シナリオ詳細
<フィクトゥスの聖餐>ファルマコン
オープニング
●
わたしが、命を喰らうとき。それは肉なるあらたな生き物として息をすることだろう。
わたしが、命を作るとき。地のすべての獣、空のすべての鳥、地に這うすべてのもの、海のすべての魚はわたしのものとなる。
地を滅ぼす濁流は、わたしが零した血潮の一筋よりつくられる。
しかして、わたしを愛する者は救われるであろう。
わたしはわたしを愛する者にわたしの血肉を分け与え、導くことが赦された。
それこそが、終焉へと向かう方舟の主であるわたしのすべてだ。
わたしは形作られたその時から宿命付けられた。
わたしは終焉の獣である。即ち、この世界を破滅に誘う定めであった。
わたしは終焉より生み出され、終焉と共に在るべく破滅を塗り固めた紛い物である。
尊き全てよ。
わたしは全にあらず、神にあらず。
だが、破滅はこの世界に満ちている。
破滅と言う『確定未来』の為にわたしたちは生きて、そうして最後は朽ちてゆく。
尊き子らよ。
わたしは全にあらず、神にあらず。
だが、生れ落ちたからには為さねばならぬ。
破滅と言う『確定未来』に必要の無い命を間引き、方舟を動かすのだ。
破滅と言う『確定未来』の為に。
破滅と言う『確定未来』の為に。
破滅と言う避けることの出来ぬ唯一無二の為に。
破滅と言うわたしという存在が顕す啓示の為に。
方舟は進め。
方舟は進む。
方舟は澱み。
方舟は沈む。
この世界に残るのは何もない――
渓底より声がした。底に住まうのは真白き異形。吹き荒ぶ雪の中にそれは存在した。
それは人を喰らうためだけにその場所に存在した。
鐘の音と共に子どもらが住まう楽園、ヘブンズホールより毀れ堕ちた悪しき魂。
破滅の方舟にさえ耐えられぬ命は淘汰され、新たな命を生み出す糧となる。
だからこそ、それはそこにいた。
「わたしたちは、破滅と共にある」
美しい女の声音だ。何重にも重なった、それは一人の声音ではない。
「わたしたちは、破滅より産み出された」
麗しき男の声音だ。それは積み重なって、徐々に潰れていく。
「わたしたちは、終焉獣(ラグナヴァイス)だ」
そして、その声音は叫声となりフローズヴィトニルの吹雪の中に消え失せた。
●
独立都市アドラステイアに降る雪は美しく、白い。
潮風に混ざり合った冬の気配が野を揺らす。鉄帝国から流れ込んだ猛寒波は御伽噺の獣の咆哮を運んだ。
唸り声と共に周囲を蹂躙する。悪しき狼の気配を肌で感じながらティーチャー・カンパニュラは祈った。
「ファルマコン」
指を組み合わせ膝を突く。
「我らが神よ」
唇を震わせれば、その端からだらりと赤が垂れた。
「わわわわわわわれれれわれれれれらのか、かか、かみ、神」
何重にも人々の声が重なり、飽和した。聞こえた気がした、聞こえていたと思ったのに、何も居ない。
頭がおかしくなりそうな程に、この空間には何もなかった。無。全くの、破滅の跡に残された暗黒のような。
「カンパニュラ」
だが、その声がカンパニュラの頭をクリアにした。その声が聞こえただけで幸せな心地になれたのだ。
唇が動く「ファルマコン」と。ざらりと空気を撫でた言葉の端に笑みが毀れる。
何重にも重なっていたかと思ったのは声ではなく、人々の躯であった。
其れを鱈腹胎へと詰め込んでからファルマコンはおっとりと笑うのだ。
「おまえの腕も、おまえの血も、美味しかった。
だから、わたしはおまえに血を与えたけれど、わたしの血はおまえに苦しみを与えたかい?」
「いいえ、あなたに与えられる苦しみならば、わたくしは幸せですもの。
この身体が朽ちてしまうまで、わたくしはあなたと共にあれるのでしょう? 愛しきファルマコン。
この世界など壊れてしまえば良いのに。この世界など存在しなければ良いのに。
わたくしのくるしみも、わたくしのかなしみも、わたくしのすべてが、あなたという破滅に寄り添いましょう」
アドラステイアの神と呼ばれたファルマコンは終焉獣(ラグナヴァイス)という。
滅びのアークにより生み出され、終焉(ラスト・ラスト)から送り出された破滅の使途。
ファルマコンは存在するだけで世界を破滅に追い込むのだ。
ファルマコンは存在そのものが世界を破滅に向かわせるべきだと魂から叫んでいた。
その叫びが一筋の血潮となった。
人の身体を作り変え聖獣へと変化させるのだ。それを神による御業だと叫ぶものも居た。
何かに縋らなくては生きていけなかったもの全てがそうして救われたのだ。
――救われた、鐘の娘(カンパニュラ)。
カンパニュラ・ルードベキアは天義の寒村に生まれた少女だった。寒々しい地方の土地、枯れた土地を潤すために人柱を立て贄として捧げる凄惨な光景。
その人柱として育てられた選別された娘は、首を刎ねられる刹那に『ファルマコンの声を聞いた』という。
それは美しい鐘の音色であった。
それが救いであったのに。
何食わぬ顔をして生きていた只人が正義などといって『ファルマコン』の首を刎ねようとする。
嗚呼、なんて、気に入らない。
カンパニュラ・ルードベキアは男の腸を握り締めた。イレギュラーズなんて脆い入れ物、さっさと壊せばよかったのに。
また、性懲りも無く奴らはやってくるのだろう。
「わたくしたちが、あなたのために、殺しましょう。
わたくしたちは、あなたのためにある。
わたくしたちが、あなたをまもるためにある。そうでしょう? ステラ」
「はい。ロサ・ステラータは、あなたさまのために咲き綻んだ。我らがファルマコンよ。我らを救い給え――」
救われたい。生きていたい。
人間の当たり前を歪めたのは鐘の音だった。
生きていたいと願ったその人に破滅を教えたのは紛れも無くファルマコンだった。
いずれ、滅びてしまうそのときまでに。
只、その時まで滅びに寄り添えば誰よりも幸せであると、信じ込まされてしまったから。
●
「アドラステイアに関しての調査は終わった。
此れより、アドラステイア討伐作戦を敢行する。目的はファルマコンの撃破である」
天義聖騎士団、団長レオパルは堂々と叫んだ。背筋を伸ばした騎士達は皆が『純粋なる黒』を身に纏う。
真に信じる神が為、彼らは歩みを止めることは無い。
「渓底には魔女喰いが、そしてカンパーニレにはファルマコンが存在している。
それらを打倒し、アスピーダ・タラサを解放するのだ。第一分隊は下層から攻略を、第二分隊は……」
指示を行う声が朗朗と響く。未だ、寒波は緩まないがこのまま手を拱いていてはアドラステイアは更に守備を固めるだろう。
僅かにでも吹雪が収まったこの日に強行作戦を取るしかあるまい。
アドラステイアは残るはカンパーニレのファルマコンを打倒する事だ。そこまで追い詰めたんだ。喉元にまで掛かったナイフを突き刺せず留まり続けるだけでは変化は訪れない。
――その地では死を喰らう。
死ぬなと指示が出た。天義騎士団は死を恐れることは無い。信じる唯一の神に『己の命をささげる事を厭わない』からだ。
だが、アドラステイアで死ぬ事は偽りの神にその命を食らわせると同義である。
死ぬ事は許さず。
進め、偽りの神を殺すが為。
幼き命を愚弄し、無用に命を喰らうおぞましき魂を誰が赦そうものか。
アドラステイアに雪が降る。
真白き恐怖。吹雪く獣の唸り声。
冬の港も凍りつく。アスピーダ・タラサから逃げ出す場所は何処にも無い。
――此処で、全てを終わらすのだ。
- <フィクトゥスの聖餐>ファルマコンLv:20以上完了
- GM名夏あかね
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年01月21日 22時21分
- 参加人数126/126人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 126 人
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参加者一覧(126人)
リプレイ
●『確定未来』
――ツロの書曰く、
世界は滅びに向かうであろう。
災厄の獣は唯一無二なる確定終局を齎し、世界を破滅へと導くだろう。それは遁れ得ぬものである――
「そうして産み出された方舟<ファルマコン>がこれじゃあねえ……」
少女は詰まらなさそうに唇を尖らせた。美しい白磁の肌を包み込むのは真白き聖衣である。
彼女の傍に青年が一人立っていた。背筋をピンと伸ばした穏やかそうな男だ。
「方舟<ファルマコン>は失敗作だったかな」
少女と同じ聖衣に身を包んでいた少年はチェスの駒を手持ち無沙汰に遊んでいる。
「かもね」
少女はだらしもなくソファーに寝そべった。はしたないと叱る者は今は居ない。
「破滅と言う『確定未来』の為に――破滅と言う避けることの出来ぬ唯一無二の為に。
おまえが、もうすこし役に立ってくれることを願っているわ。方舟<ファルマコン>」
聖女と呼ばれた女は唇を吊り上げて笑った。
神託よ、我らが神よ。
その確定未来を教え給え――
●疑雲の渓I
降る雪が渓底へと吸い込まれていく。暗澹たる闇に染まった底に手を伸ばせども届くわけがない。
疑雲の渓、その場所は魔女に幾人もの『魔女』が身を擲った。一説によれば魔女は空を飛ぶ。昇ってくることがなければその疑いは晴らされるのだ。
魔女裁判の結果は目に見えている。死しか存在していない。
燃やせば灰になるとされたならば生きながらにして火に焼べるだろう。
水に沈めて生きているとされたならば生きながらにして湖に沈めるだろう。
命を蔑ろにしているわけではない。ただ、魔女でないというならばその証明を行なうべきなのだ。
幼い子供達は誰もがそう認識し、当たり前のように隣人の命を奪った。生き残る為には必要であったから。
「うーん忌まわしい死の香りに満ちた場所だ。こんなとこ呪われるに決まってるだろ。
ようし行くぞ、僕は天義騎士団の祝福を信じてるから、キミたちも僕を信じてくれよな」
ヨハンはくるりと振り返る。天義騎士団が揃って立っている。誰もが緊張した面差しだ。
「自分で準備も考えたがこの手のモノはスペシャリストに任せるよ。ほら、早く空飛ぶまじないでも何でもしてくれ」
堂々と告げた彼は翼の支援を受けて渓底へと降りて行く。深く、暗く、暗澹たる場所。狙う如く聖獣の集中砲火が注ぐ。
其れ等全てを否定し、そして駆けるように。ヨハンは何な口へと足を着けた。支えるべく『護国卿』はこの地にまでやって来た。
「――観音打至東、先駆け仕ります!」
この戦いには武勇伝として一切語る動機が至東にはなかった。聞いて喜ぶ彼ではないのだから、自分を誇れる女として彼の元に返るために。
至東は『ビームムラマサ』を手に走る。叩きつけるは 蹈落紅。口伝為された識術を持って放たれた花の儚さが如き一撃。
「聖獣――人々の魂を縛る闇の楔はここで断ち切ります!」
ぎろりと睨め付けるトールは守護魔法を展開した。強敵を前にして蓄積されたオーロラエネルギーが白き剣となる。
騎士服を身に着けたトールの眼前に立っていたのは 妙見子。
「トール様! そちらは大丈夫そうですか? 適宜リリーベル様に回復して頂いてくださいね!」
鉄扇はバサリと音を立てる。その背に蠢く無数の尾が揺らぎ、異形の如く北極星の雫の眸を輝かす。
「人の子を糧にして信仰を得る……なんと醜いことか…せめて戻らない子らは我々の手で葬らねば。
私達は聖獣の対処に! リリーベル様とルエル様、慣れないとは思いますが精一杯働いて頂きますよ!」
絶対的に華麗に、前へ、前へと進む妙見子と共に聖獣達を引き寄せるトールの表情が歪む。
「弄ばれ歪に歪んでしまった魂に、せめてもの救済を……どうか迷わぬよう、苦しまぬよう、導いてあげられますように」
淡く唇に乗られた柔らかな光。リリーベルは毒ある笑みを浮かべてから唇をちろりと舐めた。
嗚呼、この鼓舞の声が、救済の響きが聞こえぬならば――メガホンを手に声を響かせる。
「みんなの力で乗り越えましょう!」
天使の如き翼。見目麗しきかな、その獣。ああ、けれど。
「いくら見目を繕った所で、獣は獣ですもの。そこに良きも悪きもありませんわ。私ちゃんに不利益だから、終わりを贈ってさしあげます」
ルエルはくすりと笑った。翼は騎士団の支援で貰った。それを失わぬよう、渓底に足を着け、 妙見子の後ろから妖刀の焔を漂わせる。
乱撃はヒーラーであるリリーベルをも護る為に使われた。カッコイイルエルであるために――此処で挫けるわけにはいかない。
「繁栄するでもなく、ただベアトリーチェの乱の被害を長引かせてきたアドラステイア……!
