シナリオ詳細
<YcarnationS>あなたの事が好きでした
オープニング
●熱砂の恋心
貴女の事が、ずっと嫌いでした。
砂に沈んだ都市がある。
名は、さてなんだったか。滅びた都市だ――まぁどうでもいいだろう。
私はここに連れてこられた。
深緑を跳び出して、ひたすら迷宮森林を駆け抜けて。
そして私は『捕まった』のだ。
人売りに付けられた首輪はあらゆる抵抗を削いだ。自慢の魔術も振るえずに。
自死すら許されず私には価値が付けられて――金銀と代わりに引き換えられて――
……清らかな身体ではなくなった頃に、ふと脳髄に響いた『声』を聞いたのだ。
あれからどれぐらいの時が経ったのだろうか。
こんな砂の満ちる地にわざわざ住まうならと全てを砂に沈めて。
深緑の内にも外にも望む世界は無かったから、あらゆる全てを拒絶して。
「ああ――」
私は眠っていたのだ。
だというのにここ最近、同種の気配をやたらと感じて。
ふと、意識を外に向けてみれば『かつての私』と同じ境遇の者達がいて――
「結局この世界は汚い事だらけ」
クラウス。クラウス・エッフェンベルグ。私に外を教えてくれた人。
貴方は嘘つきだ。貴方の語った世界が、この砂の果てのどこにあるというのか。
薄汚い我欲を満たす為、幻想種を虐げる者達しかしないのに。
そして――私の――私の姉さん。
どうしてこんな子達を出すの? 姉さんが深緑に残っているのに。
結局姉さんも自分が満たされれば他の事なんてどうでもいいの?
「なら」
天を見据える。月明かりの下、ここに迫る者達の気配をカノンは感じて。
「この子達は、渡さない」
誰にも汚させるものか。
数多の術を起動する。カノン・フル・フォーレは大樹ファルカウの巫女の妹であり――本人もまた、魔道の才覚に優れし幻想種の一人であった。この地の魔種へと変貌した際に些かその魔道の質も変わったが。
駒が起動する。木々に恵みを与える術とは正反対、全てを枯らす砂の過酷が顕現。
吹き荒れる巨大なる砂嵐。地中より湧き出るゴーレムの数々が全てを阻まんとして。
……姉さん。
私の姉――誰もが認める深緑の巫女――お姉ちゃん――姉さん――貴女――
私は。
貴女の事が、ずっと嫌いでした。
●砂の都
「――全く。俺の代でなんて因果かねぇこれは」
ぼやく様な口調だが、砂の都にまで訪れた『赤犬』のディルクの目に揺らぎはない。
見据えた先には巨大な砂嵐。立ちはだかるは無数の敵、敵、敵――
「ま、レオンと二人纏めて龍に追いかけまわされた時よりはマシだわな。
あの時は俺達だけで本当にどうしようもなかったが……今回はお前さん達がいる」
ディルクが見たのは、共に訪れたイレギュラーズ達だ。
ラサの首都ネフェルストでオラクル派との戦闘があってから継続しての依頼であり。
「状況を改めて説明しておくぞ。敵……は、魔種。『カノン・フル・フォーレ』――ああそうだよ。大樹ファルカウの巫女、リュミエ・フル・フォーレの妹様だ。義理とかじゃなくてガチのな」
ラサの商人、オラクル・ベルベーグルスが首魁であったザントマン事件。
ついに正体を突き止めたラサは一斉攻撃を奴に仕掛け、幻想種を全て取り戻さんとしたのだが……その渦中にて。奴隷用の強制支配能力を持つ首輪『グリムルート』の制御を強引に奪い取ったカノンは全てを引き連れここ『砂の都』へと籠ったのだ。
カノンは魔種であり報告によればオラクルをも遥かに凌駕する『呼び声』を放つという――
「呼び声で狂っちまったらもう元に戻る事はねぇだろう。カノンの呼び声で幻想種達が塗りつぶされる前に奪還、もしくはカノン自身を――『殺す』必要がある」
現時点において魔種へと成ってしまった幻想種というのはそう多くないだろう。
だがこれ以上事態が長引けばその限りではない。
その前に攻撃を仕掛け、解決する必要がある。そしてそれには当然として。
「カノン……って奴は、殺すんだな」
「ああ。なんだ、もしかして『巫女の妹』の話をどっかで聞いてたりでもしたか?
――ま、しゃあねぇわな。魔種になっている以上はもうどうしようもねぇよ」
どのような過去があれ。どのような時を経ていても。
魔種という存在は世界の敵だ。
そこには一片の余地もない。決して覆らぬこの世の摂理だ。
「…………」
そうだ。これは仕方のない事である。
例えばカノンと言う名が、彼女の存在が誰にとって如何なる意味を持つとて。
変わらぬ事である。
リュミエが知ればなんとしたかは知らないが。
ここにいない者の想いに思考を馳せても仕方がない。
「……ともあれ。オラクルの爺が横やり入れて来る可能性も十分にある。その辺りの障害を排除しつつ、カノンの周囲に展開している魔物共を蹴散らして、なんとかしてその胸元に飛び込む――てのが作戦だな」
「力押しっていうんじゃないかソレ?」
「大雑把にはな。ま、向こうは戦上手じゃなさそうなのが幸いだ」
単純に力と力のぶつかり合いになったのならば地力が物を言う。
無論個人レベル、チーム単位の集団戦術レベルの判断はあろうがそれはともかくとして。
「ところで……今回はディルクも付いてくるのか?」
「あぁ当然だろ? 元々椅子を暖めてる仕事よりも『こういう』方が本職なんでな」
ディルクはラサの実質的指導者である。故にこそ率いる者として比較的政治に携わる事もあるが。
だがかつてはそういった立場に非ず。
冒険者現役時代のレオンと肩を並べ、ちょっと殺し合ったこともある武闘派でもある。
「さて、そんじゃ行くかね。悪い眠りに付いちまう事件はこれで終わりだ。
……お前さんたちの力、存分に貸してくれよ――イレギュラーズ」
●2019/10/18追記
「おおおおおあの小娘はどこだあああああッ!!」
戦場は概ね三つに分かれていた。カノンを中枢とする地域。
その中枢を防衛する地域。そして戦場としては最も広く部隊や魔物を展開しやすい――
オラクル自身も現れた、外周部である。
凄まじい数のサンドウォームが砂から湧いて出て来ていた。イレギュラーズも、オラクル派も関係なく襲い掛かって来るその波に対し、それぞれ勿論として対応していたが。
魔種であるオラクルがいるからか、奴が布陣している側の突破力はかなり強いようであった。奴らはイレギュラーズ側を放置してカノンを目指すつもりなのだろう。潰し合ってくれるのならばごうぞご自由に勝手にやってくれ……とは簡単には言えない。
外周部は戦場が広いからともかく、突入部以降へは廃墟があり自由自在に進行ルートがある、という訳ではない。外周部を突破させてしまうと突入部以降への戦闘に影響を及ぼす可能性があり、可能ならば奴をここで留めておく必要がある。
「くっ、しかし……!」
戦力が足りるか――? 砂の都全域で行われている戦いはここが全てではなく。
かき集められた戦力は100とディルク、そして彼の傭兵団が少し。
厳しい戦況。それでもやらねばならぬのだと、分かってはいるのだが――!
「――では少しだけお手伝いを」
瞬間、戦場に響いた声は一体誰のモノだったか。
サンドウォームに弓矢が振るわれる。一歩や二本ではなく、大量に放たれたそれは集団のモノ。と同時に足元を見れば『白い花』が――咲いていて。
花の香りが身体を治癒する。これはただの花ではない、治癒の力を持った魔道……!
「アンタは……」
「何も言わないでください――ここにいるのは、ただ同胞を救いに来ただけの『只の女』です」
紫の髪。白き服。纏う魔力は深緑随一。
名乗りこそしなかったが間違いない――深緑の指導者、リュミエ・フル・フォーレだ。
背後には弓を携えた幻想種の兵らしき者達もいる。噂のレンジャー部隊だろうか?
「地脈を介し、魔物と魔種の影響下にある者以外への術を作りました。
今回、ここだけの特別な術ですが皆さんの援護に成る筈です」
知らぬ土地でそんな事をすぐに――? 可能だからこその大魔導士というべきか。
或いは……唯一緩やかな同盟を結んで交流をしていたラサの地であるからこそ――
「……術の継続の為には、私はここからは動けません。奥へはどうか皆さんが」
リュミエが見据えるは戦場全域。砂漠の地、砂の都の全て。
奥にはきっとあの娘がいるのだろう。深い所にいるのだろう。
それでもきっと。あの時追いつけなかった自分に、今更追う権利などないから。
「お願いします」
どうか。
「あの娘を――終わらせてあげてください」
●
カノンは感じていた。術の流れを、そして見知った者だった人物達の気配を。
なぜ来たの。
なぜ来たの今更! クラウスクラウスクラウスクラウス!!
貴方は姉さんを選んだのに!!
姉さんは貴方と『結ばれた』のに!!
もういいでしょ。放っておいてよ『短い永遠』の中でどうぞお幸せに!
「ああ……あああああッ!」
こんなにも人がいる。なぜ、どうして? 誰が集めたの?
姉さん、貴女なの? どうして貴女は貴女だけはそんなにそんなにそんなに――
喉の奥が焼ける。眼球の奥底が焦げる様に熱を帯びる。
私が届かなった全てを持っているのに。
どうして今更私に構うの!!
嫉妬の炎が胸の奥で燃え盛る。自らでも信じられないドス黒い感情が全てを満たす。
これは死ニ到ル病だ。あまりにも胸が痛くて消えてしまいたくなる程で!
