シナリオ詳細
<絶海のアポカリプス>絶望に拳を掲げよ
完了
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オープニング
●おわりのはじまり
――人間共。『冠位』を傷付けし者共よ。その顔を見てやろう。
その小さき力を嘲り、その小さき力を僅かばかり認めて。
我が好奇と興味の的として、貴様等の姿を覚えてやろう。
絶望等と生易しい、後付けの廃滅等問題にもせぬ。我は神威。我こそ世界。
光栄に思え。たちどころの感謝に咽べ。
称えよ、竦め。許しを乞え。我が名は滅海――滅海竜リヴァイアサンなり!
大海原を爆砕して現れた、あまりにも巨大すぎる怪物。否、『滅海竜リヴァイアサン』の存在は魔種たちを倒し少なからず勝機を感じていた海洋海軍たちを一転して絶望のムードで覆してしまった。
高層ビルがうねるかのごとく巨大なその体躯は、ただ動作するだけで荒波を引き起こし船を転覆させてしまうだろう。未知の力によって守られた鱗はいかなる攻撃も弾いてしまうだろう。
言うなればそれは、『物理的な絶望』であった。
「た――」
味方の船が次々と転覆するさまに、そして天を突くがごとくふり上がった巨大な頭を前に愕然としかできなかった海軍船長は震える顎でなんとか叫んだ。
「退避ィ!」
きわめて簡潔な命令だが、なにより正しい判断だった。これだけの敵を相手にできることは退避をおいて他にない。
転覆した船から離脱した兵士たちが素早く泳いでは船へと無事な這い上がり、時には瀕死の重傷を負った者や意識の戻らぬ者がデッキへと寝かされる。
まるで地獄のような風景だが、まだそれは地獄の入り口に過ぎなかった。
●みんな一緒になれる、最後のチャンス
マリー・クラーク。別名『流氷のマリア』には夢があった。
素敵な素敵な兄弟達と自分が対等に笑い合い、まるでふつうの家族のようにひとつのテーブルについてシャイネンナハトを祝う風景である。
最高の夢。最高の宝物。それをきっとかなえてくれるのは、誰にでも垣根なく触れて、人の心を溶かしていく。
私の一番の宝物。
誰もがきっと、あなたになりたかった。
マリーは嫉妬の根源を知っていた。妬ましさとは、つまり――。
「ねえ、デイジー。私はあなたになりたかったわ」
だから。
いまこそ。
「壊れて崩れて溶けて混ざって、みんなひとつになりましょう」
マリーはリヴァイアサンの胴体の上に立つと、両手を広げて高く天へ掲げた。
まるで彼女の指揮に応じるオーケストラの如く、海面へ無数の氷の山がつき上がり、海軍たちの逃げ道を阻んでいく。
氷の山から再現なく生えていずる氷の人型モンスター『アイスガーディアン』たち。
船が氷山にぶつかったことで強制的に停止させられた海軍混成部隊デリンジャー少尉は顔面蒼白のまま武器をとり、海豹艦隊アシカ副長はデッキに転がった負傷兵たちを庇うように立ち塞がった。
水上バイクを船のそばにとめ、ゴーグルをあげて舌打ちする海軍将校ユーナバー。
「チッ、なんだこりゃあ。ここが俺らの墓場だってのか?」
「いいえまだです。まだ死んでたまるものですか。氷山の隙間を抜ける形でなんとか船を通せます。まずはせめて負傷兵だけでも退避させなくては!」
「あの『アイスガーディアン』を見ろ。ホテルのボーイみたいに通してくれると思うか? お荷物お持ちしましょうかって?」
アイスガーディアンたちの腕が剣やハンマーや大砲へと変わる中、まだ無事な海軍兵士たちがそれぞれの武器をかまえて挑みかかる。
なかの一人が、あなたへ――イレギュラーズへと振り返る。
「この場を突破するにはあなたの力が必要です。アイスガーディアンを倒すのでもいい、襲われる負傷兵を守るのでもいい。とにかく、ここを我らの墓場にするわけにはいきません!」
- <絶海のアポカリプス>絶望に拳を掲げよ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月13日 21時03分
- 章数5章
- 総採用数386人
- 参加費50RC
第4章
第4章 第1節
天を覆わんばかりに巨大な滅海竜リヴァイアサンへついに剣が届いたことで海洋王国および鉄帝国そしてローレットによる連合艦隊の士気は高まっていた。
その一方で、リヴァイアサンを失うわけにはいかない魔種『流氷のマリア』は次々と自らの能力を用いて氷の兵隊を作り続けていたが、それもイレギュラーズたちの猛攻によって潰えつつある。
リヴァイアサンは激しく傷つき、血を流し海を赤く染めている。
「そう……そう、なのね。私はもう、ここまでなのかしら」
竜の血によってできた真っ赤な流氷の上で、マリーは仰向けに倒れ、天高くへと手を伸ばす。
「なら……お仕事、しなくちゃいけないわね」
決着をつけるチャンスとばかりに攻め込むイレギュラーズたちを阻むように、突如として真っ赤な氷山が発生次々と突きあがっていく。
竜の血によって作られたアイスガーディアン……否、『ブラッドガーディアン』はマリーを自らの胸の中へと取り込むと、要塞のごとき巨大さをもって近くの船舶をつかみ取った。
子供が積木で遊ぶがごとく軽々と持ち上げ、そして彼女を見上げる艦隊の兵士たちめがけて投げつける。
爆発のごとき水柱と高波。次々と転覆する船。
「リヴァイアサンの血をあんなことに使うとは……今まで通りにはいかないぞ」
ある海軍将校はそう述べると、次々に発生する『赤い氷山』とブラッドガーディアンたちへと挑みかかった。
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・第四章の概要
シナリオ成功条件は依然『リヴァイアサンに一定以上のダメージを与えること』です。
リヴァイアサンから権能『神威(海)』が剥がされました。
これによって、今まで殆どダメージが入らなかったリヴァイアサンへの攻撃が有効となります。
一転して防衛に人員を割き始めた魔種『流氷のマリア』の防衛を突破し、リヴァイアサンの胴体へと攻撃を届かせましょう。
リヴァイアサンを倒しきることは現状不可能ですが、『水竜さま』の力によって封印することは可能です。
それが可能になるだけのダメージを与えるのが、今回の主目的となります。
※水竜さまの様子はこちら(https://rev1.reversion.jp/page/suiryuusama)
・転覆した船と危険
海兵たちの船が次々と転覆し、多くの兵士および負傷兵が海へと投げ出されました。
彼らの多くは水中行動スキルをもっているのでこれ自体に危険はありませんが、新たに投入された『ブラッドガーディアン』による襲撃に晒されています。
彼らを保護し、救出することができれば『味方艦隊』へのダメージを軽減することができます。
・ブラッドガーディアン
リヴァイアサンから流れ落ちる血から作られたモンスター。
天使型、船舶型、巨大型、騎士型や雄牛型などステータス特化型に加え、水中戦闘を得意とするタイプと飛行戦闘ペナルティを軽減できるタイプが投入されます。
よってこの章からはタグ構成が変わりますのでご注意ください。
・防衛突破
第三章に引き続き戦闘を要します
リヴァイアサンが暴れることですぐに状況はリセットされてしまうので、何度も防衛ライン突破を仕掛ける必要があります。
チームは偶然近くにいた面々で組まれますが、特に組みたいメンバーがいる場合は『GMコメント』にあるグループタグの項目を参照してください。
今回生成されるアイスガーディアンは出し惜しみなしの特別製ばかりです。
氷でできてるのに炎を吹いたり電撃を浴びせたり超高速で動いたり巨大かつ頑丈だったりとそれぞれ特化した能力が付与されています。
これに加えて数だけは大量にいるクレイオ兵という狂王種も発生し、頭数で防衛しようとしています。
・タグ概要
プレイングの冒頭に自分の役割を示したタグを記載してください。
【空中戦】
☆戦果をあげると味方艦隊のダメージを軽減できます
飛行するガーディアンが高高度移動によって前衛艦隊を突破、後衛に撤退している兵達を直撃しようとしています。
これを阻むため、高高度での飛行戦闘を行う必要があります。
海兵たちも一部が空に上がって戦っているので、彼らと共に率先して戦うことになるでしょう。
(戦闘には『飛行』または『飛翔』スキルが必要です。簡易飛行や媒体飛行では戦闘が行えません)
【水中戦】
☆戦果をあげると味方艦隊のダメージを軽減できます
船よりずっと深い海中を突き進み、後衛部隊へ攻撃を仕掛けようとしているガーディアンたちがいます。
これらを撃破するため、水中戦闘を行います。
(戦闘には『水中行動』や『水中親和』スキルが必要です)
【陸戦】
☆戦果をあげるとリヴァイアサンへのダメージを獲得できます
リヴァイアサンの胴体はやや脱力状態にあります。
しかしそこへ到達するには『血の山脈』を突破しなければなりません。
高低差の激しい血氷のフィールドを駆け抜け、様々なブラッドガーディアンを倒しながらリヴァイアサンへの道を切り開きましょう。
【船舶戦】
☆戦果をあげるとリヴァイアサンへのダメージと味方艦隊のダメージ減少の両方をほどほどに獲得できます
船舶型ブラッドガーディアンが艦隊規模で攻撃を仕掛けてきます。
狙いは海洋・鉄帝・ローレット連合艦隊の前衛部隊です。これをいかに素早く撃退できるかが戦況を分けることになります。
【救助班】
☆戦果をあげると味方艦隊のダメージを軽減できます(また、場合によっては特殊な効果が発生します)
海に投げ出された負傷兵たちを回収、救助しましょう。
どれだけ手際よく回収できるか。そして治癒を行えるかがポイントになります。
【流氷のマリア】
※このパートは成功条件に含まれないエクストラパートとなっております。
強力な魔種である『流氷のマリア』との戦いを継続します。
『流氷のマリア』はリヴァイアサンの血を用いて巨大なブラッドガーディアンを形成。自らを取り込ませることで高い戦闘力を獲得しています。
成功条件には直接関わりませんが、これを放置すると後々厄介になるでしょう。
第4章 第2節
複数の船が沈められ、仲間達が撤退と救助を続ける中、戦闘続行可能な戦力を再度かき集めての防衛作戦が決行された。
「モウ、何度目になるかナ……」
船の甲板にかがみ込み、手すりを台代わりにしてライフルを構えるジェック。
巨大化した変異種ドレッドアナザータイプとの戦いに勝利し、次なる戦いに備えようとしたその矢先。海中から突如出現したリヴァイアサンと本気の姿を見せつけて舞い戻ってきたアルバニア。彼らは残存兵力をかき集めての大襲撃をしかけ、一時は全滅すら考えるほどの窮地に、ジェックたちは陥っていた。
皆で必死に立て直し、増援を受け、それでも強力すぎるリヴァイアサンの力に圧倒されている。
比較的その被害が及びづらいこのエリアでさえも、そろそろキツい頃合いだ。
イレギュラーズたちは持ち前のタフさでしのいでいるが、海洋及び鉄帝海軍の消耗は目に見えて危険なイエローゾーンへと突入していた。
……と、きわめて切迫した状況を説明してはいるが。
「誰が来ても撃つだけだシ。簡単」
ジェックは相変わらずのテンションで、スコープ越しに見えた船舶型ブラッドガーディアンの核とおぼしき箇所を射撃。
これまでのブラッドガーディアンは胸の辺りにある核を破壊すると簡単に撃破できたが、今回のブラッドガーディアンは核の守りが強固で打ち抜くことが難しい。
「船舶型とか、もうナンでもありジャンね」
それならばと相手の砲台を狙って攻撃。
複数ある砲台のうちひとつに弾が命中し、内部で生成していたであろう爆裂術式弾が破裂。炎上していく。
その様子を見て、ヴァイオレットは懐から一枚のカードを引き抜いた。
「……」
カードをさげ、かわりにリボルバー拳銃を抜く。
「いやはや、ただの占い師たるワタクシがこんな世紀末めいた戦場に駆り出されるとは。
何処を見渡しても絶望、絶望。どん詰まりの運命ばかりが見えてますねえ。ヒヒヒ」
ガーディアンからの砲撃が浴びせられるが、ヴァイオレットはそれを拳銃の射撃によって迎撃。
弾を撃ち尽くしたところで弾倉を解放し、綺麗な布袋に空薬莢をさらさらと流し込んでいく。
「ですが、わかりきった絶望など面白くありません。覆してこそ、運命」
ルージュのように美しい色の弾を弾倉へと装填。ガーディアンへと発射していく。
大地はは腕組みをして様子を観察していたが、フウと息をついて手すりから身体を離すと黒羽のペンで空中にラインを引き始めた。
「一刻でも早く敵を殲滅することが、船や皆を守り、道を切り開くことになるならば、迷わずそうしよう。
さァ、俺達が生き延びるためにモ、さっさと倒れてくれヨ」
大地の描いたラインは現実の境目を切り裂き、有るはずのないアネモネの幻影をガーディアンへと見せつけた。
ガーディアンにもあるだろう精神を深く傷つけ、溶解させていく大地。
「ところで、さっきはどんなカードを引いたんダ?」
振り返る大地に、ヴァイオレットはただ黙ってカードを返して見せる。
それは、塔のアルカナカードであった。
交差する無数の砲撃。
船舶型ブラッドガーディアンもイレギュラーズたちの船も炎上しはじめ、これ以上は航行が難しいというところでヨハナは大胆な作戦を決行した。
「やややっ!? 竜牙兵ならぬ竜血兵っ!?
