シナリオ詳細
<絶海のアポカリプス>絶望に拳を掲げよ
完了
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オープニング
●おわりのはじまり
――人間共。『冠位』を傷付けし者共よ。その顔を見てやろう。
その小さき力を嘲り、その小さき力を僅かばかり認めて。
我が好奇と興味の的として、貴様等の姿を覚えてやろう。
絶望等と生易しい、後付けの廃滅等問題にもせぬ。我は神威。我こそ世界。
光栄に思え。たちどころの感謝に咽べ。
称えよ、竦め。許しを乞え。我が名は滅海――滅海竜リヴァイアサンなり!
大海原を爆砕して現れた、あまりにも巨大すぎる怪物。否、『滅海竜リヴァイアサン』の存在は魔種たちを倒し少なからず勝機を感じていた海洋海軍たちを一転して絶望のムードで覆してしまった。
高層ビルがうねるかのごとく巨大なその体躯は、ただ動作するだけで荒波を引き起こし船を転覆させてしまうだろう。未知の力によって守られた鱗はいかなる攻撃も弾いてしまうだろう。
言うなればそれは、『物理的な絶望』であった。
「た――」
味方の船が次々と転覆するさまに、そして天を突くがごとくふり上がった巨大な頭を前に愕然としかできなかった海軍船長は震える顎でなんとか叫んだ。
「退避ィ!」
きわめて簡潔な命令だが、なにより正しい判断だった。これだけの敵を相手にできることは退避をおいて他にない。
転覆した船から離脱した兵士たちが素早く泳いでは船へと無事な這い上がり、時には瀕死の重傷を負った者や意識の戻らぬ者がデッキへと寝かされる。
まるで地獄のような風景だが、まだそれは地獄の入り口に過ぎなかった。
●みんな一緒になれる、最後のチャンス
マリー・クラーク。別名『流氷のマリア』には夢があった。
素敵な素敵な兄弟達と自分が対等に笑い合い、まるでふつうの家族のようにひとつのテーブルについてシャイネンナハトを祝う風景である。
最高の夢。最高の宝物。それをきっとかなえてくれるのは、誰にでも垣根なく触れて、人の心を溶かしていく。
私の一番の宝物。
誰もがきっと、あなたになりたかった。
マリーは嫉妬の根源を知っていた。妬ましさとは、つまり――。
「ねえ、デイジー。私はあなたになりたかったわ」
だから。
いまこそ。
「壊れて崩れて溶けて混ざって、みんなひとつになりましょう」
マリーはリヴァイアサンの胴体の上に立つと、両手を広げて高く天へ掲げた。
まるで彼女の指揮に応じるオーケストラの如く、海面へ無数の氷の山がつき上がり、海軍たちの逃げ道を阻んでいく。
氷の山から再現なく生えていずる氷の人型モンスター『アイスガーディアン』たち。
船が氷山にぶつかったことで強制的に停止させられた海軍混成部隊デリンジャー少尉は顔面蒼白のまま武器をとり、海豹艦隊アシカ副長はデッキに転がった負傷兵たちを庇うように立ち塞がった。
水上バイクを船のそばにとめ、ゴーグルをあげて舌打ちする海軍将校ユーナバー。
「チッ、なんだこりゃあ。ここが俺らの墓場だってのか?」
「いいえまだです。まだ死んでたまるものですか。氷山の隙間を抜ける形でなんとか船を通せます。まずはせめて負傷兵だけでも退避させなくては!」
「あの『アイスガーディアン』を見ろ。ホテルのボーイみたいに通してくれると思うか? お荷物お持ちしましょうかって?」
アイスガーディアンたちの腕が剣やハンマーや大砲へと変わる中、まだ無事な海軍兵士たちがそれぞれの武器をかまえて挑みかかる。
なかの一人が、あなたへ――イレギュラーズへと振り返る。
「この場を突破するにはあなたの力が必要です。アイスガーディアンを倒すのでもいい、襲われる負傷兵を守るのでもいい。とにかく、ここを我らの墓場にするわけにはいきません!」
- <絶海のアポカリプス>絶望に拳を掲げよ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月13日 21時03分
- 章数5章
- 総採用数386人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
強力な攻撃を集中させてもかすり傷程度しか負わせることのできないリヴァイアサン。
その様子を観察していたマリーは、おっとりと笑って頬に手を当てた。
「あがくのね。まだ、あがくのね……。
けれど、だからこそ、道が閉ざされれば人は心を折られるもの」
リヴァイアサンからエネルギーを受け取ると、新たに複数の氷山要塞を出現させた。
逃げた船のその先へ回り込むように現れた氷山はそれそのものが超巨大なアイスガーディアンとなり、巨大な腕でもって船を攻撃しはじめた。
「だから、ねえ、私に魅せて。
折れない心を。潰えない希望を。
……それすらも、溶けて消えてしまうさまを」
たとえこの場を脱しても、廃滅病の恐怖はすぐそこまで迫っている。
この絶望的状況を脱することは、はたしてできるのか……。
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・第二章の概要
新たに発生した巨大アイスガーディアンは船を直接狙い、負傷兵や海兵たちを海へ炊き込もうとしています。
・タグ概要
プレイングの冒頭に自分の役割を示したタグを記載してください。
【アタッカー】
巨大アイスガーディアンを攻撃し破壊します
【タンク】【ヒーラー】
船への攻撃をかわりに引き受けます。かなりのダメージになるので、ヒーラーによる補助を頼りましょう。
この二つがセットになっていると非常に有効です。
【コマンダー】
海兵たちをまとめて元気づけたり指揮したり、強化したりして送り出しましょう。
今度は巨大な敵が相手なので、団結していればいるほど有利です。
第2章 第2節
リヴァイアサン撃滅に燃えるイレギュラーズの中でも特に大規模な結束を見せていたチームがある。
天義常夜事件をはじめ多くの大規模戦闘において持ち前の機動力や知略を駆使して巨大な敵へ挑んできたチーム。その名も【騎兵隊】。
装備統一の難しいローレット・イレギュラーズの中において騎馬兵を大増員し部隊規模で大きな功績をあげたことから名付けられた彼らにはリーダーがいる。
「彼女等が居ないのは、まあ、あれだ……」
コンッと手すりを爪で叩き、隣に並ぶはずだったもう一台の椅子を見やるシャルロッテ。
「それなりに不愉快だよ」
「だからどいて。構っているヒマ、ないの」
彼女たちののる船の中心で、カタラァナはよく通る声で歌い上げた。
これまで廃滅病による窮地を救ってきたモスカの民であり、同時に【騎兵隊】の『シンガー』である彼女にとって、これは意地であった。
――きばは あるか
――つめは といだか
――いのちは きしに おいてきたか
――すがるものは なにもなく
――あたうる ものも なにもなく
――のこるものは うたばかり♪
ドレイクにラムアタックで挑み、結果として攫われた『司書』含め仲間達のゆくえは知れない。生死すら分からぬもどかしさと、いち早く彼女たちを取り返したい焦り。
それを根本から塞ぐリヴァイアサンの存在は、邪魔以外の何物でも無かった。
シャルロッテたちの指揮下に入ったエマ&ウィートラント。
ウィートラントはこちらを見下ろすあまりにも巨大すぎるリヴァイアサンとその胴体に立つ『流氷のマリア』を振り返り、細めた目をぴくりとさせた。
「竜種に魔種。ふむ、魔窟と呼ぶにふさわしく
そしてこれ以上ないぐらいの様相を呈しているでごぜーますね。
それでもまかり通しんしょう。
もっともっと人の、そして人外の輝きを見たいがゆえに!」
反転。と同時に突き出したマスケット銃による射撃が巨大なアイスガーディアンへと命中。氷の装甲上を火花が散る。
更に放たれた黒狼妖精と共に、エマは弾丸の速度で飛びかかった。
「まさか山が襲い掛かってくるとは……!
