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シナリオ詳細

<DyadiC>相克のデザイア
<DyadiC>相克のデザイア

完了

参加者 : 100 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●憤怒の夢
 生まれたその日から、男にとってソレは大願であった。
 神よ、願わくばこの大願を聞き届けたまえと、幾度天に捧げたかもわかるまい。
 幼き頃はひたすらに希い、大人になっては自分こそはと――そう想って動いたのだ。
 市井の者が税がきついと言えば手段を講じて減税や施しをくれてやり。
 自分でも田畑を耕し、穀物を植え、水を引いて灌漑を整備し、堤を築き。
 古跡を紐解き観光地を作り、そこへ至る道がないからと道だって敷いた。
 ――――であるというのに。彼らは何ももたらさなかった。
 そうだ、たとえ民政などというものに意を示そうが、この国の大半はそんなものは微塵の興味もない。
 そうだ、たとえ古の記憶を紐解き、国に自らの立場と栄光を示そうと、それは所詮過去でしかないのだ。
 ……ゆえに、男はその日をもって諦めた。
 この国で、誰かを頼ってなど望むべくもない。ただ、自らの手でもぎ取るしかないのだと。
 燻ぶる怒りはいつの間にか汚泥のように纏わりついていた。

 そのために、愚にもつかぬ妹を貴族らしい貴族、凡庸なりし愚者の下へ送り込んだ。
 そのために、邪魔な小娘を追放するつもりで手を打った。
 そのために、凡愚とその子を討つための兵を集めた。

 ――――もう、いつからそうなったのかを覚えてない。
 少しばかり前のような気もすれば、つい最近のような気もする。
 それでも、宿願は変わらなかった。
 そのために、路端の石に等しくなることを受け入れた。
 そのために、幼き日に願った神に仇なすことを受け入れた。
 そのために、自分以外の全てを切り捨てることを受け入れた。

 …………あぁ、だというのにもかかわらず、どうしようもないイレギュラーが、こんなにも我を苦しめる。

 ――パリンっと、音が鳴る。
「……くそが」
 舌打ちと共に声を漏らす。腰かけた椅子が、ぎぃと古びた音を立てた。
 何か強い振動を受けて割れたようなグラスが、男――イオニアスの掌からぱらぱらと落ちていく。
 黄昏時の陽射しが、背中を打っているのを感じた。
「忌々しきは――」
 ――なんであったか。
 小娘か? 特異点か? あるいはーーーー
 異様な眠気に抗うように目元を抑えて、男はギリギリと奥歯を噛み締めた。
 不愉快極まる感情のはけ口が、どこにもない。

「閣下!」
 兵士が扉を叩きつけるようにして入ってきた。
「吉報であろうな」
 掌をかざし、力を籠める。それに一瞬おののき、兵士が敬礼を残す。
「各地より兵士長らが集めた軍勢が、ここを目指して進軍しております」
「ふん、そうか」
 イオニアスは自らの手で口当たりを揉むように触れる。
「そういえば、貴様の名は何と言った?」
 この古城に落ち延びて、この男は常に報告に来ていた。
 数度攻撃をくれてやってもなお、恐れずにだ。
 それもまた、己の威信を汚されるようで忌々しい。
「はっ! ゲレオンでございます!」
「ゲレオン……ゲレオンか。あぁ、そんな名前の男を聞いた覚えがある」
「不肖、閣下の小姓を務めさせていただいておりました」
「ふん……そうか、であれば、貴様に祝福をやろう。最期まで我に着いてくるな?」
 跪くゲレオンに近づき手をかざす。
 それは原初の音。終わりに導く音である。
 うめき声をあげるゲレオンから視線を外し、窓辺から外を見下ろす。
 眼下にいる、全ての者達へ向け、イオニアスは舌打ちする。
「我が声を聞け――民草よ。
 我が声に従え。我が声を恐れよ。
 我が声に頭を垂れよ。貴様らの内にある怒りに全てをゆだねよ!」
 まるでワイングラスを握るように手を掲げた魔種が、告げる。
 それは、まるで拡声器にでもあてられたかのように、町中に走り抜けていく。
 音が不可視の檻となって古城を包み込む。
 町のいたるところから、人々の苦悶と憤怒の音がどよめきを作り出す。
「民よ、聞け。我が名はイオニアス・フォン・オランジュベネ。
 我が怒りは、天より受けた恩寵である。
 ――貴様らをこの古ぼけた町に閉じ込めたあの小娘を殺すのだ」

●掻き抱く想い
 反響する音色は、恐ろしく心地よく、甘美だった。ゆえにこそ、それは酷く恐ろしく、酷く悍ましい。
 閉じていた目を開いて、女は扉を開けた。発狂し、縋りついてきた見知らぬ男が、拳を振り上げる。
 それに合わせるようにして、男の顎を揺らして鎮め、空を見あげれば、蒼い空に陽射しが見えつつあった。
「……クルトよ、お前が殺された日も、こんな晴天あろうか」
 ぽつりとつぶやいた言葉は、ざわめき散らす人々の声にもみ消されていく。


●彼たれ時にて
「……お集まりいただき、誠にありがとうございます」
 テレーゼ・フォン・ブラウベルクが真剣な表情でイレギュラーズに向き合った。
「先日、私の伯父、イオニアスが魔種として行動を始めました。
 先だっての規模の大きな戦いの後、皆様の中にはも小競り合いに接された方もおられたかと思います。
 そして今、彼は各地で小規模な軍隊を編成し、とある一拠点目掛けて集結させようとしています」
 テレーゼは、真一文字に口を結んだあと、やがて真っすぐにイレギュラーズの方を見渡した。
 ここに集められた数は多い。そのため、わざわざ彼女の部屋ではなく、ブラウベルクの中にある酒場へと移動して、貸し切りのような状況であった。
「今回、皆様にお願いするのは、これらの軍勢が集結する場所、そこにいる伯父イオニアス・フォン・オランジュベネの討伐です。伯父の狙いは、まず確実にここ、ブラウベルクを征圧し――または愚かにも王都さえ狙うつもりでしょう。
 とはいえ、敵は魔種。伯父がこの軍勢を従え軍事行動を行なって――万が一にも勢力圏を築くことなどあれば、イレギュラーズの皆様にとっては大変なことになるはずです」
 そこまで言って、テレーゼは一つ息を吐いた。 
「この任務は、敵の本拠地に乗り込む――大変危険なものになります。
 ですが、敵城の内部構造に関しては皆様のご活躍によって地図が再現されておりますし、
 情報によれば、伯父の能力は低下しつつあるとのこと。
 軍勢が集結しきっていない今、勝機はあると考えております」

 ――どうか、ご無事での帰還を、と。少女はそう言い残して目を閉じる。
「私はここで、それをお待ちしております。
 皆様の勝報を聞きたいですし、何より大切な人達がここにはいますから……」
 耳をすませば、外にいるであろう民衆の声が、君達にも聞こえる気がした。

GMコメント

 決戦シナリオでございます。
 おじじをぶっ倒してやりましょう。

■排他処置
当シナリオは<DyadiC>レイドシナリオと排他処置があります。どれか1つしか参加できません。あらかじめご了承下さい。

■Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 白紙や意味をなさないプレイングは、重篤な状態を引き起こす可能性があります。
 予め、ご了承の上のご参加を頂きますようお願いいたします。

■成功条件
魔種イオニアス・フォン・オランジュベネの討伐

■概要
 イオニアス・フォン・オランジュベネによる暴動事件が少しばかりの下火となって少し。
 陰ながらに牙を研ぎ続けていたイオニアスが、各地から狂気に駆られた人々で構成される軍勢を呼び寄せ、挙兵を目論んでいるという情報が入ります。
 そこで、テレーゼ・フォン・ブラウベルクは各軍勢の討伐と同時に、軍勢達の集結地点、『血の古城』からイオニアスが動けぬことを見越し、これを早期に潜入、討伐する作戦をローレットに提案しました。

■行動選択
 イレギュラーズは下記に記す【1】~【4】までの戦場のいずれかを選択し、行動します。
 プレイングには『優先して使用するスキル』を記載してください。
 これをもとにPCたちは自分が現状においてより活躍しやすい場所や相手を選んで戦うようになります。
 これに加えて『スペックの優れている部分』や『お気に入りの武器やアイテム』を記載することで状況に対する強みを増し、より活躍しやすくなるでしょう。
 また、この事件や自分の役割に対する意気込みを台詞にして書き込んでおくと、もっと素敵に活躍できるはずです。

■同行設定
 特定のPCと一緒に行動したい場合はPCの名前とIDを必ずプレイング二行目以降に記載してください。
 下の方に埋まっていたりIDや名前が無かったりした場合はぐれることがあります。
 例:レオン(p3n000002)
 同行するメンバーが3人を超える場合は【】などでくくったチーム名独自のチーム名を記載してもよいものとしますが、チーム名がメンバーごとに間違っていたりするとはぐれる原因になるのでくれぐれもご注意ください。

 なお、一緒に行動できるのは同一戦場を選択していなければなりません。

■プレイング書式
以下のプレイング書式でお願いします。
一行目、選択する戦場【1】~【4】
二行目、同行者(ID)、或いは【】などでくくったチーム名
パンドラ使用の有無
四行目以降は本文


【4】
テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)
味方をサポートします

■戦場
<血の古城>
 かつて迷い込んだらまず出られないと謳われた陣地、その陣営をそのまま家屋や店舗に組み替えたとされる迷宮染みた場所です。
 本来ならば進撃も撤退も非常に困難ですが、今回、クエストでの大活躍により全員に『血の古城マップ』が付けられ、我が家のように闊歩できます。

<音殺結界>
 イオニアス・フォン・オランジュベネが戦場へ張り巡らせた音による結界です。
 戦場が音源(イオニアス本体)から遠い程、その効力が低下します。
 皆様の活躍により、大幅に弱体化しています。
 「エネミーへの狂化」「エネミーの火力強化」「敵味方問わず、純種への反応、抵抗の弱体化」「神攻での固定値ダメージ」の効果を有します。

【1】城門一円
 古城へ入ってすぐ、文字通りの城門近辺です。
 複数の兵士長に率いられたオランジュベネ家の私兵や、狂奔に駆られる民衆が殺到してきます。
 音殺結界の効力は全くありません。
 ここが破られれば、イレギュラーズは文字通り、退路を失います。

・BOSS
<魔種『ゲート・ガーディアン』>
 非常に高いHPと防技を有する強力な魔種です。
 見た目は5~6mほどの重装甲歩兵といった感じです。
 自域相当範囲への攻撃を得意とします。
 残念ながら、個体としての意識は期待できません。


【2】市街地戦
 城門からやや進んだ市街地での戦闘です。
 エネミーは凶暴化した魔物です。
 音殺結界の効力は限りなく小さいです。
 この戦場の鎮圧が失敗すれば、無辜の民や兵士達に無差別に襲い掛かる可能性があります。

・BOSS
<大型のキメラ>
 獅子と羊の頭部、狼の足、蛇の頭で出来た尻尾のある巨大化した化け物です。
 多様なバッドステータス系の能力を有します。

【3】本館前
 敵の本館の寸前です。
 この戦場は迂回可能ですが、迂回する場合、下記の敵エネミーは『戦闘が行なわれているいずれかの戦場』に移動、手当たり次第にイレギュラーズへ襲い掛かります。
 迂回せず戦う方が安全です。
 BOSSエネミーのみ。
 音殺結界の効力は小規模程度です。

・BOSS
<アンドレア>
 身の丈を悠々と超える大太刀を持つ女性です。
 かつて、『<刻印のシャウラ>蒼き丘を越えて』にてイレギュラーズが討ち取ったクルトという人物の姉に当たります。
 クルトを討伐した方がこの戦場にいる場合、BS怒りの優先度が『クルト討伐時の依頼参加者>通常の怒り付与>その他』となります。
 ヘイトコントロールに使うもよし、参加しないもよしです。
 単身で戦場の一つにいるのに充分な強力な敵です。
 非常に高い抵抗力と物攻を有すオールラウンダーです。

 また、彼女は音殺結界の効力を拒絶しており、条件としては突入してきたイレギュラーズと同様の状態にいます。
 純種のため「敵味方問わず、純種への反応、抵抗の弱体化」「神攻での固定値ダメージ」の効力は受け続けていますが、固定ダメージだけでほっとけば死んでくれるほど優しくはないです。

イオニアスの戦場と比べればマシですが、非常に危険です。

【4】本館突入
 本館内部、本来はシェルターだったであろう巨大な地下空洞でイオニアスと決戦します。
 イレギュラーズの活躍により、大幅な弱体化が見受けられますが、それでも仲間達で一丸となって力を合わせて戦わなければ決して勝てません。
 前回、<紅蓮の巨人>で交戦した時のデータはあまり参考になりませんが、『音』を操る
能力を持つことは共通します。
 音殺結界の効力は中規模です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <DyadiC>相克のデザイア完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別決戦
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年10月05日 23時30分
  • 参加人数 100/100人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 100 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(100人)

