シナリオ詳細
<絶海のアポカリプス>絶望に拳を掲げよ
完了
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オープニング
●おわりのはじまり
――人間共。『冠位』を傷付けし者共よ。その顔を見てやろう。
その小さき力を嘲り、その小さき力を僅かばかり認めて。
我が好奇と興味の的として、貴様等の姿を覚えてやろう。
絶望等と生易しい、後付けの廃滅等問題にもせぬ。我は神威。我こそ世界。
光栄に思え。たちどころの感謝に咽べ。
称えよ、竦め。許しを乞え。我が名は滅海――滅海竜リヴァイアサンなり!
大海原を爆砕して現れた、あまりにも巨大すぎる怪物。否、『滅海竜リヴァイアサン』の存在は魔種たちを倒し少なからず勝機を感じていた海洋海軍たちを一転して絶望のムードで覆してしまった。
高層ビルがうねるかのごとく巨大なその体躯は、ただ動作するだけで荒波を引き起こし船を転覆させてしまうだろう。未知の力によって守られた鱗はいかなる攻撃も弾いてしまうだろう。
言うなればそれは、『物理的な絶望』であった。
「た――」
味方の船が次々と転覆するさまに、そして天を突くがごとくふり上がった巨大な頭を前に愕然としかできなかった海軍船長は震える顎でなんとか叫んだ。
「退避ィ!」
きわめて簡潔な命令だが、なにより正しい判断だった。これだけの敵を相手にできることは退避をおいて他にない。
転覆した船から離脱した兵士たちが素早く泳いでは船へと無事な這い上がり、時には瀕死の重傷を負った者や意識の戻らぬ者がデッキへと寝かされる。
まるで地獄のような風景だが、まだそれは地獄の入り口に過ぎなかった。
●みんな一緒になれる、最後のチャンス
マリー・クラーク。別名『流氷のマリア』には夢があった。
素敵な素敵な兄弟達と自分が対等に笑い合い、まるでふつうの家族のようにひとつのテーブルについてシャイネンナハトを祝う風景である。
最高の夢。最高の宝物。それをきっとかなえてくれるのは、誰にでも垣根なく触れて、人の心を溶かしていく。
私の一番の宝物。
誰もがきっと、あなたになりたかった。
マリーは嫉妬の根源を知っていた。妬ましさとは、つまり――。
「ねえ、デイジー。私はあなたになりたかったわ」
だから。
いまこそ。
「壊れて崩れて溶けて混ざって、みんなひとつになりましょう」
マリーはリヴァイアサンの胴体の上に立つと、両手を広げて高く天へ掲げた。
まるで彼女の指揮に応じるオーケストラの如く、海面へ無数の氷の山がつき上がり、海軍たちの逃げ道を阻んでいく。
氷の山から再現なく生えていずる氷の人型モンスター『アイスガーディアン』たち。
船が氷山にぶつかったことで強制的に停止させられた海軍混成部隊デリンジャー少尉は顔面蒼白のまま武器をとり、海豹艦隊アシカ副長はデッキに転がった負傷兵たちを庇うように立ち塞がった。
水上バイクを船のそばにとめ、ゴーグルをあげて舌打ちする海軍将校ユーナバー。
「チッ、なんだこりゃあ。ここが俺らの墓場だってのか?」
「いいえまだです。まだ死んでたまるものですか。氷山の隙間を抜ける形でなんとか船を通せます。まずはせめて負傷兵だけでも退避させなくては!」
「あの『アイスガーディアン』を見ろ。ホテルのボーイみたいに通してくれると思うか? お荷物お持ちしましょうかって?」
アイスガーディアンたちの腕が剣やハンマーや大砲へと変わる中、まだ無事な海軍兵士たちがそれぞれの武器をかまえて挑みかかる。
なかの一人が、あなたへ――イレギュラーズへと振り返る。
「この場を突破するにはあなたの力が必要です。アイスガーディアンを倒すのでもいい、襲われる負傷兵を守るのでもいい。とにかく、ここを我らの墓場にするわけにはいきません!」
- <絶海のアポカリプス>絶望に拳を掲げよ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月13日 21時03分
- 章数5章
- 総採用数386人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
『流氷のマリア』にとってこれは決して負けない戦いであった。
海洋海軍やローレット・イレギュラーズがどれだけ尽力してもリヴァイアサンに充分な傷をつけることはできず、まして撃滅することはかなわない。そう信じていた。
リヴァイアサンからエネルギーを吸い上げて作るアイスガーディアンたちも、いわばプールからバケツ一杯の水をすくいあげる程度のこと。無尽蔵にかつ大量に作り続ければ海軍たちもやがて弾切れを起こし、絶望か死が訪れるだろう……と。
だが、そんな思いは突如として崩れ去った。
「これは……どういうこと……?」
いつも余裕そうだったマリーの顔に、明らかな焦燥が浮かんだ。
それは氷山要塞の中で妹と素手で殴り合ったあの時以来の表情である。
一方。ローレット・イレギュラーズは逆転のチャンスに気づいていた。
「『滅海竜』リヴァイアサンの権能、『神威(海)』が弱体化されたみたいね。今なら、鱗を割るどころか、深く肉を裂くことだってできる筈……」
美しき破壊神はそう語ると、巨大な剣を手に取った。
天に掲げられ、リヴァイアサンへと突きつけられる巨大剣。
それは、『反撃』を示すのろしであった。
かき集められた海軍の将校たちが、びしょ濡れになった軍帽を被り直す。
「部隊の損耗はどの程度だ」
「ローレットが頑張ってくれましたからね。皆元気ですよ。なんなら一斉に踊って見せましょうか?」
「彼らがいなきゃ、今頃全員海の藻屑だったろうぜ」
皆の目に闘士が燃える。
オールハンデット。全艦隊急速反転。
――リヴァイアサンを攻撃せよ!
こちらの一転攻勢をみて、『流氷のマリア』は出し惜しみをやめた。
リヴァイアサンを守るように、持ちうる限りの技術を使って兵隊を並べ立てた。
激しく隆起する氷の山と谷が生まれ、船が通れぬように張り巡らされ、その上に無数のアイスガーディアンたちが陣取った。
「……いつもそう。いつも、そうやって窮地を勝機に変えるのね……」
悲しそうに、しかし愛おしそうに、マリーは氷の剣を天にかざした。
両軍が、いま、衝突する。
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・第三章の概要
シナリオ成功条件は『リヴァイアサンに一定以上のダメージを与えること』です。
リヴァイアサンから権能『神威(海)』が剥がされました。
これによって、今まで殆どダメージが入らなかったリヴァイアサンへの攻撃が有効となります。
一転して防衛に人員を割き始めた魔種『流氷のマリア』の防衛を突破し、リヴァイアサンの胴体へと攻撃を届かせましょう。
リヴァイアサンを倒しきることは現状不可能ですが、『水竜さま』の力によって封印することは可能です。
それが可能になるだけのダメージを与えるのが、今回の主目的となります。
※水竜さまの様子はこちら(https://rev1.reversion.jp/page/suiryuusama)
・防衛突破
アイスガーディアン、クレイオ兵、『流氷のマリア』による防衛ラインに対し、一チームで一定の成果をあげることでリヴァイアサンに直接ダメージを与えるチャンスを得ます。
リヴァイアサンが暴れることですぐに状況はリセットされてしまうので、何度も防衛ライン突破を仕掛ける必要があります。
チームは偶然近くにいた面々で組まれますが、特に組みたいメンバーがいる場合は『GMコメント』にあるグループタグの項目を参照してください。
今回生成されるアイスガーディアンは出し惜しみなしの特別製ばかりです。
氷でできてるのに炎を吹いたり電撃を浴びせたり超高速で動いたり巨大かつ頑丈だったりとそれぞれ特化した能力が付与されています。
これに加えて数だけは大量にいるクレイオ兵という狂王種も発生し、頭数で防衛しようとしています。
・タグ概要
プレイングの冒頭に自分の役割を示したタグを記載してください。
【アタッカー】
主にリヴァイアサンを防衛するアイスガーディアンたちを攻撃し、味方の防衛を突破させましょう。
【タンク】【ヒーラー】
戦線に戻った海洋海軍たちが船を進め、防衛網の突破に尽力しています。
彼らへの攻撃を防御したり、新たにでた負傷兵を回収ないし治癒することで彼らは戦い続けることができるでしょう。
【コマンダー】
イレギュラーズの活躍によって海洋海軍の兵士達は士気を高めています。
ですが一度壊滅した部隊であるため指揮系統がバラバラなため、ある程度指揮官代理が必要になります。
彼らを率いて防衛チームと戦ったり、強化することでより高い成果を発揮することができるでしょう。
【流氷のマリア】
※このパートは成功条件に含まれないエクストラパートとなっております。
強力な魔種である『流氷のマリア』と戦います。
手持ちのガーディアンでまわりを固めており、『流氷のマリア』自体にダメージを与えるにはこれらが邪魔になります。
またイレギュラーズたちとの戦いを通し成長、学習しているためこれまでの戦法は通じないでしょう。
万全の備えと人員でトライしてください。
第3章 第2節
氷だらけの海を雄々しく突き進む砕氷戦艦『はくよう』。
エイヴァンはその操縦桿を握りしめ、荒れ狂う波に挑んでいた。
「向こうが数をそろえてきているのなら、こちらも相応に頭数を増やさねばな。
命を粗末にしなきゃ何とかなる。
ここでくたばったら、死んでも死に切れんぞ?
