シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>アドーニスの園にて
完了
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オープニング
●『behemoth』
それは万物を狂わす不吉の象徴。この世に存在してはならぬ狂気の象徴。
跫音は遠離ることはなく。ゆるやかな仕草でそれは立ち上がった。
地を見下ろす窪んだ眼窩には何も嵌まることはなく。暗澹たる闇ばかりが溢れていた。
澄んだ肉体は臓腑の一つも存在して居ないことも物語る。
だが、それはけだものであった。今より大地を食らい尽くすけだもの。
終焉の地(ラスト・ラスト)より至る、厄災の象徴。その名を『終焉獣』ベヒーモス。
醜悪なるは人の心か、それともけだものそのものか。
生まれ落ちたことには意味があるだろうか。空虚なる己の行く先は定まらぬまま、のっそりと脚を動かした。
天を衝くその肉体より溢れ、溢れたのは滅びの気配。
その足下には死を歌う花が咲き乱れ、周囲を溶かし行く。
終わりの時間がやってきた。一度全て屠らねば、アドーニスの園は回帰はせぬ。
――地を、世界を蹂躙し、死を宣告す。
●アドーニスの園にて
死する肉体が大地へと打ち棄てられたならば、その死骸より新しい芽を摘むだろう。
死とは輪廻の巡りそのものである。穢れ狂った世からの離脱し、新たなる楽園を築くが為なのだ。
見よ、世界のあらましを。
争いに満ち溢れ、地は灰燼に塗れたではないか。
ひとの命も、樹木さえも、全て燃え広がれば灰へと化した。風は疾くも全てを攫い行く。
愛しき大地に残された蹂躙の後は、なんと苦しいものであったか。
魔女ファルカウにとっての苦悩は大樹の中より見据えた世界そのものであった。
星々の歌声が地を叩く光景も、さめざめと泣いた空の慟哭が地に決して忘れ得ぬ穴を穿ったことさえも。
鉄帝国に高く聳えた塔はかの男の自尊心そのものか。憂いを抱いた男は自身の居城へ退いたと聞いた。
乾いた風の中に佇んだあの少女は、きっと同じだったのだ。だからと言ってその全てを許容は出来ぬ。
軽やかに笑う男は世界をシステムだと告げたか。0と1でしかなかったならば、人はどうして思考できるか。
霊脈を辿り、瞼を押し上げた神は獣の如く、全てを呑み伏すであろう。ならば、その命を辿り、自らの糧にすることも吝かではあるまい。
魔女は一人、佇んだ。
戦乱に塗れた世界には終焉を。
全てを塗り替える黒いインクは悍ましき死の象徴ではあるが、その中でもただの一つだけの芽が残れば『もう一度』を取り戻せる。
枯れた大地に命を振る舞い、新たなる箱庭を作り上げようではないか。
何度だって試行すればよい。争いのない世界が欲しい。ただ、同胞(いとしご)が穏やかに過ごす日々の中にあればよい。
世界は不出来なパッチワークだ。無数を飲み食らい、人の進歩のように歩みを止めぬこの世界は悍ましい程の悪食だ。
故に、世界は、継ぎ接ぎだらけになったのではないか。
――もう一度、もう一度。
子供をあやすように女は言った。
穏やかな声音は甘ったるいホイップクリームのように、喉に絡みつく。
饒舌であった女の若草色の眸は炎に染まり上げられて、怒りの声音はバタークリームのようにべたりとスポンジケーキに広がったのみだ。
それでも、指先だけは幼い赤子に触れるように穏やかであった。慈しみと悲しみの滲んだ指先がそっと滅びのけだものを撫でる。
――わたくしたちは、罪を背負って生きている。わたくし一人で良いならばすべての咎を背負いましょう。
国を守る為ならば、世界を守る為ならば、殺す事も厭わぬと言うならば、わたくしたちは皆同じでしょう。
争うことが間違いなのです。抗わねば生きて行けぬと言うならば、その様な世界でなくして仕舞えば良いでしょう。
そう願って同胞達と共に過ごした。大樹ファルカウは、ただ、その場に存在して居たが、それだけでは無かった。
愛しい同胞達を守る為に、森を見守ってきた。世界など、己には如何することも出来なかった。
何の力も無いただのおんなであったのだから。
伝承の世界で、おんなが用いた魔法は言の葉のひとつひとつに魔力を編み込ませた精密なものであった。
それこそ、シルクのハンカチーフで包むように柔らかに。羽根の一つを毟り取りテーブルに落とすような軽やかさで。
精密に編み込んだ魔法で作り上げたのは大樹ファルカウという『象徴』の生誕に他ならぬ。
――祝福を。どうか、祝福を。わたくしの祈りと願いは光となって降り注ぐ。
あなたが頂きに立つときに、極光は全てを晒すことでしょう。
わたくしの眠りが目覚めぬ限り、全ての不和は引き受けましょう。
ただ、わたくしが目覚めてしまえば、抱き続けた不和は溢れ落ち、あなたの罪を裁定する事でしょう。
けれど、怖れないで。石となり、岩へと化し、一輪の花へと成り果てようとも。
わたくしは、その種を手に、あらたな場所へと連れて行くことでしょう。
戦乱に溢れたこの世から、死と慟哭に溢れたこの世から、わたくしは全てを攫っていくことでしょう。
ファルカウというおんなは全てを知っている。
見てきた。
見たからこそ、目覚めたくは無かったのだ。
いつかの日、まじないが解けてしまえば、己は世界を恨んでしまう。
どうして起きてしまったのか。目覚めることがなければ同胞達を、世界の全てを愛していられたのに。
目覚めの気配が嘲笑う。
――あなたも、そうだったのでしょう、ベヒーモス?
世界を一度終らせよう。
そうして、もう一度を繰返すのだ。
この世界は戦に溢れすぎた。全てを終らし、『大罪人』の咎を背負うのは一人だけで良い。
そうなる覚悟は疾うに出来てしまっていたのだから。
●
「成程」
豊穣郷よりやってきた『霞帝』は作戦概要を確認してから頷いた。その護衛役たる中務卿と加護を与える神霊は静かに耳を傾けている。
心配そうな顔をするメイメイ・ルー(p3p004460)に建葉・晴明は仕方あるまいと首を振った。にまにまと笑う霞帝に水天宮 妙見子(p3p010644)も拳骨を浴びせたい心地だ。
「帝さんは大丈夫なのだわ?」
「大丈夫だよ、章姫」
それならいいけれどと心配そうに告げる章姫を腕に抱く黒影 鬼灯(p3p007949)は「章殿には心配を掛けないでくれ」と眉を吊り上げる。
「吾が守る。安心するが良い」
「黄龍も無理はしないで」
「ああ、安心せよ。吾は油断はせぬよ」
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)に穏やかに微笑む黄龍にウォリア(p3p001789)は無理はしてくれるなと言い含めた。
「それで、作戦は此処からか」
静かに告げたは新道 風牙(p3p005012)である。彼女にとってもこの場所は印象深い――美しき夢の都『ネフェルスト』。
この地を拠点としていたが、ラサ傭兵商会連合はこれより、南西へと向かい影の領域に程近い場所から作戦を遂行するという。
「指示は?」
「こっちがやる。テメェらは従え」
鼻先をすんと鳴らしたハウザー・ヤークに「失礼な物言いではダメですよ」と注意するのはイルナス・フィンナその人だ。
何時もならば小金井・正純(p3p008000)やラダ・ジグリ(p3p000271)にヘルプを求めるイヴ・ファルベは「あれって大丈夫かな」と呟いた。
「まあ、大丈夫だろ。奴さん穏健だろうからな」
何気なくそう言うルナ・ファ・ディール(p3p009526)にそれならいいけれどとイヴは呟く。
「それで、そちらは?」
問うたラダにイヴは慌てた様子で手を挙げる。
「あ、あ、クォ・ヴァディスも影の領域での掃討をしてる。覇竜観測所は竜種や亜竜の動向に注意をしてるみたい」と見てきた全て報告した。
「巨大な終焉獣に亜竜達は怯えているわ。暴れ出さないようにフリアノンでも対処を行うことにしているの。
竜種は、協力仰いでいる。出来る限り各所で協力してくれるとは思うのだけれど――」
どうなるかは定かではないと琉珂は告げた。竜種と人間では大きく違いがある。竜種にとって人間などちっぽけな羽虫同然だ。
故に、友誼を結んだと言えども竜の戯れに過ぎぬ可能性はあるのだ。琉珂は「竜種達も、屹度来るはず」と静かに告げる。
劉・紫琳(p3p010462)は「琉珂」と呼び掛けた。
「危険は承知の上、ですね?」
「勿論よ、ずーりん」
にんまりと笑う琉珂に「琉珂様が言うなら仕方ありませんね~?」とヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)は朗らかに笑う。
竜に関連した事柄には経験がないが、竜とは巨大で物語では語られる強大な存在だと霞帝とて知っていた。
「それだけ、危機迫る状態なのだな?」
「そうであろう事は明らか。現状は此処に集まっていますが、何かしらがあれば各地に援軍派遣がもう一度為される可能性もあります。
それに、此処に戻れぬ可能性も。……出来る限り周辺の敵を排除し、あのけだものの動きを止めるべきでしょう」
静かに告げたのはリンツァトルテ・コンフィズリーであった。その腰にはコンフィズリーの聖剣と呼ばれる剣が存在して居る。
「あのけだものって、でっかくん?」
問うたセララ(p3p000273)にリンツァトルテは頷いた。神妙な表情を浮かべたのはサクラ(p3p005004)である。
「でも、巨大すぎない? 称賛は?」
「ある、とは言えない。だが――R.O.Oという観測システムにおいては、このけだものを観測した中で、脚を攻撃し動きを止めさせたらしい」
「なるほど……、幸か不幸か、あのけだものは影の領域を広げているらしい。つまり、イレギュラーズならば太刀打ちできる可能性が広がるね」
リンツァトルテは察しよいサクラに頷いた。
「援軍は周辺の相当とあのけだものの動きを止める手助けをすればよい」
「……! パンドラの加護……!」
イル・フロッタは息を呑んだ。パンドラの加護は、すなわち、此れまでの『可能性』による強大なる力の発露だ。
イレギュラーズの姿も変容するかも知れないが、それならば、勝利の芽がないとは言い切れまい。
「じゃ、凄い力を使って貰えば良いって訳ね? それで、あのデカブツに膝を付かせる。
そうしたら魔女も降りてくるから舞台に引き摺り出して、ボコせばいいってこと。実に簡単だわ」
「カ、カロル」
慌てた様子のイルに『元遂行者』である聖女カロル・ルゥーロルゥーは「私、相棒と聖女として此処に派遣されてきたから」とさらりと告げた。
カロルは我儘を申し入れ本来ならば国から離れられない聖女の立場であっても、救国の為にとこの地にまでやってきた。
カロルに勢い良く肩を掴まれたのは相棒ことスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)である。
聖女として『相棒の聖女』とこの場で戦ってみせるのだと胸を張る。「面白いですねえ」と微笑む澄原水夜子と、情報を確認しながら練達との連携――R.O.Oシステムでの解析だ――を行なう澄原晴陽は「接敵しなくてはこれ以上の情報は分かりませんね」と呟く。
「晴陽、無理は」
「貴方こそ」
國定 天川(p3p010201)を見上げて笑う晴陽に「姉さん、生き残ったら私、ご褒美が欲しいですね~?」と水夜子は笑う。
「貴女は死んでも死にきれないでしょう」
「ええ、だって、死ぬためのエスコートが多いのですもの」
にこにこと笑う水夜子の視線の先には恋屍・愛無(p3p007296)とミザリィ・メルヒェン(p3p010073)が居た。
「みゃーこ、澄原先生はR.O.Oの情報解析ですか?」
問うたミザリィに水夜子は頷く。自身は出来うる限りの露払いを行なうつもりなのだ。
「なら、さっさと行きましょう」
「カロル、危ないわ」
「行かなくちゃ、あれは歩いてくるわよ。一歩もでかいでしょ」
カロルが指差せばマナセ・セレーナ・ムーンキーは「うぐぐ」と呟いた。確かにそうだ。あれは巨大すぎる。
「え、恐いわよね、どうしよう?」
振り向いたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の腕の中でポメ太郎が「無理しないでください」と言った。
「アレクシアがぶん殴るとかどうかな!?」
「マナセ君って私のことそんなに恐ろしい存在だと思っているの?」
「あ、あれくし……うむ……? 何だかアレクシアってパンドラでもアークでもない要素が出てるって聞いた」
「誰から!?」
驚くアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に夢見 ルル家(p3p000016)は「まあまあ」と諫めた。
「一先ずキャロちゃんが走り出しちゃいそうなんですが、勇者側から意見はあります?」
「止めないと、カロルは普通に殴りに行くよ。莫迦だから」
「莫迦じゃないですー!」
拗ねるカロルに楊枝 茄子子(p3p008356)は「いや、莫迦だよ」と小さく笑った。
その問に答えたのは赤毛の青年であった。
「……ロックが……いや、イレギュラーズが救ってくれた異界『プーレルジール』の元魔王だったイルドゼギアが、あれが膝を付いたならば一時的に動きを止めるための魔法陣を作ってくれている」
勇者アイオン――彼もプーレルジールの存在であり本物のアイオンではない――は静かに言った。
カロルは「じゃ、私も聖女の加護ってのでイレギュラーズの重傷率を出来る限り下げてやるわ、出来る限りね」とさらりと言ってのける。
「何か、面白いわね。おまえの国は神様が暴走してイレギュラーズに救われて?
おまえの国は、おまえのオジサンが暴れ回ったけれど恐かった竜と和解して?
それで、お前は? 暴れ回った精霊を鎮めたら命を貰ったって?
で、勇者のおまえたちの世界はイレギュラーズに救われた。この私だって、本来死ぬはずだったのにあのお人好しに救われた。
なんか、恩返しみたいなもんじゃない。いいわね、やりましょ。
あいつらみたいなお人好しの為なら、死んでも良い位に戦えるでしょ? ね、魔法使い」
「え、ええ! そうよ。わたしたち、本当なら死んでるはずだったもの。この人達のためなら、戦える。
……いこう! とりあえず『ぶんなぐれば』いいんだものね!」
「そうよ、『ぶんなぐる』わよ!」
話は早いと言いたげな元聖女と『伝承』の魔法使いにアイオンはやれやれと肩を竦めてから「行こうか」とあなたを振り返った。
- <終焉のクロニクル>アドーニスの園にて完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2024年04月24日 22時00分
- 章数4章
- 総採用数478人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
●
――ただ目的を共にしただけだろう。其処に何ら感慨を示してはならない。我らは然うして歩みを進めてきたからだ。
死を悼むという事は、即ち、此れまでの歩みを鈍らせるという事だ。無駄な感傷は戦の場には必要あるまい。
そうであるべきであった。永く、閉ざされた大樹の根元で世界のあらましを眺めて居る間は悲嘆に暮れる事も無かったのに。
超然とした樹木であったならば其れ等全てを受け止めることも出来よう。しかし、今は人の身だ。ただの、人なのだ。
「……ああ」
「ファルカウさま」
呼び掛けるエヴァンズに魔女ファルカウは眼を伏せった。どうやら、暴力に訴え掛け野蛮に程があった男が死んだらしい。
精霊達の囁きは時間稼ぎも無駄であったと嘲笑うかのようだ。熱砂の海に膝を付いたベヒーモスを立て直すならば利用価値もあったと言うのに。
「仕方が無い子。まるで幼子のように癇癪ばかり。地団駄を踏んでいては、ワルツの作法もなって居ないと爪弾きにあいますわ。
わたくしは、あの男をまるで理解などしていませんでしたけれど、死したと聞けば悼む気持ちも湧きましょう」
「……ファルカウさま」
「分かって居ますわ。わたくし達は、すべてが終るその時を目指して生きてきた。こういうこともありましょう。
星(ステラ)は煌めき、紫苑の冠は未だ玉座に。咎の壺より溢れた毒は地へ滴れど、憤怒の炎は未だ鮮やかさを潰えません。
ええ、神たる存在を羨む男も、わたくし達を率いる『聖夜の女王』とて、完璧などありはしない」
ファルカウという女はそう知っている。人間という存在は必ずしも欠けがあるように作られているのだ。
己も、死したというドゥマも、Bad End8の何れも、そして相対するイレギュラーズも。欠けを補うのが人であるというならば、手を取り合うさいわいにだけ溺れていれば良かったものを。
――この戦いが切欠で世界が手を取り合った。
皮肉なものだ。そうあって欲しいと願って滅ぼさんとした世界が、抗うが為に手を取り合ったというのだから。
「……わたくしは魔女ファルカウ。この滅びの獣ベヒーモスと共に世界を無へと還す者。
お分かりになって、可愛い子ども達。わたくしは聖夜の女王ほど狭量ではございませんわ。恋情に溺れることもなく、ただ、1人だけで生きてきた」
ざわりとぬばたまの髪が揺らいだ。焔の色を宿す髪先に、神秘のまじないを讃えた眸は釣られるように紅に染まり上がる。
「きっと、何時かは分かるはずですわ、可愛い子達。
わたくしは、ただ――ただ、この審判を信じているだけ。この子は、あなた方を滅ぼすが為にやってきた。
世界は滅び、そして新たに産声を上げる。わたくしは、それを見守るだけですもの。……少し、お話をいたしましょう?」
======第三章======
ベヒーモスが膝を付き、魔女ファルカウが姿を現しました。
●目標
魔女ファルカウへの対応
(彼女の生死については問いません。ただし、何方にするかは多数決でもあります。
何か、思う事があれば相談掲示板などでの連携を心掛けてください。彼女は饒舌な魔女です)
●魔女ファルカウ
古語を駆使した古代の魔法を利用する魔女です。その名の通り深緑に存在する『大樹ファルカウ』があれだけ大きくなった理由でもあります。
魔法は非常に強力です。ですが、彼女は「それなりに優しい」女です。
彼女の語る目的の通り、世界が戦乱に溢れすぎたことに憂いて全てを滅ぼすことを狙っています。
ファルカウの魔法は現代の魔法とは大きく違う為、「ベヒーモスへと何らかの効果を及ぼす可能性があります」。
彼女を説得し、その魔法を使って貰うか、彼女の魔法を奪うか。そうした手段は皆さんの案や行動によることでしょう。
・魔女の呪い
ランダムで付与されます。石花病と呼ばれる『体が石となる』症状です。
この呪いは永続的バッドステータスです。呪いその物を説くことは出来ません。足止系列が付与。回復不可。
ターン経過でその他バッドステータスが付与されます。足止め系列以外のBSは回復可能です。
HPが0になった時点で全身症状に変化します。ただし、『復活』を利用した場合は全身症状を食い止めることが可能。
●『枯蝕の魔女』エヴァンズ
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)さんが幼い頃に出会った魔女。
『魔女の魔法(エヴァンズ・キス)』と呼ばれた奇病を発生させる事で知られる精霊です。
人の体に深く種を埋めるということ。種は芽吹き、寄生主の体に巣食い魔力を吸い揚げます。魔力欠乏症となった幼子は其の儘死に至ることも多いのです。
その逸話の通り、エヴァンズは『魔力を吸い揚げる』力に長けています。その能力的に後方からの魔法支援に長けていそうです。
ファルカウを支援しています。
●ベヒーモス
終焉獣の集合体です。現在は膝を付いています。攻撃をすることで終焉獣が血潮のように溢れ出します。終焉獣を斃せばベヒーモスのダメージです。
現在は膝を付いており、拘束魔法の只中です。魔法の維持はロック/クレカが行って居ます。皆さんも支援可能。
……【捕縛魔法陣】の展開は可能ですが、二人だけでは長時間の捕縛は難しいかも知れません。
非戦闘スキル(魔術系)もしくは『メンタル』『キャパシティ』の値を参照しこの捕縛魔法陣の効果を増幅させることが可能です。
ベヒーモスの体内にパンドラを流し込むことが必須となるでしょうが個人のPPPだけでは足りないようです。
ベヒーモスを維持しながらファルカウへの対処を行い、次にベヒーモスが動き出したときの準備をしましょう。
現在は傷口から終焉獣がぼろぼろでていますので、露払いも大事ですね。
第3章 第2節
●
ファルカウと呼ばれるその人は穏やかに微笑む女であったのだろう。
そんな女が此程までに変化した。それがどの様な理由であったのかは、定かではないのだが――
「我々こそが食い止める為の牙よ。
元・魔王よ。素晴らしい魔法陣ではないか。何れは私の為にも行使し給え。
――何せ私は、この破滅を拒絶した後の『破滅』として振る舞う予定故に」
朗々と告げた『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)にロックはぱちくりと瞬いてから笑った。「それは困った話しだな」と。
彼女の『一途』さはひたむきさでもある。ロジャーズは、此度の破滅を許すことは出来ないからだ。
ロックの術式をサポートするロジャーズは無貌であろうとも『表情』のように浮かべただろう。それは邪魔立てする介入者への苛立ちとも言えようか。
ゆったりとロック達の前に立つ。毀れ落ちる終焉獣が迫り来る気配に、銃声が響いた。
「魔女には思うことのある奴が、思い切りぶつかってくればいい。
……正直私は何とも思わなかったんだ。一応深緑の血が流れてるのに我ながら薄情だと思うがね」
敢て『理由』を探せというならば『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は砂の民にこのような態度をとったことを非難するだろうか。
ロックやクレカ、そして捕縛魔法陣を狙う終焉獣を狙うラダへとクレカは「それって薄情?」と問うた。
「ん?」
「きっと、ラダは優しいから、あの人に寄り添うことをやめたんだね。糾弾することもないんだもの」
「……そういう風に捉えるのか」
クレカが丸いガラス玉の眸でラダを見た。「そう思った」と彼女は言う。まるで人間のように。
「それは、それだな。さ、ベヒーモスを『大人しくする』仕事が私にはある」
後ろを任せるようにラダの弾丸は終焉獣を払い、ベヒーモスへと届かせた。顔を上げたロジャーズに「お二人の護衛はお任せを」と『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)は静かに囁いた。
「ファルカウや他の魔女の影響が及ばぬように。私は彼等を守り抜きます」
家族だと、言うには気恥ずかしさもあろうか。それでもグリーフの家族は最前線の特異運命座標よりも脆いのは確かな事だ。
(……彼等がベヒーモスの活動にとっての障害になっていることも。狙われてもおかしくありません)
必ずしや守り切る。そう決めるグリーフにクレカは「グリーフ」と不安げに声を掛けた。
「無理、しないで」
「……エネルギー切れの心配など不要です。私の輝きは、途絶えません」
「でも」
「ドクターに与えられ、この地で私が得た。メモリと心、積み重ね、内包する全て、魔術知識、結界術、精霊との交感。
私の全てを。――ドクターが遺し、彼女(ラトラナジュ)が守った全てを。踏みにじらせは、しない」
だからこそ、挫けることはないのだ。静かに告げるグリーフにクレカも決意したように「任せる」と言った。
家族というのは別たれるのは忍びない。己だって此処で食い止めねば主と別たれる。
知っているのだ。『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は見上げた先に魔女がいる。彼女も誰かにとっての大切な人なのだ。
「俺自身は、かの魔女らへ大した感情はないっすけどね。
……皆さんが手を伸ばしたいって言うんなら、その時間稼ぎくらいはして見せないとっすよねえ」
静かに告げた。慧は過去形だったと言えども呪いの当事者だ。術だ、なんだと携わってきた経験はある。
エキスパートと言えるかは分からないと笑えばロックは「いいや、十分だ」とそう笑うのだ。
「一カ所でも脆くなれば崩れかねません。支援は分担すりゃ、よくなるでしょう」
「ならば、右側を」
「はいはい。縺れることなく――」
魔力が光となって灯される。『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はロックとクレカを護りながらも術の維持を行なおうとその力を注いでいた。
(ベヒーモス……ROOの再現版は、確かパラディーゾを取り込んだ事がある。なら……)
ヨゾラはゆっくりとロックを見た。
「こっちのベヒーモスが『何かを取り込もうとする』可能性はある……!」
「きっと、それがパンドラだった」
クレカは静かに言った。可能性を取り込み滅びへと変化させる。世界に満ち溢れる酸素のような、当たり前を取り込んで滅びと化す。
その許容量を変えなくては『パンドラを変化させて毒』としなくてはならないという。
「……そう、そうか……」
一人だけでは難しい。僅かな毒となれども肉体に染み入れば糧とされる可能性があるからか。
「ロックさん。ROOのベヒーモスの事は聞いている?
