シナリオ詳細
<最後のプーロ・デセオ>全ての人の願いの戦い
オープニング
●
初めに生まれた時に、僕は小さな何かだった。
海に生まれ落ちた僕は、冷たくも温かい、厳しきも優しい海の環境に漂いながら、ただ世界に在った。
ある時、漂い、漂いて、いつしか海のない所にたどり着いた。そこは陸と呼ばれていて、そこには多くの『ヒト』が息づいていた。
その人は、誰もが笑いながら/泣きながら/怒りながら/嘆きながら、願いを口にしていた。
誰に届くわけでもない、誰が聞くわけでもない、願いを、願いを、ただ口に。
その願いというものが、僕にはあまりにも、暖かいもののように思えた。そして、その願いを、僕はエネルギーとして与えて、叶えてやる、ことができることに気づいた。
願いをかなえた時に、ヒトは、本当に、まったく、幸せそうな顔をしていることに気づいた。そしてその幸せなパワーは、僕に喜びと力をくれることに気づいた。
願いをかなえてあげたかった。彼らが幸せになれば、僕も幸せだった。たくさん叶えて、かなえてあげて。その時初めて、僕はこの席兄生まれた意味を知った。
僕は、願いをかなえるために、その為に生まれたのだ。僕は、そういうものであったのだ。
いつしか人は、僕に名前を付けた。多くの願いをかなえる、神。多願(ダガン)、と。
●決戦の時に
インス島海底域。そこがダガヌと呼ばれた者の封印地であり、居城である事は、竜宮の乙姫であるメーア・ディーネー、そして乙姫代理であるマール・ディーネーによって確定させられていた。
そして、今この瞬間こそが、ダガヌを『消滅』させる唯一にして最後のタイミングである事は、もはや疑いようのない事実でもあった。
シレンツィオ連合軍は、インス島地下、ダガヌを封印した海底火山である『海底神殿』への攻撃を指揮。
同時、各地にて同時多発的に発生する『敵』の攻撃に対応しながら、ローレットの攻撃部隊は、神殿の奥、ダガヌへと迫ろうとしていた。
「近づいてきてるよ」
マール・ディーネーがそう言った。海底火山神殿の熱気は、イレギュラーズ達の体力をじりじりと奪うように熱い。それでなくとも、海底神殿神殿の各地にはまるでこちらを誘惑するような、様々な仕掛けが存在し、進攻するイレギュラーズ達を苦しめていた。
同行するマール、そしてニューディを守りながら、一行は奥へ向けて進撃する。しばしの進行の果てに、マールは近づいてきた、と口に出したのだ。
「ダガヌの気配もそうだけど……強く、メーアの力を感じるよ。多分、もうすぐ……!」
マールはそう言った。だがそれは、同時に、敵の気配もまた濃くなるという事だった。渦巻くような、敵意。それを肌で感じながら、イレギュラーズ達は最奥――だが。
「おうおう、雁首揃えてゴミ共が!」
海底火山神殿、その巨大な廊下のただ中で、声が上がった。ずるぅり、と壁が裂けて、気味の悪い内部から、無数の深怪魔、そして海賊……濁悪海軍(だあくかいぐん)の海賊兵たちが次々と姿を現し、そして最後に、声の主、濁羅(だくら)と、ダガヌに協力する魔種、ディアスポラ=エルフレーム=リアルトの姿が現れた。
「オヌシが現れたという事は、ダガヌの居場所も近いのだろうな!」
あなた達に同行していた、漁火水軍の頭領、漁牙が吠える。背後には、イレギュラーズ達を援護するために集った、漁火水軍の戦士たちの姿もある。
「ジジイもよくもくたばらねぇで生きてるもんだ。こんな所を墓標にするってのには同情するぜ!」
ぎゃはは、と濁羅が笑う。ディアスポラが静かに呟いた。
「もう一度問う。イレギュラーズ。
人は、安寧の中で生きてい死ぬべきだ――たとえそれがまやかしであろうとも、己が真と信ずれば、それは真実という事になる」
ディアスポラの思想は、『幸せな怠惰の中で人は生きてい死ぬべきである』というものであった。畢竟、それはダガヌが『幸せな幻影を見せ続け、その中で永遠に幸せを感じながらやがて衰退して死ぬ』というものの肯定である。ディアスポラは人の幸せを希求し、その境地へたどり着いたものだと、語っていた。
「もはや真実とまやかしの中に、ヒトの好悪以外の正統性など無いのだ……それでも。人に苦痛の生を生きろというのか……?」
「私は、ヒトの生などを騙る立場にはないけれど」
同行していた、モガミという旅人(ウォーカー)がいう。
「私は、そういうのは嫌い、かしら。此処にいるローレットの皆も、嫌いなはずよ」
それはそうだ。あなたは頷いた。たとえ、幸せな妄想だとしても、それが現実ではなく、そして誰とも繋がれない孤独の果ての妄想に過ぎないのなら、価値はないのだ。
「フラれてんじゃねぇか、魔種さんよ」
濁羅が笑った。
「分かってんだろ? 結局、自分の意志を押し通すには――力づく、だ。世界はそういうものだ。だから、そうすればいい。
俺は全部奪う。全部手に入れる。その為に、俺はここにいるのさ」
濁羅が、その大刀を振るった。
「さぁ、来いよ、イレギュラーズよ! ここ一番の大勝負と行こうじゃねぇか!」
無数の怪物、海賊たちが、殺意を放つ。ここを突破しなければ、ダガヌの元へは行けまい。
だが、ここで全員でいちいち相手をしていては、おそらくは『マールの時間切れ』が発生するに間違いない。
「オヌシら、オレ達も加勢する。故に、部隊を分けよ」
漁牙がそう言った。
「私と、漁火海軍。そして、のこったメンバーで、精鋭とマールさんを突破させましょう。
時間が、無いのでしょう?」
モガミがそういうのへ、あなたは頷いた。
「お願い、あたしがダガヌに接触できれば、ニューディと一緒に、ダガヌの実体を引きずりだして、世界に固定できるの。
つまり、全力を出させないまま、倒せる上にできる、ってこと!」
マールの言葉に、ニューディはふるると頷いた。
「メーアも近くにいる……あたしと一緒に、来て! メーアを助けて、ダガヌをやっつけるの!」
マールの言葉に、あなたは頷いた。決戦の火ぶたは、今ここに切って落とされた。
●
それは、まるでクラゲのような姿をしていた。
触手は、願いをこぼさぬようにからめとり。
傘は、その全てをこぼさぬように受け止めるために。
それが、彼の――ダガヌの本質で、欲望の表れだった。
足元に、乙姫メーアがいた。倒れ、その力を奪い続けられる彼女は、終わりなき悪夢の中にいるようであった。
巨大な体をくねらせながら、ダガヌは自身の復活の時を待つ。
海底火山のふたをするような形で封印された彼が目覚めれば、海底火山は一気に活動を再開し、強烈な熱を世界に吐き出すだろう。それは、竜宮の壊滅はもちろん、シレンツィオ、豊穣沿岸にも多大なダメージを与える筈であった――が、ダガヌは気にしない。
もし不幸に陥っても、代わりに願いをかなえてやればいいのだ。対価は十分に支払える。それは傲慢であったが、ある一側面から見れば事実でもあった。
だが。
そんなことをさせるわけにはいかない。
いくつもの気配が、ダガヌの座する神殿最奥に、到着しようとしていた。
『来たね』
ダガヌが声をあげる。そこには、マール・ディーネーと共に、無数の勇者たちの姿が、あった。
- <最後のプーロ・デセオ>全ての人の願いの戦いLv:40以上完了
- GM名洗井落雲
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年11月04日 22時50分
- 参加人数108/108人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 108 人
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参加者一覧(108人)
リプレイ
●その願いは誰がために
「醒めた月は煌々と……怪しく光る華の光……醒月!」
エルスの声と共に、翻る大鎌はまさに月のごとくか。海底に輝くエルスの三日月、それは眼前にいた悍ましきサハギンたちを、一刀のもとに切り伏せた。
「待っていてね、道は必ず作る!」
エルスの声に、仲間達は応、と声をあげる。信頼、或いは『自らも道をこじ開けて見せる』という意志。
海底神殿。悪神ダガン=ダガヌの潜む居城。決戦の火ぶたはついに切られていた。魔種・ディアスポラの指揮する深怪魔の群れ。そして、欲望に堕した濁悪海軍とその頭領濁羅。
「さぁ、道を作るよ。マールさん達は走り続けて!!
みんなの進む邪魔はわたしがさせない。
だから、どうか……これが終わったら、みんなの名前を呼んで欲しいな」
Я・E・Dが静かにそう言った。その言葉は、届いたか。届かなかったか。いや、それは願いであったのだから、きっと届いているはずなのだ。
「マール様。今はそう言わないと立てないのなら、それでもいいのです」
雨紅は胸中でそう呟く。目の前のサハギン達を切り裂き、己もまた傷にまみれながら、それでも、走る少女に想いを託す。
「でも、これが終わったら泣いたっていいのです。その後で、笑顔になれる思い出を作りに行きますから」
あの子は笑顔でいた。でも少しだけ、泣いていた……。
「さて……できる限りのことはやらせていただきましょうか」
ベークは静かにそう呟いた。小さな体に、ゆっくりと気力を漲らせる。怒涛のごとく攻め寄せる、サハギンたちの群れが目の前にあった。これからそれを、まとめて押さえつける。マールのため、とは言わない。この先に、これから死地へと向かおうとする、仲間達のためにだ。
「助かるよ! 少し耐えてて、まとめて撃ち抜く!」
カインがベークに群がる深怪魔達を、裁きの聖光の内に溶かしていく。だが、雪崩のごとく襲い来るサハギンたちは、倒した端から生み出されるように、次々と駆けだしてきた。それどころか、背後には黒の魔人、ナイト・ゴーントたちが控え、強烈な魔術の弾丸を撃ち込んでくる。
「厄介だな……あの後ろの! でも、そう簡単にやられる訳には行かないよ!」
カインがナイト・ゴーントたちへ向けて、魔力砲撃をうち放つ。海底神殿の床を吹き飛ばしながら放たれる閃光が、ナイト・ゴーントを飲み込んだ――同時、残存していたナイト・ゴーントたちの首が、片っ端から泣き別れとなっていく。刹那に光る、一閃。刃の残跡。
「深海怪魔を斬り払う、血溜御免の刃道!
