PandoraPartyProject

ギルドスレッド

Wiegenlied

【2】Atmen

【始祖の霊樹】

アルティオ=エルム。
木々に親しみ、大自然の生きとし生けるものを愛しむ緑の民が住まう大樹の麓。
入り組む枝葉を掻き分け、開けた其の先。

――其処には、数多の生命が息吹いていた。

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……そんなことは、無いと思うけれど……。

(直ぐ傍の壁――否、巨大な都市の、大樹の鼓動が聞こえる。嗚呼、其れの何と優しいこと)
(『おかえり』と告げる音。何処か懐かしさすら持つ其の声に、目頭が熱を持ち掛けて。慌てて空を見上げて込み上げる雫を遣り過ごした)

……そう、かな。
そうなの、かな。

(砂狼の促す声に、恐る恐る一歩を踏み出し)
(『こっち、こっち』。囁く呼び声に誘われるように。一度踏み出してしまえば、二歩目を苦に思う事は無い)
(深緑の入り口。其れは、巨大な樹の身の丈に相応しい、此れまた巨大な樹洞だった)
(ギリアスの明るい声に、年季の入った樹の壁を見上げて)
そうですね、確かにこれはここまで足を伸ばさねば知り得ないもの。

そして…特にわたくしは相容れないのでしょう。
(刃の女は頭から足先まで、言わば人工物の塊)
(今更ながら、この大自然の中に居ることへ違和感を覚えていた)
(ラノールの言うように、他種族と壁があるという意味も素肌で感じた気がする)

(夜鷹の言葉、そしてギリアスへと視線を戻せばなるほどと頷く)
確かに夜鷹様にお願いした方が良いようですね。
しかし、聞こえ過ぎるのも困りものでしょう。
(大丈夫かと密やかな影の様子を気遣い)
ふっ……はっはっは。意外と演技派だな。
ほらギリアス殿。蜻蛉が嫌がっているぞ。

(夜鷹殿の代弁に思わず笑いつつ)
(声なき者の声が聞こえるというのも、なかなか楽しそうだな、と心に浮かび)

だが確かに……あまり聞こえすぎると、人と会話をするにも大変そうだな。

(ニコ殿の言葉に、それはそれで大変なのかと思い直し)
(そう考えると自身の贈り物は、非常に安定したものだなと朧げに考え)
(深緑の入り口に、手をかけ、中を覗く)
(自然と文明が一体化した、幻想的な雰囲気)
(同じ国でこうも違うものかと、心に感動を覚え)

君の行きたいところに行き、見たいものを見るといい。
我々はそれに付き従おう。

(自然の声を聴き続けているであろう彼女の耳に届くよう、はっきりと伝え)
(その後ろへと足を進めた)
(霊樹ファルカウの”内”を構成するは、其の殆どが幻想種だと云う)
(『深緑に行くのかい。だったら、気をつけな。彼奴らは”自然に害為すもの”に容赦しねえ。
  間違っても奴らの許し無く”いきもの”を傷付けちゃならん。其れが、奴らの戒律だからな』)
(酒場の主人に口すっぱく言い含められた、幻想種たちのきまりごと)
(彼等は異種を歓迎しない。其れが意味する事は、彼等もまた、”そう”だったのだろうか――)

あ、

(大丈夫かと。女中が此方を伺う様子に我に返る)

大丈夫。
ひとと話しているときは、おしゃべりの声を落としてくれるから。

(それに、”かれら”の声は常にやわらかく自分の耳を擽ってくる。其れを厭わしいと感じた事はないのだと告げて)
(砂狼の齎した言の葉は、僅かではあるが確かに影の背を押した)
(頷きを返すと、霊樹の中へと進める足取りはより確かなものへと変わっていった)

なか、明るい……。

(光苔を含んだ樹洞の内側は、火を灯さずとも視界を妨げぬ程の光を保っている)
(翠の聲に誘われる侭歩を進めていく内、影は其の存在を見止めて小さく声を上げた)
(目に止まった木で作られた柵と門は明らかに人工的なもの。背伸びをして見れば、茅葺屋根が点々と其の向こう側に連なっている様子が伺えた)

……村、だ。

(門は開け放たれており、立ち入るのは容易な様子に思えたのだが、)
『止まれ、何者だ?』

(其れは、仲間達の誰の声でもない)
(頭上から聞こえた声に影が顔を上げれば、弓を携えた一人の男が此方を見下ろしていた)
(其の耳は長く尖っている。一目で男が幻想種であると云う事が伺えるだろう)
(なんだ、普通に喋れんじゃん)
(夜鷹の意外な一面に妙に感心しながら、ラノールの言葉に押されつつ蜻蛉を宙に離す)

やっぱ自由が一番だよな。

(空を自由に飛び回る蜻蛉を目で追いながらそんなことを呟く)
(道中のそんな一面を回想していると、それを遮るように上から声が)

ん?