その中心部に肉腫が、終焉獣がいたなんて……! ここで、ここで終わりにする! してみせる……!」
掲げたのは封魔剣。物理的には斬れずとも、リエルの有する得意な紅剣は魔封じの力を有する。
「アドラステイアもこれまでよ! 我らは今日こそ、この地の悲劇を終わりにする!
漆黒を纏うものよ! 私と同じ、白き信仰を胸に宿す騎士たちよ! 臆せず戦い、今度こそ救うのだ!」
堂々と、鼓舞する声音が響き渡った。聖獣の白き牙の背後から、襤褸を纏った子供が飛び出した。雲脂塗れの髪に碌に風呂にも入ることの出来ない垢だらけの身体。それがアドラステイアの下層なのだ。
(酷いものだ――)
眩き光は神聖に。広がるその光が子供を無力化すれば鋭い勢いでウルリカが飛び込んだ。
急加速、そして衝撃波は遠距離にも届く。聖獣を、そしてその背後に存在する『滅びのアーク』そのものたる『魔女喰い』を
「滅びのアークは……我々では観測できないものだと思っていましたが。
致命者を見るに確かに状況が変わっているようですね? では我らパンドラを有する者と力比べをしましょうか」
――オオオオオオ――――――
響くその越えに。異形なる魔女喰いは滅びを産み出し人の形を整えるかの如く。
「アークの塊が人型とは、縁起でもないですね。果たしてどのような意志が、その体を突き動かすのでしょう?
ただの『容れ物』だというなら……どうして人を作るのです?」
魔女喰いは答えることはない。どうしようもなく一行の前を防がんと聖獣と子供達が立ちはだかった。
「聖獣も元は人間……だけどもう人の言葉も解さない獣か。
なら最早今生に救いはないわ。その命を世界に返しなさい。私がそのお手伝いをしてあげる。……殺すわ、あなたを」
静かに告げたノアの『禁断ノ奇跡』が雷撃を放つ。一つ命を奪えば魔女喰いがぺろりと舌を見せた。
聖獣であろうとも、それは等しく命だとまざまざと見せ付けるかの如き暴虐。悍ましい程の『終焉』の形。
天より飛来する。まるで海を『歩く』ように島風は武装を展開した。
零式五連装魚雷発射管混沌改三連――制圧攻勢が不可避なほどに降り注ぐ。
「当方 此処で負ける 事はない」
淡々と告げる。疾風の如く、駆ければ良い。なびく髪はふわりと揺らぎ足元から牙を剥き出す聖獣の追撃から逃れるように飛来した。
「俺はドン底から這い上がって来た。最初の足掛かりはローレットが保証した身分と衣食住。それだけだがそれで充分だった。
アドラステイアが何を保証した? 保証ってのは都合よく引っ込めたりチラつかせたりするモンじゃねェぞ……!」
キドーは叫ぶ。魔女喰いまでの路を開かねば『ガキ』の身分も衣食住も保証は出来まい。
キドーをバイクの後ろに乗せてから千尋は手を振った。
「騎士の皆さんあざーっす!
いよぉーっしキドーシャッチョサン! 躾のなってないガキ達の教育と勧誘に勤しむとしようじゃないの」
千尋が子供達を『ビンタ』しながら、『社長』たるキドーを送り届ける為に進む。
「悠久とルンペルシュティルツの共同戦線だ!
バケモン共を倒して、ついでにガキ共……つまり、未来のチームメンバーとスタッフの命を掬っちまおうってスンポーだよなァ!? 千尋くん!」
「おうおう! 君、いい身体してるね。『悠久ーUQー』に入らないかい?
手に職を付けたければ『派遣会社ルンペルシュティルツ』もオススメだぞ。
着るものと、住む場所と、食いものにはとりあえず困らないぜ。そうだ、カップラーメン、食ったことないだろ? これやるよ」
お湯と呟いたキドーに千尋は「マジうめぇ食い方教えてやるから、名前は? ヨースケな。待ってろ、ヨースケ、直ぐ倒してきてやるよ!」と手を振った。
「えっひっひ。キドーさんに誘われてゲスト参加です。
この街には何度かかかわったことがありますが、ようやくつぶせそうですねぇ。なにせ胸糞悪い事件しかなかったもので」
こてりと首を傾げたエマは「狙いはあれですねぇ?」と最奥に座す魔女喰いを睨め付けた。滅びの気配を、そして巨大な腕が伸ばされる。
腕をはたき落とすようにエマは風切る勢いで蹴撃を叩き込む。それだけでは未だ――未だ、駄目か。
地底へ向けて自前の翼でやってくるヴィルメイズは騎士達のサポートを担っていた。
「……えっ墜落すると即死!? おお怖い怖い……
皆さんを手伝います。あくまでお手伝いであって決して弾除けにしているわけではありませんよ、本当ですよ?」
「……」
ヴァルメイズを真っ直ぐに見詰める亮は「此処で月原亮死すってなったらヴァルメイズさんの責任にする」となすりつける。
「ええ……いやいや、そんなこと言ってる場合でもないですね!?
着ました。躊躇は自分の身を危険に晒すだけですので〜……一秒でも早く楽にしてあげましょう」
殺せば『魔女喰い』はそれを頬張る。糧ともなれば致命者が産み出されるのだろう。ヴァルメイズは黒き気配で子供達を包み込む。
「あらあら、落ちるなんて恐ろしいのだわ!」
ガイアドニスは包み込む愛を持って眩く光を放ちながらあらゆる全ての災いを一身に引き受けようと考えた。
『小さなニンゲンさん』を生かし、護る為に必要な事が何であるかを彼女はよく知っているのだ。
「新年おめでとう少年少女! サンタさんが来たぞ!
遅くてごめん。でもようやく君達を迎えにこれた……信じなくてもいい、生きる為に俺を利用していい。
だからこの声が心に届いたなら、魔女喰いやティーチャーから離れて、欲しいプレゼントは何かを考えといてくれ!」
咆哮を響かせるウェール。その背に乗りながらリックは降る。天義騎士団から貰った翼は、いざという時に使うものだ。
白い布にくるまっているリックはウェールの声が届くように、と、ただそれだけを意識した。
(子供達が沢山居るな……)
彼等は、アドラステイアが崩壊した後に、どうなるのだろうか。その様な事ばかりが頭に過っては仕方がない。
苦し紛れのようにナイフを握った子供達。人の命を奪う事を悍ましきことであるなどと教えられることのない歪んだ倫理観。
「子供達を救うぞ!」
「ああ!」
誰かの命を奪わせるわけにはいかないと二人は声を拒絶するように耳を塞ぎ、ナイフを持った子供達を巻込み、その意識を奪い取って行く。
「子ども達は誰ひとり死なせない。だってわたしは、先生なんだから」
保健室で、沢山の子供達と出会ってきた。下層の子供達は、学園の子供より見窄らしくて、寂しげで、どこか、絶望した眸をしている。
(――イコルの中毒、治してあげるからねぇ。大丈夫だよ、出来るだけの治療をしてあげるから)
その眸が宿した恐怖だって拭い去れるはず。そう知っているからこそ、シルキィはその命を救うべく子供達に手を伸ばし続けた。
●疑雲の渓II
「救いって何でしょう。……全員が救われる世界があったらいいのに。全員が救われる数だけ世界があったらいいのに。
それなら滅びたい人たちだけでそういう世界で滅べるのに、どうして現実はそうじゃないんでしょう」
ユーフォニーは唇を噛んだ。苦しい、苦しくて胸がぎゅっと締め付けられる。今井さんが傍に居たって、どうしようもなく心が痛む。
「聖獣さんはきっと本当なら殺める必要のなかった命。でもこの状況……ッ」
それは変異してしまった子供達なのだろう。ユーフォニーの世界では、許されざる命の冒涜。
今井さんの書類が鋭くも聖獣達の動きを阻害する。係長たる彼の攻撃が、自分を支えてくれている事にふと、気付いた。
子供達は皆、泣きながらも、呻きながらも、怯えながらも、戦っているのだろう。
「亮さん、今回リリファさんが一緒じゃないからってあまり無茶しないでくださいね。
リリファさんや雪風さんの友人として私も亮さんの事心配してますからね!」
「あいつらも、頑張ってるって分かってるよ」
笑った亮に頷いてからリディアは騎士を鼓舞し続ける。「ここで命を落とせば魔女喰いに肉体も魂も喰われて糧とされてしまいます。必ず生きて帰りましょう!」と告げる声音には強い信念が宿されていた。
味方達を支え、そうして襲い来る聖獣を払除ける。慌てた様に魔女の箒を振りかざしたのは奈々美。
「ひわわ……魔女を蹴り落とすための渓なのね……あ、あたし蹴り落とされる側じゃないのコレ……!?
いやぁ……ライオンじゃないからおっこちたら二度と戻ってこれないし……それに高所恐怖症だし……。
なんか怖い敵もいっぱいいるし……今度こそ死んじゃうかも……うぅ……でもみんなもいるから…だ、大丈夫よね……?」
慌てながらも聖獣を『ぶっとばす』。不安げでありながらも奈々美は強力な攻撃を放つことは忘れない。
(……この、何もかも偽りの王国にしか寄る辺のなかった子供たち。
時間と場所が違えば、ここに居たのはボク自身かもしれません。彼らを見ているとどうしてもそう考えてしまうんです)
幼い頃の自分に似ているとチェレンチィは唇を引き結んだ。死ではなく生を選んだ少女は『少年』のように振る舞った。
一人一人の命を、奪う事なく対処する。それはチェレンチィの手が届く範囲を求めるように。
監獄で容易く奪われた命にだって何か意味があったと信じていたいように――ナイフは慈悲の色を帯びて行く。
「子供を使い捨てるのは少々、組織運営に粗があるのでは?」
もしくは子供達が役に立つ未来などが存在していないとでも言いたいのかと黒子は戦略眼を活かし、騎士達の支援に回る。
騎士団と、イレギュラーズ。その何方もを調整し支えて行くのが黒子の仕事だ。戦況を見極め、騎士団には出来うる限りの子供達の回収を願った。
「一体どうするつもりだ?」
「子供達を置いておくことで養分にされては困りますから」
騎士の問い掛けへと黒子は淡々と返した。聖獣とて、嘗ては普通の子供達だったと
「命を喰らう為に純粋さを利用して谷へ落とし、その上に立ってきたあなた達。
……ここですべてを終わらせましょう。もう誰も食わせません、犠牲にさせません。歪んだ神の教えは、ここに潰えます!」
シフォリィはティーチャー・ティマイオスと相対していた。愛無は丸い瞳を向ける。
「ふむ、何時ぞやの森の致命者とやらは、此奴らが生み出すわけか。ティーチャーを捉えれば何某かの情報は手に入るだろうか?」
値踏みするかのように細められた『捕食者』の眸。爛々と輝くそれはくぐもることはない。
(ああ、そうだな――誰かを殺しても心は痛まないが、何、可愛い友人が悲しみそうな事だけは頂けないか)
友人、シルキィは今も子供達を救う為に戦っているのだろうか。
愛無の放った鉛は己の粘液によって生成されていた。無数に広がって行くそれが聖獣諸共、巻込んで行く。
害を抑え、この地を早期に打開せねば行けないか。愛無の弾丸を越え、シフォリィが前線へと飛び込んだ。
ティマイオスの天秤が傾ぐ。ネイコスへ揺らげば、ティマイオスを庇うべく子供が飛び込んでくる。
「くッ、」
振り翳し掛けた剣を難なく止めた。均衡が保たれた。シフォリィは「私を悪だと言うのですか」と問い掛けた。
「勿論、天秤は嘘は吐かない」
「…………天秤を扱う者は公平でなくてはならない。私がどちらに傾くにせよ、まあそういう人間ではあると思いますよ。
ですが貴方自身はどうなのですかティーチャー。貴方は天秤の担い手に相応しくない! 私は、貴方達を許さない!」
彼が全ての子供達に正しさを説くならば、彼の『魂』を秤においてやりたいとシフォリィは歯噛みする。
凍て付くような黒い波動。纏うた剣は鮮やかに炎の華を咲かせる。唯、直向きな娘は歪んだ神の教えを是認することはない。
「アドラステイア指導層の中にも『違い』があるのは感じていました。……此処を任されていると言う事は、貴方は『知っていた』側ですか?」
「……アドラステイアは『方舟』だと教えられてね。新世界が何処まで知っていたかは分からないが、古株の者は良く知っているだろう。
そもそも、ファルマコンは神でもなんでもなく、使徒の眷属でしかないという事を――」
どう言う意味だとアリシスはティーチャーを睨め付けた。神話において光の神を滅したとされるヤドリギの技。それを再現した槍を手にする逸脱者は己にも似た人間の枠から致命的にはずれてしまったそれを目の当たりにする。
「アドラステイアの本当の姿、ファルマコンなる存在の正体……全て知っていて流れを作る役割が居る構図自体は別段珍しくもない。
しかし、どのような裏があるのかと思えば……喰らった残滓を鋳型として滅びの泥を象ったモノが致命者。
何時ぞや、谷底に落とす処刑の妨害をした事がありましたが……成程――アドラステイアの全ては唯の隠れ蓑であり、その行いは餌を供給する為ですか」
ティマイオスは答えやしない。錬は嘆息し、肩を竦めた。
「そもそもからして神とは試練を課すもんだろ?