夢見 ルル家(p3p000016)
求婚実績(ヴェルス)
アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
ふわふわな嫉妬心
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
知識の蒐集者
クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
影刃赫灼
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
祈る者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
守護の勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
蒼海守護
アラン・アークライト(p3p000365)
勇者の使命
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
絶巓進駆
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
リゲル=アークライト(p3p000442)
死力の聖剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
『知識』の魔剣
銀城 黒羽(p3p000505)
死を許さぬ
オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
果ての絶壁
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
カイト・シャルラハ(p3p000684)
鳥種勇者
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
金剛童子
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
清水 洸汰(p3p000845)
雲水不住
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴猛たる巨牛
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
ジェイク・太刀川(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヨハン=レーム(p3p001117)
助手
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
希望の聖星
雨宮 利香(p3p001254)
雨宿りの
マルク・シリング(p3p001309)
フレイ・カミイ(p3p001369)
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈る暴走特急
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
Righteous Blade
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
天穹を翔ける銀狼
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
終焉語り
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
カレン・クルーツォ(p3p002272)
蝶かげろい
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
玲瓏の壁
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
無影拳
ニル=エルサリス(p3p002400)
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
ディフェンダー・フォックス
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
蒼き深淵
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ルナール・グルナディエ(p3p002562)
紅獣
マリス・テラ(p3p002737)
Schwert-elf
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
五行絶影
那須 与一(p3p003103)
はですこあ
クーア・ミューゼル(p3p003529)
にげねこ
アベル(p3p003719)
未来偏差
アルム・シュタール(p3p004375)
堅牢なる楯-Servitor of steel-
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
風巻・威降(p3p004719)
悲劇を断つ冴え
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ヨランダ・ゴールドバーグ(p3p004918)
不良聖女
サクラ(p3p005004)
聖剣解放者
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
小鳥遊・鈴音(p3p005114)
ふわふわにゃんこ
美咲・マクスウェル(p3p005192)
魔眼の前に敵はなし
すずな(p3p005307)
妹弟子
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師
グレン・ロジャース(p3p005709)
不沈要塞
エリシア(p3p006057)
鳳凰
時任・兼続(p3p006107)
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
闇討人
ティスル ティル(p3p006151)
雷雀
氷彗(p3p006166)
氷の精霊
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
比良坂・屍(p3p006231)
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
ルチア・アフラニア(p3p006865)
斜陽
ビーナス・プロテウス(p3p007066)
渇愛の邪王竜
一条 佐里(p3p007118)
銀の腕
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
誰かの為の騎士
チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)
魅惑の魔剣
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
黒狼
雪村 沙月(p3p007273)
百錬成鋼之華
メルトリリス(p3p007295)
聖少女
恋屍・愛無(p3p007296)
ラブ&ピース
回言 世界(p3p007315)
凡才の付与術師
加賀・栄龍(p3p007422)
人生葉っぱ隊
プラウラ・ブラウニー(p3p007475)
普通のソードマスター
鳴神 零(p3p007501)
殺人鬼

リプレイ

●不退転
 複数の空堀と、川で囲われた平地に石をくみ上げて作られたそこがイレギュラー図の目指す戦場だった。
 静かなたたずまいより感じるのは、異様な迫力。
 城壁は不定形に作られていた。
 静かに閉じられた城門を蹴破るようにして突破したイレギュラーズを出迎えたのは雲霞の如く控える兵士達と――その中心に立つ一体の巨人。
 手に持つのは異様にでかい斧か何かであろう。
「ゴォォォォ」
 重装甲の歩兵のように見える、やや丸みのあるそいつが吼えると、それに反応するように山ほどの兵士達が雄たけびを上げた。
 それに続くように、イレギュラーズたちも彼らを押し返すように動き出した。
 べークは丸みの体を持つ魔種の雄たけびに応じるように動き始めた兵士達と前に自らの身体の再生力を活性化させた。
「慣れてるんですよ、こういうのは……人の身に化けても、
 異質さが隠せない。こういう時は都合がいいですけどね!」
 そんな名乗り向上とともに、一陣の風が吹いた。
 漂い、戦場を包むはある種の異質――甘く香ばしい香り。
 その匂いに導かれるように、多くの兵士達がつられていた。
「そうなっても、甘いものは好きなんですね」
 酷く物悲しさを感じながら、べークはこぶしを握る。
 己の痛みには再生力がある。
 顔見知りの彼らの力になれるならとそう思って、少年は自らに迫る兵士達へ拳を合わせた。
「いよいよ、あっちも本気を出してきたって感じだなー?
 だけど、オレ達も負けてらんね-ぞ!」
 クローズドサンクチュアリによる耐久力の底上げを果たした洸汰は、一番に近づいてきた兵士めがけてハイタッチを向けた。
 意味もわからず応じた兵士がその瞬間わけもわからずその生命力を吸い込まれていく。
「どんどんこいよ!」
 翻って受ける兵士からの攻撃を大きく受け止めながら、にっと洸汰は笑う。
 少年のような屈託のない笑みを向けられた兵士が動揺していた。
「そんなんじゃオレ達を倒せないぜ!」
 一歩、前に出る。それに恐怖したのか、兵士が雄たけびを上げた。
(きっと、ここで戦うと、すこしあかるくなる) 
 アルペストゥスは戦場を空から見つめながら心地よくない気配を感じ取りながら眼下を見下ろす。
 遊色効果のある鱗をした古代竜は静かに多くの兵士達の中でも、率先した動きを見せる者がどれかを射程に収めながら選別していく。
「……」
 そして――爆雷竜は翼を大きく広げた。
 直後――雷鳴のような音と共に、無数の雹が兵士達へと降り注いでいく。
 高い威力の空からの攻撃は多くの敵を貫いていく。
「グルルル……」
 口を開き、動きを緩めた兵士めがけて稲妻を打ちこむ。
 泰然自虐とした異界にて神竜と称される若き竜は敵陣をなぎ払っていく。

「僕達の戦いは確かに、華々しい物ではない。
 魔種を討伐する英雄譚の影。しかし、不可欠な仕事だ!
 このイレギュラーズのライフライン、絶対に落とさせはしない!」
 ヨハンは静かに燐光を纏う月のように美しい大剣を構えた。
 月のように美しく、月のように妖しく、構えたフルムーンの輝きがいっそうと増した。
 神聖さを増した大剣を一人の兵士へ向けてたたきおろす。
 一撃を受けて崩れ落ちた兵士は、それでも死んでいない。
 うめき声を上げながらも、身体を動かせぬその兵士を見やり、ヨハンは向かってくる次へ向けて剣を構える。
 偽善だろうと、自己満足だろうと、ヨハンの望む道は不殺だった。
 【防衛組】と名づけた彼らはこの戦場において、文字通りの生命線のひとつである。
 退路たる後方を守り抜きながら、多くの兵士達を受け止める。
 いうだけならば単純。しかして恐ろしいほどに困難なもののひとつ。
 あたかも総動員を錯覚する多くの敵であろうと、彼らならば、打ち倒してこえていくことも、やろうと思えばできるはずだった。
 けれど、彼らの多くが選択したのはソレではない。できる限りを不殺にとどめ、静める。
 それは間違いなく、困難だ。
 だが、その困難を選び取り行くことこそが彼らと、恐らくはこの町の奥で待つあの男との最大の違い、なのだろう。
「一歩たりとも、誰一人。この先に進ませねぇ!」
 黒羽は自らの拳同士を打ち合わせて気合を入れなおすと、深呼吸をする。
 全身にこもる闘志のすべてを操り、広域へと伸ばしていく。
 絡めとられた兵士達が視線を黒羽へ集中させていく。
「イオニアスを安心して倒せるように、此処は絶対ぇに落としはしねぇ!
 着やがれ、俺が全員、きっちり止めてやる」
 致命傷になりうる傷を、不運を意地でひねり伏せて、男はひたすらに立ち続ける。
 突き出される槍を受け止め、振り下ろされる剣を受け、揺るがぬ男は向かってくる運かのごとき兵士達を相手に、決して自ら攻撃することなく、ただ、受ける。
「我等『物語』は古き支配者。無窮にして無敵なる存在」
 純黒の向こうで、きゅいっと赤が弧を描く。
 静かな言葉に、恐慌に駆られた兵士達が殺到していく。
 無数の兵士達の攻撃を受けながら、それらをまるで意に介さない。
 この程度ではまだ足りない。
 それはきっと、敵から見れば暗闇を突いているのではないかと錯覚するような、圧倒的な畏怖。 
「砕かれるのも好ましいが、其処までの戯れは不要。
 ――――我が身は既に愛された」
 闇の中より現れたけーきが一人の兵士へとぶちまけられる。
 呪いを齎すソレが、命を吸い取り、自らのものへと転換する。 
 終わらぬ物語はないかもしれないが、これはいまだ始まったばかりの、新しい神話なのだから。
「民衆まで狂気で動員するなんて……仮にも領主になろうって人のやることじゃ、無い!」
 普段の柔和な表情を少しばかり怒りに染めるマルクは【防衛組】の中でも後方にいた。
 この数の兵士達を相手取るには、癒し手なしというのはあまりにも無謀である。
 自らの調和を賦活の力へ変換した青年は、その祝福を黒羽へ向けて降り注ぐ。
 マルクが紐解く英雄譚の効果が民衆を相手に奮闘を繰り返す仲間達への加護をもたらして、彼らの動きを更に最良に調整することもあり、イレギュラーズの動きは着実に進んでいた。
  イレギュラーズの必死の防衛線は、その多くが最大限の効果を発揮している。
 だが、それでも、圧倒的な多数の兵士達は彼らの引き手を超えて防衛線に攻撃を加えてくる。
「此処を確保出来なくては皆が安心して戦えませんから、張り切って防衛致しましょう!」
 ドラマは破邪の聖典――その写本を紐解きながら魔力を高めていく。
 迫りくるは波のような無数の兵士達。
 ならば、紡ぐべきはこれであろう。
「――其は荒れ狂う暴風
 ――其は駆け抜ける雷鳴
 ――其は吹き荒ぶ滂沱の化身」
 厚い雲が、空を覆う。雷鳴が轟き、白と青が戦場を走り抜ける。
 暴風が兵の波を堰きとめる。
「――我が前に立ち塞がりし有象無象を打ち滅ぼせ
 ――――其の名は『嵐の王』」
 かつて混沌に存在したとされる暴威。
 それが、極々小規模に、目の前の兵士達へと走り抜ける。
 後に残るは吹き飛び朽ち果てる者達のみ。
 巻き込まれた兵士達がひざを屈して倒れていく。

 そして、ついにその道は作り上げられた。
 その敵への道を切り開くように前に出たのはヒィロだった。
「さあ、楽しく殴り合お!ボクはもっと世界を楽しみたいんだ。
 その邪魔になるなら倒す、それだけ!」
 ヒィロは周囲に漂う狐火を浮かべながら叫ぶ。
 それは自らの不運さを込めた狐火。生命力を消費して作り上げたそれを、敵陣めがけてぶち込んでいく。
「はいはい邪魔邪魔ー」
 七色の魔眼をただ、魔種の周囲にいる敵を見る。
 虹の狭間に見える闇。それは闇色の帯。
 見竦められた多くの兵士達が倒れていく。