(見上げた先には幻想種の男がこちらに向かって問いかけていた)

ああ、俺らは怪しいもんじゃねぇぜ。
冒険者…じゃなくてイレギュラーズだ。
ちょっと所用があってこの村に寄ったのさ。入っていいかい?

(敢えてイレギュラーズという言葉を出したのは、そっちのほうが何かと都合がいいからだ。幻想種は結構排他的な種族だし、ただの冒険者じゃ怪しまれかねない。俺ってあったまイー)

(あれ?でもこの村に何しに来たんだっけ?そこまで考えてなかったな…)
(よし、そこらへんは夜鷹に任せよう)
うむ、幻想種らしい純朴な村だな。
自然との調和、という言葉がこれほど似合うものもあるまい。

(夜鷹殿の呟きに、自身も改めて注意を見渡す)
(灯すらも植物で賄っているそれは、本当におとぎ話の世界だ)
(村の門は開いている。夜鷹殿に続いて向かおうとするが……)

……失礼、挨拶もなく入ろうとしてしまった無礼をお詫びします。

(警戒心の強い幻想種が、そう簡単に入れてくれるはずもなく)
(ギリアス殿が説明をしている間に、すぐに外せる武装を外す。剣、盾、そして大得物)
(足元にすべて置いて、夜鷹殿の前に立つ)

争う意志は元より、自然に仇名すつもりもありません。
ただ……幻想種の育む生活が見てみたいと。

(なるべく彼らの神経を逆なでしない言葉を選ぶ)

…不快だというのならば、すぐに引き返しましょう。
…ですが。

(夜鷹殿の方をちらりと見)

…この子だけは中に入れさせてほしい。
この子は、貴方方の同胞だ。

(男の目をまっすぐ見据える)
(夜鷹の後をゆっくりと歩きながら、その足取りがしっかりとしたものになったことを感じていた)
(この旅路が良い方向へ向かうことを望み始めた頃)

…存外、簡単に辿り着きましたね。

(今迄に聞き齧った内容だと、もっと植物に道を阻まれたりするのかと思っていたが、そう言いかけた刹那)

――っ

(反射的に、本能的にとも言えるだろうか、爪先に力を入れ身を翻そうと構える)
(敵意、そこまではいかずとも攻撃する意志を感じ取り臨戦態勢を取ろうとした)

村の、住人でしょうか。

(ギリアス、ラノールが友好的に話し掛けたのを見て、少し力を緩める)
(しかし鋭い視線は頭上の男、そして弓の先の鏃から外さない)
(男の表情は険しいものではないが、何時でも矢を番えられる状態にあった。然し、)

『イレギュラーズ?』

(其の名を聞けば男は目を丸くして。次いで砂狼が武装を解き、”戒律”を知った上で、尚言い募る)
(ふむ、と逡巡する間を置き、男は矢筒から手を離すとひらりと地面へ降り立った)

『すまないな、出迎えは私の仕事なんだ。
 種も服装もてんでばらばらなものだから何だと思ったが……ははあ、成る程、道理で』

(上から下まで其々を眺め見て――最後に、砂狼の後ろに立っていた影をまじと見詰め、何度か頷き)

『歓迎しよう、”世界の守護者”達。
 其れから――”お帰り”、我等が同胞。母なる霊樹の愛子よ』

(弓を背に担ぎ直した幻想種の男は片手で村を仰ぐと、どうぞ中へ、と特異運命座標達を促した)

『何も無い村だがゆっくりしていくといい。
 此処は霊樹の麓、”マルローン”。我等は黄金の樹に住まう者。
 大老もお前達を歓迎するだろう』
(影はというと、頭上から声が降ってきた時点で両手でフードを抑えて小さく縮こまっていた)
(まるで、叱られた子供が身を守るように。否、其れ以上の怯えを露わにして)

……。

(幻想種は異種を歓迎しないとは聞いていた。然れど、全てを毛嫌いしている訳では無いようだ)
(あくまでも、霊樹に住まうものたちに害為す存在で無いのであれば其の門を開く事も吝かでは無い様子だった。少なくとも、此の門番の男は)
(特異運命座標。其れは影が思っていたよりも、ずっと力ある肩書きらしい)

おじゃま、します。

(”お帰り”と。彼等が告げてくる音に、慣れない)
(砂狼が其の武装を携え直した頃、門番の男が促せば漸く一歩を踏み出す事が出来た。ちらちらと、何度も男の立つ木の上を気にし乍ら)
あの、……みんな、ありがとう。