絶望絶望絶望――深度が更に深く、深くへと落ちていく。
――夢を見たなら危ないよ。外の世界は嘘ばかり。
優しい嘘に騙されて、全ては砂に呑まれるよ。砂の都は呑まれるよ。
夜の森は危険だよ。さっさと眠ってしまいなさい。
そうしないと眠たい砂が降ってきて『ザントマン』に攫われてしまうよ――
こんなモノは現実ではない。ならば夢に酔おう。
覚めぬ熱砂の夢の先にこそ、きっと私が欲しかった。
「夢の続きが――あるんだから!!」
- <YcarnationS>あなたの事が好きでしたLv:15以上完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年11月04日 23時25分
- 参加人数100/100人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●怠惰の商人
戦場に渦巻いていた思惑は果たして幾つか。
幻想種が攫われた――事件の裏には人の尊厳を無視した売買があった――
それに怒りを、義憤を抱いた者もいようが。
「――どんな理由で起こったにしたって、戦場は芒さんにとっては只の狩場なんだよ」
芒は言う。如何なる理由により発生した戦場なれど、己にとって変わりはしないのだと。
命を奪い合い、血を流すか否か。ただそれだけが彼女の本能と判断基準であり。
「殺らせてほしいな。その為にここに来たんだから」
人を殺せる外周ラインへと来たのだと。見据えるはオラクル派の傭兵の布陣。
サンドウォームの波に対応する故に集中されているその意識の間隙を突いて一気に接近、単柱の道路標識を右手の中で一回転させて――勢いそのままに横に薙ぎ。意識がこちらに向けられる前に飛び退いて。
三つ巴である状況を利用したヒット&アウェイだ。ここはとにもかくにも敵の数が多い。
傭兵が多数。虫の如き砂の魔物は更に無数。
意識を常に全面に向けて警戒するなど中々難しく、更には時として。
「ここだな」
戦場を穿つ魔砲が飛ぶのであれば、隣に誰ぞがいるからと言って安心も出来ぬ。
サンドウォームの群れに対してイリスが放った一撃は敵が多数であるからこそ甚大な効果を齎した。超遠距離から放たれる光と音。彼女の力が続く限り魔力は練り上げられて。
「魔法少女として、私は私に出来る事をさせてもらおう……些か骨の折れそうな数だが」
次の一射が解かれる。自らと同じ属性、魔法少女がいないかと気配の察知も巡らせながら。
「――あぁもう! 倒しても倒してもキリの無い……!」
同時に。敵を数えるのも億劫だとニーニアは言う。
波の如く襲い掛かって来る敵はイリスの攻撃で吹き飛ばされても尚数は健在。
本来であればマトモには相手をしたくない数だ、が。
「けど……ここで抑えた分だけ、きっと他の戦場の皆が勝ってくれる」
「そうです。何をするにしても、まずはここを、抑えなくてはなりません、ね」
ここを抑える事もまた重要なとだとネーヴェも頷く。
ここ以外で勝てばすなわち全体の勝利であるのなら――倒れる訳にはいかないと地を踏みしめるのだ。ニーニアが放つは己が保冷術式。遠方へと展開すれば広大なる範囲に炸裂し敵を吹き飛ばして。
ネーヴェは耳を澄ます。優れた聴覚で最も近付いているウォームの位置を検知し。
「兎は、機敏なもの……さあ、どこからでも」
掛かってきてくださいと――這いずり出て来た虫に合わせて蹴りを繰り出す。
砲撃があり、術が展開され、近付く者を吹き飛ばして。
しかしそれでもまだまだまだまだ数がいる故に――
「団体のお客さんね。
でも、礼儀を持ち合わせていない子はちょっとお断りなの。ごめんなさいね?」
ヴァイスの繰り出した暴風が戦場を襲うのだ。
風に乗ったウォーム達が天へと舞い上がる。負荷が己の身を襲うが、構うまい。
何も己一人でここを支えている訳ではないのだ。『赤犬』の傭兵団が襲い来る者らに対し前面を担い、深緑より訪れしレンジャー部隊の弓が後方からの支援と成し。それになにより。
「勝利の鍵が――あるんだからな!」
一悟は天より降り立ち、レンジャー部隊と共に『ファルカウの巫女』を護らんとする。
攻勢の始まりを予感し気迫と共に、遠方へと爆炎を生じさせ虫や傭兵の接近を阻むのだ。
リュミエの印が紡がれる。足元に咲くは優しき花。
身を癒し、精神を癒し。これが皆の活力となる『勝利の鍵』なれば。
「あなたが頼みの綱だ。だけどだからこそカノンの魔物や、ザントマンの配下がこっちに押し寄せないとも限らねぇ……オレに守らせてくれ!」
「――イレギュラーズの方ですか。お願いします、私は術の関係上動けないもので」
リュミエさえ健在ならこの効果は続く。毎回必ずではないが、それでも貴重であり。
「……うん。リュミエさんが集中できるように……敵を迎撃するよ……」
故にグレイルもまたそこへ参じる。紡いだ魔術で創り出すは二匹の狼。
獰猛にして強靭なる術式の塊――スコルとハティ。
「……スコル……ハティ……出番だよ……」
名を告げ展開せし狼達が敵を襲う。特にハティは遠方にて縦横無尽に敵を食い破り。
グリムルートで傷ついた友人や知人の仇を討つべくとばかりに彼は戦場を見据えるのだ。
全てはここで終わらせる為。元凶を――打ち倒す為に。
「……砂の都の中心は……どうなっているだろうか……紡がれるのは愛憎劇か、英雄譚か……それともハッピーエンドかバッドエンドか……」
どのような物語の終着点を迎えるのかと、クローネは呟く。
疫病を振り撒く呪いの如き魔術を展開しながら、馳せる思いは砂の都の深奥へ。
「躊躇わないよ! 魔種を潰すのになんてね!
ボクは――美咲さんともっとこの世界を楽しみたいんだから!」
そして後方からの射撃を主とする者達とは対照に、前へと出たのはヒィロだ。
溢れんばかりの闘志を身にまとい、敵の攻撃を一手にと。
さすれば大量の虫が彼女へと押し寄せるが――倒れない。
身じろぎすらしない。数多の波を城塞が如き身にて防ぎ切り、むしろ牙を欠けさせんとする。直後、周囲に纏いし狐火が数多の災いを周囲へと撒き散らし。
「さぁ、生きるか死ぬかの楽しい楽しい殴り合い始めよっか!! ね、美咲さん!!」
「やれ。相変わらず上手い事引き付けてくれるものだね――」
そのまま流れる様な連携で美咲へと攻撃の手を渡す。
狙い済ますはヒィロ諸共。展開される死滅の結界が彼女の周囲を満たし……しかしヒィロの身は一切傷付けずにウォーム達の肉を滅していく。敵と味方を識別するその効果が乱戦の中でこれでもかとシナジーを満たしているのだ。
「――っし。流石ヒィロ、やるよね!」
決まる流れが『やったぜ!』とばかりに。
テンションのままに拳と拳を突き合わせるフィストバンプ――おっとヒィロは知らないかなと。そのまま流れ繋げるダップまで軽く教えて、さぁ戦場を流れよう。まだまだ敵はいるのだからと。
「おのれぇ……なんだその術なんだこの攻撃はふざけるなぁ!!」
されど横から殴りつけられれば、碌な知性が見えないウォームはともかく――オラクル気付く。
予想外の戦力が戦場に来ていると。そして全てを支援する大規模な魔道を使えるのは。
「まさかファルカウの巫女か!? 引きこもりの馬鹿共めがこんな所に……!?」
怨嗟――怨嗟怨嗟怨嗟。自らの邪魔ばかりする数多の事態にオラクルは激怒する。
激怒し激怒し……そしてだからこそ狙いを定めるのだ。
誘拐しようと思っても手が届かなかったファルカウの巫女がここにいるのなら。
「ならば捕まえてくれるわ。総員――ッ!?」
そこへ突撃してくれようと。しかし。
「終わらない夢を覚ます為、行きましょう。夢は果てへと至るモノではなく、覚めるモノであれば」
瞬間。オラクルの位置を確認したイーリンが。
「ここが死力の尽くし所ッ! 総員――突撃ッ!!」
全霊を込めた一撃を放ち、戦場へと穴を穿つのだ!
全てを貫く渾身が号令と共に騎馬の足を鳴らす。戦場を駆ける無数の輝きが死地へと向かって。
「さぁ、誉れある一番槍はこのレイリーシュタインがもらう。皆、私に続け!」
レイリーの鼓舞が戦場へと轟く。騎士の鎧が戦場を駆け、開かれた穴へと迷う事なく一直線。恐れは無い。騎兵隊の盾役として愛馬のムーンリットナイト共に駆ける事に何の不安があろうか。大装甲たる盾を構えて――目前の敵陣へと突撃す!
「そこのけそこのけ、騎兵隊が通る! でござるよー! 死にたく無くば退くでござる――!」
「道は私が作る! さあ翔んでいけ――私の! ハーロヴィット!」
更にその穴を広くこじ開けるべく与一の魔弾が、ウィズィの全力たる投擲が放たれる。
一気呵成。この機逃すべからずとばかりに闘志が漲るのだ。隊伍を乱すな、恐怖を抱く暇は無し。オラクルを護る傭兵集団の壁をこじ開け、狙うは一つ。奴の首級。
「いっくよーレブン! みんなといっしょに、とつげきだ――!」
「はっ――木端商人の目論見もここで終わり。観念することじゃッ!」
次いでそこへリリーとリアナルも。突撃により騎獣に異変がないかリリーは気を付けつつ万一に備えて攻撃の準備も。リアナルは己が弓を戦域へと構え、ウィズィが切り開いた道を補強すべく一矢を狙い済ませ――それは、闇夜を切り裂き敵の脳天を穿つ。
更にと振るう魔砲。レイリーの盾による一撃。天からはレイヴンの破壊のルーンが導かれ。
「哀れな商人だ。腕を失い商品を失い、それでも意地が卑しくも忘れられないか――?
