シナリオ詳細
<神異>帝都星読キネマ譚
オープニング
●神咒曙光
其は《信仰》を顕わした。
祓い給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え――
《母》は神で在った。
《母》は自らの命を雫と化し黄泉津を産み給うた。
《母》の命により育まれし万物の命は心を宿し、生命の軌跡を紡ぐ。
《父》は産み落とされた子らを育んだ。國の抱きし大地の癌に御身蝕まれようとも。
第一の子は瑞と云ふ。
神意の瑞兆は黄泉津の草木を茂らせ花啓く。
枯れ泉は湧き出て蓮華は車輪が如く花咲かす。
中天彩る天つ雲は揺蕩う流れに平穏の気配を宿す。
其は神の愛し子。
第二の子は五ツ柱なりて。
神意に随ひ國を護る。其は守護者なる。
土行司りし泰平の獣。
木行司りし芽吹きの大樹。
火行司りし炎帝の娘。
水行司りし不死と生殖の翁。
金行司りし白帝の獣。
神意と共に歩み進む命脈を紡ぐ地を護りし《母》の子ら。
常闇をも祓う神をも咒え、曙光を求めんとする者へと祝福を――
●帝都星読キネマ譚
時は諦星十五年。神咒曙光の栄華なりて。
霞帝、天香、建葉による三位一体の政は国を善く治め、巫女姫姉妹が伝えた海向こうの風習は、帝都に新しい文化を花開かせた。
しかして光あれば影あり、陽あれば陰あり。華やかなりし帝都の夜にうごめく妖。
その名は――夜妖(よる)。
イベントに掲げられし文言は高天京壱号映画館にて『渾天儀【星読幻灯機】』ほしよみキネマを見遣り世界の平和を守りませう。
そんな端的単純明快なる言霊であったではあるまいか。
びろうどのカーテンがぱあと開けば銀幕にモノクロームが踊り出す。
未来の確定悲劇をからからと音立てご覧にいれませう。
しかして、其れで済まぬが『R.O.O』でありました。
敵対する夜妖<ヨル>。沌における再現性東京2010街・希望ヶ浜における、モンスターの総称でございます。
たとえば幻想ではゴブリンやコッカトリスなどと呼ばれる魔物類全般もまた夜妖の内。
京に姿を顕せり、その真の姿は何であったか。
禍ツ神『豊底比売』の侵食を受け、国家はあわや神の手足に。其れを防がんとする天香遮那は云ふ。
「喩い、朝敵になろうとも。愛おしき神咒曙光を護るが為に――」
日辰陰陽自在に操り、夜妖を狩る退魔師。
そして、この諦星の世を平穏に導く高天京特務高等警察:月将七課、それが神使の立場と相成ったのです。
現実と虚構。同時の侵略を見せし真性怪異。
『R.O.O』3.0のアップデートと共に『内外』からマザーに負荷をかけた『ネクスト』は彼女を疲弊させました。
その疲弊が練達に齎した影響は大きい。練達の住民達の不安は真性怪異の糧となる。
急速に侵食速度を上げた真性怪異たちが神光へと大きな変化を与え給うた。
つまり、侵食されていたNPCデータが明確に敵対したのでございます。
天香 遮那に言わせれば「全てが敵になった」状態。
神霊や朝廷、そのどちらもが『神使』と遮那をれっきとした逆賊として処刑を宣言し……。
そう、それもすべては神光に座する国産みの女神『豊底比売』が為――
●朝敵を討つべし
「準備、整いましてでございます」
膝をついたのはお庭番衆『暦』が頭領 黒影 鬼灯であった。彼の傍らには妻である今園 章の姿が見える。
「章か……」
「私も参ります、父上。……いいえ、主上。この国家の一大事に黙ってなどいられるものですか」
「章が?」
愕然とした霞帝は章をまじまじと見やる。
高天大社。此岸ノ辺の本陣にて。
金の長い髪を――霞帝にとってはヒイズルにて自身を拾い育ててくれた今園の義姉・日和の面影を――揺らしながら章は凜とそう言った。
「だが、章が無理をすることはない。おまえは戦になど出なくて良いのだ。
俺はおまえには幸せに暮らして欲しいと思っている。それに……おまえが出ずとも鬼灯が守り抜いてくれるであろう?」
「いいえ。私とて傀儡師です。下郎になど負けますまい。それに、亭主が傷付く様など見たくありませんもの。
……何と言われようと、暦と共に戦場へ馳せ参じます。ねえ、父上。私は皆が傷付くのは見たくは無いのだわ」
強くそう宣言した章の背後には彼女を支える涼暮 流星の姿が見えた。諜報部隊である彼女が護衛に付けば章が犠牲になることはないだろう。
流星は黙したまま、霞帝より声がかかるのを待っている。
「……流星か」
「は。必ずや奥方様を――いえ、章殿をお守り致します」
流星の宣言に霞帝は頷いた。
天香遮那との直接対決は彼が共に連れていた『鹿ノ子』と呼ばれた娘の介入で終わった。
霞帝は内心安堵していたのだ。彼とて盟友の義弟。何処まで堕ちれども霞帝にとっては愛しい存在で或る。
だが、『豊底比売』も彼を直接喰らってやるつもりだったそうだ。其れさえ為せなかったと『母』は憤っている。
その怒りが国をも滅ぼす前に、彼女の願いを叶えてやらねばなるまい。
兵を集結させ、此より戦の準備である。
鬱蒼と茂る緑に生気が宿る。若々しきその気配は豊底比売の恩恵か。
母は、国を栄えさせる。母なくしてはこの国は保つ事は出来ないのだ。
「ご報告致します。戦陣整いましてございます」
頭を下げたのは『神無月』と共に防御陣を展開する大月 逢華であった。治癒防衛陣は完成済みだ。
逢華が不安げな視線を送ったのは仕方あるまい。彼女にもそれなりの事情がある。霞帝は全て知りながらも彼女の事は神無月に一任していた。
神無月が彼女を連れて戦場へ向かうと言うならば、其れを咎める事はない。
今宵ばかりは暦も揃い踏みである。霞帝は傍らで『逢瀬』を楽しみにしているかのように見えた封魔星穹鞘『無幻』を一瞥した。
「……見えるか。『無幻』」
「はい。賀澄様」
「必ずや、かの男の手より貴殿の『対』を奪い取ろう。鞘は剣と共にあらねばならぬのだから」
「ありがたきお言葉でございます」
目を伏せた無幻に賀澄はゆるゆると頷いた。
無幻はあの時、確かにかの剣の名を呼んだ。剣を収める唯一。対たるおとこと出会った娘の幸福を思うならば。
……遮那よりあの剣を奪うしかないか。
だが、関門は覆い。
面妖なる彼岸花の術を使用した鹿ノ子という娘――彼女が会得する月閃が此方にどれ程の影響を与えるかは計り知れない。
耐えきり豊底比売を護らねば。そして、遮那を贄とせねば母の怒りが収まらぬのは確かだ。
――賀澄、『神子』はそこに居ますか?
天蓋より降る声は己が力を顕現させた黄泉津瑞神のものであった。
賀澄は「来ております」と頭を垂れる。光の奇跡が踊る。豊底比売の力が舞い散っているのだろう。
「お呼びでございますか。瑞様」
ゆっくりと歩を進めた火乃宮 明瑠は瑞神を見上げ傅いた。彼女が跨がったのは霊犬である白薬叉大将か。
「瑞さま! 褒めてください! ちゃんと明瑠さんを連れてきましたよ!」
――ええ、あとでキュウリを食べましょうね。白太郎。
「やったー!」
「……瑞様、神子。『織』様は豊底様のお命を護るが為に尽力しております。この明瑠になんなりとお申し付けくださいませ」
――屹度、恵瑠がやってくるでしょう。ですが、分かっていますね?
「はい。信仰への裏切りは罪でございます故」
明瑠はひ、と息を飲んだ。
裏切りと言う言葉に、彼女は憤っている。
彼女は、そう。強大なる豊底比売は酷く憤っていたのだ。
穏やかな微笑はかなぐり捨てて、その目が見開き怨嗟に燃える。
ああ、なんと――
なんと忌まわしきか。子等よ。我が尽力が故に国家は栄え、華やかなる道を築いたのである。
獄人も八百万も、其方が作った獄炎の如き制度も私の栄華の前では廃れ落ちた。
国家の安寧のためには、この豊底比売が必要なのだ。
その私を禍ツ神と愚弄するとは――!
叫ぶ豊底比売の声に寄り添うように織は微笑んだ。
「……姫様。大丈夫でございます。この地に集結せしものは皆、貴方様のお心と共に」
それは侵食。
それは、真性怪異による全ての舞台。
織は、己が血筋ゆえにそれに魅入られている。
その侵食を解くには『豊底から切り離さねば』なるまい。
深く食い込んだ気配。織の笑みに豊底比売は微笑んだ。
さあ、この国を守るのです――!
果たして。
どちらが逆賊か。
『本来ならば豊底比売等という神様は存在していなかった』
――全ては虚構のデータを当て嵌められたこの国を『怪異が喰らう』有様でしかあるまい。
故、剣をとれ。
高天京特務高等警察よ。月将七課の神使達よ。
その力を夜へと委ね怪異による侵食を打ち払うのだ――!
- <神異>帝都星読キネマ譚完了
- GM名夏あかね
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月05日 22時10分
- 参加人数219/∞人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 219 人
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参加者一覧(219人)
リプレイ
●
深き夜をも覆い隠すは神の威光。鮮やかなりし天光は誰もの心を魅了した。
絡繰りの糸を解けば易く真実は見えてくる。この神咒曙光が信ずる神は出来の良い贋作に他ならず。
本来なればそれは存在し得ない筈だった。希望ヶ浜と呼ばれた人造としに『再現された』神は確かに信仰を得た其れそのものだったのであろう。
だが、急造されたネクスト2.0に座する豊底比売なる神は『神様』と呼ばれる器(データ)を宛がっただけに過ぎぬ。
その神格を補佐したのが希望ヶ浜の本来の神であったならば――創造主は利口であったと言わざるを得ないか。
帝都に落ちた狂気は全て賊軍によるもの、と。市中の人々は口にする。
神による影響などと謳われようと其れを理解する民は居ず。今や朝敵たる天香遮那が夜妖に手を貸したが故の惨状であるとさえ囁かれる。
致し方在るまい。そうして彼らが平穏を保つのならば、その上で神を食い止めて全てを元通りに為ねばならぬのだ。
『豊底比売を斃したならば、狂化は解ける』――だが、元に戻らぬのは『この戦の責任を誰ぞかが取らねばならぬ』と言うことだけ。
「さて――」
御庭番衆『暦』は今宵は揃い踏み。頭領の傍らには彼の愛しき姫君が佇んでいる。そのお命を預ったからには、散らすわけには行くまいと高まる士気を感じ取り鬼灯は部下達を振り返る。戦の気配が頬を撫でる。永劫の別れを告げる程、己等は命を重くは見ていない。忍びなるもの主君のために散るべきだ。冷徹になれと育てた部下達は誰もが承知の上で此処に居る。
――それは『高天京特務高等警察』とて同じ。
「本当はお友達と戦いたくないけど、鬼灯達ご夫婦には別の世界でだって幸せでいてほしい。
だから、後悔しないで済むように今の俺にできることを精一杯やるんだ!」
可愛らしい体を揺らがせたアダムは陽炎が掴みたい未来へ向けて暦と戦うと決めていた。
眼前の暦の中には鬼灯を始め、彼の愛妻である章の姿までもある。誰もが協力し合い、それらを『止め』て神による侵食を解かねばならぬのだ。
「神威神楽……じゃァなかったな、神咒曙光か。わざわざこんなトコまで似なくても良かったろうによ。
神サマって奴ァ崇め過ぎてもよくねェのかもなァ……ったく。さて、オレは『加護の地』の守護にでも就くかねェ」
日向寺は周りを警邏しながらも加護の地で、民達を救うことを考えていた。彼の予想通り『神』に関しては彼らは何も知らない。
――天香遮那と云う朝敵によるものだと声高に。イレギュラーズ達も此を聞いて戸惑ったことだろうと嘆息する。
「斬るべきを斬る。たとえ神であろうと、見知った影であろうと……そうだろう?」
静かに囁いたのはaMaTERAs。各地に張り巡らされた『暦』の目。水無月隊は神使の動向を把握してくるだろう。
敵の懐に入るのならば僅かな綻びさえも見逃してはならない。構えたのは終夜。終ぞの命を奪う刃が鋭く光る。
「これが真正怪異ってやつなのですか、全く面倒なことをしてくれたものなのです」
呟くジェットは偵察隊を狙う役目を担っていた。同時にそれが露見すれば自身等が的になる。其れは出来る限り避けなければならないとステルスドローンを遣い、慎重に気を配る。
ジェットの傍らでaMaTERAsは小さく頷いた。ジェットが見つけた『鷹』を狩り取りに行くのだ。
「まったく……こんな大事になるなんて考えつかないっすよね~。さってそれじゃ、ちょっと世界を救いに行くっすかね!」
軽い笑みを浮かべたのはVIVI・IX。『暦』を相手取る各位との連携は協力体制を敷いてのものだ。
aMaTERAsが水無月を狙うのならば、VIVI・IXは神無月を。回復を断つのは定石――それはあちらも考えることではあるだろう。
「さ、て」
VIVI・IXが纏ったのは『夜』の気配。月が閃き、転ずるは夜妖の悪しき力。今や、それに身を委ね全盛よりも更に驚異を己へと堕とす。
「どうせ殺せないなら……無限にウチの魅力に釘付けにしてあげるっすよ……何人たりとも……目を離す事は叶わない……クヒヒ」
アクティブスキルを駆使し、接近を赦さぬaMaTERAsの瞳が怪しく光る。仲間達を巻込んではならぬと声を掛ける連携は暦にも負けぬほどだ。
「回復が盾後ろに隠れているのは定石ね。なら盾から瓦解させるわ。ネームドの多いこの依頼。苦戦必須……逆に功績をあげるチャンスが多いってことね」
そう笑ったファントム・クォーツはサクラメント復活の出来る自身等もある意味では上手であるとも考える。
長月の撃破のために、ソロモンの指輪は魔力を灯し光り輝いた。紅き花弁のブレスは心を惑わせる。英雄の夢、黒檀の寝具。醒めない夜への招待状。
「情報は戦場の命ですからね……わかりました、ですとろい連絡網に参加します。チームの皆さんの計画にあわせて動きましょう。
敵の手法をご存知なかたとご一緒とは実にこころづよい。闇に紛れてぬるっと相手のふところに潜りこみたいですね、ふっふっふ」
そう笑ったのは蕭条。全力で殴って、何かあればビンタをして真性怪異を『絶対斃す』ために正気を保つ。
蕭条のやつあたりは情報網を担う水無月達を狙っていた。名付けて、相手の手口を知っているから『遣りやすく斃す』作戦である。
「知ってる! 練達のネット? で見た。毒親ってヤツだよね。違う?」
遠く豊底比売を眺めるすあまは卯月へと猫の牙を突き立てる。野生は獰猛な牙となり、食らい付く。その名も捕食。
すあまの身を運んだラダがずんずんと進み征く。
「ッ、あなた方はこの国を侵略するおつもりですか!?」
「違うよ! 解放者だ!」
すあまが堂々と宣言すれば、卯月は驚いたように目を丸くした。侵略者と解放者は隣り合わせ。それでも、彼女は堂々と言葉にするのだ。
「何でこっちでも豊穣と似たような事をしなきゃいけないかなぁ。
しかも現実とリンクしてるだなんて、いよいよただのゲームじゃなくなってきたね――ここまで来たらやるしかない、か」
此の儘放置しておけば現実世界にも被害が及ぶ。ならば、とシャドウウォーカーは地震の気配を消す。静止し、気配を希薄にする。
ドラゴンブロウを手に、狙うのは卯月と師走。その大盾を背後から奇襲を仕掛ける。高圧電流を纏ったダガーはばちり、と音を立てた。シャドウウォーカー専用武器として名高い其れは上級者向けであるが手にはよく馴染む。
「女性は特に神の近くに寄っておいでね来てみてね。大丈夫神だからさ。
バシィッっと助かる寸法なワケ。なんせ神だから。神じゃ助かっちゃうよな~。神だもんな~」
神光でびっかびかの神様は導きの光で暦達の間を抜けてゆく。神の雷を落とすその前に、神様は自身の目を以て危険を認識し続ける。
勿論、危機的な状況の女性を庇うことも忘れずに。
「さあて、急拵えのトナカイさんにも出来ることを見つけたよ。
僕も暦の部下……世界は違えど彼らが悪さを働いているのなら、黙って見ているというのも難しい話だからねえ」
Blixemは荷車を引いて、泣いている子供を乗せてやった。恐ろしいことばかりだろう。怖いという気持ちは決して罪ではないとBlixemは言う。
「その気持ちは君の身を守ってくれることだってある。だから目だけはきちんと開いておいで。
進むのも、逃げるのも、道は君の目で見なくちゃいけない――いつか後悔しないためにねえ」
柔らかな声を掛けた Blixemの側でハンモちゃんは穏やかに笑みを浮かべる。
(なにやら大変な事が起きているみたいですね。昔の金枝繁茂に起きたことを想起させられます……今の私には力があります、今度こそ守り通しましょう)
子供達には大丈夫だと微笑んで見せる。安心感を齎すその香りと共に、混乱の最中の一般人の気を鎮め、出来る限り安全地帯へと誘わねばならないのだ。
「常春なんて普通じゃあないんだよ。この枯葉みたいに、ねぇ」
ユラテは一般人へと声を掛けながら、避難の補助に当たっている。連携し、暦の様子を確認しながらも、危険を察知しておかねば多くの命が失われる。
そして、後方を眺めれば、ユラテへと迫るのは――
無数の敵影にユラテとハンモちゃんが構える。味方には当たらぬように、乱戦状態でも気を配るハンモちゃんが構えを作った。
「ごめんねぇ、暴れるとお互い怪我しちゃうからさぁ? 混乱してるみたいだし、安全な所で落ち着こっかぁ」
ユラテの側より踊り出したのはリアム・アステール。星の煌めきを宿した剣先は視線を奪い、避難誘導を円滑に行えるように支援となる。
「防御には自信があります。体力だって『私』なら……他の所へは行かせない!
