きっての豪腕キャプテン達が、決死の覚悟で隙を伺い船を飛び込ませるしかないのだろう。
 イレギュラーズはどうにか距離に応じて、出来る限りの打撃をたたき込む。
 海洋王国軍もありったけの砲弾を撃ち尽くすのだ。
 こちらの尾部において、ミクロな問題は水飛沫だ。
 飛沫といったが、それそのものが高圧の水弾や津波のようなものである。
 相手の打撃力を防ぐ為に、高い耐久力が勝負の鍵になるだろう。

「死闘! 絶望! いいじゃない! だって燃えてきたもの!」
 胸を張る『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)は、これで構わないのだろう。鉄帝国軽騎兵隊は、いつでも死ぬ覚悟が出来ているのだから。
 渋い表情で腕を組むゾンメル少佐も、マストに背を預けて紙巻きに火を付けたメヴィ兵長も、やる気に見える。鉄帝国の軍人達はさすがに肝が据わっているのだろう。
 提督の軍事顧問アドラー・ディルク・アストラルノヴァの闘志は、些かも衰えていないように思える。
 海洋王国にとって絶望の青を踏破することは、やはり悲願であるのだ。
 救助から引き上げてきたエルテノール=アミザラッド=メリルナートが犠牲者に祈りを捧げている。その大きな背には不退転の決意が漲っている。
 イレギュラーズにとっても同じだ。世界滅亡の阻止と冠位魔種の打倒、冠位魔種の打倒とリヴァイアサンの撃破はそれぞれ切っても切り離すことが出来ない。
 自身が、仲間達が、苦しんでいる廃滅病の件もある。
 気が進む、進まない以前にやる他ない訳だ。

 ――それで。
 だからといって。
 これは上手くいくのか。

 考えてもみて欲しい。
 相手は山だ。島だ。
 それも動く、高度な知性を持った、神にも等しい存在だ。
 あれは竜――伝承における世界最強の生物なのだ。

 現実に目を塞ぎ、ただ勝てると信じて挑んで良いものなのか。
 そうすれば本当に勝つことが出来るのか。
 答えは断じて『否』だ。
 そんなことは、誰にだって分かっていた。
 ただ進む他に道なんて無かった。
 たとえその先が、ただの地獄に過ぎないとしても。
 我々にはこの方法しか残されていなかったのだ――

GMコメント

 pipiです。
 テールスープって美味しいですよね。
 この戦域で相手にするのは、リヴァイアサンの『尻尾』です。

●重要な備考
 このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)

 皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。

●目的
 リヴァイアサンの撃破。
 そのために尾部分に出来る限りの打撃を加える。

●ロケーション
 皆さんの艦隊は、後述の『尾撃と高波』を避けるため、荒海の中で敵に近づいたり離れたりしています。
 皆さんは攻撃行動や防御行動、攻撃や回復、支援等の行動を、自由に行うことが出来ます。
 上手いタイミングで行動出来たとして扱います。

●敵
『リヴァイアサンの尾』
 無尽蔵な体力と、理不尽な耐性を保ちます。
 攻撃は効いているのかどうかも分かりません。
 絶大な威力はかすめただけで生命さえ危ぶまれます。
 皆さんの強力な攻撃は、あるいはその鱗を削ることも出来るかもしれません。
 さながら、雨だれで石を穿つように。

 数ターンに一度程度、以下のような攻撃をしてきます。
・竜鱗の飛沫(A):物特レ貫、失血、ダメージ極大
 鱗が飛んできます。

・水砲(A):神特レ範、飛、ダメージ極大
 高圧の水が飛んできます。

・津波(A):神特レ列、飛、ダメージ大
 文字通り。タイダルウェイブです。

・かみのふるめき(A):神特レ域、感電、ショック、炎獄、ダメージ大
 激しい雷撃です。

●尾撃と高波
 海洋王国のキャプテン達は、必死にこれを避けながら接近してくれます。
 いつまで避け続けられるかは分かりません。
 おそらく一撃で搭乗艦が撃沈します。

●味方
 皆さんと一緒に戦ってくれます。

〇海洋王国軍
『ビスクワイヤ提督』サンタ・パウラ号
 皆さんの艦隊の指揮官です。戦闘経験豊富なおじさんです。

『エルテノール=アミザラッド=メリルナート』と部下達。
 ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)さんの関係者です。
 バックアップは万全です。後衛で多数のスループ船を運用して主に救助にあたります。

『海洋海軍』×けっこう沢山
 カットラスやピストルで武装しています。

『アドラー・ディルク・アストラルノヴァ』
 ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)さんの関係者です。強いです。

『伏見 桐志朗』
 Ring・a・Bell(p3p004269)さんの関係者です。強いです。

『アドラー家臣団』×そこそこ
 凄腕のサーベル使いの飛行種達です。

〇鉄帝国軍
『ゾンメル少佐』
 鉄帝国海軍の高級将校です。
 HP、回避が高いです。
 能力を跳ね上げる瞬付与を駆使し。虚無、喪失、Mアタックの泥仕合を得意とします。
 一応『<第三次グレイス・ヌレ海戦>ラズマス・ケイジに背を向けて』『<鎖海に刻むヒストリア>アドミラル・アセイテ』に登場。
 知らなくてOKです。

『メヴィ兵長』
 ステータスは満遍なく高め。
 二刀流を駆使して戦うトータルファイターです。
 一応『<第三次グレイス・ヌレ海戦>ラズマス・ケイジに背を向けて』『<鎖海に刻むヒストリア>アドミラル・アセイテ』に登場。
 知らなくてOKです。

『帝国海兵』×それなり
 左腕が巨大なガトリングガンになっており、コンバットナイフも持っています。

『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ
 愛称はリーヌシュカ(p3n000124)
 ステータスは満遍なく高め。若干のファンブルが玉に瑕。
・格闘、ヴァルキリーレイヴ、リーガルブレイド
・セイバーストーム(A):物近域、識、流血

『鉄帝国軽騎兵エヴァンジェリーナ隊』×そこそこ
 サーベルによる切り込みを得意とする精強な部隊です。

〇ローレット
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 両面型前衛アタッカー。
 Aスキルは格闘、飛翔斬、ディスピリオド、剣魔双撃、ジャミング、物質透過を活性化。
 皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
 具体的な指示を与えても構いません。
 絡んで頂いた程度にしか描写はされません。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

  • <絶海のアポカリプス>子午線の向こう側Lv:15以上完了
  • GM名pipi
  • 種別ラリー
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年06月13日 21時00分
  • 章数3章
  • 総採用数336人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

「俺は大号令の体現者! 秋宮史之だ!」
 唸る雷鳴の中で、堂々たる名乗りが甲板に響く。
 刹那の稲光が、嵐に濡れたその頬を白く染めた。
 いくらかの船団を引き連れて戻った『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は、リヴァイアサンの尾から遠ざかったサン・ミゲル号に飛び乗った。

「でかした!」
「はい!」
 史之の肩にビスクワイア提督が分厚い手のひらを乗せる。
 これまで僅か数隻で事にあたっていたが、ようやく艦隊の再編が捗るというものだ。
「艦隊の指揮は俺に預けてくれ。それとも一隻引き受けるか?」
 冗談めかして笑うビスクワイア提督は、けれどその目は半ば以上本気にも思える。
 だが史之達イレギュラーズの奮闘があったからこそ、あちこちの戦域で艦隊を立て直すことが出来たのは紛れもない事実だ。

 一波動けば万波生ず。
 続く報もまた風雲急を告げるものであった。

 ――騎兵隊が戻ってきやしたぜ!

 驚いた顔で提督を見たのは鉄帝国軽騎兵隊のリーヌシュカであったが、すぐに得心いった顔で頷く。
 戻ってきたのはドレイクの船に突撃したイレギュラーズ達だ。
 なんとドレイクと幽霊船を味方とする大戦果をひっさげて来たらしい。
「やるじゃねえか!」
 ビスクワイアの声に一同が喝采をあげ、そして――

 ――見てくだせえ! リヴァイアサンの様子が!

「ありゃあ……まさか……見えてきたぜ! 勝機ってやつがよ!」
 リヴァイアサンと比して小さな――けれどこのフリゲート船さえ上回る巨大な竜の姿であった。
「あ、あの。伝説の……だが、どうして!?」
 立て続けに飛び込んだ報は、カイト・シャルラハ(p3p000684)とリトル・リリー(p3p000955)の無事とその活躍を告げるものであった。
「あいつの倅じゃねえか! でかした! って何遍言わせやがる!」
 満身創痍の艦隊が、ここまで良く持ちこたえたものだ。
「ここまで希望を繋いだのは、ああ――イレギュラーズ! あんたらのお陰だ……!」
 万感の想いを込めてビスクワイアは、その強面に涙を湛えている。
 この絶望的な状況の中にあって、イレギュラーズは奮戦し、救出し、希望の炎を絶やさずに居た。
 全てはそれらの点と点が、輝きが灯り続けていたからに他ならない。
 今こそ。
 それはさながら完成した航路のように繋がったと思える。
「見るんじゃねえや、チっくしょう! おらてめえら! あのデカブツをブチのめしてやれ!!」

 ――アイアイサー!!

 滅海竜リヴァイアサンといったか。
 もういいようになどやらせはしないと誰もが誓った。

 さあ、反撃開始だ!

===== 補足 ==============
 状況に大きな変化が生じています。

●目標
『リヴァイアサンを弱らせる事』です。水竜様の力はリヴァイアサンに及びません。
 ですので、リヴァイアサンと『ともに眠れる』レベルまでリヴァイアサンを弱らせることが第一目標です。
 そのために出来ることを、皆で色々やりましょう。

●敵
『リヴァイアサンの尾』
 ・カイト・シャルラハ(p3p000684)の『PPP』にて顕現した水竜様は自身の持ち得る権能を使ってリヴァイアサンを覆う絶対権能『神威(海)』を阻害しています。
 それにより今まで以上にダメージを与えることが出来るようになりました。

 未だ不明点も多いものの、これまでの交戦記録から判明したのは以下です。
・至近では『列車のような速度で通過する壁』のようなもの。
・廃滅病のため、弱っている箇所がある。
・弱っている場所や鱗の剥がれた場所は与ダメージが大きくなる。
・HPがとにかくひどい。命中はしやすい。
・攻撃力がヤバい。
・BSの効果が小さい。

●状況
 だいぶ編成が整いました。
 ここから全軍で一気に反転攻勢を仕掛けます。

 甲板はひどく揺れます。
 各種対策が有利に働くでしょう。

●ビスクワイア艦隊
 リヴァイアサンの尾部と交戦する艦隊です。

 皆さんはいつも通りスキルを使用した行動の他、船の指揮や砲撃などを試みても構いません。

 以下A~Cから選択し、一行目に記載をお願いします。

A:『後衛船隊』
・サン・ミゲル号:ビスクワイヤ提督のフリゲート船。
 サンタ・パウラ号の撃沈につき、こちらが旗艦になりました……。
 最後方から艦隊指揮を行います。
 一時の休息や負傷者の手当等が可能です。

・リトルベルーガ号:メリルナート家のスループ船です。
 小さく小回りが利きます。
 他所へ救援の人員を派遣する他、救助等も可能です。
 撃沈の可能性があります。

 ※イレギュラーズの小型船が救助に参加する場合、ここに組み込まれます。

B:『近接船隊』
・黒鷲号;アストラルノヴァ家のガレアス船です。
・他、数隻。
 リヴァイアサンに隣接して白兵戦闘を仕掛けます。
 撃沈の可能性があります。

 ※イレギュラーズの小型船が攻撃に参加する場合、ここに組み込まれます。

C:『砲撃船隊』
・アスセーナ・ペタロIII号:拿捕した戦列艦です。
・サンタパトリシア号:海洋王国のガレオン船です。
・他、数隻。
 遠距離(R3)~超遠距離(R4)で砲撃を加え続けます。
 撃沈の可能性があります。


第2章 第2節

焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心

 ――泥舟は、イツの間に木舟に進化シタんだい?