神を盲目に信じれば救われるなんてのは神に全て丸投げしてるだけじゃないか。まぁそれすらもまやかしだったようだがな。
よくもまあ子供たちを食い物にしてティーチャーなどと名乗れるものだ。その面の皮の厚さは大したもんだよ」
「元より神など目にも見えないであろうに」
ティマイオスが喉をくつくつと鳴らせば「そうだな」とだけ錬は呟いた。だからこそ、信仰者達は天へ祈りを捧げるのだろう。
ティマイオスへと接近し、相克の循環を象った斧を鍛造により魔力を零距離で放つ。大きく傾いだ天秤。庇うように身を滑り込ませる幼い子供。
錬は「卑怯だな」とぼやいた。
「悪人め!」
子供達は天秤ばかりを見ている。その天秤の揺らめきで甘言によってアドラステイアを壊しに姿を現した悪人だと彼等は認識しているとでも言うのだろうか。
実に度し難く、実に『面倒』なのだとイリスは呟いた。眩き光と共に天義騎士団のサポートをする。子供の無力化を行ない、彼等はティーチャー・ティマイオスを、そして魔女喰いを狩るのだ。
「……偽りの神、ね。確かにそう言う他ない存在みたいね。さぁ、戦って、そして生きて帰りましょう」
偽りの神の信奉者。子供達をその様に認識した方が良いのだろう。幼くとも信仰が如何にして人々を歪めるのかをイリスは良く分かる。
「……貴女の、『偽りの神』の破滅によって救われる気なんて更々ないもの。
ただ死を喰らうだけの怪物に、負けてなんてやるものですか。あの黒泥の淵で、私が導かれたように――今度は私が皆を導く!!」
眩い光に背を押され、「大丈夫……私なら……大丈夫」と何度も繰り返すLilyが立っていた。
屹度これは心を壊す。恐ろしく、酷く惨たらしい世界だ。それでも、葬儀屋として降り立たねばならなかった。
「貴方の本音を聞かせて? 生きたい? 生きたいなら、私の手をとって?」
そろそろと子供達に向き合えば「生きたい」と言いながらもLilyの手を取ることはしない。ああ、そうなのだ、子供達にとってアドラステイアは家で、聖獣だと倒されんとする其れ等が友人であるのだ。
「ッ、人として、眠ってね……」
Lilyは聖獣と相対する。救えなかった命よ、どうか、どうか許さないでいて。ただ、最期に抱き締めた温もりだけが救いになればと願わずには居られなかった。
「貴方達、魔女喰いの所へ行くんでしょ。私も同行させて」
天義騎士団を護るべくレイリーは渓底へとやって来た。白い腕を伸ばし餌を求めるようなそれは異形としか呼べない。
「ヴァイスドラッヘ! 只今参上! さぁ、お前らの相手は私よ! 私を倒さない限り、ここは絶対に通させないわよ!」
魔女喰いへと向かう仲間が居るならば、その周囲の敵視全てを己に向ければ良い。
堅牢なる要塞たる娘は決意の焔をその身に灯す。
(倒れない限り私は皆を護れる――ならば、私は最後まで倒れないわよ!)
レイリーへと飛び込んだ聖獣を受け止め、鋭く退けるハインの禍々しい光が魔女喰いの元へと広がって行く。
「破滅こそ救済だというのなら、君達や神サマとやらはどうして存続しているんだい? その矛盾が君達の全てさ」
致命者。そうしてふらふらと脚を動かしながら遣ってくるそれを滅ぼすべく天罰の雨が降り注いだ。
美しき、光の雨。まるで、生者にのみ与えられる祝福のようなそれを致命者は眺め遣る。
「ああ、返事は要らないよ。まず皆が救われなければとか言うんでしょ、どうせ――救ってくれなんて頼んだ覚え、全く無いのに」
死神は唯、嘲るように笑っていた。
●疑雲の渓III
安息の無い世界で理不尽から逃れようとしただけなのです。
そう告げるリカの蠱惑的な声音が響けば、背筋を撫でられたように尾を立ててクーアが振り返る。
「クーア。殺すな、です。掬ってあげましょう。領地に引き取ってあげるのです。
もっとも、私はサキュバス……代償はいただきますけどね……いひひ、可愛い子はいるかしら? まずはこの子達の『毒抜き』としましょうか♪」
リカの誘いの声は魅了の術。夢魔の十八番は子供達をも簡単に引き寄せる。桃色の煙を揺らし、蒼い肌の娘はぺろりと長い舌を覗かせた。
「いやまあ、私も前途ある少年少女の命をみだりに奪うのは趣味でないですとも。保護は我々におまかせなのです、にひひ♪」
悪戯めかして笑ったクーアは炎の翼を有しながら、子供達を引き寄せる。リカとクーアはあくまでも子供達の対応を行なうと決めていた。
殺さぬように、昏倒させることを意識し、組技と共に走らせたのは『ながれぼし』の如き一閃。
(アドラステイア……自分たちの安寧と野望のために次代を担うべき子供たちを犠牲にして顧みぬ連中。
あの在り方を認めるわけにはいかない。絶対に。聖騎士の各々方も同じ思いのはずだ! あの行いは断じて正義ではない!)
聖騎士達はこの国を異教徒だと認識している。故に、エーレンも彼等と共に駆けた。
堂々と征こうと手を伸ばす。我らは異教徒を認めてはならない、と。その認識を言葉に代えれば聖騎士も同意を示す。
手にするサザンクロス、水底の亡者ではなく、地底の子供達を相手取る。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ! 子供を食い物にする神なぞいてたまるか!」
風花と名付けたリトルワイバーンと共に駆け抜ける。子供達の叫び声だけが聞こえていた。ヴィリスは唇をつい、と吊り上げた。
「これでもう最終章かしら? それなら私のすることは決まっているわね。ちょっと早いかもしれないけれど前の約束を果たしに来たわ」
いつかの日、約束した。本当のプリマドンナを見せて上げると笑いかけたあの時。
だからこそ、約束を果たしてきた。袖にはコインを忍ばせて、ばら撒きながら踊る。そんなもの、意味がないなんて分かっているのに。
「お集まりいただいた皆々様。此度は心行くまで楽しんでくださいませ」
――ほら、どうしたって子供達は寄ってくる。喉から手が出るほどに欲しがった。馬鹿みたいな、紛い物の存在意義。
呪術に囚われてしまうから、プリマの剣靴は踊りながらも停滞の澱に其れ等を閉じ込める。運命が流転すれば、この幼子達だって輝く未来に辿り着けたのだろうか。
「アドラステイアの件もようやく決戦か。ではいつも通りに為すべき事を為そう。……即ち、敵を倒し生きて帰る」
ェクセレリァスは淡々と言葉を重ねた。機動力尾うぃかし、聖獣達の対応へと走る。
「全てを護れはしなくとも、少なくとも私の手の届く範囲で味方を墜落などさせはしないさ……!」
その最中に、子供の姿がある事に気付きェクセレリァスは「保護対象だ……!」と声を掛けた。
地底に降りてくる仲間達を護るべく遊撃として走り回るェクセレリァス。その元へ『ぽとん』と落ちてきたワモンは「うひー!」と叫んだ。
「ずいぶんと辛気臭い谷だな、オイラ身震いしてきちゃいそうだぜ。
んで、この谷底にいる魔女喰いっつーのをぶっ飛ばせば任務かんりょーなんだよな? 腕だな!」
降りてこようとする仲間を、子供を保護し戻ろうとする騎士を狙う魔女喰いの腕へ向けてワモンは最大火力(フルバースト)と叩きつける。
「援護は任せな! みんなは思いっきりやっちゃってくれ!」
「なら、支援も任せるのだわ!」
華蓮は踊る。子供達を一人でも多く静観させるために。神楽舞を以て稀久理媛神の加護を届ける為に。
全員が難しいことは知っている。一人で話せるわけがない。それでも、皆とならば。
必死に、足掻いて、足掻いて、足掻いて――命を奪うためにしがみ付いて助けに来た。
(それが出来なくては巫女の名が廃るのだわ……!)
