シナリオ詳細
<Gear Basilica>歯車仕掛けの大戦争
オープニング
●大進撃歯車大聖堂
ゼシュテル鉄帝国首都スチールグラードへ向けて、巨大移動要塞『歯車大聖堂(Gear Basilica)』の進撃が始まった。
歯車大聖堂は道中の村々を物理的に飲み込み自らのパーツとすると、己の姿を異常なまでに拡張し続けながら突き進み、内部から放たれた洗脳兵士『スネグラーチカ』は近隣の村々から様々な物資を略奪しては持ち帰り、歯車大聖堂内部の炉へと投げ込んでいく。
そしてその狙いは、ついに首都へと向いたのだ。
「市街地の避難は進行中ですが、兵士はといえば……」
首都を目前にした街では、こちらへ向けて突き進む歯車大聖堂を物理的に停止させるための部隊が展開していた。
しかし海洋王国外洋遠征の護衛契約や、天義や幻想に向けた防衛、その他各村々に派遣した兵力によって充分な数をすぐさま揃えることはできずにいた。
だが……。
「将軍。ローレットより通達。『依頼受理』……繰り返します、『依頼受理』!」
鉄帝首都に建設されたゲートより、大量のイレギュラーズが空中神殿経由でやってくる。
数百という数の兵力が、ローレットによって満たされたのだ。
「勝てるかもしれない。彼らがいれば……あるいは……」
●大聖堂停止作戦
「やあ、またひどいところに来ちゃったね」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は大量のイレギュラーズの中でも選りすぐった150名の前に立ち、今まさに迫り来る巨大な怪物を指さした。
「移動要塞『歯車大聖堂』。暴走した古代兵器が近隣の村々を喰ってできあがった姿さ。
あれが今度は首都を食らおうと迫ってる。もちろん首都そのものの防衛は堅いけど、周辺の村や人的被害まで防ぐのは難しいだろうね。
俺たちの仕事はそんな村々を救うために、あのデカブツを止めることだ」
人間とは比べものにならないほど巨大な古代兵器をいかにして止めるのか……と鉄帝の将校に尋ねれば、帰ってきた答えはこうだ。
『殴って止める』。
「いいかい。歯車大聖堂からは大量の歯車兵士と自律兵器が飛び出して、展開してる。
これを撃破して道を作るチームが必要だ。
その上で、突き進む歯車大聖堂に直接的な攻撃を加えてなんとか動きを止めるチームが要る。
といってもああしてガシガシ突き進んでくる移動要塞がただ一方的に攻撃を受けるだけだなんてアマい話はないよね。
搭載されてる大量の武装で攻撃してくるはずだ。それを防ぎながら攻撃を仕掛けなきゃならない。
とんでもない重労働だ。
けど……ここに集まった皆ならできると信じてる。
今までだって、いろんな窮地を乗り越えてきただろう?」
●黒き御手の物語・末章
始まりはひとつの略奪作戦であった。
鉄帝北部の小部族地域数カ所を制圧し鉄帝国の一部とすべく、特殊部隊ブラックハンズが派兵された。
鉄帝より発掘された古代兵器で装備を固めた精鋭部隊にとって小部族制圧は赤子の手をひねるようなもの。彼らのわずかな武器や兵力すらも取り込んで、彼らの部隊は力を増し続けた。
だが兵とて人間。はじめは潤沢であった物資も制圧作戦を転々と続けるうちに尽き、本国に本格的な補給要請を送るまでになった。
だが本国より帰った通達は『必要物ハ現地調達セヨ』の十文字のみであった。
これが小集落や村々から接収という名の略奪を行うことを指していると、部隊長は深く理解していた。
敵国ならまだしも中立的な、そして抵抗力を持たぬ民間人からの略奪に躊躇する兵たち。しかし制圧任務を飢えと渇きの中で行うことの危険を、知らぬわけではなかった。
部下の命と民間人の未来。その二つの取捨選択に誰もが迷った、その中で。
部隊長ただひとりが、最短かつ最適の行動を即座に示して見せたのだった。
……それが思えば、全ての始まりだったのだと思う。
「美しい有様だった。黒衣に身を包み顔を隠し、敵兵のふりをして村を襲う。
泣いてすがる村民を蹴り飛ばして食料庫をあさり、老婆を張り倒して金品を奪う。
弾薬を節約するために殺すことすらせず、冬を前にした村に火だけを放って撤収した。あのあと村民が限界まで苦しんで死ぬことすら厭わず、ただ部下の命と任務の続行を優先してだ。
おかげで無事に任務は達成され、鉄帝国はさらなる資源を手に入れた。本国で飢えていた民は満たされ、凍った海に絶望していた者たちも生き延びた。
『赤き嵐』の奇跡だよ」
元鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒは穏やかな笑顔でそう語った。
誰に?
否。誰にでもない。
なにも存在しない虚空に向けて、いもしない友人に向けて雄弁に語り続けている。
「その時より決めたのだ。
未来は奪い取るものだ、と。
弱者が強くなるためには、奪い取るしかない、と。
『赤き嵐』が私に教えてくれたのだ。あのようになればいいと教えてくれた!
そして私は、私は、私は……!」
大声を張り上げ、天をあおぐ。
回る歯車と吹き上がる白煙だけが、そこにはあった。
物言わぬ歯車兵と化した黒衣の集団が黙々と歩き、どこかから奪ってきたらしい物資を巨大な炉へと投げ入れては戻っていく。さながらアリの行列だ。
ショッケンは己の顔に手を当て、爪が食い込むほどに震えた。
「私は、何を手に入れたのだ。私はどうなった。私は、一体、何者になれたと言うんだ」
彼の胸から下は、もはや人間のそれではなかった。
歯車とネジとバネが大量に詰まった、それは人の形をした機械でしかなかった。
「教えてくれ、『赤き嵐』のアナスタシア。あの夜のように、私に未来を示してくれ。私は、私は、もう、誰になればいい……」
顔を覆ったショッケンに、無数の歯車兵器が群がり、彼の肉体に接続されていく。
誰にもなれなかった男はついに、何物でも無い怪物へと姿を変えた。
- <Gear Basilica>歯車仕掛けの大戦争Lv:15以上完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年03月03日 22時12分
- 参加人数150/150人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 150 人
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参加者一覧(150人)
リプレイ
●自由の防衛ライン
大地を踏みならして歩くあの巨大な聖堂が見えるか。
開く無数の扉から飛び出す歯車兵器に身を包んだ兵士や装甲戦車や魔道ヘリの群れが見えるか。
麦にたかるコオロギの群れのように。
餌に群がる獣の群れのように。
街を薙ぐ暴徒の群れのように。
それは『自動的な略奪』を機会仕掛けにしたような姿だった。
「隊長、マズいっすよ。ファイターたちは首都が落ちないならってキョーミ示さねえし、鉄幻戦線の連中はジーニアスゲイムがアト引いて動けねえし、海洋艦隊は出払ってるし、つか東西南北にたようなカンジで兵隊寄こせねえって……」
「で、ローレットだけは依頼に応じたと?」
「へい」
「何人だ? あんなデカブツ。50人もいればなんとかってところだが……」
「150人ですね」
「ん?」
「150人です」
二度見して振り返る首都防衛隊の隊長。
と同時にギアバジリカから無数の砲撃が成され、周囲の建物へと着弾。
爆発の黒煙が広がり、それを突き抜けて二人の少女が飛び出した。
新たに飛来した砲弾を交差する魔法剣によって切り裂くと――セララ&ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルクは防衛隊たちを追い越して歯車兵団へと突撃していった。
「魔法騎士セララ&マリー参上! 人々の平和はボク達が守る!」
「鉄帝軍人が一人、ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルグ。
軍人たるとも、自国と民を守る為に勝つ事こそ誉と知るがいい。
ショッケン、軍人たるもの国を害した貴殿は私は赦さない。生き残るために最善を尽すであります」
防衛隊の隊長は『あーあの魔法少女の』と頷いてから、慌てて部下達に命じて共に突撃を開始した。
商店街のスチール屋根を駆け抜ける氷彗とアオイ=アークライト。
「歯車仕掛けの兵団…初めて見るなあ、ちょっと変わった敵だね。でも、わたしのやることは変わらないね…みんなを脅かす敵は、わたしが斬るよ!」
「腕が鳴るな…偶然だけど俺も歯車使いだ。どっちの歯車のが強いか力比べと行こうじゃねえか!!」
ヘリから降下する無数の兵士たち。氷彗は巨大な氷結晶を、アオイは歯車をそれぞれ召喚。
無数に分裂させると兵士達めがけて解き放った。
「歯車相手に歯車で戦うのもまた、面白い感覚ですこと…おっと、鉄帝だけどここはあそこじゃなかった、危ない」
『あーあのメタ女の』と頷きかけて我に返る隊長。
兵士達がヘリから放つ機関砲の射撃やマルチミサイル。
爆発を振り払い、ステラ・グランディネとセルウスがヘリめがけてヴェノムクラウドを発射した。