ええぇーい、友人が待っているんです! 山が相手でもひるみませんよ!!」
衝突と同時に繰り出されたナイフ連撃が装甲をガリガリと削っていく。
一方でクリムは空中へと飛び上がって刀を抜くクリム。
「敵対するなら殺す。敵対しなくてもドラゴンなら殺す。神を名乗った奴も殺す。つまりリヴァイアサンは殺す。邪魔する奴も殺す。何もおかしくないな」
エマに乗じて繰り出された斬撃が激しく氷塊をえぐり、腕の一本を失わせようとしていた。
「――我の前に立つのが悪い」
「おめおめ生き恥を晒したのだ。ならば、もはやこの戦に名誉など要らず!」
そこへ飛び込むレイヴン。
クリムからパスされた刀をキャッチすると、自らに処刑人の伝説を投影召喚するとアイスガーディアンの腕を狙って斬撃。抵抗する腕へ強引に回転をかけ、激しくスピンしながら切り抜けた。
「邪魔だ失せろ! 私は彼女らの元へ行かねばならんのだ!」
崩落する腕。
反動でのけぞるアイスガーディアン。
さらなる追撃を――と構えたところで、アイスガーディアンの反撃が始まった。
振り上げた拳を巨大なハンマーへと変形させ、船めがけてたたき込む。
そこへ対抗したのは古参中の古参、『武器商人』であった。
「まったく、船の代わりに攻撃を受けろとは無茶を言う」
自らの『なにか』を拡大適用させると、見るも無惨に叩き潰された。
「ま、確かに。我(アタシ)はか弱いが、こういう場面では多少の弾除けにはなろう。
命の刻限を稼ぐ分キミも身体を張っておくれね。ヒヒ!」
潰された……はずにも関わらず、『なにか』が集合し再び武器商人を形成していく。
さらなる打撃を繰り出したところで、武器商人はかざした手に魔力障壁を展開。船を包む巨大な障壁がアイスガーディアンの拳を止めた。
「――!」
あまりの頑丈さにひるんだ様子をみせるアイスガーディアン。
その横をゼフィラの船が通り過ぎ、つい先ほどアイスガーディアンの攻撃で沈められた海軍の船付近へと寄っていった。
「ははははっ! いいね、竜と顔を合わせることになるとは!
これこそ冒険だ!この場に居ない者たちには悪いことをしたかもね」
低空飛行ユニットを用いて船から海へと飛び降りるココロ。
(命に価値の差はなく、誰も彼も生きる権利がある。
わたしは誰だけ助けて誰を見捨てるようなこと、したくない)
「――さあ、いきますよ!」
負傷して沈んだ兵士を何人か抱えて猛烈な勢いで浮上すると、ゼフィラの船へ一人ずつ搬送させていく。
搬送係は飛行能力をもって水面と甲板を行き来する華蓮と、転がされた負傷兵を並べて寝かせていくねねこである。
「全員を助けるのだわ、順序とかじゃない、全員なのだわよ!
それにこういう時こそ、ヒーラーの腕の見せ所ってものなのだわ!」
「全くです。死体すら保管できないなんて私許さないのですよ!」
甲板に並べられた負傷兵たちは舞い戻ってきたココロの祈りと華蓮の放つ爽やかな風、そして壊れた打ち上げ花火のごとく炸裂させまくったねねこのヒールボムによって治癒されていく。
「こ、ここは……天国か?」
「残念だけど地獄ですよ。生きたままのね」
「さあ、諸君! 絶望に心を曇らせるのは勿体ないと思わないか!
生きて帰り、この冒険を語り合おうじゃないか!」
これでよしと頷き、船を再び出すゼフィラ。そんな船めがけ、アイスガーディアンは大砲化させた腕で激しい砲撃をしかけてきた。
アイスガーディアンは武器商人への攻撃が不能とみて、こちらへと標的をシフトさせていたようだ。
だが……。
「この船にも守りがないとでも思ったか」
レイリーが突き出した腕から装甲を展開。バチバチと青い電流を巡らせると、飛来する砲撃をその盾でもってはじき返してしまった。
「私の名はレイリーシュタイン。騎兵隊の一番槍だ! さぁ、かかってこい!」
一人で受けるには重すぎるダメージ。
しかし……。
「私達はこの先で助けを待っている同じ【騎兵隊】の仲間を助けに行くんだ。
だからといって、ここでも一人でも死なせてなるものか!」
「その通りです」
美しく流ちょうな口調で、アルムがレイリーと場所を入れ替わった。
(目の前で仲間を攫われ、船を壊され……。
私これでも負けず嫌いですので、負けっぱなしは趣味では有りません。
ここを凌いで攫われた皆様を返して頂きましょう)
「追い詰められたメイドは竜を噛む、かもしれませんよ?」
第二の砲撃を斜めに傾けた盾によって強引に防御。
防ぎきれないダメージで派手に吹き飛ばされたが、これでいい。
この二発を防げれば、こちらの勝ちだ。
船で魔力を激しく充填していたクラウジアが、箒をライフルのように構えてアイスガーディアンへと向けていた。
「けぬ戦い、というものは存外心が踊るものなんじゃなあ。
魔力強化をイヤというほどしてきたんじゃ、一度成果を見るとよいぞ!」
クラウジアの眼前に現れた魔方陣メーターがぐるりと100%ラインを突破。150%まで振り切ったエネルギーを、アイスガーディアンめがけて放射した。
真っ赤なラインがアイスガーディアンをぶち抜き、そして――。
「全く、冠位というのは、どこまでも、厄介、だ。これほどの隠し玉を、持っていたとは、な」
器用にもアイスガーディアンの頭上へと至っていたエクスマリアが、自らの手をドンとその身体に押し当てた。
(致し方、ない。仕留めきれなかった、失態は、竜を落とすことで、雪ぐとしよう。
とはいえ、退路の確保をせねば、イーリン達を救出できても、あとが、なくなる、な)
一度目を閉じ、開く。
「仕留める、ぞ」
激しいエネルギーが上から下へと突き抜けていく。
十字に破壊を受けたアイスガーディアンは、もがくように片腕を伸ばしながらも崩壊。海へと沈んでいった。
成否
成功
第2章 第3節
混沌世界にゃいろんな人がいて、自らに化した呪縛だか歴史だかでその後の戦い方が決定づけられてしまった人々がいる。
そんななかでも特にえげつないくらいスタイルが定まった男。それが零である。
「えぇいくそぉ!
知ったことかバーカ!
こっちは折角両想いになれたってのに廃滅病に俺がかかってるから迂闊に付き合ってと言いたくても言えねぇんだよ畜生!」
ウオーと言いながらフランスパンをリヴァイアサンめがけてぶんなげる。
回転しながら弧を描き海に落ちるフランスパン。
零はキッと振り返ると、固くしたフランスパンを剣のように構えた。
「さっさと病気治して!
五体満足で生きて! 帰るんだ!
邪魔すんじゃねぇ畜生がぁ!」
腕にブレスレット。思い出の輝き。
「食らえぇー!」
槍のように長いフランスパンを作り出し、勢いをつけてアイスガーディアンへ投擲。
直撃をうけたアイスガーディアンは胸を押さえ、反撃のために両腕を高く振り上げた。
腕が巨大な剣となり、船めがけてたたき込まれる。
「――!」
だめだめこれは死ぬ、と思った途端、ゴリョウとタントが同時に前へ飛び出した。
「ぶはははっ、足下を崩しに来たか。なるほど有効だ! だがさせねぇよ!」
「オーッホッホッホッ!
魔種如き恐るるに足らず!
こちらには――!」
ゴリョウの繰り出す盾が右の剣を、タントの放った光のバリアが左の剣をそれぞれ止める。
ガキィンという衝撃音を裂くように、タントはフィンガースナップを打ち鳴らした。
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
船に回収された負傷兵たちが一斉に立ち上がりY字ポーズで整列。
その先頭にたったタントも同じポーズ――から一斉にアイスガーディアンを指さすポーズにチェンジした。
「――が、ついておりますわー!」
ビッと親指をたてて振り返るゴリョウ。
「ぶはははっ! 折れなきゃ負けねぇってんなら、イレギュラーズほど不敗はねぇな! あとでメシにしようぜ!」
「確かに……」
彼らに防御を任せ、いつのまにか元気になった負傷兵たちの間をわって歩いてくる頼々。
ふぁさぁっと前髪をかき上げると、天高く人差し指を突き上げた。
「聞け、海兵の皆!」
掲げた指はアイスガーディアンを、続いてリヴァイアサンを指さした。
「この図体だけは立派な人形、こいつはあの竜めの力を借りて作られていると見た!
いくら竜が強大だからといって無尽蔵に力があるわけではあるまい!
ここにいる一人一人の力があの忌々しい竜の首に突き立てられる刃となる!」
「なんと」
「その発想はなかった」
「言われてみれば確かに」
ぽんと手を打つ海兵たちがやる気になって銃を取るなか、炎を吹き上げてはしるチャロロとアリューズの船が横切った。
「天が呼ぶ地が呼ぶ竜が呼ぶッ!」
「人呼んで炎の勇者!」
二人は同時に剣を抜くと、刀身に魔法の炎を纏わせた。
「竜種に加えて退路まで塞がれるなんて……。
でもオイラたちは諦めない! できることをやるまでだ!」
「そのカンジ、大好きだぜ! 竜にはそれを倒す勇者がつきものだしな!
――行くぜ! バーニングソードフュージョン!!」
突っ込む船を追い払おうと繰り出されたアイスガーディアンの剣を、二人はそれぞれの剣で受け止めた。
ごう、と燃え上がったチャロロの炎が刃に食い込み強制的に固定。
(さすがにオイラも怖いけど、心も希望も消えちゃいない!
この体がもつ限りあがき続けるよ!
溶けて消えようが想いは残してやる!)