私にも、誰にでも。戻るべき場所がある筈だから、皆、負けるな――!」
狂気なんて打ち払えと叫ぶ。自分は一人では無いのだから、戦える。皐月を相手取るリアムは再度武器を握り混む。
今は『私』だから。戦える。決意を胸に幻想種の娘は暦達を睨め付けて。
「世界を再現する、ということは争いや災いをも再現してしまうのかもしれないね」
そう呟いた雪宵。自身等は死んだって戻ってこれる。それでも、この戦場で巻込まれて逃げ惑う者達は、ココで命を賭する理由も無い。
「君達は彼ら一般人を巻き込んでも構わないと言うのかい。国のために死ぬべきだと? 神がそう告げたから? ……神なんてものは日々の祈りを捧げる細やかな存在で十分だ」
そう告げる雪宵はその背に民を庇い続ける。夜妖達が、此方に狙い澄ましてやってくる。暦だけではない、敵影は恐ろしさの塊だ。
「全くえらい様だな……元凶が肉腫じゃないだけでまるっきりあん時と同じじゃねえか……。……ああ不快だな、さっさとケリつけるか」
雀青はぼやく。まるで現実の神逐の再来。握りるは恵璽御魂刀静神楽。剣先に乗せたのは紅き霧。水無月隊の活動を遅延することを狙うため、敢えて乱戦へと持ち込み続ける。『目』の数が減れば戦も困惑することだろう。
「――成程、アチラも馬鹿ではない、と」
ぼやいたのは少年のようなナリをした涼暮 流星か。相棒が天より飛来する。彼女が守護する主の名は章。霞帝の姪御である姫君だ。
「ええ、油断してはいけないのだわ。大丈夫よ、流星。我らは戦場で生きる『忍』――死すらも恐ろしくはないでしょう?」
章の前でリアナルは息を呑む。彼女の眼前には逃げ遅れた民が腰を抜かせて座っている。
(……凄い状況だな?)
此方を攻撃してくるかと伺うが、彼女は「どうぞ安全な地へと誘って差し上げて」と穏やかに微笑むだけだ。どうやら、彼女らは『民』こそ宝である事を知っている。
「さァ、とっとと俺を殺しに来いよ。その前に貴方達が争っていたら、どうしようもないけれど」
肩を竦めるRD1は味方の盾となるべく章と向き直った。指先が動く。彼女の背後に見えたのは複数の傀儡人形だ。
「私とて殺したいわけではないのだわ。『生き残って』ね? ――主上と、亭主の、害となるならば本気で行かせて頂きましょうぞ」
●
「戦いは避けられないか。本来であれば対話を試みれば良いだろうに、バグというのが絡んでくると厄介だな」
呟いたのは名も無き泥の詩人。引きつけ、そして如月と弥生の動きを阻害する。
動きを食い止めておけば、『大本』を斃してくれるはずだ。そうすることでこの『バグ』も何れは修正される。
そう考えながらも、名も無き泥の詩人が放つアクティブスキルが如月に弾かれる。
「はろはろさっちん、お相手よろー」
手をひらりと振ったエイル・サカヅキに皐月は「さっちんか。そう呼ばれたのは初めてだな」と首を傾いだ。エグいやつをどんどんと重ねるつもりのエイルとの空気に僅かな和やかさが漂い出す。
「んじゃ、いくぜぃ!?」
皐月の攻撃は鋭いが、全てがエイルの動きを止めるようなものばかりだ。
「ねー、なんで殺しに来ないん? でもさ。殺さなきゃ護れない物もあるよ」
「あなたとて、そうでしょう」
お互い様。どちらも『殺したくない』ばかりなのだ。エイルが戸惑うならばシラスが飛び込んだ。
「油断するなよ?」
「おー! ドラゴンブレスじゃん? かっくイー」
揶揄うエイルにシラスが龍の翼を揺らがせる。手練れだらけの戦いだ。油断しては居られない。
「頭が痛くなる」
そうぼやいたのはMerclein。戦闘が続き、大盾を振り回す師走を出来る限り足止めすることを考える。自身の回復など後回しで幹部たる彼らにばら撒いたのは致命。回復を防ぎ、ジリ貧の状態で物量で押すのである。
「ハハッ、忍者が表に出てきちまって。好きだぜ、そういうの。それにしても、なんだ……この呼び声は……」
どこからか響き渡る狂気。その気配を感じながら、Hは顔を上げた。「おっと」と身を捻れば、その場所に傀儡人形ががらんと落ちる。
章か。そして――その前に立っていたのは鬼灯。暦頭領ではないか。
「……章殿、大丈夫か?」
「大丈夫なのだわ。鬼灯くん、頑張って斃しましょう?」
熱い夫婦愛を見せ付けられているだけの時間などは必要ないHは直ぐさまに『変身』する。大剣にひりついたの炎。暗黒の騎士を思わせる姿に変化したHの声音がくぐもり響く。
「――去ね」
殺意がスキルと共に放たれる。
アイシスはタイミングを合わせたように吹雪を吹き荒れさせる。極楽浄土か地獄か。待ち受けるは彼女の歌声。
「さあ、イッツショータイムですわ!」
章を護るように姿を見せた師走に向けて、氷の般若面を手にしてアイシスは飛び込んだ。
「サァ、凍てつケ――!」
その様子をまじまじと見つめていたイルシアはそっと可愛いエルシアの頭を撫でた。
「無辜なる混沌では仲間であった人達を、こっちでは倒さないといけないのね……。
可愛いエルシアちゃんにそんな業を背負わせるのは心苦しいけれど、世界を救うためならその罪を背負うわ!」
母の判断は速い。幼い娘に業を背負わせることをとてもじゃないスピードで判断し、にこやかに積みを背負わせる。
「さあエルシアちゃん、どっちが沢山悪い子を燃やして助けてあげられるか、お母さんと競争しましょ!」
イルシアが微笑めば炎の海が生まれる。じいと引っ付いていたエルシアはイルシアを真似るように炎を放った。
「さあさ。彼らも故郷を思う気持ちは一緒でしょう。神異の駒で終わらぬよう、退いてもらいやす」
ビャクダンは体勢を崩していた長月へと禍羽で攻撃を仕掛ける。呪いの残滓は妖刀の切っ先へと乗せられた。青と金が煌めいて、その切っ先が叩きつけられる。
「回復を――!」
「させないんだから!」
踊るように現れたのはカナタ・オーシャンルビー。どれだけ強力な盾がいようとも、それら諸共攻め立てる。
『オーシャン・ルビー・オルタナティブ』は正統派アイドルであるカナタにより勇気を授けた。愛らしく、いじらしく、そして積極的に。
「こんな時まで出社──ッ☆ 社長はどうして普段の勤務態度じゃなくてこういう時の結果で査定しようとするの……!
あっシトリン先輩初めまして! ヨロシク!」
喧噪と共に、やってきたグレイガーデンににんまりと微笑んだのはシトリン。高品質な光学スーツを着用していた彼女は微笑んで。
「グレイガーデンくん? ちゃん? よろしくね! 社員全員集合! これはやるっきゃないね! ――変身!!」
ポーズを決めて飛び込んだシトリンとグレイガーデンが狙うのは文月と葉月。双子はかたわれに大きくリソースを割いている。
つまりは両方を斃せば一攫千金のチャンスなのである。
「新しい取引先の御国のピンチ、社運をかけて食い止めようじゃねーの! グレイ、シトリン。緊急出社だ! 頑張ったら今期の査定、期待していいぜ!」
胸を張った崎守ナイトに「どうして!?」とグレイガーデンが叫ぶ。
「葉月ー、あいつら面白くない?」
「奥方の前だから、良い子にしろ!」
双子へと向けて奇襲するナイトは『bang』と攻撃を放つ。指gunは社長(president)の嗜みなのだ。
「双子の連撃……片割れを失った俺(ORE)にはクソ重てぇ。だが、こっちには頼れる社員(AIBO)がついてるんだぜ!」
気をつけてと声を掛けるシトリンにグレイガーデンは叫んだ。
「は? 狂気の呼び声? 何言ってんの、社長の『社運をかけた一大プロジェクト』以上に狂気がかってるものなんてないでしょ!」
――狂気(きがくるってるほどの)プロジェクトよりこっちの方が気が軽いのだ。
「「Verfolgen den Großen Wagen(北斗七星を追いかけて)——」」
MeerとSperliedのお約束名変身シーン。二人の言葉がシンクロする。
光が止んで訪れた魔法少女はウィンクを一つ。決め台詞は『北極星にかわってお仕置き』だ。
「クリオネの恩返し、君にあげちゃう♪ ――かわいいものには、毒があるんだよ♪」
「霧の果てから呼ぶ声に、どうぞ溺れてしまいなさい♪」
星すら海の底へと沈めるような魔女に転じようとも。MeerとSperliedは攻撃の手を止めることは無い。
それは奏でる二つの星。姫気味の歌声は、鮮やかに響き続ける。
「うっさいなぁ……十何人に部下たくさんが押し掛けて町中パラリラ……何が不殺オーラだ不陽キャオーラ持ってこいだよぉ……。
特にあの銃とか撃ってるの、パンパン響いて超耳障りなんだよねぇ……ギルティ……銃声以上のヒット音でタコ殴りの刑だよぉ……」
うるさいだけで苛立ちを溢れさせる『ああああ』(ユーザーネーム)は回想⑱『穢恋のフィーユ』を手にしていた。
つまりはイチャコラが流れるウィンドウを霜月に対してぶつけ続けるのだ。「そんなのアリィッ!?」と叫ぶ霜月に「うるっさいな……」とああああは逆ギレし続ける。
「やれやれ、物騒だねえ? 正直神がどうとか国や逆賊がどうとか、興味ないんだけど……
まあ、旅をし尽くしてないから。平和にする為にもやる事はやるけど」
肩を竦めるアウラは姿を隠しながらマップを共有し、周囲に紛れ込み、一般人の救助を進めている。
こうも市街地での乱戦になれば、危機は多い。避難誘導だけに気を遣って居ては失われる命も多いだろう。
「ゲーム上の人物とは言えやっぱり人死は少ないに越した事はありません♪ しかも死体も本物じゃないとなれば尚更ですね!」
アカネの危機感知は一般人の元へ駆けるのに程良く利用されていた。危険な目に遭っている一般人をこんな場所からさっさと移動させるのが『天使』の役目なのである。
「ふふふ♪」
傘を広げ、白いワンピースを揺らした少女はばさり、と傘を振り上げた。開いた傘ごと体当たりし、その体をあさってへと吹き飛ばす。
「折角だからいつもと違う自分ってのも憧れるっすけどねー。馴染まなきゃしゃあないっしょ」
忍たちが吹き飛んだ先、アウレウスは潜んでいた。エルフィンボウをその手に握り、一気に狙う。
敵の十八番であろうとも、自身が出来ないわけもない。射程を見誤る事は無く研ぎ澄ませた一撃が鋭く届いて行く。
「どうやら厄介ごとのようだね、僕も微力ながら手を貸そう。いやなに気にする事はない。
ニンジャという存在には興味があるんだ、じっくり相手させてもらおうか。知的探究心という奴さ」
エクレールの力場発生装置がばちりと音を立てた。卯月、師走、長月。それらを『狩り取る』為にと尽力するイレギュラーズの甲斐もあり、庇い手の状況は最早良いとは云えないだろう。
(うわぁ……鬼灯先輩の所の忍さんって連携も凄いし強かったですよね……敵とは、なんて厄介……!)
シャナはそれでもこの国が自身の故郷がモデルとなったこと。『遮那』が救いたいと願っていたこと、そして自身も救いたいと考えたことを思い返す。
ならば、どれだけの強敵でも斃さねばならないのだ。シャナとして。
「さぁ其方が疲弊するまで、私の歌声を聞いて貰おう!」
琥珀色の瞳を細めたシャナは朗々と歌い続ける。彼らを斃す為の力を。自身が少しでも助力できればと。
●
黒子が行っているのは戦場の把握であった。不自然なほどの平穏な場所、そして高所が点在する場所は危険だ。
故に、市街地というこの状況が一番に危険である事を知っている。黒子が感じる嫌な予感を拭い去るために彼は出来る限りの情報素収集する。
(――右、)
彼の視線が向いた先に、エイラがふわりと微笑んで飛び込んだ。
「エイラはねぇタンクだけどぉ……実はタイマン、得意なんだよぉ?
耐久特化のぉエイラならぁバランス型の睦月にはぁ突破しにくいかなぁって。それじゃあ長期戦、お付き合い願おうかぁ? ――神逐が成されるその時までね」
エイラと向き合ったのは睦月。バランス型である彼は黒子の想像通り、高所から狙いを済ませて敵襲を仕掛けるつもりだったのだろう。
くらげ火がゆらりと揺らぐ。此の儘、彼の足止め役を続ければいい。その為に耐え凌がねばならないか。
「戦況把握、これより作戦行動を開始します」
アンジェラは防衛部隊の各個撃破を選択していた。N/騎士は格納された近接武装を展開する。
上空より拡散された榴弾の嵐が凶暴化した蝗の如く敵を食い荒らす。その雨嵐に巻込まれぬようにと人々を誘導するイデアは糸を手繰っていた。
「今回の戦いは因縁のある方が多くいらっしゃる様子。
であれば私がすべきはそのお手伝いでしょうね。これもまた大事なお仕事です。こういう裏の仕事も嫌いではありませんから張り切っていきましょう」
これを裏方と呼ぶならば、誰かの部隊のセッティングであるとメイドは落ち着き払って絲で道を示す。
人々が惑わぬように、迷わぬように。積み重ねて勝利を得るが為。
「イズルさん、いつもうちのお父様が変態ですまない。苦労をかけるが、今はヒイズルの救済が先決だ」
肩を竦めるスキャット・セプテットの傍らでイズルは「えっ私、末っ子ポジション?」と呟いた。
「嗚呼、イケメン2人に寄ってたかって嬲られるのですね、俺。
……冗談ですよイズル。スキャットも冷たい目で見ないでください。お父さんちゃんとタンク役頑張りますから!」
微笑んだ九重ツルギにイズルはまじまじと彼を眺める。
「ツルギさん、私にはキミが必要だし、『俺』には『お前』が必要だよ……それを忘れないで。決して、戻れない道を選ばないで、ね?」
重ねた言葉に、随分と熱烈な愛情だとスキャットは微笑んだ。自身目の前には弥生と如月が立っている。
「待って!! 女子!!」
「女子くらいいるだろう」
一方は女子を苦手で、もう一方は得意。ちぐはぐコンビを前にしてスキャットはにんまりと微笑んだ。
「お話中に申し訳ないけれど――逃さないわ! 忍だろうと何だろうと、化かされる前に全て撃ち抜くッ!」
その姿は聖女へと変貌する。まるで鳥かごの娘のように、スキャットが力を宿した様子を眺め、如月は「アイツを止めるぞ」と声を掛けた。
「女子に攻撃!?」
「アイツを殺すんだよ」
「――させませんよ?」
するりと滑り込んだツルギは唇を吊り上げる。彼の様子を眺めながら、如月と弥生に関しては現実での『経験』があるとイズルは対策を講じる。
「ああ、昂る戦ですが、操られている者の本性(なかみ)を見ても無意味だ。早々にご退場戴きましょうか!!」
彼らが引き寄せ攻撃をしている間に、天よりイズルは罠を排除する。罠がなければ力任せに夜妖の力で押し切るだけだ。
「私はいつもどおりタンクでスね」
ミミサキは長月へとレアドロップの予感――それっぽい雰囲気を醸し出す。「挑発しとんのか?」と嗤った男の声音に、殊更に応えることはない。
あまりにもなめらかに動くアバターを駆使するミミサキは彼を引き寄せる役目だ。あちらもこちらも引き寄せて戦う役目。
ならば、距離が縮まれば――
「覚悟しときや」
「どちらの言葉でショう?」
油断をしているようにも思えたと長月の部隊へと強襲を仕掛けたのは縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧。『小鳥』と共に進むのならば、戦場など怖くはない。
『小鳥 近づく 敵 よろしく』
ハイタカへとそう呼びかければ、小さく頷く彼は血陋ュ蝨ー獄を握りしめた縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧のその姿に畏れること無く、立ちはだかる。
「近づけさせるか……! 紫月、遠くのは任せる……!」
ハイタカのビームヴァジュラがぶうんと音を立てた。アクティブスキルを駆使し、部隊へと強襲を仕掛ける。遊撃手の役割は、その隊の機能を一時的にでも停止させる事である。
「名有りの敵が沢山だね! 国を相手にするなんて久しぶりだね! タンクの人達から倒そうか!
守りを壊せば大体何とかなるよね! 全力でも死なないらしいし、全力でぶっ壊しに行こうか!」
明るく言葉を重ねたルインはDAEMONによるサポートを受けながら全能の神の権能をその身に降ろす。長月の視線が僅かに逸れたその横面へ、飛び付く――それは月閃の力を込めて。
(如何したことか私のサクラメントからの復活速度が少し速まっている気もしますが――好機でしょうか)
ドウは蒼剣リミットブルーを閃かせる。地を蹴って、強襲に驚いた卯月の後方から影の如く迫り征く。忍者と気配を殺す合戦でもしているような心地になりながら、放ったのは影の刃。
嵐の加護を受けたドウが一度後方へと遠ざかる。ハイタカと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が其方に視線がそれたことに気づき戦場を更に困惑へと陥れた。
「カミサマがどうとか。逆賊がどうとか。
こーれだから神って奴にすがる奴は大きっらいにゃ! その神がすり替わってるのに気づかないとか! 嫌がらせしてやるにゃ!
ついでに暦から高い装備はぎとってやろうかにゃ?」
尾をゆらりと揺らがせて神谷マリアは小さく笑う。防御陣営の要、回復役である神無月の元へと飛び込んだ。
「狙うは一部隊、神無月のとこにゃ!でもあの手のはタンクの後ろに引き籠ってるニャ、当然の行為にゃ。タンクの苦労も知らにゃいで……」
少しの八つ当たりと共にブラッドカーニバルを放つ。猫又由来の獰猛さをインストール、そして『放出』
乱舞に乗せられたのは月の気配。切り裂く爪先が夜の気配に煌めいた。マリアの猫の瞳がぎらんと見据える。
「苦労もしらにゃいで――!」
八つ当たりなのだ。
「出来ることは限られている故、故――ならばその唯一を活かそう」
ジャック翁は神無月の背後へと回り込む。神無月を無効化するが為に身に纏うのは月閃。
「ッ、神無月お兄ちゃ――!」
「なりません、逢華!」
地をごろごろと転がるように逢華が弾かれる。神無月の小刀が受け止めたジャック扇のスキルが跳ねる。
「此度の我が使命。果たさせて貰おう。
この鐘の音が聴こえるか。之こそは汝の宿業也。信託は下った。受け入れよ。己が天命ーー! 何度でも、我は!」
神使は幾重でも蘇れる。それは神などではない世界の在り方。
「まぁ、こんだけ統率が取れてるってことは『供給面』から断っていくのが楽な訳だよな」
故にカイトは直ぐに月閃をその身に宿した。陣地を構築する。破軍の氷槍を手にしたカイトが展開したのは結界術。
続いて、七星結界・破軍の呪剣。楔状の結界が神無月の元へと叩き込まれてゆく。
「たとえ死んでも戦場へ戻れるとしても、敵に統率のとれたヒーラーがいる限り前線を押し上げることは出来まい」
故に、アルトゥライネルは神無月の動きを止める。
「地獄の使者との舞、一曲付き合ってもらうぞ――お前達の崇める神は久遠の平穏として死を求めるのか? ならば死神か、冥府の神……ああ、地の底から追い縋る醜女か」
「母を愚弄するのですか!」
神主たる神無月の声が響く。アルトゥライネルは首を振った。スキルを叩きつけるだけ、それでは駄目ならばと身に降ろした夜妖の力でその言葉を薙ぎ払うように。
「正直、『暦』を一体相手取ったところで戦局は変わらぬかもしれないにゃ。しかし、故に何もしないというのは性に合わないにゃ」
千草が狙うのは皐月。至近距離へと詰め寄る彼とは距離を取る。囮となり頭領の鬼灯撃破の時間を稼ぐ。
「殺したくはないが此も任務なのでな」
「殺さないで欲しいのは此方も同じにゃ」
こてんと首を傾いだ千草は青年の姿をしている。皐月とじりじりと距離を取る。自身が得意とする距離を持ち込めれば、妖力を叩き込め――!