女神の加護が、癒やしの風となって吹き荒れる。絢爛なるその風はただ、穏やかに渓底に吹いていた。
「ま、将来への投資です。生かして保護しますかね」
子供達を救えば、それも何かの役に立とうと『悪人のように笑った』ウィルドを騎士団員達が何処か不安そうに眺めている。
「子ども達の相手は私がしておきますよ。あなた方はどうぞ、魔女喰いとやらに向かって下さい。
……ご立派な騎士様じゃあ、哀れなガキどもを殴り付けるのは苦手でしょう? ガキは私が抑えますよ。何せ『悪徳貴族』ですからね、弱いもの虐めは得意です」
「し、しかし――」
「ククッ、殺しはしませんよ。ご心配なく」
くつくつと喉を鳴らし、子供達の意識を引き寄せる。ウィルドは慈悲をちらりと覗かせる。それが未来の投資になると知っているからだ。
聖獣の牙は迫る。ミヅハは弓を構えて「うわあ」とぼやいた。
「ま、獣の相手は狩人に任せておけって! ……たとえ『元』がどうあれ、ああなっちまった以上は獣でしかないからな。
元に戻らない以上そう思ったほうが戦いやすいぜ。『たとえ獣であっても命を奪うのは』なんてコメントはノーセンキューだぜ。だって俺は狩人だからな」
魔女喰いがその命を喰らうならば、この外で倒せば良い。魔女喰いの動向を確認しながらもミヅハの放ったヤドリギの矢は無数に降り注いだ。
「終わりは始まり、生き延びた子供達の将来を案じる事が出来るよう……断ち切り、今日で終わりにしよう」
己の元へと子供達を引き寄せるアーマデル。そんな彼の前で古天明平蜘蛛がちりちりと音を立てた。子供達を引き寄せたアーマデルの攻撃から漏れた者達を焔の全てで護るが如く弾正は狙いを定める。
「これ以上、天義の未来を食い物にされてたまるかよ!」
キシェフのコインはどれ程に効力を持つのだろうか。幼い子供達の心を占めるその存在の大きさに嫌気も差す。
ベルナルドは絵筆を走らせた。眩き光が、子供達の視界を眩ませる。幻は何よりも手に入らぬものとなれ。
「ゲームは好きか? 子供達。俺達に勝ったらこのコインはお前達の物だ。イコルだって好きなだけ買えるぞ」
子供達が、嬉しそうに走るその姿にカティアは余りに酷いものを見たと表情を歪めた。リヴァイアサンの鱗を利用し作り上げられた杖を握る指先に力が込められる。
「思い出せないのに覚えてる、帰る家の無い生活は寒くて寂しい。
そんな時、衣食住が得られるなら何でもするよね。考えられるのは満ち足りているからだもの……」
なるべく多くの子供達を連れ帰るためにやって来た。子供達は帰る家もなく、衣食住の安定のためにイコルを取り合っている。そんな惨たらしい場面になんと言葉に出来るものか。
「俺の領地に連れて行こう」
「ああ、アーマデルの領地に子供が来たら、お隣さんの我が領も賑やかになるな。
俺とて邪教の信徒だ。自覚はあるだけに、真っ当とは言わないが、信者を欺き死後の救いすら与えぬ神に負ける訳にはいくまい! 救おう!」
弾正とアーマデルが走り出す。カティアの背を叩いてからベルナルドは笑った。
「こんな所で魔女喰いの餌になるダセェ奴――いないよな! あとひと頑張りだ!」
ベルナルドの発破に頷いた。子供達の数は確かに減ってきている。それでも、傷だらけの儘戦う子供を見れば夏子は「うわー!」と大仰に手を上げるしか出来なかった。
「うわーホント見ちゃおれん。ガキ共ココまで虐待出来んの。最早才能だよ胸糞ワリぃぜぇ~。
天義聖騎士団の御歴々 御使命全うされよ 外敵は大勇者 ベネディクト卿率いる 黒狼隊が請け負う ってね!」
夏子が背を叩けばベネディクトはふ、と笑みを零す。騎士達を統率すれば、その力を見せてくれるはずだろう。
「天義の神々に仕えし騎士達よ、この戦いで共に戦える事を光栄に思う。俺もまた、俺自身の正義の名の下に参戦させて頂く」
ベネディクトが堂々告げればエプロンドレスを持ち上げてリュティスが一礼する。主人の為ならば敵を討つ。その為に彼女はやって来た。
「敵は偽りの神を崇めているのです。呪いを振りまく邪悪の化身は滅ぼしましょう」
子供達を救うが為に走る夏子は前線へと飛び出した。
「ガキ共の犠牲は不要だよね? 天下の天義聖騎士団 だもん
早くコッチ来い! お前等の友達もココ抜けて 皆活き活き生きてるぞ!」
夏子はアドラステイアで保護した子供達を領地で生活させて遣っているのだ。イコルを摂取した形跡があれど『ティーチャー・バイラム』であった『もの』から救う手立ては分かるはずだ。
その先に、ティーチャーティマイオスが立っている。
「我が騎士としての誓いにより、これより貴様を討ち果たす。覚悟して貰おう!」
「ええ、覚悟をなさってください」
天秤は、子供達には効力を有していた。だが、イレギュラーズには効用も無い。一種の魔眼めいている。
「ティーチャー 何やら経典が間違っててさ 修正しなくちゃならないらしい よ」
笑った夏子の言葉に頷いてからベネディクトがティーチャーティマイオスに肉薄した。
「どうやらお前を庇う子供はもう居ないようだな」
囁く声音が鋭い槍の一閃と共に届けられる。ティーチャーティマイオスが魔女狩りに向けて走り征く。
「ファルマコンよ!」
殉教の徒。そう呼ぶしか無いその姿にリュティスは「捕縛致しますか」と問うた。
「私を喰ってくれ給え――!」
その声を沈める異様に黒き蝶が踊り、その意識をも刈り取った。
●疑雲の渓IV
「事情を深くは知りませんが、余りにも――余りにも、惨いじゃあありませんか。温情は無用、散滅すべし」
ルトヴィリアのファミリアーが声を上げる。騎士達へと伝令を走らせ、誰も命を失わぬようにと声を掛け合うべく。
悍ましき苦痛を内包したキューブが魔女喰いの身体を包み込む。接近し瀉血を以て魔力の奔流を叩きつけるルトヴィリアは自身の運動能力故に、術式全てを叩き込むことには叶わない。
だが、それでも構わない。
「誰1人命を落とす事は赦しません。救いたいなら、救われたいなら、子供達含めた手が届く限りの生存をただ考えなさい!
――さあ、呪われた『魔術』です。魔女からの餞別、遠慮せず味わいなさい」
ルトヴィリアの囁きの向こう側、膝を付いた騎士を支えるのは帳。
「倒れさせなんてしないんだ、みんな生かして帰還させる。救える限りの命は救って見せるよ!それぐらいは欲張ってもいいよね!」
戦場全体を駆け回る彼は傷だらけになりながらも生き残る術を模索した。魔女喰いの腕がぐんと伸びてくる。悍ましき気配が背へと張り付いた。
「かなしいのはいやです。くるしいのはいやです。少しでもかなしいことが減るように――子供達を一人でも多く生還させたいのです」
だから、ニルはやって来た。祈るように、願うように。魔女喰いと呼ばれた化身を睨め付ける。
下手に死者を出せば食い物にされるという。悪食その者だとルーキスは肩を竦める。
「しかも食い物にしてるのは子供ときた。ルナール先生からしてみれば、物申したいところぐらいはあるのかな?」
「ルーキス、逆だ。元が実験体だった俺だからこそ、子供が食い物にされようが気にならん。
……こんな状況は元の世界で飽きるほど見てきた。呪うべきは己の運命と境遇、自分らが招いた結果というだけさ」
実に厄介だとは笑うルナールは『特別なこと』ではないと知っている。
「まあ残念ながら? 私は血も涙もない悪魔なので容赦なく叩いていくわけだけど!
狙うべきは致命者かな、生者の相手は得意な人間に任せるとも。何匹ぼこぼこ生み出そうが、容赦なく焼いてあげるよ」
くすくすと笑うルーキスが手を伸ばす。ルナールを引き寄せて、指先が触れ合ってから僅か、ルナールがぐるりと振り向き致命者を受け止めた。
(魔女喰いを、討ち取り、ます。もうこの場所から、生み出される嘆きが無くなるよう、に……わたしに、勇気を下さい)
願うように、祈るようにメイメイはそう紡いだ。噛み砕く獣の牙は鋭くも、小さな羊を鼓舞し続ける。
「あなたが負わせてきた、痛み。その一欠片に過ぎないでしょう、けれど……お返し、します」
此処で挫けるわけにはいかない。誰かに負けるわけにも行かない。
「だ、誰にも、顧みられない命も、確かにあって、全てにやさしい世界ではないけれど
……めちゃくちゃに、されるだけの、救いなんて、あっていいはずがない、です。もう、あなたには何も、あげません……!」
ごくり、と食べられてしまえばそれが元に戻らぬとメイメイは知っていたから。
「正義のため。神のため。何だって良い。その信念で子供達が救えるのなら、その未来を掴み取るまで!」
ジョージは叫んだ。喰われる魂を是とすることは出来まい。魔女喰いを庇おうとする子供達はコロザス、その糧とならぬようにと彼は気を配った。
万全の戦いを。海牛の皮で作った手袋がその掌を護る。力を込め、魔女喰いの腕を掴めば骨のようなざわりとした感覚だけが掌に伝わった。
「お前は何だ」
――神ではない。わたしは、わたしだ。
応えにならないその響き。だが、ファルマコンは此方を意識している。タイムは『救いたかった』からこそ、立っていた。
自らへの魔女喰いの攻撃を熾天宝冠で耐えタゲの維持
「こっちよ。わたしの事覚えているかしら?」
ぎょろりとタイムを見詰める魔女喰いを押し止めるようにココロは真っ直ぐに声を掛けた。
「ファルマコン、答えて。あなたは子供達を救いたいと思った時はあるの? 破滅以外の目的はあったの?」
魔女喰いから分かたれた存在だった。魔女喰いを通じ『ファルマコン』が答える――
――わたしは、産み出された。終焉の獣として、この世界に何時か訪れる終焉から乗り越えるために。
「……どういう、こと」
ココロの唇が震える。歪んだ愛だったとしても、アドラステイアを作った理由が情愛の一種ならば子供達だって報われるのに。
――我が方舟は、選ばれし者を運ぶが為に必要して居た。それ以外の地は全て朽ち滅されるのだ。
ああ、言葉は通じない。癒やしの響きを、天上より吹いた慈愛の息吹を。ただ、響かせながら医術士は唇を噛んだ。
星の如き燐光が眩く魔女喰いの肩を穿つ。一本の腕がだらりと降ろされた。
「街を作ったのは滅びに寄り添う人々を傍におきたかったから? 終焉獣という存在ですら孤独ではいられなかったの?
……だから子供達を選んだ? 無垢で純粋であなたを信じてくれる存在に共に破滅へ向かうのが唯一の救いだと教え込んだの?」
――わたしの『主』は言って居た。子供達は選ばれた存在であった、と。
天義の争いを理由に終焉獣がこの場所を選んだのか、それとも――
それとも、『天義の争い以前にこの場所がこうなる事に決まっていた』のだとすれば、その事象に気付けなかった自分は多くの命を失ってきたのだろうか。
悔しい。悔しい。
救いたかった――救えなかった。
「恨み言は沢山あるけれど、せめてあなたが完全に滅びるまで一緒にいてあげる。それまで倒れてやるもんですか!」
選ばれた存在であったからこそ『方舟』に乗せたとは、何とも妙な神話のようだと沙月は考える。
だが、それ以外が死んでも良いなどという冒涜はどれ程に度し難い物であるか。
「死者を冒涜する悪神を共に滅ぼしましょう。言葉よりは行動で示すしか有りませんでしょう。
私達は貴女を許すことは出来ない。速やかに滅びてください――『ファルマコン』」
カンパーニレの鐘の音が響く。するりと走り抜ける沙月はタイムに注目していた魔女喰いのかんばせを殴りつけた。
ぐい、と首の向きを変える。不意を衝かれた魔女喰いの横面へカインの眩き魔力が叩きつけられる。
「人を救わぬ破滅の神、ならば人に打倒されるのも当然の帰結だよね
思う所は大量にあるけれど……どうあっても彼らみたいなのは許容できない。ここで終わって貰わなきゃね」
神であるか、神でないかなどは関係はない。それが信仰の形であったというだけだ。
カインの魔力を追掛けるように飛び込んだ一晃の眸に鋭い光が走った。
「魂を喰らい人を喰らい、自らの餌場を作ってきた者達よ。この世に地獄を体現する者よ。
いつか俺が行くべき地を此処で先に見れるとはありがたい。安心しろ、壊された魂の行く先は俺は知らん、ただ斬るのみだからな!
――黒一閃、黒星一晃、一筋の光と成りて、魂魄の残渣を破砕する!」
周囲へと広がっていくシンプルな斬撃。魔女喰いの肉を断ち、血潮とは言えぬ黒き正気が溢れ出す。
「散々好き勝手していやがるらしいじゃあねえか。死だ、滅びだ、救いだ献身だ信仰だーぁ?
くっだらねえ! 全部ぶっ壊してやるよ!
