シナリオ詳細
<鎖海に刻むヒストリア>ネオフロンティア大怪獣総決戦
オープニング
●海を制するもの
木船を崩壊させ、巨大な鰐の顎が突き出る。おおくの悲鳴を波に沈めながら、続けて八枚四対の翼が飛び出した。
崩落する船の板と木くずをちらし、空へと飛び上がる怪物。
鋼のように固い鱗。右目が四つ左目が三つ。四対の羽根に長い尾。まるで絵本に描かれた悪いドラゴンさながらの、それは、それは……変異種という怪物であった。
ささやき(ブレス)ひとつで隣の船を半壊させ、咆哮をあげて翼をはばたかせる。
名をつけるならばそう。
変異前の名を取って、ドレッドアナザータイプと呼ぼうか。
アルバニアを追い詰めるべく進撃を続けた海洋王国・ローレット連合軍はついに大成を遂げた。
第三次グレイスヌレ海戦の記憶も新しいゼシュテル鉄帝国を援軍として味方につけ、いま鉄帝海洋ローレットによる大連合艦隊が結成。
最終ラインと目される海域への突入に成功したのだった。
これだけの大軍隊を、これまでのような小規模戦力で押さえ込めるはずもなし。アルバニアは自ら海域へと現れ、大軍を率い立ちはだかった。
無論、これは終わりではない。
この戦いに敗北すれば被害甚大につき進撃の停滞は必至。かつ廃滅病の進行をとめることもままならず、今度こそ海洋王国兵士と多くのローレット・イレギュラーズは失われ二度と戻ることになるだろう。
勝つも負けるもこれっきりの、大勝負と相成ったのである。
「海豹艦隊、海驢艦隊、海馬艦隊、海象艦隊――全艦隊終結いたしました。
鉄帝国よりの増援艦隊と合流完了。ローレット艦隊とも合流を完了し、各船配置につきました」
「うむ……」
双眼鏡ごしに、次々と壊れては現れる巨大な変異種たちの姿を観察し、大艦隊指揮官ゼニガタ・D・デルモンテは目を細めた。
王家に仇なす敵の悉くを粉砕してきたという彼の大砲はしかし、二十二年前の外洋遠征に従軍することなく今までの年月を刻んできた。
見送った仲間は帰らず、悲しみだけを抱えた二十余年。
拡声器に持ち替え、艦隊の仲間達へと呼びかける。
「ついに、仲間達の悲願を叶える時が来た。この戦場を制した者が、『絶望の青』を制するものである。
全艦隊前へ。王国悲願成就のため、母なる海へと還った仲間達へ報いるため、敵を殲滅せよ!」
●変異、崩壊、化骨衆
大空に舞い上がる巨大な鰐。空を泳ぐ長細い白銀の巨大魚。
要塞化した亀や立ち上がった巨人。船を飲み込む泥の怪物。
次々と変異し怪物と成り果てた同胞達を、『人喰和邇』……八十神 劫流は世にも愉快そうに眺めていた。
手にした杯には上等な酒。
「なあ、お前ら。いつか夢見た風景が、ここにあるぞ。
儂らが酒に浮かべた夢物語が、現のものと成り果てた」
事ここに至るまで、海洋王国はこの『たった一人の男』によって多くを喪失してきた。
海洋経済界に強い影響を及ぼしていたうろこ諸島八家紋の郷士や貴族たちは、その当主や権力を海戦や外洋遠征の折々にそぎ落とされ、一家紋を残して失墜した。
王国民やうろこ諸島の残党たちはそれでも外洋を制すれば復権できうるとして進撃を続けたが、その折に廃滅病や変異種化によって文字どおり崩壊していった。
「儂らの手で、国が壊れるさまを見よう。そして儂らもまた壊れ、海に溶けて散ろう」
杯を豪快にあおって高く掲げ、海へと投げ捨てる。
「さあて」
諸肌を脱ぎ、全身に炎のような模様を浮かべていく。
これまで見せることのなかった、生きながらにして怪物と化した彼の、本気の姿である。
「一世一代、遊興遊戯――開幕せよ」
怪物たちが一斉に咆哮をあげ、幽霊船たちが天に向けて砲撃を始めた。
いざ船を出せ。
ここが海の境界ぞ。
- <鎖海に刻むヒストリア>ネオフロンティア大怪獣総決戦完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月24日 22時20分
- 参加人数221/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 221 人
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参加者一覧(221人)
リプレイ
●難攻不落の要塞
無数に展開する幽霊船団。その中心にて異様な存在感を放つ変異種。それが浮遊要塞スッポンアナザータイプである。
化骨衆に属するアサシンのひとり甲羅切スッポンが変異した怪物であり、たった一体で要塞並の戦術価値をもつ強敵だ。
「何事もまずは正面から攻めなければ始まらん。ゆくぞ、ローレットが攻める隙を作るのだ」
海洋王国海軍海驢艦隊は幽霊船たちへ砲撃を開始。
激しい打ち合いせめぎ合いが続くなかで、一隻の船が浮遊要塞へとついに接近を果たした。
「お久しぶりのかるらちゃんでーす!イェイイェイ!
なんだかとってもヤバいって言うんで隠遁生活から抜け出して来ました、よろしくネ!
まーなんで来たかと言うとスッポン食べられるって言うからなんだケド。え?食べられないの? あんなにでかいのに? ふざけんじゃないよー!!」
勢いよく船の先頭から飛んで斬りかかる『多重次元渡航忍者』獅子吼 かるら。
「私のような非力な者が何処まで戦えるか分かりませんが、それでも、ゼロでないのなら、私も微力ながらお力添えさせて頂きます」
それに続く形で『鷹の館の女主人』ハトゥルフ・ヴァルアトも接近。炎の魔術を放って浮遊要塞へと浴びせかける。
「一つ一つは小さな蕾でも、咲いて集まれば大輪の花に見劣りしないように、私はその小さな花の一つとなりましょう!」
浮遊要塞は六つある首のうち一つをそちらへ向けると、甲羅からばぎりごぎりとはえた機関銃による射撃を開始。
「なんだコイツ!頭6つもあるじゃねえかよ!
なら簡単な話だぜ。六つ全部ぶん殴ってやらァ!!
一発じゃ仕留められなくてもよォー、順繰りに前座ぶっ叩いてやっていきゃあよぉー、いつかは全部ぶっ倒せるってスンポーだぜ!
頭いいだろ? アァ!?」
弾幕にひるむことなく船をぶつけ、紅山 紅路が亀首を拳で殴りつける。
「これだけ頭がおおいとまるでモグラ叩きだな。亀なのにもぐら……これいかに」
追撃をしかける形で『特異運命座標』ブリュンヒルデ・アイゼンローズもハンマーを振り上げ、亀の甲羅部分もといはえた機関銃部分を殴りつけ始める。
「楽しい我慢比べといこうじゃないか。
戦に臆して鉄帝人を名乗れるはずもない。戦場での命と命のやりとりこそ我ら鉄帝の魂が輝く場所。貴様の屍の上に立たせてもらうぞ、化け物亀よ」
一気呵成に攻めよとばかりに、更にもう一隻の船が別方向から浮遊要塞へと激突。『ウケる』スノウ・ドロップ、エステル、『なぁごなぁご』ティエル、『焔色の幻想』レティシア、『牛柄ガーディアン』フィオナ=バイエルン、『海に出た山師』デボレア・ウォーカーといった面々が一斉に巨大な亀の甲羅へと飛び移り、それぞれに攻撃を開始。
追い払おうとはえた機関銃に覆い被さって攻撃を引きつけるスノウ。
「コレがホントのゾンビアタック、なんて。あははウケる」
「初陣がこれですか……。怪物戦とはまたローレットも無茶を命じますね……」
「ラサの猫族の誇りにかけて、亀に負けるわけにはいかない、の」
その間エステルとティエルが地道に攻撃を開始。操り人形ジョーカーや銀の槍『舞踏』が甲羅にはえた砲台を破壊していく。
「召喚されてきてみたら、すごい化け物との戦いです。なんでしょうあれ、ローレットはこんなものと戦って喜ぶのですか?」
レティシアとフィオナもそれぞれ飛びかかり、集中攻撃。
亀はこれを追い払うべく甲羅上の砲台を集中させ一斉砲撃を開始……しようとした矢先。
気配を消していたデボレアが突如現れ攻撃を開始した。
「最近また引きこもってサボってたし/たまにはこういうお祭りもいいかしら」
「このような戦闘シーンになるとは、人生何があるかわからないものだ/再生する肉体ーー今はこの力にあやからせて貰おうか」
同じく物陰から現れた『星を墜とす者』星穹が毒撃を打ち込み、浮遊要塞からはえた首の一本に微弱ながら毒を浸透させていった。
「わーい! 何だか大怪獣決定戦やってるんだって? なら「怪獣」たる私も参加しなきゃだね! がおー! 怪獣だぞー! そこの亀さん、私と遊びませんか?」
ある意味本領を発揮した『渇愛の邪王竜』ビーナス・プロテウスが亀首めがけてビーナスパンチを炸裂。
「アハハ! 怪獣はね、後先考えず暴れまわるから怪獣なんだよ! さあさあ…壊れちゃえ♪」
「いかに堅固な鎧であろうとも、幾百幾千の剣戟で攻め立てれば崩れよう。
赤の熱狂に染まり敵を討て!!」
そんな彼女たちを後方から支援していたのは『鉄の薔薇』ローゼス・ビスマルクスだった。
仲間達を強化しながらも白いマスケット銃で亀首を射撃。
「ここで負ける訳にはいかん、死力を尽くせ!」
「普段は人間相手のお勤めなのですが、皆様の正念場という事で、至らぬ身でも出来る事を致しましょう」
「隠密か…なるほど、忍にはもってこいの戦場だ。頭領や『暦』の方々へ戦果を報告できるよう力を尽くそう。母う、霜月殿の弁当も食べた俺は百人力だからなっ」
強化効果をうけた『悲無量心』月虹や『暦の部下』流星たちが隠れていた場所から飛び出し、それぞれに攻撃を開始。
月虹は無骨な野太刀をもって亀首の根元へと切り込み、流星はその刀身を直接踏みつけることで亀首を強引に切断した。
「信じて耐えてくれている味方がいる以上、俺も退く訳にはいかないな、玄」
血をふきだし、落下する一本の首。
第一の戦果を知らせるかのように、流星の肩から黒い鷹が飛び立った。
ひとり浮遊要塞ことスッポンアナザータイプ。単独で移動でき艦隊ひとつ分の戦力的価値があるとされるこの怪物の強みは底なしなほどのタフネス。
六つある首のうち一つを落とされた今となってなお、甲羅から無限生成する無数のバリスタから鋼の槍を発射し続けている。
幽霊船団との戦いに精一杯だった海洋海軍がこれに晒されればひとたまりも無いないだろう。
それを察し移動を開始……しようとした、ところで。
「ご指名ありがとうございまァす!!!」
『Black rain』鵜来巣 冥夜が紙メガホン片手に大声を発した。
「我ら天下のパリピトリオ! 廃滅が近づこうと、屈する前にあけましょうシャンパン。楽しみましょう我らのパーリィ!
エンタメ魂は厄災で折れはしない。私はそう信じてパフォーマーをしておりますので!」
電飾バリバリに自己主張した船(イカ漁船)の先頭で『タロットも任せとけ』札貫 リヒトと『実直天使』ピュアエルもそれぞれ展開していく。
「毎度ご支援、ご声援ありがとうございます!
俺達サイコーのパリピトリオ!行くぜ冥夜っち、たぬきっち!
廃滅上等! 皆の清き一票が俺に力をくれるんだ。患おうと前しか向かねえ。前しか向けねえ! それが奇跡ーー特異運命座標ってやつだぜ!」
「待て待て待て、誰がパリピだ。お前ら陽キャどものノリに巻き込まれてたまるか!
それと誰がたぬきっちだ。俺はお狐様だっつってんだろ!!
……くそっ。とはいえ大号令以降、炎使いの肩身は狭くなる一方だからな。スパッと勝って次行くために、なんとしてでも勝っておかなきゃならねぇ!」
三人は可能な限り派手に騒ぐと、浮遊要塞めがけて船を全速前進。衝突させるコースをとった。
こんなものが現れれば注意を向けないわけにはいかないだろう。
亀首のひとつがこちらを向き、大量のバリスタが船へ一斉発射される。
「聖霊さんに連れられて参加しちまったけど、俺らここにいていいのか…? ま、とりあえず出来ることをやるだけだよな、メノウ?」
「生命への希望を掴む為に戦ってる奴らがいる。
生きたいと願う奴らを医者が見捨ててたまるかよ。何様、俺様、聖霊様ってなぁ!」
『何様俺様聖霊様』松元 聖霊と『陽キャで苦労人』八雲 千尋がそれぞれカウンターヒールを展開。
激しい砲撃に耐えるパリピトリオを後方から支え始める。
もちろんそれだけで終わる船ではない。
船体がそれ浮遊要塞をこする頃、手すりに足をかけて飛び移る【特攻野郎Dチーム】がいた。
「オーホッホッホ!さあ今回も来ましたわ!
D…つまりドリルです! この輝かしくも力強いドリルの様なチームこそが私に相応しいチームですわ!