あっちじゃ何回もデスカウントを重ねたけど、ここは現実、死んだら終わり……皆で生きて解決する方法を見つけないと」
「そうだね、どうするかを考えなくてはならない」
ロックは静かに頷いた。彼等を守らねばならない。ヨゾラはその気持ちを強くする。ベヒーモスを食い止めている間に、ファルカウに対して何らかのアプローチをかけなくてはならないのだから。
――充填とか、わくわくとか、あこがれとか。そうした感情は人間のものだ。生きているということだ。
秘宝種と呼ばれ、味わうことも息をすることさえも必要としなかった『願い紡ぎ』ニル(p3p009185)は確かに自分の脚で此処に立っていた。
「ロック様」
呼び掛ける。製作者(クリエイター)と呼ばれた男が穏やかな笑みを浮かべている。銀の髪は一つに纏め結わえ、ゆったりと揺れていた。
「ニルはロック様のお手伝いをしたいです。ニルの魔力、すこしでも役に立てばいいのですけど」
「有り難う。君も、ミラベルも、僕にとっては素晴らしい心遣いだよ」
ミラベルと呼ばれたのはニルの手にした杖だった。それはニルにとっての『おねえちゃん』だ。
ロックは彼女の復元が可能だろうと考えた。けれど、そのまえに共に洗浄を走ることをニルは選んだのだ。
「はい。……おねえちゃんが、ニルに力を貸してくれる。
指輪を通してテアドールも励ましてくれる気がするから、ニルはがんばれます」
「大事な人が居ることは良いことだよ」
それが、人を人とする。ロックはよく知っていた。ニルはもう『人間』なのだ。
「ニルは『かなしい』のはいやです。おばあちゃんが教えてくれたもの。
……コアのあたりがぎゅうっとくるしくなるもの。戦わなくていいなら、それが本当は、いちばんいいのです」
そうだ。『玉響』レイン・レイン(p3p010586)だって『戦いたく』なんてない。
「クレカも……ロックも……他の子達も……皆、絶対に死んじゃダメ……生きて……この後は笑って過ごすんだから……」
「大樹ファルカウの加護も、天義の聖女のまじないも、どちらもある。
今は保たれているならば、この戦場の傷は癒えやすいだろう。回復量が上がっているとでもいえばいいのかな」
「……それ、なら……」
ロックに頷いてレインはぎゅうと唇を噛んだ。
「ファルカウも……死なないで欲しい……折角……目的の景色を目にしてるのに……悪者のままは……悲しすぎる……。
それとも……それ程までに君は優しいの……? それならもっと……溢れて……零れて……止まらなくなる……」
レインは唇を震わせた。
「1人1人は……平和に暮らしたいのが根底にあるんだよ……悪いことする人も……そうじゃない人も……。
自分の安心する世界に居たいんだよ……その気持ちは全て一緒だ……君はそうじゃないの……?」
「簡単なことではないのです。余りにも容易に願いは叶わない。誰ぞの犠牲の上に立っている。
砂糖で作った城は蟻の群が何れは食い尽すでしょう。パウンドケーキに染みこんだメープルシロップはそれを骨抜きにしてしまう」
ファルカウの声音が降る。耳に為ながらも『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)は成程と眉を顰めた。
「ただ一人で生きて来た」
愛無は反芻するようにそう言った。
「結局の所、人は群れる生物ゆえに。そこが問題なのだと思うが。
超越者気取りで観察だけを繰り返し、問題を今日まで先延ばしにしてきたのだろう?
だから、こんな0か100みたいな極論になるのではないか。
ちょうどいい機会だろうし、いろんな話を聞いてみたらどうだろう。短命種の考えというのも、時に刺激的だと思うぞ。
こみゅにゅけーしょんの第一歩は対話らしいからな。
――何にせよ、お互いの主張を聞くのは有だろう。倒さんですむなら楽だし」
「……そうやって全てが平穏に終ればよいのでしょう。けれど」
「けれど、はなしだろう。こみゅにけーしょんだ」
愛無に「そうね。そうだわ?」と『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はぱちりと瞬いた。
「外との交流が少なくてエコーチェンバー現象でも経験したのかしら?
この手の状況に陥ると時間経過で過激化していくから、色々と問題になるのよね。
私達もある意味では閉じたコミュニティだから「やはり愚かな人類∔αにこの世界は任せられない、世界を管理運営は我々しかいない(AIによる世界支配)」とか言い始めない様に注意しないと……」
くすくすと笑うイナリに「それは危険では!?」と狐達があれよあれよと言い始める。ベヒーモスを狙う援護狐達。
その楽しげな声を聴きながら「本当に問題かもしれないけれど、ええ、きっと一人だったのね」とイナリは言った。
「だって、恋に溺れ、世界を開いて、そして狂ってしまった歯車は二度とは噛み合うことはなかったのね。
軋む音を聞いていた貴女はそれでも一人だったから、諦めるのが早かったの。きっと」
イナリは静かに「そんなのって、誰もいないなら結論を出すのも早かったでしょうし」とぱちくりと瞬いた。
そうだ。結論が早かった。
その上で――『己が敵に回ったら、願った世界がやってきてしまった』のだ。
何て皮肉な事だろうと『竜域の娘』ユーフォニー(p3p010323)はファルカウを見詰める。
「あっちもこっちも色んな事情で世界を滅ぼしに来て、そろそろ頭がいっぱいです。
だけど不思議ですね……まさに今、世界は滅びに抗うために纏まっている気がするのに」
――世界は纏まって。どうしようもないほどに、世界を滅びに導く者が居る。
なんて苦しい事だろうか。今井さんが困った様子で笑っている。
ベヒーモスへと駆けて行く事は出来る。それを滅ぼすためにファルカウの持ち得る権能を奪う? それとも、彼女に寄り添うか。
「貴女は、どうしたいのでしょうか。ファルカウ」
ユーフォニーにとって彼女は知らない人だった。
伝承の魔女。その場に存在した象徴。
ずっと見守ってきた、母なる存在。
「お話を、しませんか?」
成否
成功
第3章 第3節
●
――ファルカウは長く多くを見てきた魔女。なら我らも、一欠片でも多くの心を見せねば。
縁はなくとも理解はなくとも、戦う理由は伝えておきたいのです。
そう実感したのは魔女ファルカウという女に対して『ウシャスの呪い』雨紅(p3p008287)が悪感情を抱いていなかったからだ。
彼女という存在は長らくの間にこの混沌に寄り添ってきたのだろう。本来的な彼女の敵となるべくは世界の神と呼ばれた存在か、それとも世界を破滅に追い込まんとする魔王(イノリ)であるか。勇者(イレギュラーズ)達を滅ぼす側に回るには余りにもちぐはぐな立ち位置である。
「戦火は厭うべきもので、私は兵器として生み出された秘宝種ですから。私の生まれは『間違い』なのだと思っています。
……ですが、間違いから生まれたとしても、この命は間違いではないと。そう証明していたいから『生きる』のです。
間違いからだって、きっと正しさは生まれる」
雨紅を真っ直ぐに見詰めたファルカウは唇をざらりと動かした。それは戸惑うように擦れ合わされてから浅い息となる。
「わたくしは、貴女の出生を間違いなどと言葉にするものを赦しはしないでしょう」
雨紅は顔を上げた。長い黒髪には炎の気配。自らが忌むべき炎を纏った魔女はさも当然であるかのように言ってみせるのだ。
雨紅はそうですか、とそれだけ返した。ベヒーモスに向かうのは雨紅だけではない。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)とてそうだった。
姿を現したファルカウを見れば躊躇した。手にしたレテートの欠片が僅かに煌めいた気がしたからだ。
言葉にしたいことばかりだった。何を云うべきか、如何するべきか。溢れ出した言葉を飲み込むことも出来ずに深く息を吐き出した。
永い時を生きてきた。ずっと見てきた。辛い気持ちを抱いたのは『見ていた』からだ。それは慈しみであった筈だ。そんな彼女に何を云えば良いのか――終焉獣を払い除ける。
「ファルカウ!」
呼ぶ。女の瞳の美しさを風牙はよく知っている。ああ、だから、クエルはあれだけ美しく育ったのだろう。
「殺したくない。戦いたくない。そもそも目指す場所は同じなんだ――『争いも悲しみもない世界が欲しい』
永くこの世界を見てきたのなら! ここまで世界を繋いできた人の頑張りを無視すんなよ!
悪い奴も酷い奴もいっぱいいたかもしんねえけど! それでも世界は今まで続いてきたんだ!
泣いたり悲しんだり怒ったりもあったけど! 笑ったり喜んだり嬉しかったりもたくさんあったんだよ!
それも全部ダメ出しすんのかよ! 頑張った子を褒めてやったっていいだろ! ファルカウは『お母さん』なんだろ!? ――諦めの言葉以外になんか言えよ! 言えよお!!」
唇を噛み締めた。風牙を見詰めるファルカウは「けれど、遅いでしょう」と笑うのだ。ああ、そうだ、彼女は『いっそ苦しむなら自らの手で終らせたい』とそう願ったのだろう。
「ああ~、うーん、わからん! 石花病? しらん。かかってこいや」
堂々と言ってのけた『音呂木の蛇巫女』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がびしりとファルカウを指差した。
「こんなところに足が向いちゃってさ。正直に言おう! ウチはおねーさんのコト、全く知らねえ! だから全部適当!
で、実際のとこどうなのさ? これまで誰かに話してた事じゃなくて、本心を聞きたいみたいな?
あんなの(ベヒーモス)用意してたんなら、それなりに思いがあったってことでしょ?」
「この滅びは避けられる物ではありません。わたくしは、これまでを見てきた。
数多の奇跡など紡いだとて、犠牲を払い、仮初の平和を求めるばかりではありませんか。ならば、わたくしは――」
全てを終らせる。ファルカウはそう言ったのか。顔を上げてから秋奈は「てかさ」と友人に話しかけるように言った。
「うーむ、私ちゃん的には今心を入れ替えてくれれば全部よくね? と思うのだが。
その魔法は何のために覚えたのさ。自分のため? ま、それも当然か……なんたって魔女だもんな。
あの木がでっかく育ったのだって、誰かの思い出に華くらい添えられたってことでしょ? ならウチらの思い出にも華を添えてほしいんだ魔女さん」
「――それでも」
続く言葉を遮るように『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は「ファルカウさん」と呼んだ。
「手を取り合い続けるのは、きっと難しくて。理由があるから、戦って…信頼した相手を、裏切られて嫌う事もある。
それでも……全てが終わる前に。……もう一度、手を取り合った世界を見守る事ってできないのかな」
祝音が思い浮かべたのはシェームにクェイスだった。ファルカウが叶うことだと信じれば、それは現実になるのではないか――と。
「……ベヒーモス、混沌を滅ぼす為に生まれた獣なら、ファルカウさんも滅ぼそうとするかも、君は、それでもいいの……?」
「構いませんわ。子供よ」
眉を顰めたファルカウに祝音は唇を噛んだ。彼女の心を癒すには、奇跡ではなく言葉が必要だ。そう思わせたのは呪いの進行が余りにもゆっくりだったからだ。
「魔女とはできれば戦いたくありません。僕の大切なひと、出会った魔女たちは皆、友好的に接してくださいましたから……」
苦しげに告げる『温もりと約束』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)もただ、ただ、ファルカウだけを見ていた。
「争いの元になる差別や迫害のない世界になればいいのにといつも願っています。ファルカウ様が目にしたくない事ばかりだったかもしれません。
人々に根付いてしまったものを変えるのはとても難しい事です……。
それでも僕たちはひとで、わかり合いたいと思っています。優しさを受けた時、そう思っている事に気付かされました」
皆が死んでしまったら分かり合うことだって出来ない。それに、彼女は『苦しむ前に全てを終らして』『何もかもを作り直す』その罪を、自らが背負うと言った。そんな現実の何処にしあわせがあるのだろうか。
「質問、いいかな?」
『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、臆することはなかった。傍らには『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が居る。
カロルだっていた。堂々としたカロルの傍では妙な顔をする『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)も立っていた。
(そいつの部下はキャロちゃんを傷つけたんです!良いから殴らせてください!
とは言えない雰囲気……! 拙者は空気を読める良い忍者! 助けたいと想う人が居るならば、それを押してまで斃したいとは思いません。野暮は! ダメ! そう! 野暮はダメ!)
ルル家はふるふると首を振った。カロルを助けたいと願った仲間達は優しいからこそファルカウのことだって助けたいのだろう。カロルは「どうする?」とルル家に聞いた。スティアを見守って居るのだろうカロルは『お前、あいつ殴りたかったんでしょ』とその顔面に貼り付けている。
「あー、キャロちゃんおはぎ食べる?」
「……良い選択ね。食べるわ」
カロルは当たり前の様に岩に腰掛けて手を差し出した。眼前には動きを止めたベヒーモス。前線にはファルカウ、そして彼女が相棒と呼ぶスティアとその幼馴染みのサクラの姿がある。リラックスしすぎな天義の聖女にルル家は小さく笑った。
「拙者はこの世界の歴史はさらっとしか知りませんし、深緑なんてこっちに来てからの出来事しか分からないんですよね。
でも聞くところによればファルカウは境界では深緑を出て魔王との戦いに参加してくれたと……。
そう考えると滅びにこだわる今の姿はやはり滅びの影響が大きいのでしょうか、一時的にでも祓えると良いのですが……どう思う?」
「私も余り知らないけれど、こいつにとって救いが滅びしかないんじゃない? ルスト様イズム的にさ」
「いや、そいつは横に置いといて」
「でも、そうでしょ。救われたいならやり直さなくちゃならないなら」
何とも言えぬ顔をしてからルル家は「ううむ」と呟いた。
「はーい、ファルカウ。良いでしょうか? あ、おはぎ食べますか?」
「……」
何故おはぎと言いたげな女に「おはぎ、ここに置いておきますね」とルル家は微笑んだ。
「要するに争いがなくなれば良いんですよね? 出来ますよ」
「――……ええ、わたくしという敵に対して、集結しておりますものね」
「そうですね、まあ。貴女は寝ていたからあんまり知らないかも知れませんがこの5年で世界はだいぶ良くなりました。敵国同士でも手を取り合う程に。
勿論誰かに任せる気はありません。拙者も国同士も人同士も魔も手を取り合う世界を作りますよ!」
「……けれど、わたくしが敵だからこその結果でしょう」
ルル家は「そうですけどぉ」と呟いた。スティアは彼女が自らという敵を相手にしたからこそ仲間達は集結し、皆が滅びに抗うために力を束ねたと認識している事をよく理解している。
つまり、共通の敵を喪えば人心は外れ、世界は諍いに傾き、再度歴史を繰返すと『知っている』のだろう。
「ベヒーモスの与える滅びとイノリが与えようとしている滅びは同じモノなの?
フォルカウさんは世界を再生させようと思っていてもその前に滅んでしまうんじゃないかな。だとするとベヒーモスによる滅びは必要なのかな?」
スティアは心の底からの疑問を提示するようにそう問うて見せた。ファルカウは「イノリとわたくしは志を伴にはしていませんとも」と静かに答える。
「皆で手を取り合って、終焉を止めようとしている世界ではファルカウさんの願いは叶わないの?
この世界の至る所に戦いの傷跡は残っているけど……。
争う事の悲しさや虚しさを知ったこの世界ならではの道が拓けるんじゃないかなって思うんだよね。だから今こうやって手を取り合えてる訳だしね」
「わたくしがイノリを殺す事を望めば、わたくしとも手を取り合えると?」
「ううん、そうじゃない。そうじゃない、けど……。人間だから完璧にはいかないけど、手を取り合って少しずつでも世の中を良くできたら良いなって!」
スティアは焦がれていた。魔女の対処法は如何するべきか。何らかの策があると『蒼穹の魔女』は告げて居たか。
「初めましてファルカウさん! サクラです! よろしく! 正直私はファルカウさんの事よく知らないんだ。
でも話を聞くに元々は優しい人だったみたいだし。
今も行動の根源は争いが嫌だっていう事だし、完全に変質してるっていう訳じゃないと思って話して居るよ」
「……お人好しばかり。わたくしは本当に悲しく思いますわ、イレギュラーズ」
ファルカウはそう言った。彼女達のような優しい人々がいたならば世界は平穏に溢れていただろうか。
ならば、全てを白紙に戻し、『生命の種』だけを抱えて新たにやり直そう。そうすれば、平穏に溢れた世界に生まれ変わることが出来るだろうから。
「確かに人間は争いを繰り返してきた。だから貴女が怒るのは仕方ない事だと思う。
でもそれだって争いを望んでた訳じゃない。戦わなければ死ぬ事になるから、黙って滅びを待つのは嫌だから戦ってきたんだ。
今の戦いもそう。人を滅ぼそうというから戦ってるに過ぎない。争いを止めたいなら、人を消し去る事じゃなくて人の手を取ってみてほしいな」
「いいえ、いいえ。消し去らねば、人は新たな敵を探し求めるのです」
「ファルカウさん……」
「ファルカウ……」
サクラの傍からそっと一歩歩み出したのは『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)であったか。
その傍にはフローズヴィトニルの欠片が立っている。ファルカウは攻撃をしない。ただ、その杖の先には焔の魔力が宿されているとも知っている。
「仮に今を滅ぼして新しい世界を生んだところで何も変わらないと思うわ、何故だと思う?
私は別の世界の出身だから知ってるの。どんな世界だって人は変わらない、新しい世界でもきっとそれは変わらないって」
「……悲しいことですわね」
ファルカウは「ならば、もう『二度と生まれてこないように全て終らせた方がしあわせ』でしょう」と囁いた。
オデットは唇を噛む。傍らのフローズヴィトニルが唸る。まだ小さな仔犬。氷の気配、あの凍土の中に佇んだ獣そのもの。
「ファルカウ、あなたは一つだけ知らないことがあるんじゃないの? 『幸せ』っていうのは『独り』じゃ手に入らない。
誰かと関わるからこそ手に入るものもあるのよ。
私は故郷の世界で、森で、精霊達と過ごす以外の楽しいことをいっぱい人間たちから教えてもらったわ。
おかげで存在こそ知られたけど、それを不幸だなんて思ったことはないもの」
人は人とあるからこそ、道を開くことが出来るのだ。人と一緒に笑って、怒って、日々を紡ぐ。
ファルカウは「それでも、紡いだ結果が不幸であった事はあるでしょう」と行った。
「いいえ、いえ……確かに、熱砂の恋心は昏く恐ろしい結末で合ったかもしれない。
それでも、私は、叶うなら、あなたとだって日々を過ごしてみたいもの。あなたのそばは木漏れ日妖精には優しいゆりかごだろうから」
その焔を収めて欲しい。その炎に焼かれないで欲しい。それを鎮める事が出来るのはフローズヴィトニルの――『鉄帝国での戦いで得た力』の活かし所であるようにも感じていたのだ。
『妖精■■として』サイズ(p3p000319)はオディール――オデットの連れた氷の精霊だ――から感じる冷気を一瞥した。
(全てを壊しやり直したいか……わかるよ、俺もやり直したい! 妖精郷の最悪を!
夜の王や冬の王は転生や残滓が幸せに暮す中、春の女王だけが許されないのが許せない! 禁忌を知ってて防げなかった自分が許せない!)
唇を噛む。ファルカウに向けて飛び込むサイズに魔女はぎらりと睨め付けた。
奇跡を起こしたいと願った。しかし、それは命懸けでなければ叶わない。彼は『生きていたい』と願っている。
――妖精郷に対して引け目を感じているのは、彼自身が死した女王の蘇生を願い続けているからだ。妖精達に死という概念は存在しない。桃源郷の扉を開くことは即ち黄泉からの回帰だ。ファルカウを狙った一撃に魔女は囁くようにまじないを唱えた。
「仰ることが分かりませんわ、妖精」
「ッ、何を――」
「ご存じないでしょう。死とは二度とは回帰できないものなのです。わたくしに武器を向ける事はおやめなさい。
わたくしならば、『もう一度』ができるかもしれない。死した妖精女王を連れ戻せるかも知れない。世界を、一度終らせた白紙ならば法則など存在しないでしょう」
有り得やしない言霊だ。魔女の唇が吊り上がる。サイズが願う奇跡は形を為さないが、この場でファルカウへと攻撃を行なったのは彼ただ一人だ。
魔女の溜め込んだ魔力がその身を貫いた。はたと見上げた仲間の癒やしがサイズを包み込む。言葉を費やせば魔女は手を止めてくれるかと『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)はその名を呼んだ。
「ファルカウ……滅んだ世界に独り残るのは、ただ悲しく空しい。全て滅んだ世界に独り残ってしまった我の実感だ。
元世界の愚かな者だけでなく大切な人達も……巨悪の炎に我以外全て焼かれ。弟は巨悪を滅す為に彼自身に刃を突き立て……我は弟を救えなかった」
フィアノーシェは我儘だと行った。己のように、二度と残される悲しみを抱く者が居て欲しくはないと。
「ファルカウよ。弟が我に告げた最期の言葉の1つだ。『幸せを、世界を……大切な人達を奪って、ごめんなさい』。本当は貴女もそう思ってるのではないか」
「いいえ、わたくしは奪われてきたのでしょう。お前達が、世界を平和にすると宣いどれ程の草木を燃やしたか。
どれ程にわたくしの愛しき土地を踏み荒らし、あろう事か魔をも呼び寄せ蹂躙したのか! 世界に一人残った罪人になろうとも、わたくしは――ええ、わたくしは、『世界の滅びに抗いあろう事かわたくしの愛しき大地を蹂躙したイレギュラーズを許さない』」
引き出された言葉にフィアノーシェは息を呑んだ。
「ファルカウよ。貴女もベヒーモスが滅ぼす対象に含まれるのではないか。
近しいものを感じているかもしれないが……成り立ちからして別の存在だ。貴女を滅ぼそうとしたらどうするつもりだ……!」
「わたくしが、この獣を取り込めば良いだけ。わかりませんか。おまえと私も別ものだということを」
ファルカウの眸に炎の気配が宿された。反撃はしない。「どうする」とカトラリーセットを構えた琉珂に「ステイ! ステイですよ~~!」と『指切りげんまん』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)は手をぶんぶんと振る。
「会話を試みて応じてくれなかったら、まあその時はその時ですけれど。もう一押しですよ~!」
にまりと笑ったヴィルメイズに「でもメチャクチャ怒っているわ!?」と琉珂が慌てた様に声を弾ませる。
「そうですね。ええ、ええ、ファルカウ様。永い年月を経て、人々の醜い争いを憂い……真っ新な世界を望む。聞こえが良いですね!