「ただ、弱者から奪う事、犠牲を是とする在り方は未来がないと思いますよ」
「強者は弱者から奪い栄える、まあ弱肉強食を否定まではしないけどね。自国内でやるのは蟲毒じゃあるまいし、最後に一人だけ強い者が立ってても意味ないんじゃないかな」
むせながら飛び出してきた兵士をパイロキネシスで吐き払うセルウス。
墜落して爆発炎上するヘリを背にセルウスはアースハンマーを発動。
吹き飛ばされた兵士たちを意にも介さず、さらなる兵士たちがスチームライフルを構えて突撃してくる。
そこへ立ちはだかったのは、宮峰 死聖率いる【宮峰一門】であった。
「人手が欲しいって聞いてね、微力ながら力になろう。じゃぁ作戦はいつも通りで行こうか♪」
「あぁ、作戦は解っている。お前が居ないと俺も活きないからな…今回も頼りにしているぞ、死聖」
「はいはい。作戦はいつも通り、ねん。それじゃぁ、今回も盾役、お願い、ねん♪」
両サイドからゆっくりと歩み出ていくリアム・マクスウェルと秋空 輪廻。死聖の肩を叩いてファイトとささやいてから、輪廻は広げた扇子から炎の大扇を生み出して兵士達へ突撃。リアムもぐっと姿勢を堅くたもって魔術砲撃を開始。
大量の砲撃が死聖へ集中するが、髪を水色に瞳を深緑に変化させた死聖が猛烈な勢いで飛び出し、兵士の一人を強引に殴りつけた。衝撃のあまり吹き飛び、ボーリングのピンよろしく兵士たちをはねていく。
「背中と攻撃は任せたよ、輪廻さん、リアム」
すると、両サイドの屋根からチーム【月夜】が飛び降りてくる。
「歯車兵団をビシバシ倒して、道を切り開きましょう~。
さあ、みんな~!やっちゃってちょうだい~!」
レスト・リゾートがかざした剣もといシグ・ローデッドが過冷却集電弾を発射。
「さて、我らが慈悲深き森の女王よ。――剣を執り給え。
今は無き我らが太陽の子よ。力を使わせてもらうぞ!」
仲間達から『学習』した力を解き放つシグ。
と同時にクロジンデ・エーベルヴァインとレイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタインは屋根の上から路上の兵士達へ射撃を開始。
「自分達で頼った古代遺跡の機械なんて他力本願に 取り込まれてこき使われるとか自業自得過ぎるだろー その自業自得のせいで更に周りに被害を出すとか迷惑すぎー」
「ョッケンの野郎の面も拝みたかったが、死ぬ気で露払いと行こうか。…後は頼んだぜ。
俺の血潮を対価に燃えよ、いざ道を切り開け…!!」
クロジンデのファントムチェイサーではじいた兵士めがけ、憤怒ノ焔をたたき込むレイチェル。
防衛隊の隊長は彼らローレット・イレギュラーズの連係プレイに舌を巻いていた。
「統率のとられていない自由な冒険者集団だと聞いていたが……これは考えを改めねばならんな」
「言われてるわよアンナちゃん! お祖父様にいい土産話ができたわね!」
「いまその話はいいから。とにかく行くわよ」
チーム【狐隊】の切り込み隊長もといアンナ・シャルロット・ミルフィールが屋根の上を駆け抜け助走をつけて跳躍。兵士たちの頭上を踊るように蛇行しながら視線を釘付けにしていく。
彼女の背中にしがみついて治癒能力を注ぎ込むトリーネ=セイントバード。
「二人とも今よ!」
「アンナ !前衛助かります。さぁっ、ルルの愛銃が火を吹きますよーー!!」
「こーなったらやるだけやるのよ! かかってきなさいポンコツー!」
注意を引きつけたところでルルリア・ルルフェルルークと、リーゼロッテ=ブロスフェルトが屋根の上から姿を現し、それぞれの砲撃を開始。
魔法銃と魔法ペンであけた天の方陣から降り注ぐ光の槍や炎の槍が歯車兵団へと降り注ぐ。
直後、激しい爆発と衝撃で周囲の風景が吹き飛んでいく。
飛び散るスチール屋根や瓦礫。
それを踏みつけて進むのは蜘蛛のような脚をもった多脚歯車戦車だった。
てっぺんから伸びた砲塔が火を噴く――と、真っ先に飛び込んだトカム=レプンカムイが砲弾を引き受けてタックルを仕掛けた。
「俺達は大なり小なり何かを奪って生きている。それは命だったり居場所だったり様々だが、略奪には責任が生じる。奪った者として背負う覚悟を忘れた奴等に、俺は負けはしない。いや……負けるわけにはいかない。今まで奪ってきた命に誓って!」
「ほんの少しだけ、この略奪者達が羨ましくはあるぜ。俺はどちらかっていうと奪われる側の人生おくってきたからな。初恋の相手を知らない人にとられたし、手塩にかけた作品のアニメ化を見守るチャンスは混沌に奪われちまったからな」
それに続いて駆け寄る姉ヶ崎 春樹とベルナルド=ヴァレンティーノ。
「右に倣えで自分の意思もなく襲いくる兵達……気味が悪いぜ。それとも、お前らもショッケンのように苦しんでいるのか?『何者にもなれない』と」
ベルナルドの横に朝長 晴明まで並び、彼らは一斉に魔術を発動させた。
「真似できないような独創性のある作品を生み出すからこそ価値があるんだ。
自分自身を殺しちまったら、他には何も残らねぇよ」
「止める手段は力づくしかねぇみたいだし、憐憫はあれど容赦はしないぜ。俺からアンタ達へのせめてもの手向けだ。
奪いたいなら、くれてやるよ。無力なまま奪われた人々の痛みと悲しみをこの花に乗せて!」
一斉に放たれた魔術爆撃が多脚歯車戦車を包み込む。
「人間の妄執って凄まじいねぇ?」
「……執念ねぇ、諦めが悪いだけってのも問題な気がする?」
「まさしく取り返しのつかない子供の癇癪だ」
「相手が子供ならまだこちらとしても諦めがつくんだが……」
そこへルナール・グルナディエとルーキス・グリムゲルデがそれぞれ飛び込んでいった。
「やあ多いこと、ルナールも無理はしないでね」
「こっちは体力だけが取り柄だからな、庇いは任せろ」
「火力サポートならお任せあれだ」
「無理はする気無いんだが、早く終わらせて甘い物が山ほど食いたい…」
必至に抵抗する戦車を連係攻撃で押し込んでいく。
「機械兵器だけあって流石に辺りが油くさい。さっさと終わらせてさっぱりしたいね!」
と、そこへ。
「鉄帝での依頼で幾ばくかの人達を守れて…… やっぱり思ったんだ 力って、誰かから奪い取って、誰かを犠牲にするためのものじゃない 皆で力を合わせて、皆で未来を掴み取るものなんだ!」
無数のページによって作られた『大砲』が魔術砲撃を放ち、戦車の真ん中をぶち抜いていく。
はれた煙の中から現れたのは藤野 蛍。そして、桜咲 珠緒だった。
「珠緒さん、協力して支え合う強さ、見せてあげましょ!」
「珠緒は、大きな力と共に在った時分は、国全体を支える存在でありました。
だからでしょうか、利己に過ぎる力は、歪みを感じます。
蛍さんと珠緒で、皆の力と想いを繋げることの凄さ、みせてやるのです」
飛来する無数の砲弾に対し、ピッと吹き上げた血の魔方陣を宙空に展開してカウンターヒールを発動させる珠緒。
鉛の雨が迎撃されていく。
その中を、ルアナ・テルフォードとグレイシア=オルトバーンことチーム【流星】が駆け抜けていった。
「おっきな機械は浪漫、っていうけど…これはちょっとよくないよねぇ…。
機械は本来、人の役に立つもの。こんな風に何もかもめちゃくちゃにするものじゃないよね。行こう、おじさま!」
押し返そうと突っ込んでくる兵隊を引きつけて剣を繰り出すルアナ。
「これを浪漫という者はそうそう居ないだろう。人を取り込んで洗脳する事もあるようだ。なんにせよ、此処で壊しておくべきだろう」
グレイシアは帽子のつばを親指であげると、自らの周囲に強烈な魔力の波を解き放った。
彼らを取り囲んだはずの兵士達が思わずなぎ倒されていく。
戦いは今に始まったわけではない。
ローレットたちに依頼を飛ばす間、少数兵力で時間を稼いでいた兵士達の姿も戦場にはあった。
剣も折れ、しりもちをついた新兵。
せまる多脚戦車が獣のように口を開いたのを見て目を覆った――その時。
「しからば御免!」
振り子運動で素早くかけつけた糸巻 パティリアが新兵を抱えてかっさらい、一度転がるとすぐさま立ち上がって走り出した。
それを追いかけて砲撃を放つ多脚戦車。
サッと比良坂・屍がパスを受け取り、頷いて走り出す。
(なぜこのようなことになったのでしょう。どこで状況はくるってしまったのでしょう。ですが今はそのようなことを考えているときではありません。ただ一人でも多くの人を救わなければ)
そこへ多脚戦車が迫る。
立ちはだかり、逃げる時間を稼ぐミルヴィ=カーソン。
「…いいから、引き付けてる間に救助ヨロシク」
偶然かけつけた蜻蛉が目を開いた。
「ミルヴィちゃんやないの…?…おかりなさい」
「…ただいま、ここは任せて」
「話は後や、ごめんね…独りやないからね!」
「ありがと…でも今はこれでいい、の、後でね」
けが人を治療し、撤退を支援する蜻蛉。
そこへ、アニー・メルヴィルが大型の馬車にのって駆けつけた。
「早く乗ってください! 回復は中で!」
急いで飛び乗る仲間達を確認して、アニーは再び馬車で走り出す。
(怖気づいている場合じゃない…! 私は私ができることをするのみ!)