「拙者の目的は『皐月殿の撃破』でありまして!」
ロンロンは蛇のように長い龍の姿を見せる。波濤の如く攻め立てる。
ロンロンの所有したフルプレート殺し。それはその名に違わず柔らかく肉を断つ。何事にも苛まれぬと、決意するように刃を握り混み。
鬼丸は無数に拡散する冷凍光線を吐き出した。呪力を纏った氷が隊長格を縛り付ける。
「お兄ちゃん!」と逢華の声が響けども、鬼丸は気にもとめない。彼女が泣こうがわめこうが、押し切らねば負けるのはこちら側なのだから。
「私は……そうね。陰で動く方がラクだし、そっちの方が私に似合っている。
ねぇ、貴方もそう思わない? ……まあ、どうでもいいわよね。そんなこと」
イチカに「えェ……? 話しかけといて?」と霜月が肩を竦める。和やかな会話を行っている暇も無い。暗殺者の心得は鋭くその身を霜月へと迫らせた。
「私は忍でも剣士でもない、ただの人殺しよ」
「お役目がなければ霜月さんだって、そうだよ?」
イチカのアクアエッジが霜月の火縄銃にぶつかる。ぶつかり合うだけか――イチカが唇を噛んだ刹那、
するりと滑り込み、レイのスキルが展開される。ショートサーキットは内部に不正コントロールを仕込んだ。
そのかんばせに浮かんだ表情は変わらない。眼前に迫る暦へと向けて放つカサス・ベリ。銃弾の嵐は一方的に。
物言わぬ仏が自身等を正当化するのだから、此処では自分が正義と信じ、攻撃を重ねるほかにない。
「亡霊が囁いたから私はここにいる。それ以上の理由は……ないよ。――行って、まだ戦いは続く」
●
「さあさあ、天下万民を害する者はいずこにありや?」
QZの手にしたレイヴナスエッジがぎらりと輝いた。避難の邪魔になる存在は片っ端から遠ざける。
スキルを連発させて、とにかく道を開く。其れこそがQZに出来る唯一。今回の戦がR.O.Oでの初めまして。
ならば、自身を目がけて飛び込んできた忍びの前で笑う。「ちょっと死んだところで、問題ないない! ――こっちはね?」
「行くわよう、食パンあんどアニマルズ! みなさ〜ん、こちらですよう。だいじょーぶ! もう心配はいりませんよう」
QZが切り開いた道をえっさほいさと進むのは歩く食パン。ペンぎんキャノンと縁のあったキリン、そしていぬと共に花冠を頭に頭ふわふわと歩き続ける。流れる優しい音楽に、周囲を警戒するペンギンが「クエー!」と鳴いた。
「だいじょーぶ! アニマルズがみなさんを護りますからね~」
ラピスラズリが見遣れば、市中は喧噪の最中。突如として始まった大規模な交戦が真逆、神の侵略による物だとは誰も思わないだろう。
成程、これが賊軍たる『天香遮那率いる』軍勢であると、そう認識されてしまったのならば――
「……此方もその様なフリをして彼らを逃がさねばなりませんか」
「お母さんがやれる事って言ったら、子供達を守る術よね」
にんまりと微笑んだのはユグゴト・ツァン。母なる彼女は敵の攻撃を受け止める。
誰彼構わずユグゴトはこの場では母なのだ。母に対する安堵と戸惑いを与え続けることこそが、この場では大切なのだと言うように。
そう――この戦闘を引き起こしたのも『母』なのだから。
「ふむ……わたしはまだまだちからがたりないので、主戦場へはおもむけませんね……。
もちろん、たたかいはこちらがつよくなるのを待ってはくれませんが、うかつに行ってあしをひっぱってしまうのは好ましくありません。
ならば、わたしはわたしのできることを精一杯はたすのみです」
樹里はそれならばと人々のことを聞き、場所を示し、『じゅりセンサー』でびびっとサポートを続けていく。
掲げるのは『いのちをだいじに』なのである。自分も、そして皆も、無用なデスカウントは増やさぬように心掛ける。
「オレ達が来たからには、もう大丈夫だぞ! にーちゃん、走れるか? よしじゃあ、オレとあそこまで競争しようぜ!」
加護の地まで。ある程度は走ってゆかねばならないと。コータはそっと手を差し伸べた。
街の人々は誰もが被害者だと彼は知っている。子供は風の子、辛い顔は見せずに庇いながら一般人達を連れて行く。
この場での名監督はまっすぐに笑顔を向けて、皆を救う役割だ。
「はぁ……。よく分からんが面倒ごとに巻き込まれちまったみたいだな」
そうぼやいたのは天川。現状の自分自身はR.O.Oには慣れてない。だが、そんな彼でも出来ることがあるのだ。
「実戦投入は初めてなんだけど……ま、大変なことになっているみたいだしね」
同じく、リュビアが喧噪のヒイズルへと訪れたのには理由がある。無辜なる民が犠牲となることを防ぐのだ。それこそが天川の掲げた『遣ることは一つ』である。
「――なら話は早い! 仕事といくか! ここは戦場になる! こっちだ! 加護の地とやらが安全って情報がある!
こら! 押し合いするんじゃねぇ! 却って危険だ! 女子供に年寄りを優先してくれ! 心配するな! 腕っぷしのつええ連中が守ってくれる!」
ゲーム内なら自分たちは死なない。それでも、彼らはNPC。NPCはいつかは死に絶えてしまう可能性がある。詰まりはデータのロストだ。
其れ等を護るべく、迫り来る戦火へとリュピアは向き直る。
加護の地――それは陰陽頭や巫女達が確保した安寧の地だと言うが。
「……カミサマ、か。ホントに、嫌になりそうだよ」
カミサマなんてもの、信じてなんて居られない。
「うーむ、ここに来たばかりで状況は掴みかねているけど、キャラ作りとかはともかく、真面目にやったほうが良いかな……?
いや、常に真面目ではあるんだが」
マジカル☆なキャラクターを考えていたディアーヌはそちらは今は封印して真面目モードで一般人の避難誘導に当たっている。
「ちゅんちゅん! いよいよ豊底比売との決戦なんだねえ……! ぼくはROOにまだあまり慣れてなくてそんなに強くないから、せめて出来ることを……」
民達をたすけるために。変化の術で大きくなれば人を乗せて運べるから。『加護の地』まで泣きじゃくる子供を運び続ける。
ちゅん太は救命班として走り続けた。助けを呼ぶ人の声は無数に。故に、此処で諦めれば人命が失われる。それがデータであろうとも、命の重さには関係はない。
「うーん、でーた? とか、何が良くて悪いとか、その辺り僕は今回とんとわかっちゃいませんが、まぁ人が傷つくのも後味悪いので頑張りたいと思います」
首をこてりと傾げたムーは崩れた場所などで逃げ遅れた人々の救助に当たる。瓦礫などは自慢の爪でなんとでもなるはずだ。
「大丈夫ですかー?」
ムーは野生の勘を駆使して命の危険を察知する。猫は靱やかに走り回り、行き先を示すべく周辺の敵へと狙い澄ます。
「生きたいという皆の望みをかなえよう。例え結末を知っていたとしても、何も成さないわけにはいかない。何も努力しないわけにはいかない――それが”人”なのだからね」
ニアサーはその身に天の性質を付与した。望むが儘に天使の如く。使徒のように。
逃げる一般人達を補佐する仲間達を一瞥する。突き出した両手から大気中を帯電して発光する無数の球雷がばちりと放たれる。
「――なあに、このニアサーが倒れても問題は無い。またすぐ会えるのだから」
故に、此処はお任せあれとニアサーは走る。銀色の糸を手繰れ、”人”が其れを望むのならば。
「さて! 逃げ遅れた人は居ませんかー! 『加護の地』まで誘導しまーす! こちら戦車に見えて今回はレスキュー車となっておりまーす!」
ずんずんと進んでいるIgnatは市民の誘導のために機動力を活かして隈無く走り回っていた。避難をする民達は『加護の地』へと向かう算段だ。
「ココに連れてくればOK?」
思い出す。
問うたIgnatに恵瑠が「ええ」と厳かに頷いた。彼女の護衛には庚が着いていてくれる。ならば、自身達は思う存分に避難を助ければ良いのだ。
Ignatはその決意を胸に、戦場内を走り回る。集団へと纏まれば、それらの抱く不安も少しは減るはずなのだから。
「さて、天使とはどのように動くのか。うんうん。天使らしい仮初めの生ならば人助けが良いだろう」
慈愛と悪意の白翼をはためかせたのはパルフェタムール。
慈悲と独善の白翼は防御機構として広がってゆく。放つ断罪は白き翼が硬化し刃とかして降り注ぐ。
「大丈夫、天使が護ってあげよう。さあ、安心して」
抱き締めれば子供達は涙を漏らす。この惨状から救い出そうと抱えたパルフェタムールの耳に届いたのは――「此も全て、遮那って人が悪いんでしょう!?」
市井における、此度の戦の在り方だった。じぇい君が神妙な表情を浮かべるが、その肩にそっと手を添えたのは夜乃幻であった。
「たくさんのレディ達が僕を待っている! 待ってておくれ、僕のレディ達!
というのは、建前で、僕が本当に心配してるのは、じぇい君だよ。彼は自分の身が傷つくことすら厭わずに火事場に飛び込んでいく。
そんなのは僕は見たくない。子供なんだよ、彼は!? 僕はじぇい君を命に代えても守るんだ。硝子の翅が割れようともね。それが大人の僕の決意さ」
微笑んだ夜乃幻にじぇい君はぱちりと瞬いた。
自身が心配されているのは確かだ。それでも、成せることが出来るならばしてみせるのだとかくれんぼの状態で偵察を行うじぇい君のサポートに夜乃幻は当たっていた。
「大丈夫だよ。みんなを助けるのが僕の仕事なんだから」
「……君のことも助けさせておくれよ」
彼らは、人の命を救うために走り続ける。それは慈善事業では無い。彼らが此処で死ねば『二度とは戻らない』事を知っているからだ。
「皆さん! 落ち着いて下さいな♪ 今仲間達が全力で危険を食い止めてくれています!
どうか深呼吸をして、焦らず素早く非難を済ませましょう! 大丈夫です! いざとなったらお姉さんが盾になります!」
ね? とにんまりと微笑んだ斬華。彼女曰く。降りかかる火の粉は払わねばならないのだ。
「こうかしらね? ……ゲームってよくわかりませんね! ちょりゃ♪ アクティブスキル1? こうね!」
『攻撃(う)』てたと微笑んだ斬華は民を誘導しながらもスキルの使い方を戦場で練習し続ける。
「助けに来ました、もう大丈夫です! こちらが安全です!」
声をかけ続ける梔子はこっちこっちと手招いた。呼ぶ声を探した彼女は気休め程度でも、と癒やしの花を咲かせて一般人達を勇気づけて行く。
梔子が治療する傍らでオルタニアはRailGunを構えて周辺の警戒を行い続ける。危機が迫れば直ぐにでも臨戦態勢をとれるようにするためだ。
「見つけた? OK! その場で治療が終わるまではアタシが周りを見ておくよ!」
オルタニアと梔子の様に一般人を探し、加護の地へと誘導する者達は多く居る。
「かの『偽神』は砂糖にまぶした怒りと恐怖で支配する。ぐずる子に手をあげる悪しき母にすぎぬ。ああはなりたくないものよ」
そう囁いたのはジェルトルーデ。鳥を駆使して周囲を確認するジェルトルーデは混乱する一般人達にその翼の優美さを見せ付ける。
視線を奪うことが出来たならばそれだけで安堵することが出来る。声を掛け、歌を口遊み母のようにその気を鎮める。
「ド派手にやっているねー! では俺達も巻き込まれた人を助けに行くぜ!」
オウェードがアイアンソードを手に加護の地までの送迎を引き受ける。索敵を行い前方で敵影を確認しながら進むのはホワイティ。
(今のわたしは騎士なんだ……犠牲なんて出させない!)
二人が前線をサポートし、避難民の警護をしながら進み征く。ホワイティのサンライズソードが魔力の光を放ち、掛かってこいと宣言すれば、オウェードは一般人を庇い続ける。
「助けて頂いて……」
「おっと、感謝するのはまだ早い早い! 言うのは避難場所に到着してからだ!」
にい、と笑ったオウェードの前でホワイティが敵を薙ぎ払う。魔力を乗せた回転斬りを放ち、彼女は鼓舞するように微笑んだ。
「必ず皆を守り抜く。だから、皆もわたし達を信じて!」
誰が彼女たちを朝敵と呼ぶだろう。ホワイティとオウェードを頼り、安全地帯を目指す民達は皆、怯えながらも懸命に歩き続ける。
「この戦、お互いこの地を思うが故なのでしょう。だからこそ、神異の箱庭と人形で終わらせません」
アメベニは炎血馬で戦場を駆ける。黒き炎の熱さを教えてやれば良い。それだけで、民を救えるのならばそれでいい。
誰ぞの命を救うために動く彼らを害することをアメベニは赦さない。炎舞如意金箍棒を手にしてアメベニはしかと前方を睨め付けた。
●
「いやはや慌ただしいこと。巻き込んじゃうと大変だからねぇ、こういう時は避難誘導第一だ。ネームドの対処は他のメンツに任せて」
ねえ、と背後を振り返ったメレムに「慌ただしいのは何時もの事だが、せわしないなー?」とグラシアは返す。
メレムの鴉が上空から情報を与えてくれる。グラシアと共にならば避難誘導も円滑に行えるのだとメレムは鴉から得た情報を共有した。
「えーと次はあっち、グラシア先生! 一人はぐれてる」
「やれやれ……! こういう時くらいはしっかり個人で逃げて欲しいもんだ……! ――と、」
「……邪魔くさい、こっちは避難させたいだけなんだぞー!」
拗ねたメレムにグラシアは肩を竦めて。さて、眼前に立っているのは暦の誰か。メレムに言わせれば「皆真っ黒だな!」なのである。
「なんだ、なんだこの醜悪なものは。我は嫌いじゃ! だから嫌がらせしてやるわ! クハハ!」
ダリルは遣ることは感嘆だと、致死毒と炎獄の気配を纏うアクティブスキルを放ち続ける。
「えーっと、何処へ行くのだったか。『加護の地』であったか? そこまで案内しなくてはならぬな!」
空を踊るように進むダリルは飛行しながら、安全な位置を保ち、一般人達を救出せねばならぬと周囲を見遣る。
マッピングを行っていたネフィルは「こっちよ」と手招いた。彼女の準備した地図には加護の地までの市民の道が記されている。
「地図は書いたけど、案内は他の人に任せて人集めしようかしら」
「ならば、従い案内するか!」
「ええ。私は……そこにいるみなさーん、少し私とお付き合いしてくれないかしら…? ここじゃ落ち着けないから、あっちで、お話しましょ……?」
ハニートラップを駆使して、加護の地まで市民を送り届けるのだ。彼女の微笑みは蜜のように。安心を与えるのも確かである。
「うるふはマチルダサマと共に避難誘導に当たりマス。既に他の部隊が動いていマス、こちらは小回りを活かすぜ。マチルダサマ、ゴー!」
「OK。うるふが空からならアタシは入り組んだ所にいくわ」
タッグを組んだうるふとマチルダはそれぞれの特性を活かす。マチルダは地図などから入り組んだ場所を戦場把握し、視力を使用する。
空より見遣るうるふは的にはなるが広域での把握を是としていた。
「マチルダサマ、誘導をお願いシマス! うるふは意地でも! ――人を守るは機械の使命……この身に代えてもやらせるかっての!」
うるふの言葉に頷きながらもマチルダはくるりと振り返る。魔銃ヴォルベスは迫り来る夜妖へと弾丸を放つ。
「手を掛けようってんだ、テメェが消される覚悟も出来てんだろ?」
正直なことを言えば、自分が出来ることは少ないとアオイは考えていた。それでも、友人が閉じ込められたこの世界で何かヒントを得られるのでは無いか、と。彼はそう考えたのだ。
空を飛ぶのは避けた。だが、見遣ればうるふが的になっている。見上げるアオイは癒やしを送る。サングレイスリストの光と共に、マチルダが誘導する人々に手を貸して。
「けがしてる……? 待ってて、すぐに戻ってくるから……!」
安全な場所で静かに待っていて欲しいと願うアオイの傍らにそっと降り立ったのはエデンス。
『ワレラ、エデンス。エデンノ地ヲ守護スル者ナリテ。
シカシテ 此度 無辜ノ民ラヘノ被害ハ 見過ゴセヌ――故ニ 彼ラ 守護セン』
自身が盾となる間に、人々を安寧の地へ誘って欲しいと防御に集中し、『報復』の姿勢を整える。ターゲットが逸れれば安全は保証される筈だ。
「みんなのこわいきもちが減りますように……帝に逆らってるこちらの方が、こわい存在なのかもしれないけれど……」
呟くアマトはおみみぴこぴこさせながら人々を救い続ける。小さな子にはおやつを分け与え、出来る限り皆が逃げおおせることを願って。
それでも、気にはなるのだ。帝に逆らう朝敵たる自身等を彼らはどのように見ているのか、と。
「豊穣……いや、神光じゃったか。思う所がない訳ではないが、それは此処の者には関係ない、のだな。
……で、あれば遠慮する事なく、まずは横っ面をひっ叩いてやるとするかのぅ! それが儂らのやるべき事とあらば仕方ないのぅ?」
レムリアは御庭番衆『暦』の頭数が減ってきた子にも気付く。火炎の力を宿した剣を振り下ろす。
自身が奮闘し続けることで、仲間が戦いやすくなるように。そう気を配った彼女の眼前をダイヤモンドが征く。
「例え仮初の物だとしてもここは僕たちが生まれた土地だから……種族間の垣根を超えていたとしても、神様が曲げられるような事は見逃せないよ」
叩き込まれたのはスキル。踏破者の盾にぶつかった苦無に一度は事なきを得たかと息をつく。だが、それさえ赦さぬのが暦か。
「結局、こうなったか……ボクとしてはこの状況避けたかったのだけどね?」
嘆息するΛが見遣った先に立っていたのは、鬼灯と章であった。
「まあ、なら退いてくれても良いのだわ? 私たちは元より、主上の命により此処に馳せ参じた身。争いを好んでいるわけではないのですから」
「そう。同じ台詞だよ」
Λは地を蹴った。内蔵火器が動く。射出口から放たれる弾丸を章の傀儡が、そして鬼灯の忍術が防いで行く。呪印の刻まれた其れが破裂する――が、両者は臆することも無い。
「みんなに届け、ボクの歌!」
ブラワーは歌って踊る。回復手として、己の声を届ける為に。
ブラワーが出来る癒やしの歌声が、狂気など何処かへ行ってしまえと伝えるように強く響く。
その音色を聞きながら沙月は走った。鬼灯の背後には回復手たちが待機している。成程、流石は頭脳派か。
(頭数ならば此方が上――ならば回復要員を出来る限り排除していきましょうか)
沙月はするりと後方へと飛び込んだ。奇襲のために乱戦状態の戦場を駆け、叩きつけたのは連撃。流れるような仕草で一撃一撃を投じて行く。
「頭領!」
呼ぶ声が聞こえて真読・流雨は「そちらは任そう」と沙月に声を掛けた。
「成程、さて、彼らは忍。覚悟もあるのだろう。そんな人間は相方が死んだら、どんな顔をするのだろうな。
……冗談だ。彼らも、これからに必要な人材なのだろう。そもそも『フェア』じゃない。此方は死にはしないからな」
文月と葉月も『死ぬ』可能性はあった。皆、危機を感じれば、此処に集まってきたと言うことか。それはイレギュラーズとて同じ。
逢華と相対して沙月は彼女がイレギュラーズを元にしたNPCである事に気付く。そして、それを見遣る雛菊の存在にも、だ。
「さて、流星とやら……守るものがあるのは辛いな、お互い」
エマノンが肩を竦めれば、章を護る流星がぴくりと反応する。向き合ったのは同じなの流星。同じかんばせ、瓜二つだ。
「その道に章姫殿が望む平穏は無いぞ?」
「知った口を――」
流星と流星。両者がにらみ合う。風羽斬は空を羽ばたくことを赦さない。流星に続き、エマノンはゆっくりとした動作で動いた。
章に向けて銃を撃つモーションを。それだけで流星がは、と顔を上げる。
「奥方――!」
その声にエマノンはやはり、と呟いた。ノールックでの銃の乱射。その弾丸が流星へと叩きつけられる。
「流星」と呼ぶ章の声に、動いたのは『NPC』ではない流星。その刃が彼女の体へと叩きつけられる。
「守るものがあると、人は強くなるのか、それとも弱くなるのか――試してみようじゃないか。
……いいや。守るものがあると、人は弱くなるのだろうな。だからこそ、守るものがある人は、強くあろうとするのだろうな……」
「流星……大義であった」
鬼灯は章を護ったことを誇りに思えと流星へと囁く。
「……帝は侵され部下は歪められ終いには章殿を戦場に立たせてしまった。
此方の黒影鬼灯は何をしているというのか、情けない。さぁ、この狂った舞台の幕を降ろそうか」
陽炎は『己の動き』ならば熟知していた故に、鬼灯へ向けて攻撃の手は休めることは無い。
「鬼灯様、本当は気づいていたのではないですか。
帝が侵されていることも、神無月様が歪められたことも、神に頼らねば成り立てぬ國等、國とは呼べないことも――」
「だとすれば如何したというのだ。我らは忍び。ならば、主に従うのもまた使命。
主に反逆の剣をと握る者あらば、その主と共に運命を下るのもまた、我らの役目ではあるまいか!」
その言葉を陽炎は否定は出来ない。否定することは出来まい。だが、
「愛おしき人を戦場に立たせることを許容する事は、主の命であれども彼女の希望であろうとも赦すべきではありませんでしょう」
「――!」
鬼灯が唇を噛む。その気配、陽炎は気付く。己が言葉を費やしたその隙を狙うように仲間達が攻撃を重ねてくれる。
「鬼灯君に、何を――ッ!?」
章姫の目を塞ぐように陽炎は立っていた。
「もう終演です、鬼灯様。
――おやすみなさい、章姫様。お目覚めになられたら屹度全て終わっていますよ」
己が負(し)ぬところを、彼女には見せたくない。そんな淡い『プライド』を揺らがせた陽炎の側に一人の少女が立っている。
雛菊はその時を待っていた。
「さて、未来の僕で過去の私な君を暦の動揺を誘うためにも殺そうか。まぁ、これは建前だけどね」
膝を突き、戦いを辞めた鬼灯へと走り寄ろうとした逢華へと短剣を突き立てる。けふ、と肺より漏れ出でた酸素が、少女の苦しみを伝える。
「私は、僕は、甘やかされて愛されて育ったように見える君が羨ましかった。
そこにいることが許されてよかったね、私と同じ、裏切り者さん。でもさ、前の場所では裏切り者がどうなったかしっているでしょう?」
大月。そんな名前を貰った彼女。そんな彼女が『許せなかった』
「待っ―――」
逢華が縋るように雛菊を見た。ああ、『私』が泣いてる。『私』が死んでいく。『私』の手で。
「ねえ、このド派手な戦場で、ひっそり静かに、死んでいく。暦らしい最後だね?