(咄嗟に機転を利かせてくれて。先立って盾になってくれて。守ろうとしてくれて)
(影は三人に其々頭を下げ乍らも、ばくばくと鳴り止まぬ心臓を抑えるように服の胸元をきつく握り込んでいた)

……木が、光ってる。

(顔を上げた先。村の彼方此方に点在している”黄金の樹”なる木々は光苔よりも尚、街灯の如く其の枝葉を輝かせていた)
(其れはまるで真昼のような。門番の男曰く、時間毎に光る度合いは変わってくるそうだ。昼は明るく、夜はほの明るい。彼等はそうして時間を知るのだそうだ)
(男の態度の軟化に、そっと胸を撫で下ろす)
(落とした武装を拾い上げ、一つ一つ元の場所に装備しなおしていく)

良かったな、夜鷹殿。…夜鷹殿?

(ちらりと見た影が小刻みに震えるのを見て思わず覗き込―――もうとするとなおさら動転させると思い直し、少し上から声を掛ける)

…もう大丈夫だ。マルローンは君に牙を剥いたりはしない。
いやはや、ギリアス殿の名乗りが功を期したな!
ニコ殿も警戒助かったよ。おかげで安心して武装を解除できた。
得物を隠せるというのは便利だな。

(出来るだけ優しく気遣いの言葉を、そして仲間に労いを)
(夜鷹殿が一歩を踏み出せば、同じように歩を進める)

…うむ、初めて見る景色ばかりだな……美しい輝きだ。

(輝く木々に思わず感嘆の声を漏らし)
(その気がなくても、思わず枝を手折って持ち帰りたくなってしまう)

…村に来た以上はまず大老に会うのが筋だな。
ゆこうか?

(仲間に視線を戻し、そう声を掛けた)
ま、このくらい朝飯前よ。
伊達に冒険者名乗ってねぇってな。

(仲間から褒められ、気を良くして胸を張る)
(その勢いで意気揚々と村の中へ歩を進めようとした時、夜鷹を気遣うラノールの姿が目に入る)

(やれやれ…しょーがねーなー)
(心中で一言呟くとするすると夜鷹の横に歩いて行く)

(と、次の瞬間)

わっ!

(縮こまる黒い影に向かってそう叫ぶ。もちろん驚かすために)

どうだ?震え止まったかよ?
怖い怖いと思うから怖いんだ。
頭真っ新にしとけ。今みたいにな。

(相手の反応などお構いなしにそう言うと踵を返し、再度村へと歩を進めようとする)
(幸い、砂狼の言葉で直ぐに相手の鏃が降りた)
(こちらも警戒を緩め、影とのやり取りを見守る)

思っている以上にわたくし達の肩書は便利なのですね。
身分証代わりになるとは、聞いていましたけれど。

(確かに、今迄の主人の中には『特異運命座標』という肩書を聞いて雇ってくれた者、契約より長く雇おうとしてくれた者もいた)

(冒険者の声に、思わず肩が動く)
(何事かと眉を寄せていたが)

ギリアス様は突飛なことをなさるお方だと思っておりましたけれど…
確かに、その通りかもしれませんね。

夜鷹様、足を伸ばしたのです。
色々なものを吸い込んでまいりましょう。


村の方、わたくし達は滞在することも可能でしょうか。
(転移を使えばあっという間だ。しかし折角来たのなら一日くらいの滞在をと思い声を掛ける)
『案内が出来なくてすまないな、私は持ち場を離れる事が出来ない。
 だが、迷う事はあるまい。嗚呼、そうだ。其処から見えるだろう?
 最も大きな黄金の樹。其処が大老のおわすところだ。くれぐれも、失礼の無いようにな』

(木の上に其の身を戻した門番の男の指す先。村の中心に聳える一際大きな黄金の樹が、目覚めを迎えた村を優しく照らしていた)
(特異運命座標達の遣り取りを不思議そうに眺めていた男は、女中からの問い掛けに顎を摩ると何度か頷きを返し)

『此の村に余所者を入れる事は殆ど無かったものでな、宿の類は無いんだ。
 だが、そうさな。空き家の類が無い訳じゃない。
 大老の元へ行くのだろう?其れなら、口利きをして貰えるやもしれん』

(幸運を。告げて男は、木の上からひらひらと手を振った)
(彼等は牙を剥かない。ほんとうに?)
(自分は何を信じたらいい?見たものを、聞いたものを、本当に受け入れる事が、)
!?