「今だ、行け!」
「――サンキューチャロロ! 流星爆剣(メテオレイン・ザッパー)!」
腕に飛び乗り駆け上がり、アイスガーディアンの首めがけて剣を繰り出すアリューズ。
そこへ、新たに三人のイレギュラーズがエントリーした。
「うえぇっ! な、なんか凄く大きいのが出て来ちゃった!?
あんなのに攻撃されちゃったら船がひとたまりもないよ!」
槍を握りしめて歯を食いしばる焔。
「案ずるな。最大の攻撃こそ最大の守備じゃ!!
燃やして燃やして燃やしまくるぞー!!」
といって、焔の肩を叩きつつくるりと振り返った。
「と言うわけでゆくぞ、ローレット放火部隊!」
「だれが放火部隊よ」
「私聞いてないんだけど」
イナリと紅葉が同じように腕組みをして同じように首を振り、そしてハッとして互いの顔を見た。
ぴこぴこする狐の耳。
なんか指先から燃え上がってる炎。
なにこいつ私の2Pカラーなの? って互いが同時に思ったところで、アカツキが両手から炎を出しながら両目をかっぴらいた。
「妾たちの炎とお主の氷……どっちが勝つかのう? 一発炎上しとくのじゃ!! ソリャー!」
両手を合わせて激しい火炎放射を始めるアカツキ。ここで乗らない手はないとばかりに攻撃に加わるイナリと紅葉。
「私達の希望は永久凍土の様に溶けて消える事は無いわ! 下手に私達に手を出すと凍傷で火傷するわよ!」
「くっくっく……でも強敵を相手にするのはワクワクしすぎて右眼が疼いてくるわね!」
剣に炎を宿し、斬撃によって激しく放火するイナリ。
紅葉は指からうつした青白い炎を矢にかえて、アイスガーディアンへと発射した。
反撃のために腕を砲台化し乱射してくるアイスガーディアンだが、それを焔は槍にともした炎を連続で小爆発させながら回転。飛来する弾幕のことごとくを破壊していく。
アメリカンアクション映画のクライマックスシーンもかくやという炎と爆発に飲まれ、アイスガーディアンは崩壊していく。
だがこれで戦いが終わるわけではない。
「こんなところで倒れるわけにはいかないんだ! さぁ、みんな! もうひと踏ん張りだよ!」
成否
成功
第2章 第4節
「無数の敵の後は、更なる強力な敵……キャヒヒヒ、決して楽な状況ではありマセンネ!!
だからと言って、わんこに撤退の二文字はありマセン。ね、わんこ二号!」
まだ若干数残っていた小型アイスガーディアンを指ぬきグローブによるパンチでボコボコ破壊していくわんこ。
「だれがワンコか! ワンコって呼ぶなアル!」
キシャーって叫んでからそばの小型に連蔵掌底からの回し蹴りでコンボをたたき込んでいく虎。
「イー! アル! サン! スー! ハイ! ハイ! ハァーイ! 連撃連撃アルゥ!」
その横を派手な翼を羽ばたかせながら駆け抜けたメリッカが魔力爆撃の後手刀に込めた魔力で急降下打撃。
「ッチ、面倒なことになった……!
『竜種』め、先にやりあったカメとかの比じゃないな。この目で拝んでみたいと思ったことはあったけど物事にはタイミングというものがだね」
「俺たちだけの実力でこの状況じゃあ、近くで殴り合いは厳しそうだな。
前に出て倒れたら、周りの足手まといになりそうだし……」
そう言いながらも小型ガーディアンに掌底を浴びせ、至近距離からの魔術発動で爆散させる修也。
そこへ更に突入してくる数体の小型アイスガーディアン――の前に、ボディがスーパーヒーロー着地で現れた。
テレビ画面をぱちぱちザッピングし、笑顔からキッとした顔に変える。
「竜跋扈し、大海荒れ、氷山鳴動す。
これは正に『絶望』的という状況でしょうか。
……しかし私が絶望を学習するには、まだ早い。まだ、許容は出来ない」
立ち上がり、ファイティングポーズ。
「私は、希望が学びたいので」
「その意気やよし!」
ボディの左右にスーパー美少女着地をかける百合子と汰磨羈。
「よいぞよいぞっ!燃える展開ではないか!
とりあえず手前から倒しておけばよいのであろう?
最後のメインディッシュが龍とは気が利いておるな!!」
『白百合清楚殺戮拳』にある隙だらけ乙女の構えをとり、うっとりと微笑む百合子。
一方で汰磨羈は双刀『煌輝』をあえて腰の後ろへ収納。
ばしんと拳をハンドグローブで受けると中国拳法のような構えをとった。
次の瞬間、百合子、汰磨羈、そしてボディは突っ込んでくる小型アイスガーディアンの顔面を鷲掴みにしてからの強引に押し倒し後頭部を地面に叩きつけて粉砕するというパワープレイで撃滅した。
「図体をデカくすれば良いとでも思っているのか? ――笑止!
ここまで巨大化したのならば、上体の質量はかなりの物になる。
ならば。当然ながら、足に掛かる負荷も相当なモノになる」
「なるほど! あの大きなごーれむさんを破壊すれば良いのですね! 壊すのは得意なので、ミサとローちゃんにお任せなのです!」
ふらりと彼女たちの後ろに現れたミザリー。彼女の影から『黒き森の怪物(ロンリネス)』が湧き上がり、なんとか起き上がろうとする小型ガーディアンたちをばくばくと食らいつくしていく。
それでもぴくりと動いた固体に氷の塊が弾丸んおように叩きつけられ、今度こそ破壊し尽くす。
複数の氷塊を手の中で転がしながら現れる利一。
「リヴァイアサンだけでも大変だというのに、更にアイスガーディアンで追い打ちとは……。
だがこんなことで絶望なんかしていられない。目の前に立ちはだかる敵は打ち砕くのみだ」
ビッと指さしたさき。巨大なこぶしを振り上げ今まさに殴りかからんとする巨大アイスガーディアンがあった。
身構える九人――の間を超高速のフットワークで駆け抜け、まっすぐに左ストレートを打ち込むボクサーがいた。
ボッという空気を破裂させる音と共に崩壊していくアイスガーディアン。
指をつきつけたまま停止する利一。
ボクサー……もとい貴道は『HAHAHA――』と低く笑いながら振り返った。
「拳を掲げろって? おいおい、誰に向かって言ってるんだい?
この、俺が、ソレ以外を掲げたことなんざ、後にも先にもねえんだよ!!
この俺のナックルパートは特異点座標一だぜ?」
と、その瞬間に新たなアイスガーディアンが出現。
腕を左右合計十本に増やした特殊固体が、その全ての拳でもって貴道たちへと殴りかかる。
「目には目を」
「拳には拳を」
一列に並んだわんこ、虎、メリッカ、修也、百合子、汰磨羈、ボディ、利一、貴道が一斉に拳を握ってそれぞれ特有の戦闘姿勢をとり、ミザリーだけが『?』て顔して首をかしげた。
次の瞬間に引き起こされることを、きっと誰もが予想できただろう。
打ち込まれる拳に拳を。
わんこの獣じみたワイルドパンチが。
虎の火花を散らす雷武拳が。
メリッカの魔術コーティングされた拳が。
修也の魔術構造を仕込まれたパンチが。
百合子の清楚かつ優雅な突きが。
汰磨羈の霊力をのせきった突きが。
しれっと混ざったローちゃんが。
利一の氷塊をぎっしり握り混んだ拳が。
貴道のナンバーワン左ストレートが。
ボディの鍛え抜かれた(?)巨腕が。
打ち込まれた氷の拳を真っ向から粉砕し、そのまま相手の肩まで粉砕。悉くを砕き尽くして十人(ミザリー込み)揃って拳を突き出した姿勢で見栄を切った。
「さあ、次に砕かれたいのはどいつだい?
今日は大盤振る舞いだ、幾らでも相手してやるよ!!」
成否
成功
第2章 第5節
「乗れ!!」
海を突き進む大きな『精霊の笹舟』から手を伸ばす行人。
彼に引き上げられる形で回収された負傷兵は、自分が乗り込んだのが精霊によって構築された『力の流れそのもの』であることに気づいてハッとした。
「こんな精霊みたことない……あんた、精霊使いなのか?」
「さあね。ただ、仲良くはさせてもらってるよ」
行人はシニカルに眉を上げてみせると、半透明な長髪をなびかせる精霊へと向き直った。
「まだ転落した負傷兵は多い。引き込まれる前に何とか助けようもあるはずだ――ワッカ! 気合を入れてくれよ!!」
彼の気合いに応えてか加速を始める船。
悠はその流れにうまいこと乗れずにずっとくるくると斜め回転を続けていたが、それにも慣れたようで腕組み正座姿勢を維持していた。
「敵は海兵だけじゃなく船を狙いにきた、か。
負傷した兵士たちまで指揮下にいれないとしんどいヤツだ、これ。うん、やるしかないか……」
よしとつぶやくと、再び自らの影響領域を拡大。
「『ケーリュケイオン』、死を生へと廻すよ。何度でも、だ」
つい先刻の戦い同様、彼女を中心とした陣形が【聖剣騎士団】の基本である。
行人の船に乗り込んで陣形構築を続投したユーリエたちが守りを固めた。
船を沈めるべく両腕を機関銃のような形にかえ、掃射をしかけてくるアイスガーディアン。
「強大な相手ですが……それで折れる聖剣ではありません!
