シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>Nemo fortunam jure accusat.
オープニング
●Fit via vi.
「――我ら、ミーミルンド派に勝利を!」
落ち着き払った声音で、彼等にとっての『王』は宣言した。
「ふふ、可笑しな話ね? 国防を、と叫んでいたこの唇が国盗りを行おうとするだなんて。
ああ、けれど――仕方ないのかしら。私達には血統書なんて無いもの。
忌まわしき豪族クラウディウス氏族による圧政を、今こそ打ち払い平等を――!」
ベルナール・フォン・ミーミルンドの整ったかんばせに熱が灯る。
ミーミルンド派と呼ばれた幻想王国の『諸派』、奴隷市の一件より国内を騒がせる叛逆者と相成った彼等には戻る道など存在して居なかった。
行くも戻るも暗闇ばかり。ならば、進むしかあるまい。
「勝ちましょう」
落ち着き払った智慧の血筋、ミーミルンドにあるまじき感情的な声音。
「勝って、私達がこの国を治めるのです」
暗君フォルデルマン三世と、忌々しい三大貴族共の台頭はこの国を腐敗させる。
彼等は言葉巧みにローレットのイレギュラーズを味方に付けたらしい。己等の悪事も噯にも出さないで。
王家の象徴たる角笛は此方にある。正義は此処に。巨人の長フレイスネフィラの『黄金の秘術』も用意は出来た。
罪を罪と、悪を悪とさえ考えぬ彼等に鉄槌を落とすのだ。
ベルナールの横顔を眺めて居た褐色の肌の少年――リュシアンは詰らなさそうに横目で窓の外を見遣る。
「ベルナール。君たちの兵士だけれど、イレギュラーズや騎士団に攻込まれてるみたいだ」
此度の協力者となったのは『オーナー』の意向だ。と、言えども彼には此処で命を賭ける理由はない。
オーナー――『煉獄篇第七冠色欲』 ルクレツィアの暇潰し程度にやって来たのだろう。
彼を戦力の宛てには出来ない。けれど、彼の目の前で勝利を収めればルクレツィアの『協力』を受けることが出来る筈だ。
「ええ、そうね。だから決戦の地で迎え撃つのよ。『お母様』にも認めていただかねばならないもの!
さあ、行きましょう。リュシアン。角笛を鳴らし、正義は此処にと示してみせるの!」
嘗て、国盗りの戦が行われたというその地――ヴィーグリーズの丘へ!
●quem di diligunt juvenis moritur.
両親が死んだのは、事故だった。
雨の降り荒む夕暮に乗っていた馬車が魔物に襲われたのだという。
――残念ながら、男爵様は亡くなりました。
王国としては弔辞を捧げると共に、次期男爵にベルナール様を……。
頭が真っ白になった。事故だと言われたが、両親の遺体はそうとは思えぬ傷が存在して居たのだ。
……聡明であった父が政敵にやっかまれていた事は知っていたが、命までも容易に奪うのか、と。
父を、母を殺した者は他に居る筈だ。我武者羅に探し求めた。
思えば……その時から『周囲の者』は信用出来なかった――気づけなかった、けれど。
年若く爵位を賜った『私』に対して彼等は親切に接してくれた。
路頭に迷わぬよう、家の管理にも助言を。年の離れた幼い妹の教育にだって手を貸してくれた。
そうして、『私』は彼等の思惑に取り込まれたのだ。
彼等の傀儡になった事に気付くなどもう遅い。丁寧に教育された妹は『次期王太子妃』に擁立された。
――マルガレータ様ならば素晴らしき王太子妃……いいえ、皇后になられることでしょう!
これで我らがミーミルンド派は安泰で御座います。そうでしょう? 男爵。我ら一同、令嬢をサポート致します。
そんな言葉の裏に何が潜むのかも分からぬ儘、マルガレータは呆気なくこの世を去った。
両親と同じ馬車の事故で、だ。そんな筈があるまい。馬車の事故では剣での刺創なんて残る訳がない。
この国の在り方は何時だってそうだった。
弱者は莫迦は虐げられる。何時だって変わりなく。尊き青き血こそが優先される欺瞞の国。
悪人であれども、貴族は罰されることはない。
それは常識だ。スラムの子供さえ知っている。『上に立つ者』に逆らうこと勿れ。
喩え、貴族が間違いを犯そうとも彼等が否定すればそれは罪ではないのだと。
……いや、そもそもだ。この国の成り立ちからそうではないか。
御伽噺のイミルの血族。豪族クラウディウス氏族と蛮族イミル氏族の不毛なる戦い、講話――そして惨殺。
幻想王国の貴族達は豪族クラウディウス氏族の子孫達が中心となっている。
あの凄惨なる虐殺を生抜いたイミル氏族にも少しばかりの爵位を与えてイルシアナの争いを終えたつもりになっていた。
幼き頃から己達と『クラウディウス氏族の末裔』達との間に存在して居た冷たき壁には気付いていた。
其れが、今! 立ちはだかったのだ!
マルガレータ様は事故死です。フィッツバルディ、アーベントロート、バルツァーレクの三派よりそう声明が出されました。
――莫迦な!
マルガレータ様には哀悼の意をと公爵様、侯爵様、伯爵様より言伝を預かっております。
――どうして、あんなにも『無惨に殺されて』いたのに!
男爵様。それ以上は……。
――こんな腐った国なんて、こんな腐った場所なんて……。
「壊してしまいましょう? ねえ、私が力を貸しますわぁ。
薔薇は何時までも美しくはあれないの。さあ、可愛い子――愛は憎しみにも変わることを見せて頂戴」
●Oscopnir
「――さて、よくぞ参った。『勇者』諸君」
幻想王国が誇る大公爵レイガルテ・フォン・フィッツバルディは堂々とそう言った。彼の傍らには『存在しないはず』の人物である姪、ベルナデット・クロエ・モンティセリが控えている。
「ミーミルンド派が仕掛けてくる。貴殿等の調査でこれまで幻想王国に大量発生した魔物事件、レガリアの盗難、奴隷市。イレギュラーズの領地襲撃……いずれもミーミルンド等が引き起こした策謀であったのだ」
その言葉に僅かに顰め顔を見せたベルナデットはそっぽを向く。叔父の前で、彼女も口を開くのは憚られたのだろう。
「理解できるであろう。奴等悪徳貴族は幻想王国に大きなダメージを与え、王権簒奪を目論んでいるのだ。
此れを見逃せば国益にも差し障る。叛逆者を野放しには出来るまい。
国王陛下の無事も保証できぬ内乱だ。貴殿等の力が必要となる――さあ、今こそ、悪徳貴族と大量の魔物共を成敗せよ! 幻想王国に平和を取り戻すのだ! 勇者よ!」
レイガルテ公の宣言の後、ベルナデットは囁いた。
この国の在り方はそうは簡単には変わらない、と。イレギュラーズにとってはローレットが座す拠点ではあるが、腐敗しきった国内では王家の力は弱り、門閥貴族達の台頭を良しとしている。
勢力は強力な三大貴族、彼等に担ぎ上げられる国王、そしてその他派閥とに分かたれ、権力闘争を繰り広げており、当然ながら犠牲となっているのは、国民達だった。
――だがイレギュラーズが解決した『サーカス事件』を切っ掛けに、歪みは徐々にではあるが是正方向に動いていた。『いた』というのは其れまでの話だ。
ミーミルンド男爵の挙兵理由を見るに、現況はそれ程大きく好転していないのだ。
ベルナデットの生家たるフィッツバルディも、暗殺令嬢が名代を務めるアーベントロート、穏健派であるバルツァーレクを見てもそうではないか。
この国は歪んでいる。
其れを是正することは長い時間が必要だ。
人は、国は、そう簡単には変わることがないのだから。
「不憫に思うさね。アタシだって『フィッツバルディ』でなければ処刑台で首をごろっと落とされていたさ。
この国はそう言う国なのさ。
栄光ばかりに縋って、目先の餌ばかりに食らい付くピラニアみたいな腐った大人が馬鹿らしいワルツを踊ってる。
けれど、国である以上は統治者が必要さ。アンタらが活躍していく事で少しは好転してる状況の波を止めるわけにはいかない。
折角、王家と三大と数えられる貴族にとっての『共通の敵』が現われたのさ。手を取り合っているウチにさっさと殺しちまわないと」
だが、彼は――?
「ベルナールの坊ちゃんは、国のために犠牲になって貰わなくちゃいけないね。
……国を一つに纏めるには、犠牲が必要。そうだろう? それに、あの子は、もう――……」
- <ヴィーグリーズ会戦>Nemo fortunam jure accusat.Lv:20以上完了
- GM名夏あかね
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月08日 22時10分
- 参加人数102/100人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 102 人
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参加者一覧(102人)
リプレイ
●
――やあ、ベルナール。君はまるで月のようだね。
遠い昔、そうやって声を掛けて笑ってくれた人が居た。太陽のような、澄んだ空の下が一等に会う方だった。
燃えるような赤毛に、何処までも人が良さそうな笑顔。未だ幼い彼は背をぐっと伸ばしてから私に言うのだ。
――何時か、僕が王になったら。僕が誤ったら君は殴ってでも僕を連れ戻してくれ。
君が間違ったことをするわけがないんだから。そうだろう、叡智のミーミルンド。
いいえ、いいえ。カイン様。
……私は間違ってしまったの。貴方のおそばでマルガレータと共に笑っていたあの昼下がりは、もう――……
●
澄み渡った晴天とさえも呼べない。移ろい変わる天候は嘗て絶望と呼ばれたあの海を思わせる。
幻想王国のヴィーグリーズ。騎士達の士気は高く、己等が誉れの為の戦いだと剣を掲げる。
遠く見上げれば空中庭園が浮かんでいた。英雄の園、勇者だけが辿り着けると伝えられた伝説の。その伝説を眼前に並べ立ててもミーミルンドの騎士は怯むことは無かった。
どのみち、この戦いで負ければ諸派は潰され叛逆者として名を連ねることとなる。
彼等にはそうした諦めの一方で声高に宣言したいことがあった。彼は、自身らが祀り上げる心優しき『王』は何も間違ったことはしていないのだと。
――剣を掲げよ! ミーミルンド派に勝利を!
一際盛り立ったその声に。リュカシスは大きく頷いた。それが忠義。そして忠臣の在り方か。
「国家へ反逆と知りながら主人に忠義を尽くす姿は敵ながら天晴れ。
その在り方は軍人見習いとして共感するところもあります、ケレド……あなた方は賊軍です。此度この場で倒れていただきます!」
騎士達は、主人に仕えることを誉れと信じている。彼等はベルナール・フォン・ミーミルンドに間違いなど無いと信じている。
ああ、その心酔ともとれる忠義はなんと素晴らしきことであろうか。膂力を活かし、リュカシスは走る。剛剣とも呼ばれたその体は勢いよく騎士へと力任せに武器を叩き付けた。
デコボコハグルマは適当にその体に『パーツ』を当てはめた。その勢いは狂うことは無い。
「次! 次! どのような敵であれ、本陣の援軍へは向かわせません!」
深白は笑みを深める。ジャケットがばたばたと揺らめき、大佐の証である襟章が厳かに光を帯びる。
「たった100人でこの戦場を押さえるのですか。中々に厳しい仕事ですが、何とかやってみましょう」
オリーブは堂々とそう告げた。上質な長剣を握り込み、味方騎士達には魔種に近付かぬようにと助言を送る。
「死ねば術式の糧になります! 互いを守り合いながら戦い、生き残って下さい!」
傍らには死の女神の存在がある。故に、オリーブは気遣いながらも眼前の巨人へと乱撃を放った。
「奴隷市から始まったこの騒動もようやく終わりが見えかけてきたか。
大切な妹を謀殺され、それを事故死として片付けられる……彼が闇に堕ちるのも無理はないと思えてしまうな」
だが、それでもこの悲劇は幻想という国を変える一歩になろうとも『許されること』ではない。国に対して勇者が何事かを考えるチャンスならば。
その声を届かすために彼を倒さねばならないのだ。気糸が全てを攫う。鬼灯は戦場を駆けずり回り、雑兵を狙い穿った。
「戦争ね。ふふっ、懐かしいわ。
召喚される前はいやというほど戦わされたのに……いえ別にアタシ嫌じゃなかったわ。でも戦場に来ると落ち着くのも不思議ね。
血と硝煙と怒号が飛び交う場所がアタシのホームグラウンドってわけよ。さあいくわよ!」
地を深く蹴り込んだ。闇に潜む虚。倫敦をホームグラウンドに活動したと呼ばれた殺人鬼の伝説の如く敵を翻弄する。
騎士の刃が乙女の柔肌を掠める。だが、それも刹那の瞬きか。深白は裏切りの一突きを放つ。
「ほら、そこの騎士達! ボンヤリしてると死ぬわよ! アタシが気を引いてる間に囲んで叩くのよ!