さあ、個人的にお金も払ったのだから皆様、キリキリ働いてくださいな!」
「やっふぅー!大きな亀退治でありますか! ならこのスカサハ、突貫あるのみであります!
他の皆様に援護をお任せしていざ突貫であります!あっ、一言でいえばスカサハは囮役でもあるのでこのチーム以外でも少しでも他の方々が攻撃しやすく動けるように頑張る所存でありますよ!」
「いやはや…まさかお金になりそうな話に乗っかってみたら戦場に送られたなう。
いやいや…まさかこの面子でチーム組むなんて話聞いてないんですけど!
これならお嬢様方の付添いしてた方がマシでした!? なんて嘆いてもしょうがないんでしょうけど…仕方ないんでバックアップはしますけど期待しないでくださいね! あたしは皆様と違ってか弱いんですから!」
ドリルを回転させて飛び込む『ドリルブレイク・ドリル』リアナ・シンクライと、それに続いて飛び込む『「牙羅九汰堂」店主』スカサハ・ゲイ・ボルグと『悪意の華』ロべリア・ハンニバル。
彼らの援護攻撃に加え、カンナ・チューベローズも愛用のショットガン『アスモデ』をコッキングすると魔術加工弾を甲羅めがけて撃ちまくった。
「ふむ…魔性のモノを狩るのも異端審問官の務めなら今回はチームを組むのは吝かではない。故に私とチームを組んでくれて感謝する」
こうしたド派手な攻撃の裏でこっそり動くチーム【猫正宗】。
「大号令が始まってから数か月……いよいよ最後の戦いだね。
廃滅に侵された皆を救うチャンスもこれきりだ。悔いの無いよう思い切り頑張ろうね、陰陽丸くん。
あのド派手な怪獣達を沈めて皆でこの先へ進もうか」
「みゃーぉ、にゃん!(すごい、大きな亀さんです!)
なーん?みゃお!(頭がいっぱいありますね? とても賢そうです!)
にゃーぅ?んなーん!(この亀さんを倒せば良いのですね?よーし、頑張ります!)」
『じゃいあんとねこ』陰陽丸と『悲劇を断つ冴え』風巻・威降はそれぞれ特攻野郎たちに夢中になっている亀首の根元へせまり、集中攻撃を開始。
元々深く傷のついていた部分に手刀をあてると、豪快に首を切り落としてしまった。
いかにタフな変異種といえど首をふたつも落とされれば冷静でいることは難しい。
残るよっつの首で全方位へ威嚇しながら、狙いもつけずにあちこちへ砲撃をまき散らし始めた。
砲撃に晒されダメージを受けたローレットチームは一時撤退。……と見せかけて。
「ガハハハハッ、なんだぁ? 海洋ででけぇ仕事があるってぇ聞いてやって来てみればえらい大騒ぎじゃねえか!
仕方ねえな、この俺様も手伝ってやるぜ」
「中々慣れぬ地ですが、やり遂げます。
死兆なる呪いを撒き散らす冠位が引きいし魔物達――ふむ粉砕せねばなりませんね。なれば参りましょう。正義を成すべく。天が望まれる……」
バルバロッサと『彷徨人』カンナがそれぞれ船を進め、撤退する味方とすれ違うように攻撃を継続した。
「他の奴が気持ちよく戦えるように気合を入れる。そんだけのこった、ガハハハ、やるぜ!」
「さぁ粉砕しましょう――今こそ勝利を」
カンナとバルバロッサはそれぞれ剣をかまえ、砲撃を防御。『新たな可能性』ソロア・ズヌシェカはそんな二人の後ろから回復支援を浴びせ、背に隠れるようにしてスッポンアナザータイプをのぞきみた。
「召喚されて日は浅いが、私はこの世界の海が好きなんだ。
だから海でこれ以上、悲しいことが増えないでほしい……。
微力ながらお手伝いをさせてもらうぞ」
「海の上でというのならば、泳ぐことができればよい人魚姫になれたかもしれませんが。
ひとまず、その声と音は、戦うひとたちの為に、いまはその助けができるようにと……」
『特異運命座標』木花・奏もその回復支援に加わり、可能な限り多くの仲間へブレッシングウィスパーを用いた強化をほどこしていく。
浮遊要塞の横をかするかたちで通り抜ける船より、『特異運命座標』トゥリトスと『自称・勇者』アリューズ・エリスブラッドがそれぞれの武器を構えて甲羅に湧き出す大量の砲台へと飛びかかった。
「海だー! 水着で来ればよかったかな。あ、もちろん動きやすさのためにね? 水中戦だし、ほんとほんと、ついでにコスプレとか考えてないよ。
戦うって意味では初陣だしがんばろ!!」
「天が呼ぶ地が呼ぶ怪獣が呼ぶッ!?
へッ、怪獣・強敵、望むところだ!
行くぜ! 熱血二刀合心(バーニングソードフュージョン)ッ!
――勇者アリューズ・エリスブラッド、ここに見参ッ!!」
アリューズの剣による猛烈な攻撃、そしてトゥリトスの打ち込む激しい打撃によって砲台の一部が破壊され、亀首たちは二人を振り下ろすべく砲撃を集中。
カンナたちがその防御へと割り込んでいく。
……という一連の動きは海中から迫る隠密攻撃チームへの布石であった。
「これは随分と大きな亀ですこと。
…これ相手に狙いを外したら昔の仲間に笑われるわね」
「大きな戦があると聞いて足を運んでみたは良いけれど、凄いね。
まるでいつか見た映画の中にでもありそうな状況だ。俺に出来る事は限られてはいるけれど」
海面から顔を出した『特異運命座標』八束 奏と『行く先知らず』酒々井 千歳。
奏はしっとりとぬれた長い髪を後ろにしばってはらうと、亀首のうち一つを下部からライフルで狙い撃ちにした。
それに準じて亀首へ飛び移り、紅閃月下桜をたたき込む千歳。
「櫻火真陰流、酒々井千歳。一手馳走仕る」
彼の刀がざっくりと刺さったところで、『月輪』久留見 みるくと『流転の綿雲』ラズワルドがさらなる攻撃を開始。
「あたしはあたしに出来ることをする。
たとえ一人でも救いたい──。/その為に鍛えあげたのだもの」
「前線とか僕の趣味じゃあないんだけどさぁ? この騒ぎが収まらないとみぃんなお葬式ムードでゆっくりお昼寝もしてられなそうだしねぇ……抜き足ぃ差し足ぃ忍び足ぃ」
みるくは味方が注意を引いている間に高い機動力をもって詰め寄り、亀首のひとつに刀を突き立てる。ラズワルドがその傷口にさらなる打撃を加え、ノミと金槌の要領で亀首のひとつへ深く刀をえぐりこんでいく。
「地道に削れってことだよねぇ、めんどーだなぁ」
それでも切り落とせない首にげんなりとするラズワルド。そこへ『常闇を歩く』ヴァン・ローマンがさらなる斬撃を豪快にたたき込んだ。
「ここまで強力な相手と戦うのは初めて…だけど、これもお仕事。
それに僕の力が少しでも皆さんの力になるのなら…行きます!」
今度はフォーク&ナイフの要領で首をざっくりと切り落とし、ヴァンたちは反撃を受ける前に急いで離脱。
「こちらへ来て初めての仕事が戦働きか。俺らしいと言えば、俺らしいな。
しかし妖怪変化の相手とは……本当に新入りでも大丈夫なのか? 確かに戦は数だが。ん……大事な一戦のようだし、皆の邪魔にならないよう頑張るとしよう」
物陰から飛び出し、空中を蹴ることで甲羅へ飛び乗る陣雲(p3p008185)。
彼の繰り出す打撃に加え、『TS [the Seeker]』タツミ・サイトウ・フォルトナーもまた甲羅に飛び乗り至近距離からライフルを乱射。
「大・決・戦! やべぇぐらい心躍る響きだな。とはいえ浮かれてちゃいけない、油断禁物ってね」
仲間達の攻撃のかいあってか、亀首がまたもう一つ切り落とされていく。
「ここまでくればこっちのもんだろ。ズラかるぞ!」
「そうしよう。深追いをしても良いことはないだろうから、な」
四つ目の首を落としたところで、タツミたちは残る仲間達にあとを任せて船で急速離脱を図ったのだった。
ここへきて後がなくなった浮遊要塞スッポンアナザータイプ。
甲羅からはやす砲台を巨大な破壊光線発射装置ひとつのみに変え、海洋艦隊めがけて発射した。
船ごと回避行動をとった海軍たち。逃げ遅れた幽霊船を撃沈させながら、浮遊要塞はひらいた道をかき分けるようにして突き進んでいく。
「撤退するつもりのようです。ここで逃がせば再生能力によって厄介なことになるでしょう」
「……わかった……逃がさない」
『行灯海月』オーロラ・ミラージュは海軍に譲られた道を突き進むように、船の見張り台に立って手をかざした。クラゲの笠模様にも似た魔方陣が展開し、スッポンアナザータイプの首めがけて魔術砲撃が打ち込まれる。
「……踏破するよ、絶望の……先まで……!」
『魔闘士』メリッカ・ヘクセスは船のデッキからマジックミサイルによって援護射撃。
二人の攻撃は固い甲羅に阻まれこそしたが、排除しなければ逃げ切れない敵であるという認識をスッポンへ植え付けることに成功した。
ぐるりと反転し、大砲を向けてくる浮遊要塞。
「お邪魔にならないよう、ボクにできること、だけを……本命の方々が、動きやすい、舞台を作るお手伝い、です」
「まだまだ非力なこの身に何が出来るともわからないが、小さな礎のひとつにでもなれたなら本望だな」
『真白き咎鴉』閠はそんな要塞めがけてマジックライフルによる呪術弾を連射。
同じく船の手すりに飛び乗ったと『砂山鼬鼠』アルトゥライネルが突っ込む船の勢いに任せて浮遊要塞の甲羅部分へと跳躍。砲台が光線を放つ前に強烈な跳び蹴りをたたき込んだ。
「さあ、オマエの生命を脅かすものは此処だ」
祐介(p3p007931)と相模 レツもそれぞれ甲羅へと飛び移りつつ抜刀。
先行した祐介による斬撃が砲台の根元を深く傷つけたのを見て、レツは生成された右腕で短刀『相模』を握りこんだ。
集中攻撃――を、容易にさせまいとあちこちから生える機銃。
レツたちを取り囲むようにして一斉射撃が始まる……が、ほぼ同時に『ネクロフィリア』物部・ねねこの『ハイヒールグレネードver.2』が爆発。カウンターヒールが行われた。
「変異種!珍しいモンスター! う~ん…出来れば死体が手に入れば良いのですけど…まぁまずはここを乗り切ってからですね!」
「なんか、せんそうみたい……だね。爺もいてくれないし、すっごくこわいけど、こわがって足手まといになるのが、いちばんだめだよね」
『バッドステータス坊ちゃま』リオーレは集中砲撃でかさむダメージ分をメガ・ヒールによって治癒。
「ボクの力はちょこっとだけど、ボク、知ってるよ
そのちょこっとがいっぱいあつまるのが大事なんだもんね!
だから、ボクもがんばるよ!」
彼の言うとおりである。ヒールほど数の力がモノを言うポジションもないだろう。
失敗(ファンブル)でもしないかぎりは着実に回復量が蓄積し、味方のダメージを大幅にフォローすることができる。
もちろん味方の耐久力も重要だが、倒されていない限りは補いきれるという特性から浮遊要塞の砲撃を上手に対処できていた。
「この老体で出来ることは限られるが、それでも強き若人たちの手助けくらいはやれるさ。さて……」
防御的治癒に加わる『老いたる鯨鯢(カー・オン)』リョウブ=イサと『水底の夢』ルルゥ・ブルー。
「が大変。ぼくのおうち、どの辺かわからないけど…こういう怪獣はきけん。
隠密の人達がしゅ、どかーん! ってやれるように、ぼくたちはいっぱい目立つ。がんばる」
ルルゥのとなえる静寂とバラードにのせて、リョウブたちの治癒が集中していく。
「リオーレくんもぼくよりちっちゃいのにがんばっててえらいし、ぼくもがんばる」
「この青の果てを夢見る気持ちは、幾つになっても捨てられはしないとも。
だから、端役にもなれない者だけれど、久々に表舞台に立つことにしよう」
浮遊要塞がムキになってさらなる砲台をはやそうとした、その瞬間が狙い目であった。
リソースを砲台生成にそそぎすぎたために、亀首部分が無防備となったのだ。
「これが成功すれば歴史が動く。
多くの血と涙が流れた果てではあれど、そこには笑顔があるのでしょう。
ならば、どんなに恐ろしくとも、私はこの槍を振るいましょう」
『刑天(シンティエン)』雨紅が『刑天の槍』を手に急速に接近。
更に『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツが飛びかかり、亀首の根元を掴んで絞った大きな布で締め上げはじめる。
それを振り払おうとするも、ざっくりと刺さった槍が抜けそうにない。
更に『鋼のシスター』ンクルス・クーと『妖怪・白うねり』ネリが飛び込んでいった。
「おー…おっきくてパワーありそうだね…むむむ…私も負けれられないかな!