目の前のでかぶつを退けて、俺達は先に進むんだからな」
そんな彼を迎え撃つのは巨大アイスガーディアン実に三体。
乗船していた海兵たちは一斉にライフルを構え、アイスガーディアンの一体めがけ集中攻撃を開始した。
号令をかけるのはシズカ。
「捉えました!この可能性、逃す手はありません!
どんなに細い糸も、撚り束ねれば綱となるように!
皆さんの『可能性』を束ね、『確実性』に変えるのです!」
繰り出される反撃を、船ごと強引に回避していく。揺れる甲板で手すりを握りしめ、シズカは更に叫んだ。
「恐れることはありません! あなた達には『ローレット・イレギュラーズ』がついています!」
「そういうこと。悪いけど水に還ってもらおうか!」
メインアタッカーとして乗船していたマリアが甲板にこしらえたジャンプ台を駆け抜け、巨大アイスガーディアンへと跳躍。間につなげた電磁レールの上を恐ろしい速度で駆け抜け――たかと思えば突如五人に分身。連続キックと連続パンチを多方向からたたき込んだところで、相手の顔面を蹴りつけて離脱した。
ムーンサルトをかけた末着地するマリアの前で、アイスガーディアンが崩れ去っていく。
「だいぶ調子がいいな。いつもの倍は回ってる」
「……それだけ、みんなやる気を出してるんだね」
グレイルは自らの圧縮魔力によって巨大な爪や牙を形成。もう一体の巨大アイスガーディアンへ対抗するかのように、たたき込まれた拳を正面から迎撃した。 殴り合いに勝ったのはグレイルのほうだった。軽くのけぞるアイスガーディアン。
更に『獣式ハティ』が出現し、アイスガーディアンの中にある核の部分を的確に破壊、奪い去っていった。
「……向こうも余裕が無くなってきた……ということかな……。
……今こそ攻め時……ここで一気に畳みかける……全力、全開で行くよ……!」
「だれが全力全開だー!」
一方。入夏は船の手すりにしがみついてぐわんぐわん揺すられていた。
『こんな海にいられるか。あたしは帰らせて貰うわ!』的なことを言って颯爽と(そしてよりによって)エイヴァンの船に乗り込んでしまった次第である。
「し、し、死んでたまるかー! 氷らしく溶けろー!」
杖を振り回し炎の魔術を乱射する。
ひとりだけ別ベクトルでやる気をだしている入夏である。
そんな彼らを簡単には追い返せないことを、アイスガーディアンたちは重々に理解しているようだった。
最後の一体が突如として自らの核を取り出し、天に掲げて握りつぶす。
途端に巨大アイスガーディアンのボディが爆発し、船めがけて死のシャワーが浴びせられた。
あまりの衝撃に船が破壊され、エイヴァンは急いで反転。負傷した乗組員をつれて撤退を開始した。
そのさなかで振り落とされた乗組員を、コゼットが船の側面を走るかのような動きでキャッチ。
ロープを握ったまま駆け上がり、乗組員を救出する。
「だいじょうぶ、あたし宅配便で、アルバイトしてるから、重いの持ってくのも慣れてるよ。
ぜったいに傷つけずに運ぶから、ちょっと揺れるけど我慢しててね」
大量の氷塊が降り注ぐがひるむことはない。
コゼットは恐ろしい回避能力を見せ、雨の中をすりぬけていく。
「はーい、うさうさ便からお届けものだよー」
やっと安全圏へと逃れた船たち。
それと入れ違うように、一隻の軍艦がリヴァイアサンへと突き進んだ。
『よっしゃ、反撃開始だ!一緒に頑張ろうぜ!!』
「あの役者はなかなかどうして味のある演技をするじゃないか。ははは、愉快愉快!」
船を指揮するのはTricky Stars。
一人二役で兵士を(別々の意味で)活気づけると、一人一人を強化して送り出していく。
ナルシスト気味に髪をかきあげ、よく通る声で呼びかける稔。
「イレギュラーズだけではない、お前達もまた役者の一人。さぁ踊れ、ここは死地にあらず。お前達の為に用意された輝ける舞台なのだ」
そんな彼らを支えるのはアエク。
「ああ、歓喜するばかりだ。この輝きを記録せねば、"情報食い"がすたるというものだ。しかしそうも喜んでは居られない、この状況をどうにかせねばならぬのだから。戦略眼は見通しの役に立つだろうか、そう。例えば自分が攻撃を食らいにくい位置取りを探るなどに」
ともすれば教科書にも載りかねない大事件。その当事者となった喜びに震えながら、当事者らしく戦士達の凍傷を治癒していく。
「傷は我が癒そう。中身を――もつをさらしている場合ではないのだろう。対価はもうもらっているゆえに」
突き進む船の上を、氷の翼を広げたアイスガーディアンが高高度飛行によって抜けていく。
成否
成功
第3章 第3節
天空を飛行するアイスガーディアン。飛行機めいた翼を鋭角に構え、爆裂術式を内包した氷塊を船へ投下するいわば爆撃機である。
船による海上移動と氷の床での足をつけた戦闘が主であるメインの部隊にとって、この上空をいったりきたりする戦法はきわめて面倒なうえ、後衛部隊への直撃を常に警戒しつづけなければならない。『いるだけで厄介』という存在だが……。
「当然! 対抗できる!」
風を呼んでまっこうから船を走らせたカイトはその風を掴んで急速離陸急上昇。
飛行型ガーディアンと同じ高度をとると、翼に炎の刃を纏わせて回転。発射する機銃のごとき緋色の羽根と自らの突撃によって飛行型ガーディアンを破壊。撃墜していく。
「海洋船乗りの意地と、水竜さまの力を見せつけてやるぜ!」
そう語るカイトの更に上。爆弾を抱えた飛行型ガーディアンが船を狙って迫っていた。
「『ハンター』、奴を頼む」
「了解――ルクト・ナード。交戦開始」
スマートフライトユニットを装備したルクトが機体に接続させた大型ライフルを発射。
投下された爆弾を空中で打ち抜くと、そのまま飛行型ガーディアンの真下からの急上昇コースをとった。
ライフル自体の精度は決して高くないが、恐ろしく安定した姿勢制御技術によって彼我の差は大きく埋められた。つまるところ、飛行能力によって彼女は戦っているのだ。
「邪魔な奴らだが、スコア稼ぎには丁度よさそうだ」
飛行型ガーディアンの腹部をライフルで撃ち抜き、更に高高度へとすり抜けていく。
彼女の横を二機の飛行型ガーディアンが通過。振り向くように反転しライフルを放ちつつ……ルクトはもう一人の仲間へ呼びかけた。
「そっちへ行った。リーカー」
「まっかせて!」
高高度に陣取って郵便鞄に手を突っ込むニーニア。取り出した無数のエアメールが式神術によって紙飛行機化し、高性能AIを搭載した追尾ミサイルのごとく編隊を組んで飛行型ガーディアンへ発射された。
機銃で迎撃にかかるが、打ち落とせたのはそのうち3割程度。残る全てが接触と同時に爆発。翼を破壊されたアイスガーディアンが煙をふいて墜落していく。
「さあ、空の脅威は払ったよ。みんな前進!」
「援護する」
急降下して自らの船へと着艦。操舵にうつるニーニアにかわり、その上空をヴァローナが肉体に接続したフライトユニットによって随伴した。
「敵は強大だけど、傲慢。強ければ強いほど、足元を掬われ易くなる……師が言ってた。
雑兵を殲滅し、速やかに本体を攻撃するべきと判断。
好機は逃さない。確実に狙い撃つ」
組み合わせた両手より魔術演算方陣が展開。スコープのように遠くの対象を拡大表示させると、軌道予測マーカーがターゲット内を動いていく。
三つのマーカーが重なったその瞬間にヴァローナの魔術が自動発動。アイスガーディアンを打ち抜いていく。
成否
成功
第3章 第4節
突き進む船が氷の山と谷へと至り、イレギュラーズは海兵たちと共に上陸。
それを阻止せんと四つ足に大砲を備えた砲台型ガーディアンが迎撃の魔道加粒子砲を発射してきた。
「くると思った! 防御陣形ィ!」
茄子子がてをかざして叫ぶと、彼女についていた海兵たちが防御と治癒と代行回避による多重防御陣形を展開。砲撃を散らすことでうけきった。
「たとえ翼がなくたって、みんなはまだ戦えるでしょ! 怪我しても会長が全部治してあげるよ!! だから一人も欠けずに、みんなで勝つんだよ!!」
茄子子の勢いのある演説にやる気を見せた海兵たちが突き進み、それを支援するように茄子子は羽衣協会特製の羽根つき軍配を振りかざした。
「進む皆を守るのよ、撃ェ!」
「いや、撃つの俺なんだけどな!」
錬は氷地へ上陸していく味方を支援すべく拘束錬成魔術を発動。金槌で船の甲板を叩いたと同時に無数のパーツが組み合わさり魔術高射砲が完成。無理矢理氷地のアイスガーディアンたちへ向けると、それを思い切り乱射した。
「リヴァイアサン、この戦が終わったらお前の鱗で武具一式でも作ってやるよ、嬉しいだろう? 一斉砲撃、撃てェー!」
切り開かれるリヴァイアサンへの道。
そこをひた走るのはドゥーたちの切り込み部隊である。
「流氷のマリアは俺たちの希望が潰されるのを見たがってた。
けどそんなことさせるものか。
皆が繋いだこの状況、絶対に無駄になんかさせない……!