大丈夫アタシは死なないわ、死なないことが特技だもの。ちゃんと付いてくるのよ、あなた達。なんたってパーティーはこれからだもの!」
まるで躍る様に深白が声を掛けたのは自身らの味方と相成ったフィッツバルディ派閥騎士や元老院の決定で派遣されてきた騎士達だ。
伝説とも謳われた勇者達との共闘。小隊を組んだ彼等を支えることこそが勇者の本懐だ。
安全な場所から指揮するだけなど自身の性には合わないのだとエイヴァンは堂々と前線へと飛び出した。海洋技術攻防で作られた凍波の大盾にぶつかった巨人の拳は重く、体に衝撃が響く。
「はッ――!」
だが、己を蝕む者は何もない。勢いよく巨人を押し返す。全身の力は右腕に。膂力を活かし一気に爆裂させる。
「防戦に転じるな! お前達も攻撃に注力するんだ。勢いを損ねればそれで終いだ!」
堂々と叫んだエイヴァンの鼓舞に騎士達は剣を掲げる。王の威光を頂いて、賊軍を討つが為。
「大丈夫。大丈夫、です。
誰も悲しいことにならないように、わたし達イレギュラーズは……ここにあるのですから」
祈りの光は騎士を包み込む。『通信教育で勉強してきました!』と駒を効率的に動かす能力を堂々と見せ付けるフェリシアは自立防御短剣を宙に展開させる。エイヴァンが前線で攻勢を見せ付け、後方ではフェリシアが騎士を支え続ける。
「援護、します。誰も死なないように……お家に帰るまでが、戦いです」
魔性の直感を研ぎ澄ませる。騎士達を失うという悲しみの闇など打ち払え――それが『勇者』と呼ばれた存在なのだと心に掲げ。
「我らの恨み我らの悲願と人の上に立つが故に高貴の筈ですのに。
我ら我らと民は眼中になど無く腐った相手を倒すのだと言える。面の皮の厚さは見習いたく無いものなのです」
肩を竦めたヘイゼルはフィッツバルディ派の損傷を抑えるために動くことに決めていた。何故ならば、彼等と違い此方は『未来』が在あるからだ。
故に、フェリシアと同じく回復を以て支え続ける。広い戦場に立っている女は錆びていた棒切れを手に周囲を睨め付ける。
独自魔紋によりタトゥーと眸が深紅に染まり上がった。他者を支えるためには己を支えきらなくては為らない。それは当たり前の事なのだ。
「さあ、進むのですよ。より良き未来のために。デコイならまかせるといいのです><。」
わざとらしいほどに『無害な女の子』の顔をしてヘイゼルは前線に立っていた。遙々訪れた前線に立てば巨人の圧倒的な気配が身をびりびりと刺し続ける。
「どうにも、大きすぎる敵という者は首が痛くなるのですね」
「むむ! 巨人さんや兵士さんがいっぱい居るのです!
皆様をベルナール様の所に送り届ける為にもここはハク達に任せて先に行け! なのです! ――ふっふっふ! 一度言ってみたかったのです!」
ハクの紅色の両眼――『サリエルの魔眼』は光を帯びる。複製品、劣化品とも呼ばれたその呪物は仲間達の為に魔力を帯びた。
騎士の士気が高いことは見て取れる。それでも、だからといって野放しに出来ない事もハクは知っていた。
「少しは頭を冷やすのです! 兵士の皆様!」
叫ぶ声、そしてその後方に見えた『古廟スラン・ロウ』の怨嗟の塊、まつろわぬ民達をしかと睨め付ける。災厄の魔眼は闇の月で煌々と照らすように巨人の運命を暗く照らし続ける。
「ふっふっふ! この『†魔眼王†』のハクの魔眼に恐れ戦くがいいのです!」
元より彼等の運命が明るい物でなくとも――それでも、照らしてやりたかったのだ。
「内乱が起きちゃうとおちおちサボってもいられないから頑張るしかないないなー頑張りたくないけど、頑張らなきゃ。
逆に元気になった人は少し前に出て怪我人を守るように立ち回ってくれたら嬉しいな。
私には癒やすことしかできないけど、これで皆を勇気づけることができるといいな……そして私を守ってくれると嬉しいな」
本音は秘密なのだとクリスハイトは癒しを放ってから口元をぱっと抑えた。アルパカタンク日記を手に、揶揄い笑った少女は戦線維持を努力する。
「TKRy・Ry……! 下級種族が何体集まろうと無駄な足掻きなのだ! 我が天才的策略と圧倒的科学力の前にひれ伏すがいい!」
堂々と胸を張った萌乃。モンスターを蹂躙し続けるべくラ・レーテの執念深き刃がユゴスの化学兵器を模倣して電気銃へと変容し続ける。
「調子にのるな、私が居なければ既に貴様は滅んでいるぞ……zz……z……」
Thusxyは名状しがたき嫌悪感を感じる敵を倒すが為に萌乃を庇い、そして毒の役便を投げ入れ続ける。
「古戦場ヨートゥンねぇ……何度も戦いの場になったっていうけど、明らかに異質な感じのする場所だな……天気もすごい変わってるみたいだし」
故に此の地で戦乱が起こるのか。まるで伝説の一遍を紡ぐかの如くアオイはクリスタルソードを握りしめた。
遣ることは切り込むことだ。白雪姫のなれはての周囲に存在する雑兵を減らし、刃を研ぎ澄ませる。
その可能性が、前へと進む力を呉れた。大量の歯車が噛み合い、そして放たれる。鉄華閃撃。鉄の花が舞踊る。
「色々な立場があるでしょう。色々な物語があったのでしょう――ですがその力に手を出した以上、その正義は曇っています」
目を伏せたドラマは同派閥のフィッツバルディ派と共に前線を押し上げると決めていた。上空を舞う梟が戦況を教えてくれる。
「シラスだ。みんな聞いてくれ。我々は今まさに歴史の一頁に立っている。即ち、我々は歴史だ。国父アイオンと未来の幻想に誇れる戦いにしよう」
幻想の勇者は。
『次世代の勇者』としてその名を連ねた青年は声を張り上げた。
「私は天義の聖騎士、サクラ・ロウライト!ですが此度の戦、天義も幻想もない!
守るべき民を害する者が敵なれば!轡を並べ、抗うのみ! ――臆するな! 神の加護は我らに有り!」
天義の騎士は。
嘗て『国を担う事を願われた』次代の娘は剣を天へと掲げた。
「勇気を!」
「知恵を!」
国など関係は無かった。此の地に存在したのは只、生きるという確かな結束。サクラとシラスの檄が飛ぶ。
幻想の貴族社会に思うことが無いわけでは無い。サクラにとって、幻想も天義も『腐った政治』は何時だって無辜の民を犠牲にする事だと知っていた。
「ここから、押し返しますよ!」
ドラマの傍らで白き翼が展開された。魔力の残滓を纏わせて、スティアは天義の聖職者(かみさまのたいげん)として声を張り上げた。
「罪もない人々を巻き込んで内乱を起こすなんて……
苦しむ人がいるのがわかっていて放置することなんてできない! 絶対に収めてみせる!」
多少の怪我など、拭い去ってやる。丈夫な体は仲間を護る為に或る。国の荒廃が民を傷付ける事を知っている。
故に――誰かが傷付く姿なんて、見たくは無かった。
母国に訪れた暗闇が、どれだけ民の心に傷を付けたか。どれだけ沢山の人々の命を蔑ろにしたのか。
「負けるわけには行かないんだ!」
「スティアちゃん!」
サクラの呼ぶ声にスティアは頷いた。飛びかからんとしたアンデッドの前に身を滑り込ませる。術式は展開、聖域は不浄なる気を消し去り、魔力の残滓が咲き乱れる。
「サクラちゃん!」
その声に、サクラは――ロウライトの騎士は聖刀を振り下ろす。降り荒んだ雨が紅色の髪を頬へと張り付けた。足場さえも不安に感じる。
「それにしてもこうも天候が変わっていくと、やりにくいったら!」
苛立ちを滲ませたサクラの傍らでドラマは状況を逐一伝え続ける。能力の分析を、効率的に闘うための『知識』をビブリオフィリアは語らった。
実戦訓練で備わった師の能力を思い描け。そして書に謳われた猛き暴威を再現するのだ。
叡智の捕食者は、嘗てこの国の叡智と呼ばれた軍勢を捕えては放さない。総てをばくっと飲み喰らってしまうかの如く。
「さあ、正義の意味を教えましょう」
シラスは飛び込んだ。構えた指先から光が放たれる。拘束の呪と共に傷付くことも厭わぬに葬送の気配をその身に纏う。
青年は『勇者』だった。スラムで生まれ、家族の思い出なんて持ってやいない。愛情なんて知らないままで育っても。
それでも――彼女が、彼が、仲間達が、押し上げてくれたから――シラスは勇者であった。
「ここが分水嶺だ、俺に命を預けてくれ!」
――貴方が勇者だというならば、この命は疾うに預けっぱなしだというのに!
●
「全く以て胸糞わりぃ。この国は醜いったらありゃしねぇよ。男爵だって、妹を殺された被害者じゃねぇか。
何が『勇者』諸君だ、糞が。……分かってる。オーダーには従うさ。今は犬でいてやる」
苛立ったようにレイチェルは呻いた。彼女にとって理解しがたいのはフィッツバルディ公は何食わぬ顔をして賊軍を退けろと告げたのだ。
理解もし難い、理解もし得ない。それでも、レイチェルは『彼のオーダー』を受入れた――受入れない訳にはいかなかった。
「くそ……!」
呟くその声に「何とも言えないって顔だよね」と聞き慣れた声がした。少年の声は何処か面倒だという響きが込められる。
「お前――リュシアン。よぉ、久しいな。今度は敵か。
リュシアン、お前も目的の為にはまだ死ねねぇだろ? ……上手く無事に切り抜けてくれ」
レイチェルのその一言にリュシアンの目が見開かれた。攻撃をと、構えていた少年の腕がす、と下がる。
右半身の術式制限を解除していたレイチェルは月下美人の咲き誇った大弓を握りしめながらリュシアンの意図を探るように睨め付ける。
「……変な奴」
彼の言葉に「褒め言葉として受け取っといてやるよ」とだけ小さく返した。
その様子を眺めていたアリシスは魔種ブルーベルを思い出す。彼女はリュシアンに気をつけろと言っていた。本来ならば、激しく感情を動かす少年では無かったのだろう。
「……これで、会えるアカデミアの子供達には一通り会えた事になりますね。初めまして、リュシアン。私はアリシス」
「お噂にはかねがね。『ジナイーダ』が世話になったね、アリシス」
足を止めたリュシアンはアリシスをまじまじと見詰めていた。意志の強い緑の瞳は僅かな苛立ちの気配を讃えている。
アリシスはリュシアンがどの様な反応を示すかが気になっていた。どの様なリスクがあろうとも、ジナイーダへのケジメの為に会っておきたかったのだ。
「……『博士』の行方、貴方もまだ探しているのでしょうね。未だ何処かに何らかの形で居る筈。
何時か必ず、再び姿を現す予感はある、その時までは、死なないようになさいリュシアン」
囁くアリシスにリュシアンは「俺はここに戦いに来たんだけど、不思議な奴等だな。イレギュラーズ。俺と闘う気ないの?」と小さく笑った。
「いいえ、貴方が私を殺す可能性は鑑みました。ですが――」
「……俺がそうしないから?」
肯くアリシスにリュシアンは「そ」とだけ小さく言葉を返した。少年は『手伝い』で来ただけだからだろうか。己が主となる戦場にいると言うつもりではない様子が窺い見えた。
「今回は『敵』なのね。私も相対するなら殺されるのかしら? 抵抗はさせていただきますけれど」
「……」
フルールはこてんと首を傾いだ。リュシアンへと物言う事を決めたフルールは彼よりも尚、うっとりとした笑みを浮かべているようにも思えた。
「それにしても、つまらなそうな顔ですね。あなたのご主人様は色欲なのでしょうけど、本当に色欲なのかしらね。
ふふ、自分の好きなことしか興味がない。役立たずはおそらく殺されるのでしょう?
