シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Are you Happy?
完了
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オープニング
●リミット・バースト
一説では城塞を攻める時、寄せ手は守り手の数倍以上の兵力を要すると言う。
至極当たり前の結論として城郭が強大堅固である程に、守兵が士気高く有能である程に攻め落とすというその難易度は跳ね上がる。
それは単純な加算に非ず。掛け算であり、時に乗算にすらなる。
故に本来は。『混沌最高の情報城塞を、混沌最強の守兵が防御するそれは絶対に難攻不落でなければならなかった』。神ならぬ存在にそれは脅かされるべきものではなく、これまでに降り積もった膨大な星霜と同じく永劫の不変は変わらない筈だった。
……筈だった、のである。たった幾つかの『例外』。そして『不運』が重ならなかったとしたならば。
「……っ、ぐ……ッ……!」
「!?」
目を見開いたカスパール・グシュナサフは百年以上の自身の生の中でも見た事の無い光景に戦慄した。
『若かりし頃、天才の名を欲しい侭にした未熟だった頃から変わらず何時も無機質な母の顔を崩さなかったマザーの表情が歪んでいた』。
その華奢な体が苦しげに傾いていた。
身体を折るようにし、壁に手をつく事で倒れる事を避けた彼女の姿は痛々しい。
「マザー!?」
「大丈夫……ではありませんね。申し訳ありません」
クリミナル・カクテル(コンピュータ・ウィルス)に感染したマザーは三塔主等と共に自己防衛に努める日々だった。セフィロトの制御さえ後回しにしたマザーの出力は大きく、『イノリ』とクリストの連合軍も攻めあぐねたのは事実だ。侵食侵攻は一進二退であり、不利は否めなかったが――状況が変わる筈だと信じてここまで耐えてきたのである。
「カス、パール……!」
しかしカスパールの名を呼ぶその声は酷く逼迫しており、最早一瞬の予断をも許さない事は明らかだった。
「聞きなさい、カスパール……
皆の助力もあり、ここまで……凌ぎましたが……
私はもう、駄目です。やはり、この状況では兄には勝てない……!」
「――――」
「急ぎ中央区画、コントロール・ルームを閉鎖なさい……!
中枢制御が私に残っている内に、全ての仕事を終えなさい。
……それらもやがて『私』に突破されるでしょうが、時間稼ぎにはなります」
「馬鹿な!」
「いいから聞きなさい、カスパール。
中央区画を封鎖したら、警報を出し、アデプトの子等を外に逃がして下さい。
少なくともセフィロトの半径三十キロ以内には誰も残してはいけません。
『この後、何が起きてしまうのかは今の私にも想像がつきません』」
「馬鹿な事を! マザー、御身に勝るもの等何処にありましょうや!
儂は例え死しても御身をお守りいたしますぞ!?」
噛み付くように雷気を発したカスパールにマザーの表情が少し緩んだ。
「……馬鹿で、とても可愛い子。
でも、貴方は『探求』の塔主でしょうに」
「……っ……!」
「義務を果たしなさい。私が母であるのと同じように、貴方はこの国の為政者なのですから」
自身を破壊しろ、と命じないのはそれが物理心理双方で不可能である事を分かっているから。
諭し教えるかのようなマザーの様子は少女の貌は、日頃の無機質な姿には重ならない母の面持ちだ。
彼女は練達の事を知り尽くしている。一般市民から塔主に到るまで。セフィロトという混沌最高の都市を過不足なく、理想的に、快適に保ってきた彼女は知っている。
そこに住まう人々一人一人の顔を知っている。好きな事を、嫌いな事を、強味を弱味を。
愛している。彼等は一人残らず『我が子』に他ならないから。彼女はそう作られたから――
「…………承知しましたッ……!」
――故に彼女はカスパールがそう言えば折れるしかない事も分かっていた。
しかし、子とは往々にして親の期待も、予想も裏切るものである。
セフィロトという揺り籠が余りにも完璧だった故に、マザーは『子の挫折(それ)』を実地で知る機会に欠けていたのは事実だっただろう。
「セフィロトの民の避難を急ぎます。三塔挙げて――ローレットにも協力を要請し、全て遂行いたします。
『然る後に、有志をもって必ずここに戻り、貴女様を救出いたします』」
「カスパール!」
「お叱りは御尤も。されど我々に関しては――貴女を前に退けぬのは御理解下さい。
ご理解頂けなくとも、申し訳もございませぬ。我々は初めて貴女に手向かいいたしますぞ」
「それでいいな?」と暗に同意を求めれば、残る二塔主も頷いた。
「そりゃあ、そうだよ。セフィロトを失くした――マザーの居なくなった練達に何の意味があるんだい?」
「プランは簡単だからね。区画を封鎖後、セフィロトの民衆から危険を排除する。
その後に封鎖区画をブチ抜いて、暴走……暴走って言うのかな?
兎に角、マザーを力づくでも食い止めて鎮静化させる。
クリミナル・カクテルの『治療法』はその後でゆっくり考えればいい」
Dr.マッドハッタ―も、佐伯操も概ねカスパールと同じ結論を得たようだった。
「……………っ……問答は、無駄なのでしょうね……?」
「無駄だと思いますよ。しかし、一先ず我々はご命令を完璧に遂行します」
マザーの嘆息に操が答えた。
コンソールを素早く操作し、中枢からの出入口になる最後の扉だけを残して隔壁を下ろす。
「マザー、暫しのお別れを」
マッドハッターがマザーの手を取り、その手の甲にキスを落とした。
マザーは一秒でも長く時間を稼ぎ、破綻の時を遅らせてくれる事だろう。
しかし、三人に残された時間は長くない。
長くは無いが『こうなる事を想定していなかった程に三人は愚かではない』。
中枢を脱し、走り出したカスパールは操に問うた。
「……状況をどう思う?」
「正直芳しくはないね。唯、ある程度確信のある対処法は思いつく。
マザーを侵食しているのが『クリミナル・カクテル』――つまりR.O.Oの原罪と困った兄上を原因とするものなら、元栓を締めればいい。
ぶっちゃけ『イノリ』とクリストの野郎をぶっ飛ばせば解決するかも知れない、これで十分だろう?」
「『マザーが本当に反転する前にぶっ飛ばせば』であろう?