 風が美しい髪を浚う。
 暴威の山を前に巨大なガレオン船『サンタパトリシア』はいかにも小さく思える。
 その甲板に立つ一人の少女であれば、尚更のこと。
 だがなるほど、少女――ジェックがマスク越しに見据える光景は、これまでとはまるで違っていた。
 嵐のただ中で島のような巨体に挑む、無謀な木っ端には違いあるまい。
 だが、その数は、その整然は、半刻前と比較しても完全な様変わりを遂げている。

(なんて……進化サセたのは、"アタシ達"か)

 勝負事において『流れ』『勢い』というものは殊の外重要である。
 濁流を前に万全の堤防さえ打ち砕かれるように、或いは寡兵が大敵を打ち破るような瞬間がある。
(そうとも、今がまさにその時だ)
 ラダは心の内に「本当に勝ち目が出てくるとは思わなかった」と続けて。

 甲板に片膝を付いたエルシアは瞳を閉じて静かに祈る。
(勝利しなくては、世界は――私と共に過ごした人々も――苦しみ続けるのです……)
 今、この瞬間さえ。あの尾が艦に直撃すれば全てが終わりになってしまうかもしれないけれど。
 この身が吹き飛ばされるその瞬間まで、祈り続けるか――嘘。その英雄の責務は果たさんとするのは彼女もまた同じであって――

 ――撃て撃て撃て撃てー!!

 エルシアが静かに瞳を開けた刹那、カルバリン砲の一斉射撃が甲板を揺らした。

「……奇跡が起きたらしいな」
「かはは! 針の穴より小さな可能性こじ開けてきやがった!」

 鬼灯が呟き、天性の博徒ニコラスは天を仰いで笑う。
 僅か少数でドレイクに挑んだ騎兵隊が、そして海に呑まれた僅か二人が、それぞれ大いなる可能性をひっさげてきた。それは伝説の海賊であるドレイクの艦隊と、海洋近海の――文字通りの――守護神であった。

「僅かだがよ! ああ! 本当に僅かだがよ!!
 希望ってのが首をもたげて見えてきたじゃねぇか! えぇ? おい!」

 リヴァイアサンの尾に挑む海洋王国ビスクワイア提督の艦隊は、これまでイレギュラーズと共に決死の攻防を繰り広げていた。
 戦線を支え続けたイレギュラーズ達が居なければ、そも奇跡の受け皿となるべき船団が既にあるまい。
 イレギュラーズが紡ぎ上げた無数の可能性が結びつき、ようやくの一大攻勢を可能としていたのである。

 未だ、いずれにせよ厳しい戦いには違いあるまい。
 ルクトの目にも、未だ勝敗がどちらに転ぶかは分からぬ。
 だがその瀬戸際にこそ高揚があるものだ。

 ――さぁ、私も混ぜてもらおうか。

「ルクト・ナード、出撃する」
「舞台の幕をあげようか!!」
 ルクトがその腕を伸ばし、機械の指先はさながら遠く竜の尾をつかみ取らんと開かれ――離陸。
 嵐を飛ぶ空戦少女は、撃ち尽くさんばかりに弾丸を放ちながら、狙うべき点を探った。

 今、この戦い、この状況で最も重要なことは――攻撃の手を止めないことであろう。
「攻めて攻めて──攻め続けるのです!
 きっと、『絶望』を超えた先に『希望』はある筈なのですから……ッ!」
 焔宮を継ぐ鳴――可愛らしくも妖艶な子狐は、戦場(いくさば)なれば凛と声を張る。
 その豊かな胸元に拳を押し当て誓い、熱に揺らめく霊刀を抜き放つ。

 放たれたラダのLBL音響弾が鳴り響く。
 微かに、ほんの微かに尾の動きが揺らいだか。
「あれを狙え――!」
 ラダの叫び。
 立て続けの艦砲射撃が、突き刺さり続けるルクトの乱射が、鱗の崩れた一点を暴き出す。

「よりオオくを穿てれば切断にツナがるかもしれナイ。或いは、よりハヤく弱らせられるカモしれない」
 それはまるで。

 ――手でトンネルでも掘ってるキブンだけどね。

 その中心へ突き刺さり続ける鳴の炎刃は、ジェックの徹甲弾は、鬼灯の刃は、ニコラスの気砲は――あるいは石つぶてにすぎないのかもしれないとしても。
「小さな破綻が大きな破滅を招く。貴殿にそれを見せてやろう」
『倒せなくてもいいのだわ、次に繋げるの!』
「こんな所で終わらない……! 私は、戦い、攻め続けます!」

 さあ。希望の進撃を始めよう。

成否

成功


第2章 第3節

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢

 砲撃が徐々に徐々に――リヴァイアサンのあまりの巨体からすれば、或いは微々たるものかもしれないが――尾を押し返している。

「俺のいない間にとんでもないことになってるな」
「カイトさん、リリーさん! まさか水龍様のご加護を頂けるとは!」
「二人とも無事でよかった……」
「まあ、へへ」
 リゲルとポテトの声に、嘴をかいたカイトがロープを掴む。
「カイトさんがきせきをおこしてくれた……
 でもリリーは、まだ……だから……リリーもがんばらなくちゃ……!」
「ああ妬いちゃうわね、すっかり英雄扱いじゃない」
 頭の上で呟くリリーに利香はぼやいて。
 クルーは利香の些か以上に扇情的すぎる姿を一通り見渡した後、視線が必ず頭上に固定される。
 いつもならはたき落とす所だが……今日ばかりは悪くない。

「乗りたいやつは乗ってこい! 俺は負けないぜ! 水竜さまも手伝ってくれてるしな!」
 黒鷲号に横付けした紅鷹丸にカイトは真っ先に飛び乗った。
「あれが水竜様……近海の守護神なんだ。あの人の手助けをすればいいんだね!」
 ネアンデルタール・レディ――朋子が巨大な石斧を担ぎ上げて乗り込んだ。
 未来を繋いだのは、皆の想いだ。
 万感を籠めてシャルレィスがその剣を抜き放つ。
 あの巨壁から、かの天蓋から、あたかも糸のように細い希望の光が差し込んだように思える。
「なら! やる事はもう決まってる!
 見えた希望の光を、もっともっと強く輝かせて掴み取るだけ!!
 いっくぞー! 全力で反撃開始だっ!!」

 ――応ッ!

「今ならば、無敵の廃滅竜であろうとも押し切ることができます!
 俺達なら必ず勝てます! 行きましょう!」

 ――応ッ!!

 シャルレィスとリゲルの声に、艦内が喝采に轟いた。
 高く掲げた剣に光を宿し、船体に守護の結界を張り巡らせて。
「リゲル……背中は必ず私が守る!」
「ああ、ありがとう……行くぞ!」
 微笑む妻の暖かさを胸に、リゲルは銀閃に瞬いて――
 黒き断罪の刃が竜鱗の狭間、その強固な肉を一気に抉る。
 その刹那、振り注ぐ水刃がリゲルの身をずたずたに引き裂かんと迫る。
「させるものか!」
 無数の水刃をかいくぐり、その大きな手のひらを当てる。
 刃の嵐のただ中に優しい光が満ちる。ポテトの紡ぐ調律の術式がリゲルの身を癒やして――
「行くんだ、リゲル!」
「ありがとう……! これで――ッ!」
 一息に返す刃――閃光。
 横一文字の銀閃が煌めき、巨大な肉壁ごと、幾重にも覆われた強固な竜鱗に無数の亀裂が走る。
 先程とはまるで違う確かな手応えが腕に伝わる。
 これならば――行ける!

 無数の水弾をかわして、迫る波濤を跳躍し、小さな兎――コゼットが舞い踊る。
「だいじょうぶ、きっと勝てるから、だいじょうぶだから……」
 言い聞かせるように。
 コゼットは身に迫る危機の全てを逃れ、衝撃の余波さえ利用して強かに蹴りつける。
 人の身なれば一撃でなぎ倒したであろう――あるいは巨岩なれば無力とも思えた――衝撃は、リゲルがヒビを穿った強固な竜鱗の一枚を粉々に打ち砕く。
 短く、鋭く息を吐き。
 宙で回転したコゼットは尚も迫る水刃を可憐なステップでかわしきり――小さな煌めき。
 その足先から放たれた仕込みナイフが、顕となった肉壁に突き刺さる。
「どうかな、むつかしいかな……」
 通常、いかな巨体さえも死毒の病からは逃れきれまい。
 それでも竜は別と云うのか。
 とびすさるコゼットは見る、観察する――そして思案する。
 その毒は確かにその周囲を蝕み、肉が朽ちて往く。
 全く効かないわけではない。
 小さな、けれどイレギュラーズにとって大きな影響は、必ず与えていると思える。

 ――皆が重ねてきた一撃。その想いを――!

 腰を落として蒼嵐を構えたシャルレィスが叫ぶ。
「リーヌシュカさん!」
「シャルレィス! 任せなさい!」
 先陣を切ったリーヌシュカが水弾を切り裂き、甲板を蹴りつけて横に跳んだ。
 好機! 暴風を纏った蒼き剣が唸りを上げ、その一閃は怒濤の如く。
 振り抜かれたシャルレィスの一撃に、おびただしい竜血が花を咲かせた。
「いいねえ、若いってのは」
 袖口から腕を抜いた十夜は口の端をつり上げ――凛と鯉口を切る。
 銘は流刃――またの名を龍神。
 抜き放たれた刃は過去から逃げ続けてきた男の覚悟だ。
 迫る波濤に抗い、身を貫く水弾を斬り捨てて。
 自らをか弱いとさえ嘯く男は、その圧倒的な水圧の返す力の矛先へ、敢えて身を預けた。
「お前さんに比べりゃぁ、俺はちっぽけで取るに足らねぇ海龍(シードラゴン)だがね――」
 衝撃。起死回生の剣光一閃。
「――これでも意地ってやつはあるつもりなのさ」
 リヴァイアサンの尾を駆けた軌跡の通りに――眼前の肉壁が大きな口を開ける。

 敵の波濤は、水弾と刃は、鋭い鱗の破片は、そして雷撃は。
 どこから来るのかもまるでわかりやしない。
 だが――横のガレアスとさえ比較して余りに小さな。
 けれど絶大な信頼を乗せる船の上にカイトは立っている。
「落ちないようにしっかりと捕まってな!」
 小さな船は危険も大きい、だが裏を返せばぶつかる程に肉薄出来るということ。
 ガレアス船が僅かに離れる間隙に割り込んだカイトは、竜の巨大な傷口に音速の刃をたたき込む。

 仲間達が猛攻を仕掛けている。
 凪いだ風が動きだそうとしている。
 巌を穿ち続けるその一撃一撃は、もはや雨だれではない。
 未だ小さくとも、微々たるものでも、それは苔の一念ではなく、強靱な鋼の鏃である。
「総員! 抜刀! 『死力の聖剣』に! かの勇者達に続け!」
「イエス! マイロード!」
 アドラー・ディルク・アストラルノヴァの号令に、家臣団が一斉にサーベルを引き抜いた。
 突撃が敢行されようとしている。
 これまでの絶望的な闘争に垣間見えた奇跡の光明に、その中の父アドラーの勇姿にヨタカが息をのむ。
「凄いねえ! 見てごらんよ小鳥!
 あれがニンゲンの奇跡の体現ってやつだ!
 見たいなァ、もっと見たい! 行こう、小鳥!」
「ああ、紫月……行こう」
 武器商人――紫月の言葉に、ヨタカもまたアストラルノヴァの名に恥じぬよう、舞うのだと誓い――
 船上に紡がれる妖艶なテノールが導く『クリスティーヌは幻影に惑う』。
 大切な背の後ろから、ヨタカは蒼炎のドレスを身に纏う骸骨を顕現させ、竜の身を穿つ。

「あたしは! 絶対負けない!! 」
 跳躍――可愛らしい肢体に太古の脈動を宿して、朋子はその巨槌を竜の尾へとたたき込む。
『トモコ、暴力はいいぞ』
「ひゃっはー!!」
 引き絞られた左腕に全てを穿つ傲岸不遜をこめて、朋子が一気に振り抜いた。
 壁が弾け、竜血が迸る。
 イレギュラーズと海洋王国軍が激しい攻撃を繰り広げている。
「ああもう……あてられちゃうじゃない……!」
 身が疼くほどの熱に、利香は温かな息を吐き出して――迫る水弾を切り裂き、竜の雷撃が結界に迸る。
「リリーも……がんばらなくちゃ……!」
 こうして守り抜く上は、覚悟を決めて貰うのだ。
 なにせ利香の頭上に居るのは、この好機をつかみ取った勇者なのだから!
「今よ! とびっきりの食らわせてやりなさい!」
 頷いて。
 声に弾かれるように角をぎゅっと掴んだリリーは魔術書を開き、使い魔に応じて数枚の符を宙に放つ。
 黒影の様な『もや』から顕現した巨狼、続く冥闇の黒炎烏と九尾の白狐が眼前の巨壁に猛攻を仕掛ける
 竜鱗に走った無数の亀裂が砕け、竜血と炎、数多の災厄が炸裂する。
 なるほど、其はこれまでリリーが体感してきた手応えとはまるで違うかもしれない。
 人なる身を僅か一瞬で数多の災厄で包み込む、彼女の得手がもたらす効用とは違うかもしれない。
 だが竜の巨体へ剣撃や砲撃が僅かな傷を穿つのと同じように、リリーの放つ技もまた、竜の身を確かに蝕んでいることを実感出来る。

 そして――

成否

成功


第2章 第4節

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
スノウ・ドロップ(p3p006277)
嗤うしかばね
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー

 ――接近せよ!

