シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>アドーニスの園にて
完了
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オープニング
●『behemoth』
それは万物を狂わす不吉の象徴。この世に存在してはならぬ狂気の象徴。
跫音は遠離ることはなく。ゆるやかな仕草でそれは立ち上がった。
地を見下ろす窪んだ眼窩には何も嵌まることはなく。暗澹たる闇ばかりが溢れていた。
澄んだ肉体は臓腑の一つも存在して居ないことも物語る。
だが、それはけだものであった。今より大地を食らい尽くすけだもの。
終焉の地(ラスト・ラスト)より至る、厄災の象徴。その名を『終焉獣』ベヒーモス。
醜悪なるは人の心か、それともけだものそのものか。
生まれ落ちたことには意味があるだろうか。空虚なる己の行く先は定まらぬまま、のっそりと脚を動かした。
天を衝くその肉体より溢れ、溢れたのは滅びの気配。
その足下には死を歌う花が咲き乱れ、周囲を溶かし行く。
終わりの時間がやってきた。一度全て屠らねば、アドーニスの園は回帰はせぬ。
――地を、世界を蹂躙し、死を宣告す。
●アドーニスの園にて
死する肉体が大地へと打ち棄てられたならば、その死骸より新しい芽を摘むだろう。
死とは輪廻の巡りそのものである。穢れ狂った世からの離脱し、新たなる楽園を築くが為なのだ。
見よ、世界のあらましを。
争いに満ち溢れ、地は灰燼に塗れたではないか。
ひとの命も、樹木さえも、全て燃え広がれば灰へと化した。風は疾くも全てを攫い行く。
愛しき大地に残された蹂躙の後は、なんと苦しいものであったか。
魔女ファルカウにとっての苦悩は大樹の中より見据えた世界そのものであった。
星々の歌声が地を叩く光景も、さめざめと泣いた空の慟哭が地に決して忘れ得ぬ穴を穿ったことさえも。
鉄帝国に高く聳えた塔はかの男の自尊心そのものか。憂いを抱いた男は自身の居城へ退いたと聞いた。
乾いた風の中に佇んだあの少女は、きっと同じだったのだ。だからと言ってその全てを許容は出来ぬ。
軽やかに笑う男は世界をシステムだと告げたか。0と1でしかなかったならば、人はどうして思考できるか。
霊脈を辿り、瞼を押し上げた神は獣の如く、全てを呑み伏すであろう。ならば、その命を辿り、自らの糧にすることも吝かではあるまい。
魔女は一人、佇んだ。
戦乱に塗れた世界には終焉を。
全てを塗り替える黒いインクは悍ましき死の象徴ではあるが、その中でもただの一つだけの芽が残れば『もう一度』を取り戻せる。
枯れた大地に命を振る舞い、新たなる箱庭を作り上げようではないか。
何度だって試行すればよい。争いのない世界が欲しい。ただ、同胞(いとしご)が穏やかに過ごす日々の中にあればよい。
世界は不出来なパッチワークだ。無数を飲み食らい、人の進歩のように歩みを止めぬこの世界は悍ましい程の悪食だ。
故に、世界は、継ぎ接ぎだらけになったのではないか。
――もう一度、もう一度。
子供をあやすように女は言った。
穏やかな声音は甘ったるいホイップクリームのように、喉に絡みつく。
饒舌であった女の若草色の眸は炎に染まり上げられて、怒りの声音はバタークリームのようにべたりとスポンジケーキに広がったのみだ。
それでも、指先だけは幼い赤子に触れるように穏やかであった。慈しみと悲しみの滲んだ指先がそっと滅びのけだものを撫でる。
――わたくしたちは、罪を背負って生きている。わたくし一人で良いならばすべての咎を背負いましょう。
国を守る為ならば、世界を守る為ならば、殺す事も厭わぬと言うならば、わたくしたちは皆同じでしょう。
争うことが間違いなのです。抗わねば生きて行けぬと言うならば、その様な世界でなくして仕舞えば良いでしょう。
そう願って同胞達と共に過ごした。大樹ファルカウは、ただ、その場に存在して居たが、それだけでは無かった。
愛しい同胞達を守る為に、森を見守ってきた。世界など、己には如何することも出来なかった。
何の力も無いただのおんなであったのだから。
伝承の世界で、おんなが用いた魔法は言の葉のひとつひとつに魔力を編み込ませた精密なものであった。
それこそ、シルクのハンカチーフで包むように柔らかに。羽根の一つを毟り取りテーブルに落とすような軽やかさで。
精密に編み込んだ魔法で作り上げたのは大樹ファルカウという『象徴』の生誕に他ならぬ。
――祝福を。どうか、祝福を。わたくしの祈りと願いは光となって降り注ぐ。
あなたが頂きに立つときに、極光は全てを晒すことでしょう。
わたくしの眠りが目覚めぬ限り、全ての不和は引き受けましょう。
ただ、わたくしが目覚めてしまえば、抱き続けた不和は溢れ落ち、あなたの罪を裁定する事でしょう。
けれど、怖れないで。石となり、岩へと化し、一輪の花へと成り果てようとも。
わたくしは、その種を手に、あらたな場所へと連れて行くことでしょう。
戦乱に溢れたこの世から、死と慟哭に溢れたこの世から、わたくしは全てを攫っていくことでしょう。
ファルカウというおんなは全てを知っている。
見てきた。
見たからこそ、目覚めたくは無かったのだ。
いつかの日、まじないが解けてしまえば、己は世界を恨んでしまう。
どうして起きてしまったのか。目覚めることがなければ同胞達を、世界の全てを愛していられたのに。
目覚めの気配が嘲笑う。
――あなたも、そうだったのでしょう、ベヒーモス?
世界を一度終らせよう。
そうして、もう一度を繰返すのだ。
この世界は戦に溢れすぎた。全てを終らし、『大罪人』の咎を背負うのは一人だけで良い。
そうなる覚悟は疾うに出来てしまっていたのだから。
●
「成程」
豊穣郷よりやってきた『霞帝』は作戦概要を確認してから頷いた。その護衛役たる中務卿と加護を与える神霊は静かに耳を傾けている。
心配そうな顔をするメイメイ・ルー(p3p004460)に建葉・晴明は仕方あるまいと首を振った。にまにまと笑う霞帝に水天宮 妙見子(p3p010644)も拳骨を浴びせたい心地だ。
「帝さんは大丈夫なのだわ?」
「大丈夫だよ、章姫」
それならいいけれどと心配そうに告げる章姫を腕に抱く黒影 鬼灯(p3p007949)は「章殿には心配を掛けないでくれ」と眉を吊り上げる。
「吾が守る。安心するが良い」
「黄龍も無理はしないで」
「ああ、安心せよ。吾は油断はせぬよ」
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)に穏やかに微笑む黄龍にウォリア(p3p001789)は無理はしてくれるなと言い含めた。
「それで、作戦は此処からか」
静かに告げたは新道 風牙(p3p005012)である。彼女にとってもこの場所は印象深い――美しき夢の都『ネフェルスト』。
この地を拠点としていたが、ラサ傭兵商会連合はこれより、南西へと向かい影の領域に程近い場所から作戦を遂行するという。
「指示は?」
「こっちがやる。テメェらは従え」
鼻先をすんと鳴らしたハウザー・ヤークに「失礼な物言いではダメですよ」と注意するのはイルナス・フィンナその人だ。
何時もならば小金井・正純(p3p008000)やラダ・ジグリ(p3p000271)にヘルプを求めるイヴ・ファルベは「あれって大丈夫かな」と呟いた。
「まあ、大丈夫だろ。奴さん穏健だろうからな」
何気なくそう言うルナ・ファ・ディール(p3p009526)にそれならいいけれどとイヴは呟く。
「それで、そちらは?」
問うたラダにイヴは慌てた様子で手を挙げる。
「あ、あ、クォ・ヴァディスも影の領域での掃討をしてる。覇竜観測所は竜種や亜竜の動向に注意をしてるみたい」と見てきた全て報告した。
「巨大な終焉獣に亜竜達は怯えているわ。暴れ出さないようにフリアノンでも対処を行うことにしているの。
竜種は、協力仰いでいる。出来る限り各所で協力してくれるとは思うのだけれど――」
どうなるかは定かではないと琉珂は告げた。竜種と人間では大きく違いがある。竜種にとって人間などちっぽけな羽虫同然だ。
故に、友誼を結んだと言えども竜の戯れに過ぎぬ可能性はあるのだ。琉珂は「竜種達も、屹度来るはず」と静かに告げる。
劉・紫琳(p3p010462)は「琉珂」と呼び掛けた。
「危険は承知の上、ですね?」
「勿論よ、ずーりん」
にんまりと笑う琉珂に「琉珂様が言うなら仕方ありませんね~?」とヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)は朗らかに笑う。
竜に関連した事柄には経験がないが、竜とは巨大で物語では語られる強大な存在だと霞帝とて知っていた。
「それだけ、危機迫る状態なのだな?」
「そうであろう事は明らか。現状は此処に集まっていますが、何かしらがあれば各地に援軍派遣がもう一度為される可能性もあります。
それに、此処に戻れぬ可能性も。……出来る限り周辺の敵を排除し、あのけだものの動きを止めるべきでしょう」
静かに告げたのはリンツァトルテ・コンフィズリーであった。その腰にはコンフィズリーの聖剣と呼ばれる剣が存在して居る。
「あのけだものって、でっかくん?」
問うたセララ(p3p000273)にリンツァトルテは頷いた。神妙な表情を浮かべたのはサクラ(p3p005004)である。
「でも、巨大すぎない? 称賛は?」
「ある、とは言えない。だが――R.O.Oという観測システムにおいては、このけだものを観測した中で、脚を攻撃し動きを止めさせたらしい」
「なるほど……、幸か不幸か、あのけだものは影の領域を広げているらしい。つまり、イレギュラーズならば太刀打ちできる可能性が広がるね」
リンツァトルテは察しよいサクラに頷いた。
「援軍は周辺の相当とあのけだものの動きを止める手助けをすればよい」
「……! パンドラの加護……!」
イル・フロッタは息を呑んだ。パンドラの加護は、すなわち、此れまでの『可能性』による強大なる力の発露だ。
イレギュラーズの姿も変容するかも知れないが、それならば、勝利の芽がないとは言い切れまい。
「じゃ、凄い力を使って貰えば良いって訳ね? それで、あのデカブツに膝を付かせる。
そうしたら魔女も降りてくるから舞台に引き摺り出して、ボコせばいいってこと。実に簡単だわ」
「カ、カロル」
慌てた様子のイルに『元遂行者』である聖女カロル・ルゥーロルゥーは「私、相棒と聖女として此処に派遣されてきたから」とさらりと告げた。
カロルは我儘を申し入れ本来ならば国から離れられない聖女の立場であっても、救国の為にとこの地にまでやってきた。
カロルに勢い良く肩を掴まれたのは相棒ことスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)である。
聖女として『相棒の聖女』とこの場で戦ってみせるのだと胸を張る。「面白いですねえ」と微笑む澄原水夜子と、情報を確認しながら練達との連携――R.O.Oシステムでの解析だ――を行なう澄原晴陽は「接敵しなくてはこれ以上の情報は分かりませんね」と呟く。
「晴陽、無理は」
「貴方こそ」
國定 天川(p3p010201)を見上げて笑う晴陽に「姉さん、生き残ったら私、ご褒美が欲しいですね~?」と水夜子は笑う。
「貴女は死んでも死にきれないでしょう」
「ええ、だって、死ぬためのエスコートが多いのですもの」
にこにこと笑う水夜子の視線の先には恋屍・愛無(p3p007296)とミザリィ・メルヒェン(p3p010073)が居た。
「みゃーこ、澄原先生はR.O.Oの情報解析ですか?」
問うたミザリィに水夜子は頷く。自身は出来うる限りの露払いを行なうつもりなのだ。
「なら、さっさと行きましょう」
「カロル、危ないわ」
「行かなくちゃ、あれは歩いてくるわよ。一歩もでかいでしょ」
カロルが指差せばマナセ・セレーナ・ムーンキーは「うぐぐ」と呟いた。確かにそうだ。あれは巨大すぎる。
「え、恐いわよね、どうしよう?」
振り向いたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の腕の中でポメ太郎が「無理しないでください」と言った。
「アレクシアがぶん殴るとかどうかな!?」
「マナセ君って私のことそんなに恐ろしい存在だと思っているの?」
「あ、あれくし……うむ……? 何だかアレクシアってパンドラでもアークでもない要素が出てるって聞いた」
「誰から!?」
驚くアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に夢見 ルル家(p3p000016)は「まあまあ」と諫めた。
「一先ずキャロちゃんが走り出しちゃいそうなんですが、勇者側から意見はあります?」
「止めないと、カロルは普通に殴りに行くよ。莫迦だから」
「莫迦じゃないですー!」
拗ねるカロルに楊枝 茄子子(p3p008356)は「いや、莫迦だよ」と小さく笑った。
その問に答えたのは赤毛の青年であった。
「……ロックが……いや、イレギュラーズが救ってくれた異界『プーレルジール』の元魔王だったイルドゼギアが、あれが膝を付いたならば一時的に動きを止めるための魔法陣を作ってくれている」
勇者アイオン――彼もプーレルジールの存在であり本物のアイオンではない――は静かに言った。
カロルは「じゃ、私も聖女の加護ってのでイレギュラーズの重傷率を出来る限り下げてやるわ、出来る限りね」とさらりと言ってのける。
「何か、面白いわね。おまえの国は神様が暴走してイレギュラーズに救われて?
おまえの国は、おまえのオジサンが暴れ回ったけれど恐かった竜と和解して?
それで、お前は? 暴れ回った精霊を鎮めたら命を貰ったって?
で、勇者のおまえたちの世界はイレギュラーズに救われた。この私だって、本来死ぬはずだったのにあのお人好しに救われた。
なんか、恩返しみたいなもんじゃない。いいわね、やりましょ。
あいつらみたいなお人好しの為なら、死んでも良い位に戦えるでしょ? ね、魔法使い」
「え、ええ! そうよ。わたしたち、本当なら死んでるはずだったもの。この人達のためなら、戦える。
……いこう! とりあえず『ぶんなぐれば』いいんだものね!」
「そうよ、『ぶんなぐる』わよ!」
話は早いと言いたげな元聖女と『伝承』の魔法使いにアイオンはやれやれと肩を竦めてから「行こうか」とあなたを振り返った。
- <終焉のクロニクル>アドーニスの園にて完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2024年04月24日 22時00分
- 章数4章
- 総採用数478人
- 参加費50RC
第4章
第4章 第1節
憤怒の炎は、魔女より分離し湧き上がった。
呼応するようにベヒーモスが唸る。囂々と地をも揺らすその声音に思わず目を瞠ったのは『鏡花の矛』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)であったか。
「オディール……!」
この場に居る『氷の狼』はオディールだけではない。
嘗て冠位憤怒との戦いで姿を顕現させていたフローズヴィトニル、その欠片達。
隊を率いる『流星の少女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は精霊ニエンテの力を借り受け、その側を駆る『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)の連れたロージーが唸りを上げた。
――氷の狼たちのその力を束ねれば、あの焔をも打ち消すことが出来るだろうか。
「さて、どうする? 勿論止まらないわよね」
「ええ、勿論よ! 『騎兵隊』の行くべき道は定まっているのだもの!」
騎兵隊。その名を唇に乗せてから『100点満点』Lily Aileen Lane(p3p002187)は「希望」と告げる。
新たな世界を見る為に。
(私は……希望を貰った。あの人に、ミーナさんに……!)
志半ばだっただろう。けれど、彼女は見果てぬ蒼穹を、その希望の剣に束ねて空を駆った。
彼女と共に、見たい明日があるのだから。
「ファルカウさん……!」
呼び掛ければ、魔女の唇が戦慄いた。
ベヒーモスはファルカウと密接にリンクしている。けれど、それが『滅び』の化身としての力であるというならば。
引き離し、彼女の心を鎮めればかの炎だって。屹度。
分離した『ファルカウの炎』。ファルカウの正気が引き出され、その炎が肉体より分離したというならば。
成せることがある。
この滅びを打ち消して、魔女ファルカウの呪いを以てベヒーモスを消し去るのだ。
あの日、R.O.Oで一等美しい薔薇を咲かせた『あの時のように』
――明日の貴方がアリスでも、原動天が守りたいと言ったのはジェーンと呼んだ今日の貴方だ。
――ただ一言「生きたい」と言って、お願い。
「まるで、私のようだと、そう思わない? ……サルベージだなんて、笑っちゃうでしょう?」
その場に立っていたのは白髪の少女だった。
「ハウメアは? ねえ、ひめにゃこはどこかしら。セララも、あとそれから、とってもいたい拳骨の人は?」
「ま、待って、アリス」
慌てた様子で駆けてきた黒髪の少女に「遅いわよ」とジェーン・ドゥが唇を尖らせた。
「だって。ねえ、ビックリしたよね? ビスコ」
「本当だよ、アリス」
手を繋いで居たのは金髪の少女と黒髪の少女だった。R.O.Oよりやってきたシャルロット・ディ・ダーマはビスコッティという双子の姉妹と手を繋ぎくるりと振り返る。
「えっと、航海――じゃなくって、海洋王国の皆さん、お手伝いします!