そのプランは合理的だ。『ほぼ不可能である』という点を除けば、だが」
苦笑を浮かべたカスパールの言は確かである。
『こうなれば敵方は時間を引き延ばすだけで良い』のだ。
マザーが戻り様がない地点まで反転するのを待てば、全ては喪失する。
R.O.Oがどうなるかに関係なく練達の終焉は間違いない。故にこの作戦は『合理的で不可能』だ。
「……いや」
しかし、マッドハッターはカスパールの言葉を否定した。
「『私は未だそれが可能であると見る』」
「……何故だ?」
「R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』。
ことこの期に及んで彼等はR.O.Oに終末的イベントを仕掛けてきた。
R.O.Oってのはね――少なくともゲイム・マスターのクリストは、そうだな。
一言で言うと『愉快犯』だ。退屈が嫌いだ。ゆっくり待って勝つなんて受け入れない。
彼がゲイムを仕掛けると云うなら、絶対に勝ち筋は作られる。今は見えなくても作られる。
操君(アリス)に合わせて言うなら『ぶっ飛ばせる方法』は向こうが勝手に用意するのさ。
私が保証するよ。彼は私と同じだから、間違いない。間違いなくそうするよ」
「それから」とマッドハッターは少し微妙な顔をして続けた。
「これは私の憶測に過ぎないが――クリストはやはり手緩い。
本来ならばもっと酷いやり方は幾らでもある筈なんだ。
もっと悲惨な現状は幾らでも想像がつく。
だが、彼はこんなに温い。ひょっとしたらクリストにも迷いはあるのかも知れない。
迷い……って言うと言い過ぎかも知れないけど、例えばそう。
『概ねやる事は決めているけれど、最後の決定だけコイン・トスに託そうとしているかのような』。
……そんなある種の他力本願が見えるんだよね」
「成る程な。そして我々は特異運命座標(さいこうのコイン)を頼んでいる。
カスパール翁、こうなれば毒を喰らわば、だ。いっそ例のお二人にもお願いしておけ!」
「無論、『二度目』なぞ最早禁忌にもならんわ!」
最早、止まらない。
ネクストと混沌、両面で物語は加速していく――
●至上命題
混乱を極めるは、セフィロト――
「練達を襲う『滅び』を回避する為には絶対の目標が二つある」
決戦に向かう『有志』を前にカスパールはそう言った。
「一つはR.O.O化したIDEA:Projectそのものを正常に取り戻す事。
……別にR.O.Oを初期化しろという意味ではない。悪影響の根源を叩き潰す事がそれに相当する」
R.O.Oにおける『冒険』で現地と触れたイレギュラーズに配慮するかのようにカスパールはそう言い直した。
「言い方を変えれば問題は『イノリ』とクリストだ。
マザーを侵食するものがクリミナル・カクテル――呼び声とクリストの合作だとするならば、問題はそこにある。
R.O.Oの――そしてマザーの『ご病気』の諸悪の根源とも言えるそれ等を撃滅すれば我々の目的は叶うだろう。
R.O.Oは救われ、今ならばまだマザーを救える可能性はあると見ている」
「もう一つは?」
答えは分かっていたが、イレギュラーズは敢えて問うた。
警報の鳴り響くセフィロトに安全地帯は無い。セフィロト内部には本来都市を、市民を守る筈だった軍事用ドローン、自律兵器が無数に飛び回り、刺々しい危険と警戒の色を隠していない。本来ならばそれは塔主達――いや、マザーが管轄していたものだ。それ等が敵に回っている現状は、この街の落日を理解させる。つまる所、『最悪』の状況を微塵も隠せてはいないという訳だ。
「……………マザーだ」
カスパールは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
何時でも威厳に満ちた彼には珍しく、弱々しく疲れたような声である。
「クリミナル・カクテルに侵食されたマザーを彼女の命令を受けた我々は中枢に隔離した。
しかし、マザーはこのセフィロトそのものと言ってもいい。我々が改竄した防壁なぞすぐに解体されてしまうだろう。
『現状の彼女がどうなっているかは分からないが、諸君等も察している通り状況は極めて良くない』。
我々は少なくともマザーと交戦する覚悟を以って中枢に乗り込む必要がある」
「R.O.Oで『イノリ』とクリストを倒すのを期待しつつ、マザーを無力化しろと?」
「混沌(げんじつ)での『勝利』は必須ではないと考えている」
イレギュラーズの問いに操が口を挟んだ。
「少なくとも我々三塔主はマザーを信頼し、尊敬している。その人格も意志の強さも絶大な能力もね。
『クリミナル・カクテルにより彼女が反転の間際にあったとしても、我々が戦い続ける限りは彼女は抵抗するだろう』。
母にこれ以上の苦しみを強いるのは心苦しいが、他にやりようがない。
侵食したいクリストが掌握したマザーの能力を迎撃に向けるとするなら、我々の善戦は反転完了の時間を延ばし得るという事だ」
「リソースの問題だよ、アリス」とマッドハッター。
「要するに決死隊が中枢へ乗り込み、マザー……クリストの気を引けば『バッドエンドのクリティカルポイントが遅れる』。
マザーを侵食する力が外に吐き出されている間、彼女は少しは楽になるだろう。
……いや、結局はR.O.Oにクリストの実体は無い。そしてマザーに勝つのは……私は想像がつかない。
その上『イノリ』が倒される必要がある以上、馬鹿馬鹿しい位の達成難度に違いないがね!」
「ミッションは――中枢への侵入、マザーの救出か」
「……頼めるか?」
カスパールの言葉にイレギュラーズは頷いた。
セフィロトの三塔は高く聳え威圧的に街を見下ろしている。
他方で乗り込むべき『中枢』は地下に存在しているという。
練達の最高機密に他ならないその所在は本来は部外に教えられるようなものではないだろう。
しかしながら、最早背に腹は代えられない。挑まねば、敗れれば致命的に失われるものがあるのは明白だった。
滅びの神託を回避し、パンドラを集める――
何故、イレギュラーズがここに居るかと言えば比較的多数、究極の目的はそこにあろう。
練達の要請でR.O.O側の援護に回ったというレオンの――ローレットのグランドオーダーもまた『マザーの救出』で一致している。澱みは無い。
「それで」
「……うん?」
「今回のアンタ達はどうする。バックアップか?」
イレギュラーズの問いに三塔主は首を振った。
「『先陣に立つ』。諸君等と共にマザーの下まで戦い抜く覚悟だ」
――ああ、そうだ。せめてそれが聞きたかった。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Are you Happy?Lv:50以上、名声:練達30以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2021年12月20日 21時01分
- 章数3章
- 総採用数364人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●機神の檻I
そもセフィロトという都市は、混沌世界におけるオーパーツそのものである。
この然して大きくも無い都市は世界を構成する全ての要素に対して常に例外であり続けたものだ。
所謂一つの現代日本を遥かに上回る科学力、異常な程に『快適』の維持された生活環境。
近未来――或いは遠未来都市と称するに相応しいこの場所はまさに長らく旅人達の揺り籠であり続けた。
『混沌法則の隙間を縫うような形でギリギリで存在を許された』セフィロトは一人の天才が後進に捧いだ最高のギフトに他ならなかった。
しかしながら――
「――いざ、裏返れば便利の分だけ苦労も増える、だ。
機械ってのはどれだけ進歩しても『同じ』ものだな」
皮肉に呟いた『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の視線の先に広がる回廊の有様は、まさに彼の苦笑を肯定するものだった。
「正念場だな。かつてない親孝行の機会じゃないか。カスパールたち塔主を含む練達の民も、『マザー』も、だ」
地下施設とは思えない程に高い天井、広い通路。『中枢』に乗り込んだイレギュラーズを出迎えたのは数えるのもうんざりする位の機兵達の歓迎だった。
「酷いものだわ。通路の先まで、曲がっても降っても敵ばかり。
お嬢様の意地悪でもここまではしない位――」
偵察のファミリアーを早い段階で撃墜された『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の柳眉が歪んだ。
「練達にはアストラークゲッシュの生産拠点があるのだわ。
まぁ我(わたし)はどうでもいいのだけれども……友人が泣く姿は見たくないしね」
実際の人物よりは悪ぶって彼女は口の端を持ち上げた。
クリミナル・カクテルにより反転の危機にあるマザーを救援するべく組織されたローレットの決死隊は練達三塔主を伴うまさに最後の切り札である。
「全く困るよね、頼られると助けたくなっちゃうから」
「頼むから、ドローン相手にも通用してくれよ?」或いは「性能の違いって奴を見せてやらねばな?」。
「練達は楽しい場所だから無くなってしまうのはかなり困るのだよ。
旅人たちの希望も無くなってしまう……頑張る以外は無いね!」
自信があるのだか無いのだか、何とも独特の調子で嘯いた隻腕の射手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)、更に『屋上の約束』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)の放った雷撃が宙空で火線を吐くドローンを引き付けて撃墜する。
(おそらくは、すばやい、飛行ドローンが、システムの、尖兵なのでしょう……
かれらは、こちらを学習するための機能でもあるのに、ちがいありませんの!)
一方で能動的な攻撃よりも防御、反撃を得意とする『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はアルヴァに向かいかけた火力を自身の方へ傾けた。
(飛行型は、厄介ですから、逆に、あたかも、効果が薄いように、学習させてしまう……それが、わたしの、役割ですの!)