開かぬ道があるのなら…攻め押し通るのみ! 『ガーンデーヴァ!!』」
弓を構え、連続で『意思の矢』を発射するユーリエ。
アイスガーディアンの側面を回るように船を走らせながらの射撃。対して飛来する氷塊弾を、片足を上げたメートヒェンが迎え撃った。
「今度はまたずいぶんと大きなものを出して来たね。
とはいえ、この程度の大きさの相手を倒せないようではリヴァイアサンの相手なんて出来ないからね。
前哨戦としては丁度いいくらいだよ、さっさと倒して先に進ませて貰おうっ」
フッと息をふくと同時にすさまじい速度の連続キックを繰り出し、弾丸を着弾前に破壊していくメートヒェン。
「はいみんなちゅーもーく!」
セララが酒樽の上に飛び乗って剣を掲げた。
「新しく聖剣騎士団に入った仲間を改めて紹介するよ! 十七号!」
セララに前へ出るように言われ、十七号は小さく咳払いをした。
不思議と自らのサイズにフィットした革籠手の装着感を確かめたのち、腰の刀に手をかけた。
「『倶利伽羅剣』十七号――聖剣騎士団の末席として、微力ながら支援する」
「そしてもう一人、ウォリア!」
「『エンドブレイカー(終焉を断つ者)』ウォリア……立ち塞がるならば、絶対の理…神に等しき竜であろうとも、混沌の希望へ我が灯火を重ねて挑むのみ」
「ご、豪華になってきましたね」
ごくりと息を呑み頬に流れる汗をぬぐうリディア。
アルテミアは『こういう光景はいつ見てもいいなあ』という顔をしていたが、気を取り直してアイスガーディアンへと向き直った。
船はターンし、再びアイスガーディアンとの交戦距離へと到達する。
「リヴァイアサンの攻略は難しそうだけど、そのためにはあの巨大ゴーレムは邪魔だわ。
多少無茶な行動は承知の上。あの竜種に挑む時点で無茶で元々。行くわよ!!」
「その通り。相手がどれだけ大きくなったって、私達は一歩も引きません! ついさっき開眼した必殺技を見せてあげます!」
「……!」
構える一同。
セララは再び剣を突きつけると、目にまほうの光を輝かせた。
「絶望を切り拓き、希望の光で照らす。それがボク達、聖剣騎士団だ! ――一斉突撃!」
アイスガーディアンが腕を巨大な剣に変え、船ごと粉砕しようとたたき込んでくる。
「かかってこい、氷人形!」
それを、前に出た十七号が受け止めた。
耐えきれるダメージではないが、倒れてしまうほどのものではない。
たった一本の剣なら折れればそれで終わりかも知れないが、束ねた剣は例外である。
「死の淵に我らは立っている。―――だが! 何を恐れる必要があるッ!」
ユーリエの射撃と行人やメートヒェンの保護、そしてアイスガーディアンの腕へ飛び乗ったセララ、リディア、アルテミアの三人。
一気に肩まで駆け上がると、通り抜けるように一斉に必殺技をたたき込んだ。
「必殺! ギガセララブレイクッ!!」
「焔纏――破刀!」
「必殺、レオンハートストライク!!」
魔法の光と青い炎。そして紅の光が走っていく。
「道とは拓くもの。
閉ざされて心を折られる? 違うな……!
閉じた未来すら打ち砕き、見果てぬ明日を目指す者こそが我等だ」
そしていつの間にかアイスガーディアンの肩に立っていたウォリアが、斧を巨大な炎の柱へと変化させた。
「崩砕せよ――!」
豪快なスイングがアイスガーディアンの首を破壊。そのまま仰向けに倒れるアイスガーディアン。
ウォリアたちは船へと飛び移り、十七号たちと頷きあった。
沈みゆくアイスガーディアンを背にしつつ、また新たな敵へと挑みかかるために。
成否
成功
第2章 第6節
「いくらだってあがくですよ、どうせ逃げる所も無いんです。
まったくもー! 心折れてる暇も無いですよ!
怪我を治してやらなきゃなんない人が、いくらでも居やがるんですからね!」
無数の船が転覆した中でかろうじて残った海軍の船の上。
ミミはリュックサックから大量のポーション瓶を取り出しては倒れた負傷兵たちの顔や身体にふりかけていった。
「さあさあ立って下さい、飲んで下さい、ブッかけるだけでも最悪オッケーです! いくらでも使うといいです! 費用はつけといてください!」
先の戦いでなんとか逃げ延びた数隻のふねのうちのひとつであり、回収された負傷兵たちが集められたこの船には治療を要する兵士たちが転がっている。
テルルたちはそんな彼らの手助けをすべく走り回っていた。
「……とても、大きい敵。それでも、です。
例え微かでも、皆様の手助けとなれるならば」
「船を破壊されればこれ以上の犠牲者が……!
そんなことはさせません……!」
同じくヴァージニアは翼を羽ばたかせては海上を泳いで逃げてくる負傷兵たちを回収し、素早く甲板へと運んでいく。
負傷兵たちが何から逃げているのかと言えば、もちろんアイスガーディアンである。
氷山が直接動くという形で迫り来るプレッシャーは、リヴァイアサンのかけるプレッシャーと相まって絶望を誘った。
(災厄の竜が現れ、魔種に逃げ道を潰され、氷の彫像がボク達を殺そうと追い詰めてくる。
皆が特異運命座標に……ボクに縋る目を向けてくる……ああ、最高だ。超、興奮する)
ほう、と息をついて自らの両頬をなでるセレマ。
「いいよ、いいよ。やってあげよう。
向うのテーマが『冬の女王』なら、ボクは『春の王子』だ。
折れない虚栄心と、潰えぬ自尊心を見せてやろう」
いつもより豪華な衣装で船首部分へと立ったセレマは、迫るアイスガーディアンの攻撃を前に両腕を広げた。
「『愛してる』――『(ボクを)愛してる』」
自らへの賛美は彼に不滅の呪いをもたせていく。
アイスガーディアンの激しい打撃をもろに受け続けながらも、美少年という存在に固定されたセレマの美少年性が完全なる破壊を許さなかった。
が、それでも攻撃のしようによっては打ち砕かれてしまうもの。
テルルやヴァージニアたちが集まり、治癒術をかけたり紅茶を注ぎかけたりして美少年性を維持させた。
「なんだありゃあ……」
「なんやろお……」
ヨシトと蜻蛉は、謎のナルシストがライトアップされながら紅茶を注がれたりパンを詰め込まれたりするさまを横目にしつつ、負傷兵の手当をしていた。
幸いにも彼らはまだ戦闘可能なようだ。
「海の神様か何か……知らんけど……自分のお家かもわからんけど、もう少し賢いお人かと思ったわ」
ここでしっかりと治癒しておけば戦いに加わってくれるだろう。
「ほらこっち……しっかり傷癒して、これで大丈夫」
「どうだ、いけるか? 行けるなら頑張ってきな!」
蜻蛉と手分けする形で負傷兵の傷に包帯を巻いたり薬を塗ったり時に魔法をかけたりしながら治療し、回復したそばから別の船へと送り出していく。
今も尚船に迫り、(主にセレマを)殴り続けているアイスガーディアンを再び見やる。
「俺たちの役目は戦線を支えることだぜ。敵を直接殴って倒すことじゃねえ」
「……ん」
たとえ戦争だからといって医者がみな銃をもって飛び込んだなら国は滅ぶ。
傷ついた者を治癒し『戦い続ける集団』にする必要があり、いまのヨシトたちがその役割を担っていた。
そういった意味で、この船はある意味治療専門の船であった。
「は~い、痛いのないないしましょうね~」
逃げ込んできたけが人を前に、旅行鞄から出した薬やお菓子を振る舞っていくレスト。
「なんて大きな氷のお人形さん……。
あんなお人形さんを操ることが出来たなら、きっと楽しいんでしょうね~。
是非うちのホテルのボーイさんに欲しい所だわ~」
そんな風に語って余裕をみせながら、笑顔で兵士達の緊張や絶望を緩和させていく。
そんな彼らを保護、ないし支援するのがマッダラーたち演奏チームの役割だ。
(俺は……泥人形だ……だから知っている。お前たち生を謳歌する者たちがどれほど美しく逞しいか。
俺がもつ誰かの真似事の感情じゃない、お前たち一人一人が持つ想いの強さを、俺は知っている。
だから奏でよう、勝利の凱歌を、だから奏でよう――)
「我らが生き様を」
手に取ったギターをかき鳴らし、負傷兵やヒーラーチームたちの防衛能力を引き上げる演奏を開始するマッダラー。
「たとえ相手が竜でも恐れはしない。世界を護る為に想いを振るえ!
