PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>ミロワールの迷宮に揺れる

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●かがみの少女
「ねえ、ミロワール。遊びましょう」
 セイラ・フレーズ・バニーユはそう言った。
 アフタヌーンティーを楽しみながら、他愛も無い会話を重ねるように彼女は言葉を重ねる。
「ミロワールが寂しくないようにしましょう。貴女も私も、どうせ後は『死ぬ』だけなんですから」
「ねえ、セイラは私とは一緒に居てくれないの?」
「ミロワール、貴女の姿すら知らない私に心中しろって言うのですか?」
 ちら、とセイラが顔を上げれば、彼女の前には『自分と寸分違わぬ姿をした』女が座っている。所作も、そして、好んだ菓子でさえ全てが自分自身であると言うのに、口から毀れ出る言葉は幼い少女そのものなのだ。
「違う、違うわ。私は死にたくないの。
 この病を背負って其の侭一人で死ぬなんて嫌だもの。救われたいわ、救って欲しいわ」
「ふふ、可笑しい。ミロワール。私にはそんなこと出来ませんよ。
 そんなの――そんなの、出来たなら……! 『彼女』だって!」
「……ええ、ええ、そうだわ。愚問だったわね、セイラ。
 それで、『可哀想なセイレーン』は私に何をくれるのかしら」
「ええ。ミロワール。――あのね」

「そう、そうなのね!
 じゃあ、私にとっての救世主! わたしとあそんでくださいな」

●大いなる一歩
 海洋王国近海にて海賊連合を下した事は記憶に新しい。そして、ゼシュテル鉄帝国によるグレイス・ヌレでの戦争をローレット共に跳ね除けた王国は未だ見ぬ新天地(ネオ・フロンティア)目指して外海『絶望の青』への航海をスタートさせた。
 絶望の青。それを聴けばカヌレ・ジェラート・コンテュールは唇を戦慄かせ不安を浮かべ、ソルベ・ジェラート・コンテュールはそのかんばせを凍らせる。その海域は幾多もの勇者を殺め船を沈めた墓所であり、『絶望』の名を欲しい侭にする空間であった。
 局地嵐(サプライズ)、狂王種(ブルータイラント)、幽霊船に海賊ドレイク、そして――貴族派有力貴族であるバニーユ男爵家の現当主セイラ夫人はじめとする『魔種』。恐れるべきは多く、敵が身内に居たという事実からも一筋縄では行かぬ航海であることをソルベたちは知っていた。
「お兄様、嫌ですわ。死兆――『廃滅病(アルバニア・シンドローム)』もあるんですのよ。
 これ以上、皆を危険に晒すだなんて……それに、バニーユ夫人だって何かの間違いで――」
「カヌレ」
 唇を噛み締めるカヌレは魔種オクト・クラケーンより齎された疫病を恐れ、これ以上の被害が出ぬようにと航海を控えて欲しいと言った。外海への進出が王国の悲願であれど、だ。
「カヌレ、それは今、廃滅病に侵されるイレギュラーズを見捨てるという選択だ。
 廃滅病を治癒するためにはアルバニアを倒すしかなく、発症危険があるのは絶望の青に踏み込んだ全ての者だという……コン・モスカの祈祷だって『治癒』に繋がるわけじゃない。一時凌ぎだ」
 コン・モスカ辺境伯による祈祷の効果がいつまであるかもわからない。ならば、アルバニアを一刻も早く倒して絶望の青を超えなければならないのだ。
 命を救うため――ならば。
 ローレットと王国に齎されたのは『アクエリア』と仮称される島であった。その島を足がかりにすれば、この先へと希望をかけられる。
 拠点を得ることが出来なければいつまで経っても進むことが出来ないのだ。
『アクエリア』――そこには多数の『敵』が存在した。
 アクエリアを攻略し、大きな一歩としなければならないのだ。

●『鏡像アクエリア』
 アクエリアに設置された無数の鏡。魔的な気配を感じさせたそれからは狂王種がずるりと姿を見せる。
 鏡を覗き込めば、その中には『寸分違わぬアクエリア』が存在していた。しかし、おかしなことがある。存在しないはずの狂王種たちが鏡の中を動き回っているのだ。
 それは別世界か。鏡の中にだけ存在する場所があるのか。
 絶望の青攻略時にファルケ・ファラン・ポルードイ一行が発見した『真実の鏡』の如く、その鏡の中には『異空間』が存在していた。
 アクエリアに無尽蔵に追加される敵影を止めるべく、鏡の中に入らなければならない。
 しかし、鏡の中は『異空間』だ。以前無人島で発見された鏡は魔種の手によるものだということが判明している。
 あなたは鏡の中で自分が笑っていることに気づき、がばりと顔を上げた。

「ねえ、あなた。『ミロワール』の迷宮にいらっしゃい。
 セイラが言っていたわ。死ぬ間際まで私と遊んでよ。ううん……あなたなら『私を救ってくれる』かもしれないんでしょう?」

 あなたの口が、そう言った。
 鏡の中に引き込まれる、そして、気づけば目の前には狂王種と『あなた』が立っていた。

「救ってくれるなら、私のところまで来てね。……生きてなくっちゃいやよ?」
 振り向く。しかし、そこに出口はない。
 目の前の『あなた』がにたりと笑っている。
「ねえ、出たいなら『あなた自身』を倒さなくっちゃ駄目なのよ?」
 招かれたのだ。あなたは。
 一先ず、狂王種を倒しながら出口を探そうではないか。

GMコメント

●達成条件
 ・『ミロワール』の鏡の破壊(下記『達成度』の目標達成)

※ミロワールの迷宮達成度
 1:狂王種討伐数
 2:参加イレギュラーズの『脱出数』
 上記が一定数を超えた段階で迷宮は壊れ、鏡が破壊されます。

●魔種『ミロワール』
 鏡の魔種。少女であることだけ判明していますが鏡であるために『誰かの姿を借りて』居ます。
 バニーユ夫人とは旧知の仲であり、彼女自身は廃滅病に罹患しているために死を恐れ悲しんでいます。皆さんなら救ってくれるはず、そして『皆さんなら死ぬなら一緒に死んでくれるはず』とバニーユ夫人の提案したアクエリアでの『遊び』を行っているそうです。

●ミロワールの迷宮
 魔種ミロワールが作成した迷宮です。鏡の中にはアクエリアが存在し、狂王種たちが生み出され続けています。
(狂王種たちは海の生物ですがアクエリアの中を無尽蔵に動き回れるように改良されているようです)
 また、鏡の中では『自分自身』または『プレイングで合わせた相手』が敵となり襲い掛かってきます。自分自身を退けることで外へ出るための出口が開きます。
(※合わせプレイングをした場合は『両者で冒頭に名前を指定orグループタグ』をご記入ください)

●狂王種
 無尽蔵に存在します。出来るだけ倒してください。

●ラリーシナリオ
※報酬について
 ラリーシナリオの報酬は『1回の採用』に対して『難易度相当のGOLD1/3、及び経験値1/3の』が付与されます。
 名声は『1度でも採用される度』に等量ずつ付与されます。パンドラはラリー完結時に付与されます。

※プレイングの投稿ルール
・投稿したプレイングはGMが確認するまでは何度でも書き直しができます。
・一度プレイングがGMに確認されると、リプレイになるまで再度の投稿はできません。リプレイ公開後に再度投稿できるようになります。
・各章での採用回数上限はありません。

●本シナリオの特殊ルール
・本シナリオでは『作戦達成度』に応じて良影響を<バーティング・サインポスト>へと与えます。
・本シナリオでは各章に設定される『作成達成度』に応じて章が進行します。
(最大5章まで。作戦達成度に応じて章数は短縮される可能性があります)

 それでは、皆様。鏡の国へいらっしゃい。

●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <バーティング・サインポスト>ミロワールの迷宮に揺れる完了
  • GM名夏あかね
  • 種別ラリー
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月17日 22時03分
  • 章数3章
  • 総採用数269人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

 鏡像を殺した者の前には出入り口が現れ、それを通り抜けることができる。
 狂王種は魔種『ミロワール』の声を聴き、従い蠢いているそうだ。

 そして――『鏡像世界』アクエリアには『外』とは違う変化が訪れた。
 一つ、『鏡像世界』には雨が降り始める。それは誰かの涙の様にざあざあと音を立て。
 二つ、『鏡像世界』の中心にはぽかりと虚空が空いた。それは昏き闇であり、そしてそこから狂王種が這い出している。

 鏡像を殺していないものは、殺さなければ出ることは出来ず、
 鏡像は常に『あなた』を追い縋り続ける事だろう。
 そして、出入りが可能になったものにとって、気がかりは虚空の如き大穴であった。
 その中に飛びこまねば狂王種の供給は止まらず――その先に『ミロワール』がいる気配も感じさせる。

 魔種ミロワールは泣きながらイレギュラーズと遊んでいる。
「死にたくないわ」
 一人きりでは死にたくないからと『自身の纏う死の気配』をイレギュラーズへと這わせて。
「死にたくないの」
 一人きりでは死にたくないからと『ミロワール』は新たな鏡像を作り出す。

 そして――虚空の入り口中には一つの鏡があった。

 貴方がその鏡に映れば、
 大切な人が、後悔が、そして、『殺す事を途惑う存在』が質量を持って現れる。

 虚空へと踏み込むならば、殺さねばならない。途惑ってはならない。慈悲を持ってはならない。
 濃い死臭が満ちるその中でミロワールは『誰かの声を借りて』、『あなたの名前を呼んだ』


第2章 第2節

リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者

 ぺたり、と壁に手を振れる。岩肌の感覚を掌に直に感じ取りながらリュティスは『鏡像世界』アクエリアの中を進んだ。
「ミロワールでしたっけ、先程の様子から察するに寂しいのでしょうか?
 私も元は孤児、気持ちはわからなくはありませんが……それはそれというやつですね」
 ため息を混じらせる。狂王種(ブルータイラント)を生み出し続け、大罪アルバニアの許へと進むことを阻む『ミロワール』はイレギュラーズ達にとっての明確な敵なのだ。
 邪魔立てするというな薔薇容赦することはない。エプロンドレスを揺らして、彼女は虚空の前に存在した鏡に映り込んだ姿が『目の前に現れた』事にため息を吐いた。肩を竦めたのはそれがリアリティを持った鏡像であることが厭という程に分かるからか。
「此度は……お義母様ですか。
 しかしよく出来ていますね……本物とそっくりのように思えます――ですが、このような所へはいらっしゃるはずもないというのが駄目な所でしょうか?」
 もう少し怯えた方がいい物かと首を傾ぐ。義母と言えば屋敷で主人の相手をしていることだろう。
 ロマンも戸惑いも無いのが自身の悪い所だとでもいう様にリュティスは魔力を漆黒の矢に変え、鏡像へと突き刺した。
「……偽物にかける情など持ち合わせておりませんので。それでは、失礼」
 そっとスカートの裾を持ち上げる。どうにも趣味が悪い魔種はこれを何処かで見ているのだろうか――?

成否

成功


第2章 第3節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名

「隠れてないでー! 出てきて下さーい! ひきょうものー! 表裏比興の者ー!」
 ルル家はずんずんと奥へ奥へと進むようにして『虚空』へと辿り着く。お誂え向きに設置された鏡の中に茫と浮かび上がるものがある。目を凝らした後、ルル家は呻いた。
「あぁ……なるほど……そう来ますか……。
 リズちゃんの姿とは、害したくない人物の姿を取った――という所ですか」
 黒い豪奢なドレスに身を包んだ白磁の肌の乙女。牙を覗かせ笑った銀の暗殺令嬢にルル家はどうしようかと視線をあちらこちらとさせてから「んんー」と『困った』表情を見せた。
「しかし! 宇宙警察忍者は非情の仕事! 親しい者を殺す訓練は完璧! ――……と思ってたのですがねえ」
「今はどうなのかお教え頂いても?」
 くすり、と漏れた声は鈴鳴らすような響きを伴う。ルル家はどうにもその顔と声に弱いのだと頬を掻いた。
「気が進まないものですねえ……まったく未熟未熟。うん! 切り替え切り替え!」
 頬をぱちりと叩く。そもそも『彼女』ならば戦いを挑んだならば楽し気に応えてくれるはずだ。
「つまり拙者が殺せれば偽物! うーん、魔女裁判みありますねえ!
 さぁ、お覚悟あれ! きらめけ拙者の超新星爆発! 反応依存じゃない方!」
 その足に力を込めて地面を蹴った。微笑む鏡像は「まあ、酷い方」ところころ笑い『反撃』せずにルル家の一撃をその胸に受け止め霧散した。

成否

成功


第2章 第4節

長月・イナリ(p3p008096)
狐です

 その鏡に映り込むのは大切な誰かであって――名前以外に記憶のないイナリにとっては『誰かを大切』だと思うその感情自体が失せているのだと鏡を覗き込む。
「殺す事を途惑う存在? ……あぁ、出てくるのは私自身ね! 私にとって大切なのは私自身って選択肢しかないの。
 過去には、そりゃあ、大切だと思った相手がいるかもしれないわ。けれど、それだって不明なんだもの。パーフェクトぼっち、の実力を見たか!」
 胸を張る。そして狐の耳をぴこりと揺らしたイナリは練達上位式で試行した神秘で『会話相手を作り出している』事に気づく。これぞ、友達の自給自足であり低燃費でエコロジーな『ぼっち回避法』なのである。
 そう口にしてからイナリはため息を交えて自分自身と狂王種を相手取る。戦闘方法のパターンを分けなければいけないとイナリは天叢雲剣を手に肉体を再生しながら『鏡像』を相手取る。
(――見切られるかもしれないわね。少し、パターン分けしましょうか)
 乙女が剣を振り下ろせば、『鏡像』は掻き消える。その向こうに広がる虚空は奥へ奥へと誘うかのようであった。

