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ギルドスレッド

Migrateur

《第1章》こもれび

レガド・イルシオン某所、町外れの小高い丘の上。
嘗ては人々の憩いの場所だったのだろう。
石造りの朽ちた東屋には時期を迎えた蔓薔薇が咲き綻んでいる。

生い茂る木々から零れ落ちる陽のひかりを受け乍ら。
ちいさな冒険者は目を細め、待ち人の姿を思い描いていた。

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おきゃくさま:蜻蛉
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(手紙に記した手作りの地図は、彼女に伝わっただろうか?)
(否否、我ながらあの地図は上出来だった。何なら彼女が目印に『寄り道』したくなってしまう位丁寧に描いたつもり)

(嗚呼、それより!彼女は此の場所を気に入ってくれるかしら?)
(自分の見つけたとっておきの場所のひとつ。でもでも、彼女はおとなのおんなのひとだから。ひみつきちなんて子どもっぽい、なんてがっかりしてしまわないかしら?)

(そわそわ、そわそわ。待ち合わせの時間には、まだ少し早い)
(石を切り崩したベンチに腰掛け乍ら、ちいさな冒険者はきょろきょろと忙しなく視線を彷徨わせていた)
(──赤い和傘に長い黒髪が揺れる。肩には愛猫を乗せて。)
(片腕には小さな紙包み、尻尾を右へ左へさせ乍ら、ゆっくりとした足取りで現れた)

サティさん…お待たせしました、ご招待おおきに。
手作りの地図…おかげさんで誘惑が多て、難所続きで大変やった。
この通り、お店の前を通ったら美味しそうな匂いに負けて…これを買うてしもた。

(和傘をたたみ、隣りに腰掛ける。)
(持っていた紙包みを、小さな可愛い待ち人さんへ手渡そうとして。紙袋を覗くとそこには、焼きたてのパン。ふんわりと優しい匂いがその場に漂う)

──それにしても、綺麗な所。
お花がとっても…それに、静かでええとこやね?

(ベンチから立ち上がり、周囲を眺めた後、隣りに座る少女に微笑みかけた)
(しずしずと。優美な所作で以って此方へやって来る待ち人の姿を見付けたなら、ぱっと其のかんばせに喜色をのぼらせて)

蜻蛉、稟花ちゃん!こっち、こっち!

(ぶんぶんと手を振り自分の存在を主張して)
(彼女が傍に腰を下ろす前にハンカチを敷いてから勧めるのは、背伸びをしたいお年頃。紳士のつもりでいるらしい)

ふふふ。あの地図は僕の探険記録なの。
『見知らぬ街を恐れるべからず、己の足で開拓せよ』!
これはね、僕の母さんの受け売りなんだ――、

(差し出された紙の包みは仄かにあたたかい。なにかしらと包みを開けたなら。柔らかな香り、覗いたきつね色に感嘆を上げ)

パンだ!うれしい、丁度すこしおなかがすいてたところだ。
あっ、あのねあのね、僕はお茶とお菓子を持ってきたんだよ。

(一緒に食べよう、なんて小首を傾いで)
(ひみつきちに向けられた賞賛に、頬をばら色に染め乍ら頷いて)

すてきでしょう?
とげがあるからバラなのかなあって思いながら観察してたんだけど、これが大正解!
やっと蕾がひらいてくれたから、これを誰かにみせたかったの!
あら、…そないに気にせんでもええのに、ほんなら…甘えますね。
今度お逢いするとき、洗って綺麗にして返すよって。

(差し出された小さな心遣いに、思わず顔が綻んで)
(こんな小さいのに…どこで誰に教わったのやろ…と不思議に思い乍ら)

…そう、母上様の。
好奇心旺盛なのは、お母様譲り…なんやろか?
それにしても、分かりやすう描けとったし、誘惑が多て。

上手い事乗せられたんやないかと思たんやけど…

(聞こえないように、小声で呟いてから)

そんな笑顔見てしもたら、帳消しや。
…んーん、いや何でもあらへんの、こっちの話。

(首をゆっくり横に振ると、紅い唇に指をあてて、内緒の仕草を作った)

はいな、手入れされたお庭もええけど…こやって自由に咲くお花もええもんやなぁて。
トゲ…ああ、これ?まるで…触らんといてって、言うてるみたい。

…忘れとった、ほら…りんちゃん。
おリボンのお礼、言わんとね?

(肩にいた愛猫を胸に抱いたあと、ゆっくりと地上に下ろす)
(首の真ん中でチリンと鈴の音が鳴り、送り主の足元へと擦り寄った)
ぜんぜん気にしなくていいよ。
ふふん、僕ってばとってもすてきな紳士だからね!

(本当の紳士は其の様に己の行いを自慢げに誇らない。減点まっしぐらだ)
(が、ちいさな冒険者が其れを知るには未だ幼かったようだった)
(だってだって、彼女の綻ぶ姿を見れば、どうしたって嬉しさの方が勝ってしまうのだもの)

そうかな、そうかも?
僕のこの髪も、ひとみのいろも。ぜんぶぜんぶ、母さんに似たんだよ。
ここだけ父さんに似てるの!

(指した先はちょこんと跳ねた後ろ髪。どうやらちいさな冒険者の父は、癖毛の持ち主であるらしかった)
(誘惑が多かったと囀る様に、にんまりと笑みを深めて)
(聞きそびれた言の葉を促せば、何でも無いよと。ひたりと唇にゆびさきを添える艶っぽい仕草に、ぽわ、と頬を赤らめて。もじもじ、少しの照れ混じり)

庭師のひとに整えられた花畑はもちろんだけれど。
大きさもまちまちなこの子たちも、僕、とっても好きだなあ。
バラのほかにもね、アネモネ、ロベリア、マーガレット。
きっとここにいた人たちは、お花が大好きだったにちがいない!

(花は好き。旅路の途中、心に色彩をくれるから、なんて話の合間)
(不意に足元にやわらかな感触が触れれば、視線を落とす。みゃあ、と控えめな鳴き声に、喜色も露わに歓声をあげて)

りんちゃん。わあ、わあ。すてき!
おしゃれさんだ。とってもとっても似合ってる!
小さな紳士さん、素敵な場所へ案内してくれておおきに。
さて…お腹も減って来た言うことやし、頂くとしましょか?