じゃあね、未来の僕――君を殺したのは未来の私だよ」
●
「豊底比売……かあ……またとんでもない相手だね。とはいえぼくも強くなってきたし、いい装備も手に入ってきたんだし、とにかくやってみないと。
まあ……まずは周りの子たちを祓わなきゃ!」
遣ることはシンプルであると被弾を畏れずに進むミドリの前に立ちはだかったのはずんぐりむっくりとした白。
「ほっほー、あれが白薬叉大将かにゃー……いや、なんかここだけシリアスから離れてないかにゃ?
ま、まあ見かけであなどると痛い目見るのは確定だから油断せずに戦ってくにゃー」
目の前にはずんぐりむっくりとした白い犬。ポメラニアンだろうか。ふすふすと鼻を鳴らして自慢げなそれをネコモはまじまじと眺めている。
確かに、一見すればそれは愛らしい光景だ。だが、可愛らしい見かけにだまされてはならないと忠告が飛び交っていた。
ドラゴンブロウを嵌めた両拳を固め、いざ。猫は『しょーにゃーけん』を放つが為に前進する。
あの巨大な犬を『越えねば』駄目か。賢くも白太郎は豊底比売を狙う物の攻撃を防いでいるのだろう。
ミドリは臆さない。倒れたらもう一度を繰り返せば良い。体を調律(チューニング)し、慌てることなく放つのは深紅の歯車。がちり、がちりと音を立てた其れは自信の魔力と呼応し、その瞳を紅色に染め上げる。
「わたしログインするたびに大きな戦闘に鉢合わせるんだけど! おじさまとデートできるのいつ!?」
「吾輩に言われてもな……しかし、大規模戦闘が続いているのも確かか」
叫んだルチアナへとグレイシアは如何したものかと肩を竦めた。苦い笑いを漏らした『若かりし』彼にちょっぴりときめいて悔しいルチアナは頬を膨らませる。
アバターは成長している。戦い方だって理解している。なのに、ルチアナの『記憶』にあるのはロボットに搭乗した一度きり。
(もしかして……『私』が『わたし』の邪魔をしてるの……?)
むうと唇を尖らせてルチアナは武器を構える。今日は駄々をこねに来たわけでは無くて。狙いは――目の前の。
「何ですか!? まだ邪魔をするんですか! だめですよ! だめですってば!」
あの大騒ぎをしている白薬叉大将こと『白太郎』だ。
「頑張ったご褒美に、シャイネンナハトには美味しいケーキ作ってね! あと、あのわんわんほしい」
「ふむ……ならば、腕によりをかけてケーキを用意するとしよう――……ただし、犬は連れて帰れないが」
余りに大きくてもふもふしているから。ついつい気が緩んでしまうのも確かだ。グレイシアの影が伸び上がる、その傍らを走り抜けたのはマーク。
「白くて大きいポメ太郎か……やりづらいけど、仕方ない」
呟きながらも彼は一糸乱れぬ連携を見せて白太郎の元へと飛び込んだ。オーステイカー、それは彼の騎士としての誓い。
白太郎の視線を奪い、自身の元へと攻撃を集め続ける。もふもふとして愛らしいが実力はお墨付き。遣りづらさはリースリットも同じか。
「話には聞いていましたけど、確かにぽめ太郎のような……何か違うような……なんというか、気の抜けるもふもふですね……。
まあ……このROOで見た目の話は気にしても仕方がないですし、それはいいとして、白薬叉大将。手強いと聞きますし、確実に倒して行かねばなりませんね」
「敵を見た目で判断するなってのは定石なんだろうが、アレは流石になぁ」
トルテもぼんやりと呟いた。白くてもふもふしていて、可愛くて。それはよく知っている黒狼隊のみんなの宝物。
屹度、ミルフィーユも戦うことには戸惑っているだろう――と思いきや。
「大きくてもふもふで可愛いのです!」
まさかあれだけ大きくて。もふもふしていて。抱き締めたら屹度気持ちが良くて。うっとりとしたミルフィーユにトルテはずっこけそうにもなった。
「……可愛くても、アレ敵だからな? 叩けるか?」
口から滑り出そうになった「結構いい性格してんな」は飲み込んだ。「状況わかってる?」とも言わず。ゲームのキャラクターだからとりあえず殴っておこうというのはよくある話だ。
「ん、大丈夫なのですよ! 可愛いけど、あれはポメ太郎ではないのです!
何と言っても、白くて大きい……本物のポメ太郎とは見た目からして違うから、見間違える事もないのです!」
ふふんと胸を張ったミルフィーユは偽物へ向けてアクティブスキルを放った。余りの迷うこと無き攻撃を行う溌剌なミルフィーユを眺めながら「気が進まねー」とトルテはぼやいたのだった。
「姿形はポメ太郎でも、強さと大きさは大違いだ。油断せず行こう」
ベネディクトはそう言った。流石に可愛らしいからと言って嘗めてかかれば壊滅の危険性まで存在しているのだ。
「ふむ……ポメ太郎は反抗期なのでしょうか? 御主人様に牙を剥くなど嘆かわしいことです。己の立場というのもわからせてあげなければいけませんね」
ペットの世話は従者の仕事。リュティスはそう言うかの如く白い瞳で彼を見遣る。尾をぶんぶんと振って仕えるべき主人『瑞神』の為に努力する姿は正しいが現実世界の主人に楯突くならば減点だ。
その魂に上下関係を刻みつけるがべく、リュティスが地を蹴った。素早い動作で放たれたのは弾丸。弾丸が魔力を帯びて鏃へと変貌してゆく。
「ふむ……お手や伏せを『もう一度』覚えさせなくてはなりませんか」
地を蹴って、僅かに後退するリュティスと入れ替わるように飛び込んだのはアカツキ。
「白太郎、覚悟ー! ということで妾参上なのじゃ!!」
両腕に纏うは焔。焔のオーラが白太郎目がけて飛び込んでゆく。すらりと長い手足を駆使して走るアカツキは思う存分の焔を駆使していた。
燃やして、燃やして、燃やし尽くすのだ。ファイヤーと叫んだ彼女の瞳に焔が灯される。
「ふっふっふ、毛玉ならぬ炎玉にしてやるのじゃ。覚悟すると良いぞ!」
「いやですよ! 折角瑞様にブラッシングして貰ったのに!」
軽口を叩いて歯をむき出した白太郎にベネディクトが肩を竦める。
「殺しはせん。だが戦いが継続出来ぬ程度には叩かせて貰う――白薬叉大将、先日は世話になった。決着をつけるとしよう」
その巨体がずんと迫り来る。だが、爪を突き立てれば「いたぁい!」と叫び声が聞こえた。そうした間の抜けたところまで、可愛らしい事に飼い犬そのものなのだ。
「気が抜けるのじゃ」
「……仕方在るまい。ポメ太郎だ」
アカツキに気を取り直そうと声を掛けるベネディクトは再度、竜刀『夢幻白光』を構え直す。
「ポメ太郎殺しは後味が悪すぎる。ゲームはプレイヤーの楽しさを考慮してこそです」
ぼやいたファン・ドルドに「殺したくないー!」とルチアナが叫んだ。それでも倒さねばならないのだとリースリットも困り顔を浮かべている。
「さて、せめて命は奪わぬように努力をしましょうか」
するりと引き抜いた聖剣アルヴィオン。その切っ先に乗せたのは火焔竜。金の髪が靡き、複合魔術は竜巻として白太郎への道を開く。
進むマークに続き放たれたのはファン・ドルドの長曽祢虎徹の拡張機能。それは刃を侵食させて発動――マクロ一つでお手軽にスキルが展開されてゆく。
「なに? 巨大なワンちゃんだって? これには僕の表情筋も思わず緩んでしまうね!
よぉ~~~~~~~しよしよしよしよし! ROOのダテゴロウさんと言われたこの俺の撫でテクを見るがいい!」
にんまりと微笑んだダテ・チヒロ。彼の上腕二頭筋が発揮する超高速のわしゃわしゃアピールに思わず白太郎も緩んだ表情である。
「ははは! よせよせ! 君は軽くじゃれついてるつもりかもしれないけど俺には致命傷だ!」
パンドラ(比喩)が減ってしまうくらいの勢いで白太郎が体当たりしてくるが、それはそれ。栄養満点のスムージーを作る暇も無い勢いである。
「ベネディクトさんに、マルク先輩に、花丸さんに、しにゃこさんに……ルカさんに。
皆が帰ってこれないと、ドゥネーブのお屋敷も寂しくて、だからいっつもポメ太郎と玄関で『帰ってきたらすぐ迎えられるように』って思ってたのに! こっちのポメ太郎のばかー!!」
ルフランは寂しかった。ドゥネーブの屋敷は黒狼隊の宿舎でもある。がらんとした室内で、淡々と職務をこなす者達だけを眺めていれば賑わいが恋しくて。
叫んだ彼女は白太郎の前へと一直線に飛び込んであまったるアップルパイを模した杖よりリンゴの香りを振りまいた。
「ほらほら、あそぼ!」
『一杯死んでも』皆を守り切れるならそれでいい。ルフランはえいっと杖を振り、白太郎を引きつける。勢いが良すぎたのは『美味しそう』だからだろうか。
侵食を止めるためには神逐の再来を。そう願ったのは遮那。そしてネクストの自分たち。必死に戦っている誰かを知っているならば、これ以上この世界を明け渡すわけには行かないのだ。
タイムは「こら、はくたろー! おすわり! ふせ! 言うこと聞かないと今度こそお仕置なんだから」と叫んだ。聞いてくれないことには少し拗ねてしまうけれど。拗ねている暇は無いのだと『二度目』を繰り返す。コマンドは『PPP+KKK』同時押し。
「そう何度もやられないんだから、ね!」
何が神異か。白太郎までこんな風にして。この世界も『ぐちゃぐちゃ』にするのだから許せない。タイムは何方の世界も救うイレギュラーズなのだから。
「よぉポメ。随分ご機嫌斜めじゃねえか。ジャーキー食うか?」
揶揄うように笑ったリュカに白太郎は「僕は白太郎という素敵な呼び名があるんですよ!」と胸を張る。
随分と余裕が無くて、それでいて自信たっぷりだ。どちらかと言えば愛嬌のある本物の方が好ましい――が。
「油断もできないか」
リュカは一直線に白太郎をぶん殴った。竜の剛力を乗せた力任せ。それはリュカが知る竜そのものを表現するかのように強かに。
外見が幾ら可愛らしくても相手は神の眷属か。舐めてかかって良い相手でもない。リュカは僅かに押し返される感覚に唇を噛む。
「うおおおおお!!! 俺の筋肉を総動員して白太郎をメロメロにしてやるんだーー!!」
ダテ・チヒロ渾身の叫び声が白太郎に一蹴される。
「でかいですねポメ太郎! そして名前が長い! 白なんでしたっけ?
リアルのポメ太郎も餌をたくさん与えればこうなる可能性があるって事ですか……? いやでも太っただけでしたね……」
むむーと悩んだひめにゃこはぷりてぃなタイフーンをハートをまき散らしながら放つ。白太郎の周辺に蔓延る有象無象はお任せあれなのである。
「いくらポメ太郎でも敵であれば容赦はしないですよ! 本来の主人を思い出すようにひめが躾けてあげます!」
「……本来の主人はデコイではないですが」
「デコイじゃないですがー!? 鬼メイド!」
手足をぶんぶんと降り続けるひめにゃこにリュティスはさらりと返す。
白太郎は一筋縄ではいかぬか。現場・ネイコは額に滲んだ汗を拭う。
「貴方達に……神を名乗るモノに譲れぬ物があるように、私にだって譲れないものがあるから。だから、負けるわけにはいかないんだっ!」
地を蹴って、ベネディクトと共に穿つように。前線へと直走る。
ネイコの手にした武器が淡い光を帯びた。プリンセスチャージ、目映い光と共にプリティ☆プリンセスは姿を変える。
可愛らしい犬であろうとも。素晴らしい名前がついていようとも。譲れぬものはここにある。
それが『現実世界』へ染み出すならば。かりそめであろうとも日常と平穏を謳歌する大切な人たちが脅かされる。
「――私はッ、譲らない!」
ネイコは叫ぶ。金の髪が軌跡を残す。叩きつける派プリンセスストライク。エフェクトが光として舞い踊る。
「さぁ今こそひめの威光を知らしめる時! 一斉攻撃です!」
目映き光は豊底比売にさえ負けることはない――鮮やかなその元に帯びた気配は夜。月閃、ひめにゃこはその気配に身を委ねる。
ファン・ドルドのアバターが変化する。再現CGアバターに変貌し、その気配が夜へと変化する。
「随分と大きなポメ太郎で斬り甲斐もありましたが――そろそろ遊びもおしまいです」
これが好機。リュカが唇を吊り上げた。一直線に走れば竜の気配が強まる。それは竜へ変貌するかのような黒き闘志。暗黒竜の如く月が嗤う。
「――いい加減目ェ醒ましやがれ!」
「月閃……! 暁の女神の権能、存分に見せてやるのじゃ!!」
焔が黒きオーラを帯びた。アカツキの周りに上がった火の手を抜けて飛び込んだのはネイコとベネディクト。
それは、赫々たる魔力と共にしろ太郎へと叩きつけられる。
タイムは叫んだ――「ふせ!!!!!」
●
――おはようございます。当機はIJ0854、あなたの健康を守ります。
IJ0854の声が響き渡る。より仲間達を庇うために、高天大社の境内に訪れたIJ0854はBatteryBackUpを使用して不調なシステムを再起動してゆく。
より長く戦場で庇う為に。自機の消耗など知ったことでは無いのだと掲げたIJ0854のアナウンス音声は堂々と響く。
「神よ、貴方の孤独を癒やします。貴方がこうして地に足をつけた悲しみに、当機は理解を示します」
内部のコックピットに乗っている操縦者は短距離バースト通信を行い、擬似的にでも仲間達との以心伝心を心掛けているようだ。
「カカカ! 強い奴と殴り合えるってんなら上等! それが殺り合う事もなかったカミサマってんなら尚更だオラァ!」
ダリウスは突破する。黄泉津瑞神と呼ばれた神霊に惑うことなく攻撃を重ねれば分析エフェクトがオールクリーンの表示を展開した。
瑞神の動きを食い止める。そして、しつこいと言われようが食い下がる。それが彼の戦い方なのである。
「二度目ですね、あの侵食の月の下では逃げるしかありませんでしたが今度は違います。月将七課、抜刀!」
壱狐は観察した。神逐よりも少し、彼女の力は衰える。どうやらけがれで狂った時とは大きく違うのだろう。
戦闘能力よりも、守護者としての力が強い彼女ならば抑えられる。壱狐が纏う多のは陽光の構え。そして、続き叩きつける陰陽五行の太刀。
「五行を配しても陰陽のバランスを欠いては片手落ちですね。眠っていてください!」
「思えばそう、『あの時』は別の戦場へ行っていた為、直接相まみえる事はなかったか。
まあ、よい。その事はその事であるが故――今一度神へ挑むのなら、向かうのも一興と思ったまでよ」
フー・タオは距離を取って蒼炎を放つ。罪業に塗れたものほどよく燃える。そう笑ったフー・タオのアイギス・オリジンが瑞神の爪をも弾く。
神逐の再来か。それも愉快では無いかとフー・タオの唇が三日月を形作って。
続き、カノンは気迫では負けぬと瑞神へと迫る。紛うことなく、自身が経験した中での最大級の相手だ。
「まさかこういう形で瑞神様と相対する事になるとは思ってませんでした。思う所もありますが――今は全力で挑ませて貰いましょう!」
底は見えないが、自身が底まで出し尽くすまでは戦える。
「……わたしは戦いたくはありませんが、致し方ありませんね。此処より退かぬのならば――」
「退いてなるものですか!」
カノンが食い下がる。放つ魔弾Cは鋭く叩きつけられる。
「黄泉津瑞神、君はどうやって生まれた神様なのだろう? 今ここでそうするのが、君のお話なのかな?