なら。同業の誼として慈悲深き終わりをくれてやろう」
釣りに三銭与えようと、黒翼の天使は虫達諸共薙ぎ払う。強大なる魔力が戦場へと降り注いで――
「おのれゴミ共がァ! 貴様ら程度がこの私を殺せるつもりかぁああああ――ッ!!?」
されどオラクルも魔種である。それもザントマン事件の首魁にして統率した商人の成れ果て。
砂を操る魔力が収束する。眠りの力を宿した砂の嵐が形成され、イレギュラーズ達を迎撃する為に振るわれればそれもまた強力。降りかかるだけで増す『睡魔』の如き力が彼らの活力を奪うのだ。
同時に配下の傭兵達も動く。先手を取られ、陣形を乱されたが数撃で大勢が決するほどでは無しと。突撃してきた騎兵隊の動きを押さえつけんとする。振るわれる刃が、砂が彼らに決して浅くない傷をつけて。
「みんな、頭を振って、砂を払って! 大丈夫! これぐらい――想定内だよ!」
しかしとココロが状況を分析する声を一喝。周囲の者らの睡魔を払わんとする。
そのまま紡ぐは治癒の魔術だ。流石に敵も手練れ、勢いは止められたが――それを予測していない騎兵隊ではない。彼らは突撃だけで片が付くと楽観してきたような者らに非ず。
すぐさま乱戦の構えで態勢を立て直したのだ。特に素早く動いたのは、アトだ。
アトはイーリン――もとい指揮を取っている『司書』が健在かを横目で確認。無事であると分かれば指揮の受け継ぎは未だ不要かと判断して。
「さて。窮地と言うには程遠く、かと言って全く余裕とも言えない状況――かな」
砂塵対策の布を顔に。戦闘を支配線とする極限の集中が彼の思考を満たして。
オラクルへの壁となっている傭兵一人を見定めて――振るう剣術は、死中の果てに。
「――上等以上。出口を潰され、罠しかない悪意の迷宮の最中にいるよりは希望のある状況だよ」
「まだ生きて帰れるつもりか! ここまで深くわざわざ来て、逃がしはせんぞ!!」
例えば巫女の支援があると言っても、補助程度だ。右腕を失っているとはいえ乱戦の中で各個撃破していく形ならば流石にオラクルが有利。少しずつ潰して傭兵達を立て直し、順に殺していってやろう――
そう思った、瞬間。
「いいや。もうこの物語はお前の出る幕じゃないんだよ。
お前は『楽に』終わらせられるとタカを括って居たのが『悪かった』のさ」
後方。吹き荒れるは熱砂、オラクルの操る砂とは別の意思。
範囲に炸裂させる――その主は、アルクだ。
まさか、と思った時にはもう遅し。オラクルへの攻撃は一波のみでなく。
「佳境ですね。さぁ狙うはザントマンの首一つ、参りましょう」
そちらからもあったのだと。
寛治が空へと振るったオイルライター――が、炸裂と共に雪崩れ込む後詰の者達がいた。
「あの商人がザントマンか。成程、見苦しくも足掻いている様だ」
「……年貢の納め時、ってこういうときに使う言葉だよね」
「そうだな……奴も大分好き勝手していたようだが、此処で引導を渡すとしよう」
首魁の位置を見据えたグレイシア。優しく、語り掛ける様にルアナへ言葉を紡いで。
奴は手負いだ。それは果たして何故だろうか、自らがやってきた所業に対する報いか。
因果応報。自業自得。決して同情できぬ、有り様をルアナは見据えて。
「法の裁きじゃなくて、あの人は『人』が……わたしたちが今ここで裁くよ」
決意と共に往く。信念纏いて力とし、振るう大剣が戦場を切り裂き。
逃げられぬ様にグレイシアは密かにルートを潰していく。
聖なる術式を行使し、ここで終わらせるとばかりに。
「忍びの矜持はここにあり。二度目の失敗は許されぬ……全力を持って――」
更にその間隙を縫って、オラクルへと近寄ったのは。
「仕留めてくれよう! ラサと深緑の仲を――これ以上弄ばせはせぬ!!」
咲耶だ。気を練り上げて生み出した無数の鴉の羽を投じ、オラクルの背を狙わん。
一度は逃がした。しかし次はない。己が全てを賭けて、奴を討つッ!
「やれやれ無様じゃのうザンとんま。お手々がないないして涙をぬぐうことも出来んかの?」
「ぬ、ぐ! ふざけたその喋り方は貴様……!」
「優しい優しい妾がお顔ふきふきしてやるのじゃー光栄に思うがいいのー」
そしてオラクルを挑発するかのような――いや、挑発しながらデイジーは往く。
狙うは運命を蝕む赤き月にて。集中力を奪うかの様な言動を続けながら。
意識を引き付け、更に間隙を縫ったのはシャルティエ。
「私利私欲で、一体どれだけの人を傷つけたんだ……!」
奥歯を噛み締める。苦しんだ者達を想像するだに、彼の心が同時に痛む。
オラクルを許す訳にはいかない。眠りの砂の奔流に巻き込まれ、しかしそれでも。
「必ず此処で止める……いや、討ち果たしてみせる! 例え僕はまだ未熟者だとしても……
僕だって騎士なんだ!!」
吠えて振るう渾身の一撃がオラクルを襲う。
前から騎兵隊の面々が。後方から後詰の面々が。徐々に、徐々にとその輪を狭めていく。
オラクルを纏う砂を超えて。此度の元凶に力を届かせるべく。
「はっ『怠惰』の割にえらく女に御執心だな? だが手前はお呼びじゃねぇぜ……三下」
だから、グレンも往くのだ。
対応しようと動いている傭兵達をハイ・ウォールによって壁として抑え。
「舞台にすら上がらせねぇ。袖で泣いてな、好き勝手やりまくった恨みのツケ――
ここできっちり清算してもらうぜ!!」
俺と言う要塞を超えていきな、と――圧倒的な防御性能で圧を強めていく。
奴は逃げようとはしない。カノンの魔物もイレギュラーズも向かってくるならば全てを捉えて己が砂に飲み込まんとしている。もはや奴に往く所もなく、勝つしかない――故でもあるが。
「逃げずに向かってきてくれるとは、実に都合が良い。
――いえ、貴方が死ぬ前に答え合わせがしたかっただけですよオラクル・ベルベーグルス」
だからこそと、言うはアリシスだ。闇の月の魔力を放ちながら、紡ぐ言葉は問いの様に。
幻想種の誘拐など悪手だ。長期的に続けられる計画でない以上、商人オラクルに益はない。なのにこれらの計画を実行した。なぜなのかその理由は。
「貴方が『魔種』オラクルだから」
個人の益ではなく、魔種として何か別のモノを求めている。
背後にいるのは何者か。何者の為に行動していたのか。
ラサではなく、深緑を狙う者。それは――貴方の『原罪』の上にいる――
「――それ以上我が天の名を口にするではないわ小娘があああああ!!」
直後。オラクルの『砂』がアリシスを襲う。凄まじい流れが彼女の身を傷つけて。
「チッ。小物臭いとは思ってたがやっぱり首謀者……いや『原因』は別にあるのかよ」
「ま、何はともあれ今はこの場で――勇者爆撃だ! 背中は任せたよ、この世界を救ってくれ!」
いやその作戦名マジどうかと思うんだけどなぁ俺!? と、アランとカイトは空より。
オラクルを奇襲せんとしているのだ。
聞こえた会話に、まだオラクルの背後に闇はあるかと思いはするが。
「まぁいい行くぜ――夢を見る時間は終わりだクソ野郎がァァァアアア!!」
纏う炎と共に焼き尽くさんとする勢いでアランは天より一閃。
しかし爆撃だけで終わりはしない。カイトも無論として、そこへ続く。
少女の願いがあったのだ。皆を助けてと言われたから。
「終わらせるよメレス――男なら、女の子の為に立ち上がるものだからねッ!」
降下する。その勢いをそのままに空を裂いて万物を断ち切る一陣の風と成る。
全てはここで決着を着けるために。カイトは胸に抱く騎士の誇りと共に。
オラクルの身を刻むのだ。
「人々を奴隷にして、偽りの楽園を築こうとでもしてたの?