(どこで覚えたのやら…小さな紳士さんに丁寧に挨拶を)
(長い着物の裾をちょこんと持って、まるでそれは…ドレスでお辞儀をするように)
(着物の中から、風呂敷包みを出してベンチの上にふわっとかける)

ほな、ここへ置いて…と、直に置くより、ええかなぁて。
紳士さんのハンカチは、うちのお尻に敷かれてしもてるしね、ふふ。
メロンパン言うのと、クロワッサン…それからこの林檎のパイ、これが気になって。

母上様似…どんな美人さんになるのやろか?
…まぁそこだけ、父上様に。

(木漏れ日の光に照らされた翠色、短い髪がサラサラと風に靡いて眩しさに目を細めた)
(表情が変わった事には気づいても、そこはわざと受け流して)
(やって、ここに呼んでくれたのやもの、安いもんや、と…心で呟いたのは内緒)

あら…刺激が強かったやろか…そんなつもりはなかったんよ?

(ごめんなさいねと、膝上に稟を抱き上げて、人形を操るように謝る仕草をさせて)
(愛猫の手を掴んだまま、話しを始めた)

”サティ、ありがとう。とっても気に入ってるの…この翠色、お揃いだから。
 ねぇ、サティ…あなたは、旅人…父上様と母上様と離れて寂しくはないの?”
(嫋やかな所作で以って返される挨拶に、照れ臭そうに微笑み乍ら)

おいしそう!じゃあじゃあ、はんぶんこしよう?
そしたらいろんな味が楽しめるもの。
……メロンパン、しらない?おいしいよ!カリカリサクサクで、ふわふわであまあま!

(身振り手振りを交えつつも、言の葉より実食が宜しかろうと)
(手袋を取れば、格子模様が可愛らしい卵色のパンを手にとって。偏らない様に慎重に、焼き立てだから、崩さないように)
(上手に半分に割れたなら、満足げ。はい、と片割れを差し出して)

えへへ。母さんはね、かっこよくてやさしくて、それにとっても強いんだ!
父さんはちょっぴりだらしないけれど。でもでも、いつだって僕と母さんを守ってくれるんだよ。

(そうして両親を語るちいさな冒険者は、とても嬉しげに、誇らしげに頬を赤らめて笑みを咲かせていた)
(刺激が強かった?なんて悪戯に尋ねる声には、慌ててぶんぶんと首を横に振り)

僕、王子さまみたいになりたいんだ。
だからね、蜻蛉みたいなおひめさまのことを、きちんとエスコートできるようにならなくちゃなの!

(だから、照れてなんかいない。いないったら、なんて。子どもじみた言い訳を重ねつつ)

気に入ってくれてとってもうれしい。ふふ、おそろいだね。

(不意に齎された、黒猫を通じた問いに。ぱちぱちと翠の瞳を瞬かせて――其れから、気恥ずかしそうに笑った)

……もちろん!すごく、すごーく寂しい!
ないしょだよ?はじめの頃は、夜になると不安で泣いちゃう日もあったんだ。
そうやの、西洋風のものを食べるんは、こっちへ来てから初めてや。
ああ、セイヨウ言うんは、うちのおった世界でいう所の、外のお国のこと。
まぁ…、おひとつ丸まる食べはってもええのに、おおきに、頂きます。

(差し出された片割れを受け取って。大事に…─ひと口、ふた口、外側をカリっと齧れば…初めての味に目を見張って)
(中はしっとり、ふんわり、それは彼女にとって夢のような味でした)

……なんて言うたらええのやろ…倖せになる味。

(頬に手を当てて、頬っぺたが落ちそうやわ…なんて、嬉しそうに頬を染めて)

オナゴはどこの世界でも、強いんね…それはきっと守るべきものがあるから、やろか。
殿方は…そやなぁ、優しい人がええよ、そんなお二人の元で育ったのね。

(うんうん、と頷きながら。一生懸命に両親の事を語る姿、少しの愛おしさを覚えて)
(首を横に振る仕草に、あらまぁ…また強がりね?と、可愛らしく思った)

王子様…?お姫様やないのね?
うちがお姫さんやの…そやなぁ…サティさんからしたら、おばあちゃんよ。
今でも充分、えすこーと、してもろてます、小さな王子さま。

(着物の袖で口を隠し乍ら、クスクス笑う。照れて少し赤く色づいた鼻の頭をちょこんと指で突こうとして)

……ごめんなさいね、寂しくないわけあらへんのに。
ううん、あまりにも貴女がしっかりし過ぎとって…年相応な部分やって…持っとるよね。

(神様も、酷な事をしはる…よりによって、こんな幼子を)

ねぇ、サティ。
パンを食べ終わったら、お花があるよって…ええ事しよか?
そうなんだ。僕のいたせかいにもね、蜻蛉みたいな召し物を纏うひとたちがいたよ。
そのひとたちも、僕の事を『洋風の着物はいからねえ』なんて言ってたっけ。

(きっと、似たような雰囲気なのだろうと。共通点を見付けたのが嬉しいのか笑みを深めて)
(あまい香りに誘われるままパンに齧り付けば、カリカリ、ほろりと解けた生地の下に隠れていた白い雲)
(ほの温かい其れは口溶けも柔らかく、思わずもうふたくち、みくちと頬張って)

おいひい!

(頬張ったままなんて行儀が悪いと後から気付いたけれど、言わずにはいられなかった様子)
(傍の彼女も気に入ってくれた様子をみれば、いっしょだともっとおいしいね、なんて戯けて見せて)

父さんも母さんも、腕利きの傭兵なんだ。
魔術を交えて扱う剣技は、雷光のようだ!なんて。
ふたりの戦うすがたを見たひとは、口々にそう言うんだよ。

(格好良いでしょう!と。得意げに話し乍ら身を乗り出した矢先、ちょん、と鼻先に触れたゆびさきに頬を赤らめ乍ら)
(齎された問いに、自身を称する言の葉に。彼女は見目よりも永い時を知っているのかしら、と。一寸首を傾いだものの、直ぐに笑みを取り戻して)

僕ね。母さんみたいになりたいんだ。
格好よくって、強くって、優しくて……ね、それって王子さまみたいでしょう?

(お姫さまも気にならないわけじゃあないのだけれど、なんて照れ混じりに)
(かんばせを憂いに染める様を見れば、ふるふると首を横に振り)

いいんだ、だってね。
僕、このせかいに来てから、たくさんの友だちができた。
できなかった魔法が使えるようになった。ひとを助けることができた。
父さんと母さんにはなしたいことが、たくさんできたの。
だからね……ふふ!
今は、ふたりにどんな物語を伝える事ができるか。それをいちばんの楽しみにしてるんだ。

(だから。寂しいけれど平気だよ。)
(告げて、ちいさな冒険者は目を細めてはにかんだ)

……いいこと?なあに?