無償の愛を振り撒き、愛に育まれる、それができない女が大罪の一角、その頂点なんてね」
「俺も色欲。俺だって無償の愛を育まない。出来やしないんだよ、誰にも。
……だから君の誘いには乗れない。俺は、君を連れて行くことも、君と共に行く事もないだろうから」
ふい、と視線を逸らしたリュシアンはフルールを見ては居なかった。少年は『最愛の少女』を失った心の隙よりその身を闇に委ねた。
主人の気紛れにも困ったものではあるが、博愛的に仕事を選ぶイレギュラーズの方が信用ならないと言ったのだろう。決別にも似た響きを残し、少年は駆け出す。
「っあなた! 確かリュシアン、だったかしら? ラサでもちょっと見かけたわね……なんで幻想に……今度は敵と味方、どちらなの?」
戦乱の中でエルスは慌てたように彼を食い止める。氷砂の指環が作り上げた大鎌にリュシアンがぴくりと肩を揺らした。
「敵だよ。俺がなんと言おうと『魔種』は敵、そうだろ? イレギュラーズ」
「……あなたが誰の為に動いてるのかは知らないけれど。私にだってラサの為に戦う理由がある。まぁ、ここは幻想だけれどね」
微笑んだエルスは構えるだけで闘わない。何となく引き留めてしまった理由も分からないまま対話で少しの時間を稼げやしないかと彼を見詰めて。
「それにしても……あなたは何と言うか……理性的、なのね。魔種ってあんまり会った事はないけれど……
嫉妬や怒りを隠そうともしない方ばかりだと思っていたから……あなたが強いから、かしらね? ……なんて」
微笑んだエルスにリュシアンは「俺は、まあ、強いよ」とさらりと返した。幼い少年が虚勢を張るように軽い声音で。
「けど、俺は色欲の魔種。この愛情は唯一、『イレギュラーズが殺してくれたあの子』の為に」
「……どういう、事?」
エルスは目を見開いた。アリシスに対してリュシアンが好戦的で無かった理由――最初は憤ったのだろう。だが、合成獣となってまで生き永らえる幼馴染みが不憫であったことは確かだ。彼女に怖れて逃げたブルーベルも。救えなかったくせに、彼女を殺せなかった自分も。罪のように少年は背負っている。
「俺が殺したいのは只の一人。アイツだけ。アイツを殺せるならこの国なんて滅んでも構いやしない。
……足取りも分からない奴が殺せない腹いせに周囲を壊したって、アイツがますます出てこなくなるだけだから大人しくしてるだけだよ」
「……リュシアン」
ニアは彼を呼び止める。その身に纏った風と共に勢いよく飛び込んで。リュシアンが一歩後退する。風唄の加護を受けた少女を双眸に映してから見覚えがあるとでも言うように瞬いて。
「一言、お礼を言いたくってね。ファルベライズの時は、ありがとう、って。
あの時は二回も助けてもらってるし……その、なんだ、感謝してるよ。」
「……別に、助けたつもりでも無かった」
そっぽを向いた少年にニアは頷いた。彼は魔種だ。イレギュラーズは『敵』で在る筈なのだから。
「よ、リュシアン。久しぶりだな。あの洞窟以来か。あんときは、まあ、面倒かけた」
風牙て同じだった。あの日、自身の腕を引き戻した少年の事をどうしても憎めぬままに槍を構えて息を吐く。
「だから、あたしだって戦いたいワケじゃないんだけど。いい加減あたしも学んでる。
どうにもあんたは本気じゃなさそうだ。なんだか事情がありそうな感じ、ってね。それなら、ちょっとばかり付き合ってくれたって構わないだろ?」
ニアが地を蹴った。風斬る音と共に勢いよく接近する。リュシアンは後ろ手に隠し持っていた短刀でニアの刃を受け止めた。
敵は一人だけではない。リュシアンの眼前に飛び込んだ槍。音さえも置き去りにする『封雷穿』
「――思えば、この戦争の動機もあのときのオレに近いのかもしんねえ。
妹をどうにかされたんじゃな……だからこそ止めてやんなきゃ、って気持ちになったぜ。お前はどうだ、リュシアン?」
「俺には止める事はできないだろ?」
肩を竦めたリュシアンをまじまじと見遣ってリンディスは礼がしたいと一歩歩出た。
「…今回はこんにちは、と悠長にご挨拶出来る状態ではないとは思いますが」
彼女も友人の風牙を『止めて貰った』事を感謝するかのように。イレギュラーズの様子に面食らっていた少年はそれでも『言い訳作り』で闘わぬ訳にはいかなかったのだろう。
「今回はお前自身の意思ってわけじゃなさそうだな。面倒な上司に押し付けられたか?
とはいえ、お前がいると色々厄介だ。先日の礼もある。お前が面倒な仕事を切り上げてとっとと帰れるようにしてやるよ」
「今回は、ええ、以前のように好きなように動いて、とは言えませんから。"相対する者"としてのリュシアンさんを――教えてもらいに来ました。
『Bちゃん』を記録したときと同じ様に――いえ、今回の方がずっと凄いのです。風ちゃんは早いですよ、捕まえられますか?」
笑ったリンディスが羽筆で鏡の気配を風牙へと纏わせた。風よりも尚早く。全てを置き去りにする勢いで風牙がリュシアンの元へと飛び込んだ。
「……腕の一本も吹っ飛べば、言い訳もたつだろ?
今日のオレは、あのときのオレよりずっと速くて強いぜ? なんせ、ダチが後ろから追い風送ってくれるからよ!!」
風牙に合図を送ったリンディスが頷く。後方に一歩引いた風牙、そしてリュシアンの間に飛び込んだのは破壊的な魔術。
周囲を焼き払う気配は蒼と赤の糸が縁紡ぐように結い続ける。
「……また会ったねぇ、リュシアン君。一緒に戦った仲だもん、敵同士にはなりたくなかったけど……今回はそうも言ってはいられないのかなぁ」
シルキィの顔をまじまじと見てから少年は「今回は敵だよ」と堂々と言った。
「キミは強い。手を抜いたら、わたしなんかすぐにやられちゃう。
だから、全力で臨む。キミもここで命を懸けたりしないでしょう? ……ここは退いてもらうよぉ、リュシアン君!」
複数人のイレギュラーズが己を止めに来ている。リュシアンはその様子を眺めてから、小さく小さく呟いた。
――揃いも揃って、心優しい奴ばっかで。嫌気が差す!
●
「フヒヒ……邪魔はさせませんよぉ? アタシと一緒に遊びましょう?」
影すら踏ませぬように。リーラは戦場を疾風の如く駆け抜ける。少女の着る衣裳に織り込まれた魔法糸は彼女の影さえその場に留めぬように走る力を与えてくれた。
黒疾風。そう呼ばれた一撃が残すは傷口のみである。騎士達を先導するが如く、乙女はくるりと振り返って脚を揺れ動かし笑う。
「アタシはただの幼気な少女ですよぉ。クヒヒ……まさかアタシみたいな少女に活躍の座を取られるだなんてことはありませんよねぇ?」
本陣に向かう仲間達の為に、足止め役を買って出たクルルはファルカウ・ボウに美しき紫陽花の矢をつがえた。
「さあさ、華々しい舞台は若い子達にお任せして、足止め頑張っちゃおうかな。
……もうじき梅雨も明けて夏が来るんだね。君達の季節も……でも、終わるにはまだ早いよね。その前に一花咲かせよう」
美しき花を放つ。鳴り響くのはマンドレイクの絶叫。紫陽花の香り立ったその周囲は狂乱の坩堝へと変貌する。
クルルが一度後方へ。甘く蕩けさせるアルラウネの接吻の如く死へ誘う媚毒の香りを立たせたのは行く手遮る為に。
車線に入るなと声を掛けたミヅハが放ったのは大樹の剣にして、新芽の弥。迷宮森林に奥地に眠るとされた魔剣で絶大な一撃を放つ。
「いくら腐っていても、国家が民に安寧と平穏を与えてくれるのは事実だもの。徒に祖国を割って滅びに足を突っ込むなんて、愚かなことを……」
ルチアは目を伏せる。弱り切った国が民すら護れなくなることは元の世界でよく知っている。ここで多くの騎士が犠牲になることも国力の消耗に違いない。列強による目も有る――この国を保つならば内乱に切り込むしかあるまい。
仲間達を護る為に戦略眼を駆使し、統制を、統率を。ルチアは堂々と騎士達を先導し続ける。
ルチアの声一つ、頷いた弥恵はするりと前線へと滑り込む。
「月の舞姫、華拍子、天爛乙女、津久見弥恵の参上です。皆で生き抜いて笑ってください! その為なら幾らでもサービスしますよ!」
舞姫は氷上を滑るようにと騎士と巨人の間へと飛び込んだ。傷付いても必ず帰ることを決意するように呼び掛ける。
夜闇に皓々と輝く月の如く。美貌を見せ付ける舞姫は一心不乱にその肢体を乱す。攻めている限り止らない。
ハプニングに見舞われようとも舞姫は止ることを知らなかった。それが勇気となるならば。
「恐れるな! 勝利は我々の手にある。怯まず進み戦果を上げよ!」
ルーキスは叫んだ。白百合に瑠璃雛菊。その二本を手に、我に続けと堂々と。
「勝てるさ、君達の隣には僕らがいるからね」
ムスティスラーフは微笑んだ。ルーキスの声を支援する。その言葉に揺るぎなど存在しない。
そうだ。『彼等は七罪すら討つイレギュラーズと共に戦える』――「負けなんかないさ! ただ、勇敢さと無謀さを取り違えないようにね」
ルーキスは頷いた。前線へと飛び出して、敵陣を纏め上げる。
「ここの敵は引き受ける! 構わず進め!」
青年の声にムスティスラーフは微笑んだ。騎士達を支援するリックが支えてくれている。
「皆、ここでモンスターを食い止めて次のやつらにつなげようぜ! どんな厳しい敵も天候でも、おれっちたちが立ってる限り負けも絶望もないんだぜ!」
その目が、しっかりと戦場を見通してくれているならば。指揮棒が戦場を奏で、参謀として見通してくれている。
リックの支援を受けてルーキスの剣戟がモンスターの首穿つ。後退、その間へとムスティスラーフは息を吸い込んで――
「その身引けども、その心まで引くことなかれ」
そして放つ――大むっち砲!