駆けつけた仲間達は歯車兵団スネグラーチカを追い返し始めている。
首都に迫るギアバジリカへ到達するのは時間の問題かに思われたが……。
(いよいよ大詰め、最後の戦いだ。何処もかしこもヤベェ状況だが、四の五の言ってられるわけねぇよな。ショッケンとの因縁も何もかも、ここで全部終わらせてやるんだ)
轟音と共に迫る攻撃ヘリの放つマルチミサイルを、銀城 黒羽はクロスアームの防御で受け止めた。
「てめぇらが相手にしてる男をただの男だと思うんじゃねぇぞ」 「死んでもしなねぇ、殺しても殺されねぇ不死身の男だ」
巻き起こる爆発の中を駆け抜けるジョージ・キングマンとウィリアム・ウォーラム。
「要は、大元を潰すまで、ぶっ壊し続ければ良いんだろう! さぁこい! 俺はまだまだ、倒れん!」
眼鏡を光らせたジョージは木箱や馬車を踏み台にして駆け上がると、激しい跳躍によって攻撃ヘリへ蹴りをたたき込んだ。
墜落したヘリから這い出てきた兵士を殴りつけて気絶させるウィリアム。
「この俺が、鉄帝国のために…ね 正直言って乗り気じゃねェが、これも仕事だ。
任せておけ。救える命は、救ってやるさ」
そんな彼らを取り囲む兵士達。
ただの兵士では、もちろんない。
腕がいびつに巨大化した兵士や、ワニのような巨体に取り込まれた兵士など、もはや人間としての運用は無視されたフォルムをしていた。
「人外兵団ってか」
「おいおい、そいつはローレットの十八番だろ?」
召喚によって生まれた特異運命座標を集めたギルド・ローレット。その性質上、構成メンバーの多くがウォーカーで構成されていた。
そんな状況から生み出されるのが……。
「オオ……何たる事。 狂気に駆られ、罪なき市民を傷つけ、大切なものを奪い去っていく──凡そ許される事ではない。 盾にしてください。その為に私はここに立っているのです」
民家の窓から飛び出た黒い粘液ことビジュが巨大な拳となって兵士を殴り飛ばした。
「この世界に来て、色んな初めての体験をした。前の世界では絶対にないような嬉しいことがいっぱいあった! ずっと平和でいる為にもワタシは負けない! 絶対に食い止めてみせるよ!」
更に民家の壁をぶち破って飛び出した実験体37号が巨大な腕で相手を掴み強引に振り回して投げ飛ばす。
「えへへ、一杯いますねー、金属が一杯くっついた兵隊さんが一杯…これ全部愛し(たべ)ちゃっていいんですよね?私の体内(なか)で一杯溶かして一つに――」
ワニめいた兵士はいつのまにか張り付いていたライム マスカットがじゅくじゅくととかしていた。
「逃げちゃだめですよぉ、イタダキマス! えへへ……」
異形としての『戦い慣れ』こそが、ローレットの強みなのかもしれない。
そして、そうした仲間に慣れているからこそ有機的な連携が可能になるのだ。
「れやれ、これまた沢山の兵を投入してきたのう? 兵士たちには悪いのじゃが、数が多い故手加減など出来ぬ 偶には本気で、魔王らしい戦いをさせてもらおう」
鐘つき塔から飛び降りたニル=ヴァレンタインが兵士達の真ん中へと豪快に着地。
一斉に振り返った兵士たちの打撃や銃撃を残像を残しながら次々に回避すると、すばやく彼らの射程範囲外へと瞬間移動してしまった
パチンと指を鳴らす――と大量の魔術砲撃が集中し、兵士達が吹き飛んでいく。
無論、それは奏多 リーフェ 星宮たちの連携魔術砲撃である。
(こういった団体戦での戦闘は初めてかな。実戦経験はこっちの世界では少なくは無いけど、とにかく僕にできうる事を一生懸命にやっていこう)
屋根の上から顔を出す星宮。
更にセレスチアル、暁蕾、グレイル・テンペスタたちが姿を見せ、愚かにも一カ所に集まってしまった兵士達へ集中砲火を浴びせ始める。
「魔種の力で動く兵器とは中々興味深い兵器だな わがイーゼラー教には活用できぬ力ではあるが シギネア様への土産話にはなるか。
育成に位置する白の団員と言えどイーゼラー教の枢機卿《節制(テンパランス) 》の名を冠す者。恥ずかしい戦いはできぬ」
「…おぞましいものが…動き出しちゃったね…。…しかも…大量に兵士や兵器が…こちらに迫ってきてるし…。
…あの動く要塞…歯車大聖堂を止めるためには…あれらを退けないと…。
…道を拓かないと…本命を叩けないしね…」
そこへライトニングやマリオネットダンスで追撃をしかける暁蕾。
ミラーカ・マギノは激しい雷撃を打ち込むと、集まった古今東西様々な魔法使いたちを鼓舞するように胸を張った。
「鉄帝の民が、同じ鉄帝の民から略奪だなんて。ほんっとくだらない!ホントそんなくだらない……悪い冗談、繰り返させたりなんてしないわ 断ち切るわよ、ここで。こんな悲劇……終わらせるんだから!
さあ、ガンガンやってわよ!」
集まった兵士への一斉砲火という点において、庚やアリシス・シーアルジアやアクセル・ソート・エクシルたちに任せないという手はない。
「大聖堂に比べましたら小物ですけれども、当然何の力のない方々にとっては脅威でございます事には変わりなく。
左様でございましたら、カノエ達が殲滅してしまっても構いませんのでしょう?
汚い花火を打ち上げてスチールグラードで怯えていらっしゃる方々へ上げる勝鬨と致しましょう!」
「洗脳された人と機械兵器が軍団を成して行動している、させているのは歯車大聖堂の機能の一部という所でしょうか この様子では、元々人が制御してまともに運用できるような代物では無さそうですね」
「ここで歯車大聖堂は止めないといけないし、そのために向かうヒトたちの道を切り開くよ!」
打ち込まれた庚の『ロベリアの花』に次いで、アリシスとアクセルのダークムーン&神気閃光が兵士達をなぎ払っていく。
ギアバジリカに近づくにつれ、兵士達のいびつさと強さは増していった。
巨大な歯車仕掛けの虎が吠え、ニャンジェリカ・ステュアートへと襲いかかる。
「私の故郷は滅亡してしまったニャ。だからこそ『まだ間に合う』この国や世界を守りたい。いや、守ってみせるニャ!」
ニャンジェリカは食らいつこうとする上下の顎をおさえてとめると、そばでハイテレパス&ファミリアーによる伝達を行っていた仲間に応援を要請。
敵増援の到着と同時に、カンベエをはじめとするローレットチームが到着した。
高所へ駆け上がり、『おひけえなすって!』と叫ぶカンベエ。
「救うべき友の為、国の為、向かった者が出て見るが滅んだ国では報われぬ。
中へ突入した仲間を想えばこそ。コンテュール様の手腕で繋がれた盟約、その意思を慮ればこそ。
ここで体張らねば海洋国の民として面目が立たぬというもの! わしを殺せるものならば、わしの最も大切な物である命を燃料に出来るというのなら、やってみせろ! わしは絶望の青を越えるまでは死ねぬ! 倒れぬ!」
『注目を引くこと』に全力を注いだ彼の口上に、増援たちが注目していく。
が、それこそが彼の狙いであった。
「ギアバジリカ……あの男が元の世界で造った陸上戦艦に瓜二つよ」
「ははは、良いぞ…善いじゃあないか! まるで死の群だ、磨き抜いた黒鉄に錆の臭いが薫っているぞ!」
カンベエを追い抜いて同時に二体の大鎧が着陸
鋼の音を響かせてシュタインとウォリアが同時に構えた。
「我が装甲、容易く抜けると思うな!」
構えたグレネードランチャーをポンポンと連射するシュタイン。
たちまち起こる連続爆発の中へ、ウォリアはさも楽しそうに飛び込んでいく。
「いつ終わるか等と考えるな 終わる瞬間まで戦う。これだ、これこそが戦い…死に絶えていけ!!!」
「さ~て…取り戻しちゃいますかね? 平和!」
ウォリアが無数の歯車兵団と渡り合っている中へ、コラバポス 夏子が援護に走る。
が、それを阻むようにあちこちの路地から両腕をハンマーやチェーンソーに改造した兵士たちが集まってくる。
それを狙っていたかのようににやりと笑う夏子。火花散る槍を回転。
「我々は不退転の決意持ち! 信義によりコレを治める!」
一斉に襲いかかる兵士たち――を横からモーニングスターハンマーと高圧放水が吹き飛ばしていった。
メリンダ・ビーチャムと主人=公、そしてマテリア・ライク・クリスタルが駆けつけると、公とマテリアが顔を見合わせて合図をおくりあった。
「今度も自分にやれることをやりましょうか!」
「『あの人間達』は違った。新たな可能性を示してくれた。これは、その可能性に対する冒涜だ。捨て置くわけにはいかない。
だから――キミ達を『管理』してやろう」
飛び上がって七色の拡散ビーム放射をはじめるマテリア。交差するように極太のビームを発射する公。
メリンダは一緒に兵士を叩き潰しながら、ふとギアバジリカへを振り返る。
「――貴女前に言っていたわね。救いを求める人々に剣を振るうな、救うために最大限の努力をしろ……だったかしら?
いいわ。今だけはその約束を守ってあげましょう。その代わり無事に帰ってきて頂戴な。貴女が居ないと、この世界は少し退屈になってしまうもの」
電熱突撃槍を構えた無数のアリ型歯車兵の間をドリブルで駆け抜ける日向 葵。
非常識なほどの高度で跳躍すると、オーバーヘッドキックで群れ全体を爆撃した。
「あんなクソデカイの首都に来ちまったら大事故ってレベルじゃねぇだろうが!?