(持ちかけられた誘いに、ことんと首を傾ぎ)
こっちのお洋服も気になっとるとこやけど、やっぱりこれが落ち着きます。
どうにも、洋風の召し物は…軽くて薄いのが性に合わんわ。

(そう言いながらも、いつかは…と言いながら、小さな小鳥の服をまじまじと)
(残りのパンに舌鼓をうちながら、食べ終わったかと思えば。指先に残るキラキラとした甘い砂を舌先でペロっと舐めて)
(ええ…気ぃ許せる人とご一緒やと特にそうや、と、言葉を返して柔らかく微笑み返し)

…お人よりは生きてるかもしれへんね。
長く生きてるから言うて、果たしてそれが、ええ事なのかは…誰にも分からんけど。
…また、うちの物語はそのうち。

(こてりと傾いた顔を見ながら、陽の光を受けて揺らめく手元のカップへ視線を落として)

ほんに、サティはお母上が好きやのね、お話するときのお顔が、目ぇがとっても…輝いとる。
貴女は、誰かに守られるんやのおて、誰かを守る…そんなお人になりたいんね?

(繰り返される"王子"の言葉に、少女らしからぬどこか強いこだわりを感じて)

そう…ええ出逢いがあったんね、たくさんのお土産話、持って帰らんと。
それ聞いて、うち…少し安心しました。

(聞いてはいけない事だったかもしれない、此処に至るまでの彼女の葛藤はどれだけのものだったろうか。否、心を開いて話してくれた事、それだけで──)

──あとで「花冠」を、かんむり…王子さまには付きもの…やったような気ぃして。
少しだけ、お花さんに協力して貰わんとあかんけど。

"小さな王子さま"、うちのお誘いに乗ってくれはるやろか?

(艶々と深紅が光る指先、くるりと手のひらを上にして。小さな王子の手前に差し出した)
ふふふ、慣れないものを着ると疲れるっていうものね。
夏ごろに着る――ユカタっていうお着物だっけ。
あれも涼しげでとってもすてきだ。この世界にも着る文化があるんだって!

(ネオ・フロンティアからの公のお誘い。もう聞いた?なんて、楽しげに)
(クロワッサンのバターの香りに、アップルパイの甘酸っぱさ。からっぽのお腹をしあわせで満たしたなら、ごちそうさま、と両手を合わせて)

そうなの!
僕のいたせかいにもね、幻想種に似た……エルフっていう妖精族がいて。
彼らはひとより永い時を生きるんだ。
僕の耳は、彼らに祝福をもらったから尖っているんだよ。

(だから、純粋な妖精族という訳では無いのだと笑って)
だいすき!
今までの僕は守られてばかりで、おとなたちに助けてもらうだけの弱い存在だったけれど。
このせかいに来て、戦うさだめをかせられた。
今度は僕がみんなに手を差し伸べられるようになりたいんだ。

(人との良き出会いを紡いで来れたのだろうと。安堵に和らぎ、三日月に撓む双眸を見上げて)
(ちいさな冒険者は背筋を正して肯くと、とん、と無い胸を叩いて見せ)

蜻蛉との出会いだって、たいせつな『えにし』のひとつだよ。
父さんや母さんが『心配して損した!』って笑っちゃうくらい、しあわせなものがたりを描くんだ。

(それって、とっても素敵でしょう?なんて、悪戯に目を細め乍ら)
(紅い軌跡を目で追う。差し伸べられたてのひら、甘やかな誘いに、ぱっと喜色を浮かべ)

もちろん、もちろん!
蜻蛉、僕につくり方を教えてくれる?
『おひめさま』にも、かんむりは付きものだ!
ええ、浴衣のお話は聞いとります…サティは着る予定は?
そや…着付けする時は言うてね、お手伝いするよって。
……浴衣言うたら花火、なんやけど…こっちにはあるのやろか。

(せっかくのお誘い、それにお祭りごとは大好き。─そう言うと、口元に指を当て微笑み返す)
(林檎にかかっているシナモンを、不思議なお味やね?と、食べた事のない味に何とも言えない表情を浮かべて)

……エルフ…ああ、あのお耳の尖った。
純粋やなくても、うちには可愛らしい…立派なお耳に見えます。

(目をぱちくりさせて、手をポンと叩いて。可愛らしく髪からのぞく、耳の先を見やって)

ほんまは、子供は子供らしゅうおって欲しいて思うのが、大人のうちの気持ち。
そうならんとおれん言うんは…これも運命(さだめ)なのかもしれへんね。
ううん、貴女の決めた道、誰も何も言えへんけど。

(その小さな手に身体に、これからどれだけのものを背負っていくのやろ…と、声にはせず、そっと心に閉まって。暗くなりかけた顔を、ポンっと叩いて笑顔を作る)

縁…そやね、ローレットのお仕事が結んでくれはった、ご縁。
大事にせんとね、こんな素敵な子と出逢わせてくれて、感謝せんとね。

(そう、今は笑顔で。目の前の小鳥の額に、自分の額を合わせようとして)
(瞼を閉じると漆黒の睫毛がふわり。──貴女の道が倖多き道でありますようにと願うように)

良かった、ほな、お花を摘みに行こか。
…あら、うちのはサティが作ってくれるんね?
ええ、喜んで。

(膝で寝ていた愛猫が、私も一緒に!とでも言うように「みゃぁ」とひと鳴き)
(あたたかな木漏れ日の中、穏やかな時間と優しい声が響いていた)
今年はね、おともだちと水遊びにいきたくて。
仕立て屋さんに水着をおねがいしたの。
でも……おまつりのそとだったら、浴衣にも挑戦してもいいかなあ?

(『おまつり』には出店が付き物だと聞いた。そんな中を浴衣で散策するのは、きっと心躍るだろうと笑み混じりに)
(着付けを、と。齎される誘いに感嘆を上げ、翠のひとみを輝かせ乍ら)

ほんと?すてき!
僕の髪は短いから、結ったりはできないけど……でもでも、髪飾りくらいならつけられるかな?

(女の子らしくするのは気恥ずかしいし、似合う自信は無いけれど)
(彼女と出掛けるなら、なんて。ていの良い口実が転がり込んできたものだから!)
極東には『ニッキあめ』っていうシナモンの飴玉があるんだって。
蜻蛉のせかいにもあるかなあ?
ふしぎだよね。同じ材料でも、お菓子が違うとこんなに味がちがうんだ。

(曰く、ちいさな冒険者はあんまりかかっていない方が好きとの事。まだまだ子供舌であるらしかった)
(尖った耳を褒められれば悪い気はしないのか、えへんと得意げに胸を張り)

えへへ、心配してくれてありがとう。
だいじょうぶ!はやくおとなになりたいなって思うことはあるけど……。
いっぱい友だちと遊んだりしたいし、子どもで居られることを諦めたりもしないから!
僕ってばとっても欲張りで、それにとっても、『わがまま』なんだ。

(『英雄』で、『王子さま』で、『おこさま』)
(二兎を追う者は何とやら、それがどうした三兎全部捕まえてみせる!)
(けれど、不意に)
(鼻先を擽る花の香に。そろりと視界に影がさし――其れが何であるかを理解すれば、)

ひゃ、わわ……!