豊穣郷の皆さん、私に指示をお願いします。冒険者となるべくアリスと一緒に頑張ったの。だから、だから」
シャルロットはイレギュラーズを見てからにこりと微笑んだ。
「あなたたちの、姿を見ていれば私は勇気が湧いてくるの。あなたたちが、わたしの光だったんだね」
『ともに最期まで』水天宮 妙見子(p3p010644)は息を呑み振り返る。『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は頷いた。
「『鏡の魔種』ミロワール、あなたは、力になってくれますか?」
「勿論!」
彼女は、『彼女』ではないけれど。あの鏡面世界で微笑んだ事を『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)は忘れやしない。
「参りましょう――」
顕現したその姿に「瑞さま」とメイメイが驚愕の声を上げた。『霞帝』が神を降ろしたか。
「瑞」とシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が手を伸ばす。ウォリアは「行けるか」と問うた。
「ええ、わたしが、救われたあの日の如く。『神逐』ならば経験者ですから」
――主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え。
「皆さん!」
駆けてきたのは鉄帝国を拠点とするクラースナヤ・ズヴェズダーの『アミナ』であった。
先輩であるヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)や『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の向かった影の領域、そしてこのラサでの戦闘に加勢すべく彼女は攻勢を整えているのだ。
「私は皆さんによって救われました。怖くとも、苦しくとも、喩え、餓えようとも。
我々に成せることがあると識っています。だからこそ、進みましょう! 大丈夫、春告げの光はもうすぐ訪れるのですから」
アミナは気恥ずかしそうに『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)を見た。
上手くいったでしょうと言いたげに彼女は笑うのだ。
「何だか、あの時みたいね」
珱・琉珂はどこか照れ臭そうに笑った。
「私が居て、……オジサマが居て、あの黄昏の地を守ろうとして――ただ、私達は誰かを愛しているだけだった」
冠位暴食と呼ばれたその人が、命を掛けてでも側に居てくれた。
琉珂は仲間達を見詰める。本当に、何時だって共に居てくれるのだもの。
「私、最期の時は勝ったって叫びたいの、どう?」
「いいですよ。琉珂」
「いや~~~メガホン用意します?」
「あ、地声で」
『指切りげんまん』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)は「美しい声を響き渡らせましょうか」と笑った。
『未来を背負う者』劉・紫琳(p3p010462)がくすりと笑ってから振向いた。
「希望って、沢山あるんだね」
ファルベライズからやってきたイヴ・ファルベはそう笑う。
「そうだぜ、案外。そんなもんなんだってさ。アドラステイアだってね」
潜入していたサントノーレ・パンデピスに「知った口を利くなあ」とイル・フロッタが笑うのだ。
ファルカウの制御が弱まったからかベヒーモスは暴れださんと首を振る。
「皆、ファルカウを食べようとするかも知れない。終焉獣はワールドイーターにも似ていた。
だから……もしも彼女を糧にして暴れだそうとするならば、ファルカウの持っている術式をも利用する事が出来なくなってしまう!」
危惧するように告げる『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)。
小さく頷いた天義の聖騎士が「スティア!」とその名を呼んだ。
『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は顔を上げる。
「ルルちゃん、力を貸して貰って良い?」
スティアの持つ指輪、そして、リンツァトルテ・コンフィズリーの聖剣。
「奇跡を集めるって事でしょ? まるで『はじめての冠位戦』みたいだね!」とウキウキとした様子で『魔法騎士』セララ(p3p000273)が告げる。
「ぶははははっ、なら『アイツ』の力も借りなくちゃあなあ!」
盾を手にした『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)に「あいつ、ずっと一緒に居る気がするわねえ」とカロル・ルゥーロルゥーが肩を竦める。
「――だ、そうだけど」
くるりとアイオンは振向いた。「行くわよね」と腕にポメ太郎を抱えたマナセ・セレーナ・ムーンキーが笑う。
「勿論だ、なあ?」
「ああ。勿論だ、マナセ、ルカ」
『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)に『戦輝刃』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は頷いた。
ルカはハッピーエンドに締めくくって更なる最上を求めている。
なんたって、惚れた女の手を掴むなら兄を説得しなくちゃならないのだから」
黒き狼の牙は鋭く研ぎ澄まされる。
放り出されるようにして魔女の肉体が宙空より落ちてくる。手を伸ばした『真実穿つ銀弾』クロバ・フユツキ(p3p000145)は困ったように笑った。
「ったく……困ったお姫様ばかりの国だな、深緑っていうのは。
けれど、此処からだ。ファルカウ。お前にも、リュミエにも俺は、いいや、俺達が希望を届ける。
お前はただ、見ていろ。証人として――俺達の示す世界の希望という命運を!」
ここに、太陽と月の祝福を。
――花開くときが近付けば、どうか、我らの希望であらんことを。
「アレクシア」
「アレクシア様」 『魔女の剱』シラス(p3p004421)が『歩く災厄の罪を背負って』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)を呼んだ。
兄さんへの言伝はしないのだ。だって、彼女とだって未来を歩んでいけるはずだから。
「私は、どうなったって構わない。人でなくなれというならば、この命を手放したって良い!
人でなくなっても、私の在り方は変わりはしない! 眠って見守っているだけなんてつまらないもの!
――世界を旅して、喜びを運んで、希望の種を撒いていくんだ!」
====第四章====
最終戦です。ここで全てが決まります。
●目標
・ベヒーモスの撃破
・滅びの怨炎の撃破
●滅びの怨炎
魔女ファルカウより分離しました。『怨炎』や『滅炎』と短縮表記可能。
ファルカウの内部より溢れ出しており、彼女と分離して見えます。此方を撃破することで大樹ファルカウの大精霊『魔女ファルカウ』の滅びは払い除けられそうです。
ただし、ファルカウの持ち得る能力全てを駆使します。
・魔女の呪い
ランダムで付与されます。石花病と呼ばれる『体が石となる』症状です。
この呪いは永続的バッドステータスです。呪いその物を説くことは出来ません。足止系列が付与。回復不可。
ターン経過でその他バッドステータスが付与されます。足止め系列以外のBSは回復可能です。
HPが0になった時点で全身症状に変化します。ただし、『復活』を利用した場合は全身症状を食い止めることが可能。
●魔女ファルカウ
肉体が気を失っています。滅びの怨炎を打ち払う事で彼女は意識を浮上させるでしょう。
魔法使いロック(元イルドゼギア)曰く、プーレルジールのファルカウであれば『滅びを封じるまじない』を知っていたとのことです。
此方のファルカウも、その命と引き換えになるかも知れませんがベヒーモスの消滅をするまじないを利用できるかも知れません。
――ただし、それも『怨炎』を撃破した後です。
●『枯蝕の魔女』エヴァンズ
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)さんが幼い頃に出会った魔女。
『魔女の魔法(エヴァンズ・キス)』と呼ばれた奇病を発生させる事で知られる精霊です。
人の体に深く種を埋めるということ。種は芽吹き、寄生主の体に巣食い魔力を吸い揚げます。魔力欠乏症となった幼子は其の儘死に至ることも多いのです。
その逸話の通り、エヴァンズは『魔力を吸い揚げる』力に長けています。その能力的に後方からの魔法支援に長けていそうです。
怨炎を支援しております。
●ベヒーモス
その背中から溢れ出している終焉獣です。怨炎が顕現したことにより暴れだそうとしています。
捕縛魔法陣も崩れかけています。ベヒーモスが再び立ち上がる可能性が高くなっています。ただし、打撃は大きくその体は崩れ落ちそうです。
ベヒーモスが『崩れ落ちた』場合は一体に滅びのアークが海のように広がり、何処までその影響が大きくなるか分かりません。
非戦闘スキル(魔術系)もしくは『メンタル』『キャパシティ』の値を参照しこの捕縛魔法陣の効果を増幅させることが可能です。
捕縛魔法陣を維持しながら『怨炎』を打ち払いましょう。
ベヒーモスと『怨炎』は密接にリンクしています。
●『すべての希望』
これまでの戦いで得たアイテムや、仲間と希望を束ねて攻撃と化すのです。
きっと、大丈夫です。貴女の持ち得る旅路の果てに。
ベヒーモスを斃したならば影の領域が待っています。――大丈夫、きっと、大丈夫。混沌を守りましょう。
●友軍
OPをご参照ください。沢山、沢山増えました。
第4章 第2節
●
罪を背負うならば己一人で良かったのだ。
何もかもが喪われてしまったとて、たった一つだけ、その罪が全ての意義となる。
救いたかっただけなのに――
救ってやりたかったという願いは歪に変貌した。
――聞こえているでしょう?
ええ、聖女マリアベル。あなたもわたくしも、儘ならぬ存在ですもの。
「見渡す限りの砂漠だ。点在するオアシスはあれど、他国の者には死の大地に等しく見えるのかもしれないな」
まるで皮肉るように『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は笑って見せた。
その視線の傍らにはかけ始める騎兵隊の姿が見えた。
希望を胸にした魔女達の姿も見える。希望の弾丸、そう呼んだのは誰であったか。そんなことは構わない。
『このまま、斃せば良い』のだ。
「ファルカウ――!」
投げ出された女の身柄を確保しておかねばならない。『ヴァルハラより帰還す』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は駆けた。
「炎に飲まれる、ベヒーモスに食われる、滅びの海に落ちる。……阿保か、ここまできてんな終いじゃ締まらねぇんだよ。
こちとら珍しく仕事したんだ。帰って酒飲まなきゃやってらんねぇ。
そこにゃ、砂ばっかりだが嫌いじゃねぇ帰る場所も、一緒に飲みてぇ最高の女も必要なんでな」
砂の海が滅びの海に変化した? 莫迦らしい諸共元の通りに戻して貰わなくてはルナも満足に酒も飲めやしない。
焔の化身と、魔女の体が分離した。ルナの逞しい腕が女を引き上げるように掴み上げる。
「よう、深緑の魔女さんよ。……若いのがきばってんだ。お目覚めの時間だぜ」
「わた――くしは」
「朦朧としてるってんなら、暫く捕まってろ。目覚めちまえば、保護なんざいらねぇだろ。俺の出る幕はねぇ。
だが――行きたい場所があるってんなら連れて行ってやるよ。幾らでも。ほら、両目をかっ開け!
……あとは頼むぜ。暑苦しいヒーローヒロインに、伝説のお歴々よ」
ルナの視線の先には特異運命座標と、そう呼ばれて進んで来た者達が立っていた。
此れまでの戦いで培われた空繰パンドラは魔王座へ挑むため。
ならば、ここでは、各人の希望を、此れまでの歩みを魅せ付ければ良い。
唇が吊り上がった。思えば遠いところまで来た者だ。何せ復讐ばかりであったというのに心の端にちょこりと腰掛ける女がいる。
それが徐々に膨れ上がったかと思いきや今や彼女の事で目一杯なのだ。恋に溺れてなんざいないが、溺れてやらない道理もない。
『決意の復讐者』國定 天川(p3p010201)がくつくつと喉を鳴らした。手にする刃は鋭く、研ぎ澄まされる。
「もうひと踏ん張りってところか? 俺はまだまだいけるぜ!」
唇を吊り上げる。男の視線の先にはベヒーモスより毀れ落ちる終焉獣が存在して居る。滅炎は守られているのだろうか。
駆ける天川の背中を眺めてからはてさて、と。一度足を止めたのは『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)であった。
前方には仲間、それから『でかぶつ』。そして後方には――ああ、ほら、彼女がいるのだ。
「いよいよ大詰めか。古巣のラサ。後方には水夜子君。なかなかに燃えるシチュエーションだ。
混沌の神とやらも粋な事をする。それじゃ、一つ仕事といこう。ラサの傭兵が、どういう物か教えてやらねばな」
「ふふ?」
にんまりと笑った水夜子に愛無は天川を、それから『ぼでー先輩』を眺めてからふむふむと呟いた。
「そういえば澄原伝統の決戦ぷろぽーずのちゃんすでは?」
「……んん」
思わず天川が咳払いをしたか。「龍成君とか。晴陽先生とか。決戦の時になんやかんやしてた気がする」と呟いた愛無は恋人になりたいという欲求があるわけではないと呟いた。
「水夜子くーん。すきー。僕が生きてたら、酒でも持って、また怪異収集に行こうねー」
「あら、祓いそうですね」
――ほら、こういう所もすき。
気合を入れて行こうと、愛無は飛び掛かるようにして滅炎に向けて駆け出した。
「しかし、この炎。これも、魔女のおねーさんが背負ってきたモノの一つなのだろうが。
これも神逐のようなものと言えど、ただ『悪』として討滅するのも少々憚られるな。何ぞ語る口があれば聞きながら戦うとしよう。
未練が無い方が、疾く成仏もできるだろう。この炎とも和解できれば、それがベストなのだろうが」
和解と呟いた。それならば、天川はベヒーモスを眺める。
「なぁ? デカブツよ。お前は、それでいいのか? お前は最初からそう望まれて産まれてきたのかよ?
ただ滅びを齎すだけの存在なんて、あまりにも悲しいじゃねぇか。お前に意思があるのかは俺には分からない。
だが、意思があるなら……最期に何かを生み出す為に、創り出す為に生きてみねぇか? 意外に気持ちいいかもしれねぇぜ?」
ぎょろんとベヒーモスの瞳が動く。けだものだ。そうであるには違いは無い。
だが――
「お前の事は分かってもやれねぇ。相容れねぇ。それでも祈るくらいは許してくれ。これからお前を斬る俺だからこそ!」
何を為し、何をするのか。これがイレギュラーズが選び進み続けてきた道を表しているのだ。
『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)は高揚する気持ちを抑えるように息を呑んだ。
「今までイレギュラーズに関わってきたやつらがみんな来てくれるなんて…感動だぜ! まさしく英雄譚ってやつだな!
魔女をヤバくしてた怨炎と巨大な怪物を倒してその章をハッピーエンドで終わらせるために、おれっちもみんなに力を貸すぜ!
世界全部が駄目になるなら銀の森やエリス様も被害を受けるしな。故郷を守る戦いでもあるぜ!」
「あまり意気込んではいけませんよ」
「エルスさま!」
氷の息吹の気配、それから精霊達の傍に立っていたエルス・マスカレイドは穏やかに微笑んだ。
彼女は『自らの友人』たちを守るように祈りを捧ぐ。守護のまじないに会わせてリックは出来うる限りの支援をすべく尽力し続ける。
「この戦場も最終決戦かしらね? 英雄たちの物語は如何なる結末を迎えるのか……観測するのが楽しみだわ♪」
己はあくまでも『観測者』。そんな『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の傍では毎度おなじみ狐達が援軍として尽力している。
狐たちも仲間の一人。彼女たちはイナリが悠々と観測するために遠慮なく『ぶちかまして』くれるのだ。ベヒーモス周辺に溢れ出す終焉獣を迅速に払いのけなくては、すべての邪魔にもなろう。
「……ベヒーモスが滅び、それが周囲に散れば、ただではすまない。土地だけでなく、ここにいる皆が。
崩れるベヒーモスを魔法陣でひとつどころに留めればいいのでは。暴れるソレではなく、ただ溢れ出ようとするものを抑えるだけなら」
呟いた『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)はけものの亡骸について準備はできないかと問うた。
「ロックさん。いえ、私たちのクリエイター、魔法使い、ロック。
仮にも魔王と言われた貴方です。それくらい、やれないことはないですよね?
ドクターは、あなたの人間性も、力も、信頼していました。……エネルギーはいくらでも、私が供出します」
「支えてくれるかい」
「ええ。娘(クレカ)さんの前で、これまで離れ、見せられなかった分、いいところを見せて下さい。今、これからのために。
――大丈夫。降りかかるものは、私が受け止めます」
準備が必要だ。良く分かる。だからこそグリーフ・ロスは『彼を支えるのだ』
精霊よ。数多にこの世界で存在するあまねくすべてよ。ベヒーモスは同胞であり、仲間であり、家族であったであろう?