我ら一味と観音打至東! 問答無用の無法不躾、悉く押し通し候!」
至東だ! 戦場を駆け巡りながら、目についた敵の首を片っ端から切り落とす、有言実行の剣鬼!
「死にたくなければ道を開けろ! 否、否、開けても殺す!
この場において、お前達が、生きて帰ろうなどと『願う』事能わず!」
「おっと、おっと! 随分と物騒だけど、気持ちは分かるってね!」
ジュートがウインク一つ、ベルナルドと背中合わせに敵の群れに相対する。無数の深怪魔たち。それが、二人を囲む。
「俺には幸運の女神サマのご加護がついてるから、邪神の加護とかノーサンキュー!
願いなんて自分で叶えちゃうし。だって俺、ラッキーボーイなんだぜ?」
「願いがあっさり叶っちまったら、人生なんも面白みがねぇ。
うちの師匠の言葉を借りるなら"芸術ってのは悩んで苦しんで自分を極限まで追い詰めて、ようやくいい作品が生まれる"ってな」
ベルナルドがそう言いながら、中空に騎士の絵のラフを描いた。そのラフはまるで生物のように動き出し、手にした剣で深怪魔を切り裂く。
「なるほど、良い作品! じゃ、お披露目に行こうか!」
ジュートがにやりと笑う。パチリ、とコインを弾いた。不吉な気配を持つコインも、しかし今は悪しきに対抗する力としては十分だった。
「かつてリヴァイアサンと対峙した海の底。
思う事は色々ある。……沢山、ある。
だからこそ退けない、負けられない」
ウィリアムがそういう。何処か、怖い雰囲気を纏っているのを、コルクは感じ取っていた。だからこそ、
「ウィルくんの傍に居る。ウィルくんを護るのは、わたしがいいから」
そう言った。それもまた、『願い』であった。
「……ああ。俺達は二人で、一緒に戦うんだ。負けやしないさ」
寄り添う星。貴方を想う。二つの願い。それはこの戦場においても輝いて。
一方で、その近くではリカとクーアが深怪魔の群れと苛烈な戦いを繰り広げていた。
「クーア、水の中だから炎が消えちゃうなんて泣き言はだめですよ?」
リカが冗談めかしてそういうのへ、クーアは少しだけ頬を膨らませた。
「……リカ、仮にも私は貴女の眷属なのですよ?
紫電と紅焔、合わせて紫炎。
焔の通らぬ水の中なら、雷で焼き尽くすまでなのです!」
ぱちん、と指を鳴らせば、無数の紫炎がばぢばぢと燃え上がり、敵群の中を銃弾のごとく踊り狂う。
「良いですね。敵は私が魅了します――嫉妬しちゃだめですよ?」
くすりと笑うリカが、敵を誘い出す。
「ええ、しませんよ? しませんとも?」
クーアがリカに魅了され、誘いだされた哀れな犠牲者を、その紫炎で焼き払う。轟、と強烈な炎は、果たして嫉妬の炎であったか。いずれにしても、その攻撃が強烈に、敵の群れに穴をあけていくのは確かだ。
「魔種の相手はともかく、深怪魔の相手なら……!」
ルチアがそういうのへ、鏡禍は頷いた。
「大丈夫。もしも魔種が目の前に来ても、護ってみせますから」
「……私だって、あなたのこと、心配なのよ。
今の私に願いがあるとしたら、『あなたの無事』。それは分かって?」
そういうルチアに、鏡禍は一瞬だけびっくりした後、頷いた。
「はい……一緒に、生き残りましょう!」
二人は敵を見据える。お互いを守り、敵を突破するために。
「海洋はブルーノさん……おとうさんにとっては大切な国。
おとうさんがこの海で眠っているんだもの、誰にも汚させません!
……じゃないと、おとうさんを安心して眠らせてあげられないじゃないですか」
アイラの言うそれは、ある意味で『願い』であったのかもしれない。安心して、静かに眠らせてあげたい。それもまた尊い願いだ。だから、ラピスも頷いた。
「君がこの海に強い想いを残しているのは知っているよ。
大丈夫、僕が君を守るから。命も、その心も。
安心して戦うといい」
だからそれも、願いだった。二人の願い。それをかけた戦い。苛烈な戦闘の中に身を投じて、それでも消えない、『願い』。
「よーし、少しずつでも、確実に敵を突破できてる……!」
蛍がそういうのへ、傍らに佇む珠緒もゆっくりと頷いた。
「はい。
サハギンたち……最初にインス島を探索した時には、こうなるとは思いませんでした。
確かに、邪悪な気配の漂う島でしたが……!」
蛍が敵の群れを、その身体で受け止めた。小さな体、きゃしゃな体。足りない分は、責任感という覚悟で補う!
「珠緒さん!」
「ええ。ここは任せて、先へ向かわれませ――その言葉を、友に繋ぐために!」
珠緒がその手を掲げる。紫の帳が、深怪魔達を包み込んだ。彼のものに、未来などないと告げるかのように。蛍もまた、己の手にした桜色の剣で、サハギンを切り裂いた。
「露払い 血露と消えにし サハギンかな
字余りかしらね……」
まだまだ、冗談を言う余裕はある。戦いはまだ始まったばかりであった。
さて、同じ戦場では、濁悪海軍――海乱鬼衆なる豊穣海賊の一派との激戦もくりひろげられている。濁悪海軍の頭領である濁羅が、ダガン=ダガヌの加護を受けるべくその軍門に下ったからだ。
今や一大勢力と化した濁悪海軍は、この決戦の場にも、イレギュラーズ達の進軍を邪魔するべく攻撃を開始していた――!
「長く戦ってきた濁悪海軍とも、これで決着だよ!
そして邪神と戦う皆の邪魔はさせない、道を一気に切り開こう!」
アクセルが叫び、その手を掲げる。同時に放たれた魔力砲撃が、敵の出鼻をくじくべく戦場を切り裂く!
「させない! 偽りの成功に胡坐をかこうなんてしてるなら、絶対に!」
アクセルが魔力砲撃を幾度となく撃ち込んだ! 海賊たちが吹き飛ばされる中、イレギュラーズ達は制圧すべく一気に突撃する!
「きたぞ、ぶっ殺せ!」
海賊が吠える――同時に、放たれた魔弾が、吠えた海賊を打ち倒す。その先を見てみれば、おどおどと構える奈々美の姿がある。
「ひわ……! ま、またいっぱい敵がいるじゃないの……。
しかもなんかゴツくて暑っ苦しいのばっか……」
その言葉通り、ごつくて暑苦しい海賊ばっかりが相手だ。
「それに……じゃ、邪神とその部下が相手だなんて……。
あたしのSAN値大丈夫かしら……!?」
目をぐるぐるとさせながら、怯えをつつも的確に攻撃を実行していく奈々美。ひとまず精神を削られるような状況は……いや、奈々美にとっては、戦うだけでも削られていくような気がするがさておき。
「我々は後方から敵を撃ち抜く! 突撃部隊は、その隙にダガヌの下へ!
濁羅に向かう部隊も一機に頼む!」
ラダがそういう。構える狙撃の銃の精度は、海底火山の近くであろうと変わらない。
「そうだな、結局ダガヌが悪いわけではない。
欲望が尽きないのは人の習性だ。ただただ私達は相性が悪かった。
穏便に別れられれば良かったが、もう叶わないのだろう」
静かに呟く。その胸中に、何か寂しいものを浮かべて。
「あれらの始まりが何であったのか、わしにゃ分かりません
ですが倒さにゃ前に進めんのでありゃ、やることは一つ。
祖国の発展の礎になってもらいましょう」
その何かに応えるように、支佐手は言った。始まりが何であったとしても、その胸中にあるのが、ただ『純粋な願い』でああったとしても――。
もはや悲しいほどまでに、両者はすれ違った。
誰が悪いというわけではない、というのは簡単だろう。
しかしそう嘆いて達観した所で――もはやお互いは、蝕むことでしか触れ合えないものになってしまった。
「わしらにお任せを。この程度、物の数にも入りません」
支佐手がそういう。ラダは、仲間たちは頷いた。
「俺はあまり深く関わってはいなかったけど――。
大切な人たちの記憶を失う恐怖を押し殺してでも護ろうと、家族を助けようとするその覚悟は立派すぎるものだ。
そして全霊をかけて家族を止めようとしている子の決意もね。
そんな子たちの覚悟と決意を、邪魔させるワケにはいかないよ」
雲雀はそういう。もうこの戦いは、多くの願いを賭けたものとなっている。
誰もがかけた、願い。その全てが、『純粋な願い』。そこに善悪は或いはないのかもしれない。覚悟と決意と。願いだけが、今この全ての戦場にあるのかもしれない。
「なら、俺たちも願いを賭けよう」
ゲオルグが言った。
「どんなものでもいい。俺は、皆の無事を『願おう』。
それが、ここに立つ資格であるならば、願いを賭けて戦おう」
誰もが願いを賭けて戦っている。
その胸の内に。
自覚しようとも、自覚せずとも。
それはどんな願いでも変わらない。
自分の無事だってかまわない。それは正しい願いだから。
誰かの無事だってかまわない。それだって正しい願いだから。
ここは願いの場だ。そうなってしまった。
シレンツィオは、願いの場所だった。天浮の里も、竜宮も、きっと。
ここは願いの海。願いを持つものだけが、あの大海原で生きていけるのなら。
「それでも結局は戦わないといけないのは、些か儚いものですね」
クシュリオーネが少しだけ残念そうに言う。全ての願いがかなう事はない。相反する願いは、片方が潰える。それは世の摂理だ。不平等な世界は、しかし現実としてある。
「だから尊いのですけれどね。願いとは。叶うとは。誰もが戦い、手にするものなのですから」
クシュリオーネの言う通りだ。ささやかな、どんなささやかな願いも、どんなささやかな戦いだとしても、誰もが戦って勝ち取っている。良い願いも、悪い願いも。
「そうですね……! 今は!