(ひかりを反射する長い睫毛を間近に見て、触れる額同士に、頬をばら色に染め乍ら)
(其れでも突っぱねる事はせずに、彼女が祈りを捧げる間、ちいさな冒険者は照れに照れていた)

び、びっくりしちゃった。
……うん、うん!こちらこそ、よろこんで!

(傍でちいさく鳴いた黒猫の声に、ふふ、と笑みを零して)
(先に立ち上がったなら、傍のひとを促すように手を差し伸べ)
(なるべく花を踏まないように、軽い足取りで花畑へと足を踏み出した)
そやなぁ…浴衣、うちが仕立ててもええよ?
あつらえたみたいに…綺麗にはいかんかもわからんけど。
(んーっと少し唸った後に、小さくウィンクをして提案を)

ん、結うのは難しいけど、…そやねこれくらいの長さがあったら、髪飾り出来る思う。
せっかくやから、おめかしして行き?
着飾るんは、誰の為でもあらへん、自分の為や。キラキラしたもの付けると、気分上がるで?

(うちのお気に入りなんよ?と、揺れる自分の髪飾りを指差して)

わがまま…ね、ほんでも、子供らしくある事も、大事やよ。
子供でおれる時間は、限りの有るもの…大人になってからの時間の方が長いもの。

(額を当てしばらく閉じていた瞼を開けると、視界のすぐ先に、ばら色に染まった頬)

人とすぐに距離を詰めたがる…うちの悪い癖。
好きな人には、つい、傍に寄りたくなってしもて、少しでも近くに…おりたいんよ。

ほな、行きましょうか。

(花畑を歩く、二人と一匹。時折、花の匂いを楽しんでは、立ち止まり蝶を追いかけ)
(色んな花を…これから咲く蕾は残して、充分咲いたものを選ぶように摘んで)
(腕の中には、赤い薔薇、白いマーガレットと青いロベリアを少しずつ)

…これくらいでええやろか。
必要な分だけあったらええからね、んーええ匂いやわ。

(薔薇を一輪、顔に近づけると匂いを嗅いで)
(花畑の中央、花が咲いていない場所を見つけると)

あそこへ座って、作業しよか?
ちょうど芝生の上やし、お着物もそんな汚れんと思うんよ。
えっ!
蜻蛉、ゆかたをつくれるの?すごい!

(お裁縫なんて。シャツのボタンが取れてしまった時、母親が付けてくれるのを、魔法でも見るかのように見つめていた記憶しかなくて)
(齎された甘美な提案に、きらきらと目を輝かせ乍ら)

じぶんのため…………。

(『格好良く』なら、今迄躊躇いもなく己を飾り上げることが出来ていた)
(けれど、ちいさなころから『そう』だったお陰で、今更可愛くするなんて、と)

か、からかわれちゃったりしたら、はずかしいなっておもってて。
ほんとは、おんなのこの格好にも憧れてて。
…………僕でもおんなのこのおしゃれ、できるかな?

(常ならば。『僕ってばなんでも似合うよ、なにせとってもかわいいから!』なんて豪語するのだけれど)
(年上の、其れもとびきりうつくしいひとを前にしたら。ついつい本心を零してしまう程度には、ちいさな冒険者もまだまだお子さまであるらしかった)

ふふふ!子どもでいても、いいの?

(大人はみんな、『手の掛からない子ども』を好むものだと思っていた)
(母に其れを問えば、『ばかもの!度を越したらきちんと叱ってやるから、なんでも挑戦しろ!』と笑われてしまった事を思い出す。彼女の齎す其れが記憶と重なって、なんだか胸がこそばゆかった)
ちょっぴりびっくりして、それから、どきどき。
でも、……すきなひとに寄り添いたいきもちは、僕もちょっぴりだけわかる。

(其れも親愛のかたちだから、と。はにかみ混じりに)
(道すがら。ゆびさきをつい、と伸ばせば、ひた、ととまる白い蝶を掲げて見せて)

どんな花がいいかなあ。
蜻蛉のきれいな黒い髪には、淡くてやさしい色がにあいそう。

(すみれにデイジー、ラナンキュラス。やわらかな紫は、神秘的な彼女に似合いだと思ったから)
(量は彼女に倣って。必要以上に手折らぬように、茎の長さを問い乍ら)

うん!
そこなら、やわらかい草がクッションのかわりになってくれそうだ。行こ!
(隣りを軽い足取りで歩く小さな王子様。指先の白い蝶、小さな指先と相まってとても可愛らしい)
(柔らかな緑の草原、ちょうど二人が座れるスペースに腰を下ろして)
(摘んできた花を、一本…また一本と丁寧に合わせて行く)

お店で並んでるような出来のやないけど…それないに子供が着れるくらいのやったら。
出来上がったら、手紙添えて届けます。
…はい、ここはこやって、お花の茎を合わせて、巻きつけて。そう…優しく丁寧に。

(眩しい視線を受けながら、優しく微笑んで)
(向かい合っての作業。難しい所は手ほどきしつつ、なるだけ手を出さずに)

…んー、充分可愛らしい、大丈夫。
からかう子がおったら、そっちの方がおかしいんよ。
それか…そやなぁ、からかうって事は、気ぃがあるからかもわからん。

(好きな子ほど、素直になれん男がこの世にはいてるよって…と、子供にはよく分からないであろう言葉を紡ぎ)
(目の前の小鳥に"時期に分かる時が来る"と諭せば)

嫌でも大人にならんとあかんのに、子供でおれるうちは甘えたらええの。
もちろん、強くある事も大事…でも、小さいうちでないと経験出来んこともよおけある。
(手元は休めずに、やや俯きながらポツリ、と)

うちは…なるだけ、近くにおりたいって思うんよ。
いつ何があるか…わからんから、不安…なんかもしれへん。
…大事な人を、向こうの世界で亡くしとるから。
あの時、ああしておけば良かった…言うておけば良かった、そればかり。

……って、ごめんね。楽しいお話の途中やったのに。

(苦笑いを浮かべつつ、手元の花を寂しそうに眺めて。話を切り替えようと)

…そや、夏どこか一緒に、お出掛け出来たらええね?
(ゆびさきに止まったちいさな蝶は、ふう、と細く息を吹き掛けてやればひらひらとまた宙へと飛び立っていく。其の様を見て、かわいいね、なんて微笑み乍ら)
(成るべく草花を潰さないように。そうっと腰を下ろしたなら)
(嫋やかな所作で以って束ねられていく花をじっと見守り)

えー!僕、そうしたらぜんぜん子どもでいい!むしろ子どもがいい!
えへへ、そうしたら。蜻蛉が僕に見繕ってくれたたったひとつのものが着れるんだもの。
それってとっても『とくべつ』だ!