全力でいこう!」
杖を振りかざしたことで生まれた魔術の塊が、立ち塞がろうとするアイスガーディアンたちへと叩きつけられていく。
リヴァイアサンの前を塞いでいた、両腕を盾にした壁型ガーディアンを破壊。転倒した壁を駆け上がり、アイゼルネが宙に身を躍らせた。
「壊される前に、壊してあげる……。
私たちの心は、そう簡単に折れたりしない……」
どこに持っていたのか。手品のごとく取り出した投げナイフを連続投擲。
リヴァイアサンの胴体。それも第一陣がつけたあの小さな鱗の割れ目を縫う形で毒塗りナイフが突き刺さった。
これでよし。アイゼルネは着地と同時に素早く反転すると、両手を組んでジャンプ台の構えをとった。
飛ばす相手は猛烈な速度で駆け寄ってきたトモエである。
似たタイプの相手にシンパシーを感じたのか、それとも似たタイプだからこそタイミングが重なったのか。いずれにせよ好機。
(あはは、イレギュラーズに来て、最初の相手がこんな大物だと誰が思ったことだろう。
神様、これは試練? それとも、罰?
けどそんな僕は、今日で卒業しなければならないね)
トモエは、震えて止まりそうな足を無理矢理に動かして、アイゼルネの即席ジャンプ台で跳躍した。
「僕は『必要悪の教会』アンネセサリィ。悪を断罪し、正義を謳う」
宙返りから繰り出された渾身の蹴りが、突き刺さったナイフを更に奥へとめり込ませた。
「天罰法式に従い、貴様を断罪する!」
成否
成功
第3章 第5節
初めてリヴァイアサンの肉へと通ったダメージは明確な痛みとなって巨大な胴体ををふるわせた。
大きな縄を砂地でふればほこりがたち周囲の土が乱れていくのと同じように、高層ビルのごときサイズ感をもつリヴァイアサンが身をよじれば氷の山谷は動転し周囲を守っていたイレギュラーズや海兵たちはおろか、アイスガーディアンたちまでもが吹き飛ばされることになる。
『流氷のマリア』はそれを見越してアイスガーディアンを使い捨てにし、新たに特化型のガーディアンを生成した。
首のない身長2m程度の人型。しかし核は炎のようにこうこうと輝き、全身からは激しく蒸気がのぼっていた。
腕からは炎の剣を生み出し、挑みかかる海兵たちをなぎ払っていく。
「氷なのに炎を出すなんて……それならボクの出番だね!」
焔は一度槍を地面に突き立てて手放すと、熱型ガーディアンへと空手の構えをとった。
彼女の背後にぶわりと浮かび上がるかの世界の神々たちの幻影。
これらは焔を炎の害から守ってくれた。
地を蹴り剣を突き出してくるガーディアンに対し、刀身を直接掴むことで防御。
相手の胸めがけて熱い掌底を放った。
そこへジェット噴射をかけて突っ込んでくるモモカ。
「満を持してアタイ参上だぞ!
邪魔する氷どもはぶっとばしてやる!」
素早く飛び退いた焔にかわり、モモカのごっついロボットアームがガーディアンの胸へと直撃。
表面装甲を破壊しながら吹き飛ばした。
「こいつらをどうにかしなきゃ大変なことになるんだ。
アタイでもそれくらいわかるぞ。
ぜったいにぶちのめしてやるぞ!」
「それが『出来る』ようになった……これが奇跡ってやつかねぃ。
せっかくのチャンス、無駄にはしないのよさ!」
リルカは赤いリボンを生み出すとそれによって髪をきゅっと縛り、真紅の魔動機剣を両手で握りこんだ。
「元の世界でもこれだけの敵を相手にしたことはなかったけど……。
全員で力を合わせて、絶対なんとかしてみせるだわさ!」
突撃。と同時に剣から激しい熱が噴き出し、刀身が真っ赤に輝いた。
彼女の突撃にあわせて自らも突っ込むアリューズ。
「おっ、なんかチャロロに似た奴でてきたな。それはさておき――」
両手で握り混んだ剣に闘志がみなぎる。
逆立つ髪の毛にやる気が満ちる。
「来た来た来た来た来たぁああああああああああッ!!
最ッ高に燃える展開じゃねーか!!
ここでこのチャンスを生かさなきゃ勇者じゃないッ!
全力で防衛ラインを突破してリヴァイアサンにぶちかましてやるぜッ!! 食らえ! 必殺ッ!」
アリューズとリルカの剣が同時にガーディアンへとたたき込まれる。
かざした剣で受けたつもりだが、二人の合体攻撃を受け流せるほどの力は彼にはなかったようだ。
「メテオレイィィィン・ザッパァアアアアアアアッ!!!!!!」
ガーディアンをクラッシュアイスさながらに破壊し、ついでに氷の地面も破壊する。
身をよじるリヴァイアサンも相まって氷の地面は大きく傾き、斜面になってアリューズたちは流されるが、そんな中を根性で駆け上がるシスターがいた。
ヴァレーリヤである。
「私達が道を切り開きますわ。ですから皆様どうかその先、リヴァイアサンのところへ!
ここまでに倒れた人達の希望を繋いで、この絶望の海を突破しましょう!」
駆け上がった道の先。きりたった氷の崖を速度を維持したまま飛ぶと、吹き抜ける暴風のなかで聖句をとなえた。
「『主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる』『前進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん』」
炎の障壁がそのまま鋭いネイルハンマーの先端となり、迎え撃とうとするアイスガーディアンを粉砕する。
どころか。
砕いた炎がそのままリヴァイアサンへとめり込み、鱗を激しく焼き焦がした。
成否
成功
第3章 第6節
満を持してと、言うべきであろう。
チェスプレイヤー。戦術教官。蹄鉄聖歌。いくつもの二つ名をもつ中で最も多く呼ばれる名がそう――。
「よくぞ戻られました、『司書』殿」
軍艦のデッキで深く頭を下げる黒鎧の騎士。
「久しぶりね、グランディス。状況は?」
「カイト様とリリー様がおこした奇跡によってリヴァイアサンの権能がひとつ剥ぎ取られ、攻撃の有効性が確認されております。ここまで述べれば――」
「ええ」
こめかみを人差し指でトンと叩いてみせるイーリン・ジョーンズ。
「その作戦は、いまや既知。手伝ってくれるわね、ウィズィ?」
「もちろん。勝利の道筋は見えています! だから無理しないで、皆で生きて勝ちますよ!」
巨大テーブルナイフを立て、ウィズィニャラァムは堂々と身をさらした。
すう、と息を吸い込み船の手すりに足をかけるイーリン。
「待たせたわね――私が、【騎兵隊】が来たわ!」
崩れ、割れ、動転する氷の大地。
そこへ船ごと無理矢理乗り付け、派手に転倒する船舶から勢いよく跳躍していくイーリンたち。
頭上を派手にまたいでいくリヴァイアサンの胴体を一瞥してから、あちこちの氷山から再生成されるアイスガーディアンたちをなぎ払っていく。
「我ら騎兵隊! 地獄の血海(ブラッドオーシャン)から帰ってきたぞ!」
ウィズィニャラァムがガーディアンの胸をつき、強引に押し込んで直角にはねあがった氷の床もとい壁へと叩きつける。
「ふふ、大した大冒険よね? ――六角陣形。全方位攻撃、今!」
「はぁ、開放されてすぐ戦闘? 元気良いなぁ。私は磯の匂いが強すぎて気持ち悪いよ――っと」
後方に回り込んで刀の柄を握るメーヴィン。桜色の刀身を抜き放つ。
新規生成され日本刀のような鋭い剣を備えた侍型ガーディアンを、メーヴィンは発生直後に十七分割にした。
「それで?」
「だからこそだ。悪いが今の私はそう簡単には折れぬぞ。並び立つと決めたのだから」
両側面を守るようにレイリーとエマが氷上でブレーキをかけ、それぞれの方向にむけて反転。
腕を展開しヴァイスドラッヘンホーンを装備。レイリーは新規生成されたばかりの雄牛型ガーディアンの頭部から胴体までを一気に貫いた。
(騎兵隊の皆が戻ってきた。そして希望は繋がった。
なら、絶望なんかに負けはしない!)