皆に創造神様の加護がありますように…そして悪い亀さんには天罰を!」
「でっかい汚れだわ、お掃除のし甲斐があるじゃない…これは報酬をいっぱいいっぱい頂かないと、割に合わないわ/怖いわけじゃ、ないのよ?」
ネリの繰り出す木製モップ。『塵芥』の術によって集められた怨念が剣となり、亀首の根元にざっくりと食い込んでいく。
もがく亀首に対し、ンクルス強烈なスタンピングをしかけて首を切り落としてしまった。
それでも、それでも残り一本でもあれば逃げ切れる。
スッポンアナザータイプがわずかな希望をもって声を上げた――その瞬間。
それまですっかり気配を消していた『妖紫淡冷』霧裂 魁真と、音もなく接近した『月下』シレオ・ラウルスと『帰って寝たい』矢都花 リリー。彼女たちが残った一本の亀首へと張り付いた。
追い払わねば。砲台を生やす。だがそれよりも早く――。
「同情はするけどさ、俺死にたくないからさ、あんたが死んでよね!!」
(やっぱ怪獣とのバトルはロマンだよな。俺が一番爽快に感じるのは、圧倒的な格差を見せつけていた怪獣が倒される瞬間。それがこの手で叶うって? ゾクゾクするぜ!)
「やどかりこそが海のメインストリームだから……それなのに首6本にしてアピールとかさぁ……ギルティ…おらカメミソ出せだよぉ」
魁真の繰り出す貫手、リリーのたたき込むバール、更にシレオが固い表情と沈黙のまま突き込んだレイピアが、まるで無防備だった亀首最後の一本を切断した。
激しく吹き出る鮮血。
力を失って海へと没する浮遊要塞スッポンアナザータイプ。
シレオたちは回収にきた船へと飛び移って水没を逃れると、ふと海を振り返った。
破壊に狂い、後戻りの出来なくなった者の末路が……深い青色の先に見えた気がした。
●泡と血と塩
海面上へ次々と起こる巨大な水柱。
これが海中より打ち込まれる半魚人型変異種タイガアナザータイプによる攻撃であることは海洋海軍海豹大艦隊総司令ゼニガタ大佐には明白であった。
しかし迫り来る無数の幽霊艦隊との戦闘に海兵の人員をさかれ、海中にまで対応を広げる余裕はない。
「ローレット水中戦部隊は何人来ている。海中に10人だけでも投入でいればあるいは……」
「51人ですね」
あたりめ喰いながらこたえるアシカ副長。
二度見するゼニガタ大佐。
「51人ですね」
二度言った。そんな言葉を裏付けるように、ローレット水中戦部隊が実に艦隊規模で現れた。
「決戦ねえ……ンまあ、普段ならこんな事はやらねえんだが、しゃーねぇか。呼ばれて一回くらいは良い事しときゃ、俺にも何か一つくらい良い事があんだろ」
こきこきと首をならし、イグニス・ファウエルが水中呼吸魔法を発動させると勢いよく海中へと飛び込んだ。
と同時に船の真下をくぐり抜ける巨大な魚影。もといタイガアナザータイプ。
イグニスがその背に無理矢理張り付くと、タイガアナザータイプは振り落とそうと激しい蛇行を始めた。
『初依頼、緊張するけど僕にもきっと出来る事があるはず』
「……」
『うん、無理はしない/折角誰にも迫害されない世界に転生出来たんだ。こんな所で死ぬわけにはいかない』
「………」
『うん、終わったらゆっくりしようか/この混沌世界を見て回ろうね』
『無星』Nil・Astrum・Fineは会話を終えて同じく船から飛び降り、『白の書』ティスタ・ルーンベルグ、『蛇』彼者誰、『新たな可能性』テルル・ウェイレットたちと共にタイガアナザータイプの進行方向上へと展開した。
Nilたちの役目は激しく動き回り攻撃射程から逃れるタイガを受け止めるかたちで停止させ、攻撃の隙を作ること。
「さて、これは随分と調理のし甲斐がありそうな……と、そういえばこれは食べるのは危険なのでしたか? じゃあ仕方ありませんね。素直に退治するとしましょうか」
ティスタと二人がかりで進行中のタイガへタックルをしかけ、逆方向への勢いをつけることで一瞬だけ停止させる。
タイガはそれを振り払おうと指で掴み、零距離からの射撃を開始。
「さあ、化物退治と参りましょうか」
そこへ彼者誰がつっこみ、防御姿勢をとった。
「例え力及ばずとも、皆様の助けとなれれば。……終わった後の料理やお茶はを楽しみください」
狙いはテルルが仲間達を回復する間、それを阻害しようとタイガが打ち込んでくるであろう砲撃を防ぐためである。
「この世界にきて初めての戦いでドキドキ~。同時にわくわく~・それも水中行動なんて初めてで~、色々全力で頑張るけど~全力で楽しも~」
新たに加わった『自称まっどさいえんてぃすと〜』宇喜多 那由多と協力してタンクチームを治癒。
思うように振り払えないことを察したタイガが逆方向へ逃げようとしたのを、『あおちゃんといっしょ』皇 雛乃たちは見逃さなかった
(まだまだ弱いけど、いずれは……お姉ちゃんみたいに強くなる予定です!)
(聞けば一つの国家の一大事だと聞く。なればこの錆びた腕前の一つでも拾うくらいはしなければならんだろう。どうやら、不肖の弟子も別の戦場に居るようだからな……師匠らしい事の一つくらいは、な)
同じく飛び込んできた『黄金の牙』牙軌 颯人。そして『特異運命座標』ヴィエラ・オルスタンツがそれぞれの剣をとり、逃げ出そうとするタイガのボディを三人がかりで一斉に切りつけた。
「うとう決戦ね、幻想の方にも随分前から海洋での戦いの事は聞いていたけれど……最後くらいは私ちゃんとお手伝いさせて貰うわ」
鱗を派手に切り落とされ、タイガが奇妙な叫びをあげる。
これを好機とみて、ミシェリア・レーヴェル、『夢想神威』クリスティアン=ベーレ、村上 朱鷺子、『夜行星』アルゲオ・ニクス・コロナ、『火の鼠』アトラ・ルウラリレンといった面々がすぐ上までつけた船から一斉ダイブ。
「ローレットでの初仕事がこんな大掛かりな仕事になるなんてね。頼もしい仲間たちと共にボクもしっかりと役目を果たすかな」
「うーん、皆凄いなぁ。戦いというものを僕は知らないから…純粋に皆の事を凄いな、と思うよ」
(私が出来る事を、私が考えて、最善を尽くす。頑張って、みんな!!)
「わわ、すごく大きなお魚?さんです/なにを食べたらこんなに大きくなるんでしょうか? でも、ここを乗り越えないとみんなで向こうに行けないので頑張ります!!」
「さすがに初任務で死ぬような目に合いたくはないなぁ。でも決戦らしいし頑張らなきゃかな?」
勢いよく短刀を突き立てたミシェリア。むらがる彼女たちを振り払おうと全方位へ魔術砲を乱射するタイガに対し、クリスティアン、朱鷺子が同時に治癒をしかけアルゲオがそんな仲間達の能力強化をしかけていく。強化の恩恵にあずかったアトラは隙を突くようにして銃撃を打ち込み、そして即座に船へと退避した。
「さて、久々の戦闘だが…水中じゃ葉巻は吸えないねぇ」
船で待機していた『リベリスタ』シルフィア・カレードが葉巻を投げ捨ててから海へダイブ。
「水中戦たぁ懐かしいもんだねぇ。ま、1からリビルドしなきゃいけないから、あの頃のようにゃ行かないけどさ」
かつてのカンをはたらかせながら、タイガへ魔力砲撃を打ち込んでいく。
10人規模で協力して倒すべき強敵タイガアナザータイプ。しかしこうして沢山の仲間が入れ替わり立ち替わり攻め込むことで全く戦闘不能者を出すことなく、ほぼ一方的な攻撃が実現していた。
召喚を受けたばかりで戦闘能力の未だ低い者も、沢山の仲間と力を合わせることでタイガへ有効な攻撃をしかけることができたようだ。
一度に連続して攻撃することで攻撃側の効果を大幅に引き上げることができる他、回復も複数人で同時に仕掛けることで大きなダメージにも対応できる。何より良いのはそうした火力を集中させやすいように包囲できることだった。
「泳ぐ粗大ゴミっスね、掃除っス。ああいうのは時間かけても何の得にもならないっス。さっさと片付けるのが最良っスよ。だから早く倒すっス、可及的速やかにっス、ASAPっス」
「こうゆうのは適材適所……絶望の青の先には何が見えるんだろうなぁ」
『Sweeper』マルカと『特異運命座標』ティフォン・テンタクルスは他の仲間と入れ替わるように海へ飛び込み、逃げ出すタイガの背へ同時に攻撃を開始。
マルカがアサルトライフルを乱射するのに合わせ、ティフォンはタイガの足を切りつけた。
「■■■■■■!!」
繰り返すが、ひとりひとりの戦力は小さいなれど大人数で連携することでタイガへの一方的な攻撃が実現した。
だが数の利が活きるのはこの点だけでは終わらない。
猛烈なスピードで海を泳ぎ、距離をとるタイガアナザータイプ。
一度安全圏に避難し自己治癒を行う考えだったが……。
「海上戦は、初めてで御座いますね。わたくしは、恐ろしくは御座いませぬよ、文人さん。貴方様と共に在れば、わたくしはどのような恐怖であろうとも飲み干せまする!」
「あぁ…されどどのような場であれ勇猛果敢に参るのが我ら鳳圏軍人というものだろう。恐怖…もちろんそういった感情がないわけではないが、共に征く仲間…華綾の存在がそれを飲み干させてくれよう」
簡単な水中呼吸装備をつけた『折れぬ華』茅野・華綾と『鋼の如く』刃金・文人が海中にて待ち構え、それぞれの刀で斬撃。
(水平の遥か彼方。数多の命が散った場所。そして、此れよりまた散りゆく場所。……此の犠牲を超えた先に、人々はどれだけの物を手にするのでしょう、か。今は、私に出来得るだけのことを)
「幾多の者が命を賭した、絶望の海路。散った分、此れから生まれる命も或る。なあ、娘さん ちび達の手は、彼の楽園は、温かっただろう? なら、覚悟は出来てる なあ?」
更にアッシュ・ウィンター・チャイルドとヘーゼル・ナッツ・チョコレートが回り込み、式符術や魔術砲撃をしこたまたたき込んだ。
タイガアナザータイプはまだ気づいていないが、ローレット水中戦闘部隊はその豊富すぎるほどの人数を利用して既に包囲網を形成していたのだった。
途切れることのないコンボがタイガを遅う。
「どこもかしこも怪物だらけ。何て恐ろしい海なのかしら……まさに絶望ね。
でも此処を越えれば希望が待っているというなら、頑張って越えてみましょう。
皆がいるから、大丈夫。きっと何とかなるわ。私は大した事は出来ないけれど、全力で支えるわね!」
「おぉ! 敵も味方も意気軒高! これは良き戦場ですね!
しかし楽しんでばかりもいられません!
廃滅の皆さんの命が掛かっているのです!
邪魔をするなら粉砕するまで! いざ、吶喊!!」
「この航海もいよいよ大一番ですね……。船の上での戦いは得意では無いので控えていましたが、人手は多い方が良いという事でしたから参りました!
寄って斬る事しか出来ませんが、迅様やミュリエル様と一緒なら何とかなると思います! この海を越えて皆様の願いを叶えるために全力を尽くしますね!」
そこへチーム【水天狼】の『知らない物語』ミュリエル、『何事も一歩から』日車・迅、『殴り系幻想種』ハンナ・シャロンの三人が突撃。
ミュリエルの援護回復をうけながら迅とハンナによる強烈なキックがタイガの肉体を破壊した。
たまらず海面へと飛び出すタイガアナザータイプ。
それを、アイドルユニット『シャドウプロジェクト』は船の上から観察していた。
観察していたというか……。
「ハァーイ!今回ジェーンちゃん達『シャドウプロジェクト』の最後の一人も決まったからお披露目ライブしにきたYO!