(其処で思考の渦は堰き止められた)
(突然の大声に肩を跳ねさせて、両の腕で咄嗟に頭を庇う。其れ以上の衝撃が襲って来ないと分かれば、恐る恐る視線を上げ)
(何が起こったのかわからないといった体で傷面の男を見上げ、次いで方々から投げ掛けられる言の葉に。自分が一人で迷路を歩いて居た事に気付いた影は、ばつが悪そうにフードを目深に被り直した)

……うん。ありがとう。
だいじょうぶ。……逃げたり、しないから。

(一人では無いと自分に言い聞かせ乍ら仲間を仰げば、幾分か恐怖心は形を潜めてくれた)
(マントの合わせ目をきつく掴んだ侭ではあったが、示された方向へ一歩一歩、確かな歩みで以って進み始め)
(幾人かの村人が其々朝の営みに勤しんでいる)
(洗濯物を干す女。狩りから戻ってきた男達を出迎える家族。薬草摘みに出掛ける老夫婦)
(皆一様に――当然のこと乍ら其の耳は長く尖っており、其の振る舞いからは幻想種達の素朴な暮らしが伺えた)

みんな、わらってる。

(影は其れを唯々呆然と見つめていた)
(彼等は皆、誰もが顔を隠さずに”普通の”生活を送っている)
(誰に罵られる事もなく。誰に傷付けられる事もなく)

(胸の内に渦巻く感情に、名が付けられない)
(歓喜?安堵?……其れとも、嫉妬?)

(村人達は自分達を見ると、誰もが驚きの表情を浮かべていたけれど、それだけだ)
(門番の男は彼等に信用されているのだろう。彼等から恐怖や嫌悪の感情は感じられなかった)

みんな、……ふつうに、くらしてる。
あぁ、ありがとう。仕事の方頑張ってくれ。

(寛大に接してくれた門番の男に頭を下げ、夜鷹殿の歩調に合わせる)
(どこか遠い目をしていた夜鷹殿も、ギリアス殿とニコ殿の言葉によって、しかと前を見据えている)
(良い事だ。3人のやり取りを眺めながら、頷く)

あぁ、平和で穏やかな日常を過ごしているのだろうな。
明るくなるとともに働き、暗くなるとともに休み………
……普通の、良い生活だな。

(羨ましい、という感情が仄かに広がる)
(今でこそ特異運命点座標として人並みの生活が送れるからいいものの、金を得るために戦い、生き残るために金を使うのが傭兵の常だった)
(自らが当たり前のように明日も生きていけると信じて疑わない彼らの目は、周りの木々よりも眩しい)

君もここに住んでみたらどうだろうか。
皆優しそうだ。

(そう問いかけながら、ひと際大きい樹の前まで着く)
(一歩前に出て、扉をノックした)
おーおー、村人ども口をあんぐり開けて俺らを見てるぜ。
こちとら珍獣じゃねーんだぞ。まったくよぉ。

(そう言って周りの面子を眺める)
(ドデカいマトックを背負った傭兵風の獣種に全身真っ黒けの小僧、おまけにやけに鋭い目つきのメイド…)

……。

ニコ、お前ちょっと笑って見たらどうよ?
ほら、ニコッと。
これから何か偉いジジィに会いに行くんだしよ!

(小粋なジョークも混ぜつつ、冒険者として円滑な人間関係を築くコツをこの仏頂面に教えてやろう。そう、先輩冒険者としてな!)
ええ、穏やかで街には無い種の豊かさに溢れた暮らしですね。

(零れ落ちた夜鷹の言葉に、こちらも感じたことをそのまま重ねた)
(穏やかな暮らし、それはきっとあの門番の最初の様子のように、ある水準の閉鎖のおかげとも言えるのだろう)

(どこか影と似たニュアンスを含んだ砂狼の言葉に視線を移した)
(影はともかく、彼にも平穏を望む気持ちがあるのだろうか、そんなことを思う)

そうですか…ありがとうございます。
お話してみて、可能であればお借りするやもしれません。
(再び木々の枝と葉に紛れてゆく門番へお辞儀をして)
(ラノールの言葉を黙って聞いていた。その内ゆっくりと口を開いて)
そうですね、以前その当時の主人にもその様なことを言われたことがありました。
わたくしの名は、ある地方では笑顔を指す言葉でもあるから、わらってみてはどうかと。
主人の言葉でございましたから、わたくし、努力は致しました。

(そう言ってギリアスの方を向く)
……如何でしょう。
(口角は、確かに緩やかに上がっており、口元もカーブを描いている)
(瞳が鋭く射抜いていた)
(寧ろ、普段より一層鋭利かもしれない)

そう言えば、あのご主人様はあれからすぐに亡くなったと聞きましたね。

(小さく息をつけば、いつのも表情のない表情に)
(ニコが笑顔?をこちらに向ける)