それもそこはかとなくイチゴ味のかき氷風味っ!
しかも見た目のバラエティーが豊かで大人から子供まで受けがいいとはわかってらっしゃるっ!
幸いにも砕氷船でつっこんでたところですっ!このまま端から端まで平らげちゃいますよっ! ということで皆さん衝撃に備えてーっ!」
船の操縦レバーをぐっと握りしめると、ヨハナはガーディアンめがけて急加速。
「ラムアターーーーッックッ!」
猛烈な勢いで突っ込んだ船はヨハナのパワーを全乗せし、ガーディアンの船首部分から側面にかけてを盛大に破壊。
側面部からはえた腕が船を掴み、無理矢理板を引き剥がして沈めようと暴れ始める。
「腕っ節に頼ろうってか。船のくせに生意気な野郎だ。
さあ、ここが踏ん張りどころだ、気張って行くぜえッ!!」
衝突の勢いにあえてのっかる形でガーディアンにとりついていたグドルフ。
核のある部分へとがしがしよじ登ると、自前の斧を猛烈な勢いで叩きつけまくった。
「ぶっ壊れろデクがッ!」
バキンとヒビ入り、核へと届きそうになったその時。ガーディアンからはえた巨大な腕がグドルフをむんずと掴んで引き剥がした。
「あっ、この野郎! そんなんアリか! うおお!?」
ぽいっと海に放り投げるガーディアン。
が、それを見越していたミーナが別のボートで滑り込んでキャッチ。
「おう無事だな。っていうか臭!」
「馬鹿野郎おめえ戦士の帰還だぞコラ」
「やれやれ」
ミーナはグドルフをボートに転がすと、剣を抜いて構えた。
「厄介な能力だ。まさか血から兵を作るとはな。
放置しても、おけねーよなぁ」
『腕の生えたお船だわ! 鬼灯くん!』
「そうだな、嫁殿。役者(前衛)を潰す気だろう。だが花形の居ない劇などあってはならない」
『黒衣としては見過ごせないのかしら?』
「忍としても見過ごせないな、嫁殿」
キュルル、と糸を展開して覆面のしたから目を輝かせる鬼灯。
「さぁ、舞台の幕をあげようか」
グドルフをボートに残す形で二人同時に跳躍。
ミーナは早速魔術をとなえてその辺の船の残骸を巨大な拳に変えるとガーディアンへとたたき込んでいく。
対抗して繰り出したガーディアンの拳と正面からぶつかり、砕き合う両者。
「この劇は邪魔をさせない、悪意に呑まれて沈むがいい」
そうしている間に糸をからめた特殊な機動で音もなくガーディアンの肩に忍び寄っていた鬼灯は、呪術の込められたクナイを心臓核の部分へと突き立てた。
追撃をうけるまえに素早く退避。
かわりにミーナの蹴りがクナイを無理矢理核へと打ち込んだ。
ボゴンという淀んだ音と共に、血の結束が崩れてたちまち形を失うブラッドガーディアン。
成否
成功
第4章 第3節
海面をはい進む巨大なムカデを想像できようか。
船舶型ブラッドガーディアンはその巨大を禍々しく動かしながら、全身節々に設置された魔術砲台から海洋海軍の船めがけて光学術式による波状砲撃を仕掛けていた。
『流氷のマリア』によって一時混乱し複数の船が転覆している中、この砲撃はピンチの海兵たちにトドメを刺すのに充分な効果をもっている。
だが。いやだからこそ。
「行かなきゃならない。だろう、皆!」
行人は流水の精霊ワッカの作った笹舟状のフィールドに立ち、浴びせられる魔術光線に対して防御フィールドを展開していく。
「俺が海賊の真似事とはなあ……生きて旅して見るものだなあ。
やってやるさ、存分に!!」
「海原ゆえ遮るものが少なく、接近してしまえば互いのダメージが最大化してしまう海戦では、超長射程の攻撃はそれだけで有利と言えるでしょう。まずは距離を保って砲撃と防御を繰り返してください」
瑠璃は忍術によって作り出した小さな木札を虫へと変化させ船舶型ブラッドガーディアンへと発射。
砲台にとりついては自爆を繰り返す虫の群れを放った。
彼女に続くようにライフルによる射撃を繰り返す海兵たち。
彼らの攻撃によってガーディアンが気をそらした隙に、救助部隊に回収された味方の兵たちは後衛へと撤退していく。
「艦隊規模の攻撃。普通に立ち向かえば厳しい戦いになるだろうな。だが、この場に立つ君たちの命は、あのような人形にくれてやるほど安いものではないだろう、ああそうだ、それはこの泥人形が保証する」
そんな中で船員達を激励する役割を担っているのがマッダラーである。
「命尽きるそのときまで戦い続ける。誰かの命令でなく、自らの意思で戦いに赴く戦士たちよ。君たちの為なら、私はこの身が朽ちるまで自らの役割を全うしようぞ」
彼のある意味実感以上の実感がこもった演説は兵達の士気を引き上げ、戦友(?)によって魔改造されたギターをかき鳴らしながら天に銃砲を鳴らすことで、さながらマーチングバンドにせきたてられるかのように場の空気が熱をもった。
「一人では小さな拳でも、掲げた意思は光となって重なり、やがて暗雲を切り裂く道筋となる! 絶望に! 未来に! 拳を掲げよ!」
「いいぜ、その調子だ」
隣の船ではリックが仲間たちを扇動しつつも、行人の船へ光の点滅による信号を送ってきた。
「味方艦隊を助けるのも、ブラッドガーディアンを突破してリヴァイアサンに一撃入れるのも、欲張りって言われようがどっちもやろうぜ!
手を変え品を変え攻撃してきてるってことは、あっちだって盤石じゃないんだ! きっといけるぜ!」
リックの言うとおり、敵側には露骨な焦りが現れていた。
当初リヴァイアサンという無敵の存在を盾にしつつ無限に低コストなアイスガーディアンを生成し海兵たちの心を折るという作戦が『流氷のマリア』には有ったはず。しかし水竜様の力によって無敵の権能を剥奪されたことで立場は一転。
イレギュラーズの活躍と扇動によって攻撃的になった海兵たちに追い立てられる形で、切り札とも言うべき『リヴァイアサンの血』でできたモンスターことブラッドガーディアンを大量生成。
格好としては、こちらの弱っている部分を必死に叩いている状態だ。
そして味方をこれまで扇動してきたのは、リックたち臨時指揮官である。
敵が焦って弱点を突こうとしてきたとき。必ず隙ができる。リックはそれをよく知っていた。
「まずはこのムカデ野郎からだ。両サイドからいくぜ!」
船を左右に分けて展開。砲撃をどちらに集中すべきかガーディアンが迷い、結局双方へと振り分けたことで攻撃が散漫化する。
「迷った時、ヒトは裏道に頼ろうとする」
ダークアイがブオンという音と共に浮かび上がり、自らの影を壁のように展開。
あらゆるバッドステータスが込められた光学砲撃のことごとくを、その影の中に吸い込んでしまった。
「我輩らが困惑し、停滞し、時に同士討ちし自己破滅することを望んだか。道理である。道理だが、ゆえに哀れだ」
やれやれといった様子で目を瞑り、そして開く。
眼力によって放たれた砲撃がガーディアンのボディに命中。
「どんなに血を滾らせようとも、凍てつかせようとも、私達の希望の灯火はまだ燃え滾っている! なればこそ、私の焔も更に燃え盛る!」
鳴は加速してすれ違っていく船の勢いにあわせて、焔宮式呪術による巨大な炎の刀を形成。まるで海老の殻をむくかのように、装甲をがりがりと削りとっていった。
脇をあけられた形になったガーディアンは焦りをみせ、鳴たちへと全力の砲撃を開始。これ以上の攻撃をさせまいとする乱射を霊刀で切り裂くことで防御していく鳴たちだが、さすがに砲撃をすべてさけるにはガーディアンが強すぎる。船をターンさせてなんとか撤退をはかる――が。
それこそが狙いであった。
鳴たちに集中しすぎたガーディアンは、もう一方に回り込んでいた船の存在を忘却していたのだ。
「よそ見はだぁめ」
走る船の手すりに腰掛けて、アーリアは頬を朱色に染めた。
二本指を唇につけて、投げキッスをガーディアンへ送る。
と、それだけでガーディアンの砲台のうち半数が爆発炎上。
「ブラッディメアリーなら大好きなカクテルだけど、ブラッディガーディアンなんてお断りよぉ! 全部撃沈させちゃいましょう」
「『亢竜悔やしむ愛と正義の閃光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』」
船の船首部分にあえて仁王立ちしてポーズをキメる愛。
船の操舵手に『やれ』と目で合図すると、ガーディアンの横っ腹にこすりつけるかのように船体を叩きつけさせた。
と同時に相手のボディに飛び乗る愛。
「悪の竜が流すこの血と汗と涙は、まさしく悪が弱りつつある証拠です。
このまま膿を絞り出すようにその悪の心を絞り上げ、この海を広く覆うべきは皆さんの愛と正義であると示しましょう」
進化魔法鎌こと『S.O.H.IIH.T.』から発せられたハート型の巨大ツインビームサイズが振り込まれ、一枚刃が船舶の装甲を、二枚刃がフレームを切り裂き四倍の力でもって船舶型ブラッドガーディアンを斜めに切り裂いていった。
ここまでのダメージをうけて沈まぬ船があろうものか。
爆発炎上し海に傾くガーディアンから飛び立つ愛の手を、アーリアがキャッチして船へと引っ張り込む。
そして胸の谷間から小瓶を取り出すと小さく振った。
「祝杯はいかが?」
「魔法少女中ですので」
ピッと指をかざし、『けれどありがとう』と愛はキメ顔でいった。
成否
成功
第4章 第4節
転覆し、内包した爆裂術式弾への引火によって小爆発を繰り返しながら沈んでいく船舶型ブラッドガーディアン。
その上を、黒煙を突き抜けて無数の飛行型ブラッドガーディアンが通過していった。
複葉機のごとくプロペラを回転させて飛ぶブラッドガーディアンは自爆特攻型ガーディアンをボディにスタンバイさせ、撤退中の後衛艦隊へと進路をとる。
だが、イレギュラーズの誇る空中戦闘部隊がそれを許すはずなど無かった。
「空での物量戦なら、こっちも戦い方は考えてるよ! ドローン出撃!」
ニーニアのリュックサックから次々と飛び出した丸ポスト型郵便配達ドローンが飛来するガーディアンへと迫り、多角的な電撃放射によって機体制御を悪化させていく。
「君達を届ける訳にはいかないからね。ここで迷子になっていてもらうよ!」
袖に仕込んだフォトンメール発射装置を特殊起動。つなぎ合わせたカッターナイフのごとき剣を作り出すと、きりもみ回転飛行によってガーディアンの翼とプロペラを切り裂いた。
たちまち墜落していくガーディアン。
そんな味方の撃墜を気にもとめずにさらなるヘリコプター型ガーディアンが複数接近。
「まだくるの!? この海域、どこにいっても激戦で……でも、少しでも態勢を立て直して、次につなげるよ!」
アクセルはいつものバイオリン演奏戦法とは一転。特別な鯨の髭からつくられたという魔法の杖を振り、大量の光の弾を出現させた。
空中で猫の形をとった光はあちこちのガーディアンへと飛びかかり、回避行動をとろうとする彼らをたくみな機動で追尾。張り付いて次々に爆発した。
「船ばかりだからって飛行形態をとったみたいだけど、考えが安直すぎたね! オイラやニーニア相手に空中戦は不利だって知らなかったのかな」
「気づいたところで、もう遅い」
ニーニアとアクセルの防衛を突破できないと判断した後続の飛行型ブラッドガーディアンが大きく迂回コースを取ろうとした、まさにその時。
通常ではまずあり得ない速度で接近し、気づいたときにはボディを貫いて撃墜していたミニュイが現れていた。そう、過去形である。
通常、飛行戦闘では命中回避防御のほかに機動力が大きく損なわれるが、ミニュイは圧倒的機動力と諸々のペナルティを軽減する特殊な飛行技術によってほぼ一方的かつ爆発的な空中戦闘を可能にしていた。
はたから見る限り、彼女が複雑怪奇な8の時ターンを繰り返すたびに周辺の敵が墜落していくという、もはや魔法である。
「水底より生まれたものは、今一度水底に沈むといい。空は渡さない」
一方、ハンスは美しい碧六翼をたくみにあやつり、ミニュイの猛攻から逃れた鳥型のブラッドガーディアンを直接蹴りつけるようにして撃墜していた。
(戦場に来て、この翼で成した事、随分と変わった。こんなの、今までの自分では考えられなかったのになあ)
破壊したガーディアンから飛び退き、爆裂術式をあちこちへ発射。
「この翼で空を駆けて、敵を倒せる。僕にも誰かを助けることが、できるんだ!