 ――イエス・マイロード!

「さて、この戦も少々風向きが変わってきたと見える――」
 愛刀――始末斬九郎を凛と抜き放った咲耶が甲板を駆ける。
 勝機が見えた以上、ここが踏ん張りどころとなろう。
 カイトが導いた可能性の奇跡――水神様の顕現に支払った代償は大きい。
(……無駄にしてはならぬ)
 なれば咲耶もまた、忍びの誇りを賭して一心不乱に押し通る。
 一斉砲撃が竜の尾を徐々に押し返して行く。
 あれほど強固だった竜鱗が砕け、重い破片が艦に降り注ぐ。
 それは一撃一撃が落石や、あるいは達人が放つ刃の一刀にも等しい威力を持っていたが――
「は、は……ッ。なんと、騎兵隊の方々に、もうお二人もですか!」
 二本目のエナジードリンクを一息に飲み干したバルガルが、首を左右に倒して喉の奥で笑った。
 これまでの絶望とはまるで違って見える。
 それはただ零パーセントの希望が一へ、否コンマ幾らか変わっただけに過ぎないのかもしれない。

「見つけましたわ!」
 だがヴァレーリヤは、マリアは、その絶望的な状況を決して諦めはしない。
 見つけた一点。仲間達や艦隊の砲撃が砕いた鱗の間に見える流血へ向けて。
「これは好機! ヴァレーリヤ君、エヴァンジェリーナ君!」
「わかったわ、マリア! ヴァリューシャ!」
「ですわね! どっせえーーい!!!」
 戦棍は鋼と灼熱の暴風となり、電磁反発に舞うマリアが紅雷のレールを加速――放つ蹴撃を重ねて。

 ――少しでも多く! 少しでも早く!

 刃と炎、雷撃が迸る。
 ヴァレーリヤが抉り、リーヌシュカが刻んだその場所へ、マリアは神速の乱舞をたたき込み。
 実のところ、効いているのか。効いていないのか。
 三者の猛攻は、仮に相手が人の身であれば、それが山脈霊峰が如き巨体でさえなければ、肉体はおろか精神すらもとっくに焼き切れている筈。
 現状がそうでないことは、だが
(――分かっているさ!)
 マリアが見据えるのは、その先。戦いの最終局面で、大技の一撃をそぎ落とすことにあるのだから。
「どうなの!? これ!」
 斬りまくったリーヌシュカが肩で息をして視線を送る。
「大丈夫ですわ」
 一つ一つが小さくとも、積み重なればきっと――
「倒して、一緒に故郷に帰りましょう! 私達の帰りを、待ってくれている人達のために!」

 嗚呼、でも――槍の尾を甲板に突き立てゼファーが笑う。
 こんなバカは悪くない。
 だって、竜に魔種を相手取る等、正に狂気の沙汰であろう。
 そんなの、正気の集まりで打ち破れる訳がない!

 ――さあ降らせ、鋼鉄の雨霰。
   硝煙の匂いと荒れ狂う波の音が、私達は未だ戦えると謳っている
   竜の飛沫が何するものぞ
   此れが絶望の最終関門
   死力を尽くすは、今に他なし!

「此のパーティーのバカ騒ぎも、まだまだこれからってことかしら」
 まさか土壇場でゲストが増えてくれるとは!
 水竜様の出現から、リヴァイアサンの動きは確実に精彩を欠いていた。
 雷光を纏う槍を振り抜いたゼファーの手応えは、今は確実に違っている。
 まるで歯が立たなかった鱗さえも、今はこうして打ち破る事が出来る。
 迸る竜血は、その肉体に確かな牙を突き立てている事を知らしめてくれる。
「きちんと付いていらっしゃいな! 」
 槍撃と共に雷光が迸り、竜血が燃え上がる。
 未だ見ぬグランドフィナーレまで踊ってやろう。

「本当、何が起きるかわからないものね」
 目に見えて士気が上がったのも、当然といえば当然であろう。
 絶望的な面持ちで挑む戦いより、意気軒昂の戦意を元に挑むほうが遙かに天運を掴みやすいのは道理。
 腰を落として鯉口を切った舞花は、己が技をあくまで人の域と括るが――
「あまり甘く見ないでもらいたいものね……!」
 鋭い踏み込み――飛燕。神速の居合いから放たれた剣閃を追い、更に踏み込む。
 無数の残影が駆け抜け、竜の肌のみならず鱗さえ砕け散る。

「セイダイに暴れて行くよ!」
 小型船を主船に横付けしたイグナートが、竜とガレアスの間に割り込んだ。
 仲間達の猛攻が創り出した、そう何度もあるはずのないチャンスだ。
 ならば何よりも最も近い場所から、己が全てをたたき込もう。
「ショウブはまだまだ始まったばかりだ!
 小さな力が集まった時にどんなことが出来るのかを、
 最強セイブツってヤツに見せつけてやろうじゃないか!」
 開かれた右の拳、その指の向こうに閃いた雷光をゆっくりとつかみ取るように閉じる。
 万力の如き握力を籠めて、肌が触れる程の最至近へ勝利の拳をたたき込んだ。

「ははぁ……」
 自身の名が刻まれたそれを担ぎ上げ、スノウは唇の端をつり上げた。
「駄目ですね、まともなモンスターすぎてB級映画の主役にはなれませんよ」
 ゾンビ映画の主が言うのだから間違いない
「サメになって出直してきて下さい」
 降り注ぐ竜鱗と波濤は止まぬが、最前線のスノウは巨大な墓石(!)で遮った。
 間隙から僅かに受ける暴力的な水圧が、スノウの身をそぎ落とし――
 スノウが身体を再構築させる中、だがその強大な水圧の反動が逃れる先は、竜自身であった。
「私はもう死んでいますが、こんなところで死んでたまるかってものですよ。
 海の上じゃあお墓も立てられないですし。
 なぁんて。あははウケる」

「篠突く雨の一滴になりて――かの龍を落とす礎とならん!」
 咲耶が放つ始末斬九郎の一閃。
 奪う急所を変幻の邪剣は、人の素首ならぬ竜の尾さえ斬り裂いて。
「幾度も倒れど引いてはならぬ。引けば行き先には死があるのみぞ――」
 これを紅牙の執念。
 続く無形の剣光は舞い散る熱い竜血をなぎ払い、竜へ深々と突きたった。

「それは上々、ならば吉報は持ち帰らなければなりませんね」
 バルガルの眼前を駆け抜ける竜鱗の壁――練達、あるいは彼の故郷流に表現すれば列車のような――は、なるほど驚異ではあろう。
 だが――鱗の間隙へバルガルは一気に跳躍し、立て続けの連撃をたたき込む。
 目で追える範囲であれば問題にはならない。

「一緒にこの戦いを乗り越えましょうライセルさん!」
「ああ、行こう。ラクリマ!」
 肩を叩き、頷き合う。
 この戦いに勝つことが出来なければ――ラクリマの命は燃え尽きる。
 アルバニアを滅ぼすまで廃滅病――アルバニア・シンドロームは止まらない。
(俺はね、ラクリマより先に死ぬって決めてるから)
 それは長命種と共に歩む覚悟だ。
 だからライセルは絶対に守ってみせると誓う。

 ――小細工はしない。

 空色の魔道書を掲げて、ラクリマが紡ぐのは賛美の生け贄と祈りの歌――蒼剣のオスティアス。
 駆け巡る光が魔方陣を描き、その中心でライセルが紅の魔剣を振り上げる。
 一閃。剣の軌跡に追走し、無数の蒼剣が竜の肌に刃を突き立てる。

 海を断ち割る程の衝撃と共に、尾が蠢いた。
 間違いなく、イレギュラーズはこの竜へ目に見える程の打撃を与えている!

成否

成功

状態異常
ライセル(p3p002845)[重傷]
Dáinsleif
スノウ・ドロップ(p3p006277)[重傷]
嗤うしかばね
バルガル・ミフィスト(p3p007978)[重傷]
シャドウウォーカー

第2章 第5節

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
舞音・どら(p3p006257)
聖どら
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
カロン=エスキベル(p3p007972)
対価の魔女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

 前衛艦隊の猛攻にリヴァイアサンが身じろぎしている。
 砲撃艦隊の甲板に檄と鬨が飛び交っている。

 ――押せ押せ押せーッ!

 ――アイアイサー!

 分厚い雲が空を覆い、雷鳴と暴風が鼓膜をひっかいた。
 砲撃の轟音が劈くたび竜鱗の破片が天に舞い、雷鳴に煌めく。
 アーリアは海から弾かれた潮を拭って、山の如く大きな竜を見据えている。
「さてと」
 絶対防備の無敵でない。紡いだ絆の光はリヴァイアサンに確実な傷を負わせていた。
 それならば攻めに転じてみようではないか。
 アーリアは指先を開いた。
 緩やかであれど毒は回る。秘蔵の酒を見つけるが如く緑の瞳が敵を『見る』。
 腐りきって弱った場所を探して蜜の罠は海上を這う。
「見つけてみせるわ」
 流れを読み好機を掴む。
 ベネディクトはこの機を逃すまいと瞳を上げた。
 己が身は神の如き竜にとって小さな存在なのだろう。それでも。繋いだ想いは真実。
「滅海竜、なにするものぞ」
 いくら強大であろうと無敵では無い。臆することなく前へ進め。勝機は必ずやってくる。
 手には折れて煤けた槍。腰に力を溜めて、それを撃ち放つ。
 絶望に諦め。何度味わったことだろう。それでも、折れぬ心が常にあった。
「――打ち砕く!」
「おいで、愛しきふたつ星ーーあの腐りきった鱗を、食い千切るのよ!」
 ベネディクトの決意が戦場に響き、アーリアの艶やかな声音がクルー達の胸の奥をくすぐる。
 アーリアの決意と共に、雷の轟音が空を割った。
 さながらうら若い葡萄酒の様に、流れる鮮やかな紅がアルフェッカ・ヌサカン――豊穣と葡萄酒の神を顕現せしめる。
 砲弾に乗った紅き豹の二つが竜に牙を突き立て。
 雷撃のように大気を切り裂くベネディクトの槍が深々と突き刺さる。

「魔女を大砲か何かと勘違いしてるんじゃないかしら。……正解よ」
 カロンは目深に被った帽子を上げる。
 ゆらりと傾ぐ甲板に身体が揺れた。
 けれど、休んでなんていられない。全身全霊の魔力を持って挑まなければ到底敵う相手ではない。
「はぁ……」
 肩で息をするカロン。硬いリヴァイアサンの繊維は簡単に剥がれるものではないだろう。
 だが、そんな事しったことではない。攻撃あるのみ。砲撃乱舞。
「ねえ、聞いてるの? 事しなさいよ! ニャハハハハハ!」