「騎兵隊一番槍、レイリー=シュタイン! さぁ、デカブツよ海に沈め!」
その反対側ではエマが短刀を素早くくりだし、新規生成された鳥型ガーディアンが空に飛び立つよりも早く翼を切り落とし細い胴体を刀で貫いた。
「騎兵隊完全復活ですね! よーし、勝ちますよぉー!」
「ヒヒヒ……」
「まだまだこれから! こんなところで死んだらダメですよ」
更に両側面を固めるように現れた武器商人とココロ。
武器商人は新規生成された四脚砲台型ガーディアンの開幕粒子砲を破邪結界によって無力化。更に上空から浴びせられる爆裂術式弾をフライトユニットによって飛び上がったココロがカウンターヒールによって迎撃。
広がった爆発を取り返すように貝殻のような美しいフィールドが広がり、仲間達を傷や死から保護していく。
そんな彼女に守られるように加わる海兵たち。
振りかざしたイーリンの旗に導かれるように、全員一斉にリヴァイアサンへと砲撃を開始した。
その中心となって魔術砲撃を行うレイヴン。
「リヴァイアサン!
御身にとっての隣人とはなんだ!? 我らとて海と共に生きた身。
純種と魔種、根源たる竜にとって、何が違う!?」
そう叫びながら呼び出した八ツ頭の大蛇『ハイドロイド』。魔方陣から顔をだした複数の首が同時に激流のブレスを放った。
焼け付いて脆くなったリヴァイアサンの鱗を砲撃が破壊し、あらわになった肉を槍で刺すかのように鋭い激流があびせられる。
流石に耐えがたい痛みであったのだろう。
リヴァイアサンは再び胴体をおおきくよじり、周囲の氷山を破壊していく。
「退くわよ。追撃は他の仲間に任せれば良いわ。戦うなら、生き残ってこそ」
イーリンがあらかじめ導き出していた撤退経路をたどり、ローレット&海洋海軍による連合騎兵隊は撤退していった。
成否
成功
第3章 第7節
上空から艦隊船舶へと爆撃をしかけてくる飛行型ガーディアン。
海星綱を用いて船の見張り台へと上ったパティリアは、ライフルのスコープ越しにガーディアンをにらみつけた。
「これまでの固体に比べて攻撃に癖が出てきたでござるな。ということは『これ』が有効な筈でござる!」
ガーディアンに向けてライフル射撃を連射。
反撃をくわだてようとするのを予期して隣の船へ海星綱を使って移動すると、片腕でライフルを握ってさらなる射撃をしかけた。
爆撃にかなりのAPを消費していたのか、ガーディアンはすぐにガス欠を起こしライフルのダメージも増大。海へと墜落していく。
待ってましたとばかりにダブルバイセップスのポーズをとるマッチョ。
頭に被ったなんかシュールなプリンヘッドとマッチョTシャツを誇示すると、プリンヘッドをパトランプよろしく回転発光させはじめた。
「ヴォオオオオ! デカイ竜モ、氷モ、数モ雑魚モ関係ナイ!
勝ツハ! コノオレ、マッチョプリンダァ!」
割れに続けとばかりに船から飛び、激しくぐらつく氷の大地を駆け抜ける。
邪魔しようと発生した屈強な巨大アイスガーディアンにショルダータックルを仕掛けると、同じく(?)筋肉自慢の海兵たちがドロップキックやクロスチョップをしかけていく。
猛攻によってよろめく巨大アイスガーディアン。
そこへ飛び込んだのは我らが破壊神コレットであった。
助走をつけた跳び蹴りでガーディアンの首というか上半身の一部を蹴り砕くとサッカーボールのごとくクレイオ兵団へとたたき込んだ。
爆散する氷塊によって吹き飛んでいくクレイオ兵。
更にコレットは巨大剣アナァイアレィシャンを握り込み突進。
「まずは敵を減らすわ。リヴァイアサンの相手はそのあとね」
身長3mちょいの美少女が巨大な剣を構えて突っ込んでくれば誰でも慌てるものだが、これが聖獣何百匹殺しの伝説保持者と知っていればなおのことである。
新たに発生した三体の巨大アイスガーディアンが一斉にコレットへ殴りかかるが、その一発目を剣によって粉砕。その勢いのままもう一体の胴体に剣をめり込ませると、相手の顔面を掴んで破壊のエネルギーを伝達。内側から爆発したガーディアンの様子に思わずひるんだ三体目を両手で掴むと、あふれるパワーで無理矢理ぶん投げた。
直後、黒い光による翼を展開。激しい跳躍によって氷の床が傾き、羽ばたきによってリヴァイアサンめがけて突っ込んでいく。
そんな彼女の横を並ぶように飛行するLumilia。
「攻撃が来ます。保護するので耐えてください」
Lumiliaは白銀のフルートを奏でるとコレットの潜在能力を更に引き出しつつ、翼をもった天使型ガーディアンたちによる槍投げからコレットを保護しはじめた。
演奏によって生まれた清らかなフィールドがコレットの腕に槍がささるそばからそのダメージを白いきらめきに昇華していくのだ。
「絶望は勝機へと転じました。容易い相手ではないことは承知しておりますが、ここが英雄譚の始まりでなくしてなんだと言うのでしょう。
手と翼が届く限り、彼らを死なせたりはしません」
ついにリヴァイアサンの側面へと到達したコレットは翼ではばたきながら側面を駆け上がり、駆け上がりつつ突き立てた剣で鱗を斬り付けていった。
ある程度切り裂いたところで離脱。
彼女を逃がすまいと飛びかかってきた天使型ガーディアンたちの槍突撃を、素早く割り込んだ桜花が防御した。
畳んだ黒い傘の表面で槍を受け流すと、更に懐刀を抜いて別の攻撃をはじき返す。
「こんなところで死ぬわけにはいかないからな。
存分に抗って、守り通してやる」
リヴァイアサンが暴れたことで激しく乱れる地面や波の中、取り残されそうになった海兵を引っ張り上げて味方の船へと走り出す。
「捨て身の突撃は美しいかもしれないが、大抵の人体は壊れればそれまでだろう?」
先ほどの防御で腕のパーツがかるくへし折れたが、自己修復機能によってぱきぱきと直していく。
「殴って、生き延びて、また殴る。これを繰り返せば倒せない敵はない」
「その考え方、悪くないわね」
負傷兵や桜花たちとすれ違い、腕組みしたまま立つ『善と悪を敷く天鍵の女王』ことレジーナ。
追っ手として迫る天使型ガーディアンたちを前にドンと足を踏みならすと、周囲に激しいスパークが覆った。
「さぁさぁ、踊りましょう踊りましょう。
黒い薔薇の執念は、青い薔薇の棘のそれとは性質が違いますわよ?」
紅蓮の炎が巻き上がり、更にもう一度足を踏みならせば彼女を中心に無数の軍馬や戦馬車が現れ、搭載されたバリスタから鋼の杭が幾本も発射された。
天使型ガーディアンたちを打ち抜き、撃墜するレジーナ。
「屠竜の奇跡を!