さぁ、ライブ相手はこのデッカイお魚さんだよ♪
最高のステージ(物理)を見せてジェーンちゃん達のデビューを飾ろうね、皆!」
『一肌脱いだ』ジェーン・ドゥ・サーティンのパフォーマンスに、『天義の希望』ミリヤム・ドリーミング、『異美転の架け橋』宮峰 死聖、『三変化の金盞花』クリティ・ルリジサ・カレンデュラ、ジーナ・ディスコルディアたちは若干だがげっそりしていた。
「ねぇ、ジェーンさん…確かにウチは『売れる為には何でもするッス!』っていいましたよ? この前も使用済みぱんつを売ったッスよね? けど……」
ミリヤムは両拳で船の手すりを叩いた。
「何でこんな水中で化物退治するのが『初ライブ』なんスか! こんなのアイドルがやる事じゃないじゃん! と言うか今時芸人でもやらんわ!」
「リリー……これはまた『試練』なの? それともリリーは私達の事嫌いなの……? うう…どうすればいいの…誰かタスケテ」
ほぼ同感のクリティ。
「いや…それもこれもこの変異種の魚が悪いのでは?こんなのが居るからリリーが変な事を言い出したのよ。きっとそう」
「もしかしてあーし…ヤバい所に入っちゃった系?所謂ブラックな会社的な?」
ジーナは今になって激しい戦場にぶっこまれたことを理解した。
「正直やってられないわん…ここでアイドルするのやめようかにゃん。
……まあ、それを考えるのはとりあえず生き残ってからだね。いざ、尋常に参る」
「今日も素敵なサービス期待してるよ♪」
一方の死聖はカメラを構えて観察する気満々であった。
「それじゃあみんないくよー! この気持ちを届け! らぶズッキュン☆アタック♪」
五人は一斉にタイガの真上へ船をつけるとダイブし、攻撃を開始。
珍獣ハンターの駆け出し時代もかくやってレベルで特攻していくミリヤムを先頭として交代タンク要員の死聖とメインアタッカーのクリティ&ジーナ。それを後ろからアレなかんじでアレしてくるジェーンというよく見たら結構バランスのとれたチームワークでタイガにびしばし攻撃を加えていた。
「■■■■■!」
こんな奴らにかまってらんない! 俺は部屋に帰る! と言ったわけではないが、大体似たようなことを叫んでタイガは猛烈にダッシュ。シャドウプロジェクトを盛大に引き離していった。
引き離してたどり着いた先がマトモなやつならよかったものの。
「いよいよ僕達の出番だぞ! 正直、このGA余りモノ&与太のレベルが高いからあんまり気が進まないけど…従妹のルビアが応援してくれるからな!頑張らないといけないんだぞ!」
ひとかわむけたっぽい『猟犬』アネモネ・キルロードが【特攻野郎Fチーム】を編成して待ち構えていた。
やべーやつらのはしごじゃん。
「まあまあ!これが初めての戦場ですが…すごい迫力ですわ!
私、興奮してしまいますわ、お姉様方!」
真っ先に飛び込んでいったアネモネに続く形でルビア・キルハートがロベリアの花を投下。
突っ込んできたタイガアナザータイプの迎撃を開始する。
「え~と…何故あたし達はここにいるんでしょうか~?睡蓮ちゃんわかりますぅ~?」
「一つだけ言えるのは狭依。あたし達は迷子になったって事だわ…」
「…とりあえず、ここは近くの人達に歩調を合わせましょう~。だって、その方が悩まず済みそうじゃないですか~。とりあえず~お仲間さんと思われる人達の支援をしましょう~」
「そうね。うう、まさか傭兵団から外れて何だか訳わからない集団と行動する事になるなんて…。だけど、これはチャンスでもあるわ! 元々、危なすぎる戦場だからこんだけ数が居る集団に紛れていれば生存の確率は上がる筈だわ」
索敵を担当していた天鼠 睡蓮と、彼女とコンビを組んでいた市杵嶋 狭依。
二人も戦いに加わりタイガへと攻撃。踊るような治癒魔術と広げた翼から放つ魔術連射。
そこへ次々と仲間達が参戦していく。
「くっ!また決戦だというのにこんな与太GAに召集されてしまった…。
今回が私の命日かも知れないな……いや、まだだ! こんな所で死んでたまるか!私は生きて帰って姪っ子と海で遊ぶ約束を果たすんだー!」
愛用の鎌を構えて突っ込む飛騨・沙織。
「でも出番があるだけラッキーだよね、シレネ!」
『イエス、マイフレンド。この機会に存在感をもっと増していきましょう』
「しかも今回は従妹のルビアも参加してるからね!俺の方がちょっとだけお姉ちゃんだからカッコいい所見せないと!」
『そう言う所が可愛い所です、マイフレンド。では、早速戦闘としゃれ込みましょう』
「うん、やっちゃえ、シレネ!」
『イエス、マイフレンド。我は貴女の剣なり』
戦闘人形シレネと共にマリオネットダンスをたたき込む『影が薄い』ナデシコ・キルロード。
「たしかに出番があるだけマシなのでしょう…それに今回は我が従妹のルビアの初依頼です。
ええ、可愛らしくあたし達を応援しようとする姿はとても微笑ましく…くっ!まさしく「愛」ですね!」
鼻血を出しながら魔術をどっかんどっかんしていく『血濡れ』サルビア・キルロード。
「おお…何の因果か特異運命座標点に選ばれてしまった私ですが…この様な荒れ狂う危険地帯で私が出来る事など殆どないに等しい…。
嗚呼…神よ…何故貴方はこのような試練を課すのです…彼にも彼女にも…何故このような苦難をお与えになるのです…。
神は答えてくださらない…ならば…私は私が出来る事をするしかありません…せめて彼等の傷を癒さねば」
そんな彼らを後ろから回復しまくるカルロス・ナイトレイ。
「しかし召集されてしまった以上は特攻するしかあるまい。それが勝算のない戦いでも…男たるもの向かわねばいけない時もあるのだ」
剣を握り、ものすごいいきおいでぺちぺち攻撃されているタイガへと突き立てる『「正義」の魔王』神野・聖。
「小生も死ぬのは怖い…だがここで倒さねばならない者が居る以上限界まで立ち向かわなくては! それが「正義」というものだ!」
実に九人がかりによる強固なチームワーク。みんなバラバラなように見えてしっかりと役割分担がなされた【特攻野郎Fチーム】による攻撃をうけ、タイガはさらなる悲鳴(?)をあげて逃げ出した。
当初海洋海兵隊が抱いていた予想をはるかに超える人数による対変異種攻略作戦。
戦場の主導権は大勢で幽霊船団を押さえ込む海兵隊でも、一斉に変異種化を起こして反撃に出た化骨衆でも、ましてすぐそばの海域で地獄のような戦いを繰り広げるアルバニアでもなく、ローレット・イレギュラーズによって握られていた。
それぞれが己の意思によって参戦し、戦場を一人で覆すほどの力をもたないことを受け入れながらも、自分に出来ることをそれぞれがこなした結果、巨大な抗いがたい渦となって強大な敵を飲み込んでいくのだ。
それをある意味象徴したのが、イレギュラーズチーム【風の在りし日】であった。
「ウゼェんだよ、焼き魚にしてやるから覚悟しやがれ。
この戦いに思い入れなんて一つもない奴らが集まったチームだが、決して甘く見ちゃならねぇってことを身を持って知ってもらわねぇとなぁ?」
「お任せ下さい我が主」
「わたしは敵をたおすだけなのよ」
「何で俺が戦場なんかに……面倒だな」
「僕のお仕事は、みんなを護る事。誰かさんの受け売りだけど、必死で頼まれたらやらなきゃだよね」
「やぁやぁ! 賑やかだこと! イレギュラーズがこんなにいるとオモチャ箱みたいで面白いじゃあないか! まるでお祭り騒ぎで嫌いじゃあないよ!」
『物見の魔女』ヴォルフ・シュナイエンを筆頭として海中へとダイブした六人のイレギュラーズ。
彼らを押しのけようと指からの連射を仕掛けながら突っ込んでくるタイガアナザータイプに対し、『金獅子』シェルマ・ラインアークは自らの身体をていして行く手を塞ぎ、そんなシェルマを保護するように『忘却の彼方』アオがエンピリアルアーマーやブレイクフィアーを用いて防御を固めていく。
「躾のなってないようだな」
「魚ごときに潰せると思うんじゃねぇぞ!」
「巻き添え喰いたくない奴ァ道を開けやがれ!」
わずかながら動きを止めたタイガを取り囲むよう扇状に展開する『鷹』雛菊・菖蒲と『物見の魔女』ヴォルフ・シュナイエン。
力の限り放ったドゥームウィスパーの集中砲火によって弱らせたところで、『戦火の花』フリウ・F・リースアールと『箱庭の魔女』ユメによるクロスアタックが炸裂した。
「あはは! 楽しいったらたのしいの!」
交差する刀と魔術による斬撃が、タイガの右腕をついに切り落とし、発狂したように叫ぶタイガは滅茶苦茶に暴れて彼らを振り払った。
「おっと危ない危ない!」
ユメたちは戦闘不能者を出すことなく素早く退避。
かわりに真上へ船をつけていたイレギュラーズ混成チームが一斉にダイブしてきた。
「お魚……というには少し物々しい。禍々しい見た目ではありますが私が怯むわけにはいきませんの。
今度は私と踊ってくださる? これ以上は前に進ませませんのよ」
「あら、駄目よ。この海に光が戻らないと、皆困ってしまうの……だから、大人しく……ここで、朽ちなさい」
片腕のみとなったタイガを両サイドからサンドするクリソプレーズと『儚花姫』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド。
赤きつぼみの杖から魔法の刃を放ち、至近距離から突撃をしかけるクリソプレーズ。
その攻撃を避けづらくするように、反対側からはヴァイスが咲き乱れた薔薇の毒を浴びせていく。
「今回ぃ、おいら的にぃ、海を穏やかにするための戦いするんですよぅ」
「ようやく見た目に即したスキルを装備した水中適応型魔王田中ここに参上!
狙うのはひとつ、最高の一撃でゴザル!」
「何も知らないわんこが決戦の場に参上デス、キャヒヒヒ!
なあに、未熟なのは承知の上。最悪弾除け位にはなるデショウ、兎にも角にも戦いは数なんデスヨ!!」
「非力ではありますが……少しでも皆様のお役に立てます様に全力を尽くしますわ」
追撃のチャンスとみて真上から急降下潜水をしかけてきたのは『遠い海からやってきたトド』北斗、『ゴブリン、マイ、イマジナリーフレンド』田中・E・デスレイン、『ぶっこわれサーキット』わんこ、『物理型お嬢様』碧紗。
トド式ヘッドバッドを仕掛ける北斗をかわぎりに田中のイマジナリーゴブリンパンチ、わんこのシャウト&サマーソルトキック、更に碧紗の槍を突き立てた後の強烈な手刀がそれぞれたたき込まれ、さらなる海の深みへと強制的に堕としていく。
突き出される腕。乱射によって振り払おうとする彼の試みを――。
「そうはさせねーぜ!」
船から大空へとジャンプし、陽光を背にして海へとダイブした『海のヒーロー』ワモン・C・デルモンテが阻んだ。
「水中の戦闘ならオイラ達海種の出番だぜ! どんな相手だってオイラのガトリングでぶっとばすぞー!」
タイガによる砲撃乱射とワモンによるガトリング射撃が交差。
仲間達によるヒールがワモンへと集まり、砲撃は彼のつやっとしたボディを流れていった。
繰り返すが、ひとりひとりは小さくとも集まればその力は強大なものとなる。
その最後の一撃を、ワモンは自らの肉体で解き放った。
「いくぜ――アシカクラッシャーアタック!!!!」
きりもみ回転するワモンが巨大な水流の槍となり、タイガアナザータイプのボディを貫いていく。
激しく血を吐いたタイガは、そのまま脱力し深い海の底へと沈んでいったのだった。
●泥船と大船
船一隻を取り込み、次々と小舟を生成してひとり艦隊と化した泥泥アナザータイプ。
中心にあたる泥泥を倒せば解決するだろうと海洋海軍が襲撃をしかけるも、小舟を盾にして逃げの姿勢をとる泥泥をつかまえることすらかなわなかった。
「このままじゃあマズいな。ローレットからは何人来とる? せめて三隻くらいあってくれりゃあ……」
対泥泥艦隊臨時指令デリンジャー少尉は頭を抱えたが、そんな彼に対し――。
「――待たせたな」
メガホンを用いて声を張る『手を汚さずに手柄をたてよ!』エンヤス・ドゥルダーカ。
彼のキンピカな船を中心にして、仲間達の船が陣形を組んで合流した。
「エンヤス艦隊全六隻、総勢二十名参陣!