気高き女神(ざんげ)の加護を受けた混沌の英雄よ、我らこそナイツ・オブ・ザ・ローレット!!」
演奏に合わせて二人組の女性シンガーユニットが即席のステージへと駆け上る。
「歌以外なんにも出来ないワタシですけど……お手伝いに来ました~!
お家の危機なら、たとえちょびっとでも頑張っておかないと~!」
ぱたぱたと手を振るペルレ。
ユゥリアリアは得意の音域操作でハイソプラノのコールをかけると、一礼して振り返る。
「あらあら、こんなにお人形さんを呼び出して。後退ぐらい見逃してくれても良いですのにー。
余裕がないように見られるのは、芸がないですわよー。
……そして今立ち向かわずしていつ立ち向かうのか。
ここで逃げれば二度と前は向けませんわよ?」
兵士達の士気を奮い立たせる歌をうたいはじめるユゥリアリア。
――貴方のその誓いに、祝福響かせよ
――貴方のその祝福に、幸福響かせよ
――貴方のその幸福に、微笑みにじませよ
――貴方のその微笑みに、守るべき誓い ヒカリアレ
治癒され、そして力をつけられた兵士達が礼を言って出撃していく。
本格的な反撃が、彼らの中で始まろうとしていた。
成否
成功
第2章 第7節
ヒーラー部隊の船から次々に出撃していく兵士達。
特に翼をつけた飛行戦闘部隊がアイスガーディアンへ群がり、次々に撃破していくさまは壮観であった。
「ルフナ殿、俺たちも行こう」
「だね。あのウッザいデカブツ! お望み通りに見せてあげよう。決して折れずに咲き誇る希望の花ってヤツをさ!」
「嫉妬の人魚姫が海底に逃げたと思えば……竜種にお目にかかれるとは、ってね。さあ、舞台の幕を上げようか!」
戦う飛行部隊たちに混じったルフナは両手を広げて森の魔法を展開。
鬼灯含め味方全体へ治癒能力を広げていく。
追い払おうと振り込んだ巨大な腕が、いつの間にか張り巡らされた糸によって絡め取られ、そしてびしりと固定される。
「悪役は倒される……それが物語の結末だろう?」
すたんとアイスガーディアンの肩に着地した鬼灯は、彼の腕に抱えられた人形に向けて片眉を上げて見せた。
『痛くしてごめんなさいね、でも兵隊さん達を傷つけさせたくないのだわ!』
きゅう、と糸を引き絞り、アイスガーディアンの腕を破壊していく。
そこへ決定打となるべく投入されたのがチーム【堵列】。
カンベエの装甲屋形船の屋根に、ベルフラウは旗を掲げて立っていた。
「我が旗を見よ!
剣を持て(オールハンデッド)! 声をあげよ! 我らの誇りは此処にある!
卿らが死ぬと言うならば、私も共に逝こう! 故に恐れるな、絶望の淵でこそ笑え!」
集まっていた海兵飛行部隊が、ベルフラウの呼びかけに魂のボルテージを上げた。
「あれは、『円卓旗幟団』?」
「知ってるのか?」
「一部じゃ名物だ。実物を見たのは初めてだが……今から面白いものが見られるぞ」
やる気をみせた飛行部隊を一時的な指揮下において、旗を豪快に振り続けるベルフラウ。
アイスガーディアンは彼女を無視できぬ存在と見なし、徹底した攻撃を開始した。
「おっと、わしの船で狼藉は無用に」
屋根へと駆け上がってきたカンベエが代行防御を開始。
「二度に渡る敗走、死しても忘れぬぞ。
この状況も、貴様を取り逃したから生まれたようなもの……。
希望は潰えぬ! 夢は溶けぬ!! 継ぐ者がある限り、それは失われないと知れ!!」
気合いと共に繰り出したカンベエの拳が、アイスガーディアンと激突。
その瞬間を、ウィリアムとヴィクトールは見逃さなかった。
同時に船から飛び出し、ヴィクトールは自らに障壁魔術を展開。一方のウィリアムは多重魔方陣を展開し、それぞれアイスガーディアンの腕へと飛び乗った。
顔面めがけて打ち込まれるウィリアム渾身の徹甲魔術弾。
激しい一撃にぐらつくアイスガーディアンがウィリアムを振り落とそうと新たに生やした腕で掴みかかるも、割り込んだヴィクトールの球形障壁が掴む手そのものを反発させて拒んだ。
「黒鉄は折れません、砕けません。道を開けてくれないのであれば『あくまで』耐えきるのみ。
この身はその一瞬のチャンスのために!」
「そう、一瞬さえあればいい」
ウィリアムは魔方陣を縦列に重ねると、広い海のように笑った。
「一点突破は得意分野なんだ」
発射される光学魔術砲。もちうる魔力をそのままエネルギーに変えた純粋な熱量による破壊という、ウィリアムがもつなかで最も高威力な魔法である。
元々深い傷を負っていたアイスガーディアンのこと。派手に打ち抜かれ、海にざぶざぶと沈んでいった。
屋形船へと舞い戻るヴィクトールたち。
「お二人ともご無事で」
「大丈夫。だいじなモノを守るためにこのボクは……ボクたちはいるのです」
成否
成功
第2章 第8節
満を持して、と言うべきだろうか。
「妾がお主達海兵どもの教官、デイジー大佐(自称)なのじゃー!」
『ましゅごろしのつぼ』という張り紙のされた壺を頭上に掲げ、デイジーはかき集められた海兵隊へと呼びかけた。
「良いかお主達、今日は団結の大切さについて講義してくれるのじゃ。まずは元気のない者――!」
絶望的な状況にたたされて顔面蒼白になっている海兵を見つけ出し、デイジーは早速マヨネーズたっぷりの唐揚げを口に突っ込んだ。
「これでも食べて元気を出すのじゃ。
あそこでウミヘビの上に立っている頭が高いやつの、実は妾の姉だったアレなのじゃが前回妾達にコテンパンに叩きのめされておる。
今回も軽くひねってついでに下の台のウミヘビも掃除してやる故、安心するのじゃー」
そんなデイジーの船へと飛び乗ってくるフラン。
「ぬわーーー!! どどどどうしよう竜が!?
丸呑みされちゃう、それはいやー!」
「唐揚げェ!」
「むぐー!?」
入船即唐揚げされたフランはもぐもぐしてからほっと息をついた。
「はっ、あたしは一体? そうだったこの船を守らなきゃ! 手伝ってデイジー!」
「よかろー」
ゴールデンマイクを壺から二本取り出すと、自分とフランにそれぞれ渡した。
「それでは聞いてください! お花ーズ・フィーチャリング・フランで『アレって蒲焼き何人分?』」
フランの歌で治癒されてんだか耳を殺されてんだかわかんない船からそーっと距離をとり、愛とフーリエはアイスガーディアンへと迫っていた。
「ぬぅ…氷山がデカブツになりおるか小賢しい。
しかし、これだけの大物を倒せば味方の士気も上がるというのもよ!