(ゾゾゾ…)
(それはまるで凶器だった)
(不自然且つ、ぎこちなく上がった口角は狂気を感じさせ、鋭い視線と相まって俺を怖気立たせる)

(ダメだ、こりゃ…)

(半ば呆れながらも口を開く)

ニコ…不器用過ぎんぞ…。
愛想笑いの前に、自然と笑顔を出せるようにするのが先のようだな。
自然と笑えるようになりゃ、笑い方もわかってくるさ。
そんでもってさっきの笑顔は使用禁止だ。
良いな?(と念を押す)

あと…あんたの前の御主人の冥福を祈るぜ…。(小声で呟く)

(そんな話をしていれば、村でもひと際大きな樹に辿り着いた。ここがおそらく大老の住処だろう)
(ラノールが率先して戸を叩く)
(俺はどんな爺さんが出てくるのか待ち構え、黙って扉を見つめていた)


(ふと、傷面の男と女中のやり取りが目に止まる)
(”わらう”。其れは自分にとっても、大層難しい所作である)
(故に彼女のぎこちない何処か機械的な笑みを見て。不謹慎ではあるが、)

……私も、上手にできない。いっしょ。

(少し、安心してしまった)
(完全無欠に見える女中の苦手なものを見つけることができた事)
(彼女の内にある人間味を感じ取れれば、影はほんの少し目元を和らげた)
みんな、こわがってない。
……よかった。

(砂狼の問いに顔を上げる。其の面に戸惑いを浮かべ乍ら、小さく首を横に振り否を示し)

私は、……よそもの、だから。

(彼らは自分と同種だが、根本は違うもののような気がして)
(どうあっても自分は”異端児”には変わりないのではないかと、受け容れられるに足る存在では無いのではないかと)
(そんな考えばかりが浮かんで、素直に頷く事は出来なかった)

(戸を叩く砂狼の後ろで、僅かに息を飲む。『はい』と、短く。凛とした応答を耳が拾ったが故に)
(身を硬くして、マントの合わせ目をぎゅうと握りしめ)
(開いた扉の先、姿を現したのは幻想種の少女だった)
(歳の頃は十に満たない程度だろうか。少女は特異運命座標達を見れば、大きく戸を引き一行が通れる程度に道を開けた)

『ローヴァルから声は届いています。どうぞ』

(見れば少女の肩には白い鳩が止まっており、其の脚には文を結わく為の金具が留められていた)
(門番の男が寄越した遣いは、くるる、と一声鳴くと主人の元へと飛び立っていく)

『大婆様は奥に』

(一行が脚を踏み入れたなら、一際大きな黄金樹の内が伺えた事だろう)
(呪いを刻んだ絨毯に、星を描いたランプ。香草が焚かれているのか、独特な香りが室内を満たしている)
(少女は一行を案内し終えると共に、”大婆様”と思しき人物に寄り添い、それきり口を閉ざした)

(真白い髪に銀の瞳。口元をヴェールで覆い、毛皮のケープを纏った老婆が部屋の最奧に佇んでいた)
(枯れ枝のようなゆびさきを伸ばせば、声を発する事なく一行を小さく手招いて)
んん…?

(よくある田舎村の典型的な爺さん村長が気さくに迎え出てくるのかと思ったら…)
(小間使いを置いているのか、ここは)

(少女に迎え入れられ、説明を聞いている内に“そんな軽々しい場所”ではないのかもしれない、と男は考え始める)

(はぁ…堅苦しいのは勘弁願いたいぜ…)
(そう嘆息を漏らしたとき、少女は案内を終え、男の目には館の主の姿が映った)
(その気品のある佇まいは、男の本来あるべき姿を呼び起こさせたのか背筋は自然と伸び、貴族然とした威風堂々たる立ち振る舞いをさせた)

失礼する。

(そう一言発すると大老の導きのままに進み、やがて止まる)
(そうして恭しく礼をする)

(その所作を終えたところでようやく口を開いた)

お目通り感謝致します。
我々は特異運命座標の一行、此度は大老様にここ、マルローンでの滞在の許可、並びに宿泊場所の提供をお願いしに参りました。
誠に勝手な申し出ではありますが、許可頂ければ幸いでございます。
この国に縁のある者も居ります故…。

申し遅れました。
私はギリアスと申します。

(そこまで言い終えると仲間たちを横目に捉え、挨拶を促す)
(後ろで繰り広げられるギリアス殿とニコ殿の問答)
(ちらりと後ろをみやる)
(なるほど確かにアンバランスだ。まぁいきなり笑えと言われたら私も上手くできる自信はないが)

もう少し目も一緒に笑っていればよさそうだがね。
今度皆で笑顔の練習でもしてみるか?