●血路に立つ始まりの関門
 多くの人々を脇に押しやり、イレギュラーズたちは本命へと走る。
「さあ、楽しく殴り合お!」
 ヒィロはそう宣言をあげつつ、自らの闘魂を眼力に込めて魔種を見据えた。
 しかしてその本質は、自らを鼓舞するエール。
 雄叫びを上げた魔種がヒィロに向かって少しずつ動き始めた。
「まぁ、でも。望まぬ世界は変えてやれってのは正論よね。
 私だって血風舞う殺戮の世より、笑える冒険の混沌がいいもの」
 美咲はその瞬間、そういいながら、血路の開かれた魔種を見定めた。
 目を見開く。魔力を目に注ぎ込み、自らの魔眼を活性化させる。
 浮かび上がった黒いキューブが巨人を包みこんでいく。
 ヒィロと美咲、二人の魔眼の眼力が魔種に絡みつき、激しく動きを止めていく。
「しかし、あれで魔種か。どこぞの迷宮の守護者と言われた方がまだ納得できる姿だ」
 ラダは雄たけびを上げる魔種を見上げて呟いた。
 Schadenfreudeを持って兵士達を避けるように走り出す。
 殺到する兵士達の波を超えて、酷く緩やかな動きでこちらに進んでくる魔種。
 その丸みを帯びた巨体は、静かに咆哮をあげる。
 緩やかな動きはその巨体と図体ゆえのものであろうか。
 身の丈サイズのライフルを固定させ、射角を調整。
「城門から動かないなら要らないだろう、もらうぞ」
 まだ、撃たない。しかし、その機を強かに狙撃手は必ず来ると確信していた。
「野心、尊厳。色々あるけど常に人を駆り立てるのはそういったものが多いよね。
 日頃であれば悪くない、人間らしい生き様」
 リンネは肯定する。輪廻を司る死神は持ち前の冷静さを持って静かにまるでちょっとした壁のように立つそれを観察する。
「――だけど魔種となったらもうおしまい、そこに意義はありはしない」
 だから、次の輪廻に還ってもらおう。
 輪廻転鐘の鐘が戦場に響き渡る。
 静かに、厳かに。
 狂奔ほとばしる戦場にて、全うな慰みを、裁きを、宣告を。
 これから逝く魂に安息を願う。
 奏でるは赤き熱狂。詠うは魔性。
 怪物を討ち取る者達へ、複数の加護が降り注ぐ。
「アハハハ! 戦争? だか知らないけど
 こうやって暴れられるの久々だからいっぱい暴れちゃうね!」
 楽しげに笑いながら進むビーナスは、目を輝かせていた。
「すごいすごい! ほんとに私より大きい人がいる!
 なら私は怪獣としてその人と戦って勝たなきゃ」
 憧れの怪獣みたいに――怪獣らしい敵と戦えるとあってか、ものすごいテンションが高い。そんなビーナス様の影から、冒涜的な黒き触手が魔種の肉体に殺到する。
 さすがに趣味じゃないのか、魔種の肉体に普通に絡み付いていく黒い触手達は、敵の巨体を汚し、蝕み、犯していく。
 ビーナスへと動き出すゲート・ガーディアンが並び立つと、さながら怪獣大決戦かのような風景であった。
「――モノカ
 ――――ナルモノカ
 ――――――ワガシュノ ジャマヲ サセテ
 ――――――――――ナルモノガァァ!!!!」
 巨人が、咆哮をあげた。
 ガンと斧の石突が大地へとたたきつけられ、装甲の一部から降って来るのは金属製の球体。
 それが巨人へと近づいていく前衛達へと降り注いでいく。イレギュラーズノ以内場所へも降り注いだ鉄球は、大地をえぐり落とし、近くにある建物にめり込んだ。
「全然面影ないけどこの魔種ってもとは一応は人間なのかな?
 殺して確かめてみないとね」
 芒は大地へとめり込んだ鉄球を足場にけりあがった。
 見る限り堅牢な形の重装甲。
 だが、膨れ上がり、巨大化した怪物といえど、それが間接というものをもつのなら。
 そこは確実に他よりも薄くならざるを得ない。
 『生存』の文字を赤丸で囲った上に斜線で〆た独特な道路標識を握り、芒は間接めがけて
 それを連続で叩き込んでいく。
 驚異的な運が、魔種の装甲を跳ね除け、その内側へと傷をつける。
 回避など、そもそもさせない。
 極端に打ち上げられた賭けは、時として異質なまでの運を呼び寄せる。
 炸裂した一撃に、魔種が吼えた。
「私の力――見せてあげるよ」 
 心臓の位置にある氷の結晶の力を解放し氷彗は走り出す。
 狙うは魔種のアキレス腱あたり。
「その護り、貫いてみせるよ……! 奥義・雪華乱撃……!」
白く透き通るような刀身をした、直刃の日本刀が、絶対零度の暴風を纏う。
 斬撃が疾走し、敵の装甲の上から、肉を絶ち魔種の身体を傷つけた。
 雄たけびを上げる魔種にできた大きな隙をつくように、再び刀を打ち込む。
 連撃に、魔種の体が揺らぎ、銃声が響いた。
 幻はその様子を眺めながらくるりとステッキ『夢眩』を振るった。
 りんごに巻きつく蛇が彫刻されたステッキの動きに合わせて奇術の準備を整えていく。
 どこからともなく出現した蝶がふわりふわりと魔種の視線を誘導し――魔種を夢の中へと誘っていく。
 がくりと魔種の足が崩れる。
 極めて高い正確性を有した奇術が魔種に望む夢をもたらし、一瞬、その身体が電撃でも走ったように引きつっていく。
「ケーキのような硬さで僕らを閉じ込めようなど、脳も砂糖製で御座いますか?」
 美麗な意匠の古き銃――アウローラを構えたジェイクはその様子を観察し、引き金に指をかける。
「こいつはかてえな。だからこそ、ぶち破りたくなるぜ」
 崩れながらも、雄たけびを上げる魔種の様子を見つめながら、ふっ、と小さく笑う。
「こういうやつの方が、俺達にとってやり甲斐があるぜ」
 暴き立てられた魔種の動き、意識の空ろな魔の足元あたりの間接を見据える。
 刹那。弾丸が走った。
 ありったけの数をたった一人にぶち込む、凄まじい高火力の砲撃である。無数の弾丸は、恐ろしいほどの精密さで魔種の足首を打ち抜いた。
 ジェイクと幻、幻狼の二人は息の合った連携で魔種へと次々に攻撃を打ち込んでいく。
 ジェイクが華麗な銃撃によって魔種をその場に縫い付けるように弾丸を浴びせかけ、その隙に駆け抜けた幻は魔種の正面に移動、隙だらけの魔種を幻想空間に引きずりこんだ。

「さて、間違って激戦区に来てしまったわけでござるが……
どのみち此度の戦に参加するつもりではあったわけでござるし、モーマンタイでござるな!
 与一はうーんと頷きながらふむ、と考える。
 それと同時に浮かんでくるのは、眼鏡をかけた黒髪の少女。割とがっつり怒っている顔。
「……モーマンタイでござるな!」
 うんうんと頷いた。それと同時に生きて帰る約束を思い出して、与一は弓を構えた。
 極限まで集中し、苦しみながらも立ちふさがる魔種めがけて矢を放つ。
 極限まで研ぎ澄まされた一撃は、魔種の両の目にめがけて吸い込まれていく。
「巨大な鎧の兵士、元の素体は……形状からすると人間のようですけれど、
 動作に理性はおろか自我の類が感じられませんね」
 アリシスはゆっくり動く魔種を見上げて考察する。
(元の姿形を保ったままの魔種と、あれのように元の形を喪った魔種……
 その違いの要因は何処にあるのか。単なる個体差か、由来の差か
 或いは……自我を保てなかった個体がより歪に変貌するのか)
「例の一つとして記憶に留めておきましょう。
 ――さようなら、古城の主の哀れな犠牲者」
 堕天使の力を行使する黒の聖典、その業の1つ。
 力を行使すべく、偽典聖杯の試作品に業を載せる。
 詠唱を告げる。聖杯が黒く輝き、魔種の元へ呪いを刻み付けていく。
「幻想は想い出を重ねた第二の母国……陛下やシャルロッテ様、
 そして何より街の皆の為に負けるわけにはいかない!」
 リゲルは銀色に輝く美しい剣を構えた。
 まっすぐに見据えた魔種はリゲルを見下ろす。
「天義にも帰る場所が出来たが幻想も大切な場所だ。
 大切な人が、大切な思い出が沢山ある場所だ。
 こんな所で失うわけには行かない!」
 それに応じるようにポテトは頷いた。
「いくぞ、ポテト!」
「あぁ、必ず幻想を守ろう!」
 リゲルは銀剣を握り締め、まっすぐに敵へ向かう。
「おおおお!!!!」
 雄叫びと共に、銀の剣を振りぬく。
 星すらも凍てつかせ、防備を打ち砕く星の輝きが、魔種の鎧を通り抜け、核に向かって走る。
「グゥゥゥオォォォ」
 雄叫びを上げる魔種が、無骨な斧をリゲルめがけて振り下ろす。
 魔種の構成を銀剣で防ぎながら、余波がリゲルを襲う。
 その直後、後ろにいたポテトが自らの調和を賦活へ変換してリゲルへとささげていく。
「リゲルのことは私が最後まで支えて見せる。だから、後ろは気にせず前だけを見てくれ」
 リゲルはそれに頷くと、そのまま魔種の斧を押し返していく。

「魔種、というものがこんなにぽんぽん現れるものだとは思っておりませんでした……」
 クラリーチェは召喚されるまで、目にしなかった――あるいは、ずっと昔からいたのに気づかなかったソレらのことを思う。
「大召喚以降、魔種も活発になったと聞いてたから……そのせいかしら?
 イレギュラーズに対抗して、なんでしょうけど……」
 クラリーチェの呟きを聞いたエンヴィはそう答えて彼女のほうを向く。
「やたらと命を奪うのは宜しくない。ですが、彼らは私達とは相容れない存在……
 ならばこの先もずっとこうなのでしょうか……厄介ですね」
 クラリーチェは自らと神秘性を高めながらぽつりと呟く。
 それに続けるようにエンヴィは頷いて。
「私達が動く事で世界が助かる可能性が上がるのだから……頑張るしか無さそうね……」
 フォトン・イレイサーに魔力を装填して、イレギュラーズの猛攻を受けつつある魔種を見上げた。
(いつか平和になるって信じて……今は頑張る時、かしら……?)
 集中し、弾丸に死者の怨念をまとめていく。
 まっすぐに弾丸が飛び、炸裂すると、魔種に結び付けられた状態異常に反応した怨念が痛みを伴って魔種に傷をつける。
(どちらかが尽きるまで続く戦いなど、想像したくないものですが)
 目を閉じて深呼吸する。集中し、どこからともなく『黒』がクラリーチェの身体から浮かび上がり――嗤った。
『お友達、みぃつけた』
 黒いレェスの向こう側、ゆらゆらと嗤う黒は、そのまま魔種へとゆっくりと近づき、魔種を抱えるように覆い尽くし――やがて、魔種が動きを止めた。