ここで怯んでは超☆魔王戦艦(フーリエガレオン)の名が廃るわ!」
その後ろからヌッとペンキセット片手に現れる愛。
「そう、フーリエガレオンIHWS(インフィニティハートラッピングスペシャル)なら――」
「やめろよせ、余の船をショッキングピンクに塗ろうとするな! まだ特殊化もすんどらんのじゃぞ!」
「愛が乗りますよ?」
「そんな売り文句で納得するとでも!?」
そのまた後ろからヌッと酒瓶片手に現れるアーリア。
「フーリエちゃーん。この『超☆魔王(フーリエ・ショーチュー)』まだないのかしらぁ」
「船の酒を勝手に飲むな! 祝杯用に余が夜なべしてラベル貼ったんじゃぞ!」
「この空気感……ボクの出番とみたっす!」
真っ赤な集中線と共にバーンと現れるレッド。
「余の船に赤い靴跡をつけるな!」
「まだつけてないっす!」
ガッと足をあげてみせるレッド。
「とにかく……ここはボクがタンクを務めるっす。
耐え凌いでいる間に反撃してやれっす! 抑えは任せろっす!」
「ほほう……」
とかいってる間に彼女たちの船はアイスガーディアンへと接近。
この辺自動的になっているのか、アイスガーディアンは腕を砲台化して船を狙い撃ちにしてきた。
「ふんぬっす!」
飛んできた巨大な氷塊をキックで防御するレッド。
「ホテルマンみたいなガーディアンなら私の家にも欲しかったけれど……こんなガーディアンならやっぱりお断りねぇ。
ゆっくり港町の酒場でエールとラム、それが出来やしないのは困り物だから……やるとしましょ!」
「確かに竜は巨大なものですが、私達が心に宿す愛と正義はそれ以上に重厚にして長大なものです」
では早速、と遅ればせながらポーズをとる愛。
「『竜馬を躓かす愛と正義の虹光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』」
からの速攻魔砲。週刊『魔砲はいいぞ』にも掲載されたおなじみハートビームである。
アーリアはここぞとばかりに『蜜の罠』を発動。ぱちんとウィンクした途端アイスガーディアンの肉体が熱もないのにどろどろと溶け始める。
「これだけデカければ狙いは付け放題よ! ものども目に焼き付けよ――これが超☆宇宙魔王フーリエの魔王波じゃ!!!」
週刊『魔砲はいいぞ』来週号に掲載予定の超☆魔王波が発射さ――れると同時に軽くバーサーカー化した海兵隊が頭からお花生やした状態で突っ込んでいった。
「あっ――」
ぶち抜くアイスガーディアンのボディ。ぼこぼこに殴りつける海兵隊たちの攻撃もあいまって、たちまちのうちに沈んでいく。
彼らがどこからきてなんでこうなったのか。それは永遠の謎である。答え出てるけど。
成否
成功
第2章 第9節
「生憎、折れるつもりは毛頭ありません。
へし折る気は満々ですけれど?」
「む……」
白夜壱号を運転するマリナ。
鶫は船に備え付けた大砲さながらに縮退霊子加速砲『天羽々矢』を構え、アイスガーディアンへと激しい砲撃を続けていた。
「強指向性陽子弾体砲『天逆鉾』、アクティブ。
さぁ、見せてください。
貴方の余裕が瓦解していく様を。
死地に赴く戦士の覚悟を甘く見たことを、心底後悔しなさい!」
魔術砲を展開し、プロトンランスを発射。
こちらへ接近しようとするアイスガーディアンの一体を崩壊させると、新たに接近してきたアイスガーディアンへと狙いを移した。
船員たちへ振り返るマリナ。
「さぁ、私が来たからにはご安心を…大丈夫です、生きて帰れますよ…諦めないでください。
歴戦の海の男でもあんなの目の前にしたらビビるのも当然です。
でもビビって終わりじゃないのが真の海の男って奴です。
前を向いて、希望へと漕ぎ出しましょう」
海洋王国では(いろんな意味で)有名なマリナである。
中には彼女を知っている者もいるようで、マリナの激励にやる気を出していた。
「流石女神だぜ」
「俺フィギュア持ってます!」
とかいってマリモッコスを掲げる海兵。
魔力銃で(フィギュアを)ヘッドショットするマリナ。
「普及してる……」
「やる気があるなら結構なことだ」
コルウィンはデッキから対戦車ライフルを構え、アイスガーディアンめがけて発射。
すさまじい反動を自らの踏ん張りだけで押さえ込むと、てきぱきと次弾を装填していく。
対するアイスガーディアンは巨大な腕で弾を防御。
「ふむ……なるほどタフだな。粉々になるまで風穴を開けりゃあ動けなくなるかな?」
「手伝おう……」
ライフルを構え、スコープをのぞき込むラダ。
「天を衝く、という形容がそのままに当てはまるものを深緑のファルカウ以外でどれほど見た事か。
……相手が大きすぎて、若干感覚がマヒしてきたかな。そう、大きな仕事はそのままに相手するものではない。
作業を細かく切り分けて、ひとつずつこなしていくものだ」
「ダネ」
反対側から、デッキにかがんでスナイパーライフルを構えるジェック。
「どデカい竜はオイといて。アイスガーディアンなら、物量戦ダ。
コッチの方がまだ、突破口とシテは容易い。
少なくともコノ場限りのハナシなら……ネ」
一斉射撃! という号令と共にジェックたちはアイスガーディアンへ発砲。
「ミせてあげる。ドンナに厚いコオリだって………いつかはウガてるのさ」
「そういうこと。大きくすればいいってもんじゃない」
防御姿勢を維持するアイスガーディアンを着実に削っていく。
が、受けてばかりもいたくないようで、アイスガーディアンは両腕を巨大な機関銃に変えて船を砲撃してきた。
無数の氷塊が船めがけて迫る。
対して。
「ひとつ、ふたつ……」
突如として割り込む位置に現れたラヴが構えた二丁拳銃を連射。
飛来する氷塊の殆どを空中で迎撃。
「──夜を召しませ」
瞬間移動によってアイスガーディアンの頭上に立つと、そこからに更に連射を加えた。
「眠りにつかせましょう、嫉妬も、嵐も、絶望も」
フッと笑ってその場から飛び退き、アイスガーディアンの意識を自分へと釘付けにする。
船への攻撃を取りやめ、アイスガーディアンはラヴへ執拗な射撃を開始した。
「興味がそれた。チャンスや!」
そこへ加わる真那たちチーム【機灰狼】。
(とんでもない事になってしもたな……なんやあのデカブツは)
真那は小銃の狙いをあまりにもでかすぎるアイスガーディアンへつけると、わずかに顔をしかめた。
「それでも私は、残弾尽きるまで撃ち続けるだけやっ!」
フルオートモードで弾幕を散らす真那。
一方でアオイはウィンチェスターライフルのレバーを操作して魔術弾を装填。
「こないだの戦いで終わらせられなかったんだし……まだ立ち止まっちゃいられないよな!
リウィルディア、引きつけてくれてる味方の回復、頼んだ!」
発砲、装填、さらに発砲。
早業の装填によって何発もアイスガーディアンに打ち込むと、アオイはリウィルディアへ合図を送った。
(あれだけの攻撃を受けても鱗一枚剥がすのがやっと……これが真の竜種の力……)
リヴァイアサンに圧倒されていたリウィルディアだが、アオイの声がけに答えてガーディアンへと向き直った。
具体的にはアイスガーディアンを引きつけているラヴへと、である。
ミリアドハーモニクスの治癒術を行使して耐久時間を引き延ばしてやると、稼いだ時間を利用してさらなる射撃を開始。
「リヴァイアサンに集中させてほしい、ものなんだけれどね!
――双頭の悪意よ、絶望を穿て!」
呼び出されたされた『絡みつく二頭の悪性』がアイスガーディアンへと浸食を開始。
好機とみたマリナは海兵たちを先導して一斉射撃。
鶫とコルウィンの砲も火を噴き、ラダやジェックの狙い澄ましたスナイプが間接部を打ち抜いていく。
アオイと真那のライフルによる連射がさらなる後押しとなり、最後に二丁拳銃による射撃を加えたラヴが甲板へと舞い戻ったところで、アイスガーディアンは崩れ去り、海へと沈んでいった。
カンッと小気味よい音をたて、空薬莢が飛んでいく。
成否
成功
第2章 第10節
先行する海軍の船が、アイスガーディアンの巨大な剣によって真っ二つになった。
かろうじて海へと逃げ出す兵士達。ありえない角度になって沈んでいく船。
『次はおまえだ』と言わんばかりにこちらを向くアイスガーディアンに、秋奈は勇ましく身構えた。
「この前戦ったやつとは別物なのよね……? ま、人質もいなけりゃ全力で殴っても構わないわよね! シンプルイズベスト!」
『戦神制式装備第九四号緋月』の刃を赤く輝かせ、大地を蹴って飛び出す秋奈。
「司書ちゃんも、山賊さんも! 取り戻すために! いっくわよー!!」
空中でアイスガーディアンの巨大剣とばちばちに打ち合うさまを、ランドウェラは暗黒物質製の刀を手に見つめていた。
なんだか自然と笑えてくる。
「魔種に竜種に忙しいなぁ! そろそろクライマックスが近いってことなのかなぁ!! もっとのんびりさせておくれよ」
最近は自在に動くようになってきた腕でもって刀を構えると、バチバチと雷を纏わせスイング。孤月型のエネルギーが回転しながら飛び、アイスガーディアンを化するように斬って抜けていく。
反撃するように構えたアイスガーディアンの剣が、今度こそ船の真上へと振り上げられた。
そのインパクトにぶるりとくるが、逃げるも防ぐも今は不要。
なぜならば。
「カナメ推参! っておわー!? おっきくなったし攻撃が……もっと痛そう!」
目にハートを浮かべてカナメがダブルサムズアップしていたからである。
こっちの方がずっとインパクトがある。
「カナはたしかにメンタルは弱いけどさ、でも今は諦めていい場合じゃないんだよね!