 破滅の歌声がR.R.の耳朶に響いた。
 脳髄を揺さぶる声は、彼の理性を剥ぎ取っていく。
 身に纏う包帯は燃え落ちて。人の言葉すらノイズとなった。
 獣の如く吠え葬送の銃を構えたR.R.。
 じわりと滲むリヴァイアサンの血跡目がけて意識を集中させる。
 波の反動でマストへと打ち付けられた身体をそのままに。
 覚悟は出来ているのだ。どうせ固定砲台にしかなれぬ身ならば。
 死ぬまで。此処撃ち続けるまで。
 更なる攻撃を重ねるため、躊躇いなく愛銃の引き金を引いた。
「すごい、まさかこんな事が起こるなんて……」
 R.R.と同じようにマストに自分の胴を括り付けたドゥーは目の前で起った奇跡に感嘆の声を上げる。
 雲の合間に勝機が見えたのならば、それに賭けるしかない。
「俺も全力で頑張るよ……!」
 R.R.が切り込んだ鱗の隙間に狙いを定める。
 できるだけ正確に。落ち着いて。そう言い聞かせてドゥーは瞳を開いた。
 息を吐いて杖を握りしめる。
「そこだ!」
 狙い定めた一瞬の間。鮮烈なる一陣の光が海を走る中、マルクは険しい顔で威容を見上げる。
「流れは来ている、と言っても……こちらの不利は変わらず、だね」
 ああ。けれど。それでも。
 道は前にしか拓かれない事を知っている。
「あれだけ大きければ、僕の技術でも十分狙える」
 仲間の攻撃で剥がれた鱗が波に揉まれていた。
 鍵の魔法具を掲げ、血が滲んでいる傷口へとマルクは魔法を放つ。
「はわー。硬い。つよい」
 仲間の攻撃が弾かれるのを見てどらが声を上げる。
 接近戦は不利と見たどらは距離が離れたサンタパトリシア号へと戻って来ていた。
 人員不足はどの船も同じであろう。
 負傷する者が後を絶たないからだ。
「大丈夫か!?」
 海へと落ちた船員をどらはロープを使って引き上げる。
 木の破片を抜き取りながら、どらは彼が死なないように声をかけ続けた。
「任せて」
 どらの隣に立ったマルクが頷く。
 この距離であっても安全だということはない。船が沈むというのならば、上に乗っている人に被害が及ぶのは至極当然。
 光が甲板に広がる。マルクが敷いた陣は癒やしの木漏れ日となって負傷者の傷を塞いだ。

「ぶはははっ、こっからが本番ってわけだな。良いねぇ!」
 戦場にゴリョウの笑い声が重なる。
 その背にはノリアが巻き付いていた。
 二人は短く頷き合う。お互いの考えている事など言葉にしなくとも分かるのだ。
 己が攻撃の手を取るよりも、全体の利益を優先する。
 この身を『盾』に使うのだと二人は覚悟していた。
 怖くないと言えば嘘になるだろう。だが、越えねばならない戦局は今此処で繰り広げられている。
「そっちは任せました」
「ああ」
 見えなくとも同じ戦場で戦う。心は繋がっているから。
 ノリアは迷い無くその身を海に投げた。
 それを見届けて、ゴリョウは甲板を踏みならす。
 軋む船底。リヴァイアサンの大津波が船を襲った。
「おぉっとそいつぁ当てさせねぇよ! ふんがぁッ!」
「わ!?」
 ルフナの目の前にはゴリョウの巨体。
 あの巨大な波の攻撃から身を呈して庇ってくれたのだ。
 鮮血がゴリョウの身体を染める。
「ありがと」
「ああ、お前さんが無事なら、身体張った甲斐があったな」
 ゴリョウが繋いでくれた命。
 どんなに弱い攻撃でも、当たればダメージは入るのだとルフナは立ち上がる。
 戦場を見渡せば、疲弊した仲間達。
 この場に集まった仲間は誰もが威力の高い攻撃を放つ。それ故、消耗も激しい。
「ね。君たちさ、ハッピートリガー……してみる気はないかな」
 ルフナが戦場に立つ時、鎮守森が広がる。
 光る月の術式は優しく円環の魔法陣を組み上げた。
 顕現せし『澱の森』は疲弊するイレギュラーズと、クルー達の背を支え守るように――

成否

成功

状態異常
ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚
ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
ディバイン・シールド

第2章 第6節

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

 戦場後方――リヴァイアサンの尾部と交戦を続ける艦隊の旗艦サン・ミゲル号の甲板。
 そこはさながら野戦病院の様相を呈していた。
 いくつも吊されたハンモックでは、負傷者達が腰掛け、また寝ながら治療の時を待っている。
 大きな揺れや吹きさらしの雨を凌ぐことが出来る程、有意義な設備は整えられていない。
 なにせ艦隊自体が、激戦に傷つきながらも急遽再編されたものなのだ。

 だが、そんな嵐を三つの影が切り裂いた。
 振り子の弧を描いて、マストを蹴りつけたイーリンが甲板に着地する。
「悪いわね、騎兵隊は美味しい場面で来るものよ!」
 騎兵隊の到着にサン・ミゲル号の甲板が沸いた。
「でも今は、貴方達に感謝代わりに支援を!」
「謙虚なもんだ。俺があんたらなら、酒片っ端からかっ喰らってやる所だぜ」
「元気そうね。ひとまず安心出来そうで良かったわ。それでどこから?」
「重症軽症を選別する暇さえねえよ。悪いが片っ端から頼むぜ」
「全く……大変ね、ほんとに」
 イーリンはビスクワイア提督の言葉にぼやきながらも、少女のような朗らかな笑みを浮かべる。負傷者は英雄の表情に安堵の吐息をもらした。
 順位付けは式神に任せよう。おいおい浮かび上がる筈だと、手近な重傷者の横に座り込んだ。
「貴方の見たもの、感じたことを話して! その間に治療は終わるわ!」
「あ、ああ……あれは――」
 まずは辺りの恐慌や混乱を打ち払い、致命傷を負った者に大治癒の術を施す。狙いは一つではない。これまでの経緯を聞き出し、有効打を探ることを兼ねている。

「よいしょ!」
 次々に負傷者が運び込まれる甲板に、ココロは片膝をついて治療のための薬剤が入った木箱を置いた。
「はい、薬が欲しい人手をあげて!」
「俺だ!」「アタシさ!」「俺を!」「頼む!」
 ハンモックのクルー達が次から次へと手を挙げる。
「手上げなかった人から診て行きますね!」
「ちょ!」
「あの大きいのは待ってくれませんよ! 口も手もガンガン動かして皆さんを救けていきましょう!」
 ココロは努めて明るい表情で精一杯の声を張ると、元気が残された者達に治癒薬の瓶を次々に放る。
「ま、そりゃそうだ」
「アタシだってお酌してほしいもんだけど、いいさ。行ってやってくれ」
 重傷と見られる者達のの中央で、ココロは癒やしの術陣を展開する。
 まずは人命を。それから戦力を。
 一行の想いと共にポーションを受け取った海軍の女兵士は、それを一息に煽ると拳を振り上げて笑った。

「戦線を整えるところから……幾ら後方とはいえ護衛無しにはできんだろう」
 鋭い視線でリヴァイアサンを睨むリアナルは、その背にココロ達を庇うように油断なく構えた。
 あれは、何せ前代未聞のバケモノだ。
 時折迫り来る波濤を遮り、水弾を斬り伏せながら、リアナルは魔術力の賦活を続けている。
「あぁ、この程度なら退屈なドレイクの船にいる時の方がよほど辛かった……!」
 今頃は、砲撃艦の様子は――

 そんなリアナルの遠く視線の先。
 巨大な尾から僅か数十メートルの至近距離で、砲撃船隊は撃ち続けている。
 たとえ別の船隊に分かたれていたとしても――甲板の上でウィズィは巨大な刃でリヴァイアサンの巨体を指し示し――騎兵隊として全員生存の心意気は変わらない。
 皆を信じて、成すべきを成すのだ。
 その視線が見据えるのは、鱗と鱗の狭間。砕け肌を露出した傷口だ。
 嵐の中でふわりと舞い上がる髪が、黄金に輝いた。
 雷電を操る獅子さながらに広がり――

「目を醒ませ……私の獣」

 ――Wake up, Beast.
 蒼炎が爆ぜた瞳から放たれるのは、夢見た未来を駆ける炎。一条の嚆矢。
 遙か背の向こうに感じる騎兵隊頭目にして恋人。イーリン直伝の魔眼が竜尾を穿つ。

「はっはっは!」
 たった今穿たれた竜尾の近く、その遙か下で。小型船で接近したエレンシアが笑う。
 良い威力だ。イーリンか。いや、砲撃船隊へ向かったウィズィに違いない。
 そびえる竜尾がうごめき、さながら動く壁のようにみるみる海中へ沈んで行く。
「このデカブツ、ガタイのみならず全てにおいて半端ねぇな!」
 渦に引き寄せられる船のロープを掴み、エレンシアは鋭い視線で勝ち気な笑みを浮かべた。
 だからこそ戦い甲斐がある!
 可憐な肢体に漆黒の大剣を大上段に構え、ウィズィが更にこじ開けた傷痕が迫る一瞬を待ち――波濤。
 全てを飲み込む程の水圧を前に、踏み込んだのはレイリ―であった。
 構えた大楯――アクロアイトアイギスに暴力的な水圧と、無数の水刃が甲高い音を立てて弾ける。

 ――こんなデカい生き物相手に近づくなんて正気の沙汰じゃないよね。

 自身の全てを飲み込む程の奔流の中で、レイリ―はその瞳を開きまっすぐに正面を見据える。

 ――でも、だからこそ面白いのよ!

 自身を支柱に左右に流れる水圧が去ると同時に、レイリ―は声を張り飛び退いた。
「エレンシア殿、攻撃の方は頼んだわよ――やっちゃいなさい!」
「無理はすんなよ相棒!」
 あの一点を射抜く集中を纏い、エレンシアは鋭く踏み込む。
 死の大鎌をさえ思わせる刃の軌跡は狙い違わず、焼け焦げた傷口を更に深く斬り裂いた。

成否

成功


第2章 第7節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵
ニャムリ(p3p008365)
繋げる夢
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ

 嵐天を駆ける雷光が、波打つ海へと拗くれた角を幾本も突き立てていた。
 ここがこの世の地獄であるかは定かでないが、少なくとも死という概念に最も近い場所であるのは確かであろう。

「竜が嗤い、海原に死が蔓延り、絶望しか有らず」
 端的に事実を述べたのは機械仕掛けの声音であった。
 されど「私には肩を並べて戦う皆様がいる」と繋げる。
「こんな奇跡……信じて突き進めば、起るものなんだねぇ……」
 寝間着姿で枕に乗った青白い毛並み。二足歩行の猫――ニャムリが眠たげに目元をこする。
 隣で腕を組んだ巨漢ボディ・ダクレは、頭部そのものであるモニタの笑顔を向けた。

 恐らく誰もが理解していた。
 今、この瞬間に何をすべきなのかを。
 イレギュラーズが灯した小さな必然の連続――
 その織りなした奇跡にリヴァイアサンの大きな隙を生み出した事を。

 ――全く、私の仲間達は何時だって窮地に予想もつかない奇跡を起こすのだから。

「私も……私だってイレギュラーズなのだから。負けていられないわ」
 アンナが愛らしい唇を決意に引き結ぶ。
「なるほど、この巨大さはレウィアタンと名乗るのに相応しいとしか言えないわね」
 静かに言葉を零したルチアが小首を傾げる。
 書で知った性質は不死なれど――この状況なれば違ってみえる。
「誰か乗る?」
 二本マストのトップスル・スクーナー"Concordia"の甲板に立つルチアの問いに、幾人かが頷いた。
「仕方がない……」
 呼びつけるなどという真似をしたくはないのだが――
「ワーーーッカ!!」
 穏やかなる隣人――水の精霊ワッカが顕現した。
「あとでお代はしっっっかりやる、今だけは無茶を聞いてくれないか」
 頷いた水の貴婦人は、その身をさながら船のように貸し与えて。
「乗れる奴は乗ってくれ!! まだまだやれるだろう、やらなければならないだろう!!」
 潮目は変わったのだ。
 身を預けた行人が蔦纏う刀を抜き放つ。
 チャンスは今しかないのかもしれない。
「しからば私が尾を斬りましょう」
 ニャムリの船の上でボディは述べる。
 例え神であろうとも、削り続ければ死の定めは逃れ得ぬのだと。
 仕方ない。その言葉と奇跡の熱気に付き合って、ニャムリも一つお邪魔する。

「なら俺達が手伝いますぜ!」
 海洋王国の軍人達が、船のサポートを買って出る。
「あらあら、まるで船団。ならアンナちゃんが提督ね~。おばさん応援しちゃう」
 頬に手を添えたレストは柔らかに微笑み、船団へと保護結界を張り巡らせた。
 船があったほうが攻撃しやすいとの言葉は、なるほど気が抜けるようで真理を突いている。
「さあ、みんなでリヴァイアちゃんをぎゃふんと言わせちゃうわよ~!」
「あの――っ」
 名前は。その。
 クルーが口ごもる。
「えっ……? リヴァイアサンまでが名前なの……? んと……リヴァイア……さんちゃん……?」
 どっとクルーがどよめき、張り詰めすぎていた緊迫が俄に霧散する。
「あらやだ~。おばさんまた間違えちゃったかしら~?」
 クルー達の表情に明るさが戻ってきた。
「さあ、気合いを入れましょう」
 緊張がほぐれた事を確認したアンナは礼を述べ、一転して引き締める。

 ――アイアイサー!