しかし貧富の差、種族差、性差、身分の差、価値観の差。この世に『違い』がある限り、残念ながら諍いは生まれましょう。
ですが……異なる存在が分かり合い手を取り合った喜びもまた存在する。竜が人に歩み寄ってくれたように。
それさえ認めぬというのなら、もう世界を創り直すこともお止めなさい。
生んだ子が不出来で気に入らないからと首を捻り殺し、産み直すような惨めな真似は!」
ファルカウは唇を噛み締めた。琉珂の露払いを、琉珂を守る為に。ただ、それだけをヴィルメイズは考えて居る。
脳裏で囁く何者かを振り払えば、思考はクリアになった。隣の里長は困惑しているのだろう。
少なからず、心に抱いたのは「己の大事な土地」での諍いが激化したのはイレギュラーズとなった己達が居たからかもしれないとさえ思ったからだ。
いいや、放置していれば世界は大変な事になった。最大限に抑えた結果が未だ。心の中の蟠りのように、此れまでの事を思えば――「思わないところもない」というのがヴィルメイズとて同じ感想だ。
「お分かりでしょう。魔女ファルカウ。世の中には必要な事もあるのです」
「そうだぜ。……っと、よぉ、こっちじゃあ初めましてだな。あっちであった時とは随分感じが違うじゃねえか。そんだけ怒ってるって事か」
琉珂に師匠と呼び掛けられてから『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)がひらひらと手を振った。
「なぁファルカウ。ちっとばかし聞きてぇ事があるんだが良いか? お前は俺達の事を好きか。それとも嫌いか?
本気で嫌いでぶっ殺してえってんなら、殺されてやる気はねえが仕方ねえさ。
……でもお前が怒ってる、厭ってるのはそうじゃねえって気がしちまってな」
怒るのはイコール嫌いではない。それをよく理解している。ルカ・ガンビーノは最大限に相手を理解するために声を発するのだ。
「お前さ、好きな奴同士が争うのが嫌なんじゃねえのか? それを悲しんで、怒って……その果てに好きな奴らを皆殺しにしたんじゃ報われねえよ。
もしそうなら、世界を滅ぼしたって……いや、その時こそお前は本当に救われなくなる。
怒るのはわかる。仕方ねえさ。喧嘩がしてえっつーんなら付き合ってやるだけど好きな奴が争うのを止めたいっていうんなら、俺に力を貸せ」
この世界に誰よりも縛られた奴が居る。魔も滅びも、全て――なんとかしなくては、彼女は解き放たれないのだから。
「俺も好きなやつを助けたいからここに来たんだ。な、お前とおそろいだろ?」
笑うルカにファルカウは物言わぬ儘に佇んでいた。話せば、言葉は通じている。耳を傾けてくれる。
スティアは良く分かる。『彼女と話すことは彼女を正気に戻せる可能性がある』ということだ。
(あっちのファルカウさんに会った事のある人達を起点にして、こっちのファルカウさんに干渉できないかな。
波長は似てそうだからなんとかならない? ようは抱えた滅びをどうにかすればいいんだよね? ……きっと、僅かにでも正気を取り戻せたら――)
スティアの視線は『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に向けられた。
ただ、自らを盾にするように彼女は立っている。傍に居る『魔女の剱』シラス(p3p004421)が周囲の終焉獣を振り払う。
――シラスにとって、アレクシアは守りたい相手だ。だが護る事はしなかった。彼女はそれを望まないと知っていたからだ。
「世界を滅ぼして、再生して、それで戦争が無くなるのか? なるほどな、アンタは確かに『1人だけ』で生きてきたようだ。
俺は神様でも魔女でもないが予言できるぜ。新しい世界に人間が3人もいたらまた戦いが起きるさ。
人間がいなくたって他の獣がそれに取って代わる。
どんなにお膳立てされた清らかな世界でも同じだよ――だけどさ、戦いを止められるのも人間だけなんだ」
だから、彼女をエスコートしてきた。シラスだって人間なんて『クソヤロウ』ばかりだと思っていた。
眩い光を見れば信じられた。気の遠くなるほどに傷付け合って、喪ってきた。その度に何かを学んだ。人を殺すことだって、当たり前だった。
それでも、重ねてきたからこそ進むことが出来たのだ。
「世界をやり直したらそれが全て無駄になる。初めから繰り返しだ。そんなことはさせられない。
俺も少しだけ分かりかけた気がする。
ファルカウよ、アンタの望みは理想の世界なんかじゃなくて、今のこの世にあるはずなんだ。
都合のいい奇跡の代わりになる何かが。俺達は、人間は、きっとそこに辿りつく。どんなに遠回りしても必ずだ――約束するよ」
「わ、わたくし――は――」
都合の良い奇跡なんて、此処にはない。アレクシア・アトリー・アバークロンビーはシラスを見てから微笑み、ファルカウと真っ向から向き合った。
「……ファルカウさん、ハッキリ言うよ。あなたは間違ってる。
あなたは確かに揺り籠を作り、生命を育む礎となり、それを見守ってきた人かもしれない。
でも、だからといって、育ち、芽吹いて、今も必死に生きているものたちを刈り取る権利なんてあなたにも、神様にだってない!」
神様ではない。彼女はただの人だった。
擦り切れた長命。長く生き続けて草臥れて閉まったからにはどこにも救いなんてなかった。
「……確かにこの世界には争いが満ちている。でも同じくらいに、手を取り合って生きている人がいる。
争いのない世界を作るのは、誰か独りだけの力じゃない。大事なのは壊すのではなく、それを育むことでしょう! あなたはずっと独りだったから、そんな事も忘れてる!」
誰かと手を取り合う事さえ出来ないならば、アレクシアは飛び込んでやるつもりだった。
「わたくしは、神なんて存在を信じておりませんわ。魔女。もう――『時間切れ』なのです」
また、その言葉だ。
「先に救いなどなかった!」
――まただ。
「ファルカウさん、一緒に行こうよ。苦しみのさなかに、打ちひしがれそうな人に手を差し伸べ、希望の種を撒いていこう。
見守った先に絶望しかなかったのなら、今度は絶望を打ち破りに行こう!
今度は独りにはさせない。だって私がいるもの。1000年だって1万年だって、あなたの想いを共にしてみせる」
「生きて等、いられないでしょう」
「……私は本気だよ。『呪い』なんて私が『祝福』に変えてみせる!
終焉の絶望なんていくらでも塗替えしてみせる! だからファルカウ、手を取ってよ!」
「あなたが、わたくしの代わりになるとでも?」
シラスはアレクシアを見た。引き攣った声を漏したのはそれは『お前が大樹ファルカウの根源となれるのか』という問であったか。
長くを生きてきた。ただ、伴にあるというならば、先逝く者を見捨てぬ決断をするというならば。
「アレクシア……」
「わたしはね、ファルカウさん。皆で手を取るためだったら『手段』は選ばない。
けれど、今のあなたは『変わってしまっている』。それではだめだよ」
アレクシアは真っ直ぐに見据えた。ファルカウと『その滅びの気配』を分離させるべきだ。
ほら、よく見て居ただろう。『君のもとに』囲 飛呂(p3p010030)は「ファルカウはベヒーモスを『操作為てるんだ』」と呟いた。
「エヴァンズは吸い上げた力をファルカウに与え、ファルカウはそれでベヒーモスを管理してる。
ならさ、ベヒーモス。ファルカウから滅びの気配を分離させ、それを撃破したら? お前はきっと後ろ盾を喪うんだろうな!」
飛呂はそう笑った。ファルカウに費やす言葉で彼女には付け入る隙があることがよく理解出来た。
『綺羅星の守護者』綾辻・愛奈(p3p010320)の用に仲間達を支援する者も居る。飛呂と愛奈はよくよく気付いたことだろう。
――魔女ファルカウの滅びを分離させて、討つ。
(ええ、その為に対話は必要だった。可能な限りファルカウという女の自我を此方に引き戻すのでしょう)
愛奈はそう実感していた。視線を向ければカロルに向き合う『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の姿がある。
「……カロル。一発はたいてくれませんか。こんな時にもアレフに頼ろうとした自分が不甲斐なくて」
「いいの?」
「……ええ、それで進める。迷わずに」
ぱしん、と乾いた音が響く。「マリエッタ」と『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は息を呑んだ。
「ありがとう。死血の魔女としては魔術を奪うべきなのでしょう。
けれど、選ぶわけにはいかない。それが私の選択――今度こそ犠牲は減らし切って見せる」
ファルカウから『全てを奪う』事で終るわけがない。此れまでの事でマリエッタは変化したのだ。それがセレナには嬉しい。
「わたしは幻想種じゃない。それどころかこの世界の出身ですらない……それでも、わたしにだって伝えたいことがあるの」
もしも、彼女を救えるならば、自分は何が出来るだろう。ファルカウ。その人の名前を呼んだ。
「また会えて良かった、ファルカウ、聞いて欲しいの。わたし達の言葉を。
わたしは旅人、よその世界の人間……それでも、この世界で生きて、見てきたものがある」
ファルカウの眸の炎の気配は僅かに落ち着いて居るように見えた。だからこそ、言葉を絶やさず、伝える事を選ぶ。
「それは、幸福を祈り、未来を願う心。争いだけじゃない。そういうものだって息づいてる。
――わたしの持つ光は、魔法は、その心から生まれ出でたものだから。
……ねえ、ファルカウさん。もう一度、世界を信じてくれませんか?
戦乱に荒れようと、希望の芽吹く世界を、終わりに抗い、生きようとする人達のことを」
「わたくしは」
ファルカウの唇が震えた。
「わたくしは『もう、擦り切れてしまった』」
救いなど何処にもないとでも言うように、女はせせら笑うのだ。
呪いの気配がセレナを包み込む。それでも構わなかった。怯むこと無く前を向く。傍に貴女(マリエッタ)がいるのだもの。
「……それに、あなたも、きっと希望は捨ててないんじゃないかって、思うんです。
だって。こうして言葉を交わすことこそが、争いによらない解決の方法だから――きっと、あなたもそれを望んでくれてると、信じてるから」
「永遠がないように終末はいずれ来る。その時こそ貴方の出番なのでしょう。
だけどまだ世界は終わらない。世界にはまだ……終わりたくないという想いがいくつも存在し続けている。
仲間の死を想い、背負う貴女だって終わったらその想いさえなくなってしまう。まだ早いと……そうは思いませんか?」
マリエッタは胸に手を当てた。彼女は擦り切れてしまったのは本当なのだろう。
けれど、『ファルカウ』という女を救う手筈は何処かにある。
自我を惹きだし続け、滅びを分離させる。その為に、彼女に何が為せるのか。考えろ。
「だからね、私は私の夢を語る。私は貴方の……貴方達のように世界を守った後は、この世界の敵となりたい。
争いを起こす悪意を全て私に向け、悪意を持って世界を一つにまとめたい……そんな夢があって今なお目指している。
でも一人では難しい。力も心も足りず、きっと潰れ、機会を誤り、後悔してしまう。貴方だってそうだ。
――だからファルカウ。私達と共に、もう一度夢を見ませんか?」
「わたくしは――!」
夢を見続けたのだ。
愛おしい人々と伴に笑い合う日々を。
傷付け合うこともなく過ごし続ける日々を。
「もう遅いでしょう」
ファルカウの言葉と伴にベヒーモスがその声音を響かせた。
唇を噛んだアレクシアは「遅くなんてない!」と声を響かせる。スティアの指輪には僅かな光が宿された。
「ねえ、スティア」
カロルに呼ばれてからスティアはぱちりと瞬く。
「これまでの戦いで、おまえたちが得た者って沢山あるんでしょう。
オデットが持ってる氷の仔犬も、アレクシアが喪った記憶の欠片も、風牙のレテートの欠片も。
他にも色々あるわね、色んな戦いで得てきたもの。それ、Betできるかしら」
「……どう言うことかな?」
「あの女が怒ったら、『あの女の滅び』だけを狙えば良い。おまえはあの女の身体を守れば良いのよ」
「ははーん、守護の結界をファルカウさんに使うんだ? それで、滅びを一気に吹き飛ばして取り戻せって事だね」
「そうね。まあ、その為に……あの女をちゃんと引き戻さなくっちゃね」
セレナやマリエッタが掛けた言葉のように。祝音や風牙のように。そして、サイズが叩き込んだ一撃のように。
――ファルカウという女に向かい合わねばならない。そうすれば彼女の滅びを払い除け、ベヒーモスとのリンクが断ち切れ『その動きを畳み込める』かもしれないのだ。
「やってみるだけ、やってみるしか無さそうだね」
アレクシアは呟いた。それが、救いとなるならば。
成否
成功
状態異常
第3章 第4節
●
――魔女ファルカウの滅びを分離させて、討つ。
それはどの様に成せるかも定かではないことだ。『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)にとってこの戦場は最終決戦だ。
自らの戦い方を意識する。突出してはいけない。終焉獣は毀れ落ち、それに向け露払いを行なう事も戦線維持には重要だ。
「わらわは右に行くデス」
「オーケー! なら、露払いの諸君! レッツ、イクリプスで終焉獣を蹴散らかせて行こうぜ!」
にいと笑ったのは『バアルぺオルの魔人』岩倉・鈴音(p3p006119)であった。エステットだけではない。仲間達と伴に足並みを揃える。
終焉獣は血潮のように溢れて来るのだ。魔女ファルカウの動揺は、捕縛されたベヒーモスの動きをさらに鈍くしたことだろう。抵抗が緩んだ間に、終焉獣を出来うる限り討ち、更なる弱体化を狙うべきでアル。
「邀撃の為の露払いは任せるデス」
「うーむうむうむ。ふふ、蹴散らせていけば未来も開けるって訳だよ!」
にまりと笑う鈴音を見送って『決意の復讐者』國定 天川(p3p010201)はゆっくりと婚約者を振り返る。
「晴陽」
「ご心配なく」
穏やかに微笑む晴陽に天川は息を呑んだ。彼女が斯うして『外』の支援を行なうのは己が居るからだ。
(各々成すべきことがある。だが俺には? ――俺の物語は大方終わっちまった。
後は皆をハッピーエンドにするだけだ。魔女共は仲間に任せていいだろう。俺はあのデカブツをなんとかする。
何せ、俺の婚約者は「貴方と伴に未来を開きましょう」と言いながらこんな場所まで出てくるんだからな)
天川は唇をついと釣り上げてからファミリアー越しに行った。『ちょっとよ、気合入れる為に聞いてくれ。……愛してる』と。
「私もですよ」と簡単に返す婚約者に気恥ずかしさを隠すように終焉獣を振り払う。
「俺には何もなかった。だが、今はそうじゃねぇんだ。だからよ、もう何も奪わせやしねぇ!」
未来を繋ぐ為。ファルカウという魔女に対して、過去の遺物だと振り払うことは容易だ。だが、仲間はそれさえも未来に繋ごうとして居るのだ。
地を蹴った。勝手な都合で世界を滅ぼされて堪るか。晴陽は何かあればきっと頼ってくれる。此れまでの積み重ねがそうしてくれるはずなのだ。
『ご無理をなさらず』
「晴陽こそ」
天川は笑った。真逆、彼女に心配されるとは、ああ、しかし、此れも中々悪くは無いか。
「ファルカウさん」
顔を上げた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はファルカウの童謡を感じ取りながらベヒーモスを相手取っていた。
「確かに今の世界は継ぎ接ぎだろう。だがそれは、在り方の異なる様々な存在が同居する豊かな世界という事だ。
貴女の思う『争いの無い世界』には何がある?
俺は何も無いと思う。何故なら人間は勿論、動物も植物も……限りある命を食らい、根を張る場所を奪って生きるのだから。
そんな営みまで否定して、何が芽吹けるだろう?」
「継ぎ接ぎだらけのパッチワークの世界。貴方方が荒した森。悪びれる事も無く、世界を救えば過去となる。
わたくしは、疲弊した大地を見て心を痛めたのです。争い傷付け合う民草に恐れ戦いたのです。それを理解は出来ませんか」
魔女ファルカウは叫んだ。その声音にイズマは眉を顰める。
「争いの無い世界は、向かうべきでも辿り着くべきではない『理想』で良い。
醜い争いは避けたいが、それよりは不出来で良いから唯一無二の今を生きたいよ。
そして平和な世界は貴女一人に任せず皆で作りたい。そう望む事を許してはくれないか?」
「……分り合えませんわ、青年よ」
ファルカウの眸の焔は消えることはない。滅びの後に芽が出ると彼女は認識している。滅びとは例外もなく世界が『閉じた』後の話だ。
イズマはファルカウとて消え失せて再試行など出来やしないと考えて居た。世界を憂い世界を壊す女はその妄執に取り憑かれているかのようだ。
「わたくしも、貴方も、滅びた後のことなどまるで分からないとするならば、それで構わないではないですか。
全てが白紙になれば、誰も苦しむことも、誰も争うことも何もない。疲弊した大地も、傷付け合った痕さえも、何もかも、失せればわたくしは――!」
ああ、理解出来る。理解が出来てしまうから。
『ともに最期まで』水天宮 妙見子(p3p010644)は苦しかった。
彼女は一人で生きてきた。長い時間を然うして過ごした。
誰にも苦悩を分かち合えない。超常の存在とはそうしたものだった。苦しんだことであろう。よくよく理解出来る。
そして、眠りに就いたのだ。世界を見た。人を見た。滅ぼすことを決意したのだ。
その決意に対して妙見子は称賛をも抱いている。
「ですが……ごめんなさいね。私達は私達の正義を貫きます」
――そして、彼女がドウシテその様に選択したのかも。
「……ファルカウ様。貴女は人間を信じることができなくなったのですね。私もずっと一人で世界を滅ぼし続けていたから分かります。
貴女とは違って、何度も、何度も。けれど……滅ぼした最後に残るものは虚しさだけですよ」
「ええ、そうでしょうとも」
「……人であった貴女が感じるものは。きっと神である私よりも……私はこの世界を愛しています。
何度争いが起きたとて、何度だって止めて見せましょう。それが人と歩むことになった私の決意と覚悟です」
「わたくしはもう、信じられなかった」
良く分かる。信じられなくなったことも。そうなるまでの過程だって。
それが大樹ファルカウなのだ。
「……色々苦労も悲しみも見てきた人なんだねえ。とはいえ、自分達も生きる事を諦めるわけにはいかないんだよね。
道は違えども、お互い未来を思う事に変わりなし、どちらの未来を思う力が強いか……勝負と言う事だね!」
『解き放たれた者』水鏡 藍(p3p011332)の眸がきらりと輝いた。藍から見て、ファルカウという女に勝る奇跡を求め、掴める可能性はゼロではない。
まるで踊るように前線へと眩い光を放つ。四色の瞳は何時だって己とあった。星降る夜に生まれた友人も、眠たげに笑った鉄靴の友人も。
(――私は諦めたくないからね。かつては諦めてしまった。行動すれば何か変わったかもしれなかったのに。
だから今回はね……命大事にだけど諦めないでしてみようかなって!)
きっと、此れからも共に過ごす友人との未来を藍は諦める事は無い。
「……二手に分かれるか、ならばよし、こちらはこの武蔵に任せてもらおう!!