私は!
メーアさんを取り戻す為、何よりその身を犠牲にしてでも乙姫の力を行使するマールさんの為にも!」
千代が言った。どのような想いはあれど――戦わなければ得られないのは確か。なれば。
「行きましょう、皆さん!
この烏天狗が全員ぶちのめしてやりますからやりますから覚悟してください、濁悪海軍!」
びしっ、と指さし千代の表情は勇敢だった。願いを背に、戦うものの顔。
「行きましょうか」
瑠璃が少しだけ笑った。
「私の振るう刃では、邪神に大した傷はつけられないでしょう。
ですが、それを可能な方を無事に、早く向かわせる。それなら――。
私にもきっとできるはずです。
私がベットする願いは、『あの子の無事』としましょう。
そのために、戦いましょう。今、ここで」
瑠璃の言葉に、仲間達は頷く。目の前には、ぎらつく欲望をその目に輝かせる、海賊たちがいる。
その目一つ一つに、欲望と言う名の願いがある。
戦って、下す。
それが残酷な世界のルールだとしても。
今は、それに則って戦うしかない。
私たちの、願い。誰もが胸にする、願い。その願いのために――!
「行くぜ! 俺はシンプルに――『またこのリゾート地に、アイツと一緒に来たい』ってのにするか!」
ジェラルドが、その大太刀に焔を纏わせた。殴りつけるように、叩きつけるように、斬る! 爆裂する炎が、海賊の一人を吹き飛ばした!
「これが俺の願いだ!」
叩きつける、想い、願い。欲望を打ち倒す、願い。
「ニルは、『かなしいのはいや』なのです!
マール様が、メーア様が、皆が……笑って『おいしいって言えるように』……!」
ニルがその手を強く突き出した。混沌の泥は、混沌は、まるでこの時、この願いをかなえるかのように、暖かく、優しく、ニルを纏って――我が子の力になる様に、欲望を蹴散らす!
「ニルの、願いは、それなのです……!」
「では私は――そうですね。『クロバさんが本懐を遂げられるように』としましょうか」
すずなはくすりと笑って、しかし冷静な瞳にて刃を振るう。深海にて氷のごとく走る剣閃。それは何処においても、雲る事なき剣聖の刃。
「だから、お膳立てはしてあげましょう。
私はその道を斬り開きます――インファイト上等、望むところ……!
私向きにも程があるでしょう!
真正面から! 切り込ませて頂きます!
――いざ、尋常に!」
やれやれ、と肩をすくめつつ、しかし剣の冴えは衰えない!
「俺にも理想や願いは沢山ある。一生かかってもも叶えられない願いだってあるさ。
しかし、それを夢の中で叶えた所でなんの意味もない。俺の願いは――」
弾正が呟くのを、アーマデルは応えた。
「弾正、どうした?」
アーマデルがそういうのへ、弾正は頭を振った。
「いや……何でもないさ。行こう、アーマデル」
「ああ。
行こう、弾正。
俺が援護する」
その背に、弾正はまぶしさを感じていた。
(俺の望みは、アーマデルと共にいる事。
世界の滅びが過ぎ去った後も、旅人の彼はここに残ってくれるだろうか)
心にわずかなしこりを残しながら。しかし、今はそれを忘れ、『願い』のために戦う。
「そうね。じゃあ私は――『この海に散ったイイ男たちの、安らぎと誇りの永遠なることを』」
ゼファーがその槍を、鋭く突き出した。海賊がその腕を貫かれ、ぎゃあ、と悲鳴を上げる。そのまま引き抜くと、槍の柄で海賊の首を筋をぶん殴った。運が良ければ生きているだろう。
「人は誰だっていつか死ぬし、
どんなに綺麗な思い出だって、いつかは忘れていく。
だけど、其れは今日じゃないし、
アンタ達が其の時を決めるものでもないわ。
悪いけどね、アンタたちを見てると、大分イラつくのよ。
願いを賭けた……っていうか、八つ当たりになるけれどね!」
ゼファーは風、しかし今は海の底に巻き起こる暴風。鋭く放たれる槍は、欲望を蹴散らし、道を繋いでいく。
「私の願いは――今は、『これ以上の犠牲を食い止めること』!」
アレクシアが、薔薇の魔法杖を構える。深海に咲く、蒼穹の魔女。
「さあ、あなた達の相手は私がするよ!
邪神の祝福だかなんだか知らないけど、魔女の力を侮らないでもらいましょうか!」
敵の前に勇敢に立ちながら、魔女はその杖を振るう。願いを背に、願いを胸に。抱く想いは深海に咲く華となりて、今は悪しき欲望にまみれた海賊たちを振り払う!
「此処の敵は近接攻撃手しか居ないそうだが……油断は禁物だ」
グレイシアが静かにそういうのへ、ルアナは小首をかしげた。
「ルアナのお仕事はおじさまをまもればいいのね? がんばるー!
……ところで、おじさまは、願いはないの?」
「さぁて? ルアナはあるのか?」
そう尋ねるのへ、ルアナは笑った。
「あるよ! 『おじさまと一緒に頑張りたい』!」
ルアナは笑って、剣を抜き放った。
「ふむ、では、私もそう願うか」
グレイシアもゆっくりと構え、敵の群れへと相対する。
誰もが願いを抱いて、願いを賭けて戦っている。その先、その未来のために。
そして彼らの想いは、少女と、仲間達を、決戦の場へと導く。
彼らの願いは、想いは、力はを背に、加速して。
少女は、仲間達は、いざ、いざ、戦いの場へ。
●もう一度君に好きだと言ってほしかった
「馬鹿だなぁ」
それはそう言った。憐れむような気配を感じた。
あまりにも邪悪な、それは『願いの水母』。
その傘は、一つの願いも零さぬように。
その触腕は、一つの願いも離さぬように。
無数の願いを喰らい、叶える。そこに善悪はない。ただ彼は、そういうものだという自覚と自負があった。
それが、ダガン=ダガヌ。願いの神とも、悪神とも、邪神とも、堕落神とも呼ばれし存在。
「君が我慢するたびに、記憶がこぼれていくのが分かる。
乙姫というロールは、世界に選ばれたもののロールだ。
君は……そうか、初代が僕についたから。そうならないためのバックアップに選ばれたものか」
かわいそうにね、とダガン=ダガヌは言う。
海底神殿最奥。そこにたどり着いたのは、少女、マールと、竜宮の玉座、ニューディ。そして、多くの仲間達。
「思ったより早かったね。もう少し、空っぽなると思っていた」
「頑張ってるからね」
マールは笑った。
「これ以上、失いたくないから」
「マール殿」
百合子が、少しだけ、辛そうに言った。
「大丈夫、だよ。ほんとに。えへへ」
マールは笑って、それから、きっ、とダガン=ダガヌを睨みつける。
「あなたのことは、あたしは知らない。
何を思ってるのか、何を願ってるのか。
でも、ごめん。あたし達は、あなたを滅ぼすためにやってきた」
「竜宮の民の使命かい?」
「ううん、あたしが、皆と笑うために」
マールがそう言った。
「あたしに笑ってほしいって言ってくれた人がいた。
あたしのために戦ってくれる、って言ってくれた人がいた。
あたしと、ニューディと、メーアと……三人で竜宮に帰してあげるんだ、って言ってくれた人がいた。
忘れないように、っていろんなものをくれた人もいた。
泣いてもいいよ、って言ってくれた人もいた。
忘れちゃった人もいるし、そうじゃない人もいる。
でも、全部全部、忘れたくない思い出」
「忘れさせないこともできる」
ダガン=ダガヌが言う。
「全ては、君の心の匙加減だ。問おうか。
あまりにもつらい現実と、幸せな夢があったとして――。
どうして、現実を生きないといけないんだい?」
「でもそれじゃ、新しい思い出はできないよ」
マールが微笑んだ。
「あたしの心の中だけの世界なんて、そんなのはいや。
誰かに傷つけられるかもしれない。
誰かとケンカしちゃうかもしれない。
でも、あたしの心の中にないだれかと、新しい、楽しい思い出を作れる方が、きっと、ずっと素敵」
マールが、きっ、と前を見据えた。すぅ、とニューディがその横に侍る。ニューディの雰囲気も、違っていた。いつもの、何処かのんびりとしたそれではない、空気。
『ダガン=ダガヌ。かわいそうな子』
ニューディが言った。
『私たちは精霊として生まれ、袂を分かった。私は食べた。あなたは叶えた。
予期せぬ相克が、私とあなたを別の立場へと変えた』
「考えてみれば、君と僕は合わせ鏡のようだ」
ダガン=ダガヌが言う。
「僕は君を殺そうとした……君は、僕を殺せる可能性を持っていたから」
『可能性を持っていたのは、私じゃない。
私もマールも、可能性(イレギュラーズ)に導かれただけ』
すぅ、とニューディが息を吸いこむような様子を見せた。ぴりぴりとした空気が、あたりに満ちた。相反する力が、ダガン=ダガヌの力を食い荒らす様子だった。
『私が欲望を食べるのはこれで最後。かわいそうなダガン=ダガヌ。
私は愛しき竜宮の子達ともに、『新しい日(ニュー・デイ)』を刻みましょう』
「やるよ……術式展開! 乙姫の権能、その全てをここに!