成否

成功


第2章 第5節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん

 上谷・零という少年にとっての前提となる情報がある。それは、この『鏡の迷宮』では特筆しておくべき彼の性質であり、性格であり、優しさなのかもしれないが――彼には『人を殺す』という力も勇気も無かったのである。自身に染み付いたのは彼にとっての無力の象徴たる死を待つ気配だ。
 足早に虚無の洞へと向けて歩を進めた零の背に「零くん!」と聞き覚えのある声がする。
(来てたのか…!?)
 唇が戦慄いた。そこにあるのは守るために――そして、巻き込みたくないと願っていた大切な人の姿だ。
「心配だったから……その、追いかけたの……ここで現れるのは誰かの偽物でしょう?
 私はそんなものに惑わされない、大丈夫だから!」
「ッ――」
 零は首を振る。彼に纏わりついた死臭をも覆い隠すような死臭を漂わせるこの空間から一刻も早く彼女を遠ざけたいと――そう、考えたのだ。そして、眼前にあった鏡に映り込んだのは『其々の姿』だ。
 思わず目を見開いた零は『鏡像』のアニーを見てから唇を噛み締める。アニーの眼前にも『鏡像』の零が立っていた。
「「  」」
 鏡像が、名を呼んだ。
「――――俺ならまだしも、その顔で、その声で、呼ぶんじゃねぇ、ミロワール……!」
 ぷちり、と何かが弾けるように零は叫んだ。許すことができぬと、その拳に力を籠める。
「……お前は死にたくないと言いながら、今も死ぬ前提でしか語らねぇな……!
 生きたいなら……救われたいと言うのなら、その姿を今すぐ取り消せ……!」
「どうして?」
『アニーの姿をした』ミロワールは不思議そうな顔で首を傾いだ。『零の鏡像』を見つめながらアニーは惑わされぬと言ったとしても戸惑いが生まれたことは否定できないのだとそれを見つめる。
(――やめて……! その姿で……微笑みかけないで……!
 私が大好きなその声で……優しく語りかけないで……!)
 ここで負けてはいけないと魔力を放つアニーの傍らで、鏡像を壊すように零は一撃を放った。
 鏡像は脆く、壊れるのは容易であれどその胸残るしこりは傍らの愛しい笑みを曇らせるように感じた。

成否

成功


第2章 第6節

ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫

「まったく。……趣味が悪いにも程がありませんこと?」
 ユゥリアリアはぼやいた。銀の髪を揺らがせて、彼女は鏡より『現れる』その姿に苦虫を噛み潰すように「どうして」とパンドラ蒐集に使用する指輪を収めた箱にそっと触れた。
「―――」
 その声音はかつての愛称を呼ぶ。まるで愛おしそうに、親し気なその声音がユゥリアリアへと『かつて』のように掛けられる。
 元・婚約者。自分が破滅に誘った彼より送られた二度とは指を通すことのない婚約指輪は『可能性』を集めるために常に共にあった。無意識化に触れたそれを意識するように押さえつけ、ユゥリアリアは呻く。
「ああ、よく似てる。よく似てるさ」
 声を荒げ、戸惑いを覚えた心象とは裏腹に敵へと刃を振り翳した。氷水晶の刃先がその鏡像の胸を抉る、抉る――まるで『平穏』に戻るように消えていくその姿をまじまじと見守りながら。
「……だからぶん殴りたくなる」
 呻いたその声は虚無へと吸い込まれていく。その闇に満ち溢れた洞へと飲み込まれ、奥より少女の笑い声が響いた。

成否

成功


第2章 第7節

橘花 芽衣(p3p007119)
鈍き鋼拳

 結い上げた銀の髪が、揺れる。芽衣は鏡に映されたその姿に――そして、現れた鏡像に、唇を震わせた。
「え」だとか「うそ」だとか、漏れた言葉は取り留めもなく、しかし自分自身の心の奥底に存在した不安を明確にしたものだるとも彼女は感じていた。
「―――あれは」
 膝ががくりと揺れる。唇がはく、はくと音にもならぬ声を漏らす。
「ワタシに――『芽衣』に助けを求めてきたヒト……?」
 いつの日か救いを求めてきたその人は鏡像として芽衣の前で微笑んでいる。有難う、救ってくれてと感謝を伝え、幸福そうに微笑むそれを――
「あのヒトをコロせと……? そういっているの……?」
 それ以上の言葉は、もう出なかった。『そうしないと誰かが死んで』しまうのならば、救うのがヒーローだというのに。それなのに、何時かの日に手を差し伸べた人をこの手で殺せというのか。
「——……っ——ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛アアアア!」 
 慟哭と共に、芽衣は言葉を飲み込み、ただ只管に敵を倒した。
 動きは淀みなく、何度も何度も攻撃を放ち続ける。失せた鏡像の中、支えを失ったように芽衣は膝をつく。ぼた、ぼた、と涙が滴り落ち留まる事を知らなかった。
「——————『ミロワール』——『めい』はぜったいに————あいつを——ころす。
 ぅうッ——ぅうわあぁぁぁぁぁぁぁンん‼︎ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

成否

成功

状態異常
橘花 芽衣(p3p007119)[重傷]
鈍き鋼拳

第2章 第8節

ライアー=L=フィサリス(p3p005248)
嘘に塗れた花

「……これは、これは。悪趣味ですこと」
 ライアーはくすり、と小さく笑みを漏らした。その白髪を揺らして、こてりと首を傾げた彼女は少し瞬いてから『鏡像』を見た。
「偽物を真似た次は本物を真似るのね。……いえ、偽物の次は本物なんて、ただの偶然なのだけれど」
 偽物――自分自身――と本物。『あの子』の事を口にするたびにライアーの声が弾む。
「だって、『あの子』とあの子が気にしていた子以外はどうだって良かったのですもの。
 それにしても、ああ、なんて似ているのかしら。あとはーー私を嘘つきと呼ばなければ完璧でしたわよ、ミロワール!」
 そうだ。『あの子』の名を呼ばず、うそつきだと称するならば。
『鏡像』を吹き飛ばし、ライアーはうっとりとしたように『鏡像』を覗き込む。
「それに私ね、愛しく抱え込むことも好きですけれど、徹底的に痛めつけることも大好きですの。
 本物の偽物はどんな表情を見せてくれるかしら!」
 指先繰って愛しい面影を傷つける。ああ、自分と違う彼女は『自分と同じ顔』をするのであろうか。

成否

成功


第2章 第9節

アリューズ・エリスブラッド(p3p007895)
自称・勇者

「……アニキ!?」
 アリューズは驚いたように声を張った。眼前に立っているのは兄貴分。村一番の勇者で、憧れで、目標で――何も言わずに姿を消した『大切な人』
 無言の儘に、アリューズへと走り寄った『鏡像』は彼に向けてその刃を振り下ろす。ぞわりと背筋に走った明確な死のヴィジョンは何処までも自分へと追い縋る。
「くそ、なんで!? ――なんでアニキが襲ってくるんだよ!? 俺がアニキに勝てる訳……!」
 剣を握るその掌から力が抜けていく。憧憬は恐怖に変わり、勇者というその称号は自身を殺す刃のように感じられた。

 ――良いか、アリューズ。男なら信念を持って生きろ。
 それがぶつかっちまった時は例えオレが相手だろうと貫き通せ――

 脳裏に響いたのは偽物ではない。記憶の中の『アニキの声』であった。
 頬をぱしりと叩いてから、ゆっくりとアリューズは顔を上げる。
「……そうだ、何をやってるアリューズ・エリスブラッド。俺は勇者だ。
 助けを求める声を前に、こんな所で退く訳にはいかない。例えアニキが相手でも!」
 徐々に落ち着いたその意識の下で、眼前に存在した『アニキ』が偽者であることにアリューズは笑う。
「アニキの背中はそんなちっぽけじゃねぇんだッ! 消えろ幻! ――ギガクラッシュ!」

成否

成功


第2章 第10節

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者

「新しく現れたという鏡像は、殺す事を躊躇う存在が生み出される……だったか」
 元の世界に戻るまでには勇者(ルアナ)には生きておいて貰わなくてはならないとグレイシアは認識してた。しかし、鏡像であるならば『本来の勇者が死ぬわけではない』という安心感と楽観視が彼の中ではある。自身の認識下では『自分自身が出て来る』と考えていたのだが――
「……何故、二度も……」
 目の前に立っていたのはルアナを模した『鏡像』であった。攻撃に躊躇はなく、撃破も用意――であるはずなのだ。しかし、『どうして彼女が眼前に現れたのか』という事実でグレイシアは困惑を覚え続ける。
「……吾輩が考えているよりも、ルアナは大事な存在になっている……のだろうか……」
 その声に応えるべき『共にいるはずの少女の姿』はそこにはなかった。

「偽物であってもおじさまを倒さなきゃとか、ひっどい場所だよね……ここ」
 本物の『おじさま』を目指してルアナは周囲を見回した。きっと、普段通りに『大丈夫だったか?』と聞いてくれるであろうグレイシアを想像してルアナは笑みを零し――虚空の前に立っている『グレイシア』にどうしてと唇を戦慄かせた。
「何で、またおじさまがいるの? ……もう一回、倒せっていうの?
 冗談にしては悪趣味過ぎない? やだよ? さっきだって嫌だったんだよ?」
 頭の中で、声がする。

 ――倒しなさい――

 記憶のない、幼い自分にとって唯一頼れるひとで、唯一信頼できる人なのに。
 それを、『また』?
 思考回路は躊躇しているというのに手は、足は、そんな途惑い何もないとでもいう様に簡単にグレイシアを殺すが為に動き出す。
「ダメ!」
 どうして、体が自然に動いたのかは分からない。きっと、近くにいるはずの大切な人を殺すことがこんなにも簡単なはずがないのに――
 体は裏腹に、彼を殺した。
「ちょっとまってよ! やだぁぁぁぁ!!」

成否

成功


第2章 第11節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補

 怪奇譚。影は、笑った。「成程」と、実に愉快であるかのように――オラボナはその掌をひらりと向ける。
「我等『物語』――私の愛する存在を模倣するのか。殺すのを躊躇うだと。正解だ。私は敵対したならば、極上の痛みを分け合いつつ『殺されたい』のだ。Nyahahahaha」
 狂王種を相手取りながら、虚空を見遣った儘、呆然としているセリアへと放たれた一撃から彼女を庇う。
 そうだ。自身の前には『愛する存在』が見えているように彼女にも見えているのだろうとオラボナは小さく笑った。
「成程。愛する者を殺すのは『勿体ない』。
 私は彼に殺されるべきで、彼はその『拷問』を悦ばねばならない――しかし別物だ。別物には心臓など渡さない」
 偽物、であるという言葉に。別物、であるという言葉にセリアは酷く乱された。
「お父さん……なんでわたしは他の孤児院の子と一緒だったの?
 なんで、わたしも母さんもみんなも残して事故で死んじゃったの?」
 目の前にいるのは、父ではないのか。目の前にいるものが偽物だというならば――
「……なんで最後まで、わたしのこと可愛い自分の娘だって言ってくれなかったの?」
 その言葉全て虚空に飲み込まれて行くだけの只の干渉ではないか。震えた声を飲み込んでからセリアは首を振った。
「勝手に心の中を映す悪趣味な鏡の幻像に文句言っても仕方ないよね。……泣いてなんかないわよ。……ただ、ちょっと機嫌悪いけど許してね」
「ああ。我等『物語』にとっても紛い物である事は明らかである!」
 セリアを庇う様に立っていたオラボナはそう両の手を開いて言った。掻き消える鏡像の向こう側に――何も残らぬことが僅かな落胆を残した。

成否

成功


第2章 第12節

リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護

「打倒廃滅病! 鏡の迷宮へGOなのじゃ。装備も新しくしたし、戦闘はばっちりじゃぞ」
 鏡の迷宮に入り、アカツキが最初にしたことはリンディスとの合流であった。
 降り注ぐ雨に打たれながら、指先に灯した焔もこれでは燻ってしまうとアカツキは目を細め、リンディスは掌に受け止める。
「雨……泣いているのですね、貴女は」
「ふむ。泣いているんじゃな。炎の美しさを見れば泣き止んだり――?」
 しないものだろうかとアカツキが口にした言葉にリンディスは緩く首を傾いだ。

「リンちゃん」
 そう、別方向より聞こえた声に振り向いたリンディスは『アカツキ』が立っていると気づく。
 ――そして、アカツキの前にも『リンディス』がいる事に気づいて、唇を震わせた。
「ああーーこの世界で最初に繋がった大事な友達を。喪いたくないものを。そういうことですか」
「聞く所によると、自分自身と戦わされるらしいのじゃが……妾ではなくリンちゃんが立って居るように見えるんじゃが!? 妾友達を燃やす趣味は持ち合わせておらんのじゃが!」
 持っていても困りますとリンディスは首を振った。アカツキは「此処に来たら自分を燃やせると聞いたのじゃ」と堂々馳せ参じたわけである。アカツキはどうしたものかとリンディスをちらりと見遣る。
「くっ、何という所じゃ。お友達の姿をした相手を燃やして出てこいなどと……絶対性格が悪いやつじゃ作ったじゃろこの場所」
 その思考回路の中では姿はリンディスである以上、本を上げれば満足となり退いてくれないものか――そこまで考えたアカツキにリンディスはそっとその手より本を奪い取る。
「アカツキさん、自分同士ならまだ……戦えますよね?」
「うむ? うむ! ならば『燃やせる』のじゃ」
 鏡像へ向け焔が揺れる。その炎を見ながら友人を燃やす趣味を持っていなくてよかったとリンディスは胸を撫で下ろした。