俺たちは命を次に繋いでいく存在だ、死を絶望で飾り立てるなよ。
分かるか? 世界の滅びは俺たちイレギュラーズが潰してやる! だからテメーらの御託はウンザリだ! とっとと消えな! クソヤロー!」
ブライアンは叫んだ。真っ向勝負の真っ正面からの一撃。
ピース・メーカーの引き金を引け。たった一度きりで良い。最強の威力を叩き込めば良い。
己の身体が痛んだってブライアンは気にはとめやしない。
輝きの如く、ココロは唯、唯、叫んだ。
「まだやれます! みんなも立ち上がって、破滅の未来を今、繁栄へと訂正しましょう!」
――我らの確定未来へと。
「黙れッ! クソヤロー!」
撃鉄を起こす。ブライアンが叫ぶ。その導線に魔女喰いが『子供』を引き寄せた。
「駄目」
ニルが手を伸ばす。ブライアントすれ違い、ニルの身体がごろごろと転がった。腕の中では怯え竦みながら浅い息を繰り返す少年が居る。肘から先が千切れ、痛みに泣くことも出来ずにいる。
「直ぐに治療を!」
叫ぶココロにニルは頷いた。生きて、生きて、生きて――お願いだから、一人でも多くを救いたい。
「マルク・シリング。さあ、お前が殺すと名指しした男が、ここにいるぞ!」
マルクは魔女喰い越しに宣言した。ファルマコンと相対することが出来る。それが『異形』を通してであれども、だ。
例え劣勢であれども勝利を諦めることはない。
暁の道の先に青空が広がっていると知っている。蒼き剣は逆境をも撥ね除けるかの如く、鋭く叩きつけられた。
「貴女なんて――」
タイムの声だけが、その場には残っていた。
●鐘塔I
ゴーーーーーゥン。
重圧をも感じさせる響きが周囲を支配する。
暗澹たる暗闇が広がったカンパーニレの中で卮濘は周囲を見回して。
「なにこれ。何も無いのに足を踏み入れろっての? はぁ……って幸潮、何しようと――」
「地を作ろう。空を作ろう。そのような『描写』を作ってやろう」
ふふんと鼻を鳴らしたのは幸潮。芽衣子は目を伏せて『原典接続』と呟いた。
この場を見ている信仰者達には美しい花園として映っているのだろうか。地があり、天があり、花が咲き誇った幸福な園が存在している『筈』なのだろうか。
「これより『邪神』討伐体制に移る」
マカライトの視線の先にはフラーゴラが居る。そして、顔を上げれば黒き闇の中に一人の女が立っていた。
女、と呼ぶべきなのであろうか。否、あれは『そうなるように』貌を借りただけの終焉獣(ラグナヴァイス)でしかない。
(……あれがイカれた都市を作り、イカれた馬鹿どもを焚き付けた糞野郎か。
肥やし以下の思考はさて置き、滅びを振り撒き人を腐らせるその魔性は根本は違えど何度も見たものだな)
終焉獣は『そうあるように』産み出された。神で有るように産み出された存在はどれ程に悍ましい生き物か。
その鐘の音を止めるのは己達であると鈴音は睨め付ける。
「ファルマコン。天義の民を誑かしてアドラステイアの神を騙る偽神め。皆死にましょうの滅びの方舟なんてお断りだ」
――アドラステイアの神になったつもりはないさ。
わたしはあくまでも、この地に立っただけ。この方舟は選ばれし者達だけが乗るのだから。
「終焉獣か、"残念" でも"神殺し"も楽しそうだ。ヒヒ!」
くつくつと喉を鳴らして笑った武器商人の首があらぬ方向に傾げられた。異形を思わせる奇妙な動き。
然うして見せたその人の傍らには『エイリス』が居るかのようである。「さあ、エイリス、アレを殺そうか」と囁く声音。仲間達の盾となるべく進む武器商人の傍らに、同じく人を護るが為にやって来た彼者誰の姿が見えた。
――奇妙な来訪者よ。
わたしを神と呼ぶ者よ。
わたしは子らに神であることを求められた。わたしはファルマコンだ。
神とは、人の心持ち全てで変わるものだ。わたしは、神などではない。だが、そうあれと望まれるのであれば。
ああ、そうだね、とセララは小さく言った。犠牲になった者達はそれに救いを求めた。縋った。正義を信じたのだ。
それを裏切ったのは何方か。勝手に期待をして、勝手に死んでいったというならば、許せるわけもない。
「……ファルマコンを討とう」
決意のようにセララは言った。ぎり、と奥歯を噛み締める。
希望を束ねる魔法騎士は正義の心を直走らせた。
「待っていて、ファルマコン」
――その喉元に、切っ先を。
横一列に並んだのは『神殺し』を掲げた者達だった。
眼前を見遣る。フラーゴラが息を吐き、寒さをも感じさせぬ楽園(ヘブンズホール)の内部に広がる暗闇に息を詰まらせた。
酷く恐ろしい場所だ――だから?
だからと言って挫けてなるものか。
「皆、一斉攻撃! 撃て!」
鐘の音なんて、必要はないでしょう。声を聞いてとフラーゴラは腹の底から張り上げる。
「ファルマコン、アナタの国を見てきたよ。お世辞にもいい国とは言えなかった。
――だからアナタを否定する! 神を殺して生きて帰る!」
――可笑しな事を、国とは人が作るものだろうに。
ぞうと背筋に入ったその声に美咲は「は」と鼻先で笑った。神様なんざ糞食らえだ。生憎だが『神なんて信じる暇』もないのだ。
左腕は換装したばかり。ぶらん、揺らいで力も未だ上手くは籠らない。『らしくない』不安が過れば、『らしくない』期待が湧き上がる。
「ゴラ氏がいて、商人氏、ミーナ氏、カイト氏、エクスマリア氏……言い切れないほど見知った顔が居て、そして、イーリンがいる。
……今、この面子なら私ァ負ける気がしないんスよ…!」
「『らしく』ないわね」
揶揄うように笑ったのはイーリン。表舞台は弟子へ、己は彼女を信じるために旗を掲げると決めたのだから。
竜に挑んだ、冬の王にも相対し周辺の神の一端に挑む。神殺し。冒険譚の極北。
「――さあ、敵は、攻撃は、靄はどこから来る。されどその鐘の音は、私達の凱歌が塗りつぶす!
神殺しを掲げるならば、私はあの娘のために旗を振る! 挑みましょう! 神がそれを望まれる!」
揺らぐ。騎兵隊の名は今は必要はなく。弟子(フラーゴラ)の行く道を明るく照らすようにイーリンの支援が前線を走ったセララを包み込む。
「死神が神を殺すのか? ああ、殺すさ。それが皆の道ならば――死神は神の死を視るものさ」
眼前のファルマコンも死神と呼ぶべきだろうか.その様な事を思考の端に追いやってミーナは希望を束ねた剣を振るった。
命を狩り取るに適した形の刃は疾うに置いてきた。
死を象徴し、命を奪うために生きている己が『生』を望むなど笑ってくれるな。
「私は私の大好きな者の勝利を生存を願う! だから、こんな鐘の音なんかに負けるんじゃねぇ!」
傷付き頬に痛みが走る。唇を噛み締めて眼前を睨め付けた。
「あれがアドラステイアの現状を生み出した元凶か……いかにもって感じだね。
……どれだけの命を魂を取り込んでいるのやら……彼らの為にも終わらせないとね。遊びは無し! 本気で征くよ!」
犇めく人の命を救うが為にやって来た。ラムダの魔導機刃が爆発的なエネルギーを纏った。加速し、死者の軍勢を巻込むように光球を炸裂させる。
それは万物を灼滅に誘う光。制御不能の殲滅の極光に重なるように慈愛の息吹が吹き荒れた。
水月華の導と共にフリークライは立っている。永遠に枯れぬ花は死者の安寧を護る為、その霊魂(いのち)を喰らう者を墓守は許せやしない。
「我 墓守。死 護ル者。我 数多ノ死 取リ戻ス。
ファルマコン 死ヲ喰ライ 死ヲ破滅ヘト導ク者ヨ。汝ノ死 唯一 自ラノ死ノミト知レ」
――命を喰らうというならば。それ以上の冒涜は赦しはせぬと癒やしは、前へ前へと仲間達の背を押す追い風となった。
「さぁこれが幕開けの一撃だ! バトルスタートっ!」
砲撃を放った卮濘に続き、幸潮は眩き光を放つ。頭の中を掻き乱すような鐘の音色を聞きながら芽衣子は呟いた。
「……ああ、そう。苦しいの。悲しいの。そっかそっか。それが、どうかした? 結局、世界はどうしようもなく続くんだから」
●鐘塔II
「こんなに暗くて、冷たい場所で。奪い続ける"あれ"が神様だなんて、嘘ばっかり。……終わらせよう、全部」
もう戻れないと理解していても、最期には『あれ』を引き剥がしたいのだとチックは唇を震わせる。感情を封じる。
かたわれの姿を作ったとしても揺らいではならない。あの子は死者なんかじゃないからだ。
滄海を思い、旋律を奏でる。
(苦しいこと、もう日常茶飯事なんだよね。だってずっと焼け死にそうな感覚がするんだぜ?)
火群は周辺に飛び回るファルマコンの血潮こそが喉奥を掻き毟りたくなる悍ましさであることを識っていた。
善の右と悪の左。慈悲と無慈悲を籠めた一撃で『こどもたち』を退ける。痛み、苦しみ泣き出す声がどうしようもなく頭にこびり付く。
――苦しかった記憶も、全部、燃えてなくなっちまうんだよ。
それでも、この火が暖かな篝火になれるかは、保証出来ねぇ……かなぁ。
呪縛のように身を包む一つの縁。それが、誰かの道を照らせばとそう願わずには居られない。
「ティーチャー・カンパニュラ。
救われたいと願い、生きたいと思い……縋ってしまったのですね――この、破滅だけのくだらない存在にね」
苦々しく呟いたマリエッタ。その肉体に刻まれた印が鮮やかな色彩を宿した。呪いであるとしても。
カンパニュラを引き寄せるが為、マリエッタは敢て彼女に声を掛けた。
「今のは私の言葉ではないきっと魔女の……けれど珍しく意思が似通ったみたいです。
カンパニュラ、私は貴方を救いましょう。貴方の忌み嫌う死と血を以って、その呪われた軛から――死血の魔女が必ず!」
作り上げられた神滅の血鎌が悍ましくもその姿を現した。
ぐるぐると喉を鳴らす。美しきラベンダー色の女『だった者』に正気と呼べる者はないか。
「見た目は天使のようなのに……もう、心も狂ってるのね。惨い、それ以上に哀しいって感じる。
救われ、生きたいという願いすら歪ませるもの。わたしは許せない。だからわたしも戦う。
夜の闇と流星の光を以て、夜守の魔女が、あなたに永久の眠りを!」
火力を集中させる。命の危機など遠ざけるようにセレナは唯、マリエッタと、仲間と生き残る為の決意をやってきた。
祈願結界『vis noctis』よ、夜が箒に乗ってやってくるならば、希望の流れ星は今こそここに顕現するべきだ。
約束は胸に抱いた。負の闇よ、激情よ、それら全ては敵を退ける力となれ。
「自我もうつろな状態でファルマコンを守っているということは。
さぞやファルマコンに近い幹部だったのだろうけれど、こうなってしまっては……」
唇を震わせたヴェルグリーズはファルマコン達とは引き離そうとマリエッタとセレナの二人へと頷き在った。
ティーチャー・カンパニュラの身の上は不幸なものだったのだろう。だが、彼女の行いは許せるものではない。
別れを告げる如く、直死の牙は襲い征く。
獣の吼声に耳を劈かれそうになろうとも、青年は止まることはない。
「アドラステイア、か。然程関わりはなかったが、これも依頼。これも応報。語るべきことは、ない――ここで凍えて、おわってゆけ」
カンパニュラの元へと飛び込んだ。海燕は鋭い切っ先に冷気を纏わせる。立ち上った氷の礫。針の筵の如く、無数にカンパニュラの身へと突き刺さる。
「んふ――ふ――」
それが『女』の声音であることに気付いてからジルーシャは唇を噛んだ。精霊達の怯えが聞こえる。
カンパニュラをファルマコンには近づけさせやしないと風に乗って精霊達を目覚めさせた。
ゲニウス・ロキの祝祭よ。喝采と共に厄災を運び給え。
「アタシの影。アタシの貌。紫香に応えて、目を覚ましなさい――おいで、《リドル》」
十七号の剣とカンパニュラだったものの牙が打つかった。美しく、嫋やかな女の気配を振り払う。
「ティーチャー!」
叫んだシュナに気付きルーキスは少年を見下ろした。
「幻想で会って以来だな。……と言っても、覚えているかは分からないが。この状況でも信仰心は変わらずか?