(どうか、つれていってあげて。
ここはきっと、寂しいから。私も、独りの寂しさは知ってるから――彼の魂を掬い上げて、静かに眠らせてあげてほしい)
そのために手伝ってほしい。焔を退けた時こそが本領の発揮だ。
ベヒーモスを『留め』、その肉体が滅びの海へと化さぬように。ファルカウのまじないをクリエイター・ウォーロックの陣へと合わせれば。
(可能性は十分にある――)
グリーフは顔を上げた。こくりと頷く様にして『気紛れ変化の道化猫』ナイアルカナン・V・チェシャール(p3p011026)がかろやかに笑う。
「やぁ、猫(ナイアル)も猫の手貸しに来たよ。少しでも役立てると良いけれど」
猫は旅をしてきた。様々な気まぐれを胸に、ここまでやってきたのだ。思い出の価値は十分に存在している。
これまでの旅の結果だ。猫たちはきまぐれだけれど――それでもナイアルカナンは沢山の思い出を抱いてこの場までやってきたのだから。
「もし姉様や兄様と一緒だったら、この滅びを受け入れたんだろうけど。
……遺された身だとそういうワケにもいかないよね〜、いっちょやってやりますか!」
それは『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)とて同じ。
(……覚えてる人がいないと、なんだか本当にいなくなっちゃう気がするんだ)
沢山の事を覚えている。そうして大切な誰かを繋いで行くために、思い出を胸に此処までやってきた。
ファルカウが炎を使っていた歴史も、理由もユイユは分からない。それでいいのだ。記憶に残り続ける雪がふんわりと降り続ける。
たとえ細やかであったって恨みなんて炎が消えてくれるように――ルナが保護したファルカウの意識がはっきりと目覚めたときにはただの人であるようにと願わずには居られなかった。
「みーおも手伝いますにゃ、猫の手貸しますにゃー!」
拳をぶんぶんと降った『ひだまり猫』もこねこ みーお(p3p009481)にロックは「ありがとう」と静かに言った。
ベヒーモスから湧き出す終焉獣へと弾丸を放つ。優しいみーおはそれを傷付ける事も怖かったけれど、今は必要な事だから。
(……みーおにも沢山の思い出がありますにゃ。
混沌世界に召喚されて、パンを焼いたり、猫達と過ごしたり、特異運命座標として戦ったり……素敵な思い出を過ごしたり。
どれもみーおにとって大切な日々ですにゃ。この想いが猫の手として役立ちますようにーですにゃー!)
叩き込まれていく弾丸の雨の中で魔法陣をより強くするが為に『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は静かに息を呑んだ。
「名前の通りに『神の食卓』に並ぶと好い。神とは我々の事だ。腐った食肉風情が騒々しい」
柔らかな髪を揺らがせる。少女の姿(なり)をした娘はただの一人を思うように金の林檎を手にしていた。
『L』は魔術の知識を持ってイレギュラーズ達の持ち寄る力を束ね、魔法陣の結束を強くする。支えねば、ロックとクレカだけでは保たない。
ロジャーズは『こんな奴ら』に全てを滅ぼされることなど堪った物ではなかったのだ。集中する。魔法陣の維持を、増幅を行なうが為に。
「滅び広げちまうのは、未来を見たいファルカウも悲しむでしょ」
『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は小さく息を呑んだ。世界の続きを見たくないか、と問うた。
屹度彼女は世界の続きを見て見たい。種は育たねば種の儘。花を咲かすには豊かな大事が必要だ。こんな無の大地では何も揃うことはない。
ベヒーモスを一瞥し、その肉体から毀れ落ちる終焉獣達を睨め付ける。それら全てをこの場から斥けられたならば、得る者だってあるだろう。
――何せ『終焉獣の塊』がこの獣の正体なのだから。
「……数は力、って言いますからね」
だからこそ、願う。願って、祈って、その全てが『終る』刹那まで慧は支え続けるのだ。
豊穣郷では彼女が待っている。未来を望む青年は、未来を喪うその全てを許すことなどできやしなかったのだ。
「わたしも手伝う……みゃあ。捕縛魔法陣、すごい魔術……でも、壊れたらまずい。メテオールやコメートみたいに、わたしも支える……!」
――それでも、二人に話せていないことが『物語領の愛らしい子猫』ミニマール・エアツェールング(p3p010937)にはあった。
もしも、ミニマールが『物語領の兄慕う少女』コメート・エアツェールング(p3p010936)と『物語領の猫好き青年』メテオール・エアツェールング(p3p010934)に沢山の事を話せたならば。
きっと、その思い出はもっと膨れ上がることだろう。
「自分達も強くないとはいえ特異運命座標です。この決戦において、少しでも役に立たず何とするのか。
領主程ではありませんが、自分達もできる事を行います……! 行きましょうコメート、ミニマール」
「ええ。メテオ兄様。私達も、微力ながら尽力いたします。
馳せ参じる為……この場に立つ為、必死に魔術を学んだのですもの。少しでも長く、支えてみせますわ……!」
祈るようにコメートはそう言った。魔術師の端くれ、己をそう称する娘は過去を反芻する。
メテオールとコメートにだって話せない過去がある。混沌世界では様々な事があった。
それでも、今がしあわせだ。
「他の二人に比べれば、付け焼刃の魔術ではありますが……命続く限り、維持します!」
「二人とも。……ッ、魔術知識、頑張って覚えた……絶対維持する、ベヒーモスには暴れさせない!」
二人の努力はミニマールがよく知っている。だから、此れからも三人で楽しく過ごそう?
楽しい友人達も呼んで、物語領で笑い合うために。
捕縛魔法陣がきゅるきゅると音を立てる。ロジャースが「Nahahaha――――!」とその笑い声を響かせた。
傍らを駆けて行く者が居る。一人は『冠位暴食』のコートを靡かせて、もう一人は振り上げた剣で行く道を開く。
「アレクシア達がファルカウを助けるなら大丈夫だ――俺はアイツらを信じている」
「師匠」
『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が琉珂の肩を叩く。
「英雄譚に載るようなヒーローには、長生きして貰いたいからな!
ファルカウが生きて、アレクシアが死んだんじゃあハッピーエンドには程遠いだろ!
でもきっと、こいつを倒して病が治らなかったとしても、アイツなら何とかしちまうんだろうな!
だから俺は眼の前のエヴァンズを倒すだけだ! ――決めるぞ、琉珂ァ!」
「ええ、行くわ!」
駆ける。ルカは片手で振り上げた剣を勢い良く魔女へと叩き付けた。女の魔両区が揺らぐ。
「ハッピーエンドを掴むぞ、琉珂! ほら、見ていろよ、『クソ竜』!」
竜の息吹の気配に琉珂が目を瞠る。
「シグロスレア!?」
「はん、どうせ偶然立ち寄ったとか言うんだろ。いいぜ、それなら、此処を消し炭にしてとっとと、別の街へと飛んでいけ!」
バシレウスの姫君を全と望んだ男の鼻先で笑う声。その息吹に背を押されるようにエヴァンズの元へと飛び込んで行く。
「お前をぶっ殺せばアレクシア達の病は治るのか? それともそのままなのか?
アイツの人生はアイツのもんだ。俺が口を出すもんじゃねえ――だがアレクシアはもう俺にとっても英雄の一人なんだ」
『彼女』の病の原因は目の前の女だった。エヴァンズは「どうでしょう」と笑った。ああ、だって、斃されたこと何でないのだもの。
せせら笑った女に琉珂のカトラリーが突き刺さる。魔力がその掌に収縮した――刹那に。『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)と、サンディ・カルタがひらりと飛び込んだ。
「エヴァンズ!」
サンディの仕事は『お願い』をすることではない。軽く道を整えて、『幼子を枯らす』悪趣味を咎めるのだ。
ひゅう、ひゅうと風が吹く。アレクサンドラ・カルティアグレイスは小さく笑う。だって、己だって伝説の『サンディ・カルタ』なのだから。
「世界の危機だって越えて見せましょう!」
「ああ。エヴァンズを此処で食い止めるぜ」
あの魔女を食い止めればその先にはレディとアイオンの仕事が待っている。サンディに振り返ったアイオンは「俺は君と行きたい」と笑うのだ。
そうやって手を伸ばして朗らかに笑うこの男は性質(たち)が悪い。
(音楽を奏で、眼前の戦いを終わらせて。
いつだって動き続けた結果が俺の持てる希望だな――形に残らず目に見えぬものが大半だが、それは確かに世界に響いた筈だ)
その音色に従うようにして『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は歩んで来た。
エヴァンズに向けて奏でた音色が刃の如く叩き付けられる。
「貴女は怨炎に従う方が良いのか? 本来の大樹の望みは、怨炎が燃える世界では無かっただろうに」
「構わないのです」
首を振る、エヴァンズの刃がイズマの頬を掠めた。だが、構うことなどない。出来うる限りの備えが此処にある。
エヴァンズを斃す。そして、怨みの焔もベヒーモスさえも希望の糧とするために。背負った『可能性(パンドラ)』が未来を開く欠片となる筈だから。
「その支援クソ厄介なんでな。悪ぃけど止めさせてもらう……あの眠ってるファルカウは気にしないのか?」
眉を吊り上げた『君のもとに』囲 飛呂(p3p010030)にエヴァンズは「こちらの炎とてあの方でしょう」と囁いた。
怨みの炎。それは、ファルカウの怒りその物。飛呂はエヴァンズに「何を」と思わず呻くように話しかけた。
彼女は動く事などしない。ただ、的としてその場に佇むのだ。
「……ファルカウは、あの通り分離していますが。彼女を思うなら『片方だけ』に肩入れしていいのですか?
ファルカウに向けられた多くの想い。多少は聞いていたでしょう。あなたも少し、耳を傾け考えてはくれませんか」」
「貴方方は『もう一人のあの方』を大事になさるでしょう。ならば、彼女の痛みは、苦しみは、悲しみは、怒りは誰が寄り添ってあげるのです」
『愛星』雨紅(p3p008287)は小さく息を呑んだ。この魔女は、エヴァンズは最後まで彼女の痛みの傍に寄り添い消え失せるのつもりか。
彼女にとってのファルカウは親のような存在だ。そんな彼女が痛みを分離させ、優しげな俤を取り戻したとしても、その時に存在した痛みや苦しみを全て無かったことにはさせやしない。
エヴァンズの指先からふわりと踊った魔法を雨紅は避けた。舞い踊るように、その視線を釘付けにする。美しい、女の舞踏を前にしてエヴァンズは尚も抵抗を繰返す。
飛呂は勢い良く飛び込んだ。狙撃銃を握り締める指先に力を込める。
もしも、飛呂の大切な人が敵になったら――? きっと、彼女がそうした立場になったならば己もエヴァンズのように振舞うのだろう。
「……残念ながら私のこの身に希望などはない。死と罪と罰。怨嗟や怒りの炎……得てきたものは残罪。
旅路の果ての希望にはあまりに不釣り合いなものばかりですから。
だから私の想いと残罪はきっと薪にしかならない。けれど貴方を倒し、止めることで……その道を繋ぐことはできる」
己の身は血で汚れてきた。『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は良く分かるのだ。
ファルカウは『擦り切れて仕舞った』のだ。
精神的摩耗。関わった者の多くが苦しんできた。恐らくはマリエッタとて直面するはずだ。
「鴉殿の贈り物の目で何度も何度も見ましたよ。あのマリアベルすらそうだった。
どんなに苦しいかわかってしまうからこそ……私は諦められないんでしょう。人として、諦めるという事を選べないのです。
だから私は輝かしい魔女とは正反対の死血の魔女。
希望以外の絶望は全部、私が背負って消える為にも、その為に……今の今まで邪悪であり続けてきたんですから――ただ、貫くのみです」
ルカの剣が振り下ろされた様子をマリエッタの瞳眺めて居た。鮮やかな血のしらせは、魔女のその身を掻き切った。
悍ましき血潮の気配、刃の如く鋭い一撃。マリエッタの髪は魔力を孕んでふんわりと揺らいだ。
「色々とあったみたいですけれど、つまり滅炎をぶっ飛ばせば良い訳です。
それなら、やってやるだけです。怨みの炎をかき消し、滅びを退けましょう!」
堂々と告げる『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)の手にはロングソードが握られていた。
鉄帝国で鍛え上げた肉体。その技の全て。眼前にはファルカウの姿をした焔が揺らいでいる。
その指先に僅かな光が乗った。だが、構うことはない。攻撃に怯んだ分だけ勝利が遠離るならば――前へ!
「最大火力をぶつけます!」
オリーブは叫んだ。鉄帝国で学んだ技。それこそが今の彼が全てを放つことが出来ると言う証左であった。
「この巨体をどう処理すべきかと思っていたが…ファルカウより生じた、あの炎を消せば良いようだな」
静かに告げた『勇者と生きる魔王』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)に大きく頷いたのはどこか纏う空気感が変わった『魔王と生きる勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)であった。
「倒すことで煙と消える……と行けば良いが、そんな簡単にはいかないようだ」
「そうだね。ベヒーモスを倒さなきゃって思ってたけど、あの炎を何とかすればいいなら、そっち頑張ろか。
だって、皆の動きで、事態が変わっていくのが分かる。これって凄いことだよ? そう思わない?」
元の世界の役割を捨てて、只の人になった。ルアナとグレイシアはお互いに喪ってしまった『元世界の権能』なんてどうでも良かった。
まるで魔王が勇者のようにこの世界を救うのだ。それは人としての第一歩になれたのならば何と素晴らしい事だろうか。
「抑えてくれている人たちが頑張ってくれてる間に、頑張らなきゃ」
「どうも、ベヒーモスの巨体が崩壊するのは、広範囲に悪影響を及ぼすようだ…崩れ落ちても被害が広がるというのは、実に厄介だ。
禍根を残さず倒す方法があるのであれば、それに賭けるのが最善だろう。速やかに、行けるか?」
「勿論」
ルアナがにんまりと微笑んだ。二人の攻撃が重なり合った。怨みを湛えた焔が揺らぐ。それはファルカウそのものの姿で鮮やかな紅色を纏わせた。
「これだけやって倒れんとは……
ですがここで引き下がるわけにゃいきません。ここで退けば、宮様にも刑部卿にも申し訳が立ちませんけえ」
そう呟いてから『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は怨みの炎とベヒーモスのその双方を見詰めていた。
先にどちらかのみを倒してはならない。捕縛魔法陣を補強する仲間も居れば怨みの炎を打ち払わんとする者も居る。
支佐手は世界を無へとか恵山とする終焉の気配を打ち払う。この場で『世界が壊れてしまう前』に支え抜くと決めたのだ。
何であれど、極限まで使えるものは使ってみせると決めて居た。
支佐手はそれが故に――己の力をもって仲間の背を押すのだ。
「皆の願いがファルカウと滅びの分離を可能とし、皆の力があの炎を打倒しうるものだとするならば。
わたしは、ただ約束を叶えるだけなの。滅びの怨炎を、燃やし尽くすの」
それが『炎』そのものである『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)に出来る事。
ファルカウの呪いが世界の滅びそのものを司る炎であると言うならば、己はそれをも滅ぼす炎になるのだ。
フェニックスのように破滅の後の再生を担うのではない。シェームのように嘆きによって呼ばれ目的があるようなものではない。
胡桃・ツォンフォはただの炎だ。刹那的で破滅的な一面こそが彼女の根源(オリジン)であるのだから。
――これこそが、わたしという炎なれば。
眩くも炎は照らす。てらてらと、揺らいでその炎を捉えるようにして。
胡桃の前に眩い光が放たれた。『殿』一条 夢心地(p3p008344)だ。今日も眩い姿である。
「しぶとい。あまりにもしぶとい。
これだけドカバキぶちかましても、まだ立ち上がろうとするその気迫――実に天晴じゃ!」
夢心地が微笑んだ。しかし、膝を付いたというならば『立ち上がらせない』のが夢心地に出来る事。
「麿が放つのは未来を照らし出す光。
世界を包み込む希望の光よ。それを一点に収束させ、ベヒーモスにぶつけようぞ!
遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。これこそ混沌シャイニング伝説、光のお殿様、一条夢心地よ。なーーーっはっはっは!」
――眩い光が視界を覆う。
「うわぁ、眩し……ベヒーモスおっきい……混沌世界を壊されてたまるかー! ってことで。私も私にできる事をしにきたよ……!」
えいえいおーと拳を振り上げたのは『おしゃべりしよう』彷徨 みける(p3p010041)だった。
ベヒーモスの周辺に落ちてくる終焉獣達を受け止める。傍には輝くお殿様がいるみけるだが、彼の事は一先ず側に置いておこう。
(……数が多い……!)