(一夏の思い出を飾るに相応しい、特別な召物を)
(彼女が拵えてくれると云うならば、此れ程嬉しい事はないのだと、満面の笑みを浮かべ乍ら)

あわせて、巻いて……ち、ちぎれないように。

(ちょっぴり難しい。力加減を誤れば、折れてしまいそうだ)
(彼女に贈る、とっておきの花冠。失敗しないように、慎重に、慎重に)

僕かわいい?うれしい!
僕ってばいつもとびきりかわいいけど、きいて!男の子ってたまにいじわるするんだ!

(『やーい、男女!』なんて。もと居た世界の旅先で出会った男の子たちにからかわれた事があるのだ、なんて。思い出したら若干腹が立ったのか、ぷすう、と頬を膨らませ)
(気があるからかも、なんて微笑む彼女のすがたを見れば、ええー?なんて首を傾げ)

うん。そう、そうだね。
この世界に来てから、いつだって前を向く事だけ考えてきたけれど。
たまには、…………えへへ。こんなふうに、おとなにあまえてもいいよね。
(花を編み込み乍ら、不意に零れ落ちた彼女の声に視線を上げて)
(其のかんばせが僅かに憂いを帯びたものだったから)
(ちいさな冒険者は口を噤んで、彼女の言の葉の続きを待った)

…………おわかれは、いつだって、だれだってつらいよ。
後悔しないひとなんて、いないから。
『いま』を。『自分にできること』を、精一杯。
だから、なんでも。
『いましたいこと』を大切に、願うままに行動できるひとは、後悔をちょっぴり減らす事ができるんだと思う。

(だから。蜻蛉はへんじゃないよ、なんてはにかみ混じりに)
(彼女が話題を変えようと言の葉を紡ぐなら、ちいさな冒険者は其れ以上彼女の心を不躾に踏み荒らすような真似はしなかった)

なつ!うん、うん。もちろん!
蜻蛉のつくってくれたゆかたを着て、おでかけをしてみたいなあ。
夕涼みにでかけるのもいいし、つめたいお菓子を食べに行くのもたのしそう。
暑いのはもちろん大変なんだけど、おひさまがぜんぶをきらきらに照らしてくれるから。
僕ね、夏がだいすき!
前を向くことは…大事や。
それでも、こやって立ち止まって自分がおる場所、確認する…言うたらええのやろか。
たまに、後ろを振り返って来た道を眺めて見たり、前向いてばっかりやと、疲れてしまう。。
あと、甘えてばっかりはあかんけど、甘える事も、時には「強さ」やったりもする…て、うちは思てます。

(段々と出来上がって来る花冠。時折、向かいにいる王子様の髪に冠をかざし乍ら)

…人を頼ってもええのよ。
辛い時は辛い、そう言える事も大事。
格好悪いことやない、それは覚えておいて。

(──黒猫は話を続ける。違う世界に想いを馳せては、あの日を思い出す)

そやね、後悔せんように…あの日あの時、どうしてそれが出来んかったんか…
思い続ける日のないように…。
(気ぃ使わせてしもた…ごめんね、と、話題を変えてくれた事を察して)
(いったん花冠を編む手を止めて。さっきまでの暗い話題を感じさせないように声色は明るく)

そりゃもちろん、サティみたいな小さい子一人で行かせるんは心配やし。
うちの仕立てた浴衣着てくれるんやったら、尚更。
…んー……そやなぁ、うちは暑いんが苦手です、ふふ。
窓開けて、冷たい床で寝てたいわ、猫やし?
そやかて、冬は寒いし…春は眠たなるし…秋、やろか。

我が侭?そ、うちはわがままやの。
夏は苦手…やけど、サティと一緒なら乗り切れるような気ぃしてきたわ。

(悪戯っぽく笑う、少女のようでいて、それでいて華やいでキラキラと揺らめいて)
振り返ると、迷いが生まれてしまう。
けれど、走り続けるだけだと、今度は自分を見失ってしまう。
だから……こぼれ落とさないように。
すこし息切れしちゃったときは、立ち止まって周りの景色を見ることもだいじなんだなって。

(痛い思いも、怖い思いも少なからずした)
(ちいさな冒険者は旅路の途中、挫折も知ったのだと、訥々と語り)

『全てを救う』なんて、傲慢なんだって、この旅の途中で知った。
僕のてのひらはちいさくて、掴み取れるものはまだまだ少ないけれど。
でも。それは、ぜんぶひとりでやろうとしていたからなんだって、知った。

(翳された花冠を見上げれば、其処で言の葉を一度区切り、)

だから…………えへへ。
そんなときは、こうしてとなりに居てくれるひとに。
『手伝って!』って言えるようになること。
それがとってもたいせつなことなんだって、僕、ちゃあんとわかったよ。

(一度失敗しても諦めない。生きている限り、必ず次があるのだから、と)
(ちいさな冒険者はそうしてまた、目を細めて笑った)
(編み込む手つきは彼女よりも危なっかしく、止まる気配がない。遅いからだ)
(小さい子だなんて言われてしまったなら、かあ、と頬に朱をのぼらせて)

そ、そのときは、蜻蛉をエスコートできるようにがんばるもん。
僕ってばとっても『シンシテキ』な王子さまだからね!

(猫だから、なんて戯けたような囁きを聞けば、ぱちりと目を瞬かせ)

ふふ、あたたかいおひさまの下にいたら、どうしたって眠たくなっちゃうものね。
僕、秋もすきだよ。木々が色付いて、いいにおいがして……それから、おいしいものがいっぱい!
蜻蛉がわがままだっていうのなら。僕なんかもっともっとわがままさ。
だって、いつも『さきの楽しみ』に胸を躍らせて、もっともっとと気をはやらせているんだもの!