 クルー達に決意が漲った。
「アンナ嬢! よろしくお願いします!」

 イレギュラーズは三隻に別れ、リヴァイアサンへの最接近へと狙いを付けて併走している。
「たとえ船が沈んだとしても、限界までは離れるものですか――っ!」
 船を操るルチアは凄絶な決意と共に、迫る波濤を直進する。
 圧倒的な破壊のエネルギーを断ち割り、向かうは近くへ、更に近くへ!
 並び立つ三隻――厳密には二隻と精霊ではあるが――は、リヴァイアサンの尾へと肉薄した。

「未来というものが、すぐそこまで来ましたねっ!」
 ヨハナは、あれ(みらい)はツンデレだとおどけてみせる。
 彼女流に表現するならば、今回の『ツン』がリヴァイアサンである。
「釣り目金髪縦ロールだと思って眺めれば、案外チョロイですよっ!」
 ねじれた雷光を背にした竜は――なるほど、訓練と強めの幻覚ならば然もありなん。

「オーケー、エブリワン。反撃開始ってところだな?」
 一同を見渡した貴道が胸を張る。
「ここからがメインイベントだ!!」
 数度僅かに跳ね、拳を構える。
「理不尽に唾を吐き、打倒する! 一番美味しい展開じゃないか、HAHAHA!!」
 ステップ。肉薄。
 極限の集中――ゾーンに突入した貴道の拳は、竜の身を突き破っていた。

 ――拳は放つものではない。
  放たれて『いなければ』ならない。
   当たり前のように、そこ『置かれて』いるものとして――

 劣化スマッシュ――
 自身の矜恃がそう自嘲するサンデーパンチが世界最強の生物――竜種を食い破ったのだ。

「ほんっと邪魔だよこのクソヘビ!」
 アルバニア・シンドロームによる必滅の呪いさえなければ、こんな場所に要はないと言うのに。
 吐き捨てたサンディが先陣を切った。
 己に課した役割は二つ。
 一つ――それはシキを守り抜くこと。
 迫り来る波濤へ飛び込むように身を躍らせたサンディへ、刃のような水弾が迫る。
 高圧の水刃がサンディの身を貫くゼロコンマ一秒。
 否、それを下回る程の刹那。
 サンディの手元で閃く刃が水弾を真っ二つに断ち割った。
 飛沫となった水刃がサンディの身を切り、頬に一条の紅を引く。
「こんなとこで死ぬ気ないよねぇ、少年?」
「先は長ぇんだ、ここで死ねるかよ!」
 満足を覚える回答に一つ頷き、シキは腰を落としたサンディの背を飛び越えた。
 こんなにでかい狩り、処刑人として持てるすべてをぶちこんでやるのだ。
 いかに強大な敵とて、打破する可能性がほんの僅かでも転がっているのなら――躊躇わない。
 雷を纏う処刑剣――ユ・ヴェーレンが、リヴァイアサンの傷口を切り裂いた。
 迸る竜血が沸騰し、嵐を浴びて煙りを上げる中で。

(二つって言ったよな……!)
 己が課題は――!

 リアナルの後ろでサンディが甲板を蹴りつける。
 宙を舞い、刃の腹に受けた水弾の衝撃に身を翻し――
 サンディはその反動ごと刃――セブン・メソッドをたたき込む。

 次々に船を寄せ、イレギュラーズの猛攻は止まらない。
「本当に――」
 フローリカは苦笑を噛み殺す。
 この世界へ来てから驚かされることばかりであったが、よもやこんな相手を斬ることになるとは。
 こんなものは傭兵家業の埒外だとも思えど、どうもそうは言っていられないらしい。
 ならば。殺しきる他ない。
(相手がなんであろうとな)
 接近する竜へ、フローリカは光刃を出力するハルバード『ルクス・モルス』を振り抜いた。
 まずは小手調べ。強烈な衝撃波が竜鱗に亀裂を走らせる。
 成程。困ったものだ。
 戦闘レベルでの手応え、その手に伝わる破壊の実績は確かに感じる。
 だがそれより大きなレベルでは、まるで手応えを感じないが、やるしかないのだろう。

「その綺麗な鱗、一枚いただけないかしら~? ごめんあそばせ」
 あくまで柔和に。けれど瞳の奥に真摯な色彩を湛えて。
 レストの意思の波動が炸裂した。
 ひび割れた竜鱗が砕け、海中へと飲み込まれていく。

 一分か。二分か。
 ひょっとしたら数十秒に過ぎないかもしれない。
 それは尾が再び動き始めるまでの、ほんの僅かな時間であった。
「撃沈が怖くてやってられっかー!」
 船上で刃を構えた秋奈が叫んだ。
 狙うは傷口。一点突破の集中攻撃である。
「鱗だってなんだってひっぺがーす! 傷口ならおしひろげてやるー!」
 光が走り、割れた鱗の奥、その肉を切り裂き血花が嵐の海に溶けてゆく。
 襲い来る波濤に、イレギュラーズは打ちのめされ、水弾に穿たれ切り裂かれている。
「あらあら、無理したらだめよ~」
 レストは穏やかな声音で瞳を閉じて――
 調律の魔術がイレギュラーズを包み込み、その傷を瞬く間の内に消し去った。

「竜種相手じゃ針の一刺しにも満たないわね」
 レジーナは溜息一つ。
 だが彼女の怜悧な瞳は、竜の身体へ着々と傷が増えていることを見逃さない。

 ――皆で帰りたい。今すぐに。
   生きて再びお嬢様――青薔薇の君の元へ。
   こんな竜に、邪魔されたくない――!

 切なる想いは、かつての権能を再び手にする奇跡さえ願い。
 けれど手の内に淡く消えゆく光を握りしめ。
 レジーナは、せめてその一部――今一度、屠竜の奇跡(在りし日)をここに願う。
 踏み込み。
 船さえ割り砕く程の裂帛から放たれた刃が竜を切り裂く。
 座標を合わせ――顕現。
 竜の身の内から串刺しにする数多の剣を蹴りつけて、去り際の一撃を見舞った。

 これは――天義の時にも見た光景だ。
 クロバの脳裏に過ぎるのは、数多の奇跡が希望を繋いだあの日――フォン・ルーベルグの決戦だ。
 絶望的な状況から、星のように小さな光が集い、闇を打ち払う奔流となった姿なのだ。
(あぁ。希望があるならそれでいい。俺達は――)
 クロバ達が繋いだ僅かな時間――海洋王国が艦隊の再編を可能とした貴重な時間――それが無駄でなかったと信じることが出来る。
 駆けるクロバが竜鱗の狭間へと肉薄し――アヴァランチ・ロンド。
 二刀の爆裂と共に放たれた斬撃が竜血の奇跡を描いて。

 アドレナリンに灼けた脳髄は、痛みさえも彼方へ吹き飛ばしている。
 短く息を吐き、ルクス・モルスを振りかぶったフローリカへ。
 巨大な尾が彼女の顔へ影を落とした刹那――砕月。
 あらゆる守りさえ打ち砕く痛烈な一撃が、強固な竜の肉体をえぐり取る。
 甲板を蹴りつけたフローリカが居た場所へ、強烈な水弾が降り注ぐ。
 その直後――二刀を斜め十字に構えたクロバが、すれ違い様に飛び込み――裂帛。
 臨海まで高め、圧縮された魔力が弾けた。

 ――無想刃・重白魔【爆】

 鼓膜さえ破れそうな轟音と共に、刃に乗った圧倒的な破壊が竜の身に巨大な空洞を穿つ。

 船が傾いでいる。
 竜骨が高波に軋みを上げている。
「大丈夫」
 アンナはクルーへ声を掛け、ブリッジのルチアに視線を送った。
(……いくらとんでもない化け物でも、一撃で死なない事はさっきわかった)
 仲間を生かす。敵が倒れるその瞬間まで希望を繋ぐ。
 アンナがやるべきことは、いつもと変わらない。

 その波濤、その神威――全て受けきって見せる。

 劈く雷光を剣に当て、水面へ流す。
 感覚を失って痺れる腕を、その拳に握られた剣を離さずに。
 アンナは仲間を背にして、迫る波濤を切り裂いた。

「オオオオォォ――ッ!」

 オリーブが叫ぶ。
 その剣を叩き付ける。
 今弾けたのは、どちらの血だ。
 剣が折れるまで攻め続ける。
 剣が折れたなら、折れた剣で攻め続ける。
 剣を失ったなら、拳を叩き付ける。

 誰も殺させはしない。
 何も終わらせる訳にはいかない。

 圧倒的に不利な状況であることは承知している。
 だがオリーブの胸に揺蕩うのは、不思議な気持ちだった。
(なのに、なんとかなる気がするのです!)

 出来るか、出来ないかではない。やるのだ。

「さっさとサシミになりなさーいっ!」
 秋奈の刃が煌めき、光が走った。
 崋山の刀――圧倒的な剣速が、竜の身を尚も抉り抜く。
「ガンガン行こうぜ……!」
 行人は己が身を襲う波濤の上で、その衝撃を切っ先に籠めて振り下ろす。
「唸れ能天気・イモーショナルブレイカーっ!」
 その感情エネルギーの炸裂を大鍵に纏い、一気に振り抜く。
 ボディの拳に握られた闇色の刃が閃き、音速の斬撃は竜を幾度も刻んでいる。
「これで……いける?」
「ええ」
 肉球でボディの大きな背を押したニャムリから、尽きかけた魔力がなだれ込んでくるのを感じる。
 ボディが再び刃を振り抜く。
 大気が炸裂する。
 巨大な壁の肉が裂け、竜血が迸る。

「潮時、だね……何かがおきそう」
 天を仰いだニャムリは見た。
 尾はその動きを止め――微かに光を放ち始めた事を。
「なら風をおこしますよー!」
 果たして。暴風を背にしたそのトンチは、いかなる効能をもたらしたか。
 ともあれ一行――小船団は竜の尾へ打撃を与え、その暴虐から逃れきることに成功したのである。

成否

成功

状態異常
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者

第2章 第8節

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ヨシト・エイツ(p3p006813)
救い手
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護

 船の間を駆け回るリトル・ベルーガ号の甲板で、アカツキは手のひらを目の上にかざした。
「何だか最近はこの手の救助活動が多い気がするのう……妾」
 小さなぼやきは、幻想種なのじゃがと続いて。
 戦域を俯瞰してみれば、やはりリヴァイアサンの攻撃範囲は広域かつ強大に過ぎる。
 こうしてアカツキ達が救助せねば、命は次々に海へ沈んでしまうだろう。
「どうですかな?」
 エルテノール=アミザラッド=メリルナートが太い声で尋ねた。
「救助者を見つけたのでちょっと行ってくる……怪我の手当ては任せるぞ!」
「お任せあれ!」

 海に何かが漂っている。
 木片に身体をくくりつけた二人組だ。
 海洋王国軍の軍装を着ているが、一人はぐったりしている。
 このままリヴァイアサンとの戦闘に巻き込まれれば命はなかろう。
 そうでなくとも狂王種の餌食になりかねない。
 軽く頬を叩く。
「意識がない……急がなければ」
 眉を寄せたミニュイは、愛らしい顔に真剣な色彩を湛えて負傷者を担ぎ上げた。

 ――私は最速。たぶん。
   私には誰も追いつけない。きっと。
   荒波からも、死からも逃げ切ってみせる。絶対!