戦い方はそれぞれである。
「異世界の剣技、ものすごーーーーーく興味ありますからネ!」
前列から飛び掛かってきた近接タイプの番犬を『一菱流段位』観音打 至東(p3p008495)の白刃―― 鋼花村正『樟花』『裡仏』が受け止めた。
鉄の爪牙と噛み合った鋼が悲鳴を上げ、不敵な彼女は押し込まれるもむしろ引き込み、足の運びで抜いて流して跳ね返す。
「なんなら観音打流の参考に……と、するにも長く立っていなければ。
――今の私は戦闘メイド。特定の旦那様を仰ぐ契約のなき今、みずからの意思と性癖に従って動くのみですとも!
カスパール君見ててー! そんでできれば見せてー!」
「――――ッ!」
まさか至東のリクエストに応えた訳では無かろうが、カスパールの鉄の両足が唸りを上げ、雷気を伴った斬撃が閃光のように目前の番犬を撃ち抜いた。
超速不可避、一撃必殺大貫通。小さく息を吐き出したカスパールの隙間を支援するかのように、
「タイプの男の頼みとあらば聞かない訳にはいかないし。
背後を守れるってなれば――力一杯頑張れるよね!」
気を吐いた『黒武護』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の大むっち砲が通路を直進的に薙ぎ払った。
「そっちも狭いところで強いらしいけど、僕も狭いところではそれなりに強いよ!」
屋内、対多数、そして貫通力。砲撃威力と支援能力を兼ね備えるムスティスラーフが機能する局面である。
まさに『老巧の知』と頼れる局面ではあるが……
「厄介な敵が多いのは変わりがないようで」
猛烈な一撃も全てを捉え切る訳ではない。『龍成の親友』ボディ・ダクレ(p3p008384)の言う通り、敵勢は大して堪えても居ない様子である。
(……問題はアレか)
ボディがちらりと視線を向けたのは進撃を始めた決死隊の行く手に存在する固定砲台の存在である。
「この国には縁ある人が多い。だから、これ以上マザーを壊させはしない――!」
気を吐いたボディが『前に進んだ分』射程に捉えた砲台の封殺を試みる。
侵入直後から始まった苛烈な歓待との対決は、異常状態にあるマザーが少なくとも彼等を歓迎していない事を示していると思われた。
「練達にゃ世話になってんだ。
そんなかで出会った奴にはよ、ここでないと生きられない奴もいる。此処があるから救われてる奴もいる。
だからマザー。お前を助けさせろ。そう願う奴らは俺も含めてわんさかいるんだぜ……?」
喰らいつく番犬を『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)が振り払う。
「何処を見ても機械機械……全く、辟易してしまう。
油臭いし構造も理解も出来ないしとても食べられたものでもない。今この時は、すぐ壊れる所だけは嫌いじゃないけど」
目を細めた『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の『魔門』は既に開いている。
敵を執拗に攻め立てる双槍漆黒の雷撃は暴食の悪魔の所以を見せつけるが如しであった。
「疑似生命とは言え多少は獣の闘争を味わえそうだと思ったけど――期待外れに終わってくれるなよ?」
尊大なる悪魔は君臨する。
戦い慣れたイレギュラーズは『中枢』に侵入するなり勢いを見せていたが、先行きは短くない。
目標はあくまでマザーである。更に迎撃者達は無限に再生産されるというのだから、時間をかける余裕は無かった。
(二人は滅びに最も遠い所にいるはずだけど……R.O.Oが滅んだらどう転んでも死ぬ! 絶対に止めなきゃ!)
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の脳裏に過ぎったのはR.O.Oに居る自分とメープルの事であった。
「マザーって反転するんスね……暴走とか停止系じゃねぇって事は、いち存在として確立してんだな……
いや関心してる場合じゃなくて、つーか反転されたら練達の全部が死ぬじゃねぇか!
誰が何を仕込んだんだか知らんが、絶対止めねぇと――!」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)の芯を食った『シュート』が後方より味方の間をすり抜けて敵陣の中心に炸裂した。
彼等の言う通り、この練達の危機と同時進行になるR.O.Oの終焉回避は最早卵が先か鶏が先かの関係であった。ネクストに終焉が訪れれば――終焉の主たる『イノリ』を撃破せしめる事が出来なければマザーは完全に反転し練達は滅び、逆にマザーの完全反転を止められなければR.O.Oへの介入手段は消失し、ネクストの終焉も確定する。
イレギュラーズにとってはどちらも落とす事の出来ない厳しい戦いである事は言うまでもない。
だが――
「練達全体の問題もマザーさえ取り戻せば回復可能なのでしょう、ならば為すべきことは決まっています。
私にできる事はあまりありませんが、それでも皆の棘として守り通してみせますよ」
――考え方を変えれば『世紀末の勇者』金枝 繁茂(p3p008917)の言う通り『デウス・エクス・マキーナ』は手の届く所にあるとも言える。
被害担当艦の如く味方に伸びる敵の攻勢に我が身を捧ぐ繁茂は傷を受けてもあくまで薄く笑うまで。
「マザーさん……ここまで頑張ってくれたんだ!
Hadesなんて大馬鹿、愚行なんてもう大嫌い! 反転なんて最悪の案件、絶対止める……!」
普段の姿よりは幾分か猛々しく、怒りさえ帯びて奮戦する『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)、
「ROO内で足掻いてる連中には、ちょいとした知り合いや、借りのあるヤツも居る。
縛りをよすがに、なんて関係は対等じゃあねえだろ?
貸し借りなんざとっとと精算するに限るぜ。
その千載一遇の機会が今来てるって言うなら―――ここが命の張りどころだ。
……ま、こちとら犬死にするつもりは更々ねーがな!」
獰猛に、そして不敵に笑った『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)の言葉は多くの者の代弁だっただろう。
『困難であるかどうかはイレギュラーズには関係ない』。
ゼロにも等しい可能性をこじ開け、覆す者。特異運命座標(イレギュラーズ)の戦いはどんな呪いも穿つものだから。
あの天義の暗黒の海も、絶望の青の滅海竜も、ねじ伏せ従えきったものだから。
「アホほど供給が太いのが強味ってなら――精々頭は使わねえとな!」
全てを上手くやる事は難しいだろうが、ブライアンの言う通りこの戦いに必要な要素は突破力と持久力の二つの軸がある。
もっと言えば『主力』になり得る者をどれだけ温存してマザーに届けられるかが重要であった。
「まだいけるよ! ㅤどんどん進んでイレギュラーズ! ㅤほら会長だってまだ元気! だから元気出して進んで!
会長めっちゃ帰りたいんだからね! ㅤいま帰るとこ無いけど!! シェアキムとシャイネン・ナハトするんだから!!!」
「……こんな局面でも賑やかだな、君達は」
それには最高の支援役になる『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)や佐伯操の役割も重要になるだろう。
何れにせよ『中枢』の攻略は始まったばかりであった。
「聖剣騎士団は世界を救うための組織。ROOも練達も救わないとね!
目指すは全部救ってハーピーエンド!えいえいおー!」
「聖剣騎士団として戦うのは久方振りですが……
そうなりますと大戦(おおいくさ)、と云う感じが致しますよね」
「母が子達に牙を剥く、マザーという名前は皮肉ですね……
ですがマザーは人ではないとはいえ練達の人にとって大事な存在、救わねば!」
「ここで怯んでいては本番も乗り切れないでしょうからね。
グラム、シュペルに鍛えられた仕事分はしてもらいますよ――」
倒し続けても次々と出現する新手に【聖剣騎士団】――『魔法騎士』セララ(p3p000273)、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)と『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が前に出た。
銀色の戦乙女を思わせるシフォリィの髪が激しい動きに靡き、蠱惑の悪魔を思わせる利香のグラムが鋼の悲鳴を切り裂いた。
「負けてられないね! 突撃ー!」
「……まあ、大きな戦でもやることは変わらないのです。いつも通り、ゆるりと参りませうか」
先のカスパールにも、チームメイトにも負けじと弾丸のようなセララの突破力が敵のフロントに突き刺さった。
一方で前線に、己に向かった集中攻撃さえ影にも触れさず捌き切り、ヘイゼルは温く笑う。
多少骨が折れたとて、それはむしろ重畳なのである。『この先に待つものは彼女の好奇心を満たし得るものになろうから』。
『愛故の』皮肉なタイム・リミットを帯びたこの戦いの結末は――未だ誰にも見通せない。
成否
成功
第1章 第2節
●機神の檻II
「ROOなんか! 知らねェけど! やってねェけど!