いや、でもまずはあの大群を何とかしねぇとな こいつぁ、マジで物理的にも骨が折れそうっスねホント……」
「では……袖擦り合うも他生の縁ということで、命を預け合うのはどう呼ぶのでしょう」
冬宮・寒櫻院・睦月が虎柄のロープを生み出して兵隊たちの脚や腕を引っかけて次々に転倒させていく。
更に送った治癒魔術が、まっすぐに突撃するルウ・ジャガーノートを後押しした。
「暴走した古代兵器が相手か!こんなにデカいのは見たことねぇな! それにしても、そんなデカブツを殴って止めるたぁなかなか豪気な作戦じゃねえか! ってことでまずは……!」
巨大な剣を叩きつけ、多脚走行戦車の砲撃を粉砕。そのままショルダータックルで相手の装甲をへこませる。
転倒し爆発する戦車。
だがその先には、チェーンソー剣を装備した無数の歯車兵がずらりと並んでいる。
総員黒衣。『略奪する機械』と化した兵団スネグラーチカである。
「……あァ、これがガキ共掻っ攫ってまでやろうとした事かよ……ッ! ふざけやがって……皆殺しにしてやるからな!」
剣を抜いて威嚇するように歯を見せるライディス・クリムゼン。
更にユースティア・ノート・フィアス、紅楼夢・紫月、ハンナ・シャロンがそれぞれ並び、それぞれの剣を抜いた。
「からくり仕掛けの巨大な聖堂、目の前の雲霞の敵……森の外はときめくものでいっぱいですね。 まだまだ未熟のこの身でどこまでやれるか分かりませんが。
――大聖堂までの道を切り開くため1体でも多く斬ってみせましょう!」
ハンナはガンエッジを起動。装填した特殊弾によって爆発的な暴風刃を発生させると、兵団へと突撃していった。
「オラッ! 唸れ! ラ・アドバーン!」
更にライディスの放った剣がブーメランのように兵士達の間を飛び次々と敵を破壊していく。
「こうなってくると確実に減らすんがええやろうかねぇ? 私に出来る全力を出させてもらうわぁ」
「この身に為せる事が有るとすれば ただ、断ち切る事だけ 其のひとつ、ひとつが、少しでも多くの夢を護ると信じて 悪夢は此処で、終わりにしましょう」
追って飛び込んだ紫月の刀が兵士を八つ裂きにし、ユースティアの剣が氷雪の加護をうけて激しい暴風を引き起こした。
兵士達による『壁』は着実に破られつつある。
だがその中には――。
「ローレット……貴様らさえ、いなければ!!」
所変わって戦場後方。
(元の平和な世界から混沌に来て、何度も危ない目にあったおかげでだいぶ強くなったんだけど……)
メリー・フローラ・アベルは民家の奥に隠れて兵士をやり過ごしていた鉄帝軍兵士を見つけ、同じくけが人の捜索をしていたひつぎと共に彼を助け出した。
「誰が強いとかどちらが正義だとかどうでもいいよ。 俺はひとりでも多く助けたいだけ」
なぜこんなことをと問いかける兵士にそう返して、ひつぎは兵士を運び出していく。
上空を飛行していたニーニア・リーカーがすぐそばに降り立ち、道ばたに治癒効果をもつ郵便ポストを召喚した。
「要救助者をみつけたんだね。おつかれさま! 救護テントはこの先にあるよ」
「ありがとう。けど……」
まだ助けないと、と振り返ると、錫蘭 ルフナとヨシト・エイツがコイン式パカ田倉くんカーに二人乗りして通りがかかった。
ヨシトの呼びかけによって風の精霊がヒュルヒュルと笛のような音色(うた)を鳴らし続け、助けを求める人々にわかりやすいように移動しているようだった。
「残った人たちは僕らに任せて。回復支援は大得意だ」
「重傷者を見つけたら後衛テントに連れて行けば良いんだろ? 任せとけ!」
そこまで言ってから、突如起こった大爆発に振り返る。
「あっちは激戦みたいだな」
「さすがに、あのレベルにはついていけそうにないわ」
「あっちはあっちで、仲間達に任せるしかない、よね」
●『何者にもなれなかった男』
「だいぶギアバジリカに近づいたわね」
「けど、攻撃するにはもっと近づかなきゃ」
「相手が近づいてくれるのを待っていては物的被害が拡大するばかりです」
「ああ、急ごう」
大地を喰らわんばかりに走行する大聖堂。空を覆わんばかりに吹き上がる煙。
イレギュラーズたちはそれを止めるべく帝都自然公園の荒れた芝生を走っていた。
が、そこへ大量のビームが浴びせられる。
「下がれ!」
真っ先に飛び出したエイヴァン=フルブス=グラキオールが盾を構え、同じくゼファーが横に並んで槍を回転。ビームの勢いを拡散していく――が、彼女たちの眼前に無数のアルキメデスレーザーレンズが集中。合わさったビーム砲撃に吹き飛ばされた。
「ロー……レット……貴様ら、か……」
荒れ放題の雑木林を切り裂いて、巨大な歯車兵器が姿を見せる。
いや……。
「なぜ立ち塞がる。貴様ら、さえ、いなければ……私は、私は、いまごろ……!」
「お前かショッケン。奪うことで生きてきた人間が最終的に自分のすべてを奪われちまうわけか。まぁ、同情の余地はないんだがな」
「そのツラをぶん殴りに来たわ! 未来も何もかも…摘み取ったのは自分。貴方自身よ。誰かから奪う内に自分自身の可能性すら、摘み取ってしまったのよ」
繰り出される打撃を前に、綺羅々 殺、シラス、ポテト=アークライトがそれぞれ立ち塞がる。
「貴様の全てがどうでも良い。死ぬが良い」
「てか話に聞いてたオッサンと全然ちげえぞ、完全に化け物じゃねえか!」
サソリの腕が繰り出され、シラスたちは受け流すように蹴り上げる――が、あまりの勢いに吹き飛ばされ木々を数本へし折っていった。
「上り詰めたはずだ。今頃。貴様らさえ……」
「チッ」
ショッケンを見ていると、未来の自分を見るようでざわざわする。
「そんなに偉くなりたかったのかよ」
「権力は全ての問題を解決する。違うか!」
「シラス、前に出すぎるな!」
ポテトが治癒魔術を放射。
「子供は未来への希望であり、守るべき存在のはずで、生贄にするための存在じゃない。これ以上彼の好きにはさせないぞ!
ショッケン、お前は、お前の野望はここで止めさせてもらう」
「その通りだ」
剣を抜き、輝きと共に突撃するリゲル=アークライト。
「正義のための断罪…天義も一歩間違えれば彼の二の舞だ。自制が、理性があってこその人間だ。
貴方の元で働いていた軍人達は子供を生贄にすべく嘆いていた。
……約束したんだ。貴方を止めると!」
なぎ払う光がレンズを破壊。
焔宮 鳴とアルテミア・フィルティスは同時に剣を抜き、それぞれの炎を纏わせた。
「貴方には私は因縁などありません。ですが、貴方のやり方は到底許せるものではない 絶対に……そう、絶対に許せなどしません」
「多くの子供達や罪なき人々の命を軽視したあなたを、私は許す訳にはいかない! 今まで未来を奪い続けてきた報いを受けなさい!」
「抜かせ!」
レンズなどなくても! と巨体を唸らせ、吹き上がる蒸気と共に咆哮。ショッケンが殴りかかる。
ぶつかり合った二つの炎と二つの腕。
そこへ流れる、リア・クォーツの美しい旋律。
「罪なき人々の命を奪ってきたその報いを今受けろ、ショッケン」
「築き上げた砂上の楼閣に埋もれて逝きなさい、『何者にもなれなかった男(ショッケン・ハイドリヒ)』!」
ビキビキとひびの走るショッケンの腕。
そこへ。
「……決して認めてはならない類いの人物だとしても、こんな末路は……」
真正面を抜けていくリースリット・エウリア・ファーレル。
大蠍歯車兵器の中心めがけて緋色の炎をあげた剣が突き刺さっていく。
「反転よりも……あまりに惨いというものです」
合わさった三つの炎はショッケンを溶かすように燃え上がり、なにかを叫んだのを最後に大爆発によって砕け散った。
演奏をやめ、リアは背を向けた。
「ショッケン……お前は倒されて当然の極悪人。
だから哀れみは決して抱かない。……だけど、貴方の旋律だけは覚えておいてあげる。ゆっくり、眠りなさい」
砕け散った兵器の残骸しか、そこにはない。
これが『何者にもなれなかった男』の最後だと、いうのだろうか。
●ギアバジリカ
「巨獣狩り』と行くか……やれる事はやっておきたい」
「まだ死地とならない為にも、行くわよ!」
(街へと進軍する大聖堂 そんなもので街を、人々の平和や笑顔を潰して良い理由になんてならない。 俺は小鳥…平和の象徴…空を駆けぬける)
「聖女の嘆きを原動力に、全てを破壊する大聖堂か。
皮肉なものだね、これが贖罪の末路というわけか。
愉快だが我(アタシ)の小鳥が嘆くというなら動かぬ訳にもいくまい 朽ち果てるがいい」
燃えさかる公園を背に。
迫る巨大な聖堂型移動要塞を前に。
氷瀬・S・颯太、アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム、ヨタカ・アストラルノヴァ、武器商人はひらけた大通りを駆け抜けていく。
邪魔になる兵士たちは取り払われた。
ここからは、彼らの仕事だ。
颯太は激しく動く脚部めがけて飛びかかり、暗黒剣や五月雨を全力でたたき込んでいく。
更にはアリシアの幻雷斬が合わさり、ギアバジリカの動きが停止。
彼女たちを優先的に排除しなければならない敵と見なしたのか、聖堂の窓という窓が開き砲台が露出した。次々に発射される大量の『聖別されたミサイル』。
ヒヒヒと笑って前にでる武器商人。
アリシアたちを庇って爆発の中に巻き込まれたが、ぼこぼこと湧き上がる異常存在によって武器商人の肉体は死にかけのまま維持される。
と、大聖堂から新たな砲台が出現。赤いレーザーライトが武器商人にぴたりと照準をあわせた。
途端、放射される『強制浄化光線』。
しかし直撃を受けたのは、間に割り込んだヨタカであった。
「小鳥……」
「紫月……ごめん、ごめんね…。
誰も傷つかないのなんて無理 それは理解している それでも……。
大事な人に…傷が付くなんて…許せないんだ…」
彼女たちの献身を無駄にするなとばかりに空へ飛び上がるエレンシア=ウォルハリア=レスティーユ。
「こいつぁ潰しがいのあるデカブツだな! 腕が鳴るぜ!」
大剣を振りかざし、砲台の一つめがけて突撃。
時計塔の上に陣取った円 ヒカゲと鳶島 津々流がそれぞれ追撃を開始した。
「すごいね、あんなに大きな建物が動くなんて。出掛けるのに便利そうだけれど。
止めろというオーダーが出たのなら、頑張って応えなくてはね」
(こんなデカイ戦闘に参加するのは初めてだから緊張するな……。 俺にできることなんて大してないかもしれない。 いや、出来るかじゃないな。やるしかない。全力で食い止める!)