まぁどうあれ、僕は僕の生まれたお話通り『良い子』のイレギュラーズたちの力になるだけさ」
「わたしは――」
彼女は国に瑞兆を、奇跡をもたらすことを望まれた守り神。そうであった筈だった。それを歪めたのは。
呟く瑞神を前にしてIsaacはその身で彼女の爪を受け止めた。鋭い。だが、よい子には幸福が訪れるとIsaacは耐え忍ぶ。
都市伝説は人に語られ続けるならば何度だってよみがえる。サクラメントの光の元で、踏破の盾を握る彼は臆することはない。
「ふっ……異国(神咒曙光)の地でふるさと(希望ヶ浜)を想う……これもまたをかしって感じじゃのう。
のう、神様……いや、神異よ――貴様らが妾のふるさとを侵食した罪、高くつくぞ!
黄泉津瑞神には散々追っかけられたが、ここでは違う! これまでの借りを返す!」
びしりと指さした玲は瑞神へ向けて飛び込んだ。自身の『夜妖』がどこぞの真性怪異に愛されているかは分らないが、今はその力を貸して欲しいと声を上げる。
「斃れよ! 緋衝の幻影の前にのう!」
放つアナザーツインハンドガンアーツモードバレットリベリオン壱式。ひたすらに連打する。その速度や色褪せぬ。
「リュートも神様ッス! 自分で物事を考えられる竜の神さまッス! ……何も考えれてない、瑞神さまには負けないッスよ!」
リュートがていやー! と捨て身の力で白き獣へと飛び込んだ。黒き龍。それは彼女と対を為す色ではあるまいか。
光が強くなれば闇もまた強く。陽が瑞神だというならば、自身が陰を担えば良い。リュートは『ていやー!』と瑞の元へと飛び込んでゆく。
「世界には休息の夜闇も必要だ。光ばかりでは命は枯れ果てる。神なんだろう? 慈しみを思い出せ!」
「ええ。ですが、母を悲しませてばかりではなりませぬ」
瑞神のささやきが、落ちる。リュートはひゅうと息を呑んだ。爪先が自身を抉るが気にして居る暇も無い。
「神逐を知る身としては、ここの瑞さん達の状態は……悲しいし、腹立たしい。絶対倒して正気に戻す!」
ナハトスター・ウィッシュ・ねこは宝玉の弓を爪弾いた。星猫魔法その1、星よ猫よ、踊れとリズミカルに跳ね上がれば可愛らしい猫たちがぴょんぴょんと跳ね上がった。
ナハトスターにとっては、瑞神のこの現状は許せない。攻撃に牙を剥きだし大地を蹴った瑞神からの攻撃の重みに眉を寄せて。
「神が狂うなど、本来あってはならない事です。それも、聞く所に依れば人の畏れより生まれたモノの傀儡になるなんて……
微力ではありますが、此れを正すのは本来の神々も願う事です。この身がその助けになれば幸いですが――!」
ティリスは祈るように仲間達を癒やし続ける。自身に出来ることはこれだ。殉聖者、あまりにも命の軽いこの世で、自身が誰かを救えるのならば、喜んでこの命を捧げて見せよう。
「希望ヶ浜と豊穣……じゃなくてヒイズルが交差してとんでもないことになってるね。
真正怪異なんてお呼びじゃないからね! 神逐再びなんてまともにやってられないよー!」
叫んだアカリは瑞神の爪の範囲から逃れてちょこちょこと攻撃を仕掛けていた。物理演算式を駆使してぴょこんと跳ね上がり、高所から着地を繰り返す。出来るだけ死なないように逃げ回り、瑞神にダメージを与えるのが狙いである。
「またしてもこの国の神に相対することになるとは」
嘆息したハルツフィーネのクマさんがナハトスターの猫たちと共に前線へと飛び込んだ。瑞神、それと向き合えば彼女の瞳に浮かんだ怒りはその心をむしばまれたに他ならぬと悟る。
「虚構の世界であったとしても。それが今、ここに存在する貴女の意思を好きにして良い理由にはなりません」
ハルツフィーネのクマさんが悪意を消し飛ばすためにその爪を強かに叩きつける。
「本来守護神である黄泉津瑞神に拳を向けるのは本意ではないのだが、ちょっとばかり瑞神にはおねんねしてもらわないといけないからな。全力で殴りにいくぞ!」
可愛らしいくまぬボディを動かしてカインが放ったのは謎の光閃。瑞神を前にして、白いくまぬいは黒く変化してゆく。
ハルツフィーネのクマさんとカイン(くまぬい)がそろったなんともファンシーな空間にナハトスターのねこがにゃんと踊り出す。
「瑞神に恨みはないが今は寝ててくれ! おらぁぁぁ!!」
「誰が君の本当の親(かみ)か思い出せ!
怪異に食われてここ滅ぼそうとしてるのは君達だ、この……ばかぁ!
偽り陽光消し飛ばす、月夜の願い星……ウィッシュ・スター・ランチャーーー!」
――言葉ばかりは少し勢いは良いけれど。
その様子を眺めてからイルーは息を呑んだ。「おいたわしい」と呟いた声音は震えている。
「ヒイズルが、カムイグラと同じ姿をした世界が、このような………わたしは、立ち向かわなくてはいけないのです、ね。あの御方たちの敵となっても」
大切な瑞神。大好きな瑞さまと呼べば、それだけでもイルーは震えた。
戦わないわけには行かないけれど、彼女のためにその目を覚まさせてやらねばならない。ヒイズルが、この先ずっと続いていくために――
「現実への侵蝕、何としてでも止めないと……」
ぞう、と背筋に走った恐ろしさ。トリス・ラクトアイスはまじまじと前を見遣る。豊底比売の元へと向かわんとする仲間達を害する黄泉津瑞神は母を護るために懸命か。
此処で消耗している暇はない。癒やし、そして仲間を前へと送り出さねばならないのだ。
(……恐ろしいわ。けれど、この恐ろしさは神としてじゃない。『真性怪異』としての恐ろしさ)
トリスは眺めれば見える豊底比売を睨め付ける。
「貴女自身の持つ禍ツ神としての権能に他ならない。
ありえざる存在だろうと本来なら触れてはならない存在なのは間違いなく――それでも、きっと、立ち向かわなくちゃいけない時はあるんだ」
其れが今だと、仲間達を前線へと送り出す。
R.O.Oでの戦は単純な頭数ではないとアレキサンドライトは考える。それも、個人の戦力が自由である上にサクラメントからの復活があるからだ。
「と、言うわけで遊撃手として混ざってゆくのです!」
やる気一杯のアレキサンドライトは爆弾を投げ続ける。回復する爆弾は遊撃隊である彼女からの施しだ。
「みー……こみお、度を越えたかみきどりとか嫌いですにゃ」
ヒイズルからも練達からも消えて欲しい。ろおもこね・こみおはそう呟いた。
その姿が転じたのは雉白多尾の猫又。靴下猫の姿となって、「みーお、この姿知ってる気がしますにゃ……って話はともかく!」と呟いたこみおは猫パンチを放ち道を切り開く。
「皆正気に戻ってご飯食べるのですにゃー!」
くすくすと、声が響く。豊底比売(かみきどり)になんて耳を貸している暇はないのである。
「……この声が……いや、あれが真性怪異。恐ろしく近づきたくないが、だからこそここで倒さねばならないな。
それは母なる恩寵だと主張しようとも、蝕まれる側からしたら受け取りたくないものだ。ゆえに抵抗する。俺たちの現実は渡さない!」
アズハのスキルが豊底比売を狙う。届くようにと藻掻く。回避をしないのならば、攻撃を重ねてゆく事も出来るはずだ。
――彼女を斃すまでは『夜妖』の力はお預けだ。だが、進むことは出来る。有象無象のように飛び込んでくる八扇達をなぎ倒しアズハは息を呑んだ。
●
ロロン・ホウエンは豊底比売へ向けて進む仲間達の為の道を切り開く。
「自我(ラベル)が危うくなるからあまり使いたくはなかったけど――」
それでも、今は必要なときだ。禍々しいのは解釈違い、だからこそ『現実のロロン・ラプス(最高傑作)』として地を駆ける。
「失うは容易く、得ることは難しい。なくしてしまってから後悔するのは、とても……とても、悲しいことだと思うから。
かけがえのない友人が、『彼女たちを救う手助けをするのだ』と、わたしを、頼ってくれたから」
ルミナが握ったセイクリッドスフィアが閃光に閃いた。不安が無いわけではない。
「『想』いは『届』く、でしょ? んふ、フィーは賢い兎だからね。フォローはバッチリ、任せなさい! こほん。それではぁ、れっつごー!」
フィライトがぴょこりと跳ねれば、傍らで巨大盾を握るアイが唇を吊り上げ嗤う。
「僕らは今日、君らの力になるが為此処に来タ。辿り着かせるが為のやってきタ。
だかラ、その道を僕らが全力で創るかラ、目指そうゼ――君らが望む最高の結末って奴をサ!」
この国の未来を。在り方を変える決戦こそが神をも『殺す』神逐と。そう呼ばれるのならば。ウマに乗って走るアイの背中にルミナは微笑んだ。
「アイ……、えへへ。ありがとう、フィー。すこし、こわいの」
「ルミナ、ルミナ! 怖くは、ない? ルミナはボクが護るから……怖くなったら、手を握ってあげる!」
「……手を、握ってくれる? そうしたら。勇気が湧いてくるから」
その傍らには友人がいる。手を握りしめれば、誰かを前へと届ける力を得られる気がして。
フィライトとルミナはぎゅうと手を握りながら挑む。仲間達の『想い』を『届かせる』為に。
「敵がむこーから来てるっぽい、の!」
「うん。征こう――わたしたちで」
それは囁くような声であれども。花糸撫子の声は遙か響く。
「ええ、ええ! 想いを伝えるって素敵なこと。ぶつかり合い、摩擦もあるけれど、そうならずに後悔してほしくはないわ。喧嘩するほど仲がいいって言うものね」
スカートがひらりと揺れる。魔力を込めた声音は、周囲に存在する兵達を誘う。豊底比売の声よりもなお――響くようにと声を発して。
「さあ、まずは一曲聴いて頂戴!」
程良い隙を見つければ仲間達を送り出す。それが、自身の仕事で在ると。花糸撫子は微笑んだ。『彼女たちの結末』にどうか、幸あれ。そう願わずには居られない。
「想いを届けたい人がいる、そんな人の援護と思うとやりがいも出るというものだよね。
届くことで何かが変わるかもしれない、そんな願いも込めて――尽力させてもらうことにするよ」
スイッチはターゲットスコープを覗き込む。霞帝、織、明瑠。彼女たちに想いを務めたい人々の背を押すのも自信の役目なのだから。
スイッチが握りしめたブレンダーソードの刀身が雷を纏う。神鳴のエフェクトが散らばり、構え直す。
敵の数は多いが切り開くだけの『心』は持ってきた。
「あんたたちに倒れられちゃ困るんだ、簡単にへばってくれるなよ」
Sakuraはそう囁いた。花糸撫子やスイッチが引きつける敵を全て攻撃し続ける。
ナイトハルバードを振り上げて、Sakuraが攻撃を重ねるその傍らでこてんと首を傾いだのはアンジュ。
「なんだか良くわかんないけど、こいつらほっとくといわしの為にならなさそうだし、消えてもらおうね」
輝海伝説アトランティスサーディンをぎゅうと握りしめて放つのはいわしセイバー。いわしに仇なす全ての愚かなる者に謝罪の一撃を放つのだ。
遊撃手として動き回るアンジュとヒイズルに住まう者の相性は良い。彼らはいわしを焼いて食う。許せない。
「俺は大して強くはないけれど、それでも神を討ちに行く味方の弾除け位にはなれる筈さ。さあ行くんだ、怪異を討て、神を殺せ……!」
皆を、豊底比売野本へと届ける為に。アルヴェールは前線で迫り来る夜妖を受け止める。其れ等は淡い光を灯し、自身等の行方を阻害するか。
煌びやかな宝玉を抱いた盾を掲げ、桜吹雪が舞い踊る。一陣の風に誘われた全てがアルヴェールへ向けて迫り来る。
死と癒やし。その相反しあう桜の花弁をその身に纏い、苛むすべてを反射する。
星羅が、無幻の元に行くのだ。
見つけた霞帝と無幻。彼女は、『せら』とよく似ているのにどこか違う。
ああ、なんて。きみはとてもかなしい目をしているね。
優しい声音は、そんな風に笑わないでと囁くように。サティの声音が静かに響く。
「ねえ、ほんとうにこころを持たないひとは、そんなふうに、だれかを想って胸を痛めたりしないよ。
きみの中にまもりたいものがあるから、迷っているんじゃあないの?
『選択すること』は、勇気がいることだ。でも。せらのなかにも。きみのなかにも――もう、答えがあるはずなんだ!」
●
「僕のつとめは橋渡しと賑やかし。みんなの物語を、どうか紡がせておくれ――みんなの物語に、さいわいを添える為に!」
謳い踊るようにサティは微笑んだ。無幻と帝の元へ、仲間達を届けるために。
セイクリッドスフィアの煌めきは破邪の光を湛え続ける。
「嗚呼、どうして。折角理想の"僕"として貴方様に会えるのに。どうして貴方様の目は、そこまで曇ってしまっておいでなのか。
……この世界の"僕"は一体何をしている。この御姿、只見ているだけだというのか。度し難い。全てに泥を塗るような行い、何人たりとて許せはしない……!」
庵は唇を噛んだ。無幻と共に戦陣へと飛び出した霞帝の姿を見るだけで心は痛む。
「賀澄様」と名を呼べば、その瞳は酷く冷たい色をしていた。冴えた浅葱に燃えるのは敵愾心か。
「ッ――遮那殿が貴方様に剣を向けてまでされた事、只事ではない事ぐらいはお分かりでしょう。
何が敵か、聞くべきは何か……賀澄様、どうか目を覚まされませ!」
「否だ。元より『俺達はそう在るべきだと運命(さだめ)られた』のだ」
彼がそう言うならばこの世界の己もそう言って従ってきたのだろうか。庵は賀澄の声を聞き、苦々しく唇を噛みしめた。
「ヒイズルが正しい道を歩めるように、勝つぞ。そのために何度だって立ち向かってやるさ。それで――俺様と勝負しようぜ!」
いい男だなと笑いかけたアンドレイは圧倒的な濃密なオーラをその身に纏う。その存在感で注目を勝ち取って、叩きつけた招来パンチを防がんと無幻がその身を投じる。
「主上に何をなさるか!」
「無幻、良い。お前はお前で自分の身を守れ」
「しかし――!」
鞘の娘が唇を噛む。無数の剣を地より召喚した霞帝はアンドレイを睨め付けた。
「勝負だ、神使よ」
「おっ、良いぜ? 俺様が勝ったら――」
言葉を紡がせぬ勢いで霞帝が地を蹴り飛び込んだ。
「鏡よ鏡、鏡さん。想いを届けるための道を阻むのは、だぁれ!」
きらりと輝いたのは宙に浮かび上がったエンドロール。エトのその光に霞帝が目映さに目を瞠る。
「前だけ向いて、走っていいよ。わたし達は力になりたいと思って此処にいるから……だから、さ。信じてくれなきゃ困るんだよね。
此処にいる皆が、あなた達を信じてる。だから……わたしは、あなた達だけの物語を紡いでほしいんだ」
エトは朗々と言葉を紡いだ。
「――さて、物語をはじめようか、目指す終幕は、最高のハッピーエンド!」
「ばぶ……ばぶばぶ……ばぶ……あぶぶぶぶ」
訳:こんな姿じゃなけりゃ、もっとマシな戦い方もあったんだが……無い物ねだりしても仕方無い、なるようになるしかあるまい!
雪之丞はおしゃぶりをちゅぱちゅぱとさせながら身振り手振りで何事かを告げていた。
赤ちゃんではあるが壁役兼アタッカー。三月うさぎてゃんは「え? だっこ?」と赤ちゃんを高い高いーと投げた。
「さて、ここでのアイドルの定義とは背中を押し、支えとなる精神の要――私の歌が響く限り、狂気になんて染まらせない」
三月うさぎてゃんが微笑んでいるが、赤ん坊は空を飛んでいる。
彼女の前には霞帝と、無幻が立っている。其れ等のことは関係ない。今、三月うさぎてゃんがやることは。
「私がやるのはステージを沸かせること、さぁ! 死ぬまで歌おう! 死なば諸共、アイドルオンステージ! だよ!」
三月うさぎてゃんの声に合わせて、雪之丞は防御に集中して庇い手を担う。仲間達の思いを届けるために身を骨にする精神だ。
リセリアはするりと剣を引き抜いた。銀玲瓏は冴え、そして冷ややかに変幻し続ける。
彼女とて、分っているのだ。霞帝は四神と黄龍から直接の加護を受けていた存在だ。それはこちらでも同じであろう。
結びつきの強さを媒介に深く侵食を受けたのだ。そして、彼の側に居た存在にそれが伝播した。霞帝から、晴明、長胤、と。
それでも、問わずには居られなかった――「今園賀澄は何の為に帝になった」
「どういう意味だ」
霞帝がリセリアの元へと踏み込む。剣がぶつかり合えば腕にびりびりとした気配が走った。
「神の為? 神が、四神が、その眷属が。ただ気に入らないからと民を害する……今起きている行いを礼賛する為に帝になったと。
そのような世界に人々を収める為に国を治めてきたと?
