シナリオ詳細
決戦お疲れ様でした会、温泉の部
オープニング
●ここは温泉街、いくつもの湯舟を
「先輩方、本当に、ほんっとうに、お疲れ様でしたッス―!!」
『可愛い狂信者』青雀(p3n000014)が束ねたクラッカーの紐を景気よく引っ張り、小気味よい音が鳴る。
ここは温泉街、とだけ呼ばれている場所だ。正式な名称は他にあるのだろうが、通称を知っていれば問題はない。目的も間違いなく、そうであるからだ。
青雀も浴衣を着ている。なんでもここの貸衣だそうで、フロントで申請すればだれでも借りられるのだという。
「温泉に行くッスよう!」とは、サーカスとの決戦から翌日、さあ気を改めて仕事を、などと思っていた矢先に青雀が言い出したものだった。
なんでも、慰安の名目でギルドには既に許可を取った後だという。
確かに、連日の緊張と戦闘で心身ともに何かと痛みが来ていたところだ。
ギルドからの話とくれば渡りに船、一同揃い、温泉へと足を運んだというわけである。
「先輩方がちゃんと帰ってくてくれて、本当に、僕は嬉しいッス!!」
青雀がメガホン片手にはしゃいでいる。
戦場に出られない情報屋であるからこそ、皆の無事をずっと願っていたのだろう。
「今日はここ、先輩方の貸し切りッスから! 丸一日遊ぶッスよう!」
- 決戦お疲れ様でした会、温泉の部完了
- GM名yakigote
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年07月19日 20時45分
- 参加人数161/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 161 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(161人)
リプレイ
●温泉の部、温泉の処
湯煙が上がる。湯煙が上がる。
季節柄、暑い環境というのは好ましいものではないが、ここだけは話が別だ。
温泉。温泉。温泉。大小様々な湯船が並んでいる。それぞれに効能が記載された立て札がついており、自分にあったものにつかれるようになっていた。
傷を、疲れを、蓄積されたそれらを癒やし、明日からまた闘争と苦難と混沌の日々へと身を投じられるように。
それは熱く、熱く、包み込むように迎え入れてくれるだろう。
早速とばかりに、シェリーが湯船で足を伸ばしていた。
その体はきっちりとタオルで隠されている。ややルール違反だが、咎められることはない。理由は明白だった。
湯の中に隠していた水鉄砲を取り出して、塀のうわべりに向けて引き金を引く。
向こう側に落ちる音。上がる悲鳴。まあそういうことだ。
美容効果があると聞いた温泉に体を預けていた胡蝶だったが、異様なものを発見していた。
ぷかぷかと、何やらひとっぽいものが浮かんでいるのだ。
そいつは濡れていてもわかるくるくる巻の金髪で、視線を集めているが反応はない。
真下を向いているが呼吸は大丈夫だろうか。
「わざと、よね? ……大丈夫?」
ノリアは困っていた。
海の中で暮らしていた彼女にとって、温泉はおろか風呂というもの自体にまるで経験がなく、どれが熱いのかわからないのだ。
「とはいえ、ここまできて水風呂、というのも、やっぱりもったいないと思いますの」
だから適当に、当たりをつけて、さあ、
「えいっ、ままよ、ですの!」
釜茹でかな。
「あぁ、こいつはいい湯だ。骨まで染み渡るぜ」
肩まで浸かってリラックスする縁。近年では水圧の負担から、肩を出すほうが体には良いとも言われているが、関係ない。疲れが溶けていくのを感じるじゃないか。
「おっさんくせぇって? そりゃ、おっさんだからな」
いい湯だ。少し酒が恋しい。湯船に盆ごと浮かべてさ。
「温泉ー♪ ふっふっふ、僕の前に温泉があったら全部を制覇せざるをえないのだ♪」
桜は良いことを思いついた。
全ての温泉に入ってしまえば、全ての効能を得られるのではないか。
傷の治りが早まり、披露は抜け、美容にも良い。グッドアイディア。
「ふにゃー……温泉はやっぱり気持ちいいねー♪ 天国だよー♪」
「大きな仕事をしたあとに入る温泉は格別だねえ……ぶくぶく」
顔の半分まで湯船に浸けてしまうレンジー。
せっかくだからとあれやこれやの温泉を楽しみ、しっかりと湯の中に入れば熱も溜まるわけで。
「あー、少しふらふらするよ……外の空気が冷ましてくれて気持ちがいいね……」
温まった後は片手に牛乳瓶。腰に手を当てるのも様式美。
「まあ! これが温泉というものなのですか」
ヘイゼルの故郷では、温泉というのは治療のために長期滞在するものであり、その費用を支払えるものだけの特権であった。
そのため、温泉と入るなんてのは初めてなのだ。
「ふむ、この暖かくて体が浮くような感じがブルジョアの感覚なのでせうか。確かに、ゆっくりするには良いのかも知れませんね」
「クックク、温泉!!! 滋養強壮、頭痛肩凝り切り傷擦り傷その他もろもろ!! 実に良い湯であった……クク、力が滾ってくるようだ」
どうでもいいことだが、ディエの口調が温泉シーンと掛け合わさると面白くて仕方がない。
「そしてこうして按摩に身を委ね、罪深き聖杯を傾けるのもまた一興よな」
あ、フルーツ牛乳のことらしいです。
「お風呂は好きです、ですが、私はこういう男女別のお風呂で何が起こるか予想しています。そう、覗きです!」
断言するシフォリィ。お、おう、力強いな。
「でも暴力はいけないので熱湯ばしゃーで許してあげます! 途中でタオルが落ちるとかはないでしょう! ええ!」
一種の『押すなよ、絶対押すなよ』?
「わーい! オンセンきもちいいね! さいこーだよ!」
ナーガが大きな体を湯船に預けている。
沸き立つほどの熱湯風呂ではあるのだが、彼女の体には適温らしい。
「ひさしぶりにハイるなぁ、いつもはミズアビだったけど……キョウくらいはゼイタクしてもいいよね?」
何かちょっと悲しい事実が聞こえてきた。
「HAHAHA、やはり日本人は温泉からは離れられないな」
明らかに日本人離れしたマッチョな肉体を湯に浸けながら、貴道もまた連日の戦闘で溜まりに溜まった疲れをこそぎ落としている。
「やっぱコレだな、温泉といえば……」
盆に乗せた徳利から透明なそれを盃に注いで、景色を肴にして、舐めるようにやりながら。
「偶にはゆっくり浸かるってのも乙だよな」
露天の景色を楽しむティバン。こちらも酒を用意している。
宿の売店で販売していたものだ。店員がお目々ぐるぐるの女情報屋だったのは気になったが、問題はないらしい。
「流石に男風呂を覗くやつはいないだろうし……いないよな?」
その場合、案件になるのかどうか。
「んー。やっぱり温泉はいいねぇ~」
湯の中で大きく伸びをして、固まったコリをほぐすフェスタ。
しかし、視線を感じて見上げてみれば、
「わっ!? ちょ、わー!?」
塀の上に、まあつまり覗きだ。
「まつりの体なんて、見ても楽しくないのですよ!?」
慌てて全身をお湯に沈め、体を隠していた。
「……熱い湯はもう懲りた。意識は遠のくし、あんな無様を晒すのは勘弁だ」
シェンシーにはどうやら、風呂への嫌な思い出があるようだ。
「へえ、水の風呂がちゃんと用意されているんだな。人にも熱湯を好まないのはいるのか?」
熱湯を好むってなんだろう。一発芸体質とかだろうか。
「ま、いい。今度は温泉の風呂を堪能できるかどうか……物は試しだ」