成否

成功


第2章 第13節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者

 その銀髪を――識っていた。
 クロバはペンダントが無風の虚無の中で揺れていることに気づく。
「―――」
 その呼び声も、その銀髪も紛れもない彼女のもので、クロバは「何で」と開きかけた唇を噤んだ。
「やれやれ、巻き込まないように一人で入ったはずなんだが――こんなな方法で迷わせる? 
 ……危うく引っかかりそうになっただろ」
 虚無の洞に設置された鏡には自分自身ではなく彼女の姿が映っていたのだ。それが実体を伴い、美しい鏡像として現れたことにクロバは酷く乱された。
 もう離すまいと誓った女(ひと)なのだ。本当ならば何があっても守るべき姿なのに――その姿に向かって刃を立て、撃鉄を起こさせる『罪』をミロワールはなんとするのか。
「――何が死にたくないだ。ふざけるなよ……お前は……お前は殺す!!!!」
 この手で、たった今、『彼女』を殺したとう確かな感覚に。
 クロバは滾る苛立ちを虚空の中へと打ち込んだ。己の中に渦巻く心無さと自己嫌悪、自身の怒りに込みあげた吐き気を飲み込んで、その身を包む憎悪で体を操るように進み始める。
「殺さなくったってよかったのよ」と『彼女』の顔をした鏡像がそこで笑う。
「だって、偽物だって思って殺したのは貴方だもの」
「――黙れ」
 撃ち込んだその一撃に鏡像は消えた。

成否

成功


第2章 第14節

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮

「   」
 その声に、シキは唇を震わせ「辞めて」と言った。名を呼んだ、その声音にその表情は紛れもなく――

「その姿で名前、呼ばないでよ。私の弟の顔して。
 ここは私の世界じゃないし、そもそも私が首を撥ねたでしょ?」
 殺した人は、笑ってはいけないのだ。殺した人が、生きているなど処刑人の名折れなのだ。
 それでも、愛しいルビーの瞳の彼がシキにとっての後悔であることには変わりなく、首と胴の繋がった彼と出会えたことがどれ程嬉しくたってーー「首を撥ねてあげる」
 痛む感情は、封印し、『無』にわざと浮かべた笑みをシキはそのままに鏡像へと接敵した。
「痛みなんて私にはいらないってもんさ」
 ――そうだ。アレは偽物なのだ。
 それでも、『ルビーの瞳』がシキの感情を逆撫でる。表に出すことのなくなったその感情の確かな揺らぎがシキの胸を締め付ける。
「……一撃で、終わらせるから、だから――今度こそ、ゆっくり眠ってくれ」
 首を落とせば一瞬で。
 だからこそ、サヨナラを告げるようにシキは一気にその刃を振り下ろした。

成否

成功


第2章 第15節

セララ(p3p000273)
魔法騎士

 その金の髪は長く、美しい。赤い人は優し気で小さな体でしっかりと抱きしめてくれる。
「セララ」と呼ぶ声が、どこまでも愛おしく――だからこそ、セララはその声に瞬き、息を飲んだ。
「ママ」
 頷く『鏡像』はセララが良く知る母の姿であった。
 ああ、けれど――ここは『異世界』なのだ。彼女が居るわけがない事くらい、セララは知っていた。
「混沌世界に来てからどのぐらいたったのかな……ママ、偽物でも会えて嬉しいよ」
 震える声で、セララは『母』へと言った。鏡像は慈しむように手を伸ばしてくれる。本物でなくてもその胸に抱きしめてと飛び込みたくなるのだ。
 セララはスカートをきゅ、と握ってから「ママを倒さなくっちゃ駄目なんだよね?」と呟く。
「うう……分かってるよ? 分かってても、ママだよ。やりにくい……」
 けれど、『本物』であったならば――きっと、セララの選択を否定せず、セララの応援をしてくれる筈なのだ。
 だから――セララは何時もの如く剣を握る。
「いつもは正義の心を刃に込めるんだけどね。今日はありがとうとさようならの剣だよ」
 未練を、断ち切るように少女は跳ね上がり、セララは剣を振り下ろした。
「――必殺! ギガセララブレイク!」

成否

成功


第2章 第16節

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

 その虚空の洞の奥に『彼女』がいるというならば、アルテミアは踏み入れぬ選択肢は無いのだと、一歩、踏み出して――「ああ」と唸った。
 美しい銀の髪が眼前には存在した。鮮やかなる紅色のドレスを揺らし、結った髪に揺らした紅の色にアルテミアは懐かしささえ覚える。
 自分と同じ顔をして、純白の翼を揺らした美しい彼女。

 エルメリア。

 その名が唇から滑り出す。かけがえのない、何時の日かの再会を信じてやまないかたわれの彼女。
 彼女が、どこにいるかは分からない――それでも、アルテミアは確信に似た再会を待って居たのだ。
 ……だというのに、この絶望の只中で『骸のない墓』の様に心の繋がりさえ感じることない『ソレ』が居る事を許せるものか。
 アルテミア、と呼ぶ声を振り払う様にアルテミアは剣を振り下ろした。鏡像を、かたわれを殺す事は――これ程までに、吐き気を催すものか。

「……私の大切な妹の姿で、その耳障りな声で喋るな」

 掻き消えた鏡像を見下ろしてから、アルテミアは掌に力を込めた
「あぁ……、こんなにも怒りを感じたのはいつ以来かしら――待っていなさい、貴女をこの手で終わらせてあげる」

成否

成功


第2章 第17節

カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声

 カタラァナは理の中に生きている。大切な友人を殺せと言われたならば? ――必要なら殺す。
 ならば、大事な大事な自分のかたわれを殺せと言われたならば? ――必要なら殺す。
 それがイレギュラーズの使命感などという大層なものではなく、自分の体が菌に対して行う免疫の攻撃行動の様な反射であることをカタラァナは知っていた。
 必然性の上で『殺す』という事は美しき終わりであり、愛する滅びなのだ。後で涙を流したとしても、『その時はそういうものなのだと』『理解してしまう』のだから。
 けれど――だからこそ、殺せない存在が目の前に出てきたときにカタラァナは酷く狼狽した。
「娘(うつわ)は、父(つかいて)には逆らえない。そういうものだ。
 ……そういうものでしょう。お父様、その声で従えと言われれば、はいと言うしかなかった、筈だ」
 もしも、父が死ねと言ったならば首を掻ききったのだろうかとカタラァナは首筋に触れる。

 ――ああ、でも。
 ともだちと精一杯に生きた日々に、必要ないはずだった夾雑物(おもいで)が、それを否定し、鏡像の呪(まじな)いを打ち破った。
 鏡像が掻き消える。父の顔をした、紛い物の声がカタラァナの頭の中ではいつだって巡っていた。

成否

成功


第2章 第18節

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー

「良い死の香りじゃあないか、戦場で幾度と無く肌で感じた芳しいものだ」
 鼻先を擽った死臭は廃滅病(アルバニア・シンドローム)によるものであることをウォリアは知っていた。そして、共にこの虚無の洞へと踏み入れた幻介やエイヴァン、シルヴェストルの前に現れた『幻影』がどれ程までに恐ろしいものであるかを――知らぬ儘ではいられなかったのだ。
「……それが本物なら殺すことを躊躇うだろう。だが親父ならそんなことは言わない。
 誰よりも生きることにしがみついた男が――自分の、そして他人の死を願うなどあり得るはずもない」
 エイヴァンは呻いた。彼の育ての父は海洋王国でもその持ち前の『生存能力』の高さで一目を置かれていた。だからこそ、大切にし続けた命を蔑ろにするわけがないという確かな信頼があったのだ。
「後ろはいいとして、なるほど……僕の『親』――僕を吸血鬼にしてくれた貴方が出るのか」
 シルヴェストルはその人を殺すことは迷うのだと唇を震わせた。そうだ、ここは惑いだらけの鏡の迷宮――その心の奥底を擽る様な迷い路なのだ。
「……成る程、こうくるで御座るか。よもや、姉上の鏡像とは……いやはや、懐かしいものよ。
 故郷から混沌へ喚ばれて以来、二度と見る事は無いと思っていたで御座るが……」
 自身の奥底に存在した意識をくみ上げたのかと幻介はまじまじとそれを見た。姉の姿をしたそれは『異世界に存在するべき』であることから偽物であることが分かる。しかし、『戸惑い』を生み出すのはミロワールが心の奥底を擽るからか。
「―――――!」
 実在する人が乞うてくるように、ウォリアは黒煙が人を模したそれが声にならぬ音を紡いで叫んだその響きに『誰』の姿であろうかとまじまじと見た。
『これ』は何時かの記憶においてはそうだったのかもしれない。しかし、ウォリアは大切な者なんていないと戦士としてその鏡像を消し去った。
「殺す事を戸惑い、あまつさえ後悔する? 馬鹿馬鹿しいな、死ぬべきだからこそ殺し殺されるのだ……そこに感傷を持つのは愚かな事だ」
「うむ。所詮は見た目だけの紛い物――あの男勝りで、いつも拙者を死ぬほどに痛めつけてきた面影すらない姉上の鏡像。――なればこそ……斬る事に何の戸惑いもありはせぬで御座るよ」
 刃を振り下ろすことに何の違和感も感じてはいない。死にたくはないとミロワールの声を響かせたそれにシルヴェストルは「分かるよ」と呟いた。
「僕も殺されかけた時『そう』言った。……でも、分かるだけだね。
 この場において、貴方は邪魔でしかない。そもそも僕は大昔に貴方を殺す依頼を受けていたし……まあ、その依頼が失敗するように導いたのは僕だけど」
 その鏡像へと語りかける。エイヴァンは父譲りの技術を使い敵を全て呼び込んだ。
 そのすきを突くように、シルヴェストルは『もう一度』を繰り出していく。
「悪いね、貴方じゃない『貴方』――僕の親離れにお付き合い頂こうか」
 親離れ、とその声を聴いてエイヴァンは自分自身も『そう』すべきかと父の鏡像をまじまじと見遣る。
 理想の上に存在する彼は――今や行方も知らぬ彼は。それを追い越さねばならぬ時が来たのだろうかとエイヴァンは拳を叩きつける。
 霞んだ鏡像が「死にたくはない」と『生き汚く』叫んだそれをエイヴァンは「だろうな」とだけ零した。
 誰だって――死にたくはない。しかし、死ぬのがこの海の呪いなのだ。

成否

成功


第2章 第19節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

 自分自身が現れた時にアーリアは『酔っているのかしら』とジョークを混じらせた。胡乱な視線をわざと向けて千鳥足を演じるようにして倒した鏡像は、それ以上に深き恐怖を孕んでいるかのようにも思えた。
「この先には何があるのかしらね?
 一人で飛び込むのは怖いけれど……私には、頑張れるふわふわのお守りがあるわ!」
 虚無の洞の中に足を踏み入れようとして、目の前の鏡に灯る光にアーリアは息を飲む。その鏡に存在したのは、そして『そこより現れた』のは今も尚、眠り続ける妹――メディカの姿だった。

『おねえさま』

 その柔らかな声は幼き頃に幾度も聞いた愛おしく大切な彼女の声。仲違いして刃を交える事さえあり得ないと思わせてくれるその響き。
「メディカ?」
 にこりと微笑んだその表情に縋りかけて――アーリアは首を振った。違う、違うのだ。
「本物のあの子は、まだベッドで眠っている。だから貴女は、私の妹じゃない!
 ――解っているけれど、寂しいのよね。怖いのよね。……私だって、このままだと愛しい人よりずっと早く死んじゃうの。そんなの、嫌よ」
 愛しい彼は、きっと自分が死に追われても穏やかな時を過ごせるようにと傍に居てくれることだろう。
 けれど、そこに残った悲しみを彼に背負わせたくなくて、彼との未来を忘れたくもなくて。
「でもごめんね、私はまだ抗いたい。……だから一緒には行けないわ!」
 酔いしれるような甘い夢でさようなら。アーリアの言葉に『ミロワール』は「愛しい人……」とどこか羨む様に呟いた。その声は虚無に飲まれて消えていく。

成否

成功


第2章 第20節

ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人

「ややぁ…やぁ……… ややっ?」
 ヨハナに生まれた戸惑いは、目の前に立っていた『鏡像』が誰であるかを理解できなかったことに起因する。周囲のイレギュラーズ達は知り合いの姿や明確な誰かに見えているのだろう。それを察することができても、ヨハナにとっては『誰であるかすら分からない』のだ。
「他の皆様の反応を伺う限り、知り合いなどの何某の姿が沢山見えているようですが……。
 超絶見知らぬ方しかいらっしゃらないのですがっ? あらやだもしかして、またまた『お前の記憶ねーから!』ってやつですかっ?」
 世の中は記憶喪失に厳しいとヨハナは呻いた。ヨハナは自分の目が、頭がおかしいのだろうかと「皆様ー!? お客様の中で正気を保ってらっしゃる方ー!」と声を張り上げる。
「これ本当に人に見えてらっしゃるんですかっ!? なんというかこれもっと違うような得体のしれないなにがしですよっ!!」
 びしりと指さしたヨハナは人が殺せぬというならば殺してやろうと声を大にした。奇妙な生き物を『殺し』、ヨハナは頭を抱える。未来を救えるのならば、憎まれ役だって買って出る。
 ……所で、やはりこの目の前の『存在』は何だったのだろうか。