綿津見神宮・儀来演武!」
青の、清浄な、海の香りが、あたりに漂った。
ダガンの居城、その強烈なマグマの熱気を吹き飛ばすような、空間を変えるような、そんな気配――同時に、ダガン=ダガヌの身体がわずかにブレた。そして何か巨大な質量が、厳正に無理矢理引きづりだされたような、そんな気配が、空気を震わせた!
「――!?
封印されている僕の核だけを、この場に引きずり出したのか……!?
だが、負担は大きいはずだ。それほどまでに君の力が持つとは思えない……!」
「けど! その間に、皆なら、あなたを倒せる!」
マールが笑った。
あなたに向けて。
「やろう!」
だからあなたは頷いた。
「マール殿」
百合子が頷く。
「百合子さん、笑ってほしいって言ってくれて、すごくうれしかった」
マールが言った。
「だから、お願い。百合子さんも、笑っていて。
約束」
百合子が、少しだけ目を丸くした。それから、ゆっくりと頷いた。
「大丈夫だ」
セレマが言う。
「その辺は僕が保証してやる……ああ、僕は君のことなんかなんとも思っていないし……というか、身体を近づけるなよ? べたべたしてくるな。はっきり言って不愉快だ」
べぇ、と舌を出しそうな勢いのセレマに、マールは笑った。
「セレマさん、百合子さんのこと、お願いね」
「なん……とぉ!?」
百合子が、面食らった顔をした。セレマは鼻を鳴らした。
「言われるまでもない。
そんなに持たないんだろう? さっさとやろうじゃあないか」
セレマが言った。
正純が、矢を番える。
(マールさん。今は声をかけません。
ですが、終わったら。
はじめましてでも、また会いましたね、でも。
もう一度、お話しましょう)
胸中でそう呟いて。
「この星の一撃は海の底まで届きましょう。これより先、彼女たちの導とならんことを」
放つ! 放たれた星の一撃は海の底にて輝き奔る! 強烈な一撃が、ダガン=ダガヌの触腕の一本を巻き込んで爆発!
「……! 実体の痛み……本当に……!」
「そうだよ! キミはもう丸裸なんだ!」
セララが大剣を手に突撃する! 強烈な触腕の群れが、迫るのを、切り裂き、跳び、時に殴られ、それでも、諦めず。
「ボクの願いは人々の笑顔を守ること。強制されたものではなく、幸せで、楽しくで自然と浮かんだ笑みだよ。
皆が笑顔だと、ボクも幸せな気持ちになれるから。
けれどそれは夢じゃ無く、本当の世界で叶えないといけないんだ。
だから、夢でしか叶えられないキミには願わない。自分たちの力で平和を掴み取り、願いを叶えてみせる!」
セララが吠える。目の前の触腕を斬撃――切り落とされた触腕がぶすりと煙を立てて消えるのへ、しかし次なる触腕がセララに迫る。
「わからない……限りなく現実に近い夢であるならば、それは現実ではないのか?」
ダガン=ダガヌが言う。
「寄生虫に喰われるほど、心の繋がりは柔じゃない」
マカライトが答えた。黒龍の顎が、触腕を噛みちぎる。
「つながりがないのなら、それは現実ではない。
言ってやる。『それは偽物だ』。お前は願いを叶えてなどいない」
「大体、自分の復活って欲望を叶えるために手間取ってるんだ、底が知れてる!」
サイズが大鎌で、触腕を切り裂く。が、切り口から新たな触腕が生えてきて、サイズを威嚇するように宙を払った。
「いざ神殺しの武器とならん!
神くらい殺さねば俺の願いは絶対に永久的に届かない!」
それもまた、願い、か。サイズの斬撃が、次々と触腕を切り落とす――だが、その先から触腕は延々と再生を繰り返す。
「竜宮の人達の頑張りや願いを傷つけて、何が『叶える』って?
ふざけるな……ダガンなんて、ダガンの叶える事なんて何もいらない!」
祝音が叫んだ。傷つく仲間達を支えるべく、聖なる光が舞い踊り、悪しき気配に負けぬ力で仲間達の背中を押していく。
「フォーム、チェンジ! 烈風!」
雄斗が叫び、跳ぶ。悪を切り裂く、正義の姿。
「お前は間違ってる……! お前の導く幸せが、本当に人を幸せにするはずがない!」
雄斗がナノメタルソードの剣閃を走らせる。だが、敵の攻撃は分厚い。無数の触腕が、斬った先から次々と生え、イレギュラーズ達を圧殺せんばかりに襲い掛かってくる!
「マールちゃんが頑張って、それでも、こんなにも強いの……!?」
ノアが叫んだ。敵の攻撃は未だに苛烈。そして、刻一刻と、マールの『力』は削がれていく。
「何とかしなきゃ……でも、どうしたら……!?」
「ダガン=ダガヌに力を与えている者がいるとしたら……」
ウルリカが静かにそう言った。
「マール様の姉妹。乙姫のメーア様でしょう」
「あの、瘴緒っていう肉腫に問われてている……!」
フローラが言う。
「はい……。
元々は、メーア様を操り、敵対させたかったようですが。
しかし、以前の戦闘で想定外のダメージを受け、瘴緒とのリンクが切れかけているようです」
「なら、何とかして、そのリンクを完全に断てば……?」
ノアが言うのへ、フローラが続いた。
「弱体化が狙える……いいえ、そうでなくても、マールさんの家族を、助けられるんですね……!?」
「はい。……私は、マール様には笑っていてほしい。
一緒に小説を読んだこと、忘れてしまったとしても……また、一緒に、楽しい思い出を紡いでほしい。
そのためにも……!」
「だれかを助けたい、その願いにぼくものったー!」
リュコスが声をあげた。その先に、仲間達の姿があった。
「メーアさんを助ける。それには同感っす。
俺らがやるっす。あの中に、突撃する……!」
慧が言った。あの中に突撃する。あの、触腕と悍ましき魔術の飛び交う戦場の真っただ中へ。
無事では済まないだろう。一人なら。だが、今は、支えてくれる仲間がいる――!
「援護は任せてください」
沙月が言った。
「道をこじ開けてみせましょう――私の願いも、一緒に連れて行ってください」
そう言って、構える。同時、飛び出した。強烈な魔術の攻撃にさらされながら、沙月はその手を掲げる。巨大な触腕を、いなし、払い、叩いた。ダガヌに比べれば小さな体が、道を作るべく奮闘を続けていた。
「皆のことは、支えるから。おねがい! 僕の願いと一緒に、すすんで!」
Meerがそう言って、静かに息を吸いこんだ。紡ぐは願い、紡ぐは唱。
「報われない心、持てあます夜
涙に溶かして海へ帰さないで
掬いあげる指、隣りあう体温
貴方の想いまで否定しないで
朝を待つ、夢見る波の子守唄」
願いが、想いが、仲間達の背中を押す。奇しくも同じ名前を持った、メーアという商事につながるために。
「みんなで手探りして、掴むのがハッピーエンド! 一緒に行こう!」
届くように、紡ぐように。謳う、歌う。背中を押す。
「突撃しよう!」
ココロが言った。
「わたしも一緒に、皆を守る。
マールさんは、私の事を忘れちゃってるかもしれない。
でも、わたしは――マールさんのこと、友達だと思ってるから。
また会えた時に、また友達になれるって信じてるから。
だから、友達のために――メーアさんとマールさんが、二人が一緒にいられるように……わたしは戦いたい!」
「よし、進もう! 皆も、道を作ってくれてる!」
イズマが言った。仲間達と共に、戦場をひた走る! 回りでは、熾烈な戦いが今も続いている。その攻撃が、狙っても狙わなくても、飛び交い、戦場を抉る様に、イズマ達を狙っていた。
「だとしても……ここで止まったりはしない!」
星を描くように、その細剣が触腕を切り落とした。僅かに開いた道へ、仲間を進ませる!
「あとは!」
イズマが叫んだ。
「任された」
ゼフィラが頷いた。霊刀をふるい、触腕と魔術の攻撃にさらされながら、しかし足を踏み出すことを、ゼフィラはやめない。
「目を覚ませ! キミの帰りを待つ人がいるだろう!
足を踏み出せ! 恐れるな! 未知に飛び込む……それは、私の願いだとしても!
キミにもできるはずだ……優しい乙姫よ!」
ゼフィラが仲間達の背中を押した。隣には、リュコスが居て、ゼフィラの放つ癒しのそれを受け取りながら、叫んだ。
「ぜんぶ、わるいものは……ふっとんじゃえ!!」
リュコスが弾丸のごとく飛び跳ねた。道を塞ぐ触腕のことごとくを、その身体で打ち払い、上空へと吹き飛ばした。
開かれる、路が。行ける。手が届く。
「俺は割と偽善者っすし、願いを叶える力も無い。
でも、苦悩する人に寄り添ったり、背を押したり支えたりは出来ます。
メーアさん、どうしたい?
瘴緒を引き剥がすには、俺らだけじゃなく『あなたの心』が必要っす!」
手を伸ばした。慧が。手が届く。伸ばした先に。想いに。
「メーアさん!」
誰かが言った。
「メーア!」
誰かが叫んだ。
「メーア!」
あなたも叫んだのだろう。
それは、あまりにも、強く。
悪しき眠りを吹き飛ばすくらいに強い。
『願い』の発露。
「な――!?」
ばづん、と、巨大な何かが切り落とされたような音が聞こえた。それは、乙姫が、自らの力で欲望を振り払ったその証であった。いや、自らの力のみ、ではない。
そこに至るまで、多くの献身と力添えがあった。
あなたの願いがあった。
だから、その願いを、世界は……いや、誰もがかなえようとして、
ここにそれは結実する。
「おねえちゃん!」
メーアが叫んだ。
「メーア!!」
マールが叫んだ。
「秋奈! メーアを抱えて跳ぶぞ!」
紫電が叫ぶ。
「おっけー、美味しい所任された!!」
秋奈が頷いた。メーアを抱えて、跳躍! 追う紫電が、秋奈の道を切り開くように、触腕を根こそぎ打ち払う!