冠位に、滅壊竜。既に英雄譚の役者は揃い踏み、ここにこれ以上の彩りは必要無いでしょう?
さぁ──そろそろ彼らには御退場願いましょうか!」
艦隊を逃がさないことが主目的だった第一~第二幕。リヴァイアサンの防衛が目的だった第三幕。だとするならばこの第四幕における『流氷のマリア』の目的は、艦隊の牽制と弱体化であった。
少しでも後衛部隊に兵を送り込み、弱った敵を減らすことで一時撤退を促そうという考えである。
それゆえ一点突破をせず、広く並んで一斉に突破を狙うのだが……。
「潮風が心地良いね。怒号や血の匂いもまた心地良い。
こんなにも良い気分だとお腹が空いてしまうよ!」
敵がアイスガーディアンからブラッドガーディアンになったことで俄然やる気をだしたマルベートが、そんな彼らを迎え撃った。
翼を大きく広げ、ぺろりと上唇を舐める。
「分かってたつもりだったけど、もう何が起きてもおかしくないね!
とにかく飛んでるブラッドガーディアンを撃ち落とすよ!
この先へは行かせない!」
一方で鋭い飛行姿勢で戦闘機型ブラッドガーディアンの前に立ち塞がったティスル。
「お母さんから貰ったお守り……今が使うときだよね! 天使の荒技、見せてあげる!」
ティスルはお守りの短剣を投擲しブラッドガーディアンに命中させると、その背後に突如現れて回し蹴りをたたき込んだ。
体勢を崩され大きく高度を下げるガーディアン。
そこへ待っていたのは例のナイフとフォークめいた槍を構えたマルベートだった。
一瞬にしてガーディアンの肉体を削り取り、血へとかえったところへ食らいつくように猛攻を仕掛けていく。
「『食事』を楽しもう。優雅に、堂々と! 折角この美しい世界で生きているのに、絶望している暇などないのだから!」
こうした戦法を横で観察していたランドウェラ。
呪印の力に頼らず腕が動かせるようになったからだろうか、余剰エネルギーを用いて浮遊の術を会得していた。
「やればできるもんだね。すごいでしょ」
「お見事でござる!」
ぱちぱちと手を叩く至東。
「……え、君はどうやって飛んでるの、それは」
「はははご冗談を。拙者サムライでござるからー」
「ござるからーと言われても!」
そんな当然でしょみたいなテンションで!
とか言ってる間に迫り来る天使型ブラッドガーディアン。
「無理矢理通り抜けるつもりでござるな」
「任せて。考えがある」
ランドウェラは突破しようと突っ込んでくるガーディアンへ剣を抜くと、衝撃の術を込めて真っ向から打ち込んだ。
ドッという激しい音と共に後方へと吹き飛ばされるガーディアン。
それによって航行能力の低下をはじめ派手に隙が生まれた。
「話は読めたでござる!」
至東は宙駆け(そらがけ)の技を使ってガーディアンの横をすりぬけると、素早く相手の翼だけを切り裂いてターン。反撃すらできぬまま、ガーディアンはそのままくるくると回転しながら海へ落下していった。
そのまた一方、空を飛んで急接近をかけてくる鳥型ガーディアンたち。
カイトは翼を広げて槍を構え、にやりとくちばしで笑った。
「この空も海も俺らのもんだ、てめえらなんかに渡さねーぜ! ――『爆翼』連羽!」
ホバリング姿勢から巧みに連射したカイトの羽根が爆発を起こし、彼を通り抜けてしまおうとしていたガーディアンたちの意識を強制的に自分へと引きつけた。 反撃の爪は至近距離での射撃を、カイトは恐ろしいマニューバによって次々と回避。三体のガーディアンを完全に手玉にとっていた。
カイトのこの超回避戦法はこれまでの外洋遠征において幾度となく活躍してきたいわば伝説。しかし今はそれだけではない。
三体のガーディアンが必死になってカイトを三方向から挟み込んでブロック。もう動けまいと今度こそ構えたその時。
「――今だ!」
カイトは『真下』へと急速落下。
その隙をしっかりと狙っていたシルキィとスノウスノウは別々の方向から一斉射撃を開始。
「後衛部隊には傷付いた人も大勢いる……ここで、敵の襲撃を許す訳には行かないねぇ」
「撤退している皆さんの手当てや救助が終わるまで、敵さんは絶対に絶対に通さないですの!」
シルキィの作り出した魔法のこもった小さな繭マシンガン。
スノウスノウが空中に描いた魔方陣から解き放つミニ蝙蝠の群れ。
それらがガーディアンたちに殺到し、ボディを滅茶苦茶に破壊していく。
攻撃によって激しいダメージをうけたガーディアンたちは墜落。
スノウスノウは額の汗をぬぐってため息をついた。
(逃げ出したい気持ちがあっても、飛行種系貴族の末席に身を置く者として、背中を向けるわけにはいかないですの!
こと空中戦であるならば、なおさら後れを取るわけにはいかないですの!)
どこかほっとしたようすのスノウスノウに、シルキィはほっこりと笑いかける。
(飾りに過ぎなかった羽が、今はこんなにも自由に動く。コットンちゃんの家に遊びに行ったときみたいだねぇ)
背中の羽根をぱたぱたとやって、シルキィもまた嬉しそうに8ターンを描いた。
――まさにその時、である。
成否
成功
第4章 第5節
――空が七色に割れた。
網をつむぐ光が雲も煙も空飛ぶガーディアンたちをも巻き込んで、全てを破壊しながら走って行く。
「まずい――!」
これに気づいたカイトやミニュイたちは仲間をつれて急速降下。飛行種海兵たちもすぐさま降下を開始した。
ギリギリのところで空を薙いでいく光から逃れ、勢い余って水没する海兵たち。
が、それでも光はとまらず海軍たちを『海もろとも』なぎ払おうとしているのがわかった。
逃げ切れない。
そう本能で察した、次の瞬間。
まばゆい光があたりを包み、そして、どうしたことだろうか……想像していた破壊は訪れなかった。
それが『あるもの』の犠牲によってもたらされた救いであったことは、後になってわかったことであった。
第4章 第6節
「た、大変なことになったっきゅ……!」
レーゲン&グリュックは船の手すりっていうか海入道海豹の端っこに捕まって落ちないようにじたばたしていた。
「今のビームはなんだっきゅ!? 海に落ちた人たちを助けるっきゅ!」
「リヴァイアサンをなんとかしないといけないのは分かっていたが……なんだこれは。冗談じゃないぞ」
同じくあざらしにしがみついて歯がみするウェール。
「怖いですにゃ。やっぱり竜種はこわいですにゃ……けど、だからこそ頑張りますにゃ!」
あざらしのおでこをぺちぺち叩いて指事すると、口を開けたアザラシがウェールたちを収容した。
「うにゃ。今回ばかりはにゃーもシリアスに本気を出すにゃ。いくにゃパーさん!」
「パカパカ」
サーヴァントがくもりなき眼でそんなことをいった。
「大丈夫だ。日記にも書いてあるパカ」
「ふ、不安にゃ……けど頑張るにゃ! てい!」
ニャーのねこぱんちでサーヴァントを海に突き落とすと、彼女(?)と一緒に海中に墜落した仲間達の救助を開始した。
「まだ息があるな? 仲間を統率してこの場から撤退するんだ。安心しろ、イレギュラーズも水竜様もまだ諦めていない!