渋い表情を浮かべたみけるが息を呑んだ。無数の獣達をどの様に受け流して行けるのか。
想いをその場に乗せるのだ。ここからでも、きっと、届くはずだから。
みけるは「アレクシアさん」と呼んだ。魔女が立っている。魔女と、死神だ。
「あのね、私の想いも乗せられるんだったら託したい。
混沌の……練達の再現性東京に生まれ育って、特異運命座標として、強くはないけど戦ってきた。
ファルカウって人が再現性東京の事は知ってるかわからないけど、私にとっての大切な思い出と想い、届けー!」
背中を押すように、みけるは叫んだ。だって、ずっと、ずっと平和な世界を生きていこうと思ったのだもの。
「素敵な思い出じゃない」
「そうかな?」
ふふ、と小さく笑ったみけるの傍には色彩の抜け落ちた少女が立っていた。
「アリス……!! 外に出て……うん、もう一度会えて嬉しいよ。これで、わたしも心残りはあんまり無いかな」
「死ぬようなことを言ってはいけないわ。おわかり?」
「うん。わかるよ。けれどね、妹(ルージュ)の最後の心残りだ。
あの時に失ってしまった君に出会えたのなら……笑って不可能に挑もうじゃないか」
彼女は必ず言うと知っている。
『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)に「不可能なんて、お茶に溶かして仕舞いなさいな!」と。
アリス。ジェーン・ドゥ。
彼女がいるだけで強くなれる。己はデッカ君とよんだその存在をどうにかするために立っている。
ラダが居る。その弾丸が放たれる瞬間に合わせるのだ。
「デッカ君……ごめんね、貴方も苦しいかもしれないけど。
わたしにも大切な色々なものがあって、世界を滅ぼさせるわけにはいかないんだ」
Я・E・Dの魔力が捕縛魔法陣に注がれていく。
じわじわと、それは光を帯びていく。
輝きを経て――徐々に強くなっていく。
だからこそ、背を押す瞬間が来る。タイミングを合わせるために。騎兵隊が、そして、魔女と、死神が、数多の祈りが、進む為に。
「行け、アレクシア! クロバ! 見せてやれ、お前らの光を! 俺達の未来を!」
ルカが叫んだ。
影が揺らぐ。青年の瞳には魔女と、死神の姿があった。
彼等の行く道を開くのは『この場に生きる者』の定めだと知っている。
「オアシスが枯れ、人の姿が失われても砂漠はまだ生きている。
滅びのアークで台無しになどさせない。――行け、このまま消し飛ばせ!」
砂漠に生きてきた。
砂漠で暮してきた。
この大地を守る為に、進んで来た。
ならば気紛れに命だって守っても良いだろう?
ラダの弾丸が放たれる――
成否
成功
状態異常
第4章 第3節
●
「皆、よくぞここまで持ちこたえてくれた!!
戦いの終わりは近い、必ずやあの滅びを打倒し、全員で生きて還るぞ!!」
朗々と大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)の上げた声に『解き放たれた者』水鏡 藍(p3p011332)は「ええ」と頷いた。
「滅びの何とやらもここで倒してしまおう。世界を活かす為にもだ。なぜならこの世界は我々の故郷。等しきもの。
それが滅びるのを黙って見過ごすわけにもいかないのでね! 生きて帰る為に!」
――藍ちゃん、と笑ってくれる友人がいる。
彼女達との日々をここに取り戻すためならば足なんて止めちゃ居られないのだ。
足を止めるわけには行かない。心を燃やせ、ただ、前だけを見るように。
「行くぞ!」
武蔵が駆けた。
鮮やかな海を思わせる。砂の海を進む戦艦(かのじょ)は真っ向から焔を睨め付ける。
「『武蔵』が担う願いと祈りに懸けて滅びを討ち滅ぼす!!!!」
堂々と、その声音が響き渡った。
この場で生き残る為。
「手伝いますよ。どのくらい力になれるかは分かりませんが。其の儘進んでください。魔法陣はなんとかします」
『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はやれやれと肩を竦めた。
出来る事はたかが知れているかも知れない。それでも、力となる。此れまでベークが歩んだ軌跡は――それはそれは食べられそうになる事も多かった。食べないでと叫んだことも数知れず、海洋王国でだって何だか食事になりかけた――様々な事があったではないか。
「ええ。それは騎兵隊にも任せて!」
『流星の少女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は堂々と言った。
「掲げるは全員生存を! 我らは必ずしや打ち克つだろう。
それは無限の怨嗟と絶望さえ、私達は踏破可能という事――希望の明星をここへ! 全軍ッ―――!」
突撃の号令はたった一人の少女から響くのだ。
「騎兵隊がこれより水先案内人よ! 心臓を燃やせ! 臆することなく『生き残れ』!」
長い紫苑の髪が燐光を纏った。美しい騎兵の娘。
その旗に集うつわものは、挫けることはない。
「進もう、攻めよう。ここまで来たらひたすらにそれしかあるまいよ」
朗々と『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)は仲間の背を押すのだ。
「さあ進もう! 脇目を振る必要もない、苛烈に進んだ前にこそ勝利はあるのだ!」
只管に苛烈に。只管に鮮烈に。
眩い光に集うように、進むだけ。
持ちうる全てを此処に披露する。駒は喪ってはならない。その『管理』も軍師の仕事。
此処に一筋の光を射すために、言葉だけでも――ただ、己が見据える未来へと届ける為に。
「いやー、役割は小さな救急箱だけど、先輩達の想いを少しでも長く伝えるために頑張るよ!」
にんまりと笑ったのは『サキュバスライム?』ネクタル・S・ライム(p3p006674)だった。
大盤振る舞い。何もかもをこの場で打ち棄てるようにして、仲間を支える事を選んだ。
誰も死んで欲しく何てないのだもの。
大地が無に返らぬように。
魔女を救う魔女がいるように。
全員が生存しろと『指示』をする総大将がいるように。
ネクタルだってその思いは一緒だった。此処で何も失ってはならないの。
――騎兵隊だけじゃない。他の皆がいなくならないように。
「諸霊よ! あと一歩を一押しする力を!」
祈るように告げる『黒のステイルメイト』リースヒース(p3p009207)にくすりと笑ったのはジアチンタ・オリージ。
「この局面、使えるものは師匠でも使うぞ。
薔薇の魔術師ジアチンタ、御身ならば縛り絡めるのは得手だろう。
私の影と陣でベヒーモスへのパスは繋がっている。そこから全力で拘束の術を注ぎ込んでくれ!」
「人使いが荒い弟子を持ったものだな。それで? 人を使うのだから、礼ぐらいは用意したのであろう?」
「お礼? ええい、こうなったら恋の話の二、三、四つ、全て話すとも。何故笑う! こっちは必死なのだぞ!!」
ぱちりと瞬いてジアチンタは「人らしくなりおってなあ」と囁いた。
ああ、なんて、良き日だ。薔薇の香りが周囲に舞い踊る。
「さて、リースヒース君。貴殿の力になってやろうぞ」
「ああ、任せよう!」
声音を届けろ。踊るように影を繰れ。死霊は我らと共にあるのだから。
ファルカウを殺さずに済む。ああけれど、彼女の怒りは苛烈そのもの――それでも『あと少し』と、そう認識出来たのは僥倖だ。
「最後まで諦めない。だから、ね。このまま行こう。
我ら騎兵隊! 戦には魁となる者達。
希望を与え、敵への絶望を振りまく兵なり!」
弓を手にしたのは何時のことだったか。あの竜を屠ったその一撃は此度も『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)の指先に掛かっている。
それは重圧のようにのし掛る。
ああ、けれど――仲間が居る。己が進むべき道がある。
その事が何よりも自らの信念として花開く。
「幸いにしてパンドラはたんまり手持ちがあるんだ。であるならば、張りどころは此処より他に無し! “勝負”だ……ッ!」
にまりと『大空の支配者』メリッカ・ヘクセス(p3p006565)が笑った。
巨躯だからって何を怖れるものか。眼前の存在の何処が悍ましいというのか。
時間さえも置き去りに、光で以て空へと突き抜ける。ただ、それだけではないか。
「司書!」
イーリン。呼んではならない? そんなことはない。この女の名を響かせずして何となるか。
「コレで以て終わらせよう、貴様らは天地より伸びる『機兵の槍』で以て貫かれ果てるがお似合いだ!」
「ええ、出し惜しみはなしよ!」
『アーリオ・オーリオ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)が微笑んだ。
「怨炎も、呪いも、その全てを祝福にて塗り替えて差し上げましょう! さぁ運命を抉じ開けろ!」
命を燃やすからこそ美しい。
この輝きは決して曇ることはない。
――あなたは、光を見たでしょう。行くべき道を照らすのは『騎兵隊(ひかり)』の仕事なのだから。
「……この状況は決して、奇跡が起きたんじゃない。皆が足掻いて、足掻いて、足掻き抜いて掴み取ったものだ」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は拳を握り締めた。
「長命の者にはほんの一瞬にしか見えないだろう。ほんの数年程度と思うだろう。
けれどね、その数年は幾星霜にだって負けないよ。
俺たちのしてきたこと、歩んできた道は、途方もない絶望なんかに呑まれるような薄いものじゃない。
数え切れない程世界を繰り返したからこそ断言するよ。……掴んだ希望は、絶対に零れ落ちはしない!」
毀れ落ちてしまわぬとようにと、大切に、大切に彼女は抱き締めてきたつもりだった。
それだけではならないのだ。
人は歩む生き物だ。人は立ち止まってはならないのだ。
歩みを止めたファルカウは、流れて行く時をコマ送りで眺めて居たのだろう。
その中に何れだけの『物語』があったかも識らずに。
彼女の瞬きの間に、毀れ落ちた物語を雲雀は丁寧に掴み取る。
――それを束ねて全ての力とするために。
切り裂く、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)の刃は鋭く研ぎ澄まされた。
最後まで騎兵隊として食らい付く。仲間達が支えてくれる魔法陣が光を帯びた。
眩い、その光の果てが『全て』を示してくれている。
詠蓮の刃がベヒーモスから毀れ落ちた終焉獣を払い除けた。
「道を開け!」
この場で歩みを止めてなる物か。この場で、誰も喪ってなる物か。これまでの戦いで得たものがある。『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は赤黒き翼を揺らした。尾が地を叩く。
「ファルカウだって喪わない! 全てを掴む! この姿も、騎兵隊も、私にとっての絆の力だよ!」
フォルトゥナリアが歩んだ道のりは、決して平坦ではなかった。
困難だったからこそ、美しい未来を望むのだ。
「さて、やれやれ……まぁなんか知らんが役者なのに軍師判定貰ったり魔術師判定貰ったり忙しいんだが……。
こういう理論は『理解』はしてる。だからこそ。そこで、寝ていろ。ずっとだ!!」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が叫んだ。雨が、地より天へと『逆戻っていく』。
「憎悪の炎がファルカウを灼くってんなら、雨で鎮めるのも『正しい消火』なのかもしれねぇな。……そういう舞台なら得意だ」
舞台を演出するのは死に化粧と同じもの。しかして、今回は『生者』に見せ付ける希望のフィナーレとなるために。
雨が全てを攫ってくれることばかりを願っていた。
魔法陣が光を帯びる。きり、きりと音を立てる。ベヒーモスを捉えては離さない。
「パンドラが力になるのなら。ベヒーモスだけでなく、こっちにだって効果があっていいはずです!」
願うように。捕縛陣に手を添えて『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)が唇を噛み締めた。
悍ましい程の気配がする。命を文字通り削る行為に他ならない。
けれど、それでよかった。それ以上に――見据えた未来があったから。
「怨みの炎と報復の煮え炎、どちらが燃え盛るか火力比べといくかい?」
くつくつと笑った『闇之雲』武器商人(p3p001107)の紫苑の瞳がちらりと覗く。
魔力で舞い踊った銀の髪。傍らには美しい夜色の法衣の娘が立っている。
「ええ、手伝いましょう。『夜の長』(まじょ)は裏切りませんもの」
夜(ナハト)は、断頭の魔女は、何もかもを許しはしない。
彼女の声音を耳にする。武器商人と共に行くギネヴィアが声を上げる。
――さあ、蒼き煮え炎が武器商人を包み込む。瑠璃の天衣を揺らがせて進むべき道を定めたように。
(ベヒーモスと怨炎……それぞれにパンドラを流し込む。
砂山を両側から掘り進めたように途中で衝突し、絶望である彼らに対し内部破壊を果たす事でしょう。
こちら側から伸ばした手(パンドラ)は、イーリンさん側からも観測できるでしょうか。いいえ、できるように流し込むだけ)
『密偵頭兼誓願伝達業』志屍 志(p3p000416)は、『瑠璃』と名乗って居た女は、志(こころ)となってこの場に立った。
美しき、志屍の娘。パンドラをその身に纏い、生きて返るために出し惜しみなどせぬと魔法陣にも気を配る。
己が込めたリソースなど全てを炸裂させてしまえば良いではないか。何も此処で恐れる者などないのだから。
「遅れ馳せながら騎兵隊の狩人登場! なんてな。ここからは俺も『騎兵隊』だ、行こうぜイーリン!」
『天下無双の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は笑った。狩人のやる事なんて一つに決まっている。
目の前には『大物』が存在して居る。大きな敵だ。それが頭を足りて『終わり』を待っている。ならば、そう、狩人は狩猟をするだけだ――!
「矢でもパンドラでもなんでもくれてやる。深緑とファルカウの為に死力を尽くす!
どれだけ図体がデカかろうが、この矢はそこらのモノとは段違いだぜ。ポーラスター……いまならこの手に掴めるはずだ!! 届けェ!!」
ミヅハが放つ一撃に、続くように『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の降る鉄星の雨が加速させて行く。
「漸く此処までこぎ着けた。浮き上がってきた勝機、後は掴むのみ……!」
手を伸ばせば、何処へだって行けるような気がした。
魔術師であるならば指先で手繰るように魔術を操れ。それが意識の一部であるように。
「届よ、我が命……!」
エヴァンズの笑う声が聞こえた。
ひらりと空を飛ぶように嘆息したのは『鉱龍神』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)であった。
「世界を終わらせなどしないよ。
死ぬのは数多のやりたい事を為してからと決めてるし、死なれる時は老衰にして欲しいと願ってるんでね。理不尽な終末など、認めない。
――さぁ、派手に征こう。この終焉の向こうを目指すんだ」
愛する人を見付けたならば、理不尽なんて、この世から全て取り去ってしまえば良い。
仲間達の姿が見えた。ルカや琉珂、それから雨紅に飛呂の声が聞こえる。
「ここで倒し切る……! 行くよェクアリゥム。頼りにしてるから」
「魔女エヴァンズ、貴女に恨みは無いのですが...…ですが誰より愛しい奥さんの望む未来の為、貴女と戦いましょう。
御任せを。ェクセレリァスが疲れ果て戦えなくなるまで、墜とさせはしません」
淡々と告げる『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)はただ愛しいその人を『庇う』事を選んだ。
此処で負けて等なる物か。観測端末、いいや、ェクアリゥムはェクセレリァスを守る事だけを尽力し続ける。
愛おしいひと。
たった一人のための名前を胸にして。
「……別物、と言い放たれた時にはもうできる事はないと思っていたが……希望は繋がったのだな。なら、我も我にできる事をしよう」
誰だって、分かり合うには難しいのだ。『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)の昏く恐ろしい思い出だってファルカウは理解は出来ない。
それでも、一人きりで背負ってきたその重たい荷物を分け合うことだってきっと――出来る筈だから。
「これが貴女の怨みと怒りの炎であり、滅びなのか…一部なりとも受け止める! その代わり、受けた分だけ斬撃として返させてもらうぞ!」
怨みの焔は揺らぐ。周囲へと広がったそれを斬り伏せる。己の想いは、怒りの炎は、『贖罪の巫女』として受け止めると決めて居たのだから。
「先程も言った事とは少し違うかもしれないが、世界の終わりにファルカウ独りにはしたくないというのが本音だ。
世界の破滅も、彼女が独りであることも、もう終わりだ。この先の未来に繋ぐ為にもな……!」
彼女を救う道筋は、きっとか細い光だった。
ただ、その人を殺したくなんてなかった。
――だって、アイツの大切な人だったから。『約束の果てへ』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)は独り言ちた。
「今こそ、看守の意志を最大の力に変える時よ!」
彼はこの為に力をくれたのだろうか。もしも、砕けてしまったって、『クェイス』は笑ってくれるはずだから。
「……有難う、クェイス。力を貸してくれて、此処までずっとお世話になっちゃった。
これはアイツとの確かな繋がり。無くなって欲しくないけど……この先でアイツは待ってくれている。なら何も躊躇う理由なんかないわ!」
何時の日か、彼と歩む未来(あした)の為に。
今と未来を繋ぐ為に、寂しい気持ちの理由を教えて欲しい。
彼の事をもっと知りたい。
セチアはぐっと手を伸ばした。
――行く先は、もう決まっているでしょう!
「……諦めるなと、声が聞こえた気がする」
あなたは、そうやって笑うでしょう。
「皆が側に居る……それだけで心が温かい」
ここにあなたがいなくたって、なにも恐れる事なんて無いの。
「明日もまた皆で笑い合いたいから! ――騎兵隊の、皆の、『希望』を受けてみろです!」
イーリンが自らを支えてくれる。レイリーが自らを支えてくれる。
だから、二人を支えるのが『100点満点』Lily Aileen Lane(p3p002187)の役目なのだから。
彼女の思いを背負ってきた。ミーナさん。あなたが好きでした。だから、行こう?