「茹蛸を欲するならば叶えて魅せよう。我等『物語』の肉は黒色故に赤に染まる事は無いが! ああ。素晴らしいものだ。冷えた肉体に染みる熱。目(略)」
なんか、浮かんでいる。クソザコ美少女の横に、オラボナっぽい肉塊がこう、名状できん感じで。この場合、クソザコが気絶しているのは幸運判定の成功かしら。
「あー、骨身に染みる。筋肉疲労とかは私には効果ないからね。私に効くピッタリの温泉があって良かったよ」
女物の水着を着用した骨(ジーク)が骨折などに効く温泉に入っている。骨身に染みると言うか、身が骨だ。
「こうやってゆっくりするのも久々だし、酒でも飲みながら楽しむか」
肋の隙間から溢れたりしないんだろうか。
既に風呂をあがった世界樹が、適当な長椅子を占領して温泉饅頭を貪っている。
「実にうんまいのう♪」
もっしゃもっしゃ。
時折お茶をグビグビ飲んではまた。
もっしゃもっしゃっしゃ。
浴衣を着るのも面倒くさがり、バスタオル一枚で饅頭食ってる。
「…………そうチラチラ見ても分けてやらんからの?」
種族柄か、基本的には水場で済ませることの多いフロウも、今日は温泉で身を労るばかりだ。
「ふぅ……たまには熱い湯というのもいいですね」
故郷から遠く離れてはいるものの、海での仕事もないわけではない。この季節で仕事であれば、そういった機会も増えることだろう。
自分を活かすためにも、今は英気を養うのだ。
「しかし、あれだね。どうにもこう肉……いや、裸の子達が沢山いると、お腹が空く」
マルベートが何やら不穏なことを言っている。異文化コミュニケーションって大変だな。
「すべすべで柔らかそうな肌の子達が沢山いるし……これは私の胃袋に対する一種の拷問かな?」
この世界の温泉、刺青お断りの代わりに肉食生物お断りとかありそうだ。
「あの激戦で結構傷ついちまったからな……」
ルウの持つ恵まれた肉体でも、決戦で繰り広げられた死闘においては、無事と言えるものではなかったようだ。
一時の休戦を。根っからの戦士とて、休息の時間は必要だ。常に戦場を駆けていれば、容易く息切れしてしまうだろう。
「たまにはゆっくり湯でも使って、休ませてもらうとするか!」
「こんな気をゆるめてていいのかな……」
レイはそう思うものの、今は何かをしようという気にはなれなかった。
ぼーっとしていると、暗い思考に行きつくため、頭を振って打ち消すことにする。
「これから、なにしようかな。そうだ、とりあえずここの温泉全制覇しよう。これからのことはそれから考えよう」
「はぁ、生き返るなぁ……」
思わず喉の奥から声がでてしまったみつきは、おっさん臭いと苦笑して、それ自体が皮肉げだと、笑みを深くした、
この体になって、もう1年が過ぎた。慣れない肉体。異なる文化。違った風習。馴染むまでは大変だった。
誰かが湯に入ってくる。そちらを見ないよう、視線を反らせた。
「秘湯巡りとかもいいけど、やっぱ安心して入れるのはいいよね」
自然に女風呂の暖簾を潜ろうとしたアトリだったが、仲居に引き止められたことで自分の特性を思い出した。
慌てて自分の性別を伝える。その後も、誰かと顔を合わせる度に騒動になりかけて、気の抜けない湯治になってしまった。
「これはこれで楽しい思い出になったかな!」
「はー、生き返るわ……いつも死にかけてるからとても生き返るわ……」
知らないひとがキュウビの言葉を聞いたら、イレギュラーズがとてもブラックな環境だと勘違いしそうだ。
みかんでも食べようと皮を剥いたところで汁が目に入ってダウン。そのままぷかぷか。
「なんか……趣があるかもしれない……」
火サス的な。
「僕は温泉でゆっくりするよ!」
せっかく男女別に分かれている温泉も、ムスティスラーフにとっては寧ろ好都合だ。
その視線が色を探して右へ、左へ。
それを感じ取ったのだろう。他の湯治客がゾクリと身を震わせていた。
「一緒に飲みませんか?」
頑張って、声はかけてみるものの。
「取り敢えずこの湯舟ってのに浸かってれば良いんだよねー」
クロジンデの故郷では、水は貴重なものだ。それ故に風呂という習慣自体が珍しいものだった。
「何か溶け込んだお湯なのかー、なんだか料理されてるみたいだねー」
出汁か。
「まー、魔法で治しているとはいえ数日は治るまでかかるし。ゆっくりゆっくりだねー」
クリムが足音を立てないようにふよふよと浮いて、塀の向こうへと移動していく。
そっちは男湯だと、途中で呼び止められはしたが、彼女は平然と、こう答えた。
「せっかく男女で分かれてるんだから覗きに行かないと損ですよ」
この場合、どうなのだろう。咎められるのだろうか。喜ばれるのだろうか。
しかし当然ながら、男が女湯を除けば待っているのは粛清される未来なわけで。
「バレればどうなるか分かった上で、相応の覚悟を持っているでしょうしねぇ?」
青筋を立てたアルテミアが密入犯に向けて歩いていく。
だが、水場では気をつけて進みましょう。
足を滑らせた拍子に彼女を隠す大事なタオルが(全年齢はココまで)
そうやって、覗こうと塀の上を、あるいは穴を探そうとやっきになっている連中を、アリスターはそっと見守っていた。
壁一枚隔てた向こうから花の声が聞こえてくると言うだけでも十分であったが、あえてその禁じられた領域に足を伸ばそうという勇者がいるのなら、その地理ざまを楽しむのも悪くはない。
ほら、またひとり落ちた。
「キャーッ、温泉なんて久しぶり!」
甲高い声を出したジルーシャに他の湯治者がぎょっとする。
その視線に気づいたのだろう。ぐるりと見渡して、合点がいったというように手を打ち合わせた。
「……あぁ! ヤダ、びっくりさせちゃったわね! こんな喋り方してるけど、アタシは男よ。もちろん中身もちゃんと男、だから安心して頂戴な♪」
「あー……安らぐ。温泉は露天に限るね。これが冬景色だったら更にいいんだけど、贅沢は言うまい……」
溶け込むような湯船を存分に楽しんでいるメルト。暑い日でも、温泉はいいものだ。のんびりだらりとしていれば、激戦の疲れもごそりと落ちていく。
「ついでにジョニーにも温泉を楽しませてあげようかな?」
「凄い人数ですねー……大きな戦いの後ですし、ゆっくり休めるでしょうか?」
アグライアは足を伸ばせるスペースはないかと広い敷地を見回していた。
イレギュラーズの貸し切りで一般客が居ないとはいえ、その数もかなりのものだ。
「はあ……魔種絡みのお仕事も一段落付いて、ようやく一息と言った所でしょうか」
「温泉言うたらアレやんな、湯上り美人!」
ブーケはなんていうか、上級者だった。
女湯から出てきた彼女らを目の保養にしようというのである。
ああしかし、何もしないのも不自然だ。ここは定番の牛乳でも。
「誤算やったわ。こんなにぎょうさん牛乳飲んだら、おなか、いたくなる。無理……待って、しんどい……」
「流石に疲れた。一日ゆっくりしよう……」
広い湯船で大の字になって、ぷかぷかと浮かんでいるミニュイ。
しかし、と温泉一帯を視線だけで巡らせてみる。
誰も彼も、どこかで見た顔だ。同じ仕事をした者も、そうでない者もいる。
人間じゃない、なんてのも珍しくはない。ああ、あのひと女だったのか。そんな発見も。
クローネが覗き魔をひとり、撃ち落とした。
「全く……見せ物やってるんじゃ無いッスよ、こっちは……」
だが、女湯を見ようという連中の目的は彼女ではなかったようだ。もっとこう、ほら、豊満な?