成否

成功


第2章 第21節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

「どうやっても鏡と対峙させたいなんて、ミロワール様も悪趣味な方で御座いますね」
 幻がそう言ったその声に『鏡像』の唇を借りてミロワールは「それが『私』だもの」と言った。
「ああ……それこそ貴女の姿だというならば。私とて『そう』せざるを得ないのです。
 では、奇術対決と参りましょうか。奇術師はいついかなるときも人々を笑顔にさせなければならないのです――そう、どんなに絶望していようとも」
 一礼し、奇術師は笑みを零す。その身の内に存在する絶望(かたこい)は虚ろな虚無の中でさえ、希望に見えてしまうのが敵わない。
「さあ、僕の奇術をご堪能あれ!」
 鏡像へ、蝶が形作ったのは『愛しい彼』の姿であった。花を抱えた蝶(かれ)はそれに止まるようにそっと、愛情を差し出してくる。
 その様子にちりりと焦げた胸の奥を悟られぬ様に笑みを零してショーを演じる幻は「さあ、『偽物の僕』、愛しいあの方ですよ」と囁いた。
 蝶が『ウソ』を抱きしめた。それを眺めて、妬ましいと唇から零れるそれはミロワールの目にも確かに映る。
「羨ましいわ。それほどまでに愛せるなんて」
 消える鏡像は――苦々しく片恋を吐き出す幻に言った。「私は、人を愛することも許されなかったもの」と。

成否

成功


第2章 第22節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

 彼らはまだ出会ってはいない。この迷宮にどちらも居ながら、その姿を見ることは出来ていない――否、ジェイクにとっても幻にとっても『そちらの方が都合は良かった』のかもしれない。
 自身の鏡像と相対しながら、ジェイクは『分かり易く』『やりやすい』とそれを見遣る。
「俺の事は俺が一番知っているぜ……だからこそ、俺が一人で此奴を倒さなければならねえ」
 自身の目的は『アルバニア』を引き摺り出して倒すことだ。このアクエリアの制圧もその一歩ではあるが悠長に構えている暇はないのだ。
(――それに、彼女を巻き込むわけにはいかねえしな)
 彼女は追ってくるだろう。どれ程に絶望の只中にあったとしても、だからこそ酷い仕打ちを返した自分に我慢ならぬのだと位置を取り弾丸を打ち出し続ける。
「俺とお前を一緒にするんじゃねえぜ。俺は彼女を巻き込むつもりはねえ。
 ……俺もお前も一人で死んでいく。そう、それだけだ」
 あっけない、とジェイクは思った。あっけなく、鏡像は倒れていく。しかし、消えかけた鏡像の口が不安げに揺れ動いたのだ。

 ――寂しいわね、貴方も、私も。

 糞ったれ。傍に居てくれるはずの人を遠ざけた者はその言葉を口にすることもできないのだ。

成否

成功


第2章 第23節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女

「しまった、脱出の時にウィズィとはぐれたか……まぁいいわ、あの子の事だから奥で出会――」
 イーリンはそこまで口にしてから、眼前に立っていたものをまじまじと見遣った。
 そこに居たのは紛れもない自分だ。鏡像であることは分かる、自分自身が存在する以上、自分が立っているならばそれは先ほどウィズィと倒した鏡像に他ならぬのだから。
 しかし、それは『召喚される前の自分』だった。諦める事を知らず、仲間を信じ自分たちは物事を切り開けると、現実を知っても尚、豪語した仲間と共に戦った戦乙女。
 ――何よりも、愛した人と一緒に居た自分の姿は悠長に笑った。
『貴方は結局、自分以外どうでもいいんでしょう。
 だから、愛した人さえ、殺せない相手として出てこない』

 嗚呼、その言葉に歯を食いしばり、吼えた。吼えて、吼えて、その声と共に『自分』を消し去っていく。
 消えた鏡像の笑い声だけが耳の内側で反響した。前に進まなくてはいけないというのに、顔を覆ったままイーリンは俯いた。
 流星は、己同様死を恐れるミロワールの元まで輝き続けるだろうか――?

 ああ、足に力を入れなければ。進まなければ、立ち上がった両脚は震えていたような気さえさせた。

成否

成功


第2章 第24節

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

「イーリン?」とウィズィは振り返った。あの人が、名を呼んだ気が――しただけだ。
 虚無の洞で、立っている人が居る。ウィズィはミロワールは戦うことを拒む誰かの足を竦め、ここに捉えておきたいのだとも推測していた。
 ああ、だから――目の前に立っているのは『その人たち』だったんだ。
「ふ、はは、ははは! そりゃそうだ! そりゃそうだよね! 私の、お父さんとお母さん!
 ふふ。あー……当たり前すぎて、物語性もへったくれもないなぁ。聞いてくれる? 嘘(おとうさん)」
 ウィズィはまるで思い出話をするようにくすくすと笑みを堪えてそう言った。
「私はイレギュラーズになる前まで、ただの街娘でさ、家族仲のいい普通の家庭で育って。
 こないだだって、海洋で叙勲されたの自慢しに実家帰って……馬車ですぐだからさ、実家。
 驚かれるやら褒められるやら……普通が『特異』になったんだって実感、するよねえ」
 父も母も、きっと受け入れてくれる。しかしウィズィは『ちょっとばかし抱えられるものが大きくなった』その手を伸ばした。
「ごめん。私は、この先に行かなくちゃいけないんだ。
 この先で、未知と冒険が大好きな……私の最愛の恋人が待ってるからさ」
 偽物でも、殺したくなかった。けれど、決意は固く、鏡像が消えていく。
 行かなくちゃならないのだ――非日常な混沌の、得意な運命の中できっと彼女が待って居る。

 未知が好きなあなたなら、何があったって立ち上がれるでしょう。
 無理なら、手を貸すから、待って居て――

成否

成功


第2章 第25節

アト・サイン(p3p001394)
観光客

 アトはいつもの通り、観光客としてその虚無の洞を進んでいた。ダンジョンアタックと何ら違いのないその場所は『トラップ』らしきものが存在せずやや拍子抜けではあったが、それが魔種の本懐でないならば――本命は。
「―――まあ、ダンジョンの中だ。いるんじゃないかなあ、って少しは思ってたよ。
 だが、地獄の底から這い出てくるのはちょっと反則じゃないか……なあ、メルカート・メイズ……!」
 名を呼べば、昏き闇を抱え込んだ虚ろな瞳の少女がアトを見据えている。命を抱きしめるようにした『アトの識る魔種』は首を傾げる。ど、ど、と早鐘を打つ鼓動を抑えるように落ち着けと何度も繰り返した。
(あれは影に過ぎない――戦略眼よ、冴えて真実を告げろ。メルカートでないという『事実』を己に突き付けろ――!)
 息が切れそうになる。飲まれそうになる、そう思わせたのは彼女の魔性だろうか。
 目を覚ませ、理性を働かせろ、足よ止まれ。彼女に一度打ち勝ったのだから、二度目だって。
 そこまで考えてからアトは愕然とした。違う、あの時は『二人』だった。半分ずつの命の賭け。今は――一人だ。
 狂おしい程にその鏡像へと攻撃を浴びせ続けた。死が微笑む様に、天秤の上の命のコインが、傾いた。重苦しく付き纏う彼女の幻影を打ち払った時、アトの両脚からは力が抜けていた。

成否

成功


第2章 第26節

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

 雨が降っている。虚無の洞へと踏み入れてからスティアは「悲しいね」と呟いた。この世界はまるでミロワールの心だ。箱庭のようにも思えるこの昏き虚無は『本来のアクエリアにはない』ものだったはずだからだ。
 虚無を進む中で、スティアは隣を見遣る。そこに立っていた赤は見慣れた親友だ。
「サクラちゃん? 急に出てきてどうしたの?
 まあ……鏡を覗いたら出てきたからきっと偽物なんだよね」
 くすり、と小さく笑う。スティアは割り切った様に「こういうのって面白いね」と微笑んだ。
「本物のサクラちゃんなら『ふざけないで』って怒るのかな? 怒らないなら偽物だ。
 じゃあ諦めた方が負けの根競べだー! 私を倒せるものなら倒してみろー! えいえい!」
 悪ふざけの様にスティアはそう言って、粘る選択肢を選んだ。
「サクラちゃん――ううん、『ミロワール』。
 一人きりでは死にたくない……なら一人じゃなければ死んでもいいってこと?」
「……どうして聞くの?」
 サクラの口を借りたミロワールがそう言った。耐え忍び、そして根競べを続けるスティアは「何をすればあなたの救いに繋がるのか、私はそれが知りたいかな」と微笑んで見せる。
「寂しいんだもの。『死んでしまうなら』最期くらい誰かと一緒に居たって――!」

 一方で、サクラの目の前には『スティア』が立っていた。穏やかな笑みを浮かべているスティアを見てサクラは「私の幼馴染――じゃない」と違和感を感じていた。普段ならにこりと笑うスティアの穏やかな令嬢の笑みは違和感があったのだ。
(彼女が鏡像――? 私が、スティアちゃんを殺すの……?
 私の……ロウライトの罪の象徴で、彼女の両親を私の祖父が殺したという事実があって――?)
 その事実を負い目として背負うサクラがスティアを斬る。それがどれ程の意味を持つのかをサクラは唇を震わせる。
(お祖父様、セツナお兄ちゃん、フウガお兄ちゃん……貴方達はずっとこんな事をしてきたんですね……わかっています――私もロウライトの女ですから)
 だからこそ、サクラ・ロウライトは高々と宣言した。
「斬る……!」
 鏡像を叩ききり、虚空の洞に身を投げる。そしてサクラは目を見開いた『自分と相対して』いるスティアを見て「スティアちゃん!?」と呼びかけた声にスティアは嬉しそうに目を細めた。

成否

成功


第2章 第27節

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

「……で、誰だい。ジジイともババアとも見える人物は」
 目の前に立っていたその人物に不快感を示しながらセレマはそう言った。
 しかし、『そう言えども』どこかでその姿を見たことがあるのだと喉元まで上がってきた言葉を「ああ」と唸る声と共に吐き出した。
「……ああ、そうか。『美少年になる前のボク』だね? 久しく見ない姿だったから、忘れてたよ」
 セレマは苛立ったように『鏡像』を見た。ずんずんと鏡像に近づいて、低く言う。
「――失せろ。醜い老いぼれは影にでも食われてしまえ。
 ……エゴイストのボクにボク自身をぶつける発想は良かった。
 『美少年』のボクは倒されたから、それ以外を用意するというのも解る。
 けど、醜いボクに生きる価値はないだろう? 人生は生きてこそじゃない。どう生きるかさ」
 鏡像を消し去る前に彼は『ミロワール』を探すように言った。虚無の洞の中で彼は首を振る。
「それにさっきから聞いてれば『死にたくない』と言ってばかり。
 助けてほしければ『生きたい』とか『何がしたい』とか言ってごらんよ。可愛げがない子は嫌いなんだ」
「生きたいと言って貴方は助けてくれるっていうの? 寂しいから誰かといたいと言って叶えてくれるの!?」
 ミロワールの声が虚空響く。セレマは肩を竦めてから「姿も見えない子に言われてもね」と返した。

成否

成功


第2章 第28節

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。

 その時、イルミナは虚無の中に確かに『その人』を見た。
「……いけません、いけません。違うモノだとわかっている……理解している。それでも」
 それが魔種の作り出した鏡像だと知っていたとしても――ひどく乱されたのは、彼女の策略のうちか。
 震える手が宙を掻く。唇が震える。そして、『イルミナを呼ぶ声』が心の臓を掴む様に響く。
「御主人様と同じ顔、同じ声、同じカタチ……。
 ――あぁ、それを殺せと言うのか。この私(イルミナ)に」
 悍ましい程の恐怖が彼女に重く伸し掛かる。どうすればいいかと考えれど、笑みを浮かべた『あの人』はずっとこちらを見ているだけだ。
(解決策はないんだ。……あくまで目の前のモノを殺さなければ、先には進めないらしい。
 できる。できるのだろう。今の私には。『できなくては、ならないのだ』)
 イルミナは涙を流し、手を組み合わせる。神に懺悔するかのように、切なくも響くその声音は――
「あぁ、お許しください。私は……イルミナは禁を犯します。
 ……今日のこの日を、イルミナは忘れないでしょう。
 例え何があろうとも。この手の汚れを、この眼に映る景色を、光景を。――Goodbye, my earth」
 ご主人様を、殺した日として十字架を彼女に背負わせた。