(はははと笑いながら、冗談交じりに零し)
(そしてたどり着いた大老の家)
(出迎えるは、まだ幼さの残る少女だった)
(お孫さんなのだろうか。促されるままに中に入る)

…シャーマンの家系なのだろうか?

(通り道、目に映る物品を見て、少女に質問をしてみる)
(そうしている間にたどり着く主の部屋)
(一足先に動いたギリアス殿の後に続く)
(そしてギリアス殿の口から放たれる言葉に、思わず咳き込んだ)
(今までとの明らかな変わりように驚かされる)

……失礼。ラノールです。
依頼者の護衛という形で来ているため武具を携行して相対する非礼をお詫びします。

(切り替えるように、名乗った)
(せっかくの笑顔は冒険者の求めていた答えとは異なっていたらしい)
(おまけに使用禁止令まで出て、従僕の女は首を傾げた)

自然と、笑う…ですか。
善処致しましょう。


(影から呟きが聞こえた気がした)

そんなに不自然でしょうか。
練習の折は、是非ご一緒にさせて下さいまし夜鷹様。
(道案内の少女の後へ、三人と共に続く)
(辺りを見渡したりはしないが、五感で常とは異なる空気を感じ、気を抜かぬようにしていた)

(奥へ通されれば、そこに居る人物がこの地でどのような立場の者か知ることは容易だった)
(それと共に、どこか緩んでいたり、率直な印象の強い冒険者と砂狼の立ち振る舞いが切り替わったことに少なからず驚く)

…紳士的な態度も取れるのですね。

(思わず呟いて、自らも一歩前へ)

わたくしはニコ、従僕を生業としております。
この度はわたくし共を招き入れて頂き、感謝しております。

(黒と白のスカート裾を軽く摘んで礼をし、簡単な挨拶を)
(そして、手招く老女の方へと言う様に密やかな影へ気遣う視線を投げかけた)
きちんと、自然とわらう。
むずかしい。
私も、わらうとへんになる。

(影の場合は笑うと云うよりも、どうやってもヒトを伺うような怯えた色が拭えない)
(困ったように眉を下げ乍ら、自身の頬をぐにぐにと引っ張って見せ)

じゃあ、こんど。
……ううん。ここで、泊まれる場所を見つけられたら。
練習、してみよう。

(鏡は苦手だし、顔を見られる事も苦手だけれど)
(共にと持ち掛けられる事が嬉しかったから)
(控えめに、どうだろうかと女中に首を傾いで見せた)
(傷面の男の淀み無い口上に、影は驚き戸惑っていた)
(何時の間にか最後尾を、ともすれば部屋の入り口の程近く)
(直ぐにでも逃げ出せそうな立ち位置に居た影は振り返る気遣わしげな視線に気付くと、そろり、そろりと足を進めて仲間達の傍へと並び立った)

……夜鷹。
ヒトと、ヒトの間の子。
でも、……ヒトとして、生を受けなかった。

(告げて、影は躊躇いがちにフードを後ろに落とした)
(宵色の髪から覗く尖った耳。幼さの残る顔立ちを露わにすると、老婆と視線を重ね)

……あなたたちのことを、きちんとしりたくて、きました。
『大婆様は偉大な巫師で在らせられます。
 私たちは炎を尊び、水に育まれ、風を詠み、大地に還る。
 マルローンは母なる霊樹の御許、黄金の樹と共に巡りゆくのです』

(砂狼の問いに少女が返したものは、答えと言うよりも其の在り方であった)
(三日月に目を撓めて微笑んでいた老婆が鷹揚に頷けば、少女は再び其の口を閉ざした)

『ようこそ、輝ける光の子ら』

(嗄れた、けれど穏やかな声で以って)
(老婆はひとりひとりの顔を見、そして頷いた)

『好きなものを見て、聞いて。汝らが”良し”と思う事を為さい。
 黄金の樹は汝らを許すでしょう。
 其れから――翠の愛子。汝もまた、我等の同胞。好きなように生き、好きなように進みなさい』

(其処に敵意は無い。老婆の眼差しにあるのは慈愛と寛容だった)
自然と共に……か。良い文化だな。
此度の滞在で、貴方達のことをより知り、理解ができたらと願うよ。

(少女の言葉に、感心するように頷く)
(そうして全員の挨拶が済んだ頃)
(老婆はようやくその口を開いた)
(慈愛、寛容、そして我々への許容)
(……初めに訪れたのがこの村で良かった、と心から思う)

感謝いたします。
……よかったな。夜鷹殿。色々と見て回ろうか。
新たな発見も、心境の変化もあるだろう。楽しみだな!