「…………はは、余程念入りに死にたいらしいとみましたが? ……覚悟は出来てるな?」
ごごごごごご。
「我慢比べなら負けませんとも! きっと!」
熱湯風呂に誰かが入っているのなら自分もと、渓が意気込んでいる。比べるというのなら既にそこの浮かんだ金髪はリタイアしているのだが。
「ちなみにじっとしていると温度がほぼ固定されて暑くないですが、波とか起こすと暑さになれてもさらに暑くなるらしいですよ!」
追い打ちをかけようというのか。
「何て言うか、触れるべきか触れざるべきか悩むところよね……」
浮かんだ金髪の魚(ザコという意味で)を見やるが、竜胆は放置を決めて温泉を楽しむことにする。
「いつもはアレだけれど、今回ばかりは慰安旅行に誘ってくれた青雀に感謝しなきゃいけないわね」
「アレってなんッスか?」
そりゃお前、キの字だよ。
「ふぅー、疲れた体に熱い湯が染み渡るわね」
呼び出した妖精にお酌をしてもらいながら、シャルロットがひと心地ついていた。
体の外から、中から、染み込んでくるものが蓄積された披露を洗い流していく。
と、妖精が桶を持ってきた。体は先に洗ったが、その意味を察して妖精の指差す方へ。
「む、不届き者か? 天誅」
かこーん。
「男としての、義務と責任を果たす必要がある……と言う事です」
ヨシツネは燃えていた。
「つまり女湯を覗く? いえ、違います! 男としての義務なのです!」
彼は断言する。彼は豪語する。女性の美は努力の末のもの。それを正しく評価する義務があるのだと。
「そこにロマンがあるのです!」
桶が飛んできた。
「なるほど……彼らか」
塀の上からどさりと落ちてきた自称紳士に向けて、ラルフは目を細めた。
混ざろうとは思わないが、止める気もない。健全な男子であれば興味をもつのも当然と言えよう。その末の行動もまた、若さ故の暴走だ。存分に大志を抱けばいい。
「平和だねえ……善き哉」
悲鳴を肴に、勝ち取った日常に、乾杯。
珠緒は少々困っていた。彼女にとって温泉というのは、薬液槽に入って電極を差し込む、そうホムンクルスとか戦闘民族が回復のために入ってそうなあれだった。
「あー、それ別の宗派ッスねー」
聞かれた青雀が教えてくれる。一度尋ねればその利用に難しいことなどない。
「おおおお。これは、うん、これもよいものです……素晴らしい」
今回の決戦は参加していない。
その理由から、シャルは他の湯治客の世話を申し出ていた。
誰それの背中を流し、整理整頓を心がけ、覗きを撃ち落とすのだ。
女湯でもバスタオルをきちんと巻いて、耳をすませば怪しい者の気配。
そちらに向けて物理的な注意を、お、いいところに熱湯風呂が。
「あれ? それだけ? 今日は変な……じゃなくて、変わった神様の神事じゃないんだね」
「ひどいッスよ。僕がいつも変なことしてるみたいじゃないッスか」
してるんだよ。
焔の言葉に反論するクレイジーは放置して、せっかくだからと温泉ごとの効能を見て回る。
「……その、お、お胸が大きくなるようなのはないのかな?」
「はぁ~……落ち着くわぁ~♪ 良いわね、普段からお休みに、時々来たいなあ……」
華蓮はうつ伏せの姿勢で湯船の縁に顎をおいて堪能しているが、そうしているとどうしても気になる。散乱してる石鹸とか、桶とか、気になる。
「いやいや、あんまり私が片付けたりすると人の仕事を奪ってしまう……本当に最小限のちょっとだけ、片付けようかな」
「あー。のぼせた。傷はそれはもう治った。温泉の威力スゲーな。ってくらい瞬く間のうちに治った」
ペッカートが温泉を出た先の長椅子にだらしなくもたれている。なんだその温泉、スゲーな。
「が、熱湯風呂がいけなかったな。それか炭酸風呂か、泥風呂か、あとサウナの我慢比べ。あぁ、今度は違うことで死にそうだ」
ぐったり。
「ここはひとつ、重たい肩を軽くするため、熱湯風呂に行きましょう」
アニーヤは意気揚々とやってきた熱湯風呂の前でそれを発見する。
「……あら、誰か浮かんでいませんか? ま、まさかのぼせて? もしもし、もしもし」
反応がない。ただのクソザコのようだ。
「ど、どうしましょう、水風呂に投げ込んだ方がいいでしょうか」
追い打ちかな。
「温泉は久しぶりですね、1人片隅で月見酒と言うのも乙なものです」
フィルは露天の景色を肴に酒を飲めやと洒落込んでいた。
ぽかぽかと内からも外からも温まれば、自然を気分も乗ってくる。
気がつけば、歌声が漏れ出していた。
しんしんと、染み込むような。それでも明るく、未来を良く思う。そんな歌が。
「温泉宿を一日貸切だなんて、すごいね……!」
ギルドからの大判振舞に、九鬼がはしゃいでいる。
「わぁ、此処を私達だけで使え……って、早速誰かが浮いて……! 熱ッ!!」
金髪の土左衛門を発見し、助けようとするも。
「あわわ、み、水……!」
水と間違えて、思い切り熱湯をかけなおしていた。
無体な。
「はぁ……なんとか終わったわね。ギルドも偶にはいい事するじゃない、少し疲れたし偶にはゆっくりするのもいいでしょう……? 何はともあれお疲れさま」
「やぁ! お疲れさまだよ~温泉だよ温泉 !やっぱり温泉はいいよね~疲れが取れると言うかゆっくり出来るしね!」
セシリアとユウが互いに気遣っている。激戦を終えたばかりの束の間の休息だ。余韻を巡りながら、それぞれを労るのがいいだろう。
「でもあれよ無茶したら駄目よ? 何かあったらいいなさいよ……気が向いたら手伝って上げるから」
「ん~ユウも無理は駄目だよ? ユウって結構お人よしなんだから、私の心配もいいけど自分の心配もね? 怪我する所とか見たくないよ?」
「一人温泉とか贅沢だよな……ま、たまには贅沢してもバチは当たらないか」
一般客は居ないが、イレギュラーズだけでもかなりの数になる。
ウィリアムはその人数で裸の付き合いというのも気分が乗らず、青雀に相談したところ、「それなら個人用もあるッスよ?」とのことだった。
「はーァ……やっぱり温泉っていいよねェ」
どこからかそんな声も聞こえてくる。他に個人用を使う客が居たのだろう。
目ぼしい1つに当たりをつけ、がらりとその戸を開けば。
見知った顔があった。
ていうかヨダカが居た。
眼と眼が合う。視線が下に向かう。硬直する。
「うわあああああ!?」
「うわあああああぎゃあああああ!?」
悲鳴がこだました。
ルルリアとアンナが洗いっこしている。
「アンナの髪、ふわふわしていて手触りすごくいいですよね。しっかりお手入れしないと……」
そういうルルリアの尻尾に、アンナは手を伸ばしていた。
根本は洗わないでと言われているものの、こういう裸の付き合いなど滅多にあるものではないのだから、ちょっとくらい。
「……あ、アンナ、尻尾の根本は自分でやるからいいと、んくぅっ、や、やめるのです」
「あ、今の反応可愛い。もう少し意地悪……こほん。デリケートな所なら丁寧に洗わないとね」
アンナは嫌がるルルリアにも構わず指先で――この先も微に入り細を穿ち事細かに描写したいところだが、残念ながら全年齢版はここまでだ。。
「正直言いますと、今まで温泉は入る機会なんて滅多にありませんでしたので、楽しみにしていたのです」
アルクの希望もあり、牛王らふたりは入り口からは少し遠く、人もまばらな場所で寛いでいた。
「しかし、ここの熱湯風呂は熱いですね……」
「俺、寒い所の方が好きだからあんまり長湯はな……」
湯煙。むわっと。沈黙。三点リーダ。三点リーダ。
「おや、アルク? さっきから返事がありませんが、いったいどう……死んでる」
牛王が首を曲げた先に、のぼせてぐったりとしたアルクの姿。
「死んでねえ……」
「や、冗談です。怒らないでください。普通に息してますって」
「とりま水に浸してくれ。マジで死ぬ……」
「だ~れだ!」
体を洗っていたところ、急に尻尾を掴まれたため、レウルィアは傍目にはわからぬ程度にほんの少しだけ、ぴくりと跳ね上がった。
顔を向ければ、自ずと犯人はわかる。
「わ……っ、驚きました……です。QZさん、こんにちは……です」
「驚い……てるの? 相変わらずリアクション薄いけどそこがまた可愛いな!」
互いの体についた傷を見て、如何に激戦であったかを確認し合う。それでも、生きている。間違いなく、生き残ったのだ。
これはその余韻。忘れてはならず、しかし喜ばしい未来を掴んだ証左であった。
「さーて、折角だから親睦を深めちゃおうか!」
「わ、尻尾……ちょっとだけ、ふふ。くすぐったい……です」
「あー、やっぱり温泉はええなぁー。ねー?」
「そうねぇ……やっぱりノンビリと入るのがいいわねぇ……」
秋葉と水城、休息の時間がふたりの間をゆっくりと流れていく。
「あ、背中流すでー。ふふー、秋葉ちゃん肌綺麗やなー」
「そう? 水城も綺麗だと思うけど?」
しかし、水城の目がいたずらを思いついたというふうに怪しく細められた。
「えーい、隙ありー♪」
背後から、胸をこう、持ち上げるように。もっとやれ。
しかし、悪事は続かないものだ。
秋葉の染み付いた反射行動により、水城は湯船の方へと投げ飛ばされてしまう。
ばしゃーん、と派手な音。同時に、上がる湯柱。
「……は!? つい勢いで無意識に投げちゃったわ……」
輪廻と鈴鹿は、生き残った互いを労っていた。
「それでもまだまだだけどね……ご褒美に背中でも洗ってあげましょうか?」
「というか、一言余計なの! と言うか何なのそのご褒美! 子ども扱いするななの!