安らかなる眠りを!」
成否
成功
第3章 第8節
戦場は幾度となく乱れ、そしてそのたびに敵味方は傷ついていく。
特に目に見えて傷が深まっていくのはリヴァイアサンの胴体であった。
あの空を覆わんばかりに暴れる巨体が出血し、焼けるさまは誰の目にも見え、そしてそのことが海洋海軍および鉄帝海軍たちの士気をたかめた。
特筆すべきは鉄帝海軍。これは支援どころではないと国に帰ろうとしていた者たちも、勇ましく戦うイレギュラーズや彼らの出した成果に胸を打たれ、次々に戦列に加わっていく。
そんな戦艦のなかのひとつにリゲルは乗船していたが……。
「まさかアンタと一緒に戦うことになるなんてね」
ツンと顎を上げ腕組みをする少女チェリー。かつてはモデルチーム『そのひぐらし』や地下闘技チーム『デイリーブロッサム』のリーダーをしていたが、なんやかんやあってフリーの傭兵となったようである。
「あしひっぱんないでよね」
「……」
口の端を小さく上げて笑うリゲル。
「あれを見ろ。イトさんとリリーさんがやってくれたんだ。
一気に畳みかけるぞ! ガーディアンたちなど吹き飛ばしてやるだけだ!」
魔力砲撃を放つチェリーに初撃をまかせ、リゲルは船から氷山のひとつへと着地した。
鎧を纏った騎士型ガーディアンが三体同時に出現。
繰り出すリゲルの剣を氷の剣でうけ、盾によるシールドバッシュを仕掛けてくる――が。
「向こうがリヴァイアサンなら、こちらは水竜様が手を貸してくれるか……
人の縁とは有り難いものだな。この好機を逃すわけには行かない! 全力を尽くして敵を打ち取ろう!」
ポテトの放ったミリアドハーモニクスが暖かい光となってリゲルの鎧を包み込み、ぐらつく身体に力をみなぎらせる。
目の奥にカッと燃え上がる魂の炎が、ポテトを背にまもりながら戦うリゲルの剣が、騎士型ガーディアンを盾もろとも切り裂いていく。
「面白くなってきたぜ、ハハハ! 今度は味方の竜かよ!
おまけに伝説の海賊が仲間になるたぁな! まるでおとぎ話じゃねえか!
このおとぎ話がハッピーエンドに終わるかバッドエンドに終わるかは俺達次第って事か!」
共に突撃する鉄帝艦隊を先導し、ルカは雄々しく叫んだ。
「オラァ! 道を開けやがれ! ラサの傭兵、ルカ・ガンビーノ様のお通りだぁ!!」
守りを固めようとする騎士型ガーディアンめがけまさかのドロップキック。
無理矢理転倒させたところで足をかかえてジャイアントスイングを仕掛けると、すぐそばで防御していたガーディアンをもなぎ倒した。
「勝機が、見えてきた……それならやる気も俄然出るってものだよぉ!」
転倒した騎士型ガーディアンへ糸を発射するシルキィ。
テーザーガン的に電流を打ち込むと、バチバチと火花を散らしたガーディアンが爆ぜ、パーツごとバラバラに飛んでいった。
「この調子で一気に蹴散らすよぉ!」
さらなる糸の発射で、突撃してくるクレイオ兵を連鎖感電。
「切れ間のなかった曇天に今、確かに一条の光を見たぞ!!!
一転攻勢じゃ皆の衆!!邪魔するモノをまとめて吹き飛ばし、かの海竜に目にもの見せてくれようぞ!!!!」
そうして開いたルート更にこじ開けるように、フーリエが猛烈に駆け込んだ。
クレイオ兵たちの奥で指揮をとっていた伝達型アイスガーディアンを発見。
「貰ったァ!」
後退しようとするガーディアンに素早く追いつくと、顔面に自らの手のひらを押し当て、鷲掴みにした。
フーリエの爪がばきりと食い込み、ギザギザの歯を見せて笑う。
「ここに集うは勇猛果敢な海の猛者どもよ! 往く道を遮ることなど不可能と知れぇい!!! ――フーリエ・キャノン!」
ガーディアンの頭部を破壊し、その衝撃でもって胴体を吹き飛ばす。
後続のクレイオ兵や他のガーディアンたちを連鎖的に転倒させる。
そんなフーリエに集中攻撃を浴びせようと迫る大量のクレイオ兵。
しかしオラボナが舞台袖から現れる演者のごとくゆらりと割り込み、集中する槍や鞭による攻撃を我が身で受け止めた。
「我が身が人程度の脆さと想うのか。Nyahahaha――一撃で沈む威力は困るのだがな。貴様の戯れに付き合う『肉』の身にも成り給え。化物風情」
リヴァイアサンの鱗を割ったとて1%ほどの損傷にしかならなかったように、クレイオ兵の集中攻撃はオラボナの肉体を数パーセントほど傷つけることしかできなかった。
しかもそれが、傷つけたそばから不気味に修復されていく。
「Nyahahaha――!」
わらう彼女を、もはや誰もとめられない。
成否
成功
第3章 第9節
「そうか、勝機が来たか。となれば、反撃は迅速に。この闘いには時間制限があることを忘れるな……!」
切り開かれた敵陣を穿つが如く、メリッカは海洋海軍の兵士達をつれて攻勢に出ていた。
幾度も攻撃をうけたことで少なからず危機感を覚えたのか、リヴァイアサンの胴体は激しくなみうちあちこちの氷山を破壊。
足場は大きく揺れ、ときには足場もろともひっくり返ることすらあった。
メリッカは青く豪勢な翼をはばたかせ、氷の谷間を低空飛行で駆け抜ける。
「最早休息を入れる時間すら惜しい! この時のために残しておいた『ありったけ』を注ぎ込めるだけ注ぎ込む……!」
氷山から生成される大きな狼型ガーディアンの群れ。
対するメリッカはブレーキ&魔術砲撃によって派手に牽制。吹き飛んだガーディアンめがけ、獣のごとく飛びかかったわんこが相手の頭部を蹴り飛ばした。
「強力な敵の後に更に強力な敵とは……全く驚くべき戦力デスネ、キャヒヒヒ!!
しかし、こちらにも勝ちの目が見え始めているのデス。
ならばやる事は一つデショウ……ぶん殴って押し通る、そして勝つ。こちらも出し惜しみ無しデス」
腕に食らいつく狼型ガーディアン。
もう一方の腕にも食らいつき、両側からひっぱりわんこを引きちぎろうとする。
が、わんこはギラリと歯を見せて笑い……。
「もう一度言いマス、わんこに撤退の二文字はありマセン!!」
柔軟に両足で狼たちを蹴りつけると、腕を犠牲にして強制離脱した。
「無茶な戦い方をする……。片腕が動かなくなってもしらないぞ」
ぽんと飛んできたわんこをキャッチし、腕に治癒術を施してやるランドウェラ。
一時的に浮かび上がった黒い紋様が肉や神経や骨を再構築し、掲げたわんこの手をにぎにぎとさせる。
「さて、立ち止まっている暇はないぞ。暇どころか、足場ごとなくなりそうだがな」
ずんと地に手をつけて告げるランドウェラ。彼の言うとおり、地面が突如もりあがり巨大アイスガーディアンとなって立ち上がった。
「さぁて、おかわりねぇ?」
いつのまにかそんなアイスガーディアンの肩に腰掛けていたアーリアは、空っぽになった酒瓶を海へと放り投げた。
つやめく唇を小指でなでて、薄目を開いてなにかを囁く。
巨大アイスガーディアンの耳にしか聞こえない彼女の囁きは魔法のことばとなり、天空から激しい雷撃が降り注いだ。
現れたばかりの巨大アイスガーディアンが下半身だけを残して砕け散り、膝を突いて転倒。
駆けつけたクレイオ兵たちが下敷きとなり、いつのまにか離脱していたアーリアはくすくすと笑って惨劇に背を向けた。
ことごとく倒されるアイスガーディアンだが、しかし再生成速度もかなりのもの。
氷山から新たに二体のアイスガーディアンが生まれ、全身を氷の武者鎧で包み込んだ。
更に氷雪でできた野太刀を握り込み、背を向けたアーリアへと突進をかける。
それを邪魔したのがオデットであった。
「あーもー!!! よくわかんないことばっかり!
でもね、あんなでっかい蛇に怯えてるようじゃ妖精の名が泣くっていうのよ!」
巨大な氷の拳を作ると、鎧武者型ガーディアンを殴り飛ばした。
「ようやく思い出した土の精霊の友達の力、こっちの世界でも披露してあげる!