(だから、おあいこ。なんて、悪戯っぽく片目を瞑って見せて)
色んなお人がおるね、この世界は…きっとサティの手を取って一緒に歩いてくれる人もおるから、大丈夫。
そやね…救うこと…それは自分の独りよがりで、出来る事は限られとるんかもしれん。
それでも、そやって誰かを助けたい言う思いは、清らかで綺麗…傲慢とは思わんよ。
いつの日ぃも、忘れたらあかん事やて思う。

(出来上がりつつある手元の花冠、時折自分の頭にも被せつつ加減を見て)

あら…うちで良かったらいつやって、お手伝いします。
重い荷物は、一人で持つより二人で持った方が軽いしね?
うちも、こうして違う世界の話を聞いたり、楽しい事二人でしたり。
それに、サティの見せてくれる世界、好きやから。

(目を細める小鳥の言葉。
 生きている限り…そう、生きてる限り、道は続いてく)
(…大切だった誰かの生きれなかった分を、生きなければいけないの)
(少しの沈黙、ハッと顔を上げて)

ほら、ここはこうして…こうやって、うん、焦らんでええんよ。
初めてにしては、上手い事出来てる。

(思わず手が出るも、ゆっくりでええよと声を掛け乍ら)
(朱に染まる頬、思わず抱きしめたくなる気持ちを抑えつつ、王子様談義に耳を傾けて)

秋になったら、どこへ連れて行ってくれるのやろ?
サティから届くお手紙も、きっと秋色…楽しみにしとかんと。
子供の我が侭はええの、たくさん言うてええんよ?むしろ言うて。
甘やかしたげるよって、そやなぁ…秋は、どんな服がええやろか。
景色も食べ物もそやけど、秋らしい装い考えるのもええもんや。

(装い…装い言うたら…と呟いた次の瞬間、何かを閃いたように口を開いて)

あと、お化粧も…そのうち、教えてたげるよって、楽しみにしとって。

(背伸びした仕草に、思わず目をぱちくりさせて。
 それに負けじと、唇に指を当てて同じように片目を瞑って見せてお返しを)
ほんとに!だって、毎日見たことない旅人のひとを見るよ。
ひとびとの数だけせかいが広がっているんだって。
それを知るたび、どきどきする。
この手を伸ばしたぶんだけ、つかみ取れるものも増えて行くんだ。

(時には自分から。時には、向こうから)
(そうして手を伸ばしあった分だけ、自分のせかいも広がっていくのだと)
(手を取ってもらうより。自分から取りに行くことの方がとくいかも?なんておどけて見せて)

ありがとう、蜻蛉。
僕ね、これからもっともっといろんなところに行きたいんだ。
いろんなひとと出会って、見て、聞いて……絵巻物の紙が、足りなくなるくらい!
そうして紡いだ僕のものがたり。ね、ときどきこうして、聞いてくれる?

(自分の世界が好きなのだと、きみが言ってくれるから)
(きみがのぞむまま、いくらでも!)

(僅かな間。少し遠い目をした彼女のまなざしを、見逃した訳では無かったけれど)
(彼女が其れを語ろうとしないなら、今は踏み入るべきではない)
(直ぐに笑みを取り戻した艶やかなかんばせに、ちいさな冒険者も顔を綻ばせ)
こうかな、えっと…………あ、わかった!こうだ!

(少しの手助け。しばらくして、コツをつかめたのか順調な様子で編み進め)
(やがて編みあがった花冠を、彼女の目前に掲げて見せた)
(もらってくれる?なんて、はにかみ混じり)

秋はねえ、色付く木々の下に隠れた『たからもの』を探したり。
風に乗ってくるにおいから、花のありかを辿ったり。
涼しい風がふきはじめたら、すこし遠くへおさんぽするのもいいね!

(元いた世界でも、そうして日々に『たのしみ』と『とくべつ』を見つけてきたのだと微笑んで)
(新しい装いを、なんて彼女が囁くならば。ぱあ、と頬を喜色に染めて)

ほんと?うれしい!
僕、ひとりで仕立て屋さんにいくのはまだちょっぴりはずかしいんだ。
いっしょにお買い物に出かけるのも、きっととってもたのしいよ!

(おけしょう)
(ぴくりと尖った耳の先が跳ねる)
(『きょうみがあります!』なんて。恥ずかしくてとてもじゃないけれど、言えなかったこと)

…………いっ、

(いいの?と。ぽそぽそ、内緒話のように)
自分の居場所は自分で作る…手を伸ばせば伸ばした分だけ、どこかで誰かが助けてくれる。
世界はそうやって回っているんやないかて、思います。

(此処にもそうやって、救われた猫も居る…なんて口にはしないけれど)
(掴んだこの手、離さんといてね?可愛い王子様)

ええ、うちで良かったらいくらでも。
楽しいお話や、冒険した話、悲しかった話、色んな事…待ってます。

(いつか自分の話も出来たら、まだ、その時ではないけれど)
(貴女になら──…)
そうそう……初めてにしては、とっても上手い。よお出来てる。

(自分の花冠を膝に置いて、賞賛の拍手を、満面の笑みで)
(編み上がった花冠。所どころ…緩い所があったり拙い部分が見えて)
(それでも、気持ちのこもった可愛らしい立派な花冠)

ここで貰わんかったら、罰あたる。
それに、うちの為に作ってくれた花冠やのに、ほんに…嬉しいんよ。

秋の「たからもの」…何やろ?落ち葉の下にある…あれやろか?
そやね…お散歩、二人でゆっくり秋道を散歩したいねぇ。

(その「たからもの」が何なのか、想像はつくけれど、知らないふりをして)
(彼女の世界を見る目線が…少しだけ羨ましい。子供だからではなく、彼女だから見える色がきっとある)

ん、お買い物もしたい…うちもお洋服、着てみたいし。
お着物以外も、せっかくやから。一緒に見てくれる?

……ん?

(「お化粧」の言葉に、思わぬ可愛らしい反応)
(まだ早いかと思ったけれど、言うてみるもんや…なんて、続けて話すと)

ええよ、おなごはいつやって、綺麗になりたいもんや。
サティは、お化粧せんでも可愛らしいから、もっと可愛らしなってしまう。

(うち、心配やわ……なんて、冗談を言いながら。)
(出来上がった花冠を、小さな翠の女の子の頭にのせようとして)

さ、うちも出来上がり、や。
ふふふ!
僕の居場所はねえ、『そのとき僕がいるところ』!
だから、ちょっぴりさみしいときもあるけれど……僕はあたらしいせかいにいても、こうして立っていられるんだ。

(そのとき周りにいてくれるひと、景色。其のすべてがいとおしいものだから、と)
(巡る世界。其れそのものとひとつになるのだと微笑んで)

うれしい!
僕はこれでも『語り部』だもの。
どんなおはなしだって、最後には喜劇で締めくくろうとも!

(だから、そのときは笑ってね、なんて。いたずらに片目を瞑って見せて)
ほんと?えへへ、やったあ。
蜻蛉の髪はきれいな黒だから。
どんな花を飾っても、とってもとってもきれい!

(だから、花を選ぶ時もあまり迷わなかったのだ)
(彼女がこうべを垂れてくれたなら、恭しく作ったばかりの冠を乗せて)

やっぱりきれい。
それに…………蜻蛉がよろこんでくれたから。
僕も、すごーくうれしい!

(其れが一番の報酬だ、なんて)
(母親の真似なのだろうか、すこうし背伸びをした台詞をのぼらせて)

秋のにおい、秋のいろ。
街を歩くだけでも、きっといろんなものが見つかるよ。
僕、そうして季節のおすそわけを探すのがすき。
だから、おさんぽもだいすき!