下がっていたまえ海洋海軍。この泥船、沈めて見せよう。童話の如くに」
エンヤス艦隊の名は伊達ではない。参陣した船は皆彼の指事に従い、まるで巨大な怪物のごとく泥泥艦隊へと追い迫っていく。
巨大な眼球が船から露出し、ぎょろりと振り返る。
泥泥はエンヤスたちを強大な脅威と察し、生成した小舟たちをエンヤスの船へと差し向けた。
「わぁー! いっぱい来てるよぉ! えーっと、えーっと、この距離だと……」
『魔女っ娘』クルシェンヌ・セーヌはステッキを振りかざし、魔法の翼を大きく点に広げた。頭上のスライムげな生き物が赤く点滅。魔力が込められたスライム(?)がボゥっと音を立てて魔術弾を乱射した。
(初めての依頼が決戦とは……足を引っ張らないようにしないとな。俺には俺のやるべきことがある)
打撃をあたえた小舟たちへと構える『氷の狼』リーディア・ノイ・ヴォルク。
「誇り高き者だったんだろう。さあ、海に抱かれ眠りに落ち――『氷の狼』の遠吠えを、聞くといい」
手すりから身を乗り出して連射した銃撃が、小舟のボディに次々と穴をあけて轟沈させていく。
「む、むぅ……なんというかじゃな。
……初戦にしては大物すぎる気がしないでもないのじゃが! えぇい、わしだってこれでも色々と修羅場は潜ってきた身じゃ、例えレベル1だろうとなんとかしてみせるのじゃー!是非もないのじゃー!!」
「鉄帝海洋ローレットの大連合艦隊、ね……圧巻だな。
やる気が出ないと言ってる場合でも無し、俺は俺にできることを探して頑張るか」
「オォ……私も汚泥の身を持つもの……。泥船……それが私と近しい存在としても……ヒトに害を為している事、哀しく思います」
エンヤス船に配置された『早苗流巫術』神宮司・早苗とイト=ストレム、そして『汚れた手』ビジュは取り囲もうと迫る泥船たちへと反撃。
集中する無数の弾を、広く膜状に身体を伸ばしたビジュが防御。エンヤスが投げつけた深緑ポーション(新商品)を飲み込みながら砲撃をはじき返していく。
「多くの者達が集うこの一戦、自身が傷つこうとも勝利を皆の手に……!」
小舟たちの排除をメインに任されたのは『電ノ悪神』シャスラの部隊である。
銀にイエローラインのはしったクルーザーを操舵し、シャスラは砲撃形態に変形させた槍でもって泥船を砲撃。
まっすぐの光線が複数の船を打ち抜いていく。
「おじいちゃんは文字通り仕事をするだけサ。海の上でも弓を引いて撃ち込むだけならやってやるとモ、それが狩人ってもんさナ!」
それだけではない。『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウストが大弓を用いてそれらの船へ追撃。
もう一個大きな穴を空けていくと、『新たな可能性』天目 錬へとアイコンタクトを出した。
「この世界に来て時ざんげは言った、俺たちは『可能性と宿命を背負った救世主』なのだと。
鍛冶師である俺でも呼ばれた意味があるとすれば、それは『作る』ことだろう。 ──それならば見せてやろうじゃないか、喚んだことを後悔させないような仕事をな」
錬は生み出した炎をまっすぐに放射。
船たちを包み込んでいく。
一つの船から同時かつほぼ同方向に貫通攻撃を放つというこの連携は恐ろしく高い効果を発揮し、泥船たちはろくに反撃できぬまま海にとけていった。
ここで肝心になるのが残る4船11名をいかに運用するかである。
エンヤス指令はこの課題に対し、メイン戦力4隻をすべて泥泥にあて、残る少数で小舟を払うという作戦で対応した。
言うは易し。これだけの人数がみな作戦に応じるとは限らない……にも関わらず、四隻の各部隊はエンヤスの指事を完璧に遂行した。
「――■■■■■!」
自分を四方角に囲むように展開した艦隊を見て、泥泥は焦りの動きをみせた。
集中砲火を避けるべく加速。
「逃がしません。ダイアモンドフォーメーションを維持。追跡します」
『移動図書館司書』アデライードは船を加速させると泥泥の斜め前にあたる位置を維持。振り向くように光線銃を乱射する。
「過去に何があったのかは存じ上げませんが……私の目の前に居る以上は全身全霊で、対峙させていただきます」
『白宙無』コスモ・フォルトゥナもまた集めた力で額の目を開き、真っ白な魔術光線を発射。
「俺の目的は何時いかなる時であろうとも、破滅に滅びをもたらす事だ。
廃滅病による死兆、それを滅ぼす為にも力を尽くす。無限に零れる破滅を生み落とす杯よ、今ここで滅びを知れ」
マスケット銃を構えた『破滅を滅ぼす者』R.R.が泥泥へと連射。
こうした砲撃をうけると相手から見て円周軌道を描くように回避行動をとりたくなるものだが、それを見越して――。
同じく斜め前に出て泥泥の進行を微妙に妨害する『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス。
真っ黒の船体に巨大なツノ飾りがはえた船の舵を固定すると、仲間達と共に泥泥へと狙いを定めた。
「ゆくぞ、バスター・レイ・カノン!」
口の中で溜めた魔力を発射。と同時に『小さな決意』マギー・クレストが一斉砲撃を開始した。
「う、初陣だから怖いなんて言っている場合じゃありませんよ、ボク!」
魔法銃を構えると、回避行動をとりかねている泥泥めがけて魔力弾を連射していく。
減速して逃げる……などということは許さない。
後方を抑える形で『超☆宇宙魔王』フーリエ=ゼノバルディアの『超☆魔王船(フーリエ・シップ)』が小刻みな蛇行をかけて泥泥を煽った。
「がはは! 銀河宇宙艦隊を率いた余を相手に泥船艦隊とは気に入った!
褒美として全力を以て打ち破ってくれるわ! ものども、やれい!」
「あの砲台、角では? つまり鬼だな? よし殺そう。この身を流れる鬼狩りの血が、アレを殺せと囁いておる――」
『自称悪鬼滅殺の魔王剣士』源 頼々が刀に魔力を込めて抜刀。
「変異種となって艦隊を壊滅? やらせると思いますかな? それは……俺を舐めすぎだ。深き眠りへと沈め」
『マスカレイド』フォークロワ=バロンは魔力銃の狙いを定め、呪いを込めて引き金を引く。
彼らの攻撃に重ねるようにしてフーリエ・キャノンが発射され、泥泥の砲台が派手に破壊された。
後方から煽るもうひとつの船こと『語るオートマタ』ヴァトー・スコルツェニー部隊。
「舵を握るという事は乗船者の命を握る事に等しいが……重いな」
船に備え付けたガトリング砲を発射。
泥泥は残ったわずかな砲台で反撃を試みるも、
『七色の声』冬越 弾正の展開した『静寂とバラード』によってトドメの集中砲火が始まった。
「軽いんだよ、命は。だから泥船にでも縋りつく。一緒に足掻こうぜ」
衝撃波を放つ弾正。
『星海探検者』マゼラン・スターフィールドは魔力式ブラスターを構えると、崩れる寸前の泥泥に狙いをつけた。
「本格的な仕事を受けるのはこれが初めてだから緊張するね。でも、みんなと協力して事に当たればきっと大丈夫……!」
砲撃が泥泥の巨大な眼球を打ち抜いていく。
取り込んでいた船はまるで腐りきった鉄のようにぼろぼろと崩れ落ち、泥泥もまた海へと沈んでいく。
総合戦力で言えば、泥泥にも勝機はあっただろう。ただしそれは皆バラバラにぶつかっていけばの話である。
指揮系統を整備し完璧な統率をとったエンヤス艦隊を前に、泥泥の勝ち目など最初からなかったのかもしれない。
●天空の神話
雲のない青空を、まるで海のように泳ぐ巨大なリュウグウノツカイ。
七色に輝く鱗よりギラギラと魔術の反応点滅をおこしながら、天空に無数の魔方陣を展開した。
降り注ぐ真空の槍が、海洋海軍の船たちを遅う。
「これ、普通にやったらお仲間庇いきれんであるなー。
とはいえ、吾輩でっけーのである。丈夫で風邪知らずである。
──親からもらったこの身体! 仲間の盾とするに一切の躊躇なし! である!」
『当たり前の善意を』ローガン・ジョージ・アリスは海軍の船に乗り込み、高所から豪快に跳躍するとダブルラリアットの動きで槍の雨を弾き飛ばしていく。
それでも全身にざくざくと刺さる槍を、カティア・ルーデ・サスティンたちが治癒の魔術で抜いていく。
「こういう所に来るには圧倒的に練度が足りていないと思うけれど。
回復で援護くらいはできるんじゃないかなって。僕は僕に出来る最善を尽くすよ。さあ、始めよう」
「しかしこれが『リュウグウノツカイ』ですか、なるほど。これだけ大きい敵だと人手が欲しくなるのも道理です」
『エメラルドメイド』御月・藍も手伝ってローガンから槍を抜いては傷口を塞いでいく。
圧倒的な実力差はダメージとなって現れるが、それを補うだけの治癒力を彼らは集合と蓄積によって実現できた。
「とても、大きくて…恐ろしい。でも、立ち向かわなくちゃ、ですよね…。
わ、わたしも、行きます。みなさまと、共に」
『さまようこひつじ』メイメイ・ルーがローガンたちへ新たにエンピリアルアーマーを施し、防衛能力を地道に引き上げていく。
ヒーラーポジションほど数の利が生きるものである。体力やBSの治癒を手分けしながらかけていく『可愛いを求めて!』リリオス・ルーシェル。
「何て強大で、可愛くない敵なんだろう!
でもこいつらを倒さないと、いろんな人達が困るんだよね?
じゃあ、ボクも頑張るよ!」
そして分担作業は防御側にも適用される。
「助けが居るというなら、俺私も手伝いましょう。
一人でも数が多い方が対応はしやすくなるでしょうからね。
多少なりとも、耐える事については慣れがあります。少しでもお力添えをさせて下さい」
ローガンを治療中、船を一端遠ざけて別の船で入れ替わる『蒼壁』ロズウェル・ストライド。
Trachurusアナザータイプが幾度も繰り出す真空刃を連続して受けないように、彼らはローテーションタンク制度によって鉄壁の守りを敷いていた。
「此処は何としても耐え切らねばならない所――我が王よ、異界よりどうか我が騎士道をご覧あれ」
いびつな剣を振りかざし、防御の姿勢をとるロズウェル。
そんな彼を保護するヒーラーチームが『お気楽極楽羽鳥天』クォリエル・クォンタイズ・クィジナートたちである。
「うわひょーっ! でっかッ! 長ッ!
えっ何すかアレ!? なんか離れたところのおばーちゃん達が終末の予言的なことを呟きそうな怪物なんすけど!
あーしらの手に負えるんすかねアレ!? ちょっとみんな考え直しアーッ帰りの船行っちゃったー!
えーいもうあーしも覚悟決めるっすよ! だいじょーぶみんなで殴れば怖くない!」
「大丈夫。非力な私でも何かできることがあるはず! 少しでも皆の力になれるために頑張ろうと思っているよ! 皆の力を合わせて倒すんだー!」
クリスハイト・セフィーリアは力を合わせて飛来する槍の群れにむけてカウンターヒールを展開。
「廃滅病やらなにやらかんやら、いやはや興味に尽きない事だらけだ。
多くの人間が集い、多くの人間が様々な思いを抱え、その敵に立ち向かう。ああ、もっと早く知りたかった、いっその事この身に浴びることが出来ればもっと知れたかもしれないがそれは痴れ者のやることだ、知るという私利に走るのは今この場では認められないだろう」
『情報食い』アエクと『はじめてのメイドさん』イルリカ・ナインもそれに加わり、味方の戦線を維持していく。
「巨大な敵と戦うのは初めてなのです。けどしっかり皆さんを支えるのですよ」
そこまでしたところで、イルリカはTrachurusがより強力な単体攻撃でこちらの防御陣形を崩そうとしていることを察知した。
「すごい魔法がくるのです! 交替を――!」
「オッケーーーーーーー!!」
船ごと差し替えるかたちで滑り込んでくる『頂の骸』ヌト。
「やっほー!!!! 皆元気?
元気だねーーーウッヒョーーイ!
ねねねねね見てあれ魚が空泳ぐっておこがましくない馬鹿なの????