成否

成功


第2章 第29節

ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

 何度、そうして『殺したって』慣れやしない。感覚は麻痺するように『聖女』の骸を積み上げ、自身に業を背負わせる。
 魔の存在は皆殺しにしなくてはいけないと虚無の洞へと踏み入れた時――ハロルドは喉奥よりその名が飛び出したことをどれ程、後悔しただろうか。
 剣を手にして、呼ぶことのなかった筈のその名前を――
「リーゼ……ロット……」
 その名を呼んだ時に烈火の如く、怒りが溢れ出した。
「貴様……! 貴様ぁぁぁ!」
 鏡像へとはじけるように近づいた。『敵』と認識するにはあまりにも美しすぎた聖女――彼女は微笑んでハロルドの名を呼ぶだけだ。
「この外道が! またこの剣でリーゼロットを貫けというのか! また俺に『聖女』を殺させるのか!」
「……『殺したこと』があるのね。人を殺して、のうのうと生きてられる。素敵な性分だわ」
 煽るようにミロワールは『リーゼロット』の口を借りてハロルドへと言った。その美しい笑みはただ、柔らかで――「誰かを害することに慣れた人間は魔種とは何も変わりないわ?」
「……良いだろう……! 貴様ら魔種に迫るためなら誰であろうと斬り捨ててやろうじゃねぇか!
 そして貴様らを皆殺しにしてやる! 必ずだ! この紛いモノがぁぁぁぁ―――! その姿で、俺の名を呼ぶなッ!」
 五度の凶行。そう自身の中に刻み付け、刃を突き刺せば聖女の鏡像はあっけなく消えた。ハロルドの掌に『人を殺した』感覚だけを残して。

成否

成功


第2章 第30節

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

 虚無の洞の中を進みながら寛治はズレた眼鏡の位置を正した。ため息とともに吐き出したのは僅かな驚愕の色であったのかもしれない。自身と同じスーツに身を包んだ男――エージェントとして共にザムエル・リッチモンドを追い詰め、命を落とした嘗ての相棒がそこには居た。
 穏やかに微笑んだそれを見て、寛治は目を細める。彼は莫逆の友であった。
 ――仕事に懸ける信念と技術は一流で、二人が組めば出来ないことは無いと思っていた。

「やれやれ、現れるのは貴方でしたか。どうやら惑わせるにしても悪趣味だ」
 寛治はぼやき、彼を見た。惑う心より早く体は拳銃を抜いている。

 ――こいつを、また、殺せというのか。

 心が『そう』言う事さえ気づかなかったように銃爪を引き絞る己の頭の中には思い出が過る。
 約束をしたのだ。それが必要不可避であれば、躊躇することはないのだと。
『お前に殺されるなら悪くない』
 その言葉は、忘れやしない。忘れなくったっていい。
 そして、弾丸が鏡像を抉った。僅かな感傷と共に、拳銃より飛び出して。
「最後の一発は取っておく。相手のためか、自分のために――貴方の台詞でしたね」

成否

成功


第2章 第31節

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠

 昏い――それは昏く沈んだ鏡の中であった。光も届かぬ虚無の闇はチックにとっても深き海の底を思わせる。
 伸ばした指先が届くところがない儘に、虚空を掻いてから何かに触れる。白い指先であると気づいたとき、チックの唇からは「ああ」という言葉が漏れた。
「おれが……増えてる事は、海洋の……島で。見た事あった、けれど。
 今回は……仲良くなれない、みたい……? それなら、……うん」
 穏やかなその声音とは裏腹にチックはゆっくりと『鏡像』を見遣る。仲良くなれないのならば――

「――二人も、いらないね」

 高めた魔力が更なる勢いを魔弾へと与える。『鏡像』を蝕む毒が如きそれはまるで廃滅ではないか。
「……『死にたくない』……その言葉、懐かしい響き……する様な……そんな……気分に……」
 チックは首を傾げる。けれど、その言葉に従うことは出来ないのだと鏡像へ只管に攻撃を重ねた。
「探さなきゃ、いけないもの……あるから。だから、ごめんね。
 一緒に……死ぬ人も、もい……決まってる……それは──、」
 その言葉と共に、鏡像が斃れていく。鏡像の唇は羨ましいと怨嗟を漏らして消えた。

成否

成功


第2章 第32節

フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花

「あらあら、死にたくないの? 一人じゃ嫌?」
 くすくすとフルールは笑った。優しい笑みを漏らして、夕暮と深海の色を細める。
 すももの花飾りを揺らし、「怖いものね、わかるわ」と甘言を囁いた。
「……誰かと一緒じゃなきゃ怖くて寂しくて胸が張り裂けそうになるくらい。
 でもね、どうせ死んだら皆一人よ。死後も共にあれるなんて幻想。
 だから、あなたのそれは無意味。せめて眠る時に手を繋いであげることしか私にはできないわ?」
 彼女の言葉に応えるように鏡像が生れ落ちる。『フルール プリュニエ』は――『夢の彼方の李花』はそこに姿を作り出す。かたわれのその存在はフルールにとっての『本物のフルール』で。
「私は偽物だもの。あなたを殺せない、殺したくない――でもね、『殺す』わ? そうしないといけないから」
「死が避けられなければ決断できるでしょう? 私だってそうだわ。
 私は死にたくはないわ、けれど『死ぬしかないのよ』。そういう病だもの――だから、眠るまで手を繋いでいましょう」
 首を振る。フルールは『鏡像』には手を差し伸べず燃やし尽くすと焔に照らされ微笑んだ。
 愛しい人が死んでいく。しかし、その姿は霞、霧散して消えていくのだ。
 この虚無の洞の中で、何処にも、何も残さずに。

成否

成功


第2章 第33節

Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔

「出ることも可能……ですが、進みましょう。ほっといて帰るのは気分もよくありません」
 Lumiliaは静かにそう言った。頷くマルベートは「まだ先は長いようだが、挙句にこんな虚穴にまで赴かねばならないとは」と溜息を混じらせる。
「それから――入り口には『誰か』が立っているようだね。ああ……愛しき我が娘、ミレニアか」
「――あぁ……あの姿……エングレイブの施された拳銃に白銀のフルート。遠き師よ――なぜ……」
 ふるり、と震えたのは気のせいではなかった。Lumiliaの声は震え、マルベートは肩を竦める。
 それが『本人』なのだとするならば二人はどちらも攻撃を途惑うことだろう。
 マルベートは大仰に息を吐いてから『鏡像』を見遣った。
「先程といい此処の魔種は私を馬鹿にしているのかな?
『偽物だけど本物に似ているから倒せない』とでも? ――全く、馬鹿馬鹿しい」
「本当に偽物かしら」
 肌が粟立つ。その声は、愛しい娘と何ら変わりがないのだ。劣悪なオードブルを食するようにマルベートが地面を蹴り上げる。
 その傍ら、Lumiliaはは、と息を吐いた。隙を晒していることは分かっていた。許せぬ存在が目の前にいるというのに――竦む。
(貴方を騙る者が、よりにもよって私の前に現れるというのであれば。
 涙を止めることができないとしても、剣を持って、貴方の幻影を砕かねばならぬのでしょう……)
 それが師の為、自分の為。Lumiliaは止まらず鏡像へと走り寄った。
「Lumilia、躊躇いがあるようならば手を貸すけれど……いや、余計な心配だね。君はこの程度では揺るがないだろう?」
「ええ。ここで途惑えば師のためになりません。だから――」
 鏡像が消え失せ、残る闇には残るものはなかった。

成否

成功


第2章 第34節

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー

「……自分が相手っては、何だか新鮮っスね」
 それはむしろ面白く、新鮮であるとさえ葵は思えた。自分自身を相手として戦えるというならば――それはどれ程に嬉しい事であろうか。
「こうやって自分と戦えるってことは自分の気づかない部分が見えるってもんだ。
 ミロワールつったか? こういう機会は滅多にねぇんだ、サンキューな」
 まるで級友にでも話しかけるかのように葵はそう言った。葵の鏡像の唇を借りてミロワールは「おかしなひと」と小さく笑う。
「けど、それはそれ、ッス。きっちりここで偽物を潰させてもらうわ。んじゃ、キックオフっす」
 びしりと指さして、葵は走り出す。狂王種達を退けさせ、楽しいと鏡像を嗾けるミロワールは楽し気な笑い声を漏らす。
「自分と戦うのが好きって物好きね」
「そうっスか? 試合が始まった以上は自分であろうが関係ないっスけど。
 一発レッドカードだ、偽物! ――フィールドにボールは一つで十分なんスよ」
 出来れば鏡像とは平和的に――そう、模擬戦などで自分を見つめなおす機会――できればよかったのにと葵は小さく呟いた。
 霞む鏡像より響く笑い声は何処までも楽し気で葵は心地が悪くて頬を掻いたのだった。

成否

成功


第2章 第35節

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃

 己に影のように纏わりつく後悔は消える事ない罪の様に重く伸し掛かり続ける。イグナートが虚無の洞の中で見たのは後悔の記憶であった。
 それは己の体にべたりと張り付く残滓が生み出したものだったのだろうか。倒れる赤毛の少女に金髪の青年――ミハイロ・アウロフが縋りついている姿だ。
 スヴェトラーナが死んだあの日。泣き叫ぶミハイロに何も言葉をかけることができない儘、イグナートはそれを見ていた。
「――――――!」
 慟哭は、何時しか怒りに変わり復讐の焔を燻らせ続ける。あの時、何か言葉をかけてやることができたなら、今もミハイロは隣に居たのだろうか? あの時、ミハイロを叩き伏せることができたならば、何か変わっていたのだろうか?
 彼の掌が赤く染まっていくそれを、呆然と眺める事しかできなかった自分の無力さが、ミハイロを前にして濁流の様に襲い来る。
「まだ答えが出たわけじゃないけど……あの時とは違うよ。ミハイロ」
「そこを退け」と『あの時の記憶の通りにミハイロは言った』。
 イグナートは首を振り、拳を構え、その距離を詰める。
「トモダチだから! オレはお前の感情を全部受け止めなきゃならなかったんだ!
 タトエ命の奪い合いになったとしても! 逃げずに! だから――これは後悔とトモに持って行ってくれ!」
 叩きつけた一撃で霧散していくそれを眺めてイグナートは現実もそうであったらと唇を噛んだ。

成否

成功


第2章 第36節

マルク・シリング(p3p001309)
軍師

 芽吹きの春は慎ましやかな花を編んで花冠に。雪解けを待ち望む日々の中、未来を夢見た彼らの姿にマルクは震えた。
 飢えと寒さで命潰えて言った彼ら――冬に殺された村の皆を、今度は自分の手で殺せというのかとマルクは声を震わせ、喉奥より込みあげる拒絶感をごくりと飲んだ。
「ッ――」
 分かっている。分かっているけれど、それが鏡像である事を理解していても心は拒絶し続けるのだ。
(……ああ、でも。決めたんだ。零れていく命を一つでも救うと)
 命の天秤は何時だって無常だ。揺らいで、揺らいでそして、傾ぐときはあっという間に掌から零れ落ちる。
 だからこそ、マルクは選ばなければならない局面がある事を知っていた。
 幼馴染の彼女もこの後悔を背負って生きているのだろうか。彼女がどこに居るかなんて――知らないけれど。
 選び取るというならば『嘘で塗り固められた』それを殺す方を選ぶ。それを覚悟と呼ぶのならば、心は何時だって決まっていた。
「ごめんよ、皆。いつか……会おうね」
 呪いを打ち払う様に、殺した。殺して、そして――乗り越えた。
 それは別れた人への言葉であって、どこかで生きている『彼女』への言葉であった。

成否

成功


第2章 第37節

芦原 薫子(p3p002731)

 八束之剣を手にして、薫子は虚無の洞を進みゆく。この迷宮では『鏡像』が出て来るのだ。それさえ知っていれば何にだって対応はできる――しかし、『自分』を倒したのだ、その次に何が出て来るというのだろうか。
「私の次に誰が出るかと思えば……そうですか。貴女でしたか……」
 眼鏡の奥で瞬けば、薫子は息を飲むしかなかった。メイド服に身を包んだ褐色肌の女。その金の瞳が薫子を見て――そして目を伏せた。
 その姿は『元の世界』で何度も見たものだ。薫子は自身の掌を眺める。
 この手で、殺めた筈なのだ。文字通り『全てを教えてくれた恩人』にして師――
「あぁ、なんというか……反吐が出ますね。
 ええ。確かにその人をもう一度殺すのはこの身が裂けるようです」
 それ以上に腹立たしいと、薫子は一気に鏡像へと踏み込んだ。紅の雷がばちりと音を立て、それが鬼(じぶん)の中の嫌悪と苛立ちを示しているようだとさえ思える。
「そして、それ以上に腹立たしい。
 私の前であの人の姿を取って見せるなどそんな侮辱がありましょうか」
 踏み込めば、鏡像は『余りに情けない回避を見せた』。逃がすまいと、後の先を穿つ一閃を放つ。その体に走った衝撃を飲み込んでから薫子は消えうせるそれを見下ろしため息漏らす。
「あぁ、まったく……弱すぎる。こんな屈辱がありますか……本当に」

成否

成功


第2章 第38節

すずな(p3p005307)
信ず刄

「お互いに太刀筋は知り尽くしている――ですよね、『私』? では、新しいカタチをお見せするしかない! 
 さあ、鮮烈なる殺しの太刀筋、存分にご賞味あれ! ――ご覚悟!」
 すずなはただ静かに息をつく。狙うは『新たなカタチ』である。
 そして、進むべきはあの虚空の洞。魔種と狂王種が存在するその場所に行かねばならないのだ。
 清廉なる霊気が一気に『鏡像』を穿つ。鬼灯のその一閃は、追い縋らんとする自身を退け消えていく。
 走り出さんとした足を『ぴたり』と止めたのは眼前に立っている彼女の姿を見たからだ。
 名を、伊東時雨。
 どくりと脈打った心の臓は悍ましい程の気配を感じさせる。
『ちったあマシな太刀筋にはなったか?でもあたしを斬るには足りない――分かってるんだろう』
「姉、様」と言葉が漏れ出し――すずなは唇を震わせた。
「分かっています、分かっていますとも……まだ遠く及ばない、その程度の事は! 自分の弱さ、甘さも分かっています!」
 すずなの掌より刀が零れ落ちる。届く気配のないその背中が、目の前にあり『会いたいと願ったその姿』がそこにある。それが偽物であったとしても――すずなは掌で顔を覆い、姉を呼び続ける。
「――逢えないと思っていたのに、叶った。そんな姉を、どうして斬れましょうか!
 教えてください、私はどうすれば良いのですか、姉様……!」
 優しく笑ったその顔が、只管に、すずなを見下ろしている。その体に纏わりついたのは夥しい死の気配であった。

成否

成功


第2章 第39節

ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

「キミは……イヤ……」
 ジェックはふい、と視線を逸らした。眼前に存在する『鏡像』は誰の姿であったとしてもジェックにとっては意味がないと彼女は笑う。
「誰のスガタを象ったとしても、アタシは引き金をヒクことを躊躇っタリはしない。
 悪いネ、アタシは愛なんてものはマダ持ち合わせてイナイのさ」
「それじゃあ、もし、それが知らない人でも貴女は殺せるの?」
 楽し気な声音にジェックは肩を竦める。散々近くで遊んだその『鏡像』はミロワールの意思を強く反映してか、近距離での接近を警戒しているようにも見える。寧ろ、その戦い方を模倣しようとしているようにさえ思えた。
「持久戦ってキライ?」
「ふふ、そういうの『大好き』」
 楽し気なその声音に「ソウ」とだけジェックは答えた。弾丸が飛び交い、雨の様に降り注ぐ。その驟雨が如きその弾丸の中、鏡像が霞み消えていくのをジェックは確かに見た。
 しかし――その時、チクリと胸が痛む。
(けど、本当に? アタシはこれが虚像だと知っている)

 ――貴女は殺せるの?