「俺はあっちを……!」
 アカツキとミニュイが二人を助け起こすのを確認した史之は、その向こうの小型船を睨んだ。
 甲板の上に立っている兵は、明らかに足元が覚束ない様子である。
「無茶はしていい! 無理はするな!」
 甲板へ飛び込んだ史之が声を張り上げる。
「あんたは、大号令の……」
「そんなことよりも、すぐに旗艦へ戻れ!」
「だが、俺達は、まだ!」
 戦えると言いたいのか。この海兵は、この出血で。
「この海を渡るのに兵だろうとイレギュラーズだろうと誰一人だって欠けることは許さない!」
「……アンタが言うなら、わかった」
 急ごう。
 共に目指す先は、旗艦サン・ミゲル号だ。

 アカツキやミニュイ等が付近の海をあらかた浚った後――
 そんなメリルナート家のリトル・ベルーガ号から、サン・ミゲル号へと負傷者が次々に運ばれてきた。
「あわわわわ、大変な事になってるのです!」
 船が沈んだと思えば、次々に怪我人が運び込まれてくる。
 ソフィリアは慌てた様子で怪我人に駆け寄った。
 瞳を閉じたソフィリアが癒やしの術式を紡げば、険しい表情で目を閉じた怪我人の呼吸が穏やかになる。
 ほっと一息つければ良いのだが、まだまだ終わりそうにない。
(うちは知っているのです……)
 こういう『たいへん』な時に大事なのは『へいたん』であるのだと。
 残念ながら『へいたん』について彼女は『後ろを守る』以上を知らなかったのだが――
 後方で次から次へと行動し続けるソフィリアの姿は、正に『兵站』の本質を示している。

「よぉっし、よく頑張った! 生きてるなら万事オッケーだ!」
「大丈夫ですか、すぐに回復しますから」
 利一の札をつけた重傷者へ。
 見れば分かる。ほうっておけば命に関わる怪我だ。
 リンディスやヨシトから流れ込んだ調律の魔術は傷を見る見る間に消し去った。
「行かせてくれ!」
 目を見開いた水兵が上体を起こし、腕を押えて蹲る。
「こんな後ろで、あいつらはまだ戦って!」
「そんな風に考えないで下さい」
 立ち上がったリンディスは、海兵の目をじっと見据える。
「未曾有です、だから無理をせずしっかりと長く戦わないといけないんです」
 ここで回復するのだと。
 そしてまた戦うのだと。
 下がることは逃げることではないのだと。
 己と向き合って最善を尽くせと、真摯に説き伏せる。
「確かに、アンタの言う通りだ」
 水兵がゆっくりと身を横たえ、休息に入る。
 物語はまだまだ続くのだ。
 一人一人がこの『竜種』へ、世界最強の生物へ、『私たち』を刻みつけるのだ。
「次はどっちだ」
 ヨシトが精霊に語りかける先。
 次の救援はあちららしい。
「そう簡単に死なせはしねぇよ!」
「さあ、立ち上がってまた行きましょう!」
 一つの命を救ったイレギュラーズ達が再び走り出す。

「次!」
 利一が行っているのは、過酷な命の選別であった。
 この怒濤の嵐の中で風雨を遮り、清潔な布と水を使い続ける。
 止血、骨折には添え木も必要だ。やることは山ほどあった。
 拭った額から零れたものが、雨なのか汗なのかも分からない。
 ここも間違いなく『戦場』であろう。
 治療を終えた人員が再び戦力となれば、それは大きな『戦果』となるのだから――

 そんな中。司令部は戦場全域を見据えて。
 ブリッジの上でエイヴァンとキャプテン、そしてビスクワイア提督が腕を組み顔をつきあわせていた。
「さて……艦隊を再編したとはいえこちらの戦力が削られたという事実は変わらん」
 たとえ零パーセントの希望が、そう出なくなったとはいえ、悲惨な戦況に変わりは無い。
 事態へ、より有効な打開策を提示するのが彼等の義務であり、責任であった。
 攻めなければ倒せないが、戦力を必要以上に減らさない策もあったほうがよかろう。
「たとえば……囮とかな」
 エイヴァンの言葉にビスクワイアの表情が険しくなる。
 囮に出るのは、イレギュラーズとなるだろう。
 エイヴァンとてこんな事に兵を使うつもりはない。
 それは死を意味するのだから。
 仮にやるなら竜の『頭部へ』かもしれないが、はてさて。

「おい、見ろ」
 キャプテンのネレイデが遠く、天を衝く尾の先端を指さした。

成否

成功


第2章 第9節

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ポムグラニット(p3p007218)
慈愛のアティック・ローズ
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
フーリエ=ゼノバルディア(p3p008339)
超☆宇宙魔王

 サン・ミゲル号が負傷者の救助と手当てに追われている頃。
 砲撃艦隊は打撃のチャンスを逃すまいと猛攻を続けていた。

「じかんが ないの」
 ポムグラニットは美しい唇を歪めて巨大な竜尾を見遣る。
「びょうきのおともだちを たすけなきゃいけないの」
「うん。終わりの見えない戦いに希望が生まれた。それだけで、もうひと頑張りには十分すぎるよね」
「次のチャンスがいつ来るかわからないからな」
 ポムグラニットの声にシルキィとランドウェラが頷く。
 船の揺れは承知済み。命中しやすいこの場所を彼等は選んだ。
 仲間が集中的に攻撃を打ち込む場所に、己の指先を流す。同じ場所に打ち込むことが出来ればそれだけ攻撃を重ねる事が出来る。三人は視線を交し頷き有った。
 花の精霊たるポムグラニットの周りには芳しい香りが漂い、美麗な花の魔法陣が構築されていく。
 その身は痛みを感じない。だから、どれだけ攻撃を受けたって立ち上がることが出来のだ。
 彼女の魔法陣はシルキィにとって心地良い響きだった。
 美しい糸を紡ぐが如く練り上げた陣を一枚一枚重ねていく。
 一人で足らぬのならばその手を掲げ共に往こう。
 展開されるは星屑の色彩。ランドウェラの魔法陣が二人の術式に織り込まれた。
 迸る真素の循環。
 照準を合わせ三位一体の理と成す。

「穿て――竜滅の雷!」

 三条の渦を巻く雷撃の嵐がリヴァイアサンの尾を大きく抉った。

 ――あいつらが勝機を運んできたか。

 リヴァイアサンに立ち向かった仲間の顔がハロルドの脳裏に過った。
 ならば、自分も役割に徹しなければならないだろう。
「勝利のために」
 ハロルドは口の端を上げてソアの前に立った。
「任せておけ! 俺が守ってみせるさ!」
「わあ! ありがとう!」
 閃雷の虎たるソアを守る事は自身が攻撃の手を取るよりも戦況を有利に運ぶとハロルドは考えたのだろう。「おう、だからそっちは任せたぞ!」
 大きな竜にソアの瞳は輝く。
 強大な敵。無敵を誇る巨体。内なる闘志が燃え上がる。
「――雷電、この風の唸りを吹き飛ばす位に、鳴り響け!」
 轟音と共に戦場を駆け抜けた閃光はリヴァイアサンの鱗を破砕しそぎ落とした。
「さあ、どんどん撃って!」
 ソアの開けた傷口に砲台の照準が向けられる。

 砕け散る破片と、鉄塊が注ぎ込まれる轟音と――
 尾は――巨大な壁はむずがるように、苦痛に喘ぐように、僅かに蠢いた。
 迫り来る怒濤。
 水圧と水礫の暴威がソアに迫り――だが滑り込んだハロルドが目を見開いた。
「来いよ!」
 二重の障壁を展開したハロルドは、文字通りの『無敵』だ。
 全ての衝撃を受け止め、ハロルドは奥歯を噛みしめ、甲板に叩き付けられた。
「……ぐっ!」
 跳ね起きる。
 この結界がなければ、ハロルドは間違いなく死んでいたろう。
「ハハッ!」
 賭けには勝ったか。
 この男には、こうしてあらゆるものを、なにかと試してみたくなるようなところがある。
 衝撃までは殺しきれなかったらしいが、幸運にも大きな怪我がないのは僥倖だ。
 これで二度目である。同じことを幾度もやってうまくいくとも限らぬが、はてさて。
「ハロルドさん!」
「俺の事はいい……! アイツに攻撃を!」
 彼の必死の形相に、ソアは前を向いた。
「うん。ボク行ってくる!」
 黄金を讃えた瞳が苛烈なる意思を持って竜へ向けられる。
 ソアが振るう爪の一振りは、竜尾が振るう雷撃にも似て――

 龍虎の雷撃が天を衝く刹那。
 波濤が去った直後――それはハロルドが命を張って紡いだ好機である。
「これを活かさずしては超☆宇宙魔王の名が廃るというものよ」
 フーリエが胸を張る。
「少しずつだが流れが変わってきたところか」
 フーリエの声に修也が口の端を上げる。
 自分の出来ることを成す為。全身全霊を持って目の前の巨体を削り倒す。
 海へと落ちないように超☆暗黒骸装を縛り付ける事もフーリエは忘れてはいない。
 慢心とはいかに最強の魔王といえど万死に直結するもの故。
「さて、狙うは」
「鱗が剥がれた瞬間、か」
「そうじゃ! 狙い澄ませ。全神経をこの瞬間に集約させるのじゃ!」
 得物を構え来たるべき『隙』に備えろと頷いた。
 少しでも攻撃が奥へと食い込むように二人は意識を研ぎ澄ませる。
 組み上がる魔法陣はその意思を反映したかの様に大きく展開された。
 押し寄せる攻撃。
「今じゃ!!」
「ああ!」
 鱗が剥がれた薄い皮膚に最大出力の魔法が突き刺さった。
 フーリエと修也が削いだ傷に攻撃を重ねるのはリュティス。
 本当に厄介な相手だと巨大な竜を睨み付ける。
「ご主人様も何処かで戦ってらっしゃるのでしょう。私も微力ながらお手伝い致します」
 黒狼の主を思いリュティスは弓を握った。
 僅かであっても重ねれば何れいつかは瓦解する。
 リュティスの胸元から黒き蝶が群れを成して羽ばたいた。
「さあ、行きなさい」
 血を滴らせた傷口に取り付く無数の蝶――

「グゥ……」
 強い、と。
 アルペストゥスは思案する。
 強靱な翼でどんなに羽ばたこうとも、波風荒ぶる海上を進む事が出来ない。
 同じ『竜』を見上げ。仲間なのだろうかと思考を巡らせる。
 そうだったらいいなと。
 それは素朴で、とても素直な感情だった。
 だから――こっちを向いて欲しいと願い――竜は雷撃を解き放った。
 なのに。
 届いても尚此方に見向きもしないリヴァイアサンが焦れったい。
「グルルルル……!」
 砲台から射出される弾の音。中たる感覚。風と弾薬の匂い。
 思ったよりもこの場所は心地よくて。
 戦場に響く声で白き竜は鳴いた。
「ぶはぁぅ!」
 アルペストゥスの視界に千尋の姿が入り込む。
 翼を広げ海に浮かぶ彼を掴み上げ甲板に下ろした。
「何とか命拾いしたぜ……ありがとさん!」
「グル……」

「さあて。弾込めと狙いつけるのくらいはやらせてもらうぜ!」
 アスセーナ・ペタロIII号の砲門へ降りた千尋は船員に交ざって声を張り上げる。
「どうせ的はデケェんだ! どこに撃ったって当たるだろうよ!」
 重たい弾を持ち上げながら、リヴァイアサンの剥がれた鱗を見つける千尋。
「おおーい! 皆ー! あそこ弱点だぜ多分!」

 ――アイアイサー!