ママも、ルチアさんも、アルムさんも、セレナさんも、みんながみんな、私の背を押してくれた。
あの日、暴食の渦なんて、怖くないほどに。導いてくれる人が居た。
「……うん、頑張るよ!」
あなたの声が、背中を押してくれるだけで、つよくなれるの。
それが『私』だから。
「ファルカウが本当は救いを求めているのなら。
怨念の炎が滅びに向かわせているのなら。私はその怨念だけを破壊する。
――この世界の未来も、ファルカウの未来も、失わせはしないよ」
その為に此処までやってきた。ベヒーモスの側から『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)はパンドラを流し込む。
それがあの怨の炎へと届くようにと、そう願っている。
イーリンの『挟撃作戦』は何れだけ上手くいくかも分からない。絶凍で憤怒の熱を冷まし続け実を結ぶその瞬間を見据える為に。
――『神逐』を為した。それ故に、今の豊穣が存在して居る。
あの時よりも沢山の仲間が居る、想いが、希望が、力が集結している。
あの時の軌跡はどれ程に眩いものであったか。
白き毛並みを揺らがせて、あの神様は再誕してくれた。
「……賀澄様。お願いがあるのです。どうか、どうか――号令をかけて頂きたいのです。『あれを倒せ』と。
豊穣が為にその剣を振るえ、と。その言葉があれば、俺はどんな敵にだって立ち向かっていけるのですから」
「ルーキス。俺がいなくったって、お前は何処へだって行けるよ」
そうやって笑う貴方の優しさが『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)を此処まで連れて来たなどと知らぬだろう。
この刃は忠義が為に。
「だが、斃せ。それが我ら豊穣の民の為すべきだ」
「御意のままに。行って参ります!」
ルーキスの背中を見送って瑞神がくすりと笑った。「ずるいひと」と。
「ああ、瑞さま……! 想いが、届いたのです、ね。それに、沢山の人達が駆けつけて下さって……。
ファルカウさまから怨炎が分かたれた今、こそ、この滅びを打ち祓いましょう……! 彼女を、世界を、救い……その先、へ」
「メイメイ」
そっと頬に触れる小さな掌。黄泉津瑞神は小さく笑うのだ。
「祝福を、どうか。途切れぬように、わたしとあなたの縁を」
「はい。行って参ります」
あなたがいたから、ここまで走ってこられた。
あなたが愛してくれたあのひとと、わたしはここまで来た。
だからこそ、『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は笑った。
小さな村から追い出されるように突然に始まった冒険だった。涙に濡れた日が、世界が、色を変えた。
「わたしも、誰かの希望になれていたら………ふふっ、此処におひとり、居ました、ね。でも、貴方もまた、わたしの希望のひとり、ですよ、晴さま」
「俺には奇跡を起こせるような、そんな大それた力は無い。
だが、あなたが、メイメイが、居てくれるだけで、希望になろうよ」
「ふふ、わたしも、です」
笑って。笑って。
ねえ、愛おしい友人は、無理ばかりをして走って行くの。
「まったく、オデットったら」
指先にきらりと輝いた指輪。『鏡花の癒し』ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)は小さく笑う。
無理ばっかりをする友人は氷の狼と共に走って行ってしまうから。
彼女の頑張りの分だけルチアだって踏ん張れる。癒やす事が己の力だから。悪戯に、誰も命を散らさないように。
ルチアは強くなれる。呪いだなんて馬鹿げた物も、遠く、遠く斥けるように。
「それじゃあ、あの炎、を消せばいいのね……でっかくて、滅びだけを与えられている獣。狼ちゃんみたいね、お前」
くすりと笑ってから『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)のドレスがはためいた。
「『そういう役割なのね』」
幾千もの願いも、その前に立ちはだかった悍ましき怒りも。その全てが、ここで散るはどちらかと求めている。
ああ、だって。
分かりきった物語にお終いをメリーノは与える事だけを考えるのだ。
「じゃあ仕方ないわ。終わらせましょ、なるべく苦しくないように。
それにしても、はるあきちゃん、ほんと! ほんと! 意地悪したいわぁ! ほっぺを引っ張っておきます 思い切りびよーん」
「んっ」
「は、晴さま」
くすくすとメリーノは小さく笑った。ほら、友人(ママ)が呆れた顔をして居る。
それでいいの。そうやって、世界は面白く過ごしていけるのだもの。メリーノはふわりと大地を蹴った。ファルカウの姿をした女が笑っている。
「ああ、全く……」
『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)がじらりと睨め付けるのだ。
「もう難しいことは言いっこなしです!
晴明! 貴方は私の結婚式に参加してもらいますから、それまで死ぬんじゃないですよ! バーカ!」
「妙見子」
「何ですか!」
勢い良く振り返った妙見子に晴明は真面目な顔で問うた。
「……ドレスコードは」
「それ今聞きますか!? ああ、もう! 面倒な『息子』を持ちましたね! 何だって良いですよ!
ほら、メイメイさま。その『頭でっかち』引っ張ってきてください!」
「ふふ、はい」
――こうして、未来が繋がっていくことだけを願っているの。
繋いだ縁も、結んだ絆も。それは全て美しい縒り糸(きせき)となってくれるのだから。
「ファルカウ様!」
妙見子が呼ぶ。騎兵隊が駆けて行く。その中で、ただ、足を止めること何てない。
「ファルカウ様!」
もう一度、呼び掛けた。
(望めばどんな薬にもなれるのだと大切なひとの言葉を思い出して――優しさを繋ぎ、毒を薬に、ファルカウ様に届けましょう)
願うように、祈りのように。ただ、その毒が正しくは薬となってその心を癒すようにと。
それだけを『繋げた優しさ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は願うのだ。
ルナが支えたファルカウが呆然と天を眺めている。その姿を眺めながら、ジョシュアは語りかけるのだ。
「大丈夫ですよファルカウ様。僕の血はそのままでは毒ですけど、植物栄養剤にもなれる可能性を持っています。
……貴女にとってもそうなれるといいのですけど、緑を育むために使うと約束します。
足りない月光の代わりにパンドラを使ってでもいい。どうか……ファルカウ様が命を落とす事がないよう応えてください。
毒の僕も、ファルカウ様も、生きていていい世界なんです――手と手のあたたかさを知って、幸せになってほしいです」
あなたが生きていられるように。目の前の焔を蹴散らして、全てを支えたいのだから。
これが、己の軌跡を込めた一撃だ。
――『己の力を信じろ。為すべきことを為せ』『……必ず、生きて帰ってきてね』
父様、母様。そうだと、己が認識したのは『当たり前の様に奇跡』の片鱗が首を擡げたからだった。
体に力と熱が湧き上がった。死すること無く、ただ、駆抜けるが為に。
「今の自分に恐れるものなど何も無い。この世界と大切な人達を。必ず守ってみせる!」
豊穣の民として、己は――
「瑞さま!」
呼ぶ、メイメイは祈る。
「瑞さまの御力の後押しも得て、『神逐』を、此処に、積もりに積もった怨みの炎を、鎮めましょう。
――アレクシアさまの起こす魔法にも、繋げられるように」
そして、数多の奇跡が此処に結びつくために。
「ファルカウ様これでも世界は争いに溢れてると思いますか? それでも醜いと思いますか?
人の歩みは確かに間違いばかり、それでも私はすべてをひっくるめて愛しいと思うのです。
愛し人達が為、私は何度だって立ち上がります――だから早く目覚めなさい」
その為の奇跡を、ここに持ってきたのだ。
分からず屋。
――瞼を開けば、世界は美しい色をしているのだから!
「此処ら並ぶ騎兵隊の英雄等ら折れぬ事なき不屈の矛。数多の戦場駆け抜け紡いだ戦果は正しく希望の体現。
ならば――汝らにも、終焉にも、負けることはない。奴らに奪われた樹を奪還し、この戦いに勝利を齎す事。
それこそが、流星なる勇者の選択である。Lily、我が愛の背中を――任せたぞ」
「任せて、希望は、花開く!
Lilyの声音を『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は聞いていた。
描く切っ先の先に可能性が宿った。
パンドラの祝福は、世界を繋ぐように鮮やかだ。
微笑んだ『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)の傍でロージーが小さく声を上げる。
「ロージー、続いてよろしくね。
丈夫、貴女は絶対に護るよ……イーリン。貴女は私の光」
希望の光。
彼女の傍で、歌ってきた。
何だって信じていられるの。向こうから幸潮の気配を感じられる。
皆の夢が重なり合えば、何時しかそれは結びついて、希望となる筈だから。
「希望よ! この炎を、魔獣を鎮めなさい!」
ロージーが小さく身震いをした。怖くないわ、だって、『何だって救い』にできるのだもの。
これが、騎兵隊の歩んで来た道なのだから、なんだって怖れる必要なんて無い!
『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は息を吐く。
(私は私をイーリンに繋げなければならない。……でも、リソースは減る一方。
万能型の自覚はあるけど、それにしたってできることはだいたいやり尽くした―ー自分の残りパンドラも心もとない)
全てを遣い潰した後でそこで終る謂れもない。
ほら、聞こえるだろう。
彼女の笑い声が。
テレサの間合いは、彼女に学んだ全てのようで。
砕けたピジョンブラッドの残影を握り締めた。間違いなく死は救済だ。それに、新生だ。
『彼女』はファルカウに何と言うだろう?
「彼女は『死は救済』と言った。私はそれを認めた。それでも、私は生きねばならなくなった、だから」
――創世よ成れ。これは救済だ。
私の救済(イーリン)の救済のために。
「これは私の鏡像の具現。
しかして、死がなくともただの一撃が世界を変えることを知れ、ネガジェネシス―――!」
ねえ、あなた。
もしかして、死にたいの?
莫迦が、テレサ。死にたいわけなんて。
「美咲!」
ほら、真っ先に彼女が呼び寄せてくれるではないか。
「来て――――!」
イーリンの声が響いた。
怨炎も。
ベヒーモスも。
終焉獣も。
何もかもが有限ではないか。
だからこそ、切り裂け。終焉を切り裂く先駆けが此処にやってきた。
騎兵隊は旗を揺らす。
『双方』から流し込んだ可能性が、潰えることはなく。
「届け――――――!」
伸ばせ。手を――希望は此処に花開く。
成否
成功
第4章 第4節
●
「アリスだ! 久しぶり、セララだよー。
アリスも一緒に希望パワーを集めようよ。皆で奇跡を起こすの、きっと楽しいよ!」
「R.O.Oはね、生憎『悪い奴』がいるわ。ええ、とってもわるいの。でも、呼んでくれたのね」
「勿論」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)はにんまりと微笑んだ。彼女がここにいるだけでしあわせだ。だって――キミはボクの友達だから。
「ボク達がこれまでに築き上げたもの、それは人々の繋がりだよ。さあ、皆の希望を集めよう!」
ジェーン・ドゥはにこりと笑ってから「ねえ、いるのね」と振向いた。
「R.O.Oカラマデ援軍トハ。コレモ縁カ。アノ世界ノ思イ出モ力ニナルトイウノナラ。
【突貫】トシテ戦イ抜イタ エイラ達ノ旅路程 頼レルモノハアルマイ。
ROO最硬ノ君ヨ。主ト共ニ生キタ守護ニ特化シタ我=フリッケライ データ 元ニシタ君ヨ――『すべての希望』護リシ盾トナレ」
願うように『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)はそう言った。
希望を託しにやってきた。希望を繋ぎにやってきた。
「ファルカウ。君ガ縁ヲ結ビ君ヲ遺シテイッタ人々モマタ 遺サレル君ノコト 想ッテイタダロウ。
我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。死者ノ心 願イ 護ル者――君想ウ彼ラノ心モ護ラン」
何人たりとも喪わぬ為にフリークライはここまで歩いてやってきたのだ。
「こっちのセリフだよ。ねぇ、アリっち。なんで帰ってきたのさ。
めでたしめでたしで終わった物語に、続きなんて期待してないよ。私はキミに生きて欲しくなかった。
でもさ、私はキミにまた会えて良かったって思ってるんだ」
「奇遇だわ! ああ、なんて――なんて、可笑しな話かしら」
死んでいて欲しかった。けれど、『もう一度』があれば『きうり』でもデッカ君に届けようか。
『虚飾』楊枝 茄子子(p3p008356)はくすりと笑った。もう、彼女との話は終り。
「私は過去は振り返らないよ。
歩み? そりゃ歩いたんだろうね。ここに居るってことは。でも知らない。先しか見ない。
終焉? いや、終わらない。これはもう決まりだから。私が言うからそうなるんだよ」
「じゃあ、私とも初めましてで構わないわね。どうも、私はアリス。無色のアリス」
「茄子子。ただの『嘘つき』だよ」
茄子子の唇が吊り上がった。
「邪魔なんだよ、わさわさ出てきやがって。私はデッカくんと遊びたいんだよ。元の場所に戻れ戻れ
――果てなんてないよ。明日も明後日も続くんだから。私の旅路はまだ始まったばかりだ!」
これから、愛おしい人と過ごすのだ。お前等なんて、きうりでも食って『助かって』くれ。助かってやくれないけれど!
「いよいよ以て終焉の終わりが近付いて来たじゃないか。
捕縛が利いている内に叩きつけてやろう、この混沌での歩みの全てを!」
符を手にして『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が唇を吊り上げた。
これまでの全てを出し切れば良い。まだまだ『高み』には届いちゃいないけれど――その手を伸ばす先は定まっている。
符が周囲に舞った。その中を駆抜ける。冒険者の少年は歩みを止めることもなく。
「ここがクライマックス。最後まで全力で付き合って抗わせて貰おうか!」
『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)にとって、この世界は数ある一つだったろう。
「我ら、偶々同じ刻に召喚された、たったそれだけの縁。
されどそれだけを理由に、こうして共に最後の戦場で刃を振るう。死力を尽くせど、全員揃って生き残る。
またいつの日か、再び。別の場所で集いて城となる為に。故に。我らが命、お前にはくれてやらん――早い話が、一人でくたばれ、だ」
『目的第一』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)はただ、前のめりに『騎兵隊』が叩き込んで頭を垂れたベヒーモスだけを見ていた。
傍の焔は揺らいでいる。このまま、掻き消えれば魔女の意識を浮上させられるはずだ。
「魔女よ」
声を掛けろ。
「魔女」
その名を呼べ、『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)が導く先のように。
「あの魔女にではないが! 私達の旅の末というものを、見せてやれ!」
「いいえ夜式様。ここは旅の“末”などではありません。”最前線“ってだけです。私たちの冒険は、未来は、……どこまでだって続いていくものでしょう?」
仲間と、友と、大切な人達と、ここまでやってきた。
終末程度に負けて堪るモノか。
『アイのカタチ』ボディ・ダクレ(p3p008384)は真っ向から、正面を見据えた。
「――この世界に生きる私たちが、諦めるものかッ!」
ここまで、生きてやってきた。進むべき道が定まったのだ。
ボディと呼ぶ彼の声音を思い出す。懸けるボディと共に『涙を知る泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は進んだ。
「正念場、そうだな。いや、フィナーレと言い換えるよう!
混沌の旅路を果てまで歩きとおした! 混沌にギャザリング・キャッスルありと鳴り響かせるぞ!!」
ボディが倒れぬように、ただベヒーモスから落ちてくる終焉獣を薙ぎ払う。
ならばこそ、マッダラーも叩くのみだ。
「これが俺の歩んできた軌跡だ!