寒い氷はみんなかき氷になっちゃえばいいんだわ」
更にいくつもの腕を地面からはやして、かわったファイティングポーズをとらせた。
ひるむものかと剣で斬りかかるガーディアンだが、オデットの横を抜けて前進した舞花とシキが、それぞれの剣でガーディアンの斬撃を受け止め、打ち払う。
「潮目が変わった……という事を、あちらも認識はしているようね。
動きを変えたという事は、この状況こちらの攻勢は確実に相手にとって痛手になるという認識がある証左と言える。
この状況で守りに入るとは。意気軒高な敵の攻勢に対して護れば凌げる等というのは思い違いであると、教えて差し上げましょうか」
「もちろんだよ。そのためにここにいるんだからさ。
それに、諦めやしないよ。倒すべきデカヘビが目の前にいるのに、足踏みする理由なんざどこにもない」
エグゼキューショナーソードを振って身体ごと回転。まるで息をするような自然さで、シキはガーディアンの首を切り落とした。
「閉ざされた道に風穴を。蹴散らされる覚悟はできてるかい?」
側面や後方へ、新たにアイスガーディアンが生成される。
こちらへプレッシャーをあたえるつもりだろうが……。
「全部倒す必要なんてない。道がひらかれればそれでいい」
「その通りです。リヴァイアサンに刃を届かせるため、今こそ好機。突破を!」
執拗に攻撃を重ねてくる鎧武者型ガーディアンの剣を次々に打ち払い、最後には鞘を押し当てることで防御。強制的に作った隙を突く形で神速の斬撃を繰り出した。
氷の鎧武者を袈裟斬りに。斜めにスライドし崩れていくガーディアン。
そうして通った、小さな隙間。
とても小さな隙間ではあったが、彼女には……ジェックにはそれで充分だった。
「トラの威を借るキツネ、竜の威を借るマリア、ってネ。
コイツらアイスガーディアンがリヴァイアサンの力でデキてるなら、タオすのは無駄じゃない。
例えコップの1杯にもミたなくても、それを積み重ねるコトが大事ナンだ………ソレが、戦争なんだ」
スコープ越しに。ガスマスクのレンズ越しに目を細める。
その一瞬だけスナイパーライフルと自らを一体としたジェックは、きわめて小さな隙をうちぬくようにしてライフルを発砲した。
回転しながら筒から飛び出した弾は無数のクレイオ兵の間を、アイスガーディアンのすぐ横を。仲間と仲間の間にある数センチの隙間を、誰かが食べようとしたドーナツの穴を抜け、リヴァイアサンにざっくりと刻まれた刀傷へと強引にめり込んでいった。
成否
成功
第3章 第10節
船よすすめ。応急修理によってなんとか浮かんだ二隻編成の軍艦に、同じく応急手当によって戦えるようになった各部隊かきあつめの兵士たちが乗り込み、即席の攻撃部隊を編成している。
「ややぁっ! 御覧ください水兵の皆さんっ!
竜がなにやら絶不調っ! いよいよ海相手に喧嘩を成立させる、というのも現実味が帯びてきたでしょうっ!
それもそのはずヨハナは(自称)未来人ですからねっ!
全部お見通しだったわけですよっ! メイビー(小声)
さぁさぁ! 勢いと調子は乗れるときに乗っておくものですよっ! 突撃突撃! 各自判断で砲撃!」
そんな彼らを指揮する臨時艦長ヨハナ。
よく回る下で兵達の士気を上げ、たくみに彼らを扇動していく。
一方兵士に砲撃や回避の指示を与え連携を取らせているのはリックである。
サメらしい鋭い顔でギラリと笑い、リヴァイアサンとそれを守る船舶型アイスガーディアンを指さした。
「その通り。希望は見えた、道筋はついた! じゃあ後は駆け抜けるだけだぜ!
皆、あそこが隙だ! リヴァイアサンへの道をつけようぜ!」
氷の船から巨大な腕の生えたガーディアンがはえた大砲から次々と砲撃を行うが、リックの指事によってたくみにそれを回避。逆に砲台を殺す形で機関銃砲撃を仕掛けていく。
その一方、なんとかついてきたがまだ負傷が抜けていない兵士たちを蜻蛉がてきぱきと治療していた。
「戦況が少し変わって来たみたいやけど…手は抜けへんね
…大丈夫、傷の手当てするよって、頑張って来て?」
指先に現れた蝶を飛ばすことで兵士達に生きる力を与え、彼らの怪我を自己治癒させていく。
「明けない夜はないのだから」
そうして回復した兵士達がさらなる砲撃を開始。ひとつの砲弾が船舶型アイスガーディアンに直撃した。
傾く船。それに乗っていたアイスガーディアンたちが焦った様子で離脱。
飛行型アイスガーディアンに補助されるかたちで空へあがると、ヨハナたちの船へと次々降下してきた。
「竜、竜かァ! 蛇(おれたち)の最上位でふんぞり返ってる類の大旦那が相手たァ景気が良いや!
蛇神の端くれとして本物に手出し出来るのは景気がイイ、邪魔するってんなら押し通るまで」
双弥は自らのもつ毒の力を、今まさに船へ降下してくるアイスガーディアンへ向けて発射。
密集していた彼らはたちまち毒におかされ、着地すらままならず甲板へめりこむようにして破裂していった。
それでもなんとか攻撃をかわして着地する剣闘士型アイスガーディアン。盾と剣を氷で作り出すとカインへ身構えた。
「全く、選り取り見取り好き勝手生み出してくれちゃって……」
対するカインは徒手空拳。参ったとばかりに両手を挙げてふらふらとした足取りで近づく――とみせかけて、相手が首をねらって剣をスイングする予備動作を見切ってローリング回避。
「冒険者の鉄則――自分の出来得る事を理解しろ、ってね!」
相手の背後に回り込んで足払いをかけると、そのまま距離を鳥ながら封印カードを投げつけまくった。
「知ってる? ある程度知能がつくと、無防備な相手には手の込んだ攻撃をしたくなるモンなんだよね」
成否
成功
第3章 第11節
船に乗り込んできたアイスガーディアンと海兵たちの戦いが勃発する中、ボディは丸太のような腕をぐるぐる回し雄牛型アイスガーディアンの突撃にむけて構えた。
「氷山を粉砕したら、また新手ですか。
……少し、高揚します。ここまで多種多様さを誇る物をわざわざ出撃させたのです」
両手を突っ張り、自らへ突撃してくるガーディアンの角をつかみ取る。
足で踏ん張り甲板を二メートルほど削ると、力業で相手を転げ倒す。
「敵は焦っている。ならば、そこを斬り崩す。反撃開始です。絶望は、打ち砕きましょう」
転倒させたガーディアンへ向け、利一が呪術を込めた魔石を指弾で発射。
頑丈なガーディアンが少しずつ砕けていく。
「雑魚がいる限り攻撃が集中できないな。ここは露払いを務めさせてもらおうか」
振り向きざまに新たな指弾を放ってガーディアンを破壊したところで、やっとリヴァイアサンへの攻撃圏内へと到達。
砕けて小さくなった氷の床を船舶型アイスガーディアンたちが新規発生し、大砲による攻撃を仕掛けてきた。
「敵も味方もこれだけいれば流石に壮観だな!
私もこの戦場を駆けるとしよう!」
デッキを駆け抜け豪快にジャンプするブレンダ。
振り上げたダブルソードを飛来する砲弾に叩きつけて無理矢理ガードすると、反動で回転する身体をまんま利用して船舶型アイスガーディアンの頭部へと切り込んでいく。
「いざ尋常に斬り合わせてもらおう!!!」
「斬り……合う……?」
汰磨羈はこの世紀末人間砲弾みたいな戦法に若干の疑問をもったがよく考えたら自分も似たようなことつい数ヶ月前にしたなと思い出し思考を水で流した。
「さぁ、いよいよ本命に手を掛ける時だな。
ただ、流石にお邪魔虫が多いと困りに困る。
ならば――全力を以て、障害を排除するのみ!」
「クハッ、然様!
敵の焦る顔は痛快痛快!その面もっと青くさせてやろう!