そんな偽りならぶっ壊した方が良いね――行くよ『神様』」
ああ存分に、終わらせたまえよと。ティアは己と共に在る『神』に語り掛け、往く。
一に赤を。二に黒を。破滅たる二閃が戦場に瞬いて。
「ふざけた物語は終わらせるよ」
集中された攻撃から放たれたソレは、オラクルの身を確かに捉えた。
「ああ、国を跨いで好き勝手したツケは払ってもらわないと」
そしてクリムの魔弾が更に穿つ。動きを縛らんとするその一撃は、幾度と重ねられた攻撃に加えてオラクルの身を確かに蝕んでいた。されど。
「ぬううううう舐めるなァ――ッ!!」
雄叫びの如き叫びと共に、クリムや周囲の者らに対する強烈な魔力の砂が降り注ぐ。
「私が、私が死ぬものか! 敗れるものか! ましてや貴様らなんぞにぃいいいいい!!」
傭兵の陣形は壊滅しつつある。身を護ろうとする兵はもはや少なく。
身は砕け。振り絞る魔力は間もなく底を突きようとしていて。
「この私があああああ!!」
「――4125G。なんの値段だと思うね?」
同時。そんなオラクルの砂嵐の防御壁をも物ともせずに接近したのは愛無で。
「なに、君の命の値段だ。どうかな……存外、安いものだろう? 小銭だ」
反転したというのなら、君にも何か魔に堕ちる契機があったのやもしれぬ。
それでも事ここに至っては是非も無し。
他者の命に価値を付け、値段を付け、金の重みしか見ていないのならば。
けじめをとらねばならぬ。ラサに生きる者として。ラサに生きた者として。
巨大な蛇の頭部がオラクルを襲う。飲み込まんとするソレに、抗うに見せたその隙を。
「人を弄んだ報いは必ずその者に転じます。自らの行いは、所業の数々は――」
沙月が詰めた。神速の踏み込みが瞬きの間に。
取る背後。添える手が流れる心と共に構えと成す。
「あの世で悔いるといいでしょう」
その一撃は夢か幻か。意識させる暇も無し。
防の構えすら取らせずに、浮いた身体を頭より。
地へと落として――紅き華を咲かす。
「さようならだ、三流商人。深緑は開かれた。貴方の商流や人脈資産は、今後は弊社が活用して差し上げます――深緑とラサ、Win-Winのビジネスでね」
後詰を先導した寛治が敵を穿ち続けたステッキを一回し。
如何なるビジネスが展開されるのか……それは光のザントマンのみぞが知るだろう。
「ここは決着が着きそうだ……あちらの方に行かれても良いのでは?」
オラクルが撃破された気配を感じて、ゲオルグは言う。
追う資格などというのは考えなくていいのだ。もしかすればこれが最期の機会かもしれず。
「……私はここに支援に来たのです――『私情』は、全てが定まった後です」
「終焉は訪れる。どうか悔い無き様に……私達もいるのだから」
リュミエの傍にて迫りくる敵を排除しながら、彼はリュミエの術を観察していた。
それを担えないだろうかと。しかし運命の活力満ちた身では奇跡は舞い降りるに難しく。
解析の術たるアナザーアナライズが――或いはその身にあれば――
いや思考は後か。オラクルを倒したとはいえ、虫はまだいる。戦いは終わらない。
全ては――砂の都の中枢にいるカノンを倒さねば決着しないのだから。
●竜とのデート
「全く、随分と固めてきたっスね。意地でも通さないつもりっスか」
外周部の戦いは三つ巴の戦い。オラクルという魔種の戦力はいたが、それ以外――特にカノン側の魔物戦力はそこまで『強い』という印象の無い個体達ばかりの戦場だった。
しかしそこから一歩『内』へと入ると世界が変じる。
頭を掻きながら葵が見据えたのは、砂で出来たゴーレムの群れだ。
あくまでざっと……見た所流石にウォームレベルに多くは無さそうだが。
「だけど外もここも含めてこんな規模の術を展開できる辺り……流石は深緑の指導者の妹、と言った所かな。ま、やれるだけのことはしましょう――ゴーレムを砂に返すお仕事だ」
ルーキスは吐息一つ。黒銃を人差し指に絡めて二回転。
三回転目と同時に引き絞る引き金――射出されし銃弾が雷撃を帯びて、炸裂する。
うねり、まるで蛇の様に。轟音共に鳴り響かせて。
「回復はするけど無茶はしないでねルナール。前線の仕事だから仕方ないけどさー」
「何。これでも無茶はしてないぞルーキス」
同時、往くは愛し人のルナールだ。
雷撃に沿うように跳躍し、ゴーレムの振り下ろしに合わせて再跳躍。天へとはためき、月の光に長刀が瞬いたと思えば――ゴーレムの肩を抉り飛ばす。
喧嘩が出来る身内がまだ生きている。ああ、それはなんともまだ『間に合う』話であろうか。それが、そんな簡単な事すらどれだけ足掻いても『出来ない』自らにとってみれば。
「――実に馬鹿馬鹿しい限りだよ、本当に」
着地。腕を失うゴーレムの体勢が崩れる音を後ろに、彼は次なる標的を見定めて。
「……ああそうだな。姉妹喧嘩なんてのは出来るだけ幸せだ。
妹が死んでる俺は喧嘩も出来ん……言って、どうにかなる事でもないが」
しかしレイチェルは吐露せざるを得なかった。殺された双子の妹の顔が瞼の裏に。
「ま……俺は俺の仕事をしよう。ああ、俺らの仕事は――ゴーレム狩りだ」
「ああ。さて……露払い、と言った所か。
如何なる神秘を以てしてこの場を作り出したのか、見せてもらうとしよう」
されどレイチェルは数瞬の沈黙だけで眼前の戦場へと意識を再度。
シグと共に往く。狙うはゴーレムの大群、粉砕せしと意気を込めて。
振るわれる禁術。振るわれる鎖が戦場を駆け抜ける。
「種族違いの恋に、姉を恨む妹……どちらも他人事とは思えないけれど――
反転してしまったらもう」
と。思わずそれ以上の言葉をアーリアは呑み込んでしまう。
姉と妹の関係――かつ、それが友好的でないのは天義の折で『あった』事だ。
……しかし感傷に浸る暇はなく、今はこの事態を解決せねばならないのなら。
「やってやりましょ! 皆と一緒に、終わらせるわよ!」
「ああ――今は仕事を果たす事を考えようか」
アーリアは恋の物語に狂いに至る恋の魔術を紡いで、ゼフィラ達と共にゴーレムの対処へと向かう。家族の話となれば、旅人たるゼフィラにとっては『かつての世』に残してしまった身内の事に想いを馳せてしまうが。
アーリア同様に今は、と。
「ままならない感情を抱いて、事は成せないからな」
不可避の雹を戦場に。多くのゴーレムを巻き込んで、払わんとして。
「まったく、姉妹で男を縺れから都市を砂に沈めたり今回のこれとか……
脳内と周りの被害で落差有りすぎだろー」
全ての女子が恋愛話が好きだと思うなよーとクロジンデは言いながら、ゴーレムの相手を。
砂嵐による体力の低下……リュミエによる支援はここにも及んでいるが、それだけでは足りないだろうとクロジンデは治癒をメインに行動する。余裕がある時のみ攻撃へと転じれば。ゴーレムの身を殺傷の霧が纏って。
「ゴーレムに竜っぽいやつに……うっわあ、たくさんいるー
いいじゃん、上等! いつも通り、倒しまくって道を切り開くよー」
同時、光翼展開。ティスルの無数の光刃が味方を癒し、敵だけを穿って。
外周部と異なりここからはカノンの創り出した砂嵐が吹き荒れている。
それは体力と活力を奪う魔の領域。その証。イレギュラーズであろうと疲労は免れぬ――が。
「――いやはや。でもねこれくらい鉄帝の冬に比べればどうということはないさ」
「砂上の楼閣とは言え、崩すには最奥まで皆さんを行かせなければなりません。
何としても道を切り開き、ここを突破します」
中にはメートヒェンやオリーブの様にある程度過酷なる環境への耐性を持つ者もいる。
されば砂嵐の効果も幾分か軽減されるというモノだ。オリーブはその中で格闘戦を仕掛けつつ。
「ほら、こっちだよ鈍間な砂の木偶人形達。
君たち程度では到底無理だろうけど、私を捕まえてごらん」
メートヒェンは前へ進む者達の支援の為にゴーレム達を引き寄せて。
往く。往く。皆で往き、皆を往かせて。
全てはこの奥へと突き進む為。幻想種を奴隷とするこの事件に幕を下ろす為。
奴隷がいて、幻想種がいて。はてや悲しき経緯を経て魔種へと至った人物がいて……
「……思えば思う程、つらい気持ちになってしまいマス」
けれど、とリュカシスは火炎の鉄槌を握りしめる。
ああそうだ。『けれど』終わらせなくてはならないのだ、この事件は、この詩は。
「ここは任せて! ボク達はまだまだ戦えマス!」
「行け、今っスよ! 後はオレ達が何とかする!」
振るい。ゴーレム達の身を薙いで、周囲の仲間へと声を張り上げ統制を成し。
連携崩さず波の如く襲い掛かって来る魔物達の壁に『穴』を開ける。
続く葵の放ったエネルギー弾が複数炸裂。着弾地点で爆発を生じ、穴を広げて――
しかしその時。そんな意思への反抗か否か――?
「来やがったな、サンドドラゴンだ!」
サンディが天を見上げたと同時。零れんばかりの砂で身を構成した『竜まがい』が現れて。
発せられし衝撃波がゴーレム諸共イレギュラーズ達を包み込む。
ゴーレム達の身が砕け、しかしイレギュラーズ達にも浅くない傷が。仲間すら巻き込むその思考は、強さと引き換えに操れていないからか、それとも増える故にどうでもよいとされたからか。
「どっちにしろ手早く倒さねぇとヤバイよな……行くぜ?」
「何。本物の竜や亜竜と比べればコイツなんか文字通り吹けば飛ぶ存在だろ。
――こちとら亜竜にだが、本物にならもう会ってんだよ」
サンディは風の魔術を練り上げ、黒羽は己が闘気を操って。
奴らの気をこちらに引かんとする。流石に空を飛ばれ続けては戦い辛い。
縦横無尽。その認識を地へと落とすべく、それぞれの攻撃が放たれて。
「……空飛んでるだけの砂の塊なんて怖くないんですよ。
食欲旺盛な人間に比べれば、全然……!! 全然マシ……!!」
更にたい焼き、じゃない。ベークのたい焼き主張が、じゃない、戦場に広がる甘い香りが――砂竜の食欲をそそる。あ、駄目だこれこいつ絶対食欲あるぞ食べるぞコイツ。
喰われてたまるかと防御の姿勢を整えるが、大口開けた竜がベークを呑み込もうと――
「ああ全くその通りだぜ。昔レオンとやっちまった時の『本物』に比べりゃ大した事ねぇさ」
した瞬間。それに合わせるかのように――ディルクの剣撃が砂竜へと。
跳躍。砂に半分埋もれている建物の壁を足場に、天へと。されば放つ剣閃は三にして一。
黒き牙が奴の身を削る。そのまま地へと勢いそのままに辿り着いて。
「つーかよ」
同時、着地点に待ち構えていたゴーレムを薙ぐ。二、三纏めてその胴体を抉って。
「こいつらなんで俺ばっか狙ってくるんだ? 明らかに俺狙いが多いよな?」
「ハッハ。モテモテでいいじゃねぇか赤犬――紛いモノったぁ言え竜は久しいか?