とりあえずどうする? 突撃する? 待機する? それとも、P・P・P?」
呼び出した大量の骨たちが一斉に踊り出し、船めがけて巨大な真空刃を作って突撃するTrachurusに対抗した。
対抗したというか片っ端からバキバキに破壊されていくのだが、壊れるそばから骨が増えては踊り出すというカオスが展開していた。
「役割通り動くのは慣れています。化生相手は不慣れとはいえ、おつとめは果たします。攻め手の皆様は、どうぞ攻撃に専念を」
『死んでからでも遺せる遺言代筆』志屍 瑠璃はそんな骨に妙な親近感を覚えつつも治癒(増幅)を手伝うべくエネルギーを供給。
『放たれた鷹』ミカエラ・M・モーテルセンと『白樺のかすがひ』白嶺 絆楔は突っ込んでくるTrachurusから飛び退きつつも、ヌトが再起不能にならにように治癒や強化、AP補給を施していく。
「あんなデカブツを相手にせねばならぬとは……とっとと片付けたいところじゃな」
「勝利は誰かの手が持っていればいい。ただし、持ち逃げだけは許さない。
勝つまでやれば負けではないと聞いたことがあります。前のめりに倒れた時、誰かを下敷きにすれば先に倒れたほうが負け、こちらが勝ちです。
ですから――とっととくたばれ」
「まだまだ未熟な僕だけどちょっとでも力になれるなら歌うよっ。さあ平穏という静寂を取り戻しに行こう?」
『ざ・こ・ね』Meer=See=Februarが極めつけのバラードに治癒の歌を上乗せしてうたいはじめ、踊る骨もあいまってかなり異様な戦闘風景が展開されることになった。
「同じ方向を見る仲間がこんなにいるなら怖くないよね? ほら前を向いて!」
防衛陣形を破壊しようとその巨体に真空刃を纏って突撃したTrachurusアナザータイプ。
それに対して大量の治癒と防御で耐えしのぐローレット・イレギュラーズ防衛チーム。
競り合いに勝ったのは……ローレット側であった。
「でっかいお魚ですニャ。食べようとしたら焼き魚何人分ですかニャア?」
「嗚呼、悲しい。リュウグウノツカイ。ここまで恐ろしき化物となれば、もう海に帰る事は出来ないでしょう。私も海に帰りたい……」
「クロサイトさんは凄いと思うのですニャ。悲嘆にくれるのは、物事の危うい所、よくない所に気づける力があるという事ですニャ。大局を見るのは彼に任せて、わっちは今ここを頑張りますのニャ。勝利の美茶を淹れるために!」
「……成程、物事を穿った見方で見る私の視点も悪くはないと。恐縮です。
海が湿っぽいのは当然ですが、海洋に湿っぽい空気が流れるのは、私の好む所ではありません。大地にお還り」
治癒担当として加わった『お茶どうぞニャ』黒猫亭 平助に後押しされる形で、『観劇家』クロサイト=F=キャラハンたちの反撃が始まった。
龍のような角からぱちぱちと魔力をはじけさせると、ディスペアー・ブルーの魔術を放射。
「ヒヒ、海か。親父の知り合いに海神様が居たっけなァ。
あの神(ヒト)も海蛇だったか、ウツボだったか。まァ、この御仁も死ぬ運命なんだろうサ。
竜宮はアッチだぜ、送ってやるぜ旦那ァ」
それに加えて『蛇に睨まれた男』蛇蛇 双弥。仲間の浴びせたBS攻撃に乗っかる形で呪術を行使した。
グンと突き下げた親指のジェスチャーに伴って、激しいダメージをうけたTrachurusが船の甲板へ激突。滑るように海中へと転落した。
「やあ、何やら随分と大きな戦いになって居る様子じゃないか。
人手が足りないと聞いてね、私も少しばかり手を貸そうと思うよ。
猫の手も借りたい、とか言うだろう? 猫よりはお役に立って見せるよ」
そこへ現れたセオドア ラングフォード。
目をキラリと計らせると掲げた杖から魔力の雷を発射。
復帰し空へ飛び上がろうとしたTrachurusへ次々にスパークを浴びせていく。
「デアライフ・シッツですねぇ。。私は非力故、直接戦闘で貢献する事はできませんので、BSを受けている皆様を回復するのに専念させていただきますねぇ」
「なにアレ…やばスギっ! けど一瞬くらいなら肉壁にはなってあげられるよね? さーて、がんばりましょー♪」
「運が……いや、間が悪かったのです。ココアの『時』は、凍らないのです」
『探究の冒険者』デアライフ・シッツ、『己喰い』Luxuria ちゃん、『鋼鉄の冒険者』ココア・テッジがそんなTrachurusへ一斉に群がっていく。
振り払おうとするTrachurusを押さえつけ、射撃を浴びせ続けることで飛行を阻害する。
飛行能力というのは一見便利そうではあるが、戦闘においては不利を被ることもある。そのひとつが、一定量のダメージを受けると墜落を始めてしまうという点である。
猛攻をうけ、空への復帰がままならぬまま船にひっかかったTrachurus。
こうなれば反撃あるのみだとばかりに、全方位にむけて真空の刃をまき散らした。
「小さき者たちよ、この下賜に頭を垂れ敵を殲滅せよ。
わたしを退屈させるでない、命の燃える様をわたしにみせよ。
でなければこのわたしが直々に加護を与えた値がなかろうよ。
さあ、果たしてどちらの命の輝きが眩いか。暫くは楽しませてもらえそうではないか」
対抗する形でラヴァ・ラージャが周囲の攻撃担当者たちの能力を部分強化。
そうして編成された即席の捕縛チームが出撃していく。
「これ、一撃でも入れられれば御の字じゃあないですかねぇ……それに一網打尽は避けたいです。
一人一人が頑張る必要はありますが、一人だけで突っ走る戦場でもないでしょう?」
『『霧笛の魔女』の弟子』Sperlied=Blume=Hellblauが魔法のツタを放ってTrachurusの一部へと巻き付ける。
更に別方向から放たれた魔法のロープが絡みつき、両側からひっぱるように動きを阻んだ。
「ひゃー。まさかこの世界での初陣があんなにヤバそうな相手とは……さて、と。まだまだ非力だけど――それでも、役目くらい果たさないとね?」
ロープを掴んで引っ張る『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト。
「頭数は十分の筈。後は……事前情報の無い初見殺しがない事を祈るのみだよね――っとお!?」
さすがの巨体。すさまじい力でカインたちは引っ張られていく。
だが空をふわふわ飛んでいた『いつもすやすや、漂う怠惰』ニャムリが両手に展開した肉球魔方陣からキャットリードとマタタビビームをそれぞれ発射。Trachurusの動きと魔法を封じにかかる。
「頑張ろうって気持ちが、凄く伝わってくる。
点いつも。今だって眠いし眠ってしまいたいけど、今回は我慢。
あんなに頑張る姿は、昔のぼくみたいで…きっと『先生』は、そんな人を支えてあげるから」
「ふむ。よい覚悟だ。吾輩も手を貸そう」
Trachurusが放ったなけなしの真空刃を自らのボディでうける『おおめだま』ダーク=アイ。
異常状態を無効化し、かつ自力で浄化をはかる。
「廃滅病とかいう呪いは医者に喧嘩を売っているな。治療方法が魔種を倒すとは点。
だがしかし、患者を救うためならやらねばなるまい。
この一戦、勝利して廃滅病を根絶してやろう!」
超蒸気機関によってプロペラ飛行する『ダークネスドクター』ヤタガラスがTrachurusを頭上から押さえつけるかのように封印術式を放射。
苦しそうにもがくTrachurusに、最後の打撃をあたえるべくアタックチームが飛び出していった。
「この身体が役に立つ場所があるとはな。
こんな日にはこういう曲が似合うだろう……」
『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラーはギターを力強く奏でると一度反転。ネック部分をライフルのように握り込んで魔術砲撃を発射した。
「わあ、禍々しい魚!何だかやりにくいなあ、災厄だって?
これはいわし、エンジェルいわし! エンジェルいわしだと思って戦おう!」
おいでー! と叫ぶ『クソ犬』ロク。船室へ何匹も収められていた子ロリババア(知らない人のために説明するとロリババア顔のロバである。PPPで子ロリババアという文字をみかけたら全部これだと思っていい)がノジャーと叫びながらTrachurusへ突進。決死の突撃をしかけ何匹かはほんとに死んだしこの後精肉されるらしい。なにこれこの一行だけ狂ってる。
「決戦、多くの人が向かう。なら、おれも。
――油断、禁物!」
更に『修行中』グランディア・エンデバイと『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオが飛びかかり、Trachurusの上にのぼって頭をひたすらに殴りつけまくった。
「今一番忙しい時期と聞いて手伝いに来ましたの。コャーコャー、海って初めて出たけど、船から落ちたら火が消えて死にそうなのよね。それにしても、スカイペンギンといい寿司ガトリングといい海のいきものってよく飛ぶのねぇ――っと!」
そこへローテーションタンクによってひとりの戦闘不能者も出さずに残った仲間達が加わり一転しての一斉攻撃。
Trachurusアナザータイプは天へ吠えるような声をあげ、がくりと力尽きる。そして船から転げ落ちるようにして海の底へと沈んでいった。
●龍になれなかった男
鋼のように固い鱗。右目が四つ左目が三つ。四対の羽根に長い尾。まるで絵本に描かれた悪いドラゴンさながらの怪物が船を破壊して飛んでいく。
討伐目標の変異種、ドレッドアナザータイプである。
「さてはて、飛び入りで参加したものの……鰐のバケモノにボウガンが効くもんなのか。大怪獣バトルとか、只のトレジャーハンターには荷が重いよ全く……」
船からボウガンの狙いをつける『インナーボイルド』ヴィンス=マウ=マークス。
「うわぁ〜〜!! すごく大きなワニだね! でも此処で負けるわけにはいかないから、勝つよ!
勇気のプリマ、プリマルベライト!』――変身!」
『魔法少女プリマジュエル』明日乃 ひかりはイヤリングに宝石をはめ込み数秒で変身。服装や髪型や瞳の色までもを『プリマルベライト』のものへと変身させると、マジカルステッキを突きつけるように構えた。
「この世界ではまだ正義の味方としての力は弱いけど……それでも! 今のボクにだってやれる事はあるんだ!」
「まぁ、やらないと大変な事になるみたいだし、手は抜けないよな」
ヴィンスとひかりはそれぞれ空を舞うドレッドアナザータイプへ矢や魔法の光線を発射。
海洋海軍の船たちよりもこちらを落とすことが先決だと判断したのかドレッドはそのいびつな目をぎろりとひかりたちへ向けた。
「フハハハ!さすが魔種とやらの支配域! 神話にも劣らぬ怪物級の多きことよ! それに比べ人間は何と小さく弱いものか!」
笑いながら前へ出る『鉄帝の守護者』グェルド。
直後に浴びせられる強烈なブレス攻撃。
「しかしそんな存在を守るこそ我が本懐! さあ来るがよい怪物ども! 我の守るこの船この領域を侵すことは不可能と知れ!」
鏡ような盾に反射の魔法をかけると、グェルドはブレス攻撃によるえげつないダメージ量のうち一部を相手へはじき返した。
反射戦法は戦力差があればあるほど、そして味方が多ければ多いほど効果を発揮する。ドレッドアナザータイプ一体に対して実に43名ものイレギュラーズが参戦したいま、彼の戦法ははまりにはまっていた。
「廃滅病に苦しむ私の友人たちを一刻も早く治してやりたいのだ。
だから……私たちの前に立ち塞がるなら倒すだけだ!」
『暴風バーテンダー』モカ・ビアンキーニは自らの船の屋根部分に飛び乗ると、船をかみ砕こうと襲いかかってくるドレッドめがけて跳躍。強烈なキックによって迎撃を試みた。
あまりに違いすぎるサイズ差。まるで小さな魚が怪物に飲み込まれるかのごとき風景。
だがしかし、モカに……その仲間達に絶望はなかった。
なぜならば。
「はわわわ……あの怪物リアル過ぎ、リアル過ぎません!?
大丈夫かな、周りの人達強そうな雰囲気の人多いから大丈夫だよね……良し!
わたしも頑張りますよー」
「ちーと出遅れちまって作戦に参加する余裕もねえんで……ここらで立ち回らせてもらうわ」
「リリィがどんなにおおけがしてもからだがちょっとでもうごくならわるいやつをころすためがんばってうごくの!」
共に飛びかかった『幻想の冒険者』観月 四音、『天衣無縫』ニコラス・T・ホワイトファング、『リリィの正義の名の下に!』リリィ=B=ストライプたちが一斉に攻撃を集中。
「まさか、この世界にやってきて早々、大きな戦いに巻き込まれるなんて思わなかった。とりあえず、先ずは生き残る事を先決に頑張ろう」
「わたくしが、わたくしとして、ここにいること。
これだけは、余人にゆずることのできぬ、わたくしだけの使命と存じます。
ですから、わたくしはここにおります。
――ここに、おります」
更に『探究の冒険者』ルネ=エクス=アグニス、『半妖の依り代』斑鳩・静音、『月の蝋燭』チャンドラ=チャンドラーたちによる回復支援が集中し、ドレッドと互角のぶつかり合いを見せた。
木っ端な船のごとくかみ砕けないと察したドレッドは一度飛び上がって距離をとり、再び上空から炎のブレスを放射。
「うっし、これが決戦だ!
アルバニアを倒しにいくみんなのためにおれっち達もここでひと踏ん張りだぜ!」
『金波銀波』リック・ウィッドが自分の周りに集まった仲間達へ複数の強化効果を重ねて支援を開始。
「鰐の攻撃は無理に受け止めず避けてください。
相手は1体です。取り囲んで四方八方から攻撃すれば当てやすくなります。一緒に頑張りましょう。
一撃は痛いですが、皆さんよく耐えてます。このまま攻撃すればきっと勝てますよ!」
更に『木漏れ日の妖精』リディア・ヴァイス・フォーマルハウトが集まった仲間達をまとめて治癒空間を展開。
ブレスによる炎を振り払うかのようなカウンターヒールが実現した。
ヒーラーの力は時として強固な防壁のごとく機能し、強敵の猛威から自分たちを守ってくれる。たとえ一枚一枚が薄くとも、束ねることで頑丈な壁となるのだ。
「何と言う事じゃ、人が足りぬと言っておったのに…我帰って良いかのう?
うぐぐ、全く…我はさいきょーじゃから鰐如きど~と言う事もないのじゃが、じゃが、此処は汝らヤル気勢に任せて我後ろで寝とるのじゃよ、良きにはからえ~」
そんな風に言いながらちゃっかり回復を手伝う『期待の新人』ベディヴィア・ログレス。
「ひぇ〜、なんか飛んでる〜。翼が8枚もある〜、いいな〜。
まぁ、私は飛べないし、この辺の人達の支援しよっか」
「TKRy・Ry…! 貴様のような下等種族が、我らイレギュラーズに敵うと思うな! その上我は天才で賢くて頭脳明晰で…とっても頭が良い種族な――うっぷ…TKRy……Ororororororo…」
「さて、海洋にはあまり興味も義理もないから静観していたのだけどね。
この段階まで来てしまえばそうも言っていられない。大一番くらいは働かないとね? 我がローレットの精鋭を見殺しには出来ないさ」
「去年訪れた賑やかな海洋の海の為に。シュテ、穏やか、海、シュテ、また、遊ぶ、したい…!