目指すは防衛突破!リヴァイアサンへの道を切り拓くのである!」
百合子はそういって自ら大砲の中に入ると、内側からがちゃんとハッチをしめた。
「…………」
あーこれ見たことある。これででかい要塞に突っ込んでいったの覚えてる。
ふと横を見るとゴリラみたいな鉄帝軍人が『乗ってく?』てジェスチャーでもう一台の大砲を指さしてきた。
「まあいい……花に集る虫は駆除しなければな?」
汰磨羈たちは大砲によって一斉に打ち出され、砲撃中の船舶型アイスガーディアンたちの頭部を粉砕。そのままの勢いで荒れ狂うリヴァイアサンの胴体へと突っ込むと、百合子と汰磨羈はお互いの拳をピッケル代わりに鱗へ突っ込み身体を固定。
「では、根比べといこうか。私達が倒れ伏すのが先か、御主等が滅されるか――いざ、尋常に勝負!」
相手の肉のなかで無理矢理開いた手より力を直接流し込んで激しい火花をあげさせる汰磨羈。
「ほう、面白い。それでいこう。羅武☆注入!」
百合子もまた突っ込んだ手を無理矢理開いて直接美少女力を流し込み連続爆発によって血肉を吹き飛ばした。
成否
成功
第3章 第12節
連続しておこる爆発。これまで以上に暴れはじめるリヴァイアサンの胴体。
頭部が本格的に動き出したことで胴体の動きもまた激しくなっていた。
ローレットや海洋艦隊はおろか、アイスガーディアンたちでさえ満足に近づけないほどの暴れようにメリルナートは一瞬撤退を考えたが……。
「いいえ、ここは更に攻めるべきですわー」
砕かれた無数の船舶型アイスガーディアンが氷の弾幕になって降り注ぐなかを、メリルナートの指揮する船は強引に突き進んでいく。
「反撃と参りましょうか、皆さん準備はよろしくてー?」
「さあ、来なさい。まだ終わっていないというのなら。私だって、どこまででも支え続けてみせるんだから」
防御の構えをとり、三叉の武器を振り回すことで飛来する氷塊を破壊死、弾き飛ばすイリス。
船舶へと落下した氷塊は新たに合体し、できそこないのアイスガーディアンとなって海兵たちへと襲いかかる。
そんなガーディアンが伸ばした手。それを十夜が掴んで素早く投げ落としてしまった。
「さーて、体は充分あったまってるかい、お前さん方。――そんじゃ、反撃開始といこうや」
転倒したガーディアンを踏みつけて破壊すると、暴れるリヴァイアサンを見上げる。
迫る死へのカウントダウン。
見えた勝機。
こうなれば、どちらが先に死ぬかの勝負だ。
「目には目を、歯には歯を、竜には竜をってわけか……
柄じゃねぇが…こうなると信じたくなっちまうねぇ。『奇跡』ってやつを」
できそこないガーディアンたちを前に、イリスと共に防御陣形を組む。
突然。船舶の前に巨大アイスガーディアンが出現し上半身すべてを砲台に変えて零距離から狙いをつけてきた。
「――!」
激しい砲撃。
広がる爆炎。
吹き上がる黒煙。
一陣の風が吹き。
「やあ」
大事なところを謎の光で隠した全裸のセレマが現れた。
「悪魔が強く、より恐ろしく、悍ましいほど、美しさというのは映えるもの。
そして抵抗が激しくなるほど、隠れていたはずの本性があふれ出すもの。
美しいと思うだろう? 妬ましいと、思うだろう?」
「いや、あの……」
「ボクに触れたいと、壊してしまいたいと、無茶苦茶にしてしまいたいと望んでしまうね?
それこそがボクに対する最高の賛辞になるのさ!」
「えっと……」
「さあ、ボクに尽くしてくれるかい!?」
一本たりとも乱れていない髪をわざわざ整え、セレマはアイスガーディアンへと両腕を広げた。
さらなる砲撃が立て続けに浴びせられ、脱衣でダメージを表現する漫画だったら絶対死んでる状態にありながら、セレマはキラキラしながら立っていた。
「あ、あー……とりあえず服は着ろや」
ヨシトが咳払いしながら自分のコートを着せてやった。
振り向き、負傷兵たちへの治療をほどこすヨシト。
「おめーらも命を粗末にするんじゃねえぞ。死んだら隣の戦友に負担が行っちまうからな! 気合入れて『生き残れ』よ!」
と、その辺りでアイスガーディアンからの防御をセレマからゴリョウへ交替。
防具をがしゃがしゃと展開装備すると、さらなる砲撃にシールドをはって防御した。
「ぶはははっ、焦ってきたかい? いいぜ、存分に付き合ってやらぁ! さぁ来な!この豚はそう簡単には沈まんぜ!」
しびれをきらしたガーディアンはゴリョウを追い払うべく自らの大砲を直接叩きつけ超零距離で砲撃を連射。
激しい音と振動が船をゆすり波を高め海水をシャワーのように降らす……が、その執着こそが狙いであった。
「邪魔やっ!」
側面に回り込んでガーディアンの胴体めがけアサルトライフルの連射をしかける真那。
全弾撃ち尽くしたところで腰ベルトからマガジンを取り出しつつ空のマガジンを足下へ乱暴に落とし、素早く装着。
連射を殆ど途切れさせずに撃ちまくった。
足下が空薬莢で一杯になる頃、ガーディアンの側も弾切れを起こしたらしく砲撃が停止。修也はその隙を狙って方針へ飛び乗ると、頂上まで駆け上がっていった。
走りながら眼鏡のブリッジを中指で押し、キラリとレンズを光らせる。
「一匹……いや一撃でも多く攻撃を無駄にしないために!」
頂上へ至ったところで手のひらを押し当て、込められている無数の術式を連鎖発動。
ガーディアンの肉体を維持するべく氷と氷を接続固定している術式を見つけ出して分解。たちまちのうちに巨大な氷像は大量の水と塩の柱へとかえしてしまった。
「ふいい……」
そんな中で余裕そうに立っているゴリョウ。
「腹減ったな」
「弁当ならあるぞ。アンタの作ったもんだが」
ヨシトがそっと差し出してきた弁当を見て、ゴリョウはぶははっと笑った。
成否
成功
第3章 第13節
こうして再度切り開かれたリヴァイアサンへの道。
行人は『穏やかなるワッカ』の上で熱心に船(?)を操作していた。
「ここまでくれば砲撃も――って、なんだあれ!」
上空から降り注ぐ大量の氷の槍。
「右か!? 左か!? 退――く暇はない、避けろ!」
ワッカを操舵(?)することで槍の攻撃を防ぐ行人。
「いつまでもいられないぞ、すぐに引き返す。攻撃するなら今のうちだ!」
「5秒くれ。必ず当てる」
ラダは甲板に堂々と寝そべり、リヴァイアサンの真下を通るタイミングを狙ってライフルを構えた。
「仕方ないな。手伝うよ」
ウィリアムは自らの周囲に無数の魔方陣を展開。まるで天球儀でも灯したかのように広がった魔方陣の全てから大量の破壊光線が発射され、槍を迎撃していく。
なぜ迎撃を? と思うが次の瞬間には槍のうち一本が船舶に突き刺さり、そこから虫のように無数の足がはえ船舶(?)へとしがみついた。しかる後爆発。すぐそばにいた海兵が吹き飛ばされ海へと転落していく。
「こいつ、アイスガーディアンか!」
「そういうこと。追い払うよ」
「わかった。まかせてー!」
アンジュが腕をぐるぐる回してからビッと空を指さすと、あちこちから大量のイワシが出現して槍へと自爆特攻を敢行。更に突き上げた指からイワシビーム(水流)が発射され槍型アイスガーディアンを破壊していく。
「辛いし、大変だし、相手もめちゃくちゃつよいけど、アンジュたちは諦めないよ。アンジュといわしの栄光の道に壁の一文字はなーーーい!!!」
「五秒だ」
予告通り、と言うべきか。
ラダは絶好のタイミングで引き金をひき、リヴァイアサンにあいていた小さな傷へと弾を命中させた。
きりもみ回転し肉体へとめり込んでいった弾はランプ点滅の末に爆発。特殊な音波をまき散らして肉体の動きを一時的に麻痺させた。
ダメージにこらえきれなくなった胴体がそのまま落ちてくる。
槍が降るのとは比べものにならないレベルの破壊である。
事前に撤退を始めていたとはいえ、おこった高波にのまれて複数の船がひっくり返った。
「わ、わ……!」
別の船舶に乗っていたテルルは手すりを掴んで転倒をこらえ、そして『皆さお願いします!』と叫んだ。
「「応!!」」
魔道ライフルを構えた海兵たちが列を組み、テルルを守るように陣を形成した。
彼女のお茶とお菓子によって回復し戦線へ復帰した彼ら。義を果たすならば今である。
一斉砲撃――に伴って立ち上がるミミ。
「うっし! ミミも一丁、参戦するのです!」
腕まくりしてみせるミミ。二度見するテルル。
ミミの取り出したイヌミミ爆弾。なんか白い犬みたいな顔がついた球体にちょっともふっとした耳と尻尾がついた爆弾である。これの尻尾部分をつかんでぐるんぐるん回したのち遠心力でもってぶん投げるという遊び心爆発な仕様であった。
「悪漢撃退ボム!」
投げつけた爆弾がリヴァイアサンの胴体へかじりついて爆発。
その爆発に紛れる形で、風にのって空を駆け抜けたシャルレィスがリヴァイアサン胴体の上へと着地。
彼女に抱えられる形で同じく着地したアルテミアと共に、同時に胴体へと剣を突き立てた。
「どれだけ守りを固めようとも、私達にも仲間がいる!!