「さあ、参りましょう。皆で帰ってこられるように。私達の物語に終わりはないのだと、示すために!」
コルクは叫んだ。自身らがどんなときも諦めず、最後まで闘う姿が鼓舞となる。語る言葉は少なくとも、その背中が勇気の礎になる。
一歩食いしばれず折れてしまいそうなとき。傷付き苦しく逃げてしまいそうなとき、『彼等の勇者』で有る為に。
「恐れることはありません。私達がついています。さあ、行きましょう!」
堂々と勝利を宣言する星の娘に頷いてオランジェットは飛び出した。アニキカゼが吹き荒れる。
「さあ名乗りを上げろ! 俺達はここにいるってな! 俺達は勝利を渇望してんだよ!」
ステップ踏むように我に続けと叫び、放ったのは背小さな暴風域。黒犬は不幸な魔女が嗤うようにモンスターを巻き込み続ける。
「勇者だってさ? あーやだやだ柄でもない。私が参戦してる理由なんて一つしかないしなぁ。
……最近襲撃したのお前らだなぶっ飛ばす。旦那の領地は私の領地、つまり連中は殴ってよし!」
「はっはっは、今日もうちの可愛い奥さんは元気だなー?」
びしりと決めたルーキスにルナールは笑った。グリムゲルデ夫妻の領地を狙った相手は容赦なし。目が笑っているけど笑っていないのだと肩を竦めるルナールはそれでも可愛い奥様に「さあ行っておいで」と微笑んだ。
「これは汚染された土地の分」
雷が堕ちる。まるで怒りの鉄槌の如く。
「これも壊された資源の分」
高位の霧氷魔は最も美しい術式――とされるが勢いだけが宜しい。
「お前ら許さないから覚悟しとけよ」
至近距離の神秘的破壊力。前に出るのも楽しいかも知れないと考えるルーキスに「はい、俺の後ろで」とルナールは制止した。
妻への攻撃を庇う青年はこうなると自分も止める事はできないと心の中で敵へと合掌しているのだった。
「あわわ……ま、また大量に敵がいっぱいなだれ込んでくるパターンね……い、いわゆるレイドってヤツ……。
と、とりあえず……死なないように精一杯頑張らないとね……」
奈々美は肩を竦める。雑魚チラシならば得意なのだというように、輝かすは練達ネオン。その輝きがどーんと突き上げる。
勢いよく巨人を突き上げて、魔力を集中、いざ放つ――Sloth!
「微力ではありますが、この幻想の未来のかかった一戦。全力をつくすとしましょう」
兼続はノービスマテリアルを手に広域を俯瞰しながら騎士達を支え続けた。謳う如く騎士達を支え続ける。味方の陣形を意識し、広域を救うが為に。
「フフ…フフフフフ……嗚呼、なんと素晴らしい。やはり、脚を狩っている時が一番生を実感できますねー。そこの貴方も逝きましょーねー」
巨人達を相手にピリムは脚のバイキングに心を躍らせていた。勿論イーゼラー様に捧げるのも忘れずに――ちょっと忘れて――脚を狙って走り続ける。
振り下ろしたのは斬脚緋刀・風。素敵な脚を求め走り抜ける。
シルヴェストルは魔術知識を活かし、有象無象のモンスター達を相手取る。騎士達を救うのはゲイムの効率化だと小さく笑う。
「いや何、友軍が減るのは面白くないだろう? どうせ勝つのなら、『圧勝』と言えるぐらいにはやりたいからね」
蹴散らすようには放つのは影の蝙蝠。魔術の爪牙は血を啜り影に戻り往く。イナリは下働きも良いでしょう、とファミリアーで鳥を宙へと飛ばし伝達を行っていた。
シルヴェストルへと彼方へと囁けば、その通りに騎士を救う。劣勢を優勢へ。救う為の力は堂々と振るわれる。
●
「戦場で単独行動……というわけにはいかん。共闘だ我もそうだが生きて帰る場所があるべき者が居る……。
恐れるなっ! 貴様らの命、朽ちようとも必ず我が『黄昏の丘』へ導いてやる、進めっ!!」
一喝するウルフィンは戯骸布をその身に纏い、闘士全開で先陣を駆け抜ける。目指すは白雪姫のなれはて。そう呼ばれた巨人の元だ。
ミーミルンド男爵にも良く似たかんばせ。悲しげな気配を纏ったその巨人へと勢いよく叩き込んだのは烈火の如き火炎の闘気。
「いやー晴れた晴れた! 絶好のピクニック日和だっ……たのは何秒前だったかな?」
秋奈はううんと首を捻った。リュシアンと呼ばれた魔種と相対する仲間達は無数に居る。彼は『ヘルプ』でやって来たのだという。
「バイトかっつーの。そいじゃ、先のボスキャラは頼むぜ、ヒーロー! なーに『蘇る』ってのいい加減に『めっ!』ってしてやるのだっ。居ない子はもう居ないからねっ」
にんまりと笑った秋奈は友の名を冠した決意の証を後ろ手に引き抜いた。緋い姉妹刀は己の戦術に良く在っている。修羅たる乙女は茶目っ気を滲ませて微笑んで。
「死者を蘇らせたい者の何と多い事か。この数年それに関わる事件が何度あった事か。これから、何度ある事か」
ラダは憂うようにそう告げた。着弾、そして炸裂するのは爆風と共に広がる奇妙な音。嘘か誠か、体を縛る音波の中をずんずんと進む。
「月色の巨人……か。因果なものだな。引導を渡す手伝いを! 微力ながら助力いたす」
偽刀『大通連紫式』、その名を持つ虚なる刃を引き抜いて清鷹は戦場を走る。奇怪な歌など、聞こえぬとでも言うように。道塞いだモンスターへと放つ、邪剣。
清鷹へと向けて無数の騎士が迫りくる。その周囲に声を上げたアルヴァはやれやれと肩を竦めた。
「やれやれ、自分を信じてる奴は中々折れないからな。ああいう奴らは、口で言って聞くなら苦労はしないんだ。
とはいえただ意見が違うからって殺すのは本意じゃない。少し面倒だが、少しの間眠ってて貰うぞ?」
意志を持つ弾丸が周囲へと広がり騎士達を狙う。リディアは苦しげに叫んだ。
「ミーミルンドの騎士達よ! その忠心、実に見事です! ですが……! ですが、どうか武器を納めて下さい!」
「無駄だよ」
アルヴァの言葉に唇を噛み締めて、物理攻撃など遮断する魔力障壁に身を包む。輝剣リーヴァテインの輝きと共に無為に命を奪いたくはないと少女は叫んだ。
「アルヴァさん! 私はこの戦いで、一人でも多くを命を救ってみせます!」
「当然だ。ここに居る騎士は、全員生きて然るべき罰を受けて貰う」
リディアは頷く。多少非効率的であれどもこの程度を救えずして、何が勇者か。何が騎士だと声高に。
「無頼のやり口にだってルールはある。いくら気高い理想があっても、国を憂おうとも、男爵のやり方は、一線を越え過ぎた。
おれの領地も被害に遭ったしな。故におれは行く。しかし、今やるべきは巨人を倒すことだ。
――死者は蘇らない。蘇ってはいけない。この世は生者のもんだ。未来のもんだ」
ヤツェクは朗々と語った。その言葉に清鷹は切なげに眉を寄せる。どれだけその巨人が『ベルナール・フォン・ミーミルンドの妹君に似ていると語られよう』とも、それが死者の蘇生に繋がらぬ事は分かっていた。
(本当に因果なものだな――其れでも人は斯くも求めるか)
あああ―――♪
白雪姫のなれはて。そんな美しき名を冠する巨人を双眸に映し込みヤツェクは戦いに最適化する特殊支援を、そして魔性の直感を以て味方の苦難を救い上げる。生命の躍進は止ることは無い。命とはなんたるかを理解するが故にプレイヤードは古びたギターを手にその戦場を進むのだ。
「歌か」
「やってきたことは聞いた話の中でしか知らないし彼らと面識もない。けど、話を聞いてたら興味が出てきて。
これが噂のマルガレータ……の巨人か。怖いけど顔まで恐ろしくなくてよかった。じゃあ行こう。歌をうたわれるとリズムを取りたくなるんだ」
綺麗だねと眞田は微笑んだ。兆しっぱずれな唄に合わせて引き鳴らす。奏者は遊ぶ人。祈る人。我流の響きで鬼遊びの如くビートを刻む。
適当に数を数えたら彼女に傷を付けるのだ。美しい白雪姫が歌い続けてくれる最中に。
「歌……歌か。ここは戦場だ。聞き惚れる気はさらさらねぇ。
だがよ、何を歌ってやがる。何を祈ってやがる。そしてその歌は誰に捧げてるもんだ。
鎮魂歌の代わりだってんなら受け止めてやる! だがそのままお前も眠りにつきやがれ!」
噛み付くようにニコラスは叫んだ。漆黒に染まり上がった絶望の大剣、その一角に紅の光が輝いた。
白雪姫、そう呼ばれた銀髪の巨人の至近距離まで近付いた。高密度の無数の魔弾が女に襲う。歌が止まり呻く声が響く。
「あああああい、いたいいいいいい」
「何だ、喋れるのか。なら、聞くけどよ……何に対して歌ってる?」
――女は応えないか。
マッダラーは攻めでは鳴く護りを意識して護衛の騎士達を引き寄せた。白雪姫を護るのは『マルガレータ・フォン・ミーミルンド』の守護者のつもりなのであろうか。
「イミナは!ㅤ負けないです!ㅤ全然痛くないでしゅ!!」
ふんすとイミナは手を広げた。免罪符を手にして深淵からの許しを得るように。ダメージが『かみさまが罪を与えてくれる』と言わんばかりになれはてへと跳ね返る。
「かみさま、イミナ頑張るから……だから、どうか皆を守ってください」
願うイミナは『大覚錬天創神陀羅尼』の加護を受け、仲間達の攻撃をより強く届けることに注力し続けた。
「採掘も過ぎれば宝石は枯れるというものだ。俺は、泥人形だ。俺たちは後悔という実を齧るわけにはいかないのさ」
マッダラーはニコラスの状態を警戒させておくようにと協奏馬達に声を掛けていた。騎士達を退け、白雪姫の元へと向かう仲間達へと道を開く。
無碍に命を奪い合うだけでは只の戦争だ。国盗り合戦を大仰に行えども残るのは虚無感だけである事を泥人形は知っている。
故に、後悔などと言う果実を齧ることはしなかった。あくまでも目の前に或る憂いの前で、一縷の望みを紡ぐだけ。
「アーベントロート派のオレが言えたことじゃねえが、同情はするよ。
……しかしまあ、他人の顔を真似た巨人とは。月光人形もそうだったが、冒涜甚だしいし、今回は白雪姫を冠しているときた」
永劫不滅の防衛武装。明けることなき夜の傍らに、爆炎の烈日を輝かせた紫電は溜息を吐く。
「――だが知ってるか? 『白雪姫は3度死ぬ』ってことを……いや、もう三度目(コンティニュー)はないか」
一度目は、紐でぎゅっと閉められて。二度目は髪に刺さった櫛によって。三度目は――そうやって白雪姫は三度も死んだ。
マルガレータ・フォン・ミーミルンドにとっては二度目の死。三度目は王子様なんて存在しない。もう二度とは無いのだと紫電は地を蹴って。
「行こうか、秋奈。あの白雪姫もどきをやっつけに……永遠に、眠らせてやる」
「オーケー! 紫電ちゃん! イリスちゃん! ラダちゃんも! でっかいのやっつけよう!」
秋奈は勢いよく地を蹴った。邪剣の型、『猪』『鹿』『蝶』、三連に連なって描く美しき殺人の刃。
白雪姫のなれはてへと接近する秋奈のサポートとして観察を行っていたラダは邪剣士による距離或る相手を狙い穿った斬殺の型を放った。
「練習台の命。生まれたことで役割を終えたなら、後は自由に生きても良かったろうに。……敵なら殺すしかない」
異世界の文字で彫り込まれた偉人の名を冠し、ラダが放つ攻撃に合わせるようにイリスは前へと飛び込んだ。
滅海竜より毀れ落ちた破滅の楔。句案を打ち破りし乙女は仲間を護りながら、ずんずんと前進し続ける。
「ここがいわゆる正念場ってやつよね。夢の残骸というのはちょっと悪口が過ぎるかしら?