どの道ベヒーモスを打倒せねば勝機はないのだ、奴が膝をついている間に畳みかけるぞ!!」
ファルカウに対する者、それからベヒーモスと。各々が対応を行なわねば戦線の意地は難しい。
豊穣・海洋連合軍と共に戦線の意地に勤める大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)に賀澄は「敵は脚を止めたが如何する?」と問うた。
「陛下、どうか御下知を。かの獣が膝をついた今が好機かと。一気呵成に攻め掛かりましょう!」
恭しくも『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は問うた。柔らかな声音、囁きと共に顔を上げる支佐手に賀澄は「承知した」と頷いた。
己が倒れるわけには行くまい。それだけ強い決意を胸にした。手にする剣の術式に、守り給へ、幸給へと祈りを込めた。大蛇蠢く御山の決意を載せて、支佐手は地を踏み締める。
武蔵の唇は三日月の形となった。美しき艦隊(おとめ)の弾丸は波間を裂くかの如く空気を纏い、ベヒーモスへと叩き付けられる。
「今のうちにベヒーモスのリソースを削っておきたい。だが、周辺の終焉獣も無視は出来まい」
「ああ、ならば俺達は終焉獣を相手取ろう。晴明」
呼び掛けられてから晴明は「御意に」と静かに返した。豊穣軍にとってもベヒーモスは油断大敵の相手なのだ。
「やあっと、膝をついたわぁ でっかいの。ひつじちゃん、の彼氏ちゃん……はじめまして! わたし! あなたにもとっても意地悪したい気持ち!」
「……ん!?」
「でも後回しよ。今はオーダーに応えるわ」
くすりと微笑んだ『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)に晴明がぎょっとした顔をした。
メリーノの瞳がキラリと輝いた。きっと首。首を落とせばこのけだものは終るはず。けれど、ほら『まだ遠い』のだ。
膝を付けども山のよう。飛び上がれば、人は粒のように小さくなった。傷口一つ付けるのに、途方もない時間が必要となろうもの。
「メリーノ殿、気をつけるように。支佐手」
「御意に」
彼女を支援しろ。そう告げたか。
「わしも、彼女も、この程度、ご心配には及びません。かえって気付けになるというもの。
――もう一押し必要やも知れません。陛下、わしも行って参ります。どうかご無事で」
責め立てる。果敢なる閃きの切っ先。メイメイ殿と呼び掛ければ白き風を纏う娘の瞳が細められた。
「参りま、しょう」
「ならば、俺は此方に――……と、少々お待ちを。
御身を護るため、今度こそ護衛を…と思ったのですが、賀澄様、何か普通に前線に出てません? 気のせい?」
「ん?」
「うん、まぁ、賀澄様の性格的にはそうなるのも自然な流れですよね!」
困り切った顔をした『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)に「ずっと前にいるわ」と『鏡花の癒し』ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)は肩を竦める。
「際限なく怪物を生み出していく姿、個人的にはベヒモスというよりむしろ、エキドナと言いたい所よね。
けれど、川が押し流そうとしても、彼は動じない。ヨルダンが口に流れ込んでも、ひるまない……と、云う事だものね」
ルチアに「貴殿の話は興味深いなあ」と賀澄はからりと楽しげに笑うのだ。メリーノを、そして仲間達を支えるルチアは『戦争屋』として戦況把握に努め続ける。
自らには使命がある。戦線の維持だ。のべ回復量が多いものを、と選択肢は山ほどある。そうしなくては誰かが死ぬかも知れない。その緊張感を背負っていたルチアの傍で『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は微笑んだ。
「共に」
「ええ、努力しましょう」
メイメイはファルカウを見ている。『でっかくん』を留めることで、彼女に声を掛ける者を支えられると知っている。
「……争いを望まないからこそ、ですもの、ね。世界の滅びを阻止する為に、わたしは此処に来ました、が。
ファルカウさまが歩み寄って下さるのでした、ら……信じてみたいと、思っているのです……その為に、も。わたしの出来る事、を」
「俺もそう思う。彼女と話し合おうとするのは豊穣郷で瑞神に歩み寄った者達のようだ」
喜ばしいと微笑む晴明の刀の旧い方に、呼気に。その視線の運びに、一寸のみ交わって、そして離れる視線と標的のさだめ。
その在り方は聞かずとも言葉を交さずとも良く分かる。彼の隣は落ち着いた。幾らでも力が湧いてくるし――あと、刀を振るうあなたは本当に。
「……メイメイ」
「ふふ、晴さま。もうひと頑張り、です……!」
あなたが強くあれるのは、あなたがそうあるために尽力したから。
だから、愛おしい。だから、その努力を大切にして居たかった。
「晴明に負けておれんなあ」
「賀澄様、こうして肩を並べて共に戦えるのも、きっと貴重な機会でしょうから、背中はお任せ下さい。必ずお守り致します!」
ルーキスに賀澄は笑った。息子のように、弟のように慈しんだ者が尽力するならば、己とて、剣を振るうのだ。
メリーノを視線で追いかける。無数の剣が閃いた。賀澄にくすりと笑うメリーノが柔らかなドレスを揺らす。
「こんなに上から眺めてたら、人なんて小さく見えてたでしょうねぇ、古の魔女」
メリーノが小さく微笑めば、ファルカウは静かに答えるのだ。
「だからこそ、大切で大切で堪らなかったのでしょう。だからこそ、わたくしは絶望をも為たのです」
彼女の行動は一貫していた。諦めてしまった。信じられなかった。ただ、愛しさと憎みが反転してしまった。
良く分かる。捕縛魔法陣の中で蠢くベヒーモスの姿を双眸へと映し込んでから『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は息を吐いた。
「状況が少し変わった……けど、僕達のやる事にそこまで変わりはないかな、って。少しでも猶予を、時間を稼がせて貰うよ!」
冒険者はこうした時に何が必要かを知っている。そう。時間稼ぎだ。
どうやらファルカウは利用価値があるらしい。その為にはベヒーモスには大人しくして貰わねばならないのだ。カインの視線を受けてリーダー――やっぱり己か笑う彼女はその扱いにも慣れてしまったか――『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)を一瞥する。
「――ベヒーモスが膝を付いたぞ! 捕縛魔法陣が機能しているうちに、こいつへの対処をせねばなら……ぬぐっ!?
石化、か……! ちっ。魔女は他の者達に任せて、今のうちにベヒーモスの行動を縛るぞ」
「了解」
カインの魔術がロックを、そしてクレカを補佐し続ける。十七号は声を上げた。
「パンドラを流し込んでもいい、終焉獣を倒すのも、やつの部位を削るのもいい。ファルカウとの対話の時間を作ってやれ! 会長、飛行付与を頼んでもいいか!?」
「はいはい」
にんまりと『意地悪く』笑って見せたのは『虚飾』楊枝 茄子子(p3p008356)だった。このメンバーでは会長で、茄子子だけれど。
悪辣で無慈悲な女の姿がちらりと見える。ああ、なんたって、良く分かるだろう――『愛しい人との世界を邪魔する女』と話す時間を稼ぐのだ。
「やることなすこと気に入らない。争いの無い世界の、一体何が楽しいんだろ。
見守りたいなら最後まで指くわえて見てろ。邪魔すんなよばか!」
パンドラはきっと『美味しい』筈だ。なんたってあいつの口に飛び込んだ事があるのだ。
ベヒーモスのあんぐりと開いた口に飛び込んで、咀嚼されて『死んで』やったのだから。
「それにしたって……時間稼ぎねぇ、好きじゃないな。デッカくん、そろそろ眠くなってきたんじゃないの。
私がキミを終わらせてあげるよ。簡単だよ! 1度やったからね!」
――そんなこと現実では出来ないけれど、思い知らせてやるのだ。
「さあ、行くぞ! あふれ出てくる終焉獣を打ち払う。それだけだ!」
「そっちは一旦任せるぜ、俺も一仕事して来る!」
かなぎ、と名を呼べば十七号が頷いた。『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)はと言えば、陰陽師としての仕事を始めるのだ。
「飼い犬が話し合いの邪魔をするもんじゃない、お座りの時間だぜ!」
補助の術式を補佐するが為に。自らの知識は全てに活かされる。万全に知識という知識を注ぎ込み続けのだ。
錬は捕縛魔法陣に鎖を合わせた。ロックが術式を改変して組み込んでくれたか、どうやらプーレルジールの魔術師も面白いのだ。
「助かる」
「それはこちらこそ」
クレカがぱちりと瞬いたが、それは『高位の魔術師』同志の話である。
オーダーは了解した。『目的第一』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)はやることは変わらない。『敵の説得』という無理難題を為したいという仲間達のためにこの場を維持するのがプリンの役割だ。
「やりたい事を、やりたい様に。イレギュラーズが集まった時は、そうするのが結局一番上手く行く様だからな。
上手くいかなかったのなら、その時は、改めて倒してしまえばいいだけだ」
「確かにそうなのでしょう。それに……ええ、これは私慾ではあるのですけれど。
後ろに私の未来の親族がいる。だから抗ってやる。あなたの崇高な大義なんて知りません。我欲上等です」
義姉の身に何かがあったらどうするのか。義兄さえ前線に飛び込んでいるのだから『アイのカタチ』ボディ・ダクレ(p3p008384)はベヒーモスを捕縛し続ける仲間達を守るが為に壁となる。
――私はあの人との未来が欲しい。だから、あなた達は、邪魔だ!
ファルカウが眉を顰めた。一人ではない。一人だから分からない。ああ、そうなのでしょうと唇が掠れた音を立てた。
プリンも、ボディも『人のため』に体を張るのだ。プリンは仲間達を一瞥する。出来うる限り自らにヘイトを集め、壁役として終焉獣を蹴散らすのだ。
ボディの周辺へと集まった終焉獣達。カインが「ここです!」と声を上げれば『涙を知る泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は頷いた。
「攻め口はそこか! 感謝する!!」
ここで手を抜くことはない。まだまだ足りない。まだだ。あの海で見た奇跡の光は此処をも照らしている。
あの時だって、一人の少女が魔より『映したように手を伸ばした』ではないか。そうして、魔種と呼ばれた分り合えない存在とも手を取り合った。
彼女は滅びの気配をその身に宿しているが、精霊と化した人だった。なればこそ――その手を取れる可能性とてあるのだ。
それを証明するために此処までやってきた。マッダラーはよく知っている、その証明のために此処まで来たのだから!
「うん、膝をつかせて少し時間の余裕ができたから、今は束縛の方を手伝うよ、動き出した時の事も考えないとだしね」
デッカ君。そう呼び掛ければ『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)はただベヒーモスを見ていた。
「どうする?」と問うた先で『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が笑うのだ。
「そうだなァ……」
彼は後方を見る。己の『群のボス』だ。「おぅ、ハウザー。ちっとあのデカブツんとこまでひとっ走りしてくるわ」とそう告げればハウザーは「行ってこい」とまるで追い払うような仕草で言うのだ。
「いいの?」
「いい」
イヴは「そんなものか」と目を伏せた。分かり難い信頼だ。そう。分かり難い。
「片道切符の可能性は覚悟しろ。R.O.Oじゃ死んで死んで死にまくってやっと倒したんだろ。少しくれぇ無茶無謀をベットしなきゃ、賭けにもならねぇ。
やるこたァ、単純だ。運命に問え。此処からの在り方をベヒーモスに打撃を与えるぞ。それが『ファルカウにも影響がある』筈だ」
何せ双方で繋がっている。分かり易い程に。
ファルカウがコントロールを為て魔力を分け与えているならば、逆にファルカウの中にもパンドラを流し込むように尽力すれば良い。
「分かった。個人のパンドラで足りないなら、複数人で一斉にやるしかだよね。
ただ、一斉にやる方法と、それを効率よく流し込む方法……どっちも大変だよね」
「だからこそ、だろ」
ルナが地を蹴った。Я・E・Dは目を瞠る。風のように掛けていく男の姿。
共に行く『歩く災厄の罪を背負って』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は小さく笑った。
「……起きるまで待ってて、か。到底一人のパンドラじゃ物足りないだろうし、まだやれって事ですよね。
でも、見ててくださいなライアム様。私たちがアレをぶっ倒して、英雄として迎えに行ってやりますわ」
それに、彼が眠る『ファルカウ』は、お冠。彼を迎えに行って「貴女の信じる大樹様は大暴れでしたわ」と笑ってやれば良いのだ。
「参りますわよ! 一人じゃダメってなら、複数人の力を借りればいいんですのよ! 我々イレギュラーズは奇跡を運んでこそなんぼ!」
にいとリドニアは笑った。奇跡を願うなら当たり前だが『最も都合が良いものを狙うのだ。
デカブツを皆で潰して、尚且つ生き残る。ギャンブルって言うのは『手札を揃えて』大一番にひりつけば良い。
「死ぬ気か?」
「さあ、死ぬも生きるも運次第、でしょう!」
リドニアが堂々と笑った。『赤々靴』レッド(p3p000395)は「それは面白い!」と手を叩く。
「その話ボクも乗ったっす!気合い入れて突っ込んでみるっすか!!
個人だけじゃあ物足りない、それなら複数人でパンドラを流し込めばいい! そうであればボクの余りある可能性を叩き込んでやるっすよ!!」
この世界は綺麗事だけじゃない。醜いところだってある。知っている。
――けれど、世界には色々と世話になって閉まったのだもの。素敵な出会いも出来事も沢山あったでしょう。
この世界に駄目なところ何て無かった。世界はまだ終っちゃ居ないし終らせない。
「全て白紙にして無かったことにしようなんて諦めるにはまだ早いっすよフォルカウ!!」
逆説的に流し込め――!
レッドに続き『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)はよしきたと言わんばかりにからりと笑った。
「世界を見てきて、おしまいまで決めてくれるなんて面倒見の良い人だねぇ〜
……そういう人にはボクの言葉は相応しくないかな。ってワケで! お話したい人達ためにもベヒーモスとっちめちゃおう!」
パンドラも一緒に食べちゃえば良い。ほら、暴食と言われたベヒーモス。強欲な獣。何処までも執拗に『可能性』に毒されて、大地に転がり落ちれば良いではないか。
「ルナ」
呼び掛ける。『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)の弾丸には奇跡を乗せるのだ。
「面白そうなことやってるじゃないか。一枚咬ませろよ。
ROOであれだけ派手に立ち回ったのに、こっちじゃ地道に削るしかないのが少々つまらなかったんだ」
無事に帰ってこい? 言うわけがないだろう。命を大事に? バカらしい。
命を張るときには『信頼』だけが底にある。望む結果を勝ち取れ、勝ち取らせ、そうした信頼だけをそこに抱け。
「……分かってるか? ここで乗らない女と思ったか」
良い女だ、と改めてルナは笑った。ああ、本当に『だからクセになる』
「ああ、そうだったな。ラダ」
だからこそ、お前の愛するこのラサを、お前が生きるこの場所を、荒すことなど我慢ならない!
「力を貸せ、ソル――!」
兄はどのように笑うか。
掛けていく。ルナの背を押すようにラダが引き金を引いた。
『あと一歩』なら此処に用意した。
「――代償は私が支払う。支払わせろ。ここは私達の国だ。
負けるのは我慢ならない。これだけ砂漠で好き勝手されて、目に物見せずに終われるものかよ!」
その銃弾は―――
成否
成功
状態異常
第3章 第5節
「なあ、テメェはよ。何処に惚れたんだ? あの女の」
戯れ事のように、ハウザー・ヤークはそう言った。ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は唐突の問い掛けに「テメェが恋バナするタチかよ」と笑った。
そんなことを唐突に思い出したのは己が『奇跡の運び手』になると決めたときであったか。
ただ、芯の強い女だ。
美しく、一人で生きていけるその人に焦がれたのだ。
勿論、強要なんざするつもりはない。泥船に乗れと手を引くつもりもない。
ただ――
ただ、『彼女の生きるラサ』がこれ以上汚される事が我慢ならなかった。
「ルナ」
その声音は心地良い。ラダ・ジグリ(p3p000271)を振り返る。彼女は「行かないで」とも「死なないで」とも言わないだろう。
だからこそ最高の女だ。彼女のためなど恩着せがましいことをルナは言わない。
そんなことを言ってみろ、兄貴は何と言うか。莫迦野郎と笑うだろうか。
「ここで乗らない女と思ったか」
ほぅら、見ろよ! 最高の女だろう!
ラダが銃口を定めた。向かう先はベヒーモス。デッカ君と親しむようにЯ・E・D(p3p009532)が呼んだか。
「パンドラは毒だというなら、鱈腹浴びせるんでしょう。歩みを止めるため。束縛してそれから」
それから、ファルカウから『滅び』を剥がす。それはアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)とスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)に任せておこうか。
――今度は独りにはさせない。だって私がいるもの。1000年だって1万年だって、あなたの想いを共にしてみせる。
アレクシアはその決意を胸にした。ファルカウは問うたではないか。『お前は人でなくなる』事が出来るのか。
スティアは、天義で聖女となるべく邁進した乙女は息を呑む。ヴァークライトを支え、人として、聖女として、律し救う立場となる者として――
(それは、人では無く神となるかのような行ないだ。私は、私は――)
アレクシアがもしも選んでしまったならばスティアは、『友人』はどんな顔をすれば良いのか。
リインカーネイションがきらりと光を帯びた。口の悪い元聖女はこれまでの戦いで得てきたものを使えばファルカウから滅びを剥がすことが出来ると言っていたか。
「ねえ、オディール――氷狼の欠片に、それから、その護りの指輪(リインカーネイション)。
それだけではないでしょう。これまで、ずっとずっと戦ってきて、そこで得たものが力になるなら……私達はどうやって使えば良い?」
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は傍らのオディールを撫でた。スティアは「祈りを込めて、奇跡を、『特異運命座標(イレギュラーズ)』として願うだけだよ、きっと」とそう呟いた。
「そうね、ふふ。可笑しな事を聞いた。ファルカウに言葉を届けて、あの人を救わなきゃ」
独りぼっちの寂しがり屋。擦り切れてしまった心を掬いあげるように抱き締めてやらねばならないのだ。
祈る準備は出来た。何だって良い。これまでの自らの手にしたものを、パンドラの蒐集器か、はたまた、これまでの戦いで得た大切な知恵か、記憶か、アイテムか。
それらを遣い、願うのだ。この地に奇跡を。特異なる運命を呼び寄せるように。
「任せておくよ」
「なら、その為にベヒーモスを引き留めなきゃね!」
ユイユ・アペティート(p3p009040)はにこりと微笑んだ。きっと、仲間の声は届くはずだ。
レッド(p3p000395)は悠々と笑みを浮かべて見せた。
「まだ世界は終わっちゃいないし終わらせはしない!
全て白紙にして無かったことにしようなんて諦めるにはまだ早いっすよフォルカウ!!」
魔女ファルカウという女は悪人ではない。だが、善人ではない。その精神は擦り切れて人間ではなく精霊へと昇華した存在だ。
故に、彼女は途方もない時間を大樹として過ごしてきたのだ。そうして、苦しみ抜いたのだ。
混沌は戦に溢れ、夥しい苦しみを抱いただろう。人を信じて人を慈しんだその果てに愛おしい大地が焼かれ、蹂躙され続けた。
愛した巫女の片割れは砂の民の男に拐かされて滅びに召され、森を救うと言葉にされて大地は灰燼と化した。
信じて、信じて、信じて、信じて、裏切られたように。女は、永劫を一人で生きてきて、諦めてしまったのだろう。
「そんなことを言われたって仕方がありませんわ?」
からからと明るく笑ったのはリドニア・アルフェーネ(p3p010574)であった。
「賭け事ってお好み?」
「は?」
ルナはリドニアを見た。明るく笑った彼女の唇は吊り上がる。アレクシアが後ろにいる。彼女の『お兄さん』に「勝ちましたわよ」と武勇伝を聞かせてやる準備は為てきたのだ。
「ひりつくような戦いをしてこそですわ! 生きるか、死ぬか、命はbetしましたもの。奇跡って言うのは、こうやって起こすものですもの――!」
「悪かぁねえな!」
ルナが笑った。
奇跡なんてもの、相当起こるもんじゃない。
だが、都合が良いことが起こらないなんて誰も言ってはいない。
ベヒーモスが呻いた。捕縛魔法陣が更にギュウと締め付けられる。
『ファルカウ』は『ベヒーモス』をコントロールしている。ならば、逆に流し込め――ベヒーモス諸共魔女ファルカウに打撃を与えるようにして。
轟々と獣が叫ぶ。
「ベヒーモス。ああ、ああ、なんてことを!」
ファルカウの姿がぶれた。ベヒーモスから大量の終焉獣が溢れ出す。大きな傷を開いたように見えたのは背中か。
その背がばかりと開いて、黒き獣の内部からどろりと滅びが溢れ出す。
控えるは『騎兵隊』、豊穣・海洋連合軍。行く先は決まっていると言わんばかりに『ギャザリング・キャッスル』も駆け出した。
「わたくしは――わ、わたくしは――」
ファルカウから滅びを引き離し、滅びを打ち払い『呪い』を解く為に。
そして、女のまじないが弱まればこの巨大なる終焉獣の動きを止めることが出来る。
ただ、我武者羅に斃してはならないのだ。この滅びの気配を打ち払わねばならない、消滅させねばならない。
ベヒーモスが歩んだ場所は枯れ果てた。大地は死し、空白へと成り行く。ならば、死骸とてそうであろう。
消え失せた場所は元には戻らない。また緑を植え育てるようにして、大地を肥やさねばならない。
だからこそ、ベヒーモスを『打ち消す』方法を探さねばならないのだ。
彼女が、その切欠になり得るだろうか。魔女、ファルカウ。
オデットは「ファルカウ」と呼んだ。アレクシアは真っ直ぐに見据え、スティアは息を呑む。
彼女はずっと一人だと言っていた。その意味が『長命種』のアレクシアには良く分かる。本当の意味で、永き時を生きるのは一人だ。
ファルカウだってプーレルジールのように様々な人々と出会っただろう。心を汲み交し、友人と呼べる存在にもなったはずだ。
だが、誰も彼もが彼女より早くに息絶える。彼女を置いて行く。
孤独を癒すように大樹に寄り添い精霊となった。それでも、慈しんだ存在は悉くが戦禍に塗れたのだろう。
(……ああ、ファルカウさんは、きっと、何もかもを喪ったんだ。
長く生きるという事は孤独だということ。一人で生きていくという事。出会った全てと別れるという事。
友人も、家族も、大切な存在も、何もかもが死した後、それでも大切な場所だと願った『深緑』は火に塗れ、滅びの使徒との戦場になった。
この人は、イノリも、魔種も、その全ても許しちゃ居ないんだ。だから、全てを消し去ろうとした)
アレクシアは目を伏せる。それでも、掛けた言葉に意味はあっただろう。
もう一押しである事は確かだ。絶望に溢れた彼女の心を解きほぐすのは簡単ではない。一度のみで難しければ何度でも。
「私は、貴女と話を為に来たんだよ」
――そこに希望を見出すために。
蒼穹の魔女の杖先に宿された魔力を、天義の聖女は静かに見詰めながら指輪を握り込んだ。
――わたくしは、魔女。
わたくしなど、歴史から消え失せるはずのものだったのですから。もう二度とは魔女としては知られず、大樹として生きて行くと願ったのに。
――ただの一人、孤独に生きてきたならば。わたくしは、人のしあわせだけを願い続けてきたのです。
なんて傲慢なのでしょう。なんて強欲なのでしょう。なんて、なんて、悪逆なのでしょう。
森をも害し、人をも害し、けだものへと成り果て大地を汚す者達を許して等置けなかった。
許せや、しなかった、わたくしに、希望を与えようとするのですから。
第3章 第6節
●
行く先は決まっている。ばっかりと背を開いたベヒーモス。毀れ落ちてくる終焉獣は地へと触れれば大地を殺すように広がっていく。
「さぁ、私達が露払いをするわ! 魔法陣の方は頼むわよ!」
にんまりと微笑んだのは『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)であった。
鉄帝国で歌うアイドルとして、それだけではない騎兵隊の戦陣を走り抜け勝利の歌声を響かすものとしてレイリーは真っ向から終焉獣を睨め付ける。
周囲には無数の終焉獣達が跋扈しているのだ。なんて在り様だ。それでも良い。
ファルカウと話したいと願う者が居る。魔法陣を支えベヒーモスの打倒のために細工を行なう者が居る。
そう――騎兵隊は。
「全員生存を掲げるわ! 良いわね、此れは好機! ベヒーモスの傷口を更に広げ、ベヒーモス内部に更なる『可能性の弾丸』を撃ち込むの!