」
激高する鈴鹿だが、ふと何かを思いついたように手をこう、わきわきと。
「……待ちなさい。何その怪しい手付きは?」
「お前のタオルを剥いでやるの!」
「私は同性に裸を見せる趣味は無いわ。見せたければ、貴女が見せなさい……!」
「尚更、女同士なら裸の付き合いもいいんじゃないの? というか隠す方が失礼なの。ほら、鈴鹿も脱いだから秋空も大人しく剥がされるの!」
押し倒して、もみくちゃになって。伸ばされた手は、未来をどう変えただろう。
せっかくの慰安旅行だからと、十三は引きこもり体質な黄瀬をなんとかこの場に連れ出せていた。
「あとあの薬を混ぜれば元気が漲りすぎてやべーお湯になりません?」
「ちょっとまって、じゅーぞーくんは温泉まで魔改造する気なのかな?」
立派な迷惑行為なのでやめてあげてください。
「別に止めないけど関係者に怒られない程度で頼む……ん?」
何やら、脱衣所のほうが騒がしい。怪我人でも出たのだろうか。
「え? のぼせて倒れた人がいる? ……って聞いたそばから松庭先生、どこ行くんですか!」
湯治ムードなどどこへやら。騒ぎの起きた方へと足を向ける黄瀬の顔は、とうに医者のそれだ。
「さぁて、手術しにいこうか」
「わーい、おんせーん。おんせん。たーのしい、おーふろー」
楽しそうに歌いながら脱衣所をくぐる瞬兵の姿を、霧玄は微笑ましく思いながら追いかける。
「瞬~、洗いっこしよー! 先に洗ってあげるよ!」
「ありがとー」
汚れと一緒に、凝り固まった激戦の疲れを落としながら。
見上げれば、石鹸の泡がひとつ、シャボン玉のように浮いている。
それは二人の顔を映し出すと、ふよふよと、ふわふわと、見えないところまで飛んでいった。
「お互い、命がある様で何よりだ」
ルインの全身を巡る包帯は、所々が裂け、紅く染まっている。
いくらでも戦いに身を投じる覚悟はできているが、全力疾走を延々と続けられる生物は存在しない。
彼にも休息が必要だった。
しかしそれ、湯船真っ赤になんないんだろうか。
「随分な傷だな。アンタの所も激しい戦いだったようだ」
「サーカスの奴等は手強かったな。おかげでボロボロになったぜ」
サーカスとの戦いでは、義弘も無事では済まなかった。
大きな傷を負いはしたが、それでもまた何日かすれば戦い漬けの日々が待っている。
これは束の間の休息に過ぎないのだ。
「あれだけ大規模な喧嘩は久しぶりだったからよ、さらに傷が増えちまったな」
サーカス団のことは耳にしているが、マカライト自身がそれに深く関わっていたわけではない。
その終戦を祝した慰安だと聞くと、ちょっと気が引けはしたのだが、誰でも参加できると聞けば、自然と足が向いていた。
げに惑わしきは温泉のそれだ。
これまでが薄ければ、これからを強固にしよう。戦いがこれで終わるわけではないのだから。
「おぅ、お疲れさん! 報告書読んだが相当な激戦だったみてぇだな」
ゴリョウが徳利を乗せた盆を片手に「邪魔すんぜ」てなばかりに湯に入ってくると、体積にあぶれた湯が外へと流れ出す。
盃が2つあるあたり、誰か現場の記憶を語り合える相手を探していたのだろう。
「あ、俺? 俺ぁカデンツァの方で新人共を率いて領民救助って感じだなぁ。新人共、なかなか見込みがあるぜ。話すこととかありゃあ是非とも良くしてやってくれ」
「俺は、激戦区のど真ん中を突き進みながら、周囲の警戒と迎撃にあたっていたのだが……いやはや、終始緊張状態で張り詰めていて、えらく疲れたよ」
肩を回し、解していた銀だったが、どこからかの視線を感じて首を巡らせた。
細い顔立ちと長い髪に驚いたのだろう。こういうことは時折ある。肩をすくめて、勘違いだと教えてやった。
「ふぁー、沁み渡るってのはこういう事を言うんだな……」
酒をつがれた盃に、アオイが舌鼓を打つ。
口の中を透明なそれで満たせば、ほんのりと甘い優しさが喉を通り過ぎていった。
ぼうっと。ぼうっと。回る酒に身を任せ、少しだけ、ほうっと、ため息をついて。
「うぅー、ん、のぼせちまったか。くらくらしてきた……」
「ギルドの人たちで輪になって背中を流すことになりました。え、えひひ。なにゆえ?」
どうしてこうなった、とばかりのエマ。温泉そのものが初めてどころか、他人に肌を晒すという行為すら、慣れたものではない。
「かまゆで、ぐらぐら、あっちっち、にえたかどうだか、たべてみよ♪」
背後のカタラァナから恐ろしい歌が聞こえてくる。なんだそれ、地獄の二丁目か。
「エっちゃん、優しくがいい? 強くがいい? どっちにしても隅々まで触るけど」
何やら不穏当なことを言っているが、逃げられる体勢ではない。笑って誤魔化すしかなかった。
「ううん、やっぱり肌、綺麗よね?」
自分が洗うカタラァナの背中を、ついまじまじと見てしまうイーリン。
「強めにごしごしされるのが好きだな。イーちゃん、お願いね」
言われ、力を込めようとしたところで、跳び上がった。
「ひゃっ!? ちょっとミルヴィくすぐったいわ」
「やっぱりセンパイのお肌キレイ……やらかいし羨ましいな……またキレイにしてあげるね? へっへっへ……どーですか?お客さーんってね♪」
丁寧に洗ってくれているのはわかるのだが、なんだか手付きがいやらしい。
「……そういえばエマの素肌を見たのは初めてね」
「……あの馬の骨さん。視線ガッツリ刺さってるんですけれども」
指摘され、ついと視線を反らす。これはもう、業のようなものだ。
「微妙に殺気を感じるなー……」
背後でボソリと、そんな声が聞こえる。
「殺気感じる? 気のせいだろ? そんなまさかイーリンの身体洗う権利を奪われたからって嫉妬してるとかそんなHAHAHA」
なんというか、執念的なものが込められていそうだ。
「だが美人に触れば機嫌良くなる。つまり覚悟しろやミルヴィー!」
「ひゃっ、ちょ、ミーナ、くすぐったいからっ……!」
悶ていると、視線の先に小さな姿を捉えた。
桶に湯を張り、その中で体を温めているリリー。
彼女からすれば、一般的な風呂場は大きすぎるのだ。
「あったかくてきもちいいやー……リリーはおんせん、にかいめだけど……さいしょのはこう、なんか……へんだったし」
ぽけーっとしながら、洗いっこの方へと視線が向かう。
楽しそうではあるが、湯船が気持ちよくて出られない。ああ出られない。
「ほら、リリー見てないでこっちにおいでー?」
しかしまあ、呼ばれたのなら話は別だ。
ふよふよと、少しだけ熱気に流されながらそちらへと。
「かたのっけてくれるの? やったー♪」
と。
誰かが視線に気づいた。
合図して、一斉にそちらを見やる。
それは一匹の鳥だ。
それがじっと、じーっとイーリンの方を向いている。
皆、それに見覚えがあった。あれは、間違いなくレイヴンの。
「……綺麗」
壁の向こうから小さなつぶやきが聞こえてきた気がする。
なんというか、この後の運命が決まった瞬間だった。
「ん―、遅かったね、みんな」
ひとりだけ傷を増やした一行を、マッサージ機に解されながらアトが出迎えた。
湯上がりの火照った姿などまるで興味がないという風で。
「僕が好きなのは、人間が見せる甘さとか優しさとかそういうのなんだ。それに漬け込んで思いっきり相手から利益を搾り取る。そんでもってペッ、甘ちゃんが! って精神で捨てる! それが観光客流なのさ!」
う、うん。うん?