かいよー、わいわい、楽しー、だった、海! シュテね、シュテねっ、頑張るのっ!」
更に『羽衣教会会長』楊枝 茄子子、『旧支配者』古野 萌乃、『竜にあこがれて』クリスティーネ=アルベルツ、『こころの花唄』シュテルンといった面々の力が加わり、ドレッドのブレス攻撃を完全に振り払っていく。
仮に一対一で戦ったなら絶望的な怪物だが、こうして集まることで一人の戦闘不能者を出すことなく戦線を維持できているのだ。
とはいえスタミナには限界がある。ヒールウォールがギリギリ機能しているうちに決定打を与えておきたいところだが……。
「えっとー。この鰐を倒してお鍋にするの? 美味しくなさそうだけど…まあ、いっか! とりあえず、やってみてから考えよー!」
『悪戯なメイド』クランベル・リーンが猫さんマークの船をだし、ドレッドの側面方向をとらえた。
甲板にずらりと並ぶスナイパーチーム。
「怪物を討ち倒すのは英雄、ここならきっと新しい英雄と、英雄譚と出会えるでしょう?
…それにしても鰐とか言うあの『モドキ』何故かしら、見てて不愉快だわ。
あんな『モドキ』、一撃で消し飛ばせないのがもどかしい」
異世界からきたドラゴンこと『落陽を望まぬ者』アリーヤが己の内に秘めた膨大な魔術をドラゴンブレス(龍の言葉)によって練り上げていく。
「お祭り騒ぎだ決戦だーっ!!
ここが頑張りどころ、頑張っていくよー!祝勝会も楽しみだねっ!」
『猫のワルツ』スー・リソライトもドレッドを引きつけるべくダンスのステップを開始。テンポが早くなっていくにつれてドレッドがこちらを向くのを、『ガスマスクガール』ジェックはライフルのスコープ越しに確認した。
「泳ぐノハそんな得意じゃないンダけどな……戦場じゃオチても助けはノゾめないし。
マ、できるトコまでヤってみようカ。口のナカをネラうのが一番”キく”だろうから、アタシ達はソコまでの支援をシヨう」
耳元で『にゃ……』とかいう白猫の幻影がライフルにしがみつき、射撃と共に飛んでいく。
「ウ……祝勝会は……鰐の出汁デモ飲ませてオクレ」
「え”っ。これ…食べるのっ!?」
「その後の祝勝会も任せて貰って大丈夫だよ!
色々美味しいご飯を作っちゃうからね! でもやっぱり鰐鍋はあんまりオススメできないんじゃないかな~…?」
「『血と菩提樹の印を受けよ。』…わたしの血を受けたからには、半端は許さないわ?」
クランベルのライフルショットやアリーヤの砲撃が集中し、ドレッドの顔側面に直撃。並ぶ目を激しく焼き、そしてえぐった。
怒り狂ったドレッドが急速に迫る中、『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロと『反撃の雷鳴』アトゥリ・アーテラルが身構える。
「すごく、大きな鰐です、ね……空も飛ぶ、なんて。それに、ビームも……。
食べたら、ビームとかすごいものが出せそうです、ね」
「……早くも地面が恋しいのです。そのためにも、この鰐をとっととぎたんぎたんにするのです。鍋は…いえ、私は遠慮しておくのです…」
フェリシアの繰り出す『スケフィントンの娘』。アトゥリの繰り出す『ロベリアの花』それぞれが相乗効果をもってドレッドの肉体を侵し、蝕んでいく。
あまりのダメージに口の端から血を吹くが、しかしドレッドの勢いは止まらない。
「畑仕事をしとる間にまた大変なことになっとったんじゃなあ。まあたまには海産もいいかのう!
って空飛ぶ鰐ってなんじゃ…見間違いかの? 口からビーム出しとるし!
…やっぱり混沌こわい、もう田んぼの世話に戻りたくなってきたんじゃが…」
もう帰りたい『田の神』秋田 瑞穂が咄嗟に防御用のヒールを展開。
「えっ、食べるんですか!?
……こほん。と、とにかく。微力を尽くさせていただきます。
大丈夫、頼れる皆さんが居ますから」
『支える者』フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウも同じく防御用のフィールドを展開し、彼女たちの周りには黄金の稲穂がなみうつ幻影と拒絶による心象風景が映し出され――。
「あまり海洋の依頼は気乗りしなかったんだけれど、泳げないし。でも今回ばかりはそんなことを言ってられないものね」
ひとり前に出た『乱れ梅花』白薊 小夜がドレッドの激しい噛みつき攻撃を防御した。
「この身、この一刀を以て絶望の先への道を切り開く一助を担うとしましょう」
透明な球形のフィールドに包まれ、目を閉じたまま刀の柄に手をかける。
かちりと刀身を見せたその次の瞬間には完全に抜刀しきり、そしてドレッドアナザータイプの翼のうち右側すべてを切り落としてしまっていた。
「――■■■■■!!!!」
本能的に上空へ逃げようとして失敗。
不格好な滑空によって近くの小島へと不時着し、派手に土をえぐりながら滑っていった。
翼を失い墜落したドレッドアナザータイプ。無事な左目をぎょろりと動かし、地に足をつけて起き上がる。
そこへ一台の自動車が停車。ドアを開いてイレギュラーズたちが下りてくる。
「なるほど、此方は火力が異常に高い相手ですか。その口を狙うのは少々怖いですね。では防衛は他の方に任せ、自分は手足を振るわせて頂きますね」
(理性もなく知能もなく暴れるだけ。それでもいいなんて我儘かな。どちらにせよ負ければ彼に後はない……)
「僕は僕にできることをやりましょう。また置いていかれたくないもの」
そんなドレッドの前に立ち、『胡散臭い密売商人』バルガル・ミフィストと『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月はそれぞれ身構えた。
ブレスレットと指輪を介してエネルギーを引っ張りだし、氷の剣を作り出す睦月。
一方のバルガルはニタリと怪しく笑ってドレッドの右側面。潰された目の側へと走り込んだ。
両側からサンドする形で接近し同時攻撃――を仕掛ける直前、『花は散らず』箕島 つつじと『小夜啼鳥』ハンス・キングスレーが両サイドに加わった。
「っつーか鰐っぽいのにブレスなんて吐くんか?
そらドラゴンやろ! いや、それだけ変異種が恐ろしいって事なんやろうけど……でも退くのは無しや。出来る事がなくなるまで全力で殴るで!」
「弱者にはさ、弱者なりの立ち回り方ってものがあるんだよね……!」
左側からは剣による斬撃。右側からはダブルキックを浴びせ、そんな彼らを振り払おうと大きく飛び退きファイアブレスを発射した所へ『天狗』河鳲 響子と『石柱の魔女』オーガスト・ステラ・シャーリーが割り込んだ。
「私が援護しますので響子さんは危ない前線で頑張って避けてください。
ちょっと船酔いしてますが手は抜きません。響子さんが倒れたら私も危険ですからね」
「相変わらず一言多い方ですね、まったく!
それにしても空を飛ぶ鰐なんて初めてみました。ふふ、今の私がどの程度通用するか試させてもらいます…!」
オーガストが大地に手を押し当てたことで生まれた治癒のステージ。
「この河鳲 響子、全力を以ってお相手します!」
響子はその上で跳躍するとファイアブレスへ真っ向から突っ込み、ドレッドの鼻先へフライングキックをたたき込んだ。
「海洋の情勢には疎い上に遅参してしまったが、その分支えるとしよう」
「うむ、うむ。英雄譚の初戦としては申し分の無い難敵。狙うは口じゃ。上からぶったたくのじゃ」
新たに参戦する『影雷白狐』氷瀬・S・颯太と『殿』一条 夢心地。
それぞれ抜刀すると、サイドから飛びかかり上から下へ叩きつけるように斬撃を打ち込んだ。
と、その時。
蓄積されたダメージにボディが耐えきれなくなったのか、ドレッドアナザータイプの巨大な肉体がぼこぼこと沸き立つように変形。しまいには内側から盛大に破裂した。
やったか!? と誰かがつぶやいてから、ハッとして口を押さえた。
やってないフラグだから。ではない。
腐った肉の如く崩れゆく巨体の中から、一人の男が姿を見せたからである。
「ああっ!? メイプル印の鰐皮財布として売りまくる計画が!? というか誰ですのあれは!?」
頭をかきむしる『ベリーベリーベリー!』メイプル・B・エレガンス。その横で本能的に身構える鬼怒川・辰巳。
「でっかいバケモンもやべーと思ってたけど……『元に戻った』ってわけじゃあ、ねーんだよな?」
「…………」
『匣の屍人』ボディ・ダクレもまた本能的に構え、そして相手の出方をうかがっていた。
その時である。
ぼう、と風がはぜる音がした。
急速に距離を詰められ、いつの間にか吹き飛ばされているメイプルたち。
男はいつのまにか振り抜いた拳を突き出した姿勢のまま、四つの右目と三つの左目をぎょろりと動かした。
ドレッドアナザータイプ・アドバンス。変異の進行によってさらなる強化を果たした凶悪な個体である。
「今回は私の学習の為に参戦を願望しました。集団戦、海上戦闘、変異獣。全てが未学習です。
この依頼は未知のデータの塊で構成されています。素晴らしい。表現するなら『宝箱』です」
ううむと唸ってヘッドモニターにノイズを走らせるボディ。
「いってる場合か! 追撃くるぞ!」
辰巳の叫び――と同時に、『働き人』アンジェラがドレッドたちとの間に割り込んできた。
ほぼ無防備な少女がドレッドの殺人的な拳によって派手に吹き飛ばされていく。
が、どういうわけかボロボロの状態のまま立ち上がり、さらなるパンチで吹き飛んでいく。
(こな私を助けて小さな子――アンジェラさんが傷つく姿は、見ていられません。
この苦痛から逃れるには、早急な勝利を祈るしかありません。
もしも力及ばぬとしても、私のために小さな子を傷つかせてしまった罪を滅ぼすため、最期まで祈り続けましょう)
手を合わせ祈りを捧げる『自然を想う心』エルシア・クレンオータ。
彼女たちにドレッドが気を取られている間――メイプル、辰巳、ボディは一斉にドレッドへと襲いかかった。
首に抱きついた勢いで引き倒すメイプル。そこへ渾身のエルボードロップをたたき込む辰巳。助走をつけたボディによる脇腹へのキックでドレッドは派手に転がっていった。
対してドレッドはバウンド。回転。拳と片足で着地&ブレーキをかけ、残った足で地をけることで弾丸のごときスピードで突っ込んでくる。
そこへ新たに割り込んだのは『七十抜刀』夜式・十七号であった。
鞘に収めたままの刀によって拳をとらえる。
「私の名は十七号。よく聴け、醜い醜い怪物よ。
お前がこの艦隊を沈めようと言うのなら、せめてちっぽけな絡繰人形を壊してからだ!」
すさまじい速度で動くドレッドATAを引きつけるのは容易ではない。
この世界に召喚されたばかりでこの戦場へやってきた十七号には荷の重い相手である。
が、しかし。
『力を合わせて強大な敵に打ち勝つ』という現象が、実にロジカルに引き起こされるのがここ混沌世界である。
仲間達の度重なる攻撃によって生まれた隙。小さくも蓄積されたそれは決定的なチャンスとなって十七号に引き継がれた。
このタイミング。ドレッドは十七号を決して無視できない。
彼女の肉体をバラバラにできるほどのハイキックが繰り出されるが……刹那、『新たな可能性』ソニア・ウェスタの送った治癒がギリギリのところで十七号を踏みとどまらせた。
(こちらに召喚されてから、早々にこのような大きな戦いに参加することになって……。
正直なところ、まだ自信はありません。恐ろしいです。今私は、震えているのでしょう。
でも、震えてばかりではだめ)
「このままではお父様や、お姉様たちに顔向けができません」
そうして稼がれた数秒。
その数秒さえあれば。
「――いっとくけど、おまえがしぬのは今日だから」
「――私達は一人ではないのだもの」
「――その首を獲らせてもらおう!」
『妖精騎士』セティア・レイス、『特異運命座標』遠野・マヤ、『女脳筋士』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデルの三人が急速に距離を詰め、七色に光るゲーミング斬りを、超高速斬り逃げダッシュを、力任せのダブルソードアタックを続けざまにたたき込んだ。
ブレーキをかけ、ドレッドを背にしたまま見栄を切る三人。
その後ろで、両腕と首を切断されたドレッドはあの巨大なボディ同様腐肉のごとく崩れ去った。
●一方的な約束。一方的な崩壊。
いち艦隊クラスの戦力をもった変異種たちが次々と倒され、海の藻屑となっていくさま。
この物悲しくも彼ら側からすれば絶望的な光景を、『人喰和邇』八十神劫流は腕組みをして満足そうに眺めていた。
「フン……せいぜい両手で数える程度の戦士が出てくる程度かと思えば、えらい大歓迎だな。奴らもさぞ本望だろうよ」
圧倒的な人員を揃えたローレットによる、見るからに圧倒的な勝利。
そして今から始まるのは、勝利のあとさきに語られる余白の物語である。
「仕方ねえ。ここはひとつ、儂が出てやるほかあるめぇよ」
ローレット連合艦隊は総勢200名余りの大艦隊を組んで数々の巨大怪物を撃滅。 そのうち16名ほどの人員が、戦場から離れた場所で見物している八十神の艦隊へと迫っていた。
それを阻むようにぶつかる幽霊船。
「アンラックセブン…そうか…。どうやら『あのカス』は居ねぇみてぇだが足取りを掴むいいチャンスだな。援護しろメルト」