津々流の放つブラックドッグにあわせてヒカゲによるアンチマテリアルライフルの射撃が浴びせられ、いくつもの窓から露出した砲台が次々に破壊されていく。
「たたみかけろ! あの邪魔な砲台を破壊するのだ!
ここで全力を出さねばいつ出すと言うのだ!
我が持つ最大の力で止めようではないか! まぁ、死なない程度にな! 死んでは元も子もないのだ!」
「まぁ! たてものが そのままうごくなんて すごいわ! でも ひとがすんでいるところを とおりみちにされたら とってもめいわくね!」
ホロウとポムグラニットがそれぞれ教会の屋根に陣取り、魔術砲撃とファントムチェイサーを次々と打ち込んでいった。
聖堂前面にある窓という窓が破壊され、その奥から露出していた砲台たちが次々と爆発を起こした。
「突入!」
レオンハルトと華懿戸 竜祢が走り出し、アレクシエルが彼らを掴んで飛び上がる。
「古今東西、楔となった場所から攻めるのが対大型戦だ。
元ガラクタ風情がなかなか硬そうだが、俺の剣技はちょうどそういうのが得意だ」
「こうも巨大な兵器は私の世界でも見ないな、実に興味深い。
場合が場合なら調査をしたいところだが仕方あるまい。あれが脅威とされる以上、破壊するだけだ。
くくっ、素晴らしいな……既に皆から輝きが見える。これは私も奮起せねばな!」
「おっきな玩具ねえ。まるで子供が自慢しているみたいだわ。それじゃあグレイト・マザーが躾をしてあげなくちゃ。お片付けの時間ですよ」
まだ残った砲台から聖別された高射砲が乱射されるが、それを無理矢理防御しながら突っ込んでいくアレクシエル。
窓へ投げ込まれる勢いで突入していった竜祢たちは己の剣術で高射砲やその発射装置を破壊し始めた。
「さて、その大聖堂にある鐘はどのような音色を響かせるのでしょう。
諸行無常の理をと詠うのは私が故郷。ならば、沙羅双樹の花の色、私の大太刀の刃で描きましょう」
同じく突入した冷泉・紗夜が通路を駆け抜けて『氷華閃「玲瓏」』を連射。
ある程度破壊したところで窓をつきやぶって野外へ飛び出した。
「『殴って止める』は面白いですね! 故郷でもあのような大きな相手と殴り合った事はありませんが、僕の拳がどこまで効くか良い経験になりそうです……それでは、参ります!!」
すれ違うように民家の屋根から飛び上がった日車・迅が己を弾丸にかえて大聖堂の脚部関節の一つを殴りつけた。
ここまでダメージの蓄積した脚が、ついにべきりとへし折れる。
●露払いは英雄の仕事
「ギアバジリカが……止まった……?」
鉄帝軍の兵士たちが見上げる移動要塞ギアバジリカ。
だがそれはつかの間の停滞に過ぎなかった。
脚を一本失ったギアバジリカは『移動することに特化した形態』をやめ、『なんとしても突き進む形態』へと変化を始めたのだ。
まるで、いかなる障害があっても突き進む意思と業を形にるるかのように。
「ギアバジリカに無数の熱反応! 聖堂から無数の『マルチ・ギアバジリカ』が分離されていきます!」
「なるほど。こちらに対応し始めた、ということですか」
外していた眼鏡をかけなおし、新田 寛治はステッキ傘のレバーに親指を押しつけた。
「村々を喰らい巨大化した『歩く大聖堂』。一つ分離しただけでも相当な破壊力をもつことでしょう。事実、『分離したギアバジリカ』が単体で村を襲撃した事例も報告されていますし、ね」
「要するに、こいつらも大聖堂破壊チームの邪魔をしやがるってことか」
ぐにゃぐにゃに折れ曲がった道路標識を投げ捨て、拳を鳴らす亘理 義弘。
激しいダンスアタックの末に歯車兵器を爆発四散させた津久見・弥恵が、一度ポーズをとって彼らの横に並んだ。
「なら、ここの対応は私たちの仕事ですね。アンコールです。舞い踊りましょう!」
彼らの前に着地するマルチ・ギアバジリカ。
蜘蛛のような脚と蟹のような腕を生やし、腹から機関銃を乱射する。
傘を広げ突撃する新田。その後ろについて走る義弘と弥恵。
二人は攻撃可能距離まで迫ると左右に分かれ、弥恵は真空を切断するスピンキックを、義弘はオーラを直接叩きつける拳をそれマルチ・ギアバジリカの両腕に叩きつけ粉砕。
「ひゃ――!?」
腕に引っかかって服の破れる弥恵と、セルフで上半身を脱ぎ捨てて着地する義弘。
最後は新田の投げ込んだライター型爆弾によってマルチ・ギアバジリカは爆発四散した。
「一体撃破」
照り光る眼鏡を中指で押す新田。そこへさらなるマルチ・ギアバジリカたちが降下してくる。
「次は僕らの番、かな」
手刀で歯車兵士の首を落とし、敵の持っていた歯車式加速刀を奪い取る風巻・威降。
「オレ達が、この鉄帝のピンチヒッターだ! こいつオレ達に任せとけ!」
同じく兵士をバットで粉砕し、どこからか野球ボールを取り出す清水 洸汰。
「何を求めて進むのか俺のしったこっちゃねえけどさ、理不尽だけは許せねぇ。こんな機械仕掛けの祭壇じゃ何も救えねえだろうがよ」
龍のオーラを纏った回し蹴りで兵士を粉砕し、タツミ・ロック・ストレージが彼らの横に並んだ。
一斉に構える三人。
マルチ・ギアバジリカはがちゃがちゃと変形し、龍となって空を飛び始める。
口部から発射する鉄球を、しかし洸汰は強力な振り子打法によって豪快に打ち返した。
「ピッチャー返しだ! くらえー!」
歪んで放たれる鉄球。
顔面にぶつけたその瞬間、洸汰の肩を踏み台にして跳躍したタツミがオーラを全力で拳から打ち出した。
「聖女とやら。なんでもぶち壊す機会仕掛けの神に頼るってんなら、その理想ごとぶち壊す! ――『ドラゴンキャノン』!」
砲撃に包まれるドラゴン。
そこへ、いつのまにか上へと着地していた威降がちゃきりと刀を抜いた。
「兵どもの夢の終わり……かな。どんな夢だったかは分からないけれど、こんな姿になりたかったわけじゃないよね」
ぎゅるんと周囲の空間ごと切り裂き、ドラゴンを四つに分割。
爆発し散っていく瓦礫の雨へと混じる。
だがギアバジリカからの猛攻は止まらない。
全長2mを越えるパワーアーマー兵が次々と着地し、機関銃やドリルに変えた両腕を唸らせる。
のぞき窓の向こうには、すでに人の形を失いつつある兵士達が見えた。
「あれでは助ける事は恐らく…… 妖の類の被害でそうなるならまだしも、機械……人が生み出し人が使う兵器でそのような事になるとは。なんて恐ろしい兵器……」
対抗するように立つ水瀬 冬佳。
「格好良いけれど、やっぱりあんなの嫌! ボクたちで止めなくっちゃ!」
虎の姿で民家の屋根から飛び降り、人間形態にチェンジするソア。
「……にしても、本当にデカイ相手だ。止められるのか……? いいや、信じるしかない。頼んだぜ、皆……!」
星の力で兵士を吹き飛ばし、近くの民家から飛び出してくるウィリアム・M・アステリズム。
そんな三人をパワーアーマーたちは取り囲む。
背を合わせ、三人はそれぞれの方向へと構えた。
冬佳は空に無数の氷刃を生み出し、突撃してくるパワーアーマーたちめがけて発射。
一方でソアは大地に拳を打ち付けて放射状に雷撃を発射。
ウィリアムもまた巨大な『星の剣』を無数に生み出すと自らを中心に竜巻のごとく振り回した。
大量の氷刃が突き刺さり、剣に切り裂かれ、浸透した雷撃によって爆発をおこしていくパワーアーマーたち。
「全員伏せとけ!」
という奥州 一悟の声と共に、いくつもの手榴弾が回転しながら飛んでくる。
一斉に散ったソアたち。残されたパワーアーマーたちはハッと空を見上げるが、その時にはすでに爆発が起きていた。
「愛国心なんて大げさな事いわねーけどよ、自分たちが産まれ暮らした街に愛着はねーのかよ。とっとと目を覚ましやがれ!!」
拳に炎を纏わせ、パワーアーマーに直接パンチをたたき込む一悟。
彼を集中攻撃しようと四方八方から壊れかけのパワーアーマーがドリルを回転させて殺到すぐが――。
「今だ、やれ!」
「『歪みて回る悪を正す愛と正義の光条!魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』」
天空から垂直落下してきた無限乃 愛が大地めがけて魔法を発射。
ハート型に広がったショッキングピンクの光が反射シールドとなり、ドーム状に展開された無数のハートシールドの中を魔法のビームが複雑無限にはねていく。
「いくら人々の想いを取り込んだとて、それは偽りの力です。
心に愛なき兵器は力足りえないと、この愛の力を以て示してあげましょう」
次々にハートの爆発をおこしていくパワーアーマー。
そこへ、ひときわ大きなマルチ・ギアバジリカが着地。ガシャガシャと脚を展開すると、大量に腕を伸ばして電熱剣や機関銃や回転ノコギリを起動させる。
「蹂躙、略奪、破壊……無辜の民を巻き込んでまでのこの進撃、止めなくてはいけません。事実上の敵国であろうと関係ありません、私は私のしたいことをするだけです!」