 生身の人間を、何の罪も知らぬ『その存在』を。ジェックはそっと掌を見遣る。その掌は白いはずなのに、どうしてだろうか赤く染まって見えたのだ。
(でももしも本物が立ちはだかった時、アタシは本当に……引き金を引ける?)
 降る雨が、その肩を濡らす。空より落ちた涙で、周囲はまるで無音であった。

成否

成功


第2章 第40節

ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで

 深い哀しみの雨が降り続けている。それはミロワールとハルア、果たしてどちらの心であっただろうか。
 目を伏せる。息を吐く。肺の中の酸素を一気に吐き出せば雨の湿気た香りが鼻先を擽った。
 そうしていれば思い出される過去の話。ずっと共にある友人というものはあらず、皆が大好きで命を賭けて――世界を愛していた事。
「そうだねミロワール。ボクにも、ともだちはいない。
 でもボクが失敗したのはきっと……ともだちはいないって全部ひとりでやろうとしたからだ……同じ失敗、して欲しくないよ」
 囁く声と共に、雨で張り付いた前髪の隙間より月白の石が覗いた。
 空の色より移ろう新緑の髪に、世界を愛する宵の色。そこに湛えたのは確かな決意。
 目の前の鏡像は「じゃあ、貴女がお友達になってくれる?」と囁いた。
 唇を噛み締める。そうして手を差し伸べる『鏡像』へ肉薄する。その姿勢を崩し、確実に討つ。
 影の形が追いすがる。それをも全て、加速し、乱すように打ち崩した。そうしなくては前に進めないのだ。
「――忘れてごめんね。本物助けるの、あきらめないから」

 ――お友達になってくれる?

 その声だけが虚無の洞の中で響いた気がしてゆっくりとハルアが顔を上げる。その双眸より毀れたしずくは雨が隠すようにすべてを覆った。降る残響の中、霧の如く消えた影の向こう側に、誰かが立っているような気さえ、したのだ。

成否

成功


第2章 第41節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

「泣きたいのはこっちだ。……そんなに死にたくねえか。
 次から次へと悪趣味な攻め方しやがってよ。効果はあるぜ。おかげ様で最悪の気分だ。ありがとよ」
 キドーは呻いた。この絶望の青の、このアクエリアに――『彼女』が居るわけがないのだ。
 いや、『居ちゃいけない』のだ。その存在は日向の如き暖かさであり、交わるべきではないifの世界の存在なのだから。
 それが――こんな汚れ切った不幸に埋もれているとでもいうのか。
「……全力でぶっ潰す。何を言おうと気にするな。どうせ偽物だ」
 首を振って、擡げた疑問を飲み込んだ。本物の『シルヴィ』が――大切なあの娘が、戦場に姿を現すようになったとすれば、きっと、自分のせいだ。その方がいい。どうしようもない方が怖いのだ。
 鏡像を打ち壊せば、ガラスの様に『ひび割れた』。それが砕ける様子を見ながらキドーは虚無の洞を見る。
「このトンチキな空間……ミロワールは何を思って魔種になったんだろうな。
 ……同情はしねえがつくづく反転ってやつは、この世界ってやつはクソッタレだと思うぜ」

 彼女にだって普通の少女だったはずなのだ。それを、知る由もないのかもしれないが――

成否

成功


第2章 第42節

ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

 イレギュラーズとしての仲間を、そしてかけがえのない友人を蝕む死兆を治すが為――
 ノースポールはアクエリアへと飛び込んだ。『鏡像』たる自分を見てもノースポールは怯む事はない。
 その姿は魔種が作り出したものであることが分かっている――ならば、この胸の内に滾る熱い思いを『魔種』が真似できるわけもないのだから。
「私は、大切な人達を守るためなら……たとえ嵐の中でも飛んでいくよ!」
 傷つくことも厭わないノースポールの放った捨て身の攻撃の向こう側、虚無の洞が彼女をぐんと引き込んだ。
 鏡の中に移り込んだ愛しい人。「ポー」と呼んでくれるその声音が彼女の心を酷くかき乱す。
 ノースポールは息呑む。そこに見えるのはまさしく、愛しい婚約者なのだから。
「ポー、武器を構えないで。……危険だよ、こっちへおいで」
 そうやって。優しい言葉で誘うのだ。虚空の中へ。ノースポールは首を振る。そして、武器を構えたままに「ねえ、ルーク」と囁いた。
「ルークはいつだって、私を支えてくれる。助けてくれる。
 私の願いを聞いてくれる。頑張れって背中を押してくれる。だから……偽者には退いてもらうよ!」
 そうやって甘やかすだけが貴方じゃない。そう言って引き金を引けば――鏡像は霧散した。そこに残るものなど、何もないとでもいう様に。

成否

成功


第2章 第43節

ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に

 ラルフは鏡の傍に立っている『その姿』に笑みを零した。その人影は徐々に形作られ、しっかりとした人間としてラルフの目に映る。
 そうだ。その姿をラルフは一度足りとは忘れたことはない。ミリア――それは妻の姿だ。
「ふふふふっ、面白い、面白いナァ!」
 その姿を待ち焦がれていないと言えば嘘になる。
 しかし、『それが目の前にいるなど』有り得ない事なのだ。それを希えど、安易に叶う故ではないのだ。
「……?」
 不思議そうな顔をして、くすりと笑ったその鏡像にラルフは唇を噛んだ。いっそ、『久しぶり』『会いたかった』と声をかけてくれればそれが紛い物だと思えるというのに。
 どうにも『自分がそうはならない』と言っていることが反映されたのか鏡像は本物のミリアを思わせる。
 ――死ぬたびに忘れるのだ。彼女は。記憶をリセットして蘇る彼女。定期的に行われるそれを思い返して手酷い呪いであるとラルフは唇を噛み締めた。
「貴様はミリアではない……彼女は死ねないのだよ」
 総て全て、構造を壊し――そして、塵も残さぬ様に。鏡像は霧散し、消えていく。
「出てこい、必ず貴様を殺してやるぞ!」

成否

成功


第2章 第44節

御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

 生きてきた中で、後悔というものは積もりゆくものだ。殺したくない相手が居るかと問われたら、数えきれないほどいるのだとミーナはそう言った。
 歩む足は重くはならない。指折り数える――大切な人は、両の掌では抱えきれないほどだ。
 自身を置いて死地に飛び込んで帰ってこなかった夫に、この世界で出会った愛すべき人たち。
「……だけど、偽物程度で私の刃が鈍ると思うなよ? 誰が来るか知らねぇがな」
 その鏡像を相手取りながらミーナが至近距離へと距離を詰める。
 堂々とした態度である豪斗は柔らかな笑みを浮かべ、大仰に頷いて見せる。眼前の『鏡像』を見据え、「エンジェルよ! 自らのウィッシュを口にしたか!」と笑みを零した。
「だが、先にも述べたがただのデスロードにゴッドはハンドを差し伸べぬ!
 デッドラインの向こうにあるホープを見つけ出せたならば、ゴッドのアガペはユーをヒールするであろう! ――が、まずはそのフェイスがプロブレム!」
 眼前の『ゴッデス』を見遣って豪斗は頭を振った。ミラージュのそれは『彼女』ではないのだ。
「ミロワールってんだろ? この魔種は」
「ほぉう、エンジェル・ミロワール! ゴッドはゴッドのアガペを以ってそのデスを拒絶する!
 ゴッドのロードはゴッドだけが決めるのだ! デストロイ!」
 豪斗のその言葉にミーナは小さく笑った。その通りだ、否定してはミーナはゆっくりとその足に力を込め、狂王種を切り裂いた。
「何人でもかかってこい! 私は、こんなところで止まる訳にはいかねぇんだよ!」

成否

成功


第2章 第45節

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜

 ――名前を、呼んでくれるのでしょう。きっと、貴方は、困った様に。

 見慣れた姿に、聞きなれた声を聴いて。一つだけため息を落とした蜻蛉は確かめるように囁いた。
「……こんなところで何してるん?」
 そっと手を伸ばす。胸元へと手を添えるように蜻蛉は『愛しい人』――縁の傍へ寄る。
「ねぇ、同じになれたんよ? これで少しでも気持ち……分かると思て」
 そっと、見上げた蜻蛉は自身の肩口落とされた指先を振り払い、ゆっくりと傍から離れる。
 本物の彼は、指一本たりとも触れてはこない。預けた鈴の音すらしない――
 そして、愛おし気に見つめてくるその瞳が、深海の奥底で揺蕩う様に思い出を探す彼とは違って。
「――あの寂し気な瞳やないもの、あの人やない」
 首を振る。虚無の闇の中、威嚇を伴う蜻蛉がじりじりと、後退した。鼓動が、煩い――彼を、『殺す』のか。
「……たとえ虚像やとしても、貴方にひと時逢えて――」
 惑わされてはいけない。
 迷わされてはいけない。
 此処が『鏡』なれば――きっと、自分の弱さを映し出してくるのだから。

「……嬉しかった」

成否

成功


第2章 第46節

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍

 名を呼ばれた気もしたが、きっと気のせいなのだ――縁は、呻いて前を見る事さえ躊躇うその現状に頭を振った。
「あぁ……今度は随分と悪趣味な出迎えだ」
 目の前に存在するのは美しい幻想種。金の髪に柔らかな笑みを浮かべたその人は『生前』のリーデル・コールではないか。無意識に奥歯を強く噛み締め、その美貌が「縁』と呼ぶ声に胸が痛み、体と心が悲鳴を上げた。

 ――旦那。

 ちりん、と鈴が鳴る。駆け寄ろうとしたその足に急激にブレーキかけて、縁は震えた声音で彼女を呼ぶ。
 迷いを捨てろ、覚悟を決めろ。
「……リーデル」
 美しいその笑みを崩すように。
 それは『あの日』の再現であった。あの日、その細い首を両手で掴み、ぐっと締め上げた。
 首の痣も、熱を帯びていくかのようで――それが呪いの様に縁を蝕んだ。
 ぎり、と締め上げた指先の奥底で喉が揺れる感覚がやけにリアリティを伴って伝わった。

 ――お前が好きだった、本当に好きだった
 ――ごめん

 言葉を飲み込んで、縁は掌の感覚を忘れたいと震える足で立ち上がる。
 呼吸を止めたその鏡像(からだ)はじわりじわりと、闇に溶けるように消え去った。

成否

成功


第2章 第47節

「リーデル……?」
 虚無の洞の中、ぼんやりとイレギュラーズ達の様子を眺めていたミロワールはそう呟いた。
 闇色のスカートの向こう側、真白の足が覗いている。素足の儘のそれは傷だらけで、隠すようにミロワールはそっとそれを撫でた。
「ああ、リーデルって……セイラの友達ね。彼女も『私と同じ』だったもの。
 腕に抱いた赤子(うそつき)しか傍には居ない、私と同じ――寂しがり……だと思っていたのに」
 ミロワールの白い掌に爪が食い込んだ。

 憎い。

 妬ましい。

 憎い――!

 貴女は誰かの大切な人として姿を現すというの……?