くだらねェゲームの中だけのことかと思ったら現実にまで影響してくるとはな。仕方ねェから手を貸してやる――
イレギュラーズとして! イレギュラーズとして!」
悪態を吐いた『最期に映した男』キドー(p3p000244)が飛び掛かってきた番犬の一体を何とかかわした。
屋内における格闘戦は『シーフじみた』彼にとっては得手である。
圧倒的に自身より力強いそれを相手にも、超至近距離で間接に潜り込ませた武骨なククリはモノを言う。
「ああ、まったく! ひでェ話だ!」
その進軍が強烈なまでの苛烈さを帯びている事は誰にも分かっていた。
いや、より厳密に言うならば『分かっていた事実を改めて思い知るのに時間は然程掛からなかった』と言うべきか。
自動迎撃に近いシステムによる防備は確かに堅いが些かばかり単調だ。
『倒す事自体は決して不可能ではないし、進めていない訳ではないのだが、只管に時間が掛かる』。
七罪と対峙した時のような恐怖は無い。
リヴァイアサンと出会ってしまった時のような終焉も無い。
しかし、何処までも単調なそれはシステムとして無限に回転する。
システムとして迎撃という遅延を続け、システムとしてあくまで的確にイレギュラーズの余力と時間を削り取る。
焦るなと思う程に、進まねばと思う程にこれは厄介極まる敵であった。
改変された『中枢』は最早巨大な地下迷宮のようであり、機神の胎は三塔主にも想定出来ない程に変化し続けている。
『データにはない』横道から、多数の番犬、飛兵が飛び出して来た。
それは進撃するイレギュラーズの横腹、後背を突く危険な存在である。
だが、そんな新手にも怯まない。一早く気付けた『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が立ち塞がる。
「――今度は私が引き付ける……!」
「ここは任せて、貴方達は先に進みなさい!」
救援に動きかかった他の味方を『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が一喝した。
【虹虎】、何時もの二人は打ち合わせる暇もない程の時間の中で通じ合っている。
連携良く横道の敵前を阻み、味方を前に進めに掛かる。
「いけますわよね!? マリィ!」
「ふふ! 時間稼ぎだね! 任せて! 得意分野さ!」
恋人(ヴァリューシャ)からの期待に胸を張るマリアは繰り出された敵の攻撃を見事な直感で回避している。
「悪あがきなら得意分野でございますわっ!
せいぜい時間を稼いで、黒幕に頭を抱えさせてあげましょう!」
二者二様、時間稼ぎと悪あがき。表現は兎も角、二人の目的は一致していた。
イレギュラーズの目標、そして勝利の条件がマザーの救出以外に無いのなら、この場を預かるのは冥利に尽きる!
「マリィ、ぶっ放しますわよ!」
「OK! ヴァリューシャ! ぶっ飛ばそう!
さぁ皆! いったいった! 後できっと追いつくからね――」
『中枢』の進軍はタイト・ロープを渡るかのようだった。
侵入から然程の時間は経っていないのに急速にイレギュラーズの余力は削り取られ始めていた。
傷付いた者も居る。先程の二人のように身を挺した者も居る。
『全員が生きて戻るなんて夢を見られない。
いや、それ以前に――マザーを助ける事なんて不可能なんじゃないか』。
弱気が囁きそうになるような戦況に悲鳴と怒号が轟いている。
無機質な機兵達の吐き出す火線が肌をひりつくような赤色に染めていた。
「――でも!」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が声を上げた。
「こんな風に現実で問題が起きた時のために、ボクはこっちに残ったんだ……!
リアちゃんはR.O.Oの中から、そしてボクは現実側から一緒に戦おうって、そう約束したから……
本当なら今すぐにでもR.O.Oにログインして駆け付けたいけど――だけど!
これはリアちゃんには出来ないことだから! 皆が問題を解決する為の時間はボクが稼ぐ――!」
言葉にすれば、想いはより明瞭になった。
口の悪い親友の事を思うと、焔の闘志は彼女らしく燃え上がる。
そうだ。元よりそれで止まるようなイレギュラーズではないのだ。
抵抗がどれ程に粘り強くとも、攻め立てる彼等もまた粘り強い。
生憎と我慢比べならば負けた事が無いのがローレットであり、それはかのベアトリーチェやアルバニアも思い知った『事実』に他なるまい!
「Nyahaha――私の為す事は変わらず。
悉くの痛みを受け、悦びを覚える事よ。
食料樽を抱えて目立ちたがりの大盤振る舞い、眼光(ひか)らせたら的として成立する筈よ。
さあさあ! 喰らい付け、機械!」
「R.O.Oとこっちを行ったり来たりしてると――正直、脳が混乱してくるね」
最前線で他の誰かを庇うように無数の敵を文字通り『受け止め』る『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が怪気炎を上げれば、『あちら』での戦いも最中にある『閃電の勇者』ヨハン=レーム(p3p001117)が肩を竦めた。
「長丁場だなんだ、持ち堪えさせれずして何が魔術師だって話だ。
僕がいる限り絶対に致命傷など受けさせやしないぜ――」
少なくとも『こちら』の方が動きやすいヨハンは自認する通り『捨てたものではない』。
魔刻は開放を受け、練り上げられた彼の魔力は傷付いた誰かを支え続けている。
泥沼の戦場はそこに居る誰にも役目を求めている。
一つ噛み合わなければ全てが奈落に落ちるような緊張感はR.O.Oにぼやける『本物』だ。
(やれやれ、いよいよ忙しい)
視野に富んだ『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は壁側から『生えた』構造物を見逃していない。
先を急ぐイレギュラーズの多くの死角、即ち『通り過ぎた後ろ』に出現した砲台に彼の意を受けた『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)が肉薄する。
(最優先目標! それでこれは――思い切り!)
敵が敏捷性のある飛行タイプや番犬タイプならば手管は違う。
或いは仲間の攻撃を待ち、連携で仕掛けるのも妙手であろう。
しかしながら敵が動かぬ砲台、最も警戒すべき攻撃力であるならば。
「――行きます!」
励起・黒蓮――超距離さえ潰す馬鹿げたまでの破壊力、綾姫の『極大斬撃』は何よりも的確に脅威そのものを刈り取るのだ。
「いやいや、流石。
子を思い、苦しみ悶える母を見捨てるなど言語道断。こういう時こそ、相応の恩返しをせねばな?」
強大な攻撃力を確認し、危険と見做したか攻撃を仕掛けようとした番犬、飛兵の組み合わせを割入った『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が阻んだ。
「――そうだろう、三塔主の御歴々よ」
閃く無現斬・厄狩厄式に食えない笑みを乗せ。
視線すらやらずに水を向けた彼女にカスパールは「無論」と応じた。
その時点で、更に出現し迂回で汰磨羈を取り囲みかけた飛兵は『雷切』を以って真っ二つに叩き落されている。
防御に回る戦いがある一方で、攻め手が生きる局面もある。
「『ごっこ遊び』を楽しんでいたら強制禁酒で――
お陰で思いっきり中身は健康だけれど!? 何時になく目覚めは良かったですけど!?