「はいよ、出前一丁!!」
秋奈が着地する。とん、と、マールの元へ。お姫様抱っこされたメーアが、ゆっくりと、血を踏みしめる。
「おねえちゃん……ごめん、わたし……」
「大丈夫、大丈夫だから……!」
マールの顔が、一瞬だけ、くちゃくちゃになった。今にも泣きだしそうなその顔を、でも次の瞬間にはきっと引き結んだ。
「メーア、力を貸して! ここでダガンをやっつけるんだ。えーっと……」
「秋奈ちゃんも力をかすぜい! あと紫電ちゃんもな!」
秋奈が笑う。遅れて飛んできた紫電が、軽く手を振った。
「ま、そういうことだ。忘れたかも……なんて思うなよ。
思い出は、また作ればいい。忘れたくらいで、オレ達は見捨てたりしない」
「そうそう! というわけで、終わったら『最初に』バニーで写真撮ろうぜい! 思い出作り!」
「──あっずるいぞ秋奈! オレも一緒に撮らせてくれ!」
僅かなやりとりは、マールとメーアの緊張をほぐすのに十分な効果を発揮してくれた。マールは笑う。
「うん、この約束は『忘れない』」
「おねえちゃん、私も力を貸すね」
メーアが言った。マールと、メーア。二人がゆっくりと、手をつないだ。
「乙姫メーアの力を以て、皆さんに力を」
「乙姫マールの力を以て、皆さんに祝福を」
『青い海の母なる抱擁を――』
二人が唱えたその時――。
濃密な青の海の香りが、あたりを支配した――。
●潰える願い
強烈な砲撃が、あたりを貫く。ディアスポラ。魔種とかしたエルフレーム。
その苛烈な一撃は、イレギュラーズ達を次々と薙ぎ払っていた。だが、それでも、それでも、多くのものは戦いを止めず、そして諦観の色を見せない。
「何故だ。何故汝らは諦めない」
「諦めが悪いのが取柄でね!」
シラスが、一気に接敵する。掲げたその手から、混沌の泥が吹き出し――。
「この野郎、好き放題に撃ちやがって! これでどうだ!」
放たれた泥が、ディアスポラの艤装を穢した。くっ、とディアスポラが呻く。
「何故だ! 安寧の終わり、それこそが人類の幸福になる……!」
ディアスポラが、砲撃を繰り出す。シラスは咄嗟に腕を構えて、それを受け止めた。強烈衝撃が身体を駆け抜け、
「手前勝手に決めんなよ!」
毒づきつつ、着地。
「わたしだって、しあわせが、さめないのなら、幻だって、かまわない……と、言いたいですの……。
でも……そうなると、また、べつの焦燥に、おそわれますの……。
命を賭して、しっぽを、捕食者の囮に、する以外、わたしは、なんの価値を、ほこれるのでしょうか……と」
強烈な砲撃を受け止めながら、ノリアが声をあげた。
焦燥。自己の価値。
命の安寧は 心の焦燥。
心の安寧は 命の危険。
答えの出ない問。
「それは、逃げなんスよ!」
ライオリットが跳躍。後方から一撃を加える! ディアスポラはその衝撃に耐えながら、近接防御用の機関銃をうち鳴らした。
「その先に、避けられぬ破滅があるとしても……!?」
「そんなものは、乗り越えて見せるッス……!」
ライオリットが強烈な一撃を喰らいつつ、さらに肉薄する。一撃を喰らったディアスポラは、砲塔をぶん回して、ライオリットを殴りつけた。叩き落とされる。
「無駄だ。可能性という言い訳が、現実を見ない理由付けにはならない」
「そこに在るだけで安寧を崩す魔種が言うと可笑しな事だな。
そうでなくとも願い下げだがな! 個人の世界で閉じるまやかしではなく、俺は真実に世界に俺という存在を知らしめたい!」
錬が叫んだ。ディアスポラは砲塔を構える。
「その意気、どこまで貫けるか……!」
ずどぅん、と強烈な砲撃音があたりに響いた。突き刺さる衝撃に身体を痛めながら、錬は叫ぶ。
「終わりの時が来るまで、俺は俺であり続ける……!」
「そんなことを……!」
ディアスポラが叫んだ刹那、突撃する二人の剣鬼の姿があった。シガー。そして希紗良。
「ご高説の最中すまんがな。俺たちにはそういうのは興味がないのさ」
剣鬼。剣のみに生きて死ぬ。
「今は勝負中でね。先に一撃を加えた方が勝ちという事になっている」
「何を――」
「こういう事さね。大将首、一つ手合わせ願いたい――」
シガーがかけた。斬撃が、空間を裂く。ディアスポラは跳んだ。跳躍。魔種の身体能力。
「キサは希紗良と申す一介の剣士であります。いざ、参るであります!」
一方で、希紗良が駆ける。振るうは刃。剣鬼の刃。斬撃は鋭く、ただただ相対するものを斬ることの身を願う。
「刹那的な……!」
「あいにくと、キサの性分ですので――」
再度の斬撃を見舞う。右と、左から、シガーと、希紗良の刃が、同時に艤装を切り裂く。勝負は引き分けであったか。が、戦闘は続いている。
「ちぃっ……!」
ディアスポラは艤装をパージ、そのまま爆発させ、二人を吹き飛ばした。次のターン(十秒)で艤装を再構築させる。
「あなた達のせいで、記憶を失おうとしている子がいるのだぞ……!」
その隙をついて、ウェール、そしてレーゲンが突撃!
「忘れたのならまた思い出を作ればいいと考えられるけど……。
同じ場所で同じ人で同じ行動をしても、同じ思い出にはならない。
場の空気、その日の空、前日寝る前のワクワク、帰った後の名残。
消えた思い出もこれから作る思い出も尊いものだけど、違うッキュよ!!」
レーゲンが叫んだ。その想いを詠唱にして、放つ。魔術。その一撃が、ディアスポラの身体を撃ち抜く!
「諦めていれば、その思い出に浸れておわれたのだ!」
「諦めはしない……俺たちは!
思い出をなくすことも、自分の中でだけでそれを作り出すだけという事も!
俺たちは選ばない!」
ウェールが叫ぶ。投げつけたカードが、ディアスポラの艤装の砲塔先端を切り裂く。小爆発が、ディアスポラを吹き飛ばした。圧されている。押されている。何故だ、何に、押されているのだ。
魔種とは、彼らの常識を超常した存在だ。本来なら、一回の人間が勝てる筈ではない。うぬぼれともいえたが、しかし事実であった――何故、何故――!?
「ディアスポラ。貴方の語る幸せに、その先に未来はあるですよ?
無いですよね。だってそれは永遠にそこに縛り付けているんだから。
だから終わりにしましょう。私達を」
静かに声が響いた。
姉妹の姿が、そこにあった。
ブランシュ。我とは違う汝。
「未来などない」
ディアスポラが言った。
「そんなものなど、ないのだ」
「故に……貴方は諦めた。たぶん、『あなた達』は諦めたんだ……!」
ブランシュが猛進! ディアスポラに肉薄する!
「未来を! 諦めた!」
「それが――」
「お前らなりの愛だとしてもだ!」
アルヴァが『接触』する! 狙撃手ではない、肉弾戦を行う、その姿勢!
「狙撃手と思ったかい? 接近は一番の得意分野なんだ!」
旋風。走る。はしるはしるはしる、つむじ風。ディアスポラの艤装を、切り裂いた。爆発する。
嘆く。声。「また」。声。「沈むのか、海の底に」。声。艤装の声が、ディアスポラに聞こえた。
沈まない。沈まない、沈まない、今度は浮上する、浮上して、浮上して。
「でもあなたには未来がない」
艤装がそう言った。
「幸と不幸は表裏一体。幸せだけではそれを幸せと認識出来ない。苦痛や不幸があるからこそ、人は希望や幸福のために生きるのだと知れ!」
昴が、艤装を殴りつけた。ぐしゃり、と、剥落していく。堕ちていく。艤装。恐らく、最後の――諦観ではなかった心。手を伸ばした。反射的に。どうして。
その身体を、流星が貫いた。黒い流星。ルナ。
「悪ィな。てめぇなんざ知らねぇし、海洋がどうなろうが知ったこっちゃねぇが。
ラサでな、つっても知らねぇだろうが、海路で商売しようっつってるイイ女が後ろに控えてるんでな。
あいつの商売の邪魔だ。さっさと消えろ」
潰えるのだとしたら。消えるのだとしたら。
未来を見なかったことが罪か。
未来無き者に、今を幸福に過ごさせようと願ったことが罪か。
わからない。
なにが、魔を越えさせた――?
「また会えたわね、ディアスポラさん!
うーん、実は割りと分かっちゃうのよね。
ニンゲンさんとってもか弱くて。
どんなに愛してあげてもみんないなくなってしまうもの。
せめて幸せにしてあげたいと思うあなたはおねーさんよりずーっと真面目でまともだわ!