 歯を食いしばりミロワールは闇に沈む様に目を伏せる。
 まだだ、まだ、イレギュラー達はこの洞の中を歩き回っている。

 そのまま迷宮に迷って……? 私を一人にしないで――ねえ、『お友達』……。


第2章 第48節

古木・文(p3p001262)
文具屋

 ゆっくりと顔を上げる。闇が蠢いた気配がしたのは気のせいではないのかもしれない。
 文にとって悪い予感は悪い予感であるほどによく当たるという実感がある。それは昔からそうだった。
 鏡像であるというのに、久しぶりに目にした彼女があまりにのんびり微笑んで見せるから、ああ、それを見て懐古のあまり泣きそうになってしまったのだ。
「……君が、居るのか」
 ――それは、この世界には居ないはずの妻の微笑だったからだ。

 この世界に来たばかりの頃ならば、きっと撃つことを酷く戸惑った事だろう。でも今は、それなりに最悪な現実を見てきたことで『最悪』な選択肢を取れるようになってしまったのだ。
 鏡像であり、この世界に居るはずがない彼女を敵だと認識できるようになってしまったのだ。
「驚くだろう? 救う順番を間違えてはいけないと学んだから……焦らず銃を構えられるようになったよ。
 君だろう、『ミロワール』、君と心中するつもりはあんまり無いんだ。
 でも寂しい気持ちは分かるから。少しだけ、お話しようか」
「ええ、ええ、じゃあ聞くわ。
 ――『誰にも愛されず』『一人きりで死んでいく女の子』ってどうすればいいと思うかしら?」
 文はミロワールのその問に肩を竦めた。鏡像の向こう側、まだまだ続く虚無の洞の中に、その少女が居る事がどうしてだろうか、認識できたからだ。

成否

成功


第2章 第49節

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃

 ――助けて、怖い、殺さないで!!

 シャルレィスはへたり込んだ。忘れてなるものか、忘れないと誓ったのだ。だから、憶えて居る――その顔も、その声も、そして、その命を奪ったという現実も。
「君は、あの時の――月光、人形……?」
 倒すしかなかったのだ。それは大罪による狂気の伝染が為の道具であり、有り得はしない禁忌だったのだから。
 だからこそ、偽物である事は分かる。生者すらない――そのために倒した、存在なのだ。

 ――やだぁ、助けて……!

 悲痛なその声に、シャルレィスは座り込んだまま、頭を振った。
「同じ悲痛な叫びを聞きながら、もう一度奪えというの……っ!?」
 応戦しながら、シャルレィスは覚悟の弱さを自覚した。あの時は、そういう戦いだって覚悟して飛び込んだ。
 友人の母親を殺せと言われた時だって――それが『そういうものだ』と認識していたというのに。唐突だとシャルレィスの体が震えた瞬間に意識がぷつりと途切れる。
「これ以上迷えば死ぬ。見ろ、お前が相手にした敵はあまりにあっけないだろう?」
 シャルレィスの唇が揺れる。それが『巴』による干渉であることをシャルレィスが自覚しているかは分からない――だが。
「……だからお前は甘いというんだ、未熟者め。お前はそれでこそ、なのかもしれないがな」
 彼女はシャルレィスを守るがために顕在したのだろう。その声音は厳しい物の優しさが混じり込んでいた。

成否

成功


第2章 第50節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙

(ああ、またか――)
 そう呟いたヴィクトール。ため息を落とし、それから目の前の存在をしっかりと確認した。
 記憶も、だいじなモノも、全部どこかに置いてきたのだ。そんな自分の前に現れる『誰かの姿』も『呼ぶ声』もめちゃくちゃで――『ボク』には分からないとヴィクトールは頭を下げた。
 その鏡像を誰かが作り出す前に。声が追い縋り続けるのだ。

 ――どうして、助けてくれなかったのか。
 ――助けて、助けて。

 頭が痛くなるほどの呪いの声。それを受け止める様にヴィクトールは全てを『燃やした』。
 助けたかった。けれど、もう全部――『とっくに終わっている』のだ。
 伸ばす手も、伸ばされる手もないのだと。ヴィクトールは歩き出す。

 名前を呼んだ。
 その響きを聞きながら、雨月は困っている人はいないだろうかと探した。
 目の前にはヴィクトールへと追い縋る形にもなれぬ鏡像が蠢いているだけだ。
(放っておけない……それに、こんなにも悲しそうな雨が降っているのだから。
 きっと誰か辛い思いをしているに違いない。それが敵であってもそうじゃなくても……)
 その雨の中、救ってあげられないのだろうかと彼は唇を震わせた。それが、単なる甘い考えだと謗られたとしても。戦う以外に道が欲しいと願うのは決して間違いではないはずだと眼前の『影』を光を伴い焼き払う。
 それは誰かの記憶の残滓で。殺されぬまま残ったそれはこの虚無の洞の中を『ミロワール』の興味が途切れるまで彷徨い続けているのだろうか。

 ――助けて。

 その声が、鏡像ではない。ミロワールの、この雨の主の言葉のように感じて雨月は「寂しい雨だね」と呟いた。

成否

成功


第2章 第51節

Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役

 稔と虚は眼前に像を結んだそれが『稔』にとっての創造主であることに気づく。
『あの女の子は……稔クンを造った神様だっけ? じゃあ、母親って言ってもいいかもな』
 それを母と称していいのかは定かではない。しかし、稔がじっくりとそれを見て、戸惑いを溢れさせている事が虚には嫌という程に感じられた。
「循環の天使よ。何故創造主たる神(わたし)を殺すのですか」
 彼女のその言葉に稔が僅かに動揺していることが分かった。先ほど迄の威勢のよさ――それは何処に行ったのかと虚はそれを見てからため息を混じらせる。
『このマザコンめ! 演技が下手だねぇ、お嬢ちゃん! それじゃあ観客の心は掴めないぜ』
 狂王種を相手取り、そして『彼女』へと攻撃を続ける。
 それを打ち破りたくはないと動揺する稔を抑えるように虚がその主導権を握り攻撃を続けていく。
『(幽霊)先輩として一つアドバイスしておくぜ! 後悔先に立たずってなぁ!!』

成否

成功


第2章 第52節

ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者

 名前など、呼んでくれないではないか。

 それはアネモネのような思いだ。だからこそ、大輪咲けど悟られぬ様に隠す想いの中で僅かに喜びを滲ませながら、ジルは唇を噛み締める。
「うん、偽物っす。何で断言できるか、っすか?
 だってあの方はそうやって呼んでくれる機会も本当に少なかった程多忙で、常に進み続ける人なんす」
 ふん、と視線を逸らたジルに鏡像は――ミロワールは「それって寂しいわね」と囁いた。
「愛されることのない、与えるだけなんて寂しくないかしら? そんな思い、『私は必要ないと思うわ』」
「ふふん、停滞し嫉妬するだけの魔種が真似してもバレバレっす!
 それに、それをどうこう言う権利はないと思うっすよ! 未来に何があるかも――」
「未来なんてないわ!」
 叫ぶように、ミロワールは『ジルの愛しいあの人』の顔をしてそう言った。
 しかし、鏡像への一撃でそれは掻き消えんと消えていく。手を伸ばし、それをそっと抱きしめた。
 悪趣味だと言われるかもしれない、やめてくれと謗られるかもしれない。それでもいい、乗り越えられる勇気をくれるのだ。
「寂しいわね、私も、貴方も」
「さあ? 目指すのはセイラのもとっすからね。セイラも容赦なく引っぱたけるっす!」

成否

成功


第2章 第53節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

 鏡に映ったのは自分ではなく――愛しい人であったことにリゲルは唇を震わせた。
「そうか…これは、心を惑わすもの。魔種の仕業ということか……」
 戦していない相手であれば、あの『大罪』ベアトリーチェの作り出す偽の命と相対していなければ、取り込まれるものも多かったことだろう。人は皆、最愛の人の姿を害し殺すことなどできないのだから。
「そうだね……俺も、死にたくないと叫んでいる相手を討ちたくはない。
 だが君は、人々を道連れにしていくのだろう。俺はそんな行為を止めなければならない……だからこそ――」
 リゲルが踏み込み、その愛しい人の胸を貫いた。苦しむこと無きように、見遣れば愛しい人の姿が霧散していくのが見える。
 偽物だと分っていようとも心地の良いものではない。ここで惑わされていれば、本当に守りたい『彼女』が害され危険に晒される可能性だってあるのだ。
「俺が話したいのは『鏡像』じゃないさ。ミロワール。
 さあ、偽りの姿のままでは話にならないよ。俺でもポテトでもない、君の本当の姿を見せてくれ!」
「いやよ……どうせ、皆私を殺すじゃない」
 ふてくされたようなその言葉に、リゲルはまるで幼い子供のようだと感じた。

成否

成功


第2章 第54節

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

「……今度はその姿なんだね。……ずっと会いたかったのに、こんなところで出てくるなんてさ……」
 アレクシアは拗ねたようにぼやいた。ずっと会いたいと願っていた兄の姿よりも尚、アレクシアが会いたいと望んだのは『ミロワール』であった。
 会って話さないといけない。『本当のミロワール』。それは誰もが見たことがなく――セイラ・フレーズ・バニーユですら、見たことがないという――彼女も晒すことを拒み続けているのだ。
「私はミロワールに会いに来たの。だから、躊躇いはないよ!
 もしもこれが本当に『兄さん』だったとしても、助けを求める声を阻むのなら乗り越えさせてもらう! それが、いつか憧れたあの人から教わったことなんだから!」
 攻撃を重ね続け、アレクシアは走る。その鏡像を打倒し、霧散したそれの向こう側、まだまだ深き虚無の洞の中で彼女は声を張り上げた。
「ミロワール、『本当の貴女』と話ができるまでで、何があっても立ち止まるつもりはないからね! 待ってなさい!」

成否

成功


第2章 第55節

ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ

「……そうね。さっき流銀剣までコピーされて意識しちゃってたんだろうね」
 ティスルは困った様に、そう言ってから頬を掻いた。薊の色の髪を揺らして、ティスルは曖昧に小さく笑う。
「もしも街で会ったなら。戦うなんて……殺すなんて考えなかったかも。
 でもね。こんな場所で、私に、いつも通り飄々と話してるなんてありえない!」
 くすくすと笑いティスルはカイラを見た。街で楽しげに話してくれるのであれば、いつもの彼女だった――けれどここは魔種蔓延るアクエリア、海洋王国が夢、前人未到の地なのだ。
「……貴女なら、その後ろにいるデカいのに興味を持たない訳がない!
 本物なら、私は今頃そいつらの群れに飛び込もうとしてるのを止めてるはずだもの!」
「だから、本物じゃないって思うの?」
 ティスルが頷けば『カイラの唇』が不思議そうに動いた。
「けれど、人間は誰だって魔がさすものよ。そう、例えば――『その性質が反転したり』ね?」
 首を傾いだカイラにティスルは首を振り――『本物のカイラ』が作り上げたその剣を振り上げる。
「アンタにも、後ろの狂王種にも、この剣で倒して本物へのお土産話にしてやる!」
 それが振り下ろされる様子をミロワールはまじまじと見つめていた。
 そうだ、誰だって『魔が差す』のだ――自分の様に。そして、鏡像が霧散する。

成否

成功


第2章 第56節

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者

「魔種でさえ逃れられない病……か。
 独りで死ぬのが怖いって気持ちもわからなくはないけど――オイラはそれよりたくさんの仲間を失うほうがこわいんだ」
「そうね。誰だってそうかも」
 チャロロがぎょっとしたのはその言葉に応えたのが『自身の鏡像』だったからだろう。同じ顔、同じ声、そして――違う意志を持ったその姿。
 ミロワールはくすくすと笑って「私だってたくさんの友人が居たわ。まあ、皆、死んだけど」と呟く。
「死んだ?」
「ええ。だって、私たち病気だもの」
 自身がやられていやなことを、と心がけてチャロロは攻撃を続けていく。
 自身同士の戦いは長期戦になりやすい。それを分かっているからこそ、自身の中のリソースをすべて吐き出し過ぎないようにと心がける。
「それを治すことは――」
「――できれば、嬉しいわね?」
 自身の鏡像が霧散する。チャロロはその向こうに広がる虚無の中に、彼女が居るのだろうと闇に手を伸ばしかけて、そっと、下ろした。

成否

成功


第2章 第57節

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥

「――兄さん……」
 それは義賊『白梟のアルフレッド』。ミルヴィにとっては自身を救ってくれた人で、大切で、そして――二度も殺した相手で会った。
 その姿は鏡像で、その姿は紛い物で、けれど、そうは思いたくないと心が告げる。
「こんな風にまた逢えて……少し嬉しい。
 見てよ、兄さん、アタシ最後に貴方に逢った時よりずっとずっと強くなった!」
「ああ」
 頷くその声も、同じ。変わらない、変わらない、あの頃と――ずっと一緒。
「アタシね、少しだけ後悔してるの。どうしてあの時に兄さん元へ行かなかったのかって……!
 あの後アタシの望む未来は消えて失せたの、だからもう一度……――私を呼んで」
 そう言いかけて、ミルヴィは息を飲んだ。違うのだ、頭を振り続ける。違う、そうして『闇に飲まれる』事は、決して違う。それは弱い儘の自分だ。
「……私は、今度こそ貴方を越えて未来を創る!」
 だからこそ、その鏡像を打ち破る。そうしてから、ミルヴィは「ミロワール!」と呼んだ。
「ミロワール! 貴女も――一緒に」
 しかし、その目の前には闇が広がるだけだ。

成否

成功


第2章 第58節

ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌

『死にたくない』
『死にたくない、助けて』

 それは何度でも繰り返される言葉だった。ラクリマは眼前に立った『ソレ』を見てから息を飲んだ。
(……かつて救えず目の前で死んでいった親友も、口には出さなかった。
 ……顔にも出さなかった――でもきっと生きたかっただろう。誰だって、そうだ)
 その眼前に存在した『鏡像』が偽物だと分っていても、敵だと分っていても。
 響いたその声が、ラクリマは息を飲むしかできなかった。その声はまた聴きたかった響きだ。そして、その姿は――また会いたいと願っていた存在だ。そして、誰よりも大切な存在だという事が厭という程に感じられた。
「また死んでゆく姿を見るのは……俺には耐えれないのです」
 震える手で、その手首に飾ったミサンガを確認してからラクリマは首を振った。
 いつだって心配して、助けてくれて、一緒に笑ってくれる優しい彼――それが浮かんでから、ラクリマはゆっくりと鏡像へと神の裁きを与えた。
「ここで倒れてしまったら、きっと彼は泣いてしまうのです。だから倒れるわけにはいかない!」
 決意と共に、不届き者と断じるように朗々と歌い上げる。掻き消えた鏡像の向こう側に広がる闇はただ、深い。