だから君達も我らを信じて諦めるな!」
「きゅきゅ!」
てきぱきとけが人を回収しては船(あざらし)へと積み込んでく。アンファングは金具突きロープをつなげてけが人を回収すると、たくみに海を泳いで船へあがってきた。
「……俺一人なら記憶喪失だから思い残す事が無いと諦めがつくが。
俺の周りが生きる為、明日の為に頑張っているんだ。
絶望してる暇なんてねぇ!!」
負傷兵にトドメをさそうと海を泳いで迫ってくる鮫型ブラッドガーディアンを発見。アンファングは一転して海へ飛び込むと、ブラッドガーディアンたちの進行を我が身を盾にして阻んだ。
「俺が抑えてるうちに船をだせ!」
「馬鹿言うな、お前も行くんだよ!」
ウェールはアンファングにくくりつけたロープを力強く掴むと、けが人達に『天使の歌』を展開。
「う……」
意識を取り戻し、薄めを開ける負傷兵。
「俺たちのことはもういい。せめてあんたらだけでも」
「あきらめちゃだめですにゃ!」
アステールは赤の熱狂によって仲間達を強化すると、海入道海豹をぺちぺちやって撤退を開始。
「みんなつかまっててくださいにゃ! 一人だって置いていかないですにゃ!」
「にゃにゃー! もうツッコミいれてる余裕もないにゃ!」
ニャーが肉球ビームを連続発射。追いついてアザラシごとかみ殺そうとしてくるヤバい鮫型ブラッドガーディアンへと打ち込んでいく。
「もはや高笑いの暇もないか……アルパカよ、我に他者を癒すもふもふの加護を……」
「言ってる場合か!」
ロープで回収されたアンファングをウェールがキャッチ。
逃がすまいと飛び上がったガーディアンを、アンファングは咄嗟に抜いた剣によって切り払った。
バッと咲くように散る鮮血。
と同時に爪を繰り出し追い払うウェール。
鮫型ガーディアンを一時的に引き離したところで、ウェールは大きく叫んだ。
「アステール! 全速力だ!」
「だ、そうですにゃ!」
もっかい海入道海豹をぺちぺちするアステール。
更に集まってきた無数のブラッドガーディアンから逃れるように、全速力で後衛部隊へと撤退していった。
成否
成功
第4章 第7節
リヴァイアサンの光線が通り過ぎた海を、いかに表現したものか。
消しとまされた人々と砕けた船と、そしてリヴァイアサン自身から流れ出た血。赤くも黒くも、そして青くも表現できない混沌とした海の上を、しかしまばらな兵士達が武器ももたずに泳いでいる。
船ごと破壊され海に投げ出された人々だ。
(今、怪我をして海を漂っているのは、一緒に戦ってここまで来たお友達なのよ。
お友達を助けるなんて当たり前だわ)
強い使命感と共に救助船に乗り込んでいたレスト。
彼女は双眼鏡で見つけた要救助者のもとへ船をつけると、わずかな呼び声をたよりに彼らを引っ張り上げていった。
「耳がええんやね。ウチのセンサーと合わせれば発見率100%や」
海中に潜って救助者を抱えてきたつつじが、船で待機するレストへと救助者を受け渡していく。
「おばさんのみみは街のウワサを聞き逃さないのよ~」
あえて冗談めかしてエッヘンと胸を張ってみせるレスト。
緊迫した状況でもユーモアを忘れない強さにくすくすと笑いつつ、つつじは自らを振り返っていた。
(元いた世界では人を殺してばかりやった……
そんなウチでも誰かを助けられるなら、それが一番やな!)
だがそんなつつじの脳裏に鋭く走る直感的危険信号。
波の揺れの更に先。
味方の防衛ラインを突破してきた船舶型ブラッドガーディアンが一隻、救助船へと接近しつつあったのだった。
一方そのころ海深く。
ディープシーの海兵たちが傷つき点々と沈んでいるのを、パーシャは持ち前の真面目さと優しさ、そして何よりも『頑張り』でもって見つけ出し、フックでひっかけて船へと回収しに浮上していく。
「いくら水中で呼吸ができるからって、こんなに体温を奪われ続けたら死んじゃう!
急いでこの人たちを助けないと!
ウルサ・マヨル──どうか私に力を貸して!」
召喚した二つの剣が光のエネルギーを噴射し、パーシャを素早く海面へと押し上げていく。
だがその過程で、目的の救助船めがけ接近しつつある真っ赤な船影を発見。
パーシャは……。
更に一方、飛行型ガーディアンが防衛ライン上で殲滅されたことで安全になった空高くを飛行し、トーラは海面で救助を求める人々を探していた。
(私に……なにか私にできることは……でも何かはあるはず! 何かしなくちゃ!)
耳を澄ませば聞こえてくる、板きれを抱えてこちらを呼ぶ声。
強い弱いなどと言っている状況ではない。動ける誰かがそばにいるだけで救える命がここにある。
そしてトーラはそういう時『動ける』側の人間だった。
(こんな大掛かりな戦いだもの、ここにいるだけの私だってちょっと怖い……けど)
海面について抱える形で保護すると、そのまま救助船へと飛行していく。
「大丈夫、おちついて。私がいるから!」
そんなとき、救助船へと接近する船舶型ブラッドガーディアンの動きを察知した。
(最後の足掻きか……。
とは言え最後の足掻きが一番怖い。仲間は皆それぞれ持てる手段で戦っている
私達はそんな仲間を全力で癒し支えるのが役目だ!)
迫り来る船舶型ブラッドガーディアンから逃れるべく、ポテトは船のギアレバーを操作。すぐそばに寝かせた負傷者にむけて癒やしの歌を口ずさみながら、砲撃が届かず、しかし救助者たちを回収しきれるラインを目指す。
「ここで負けるわけには行かない。諦めない!」
「そりゃあ、敵だって黙って兵を回復されたくないでしょうけど……前線を突破してまでけが人を狙うなんて節操がなさ過ぎよ」
ミシャは暴風に白衣を乱しながらも、倒れた兵に練達製の治癒薬や同着包帯を使って治療していく。
「一人でも多く生きて帰すために私もがんばらなくちゃね。戦場じゃ、一瞬一秒の治療が命を分けるのよ」
治療をあらかた終えたところで、真っ赤な砲弾が救助船へと着弾。
激しく揺れた船の上で、ミシャはバーを掴んで歯を食いしばった。振り返るポテト。
「追いつかれた! 皆、頼む!」
「全く……しつこい!」
ミシャは特殊工具を異空間から召喚すると、リミッターを外したAEDから電撃を放射。
「よっしゃ、こういうときのコータ様参上だぞー!」
それまで応急処置を手伝っていた洸汰が立てかけていたバットを手に取り、飛来する砲弾をバットで豪快に撃ち返した。
「皆、もう大丈夫だぞー! なんたって、この守護神コータ様がついてるからな!」
ガーディアンは船に狙いをつけ、複数の砲台から爆裂氷塊弾を連射。
対する洸汰は千本ノックの勢いでバットをぐるぐる回しまくり砲弾を防御。
「船にもけが人にも、これ以上手は出させないもんね!」
「この人達を例の船まで届けるのがお仕事! これ以上はやらせないのです!」
イルリカはいばらの蔓を作り出すと、ぐるぐると振り回してからガーディアンめがけて投げつけた。
いばらから分泌される毒がガーディアンを痺れさせ、一時的ながら航行が停止。
「いまです!」
イルリカの声にこたえ、ポテトは船を更に加速。
その間にもイルリカは緊急性の高い負傷者へ薬効植物を用いて治療をはじめる。
「助けられる人は絶対に助けるです! 一人でも、多く!」
成否
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第4章 第8節
味方の救助船が船舶型ブラッドガーディアンから逃れたのを、一悟は空の上から確認した。
「あっちはもう大丈夫そうだな。なら、残った皆は任せとけ!」
一悟は自分の船へと舞い戻ると、水中行動時に回収して置いた負傷兵の様子を確かめた。
すさまじいもので、一悟は一人で空と海と船のすべてをカバーした上に意識のある要救助者を発見することにも優れていた。
「すぐ戻る。絶対に助けるから。だからあきらめるな! 生きて帰るんだ!」
「おい雑兵共、さっさと立ち上がってあの海蛇の頭蓋を撃ち抜くぐらいの気概を見せてみろ!!」
一方でTricky Starsが負傷兵を激励しながら治癒術によって怪我を治療していく。
「怪我はなんとかなりそうだけど、このままじゃ死ぬぞ」
「分かってる」
サングラスをずらし、額の汗をぬぐうヨシト。
ヨシトは持ち前のタフネスでもって治癒力を継続させ、何人もの負傷兵の止血や肉体損傷の回復を行っていた。
「けど、アイツがどうやっても邪魔だよな」
ヨシトたちが見上げるのは、こちらにターンしつつある船舶型ブラッドガーディアン。ポテトたちの船に追いつけなかったからと、今度はこちらを狙いはじめたのだろう。
「チッ、冗談じゃねえ。けが人庇いながら戦う余裕なんかねえぞ」
「それでも行くしかねえだろ。俺の目の前でそう簡単に死なせてたまるかよッ!」
ヨシトは運転席に飛び込むと、船を『例の場所』めがけて発進させた。
「ルフナ、回復の継続頼む!」
「わかった。スタミナには、自信あるよ」
ルフナは腕まくりをすると、森の加護によって底なしにあふれてくる力で船全体をマナフィールドで包み込んだ。
船の上は擬似的な『澱の森』となり、肉体を正常に戻そうとする力が人々の怪我や異常を取り除いていく。
「僕の周囲は僕の領域だ、神威(海)だかなんだか知らないけどさ、自分のホームで負ける無様を今に味あわせてやる。
先に倒れた方が負けなら、僕らが決して倒れなきゃいいだけでしょ!」
「その通りだ、でもって――」
ガーディアンの横をすり抜けようとスピードを上げる船。
そうはさせぬとばかりに砲撃を仕掛けてくるガーディアン。
爆裂術式を込めた大きな氷塊が迫る。
スローモーションになる世界。
限界まで高まる緊張。
その中を、青い烈風が吹き抜けていった。
否。
シャルレィスが氷塊を空中で切り裂いて抜け、まるでサーフボードでも操るように空でターンすると再び船舶型ブラッドガーディアンへと挑みかかった。
「リヴァイアサンと戦わなくちゃいけないのは勿論だけど、彼らの事だって放ってなんかおけるもんか!
だって私が目指すのは、守る為の剣なんだから!
全力で、全速で! みんなを助けてみんなで生き抜いてみせるんだッ!!」
まっすぐ突っ込むシャルレィス。
彼女を追い払おうと生体機関銃による対空射撃を仕掛けるガーディアン。
シャルレィスはその一部が直撃しつつも、無理矢理距離を詰めてガーディアンのボディをえぐるように切り裂いていく。
「お前らなんかにやらせはしない!
助けられる命は全力で助けてみせるッ!!