ただ、その方法だとニンゲンさんはダガヌさんだけのものになっちゃう。
みんな一人ぼっちで死んじゃうのだわ。
おねーさん、ニンゲンさんを愛したいの。
一緒に生きたいの。
あたしはニンゲンさんを諦められない」
声が聞こえた。誰かの声。ガイアドニスと名乗ったものの声。
堕ちていく。消えていく。未来が? いや、最初からあきらめていたのなら――。
ここで潰えるのも、当然か。
「さようなら。やっぱりおねーさんに似ていたあなた」
ディアスポラが最期に聞いた声は、それだった。
「やられたのか……」
濁羅が呆れたように言う。ディアスポラが、墜ちて。仲間が墜ちてなおしかし濁羅の心に浮かんだのは『使えねぇ』という感覚だった。
「ちょっとはハンノウしたらどうだい?」
構えながら、イグナートが言う。
「ナカマではあるんだろ?」
「興味ねぇなぁ」
濁羅が鼻で笑った。
「呆れた奴だぜ」
裂が言う。
「その程度じゃあ、最終的には全部失うぜ?」
「いやぁ、腰巾着。テメェはオレと同じだよ」
あざ笑うように、濁羅は言った。
「絶対に、テメェは、踏み外すさ。
オレよりも悪くなるかもな?」
「オヌシとこやつは違うよ」
漁牙が言う。
「違うさ」
「ふん。まぁ、どうでもいいがね?」
濁羅が言う。
「あっちが墜とせたらこっちも……とは思うなよ。
テメェらは殺す。ここでな」
「なんとも……哀れなものですね」
マグタレーナは言った。
「世界を奪うのは力だ、とおっしゃいましたね。
怖いのでしょうね。世界に拒絶されるのが。だから、最初から拒絶されないように、力で抑え込もうとする」
「……テメェに何が分かる」
「わかりますよ。母ですから」
マグタレーナが言った。
「はははっ」
濁羅が笑う。
「死ねよ、どいつもこいつもよ!!」
叫び、その大刀を構えた。身体から、悪しきオーラが立ち上る。跳んだ。大刀を、構え、振り下ろす! 強烈な斬撃が、大地を抉る。イレギュラーズ達に衝撃波となって襲い掛かる!
「死ねよ、死ね! クソが!」
かんしゃくを起こすように、濁羅が叫んだ。その懐に飛び込んだボディが、その大刀を受け止める。
「またお会いしましたね、濁羅。
大一番と言うのなら貴方の流儀に沿おう。
決めましょう、どちらが勝つかくたばるか」
にぃ、と濁羅が笑った。屍兵の表情はうかがえない。だが――同時に、力強く頭突きを繰り出した! がうん、と強烈な音が響いて、衝撃が両者に走る。
「ぎゃはははは! いいねぇ、それでいいんだよ!」
濁羅がボディを蹴り飛ばす――カウンターで、ボディは濁羅をぶん殴った。強烈なフック。右方向へ吹っ飛ばされた濁羅がすぐに立ち上がると、シフォリィが飛び掛かる!
「切実な願いを歪んで叶えられる事を私は望まない。それは皆、同じはずです。
私が望むのは理想に理想を重ねた自分で掴み取った、叶えた願い。与えられた願いなんて、私はいりません!
そしてあなた達の奪うだけの自分しか考えない叶え方も大嫌いです!
奪われることがどれだけ苦しいかわからないでしょうが、絶対に許しませんから!」
「いい子ちゃん! 百点の回答だ!」
濁羅が笑う大刀を振りかざし、シフォリィの片刃剣を受け止めた。
「だがな、おれ達だって奪われてきたぜぇ? 豊穣って国を奪ったのは、イレギュラーズだろうが!?」
「奪った……!? あれを、そういうふうに考えるなら……!」
「歪んでいる……あまりにも!」
マルクが叫ぶ。その手に掲げる魔力が剣の形を描き、強烈な断罪の断裂を繰り出す! 濁羅の左腕が、それを受け止めた。ぞぶり、と深い切り傷が浮かぶ。
「そうかい!? オレはお前らに感謝してるんだぜ! 力があれば、国がとれる!
気に入らねぇ法則も全部ぶっ壊せるって教えてくれた!」
黒い泥のようなものが吹き出して、その傷口を瞬く間にふさいだ。マルクが顔をしかめる。
「あの、弱者を虐げていたかつての豊穣が……!?」
「オレにとっては天国だったぜ。いや、オレはあの国に適応するように生きてきた!
それを全部ぶっ壊して、奪い取ったのはお前らだろうが!」
「悪に適応するのが正しいとは思えない!」
マルクが叫ぶ。
「かもな! でも、力があれば、オレはオレが正しいと思う世界を構築できるんだろうが!」
濁羅が叫ぶ。シフォリィを蹴り飛ばし、マルクの方へ。斬撃でマルクを吹き飛ばすと、吠えた。
「俺は力を手に入れる。力が全てだ! その燃料となる欲望がすべてだ!」
「アンタたちの正義が『全部奪って手に入れること』なら、アタシたちの正義は『全部守って未来を勝ち取ること』!言葉通り、アタシたちの正義も押し通すよ!」
咲良が叫ぶ。同時に、エーレンと共に攻撃! その攻撃を、濁羅は大刀で受け止めた。
「やれよ! それだけで、オレが正しかったって事なんだろうが!」
「俺たちは、戦いにのみ恃んでいるわけじゃない」
エーレンが言う。
「俺たちは、お前の写し鏡かもしれない。力だけに頼って、優しさを失えばきっと、お前になるんだ。それを教えてくれたことには感謝する――行こう咲良」
「……行こう、エーレンくん!」
咲良が濁羅を殴りつける。同時、エーレンがその刃を振るった。濁羅は咲良の打撃を受けつつ、大刀でようやく、エーレンからの致命打を受け止めた。
「く、そ……!」
「あら、プリマのバレエはここからが本番よ?」
バレリーヌは笑う。ヴィリスはその脚の刃を煌かせ、濁羅の身体を斬りつけた。身体が急速に不調を訴える。バレエによって刻まれた、不調(バッド・ステータス)の数々。
「粗野な男はあまり好きじゃないのよねぇ」
アーリアは微笑むと、ぱちん、と指を鳴らした。途端、放たれた無数の銀の蛾が、濁羅の身体にまとわりつく。
「舞台装置としては少し派手かしらぁ、プリマさん?」
「いいえいいえ、素敵なデュエットよ、アーリア」
ヴィリスが微笑む。
「ち……いっ!」
濁羅が雄叫びと共に、銀の蛾を振り払う。既にダメージは蓄積されている。限界の時は訪れようとしていた――。
「よお、クソガキ。
知ってるか? 海賊ってえのはどうも自由であるべきらしい。
どっかのクソ海賊から聞いたんだ」
グドルフが、静かに言った。
「……しょうもねえ神頼みで何もかもを縛っちまったてめえにゃ、海賊を名乗る資格はねえってこった。
さあ、やろうぜ」
ぐ、と拳を構える。
「てめえの海賊ゴッコに付き合ってやるって言ってんだ!」
吠えた。濁羅が、ゆっくりと、大刀を投げ落とした。
ぎり、と拳を構える。
「山賊っつったか。山にいろよクソが」
「そりゃ痛ぇところをつかれたな」
グドルフが、小馬鹿にしたように笑った。
「死ね――!」
濁羅が、拳を振り上げて、飛び掛かった。グドルフが、ゆっくりと身体を沈めた――そこから、渾身の拳が、濁羅の顔面に叩き込まれる!
ぐしゃり、と飛び跳ねて、地面にたたきつけられた。それでもう、身体は限界を迎えていた。
ずぶずぶと、身体がとけていく。邪神の力に耐え切れなくなったからだが、朽ちようとしていた。
「クソが」
濁羅が言った。
「力があれば……自由になれる。思うがままにできる……」
「それが間違いだ」
グドルフが言った。
「力で押し付けたって、人の心は変えられない」
「クソが……」
濁羅の身体が、ばしゃり、と泥になってとけた。そのまま、海の自らも嫌悪されるように、散り散りになって大地に染みて、消えていった。
●全ての人の願いの戦い
「人の願いを、欲望を叶える大精霊……なるほど、「神様」ですわね。
しかし御身に目覚めて貰っては困るのです。それが、わたくし共の欲望であり願い。
叶えてくれとは流石に申し上げられませんね。自ら叶えさせて頂きますわ」
玉兎が、その手に掲げた魔力を零距離で叩きつける。巨大なダガン=ダガヌの身体が、僅かに揺らいだ。強烈な一撃を、攻撃を、イレギュラーズ達は繰り出し続けていた。二人の乙姫による最大出力の加護。それが、ダガン=ダガヌを弱体化させ、イレギュラーズ達を強化する。だが、その乙姫の片割れは、今も思い出をすり減らして戦っている――時間をかけてはいられない!