俺達はファルマコンを倒す。立ち塞がるのなら、相応の手段で迎え撃つ」
「お前達は、酷い奴だ」
シュナは叫んだ。どうせ、何も得るものはないというのに正義感だけが他者を害する理由になるのだと彼は言う。
それは嘗ての天義の姿であるのだろう。ルーキスは肉薄した。敬愛するティーチャーの無残な姿に彼の手からは力が抜けていくかのようであった。
「ッ、クソ、クソ、お前なんて――!」
ぎん、と音を鳴らした刃がぶつかり合った。もしも、彼を保護したとて、その心の隙間を埋めるためには随分と時間を有するのだろう。
――嗚呼、可哀想。
「可哀想……? 子供達を多数犠牲にした偽りの神、終焉獣も。他の敵も。アドラステイアなんてものも……悲劇も。ここで終わらせる!」
ヨゾラは可哀想だと手を伸ばそうとするファルマコンを夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)を以て退けんとした。
青年の身体に刻み込まれた紋様が光る。その破壊的魔力がファルマコンの何かを砕いた。
だが、まだだ。
「ここで鳴る鐘の音は断固拒否して、否定して! あれは魔種の呼び声だ! 奴等を倒して、生きて帰って、次の年を迎えるんだろ!」
「ああ、そうだな」
頷いたセナ・アリアライトの背をエミリア・ヴァークライトが叩いた。そうだ、征こう、進もう――我らは『天義の騎士』なのだから。
「全てに決着をつけ、邪な宗教に終わりを告げ、数多の子供たちを救済する! 皆、手を貸してくれ! 皆の力があれば私達はいくらでも戦える!」
そう宣言したのは沙耶であった。滅びの鐘の音は此処でお終いだ。
「終焉に『終焉』を――!」
沙耶の眩い光は子供達を包み込む。命を奪わぬ為に、リボルバー銃を構えて、周囲に漂う血潮諸共、弾き飛ばすが如く。
朗々と語らうた沙耶に頷いたのは騎士達だった。
「いずれ滅びるって言いますけど、それはわかりませんから。だって、わたしたちが抗うからです。
アドラステイアの人たちに、どうか当たり前の救いがあってほしい。そのために戦います」
「滅びは、来ないだろうか」
「大丈夫です。イルさん。……信じても救われないから、戦うのみです。わたしたちにはそれができるので」
淡々と告げたリスェンにイルは「うん」と頷いた。イレギュラーズは頼りになる。何時だって、前を進んでくれる。
英雄譚の魔法使い『リスェン』の杖を手にして、癒やし、救う。誰かを救うための決意はその胸に宿して持ってきたのだから。
「しょうがねーなー、天義聖騎士団ちゃんたちは。
まぁ大丈夫っしょ! 今からウチらが偽神なんか全力でぶっ潰すしてやるからな!」
にんまりと笑った秋奈は戦神としての鋭き闘気をその身に宿した。
「フフフ……見せてやるぜ。私ちゃんの強さを……その器のデカさってやつを…この新春フェスでな!
上げろ、魂と共にフェスれ! アゲてアゲてアゲてけぇーっ! せーのっ! か弱い乙女ーっ!」
――弱冠、エミリア叔母様が頭痛を感じたのは気のせいではない。だが、秋奈は真剣だ。
今まで以上に踏ん張れ。口より先に身体を動かす。秋奈はやられっぱなしは嫌いだ。やられたらやり返す。それこそがモットーなのだから。
髪を束ねたリボンに何かが打つかった。ぷつり、と音がし、黒い髪が波打った。
ファルマコンの元へと向かわんとする全ての障害を退けんとする『こどもたち』か。
「……子供達は此方に任せてくれ」
「ああ、戦線維持は此方に任せてくれ」
頷いたゲオルグにエミリアはイルとリンツァトルテをアンナへと任せてから子供達の対処に向かう。
騎士達は皆、この国のために戦っているとゲオルグは知っている。故に、此処で倒れてしまえば天義にとって大きな痛手になる筈だ。
気を配る。滅びを遠く、退けるが為に。この戦いの後、まだまだ不安が残っていることをゲオルグは肌で感じていた。
「――アンナ!」
「ええ、こっちに。この都市に生きる人々が未来を歩めるように。
私達が先に進むために。まずはこの戦い、制しましょう」
イルに呼ばれてからアンナはうなうした。前衛達のために、アンナは支えとなる。
嘆かわしきラメントは響き渡る。絢爛舞踏を見せ付け、悲しみなど遠く退けるが如く。
「アンナを護らせてくれ。私だって、何か出来る筈なんだ!」
イルの決意にアンナは緩く頷く。そうだ、この場所では心を強く持たねば飲まれてしまう。
「あの偽りの神はかつての天義の闇による産物よ! ならば、我達は闇を振り払わなければならない!
誰一人、闇の贄になってはならない! 今度こそ正しき天義として歩むために!」
神滅のレイ=レメナーが鋭き光を放った。破滅の鐘の音など、遠ざけるようにイズマは叫ぶ。
「偽神に捧ぐ命など一つも無い。確定未来など知った事ではないし、破滅を打ち砕くために俺達はいる――命を喰われ、滅びに怯える日々を終わらせる!」
あの日、イルと共に大聖堂で聞いた聖歌。美しい響きは穢れを清めるとイズマは知っていたからだ。
宵闇の静寂を宿した魔術式が音色を響かせる。刹那に重なったそれらは魔空間の恐怖劇を体現し続ける。
――どうしてその様に破滅を拒否するのか分からない。
「破滅と共にある? 破滅より生み出された? 確定未来? ……ふざけるなっ!!!!!!
生命を愚弄し死んだあともその魂を貪り食らい死後の安らぎすら許さない……。
貴様のような存在を、宇宙保安官として、イレギュラーズとして! いや! 生命ある一人の人間として許すものか!
自分の全身全霊をかけてでも……貴様を倒す! ファルマコンッッ!!!!!」
訳も分からないとファルマコンが『首を可笑しな咆哮に傾げた』事にムサシは歯噛みした。
レーザー・ジュッテがファルマコンから溢れ出した血潮を弾く。白銀のヒーロースーツが血で汚れようと、構わなかった。
命を食らい、人をも愚弄する。
それが種の違いだとでも言うように、罪もなく、笑うそれをムサシ・セルブライトがどうして許せようものか――!
●鐘塔III
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に。なべて土塊に還しましょうか」
その信仰はルチアのものとは異なった。異邦の神よ、見た目は人間そのものに見えたのはこのカンパニーレだからなのだろう。
今は、その手立てがない。幼い子供は獣に転じ、人の命を奪うが為に牙を剥く。
(今更、子供殺しの汚名を被ったところで――その覚悟くらい疾うの昔に出来ているわ)
回復を重視しながらも雷を落とすルチアの傍で、鏡禍は立っていた。
恐ろしいことになってしまったのだろう、とそう感じずには要られない。己の元へと引き寄せれば子供達は牙を剥くかのように腕を振りかざした。
「護りたいのでしたら僕一人ぐらいさっさと殺せないとダメでしょう?」
膂力があるのだろうか。姿形は幼くとも、それは『転じた後の獣』の力を其の儘に有している。
鏡禍はそれでもへこたれることはなかった。背後にはルチアがいる。彼女を犠牲にするわけにはいかないのだから。
「とても、とても嫌な気配を感じます……。
少なくとも、彼らと同じ様な者がこれ以上あってはならない。傲慢ですが……彼らを救う一助として、全力を尽くしましょう」
『傲慢』にも、求められたからこそ神であろうとした。人が縋れば神は出来上がるのか。
アザーは神の園を歌った暗澹たるその場所で眩い光に身を包む。アザーの光に後押しされながら涼花は旋律を奏でた。
「運が悪ければわたしも彼らの――いえ、IFを考えても仕方ない。
大事なのはこの作戦を絶対に成功させて、これ以上がないようにすること。
なら、やるべきことは今回だって同じ。わたしの思う最高の音楽で、英雄たちを奮い立たせましょう!」
音色が、広がればそれは全て誰も斃さぬ為の響きと転ずる。涼花は子供達を振り払い、仲間をファルマコンの元へと送り込むように立ち回った。
後方支援のアザーが子供を押し止めるシルトを支援する。
「子供達ですか、まあ、だからどうしたという話しですが」
子供達がどんな姿であろうとも、躊躇うことはなかった。躊躇いも戸惑いもない。騎士が手を汚すことを――『正義の執行』を厭わぬ様に、シルトとて其れ等を厭うことはなかった。
誰一人としてこの場で見逃すことはないと淡々と告げる。藍玉の盾が鮮やかな光を放った。
「悪いなガキ共…。お前らの神様は俺の仲間がぶっ殺す。邪魔はさせん。
そうなる前は幸せだったか? そうならなきゃやってられなかったのか?
きっと後者だろう。お前らは悪くない。悪いのはお前らをそうした外道共だ。だからすまない。救う術を持たぬ俺を恨め」
天川はキツく唇を噛み締めた。妻子の姿がちらつく。笑う息子が手を伸ばせどもそれを拒絶せねばならないのだ。
これは何か。己への罰なのだろうか。
天川の奥歯は軋んだ。痛みが走ろうとも関係はない。これは――自分自身が遣らねばならない事なのだ。
堪えるなぁ、と呟いた。まるで弱音のように脳内をループする。
(ああ、そうだ――きっともう、前にも後ろにも下がれないのだろう。それとも、元から下がる気などないのか)
カンパニュラがそうであったように、子供達だってそうだった。
無数に、奈落に命が落ちていく。そうしたのは子供達だ。選別は、滅びと共にやってくる。
まるで『魔女ではないことを証明し、心を滅びに近づけることで方舟の住民に認められるかのような』――
未来が消えていく。エッダは苦々しく唇を噛み締めた。子供とは共同体の未来そのもの。
それを擂り潰して得られるものなど、破滅以外の何でもない。或いは、それこそが狙いなのだろうか。
(そう簡単に呑まれてたまるか――我ら、元より罪人なのだ)
見るが良い、幾人もの死骸の上に我々は立っている!