お茶会(ティータイム)を楽しむというなら、その邪魔をさせてはいけないわ。明星の目映さを思い知らせてやりなさい!」
『流星の少女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の髪がひらりと舞った。ほら、レイリーが見据えた『旗』何時だって揺れている。
左脚の傷口を内部構造を見据える。得た情報はロックへ、クレカへ伝達すれば良い。魔術師達の知恵を聞き仲間達が更に作戦を立案してくれるはずだ。
「ロック、クレカ、聞こえてるわね! ”直縫い”は私達がする。うまく使って!」
「流星の如き煌めき、君に感謝を」
イーリンは唇を吊り上げた。騎兵隊は下支えもする。剔るが為の刃ともなろう。人馬一体となり、道をこじ開けるためにここまでやってきたのだから。
「レイリー!」
「ええ、行くわ! 私が立っている限り、誰も死なせないから!」
――守る為に。乙女は佇んでいた。
『無職』佐藤 美咲(p3p009818)はと言えばやれやれと肩を竦める。
「あの会合をお茶会と表すのはいいとして、私にその護衛させるのだいぶ皮肉効いてません?」
そうやって笑う美咲に「あら?」とイーリンがわざとらしく笑ってみせる。茶会の席はお似合いよねえ、とカロルの声が聞こえたか。
「そういう所っすよ。まあ、今回はバイプレイヤーでスからね。お姉さんが止めてる間にみんな行きなさいよ。……やめろよ! 30がお姉さんか怪しいって言うのは!!」
慌てた様子で首を振った美咲にカロルがからからと楽しげに笑っている。本当に何処にでも我が物顔で居る元聖女様だと『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は小さく微笑んだ。
美咲の誘導に従うように幾人もが走って行く。魔法陣の保持に注力し、背がばかりと割れたベヒーモスの周囲の終焉獣を薙ぎ払うのだ。
「こっちでは敵の方にも色々事情があるのは分かった。対話も十分以上に有意義だろう。
……対等な対話のためには……俺達に十分な力があることを示してやらねばならんよな?
――騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! 俺たちの力、もう少し見ていってもらうぞ!」
「対話を望むことは悪くは無い。それに、適任者達が『うまくやってくれている』。なら、心置きなく畳みかけるべく進もうか」
雲雀がにんまりと笑えば、エーレン・キリエ(p3p009844)は地を蹴った。鳴神抜刀流――”捉機眼如鷹”。仲間達との機動戦闘、その最中。何も見逃さぬようにと、日々の鍛錬を積み重ねた。その結果が、抜刀する太刀之事始へと乗せられる。
一閃。青年の眸がぎらりと輝いた。色彩は、風の如く脱ぎ捨てた。周辺の獣達を薙ぎ払え。詠蓮の後方より呪術書が光を帯びた。
「ロックさん、クレカさん。無理はしないように」
ロックとクレカを支える事を雲雀はいの一番に考える。2人へと掛かる負担は並大抵のものではないだろう。
「貴方たちが並んでいるのを見ると、あの時ロックさんを助けることができてよかったと改めて思うんだ。
クレカさんがお父さんを喪うことにならなくて、本当によかった。……大事な家族は一緒にいるべきだからね。
俺に手伝えることなら何でもするから、何かあれば遠慮なく言ってね」
おとうさん、と彼女は呼んだ。終焉獣がその身を乗っ取って世界を終焉へと導こうとしていたのだ。
その在り様を思い浮かべてから雲雀は首を振る。彼等はこれから未来に繋がっていくはずなのだ。こんな所で共倒れなど許せるものか――!
「……お話かあ。色々聞いてみたくはあったけど……未練は振り切りそれやったら今、自分のやれる事を」
美しく、彼女は笑うのだろう。深き森の魔女、美しき大樹『ファルカウ』の大精霊。
そう呼ぶべきだ。大精霊とは神霊とも呼ばれる。神の如き所業。つまるところ、『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は彼女が『神様未満にまで祭り上げられた結果』であるとも捉えたか。
神となる事を強要されれば1人になる。誰も己と同じ場所には立ちやしない。そのフィールドはさぞ悍ましく、暗澹たる場所であっただろう。
彼女に言葉を届かせるために、戦うのだ。自らの弓は音立て突き刺さる。終焉獣達の無数を薙ぎ払い、全てを奪い去るように。
「ベヒーモスという名は獣を意味するベヘマーの複数形。どうして一体で複数形なのかは諸説あるけど、なるほど。体内から無数の終焉獣とは、まさしく獣の王だ」
『謳う死神』フロイント ハイン(p3p010570)は唇をつい、と釣り上げた。浄化の光を纏うのは幾重にも術式が込められた白い杖。
無慈悲な死の力を宿し、終焉獣達を狩り取って行く。ほら、あれだけの巨体だ。見上げる程の存在だ。
それでも――だが、血を流している以上は倒せる。殺せる。
「千発打ち込めば倒せると思ってたら、二千発打ち込んでもピンピンしてるのは凄いね。だったら一万発打ち込むまでさ!」
英雄の如く進め。最適化された自らの体を、骨を、砕いたとて構いやしない。
「漸く、本丸までたどり着いたか。露払い、潰れ役上等、もう暫くはデカブツの相手をしてやる……!」
黒き翼が開かれた。宙を駆るようにして『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は進む。
宙空より見定めた終焉獣達に向け叩き込まれて行くのは無数の鉄の星。それは青年の持ち得る力の全てであるように大地を焦がす。
「お前が力尽きるまで何時までかかる? いくらでも付き合ってやるぞ……!」
話が纏まるのが先か、それとも、殺しきるのが先であるか。さてはて、これが時間稼ぎだというならば天晴れだと手を叩くことだろう。
『密偵頭兼誓願伝達業』志屍 瑠璃(p3p000416)は「その様な狡いことはないかと想いますが」と微笑んだ。
「結果的にそうなってしまった、という事の無いように、会談中の周辺の片付け方はお任せ下さい」
あと一押しだというならばその『一押し』の為に尽力し結おう。ロックやクレカを狙う者を抑え続ける。終焉獣のあんぐりと開いた口に押し込んだ刃はそのままその体を分断する。
血潮ではない滅びのアークは液体のように瑠璃の肉体へと被さった。しかし、気に止めることもない。どろり落ちて来たる終焉獣が唸りを上げる。
「このデカブツ終焉獣の集合体だったのか……!?
いや、驚く前に手を動かさねば。ウチの大将や物好きな対話中の連中の邪魔はさせられん。抑え続けて、出来るだけ弱らせる手助けを……!」
「はい! 未来を掴む為に、私はまだ頑張るのです……!」
ティンダロスは『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)に応えてくれるだろう。
天より穿つ掃射と共に『100点満点』Lily Aileen Lane(p3p002187)はやってきた。
騎兵隊として、そして、誰かの希望を胸にして。マカライトは『物好きめ』と仲間を笑って見せた、ああそうだ、こんな戦場で迄、手を伸ばせるもの好きの手伝いをするのだって物好きだ。大将は存外に優しくて、情に篤いからこそ見捨てられまい。
黒き気配、編み込む鎖が大口を開けて終焉獣を飲み干した。なれば、距離を詰めたLilyのスカートがひらりと揺れる。
死の舞踏の如く、振り下ろす。前方を見据えたLilyの背を押すのは補佐する声音。
「攻めろ、攻めろ、機を逃すな! 機を作り出し、活かす者がいつだって勝者なのだ!」
詳らかにしてやれば良い。臓腑も含め丸裸に為て全てを筒抜けにしてやるのだ。
『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)の指示を背に受けて、恭しく一礼したのは『決別せし過去』彼者誰(p3p004449)。
「お茶会に至る道を調え守護するのが執事の務め。道程の装飾はお任せ下さいまし。騎兵隊の名の下、参る!」
仲間を守るべくして立った彼者誰。守られながらも支援を続け、継戦を維持し続けるシャルロッテ。
美しき指揮の調べに耳を寄せて彼者誰は声を上げる。来たるならば来るが良い。来る物を拒むことなく、逃がしもしない。
堂々と、そして恭しくも礼儀正しく。伸ばした背筋を曲げることなく彼者誰は前方を見遣った。
攻めては止まることは無い。背を押すシャルロッテの言う通り、攻撃の手は絶やすことなく――歌声が響いた。
「lily先輩も騎兵隊の皆さんも、凄く活動的だね。世界を救いたいと言う気持ちが伝わってくるよ――それじゃ、微力ながら私も頑張ろう♪」
この世界は誰のためなのか。『サキュバスライム?』ネクタル・S・ライム(p3p006674)はよく知っている。
皆を守る為の刃もその手に握り締めた。癒すため、支える為。それから、騎兵隊の一員として大将の掲げる『誰も喪わない未来』を求める為に。
その為には戦わなくてはならない。此処で膝を付いている場合もない。
ランナーズ・ハイで体が軽い。何処へだって風の如くは知っていける。狼の牙を研ぎ澄まし、『母になった狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)の唇が吊り上がった。
逃げ征く者が居るならば、追い縋れば良い。それが世界を壊すというならば容赦などしておける物か。やる事なんて単純明快。
「このままいくっすよ!」
「頑張ろう! このまま、私達が勝利を掴む為に!」
ウルズは生き残らねばならない。それに、『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)だって挫けては居られぬのだ。
脚に力を込めた。筋が悲鳴を上げた。関係なんてない。自身等がここにいる意味を、示す様にウルズは走る。
風だ。美しき、一陣。続くフォルトゥナリアの希望の光は輝いた。お茶会の時間稼ぎだけではない。『この場を維持する時間稼ぎ』だ。
なんたって――
「レイドボスがコケたらどうするか。簡単である。総攻撃に出るぞ! スタンとハメは戦場の鉄則ゥ! 最高の瞬間火力を出せ英雄共ァ!」
ほら此処で全てを見せ付けるのだ。万年筆が描く未来は『英雄譚』。詰まりは勝利の英雄の姿であるべきだ。
『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は行間の果てへと抵抗をも吹き飛ばすように、強く、強く魔力の流れを示し続けた。
「さぁ一回くらいはトバしとこうぜ。パンドラの加護は『悪魔魔羅』ならず『掠奪稼業』! シャッガンパナして開戦じゃぁい!」
堂々と告げる幸潮の眸がきらりと輝いた。多種なる力が交錯している。その目はそれを逃しはしない。
描く未来を見据えるように『黒のステイルメイト』リースヒース(p3p009207)は目を伏せった。
「ファルカウよ、御身は少々話しすぎた。我々が対話に出て気が逸れる瞬間を狙っていたのやも知れぬが――」
それが勝利への引き金であったならば。この長い戦いで、ベヒーモスを打ち負かすヒント位は賜るべきだ。
彼女は生命をも逸脱するように精霊として顕現した。それが如何した? ああ、そうだ。
『逸脱』為てしまえば、魂は擦り切れる。そんな女にまともな応対を求めてはならなかった筈、なのだ。
それが真っ向から向き合ってくれるとはなんと愉快な在り様か。リースヒースは影をも逃さず、前線を見据え続ける。
『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)の鬨の声と共に、掃射される弾丸が終焉獣を払い除ける。
(このまま事態が動けば――!)
行く先にはネフェルスト。そしてその先にはレガド=イルシオンが存在して居る。人の都、人の夢。
その地に辿り着くことを彼等は許しはしない。旭日は翌々知っている。大将は、旗頭は対話の時間を稼げと言った。
この奇妙なお茶会の行く先を彼女は知っているだろうか? いいや、知らなくたって良いのだ。とびっきりのティータイムはとっておきの驚きばかりを詰め込むべきだ。
「――どうだい、皆。『お茶会』が如何様に転ぶにしたって、かの魔女の度肝を抜いてみるのも悪くなかろう?」
揶揄うように『闇之雲』武器商人(p3p001107)は言った。嫋やかな微笑みはその蠱惑的な唇が紡ぐ言葉によって変化する。
ほうら、見れば良い。魔女をも穿つかのような可能性の弾丸が、彼女の虚を突きベヒーモスの背を開いたのだから。
このまま突き進めば良い。知っている。武器商人は只管に引き寄せた。『天下無双の貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はすらりと引き抜いた一撃で、終焉獣を払い除ける。
「作戦は?」
「ええ、勿論。この楽しげな『お茶会』を続けましょう!」
爛々と紫苑の眸が好機を告げる。シューヴェルトは「了解」と返すのだ。貴族として、幻想を守らねばならぬ。
それ以上に――『イレギュラーズとして世界を守る使命』があるのだ。ラサの砂漠は滅びに面する。だから? この人の立ち入らぬ場所だと諦めないからこそ特異運命座標と呼ぶのではないか!
「改めて、相手さん傷を負えば追う程かえって手数を増やしてくるの面倒ではある。けどもっ!」
兎にも角にも湧き出てくる。それがベヒーモス。獣の王だというならば、全てを払い除ければ良い。
魔神の如く魔力が展開される。強大な魔法陣を前に為て『大空の支配者』メリッカ・ヘクセス(p3p006565)の最大魔力が叩き込まれた。
雷よ。天より降る神の怒りよ。地に叩きつけられるように振り下ろされる死の槌の如くメリッカの魔力が荒れ狂う。
「そうだ。このまま、このままもう少し止まっていて貰う……!」
開かれた背中へと、気の糸がくるりと纏わり付いた。『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)の魔力は精密に、多大なる攻撃よりも秘やかに縫うように。
「はい。ファルカウとのお話……気にならないと言えば嘘になります。
お話に裏がないとは限りませんから。捕縛陣を維持できなくするための時間稼ぎとも限りません」
『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)はオニキスを一瞥する。癒やしの光がベヒーモスの背中から溢れ出す終焉獣の対応に当たる仲間達を支え続ける。
「前線の皆さんや、盾役の方達よりも余裕はあります。今のうちに……!」
「行く先を開くが為――!」
射出された魔力の奔流。オニキスの視線の先には頭を抱えたファルカウと背より終焉獣を溢れ出したベヒーモスの姿があった。
それは未だ健在の滅びの気配だ。背の傷口より溢れ出す終焉獣。
そして、ベヒーモスの眸がぎょろりと特異運命座標を捉えたことを確かにレイリーは、イーリンは見ていた。
成否
成功
状態異常
第3章 第7節
●
背を開いたベヒーモス。その傷口から無数に溢れ出す終焉獣。その姿を双眸に映し『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)は進む。
その場には『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)の姿があった。
「ウルフィンさん」
「まぁ我は死ぬまで死なないがな?」
まあ、と詩織が微笑んだ。死ぬまで死ねない。死ぬつもりがないから死なないのだ。
この命が続く限りウルフィンは詩織を護り続ける。それが彼の第一の目標であるならば、詩織も臆することはない。
「滴が岩に穴を穿つ様に、その巨体を穿ち崩してみせましょう」
――ああ、だって。愛しい人が守ってくれるのだ。
終焉獣が無数に襲い来る。槍に込めた一撃と共に終焉獣を払い除ける。
詩織は死穢を纏わせた髪を操り終焉獣を絡みとる。共にあらば誰よりも強くなれると詩織は知っている。ウルフィンと共にあるならば、愛おしいというそれだけで、何よりも戦う力が湧き上がるのだ。
ウルフィンが詩織の前へと躍り出る。強力な一撃に、続き、肉体への傷など気にする事も無く牙を剥きだした。
「詩織」
「はい、このまま」
進むべき先が決まっているのだから。
――行く先は、何れだけ昏くとも、何時の日か光が差すと『未来を背負う者』劉・紫琳(p3p010462)は知っている。
「琉珂」
「はあい」
カトラリーセットを持った彼女を見れば紫琳は息を呑む。愛おしい人、里を背負って生きるその人。彼女の視線は雄弁だ。「アナタがしたいことをしようよ」と囁きかけてくれるかのようだから。
「少し、ファルカウと話が為たいです。戦わずに済むのであればそうしたいですし、きっと、まだわかり合える余地はあるはずですから」
「ずーりんがそういうなら」
心強いと紫琳は前へ、前へと歩み出た。貴女の言葉を借りる勇気が欲しい。貴女が愛おしいから。琉珂、その名前を呼ぶ度に紫琳の力となった。
「私達も少し前までは外との交流を殆どせず生きてきました。
でも琉珂が開いた扉が、私たちが踏み出した一歩が、多くの繋がりを生みました。
竜種とだって、わかり合うことができました。貴女が過ごしたあまりにも長い時間の中には沢山の悲しみがあったのでしょう。
……でもまだ、踏み出せる余地はあるはずです。貴女にもまだこれから『既知』にできる『未知』があると思いますよ?」
ずっと手探りだった。未知を既知にするのだと走って行く彼女が羨ましかったから。
「――わたくしは、踏み出すことさえ恐ろしくなったのです」
「はい。きっと、そうでしょう」
『ひだまりのまもりびと』メイ・カヴァッツァ(p3p010703)はそっと胸に手を当てた。紫琳と琉珂ならば、喪えど互いがいれば支え合える。
けれど、彼女は沢山の物を喪ってきたのだろう。手を離せば、それは簡単に毀れ落ちてしまうものであっただろうから。
「かたちあるもの、いつかはなくなる」
それは誰だって知っている。知っているからこそ、こうして戦うのだ。真実なんて、見たくない。
そうだろう。知っている。
そうだった。知ってしまった。
「メイは、大切なことを伝えに来ました! メイの愛したこの世界を、いのちを終わらせないで!」
ファルカウの元に走る、走る。メイはそれが相容れないことでも、一笑されることでもよかった。
それでも結局、人間なんてものは言葉をぶつけ合って傷付け合って生きている。癒やし手だから、傷付く人間は山ほど見てきた。
癒やす事が、戦う事になった時、己の脚は竦むことを知らなかった。
「メイたちにできるのは、諦めないことだけかもしれないけれど。続けていけば、奇跡だって起きると思うのですよ。
自分の命も、周りのものの命も。草木や無機物でさえ。……けれど。その終わりを、誰かが決めつけるのは違うです!」
あなたがそうだったように――『精霊』だったメイは言う。
「メイは、ひとがすきです。生きるのは楽しいことばかりじゃない。
戦いだって、なくならない。それでも。微笑みあったときに温かくなった胸。ふかふかお布団の温かさ。頭をなでてくれる手の優しさ」
――ねーさま。
優しい手に、貴女の名前を借り受けて。『メイ・カヴァッツァ』はやってきた。
「メイは人の本来は『善』だと思っているです! ファルカウさんだって、最初はきっとそうだったでしょう……?」
「きっと、話だって出来る。 お話を、しませんか? ほら、私はユーフォニーです。
こっちは今井さん、肩にいる子はドラネコさんのリーちゃん。
滅びに抗おうと世界が纏まっているこの様を見ても、やっぱり滅ぼしたいですか? 黒ステラのように止まれない?」
ファルカウは『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)を見ていた。
「ファルカウさんとでっかくん。なんだかステラと大いなるものみたい。それなら、ファルカウさんも可能性を手にできるのでは? なんて」
「わたくしはあの星の欠片とは違うのです。わたくしは、もう精霊となった。肉体は朽ち、死した存在ともすれば――」
「じゃあ……そう、じゃあ。シェームさんを知っていますか?
焔の嘆き。一度は大樹へと還っていった彼。ついこの前、全剣王さんと一緒に戦ってくれたんです。
滅びに抗うために、私たちと一緒に。焔って、燃やし尽くすだけじゃ無いんです。
焔の暖かさも行き過ぎれば、熱過ぎて誰も触れられなくなる。でも、誰かと手をつなぐための温度に、暖かさって必要なんです」
ユーフォニーが言葉を紡ぐ。ファルカウはシェームと唇に乗せてから切なそうに眉を寄せた。知っている。知らないわけが無い。
何せ彼女は『ファルカウ』だから。あの戦いでも、何時だって、ずっと長い間見てきたのだ。
「あの子が……」
ユーフォニーは気付いてしまった。彼等が、ファルカウにとって愛おしかった彼等が『分り合えた』としても、それはファルカウという女が抱いてくれたからだ。
この女は擦り切れて草臥れた。それだけの長い間を見てきた。シェームやクェイスが憤った通り、彼女だって『そう』なのだ。
「……だからその焔のおまじないも。燃やし尽くすのでは無くて、誰かと手をつなぐためのおまじないに変えてみませんか」
世界にさざめく色彩をユーフォニーは知っている。凪も、時には激情に。黒く、黒く、赤く、赤く。己の全てを解き放つようにして。
「わたくしは――それでも、もう喪うことは恐ろしい。
ひとりきりで、見詰めてきてしまった。だれもわたくしの傍に居ることは出来ないでしょう。わたくしは、守ってやれやできないのに」
「守れない……はい。かなしいのはいやです。くるしいのはいやです。
ファルカウ様はかなしくてくるしいから、滅ぼそうとしているの……?
ファルカウ様のまもりたいものは、それでまもられるの? ファルカウ様とも、一緒に笑っていられたら、それが一番いいのです」
唇を『願い紡ぎ』ニル(p3p009185)は噛み締めた。『おねえちゃん』と共にロックを支え続ける。捕縛の陣は光を帯びる。皆の力がそれを『鎖』として変化させていくから。
「『人類』みたいな大きなくくりになると、ニルはよくわかりません。
ニルは……だいすきなひとたちと、ずっといっしょにいたいです。だから、ここまできたのです」
迷う事なんて、無かったから。そっと手を伸ばしたのは『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)だった。アイオンが「サンディ」と笑い手を振った。
アイツはああやって前に前へと走って行ける。それで――
「……今更来て、どうするつもりなんだろうな、俺。
まぁでも、何もしないよりはきっとマシなはずさ。どっちかと言えば、俺は傍観する側だろうと思う。
まだよく分かってねぇし、特に掛ける言葉もねぇし。多分なんか、過去の行いの中にはまさにファルカウがキレるような奴もそれなりにある気はするし」
小さく笑ってからサンディは「それでもさあ、そうじゃないやつも多いんだよな」と笑った。
「精神力はまぁ、なんだ、これだけ生きても大人になれなかったような男だ、勘弁な」
「いいや、心が若いというのは良い事なんだ。サンディ。だって、これから、もっと沢山を見ていけるだろう」
俺も一緒で良いかなとアイオンが笑うのだ。アイオンも、サンディも、行く先がある。高め合える。だから、彼は眩いのだ。
光のようだと目を細め、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は陣へと集中した。かつての己を降ろすように意識を手繰り寄せる。
(ああ、そうだった――)
ゆるやかにシフォリィは顔を上げた。
「思えば、クェイスも争いあう人々に失望していました。
長い時を経た中で何もかも終わらせたい、その気持ちはわからなくもないです」
記憶がある。朧気な。それが夢かも分からないけれど。彼女の声を聴いたのだ。
彼女も、そしてシフォリィも同じように未来を夢見ている。知っている――その先を。
だって、プーレルジールで顔を合せた彼女だって。
「でも、世界は変わっていっています。『私』が死して、新たな国が生まれて、新しい人が増えたその間に。
また繰り返すかもしれません。それでも、いつか必ず貴女が夢見たその日が来ると私は信じています!」
「わたくしは、信じられなくなったのだもの――!」
ファルカウが頭を抱えて呻いた。『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は静かに独り言ちる。
「永くを生きる生命体は、概ね相応の精神性を備えるもの。
只人の尺度からすれば神の如き、超越性と形容され得るようなその在り方。でなれば、そも己の寿命に魂が耐えられない。故の必然」
アリシスの言葉に黄龍が眉を顰めた。その表情に『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)とて思う事があった。
きっと、『彼』も同じように長く、長く生きてきた。アリシスの言う通り人の尺度からすれば神とも称される。
黄龍や黄泉津瑞神にような存在は神だ。人では無い。それをウォリアはよく知っている。
カロルにドラミングのジェスチャーを響かせれば彼女は笑う。――ほら、彼女は人なのだ。
(彼女は人で、黄龍は神だ。だが、此れまでの遍く絆の終着点がここであるというならば。――有り難う。どうか見守っていてくれ)
ウォリアは、真っ向からファルカウを見詰めていた。火を何よりも嫌う深緑に忌まれ、かつて吹雪の檻を撃ち破る為に我らが呼び覚ました大精霊。
(そして…深緑を包む炎となり、決闘を通じて我が友となった彼が託してくれたその魂の欠片を。
ファルカウの怒りを買うかもしれない、それでも此の場に立ち会うなら共に行かねばならない)
――荒ぶる焔王よ、雄大にして美しき友よ、今こそ魂を一つに。
霊鳥フェニックスの消えない光。共にここまで進んで来たのだ。彼女の憤怒の炎を解きほぐすのならば同じ『炎』であるかもしれない。
(焔荒魂、偉大なる魔女、鏡の少女……かつて友となった達は、今もきっと共に)
幾星霜の時を超えてやってきた。ウォリアは静かにファルカウと名を呼んだ。
「長き時の中で積み重なり、噴出すに至った計り知れぬ悲しみと失望……安易に理解者ぶるつもりは無い。
オマエが言っているのは『事実』、人の業だからな。
それでも、もう一度だけ『今を生きる者達』を信じてはくれないだろうか。
過去は過ぎ去るものだ、だが…語り継がれるものでもある。滅びにて無に帰すのではなく……どうか歩みを止めて……もう少しだけ見守って欲しい」
「わたくしは……わた、くしは……ずっと見守ってきたのです。ああ、だから、それでも、掌から溢れて――!」
それは涙のように見えた。息を呑んだリンツァトルテの傍に『魔法騎士』セララ(p3p000273)が、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が立っている。
「リンツ」
セララは本当に親しい友人に呼び掛けるように優しく笑った。
「リンツ、この聖剣はきっと離れた位置の想いだって集められると思うんだ。剣を天に掲げてこの戦場にある正義、希望、祈り……そういう気持ちをこの聖剣に集めよう。
この戦場にいる友軍からも想いを集められないかな。そうして皆の想いを束ねて重ねよう」
「セララは手伝ってくれるか?」
「うん。当たり前だよ。ざんげから……って思ったけど、それは『お兄さん』との戦いに取っておいて貰おうかなあ。
なら、ボク達はさ、此処に全ての希望を集めるように頑張ろう。どうすればいいかは此れから考える!」
「ぶはははっ! そうさな。此れから考える。その為に如何するか。スティアの嬢ちゃんの指輪か? サクラの嬢ちゃんの刀か?