面白そうなのと遊んでるなら、このグドルフさまも混ぜろよ」
更にそこへと斧を担いだグドルフが現れて。
見据えるは砂竜。齎すは自らの奥底から呼び覚ます生存本能。
地を這う様に滑空してきたその軌道に合わせて、打ち込むは斧の一閃で。
「ディルク殿――!!」
次いで駆けて来たのはルル家だ。カノンの執着か何かか、ディルクへの攻撃優先度が高いのであればその周囲にいれば自然と自らが安全になるから――とかは、ええ考えていませんよ? 未来のダンナ候補の為に来たのです!
「未来のお嫁さん候補、夢見ルル家の活躍を見ていて下さいね! キラッ!」
片目瞑ってウインク一つ。空へと逃げようとした砂竜へとしがみ付いて。
二度も竜に煮え湯を飲まされてたまるかー! と叩き込むは銀河旋風殺。暗器の波。
「竜種……ではないとはいえ、ドラゴンの形をしているからには似たような何か、だよね。
相手するのは大変だけど、できるだけ粘らないと」
ここで戦う意味がないよね、とイリスは舞う竜に視線を。
二体同時に相手取るのは難しそうだ。ならばまずは一体ずつだろう。
一瞬の隙を突いて、砂の身を齧らんとする。ドラゴンたれど臆さず往くのだと。
「ディルクさんとクラウスさんってそんなに似てたんッスか?
でも仮にどれだけ似てても愛した人を見間違えるもんなんスかね?」
んー? と疑問符を付けるのは鹿ノ子だ。彼女もまた砂竜へと向かいながらするは思考。
もしも己なら間違えない。大切な人であるなら、なおこそ唯一無二なのだから。
魔種としての狂気に犯された故――だろうか?
「――いつか必ず見つけるッスよ。御主人」
己が大切を脳裏に描き。跳躍して太刀と共に舞う動き。
砂竜の勢いは凄まじく振り落とされんとするも諦めない。一度でダメなら二度三度。
連続で切り込み致命を与えんと。
「……本物じゃなくても竜を模した存在と戦うってのは、中々……震えるモンだな」
ウィリアムの震えは恐怖ではなく武者震いであろう。
巨大なる存在だ。もしかしたら勝てないか――? いいや。
「いいや――勝てるさ。必ずな」
砂嵐で星空が見えなかろうと。
星々の輝きは確かに天にあるのだ。
その輝きに衰えなど一切無しと。紡ぎ上げる全霊の星の魔力が砂竜を襲って。
「現実から逃げて手に入らねぇ理想を、夢の中に追い求める――か。全く、耳が痛い話だぜ」
例えば。もう手に入らないモノがもう一度手に入る夢を見たならば。
シュバルツはそれを『只の夢』と切り捨てる事が出来ただろうかと思考する。
もう一度。もしかしたら、もう一度という――
「だからな」
一息。思考を振り払うように彼は駆けて、狙うは砂竜。撃ち落とすべく……いや。
「この恋物語の結末を、誰かが。誰かがカノンを終わらせてやらないといけねぇんだ。
だから――邪魔すんじゃねぇよクソ竜!」
後ろ髪を引く思いを振り払うように――魔砲を直撃させた。
「深緑と傭兵……二つの国を巻き込む大きな戦い、その佳境だね」
空で魔砲による爆発が生じたと同時、地では氷彗がゴーレムを相手にしていて。
応戦させる隙など与えさせないとばかりに絶対零度の暴風を身に纏う。
夜の砂漠の冷気と共に、彼女は。
「この道は必ず切り開かないといけないんだ――そこをどいてもらうよ!」
ゴーレムの身を穿って、砂の都中枢への道を押し上げる。
「恩を売りに来たぜ大将! 支援の方はこっちに任せてくれ……だが、俺の援護は高くつくから覚悟しとけよ? 三途の川の渡し賃すら手元に残らなくなる程だからな」
「頼もしいじゃねぇか――尤も、川を渡る気は更々ねぇがな」
そして負傷した者がいるならば、と。ディルクへ言を紡ぎながら世界は同時に治癒の魔術を。
あちらこちらでゴーレムと接敵、あるいは砂竜への対処に動いた者で場は乱戦と化していた。ゴーレムは動きが遅く、しかし重量があり。砂竜は纏わり付いてくる鬱陶しい者らを弾くべく動き回り。
「今は目の前にいる敵を片付けるわよ! それから――呼び声に負けたりなんかしないようにね!」
Erstineもまたそんな砂竜へと対処せし一人であった。
氷の疾風を携え、機会があれば敵を纏めて薙ぎ。呼び声に屈してはならないと声を張り上げ。
――この戦場にはカノンの狂気が蔓延している。
最早彼女を救うには死しかないのだろうか。ならば。
「……死で彼女を救うしかないのなら、私も覚悟を決めるわ……彼女を救ってあげましょ!」
「……触れ合って混ざり合えば、心に影を落とす事もあるものよね……悲しい事だけど」
と、Erstineの言に続く様にレストもまたそれぞれの気持ちを感じ取る。
一人一人の気持ちは純粋でも、混ざり合えば何となるかは分からず。
その結果がこの先のカノンならば……
「ううん、ダメね。今は集中しなきゃ~あら、ディルクちゃん結構狙われてるわね~?」
頭を振るい、ディルクへと鼓舞を。その身を癒して支援とすれば。
「……さて、人様の事情に踏み込むのはあまり趣味ではないのですが。
魔種へと至り、災厄を成しているなら今回ばかりはそうも言ってられませんのでね」
オフェリアの魔力がゴーレムを襲う。遠方より、範囲纏めて呪いの底へと沈め込み。
イレギュラーズとしてただ成すべき事を。
「さてしかし……肉を切り、岩を斬った事は多々あれど――砂を斬ろうとは思いもりませなんだ」
無量はゴーレムを前に呟く。恐らくこれらには核があろうと。
しかし――折角の機会だ。核を狙わずしてどれ程の攻撃を重ねれば奴らの身を削げるだろうかと。
「楽しませて頂きましょう」
死闘が始まる。強大なる重量に押し潰されればタダでは済まぬ、それでもと。
無量は戦いを求めるのだ。
来るな。来るな。どうしてこっちに来るのだ。
そう言いイレギュラーズの進撃を阻むが如く、ゴーレム達は立ち塞がる。
それでも白い花が彼らを支え突破しようとする意志が少しずつ、少しずつ前線を押し上げて。
「――わたくし達にできることはここまで」
そして、砂竜が遂に落とされたのをユゥリアリアは見た。
英雄譚を紡いで周囲の強化をし、治癒の魔術を幾度と積み上げて。
しかし戦いはこれで終わりではない。
ゴーレムは湧き出しており、己らは依然としてここを抑える事が必要で。
だから。
「あとは、お願いいたします――」
この詩を、終わらせてきてほしいと。
中枢部へ最後の一団を送り出すのだ。
●カーネーション
熱砂の恋心という詩があった。
それは大樹の幻想種と砂漠の傭兵の恋物語。その伝承歌。
はるか過去の物語。
あの時生きた者達の物語。永遠の中の、たった一度だけの刹那。
この詩の結末を得る為にそれぞれが思いを抱いて
「なんて物語なんだろうね――幻想種の幸せのため尽力してきたってのに」
夏子は構える。目前にまで来れたは砂の都の中枢、カノンのいる位置。
すぐ傍には依然として狂気の影響を受けている幻想種らの姿もあり。
「いいやまだだ。まだ終わっちゃいない……こんな形で終わらせてたまるか。
そうさ! まだ始まるストーリーもあるんだよ!」
必ず連れて帰ると、城塞の如き構えから前進。破裂するかのような音と共に――不殺の槍を薙ぐ。
グリムルートを媒介として狂気に染まっている幻想種達だが、彼女らはまだ反転へと至った訳ではない。一度落ち着かせ、この場を制すれば『戻って』くる事も叶おう。
「人として必ず全員連れて帰りましょう! 幻想種の人たちも……みなさんも! 無事に!」
だからこそ利香もまた諦めない。
まずは最優先でまだ間に合う者達の隔離をと、彼女もまた不殺の意思にて。
打ち倒し、気を失わせ確保せんとするのだ。
無論幻想種達もまた反撃に転じてくる訳ではあるが――それでも全てを救うために。
「原罪の方向性は嫉妬か……反転した結果がアレであれば、何とも皮肉な事よ。しかし事ここに至ってはもう語る言葉もあるまい。アレは魔種で我らはイレギュラーズ、どちらかの勝利でしか決着はない! 行くぞ!」
「……やりきれないとしか言いようがありません。しかし可哀そうだからと言って……
戦わない訳にもいかないですね。それは全ての放棄、全てを見捨てるだけに過ぎない……」
そしてダークネスとシマウマに乗ったラクリマが戦場へと馳せ参じる。
狂気に満たされた幻想種に説得は通じまい――と、無力化を狙って。
ラクリマは己が周囲に英雄を作成するが如くの支援を。ダークネスは威嚇の術を用いて確保をしていく。戦うしか選択肢がなくとも、せめて悔い無き様に行動するのだ。
――砂嵐が舞う。強き砂の奔流が皆を襲い、更にはその奥から。
「来やがったな癌細胞野郎――切除してやるよ! オペの始まりだ!!」
ガイアキャンサー。大地の癌が訪れる。
即座にその姿を確認した貴道が握り締めるは、拳だ。己が武器、己が力そのもの。
踏み込み抉る、魔槍が如き一閃は奴めの肉を削り飛ばす。が、それだけで終わろうものか。急速な心拍数の増加から始まる全盛への道の駆け足が――
「気を付けな。今の俺はマジで最強だぜ?」
貴道の二撃目を、神速の領域へと到達させた。
轟音鳴り響く。大地の癌の身が揺らぐ。
されば雄叫びか絶叫か。理解不可能な金切り声を挙げて。
反撃の一手が繰り出される。触手の様に身を伸ばし、その腕に敵対者を包まんとして。
「郷田。倒れられては困るからな――興じるのはいいが、見誤るなよ?」
そこへハロルドの聖剣が解放される。
生じるは聖なる光。ガイアキャンサーを結界が包み、複数連鎖の大爆発が奴を襲えば。
「はははっ! おら、もっと戦いを楽しもうじゃねぇか!」
前へ出る。聖剣を構え、行動の鈍った所へ薙ぐ一撃。
『魔』の存在に許しはない。如何なる理由があれ、如何なる経緯があろうと。
須らくハロルドは滅するのだ。己が矜持の全てに懸けて。
「だけど……まさかこんなものまで生み出してしまうなんて……
これが、カノンさんの絶望が具現化した形?」
悪夢を見続けているという事なのだろうかと、サクラは続く。
異形の具現。およそマトモな生物らしからぬ形状は、不安か憎悪の象徴か?