邪魔だ、そこをどけぇええーーーッ!!」
大きく傾くガーディアン。
それでもなんとか一悟へ砲撃を加えようと、船体に装備された砲台を回頭しはじめる。
だが砲台が火を噴くよりも早く、小銃による連射が浴びせられた。
着弾と同時に広がる特殊な煙が、ガーディアンの砲台に含まれる術式をどんどん無力化していく。
「やらせはせぬ、でござるよ」
海星綱を用いて器用にガーディアンの船体へと飛び乗ってきたパティリア。
追い払おうと伸びたアームをジャンプとローリングで回避しながら、特殊弾をそなえたアサルトライフルをフルオートで撃ち続ける。
「拙者の強みはこの足でござる故、とにかく走り回ることこそが肝要。
見せて差し上げるでござるよ、この八艘跳びを!」
成否
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第4章 第9節
救助班の皆が目指す『例の船』について語るべきだろう。そして語るには、彼らから触れるのが適切である。
「竜の血には凄まじい魔力が宿るとは聞くがここまでとはな。
だがまだ終わりじゃない。ここを乗り切れば邪魔をしてくる魔種の勢いも大幅に減じるだろう」
錬は手持ちの樽やロープ、また壊れた船の破片などから素早く作り上げた簡易救命ボートで負傷兵たちを大量に回収すると、船の魔道エンジンをかけた。
「鍛冶屋としては竜の血で出来た氷とか回収してみたいが、そんな余裕もなさそうだな。
まだ彼らには倒れてもらっては困る。一人でも多く救い上げるぞ」
「竜の血で、ガーディアンを作ったり、船を投げたり……。
向こうも、なりふり、構わなくなってきたね……」
浮き輪を投げるなどしてかなり適切に救助者を回収していくニャムリ。
列車のように接続した錬によって引っ張られるかたちで、負傷者たちを積み込んだニャムリの船は進んでいく。
その間も飛行能力や潜水能力を駆使して、自力で浮き輪に捕まれないような負傷兵たちを回収してまわっていた。
(ここで畳み掛けるのも手だけど。まずはみんなを、助けよう。
リヴァイアサンを倒す理由だって、元を辿れば生きるためだからね)
同じく、空を飛んで負傷者を回収して回っていた閠。
「今は、猫の手も借りたい、状況でしょうから…ボクの耳で、役に立てば良いのです、けれど…」
特に閠はエコーロケーションによって海面の様子と海のやや浅いエリアの様子を調べながら意識のない負傷兵を探索。そのかたわらで、あたりに残留する霊魂から情報を得ていた。
『意識はないがまだ生きてる奴がいる』
『俺たちは生き残れなかった。けど……』
『あんたが頼りだ。いま頼れるのはあんたしか……』
あまりに多い霊魂の声。日常的にはまず感じないほどの量。それだけの人々がこの戦いで命を落としたのだろう。
閠は頷き、そして彼らの無念に答えることにキメた。
「もう少しの辛抱、ですよ?しっかり、掴まっていてください、ね?」
海中から引っ張り上げ、意識を取り戻した負傷兵を抱きかかえる。
その一方で、風を纏って飛ぶハルアもまた負傷兵を抱えて船へと急いでいた。
「俺は……死んだのか……? 光が……」
「もう大丈夫! 気をしっかり」
ハルアはふと、思った。
絶望しても仕方の無いような『大波』が幾度となく彼らに押し寄せ、そのたびに誰かが何かを犠牲にしながら彼らを守っていた。
けれどそれは、脈絡泣く突然現れた救いなんかじゃない。
ハルアたちがこれまで少しずつ、そして着実に紡いできた絆の力を、いま使っているのだ。
「元気を出して。みんなが待ってる。生きて、勝って、帰るんだよ!」
ハルアたちが目指すのは、そう……。
仲間たちが協力して作り上げた、『船上病院』である。
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第4章 第10節
「よくたどり着いたな。もう大丈夫だ。中に運び込んでくれ」
負傷兵を回収してきたいくつもの船を、エイヴァンが出迎える形で受け入れていく。
ここは船上病院。複数の小型船と軍艦を接続することで作り上げた、海上の救護テントである。
広く確保された船室にはけが人が大量に運び込まれ、無数の医者や治癒魔術師や薬草をかかえた魔女たちが走り回る。
神父カルロスはそんな中でも自分の芯を曲げず、いや突き通すように傷つき心折れそうになった人々のトリアージ作業に回っていた。
(これが竜種の力…何と恐ろしい!
神よ、何故我ら愛し子にこのような試練を与えるのですか!
なんてひどい…それでも一人でも多く…助けなくては。
神に縋るだけでは…人は救えないのだから)
ただ端から治療をして回るよりも、治療の効率をあげ全体規模での生存率を引き上げる。それがトリアージという作業である。
元々医療に深い心得のあるカルロスにはぴったりの作業といえるだろう。
更に言えば、彼のように精神的な信頼がもたれやすい人物がバンドをはめて回る光景に、負傷兵たちの心はどこか救われた気持ちになった。
まだ諦めていない人たちがいる。自分たちはまだ見捨てられていない。
「此処で倒れちゃ駄目っすよ。気張って下さいっす!」
ジルは自前の薬を大量にストックし、それを傷ついた兵士に飲ませたり塗りつけたりといった治療を行っていく。
「こんなところで命の巡りを断たせたりはしないっすよ!」
滋養強壮の恩寵がある角を削り、薬師として生きてきた一族。
母から教わった生命のしくみ。
それゆえに知っている死の重さ。
「命を諦めさせたりしないっす! 死は、そんな簡単なものじゃないっす!」
「ここにいたか、ジル。外科手術が必要な患者がいる。手伝えるか」
慌ただしく、しかしどっしりと冷静に振る舞うアクセル。
頷くジルが連れてこられたのは、酷い怪我を負った兵士だった。
その様子にひるむことなど一切無く、アクセルは手袋をはめて治療にあたる。
混沌世界の医療技術はアクセルがかつて暮らした世界とは明らかに異なるものだ。腕が切り落とされるレベルの重傷であっても死にさえしなければ一週間で治癒するという。
けれど、だからといって命が相対的に軽くなるなどということはない。アクセルはそう考えた。
だからこその、『船上病院』である。
「手数の多さを最大限に使い効率よく治療を行えば多くの人間を生かせる。
連携し、効率をあげ、兵を少しでも生き残らせる」
元々一匹狼の闇医者だったアクセルには縁遠いことと思っていた。いたが……。
失われる命。
迫る危機。
それでも戦う人々。
それが、アクセルの中に眠っていた医者としての魂をゆさぶったのかもしれない。
一方で、Meerはあえての捕食形態になって治療薬をけが人たちに塗布して回っていた。
「僕にできることはひとりでも多く元気になってもらうこと!」
にゅるんと通常形態に戻り、腕まくりをして気合いを入れる。
「次はあなただね! もしもーし、僕の声は聞こえてますかぁ? ――意識確認オッケー! こっちは任せて!」
混沌における治療の効率。それは一箇所に集めて一斉に治癒するというものだ。
たとえひとりひとりの治癒力が弱くとも、重ね合わせれば二倍三倍に増えていく。それが混沌の法則である。
「お待たせ! せーのっ……みんな元気になぁれ!」
成否
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第4章 第11節
――歌姫の伝説を知っているか。
――青き海で生まれた、まったく新しい伝説を。
船上病院に多くの人が運び込まれ、効率よく治療されていく。
少しでもこの悪夢を乗り切ろう。誰もがそう考え走り回る中で、それはおきた。
外がまばゆく光り、リヴァイアサンがあまりにも軽率に死をばらまこうとしたときのこと。
ある少女が己の願いと使命をもって、そしてなによりも強い強い絆をもって、その力を振り払った。
失われたあまりにも大きなもの。
その代償として得た、小さな隙。
けれどそれで充分だった。
皆の心はひとつの方向へとむかい、いまこそあの竜をうちほろぼさんと立ち上がった。
さあ、反撃の時だ。
空を照らしたあの黄金が、そののろしだ。
※特殊効果発動!
船上病院:戦闘不能になった負傷兵の一部が素早く戦線復帰出来るようになりました。
高速回収:戦闘不能になった負傷兵の死亡率がおおきく減少しました。
第4章 第12節
イレギュラーズたちの反撃が始まろうとしている。
彼らの熱が、魂の輝きが、今まさにリヴァイアサンへの矛となって突き刺さろうとしていた。
だが。いやだからこそ、憂いは払わねばならない。
「俺らの邪魔をするんじゃねえ! もうこれ以上――」
水中装備を纏ったゴリョウが空圧ジェットによって海中を突き進む。
ゴーグルの奥で顔をくしゃりと歪ませると、向かってくる鮫型ブラッドガーディアンを真っ向からぶん殴った。
「これ以上誰も死なせやしねえ!」
彼に食らいつこうとしていたガーディアンの牙が折れ、顎が外れてとんでいく。
その横をすり抜けていこうとするガーディアンたちに、ノリアが透明なつるんとした尾びれを振って踊った。
「捕食者の、目を惹くことなら…まかせてほしいですの。
いえ…決して、食べられてしまいたいわけでは、ありませんけれど…わたしには、たくさんのかたがたを守る方法は、これしか、思いつきませんでしたの…!」
ふりふりとする尾びれに、(捕食の意図はないが)密集していくガーディアンたち。
あまりの圧にノリアがぴいと声なき声をあげるが、そこへ割り込んだゴリョウが片っ端から殴り返していく。
「ゴリョウさん……」
十匹程度群がったところでノリアは倒れやしない。それは分かっているが、分かっているが今だけは、彼らの牙を触れさせるわけにいかなかった。
「いいねぇ……生にあがくってのは」
十夜……いや縁は冷たい水の中で苦笑した。
生きたいと思うのは、死ぬ場所を選ぶと言うことだ。
死にたくないと思うのは、生きる場所を求めたせいだ。
いままで自分は、どんな場所で死にたかっただろう。
海に潜ることを拒んでいた頃、どんな場所で生きたかったろう。
「今は、ちょっとだけ分かる気がするぜ」
ノリアが受け持っていた大量のガーディアンを、一部奪い取る形でガーディアンたちの間をすり抜けて泳いでいく。
そして、必死に戦っていた水中の海兵部隊へと手を振った。
「ここは俺が相手しとくから、お前さんは今のうちに治療受けてきな。そのままだと海の藻屑にされちまうぞ」
「手伝うぜ。俺は神サマが大っ嫌いでな。一発派手にお見舞いしてやりてぇ所だが、大量の死人が出ちゃ堪ったもんじゃねぇ」
レイチェルは肉体に刻んだ魔術で酸素を取り入れると、周囲に満ちる海の魔力を自らへと取り込んでいく。
そんなレイチェルが相手にしたのは巨大なタコ型ガーディアンだった。
十夜を掴もうと腕を伸ばし続けるガーディアンへ弓で狙いをつけ、『禁術・煉獄百華』を発動。
海中に流れ出た自らの血液が矢の切っ先を鋭くし、海中に生まれた小さな渦がガーディアンめがけて追尾弾の如く矢を誘導していく。
「船からの爆雷でしのげれば良かったのでしょうが…仕方がありません。
皆さま、ご準備はよろしいかしらー」
海中でエコーロケーションによる位置把握を行いながら、周囲を明るく照らし味方を先導するユゥリアリア。
前方からやってくるガーディアンたちには『ディスペアー・ブルー』の歌をとなえ、相手の肉体を破壊、ないしは同士討ちを誘発させた。
魚人型ブラッドガーディアンと人魚型ブラッドガーディアンがその魔術爆発に巻き込まれ部分壊滅。
混乱する集団めがけ、わんことボディが突撃していった。
「海から後ろを叩きに来るとは、油断も隙もあったもんじゃないデスネ。
デスガこの海、フリーパスじゃあアリマセン!」
魚人との戦いには慣れている……と言うべきだろうか? わんこは持ち前の潜水技術でもって相手の懐にもぐりこむと、腹部にえぐりこむようなパンチを打ち込んだ。
「コンボチャンス!」
水中で『浮いた』魚人に、ボディは画面に真っ赤な怒りの顔文字を表示させつつクロスチョップ。
画面の光で海中を照らしつつ、さらなるキックによって魚人型ガーディアンを撃滅した。
「氷像が姿を変え、戦法を変えても、私の行動に変化は無いです。