それとも、カロルの嬢ちゃんか、皆がいるな。思えば『冠位魔種』の打倒には初めて使ったのはリンツ、お前の剣だろ。行けるか?」
ゴリョウに背を押されてからリンツァトルテは息を呑んだ。「先輩」と呼ぶイルを一瞥し「イルの嬢ちゃんは任せて置けよ」と笑うのだ。
「守り切らなくちゃあ、困っちまうだろ? だってほら、嬢ちゃんはメンタルブースターだし?」
「ッ――」
リンツァトルテの戸惑う顔に、笑うゴリョウはこうした瞬間をあの魔女は得られなくなったのだろうとそう感じていた。
ファルカウは1人佇む。何せ、彼女の傍に居るべき存在はもはや『彼女を神様のように扱っている』のだから。
只の人であるべきだった。アリシスはそう思う。そう感じてならないというように眉を顰める。
「ファルカウ様、貴女は情が深すぎた。人ならざる精霊と化しても、その本質は変わっていない。
……精霊になろうとも、結局、貴女の心は未だ人であるという事から離れられてはいないのですね」
「わたくしは、ただの人であるべきだった。ええ、ええ、そうなのです。けれど世界を守るが為であった」
アリシスは眉を顰める。プーレルジールでは溢れた滅びを、世界の瘴気を封じるように為て彼女は眠りに就いていた。
ならば、このファルカウも。元々は誰かを救うための献身であったというならば。
「ファルカウ様、貴女は独りになるべきでは無かった。
そこに苦しみがあろうとも、貴女は人の世に混じって生き続けるべきでした。
森を害し、人を害し、世界を汚す――それは、怒りに呑まれた貴女が今まさに体現しているもの。
それが、人というものの一面。その暗黒面であるのは事実です」
そこまでして献身的に願ったのに――その顛末が此れだというならば、ああ、絶望だってする事だろう。
「ですが……それだけでは無いという事は、貴女も知っている筈です。知っていた、筈です。
大樹として見る世界は、その悪性しか見えなかった事でしょうね。
人の持つ善性と悪性。一定以上の知性を得た生命が背負う宿痾。
道を誤っていると思うなら、見守るのではなくその中に在って糺しなさい。
必ず居る、同じ想いを抱く同志と共にです。それが、群体成らざる個の集合体たる生命の在り方。
貴女も、その一部なのですよ――そして、それは未だ手遅れでもない」
「しかし――」
ファルカウが顔を上げた途端に、眩い光がベヒーモスの傍らより感じられた。
眩すぎるその光は、そう。『殿』一条 夢心地(p3p008344)である。
「ここまできてひっくり返されては叶わぬからの。任せておけい。
クライマックスで多勢を薙ぎ払うのは殿的存在の特権よ。なーーーっはっはっは!
して、魔女じゃったか? 話しはまだまだ続くのならば麿がちょーーーっと時間を稼いでやろう!!」
堂々と夢心地は笑って見せた。
眩いとリンツァトルテのぼやく声がする。アレが希望の光であったなら、其の儘ファルカウの顔面にぶつけたい衝動に襲われたコンフィズリー卿の顔をセララはまじまじと眺めて居る。
「リンツ」
「希望を束ねるために、皆に力を貸してくれって、そう言おう」
彼女は屹度、絶望してしまった。
この世界に。
それは、リンツァトルテ・コンフィズリーが不正義と言われたような。
それは、フォルデルマンが放蕩王と誹られ国民がサーカスに現を抜かすような。
それは、砂蠍と名乗った男達が新天地を目指して志半ばに斃れたその刹那のような。
それは、熱砂の地で巫女が――それは、それは――
「わたくしは、生きていてはいけなかったのでしょう」
アリシスは「いいえ」と首を振った。ファルカウの頬に伝った一筋は、彼女の中にあった善性なのだろう。
成否
成功
第3章 第8節
●
『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)はにんまりと微笑んだ。その快活な琥珀色の瞳が細められた。
魔導蒸気機関搭載巨大火砲は専用のパワードスーツに接続される。
「じゃ、やることは大きく変わらず。露払いは任せておけっすよ。その分魔導技術其の物は取り扱えないんで、拘束はお願いするっすけどね」
唇をつい、と釣り上げたリサはベヒーモスから落ちてくる終焉獣達に目掛け、魔導砲――狙撃を叩き付けていく。
一匹、獣の様な姿をしたそれはあんぐりと口を開け、その口蓋をも吹き飛ばすように弾丸が叩き付けられていく。
「……こういう説得みたいなのって、何度かやってみたけれど。どうにも苦手なのよねぇ……私が本当に人だったら、もっと違ったのかしらね?」
そう呟いたのは『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)だった。
「魔女がなんといおうが。どちらにせよ、貴方達終焉獣はここで始末しないといけない。そうでしょう?」
そう。話す事が出来るのは彼女の心に何らかの楔を打ち込むものなのだろう。ヴァイスは何も理解は出来なかった。
彼女の在り方も、彼女の心の何処が柔らかいのかも。それさえも分からないから――終焉獣達を打ち払う。
「皆が大事なお話をするからお主は大人しくしとりなさい。伏せ!」
まるで仔犬にでも指示するかのようにして『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)は真白き光を放った。
それは前を征く天義騎士達への支援そものもだ。終焉獣を相手にする騎士はイレギュラーズと比べれば脆く、弱い。
彼等を支える『無限円舞』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が居たとて十全ではないはずだ。それだけの力量差が此処にはある。
潮はだからこそ、彼等を支援し支え続けることを選んだ。誰も喪わぬように。疲労した者を救う事こそが必須である。
「全力を尽くしたい者のためにわしも全力を尽くすぞ。その為だ、もう暫く耐えろ!」
「ええ。あと少しで話しは纏まりそうに見えるわ。……別に、本当に取り返しがつかない過ちなんてそう多くないでしょう。天義なんて何年間違っていたのやら」
嘆息する『無限円舞』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)にリンツァトルテが何とも言えぬ表情を浮かべたか。
「あら」
「……まあ、そう、だな……」
「ふふ」
くすくすと笑うアンナにリンツァトルテが罰が悪そうな顔をした。アンナが終焉獣を引き寄せ、天義の聖騎士達が斬り伏せる。
「さあ、我らがコンフィズリー卿の一世一代の大舞台よ!
汚す獣を通してはコンフィズリー隊の名折れだわ! ――そんなわけだから大将、後はよろしくね」
「ッ、ミルフィーユ卿」
本当に彼女は、全てが上手く征くと信じているように告げるのだ。
「リンツ」
にんまりと笑ったのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)だった。
「どうすれば戦場の皆に対して言葉を伝えられるかな。この戦場全体に効果がある物というと……カロルが戦場に展開している聖女の加護に効果を追加できないかなーなんて」
「聖女に?」
「そう。リンツの持っている聖剣に皆の想いを集めたいんだ。正義や希望、祈りといった感情を。
そのために皆の想いを集めるのに協力して貰いたんだ。もちろんボク達にできる事があるなら手伝うよ。どうかな。いける?」
「……俺の剣に集める為に、セララ達が協力してくれたとして、それから、聖女を誰かが支える必要がある」
「うん。それから……山ほどある。此れまでに培ったものなら、力になるはずだから」
リンツァトルテがそう呟けば、その為の『準備』が必要なのだろうと『母になった狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)が駆け出した。
「イーリン先輩! ベヒーモスとやり合うっすか!?」
旗がそうやって揺らめくというならばウルズは声音を響かせ、こっちだと叫ぶ事だろう。仲間達と共に戦場を駆抜ける。
――そうやって、得てきた全てが実を結ぶまで脚を動かし続ける為に。
「こっちへこい、終焉獣! 素敵な後輩が相手っすよ!」
「まだまだ! 頭が動いている以上それと一緒にいる手足が動かないなんて事はない。
手足が誰かって? 自分らに決まっとるやろ。イーリンはんが動くと決めた。ほなついてくだけですよってにー」
揶揄うような声音を響かせたのは『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)だった。
竜を討ち取った時の如く、我武者羅に動けば良い。その弓が、何かを穿つその時を信じるようにして。
仲間達が戦いやすいように場を温めるのだ。これは『準備』だ。栄えある舞台は光の中であるべきなのだから。
「まだまだ! どんどん削りに行くよ!」
戦場では、誰も彼もが手を組んで戦うのだ。狐の式神を駆使する『解き放たれた者』水鏡 藍(p3p011332)の瞳が終焉獣を捕えた。
ベヒーモスから落ち続ける血潮の如き終焉獣。それらがその内部にあるのは獣の王と称される存在その物なのだろう。
仲間達を支える事、そして連携を意識する。藍が顔を上げれば一閃する気配が見えた。
「もう少しくらい動く隙がありそうだな、いいだろう。
乗らせてもらうぞレイリー殿。普段あれだけ守ってもらってるんだ、たまには手伝ったってバチは当たるまい!」
にんまりと笑った『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)の手が刀に添えられた。
ベヒーモスからは絶えず終焉獣が落ち続けている。それらを『削る』事が必須なのだ。ベヒーモスに打撃を与え、大地が無へ化すことなきように支え続ける。
名を呼ばれた『流星の少女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はラムレイと共にあった。そっとクレカの傍に辿り着けば彼女は悪戯めいて笑う。
「ファルカウの茶会に私は興味はない」
つい、と顔を上げたクレカに「そう、興味は無いのよ」と彼女は笑った。これまで見てきたことを、知った事を全て伝えれば魔術の構築に役立つだろう。
「……だからあの怒りを、憎悪を凍らせましょう――そうでしょうニエンテ!」
ニエンテと共にやってきたのだ。氷の気配がイーリンの手にした旗に纏わり付いた。ロックの術式は興味深い、理解出来ない言語体なのはファルカウと同じ古代のまじないに似通った術式を利用するからか。
ニエンテの気配を感じ取る。『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は「イーリン、頼んだ!」と叫んだ。
「レイリー!」
「幸潮、私の命を預けるわよ」
勿論だ、と愛おしいその人が笑う。『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)の筆先は書き示すのだ。
「我が筆先を委ねるぞ、レイリー」
退くことも。戻ることも。倒ることも。屈すことも。止ることも。嘆くことも。死ぬことも。
――許さない。失わせない。
幾らだって喪い続けた。ファルカウの周辺に散らばるようにして焔が暴れ始める。それが彼女の内部から溢れた心の欠片なのだとすれば。
払い除ければ良い。無意識下の抵抗であってもその程度の炎――「我が愛よりも涼しいだろう、レイリー!」
笑う幸潮の言葉をレイリーは聞いていた。
「ご主人様のところに行きたくて仕方がないようだね。
でも話し中に割り込むのは些かマナーがよろしく無い。大人しくしててくれるかな?」
首を振った『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は未だ仲間達の声掛けに呻き頭を抱えたファルカウを一瞥した。
(ファルカウはきっと疲れてしまったのだろう。
今は怒りの炎に灼かれているそうだけど、怒ることすらも疲れているように聞こえる。
彼女に必要なのは休む為の時間なような気がする、でも当然それを待てる状況じゃない。
……けれどもう少し時間があれば理解してくれるかもしれない感じ、かな)
その決定だが何になるかは分からない。けれど『あと少し』でその心の柔らかい部分にまで踏み入れれる可能性があるのだ。
「ならやるべきことは一つ。
図体のでかさなんて知ったこっちゃない――片っ端から足引っ張って引っ掛けて引きずり回して思う存分時間を稼ぐだけさ!」
にんまりと笑った雲雀の傍を駆抜けるようにして『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)は進む。
「司書さまがやるとおっしゃいました。皆さんもまだまだやる気です。なら、ボクはそのお手伝いをします! 決着がつくまで、誰も死なせません……!」
前線で立つウルズを支え、そしてレイリーやイーリンからノルンは視線を離さない。
仲間達を救う為に此処までやってきた。そして、その役割は全てが終るまで続くのだ。
福音の気配。陸鮫と共に行くノルンの視線の先には『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の姿があった。
「終焉獣には邪魔させないよ!」
「はい。このまま最後の舞台を整えます!」
――ファルカウは揺さ振られている。だからこそ、周辺に憤怒の焔がちらりと顔を見せるのだ。
森の怒りの如く、木々は来訪者を怖れ、厭う。『深緑』という国はそれ故に変化を嫌っていた。それがファルカウも同じなのだ。
(このまま――このまま留めなくっちゃ。
ファルカウとの魔術的な繋がりが綻べば、彼女だって解き放たれるかも知れないもの……!)
フォルトゥナリアの傍でくすりと笑う声がした。
「あちこちでファルカウに何か想いを伝えようって動きがあるみたいだね。
せっかくなら、効果的にぶつける手助けをするとしよう。
平和への祈りによって大樹となった魔女であるならば、その祈りを無視することは許されないからね」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)の言う通り、彼女は平和を象徴していたはずだ。
御膳立て。それをするに越したことはない。武器商人はファルカウという女を利用して効率的にベヒーモスに届けられるとさえ感じていた。
彼女の魔術は現代の形態ではない。だからこそ、現代的に叶わぬ事を叶えられる可能性があるのだ。
大樹の魔女。そのまじないを駆使するのは誰か。ニエンテとロージーの力を借りるイーリンとレイリーのようにその怒りを静めることが出来る者も居るはずだ。
そして、各地で束ねられるであろう希望を、そして、奇跡の光を――「さぁて、どう使うべきかな」
「さぁ、来なさい! 寄せ集めの木偶の坊! このヴァイスドラッヘの舞台では貴様はやられ役よ」
動きを止めたベヒーモス。その背中から溢れる終焉獣を受け止め続ける。
「ロージー、彼女の炎が暴れたら。お願い」
尾を揺らすロージー。氷獣とレイリーは共に居る。ファルカウは頭を抱え、苦悩する。
この間だ。この間に責め立てる。ファルカウが怒り焔を溢れさせたならば氷精達がそれを受け止めることだろう。
「レイリー」
「えぇ、怖いわよ! 一歩間違ったら大変なことになる。でもね、幸潮やイーリン、騎兵隊の皆がいる。竜の咆哮(歌)と共に皆を護るわよ!」
「ええ、共に行きましょう」
騎兵隊はベヒーモスと向かい合う。その瞳がぎょろりとレイリーを、そしてイーリンを射るのだ。
「さ、最終戦を始めましょうか」
そうだ。ファルカウを――そして、ベヒーモスを倒し切り『ラサ』を守るのだ。
影の領域から染み出した滅びの気配を、この場で叩き伏せるが為に。
「全ては流転するが世の定め。炎は燃え尽き、やがて灰は緑を萌えさせる。
ファルカウ、叫びは、覚えておこう。だが、そろそろ眠りの時だ。そのためにも、ベヒーモスは止めねばならぬ」
『黒のステイルメイト』リースヒース(p3p009207)は真っ向からファルカウを見詰めていた。
「疲れ果てたときにひとは眠る。一夜の眠りでも、永遠の安らかな眠りでも。ひとに、永遠は長すぎる。精霊からひとになったとき、私はそれを知った。
故にファルカウは……眠らなければいけないのだ。彼女自身のために。御身よりはるかに若い元精霊の感傷やもしれぬ。
それでも、せめて先に続く夢を見て永い眠りについて欲しい。
安心させねばならぬのかもしれんな。そのためにも足掻かねば。ひとは、ここまで出来るのだ、と叫ぶために」
ファルカウは途方もない年月を生きてきた。それが『人から精霊』になったファルカウの疲弊した魂だったのだろう。
魂が擦り切れていくことを精霊であったリースヒースはよく分かって居る。
彼女の疲弊を埋める様にしてベヒーモスが密接に存在して居るならば、まるで医療的オペレーションのように『切除』してしまうべきなのだろう。
「私が誰か、か。医者だ!! 病巣を見に来た!」
声を上げるアストラ・アスター。堂々たる演説を響かせる彼女は終焉獣を撃ち払い続ける。
「偉大なる魔女ファルカウよ。我々は貴方に育まれ。私は追放されて、結果巣立った。
こうして感謝を述べることなどないと思っていた。深緑の民としてお礼申し上げる!
――その我等にどの様な裁定でも受け入れよう。だが私は、貴方から生まれた、医者だ!」
アストラ・アスターは『ファルカウ』に育まれた医者だ。だからこそ、生かすための技術は彼女から得たものだとそう認識していた。
ファルカウなんて、正直なところ『妖精■■として』サイズ(p3p000319)にとってはどうでも良かった。
だが、ファレノプシスを桃源郷から連れ戻すことが目的だ。それは混沌世界では存在しない死者蘇生に当たるのだろう。
ファルカウも、この世界の神さえも無理だと告げたそれ。無理を承知でサイズは願いたいと言葉にするのだ。
「ロックに一生の一度のお願いだ! 俺が死んだら虹の架け橋の改良をしてくれ! 俺が死んだら歪んだ奇跡が消え、最悪が始まる可能性がある!
歪んだ軌跡+虹の架け橋の上位版を作ったお前しか頼めない!」
「……歪んでなんか居ないんだよ、サイズ」
ロックが困った顔をした。サイズは彼を凝視する。一体何を言って居るのか。
「女王ファレノプシスは自らがそうなった。けれど、彼女よりずっと前から続いていた忌むべき呪いは君が解いたのではないのか。
僕は聞いたよ。本来の女王の宿命というのは一つ『短命であること』、 一つ『二度と外の世界を見ることは叶わないこと』だった。そうだろう?
けれど、それはもう過去のこと。
もうその戒めはないんだ。虹の架け橋は繋がっている。君の起こした奇跡がそうしたんだろう。妖精の呪いはもう何処にもないというのに。
……これ以上何を望むんだい? 妖精女王とはあの郷を守り抜く守護者だろう。その在り方に変えたというのに未だ命を擲っていると思うのかい?
女王を取り戻して、その時彼女が起こした軌跡の力を台無しにするというなら……君は、妖精を縛り付けたいだけのようだ」
サイズは唇を噛み締める。死ぬ訳にはいかない。愛した2人を思い浮かべる。それから、木漏れ日の妖精の姿が頭に過った。
「サイズさん」
思わず呻くように『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は呼び掛ける。
「歪んだ奇跡を直したいのは解るが、過去に固執すると今も未来も溢し続けるぞ。
ファルカウさんも職人もそうだけどさ。定命の者が未来に託すのは、それを糧に新たに作ってほしいからなんだよ。……その土壌を、素材を、捨ててやるなよ」
苦しげに呟くイズマの目から見てファルカウとサイズは対照的だ。ファルカウは喪われたものはそのままであると識っているからこそ世界を滅ぼし、サイズは死者を取り戻したいと願っている。
――サイズに奇跡は起こらない。喩え、天に声が届いても『ファレノプシス』は返らず、彼は死するだけなのだから。
「……俺達の人生を貴女の我儘で勝手に白紙にしないでくれ。手を取り合いたいから言葉を交わし、希望を与えるんだ。
……俺はともかく他の人達は、貴女の願いを体現してくれてるよ」
イズマはすう、と息を呑んだ。彼が生きていてくれることは安心できる。けれど。
「見てただけの貴女は今更出てきて、咎められたいのか、許されたいのか?