痛いのを気持ちいいって思える内はカナは絶対立ち上がるもん♪
だから、ちょうだい! 口が鉄の味でいっぱいになるまでェ!!!」
てりゃーと言いながら飛び上がり、アイスガーディアンの剣をモロにうけるカナメ。
もうそういう構造のオモチャなのかってくらい甲板にベッて叩きつけられ赤い花をさかすが、カナメは立ち上がってダブルピースしていた。
いや怖い怖い怖い。
十夜はさすがに見かねたのか、それとも(今回は)真面目に戦うことにしたのか、船の防御に加わった。
「まさか竜までお出ましとは……やれやれ、俺の命もここまでか。
なんてな、流石にここまで来て諦める気はねぇよ。
この罪を背負って、あいつに償い続けると決めたんでな」
指折りで数えてみればわかる。アイスガーディアンたちはおろか魔種とリヴァイアサンを倒しきるまでに彼の『タイムリミット』は容易に来てしまうだろう。
だが、知っていた。
長く生きることの意味。
早く死んでしまうことの意味。
死というものの価値と願い。
『もっと生きたい』とつぶやく人間の夢。『あそこで死にたい』と願う人間の夢。
みんなみんな、もう知っていた。
だから、諦観なんてありえない。
「覚悟しろよ、腹を括ったおっさんは――ちっとばかり怖いぜ?」
目を一瞬だけ大きく開くと、腰の刀を大胆に抜刀。一瞬で収め、背を向ける。
打ち込まれたアイスガーディアンの剣はいつの間にか打ち返され、どころか剣にはヒビがはいっていた。
「――!?」
これには流石に驚いたアイスガーディアン。
「勝機」
すずなは船のデッキを走り抜け、霊刀『鬼灯』を抜刀。跳躍した。
「貴女は言いましたね、足掻くのか、と。
答えましょう、マリー・クラーク」
すぱんとアイスガーディアンの腕が切り落とされる。
「私は、私達は足掻き続けますよ!
どんな絶望だろうと、どれ程強大な竜種相手でも!
滅びの運命に抗う、特異運命座標(イレギュラーズ)なのですから――!
だからその道を押し通ります!
溶けて消えるなんて真っ平御免!
私は、もう一度姉様に逢わなければいけないのです……!」
一説に、夢はひとを生かすという。
一秒さきを延命させるのは人の夢だという。
願いが、欲が、人生を濃密にするとも。
「あやつの目。あれはこちらの運命をいたぶろうとする輩の目でござる。
ゆえに、初撃は必ず竜骨を外す。であれば右か、左か――」
「ふざけるな……こんなところで、やられてたまるものか!
こんなところでグズグズしている暇はない! 早く体勢を立て直してこの状況を脱するのだ!」
同じくアイスガーディアンへと飛び込んだ至東とティーザ。
至東は反撃をかわしつつ剣を相手の肩に突き立て、ティーザはさらなる反撃を刀による豪快なスイングによって無理矢理撃ちはじいた。
弾いて稼いだ時間は一瞬。
しかし、それだけあれば充分だった。
「演劇であれば、きっとここからの逆転劇があるのだろうけども。
これは現実、故にそれを引き寄せるには動かねば……」
(良い意味で)ヒーヒーいってるカナメたちを治療しながら、リョウブは顔をあげた。
「私は未来ある者らを愛し見守りたい老いぼれだからね。
此処で折らせはしないとも」
味方の治療を終え、立ち上がる。手袋の裾をひき目を細めた。
「ある演劇の一節だ。『行きたまえよ、君』」
彼が手で示した先には、たった一瞬の隙ができた敵。
その一瞬を駆け抜けるすべをもった――マヤがいた。
(この間は大怪獣、その前は巨人。そして今度は、氷の巨人と、竜?
最近巨大な敵に縁がありすぎじゃない? なんなの、ブームか何かなの…ッ!?)
「なんて、ね」
つぶやくよりも、考えるよりも早く、マヤの身体は動き終わっていた。
甲板を走り手すりを踏み台にして飛び上がり崩れておちる巨人の腕を足場に駆け上がり相手の首めがけて飛びやっと刀を抜いて振り抜き余ったエネルギーで回転しながら通り抜け別の船に着地する――までが、もう終わっていた。
水柱をあげて落ちるアイスガーディアンの首。
崩れゆく巨体を背に、また立ち上がる。
「敵はまだいるわ。目の前の壁を打ち砕き、皆でここを突破するのよ……ッ!」
成否
成功
第2章 第11節
「知らぬ存ぜぬ! 付き合わぬ!
貴様の戯言に付き合っている暇はないのでな!
どれだけ敵が強大であろうと私はそれを叩き斬るのみ!!!
それだけデカければいい的だ!」
ブレンダは甲板にたたき込まれたアイスガーディアンの腕を駆け上がると、剣をピック代わりにして無理矢理胴体へ這い上がっていく。
「首貰った!」
アイスガーディアンの首に剣をつきたて、蹴り込むことで強引に突っ込んで更に木こり斧の要領でもう一本の剣をたたき込んでいく。
およそ騎士の戦闘スタイルではないが、巨人殺しにはもってこいのパワフルさである。
「気をつけてください。そいつは首を落としただけじゃ死なない!」
カイルは鎧姿のまま走るとアイスガーディアンの胴体めがけて剣を打ち込んだ。
まるで鋼をうっているかのような反動に手が痺れるが、歯を食いしばって打ち続けた。
『本当にあれを倒せるのか?』という迷いや、『負けて全てを失うのでは』という焦り。
だがそれを振り払って弱者を守り戦うことこそ……『彼』の求めた騎士の姿ではなかったか。
「なら躊躇しない…いや、してる暇もない! 徹底的に叩く!」
「オーケーその根性気に入ったぜ!」
ルカは剣を肩に担ぎ、カイルの横に並んで笑った。
「傭兵団『クラブ・ガンビーノ』のルカだ。こんな海の果てで竜種とご対面たぁ最高じゃねえかと思ったが、やるなら気持ちのいいやつとやりてえよなあ!」
叫びと共に剣をたたき込み、共にアイスガーディアンの頑丈な身体を削っていく。
「ラサからデザストルを見て憧れ続けた竜とこんなところで会えるたぁ思ってなかったぜ!
さっさと敵を蹴散らしてドラゴン戦と行こうじゃねえか! 楽しみだなあ、オイオイオイ!!」
笑いながら胴体を削り続ける二人をついに放置出来なくなったのか、アイスガーディアンが二人を叩き潰そうと拳を振り下ろしてきた。
「――交替や!」
二人の襟首をひっつかんで後ろへ放り投げ、代わりに拳を受け止める水城。
「はは、リヴァイアサンて……ばっかみたいにでかい魚やね……けど、こんなとこで、死んでたまっかーよ!」
拳を放り投げるようにして飛び退き、再び構える。
「海洋王国がイージスの盾、美面 水城や! ここは簡単にはいかさへんで!!」
彼女の名乗りの、その威勢の良さにひかれてかアイスガーディアンはさらなる打撃をたたき込んでいく。
水城は背負っていた盾を構え防御に徹するも、無理矢理に殴り倒され握って持ち上げられ、さらには船の甲板めがけて投げつけられた。
背から落ちて歯を食いしばる水城。
そんな彼女に、ソニアが駆け寄って覚えたての治癒呪文を唱えた。
「大丈夫ですか。立てますか?」
「骨いった……かと思ったけど、助かったわ」
肩を貸し、再び立たせるソニア。
「進むも退くもままならない状況ですが……。
どうせ今の私は、この世界にやってきて、実家に帰れない身。考えようによっては、元から退路がないんです。
今更退路を封鎖されたところで、あまり変わりませんよ」
「不退転か。……ええな!」
「おいおい、無理すんな」
「代われ。俺がやる」
聞き慣れた声に振り返ると、ハロルドとアランがそれぞれの聖剣を手に立っていた。
聖剣リーゼロット。ある『異世界』で魔王を屠り勇者を暴力の獣と化した剣。そして、元勇者もとい『聖剣使い』ハロルド。
一方太陽の聖剣ヘリオス。また別の『異世界』にて魔王を屠るも人類のあり方から決別の道を選んだアラン。
「ウザってぇ! こんな時まで邪魔すんのかよあのメンヘラバカ女は!!