「マールさん、大丈夫ですか?」
リスェンが、苦し気に眉を曲げたマールに話しかけた。
「すこしでも楽になる様に……活力は送り続けます。
大丈夫です。もし忘れてしまっていても、わたしはマールさんのことを護りますから。
勇気のあるあなたたちだからこそ、わたしも命をかけて護ります。安心していてくださいね」
「ありがと……ごめんね……」
「ごめんはなしですよ」
謝るマールに、リスェンは言った。
「友達ですから。これくらいは」
そう言ってほほ笑む。一方で、敵の攻撃からマールを守る者たちは、リスェンだけではない。
「果ての絶壁、遍く脅威を阻む驚異。
忘却したならば姿見を覗き込むと好い、貴様は何者だ」
オラボナがそういうのへ、マールは笑う。
「手紙と日記、覚えてる。ちゃんと鏡ものぞいてる!」
やせ我慢の笑顔ではない、嬉しさの笑顔だった。オラボナは笑う。
「貴様にはホイップクリームの刺身を楽しんでもらわなければならない。故に、此処に在れ」
「オメェさんも無理すんなよ! こっちが倒れたら、マールの嬢ちゃんも、メーアの嬢ちゃんも耐えられねぇだろうからな!」
ゴリョウが笑う。
「いいかい、お二人さん、それからニューディよ。必ず守るぜ。忘れちまってもいい。だが、信じてくれ。俺たちのことをな!」
「はい……!」
メーアが言った。
「あ、お姉ちゃんが言ってたんです、スナズリウオの料理がすごく美味しかったって……わたしも、たべてみたいんです。一緒に、必ず帰りましょう!」
メーアがそういうのへ、ゴリョウは頷いた。
「おう! とっておきをご馳走してやらぁ!」
「まったく、皆無茶が好きっスね」
佐藤美咲が笑う。
「ま、妄想は嫌いじゃないスけど、それだけってのは面白くない。
妄想回はシリアスの合間にたまにあるのがいいんでね。
それに――戦いが終わったら、バニーさん達にいっぱいちやほやしてもらうんっスから」
「バニーさんですか。よくわかりませんが――」
グリーフが言う。
「ええ。皆さんで仲良く、お話しできるというのでしたら……それは素晴らしい事です。
良い思い出になるのでしょう」
「そう! それに、今この瞬間だって、思い出がたくさんできてるんだから!」
瑞希が言う。
「あ、ボクは玖・瑞希だよ、マールさん。
ふふ、これで一つ思い出ができたね!」
そう言って笑う瑞希に、マールは笑ってみせた。
「よろしく! ふふ、ありがと……!」
すこしだけ、目の端に涙を浮かべて。
ほんの少しでも、忘れたことで嫌われてしまうかもしれない、と思ったことが恥ずかしかった。
皆良い人達ばかりだったのに……。
「まだ泣かないで、もう少しよ!」
レイリーが力強く頷いた。
「からなず、私たちが皆を守る! だから、もう少しだけ、頑張って!」
そう言って立ちはだかるレイリーの姿は、なんかすごい服装をしていた。
「……所で、竜宮風の衣装ってこういう感じだって聞いたけど、あってるわよね?」
そう小首をかしげるレイリーに、マールとメーアは同時にこう言った。
『大体は』
さておき。護るものが居れば攻撃するものも居る。苛烈な攻撃はダガン=ダガヌの体力を確実に削り取っていった。
「俺達夫婦を、見守っていてください女王陛下」
史之が言う。その後ろには、睦月の姿があった。
「しーちゃんの背中は、僕が守るから。だから、思いっきり行って!」
「うん!
かつてここがなんと呼ばれたか知ってる?
絶望の青だよ。
だけど俺達という希望が書き換えた!
おまえごときが汚していい海じゃないんだ!
必ず仕留めてやるからな! マールさんのためにも!」
放つ史之の斬撃が、水母の傘を切り裂いた。慌てたように再生されるそれ。その一撃は、ダガン=ダガヌにとっても驚異の一撃であった。
近づかれている。身体に。
これまで魔術と触腕によって阻まれていた攻撃が、確実に、確実に、本体へと近づいてきていた。それが、自分が追い詰められていることの証左だった。
「今日は僕の誕生日でね。「メインディッシュ」が神とはなかなか運命も粋なことをしてくれる。喜劇としては悪くない」
愛無が飛び込む――その手が、腕が、水母の身体を薙いだ。痛みが、走った。痛み。感じたことのないもの。
「馬鹿な……!」
ダガン=ダガヌが叫ぶ。愛無が首をかしげた。
「君は……そうか、誰かを殺して食ったことがないのか。不健全なものだ。だから痛みも知らなかった。願いの本質も、きっと知らないのだろうな」
「戯言を……!」
ダガン=ダガヌが触腕を振り払う。愛無がそれを受け止めて、吹き飛ばされた――入れ替わる様に、ニコラスが飛び込む!
「お前は何で封印されたのか。その理由わかってんのかよ。それがわかっちゃいねぇから、それが理解できていねぇから、テメェはまた拒絶されるんだ。
お前の在り方は致命的に間違ってんだよ、神様」
「……何を……!」
ニコラスの一撃に、水母は身体を揺らした。生命の願いをかなえようとした何か。しかしそれは、生命の願いの何たるかを理解していなかった。それは全く、ニコラスの言った通りの真理だった。
「ウォリアさん、神殺しと行くっす!」
レッドが叫んだ。
「マールさんの限界が来る前に、速く!」
「承知した」
ウォリアが吠える。レッドと共に、突撃するは悪神の懐に。
いや、それはそもそも、悪神であったのだろうか。
お互いがお互いを、正しく理解できていなかったが故の接触が悲劇であったとしたならば。
ダガンは最初から何も変わらなかった。
ダガンをダガヌへと堕としたのは、ひとなのであろう。
故に、それをダガン=ダガヌと呼ぼう。
ダガン=ダガヌは触腕を振り払う。ウォリアはそれを、噛みちぎる様に裂いた。神滅の魔剣が、その威を発する。
「オレが合わせる、存分に力を解き放てレッド! ――神滅・断罪斬!」
「神と云われるなら滅せれるでしょう。ウォリア、いくっすよ! 神滅のレイ=レメナー!」
放つ、二人の一撃! 無数の触腕を消し飛ばし、ダガン=ダガヌのクラゲの傘を切り裂いた。きゅおおお、と悲鳴を上げる。ダガン=ダガヌ!
「あり得ない……あり得ない……!」
ダガン=ダガヌが叫んだ。ばりん、ばりん、と世界が割れる音がした。それは、ダガン=ダガヌの肉体を封じた空間への強制的なアクセスだった。本体からの力を振り絞ろうとするその断末魔の反撃だった。
「おねえちゃん……!」
メーアが悲鳴を上げた。マールに、強烈な力の逆流が起きたことを把握していた。ダガン=ダガヌを抑えるために、さらなる力を必要としたそれが、マールから急速に思い出を消耗しようとしていた。
「大丈夫、忘れない! 絶対に、忘れたりしない!」
マールが叫んだ。じりじりと焦燥する、自分が自分で無くなっていく感覚――!
「大丈夫。絶対に、無くしたりしない」
声が、響いた。
ムサシの声だった。
隣にいるユーフォニー、二人の身体に、何か暖かな炎と、燐光が、漂っていた。
「奇跡を――?」
メーアが声をあげた。マールが悲鳴を上げた。
「ダメだよ! 死んじゃう!」
本能的に、それがとても危険な行為であることを、マールは理解していた。
でも、ユーフォニーとムサシは、優しく笑った。
「私、シェームさんの時ためらいました。
世界はそんなに甘くないです。
目の前のひとの力にすらなれず、可能性を示す約束なんて果たせない。
だから今度こそ、ためらいには勇気を。
マールさんがマールさんであるために!」
「……マールさんの消えてしまった記憶。
一つ一つはありふれたものかもしれない。
それでも! だからこそ! 簡単に失っちゃいけない!
救えるのなら、必ず手を伸ばす! 自分は宇宙保安官で、ヒーローだからだ!
マールさんがマールさんであるために!」
二人が同時に声をあげた。
『失われた思い出を全て、彼女の元へ!』
……それは、二人だけの願いではなかった。
例えば――ヨゾラは願った。
「僕は不完全な……僕が叶えたい事を叶え、僕が叶えたくない事を拒絶する願望器。
マールさんの記憶を失う事を拒絶し、彼女の記憶を全て取り戻す為に奇跡を起こす!」
例えば――ブレンダは願った。
「思い出はまた作ればいいなんて甘えたことを言うつもりはない!
笑顔一つ守れなくて何が騎士、何がイレギュラーズか!
メーア殿を助け権能を戻せば代償になった思い出が戻ってくる!
そんな完全無欠のハッピーエンドを寄越せ!」
例えば――ルーキスは願った。
「消えてしまったマールさんの思い出が、元に戻る様に。
特異運命座標として、今こそこの力を使おう。
絶望を希望に塗り替えるために…奇跡よ、起これ!!
それは、願いだった。
誰かのために願う、自らの命を削ってなお願う、
最後のプーロ・デセオ。
「光が……!」
アルテミアが叫んだ。強烈な、それは可能性と生命を燃やす、PPPの光だった。アルテミアが、マールの手を握った。暖かな想いを、感じていた。
「マールさん……!」
アルテミアが声をあげた。マールがゆっくりと、その手を握り返す。
「ありがとう、アルテミアさん。もう、大丈夫……!」
ヒトの願いが、友の願いが、この時、この刹那だけ、彼女を真の乙姫へと変革させていた。なればその力の代償は要らず。消えるものはなく、消えたという事実も消える。
「抑え込むから!」
マールが叫んだ。
「頑張って! 皆!」
「お願いします、みなさん!」
メーアが叫んだ。
二人が強く手をつないだ。強烈な光が、ニューディととともに輝いて、ダガン=ダガヌを血へと叩き落とした。縛りつける。想いが、願いが、ヒトの願いが、戦っている。
「やりましょう」
チェレンチィが言った。
「止めを刺すんです!」
叫んだ。誰もが、その想いを一つにした。
誰もが、今ここで、決着をつけるべきだと思った。
だれもが。きっと、あなたもそう。
「一気に道を開こう! うん、ぶっとばしていくっ!」
アリアが声をあげた。駆けて、跳躍する。無数の触腕が、苦し紛れに振るわれるのを、アリアがその手をかざして、
「この海に再びの安寧を……それが私の願い!
それをこの一撃に乗せて……叶えてみせるからねっ!」
叫びと共に、強烈な魔術の衝撃をうち放つ! 放たれたそれが、触腕を次々と切り裂いて、一筋の道を作り上げた!
「再生させない!」
オリーブが叫ぶ。
「このまま、先に進んでください!
自分の願いがあるとしたら、それはこの魔の消滅。
この戦いの果てに、皆で笑って帰ること!