それにサクラが想起したは、カノンが受けたであろう過去で――
「でも。私達に出来るのはもう止める事だけ……行こうスティアちゃん。
――こんな悪夢、苦しみは断ち切ってもう終わらせなくちゃ」
「うん。終わらせようね、サクラちゃん」
顔を合わせるはスティア。どうであれ、その過去に救いの手は届かなかったのだから。
今はもう。未来を見据えて断ち切るより他は無しと――大地の癌へと二人は向かう。
襲い来る癌細胞の腕。見据えて剣撃、切れ目なき刺突と斬撃でサクラはソレを斬り飛ばして。
「サクラちゃん、飛び散った欠片にも気を付けて! ソレもまだ生きてる!!」
スティアの治癒魔術が援護となる。腕に張り付いた悪意の液体がそれぞれを蝕み癌となるが。
即座の治癒。癒しと希望の意思が悪意を阻むのだ。
ガイアキャンサー特有のその『悪意』には決して蝕まれてはならない。
放置すれば生を食い潰し新たな肉腫となろう。そうなった者も過去にはいて。
「はっはっは! だからこそ殴り甲斐もありそうという者よ――相手にとって不足なし!」
だからこそ徹底した支援をイレギュラーズ達は途切らせる事はしない。
天への祈りを捧げた美少女、百合子は付近の癌を排除。そして間髪入れず、拳だ。
星を突こうとも言うべき正拳が地の踏み込みから大地の癌へと。彼女自身は美少女の定めとも言うか病気への抵抗が必ずしも強い訳ではないが、構わない。美少女なのだから敵の身を穿つ事こそが優先だ。それに。
「これを野放しにするわけにはいかないわね。ここで倒しましょう。
それにしても模した魔物でこれなら……もし本物がいたら――なんて、考えたくないわね」
圧倒的抵抗耐性から悪意を気にしなくて良い者も複数いるのだから。
アンナもその一人だ。彼女は癌に犯されず、なにぞ気にする事もなく攻撃を重ねる事が出来る。剣身に纏われた炎が振ると共に炸裂――大地の癌の身を裂いて。その体に多くの炎を纏わせる。
ガイアキャンサーは豊富な異常属性を持つが、全てを網羅している訳ではない。
例えば抵抗の力を大幅に削ぐ厄災。あれがあればアンナであろうと只では済まなかったろうが、しかしこのガイアキャンサーは厄災の類を持たない。それを持っている事もあったのは本物達で、ここにいる紛い物ではないのだ。
圧倒的な耐性にガイアキャンサーの手が弾かれる。
産み付ける筈の癌細胞が端にも掛からぬ。
「さてさて……誰も死なせないよ。俺が倒れるまでは誰もね」
そしてそれはヴォルペもだ。悪意の腕を弾く様に、踊る様に疾走し大地の癌へと攻撃を。
「事情は詳しい事は知らないけれど――可愛い女の子が泣き続ける声が響いているんだ」
それは救わなければならないと。止めなければならないと。
その為には何を恐れる必要があろうか。
化物だろうがなんだろうがヴォルペが止まる理由にならず――往く。大地の癌へと、
「きっと、こういう時の為なんだ……! あたしが深緑から召喚されたのはっ!
深緑を護る力を――付ける為!」
次いで抵抗の力が強いフランもまた、郷田とハロルドの後方側に位置。絶対的な耐性で様子を見つつ――撒き散らされた悪意があれば即座に解除の術を飛ばす。傷ついた者がいれば治癒の術を飛ばそう。
今ままで培ってきた技術をここに。イレギュラーズとなった全てをここに。
「癌細胞になんて負けるもんか……!」
意思と共に、深緑の幻想種を害さんとする悪意にフランは立ち向かう。
「もしも引き籠ったままだったら、今頃深緑のピンチに対して何もできなかったと思うとゾっとするわね! でも……!」
雷撃一閃。フランと共に更に大地の癌へと向かうはアルメリアだ。
魔術書を読み漁る日々に不満はなかった。ある日神殿に飛ばされた時こそ不安に陥ったものだ。
しかし今は。今この時、この場に立てているのは外を知ったからだ。
愛しい故郷。深緑の為にこそ。
「やるわよ、フラン! 皆! お母さん、リュミエ様、見てて……!」
己が魔道を――振り絞るのだ!
多くの治癒が味方を癒し、悪意に負けず巨大なガイアキャンサーへと皆が立ち向かう。
膨大な耐久にまだ倒れる様子は見せないが、ならば。
「この詩を――終わらないとね」
奴が邪魔できぬ今この時にこそ――決着を付けに行こう。
アリアは向かう。先にいるはたった一人の魔種へと堕ちた幻想種。
カノン・フル・フォーレ。悲恋の物語を紡いでしまった者。
「でも……まだ間に合う。ほんの少しでも流れを変えてみせる。
――そのためなら、何だってやってみせるよっ!」
「『何だって』? 何をやっても無駄だよ……姉さんの手の者なんかに、私は負けない」
収束する巨大な魔力。一段と強くなる砂嵐が皆を襲って。
しかし今更臆するものか! 決意と共にアリアは数多の厄を宿す宝玉を投じ。
炸裂させる。紅き光がカノンを満たし――
「抱いたのは嫉妬か。想いの強さが転じ……成るべくして成った結末の一つと言う訳だ」
直後、汰磨羈が駆ける。思想が、恋慕が強き願いが人を変貌させる。
そういうのは散々見て来た。歪み落ちた果ては等しく悲惨で、だからこそ。
「その必然に、決着を付けよう」
同情も憐憫も嘲笑も掛けぬ。かような者にそのような類は必要なく。
「夢の中で終われ。夢の中で果てろ――それが、御主にとっての救いならば」
駆ける、駆ける。壁を利用し、地を踏みしめて。
死角の位置へと回り込み――繰り出すは音速が一歩一撃。神脚一踏。
圧を掛ける。集中をさせまいよ、物語に終わりを齎す為には。
「魔種に成っちまったのなら……もうどうしようもないんだよな……」
奥歯を噛み締めるアオイ。出来るならば、可能ならばリュミエの妹たる彼女をなんとかしたい。
しかし魔種であるならば選択肢はないのだ。
全てを救い上げる手はなく。過去に戻る方法はこの世になく。
「だったらせめて――まだ助けられる奴らを助ける為に動くぜ」
幻想種を、仲間を。誰一人、目の前で死なせたりしない。
決意と共に紡ぐのは治癒魔術だ。天使の福音、癒しの術。
零さぬ様に、包む様にアオイは紡ぐ。これより先に不必要な犠牲は出させぬ為にと。
「……『仕方がない』で済ませなければならない事ばっかりで……
自分に出来る事は少ししかなくて……これが、大人の階段を登るってことなのかな……」
同時に蛍もまた治癒術を展開する。それで味方の支援を成すが――しかし。
思うものだ。『どうにか出来ないのか』と。『これ以上』は望めないのかと。
「理不尽すら感じるものですね――しかし、魔種からは須らく感情の強さというものを実感します。世界には織り込まれた……意図的に、不安定になる『何か』があるのかもしれませんね……」
そんな蛍へと、共に行動する珠緒は声を掛けて。
彼女もまた周囲の分析、必要に応じた異常の解除と傷の癒しに専念する。
魔種達が抱く、元の善性。反転してしまった経緯の感情に思考を馳せながら。
「魔種には例外なく死が望まれる……それを決めるのは只管傲慢である私達」
さりとてシエラは思うものだ。理由如何によらず、やむなくとはいえ。
魔種であるのならば殺す――それは傲慢の一端ではないかと。
「……カノンがリュミエと話せる時間は作る」
「――ええ。この戦いがどうなるにしても。討つ事に変わりないとしても――
最期の感情ぐらいは彼女へと伝えたいわね」
ならば己も傲慢であろう。カノンを終わらせる、ただしその幕の前にほんの少しでもと。
共に在るチェルシーの月の魔力の展開の後に、間髪入れずに動く。
二対一刃の牙を構えて。奇襲が如く一撃をカノンへ。
「……成程、数が多いね。でも」
それがどうしたのだとばかりにカノンは魔力を紡ぐ。
砂の流れが変わる。自らの近くにいる者達を範囲諸共巻き込んで。
押し流す。そして流した先で砂が鋭利な刃物の様に変じて、遠方にまで至る巨大な斬撃を形成し。
「私は負けない。私はもう捕まらない。もう私を誰の自由にもさせない」
切り刻む。自らに声を掛けた者、意識した者を特に集中して攻撃を重ねる様に。
近寄らせるものか誰も触れるな触れるな触れないで。
深緑の外には悪意しかなかった。希望などどこにもなかった。信じたのが間違いだった。
だからこそ幻想種は私が救う。私が力を与える。最初から絶望しないように――
「いつまで――永い夢に逃げてるのよ!」
瞬間。魔術で形成された砂の斬撃を強引に掻い潜って、アルテミアが往く。
剣に纏わすは青き炎。直前、より硬い砂の『層』に剣撃が阻まれる――が。
「リュミエ様が来た事は分かっているでしょう! なぜ来たと思うの?