絶海を越え、夏の夢の終わりを見届け、源紫の詩を紐解き、怪竜に立ち向かい、夜の王を眠らせ、再演を許さず、月の王宮を制覇した。そして、今ここに俺は立っている。
幾多の出会いと別れの中、ここに立つことが叶わなかった仲間の記憶を歌に込める。
――お前を倒して、俺たちは新たな芽吹きの時代を作る!」
カインが斬り伏せたその場所に飛び込んだのは十七号だった。
「いけるな、吼龍。お前にはずっと世話になってきた。
この手甲も、これまでの縁が作って来た! 武器も仲間も、イレギュラーズになってから繋いだものだ。お前達がいくら強大だろうと、その程度で負けはせん!」
叩き込め。ただ、一度の出会いであったとて、それが形となるならば。
「この泥人形が混沌の中で知ったのは人々の繋がりの、関わり合いの美しさだ。
言い争いもあった。去っていくもの、散って行くものたちも居た。
けれど皆、それらを抱えながら笑って未来を見続けていた。この世界は美しいと、何度も思った」
マッダラーは歌う。その声音と共に錬の符が躍る。その傍をボディが支え続ける。
「だから、未来は楽園へと続いているんだ。旅路の終わりはいつかくる。だが、次の道がまた前に広がっている。」
――その旅路は何処までも。
「その後どうするかも考えないといけないけれど……そもそもあなたを討たないと話にならない。そうでしょう?」
息を吐いた『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が頭を垂れたベヒーモスへと近付いた。
眩い気配、虹色の剣を手にしてヴァイスは進む。
ベヒーモスに流し込まれた『騎兵隊』のパンドラが、その動きを食い止めた。光と共に宙空に留まった肉体を支える様にヴァイスの剣が突き立てられた。
「このまま、終わりにしましょうね」
ベヒーモスが伽藍堂になれば、解ける前にファルカウの術式に頼らねばならない。
けれど、大丈夫。その為の準備だって、奇跡を持って成せるはずだから。
「ベヒーモスや終焉獣にファルカウは食わせない……彼女を糧にして暴れだすなんて事、絶対にさせない!」
ルナが守り抜いたファルカウの傍に立ち『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は息を吐く。
「マナセさん、アイオンさん、ロックさん、クレカさん」
「なあに?」
にんまりと笑うマナセの杖に魔力が宿る。屹度、分かって居るのだ。
「……僕は混沌世界で過ごして……後悔するような事だってあったけど、幸せなんだ。
だから……ファルカウさんにも生きてほしい。ベヒーモスを消し去ったその後も……!」
様々な感情を抱いてやってきた。ヨゾラは想いを束ねるならば彼と共荷が良かった。ライゼンテもフィールホープもファゴットも。
何時だって、この星空は違えることはなく煌めいているのだから。
「僕等は先も紡いでいく、大切な人達と、親友達と……【星空の友達】と一緒に過ごす思い出を。
星空の四つ星を胸に。彼等がいる世界の未来を迎える為に――僕は希い、願望器として叶える!」
祈りと願いは、結びついたものだった。
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)はにこりと笑う。
「わたしの持ちうるもの。ひとつはこの結界。海と、街と、人と。そこにちりばめられた願いの結晶。
――命を守る祈りと願い。呪いさえも防ぐ盾。祈願結界『vis noctis』
それから、血の絆。マリエッタから――大切なひとから貰ったもの。
絶対にほどけない約束。そしてこの世界で紡いだ縁。大切なひとたち。四葉の祈り」
ぎゅうと、抱き締めるようにしてセレナがこの世界で得たものが力となった。
箒星に跨がって、ファルカウの元へと飛び込んだ。
流星よ、降るが良い。
動きを止め、おのれの命運を知ると云い!
「ファルカウさん……本当に、ありがとう。絶対に、この機会を活かすから……!」
小さく息を吸ってから『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が拳を固めた。
「ファルカウさんの滅びを、怒りを、祓うから……!」
沢山沢山、想いを重ねれば、いい。祝音にだって大切な人が居て、家族が居て、一緒に過ごしていきたい。
(火鈴さん……帰ったら、一緒に遊ぼうね)
彼女は屹度困ったように笑うだろう。ベヒーモスへの呪いを使うときが来たならば祝音はそれを支えると決めて居た。
「ファルカウさんは死なせない」
――だから、想いを力に変えるのだ。
光の白子猫。祝音はベヒーモスの安寧さえも祈るのだ。そのからだが、苦しい事など無いように。
「さあ!」
唐突に明るい声音が響いた。琉珂が「わあ」と声を上げる。『指切りげんまん』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)だ。
彼はにんまりと笑ってから動きを止めた悍ましき焔を指差している。
「魔女から分離した滅びの怨炎(ムカ着火ファイヤー )、清らかな美貌たる私がはいぱ〜里長様たる琉珂様と一緒になんか良い感じに鎮めますとも!
滅びさせはしません……美しい私達が生きる美しい世界ですから!」
だからこそ、此処までやってきた。
共に歩んだ。見据えた先に――
「琉珂様、申し訳ありません。私にはどうしても『彼』を拒むことはできない。
彼はきっと私の半身なのです。ですが、もう飲み込まれはしない。
……私の中に在す貴方。貴方の憎しみの炎も、この世の醜いものばかり見せられたが故でしょう。
さきがけの命よ闇を讃える貴方の昏き瞳に光を、美しい世界を見せるとパンドラに誓う。
どうかお力添えください、未来への道を切り開くために! ――私は貴方と共に生きたいのです」
『――愚かな……』
ヴィルメイズが眉を顰めた。その隣で「だーーーれが愚かか!」と琉珂が叫んだ。
「愚かじゃないわ! 美しいのだもの! ヴィルメイズ、安心して。私も、ずーりんも、師匠も、鈴花も、月瑠も、朱華も、里の皆もいるわ!」
だから、このまま未来へ行こう。
そうやって『覇竜領域』は亜摘むことを決めたのだから!
「それで何を悩んでいるのです?」
「ッ――!? フ、フロックス様……!?」
『妖精■■として』サイズ(p3p000319)が振向いたその場所に妖精女王フロックスが立っていた。
「お手伝いをさせて貰えませんか。勇気を下さいです」
「勇気?」
「妖精も、貴方と一緒に祈りたいのです」
それが妖精郷の総意。
ずっとずっと、大切な人(ファレノプシス)を取り戻そうと願ってくれたあなたへ。
愛しき我らが友人へ。
「あなたの苦しみが、打ち払われますように」
妖精は願うように指を組み合わせた。
――死ぬなんてゴメンだった。
それでも、構わなかった。己は、鎌だ。妖精の『武器』だ。だからこそ、妖精のために生きてきた。
春風の気配なんて何処にもなかった。
「ッ……時すら歪み、壊れろ! 滅びの冬白夜のアーク!」
苦しんだ。苦しんで、苦しんで。
世界の命運までもを羨んだことがある。
それでも、この一撃を届ければ、ファルカウは――妖精達の棲まうあの場所の大樹は穏やかさを取り戻せるならば。
自らの半身であった鎌を切り落とした。己は全て、鎌の持ち手へと『命』を移す奇跡を以て刃を捨てた。
刃が焔を切り裂いた。赫々たる火の盛りが僅かに沈み込む。
「これで明確に妖精武器のサイズは死んだ……僕はロッド……いや、ツリー·ロドと呼んでくれ……ただのサテュロスだ。ケジメの終わりだ」
その傍らを、少女が走り抜けていく。
魔法騎士を、勇者を名乗ったひとり。
セララがリンツと名を呼んだ。
「ボクが今まで出会った全ての人達。彼らの笑顔を守りたいという想いを聖剣に込める!
リンツが良ければボクも聖剣を一緒に握って振りたいな。一緒に世界を救おう!」
「ああ! 行こう! セララ!」
振向くリンツァトルテが「ゴリョウ!」と呼んだか。
「ああ、行くぞ! 全力で行け! リンツ、イルの嬢ちゃん、『魔女(希望)』を守れ!」
セララと共に握り締めた剣にリンツァトルテは嘗てを思い出した。
彼女は、ロウライトの娘はこの剣に何を思ったのだろう。
彼女とヴァークライトの娘が向かう先にどの様な希望があるのだろう。
――それを願えば、君達の向かう先へと光を与える。
「さぁって、大詰めだ! どうせならリンツもイルの嬢ちゃんも護り切ってこそ『聖盾』ってもんだよなぁ!
……物理的に手が足りない? しゃらくせぇ! 俺一人じゃ手が足りなくとも、俺には託してくれた友の想いがあらぁ!
我が友(セレスタン=サマエル)よ! 居るんだろ! 在るんだろ! そこに!
なら守るぞ! 俺の友を! お前の友に成り得た者を! 彼らの大切な『もの』を!」
――俺と! お前でだ!
(私には形あるモノはない。約束もきっと彼が理想だからで……私と彼には何の繋がりもなくて。
私はロザリエイルさんみたいになれない。
失恋だと終わりにして前を向く事が、楽で正しくても、辛くて間違いで、自死の未来でも、最期まであの人を愛し続けたいのです)
『遠い約束』星影 向日葵(p3p008750)は『朝顔』ではなくなった。大輪に咲く花となったのだから。
「……セレスタン=サマエルさん、私は理想だからではなく、私の我儘を約束に変えてくれた、誰でもない貴方に恋をしたのです。
私は貴方の来世を愛せない――でも幸福は願いたくて……故に命を懸けて世界を救うのです」
来世なんて、ないかもしれない。輪廻転生なんてこの世界にはないから。それでも、もしももう一度があったならば。
「どうかこの想い、力に変わって。一撃……届け!」
彼が笑った気がする。
いいの、聞いていて。『パンドラ』を預けるから。
向日葵は願った。生き残れる未来を。これから先を皆で過ごせるように。
知っていますか。セレスタン=サマエルさん。
私ね。死んでも良かったんです。でも、『死んだらこの奇跡は意味が無くなるでしょ』
だからね――ハッピーエンドを見せて上げます。天義の騎士達も居る。貴方の盾(こころ)も此処にある。
「ハッピーエンドだよ、これはそういう物語です!」
この気持ちは力になった。送り出すように、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が呼ぶ。
「アレクシアさん!」
彼女に『全ての奇跡』を託すために、自らのパンドラなんて、持って行ってくれても構わない。
「ッ――」
握り締めたのは森のため、愛する母のために、ただ、彼女は『幼かった』筈なのだ。老いさらばえたとて、初々しく愛おしさを抱いていた。
その優しさ故に世の不条理に耐えられなかった大妖はきっと、ファルカウと同じなのだ。
「優しい人が泣いたり苦しんだりするのが、オレは我慢ならない。
誰かを幸福にした人は、その分幸福になるべきだ。
だからファルカウ。オレは、あんたにとびきり幸せになってほしい。笑顔になってほしい。心の底からそう思う」
だから。
だからこそ――
「おまえの命なんて! 犠牲なんてクソッタレだ! 許さねえぞファルカウ! お前は今まで笑えなかった分、いっぱい笑うんだ!
命が必要だってぇならオレの分もやる! みんなも、頼めば絶対力を貸してくれる!
だから、死ぬ気で生きろ! でないとぶっ殺すぞ!
――奇跡ってのはハッピーエンドのためにあるんだよ!」
『願い紡ぎ』ニル(p3p009185)はテアドールの指輪に口付けた。いとおしいひと、そばにいると『あたたかい』だいすきで、たいせつで。
「……目がさめてからのニルは、たくさんのことを知りました。
『おいしい』『たのしい』『ともだち』『かなしい』『おなかがすく』『かわいい』『あいしてる』……
ニルは、みなさまのことがすきです。みなさまのいる、ここがすきです。
だから……なにひとつ、なくしたくないです。みんなで帰ります。ファルカウ様も一緒です!」
離れていたってテアドールがいてくれる。
大切で、大好きなひとだから。あいしていると、たのしいが、そばにある。かなしいとくるしいはもういらないから。
夢を結ぶように、希望を手渡した。
叫んだ風牙の傍らを、祈ったニルの傍を、一人の少女が歩んでいった。
「大丈夫だよ。スティア君が、守り抜いてくれる。だから、私に預けて」
彼女の名を呼んだ。『ひだまりのまもりびと』メイ・カヴァッツァ(p3p010703)がその手を握り締める。
「アレクシアさん。
……選んだ道は、屹度素晴らしいものになるはず、だから。
いきものは、その魂に様々な想いを刻みながら歩むもの。
ファルカウさんにだって、その魂に刻んだ思いがあり、今の道を選び取った。
皆それぞれ。正しいも悪いもない。けれど……メイは、明日も生きていたいから。もうすこしひとと過ごしたい」
メイはにこりと笑った。
「ねーさま」
「クラリーチェ殿」
彼女の名を呼んだのはメイだけじゃなかった。『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)はぎゅっとカロルを抱き締める。
「キャロちゃん、心配してくれてありがとう」
「おまえが居なくなって、あの無茶する女三人集が居なくなったらどうするの?」
「あー、アレクシア殿と、サクラ殿とスティア殿?」
「そう。どうするの」
「……どうしようかな」
「どうしようもないわ。おまえたちは大馬鹿だから私が地獄から引き戻してあげる。より生き地獄を味わうことになるわ」
彼女は笑った。
それでいい。『あなた』が生きているだけで嬉しい。
カロルの心臓が動いている。抱き締めれば暖かい。背中を撫でる掌が心地良い。
「行こう。
……怠惰との戦いで知りました。大樹ファルカウは深緑の霊樹と繋がっている、と。
だから、拙者は精霊ファルカウに、大樹ファルカウに思いを寄せていた者のこころを、この場に集めて見せます!
今ファルカウを想う皆の想い! かつて深緑に生きて、大樹に祈りを捧げてきた人々の想い! その全てをもって、希望を示しましょう!」
――だから、呼んだ。
力をかして。
お姉ちゃん。クラリーチェ殿。――Bちゃん。
『ばっかなやつら』
笑って呉れれば良いよ。死なないから。死なないように、『みんなで歩む未来』しかみていないんだ。
「ねーさまが居なくなったあと、どうしてメイが空中庭園に? てずっと思ってた。
ひとは、それぞれ役割を持って生まれてくるのですよ。――ならば、メイの役割は。今。
『一緒に生きていきましょう?』と思いをファルカウさんに届ける事……! アレクシアさんに、たくします」
「アレクシア殿。お願い!」
彼女は、ただ、笑った。
騎士達を背にしながらも『無限円舞』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は振り返る。
「この旅路は決してイレギュラーズ達だけのものではなかった。
この地に住む人々も、人以外の人も、時には魔種だって。
色んな人が手を貸してくれて、協力して、希望を紡いでくれた。
……決してこの世界は滅びるべきじゃない。そんなこと、誰にも言わせない!」
天義は、少なくとも『我らの国』は、前を見据えていた。
聖騎士団も、希望を見ただろう。
コンフィズリー卿、あなたの希望が蒼穹の魔女の道を開いたのだから!
「私達の思いだけじゃ足りないわ。貴方達も祈って。これまでの旅路を。隣人、友、大切な人。背負っているものを蒼穹の魔女に託して欲しいの。
彼女は神様ではないけれど、きっと奇跡を起こす。いえ、私達一人一人の手で、奇跡を起こしましょう! 奇跡を体現してこそ、真の聖騎士なのだから!」
ほら、背を押して。貴女が行く道に『私達の希望』が、奇跡の礎となるから。
「オヤスミ ファルカウ。花枯レテモ 種 残ス。ソシテマタ 花 咲ク。君ガ遺シタ希望ノ花ガ」
囁かれるその声に――『焔』の気配が移ろいだ。
怒りの化身は消え失せる。そして、眩く彼女が目を開く。
「いってきます」
その言葉が光のように降り注ぐ。
貴女に託した希望が、どうか、貴女を護るように。
ただ、それだけをルル家は祈っていた。
――おはよう。それから、一緒に行こう。
そんな言葉を、いつだって『誰か』に言おうとしていた気がした。
成否
成功
第4章 第5節
――きっと、聖女というのは万人を救う人の事を言うのではなくて。
たった一つの何かを後悔せぬように切り開ける人の事を言うのだろう。
「ねえ、ルルちゃん」
「何よ、バカスティア」
「バッ……」
今、そういう事を言う場面? そんな風に振り返った『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)へとカロル・ルゥーロルゥー笑った。
「いや、おまえだけじゃないわ。自分の時も思ったけど。
イレギュラーズって、莫迦ばっかりよね。イレギュラーズだけじゃないわ。サマエルも、コンフィズリーの坊やも。
カムイグラ? って国のあの何? MIKADO? あのみょんってした帽子の男とか神様もそうよ。
此処では無い何処かで戦う奴らだって皆大馬鹿者だわ。でも、嫌いじゃない」
カロルは、『元々は敵であった女』は朗らかに微笑んだ」
サイズが――ツリー・ロド(p3p000319)が己が身を切り裂かれようとも為したいことがあると告げた。
妖精女王フロックスの杖に光が宿される。傍らで、つんと肘で小突いた『赤々靴』レッド(p3p000395)は「ア~リス」と笑った。
「ついでに『ピエロ』にも『はよ出て来い』て伝えといてくれる?
あの旅は混沌世界では無かったけれども……記憶に良き思い出と残るもうひとつの『現実』でもあった」
グレイ(p3x000395)を一瞥してからジェーン・ドゥは明るく笑う。「ええ、構わないわ。目が醒めるような毎日をお見舞いしてくれるならね」と。
ああ、構わない。レッドはこれまで沢山の道を歩んだ。困難だって知っていた。
――それでもいい。
レッドは『靴』だ。歩みの象徴だ。
汚れたって、草臥れたって、靴がなければ歩けやしない。
「さあ! 世界を一度救ったことがある。ならこの世界も救ってみせようじゃない!」
まるで『異世界』を行くような冒険譚。その光景を双眸に映したのはセララ(p3p000273)だった。
「行くよ、リンツ!」
「背中は任せなさい。コンフィズリー卿」
淑やかにアンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が声を掛けた。背を押されるようにリンツァトルテが走り出す。
「スティアの嬢ちゃん! 護りは任せろ!」
その手には『オリオール』の盾が握り締められていた。ゴリョウ・クートン(p3p002081)の声を聴きスティアはカロルの手を握り締める。
「まるで、あの日のようだね。サクラちゃん」
「そうだね。私達の国は二度の冠位魔種による危険に晒されたけれど――今は、それをも乗り越えた力がある!」
生きていくことは、苦しい事ばかりだった。
アミナは、『革命派』の娘は。決して聖女様になんてなれない。万雷の拍手の下で、気取ったワルツを踊るような馬鹿げた姿を見せることしか出来なかった。
「――アミナ。初めての国外旅行にしては物騒な地を選んだな。全剣王の時の疲れは取れているのか?