……古の巨人たちと違って男爵の怨念は『今の』王国へのものだし、筋違いじゃないって話もあるけれど。
それでもね、ダメだよ――もうできる事は後片付けみたいな物かもしれないけど」
もしも、『姫君の兄』が正気の儘だったなら話は違っただろうか? 彼の怒りを静めることが出来ないままに国を分けるような激闘を繰り広げるばかりだっただろうか。
考えても意味が無いかと呟くイリスは「前へ」と仲間達へと声掛けた。
論理演算は確立されている。巨体の隙を付くように滑り込み、小さな体から放たれたのは敵の動きを掌握するが故に的確なる連続攻撃。
紫電が地を蹴り一度後退する。秋奈は続き様に刃を叩き込んだ。
――その太刀、星を落す隼の如し。
容赦なく斬り伏せる。紫電の刃が撓る。白雪姫の歌声が暗く、ぽとりと落ちるように響いた。切なげなその声音。悲しいと泣き叫ぶのようなその声に怯みを見せる騎士達へニコラスが叫ぶ。
「命を奪い奪われる。そんな場所が怖くないはずがない。
だがそれでもお前らはこの場に立った。それは何故だ。守りてぇもんがあるからだろ。だから守るために戦え。
……あと死ぬなよ。寝覚めが悪くなるからよ」
「幻想の騎士たちよ! 古の戦に駆り出されし今の兵たちよ……。
我らは今を生きる者として、過去に囚われた魂を解き放たねばならん! この戦、勝ちて悲しみに終焉を!」
鼓舞するシャルロットは不知火の妖気を揺らがせる。敵将たる白雪姫を倒し、戦いに大手を。沿う願う様に剣に意思を乗せて。
「かかれ兵たちよ! 巨人の足を狙い、攻撃後はすぐに散開せよ!」
叫ぶ。直死の一撃は、魔性となって大顎を生み出した。貪り喰らうその一撃。シャルロットは臆する事無く戦場を進む。
巨人とは何なのか。狂気に陥った存在か、それとも――イミルの秘術が変貌させた存在であるのは確かではあるが、彼女の悲しみもその在り方もシャルロットは理解をしてやることが出来なかった。
(彼女と私たち。何が違うのかすら分からないけれど……此処で見過すことも出来ないのよね)
白雪姫は道具の様に使われていた。それを沙月は知っている。哀れなる存在だ。
だが、だからといって倒さずにおけば味方の士気は地に落ちる。柳のようにしなやかに受け流す。
力の流れを見極めて、放つ三撃へと展開させる殺人剣――その型。猪鹿蝶と流暢に。徒手空拳の古武術で巨人を相手取る。
「不憫なものですね。せめて安らかなる眠りを与えて差し上げましょう」
白雪姫の如き――あの、穏やかな眠りを。王子の接吻など有り得はしない未来だが。
「こんなところでお人形遊びしてちゃだめじゃないかー。おねーさんちょっとお片付け頑張っちゃおうかな?
いやー、あとでローザミスティカさんに褒めてもらわなきゃね。こんなに頑張ったんだからさ!」
秋奈はにんまりと微笑む。紫電は「褒めてくれるだろうな」と力が抜けたように動かなくなった巨人を見上げた。
白雪姫がずしんと音を立てて倒れて行く。美しい真白の肌に、銀の髪。指揮を執る男に良く似たかんばせは悲しげに歪んでいる。
「……ねえ、何を歌ってるの?」
イリスの問いに彼女は答えない。実験台となった彼女は訳も分からずなぞるように歌っている。まるで、マルガレータの悲哀を奏でるように。
「……ただ、好きで歌っているだけなら。それくらいは自由にやればいいさ」
ラダは静かに呟いた。その命の終が、其処にあるならば。せめて――
●
「正直この腐りきった貴族どもに情けをかけてやるのもそれ以上に腐った魔種に好き勝手させてやるのも好みじゃあ……
ま、やる気はないですが乗りかかった船です、精々こいつらを引き付けてやりますよ」
肩を竦めた利香の傍らでクーアが尾をゆらりと揺らがせた。好き嫌いだけで言えば『きらい』な相手だ。容赦は無い。
「幻想に対して腐り切ったと断言するほど私は絶望してはいませんし、さりとて全幅の信頼を置いている訳でもないのですが。
ひとまずは正しき平穏のため、死すべきには死を、生者には生を。終止符も未来も、我が焔が齎すのです!」
クーアの言葉が焔を灯す。利香は「火葬だわ」と揶揄うように眷属へと向き直ってから指先から淡く魔力を放った。
「どこからこんなに死体が沸いたのやら。クーア、なるべく跡形の残らないように」
「はい。放火(もや)しましょうか」
うっとりと微笑んだクーアは騎士以外を巻き込むようにして焔を放った。こげねこメイドの火事一犯。その様子を笑うように、利香の影から湧き上がる無数の手が屍より赤き血潮を雨のように降らせ続ける。
「戦争は互いの正義と正義がぶつかる物だ、とは言うけれど『これ』がどうであれ、未来の正義を掬う事くらいは出来るよね。僕はイレギュラーズとして、為すべき事を為させて貰うよ!」
微笑んだカインはマルチディヴィジョンで限定的に召喚を行った。冒険の心得で周囲を警戒し、目映い光で邪悪を裁く。
あの呼び声にどうして心酔しているのかは分からない。だからこそ好き勝手やらせて貰うと堂々と宣言をして。
「お久しぶりですバッシュフル殿。こんな形で再会したくはありませんでしたが……」
ルル家が浮かべた曖昧な笑みに『瀟洒たるバッシュフル』も悲しげに目を細めた。彼女等は己を救い出してくれた――それでも、起こってしまったことには違いは無い。
「……こちら、こそ」
「お気持ちはわかりますが、やめるわけにはいきませんか?」
困り切った、途方に暮れたような笑顔にバッシュフルは困ったように肩を竦めた。出来るならば闘いたくはないと願うルル家の気持ちは痛いほど解る。
彼女とて、闘いたくは無かった。闘いたくなくとも『彼女が味方をする相手が憎き幻想王国』で有る以上は「止ることは出来ないの」
女の声にルル家はゆっくりと目を閉じてから瞬く光の如き、刀剣をすらりと引き抜いた。
「止めます。貴方が誰かにとってのマルガレータ殿を奪う、その前に!」
マルガレータ。その言葉にアンナは目を細めた。騎士や使用人。沢山の人々がマルガレータ・フォン・ミーミルンドを愛していた。
こうして闇に身を投じる程になってまで、その愛情は強かったのか。貴族達のくだらない争いに巻き込まれ、亡くなったマルガレータ。
共感はする。こんな世界は変えないといけない。でも――
「それは魔種によるものであってはいけないの。だから……力尽きるまでに、その感情を全部私にぶつけなさい」
布が広がった。躍る様にアンナは前線へと飛び出した。時間干渉、そして、バッシュフルの『出る』方向へと飛び出した。
「なッ――」
「何をどうしようとも死者は蘇らない。それは世の理であります」
その眼前へと滑り込んだエッダはメイドの中のメイドが誇るグローバルでスマートな動きを見せる。騎士(メイド)はその勢いの儘に、雷神の槌とならんことを夢想する拳を叩き付けた。
青薔薇に手が届けば、それは完成する。まだ遠い――だが、バッシュフルはその衝撃に撥ね飛ばされる。
女が身に纏って居たワンピースがばさりと揺れた。地を蹴り飛ばした細い体。勢いよく飛び込んでくる魔種に複数の騎士達が響めいた。
「どうした。どうした騎士共! 鉄帝の騎士は未だ立っているぞ!!
いいのか! 次の戦争は私たちの勝ちだなこれは!!
違うと云うなら立ち上がり範を示せ!! 我らが帝国の宿敵こそ己らであると存在を示せ!!」
鼓舞するように、己が敵国の兵士である事を堂々と名乗り上げる。
「ここから先はこの貴族騎士が相手だ! ――これこそが災いを切り裂く一閃、さあ喰らえ!」
シューベルトは堂々と叫んだ。国をも変容させる存在。それらの影響がどれ程のものか。貴族としてシューヴェルトはベルナールの在り方こそが気になった。
だが、横槍となるバッシュフルを留めんと、禍々しい呪いを帯びた斬撃を放つ。剣戟より誘われる煉獄に、バッシュフルが抵抗するように前へと飛び出した。
「さて決戦だ。俺は旅人だから幻想の貴族について特別に好悪は抱いていないが、国という生物を急激に変えようとすると無理があるのは分かる。
お前がどんな思いで待っているかなんて分からないがな、泣きながら呼び声を出す奴を見て思い人は『瀟洒』なんて思っちゃくれないだろうな」
錬は秘めた力を解放し、五行結界符から氷の薙刀を鍛造する。周囲一帯を薙ぎ払う其れ。そして、接近するごとに、その氷の在り方を樹木へと変貌させる。
「それでも、マルガレータ様なら!」
また、その名が飛び出した。マルガレータ様、国の在り方で亡くなった令嬢。歪んだこの国の在り方にイズマとて疑問を覚える。
だからといって、急にその歪みを是正できるわけもない。この国はゆっくりでも良くなる筈だ。それに戦いが必要ならば――
「バッシュフル……何となく、何となくわたしに似てる……でも同情はやめた、これから殺す相手に同情なんて、いらない。
魔種に好き勝手させない……いつか壊れてしまう未来も、今は守りたいの」
「私の未来はもう、壊れたのに――」
恨みも、悲しみも、アリアは耳を傾けない。『恨み』を関するラストバレット破式は錆付いて、渇望の如くバッシュフルを穿つ。
傷付こうとも、彼女の心に耳を傾けない。この憎悪であの魔種を飲み込んでしまえば良い。
貴女の心なんかより、わたしの方が、もっとずっと――
「死者は戻らない。幻想を恨むなら好きにすればいい。
貴女が何を悲しもうと……俺たちは魔種である貴女を討伐する。この戦い、皆で生きて勝つ!」
闘うと。夜を抱いた瀟洒な細剣は真っ直ぐに剣と魔法を織り交ぜた一撃をバッシュフルへと届けた。
ワルツを踊るような仕草でバッシュフルが反撃を仕掛ける。ルル家が「バッシュフル殿!」とその名を叫んだ。
「マルガレータ様は殺されるような人じゃなかった!」
その言葉にアンナは「そうなのでしょうね」と呟いた。それでも、其れを悔み他者を害する事は許されることではない。
「……貴族、王族、利権、富、名誉。そんなことのために人が死んで言い訳ありません。
ルルも身近な人が亡くなったら復讐や、その人を取りもどすために戦うでしょう。でも死んだ人はもうもどってきません。眠らせてあげましょう……」
風が吹き荒れる。四方八方から襲い来るそれは無数に打ち出され、バッシュフルのその体を包み込んだ。
死人は戻らない。
分かっていても縋ってしまう――ならば、止めてやらねばならないのだ。
「ルル達に正義はないのかもしれません……けど、泣くのも疲れたでしょう。もう休んでいいのです」
ルルリアは悲しげに微笑んだ。バッシュフルの胸に突き立てられた剣は――まるで自害を望んだかのようにも見えたのだ。
●
「おじさま。この人達って、貴族社会の犠牲者だよね。なんだか、悲しいね」
ルアナ・テルフォードは勇者だった。幻想王国の認めた勇者なのではない、勇者として産まれ、勇者として『魔王』を滅する運命に身を委ねる者。
彼女のその言葉にグレイシアは『実に勇者らしい』と感じていた。彼女は何処までも正しい少女なのだから。
「少なくとも、ベルナールはそのようだが……だからと言って、大人しく国盗りを眺めるわけにもいかん」
少女の葛藤に、グレイシアは助言を行う。まるで有り得ない魔王による救いの一声に勇者は「ん」と小さく頷いた。
この国には『何処にでも居る人達』が居るのだ。彼等を救うために――『勇者にならなくちゃならないのだから』
「ベネっとんがヤルってんで来ました。まぁ実際他人事でも無いしヤル段階だ。
煮え切らない気持ち悪さも感じるけども、魔種を見逃す理由にゃならない……ってコト。
黒狼隊長がヤろうってんだ! やってみる価値ありますぜ!!」
にい、と小さく笑った夏子はベネディクトの肩をぽんと叩いた。言ってみなよ、なんて茶化す様な響きをその言葉から滲ませて。
「幻想の勇者として、俺はこの戦いに立つ。皆、共に戦ってくれるか」
ベネディクトは――『黒狼の勇者』と呼ばれた青年はそう堂々と宣言した。手にしたのはレイガルテ・フォン・フィッツバルディよりの下賜。
金色に輝く竜の爪なるその槍。降り荒む雨の中、惑いながらも青年は先を目指した。
「往け! 黒狼の勇者たちよ! この一戦を以て幻想の暗雲を祓う一矢となれ!!」
堂々とバスティスはそう叫んだ。幻想の勇者としてベネディクトが立つというならば、バスティスはそれを守護すると決めていた。
神様だから、人だから、そして――『共に闘う』仲間だから。
「貴族の腐敗なんかも言いたい事は解らなくもないですが……
魔種になるのはどうあがいても相容れないので……ここで止めさせてもらいます……」
海の天気は予測できても、陸ではそうも難しいのだとマリナはぼやいた。降り荒んだ雨が一転し、晴天を齎すこともあれば、更なる激しさを増して雷を伴うこととてある。それは嘗て、彼女が女神と呼ばれた絶望にも似た景色であった。
「解ります解ります、この世の中腐った大人ばかりですよねー。
しにゃはもう面倒くさくなっちゃったんで、全部ポイして逃げちゃいましたけど!