(にこにこと語り掛ける)
(この場所ならば、護衛として警戒をする必要も薄いだろう)
(周囲からの視線が突き刺さる)

(なんだよ…?文句あんのか…)
(どことなくバツの悪そうな表情をしながらも視線だけは強がってそう訴える)

(仲間たちの口上を聞きながら、下手を打たないだろうかと心配する視線をそれぞれに一瞬向ける)
(が、それは杞憂に終わったらしい。詳しい出自や経歴は未だ知らないが今まで社会と接し、それなりに生きて来た連中だ。当然と言えば当然か。)

(そんな風に思いを巡らせていたが次の瞬間男はハッとする)

(薄汚れたフードから、それとは対照的な横顔が露わになったからだ)
(幻想種…。男が目にしたそれは紛れもなくそう呼ばれるものだった)

……。

(一瞬目を奪われたが仮にも謁見の最中、すぐに頭を切り替え再度集中を始める)
(謙遜する言葉にそんなことは、と言い掛けて)
………

(確かに、密やかな影の言う笑顔は…実に下手だった)
かしこまりました、克服できるよう努力致します。
(頷いて、はて笑顔の練習とはどのようにするものか、と今更ながら考える)


(不可思議な存在である老婆の口から言葉が紡がれる)
(従僕の女にとって自然とは、ここまでの道のりを経ても、尚感じ取ることに何か壁のような不思議な隔たりを感じていた)
(しかし、老婆の声やそこから生まれ位出る言の葉は、正に自然そのものだった)

(『汝らが”良し”と思う事』その言葉に思考を巡らせていると、影がフードを取る姿を認めた)
(零れた影よりも暗い髪と、隙間から覗く尖った耳先を見詰めた)
(うん、うん、と何度か相槌を打って。露わになった影の顔を仰ぎ見て)
(老婆は影の生い立ちを聞いても、尚。唯々、優しく微笑むだけだった)

『ルシアン、此の子たちに止まり木を。
 銀の水路に連れて行っておあげ』

(傍の少女が名を呼ばれれば、閉ざしていた瞼と唇を開いて是を示す)

『大婆様は貴方達を許された。
 マルローンは貴方達を歓迎します』

(立ち上がった少女は老婆へ恭しく頭を下げると特異運命座標達を促すように歩き出す)
(再び開かれた扉。黄金の樹のひかりを浴び乍ら、少女は一度、面々に向き直った)

『私はルシアン。大婆様の曾孫にあたります。
 マルローンでの滞在に何か不便がありましたら、お声掛け下さい』

(少女が”外の者”を連れ歩いていると云う事)
(其れが此の村にとって許容の印なのか、村人達は先程よりも自然な様子だった)
(影は齎された”ゆるし”に、驚き戸惑うばかりだった)
(ニンゲンは、此の瞳を見ただけで眉を顰めた)
(此の尖った耳を見ただけで、化け物だと自身を遠ざけた)

(なぜ?)

(浮かび上がる問いが音になる事はなく)
(少女に促されれば、影は老婆に深く深く頭を下げて)

あの、……ありがとう、ございます。

(なんとか其れだけを絞り出すと、扉が開かれるよりも早く、再びフードを目深に被り直した)
(良かったなと。砂狼の声に顔を上げれば、こくんと小さく頷いて)

……居てもいいって言ってもらえるなんて、おもわなかった。
施し、感謝致します。
それでは…。

(一礼し“ルシアン”と呼ばれた少女の後に続く)
(少女に続きマルローンを歩く。その頃には男の態度もすっかりいつもの調子に戻っていた)

胸張って歩けよ、夜鷹。
ここはあんたの“国”だ。

(そう夜鷹に言うと先程の横顔が浮かぶ)

……。

(何某か思い浮かぶと歩調をラノールに合わせ横に並ぶ)
(そして、ラノールの大きな獣耳に向けひそひそ…)

なぁ、ラノール。さっきの見たか…?
もしかしてなんだが……

夜鷹って女じゃね…?

(そう囁く男の顔は真剣そのものだった)
(胸を張れと。告げられた音に、躊躇いがちに。けれど一度だけ、こくんと小さく頷き)
(自分のふるさとは此処ではない。何処まで行っても自分は余所者で、化け物で――)

……。

(浮かび上がる幾つもの考えを打ち払うように、ふるふると首を横に振る)
(少なくとも、此の村には”自分に害為す者”はない)
(胸を張ることこそ出来ずとも、せめて。せめて、俯かずに居られるように)