敵を砕き、味方を守る。それだけです」
そんな彼らめがけ、巨大な鰐型ブラッドガーディアンが接近。
巨体をそのままいかして突進してくるが、わんことボディは我が身をぶつける形でそれをガード。
「勢いさえつければおし通れると思いましたか」
「考えが甘々デスヨ!」
力量差は理解している。相手を打ち砕くほどのパワーはない。しかし『たったそれだけのこと』で戦うことを諦めるほど、彼らは愚かでも脆弱でもなかった。
たった一瞬でも止められれば、それでいい。
次の役割は、『彼女』が果たしてくれる。
「相手が攻め気を見せてる今こそチャンス!! お父様も見てることだし、ね……!」
アトラクトス形態になって猛烈な突進をしかけるイリス。
圧倒的なサイズ差があるにも関わらず、イリスの突進はガーディアンを強引に押し返した。
人魚のように上半身を人間形態に変化させ、上から落ちてきた専用装備『Trivia』を握りしめる。
「海は私のフィールドッ!! ありったけ、たたき込むよ!」
「了解。『ありったけ』ね」
トモエはぴっちりとした水中活動装備に身を包み、両手を開いて腕を広げた。
(海洋戦の回数を重ねるたびに、僕の身体が段々軽くなっていく。
はは、笑えないけど……海洋で、この大変な戦争のなかで、僕が育っていくのに楽しさを感じるわ)
トモエは海中の成分を凝固させ様々な形状のナイフを魔術によって具現化。
その全てを一斉にガーディアンへと解き放った。
ただ放つだけではない。味方の攻撃に混じるようにして放ち、時には死角に回り込んで奇襲をも仕掛ける。
「ふふ、楽しいわ、楽しいわね! どいつもこいつも、断罪、断罪!」
最後に具現化した『ツイストダガー』をガーディアンにねじ込むと、吹き出る血を見て小さく笑った。
「今はこれが、僕の役目。ゆくゆくは、あの竜に一撃を入れるため……!」
成否
成功
第4章 第13節
コン=モスカの伝説を知っているか。
今日の海でうまれた、全く新しい伝説を知っているか。
生まれたばかりの伝説は、未だ誰にも語り継がれぬまま、戦場に熱として残っている。
「行くわよ皆。『あの子を伝説にするために』」
使命。運命。それは分かってる。
だけどそれ以上に、あの子はみんなの友達だった。
だから行くのだ。
行かねばならない。
もしここで敗北してしまったら。
あの子の物語が終わってしまう。
イーリンは天に旗を掲げ、赤い氷の平地へと身を乗り出した。
「目標、リヴァイアサン! 【騎兵隊】――出撃!」
ココロの船モルティエ号が分厚い氷をかちわる勢いで乗り上げ、碇もおろさずダイブしていく。
低空飛行装備をそなえたココロは着地前にホバリングをかけ、立ち塞がる大量のブラッドガーディアンへと魔術射撃を開始。
「海に墓は建てられないから、ここで終わっても何もありませんよ、ほらがんばって!」
ココロの援護射撃と回復支援を受け、飛行状態を保つメリッカがガーディアンの群れ先頭へと突撃。手のひらを押し当てると――。
「乗り切れない道理はなし、そも乗り切らねば先がないっ!」
零距離から魔術砲撃を発射。ガーディアンを粉砕し、その先へと砲撃を押し込んだ行く。
「大海原に赤い氷の山脈を作り上げるとか……敵さんの引き出しの多さったらないな!」
作戦の基本は『掘り進め』である。
誰かが高威力な砲撃で敵陣の隙を作り、また別の誰かが飛び込んで隙を押し広げ、そこから更に掘り進む。
一致団結して初めて可能な、【騎兵隊】ならではの統率のとれた作戦であった。
それを知ってか知らずか、多種多様なガーディアンたちはそれぞれの武器を構え、迎撃の姿勢をとる。
「……こんなもので騎兵隊の歩みを止められると思うなよ、木偶風情が!」
わずかに開いた隙へと勇敢にも飛び込んでいくアレックス。
「『Abandon all hope, ye who enter here』――顕現しろ、コキュートス!」
アレックスの記憶から呼び出された魔術がガーディアンたちを破壊し、強制的に膝をつかせる。
「これでいい。あやつらなら戦列が崩れた時点で”チェック”をかけられるであろうよ。そしてそんな崩れた奴らに殺されるほど安い命のつもりもないのでなぁっ!!!」
膝をついたガーディアンたちの頭上を豪快に飛び越え、刀を抜くメーヴィン。
「前に進むための力、『誰かが灯した希望』は……奇跡は我等の手の中に。逆転劇を見せつけようじゃないか」
両脇のガーディアンたちは隙を埋めようと動き出すが、彼らにはめもくれない。
「私ノ舞(シノマイ)――星天晴夜(セイテンハレルヤ)」
メーヴィンは刀に載せた光で前方のガーディアンたちを豪快に切り裂いていった。
空中に現れた無数の軌跡。
バラバラになっていくガーディアンたち。
――誰かが残した灯火を、受け止め輝け此の光
――遺した孔よ明日を写せ、覚悟を穿ち武器を折れ
――月夜の鏡花、水面に咲く、私の花 星々の輝きに貴方の光を見せて
まるで聖歌をつなぐかのように、攻撃の手は一切緩むことはない。
相手が対応する暇もないほどに、連続して攻撃は打ち込まれていく。
「天主それを望む故に、突撃!」
アトはひときわタフなガーディアンがゆくてを塞ぐのを確認すると、拳銃を乱射しながら距離を詰め、抜いた剣を繰り出した。
観光客流剣術奥義『孤注一擲』。
つまりは全身全霊の一太刀である。
ガーディアンの防御を強引に切り開き、核を貫いて破壊するアト。
後手になりながらもなんとか対応をはじめたガーディアンの一派がアトめがけて魔道機関銃による集中砲火を浴びせてくる。
だがそれを、治癒術によってカバーする華蓮。
「どんどん進んでいきましょう、私が支えるのだわ!
大丈夫…いけるいける…まだまだいけるのだわよっ!」
この作戦は途切れたら終わりだ。掘り進むという作業によって隊列は長く縦に伸びるために、分断され各個撃破をうけるリスクが隣り合わせになっている。
だれもが勇敢に、そして団結する必要があった。
そして同時に、危険にさらされる人員を守るための人員もまた必要である。
それが、華蓮たちヒーラーの役割だった。
そして万一、ヒーラーによるカバーでも足りないほどの集中砲火がおきたときの人員として配置されているのが、無敵タンクの武器商人である。
(血の怪物のおかわりとはね。……あの血、欲しいね。怪物を生み出す地母神的な権能はいろいろ面白いことに使えそう)
強引に割り込んで攻撃を肩代わりしはじめる武器商人。
華蓮によるAP消費供給をうけつつ、両面無効化能力で攻撃を弾いていく。
とはいえ相手も攻撃に多様性をもたせスペックアップまではかったブラッドガーディアンの群れである。武器商人のまとう障壁をブレイクできる者や、不死身の肉体を殺せうる者も少なくない。
しかしそれがこの混乱した状況下で完璧にハマることはそうそうなかった。
よほど油断するか、誰もかれもを相手にしようとでもしない限りは、武器商人というカバーが壊れることはない。
そうして無理矢理にこじ開けたブラッドガーディアンの軍勢を、船から飛び出した軍馬の集団が踏み荒らすかのように突き抜けていく。
「進め進め、自ら道を選び前へ進むことが出来ているのは優勢になりつつある証左だ。……車椅子の身には少々辛いがな」
悪路を特殊な車椅子で走り抜けつつ、自分を中心に組んだ周囲の味方にそれぞれ戦闘指事をおくるシャルロッテ。
天使型ブラッドガーディアンが三体同時に着陸し、槍を構えて道を塞ぐ。
シャルロッテが陣形の鍵だと踏んだのか、彼らは一斉に槍を投擲――したが。
「甘い」
レイリーはその悉くを打ち落とし、愛馬ムーンリットナイトのいななきと共にガーディアンたちへと突撃した。
「私の名はレイリーシュタイン!騎兵隊の一番槍だ! 私の突撃を止められる者はいるか!」
勇ましく名乗りを上げるレイリーにガーディアンたちが密集。
集中攻撃を受けるが、むしろそれは望むところだ。
フリーになった脇をクリムが飛行によって通り抜け、駆けつけた鮮血のように赤い馬系生物グラニへとまたがった。
「あんな神だの龍だの抜かすウナギ擬きに負けるわけにはいかねぇ。邪魔をするなら潰す」
さあ、再びの『掘り進め』だ。
クリムはリヴァイアサンを守るべく配置された巨大ブラッドガーディアンへと飛び立つと、核のあるであろう部分めがけて刀で斬り付ける。
刀に込められた魔力がガーディアンのボディをえぐるように堀り、背中へと抜けていった。
それでも倒れないガーディアンに、高速飛行によって合流したレイヴンが召喚術を起動。
「是非も無し」
呼び出された異形の多頭海蛇『ハイドロイド』が激しい高水圧弾を放ち、巨大ブラッドガーディアンを破壊。あろうことか自己再生を始めるが、すかさず大弓を媒体として『断頭台』を召喚。粉砕した。
「如何に見る、竜よ。己に歯向かう人の姿は、御身にとってどう映る」
その更に向こうにあるリヴァイアサンの胴体。
権能を剥奪され、力を弱められ、今こそまさに好機。
友の作った好機を逃さず、レイヴンたちは一斉攻撃に出た。
「すいません! 遅れたでござるー!!」
軍馬にまたがり駆けつけた与一が、バリスタをかついでリヴァイアサンめがけて発射。
「いやー久しぶりに先輩の指揮下で戦えるのに寝坊してしまうとは! 間に合ってよかったでござる!」
「いいえ、ありがとう。頼もしいわ」
与一の射撃にのせるように、イーリンは『ラムレイ』を、ウィズィニャラァムは『ラニオン』をそれぞれ足場にして駆け抜ける。
はるか空で行われる高高度での戦いの末、墜落してきた何体ものブラッドガーディアン。それをかわすように馬を駆ると、二人はトンと馬の背に立った。
「さあ、Step on it!! 炎の如く往きますよ!」
ウィズィニャラァムは専用武器『ハーロヴィット・トゥユー』をしっかりと両手で握り込み、そして豪快に投擲する。
全身全霊を使って放たれた巨大テーブルナイフが、リヴァイアサンの鱗をぶち抜いて肉へ深く突き刺さった。
「そんな鱗で! 私を止められるものかっ!! さあ、行って!」
「――」
イーリンはあくまで冷静に、そして真剣に、自らの持ちうる全てのエネルギーを載せた魔力砲撃を旗のスイングによって繰り出した。
集中砲火の末の巨大な一撃。ドウ、という大気もろとも打ち抜くような音によって、リヴァイアサンの腹にこれまでに無いほどの傷が打ち込まれた。
それを見た海兵たちが思わず勝利を想像してしまうほどの、それは大きな『反撃』であった。
成否
成功
第4章 第14節
リヴァイアサンが大きく血を流したことで、兵達の士気はかつてないほどに盛り上がった。
戦列に加わった海賊や民間船、鉄帝の宗教団体。彼らによる絶え間ない攻撃によってブラッドガーディアンが次々に破壊されていく。
(決定打を持たない私では、魔種へもリヴァイアサンへも届かないでしょう……なれば血路を開くと致しましょう。前へ進む方々への援護を、進む覚悟を決めた勇気ある者たちへのせめてもの力添えでございます)
アデライードはそんな風に謙遜したが、赤い氷山を走り光線銃を撃ち続ける彼女によって、アイスガーディアンの核は打ち抜かればらばらに砕けていく。
これ以上の進行は本当にリヴァイアサン封印に繋がると考えたのか、ガーディアンたちが列を組んで突撃をしかけてくる。
「――」
退くか撃つか。この二択ならば答えはきまっている。
「行く道があれば帰る道も必要でございますね、では力の限りこの場所を守ると致しましょう」
その場に踏みとどまり、アデライードは銃撃を連射。
すると後ろから発射されたライフル弾がガーディアンの核を的確に打ち抜き、爆発四散させた。
「延々と敵が湧き続けるこの状況、流石に最前線の私たちも疲労を隠しくれなくなってきた。
それでも、最初は一滴すら流せそうになかった竜の血が一面に広がっている。
その上に立っている。
ならば勝利には近づいているはずだ」
ラダによる狙撃だ。振り返るアデライードに頷いて、さらなる射撃を開始。
「汗を拭え、銃に弾を! 遮るものは、討ち滅ぼせ!」
破壊されたガーディアンたちの列へ食らいつくように、ジェイクとラヴが攻め込んでいく。
「俺達も苦しいが、それ以上に苦しんでいるのは奴の方だろうが。
防衛戦を張ったって事は、そういう事だろお前ら!