●其れは悲しき獣
 城門付近での攻防戦を潜り抜けたイレギュラーズたちが町の中ほどを地図に従って進んでいたときのことだった。
『グォオオオ』
 咆哮。
 それに応じるように、複数の、まるで別々の咆哮が響く。
 ファミリアを飛ばしていたレジーナは町の各地に隠れ切れていない人々を見つけては、使い魔を派遣して、その者たちを自分達の後ろへと誘導していた。
 そんな彼女を見定めたかのように、1匹の狼のような姿をした魔物が雄叫びを上げて突っ込んでくる。
 それを見据えたレジーナは天鍵を開放する。狼の眼前、更には上空からぽっかりと穴が開き――無数の刀剣が狼めがけて降り注ぎ、走り抜ける。
 がくがくと動いた犬が、そのままその場で崩れ落ち、その臭いを嗅ぎつけたほかの獣が雄叫びを上げる。
 そんなレジーナの真横を軍馬が走りぬけた。
 リュカシスは馬上から果焔 を振り上げた。
 両手で持った戦槌より放たれた火炎が尾を引きながら複数の火種を撒き散らして複数の魔物たちへと降り注いでいく。
 その頭上から降りてきた鳥型の魔物にあわせるようにして、そのまま槌で殴りつける。
 更に続くようにして振ってきた魔物がリュカシスに爪で切りつけた。
 しかし、それは鉄鎧うに守られるリュカシスの肉体を傷つけるには至らない。
「さぁ、次へ参りましょう! 鉄は熱いうちに打たねば!」
 そんなリュカシスの視界にちらりと見えた住民の影を見定めると、そこへ駆け抜ける。
(全く……このような戦乱に民を積極的に巻き込むなど貴族の風上にも置けぬ愚者ですわね。
 ……本来なら私自ら始末をつけたい所ですが守るべき民が居るなら私はそちらを優先しますわ)
 ガーベラは魔物に追いかけられる複数の民衆を連れていた。
「道をあけなさいな!」
 ガーベラを囲うように、扇状に広がる4匹の猿か何かの魔物。
 ガーベラはどう見ても白い鍬を構えていた。
 一瞬で疾走したガーベラが鍬を振るうと、いつの間にか白い細剣へと姿を改めた剣が、猿どもを切り伏せていく。
「オーホッホッホ! 他愛もない。私を誰と心得ますの!
 ガーベラ・キルロード…民を守る貴族ですわ!」
 沈んだ魔物にそういいながら、ガーベラはそのまま民衆を連れて走り出す。
(哀れな男というべきなのでしょう。憤怒とは悪を憎む正しき心でもあったはずでしょうに)
 民衆を探し回り探索を続ける屍はたった今見つけた3人の人々を連れて秘密の隠れ家に避難させつつあった。
 飛び込んできた大型の猫型の魔物をシールドで防いだ後、そのままその勢いを利用して、レイピアを心臓めがけてつきこんでいく。
(しかし、振り上げた手の落としどころを間違えてしまえば、それは悲劇の引き金でしかありませんね)
 崩れ落ちた魔物からレイピアを引き抜くと、後ろに下がっていた民衆に声をかける。
「さぁ、早くこちらへ。もう少しですよ」
 申し訳なさそうにする民衆を連れて、屍は突き進んでいく。
(ひょええ! いきなり大変ところに来ちゃったもんだね!
この世界に来て早くも数日ってところだけど、こうやって戦争が絶えない世界なのかな?)
 零は顔を覆い尽くしたマスクの下で驚きつつも、頷いた。
「まぁ、でも、それはそれで大変よろしい!
 私には結局そういう世界が似合っているって言う事だからね!
 よし、ここはこの世界の為に働こうじゃないか!」
 肉塊のついた大業物を振るいながら、元気よく頷いた。
 巻き込まれた魔物がきゃいんと声を上げてすっ飛んでいった。
「うーん……それにしても、躰が重いなあ、こんなはずじゃなかったのにまた1から、か」
 振りぬいて思う、混沌肯定。
「うわあお!なんだろうあの敵、元の世界でも見た事ない! 楽しい!
 じゃんじゃんいくよ!!!」
 元気よく、再び剣を握った。
 狼、蛇、牛、羊などなど、種類を問わぬ数の多い魔物たちの前へと現れたオフェリアはそれらを見る。
「市民の相手となるとやっかいですが、魔物となれば楽なものです。
 では、加減なく、存分にやらせていただきましょうか!」
 うんうんと頷くと、オフェリアは自らの魔術書を用いて自らの神秘性を高めていく。
 少しばかり呼吸を整え、視界に入った多くの魔物へ向けて、歌を届ける。
 絶望の海を歌う、冷たい呪いが、魔物たちの動きを引きとめ、たじろがせていく。
 より多く、手傷を負っている者から徹底的に打ち据える。
 効率的なその猛攻は着実に魔物を減らしていく。
(ものすごい数ですわね……)
 ヴァレーリヤは天の王に捧ぐ凱歌を片手に、多くの魔物のひしめく中ほどで敵の数を見ながら思う。
(ですが、ここで退くわけにはいきません
私達の勝敗に、皆の命が掛かっているのですもの)
 しかれども、司祭は止まらない。
 このままこれらが動き出せば、民衆が巻き込まれる。
 それだけは、絶対にするわけにはいかないのだ。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を」
 目を閉じて、集中する。
「――どうか我らを憐れみ給え」
 聖句に応じるように、メイスからあふれ出す炎。
 静かに目を開き、そのまま炎をボールを投げるように、下から振り上げた。
 紅蓮の炎が、奔流と化して、数多の魔物を焼き払っていく。
 ウィリアムは術式をたたき起こす。
 自らの身体に流れる星の血脈――長い時を経て星の力を帯びた血脈を引き出すその術式より、星の力を引きずり出す。
 仲間へと襲い掛かろうと、複数の魔物が走り出していた。それを見ながら、星の魔術師は手をそちらに向ける。
 迸った雷撃が、蛇の如くうねり、のたうちながら数多の魔物を絡めとり、焼き払う。
 星の輝きが再びあふれ出していく。
 狙いは、仲間達のほうではなく、前線より抜けて市街地へ向かって走り出す服数匹。
 ウィリアムは集中力を高め、白光を伴って打ち込んだ。
 獣の断末魔が、いくつか上がった。
 ミニュイは3階建の建物の屋根に飛び乗っていた。
 そのまま飛び上がり、疾走する。
 幸か不幸か、この戦場には空を舞う魔物もいた。
 ミニュイはそのうちの一匹めがけて駆け抜けると、そのまま自らの腕の羽を2mほどの鳥型の魔物めがけてぶちこんでいく。
 ひらりと身を翻した魔物の突撃をこちらもかわして、組み合うように、上空でぶつかり合う。
 間合いをあけて、今度は多くの魔物を巻き込む位置に移動すると、鋼の如く硬質化した羽根を雨の如く吹き付けていく。
 バランスを崩した複数の鳥が地面めがけて落ちていき、そのまま首を折って息絶えた。
「好い、久々だ。目的のために敵を屠る。高揚するなあ、ゲオルグさん」
 栄龍はたった今、嬲り潰した獣の血を拭いながら振り返る。
 ゲオルグはそんな栄龍を見ながら思う。
(栄龍はこういった大規模の戦いは初めてだったはずだが、どうやら杞憂だったか?)
 いくさびと。戦争のためだけに生き抜いた狂気の武人に対して、そんな心配は杞憂だったかと思いつつも、テンション高く突き進む栄龍に別の感想を覚える。
 戦を楽しみ突き進むこの男には、自分の回復は必要になろう。
「応、死にたくばかかってこい!」
 栄龍を囲うように迫る魔物たちは、どこか怯えた様子を見せる。
 凄絶な笑みと共に、一匹めがけて走りこんだ栄龍はその一匹に尋常ならざる猛攻を加えていく。
 「敵はどこだ、嗚呼、お前は敵か!? ならば殺す!」
 楽しげな栄龍は次を見ながら構えた。
 その後ろから、光刃が走り抜け、栄龍の状態異常を癒し、魔物を切り刻んでいく。
 別の世界、おのおの大戦を生きた者達は魔物を相手に戦い続ける。
「悪い。傷を顧みんもんで、いつもずたぼろになる」
 周囲の敵をある程度、ほふった栄龍は笑いながら振り返る。
「全力で戦えるようにサポートしていくのが今回の仕事だ」
 一休みしながら、栄龍の傷を癒していく。

●猛り狂う哀れなる獣
  獅子と羊の頭部、狼の足、蛇の頭で出来た尻尾――怪物は、戦場のど真ん中で10匹ほどの取巻きとともに其処にいた。
(魔種と云うのは…大罪すらそうであったように
 ほぼ大体が実に一つの事に凝り固まって詰らない方々でしたが
 今回の方は無駄に吹聴して回っているような分だけ格別ですね)
 ヘイゼルはその魔物から1移動で近づける位置にまで近づくと、怪物を取巻く獣の一匹に向けて赤い糸を結びつける。
「では、こちらへどうぞ」
 そのまま走り出して、ヘイゼルはつぎの魔物へと立ち向かっていく。
 戦うのは後回し。ひとまずは、本命へ立ち向かうものたちへの邪魔者を排除する。
 それが今日、ヘイゼルがやると決めたことだった。

(中々格好いいオジサマだけど…残念だわ。
 怒りっぽいひと、好みじゃないのよ)
 獰猛な笑みを浮かべて魔種のことを思ったリノはそのまま視線をキメラに向ける。
「ま、今回のお相手は可愛らしいペットちゃんなんだけど。
 おいでなさいな、もてなしてあげる」
 笑みを深めたリノは巨大なキメラめがけて至近すると、黒柄に白銀の月が掘り込まれた優美な片刃のナイフと、黒柄に黄金の星が彫られた華美な両刃のナイフを手に、キメラの首を取るべく刃を突き立てていく。
 舞い踊る黒豹は、狩りでもするようにキメラに白刃を閃かせる。

(儘ならさに対する怒り。憤り。そのような物は誰しもが持つものでしょうが。
 彼が何を此処まで駆り立てたのでしょうか。貴族としての誇りか。かつての栄光か)
 兼続はそんなリノの後ろ、魔種のことを思いながら、神速の攻撃を叩き込んだリノに緑の抱擁をもたらし、柔らかな緑の輝きでリノの疲労を癒していく。
(駆け出しもいい所ですが、少しでも戦場の維持に努めなければ)
 そう志す兼続は超分析をこなしていく。
 大技をこなす仲間達の後ろでの兼続の行動は少しずつだが、効果をもたらしていく。
 この一手がやがて、あの怪物を討ち取れると信じて。

(音が響きまくって飛びにくいな……翼がビリビリするし、バランス感覚崩さないようにしないと)
 びりつく翼で空に滞空するカイトは脳裏に響く音に悪寒を覚えていた。
「うぅ、鳥よけの音は嫌いだぁ!」
 絶叫するように言ったカイトは大きな緋色の翼を開き、羽根をキメラの真上から打ち込んでいく。
 赤き羽根が着弾すれば爆破と共にその輝きがキメラの視線をカイトに動かしていく。
『ヴェェェ』
 羊の頭が吼え、その瞬間、強烈な痛みと共にひりつきがカイトをしびれさせる。
「うぅぅ」
 びくつきながら。カイトは自分に向かってくるキメラから逃げていく。
 その結果、明らかに視点をずらされたキメラの後方、仲間達が動き出していた。

(久しぶりのでっけえ戦だな!
 前の日に飲みすぎて大分出遅れちまったが、獲物には事欠かねえ!)
 ルウは巨獣の大剣と害獣の短剣を握り締めると、カイトに意識をとられているキメラめがけて走り抜ける。
「狙うは獅子の頭だな! 牛が獅子を殺るのは反逆って感じがしてカッコいいだろ!?」
 豪快に笑った猛牛は意識をとられていたししの頭部めがけて巨獣の大剣を振り下ろす。『大は小を呑み込む』と評するその巨大な剣を思いっきり殴りつけ、続けるように短剣で目を狙って突いていく。
 雄叫びを上げる獅子と向かい合うように、ルウは剣を構えた。
 強烈な蹂躙を見舞う二刀の猛攻に、獅子が反撃とばかりに噛み付いてくる。

「全く、次から次へと問題を起こす物だな、魔種と言うものは」
 グレイシアはぽつりとぼやく。
「おじさまがぼやいてるの、珍しいねー
 大体淡々とお仕事こなしていくのに。お疲れモード?」
 それ聞きつけたルアナは隣に立つグレイシアに視線を向ける。
「天義の事件がつい先日だからな……新メニューを考える時間が欲しい物だ」
「ふーん、おじさまらしいというかなんと言うか……
 そうだ、秋だし、栗をつかったお菓子とかどう? ルアナいつでも試食するよ!」
 ルアナが笑ってそういうと、グレイシアは目を見開いて微笑む。
(適当に思った事を言ったのだが、面白い回答を貰えたな)
「栗か……帰ったら試してもらうとしよう」
 頷いたグレイシアに続くように、ルアナは頷いて自らにライトフォースをかけた。
 それに続くようにして走り出したグレイシアも、キメラの蛇の顔ができた尻尾めがけて突き進んでいく。
 集中し、下を出してしゅるしゅるという蛇の頭部めがけて魔力を込めて一撃をぶち込んだ。
 攻撃を受けた蛇の頭がひるんだように顔を揺らし。
「魔力を籠めた打撃術……対勇者用に覚えた技術だが、存外便利なものだ」
 地面に降りていきながら、殴った調子を見るグレイシアの横を、変わるようにルアナがとんだ。
 霊樹の大剣を握り、掲げた大剣に込めるは勇者の強靭なる精神力。
 悪意への抵抗力を破壊力へと転換し、ルアナは一撃を叩き込んだ。

 キメラめがけて猛攻を続けるふとその時だった。
『グォォォォッ』
 獅子の声が雄叫びを上げ、直後、その全身から電流があふれ出し、キメラを囲うように展開するイレギュラーズに襲い掛かった。
 痺れ、感電したように動きを止めるもの、体勢をくず薄物などが出る中、補助役たちの回復がもたらされていく。

(また魔種か……大事にならないよう早く始末しないとな……。
 でも、この辺の魔物も放っておけないな)
 音殺結界によるいやらしい効果に加えて引き起こされる状態異常は厄介きわまるが、直接の火力はいうほどではない。
 だが、一撃がそう強くなくとも耳障りな音がもたらす微量なダメージも完全に無視できるわけではない。
 キメラの咆哮がイレギュラーズヘBSを押し付ける中で、アオイはその猛攻を最前線で受ける前衛に向けて声をかけた。
「こっちに集まってくれ! 回復する!」
 癒しが崩れ落ちそうになった仲間の傷を大きく癒していく。
 癒しを受けた仲間達が再びキメラへ攻撃を仕掛ける中、今度はアオイも前に向かって走る。
 デュアルギアで殴りつけ、その直後に混合毒がキメラを汚染していく。