 雷鳴を切り裂く砲撃の嵐が、再び天を劈いた。

「ちょ……おいおい」
 爆薬の煙が豪雨に流された直後のことだ。
「あの尻尾の先っちょバチキン帯電してんだけど」
 目を見開いた千尋の険しい表情は、鏡に見せればきっと柄でもないが。
「ビームでもブッパしやがったら内閣総辞職モンじゃねーーーの!?」

成否

成功


第2章 第10節

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
世界の合言葉はいわし
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星
コルウィン・ロンミィ(p3p007390)
靡く白スーツ
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

 ――砲撃の嵐が続いている。

「嗚呼、何と最早」
「実にわかりやすい"作戦"なのです」
 海風が未散とヴィクトールの髪を浚う。
「死力の限りを尽くして、全弾丸を打ち込めなどと!」
 広げた掌は眼前に鎮座する海竜へと向けられた。
 命を賭けて。篝火を絶やすな。思考の一切は捨て去り。
 只、全力を持って火力を放てというのだ。

「結構」

 未散は嫋やかな手を隣のヴィクトールへと向ける。
「ヴィクトールさま、ふふ、離れないで下さいね」
「ええ、離れませんよ」
 輝く篝火を絶やすことのないよう。
 優しく未散の手をヴィクトールは握りしめた。

「……?」
 アリアは遠くに聞こえた精霊の声を聞く。
 潮目が変わった。きっと、奮戦する仲間が流れを変えたのだ。
 ならば乗らない道理はない。
 フレイとリウィルディアに視線を合わせて頷く。
「水竜、海の守神。そんなものが実在していたとはね」
「今は少しばかり弱体化しているようだな」
 アリアは身を乗り出して観察する。

 リボルバーに込めた怨霊のたましい。
 未散は照準をリヴァイアサンに向けた。
「さあ、禊の雨は止み、太陽で黒く燃えた者達よ!」
 彼女の声に呼応する如く波が襲い来る。このままでは直撃は免れない。
 だが、未散は避ける事などしない。
「絶対に……守り切りますから」
 信じている。ヴィクトールを心から信じているから。

「喰ってやれ――」

 暴食のままに。最高のご馳走を。

 同じ戦場に立つフレイ達もリヴァイアサンが放った波に呑まれていた。
「っ……! 大丈夫、か! 二人も」
 アリアとリウィルディアを抱えたフレイはその背に波の直撃を受け鮮血を流す。
「フレイさん!」
「しっかり!」
 リウィルディアの回復を断って、自力で再生するフレイ。
 大事な戦力を此処で消費するわけにはいかない。
「一度きりだもんね」
「ああ」
 それよりも。とフレイはアリアに促す。
「そうだね。……やっぱり、最初に比べると少しだけ手応えがあるかな?」
 未散が打ち込んだ攻撃は確実に傷を負わせていた。
 ならば、それに重ねるより他無い。
「散々やってくれたんだ。お返しはたっぷり、その図体で受けてもらわないとね!」
 リウィルディアの声に、二人は頷く。
「みーんなー! こうなったら徹底的に攻めるよー!」
「おー!」

「ふむ……ここからが本番って所か?」
「あいつをもっと弱らせればいいわけね」
 隣を見ればセリアが頷いてみせる。それに「上等だ」と応えるコルウィン。
「私が指揮を執るわ」
「倒せなくともやることは同じ、か」
「ええ!」
 セリアの的確な誘導にコルウィンの火力が乗れば軍神の如く。
 何処が攻撃が有効な場所で、効かない場所なのか。情報を集めることは戦場を有利に進めるのだ。
「みんな自分の腕を考えて狙いなさい!」
「……ふむ」
 コルウィンはignorance over collapseを構え、リヴァイアサンの尾に照準が合わせる。
 嫌な汗が彼の背を這う。
 けれど。
「ほら、20年後の後頭部みたいに弾幕薄いわよ、なにしてるのよ!」
「……ふ」
 緊張感をものともしないセリアの声に肩の力が抜けた。
「撃ちまくれ!」
「はいよ」

「正直なところ、オイラの戦力じゃ……」
 弱気な言葉を零すアクセルの肩を叩くのはフェリシアだ。
「だいじょうぶ、です。まだ……まだやれると、いうことです、ね……!」
 小さな微笑みはアクセルの心を鼓舞する。
「そうだな」
 正攻法が駄目ならアクセルの得意な戦術で勝負すればいい。
 機動力に任せた突撃と離脱。ヒットアンドウェイの技巧。
 翼を広げアクセルは飛ぶ。
「行ってくる!」
「はい……!」
 ここで諦めるなんて誰が思っているというのだろう。
 誰しもが勝利を目指して前を向いて居る。
 アクセルが放った目印に沿ってフェリシアは己の魔力を込めた。
 皆で一緒に帰るために。この攻撃は一人だけのものじゃない。誰かが紡いだ勝機の一手。
 寄り合わさった絆の縁。
「いきま……す!」
 フェリシアの放つ軌跡をジェイクの視線が追う。
「あと、少しだ」
 確実なダメージが入っている事は誰に目にも明らかだった。
 仲間が運命を手繰り寄せ勝機を引いた。
 ならば、とジェイクは瞳を上げる。
 類い希なる狼の眼光。その嗅覚はリヴァイアサンの弱った所を的確に暴き出す。
 血が流れ出た柔らかい繊維質に狼の牙が向けられた。
「神が冠位魔種如きの言いなりになってるんじゃねえぞ!」
 二匹の狼(バレル)から撃ち出された弾丸は音速を超え、大竜の皮膚へとねじ込まれる。

 リヴァイアサンにも痛覚というものはあるだろう。
 たとえ一つ一つは小さな痛みだとしても数千数万と重なれば耐えがたいものとなるのだ。

 尾が波を浚う――

 波が打つかり渦が犇めく。
「ごめ……っ! エフッェッ! ちょ……っ!」
 海に落ちた夏子の喘ぎ声が波間にかき消される。
「大丈夫ー?」
 夏子の元にやってきたアンジュが水の中から彼を引き上げた。

「ぐ……っふ~良し!」
「よおし!」
 甲板に上がった夏子とアンジュは頷き前を向く。
「みんなの力と思いが届いたんだね!」
 ぐっと拳を握りしめたアンジュに夏子の拳がコツンと当てられた。
 攻撃に転じるのならば、今が好機。
 仲間が剥がしてくれた鱗の傷を狙ってアンジュはいわしビームを打ち込む。
「ヒュウ! やるねぇ! 俺も負けてられない」
 アンジュを守るように夏子は前に出た。
「危険は僕が! 代替わりするから!! 集中してやって頂~戴……ねっ!!!」
「ありがとう!」
 思う存分、力を振るえ。代わりは自分が引きつけると夏子は不敵に笑う。
「私にゃ女性を護る仕事があるからね!」
 夏子の声はベークの耳にも届いた。
「まったく、冗談が過ぎるでしょうに……はぁ。少しでも抗って見せますよ」
 普段使う事は滅多に無いけれど、アンジュやパティリアの助けになればと神子の宴を言葉に乗せる。
「物は試しでやってみたんですが、ちょっとは良くなったですかねぇ?」
「良い感じでござる!」
 ベークの舞はパティリアの集中力を高めた。
 火力の無い自分に出来る事を精一杯成す。それが一つの束となって重なるとき真価発揮される。
 思いは一つ。勝機をこの手に。
 パティリアはリヴァイアサンの魂を削ろうとライフルを構えた。
 肉が削げないのなら別の手法をとるまでのこと。
「苔の一念なんとやら。搦め手はニンジャの本懐ってもんでござるな!」

 甲板にパティリアの声が凛と響き渡った。

成否

成功

状態異常
コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)[重傷]
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)[重傷]
懐中時計は動き出す

第2章 第11節

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
セララ(p3p000273)
魔法騎士
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
すずな(p3p005307)
信ず刄
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃

 砲撃を続けるガレオン。
 甲板の上で一人の少女がドーナツを頬張った。

 ――愛と正義のまふっ騎士。ごくん! 魔法騎士セララ参上!

 リヴァイアサンに生じた隙は絶好のチャンス。この機会を逃すまいとセララは赤いマントを翻す。
「ふっふー。ボクが接近戦だけだと思った?」
 万能型のセララは近距離からの攻撃はもちろん、遠距離の砲撃さえも網羅するのだ。
 仲間が開けた風穴目がけて狙いを定める。
「絶望の海をボクらの希望で塗り替えてみせる!」
 振りかざすは終焉の魔剣。黄昏を持って創世の輝きを解き放つ。
「必殺、セララストラッシュ!」
 閃光は一陣の刃となり、リヴァイアサンの尾を削った。
「今だよ!」
「ああ」
 セララの隣には大地が立つ。
 敵は強大であることに変わりは無い。
 けれど、大地は甲板の上に立っている。痛みも無ければ気力も充分。
「まだ、戦えるだろ?」
「俺もまダ、幽霊船の一員にはなりたくねぇからナ」
 二つの魂が重なり一つの人を象った赤羽と大地は目の前の仇敵を赤い瞳で睨み付ける。
 魔術書を手に。魔法陣を展開すれば迸る真素が光を放った。
「狙うは」
「そこダ!」
 セララが穿った傷跡目がけ、大地の魔術が海上を走る。

 ――砲撃と共に斬撃と魔術が竜の身を切り裂き。
 血花が嵐に舞う海の上。
 近接艦隊もまた決死の攻撃を続けていた。

「いやはやデカい」
「マジで……こんな奴相手に近づくなんて、正気じゃねぇな……!」
 揺れる船の上、ベルフラウの隣でアランが叫んだ。
 弱っていると誰かが言っていたのは本当なのだろうか。
 巨体が動くだけで木っ端微塵になる事必須。広がる死闘に血が沸き立つ。
「では、世界を開きに行こうではないか。なあ! 猛き者どもよ!」
「ああ! 俺たちが切れる手札は攻撃だけだ! やるぞ!」
 異形の大剣を掲げアランが走り込む。その背に被せるようにベルフラウが高らかに吠えた。

「剣を持て、声をあげよ! 歴史を紡ぐ英雄ども! 神を堕とすは今に他ならぬ!」

 ベルフラウの戦歌はルアナの耳にも入ってくる。
「力が湧いてくるね! おじさま!」
「ああ、そうだな」
 少女の声にグレイシアも頷いた。
 その横をアランが駆け抜ける。鱗の隙間を割って出来た傷跡をルアナは見逃さない。
「おじさま! わたし視力はいいほうなの! 動体視力も!」
「ふむ、弱い箇所が見つかるというのは便利な物だ」
 アランの俊敏な動きとリバイアサンの攻撃を観察しながらルアナはグレイシアに紡ぐ。

「こんなんじゃ、俺は死なねぇぞ……!」

 攻撃を受けたアランが飛びずさりながら、甲板に降り立ち崩れ落ちるように膝を着いた。
 肩で息をする彼に直ぐさま駆け寄ったミミはポーションを頭から被せる。
「大丈夫ですか!」
 最前線から後方部隊に引き下がるには時間が掛かる。怪我を負った身で後ろから追撃を食らえば死の危険だって孕んでしまうだろう。だから、ミミは最前線に繰り出したのだ。
 この戦場で治療を施せば、ぐっと生存率が上がる。
 傷口が塞がったアランの背をミミは押す。
「が、頑張るですよ!」
「ああ! ありがとよ!」
 走り出したアランは再び裂帛の踏み込み。リヴァイアサンに剣を突き立て――叫ぶ。
「鱗もねぇ駄肉が、無駄に硬ぇんだよ!」
 歯を食いしばり、一気に潜り込んだ大剣をねじりながら、竜の身体を蹴りつける。
 血と肉が舞い、アランの頬を濡らす。
 何年ぶりだろう。竜の血を浴びるのは――

「……だから、おじさま。『リヴァイアさん』の弱ってる所見つけたら一緒に叩いてくれる?」
 ルアナの声にグレイシアは頷く。
「勿論だとも」
「あれだよね。愛の合わせ技みたいな!」
 その返事にルアナは嬉しげに声を揺らした。
「……合わせ技、というには少々無理がありそうだな」
 グレイシアの言葉にむすっとした表情を見せるルアナに、くつくつと笑みを零して――

 オデットは目の前に広がる戦場を見て腕を擦った。
 迫るリバイアサンの攻撃に身が竦む。
「わかってるわよ。私が打たれ弱いことも前に出るのも危ないってことも」
「大丈夫だ。私が居る限り、手出しはさせん。思う存分にその剣を振るえ!!」
 オデットの弱気な言葉。それをベルフラウの温かな手が包み込む。
 背に受けた傷なぞ痛みの内に入りはしない。
 この身は友の為。願いは。攻撃の手を緩めるべからず。己が代わりに岩をも穿つ雨となれ。
 それこそがローゼンイスタフ家の矜持。誇りは力となる。
 オデットはベルフラウの勇ましい姿に押されぐっと拳を握りしめた。
「行くわ!」
「ああ、任せたぞ!」
 木漏れ日の妖精は、その温かな陽だまりを守る為。
 神とも思しき竜へと矛先を向ける――