剣を抜き、マルチ・ギアバジリカへと突きつけるシフォリィ・シリア・アルテロンド。
「あの機械と渡り合えばいいんですね? いいでしょう、やってやろうじゃありませんか! ひひひっ」
物陰からするりと姿を見せ、短剣を抜くエマ。
「さあて、クソ雑魚ども。てめえらの相手はこのおれさまだ。
誰だか知らねえか?なら、その身で教えてやるよ。
最強最悪の山賊、グドルフ・ボイデルさまの力をなあ!」
ロザリオを握りしめ、赤いオーラをたちのぼらせるグドルフ・ボイデル。
「こんなにいっぱいどこから出てくるの! って言ってても仕方ないよね、今は皆を先に進ませるために戦わなきゃ!」
炎の玉となって着地し、槍を回転させて構え直す炎堂 焔。
「機械の軋む音、油の匂い……何とも食欲の沸かない事だ。人という一匹の獣である事をやめて機械に身を窶した時点で敬意にも慈悲にも値しない」
同じく魔力の塊となって着地したマルベート・トゥールーズが翼と共に魔力壁を解放。巨大なテーブルナイフ&フォークにも似た槍を広げた。
騎士。泥棒。山賊。神に悪魔。
立場も国籍も世界も越えて、ローレットというギルドに集まった彼らはたった一つの敵に向けて団結した。
「――シフォリィ・シリア・アルテロンド、参ります!」
真正面をきって突撃したのはシフォリィだった。
聖なる光を纏った剣が機関銃射撃のことごとくをはじき、腕の一本を切り落とす。
と同時に、左右の民家へと飛んだ焔とエマ。
二人は巧みに屋根へとよじ登ると助走をつけてジャンプ。
対応の遅れたマルチ・ギアバジリカの腕それぞれに向けて斬撃を放つと腕を切り落としていく。
破れかぶれに突撃をかけるマルチ・ギアバジリカ。
しかしマルベートはそれを自らの身体で受け止め、ナイフとフォークを突き立てた。
「宴は終わらないぞ。たんと喰らうがいい――いや、『喰らわれる』がいいよ、ガラクタ共」
無理矢理ねじ込んだフォークによって破壊されるドリル。
そこへ、グドルフの拳がねじ込まれた。
聖堂の中央。
何人もの人間が無理矢理組み合った物体に手を触れ、舌打ちをした。
「下らねえ――ッ!」
力任せに引きちぎり、粉砕する。
飛び散る血とオイルと歯車とネジ。
爆発が、天を茜に染めていく。
●誰がために鐘は鳴る
次々とおこる爆発を背に、勇猛にもひた走るクーア・ミューゼルは放物線を描いて飛来する爆弾のなかを巧みに蛇行しながら、自分からも爆弾を投擲してやった。
「他人様の思い出を、生命をくべるのなら、もう少しこう、紅く美しい末路を用意するのが道理というものですよ……実に気に食わない楼閣なのです!」
そのさなかに強襲ポットで到着する雨宮 利香。着弾と同時に飛び出し、ギアバジリカ武装のひとつを剣で破壊する。
「さあ行きますよ! 逃げ回るのに夢中で撃たれたりしないでくださいね? クーア!」
「利香の方こそ、うっかりアレに踏んづけられないように気を付けるのですよ!」
二人はギアバジリカの巨大な脚をよじ登り、擲弾発射機をピンポイントで破壊。
直後組み替えられた聖堂正面から出現した大砲が、周囲の風景を右から左になぎ払うかのように破壊していく。
「『殴って止める』なんてわかりやすくていーね!
『楽しく殴り合い』たいボクにはピッタリの戦場! あはっ! ねぇねぇ美咲さん、早く突っ込もうよー!!」
「絶望の青での狂王種といい、最近デカブツづいてるなぁ……。あ、突っ込むのは初動速いひとに先行してもらいましょ?」
クーアたちに先行を譲りつつ、ヒィロ=エヒトと美咲・マクスウェルは発射直後の砲台へと狙いを定めていた。
「遺跡産・前時代的な大艦巨砲主義なんて敵じゃないね!」
「急速な温度上昇を感知。来るよ!」
ヒィロは炎の壁を形成してビーム砲撃を真正面からガード。
と同時に目をギラリと光らせた美咲が強烈な魔力砲撃を発射。
どかどかと爆発を起こしたところで……。
「美咲さん、あれっ!」
咄嗟に振り向いたヒィロが、空を飛ぶ棺を指さした。
否。棺ではない。
巨大な弾頭にも似たそれは、練達で作られ幻想に持ち込まれたが持て余しラサを経由して最終的に鉄帝が『これ良いじゃん』とかいって採用してしまった珍兵器。その名も強襲ポットである。
「オラァ! うまいことあの大砲を狙っ――あれムリこれやべえ」
弾頭から切り離された伊達 千尋がそのまま突っ込もうとして突如虚無顔になった。
大砲の筒の中へと突っ込み、それごと爆発する千尋。
「あー……」
「うん……」
それを見上げるアルメリア・イーグルトン、フラン・ヴィラネル、伏見 行人、瑠璃雄。混沌で再結成されたチーム【悠久】のメンバーである。
とかやっていると組変わったギアバジリカが無数の機関銃を出現させ、彼らに狙いをつけた。
「フンッ」
近くの馬車を蹴っ飛ばして盾にする瑠璃雄。
加えて、アルメリアとフランがヒールフィールドを形成。
三重になった巨大な魔方陣が射撃のダメージを事実上消滅させていく。
盾の後ろでふうと息をついた行人が苦笑した。
「絶景、絶景……こういうのが見れるから旅って面白いよね! こっちは全力で仕事を果たすさ。止まれないからね」
「それはいいけど……こ、これを人間サイズでどうにかしようって正気なのかしら。山に向かって攻撃するようなものじゃない?」
「どうしよういつか深緑もファルカウが動くの!?」
「これ以上私の深緑常識をひっくりかえすのやめて」
「あきらめないでアルちゃん! 女は根性だっておかーさん言ってたよ! ふんぬ!」
携行式強襲ポット発射キットを引きずってくるフラン。
そしてボロボロになった千尋がかたのすすをはたきながらやってきた。
「瑠璃雄さん。やっぱ俺大砲ダメだわ」
「俺はお前に救われた。今度は……正しく生きたい」
「それ今言わなきゃダメ?」
「さて、第二弾いくよ」
行人はふらりと前に出て、素早い抜刀によって飛来する砲弾を切り裂いた。
「俺の旅を、邪魔するなよ。いや、今回は……『俺達』の旅を、邪魔するなよ」
「はい第二弾~」
フランに羽交い締めにされて砲台に詰め込まれる千尋。
「えっちょま」
「千尋……お前が終わらせるんだ」
「それ今言わなきゃダメなの!?」
「ハヤク!」
「はい発射」
アルメリアが何かを諦めた顔でドクロマークのボタンをドンッて叩いた。
地面から召喚された巨大なこぶしがミサイルを掴み、えいやとぶん投げる。千尋を詰め込んだミサイルはリテゴルロケット方式でもっかい飛んでいった。
千尋だけではない、空には新たに四発の強襲ポットが打ち出され、ギアバジリカめがけて飛んでいく。
空中でパカッと二つに割れたポットの中から現れるウルリカ。
「大きいですね。私の世界の陸上戦艦を思い出します。止めるのは骨ですねぇ……」
などと言いつつも、エネルギーソードを抜刀。
「鉄帝も面白い物があるようです。
大聖堂も、ラブの下に動けていれば良かったのですが……」
などと言いながら、迎撃のために放たれた高射砲の弾を無理矢理はじきながら急接近。聖堂のガラスを突き破り内部にならぶ高射砲を破壊する。
対空防御を失ったギアバジリカに、さらなる散発。
「これが、スラムに眠っていたもの、か。なんとも悪食、傍迷惑な、代物、だ。
アナスタシアは、転んだ、ようだが……事ここに至っては、是非も、無し。
歯車1つ、螺子の1本に至るまで、折り、砕き、塵に還すのみ、だ」
エクスマリア=カリブルヌスの乗り込んだポットはパージされることなく金色のコーティングが成され、きりもみ回転をかけて加速。
「このレベルのデカブツはいつ振りだろうか…もう何年も前の、俺の世界の話だが…やっぱり、こういうのは楽しくなってくるな……!」
今日は特別だ! と叫んでマカライト・ヴェンデッタ・カロメロスは自らのポットを特殊な鎖でコーティング。同じくきりもみ回転をかけてギアバジリカへ迫る。
「相手にとって不足なし! こう見えても嘗ては戦艦割りなど嗜んで居った故、この質量、この敵意! 懐かしいほどよ!」
咲花・百合子はポットの中で腕組みをすると、『白百合清楚殺戮拳・人間砲弾』の構えを取った。
美少女力を推進力にきりもみ回転したポットが加速するというものである。第五次椿ヶ丘決戦で要塞校舎突入のおりに使われたことはあまりにも有名。
強化されたみっつの砲弾がギアバジリカへと直撃。
猛攻をしかけていたギアバジリカにここでようやく、大きな傾きが生まれた。
所変わってここは後衛テント。
馬車や馬やコイン式カートで運び込まれたけが人たちが苦しそうに座り込み、沢山のヒーラーたちから治療を受けていた。
「神とは何処にいるのでしょう。私は人の心の中にこそ、神は存在すると考えております。ですが、それは悪魔と表裏一体。簡単にその姿を変えてしまうのでしょう」
時任・兼続は鉄帝軍の医者たちに混じり、けが人を治療して回っていた。
深い傷をヒールで塞ぎ、エリクサー軟膏をぬった包帯でぐるぐると巻いていく。恐ろしくひどい怪我だが、これなら七日もあれば治るだろう。