鬱憤は溜まりまくり! ギエエエって叫びたい位で――いいから、この国の大事な『お母様』を救いに行きましょうか!」
【淑女】を率いるのは言わずと知れた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)だ。
「いい女、と名乗るには力不足ですがせっかくお声掛け頂きましたし、頑張らせていただきましょう。
まずは、マザーにたどり着くまでの露払いでしょうか――」
敵を睥睨し、ちらりと仲間に視線を投げた『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)に、
「マザーだなんてとってもいいお名前。
本当のお母様の顔なんてとっくに覚えてないけれど――この国のお母様は救ってみせるわ」
「練達はわたしに沢山のものをくれた。だから、これは恩返しなんだ。
皆と一緒に必ずマザーさんを助け出す。義理堅いのは『イイ女』の条件、なんてねぇ?」
「淑女たる者、常に優雅たれ。
こんな時だからこそいつも通り、余裕を持って。
『体を張ってでも』皆を守りましょう――」
「やれ、此の国のお母様って奴は随分と愛されてるのね。
どこぞの国の貴族連中と『どっかの親』にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいとこですけど」
『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が、『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)が、『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が、そして『律の風』ゼファー(p3p007625)が応えて、敵の大集団に飛び込んだ。正面からぶつかり、その注意を強固なフロントへと引き付ける。
「呼ばれたからには期待に応えるのがイイ女。
ええ、一つプリマの踊りを魅せてあげましょう。カーテンコールはもうすぐそこよ!」
「喧嘩と祭りは華があるほうがいいって言うしね?
マザー帰還の花道を飾ってやろうじゃない……ってことで。こっちも準備は万端、力は余ってるってなもんよ!」
ヴィリスが華やかに笑み、組み付かれたゼファーが獰猛に『噛みつき返す』。
【淑女】は何れも強力なイレギュラーズだが、ここで魅せるのはチーム・プレイだ。
「さぁさ、とーってもイイ女を揃えたんですもの。思い切り華やかに麗しく……さ、いきましょうかぁ!」
少々わざとらしい流し目を一つ。機微を理解しない機械の兵をアーリアのパラリジ・ブランの雨が甘やかに打つ。
「この一撃は星すらも砕く極光――喰らいなさい、破式魔砲」
一方でこちらは苛烈に。味方を掠め、強烈な魔光が敵陣を一気に薙ぎ払う。
「……ふ、ふふ。最近色々とストレス溜まってたのでやっぱりこれですね! まとめて薙ぎ払うのは快感です。
カバーには素敵な淑女の皆さんが着いてくださってますし、ええ、もっと撃ちましょう!」
「うわぁ、正純さんの目が据わってるよぅ……」
シルキィの声が乾く。大人しいヤツ程、キレると危険という事か――
閑話休題、【淑女】が見事な活躍(エレガンス)を魅せたなら、黙ってられない連中も居る。
「図らずも、この隊は全員赤い襟巻きを着けているし……仮称として『赤襟小隊』とでも名付けておこうか?」
鉄火場にも冗句めいた『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)には本気か否か、命のやり取りを愉しむ余裕さえ滲んでいる。
「うん、いい感じ! マンモスに乗って出陣じゃい!
げんすけとミヅハちゃんで赤襟小隊なのだ!」
「予定通り、威力偵察だ。幻介は負傷者回収をメインに頼む。
秋奈と俺は陣を崩す敵の優先撃破が『司書』からのオーダーだ。
……幻介、言っておくが先行しすぎるなよ」
二者二様、『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)と『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)の反応はそれぞれだがどちらも不敵。
「いや、違うな。『秋奈、ミヅハ。遅れるなよ!』」
赤襟小隊は【騎兵隊】の先陣、鏑矢だ。
「 媒体飛行! 物質透過! 建物の中でも縦横無尽だぜ!
Devils’ proof、監視カメラの類で俺を捕捉できると思うなよ!」
彼等以外にも『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が攪乱に動き始めている。
この突破の主力になる【騎兵隊】がいよいよその動きを強めていた。
「騎兵隊リリー、行くよ!」
「騎兵隊、ごーごー、です。
塔主さん達が、マザーさんに、ただいまって、言えるように、エル達はお手伝い、します!」
『マスターファミリアー』リトル・リリー(p3p000955)の狙撃と呼ぶに相応しい見事な技量が宙空の飛兵を撃ち抜いた。
サメエナガに乗った『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)がそれに続き、狙撃と範囲攻撃で前線を支援する彼女等に応じるように『偉大なる大翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)が前に出た。
「ああ。ちょっと強引に行くぜ。
何、心配すんなよ。『当たらなければどうって事ないさ』。
リリーの前でかっこ悪いところ見せられないからな!」
「……うん、カッコいい」
ひらりひらりと敵を翻弄するカイトは成る程、多勢相手にも見事な味を見せつけている。
「『終わる』にはまだ早い。そうだろう?」
「ああ。征こうか。マザーを奪還する――それしかないからね」
不沈艦の如き『闇之雲』武器商人(p3p001107)が水を向ければ、支援役としてチーム全体を支える『女神の希望』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)が流麗に笑んだ。
「お家でキャンプ生活なんてみんな嫌でして! いつもの街にもどしに行くのですよー!」
「実の妹を思うのは当たり前のことでしょうけれど、契約相手は選ぶべきだわ。
兄的にはそれほどまでにのっぴきならないことになっているのよね……もう!」
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が気を吐き、『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)が仕方ないと敵を撃つ。
「そっちの砲台も逃がさないのですよ!」
「わたくしの役割は道を切り開くこと。その為には進行方向への邪魔な方々は退場してもらわないとね?」
ルシアの大口径が火を噴く一方で、メルランヌもまた負けじと戦場を麗しく舞う。
イレギュラーズの中でも最大の集団を形成した【騎兵隊】がこの難関に燃えない筈は無く、彼等の突破力はこの状況における頼みの一つであった。
「練達の……いや、世界の危機が迫っている。
こんな状況、黙って見過ごせる訳ないでしょう?」
「ああ。この国が壊れちゃぁ、ROOの世界も壊れるし……
何より練達があったおかげで繋がった縁や恩も有る!
なら……頑張らなくっちゃなぁ……流石に一人は怖いが!」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)と『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)が互いの背を守るように大立ち回りを見せ、
「纏めて倒すぞ――」
広く展開した敵の一団を『訊かぬが華』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の鉄の星が強かに打ちのめした。
「ふむ? これでも足りない位か。少しやり過ぎたかと思ったのだがな――」
最低でも二人以上の同時行動を義務付けたこの大集団は、距離が開かざるを得ない乱戦の中にも連絡手段(ファミリア)等を完備している。
「とっととコンビニ復活してほしいでスからねー。R.O.Oのラスボス戦頑張りましょっかね」
それはちらりと武器商人を窺ったスパイ――『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)、
「そこに罠があるよ!」
支援と瞬間記憶によるマッピングに余念のない『空に願う』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)といった情報収集役にとって重要な所であり、
「さぁ、ここは通させないわ!」
「大丈夫……大丈夫、勝てるのだわ。だって、私達なのだから!」
聳え立つ白亜の壁(ハイ・ウォール)の如く複数の番犬を自身の槍と大盾で受け止めた『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)、そしてそんな彼女を、仲間達をその柔らかな歌声で支え続ける『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)にも同じであった。
「司書殿の事だ。ノルマ未達は『計算外』とでも言ってくれるのだろうな――」
(誰もが前に進んでいく、敵も、味方も……私はどうなのかしら……
妬ましいのだわ、迷わず進む皆が。それでも私は、不器用でも挫けても……
絶対に止まらず追い続けて見せるのだわ!)