勝手に見て勝手に失望し、だから壊すって、そんな自己満足の罪で受け入れられると思うなよ。
各々に苦悩を抱えながら生きて、真に世界を作ってきた人々を舐めてるよ。
傍観せず動く。絶望しても足掻く。一人でも。失敗しても。……光はその先にある。
文句は動いてから言え。今からでも遅くないから。見守るだけで成功してくれる物事なんて無いだろうが!」
「いいえ、わたくしは起こされたのです。青年よ。続く争いが、炎の気配がわたくしを叩き起こした。
本来ならば起きるはずではなかったわたくしは起こされ――だからこそ、貴女の言う通り『世界を滅ぼす』のでしょう?」
瞳がぎらりと輝いた。ファルカウは、のうのうと起きたのではなく起こされた。
切欠が深緑で起きた冠位魔種との争いであったとするならば、戦禍の気配が彼女という精霊の形を浮上させた結果なのだろう。
「生きていちゃいけないひとなんて、いないのです! ……かなしいことを言わないで、ニルのコアがぎゅうってなります」
きっと、彼女は大樹と共に眠るように意識さえも消え失せるはずだったのだろう。生きていたから、目覚めてしまったから、大樹の中から『別たれるように姿を見せて仕舞ったから』、彼女は顕現して「生きていない方が良かった」と憂うのだ。
『願い紡ぎ』ニル(p3p009185)はぎゅっと『お姉ちゃん』を握り締める。
「たすけられなかったひと、わかりあえなかったひと、……生きていてほしかったひと、一緒にいてほしかったひと。
たくさんの『かなしい』……ニルはいやなのです。ファルカウ様が『かなしい』のも、いやなのです。
ステラ様たちがくれた希望のカタチ。アレーティアとエイドス……変われるのだとおしえてくれた。手をつなぐことができるんだって、おしえてくれた」
皆がいたのだ。掴めなかったミニミスやレンブランサの手。『おばあちゃん』とだって一緒に居たかった。
ハーミル、マルティーヌ、アドレ、ティリ。彼等彼女等の美味しいやたのしいを知りたかった。祈るように、祈るように言葉を重ねる。
生きて欲しい。彼女は何が好きなのだろう? 彼女は――
「わたくしは……っ」
「……ファルカウさまは、晴さまと少し似ています、ね。
掌から零れ落ちて、喪われていくものばかり、で、諦めて、怯えて、見ないようにして……残るのは絶望ばかり」
『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は小さく笑った。愛おしいその人だってそうやって喪われることが恐ろしくて手を繋いでさえくれなかった。
けれど、彼に教えて上げたくなったのだ。世界は美しくって、広くって、それから、楽しい場所なのだと。
「ずっと人々を見守ってきたファルカウさまも救われなくちゃ、ダメなの、です。
精霊になったって、ファルカウさまは、この世界に生きる『命』、だから。……ファルカウさま、どうか……わたし達と、共に」
「わたくしは、いいえ……もう、わたくしは狂ってしまった……!」
けれど――瑞さま、と尚呼んだ。穢れを祓い、生まれ変わった大好きで大切な神様。彼女の加護がメイメイを包み込む。
「……賀澄さまこそ、その加護を一番に得ている御方。呪いを祓う力には……ならないでしょう、か」
「為すなら、手伝おう。俺に出来るだろうか」
「貴方様なら、屹度」
『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)はぽつりと呟いた。
母は強すぎた。愛した者を全て見送って、行き着く果てが神様だったのだ。最強の生物を作り、先に死なない存在を作りたい。
それは孤独と愛憎の結果であったのだろう。
(……この魔女のおねーさんの話を聞いていて、ふと、そんな事を思い出した。でも「似てる」って事は同じじゃないって事だ。
このおねーさんの絶望は、なるほど。このおねーさんだけの物なのだろう。義理堅い事だ。
それは、おねーさんが背負ってきたモノの重さでもあるのだろうからな)
愛無はにんまりと笑って見せた。わざとらしい、こういう時は笑うのだと水夜子が言ったから『そうしてみた』だけだ。笑った顔の作り方なんて知らないから、笑えていないかも知れない。でも、彼女の真似をしただけだ。
「ところで、その帽子、素敵だね」
ほら、笑顔でコミュニケーションするのである。
そんな愛無にファルカウが驚いた様子で足を止める。
「うん。こみゅにけーしょんでおねーさんの絶望に軽々しく踏込まない。初対面だしな。
だから、じっくりこみゅにゅけーしょんを始めよう。おねーさんの事を聞かせてくれたまえ。好きな色とか。好きな音楽とか。
因みに僕は赤が好きだ。
100年でも。一万年でも。幸い僕は人間じゃないからな。意外と長生きしても平気かもしれない。神様をしてみるのも悪くなさそうだ。
それに、殺し合うのが常の戦場で、おねーさんを殺したくないっていう子が、これだけ沢山いるのも、この世界の縮図みたいで面白いと思わないかね」
そんな風に言った愛無に「どうして、なのでしょうね」とファルカウが心の底からぽつりと漏した。
(ファルカウと会話したい奴は結構いるみたいだし!
――なら俺はベヒーモスから溢れた終焉獣に虹星C³で斬りつけ対応しつつ、声ぐらいは届けよう!)
ぎゅうと拳を固めた『つばさ』零・K・メルヴィル(p3p000277)は「ファルカウ!」とその名を呼んだ。
「お前の長い間全て、何を感じたかまでは心から理解は流石に無理だ! それでも、失う事が嫌だって事は理解できる!
俺には愛する人が居る、長命の嫁が。俺も失いたくはない! だから俺達は滅びに抗っている!
失いたくないからあらゆる可能性を目指した! 諦めずにずっと!
もしファルカウ! 失うのが嫌なら……笑い合える未来を掴む為の手伝いだって出来るかもしれない!
何よりそれを望んでる奴らが、お前と話してた奴にいっぱい居ただろう!?」
零を虚ろな目で見詰めたファルカウは「奥方を残して逝ってしまうのですね」とそう言った。零が唇を噛み締める。
「Bちゃんもそうでした。ブリギットおばあちゃんも北で眠る事になりました。
キャロちゃんは人として生きる事が出来るようになりましたけど……他にも助けられなかった命は沢山あります」
独り言ちてから『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)はぎゅっと拳を固めた。傍に立っているカロルは「おまえって、ほんと」と呆れた表情を浮かべる。
「キャロちゃん、やっぱり私もファルカウの事ぶち生き残らせる事にしたよ。もう沢山なんですよ……魔種だからって殺さないといけないなんて!」
彼女は魔種でなくても、滅びの使徒だ。据える可能性はあるだろうか、手を伸ばせる可能性はあるだろうか。
「キャロちゃん、何かファルカウを人として転生とか……させられないかな?
希望を与えて滅びを辞めたとしても、これからも大切な人を失い続ける事には変わらないよね。そうであれば定命の人間として転生した方が良いのかな?」
「きっと定命の方がいいでしょうけれど、私は輪廻転生を信じてはいないの」
カロルは爽やかに言い放った。ルル家は悩ましげに考える。自らが世界より与えられた贈り物。それは心を通わせた人と傍に居られる灯火だ。
それをファルカウに手渡せば――? いいや、それは『お姉ちゃん』や『Bちゃん』とのお別れだ。
(うん、Bちゃんは『本当に莫迦なやつ』って言うだろうし、お姉ちゃんだって笑って呉れるかも知れない。
もう二度とBちゃんの声を聞けなくなるのは嫌だけど……それでもBちゃんはきっとずっと傍にいてくれると思うから)
カロルはルル家を見てから「おまえばかりが喪わないように、そうしなさいよ」とそれっきり言ってのけた。
成否
成功
第3章 第9節
●
「そろそろ大詰め。たぶん、もうすぐ総攻撃が始まる。でも、その前にデッカ君に”勝つ”方法を見つけないと」
そう呟く『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)はファルカウの滅びがベヒーモスに取り憑いていることにも気付いた。
そうして密接にリンクしている。ファルカウがベヒーモスを制御しているのだろう。
(もしファルカウから滅びが分離されたならば、それを斃せばベヒーモスだって。
……けれど、その肉体が地に倒れたら? きっと、無と化して、滅びの海となる。
なら、ファルカウの知っている術式を、私達が希望の形に変えてベヒーモスを消滅さえなくちゃならない……?)
Я・E・Dが悩ましげに呟けば「相変わらずなのね。愛を持って殴って来なさいな」と誰かがそう言った。
『赤々靴』レッド(p3p000395)はにんまりと笑う。
「でも、しかし、恐ろしい、哀しい、信じられない、無理……とか、もうほんっとそう諦めちゃうにはまだ早いっす!
世界もファルカウも!
この世界での過去の想い出やこの先の未来への願いや祈り、この世界とボクらの『可能性』てヤツを見せてやろう」
だから、希望を集めるべく声を掛けた。レッドの声音に、顔を上げる者が居る。
「おお、まさか!」
そんな風に笑ったのは『援軍』が増えたからだ。
あの背を押すために。皆、力を貸して欲しい。今、ここに希望という光を差すために。
(可能性の弾丸が、状況を変えてくれた。僕にも希望を見せてくれた、だから……!)
あのわからずやは苦しんでいる。『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は心を癒すために進むのだ。
僅かにでも良い。傷を癒やしたい。諦めずに済むように。此処に1人ではないと知って欲しい。
「僕はファルカウさんの心を全てわかる訳じゃないし、きっとさっきまでは難しかった。でも……今だからこそ、癒したいんだ。
僕も可能性を信じたくなった。諦めたくないって思った。だから……!」
ファルカウを見詰める祝音の前に、癒やしの風が吹いた。火鈴は、小さな彼女は「ばか」と拗ねたように言うのだろう。
(えへへ、火鈴さん、帰ったら何をしようか。待っていてね。あと、少しなんだ。
諦めかけた僕がこうするのも、虫のいい話かもしれないけど、彼女の心は未だ傷ついている。
僕等を信じてもらう為。僕の全てを賭けて、ファルカウさんの心を、癒します……みゃー!)
生きて居なければ、誰かが死んで救っては彼女は1人になって終う。祝音はそう実感していた。
「烈火の如き憤りも慈しむ愛も、同時に存在していて、結局根は一緒。
滅びを引き離すとして、それ以外の部分のファルカウにも栄養、希望っての与えなきゃ、株分けもうまくいかんでしょう」
『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は小さく笑った。ああ、だって――
「俺はねぇ、少し前にやっと長年の恋実らせてんすよ。だからまだあの方と一緒に生きたいし、それにきっといつか生まれる子供だって見たい。
ちなみにグラオ・クローネに、ですね。
俺が知ったのはほんの数年前ですが、かの御伽噺の元になった方は、あなたと関わりの深い方だったとかなんとか。
ファルカウ……あなたも、これから生まれるであろう子供たちを、かの方がいた世界の続きを、見たくはないんすか?」
「あの子は、もう疾うに」
「ええ。だから、俺達を見守れば良い。違いますか?」
ファルカウの周囲に焔が溢れ出す。ほら、それが『彼女と滅び』を分離するかのような在り方なのだ。
「優しいファルカウ様。貴女に言いたい事があるんです。貴女を救う言葉にはならないかもだけど……お話しませんか? 言いたかったの」
胸に手を当てて『遠い約束』星影 向日葵(p3p008750)は微笑んだ。
「ドゥマさんの死を惜しんでくれて有難う。私が言う事ではないかも、でもあの人と私、似てるなと思ったから嬉しかった。
……本当は生きてて欲しかったよ。自己憎悪への救いが死としても、生きていれば可能性はあったはずなのに」
ロザリエイルと呼ばれた女に希望を与えて、彼女はより深い絶望に落ちたのだろうか。
あっけらかんと笑って「わたくし、手伝いに来ましたわ」なんて言いにくるだろうか。その手を引けば、きっと彼女は此処へとやってきてくれる。
(ううん、ロザリエイルさんは屹度前を向くんだ。そうやって、皆がいるから)
向日葵は彼女の事が少し分かって仕舞うのだ。
「大切な誰かが死んで、それを正義だって自分以外が笑ってたら絶望するよ。きっと貴女はずっとそんな状態だったんでしょう?
ねぇファルカウ様――手を伸ばしてくれませんか?
私達は永遠に生きられない。けれど貴女の手を取り、その疲れ切った体を優しく受け止め、その擦り切れた心を休ませ癒やす」
もしも向日葵が死んだら? きっと、生きていてくれる誰かがいる。そうやって大樹は守られてきたのだ。
ファルカウはそんなことまでも忘れる程の怒りに飲み込まれていたのだ。
「どうか1人で抱えた全て、その重さを私達にも背負わせて頂けませんか?」
この世界には沢山の人が居る。彼女のことを信奉する者も、慈しむ者も山のように居るのだ。
(「神」として造られ、「人」として生きる。
――黄龍と絆を結び本当の意味で始まった己の旅路、聖女に我武者羅にぶつかってようやく見えてきた回り道。
双方の道を歩んだからこそ、皆に見守られて来た混沌の旅はたくさんのものをオレに与えてくれた)
『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)は沢山の縁を紡いできた。混沌で、神だったウォリアが人になったのだ。
「この旅路へと『ファルカウ』も加わって欲しい。長き時より生まれた、全てを焼き払う滅びの焔ではない。
――もう一度、彼女の心に希望の『炎』を灯すのだ。
絶望の闇を払い……もう一度この世界を、『今』を信じてもらうために。オレは何度でもその歩みに立ち向かおう」
ウォリアはまるで友人に声を掛けるように優しく言った。まるで、はじめの頃の自分では想像も付かぬような、人らしい声音で。
「だからそんな顔で泣くなよ。全てを諦めて、生きていてはいけなかったなんて言うなよ。
オマエと友になる為に、その心を救うために……何度でも、詞を紡ごう!」
大人になれば、友達になる方法だって忘れてしまうのだ。
これが特異運命座標のウォリアの宣告なのだ。
優しく、慈しみ深い彼女の涙を拭おう。一方的な誓いで構わない。――ウォリアは彼女を諦める事は無いのだから!
だから、彼女の涙を拭うが為に諦める事を知らない。ただ、邁進するのみだ。
(ファルカウは世界を守りたかっただけなのに、長い年月と滅びの気配が逆方向に走らせてる。
ベルゼーも魔種として生まれたばっかりにそう生きるしかなかった)
はあ、と息を吐いてから『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は唇を吊り上げた。まるで悪戯っこのように。
「琉珂、決めたぜ。今この瞬間の滅びを退けるだけじゃなく、魔種というルールをぶっ壊すってな」
「え、良いわね!」
師匠と嬉しそうに琉珂が笑う。魔種という存在が消え去るか、滅びを拭い去るか、そうであったとて生きて行けるように。
「それだけで平和になるわけじゃねえけど……自分が自分として生きていける世界になるだろう。
手伝ってくれよな。ハッピーエンドで締めくくろうぜ。まずは眼の前のわからず屋の説得からだ」
分からず屋だ。だからこそ、「悩む必要も苦しむ必要もねえ」とルカは真っ向からファルカウへと告げるのだ。
「俺達は今までお前が見てきた奴らとは決定的に違う。わかるな?
俺達はお前と話をした。そしてお前を助けたいと思ってる。お前に力を貸したいと、お前に幸せになって欲しいと思ってるんだ。
お前は今まで人を守ってきた。人はお前に甘えてきたんだろう。でもこれからは俺達がお前を守る」
武器なんて必要は無い。ルカはそっと近付いた。ゆっくりとした足取りで。
――あなたの怒りの炎は、きっと、あなたが生きてきた結果だったのだろう。
「黒ステラといいファルカウさんといい、拗らせの極みですね……そうなってしまった経緯は理解しますが」
肩を竦めてから『竜域の娘』ユーフォニー(p3p010323)は笑って見せた。
ステラとは違う。見守って居たステラと、その場を繋いできたファルカウ。ファルカウが居たからこそシェームが居たのかもしれない。
「シェームさんと出会え、分り合えました。私、あなたのことまだ全然知りませんけど、それには感謝を。
ありがとうございます、ファルカウさん
だから、一言だけ、良いですか? 生きていてはいけなかった……それは、生きていたいの裏返しに聞こえました」
此れからも皆を見詰め、永らえたい。そう言っているのだろうか。ユーフォニーにはそう聞こえてならなかった。
「喪うことを無くすことはできません。物はいつか壊れるし、命にだって終わりがある。
けれど終わりがあるから、瞬間瞬間を大切にできる。永遠だったら、大切に思うことを後回しにできてしまう」
――だから、生きたいと、ただ、その一言だけを告げてくれれば良いのだ。
「……一応言っておきますが、故意に終わらせることは違いますからね?
ここにいるみんなはあなたに守ってもらいたいわけじゃ無いと思います。
寄り添い理解しようとしたり、思いをまっすぐに伝えてくるひとたちは、たぶん、分かち合いたいんだと。
みんなの手を取ることは、やっぱり出来ませんか?」
ユーフォニーは微笑んでから「ところでもしみんなの手を取ってくれるなら、でっかくんの対応は一緒に考えたいのですが。呼び起こしてただ討伐って、理不尽だと思うので」と付け加えた。
黙ったままのファルカウは「わたくしは、喪い疲れたのです」とせせら笑う。だから、全て終わりにするなんて、なんて理不尽であろうか。
(すごい、ベヒーモスが……! でも……何とかするには、まだ必要なものがある。その為にも抑え続ける……!)
ごくり、と息を呑んだ『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はロックとクレカを支える様に構築された魔法陣を見詰めていた。
「二人とも、まだ大丈夫!? こっちで受け持てる部分があれば受け持つよ……!」
魔法陣が壊れてしまわぬようにと補佐する。その間にファルカウの心を解きほぐすことが出来れば御の字なのだ。
彼女だって膝に猫を乗せて穏やかな時間を過ごせたはずだ。世界が平和だったならば――? 望まれて、大樹の精霊とならなければ。
彼女は喪うことが多すぎたのだ。それ故に、こうして言葉を連ねている。何れだけ飾ったって駄々を捏ねた子供の様に聞こえてしまうけれど。
「ファルカウは……大切な子等を信じて天寿を全うして、新芽に、新たな世代に任せたほうが良かったのかも。でも……今ここにいるから、会えたんだね」
その怒りが炎となる前に。大それた野望が叶う前に、彼女を救いたい。
(ワールドイーターみたいにファルカウを喰らおうとする可能性だってある……だから、彼女を守らなくちゃ……!)
ヨゾラはベヒーモスへの警戒をも怠ることはなかった。ベヒーモスはファルカウと密接にリンクしている。ファルカウへの対処が直接ベヒーモスに繋がっていると『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)はよく知っていたのだ。
「生きていていいかどうか…….それはきっと誰にも決められるものではない。
例え誰に決められたとしても、私達は今この世界で生きているのだから。
私達がするべきは、生きていていいかどうかを決めることではない。
どうすれば互いに傷つけあうことなく、共に生きていくことが出来るか考え、今を全力で生き抜いていくことだ。
――そうして想いを次の生命へと託し、遠い未来まで繋いでいく。いつか、その願いに届くその日を夢見て」
あの時、ベルゼー・グラトニオスとてそうだった。
「だから、生きていてはいけなかったと自分を否定するのではなく、その生命を遠い未来まで繋いでいってほしいと思う。
まぁ、意味や理由など無くても犠牲にせずに済むなら、そうしたいというだけなのだがな」
ベルゼーだって生きていたかっただろう。ゲオルグは救いたいと願った人が居た。
この混沌にやってきて手放したものは沢山存在して居る。それ故に、今のゲオルグにとって、かけがえのないすべてが手に入ったのだ。
「きっとお前が守り続けた世界には痛みも悲しみも沢山溢れていたのだろう。
それでも、長い間この混沌を守り続けてくれたことに感謝する……だからもう、1人で背負わなくてもいいのではないか?
ここから先は、混沌に生きる命全てで背負っていくべきだと私は思う」
「1人――」
1人という言葉に、『魔女の剱』シラス(p3p004421)が顔を上げた。ああ、『連れて行かないで欲しい』なんて、口が裂けても言えやしない。
「ずっと考えてきたんだよ……人は死んだらどこに行くんだろうって。
何もかも消えて無くなればいいと思っていた。過去を振り切って自由になる。痛みも弱さも及ばない場所を目指して躍起になった」
――母さん。シラスの唇が音もなく呼んだ。
それなのに自分の中に積もっていくのだ。兄の声、拳骨の痛み、夕暮で抱き締めてくれた暖かさ。
母の眼差しに、病んでいく姿、血のぬめり。朦朧として笑っているあの歌声。
(幾つもの戦いを超えた仲間たち、あいつらの最期、胸を刺す何か――この手で息の根を止めた敵、哀れみも憎しみも。
全てが今の俺をつくってる。息づいているのを確かに感じる。
記憶の果てに忘れしまっても消えることはないと信じられる。これが命でなければなんだっていうんだ!)
君が、居た。
シラスという少年を作り上げた要素に、誰もがいた。
「皆が死んでいなくなったみたいに言うなよッ!
関わってきたもの全ての声が今も生きているはずだぜ。
俺はあんたやアレクシアとは違う。直ぐに朽ちていく人間だ。大樹になる気持ちなんて解からないかも知れない。
それでも俺は消えやしない、ずっと手を繋ぐと誓った。迷い悩むときは側に立って彼女が何者なのか教えてやる。千年でも一万年でも!
あんたの中でもきっと誰かの願いが叫んでる――耳を澄ませてくれよ!」
シラス君。
君が、俺に教えてくれるから。
俺だって、君の側に居たいんだ。
――君は歩みを止めやしないから。俺は、君の背中だけを見ている。
(ファルカウさんは何年独りで生きてきたんだろう。リュミエさんよりずっと前からだろうから、きっと1000年を超えるんだろうな。
……大切な人はみんないなくなって、それでも守りたかったものは争いを繰り返して傷つけ合う。
それを1000年以上の間見ることしか出来なかった。そんな人にたかだか20年程度しか生きていない私が言える事があるの?)
ぎゅっと、拳を固めて『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は息を吐いた。
何も解らないけれど。大切な全てを憎んで、其れ等を消し去ってしまおうとするなんて、屹度苦しい事なのだ。
止めなくちゃ。止めるなら、彼女が幸せになって欲しい。長い時間を生きるというのはサクラにとっても、難しいことなのだ。
(ずっと考えていた事がある。私はスティアちゃんよりずっと先に死ぬ。……残されるスティアちゃんの事が心配だった。
だからいつか生まれる私の子供達がずっとスティアちゃんの傍にいてくれたら……と思っていた。
今はルルちゃんがいてくれるからその心配は随分減ったけど、ただ生き残るだけじゃ駄目だ。
傍にいてくれる人が必要なんだ、あるいは逆に人間や幻想種と同等の寿命の者に転生するか)
――ずっと、心配していた。遺される人は、どうやって、生きていくのだろう。
「ファルカウ。見守リシ者ヨ。溢レ落チタ命ヲ嘆キシ者ヨ。
ソレコソガ君ガ 散ッタ命ヘト成シ得テ来タコトナノダ。
数多ノ死ヲ看取リ 悼ミ続ケ忘レナイ。争イノ絶エナカッタ世界デ。君ハ既ニ死ヲ救イ続ケテキタノダ」
滅びと分離するならば、彼女を救いたかった。命を嘆くならば『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)にとってそれは救うべき人だ。
志は屹度同じなのだ。幾重もの夜を越え、幾重もの苦しみを越えただろう。
幾重に彼は進んで来たのだろう。どうやって、その苦しみを越えることが出来るのだろう。
――あの頃に、戻れるならば。
そうやって苦しみ喘いだ人が居る。
「……ファルカウ。てめえはどうやらつくづくオレをムカつかせるみてえだなあ!
永くを生きた。出会いと別れを繰り返した。愛し愛された母なる存在の行き着く果てがこのザマだと!?
認めてやれるわけねえだろうがあああ! 何度だって言ってやる! てめえかーさんのことを知っててんなこと言ってやがるのか!?