「ふふ、知り合いと旅行に行くなんて初めてだからわくわくしちゃうね!」
温泉なんてのは政宗も小さい頃に入ったきりだ。今になって仲間と来られるなんてのは、嬉しいことだった。
「ふふ、せっかくだし乾杯でもしようか」
売店でみつけた酒を取り出してみせる。
あまり強い方ではないが、こういう時ばかりは多少の羽目を外しても良いだろう。
「こういう所に来るのは初めてだから、何もかも新鮮で目移りしてしまうね」
そう言っていたヴィルヘルムの様子がおかしい。なんというか、赤ら顔で少しふらふらとしている。
熱気に弱かったのだろうか。
危うげな視線を向けていると、不意にかくりと意識を飛ばし、そのまま水面へと顔からダイブした。
「温泉なんて何時ぶりだろう? 癒されるなぁ……」
馴染みの深いヒーリングスポットがこちらの世界にもあったことは、冥利にとってとても幸運なことだった。
湯は問題なく、では酒はどうだろう。こちらのそれにはあまり明るくないが、ひとつずつ覚えていけばいいだろう。
ひとつ勧められ、くいと煽る。
「む……? おい、大丈夫か?」
顔から行ったヴィルヘルムを、トライが助け起こした。
湯あたりだろう。少し冷やせば、回復するはずだ。
改めて、差し出された盃を傾け、少し顔をしかめた。
不味かったのではない。初めて味わう繊細な作りが、自分の知っていた酒という概念に罅を入れたのだ。
「こちらのほうではひよこさんを浮かべているのですね……!」
温泉に浮かんだおもちゃを見てマナが微笑んだ。
一般的なラバーダッキーをひよこに置き換えたものを想像すればいいだろう。
「ゆらゆらぷかぷかと浮いて可愛いですね……」
露天の空を見上げて、少しだけ目を瞑る。
勝ち取ったひとときを、噛みしめるように。
「温泉! 話には聞いたことがあるわ! これはつからないと!」
召喚した他のひよこと一緒に、トリーネが湯船に向かう。鍋かな?
「こけこけぴよぴよ……極楽。温泉にはおんたまとかいうのがあるみたいね。何かのたまごかしら」
何も言うまい。
「まるまったら私もそれに見えるかしらね!」
何も言うまい。
「ヴアァー……」
なんかすげえ社会に疲れてそうな声がセティアの口から出た。少なくとも乙女が出したらあかんやつが。
浮かべたひよこをつついて、トリーネの後ろに浮かべてみる。なんといかコラボレーション。
「……あれ、何かぴよちゃん増えてない?」
「かるがもかもって思う。にわとりさんでかるがもごっこ、贅沢さやばい」
野性味がダウン。
「おつかれさまですぴよー! みんなのお話を聞かせてほしいぴよぴよ!」
アニーが両手にひよこのおもちゃを持って他のイレギュラーズに押しかける。
全ての戦いで勝利を収めたのだ。口にされるものも、ハッピーエンドで終わる英雄譚が揃っている。
「わぁ~すごいぴよ! かっこいいぴよよー!」
その度に、ひよこが激しく動く。
あちらを見ては目をそらし、そちらを見ては目をそらし、リディアはついに口元まで湯に浸かり、後ろを向いてしまった。
自分の胸に手を当てると、なんだか悲しい気持ちになる。貧乳は己を顧みる度にダメージを受ける生き物なのだ。
「泣いてません! 大きくて羨ましいとか思ってませんから!」
「あぁ……」
全身が温まるその感触に思わず喉から声が出たエリーナは、慌てて自分の口を両手で塞いでいた。
顔を赤くして下を向く。
誰かに聞かれてやしなかったかと、顔が赤くなるのを自覚しながら視線を巡らせれば、丁度ひよこで遊ぶ姿が目に入った。
それが何だか微笑ましくて、この遅く流れる時間がとても愛おしく感じた。
「このひよこの玩具ってどこで売ってるのかな? 可愛いからボクもほしい!」
湯船に浮かべられたひよこの玩具に、ミルキィが目を輝かせている。
「ボクの玩具はアザラシなんだ! これも可愛いでしょ♪」
そう言って、ひよこの隣にアザラシのそれを並べてみせた。
「あ、こっちのニワトリの玩具も可愛い!」
あ、それ玩具じゃないです。
「……また来てしまった」
温泉という場にいる自分の状況に、リジアは歯がゆいものを感じていた。
「いや、今回は誘惑されたわけではない。そういう会であり、ルミリアの労い……? のためだ」
「お心遣い、ありがとうございます。リジアさんが温泉を好まないのであれば、温泉以外の場所でも良いのですが……ふふっ。いかがいたしましょうか?」
ちゃぷりと、湯に足をつける。
自然と仕舞い込むルミリアのそれを追うリジアの視線が、どこか名残おしそうに見えたのだろう。
「翼、お湯に入れちゃうと怒られてしまうかもですから。今は許して下さいね」
「気にはならないが、時折見たくなるだけだ……本当だぞ。だから、仕舞うな」
「ティアティア、お胸おっきい、の。ちょっと触ってもいい……にゃ?」
ティアの背中を洗いながら、ミアがそんなことを言い出した。書く側の脳内ではもう年齢規定が警告アラームを発している。
「ん? 揉むのは構わないよ? んぁ、んんぅ」
あー、わかってます。わかってますから倫理関係の偉い人。事細かな描写はしませんから、はい。
「柔らかい……の」
セリフですから。今のセリフですから、ね? 大丈夫だよ、生々しくないよ。ほんとだよ。
「ミアもそれくらいスタイル良くなりたい……にゃ」
「えっと、生まれた時からこの姿だし……」
『この娘の年齢は500歳を超えてるぞ?』
「ちょっと、余計な事言わなくていいよ?』
暁蕾が、自身の胸にうっすらと浮かんだ傷跡にも見えるそれを撫でつける。
自分の記憶にはないものだ。何かの拍子にこうやって顔を出すことがあるのだが、これが本当に傷であるのかそうでないのかも見当がつかない。
「まるで串刺しにされたみたい……そんな大怪我を受けて生きていられるとも思えないし、何なのかしらね?」
「二人ともお疲れさま、ということで、今回僕は温泉でおもてなしするんだよ!」
ニーニアは日頃の感謝の意を込めて労うのだと意気込んでいる。
それに、誰かとこうする機会があれば、一度は洗いっこというやつをやってみたかったのだ。
「僕は元々、温泉大好きで一人でもよく行くけど、こうやって気心が知れる二人と一緒だと、なんだかいつもより楽しいね」
「入り方とか、決まりが、あるのかな? おしえて、くれる?」
温泉自体、コゼットには初めての経験だ。失礼があってはいけないと、ふたりから学ぼうとしている。
「ふふ……だれかに、洗ってもらうのって、くすぐったいけどなんだか、しあわせで、きもちいい、ね。あたしに、おねえちゃんが、いたら、こんな感じ、なのかな」
「さ~さ~温泉に入って疲れた体をリフレッシュするんだお!! やっぱ、最初は熱いのに入って一気にクールダウンするのがジャスティスなんだぬ」
そう言ってニルが連れて行こうとしているのは熱湯風呂の方だ。その後で水風呂に入ればよいというのである。そこまで極端だと寧ろ体に悪そうだ。火傷した時ってぬるま湯に浸けたほうが良いんだっけ。
「まさか……とは思いますけど、えっと、嘘……ですよね?」
ぐいぐいと蛍の腕を引っ張るニルは、迷いなくクソザコ美少女が土左衛ってる方を目指している。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 蛍には無理です! 嫌、嫌、嫌、瑞穂様助けっ……きゃーーーーーーーーーーー!!!!」
その隙に、SOSを受けた瑞穂はちゃっかりと逃げ出し、既に脱衣所で我が身を乾かしているところだった。
しかし仲間を見捨てた罰だろうか。自慢の尻尾がすごいしっとりしている。使用する洗髪剤を間違えたのだろう。なんていうかエッセンシャル。