お偉いさんはそうも行かないんですかねー、可哀想ー。まぁ今回はお仕事なので、恨みは無いけど討たせて貰いますよ!」
へらりと微笑んだしにゃこは僅かながら暗がりに差し込んだような気配を潜ませて、「雲がよく流れてますねえ」と微笑んだ。
パラソルを手にして『ざくざく』とやれやしない騎士達を救う為に気遣い、微笑んで。
「狂気に侵されているだけの人たちなら、まだ助けられる!」
『黒狼隊』らしいやり方だとマルクは微笑んだ。サイバーゴーグル越しの視界では魔種の影響を受けた忠義の騎士達が男爵を護る様に立ち回っている。
彼等の命を救う事をこそがマルクのやり方であった。命を奪う力を持ったイレギュラーズが『奪わないように』と戦場を広く見て心がける。
「ならしにゃの可愛いオーラでイチコロしますか!」
「そうだね。皆で騎士を救おう!」
「マルクさん、聞いてます?」
マルクの聖なる光は神の手。決して天命に従わぬ命を誘うことは無い。堂々と『不殺』を掲げた青年の傍らでしにゃこの愛らしいオーラが一気に舞った。
「最近は引き篭もって犬の散歩したりカレー食べたりしておったが決戦らしいので妾、参上……!!」
じゃじゃーんとポーズを決めたのはアカツキ。ポメ太郎と遊んでカレーを食べて、一日中ゴロゴロのんびりするのも楽しいが此度は許せぬ事がある。
「妾の領地で炎の巨人を暴れさせた黒幕がおると聞いて!
まったく、理想を掲げるのは良いが人に迷惑をかけてはいけませんと親に習わなかったのかのう……」
ぷんすこと唇を尖らせるアカツキは男爵に言いたい事があるのだと叫んだ。変化とは地に水を染み込ませる如くゆっくりと。其れさえ出来ぬならば我慢弱すぎるのだ。
「……国の有様としては、無くはない事です。
複雑に物思う事はありますが、今は感傷に流されている場合ではありませんね。私達の戦いを始めましょう、魔種を討伐する為の戦いを」
セレーネは静かに宣言した。仲間達との連携を意識し、幻惑魔術をその身に纏う。靴先でとん、と地を叩いた彼女は髪を揺らし影すら踏ませぬ速度で前線へと躍り出た。
「行きましょう、元凶を止めに」
マルクへと黒狼隊の面々は大きく頷いた。そして昇るのは不撓、不祈のローゼンハイリガ。不屈なるローゼンイスタフの女は高らかに叫ぶ。
「行くぞ! 我が旗を見よ! 我らの誇りは此処にある!」
ミーミルンドが『お飾り』であったか。綺麗事を口にしただけの理想ばかりであったかは定かではない。
だが、彼が膝を折ったときに。それが過ちだったと、希望はあったと笑って逝けるようにしてやるのが己の勤めであるとベルフラウは堂々と言った。
彼を悪役だと笑うことなら容易だった。だが、そうする事をローゼンイスタフの娘は許さなかった。
(ベルナール・フォン・ミーミルンド、あなたは他人を慮れる人だった。……だからこそ、この様な戦いになってしまったのでしょうね)
セレーネは切なげに眉を寄せた。もしも、ベルナールが悪人であったならば、もっと大きな戦いが起こっていただろう。
クローディス・ド・バランツのように計略で他者を利用し続けて居たならば?
レアンカルナシオンのように目的が一とされていたならば?
そんなこと無かった。
「結局この戦いもこの国が自ら招いた騒乱の一つでしかないんだよね。
確かに歪みは徐々に是正方向に進んでいるのかもしれない。でも、再び長すぎる時間の中で同じ過ちを繰り返さないとも限らない」
彼はこの国の被害者だった。花丸はそう認識していた。彼は笑ってしまうくらいに『普通の人間』だったのだ。
挙兵し、国家転覆を願うわけでは無い。只、流れ流されそのまま辿り着いてしまった――哀れな人。
「――それでも、此処で目を逸らして傷つく誰かを放っておく事だけは出来ないから。だから戦うよ、皆と一緒に」
決意した。魔種を許せぬ想いと共に、ぐんぐんとベルナールの元を目指す。その傷だらけの掌が誰かの手を掴めるようにと願う様に。
タイムにとって、許せざる事があった。奴隷でありながら一度は幸福に、そして引きずり込まれるように人の闇に揉まれ続けた褐色の少年。
彼の人生を愚弄するような行いが起こったのは紛れもなく、彼による挙兵が一端を担っていたのだから。
「我が剣の主が勇者として敵を討つ、というだけで戦う理由は十分じゃが……それはそれとして戦場に引きずり出された妾の怒りを喰らうのじゃ!!」
ベルナールの眼前へとアカツキが飛び込んだ。朱の刻印より巡る魔力が光をもたらす。光球がベルナールの肩を貫いた。
「ぐ」と唸った男を睨め付ける焔の眸は堂々と。黒き外套を翻して乙女は「往くぞ!」と叫んだ。
(ぶっちゃけ、俺の心情もベルナールよりさ。俺も幻想の貴族共は気に入らない)
ゆっくりと拳銃を構えたジェイクは首を振った。戦争だからと相手を討つ訳ではない。ジェイクはジェイクの信念があるのだ。
「だがよ、だからと言って魔種は見過ごせねえ。ベルナールは超えてはいけない一線を越えた。
……奴に言いたい事もある仲間もいるだろうが、俺が出来る事は奴に鉛弾を食らわす事だ。悪いな――彼奴はもう、俺の獲物だ」
獲物を喰らう獰猛なる狩人となって。ジェイクが牙を研ぎ澄ますその傍らで、ヴァレーリヤは呟いた。
「『必要な犧牲』などと、よく言えたものですわね……そこに一体、どのような大義があると?」
そんなもの、最早何処にもないではないか。時代に翻弄され、周囲に引き上げられただけの人間であろうとも。
彼は其れを背負うだけの責任があった。それこそが貴族の在り方であろうに。彼はその責任を放棄したのだ。
「……嗚呼。甘ちゃんのお坊ちゃまのままでいてくれたなら、どれ程良かったか」
ゼファーの呟きにベネディクトは頷いた。
「ベルナール。お前は優しい人間だった。だが、心が強くは無かったのだろう。――この国で貴族として生きていくには、余りにも」
苦しげにベネディクトはそう呻いた。彼の事を聞く度に優しく聡明な男爵閣下の事ばかりが語られた。
此の地で闘う騎士達とて、彼を愛し尊び主君として定めた故だったのだろう。
マリナの荒波が濁流となって騎士達を押し返す。ベネディクトを前線へと届けるために。生み出された波濤はずんずんと人波を掻き分ける。
「運が良ければ生き延びれるでしょう」
リースリットは冷たく騎士達へと言った。一刻も早く男爵の元へ往かねばと急いたリースリットの威嚇を兼ねた剣戟を前に騎士達は倒れ往く。
「貴様らが奮い立つ場所は此処ではない、死ぬなよ……戦いは”此処”を越えてからだ。
我が名はベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ。決して絶望を許さぬ金の牝獅子――故に! 呼び声等と言うものに屈させはしない!
謳え! 自らの意思を! 歌え! 故郷の歌を! そして思い出せ、自らの信念を!!」
ベルフラウは堂々と叫んだ。騎士の信念は曲げさせやしない。彼等の命を救うためならば、その決意は歪めることはしない。
「黒狼隊だぁ――ッ!」
勢いよく飛び込んだ夏子は露払いとして騎士達を引き付ける。
「全ては流れゆくもの。どんなに戻りたいと願っても決して戻る事はないのです。
だから皆、後悔のないように全力で生きるしかありません。貴方も努力はしたと思いますが……道を間違えましたね」
迅は地を蹴り真っ直ぐにベルナールの元へと駆け出した。速度を活かし、仲間達の言葉を届けるために彼へと手を伸ばす。
複数の魔術は出鱈目に周囲へと飛び交った。鋭い、薔薇の棘の如く研ぎ澄まされた魔力だ。
チェレンチィはローザミスティカが言及していた彼のことが気になった。悪人であるとされたローザミスティカは彼へと憂いた。
「死人は還らない。魔種は純種に戻らない。……ならば、死という名の休息を差し出すしかないでしょう」
自身の出来る事を。チェレンチィは気配を希薄にし、するすると進む。死ぬ事が女神への贄となるならばそれは控えねばならない。
「魔法、ですか。そうでしょうね。『貴方は戦う事』を知らなかった。出鱈目に戦う事しかできないのでしょう」
只の人であった貴族の青年の攻撃は魔種である故に強いが、それでも甘ったれたものだった。半人前レベル。そうとしか言いようがない。
そんな彼が戦場に出なくては為らなかった。それがローザミスティカにとっての憂いで、この国の在り方なのだろうか。
「あの人たちは自分の意思でここに来たのかもしれない。
けど、今はベルナールの呼び声で狂気に陥ってる……そんな状態で戦って死ぬのは騎士にとって誉れなのかな。
それにあの人たちにも帰りを待ってる人がいるはず。親しい大事な人が居なくなる事の怖さを私は知ってるもの」
ふるりと震えたルビーが握ったのは深紅の月と名付けた両手武器。大鎌へと変貌し、敵を刈り取るのではなく『救う』慈悲を乗せて。
「ここに来られなくて私の帰りを待っているスピネル。彼と共にヒーローになると誓った。私はあの騎士たちを狂気から救い出すヒーローになってみせる!」
ヒーローは、誰かを救うために。慈悲を帯びた一撃は命を刈り取る形をしたカルミルーナで救い上げる様に振り下ろされる。
オウェードとウィルドは向かい来る騎士達を受け止め、ベルナールの元へと向かうが為、走った。
ウィルドにとっては反転し、暴れ回るバッシュフルの一件以来の出会いだ。ベルナールに対して重ねたい言葉は山のように存在して居るのだ。
「長かった唄もこれで終わりね。私はプリマだもの。ええ、最後まで踊りきって魅せるわ。
それにね、あんまり口に出して言えないけれど私は貴方に感謝しているのよ? 貴方が起こした騒動のおかげで私はこうして自由になれたんだもの」
小さく溢したヴィリスは躍る様に跳ね上がった。地を踏み締めてくるりと身を転じる。騎士達の間を縫うように進むのはベルナールのもとだ。
「此度の騒動、全く関りがないとは言いませんが――蚊帳の外なのは間違いなく。
反転してしまった貴族の方とも因縁も所縁もございません。しかし――友たる者が助力を欲しているなら話は別です」
すずなはゆっくりと刃を刃を引き抜いた。分水剣の青白い刀身に刹那を見極めるすずなの動きが乗る。
「常日頃お世話になっていますからね、こういう時にでも役立ってみせねば!