……黄金の樹は。
みんな、見ることの叶わないおひさまに恋をして。
みつけてもらえるように、ひかっているんだって。

(”彼ら”から伝わる囁き。其れは、彼らの在り方だった)
(日の射さぬ大樹の麓では、其の輝きこそが人々の太陽足るものだったのだけれど)
(由来を聞けば、”彼ら”の思いを仲間達に話さずには居られなかった)
(何故か。何故かは判らなかったが、そうしたかった)
(滞在の許可を示し、許しの言葉を告げられ、小さく胸を撫で下ろす)
(樹々の民は偽りなく、心を開く者には寛容なのであろう)

ありがとうございます、暫しこの緑の地で羽を休めることに感謝致します。

(謝意を伝え礼をすると、ルシアンという少女について外へ出た)

ルシアン様、承知致しました。
少しの間になりますが、よろしくお願い致します。


(後ろは男性二人に任せ、何か考えながらという様子の影の隣へ並ぶ)
お優しいお方でしたね。

(影の言葉に空を見上げる。日の光よりも揺らぎながら、大地を照らす樹)
そうですか…だから、この様な優しい光となるのでしょうね。
(眩しげに瞳を細めた)
(他の者に続いて、一礼の後に館を出る)
(友好的な村で良かったと内心安堵しつつ)
(ここから何をするかは夜鷹殿に任せるとしよう)

さてさて、せっかく滞在の許可ももらったことだし、
色々なことをせねばな。なかなかない機会だ。余すことないようにな。

(後ろを歩いてくると、ギリアス殿が歩調を自身に合わせてくるのに気付く)
(何か用だろうか?とこちらも歩幅を合わせて横並びに)
(そこで男より告げられる疑念に、思わず咳き込んだ)
(いや、正直な話。私は狼だ。狼は犬科であり、嗅覚が鋭い)
(男女の区別は匂いで分かるレベルなのだ)
(故に当然のように女性として扱っていたために、男の言葉には面を食らった)
(私見を述べるべきか…いやでも男として振る舞っている以上何か事情があるに違いない…)
(瞬刻の間に思考を巡らせる)

……どうだろうなぁ。見た目で分からない者も多いからな。

(結局のところそんな言葉でお茶を濁すことを選んで)
(礼を告げられれば少女は長い銀の髪を翻して、『いえ』と短くことのはを返す)
(大人たちの歩幅に合わせ、少しばかり早足の歩調は淀み無い)
(木々の合間を縫い乍ら歩く事暫し。村外れに差し掛かったところに、”其れ”はあった)

『此の樹をお使いください。今はもう、住まう者のいない古木ではありますが。
 少し土埃を払えば、羽休めには十分の場所となることでしょう』

(村の住居は二種類ある。一つは茅葺屋根の小屋。もう一つは黄金の樹其の物を住居に改造したもの)
(少女の指し示すものは、どうやら後者であるようだった)

『水路を汚したり、食べる以外の用途で無闇な殺生をしないように。
 其れさえ守って頂けるのであれば、我々は貴方達の自由を約束致します』

(木製の鍵を影に手渡しつつに。困った事があれば呼び付けて欲しいと添えて)
(少女は一度深く頭を下げると、来た時同様足早に家路に着いてしまった)
ふしぎ。
会えない事をしっているのに。
彼らは、”恋”を楽しんでいるんだって。

(彼らは皆一様に、しあわせだと自身に告げてくるのだと語り乍ら)
(受け取った鍵を軽く握り締めると、影もまた少女へ深く頭を下げた)
……やさしい、ひとだった。
わたしのことも、……みどりの、いとしごって。

(齎された其れ等を受け止めかねているようで。戸惑いを露わにし乍らも、影は女中へ小さく頷きを返して)
(此の機会を余す事の無いようにと。砂狼の微笑みにも、こくんと頷いた)

かみさまのいるところとも、幻想とも、ちがう。
不思議な感じがする。……みんな、この木々と同じように生きているみたい。

(”銀の水路”と呼ばれる小川は、光苔のひかりを反射して其の水面を銀のように輝かせる事から名付けられたものであるらしい)
(時折跳ねる波紋を目を凝らして見れば、其処には魚も存在しているようだった)
(恐る恐る、扉に鍵を差し込めば、かちりとした手応え)
(立て付けが悪くなって少し重たい扉を、体重をかけて押し開き)
(――影は、其れから数日ほど。幻想種たちの営みを、ただ眺めていた)
(声を掛けられれば辿々しく挨拶を返し、老夫婦が腰を痛めたと聞けば薬草摘みを手伝った)
(初めのうちこそ顔を見せない様を不思議がられはしたものの。仲間達のお陰もあって、影は黄金の樹に受け入れられているようだった)

(けれど。一週間と経たないうちに、影は仲間達を連れ立って幻想へと舞い戻る事となる)
(傷面の男と別れたのは、其れから直ぐの事だった)

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