このまま一気に押し込んでやる!」
「さあ、夜を召しませ……私が道を開けるわ、皆は一気に進んで頂戴」
覚悟で込めた弾を、信念で撃つ。
ジェイクは掴みかかろうとするガーディアンたちをすり抜けては、二丁拳銃による連射で逆に制圧していく。
彼のみせる隙の無い動きには、なぜだか寄り添う女性の幻影が見えたきがした。
ひとりきりなのに、二人で戦っているような。
離れているのに、いつも一緒だったかのような。
それは、呪いを愛でつなぎ止める、男と女の物語だったのかもしれない。
「俺が『『幻狼』灰色狼』のジェイクだ!臭え汚物は纏めて処分するに限るな!」
その一方で、高速移動によってガーディアンたちの列へと滑り込み、二丁拳銃による舞い踊るような全方位射撃げガーディアンたちを混乱させていくラヴ。
「目標はあくまでリヴァイアサン……ここで立ち止まっている暇は無いものね。
『ここは私に任せて先に行け』、というやつよ。
皆のところへは行かせない。私はここで壁になり、私はここで道になるの」
全方位から襲いかかるガーディアン。
頭を狙って打ち下ろされる腕には銃弾を、掴みかかろうと広げる手にもまた銃弾を。
足下が空薬莢で一杯になるほど撃ち尽くし、ラヴは素早くマガジンを交換した。
「そろそろ、おやすみの時間よ」
成否
成功
第4章 第15節
魂の炎が繋がれるように。
紡いできた絆が道を作るように。
巨大ブラッドガーディアンが塞ぐ行く手を、フーリエとレジーナがこじ開けていく。
「リヴァイアサンの血で人形どもを作り出すとは、かの魔種も中々派手なことをするのう。
確かに強烈な障害じゃが、竜の血まで使っておいてこれ以上の隠し玉はあるまい。
こちらも出し惜しみなし――いや、最初から惜しんでなどおらん訳じゃから出涸らしすらも注ぎ込むつもりで大勝負といこうではないか!」
「確かに、事ここに至れば怯む要もないでしょう。
敵が多いなら手数でもって相手になりましょう。
――露払いするわ」
フーリエは全身からはえた無数の砲台で牽制射撃を仕掛けてくる巨大ガーディアンの攻撃をかいくぐり、飛びついて至近距離から『超☆魔王波』を発射。核周辺の防御を無理矢理打ち抜いていく。
更にレジーナは懐からカードを一枚ドロー。美しい模様のカードを裏返すと、模様以上に美しい暗殺令嬢の姿が描かれていた。
「――リリース」
突如レジーナを包み込む夜の光。
どこからともなく現れた剣を手に取ると、青い薔薇の幻影が散った。
「闇で悪魔な猫のお嬢様。
技の冴え鋭利なる棘
その暗殺術の一端――お借りします」
キュン、と心を奪う音がしてレジーナはガーディアンたちの前から消滅。
かと思いきや、彼らの頭上に突如として現れて超高速の斬撃によって核だけを切り裂いて剣へ一つずつ串刺しにした状態で走り抜けた。
「我(わたし)がお嬢様以外相手にここまでするのだから。
無理矢理にでも付き合って貰うわ。
……大人しく、海底に沈め」
全てのガーディアンが崩れ去っていく。
「う、うおお……」
『超☆魔王剣』を発動させて手刀をぶんぶん構えていたフーリエが、いきなり終わった戦闘に軽く困惑していた。
「よ、よし! 皆の者、進めぃ!」
「お言葉に甘えて」
イルリカとみるく、そして斬華が開かれた道を突き進んでいく。
「あらあら! まぁまぁ! 大きい首ね♪ あれを刈ればいいのね♪ はいな! 任せて下さいな♪
お姉さんのやることはいつも同じです♪ まっすぐ進んで刈る。これだけです♪
もちろん持てる技量の全てを尽くして♪」
斬華はフードの下でいびつに笑うと、首刈ノ極致『獄門&無刀』を抜刀。
狼型ブラッドガーディアンが飛びかかるも、特殊な歩法によって距離を詰め首を的確に切り落としていく。
その刹那的で破壊的な剣にブラッドガーディアンたちはわずかな恐れを抱いたが、その一瞬の隙をついてイルリカが急接近。
咄嗟に繰り出した狼型ガーディアンの噛みつきを回避し、宙返りをかけながら頭上を越え、回転によって相手のボディを切りつけてから後方へ着地。
乱れた髪を片手でさらりと払った。
フウと息をついて、魔力を込めたレイピアを構え直す。
「まだできることは限られるけど、『どうやるか』は探りがいがありそうね」
「次、いくわよ」
みるくは鞘から抜刀すると、群がろうとするガーディアンを横薙ぎ一閃。ほとばしるスパークで追い払うと、返す刀で必殺の剣を繰り出した。
「久留見流剣術・壱の型――釣瓶落とし」
ガーディアンの横をまるで口笛でもふくかのように悠々と通り抜け、刀を収めたときにはガーディアンが八分割されていた。
そして……。
「ようやく、ね」
仲間たちが切り開いた道がついに、再びリヴァイアサンへと到達した。
追い払おうと群がるガーディアンたちへ振り返り、同時に剣を構えるみるくたち。
「折角だからあたしたちも言わせて貰いましょ」
「ああ、あれね」
「ではせーの♪」
ガーディアンへ斬りかかり、どこか楽しそうに口ずさむ。
「「『ここはまかせて先に行け』!」」
成否
成功
第4章 第16節
「このチャンスが再び訪れようとはな」
ブレンダは剣を両手それぞれでくるりと回転させると、眼前のどっしりと横たわるリヴァイアサンの胴体を見上げた。
仲間たちの度重なる攻撃で酷く傷つき、人間であれば幾度となく死んでいる傷である。それでも未だ頭や尾が暴れ回っている事実はリヴァイアサンの恐ろしさを如実に表しているといえるが……。
「さすが、レオン殿が10人いてやっとといわれる種族なだけはある。
受けるがいい――『戦乙女の輪舞曲(ヴァルキリーロンド)』」
剣に燃え上がるようなオーラを纏わせ、ブレンダはリヴァイアサンの胴体へ剣を突き立て、また更に突き立て、両腕のパワーだけで強引に側面を上り詰めていく。
「おお……やるな」
「あれはまさに美少女クライミング。奴もまた美少女の素質をもつ乙女」
それを後ろから見上げていた汰磨羈と百合子。
二人は顔を見合わせ、ゆーっくりと頷きあった。
「吾等も負けてはいられまい」
「やるのか? ……いいだろう」
二人はドッと地面を蹴ると、両手の手刀に霊力や美少女力を纏わせリヴァイアサンの固すぎる鱗を貫く勢いで突っ込みまた突っ込み、腕の力だけで強引に上り詰めていく。
そうやって頂上(?)まで登ったところで……。
「みんな、アイでいっぱいだね!」
両目を真っ赤に輝かせたナーガが、はるか彼方から放物線を描いて飛んできた。
ずずんとリヴァイアサン胴体の上に拳と片膝をついて着地。
言うまでも無いことだが彼女に飛行能力などない。どやって飛んできたのかは……一章前の百合子たちをご参照いただきたい。
「ナーちゃんはね、リヴァちゃんにキョーミがあるの!
長くながーく眠っていたのに、目覚めたらこんなにいっぱいアイして、アイされて! 一体どんなキモチなのかな!?」
背負っていたあまりにも巨大な斧を手に取る。
と、追って二人の少女が放物線を描いてエントリー。
「ごめんやっしゃー! ネアンデルタール・レディ爆参ッ!」
あまりにも巨大すぎる石のハンマーを振り上げ、両目をカッと見開く朋子。
『トモコ、暴力はすべてを解決する』
「おーけーれっつごー!」
こんな、色々言っちゃってる美少女軍団……の中に突然のミミ。
「みひゃあ!?」
地面というかリヴァイアサンの胴体にべたーんと叩きつけられたミミは、鼻をさすりながら起き上がった。
「ほう、エンクィストの……共に『ヤ』るか」
「アイしあおうね! アイしあおうね!」
「ヒャーッハー! ピャー!」
「なにここなんなのです地獄!?」
ミミは驚くというか軽く引いたが、これが味方であればこんなに心強いことはない。そう思い直して籠から護身用グッズを取り出した。
「はい、ミミもいきます! 超電磁スタ~ンロッド~!」
振りかざしたロッドから過激な電流がほとばしる。
「シビれてくたばるがいいのです! 悪・漢・滅・殺! なのです!」
「「悪・漢・滅・殺!」」
運命に導かれ集まった美少女たちによる一斉打撃が、きわめて決定的にリヴァイアサンの骨へと響いた。
成否
成功
第4章 第17節
絶望とはなにをさす言葉だろうか。
できもしない挑戦に否応なく投じられ、明日も見えぬままもがくことを強いられることだろうか。
何の助けも得られずに永遠に戦う宿命だろうか。
今はきっと、否と言える。
絶望とは単に、希望を忘れたときに視界を遮る心の闇にすぎない。
「どんな敵をぶつけてきたってボク達は止まらないよ!
聖剣騎士団はさいきょー無敵の精鋭達!
掲げた聖剣で未来を切り拓くのだっ!」
剣を掲げ、朗らかに笑って走るセララ。
「信じる心が奇跡を呼ぶ……か。
ならばオレも集まり行く勝機を強く束ねる為、一兵として全力を尽くして見せるのみだ。
『エンドブレイカー(終焉を断つ者)』…聖剣に名を連ねる勇士として、魔種の勝利と言う「終焉」をも断ち切ってくれよう!」
ガキンと胸の装甲を叩き、内なる炎をこうこうと燃え上がらせるウォリア。
「騎士団らしくと考えましたが……騎士らしいことなんて軍人には出来ないでありますなぁ。
騎士は不合理な点が多すぎますからね。軍人らしく冷静に」
そんな風にいいながら、セララと組んだ魔法少女コンビの思い出や父にそれがバレた日のことを考えて楽しげに苦笑するハイデマリー。
「周りには、沢山の同志達がいます! 私達全員ならやれる、やれるはず!!
我ら聖剣騎士団! 滅びの運命を覆す光とならん!」
もはや恐れるものなしとばかりに、未来に向けて走り出すリディア。
「竜の血を触媒にするだけでなく、自ら核になるなんてね。
でも、そこまでするという事は、これが彼女の奥の手だという事。
これを打ち破り、かの竜への道を完全に切り開くだけよ!!」
剣の腹をそっとなで、蒼い炎を燃え上がらせるアルテミア。
「厄介なものは後回しにしてはいけないよね。
一気に攻め落とす。その為の戦力を支えきるのが僕の役目だ」
周りの仲間たちに続いて、氷上をもとい空中を滑るように進んでいく悠。
「いよいよ相手も本気ってことかな。
こんなのが倒しても倒しても沸いてくるなら、早く大本を叩いて止めてしまおう」
手首をぱたぱたと振って小さく気合いを入れると、俊敏に駆け出すメートヒェン。
そして十七号は、そんな先輩達の背に頷き、自らもまた剣をとった。
(――今ばかりは、攻勢に長けない己が恨めしい。
かと言って、私に出来ないことが無い訳でも無い。
ならば、此の身を賭してでも突き進もう――!)