しゃーねぇ! 速攻で片付けてあのクソ竜の心臓に風穴開けんぞ『聖剣使い』!」
「ア゛ぁ? ははは! いいねえ最高だ! 面白くなってきたじゃねえか『太陽の聖剣使い』」
互いにひどく懐かしい呼び方をしあうと、それぞれの剣を握り混んだ。
「さぁ! テメェらごときに俺の守りを貫けるか! その程度じゃ俺は倒れねぇぞ!」
目を見開き、繰り出されるアイスガーディアンのダブルハンマーを剣によって迎撃破壊していくハロルド。
「さぁ、テメェら! 俺に続けぇッ!」
「でかいだけの氷塊が! テメェなんざもう相手じゃねぇんだよ! 消えろやクソがァァ!!」
二人とも元勇者とは思えないバイオレンスさで襲いかかり、アイスガーディアンの腕を滅茶苦茶に破壊していく。
そこへ加わったのはリゲルとポテト。
思えば古なじみの顔が揃ったものである。
「聖剣騎士団の集中攻撃をもってしても、リヴァイアサンの鱗をたった一枚割ったのみ。
だがそれでも、この強固な鱗は割ることができるのだ。
全て剥がせば、道は繋げるのだという証明にもなる」
「そう、大丈夫。
こんなところで終わりじゃない。
ここを乗り越えてみんなで帰るんだ」
リゲルを浸食していく廃滅病の呪い。ポテトはカウントダウンが刻々と進むのを感じながらも、しかしつとめて笑顔を作るのだ。
集まった海兵たちへも振り返り、ぐっと拳を握って見せた。
「帰るべき場所へ帰るために、明日へと続く道をこれからも歩き続けるためには、全員が生きることを諦めないことが大切なんだ。
例え傷ついても私たちが癒し、守る。
だから、みんなであの敵を倒してこの窮地を乗り越えるんだ!」
こくりと頷き、リゲルはポテトの回復支援をうけながら突撃していく。
「一か八か、ね。そういうギャンブル嫌いじゃねーぜ。手伝ってやるか」
軋むように笑い、いびつな剣を振りかざすニコラス。
「無茶に挑んでこそ冒険者、ってね」
カインもまた加わり、魔法のカードをホルダーから抜いて走り出した。
「あの氷山を生み出した女の魔性の正体やその力の詳細なんて分からない。まだこっちに来て日が浅いんだ。仕方ないよね。
でも、その巨大な氷の守護兵(アイスガーディアン)――つまりは氷のゴーレムは彼女の力で生み出された傀儡でしょう。なら、似たような相手と戦った事なんて何回もあるさ!」
「つまり?」
「ゴーレムってのは『核』があるってこと!」
カインはカードを放って魔術フィールドを展開。アイスガーディアンの極端な動きを封じると、その隙を突いてニコラスが猛烈な連続攻撃を繰り出した。
「冠位の次は竜が出てきててんやわんやのこの騒動によぉ。邪魔すんじゃねーよ! さっさと道を開けやがれ、木偶人形が!!」
「そういうこと! メインディッシュは君達じゃないんだ。ここは道を開けて貰おうか!」
リゲルとの協力コンボで有効な打撃を加え続けるなか、ニコラスがちいさなぬいぐるみを剣で打ち抜いた。
途端、アイスガーディアンが一瞬にして海水に戻って崩落していく。
「なるほど、核ね」
ニコラスたちは頷きあい、この情報を味方へと伝えるべく動き出した。
成否
成功
第2章 第12節
走り抜ける靴音。船のデッキを、手すりを、傾いて沈みゆく船の底を、蹴って飛ぶ青年の姿。
誰かが言った。『大号令の体現者』。
幾度となく行われた絶望の青へのトライの中で、今度こそはという期待と不安と、それでもひたむきに突き進む姿をさしてのことだろうか。
彼は。
秋宮史之はただ駆け抜けるだけで兵士達の士気をあげた。
「さあ行こうか。女王陛下万歳! のどかには死なじだ!」
アイスガーディアンへ飛びかかり、広域に理力フィールドを展開。船をおそうアイスガーディアンをはねのけつつ、まだ無事な船へと着地した。
「負傷兵はすぐに下がり俺の回復効果範囲に。心配はいらない。俺がいるよ。それにほら、的が大きいから必ず当たるさ。Get Ready!」
彼の叫びに応じて海兵たちは構え、ほとんど使い物にならない砲台のうちかろうじて無事なものを選んでアイスガーディアンへと砲撃を始めた。
「これは……実質逃走経路の確保だな。
回復と補助をする。春宮はせいぜい気合を入れろ」
「えー。特攻じゃなくてかばって守るとかしのにいんちのお役目っしょ!」
船に遅れてやってきた千尋と日向。睦月はそんな二人に続いて到着すると、海兵立ちの中心になって戦う史之の姿を指さした。
「昔はずっとそうだったけど、今はそうでもないみたいですよ」
先人達がどこまで実現したかはわからない。
けれど今、海洋王国海軍は『絶望の青』という前人未踏のラインを突破する寸前まで手をかけたと言っていい状態だ。
率先して戦ったローレット・イレギュラーズがそのそばにあったことは間違いなく、その中でも最も高く評されたのが史之だった。
海洋国民からの信頼の厚さたるや、推して知るべしである。
「『死に花咲かせる』らしいですからね。花を持たせてあげては?」
「しょーがないにゃー」
「史之の女王愛はどうにかならないのかとは思うが……まあ、いいだろう」
三人はそれぞれに動き出した。
千尋は海兵たちを治癒ないし強化しながら船を進め、日向はアイスガーディアンの攻撃を蹴りで受け流し、睦月は魔術による砲撃を担当した。
(こんなところでこんなものにかまってる暇はないのに!
廃滅病がしーちゃんを蝕んでる。時間がないんです。竜も女神もどきもどうでもいい、アルバニアを倒さないと――!)
(抑えてくれる人もいるけど、それに頼りきりになる訳には行かないよねぇ。なら……)
シルキィは海の中をすいすい泳ぐと、アイスガーディアンの腰のあたりから這い上がり糸を発射。
すさまじい速度で生まれアイスガーディアンへと絡みついていった糸は成分に含まれた特殊な毒によって身体の自由を奪い、そして蝕んでいく。
アイスガーディアンの中にあるという核へ直接毒が流し込まれているのだ。
シルキィが『いーよぉー』と呼びかけると、ヨハナは集まった海兵隊へと向き直った。
「皆さん、刮目なさってください!
いま、世界を取り囲む海が! その大いなる象徴ともいえるような竜が!
わざわざ人類を敵として認識し、そして真正面からぶち当たろうとしているのです!
まさに混沌至上最大の歴史的瞬間!
人類は『海』と敵対するに足るほどの存在になったんです!」
ヨハナの得意な演説(?)によって兵士たちの心をつかんでいく。
いわんとすることを読ませ、そして読んだとおりに述べつつちょっとひねるというたぶん紀元前からある演説のテクニックである。
「それに比べて氷像のなんて小さい!
ここまでやってきて今更あっちに負ける気しますか?
ヨハナはそうは思いません! さぁ、一緒にかき氷を作りに行きましょう!」
「いけいけー!」
アンジュがビッとアイスガーディアンを指さした。
するとどこからともなく現れたパパの群れ(いわし)が一斉にアイスガーディアンへと突撃してはなぜか爆発していく。
その間『いわしをたべるな』の歌を楽しそうに歌うアンジュ。ヒッチコック映画かなにかか。
そんな光景の中。
ついにというべきか。
満を持してを言うべきか。
「随分でかい奴が出てきたみたいだけど、やることは何も変わらない。私はただ、目の前の目障りな存在を打ち倒すだけよ」
コレット――コレット・ロンバルド(p3p001192)が船のデッキに両足をつけ、腕組み姿勢で戦場へと現れた。
全長三メートルの美少女。別名『聖なる破壊神』。
コレットは腕を広げると同時に黒い光でできた二枚の翼を大きく広げ、船のデッキいっぱいをつかって助走をつけた。
攻撃が来る。そう察したアイスガーディアンは両腕を合体させた巨大砲台を用いて反撃。
しかしコレットは盛大なドロップキックによって飛来する氷塊を破壊。さらには射撃姿勢にあるアイスガーディアンの巨大にもキックを直撃させた。
バキンという激しい音。蓄積したダメージが爆発し、アイスガーディアンがバラバラに崩壊していく音であった。
アイスガーディアンと共に海へと落ちるコレット。
息を呑んだ海兵たちが見たものは、船の手すりをがしりと掴んで這い上がるコレットの姿だった。
「氷だらけの海は、流石に冷たいわね」
ワッと湧き上がる喝采。
彼らの中に、明確な勝利のビジョンが見えた瞬間であった。
成否
成功
第2章 第13節
殆どのアイスガーディアンが破壊され、倒された負傷兵たちの殆ども治療され戦線に復帰。
リヴァイアサンのもたらした絶望に、ローレット・イレギュラーズによる希望の光が差し込んだ。
さあ、これからどうする。
誰もがそう考え始めた、その時であった――。
GMコメント
このシナリオはラリーシナリオです
戦果に応じて『リヴァイアサンの胴体』を部位破壊できることがあります
■グループタグ
誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【鮫殴り同好会】9名
■章概要
第二章以降で状況が異なる場合がありますので、章の頭に公開される章概要をご参照ください。
・第一章の概要
リヴァイアサンの出現によって海洋海軍は壊滅的被害を受け、撤退を余儀なくされました。
しかし退路を魔種『流氷のマリア』によって絶たれ、絶体絶命の窮地に追い込まれてしまいました。
皆さんの力を駆使してこの状況を突破し、負傷兵たちの退路を確保しましょう。
・タグ概要
プレイングの冒頭に自分の役割を示したタグを記載してください。
【アタッカー】
アイスガーディアンを攻撃し破壊します
【タンク】【ヒーラー】
負傷した海兵を庇ったり治療します。
守られた海兵が多ければ多いほど突破のための戦力になるでしょう。
【コマンダー】
海兵たちをまとめて元気づけたり指揮したり、強化したりして送り出しましょう。
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●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)
皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
※他の<絶海のアポカリプス>シナリオに比べれば可能性は低めです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
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