「既に死んでるのに動く奴らですわね!?」
フロラは堂々と宣言した。声を届ける為に、その体は適している。
「この鎌は正義の名の元にあらず、救いでもない。
貴方の苦しみも何もわかるわけがない。ワガママ上等ですわ。
てかそこの神とやらも、同じぐらい無理解でワガママだと思いますわよ。
――あと縋る物がなければわたくしを信仰なさい! わたくしもある意味神みたいなもの(だと思えばそうなる)ですから!」
意気揚々と告げて見せた彼女はペリドット・グリーンのコアが鼓動するかのように光る大鎌を手にしていた。
名乗り上げ、全てを引き受けるフロラの元へとエマは敢て助けに入った。
「アドラスティアも遂に佳境でごぜーますか。
くふふ、わっちとしてはアドラスティアの行く末をきちんと見届けたいので足を運びんしたが……。
本当はファルコマン様の所へ行きたい所でごぜーますが、人手が足りてなさそうでありんすからねえ」
子供達は未来のものだ、と誰もが行く。故に、その命を失わぬようにと眩き光を放つのだ。慈悲の光が、命を奪わず意識のみを刈り取っていく。
聖なる哉。神の加護の傍をすり抜けて、フルールの傍に顕現したのはフィニクス。
「ファルマコン。異形の神。アドラステイアで崇められている神……いえ、邪神ですね。
破滅から生まれた終焉獣、滅びのアークの影響でしょうか。自然な滅びは仕方ないと思えど、こんな歪な滅びはさすがに私も受け入れ難いですね」
ファルマコンはイレギュラーズの足止めをすることに適している。桁外れた体力や耐性能力を有しているようだが、多勢を相手にすればその身も脆く崩れ去る。
目の前でけたけたと笑う女が神だというならば崇めたくはないとそう呟いて。
「これが神の御業だと? これが神の加護だと? はっ、寝言は寝て言え! さぁ、今度こそこの醜い悪夢を終わらせよう」
翼を開くかの如くTricky・Stars――稔は虚と共に立っていた。癒やし手たる己達。
機械仕掛けの天使の輪の駆動音だけが聞こえている。無数の管が脳を掻き混ぜるかのような奇妙な感覚だけが二人を包んでいた。
――ああ、どうかこの声が聞こえるのなら少しだけ手伝って欲しい。貴方達を苦しみと悲しみから救うために、全ての元凶を滅ぼすために。
Я・E・Dは目を伏せた。終焉獣から飛び出してくる無数の魂。死者の軍勢が少しでも『静か』にして居てくれるなら。
それが、滅びのアークに害されていないことを願い続ける。
(アドラステイアで発生した子供達も含めた沢山の死者達。死んでまで利用される彼らがこのままでは余りにも救われない。
……死者達の中には悪党で敵として自分が殺した者達もきっと居る。
それでも、死んでまでその魂が凌辱される事はあまりにも可哀そうだ)
だからこそ、声を掛けた。ふわり、と踊ったようにも見えた霊魂が幾つか。唯、その声を聞いてくれたことだけでもЯ・E・Dにとっては救いとなる。
●鐘塔IV
「さて、神殺しと名乗ってはみたが古来より神殺しとは大罪の象徴よ。
ならば神への恭順を良しとするか……否! 従うだけの意思なき羊など御免被る。
我々は人として神に抗う。破滅の呼び声に、人として抗う矜持を」
執行人の杖は歪に歪み、魔力の弦で弓へと化した。レイヴンの指先に僅かな朱が走る。
死刑執行を告げる如く断頭台の刃が鋭く引き絞り、号令と共に飛び込んだ。ガス欠までの直滑降。
魂の慟哭など、己に囁く怨嗟と比べれば滑稽でチープな響きに他ならない。降り注げや、鉄の星。
鈴音はレイヴンを支えるべくその身へと媽祖の補給を促した。終焉へと送り返さなくては『あの方舟』はどの様な未来を見せようというのか。
マカライトはティンダロスに跨がり特攻して行く。有象無象へと、神狼豪進す。魔力を推進力に神狼の双牙が迫り征く。
不可解な言葉ばかりを繰り返すファルマコンを前にしてマカライトは「黙れ」とだけ低く言った。
――わたしは、神なのだろう?
まるで友人のようだ。そう囁くならばエクスマリアだった旧知の仲のように話すだけ。
「また会った、な。ファルマコン。アドラステイアとお前を、滅ぼしに来た、ぞ。
散々喰らって来た死を、自身の命で味わう気分は、どうだ?
終焉を迎えるのは、お前の方、だ。お前の神話は、もう誰にも語られない」
――いいや、わたしは作られただけ。わたしは神話の一片に過ぎず、『悪魔』達よ。
終焉はわたしを越えて迫ってくると知りなさい。わたしは、方舟の管理者に過ぎない。
「どういう、意味だ」
エクスマリアが睨め付ける。ファルマコンの腕が拉げた。鉄の星は眩く輝き、命を奪うが為にぎらりと煌めくだけなのだから。
「いいえ、何だって良い。その言葉の意味が『これから先の未来』に影響を及ぼすとしたって!
人の尊厳を踏み躙る貴女の『確定未来』なんて覆す!
人が安心して生きられる世界のために、人が安心して眠れる世界のために――ファルマコン!! あなたはこの世界にいてはいけない!!」
叫ぶ佐里の癒やしの気配はリュコスを包み込む。小さな狼の牙が、偽神と呼ばれた終焉獣に突き立てられるその時を待つように。
「正義の心をこの一撃に! ギガセララブレイク!」
火花が散った。セララの剣が黒き宵闇の如きファルマコンの肉を断つ。
女の表情は変わらないが周囲を包む気配が薄れ行く事でダメージの蓄積を知る。
(あれの中には食われた人たちの魂がたくさん入ってる。血も同じ。
体に入った血を通して食べられた人たちをどんどんあいつから追い出す事が出来れば……!)
リュコスは傷を負ったって、滅ぶ事なき輝きを胸に走る。破滅と栄光、その頂に立つならば痛みだって越えて行けるから。
「もうファルマコンに何も食べさせない。
神が幸せをじゃまするならカミサマだって殺してやる――お前なんて怖くない!」
怯え竦んでばかりの小さな狼だって自分は置いてきた。
かみさまなんて、居ないんだ。かみさまなんて、要らないんだ。
「神様は賽子を振らねぇとは申すが『振る権利』があるとは誰も言っていない。
此れよりの舞台の御来賓は平等に『お客様』だ。さて、他人に賽子を『振られる』苦しみくらい一度近くすると良いぜ。
……生まれ落ちた存在が有する『平等な』権利だからさ、なぁ神様?」
それとも、とカイトは言った。目の前の神様(ファルマコン)が己は神ではないと定義するように、本来の神は何処かで高みの見物でもして居るのか。
――それこそ、そう。『傲慢』に。
死出を彩る呪われた舞台演出は地面より雨が降る。反転した事象は神が全てを支配する世界の理をも覆すかのようである。
傲慢な神が駒を使い遊ぶというならば魅せ付けてやれば良い。
巫女(シヴュラ)の託宣はこの様なところにまで、響かぬと教えるかの如く。
「何一つ恐れることなどありません。
正義は我らにあり。竦めば老いる。進めば勝てる」
リドニアの手にしているまどうしょは魔力を燃やす。常闇の華が咲き綻んだ。積極的な前進を。
「――叫べ。我らが天義の正義を。
ならばこの先陣、騎士アルフェーネが務めさせて頂く!」
神をも殺すが為。神逐とはよく言ったものよ。勝利のためにと歩む脚は留まることはなく。
突撃の号令を堂々と口にした娘は英雄譚に憧れたアルフェーネの騎士の娘。
朗々語らう鬨の声。それこそが我らの至高――例え、敗軍となろうとも。誇りだけは幾千年も打ち砕かれぬと信ずる鐘の音を。
奇跡よ。
晩鐘を響かすことなかれ。
「……私は! たとえ間違っていようと! 私自身を信じる!
これで終わりだアドラステイア! 私の迷いとともに消え去れぇーっ!」
美咲の叫声が、仲間の背を押した。
(本当はずっと気付いてた――母がいなかったら……。
いいえ、天義で生まれたのに天義の信仰に馴染めなかった俺はきっと、この子供達と近い所にいた)
彼者誰は名を捨てた。有るのは唯の従者一人だ。天義から逃げた自分が『天義に取りこぼした己』を救う戦いが此処にある。
「……ファルマコンの鐘よ、忌むべき怪物よ。今こそ墜ちろ」
祈るような望むような声音が後押しして行く。奇跡が此処に咲くならば、一度鐘の音を留め信仰を砕くためにある。
「完全に上の人が下を喰う為のシステムはどうかと思いますが……それにより作られた貴方の死体がどうなるかは興味ありますね♪」
くすくすと笑ったねねこの眸がすう、と細められた。
丈夫な鞄を手に、身代りねねこ人形を手にしていたねねこは死を求める気持ちに寄り添いながら瞬くような光を放つ。
ああ――死が目に見えるならばどの様に『残ってくれる』だろうか。
「よく分かりません。あなた方の言っていることが、何一つ。不正義は断罪されるべきです。そこに一片の思考の余地もありません。
……いやぁ、してみたかったんですけどね、神殺し。あなた、どう見ても偽物じゃないですか。ほんと、がっかりです」
嘆息する茄子子はそっと上を指差してから笑った。
「ああ、悪い子ですね。そんなに駄々を捏ねても、神様はちゃあんと見てますよ?」
――『 』
ファルマコンの唇が、確かな形に動いた。茄子子はその名に覚えがアル。茄子子だけではない、エクスマリアも、シキやリア、サンディもそうだ。
その傲慢な男は。
未だ姿を現していないそれは。
免罪符を掲げる茄子子は鐘の音を遮りたいと願った。嘘で良い。そこに『嘘』が溢れているならばそれこそが『茄子子』の生き方なのだから。
――『 』はわたしなど、もう疾うの昔に見ていないだろう。
「それ、は……お前が呼ぶそいつは『冠位』の――」
ブレンダは睨め付けた。ファルマコンは答えることはない。ただ、楽しそうに笑っているだけだ。
「ッ――」
ブレンダは手を伸ばした。それは、こどもたちへである。名もない聖獣を斬ったことなどもちろんあった。
それが元は子どもたちと知って思うところもある。
「――しかし後悔だけはしたことがない! 私は! 私の意思で彼らを斬り捨てたのだッ!
それが聖獣でも子どもであっても命であることに変わりはない。
私たちは誰かの平穏のために誰かの命を奪っているんだ。それはこれまでもこれからも変わらない。
お前たちが信仰に準ずるというのなら来るがいい。本当の神とやらの元へ送ってやる」
だから、もう。ブレンダは迷わなかった。子供達の未来が明るければ――そう願わずには、居られない。
●鐘塔V
「よう、カミサマよ。ドブ底でボス猿気取れて楽しかったかい?」
神を語った愚か者だとグドルフは鼻で笑った。掲げたのはロザリオではなく斧だった。
「ま、どうでもいいさ。てめえがニセモンって事も分かってるしよ。どちらにせよ、カミサマなんざ、居てもらっちゃ困るのさ。
なんせ──おれさまの悪行三昧を裁かれちゃあ、たまらねえからなあ!」
唇が吊り上がった。ファルマコンへと肉薄する。一か八か、などとは言ってられなかった。
「奪ってやるよ。てめえの命も、野望も、勝利も、何もかもだ!」
砕く。砕け。
そんな存在(もの)、必要ないというように。男は神なんて信じちゃ居ない。
光のように、解けて消えてくれるならば、どれ程に美しいのだろうか。死というものはメイには未だ良くは分からない。
(けれど、ねーさまがアドラステイアを気に掛けていたから)
子供達が笑って毎日を過ごせる国。大人がそれを微笑ましく見守り、成長を願う国。そうであって、欲しかった。
残忍なほどに子供を兵士として使ったこの国をメイは許せやしない。ひとの暖かさに、優しさに、触れてひととなったメイの支援が花丸を前線へと押し上げた。
「これ以上子供達がファルマコンの齎す破滅に飲み込まれてしまわない様に。少しでも子供達が笑って過ごせる様に!