成否

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第2章 第59節

恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

「なるほど。誰しも戦い辛い相手という者はいる者だ。僕にとっては『団長』か」
 愛無は奥底から震える感情を感じていた。しかし、それが悪手であることは分かる。目の前に存在するそれが――『どれ程』迄に自分の感情を、そして、存在を定義しなおすものであttかあ。
「だが、それは悪手だ。ミロワール。
 それは僕にとって己の進むべき道を。己の取り戻すべき物を思い出すだけだ」
 戦うだけだ。しかし、そこに『ミロワール』は居ないのだ。
 新しい『遊び』がこれだというならば、物足りなく、そして――酷く興味をそそられると愛無は『鏡像』へと声をかける。
「君に会うために、その「鏡」が邪魔するなら全てを破壊しよう。
 なに、造作もない。僕は欲しい物は奪う主義だ。
 時に君は『一緒に』と言ったが。まずは君の病をよこしたまえ。
 ……移して治るものでもないだろうが。お友達がわりに先ずは其処から始めよう」
「ねえ、それって『私より先に死ぬかもしれない』でしょう」
 鏡像は言う。愛無を愛おしく思うかのように――そして、その言葉に酷く悲しむかのような響きを孕ませて。
「私が死ぬまで――眠るまで傍に居てくれないと厭なのよ。だって、皆は弱くて、わたしより先に死んでしまうんだもの」

成否

成功


第2章 第60節

ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐

 その『声』を聴くだけで、傅き首を垂れることを呼吸よりも自然に行える。
 その『姿』を見ただけで、恍惚に揺れる瞳のままに溢れる言葉を捧げられる。

 ヴォルペはゆっくりと膝をつく。床に着く程に長い銀の髪は凍てつく大地よりも尚、美しく――宝石の如き蒼い瞳は世界を見通している。
 深海を織り込んだ濃紺のドレスを纏う美と破滅の化身。それこそがヴォルペにとってのすべてで、そして――『最愛』の人。
「――嗚呼、この世の何よりも美しき人。残酷で無垢で無慈悲に麗しい我が最愛の主よ。
 深海よりも深き藍。凍てつく氷華よりも昏き銀。人ならざりて永久に揺蕩う唯一無二の俺の魔女様」
 彼女の唇がかすかな呼吸の音を伝えてくれる。それだけでヴォルペは歓喜した。
「貴女の望みを叶えるのが俺の役目。
 貴女に会わせてくれた彼女には礼を尽くし――俺が、望む死を叶えよう」
 そして、髪を掬いあげ、口付けた。愛しい、愛しい、貴女――『その偽物』を消し去るように。
 遠慮なく破壊をする。そして、闇の向こうには残らぬ愛しいその姿に酷い落胆を感じたのだった。

成否

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第2章 第61節

新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの

 君が、呼んだのだ。
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』。それを擁した貴族たちから逃げた。家族ごっこで、兄妹ごっこだった。
「なんで、おまえが」
 声が震える。最後には寝たきりで会った『妹』が笑顔で「にいさん」と呼び近寄ってくるのだ。
 狂おしい程に望んでいた光景だった。元気になった彼女が、自らの足で歩いていく。
 それが実現したかった未来で――臨んだ世界であったはずなのだ。
「にいさん、いっしょにいこう?」
 囁く声と共に、そして彼女は嬉しそうに微笑み白く細い指先を風牙の首へと絡めた。
 そのままに、ぎゅう、とその小さな掌が締め上げる。命を奪う様に、君がする筈のないその所作で。

 ああ――
 お前が何をしたっていうんだろうな?
「なあ――ブ チ 切 れ さ せ て く れ る な !!」
 風牙は叫んだ。
 ふざけるな。ふざけるな!
 兄さんじゃないことを知っていたと言いながら、それでも微笑んでくれた彼女は――
「あいつは死んだ! 嘘つきのオレに、最後まで礼を言いながら! あいつを汚すんじゃねえ!」
 鏡像を掻き消して風牙が虚空を見遣る。そこには誰もいない、誰も居てはいけないのだ。

成否

成功


第2章 第62節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

「……ここまで気分が最悪な劇があるだろうか? 俺に嫁殿を傷つけろというのか……! ?」
 そこに存在したのは『嫁殿』の姿を取った鏡像であった。鬼灯は最悪だと唸り嫁殿を見下ろせば――べしり、と衝撃が飛んでくる。
「あいたっ、えっ? 何だ? 嫁殿? えっ、なんで? えっ、ビンタ……?」
 驚愕する鬼灯に腕の中の嫁殿は『ぷんすこ』と唇を尖らせる。
『……鬼灯くん、私は此処よ? そっくりさんに浮気なんて許さないのだわ!』
 そうだ。大切な嫁殿はただの一人なのだ。その腕の中に居てくれる愛しい彼女。
 取り乱したと首を振れば『ええ、大丈夫なのだわ』とそっと彼女は目を伏せた。こんな姿見ないでというまでもなく分かってくれる叡智溢れる彼女が何よりも愛おしい。
「さあ第二の舞台を始めよう。――偽者の主役にはご退場願おうか」
 小さく動き回るそれを捕まえ霧散させる。その姿が消え去ることに痛ましく表情をゆがめてから鬼灯は首を振った。そして、そっと抱き寄せた嫁殿の髪に口付ける。
『さあ、行くのだわ』
「ああ。行こう――このまま」

成否

成功


第2章 第63節

アベル(p3p003719)
失楽園

「まさか、お前を三回殺す事になるとは思いませんでした」
 アベルはそう言った。銃を構え、目の前の存在を見てはアベルは――『彼』は曖昧に笑った。
 以前はアベルであった彼。『弟分』、もう一人の自分でありかたわれの彼――
 少女の様に可憐に笑い、カインと呼び、アイツと呼び、そして、「アベル」と自身を呼ぶ彼。
 そこまでふと、考えてからアベルは首を振った。
「―――いや、違うな」
 引鉄にかけた指には激しい怒りを込める。
 感情を荒げた所で失敗も、その逆に限界を超えた力を引きだせるわけでもない。
「お前、誰に断ってその声で俺の名前を呼んでるんだ?」
 だが、それを騙る事をアベルは許せなかった。
 だが、それが笑う事をアベルは許すことができなかった。
 楽園の扉を開くことを拒む様に、鏡像は霧散する。
 それが闇に消えた後、残るものが何もないのだと降る雨をゆっくりと受ける事しかできなかった。

成否

成功


第2章 第64節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

「鏡の魔種……否、ミロワール。俺の半身の虚像を生み出すとは悪趣味だなァ……」
 怒りを露にし、その牙を剥き出した。ヨハンナの前にはレイチェルが立っている。
 かたわれともいえる愛しい亡き妹。そうやって笑ってくれていればと願っているその姿――それが、目の前に存在したって躊躇はしないとレイチェルはゆっくりと向き直る。
「いいぜ、乗ってやるよ。俺達はアンタと遊んでやっても死にはしない。お前は幸せになれねぇって証明してやる」
「幸せにしてはくれないの?」
 レイチェルの声で囁いた。その響きを払う様に、痛む心を圧し殺しヨハンナはレイチェルへと弛まぬ攻撃を続ける。
 偽物だと分っていても不快なのは変わりなく、鏡像を払う様にヨハンナが燃やし尽したそれの奥、広がる虚空がばかりと口を開いている。
「……ミロワール、此処で死ぬのはてめぇだけだ」
「ねえ、貴女も私と同じ匂いがするわ。ああ……一緒ね、一緒だわ。
 もうすぐ――もうすぐ、死ぬのね。一緒に死にましょう……?」
 くすくすと囁くその声を飲み込んで。ミロワールの声を払う様に虚空の中へと飛び込んだ。

成否

成功


第2章 第65節

カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

 心に乗せられた重石が、カンベエの中に疲労を感じさせる。そして、目の前に存在したのは『カンベエ』にとっては知らぬ存在であるはずで――しかし、どこか懐かしさを感じるのだ。
「この声……男、いや女? この感情は、なんと表せばよいか。
 ……そうか、懐かしいのか。懐かしい、か」
 ぼやく。闇のの中、はっきりとしないその姿。しかし、声が響くのは確かだ。
 其処に存在していることは分かるのだ。だからこそ、カンベエは苛立ったまま納刀したままの刀で力任せに『闇』を殴った。
「死ね!!」
 置去の過去いつまでも自身を苛み捕まえる。纏わりつき、影のようにべたりと張り付く感覚に振り払う様にカンベエは怒鳴りつけた。
「―――――」
 何か、単語が並んだ。しかし、カンベエはそれに対して声を荒げる。
「知らぬ名で呼ぶな!!」
 はたと、そこから息を飲んだ。「わしは今、なんと……?」と吐き出したそれはどうしようもない程に自身を惑わせる。
「何故、その名前を自分だと? ……何だというのだ、今更、現れて…………」
 それ以上の言葉は、飛び出すことはなかった。カンベエはゆっくりと前を向き、歩き出す。
「……今は、進むべき時だ。ミロワール、今、殺してやろう。せめて見届けてやる」

成否

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第2章 第66節

彼岸会 空観(p3p007169)

 虚空の入り口に立っていた愛しき妹。無量がその手にかけた最愛の家族。
 その名を『無量』という。果てなき幸(こう)をと授けられ、記憶を無くしても忘れてはいなかった――そして今、果てなき業を背負う我が名。
 その名を呼んでから無量は小さく笑う。
「ミロワール、貴女もこの子程の年頃だったのでしょうか。
 此処に来るまで、貴女には強い憤りを覚えておりました……ええ、どうしてかわかりますか?」
 穏やかなその声音は何処までも引きずるように響く。まるで、汚泥より踏み出すかのような苛立ちが無量の体に取り巻いていたのだ。
「忘れてしまっていた方が良かった記憶、然し忘れてはいけなかった記憶。
 私が背負い続けるべき業――有難う、思い出させて呉れて」
 忘れていた筈のそれは、業として己の体に纏わりついた。
 ミロワールが望むというならば、その元へと向かわんとゆっくりと歩を進める。
 ああ、そうだ。救いを与えてくれたのだ。忘れてはいけない記憶を思い出させてくれた彼女が。
「私の事はもう良いのです。貴女を見せてください」
 以前と同じように無量は『何も思うことなく』首を切った。それが当たり前であるかのように――それが、旅の途であるかのように。
 虚空に向けてその美貌で笑いながら。
「――私は貴女を『救い』たい」


成否

成功


第2章 第67節

プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年

「OK、そっちか! なら今救いに行くぜ!」
 その救いが、どのような形であれど、プラックは戸惑ってはいけないと思っていた。
 戸惑いが生むのは何時だって恐怖と後悔だ。だからこそ、その手に力を込めて狂王種を凌いでいく。
 ああ、殺さねばならないのだ。なんだって。戸惑いが生むのが後悔と知りながら、慈悲を持ってしまうのだから。
 プラックは『優しすぎた』のだ。優しくて、優しすぎるがゆえに、そこに立っていたのがは母であろうと父であろうと、友人であろうとも――『死にたくない』と泣いた魔種の少女でも慈悲を持ち殺せずにいないのだ。
 プラックは唸る。
 偽物の声だとしても、それを斬り、倒したことは確かな経験になるのだ。
 名前を呼ぶ声は、背中を押してくれる。進めと囁いてくれるのだ。
「どっちだ? こっちか? 応えてくれ――!」
 寂しいと泣くならば。
 戸惑う事はなくただ、一直線に。そうする勇気を皆が与えてくれたのだ。

成否

成功


第2章 第68節

シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

「『大切』と言えるかは分からないけど……『殺す事を戸惑う存在』が一人いる。
 ……キミだよぉ、ミロワールちゃん。だって、死にたくないんだもんねぇ……わたしだってそう」
 シルキィはゆっくりと指をさす。そう、だからこそ、目の前に立っていたのは自分だったのだろう。
 彼女は、きっと『自分の姿をさらさぬために』――その姿を作ったのだ。
「皆、死ぬのは嫌。イキモノって、そういうものだもんねぇ」
「ええ、そうね……けれど、どうして?」
 殺すのでしょう、と囁いたミロワールに近づいて、そっと抱きしめる。
「自分を抱きしめるって変な感じだねぇ……。死にたくないよねぇ。うん、死にたくない。
 けれどね、それでも進むのは、わたしのエゴ。
 キミだけが傷付くのは不公平だから……痛みを分かち合おう?」
 その死の気配が鼻先を擽った。ああ、死ぬのだ――きっと。死ぬ前に、痛みを分かち合い、傷つけあう。
 ミロワールは――鏡像は静かに泣いて霧散した。
「勝手に同情して、それでも進むのは止めなくて。酷いやつだねぇ、わたし……」
「ええ、酷いわ。酷いけれど――けど、」

 ――私も考えたの。どうすればいいのか、って。

成否

成功

状態異常
シルキィ(p3p008115)[重傷]
繋ぐ者

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