「こんな猛獣を放し飼いとはな。どうやら、まともな躾が出来ない貴族らしい」
「まともに躾できるほど、頭の良い獣にも見えませぬ。首が多いだけですね」
 身体の痺れが取れた汰磨羈が呟けば、その隣で高い抵抗力で潜り抜けた雪之丞が静かに答える。
「……とはいえ、躾のなってない獣は、きちんと躾けてしまいましょう」
「では――先に参ろう」
 雪之丞が影狼を静かに構える。
 その隣、汰磨羈は持ち前の反応速度を持って一歩、大地を踏みしめる。石造りの道を破砕し――次の一瞬にはキメラの狼のような足元に到達していた。
「そら、お座りの時間だ。大人しく潰されるがいい!」
 莫大な霊力を結界による身体強化と神経伝達速度の加速に用いてでの、強烈無比な一撃が、狼の毛並みと筋肉を貫き、音速を超えて炸裂する。
 強烈過ぎる一撃に身体がきしむが、強烈な一撃は敵の骨にまで浸透していく。
「BSを用いるのは、そちらだけではありませんよ」
 続くようにその足めがけて近づく。
 そんな雪之丞を踏み潰さんと持ち上がる足。
 浮かび上がった陣を貫くようにして放った一閃は、振り下ろされてくる脚部を走り――後より先を打って敵の腱をずたずたに切り裂いていく。
 体勢を崩し、落ちてくる敵からとんと飛びのいて、二人は続くように剣を走らせていく。
「ったくキメラだかカメラだか知らないが面倒なデカブツだねぇ
 堅気に迷惑をかけるんじゃないよ!」
「ヨランダ様。正しくは『キメラ』ですヨ?
 それにして凄い数の敵ですわネ」
 耳障りだねぇと音殺結界に舌打ちするヨランダにアルムが答える。
「とは言え今回は頼もしい助っ人も居る事ですシ
 お掃除はさっと終わらせてその後は皆様で優雅にティータイムと行きましょウ」
「賞金、イコール、ごはん……」
『の、前に大掃除といこーかぁ』
 普段どおりののんびりとした様子を崩さないテラとマリス。
「鈴音、いっぱいがんばりますねっ」
 両手をぐっとしてやる気満々の鈴音。
「のして毛皮か剥製にでもしちまえば少しは人の為になるかねぇ? 行くよアンタ達!」
 4人のチーム【オリハルコン】はヨランダの言葉に応じるように走り出した。
 まず前に出たのは、タンクであるアルムだった。
「誰が呼んだか鉄腕メイド、ワタクシがお相手いたしましょウ」
 自らへ耐性強化魔術を施したアルムが、突っ込んでくるキメラへと白銀の大盾をあわせる。
 最初のころよりも明らかに少ない衝撃は、こいつの命が残り少ないことを示している。
「おらー、快適な……ご飯の為に」
 生じた隙を突くように飛び出したのはテラだ。割とゆるい口調のままに突き出された槍は、魔術的な処理と物理の織り交ぜられた一刺し。
 隙だらけなキメラへと、脇から貫くにおいて、その奇襲能力は抜群の効果を発揮する。
『ガァァァ』
 断末魔に吼えるキメラが、テラの方へ腕を伸ばす。
「どっち見てんだいデカブツ」
 あわせるように打ち込まれたヨランダのアッパーカットが、キメラのあごを捉えた。
 物魔両属性の込められた苛烈な一撃に、キメラの顔が雄叫びを上げ、そのまま棹立ちする。
 かと思うと、今度はそのまま落ちかけた羊の顔から炎を吐き出した。
 ヨランダとテラを巻き込むような一撃を、アルムがかばって押さえ込む。
「いたいのいたいのとんでいけー、ですにゃ!」
 耐え切ったアルムが呼吸で体勢を整えるころに、鈴音の簡易な治癒魔術がその傷を癒していく。

 周辺の魔物たちも狩られ、多くの民衆の避難も片付き、そちらに回っていた面々の攻撃も加わったこともあって、キメラへの戦いは着実にイレギュラーズノ勝利に傾いている。

国は違っても関係ない! 仲間の支えはもちろんとしても、幻想の民が被害に合わないようにしっかりと食い止める。
 そう決意してサクラはこの戦場に立っていた。
 サクラの傷は多い。激闘繰り広げられる中、サクラはまっすぐに敵を見上げていた。
「こんなところで、負けてられないのよ!」
 だから――。
「天義の騎士見習い、サクラ・ロウライト! いくよ!」
 改めての宣誓。
 純種である以上、かなりの小規模とはいえ、状態異常への耐性を阻害される中で、状態異常を操る敵というのは厄介ではあった。
 それでも、多くのイレギュラーズの互いを支えあう動きもあって、順調に敵を倒している。
「油断はしないでね、サクラちゃん」
 スティアはそういってサクラへ自らの魔力を優しき光に変換して降り注いだ。
 天使の羽根のごとき美しき残滓がサクラを癒す。
 自分ができることは全部やる。そんな気迫でスティアはこの戦場にいたし、事実、高い水準の防御技術と抵抗力を持つスティアは、最前線での癒し手として多くの者を支援しつつ、サクラの支援を絶えず行なってきた。
 目の前でこちらを睨む魔物の威圧感は、当初よりも遥かに低くなっている。
 それでも、万が一。
 窮鼠が猫をかむような、そんなことがあるかもしれないのだ。
 一瞬の静寂。
 たたらを踏んだキメラめがけ、サクラは一気に其処へ向けて飛び込んだ。
 それは、憧れへの差を少しでも詰める為の一瞬の集中力。
 それは、剣鬼へと至る内なる何か。
 一瞬、キメラが首を伸ばしてくる。
 その動きよりも前に、サクラの聖刀【禍斬・華】は、超高速で魔物の首と首の間、胴部へと至るそこで、一気に斬り上げた。

 ――――悲鳴はない。そも、それをあげる時間さえ、それには与えられなかった。

●その剣は戦陣を裂く
 城門付近での戦いを潜り抜け、市街地での魔獣をも走り抜けたイレギュラーズ達の視界にその建物は不意に現れた。
 入り組んだ道、来た道と行く道がまるで同じ。
 気づけば迷ってしまいかねないような迷宮じみた街道を踏破した先。
 羽音がブゥンブゥンと走り回るような、金属をきりきりとひっかくような、反吐が出るような激しい音が、直接、脳裏を削り取るように響いてくる。
 その嫌な音が、この向こうに標的(イオニアス)がいることを示している。
 しんと落ち着いた雰囲気のある石造りの城壁に囲まれた古城と、明らかに整備された城門。
 そこで、その女は佇んでいた。
 軽装備の鎧に身を包み、肩ほどの髪がゆらりと風に攫われている。
 携えた大太刀は微動せず、ただ立っているだけの姿からは、やや身長が高く見えるほかは異質なところはあまりない。
 だが、複数の戦場を渡り歩いてきたイレギュラーズ達は、彼女から発される静かな迫力をひしひしと感じていた。
 その様子を少しだけ見た後、イオニアスを狙うメンバーが路地へと消えていく。
「これ以上苦しむ人を出さないためにも、ここは通してもらうよっ!」
 その身に紫色の花の刻まれた結界をその身に覆ったアレクシアがそう告げれば、佇んでいた女が静かにイレギュラーズを見る。
「君達が私の相手か? 中々大所帯だな。人材の数が多いことだ」
 速攻とばかりにアンドレアの懐へと潜り込んだ威降が、生命力を贄に生み出した妖刀を走らせ――それを静かにアンドレアが合わせて大太刀で防ぐ。
「そういう貴女も、俺達がここに来るまでそこに立っているだけだったよね?」
「この門を守るところまでは仕事でな……来ないようならこちらから行くつもりだったが。
 まずは貴様らを撫で斬りにして、あれを討ち取った者の首を貰うとしよう」
 静かに、しかし鬼々と燃える殺意を宿す瞳が威降を見据えていた。
「おらっ! 最優先確認事項だ!!」
 そう高らかに告げながら、フレイはアンドレアへと踏み込んだ。
 一歩、空へと舞い上がって衝撃と共にアンドレア目掛けて拳を叩き込む。
「顔を見せろや!」
 大太刀の腹で受け止められたそれの先で、静かにアンドレアの顔が映る。
「お気に召したか?」
 再びの衝撃と共に、アンドレアの剣を足場に舞い戻る。それに合わせるように伸びたアンドレアの剣が、ほんの微かにフレイの足に傷をつけた。
「聞こえる? ふふ、耳が痛くなってしまいそうだわ
 音というのは悪いものだわ。訊きたくないものまで聞いてしまうのだもの」
「全くだ。鬱陶しい。さっさと止めてほしいところだな」
 魔術杖の先端に生み出された闇の爪痕がアンドレアの腕に食らいついた。
「ところでご存知? 只の一匹、鼠がちょろりと走るだけでも未来は変わるの」
 敵の様子を眺めながら、カレンは未来を視る。それは“あったかもしれない”未来へとおちていく。
 未来視の先に見えた、振り下ろされる剣をぎりぎりで最小限の傷に抑え込む。
(フキンシンだけれど、強敵と真っ向からぶつかれる戦いはなんだかワクワクしちゃうな)
 イグナートはタンと跳びあがると、まるで空を舞う燕が如く尋常じゃない速度でアンドレアの背中へ飛び込んだ。
 鋭く、刈り落とすような動きで伸びた足が、アンドレアの肩を捉えた。
 太刀で合わせるのに間に合わないと理解したのか、崩れた体勢からイグナートに肘鉄を放つ。
「巨大な大太刀を使ってどのような戦いをするのか
 ……是非とも、全てを見せていただきたいものです」
 上品な所作で、沙月はその戦場にいた。
 そのまま、ゆらりを、軽やかに舞い、神速の動きでアンドレアへと到達すれば、ほんの一瞬の隙を突いて、拳を抜いた。
 直撃とは言えない。けれど、聞いたはずの一撃の次の瞬間、アンドレアから振り下ろされた剣が、和装の袖を浅く斬った。
 紫色の髪が靡く。
 アンドレアへ近づいたティスルは液体金属で出来た人造魔剣をゆっくりと伸ばす。
 ノーモーションで打ち込まれた魔剣が、アンドレアの鳩尾あたりを横薙ぎに払い、そのまま後方目掛けてすっ飛ばす。
「――――少しばかり届くぞ」
 開いた間合い、アンドレアが静かに告げる。無駄のない動きで大太刀を構えたアンドレアの全身から、可視化するほど濃密な闘志が膨れ上がる。
 刀身に収束した闘志――――その直後、イレギュラーズの方へと再び走りこんだアンドレアは、ティスル目掛けて飛び込みながら剣を横に引いた。
 刀身と、それに伴った闘志が扇状の斬撃となってイレギュラーズへと叩き込まれた。
 斬撃による傷が切り刻まれると共に、闘気に煽られた数人が後方に吹き飛ばされる。
「簡単に死ぬなよ、いやそもそも殺した者がここにいるのかも知らんが。
 あいつを殺した奴らなんだ。もっともっと――強いだろう」
 アンドレアの挑発に対するように最初に動いたのは、コーデリアだった。
 己が身体に満ちる豪運を糧に、アンドレア目掛けて突っ込んだ。
 緩やかに伸びた大太刀が戻ってくるよりも前、懐へもぐりこんだコーデリアはホーリーオーダーとHGV-C-15Cの引き金を引いた。
 猛烈な連射と共に、跳びあがる。多少の無理な動きに身体が軋む。
 それを無視して、跳びあがったまま、背中へと移って、複数の弾丸をぶちまける。
「それほど大きな武器です。やはり、隙が生じるようですね」
 鮮血と銃撃で華を開くような猛攻に、アンドレアが少しばかり頬を緩めた。
「私にも兄が居ます、この世界には居ませんけど。貴女の気持ちも少しは理解出来るつもりです――それでも、此処で止めます……!」
「そうか……ではやってみろ」
 すずなは青白い妖気を靡かせる妖刀を構えると、一足飛びに走り抜け、アンドレアへと太刀を抜いた。
 研ぎ澄まされた鮮烈な一閃。研鑽の果てに至った研ぎ澄まされた一太刀が走り抜け、アンドレアに傷をつける。
「いい太刀筋だ。良く鍛えているな」
 自らへの痛みをまるで気にしないとばかりに、アンドレアの大太刀がすずなへと返すように走り抜ける。
 翻った剣を不知火で何とか防ぐも、アンドレアから放たれる闘気が衝撃となって微かにすずなに傷をつけた。
(怒りと悲しみが地続きなのは分かるわ。だからあの人が私情で戦うのも、もちろん構わない
 ――けど、私にはそれがない。だから、ただ立ちはだかる敵として、相手をする)
 アクアが翳した掌に収束していく赤と紫。炎と毒。
 二重螺旋を描いた魔力が静かに、イレギュラーズの合間を縫うようにして放たれた。
「可哀そうな人だと思う。その原因が私たちイレギュラーズにあるのかもしれないけれど
 ごめんなさい、イオニアスに与する以上は倒すしかないわ」
 音を立てながらぶちまけられた魔力に対して、アンドレアが一瞬ちらりとアクアの方を見た。
「――――」
 アンドレアに打ち込まれた魔力が、螺旋を描いて天に昇る。
 明らかに炎が彼女の身を包んでいることを視認した直後――斬撃が返すようにアクアに炸裂していた。
「よぉ、今日は良い天気だなぁ。死ぬ時ぁこんな気分良い日に限る。
 ぶんぶか耳障りな音が頭に流れるのは頂けねえがな」
 ルカはアンドレアへと至近すると、そう問いかけた。
 赤犬兵装を翻すルカからの問いに、アンドレアが静かに笑む。
「まさに。死に場所は此処といったところか」
「――なぁ、野暮な事聞いて悪いけどよ。アンタみてぇないい女を殺すのは忍びねえ。俺が勝ったら生かしても構わねえか?」
「――――悪いがそれは受け入れられないな。
 それに……中途半端に生かされれば、私は……
 この羽虫のような……耳障りが良くなりそうな音に頷いてしまうかもしれんぞ」
 アンドレアが、にやりと笑った。
 それは、イレギュラーズには決して受け入れられない言葉。
 それが分かっているであろうに、この女は言って見せた。