それは……大切だった妹である貴女を心の底から想っているからよ!」
放っておけなかったのだ、なぜそれが分からないのだ。
リュミエはカノンへの悪意でクラウスと接していたとでも思うのか? 貴方は自らの想いを語った事があるか? 気持ちを伝えもせずにただ一人で勘違いして――
「閉じこもっているだけの愚者でしかないわッ! 目を開いて、よく見なさいよ……!」
「――うるさい」
直後。砂の層の奥からカノンの手がアルテミアを掴む。
そこから急速に流される巨大な魔力が彼女の身を文字通り『砂』に変えんとして――
「『うるさい』と切り捨ててはなりません。貴女は知るべき必要性があります……!」
瞬間。阻むべくリースリットがカノンの腕へ月光の如き刃を。
離す腕。交わされる剣撃。それでもリースリットは続けて焔を纏いながら。
「知らないのですか。クラウスが生涯をかけて――貴女を探し続けた事を」
二の撃が砂に止められる。掛けられる圧は尋常ではなく、刃を進ませるに難しい。
それでも声は届くのだから。
どれだけ心を閉ざそうと。
「クラウス・アイン・エッフェンベルグは――『短い永遠』を選択したのでしょうか?」
阻めない。阻ませない。ウィリアムは雷撃を形成、鉄槌が如くの一撃が天よりカノンを襲い。
砂の防壁を薄くする。その防壁、強靭堅牢なれど全方位からの攻撃を完璧に防げよう筈はなく。
「貴女が眠るまで語りましょう。物語の続きを。終わった恋の物語を――聞いて頂きます」
「……意味がない。意味がない、意味がない! 聞きたくない!!」
ウィリアムへ目を細め、鋭い視線を向け。
カノンが手中で収束させた砂の魔力が――破裂する。
それは『砂の都』を砂に沈めた魔道の一端。
天より注ぐ砂の雨が誰しもの身を枯らせ、その身を内を血を肉を砂へとする。
喉奥からせり上がってきた何かを吐けば、それは血ではなく――『砂』
枯れろ枯れろこの国の様に。枯れろ枯れろ身も心も。誰も彼も私もいっそ!
――だが。
「……お花。この綺麗なお花が――私達の力になってくれてるんですね」
プラウラの足元に咲いた花が、活力を齎す。リュミエの術――ホワイト・カーネーションだ。
花言葉は……『無垢で深い愛』
それは一体誰に向けられた言葉か。なぜ術の形がこの花として形成されるのか。
「愛しい愛しいお姉さんを母親代わりに反抗期ですか? そろそろ大人になって下さい!」
シエラに続いてプラウラが作るは魔法剣。遠方にすら届くその一撃でカノンを挑発。
……挑発自体は本意ではない。全てが終われば最後に一言、謝れればと思うのだが。
挑発の行為故かは分からないが、彼女の時が経つ程に魔術は激しさを増していて。
「やれ、リュミエさんもこの砂の都にまで来たのでしたら、どうであれカノンさんに合わないと『御話』に終わりを齎す事が出来ませんね」
ヘイゼルが支援するかのように治癒術を飛ばす。
部外者の戯言と、ヘイゼルは自ら思いはするが。自らに思った正直な意見だ。
「――まぁどういう形であれ『決着』が着くまでは支え切りませんとね」
身体の異常を感じた者がいれば分析し、号令を。
支えようこの戦場を。全ての終わりが――訪れるまで。
そして。彼女の姿を見るシフォリィの胸中に浮かんだ感情は一体何か。
歯車が狂って、そのまま己を失ってしまった人。大事な物を失って、奪われて価値を付けられ……
「……あの人は。きっと、折れてしまった私の姿です」
一歩間違えれば己もああだったのではないか。
蘇る記憶。しかし頭を振り『もしも』の仮定を打ち払って。
「罪は消えず、もう何もかも取り戻せないとしても――
このまま伝えたい事を伝えられず消えてしまうのはあまりにも悲しすぎます……!」
迷わない。己と重なる所があったとしても、揺らぎはしない。
『そう』はならなかったのがシフォリィなのだから。
太刀筋をまっすぐに。重ねる斬撃が、瞼の裏に見えた過去の『もしも』を斬り捨てて。
「とても深い憎悪の旋律……あぁ、理解したわ。あれがあたしが気に入ってた詩、熱砂の恋心」
それは、あの人と。あの人の愛した人の物語だったのだろうかと、リアは。
届かなかった恋心。それに想う所はあれど……しかし今は。
「……えぇ、魔種は救えない。同情もいらない。だから倒す」
嫉妬の魔種カノン・フル・フォーレ――貴女に贈る終詩を奏でましょう。
光の翼が展開される。光の刃が射出され、味方は癒し砂の壁は突き破って。
「結末までバッドエンドなんて御免だよね。オレ達はそれ以外の終わりを作る為に戦いに来たんだ!」
続くイグナートの右拳。砂を打ち破り、カノンへとその衝撃を届かせる。
襲い来る砂の波。飛び跳ね躱し、それでも来るが。
「コンジョウ見せていくよ……! 大一番だからね!」
「ああ――全く。ディルクとクラウスを見間違える程に冷静でないようだからな」
そしてイグナートに続いてレオンハルトが。己が斬首剣を携え、砂を打ち払い。
「反転者の処遇は変わらん。今も、昔も変わるまいよ。だが……」
飛ぶ斬撃を幾度と。届くまで、その身を崩せるまで彼は、言葉と共に続けて。
「クラウスはもしかすれば魔種となったのを知っていたのではないか?
そして姉妹の殺し合いを防ぐ為に――対処できる組織を作った。推察に過ぎんが、な」
共に見た、他種族が平和に暮らす事の出来る世界を作る為。
カノンは見捨てられてなどいないのだと。
「クラウス……ああ、そうクラウス! クラウスッ! あの人、あの人が――」
瞬間。その名を再度耳に捉えたカノンの感情が高ぶる。
深緑に迷い込んできた人。馴れ馴れしい、軽薄そうな人。私が本を読むのを邪魔する人。
「私は」
頭を撫でてくれた人。
私の――名前を――呼んでくれた人――クラウス――
私は、貴方が。
「私はあの人が、憎かったッ!!」
生涯忘れない光景が脳裏に。あの日、あの日。姉さんを、姉さんを、姉さんを姉さんを選――
あああああああああああああああああああああッ!!
狂気の深度が急速に。目を焦がす。脳髄を焼く。喉の奥が燃え上がる。視界が明滅する。
耳に入るものか、目に入るものか。全部消えろ砂となれ。こんな思い出なんて要らない!
「すれ違うな!!」
瞬間。最大規模に練り上げられた魔力の渦の中に飛び込んだのはクロバだ。
退かない。仰け反らない。豪風により身が傷ついても頓着するものかどうでもいい!
突撃し、白銀の剣を振るって渦中へと!
「巫女の代わりなどと……そうだとしても!
リュミエ様にとっての妹は君だけだ! 代わりなんていない! スペアなんて存在じゃない!」
聞け。リュミエの想いを、気持ちを。別たれてから何があったか。
――話をしろ。
身内を失った自らとは違う。二人はまだ……生きているのだから。
「妹を想う姉の気持ち、受け取れ――この分からず屋ぁぁッ!」
「――ッ!」
振るう剣閃。切り裂く邪魔をせし砂の層。
届く。
全てを拒絶し、己を取り巻く何もかもに嫉妬してしまった彼女へと。
「――夢は。夢からはいつかは覚めねばならぬもの。
酔いしれてはいけないのです。醒めるものではないのです。
でなければ――置き去りになるのも必定というもの」
乱れた集中。そこへコーデリアの一撃が繰り出される。
銃と格闘術を組み合わせた連撃。防御を間に合わせるものか、その身にしかと撃ち込んで。
惜しまない。反撃の魔術が繰り出されようと、攻め時は此処だと。惜しめば敵の命が遠ざかると。
「……ここで終わらせましょうか」
短く呟き、更に踏み込む。それが勝利につながると信じて。
そしてそれが他の――操っている幻想種の操作にも影響したか、彼女らの動きが鈍って。
「ぺっぺっ! なんて砂なの……でももう一歩って感じだね!!」
それを感じたのは幻想種の保護に当たっていたソアだ。
口の中に入る砂を軽く唾と共に吐き出しながら、倒しやすくなったと察知して。
放つ雷光。不殺の意思を携えたその一撃で打ち倒し、その身を掴んで飛行する。
「なんとか安全な場所まで……建物の中にでも! 今がチャンスだよ!」
「今助けてあげる! だからもう少しだけ頑張って! 気を強くもって!!」
同時。ソアに続いてセララもまた、幻想種達自身に呼びかけながら気絶させんと。
「日常への道は――キミ自身がその手で掴むんだ! 深緑へ帰るんだよ!!」
思い浮かべるんだ。大切な日々を、故郷を。戻りたいと、強く願って!
魔力で構築した光刃を彼女らの腹部へ。不殺と共にその身を確保する。
「熱砂の恋心が終わろうとしている……ザントマンは許せないし、被害に遭った幻想種の人たちの悲しみは……僕の心に刺さり続けている」
それでもと、前に出たのはマルクだ。この機を逃さず救助者を一気に助ける為。
「僕は、命を諦めない。死を遠ざけ、手を伸ばし、助けられる人全てを助けたい!」
輝かしき光を放つのだ。激しく瞬く神聖の光が、弱った幻想種達の動きを縛って。
救う。前に出た事により攻撃が集中しても、構わない。一つの命も諦めるものか!