『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)が自らに課された期待の重さ(ノルマ)に肩を竦めて嘯いた。
一方で癒し手から攻め手へ切り替えた華蓮の嫉妬(レッド・クイーン)は逃さしと敵影を捉えていた。
戦場全域の情報が可能な限りで共有され続けている。
情報の不明瞭は常に打手を惑わせるなら、盤面を出来るだけクリアに見通す事は少なくとも――『彼女』の考える絶対、第一だったに違いない。
「騎兵隊である! これはROOにはなかった『情報』よね、マザー?」
不敵なるはローレットの才媛、大集団を束ね切る『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の存在だ。
確かに彼女の――いや、彼女等の存在はマザーやクリストの計算の中にはあるまい。
ローレットの最精鋭とも言える集団が『これ程の有機的連携を以って、無機の城を掘り進める等とは、至高の演算装置も承知してはいまい』。
(とは言え、何時まで持つかって話なのよね……)
イーリンは才媛である。そして秀才である。
あくまで秀才であるから、己の評価を過剰に持たない。
並の人様よりは随分と指揮に秀でている自信はあるが、千の戦いを超えて不敗のザーバのようにはいくまい、とも分かっている。
『あくまで自身が掌握し切れる間に、イレギュラーズはマザーに到達しなければならないのだ』。
「なるほど、ここはマザーの胃の中ってことか。
正直興奮す――じゃない、そこに安全地帯を築かないとうまくは行かないんでさ!」
「……あなたねぇ」
一瞬気負ったイーリンを見事に『ほぐした』のは舌を出した『観光客』アト・サイン(p3p001394)だった。
本気か否か、そもそもそういう心算だったのか。聞いてもきっと答えないだろう。
しかしながらイーリンはアトの存在に救われる。
「オーケー……騎兵隊、斬り込むよ!
アトさん! 見ててね! やっつける――!」
「あー、がんばれ。転ぶなよ」
『評判上々』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)に何時もと同じように応じるアトに気負いは無い。まるで無い。
「……まったく。上等じゃないの」
【騎兵隊】は最低でも二人一組。それは旗振り役でも同じ事。
「あそこには。
生きているのじゃ。あの子が。
だから……護る。絶対にじゃ……!」
「……」
「……………」
微かに『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)のそんな声が聞こえた時。
「よし、本気出してぶちのめしていくわよ」
「丁度、僕もそう思った所だった」
イーリンが優等生の秀才なら、アト・サインは問題児の天才だ。だが、結局は――二人の見据える先は変わらない。
成否
成功
状態異常
第1章 第3節
●機神の檻III
金属の咆哮が鼓膜を揺らす。
色濃い『拒絶』の響きを帯びた爆音は、凄絶な爆炎で通路全体を舐め上げる。
「やれやれ、だ!」
黒いマントが閃き、裏地の赤が奇妙な程に目に付いた。
集中した火線、敵方火砲の交響曲を何事も無かったかのように完封したDr.マッドハッターは嘯いた。
「『母上』のヒステリーに付き合うのは! 息子の役割も中々大変だ!」
尋常ならざる状況をものともせず、炎の引いたその後に重傷を負った者は居ない。
常人ならば命が幾つあっても足りないであろう鉄火場は――刻一刻とその危険性を増していた。
「まったく――塔攻略でも、迷宮攻略でも。ここまで苦労した事は無いわね」
見渡す限りのエネミーカラーに呆れたように『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が嘆息した。
「皆が破壊した自律兵器の分解……分析が出来たら良かったんだけど」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の前に立ち塞がる敵は増える事はあっても減る事は無い。
「……俺の、神は。死者と生者の境界を『生の側から』保つ医神から『死の側から』保つ死神へと転じたもの。
成る程、それは──とても苦しいことなのだろうな」
「敵の再生産が多い。マザーに負担が掛からねば良いが……一部でもシステムを止められないだろうか?」
『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が何処か物憂げに呟き、『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)が臍を噛んだ。
幾つかの階層を潜り、深層に近付く程に抵抗は強烈に、頑強なものに変わっている。
もし彼の危惧の通り、この戦いがマザーに負担を強いるものだとするならば、救援自体が皮肉極まる。
「……それでも」
もう一撃は許さじと。
「それでも、マザーに会いに行こう。どちらの世界でもまだ踏ん張れる。
もう一度言おう、このままでは終わらせない!」
「前には進んでいる。では、更に進めます。斬って、前へ。
誰も死なせない。何も壊させない。その為にもいち早く、進め。
さぁ行きましょう。進めましょう。障害が立ち塞がるのなら――私が悉く斬り伏せる」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)、『龍成の親友』ボディ・ダクレ(p3p008384)の一撃が続け様に砲台を叩きのめした。
「ここまで直進だったが質問だ! マザーのいる中枢以外にも戦力を割くことで進軍の補助となる施設とかに心当たりはあるか!?」
「生憎と、仮にあっても使えない。『中枢』も防衛システムも既に私達の承知しているものとはまるで違うんだ。
下手な藪(ブラック・ボックス)に首を突っ込めば何が出るかも分からないよ」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の言葉に佐伯操が肩を竦め、
「まだ先は見えねぇか……ハーフタイムなんて贅沢は言ってられないっスね。
……だからって前半でへばる程ヤワな鍛え方はしてねぇけどな」
「兎に角! みんな最終決戦に向けて温存とかしなくてもいいからね! ㅤ会長が全部元通りにするから!」
嘯いた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)に三塔主たる彼女にも負けじと全力で支援に力を尽くす『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)が胸を張った。
(仮にマザーの反転が完了したらこの先どうなるっすか?
此処ら一体が全て吹き飛ぶのか…それとも世界に侵攻する殺戮機械工場となるか…
……いやいや、こんな後ろ向きな想像はダメダメっす!)
『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が嫌な想像を振り払うように頭を振った。
成る程、情報精度の低いこの進軍は一筋縄でいくようなものでは無かった。
こうなる前と内部は姿を変えているし、出現する敵の単調な動きにも多数の例外が現れている。
端的に言えば敵の能力と攻撃行動の精度は刻一刻と上がり続けていた。
「さすがにお相手も学習し始める頃合いなのでしょうか。
これはより注意しなければ、致命的な状況になりかねませんね――」
憂鬱な呟きは福々しさを感じる『世紀末の勇者』金枝 繁茂(p3p008917)の恰幅には似合わない。
されど繁茂の見立てと分析は実に、実に的確だった。
獰猛な格闘戦を見せる番犬はより敏捷により鋭く。味方を攪乱する厄介な飛兵はより嫌らしく執拗に。火を噴く砲台の威力や命中精度は最初とは比較にもなっていない。
成る程、『想像通り』相手は学習する機械という事になろう。
「でもね。そっちがどれ位邪魔しても、辞めないよ――」
だが逆境にこそ燃え上がるのは或いは『育ち』故なのか。
「――マザーには面識は無いけど、彼女は『造られた存在』なんだよネ?
彼女を反転させるなんて人が作った奇跡を踏み躙るようで余計に許しちゃおかないよ!」
気を吐いた天才肌の『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の踏み込みは危急にこそより深く、より鮮やかになる。
「まがりなりに幻さんに追従できるのはアタシだけだからネ――」
「――各個撃破して参ります。
しかし、制御できないほどの巨大な力とは翻すと如何に恐ろしいものかを考えさせられますね――」
ミルヴィがカバーに動き、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)という毒花は艶やかに咲き誇る。
「ヒューマンエラーは避けられない、とは言うけど。これはいよいよそんな次元じゃないね。
でも――関係ない。僕はいつも通り、信頼する仲間達のサポートに徹するまでだ」
「――最奥に至るために来たのに、有象無象で消耗している場合じゃあないんだよっ!」
『澱の森の仔』錫蘭 ルフナ(p3p004350)の援護を受けた『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が正面の敵を完膚無きまでに打ち砕いた。
「その調子だ。だが、頭を冷やそう。こういう時こそクールでなければいけない。
イノリはR.O.O側の連中なら何とかしてくれる筈。それなら、今ならまだ間に合うはずなんだ。
俺達が彼女を反転なんてさせやしない。この『熱量』と『冷静』は決して同居出来ないものじゃない――」
『餓狼』と『狼牙』、二丁の銃の取り回しも見事に。
見事に頭上より仲間を狙った飛兵を仕留めた『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が激励すれば幻は「ええ」と淡く微笑んだ。
【天香桂花】の連携の力もあり、戦線が前に上がる。更にこの層を超え、次なる階層に。
戦いは激しさを増し、やがて物理的威力さえ帯びた電磁の障壁がイレギュラーズの行く手を阻むに到る――
「さあ、これは私達の出番だな!」
マッドハッターがむしろ嬉しそうな声を上げ、操はすぐにコンソールを操作し始めていた。
「状況は絶望的かしら?