 流れを掴まざるは。零れ落ちる水滴を払いすずなは鬼灯を払う。
 続け。続け。幾度たる。何度でも。
 この足が。この腕が動く限り。刃は曇ることは無い。
「風向きが変わった!?」
 サクラの声はすずなの耳にも届いた。見えぬ勝機に模索が続いた中での朗報。
 握る柄の感触は水を帯びて心地が悪い。それを然りと握りしめる。
 依然として厳しいのは同じこと。然れど確かに希望は見えてきたのだ。
 乾坤一擲。余力が余っている内にリヴァイアサンに少しでも傷を負わせるのが勝機の要。
「蟻の一穴、穿ってみせます――!」
 先に飛んだのはすずな。続いてサクラ、アルテナ、リーヌシュカが後に併走する。
「届いて――!」
 青い細剣に冷気をこめて、アルテナが一気に切り込む。
「すずなぁ! やりなさい!」
 無数のサーベルを操り、掘削機のように突撃したリーヌシュカが飛び退き、叫んだ。
 一同が狙う場所は鱗が剥がれ落ちた箇所。その身に廃滅病を孕んだ身体。
 必ず『弱い部分』がある筈である。
 太刀を閃かせ硬い鱗の隙間を削いだ。だが、まだ浅い。
「まだ……!」
 前のめりに。切り開く――
 反動で落ちてきたすずなとサクラを受け止めた鈴音。
 勇ましい戦士達を見殺しになど出来はしない。
「死んだらレベルを上げる快感を味わえなくなるでヤンスぅ~」
 こっそりと乗り込んだ船の中。チャーハンの準備は整った。
「気合い入れてお届けに上がれや英雄叙事詩ーッ♪」
 カンカンとリズミカルに打ち鳴らした鍋とお玉。
 鈴音の鳴らす詩は何処か力が湧いてくるようで数子ことミーティアは形の良い唇を笑みに変える。
「この勢いならきっと倒せちゃうわね! みんな強いもの!」
 どうやったって倒せそうも無い巨大なリヴァイアサンを前に、物怖じせず走り込む仲間達に勇気が湧いてくる。どうせ私が、なんて言ってられない。
「その巨大なしっぽ、切り落としてやるわ!」
「弱い部分に集中して当てろ!」
 激励の如く打ち鳴らされる音にミーティアは頷く。
 大きな宝石が埋め込まれた大剣を握りしめ、飛び上がり上段から切りつけた。
 ビリビリと手に伝わる感触。
「ああ、怖いわ……」
 家には大事に取っておいたお菓子があるというのに。こんな所で手こずっていてはどんどん遠のいてしまうではないか。
「頑張れ、かず……ミーティア! このままさっさと終わらせて帰るのよ!!」

成否

成功

状態異常
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)[重傷]
雷神

第2章 第12節

八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
彼岸会 空観(p3p007169)
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者

 近接艦隊の激闘が続いている。
 迫る波濤と水弾、降り注ぐ砕けた竜鱗は一行を押しつぶし、引き裂き続けている。
 だが、それでも――イレギュラーズの猛攻は終わらない。

「面倒事は、そもそも嫌いな性質だ。派手にいこう」
 愛無の身体が嵐ににじみ、黒い影の槍を突き出した。
 竜種と言えど、廃滅病に蝕まれているらしい。
 そして士気が上がった今こそ、間髪いれずに叩くチャンスである。
 竜の血も、その腐臭も、その全てを喰らい、飲み込んでやる。

 抜き放たれた直刀を振り血肉を払う。
 尾の先を見上げた無量は、けれど微笑んでいた。
「あれは――なるほど」
 慌てた様子のクルー達が、尾の帯電をしきりに伝えている。
「最早此処まで来ると差乍ら八俣遠呂知退治の伝説の様ですね」
 良く知る伝承に喩えて。
 尾の先端が動きを止めてから、どれだけの時間がたったろうか。
 数十秒か。あるいは数分か。
 あれは遠からず『何か』をするつもりだ。
「首が一つに尾が一つならば、いくらかマシかも知れませんが」
 無量の視線――その一つ。額の瞳は斬るべき線を見据えて離さない。
 視えるが――だが。
 余りに線が大きすぎる。島に山とはよく言ったものだ。
 ならば、しかし結論は変わらない。
「海を統べようが、空を駆ければ関係あるまい!」
 雨と雷、砲弾の嵐の中を無量は駆け抜ける。
 一人斬り結ぶ死合いを好むのは無論のこと、合戦の如きこの様相に血湧き肉躍らぬ訳がない!
 これを斬れば、無量はその修羅道を一歩進むことが出来るだろう。
 なれば彼の牡丹に迫る為、礎となってもらうのだ。
 草薙は無けれども、我が心は鬼――鬼神に至りて必ず斬る!
 頭ほどの鉛球を蹴りつけ、ねじ込み、砕けた竜鱗の狭間を仲間の雷撃が刺し貫く――刹那。
 巨大な壁がずれるように竜鱗が落ちた。
 剥き出しとなったその生身へ、無量は剣を走らせ、鮮血がほとばしる。

 ――光明が見えたようだね、攻め時か。

「クハッ! 戦うのが吾らだけではないとは!なんと心強い事であろうか!!
 ああ、よい、よいぞ。吾の求めていた死闘とはこういう事よ!
 虫の様に蹴散らされるのも嫌いではないが……掴ませてもらうぞ! 可能性を!」
 大道を嘯く百合子の元へ、名誉美少女達がはせ参じる。
「諦めない心こそが、奇跡を引き寄せる。
 まったく。どの世界でも、何時でも、何処でも、人という存在は面白い。
 ならば、もう一押し――『滅海竜の撃退』という結果まで、奇跡を紡ぎ続けようではないか!」
「水蓮微睡抱擁拳、八田 悠。白百合へ華を添えに来た」
「存分にこの剣を振るわせてもらおう!」
 集う四の影――麗しき手弱女は戦場(いくさば)を優美に舞い踊る。
 先陣を切る百合子はさながら嵐の晩、子猫を見つけた時の視線を向けて――爆裂。
 迸る光条が竜の身を深々と貫いた。
 だが百合子の美少女力は止まらない。
 その哀れな子猫を前に、唇を結び駆け寄る様に――無数の光が弾け、血肉が舞い上がる。
 誰かが、子猫をそっと抱き上げる幻影を見たか。交差する腕は大気を切り裂き、熱光線が穿ち続ける。
「御主も生物であるのならば。無限に血を流せるという事はあるまい?」
 鋭い眼差しが射抜く先、駆ける汰磨羈が放つ二条の軌跡は、その一点を更に抉り抜く。
「このような巨大目標に小細工など不要。ただただ、実直に斬り進むのみ!」
 二刀を十字に構えた戦乙女――ブレンダの美しい肢体が宙に舞い、斬撃。
 流麗な剣の乱舞が嵐を切り裂き、竜の尾を引き裂いてゆく。
「十で駄目なら百、百でも駄目なら千、貴様が倒れるまで斬り続けるだけのこと!」
 迫る波濤と水弾、澱んだ水は、けれど悠を、白百合達を穢しはしない。
 悠の紡ぐ嫋やかな二重の旋律は、美少女達の背を支え、清らかな水のようにその花を咲かせ続けている。

 そして――美少女がいるならば、そこに美少年とて居ようか。
 水弾がセレマの心臓を貫いた。
 ビスクドールのように端正な顔を蒼白に染め、繊細な肢体が、この過酷な戦場に耐えうる筈もない。
 唇を彩る紅い滴が、なんかしゅっと戻ったし。
「廃滅竜の一撃を受け切り、船を守る程度わけないs」
 再び――波濤。
 その身体はまるで砂糖菓子のように――ちぎれとんでねえし。
 いやもしかしてとんだのかもわからんけど、なんか元通りだし。
 でもな、なんべんも起き上がってると重症は入るかもなんだぜ!?

 ――閑話休題。
 イレギュラーズの猛攻は止まる所を知らない。
「はっはぁ! やるじゃねえかアイツら!」
 ルカは歯を見せて不敵に笑った。
 仲間の起こした奇跡は薄かった勝機を晴らして行く。
 しかし、その強靱な竜の神威は『殺す』事など、到底敵わないものだと言うことを知らしめた。
「ちぃと残念だが……今回はそれで勘弁してやらぁ!」
 黒狼は吠える。牙を剥きだしに巨大な竜の尾を登っていく。

「攻め時だぁ! いくぜテメェらぁ!!」

 海上にルカの張りのある声が響き渡った。
 鱗の隙間。廃滅病の臭い匂いを辿って脆い場所を嗅ぎ当てる。
「喰らいやがれぇぇぇええ!!!」
 爆砕と友に血飛沫が舞い上がった。

 目に見えて傷が深くなっていくリヴァイアサンにティスルは口を引き締める。
 煌めく軌跡と皆の力が合わされば、この巨大な敵も倒すことが出来るはずだ。
「私も負けてられないね、まだまだ抗ってみせるよ!」
 白い翼を広げ一気に飛び上がったティスルは、星の名を冠した剣をリヴァイアサンの傷口に叩き込む。
 生き残るため。この死線を越えてみせる。
 リヴァイアサンの攻撃は避け得ぬものではないだろう。
 だが。まだ立っていられる。飛んでいられるのならば。
「もうちょっと頑張れる!」
 弱音は吐かない。口元を拭い瞳には闘志を宿して――

成否

成功

状態異常
ティスル ティル(p3p006151)[重傷]
銀すずめ

第2章 第13節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

「それでもキレイな鱗ばっかりなんだね」
 あれだけ力を合わせたのに。
 焔達が立つ黒鷲号の甲板に、竜の尾が徐々に迫ってきていた。
 押し寄せる波濤と水圧がイレギュラーズとクルーを襲っている。
 相手からすれば尾への攻撃など、意にも介していないのかもしれない。
 微かに胸に浸潤する絶望の一欠片を、けれど焔は焼き払って笑う。

「あらまぁ、あのドラゴンを弱体化させるだなんて」
 ユゥリアリアは艶やかに微笑んだ。
「ふふふ、転んでもタダでは起きないのは美徳ですわねー」
(……わたくしももう少し、無理したくなってしまうではないですかー)
 鉄火場を渡り歩くメリルナートの少女は見たのだ。
 その隣で槍を構えた焔もまた見たのだ。
 それは巨大な傷痕だ。

 竜にとってみれば、小さな傷かもしれない。
 けれど見えたのだ。
 それは確かに効いたのだ。
 傷を付けられたのだ。

「だったら何回でも何百回でも、相手が倒れるまで繰り返すだけだよっ!」
 相手は確実に弱っているのだ。
 炎槍を握りしめた焔が甲板を駆ける。
 ここからが勝負なのだ。

「ドレイクが仲間に加わるとは! 流石の手腕ですねマネージャー!」
 光線銃を握りしめたルル家も、負けては居られない。
 本来はもう少し後ろから戦いたい所ではあったのだが、大見得を切った以上はここに立たねば格好が付かないではないか。

 竜の尾が迫ってくる。
 その先端が放つ光が、どんどん膨れている。
「あまり時間はなさそうね」
 潮時は見極めねばならない。
 それは一分先か、十秒先か、そんな所なのだろう。
 だが、今、この瞬間ではない。
「私がここにいる限り、絶対誰も死なせやしないんだから!」
 身を襲う波濤のただ中で、アレクシアは両足を地に着け、その腕をまっすぐに伸ばした。
 煌めく花びらが舞い、その手のひらに力が集ってゆく。
「この程度どうってことないよ!」
 己に言い聞かせるように凛と叫んで。
「ホントに、諦めない人たちばっかりで、良かったわ」
 微笑んだイリスは、その暴威を前ににして三叉の得物――Triviaを突きつけた。
「というかね、海洋王国に名だたる『光鱗のアトラクトス』が!!」

 ――鱗一枚に負けてたまるものですか!!

 数多の水撃を切り裂き、波濤を前に立ち塞がるイリスが居るから、仲間達は戦い続けることが出来る。

 竜が更に迫る。
 尾の一部だけで視界の全てを覆うほどの大きさは、さながら壁のようなものだ。
「神様みたいな奴でも……生きているなら殺してみせるわよ!」
「みんなが繋いでくれた希望、絶対にここで途絶えさせてなるもんか!」
 美しい花が開き、魔力の奔流が尾に突き刺さり咲き誇る。

「はいはーい! そろそろ来ますよー! うまいこと当ててくださいね! せーの!」

 ――天孫降臨・春雷建御雷。

 イナリの刃が雷を纏い、舞い散る桜花と共に、一閃。
 戦闘力を爆発させたユゥリアリアが、鮮やかな血で氷槍を顕現させ、竜を刺し貫く。
 鉄帝国の兵士達が銃撃を放ち、刃を振るう。
 海洋王国の兵士達が至近の砲弾を撃ち放つ。
 名も無き兵士はユゥリアリアと共に、さながら英雄の様に進撃を続けている。
「拙者が――」
 あらゆる武技を徹底的にたたき込む超新星大爆発の炸裂と。
「参りましょう」
 難しいことなど、最早考える余地はない。
 思考を振り切った沙月は、ただ仲間達が繋いだ一点。
 傷ついた竜の肌へ向けて踏み込む。
 神速の衝撃が竜の身を穿つ。
「拙者達はまだまだやることが山積みなのです! ノーアポの取材はお断りですよ!」

 いよいよ海を灼くオゾンのような臭いが辺りに漂い始めている。

「一度退きましょう」
 誰かの声に、誰もが頷いた。

成否

成功


第2章 第14節

 

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