叶えましょう、自分の力で!」
オリーブが、その『ただの剣』を振るって、現れた触腕を切って捨てる。終わらなく続くとすら感じられる戦いに身を投じるのは、それもまた願いゆえに。
「ねえ、私のお師匠(クロバさん)。
私が今ここに立っている理由は、君が私のお師匠で、友達だから。
たったそれだけで、でも私にとっては十分すぎるほどのことだ。
君が懸けた覚悟の分だけ、私も命を懸けましょう。
君が叫んだ言葉の数だけ、私も刀を振るいましょう。
ひとりじゃない。だからたまには頼っておくれね」
シキが笑う。クロバは――。
あの、一人の少女と約束した、勇者の一人は。
「ありがとう」
そう言って。
「約束したからな……生きて帰るって。
『皆で、笑って帰ろう』って。それが俺の、プーロ・デセオなら……」
クロバがかける。シキが、その背を、戦いながら見送った。
誰もが願いを賭けて戦っている。誰かに願いを託して、或いは、自分の背にそれを背負って。
戦い、傷つき、悲しんで、それでも、願いを叶えるために。
此処はそういう場だった。
此処はそういう世界だった。
「これ以上あいつを泣かせてたまるか……失わせてたまるかぁぁぁ!!」
叫ぶ。刃を、振り下ろす。
願いを込めて。願いを賭けて。
振り下ろされる、刃! 一撃!
それが――。
「……本当に可哀想にね。
人間に振り回されて、キミの願いは誰が叶えればいいのやら。
せめて、もう少し。『キミが人間と触れ合って願いの匙加減を学べる機会があればよかったのに』」
武器商人が、静かに呟いた。その身体はボロボロで、激戦の果てに傷ついて。
今まさに――願いが潰えていくその姿を見送っている。
消えていく。消えていく。
ダガン=ダガヌが。神と呼ばれたものが。
ぐずぐずと、その身体を溶かしていく。
同時に、あたりに清浄な空気が満ちていくような気がした。悪しき……いや、欲望の気配が、消えていくような気がした。
ダガン=ダガヌの視線が、最後に、武器商人を見たような気がした。
それはただの、気のせいだったのかもしれない。いや、或いは――そうであってほしいという願いであったのかもしれない。
いずれにせよ――。
それは消えて。
あとには静寂だけが残った。
●
「ふえええええええええんん!!!」
鳴き声が響いた。子供の用に泣きじゃくる、そんな声だった。
「えっ、ちょ、マール殿!?」
百合子が叫ぶ。
「だ、大丈夫っすか!? お腹痛いとかっすか!?」
レッドが慌てて駆け寄った。
「レッドさん! 百合子さん!」
マールが声をあげた。
「うええええええええん! 覚えてる! あたし、覚えてる、覚えてるよぉぉぉ!!」
マールが泣きじゃくった。
「皆のこと覚えてる! 忘れてない! でも、乙姫の力はなくなってて……なんで?! すごい!? わけわかんない! うえええええんん! でもよかった! よかったよぉおおお!」
「それはきっと、あなたが奇跡を願ったからなのですね」
そう言って、メーアはあなたたちを視た。
「ありがとうございます……わたしが不甲斐なかったばっかりに……」
「いや、いいんだ」
クロバが言う。
「約束は守るからな……俺たち(ローレット)は」
そう言って、笑った。
「これにて、静寂は再び静寂を取り戻す……ね」
モガミがそういうのへ、美咲・マクスウェルが言う。
「ねぇ、別にこれは、償いとかじゃないんだけど」
そう言って、右手に視線を移した。
「帰ったら、右手分だけでも契約解除を試すよ」
モガミが不思議そうな顔をした。
「どうしました急に。それでも、わたしはあなたが嫌いよ」
「そうじゃなくて。
それで対等……でもないか。相棒がいる優位は揺るがないものね?」
「というか、モガミさんさぁ~」
ヒィロが声をあげる。
「人の生を語る立場にないっていうけど。
「自分の生」は大いに謳歌していいと思うんだ。
さっき言ってた「嫌い」っていう気持ちだって、きっと「モガミさんの生」の大事な一欠片なんだから。
うーんと、ボク頭悪いから上手く言えないけどさ。
この竜宮で過ごした時間と感じたこと、これからも大事にしてね!」
それもまた、『願い』であって。
眼帯をしていたモガミの眼はうかがえなかったけど。
「ふ、ふふ」
愉快そうにモガミは笑って。
「そうね、相棒とか探すのも、いいかもしれない……。
それと、ええ。もう二度と、あなた達には会いたくないわ。
だってあなた達のこと、すっごく嫌いなのだもの。
そう『願って』おく」
そうとだけ言い残すと、モガミは姿を消した。もう、会うことはないのかもしれないと、二人は思った。
海底神殿は、もうすっかり静けさを取り戻していた。あれほどの熱も、幻影も、もうどこにも存在しない。
ダガン=ダガヌと呼ばれた大精霊の核は滅ぼされた。
故に――もう彼が目覚めることは二度とないだろう。
少々の犠牲と共に、イレギュラーズ達は大団円を願った。そして戦った。
代償と共に、イレギュラーズ達はその結果を手にした。
願いの戦い。
『あなた』の願いの戦い。
それはきっと、この後も続いていく終わりのない戦いなのだろう。
だとしても……どうか、『あなた』の願いが叶いますように。
それがきっと、この地に集った、誰もが願った『プーロ・デセオ』であったのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
そして願いは、皆の胸に。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
決戦! です!
●成功条件
ダガヌ、濁羅、ディアスポラの撃破
●特殊失敗条件
マール・ディーネー、およびニューディの死亡。
または戦闘が長引き、マール・ディーネーの『思い出』が空になる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
邪神ダガヌと対決の時です。もしダガヌが復活すれば、ダガヌが封印されている海底火山に強烈な負荷がかかり、火山が大噴火、
ダガヌ海域、竜宮は溶岩の海に沈むでしょう。豊穣沿岸や、シレンツィオ、天浮の里にも多大な影響が発生する可能性があります。
そうでなかったとしても、ダガヌの復活は、強烈な悪神の復活にもなります。彼は純粋な存在かもしれませんが、人類に取っては毒となる存在です。復活を許すわけにはいきません。
以下の戦場に戦力を分け、すべての敵を撃破してください。
多くは語りません。あなたの勇気と力が、最後の武器になるはずです。
●プレイングの書式について
戦場での迷子などを防ぐため、一行目に戦場の番号を、
二行目に、【グループタグ】か、同行するお仲間のIDを、
三行目以降にプレイングをお書きください。
==例==
【A】
ラーシア・フェリル (p3n000012)
がんばります!
======
●戦場
【A】ディアスポラ&深怪魔部隊の迎撃
魔種、ディアスポラ=エルフレーム=リアルトと、配下の深怪魔を撃破します。
深怪魔は、サハギンのような魚人系の怪物と、ナイト・ゴーントと呼ばれる魔術を使い怪物で構成されています。多くのサハギンで近接戦を行い、ナイト・ゴーントで魔術による支援と攻撃を行う布陣です。
ディアスポラは、強烈な砲撃を得意とする遠距離ファイターになります。
その砲撃は、一撃であらゆるものを打ち倒す、強力な主砲。出来れば一気に接近し、倒してしまいたい所ですが……。
相手は魔種。そう簡単にはいかないでしょう。
なお、此方の戦場が苦戦すればするほど、【C】の戦場に参加者とマールが向かうための時間が余計にかかってしまいます。
このシナリオの三つの戦場の内、中くらいの難易度の戦闘になるでしょう。
【B】濁羅&濁悪海軍部隊の迎撃
ダガヌと契約した海賊、濁羅と、配下の濁悪海軍の海賊兵を撃破します。
海賊兵は、皆近接武装を装備したインファイターになります。もちろん、ダガヌの祝福を存分に受けているため、ただの雑魚敵とは言いません。。
濁羅もまた、その大刀を振るう、強烈なインファイターになります。また、ダガヌの力で強力な再生能力を持っていて、HPの回復を行います。
高い生命力と、強烈な近接攻撃。あえて接近戦を挑むのも良いですが、遠距離から狙うのもまた一つの手です。
なお、此方には漁火水軍の兵士と、漁牙、【指輪の悪魔:陽】モガミといった、NPCの味方援軍が存在します。
そのため、このシナリオに三つの戦場の内、一番低い何度の戦闘になります。(とはいえ、油断は禁物です!)
なお、此方の戦場が苦戦すればするほど、【C】の戦場に参加者とマールが向かうための時間が余計にかかってしまいます。
【C】邪神ダガン=ダガヌの撃破&メーアの救出
邪神ダガヌそのものとの戦闘に入ります。
邪神ダガヌは非常に強力な大精霊です。大部隊である皆さんと相対してなお、苦しい戦いとなるでしょう。
主に神秘系列の強烈な攻撃を行ってきます。物理攻撃ができないわけではないですが、主体は神秘攻撃になるでしょう。
各種の強烈なBSも運用し、特に毒系列、乱れ系列、混乱系列のBSを得意とします。回復手段は用意するとよいでしょう。
マール・ディーネーおよびニューディが同行します。二人の力で、ダガヌの実体を実空間に固定し、『討滅』できる状態にします。また、ダガヌの強力な欲望を喚起させる権能は、ニューディがすべて喰らう事で対処します。
その為、マールおよびニューディが切り札になっています。戦闘に巻き込まれて死亡してしまったりしないようにご注意を。
また、戦闘に時間がかかればかかるほど、マールの【思い出】が減り、乙姫としての力を維持できなくなってしまいます。よって、速やかな撃破を求められます。
この戦場には、メーア・ディーネーが存在し、ダガヌによってエネルギーを吸われ続けています。彼女に寄生する【瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)】によってメーアは無力化されています。メーアに寄生したデヴシルメは特に強力なため、攻撃して引きはがすにはそれなりの戦力を割く必要があるでしょう。
もしメーアを救出できれば、ダガヌの力が落ちる可能性は高いです。狙うかどうかは作戦次第です。
●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
以上となります。
それでは、皆様のご武運を、お祈りしています。
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