「なんかわしの自慢の尻尾がシットリしとるんじゃが!? もふもふ感皆無なんじゃが!?」
慌てる彼女を宥めるように、ニアがその尻尾に風を送り込んでやる。内側から浮き上がらせるように。
「瑞穂様のは元が良いから、整えながら乾かしてやるだけで元通りもっふもふになるよ」
ドライヤー代わりにするための能力ではないのだけれど。そう苦笑しながら。
「ま、ちょっとくすぐったいかもだけど我慢してくれ」
●温泉の部、サウナの処
木造りの中。敷かれたタオル。
扉を開くだけでむわっとした熱気が浴びせられ、中が異空間と言えるほどの別世界になっていることが容易に想像できる。
それでも、あるならば入らねばならない。大衆浴場には、これがあってしかるべきなのだ。
「どれだけ入り続けていればいいものなんだろう」
サウナを利用しているリゲルには、この中にはどれくらいいればいいものなのか、という目安がわからなかった。
汗が流れていく。呼吸が満足にできない。水分が容赦なく失われていく。
「これは己との勝負! 負けるわけにはいかない!」
一体何と戦っているんだ。
暑さに耐えながら、悠凪は汗や老廃物と一緒に戦いの疲れも落としていく。
手を強く握り込み、また開いた。
戦いには勝利できた。死傷者も出さなかった。この結果は合格点以上のものだが、それで慢心していいわけではない。
もっとうまくできたはずだ。もっとうまくやれたはずだ。少なくはない人数が、怪我を負ったのだから。
「お酒を飲んでもサウナで汗を流せば、アルコールが抜けるって伺いました!」
灰が間違った知識を元にくっそ暑い中で汗をダラダラ流している。
「良いですね、アルコールを抜いたらまたアルコールをいれられるじゃないですか! どんどん飲んで汗をかいて、アルコールを循環させましょう!」
死んでまうわ。
バリガもまた、暑さと戦っていた。
脱水症状にでもなれば慰労の意味がないことなどわかっていたが、誰かよりも先に出るなんていうのはプライドが許さなかったのだ。
別に積極的に勝負しているわけじゃない。それでも、我先に弱音を吐くなど御免だった。
「暑ィなさすがに。でも、ま、嫌いじゃねェ。汗と一緒に疲れが取れてく感じがするぜ……」
「まあ、まあ……サウナ。温泉もいいのですけれど、こちらも嫌いではありません」
息苦しいほどの熱気が、ミディーセラを歓迎してくれる。
「また違った感じでゆっくりできますし、何なら後でまた入ればいいのです。お得ですわ」
体を巡る血流を感じ取れるかのようだ。
「それにしてもこんなに暑かったかしら……本当に?」
「あちぃ~、サウナってこんなに暑かったかァ……?」
「……ん、太陽の勇者でも流石に暑い?」
経験上、それが摂氏何度であったのかなどアランとて知る由もないが、手ぬぐいで汗を拭う彼に、身を隠すタオルを押さえながら衣が問う。
だが、暑い以上に衣には余裕がなかった。
いいんだろうか此処に居て。幼く見えると言っても限度がある。体の凹凸を隠せば少年だと誤魔化せなくはないかもしれないが、気が気ではない。
それはアランも同じだったようだ。
「オイ、神埼! そんなチョロチョロするんじゃねぇ! 落ち着かねぇだろうが!」
万が一タオルがはだけようものなら偉いことである。漂う犯罪臭。
彼は今にもずり落ちそうな衣のタオルを慌てて抑えようと――
なんでコイツらこんな冒険してるの?
「ふむ、正義のゴリラについて、か……」
ジルに問われたローラントは、思いを言葉にすべく額に手を当てて考えるゴリラのポーズ。ゴリラって、ゴリラつけとけばパワーワードになるからズルいよな。
「君の参考になるかはわからないが、私が普段心掛けていることと言えば……」
「なるほど……っす」
ローラントの言葉に、神妙な面持ちで頷くジルであったが、充満する熱気が意識を刈り取ろうと鎌首をもたげている。いや、なんでここを選んだの。
「えーと、あ、ちょっと、続きは水分補給してからでも大丈夫っすか?」
「む、大丈夫かね? 無理はいかんな。どれ、一緒に外の空気を吸いにいくか」
限界を訴えたジルを支えるしっとりと艷やかなゴリラ。エロい。
●温泉の部、温水プールの処
温泉が最大の出し物とはいえ、そればかりでは若者の心をつかむことは出来ない。
存分に遊び、はしゃげるだけの施設も用意されているのが、この宿場街のウリだった。
「わぁ、今日は一日貸し切りなのっ? 凄いの凄いのっ! いっぱい遊ぶのー!」
鳴が水着姿で興奮している。
「鳴、ウォータースライダーやってみたいの! じゃばーって滑るの! 凄いの! どんな感じなんだろーなのっ、水着の紐が解けないよう気をつけないと、なのっ!」
流れるようにフラグを立ててくれている。
アリゲーターガーって、知ってるだろうか。
ガー目ガー科、とだけ書くと謎の可愛らしい字面で埋まる北米大陸最大の淡水魚である。
口周りとか割とワニっぽいが、攻撃性は低いとかなんとか。
誰かと言われればイリスなわけだが、彼女が本来の姿で流れるプールを思うままに泳いでいた。
海外のスパルタ水泳教室みたいだ。
浮き輪をつかって流されるまま、ルナールがゆらゆらと漂っている。
「あー……最近暑かったし丁度いいなこれ」
ぼーっと、ひたすらぼーっと。
「どうせならアイツも一緒ならもっと楽しかったんだろうけどなー」
来られなかった恋人のことを思いつつ。
「たまにならこういうのも悪くない、たまになら……毎回一人は寂しいけどなぁ」
「ふぁ~、プールってあったかいんですねぇ」
ミラもまた、浮き輪を使って流れ行くままに流されていた。
温水である此処は体温を奪わない。ぷかぷかと、いくらでもそのままでいられそうだ。
「うーん、ぷかぷか、たいようぽかぽか。なんだか眠くなってきてしまいました……」
内側でもうひとりも、穏やかであるのを感じながら。
N123が流されていく。
浮き輪に入ってぷかぷかとやっている内に、眠ってしまったのだ。
うつら、うつら。するりと浮き輪が抜けて、水の中に沈んだことで目が覚めた。
呼吸に問題がない以上、死ぬことはないが、それでも誰かが見ればぎょっとするだろう。
踏まれてもかなわない。急ぎ、浮き輪へと戻ることにする。
「さて、王子はまだ来ていないけど、先にやっておくよ! あれを! そう……エクストリーム川流れを。なんて恐ろしいスポーツ!!」
謎の意気込みを見せるロク。漂流だろうか。
上半身を水面下に、下半身を水上に。ああ、犬だけにか。
「ん? あれは……流れるプールで溺れている!? 助けなければ! 大丈夫かい!?」
慌て、プールに飛び込むクリスティアン。まあそう見えるわな。
「なんだ、遊んでいただけだったのだね。よかったよ。エクストリーム川流れ? 面白そうな響きだね!せっかく誘ってくれたんだ、ぜひ僕も一緒に遊ぶよ!」
「あ、王子! 王子もやるの? さすが!! かっこいい!! でもそれは違うよ!! そうじゃないよ! プロの私でも中々コツが掴め――」
良い子は真似しないでください。
スライダーの上から。
「はわー! 高いのです!!!」
ココルがはしゃいでいる。
彼女はついこの間、高いところから無理やりバンジーして飛べるようになったばかり。高所はまだ物珍しい。書いたやつがいうのも何だがすげえ不憫な経験だなこれ。
「ココルは、すごい楽しそうだね。シオンは、どう?」
「高いところは好きだよ……色んなものを見渡せて、この景色に溶け込めてるって感じがして……あとは風も感じられるしね……」
「お二人とも早く早く!」
「はーい行こー行こー……」
3人で一斉にスタートする。
想像よりも早いものだ。知らなければ、着地が不安に感じてしまうほどに。
「ひゃわー! 思ったより早いのですー!?」