――民の安寧の為であったと私は聞いていましたが、間違いだったようですね。光に曇った眼には、民の嘆きは映りませんか」
「民に神などの存在は空想。所詮は我らのみが『それをそうだと』認識している。
貴殿に分るように言おう。此度の戦、誰が引き起こしたと民が告げておるか知っているか? 天香遮那――全ては彼が朝敵であると囁かれているのだ」
リセリアは唇を噛む。此度の戦は朝廷に仇なした遮那より始まった。神という絶対的存在による狂気など民が信用するわけも無いか。
「俺は『民を護るため』ならば何だってする。勝負だ、神使」
霞帝がリセリアへと距離を詰め――
「想いを届けるのは、いつだって躊躇ってはいけないの。
そうでなければ、手遅れになるのだと……伝えられることも、伝えられないのだと。わたくしは現実で知ってしまったから」
シュネーはそっと自身の胸に手を当てた。霞帝を護り、刃を向ける無幻。彼女に声を届けたい者が居る。
「異世界とはいえ、賀澄様に刃を向けるのは凄く嫌なのです……けれど、このままではヒイズルも賀澄様も皆、壊れてしまうから。勇気を出して止めに行くですよ!」
ぴょこんと跳ね上がったミセバヤは声を掛ける。星羅と無幻が相対しやすいように。霞帝を行かすまいと身を挺す。
「賀澄様、どうか目を覚まして下さい!」
喩え世界を違えようとも。彼が自信の主君である事には変わりは無い。
「邪魔立てするな!」
叫ぶその声に、心が痛む。彼の心は蝕まれているのを知っているからこそ、その様な声音では臆さない。差し違えてでも止めてみせるとミセバヤはするりと進む。
シュネーは囁く。
「ねえ、貴女も伝えたい想いがあるのなら、後悔してしまう道を、どうか選ばないで――大団円を掴み取る道を、どうか諦めないで」
無幻は、剣と出会うことを望んでいた。その思いが、朽ちて行く前に。
どうか、手を伸ばして欲しい。
剣を弾いたのはスイッチであったか。雪之丞が霞帝の行く手を遮り、一撃を投ずる。
「賀澄様」
呼ぶ無幻の声音に、霞帝が手を伸ばす。
此の儘では分断される。主君の、否、『おとうさま』と離れてしまう。
「無幻!」
青年は、悪鬼ではない。彼は、鞘より生み出された精霊であろうとも家族のように慈しんだ。
――お前は、道具なのかも知れないが俺の元に来たのなら家族だ。
無幻、お前の本来の名ではないのだろう?
何時か、教えてくれ。お前の名を。きちんと、家族として呼びたい。
霞帝の周りに剣が無数に生み出される。投影された術式。振り上げた刃を受け止めたのは、ミセバヤ。
無幻の元へと向かわんとする霞帝を受け止めて、彼は叫ぶ。言ってくれ、と。
星羅が、無幻に相対する。その刹那。
「星穹鞘無幻ッ! 彼を特別に想うなら何故彼を守らないの、空っぽだった私『達』を変えてくれたのは 彼でしょう?
剣たる彼の傍に寄り添えるのは鞘たる貴方だけ。それなのに貴方はどうして此処にいるの?
答えなさい……答えないのならばそれが答えね。その甘ったれた根性、何をしてでも叩き直してやるわ」
星羅は無幻の元へと飛び込んだ。瓜二つのかんばせが並ぶ。一方は悲痛にゆがみ、もう一方は泣き出しそうな程に怒りを湛え。
――私は彼が傷つかないように鞘を選んで渡したの
――私は彼に傷付いて欲しくないから盾を選んだの。
「護りたいから、大切だから、笑って居て欲しいから――だから彼の隣を選んだのよ!!」
叩きつけたのは魔性の音。空砲だ。花吹雪の奇跡が、女の胸を抉る。
「貴方の対は今この瞬間に何をしているか知っているの?
この国の為に戦っている彼が折れてしまったら貴方はどうするの? ――答えなさい、星穹(わたし)!!」
抉った、筈だった。其れを受け止めたのは鞘。彼女の本体か。
「私は、彼の隣に『居られない』! その宿命が此処には在った!
だから、だから……戦いを終わらせて。彼に『私の名を呼んで』欲しい」
涙ながらに少女は叫ぶ。地を蹴り星羅と無幻の間に割って入った霞帝は剣を構える。
「……無幻」
その一声で、彼が戦うことを辞めたのだと無幻は察した。呆けたように星羅を見遣る無幻はぽつりと言葉を零した。
「……彼に、逢いたい」
●
豊底比売は美しいおんなであった。嫋やかなそれは慈愛の笑みを湛えたこの国の創造主を名乗り続ける。
その笑みより発された狂気など知らぬふりをし、ヴァリフィルドは牙を剥く。周辺展開したリフレクティアジェミニ。
困難さえも打ち払わんと吐き出した息吹はデータ属性を侵食するように変化させる。ずんずんと進む。
――侵食など、させるものか。
堂々たるその背を追いかけて、無数の神使が戦場を直走る。
「我は月閃を使うタイミングを皆と合わせよう」
夜の力にその身を投じる。闇夜深き、悪辣に身を投じた己等こそが赦されざる存在であるかのような寓話。
「ハッ、R.O.Oに参加したばっか。アクティブスキルもパッシブスキルもねぇ。おまけにレベルは18と来た」
ブレイブリーアランは巨大な斧を担いだ。決して臆することはない。
「だからなんだ!? 関係ねぇよ! 神をぶっ殺すのは俺だこの野郎ァッ!!」
この世界がゲームなのだというならば、神に何度でもリトライしてやればいい。道を遮らんとする物を退ける。
全てはゲームの中で暴れ回っている『神』の電源をオフにするために。
ブレイブリーアランが地を蹴った。周辺を
その様なものに身を委ねても構いやしない。みけるんにとってはふるさとを傷つける者を斃す為の舞台なのだから。
「再現性東京の異常の原因、ここにいるんだよね……そいつであろうと、そいつの配下であろうと、容赦なんてしない!
ここも、私のふるさとも、皆のことも! 勝手に侵食し(たべ)ないでよね!」
叫ぶ。皆の邪魔にならぬように。月閃はヴァリフィルドと同じくタイミングを合わせよう。
「私は……私は……なんとかひめとそれに従う奴なんて、だいっきらいなんだからぁぁー! 後、ここの人は正気に戻れー!」
かりそめの命くらいならばくれてやる。みけるんは叫ぶ。スキルを放ち、豊底比売へと続く道を開くが為に。
「豊底比売とやらの呼び声や狂気はとにかくやだやだ拒否拒否ノー! ここの人達をおかしくしている化け物なんてごめんだわ!」
フィノア・ミラは叫んだ。自分自身に否定する資格は無いかも知れない、けれど――拒否することは悪くは無い。
「神様だからと偉そうにしおってからに! お主のようなヤツが”神様”であってたまるか!」
天狐による全否定は己の全てを出し切るためであった。続く皆の敵の体力を削り去る。狂的、否、『強敵』と戦うならば求めるは、そう、天運。
――神に祈るのは殊勝な心がけでしょう。
穏やかに微笑んだ女に天狐は首を振った。『神頼み』でも、願う神は多種多様。それが八百万の神々を信ずる混沌世界の在り方なのだから。
「お主ではないわ!」
リヤカーを引きながらせつなさみだれうち。あれよあれよと無数に振りすさむ雨の如き乱撃は、些か外れながらも豊底比売へと届けられる。
――ああ、なんと……神の御身を傷つけるというのですね。
「私は…『我』の姿になるのだな。それもまた贖罪、か」
フィノア・ミラはフィノアーシェの姿となった。月閃は己の望み。それが彼女にとっての深層意識の表れであるかのように。
偽りの光の愚かさも、削ぎ取るべく――そして仲間達のために道を開くべくフィノアは前線へと走る。
「豊底比売だか何だか知らんが、俺より強いってのは気に入らねェな! その怨念、その野望。俺が燃やし尽くしてやるよ!
炭になって消えやがれ、爆炎! 業炎!! 大炎上!!!」
レンゴクの遣ることはただ一つ。自身の焔を精魂尽きるその時まで『ブチあてる』ことだ。悪魔の斧を振り上げる。炎獄の焔は嘆くように涙を落とした豊底比売へと向けて叩きつけられた。
――神を愚弄するつもりですか。
先に愚弄したのはどちらだと。『彼女の唇』を使って言葉を紡ぐ豊底比売を見上げた。
「ハハッ、ついに神のお出ましか。だがオレの目的はソッチの巫女だ。『オレ』に縁はなくとも、きっと『キサラギ』ならそうする。
オレはキサラギ(オレ)だ。他の誰でもねェ――手を貸すぜSiki!」
頷いたSikiは目の前の己を見遣る。自身の炎は形あるものは燃やせない。それでも彼女の心を縛る楔は燃やせる筈だ。
愛国心があるならば、心からそうだと言えるのならば――
「侵食で自分の心も見失うなんてふざけないでよね。ここは神光、君の生きる国。ならこの国を守れるのは君のはずだろう!?
豊底を止めるのも本来は巫女である君の役目だ。ねぇ織。君の心はどうしたい?
忘れちゃったなら思い出してよ――私にだって心があるんだ!!」
君に心が叫んでる。Sikiが走り手を伸ばす。私と私、瓜二つ。
――此が私の望みでありましょう?
そんなことはないのだと、叫ぶ喉から吐き出されたのは龍の息吹。
「我こそは、如月の巫女にして観月の剣客。我は魔を断ち人を断ち、幽幻夢幻森羅万象、あらゆる全てを斬り伏せし悪鬼羅刹の剣なれば!
――真正怪異、何するものぞ!」
無窮の一刀。それこそ狐月三刀流奥義──触れること非ず、湖面の月さえ捉う絶剱。キサラギの剣戟が幽玄夢幻を攫う。
悪ィ神。そう呼ばれた豊底比売をその身に降ろした神子は唇を吊り上げて嗤った。
――『望んだ姿』でありましょう。
それを望むわけがないとGoneはそう、思う。あれがR.O.Oの『シキ』ならば、この中に彼女もいるはずだ。
だが、今はただの風。己の身の上を明かすわけも無くGoneは邪魔者の排除へと走る。
「俺ガやるべき事……ハ、分からン――ガ、」
自身の囁く風は、狂気をも除外する。豊底比売の声を排除し、皆の決意を届ける為に。
(彼女が織った縁からすれば、己が託されたのは細い絲。此処に無くとも、神威縁絲を心の中で強く握り締め辿る。
――栄華の光を焼き尽くす、終縁の炎となるは今)
ルォーグォーシャ=ダラヴァリヲンが辿るのは縁の糸。この世界には持ち込めずとも、それは常に側にあった。
「………この戦場の誰も、『ヒイズルどころか、世界に存在せぬ』己など知りはしない。
それでも、あの神逐にきっと誰より優しい背中を見たから、今度は自分に誓うんだ……まだ『会った事の無い君(ともだち)』と『君の愛する国』を必ず救うって!」
決意のように、耐えがたい怒りを、『彼女』を操る豊底比売に隙を生じるために叩き込む。
固結びで、解けないように握っていましょうね。あなたと、私たちの絆のように――そう笑った白き獣は、今も何処かでけがれを有しているか。
「織殿……必ずやお助けします!」
焔迅は戦場を直走る。織への道を開くため、豊底比売による攻撃など気にもせずに泰然一刀、只、刃を振り上げる。
「織殿の元へ、行ってください!」
彼が担うたのは『道の確保』だった。ルォーグォーシャは小さく頷く。
彼女の愛する国と、友人達。あの神逐で彼女は。
――自分勝手だって、笑ってくれ。私は、私の為に君の心に会いに来たんだよ。
なら、自分たちだって、自分勝手だって笑われたとしても彼女の心に会いに行く。
所詮ゲームの世界、と。そう口にしてから桃花は笑った。だから如何した。『マジ』になって何が悪いのか。
大人げないというならば笑え。笑うだけなら誰でも出来よう。それでも友達を助けることを外聞に寄って恥じるならば『ガキ』で構わない。
「付き合わせて悪いナ。力貸してくれ」
引き抜いた妖刀の名は『無限廻廊』。希望ヶ浜にも縁のあるその名はお誂え向き、晴れの舞台に良く似合う。
「……何、振り回されるのはいつものことです。それに友を救うという願いに力を貸さない道理はないさ!」
唇を吊り上げたのは桜陽炎。ゲームであろうと、データであろうと、再現されたもう一つの世界。其処に立っている少女が友人なら真面目になる事を誰が笑うか。
「ガキなものですか、モモ。心を通わし、繋がったものがあるのならば、ここは既にもう一つの現実です」
穏やかに空梅雨は笑った。そうと胸に手を当てれば、ぬくもりがある。生きていると感じられる。ただのそれだけでいい。
大事だという気持ちがあるならば、本物か偽物か。そんな葛藤など些末なことであると空梅雨はマギタリーレギオンに魔力を込める。
「この世界のわたしは、そんな繋がりを信じたい……そう、思います」
――それに、『ワタクシ』の知己でもある。口に為ずとも空梅雨の気持ちは桃花と友にあった。
前線を進むは桜陽炎。受け止め、返す報い。在り方はこのセカイではない何処かで感じる痛みにも似ている。だからこそ、切り開ける。
「月閃、発動。荒々しく狂い咲け、彼女の道を拓き広げよ」
桜陽炎の剣が閃いた。鮮やかなる桜を纏い、進む道を切り開く。桃花は「織」と名を呼んだ。
「アイツがこっちに来れねえ分、ダチとしてこっちは桃花チャン達が受け持つゼ!」
「"視えた"――今です、ふたりとも!」
空梅雨が背を押した。故に、桃花はまっすぐに飛び込んで。
「シキは返して貰うゼ『神異』!!」
――嗚呼、嘆かわしい。神子は望んでその身を私へと明け渡したというのに。
「シキの声を使って――お前が喋るなッ!」
桃花が叩き込んだ一閃が豊底比売によって弾かれる。織の身が中へと投げ出されたことに気づき、桜陽炎は飛び寄った。
受け止めたその身は軽い。データだから、と言われてしまえばなんとももの悲しいほどの軽さだ。
「大丈夫ですか!?」
――其処まで言うならば返してあげましょう。無論、私の『侵食(しはい)』は止まりは致しませぬ。
「う――……おひぃ……様……おひぃ……」
未だ、その身はむしばまれているのか。武器を構えたまま、Teth=Steinerは「織」とその名を呼んだ。縁を織ると名付けられた一人の少女。
「どんだけ影響受けちまってるか分からねーがな。そんでも、その耳は確りと聞こえてるんだろ?
なら、その耳かっぽじって、SikiやP.P.が言う事をよく聞きやがれ! そして考えろ! "テメェは、本当は何をすべきなのか"をなぁ!」
「何を――……?」
Sikiの言葉はずっと聞こえていた。それでも、まだ、帰ることが出来なくて。P.P.は命なんて捨ててやる勢いでその身に月の気配を纏う。
「……ねぇ、シキ。貴女はあたしの事を知らないでしょうけど、あたしは貴女の事を良く知っているの。
貴女は友を愛し、絆を紡ぎ、命を慈しむ心優しい貴女。
……だからこそ、あたしは我慢ならねぇのよ。優しい貴女を『処刑人』になんて、絶対にさせない!
貴女と、貴女を愛する全ての為に、そうさせる紛い物の神様は否定するわ! 想いの分だけ、あたしの拳は痛いわよ! シキ!」
P.P.は叫んだ。
『織(しき)』
その名前には、意味がある。その字にはは目印という意味が。目印に糸を組み合わせて、『織る』となる。
彼女が織った縁は、ここで失わせやしない。しき、名を呼ばれるたびに『織』の目は淡い光を帯びる。
――なりません。織。貴女の身は神が為、幼い頃からそう躾られてきたでしょう?
「その名前を――お前が呼ぶな!」
Tethは叫んだ。その後方から飛び出したのはアルス。
(嗚呼、シキはやっぱりこっちでもシキだよ。何よりも他人を大事に思って、心配して、思いやりを持てて、俺はどの世界のシキにもずっとそうでいてほしいから、だから……)
Sikiが、織の手を繋ぐために。アルスは唇を吊り上げる。
「にゃふ~、ボクの御主人様を通してもらうよ!」
アルスに背を押されてSikiは走る。未だ、その心は遠い。
「この一撃を以ってして、荒神祓いの供物とする! さあ、いくんだ――シキッッッ!!!!!」
リラグレーテは叫んだ。ブレイブハートアサルトカスタムがばちん、と音を立てる。吐瀉物のような嫌悪感を全て吐き出して。
滝倉の娘の心に、届いてくれ。
――分ってるよ。分ってるんだ。その根幹は変わらない。
彼女は、Sikiは、織は、シキちゃんは。何時だって、自己犠牲の塊だった。
リラグレーテの弾丸が花開く。未だ、豊底比売のもとへと返らんとする『織』の手を、SIkiは握りしめる。
「織り上げた縁を守ると決めたなら――今すぐ目ぇ覚まして走れ! 織!」
その目に光が戻る。誰、と紡がれたその声にSikiは「行こう!」と少女の手を取って走り出した。
――『自らの意思』で戻りなさい、織。
「にゃふ~。ご主人様がこっちのシキに教えてあげた心を、もう二度と奪わせはしない!」
アルスは立ちはだかった。甘い香りの毒液をまき散らし、豊底比売へ向けて飛び込む。只、一人の少女を救うために。
「気持ちの悪い異物が、シキちゃんの心を喰らうな!」
リラグレーテの弾丸が宙を踊る。
「織、君は頑張ったんだね」
Sikiはそっと、自分自身を抱き締めた。ああ、それだけでも彼女が幼い少女のように感じられる。
君の心を、めじるしにしてやってきた。
織。縁を『織』る君のこころに、まっすぐ走ってきたんだ。
「もう大丈夫だよ。みんなが、まもってくれるから」
――君は、最初から『心』というものとしっかりと持っていたのにね。
●
「妹が待ってるんでしょ、そんなところで寝ぼけてる場合? 一人で起きれないなら――僕らが全力で叩き起こす!」
グリース・メイルーンの前には火乃宮明瑠が立っている。符術を巧みに操り剣を強化する巫女の娘の懐へとまっすぐ美とこんで刃弓を二刀モードへ変えてその体を吹き飛ばす。
「手荒な真似はしたくないけどね――けど、此しか無いんだ!