「援護など! 共に肩を並べて戦いましょう、勇者よ!」
「ハッ! 言うじゃねぇか! よし、あのジジイをぶん殴って、いけすかねェゴミ野郎の居場所を炙り出す!」
「あの瞳は、覚悟を決めた者の目。国の終わり、そんなものどうしたって見たいと!? 導きたいと!? それが八十神の『義』なれば、我等イレギュラーズも相応の覚悟で止めましょう!! 貴方の夢は、叶わない いえ、叶わせない。それが答えです!!」
『勇者の使命』アラン・アークライトと『聖少女』メルトリリスが幽霊船へと飛び込み、アンデッド兵たちを圧倒的なパワーで蹴散らしていく。
それでも数の力で押し返されそうになった所へ、『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハートと朝倉 まいちが乱入した。
「また、大きな戦いが始まってしまった。誰かが命を落とすような事は、起きて欲しくない。この身一つが、小さくとも役立てば良いのだが――」
「落ち着くのよ、フェルも一緒だもの。大丈夫よ。私の中の鬼が騒ぐ、でも抑えつけるわ」
まいちに声をかけられ、頷くフェルディン。
「海が荒れているのは穏やかじゃない。もう少しで楽しい海の季節なのに、こんな荒らし方は辛いわね。行きましょう」
「ああ。レオンハートの名の下に――いざ、勝負だ!」
二人の剣がアンデッド兵たちを切り払い、道を少しずつ切り開いていく。
とはいえ八十神に通じるまではまだ足りない。まだ半分ほど足りなかった。
で、あれば。
「八十神が危険な相手だってのは理解しているが……奴にききたいことがある仲間がいるっていうからな。その手伝いにきたぜ。
あいつらが頑張ってるんだ。まだくたばるわけには、いかないよな!」
「俺もだ。個人的な心情で此処には助太刀させて貰うぜ。たぶん、爺さんが居たら此処に行くだろうしな。手伝うぜ、情報の一つや二つ持ち帰ってやろうじゃねえか、露払いはやらせて貰うよ」
『探し求める』剣崎・結依と『無道の剣』九条 侠が新たに参入。
「祓い給へ!」
結依は壱式『破邪』によるアンデッド特攻術で次々に破壊し、侠は持ち前の豪快な剣術によって敵の防衛を切り崩していく。
「やれやれ、これだけ多いと後処理大変そうだなあ。っと、危ね!」
八十神へ届くもう一歩のライン。
そこへ『ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニアが剣をとって飛び込んだ。
「最後の最後まで、不恰好にでも踊ってみせる」
かつての世界で見せたほどの力は確かに召喚時に弱められてしまったが、彼女のもつ美しい剣さばきやしたたかなな心はいまだ健在であった。
そんな仲間達に切り開かれた道。
ついにローレット・イレギュラーズは八十神の乗る船へとたどり着くに至った。
その船が掲げた名は特異運命座標組織《アイオンの瞳》。
全十三及一席のうち半数以上が一つのチームとして集まり、ひとつの敵へと挑む。
組織の成り立ちからしてローレットの古参勢ばかりで構成される彼らの、これは久方ぶりの共同作戦であった。
「第三席 八田 悠――この面子で動くのも久しいね、少しばかりイイところを魅せたいものだよ」
『祖なる現身』八田 悠が独自の世界空間を展開し、仲間達を治癒しながらぐいぐいとラインを押し上げる。
「第零席 ローラント・ガリラベルク。
この世界の行く末に関与するつもりは無かったが、友人がゴリラの手も借りたいというのでね? 私は、友人は大切にする方なんだ」
『GORILLA』ローラント・ガリラベルクがそうしてあげたラインを屈強な拳によって掘り進める。
「男女の逢瀬を邪魔しようというのは、あまりに無粋というものだ」
「そうさ姫喬。君流に言うならば、だ。ケツは持つ。だから、行け!」
『精霊の旅人』伏見 行人がH・ブランディッシュがたたき込み、アンデッド兵を爆撃。
(歩みを止めるな、思考を止めるな。味方が気圧されそうになったら背中を叩き、不敵な笑みを浮かべて佇んでいよう。俺は用心棒さ…)
『鋼鉄の谷の』ゲンリーと『堕ちた光』アレフはそれぞれ敵陣へ突っ込み、斧や剣を豪快に振り回した。
「第十席 ゲンリー! 久々の戦じゃな。腕が鳴るわい。
右も左も敵ばかり。功名の獲り放題じゃのう! いくさばで存分に斧を振るう。これぞドワーフの本懐よ」
「第十三席 アレフ。我々のすべきに変わりはない。第一席、君の本懐を果たせ。我々で道を作る。
……しかし撃っても撃ってもキリが無いな、これは」
そう言いながら、二人は斧によるインパクトと金色の魔力砲撃によってアンデッド兵を無理矢理破壊。
その砲撃はついに、八十神へと到達した。
手に生み出した炎の剣。『偽製火折尊』を振ることで砲撃を破壊した。
「燕黒の。貴様も虎の子を出してきたというわけか」
「そういうわけさ八十神。あんたが化骨衆を出してきたように、あたしにも『彼ら』がいるんだよ。いっひひひ!」
ギザギザの歯をみせて、『猫鮫姫』燕黒 姫喬は『八尋火』を抜刀した。
「アイオン第九席。ノインウォーカー。……、これ、毎回名乗らないと駄目なんですか?」
左右から迫り間に割り込もうとするアンデッド兵を、『時計塔の住人』ノイン ウォーカーが投げナイフによって破壊。
「みせてもらいましょうか、意地が勝つか力が勝つか。
俺ァどっちも楽しみですが……どうせなら強者が膝着く様を、どうしたって見たいもんですよ」
「第七席、新納 竜也……。
国崩しに至るとは、なかなか稀有な人材だ。
社会のはみ出し者の破壊者は、時に、新たな国の創造主ともなろう。
奇貨置くべし! といきたい所だが、此度は、姫(燕黒)の舞台」
『ユニバース皇子』新納 竜也は腰から抜いた二丁拳銃を反対側のアンデッド兵へ連射。更に手榴弾を投擲した。
クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワが蝶のごとき翼を羽ばたかせて飛び上がり、頭上からアンデッド兵たちへ魔術爆撃をたたき込んでいく。
「第四席 クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ。
私もこのネオフロンティアで民を束ねる身。此度の首謀者には怒りも尽きませんが……精々壁の花とならぬよう、不死者と派手に舞いましょうか」
こうして切り開かれた道を姫喬はまっすぐに突撃。
八十神の剣と自らの剣をぶつけ合わせ、赤と青のスパークを散らした。
――直後、姫喬の肩に八十神の手が伸びる。
触れた途端に肩がバキンと外され、次の瞬間には地面にたたき落とされる。
「答えな! わざわざ廃滅患って出てきたのは、この海を死出の花道にでもするつもりだったのか!?」
しかし姫喬は相手の足を掴んで無理矢理引き倒す形で逆転。
「前に言ってたねぇ。古い約束って。あのアルバニアと契ったのかい?」
「ハッ……嫉妬の魔種にすがるほど世を妬んじゃいねえさ」
化骨衆を失い、アンデッド兵も払われ、いま八十神は姫喬と対等にぶつかり合うひとりの男となっていた。
組倒された側でありながら、しかし八十神はにやりと笑う。
「本当の地獄を知ってるか。地獄とは、人を愛せなくなることらしい。
儂はその地獄に生まれ、その地獄に住んでいる。それはいい。
だがある日、友が同じ地獄へ落ちた。地獄で永遠に生きさらばえるハメになった。儂はな燕黒、奴が本当に世界を壊したくなったとき、壊してやると決めたのだ」
「奴…………そうかい。ドレイクだね?」
姫喬は目にすこしだけ優しさを込め、八十神の肩に刀を突き立てた。
――直後。無数の砲撃が船へと浴びせられる。
八十神の船がアンデッド兵もろとも破壊され、肩に傷を負った八十神は自ら海へ飛び込むことで姫喬たちから撤退した。
味方の船にひきあげられ、姫喬たちは振り返る。
完全勝利に沸く海洋海豹艦隊と、小さな船で遠い海へ撤退していく八十神。
全てを自ら投げ捨てて、二度と戻れぬ海へと逃げていく彼の姿はどこか、偉大なる海賊ドレイクに秘められたあの伝説に重なるようだった。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
敵味方の誰もが予想しなかった規模による大増員。そしてそれぞれが自らの役目を果たそうと努力した結果、この海域での作戦は大勝利を収めました。
海洋海軍の被害はまさかのゼロ。
ローレットの被害も軽微におさえられました。
GMコメント
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
■オーダー
成功条件:変異種5体すべての撃破
現在海域には鉄帝大猿艦隊、海洋海豹艦隊、ローレット艦隊がそれぞれ終結。
敵側には幽霊大艦隊及び八十神化骨衆変異種隊がついています。
戦力は五分と五分。
鉄帝と海洋は幽霊船を担当し、そのうち一部の少数精鋭戦力がローレットと共に変異種と戦います。
・パート分けについて
変異種5体はみな強敵です。
相談掲示板を利用して各10名以上になるようにチームを配分するようにしましょう。
敵の能力特徴にもよりますが、ヒーラーやタンクといった役割分担も均等になるように配分できるとなおよいです。
・エネミー特徴
ローレットが(成功条件達成のために)戦うべき敵は変異種のみ。
この変異種たちはいずれも元々が強力だったこともあり、10人規模で連携しあって戦うべき強敵です。
ゼニガタ将校は『ハメ技は超困難』『予測戦闘不能者は2~4割』『油断すると即やられる』と話しています。
極論20人規模になればやや安全に戦うことも可能なようです。
※変異種とは
廃滅病に罹患した人間に海の怨念であるコフィン・ゲージが憑依することで発現する怪物化現象。多くは理性を失い強力な怪物となる。
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■パートタグ■■■
変異種およびオプションのうちいずれかのパートタグを【】ごとコピペし、一行目に記載してください。
・【鰐】
ドレッドアナザータイプ。
巨大な鰐に似た変異種。
ブレス攻撃の破壊力は船が半壊するレベル。
高火力で【防無】攻撃をもち、高いHPが特徴。
タンクは回避型を、ヒーラーには純粋にHP回復量の高いメンバーを配置すべし。
・【天】
Trachurusアナザータイプ。
空を泳ぐ巨大なリュウグウノツカイ。
呪いや毒を込めた真空刃を大量に放つ。
ダメージ系、行動不能系、能力低下系といったあらゆるBSを使いこなし、その全てに【災厄】がついたかなり凶悪な個体。広範囲【呪殺】攻撃も有するため無効化しても油断は禁物。
タンクにはBS無効型、ヒーラーにはBS回復型を配置すべし。
・【亀】
スッポンアナザータイプ
盲目の長い頭が六つ全ての穴から伸びた巨大な亀の要塞。
海上を船のように移動し、海中空中問わず甲羅から無限に生成される砲台で攻撃する。
主に音や臭いで感知するため、隠密能力があると攻撃には有利。ただし陽動係もいないとすぐバレるのでちゃんと配分しよう。
また、防御力が高いのでアタッカーは【防無】や【弱点】といった攻撃が有効。
タンクは砲撃ですぐ吹き飛ばされるので複数つけること。ヒーラーはより複数を回復できたほうがよい。
・【魚】
タイガアナザータイプ。
海中を移動する大柄な半魚人。
両手の指に銃口、腰や足にジェットがついており高機動な射撃&格闘戦闘を可能とする。
戦場が水中に限定されるため、全メンバーに水中呼吸OR水中行動があるとよい。
戦闘能力自体はバランス型であるため、タンクやヒーラーの傾向と問わない。
・【泥】
泥泥アナザータイプ。
船一隻を取り込んだ巨大な泥の船。
次々と泥の小舟を生成しひとり艦隊化する。全ての船には砲台がついており、砲撃戦がメインになる。
海上での航行能力も相まって、戦う場合はかならず船にのって併走ないし追走しながら砲撃戦を行うことになる。
小型船保有者が望ましく、複数の船で挑むべき。
泥泥の表面にはこちらの能力を強制ダウンさせる性質があるため、攻撃方法はレンジ3以上はあったほうが有利。
・【八十神】
『人喰和邇』八十神劫流。
暗殺集団化骨衆の首領でありアンラックセブンのひとりと目される非常に危険な人物。
外洋遠征がらみだけで見ても、彼のはたらきで七つの貴族と五つの基地が壊滅しいま三つの艦隊が危機に瀕している。
これまでは体内に取り込んだ宝刀『火折尊(ほのおりのみこと)』の力を使った大ぶりな戦闘ばかりを見せてきたが、今回は本気モード。
特技である人体破壊を用いた必殺の攻撃と、火折尊を用いた炎の攻撃を複合してくる。
また移動は幽霊船で行い周囲にはアンデッド兵もいるため、彼を倒しきるのは難しい。
※成功条件達成のためには攻略の必要が無いパートです。
人数配分がうまくいった際に数人投入する程度で考えておきましょう。
『なぜこの戦いに加担したのか』『アルバニア勢力において彼の立ち位置はなんだったのか』を知る手がかりとしてこのパートは存在しています。
●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
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