私は取れていない――が、この身も、君がくれた短剣も欠けてはいない……止まる訳にはいかない、な」
「あなたが、それに先輩がいるからここまで来ることが出来たんです」
アミナはにんまりと微笑んだ。『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)ははたと動きを止める。
「ルブラット。アミナのこと、お願いしますわね。
あの子、危なっかしいところがあるから。貴方が守ってあげて下さいまし。
――……主よ、どうか二人を、私達に御加護を。困難に立ち向かう勇気を、皆を守り抜く力をお与え下さい」
願うように、祈るように。『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は静かにそう言った。
ヴァレーリヤは何となく寂しさも感じていた。ああ、だって、あのアミナの顔。もう随分と成長をしてしまって。
(雛鳥のように着いて来ていた子供ではなくなってしまいましたのね――)
それでも、心配するのが『友人』なのだ。ヴァレーリヤは杖を手にした魔女の背中を見詰める。
深緑の魔女。ファルカウではない、『特異運命座標』の魔女の一人だ。
「まったく、少し目を離すとすぐに無茶をするんですもの。
……アレクシア、一つだけ約束して頂戴。どんな無茶をしても良いけれど、ちゃんと帰って来るんですのよ」
彼女は、きっと「大丈夫」だなんて朗らかに笑うのだ。
(無事に――その為に、私達は全員で先を願うんだ)
スティアは指輪を握り込む。リインカーネイション、己が持ち得た『最大』の力。
悲しみも、苦しみも、途方もない痛みとなって降りかかった。
母は死に、父は身を投げた。
父を殺そうとしたのは――「それは、私のおじいちゃんだったんだよ。スティアちゃん」
親友(あなた)の家族だったけれど。
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は微笑んだ。
いつだって、彼女はその笑顔を曇らせることはない。
「この先何があるとしても、まずは生きてこそだよね!」
「そうだよ。これから、紡いでいく未来があるんだから」
――親友は、長命種だ。
サクラはそれだけが心配だった。自分も、それから彼女の家族だって、彼女を置いて行ってしまう。
何時の日か一人になった彼女の傍に『ルルちゃん』だけでも居てくれるならそれだけで安心だ。
「サクラちゃん。ルルちゃん、手伝って。……私は、この物語を悲劇で何て終らせない!」
「勿論だよ、スティアちゃん」
「莫迦ねえ、サマエルの事を好きだって言った女も云ってたでしょ? これってハッピーエンドなのよ。
おい、向日葵! 死なないで頂戴よ。お前とサマエルの話しが足りてないんだから!」
声を荒げたカロルに唐突に呼び掛けられてから星影 向日葵(p3p008750)がぱちりと瞬いた。
「え――と、」
「私の友達を好きになったのなら、私とおまえは友達でしょ」
揶揄うような彼女の声音に「まあ、キャロちゃんなので」と夢見 ルル家(p3p000016)が肩を竦めた。
「ルル、皆。……行こう」
『神殺し』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は決意のようにそう言った。
アドラステイアと呼ばれたその場所は冠位傲慢が裏で糸を引いていたらしい。
それに、冠位強欲があの『小さな国』を作ったとも言える。それだけの恐ろしさを乗り越えて、滅びを打ち破らんと願う。
「ステラ」
――彼女は、打ち破れた。
そして、力をくれたんだ。 (……アレフ、力を貸して。ルルもぼくたちと一緒に進むから。……ぼくは、皆とハッピーエンドを見たいんだ!)
『騎兵隊』が双方から流し込んだパンドラ。指先を絡め合うようにリンクし合ったそれを、打ち消すが為にリュコスは願う。
「ベヒーモスと密接にリンクしているなら怨炎に干渉することで怨炎ごとベヒーモスの滅びの力を打ち消すこともできるはず。
ファルカウだって生き残って欲しい! ぼくらはそういう未来が見たいんだ!」
「そうだよ! こんな風に、沢山の人が力を合わせて、世界のために戦えてるんだもん。
すぐには無理かもしれない、皆が完璧に幸せになんていうのは難しいかもしれない。
それでも、1度はこうして心を一つに出来たんだもん……誰かに与えられたりするんじゃなくて、皆で平和な世界を作っていけるはずだよ!」
瞳が煌めいた。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は友人達と共に此処までやってきた。
まだまだ、何だって出来ると、そう信じている。
「ボクはね、友達のやりたいことなら手伝って上げたいんだ」
「無理ばっかするんだから。やーっと追い付いた」
「パッ、パルスちゃん!!?!?!?!」
「さっきね、レイリーちゃんにも『無理ばっかめー』って怒ったんだよ。ボクも手を握って居させてよ。友達だから」
にんまりと笑うパルスに焔は小さく頷いた。
じゃあ、此れが終ったら『お祝い』をしよう。それから、何をしたいか話そう。
そうやって、未来の話しをしたならば、世界は明るく開けてくるはずだから。
――明日は、どうする?
――昨日は、何があった?
「しゃおみー……特異運命座標になってから、ドラネコ達や亜竜種の皆と一緒に過ごしたんだ。
混沌世界で、美味しい物や楽しい事を沢山過ごしたり……特異運命座標として、戦いに協力した時もあるけど。
どれもしゃおみーにとっては大切な思い出だよ」
どこか、震えるように声を絞り出して『初めてのネコ探し』曉・銘恵(p3p010376)は掌にぎゅうと力を込めた。
覇竜領域は閉じた場所だった。冠位暴食と呼ばれたその人は、ただ、愛していてくれただけだった。
それは銘恵も、『覇竜領域』に棲まう者ならば誰だって分かる事だった。
誰もが穏やかに暮らせる世界が欲しかった。その理想は尊くて、ヴァレーリヤとて望んだのだった。
シスター・ナーシャ。あなたの憧憬は、墓標となった。過分なしあわせなんて望んでいなくとも、すべて取払われてしまうから。
たった、その程度の事すら叶わない世界だった。
「いいえ。ずっと、ずっと考えて居た。
守るべきものを犠牲にすることでしか結果を得られないのであれば、そもそもその方法が間違っているのでございますわ!」
そうだ。世界が絶望に満ちていたって。
だから壊してしまえと嘆く大樹の魔女の思いに触れ理解してしまったとて。
「……世界は絶望に満ちている。本当は……分かってしまうのだ。君もそうだろう? アミナ。
だが、喪い疲れ、諦めかけても、光が見える瞬間があったのだ。それはきっと私だけではなかった。
……手を、握ってくれないか。君がそうしてくれれば、こんな私でも届けられる気がするから」
「力になれるのであれば、嬉しいです。あの寒々しい冬に、凍え止むこと無き吹雪に、遠く天に降臨した二つの太陽に。
私達は打ち勝てたのですから。私こそ……手を握ってください。何倍にだって強くなれる気がします。だって」
――此処に立っている事ができるのだから。希望を願うだけの勇気を此処に持ってくることが出来たのだから。
「ええ……よろしいですね。ファルカウ様。
憤怒の炎……千年の陰気。よくもまあ、ここまで抱えてしまったものです。
その情の深さ故とはいえ……独りで頑張り過ぎですよ、ファルカウ様」
嫋やかに微笑んで『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は『炎』が薄れていることに気付いた。
このまま、このまま消え失せれば制御を喪ったベヒーモスは地へと叩きつけられる。その前に。
「……感じませんか、ファルカウ様。彼らのような者こそ、まさに貴女と共に在れる者達です。
貴女の手さえ引いていく事が出来る……人は、貴女程長くは生きられずとも、こうした想いを受け継いでいくのです」
だから、目を覚まして。恐れる事で瞼を伏せることは容易だった。
それでも、『貴女がそうしてきた』ように、人々の希望をその姿に集めんとする者が居る。
「ッ、これが僕らの―――希望だ!」
それが、彼女の背を押した。セララとリンツァトルテの振り下ろす聖剣が光を帯びた。
その光が、彼と、彼女の背を押すのだ。
「守ろう。ファルカウさんの体を護り、全てを追わせるために――」
リインカーネイションが光を帯びた。
それは天義の決戦で一度力を発した聖遺物だ。そして、二度目。使えば罅割れてしまう。
母親が遺してくれた最後の品だった。「スティア」とカロルが呼ぶ。いい。これでいいんだ。
「どうしても、助けたい。私達が今までやってきた事やアレクシアさんの決意を無駄にしない為にも!
ファルカウさん! 誰かの犠牲の上で成り立つ幸せなんて望んでいない! 皆で笑顔を迎える為に頑張るんだ!
それが私の聖女としての在り方、そして皆を照らす為の光でいたい。そんなワガママを押し通す!」
魔女ファルカウの体は眩い光に包まれた。守護の結界が周囲へと広がっていく。
久遠の光に背を押され『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)がその名を呼んだ。
「ファルカウ!」
託し、託されたものがある。繋いだ絆に、己のを名を呼ぶ者が居る。
「シャルロット、『君』とは違うけれど……今度は、友達になりたいな」
「友人になってくれるのなら、うれしいわ。どうか、素晴らしき航海(たびじ)を」
嘉神の少女に背を押され、ウォリアは、『嘗て神様だったイレギュラーズ』は進む。
「ブリギット、いつかまた出会い、平和な世界で共に笑える事を信じてるよ。
フェニックス、オレは託してくれた魂に恥じない戦士であれただろうか。
カロル、普通の女の子として、どうか君がずっと幸せでありますように」
「おまえもしあわせになるのよ」
「ああ。……黄龍、瑞。本当に、ありがとう。
二人から始まった縁が、誰かを救うという『やりたい事』を教えてくれた。ずっと大好きだ」
「漸く素直に言いおって」
黄龍の笑う声がした。
「吾も幾久しく主を思うよ、ウォリア――」
それだけで力になれるのだ。
「____最後に、リサ。愛しているよ」
ウォリアの希望が、スティアの指輪へと更なる力を与えた。ぱきり、と音を立てる。
眉を顰めたスティアがそれでも、祈る事を止めやしない。手を繋ぐサクラはただ、未来だけを見詰めていた。
「絶対に……諦めてなんて……上げないんだからぁ!!」
ファルカウは、祝福をくれる象徴だった。彼女は未来を信じていた。己の身を犠牲にしても祝福を願った。
その結末が暗澹とした滅びに飲まれて獣と共に死に耐えました? 莫迦な話しだ。
「ファルカウさんがくれた祝福を、今度は私達が返す番だ!
どれだけ間違っても、傷ついても!
だからこそ人は過ちを正して未来に進んでいけるってファルカウさんに示す!
そしてファルカウさんが幸せに、前向きに生きられるようにするんだ!」
貴女が、優しい人だったから。
――どうか、しあわせにね。
ああ、そうだよ。愛情たっぷりだったもんな。『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は小さく笑った。
「アレクシア! クロバ! 行け! 誰も邪魔なんざさせねぇ! 『魔女の魔法』とやらで『くそったれた滅び』なんて斥けちまえよ!」
牡丹が叫んだ。いつだって、彼女の心には『母』がいた。
優しく微笑んでくれるその人は、何時だって幸せそうな顔をするのだから。
「かーさんの愛、オレの誇り。足りねえとは言わせねえぜ!
すべての希望、全ては全てだ! 込めるのはオレの旅路だけじゃねえ! 愛は盲目と包み込む愛に遺されたかーさんの旅路もだ!」
ぎゅうと抱き締める腕の強さも、朗らかに微笑む顔も。何処か遠くへだって駆けて行くその背中も。
かーさんなら何もかもを優しく抱き締める。ベヒーモスのことだって。
スティアの指輪が更に輝いた。一体に保護のまじないが広がっていく。動きを止めたベヒーモスと、掻き消えんとする炎の気配。
(……あの日は見送ることもできなかった。
共にさえいられなかった。だからやっとアンタに言える――あばよ、かーさん。愛してくれて、ありがとう)
その愛情は、聖女と神の祈りによって包み込まれた砂の海に一輪の花を咲かせた。
花の気配に、眩い光が集っていく。
「ッ――」
目を覚ましたならば、何が見えるだろうか。
絶望の荒野? 無へと化した世界?
それとも。
それとも――気取った様子で笑う貴女達かしら。
魔女は――魔女『ファルカウ』は花瞼を押し上げて、静かに笑った。
「愛おしいわたくしの友よ。そして、蒼穹の魔女よ、森を愛す死神よ。
わたくしに、力を貸してくださいますか」
成否
成功
第4章 第6節
●
――あなたの上に天は立つ。全ては極光の元に。
『Selenite』、それが魔法の名前であった。
「ねえ、オディール。ファルカウに合わせてあの炎を鎮めるわ。分かった?」
優しく微笑んで『鏡花の矛』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はその頭を撫でた。
凍える様な寒さは身を縮めた。玉の緒を途切れさせるならばこの冬だろうとさえ感じられた。それでも、この子は傍に居た。
氷狼フローズヴィトニル。
それは鉄帝国を真白に染め上げた精霊の名だった。その欠片が此処にある。
「オディール」と。その名を与えたオデットはゆっくりと小さな仔犬を抱き締めた。
柔らかな毛並みと、ひんやりとした空気。頬を舐める舌はざらりとして心地良い。
「私が貴方と共にありたいと思ったように、ファルカウともまた共にありたいと願うのよ……我が儘な私で、巻き込んで、ごめんなさいね」
それでも、思ったままにやってきた。
あの焔が『全て押さえ込まれた』ならば、ファルカウは魔法を放つ。
「行きましょう。……ね? エリス」
「はい。オデットちゃん。任せてください。われらは、イレギュラーズと共にあります」
氷の精霊女王は微笑んだ。柔らかな銀の髪がふわりと揺らぐ。指先から放たれた繊細な氷の糸。オディールはそれを掴んで駆け出した。
「行くわよ、オディール!」
――思いを繋いで、全てを終わらせましょう。
(きっとそれが私の役割だとしたら、後は天運に任せて信じましょう。……彼らの勝利を)
命なんて問うに擲ったって構わなかった。貴女が、『迷うことなく私を救ってくれたヒーローの妹』が、挫けるところ何て見たくはなかったのだから。
「ッ――」
『蒼穹の魔導書』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は最後の抵抗の如く、眩む焔を受け止める。
血潮が流れたって構わない。ただ、魔法の発動を、彼女の思いを待つだけだ。
(アレクシア様――)
己の出来るラストbet。命懸けの大博打。
「どうか、どうか悔いの残らない戦いを、貴方様に。私の代わりに見届けてください。ライアム様」
リドニアの傍に、青年が立っていた。『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が目を見開く。
「兄さ――ん」
「の、幻影……と言うべきかな。体はまだ、大樹の中だ」
粋な計らいだろうと彼は、ライアム・レッドモンドはリドニアの傍に立った。
「まるで、あの日のように。夢に囚われても尚も、逃げ出すことのなかった君の傍に立てることが光栄だよ、リドニア」
「……そんな、私だって。……ねえ、ライアム様。先に死んだら貴方怒りますわよね。
だから、だから、さっさと体ごと魔種なんてやめて起きてくださいよ。私をあの時の様に抱えて起こしてください」
命の煌めきと共に。貴方が幻影だというなら、貴方が出て来たくなるくらいにギリギリまでその命を『賭けて』見せる。
――私、あの日、迎えに来てくれたヒーローだったあなたの事が。
ひゅう――と風が吹いた。リドニアの眼前には魔女が立っている。
若葉の気配。緑の息吹、射干玉の髪に揺らぐ深緑の香り。アルティオ=エルムの象徴。『大精霊』ファルカウ。
その人は己の内部に巣食うた怒りと相対していたか。
「よく頑張りましたね、夢見はさぞや悪かったことでしょう。
わたくしも、あなたも。悪夢など懲り懲りであったでしょう。もう、目覚める時間がやってきた」
ファルカウの瞳に炎の気配は存在して居ない。中まで繋いだ『可能性』が結びつき、女に与えた軽やかな目覚めは朝の陽射しの如く眩くて。
「参りましょう」
杖の先に魔力が灯された。不安定な、碌に残らぬ古語のまじない。
嘗て、アルティオ=エルムに伝わっていたというそのまじないをファルカウは唱え始める。
ならばこそ、怨焔は抵抗を始めたか。
「ファルカウッ!」
「黒衣の死神よ。其の儘――!」
それ以上の言葉なんて必要は無かった。まじないは魔女の本領。
アレクシアとファルカウに、そしてアレクシアを支えると決めたシラスを始めとした仲間に、任せれば良い。
「フランツェル! ヴィヴィ!」
「――ああ、分かった。任せろクロバっこ」
目覚めは偶然に。目覚めは突然に。
ファルカウが、大樹の精霊がその心を揺らがせた。
「クロバっこ! 迷わず進むんだ!」
『背負う者』クロバ・フユツキ(p3p000145)の背を押してくれたのはヴィヴィ=アクアマナだった。美しき、精霊。嫋やかな娘。彼女に背を押され青年は走る。
「私達はイレギュラーズだ。見えた可能性は、掴みに行ってなんぼだろう?」
ファルカウは滅びを求めた。『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はだからといって全てを終わらせたくはなかった。
「『許し、許容する』という人ならではの選択肢は、相も変わらずに魅力的だ! ――なら、全身全霊を以って救おうか。私達らしくな!」
怨念を斃すのではなく鎮めることには慣れて来た。
だからこそ、賭け時が来たのだ。
「レイズだ、クロバ。私の"チップ"を御主に預ける。御主ならやれるさ。――大勝ちしてこい!!