 ――――折角の戦場だ、殺し合いの場だ。そんな、無粋な話をするなと。

 恐らくは、そんなつもりはさらさらないのだろう。
 だが、この数のイレギュラーズを相手に戦いながら笑うこの女が万が一、億が一にでも反転なぞしようものなら――――
「はっ、そうかよ」
 ルカは大戦斧をぐるりと振るい、一度間合いを取ったのち、雄叫びと共に刃を閃かせた。
 尋常じゃない威圧感の籠った一撃を振り下ろす。
 憎悪の爪牙とも伝わる一撃が、アンドレアの身体を大きく裂き――それとほぼ同時に大太刀がルカを斬り上げる。

 【月夜】のメンバーはあまたのイレギュラーズを前に、躱すということを止めてなお、前衛を相手にほぼ対等に立ち回るアンドレアを前にしながら、自分達の策を成功させるべく動いていた。
「往くぞ、シグ。手ぇ貸してくれ」
 レイチェルは隣にいる最愛の人にそう告げる。
「さぁ我が契約者よ。――剣を執り給え」
 応じたシグが自らの身体を魔剣へ変化させると、レイチェルはそのまま走り出した。
 立ち位置を変え、前衛たちにとって最もいい位置へ。
 そこでレイチェルは静かに自らの魔術式を励起させていく。
 術式の展開に合わせるように、月下美人咲き誇る純白の大弓を引きしぼる。
「……俺も復讐に走った人間だが。悪いが止めさせてもらう。
 同朋を、大切な人達を喪いたくはねぇンだ」
 前衛と刃を交わすアンドレアを見据えながら、弦を離す。
 引きしぼられた見えない不可視の魔力がアンドレアへと炸裂した瞬間、紅蓮の焔を上げて彼女を包み込んでいく。
「袋叩きではあるが、文句は言うまいな?」
 そんな彼女に携われる形のシグ自身もまた、静かにアンドレアを睨む。
 大きく動くアンドレアのその周囲に、複数の黒い剣のような物が顕現し――やや楕円のような形を作って彼女の周囲を固定する。
 動きを止められ、静寂に陥ったアンドレアの目が、驚きに見開かれるのが、ここでも分かった。
 その直後――再び楽し気な笑みに変わっていったが。

(特別な奴でもない魔種の一匹でこんな大事を起せるとか
 魔種っていうか呼び声は実に厄介だよねー)
 クロジンデはそんなことをのんびりと考えながら、アンドレアの攻撃の直撃を浴びたティスル目掛けて照明器具状の魔道具を掲げた。
 ティスルの下へ穏やかな光の輝きが落ちていく。
「魔種にならないだけのバイタリティは流石かな?」
 ルーキスはアンドレアの様子を確かめながら呟いた。
 『旧き蛇』の林檎とも呼ばれる異世界の魔神の記したとされる魔術書の魔力を媒介として、ルーキスは魔術を唱える。
 刹那に生み出された疑似生命体は、雄叫びをあげると共にアンドレア目掛けて突っ込んでいく。
 そのまま、その牙で、爪で、アンドレアに傷を負わせるも、返す刀で斬り伏せられた。
 しかし、それはアンドレアに更なる混乱をもたらしたように見える。
「悪いな、助かる」
「ううん。ルナールさんこそ、大丈夫?」
 アンドレアが放った剣閃からアレクシアを庇ったルナールは、彼女からヒールを受けていた。
 アレクシアが戦場に咲かせた小さな赤い花は、前衛の一部と、中後衛の多くを包み込んで癒しを齎している。
「脆い壁だが任された仕事だからな。
 俺がやれる限りで護るとするさ」
「……ありがとう」
 アレクシアはそう言って頷いた。

 ココロは身を縛る呪いを跳ね除ける効力を持つ光輝の盾ペルセウスを前面に押し出しながら、じりじりと前衛の方により、ルカへとハイヒールを仕掛けつつ、視線をアンドレアに向ける。
(でもこの人、どんな気持ちで一人で向かって来るんだろう……)
 ふと気になったのはそれ。
 復讐心にしては、彼女の戦いには落ち着いたものが見える。
「アンドレア、あなたの心には何が入ってるの? 報復? 挑戦? それとも怒り?」
 ココロは、向かう先に向けてぽつりと呟いた。
 視線の先、大太刀を振るって戦っている敵が、こちらをちらりと見て、微かに笑った気がした。
(皆、怖い武器もってる人に立ち向かうのね!)
 トリーネは戦場の中ほどにいた。
 おおよその味方を範囲内に取れるようにしながら、ピシッと構える。
「こんな結界の影響、私達の鳴き声で吹き飛ばしてあげるわー!」
 高らかな宣言と共に、どこからともなく現れた複数の小鳥達と共に、高らかに鳴き声を上げた。
「こっけこっけぴっよぴっよ♪
 こーけぴーよぴー♪」
 癒しの力の込められた聖なる歌声が多くのイレギュラーズが受ける結界の力を緩めていく。
(原初の願いが何であれ、それが堕ちたならば善であるとは言えないのよね。
 そう、言えるわけがない。とりわけ、魔種なんてものになってしまったのなら……)
 戦場の後ろ、イオニアスがいるであろう本館を見据えて思いを馳せたルチアは、自らの信仰を強く思う。
 周辺環境より取り込んだ魔力を賦活力へと転換していく。
 さる無名の殉教者が遺したと伝わる指輪が優しい光を宿して輝きを強め、アンドレアの反撃で傷ついていたアランの傷を癒していく。

(全く、今ザントマン騒動で大変なんだから!
 ちょーっと大人しくしててよぉ、ゆっくりお酒も飲めやしない!)
 なんて悪態付きつつも、アーリアはこの時を待っていた。
 指先でそろりとアンドレアの周囲をなぞる。
 前衛との戦いに奔走するアンドレアは、ぽっかりと開いたそこに吸い込まれ――ほんの一瞬。
「くっ……」
 吐き出されたアンドレアがふらつき、微かに身体を震わせた。

「ぶはははっ、クルトの姉君か。全くもって縁があるもんだな!」
 自らを駆動星鎧『牡丹』に身を包んだゴリョウもまたその時を待っていた。
 金色の双眸でじっとアンドレアを見ていると、ふらついていたアンドレアがゴリョウを視認する。
「こうしてみると、弟君に似てるんだな!」
 『龍蹄』と『釜蓋』を構えて近づいていく。
 ここに来ると決まったその日から、アンドレアへの口上は決めていた。
「よぉ、クルトの姉君よ! オメェさんの突撃力が俺を抜くか、俺の防御力がテメェを止めるか、ちょいと腕比べといかねぇか」
 それは、あの日、彼へと告げた言葉。
「ふっ……」
「クルトは死ぬまで俺が止めたぜ」
 次いでの台詞に、アンドレアの目がすぅっと細くなった。
「お前は――アレの死に様を知ってるのか」
「おうよ!」
 その返答の直後――アンドレアの持つ大太刀が尋常じゃない速度で動いた。
 目にもとまらぬ速度で走った突きを、ゴリョウは殆ど勘で盾で合わせ、そのまま鎧の腕部分を削られながらなんとか防ぎきる。
「そうか――そうか、それならば……どれほどのものか、ためさせてもらう!!」
 楽しげに揺らぐ瞳で、突き出された刀を引くようにしてそのままの第二撃。
 今度はそれを龍蹄で押さえながら、アンドレアの方へと逆に踏み込んでいく。
「ぶはははっ、全く姉弟揃って底が知れねえなぁ!」
「こちらも押し切るつもりだったんだがな!」
 間合いを整えながら、爛々と輝く双眸の戦意は、衰えを見せない。

●路端の石、愚かなる魔
 古城はしんと静まり返っていた。
 やけに響く石畳の音と、音源へと近づいていることを確信させる嫌な頭痛が混沌(こちらがわ)のイレギュラーズ達に不快感を覚えさせる。

 辿り着いたその先で――――

「あの女……どういうことだ? 城門を守るという契約だろうが」
 ぎりぎりと歯軋りする魔種がいた。
 世界は前衛のイレギュラーズたちが続々と魔種めがけて戦っていくのを見ながら、静かにストラディバリウスを構える。
「しかし、やってくれたな、やってくれたな貴様ら!!
 よい、よいわ。我みずから、その首を落としてくれよう!」
 ぎらつく悪意を覗かせ、老貴族が激昂する。
 次の瞬間――反響する音が、複数のイレギュラーズの脳を揺さぶり、ブラックアウトさせる。
「臆病な自尊心。尊大な羞恥心。己をそう評した男は「虎」になったそうだが。
 君も同じだな。哀れな事だ。愚かな事だ。
 誰かのため、何かのため。都合が悪くなれば、誰かのせい。何かのせい」
 その最中、魔種の激昂を受け止めて、愛無は静かに一歩前に出た。
「まさに君は『人間』というわけだ」
 魔に落ちた男へと突きつける言葉としては、これほどの皮肉もなるまい。
「だが君のような人間も僕は愛おしく思う」
 ――――ゆえに。その怒り。その焦燥。全て喰らわせていただく。
 異界のその外側より訪れた旅人は、音による反響で周囲の状況を把握する。
 どれほど喧しかろうが、目の前の魔種は――そのど真ん中にいる。
 しゅるりと手袋を外したその端から、愛無の全身に満ちる粘液が蛇のごとく姿を変じてイオニアスへと食らいついた。
「テレーゼちゃんはね、領民の皆の事を家族って呼ぶんだよ。
 貴方から見たらまだまだ未熟なのかもしれない、でも! とっても優しくて、一生懸命で!
 そんな家族思いのテレーゼちゃんのためにボク達は力になってあげたいって思うの!
「家族! 家族など! 笑わせる! 家族など、自らの邪魔になるだけよ!」
 焔の言葉に、イオニアスが嘲笑する。
 焔はいくらか力を取り戻したカグツチ天火を構えた。
 思わず握る手をきつくしながら、敵を見る。
「きっと――ううん。
 絶対に、あなたが領主になったらこの領地の人たちは
 今までと同じように笑って暮らしていられなくなっちゃう。」
 確信した。この男では、駄目だ。
 この男を領主とする人々が、あまりにも可愛そうだ。
「だから、貴方の事はボク達が止めてみせる!]
 あえて大きく声を出して、敵の音を遮りながら、焔は走り出す。
 踏み込みと同時、カグツチの焔の力を特に穂先へと収束させ――その肉体に刺した瞬間に爆発させる。
 或いは桜のように、紅蓮の焔が迸り、ひらひらと火の粉が舞い落ちていく。
「私が召喚される前から、存在を確認されてる魔種と伺ってます。
 それはつまり、これまでの間に、魔種として活動させてしまった……。
 狂気をばら撒き、人を不幸にする怪物。
 それをもうこれ以上、野放しにさせるわけにはいきません」
 柄から切っ先にまで赤く彩られた片手剣を構え、佐里は静かにイオニアスを見据えた。
「あなたが今までにしてきた事に触れていないから、犠牲者を見たわけでもないです。
 だから怒りはもちろん悲しみもありません」
 ――けれど、魔種とはそういうものだ。
 だから、ここでこの男を討つのは単純に――使命感と、正義感のみ。
 半歩、にも及ばぬわずかな動き。その動きにイオニアスが動きを見せた――その一瞬、佐里は彗紅果断法典を一閃した。
 避けた先を追うかのように、読みきった一撃に、イオニアスがわずかに目を見開く。
(魔種か……厄介な相手らしいが。
 こっちも頼もしい味方が沢山いるんだ。さっさと終わらせるとしよう)
 神子饗宴とも伝わる奉納の音色が響き渡り、仲間たちへ祝福を与えていく。
「さて、アンタ等が最近騒がしくするせいで寝不足に陥ってる領主がいるわけだが。
 このままだといつか本当に倒れちまうだろうし健康にも悪い」
 今なお、自分たちの帰還を待っているであろう依頼人へと思いをはせながら、静かにかなで続ける。
「なんで、静かにしてもらおうか! できれば永遠にな!」
 この耳障りな結界の音色ごと――――

 カイトはロスト・ホロウを抜いた。
(もっと方法があれば彼を魔種化から助けられたかもしれないが
 ――すまないな、今日はそういう暇はないらしい)
 たとえ悪であろうと一度は手を差し伸べるのが彼だった。
 けれど、この場でそれはもう遅い。ここで手を差し伸べることは、大よそ多くの者を切り捨てることに等しいのだから。
 何よりも。
(魔種か……数年で一族から魔を二人も出した僕たちロストレイン家としては
 魔種はいかなる場合でも打倒せねばならない)
 喪失と歪曲の魔剣を静かに引きながら、カイトは走りぬけ、イオニアスの死角から一瞬で背後に回りこみ、そのまま実を持つ虚構を以って魔を切り裂いた。
(よくわからないけれど、魔種がいる。
 それは世界にとっていけないこと、メルト、知ってる)
 激昂する魔種を見ながら、メルトリリスは少しばかり思案する。
(姉さんもああやって、色々な感情をこじらせてしまって魔になったのでしょうか)
 メルトリリスはカイトから離れないようにしつつ、静かに祈りをささげる。
 ローレットの勇者たちが、誰一人として欠けることがないように。
 ――そして、あの魔が神様の下へといけますようにと。 
 聖少女の祈りは、優しくイレギュラーズを包み込んでいく。