――押し通らせてもらうわよ!!!」
「風よ! 思うが侭に荒れ狂え! 蒼風烈斬ッ!!」
突き刺した剣を中心に青い突風が巻き起こり、真空の刃がリヴァイアサンの表面を複雑に切り裂いていく。
その直後にアルテミアの剣から吹き上がった青い炎が傷口を激しく焼いていく。
バッと花が咲いたように散っていく鮮血の中、二人は反撃を受けるまえに離脱していった。
彼女たちの後ろで血の雨が降り、タイミング良く滑り込んだ船の甲板に着地した二人はリヴァイアサンを振り返った。
そんな中で目にした光景。
降り注ぐ赤の中で、氷で作り出した地面に倒れ、こちらを強くにらみつける女性の姿。
マリー・クラーク。もとい嫉妬の魔種、『流氷のマリア』である。
成否
成功
第3章 第14節
血の雨が降り注ぐなかを、美しいタコ足が歩いて行く。否、地面からふわりと浮いた状態のまま、歩くような速度で『流氷のマリア』へと近づいていく、少女。
「妾に殴られた傷の調子はどうかの? 流氷のマリア」
「……デイジー」
降り注ぐ血を瞬時に凍らせ、剣を作り出した『流氷のマリア』はデイジーめがけて飛びかかるが、両サイドから飛び込んだカンベエとベークがそれを阻んだ。
「マリー・クラーク! 貴様の敵はここにも在るぞ!!」
刀で剣を受け止め、相手を強くにらみつけるカンベエ。
「例え竜を倒しアルバニアを越えようと、お前を残しては気が晴れぬ!
完全なる外洋征服こそが、海洋の望みなれば!」
「ええ、まったく……」
対する『流氷のマリア』に、これまでのような余裕の表情はなかった。
「誰も彼も、そうやって立ち塞がって。デイジー、デイジー、みんなみんな、あなたばかり……!」
リヴァイアサンの血を使っているからだろうか、『流氷のマリア』が放つ冷気の波動はベークとカンベエを派手に吹き飛ばし、突如つきたった氷の壁へと叩きつけてしまった。
更に真っ赤な氷でできた巨大アイスガーディアンが二体同時に出現。カンベエたちを思い切り殴りつける。衝撃で破壊された壁がこまかな氷の欠片となって散っていった。
そこへ参戦してくるウィートラント。
「倒す必要はない、とは聞き及んでいるでごぜーますが。
どのみちマリア様をどうにかしない限り、肝心の竜種に有効打を与えることはできない。
それに魔種である以上、ローレットは放置できないでありんしょう。
わっちとしてもお会いしてみたいでごぜーますし、ね」
呼び出した『黒狼・マーナガルム』をアイスガーディアンたちへとけしかける。
更にマスケット銃による射撃を加え、ガーディアンの牽制を行った。
「さあ、マリア様。あなたの意思の輝きを魅せておくんなんし!」
「ここは私も手伝うよ!」
フランも加わり、森の魔法を展開。派手に吹き飛ばされ怪我をしたベークやカンベエたちを治癒していく。
「えへへ、デイジー先輩にはさっきの唐揚げの恩があるんだ。
あの女の人ってデイジー先輩のおねーさんなんでしょ?
姉妹げんか、ってやつだね。存分に先輩がばちばちやれるように、あたしが支えるよ!」
にっこりと笑いかけ親指を立てるフランに、デイジーは深く頷いて返した。
「『絶壁のフラン』……」
「『流氷のマリア』みたいに不名誉な称号つけようとするのやめて!?」
そこへ更に加わる仲間達。
「この前は力になり損ねたからね! 今回はキアイ入れて道を切り拓くよ!!」「ここで会ったがなんとやら。もう逃がさないっ! ここで必ず討ち取る!」
剣を抜いた秋奈が。猛烈な跳び蹴りでエントリーしたイグナートが。それぞれ『流氷のマリア』へと飛び込んだ。
新たに生成された赤いアイスガーディアン。言うなればブラッドガーディアンたちが行く手を阻む。
秋奈の剣とブラッドガーディアンの剣が交差し、イグナートの突きをブラッドガーディアンの剣の手のひらががしりと受け止めた。
「どうせ長時間殴り続けられるようなアイテじゃないんだ。出せるチカラを一瞬に賭けて絞り出す!!」
「邪魔だろうがなんだろうが、学習していようがなんだろうが!
全て正面から! 常識なんだろうが打ち破る! それがイレギュラーズってもんよ!」
ダメージ覚悟。全力で攻撃をたたき込み続ける二人の猛攻に、ブラッドガーディアンは防戦一方であった。
「味方が多くて安心じゃな。のう『流氷のマリア』……いや、マリー」
デイジーはあえて指を鳴らすと、部下の田中(元コンビニ店員)に椅子と紅茶を出させた。
「知っとるかの? 妾、映画が公開されたんじゃよ。主演女優賞モノじゃ。レッドカーペットにはどんな服を着ようかのう」
紅茶に口をつけ、ゆうゆうと味を楽しむデイジー。
「――!」
『流氷のマリア』はそんな彼女を斬り付けようと氷の剣をたたき込むが、再びエントリーしたベークがそれを防御。
その更に後ろに陣取ったフランがそれを治癒。
周囲で戦うブラッドガーディアンたちも、イグナートの拳と秋奈の剣、そしてウィートラントの銃撃によって破壊されていった。
「なぜ、今、そんな話をするの、デイジー……」
歯を食いしばり、絞り出すように言うマリー。
デイジーは壮絶に笑って。
「なに、『自慢』じゃよ」
自らと共に戦う仲間達を手で示して見せた。
「いつもそう……いつも、デイジー、あなたばかりだったわね。お母様が最後になんて言ったとおもう? 『デイジーちゃんを見習いなさい』ですって」
激しいエネルギーの爆発がおこり、仲間達が吹き飛ばされていく。
「お兄様たちはデイジー、あなたのことばかり考えてた。あなたに追い抜かれそうでおびえてた。それを隠して強がってた。私だけ。私だけ……」
デイジーの首を素手で掴み、額をぶつける。
「私だけ、それが『悔しくなれなかった』……!」
「そうじゃろう、のう」
足下で割れるティーカップ。
デイジーは目を細め、そしてあえて、笑って見せた。
「だから、妾になりたかったのか。
妾とともにありたいと思ってくれはせぬのじゃな」
「――!」
目を見開く。
デイジーの仲間達が一斉に繰り出した攻撃が、マリーの身体を抜けていく。
「お主ら兄姉のこと、好きではなかったが……。
楽しくありたいとは思っておったよ」
最後に手をかざし、デイジーは月の魔術を解き放った。
「借りるぞお師匠。『月天の魔女』の力、受けてみるがいい」
成否
成功
第3章 第15節
空が赤く泣いている。
そう、誰かが言った。
砲弾と血と高波と、誰かの悲鳴のなかで。
GMコメント
このシナリオはラリーシナリオです
戦果に応じて『リヴァイアサンの胴体』を部位破壊できることがあります
■グループタグ
誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【鮫殴り同好会】9名
■章概要
第二章以降で状況が異なる場合がありますので、章の頭に公開される章概要をご参照ください。
・第一章の概要
リヴァイアサンの出現によって海洋海軍は壊滅的被害を受け、撤退を余儀なくされました。
しかし退路を魔種『流氷のマリア』によって絶たれ、絶体絶命の窮地に追い込まれてしまいました。
皆さんの力を駆使してこの状況を突破し、負傷兵たちの退路を確保しましょう。
・タグ概要
プレイングの冒頭に自分の役割を示したタグを記載してください。
【アタッカー】
アイスガーディアンを攻撃し破壊します
【タンク】【ヒーラー】
負傷した海兵を庇ったり治療します。
守られた海兵が多ければ多いほど突破のための戦力になるでしょう。
【コマンダー】
海兵たちをまとめて元気づけたり指揮したり、強化したりして送り出しましょう。
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●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)
皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
※他の<絶海のアポカリプス>シナリオに比べれば可能性は低めです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
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