いいえ。我(わたし)達は諦めが悪いのだわ。
こんな仕事を投げ出すほど冷血でもなく、ましてや御利口な集団だとは思わない事ね!」
このレジーナの言葉をあのお嬢様が聞いたらきっと極上の薔薇が咲いた事だろう。
『進行不可』はバッド・ニュースだが、『それ』が出てきたという事は一行の進軍が相応にマザーに近付いているという証左にもなる。
「頼めるか?」
「成る程、これは私の得意分野です。
カスパール殿とマッドハッター殿はご自分で何とかするでしょうから……
生命線になる操殿は確実に私が」
「感謝する」
繁茂の答えに頷き、カスパールがその雷気を開放した。
「『急げよ』」
「気楽に言ってくれるなよ、カスパール翁!」
「……相手はマザーなんだよ? まぁ、私に掛かれば突破は可能だがね!」
二塔主の言葉にカスパールはふ、と笑う。
後顧の憂い無くば、その役割は剣聖に相応しく。疾風迅雷を思わせる彼はまさに敵陣を削り取るように暴れていた。
イレギュラーズの為すべきも同じであり、作業への集中を余儀なくされる操とマッドハッターを守備するように、退けぬ正面衝突の戦い激しさを増す。
(別にあの人の代わりだとか、そういうつもりは無かった。
ただ、彼に集ったこの群れが……この程度の窮地で歩みを止めてしまう様な、不甲斐ないものではないのだと。
その証を見せなければと。あんなにも鬱陶しくも鼓動が躍動するものだから――)
一瞬だけ瞑目した『Can'dy✗ho'use』ハンス・キングスレー(p3p008418)の胸を万感が打つ。
「――この大役を羽織ってみせようと、そう思ったんだ」
前を、迫り来る敵勢を見据えた彼は力一杯に叫ぶ。
「黒狼、前へ!」
これはまさに『中枢』攻略の最大戦力の一つである【黒狼】の見せ場である。
「こんな時だもん。いつまでも眠り姫じゃいられない。いさせてあげられない!
守りたいんだ――ひよのさんやなじみさん、ジョーさん。皆で過ごすあの場所をっ!」
「ああ。友たるハンス殿の呼びかけだからね。
微力ながら尽力させてもらうよ。色々なモノを――共に取り返しにいこうじゃないか」
連鎖するように『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)の攻め手が奔り、『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の黒の顎が番犬を噛み潰す。
「私達は黒き狼だから。歩みを止めず、諦めず、全てを取り戻してみせるよっ!」
「私は黒狼ではないけど――フランさんやベネディクトさんとは面識もあるし、お手伝い!
ログアウトできていない人達の為にも頑張らなきゃ。皆、今この時でも頑張っていてくれるはずだからね!」
花丸やここぞと力を貸した『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だけではない。
「盟主不在を束ねんとするその気概や良し。
鉄帝の騎士、エーデルガルト・フロールリジ。助太刀の押売りに推参致しました」
恐らく台詞に嘘は無いだろう。
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は虚勢を張れる『主人』が好きなのだ。それさえ出来ない者よりもずっと、仕え甲斐があるから。
「火力勝負ならボクが相手になります! 一撃確殺、とまではいかなくても半壊くらいまでは追い込んでやるんですからね!」
「ログアウト不可にされた奴を残したまま練達に陥落されては堪らんよ。
ほんと、フランとはついこの間一緒にカレー食べたんだがなぁ」
声に姿程は可愛らしくはない『護るための刃』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)の『ハンターズ』が飛兵を襲い、やれやれと嘯いた『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)の鋼の驟雨(プラチナム・インベルタ)が無数の如く降り注ぎ敵を穿って貫いた。
「場所は違えども、二匹の狼は絶えぬ咆哮を上げている。
彼らが戻った時、胸を張って迎えられるように――進みましょう。この先へ!」
【黒狼】の恐るべきは、この『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)を含めた複数が明確な戦略眼を有して動いている事だった。
隊全体の指揮はハンスが取っている格好だが、細部に至るまで動き方にそつがない。
全部相手にしていたらきりがない再生能力なら、一撃の重さがモノを言う。
「それにしても無茶しすぎだよ、お母さん。
子供も親を心配するものらしいよ? ここからは――力になってみせるからきっと頼りにしててよね!」
『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)の猛撃が唸りを上げ、
「『母』というものを俺は知らない、出会った事がなかったからな。
ただ――支えてくれた女性を見捨てられないな――」
続け様。ニヒルな笑みを浮かべた『ただの死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)の刹月界雷――黒き狂雷が荒れ狂う。
「――それに、R.O.Oはまだ消えてもらっちゃ困るんだ」
「おやおや。こりゃアタシが出張らなくても良かったかねえ?
ま、いいベネディクトへの借りの返し時だ。傭兵リズリー、この際使い倒されてやろうじゃないのさ!」
たとえ敵が猛烈な反撃に出ようとも、獰猛に笑う『厳冬の獣』リズリー・クレイグ(p3p008130)が立ち塞がればそこはあくまで行き止まり。
「大丈夫! 後ろの守りは任せて!
前に進んで、前を見て――急がないといけないなら『やる』以外の選択肢ない。そうでしょ!?」
敵は場所も都合も選んでくれない。後方で発生し、イレギュラーズを挟み撃ちに仕掛けた敵を気丈に声を張った『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)が止めた。
素晴らしい士気と実力に裏打ちされたイレギュラーズは『強い』。
猛攻は恐るべきスピードの機械学習も上回るかに見えたが――
「――やはり、『これ位』の隠し玉はありましたか。
さあ、ベネディクトさんがいなくても――『黒狼の軍師』の名に恥じぬ仕事をしないとね」
『当主』なくとも彼が居る。今日は【黒狼】の軍師としてこの場を預かった一人であるマルク・シリング(p3p001309)の目が細くなる。
これまでは『想定内』である。そして『想定外がある事も想定内に違いない』。
「――最上級の警戒を!」
マルクの声に緊張が走り抜けた。
通路奥から現れた敵の一団はこれまでとその姿形を変えていた。番犬、飛兵、砲台。ここまでは同じだが――
「……驚きだ、原罪の影響を舐めてたよ」
『竜剣』シラス(p3p004421)の声には言葉程の余裕は無い。
それはAIが反転仕掛けているのも然り、それからこの短期間で『新型』が産み落とされた事も然りであった。
「『ダミーマザー』だ! もたついていたらジリ貧だ、集中しろ!