この刃、存分に振るってみせましょう! 切り込みはお任せを、ゼファーさん……!」
「私の剣は只々人を殺す為に磨いた殺人刀、だから生憎と加減は苦手なの。だから、貴方を狙うわ。ベルナール」
小夜の言葉に気付いてから、すずなはにんまりと微笑んだ。切り込み隊長は己、そして小夜とマリアが道を切り拓くのだと堂々と胸を張る。
「小夜さんも居ますからね、私達の剣で刃散らしましょう!
ちゃんと続いて下さいね、マリアさん……! そして――本命は任せますよ、ゼファーさん!」
●
「腐った貴族を正す為、誤った方法に手を出しちまう。
負の連鎖っつーのも全く厄介なもんだ。歪んだ世界で真っ当に一本筋通すのは難しいもんだな。
だがだからこそ……腐った国を正したいと願う騎士連中を、救い出さねえとな」
グレンは目を臥せった。軌跡を乞うてでも、仲間を救いたかった。彼等を救いたかった。グレンは叫ぶ。
「これから騎士様には、どうにもならない国を、正しくどうにかしてもらうっつー無理難題吹っ掛けようってんだからな。
無茶も無謀も上等! 決して倒れねえ、俺が寝てる訳にはいかないんでな! 見てろ、ベルナール男爵、これが男の意地だ!」
グレン・ロジャースは守護の聖剣で彼の周囲に絡まった蔦を叩き切る。
「貴方に非があるとは思えない。けれど、呼び声に答えてしまった時点で、もう……」
「ッ――ならば! 如何すれば良かったの!」
びりびりと肌を灼くような叫び声。ルアナは唇を噛んだ。ルアナ、と呼ぶことも出来ずにグレイシアは彼女の肩をぐっと掴んだ。
その身を飛び込ませた『魔王』は未来を奪う様に、裏切りの一撃を突き刺した。
互いに勇者に討たれる者同士。視線が交錯し合う。
「おじさま!」
ルアナの呼ぶ声にグレイシアは囁いた。ベルナールの周囲から薔薇が伸びる。闘う力なんざ持ち合わせては居なかった癖に。
子供のように駄々をこねた思いが剣となってグレイシアの肩を穿った。
「騎士の命は総て救え、勇者よ。言いたい事があるならば、勇者(ルアナ)が聞いてやるんだ。
どのような理由があろうと、魔種となってしまっては……な。魔王(わたし)は討つことしかできないだろう」
グレイシアが目を伏せた。彼等を救うのは勇者だと、そう送り出す言葉に花丸は笑みを零して。
「勇者になってこようか」
この国を救うのは勇者なのだと国王が笑うならば。花丸は、ルアナは『幻想の勇者』にだってなってみせる。
ベルナールに真っ直ぐに叩き付けた拳は、其れでも護れるものがあるのだと叫ぶかのように。
「ッ――いま、悲しいことも、恨み言も全部出しきってしまえばいい。私は勇者だから。なんだって聞いてあげる……!」
ルアナは叫んだ。大切な人が傷付くことよりも、恐ろしい事は無いけれど。
「勇者が誰も救えない方が、もっと、ずっと恐ろしいから!」
おじさまが、背を押してくれたから。私は――
「ひえー、まさにクライマックスとった戦場でありますな、こりゃ今日は真面目に戦わねばやばそうであります。
さあ、皆を前に送り込みますぞー! 勇者よ、いざ、行かん!」
イケイケと進めるジョーイから舞踊るように光刃が広がった。ベルナールの薔薇蔓の魔術が自身らに襲い来る。
それを退け進まねば彼の元へは届かない。ささくれだった心を切り拓く勇者を彼は前へと送り出す。
「俺はこの戦いがあった事を忘れん、この戦いの根幹に何があったのかも。未来の為に」
ベネディクトは『黒狼隊』に往けと叫んだ。
「これが戦いの終わりの号令、そしてお前への餞だ――ベルナール・フォン・ミーミルンド!」
生まれが故に貴族の理不尽に振り回される。人は本当に儘ならない。ヴェルグリーズは其れを理解している。していても、だ。
「俺一人では踏み込めない場所でも仲間と一緒なら……恐れるものは何も無い。
行こうか星穹殿、キミとなら相手の懐にだってきっと飛び込める。俺の一撃を敵まで届けてくれ」
ヴェルグリーズの手を、星穹はぎゅっと握った。
「守ります。私が手にしたこの力で、只、貴方を。
折れさせないために、傷付かせないために――何より。貴方の笑顔を、また見たいから。貴方の盾となりましょう、ヴェルグリーズ様」
貴方の為ならば。決死の盾となり進む。星穹は何も知らない。彼の過去も、気持ちも、慟哭も。
ただ一つ、此処で歴史は変わりゆく。其れだけを識っている。未来に確かな兆しを与えたのは紛れもなく彼だった。
だから、退くことは出来なかった。傷付こうとも。彼の言葉を届けるために。
「来年も、そのまた来年もずっと一緒に、約束だものね」
「はい、約束しましたから。来年も、そのまた来年も……ずっと、一緒に」
フィーネは『導きの因果』が指し示す先に手を伸ばすように。小夜を勇気づけた。
己はすずなのように隣を走ることは出来ない。足枷であるともさえ認識している。それでも、『可愛いわがまま』だと彼女が笑ってくれるなら。
手伝いたい。貴女が走る力になりたい。微力だと笑う勿れ。『ヒーラー』は彼女が走る道を与えるのだ。
小夜は剣を捨てられない己に生きて欲しいと願うフィーネに、そしてすずなに可笑しな子だと小さく笑った。唇が釣り上がる。愉快奇天烈なる感情を剣に込め、ベルナールの下へと飛び込んだ。
「ベルナール。以前に会った時に感じた違和――もっと追及しておくべきだったか?
いや、今となっては手遅れか。如何なる理由であれ、魔種となったなら討つのみだ!」
汰磨羈が走る。ゼファーに合わせ、ベルナールを追い詰めるが為に。血啜る妖刀は暴式の名を冠する。薙ぎ払う剣の軌跡により形成された輪がベルナ0ルウの動きを縫止めた。
「生憎だが。イイ女の手伝いは、全身全霊で行うと決めているのでな……!」
可能性をかなぐり捨ててでも、己からゼファーに繋ぐ。汰磨羈に頷いたゼファーの槍がベルナールへと叩き付けられた。
「ねえ、あなたは何のために戦っていたの!?
マルガレータさんが大切な家族だというのなら……あなたがここまでしてきた所業を喜ぶような人じゃないってわかるでしょう! ……わかっているんでしょう!
マルガレータさんのことを思うなら……あなたは、彼女の想いを未来に継いでいかないといけなかったんだ! それができるのは、彼女の側にずっといたあなただけだったんだよ!」
アレクシアはベルナールより伸び上がった薔薇蔦の魔術を打ち払うように、仲間達を支え続けた。ゼファーの槍を受け止めたベルナールの蔦がぐんと伸びる。
これ以上はない。マルガレータの名を出す度にベルナールの動きが鈍くなることにアレクシアは気付いている。
「賢者とまで呼ばれた男ですもの。どうせ、何処かで分かってたんでしょう。
積み上げた屍の上に咲かせた花を捧げたって、優しい妹は喜びやしないんだって」
ゼファーの一言に、ベルナールの動きが止った。その目が見開かれる。上質なベルベッドなど遠い、幼さを感じさせるような拍子抜けした眸がゼファーに向けられる。
「ワシだって亡き人を蘇らせたい気持ちはある!じゃがそれでも乗り越えなければならんのじゃよ!
奴隷を無断で売ったり、池に毒を入れてる事……それをマルガレータ様は喜ぶと思ってるのかッ!?」
叫ぶオウェードにベルナールは曖昧に微笑んだ。奴隷を救うためにと販売することを選んだ際に、クローディスが大規模な奴隷市を作成し市場を困惑させたことも知っている。マルガレータは、屹度起こるだろう。彼は何も言わずに微笑んだ。
「……ほら、やっぱりね」
牙が抜け落ちたかのように、ベルナールはゼファーを見詰めていた。言葉など少なく、悪人として倒されることを望んでいたかのように。
「……知っているわ。いつからか取り返しが付かなくなったことも。
クローディスが私の為と努力を重ねたことだって。フレイス・ネフィラの心にだって寄り添いたかった。
彼女の絶望を打ち払う事が出来れば。彼女が私を救いたいと願ってくれたことに気付いた時に、私だって――そう思ったもの。
何もかも、取り返しが付かなくなった今、私がマルガレータに出来る事はただ一つ。
『全てはミーミルンド男爵の策略だった! 優しい妹は、死の女神は、バランツ卿さえも利用されていただけだった!』
そう後世に伝えることでしょう? 莫迦な兄だと笑って頂戴。私こそ悪人であるとして無様に死ぬのが責任の取り方なの」
ゼファーは口を閉ざして、そうと小さく返した。
「そう言えば貴方がスピリタリスで『殺そうとした』子たち、実は保護してるんですよ。
875番……はなこさんと言ってわかります? 彼女は私の所にいますね。あ、魔種になった後で知っても困りますか?」
「本当に!? ああ、良かった……あの子達、生きているのね。ふふ、どうか……よろしくね?」
何を言っているのだとウィルドはベルナールをまじまじと見遣った。魔種に堕ちても尚、その心根は余りに変貌が少ない。
いや、悪事を重ねてきた彼は最早諦めが近いのだろうか。ウィルドは子供達を意味なく害さないこと、そして、相場以上の金額で雇うつもりだと小さく返した。
「残念でしたね、可哀想なお兄様。全ては貴方の弱さと甘さが招いた事。如何に正義を叫ぼうと、所詮は負け犬の遠吠え。
……ましてや魔種に堕したとあらば。貴方にこの国の腐敗を糺す資格は最早ありませんね」
「そうね。私は全てを背負って『悪い魔王』になれたかしら?」
嘲るように笑ったクシュリオーネにベルナールは頷いた。彼を挑発する。屹度彼女は妹には会えやしない。
その死後さえも暗くとも。魔力を込めて指を振る。クシュリオーネの放った魔弾は一弾一殺。ベルナールの肩を穿つ。
「流石の弁舌ですが……貴方に感じていた違和感の正体がようやくわかりました。
貴方は、身内以外誰も信じていない。バランツやフィンケルスタインの如く、貴方を利用する派閥の人間を統率すらしていなかった。
故に貴方の言葉は、そんなにも耳障り良いだけで夢の様に甘く羽の様に軽い――他者を信じない貴方に王たる資格はない」
リースリットのその言葉にベルナールは笑った。
耳障りの悪い、とても笑顔を浮かべることなど出来ないような、いや、『怒り狂っても仕方があるまい』とリースリットが認識していた言葉の前で男は困ったように笑ったのだ。
「ええ」
「……三世陛下は人を信じる方。貴方よりは、余程王に相応しい」
「ええ」
何度も、確かめるよう頷く男にリースリットはどうしてとは問えなかった。此れから殺す男に、理由など聞いても何の未来も待ち受けていないのだから!