「貴女を庇ってる暇ないんでしっかり当たらない様逃げ回っててくださいよ! クーアさん!」
 利香はそう言って走り出す。
「よっぽど音波がキツくない限りはたぶん平気なのです。他の味方は任せるのです利香お姉様」
 それを見届けるクーアは尋常ならざる反応速度でイオニアスへと近づいた。
 耳と尻尾をゆらゆらパタパタさせながら近づいた猫はイオニアスへと火を投げ込んで、次の瞬間にはオッサンから遠ざかるように早々に離れていく。
 反動の火がちりりと自らに燃え移りつつも、攻撃を終えた猫はくるりと振り返った。
 火を受けた魔種が吼えている。
 燃え上がる焔は、やはりとても美しい。
「ぉぉぉおおおお!!!!」
 キィィィンと鋭い音を立てる魔種が、掌を迫るイレギュラーズへ向ける。
 利香はそれを見ながら魔種にたどり着くと、強まる音に顔をしかめ、脳を揺さぶらんばかりの音を切り裂くように、夜魔剣グラムを男へと振りぬいた。
「ぐぅぬぅ」
「ムカつきますか? ムカつきますよね? じゃあきなさい!」
 じとりとこちらを見た魔種を挑発し、利香は味方を庇うために最前線に立つ。
「おのれ――」
 翳された掌、花開くように展開された防具が、音波を受けて軋む。

(怒り、憤り……それは、強い。大いなる罪にも、連なる程に。
だが、往々にして粗雑で、無粋)
「或いは、正しき怒り『だった』のかも、しれない、が
 何にしても、この『音』は、聞くに堪えない、な」
 エクスマリアの微かに揺らめく髪は彼女の今を体現するかのようで。
 アウイナイトのような深い青の瞳を静かにイオニアスに向ける。
 ある世界にて、神威を打ち砕いたと伝わる一族。
 その力の一端を魅せる双眸が、イオニアスのそれと交わり、秘めた力に魅入られたイオニアスが後退する。
 ずきりと視神経に響く痛みを無視して、エクスマリアは次のために目を向ける。
「油断ならないのはいつも通りっ! 目指せ勝利のVサイン!」
「って、うっさ! 音殺結界うるさっ!
 でもこのぐらいならたいしたことないですね!」
 ヨハナは強烈な反響音を持ち前の抵抗力で跳ね返すと同時にキーンと鳴る耳をぱたぱたと叩いておどけてみせる。
 イオニアスへとたどり着いたヨハナはそのまま『歯車』を起動する。目が回るような感覚とともに前かがみに懐へもぐりこみ、そのまま『歯車』をイオニアスめがけて叩き込んだ。
 ギリギリと回転する歯車がイオニアスの肉体に傷をつけていく。
「小僧がっ!!」
 道化のごとく振舞うヨハナは、危険きわまるこの戦場では異質にも見える。
「もうひとつ――!」
 追撃の歯車が再びイオニアスに傷をつける。
「貴方も貴族に生まれたばかりに大変な苦労をしたのでしょう。
 ですがそんな事はもはや言い訳にはなりません」
 何よりも――――
「貴方は邪悪だ。テレーゼ殿を傷つける為だけに、弟殿を遣わしましたね」
 ルル家は目の前の魔種をにらむ。
「はっ! さぁ、どうだろうなあ! あの小娘を」
 嗤う魔種へ、ルル家はまっすぐに視線を合わせた。
「宇宙警察忍者、夢見ルル家。その首、頂戴仕る!」
 宣誓と同時、ルル家はアーリーデイズを発動する。
 刹那――ばらばらと出現した無数の刀剣でイオニアスを切り刻む。
「まだまだぁ!!」
 斬撃の末、ひるんだ動きを見せたイオニアスを足場に跳躍。その頭上から今度は無数に銃弾をぶち込んだ。
(イオニアス……政治関連はよく知らんが、テレーゼさんの敵で、
 魔種なら戦う理由はそれだけで十分だな……)
 サイズは自らの周囲に氷のバリアを形成すると、イオニアスをじっと見つめる。
(というかテレーゼさんの誕生日に備えてたのに
 こいつのせいで祝える雰囲気じゃなかった。個人的にはこれが一番斬りたい理由だな)
 考えるまでもなく思い立って、握る自分に力が入る。
 同時、血の色に変じた自らを静かに構え、増幅する魔力をそのままに走る。
 狙うは首のみ。跳ね上がるように空を舞って 、斬り伏せ――同時に魔力を爆発させる。
 衝撃を受けたイオニアスが忌々しげにサイズを見た。
 連撃に気をとられたイオニアスを、アベルは静かに見据えていた。
(さて、俺の役割はみんなの支援、あれの足を引っ張ること)
 呼吸を整えていく。ぎちぎちと轟く反響音が耳障りだが、それは気にしない。
「俺は弱い、一人では強敵に太刀打ち出来ないでしょう」
 ちょうど、味方の連撃に気をとられた魔種、その動きをガスマスクの下の双眸が、静かに確かめる。
 ひとつ、ひとつ、その動きを見つめ――ただ、引き金を引いた。
 弾丸が疾走し、イオニアスのわき腹へと吸い込まれる。
 炸裂した弾丸が魔種の動きを阻害し、縫い付けるように突き進む。
 脇腹を抱えてアベルのほうを向こうとした魔種へ向けて、アベルは静かに告げる。
「だけど――『俺達は』勝つんですよ」
 その言葉が終わらぬうちに――もう一発が走った。
「アベルさんには及びませんが、私も『狙って当てる』事には
 多少、腕に覚えがありましてね」
「おのれ、イレギュラーめが」
 愛用の長傘をライフルのように構えていた寛治は黒フレームの眼鏡をくいっとあげる。
 そのまま、寛治はじっとイオニアスを見据えた。
「…………なるほど」
 エネミースキャンにより、イオニアスの手札を暴き立てていく。
「テレーゼ様は私の大切なクライアントでしてね。
 ここは一つ、働きを見せてアピールしておかないと。
 次のファンドの企画もありますから」
 もう一度、ライフルのように傘を構えた寛治は再び銃撃を放つべく動いていく。

●死地において益々盛ん
 戦いは長く続いていた。パンドラの光の輝きは、この戦場でいくつ開いたか分からない。
 ただの一人をして戦場一つに立っていたアンドレアとの戦いは激闘と呼ばざるを得なかった。
 一太刀一太刀が強力なのに加えて、前衛の動きに合わせて最低限の効率的な範囲攻撃をも熟すアンドレアは、幾度もイレギュラーズの戦線を崩しそうになった。
 だが、戦況はイレギュラーズへと傾きつつあった。
 多彩なレンジ故、その気はなくとも伸びた攻撃が中衛にまで届く、ということもあるために絶対ではないが、それでも前衛で戦う者達に比べて明らかにサポートやヒールの役割を持つ者は攻撃を受けなかった。
 なにより、彼女は回復手段を持たないのだろう。
 それは現在の彼女とイレギュラーズを見れば明らかだった。
 トリーネやルチア、アレクシア、クロジンデ、ココロといったヒーラー達があまり攻撃を受けないことも相まって、健在のヒーラーによる支援は上手くいっている。
 対して気にした風を見せないとはいえ、幾度となく繰り返されればそれは大きなダメージになる。
 ましてや、高火力のイレギュラーズによる攻撃や、多彩な中距離からの状態異常、呪術による効果はアンドレアをじりじりと追い詰めていた。
「……あぁ、全く、本当に。あいつはこんなにも強い者達に囲まれたのか。
 ――なぁ、お前たち。アイツがどう死んだか知っているか?」
「クルトは最期まで狂気に抗い、戦ったそうだ。自らの腕を切り落として」
 レイチェルの答えにゴリョウが頷く。
「そうか……ふっ、であれば……アホくさい復讐なぞ止めにするか」
 少しばかりの安堵の後、相手が闘志を萎ませてないことに気づいて気を引き締める。
「ここからは――純粋に、死ぬまで戦おうじゃないか。
 アイツに、地獄での土産話を持たせてくれ。――私はこの数の英雄に戦って見せたぞ、とな」
 ニヤリと笑う。
 みなぎる気迫は、それまでよりも遥かに強靭だった。
 けれど、イレギュラーズはその手合いを知っていた。仲間達の中にもいるのだ。
 死に際にタガが外れたように力が増す者が。
  だからこそ、最後の一線のためにもう一度、イレギュラーズは剣を取る。
 回復手段を持たぬ彼女だ。であるなら――確実に、追い詰めていること自体は確かなのだ。
「私が立ってる限り、誰も倒れさせるもんか!」
 そう宣言したアレクシアの奮闘は大きく、特に高度な治癒魔術による、ゴリョウへの支援は、猛攻に晒され続けたゴリョウを支えるのには必要不可欠だった。
 超視力で連携を取りながらも多くの者達を回復したクロジンデだってそうだ。
 何かを失敗したら、猛威が誰かに降り注ぐ、そんな敵を相手に、敵を抑え込む者への支援が充実していたのは大きい。
 威降はゴリョウがアンドレアの気をひく中で、攻撃の一端を担っていた。
 威降は両手に着けたリミットヴァーチュを組み合わせるようにして握ると、それをアンドレアの脳天めがけて振り下ろす。
 断頭ーー文字通りの頭部を断ち切る振り下ろし。
 静かに打ち据えられた一撃は、アンドレアの頭をがくりと落とす。
 イグナートは大きな隙を見せたアンドレアを確かに視界に収めながら疾走する。
「さぁ、次はオレだ!」
 その身から溢れる闘志のまま敵を見定めーー自分の気力の全てを左腕に集め、再び大太刀を構えたアンドレアの鳩尾へ握りしめた拳をただ、叩き込む。
 己の全力、その全てを込めた踏み込み、打ち込みに、身体が猛烈にきしんでいる。
 けれど、イグナートは間違いなく強敵への挑戦に胸の高鳴りを隠せなかった。
 ゆらりと、僅かにアンドレアの身体が揺らぎ、半歩下がる。
 その半歩先、沙月は静かにそこにいた。
 佇む姿は芍薬のごとく。夏の小川のごとき、静かな心地のまま――刹那。
 その身で神速のごとく踏み込み、動きの鈍ったアンドレア目掛けて渾身の掌底が、アンドレアの胸辺りを大きく貫いた。
 その掌底に、アンドレアの身体が再び半歩下がり、身体ががくりと僅かに落ちる。
「ふ、ふふふふっ、強いなぁ、イレギュラーズ。
 では――私の渾身もお見せしようか」
 ゆらりと、アンドレアが構えを取った。
 剣を担ぐようにして持ったかと思うと、その剣へ闘気が収束していく。
 轟――という音と共に一直線上のイレギュラーズを貫く斬撃が――走った。
 身を焦がすアンドレアを見ながらルナールは白銃を構えた。
「さて――ここは射程か」
 羽根の紋様が刻まれた、銃身に玲瓏たる蒼月の宿る銃に魔力を込める。
 紅玉のごとき色の光がバチバチとなり、実弾と共にアンドレアへ向かって飛ぶ。
 その銃弾が、アンドレアの右目を貫いていった。
「……仕方あるまい。奥の手である――!」
 開かれた加護による復活を越えて、シグは自らの身体を大地目掛けて叩きつけた。
 全身の魔力の全てを、地中へと浸透し――形成するは巨大なる拳。
 アンドレアの後ろに出現したソレは、そのままアンドレアを大きく真後ろから叩きつけた。
「もう! 止めちゃうのなら最初から大人しくしててほしかったわ!
 けど、もう私の呪いからはにげられないわよぉ」
 アーリアはそう言いながらアンドレアへと魔力の込められた口づけを投げる。
 身を焦がすような恋の炎がアンドレアを焼いていく。
 その頭部目掛けて、アランは異形の大剣を振り上げた。
「お前の事は知らねぇ。お前の弟の事も、知らねぇ。知らねぇし、どうでもいい。
 ……どうでもいいから、全力で来い……! こっちも全力で答えてやる!!」
 異形の大剣がまるで笑うようにぎちぎちと音を立てる。
 太陽の聖剣ヘリオスが力の一部の籠った轟轟たる猛火を纏った大剣を振り下ろす。
 自らを研ぎ澄ますアランの一撃に反応したアンドレアが振り下ろされる剣に合わせるように、大太刀が動く。
「当然――!!」
 強烈な金属音と共に、女が猛り――笑いながらアランを見据えた。
 僅かな拮抗――その後、アランが握る大剣より放たれる猛火が、アンドレアを強かに焼きつけていく。
 決して命を奪わぬ慈悲の救済が、ただアンドレアを削っていく。
 拮抗を崩すべく、アランはもう一歩、踏み込みと同時に、剣を跳ね上げた。
(クルト……たしか蠍事変の時の、あの二刀流の剣士ですか)
 相手を認めた舞花は静かに斬魔刀を抜いた。
 迫力もそうだが、クルトを見たことのある舞花は、髪の色や雰囲気そのものがクルトに似たモノを感じて、ふと懐かしさを覚えた。
 武を頼みに世を渡ろうとする環境であれば、姉弟そろって剣士というのも珍しくはなさそうださそうだなと。
(彼には感謝しています。
 人と――優れた剣士と立ち会う事の楽しさに気づいたのは、
 彼と剣を交えたのが切っ掛けですから。故に――)
「私は久住舞花。お相手頂きましょうか、剣士アンドレア」
 彼は、確かこんな風に名乗りましたね。
 振り返るように言った舞花の口上に、アンドレアの目が少しばかり開かれた気がした。
「久住舞花――その口上は、あいつがやっていたモノだな!!」
 それまで以上にアンドレアの気迫が増した。
「ええ、少しばかり、彼と立ち会ったことがあるので」
 アンドレアが猛る。それに合わせるように、舞花は前へ出て、剣を合わせた。
 ふらりと動いた剣が、アンドレアの大太刀の動きをくらませる。
 その刹那、舞花の斬馬刀が吸い込まれるようにアンドレアの心臓を捉え――
「あぁ、本当に、イレギュラーズというのは――」
 アンドレアの目が、楽し気に笑っていた。