「死なせませんよ、私の前では。死ぬなら寿命で死ね、鉄帝のボンクラども」
死ななければ怪我は治る。
しかし死んでしまえば、どんなことも取り返しがつかなくなってしまう。
シモン・ヨハネス・タイラーはきゅっと口元を引き結び、兵士達に包帯をまいては傷口をトンと叩いてやる。
その相手は味方の鉄帝軍兵士に限らず、倒され意識を失ったスネグラーチカの洗脳兵たちも含まれていた。
「元々戦士でしょう、耐えなさい。略奪者が倒れたなら、しっかり治してやる」
「それにしても大変な戦いになってしまいましたね。
あんな建物が歩いて街を襲うなんて悪い夢のようです」
大きく傾きながらも、脚をがしがしと動かし続ける遠いギアバジリカを振り返るガヴィ コレット。新たなけが人を運び込み、医療班へと引き渡す。
「どうか犠牲を減らせますように」
引き渡されたけが人は一カ所に集められ、効率的なヒールと重傷者に対する別途の治療が施される。
「諸君!ゴッドである! 此度の戦い、イージィではなく、ロングなバトルとなろう!」
見上げる兵士や仲間たちに、サイリウムを掲げてみせる御堂・D・豪斗。
「ゴッドウィズユー! そして奏でよう!エンジェルのソングを! 加えて、新たなるバトルへと向かうヒーローズ&エンジェルズにゴッドのアポカリプスストーリーを! ゴッドはフレンズのナイスファイトを期待する!」
ギアバジリカはどっしりとその場に腰を据え、イレギュラーズたちの殲滅に全力を注ぐ構えだ。
残る戦力もあの場所に集結しつつある。
ゴッドは親指を立て、大きく唱えた。
「ゴッドラック!」
鐘の音が鳴り響く。
ギアバジリカに備えられた無数の金が一斉に、まるで獣が悲鳴をあげるかのように打ち鳴らされた。
「聖堂の中で何かあったのでしょうか」
「確かに、様子がおかしいわね」
ギアバジリカはこれまでにないほどの勢いで大量の脚をはやすと、あちこちの窓から砲台を形成。無差別に砲撃しながら首都めがけて走り出した。
「ここにきて!」
「猛進撃ですの!」
で、あれば。止めねばなるまい。
「我等『物語』の役割は常の如くだ。肉の壁と化して強烈を受け止める。単純明快かつ痛みの伴う舞台。Nyahahaha……弾ける中身は何色か」
オラボナ=ヒールド=テゴスは高い塔の上から飛び出すと、ギアバジリカの直接的な体当たりを『自らの身体で』受け止めて見せた。
無数の砲台がオラボナへと向く。
一斉砲撃。
「今こそ、発揮するときですの…勇気を出して!」
そこへ飛びかかったノリア・ソーリアが、自らの体力をまるごと犠牲にした反撃を開始した。
放たれた砲弾をオラボナやノリアのボディで受け止め、直接投げ返すという戦法である。
「皆さま、ここが正念場ですわよー」
HP型タンクが防衛についたなら、ヒーラーの腕の見せ所。
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナートは自らのもちうる最大限の治癒能力を彼らにぶつけていく。
「誰にもなれなかった男の為に、せめてもの追悼歌を」
鳴り響く鐘にあわせるように、ユゥリアリアは歌い始める。
配置についた弓削 鶫が、電磁加速式重穿甲砲『金之弓箭』をセット。
無数に増える脚を、生えるそばから次々と打ち始めた。
「改めて見ると、かなり凄い大きさですね……。でも、大丈夫。
私達なら、必ず止められます!」
それでも無理矢理に脚を増やしては迫り来るギアバジリカ。
鶫は何発かの牽制射撃を行った後に民家の屋根から飛び降り、通りを馬で駆け抜けることで離脱。
「あとは任せました」
「歯車大聖堂、相手にとって不足なしです!
巨大な威容、なんのその! 却って斬り甲斐があるというもの。
いくら武装が苛烈だろうと、寄ってしまえば狙えないでしょう。
見事掻い潜り――断ち切ってみせましょう!」
すずな抜刀。
「鉄帝が騒がしくなっているのは知っていたけれど まさかこんなに大きな事になっているとはね…。
この国の気候的に、私、氷の吸血鬼としてはまぁ…見離せないと思ったの。 早急に手を打たなくちゃ!」
Erstine・Winstein抜刀。
それぞれが民家の瓦屋根を走り抜け、瓦を割る勢いで同時に跳躍した。
「斬鉄は得意ですから! ――その脚、獲らせて頂きます!」
すずなの斬鉄剣がギアバジリカの脚を、Erstineの氷刃が同じく脚を切り裂き、ギアバジリカを派手に斜めに傾けさせた。
攻撃はこれで終わりか?
否。
温存していた大本命が残っている。
「さあ生きましょう皆さん。強襲ポット最終突撃部隊――『発砲』です!」
アルプス・ローダーの入ったポットががちゃんと蓋を閉じ、同じくポットに詰め込まれた仲間達と共に空へ向けて発射される。
放物線を描いて飛ぶポットは空中で切り離しが行われ、最後に弾頭部分が横二つに分割。桃太郎もかくやの勢いで飛び出したバイクが、弾丸のごとくギアバジリカへと飛んでいく。
「うわあ、あれ殴って止めようとするって嫌いじゃないけど無茶な作戦だねー。
一気に飛び込んで暴れてやろうじゃん!」
同じく飛び出したティスル ティルが空中で反転してキック姿勢を固定。操った風を推進力にギアバジリカへと斜めに突っ込んでいく。
「これだけ大きいと厄介だね」
『数で止めるしか無いだろう』
「だね、全力でぶっ壊すよ」
ティア・マヤ・ラグレンもまた翼を畳んでティスルと同じキック姿勢をとり、かつての世界で見せた破壊の力を脚に集めて突撃していく。
「私は倒れぬ、倒れてはならぬ 我が祖国を踏み荒らそうとする輩を、私は許さぬのだから」
その中に混じりベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフもまた仲間達を能力で強化しつつ自らもまた突撃姿勢をとった。
文字通り一丸となった彼らはギアバジリカへと『着弾』。
次々に起こる爆発と衝撃で、ギアバジリカがどすんとしりもちをついた。
あの巨体である。周囲の建造物や停車していた馬車が吹き飛んだり崩れたりするほどの勢いだ。
それで終わりか? 否!
「ふ、まさかこの私がこんな物を使うとは思わなかったな 懲罰や遊びで他人によく使ってはいたから勝手は解る 何しろこんな素晴らしい兵器に肉薄できる数少ない機会だ 逃す手は無い!」
「くくく、これが一人用のポッドであるか!
ねえこれ大丈夫? ちゃんと実験とかした? Gで潰れたりしない? ホントに大丈夫? 信じるぞ? 我、貴様を信じあああああああああああああああああ!?」
「さあみんな、アンコールだよ! アウローラちゃんの唄に聴き惚れて!」
更に発射された強襲ポットが空中でパカパカと割れてラルフ・ザン・ネセサリー、ダークネス クイーン、アウローラ=エレットローネを出現させた。
全員一斉に空中で砲撃姿勢。
起き上がろうとぴくぴくと動いたギアバジリカめがけ、全員一斉に魔術砲撃を解き放った。
レイや世界征服砲やダブルアウローラビームがビームが螺旋状に組み合わさってギアバジリカの真ん中へと打ち込まれていく。
そうしてこじ開けた穴に、鹿ノ子、彼岸会 無量、紫電・弍式・アレンツァーがそれぞれ強襲ポットで飛び込んでいった。
「巨大な移動要塞に人間魚雷の如く特攻を仕掛ける……! いいッスねいいッスね浪漫ッスね!」
月の型「月閃光」できりもみ螺旋状に切り裂いて、花の型「胡蝶嵐」でさらなる回転を仕掛ける鹿ノ子。
「巨大な絡繰を人力で止めるとは フフ、実に面白いですね。
目には目を、鉄には鉄を。我が刀の切れ味をお見せ致しましょう」
更に無量が強引に建造物を切り裂いて抜けていく。
「古代兵器は浪漫があるが、コレ面妖が過ぎるだろう!
こんなものを強硬派は利用しようとしていたのか!? とにかく止めるしかない!」
反対側からはアレンツァーが駆け抜け、強引に切り裂いていく。
彼女たちはなんやかんや大聖堂の中を破壊しながら突き抜けていき、最後の最後で反対側から飛び出し……。
「あ、いかん」
思わず自由落下していった。
別の飛行した仲間にキャッチされ、大穴のあいたギアバジリカを振り返る。
「終わったん……ッスかね?」
鹿ノ子はアシンメトリーカラーのツインテールをぴこぴことやって、ギアバジリカの細部を観察した。
あれだけ暴れ回っていたギアバジリカは動きを止め、新たに脚を生やす様子も、砲台を増やして乱射する様子もない。
もはやこうなっては、ただの巨大な聖堂の塊である。
「街がだいぶ破壊されてしまいましたが……」
「なあに、鉄帝のことだ。すぐに作り直す。どころか、アレを新しい観光名所にでもして儲けるだろ」
過酷な土地でも生き抜けるタフな国柄だ。
生きてさえいれば、破壊を新たな創造につなげることだろう。
そう、生きてさえいれば。
戦いの終わりを察し、ゆるやかに地上へと着陸――しようとした、その時!