「……そして。残念ですミーミルンド男爵ベルナール、『そうなる前の貴方』にはお会いしたかった」
「アナタに言うんじゃないわよ。これは私の戯言。
……私はね、王様になりたいわけじゃ無いのよ。ただ、友人に――『カイン』に言いたいだけなの。
もっとしっかりなさい。アンタが王なのよ、って。バカね、そんなの、もう言う資格なんてないのに」
●
「私はこの騒動の中、ある奴隷の少年に出会った。
生まれた家の血で苦しんだあなたがその少年を同じように翻弄したこと、わたし許せそうにない。
……だからここであなたが討ち取られる様を見届けるわ。ベルナール・フォン・ミーミルンド」
タイムのその言葉にベルナールは眸を丸くしてから「ああ、……クローディスが世話を掛けたわね」と困ったように笑った。
「あなたが指示をしたのか、あなたが本当に手を下したのか。それを問うつもりはないの。
あなたの悲しい運命が、誰かを道連れにする……あなたは、そういう立場だって事を、忘れないで」
タイムは悔しげにそう呻いた。ベルナールは悲しげに微笑んでから「せめて、私を悪人として殺してくれないかしら」と肩を竦める。
「ベルナール様……スニージー殿に伝えたい事は? それに、ベルナール様はマルガレータ様に謝る事は多いのう……」
「スニージー……ああ、あの子には、達者で、と。体に気をつけて、アナタは気立てが良いから、直ぐに良いご主人様と幸せ……」
言葉をぽつりぽつりと溢すベルナールにオウェードは唇を噛み締めた。善人が悪人ぶっても、出てくる言葉は綺麗事ばかりでは無いか。
「ああ。幻想貴族が好かんのは同意しよう。俺も、失くしたものが戻るなら、海の果てでも追い駆けるだろう。
――だが、ベルナール。今の貴様は、お前が嫌う幻想貴族と、何が違う。今の姿を、貴様は誇れるか?
俺は、海に散った同胞に誇れるように生きているつもりだ。
貴様はどうだ。お前の矜持とプライドを見せてみろ! 誇り高き貴族として、最後まで立ってみせろ!」
叫んだジョージはベルナールの指先より伸びた蔦を受け止める。言葉を重ね、『幻想貴族』ミーミルンド男爵を相手取る。
「――貴様の生き様を、見せつけてみせろ!」
男は微笑んだ。ジョージはその笑顔が感謝を伝えるように見えて、酷く狼狽する。
「貴方の悲しみは私にはわからないわ。だって私貴族じゃないもの。でもね? これだけは言わせてほしいの。ありがとう、ミーミルンド男爵様」
ヴィリスは意味が分からないでしょうけれど、とベルナールを見た。彼は笑っている。まるで全てが分かっているかのように。
良かったと我が子を見るように微笑みを浮かべて――
「私には、家族のために戦う貴方を否定する事はできません。
ですが、貴方の望みを叶えても、誰も幸せにならない事は分かります。
決着を付けましょう。殺すためではなく、少しでも多くの人が救われる道を選ぶために」
ヴァレーリヤが踏み込んだ。致命者に捧ぐ讃歌は、焔の壁を作り出す。
――主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる。
ヴァレーリヤは「マリィ」と呼んだ。マリアは小さく頷く。ばちりと、雷が音を立てる。
「綺麗ごとを言うつもりはない! だが! 誰かを犠牲にすることで何かを成し遂げようとした時、君らは道を踏み外した!
同情はしよう! 境遇も悼もう! ――だが! やり方が気に入らない! 戦場で善悪を語るつもりはないが負けてやるものか!!」
叫ぶ。マリアにとって許せざる行い。「ヴァリューシャ! 今だよ!」と駆けたその言葉に雷と共にヴァレーリヤの鋭い一撃が飛び込んだ。
「あの世で妹に詫びるんだな! 理由はどうあれ、お前は妹の大事にしていた者達を踏み躙ったんだ!」
ジェイクの弾丸はどうしようもない程に不可避を嘲笑った。
ヴェルグリーズは、続く。運命剪定。その悪しき運命を刈り取る。
「アナタ……羨ましいわ。彼女と、信頼し合って……」
ベルナールとヴェルグリーズは見つめ合う。星穹が身構えるが、ベルナールは身を任せるように微笑んだ。
「いいわね。私も、屹度、誰かを信じられたなら」
何かが変わったのかしら――?
ベルナールの魔力がさあと引いて行く。気配、それを双眸に映してから――黒き牙がその命の気配を静かに飲み喰らった。
「……ベルナール・フォン・ミーミルンド。この国の毒に翻弄されてきた者。気まぐれな悪意に今までを否定され尽くされた者」
バスティスは微笑んだ。倒れ伏した男の美しいかんばせを覗き込む。
「憐れに想うよ。……けど、無駄にはしない。私達がよくある話で終わらせはしないからさ」
「ほんと……?」
まるで幼い子供のような問いかけだとバスティスは感じていた。
永遠を生きる神様だった己にとって、人の子の惑いはちっぽけにも感じていた。
それでも、人の身となればそのちっぽけな惑いさえ大きく人を揺るがす者であると知る。
「本当。……だから――安心してお眠り」
瞼が、眠たげに落ちて往く。もう少し話したいことがあるの、とでも言うようにゆっくりと持ち上がって覗き込んだ眸は柔らかで。
「一つだけ、礼を言っておくわ。その後の事は兎も角……奴隷の子達に良くしてやろうとしてあげてくれて、ありがとう。
貴方達みたいに甘ちゃんで…でも、優しい奴がもっといたなら良かったのに」
ゼファーは、柔らかな声音で男へと伝えた。ベルナールは「ふふ、そう言って貰えて、よかった」と呟く。
奴隷の子供達の大半を安全な場所に逃げることを彼は望んでいた。其れが上手くいかなかったこともあったのだろう。利用された子供も多かった。
それでも、彼は優しく奴隷達に気遣っていたことは子供達の言葉を聞くだけで分かる。
「ああ――あのね、ついで、で、御免なさい。伝えて欲しいことがあるわ。カイン殿下に」
何かしら、とゼファーは目を伏せたベルナールの体をそっと抱き上げた。力が抜けている。
甘ったれたお坊ちゃんの伝言くらいなら聞いて遣っても構いやしない。
潰える命だ、せめて、最期に恨み言の一つ位。グレイシアに促されたルアナはぎゅっとベルナールの手を握る。
「勇者が、王様に伝えるよ。『魔王』様」
揶揄うような少女の言葉にベルナールの唇が釣り上がった。
「……ねえ、アナタが、頑張らなくっちゃダメよ。泣き虫殿下。私も、マルガレータも、……もう、いないんですからね」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
様々な思惑が交錯し合った幻想。
ベルナール・フォン・ミーミルンドにとって、皆さんが掛けてくれた言葉はどれも、素晴らしいものでした。
陰日向に居た彼に、ミーミルンド家にとって、此れが一世一代の大舞台だったのでしょう。
GMコメント
夏あかねです。
クライマックス!
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<ヴィーグリーズ会戦>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●成功条件
・ベルナール・フォン・ミーミルンドの『討伐』
●ヴィーグリーズの丘『古戦場ヨートゥン』
幻想中部にある『ヴィーグリーズの丘』のその付近に存在する古戦場、その名をヨートゥンと言います。
嘗て、国盗りの戦が幾度も行われたとされたその場所は開けており、異質な魔術が眠る地とされているそうです。
そのせいでしょうか。周囲と違い天候は変化し続けます。嵐や雨、晴天。それらが一定のペースで変わりゆくようです。
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
==例==
【A】
月原・亮 (p3n000006)
なぐるよ!
======
●行動
【A】ヨートゥン周辺
古戦場ヨートゥンの周囲です。モンスターや巨人の姿が多く見られます。
この戦場は【B】への支援を行う為にあるようです。制圧しておかねば、【B】に多数のモンスターが流れ行くでしょう。
・ミーミルンド派の騎士達
巨人『白雪姫のなれはて』を護る為の騎士です。国家への反逆と知りながら、マルガレータの事を憂い、ミーミルンドの勝利を信じています。
・モンスター、巨人達
有象無象です。それらは『古廟スラン・ロウ』から現われた巨人やアンデッドです。
幻想王国への深い怨念を抱いて居るように思えます。
・巨人『白雪姫のなれはて』
フレイスネフィラがベルナールに与えた巨人です。マルガレータが『蘇る』為の練習台であったと言います。
月色の巨人とも呼ばれております(<ヴァーリの裁決>Mascherata)
そのかんばせはマルガレータ(ベルナール)にも良く似ており、何事かを歌いながら攻撃を周囲に繰り広げます。
・リュシアン
色欲の魔種。冠位魔種ルクレツィアの側近。
ラサの『アカデミア』に所属しており、妖精郷の様子を眺めていたり、神威神楽の一件に携わり、ファルベライズ遺跡ではイレギュラーズとの共闘経験もあります。
本件はルクレツィアの指示でベルナールのサポートに訪れました。深追いはしません、此処で倒しきるにはかなりの戦力を割かねばなりません。
ベルナールの死期を悟るか、危険を認識した場合は直ぐに離脱します
★味方NPC
・騎士
フィッツバルディ派の騎士及び貴族議会や元老院から派遣されていた騎士達です。
数は其れなりに存在しており、小隊を組んで連携しています放置すれば簡単に命を落としますのでサポートしてあげて下さい。
→【士気ボーナス】今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
・月原・亮 (p3n000006)
前衛タイプ。剣を武器に切り込みます。余り深追いをしないように注意しますが、何かあれば指示して下さい。
【B】本陣
ベルナール・フォン・ミーミルンドが引き連れる騎士やモンスターが座する本陣です。
・ミーミルンド派の騎士
ベルナールの呼び声で狂気に陥ってる騎士達です。不殺を行う事で救い出せる可能性があります。
彼等は幻想王国の膿を払うためにと戦い続けているようです。
・モンスター、巨人達
有象無象です。それらは『古廟スラン・ロウ』から現われた巨人やアンデッドです。
幻想王国への深い怨念を抱いて居るように思えます。
・魔種『瀟洒たるバッシュフル』
色欲の魔種。いつまでもマルガレータが帰ってくると信じてしまった彼女。(<ヴァーリの裁決>Mascherataに登場しています)
涙を流しながらマルガレータを奪った幻想王国を恨み、愛する人を取り戻すために戦い続けます。
呼び声は、切なく。ただ、悲しげです。
・ベルナール・フォン・ミーミルンド
色欲の魔種。冠位魔種ルクレツィア直々に反転しました。幻想貴族、爵位は男爵です。
蛮族イミルの血を引いており、フレイスネフィラにとっては血族(子孫)に当たります。
王家の相談役として名を知られた名家でしたが、次第にその発言力は下がり、両親は疎まれながら『事故死』し、若くして家督を継ぎましたが半ば派閥内の他貴族の傀儡状態でした。
唯一の肉親となった妹マルガレータを三大貴族と呼ばれたフィッツバルディ、アーベントロート、バルツァーレクにより暗殺された事により国に見切りを付けたようです。
強烈な呼び声を発します。それは亡き妹を取り戻したいという願い。そして、この国の腐敗を憂うかのような優しい響きにも思えます。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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