僕は友達を救いに行けなかった。友達が望む未来をつかめなかった。たとえ幻想だとしても! 誰かが悲しむ結末をお前が望むなら、僕がそれを断つ!!」
豊底比売の意識が別に向いている内に.その支配から醒めた『姉妹』が出会うその時まで。
「……本当に貴女はどの世界でも世話が焼けますね。自身を捧げてまで何かを成すなんて間違いなんですよ。
貴女を失って悲しむ人、こっちにはいない貴女の妹がちゃんと生きているんですから」
呟いたのはシフォリィ。ミラー・シールドが目映い光を放つ。明瑠を助けるために走るグリースへと支援を送る。
「ひゅー! 妹ほったらかして何してんだい、おねーさん。信仰~? そんなもんが自分の片割れより大事なわけねーだろが! 寝ぼけてんならこの前足で張り倒してやらぁ!」
ハーヴェイは叫んだ。青褪めた月のミセリコルデが慈悲を光らせた。グリースと合わせて明瑠の体を更に吹き飛ばす。
剣を手に目を見開いた娘の元へと走り寄ったシフォリィは「手が掛かる!」と再度叫んだ。
そう言われれば、ハウメアはどこか居心地は悪い。けれど、『今回は救える』――それだけでも強く居られる。
ECHOはその声を明瑠と、そして仲間達にだけ届けることを選んだ。歌声と変化するその声音が癒やしと共に響く。
「以前、恵瑠さんにお会いしました。そして、その身をお守りしました。
……わたしは、彼女を害そうとしたこの信仰を良しとする事が出来ません。
信仰という名前の洗脳、全て、全て。この国の未来が為、全てを歌い晴らしてみせましょう」
ハウメアが最後まで立っていられるように。ECHOは『ウタウタイ』、その言葉に願いと祈り、想いを載せて、届ける物。
言葉は刃にも癒やしにもなる。自身が相対した恵瑠が、明瑠を助けて欲しいと望んでいたのだ。
望まれるならば、『もう、二度と』がないように――その言葉は、音色となった。
「ふざけんじゃねえ! 俺はなぁ、アル達が悲しむところを2回も見るつもりはねーんだよ!!」
叫んだハーヴェイにハウメアは頷いた。悲しげに、加護の地で救うことを優先し『自身がここに来ることの叶わなかった』恵瑠。
(ああ――あの時とはまるで違うのね)
自身が、迎えに行った。彼女を。
今回は自身が迎えに来て貰う番。彼女が訪れることが出来なかったのならば。ハウメアが代わりに手を伸ばす。
恵瑠。大丈夫よ。――2人が別たれる事なんて、『もう』、私が絶対にさせない。
「――ッ、ずっと一緒に居ると、私が護るという約束を違えているんじゃないわよ!!」
それは身を焦がす双炎。シフォリィの加護を受け、ハウメアは進む。グリースとハーヴェイが距離を離してくれたお陰だ。
彼女の瞳には豊底比売以外の気配が宿されている。
「恵瑠は――?」
「連れて行ってあげますよ。妹が大切ならば」
「ひゅー! そうだぜ、妹に泣かれることは覚悟しとけよ!?」
シフォリィとハーヴェイの言葉の前で、見慣れた魔力が踊っている。紅と蒼。私とあの子。最愛の『あなた』へと抱いた焔。
それが、明瑠の元へと叩きつけられる。彼女の目が見開かれ、涙に溢れる。
「恵瑠に――」
「……会えるよ」
グリースは彼女に言ってやろうと思っていた。おはよう、それから、もう離れないように、と。
「ボクは人間を支配する神様より、人間と共存してくれる優しい神様がいいな」
明瑠の元へと行かぬように。放られた織の身を取り戻させるべからず。
この国を救うと言う思いを込めて聖剣チョコソードが光を湛える。己の想いは刃に乗せる。セララは豊底比売の元へと飛び込んだ。
「フラッシュドスコイ、素早く動くぞ、おりゃー!」
手をぶんぶんと振り回しながらフラッシュドスコイは難しいことは良く分からないけれど、戦うことは得意だと飛び込んだ。
豊底比売がカミサマで、怪異で、なんだか良くは分からない。
「爆速特攻! 復活上等! いっくよー!」
速度を上げて全力アタック。フラッシュドスコイは頭突きの構えで豊底比売の元へと飛び込んでゆく。仲間達とタイミングを合わせれば、容易にその距離も詰められるはずだ。
「豊底比売の真偽はどうでもいい。自分もある意味偽物ですし。
……ですが母ならば、親ならば子を縛るのは違う。子が巣立つまで面倒を見るのが親です。子を自らの道具として利用する者は焼き尽くします」
その在り方を許せないと梨尾は走る。タンクとして前線へと踊り出す豊底比売は強大だ。見上げるほどの母がそこで嗤っている――
――母とは、子を導くものです。
梨尾の言葉を否定するように、それは目を配った。その視線に背筋がぞう、と凍る。気配にびりびりと震えを感じずには居られない。
「いいえ、母はその道を定め続けるものではないのです」
故に、梨尾は己の身を挺し、母なる存在へと攻撃を叩きつけるのだ。
「建国さんと関わりのある怪異か、現実世界では何度か関わっておるのぅ。瑞神らを従え信じ込ませるその能力は厄介じゃ。ここで禍根を断つ」
どのような理由で繋がっているのかは分らない。だが、紋章術を駆使し、ひたすらに攻撃を重ねることならば出来る。
死とはこの世界では恐るるに足らず。ウルファは攻撃に攻撃を重ね続けた。其れが時針の出来ることで在ると、そう認識しながら。
「異なる世界、厳密には異なる国とはいえ、見知った場所と顔が短期間に何度も厄災に遭うのを見る事は辛いものがありますわ。ですが結構。これはいつかの雪辱の機会が与えられたのだと受け取りましょう」
星芒玉兎は静かにそう囁いた。仮にも神ならば、敬意を以て荒魂を鎮めるだけだ。
「恐み恐みも白すは、どうか安らかに眠られますように。
――国造の女神なれば、神産みの後は黄泉国へ赴かれるが宿命というものですわ」
霜降月風寒盛冬大雪。それは冷徹なる氷輪となる。豊底比売が神というならば敬意を持ってその御霊を鎮め常世から離れるが定石。
囁く声音は只静かに――攻撃がまっすぐに放たれる。
「この世界を侵食して自分の思い通りにしようとするなんて、いくら現実とは違うとしてもこの世界の人も生きているんだ!
それを自分の思い通りに操ろうなんて絶対に許せない! ――いくよ、サクラちゃん!」
スティアが剣を引き抜いた。邪魔をする敵など一直線に突撃だとその身を挺し戦場へと躍り出る。
「貴女ももしかしたらROOのイノリや、クリストに作られた被害者なのかも知れない。
でも、だからって貴女を放っておく事は出来ない――いこう、スティアちゃん!」
呼び合えば、言葉無くともタイミングは合わせられた。桜とスティア、共に目指すは豊底比売。ただの一手を加えるために。
結い上げた紅色と銀色が交錯し合う。同じ敵を狙い、道を切り開く。現実とは違う、この世界での戦い方だ。
「神の母を名乗る神。真性怪異というらしいわね? 怪異も信仰があれば神と変わらない、か。
あるいは何かしてくれるだけ物言わぬ神よりありがたいのかも? まぁ、人心を弄ぶ輩は好かん。滅ぼそう」
うんうんと頷いたのはシャルロット。彼女の言うとおり怪異も信仰があれば神と変わりない。其れは、希望ヶ浜とてそうだろう。
「……我らの勤めは神への盲信ではない。いざ進め、神騙る怪異を滅ぼすために」
BabyBloodに込められた鮮血の魔術は紅の槍を作り出す。シャルロットの一投を弾いたのは豊底比売の指先か。
――ああ、小さき子等よ。何故、私を厭うのですか。
「厭うてはないわ。ねえ、私にバグが感染して、ログアウト不可になったりしないかしら?
この世界のリアルはもううんざりだから、私を自由にしてくれるなら怪異でも何でも利用するわ……豊底比売も私に利用価値を感じてくれないかしら
」
くすりと笑ったアンジェラ・クレオマトラの声音は深々と響く。現実世界になんて返らない。その身は生殖階級の大柄なものに変化する。
好きなだけ攻撃してくれれば良い、豊底比売の『モノ』にはならないけれど――その攻撃を受け止めるくらいはお安いご用。
「あまり聞いたことのない名前です。豊かさの底……何か淀んでいる気配を感じますね。倒します」
ロウランは嘆息する。
「やれやれです。ヒイズルの信仰とはこんなよくわからないものを信じる教えでしたか? まぁ信じ込ませるのがこの神もどきの能力かもしれませんが!」
スナイパーライフルを手にしたロウランが地を蹴った。目映い光など、恐ろしくなど無いのだから。
「神様、わからないのですよね。人造人間には永遠に理解の出来ない存在です。
あるいは人には被造願望みたいなものがあるのでしょうか。
今作った単語なのですが、要は『自身は何かの目的のために誰かに作られた存在でありたい』という願望……」
ウルリカは首を傾ぐ。建国さんと呼ばれた其れは正しく神であったのだろう。だが、ウルリカは知っている。
彼女が作られたのならば、数奇なる運命を考えることなく『彼女は役割』に没入している。
(――やはり、良く分かりませんね)
●
「神異、か。これを倒せば、マザーへの負荷も多少は減って……秋奈を、取り戻せるかもしれない。ならば、絶刀を以って偽りの神を斬り捨てるのみだ」
Steifeが抱えたのは閃雷戦斧『煌』。刃をスライドさせて、放つ神鳴の剣閃。
「霞帝も瑞も他の奴らも、豊底比売の操り人形じゃねぇか。……気に入らねぇ。あの神様気取りの糞怪異が……!!」
唇を噛みしめたヨハンナの傍らでヒロは佇んでいた。ヨハンナが組み上げたカスタムオブジェクト。IDEAscriptが戦闘を円滑に変化してくれる。
「神、母、よく言うな。閉じ込めて飼い殺して、思い通りにならない子供は子供じゃないくせに――神異、そのツラぶち抜いてやる」
ヒロの周辺に発生した力場は『不可視の楯』。どのようなものさえも通さぬ強き意志。武器に込めた蛇神の毒がするりと豊底比売のもとへと迫り行く。
「……神だとか名乗ってるけど……あんな人……確か居なかったはず……だよね……?
……その上……この世界と希望ヶ浜を浸食しているなんて……
……あれが全ての元凶……という訳だね……全てを元通りにするために……消えてもらうよ……」
練達のために。アルヴは狂気の声を耳にして首を振る。「……こういうの……スパムって言うんだっけ……聞くだけ無駄だね……」と一蹴するアルヴは気配を消して、豊底比売へと戦闘を仕掛けるタイミングを計り続ける。
「ヒイズルにも練達にも害なす光の怪異……もう二度と、あいつのほんとうの名なんて呼ばない。
苛々する、許さない……絶対に、絶対に赦さない。奴を殲滅する!」
そう叫んだのはねこ・もふもふ・ぎふと。やわらかなにくきゅうぱんちを放ち、聞こえる声を全否定する。
彼女の言葉になんて耳を貸さない。その姿が変化する。月の光の白子猫――金色の瞳が光を帯びる。
「騙すように入れたほんとのなまえなんてもう呼ばない……君なんて大っ嫌い!」
誰もが口にした『神異』という言葉が、その真名で。其れを知るものしか傷つけられぬと言うならば、知った以上はそれをも斃す。
悠月は目を伏せた。穢恋のフィーユの与えた魔力が、氷蓮華の刃をより研ぎ澄ませる。
「真名とはその本質を顕すものにして、言うなれば『そのもの』。
存在は名付ける事で定義され、型に嵌める事で初めて観測し得る……望まずともしてしまう。
名を口にするという事はその本質に触れるという事であり、故に他者からの干渉を防ぐ為に真名を伏せ諱、仮名を用いる訳ですが……。
触れてきたものを浸食するその性質。確かに真性怪異とは神なるもの、神格の一種には違いないですね――だからこそ、やはり捨ておく訳には行かない」
これは神による侵食だ。そうでしかあるまい。
神様――そんな存在よりもヴァレ家の方がより素晴らしいとでも言いたげに夢見・マリ家は叫んだ。
「世界の! ――そして鋼鉄の平和(そう書いてヴァレ家と読む)の為にも負けられません!」
マリ家のツインタイガーバルカンはリミッターを解除し、猛虎魂をぶつけ続ける。『がおー!』と勢いよく突進して征く彼女は止まることはない。
自身がとどめを刺そうとは考えない。誰かにその座を明け渡すために削って、削って、削り斃すのだ。
(……真名を暴いた事とかバレてないよね? 大丈夫だよね?)
指差・ヨシカは緊張したようにユウドーブレードを握りしめる。イレギュラーズの中でログアウトが出来なくなった人が居ると聞いていた。
自分じゃ無くて良かった、なんて安堵を覚えた自分が恥ずかしかった。共に合宿を楽しんだ人々が、帰ってこれなくなったのだと聞いている。
「――だから僕は、今ここにいる。みんなが戻って来れるように、少しでも助けたいから……!
祈る神様が敵だって言うのなら、自分の足で進むしか無いじゃない!」
だからこそ、ヨシカは夜妖の力を身に宿す。そうして、ふと、気付く。夜妖憑きと同じ状態。『君』は、いつもこんなに恐ろしい力と隣り合わせなんだ。
「戦闘なんて本来全然な私でも分かるくらいに圧倒的、絶対的って言うべきの様な相手、ですよ。
『ネクスト』の中とは言えあんなのに挑むなんて正気じゃないです。……ですけど、あれは何とかしなきゃいけない奴です。そう思います。現実で死ななきゃ安いんです。やりましょう!」
何度でも死ねるから。だからこそ、拳を振り上げられるのだとでも云うようにルナリスは地を蹴った。豊底比売を遠距離から監視し仲間と攻撃のタイミングを合わせる。
「神なんて偶像、ヒトという生き物が妄想するだけの存在。それが目の前にいる?
……否、目に見える存在ならそれは化け物。ん、化け物には終焉の一太刀浴びせよう」
グレイは豊底比売の様子をまじまじと見つめていた。ああ、月閃を使うのは全員で畳みかけるときだ。其れを使えば一時的にでも人の枠から外れるなんてなんて皮肉か。化け物を屠るために化け物の力を手にせよと――世界はそうと語りかけるか。
「ん、皆、無理しないで」
癒やし手として。戦場を見据え続ける。豊底比売の指先がぴくりと動く。その瞳が見開かれ、まるで蓮の花開くように微笑んだ。
――嗚呼、嘆かわしい子等よ。
「──初めから豊底比売なんて居なかった。お前の思う通りになんざさせねぇよ、神異。
侵食は俺が引き受ける。これ以上、ヒイズルも現実も穢れさせねぇ!!」
神子の体を塵のように放り捨てた。此方の意思を歪んだ解釈で是としてくる紛い物。禍ツ神。
ヨハンナの身を巡ったのは禁術。己が血は、焔となった。憤怒は命を喰らう為に使われる。
月下の如く咲き誇ったその身より甘く香った気配が紅色の『おんな』であった体を前へ、前へと進ませる。
アルヴの『スポット』が花のように豊底比売へと咲いた。傷つけた爪先は確実に己の存在を神へと刻みつけてゆく。
――何という事を!
目映い光が、此方の動きを止めんと広がった。降り注いだのは美しき槍。天の雷、神の怒りか。
「神だと!? ふざけるな! お前は存在しない、してはいけない!
只の怪異(バグ)だ! 贋(イツワ)リの禍ツ神が、安寧を騙るな! オレは大切な人を、取り戻すために戦っている!」
叫ぶSteifeは狙いを定める。月閃は、その身に走る力を与える。薙ぎ払い、そして一撃必倒を掲げて、何度も何度も攻撃を重ね続ける。
「豊底比売……母として君臨するものの。自己中心的な支配はあまりにも幼稚。子供の地団駄を見ているようです……疾く神逐を始めましょう、躾の時間です」
囁いた純恋は全てを包容する姿勢は母らしく憎らしいと呟いた。己が降ろした理想は菫色の娘、花嫁は蝶々と共に力を宿す。
「子を戦わせ危険な目に遭わすものが"母"を名乗るとは……流石産むしか能がない神の言うことは違いますね。
愛まで虚構に染まった可哀想な豊底比売。拳という愛を以て寝かしつけてやりましょう」
澄恋は穏やかに微笑んだ。月閃が解けた己等は丸腰同然だ。だが、それを逆手に取ってやるのだと『ひとりのわたし』と『ふたりのすみれ』が神の前へと君臨する。
言葉など2人の仲にはいらなかった。『ふたりのすみれ』は言葉無く、豊底比売と距離を詰める。
「影すら許さぬ光を産み落とした女神、もう二度と産まれませんように」
「神は信仰により成るもの、即ち忘却こそ弱点となるでしょう。よって神異の名を祓います――虚構の胎にお帰りなさいな」
ふたりは、どちらも似た言葉を継げる。だが、一方は悲哀を湛え、もう一方は憤怒の気配さえも感じさせる。
侵食止めるように、かたわれが豊底比売に薙ぎ払われようとも止まることはない。
「ええ、『喩え死が別つとも』――わたしたちはひとりなのですから」
シャスティアはまじまじと見遣る。それは神と呼ばれている。『日本の神格観』に合わせた神であるのは希望ヶ浜をベースにするからだろうか。
「言ってしまえば今回の構造は『別次元の力ある概念的精神的生命体による浸食・侵略』とも言える
そのような存在を果たして『神』と呼称するべきかどうかは、例え神を自称していようとも大いに議論の余地はあるとは思いますが……
何にせよ、地に足のついていない後からやって来た存在が、神を名乗り我が物顔で支配している姿というものは……力の強さは本物でしょうが、それに比べて精神性はなんとも未熟にして醜悪極まりないものですね」
嘆息する。シャスティアの周りを漂うは雑霊。それらは淡い光の蝶々となり豊底比売へと放たれた。
「……てめえが豊底比売か? おいおい、しょうもねえバイ菌のくせに、何を調子ぶっこいてんだかカミサマ気取りたあ笑えてくるね。
オウ、来いよニセモノのカス野郎。俺達人間は、てめえみてえなモンに頼らずとも生きていけるって事を教えてやるぜ!」
グドルフはエムブリエーマを振りかざす。豊底比売の権能を打ち払うが如くまっすぐに叩き込んだの脳天をかち割るかのような一撃。
強大な女のその身をまっすぐに見遣る。嫋やかなる女の笑みは崩れない。
――菌などと。私は皆を導く箱船なのです。
「泥塗れの、な」
グドルフの唇がつり上がる。そうだとしか思えぬような有様に反吐が出るほどの怒りをその武器へと乗せて。
「お前のせいだ! くそが! くそが!! おぉっと口が悪いぞ僕。冷静になるんだ俺。ふぅ……俺の世界を使ったの許さねぇから」
ロードの言葉は苛立ちを乗せて、死ぬまで戦ってやるとその色彩を確認する。『赤』――それはどういう意味でのものなのか。
ロードのアクティブスキルが豊底比売に弾かれる。
「な、」
――それは予測していた。豊底比売の堅牢さは月閃のみを通すという悪あがき。ならば、だ。
光にぶつける闇を、その身に降ろすのは今しか在るまい。セララの剣が鮮やかに輝いた。
「さあ覚悟しなさいね、過保護なお母さん。いい加減子離れ出来ないと、子供達が大人になれないわ!」
ザミエラはセララとタイミングを合わせる。ひたすらに攻めてる。これは『現実の焼き直し』のようで――少し違う、電脳世界での出来事。
だが、電脳世界だからといって手を抜くことはしなかった。硝子の刃が無数に突き刺さる。
――この国の更なる発展を見たくはないのですか!