(きみが一緒なら、もっともっと!)

もちろん!お洋服を着た蜻蛉も、きっととってもきれいですてき。
となりに並んでもはずかしくないように、僕もとびきりおしゃれしなくっちゃ!

(何せ自分は『王子さま』なのだから)
(お姫さまに釣り合わなくっちゃあ、エスコートも格好つかない!)

ほ、ほんと?
…………男の子に言うと笑われちゃうから、女の子らしくするの、ちょっぴりはずかしかったの。
でも、……あこがれてないわけじゃあ、なくて、その。

(もにょもにょと小さく縮こまり乍ら)
(頭に微かな重みを感じたなら、ぱちぱちと目を瞬かせて視線を上げて)
自分の居る場所…そやね、そう…少し迷ってたとこなんやけど、おかげで目ぇ覚めた気ぃします。
子供のそういう素直なとこ…見習わんと、ね。

(愛すことの大切さを、小さな娘子から学ぶやなんて…出会いは不思議)
(経験が邪魔をして、素直さを忘れてしまう)

まぁ…それは楽しみに。
次はお得意の絵をつこて、紙芝居でもしてくれる?

(また片目を瞑って、クスクス笑いながら相槌を)
うちの自慢の黒髪、褒めてくれるの…嬉しい。
サティが選んでくれた花やもの、とびきり映える…ほら。

(彼女の背丈に合わせるように、小さく頭を差し出して)
(まるで戴冠式、いやちょっとした結婚式のような…そんな風景が広がって)

そしたら、決まり…や。一緒に歩こ…ええ場所を探しておかんとね。
その時はお弁当や、お菓子も持ってかんと。

(指折り数えて、その時を待ちわびる、きっと)

お洋服も…あつらえとかんと。少し肌寒いやろし…あったかい生地がええね。
そんな気張らんでもええんよ、ほんまに…パーティやないんやし。

──……って、サティ?大丈夫や、しっかり。

(小さい身体がさらに縮こまって見えて、あらあら…と、目をぱちくり)
(花冠の下から覗く大きな瞳、男の子の仮面を被った立派なお姫様)
(これからの成長が楽しみやわ、なんて呟きは心に閉まって)
……おとなでも、迷うことがあるの?

(ふと。目が覚めたのだと微笑む彼女のかんばせに、ことんと首を傾いで)
(大人は何時だって頼もしくて、こうしてやさしく手を差し伸べてくれるのに)
(迷うこと。躊躇うこと。怖れること)
(其れは、自分のような子どもだけが感じるものだと思っていたのだけれど)
(次いで、強請るように。目前の彼女がひめごとめいて片目を瞑ったなら)
(直ぐに喜色を浮かべて、何度も頷き是を示し)

もちろん、もちろん!
面白おかしい冒険譚なら、僕におまかせ!

(溜め込んだ絵日記を、彼女のために朗読してみせるのも悪く無い)
(そんなすこし未来のはなしを思うだけで、そわそわと胸が浮き立つのだ)
さらさら、きらきら。
母さんの持ってた、黒い真珠みたい。

(ささやかな戴冠、自分で作った冠だけれど)
(彼女の艶やかな黒い髪に、花の彩はよく映えた)

おべんとう!
僕、お料理はまだまだ、かんたんなものしか作れないけれど……。
ね、そのときは。一緒につくってくれる?

(ナイフを手繰る手付きは覚束ないし、火の加減だって頼りないけれど)
(母の手伝いを思い出し乍ら、すこしずつ練習しているのだと。内緒話のように告げて)

お出かけするために、とびきりのおしゃれをすること。
それってとっても特別で、ふたりだけのひみつみたいでしょう?
僕、その時間がだいすきなんだ。

(女の子らしい服装こそしないけれど)
(一緒に歩くひとのことを考え乍ら着飾ること)
(ちいさな冒険者にとって、其れは特別なひとときなのだと語って聞かせ)

………………に、……にあう?

(なんて。乗せられた冠に、そうっと触れて)
完璧な人なんて、おらへん…それに、不安にもなるんよ。
せやね…大人になると、それを隠すんが上手くなるんかも。

(迷いよりも、それはきっと間違わないように…間違いを恐れるから)
(子供にはそれがない、恐れがないから少しだけ羨ましくもある)

冒険譚もええのやけど…その頼むから危ないとこへは、なるだけ行かんでね?
…うち、心臓がいくつあっても足りひんわ、止まってしまう。
って、それは言い過ぎやけど。

(頼もしく語るその仕草に、可愛さと少しの心配を感じて)
とっても似合っとる…綺麗よ、サティ。

(陽の光を受けて煌く翠の髪に、赤色の薔薇の彩り。目を細めながら、瞬きひとつ)
(思いつきの花冠、小さなお姫様の出来上がり)
(その言葉だけで充分、それ以外に何を言えるだろうか)

お弁当、そやね…一緒に作ろ。
怪我せんように…切るものを押さえる時は、猫の手やよ、猫。
それから…前掛けせんとね、ああその…エプロン。
卵焼きは甘いんが好き?それとも、お出汁やろか…?
…大丈夫、誰にも言わへんよ。

最初は誰でもそうや、練習したら上手になるよって。

(練習している事を、恥ずかしがっているのを察して)

先の約束を、色んな景色を思い浮かべるんは…幸せ。
そやって、言葉を交わせるひと時を、あなたとお話出来た事、うちは…とても嬉しい。
小さなお友達、大人も子供もあらへん、大事なお友達よ?

(すぐ目の前まで近づいて、顔の高さを合わせるように、ゆっくり屈むと)
(大きな翡翠の瞳を覗き込むと、躊躇うことなく告げて)

…ねぇ、抱きしめてええ?…そんな気分やの。
おとなは、僕よりずうっと大きくて。
その背中に追いつく事は、とてもとても大変なんだって思ってた。
でも……それだけじゃないんだね。

(自分のような子どもだって。大人に、そっと寄り添う事は出来るから)
(大人が躊躇うことがあるなら、恐れを知らぬ子どもが前へ進もう)
(危ない事があったとしても。其の時は、大人がそっと手を引いてくれるのだから)

えへへ、きをつけます。
僕だって危ないことばっかりじゃあないんだよ!
旅先でみつけたすてきなもののおはなしだって、たっくさんあるんだから!
(綺麗よ、なんて。手放しで告げられた賛辞に、ぽっと頬が林檎に染まり)
(もにょもにょと何やら口籠りながら身を縮めている)
(一丁前に、照れているらしい)

た、…………たまにはおひめさまも、わるくない……かも、しれない。

(女の子らしく。そんなの、自分には似合わない)
(でないと、男の子に負けてしまうから。そんな風に意地を張っていたのだけれど)
(13歳。雲雀も一応、お年頃であるらしかった)

ねこのて……母さんもそう言ってた気がする!
エプロンもね、ひとりで暮らすようになってから、買ったの。
とりさんが描いてあってかわいいんだよ。つけると、料理が上手になった気がするんだ!