――破滅なんかに負けないって、私達が証明するんだっ!」
全て『まる』っとお任せしていて欲しい。転んだって、何時だって『笹木 花丸』は立ち上がれるから。
「こんな所で、遣られてる暇はないんだからッ!」
ファルマコンが唇を吊り上げ笑う。腕が拉げようようとも、霧散した肉が崩れて征こうともそれは笑い続けている。
「ファルマコン、死を纏う獣、破滅の神。アドラステイアの、あの子たちの信じた神は、こんな……」
唇が震えた。ファルマコンだけを、ただ、只管に見詰める正純の星芒の眸に決意と苛立ちが籠められる。
「何が面白いのです。何を笑っているのです。滅びが救いだと、死が救済だと、そんなものを明日に迷う子らに押し付けるのなら。
それはどうしたって認められない――だから、ここで討ち果たす」
――いいや、死は救済などではないさ。
滅びは『定められている』のだから。再誕を果たすその時まで、わたしたちは輪廻を回す意義がある。
お前に、どんな定めがあるのかは知らない。
サクラは、聖奠騎士団(サクラメント・エクェス)はそれを許せやしない。
「ファルマコン、この街はお前が『人を喰らう』その為に生み出したのか。
子供達が泣いていた――苦しんでいた。その全てが! ――お前の為だったというの!?」
掌が震える。唇が戦慄いて、上手く言葉を紡げやしない。サクラの傍にはスティアが立っていた。
「サクラちゃん」
「……スティアちゃん」
騎士と、聖職者。立場は違えど、天義を愛してきた、天義で産まれた『天義の貴族』。
「貴方のせいで沢山の人が悲しい想いをしたんだ。その代償は払って貰うよ!」
真っ向からスティアは叫んだ。二人の決意も、怒りも、その全てがこの美しい白亜の国のためにあるとアーリアは知っていた。
(平民の私と、貴族のスティアちゃん、サクラちゃんと。
……きっと前の天義であれば交わらなかった道が、交わっている。
これも神様の采配なら、神様も意外と捨てたもんじゃないわね)
唯の平民であるアーリアは『召喚』されなければ彼女達と過ごす事はなかっただろう。それでも、共に在る。共に進むことが出来る。
「だからね――私はこんな壁の中で神様ぶってる貴女を殺すわ」
ただ、アーリアはそれだけを言った。眼鏡の位置を正し寛治はいってらっしゃいと言わんばかりにサクラの背を押した。
「背中はこちらがカバーします。皆様はファルマコンに集中を」
「ええ、そうです。天義の、アドラステイアのコトをさして詳しく知る訳ではないです。
それでも、そこから来たとされる遠く深緑の地まで傭兵として送られてきたこどもたちは知っています――追い詰められたような彼ら彼女らを」
ドラマはだからこそ、皆の行く道を作ると言った。蒼き魔力を手繰り寄せる。無数の影が行く路を開いて行く。
もう『美しい音色』は聞こえない。彼女の傍に居た鐘(カンパニュラ)も朽ちてしまったのだから。
(ああ――終焉獣。混沌を基に予測されたあのROO世界で見た終局の足音を、近く感じますねぇ)
寛治が道を切り拓く。黒き靄のように、肉体を害する気配を退けんと目を伏せた。
腕時計は狂った時間を差している。それでも自動拳銃を手にした男の照準はずれることはない。広がっていく鉛の掃射。
雨あられの如く降ればメイは害する全てを退けるように手を組み合わせた。
――ああ、こんな神託はなかったと言うのに! 悪魔め!
スティアにそれは注目している。ぎょろり、と眼が動く。呼び声なんて、全て撥ね除けるようにスティアは聖女らしからぬ発言をした。
「悪魔はどっち? 呼び声なんて聖歌でかき消してやるー! 聖なる祈りで皆を癒やすよ!」
「それって聖女っぽさないよね」
「ががーん!?」
花丸に笑われてからスティアはそれでもいいと謳う。癒やしを、百花繚乱に咲き誇れ。
「私達は力無き人達の為に戦っているんだ。だからこんな所で負ける訳にはいかないよね? 皆に勇気と希望を与えるのが私達の役目だよね!」
「そうね。『しあわせなせかい』を恍惚の夢の中で見て、死になさい。ファルマコン」
眠ってしまえば良い。その全てに苦しまなくてもいい。
アーリアの唇が蠱惑的にも揺らめいた。
「アンタは死を喰らう神、そして俺は――死を背負う死神、だからこそアンタとは相容れない。
誰かの死すら只の食とするのなら俺にとってお前は刈り取るべき障害だ!」
オプスキュリテを振り下ろす。クロバは気配もなくファルマコンを『抜く』一撃を放った。
黒き靄が霧散する。視界をも覆う赤き血潮。唇を噛み締める。
分解の錬金術が刀身を包み込んだ。救いは、己には不相当だと死神は笑う。
「すまないな、此処にいる魂たち。俺が”本物”の死神だったなら、お前たちを連れていけたのかもしれない。
その苦しみを、悲しみを預かれたのかもな。――自己満足と謂うか? ならば嗤え。そして俺に託して逝け!」
死神の肩を叩いたのは蒼き空。まるで蒼穹を思わせた眸。
「あたし達はイレギュラーズ。滅びを喰らい、絶望の中に希望の花を咲かす特異点。あたし達は、お前達が齎す絶望を否定し続けるわ!」
兄と呼んで揶揄って。リアはその美しい旋律に頭痛を感じ取る。
「リア」
「分かってるわよ、行きなさいよ、サンディ」
深みに嵌まればシズムのは誰だった同じだとサンディは笑った。一人二人を救っただけでは何も変わらなかった。
「ま、暗雲は打ち払うのが『風』ってもんさ。ガスタの分も俺が『晴らす』!
『俺たち』の絶望なら『俺たち』で必ず抗える! 雲は必ず晴らせるんだ!!」
命を賭けたってって、サンディもリアも良かった。
サンディが望むならリアは馬鹿と笑うだろう。シキが望むなら無茶しないの、とリアは肩を竦めるだろう。
それでも良い。星鍵は、遥か美しき願いを届ける願望器。友が救いを求めるならば叶えずして何が玲瓏郷の次期主か。
「シキ――――!」
呼ばれた少女が直走った。
「私ね、アドラステイアでたくさん子供たちを見たよ。
どうしようもない現実で、神に縋って……そんな子達が、子供らしく笑って泣いて、そしていつか素敵な大人になる。
私はただ、そんな平凡でちっぽけな、幸せな未来を望みたい。だから、お前に未来を奪われていい子なんていないんだ!」
破滅なんて、もういらない。此処で留まりたかった。
「なにが終焉だ、破滅だ。そんなのに頼るくらいなら! 私と一緒に未来を夢見てくれよ!」
ファルマコンの闇を払うように鮮やかなる花が咲いた。
育まれし万物の命は心を宿し、生命の軌跡を紡ぐ。瑞兆は成長を続け、やがて遠き行き先も照らす一閃となるのだから。
明けない夜はないと知っている。明けの明星、東の空に眩く光るそれを正純は知っているから。
「これは夜が明けぬ都市に送る夜明けの一射―――夜残! 砕け散れ、夜の帳よ!」
正純の一射を追掛けた。聖刀に魔力が迸る。咲き誇る花の如き、華麗なる剣技、『ロウライト』の血が叫ぶ。
「私達が騎士になった理由はなんだ! 守るべき者がいる! 幸せでいてほしい者がいる!
――その願いを叶える機会にあって、膝を屈する暇があるものか! 私は、サクラ・『ロウライト』! 天義の騎士だ!」
スティアが居る、アーリアが居る、皆がいる。
お願い。力を貸していて。この剣が悲劇全てを攫う事を信じさせて。
「輝け禍斬! ――これで……終わりだーーー!!」
掻き消えていく死が。
薄らいでいく気配が。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
アドラステイアは『強欲』戦の後から長期的に運用されていたシナリオです。漸くの決戦となりました。
ですが、天義はまだ何かの思惑が蠢く場所となります。ファルマコンも、屹度それに遣わされて来たのでしょう。
アドラステイアの子供達は身寄りもない子供も多いです。気になる子がいれば、是非引き取ってあげてくださいね。
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
終焉獣『ファルマコン』の撃破
●アドラステイア
天義東部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
==例==
【A】
月原・亮 (p3n000006)
なぐるよ!
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●行動
【A】疑雲の渓
アドラステイア外郭部に存在する渓。
底も見えぬほどの場所であり、この場所では魔女を蹴り落とす事で採炭すると信じられた。その、底へ。
この戦場には『魔女喰い』が存在している他、聖獣が更に死を求めて周辺集落へと飛立とうとしています。
降りる為には飛行等が必要となりますが天義騎士団の【飛行付与】などの支援を受けることも出来ます。
但し、地上に下りる前に飛行能力を失い落下した場合は即死しますので注意してください。
・聖獣
アドラステイアで作り出された天使の紛い物。白い翼を有しているものが多く聖獣様として尊ばれていました。
その正体はファルマコンの血等を配合して作られた薬剤を飲まされ肉体が変化した『人』です。
元は人間でしたが構造を作り変えられ救われる事の無い悲しき生き物となっています。
今は、人を殺し命を奪う事だけを考えています。無数に存在しています。
・アドラステイアの下層の子ども達
アドラステイアにしか寄る辺の無かった子ども達です。
渓底で魔女喰いを守りきれば素晴らしい生活を送れると教わり盲目的に武器を握っています。
その数は無数と存在し、誰もが痩せぎすで空ろな目をしています。
どうやら、イコル(聖獣を作るための薬剤。幻覚作用がある)を僅かに摂取し中毒症状があるようです。
・ティーチャー・テマイオス
『アルケーの天秤』。『ピリア』と『ネイコス』を手にしている。
心根の清き慈愛に満ち溢れた者が前に立てば『ピリア』は満たされ、
心根の昏き憎悪に満ち溢れた者が前に立てば『ネイコス』が満たされる。
子ども達の献身と魔女喰いのおぞましさの均衡を保ち続けて、子ども達を指導しています。
・魔女喰い
ファルマコンの分身体。此れを斃す事でファルマコンが弱体化します。
非常に大きな固体でありブレイクと必殺を所有。必ずしや渓へ堕ちたものの命を喰らう。それだけの為に産み出された怪物。
魔女喰いの身体を通してファルマコンは会話を行うことが可能です。
また、魔女喰いからは『落とされて死んだ者達』の怨嗟や悔恨の声が響き渡り――数ターンに一度『致命者』が生み出されます。
※この戦場で死亡した場合は魔女喰いが『その死骸と魂』を食う事で糧にすることが出来ます。
・致命者
殉教者の森でも見られた死者を形作った存在。魔女喰いが食べた魂を咀嚼して作り出した異形。
人間の形をしているが、それその者は滅びのアークを発信するだけの『滅びのアークの塊』でしかない。
★味方
・天義聖騎士団
天義聖騎士団より派遣された隊です。皆が純黒を身に纏い、魔女喰いを斃す事に執念を燃やします。
→【士気ボーナス】今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
・月原・亮 (p3n000006)
前衛タイプ。剣を武器に切り込みます。余り深追いをしないように注意しますが、何かあれば指示して下さい。
【B】ヘブンズホール
アドラステイア上層に存在する鐘塔にて作り上げられた空間。『アドラステイアの頂の更に先、天上にあるという神の園』
そこでは死した者や断罪された魔女たちが祝福を受け清らかな魂となり、永遠の命と聖なる身体を得ていつまでも幸せに暮らしていると信じられていますが――
何もない暗闇が、その場所には存在しています。
・聖獣であった『こどもたち』
皆が変化する前の子どもの姿をしています。誰もが苦しむことは無く唯一の神様であったファルマコンを守るべく戦います。
自在にその身体を変化させるために死者の姿を借り、イレギュラーズの苦い過去を形取ることもあるでしょう。
あなたは、名も知らぬ聖獣を殺したことはありませんか?
・『プリンシパル』シュナ・カンパルニエ
ティーチャー・カンパニュラの子飼いの部隊『蜜蜂』所属。
洗礼名は『ロサ・ステラータ』。カンパニュラには『ステラ』と呼ばれています。
救いを求めてはおらず、ファルマコンに従いたいとさえ考えているようです。
・ティーチャー・カンパニュラ
腕を失い、半身から白い翼を生やした異形。美しい天使を思わせるのです。
自我も胡乱。くつくつと笑いながらファルマコンを守るために立ち回っています。
意外と前衛タイプであり、非常に凶暴性の高い『聖獣』
・ファルマコン
終焉獣。それそのもの。破滅そのもの。
死を喰らうアドラステイアの神。女の姿をしているがそれは『何時かに真似ただけの姿』であり、実際には黒い靄でしかありません。
人を養分としか思っておらず、広範囲にいたる攻撃を放つ。
ファルマコンの血潮を体内に蓄積する事でダメージが発生する(ランダムでBSが複数個付与される)
ファルマコンの側からは無数の魂の欠片が飛び出し、苦しみを、悲しみを叫ぶ。
それらは実体を持ち無数の死者の軍勢となります。ファルマコンは生きているだけで無尽蔵に破滅に近しい気配を放ち、死者の軍勢を『破滅』を呼びかけます。
滅びのアークによる呼び声は鐘の音として響き渡るようです。
★味方NPC
・天義聖騎士団
リンツァトルテ・コンフィズリー、セナ・アリアライト、イル・フロッタ、エミリア・ヴァークライトなど。
天義騎士団団員がヘブンズホールに挑んでいます。産み出された死者の軍勢を相手にしています。
→【士気ボーナス】今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はD-です。
基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
不測の事態は恐らく起きるでしょう。
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