……って言うか、そっちも突破を急いでくれよ――!」
彼が最大限に警戒を向けたのはこれまでの三種に非ず。新たに彼が認識したもの、『ダミーマザー』と命名した『女性型』だ。
成る程、目鼻立ち、姿のディティールこそ無いものの人型を取るそれは確かにあのマザーのシルエットを思わせた。
液体金属を思わせる表面の艶やかさは無機質な悪意と敵意を相対する【黒狼】に知らしめていた。
「全力でやってるさ!」
操の返答を待たず背に受け、『ローレットでも指折りの』シラスはこれが自分の役割と彼女目掛けて肉薄する。
「急がなければならない……とはいえ、流石に『迎撃の準備が整っている城』でしたか。
はて。この一突きで、どの程度の手を引き出せるか――」
シラスの妨害に出た敵を『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)の神鳴る縛鎖が食い止めた。
「……いやはや、隊の士気はいつになく高いようですね。
ここは外部コンサルタントとして、ひとつ貸しを作っておかねば。リースリットさんあたりに身体で返してもらう為にも」
「――!?」
ぎょっとしたリースリットだったが、45口径の死神を覗いた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は何事も無いかのように言った。
「これで貸しを一つ――という事で」
彼女を死角から狙った敵の一体が見事な狙撃で地に堕ちていた。
「――ルカ先輩はさっさとリアルに出て勉強しろって追い出したくせに!
フランちゃんは早く帰ってこいって言っておきながら自分が帰ってこれなくなるし!
皆さん自分勝手なの許せないですねぇ! こんなのさっさと倒して早くR.O.Oから引きずり出してやりましょう!」
「『悠久ーUQー』は仲間を見捨てねえ……待ってろよべーやん、フランちゃん。今行くぜ、この俺がよッ!!!」
言葉はそれぞれだが、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)も『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)も漲っている事に違いはない。
個人の戦闘力としてはイレギュラーズ最高の一人と言っても過言ではないシラスさえも無数のワイヤーで寄せ付けぬダミーマザーに更なる攻め手として襲い掛かる。
「まったく、誰も彼もR.O.Oへ行ったきり帰って来ぬ!
ベー君もリュティスちゃんも、ついでに妾のところの家主も帰って来ぬからめざしもない!
兎に角、とっととケリをつけて隊舎でお疲れ様パーティーじゃ!
費用は塔主に持ってもらうからのう、絶対に!!!」
吠えた『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)の破壊的な魔光がダミーマザーのシルエットを飲み込んだ。
「いつも賑やかだったベっさんの家。
今は、閑散としている。寒い。寒いなあ――」
猛々しい戦場で、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)の独白は空虚であり、敢然たる決意だった。
「今、この瞬間にも練達が消えようとしてるんだ。
ダチと騒いだ学校も、帰りに肉まん食ったコンビニも、めちゃくちゃだ。
最悪だ。最低だよ。こんなの絶対に――認められない。
護るんだ。そして、取り戻すんだ。あの楽しい喧噪(ばしょ)を。
ダチと、知らねえやつのも――とにかくみんなの場所、全部! 全部をだ!」
グツグツ、グツグツと。マグマのように底で煮え、裂帛の気と共に吐き出される。
今一度、【黒狼】全体を引っ張った『風の牙』にダミーマザーさえもが押し込まれた。
「――破った!」
イレギュラーズの攻勢が強まったのと操の声、バリンと物理的な音さえ生じ見えない壁が砕け散ったのは全て同時の事だった。
成否
成功
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
禁じ手解放、まさかの両面決戦と相成ります。
こちらはVHでレベル制限の厳しい方です。一定の覚悟の上でご参加下さい。
以下、シナリオ詳細。
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはマザーの『完全反転』か前者より早く『<イノリ>が倒される事』になります。
皆さんは本シナリオ(ないしは他のラリー決戦タイプシナリオ)に何度でも挑戦することが出来ます。
●作戦目標
マザーの『完全反転』阻止。
その為に練達地下『中枢』に侵入し、マザーに挑戦します。
※少なくとも三塔主は『イノリ』が倒される事で状況がマシになると踏んでいます。本シナリオでは『イノリ』やクリストに直接干渉する事は出来ない為、<ダブルフォルト・エンバーミング>Sister Complexにおけるイレギュラーズの活躍によって運命や状況が劇的に変わると見做して良いでしょう。この二本のシナリオは極めて強い連動性を持っています。
●中枢
練達中心部に密かに存在する地下施設です。
この地下施設は練達の全てを統括制御するマザーの家であり、セフィロトの心臓部です。
地下深くまで階層を織り成すこの施設は当然ながら侵入者への極めて激烈な防備を持っています。
三塔主はその全てを把握していましたが、マザーが『反転しかかっている』事で書き換えが行われている為、余りあてにはなりません。
しかしながら塔主達のスキルをもってすれば一部の致命的な妨害(例えば隔壁が下りてそれ以上絶対に進めない等)は回避可能です。
当然ながらそういった状況になった場合、彼等には作業や集中が必要になる為、戦闘出来る状態ではなくなります。
従って、イレギュラーズが決戦の主戦力になる必要が生じます。
マザーは最深部の存在する為、ミッションは『兎に角先に進み、降りる事』となります。
●敵
・セフィロトの『中枢』を防備する軍事用ドローン等の自律兵器が内部には大量に存在します。
中枢は通路も天井高も数メートル以上もある広い施設ですが、殆どは屋内活動用の比較的小型高性能なものです。
変化し始めた『中枢』は謂わば母の胎内のようなものです。
仮に敵を破壊したとしても、それは即座に壁や床から資材として取り込まれ『システム』から再生産されます。
幾つかのパターンが存在します。以下は代表的なもの。
現時点において中枢防備システムの最大の恐ろしさは数と再生産能力になるでしょう。
・飛行タイプ
最も小型のドローンで素早く回避力も高いです。
至近攻撃の届かない宙空から急降下攻撃や超小型ミサイル等による遠距離攻撃を行ってきます。
耐久力は低めですが殺傷力は高いです。
・番犬タイプ
大型犬程度のサイズを持つ敏捷性の高い近接型兵器です。
比較的狭い場所での格闘戦に優れ、強靭です。並のイレギュラーズならば太刀打ちは出来ないでしょう。
高い自己再生能力を持ち、行動前にBSが中程度の確率で解除されます。
皆さんは並ではないので十分戦える事でしょうが、油断をしてはいけません。
・砲台タイプ
移動しない軍事施設型の敵。
自律兵器であり、侵入者を殲滅する為の強烈な範囲攻撃を行います。
行動タイミングは遅く『溜め』を有する為、攻撃タイミングは毎ターンではありません。
移動も行いませんが、極めて危険です。又、麻痺、精神系のBSを受け付けません。
・マザー(反転クラリス)
中枢侵入の最初の段階では当然ながら姿は見せません。
状況は不明ですが、防御システムが妨害してくる以上、反転しかかっているのは間違いありません。
早く彼女にもとに辿り着き、『負担』を軽減する必要があります。
R.O.O攻略班のもたらす勝機を待つしかありません。
●味方
皆さんと一緒に戦ってくれます。
・カスパール・グシュナサフ
三塔『探求』の主人。練達の事実上の国王のような存在。
雷撃を操る絶大なる術士……と見せかけてその本領は剣技です。
近接戦闘に物凄く強く、支援砲撃もお手の物。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
・Dr.マッドハッター
三塔『想像』の主人。練達のえらいひと。
シュペル程ではないですが、色んな意味でチートを使いこなします。
直接戦闘はそこそこ。イレギュラーズの多くよりは強いです。
本人開発のアイテムや能力で勝手にイレギュラーズを支援します。
この人は頼んでもあんまり言う事を聞きません。主に防御面の支援をします。
・佐伯操
三塔『実践』の主人。練達のえらいひと。
戦闘はあまり得意ではありませんが、イレギュラーズと同程度には戦えます。
彼女の特筆するべきは回復面の支援です。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
三塔主に共通している事は中枢を進む上での障害に出会った場合、戦闘している場合では無くなる可能性がある事です。
三人で挑めば比較的早く突破出来るでしょうが、時に応じて例えば『カスパールのみ前衛に残す』等PC側からある程度纏まった意見が出れば従う場合もあります。
上手く使って下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
本シナリオは進展により次々に別の状況に変化します。
以上、頑張って下さいませ!
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