「なぜ。どうして、なんで――なんで――」
奪われていく。自らが『救った』者達が。
幻想種は彼らの手に落ち、自身が創り出した大地の癌は押され、私の手には何も残らず。
「あああ、ああ!」
「――カノン様は悲しい恋をされたのですね」
ともすれば気持ちは分かると、幻は紡ぐ。
自身ももし――隣にいるジェイクが他の誰かに恋をしたならば。
「僕も嫉妬に狂ったかもしれません」
だけれども、彼女らの恋は愛へと至り紡がれた。
だからこそお魅せしましょう――貴女の苦しみの連鎖を断ち切って差し上げます。
「この悲しい物語は、もういいだろう。終わらせるべきだ」
往く。ジェイクは呟きながら幻と共に。白梟の誇りを胸に抱いて。
「――カノンを苦しみから開放してやろう」
連鎖的に攻撃を重ねていく。ジェイクの先制攻撃、転じて銃弾の雨あられを降らせ。
幻の奇術が繋がれる。間髪入れず、ここで終わらせるとばかりに追撃し。
さればカノンの胸中に浮かぶは――憎悪。
誰もが持っている。私が持てなかったモノを。
誰もが奪っていく。私が欲しかったモノを。
嫉妬の狂気に世界が歪む。誰も彼もが憎い憎い憎い!
私を置いて幸せになっているモノが。
姉さんが、クラウスが笑っている。あの背が。あの日が。あの記憶が!
「ッ!! 私は、私は!!」
擦り切れて、何もかも思い出せなくなるまで。
あの人の声色も忘れる程に。
あの日々が消えてしまえばよかったのに――
巫女の妹の魔道が吹き荒れる。魔種となり、その魔道の質は歪んで。
他者を害する能しか含まぬ。
それは全て。憎しみの根源となった、姉に対する……
「ふざけんなよ!」
されど。
「リュミエさんはアンタを置いて幸せになんてなれなかったんだ!」
白き花が咲く。詰み、それを手に取り。
「最後まで! 今まで! ずっとアンタを探してたんだ!」
ルカ・ガンビーノは往く。
手の内で消えゆくホワイト・カーネーションの残滓を、カノンに伝えながら。
砂の奔流に身を削られようと!
「会えよ家族にッ!! 話もせずに、何を分かったつもりになってんだ――ッ!」
指先に掛けたカノンの服。分からず屋に思い知らせる為に――指先から手中へ、掴む。
揺らがせたその体勢。見逃さない、一瞬の中でカノンの迎撃が間に合う前に。
砂の地へと――背より叩き落とす。
「ぁ、ぐッ――!?」
凄まじい衝撃が背中から全身へ。肋骨が折れたか胸に圧迫が。肺が傷つき呼吸が乱れ。
それに伴い意識が、ほんの瞬時だが途絶え――常に操作していた術式が停止する。
つまり。
「ぁ――」
戦場全域を覆っていた砂嵐が止む。
夜空が見える。雲一つなき空に――星々が。
「ぁ、ああ……!」
このような日だった。私があの日、捕まったのは。
深緑から逃げ出し砂漠を走り。
幻想種を売り人を売る。人の皮を被った怪物に――首輪を掛けられて――
「ぁあ、あああぐッ、あああああ――ッ!!」
恐怖が過り。喉奥をせり上がってきた血反吐に呼吸が出来ず。
脳髄が混乱を来たし、半ば錯乱に陥る。
同時。トドメを――と近付いてきた剣閃が視界に収まれば。
再度発動させる砂嵐。しかし傷付ける目的ではなく、それは全員の視界を奪うのが目的で。
「――ッ!? 逃げるつもりか!? そんな傷で……!!」
気付いたはレオンハルト。総員による攻撃で、カノンの身はもはや致命傷に近い筈だ。
今更逃げの一手を打ったとて魔力が続くまい。おろか生命さえ。
それでも足掻いたのは……
「まさか」
「ええ。そのまさか――みたいね」
リースリットが気付き、チェルシーがカノンへと用いたリーディング確信となる。
カノンは、逃げたのではない。
混乱の極致にありながらも……いや余計な事を考えられない『だからこそ』か。
彼女は己が唯一無二の元へ向かったのだろう。
熱砂の恋心の詩は。
数百年に及ぶ恋物語の結末は――
すぐ、そこに。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
茶零四です。
幻想種の誘拐から始まった一連のザントマン事件はついに幕を迎えます。
カノンの撃破は成功です。彼女が生き延びる事は、ないでしょう。
永き時を経た熱砂の恋心。その最終章はすぐに皆様の目に映ります。
シナリオお疲れさまでした――
GMコメント
■勝利条件
・『カノン・フル・フォーレ』の撃破
・操作されている幻想種の『可能な限り』の保護
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●情報精度C- → A(2019/10/18追記)
このオープニングの情報は期間内変更される場合があります。
現時点で提示されている情報が『全て』ではありません。
→2019/10/18に内容が変更されました! これ以上の変更は発生しません!
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
==例==
【突入部】
ディルク(p3n000071) or 【赤犬】
さて、行くかね。
======
■戦場
戦場は『砂の都』という砂に沈んだ古代都市です。
突入部からは廃墟などの障害物が存在しています。
【撃破部】:カノンとの直接決戦です。
【突入部】:撃破部への道筋を切り開きます。
【外周部】:オラクルの横やりや、撃破・突入の舞台への増援を防ぎます。
■【撃破部】
カノンとの戦場。
狂気に呑まれつつある幻想種一部と、魔物によって防衛されている。
この戦場は凄まじい砂嵐が吹き荒れておりカノン以外は常に少量のHPが低下し続ける。
・『アネクネーメ・クリエイト』カノン・フル・フォーレ
嫉妬の魔種。深緑の指導者、リュミエ・フル・フォーレの実の妹。
『姉譲り』と称された――魔道の才を有しており、基本的には遠距離型。
しかし至近戦闘において凄まじい威力を誇る単体攻撃技能を有している模様。
魔種としての実力はオラクルを凌駕しており歯牙にもかけない。
『呼び声』の強さも群を抜いており、周囲の幻想種の狂気の深度を深めていく。
・グリムルートを装備した幻想種×?
グリムルートを経由してカノンに支配されている幻想種。
カノンの狂気に犯されており、戦闘能力が向上している。
時間が経つ程に狂気の深度は深くなり続け、場合によっては魔種化も想定される。
数はそこまで多くないと思われるが、具体的な数は不明。確認するしかない。
・ガイアキャンサー×1
土を蝕むモノ。自然を食い散らかすモノ。
深緑に伝わっていた伝承上の魔物……をカノンが模した魔物である。
不定形生物で一見すると巨大なスライムに見える。莫大なHPが特徴。
多くのBSを所持し特殊なBS【癌】も有する。このBSは付与されると「付与された次のターン」からEXF判定が必ず失敗し「自然消滅」時に対象を必ず戦闘不能状態にする。また戦闘不能状態になった時、ガイアキャンサーが戦場に一体増える。
範囲攻撃も有するがカノン支配下の幻想種を巻き込むことは絶対にない。
■【突入部】
カノンまでの道を切り開く戦場。
カノンが創り出したゴーレムを中心に防備が固められている。
この戦場は砂嵐が吹き荒れており、魔物以外は常に少量のHPが低下し続ける。
・サンドゴーレム×多数
砂、もしくは砂が固められ岩の様になっている身体を持つゴーレム。
非常に高い耐久と攻撃力を持ち、一定ターン事に戦場に増加出没する。
反面動きは鈍い。カノン支配下以外の全ての存在に対して攻撃を行う。
・アブソリュート=サンドドラゴン
竜種……の姿を模した砂の魔物。似ているだけで竜種ではなく只の魔物。
突入部における最も強い存在。飛行可能、広範囲攻撃を持ち、全体的に能力が高い。
ただし『二体』しか存在せず追加も無い。無差別攻撃の傾向がある。
・『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグ
歴戦の傭兵として尋常ではない実力を有するラサの指導者。
自身の傭兵団『赤犬の群れ』と共に進みますが『必ず』彼はここで足止めされます。
カノン支配下の魔物の攻撃優先度が高いようです。
■【外周部】
オラクルの横やり、或いはカノンが幅広く展開している魔物の撃破戦場。
ここが抑えられない場合他の戦場への影響が考えられる。
他の戦場と異なりここだけは砂嵐の影響がない。
・『ザントマン』オラクル・ベルベーグルス
怠惰の魔種。ラサ古参の商人にしてザントマン事件の首魁。
カノンの手によって右腕が消滅しており、深い負傷をしている。
それでも魔種としての力は健在。商品を奪われた事も加えてカノンに非常に激怒しており、残存勢力を率いて戦場に介入する。相手の睡魔を強引に引き出し、能力を下げる砂の術を有している模様。
・オラクル配下の傭兵×多数
オラクル派、もしくはオラクルの狂気に当てられた傭兵達。
傭兵としてそれなりの実力の保持者達で、攻防にバランスが良い。
オラクルを支援・防御するように布陣している。
・サンドウォーム×莫大に無数
カノンの創り出した魔物の一種。地中を這い、物量戦を仕掛けてくる。
能力自体はあまり高くないが先述したように数が多い上に『毒・出血・窒息・足止・怒り』いずれかのBSをランダムに一つだけ必ず所持している。戦場内におけるカノン支配下以外の全ての存在に対して攻撃をしてくる模様。
・『赤犬の群れ』×10
ディルクの傭兵団。攻防・回復全てにおいてバランスが取れているメンバー。
ここの戦場のメンバーは全部で10名。
イレギュラーズと共に連携して戦う模様。
・『ファルカウの巫女』リュミエ・フル・フォーレ(2019/10/18追記)
深緑の指導者。カノンの姉。
地脈を利用してこの戦場全域に対する特殊な術を紡ぎ上げた。
全ての戦場のイレギュラーズに対し毎ターン50%の確率でHPとAPを少量回復する。
術が発動した時は、貴方の足元にホワイト・カーネーションが現れる。
術の継続を最優先事項としている為、他の行動を行う事はまずない。
・迷宮森林レンジャー隊員×10(2019/10/18追記)
全員が弓を装備し、基本的に遠距離型。万一の時は接近戦も可能な幻想種達。
赤犬の群れ同様にイレギュラーズと共に連携して戦う模様。
Tweet