「まだ終わっていない。終わらせはせん!」
巨大なアルキメデスレーザーが、民家や教会を貫いていった。
●ショッケン・ハイドリヒの墓標
陽光を背に受けて。ギアバジリカの頂上より見下ろす男がいた。
全身を歯車とネジと鉄板だらけに改造されつつも、かろうじて人間のシルエットを残した彼の顔を……雪村 沙月はよく覚えていた。
「ショッケン。丁度良いですね。あの時の借りを返しておきましょうか」
仲間の力を借りてギアバジリカの屋根へと降り立つ沙月たち。
「お待たせ真打ち! 戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
刀を抜いて屋根へ着地する茶屋ヶ坂 戦神 秋奈。
(弱者が奪われるだけなら…私は、何も望んじゃいけないのかと…それが何だか、腹立たしかったんだ。望むものなんてもう…何もない筈なのにね)
一度閉じためを燃えるように開き、剣を握り混むメルナ。
彼女たちを前に、ショッケンは笑った。
「ギアバジリカの力は素晴らしい。見ろ、この肉体を」
両腕を広げてみせる。彼の身長は5mをゆうに越え、巨木のような腕は黄金の鋼に覆われていた。
「うわー、力に呑まれた奴が言いそうなセリフー。けどそうだよね。そうじゃないとね」
「せめて悪役らしく人のまま討たれるのが最後の仕事でしょう。懺悔し、自らの行いを悔い改めなさい」
「奪うだけ奪って一人だけ被害者ぶるなんて……そんな身勝手、許さないよ」
「フン! 弱者の理論など知ったことではない! 勝者が奪う! 弱肉強食! 世の理よ!」
手のひらに埋め込んだアルキメデスレーザーを両手からそれぞれ発射。
正面切って飛び込んだ沙月が手刀で切り裂くようにしてレーザーを防御。
彼女を盾にした秋奈とメルナが、それぞれショッケンへと斬りかかった。
黄金の装甲が切り裂かれ、無数の歯車やバネが吹き飛んでいく。
しかしすぐに再構築をかけ、彼女たちを掴んで放り投げた。
彼女たちの回収を仲間に任せ、七鳥・天十里とアーリア・スピリッツ、そして彼女にかつがれたワモン・C・デルモンテがそれぞれショッケンを取り囲んだ。
「おかしくなったまま死ぬなんて許さない。たくさんの人を犠牲にしたその罪を、僕の弾丸で思い出させてやる!」
「ああ、覚えているとも。だが悔いなど無いな! 我が糧になってくれてありがとう世界よ!」
天十里が構えるより早く迫り、顔面を掴んで屋根へ叩きつける。
粉砕した屋根を突き破って階下へ落ち、美しいタイル張りの講堂へとぶつかった……が、天十里はその姿勢のままゼロ距離から二丁拳銃を連射。
アーリアの放ったワモンがきりもみ回転し、ショッケンの巨腕を破壊しながら貫いていく。
「やいやい! ついに追い詰めたぜハゲ軍人! 海洋の船長達の仇とらせてもらうぜ!」
「甲羅戯『名ばかり』艦隊か。私の功績によって有名になれたではないか! 奴らには永遠にできなかったことだ」
「へりくつだぜそんなもんは!」
床をころころと転がり、ガトリング射撃を加えるワモン。
猛烈な二人の射撃に装甲がはげはじめたところで、アーリアがショッケンの後ろへと着地した。
「前に会った時は、好みじゃないけどもっとイイ男だと思ったんだけど……見失っちゃったのね」
「何……!?」
「誰になるも何も、貴方はショッケン・ハイドリヒ! それ以上でも、以下でもないのよ!」
振り返るショッケンに、魔法の衝撃が走った。
思わず吹き飛ばされ、赤い絨毯の上をバウンドするショッケン。
が、近くのパイプオルガンを分解・再構築して作り出した新たな腕から爪をはやしてブレーキ。
胸に生み出した新たなアルキメデスレンズから巨大なレーザーを発射した。
講堂が半分消え去り、ショッケンはゆっくりと歩いて行く。
さらなる階下へと飛び降りたところで、三人のイレギュラーズが彼を取り囲んだ。
「『それ以上でも以下でもない』……だと? 私という名ごときに意味など……意味、など……」
「結局、お前は変わっていないな」
「てめぇは自分で選んでそうなった。そこに他人は関係ねぇ」
ショッケンはゆっくりと、彼らの顔を見回した。
「レイリ―=シュタイン……イグナート・エゴロヴィチ・レスキン……そして郷田 貴道か。モリブデンを更地にした時以来、だな。
特にレイリー=シュタイン。貴様とは縁がある」
イグナートは真正面から殴りかかり、それをショッケンは手のひらで受け止めた。
「オレはアンタに少しだけ感謝してるよ。
かつてアンタたちのやったことは最低の行為だったかもシレナイ。けれど、同時に間違いなくゼシュテルの多くの人間を助ける行為でもあったんだ。
オレはゼシュテルの人間としてアンタたちのやったことを責めないよ。恩恵にあずかった人間としてそれはヒキョウなことだと思うからさ。でも……」
至近距離から放った気の波動がショッケンをのけぞらせる。
「オレはアンタのやり方を認めるワケにはいかない! それを超えて新しい鉄帝のやり方を見つけ出してみせる!」
「できるわけがない! 他国から奪うことしかしてこなかったこの国が――!」
「そいつは過去だ。未来じゃねえ」
横からパンチをたたき込む貴道。
ショッケンのボディにめり込み、彼の装甲や内部組織をことごとく破壊していく。
「認めてやるよ、大したクソ野郎だったぜ。だが未来にはいらねえ。てめぇを『過去』に置いていく」
「置き去りにされてたまるか!」
砕け散ったボディの破片を寄せ集めて再構築し、貴道と同じ身長になったショッケンは彼の顔面を殴りつけた。
クロスするようにショッケンの顔面を殴りつける貴道。
「まだ私は、何者にもなっていない! まだ、手に入れていない! 賞賛も! 名誉も! 栄光も!」
「今更迷うな、略奪者シャッケン・ハイドリヒ。それが誰でもないてめぇだろ!」
衝撃によって吹き飛ばされたのは貴道のほうだった。
石像にぶつかり、砕けてとんだ石と粉のなかに沈む。
追撃をしようと飛びかかるショッケンを、レイリーが自らの拳で受け止めた。
「お前が奪ったものは、確かに多くの人を養っただろう。
同時に多くの人を悲しませ、そして命という無限の未来をも閉ざした。
ショッケン。教えてやる。
『私たち』は、最初から『私たち』でしかないんだよ。
だからこそ、選択ができるんだ」
ショッケンの肉体は限界をむかえていた。
レイリーによって受け止められた衝撃の、その反動だけで腕が崩れ去ってしまうほどに。
「お前はその中で、他者から奪い取ることを選択し、そしていまここにいる。
決して善行をなさなかったが……しかしお前は、前として名を残すだろう。
それが、選択の結果だ」
膝をつき、うつ伏せに倒れ、タイルに頬をつけたまま。
「そうか」
ショッケン・ハイドリヒは、目を閉じた。
「ありがとう。最後に夢がかなったよ」
●破壊と再生
鉄帝首都を震撼させたギアバジリカ進撃事件は、この巨大構造物を半壊させることで強制的に停止させ、首都への人的被害は最小限にとどめることができた。
進撃の折りに破壊された村々や、略奪にあった人々。そしてギアバジリカに取り込まれ洗脳された兵士達のケアはこれから行われていくことだろう。
そう、これから、選ぶことができるのだ。
生き残った人々。まっさらになった土地。選択の権利は、平等に与えられた。
それを与えたのは他ならぬ……ローレットによる勝利であった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
作戦成功
『未来』へつづく
GMコメント
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
■オーダー
鉄帝首都スチールグラードへ向けて進撃中の歯車大聖堂を物理的に止めるのが今回のオーダーです。
このあまりにも巨大過ぎる兵器を、力を合わせて止めましょう。
フィールドは市街地。
周辺の住民は仲間たちの活躍によって完全に避難が完了しているので、戦いだけに集中できます。
鉄帝国標準背景にあるような町並みを想像してください。
https://rev1.reversion.jp/page/sestelleisenreich
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■パートタグ■■■
【兵団】【ショッケン】【大聖堂】【救護班】のうちいずれかのパートタグを【】ごとコピペし、一行目に記載してください。
・【兵団】
戦闘難易度:高い
推奨人数:多ければ多いほどよし
歯車大聖堂から出撃した大量の歯車兵団および自律歯車兵器たちを破壊し、攻撃部隊を進ませます。
歯車兵団は洗脳及び改造された兵士たちで、正確には黒衣の兵団『スネグラーチカ』と呼ばれています。
彼らは様々な武装を用いてこちらを排除しようと襲ってくるでしょう。彼らと共に攻撃してくる自律歯車兵器は自律戦車や巨大なロボット犬または攻撃ヘリといった兵器たちです。
歯車大聖堂と同じく大量の歯車がくっついた魔術工学兵器で、大聖堂内部に取り込まれた強大な魔種のパワーによって動いていると思われます。
とにかく数に対して数で攻めるのが一番。得意分野をフルに生かしてドカドカと殴りかかりましょう。
・【ショッケン】
戦闘難易度:とても高い
推奨人数:10~20人
大量の歯車兵器に取り込まれ肉体を改造された鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒに対応するための特別チームです。
改造ショッケンは巨大なサソリめいたボディから上半身だけがはえたようなフォルムをしており、無数のアルキメデスレーザー浮遊レンズによるビーム攻撃や、巨大な腕による攻撃で鉄帝兵たちを薙ぎ払っています。
他のモンスターや兵士と比べて格段に強力ですので、力を合わせて倒しましょう。
・【大聖堂】
戦闘難易度:やや高い
推奨人数:30人以上
巨大移動要塞『歯車大聖堂』を物理的に止めます。
とにかく攻撃を仕掛けまくって脚や武装を破壊し、動きを止めるのが役目です。
大聖堂からはえた大砲などからとにかく苛烈な攻撃が行われるので、これを防御する役割も必要です。
余談ですが、鉄帝軍が希望者にのみ『強襲ポット』なるものを提供してくれるそうです。
平たくいうと特殊な大砲で自身を歯車大聖堂めがけて発射してくれるというトンデモ兵器です。
・【救護班】
戦闘難易度:ナシ
ヒーラー部隊です。
怪我をした仲間や鉄帝の兵士たちをとにかく戦場の外へと運び出す役割を担っています。
運び出しながらヒールしまくるのが基本戦術で、いかに効率的にかつ急いで運び出せるかがカギになります。
■■■グループタグ■■■
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合は【仲良しコンビ】といった具合に二行目にグループタグをつけて共有してください。
この際他のタグと被らないように、相談掲示板で「【○○】というグループで行動します」とコールしておくとよいでしょう。
うっかり被った場合は……恐らく判定時に気づくとは思うのですが、できるだけ被らないようにしてください。
また、グループタグを複数またぐ行動はできません。どこか一つだけにしましょう。
膨大なプレイングを【】タグで一旦自動整理していますので、今回同行者の名前とIDだけを指定していた場合、かえってはぐれやすくなってしまうかもしれませんのでご注意ください。
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