いいな? 私も御主も生きて帰る。当然、仲間達も生きて帰る。
救えるものは全て救い、滅亡を回避してハッピーエンドだ」
「良く解ってんじゃないの。たぬきち」
「た『ま』きだが」
「ふふ。あら、クロバさん随分ボロボロじゃない? やっほー、助けに来たわよ。
母さんの力を受け継いだからか、ここに行けって心がざわついていてね。
あたしが来たからには、貴方にはもうちょっと気合い入れて頑張ってもらうわよ!」
『玲瓏公』は深緑にとて縁ある。『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)はくすくすと笑ってから、親友を見た。
眩い蒼穹の瞳。もう一人の親友は支えてくれている背中を押してくれている。
「お師匠、一人とは狡いなあ」
『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はにんまりと笑った。
「これまでに紡いできたもの、貰ってきたもの。私にはたくさん、たくさんあるよ。だから、連れてって」
手にしたユ・ヴェーレン。混沌で得た奇跡の象徴を、青い運命を。小さな奇跡をこの刃に乗せて。
もう片手には瑞刀を握った。背後には彼女がいる。だからこそ、強くなれるのだ。
「ねぇ瑞。来てくれてありがとう。君の姿をみれば、あの日の奇跡が私に力をくれるんだ。混沌と大好きな人の為に……私に力を貸してくれる?」
「ええ、勿論。わたしの大切なシキ」
瑞神に背を押されるように走り出したシキをリアが見た。
「お師匠。ずっとずっと応援してるから。大好きだから――君がもたらす希望が輝き続けることを願ってる」
「それは『あたし』も。でもね、シキ。甘やかしちゃだめよ。
叶えたい願いがあるのなら、掴み取るのは自分でやりなさいよね! あたしは母さんとは違ってスパルタなんだから!
賭けに出るなら応援しましょう。シャンパン用意して待っててあげる! 行きなさいよ!」
クロバの背中をまるで蹴り飛ばすようにリアは言った。
大好きだよ。
大切だよ。
――だから、幸せになってね。
それは祈りのようで、救いのようで、呪いのようだった。
「アレクシア」
彼女の事を何れだけ大事に思っていたか。
『超える者』シラス(p3p004421)はそっとその手を握り締めた。
「……俺達の意見は何時だって擦れ違って、喧嘩なんてもんじゃないような事もあったな。それも懐かしいよ」
「そうだね、シラス君」
アレクシアはぎゅっと握り締めてから笑った。
「でも、私達は分り合えたよ」
「そうかな」
「そうだよ。有り難う。此処まで来てくれて。背を押してくれて」
シラスは唇を震わせて、何かを云おうとしてから目を伏せた。幾らだって言葉は飛び出してくる。それが喉に支えて留まって仕方が無いのだ。
クロバのように、真っ直ぐに走って行けたら、リュミエ・フル・フォーレへの愛を叫んだその姿になれたならば。
シラスは、アレクシアの一番にはなれやしない。彼女はヒーローだから。誰かのために走って行ってしまうのだ。
「……俺は、希望なんて恵まれた人間の奇麗事だと思っていたよ。幾つもの報われない命を見てきた。言葉で、心で、歴史でその声を聞いてきた。
そうして思い知ったんだ。正しい想いは決して消えない。
例え踏みにじられても誰かがその欠片を集めては蘇る。今も俺達の背を押して絶望に抗う力を与えてくれる……真実から出た行動は永遠なんだ」
そっと手を離して走って行く彼女だけを見ていた。
――いいんだ。アレクシア。俺はさ、此処で全てが終わったって構わないよ。
アレクシアが願うがままで合って欲しい。アレクシアの力になれたのならばそれでよかった。
シラスは、戦場で初めて目を閉じた。自殺行為だ。馬鹿げていると今までなら鼻で笑っただろう。
「魔女――!」
「ファルカウさん」
彼女の声がする。シラスは繋いで手が腫れていったことにも気付いた。つう、と涙が一筋伝ったのは何故だったのだろう。
「行こう、ファルカウさん」
アレクシアの背中が見えた。
「『魔女の魔法』よ! その名の如く、『魔女』の命に従え!
私のギフトは、元々誰かの想いを失わせないための力……そして今の魔女の魔法は記憶を……言ってみれば想いを集積するもの。
――だからそれを併せて、皆の想いを、希望を束ねる力に!」
あの戦いで、深緑で『魔種を救いたい』と願ったあの日から。
アレクシア・アトリー・アバークロンビーは記憶を欠落させてきた。その喪われた場所にピースを埋めるように仲間が言葉を、心をくれた。
「今まで喰らってきた私の魔力も記憶も賭けさせてもらう!
辛いこと、苦しいこと、嬉しいこと、そのすべてが大事な軌跡であった証のために! それが希望の礎なのだと示すために!
幾星霜、積み重なるのは絶望だけじゃない! 人の想いも、希望もこれだけの力となるんだ!」
後方から広がった光は、リインカーネイションの、そして、聖剣と聖盾の共鳴によるものであったのか。
「ファルカウ。お前は俺達を許してくれ。俺もお前を許したい。だから、この剣に託してくれないか」
クロバはにんまりと笑った。その唇が吊り上がる。
「大樹ファルカウとリュミエの結界、この二つで深緑の皆の想いを集める。愛しき同胞の願い、俺に背負わせてくれ! 掛け金は、俺の命」
「ばーか、酷使するわよ」
「そうだよ、お師匠」
「さて、友人の命を背負った心地は?」
ああ、三人揃えばなんとやら。クロバは三人の『友人』を振り返った。ヴィヴィが「クロバっこはモテるねえ」と笑っている。
「違うだろ……でも、これが俺達だ。見ていろ。リュミエ、魔女ファルカウ、同胞たち。一瞬たりとも見逃さないように」
「聞いていて、ファルカウさん。これが私達の進んで来た奇跡――この世界はまだまだ『可能性』が遺されている!」
クロバは剣を振り下ろす。アレクシアの杖にはまじないの気配が乗せられた。
「これがクロバ・フユツキの――至上最高の刹那だ!」
「希望の花を咲かせ、滅びを打ち払え!」
――光よ。我らを導く光よ。
まじないの気配は、たった二人だけの奇跡ではない。『騎兵隊』の作戦を経て、ギャザリング・キャッスルが駆抜けた。
沢山のイレギュラーズが、この場で戦い抜いた。そして、ただこの場所を守ることだけを願ったのだ。
砂漠を愛する者が居る。この場に棲まう者も居た。
捕縛魔法陣が形を変える。ベヒーモスの巨体が分散し光と化した。
悍ましき怒りの焔は消え失せ、砂の海に一輪の花が咲き誇る。
その場所へ、小さな黒い獣が落ちてくる。魔女ファルカウはその小さな獣を抱き締めて「あなたも、わたくしも、彼等に救われてしまった」と俯いた。
広まって行く浄化の気配は鮮やかな花となり、たったひとりの少女の体を包み込んだ。
「ッ、アレクシア!」
「アレクシア……!」
クロバが手を伸ばす。堪らずシラスは走り出す。
アレクシア。俺は、自分がどうなったって構わなかった。けれど、ヒーローはこれからも皆を救っていくものだろ?
シラスの手が伸ばされた。スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の指輪がぱきり、と割れた音がする。セララ(p3p000273)が「リンツ!」と悲痛に叫んだ。
歪な奇跡による呪いは、古のまじないと共に変化した。
――「あなたが、わたくしの代わりになるとでも?」
――今度は独りにはさせない。だって私がいるもの。1000年だって1万年だって、あなたの想いを共にしてみせる。
その想いと共にやってきた。だから、どうなったって。
肉体は変化を帯びる。徐々に、時間を掛けて少女は大樹の精霊へと成果てるのだろう。
だが、肉体は大樹ファルカウと繋がった。蒼穹の魔女は、ただの一人の娘は顔を上げる。
「クロバ君。手伝ってくれる? ……この力があれば、マリアベルの元で何かできるかも知れない」
「オーライ。丁度リュミエを助けたいとも思ってた」
昏き領域。
全ての終わりの場所に。
PandoraPartyProject(きせき)を起こしにいこうじゃないか――この道はまだ、続いているのだから。
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。
●作戦目標
・『ベヒーモス』の完全停止
・『古代の魔女』ファルカウの無力化or撃破
●重要な備考
(1)当ラリーはベヒーモスが『幻想王国』に辿り着いた時点で時間切れとなり、失敗判定となります。
(2)皆さんは<終焉のクロニクル>系ラリーのどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
(3)二章以降は各章の第一節に個別成功条件が掲載されています。確認を行なって下さい。
●参加の注意事項
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は選択肢にて『同行有』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
・プレイング失効に関して
進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。
・エネミー&味方状況について
シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時(第一章)の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。
・章進行について
不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
(正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
また、『古代の魔女』は現在の魔術形態と違ったまじないを駆使する為に何らかの『まじない』を付与される可能性もございます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●フィールド
ラサの南部砂漠コンシレラ。後方には影の領域が、そして南方には覇竜領域がございます。
進行方向は幻想王国です。其の儘歩いて行けばラサのネフェルストも踏み潰されてしまいます。
(商人達は幻想へと避難済み、傭兵達は援軍となります。また、深緑は木がざわめき閉鎖状態にも等しいようです)
巨躯を誇る終焉の獣は移動を行っており、皆さんはダメージを与えることでその移動を遅らせることが第一目標となります。
第一目標を達成した時点で状況は変化し、終焉の獣をその場に止めての撃滅作戦が行われます。
終焉獣ベヒーモスが通り過ぎた後は更地になります。オアシスの水は涸れ果て、砂さえもなくなり滅びの気配が広がります。
つまり影の領域を広げている、といった印象です。ただし、『影の領域の効果』がベヒーモス周辺では漂うため以下の『パンドラの加護』を利用可能です。
・『パンドラ』の加護
このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。
また、フィールド上には滅びの種がばら撒かれ、滅石花と呼ばれる花が咲き誇ります。
・滅びへの種
成長することで魔法樹となります。滅石花を咲かせます。
その成長の大元はパンドラや大地そのもの支える魔素的なものです。大地のマナを吸いあげて、滅びの魔法樹を育てております。
種が数個ばら撒かれていますが、攻撃を加えることで成長が止まります。
●エネミー
・『終焉の獣』ベヒーモス
終焉(ラスト・ラスト)より現れた終焉獣(ラグナヴァイス)の親玉に当たります。
天を衝くほどに巨大な肉体を持った悍ましき存在です。世界の終焉を告げるそれはただ、滅びを齎すだけの存在となって居ます。
【データ】
・非常に巨大な生物になります。飛行していない状況だと『足』のみが戦闘部位です。踏み潰されないように注意して行動して下さい。
・『飛行』を行った場合でも『脚』までしか届きません。ダメージ蓄積により膝を突くことでその他部位を狙えそうです。
【ステータス】
不明です(第一章時点)
・『古代の魔女』ファルカウ
大樹ファルカウと同じ名を冠する魔女。大樹がまだ名を持たなかった頃に、彼女は平安なる世界を維持し、滅びを濾過する事を目的に『まじない』を用いて眠りに着きました。
その際に利用されたのが『Frauenglas』というまじないです。
『あなたの上に天は立つ。全ては極光の元に』との碑文と共に世界には祝福を齎しますが、来たる罪の裁定を行なうかの如く『滅びが溢れた際に』はその祝福の代償のように呪いが顕現します。罪ある者は岩となり一輪の花を咲かせて崩れ落ちる病と化すのです。
現在のファルカウは『大樹ファルカウの精霊的化身』と呼ぶべきでしょう。人では無くなり、今は古代より生きる精霊その物です。
外の情報はポイボスの若木を通してみてきました。本当に、この世界は戦で溢れすぎたのです。
ファルカウは『樹』であるため、己が生きていれば新たな命を産み出す事が出来ます。だからこそ全てをまっさらにしても構わないとの考えです。
焔のまじないを利用する事は判明していますが、その他の細かな戦闘方法は不明です。
意思疎通は出来ますが、意思の疎通が可能なだけです。説得などが難しいのは確かです。
何せ、彼女は「世界が戦乱に溢れすぎた」事を起こっています。Bad End 8の一人ですが、他の誰かの意思にしたがっているわけではなく、全てをまっさらにさえすれば戦という手段を選んだものがいなくなるからこそ、平穏を取り戻し培っていけると考えて居るのです。詰まり、皆さんはファルカウの敵なのです。たとえ、同胞であったって。
・終焉獣(ラグナヴァイス)
ベヒーモスを好み、それに付き従う終焉獣たちです。空から、そして大地から、様々な終焉獣が存在して居ます。
ベヒーモスに付き従いますが後述のエトムートの指示にも従います。
・『枯蝕の魔女』エヴァンズ
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)さんが幼い頃に出会った魔女。
『魔女の魔法(エヴァンズ・キス)』と呼ばれた奇病を発生させる事で知られる精霊です。
人の体に深く種を埋めるということ。種は芽吹き、寄生主の体に巣食い魔力を吸い揚げます。魔力欠乏症となった幼子は其の儘死に至ることも多いのです。
その逸話の通り、エヴァンズは『魔力を吸い揚げる』力に長けています。その能力的に後方からの魔法支援に長けていそうです。
・『??の魔女』ルグドゥース
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。御伽噺にも残らなかった娘です。
能力は不明ですが、動きなどを見ていれば情報を奪う力に長けているのでしょうか。前衛で動き回っています。
・『不毀の軍勢』エトムート
エトムートと名乗る白い仮面のエネミーです。青年……にも見えますが機械染みたフォルムをしています。
長身を屈めておりだらりと腕を降ろしています。ベヒーモスが幻想を蹂躙した後は鉄帝国に連れていこうと考えて居るようです。
後方支援タイプです。指揮官としては優秀です、あまり鉄帝国らしくはありません。
・魔女の使い魔(精霊)
・滅石花の騎士
ファルカウの魔法陣から作り出されて飛び込んでくる敵です。意思の疎通が可能な個体も多く居ます。
●味方NPC
当ラリーでは友軍が存在します。関係者を指定し同行も可能です。
・天義聖騎士団より友軍であるリンツァトルテ・コンフィズリー【聖剣】、イル・フロッタ等、騎士達
・豊穣海洋連合軍(海洋軍人、霞帝始めとする豊穣援軍、建葉・晴明 (p3n000180)や黄龍 (p3n000192)。
コンテュール家は補給要員です)
・ラサ傭兵団(ハウザー・ヤーク『凶』やイルナス・フィンナ『レナヴィスカ』、イヴ・ファルベ (p3n000206)など)
・フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)、澄原 水夜子 (p3n000214)と澄原 晴陽 (p3n000216)(救護要員)
・珱・琉珂 (p3n000246)、カロル・ルゥーロルゥー (p3n000336)(ファルカウぶん殴るぜ隊)
・マナセ・セレーナ・ムーンキー (p3n000356)、アイオン (p3n000357)
※ロック (p3n000362)はクレカ (p3n000118)と何かを準備しています。
★カロル及びフランツェルによって戦場の重傷率が一時的に低下しています。
聖女の加護:元遂行者であった少女の竜の心臓が僅かに影響を及ぼしています。聖竜アレフを知る者が存在するとその効果は高まります。
大樹の加護:フランツェルを通して巫女リュミエの加護が戦場に広がっています。幻想種の重傷率低下と回復スキルの効能上昇。
====第一章での特記====
●第一章目標
・ベヒーモスに出来る限りのダメージを与える事
エネミーデータ、味方NPCについては上述された情報を参考にしてください。
また、各種データの補強などは戦闘中に行なわれます。
行動人数
以下の選択肢でいずれかをお選びください。迷子防止です。
【1】同行者なし
お一人での参加です。チームを組んでいない場合は此方を選んでください。
誰とも話したくない(強い意志があり、他の方に構っていられない)場合はその旨をプレイングにて表記ください。
【2】同行者あり
複数人のグループにて参加する場合の選択肢です。
プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
※チーム人数はリーダーとなる方のみで構いません。迷子防止です。
1~2名のズレは対応しますが、人数が揃ったと見做した時点で出発しますので追加には対応しかねる場合がございます。
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