「これで十分では!?」
かぐやは『豊底比売をブチ転がし』にやってきた。魑魅魍魎。神であろうと竹槍で突き刺してやる。それが月世界の姫の仕事である。
黄泉の姫になど負けて逸らぬのだ。打たれ強さは自慢である。
「さあ、皆様方……ここで仕留めますわよ!」
かぐやの一声に頷いたのはきうりん。「豊底比売……私のパチモンみたいな性能しやがって!ㅤ許せねぇ!ㅤいくぞ!」と理不尽な怒りを彼女にぶつけて行く。
「踏ん張って!ㅤここ正念場だから!!
てか、目ぇ開けろよ!ㅤ何が神だよ!!ㅤこっち見ろよおい!! いや、目ェ怖ッ!? ガン開きじゃんかおい!!!!
人を正しく導くから神なんだよ!!ㅤお前なんか神じゃねぇ!! 私が神だ!!」
「違いません? 寧ろ、月の姫であるわたくしが神では!?」
かぐやときうりんの声を払うように光の槍が降り注ぐ。ずるい、ときうりんは叫んだ。その技を寄越せ。
●
「強すぎる光は時に民の眼を焼く。私はそれを良く知っている。
人々の安らぎには夜の安寧も必要なんだ! 人の世の調和の為に! ――『神異』! 今しばらく眠りなさい!」
応えた桜の剣が豊底比売へと突き刺さる。夜の気配が傷口からじわりと滲む。
「スティアちゃん!」
「任せて――!」
左手から神速の居合いを。それは叔母の動きを模倣した氷の花。鋭く研ぎ澄まされた其れがばちり、と音を立てて弾かれる。
もう一度。
「自分の思い通りになる奴は心の中であざ笑いながらかわいがり、思い通りにならない奴は家族にまで命を狙わせたり、生贄として喰らおうなんて横暴すぎるだろ。
本来なら存在していないのなら――この国の為に何もした事が無いだろうし」
――いいえ、この国の発展を、栄華を眺めなさい。子よ。我が権能による文明の花咲く様を!
フェアレインの荷電粒子砲より夜の閃光が放たれた。豊底比売は『本来は存在していない』。それ故に、この国が有り得ざる発展を遂げている。
帝都の文明が花咲いたのが彼女によるものであろうとも、国をも貪るその有様を決して赦すわけには行かず。
「マザーはこの瞬間にも頑張ってるんだ、おれ達ができるのは元凶を一つずつ潰す事だけだぜ!!」
故に、ルージュは手を開いた。『侵食』の予兆――それが体を包むことさえも気にしない。
「犠牲は少ない方が良いだろ。ねーちゃん達、後は、任せたぜ!!」
セララやスティア、桜、フェアレイン――皆に任せてルージュはココで耐えきるが為に。
愛の力(ルージュアタック)は目映くも豊底比売へとぶつかり、弾かれる。
「ッ、マザー達のためなんだ!」
ルージュの肩をぐ、と支えて白銀の騎士ストームナイトが吠える。ストルムガングの切っ先に乗せるのは月の気配。
「何が国産みの神か! 人々の意志を抑えつけ己が意に沿うように捻じ曲げる! そんな行ないをしておいて『人々のため』だなどと、笑わせる!
貴様の所業、すでに神のものに非ず! 化生のもの也! このストームナイトの剣にて、その悪業ごと貴様を断つ!」
つづりやそそぎを悩ませた。霞帝も、晴明も、長胤も、神霊たちも、本来はもっと穏やかで優しい。
あの『影法師』――己が、厭うた存在から得た力を駆使するなど『あちら』で笑っていても仕方が無い。
それでも、諦めたくは無かった。
「魔哭天焦――『月閃』! 宵闇の騎士、ストームナイト・ノワール、参る!」
走るストームナイトの傍らから食い破るように飛び込んだのはコル。
目映い光が身を焦がす。其れ等は周囲を焼け野原にするが如く、陽の気配を漂わせて。
「……恐ろしい雷などには負けてはやりません」
あんぐりと口を開いて狼の牙を突き立てる。月閃が少女の体を獣へと転じる。食い千切れと牙立てた乙女を振り払う豊底比売の指先が蓮華の花を生み出した。
それは瞬時に黒く染まり、彼女の体を捕らえて放さない。
――赦しません。
ならば、赦さぬのは此方もだとデルさんを抱え上げたトモコ・ザ・バーバリアンが笑う。
「――……スウゥ……なるほどネ、妙に気分が昂揚しやがル……。
ヤりまくってハイになるのとも違ウ、弩級のエンジンをぶち込まれたかのような活力と全能感ダ。
果たしてどんな代償があるやラ……だがいイ、これが必要ってンならこの熱に任せてヤるまでサ!」
その髪は炎の如く燃え上がる。力が滾り、高揚する。遣ることは変わらない。直感を活かして叩き込んで叩き込んで、死ぬまで戦うだけだ。
「アタシを前に予兆なんて悠長な真似するツケ、たっぷり支払ってもらうゼェ!!」
神だろうが何だろうが、殺せる相手に畏れる訳もなく。
「神を尊ふ気持ちはあれど、正にあれは唯我独尊と言ったところか……親に従い生きるだけが道とは言わぬ。
人を尊び、自ら考え歩く事さえ赦せぬのならば、やはり貴方は成り損ないなのだろう。
私の知る神々は、例え愚かな間違いを起こせども背を向けたまま見捨てはしなかった。
信仰などで心を縛る事もしなかった。…… 豊底比売よ、貴方は何を望んでこの地へ来たのだ!」
清鷹は叫んだ。己が声音に応えは返らない。彼女は人造の神。つまりは、知らぬのだ。
己がどうしてここに在るのかさえ。それは横暴と呼ぶのだとねこ神さまは『普段』の姿で立っていた。黄泉の神、己も神格と呼ばれた少女。
「侵略の手引きとは、大した邪悪っぷりだねえ、豊底の?
狂信者だけ集めて、侵略バンザイで皆ハッピーって? そんなだから神擬きなんだよ、ド三流め!」
苛立ちの如く。死など畏れるに足りず。元より、バスティス・ナイアというその体は『死が積み重なった』存在であったのだから!
「アンタの本当の名前を教えてあげるよ。『神似』だよ、神の真似事に過ぎないのさ」
――私を愚弄するというのですか!
「三流め、神に仇なすのはお前の方だ!」
ねこ神さまは叫ぶ。
真性怪異、その恐ろしさをデイジー・ベルは知っている。紫電が迸れども、そんなことを気にしている場合では無い。
叩きのめせ、叩きのめせ、力の限り。全てを込めて。
「私は狂気(エラー)だ! お前の声など聞こえない!」
――――――――――――――!
耳を劈く、その言葉を。入江・星は確かに聞いた。
「豊底比売、この国根付いた怪異、邪悪、本来の名を、神異。
確かに、貴女の作り上げたものは差別を無くし、あまねく光の中で救われたものもいるのでしょう。
しかし、他者を侵し目を焼かんばかりの光で包むだけでは、暖かな闇と共に生きるものは死するのみ。
結局はひとりよがりなんですよ。神を名乗るのであれば、ただ見守っていれば良かった。
知恵を貸し、祈りを受け取り、そこに在れば良かっただけ――我欲に溺れた時点で、神威は地に堕ち、神異に成り下がったのです」
そうであれと、望まれたモノが『干渉』であったというならば。
神様は人の信仰で作られる。この国の在り方が間違っていたのだと、そう断ずるしか無い。
己の体は月閃一度きり。それだけでもよかった。星の周辺に光が散る。星が瞬くかの如く、地へとおんなの体を叩きつけて。
「ベルは、狂気なんかに、飲まれたり、しません。
狂気に、なってしまったら、ベルは皆様を、守れません。……だってベルは、皆様を守る、勇者ですから」
だからこそベルは一番前で豊底比売を受け止め続けた。
「めっ、めっ、がおがお、がおーーーっ!」
最後の力はくまの一閃。もう少し、あと一手が足りない。ベルの側を跳ね上がったのはにゃこらす。
「真性怪異ッ!」
にゃこらすは叫んだ。真性怪異、それを倒せたならば『討伐不可能な怪物』じゃなくなるのだ。
世界を違えようとも、それが正攻法だと言われなくとも。巫女に云ってやれば良い。「倒せたぞ」と。
「お前はカミサマじゃない。この国に取り憑いただけの寄生虫だ!
――アイツらの意志を、心をお前如きが愚弄するんじゃねぇ!!」
幾重にも、真性怪異と巡り会った経験がある。友のため、自分のため、何のためかと言われても、それだけの我欲だ。
我欲に溺れた者は神にあらず。所詮は人である。
にゃこらすは現実世界に直ぐには戻れぬ身であっただろう。だが、それでも構わなかった。精一杯のその恩恵を謳歌すれば良い。
「ッ――砕け散れ!」
デイジーの声音に、にゃこらすは逢わせるように攻め立てた。己の身に走った痛みなど、四肢を千切られたかのような幻痛など。
気にする余地もないほどに。
「余所見か」
ヨハンナが笑った。唇を吊り上げた、女の炎が復讐に燃えている。
侵食なんて、全て自身が受け止めてやる。これ以上は、ヒイズルも希望ヶ浜も侵食(けがれ)させない。
おんなの身体を鮮やかな光が包み込む。それでも、食らい付いた。
穢れに塗れた己の血液は神をも貫く刃となって。
――私が愛しき我が子を導かねばならないのです!
「そろそろ子離れなさいませ」
「ええ、親とは何時の日かは手を引くモノです」
二人の菫花はころころと笑う――その声に、豊底比売の手が伸びる。
――ああ、神を咒うと云うのですか!
恨み言だ。ただ、それだけだ。彼女は真性怪異と呼ばれた『化け物』に過ぎぬ。
おんなの体がぼろぼろと溶けて行く。強すぎた光がおんなの体の中で弾けるように地へと落ちて吸い込まれて行く。
「……おかあさま」
ぽろりと零された瑞神の言葉に、イルーはそっと寄り添った。
彼女にとっては『本来は存在しないはずの母』が今死んだ。そうして、暗き夜が訪れる。月を喰らた陽は霧散し、静寂が落とされた。
●
祓い給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え――
《母》は神で在った。
《母》は自らの命を雫と化し黄泉津を産み給うた。
《母》の命により育まれし万物の命は心を宿し、生命の軌跡を紡ぐ。
《父》は産み落とされた子らを育んだ。國の抱きし大地の癌に御身蝕まれようとも。
《『それは、目に見えぬ存在であるからこそ尊いのであると教えられた』》
故、神使は其れをも祓う。
この地に芽吹く命全てに祝福あれ。曙光に訪れるは常闇を。
曙光を与え給う神をも咒え、常闇を求めんとする者へと祝福を――此にて神逐は為されたのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
この度は<神異>決戦及びシナリオ群にご参加頂きありがとうございます。
期せずして、神威神楽の<神逐>とちょうど同じような時期に『もう一度』を行わせて頂いたのだと思うと不思議な心地です。
お話の続きはTOP等も合わせてご覧下さい。
此度、神の狂気を打ち払いこの帝都に平穏をもたらしたのは神使皆様です。
帝都は其の儘、ありのまま残ります。
高天京特務高等警察として、皆様のお手を借りる機会がこれからもクエストとして少しだけ在るかも知れませんね。
お疲れ様でした。
参加者の皆様全員描写させて頂きました。リプレイ中、抜けておりましたら申し訳ありませんがファンレターでお知らせ下さいませ。
それでは、また平和な神咒曙光でお会い致しましょう。
GMコメント
夏あかねでございます。長らくの帝都星読キネマ譚は第三幕。『神異』を倒しに行きましょう
●目的
『真性怪異』豊底比売の撃破(重要目的)
●此岸ノ辺(高天大社)
神咒曙光の此岸ノ辺二存在する高天大社。
無数に鳥居が乱立し、彼岸花の咲き誇ったこの場所が決戦の舞台です。
豊底比売は『現実世界』とリンクをし力を強めています。
周辺には無数の兵が出兵し、もはや此岸ノ辺のみでは収まらぬ――帝都を巻込んだ戦となるでしょう。
兵士たちは不殺を行うことで新色を解くことができます。
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
==例==
【A】
紅宵満月 (p3y000155)
なぐるよ!
======
●行動
このエリアでは豊底比売の権能を帯びた『栄華の光』が以下の効力を発揮します。
a、このエリアでは『狂気の呼び声』が発生し続けます。
b、フィールドエネミーに『栄華の誉れ』を与えます。この攻撃は『不殺以外の攻撃でとどめを刺した場合』でも不殺扱いになります。
【A】帝都市街地
此岸ノ辺へと繋がる諦星の帝都での市街地戦です。一般人の避難誘導他、エネミー撃破が求められます。
●一般人の避難
帝都の住民が戦火に巻込まれぬようにと配慮した戦い方を見せます。一般人は皆、少し離れた『加護の地』まで誘導すれば良いでしょう。
加護の地とは庚が見つけてきたバグの起こっている場所です。双子巫女・恵瑠が戦場の維持を務めます。
●『暦』
御庭番衆『暦』です。黒影 鬼灯(p3p007949)さんのR.O.Oの姿を始め、十二月と呼ばれた暦達が戦います。
・黒影 鬼灯(p3p007949)
頭領。バッドステータスを駆使した戦いを得意としています。非常に頭がキれ、妻である今園章との連携を得意とします。
鬼灯はこの戦場では有力エネミーであり、彼が倒れない限り暦は戦い続けるでしょう。
・今園 章
今園賀澄(霞帝)の姪御。傀儡師であり遠距離での攻撃を得意とします。彼女には流星が護衛に付きます。
章はこの戦場では有力エネミーであり、彼女が倒れない限り暦は戦い続けるでしょう。
つまり、鬼灯と章の何方をも倒しきる必要があります。
・水無月
今園 章の護衛。非常に高い偵察能力を有します。BSを得意とし良く当て良く避けます。
>水無月隊
基本は索敵部隊。戦場の目を担います。彼らを撃破することで暦の『戦場把握』が落ち、攻略が有利になります。
>涼暮 流星
水無月の直属の部下。流星(p3p008041)さんのR.O.Oでの姿。章の護衛。非常に高い偵察能力を有しています。
・睦月
忍者刀による物理と忍術による神秘を敵により使いわける両刀型。バランスアタッカーです。
・如月&弥生
鎖付き鉄球での攻撃を得意とする変則型アタッカーと罠設置を得意とするBSアタッカーのタッグです。
・卯月&師走&長月
タンクです。大型の盾を使用しての防御陣営を張っています。
また、長月は高命中での怒りを付与する回避盾です。
>卯月・師走・長月隊
非常に堅牢な忍びたちです。前線での足止めに一役勝っています。
・皐月
至近距離でのアタッカーです。不殺を得意としているようです。
・文月&葉月
両名での連係攻撃を得意とする。回避型のアタッカー。痛烈な攻撃を与え、息を吐く間も与えません。
・神無月
回復役。式神を使役しての戦闘も可能。紙耐久ですがタンクの後ろに隠れています。居ると厄介な人。
>神無月隊
ヒーラー部隊。ある意味で居ると戦場を立て直されるために厄介な人たちです。
>大月逢花
回復役。逢華(p3p008367)さんのR.O.Oでの姿。神無月隊として彼と共に戦います。
・霜月
銃で戦う遠距離ファイター。と言えども、接近戦もある程度は得意とする。
>霜月隊
援護射撃を数ターンに一度行います。幾ばくか厄介です。
【B】高天大社
双子巫女つづりそそぎは避難済み。敵の本陣となります。
この戦場では豊底比売の呼び声が響き渡っているようです。
●豊底比売
真性怪異。げに恐ろしき存在。言葉にするのも難しき神様。
女神であり、現在は顕現しているために一人で動き回ります。
・呼び声に似た狂気を発します。
・非常に高いEXFを有します。
・回避はほぼ行いません、が、防御力と自己回復に優れています。
・事前に『何らかの予兆』を行った後、広範囲に強攻撃を行います。
・『侵食』(A):????
・神威(黄泉津):P
黄泉津に存在する限り発動される権能。
自身と大地を害したそれを人々へと受け止め続ける事ができる耐久。そして、それを『人々へと返す』報い。
詰まりはダメージの無効化と強力なダメージ反射能力です。が、月閃の使用で、無効化できます。
●黄泉津瑞神
瑞獣、瑞兆、吉兆の獣と呼ばれた神の娘。白き獣。大精霊。
黄泉津では信仰される守護神であり、黄泉津を護るために存在しています。
多数の範囲ブレイクや特殊レンジでの強力な攻撃等々、様々な攻撃を宿しています、が、詳細な戦闘能力は不明です。
●霞帝&無幻
霞帝と彼が所有する封魔星穹鞘『無幻』です。
霞帝の術式は周囲に無数の剣を顕現させ、其れを使用しての近接戦闘タイプです。封魔星穹鞘『無幻』もその戦い方に協力し、彼と共に戦場の維持を行っています。
非常に強敵であり、彼の周囲には護衛役が無数に存在しているようです。
封魔星穹鞘『無幻』は星穹(p3p008330)さんと酷似した姿をしています。
●滝倉 織
黄泉津瑞神の神官。豊底比売の巫女。巫術による戦闘を行います。
豊底による侵食が強いようですが、現在は霞帝を護るための戦いを行っているようです。シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)さんのR.O.Oでの姿です。
彼女は瑞と黄龍、黄泉津を愛しています。それゆえの行動です。彼女は血筋ゆえの強き侵食を受けていますが祓うことで『国の立て直し』のお役に立つでしょう。
●火乃宮 明瑠
黄泉津瑞神の巫女。アルテミア・フィルティス(p3p001981)さんのR.O.Oでの姿。
戦闘スタイルは自身の霊力を青色の炎に変化させている。妹・恵瑠と比べれば呪術は劣るが武術の才能に優れる退魔師です。
彼女の侵蝕は血筋ゆえです。滝倉の神子、織と同様にその侵食を祓う事で国の建て直しのお役に立つでしょう。
●白薬叉大将
通称を白太郎。ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)さんの関係者ポメ太郎のR.O.Oの姿。
とてもかわいくておおきなわんわんです。戦闘では容赦しません。
●侵食度<神異>
<神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。
●魔哭天焦『月閃』
当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、侵食度に微量の影響を与えます。
●重要な備考
<神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
<神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)
又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
(当戦場ではサクラメントは程近くにあります)
それでは、ヒイズルをむしばむ神を――再びの神逐にて。
※本シナリオは運営スケジュールの都合により、納品日が予定よりも延長される可能性がございます。
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