たとえ明日が見えなくなっても。
たとえ自分の居場所がわからなくなっても。
積み上げてきた思い出がある。笑い合った仲間がいる。
誰に与えられたわけじゃない。自分たちで作って、自分たちで広めた誇り。
その名を声を大にして、今こそ叫ぼう。
「聖剣騎士団! とっつげきーーーーーー!!」
『流氷のマリア』。
彼女の始まりがいかなるものであったのか、セララたちは知らない。けれど今こうしてたがいの大事なものをかけてぶつかり合っていることだけは、実感としてわかった。
『流氷のマリア』を取り込んだ、あまりにも巨大なブラッドガーディアン。
リヴァイアサンの血の力によって増幅した氷結魔術の光線が地面をなぎ払うかのように走って行く。
メートヒェンは直撃コースにありながら一度地面に手をついてロンダートジャンプをかけると、身体のスピンと軸足によるきりもみ回転蹴りによって魔術を強引に破壊。凍り付いた空気をガラス細工のようにかちわっていく。
散った魔術があちこちに氷の塊を生み出し、塊はそのままブラッドガーディアンとなって立ち上がる。
すたんと地に足をつけると、スカートをつまんでみせるメートヒェン。
「ここは任せてもらおうかな。この先の保護は、頼めるかい?」
片眉をあげて、十七号へと振り返る。
十七号はこくりと頷き、革製の籠手をぎゅっと掴んで引いた。
初めての大規模な戦いで見せた力。それはビギナーズラックなんかでは決してなく、仲間と力をあわせた成果であり、引かなかった覚悟の結果である。
それを、籠手の感触は常に教えてくれた。
「我が身折れ朽ち果てるまで」
「なに、そこまで気負わなくていいさ」
十七号の肩をぽんと叩く悠。
「僕たちがついてる。いや――僕たちは一緒だ」
「悠さん……」
冗談のように笑って、そして自らの周囲にうずまく『世界の矛盾』を十七号へと浸食させていく。
「朽ち果てることすらできないくらい、永遠に支えてあげよう。伊達に『物語』を壊してないよ」
そうしているうちに、第二波。ガーディアンの全身から生まれた無数の砲台から魔術光線が発射され、大気や地面がバキバキと音をたてて破壊されていく。
十七号は刀を構えて勇敢に前進。
彼女を盾にする形で悠もまた突き進み、攻撃可能な距離まで詰めたところでそのまた後ろに隠れていたウォリアがヌッと前へ出た。
「戦渦を燃やす劫火の裁きを今此処に、勝利を照らす鬨の篝火を灯す!」
自らの炎を巨大な斧に纏わせ、ガーディアンの足へと叩きつける。
あまりのサイズ差でありながら、しかしガーディアンはそのダメージを無視できない。
思わず片膝をついたその隙に、斧を足場にして駆け上がったアルテミアの剣が巨人の脇腹へと突き刺さった。
「我が纏いし焔は、絶望を越える道標なり!!」
吹き上がる蒼い炎。その瞬間。突き刺さった剣を足場にリディアとハイデマリーが同時に跳躍。
「ここに集いし八振りの聖剣。全ての力を合わせれば、貫けぬモノなど、何もない!」
リディアの剣とハイデマリーの剣が交差。
黄金と白銀の輝きが巨大なX字を刻み、ガーディアンの胸元を大きく削り取った。
「1本でも強力な聖剣。それを束ねたなら究極の剣になる!
どんな敵が相手でも、ボク達は未来を切り拓く!」
そこへ、魔法の翼を広げて飛び上がったセララが現れた。
空中で飛行状態を解除。ハッと見上げた姿勢のガーディアンめがけ、フリーフォール状態で聖剣ラグナロクを突き立てた。
成否
成功
第4章 第18節
無数の砲撃が、巨大な怪物へと浴びせられていく。
「いやあ、何度も巻き込まれてきましたけど、来るところまで来ましたね」
鉄壁をほこるベークといえどこの連戦と強敵には無傷というわけにもいかないらしく、額から流れてくる血だか汗だかわからないものを袖で拭ってはらった。
そして再び、鉄壁の防御を固めるべく三重のコーティングを自らにほどこすたやき。
「それじゃあ、行きましょうか」
「HAHAHA! 面白いことになってきたなあ。あの馬鹿でかいフロストレディをぶっ壊せばいいわけだな?」
ファイティングポーズをり、にやりと笑う貴道。
この世界にやってきてから……否、やってくる前からずっとずっと続けてきたこのフォーム。今では彼の拳は怪物を爆発四散させうる兵器と化していた。そしてこれからも成長し続けるだろう。
「流氷のマリア…! 面白いね! 雷光と流氷! 同じマリア同士で力比べといこうか!」
コンコンとかかとを鳴らすマリア。
彼女もまた、この世界に来る前からずっと『雷光殲姫』であった。
かつてのように神にも等しい力こそないが。神に挑む勇気は依然として持っている。
「…………」
シルクハットを深く被り直す幻。
なぜだろう。彼女の後ろに男の幻影が見えた気がした。彼女を気遣うように、守るように、未来を想うように抱く男の幻影が。
いや、錯覚だ。
幻を操れる彼女だからこそ、現実を知っている。
『あのひと』は、ずっとずっと……。
「ここにいる」
胸にぐっと手を当てて、強く強く目を見開いた。
「さあ、道を開きます!」
ステッキを鳴らし、出せる限りの幻影を解き放つ幻。
聖剣騎士団によって激しいダメージを受けていた『流氷のマリア』の巨大な氷のボディを幻の空間が包み込み、そこへマリアと貴道が同時に飛びかかる。
「作戦は決めてるの?」
「そんなものは決まっている。生まれる前から決まっている」
貴道はギッと獰猛に笑い、巨人の足を拳で殴りつけた。
『パンチ』。それは人類が会得した最初のオリジナルスキルだと言われている。
貴道に『人類最古の兵器』という二つ名がついたのは、それを限界を超えて超えて信じられないほどに鍛え上げ、今でも最前線に通用する形で降り続けているがゆえである。
無論、彼のスーパーラッシュが魔種の足を打ち砕いてしかるべきなのだ。
バランスを崩す『流氷のマリア』。
マリアはここぞとばかりに踏み足に赤いスパークを走らせると、残像が生まれるほどの速度で飛び込んだ。
いや、実際に残像は六つに分かれたが、その全てが赤い稲妻を纏って『流氷のマリア』の身体にキックの連打を浴びせ続けた。
そして。
「――さて」
モーターボートをまるでサーフボードのように乗りこなし、コレットは腕組み姿勢で今まさに倒れゆく巨人を見上げた。
翼を広げ、風を受け取り、急速発進。
ボートが激しく回転するほどの勢いで飛び出すと、防御を固めに固めていたベークを片手でむんずと掴んで『流氷のマリア』へと距離を詰めた。
射程外からの急速接近。対応する間もなくコレットの必殺技こと『破壊神ドロップキック』が炸裂した。
バキンと音をたてて吹き飛んでいく巨人の頭。
だが巨人は止まることなく肉体の殆どを砲台に変え、コレットめがけて一斉砲撃。
――が、その全てはベークバリアーによって防がれた。
「え、え、え!? いま僕どうなってるんですか!? どこにいるんですか!?」
急激にもっていかれたことで混乱しつつも、やるべきことを理解してコレットに自らのもちうる三段コーティングを急いで付与。奇跡的な手際によってフルコーティング破壊神となったコレットは……。
「少し、打撃を与えておきましょうか」
と軽くつぶやいて巨大剣『アナァイアレィシャン』を振り上げた。
上から下に、振り下ろす。
ただそれだけのことでコレットに内包された爆発的な破壊エネルギーが『流氷のマリア』の肉体を滅茶苦茶に破壊し、大量の小爆発を全身各所で引き起こさせた。
成否
成功
第4章 第19節
「デイジー先輩、無事?」
「ふむ、この通りぴんぴんしておるぞ『絶壁のフラン』よ」
「う、ぐふう……!」
クシャアって顔をして何かに耐えるフラン。
「ま、まかせて……! ぜっぺ……絶壁のフランとして! みんなを守るんだからー!」
「その意気じゃ絶壁!」
「その略し方はやめて!!!!」
かかか、と扇子を広げて笑うデイジー。その顔を見て思わず吹き出すフラン。
「いいわね……あなたは」
爆発の中。砕け散った巨大な力の破片たち。
その中心に、血を流して倒れた『流氷のマリア』……いや、マリー・クラークの姿があった。
「羨ましかろう? 妬ましかろう」
大きく風が動いて、煙が晴れる。
遠くにはブラッドガーディアンたちに攻撃を仕掛けるクラーク家の船たちがあった。
――みんな、貴女と張り合いたかった。貴女の横にいたかった
――悔しいから前へ行く。妬ましいから成長する
――見せてつけてあげるわ。私たちは『置いて行かれやしない』ってことをね
「……フン」
デイジーは顔を左右非対称に、笑みと苦み半々の顔で振り返った。
「のう、マリー。嫌いな相手を好きになるには、どうしたらよいか知っておるか」
「わからないわ。私、好きな人しかいなかったから……」
「ばかめ。それは『嫌いな人しかいない』のと同じことじゃ」
扇子を広げて顔をかくすデイジー。
フランは『デイジーせんぱい?』と首をかしげ、そして今更になって会話している相手が敵であることにきがつき、戦闘の構えをとった。
「好きも嫌いも表裏一体。結局、あの者たちは……『家族』、だったのじゃろうよ」
再び振り返り、畳んだ扇子を突きつける。
「マリー、きっとお主もじゃ。今ならわかるぞ、お主が妾に拘った理由。
『皆一緒になりたかった』……共にいたかった。妾とお主の夢は、同じだったのじゃな」
「……デイジー」
てをのばそうとするマリー。しかし、腕がすでに無いことに、今更になって気がついた。崩れた氷菓子のように、肘から先がかけている。
「けれど、マリー。お主はやりかたを間違えた」
デイジーは歩みを詰め、不安そうに見つめるフランに小さく手をかざして頷いた。
「こんな回りくどいことをせんでも、よかったのじゃ。
妾なら、いつでも喧嘩相手になってやったぞ」
頬に伸びる手。
それが触れた、一瞬のこと。
「なあんだ。私たち――」
マリーは左目からだけ涙を流し、ガラス細工のように砕けて散った。
成否
成功
第4章 第20節
『流氷のマリア』は潰え去り、いよいよリヴァイアサンの胴体を守るものはなくなった。
気合いは充分。時間もある。
この数十年の中で失ったものも、壊れてしまったものも沢山あるけれど。
けれど、いま。
いまこそ、手を伸ばすとき。
最後の剣を、振りかざせ。
GMコメント
このシナリオはラリーシナリオです
戦果に応じて『リヴァイアサンの胴体』を部位破壊できることがあります
■グループタグ
誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【鮫殴り同好会】9名
■章概要
第二章以降で状況が異なる場合がありますので、章の頭に公開される章概要をご参照ください。
・第一章の概要
リヴァイアサンの出現によって海洋海軍は壊滅的被害を受け、撤退を余儀なくされました。
しかし退路を魔種『流氷のマリア』によって絶たれ、絶体絶命の窮地に追い込まれてしまいました。
皆さんの力を駆使してこの状況を突破し、負傷兵たちの退路を確保しましょう。
・タグ概要
プレイングの冒頭に自分の役割を示したタグを記載してください。
【アタッカー】
アイスガーディアンを攻撃し破壊します
【タンク】【ヒーラー】
負傷した海兵を庇ったり治療します。
守られた海兵が多ければ多いほど突破のための戦力になるでしょう。
【コマンダー】
海兵たちをまとめて元気づけたり指揮したり、強化したりして送り出しましょう。
================================
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)
皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
※他の<絶海のアポカリプス>シナリオに比べれば可能性は低めです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
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