巫山戯んじゃねえ! そういうやつはな、報われねえといけねえんだよ! てめえの思い通りになんてさせてやるか。その諦観を、ぶっ飛ばす!」
奥歯を噛み締めた。『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が唇を噛む。
バカみたいな程に、飛び込んでしまえば良い。
『かーさん』の愛は大きいのだ。独りぼっちでちっぽけで、佇んでいる儚い存在だ。『かーさん』なら、きっと抱き締めてくれるのだ。
母の愛を抱いた牡丹は手を伸ばす。
何度だって。
大切な、大切な愛を抱えていける。
――まだだ。まだ、これっきりじゃない。
「ッ――まずファルカウ、貴女1つ勘違いしてるわ。『クェイス』……アイツの存在を知らないと言わせない。
愛した者は全て先に逝ってしまった? 今まではそうかも知れない。でも此れからは違うでしょう?」
拳を固めて『約束の果てへ』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)は叫んだ。
「狂っても尚、貴女の愛だけは変わらなかった子供が居る! 貴女と共にずっと生きられるアイツが眠っている間に全部決めつけないでよ!
私ね。アイツが目覚めたら、沢山思い出を作りたいの、何億回思い出しても色褪せず、思い出したら思わず。毎回笑いだしてしまうのをね!」
「――それは、あの子を人にしたいと言うことですか」
ファルカウの瞳が僅かに焔の色を増した。セチアは息を呑む。
「いいえ。いいえ、ファルカウ。……ねぇファルカウ、貴女の中の思い出はもう色褪せてしまった?
貴女の中で生きている人は貴女を取り戻す力にならない? もう無意味なの? 私はずっとアイツと繋がっていたいと願っている」
彼から借りた力は彼に返したかったけれど――母親を救えない方がきっと後悔するではないか。
「私は欲張りなの。アイツと生きたいし、アイツの笑顔も取りこぼしたくない。だから貴女を救うわ、ファルカウ!」
セチアの手にした『ファルカウの祝福』が光を帯びる。
背を押されるようにして、『鏡花の矛』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はファルカウを睨め付けた。
「ね、ファルカウ。私はあなたにも幸せになって欲しい。世界を滅ぼして新しくしたってそこにファルカウ自身の幸せはないじゃない?
誰かの幸せと誰かの幸せは必ずしも一致はしない、争いはそこから起こるのかもしれない……でも、幸せを目指すことを諦めたら終わりじゃない」
ただ、争うだけであったならばオディールはいない。オディールは『氷狼』を封じ、その欠片を力にしたのだ。
皆で紡いだ縁がある。無数の縁が、その場にあるのだ。
不幸な縁だってあった。
大事な仲間を喪ってきた。それでも不幸ではないのだから。
「……ファルカウと会話をする機会が与えられるというのなら、俺達も行こう。
マナセ、君も彼女に伝えたい事はあるのではないか? 例え、別の世界のファルカウであるにせよ彼女は、何時かの未来の彼女なのだから」
「あるわ」
ねえ、とポメ太郎を抱き締めるマナセに『戦輝刃』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は頷いた。
小さな少女と共にある。手を握り締めるようにして、マナセは大切な友人と此処まで来た。
「ファルカウさん! 戦いが終わって、仲良くできる様になったらですね!
おいしいごはんがたべられます! ピクニックだって楽しいですよ! お話しするのだって、きっと楽しい筈です!
ファルカウさんは、おかあさんなんですよね? だったら、いなくなったら子供はさみしいと思います!
おかあさんにいらないって言われるのも泣いちゃいます! だからきっとずっとがいいです!
ね、マナセさん! みんな、楽しいのが良いですよね! ダメですか?!」
「ねえ、ファルカウ! わんこのほうが希望に溢れて凄い利口よ!?」
マナセ、とベネディクトが笑った。ああ、そうだ。彼女は悲観的なのだ。
『擦り切れてしまった』魂は耐えきることも出来やしない。もう人では無いのだ。精霊だ。ただの人では無くなったクセに、人のような心を保ってしまっていた。
「ファルカウよ、俺達は未来に残すのであれば希望の英雄譚が良い。
……例え絶望に落ちようとも、それでも足掻いて最後には未来に希望を持てるような物語を残したいんだ。
その為に、勝手ながら貴女は救われるべきだと思う。この戦場に居る、殆ど全ての皆がそう思って居るだろう。自分勝手で、我儘だ」
それでもいいだろう。彼女が他の誰でもない。自分の愛しい人達の為にあったからこそだ。
愛しい木々と共に眠る。優しい心を抱いたその人に。
「……アレクシア様。もし、私がいなくなったら、ライアム様によろしく伝えておいてください。私は、私の赴くままに英雄であったと」
『歩く災厄の罪を背負って』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は駆けた。
どれだけの力をbetしたって、リンクが途切れていない。命をそのまますべてbetしてしまえば、きっと――
「元々ただの人間の私に、1000年も待てる訳ない。どっちみち起きるまで待てないのですよ。逝く時が今か、未来かに変わるだけ。
だとしたら、私は今を選びたい。全力の全力を尽くした今を味わいたい!
煌めけバロックナイツ。私に二度、奇跡を起こしてみせろ! この拳は、命の分だけクソ痛いんですのよッ!」
ライアムが、見えた気がした。
ねえ、ライアム様。あなた、死んだら怒りそうですものね。
ええ、ええ、貴方が直ぐに目覚めるというなら――『起きていてやっても良いかもしれませんけれど』
『困った人だなあ』
リドニアは彼の声を聴いた気がして顔を上げる。
「起きようとしてるなら、ちょっとタイミングが悪いですわよ!」
『神殺し』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は小さく笑った。そうやって、この旅路には沢山の人達がいたのだ。
「ファルカウはずっとひとりだったんだね。きみは、そうやって苦しんできた。
世界を滅ぼそうとしたのも君が優しさから一人で決めたからでしょ……?
でも、ぼくたちは不可能と思われたことを可能にしてきた。
ここにいるルルだって本当は『傲慢』といっしょに死ぬと思われてたのがなんとかできたし!
魔女のブリギットおばあちゃんは知ってる……? あの人ともわかりあえることができた。
だから、ぼくたちを信じて、君が絶望したこの世界をなんとかしてみせる」
まるで、王子様のようにリュコスは声を掛けた。シンデレラは硝子の靴をぶん投げてくるが、そんなのどうでも良いのだ。
受け止めてやれば良い。無数の焔が顕現する。パンドラの可能性の灯火を胸に『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)は駆けた。
「ファルカウさん。貴女は全てを滅ぼして白紙にすることを罪と言った。幸せの為なら自分がそれを被ろうと。
ですが、罪と言うからには、本当はしてはいけないと思っている……いえ、やりたくないと思っているのではありませんか?
擦り切れてしまったと言うけれど。ほんの少しの欠片でも、まだ信じて居てくれている心が残っているのではないでしょうか。
人が人を人とする。人間に近いというか、人間なのでは?」
彼女が人であったから、そうやって苦しんでいるのではないかとさえ思えたのだ。
目に見える物は目に見えない物で出来ている。目に見えない物は目に見える物で出来ている。
人との関わりで生まれたものは消えやしない。プーレルジールでマナセに魔法を託した彼女も、マナセがチェレンチィを愛おしそうに呼ぶのだって。
「諦めるのはまだちょっとだけ早いのではありませんか?」
希望は、極光の許に降る。
奇跡は、鮮やかな焔となり得る。
『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は彼女が嫌いだ。
胡桃はファルカウにとって忌むべき存在だ。焔そのものだ。だけれど、それを否定する事は無かった。
「世界が終わるまで走り続けて、助かったならばハッピーエンドで、ダメだったらそれはそれとして全部燃やし尽くしてしまえばいいと思っているの。
きっと、わたしは自分の為だけに生きてきて、そなたは他人の為だけに生きてきたのね。
だからこそ、皆がそなたの事を愛し、助けたいと願っているのよ」
――ならば。
「そなたが最早滅びの炎を使いたくないというのであれば、わたしという炎が代わりにそなたの滅びを燃やすの
あぁ、本当に、本当に!! そなたの事が大っ嫌いよ、わたし。
何が悲しくて奇跡を願って、滅びを分離して燃やす事を願わねばならぬのかと思うのだけれども」
大っ嫌い。
だって、あなたが『炎を嫌う』のに。
「きっと、わたし自身ファルカウを燃やさずにはいられないのね。
皆の願いを、そこに束ねるのであれば、こういう事になるの――わたしは、こうしたいの」
エゴだった。
胡桃やチェレンチィの奇跡の光が舞い落ちる。
ファルカウより分離した炎が激しさを増していく。
「オディール!!!」
フローズヴィトニルの欠片である子犬が吠える。オデットの声を聴きながら『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は指輪に光を灯した。
「ファルカウさん! 確かに人間は長くは生きられないけど、それでも世代を重ねながらずっとに傍にいる事はできるんじゃない?
少なくてもここにいる人達が子供達に紡いでいけば大丈夫だよね!
それぞれの国に強い影響力を持つ人だっているし、聖女の私やルルちゃんだっている――各地で語り継ぐ人だっていっぱい!」
だから、あなたは苦しむ必要なんてない。
諦めてしまうのは恐ろしい事だ。
天義という国で生きてきた。
あの国は諦観の側に居た。けれど、歩き出したではないか。
「希望を持とう。滅ぼそうって思ったのだって1人で考えて出した結論でしょ?
皆で相談して物事を考えた方がきっと上手くいくんじゃないかな?
それにこの場には不可能を可能にしてきた特異点がいっぱいいるんだから! できない事なんてないはずだよ!」
己は特異運命座標だ。
天義の聖女は、ただ、幸福だけを願っている。
「ルルちゃん!!!」
もしも、もし。
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が人を止めたら?
(ううん、それでもいいんだ。尊重する。シラス君は、まあ、それで良いよって言うんだろうな。きっと、優しいもんね。
――けれどね、もし長命になってからアレクシアさんが寂しいなって思うなら私も長命になる方法を探せばいいだけだしね!
ルルちゃんなら何か知ってるかもしれないし、竜種の人達やどこかに便利な遺物とかあるかもしれない!
だから悔いのない選択をして貰えたら良いなって思う。私は友人としてその背中を押すんだ)
希望も、期待も。『100点満点』Lily Aileen Lane(p3p002187)は持ってきたのだ。
「私は、希望を握り締めています。希望を貰ったんです」
あの人は、美しく逝ったあの人は。
「多くを見、数多を織った霊樹……それはファルカウさんなのです。そして、今やっている事は……この『希望』を否定しているのです。
私は皆と未来を観たい。その中に、永い刻を歩んだファルカウさんも居て欲しい。
生きとし生けるものは絶対に間違いを犯す。だけど間違いを正せるのも生きとし生けるものしか出来ないのです
死んだらそこで終わりなのです。私はファルカウさんが悪者のままで終わって欲しくないのです!」
きっと、このままだと苦しくなってしまう。
彼女が――ミーナが歩めなかった未来を、彼女に歩んで欲しい。
手を取って。生きて。死なないで。
『生きる事を諦めないで居て』
「ねえ、ファルカウさん」
アレクシアの記憶は欠落していく。それでも、彼女は思い出を語るのだ。
「ファルカウさん、思い出して。
確かにきっとあなたは想像もできないほどの別れを、喪失を、苦しみを味わってきたんでしょう。
でも、同じくらいに……ううん、それ以上に喜ばしい出会いも楽しみもあったはず。
失うということはあまりにも鮮烈だから、どうしてもそればかり数えてしまうけれど……その前にあったさいわいを忘れてはいけないんだ」
彼女は記憶を失って、不出来な奇跡の結末にその身を置いている。それでも。
「嬉しいことが、幸せなことがあったから、誰かにもそれを少しばかり分けてあげたい。
そんな気持ちが連なって、きっと世界が少しずつでも希望に満ちていくのだから。
『擦り切れてしまった』あなたに必要なのは破壊じゃない……もう一度幸せを、本当のあなたを取り戻すための癒やしだよ」
「わたくしは、どうしたって……」
「寂しいなら、代りが欲しいのなら、それであなたが救えるのなら、なってみせよう!
その為に『人をやめる』必要があるなら手放しましょう! 『ヒーロー』はみんなを救ってこそ! 例外なんてありはしない!」
強い人なのだとシラスは息を呑んだ。
人になったって彼女は、眠って何ていてくれない。屹度沢山の場所へと旅に出る。
――ファルカウが呻いた。
無数の炎が散らばっていく。その中で、青年が笑うのだ。そう、『真実穿つ銀弾』クロバ・フユツキ(p3p000145)がにいと唇を吊り上げた。
「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぞファルカウ。
お前が絶望による終焉を謳うなら、俺達はあくまで明日の希望を叫ぶまでのこと。いつかの夢が呪いの棘となるのなら、俺はそれを払うだけだ」
呪いの棘の様に、全てが蝕み隠してしまうと言うならば。クロバ・フユツキはそれをも払い除けよう。
青年は進む。
そう、行って語れるほどに大層な理想なんてない。日和見主義でも平和主義でもない。
だが、クロバ・フユツキは、平和なんて有り得ないと知っていても一笑してみせるのだ。
――だからどうした、と。
「悲しい事はいくらでもある、それでも。
憎しみと優しさはいつの時代も消えていなかった。それが俺達が生きている理由だとそう思うんだ、優しき魔女」
「わたくしは、耐えきれなくなったのです!」
「喪うことが恐ろしい? 構いやしない。苦しいから滅ぼす? ああ、それも結構だ!
お前がどのような事を言ったって俺は意見を曲げない。人一人ができる事なんてたかが知れている、それは真実だ」
クロバ・フユツキという青年は強欲だ。
「だが、希望や優しさの灯は集まり闇を照らす光(かのうせい)にだってなりえる。
俺はそれを繋ぐ為の弾丸にだってなってみせる。
だからファルカウ、お前がこの世や呪いに苦しむというのなら――可能性を、お前やリュミエに示し続ける」
バカみたいに強欲になって、バカみたいに、実直になって――バカみたいに、手を伸ばす。
我武者羅に手を伸ばせば届くと青年は知っているからだ。
ルカ・ガンビーノという青年は「おい、色男、いくぜ」とクロバの背を叩く。
「俺は、待ってるなんてガラじゃあないんだ」
勢い良くファルカウの腕を引っ張った。
「喪うことは恐ろしいのです」
「ああ、そうだろう。だが、俺達が居る」
「苦しみなど、忘れたいのです」
「忘れたいなら楽しい事で満たせば良いだろ? 見て見ろよ、弟子なんて『師匠』って団扇振ってるぜ」
「わた、くしは――わたッ――あ、ああ―――ッ――――ああ、わたくしは――――!!!!」
炎の気配が、周囲を包み込んだ。
魔女から分離した滅びの化身が鮮やかな焔のように湧き上がる。
魔女の体が宙空から落ちてくることに気付きクロバは手を伸ばした。
「ったく……困ったお姫様ばかりの国だな、深緑っていうのは」
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。
●作戦目標
・『ベヒーモス』の完全停止
・『古代の魔女』ファルカウの無力化or撃破
●重要な備考
(1)当ラリーはベヒーモスが『幻想王国』に辿り着いた時点で時間切れとなり、失敗判定となります。
(2)皆さんは<終焉のクロニクル>系ラリーのどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
(3)二章以降は各章の第一節に個別成功条件が掲載されています。確認を行なって下さい。
●参加の注意事項
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は選択肢にて『同行有』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
・プレイング失効に関して
進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。
・エネミー&味方状況について
シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時(第一章)の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。
・章進行について
不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
(正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
また、『古代の魔女』は現在の魔術形態と違ったまじないを駆使する為に何らかの『まじない』を付与される可能性もございます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●フィールド
ラサの南部砂漠コンシレラ。後方には影の領域が、そして南方には覇竜領域がございます。
進行方向は幻想王国です。其の儘歩いて行けばラサのネフェルストも踏み潰されてしまいます。
(商人達は幻想へと避難済み、傭兵達は援軍となります。また、深緑は木がざわめき閉鎖状態にも等しいようです)
巨躯を誇る終焉の獣は移動を行っており、皆さんはダメージを与えることでその移動を遅らせることが第一目標となります。
第一目標を達成した時点で状況は変化し、終焉の獣をその場に止めての撃滅作戦が行われます。
終焉獣ベヒーモスが通り過ぎた後は更地になります。オアシスの水は涸れ果て、砂さえもなくなり滅びの気配が広がります。
つまり影の領域を広げている、といった印象です。ただし、『影の領域の効果』がベヒーモス周辺では漂うため以下の『パンドラの加護』を利用可能です。
・『パンドラ』の加護
このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。
また、フィールド上には滅びの種がばら撒かれ、滅石花と呼ばれる花が咲き誇ります。
・滅びへの種
成長することで魔法樹となります。滅石花を咲かせます。
その成長の大元はパンドラや大地そのもの支える魔素的なものです。大地のマナを吸いあげて、滅びの魔法樹を育てております。
種が数個ばら撒かれていますが、攻撃を加えることで成長が止まります。
●エネミー
・『終焉の獣』ベヒーモス
終焉(ラスト・ラスト)より現れた終焉獣(ラグナヴァイス)の親玉に当たります。
天を衝くほどに巨大な肉体を持った悍ましき存在です。世界の終焉を告げるそれはただ、滅びを齎すだけの存在となって居ます。
【データ】
・非常に巨大な生物になります。飛行していない状況だと『足』のみが戦闘部位です。踏み潰されないように注意して行動して下さい。
・『飛行』を行った場合でも『脚』までしか届きません。ダメージ蓄積により膝を突くことでその他部位を狙えそうです。
【ステータス】
不明です(第一章時点)
・『古代の魔女』ファルカウ
大樹ファルカウと同じ名を冠する魔女。大樹がまだ名を持たなかった頃に、彼女は平安なる世界を維持し、滅びを濾過する事を目的に『まじない』を用いて眠りに着きました。
その際に利用されたのが『Frauenglas』というまじないです。
『あなたの上に天は立つ。全ては極光の元に』との碑文と共に世界には祝福を齎しますが、来たる罪の裁定を行なうかの如く『滅びが溢れた際に』はその祝福の代償のように呪いが顕現します。罪ある者は岩となり一輪の花を咲かせて崩れ落ちる病と化すのです。
現在のファルカウは『大樹ファルカウの精霊的化身』と呼ぶべきでしょう。人では無くなり、今は古代より生きる精霊その物です。
外の情報はポイボスの若木を通してみてきました。本当に、この世界は戦で溢れすぎたのです。
ファルカウは『樹』であるため、己が生きていれば新たな命を産み出す事が出来ます。だからこそ全てをまっさらにしても構わないとの考えです。
焔のまじないを利用する事は判明していますが、その他の細かな戦闘方法は不明です。
意思疎通は出来ますが、意思の疎通が可能なだけです。説得などが難しいのは確かです。
何せ、彼女は「世界が戦乱に溢れすぎた」事を起こっています。Bad End 8の一人ですが、他の誰かの意思にしたがっているわけではなく、全てをまっさらにさえすれば戦という手段を選んだものがいなくなるからこそ、平穏を取り戻し培っていけると考えて居るのです。詰まり、皆さんはファルカウの敵なのです。たとえ、同胞であったって。
・終焉獣(ラグナヴァイス)
ベヒーモスを好み、それに付き従う終焉獣たちです。空から、そして大地から、様々な終焉獣が存在して居ます。
ベヒーモスに付き従いますが後述のエトムートの指示にも従います。
・『枯蝕の魔女』エヴァンズ
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)さんが幼い頃に出会った魔女。
『魔女の魔法(エヴァンズ・キス)』と呼ばれた奇病を発生させる事で知られる精霊です。
人の体に深く種を埋めるということ。種は芽吹き、寄生主の体に巣食い魔力を吸い揚げます。魔力欠乏症となった幼子は其の儘死に至ることも多いのです。
その逸話の通り、エヴァンズは『魔力を吸い揚げる』力に長けています。その能力的に後方からの魔法支援に長けていそうです。
・『??の魔女』ルグドゥース
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。御伽噺にも残らなかった娘です。
能力は不明ですが、動きなどを見ていれば情報を奪う力に長けているのでしょうか。前衛で動き回っています。
・『不毀の軍勢』エトムート
エトムートと名乗る白い仮面のエネミーです。青年……にも見えますが機械染みたフォルムをしています。
長身を屈めておりだらりと腕を降ろしています。ベヒーモスが幻想を蹂躙した後は鉄帝国に連れていこうと考えて居るようです。
後方支援タイプです。指揮官としては優秀です、あまり鉄帝国らしくはありません。
・魔女の使い魔(精霊)
・滅石花の騎士
ファルカウの魔法陣から作り出されて飛び込んでくる敵です。意思の疎通が可能な個体も多く居ます。
●味方NPC
当ラリーでは友軍が存在します。関係者を指定し同行も可能です。
・天義聖騎士団より友軍であるリンツァトルテ・コンフィズリー【聖剣】、イル・フロッタ等、騎士達
・豊穣海洋連合軍(海洋軍人、霞帝始めとする豊穣援軍、建葉・晴明 (p3n000180)や黄龍 (p3n000192)。
コンテュール家は補給要員です)
・ラサ傭兵団(ハウザー・ヤーク『凶』やイルナス・フィンナ『レナヴィスカ』、イヴ・ファルベ (p3n000206)など)
・フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)、澄原 水夜子 (p3n000214)と澄原 晴陽 (p3n000216)(救護要員)
・珱・琉珂 (p3n000246)、カロル・ルゥーロルゥー (p3n000336)(ファルカウぶん殴るぜ隊)
・マナセ・セレーナ・ムーンキー (p3n000356)、アイオン (p3n000357)
※ロック (p3n000362)はクレカ (p3n000118)と何かを準備しています。
★カロル及びフランツェルによって戦場の重傷率が一時的に低下しています。
聖女の加護:元遂行者であった少女の竜の心臓が僅かに影響を及ぼしています。聖竜アレフを知る者が存在するとその効果は高まります。
大樹の加護:フランツェルを通して巫女リュミエの加護が戦場に広がっています。幻想種の重傷率低下と回復スキルの効能上昇。
====第一章での特記====
●第一章目標
・ベヒーモスに出来る限りのダメージを与える事
エネミーデータ、味方NPCについては上述された情報を参考にしてください。
また、各種データの補強などは戦闘中に行なわれます。
行動人数
以下の選択肢でいずれかをお選びください。迷子防止です。
【1】同行者なし
お一人での参加です。チームを組んでいない場合は此方を選んでください。
誰とも話したくない(強い意志があり、他の方に構っていられない)場合はその旨をプレイングにて表記ください。
【2】同行者あり
複数人のグループにて参加する場合の選択肢です。
プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
※チーム人数はリーダーとなる方のみで構いません。迷子防止です。
1~2名のズレは対応しますが、人数が揃ったと見做した時点で出発しますので追加には対応しかねる場合がございます。
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