(卵焼き。甘くてお出汁がじゅわっとするのが好き!なんて)
(自分では上手に作れないものだから、ここぞとばかりに自分の好みを主張して)
(一緒に台所にたったなら。彼女から『こつ』を享受してもらえるかしら?)

秋が過ぎて、空気のきれいな冬がきて……。
移りゆく景色をだいすきなひとと見ることができるのは、とってもしあわせなこと。
僕も!蜻蛉は、とっても大事なおともだち!

(不意に。彼女の紅い唇から紡がれた言の葉に、ぱちぱちと目を瞬かせ)
(彼女の意図を全て汲む事は出来なかったけれど)

……どうしたの?さみしくなっちゃった?

(ちょっぴり気恥ずかしさはあるけれど。彼女が動くよりも先に)
(ゆっくり立ち上がったなら、屈んだ彼女の頭を抱こうと、そっと腕を伸ばし)

僕、ちゃあんとここにいるよ。
蜻蛉のこと、置いていったりしないよ。
(特にその行為自体に深い意図はなく、それは…彼女の癖。憶えておくためのもの)
(相手の匂い、ぬくもり、形…大切な相手なら、尚更の事でした)

ううん、反対…寂しゅうなったんやないの、こうしたかっただけ。
好きな気持ちが、よおけになると…こうしたなるの…本能…やろか?

(伸ばされた腕、そのまますっぽり抱きしめられる形になり)
(自分の腕も同じように、後ろに回す形で彼女の背中へと)
(苦しくない程度に加減をしつつ、ぎゅっと力を込めて)

言葉も大事や、でも、こないして身体でしか伝わらんこともある。
あったかい…嗚呼、生きてる…て、思うんよ。…それに、お花のええ匂い。
此処に、うちを連れて来てくれておおきに、楽しゅうございました。

(ゆっくりと身体を離すと、空を見上げて)

あと、もうそろそろ…行かんと。
お日さんも沈んで来たよって、だんだんと冷えて来る頃合いや。

(そう言い終わると、右手を差し出し「一緒に帰ろ?」と、一言告げて)
(鼻腔を擽る、甘い花の香り)
(冠だけではない。香のかおりだろうか?なんだか、自分が抱きしめているのに)
(彼女に包まれているような心地。あたたかくて、やさしくて――)
(すこし。すこしだけ、今は遠く離れた母のことを思い浮かべて、胸の奥が、きゅう、と痛んだ)

えへへ、うれしいな。
そんな風に思ってくれることも、こうして、全身で僕にきもちを伝えようとしてくれることも。

(とはいえ、こんなふうに好意を伝えることは家族としかしてこなかったから)
(其れは雲雀を大いに恥じらわせたのだけれど、格好悪いから、今はひみつにしておこう)

思ったことは、なんでも伝えたいって思う。
すきなひとには、たくさんすきだよって伝えたい。
でも……ふふ!
こんなふうに、きもちを伝えることもできるんだね。

(照れくさいけれど、やっぱり嬉しい。きちんと、ことのはを紡いで伝え)
(離れ際、すこし赤らんだ頬を緩ませて。やっぱり、雲雀はまた笑った)

うん、すこし肌寒くなってきたね。
風邪をひいちゃったら大変だ!
……ね、途中まで一緒に…………、

(言いかけたところで。黒猫のきみから溢れたことのは)
(きょとんと目を丸くして、それから)

ふふ、あはは!
僕たち、同じことを考えていたみたい!

(なんて。ころころと楽しげに笑い乍ら、差し出されたてのひらを取って)
(重なった言葉に、同じように目をキョトンとしたなら)
(小さな手をきゅっと掴む。離さないようにしっかりと)
(いつの間にか戻った愛猫を肩に乗せ、赤い和傘を左手に。ゆっくりと歩き出す)

せや、お外が暗がりになってくるのに…小さい女の子一人で、歩かせられへんわ。
それに、すぐにさよならするんが、惜しゅうなってしもて。

…って、王子様に守って貰うのは、うちやったりして?

(時折、相槌を打つように"みぃ"と肩の黒猫が鳴く)
(恥ずかし気もなく大胆に触れる感覚も、行動も、人とは違うせいだろうか)
(──否、恐らく彼女自身の性格がそうさせている)

……ほら見て、綺麗な夕焼け空。
あのお空も、お日さんが沈み切ってしもたら、じっきと夜が来る。
闇に紛れて悪いものも出てきやすなるよって、食べられんうちに…はよ帰らんと。

(本気か冗談か…揶揄う様に、くすくす笑う)
(あんまり怖がらせても悪いと察したのか…後から、”冗談や”と小さく付け足して)
(隣を歩く少女の歩幅に合わせて、カランコロン)
(繋がれたてのひらのあたたかさ。どこか懐かしくて、ああ、とてもやさしい)
(ととっと、軽い所作で駆け上がる黒猫の優雅な仕草に目をまあるく見開いて)

ふふ、そうだ。そうだね、りんちゃんも、いっしょに帰ろう。
…………そ、そうだよ!僕が蜻蛉をおまもりしながら帰るの!

(淑女をエスコートするのは、紳士のおつとめ。なればこそ、これは譲れないもの)
(さよならが惜しいだなんて。紅いくちびるが紡いだことのはに、目元に朱をのぼらせ乍ら)

ぼ…………ぼくも、さよならするの、ちょっぴりさみしい。
でも、でもでも。そしたら、『またね』って言えるから!
蜻蛉とまた遊ぶ約束ができるから、だから、明日はもっとうれしい日になるよ。

(別れ際。其れが短い別離だとしても、離れ際はすこし寂しい)
(けれど、次への楽しみも。きっと、いとおしい時間になる筈だからと)

おひさまが沈んだら、おつきさまと、おほしさまが顔を出すよ。
僕は夜のやさしいひかりもすきだけれど……ふふ!
おばけにたべられちゃったら大変だもの。
おうちにかえろ、おやどにかえろ!

(からん、ころん)
(軽やかな下駄の音が、耳に心地良い)
(別れ際。彼女のてのひらを、一度ぎゅっと握って)

また、あそぼうね!

(今度も、きっとすてきなところへ連れて行って見せるから、なんて)
(満面の笑顔を咲かせて、『また』の約束ひとつ)
(何度も何度も振り返り乍ら、雲雀は彼女に手を振っていた)

(――今日の絵日記は、たくさんの花びらを添えよう!)
《薔薇のはなびらの栞が挟まっている》

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