「はやーいっ! 楽しいー!」
「わー飛んでる時と似てる。楽しい……!!」
そして到着。上がる水飛沫。
「もう一回、って思うけど、ココルは居なくて、もう次行っちゃった?」
「あれ、浮き輪はあっちに浮いてるけど……」
見回しても姿がない。
バシャバシャともがく音も、周りの客の声にかき消されて聞こえない。
トラウマ体験の度に能力が増えたりしないだろうか。
●温泉の部、遊技場の処
温泉宿の地下階などには、ひっそりと遊技場があるものだ。
一般的な卓球台などはまだいいが、中にはどうやって手に入れたのか、レトロなレアゲー筐体が置かれていることもある。
「忘れてはならないのが、なんかイマイチな感じのゲームコーナーよね~」
全体的に一昔古い筐体が並ぶ中、レストの視線はひとつの景品に向けられていた。
それはなんていうか、アレだ。村おこしに失敗したキモい系のゆるキャラ的な。
「待っててね~。今すぐおばさんが救い出してあげるから~」
こういうとこのアームって設定弱いよな。
勝負中の卓球台を、猟兵が眺めている。
手には売店で見つけたコーヒー牛乳。「瓶は後で持ってきてほしいッス!」と、売り子をしていた女が言っていた。
右に、左に、時々上に、たまに曲線で。
軽い球体が行ったり来たり。
軽快な跳音がリズミカルに流れている。
牛乳を飲み干したのと、ラリーが終わったのは丁度同じ頃だった。
風呂上がりの牛乳を飲みながら、颯人は自分の弟子のことを思い出していた。
傷はきちんと癒えただろうか。決戦はまさに激烈のそれだった。
誰も彼もが大小の差はあれど身に傷を負い、しかしそれに見合うだけの勝利を得たのだ。
空いた片手でラケットを持ち、その上でピンポン玉を転がしながら、残った牛乳をぐいと飲み干した。
「おかえりなさい。どうでしたか、此処の温泉は」
ロズウェルが待ち合わせていたコルザに声を掛ける。
「ロズウェル君こそお帰りだね。うん、この温泉も良いものだ。いや、どこの世界にも悪い温泉などありはしないのだけれど」
浴衣の襟をぱたぱたとして空気を取り込んでいると、ロズウェルがラケットを手渡してくる。
「折角温泉に来ましたし、どうです? 一戦」
「勝負か、構わないよ、ええと、じゃあ僕が勝ったら……そうだね、今度は僕の方が膝でも借りるとさせてもらうのだよ?」
「ふふ、ええ。構いませんよ、私の膝はそこまで寝心地は良さそうじゃありませんけれど。では、いざ──」
「――勝負なのだよ!!」
「今回も付き合ってくれて有難う。良ければまた付き合って欲しい」
ルフトの言葉は、別の意味にも捉えられてしまいそうだ。実際、それを聞くすずなは意図を読みきれずに少しドギマギしてしまう。
手渡されたラケット。そういう意味だとわかったら、ほっとしたような、少し残念なような。
「ふふっ、懐かしいなぁ卓球。爺様、兄様と良くやりました……いつも負けてましたけど。今後のお誘いも私で良ければですよ!」
かこん、かこん。
軽い、会話のようなラリーが続く。
かこん、かこん、しゅっ。
徐々に早くなって、気がつけば、疲れた体を労りに来たことなど忘れ去ってしまったかのような、激しいものに変わっていた。
素早く的確に強い球を撃つ洸汰に対して、創は宙に浮かべたラケットを自在に操り、それを打ち返していく。
超常スポーツ一歩手前というか、完全に踏み外しているというか。
そんな激しいピンポン玉のやり取りを、ラデリとジョゼが右に左にと視線だけで追いかけている。
ルールはよくわからないが、おそらくは打ち返せなければ負けなのだろうとあたりをつけ、コーヒー牛乳片手に観戦と洒落込んでいた。
「正統派と変わり種の試合は、見ている分なら面白いな」
「てか、創のラケット浮きまくってんだけど、このルールブック的にアリなのか?」
だが、永遠に続くかと思われたラリーにも終りが来る。
洸汰のショットが甘く、創の返しに対応しきれなかったのだ。
後ろへと飛んでいくピンポン玉。
「ははは、どうした洸汰君、こんなものじゃないだろう? ……あっ」
球はどこへと目を凝らせば、見るにとどまっていたカナメの手に。
ボールを転がして遊んでいる。返してくれそうにもない。このままでは決着はお預けだった。
「……愚かな。なぜ争う必要があるんだ」
勝負事にそんなこと言われても、と思わなくもないが。ボールの生殺与奪は彼女が握っている。
「つーわけでみんなでアップルパイ食べよーぜーぃ。みんな頑張ったもんなー?」
「……えっ、アップルパイだって!? 成る程、腹が減っては戦はできぬ、的なやつだな! オレも超食べるー!」
洸汰はパイに釣られてしまう。こうなれば、勝負どころではなかった。
「よーし洸汰ぁ、次はオイラと勝負だ! とびっきりのスマッシュ決めてやるぜ!」
ラケットを構えるジョゼに、パイをもぐもぐしながら洸汰が立ち上がる。
「もちろん、受けて立ちまくりだぜー!」
イレギュラーズの身体能力は、一般のそれから見れば超人とも言えるものだ。
だから、彼らがその戦闘能力をスポーツ、例えば卓球などでフルに発揮すると、コミックのような激しいものになってしまうだろう。
「ふふっ。ボクタチの必殺プレイ」
『見せてあげましょうよ』
内心、いいのだろうか、とも思いつつ、その子供はいつも一緒の人形込で競技に挑んでいた。3対1だと指摘されても文句は言えないだろう。
『ここは必殺のスマッシュ!!』
「……あ、空振り」
『いいえ! 返球するわよ! セーフに違いないわ!!』
いいのだろうか、という気持ちが強くなった。
「なに、最大装備二つまで? 致し方ない、ルールは守らねばな」
誰が決めたのかもわからないルールを律儀に守るエクスマリア。いいんじゃないかな、3人セットみたいなのもいるし。
髪の毛でラケットを握る変速二刀流。無表情の彼女だが、点を取れば毛先がパタパタ、取られればへなっとするので、わかりやすくはあった。
「全力で勝ちを狙いに行きます! 負けませんよー!」
やたらと光り輝き出すヨハン。温泉シーンじゃないのに年齢指定で編集入ったみたいになっている。良いのかお前、それハゲ系キャラの戦法だぞ。
能力をフル発揮し、ラリーを続けるヨハン。既に卓球にあるまじき音が響いていた。
「おっと、エンジェルたちよ! アグレッシブに過ぎれば浴衣という奴はスリップダウンしてしまう! そういう姿は是非後程ゴッドにだけ見せてくれたまえ!」
なんか、時々直訳になる芸人みたいな豪斗。
「さて、まずはトライアル……ゴッドウェイヴサーブだ! ネクスト! フィールドオブゴッド! ゴッドシンクロニティ!」
全然わかんないけどなんか凄そうだった。
「卓球ってアレですよね!? コンコンって跳ね返して守るやつ! あれなら得意ですよ! なんせ食い止めるのはリカちゃんの得意です!」
利香の戦法は持久戦だ。守って、守って相手の披露を狙うのだ。
「そうして相手が疲れたところにぽーん! とトドメのアタックを決めて勝ってやるんです! いひひひひ!」
「さて、参加したはいいが細かいルールがわからん」
卓球未経験のパンにはまず何をするものなのかもさっぱりだ。
それでも何度かラリーを眺めていれば、なんとなく概要はつかめてきた。
「あ~、オレはフライ返しで参加しちゃダメか?」
ラケットが小さいからと得物の変更を提案するパン。それは寧ろ料理人が怒りそうだけど。
「吾の美少女力見せてくれるわ!」
ピンポン玉に気とか溜めて豪の卓球を見せる百合子。くそう、ここでツッコんだら負けな気がする。
「手数が多いのが白百合清楚殺戮拳の卓球よ!」
殺戮と卓球は無縁にも程があるとか言いたい。だめだ、こらえろ。ツッコんだら、ツッコんだら負けだ!