●栄光は既になく
 この魔種の性質を物語るような、陰険なBS攻撃(いやがらせ)は、幾度にわたってイレギュラーズを苦しめ、心臓や肺に到達した振動は強烈な痛みをもたらした。
「我欲の為に他者を食い物にしてのし上がった所で誰が支持をしてくれよう?
 貴様を認める物は誰もおらぬでござるよ、オランジュベネ卿」
 傷ついて後退するヨハナに入れ替わるようにして咲耶は前に出た。
 小太刀で斬りかかると同時、咲耶は宣誓をあげる。
「拙者も、この場にいるイレギュラーズも。
 否、この国の全ての者が、貴様を受け入れはせぬ!」
 咲耶の言葉に、イオニアスが露骨に芽を顰める。
 翳された手から放たれた音波を耐え忍び、籠手で翳された手を握り、真っすぐに敵を見た。
「絶対に逃がしはせぬ、長年の争いはここで終わらせてくれよう」
 そのまま、イオニアスの太ももへ、小太刀を突き立てた。

「わたくしの役目は!空にきらめく太陽の如く!決して潰えず皆様を癒し続けること!
倒れること無くただ回復し続ける‪…‬それがどれ程の脅威か知りなさい!!」
 タントは自らの持つ恩恵を発動する。
 指を鳴らすと同時に、この危険きわまる戦場でもどこからともなく聞こえてくるいつもの声。

  \きらめけ!/

  \ぼくらの!/

\\\タント様!///

 いつもの声、いつもの感覚。いつもの――それは、この狂気的な戦場において、忘れてはならないこと。
 魔種の抑えを担ったヨハナがそうであるように。
 多くのイレギュラーズがそうであるように。
「わたくしのかがやきは潰えませんわ!」
 太陽のごとく輝くタントの言葉が、イレギュラーズを正気へと連れ戻す。

「吹き飛べシリアス!!!!!! そっちの空気に汝んでなんてやるもんか――――
さぁ!! もう一曲、行きますよ!!!!」
 夕が握るのは拡声器付きのスタンドマイク。
 フィーネリアお姉さんも、レジーナローズママも、同じようにマイクを握る。
「きっけぇぇぇ!!!!!!!!」
 息を大きく吸って、奏でるデスメタル。
 3人でずんずんとイオニアスの脳髄に響き渡らんばかりの声で叫び続ける。
 狂気渦巻く戦場で、夕は歌い続ける。
 シリアスなんて知ったことか。私は私と宣誓しながらの声は、時折味方への祝福となって降り注ぐ。
「人々を洗脳して自分の兵にして! それで頂点に立ってどうなるって言うんだ!」
 セララは自らの祝福を更に高め、イオニアスの前へ立ち塞がり、聖剣ラグナロクを突き付ける。
「君が欲しかったものが、そんな方法で手に入るものか!
 君の悪事は、ここでボク達が止めてみせる!」
 インストールされた不死鳥の加護が体を覆い、背中に炎翼が展開する。
「受けてみろ――セララ、フェニックス!」
 超高速で振るわれる剣閃が風を切って不死鳥の泣き声のような独特の響きを奏でながら魔種へと炸裂し、体勢を崩した魔種へ目掛けて、再度の連撃を叩き込んでいく。
 斬り伏せられる燕尾服が、じんわりと赤黒い痕を作る。
「ほんとにしょーもねーオッサンなんだぬ!」
 超視力、超嗅覚、超聴覚――五感のうち3つを大きく強化して城内にいた伏兵達の悉くへとでーえすしー(へびの型)で薙ぎ払ってきたエルは、溜息をもらす。
 ここに辿り着く前に襲来した兵士達は、どれもこれも大した力もなく、ニルの攻撃であっという間に沈んでいった。
「しょーもない手段でうちらを止めようなんて……。お説教の時間だぬ!」
 セララの攻撃で体勢を崩すイオニアス目掛けて大きく踏み込んだ。
 深呼吸して、体勢を整え――引きしぼった鉄拳で思いっきり殴りつけた。
 クルねー直伝の強烈な一撃が、イオニアスの内臓を破砕する。
「もはや問答無用。
 これ以上人々に仇為す前に決着をつけましょう」
 ユゥリアリアは蒼海の加護を受けて静かに目を閉じて集中する。
 それは凪のように、母なる大海の加護が調和の力をもたらし、ユゥリアリアはそれを賦活の力へ変質させ、咲耶に変わって退いてきたヨハナへと祝福を齎す。
 その治療が終われば、次には今、ヨハナに代わって前に出た咲耶への祝福に変わる。
 ただ、まっすぐに、ユゥリアリアは戦場において海のように穏やかに、海のように荒々しく、回復と攻撃を繰り返していく。

【爆刻】のメンバーもまた、イオニアスへと張り付いている。
「大層な理想を掲げるのは結構だが、他人の為になんて肩肘張ってるとそうなっちまう。
 希望なんてのは導くもんじゃねえ、他人を動かすことなんて、できねえのさ。
 だから示すんだ、自らの意志で着いてきてくれる奴にな!」
 グレンはイオニアスが放った音を受け止めながら叫ぶ。
 その防御技術の高さは此処に居並ぶイレギュラーズの中でも極めて高い。
 何よりも、失敗を見ぬその安定力は目を見張るものがある。
 音の激しさは凄まじい。放たれる範囲を含む攻撃も。
 それでも男は、運命の女神の試練と言わんばかりに、剣を魔種に向けていた。
「我は我の仕事をやる。お前達はお前達の成すべき事を成せ」
 そう言っていたエリシアは部隊のメンバーの中心やや後方より、敵を見据えていた。
 幾度目になるか分からない神聖なる歌をエリシアは紡ぐ。
 音色に合わせて美しい炎がイレギュラーズの周囲に降り注ぎ、傷を癒し、あるいは正気を取り戻させていく。
 急速に最充填される魔力によるリチャージ性能は他のイレギュラーズによる回復との連携もあって今なおそこあり続けることを可能にする理由の一つ。
 潰えることなく燃え盛る炎のように、エリシアは回復を続けていた。
「グレンさんに聞いた逆ギレ貴族は貴方ですね」
 プラウラはダイヤモンド加工が施され、非常に頑丈になった剣をイオニアスへと叩きつける。
「貴様は――――」
「ノーマルな町娘としては、貴方みたいな人が領主なんてごめんです!」
 イオニアスの視線がプラウラを見た。
その直後、大地から突然生えてきた無数の剣がイオニアスへと突き立ち、再び土となって帰っていく。
「貴方の歩んだ道は報われなかった。
 その絶望は理解できる、ただ貴方が齎そうとする怒りと破壊はここで止めせてもらうぞ。
 俺たちの譲れないものの為に――この悪夢を終わらせる」
 極限の集中下に入ったチェルシーは剣で出来た羽をはためかせながら、クロバの言葉に反応するように奔る。
 自分の翼の刃が小さかった頃の羽を利用して作ったという短剣ヘブンズ・テンプテーションをそのままの勢いでイオニアスの腹部に突き立てる。
 突き立った場所を起点として、その身体が急速に凍てついていく。
「今よクロバ! 上手に昇天させるのよ、ほらっ!」
「あぁ――」
 まっすぐに十字の意匠が刻まれた白銀の剣を構える。幾度とない攻撃に自分の身体は騎士見続けていた。
 深呼吸をして、集中する。敵の注意が味方に逸れているこの一瞬を見過ごしはしない。 
「おおおお!!」
 黒刀・夜煌竜一文字――美しき夜のような黒き刀を振り下ろし、そのまま一歩前に出ながら、ガンエッジ・アストライアを突き立て――引き金を引いた。
 回転式の銃弾が――猛烈な音を立てながら魔種の身体に突き刺さっていく。
「あぶない――――」
 わずかに、足らない。それを悟った瞬間、動いたのはプラウラだった。チェルシーを庇うようにして立ったプラウラに、イオニアスの手が伸びる。
 それは、天井に向けて伸びていき――しかし。
「この城ごと道ずれ……それが貴方の狙いですね?」
 見抜いていたイレギュラーズによる攻撃が、魔種の腕を断ち切った。

「蠍事変での賊への加担に飽き足らず、此度は直接の叛乱
 挙句に多くの民まで直接巻き込んで戦をしようなどと
 堕ちるところまで堕ちるものですね、オランジュベネ子爵」
「家名復興を臨む事は理解できる。
 でも、魔種へ堕ちる事と自領民を利用していい理由にはならない。
 ましてや、国に刃を向けるなど言語道断よ。
 国に仕える者の一人として、貴方を断罪する!」
 リースリットとアルテミアの言葉に、息も絶え絶え、落ちた腕を抑えながら死にかけの魔種がぎろりと睨む。
「それが戦争よ。民草の一本一本までが、主のために使われねばならない」
「貴族が貴族として民を治める対価は栄華等ではないのだと
 ――最後までお気付きになられないのでは、
 貴方が見下してらっしゃるだろうテレーゼ様の足元にも及ばないままですよ、貴方は」
「あの小娘に……我が、劣るといったか? 貴様、言うに事欠いて、あの、小娘に!!」
 イオニアスの迫力が増していく。だが、それも、今の彼では空しいだけだ。
 それを受け流しながら、リースリットは静かに告げ、魔晶核に注ぐ魔力を増やしていく。
「この国の貴族は……その多くが貴族が貴族たる所以を忘れ去ってしまった。
 貴方は、そんな者達と何ら変わりません」
 魔晶剣・緋炎の輝きが、魔力をこめるリースリットに反応して鮮やかに緋色を増していく。
 今の自分が出来る限界――いや、いつか至るであろうその領域にまで相当するであろう魔力を、緋炎へ注ぎ込む。
 自らの精神性を高めたアルテミアは、不知火と『煌輝』を抜いて、イオニアスの側面に回りこむ。
 次の瞬間、二本の剣は青き炎を纏う。
「何がわかる……我の、苦しみを! 我の怒りを! 我の失望を
 ――貴様らのような小娘どもに!!」
「私は幻想貴族の一人として、貴方を認めない。
 家名復興を臨みながらも魔種へ堕ち、誇りを捨てた者に貴族を名乗る資格は無い!!」
 美しき青炎が己が身を焦がすのもかまわず、アルテミアは剣を閃かせる。
「誇りで…………何が出来る、我が、誇りを――踏みにじったのは、同胞であろうに」
 見開き、血走った双眸で、業火燻る胸元を押さえる。
 勢いを増した業火ごと、アルテミアは最後の振り下ろしを完遂させ――
「魔種イオニアス、貴方を討つ。
 幻想貴族に連なる者として、その務めを果たさせていただきます――!」
 ――緋色の魔晶の輝きが、イオニアスの肉体を切り裂いていった。
「我が……悲願……我は……われ…………わた……」
 見開かれた魔種の目が、光を失って倒れていく。
 ふと気づけば、先ほどまであった鬱陶しい音が消えていた。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638) [重傷]
自称未来人
雨宮 利香(p3p001254) [重傷]
雨宿りの
ゴリョウ・クートン(p3p002081) [重傷]
黒豚系オーク

あとがき

大変お待たせしました、イレギュラーズ。

完勝というやつですね。
きっと、彼らはようやっとすべてを終わらせることができたでしょう。

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