「ふっふっふっ……勝負にこの妖精さんを混ぜるとは、アンタ達の未来は死兆星よ★」
タルトの言葉は意味がわかるようで微妙にわからない。
だが、体は小さくとも技は優秀だ。己のスマッシュに合わせてカスタードをぶち撒け、見づらくする。これぞ、
「うぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁくらえ!!! 強烈!!! カスタードスマッシュ!!!!!」
後で掃除しろよ。
ルチアーノの戦いは堅実的だ。
二刀流に構えたラケットの攻防を役分け、強烈なスマッシュをいなしてはラリーを続けていく。
応酬の緩急を操り、マッチ全体の流れを掌握していくのだ。
そして、ここぞという時に狙いすましたスマッシュを決める。
自分のリズムを狂わされた相手はこれになすすべもないだろう。
……派手、かなあ。
「あれでしょぉ、卓球って相手を物理的に戦闘不能にした方が勝ちの決闘でしょ~?」
完全に間違った知識を持っているアーリア。たぶんきっとコミックで覚えたんだろう。
右手にラケット。左手に冷えたエールの変則二刀流。ていうかちょっと不利。
「ふふふ、いい感じに酔いが回ってきて身体がキレてきたわよぉ……これが! 酔っ払いの! へべれけスマッシュよぉ!」
普通は逆です。
「はははっ! そいつはくらわねぇぜ! そら、お返しだ!」
なんかもうビームみたいなものを打ち合ってるハロルド。大丈夫だろうな、周りに被害出ないんだろうな。
「距離を取っても無駄だ! おらよ! こいつをくらえ!」
しかし、必殺の一撃は返され、彼の額に直撃する。しかし負けてなるものか。今こそ未来を消費し、勝利すべき未来を掴み取――あ、運営さん。嘘です、ノリです。システム的に減らさないで。
マナを払うとこのターンいやごめん言わなあかん気がしてんて。
「それじゃ二人とも、ルールを教えるからちゃんと聞いてね?」
一緒に訪れた3人の中で、卓球もエアホッケーも知っているのはアリスだけだ。
流石に競技ルールにまでは詳しくないが、遊ぶくらいなら問題はないだろう。
「二人とも上手上手っ! 慣れて来たみたいだし、本格的に勝負、勝負ーっ!」
習うより慣れろ。実践に勝る経験はないのだ。
「それじゃ行くよ、私の必殺サーブっ! って、あっさり打ち返されたーっ!?」
(それにしても2人とも可愛いよなあ……)
勝負もよいが、シラスには花も気になるところだ。
「ありがとう温泉、浴衣だったりしたら最高デス」
だが、勝負事によそ見は厳禁である。ふっと気を抜いた瞬間に、パックは自分の守るべき隙間に打ち込まれていた。
「あ、余所見してた!」
自分の欲故のそれに、シラスは顔が真っ赤になるのを感じていた。
「こうやって……はっ!」
ネットにぽすん、と。
「やっ!」届かない。「とうっ!」空振りに終わる。
今ひとつうまくいかない自身のそれに、アレクシアは頭を抱えてしまう。
「ダメだ~! 改めて自分の運動能力のなさを感じる~」
それでもめげずに、ラケットを握り、
「よーし、もう一回勝負だ! 今度こそ!」
●温泉の部、お土産屋の処
温泉も闌。とくれば帰り支度もあるが、もうひとつ大事なものがある。
土産物屋の存在だ。
まあこういった所は得てして、割高で後の使い道がないものや、どこで食べての同じ様な菓子なんてのが定番ではあるのだが。
並ぶキャラクターグッズ。地域の名前とか入った銘菓の数々。ペナントに、何故か遠く別の地方の記念品。
そういったものが陳列された中を、シャルレィスが興味深そうに見て回る。
猫を模したキャラクターのキーホルダーを見つけると買い物かごへ。なんとなく、手が伸びてしまうのが土産物屋。
「温泉って言ったらお饅頭も定番だよね!」
黒猫を肩に乗せて、グレイも割高なそれらを眺めている。
「普段買うなら手を出しにくいお値段なわけだけど、こんな時ならご祝儀というものかな!」
目についたそれを、手にとった。これなんかどこにでもありそうな、そう、
「木刀! こういうところでお土産の木刀は定番だとか聞いたことがあるよ」
ほんと、どこで作ってるんだろう。
「いつもこうなら出掛けるって時に毎度不安にならないんだが、ソレもまたアイツらしさってトコなのかね?」
どんなイベントごとでも『青雀が』とつけば警戒しなければならない。勇司はそれを経験から強く学んでいた。
「この付近だとどのお土産が良いのかね。饅頭だけじゃなくて色々あるからなー、こういうトコは」
「ふむ、木刀とかこの良く分からないデザインのキーホルダーとか、つい買ってしまいたくなるねぇ……」
買って帰ってあとで使うのかと問われれば、けしてそんなことはないというのはノワにもわかりきっている。だが、そこには不思議な魅力があるのだ。
「おっとギルドの皆へのお土産は……温泉まんじゅう? これにしてみようか」
「……しかし高い。相場の三割くらいは増してんじゃねえか?」
それで価格相応の質もないのだからと、呆れた様子のモルグス。
「懐は色々と出費が嵩んで心もとねえからな……ここは安い物にしとくか」
げに罪深きは闇市よ。
「……この妙に安いアクセにするか。多分使う機会はないだろうが、何も買わないよりはな」
「皆、お疲れ様でありますし。甘いもの……甘いかどうかは知りませんが。とりあえず饅頭であります。他にも甘いものはありませんか?」
温泉で言えば定番のそれを探し求める碧。既に買い物かごにはぎっしりと積み込まれている。
「お嬢様にも持って帰ってあげたい所ではありますが。買えるだけ買っていきましょう。良い記念であります」
土産屋が並ぶそこに目を向けると、何故か売る側にシロはいた。
「おみやげ屋さんに交じってシロお手製のパンを売るんだよー!」
商魂たくましいことだ。あれだな、イベント事に車両式の屋台が来てたりするやつ。
「来てくれるお客さんの好きなサンドイッチが作れるんだよ! えへへ~♪ いっぱいお客さんが来てくれるといいなー♪」
「……ご主人様のお土産は、これを2本買いましょう♪」
嬉しそうに、鈴音はそれをレジへと持っていく。2本貰う奴は見たことがない。
「ふふ、きっと似合うと思うのですにゃ♪」
他にも土産をと味見のコーナーを一回り。だが、どれも捨てがたく、決めきれないでいた。
「……迷ったら全種類買ってしまえばいいですよね♪」
「魔法少女っぽいものはないか?」
明らかに温泉街で探すものではないのだが、イリスは物色を始めている。
魔法少女に手渡せるものを、それがイリスの要望だ。え、別になんでもいいんじゃね? と思ってしまうが、そこはそれ。拘りというものである。
「つまり、魔法少女の感性に合うものでなくてはならない。これもまた、戦いだ」
どれを買おうというわけでもないのだが、彩乃は土産屋の並びを見て回る。
他の客があれでもないこれでもないと思いを巡らせている様を見ているだけでも楽しめるものだ。
こういう場所でいちばん大事なのは、観光地という場そのものなのだから。
「自分が居るのは場違いかもだけど、こういう雰囲気はいいですね……眺めるだけなら、ですけど」
「ん? 試食コーナー。食べて見ようか。おまんじゅう……って」
「ふふ、シャロン、口開けて? はい、あーん」
シャロンの口に、試食用の小さな饅頭をいれてやる鼎。
「その顔だと、美味しそうかな?」
「ん、美味しいね、餡子が甘くて」
「こっちも、あーん」
「む、むぐっ……まだ口の中に」
「おっと、今のは唐辛子入りだったけど大丈夫かい?」
悪戯が成功したというように、鼎がにやりと笑う。
シャロンの顔は徐々に赤くなり、ついには耐えきれず咳き込んだ。
「唐辛子入りはネタ用かな」
「か、鼎さん……ネタ用……ネタ用?」
「ふふ、忘れた頃にお茶請けに出してあげる……冗談だよ」
「……君ならやりかねないからね!」
●温泉の部、帰るまでが旅行ですの処
「忘れ物はないッスかー?」
シャトル馬車を前に、拡声器で呼びかける青雀。
その肩にはぐったりした金髪巻き毛っぽいものが担がれている。
「今日はお集まり頂き、ありがとうございましたッスー! 僕は次の祝勝会も、その次の祝勝会も、先輩方みーんなとやりたいッス! だから、明日からも頑張るッスよー!」
両手を上げて万歳。
その拍子で、肩に乗せていた少女が地面と痛そうな音を立てた。
了。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
次も楽しい祝勝会といきたいものです。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
決戦の完全勝利、おめでとうございます。
本日はギルド提案による温泉慰安旅行です。
ゆっくり温泉に浸かるもよし、仲間と卓球で遊ぶもよし、ペナントやTシャツのようなお土産を買い漁るもよし、戦いの疲れを癒やす一日としていただければ幸いです。
【シチュエーションデータ】
□温泉街
・様々な効能、趣向の温泉が並ぶ街。
・どの場所でも青雀は指定されればいます。
・施設の選択は1箇所までとさせていただきます。
・以下、施設の例。
■温泉
・美容や疲労回復など、様々な効能の温泉が並んでいます。
・中には水風呂や、沸き立つ熱湯風呂なんてものまで。なお、熱湯風呂では『クソザコ美少女』ビューティフル・ビューティー(p3n000015)が浮かんでおりますが、こういう場ではよくあることです。
・男女別に分かれています。意味はわかるな?
■サウナ
・一般的な木造りのサウナです。
・丁度いいサウナの温度は90度くらいだそうです。
■温水プール
・流れるプールとウォータースライダー、競技用50mプールがあります。
■遊技場
・卓球台とエアホッケー台があります。
■お土産屋
・ペナントとかTシャツとか木刀とかまんじゅうとか売ってます。
・基本的に割高です。
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